FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,ネタバレ有り
カテゴリ「ネタバレ有り」に属する投稿[35件]
その猫、神出鬼没
補足
アルファ、オメガとビッグスが怪しげなミコッテに出会う話。
クエックエッと鼻歌を歌いながら黄色い鳥は黒色の塊とレヴナンツトールを走る。
しかし少しだけ余所見をしている間にドンと何かにぶつかってしまう。
「なーんだ、この黄色いの。チョコボか?」
どうやらぶつかったのは人間の足だったようだ。彼はクエ……と謝るそぶりを見せた。
◇
ガーロンド・アイアンワークス社で働くビッグスは休みということでレヴナンツトールの屋台で飯を食おうと1人歩いていた。その時視界にあの黄色いチョコボが映る。
「アルファじゃないか!」
男は手を挙げると気が付いたアルファと呼ばれたチョコボは駆け寄って来て泣きそうな顔をしながら裾を引っ張っている。
「どうしたんだ」
「クエェ……クエ! クエクエ!」
その時「痛ぇ!」という声と硬いものがぶつかる音が響いた。慌てて音の主へと駆け寄ると黒い小さなミニオンが金髪ミコッテの脛に延々と体当たりをしかけていた。
「何だよこいつ! 俺様"は"何もしてないっての! 見間違えてんじゃねぇこのポンコツ!」
パッと見た感じ半泣きで避けようとする足をオメガは器用に動きを解析し、ぶつかっているように見えた。また「いでぇ!」という声が響き渡る。
「クエェ……」
「オメガどうした!」
ビッグスはその黒いボディを掴み抱える。ビービーと音を鳴らしながら足を動かしていた。強く押さえないとそのまま次は顔にでも飛んで行きそうだ。
「あー痛かった。すまんな、兄ちゃん」
白衣を纏った青年はニィと笑う。年齢はシドらと同じか少し上だろうか。採掘道具を背負っている所から採掘師のようだ。
「おたくの会社が作ったミニオンだろ? よーく見て修理しとけよこのポ・ン・コ・ツがよ」
オメガを指さし威嚇するように耳がピンと立ち尻尾をブンブンと振っている。ビッグスは「すんません」と頭を下げるがすぐに疑問を抱く。
「あれ、何で分かったんですか?」
「ア? こんな繊細な機械物体を作れる会社はその制服のトコ位だろ? 腕、中々いいと思うぜ。繊細で、小型ながら御伽噺のオメガそっくりだ。ムカつくぜ」
「は、はは……ありがとうございます」
この男なりの誉め言葉だと受け取っておく。やれやれと肩をすくめていたが、やがてリンクパールの着信音が聞こえた。
「ア! しまったこんな所で道草食ってる場合じゃねえ。お嬢に呼ばれてんだった。んじゃーなアルファとオメガにビッグスさんや」
そのまま男は駆け出していく。「ま、待ってくれ!」とビッグスは止めようとするがやがてテレポを唱えながらどこかへ消えてしまった。ため息を吐きながら「アルファ、オメガのメンテナンスするから会社来るか?」と聞くとアルファは元気にクエッと返事をした。
しばらく歩いた後ふと最後の男の言葉をに引っかかる。
「―――あれ? 俺名乗ったっけ? まあいいか」
◇
「ンア? ビッグス、お前休みじゃなかったのか?」
「アルファ久しぶりじゃないか!」
「実はオメガが変な挙動をしてたから確認してるんです」
整備スペースにてアルファに適当な食べ物を与えオメガのメンテナンスをしているとネロが顔を覗かせた。後ろにはエルファーとシドもいる。
「変な挙動とは? ただのミニオンだろう?」
「それがレヴナンツトールで人の脛に延々とぶつかってたんです。苦情を言われたから仕方なく見てるんですが」
「確かに変だな。んで、異常個所があったのか?」
「それが全然。その方がいた時は確かに少しブザーのような音を鳴らしてたんですが今は静かですし」
「そいつが蹴ったンじゃね?」
ネロの呆れたような声にビッグスは「それはないと思う」と否定する。
「どうやらオメガの文献についても知ってたみたいですし。一瞬だけ機械油の匂いもしたのでその手の仕事も理解ある人かと」
「また野生の技師がいるのか。レフみたいなのはもう勘弁してくれ」
「おうおう会長くん"また"とは何だ"また"とは」
「特徴は?」
ビッグスはその男の容姿を振り返る。
「ミコッテの男性で、低身長。金髪に赤と銀目のオッドアイで白衣を着てる推定リテイナー契約されてる人かと。採掘道具とお嬢とやらを待たせてるようでしたし」
エルファーは目を見開く。
「口は悪かったが結構アグレッシブな印象で―――ってレフ?」
「いや、何でもない。そうかそんな奴が現代にもいるんだな」
と言いながら踵を返す。ネロが「おい」と声を掛けると「タバコ」と言いながら去って行った。
「―――旧友でも思い出したんじゃないか? 片方金髪ミコッテだっただろ確か」
「アー確かに」
「レフの友人、ですか」
「ミコッテで遺跡荒らしが趣味の技術者がいたらしいんだ。こちらの道に進む動機になったみたいでな」
「相当口悪ィがまあ今も生きてたらアレと同じく120超えだとよ」
「それは凄い偶然で……あ、さっきその男の容姿のスケッチを描きました。何か妙な予感がしたんで」
ビッグスは傍に置いてあった紙をシドに手渡す。ネロも覗き込むが2人は口をあんぐりと開き塞がらない。
「どうしました?」
その容姿はまさしく、エルファーが大切にしている友人らとの肖像画に描かれたあのミコッテの男と瓜二つだったのだから。
Wavebox
アルファ、オメガとビッグスが怪しげなミコッテに出会う話。
クエックエッと鼻歌を歌いながら黄色い鳥は黒色の塊とレヴナンツトールを走る。
しかし少しだけ余所見をしている間にドンと何かにぶつかってしまう。
「なーんだ、この黄色いの。チョコボか?」
どうやらぶつかったのは人間の足だったようだ。彼はクエ……と謝るそぶりを見せた。
◇
ガーロンド・アイアンワークス社で働くビッグスは休みということでレヴナンツトールの屋台で飯を食おうと1人歩いていた。その時視界にあの黄色いチョコボが映る。
「アルファじゃないか!」
男は手を挙げると気が付いたアルファと呼ばれたチョコボは駆け寄って来て泣きそうな顔をしながら裾を引っ張っている。
「どうしたんだ」
「クエェ……クエ! クエクエ!」
その時「痛ぇ!」という声と硬いものがぶつかる音が響いた。慌てて音の主へと駆け寄ると黒い小さなミニオンが金髪ミコッテの脛に延々と体当たりをしかけていた。
「何だよこいつ! 俺様"は"何もしてないっての! 見間違えてんじゃねぇこのポンコツ!」
パッと見た感じ半泣きで避けようとする足をオメガは器用に動きを解析し、ぶつかっているように見えた。また「いでぇ!」という声が響き渡る。
「クエェ……」
「オメガどうした!」
ビッグスはその黒いボディを掴み抱える。ビービーと音を鳴らしながら足を動かしていた。強く押さえないとそのまま次は顔にでも飛んで行きそうだ。
「あー痛かった。すまんな、兄ちゃん」
白衣を纏った青年はニィと笑う。年齢はシドらと同じか少し上だろうか。採掘道具を背負っている所から採掘師のようだ。
「おたくの会社が作ったミニオンだろ? よーく見て修理しとけよこのポ・ン・コ・ツがよ」
オメガを指さし威嚇するように耳がピンと立ち尻尾をブンブンと振っている。ビッグスは「すんません」と頭を下げるがすぐに疑問を抱く。
「あれ、何で分かったんですか?」
「ア? こんな繊細な機械物体を作れる会社はその制服のトコ位だろ? 腕、中々いいと思うぜ。繊細で、小型ながら御伽噺のオメガそっくりだ。ムカつくぜ」
「は、はは……ありがとうございます」
この男なりの誉め言葉だと受け取っておく。やれやれと肩をすくめていたが、やがてリンクパールの着信音が聞こえた。
「ア! しまったこんな所で道草食ってる場合じゃねえ。お嬢に呼ばれてんだった。んじゃーなアルファとオメガにビッグスさんや」
そのまま男は駆け出していく。「ま、待ってくれ!」とビッグスは止めようとするがやがてテレポを唱えながらどこかへ消えてしまった。ため息を吐きながら「アルファ、オメガのメンテナンスするから会社来るか?」と聞くとアルファは元気にクエッと返事をした。
しばらく歩いた後ふと最後の男の言葉をに引っかかる。
「―――あれ? 俺名乗ったっけ? まあいいか」
◇
「ンア? ビッグス、お前休みじゃなかったのか?」
「アルファ久しぶりじゃないか!」
「実はオメガが変な挙動をしてたから確認してるんです」
整備スペースにてアルファに適当な食べ物を与えオメガのメンテナンスをしているとネロが顔を覗かせた。後ろにはエルファーとシドもいる。
「変な挙動とは? ただのミニオンだろう?」
「それがレヴナンツトールで人の脛に延々とぶつかってたんです。苦情を言われたから仕方なく見てるんですが」
「確かに変だな。んで、異常個所があったのか?」
「それが全然。その方がいた時は確かに少しブザーのような音を鳴らしてたんですが今は静かですし」
「そいつが蹴ったンじゃね?」
ネロの呆れたような声にビッグスは「それはないと思う」と否定する。
「どうやらオメガの文献についても知ってたみたいですし。一瞬だけ機械油の匂いもしたのでその手の仕事も理解ある人かと」
「また野生の技師がいるのか。レフみたいなのはもう勘弁してくれ」
「おうおう会長くん"また"とは何だ"また"とは」
「特徴は?」
ビッグスはその男の容姿を振り返る。
「ミコッテの男性で、低身長。金髪に赤と銀目のオッドアイで白衣を着てる推定リテイナー契約されてる人かと。採掘道具とお嬢とやらを待たせてるようでしたし」
エルファーは目を見開く。
「口は悪かったが結構アグレッシブな印象で―――ってレフ?」
「いや、何でもない。そうかそんな奴が現代にもいるんだな」
と言いながら踵を返す。ネロが「おい」と声を掛けると「タバコ」と言いながら去って行った。
「―――旧友でも思い出したんじゃないか? 片方金髪ミコッテだっただろ確か」
「アー確かに」
「レフの友人、ですか」
「ミコッテで遺跡荒らしが趣味の技術者がいたらしいんだ。こちらの道に進む動機になったみたいでな」
「相当口悪ィがまあ今も生きてたらアレと同じく120超えだとよ」
「それは凄い偶然で……あ、さっきその男の容姿のスケッチを描きました。何か妙な予感がしたんで」
ビッグスは傍に置いてあった紙をシドに手渡す。ネロも覗き込むが2人は口をあんぐりと開き塞がらない。
「どうしました?」
その容姿はまさしく、エルファーが大切にしている友人らとの肖像画に描かれたあのミコッテの男と瓜二つだったのだから。
Wavebox
"嫉妬"
注意・補足
セイブ・ザ・クイーン第4章終了後ストーリー補完。ちょっとあまりにもシド自機の話にかち合うので急いで書きました。
自分を苦しめ続けた全てに片が付いた、気がした。ペンダントの蓋を開き、その写真を見つめる。1人酒を飲み、優しく微笑んだ。
「シド。ああ邪魔だった?」
「アンナか。いや、そろそろ呼ぼうとは思っていた」
ボズヤ解放戦線はひとまず終わった。否、彼らにとっては一つの始まりになる。東奔西走し、武器を振り回していたヴィエラのアンナはジョッキを持ち、はにかんでいた。
―――途中から彼女と言葉をあまり交わさなかった。いや、避けられていた気がする。理由は分からないが。ただ槍を手にし、冷ややかな目で作戦内容を聞いていた。声を掛けてもすぐに「用事、あるから」と去る。それは初めて見せた目付きだった。が、振り返ってみると俺や暁の人間以外に向ける視線はこんな感じだった、と思う。兎に角、これまでの時間を考えると一瞬だけ他所他所しくなり少しだけ寂しかった。
◇
作戦中に社員リリヤが大怪我を負い、クガネに連れて行った。治療の合間にふとそれをネロにリンクパール経由でアンナが急に冷たくなったと言うと爆笑される。そしてこう言ったのだ。
『アイツ、槍握るとすげェ怖くなンぞ。オメガの一件中に一瞬マジな殺意喰らった。まさしくあの"鮮血の赤兎"、息が詰まって殺されンじゃねってな。ンで? ガーロンド、何やった?』
「分からん。記憶探索の後まではいつものアンナだった。クガネで慰めてくれたし。それから徐々に態度が冷たくなって、そういや槍を持ってるって思ってな」
『マァ相当ストレスが来たンだろ。だが多少の戦闘でそこまでキレるバブーンじゃねェ。お前が悪いンだろ絶対』
「きっかけがリリヤらから宿題を渡されて一度戻った後からかもしれん。そん時会話交わす暇もなかった。だから俺不在の間に機嫌を崩されちゃどうしようもないだろ」
失礼なことにため息を吐きながら切られた次の日、再びネロの方から連絡が来る。すると『ただの惚気話に巻き込むンじゃねェぞ』と呆れたような声がした。わざわざ本人に聞いてくれたのかと感謝の言葉を述べようと思い、どういうことだと尋ねる。だが、『鈍感な男は本格的に嫌われンぜ? マァ新入りは復帰後お仕事増量しとくと代理サマからの伝言だ』としか言わない。モヤモヤとした気持ちを持ったまま第IV軍団との最終決戦を迎える。
そして作戦終了後、リンクパール通信経由でリリヤが『あと英雄サン本当にごめんなさいッス! 姉御達から聞いてビックリしたッスよぉ……。だからボスの件は反省してるんで! どうか、どうか姉御に鬼な仕事量減らすように進言して欲しいッス!!』という悲痛な命乞いに俺含め周囲は首を傾げていたがアンナは「何を聞いたの?」と苦笑していたのが印象的だった。
それが俺から見たアンナとボズヤ解放戦線の後半戦だ。判断ミスで大切な社員を大怪我させてしまったのは大失態だが、俺にとっては一つの区切りで。酒盛りの喧騒から離れ、1人親父との写真を眺めながら飲んでいると、よく分からないがいつもの物静かなアンナが姿を見せる。
◇
「隣、いい?」
「ああ」
隣に座り込む。一瞬だけ俺の脚に顔を擦り付けた。息を飲み、目を見開いてしまう。しかし何事もなくペンダントの方を指さす。
「それ、あなたとお父様?」
「ああ。15年ぶりに開いた」
「吹っ切れたってやつね。よかった」
ほら、とジョッキを向けられたので軽く合わせる。アンナは一気にエールを煽り、俺に少し複雑そうな笑顔を見せた。
「冷たくしてごめん。あなたは悪くない。怖い思いさせちゃった」
「いや俺は大丈夫だ」
「……あれも私。"ガレマール帝国"の初代皇帝が欲し、兵士の間では怪談になったヒト。あなたが過去と向き合ったように私だって―――ね?」
「アンナ」
「アレを見ても、あなたは……私のことスキ? それとも兵器として利用してみる?」
じっとこちらを見上げ、答えを待っている。笑みがこぼれ、肩を軽く叩き、寄せてやった。
「アンナは人間だ。兵器じゃない。いつも言ってるじゃないか。ただの旅人ってな」
「杞憂だったかぁ」
「そもそも兵器として見るならオメガの一件までにはそうしてるさ。今更だろう。アンナはもう余計なものを1人で突っ走る必要はない。俺も一緒に行くからな」
「バイシャーエンからも同じようなこと言われたよ。『そこまで解放者殿が背負う必要はありません』ってね。―――あの人が最後に止めてくれなかったら本気で過去に引っ張られてたかもしれない位やりすぎたのは反省してる」
命の恩人の修行による影響でバカみたいに強い力でこれまで色々解決してきた人間だ。今更目の色変えてしまうわけがないだろうに―――ここまで来てそんな心配をしていたらしい。だが、確かに"鮮血の赤兎"と呼ばれていた頃があったことを、嫌でも思い出した。心の奥底で罪悪感を持ち続けていた俺のように、アンナも笑顔という仮面を被り決して過去がバレないよう立ち回る。そうやってお互いずっと触れられたくない過去を封印し、見ないようにしてきた。きっと今回は帝国兵が相手だったから、そういう手段も取れたのだろう。向こう側がどういう反応をしていたのか気になる所ではある。
そう思った所で意外なことを言い出した。舌をペロリと出し、イタズラな笑みを浮かべながら聞き飽きたあの言葉を吐く。
「まあ昔の私だったら、『だからあの人の方がいいよ。まとめて護ってあげる』って言ったかもね」
「おいだから何を今更」
「現実は怖くて言えなかった。不思議だね」
ペンダントの方を見つめながらボソリと暗いトーンで機嫌が悪かった本当の理由を語り始めた。
「周りから見たらあなたとミコト、お似合いなんだってね」
「そうか?」
「頭いいし、ちっちゃくて可愛らしいし。護ってあげたい子だよね。研究職な子だし、真面目なあなたなら議論のし甲斐もあるでしょ?」
鈍感だと周りに言われ続けた俺でも流石にここで気が付く。ネロから"惚気話"と吐き捨てられ、ジェシーによるリリヤに課された謎の"仕事増量"。そしてリリヤが何故かアンナ"に"命乞いをする声で察するべきだったかもしれない。声を出して笑ってしまう。
「何が面白い?」
「いやお前さんもちゃんと嫉妬するんだなって思ってな」
「別に。周囲がアドバイスやらで盛り上がってて少しだけイラッとしたから槍を振り回して……あっ」
「ほら嫉妬じゃないか」
そっぽを向かれる。よく見ると肩が少し震えていた。まさか自分がいない間にそんな話がされてるとは微塵も考えになかった。そしてアンナが複雑な気持ちを持ってくれているとも予想せず笑みがこぼれる。これでまだ男女の付き合いをしてないというのが嘘だろ? と思う位には面白く感じた。
「きゃ、客観的に見たら最終的にそうなっただけで別に私自体はその。だから背中バンバン叩くなぁ!」
「今から言いに行くか? 俺にはアンナがいるから」
「必要ない! ヒミツはヒミツのままでいいし第一私はまだ結論が、ついてなく」
「はははそうだったな」
きっとヒト耳だったら耳まで真っ赤な姿が見れただろう。少しだけ長い耳が後ろに倒れている。そのまま耳と一緒に頭を撫でてやるとジトリとした目でこちらを見上げた。
「待ってるぞ」
「……期待しないで欲しいねぇ」
目を細め苦笑しながらアンナはその手を握り指先に口付ける。仕草はもう恋人そのものに見えるし、以前と違い見上げるように座っていることが嬉しい。昔だったら耳を触られたくないからという事実を誤魔化し、立ったまま飲んでいただろう。
「でもまあ……同じ背負うという行為ならば騒ぎながら"キミ"の重たい過去や夢と一緒に歩けるのは私だけなのは分かる。普通の人だったら押し潰されてるね」
「そんなにか?」
「キミの好き嫌いもその料理の作り方も、イタズラされた時の怒ってる顔が面白いことだって知ってる。あとキミだってよく不機嫌な顔して話に割って入るね。不在の間に起こったこと部下に聞いてるんでしょ? 把握してる。性行為中に見るなつってもずっと私を見る顔も、満足してイビキかいてるムカツク程腑抜けた寝顔だってぜーんぶ見てるさ」
「コラッ、外で言うんじゃない」
「でもね、どう言えばいいのかな。結論を出すには材料が足りない」
「いい加減観念してくれないか?」
ここまで人のことを把握しておいて待たされるのはずっと待てをされ続けている犬の気分になる。目の前にご褒美があるというのにどうしてこんなにも焦らされるのか。ジトリとした目を向けると少しだけ困った顔をしている。
「中途半端な結論は絶対に後悔するから。慎重に考えてる、んじゃないかな、うん。ええっと、その」
しどろもどろに言葉を紡ぐ姿が珍しく感じる。今までこちらの感情を散々煽っていた時の面影は存在しない。自分はされたくないのかと呆れてしまうがそれが本来の姿なのだろう。
「―――いつか一緒にガレマルド、見に行こうね。キミの故郷で、ボク達が出会った場所」
「……ああ」
「かつてどう魔導城まで走ったかも教えてあげるよ、その時」
「それは楽しみかもしれんな」
どうやら感情についてはもう聞いて欲しくないらしい。仕方がない、今夜"は"我慢しようじゃないか。傍に置いてあった酒を再びジョッキに注ぎ、星を見上げながら2人で静かに飲んだ。
途中、酔っぱらったゲロルト達も乱入し、その静かな時間も破壊された。だがまあそれも楽しかったからいいだろうと笑い合う。結局飲みすぎてしまい、ほぼ全員まとめて酔わないアンナが介抱する羽目になったのはまた別の話。
Wavebox
#シド光♀
セイブ・ザ・クイーン第4章終了後ストーリー補完。ちょっとあまりにもシド自機の話にかち合うので急いで書きました。
自分を苦しめ続けた全てに片が付いた、気がした。ペンダントの蓋を開き、その写真を見つめる。1人酒を飲み、優しく微笑んだ。
「シド。ああ邪魔だった?」
「アンナか。いや、そろそろ呼ぼうとは思っていた」
ボズヤ解放戦線はひとまず終わった。否、彼らにとっては一つの始まりになる。東奔西走し、武器を振り回していたヴィエラのアンナはジョッキを持ち、はにかんでいた。
―――途中から彼女と言葉をあまり交わさなかった。いや、避けられていた気がする。理由は分からないが。ただ槍を手にし、冷ややかな目で作戦内容を聞いていた。声を掛けてもすぐに「用事、あるから」と去る。それは初めて見せた目付きだった。が、振り返ってみると俺や暁の人間以外に向ける視線はこんな感じだった、と思う。兎に角、これまでの時間を考えると一瞬だけ他所他所しくなり少しだけ寂しかった。
◇
作戦中に社員リリヤが大怪我を負い、クガネに連れて行った。治療の合間にふとそれをネロにリンクパール経由でアンナが急に冷たくなったと言うと爆笑される。そしてこう言ったのだ。
『アイツ、槍握るとすげェ怖くなンぞ。オメガの一件中に一瞬マジな殺意喰らった。まさしくあの"鮮血の赤兎"、息が詰まって殺されンじゃねってな。ンで? ガーロンド、何やった?』
「分からん。記憶探索の後まではいつものアンナだった。クガネで慰めてくれたし。それから徐々に態度が冷たくなって、そういや槍を持ってるって思ってな」
『マァ相当ストレスが来たンだろ。だが多少の戦闘でそこまでキレるバブーンじゃねェ。お前が悪いンだろ絶対』
「きっかけがリリヤらから宿題を渡されて一度戻った後からかもしれん。そん時会話交わす暇もなかった。だから俺不在の間に機嫌を崩されちゃどうしようもないだろ」
失礼なことにため息を吐きながら切られた次の日、再びネロの方から連絡が来る。すると『ただの惚気話に巻き込むンじゃねェぞ』と呆れたような声がした。わざわざ本人に聞いてくれたのかと感謝の言葉を述べようと思い、どういうことだと尋ねる。だが、『鈍感な男は本格的に嫌われンぜ? マァ新入りは復帰後お仕事増量しとくと代理サマからの伝言だ』としか言わない。モヤモヤとした気持ちを持ったまま第IV軍団との最終決戦を迎える。
そして作戦終了後、リンクパール通信経由でリリヤが『あと英雄サン本当にごめんなさいッス! 姉御達から聞いてビックリしたッスよぉ……。だからボスの件は反省してるんで! どうか、どうか姉御に鬼な仕事量減らすように進言して欲しいッス!!』という悲痛な命乞いに俺含め周囲は首を傾げていたがアンナは「何を聞いたの?」と苦笑していたのが印象的だった。
それが俺から見たアンナとボズヤ解放戦線の後半戦だ。判断ミスで大切な社員を大怪我させてしまったのは大失態だが、俺にとっては一つの区切りで。酒盛りの喧騒から離れ、1人親父との写真を眺めながら飲んでいると、よく分からないがいつもの物静かなアンナが姿を見せる。
◇
「隣、いい?」
「ああ」
隣に座り込む。一瞬だけ俺の脚に顔を擦り付けた。息を飲み、目を見開いてしまう。しかし何事もなくペンダントの方を指さす。
「それ、あなたとお父様?」
「ああ。15年ぶりに開いた」
「吹っ切れたってやつね。よかった」
ほら、とジョッキを向けられたので軽く合わせる。アンナは一気にエールを煽り、俺に少し複雑そうな笑顔を見せた。
「冷たくしてごめん。あなたは悪くない。怖い思いさせちゃった」
「いや俺は大丈夫だ」
「……あれも私。"ガレマール帝国"の初代皇帝が欲し、兵士の間では怪談になったヒト。あなたが過去と向き合ったように私だって―――ね?」
「アンナ」
「アレを見ても、あなたは……私のことスキ? それとも兵器として利用してみる?」
じっとこちらを見上げ、答えを待っている。笑みがこぼれ、肩を軽く叩き、寄せてやった。
「アンナは人間だ。兵器じゃない。いつも言ってるじゃないか。ただの旅人ってな」
「杞憂だったかぁ」
「そもそも兵器として見るならオメガの一件までにはそうしてるさ。今更だろう。アンナはもう余計なものを1人で突っ走る必要はない。俺も一緒に行くからな」
「バイシャーエンからも同じようなこと言われたよ。『そこまで解放者殿が背負う必要はありません』ってね。―――あの人が最後に止めてくれなかったら本気で過去に引っ張られてたかもしれない位やりすぎたのは反省してる」
命の恩人の修行による影響でバカみたいに強い力でこれまで色々解決してきた人間だ。今更目の色変えてしまうわけがないだろうに―――ここまで来てそんな心配をしていたらしい。だが、確かに"鮮血の赤兎"と呼ばれていた頃があったことを、嫌でも思い出した。心の奥底で罪悪感を持ち続けていた俺のように、アンナも笑顔という仮面を被り決して過去がバレないよう立ち回る。そうやってお互いずっと触れられたくない過去を封印し、見ないようにしてきた。きっと今回は帝国兵が相手だったから、そういう手段も取れたのだろう。向こう側がどういう反応をしていたのか気になる所ではある。
そう思った所で意外なことを言い出した。舌をペロリと出し、イタズラな笑みを浮かべながら聞き飽きたあの言葉を吐く。
「まあ昔の私だったら、『だからあの人の方がいいよ。まとめて護ってあげる』って言ったかもね」
「おいだから何を今更」
「現実は怖くて言えなかった。不思議だね」
ペンダントの方を見つめながらボソリと暗いトーンで機嫌が悪かった本当の理由を語り始めた。
「周りから見たらあなたとミコト、お似合いなんだってね」
「そうか?」
「頭いいし、ちっちゃくて可愛らしいし。護ってあげたい子だよね。研究職な子だし、真面目なあなたなら議論のし甲斐もあるでしょ?」
鈍感だと周りに言われ続けた俺でも流石にここで気が付く。ネロから"惚気話"と吐き捨てられ、ジェシーによるリリヤに課された謎の"仕事増量"。そしてリリヤが何故かアンナ"に"命乞いをする声で察するべきだったかもしれない。声を出して笑ってしまう。
「何が面白い?」
「いやお前さんもちゃんと嫉妬するんだなって思ってな」
「別に。周囲がアドバイスやらで盛り上がってて少しだけイラッとしたから槍を振り回して……あっ」
「ほら嫉妬じゃないか」
そっぽを向かれる。よく見ると肩が少し震えていた。まさか自分がいない間にそんな話がされてるとは微塵も考えになかった。そしてアンナが複雑な気持ちを持ってくれているとも予想せず笑みがこぼれる。これでまだ男女の付き合いをしてないというのが嘘だろ? と思う位には面白く感じた。
「きゃ、客観的に見たら最終的にそうなっただけで別に私自体はその。だから背中バンバン叩くなぁ!」
「今から言いに行くか? 俺にはアンナがいるから」
「必要ない! ヒミツはヒミツのままでいいし第一私はまだ結論が、ついてなく」
「はははそうだったな」
きっとヒト耳だったら耳まで真っ赤な姿が見れただろう。少しだけ長い耳が後ろに倒れている。そのまま耳と一緒に頭を撫でてやるとジトリとした目でこちらを見上げた。
「待ってるぞ」
「……期待しないで欲しいねぇ」
目を細め苦笑しながらアンナはその手を握り指先に口付ける。仕草はもう恋人そのものに見えるし、以前と違い見上げるように座っていることが嬉しい。昔だったら耳を触られたくないからという事実を誤魔化し、立ったまま飲んでいただろう。
「でもまあ……同じ背負うという行為ならば騒ぎながら"キミ"の重たい過去や夢と一緒に歩けるのは私だけなのは分かる。普通の人だったら押し潰されてるね」
「そんなにか?」
「キミの好き嫌いもその料理の作り方も、イタズラされた時の怒ってる顔が面白いことだって知ってる。あとキミだってよく不機嫌な顔して話に割って入るね。不在の間に起こったこと部下に聞いてるんでしょ? 把握してる。性行為中に見るなつってもずっと私を見る顔も、満足してイビキかいてるムカツク程腑抜けた寝顔だってぜーんぶ見てるさ」
「コラッ、外で言うんじゃない」
「でもね、どう言えばいいのかな。結論を出すには材料が足りない」
「いい加減観念してくれないか?」
ここまで人のことを把握しておいて待たされるのはずっと待てをされ続けている犬の気分になる。目の前にご褒美があるというのにどうしてこんなにも焦らされるのか。ジトリとした目を向けると少しだけ困った顔をしている。
「中途半端な結論は絶対に後悔するから。慎重に考えてる、んじゃないかな、うん。ええっと、その」
しどろもどろに言葉を紡ぐ姿が珍しく感じる。今までこちらの感情を散々煽っていた時の面影は存在しない。自分はされたくないのかと呆れてしまうがそれが本来の姿なのだろう。
「―――いつか一緒にガレマルド、見に行こうね。キミの故郷で、ボク達が出会った場所」
「……ああ」
「かつてどう魔導城まで走ったかも教えてあげるよ、その時」
「それは楽しみかもしれんな」
どうやら感情についてはもう聞いて欲しくないらしい。仕方がない、今夜"は"我慢しようじゃないか。傍に置いてあった酒を再びジョッキに注ぎ、星を見上げながら2人で静かに飲んだ。
途中、酔っぱらったゲロルト達も乱入し、その静かな時間も破壊された。だがまあそれも楽しかったからいいだろうと笑い合う。結局飲みすぎてしまい、ほぼ全員まとめて酔わないアンナが介抱する羽目になったのはまた別の話。
Wavebox
#シド光♀
"ボトルレター"
注意
旅人、猫を拾うと同じ頃に起こったお話。少しだけその複製体は聞き記すと繋がっている話でもある。
―――アンナがリテイナーア・リスを認知した一方その頃ガーロンド・アイアンワークス社。
「会長、手紙が届いてますよ」
「俺にか?」
「いえ会長というよりかは会社にって感じでしょうか」
会長代理であるジェシーは少し怪訝な顔でボトルを差し出す。ボトルレターかと呟きながらそれを観察する。確かに中に入っている紙には『ガーロンド・アイアンワークス社に届くことを願って』と書かれていた。
「新生祭の実行委員会から受け取りました。勝手ながら中身を確認したがこちらでは理解が出来なかったのでと」
「えらく古びた手紙じゃねェか」
偶然通りかかったネロはニィと笑いながらボトルを凝視する。
「開けねェのか?」
「いや今から取り出そうとは思ったが」
シドはボトルの蓋を開き手紙を取り出す。非常に質の悪い紙に文字が刻まれていた。
「何々、―――は?」
シドは目を丸くし手紙を凝視している。ジェシーとネロも覗き込むと同じく眉間に皴を寄せた。
『目覚めた猫に愛しの女を盗られるなよ シド・ガーロンド』
手紙の陰で見えなかったがウサギを模すように巻かれた針金に白と金の塗料を塗ったものが転がり落ちる。それを拾いながらシドは首を傾げた。
「よく分からん」
「全然分かりませんね」
「イタズラにしちゃ年季が入ってンな……ア」
ネロは少しだけ悩む素振りを見せた直後シドが持っていた手紙とウサギを分捕る。
「おいネロ!」
「貰ってくぜ」
「いや何でお前が持って行くんだ!?」
そそくさとその場を後にする姿をシドは呆れた目で見送った。
◇
『"最高傑作"を完成させる永い旅の準備を終わらせた』
先日あるミコッテが遺したトームストーンに入っていた映像で確かにその単語が入っていた。最高傑作というのは明言はしていなかったがあの英雄のことだろう。命を捧げ何らかを施した―――らしい。シドはその場に居合わせなかったからこの言葉を知らない。知っているのは一度しか再生されないビデオレターを見たネロとエルファーだけだ。
「エルに言うべきかねェ」
不思議なウサギの物体を指で遊びながらため息を吐く。普通のミコッテ相手ならばもう死んでいるだろう存在について心配することはない。しかし相手は話を聞いた限りでは普通というカテゴリに収まれない。しかもソイツはかつてのエルファーと共に何かをやらかした友人だ。"第八霊災を防ぐことが出来なかった世界"という話を以前暁やアンナが口にしている。もしもこの忠告が本当に時間と次元を越え流された手紙ならば何かが起こってからでは遅い。ありえないと思いたいが問題の英雄周辺では"絶対にありえない"ことが起こり続けている。やはり一言だけ伝えておく方がいいのかもしれないと判断した。次に酒が入った時に言っておこうと1人頷き歩み出す。
ふと窓の外から視線を感じた。思わず振り向き確認するが気配は消えている。
―――それから彼らの周りで奇妙な現象が起こるようになる。視界の端に何やら細長い尻尾を捉えたりアンナが不思議な装置や錬金薬を見せるようになるとか、だ。
『こういう面倒事に巻き込まれンのはガーロンドだけでいいじゃねェか』
そうネロは怪訝な目をするエルファーの隣でため息を吐いた。
Wavebox
旅人、猫を拾うと同じ頃に起こったお話。少しだけその複製体は聞き記すと繋がっている話でもある。
―――アンナがリテイナーア・リスを認知した一方その頃ガーロンド・アイアンワークス社。
「会長、手紙が届いてますよ」
「俺にか?」
「いえ会長というよりかは会社にって感じでしょうか」
会長代理であるジェシーは少し怪訝な顔でボトルを差し出す。ボトルレターかと呟きながらそれを観察する。確かに中に入っている紙には『ガーロンド・アイアンワークス社に届くことを願って』と書かれていた。
「新生祭の実行委員会から受け取りました。勝手ながら中身を確認したがこちらでは理解が出来なかったのでと」
「えらく古びた手紙じゃねェか」
偶然通りかかったネロはニィと笑いながらボトルを凝視する。
「開けねェのか?」
「いや今から取り出そうとは思ったが」
シドはボトルの蓋を開き手紙を取り出す。非常に質の悪い紙に文字が刻まれていた。
「何々、―――は?」
シドは目を丸くし手紙を凝視している。ジェシーとネロも覗き込むと同じく眉間に皴を寄せた。
『目覚めた猫に愛しの女を盗られるなよ シド・ガーロンド』
手紙の陰で見えなかったがウサギを模すように巻かれた針金に白と金の塗料を塗ったものが転がり落ちる。それを拾いながらシドは首を傾げた。
「よく分からん」
「全然分かりませんね」
「イタズラにしちゃ年季が入ってンな……ア」
ネロは少しだけ悩む素振りを見せた直後シドが持っていた手紙とウサギを分捕る。
「おいネロ!」
「貰ってくぜ」
「いや何でお前が持って行くんだ!?」
そそくさとその場を後にする姿をシドは呆れた目で見送った。
◇
『"最高傑作"を完成させる永い旅の準備を終わらせた』
先日あるミコッテが遺したトームストーンに入っていた映像で確かにその単語が入っていた。最高傑作というのは明言はしていなかったがあの英雄のことだろう。命を捧げ何らかを施した―――らしい。シドはその場に居合わせなかったからこの言葉を知らない。知っているのは一度しか再生されないビデオレターを見たネロとエルファーだけだ。
「エルに言うべきかねェ」
不思議なウサギの物体を指で遊びながらため息を吐く。普通のミコッテ相手ならばもう死んでいるだろう存在について心配することはない。しかし相手は話を聞いた限りでは普通というカテゴリに収まれない。しかもソイツはかつてのエルファーと共に何かをやらかした友人だ。"第八霊災を防ぐことが出来なかった世界"という話を以前暁やアンナが口にしている。もしもこの忠告が本当に時間と次元を越え流された手紙ならば何かが起こってからでは遅い。ありえないと思いたいが問題の英雄周辺では"絶対にありえない"ことが起こり続けている。やはり一言だけ伝えておく方がいいのかもしれないと判断した。次に酒が入った時に言っておこうと1人頷き歩み出す。
ふと窓の外から視線を感じた。思わず振り向き確認するが気配は消えている。
―――それから彼らの周りで奇妙な現象が起こるようになる。視界の端に何やら細長い尻尾を捉えたりアンナが不思議な装置や錬金薬を見せるようになるとか、だ。
『こういう面倒事に巻き込まれンのはガーロンドだけでいいじゃねェか』
そうネロは怪訝な目をするエルファーの隣でため息を吐いた。
Wavebox
連作:紅蓮レイド編【完結済み】
オメガ中に起こったお話。時系列がバラバラなものなので順番にリスト化します。
アンナ編
本筋
旅人は奮い立たせたい // 旅人は、目覚めさせる // 旅人と約束
幕間(R18含む)
好奇心は旅人を起こす :: デルタ編終了~シグマ編4までに起こった会話。アンナの過去が少しだけ分かりネロと仲良く(?)なる話。
【R18】旅人は初めての夜を過ごす【pass:共通鍵】 :: 旅人は奮い立たせたいで起こったR18部分。シドが屁理屈と勢いで押し切り想いを伝える話。
【R18】旅人は初めての夜を過ごす(SideA) :: 上記のアンナ視点。どんどん自爆してドツボにハマり堕とされるアンナさんの話。
旅人は人を見舞う :: 旅人は奮い立たせたい数日後。ネロへお見舞いとアンナと帝国関係のお話チラ見せ。
後日談
【R18】旅人は密会する【pass:共通鍵】 :: オメガ事変終了約2週間後。R18と書いているが多分してることはR15程度の話。
【NSFW】旅人は首元を押さえる :: 上記の数日後。特定の感情を感じ取ると首元がザワつくアンナがどうして自分が好きになったのか聞く話。
【R18】旅人は首元を押さえる(full)【pass:共通鍵】 :: 上記のフルバージョン。
【R18】旅人は首元を押さえる(SideC)【pass:共通鍵】 :: シド視点。
エルファー編
旅人の兄が歩んだ短編集 // オメガ開始直前までのエルファーとネロ話短編4本。
旅人の兄が歩んだ短編集2 // エルファーから見たオメガ事変短編6本。
アンナ編
本筋
旅人は奮い立たせたい // 旅人は、目覚めさせる // 旅人と約束
幕間(R18含む)
好奇心は旅人を起こす :: デルタ編終了~シグマ編4までに起こった会話。アンナの過去が少しだけ分かりネロと仲良く(?)なる話。
【R18】旅人は初めての夜を過ごす【pass:共通鍵】 :: 旅人は奮い立たせたいで起こったR18部分。シドが屁理屈と勢いで押し切り想いを伝える話。
【R18】旅人は初めての夜を過ごす(SideA) :: 上記のアンナ視点。どんどん自爆してドツボにハマり堕とされるアンナさんの話。
旅人は人を見舞う :: 旅人は奮い立たせたい数日後。ネロへお見舞いとアンナと帝国関係のお話チラ見せ。
後日談
【R18】旅人は密会する【pass:共通鍵】 :: オメガ事変終了約2週間後。R18と書いているが多分してることはR15程度の話。
【NSFW】旅人は首元を押さえる :: 上記の数日後。特定の感情を感じ取ると首元がザワつくアンナがどうして自分が好きになったのか聞く話。
【R18】旅人は首元を押さえる(full)【pass:共通鍵】 :: 上記のフルバージョン。
【R18】旅人は首元を押さえる(SideC)【pass:共通鍵】 :: シド視点。
エルファー編
旅人の兄が歩んだ短編集 // オメガ開始直前までのエルファーとネロ話短編4本。
旅人の兄が歩んだ短編集2 // エルファーから見たオメガ事変短編6本。
技師は紅き星を振り返る
注意
旅人は星を見つけるの冒頭独白シドバージョンです。
寒い夜。ガキの頃、俺は言いつけを破り何かに導かれたように外へ出た。キョロキョロと周りを見渡し少しだけ裏路地に入ると大きな塊。それに恐る恐る近付くと長い槍に、褐色の長い指が見えた。まじまじと観察する前に『人を、呼ばなくては』と判断する。踵を返し、巡回兵を呼ぼうとすると俺の服の裾を掴まれた。振り向くと、フードを深く被った人が「寒い」と小さく呟く。その時、キレイで不思議な赤色の旅人に心を奪われた―――。
初めて抱いた感情は、物静かで、作り物のような不気味さ。しかしそんな何かに怯え続けながらも、裏では俺や周りを観察していた。
あの星空が綺麗な夜、それまで暗い雰囲気だった"彼女"が見せた柔らかな笑顔に衝撃を受けてしまった時のことは未だに覚えている。綺麗な顔で細い身体から繰り出される強い力。―――その時の自分との正反対さが目を細めてしまうほど眩しかった。思えばこの地点で既に"彼女"に惚れてしまっていたのかもしれない。
俺が記憶を取り戻した時の、あの優しげな目を覚えている。元気になって、よかったという言葉だけでは説明出来ない"彼女"の目に灯る星を見た。それから蛮神討伐、そして仲間の救出という同じ目的を共有した冒険が何よりも楽しかった。だからそれ以降も何気なく付いて行こうと画策するようになる。"彼女"が何らかに関わるだけで未知の技術が転がり込んでくるのだ。技術者としての自分も簡単に"彼女"という存在を手放せるわけがないさ。
"彼女"が刀を持った日、内面に沸き立つ興奮が初めて俺の心を焼き焦がす。舌をペロリと出しながら愛しげに刀の柄を撫でる姿に本能がこのオンナは危険だと警笛を鳴らした。それに反し、自らの情熱は熱が灯りかけ、作戦中じゃなければ非常に危なかった。絶対に敵に回したくないと決心するくらい、斬り払う時の笑顔にゾクリと背筋が凍るほどの美しさを覚える。
一度、うっかりと手から零れ落ちてしまったヒトに対し悲しむ弱さを目の当たりにしてしまう。どうすればいいのか分からず、肩を撫で続けることしか出来なかった。一瞬火傷しそうなほど熱くなった身体と震えた空気。その肩を少しでも強く握るとすぐに壊れてしまいそうで。なんて繊細な機械装置のようなヒトなんだ、と思ってしまう。
あの星芒祭での出来事を境に少しだけ素を見せるようになった。何気に精巧な技術を用いたイタズラに説教しながらも居場所だと認識してくれたことに対して喜びを覚える。"あの人"が置いて行った髪飾りを握りしめ、何としても"彼女"の助けになろうと追いかけた。
思い返すとお互いの距離感がおかしくなったのもこの出来事がきっかけだったかもしれない。狂い始めた歯車は、軋み続けていった。
ドマで初めて具体的な"彼女"の過去を目の当たりした。同じく"無名の旅人"と名乗っていた命の恩人から与えられた全ての始まりを知る。再会の約束が叶わなかったと少し悲しそうな姿を見て、このまま傍にいてもいいのか、という疑問が湧く。しかし当時の自分は気付いていなかった。もうすでに何度も焦がされていた心は修理不可能なほどその熱で歪み切っていたことに。そしてこの時から、確実に"あの人"と"彼女"を重ね始めていた。
いつも数歩後ろを歩く"彼女"と常に隣で笑い合ってみたかった。そんな反面、全てを斬り払うための道を作ると、流星の如く走り抜き去っていく後ろ姿を見守る。―――そんな"彼女"を支える行為も楽しかった。紅く光る流星が、灼熱の炎で俺の心ごと文字通り全て燃やし尽くす。"彼女"に無意識下で長い間恋焦がれていたと、初めて首元に噛みついた夜に自覚してしまった。甘い香りと冷たい肌に歯を立てた瞬間の少しだけビクリと震え喉から発せられた甘い声。その直後遅れて湧き出したのは底知れぬもっと欲しいという欲望。だが、俺は今の関係がいいと想いを封印し、笑い合うことを選ぶ。それは2人きりの時に何が起こっても、表では平静で居続ける行為が可能な、そう、人に無関心な"彼女"に甘え続けていたのも確かで。この後オメガによって引き起こされた事変で再び共闘出来ることをただただ喜んでいた。
オメガによる度重なる仲間への襲撃に対し落ち込んだ時、遂に慰めに来た"彼女"を抱き、想いを伝えてしまった。まるで一目見てから我慢し続けた感情を全てぶつけるかのようにトンデモ理論と勢いで押し切る。いや、きっかけも"今まで出会った人間の中で初めてならキミがいいとは考えていた"と煽ったのも向こうだから俺は悪くないさ。と思いたい。
ただただ相手は初めてだったのに、手加減無しで一晩中衝動に任せて抱き潰した。そう、その夜は甘くもなく自分の"好き"に塗り替えていく行為に夢中になってしまう。後日何度も謝り倒した。
だが、そこで命の恩人の言葉に縋る理由も分かったので有意義な時間ではあった。そしてどこか懐かしい低い声で"宿題"を言い渡された時、絶対解いてやると決心する。誰も手中に収めることが出来なかった"彼女"という報酬が手に入るのだから躍起にもなるだろう。
―――それは初めて"彼女"の口から漏れた"SOS"。だから全力で解きに行くに決まっている。
最後の検証で初めて弱き人間の想いを込めたという"本気"を見る。怒りの感情に合わせるかの如く空気が震え赤黒く染まった後、全ての音が消えた世界で刀身が青白く光り、人を模したオメガを斬り伏せる。振り下ろされた時に現れた光の斬撃はまるで流星の軌跡のように綺麗で。
青白い光の意味は未だに分からない。ただただこの人が敵じゃなくて本当によかったと痛感する。だってもしも敵だったら二度とこの美しい流星が見えないじゃないか。疲れたのか少しだけ動きがぎこちない"彼女"の背中を叩きながら笑い合う。
その後、"彼女"は何者かに呼ばれ、別の世界に消えてしまった。
オメガの後処理に鬼のような量の仕事。それらを終わらせた後、いつの間にか悪友と親しくなっていた"彼女"の兄と対面する。―――驚くほどにそっくりだった。その赤髪も、喋り方も、故郷の髪飾りも。俺は彼も連れ、"宿題"を解くために命の恩人の墓へ向かう。そこで"真実"を知った。彼が遺した手紙はこれまでの"彼女"との旅路がなければ信じられなかっただろう。
そして"宿題"の答えは"これ"でいい。少しの間だけ反応したがまた光が消えた用途不明な装置を受け取りエオルゼアへと帰る。
別の世界に消えてしばらくして、"夢の世界"に連れて行かれた。そこは少しだけ弱った"彼女"と真実を照らし合わせる幸せな夢。絶対に生きて戻ってこいという俺が与えられる最高の"呪い"。命の恩人の教えに上書きするかのように吹き込み、帰りを待った。
青龍壁の調整をし、飛空艇の整備を行い、何事もなく納期もやってくる。―――"彼女"がいなくてもつまらない日常は回り続けた。
俺は『会いたい』とため息を吐く。するとふとあの解析しても用途が一切不明だった装置が突然ポンと音を鳴らした。それを持ち上げ、何が起こったのかと思いながら見つめているとリンクパールが鳴る。送信主は暁の血盟のクルル。どうしたのか、いや彼女からならば1つしかない。分かっていながらも平静を装うために用件を問うとこう言ったのだ。
『アンナが帰って来たの。嫌そうな顔をしながらガーロンド社へ向かったから、頑張ってね』
俺は反射的にネロと"彼女"の兄レフが軽量化、再調整した捕獲装置を手に取り慌てて部屋を飛び出す。謎の装置の光が徐々に強くなっているのが見えた。これは、もしかして―――。
Wavebox
#シド光♀
旅人は星を見つけるの冒頭独白シドバージョンです。
寒い夜。ガキの頃、俺は言いつけを破り何かに導かれたように外へ出た。キョロキョロと周りを見渡し少しだけ裏路地に入ると大きな塊。それに恐る恐る近付くと長い槍に、褐色の長い指が見えた。まじまじと観察する前に『人を、呼ばなくては』と判断する。踵を返し、巡回兵を呼ぼうとすると俺の服の裾を掴まれた。振り向くと、フードを深く被った人が「寒い」と小さく呟く。その時、キレイで不思議な赤色の旅人に心を奪われた―――。
初めて抱いた感情は、物静かで、作り物のような不気味さ。しかしそんな何かに怯え続けながらも、裏では俺や周りを観察していた。
あの星空が綺麗な夜、それまで暗い雰囲気だった"彼女"が見せた柔らかな笑顔に衝撃を受けてしまった時のことは未だに覚えている。綺麗な顔で細い身体から繰り出される強い力。―――その時の自分との正反対さが目を細めてしまうほど眩しかった。思えばこの地点で既に"彼女"に惚れてしまっていたのかもしれない。
俺が記憶を取り戻した時の、あの優しげな目を覚えている。元気になって、よかったという言葉だけでは説明出来ない"彼女"の目に灯る星を見た。それから蛮神討伐、そして仲間の救出という同じ目的を共有した冒険が何よりも楽しかった。だからそれ以降も何気なく付いて行こうと画策するようになる。"彼女"が何らかに関わるだけで未知の技術が転がり込んでくるのだ。技術者としての自分も簡単に"彼女"という存在を手放せるわけがないさ。
"彼女"が刀を持った日、内面に沸き立つ興奮が初めて俺の心を焼き焦がす。舌をペロリと出しながら愛しげに刀の柄を撫でる姿に本能がこのオンナは危険だと警笛を鳴らした。それに反し、自らの情熱は熱が灯りかけ、作戦中じゃなければ非常に危なかった。絶対に敵に回したくないと決心するくらい、斬り払う時の笑顔にゾクリと背筋が凍るほどの美しさを覚える。
一度、うっかりと手から零れ落ちてしまったヒトに対し悲しむ弱さを目の当たりにしてしまう。どうすればいいのか分からず、肩を撫で続けることしか出来なかった。一瞬火傷しそうなほど熱くなった身体と震えた空気。その肩を少しでも強く握るとすぐに壊れてしまいそうで。なんて繊細な機械装置のようなヒトなんだ、と思ってしまう。
あの星芒祭での出来事を境に少しだけ素を見せるようになった。何気に精巧な技術を用いたイタズラに説教しながらも居場所だと認識してくれたことに対して喜びを覚える。"あの人"が置いて行った髪飾りを握りしめ、何としても"彼女"の助けになろうと追いかけた。
思い返すとお互いの距離感がおかしくなったのもこの出来事がきっかけだったかもしれない。狂い始めた歯車は、軋み続けていった。
ドマで初めて具体的な"彼女"の過去を目の当たりした。同じく"無名の旅人"と名乗っていた命の恩人から与えられた全ての始まりを知る。再会の約束が叶わなかったと少し悲しそうな姿を見て、このまま傍にいてもいいのか、という疑問が湧く。しかし当時の自分は気付いていなかった。もうすでに何度も焦がされていた心は修理不可能なほどその熱で歪み切っていたことに。そしてこの時から、確実に"あの人"と"彼女"を重ね始めていた。
いつも数歩後ろを歩く"彼女"と常に隣で笑い合ってみたかった。そんな反面、全てを斬り払うための道を作ると、流星の如く走り抜き去っていく後ろ姿を見守る。―――そんな"彼女"を支える行為も楽しかった。紅く光る流星が、灼熱の炎で俺の心ごと文字通り全て燃やし尽くす。"彼女"に無意識下で長い間恋焦がれていたと、初めて首元に噛みついた夜に自覚してしまった。甘い香りと冷たい肌に歯を立てた瞬間の少しだけビクリと震え喉から発せられた甘い声。その直後遅れて湧き出したのは底知れぬもっと欲しいという欲望。だが、俺は今の関係がいいと想いを封印し、笑い合うことを選ぶ。それは2人きりの時に何が起こっても、表では平静で居続ける行為が可能な、そう、人に無関心な"彼女"に甘え続けていたのも確かで。この後オメガによって引き起こされた事変で再び共闘出来ることをただただ喜んでいた。
オメガによる度重なる仲間への襲撃に対し落ち込んだ時、遂に慰めに来た"彼女"を抱き、想いを伝えてしまった。まるで一目見てから我慢し続けた感情を全てぶつけるかのようにトンデモ理論と勢いで押し切る。いや、きっかけも"今まで出会った人間の中で初めてならキミがいいとは考えていた"と煽ったのも向こうだから俺は悪くないさ。と思いたい。
ただただ相手は初めてだったのに、手加減無しで一晩中衝動に任せて抱き潰した。そう、その夜は甘くもなく自分の"好き"に塗り替えていく行為に夢中になってしまう。後日何度も謝り倒した。
だが、そこで命の恩人の言葉に縋る理由も分かったので有意義な時間ではあった。そしてどこか懐かしい低い声で"宿題"を言い渡された時、絶対解いてやると決心する。誰も手中に収めることが出来なかった"彼女"という報酬が手に入るのだから躍起にもなるだろう。
―――それは初めて"彼女"の口から漏れた"SOS"。だから全力で解きに行くに決まっている。
最後の検証で初めて弱き人間の想いを込めたという"本気"を見る。怒りの感情に合わせるかの如く空気が震え赤黒く染まった後、全ての音が消えた世界で刀身が青白く光り、人を模したオメガを斬り伏せる。振り下ろされた時に現れた光の斬撃はまるで流星の軌跡のように綺麗で。
青白い光の意味は未だに分からない。ただただこの人が敵じゃなくて本当によかったと痛感する。だってもしも敵だったら二度とこの美しい流星が見えないじゃないか。疲れたのか少しだけ動きがぎこちない"彼女"の背中を叩きながら笑い合う。
その後、"彼女"は何者かに呼ばれ、別の世界に消えてしまった。
オメガの後処理に鬼のような量の仕事。それらを終わらせた後、いつの間にか悪友と親しくなっていた"彼女"の兄と対面する。―――驚くほどにそっくりだった。その赤髪も、喋り方も、故郷の髪飾りも。俺は彼も連れ、"宿題"を解くために命の恩人の墓へ向かう。そこで"真実"を知った。彼が遺した手紙はこれまでの"彼女"との旅路がなければ信じられなかっただろう。
そして"宿題"の答えは"これ"でいい。少しの間だけ反応したがまた光が消えた用途不明な装置を受け取りエオルゼアへと帰る。
別の世界に消えてしばらくして、"夢の世界"に連れて行かれた。そこは少しだけ弱った"彼女"と真実を照らし合わせる幸せな夢。絶対に生きて戻ってこいという俺が与えられる最高の"呪い"。命の恩人の教えに上書きするかのように吹き込み、帰りを待った。
青龍壁の調整をし、飛空艇の整備を行い、何事もなく納期もやってくる。―――"彼女"がいなくてもつまらない日常は回り続けた。
俺は『会いたい』とため息を吐く。するとふとあの解析しても用途が一切不明だった装置が突然ポンと音を鳴らした。それを持ち上げ、何が起こったのかと思いながら見つめているとリンクパールが鳴る。送信主は暁の血盟のクルル。どうしたのか、いや彼女からならば1つしかない。分かっていながらも平静を装うために用件を問うとこう言ったのだ。
『アンナが帰って来たの。嫌そうな顔をしながらガーロンド社へ向かったから、頑張ってね』
俺は反射的にネロと"彼女"の兄レフが軽量化、再調整した捕獲装置を手に取り慌てて部屋を飛び出す。謎の装置の光が徐々に強くなっているのが見えた。これは、もしかして―――。
Wavebox
#シド光♀
旅人は答えを見つける
注意・補足
ボズヤ、ウェルリト後、遂に付き合うことになる話。
―――故郷でも、命の恩人からも、教えてもらえなかったコト、皆誰から学んでるの?
◇
「ビッグス、社内で流れてる噂聞いた?」
「噂、ですか?」
ある日の昼下がりのガーロンド・アイアンワークス社。ジェシーはビッグスに近頃起こっている奇妙な話について聞く。
「アンナが手当たり次第に人を捕まえて、質問攻めしてるらしいのよ」
「こっちには来てませんが…」
「それオイラの所に来たッスよ!」
傍で作業していたウェッジがパタパタと走って来る。
「恋や愛って何? と聞かれたッス!」
『恋!?』
ジェシーとビッグスの声が重なった。
「いや『好きな人いたよね? いつ好きに? どういう所好き? どうやって伝える? どこでその感情を学習?』とか畳みかけられたッス!」
「え、アンナ何言ってるの?」
「どこで学習? おいおいまさか」
「事情を聞いてみたら『何度考えても頭真っ白。結論のために質問の旅』って言いながら去って行ったッスよ! その、本当にまだ親方とアンナって付き合ってないんだって察したッス」
3人はため息を吐いてしまう。今更何を言っているんだという言葉しか脳に浮かばない。
「私、最初は会長があまりにも鈍感で奥手で不器用すぎてそれがボトルネックだと思ってたんだけど」
「まさか完全にアンナの思考とは……」
別の世界での人助けが終わり霊災も回避され、賢人たちの意識も無事回復し、少しの時間が経過した。その辺りからアンナの様子が少々おかしい。いや変なのは出会った当初からだが、考え込んでいる時間が増えた。一見いつもの笑顔は見せているのだが最近ぼんやりとしているようで。
閑話休題。恋愛関係で聞き回っているということはシド関連なのだろう。とっくの昔に、遅くても第一世界から一度戻ってきた日に決着がついたと思っていた。少なくとも最近ボズヤでも色々あった筈だがどうやら当人たちの間では未だそうなっていないらしい。
「あ、ジェシーいた」
3人が振り向くと噂のアンナが手を挙げながら部屋に入って来る。ウェッジの話を聞く限り次は自分に聞きたいのだろう、大慌てで椅子と紅茶を準備した。
◇
「ジェシーとビッグスは恋したことある? ウェッジは知ってる」
紅茶を飲みながらアンナはニコリと笑った。3人は顔を見合わせる。
「そりゃ一度はあるでしょ」
「ですよねえ」
「うん、私もあると思ってた。でもねえ」
肩をすくめ、ため息を吐く。
「いや正直恋って判断どこでしたのか理解不能。初恋は憧れとか幼い淡い体験にした。が、問題は大人になってから」
「はい」
「恋は学校の授業には存在せず。私も故郷では聞かなかったし命の恩人―――フウガも教えてくれなかった」
「そうかもしれないッスね」
「だから人はどう愛や恋を察知し、どうその先へ行くのか知るため暁やガーロンド社で聴取」
「分からない……過去一アンナが分からなくなったぞ……」
シドが時々アンナが分からんと言いながら眉間に皴を寄せ頭を抱えてる姿を見せる時があった。今その気持ちが理解出来たかもしれないとビッグスは片手で顔を覆う。
「フウガに向けていた感想とは全く異なる。だから恋というもの、どういう瞬間に感じるのか気になる」
「え、アンナ確か好きなタイプ聞いた時あっさり答えたじゃない。髭が似合って、がっしりとした体形で、光のような人って」
「フウガ"も"だよ? 髭が似合い、がっしりした体形、人助けが趣味、光のような人」
「ああ……」
あの時の言葉はどうやら別の人間を指していたらしい。もしかして重ねていたのだろうかとジェシーは眉間に指を当てて考えているとアンナはニコリと笑いながら聞く。
「んで、各々の恋した瞬間、記憶ある?」
「そうねえ。やっぱり憧れとか?」
「フウガは憧れ。けど……」
「優しいなって思ったり」
「優しい。けど恋までは」
「じゃあ一目惚れとかどうッスか!」
「確かにキレイな星。でも別に見てて何も」
「アーンーナー」
ジェシーのジトっとした目にあははごめんと苦笑いしている。
「ちなみにネロサンに聞いたら呆れた顔で色んな哲学書山積み。兄さんに"8人の嫁さんのプロポーズどうやって? 参考にする"って手紙送ったけど返事来ず」
「嗚呼……」
最近のアンナの兄である社員エルファーの様子がおかしい原因も彼女だったようだ。休憩中に『僕の恥がそのまま横流し……』と遠い目で呟いていた意味がはっきりする。
「アンナ、恋愛ごとに理屈は考えちゃいけないと思うの。言葉が出ないなら行動で示したら流石に会長も分かってくれるから」
「そういうもの? ……あれ? そういえば皆何故シドの話と思って? 言った記憶皆無」
「この段階で知らないって思ってたのか!?」
「あなた先日ボズヤでどうなってたか思い出しなさい!」
◇
散々悩んだ後アンナはまたフラフラと歩いて行った。ジェシーらは生暖かい目で見送る。その後喫煙室にいた休憩中のエルファーとネロを捕まえる。
「何か? ……遂に昇給?」
「アレだろ、メスバブーン関連」
「嗚呼」
エルファーの目から光が消えた。相当悩みこんでいたらしい。先程あったアンナとの話をするとネロは一頻り大爆笑した後項垂れる男を指さした。
「いつもは妹から手紙来たって小躍りして即返事出す癖に悶絶続けてンだ」
机に突っ伏し呪詛のような言葉を吐いているがジェシーは解読が出来ない。「ネロ、レフは何と?」と聞く。
「自分の言葉を引用してまンまプロポーズされちゃガーロンド吊る必要が出てくっからメスバブーンは一生悩んでろってよ」
「そこまでは言ってないやい」
「近くはあるんスね……」
「レフ、あなたの妹付き合ってすらいないのにプロポーズまでは飛躍しすぎよ」
ジェシーの言葉に頭を勢いよく上げる。やれやれと言いながら呆れた目を見せた。
「はぁ? いやいや妹から指輪渡すんだろ? 会長クンはすぐ近くにこの僕がいると知っていながら一言挨拶無しで更に先手にも回れないのかヘタレって話題じゃ」
「エル、あの無欲の権化の思考がそのまま反映されちまった妹なンだろ? 未だ恋愛っつー器用なおままごとする可愛いお花畑チャンに見えてンのか? 確かにプロポーズなンざ先手取らなきゃ気が済まねえって顔してるだろうがよ」
「……うっそだろ……」
再び突っ伏したまま震えている。また何か判別出来ない短い言葉を吐いているのでウェッジはネロに通訳を頼む。
「恥ずかしすぎて消えてェってよ」
「合ってる」
「合ってるのか……」
「何年その状態続いてんだよ! あとここまで上司と実の妹の内情が社内で拡散され切ってて死にたいんだが! さぞ君らは面白いだろうねぇ! ああそうだよ僕だったら絶対面白がるからな!」
「まあアンナからしたらレフはここにいないはずだもんなあ」
「うるせ! 会長クンに言いつけてやる! 君ら諸共僕は死ぬ!」
「ちっちゃいプライドのためにオイラ達まで巻き込まないで欲しいッス!!」
「ゴホン! 俺がどうした?」
その場にいた全員が固まる。喫煙室入り口を見るとシドの姿が。怪訝な顔をしてネロらを睨んでいる。
「あ、あれ親方仕事は」
「休憩させてくれ。今回も中々苦戦しててなあ。お前たちも世間話は程々にして手伝ってくれないか」
「それは構いませんけど」
「で、俺に言いつけるとは? レフがアンナみたいなキレ方してるなんて珍しいな。初めて兄妹だと思ったぞ。で、お前ら何かやらかしたのか?」
ネロ以外全員シドから目を逸らす。これは言ってもいいのか、いけないのか。アンナは秘密にしろとは言っていない。渋々エルファーが突っ伏した状態で抑揚のない言葉を吐いたのでビッグスはネロに翻訳を頼んだ。何度か振ったはいいものの何故言葉が解読が出来ているのはよく分からない。
「ンで一々俺に言わせてンだよ! はぁ―――最近妹とどうだってよ」
「アンナか? 最近何か考え込んでて声もまともに掛けられなくてな……って何で休憩中とはいえ今お前たちに話す必要あるんだ。せめてプライベートで聞けと」
「アー? そうかよ。妹からトンデモレターが届いて以降仕事に対するモチベ最悪だからテメーで何とかしろってよ。あと暁や可愛い部下困らせンな」
「トンデモ? ―――困らせ??」
シドは突き付けられたエルファーが貰ったという手紙の一部を眺め首を傾げている。案の定周りの状況を当の本人だけ知らないらしい。ジェシーはジトっとした目で報告する。
「アンナが手当たり次第に恋やら愛って何って聞いて回ってるんですよ。さっき私の所にも来ました」
「な、何やってるんだアイツ!?」
「心当たりありますよね?」
素っ頓狂な声を上げた後考え込んでいる。しばらくしして「あ」と漏らした。
『その旅が終わったら、即結論は教える』
第一世界から帰ってきた直後、そんな話をしていた気がする。そういえば記憶探索後に何か言おうとして固まっていた。その後も嫉妬されたりしたがそれも解決済みである。落ち着いた後は、会っても上の空で呼ばれては首を触りながら「何でもない」と言われる日々。どうなっているか一切理解出来なかった。
「いや、分からん。何でそういうことを聞き回っているかは俺にはさっぱり」
少し頭痛がしたような気がする。―――今までこっちをからかっていた人間なのに反応がおかしい。まさか今更恋やら愛やらで悩んでいるわけはないだろう。多分どうやってこちらで遊んでやろうかと周りを巻き込んでいるに違いない。
「とりあえず俺の方から強く注意しておこう、スマン」
シドはジトリとした目でそそくさとその場を後にする。
「絶対会長クンは誤解してるな」
「イタズラの仕込みって判断したみたいだなあ。もう少し言った方がよかったかもしれん」
「どう見てもアンナの日頃の行いが悪くて流石に擁護は出来ないわね」
「アンナ……ごめんなさいッス……!」
ジェシー、ビッグス、ウェッジは半笑いで空を見上げた。
「いやクッソ面白ェ。エルどっちに転ぶか賭けでもすっか」
「賭けにもならん。ジェシー女史、会長クンに明日休暇を与えよう。機嫌が悪い所を延々見続けるとなっては社員の士気にも関わる」
あなた達会長に聞かれても知らないからねとジェシーはため息を吐いた。
◇
仕事をキリのいい所まで早急に終わらせシドはアンナを探し走っていた。流石に部下から苦情が来るほど迷惑をかけるのはいけないだろと一言怒っておかないといけない。『そこまで言わないと分からない子供だったのか?』という疑問が湧くが置いておこう。暁にも聞き回っているのなら今はレヴナンツトールに滞在しているはずだ。急いで向かう。
まずは石の家でタタルとクルルにアンナの様子について尋ねてみる。確かに色々聞かれたと言われた。アリゼーやヤ・シュトラも恋と憧れの違いについて質問攻めにあったらしい。ウリエンジェは想い人の話をニコニコとした顔で聞いていたと言い、サンクレッドも女性を口説いている時の気持ちを聞かれた困惑したと。グ・ラハやアルフィノからは"アンナはどうやら数日寝てないらしく、フラフラしながら聞き回ってて心配だ"と言われた。『バカか!?』と心の中で叫ぶ。今では顔を熱くしながら街中を探す始末だ。
ふとよく知ってる声が聞こえた。見上げると建物の屋上で佇む探し人。急いで駆けあがり背後に立つ。しかし珍しくこちらに気付いてないようだ。さっきの兄みたいにブツブツと何かを言っている。あちらと違い言語判別は出来た。恋だの好きだの万が一だのよく分からない。
「フウガだったらどう切り抜けるんだろう」
鮮明に聞こえた一文を耳にした瞬間にカッと頭に血が上る。反射的にその細く引き締まった腕を掴んだ。
ビクリと跳ねた後、アンナはこちらを振り向く。
「誰ッ―――あ、シド」
いつもの冷静な顔ではなく少しだけ困ったような泣きそうな顔を見せている。
「え、ちょっと!?」
そのまま引っ張り大股で進んで行く。今の表情がどうなっているか分からない。しかし"また"リンドウに対して行き場のない怒りが湧いているのは理解出来ていた。肉親の記憶よりも刻み付けられている存在への憤りが。更に違うと言いながらも未だ恋焦がれているのかという呆れも混じり頭がぐちゃぐちゃになる。
あっという間にいつも取っている宿に到着し、個室へと連れて行く。扉を閉め、その場で抱きしめた。漂う甘い匂いが脳を刺激し、少しだけ落ち着いてくる。
「っ!?」
「俺よりリンドウに頼るのか? 未だに」
「え、いや、その……って痛い痛い! 手加減!」
アンナの言葉お構いなしに強く抱きしめる。
「逃げるかもしれないだろ?」
「いやここまで来たら逃走無し! 私を何だと思ってる!?」
「まずイタズラ好きで都合が悪くなると逃げ出す旅人だろ?」
言葉が詰まっている。肩を落とし頭を撫でられた。機嫌取りをしようとしているらしい。それ位は鈍感だと言われるシドでも分かる。
「別に、フウガはそういうのじゃない。し、シドのことで色々考えてた。だからあなたに助けを求めない」
「俺の?」
何も言わず頬に口付ける。そして顔ごと逸らした。
「本当は兄さんの返事が来てから決めたかった」
首を傾げる。見上げると顔が赤くなっている。目元を手で隠し、ボソリと呟いた。
「結論を教えたくて。けど、何か言おうとしても、その。頭が真っ白。だから皆に教えてもらおうと」
「今更か? お前あんだけ人をからかって今更そんなこと言ってんのか?」
「う、うるさい」
お前そんなにか弱い生物だったのか? と思っていると首元を触りながら目をギュッと閉じ呻き声を上げている。珍しく嘘は吐いていないようだ。そういう姿も好きかもしれないとシドは苦笑する。
そんなことよりも。確か首元を触る時は自分に対する何らかの感情を感じ取った時のはず。どういうことかとシドの方も恥ずかしくなった。少しだけ力が緩んだ隙に振りほどかれ、抱き上げられる。相変わらず軽々と持ち上げるのでいつもプライドが砕かれかけていた。
「おい!?」
「場所変えさせて。こんな所で話しなくて、いい」
寝台に座らされ、アンナも正面に正座した。相変わらず顔は赤いままで目を逸らしている。
「えっと、私は、あなたを知るために少し旅をしてきた」
「そう言ってたもんな」
「流石にガレマルドまでは行けず」
「今そんなこと出来ない状況って聞くからな」
「何か変わるかなと思ったがそうでもなく」
「―――そうか」
結論の発表会をしたかったらしい。完全に弱り切り、珍しく長い耳も倒れている。まるでミコッテのようだ。あれだけあの耳ピョコ分かりやすいやつと違うと豪語していた人間が何をしているのか。
「だって恋とか故郷やフウガは教えてくれなかったし」
「別に学校で習うモノでもないぞ?」
「どこでそういうのを知ったのかって聞きたくなり。あの、部下の皆さんにご迷惑をかけたようで」
「俺に聞けばいいだろ?」
「一番アテにならない人が何を?」
「ぐ」
ジトっとした目で言われた。確かに参考にならないと思うがそこまで単刀直入で言わなくてもいいじゃないかとシドはため息を吐く。
「まあガイウスからの言葉で結論というか方向性は決定済」
「ウェルリトでまで迷惑をかけるなよ」
「ヒエンたちの所にも行ったよ?」
「今度ドマにも一緒に詫びの品持って行くぞ。―――エオルゼア三国とイシュガルドとアラミゴのお偉いさんにも聞きに行ったとか言わないよな?」
「……イッテナイ。面白い話が聞けた。でも行ってないヨ」
「俺が悪かった」
何日休みを取れれば終わる日程になるのか気が遠くなるほどの人間に聞き回ったらしい。あまり言いたくないが元首たちもいくら相手が世界を救った英雄だからとはいえ素直に答えるなよとため息を吐く。すると頭を掻きながらボソボソと喋り出した。
「別にシドのこととは一言も言ってないのに皆あなたのこと話すんだよね」
「……何でだろうなあ」
確かにそれは身に覚えがない。アンナのような無神経な人間ではないので誰かに相談した記憶は存在しなかった。しかし大体の人間にアンナの話題を出されるという点は同じで。どこかから、関係が漏れている。ジェシーや暁だったらタタル辺りが察して言いふらしたのだろうか。
「そこでまだ付き合ってないのかとか嘘でしょとか謂れのない驚愕が」
「俺もよく言われてるな。1年以上な」
「不思議」
「不思議だよなあ」
いつの間にかお互いの顔を見合わせ笑っていた。
◇
「第一世界で分かったことがあったんだ」
「何だ?」
天井を見上げるアンナはボソリと呟く。
「1年後、キミが答えを見つけられなかったら旅に出るって言ったくせに、いざ1人でキミのいない世界を走り抜けたら怖かった。無限に喉が渇いたようにカラカラで余裕がなく。今までそんな経験なし」
「お前―――」
「だから夢の中でキミが出て来た時凄く嬉しくて。良い夢なんてあまり見なかったから急にキミが扉を叩いた時羽目を外しかけた。その結果が自爆」
「ああだから急に抱きしめにかかったのか」
別世界の妖精族のイタズラでアンナの夢と繋がってしまった時の記憶。目の前にあった扉を叩くと出て来たアンナが二度見した後柔らかな笑顔を浮かべ抱きしめてきた。夢での出来事だったから都合のいい記憶と混ざっていたと思っていたらそういう真意があったのかと感心する。
「別に暁の皆やあちらの人たちが嫌いだったとかじゃなく。何かが欠けてしまったみたいで常に苦しくて。挙句の果てにバケモノになりかけ、意識も真っ白になり、嗚呼もうダメだってキミにずっと謝ってた。そしたらフウガに『さあ帰るぞ』って引っ張り上げられた気がして。目を開けたら全部終わってた」
「……人に聞き回る前にそれを言え!!」
シドは起き上がり顔を赤くする。アンナはきょとんとした顔を見せた。
「いやそれ依存ってやつじゃん。恋やら愛じゃないさ。それだけ言ったらどうなるかと考えると共依存しか思いつかない。やだ。だから一度リセットして他の視点でキミについて考え直そうと思い。で、いざやるぞと気合入れてたらボズヤでの一件が起こり、それから頭が真っ白になっちゃって」
軽くため息を吐き、肩をすくめた。手を重ね、目を閉じる。
「色んな人に恋の瞬間を、愛とは何か、その先をどう進みたいのか。聞いてからでも遅くはないかなって。まあ結論は『キミはボクが必要だし、ボクにもキミが必要だ。少なくとも上下関係ではなく対等なものとしてそういう感情を持っている。受け入れよう』と諦め」
「やっぱりそうじゃないか。まあアンナがそういう結論を持って来たのなら受け止めるが」
「厭?」
「俺もお前が別の世界で冒険してる間に改めて色々考えさせてもらったからな。前も言ったように導かれた解は一緒だ」
「そっか」
その言葉を聞いたアンナは目を閉じて少し黙り込んだ後、顔を近づけ、これまで見たことない柔らかな笑顔を浮かべている。
「これからも、よろしく。シド」
瞬時に顔が熱くなり反射的に「あ、ああ」と声が出た。それはどちらかというと少年っぽい整った笑顔。細めた目付きが兄のエルファーと全くそっくりで―――あのガレマルドや星芒祭の夜に会った時の記憶そのままだ。所謂普段纏っていた仮面が取り払われた瞬間、ということになるのだろう。強く抱きしめ、耳先に口付けを落とした。
Wavebox
#シド光♀
ボズヤ、ウェルリト後、遂に付き合うことになる話。
―――故郷でも、命の恩人からも、教えてもらえなかったコト、皆誰から学んでるの?
◇
「ビッグス、社内で流れてる噂聞いた?」
「噂、ですか?」
ある日の昼下がりのガーロンド・アイアンワークス社。ジェシーはビッグスに近頃起こっている奇妙な話について聞く。
「アンナが手当たり次第に人を捕まえて、質問攻めしてるらしいのよ」
「こっちには来てませんが…」
「それオイラの所に来たッスよ!」
傍で作業していたウェッジがパタパタと走って来る。
「恋や愛って何? と聞かれたッス!」
『恋!?』
ジェシーとビッグスの声が重なった。
「いや『好きな人いたよね? いつ好きに? どういう所好き? どうやって伝える? どこでその感情を学習?』とか畳みかけられたッス!」
「え、アンナ何言ってるの?」
「どこで学習? おいおいまさか」
「事情を聞いてみたら『何度考えても頭真っ白。結論のために質問の旅』って言いながら去って行ったッスよ! その、本当にまだ親方とアンナって付き合ってないんだって察したッス」
3人はため息を吐いてしまう。今更何を言っているんだという言葉しか脳に浮かばない。
「私、最初は会長があまりにも鈍感で奥手で不器用すぎてそれがボトルネックだと思ってたんだけど」
「まさか完全にアンナの思考とは……」
別の世界での人助けが終わり霊災も回避され、賢人たちの意識も無事回復し、少しの時間が経過した。その辺りからアンナの様子が少々おかしい。いや変なのは出会った当初からだが、考え込んでいる時間が増えた。一見いつもの笑顔は見せているのだが最近ぼんやりとしているようで。
閑話休題。恋愛関係で聞き回っているということはシド関連なのだろう。とっくの昔に、遅くても第一世界から一度戻ってきた日に決着がついたと思っていた。少なくとも最近ボズヤでも色々あった筈だがどうやら当人たちの間では未だそうなっていないらしい。
「あ、ジェシーいた」
3人が振り向くと噂のアンナが手を挙げながら部屋に入って来る。ウェッジの話を聞く限り次は自分に聞きたいのだろう、大慌てで椅子と紅茶を準備した。
◇
「ジェシーとビッグスは恋したことある? ウェッジは知ってる」
紅茶を飲みながらアンナはニコリと笑った。3人は顔を見合わせる。
「そりゃ一度はあるでしょ」
「ですよねえ」
「うん、私もあると思ってた。でもねえ」
肩をすくめ、ため息を吐く。
「いや正直恋って判断どこでしたのか理解不能。初恋は憧れとか幼い淡い体験にした。が、問題は大人になってから」
「はい」
「恋は学校の授業には存在せず。私も故郷では聞かなかったし命の恩人―――フウガも教えてくれなかった」
「そうかもしれないッスね」
「だから人はどう愛や恋を察知し、どうその先へ行くのか知るため暁やガーロンド社で聴取」
「分からない……過去一アンナが分からなくなったぞ……」
シドが時々アンナが分からんと言いながら眉間に皴を寄せ頭を抱えてる姿を見せる時があった。今その気持ちが理解出来たかもしれないとビッグスは片手で顔を覆う。
「フウガに向けていた感想とは全く異なる。だから恋というもの、どういう瞬間に感じるのか気になる」
「え、アンナ確か好きなタイプ聞いた時あっさり答えたじゃない。髭が似合って、がっしりとした体形で、光のような人って」
「フウガ"も"だよ? 髭が似合い、がっしりした体形、人助けが趣味、光のような人」
「ああ……」
あの時の言葉はどうやら別の人間を指していたらしい。もしかして重ねていたのだろうかとジェシーは眉間に指を当てて考えているとアンナはニコリと笑いながら聞く。
「んで、各々の恋した瞬間、記憶ある?」
「そうねえ。やっぱり憧れとか?」
「フウガは憧れ。けど……」
「優しいなって思ったり」
「優しい。けど恋までは」
「じゃあ一目惚れとかどうッスか!」
「確かにキレイな星。でも別に見てて何も」
「アーンーナー」
ジェシーのジトっとした目にあははごめんと苦笑いしている。
「ちなみにネロサンに聞いたら呆れた顔で色んな哲学書山積み。兄さんに"8人の嫁さんのプロポーズどうやって? 参考にする"って手紙送ったけど返事来ず」
「嗚呼……」
最近のアンナの兄である社員エルファーの様子がおかしい原因も彼女だったようだ。休憩中に『僕の恥がそのまま横流し……』と遠い目で呟いていた意味がはっきりする。
「アンナ、恋愛ごとに理屈は考えちゃいけないと思うの。言葉が出ないなら行動で示したら流石に会長も分かってくれるから」
「そういうもの? ……あれ? そういえば皆何故シドの話と思って? 言った記憶皆無」
「この段階で知らないって思ってたのか!?」
「あなた先日ボズヤでどうなってたか思い出しなさい!」
◇
散々悩んだ後アンナはまたフラフラと歩いて行った。ジェシーらは生暖かい目で見送る。その後喫煙室にいた休憩中のエルファーとネロを捕まえる。
「何か? ……遂に昇給?」
「アレだろ、メスバブーン関連」
「嗚呼」
エルファーの目から光が消えた。相当悩みこんでいたらしい。先程あったアンナとの話をするとネロは一頻り大爆笑した後項垂れる男を指さした。
「いつもは妹から手紙来たって小躍りして即返事出す癖に悶絶続けてンだ」
机に突っ伏し呪詛のような言葉を吐いているがジェシーは解読が出来ない。「ネロ、レフは何と?」と聞く。
「自分の言葉を引用してまンまプロポーズされちゃガーロンド吊る必要が出てくっからメスバブーンは一生悩んでろってよ」
「そこまでは言ってないやい」
「近くはあるんスね……」
「レフ、あなたの妹付き合ってすらいないのにプロポーズまでは飛躍しすぎよ」
ジェシーの言葉に頭を勢いよく上げる。やれやれと言いながら呆れた目を見せた。
「はぁ? いやいや妹から指輪渡すんだろ? 会長クンはすぐ近くにこの僕がいると知っていながら一言挨拶無しで更に先手にも回れないのかヘタレって話題じゃ」
「エル、あの無欲の権化の思考がそのまま反映されちまった妹なンだろ? 未だ恋愛っつー器用なおままごとする可愛いお花畑チャンに見えてンのか? 確かにプロポーズなンざ先手取らなきゃ気が済まねえって顔してるだろうがよ」
「……うっそだろ……」
再び突っ伏したまま震えている。また何か判別出来ない短い言葉を吐いているのでウェッジはネロに通訳を頼む。
「恥ずかしすぎて消えてェってよ」
「合ってる」
「合ってるのか……」
「何年その状態続いてんだよ! あとここまで上司と実の妹の内情が社内で拡散され切ってて死にたいんだが! さぞ君らは面白いだろうねぇ! ああそうだよ僕だったら絶対面白がるからな!」
「まあアンナからしたらレフはここにいないはずだもんなあ」
「うるせ! 会長クンに言いつけてやる! 君ら諸共僕は死ぬ!」
「ちっちゃいプライドのためにオイラ達まで巻き込まないで欲しいッス!!」
「ゴホン! 俺がどうした?」
その場にいた全員が固まる。喫煙室入り口を見るとシドの姿が。怪訝な顔をしてネロらを睨んでいる。
「あ、あれ親方仕事は」
「休憩させてくれ。今回も中々苦戦しててなあ。お前たちも世間話は程々にして手伝ってくれないか」
「それは構いませんけど」
「で、俺に言いつけるとは? レフがアンナみたいなキレ方してるなんて珍しいな。初めて兄妹だと思ったぞ。で、お前ら何かやらかしたのか?」
ネロ以外全員シドから目を逸らす。これは言ってもいいのか、いけないのか。アンナは秘密にしろとは言っていない。渋々エルファーが突っ伏した状態で抑揚のない言葉を吐いたのでビッグスはネロに翻訳を頼んだ。何度か振ったはいいものの何故言葉が解読が出来ているのはよく分からない。
「ンで一々俺に言わせてンだよ! はぁ―――最近妹とどうだってよ」
「アンナか? 最近何か考え込んでて声もまともに掛けられなくてな……って何で休憩中とはいえ今お前たちに話す必要あるんだ。せめてプライベートで聞けと」
「アー? そうかよ。妹からトンデモレターが届いて以降仕事に対するモチベ最悪だからテメーで何とかしろってよ。あと暁や可愛い部下困らせンな」
「トンデモ? ―――困らせ??」
シドは突き付けられたエルファーが貰ったという手紙の一部を眺め首を傾げている。案の定周りの状況を当の本人だけ知らないらしい。ジェシーはジトっとした目で報告する。
「アンナが手当たり次第に恋やら愛って何って聞いて回ってるんですよ。さっき私の所にも来ました」
「な、何やってるんだアイツ!?」
「心当たりありますよね?」
素っ頓狂な声を上げた後考え込んでいる。しばらくしして「あ」と漏らした。
『その旅が終わったら、即結論は教える』
第一世界から帰ってきた直後、そんな話をしていた気がする。そういえば記憶探索後に何か言おうとして固まっていた。その後も嫉妬されたりしたがそれも解決済みである。落ち着いた後は、会っても上の空で呼ばれては首を触りながら「何でもない」と言われる日々。どうなっているか一切理解出来なかった。
「いや、分からん。何でそういうことを聞き回っているかは俺にはさっぱり」
少し頭痛がしたような気がする。―――今までこっちをからかっていた人間なのに反応がおかしい。まさか今更恋やら愛やらで悩んでいるわけはないだろう。多分どうやってこちらで遊んでやろうかと周りを巻き込んでいるに違いない。
「とりあえず俺の方から強く注意しておこう、スマン」
シドはジトリとした目でそそくさとその場を後にする。
「絶対会長クンは誤解してるな」
「イタズラの仕込みって判断したみたいだなあ。もう少し言った方がよかったかもしれん」
「どう見てもアンナの日頃の行いが悪くて流石に擁護は出来ないわね」
「アンナ……ごめんなさいッス……!」
ジェシー、ビッグス、ウェッジは半笑いで空を見上げた。
「いやクッソ面白ェ。エルどっちに転ぶか賭けでもすっか」
「賭けにもならん。ジェシー女史、会長クンに明日休暇を与えよう。機嫌が悪い所を延々見続けるとなっては社員の士気にも関わる」
あなた達会長に聞かれても知らないからねとジェシーはため息を吐いた。
◇
仕事をキリのいい所まで早急に終わらせシドはアンナを探し走っていた。流石に部下から苦情が来るほど迷惑をかけるのはいけないだろと一言怒っておかないといけない。『そこまで言わないと分からない子供だったのか?』という疑問が湧くが置いておこう。暁にも聞き回っているのなら今はレヴナンツトールに滞在しているはずだ。急いで向かう。
まずは石の家でタタルとクルルにアンナの様子について尋ねてみる。確かに色々聞かれたと言われた。アリゼーやヤ・シュトラも恋と憧れの違いについて質問攻めにあったらしい。ウリエンジェは想い人の話をニコニコとした顔で聞いていたと言い、サンクレッドも女性を口説いている時の気持ちを聞かれた困惑したと。グ・ラハやアルフィノからは"アンナはどうやら数日寝てないらしく、フラフラしながら聞き回ってて心配だ"と言われた。『バカか!?』と心の中で叫ぶ。今では顔を熱くしながら街中を探す始末だ。
ふとよく知ってる声が聞こえた。見上げると建物の屋上で佇む探し人。急いで駆けあがり背後に立つ。しかし珍しくこちらに気付いてないようだ。さっきの兄みたいにブツブツと何かを言っている。あちらと違い言語判別は出来た。恋だの好きだの万が一だのよく分からない。
「フウガだったらどう切り抜けるんだろう」
鮮明に聞こえた一文を耳にした瞬間にカッと頭に血が上る。反射的にその細く引き締まった腕を掴んだ。
ビクリと跳ねた後、アンナはこちらを振り向く。
「誰ッ―――あ、シド」
いつもの冷静な顔ではなく少しだけ困ったような泣きそうな顔を見せている。
「え、ちょっと!?」
そのまま引っ張り大股で進んで行く。今の表情がどうなっているか分からない。しかし"また"リンドウに対して行き場のない怒りが湧いているのは理解出来ていた。肉親の記憶よりも刻み付けられている存在への憤りが。更に違うと言いながらも未だ恋焦がれているのかという呆れも混じり頭がぐちゃぐちゃになる。
あっという間にいつも取っている宿に到着し、個室へと連れて行く。扉を閉め、その場で抱きしめた。漂う甘い匂いが脳を刺激し、少しだけ落ち着いてくる。
「っ!?」
「俺よりリンドウに頼るのか? 未だに」
「え、いや、その……って痛い痛い! 手加減!」
アンナの言葉お構いなしに強く抱きしめる。
「逃げるかもしれないだろ?」
「いやここまで来たら逃走無し! 私を何だと思ってる!?」
「まずイタズラ好きで都合が悪くなると逃げ出す旅人だろ?」
言葉が詰まっている。肩を落とし頭を撫でられた。機嫌取りをしようとしているらしい。それ位は鈍感だと言われるシドでも分かる。
「別に、フウガはそういうのじゃない。し、シドのことで色々考えてた。だからあなたに助けを求めない」
「俺の?」
何も言わず頬に口付ける。そして顔ごと逸らした。
「本当は兄さんの返事が来てから決めたかった」
首を傾げる。見上げると顔が赤くなっている。目元を手で隠し、ボソリと呟いた。
「結論を教えたくて。けど、何か言おうとしても、その。頭が真っ白。だから皆に教えてもらおうと」
「今更か? お前あんだけ人をからかって今更そんなこと言ってんのか?」
「う、うるさい」
お前そんなにか弱い生物だったのか? と思っていると首元を触りながら目をギュッと閉じ呻き声を上げている。珍しく嘘は吐いていないようだ。そういう姿も好きかもしれないとシドは苦笑する。
そんなことよりも。確か首元を触る時は自分に対する何らかの感情を感じ取った時のはず。どういうことかとシドの方も恥ずかしくなった。少しだけ力が緩んだ隙に振りほどかれ、抱き上げられる。相変わらず軽々と持ち上げるのでいつもプライドが砕かれかけていた。
「おい!?」
「場所変えさせて。こんな所で話しなくて、いい」
寝台に座らされ、アンナも正面に正座した。相変わらず顔は赤いままで目を逸らしている。
「えっと、私は、あなたを知るために少し旅をしてきた」
「そう言ってたもんな」
「流石にガレマルドまでは行けず」
「今そんなこと出来ない状況って聞くからな」
「何か変わるかなと思ったがそうでもなく」
「―――そうか」
結論の発表会をしたかったらしい。完全に弱り切り、珍しく長い耳も倒れている。まるでミコッテのようだ。あれだけあの耳ピョコ分かりやすいやつと違うと豪語していた人間が何をしているのか。
「だって恋とか故郷やフウガは教えてくれなかったし」
「別に学校で習うモノでもないぞ?」
「どこでそういうのを知ったのかって聞きたくなり。あの、部下の皆さんにご迷惑をかけたようで」
「俺に聞けばいいだろ?」
「一番アテにならない人が何を?」
「ぐ」
ジトっとした目で言われた。確かに参考にならないと思うがそこまで単刀直入で言わなくてもいいじゃないかとシドはため息を吐く。
「まあガイウスからの言葉で結論というか方向性は決定済」
「ウェルリトでまで迷惑をかけるなよ」
「ヒエンたちの所にも行ったよ?」
「今度ドマにも一緒に詫びの品持って行くぞ。―――エオルゼア三国とイシュガルドとアラミゴのお偉いさんにも聞きに行ったとか言わないよな?」
「……イッテナイ。面白い話が聞けた。でも行ってないヨ」
「俺が悪かった」
何日休みを取れれば終わる日程になるのか気が遠くなるほどの人間に聞き回ったらしい。あまり言いたくないが元首たちもいくら相手が世界を救った英雄だからとはいえ素直に答えるなよとため息を吐く。すると頭を掻きながらボソボソと喋り出した。
「別にシドのこととは一言も言ってないのに皆あなたのこと話すんだよね」
「……何でだろうなあ」
確かにそれは身に覚えがない。アンナのような無神経な人間ではないので誰かに相談した記憶は存在しなかった。しかし大体の人間にアンナの話題を出されるという点は同じで。どこかから、関係が漏れている。ジェシーや暁だったらタタル辺りが察して言いふらしたのだろうか。
「そこでまだ付き合ってないのかとか嘘でしょとか謂れのない驚愕が」
「俺もよく言われてるな。1年以上な」
「不思議」
「不思議だよなあ」
いつの間にかお互いの顔を見合わせ笑っていた。
◇
「第一世界で分かったことがあったんだ」
「何だ?」
天井を見上げるアンナはボソリと呟く。
「1年後、キミが答えを見つけられなかったら旅に出るって言ったくせに、いざ1人でキミのいない世界を走り抜けたら怖かった。無限に喉が渇いたようにカラカラで余裕がなく。今までそんな経験なし」
「お前―――」
「だから夢の中でキミが出て来た時凄く嬉しくて。良い夢なんてあまり見なかったから急にキミが扉を叩いた時羽目を外しかけた。その結果が自爆」
「ああだから急に抱きしめにかかったのか」
別世界の妖精族のイタズラでアンナの夢と繋がってしまった時の記憶。目の前にあった扉を叩くと出て来たアンナが二度見した後柔らかな笑顔を浮かべ抱きしめてきた。夢での出来事だったから都合のいい記憶と混ざっていたと思っていたらそういう真意があったのかと感心する。
「別に暁の皆やあちらの人たちが嫌いだったとかじゃなく。何かが欠けてしまったみたいで常に苦しくて。挙句の果てにバケモノになりかけ、意識も真っ白になり、嗚呼もうダメだってキミにずっと謝ってた。そしたらフウガに『さあ帰るぞ』って引っ張り上げられた気がして。目を開けたら全部終わってた」
「……人に聞き回る前にそれを言え!!」
シドは起き上がり顔を赤くする。アンナはきょとんとした顔を見せた。
「いやそれ依存ってやつじゃん。恋やら愛じゃないさ。それだけ言ったらどうなるかと考えると共依存しか思いつかない。やだ。だから一度リセットして他の視点でキミについて考え直そうと思い。で、いざやるぞと気合入れてたらボズヤでの一件が起こり、それから頭が真っ白になっちゃって」
軽くため息を吐き、肩をすくめた。手を重ね、目を閉じる。
「色んな人に恋の瞬間を、愛とは何か、その先をどう進みたいのか。聞いてからでも遅くはないかなって。まあ結論は『キミはボクが必要だし、ボクにもキミが必要だ。少なくとも上下関係ではなく対等なものとしてそういう感情を持っている。受け入れよう』と諦め」
「やっぱりそうじゃないか。まあアンナがそういう結論を持って来たのなら受け止めるが」
「厭?」
「俺もお前が別の世界で冒険してる間に改めて色々考えさせてもらったからな。前も言ったように導かれた解は一緒だ」
「そっか」
その言葉を聞いたアンナは目を閉じて少し黙り込んだ後、顔を近づけ、これまで見たことない柔らかな笑顔を浮かべている。
「これからも、よろしく。シド」
瞬時に顔が熱くなり反射的に「あ、ああ」と声が出た。それはどちらかというと少年っぽい整った笑顔。細めた目付きが兄のエルファーと全くそっくりで―――あのガレマルドや星芒祭の夜に会った時の記憶そのままだ。所謂普段纏っていた仮面が取り払われた瞬間、ということになるのだろう。強く抱きしめ、耳先に口付けを落とした。
Wavebox
#シド光♀
"エーテル"
注意・補足
ヤ・シュトラから見た漆黒アンナのお話。
―――ノルヴラントで"あの旅人"を見守って、分かったことがあるの。あまり綺麗とは言い切れない旅路の一端を見た気がしたわ。
アンナと呼ばれる旅人が暁の血盟に出入りを初めて1年半以上が経過した。それなりに心を開いて喋るようになったが、反面未だ底が見えない強さを感じている。エーテルを視るとこの人は明らかに異常だった。
歪みが見える。エーテルを行使するごとに周辺のエーテルが特定部位周辺に集まり、消えていく。同時に体内エーテルもぐわりと揺らぎを見せた。まるで放出を妨害するかのように膜のようなものが張られている。それは生まれ持ったわけではなく後天的なものであることは明らかで、一体何をしたらそんな身体になってしまうのか逆に気になった。
彼女の右腕はどうやら魔石のようなものが埋め込まれているようで。エーテルを行使するとその辺りが熱を帯びて小さく光っている。
あと気になる場所は首元と背中よ。特に背中は大きなひっかき傷のような奇妙な模様が浮かび上がっている。それはまるで傷自体が一種の魔紋のようになっていたのが分かった。ノルヴラントに来るまであまり違和感を抱くことはなかったのが不思議なくらい。
おかしいという感想を明確に抱いたのは水晶公がエメトセルクに攫われた時。そう彼女に宿れる光の許容限界を超えてしまった時のこと。一度気絶し、目を覚ましたら―――まるで別人のようで。いや確かに喋りや表層的な波長は彼女。しかし何か本質的なモノが変わり、無理矢理躯を動かすようにフラフラと薄い銀色を見せた。そう、光の中でエーテルが柘榴石色ではなく、銀色に揺らいでいたの。一瞬彼女に擬態したナニカがテンペストへと向かおうとしていたように見えてしまう。
戦闘スタイルも一見変わりはない。いつものように自在に刀を振り回す。しかしエメトセルクとの最後の戦いでまた別の光を見せた。
『何故だ! 何故幕を下ろした筈の"貴様"が"そこ"にいる!!』
驚愕の声を上げたエメトセルクの言った通り、私の目からも彼女の姿は消えていた。大罪喰いによる白い光と、青白い光が彼女を取り込み、そこで見せたのは―――ひんがしの着物を纏った銀色のひょろりと背が高いヒトの形をしたモノ。きっと魂から見ることが出来るエメトセルクはもっと違うモノが視えてしまったのでしょう。首元から背中の傷へ、そして右腕に青白いエーテルのような光が集まり、持っていた刀の刃に纏われた。
「さあ帰るぞ―――エルダス」
優しく小さな声は明らかにそう言ったわ。巨大な刃のような光は巨大なエメトセルクを斬り捨て戦いは終わり―――。振り下ろされた光の軌跡はまるで流星のように光り輝いていた。シドから報告を受けていた通りの、大技。アルフィノ経由で未知の技術だと興奮していたのを半信半疑で聞いていたけどこれは確かに興味を抱く気持ちは分かったわ。
全ての戦いが終わった後、いつものよく知っている彼女に戻っていた。穏やかで、柘榴石色の奥底に闇を宿した旅人。やっぱりあなたはそれが一番似合っているわ。
Wavebox
#即興SS
ヤ・シュトラから見た漆黒アンナのお話。
―――ノルヴラントで"あの旅人"を見守って、分かったことがあるの。あまり綺麗とは言い切れない旅路の一端を見た気がしたわ。
アンナと呼ばれる旅人が暁の血盟に出入りを初めて1年半以上が経過した。それなりに心を開いて喋るようになったが、反面未だ底が見えない強さを感じている。エーテルを視るとこの人は明らかに異常だった。
歪みが見える。エーテルを行使するごとに周辺のエーテルが特定部位周辺に集まり、消えていく。同時に体内エーテルもぐわりと揺らぎを見せた。まるで放出を妨害するかのように膜のようなものが張られている。それは生まれ持ったわけではなく後天的なものであることは明らかで、一体何をしたらそんな身体になってしまうのか逆に気になった。
彼女の右腕はどうやら魔石のようなものが埋め込まれているようで。エーテルを行使するとその辺りが熱を帯びて小さく光っている。
あと気になる場所は首元と背中よ。特に背中は大きなひっかき傷のような奇妙な模様が浮かび上がっている。それはまるで傷自体が一種の魔紋のようになっていたのが分かった。ノルヴラントに来るまであまり違和感を抱くことはなかったのが不思議なくらい。
おかしいという感想を明確に抱いたのは水晶公がエメトセルクに攫われた時。そう彼女に宿れる光の許容限界を超えてしまった時のこと。一度気絶し、目を覚ましたら―――まるで別人のようで。いや確かに喋りや表層的な波長は彼女。しかし何か本質的なモノが変わり、無理矢理躯を動かすようにフラフラと薄い銀色を見せた。そう、光の中でエーテルが柘榴石色ではなく、銀色に揺らいでいたの。一瞬彼女に擬態したナニカがテンペストへと向かおうとしていたように見えてしまう。
戦闘スタイルも一見変わりはない。いつものように自在に刀を振り回す。しかしエメトセルクとの最後の戦いでまた別の光を見せた。
『何故だ! 何故幕を下ろした筈の"貴様"が"そこ"にいる!!』
驚愕の声を上げたエメトセルクの言った通り、私の目からも彼女の姿は消えていた。大罪喰いによる白い光と、青白い光が彼女を取り込み、そこで見せたのは―――ひんがしの着物を纏った銀色のひょろりと背が高いヒトの形をしたモノ。きっと魂から見ることが出来るエメトセルクはもっと違うモノが視えてしまったのでしょう。首元から背中の傷へ、そして右腕に青白いエーテルのような光が集まり、持っていた刀の刃に纏われた。
「さあ帰るぞ―――エルダス」
優しく小さな声は明らかにそう言ったわ。巨大な刃のような光は巨大なエメトセルクを斬り捨て戦いは終わり―――。振り下ろされた光の軌跡はまるで流星のように光り輝いていた。シドから報告を受けていた通りの、大技。アルフィノ経由で未知の技術だと興奮していたのを半信半疑で聞いていたけどこれは確かに興味を抱く気持ちは分かったわ。
全ての戦いが終わった後、いつものよく知っている彼女に戻っていた。穏やかで、柘榴石色の奥底に闇を宿した旅人。やっぱりあなたはそれが一番似合っているわ。
Wavebox
#即興SS
"追想の傷"
注意
セイブザクイーン【シダテル・ボズヤ蒸発事変】の記憶探索終了後のお話。落ち込んだシドを自機なりに慰めたり家族について語る感じ。
時系列的にはメイン5.3終了までには起こってる感じ。
シドは記憶探索も終わり一度山積みになっているだろう仕事のため飛空艇で戻ることにする。しかし少し歩くと待って、と呼び止められた。振り向くとそこにはいつもの笑顔を浮かべたアンナがいる。
「どうした、アンナ」
「少しだけ時間ちょうだい」
腕を引っ張られ、喧騒から離れた場所にて2人は立つ。アンナは空を見上げていたので釣られて頭を上げた。すると頭をポンと撫でながら自らの肩へと寄せる。瞬時に赤くしていると表情一つ変えずボソリと喋った。
「色々あった日はね、フウガがこうやって空を見上げながら頭を撫でてくれたんだ。本当は星空だけど。おっと感情はまだ取っておいて」
ニコリと笑い、耳元で囁く。それはまるで悪魔の囁きのように甘い誘いだった。
「もし時間があるなら今夜望海楼においで。お仕事ラブならそのまま帰ってもいい」
シドの返事を聞く前に耳にキスを落とし、パッと離れた。後処理まだ残ってて探してるかも、と言いながら元いた場所へと戻って行く。1人残された男はしばらく口をあんぐりと開き、去った先を見つめていた。
「帰れるわけないじゃないか……」
◇
夜、飛空艇で一先ずクガネに降り立つ。リンクパールでジェシーに一晩泊まって帰るからもう少し遅くなるがいいか、と聞いてみる。怒りが飛んでくると思ったら意外なことに即機嫌の良い声で許可を貰えた。逆に不気味すぎないか、と思いながら望海楼へ向かうと入り口前でアンナが佇んでいる。テレポがあると便利だな、アンナも即こちらに気付いたようでニコリと笑顔で手を上げた。
「おやおやてっきり帰ってるかと」
「どうせ先にジェシーに連絡してるんだろ」
「バレたか」
まさかとは思ったが本当に先回りしていたらしい。さすが準備のいい女だ、実質断れなかったかと背中を叩いてやるといつものようにニコニコと笑っていた。じゃあご飯準備してもらってるからと手を差し伸ばされる。
「本来は逆だといつも思うんだが」
「そんな顔してる男の人にエスコートされたくない」
手を握ってやる。すると指先に軽く口付けられた後に引っ張られ、部屋へと案内された。チェックインは先に終わらせていたらしい。すれ違う従業員に物珍しい目で見られているが、アンナは仕草1つ変えずいつも通りだ。個室には既に豪勢な食事が準備され、座るように促される。
「お金は考えなくていい。何かあった時は一杯ご飯を食べて寝るのが一番」
「ストレス解消についてヌく方が効率的とか言ってた人間とは思えない発言が飛んだな」
「おうおうご飯時にそういう話はご法度」
「最近誰かさんに影響されているのではと言われたんでな」
アンナは一体誰かな、許さないねえと肩をすくめている。シドはニヤと笑っていると、すぐに調子が戻ったのか飯を食いたいのか「いただきます」と手を合わすので、その声に釣られて同じく手を合わせてしまった。
◇
「食事どうだった?」
「お前さんの料理ほどではなかったが美味しかったな」
「流石にプロの方がレベル高いと思うよ?」
東方料理だけでなく、多少エオルゼアでもよく見る揚げ物等も添えられ食べ応えがあった。酒は、と問うと「絶対悪酔いするからまた今度」と言われる。
その後アンナは苦笑しながら置かれていたタオルや浴衣を押し付けた。
「お風呂。大きい温泉、ゆっくりつかるの、いい。その間に布団敷いてもらう。ベッドもいいけど布団も捨て難し。それともご飯食べたから帰る?」
「帰らんと言ってるだろ」
小突きながら道具を受け取り部屋を後にする。いい気分転換になりそうだ、と思いながら共同浴場へ向かった。
言われるがままぼんやりと入浴し、部屋に戻ると確かに布団が敷かれていた。エオルゼア様式の寝台もいいが布団というものも悪くない。アンナはまだ戻っていない様子で。外を見上げると綺麗な月が雲の間から覗かせている。繁華街からの喧騒もかすかに聞こえ、その音も心地がいい。少しだけ目頭が熱くなったタイミングでアンナが部屋に戻ってきた。浴衣姿で相変わらずどこに仕舞っているのか聞きたくなるほどの豊かな胸の谷間が見える。
「おや先に―――嗚呼遅くなってゴメン」
着替えを放り投げ駆け寄って来る。シドは思ったよりも震えた声で口を開く。
「日中みたいに」
「ん。座って」
月明りの下、畳の上。隣に座り、アンナの肩に頭を寄せるとそのままポンと撫でられた。涙が溢れ、嗚咽が漏れる。
「泣け泣け。今は私しかいない。明日からまた笑顔を見せておくれ」
予想だが、リンドウの言葉をそのまま口にしているのだろう。我慢できなくなり、そのまま押し倒し強く抱きしめた。
「甘えたい年頃?」
「うるせぇぞ。リンドウの真似をするな」
「嗚呼そういう。人の慰め方を他に知らずつい」
ごめんごめんと言いながら身体に手を回し、抱き返す。その後アンナは何も言わずその堰き止めていた感情を受け止めていた。
◇
「すまん、アンナ。ありがとな」
「別に。いいモノ見せてもらったしそれ位」
少しだけ落ち着いた頃、アンナは突然思い付いたかのように脇腹へと指を這わせた。
「私的にはその銃創の謎が解けたからボズヤのレジスタンスに協力してよかったなって。―――あーあ、誰かさんのせいで自分勝手な考えをするように」
「っ、それでもいいんじゃないか? アンナは完全に部外者だろ」
「その部外者のくせに首を突っ込んで去るのもまた無名の旅人。―――ってそんな顔しないでよ冗談冗談。もうただの旅人さ」
ジトリとした目を避けるように苦笑している。シドは「次言ったら分かってるよな?」と眉間に皴を寄せるとアンナは「はいはい」と窘める。
「ねえシド」
「どうした?」
アンナは何かを言おうとする。しかし首を傾げた。どうしたとシドは再び尋ねるが、目を閉じたまま固まっている。
「何か、言おうとした。でも分からず」
ようやく口を開いたと思ったらよく分からないことを言っている。必死に考えこんでいるようだ。
「ごめん、シド」
頭をグシャグシャと掻きながら悩み続けている。珍しいと思いながらシドはその風景を見つめた。
アンナは確かに何か言おうと思っていた。しかし突然頭が真っ白になり、何も浮かばない。"結論がついたらすぐに報告する"と約束したのに、それを表現するための言葉が頭から消えた。あんなにも人を口説いていたはずなのに。それに早く言うこと言っておかないと―――。
「まだ、足りないかも」
「うおっ!?」
シドを強く抱きしめ、撫で続ける。肩に顎を擦りつけながら強く、締まる位に。流石に苦しくなってきたので腕を掴み抗議した。
「アンナ、流石にお前の腕力で手加減無しに抱きしめるのは」
「……ゴメン」
「その辺り考えられん位悩むことって何かあったのか?」
「う……」
そっぽを向き、何も言わない。いつもより子供っぽい姿に笑みがこぼれた。くしゃりと頭を撫で、口付けた。
「別に今すぐ言わないといけないことなんてないだろ? ゆっくりでいいさ。それとも何かやらかしたのか?」
「そう、だね。別に悪いことして言葉詰まってるわけじゃないよ。失礼。あ! そうだ!」
どうした、と聞くと目を輝かせながら話を促す。
「あなたの家族の話、聞かせて」
「……そんなのでいいのか?」
「色々確執が消えた今だからできる話ってあるでしょう? 気が変わる前に早く」
それもそうかとシドは呟いた。提案しておいて気が変わる前にとかなんて我儘な人間なのだろうかとも思う。だがあの人に興味を持たない女が話せとせがむのだ。悪い気はしない。優しかった少年時代の家族との日々を少しずつ紐を解くように話す。アンナはずっといつもの笑顔で聞いていた。そうしながらも、まるで自分に欠けている部分を補完するかのように、家族やその周りの環境について尋ねる。
「お互い帰らずの故郷で知らない家族の話なのに、聞いてて楽しいなんて思わず」
一通り話終わった後にポソリと呟いた言葉が印象的だった。
「お前さんはいつでも兄に手紙で家族のことは聞けるだろ?」
「兄さんは血が繋がった家族の話はしない。母さまはとっても厳しい人だし、"聖なる場所"へと旅立った父さまとも色々あって」
そういえばこの兄妹の家族についての話は一切聞いたことがなかったなと思い出す。しかし思ったより珍妙な単語が出た。首を傾げてしまう。
「聖なる、場所?」
「ヘーヘっヘっへっ、この世にゃ知らなくてもいいことっていっぱいあんだぜ兄ちゃん」
「何だその口調は」
「まあ死んでるって感じでいいと思う。顔の記憶すらないから会ったことないんでしょ、多分」
その場所もどういうものかは私も知らないしとはにかんでいる。
「……お前の故郷、グリダニアも吃驚な余所者お断りの面倒な村だな?」
「超純血主義の帝国出身な人に言われても。あと成人前に飛び出したから故郷のことは知らなぁい。ささ、もう寝よ? 明日少しでも早く会社に戻ってあげなきゃ」
「話題逸らされた気がするんだが」
第三の眼付近に口付けてから目を閉じる様を見たシドのぼやきは虚空に消える。相変わらずアンナという存在を全て掴めた気はしない。いつか知ることはあるのだろうか。―――とりあえず帰ってから少しだけ兄に聞いてみよう。そう思いながらその冷たい身体を抱きしめ、目を閉じた。
Wavebox
#シド光♀
セイブザクイーン【シダテル・ボズヤ蒸発事変】の記憶探索終了後のお話。落ち込んだシドを自機なりに慰めたり家族について語る感じ。
時系列的にはメイン5.3終了までには起こってる感じ。
シドは記憶探索も終わり一度山積みになっているだろう仕事のため飛空艇で戻ることにする。しかし少し歩くと待って、と呼び止められた。振り向くとそこにはいつもの笑顔を浮かべたアンナがいる。
「どうした、アンナ」
「少しだけ時間ちょうだい」
腕を引っ張られ、喧騒から離れた場所にて2人は立つ。アンナは空を見上げていたので釣られて頭を上げた。すると頭をポンと撫でながら自らの肩へと寄せる。瞬時に赤くしていると表情一つ変えずボソリと喋った。
「色々あった日はね、フウガがこうやって空を見上げながら頭を撫でてくれたんだ。本当は星空だけど。おっと感情はまだ取っておいて」
ニコリと笑い、耳元で囁く。それはまるで悪魔の囁きのように甘い誘いだった。
「もし時間があるなら今夜望海楼においで。お仕事ラブならそのまま帰ってもいい」
シドの返事を聞く前に耳にキスを落とし、パッと離れた。後処理まだ残ってて探してるかも、と言いながら元いた場所へと戻って行く。1人残された男はしばらく口をあんぐりと開き、去った先を見つめていた。
「帰れるわけないじゃないか……」
◇
夜、飛空艇で一先ずクガネに降り立つ。リンクパールでジェシーに一晩泊まって帰るからもう少し遅くなるがいいか、と聞いてみる。怒りが飛んでくると思ったら意外なことに即機嫌の良い声で許可を貰えた。逆に不気味すぎないか、と思いながら望海楼へ向かうと入り口前でアンナが佇んでいる。テレポがあると便利だな、アンナも即こちらに気付いたようでニコリと笑顔で手を上げた。
「おやおやてっきり帰ってるかと」
「どうせ先にジェシーに連絡してるんだろ」
「バレたか」
まさかとは思ったが本当に先回りしていたらしい。さすが準備のいい女だ、実質断れなかったかと背中を叩いてやるといつものようにニコニコと笑っていた。じゃあご飯準備してもらってるからと手を差し伸ばされる。
「本来は逆だといつも思うんだが」
「そんな顔してる男の人にエスコートされたくない」
手を握ってやる。すると指先に軽く口付けられた後に引っ張られ、部屋へと案内された。チェックインは先に終わらせていたらしい。すれ違う従業員に物珍しい目で見られているが、アンナは仕草1つ変えずいつも通りだ。個室には既に豪勢な食事が準備され、座るように促される。
「お金は考えなくていい。何かあった時は一杯ご飯を食べて寝るのが一番」
「ストレス解消についてヌく方が効率的とか言ってた人間とは思えない発言が飛んだな」
「おうおうご飯時にそういう話はご法度」
「最近誰かさんに影響されているのではと言われたんでな」
アンナは一体誰かな、許さないねえと肩をすくめている。シドはニヤと笑っていると、すぐに調子が戻ったのか飯を食いたいのか「いただきます」と手を合わすので、その声に釣られて同じく手を合わせてしまった。
◇
「食事どうだった?」
「お前さんの料理ほどではなかったが美味しかったな」
「流石にプロの方がレベル高いと思うよ?」
東方料理だけでなく、多少エオルゼアでもよく見る揚げ物等も添えられ食べ応えがあった。酒は、と問うと「絶対悪酔いするからまた今度」と言われる。
その後アンナは苦笑しながら置かれていたタオルや浴衣を押し付けた。
「お風呂。大きい温泉、ゆっくりつかるの、いい。その間に布団敷いてもらう。ベッドもいいけど布団も捨て難し。それともご飯食べたから帰る?」
「帰らんと言ってるだろ」
小突きながら道具を受け取り部屋を後にする。いい気分転換になりそうだ、と思いながら共同浴場へ向かった。
言われるがままぼんやりと入浴し、部屋に戻ると確かに布団が敷かれていた。エオルゼア様式の寝台もいいが布団というものも悪くない。アンナはまだ戻っていない様子で。外を見上げると綺麗な月が雲の間から覗かせている。繁華街からの喧騒もかすかに聞こえ、その音も心地がいい。少しだけ目頭が熱くなったタイミングでアンナが部屋に戻ってきた。浴衣姿で相変わらずどこに仕舞っているのか聞きたくなるほどの豊かな胸の谷間が見える。
「おや先に―――嗚呼遅くなってゴメン」
着替えを放り投げ駆け寄って来る。シドは思ったよりも震えた声で口を開く。
「日中みたいに」
「ん。座って」
月明りの下、畳の上。隣に座り、アンナの肩に頭を寄せるとそのままポンと撫でられた。涙が溢れ、嗚咽が漏れる。
「泣け泣け。今は私しかいない。明日からまた笑顔を見せておくれ」
予想だが、リンドウの言葉をそのまま口にしているのだろう。我慢できなくなり、そのまま押し倒し強く抱きしめた。
「甘えたい年頃?」
「うるせぇぞ。リンドウの真似をするな」
「嗚呼そういう。人の慰め方を他に知らずつい」
ごめんごめんと言いながら身体に手を回し、抱き返す。その後アンナは何も言わずその堰き止めていた感情を受け止めていた。
◇
「すまん、アンナ。ありがとな」
「別に。いいモノ見せてもらったしそれ位」
少しだけ落ち着いた頃、アンナは突然思い付いたかのように脇腹へと指を這わせた。
「私的にはその銃創の謎が解けたからボズヤのレジスタンスに協力してよかったなって。―――あーあ、誰かさんのせいで自分勝手な考えをするように」
「っ、それでもいいんじゃないか? アンナは完全に部外者だろ」
「その部外者のくせに首を突っ込んで去るのもまた無名の旅人。―――ってそんな顔しないでよ冗談冗談。もうただの旅人さ」
ジトリとした目を避けるように苦笑している。シドは「次言ったら分かってるよな?」と眉間に皴を寄せるとアンナは「はいはい」と窘める。
「ねえシド」
「どうした?」
アンナは何かを言おうとする。しかし首を傾げた。どうしたとシドは再び尋ねるが、目を閉じたまま固まっている。
「何か、言おうとした。でも分からず」
ようやく口を開いたと思ったらよく分からないことを言っている。必死に考えこんでいるようだ。
「ごめん、シド」
頭をグシャグシャと掻きながら悩み続けている。珍しいと思いながらシドはその風景を見つめた。
アンナは確かに何か言おうと思っていた。しかし突然頭が真っ白になり、何も浮かばない。"結論がついたらすぐに報告する"と約束したのに、それを表現するための言葉が頭から消えた。あんなにも人を口説いていたはずなのに。それに早く言うこと言っておかないと―――。
「まだ、足りないかも」
「うおっ!?」
シドを強く抱きしめ、撫で続ける。肩に顎を擦りつけながら強く、締まる位に。流石に苦しくなってきたので腕を掴み抗議した。
「アンナ、流石にお前の腕力で手加減無しに抱きしめるのは」
「……ゴメン」
「その辺り考えられん位悩むことって何かあったのか?」
「う……」
そっぽを向き、何も言わない。いつもより子供っぽい姿に笑みがこぼれた。くしゃりと頭を撫で、口付けた。
「別に今すぐ言わないといけないことなんてないだろ? ゆっくりでいいさ。それとも何かやらかしたのか?」
「そう、だね。別に悪いことして言葉詰まってるわけじゃないよ。失礼。あ! そうだ!」
どうした、と聞くと目を輝かせながら話を促す。
「あなたの家族の話、聞かせて」
「……そんなのでいいのか?」
「色々確執が消えた今だからできる話ってあるでしょう? 気が変わる前に早く」
それもそうかとシドは呟いた。提案しておいて気が変わる前にとかなんて我儘な人間なのだろうかとも思う。だがあの人に興味を持たない女が話せとせがむのだ。悪い気はしない。優しかった少年時代の家族との日々を少しずつ紐を解くように話す。アンナはずっといつもの笑顔で聞いていた。そうしながらも、まるで自分に欠けている部分を補完するかのように、家族やその周りの環境について尋ねる。
「お互い帰らずの故郷で知らない家族の話なのに、聞いてて楽しいなんて思わず」
一通り話終わった後にポソリと呟いた言葉が印象的だった。
「お前さんはいつでも兄に手紙で家族のことは聞けるだろ?」
「兄さんは血が繋がった家族の話はしない。母さまはとっても厳しい人だし、"聖なる場所"へと旅立った父さまとも色々あって」
そういえばこの兄妹の家族についての話は一切聞いたことがなかったなと思い出す。しかし思ったより珍妙な単語が出た。首を傾げてしまう。
「聖なる、場所?」
「ヘーヘっヘっへっ、この世にゃ知らなくてもいいことっていっぱいあんだぜ兄ちゃん」
「何だその口調は」
「まあ死んでるって感じでいいと思う。顔の記憶すらないから会ったことないんでしょ、多分」
その場所もどういうものかは私も知らないしとはにかんでいる。
「……お前の故郷、グリダニアも吃驚な余所者お断りの面倒な村だな?」
「超純血主義の帝国出身な人に言われても。あと成人前に飛び出したから故郷のことは知らなぁい。ささ、もう寝よ? 明日少しでも早く会社に戻ってあげなきゃ」
「話題逸らされた気がするんだが」
第三の眼付近に口付けてから目を閉じる様を見たシドのぼやきは虚空に消える。相変わらずアンナという存在を全て掴めた気はしない。いつか知ることはあるのだろうか。―――とりあえず帰ってから少しだけ兄に聞いてみよう。そう思いながらその冷たい身体を抱きしめ、目を閉じた。
Wavebox
#シド光♀
【NSFW】旅人は首元を押さえる
注意
次元の狭間オメガ後日談。旅人は密会するから数日後。紅蓮メインでいうと4.3後。性描写を振り返るシーンがあるので閲覧注意。
ボクには特技というまででもないがある本能的なセンサーのようなものが付いている。
それは命の恩人も持っていた奇妙な特殊能力。数々の自分への感情に反応するように首の後ろがゾワリとして判断出来るのだ。その中でも悪意を持って利用しようと近付く人間相手は特に鳥肌が立つくらい即反応してしまう。かつてフウガにどうしていたかと聞くとこう答えた。
「怖いならば斬り捨てればいい」
「ボクにはどう感じるの? ゾワゾワする?」
「おぬしは……純粋すぎる」
なんて言いながら首の後ろを撫で、苦笑していた。当時のボクには意味が理解出来なかった。しかし現在は"それ"の正体を知っている。そう、真っ直ぐで淡く、ふわふわとするような温かい恋愛感情だ。思わず少し触れてしまうくすぐったい感覚。
初めて体感したのはあの星芒祭、アプカルの滝の前でのこと。シドがボクに向けた小さな感情をほんの一瞬だけ確認出来た。
そんなこともあったので以降何かあるごとにからかう材料になる。だって本人も自覚していなかったのだから。分かってしまう前に、旅に出てしまえばいい。
どうせかつて交わした"約束"の細かい部分なんて覚えていないのだからいつでも逃げる準備は出来ていると思っていた。逢瀬を重ねるごとにちり、と感じる頻度が上がっていく。理解していながらも、まるでチキンレースのような面白さに夢中になってしまっていた。
さて、ボクはあと1つ、異様な感情というものを察知することが出来る。所謂下心だ。少しでも勘違いされたら抱いてきやがる性愛も混じった"それ"が大嫌いだった。首どころか背中までゾワゾワと粟立ち、気持ち悪さが勝る。
"それ"はフウガと別れてから感じ取り始めたモノだった。だから余計に吐き気がする"自分の性別"と"大人特有"のものだということは理解している。一時期本当に嫌で、再び生まれ持った性質を呪っていた時期もあった。現在はどうも思ってないのだが。大体はゾワリとした瞬間に悟られないよう笑顔を見せ、離脱する。それでも縋ってきたら冷たい言葉で断るのがこれまでの旅路だった。
人助けをやめればいいだけだ。が、そんな理由でやめてしまったらフウガは怒るだろう。あの人は善人は勿論、悪人だって関係なく助けては名乗らずに去る。圧倒的な力は、弱き者のために使う―――それがボクの憧れだった。だからその通りに動いてるだけ。
シドが持ってしまったと初めて感じたのは墓参りから数日後、首元を噛まれた夜。今まで一度もなかった恐怖に襲われる。肌に歯を立てられる瞬間まで微塵もなかったので本当に驚いた。
まあ、冗談でも許可をしたのはボクなので誰がどう見ても自業自得だったのだが。直後、泉から湧き出すようにくすぐったさとは別に粟立った感覚が一気に畳みかけて来る。この時は忘れたとかとぼけて煙に巻き、逃げることしか出来なかった自分が情けない。
その後、『通話程度だったら特に反応しないから置いておこう。だが次はどんな顔して会えばいい? ……普段通りでいいか』と思いながらアラミゴ解放後、ラールガーズリーチで久々に直接顔を合わせる。
意外なことに何も感じることなく普通にいつもの関係が続いたことに何重にも驚いた。まあそれを"また"崩したのはボクだったのだが。
もう奇妙なことは起こらないだろうと高を括り"効率的なストレス解消手段"を提案、からかっただけで処女を散らされた夜になる。これは誰も予想は出来なかっただろう。勿論ボク含めても、だ。しかも屁理屈と強引さが混じり合い意識を失うまで抱き潰された。数々の感情の移り変わりが首元を通じてダイレクトに伝わり、更に全身は痛みとは別の感覚が脳を焼く。
その後、"貰っていた手紙"と共にどう処理すればいいのか分からなかった。結果、温泉旅行と称してまたしばらく逃げることしか出来なかった自分にも嫌気がさす。そろそろかと戻ってからは何事もなく検証が終わった。相変わらずこの人はボクをどうしたいんだと思う。個人的には本当に最後までヤッてしまえば後腐れなく気まずくもなかったというのが事実だったので悔しい。
◇
『先日はお土産ありがとね。折角ならこっちにも顔出したらよかったのに』
暁からの次の"お願い"待ちで付けっぱなしにしていたリンクパールが鳴る。「もしもし」と出てみるとジェシーの声。とりあえず「夜も遅かったし。また改めて挨拶行く」と答えるとうふふと笑う声が聞こえた。
『会長もあなたが来た後頑張ってたわ。一晩で書類を終わらせたのよ! アンナには本当に感謝してるわ』
「は、はは……」
嘘でしょと乾いた笑いが漏れる。そこまであの一言に期待を抱いたのかと唖然となった。
"そのお仕事終わったら、ご飯行こうか"
数日前、帰燕館の個室にて暇つぶしにぼんやり作業していると付けっぱなしにしていたリンクパールが鳴った。突然鳴ってビクリと身体が跳ねながら出てみると連日缶詰だったのか疲れ切ったシド。何食わぬ顔で通話中に「会いたい」と苦笑していた。
なので適当な土産を持ってサプライズで現れたついでにヌいてやった後に耳打ちした台詞だ。何でそうなったかは期待されたからとしか言えない。
散々な初めて身体を重ねたあの夜の後、本当はこれまでのように手酷く扱い捨ててやることも考えたのだ。
でも、"あの時の子供"にそんなことが出来るわけがない。更に"内なる存在"があと1年絶対に消息を絶たないと明確なタイムリミットを決めやがった。
だから今すぐ旅に逃げるという選択肢も潰されている。シド関係では余計なことしかしないもう1人の自分に苛立った。
ジェシーに適当な挨拶を返し、次はご褒美を待つ犬のようになってるであろう男に通信を繋ぐ。まあどうしてボクを好きになったのか、食事ついでに話し合うのも悪くはないだろう。
「やあシド、寝てたでしょごめん。ジェシーから聞いた。ご飯の件」
『今夜』
「いやムリせず週末とかでも」
『今夜、レヴナンツトールのエーテライト前で待ってる。逃げるなよ』
プツリと切られた。「うっそでしょ……」と呆れる言葉が何とか喉から発せられる。とりあえず現在の状況を確認した。悔しいが和平交渉が一段落つき情報収集の最中、つまり戦闘要員である自分は暇。そしてボクは現在石の家に滞在中。
適当な人に「何か動きあったらすぐに連絡、よろしく」と声をかけ"準備"のためテレポを詠唱した。
それに―――ボクが最初から逃げるという行為なんてするわけないじゃないか。莫迦にしないでほしい。
◇
夕方。『立ち寄りはしたけどいなかった。いやあ残念』というアリバイ作りのために集合時間よりも30分程度早くレヴナンツトールに飛ぶ。誰相手に対してもとりあえず約束の時間より早く来て待つのはもう一種のルーチンだ。―――よし、元から滞在してたとはいえ集合場所に来ました。というわけで帰ろうと歩き出そうとした瞬間に腕を掴まれる。一瞬漂った機械油の匂いとその大きな手から誰かは予想が付いた。
「や、やあシド」
振り向くとジトリとした目でシドがボクを見ていた。
いつもは思ったより仕事に手こずったからとギリギリか遅く来るはず。冷静に立ち回りたいのに、急に想定外のことが起こり心臓がバクバクと鳴っていた。
「さ、先に石の家でクルルに現状報告後、待機予定で」
「そうだったか」
適当なことを言い、ニコリといつもの笑顔を作ると同じく笑顔が返って来る。
何だ寝起きで少々機嫌が悪かっただけか。特に首元がざわめくこともないのでホッとする。
「さあ行こうか」
「うん」
ガシリと腰に手を回すように掴まれた。まだ逃げると思っているらしい。恥ずかしいわけではなく、流石にこの辺りで人に見られるのは"よろしくない"。こっちは何も感情を持っていないというのに他人から誤解されるような行為はなるべく避けたいと思っているのだ。
ボクが「シド、私逃げない。普通に、さ」と苦笑してやると寂しそうな目でただじっと見つめてくる。ただただ何も言わず絶対に折れる気はないという視線を向けられ、先にこちらが音を上げてしまった。
「あーもー! そんな顔しない! 分かったから! とっととご飯!」
そう言った瞬間不敵な笑みを浮かべ、そのまま引き摺られていく。騙された。「子供か」と盛大にため息を吐く。
こんなのどうすればいいんだ。フウガ、助けてと空を見上げた。
◇
「何で、私のことが"好き"?」
「―――は?」
よく2人で行くレストランで単刀直入に聞いてやる。きょとんとした顔でシドは見る。
「だーかーらー、今後の参考に。私何か勘違いさせるような特別なことした?」
「俺は勘違いしてないぞ」
「それが理解不能。私はただ人助けをしているだけ。あなたは助けた人間のうちの1人」
「俺にだけイタズラかける件は?」
「遊べる」
「こら」
軽く足を蹴られた。そうかイタズラも拍車をかけていたんだね。確かにシド以外の人間にする気は起きない。
「あなたになら少しは遊びを入れてもどうもならないかなって思って?」
「そういう所だ」
「あなたを護るのは私。私を見て、手を握り、頼っていればいい。そのためならどんなイタズラだってする」
あ、顔が真っ赤になった。ニコリと笑ってやる。
「前も言った。私はそれなりにだけどあなたに恩は感じてる。英雄への道を作ってくれたのは間違いなくあなた」
そう、シドはその飛空艇や新たな装置でいつも助けてくれている。エオルゼアで迫害されず自由に人助けしながら暮らす生活が出来ているのはこの人のおかげだ。それなり、じゃない。本当は凄く感謝しているけど調子に乗るので程々ということにしておく。
「あなたがいなかったらとっくに旅出ってる。何も分からなかった私に差し伸ばされた手を握り返してやった。だから求められる限り、恩返し。ついでに私の手が届く距離で笑って―――それをちゃんと自覚してほしかったのさ」
「それが一種の告白だと思わないアンナは凄いな……」
眉間に指を当て、ため息を吐いた。何故そういう言葉が出て来るか分からない。
「それに人助けの理由、フウガに憧れたから。特定の感情なし」
「違う、お前がやっている行為は無償の愛を注ぐ献身的なものだ。誰だってその―――"勘違い"する。今までよく何も起こらなかったな」
「去るだけでいい。すぐに判別可能」
「アンナ……」
「ねえフウガと同じことしてるだけなのに何で? 性別が悪い?」
一切理解不能。すると先程と一転して顔が青くなったシドは机を隔てて肩を掴んだ。
「本気でそれを言ってるのか?」
「? うん」
「―――もしお前の性別が男で同じことになっても、俺は間違いなく好きになるし抱く」
へ? とボクは目を見開いてしまう。何を言ってるんだ、この人。
「リンドウはどうしてたんだ」
「人助けして、帰ってたよ」
「違う。アンナと一緒で特定の人間に感情を抱く前に逃げてたんだ。間違いなくモテたぞ」
「当たり前。フウガは無名の旅人だから。カッコよく去る」
「お前も人助けをする姿がカッコよかったあの人が好きだったんだろ? それと同じ感情を、俺は持っている」
ふわりとくすぐったさが湧き上がったので反射的に首元を撫でてしまう。つい「やめて」と弱々しい声が漏れた。ボクの手を掴み握りしめる。柔らかな笑顔を見せ、突然とんでもないことを言い出した。
「綺麗な姿も、自分よりも先に人助けをする勇敢さも、優しい笑顔も。ああ少しでも想定外なことが起こったらすぐに狼狽える表情もいいよな。グッと来る」
「へ?」
誰の、話? 思考停止したこちらを無視し、言葉が続く。
「刀を撫でながら笑う姿も、圧倒的な強さも。何度手を出すのを我慢したか分からん。アンナが関わると絶対新しい技術が転がり込んでくる。イタズラに使ってる地味に高い技術力もほしいくらいさ。冷たく柔らかい肌も、徐々に温かくなっていく行為の楽しさもな。他所では体験出来ん。あとは」
「分かった! 分かったよ!!」
流石に恥ずかしくなったので止めてしまう。あとこれ以降は多分表で言わせてはいけない感情が絡んだモノになると本能的に察知した。
「幾らでもお前の好きな所は言えるぞ?」
「満足! ストップ! そこまで拗らさせた私が悪かった!!」
「本気だって分かったな?」
嗚呼その真っ直ぐな目をやめてほしい。何も言えなくなってしまう。顔が熱い。どうしようもない感情を、ボクはシドの耳で囁くと目を見開き見つめて来た。
◇
シドはボクの隣に座る。頭を優しく撫でながら笑っていた。
「首元押さえるのは、照れてるだけでよかった。本当に体調が悪かったらどうすればいいかと」
「別に照れてるわけじゃない」
嗚呼ムズムズして頭が変になりそうだ。なんてこの人は純粋なんだ。眩しい光が赤く染まるボクを焼く。嫌悪感はない。ついポロリと溢す。
「フウガみたいに昔から、自分に向けられる感情に首の後ろがゾワッてして分かる。それだけ」
目を丸くしてボクを見ている。そしてボクも遂に人に言ってしまったと血の気が引いた。「じ、冗談」と離れようと動くが強く抱きしめられる。不器用に首の後ろを撫で、離さない。
「なあいつから俺はお前が好きだったんだ」
「うーざーいー、触るな! いつからとか言うわけないでしょうが自分で考える!」
濁りが一切ない真っ直ぐな感情と直接触られる感覚がくすぐったい。そんな感情を、ボクに向けないでよ。
「キミがボクのことが本当に好きなのは分かったから」
あと僅か1年、"宿題"とやらが解けるのは分かりきっている。この冷たい肌がほしいのなら、精々頑張ったらいいさ。
「ボクに好きと言わせたい気持ちは痛いほど分かったけど絶対にそうはならないよ」
「ふん、いつか言わせてやるさ。逃げるんじゃないぞ」
「―――まだ気は変わってないから。キミは純粋すぎるんだよ」
「ハハハ」
そっぽを向くと後ろから優しく抱きしめられた。ブランケットを被り、「おやすみ」と呟き目を閉じた。
Wavebox
#シド光♀
次元の狭間オメガ後日談。旅人は密会するから数日後。紅蓮メインでいうと4.3後。性描写を振り返るシーンがあるので閲覧注意。
ボクには特技というまででもないがある本能的なセンサーのようなものが付いている。
それは命の恩人も持っていた奇妙な特殊能力。数々の自分への感情に反応するように首の後ろがゾワリとして判断出来るのだ。その中でも悪意を持って利用しようと近付く人間相手は特に鳥肌が立つくらい即反応してしまう。かつてフウガにどうしていたかと聞くとこう答えた。
「怖いならば斬り捨てればいい」
「ボクにはどう感じるの? ゾワゾワする?」
「おぬしは……純粋すぎる」
なんて言いながら首の後ろを撫で、苦笑していた。当時のボクには意味が理解出来なかった。しかし現在は"それ"の正体を知っている。そう、真っ直ぐで淡く、ふわふわとするような温かい恋愛感情だ。思わず少し触れてしまうくすぐったい感覚。
初めて体感したのはあの星芒祭、アプカルの滝の前でのこと。シドがボクに向けた小さな感情をほんの一瞬だけ確認出来た。
そんなこともあったので以降何かあるごとにからかう材料になる。だって本人も自覚していなかったのだから。分かってしまう前に、旅に出てしまえばいい。
どうせかつて交わした"約束"の細かい部分なんて覚えていないのだからいつでも逃げる準備は出来ていると思っていた。逢瀬を重ねるごとにちり、と感じる頻度が上がっていく。理解していながらも、まるでチキンレースのような面白さに夢中になってしまっていた。
さて、ボクはあと1つ、異様な感情というものを察知することが出来る。所謂下心だ。少しでも勘違いされたら抱いてきやがる性愛も混じった"それ"が大嫌いだった。首どころか背中までゾワゾワと粟立ち、気持ち悪さが勝る。
"それ"はフウガと別れてから感じ取り始めたモノだった。だから余計に吐き気がする"自分の性別"と"大人特有"のものだということは理解している。一時期本当に嫌で、再び生まれ持った性質を呪っていた時期もあった。現在はどうも思ってないのだが。大体はゾワリとした瞬間に悟られないよう笑顔を見せ、離脱する。それでも縋ってきたら冷たい言葉で断るのがこれまでの旅路だった。
人助けをやめればいいだけだ。が、そんな理由でやめてしまったらフウガは怒るだろう。あの人は善人は勿論、悪人だって関係なく助けては名乗らずに去る。圧倒的な力は、弱き者のために使う―――それがボクの憧れだった。だからその通りに動いてるだけ。
シドが持ってしまったと初めて感じたのは墓参りから数日後、首元を噛まれた夜。今まで一度もなかった恐怖に襲われる。肌に歯を立てられる瞬間まで微塵もなかったので本当に驚いた。
まあ、冗談でも許可をしたのはボクなので誰がどう見ても自業自得だったのだが。直後、泉から湧き出すようにくすぐったさとは別に粟立った感覚が一気に畳みかけて来る。この時は忘れたとかとぼけて煙に巻き、逃げることしか出来なかった自分が情けない。
その後、『通話程度だったら特に反応しないから置いておこう。だが次はどんな顔して会えばいい? ……普段通りでいいか』と思いながらアラミゴ解放後、ラールガーズリーチで久々に直接顔を合わせる。
意外なことに何も感じることなく普通にいつもの関係が続いたことに何重にも驚いた。まあそれを"また"崩したのはボクだったのだが。
もう奇妙なことは起こらないだろうと高を括り"効率的なストレス解消手段"を提案、からかっただけで処女を散らされた夜になる。これは誰も予想は出来なかっただろう。勿論ボク含めても、だ。しかも屁理屈と強引さが混じり合い意識を失うまで抱き潰された。数々の感情の移り変わりが首元を通じてダイレクトに伝わり、更に全身は痛みとは別の感覚が脳を焼く。
その後、"貰っていた手紙"と共にどう処理すればいいのか分からなかった。結果、温泉旅行と称してまたしばらく逃げることしか出来なかった自分にも嫌気がさす。そろそろかと戻ってからは何事もなく検証が終わった。相変わらずこの人はボクをどうしたいんだと思う。個人的には本当に最後までヤッてしまえば後腐れなく気まずくもなかったというのが事実だったので悔しい。
◇
『先日はお土産ありがとね。折角ならこっちにも顔出したらよかったのに』
暁からの次の"お願い"待ちで付けっぱなしにしていたリンクパールが鳴る。「もしもし」と出てみるとジェシーの声。とりあえず「夜も遅かったし。また改めて挨拶行く」と答えるとうふふと笑う声が聞こえた。
『会長もあなたが来た後頑張ってたわ。一晩で書類を終わらせたのよ! アンナには本当に感謝してるわ』
「は、はは……」
嘘でしょと乾いた笑いが漏れる。そこまであの一言に期待を抱いたのかと唖然となった。
"そのお仕事終わったら、ご飯行こうか"
数日前、帰燕館の個室にて暇つぶしにぼんやり作業していると付けっぱなしにしていたリンクパールが鳴った。突然鳴ってビクリと身体が跳ねながら出てみると連日缶詰だったのか疲れ切ったシド。何食わぬ顔で通話中に「会いたい」と苦笑していた。
なので適当な土産を持ってサプライズで現れたついでにヌいてやった後に耳打ちした台詞だ。何でそうなったかは期待されたからとしか言えない。
散々な初めて身体を重ねたあの夜の後、本当はこれまでのように手酷く扱い捨ててやることも考えたのだ。
でも、"あの時の子供"にそんなことが出来るわけがない。更に"内なる存在"があと1年絶対に消息を絶たないと明確なタイムリミットを決めやがった。
だから今すぐ旅に逃げるという選択肢も潰されている。シド関係では余計なことしかしないもう1人の自分に苛立った。
ジェシーに適当な挨拶を返し、次はご褒美を待つ犬のようになってるであろう男に通信を繋ぐ。まあどうしてボクを好きになったのか、食事ついでに話し合うのも悪くはないだろう。
「やあシド、寝てたでしょごめん。ジェシーから聞いた。ご飯の件」
『今夜』
「いやムリせず週末とかでも」
『今夜、レヴナンツトールのエーテライト前で待ってる。逃げるなよ』
プツリと切られた。「うっそでしょ……」と呆れる言葉が何とか喉から発せられる。とりあえず現在の状況を確認した。悔しいが和平交渉が一段落つき情報収集の最中、つまり戦闘要員である自分は暇。そしてボクは現在石の家に滞在中。
適当な人に「何か動きあったらすぐに連絡、よろしく」と声をかけ"準備"のためテレポを詠唱した。
それに―――ボクが最初から逃げるという行為なんてするわけないじゃないか。莫迦にしないでほしい。
◇
夕方。『立ち寄りはしたけどいなかった。いやあ残念』というアリバイ作りのために集合時間よりも30分程度早くレヴナンツトールに飛ぶ。誰相手に対してもとりあえず約束の時間より早く来て待つのはもう一種のルーチンだ。―――よし、元から滞在してたとはいえ集合場所に来ました。というわけで帰ろうと歩き出そうとした瞬間に腕を掴まれる。一瞬漂った機械油の匂いとその大きな手から誰かは予想が付いた。
「や、やあシド」
振り向くとジトリとした目でシドがボクを見ていた。
いつもは思ったより仕事に手こずったからとギリギリか遅く来るはず。冷静に立ち回りたいのに、急に想定外のことが起こり心臓がバクバクと鳴っていた。
「さ、先に石の家でクルルに現状報告後、待機予定で」
「そうだったか」
適当なことを言い、ニコリといつもの笑顔を作ると同じく笑顔が返って来る。
何だ寝起きで少々機嫌が悪かっただけか。特に首元がざわめくこともないのでホッとする。
「さあ行こうか」
「うん」
ガシリと腰に手を回すように掴まれた。まだ逃げると思っているらしい。恥ずかしいわけではなく、流石にこの辺りで人に見られるのは"よろしくない"。こっちは何も感情を持っていないというのに他人から誤解されるような行為はなるべく避けたいと思っているのだ。
ボクが「シド、私逃げない。普通に、さ」と苦笑してやると寂しそうな目でただじっと見つめてくる。ただただ何も言わず絶対に折れる気はないという視線を向けられ、先にこちらが音を上げてしまった。
「あーもー! そんな顔しない! 分かったから! とっととご飯!」
そう言った瞬間不敵な笑みを浮かべ、そのまま引き摺られていく。騙された。「子供か」と盛大にため息を吐く。
こんなのどうすればいいんだ。フウガ、助けてと空を見上げた。
◇
「何で、私のことが"好き"?」
「―――は?」
よく2人で行くレストランで単刀直入に聞いてやる。きょとんとした顔でシドは見る。
「だーかーらー、今後の参考に。私何か勘違いさせるような特別なことした?」
「俺は勘違いしてないぞ」
「それが理解不能。私はただ人助けをしているだけ。あなたは助けた人間のうちの1人」
「俺にだけイタズラかける件は?」
「遊べる」
「こら」
軽く足を蹴られた。そうかイタズラも拍車をかけていたんだね。確かにシド以外の人間にする気は起きない。
「あなたになら少しは遊びを入れてもどうもならないかなって思って?」
「そういう所だ」
「あなたを護るのは私。私を見て、手を握り、頼っていればいい。そのためならどんなイタズラだってする」
あ、顔が真っ赤になった。ニコリと笑ってやる。
「前も言った。私はそれなりにだけどあなたに恩は感じてる。英雄への道を作ってくれたのは間違いなくあなた」
そう、シドはその飛空艇や新たな装置でいつも助けてくれている。エオルゼアで迫害されず自由に人助けしながら暮らす生活が出来ているのはこの人のおかげだ。それなり、じゃない。本当は凄く感謝しているけど調子に乗るので程々ということにしておく。
「あなたがいなかったらとっくに旅出ってる。何も分からなかった私に差し伸ばされた手を握り返してやった。だから求められる限り、恩返し。ついでに私の手が届く距離で笑って―――それをちゃんと自覚してほしかったのさ」
「それが一種の告白だと思わないアンナは凄いな……」
眉間に指を当て、ため息を吐いた。何故そういう言葉が出て来るか分からない。
「それに人助けの理由、フウガに憧れたから。特定の感情なし」
「違う、お前がやっている行為は無償の愛を注ぐ献身的なものだ。誰だってその―――"勘違い"する。今までよく何も起こらなかったな」
「去るだけでいい。すぐに判別可能」
「アンナ……」
「ねえフウガと同じことしてるだけなのに何で? 性別が悪い?」
一切理解不能。すると先程と一転して顔が青くなったシドは机を隔てて肩を掴んだ。
「本気でそれを言ってるのか?」
「? うん」
「―――もしお前の性別が男で同じことになっても、俺は間違いなく好きになるし抱く」
へ? とボクは目を見開いてしまう。何を言ってるんだ、この人。
「リンドウはどうしてたんだ」
「人助けして、帰ってたよ」
「違う。アンナと一緒で特定の人間に感情を抱く前に逃げてたんだ。間違いなくモテたぞ」
「当たり前。フウガは無名の旅人だから。カッコよく去る」
「お前も人助けをする姿がカッコよかったあの人が好きだったんだろ? それと同じ感情を、俺は持っている」
ふわりとくすぐったさが湧き上がったので反射的に首元を撫でてしまう。つい「やめて」と弱々しい声が漏れた。ボクの手を掴み握りしめる。柔らかな笑顔を見せ、突然とんでもないことを言い出した。
「綺麗な姿も、自分よりも先に人助けをする勇敢さも、優しい笑顔も。ああ少しでも想定外なことが起こったらすぐに狼狽える表情もいいよな。グッと来る」
「へ?」
誰の、話? 思考停止したこちらを無視し、言葉が続く。
「刀を撫でながら笑う姿も、圧倒的な強さも。何度手を出すのを我慢したか分からん。アンナが関わると絶対新しい技術が転がり込んでくる。イタズラに使ってる地味に高い技術力もほしいくらいさ。冷たく柔らかい肌も、徐々に温かくなっていく行為の楽しさもな。他所では体験出来ん。あとは」
「分かった! 分かったよ!!」
流石に恥ずかしくなったので止めてしまう。あとこれ以降は多分表で言わせてはいけない感情が絡んだモノになると本能的に察知した。
「幾らでもお前の好きな所は言えるぞ?」
「満足! ストップ! そこまで拗らさせた私が悪かった!!」
「本気だって分かったな?」
嗚呼その真っ直ぐな目をやめてほしい。何も言えなくなってしまう。顔が熱い。どうしようもない感情を、ボクはシドの耳で囁くと目を見開き見つめて来た。
◇
シドはボクの隣に座る。頭を優しく撫でながら笑っていた。
「首元押さえるのは、照れてるだけでよかった。本当に体調が悪かったらどうすればいいかと」
「別に照れてるわけじゃない」
嗚呼ムズムズして頭が変になりそうだ。なんてこの人は純粋なんだ。眩しい光が赤く染まるボクを焼く。嫌悪感はない。ついポロリと溢す。
「フウガみたいに昔から、自分に向けられる感情に首の後ろがゾワッてして分かる。それだけ」
目を丸くしてボクを見ている。そしてボクも遂に人に言ってしまったと血の気が引いた。「じ、冗談」と離れようと動くが強く抱きしめられる。不器用に首の後ろを撫で、離さない。
「なあいつから俺はお前が好きだったんだ」
「うーざーいー、触るな! いつからとか言うわけないでしょうが自分で考える!」
濁りが一切ない真っ直ぐな感情と直接触られる感覚がくすぐったい。そんな感情を、ボクに向けないでよ。
「キミがボクのことが本当に好きなのは分かったから」
あと僅か1年、"宿題"とやらが解けるのは分かりきっている。この冷たい肌がほしいのなら、精々頑張ったらいいさ。
「ボクに好きと言わせたい気持ちは痛いほど分かったけど絶対にそうはならないよ」
「ふん、いつか言わせてやるさ。逃げるんじゃないぞ」
「―――まだ気は変わってないから。キミは純粋すぎるんだよ」
「ハハハ」
そっぽを向くと後ろから優しく抱きしめられた。ブランケットを被り、「おやすみ」と呟き目を閉じた。
Wavebox
#シド光♀
20240320メモ
注意
漆黒以降ネタバレ。独自設定の入った小説のあとがき
ずっと第八霊災が起こった時代について色々考えて頭から一度消したかったのでアウトプットしました。
以下あとがき隠し
続きを読む まず第八霊災が起こった次元でのアンナとシドの関係について。アンナが"観念する"のは第一世界での出来事後なのでそれ無しで死んでしまうことになります。
そして初夜のタイミングもきっと違ったんだろうなあってぼんやり思ったり。シドも想いを伝え切れず、体の関係が先立ってそのまま熟成されたまま運命の日を迎えてしまう感じ。
具体的に言うとリンドウの墓参り夜に事が起こります。その時は"お礼"と称して行為を行い、シドは想いを伝えるがアンナはこういうセリフを残すでしょう。
「私よりもいい女性はこの星空の下にいくらでもいる。その相手が見つかるまではあなたのやりたいようにさせてあげるよ。あなたが死ぬまで幸せでいられるよう、全ての外敵から護ってあげる」
そんな感じ。シドは相手を作る気なんてその時にはもうなかったが、隣にいてくれるならそれでいいと甘んじてしまいました。"宿題"が与えられることもなくオメガの検証も円滑に行われ、暁のメンバー誰も倒れず最終決戦へアンナは走り去ってしまう。
第八霊災が起こり、アンナが死んでしまった後。シドは彼女のために墓を作ってやり、そこでネロから預かっていたという本を渡されます。それは旅人は人を見舞うで託された"答え"です。宿題の話が無くてもエメトセルクの手紙は届いてるし遺言として準備をしていました。本は大切に保存され、後にグ・ラハに託されます。(序章:紅蓮の先へと続く物語)
その本に挟み込まれていた紙片が今回のお話に繋がります。"内なる存在"が念のために入れた地図で、それはとある場所にある研究所へ導きました。
今回のお話はそんな"内なる存在"となったア・リス・ティアという男の複製体ア・リス視点で彼らの生涯を観測するというものになります。この複製体がメイン時空ではリテイナーとして走り回る自称トレジャーハンターだったり。彼はア・リスが持っていた知識、記憶をインプットさせておいたクローンです。魂はアンナに捧げ、肉体は朽ち果て消えてしまっています。"ドアホの魂の一部も持って"と言ってますが、それはこっちに書いてます(旅人に"魂"は宿る)。
これまでエルファーの過去やアンナが持っていた謎等全て詰め込みました。これらはメイン時空のお話では公開する予定はほぼないがちゃんと見える位置に置いておきたかったのでお話として出力しておきます。
誰も幸せにならなかった話を書くのは初めてだったのでぶっちゃけ結構苦痛でしたが、いい感じにまとめられてよかった。まだ幾らでも盛れるけどそれは野暮かなって感じ。
ア・リスが何度も「もし過去を本当に改竄出来たら」と強調しますが彼としては本当にこの理論が成功するかは五分五分な感覚を持っていました。本人としては俺様と俺様の友人が幸せになればそれでいい勝手にさせろと思っているので無責任に救ってやってくれと声をかけてやったりしています。リンドウは弱虫、ア・リスは狂ってるとエルファーは称していましたが、それはあくまでも妹まで実験感覚で余計なことしてと拗ねてただけで本当はちゃんと懐いてました。
というかエルファーは優しさはあるが愛想の悪さで嫁8人と友人2人しかいない人間だったので距離感がバグってたり。数十年後、ネロと行動し、ガーロンド社で働くことになってからはそれなりに柔らかくなっていました。因習より社畜の方がマシってなってたんでしょうね。本当か? でも第八霊災でそのそれなりな幸せが崩れ去り、再び暗くなっていきます。"肉"を喰いという描写はまあ察してください。故郷の因習で抵抗がない人間だったってやつです。
そんな姿をネロはずっと分かっていながらも目を逸らしていました。何とかしてやりたかった、けどどうすればいいのか分からないって感じ。感情としては親しい友人としてのものでそれ以上の感情を持っていたかは伏せてます。ネロってその辺り全て隠して歩み続けることが出来る人間だと思っているのでどっちでもいいんじゃないかな。アンナに対してはバカ騒ぎ出来るビックリ人間って感覚でそれ以外の感情は一切ないのは言い切れますが。
オメガとア・リスは現在を記録するモノと過去を記録するモノと分けられるんですよね。本編中には書かれてませんが、ア・リスはそれまで聞いてきた人間の名前と大体の過去の所感、アンナとの思い出を全て書き残し、エルファーに託しています。意思疎通は取れなかったけどそれなりに空気は読んで仲良くしてるように見せてました。実際は少々語弊はあるけど"内なる存在"と同一人物なのでオメガ的にはどちらかというと狼藉働かないか見張っていたの方が正しいんですけどね。畳む
以下暁月ネタバレ入れたお話。
続きを読む アンナとリンドウが持っていた気迫と呼ぶものに関して。初めてお話としてどういったものなのかと明記しました。要するにア・リスらはエンテレケイアを再現したような技術を開発したってことになります。つまりリンドウと別れてからのアンナはしばらく心を塞ぎ込み暴れて"鮮血の赤兎"と呼ばれていましたがそれは終焉ちゃんみたいな状態になりかけていたってことですね。暁月編でその辺りに触ったお話は書く予定ではありましたがいつになるか分からなかったのでここで先出しって感じ。そういう意味ではアンナやリンドウ、ついでにア・リスはメーティオンに寄り添いやすい人間かもしれません。畳む
そんな感じ。これから上げるものの予定ですが、リンドウ墓参り二度目であったエルファーとネロの会話、オメガ検証後日談を1つ、感情を機敏に受け取るアンナの話、リテイナーア・リスの短編集辺りが予定に入ってます。
漆黒以降ネタバレ。独自設定の入った小説のあとがき
ずっと第八霊災が起こった時代について色々考えて頭から一度消したかったのでアウトプットしました。
以下あとがき隠し
続きを読む まず第八霊災が起こった次元でのアンナとシドの関係について。アンナが"観念する"のは第一世界での出来事後なのでそれ無しで死んでしまうことになります。
そして初夜のタイミングもきっと違ったんだろうなあってぼんやり思ったり。シドも想いを伝え切れず、体の関係が先立ってそのまま熟成されたまま運命の日を迎えてしまう感じ。
具体的に言うとリンドウの墓参り夜に事が起こります。その時は"お礼"と称して行為を行い、シドは想いを伝えるがアンナはこういうセリフを残すでしょう。
「私よりもいい女性はこの星空の下にいくらでもいる。その相手が見つかるまではあなたのやりたいようにさせてあげるよ。あなたが死ぬまで幸せでいられるよう、全ての外敵から護ってあげる」
そんな感じ。シドは相手を作る気なんてその時にはもうなかったが、隣にいてくれるならそれでいいと甘んじてしまいました。"宿題"が与えられることもなくオメガの検証も円滑に行われ、暁のメンバー誰も倒れず最終決戦へアンナは走り去ってしまう。
第八霊災が起こり、アンナが死んでしまった後。シドは彼女のために墓を作ってやり、そこでネロから預かっていたという本を渡されます。それは旅人は人を見舞うで託された"答え"です。宿題の話が無くてもエメトセルクの手紙は届いてるし遺言として準備をしていました。本は大切に保存され、後にグ・ラハに託されます。(序章:紅蓮の先へと続く物語)
その本に挟み込まれていた紙片が今回のお話に繋がります。"内なる存在"が念のために入れた地図で、それはとある場所にある研究所へ導きました。
今回のお話はそんな"内なる存在"となったア・リス・ティアという男の複製体ア・リス視点で彼らの生涯を観測するというものになります。この複製体がメイン時空ではリテイナーとして走り回る自称トレジャーハンターだったり。彼はア・リスが持っていた知識、記憶をインプットさせておいたクローンです。魂はアンナに捧げ、肉体は朽ち果て消えてしまっています。"ドアホの魂の一部も持って"と言ってますが、それはこっちに書いてます(旅人に"魂"は宿る)。
これまでエルファーの過去やアンナが持っていた謎等全て詰め込みました。これらはメイン時空のお話では公開する予定はほぼないがちゃんと見える位置に置いておきたかったのでお話として出力しておきます。
誰も幸せにならなかった話を書くのは初めてだったのでぶっちゃけ結構苦痛でしたが、いい感じにまとめられてよかった。まだ幾らでも盛れるけどそれは野暮かなって感じ。
ア・リスが何度も「もし過去を本当に改竄出来たら」と強調しますが彼としては本当にこの理論が成功するかは五分五分な感覚を持っていました。本人としては俺様と俺様の友人が幸せになればそれでいい勝手にさせろと思っているので無責任に救ってやってくれと声をかけてやったりしています。リンドウは弱虫、ア・リスは狂ってるとエルファーは称していましたが、それはあくまでも妹まで実験感覚で余計なことしてと拗ねてただけで本当はちゃんと懐いてました。
というかエルファーは優しさはあるが愛想の悪さで嫁8人と友人2人しかいない人間だったので距離感がバグってたり。数十年後、ネロと行動し、ガーロンド社で働くことになってからはそれなりに柔らかくなっていました。因習より社畜の方がマシってなってたんでしょうね。本当か? でも第八霊災でそのそれなりな幸せが崩れ去り、再び暗くなっていきます。"肉"を喰いという描写はまあ察してください。故郷の因習で抵抗がない人間だったってやつです。
そんな姿をネロはずっと分かっていながらも目を逸らしていました。何とかしてやりたかった、けどどうすればいいのか分からないって感じ。感情としては親しい友人としてのものでそれ以上の感情を持っていたかは伏せてます。ネロってその辺り全て隠して歩み続けることが出来る人間だと思っているのでどっちでもいいんじゃないかな。アンナに対してはバカ騒ぎ出来るビックリ人間って感覚でそれ以外の感情は一切ないのは言い切れますが。
オメガとア・リスは現在を記録するモノと過去を記録するモノと分けられるんですよね。本編中には書かれてませんが、ア・リスはそれまで聞いてきた人間の名前と大体の過去の所感、アンナとの思い出を全て書き残し、エルファーに託しています。意思疎通は取れなかったけどそれなりに空気は読んで仲良くしてるように見せてました。実際は少々語弊はあるけど"内なる存在"と同一人物なのでオメガ的にはどちらかというと狼藉働かないか見張っていたの方が正しいんですけどね。畳む
以下暁月ネタバレ入れたお話。
続きを読む アンナとリンドウが持っていた気迫と呼ぶものに関して。初めてお話としてどういったものなのかと明記しました。要するにア・リスらはエンテレケイアを再現したような技術を開発したってことになります。つまりリンドウと別れてからのアンナはしばらく心を塞ぎ込み暴れて"鮮血の赤兎"と呼ばれていましたがそれは終焉ちゃんみたいな状態になりかけていたってことですね。暁月編でその辺りに触ったお話は書く予定ではありましたがいつになるか分からなかったのでここで先出しって感じ。そういう意味ではアンナやリンドウ、ついでにア・リスはメーティオンに寄り添いやすい人間かもしれません。畳む
そんな感じ。これから上げるものの予定ですが、リンドウ墓参り二度目であったエルファーとネロの会話、オメガ検証後日談を1つ、感情を機敏に受け取るアンナの話、リテイナーア・リスの短編集辺りが予定に入ってます。
その複製体は聞き記す
注意&補足
第八霊災ネタ。死ネタ。暁月ネタ有り。自機出番なし。
漆黒後に現れるリテイナーのア・リスが第八霊災が起こった後に"起動"される話。
メイン軸では触れられないだろうアンナとエルファー、ア・リス、リンドウの秘密な独自設定を明かしています。
―――俺様が起こされたのは"傑作"が世界によって壊された後の話だ。
俺様はかつて友人の遺言を遂行し、"傑作"を最高なものに仕上げるために奔走した男の複製体。作った"親"は友人の魂の一部と共に想いを託し消えた。
そんな"傑作"が完成し、ある"トリガー"を引いた際に俺様が起動するよう誘導させる、これが当初の計画である。しかしその願いが叶うことはなかった。
目が覚めたら周りにいたのは赤や青の同じような服を着た男たちと勝手に"トリガー"役に任命した友人。驚愕した顔で俺様を見下ろしていた。
「お前、何で」
「起きたお姫様にはおはよう、だろ? よお久々だなエル、大体60年ぶりか?」
「……85年ぶりだ、寝ぼけたことを言ってるんじゃない阿呆」
「そっか。フレイヤちゃん元気? 念のために言うがテメェの可愛い妹のことだぞ? あの子がいないと俺様は起きることが出来ないはずだから知ってるよなァ? 会わせてくれよ俺様の最高傑作にさ。ケケッ」
俺様はそこでこれまでにあった話を聞かされた。第七どころか第八霊災が起こり、フレイヤ―――いやアンナ・サリスは死んだらしい。"親"と友人の魂を抱えたままで、だ。どういう作り話だよと笑ってやったが隣にいた白色の男に胸倉を掴まれたことで現実と知る。
「お前がアンナを壊したのか!?」
「壊したぁ? 人聞きが悪いことを言うな。俺様が『生・か・し・て』やったんだよ。ていうかテメェはあの子の何なんだよ。あ、まさかコレか? ケケッそんな怖い顔すんなよ。俺様は嬉しいんだ。あの子が人間に近付いていたってことになァ」
その白色の男はえらく友人にそっくりな真面目そうなヒトだった。多分アンナも無意識に追いかけていたんだろうな。でも反応的にはお互い想いを伝えることはなく両片想いだったのは分かる。焼き焦がれるほど想っていたのだろう。ああなんて青い男なんだ。
それよりも少し離れた場所からの気配が気になる。賑やかだったから近付いてきたのだろう、これは悪意を何もない獣だ。このラボが壊されては困る。その腕を振りほどき、そばに置いていた短銃を手に取る。俺様用にカスタムされた特殊なモノだ。外に向けてぶっ放す。爆音が響き渡り俺様以外の人間が耳を押さえている。
「お前!?」
「うっせぇなどけどけこの中のものが壊れされたら嫌なんだよ」
その言葉と同時に外で見張っていたのだろう女が「魔物がこちらに向かって! きゃっ!?」という声を上げた。すかさず足に力を籠め"跳ぶ"。エルファーは目を見開き俺様を見た。
「エル、俺様はただウロウロ遺跡を荒らしてただけじゃないんだぜ? 俺様はこの施設を"護りたい"んだ」
◇
外にいた魔物をあっという間に片付けると白い男が俺に声をかけた。
「よしよし問題なく使えてよかったぜ」
「それは気迫か?」
「おー懐かしい。リンが付けた名前じゃないか。違うぜ、これはシハーブってんだよ。だっせぇ名で呼ぶな」
造られた身体に施されたモノにより"再現"された技術に満足出来た。エルは大股で近付き怒鳴って来る。
「どういうことだ!? "それ"を何で使えるんだお前は!!」
「そりゃ普通の人で実験したら下手すりゃ溶けちまうだろ? 先にアラグのクローン技術を"再現"していっぱい自分の複製体を作り試してたんだ。んで、成功した"俺様"をバックアップとしてこの地に保存してたってわけだ」
「ハァ!? オマエそンな理由でクローン複製したってか!?」
次はひょろ長い兄ちゃんが必死な顔して言ってくる。これで察した。コイツらは技術者集団のようだ。エルは中々楽しい奴らをオトモダチに持ったみたいで安心する。
「さあエル、こんな所に長居は不要。これから俺様をどうする? 今殺すか? それとも―――連れてくかい? あの飛空艇に乗せてさ」
「―――会長クン、君に託そう。彼、の元は僕のかつての友人であり、リンと共にアンナを歪ませた元凶だ。だがどんな無茶も叶えてくれる天才でもある」
「ケケッその技術はテメェも共犯者だろ?」
会長、と呼ばれた白色の男はしばらくこちらを見つめていた。そして口を開く。
「条件がある」
条件、それはこれからの自分たちに対して口出しをするなという。その腕っぷしで護衛しろと言いたいらしい。一種のカミサマとして置いておくということなのだろう。気に入った、快諾してやったよ。
「じゃあ次はこっちが条件を出すか。俺様が持っている記憶はリンが死んだ直後までだ。それ以降は何も知らない。この世界の歴史だけじゃない。お前たちそれぞれの人生を順番に聞かせてくれ」
「―――全員か?」
「おう。ここにいるメンバーだけじゃない。俺様が死ぬまで文字通り全員の記憶と、アンナちゃんとの思い出を聞かせてくれないか」
こんなにもあの子に必死になるような人間が増えたことが何よりも嬉しかった。赦される気はない、ただその歴史と記憶を全て聞いてそれを形にしたいだけで。
まあ一種の懺悔室扱いされることになったんだけどな。それもまた人生だねケケッ。
「ああ自己紹介がまだだったな。俺様はア・リス、しがない科学者の複製体さ」
ニィと笑ってやると何故か拘束されて連れて行かれることになった。何でだよ。
◇
飛空艇の上から各地の様相を見せてもらったがそりゃ酷いものだった。いつだって人間は勝手な生き物だなとため息を吐く。大体の為政者は死に、大気中のエーテルも弱り今まで使っていた燃料もゴミになった。だからどの勢力も余裕がないということらしい。幸い俺様を縛っている奴らはどこにも属さない技術を握る会社だったため狂った人間があまり出なかったみたいだ。何人も死人を出しながらもなんとか飛空艇の燃料である青燐水の変換を行い、アンナちゃんが遺したモノに挟まっていた地図を辿りラボに足を踏み入れたらしい。
「アンナちゃんは俺様の最高傑作になる予定だった。"アシエン"とやらに使い潰されるより先にリンと同じく欠けちまったものを取り戻す。そのために肉体を捨てたんだが完成する前に壊れちまうとはなあ」
「これ以上アンナをモノ扱いするとここから落としてやるからな」
「ひえー会長サマはコワイコワイ。そもそもリンがやらかさなきゃ俺様はあの子に何も施さねぇって。だからアイツを恨んでくれよ」
シドという白い男はとにかくアンナのことを問いただしてきた。自分の知らないあの子の過去が気になるのだろう、覚えてる範囲で少々教えてやった。そして逆にコイツからも聞き出してやる。子供の頃、寒空の中助けて20年後に気付かぬ内に再会、仲良くしていたらしい。
「そうか、リンが死んで俺様が消えた次の年にテメェがかつてアンナちゃんを助けて、ねえ。想定通りの仕様として動いていてよかったさ」
「想定、通り?」
「あの子の意識が途切れても体内エーテルが尽きるまでは"俺様"が身体を動かせたんだよ。尽きたら本当に死ぬんだけどな。多分その時凍死しかけてたぞ。テメェが通りかからなかったら皇帝の前に持って行かれてたかもな」
「どういうことをしたらそうなるんだ」
「俺様最後の研究。アンナちゃんの"もう一つの人格"になってやってたんだよ。そうでもしねえとリンみたいな無欲で枯れた閉じ切ったアホの再演になったんだわ。ついでに反省させようとドアホの魂の一部も持ってな。時々意識乗っ取って必要な情報を見せて教育してやることにしたんだよあの底抜けたアホと一緒にすんじゃねぇ」
「オマエがアレかよ!?」
近くで聞いてた金髪の男ネロが乱入してくる。どうやらコイツの前では結構出て来ていたらしい。
「時々変な含みのある喋りしてンなって思ったンだ。いつもより頭も良かったしよ」
「俺の前では出て来なかったぞ?」
「いやオメガ倒した後こっちに顔出した時は明らかにメスバブーンじゃなかったぜ? ガーロンドが気付かなかっただけじゃね」
「ぐっ……そ、そういえば何度か他人事みたいな言い方したことはあったが……」
「会長サマ鈍感なんだねぇ。好きだったんなら異変位気付いてやれよ」
「悪かったな鈍感で」
からかい甲斐がある奴らだ。ネロという男に関しては"俺様"も相当気に入ってたのだろう。しかしそんなことよりエーテルが死んだ影響か纏わりつくような大気が気持ち悪い。拠点に連れて行ってもらったら屋内くらいは快適に暮らせるように変換器でも作ってやろう。ひとまず頭の中で仕様図と計算式をいくつか思い浮かべる。マァ再びリセットされてしまった時代に役立つものかは分からない。まずはそこから勉強し直しだろう。
ラボの中にあるモノは燃料にでもすればいいと渡してやる。すると大体の奴らが「そんなこと出来るわけないだろ!?」と目を見開いていた。こっちにとっては通過点でしかなかった盗掘物やコーデックスの翻訳が彼らには刺激的に映ったらしい。俺様が入っていた睡眠装置もそうだ。魔導技術も使わず永久機関と化している部分に興味を持っているとか。確かにエーテルも大して消費させずに動かしているから変に映ったのかもしれない。実際は自然に頼ったもので、俺様としてはあと数年したら身体は腐っていたと見た。そんな代物だが自分たちで調べて判断すればいいだろう。
以降、定期的に彼らはラボを出入りすることになる。だが、持って帰れたものは極一部で大体は途中で事故が起こったり略奪された。まあ過去の知識としてインプットされただけでもマシだろう。書物くらい再び俺様がペンを取って書き記せばいい。装置だってほぼ役立たないからスクラップにでもすればいいじゃないか。
そんな俺様からしたらオメガとアレキサンダーをはじめとした報告書が非常に興味深いもので。文献で何度も見かけたクリスタルタワーも実際にこの目で確認出来るとは予想だにしなかった。本当にあの時アンナを生かしておいてよかったと好奇心が喜ぶ。まあもう死んでしまったのだが。
レヴナンツトールに降り立った後、"最高傑作"になる予定だった人間の墓の前にぼんやりと座る。違和感を感じ目を凝らして視ると奇妙なものが映った。この子は既に死んでいるはず。が、埋められているであろう棺周辺がエーテルのようなもので包み込まれているのだ。まるでその躯を護るかのように。一体誰がやらかしたのか。自分の命を削ってまでそんな仕様を作るやつがいるわけがないだろう。
「―――アシエンの仕業だなこりゃ」
1人ボソリと呟く。いや、この護る結界の主を見る限りヤツだけではないだろう。そういうことにしておく方が隣の男のためだ。俺様を拘束するロープを持ったエルは眉をひそめ「お前も視たんだな」とため息を吐いている。
「これあの会社の人間たちに言ってるのか?」
「否。というか掘り返してどうなるかも分からない要素を伝えるわけがないだろ」
絶対に会長クンが掘りだそうとすると肩をすくめている姿を見て「あー」ということしか出来ない。
「どうして妹だけがこんな目に遭わないといけなかったんだ。僕も一緒に背負いたかった。家族なのに、何で話してくれなかったんだよ、フレイヤ」
座り込み、顔を伏せている。俺様はその隣に座り「わかんね」とため息を吐く。
「そういう星の下に生まれた子と判断するしかねぇだろ。相変わらずネガティブで泣き虫なのは変わらなくて安心したぜ?」
「うるさい」
鼻を啜る音が聞こえる。予想だが彼らの前では涙を流す姿は一切見せてないのだろう。戻ってこないエルが心配だったのか、ネロがやって来るまで泣き続けていた。声が聞こえた瞬間に咳ばらいをし必死に涙を拭っていたのは少々面白かった。
ネロとエルはどうやらしばらく一緒にフリーランスの技師として旅をした仲らしい。あの嫁以外の話題では冷淡だった男が少しだけ柔らかくなった姿に驚いた。親しいながらもお互いあまり踏み込まない"良き友人"関係がかつての恋人シェリーと重ね目を細めてしまう。
◇
―――数十年の時が経過した。
最初に会った人間たちは徐々に老け、死にゆく中全く姿の変わらない俺様とエルは陰で"理論"確立のサポートを行った。多少の物資調達や特に失ってはいけないシドとネロの護衛が俺様たち2人の仕事である。当人たちのご希望通り、研究に必要になるであろう知識は一切提供しなかった。エルは人知れず"肉"を喰いながら彼らの営みをただ少し遠くで見守っていた。時間が経つごとに協力者も増え、既に第八霊災が起こった原因もほぼ特定されている。正直数々の分野のエキスパート達が集まり何日も議論を重ねる姿は新鮮で、見ているだけで面白かった。そして予想通りであったが、彼らが導いた結論は"第八霊災回避のためにはやはりアンナが必要だ"、と。―――なんてこんなにも求められていることに密かに涙を流す姿を何度も見ることになる。素直に礼を言えばいいじゃないか。まあ言えるような人間じゃない位長い付き合いの中で知っている。この結論をきっかけにもっと人が集まってきたという事実が、ちゃんとアンナは胸を張って"人間"として生きられていたと目に見えて確認出来、すぐに彼女の墓の前で報告してやっていた。
一方、そんなエルを見ていた俺様は、故郷の闇という"呪縛"が未だ解かれていないことも痛感した。折角追放という名のしがらみからの解放が、霊災というクソみたいな出来事により再び闇へ堕としてしまったとため息を吐く。
「なあネロくん。もしさ、もし過去が本当に改竄出来たらエルを救ってくれないだろうか」
我慢出来なかった俺様はつい仮眠しているネロにボソリと呟いてしまう。皴くちゃになり、すっかり年老いた彼も眠る時間が増えた。シドだってそうだ。ずっとアンナを想いながらも涙を枯らし、研究のため羽根ペンを握り続けていて。新たな隠れ家の壁はネロと議論するために文字だらけだった。自分にもこんな時があったなと苦笑する。
「エルはな、本当は泣き虫で甘えん坊なんだがその甘え方を知らないんだぜ? 滅茶苦茶リンに懐いてアイツのために僕の長い時間の一部を捧げてやるって言ってたんだ」
思い浮かんだのはリンを差し置いてエルとラザハンで議論していた頃の話。一番の年下だったはずが落ち着き大人びていたリンのことが俺様たちは好きだったのだ。
「そんなエルが今は自分の残された時間をお前さんのために使ってるんだってよ。妹のためじゃなくてな。知らなかっただろ?」
「―――知ってたぜ」
「おいおい起きてたのかよ残念だ」
「うるさいから起きちまったンだよ」
やれやれとゆっくりと身体を起こすネロを支えてやる。少し嫌味ったらしなのは年を取っても変わらないねえと笑ってやるとケケと笑っていた。
「あいつ隠せてると思い込ンでるみたいだが何年一緒にいンだよってな」
「だよな」
「でも触るのが怖かったンだよ。あいつ下手な機械や女より繊細じゃねェか」
「分かる」
「俺だって分かってンだ全部罪をエルに擦り付けてたってな。アンナを暴力装置呼ばわりしてたやつらと一緒なことしちまって、バケモノとして生きてやがる」
そうか、コイツはエルが何を喰って生きているかも気が付いていたようだ。まあ追及しても理論立て優先だろとのらりくらりと避けただろうし心の中に仕舞っておくのは正解である。
「おっとそれ以降の言葉はエルに言ってくれ。俺様は何も聞いちゃいねぇから」
「いつぞやに全て話せって言った人間のセリフとは思えねェな」
「聞かせろと言ったが俺様は懺悔マシーンじゃねぇんだよ」
数十年もの間、人々の軌跡を聞き続けた。そして1つ、"面白いモノ"を作って渡した。花を模った金属片から使い物にならなくなったシャードを加工した光るお守りまで。―――彼らの思い出にまつわる象徴を贈ってやる。それは俺様なりのお礼ってやつだ。
「それともネロくんや、やっと自分の思い出話をしてくれる気になったか?」
そう、未だに軌跡を聞けていない存在がいる。シドとネロだ。コイツらだけは決して口を割りゃしない。
露骨に嫌そうな顔をした後、苦笑しながら肩をすくめた男は遂に口を開いた。
「俺は、ガレマルドの貧しい田舎で生まれた。恵まれたガーロンドとは全く違う環境で育ってよ―――」
◇
長い話だった。腐れ縁となったシドに対する長きにわたるコンプレックスとその払拭に、エルとの出会い。アンナはメスバブーンと呼びながらも妙に騒げるいい友人だったと振り返った。でもこれまで聞いた奴らの中では激動な人生で面白さは上位だ。手元にあった針金を弄り、少しだけ残していた白と金の塗料を塗りウサギを模したものを渡す。目を丸くしてそれを見つめていたネロに「話のお礼だ。お守りとして持っとけ」とニィと笑ってやる。
「近い内に終の棲家を決めてけよ、ネロくん」
「いきなり何言ってンだ」
「昨晩あの紙束を見せてもらった。予言してやるよ。お前たちの研究はもうすぐ纏まる。最期の安住の地と墓の場所をシドくんと決めとけ。俺様とエルが絶対作り出してやるよ」
ささやかなご褒美さと言いながらその場を去ろうとすると「待て」とネロは口を開く。
「墓の場所は決めてンだよ。俺もガーロンドもな」
「そか。……嗚呼レヴナンツトール」
「クリスタルタワーがよく見える場所でって決めてンだ。若造たちの頑張りを眺めてェ」
「―――そう言うと思ったぜ。シドくんは確定だと思ってたけどお前さんもとは思わなかったぜヘヘヘ」
起こして悪かったな、小さな黒い塊を引き連れ外へ出た。いつの間にか"記録"のために入り込んでいたらしい。意思疎通は取れなかったが"これ"は何がしたいかは分かっていた。人間たちは現状の報告はコイツにし、過去の話はこっちへ。それが彼らにとってどういう意味を持っていたかは知る由はない。が、少しでも心が軽くなっていれば嬉しい。こんな陰鬱な滅びへ向かう世界を切り捨てるが如く巻き込み、"在るべき未来"へ繋ぐ。―――そんな彼らが2体は好きになっていた、のだろう多分。俺様はそうだがこの機械の塊はどう考えているか分からない。だって"これ"はそれに至るための感情が存在しないのだから。きっと理解するために未だ観測を続けているのだろう。外で待っていた黄色い生物を撫で、何もない空を見上げた。
◇
「お前とアンナが持っていた気迫について聞いておきたい」
全うに年齢を重ね皴だらけの手が俺様の腕を掴んだ。理論は完成し、あとは今後の人間に託す準備で"彼らの役目"が終わる。少しでも故郷に近い環境であり、モードゥナ近郊に位置するクルザス。そこで小さな家を構えシドとネロは暮らしている。現役を退いた今も伝説の機工師に会うためにとやって来る客の選別が俺様の仕事だ。エルは相変わらず物資調達役となっている。
「シハーブだっつってんだろ。……ラザハン式錬金術にな、"アーカーシャ"という概念があるのは知っているか?」
「聞いたことないな」
「目には見えない想いが動かす力。まあ普通だったら人の手では何も加えることが出来ないものだ。火事場の馬鹿力という言葉は知ってるだろ?」
「まあな。強い意志で何かをするってことか?」
「そうそう。それを力として形にし、行使出来ないかと聞いたのがリン。アイツ、ハーフガレアンでな。ママみたいなエーテル操作は不得意だしパパみたいに鎌持って妖異と契約も出来なかった。代替となる力が欲しいっつーから俺様とエルで叶えてやったんだよ。代償はキツいものだったけどな」
その力は人の身に余りすぎるもの。だがリン、それに加えアンナは使いこなすことが出来てしまった。いや、アンナに関しては使えるように手を加えたのだが。
「怒りや悲しみが籠れば赤黒くなり、"大切な人と護るべきもの"への感情が強くなるほど青白く輝く」
「大切な、人」
「テメェはアレを目の当たりにしたんだろ? アンナちゃんは何やかんやちゃんと見てくれてたんだよ。リンの言いつけで大切な人を作らないように立ち回ってただろうにな」
「―――代償は何だったんだ?」
「人の感情に対して敏感になる。"俺様"も起きてから痛感したんだが自分への感情変化で首がゾワッて来るんだわ。もう鳥肌立つくらいにだぜ? かつてリンは複数人から悪意を持って近付かれたもんだから怖くなって逃げたんだよ。それが無名の旅人って名乗り始めた理由だ」
アンナちゃんの行動も妙な時はあっただろ? と聞くと「確かに」とボソリと呟いた。
「あいつは一定の距離感以内に入ると首を押さえながら離れたりしていた」
「そのセンサーをかいくぐってテメェは懐に潜り込むことは出来たんだろ? いくら昔助けてくれた人だったとしても長い間相手になってたのはいい所まで行ってたな」
「―――初めて怖がらずに手を差し伸べられた相手だと、書かれていた」
シドは机に置いていた分厚い本を手渡してくる。これは、意地でもこっちに見せなかった"アンナの手記"だ。
「まずその本はネロ、開くための鍵は俺が持っていた。"自分が死んだら開けろ"って、まるで自分が死ぬことが分かっていたかのようにネロに託していたんだ」
「お前さんもやっと話してくれる気になったんだな」
「自分のことを話すというのは、恥ずかしくてな。忘れてしまう前に聞いて欲しい。俺は伝説の機工師なんかじゃない、ただの愚かな人間だ」
本を開き、彼の話に耳を傾けた。素直で不器用な、恵まれていたが波乱万丈な人生を送った男のまっすぐな想いが込められたアンナとの思い出を聞く。
◇
「俺様はお前が羨ましいや」
「何故、そう言える」
嗚呼面白い話だったよチクショウ。聞いてるこっちが恥ずかしい程のロマンチストだとは思ってもみなかった。そしてこの本はアンナが生まれてから死ぬ少し前までの内面が書かれた手記で。本当にこの子らはお互い惚れ込んでいながらも、感情よりも先に肉体関係を持って幸せになって欲しいと勝手に願う大莫迦者達だった。下手したらリンよりも愚者だと俺様は思ったね。すれ違いの悲恋を聞いて涙が出そうだよ。そのご褒美はモノではなくお話をプレゼントしてやる。
「俺様が生きていた時代はな。今のような技術はロストテクノロジー―――要するに都市伝説で。だから評価してくれるやつなんて存在しなかった」
ただの狂人扱いされ、ぐちゃぐちゃな自暴自棄になっていた頃。そんな時、後に恋人となるシェリーに出会う。
「シェリーはな、ニームの軍学を少しでも人に知ってもらうべく研究を行う学者だった。当時ニーム文明が気になってたから色々調べ回ってた時でな。こりゃまたおもしれー女だったよ」
これまでの自分の成果を見せると明るい表情を見せてくれた。そして知識を共有し合い、更に研究に火が灯される。
「それまでの人生で俺様を評価してれたのがアイツだけだった。あの時は幸せだった。だがそんな日々は長くは続かない。遺跡の崩落事故で俺様を庇って瓦礫の下敷きさ」
それからまた真っ暗な日々に逆戻り。腹いせに各地の遺跡を荒らし、重要そうなデータは全部いただいてやった。と、ゲラゲラ笑ってやると眉間に皴を寄せたシドが口を開く。
「そのせいでどれだけ数々の分野に迷惑をかけたと思っているんだ」
「知らねえよ。大体の人間が興味ないモンどう使ったってこっちの勝手だ。……それからシェリーの蘇生技術探すついでにサベネアの遺跡荒らしてやろって思ってな。壁剥がそうとしたところでエルと鉢合わせ。あっという間に拘束されてごめんなさいさせられた。その縁で錬金術の話を聞かせてもらう途中、リンがふらりと現れた」
偶然の巡り合わせが今奇妙な縁に繋がるのが人生の面白い所だよなと笑ってやる。
「コイツらは莫迦だった。俺様が持っていた装置一つ取っても全部すげーって言うんだぜ? そりゃ調子にも乗る。錬金術師共もアレを作ってくれこれを直してくれってうるせぇ。とりあえずどんどん形にしてやったさ。釜の再調整とか薬の保管場所の空調管理とかさ。初めて脳みそに詰まっていた知識をフル稼働させて。いつの間にかシェリーのことなんて後回し」
「―――それがレフたちとの出会いだったのか」
「そーだ。超天才な俺様と縁を持つことが出来た運のいい奴らのお話ってやつ。……で、だ。俺様とお前の違いだったな」
分かるだろ? と聞いてやると軽く首を傾げている。恵まれた人間には難しすぎたみたいだ、苦笑して見せた。
「テメェにはネロっていう天才が並んで立っていた。競い合って洗練させていくという行為は技術の進歩に必要なものだ。そして沢山の部下に恵まれ色んな国からの信頼からの資金提供有りだろ? 俺様になかったものばっかで羨ましいったらありゃしない」
俺様は既にあったものを組み合わせただけで何もすごくない。だからシドとネロが羨ましく感じた。まあ資金に関しては性格が災いしていたのは自覚している。
「ナァ、本当に過去が改竄出来たらさ、アンナちゃんを救ってくれないか?」
「それはお前さんの最高傑作として完成させてくれってことか?」
「うーんそれもある。まあ罪悪感はあるんだよ多少はさ。そしてエルもきっと楽になると思う」
この技術はエルもノリノリで作ったんだ。それもあって今もなお罪悪感真っ只中なんだよと言ってやるとシドは驚いた顔を見せる。
「リンだってアンナちゃんを追い詰めたかったわけじゃない。ただの事故からああなった。俺様ら3人は一生苦しみながら死ぬことになってるからさ。せめてアンナちゃんだけでも助けてあげて欲しい」
「―――何度だって絶対にアンナを助けるし好きになるさ。レフだって何とかしてやるしア・リスお前もだぞ。流石にリンドウは死んでるからどうにも出来んが。……ありがとな」
「何で感謝されなきゃいけねぇんだ」
「だってお前さんだって今まで俺たちに自分の話をしなかっただろ? 仲間として認めてもらえて嬉しいんだ」
うわあこの人タラシという言葉を飲み込みニィと笑ってやる。
「テメェがいい話をしてくれたからご褒美としてあげただけだ。勘違いすんなよ? アンナが最高傑作として完成したら、この複製体の俺様はもっと自由に走り回る予定だったんだよ。ケケッ」
「第八霊災を防げたら次はお前さんが暗躍しだすと? 冗談はやめてくれ。絶対捕まえてやるからな」
シドはため息を吐き「喋りすぎた」と寝そべった。俺様は「おうすまん」と笑いながらその布団をかけ直してやる。アンナの手記を再びテーブルに置き、またいつの間にか現れていたオメガの模型を抱き上げ立ち去った。
◇
―――それから2人の"シド"によって自分らが作り出した"理論"を2代目ガーロンド・アイアンワークス社会長らに"継承"し、その生涯を終えた。これから確立されるかは彼ら次第。協力してやろうか、とイタズラな笑みを見せてやるとシドと同じく「命尽きるまで見守っていて欲しい」と言われた。そういう所が俺様は気に入っていたからよかったぜ。もう表舞台に立てるような存在じゃないからな。
彼らの墓は勿論クリスタルタワーがよく見えるレヴナンツトールの近郊に作られた。あのエオルゼアの英雄と呼ばれた女の隣だ。これからの人間たちの旅路を、仲良く見守っていればいい。"アイツ"もついでにとまとめて護ってくれるさ。絶対に気に入るからさ。
俺様はどうするかだって? ―――複製体にだって寿命はある。延命させる技術は流石にエーテルが弱り切った現在、1人で成しえることは不可能だった。
「エル、すまねぇな。お前の死に目まで一緒にいられなくて」
「君の元になった存在は既に人生を閉じてるだろ」
「ケケッそうだったな」
「本当はあの墓を護ってたヤツの件も僕のために隠してたんだろ? 分かってんだよ」
エルは動かなくなってきた俺様の身体を抱き上げ、とある底の見えない崖の上に立っている。嗚呼コイツを1人にしてしまうのかと思うと憐れみしか湧かない。
「お前の左目、治したかったな」
「……気持ちだけで嬉しい」
エルの目は、昔故郷に安置されていた"聖石"に触れてしまったことで変容してしまっていた。"視えてはいけないもの"まで映り、その副作用で頭痛が発生し続ける一種の不治の病。それを何とかするのも元の俺様が複製体を作ってまで探ろうと決心した動機の一つである。第八霊災で全ての予定が崩れ、結局何も出来ず時間だけ過ぎてしまった。それを放置して、この世を去ることが一番の心残りである。もしも、もしもだ。本当に歴史を改竄出来るのなら、俺様は―――。いやそれを言うのは野暮だろう。心の奥にしまっておく。ふとエルはボソリと呟いた。
「アリス、複製体のお前も死んだら冥府に行けるのか?」
「知るか。……リンの代わりに行ってやってもいいかもしれんな。―――精々死ぬまで奴らを見守ってやってくれ。達者でな、エルファー・レフ・ジルダ」
「元からそういうつもりだ……おやすみ、ア・リス・ティア」
「ケケッ。こんな俺様のために泣くな莫迦」
それからエルは俺様を投げ捨てた。嗚呼嗚咽を漏らし涙が溢れだしているのが見える。薄れゆく意識の中、彼らの理論が確立されてもこの世界が回り続けるよう祈りながら。造られた俺様の、その生涯を終えた。
Wavebox
#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連
第八霊災ネタ。死ネタ。暁月ネタ有り。自機出番なし。
漆黒後に現れるリテイナーのア・リスが第八霊災が起こった後に"起動"される話。
メイン軸では触れられないだろうアンナとエルファー、ア・リス、リンドウの秘密な独自設定を明かしています。
―――俺様が起こされたのは"傑作"が世界によって壊された後の話だ。
俺様はかつて友人の遺言を遂行し、"傑作"を最高なものに仕上げるために奔走した男の複製体。作った"親"は友人の魂の一部と共に想いを託し消えた。
そんな"傑作"が完成し、ある"トリガー"を引いた際に俺様が起動するよう誘導させる、これが当初の計画である。しかしその願いが叶うことはなかった。
目が覚めたら周りにいたのは赤や青の同じような服を着た男たちと勝手に"トリガー"役に任命した友人。驚愕した顔で俺様を見下ろしていた。
「お前、何で」
「起きたお姫様にはおはよう、だろ? よお久々だなエル、大体60年ぶりか?」
「……85年ぶりだ、寝ぼけたことを言ってるんじゃない阿呆」
「そっか。フレイヤちゃん元気? 念のために言うがテメェの可愛い妹のことだぞ? あの子がいないと俺様は起きることが出来ないはずだから知ってるよなァ? 会わせてくれよ俺様の最高傑作にさ。ケケッ」
俺様はそこでこれまでにあった話を聞かされた。第七どころか第八霊災が起こり、フレイヤ―――いやアンナ・サリスは死んだらしい。"親"と友人の魂を抱えたままで、だ。どういう作り話だよと笑ってやったが隣にいた白色の男に胸倉を掴まれたことで現実と知る。
「お前がアンナを壊したのか!?」
「壊したぁ? 人聞きが悪いことを言うな。俺様が『生・か・し・て』やったんだよ。ていうかテメェはあの子の何なんだよ。あ、まさかコレか? ケケッそんな怖い顔すんなよ。俺様は嬉しいんだ。あの子が人間に近付いていたってことになァ」
その白色の男はえらく友人にそっくりな真面目そうなヒトだった。多分アンナも無意識に追いかけていたんだろうな。でも反応的にはお互い想いを伝えることはなく両片想いだったのは分かる。焼き焦がれるほど想っていたのだろう。ああなんて青い男なんだ。
それよりも少し離れた場所からの気配が気になる。賑やかだったから近付いてきたのだろう、これは悪意を何もない獣だ。このラボが壊されては困る。その腕を振りほどき、そばに置いていた短銃を手に取る。俺様用にカスタムされた特殊なモノだ。外に向けてぶっ放す。爆音が響き渡り俺様以外の人間が耳を押さえている。
「お前!?」
「うっせぇなどけどけこの中のものが壊れされたら嫌なんだよ」
その言葉と同時に外で見張っていたのだろう女が「魔物がこちらに向かって! きゃっ!?」という声を上げた。すかさず足に力を籠め"跳ぶ"。エルファーは目を見開き俺様を見た。
「エル、俺様はただウロウロ遺跡を荒らしてただけじゃないんだぜ? 俺様はこの施設を"護りたい"んだ」
◇
外にいた魔物をあっという間に片付けると白い男が俺に声をかけた。
「よしよし問題なく使えてよかったぜ」
「それは気迫か?」
「おー懐かしい。リンが付けた名前じゃないか。違うぜ、これはシハーブってんだよ。だっせぇ名で呼ぶな」
造られた身体に施されたモノにより"再現"された技術に満足出来た。エルは大股で近付き怒鳴って来る。
「どういうことだ!? "それ"を何で使えるんだお前は!!」
「そりゃ普通の人で実験したら下手すりゃ溶けちまうだろ? 先にアラグのクローン技術を"再現"していっぱい自分の複製体を作り試してたんだ。んで、成功した"俺様"をバックアップとしてこの地に保存してたってわけだ」
「ハァ!? オマエそンな理由でクローン複製したってか!?」
次はひょろ長い兄ちゃんが必死な顔して言ってくる。これで察した。コイツらは技術者集団のようだ。エルは中々楽しい奴らをオトモダチに持ったみたいで安心する。
「さあエル、こんな所に長居は不要。これから俺様をどうする? 今殺すか? それとも―――連れてくかい? あの飛空艇に乗せてさ」
「―――会長クン、君に託そう。彼、の元は僕のかつての友人であり、リンと共にアンナを歪ませた元凶だ。だがどんな無茶も叶えてくれる天才でもある」
「ケケッその技術はテメェも共犯者だろ?」
会長、と呼ばれた白色の男はしばらくこちらを見つめていた。そして口を開く。
「条件がある」
条件、それはこれからの自分たちに対して口出しをするなという。その腕っぷしで護衛しろと言いたいらしい。一種のカミサマとして置いておくということなのだろう。気に入った、快諾してやったよ。
「じゃあ次はこっちが条件を出すか。俺様が持っている記憶はリンが死んだ直後までだ。それ以降は何も知らない。この世界の歴史だけじゃない。お前たちそれぞれの人生を順番に聞かせてくれ」
「―――全員か?」
「おう。ここにいるメンバーだけじゃない。俺様が死ぬまで文字通り全員の記憶と、アンナちゃんとの思い出を聞かせてくれないか」
こんなにもあの子に必死になるような人間が増えたことが何よりも嬉しかった。赦される気はない、ただその歴史と記憶を全て聞いてそれを形にしたいだけで。
まあ一種の懺悔室扱いされることになったんだけどな。それもまた人生だねケケッ。
「ああ自己紹介がまだだったな。俺様はア・リス、しがない科学者の複製体さ」
ニィと笑ってやると何故か拘束されて連れて行かれることになった。何でだよ。
◇
飛空艇の上から各地の様相を見せてもらったがそりゃ酷いものだった。いつだって人間は勝手な生き物だなとため息を吐く。大体の為政者は死に、大気中のエーテルも弱り今まで使っていた燃料もゴミになった。だからどの勢力も余裕がないということらしい。幸い俺様を縛っている奴らはどこにも属さない技術を握る会社だったため狂った人間があまり出なかったみたいだ。何人も死人を出しながらもなんとか飛空艇の燃料である青燐水の変換を行い、アンナちゃんが遺したモノに挟まっていた地図を辿りラボに足を踏み入れたらしい。
「アンナちゃんは俺様の最高傑作になる予定だった。"アシエン"とやらに使い潰されるより先にリンと同じく欠けちまったものを取り戻す。そのために肉体を捨てたんだが完成する前に壊れちまうとはなあ」
「これ以上アンナをモノ扱いするとここから落としてやるからな」
「ひえー会長サマはコワイコワイ。そもそもリンがやらかさなきゃ俺様はあの子に何も施さねぇって。だからアイツを恨んでくれよ」
シドという白い男はとにかくアンナのことを問いただしてきた。自分の知らないあの子の過去が気になるのだろう、覚えてる範囲で少々教えてやった。そして逆にコイツからも聞き出してやる。子供の頃、寒空の中助けて20年後に気付かぬ内に再会、仲良くしていたらしい。
「そうか、リンが死んで俺様が消えた次の年にテメェがかつてアンナちゃんを助けて、ねえ。想定通りの仕様として動いていてよかったさ」
「想定、通り?」
「あの子の意識が途切れても体内エーテルが尽きるまでは"俺様"が身体を動かせたんだよ。尽きたら本当に死ぬんだけどな。多分その時凍死しかけてたぞ。テメェが通りかからなかったら皇帝の前に持って行かれてたかもな」
「どういうことをしたらそうなるんだ」
「俺様最後の研究。アンナちゃんの"もう一つの人格"になってやってたんだよ。そうでもしねえとリンみたいな無欲で枯れた閉じ切ったアホの再演になったんだわ。ついでに反省させようとドアホの魂の一部も持ってな。時々意識乗っ取って必要な情報を見せて教育してやることにしたんだよあの底抜けたアホと一緒にすんじゃねぇ」
「オマエがアレかよ!?」
近くで聞いてた金髪の男ネロが乱入してくる。どうやらコイツの前では結構出て来ていたらしい。
「時々変な含みのある喋りしてンなって思ったンだ。いつもより頭も良かったしよ」
「俺の前では出て来なかったぞ?」
「いやオメガ倒した後こっちに顔出した時は明らかにメスバブーンじゃなかったぜ? ガーロンドが気付かなかっただけじゃね」
「ぐっ……そ、そういえば何度か他人事みたいな言い方したことはあったが……」
「会長サマ鈍感なんだねぇ。好きだったんなら異変位気付いてやれよ」
「悪かったな鈍感で」
からかい甲斐がある奴らだ。ネロという男に関しては"俺様"も相当気に入ってたのだろう。しかしそんなことよりエーテルが死んだ影響か纏わりつくような大気が気持ち悪い。拠点に連れて行ってもらったら屋内くらいは快適に暮らせるように変換器でも作ってやろう。ひとまず頭の中で仕様図と計算式をいくつか思い浮かべる。マァ再びリセットされてしまった時代に役立つものかは分からない。まずはそこから勉強し直しだろう。
ラボの中にあるモノは燃料にでもすればいいと渡してやる。すると大体の奴らが「そんなこと出来るわけないだろ!?」と目を見開いていた。こっちにとっては通過点でしかなかった盗掘物やコーデックスの翻訳が彼らには刺激的に映ったらしい。俺様が入っていた睡眠装置もそうだ。魔導技術も使わず永久機関と化している部分に興味を持っているとか。確かにエーテルも大して消費させずに動かしているから変に映ったのかもしれない。実際は自然に頼ったもので、俺様としてはあと数年したら身体は腐っていたと見た。そんな代物だが自分たちで調べて判断すればいいだろう。
以降、定期的に彼らはラボを出入りすることになる。だが、持って帰れたものは極一部で大体は途中で事故が起こったり略奪された。まあ過去の知識としてインプットされただけでもマシだろう。書物くらい再び俺様がペンを取って書き記せばいい。装置だってほぼ役立たないからスクラップにでもすればいいじゃないか。
そんな俺様からしたらオメガとアレキサンダーをはじめとした報告書が非常に興味深いもので。文献で何度も見かけたクリスタルタワーも実際にこの目で確認出来るとは予想だにしなかった。本当にあの時アンナを生かしておいてよかったと好奇心が喜ぶ。まあもう死んでしまったのだが。
レヴナンツトールに降り立った後、"最高傑作"になる予定だった人間の墓の前にぼんやりと座る。違和感を感じ目を凝らして視ると奇妙なものが映った。この子は既に死んでいるはず。が、埋められているであろう棺周辺がエーテルのようなもので包み込まれているのだ。まるでその躯を護るかのように。一体誰がやらかしたのか。自分の命を削ってまでそんな仕様を作るやつがいるわけがないだろう。
「―――アシエンの仕業だなこりゃ」
1人ボソリと呟く。いや、この護る結界の主を見る限りヤツだけではないだろう。そういうことにしておく方が隣の男のためだ。俺様を拘束するロープを持ったエルは眉をひそめ「お前も視たんだな」とため息を吐いている。
「これあの会社の人間たちに言ってるのか?」
「否。というか掘り返してどうなるかも分からない要素を伝えるわけがないだろ」
絶対に会長クンが掘りだそうとすると肩をすくめている姿を見て「あー」ということしか出来ない。
「どうして妹だけがこんな目に遭わないといけなかったんだ。僕も一緒に背負いたかった。家族なのに、何で話してくれなかったんだよ、フレイヤ」
座り込み、顔を伏せている。俺様はその隣に座り「わかんね」とため息を吐く。
「そういう星の下に生まれた子と判断するしかねぇだろ。相変わらずネガティブで泣き虫なのは変わらなくて安心したぜ?」
「うるさい」
鼻を啜る音が聞こえる。予想だが彼らの前では涙を流す姿は一切見せてないのだろう。戻ってこないエルが心配だったのか、ネロがやって来るまで泣き続けていた。声が聞こえた瞬間に咳ばらいをし必死に涙を拭っていたのは少々面白かった。
ネロとエルはどうやらしばらく一緒にフリーランスの技師として旅をした仲らしい。あの嫁以外の話題では冷淡だった男が少しだけ柔らかくなった姿に驚いた。親しいながらもお互いあまり踏み込まない"良き友人"関係がかつての恋人シェリーと重ね目を細めてしまう。
◇
―――数十年の時が経過した。
最初に会った人間たちは徐々に老け、死にゆく中全く姿の変わらない俺様とエルは陰で"理論"確立のサポートを行った。多少の物資調達や特に失ってはいけないシドとネロの護衛が俺様たち2人の仕事である。当人たちのご希望通り、研究に必要になるであろう知識は一切提供しなかった。エルは人知れず"肉"を喰いながら彼らの営みをただ少し遠くで見守っていた。時間が経つごとに協力者も増え、既に第八霊災が起こった原因もほぼ特定されている。正直数々の分野のエキスパート達が集まり何日も議論を重ねる姿は新鮮で、見ているだけで面白かった。そして予想通りであったが、彼らが導いた結論は"第八霊災回避のためにはやはりアンナが必要だ"、と。―――なんてこんなにも求められていることに密かに涙を流す姿を何度も見ることになる。素直に礼を言えばいいじゃないか。まあ言えるような人間じゃない位長い付き合いの中で知っている。この結論をきっかけにもっと人が集まってきたという事実が、ちゃんとアンナは胸を張って"人間"として生きられていたと目に見えて確認出来、すぐに彼女の墓の前で報告してやっていた。
一方、そんなエルを見ていた俺様は、故郷の闇という"呪縛"が未だ解かれていないことも痛感した。折角追放という名のしがらみからの解放が、霊災というクソみたいな出来事により再び闇へ堕としてしまったとため息を吐く。
「なあネロくん。もしさ、もし過去が本当に改竄出来たらエルを救ってくれないだろうか」
我慢出来なかった俺様はつい仮眠しているネロにボソリと呟いてしまう。皴くちゃになり、すっかり年老いた彼も眠る時間が増えた。シドだってそうだ。ずっとアンナを想いながらも涙を枯らし、研究のため羽根ペンを握り続けていて。新たな隠れ家の壁はネロと議論するために文字だらけだった。自分にもこんな時があったなと苦笑する。
「エルはな、本当は泣き虫で甘えん坊なんだがその甘え方を知らないんだぜ? 滅茶苦茶リンに懐いてアイツのために僕の長い時間の一部を捧げてやるって言ってたんだ」
思い浮かんだのはリンを差し置いてエルとラザハンで議論していた頃の話。一番の年下だったはずが落ち着き大人びていたリンのことが俺様たちは好きだったのだ。
「そんなエルが今は自分の残された時間をお前さんのために使ってるんだってよ。妹のためじゃなくてな。知らなかっただろ?」
「―――知ってたぜ」
「おいおい起きてたのかよ残念だ」
「うるさいから起きちまったンだよ」
やれやれとゆっくりと身体を起こすネロを支えてやる。少し嫌味ったらしなのは年を取っても変わらないねえと笑ってやるとケケと笑っていた。
「あいつ隠せてると思い込ンでるみたいだが何年一緒にいンだよってな」
「だよな」
「でも触るのが怖かったンだよ。あいつ下手な機械や女より繊細じゃねェか」
「分かる」
「俺だって分かってンだ全部罪をエルに擦り付けてたってな。アンナを暴力装置呼ばわりしてたやつらと一緒なことしちまって、バケモノとして生きてやがる」
そうか、コイツはエルが何を喰って生きているかも気が付いていたようだ。まあ追及しても理論立て優先だろとのらりくらりと避けただろうし心の中に仕舞っておくのは正解である。
「おっとそれ以降の言葉はエルに言ってくれ。俺様は何も聞いちゃいねぇから」
「いつぞやに全て話せって言った人間のセリフとは思えねェな」
「聞かせろと言ったが俺様は懺悔マシーンじゃねぇんだよ」
数十年もの間、人々の軌跡を聞き続けた。そして1つ、"面白いモノ"を作って渡した。花を模った金属片から使い物にならなくなったシャードを加工した光るお守りまで。―――彼らの思い出にまつわる象徴を贈ってやる。それは俺様なりのお礼ってやつだ。
「それともネロくんや、やっと自分の思い出話をしてくれる気になったか?」
そう、未だに軌跡を聞けていない存在がいる。シドとネロだ。コイツらだけは決して口を割りゃしない。
露骨に嫌そうな顔をした後、苦笑しながら肩をすくめた男は遂に口を開いた。
「俺は、ガレマルドの貧しい田舎で生まれた。恵まれたガーロンドとは全く違う環境で育ってよ―――」
◇
長い話だった。腐れ縁となったシドに対する長きにわたるコンプレックスとその払拭に、エルとの出会い。アンナはメスバブーンと呼びながらも妙に騒げるいい友人だったと振り返った。でもこれまで聞いた奴らの中では激動な人生で面白さは上位だ。手元にあった針金を弄り、少しだけ残していた白と金の塗料を塗りウサギを模したものを渡す。目を丸くしてそれを見つめていたネロに「話のお礼だ。お守りとして持っとけ」とニィと笑ってやる。
「近い内に終の棲家を決めてけよ、ネロくん」
「いきなり何言ってンだ」
「昨晩あの紙束を見せてもらった。予言してやるよ。お前たちの研究はもうすぐ纏まる。最期の安住の地と墓の場所をシドくんと決めとけ。俺様とエルが絶対作り出してやるよ」
ささやかなご褒美さと言いながらその場を去ろうとすると「待て」とネロは口を開く。
「墓の場所は決めてンだよ。俺もガーロンドもな」
「そか。……嗚呼レヴナンツトール」
「クリスタルタワーがよく見える場所でって決めてンだ。若造たちの頑張りを眺めてェ」
「―――そう言うと思ったぜ。シドくんは確定だと思ってたけどお前さんもとは思わなかったぜヘヘヘ」
起こして悪かったな、小さな黒い塊を引き連れ外へ出た。いつの間にか"記録"のために入り込んでいたらしい。意思疎通は取れなかったが"これ"は何がしたいかは分かっていた。人間たちは現状の報告はコイツにし、過去の話はこっちへ。それが彼らにとってどういう意味を持っていたかは知る由はない。が、少しでも心が軽くなっていれば嬉しい。こんな陰鬱な滅びへ向かう世界を切り捨てるが如く巻き込み、"在るべき未来"へ繋ぐ。―――そんな彼らが2体は好きになっていた、のだろう多分。俺様はそうだがこの機械の塊はどう考えているか分からない。だって"これ"はそれに至るための感情が存在しないのだから。きっと理解するために未だ観測を続けているのだろう。外で待っていた黄色い生物を撫で、何もない空を見上げた。
◇
「お前とアンナが持っていた気迫について聞いておきたい」
全うに年齢を重ね皴だらけの手が俺様の腕を掴んだ。理論は完成し、あとは今後の人間に託す準備で"彼らの役目"が終わる。少しでも故郷に近い環境であり、モードゥナ近郊に位置するクルザス。そこで小さな家を構えシドとネロは暮らしている。現役を退いた今も伝説の機工師に会うためにとやって来る客の選別が俺様の仕事だ。エルは相変わらず物資調達役となっている。
「シハーブだっつってんだろ。……ラザハン式錬金術にな、"アーカーシャ"という概念があるのは知っているか?」
「聞いたことないな」
「目には見えない想いが動かす力。まあ普通だったら人の手では何も加えることが出来ないものだ。火事場の馬鹿力という言葉は知ってるだろ?」
「まあな。強い意志で何かをするってことか?」
「そうそう。それを力として形にし、行使出来ないかと聞いたのがリン。アイツ、ハーフガレアンでな。ママみたいなエーテル操作は不得意だしパパみたいに鎌持って妖異と契約も出来なかった。代替となる力が欲しいっつーから俺様とエルで叶えてやったんだよ。代償はキツいものだったけどな」
その力は人の身に余りすぎるもの。だがリン、それに加えアンナは使いこなすことが出来てしまった。いや、アンナに関しては使えるように手を加えたのだが。
「怒りや悲しみが籠れば赤黒くなり、"大切な人と護るべきもの"への感情が強くなるほど青白く輝く」
「大切な、人」
「テメェはアレを目の当たりにしたんだろ? アンナちゃんは何やかんやちゃんと見てくれてたんだよ。リンの言いつけで大切な人を作らないように立ち回ってただろうにな」
「―――代償は何だったんだ?」
「人の感情に対して敏感になる。"俺様"も起きてから痛感したんだが自分への感情変化で首がゾワッて来るんだわ。もう鳥肌立つくらいにだぜ? かつてリンは複数人から悪意を持って近付かれたもんだから怖くなって逃げたんだよ。それが無名の旅人って名乗り始めた理由だ」
アンナちゃんの行動も妙な時はあっただろ? と聞くと「確かに」とボソリと呟いた。
「あいつは一定の距離感以内に入ると首を押さえながら離れたりしていた」
「そのセンサーをかいくぐってテメェは懐に潜り込むことは出来たんだろ? いくら昔助けてくれた人だったとしても長い間相手になってたのはいい所まで行ってたな」
「―――初めて怖がらずに手を差し伸べられた相手だと、書かれていた」
シドは机に置いていた分厚い本を手渡してくる。これは、意地でもこっちに見せなかった"アンナの手記"だ。
「まずその本はネロ、開くための鍵は俺が持っていた。"自分が死んだら開けろ"って、まるで自分が死ぬことが分かっていたかのようにネロに託していたんだ」
「お前さんもやっと話してくれる気になったんだな」
「自分のことを話すというのは、恥ずかしくてな。忘れてしまう前に聞いて欲しい。俺は伝説の機工師なんかじゃない、ただの愚かな人間だ」
本を開き、彼の話に耳を傾けた。素直で不器用な、恵まれていたが波乱万丈な人生を送った男のまっすぐな想いが込められたアンナとの思い出を聞く。
◇
「俺様はお前が羨ましいや」
「何故、そう言える」
嗚呼面白い話だったよチクショウ。聞いてるこっちが恥ずかしい程のロマンチストだとは思ってもみなかった。そしてこの本はアンナが生まれてから死ぬ少し前までの内面が書かれた手記で。本当にこの子らはお互い惚れ込んでいながらも、感情よりも先に肉体関係を持って幸せになって欲しいと勝手に願う大莫迦者達だった。下手したらリンよりも愚者だと俺様は思ったね。すれ違いの悲恋を聞いて涙が出そうだよ。そのご褒美はモノではなくお話をプレゼントしてやる。
「俺様が生きていた時代はな。今のような技術はロストテクノロジー―――要するに都市伝説で。だから評価してくれるやつなんて存在しなかった」
ただの狂人扱いされ、ぐちゃぐちゃな自暴自棄になっていた頃。そんな時、後に恋人となるシェリーに出会う。
「シェリーはな、ニームの軍学を少しでも人に知ってもらうべく研究を行う学者だった。当時ニーム文明が気になってたから色々調べ回ってた時でな。こりゃまたおもしれー女だったよ」
これまでの自分の成果を見せると明るい表情を見せてくれた。そして知識を共有し合い、更に研究に火が灯される。
「それまでの人生で俺様を評価してれたのがアイツだけだった。あの時は幸せだった。だがそんな日々は長くは続かない。遺跡の崩落事故で俺様を庇って瓦礫の下敷きさ」
それからまた真っ暗な日々に逆戻り。腹いせに各地の遺跡を荒らし、重要そうなデータは全部いただいてやった。と、ゲラゲラ笑ってやると眉間に皴を寄せたシドが口を開く。
「そのせいでどれだけ数々の分野に迷惑をかけたと思っているんだ」
「知らねえよ。大体の人間が興味ないモンどう使ったってこっちの勝手だ。……それからシェリーの蘇生技術探すついでにサベネアの遺跡荒らしてやろって思ってな。壁剥がそうとしたところでエルと鉢合わせ。あっという間に拘束されてごめんなさいさせられた。その縁で錬金術の話を聞かせてもらう途中、リンがふらりと現れた」
偶然の巡り合わせが今奇妙な縁に繋がるのが人生の面白い所だよなと笑ってやる。
「コイツらは莫迦だった。俺様が持っていた装置一つ取っても全部すげーって言うんだぜ? そりゃ調子にも乗る。錬金術師共もアレを作ってくれこれを直してくれってうるせぇ。とりあえずどんどん形にしてやったさ。釜の再調整とか薬の保管場所の空調管理とかさ。初めて脳みそに詰まっていた知識をフル稼働させて。いつの間にかシェリーのことなんて後回し」
「―――それがレフたちとの出会いだったのか」
「そーだ。超天才な俺様と縁を持つことが出来た運のいい奴らのお話ってやつ。……で、だ。俺様とお前の違いだったな」
分かるだろ? と聞いてやると軽く首を傾げている。恵まれた人間には難しすぎたみたいだ、苦笑して見せた。
「テメェにはネロっていう天才が並んで立っていた。競い合って洗練させていくという行為は技術の進歩に必要なものだ。そして沢山の部下に恵まれ色んな国からの信頼からの資金提供有りだろ? 俺様になかったものばっかで羨ましいったらありゃしない」
俺様は既にあったものを組み合わせただけで何もすごくない。だからシドとネロが羨ましく感じた。まあ資金に関しては性格が災いしていたのは自覚している。
「ナァ、本当に過去が改竄出来たらさ、アンナちゃんを救ってくれないか?」
「それはお前さんの最高傑作として完成させてくれってことか?」
「うーんそれもある。まあ罪悪感はあるんだよ多少はさ。そしてエルもきっと楽になると思う」
この技術はエルもノリノリで作ったんだ。それもあって今もなお罪悪感真っ只中なんだよと言ってやるとシドは驚いた顔を見せる。
「リンだってアンナちゃんを追い詰めたかったわけじゃない。ただの事故からああなった。俺様ら3人は一生苦しみながら死ぬことになってるからさ。せめてアンナちゃんだけでも助けてあげて欲しい」
「―――何度だって絶対にアンナを助けるし好きになるさ。レフだって何とかしてやるしア・リスお前もだぞ。流石にリンドウは死んでるからどうにも出来んが。……ありがとな」
「何で感謝されなきゃいけねぇんだ」
「だってお前さんだって今まで俺たちに自分の話をしなかっただろ? 仲間として認めてもらえて嬉しいんだ」
うわあこの人タラシという言葉を飲み込みニィと笑ってやる。
「テメェがいい話をしてくれたからご褒美としてあげただけだ。勘違いすんなよ? アンナが最高傑作として完成したら、この複製体の俺様はもっと自由に走り回る予定だったんだよ。ケケッ」
「第八霊災を防げたら次はお前さんが暗躍しだすと? 冗談はやめてくれ。絶対捕まえてやるからな」
シドはため息を吐き「喋りすぎた」と寝そべった。俺様は「おうすまん」と笑いながらその布団をかけ直してやる。アンナの手記を再びテーブルに置き、またいつの間にか現れていたオメガの模型を抱き上げ立ち去った。
◇
―――それから2人の"シド"によって自分らが作り出した"理論"を2代目ガーロンド・アイアンワークス社会長らに"継承"し、その生涯を終えた。これから確立されるかは彼ら次第。協力してやろうか、とイタズラな笑みを見せてやるとシドと同じく「命尽きるまで見守っていて欲しい」と言われた。そういう所が俺様は気に入っていたからよかったぜ。もう表舞台に立てるような存在じゃないからな。
彼らの墓は勿論クリスタルタワーがよく見えるレヴナンツトールの近郊に作られた。あのエオルゼアの英雄と呼ばれた女の隣だ。これからの人間たちの旅路を、仲良く見守っていればいい。"アイツ"もついでにとまとめて護ってくれるさ。絶対に気に入るからさ。
俺様はどうするかだって? ―――複製体にだって寿命はある。延命させる技術は流石にエーテルが弱り切った現在、1人で成しえることは不可能だった。
「エル、すまねぇな。お前の死に目まで一緒にいられなくて」
「君の元になった存在は既に人生を閉じてるだろ」
「ケケッそうだったな」
「本当はあの墓を護ってたヤツの件も僕のために隠してたんだろ? 分かってんだよ」
エルは動かなくなってきた俺様の身体を抱き上げ、とある底の見えない崖の上に立っている。嗚呼コイツを1人にしてしまうのかと思うと憐れみしか湧かない。
「お前の左目、治したかったな」
「……気持ちだけで嬉しい」
エルの目は、昔故郷に安置されていた"聖石"に触れてしまったことで変容してしまっていた。"視えてはいけないもの"まで映り、その副作用で頭痛が発生し続ける一種の不治の病。それを何とかするのも元の俺様が複製体を作ってまで探ろうと決心した動機の一つである。第八霊災で全ての予定が崩れ、結局何も出来ず時間だけ過ぎてしまった。それを放置して、この世を去ることが一番の心残りである。もしも、もしもだ。本当に歴史を改竄出来るのなら、俺様は―――。いやそれを言うのは野暮だろう。心の奥にしまっておく。ふとエルはボソリと呟いた。
「アリス、複製体のお前も死んだら冥府に行けるのか?」
「知るか。……リンの代わりに行ってやってもいいかもしれんな。―――精々死ぬまで奴らを見守ってやってくれ。達者でな、エルファー・レフ・ジルダ」
「元からそういうつもりだ……おやすみ、ア・リス・ティア」
「ケケッ。こんな俺様のために泣くな莫迦」
それからエルは俺様を投げ捨てた。嗚呼嗚咽を漏らし涙が溢れだしているのが見える。薄れゆく意識の中、彼らの理論が確立されてもこの世界が回り続けるよう祈りながら。造られた俺様の、その生涯を終えた。
Wavebox
#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連
長編:旅人は子供になりすごす
注意
漆黒以降の自機が子供化ギャグ概念をまとめたページです。漆黒以降のキャラがいるのでネタバレ有りに入れています。キャラ崩壊がすごい。
ネロ+光♀気味のシド光♀。ネロと自機はお互い気が合う友人以上の感情は一切無し。その4だけシド光♀です。
R18パートはがっつり特殊性癖なので自己責任で。
長編
その1 // その2 // その3 // その4
フルver(R18入り、約35,000字程度。5日目からシド光♀)
1日目 // 2日目 // 3日目 // 4日目 // 5日目 // 6日目 // 【R18】7日目 // エピローグ
後日談
【R18】後日談:目覚め直後の恨みつらみ :: 自機が大人に戻った日の朝の話。シド光♀。
漆黒以降の自機が子供化ギャグ概念をまとめたページです。漆黒以降のキャラがいるのでネタバレ有りに入れています。キャラ崩壊がすごい。
ネロ+光♀気味のシド光♀。ネロと自機はお互い気が合う友人以上の感情は一切無し。その4だけシド光♀です。
R18パートはがっつり特殊性癖なので自己責任で。
長編
その1 // その2 // その3 // その4
フルver(R18入り、約35,000字程度。5日目からシド光♀)
1日目 // 2日目 // 3日目 // 4日目 // 5日目 // 6日目 // 【R18】7日目 // エピローグ
後日談
【R18】後日談:目覚め直後の恨みつらみ :: 自機が大人に戻った日の朝の話。シド光♀。
旅人は星を見つける
注意
漆黒5.0終了直後の自機が人に"興味"を持ち始める話。シド少年時代捏造。
最初に抱いた感情は同じ帝国に狙われた可哀想な人。記憶を失い、現地民に疎まれ、更に祖国から追われている様に同情する目を向けることしかできなかった。陰気なやつだと思っていたが話をしてみると意外と優しい人間で気に入った。初めてもらった"道しるべ"を隠し持って、彼らを追いかけることにする。
"彼"が記憶を取り戻した時、"彼"は"ボク"が護ると約束した人だと思い出してしまった。"彼"が歩む先の障害を排除する。大きな声で言えないがとても楽しかった。
英雄という存在となったボクはいつも不安だった。それでも"彼"がいれば何とかなる、頼られるしもう少しだけ頑張ってみようかなと思うようになった。何よりも『絶対に生きて帰ってこい』、それは新たなボクを縛り付ける言葉。でも全然苦しくない。それどころか力が湧き出てくる。どうしてなのかは分からなかった。
"彼"の前で、ボクは少しだけ自分を見せることにする。理由は簡単、キミを護る存在だということを分かって欲しかったから。
何も考えたくなかったので過去のボクを完璧に捨てる儀式を"任せる"。忘れさせることで頼られれば、歩み寄り、必要無くなったならば表舞台から消えてしまえばいいんだ。思えばそれが一番の間違いであり、2人の関係を表す歯車が軋みだす瞬間だったのかもしれない。要するに"内なる存在"に嵌められたってことだ。
いつの間にか、ボクを見る"彼"の目は熱く焼かれそうなほどのものに変わっていた。でも、真っ白な自由の象徴である彼の隣に立つ存在は、もっと綺麗で護りたくなるような人間がいいに決まっている。誰に対しても優しいあなたの心を乾かさないために、ボクは助けを求められるまま存在していればいいんだよ。
―――ボクは幸せになるべきではないし人を幸せに出来るはずがない、そう思っている。だから、だからボクにそんな目を向けないで。
初めて身体を重ねた夜、ここで白い"彼"の内面をドス黒く染めてしまっていたことに気が付いた。どこで間違えてしまったのか、ボクには分からなかった。
これ以上は、ダメ。キミと幸せを共有できる人間はこの広い星空に沢山存在する。その星々ごと、護らせてほしい。ただそれだけで今のボクは救われるんだ。
どうやらボクがやってきたことは人を勘違いさせるただ無償の愛を降り注ぐだけの行為だったらしい。違う、ただその星に光が灯されていればいい、そう思っていただけだよ? かつてのフウガと同じことをしていただけだったのに、何でそんな顔をして、ボクを見てるの?
―――だってキミはボクより遥かに早く死ぬ人間なんだよ? キミが死んだ後、どうしたらいいの? 一生想いを引きずって苦しんで最期は発狂して死ねって言いたいのかい?
そんな余計な感情を抱くくらいなら。フウガの教えの通り名も無き旅人で居続け、全てから逃げ続ける方がマシなんだよ。だから、その手を離して。抱きしめないでよ。
原初世界でのにぎやかさに対し第一世界では、"孤独"だった。いや、仲間や"内なる存在"はいる。嫌味を言いながらもフォローに回る敵か味方か分からない存在もいた。この世界の住人もとても優しくて、眩しかった。でもボクの心は乾き、溢れる光を身体に取り込み続ける。
どこがゴールか分からぬまま、とにかく走り続けた。それは長い間やってきた旅と同じ筈なのに、空虚で悲しい気持ちに支配され壊れそうで、それでもボクは足掻き続けた。
全ての大罪喰いの光を喰らった後、意識が真っ暗になった。ハッと気が付くとあの男を消滅させ、世界の滅びも一次的に回避できた"らしい"。
自分の身を挺してまで光を吐き切らせたアシエンを、ボクはどう思っていたのだろう。―――そうだ、この人も命の恩人だった。かつては闇を剥がし、次は光を剥がしたボクの中にあるナニカを見出した可哀想な人。どうか安らかに、星になっていて欲しい。
仲間たちから一度原初世界へ報告しに帰れと言われた。正直、あの夢での件もあって少々会いたくなかった。だって答え合わせをする前に答えを出してしまったようなもので。しかしそれを誰かに言えるはずもなく、仕方ないから石の家で報告してからすぐに戻ろう。
タタルに「ガーロンド・アイアンワークス社に顔を出してあげてほしいでっす! 皆会いたいって言ってたでっすよ!」と言われた。まあ今回霊災を回避できたのは別の時代の彼らなのだ。感謝を告げてからシドと鉢合わせする前に戻ってしまえばいいだろう。足取り重く護るべき者たちがいる場所へ向かった。
◇
足取り重くガーロンドアイアンワークス社に訪れるとシドから逃げていたはずのネロが立っていた。
「あれ、ネロサン。逃走生活終了?」
「なンだお前帰って来てたのか。……珍しく辛気臭ぇ顔してンな」
そうだよだって休みなしで世界救ってきたしと肩をすくめて見せると「おつかれさン」とニィと笑っている。
「で? 他の世界には何か珍しい技術でもあったか? またレポートに纏めろよ」
「キミはねぇ……あったよ。時代と次元の跳躍とかいう現実感のないすっごいのがね」
「ヒヒッそりゃよかったことで。そんなモン作った天才に是非ともお会いしたいナァ」
その内の一人はキミだよと言いたい気持ちを今は抑え笑顔を向ける。
―――この時のボクは何故わざわざネロがここで待ち構えていたのか、その意味を察しないまま逃走準備を進めていた。ここでやるべきはテレポだったと思う。
「まあボクは元気ってシドに伝言よろしく。別の時代の君たちのおかげでボクは死ななかったんだ。いやあこう戻って来ても暁の皆は第一世界から帰れないままだし。皆で手がかりを探してる所」
手を上げ、踵を返す。「おいメスバブーン待てよ! 止まった方が自分のためだぜ?」という言葉を無視し、顔を上げ入口を見るとジトっとした目で仁王立ちしたシドがいた。
「はい?」
「お前さんやっぱり逃げる気だったか」
ワンテンポ反応が遅れた隙にいつの間にか手に持っていたバズーカのようなものがボクに向かって撃ち込まれる。それは強力な網のようなものであっという間に捕らえられ倒れ伏せてしまう。ネロを見やるとニィと見下しており、「ま、まさかネロサンもグル!?」と言ってやると「だから言ったのになァ!」とゲラゲラ笑いながらどこかへ行ってしまった。軽々と持ち上げられ担がれていく。
出会う社員たちに「アンナさんおかえりなさい!」やら「よかったですね会長!」やら罰ゲームのような雰囲気を味わう。力を込めても全く切れそうもない材質って何だよと思いながらなんとか指を網に向け「バァン」と火で穴を開けようとすると網全体が熱くなる。
「あっつ!?」
「アンナお前何やってるんだ!? 熱っ!」
シドも思わず手から落としてしまうほど熱くなった網をバタバタと暴れるがびくともしない。
「我が妹!!」
その時扉が勢い良く開き赤髪のヴィエラが飛び出してきた。シドは唖然とした表情で見ている。
「兄さん!?」
「駄目じゃないか! その網は僕が焦がしたらあっさりと切れてしまったからその反省点を生かして改良したんだよ。まさか妹の身体を火傷だらけにさせてしまう機構になるとは思わなかった、嗚呼可哀想な我が妹よ。うん、そこは反省している。よし反省会終わり。これは次回以降の改善点にしておくとして。じゃあ冷ましてやるから待ってろ」
懐から何やら金属片を持ち出しそれを当てるとあっという間に冷たくなった。
「え、あ、ありがとう兄さん」
「ところで妹よ、僕は今ここにいるのは妹には秘密にしてるんだ。だから内緒な」
「うん? ……うん、分かった」
「おつかれ、よく頑張ったな」
頭をぐしゃりと撫でられそのまま兄はどこかに去って行った。そっか内緒にしておかないといけないな。そう思ってると怪訝な顔をしたシドは再びボクを持ち上げて部屋へ運ぶ。抵抗する気も失せた。自室に連れ込まれた後その網を切り、笑顔を浮かべていた。
「さあアンナ、"宿題"の答え合わせをするか」
◇
「怖いよな、失うことって。リンドウも自分の刃に大切な人を巻き込みたくなかったから逃げていたんだ」
「はぁ!? キミに何が分かる! フウガはそんな腰抜けな人間じゃない! ……ってあっ」
最初に口に出したのはまさかのフウガの悪口。つい感情的に言い返してしまったことに気が付き口を閉じる。シドは優しく笑っていた。
「いいや、あの人は今のお前のように全て怖くなったから逃げ出して感情を封印してたんだ。―――俺は絶対、お前の目の前で死ぬさ。ああ決められた寿命ギリギリまで生きて死んでやるって約束する。でもお前は、俺の目の届かない所で死にたいんだろ? 死に目にも立ち会えず、苦しめって言うのか?」
「それは、だって私は沢山の人に恨まれて、苦しむんだからそれを誰にも見せたくないからで。どうせ先に死ぬキミが苦しむことなんて―――」
「俺も一緒に背負う。見て見ぬふりなんてしない。刃は1人でに動かないだろ? 整備も必要だし、それを行使するヒトも必要だ」
「ダメ! キミは自由で。キレイで。皆の前に立って。笑顔で幸せな所を見せて。そして私がキミを護らせてくれたらそれでいい。私を、そんな目で見ないで」
「俺は綺麗じゃない」
頭をくしゃりと撫でられ、額をこつんと合わせる。
「俺はアンナが好きだ。だからお前を絶対に獣にはしない。俺はお前が最大限の力を発揮するための道を示す、星になる。だから、もう無名の旅人にならなくてもいい。アンナ・サリスとして隣に立っていてくれ。"お願い"だ」
シドがボクの手の甲に口付け笑いかける。朧げな記憶の中に残っている寒空の夜と、逆の姿。星、そうだボクは星を探していた。熱く光り輝く星を、ずっと。"彼"の目に宿る星を見る。ボクはザナラーンの星空の下でこの星を見た時、気に入ったと思ったのだ。
「ねえシド、本当に私は人の隣に立つ資格はあるの? いっぱい、捨てて来たしキミも捨てようとしたのに」
「だってお前ずっと俺のこと好きでいてくれたじゃないか」
は? この男は何を言っているのだろうか。ボクが特定の人間に感情を抱くわけがない。それがフウガの教えで。でも。
「お前も俺も、もう相手無しで生活なんてできんさ。観念しろ」
「そう―――かもしれないねぇ」
温かい手を握り、目を閉じた。反証する材料が手持ちに一切存在しない、いい加減観念するべきだろう。だがそのための材料も足りない。
「でも感情に関してはもう少し待ってほしい」
「この段階まで来て何を」
「あなたに興味が湧いたんだ」
キミはボクなんかのことを頑張っていっぱい探してきて結論を見つけたかもしれない。でもボクはキミのことは何も知らないんだ。ただたくさんある星の1つを愛でていたにすぎない。
「あのね、私はあなたの歩んできた道は一切知らない。興味なかったから」
魔導院時代の話も、後見人だったガイウスとの因縁も、その脇腹の銃創の意味も。父親を失い亡命するきっかけになった事件もこれまで一切興味が湧かなかったのだ。
「今教えなくてもいいよ。私だって自分の足で探したい。その旅が終わったら、即結論は教える。だから―――」
口付けてやり、少しだけ屈みその相変わらず分厚い胸板に頭をぶつける。汗と機械油の匂いにボクは"ここ"に帰って来られたんだな、と安心した。それに、さっきから少々人に見せられない顔になっているだろう、恥ずかしいんだ。
「第一世界は、1人で怖かった。そんな世界を頑張って救って帰って来たんだよ? 労ってくれてもいいじゃないか。兄さんやネロサンと違って帰って来るなり答え合わせとか言い出してさ。そんながっついて来ないでよ。子供か」
「あ。す、すまん」
頭に温かな手が置かれる。そこでボクは声を出しわんわんと泣いた。こんなに泣いたのは、フウガの前で崩れた時以降一切なかった。
『蒔いた種はようやく実りやっと一歩前進、か。遅すぎ』
内なる存在の声が聞こえた気がした。意味は理解できなかったが今のボクの感情に対して邪魔をする気はないらしい。
『泣け泣け。奴しか見てないんだからさ』
温かさに包み込まれながらボクはこの世界に戻って来られた喜びを噛み締めた。
◇
声を出して泣きじゃくる彼女の頭を撫でてやる。確かに労いの言葉もなしにこっちの言いたい事を投げ始めたのは悪かった。早くしないと"また"逃げられるかもしれないと慌てた想いが先行してしまっていた。
第一世界で何があったかはまだ話をしていないかは分からない。夢で見た地点で参っていたのは分かっていたが、相当精神的にも肉体的にも限界が来てたらしい。素直に一緒にいた暁の血盟の人間に助けを求めたらよかったのにと肩をすくめる。しかしそれを覚えてしまったら自分の所に来る頻度が減ってしまうじゃないか。そう考えると今のままでもいいかもしれない。
しかしキスを交わしこうやって弱音を吐いてまだ感情を抱いてませんこれから考えますは嘘だろ? と思ってしまう。既に一線は越えているしあと何が必要なのかと聞きたくなるが流石に喉元で抑えた。
「おつかれさん」
顔を上げさせ、彼女の顔を見つめた。頬を赤らめ、涙が溢れる目にいつもの余裕ある笑顔はなく弱々しい声で「見るなぁ」と言っている。
「ゆっくり結論を探せばいい。どうせお互い多忙で滅多に会えない関係なのは変わらないからな」
そうだ、自分たちはそれぞれ周りに求められている存在だ。今までも何とか時間を作り逢瀬を重ねてここまで来た。それはこれからも変わらないだろう。強く抱きしめ、久々の冷たさを味わった。
Wavebox
#シド光♀
漆黒5.0終了直後の自機が人に"興味"を持ち始める話。シド少年時代捏造。
最初に抱いた感情は同じ帝国に狙われた可哀想な人。記憶を失い、現地民に疎まれ、更に祖国から追われている様に同情する目を向けることしかできなかった。陰気なやつだと思っていたが話をしてみると意外と優しい人間で気に入った。初めてもらった"道しるべ"を隠し持って、彼らを追いかけることにする。
"彼"が記憶を取り戻した時、"彼"は"ボク"が護ると約束した人だと思い出してしまった。"彼"が歩む先の障害を排除する。大きな声で言えないがとても楽しかった。
英雄という存在となったボクはいつも不安だった。それでも"彼"がいれば何とかなる、頼られるしもう少しだけ頑張ってみようかなと思うようになった。何よりも『絶対に生きて帰ってこい』、それは新たなボクを縛り付ける言葉。でも全然苦しくない。それどころか力が湧き出てくる。どうしてなのかは分からなかった。
"彼"の前で、ボクは少しだけ自分を見せることにする。理由は簡単、キミを護る存在だということを分かって欲しかったから。
何も考えたくなかったので過去のボクを完璧に捨てる儀式を"任せる"。忘れさせることで頼られれば、歩み寄り、必要無くなったならば表舞台から消えてしまえばいいんだ。思えばそれが一番の間違いであり、2人の関係を表す歯車が軋みだす瞬間だったのかもしれない。要するに"内なる存在"に嵌められたってことだ。
いつの間にか、ボクを見る"彼"の目は熱く焼かれそうなほどのものに変わっていた。でも、真っ白な自由の象徴である彼の隣に立つ存在は、もっと綺麗で護りたくなるような人間がいいに決まっている。誰に対しても優しいあなたの心を乾かさないために、ボクは助けを求められるまま存在していればいいんだよ。
―――ボクは幸せになるべきではないし人を幸せに出来るはずがない、そう思っている。だから、だからボクにそんな目を向けないで。
初めて身体を重ねた夜、ここで白い"彼"の内面をドス黒く染めてしまっていたことに気が付いた。どこで間違えてしまったのか、ボクには分からなかった。
これ以上は、ダメ。キミと幸せを共有できる人間はこの広い星空に沢山存在する。その星々ごと、護らせてほしい。ただそれだけで今のボクは救われるんだ。
どうやらボクがやってきたことは人を勘違いさせるただ無償の愛を降り注ぐだけの行為だったらしい。違う、ただその星に光が灯されていればいい、そう思っていただけだよ? かつてのフウガと同じことをしていただけだったのに、何でそんな顔をして、ボクを見てるの?
―――だってキミはボクより遥かに早く死ぬ人間なんだよ? キミが死んだ後、どうしたらいいの? 一生想いを引きずって苦しんで最期は発狂して死ねって言いたいのかい?
そんな余計な感情を抱くくらいなら。フウガの教えの通り名も無き旅人で居続け、全てから逃げ続ける方がマシなんだよ。だから、その手を離して。抱きしめないでよ。
原初世界でのにぎやかさに対し第一世界では、"孤独"だった。いや、仲間や"内なる存在"はいる。嫌味を言いながらもフォローに回る敵か味方か分からない存在もいた。この世界の住人もとても優しくて、眩しかった。でもボクの心は乾き、溢れる光を身体に取り込み続ける。
どこがゴールか分からぬまま、とにかく走り続けた。それは長い間やってきた旅と同じ筈なのに、空虚で悲しい気持ちに支配され壊れそうで、それでもボクは足掻き続けた。
全ての大罪喰いの光を喰らった後、意識が真っ暗になった。ハッと気が付くとあの男を消滅させ、世界の滅びも一次的に回避できた"らしい"。
自分の身を挺してまで光を吐き切らせたアシエンを、ボクはどう思っていたのだろう。―――そうだ、この人も命の恩人だった。かつては闇を剥がし、次は光を剥がしたボクの中にあるナニカを見出した可哀想な人。どうか安らかに、星になっていて欲しい。
仲間たちから一度原初世界へ報告しに帰れと言われた。正直、あの夢での件もあって少々会いたくなかった。だって答え合わせをする前に答えを出してしまったようなもので。しかしそれを誰かに言えるはずもなく、仕方ないから石の家で報告してからすぐに戻ろう。
タタルに「ガーロンド・アイアンワークス社に顔を出してあげてほしいでっす! 皆会いたいって言ってたでっすよ!」と言われた。まあ今回霊災を回避できたのは別の時代の彼らなのだ。感謝を告げてからシドと鉢合わせする前に戻ってしまえばいいだろう。足取り重く護るべき者たちがいる場所へ向かった。
◇
足取り重くガーロンドアイアンワークス社に訪れるとシドから逃げていたはずのネロが立っていた。
「あれ、ネロサン。逃走生活終了?」
「なンだお前帰って来てたのか。……珍しく辛気臭ぇ顔してンな」
そうだよだって休みなしで世界救ってきたしと肩をすくめて見せると「おつかれさン」とニィと笑っている。
「で? 他の世界には何か珍しい技術でもあったか? またレポートに纏めろよ」
「キミはねぇ……あったよ。時代と次元の跳躍とかいう現実感のないすっごいのがね」
「ヒヒッそりゃよかったことで。そんなモン作った天才に是非ともお会いしたいナァ」
その内の一人はキミだよと言いたい気持ちを今は抑え笑顔を向ける。
―――この時のボクは何故わざわざネロがここで待ち構えていたのか、その意味を察しないまま逃走準備を進めていた。ここでやるべきはテレポだったと思う。
「まあボクは元気ってシドに伝言よろしく。別の時代の君たちのおかげでボクは死ななかったんだ。いやあこう戻って来ても暁の皆は第一世界から帰れないままだし。皆で手がかりを探してる所」
手を上げ、踵を返す。「おいメスバブーン待てよ! 止まった方が自分のためだぜ?」という言葉を無視し、顔を上げ入口を見るとジトっとした目で仁王立ちしたシドがいた。
「はい?」
「お前さんやっぱり逃げる気だったか」
ワンテンポ反応が遅れた隙にいつの間にか手に持っていたバズーカのようなものがボクに向かって撃ち込まれる。それは強力な網のようなものであっという間に捕らえられ倒れ伏せてしまう。ネロを見やるとニィと見下しており、「ま、まさかネロサンもグル!?」と言ってやると「だから言ったのになァ!」とゲラゲラ笑いながらどこかへ行ってしまった。軽々と持ち上げられ担がれていく。
出会う社員たちに「アンナさんおかえりなさい!」やら「よかったですね会長!」やら罰ゲームのような雰囲気を味わう。力を込めても全く切れそうもない材質って何だよと思いながらなんとか指を網に向け「バァン」と火で穴を開けようとすると網全体が熱くなる。
「あっつ!?」
「アンナお前何やってるんだ!? 熱っ!」
シドも思わず手から落としてしまうほど熱くなった網をバタバタと暴れるがびくともしない。
「我が妹!!」
その時扉が勢い良く開き赤髪のヴィエラが飛び出してきた。シドは唖然とした表情で見ている。
「兄さん!?」
「駄目じゃないか! その網は僕が焦がしたらあっさりと切れてしまったからその反省点を生かして改良したんだよ。まさか妹の身体を火傷だらけにさせてしまう機構になるとは思わなかった、嗚呼可哀想な我が妹よ。うん、そこは反省している。よし反省会終わり。これは次回以降の改善点にしておくとして。じゃあ冷ましてやるから待ってろ」
懐から何やら金属片を持ち出しそれを当てるとあっという間に冷たくなった。
「え、あ、ありがとう兄さん」
「ところで妹よ、僕は今ここにいるのは妹には秘密にしてるんだ。だから内緒な」
「うん? ……うん、分かった」
「おつかれ、よく頑張ったな」
頭をぐしゃりと撫でられそのまま兄はどこかに去って行った。そっか内緒にしておかないといけないな。そう思ってると怪訝な顔をしたシドは再びボクを持ち上げて部屋へ運ぶ。抵抗する気も失せた。自室に連れ込まれた後その網を切り、笑顔を浮かべていた。
「さあアンナ、"宿題"の答え合わせをするか」
◇
「怖いよな、失うことって。リンドウも自分の刃に大切な人を巻き込みたくなかったから逃げていたんだ」
「はぁ!? キミに何が分かる! フウガはそんな腰抜けな人間じゃない! ……ってあっ」
最初に口に出したのはまさかのフウガの悪口。つい感情的に言い返してしまったことに気が付き口を閉じる。シドは優しく笑っていた。
「いいや、あの人は今のお前のように全て怖くなったから逃げ出して感情を封印してたんだ。―――俺は絶対、お前の目の前で死ぬさ。ああ決められた寿命ギリギリまで生きて死んでやるって約束する。でもお前は、俺の目の届かない所で死にたいんだろ? 死に目にも立ち会えず、苦しめって言うのか?」
「それは、だって私は沢山の人に恨まれて、苦しむんだからそれを誰にも見せたくないからで。どうせ先に死ぬキミが苦しむことなんて―――」
「俺も一緒に背負う。見て見ぬふりなんてしない。刃は1人でに動かないだろ? 整備も必要だし、それを行使するヒトも必要だ」
「ダメ! キミは自由で。キレイで。皆の前に立って。笑顔で幸せな所を見せて。そして私がキミを護らせてくれたらそれでいい。私を、そんな目で見ないで」
「俺は綺麗じゃない」
頭をくしゃりと撫でられ、額をこつんと合わせる。
「俺はアンナが好きだ。だからお前を絶対に獣にはしない。俺はお前が最大限の力を発揮するための道を示す、星になる。だから、もう無名の旅人にならなくてもいい。アンナ・サリスとして隣に立っていてくれ。"お願い"だ」
シドがボクの手の甲に口付け笑いかける。朧げな記憶の中に残っている寒空の夜と、逆の姿。星、そうだボクは星を探していた。熱く光り輝く星を、ずっと。"彼"の目に宿る星を見る。ボクはザナラーンの星空の下でこの星を見た時、気に入ったと思ったのだ。
「ねえシド、本当に私は人の隣に立つ資格はあるの? いっぱい、捨てて来たしキミも捨てようとしたのに」
「だってお前ずっと俺のこと好きでいてくれたじゃないか」
は? この男は何を言っているのだろうか。ボクが特定の人間に感情を抱くわけがない。それがフウガの教えで。でも。
「お前も俺も、もう相手無しで生活なんてできんさ。観念しろ」
「そう―――かもしれないねぇ」
温かい手を握り、目を閉じた。反証する材料が手持ちに一切存在しない、いい加減観念するべきだろう。だがそのための材料も足りない。
「でも感情に関してはもう少し待ってほしい」
「この段階まで来て何を」
「あなたに興味が湧いたんだ」
キミはボクなんかのことを頑張っていっぱい探してきて結論を見つけたかもしれない。でもボクはキミのことは何も知らないんだ。ただたくさんある星の1つを愛でていたにすぎない。
「あのね、私はあなたの歩んできた道は一切知らない。興味なかったから」
魔導院時代の話も、後見人だったガイウスとの因縁も、その脇腹の銃創の意味も。父親を失い亡命するきっかけになった事件もこれまで一切興味が湧かなかったのだ。
「今教えなくてもいいよ。私だって自分の足で探したい。その旅が終わったら、即結論は教える。だから―――」
口付けてやり、少しだけ屈みその相変わらず分厚い胸板に頭をぶつける。汗と機械油の匂いにボクは"ここ"に帰って来られたんだな、と安心した。それに、さっきから少々人に見せられない顔になっているだろう、恥ずかしいんだ。
「第一世界は、1人で怖かった。そんな世界を頑張って救って帰って来たんだよ? 労ってくれてもいいじゃないか。兄さんやネロサンと違って帰って来るなり答え合わせとか言い出してさ。そんながっついて来ないでよ。子供か」
「あ。す、すまん」
頭に温かな手が置かれる。そこでボクは声を出しわんわんと泣いた。こんなに泣いたのは、フウガの前で崩れた時以降一切なかった。
『蒔いた種はようやく実りやっと一歩前進、か。遅すぎ』
内なる存在の声が聞こえた気がした。意味は理解できなかったが今のボクの感情に対して邪魔をする気はないらしい。
『泣け泣け。奴しか見てないんだからさ』
温かさに包み込まれながらボクはこの世界に戻って来られた喜びを噛み締めた。
◇
声を出して泣きじゃくる彼女の頭を撫でてやる。確かに労いの言葉もなしにこっちの言いたい事を投げ始めたのは悪かった。早くしないと"また"逃げられるかもしれないと慌てた想いが先行してしまっていた。
第一世界で何があったかはまだ話をしていないかは分からない。夢で見た地点で参っていたのは分かっていたが、相当精神的にも肉体的にも限界が来てたらしい。素直に一緒にいた暁の血盟の人間に助けを求めたらよかったのにと肩をすくめる。しかしそれを覚えてしまったら自分の所に来る頻度が減ってしまうじゃないか。そう考えると今のままでもいいかもしれない。
しかしキスを交わしこうやって弱音を吐いてまだ感情を抱いてませんこれから考えますは嘘だろ? と思ってしまう。既に一線は越えているしあと何が必要なのかと聞きたくなるが流石に喉元で抑えた。
「おつかれさん」
顔を上げさせ、彼女の顔を見つめた。頬を赤らめ、涙が溢れる目にいつもの余裕ある笑顔はなく弱々しい声で「見るなぁ」と言っている。
「ゆっくり結論を探せばいい。どうせお互い多忙で滅多に会えない関係なのは変わらないからな」
そうだ、自分たちはそれぞれ周りに求められている存在だ。今までも何とか時間を作り逢瀬を重ねてここまで来た。それはこれからも変わらないだろう。強く抱きしめ、久々の冷たさを味わった。
Wavebox
#シド光♀
"夢"
注意
漆黒メインシナリオ途中のシド光♀。都合のいい妖精王の能力とシド少年時代捏造。
―――苦しかった。光がこんなにも息が詰まり、何も見えなくなるほど気持ち悪いものだなんて思ってもみなかった。しかし根底にある闇が、そして自分だけ見ることが出来る道を示す輝く白い星が私が"ボク"であることの証明である。
「美しい枝、フェオちゃん」
「あら若木私を呼ぶなんて珍しいわね!クスクス」
無意識に呼んでしまった。こみ上がる吐き気を抑えながらもニコリと笑う。
「最近"私"が眠れなくて。ちょっと眠らせる魔法が欲しい」
朧げに呟くとフェオは少しだけ考える素振りを見せた後、ニコリと笑った。そして「しばらく待って頂戴!」と言うとふわりと"ボク"に何か魔法をかけて消えてしまった。
何故自分がこんな苦しみを味わらないといけないんだ、5年ほど前の"アンナ"が聞いたら呆れるだろう。しかし50年前に会ったという若い頃そのままなヤツに遭うぞと言うととっとと逃げろと慌てながら掴まれる姿が浮かんだ。"光の氾濫"という現象を何とかしないと自分らが生まれた世界が危ないなんて今でもよく分からない。
少しだけとろんと瞼が重くなってきた。なるほど徐々に眠くなる魔法だったのか。確かに突然目の前が真っ暗になるよりは不安がない。「ありがとね、フェオちゃん」とボソと呟き睡魔に身を任せた。
◇
「はい今回もギリギリ間に合いましたねお疲れさまでした!」
「疲れた」
「文明人コワイ」
「イイ経験だったろ?」
深夜、ガーロンド・アイアンワークス社工房。会長シドをはじめとする社員たちが突っ伏していた。
赤色の髪のヴィエラの男は初めてのデスマーチに想いを馳せたのかメガネを外し一息ついている。
「修羅場なんて嫁の優先順位くらいしかなかったからな」
「惚気やめてくださいッスよー」
「おいレフはもう離婚してるんだぞ」
「ホー、言うじゃないか。完成物燃やすぞ」
「ヤメロ」
新入社員となったアンナの兄エルファー・レフ・ジルダ。妹にバレたくないのかレフと名乗りながらネロと共に行動し、円滑に行われたオメガの検証を陰で手伝っていた。まあフルネームの一部だったので彼女は偶然と称していたが本能的に察知していたことは本人には教えていない。その後人の名義の領収書を置いて2人で逃げ出したが無事捕獲、働かされている。
そしてつい1週間程度前まではネロとレフを引き連れ、自分の朧げな記憶の確実性を上げるためにドマへ"墓参り"に行った。あとはアンナが戻って来るのを待つだけだとシドは拳を握る。あっさりとした宿題だったとヒゲを撫でコーヒーを飲もうとケトルに手を伸ばそうとした時だった。『クスクス…』という小さな笑い声が聞こえる。
「おいネロ、何か聞こえないか?」
「ハァ?あまりにも徹夜続きで幻聴が始まったか?」
『見ぃつけた』
「ほら聞こえたじゃないか」
頭の中で少女の声が響く。うん? 頭の、中?
「っ!? ガーロンドくんそこから離れろ!!」
『あらあらあなた私が見えるのかしら? クスクス……ちょっとこの人借りるわね? 朝には返すから!』
レフが俺の肩を掴むが徐々に目の前が霞んでくる。そして真っ暗になった。
シドは途端に突っ伏してしまう。社員は大慌てで彼を囲むが寝息が聞こえるが否や呆れた顔をしていた。
レフのみは顔が真っ青になっており、ネロは肩を叩き問いかける。
「おい何が視えた」
「わからん……見たことないエーテルの動きと借りるとか朝には返すとか異国語すぎて分からん」
「暁の人呼びましょうか?」
ネロは舌打ちしながら「とりあえず仮眠室にでも持ってくぞ。クッソこんな時にメスバブーンがいたら片手で運ぶのによ」とシドを引っ張る動きをする。
◇
―――目を開くと真っ白の空間。誰もいない。「おいネロ、レフ、ジェシー」と社員の名前を呼んでいくが返事が返って来ない。
「アンナ」
困った時、呼べばいつも途端に解決してくれるあの人の名前を口に出す。しかし彼女は別の世界で会うことは出来ない。それでももう一度「アンナ」と名前を呼ぶとまたあの笑い声が聞こえた。
『こんにちは! さあ早く、こっちよ』
光が集まりが見えるが俺の目ではその正体を視認できない。魔法的存在だろうか辛うじて第三の眼で判別できるが何かは分からなかった。すると『あらあら、あらあらあらあなたは私が視えないのね!』という声が聞こえた。
『あなたが会いたい人に会わせてあげる!』
胡散臭い。なんて胡散臭い一言なんだとため息を吐くと心を読まれたらしく『会いたくないなら構わないわ! せっかく眠れないあの子のためにいい夢を準備してあげたいのに!』と抗議される。眠れない? あの人がか?
「本当に俺が会いたい人間に会えるのか? 別の世界にいる人間だぞ」
『夢を介してだけど会えるわ。だって私はその世界からあなたを呼んだのよ?』
さあ目を閉じて。あなたの頭の中で会いたい人を思い浮かべてごらんなさい、と言われたので目を閉じ、あの人の名前を呼ぶ。黒髪赤目の、奇麗なヴィエラ。俺を護ると約束した、赤の刃を。
『さあもう大丈夫よ! 目を開けて!』
◇
目を開くと扉の前だった。どこかの宿屋なのだろうか、周辺にも同じような扉がある廊下である。『レディの部屋に入る時は、まずノックをするものだわ』と囁かれたので俺は言われるがままに扉を叩く。ドアノブが回り、扉が開いた。自分よりも頭一つ高い身長、褐色肌で黒髪に赤目の女性。ぼんやりとした目で俺を見るとパタンと扉が閉じられた。しばらく無音の時間が流れ、再び扉を開き俺を二度見する姿は余裕が一切なく「え、うそ、フェオちゃん?」とボソボソ呟いている。
「そっか、夢かあ」
アンナは柔らかい笑顔で俺を強く抱きしめたので硬直してしまう。そうだ、これは夢だろう。孤独な旅人が好きでもないし嫌いでもない相手をいきなり抱きしめる筈がない。「アンナ、とりあえず座らないか?」と言うと「そうだね」と俺を解放し、軽く抱き上げた。
まず目についたのは窓の外の景色だ。明らかにエオルゼアではない不思議な空を見ているとアンナは「外に出たらクリスタルタワーがあるんだよ」と頭を撫でる。相変わらずの子ども扱い―――なのは俺の都合のいいアンナ像だからだろう。
椅子を並べられたので隣り合って座りアンナの話を聞いた。光に満たされ今にも滅びそうな世界、水晶公という人間との出会い、夜を取り戻す闇の戦士になっている話、ソル帝いやアシエン・エメトセルクとの邂逅、罪喰いという生物を倒すたびに自分の体に光が取り込まれ今にもバケモノになりそうな話を空を見上げながら淡々とした口調で話す。何故お前が全部やらないといけないんだ、他の奴に任せられないのかと言ってやると涙を浮かべこちらを向いた。
「わかんない。皆私に助けてっていうから、助けてる。そう、皆弱いから。強いボクが助けないと」
「でも俺たちの世界に帰れないと、意味がないだろ?」
「だってこの世界を救えないと私たちの世界も滅ぶ。このままじゃ第八霊災が起こるって」
それから起こるであろう未来を語った。信じられない話だが、"あの手紙"に書かれていた真実と照らし合わせるとあり得ないと断じられない。だからと言って俺が何か出来るわけではないのだが。彼女に託すしかできないという現実に頭に血が上りそうになる。落ち着かせるために震える体を抱き寄せ、「この話題は終わりにしよう」と言ってやるとこくりと頷いた。
―――あまりにも具体的な自分が知りえない情報に夢なのか、そうでないのかもう分からなかった。
「心配されてるのは分かってる。でも早めにエオルゼアには帰るから」
「ああ絶対に帰って来るんだ。死ぬなよ、待ってる」
口付けを交わす。何度も角度を変え、触れるだけのキスだ。夢だと言うのに柔らかく、ひんやりと冷たかった。流れた涙を舐めとってやり、抱きしめてやる。するとアンナは「なんて都合のいい夢だ。でも嬉しいんだよね」と呟いたので「俺もだ」と返した。
「だって20年前の自分には予想できなかった話」
「―――そうだな?」
「あんな可愛かった少年が本当にヒゲの似合う年齢になってボクの目の前に現れて、冒険できたから」
その低い声で目を見開く。記憶通りの、幼い頃に聞いたし、星芒祭の夜に再会して語り合った旅人の声だった。
彼女があの寒空の夜に出会った人だというのは既に知っている。実際先に知っていたネロに確認したから間違いはない。だからその願望が、リアルタイムに夢として反映されているのだろう。
「お、俺だって思わなかったさ。まさかお前が旅人のお兄さんだったなんてな。知った瞬間に頭が真っ白になった」
「だって命の恩人と別れて以降、アシエンだったソル帝除いたら初めてだったんだよね。ボクを襲ったり怯えた目で見ずにすぐに助けてくれた人間って」
「っ!?」
「だから嫌いになれるわけ、ないじゃないか。そう思ってたからバカみたいな約束をした。ボクに道を示してくれるお星さまならすぐに辿り着けるって」
「アンナ」
「嗚呼絶対帰ってみせるよ。キミたちを護るって約束してるんだから。ねえシド」
俺の頬を触り口付けを交わした後、笑顔を見せた。
「ボクは、初めて会った時からキミのことを」
『若木ー!!!』
「ふぇ、フェオちゃん!?」
俺をここに連れて来た光の声が聞こえる。何やら大きく慌てているようだ。アンナにははっきり様子だが俺にはどうなっているのかさっぱりだ。
『ごめんなさい! 時間切れよ! あの人があなたを無理やり起こそうとしてるのだわ! さあ白い人も帰りましょう!』
「え、は? うそ、これ本人!?」
「なっ―――アンナ!」
周辺が光に包まれていく。どうなっているのか分からないが、うっすらと大慌てのアンナの顔が見えた。
アンナの「わ、忘れて! 忘れろ!!」っていう完全にメッキが剥がれ素の声が聞こえた気がした。満面の笑顔で「ああ忘れないからな!」と言い返してやったが聞こえたか分からない。
―――いい夢だった。
◇
目を開くとそこは会社の仮眠室。起き上がると暁の血盟のクルルとネロ、レフが目を丸くして俺を見ていた。
「あ、あらシド起きたみたい」
「は? オマエマジで寝てるだけだったのかよ」
「こっちは納期のデーモンに殺されかけた後ほぼ寝てないのにな」
「す、すまん」
俺は思わず反射的に謝ってしまう。しかしよく考えなくても自分は悪くないだろう、無理やり眠らされたのだから。
「ねえシド、何があったの? 体内エーテルに異常は見られないけど……身体に違和感とかない?」
「いや、特に何も起こっては……実は意識が落ちた後にな」
夢の一部を説明する。アンナの現在の状況と、第八霊災について。ネロとレフは呆れた目で見ていたがクルルは真面目な顔で「多分第一世界にいる妖精族の仕業ね」と答える。
「私とあとタタルも何度か夢を介してその子に向こうの世界の状況を教えてもらってるの。シドは多分その妖精にアンナの夢の中へ連れて行かれたんだと思う」
「成程妹が現在いる世界のピクシー族的な存在によるイタズラってやつか。仲良くできてそうだな」
「いやいや納得してンじゃねェよ。事実なら無傷で戻れたのは奇跡じゃねェか」
確かにそうだ。特に目立った異変も無いしきちんと眠ってはいたからか体は軽い。
「他に妹は何か言っていたのか?」
「え、いや、どうだったか……」
「ナニもしてないよな?」
「話をしただけだ落ち着け」
「はー僕も妹に会いたいなあ」
レフの視線が痛い。仕事中は一切その素振りを見せずよく働いてくれるが、終了した途端妹を溺愛しすぎてこちらにまで殺意を見せることがあるのは本当に勘弁してほしい。
それよりも一つだけ確信に至ったものもある。アンナに一晩『一般常識を仕込んだもう死んでいる男』だ。あの口ぶりだと相手はアシエン、しかも生まれ故郷の初代皇帝となる。一度迷い込んでソル帝の部屋に辿り着いたという話は正直半信半疑だったのだが、本人の口から示唆されると複雑な過去が余計に整理できなくなった。
「ネロ、俺はどうしたらいいか分からん」
「いやオレだって突然言われても困ンだが」
「だよな……だよなあ……」
怪訝な顔をしながらもクルルに礼を言うと何か言いたげにしていたレフを連れて出て行ってしまった。クルルも「それじゃあお大事に。アンナ視点の第一世界の状況を聞けてよかった。えっと……その感情、落ち着かせるためにコーヒーとか飲んだらいいと思う」と言うと退室してしまった。何を言っているのか理解できないままふらりと立ち上がり洗面台で鏡を見ると、眉間に深く皴が刻まれ自分の目から見ても機嫌が悪い。いい夢を見たハズなのにこれではいけないと思いながら顔を洗いクルルのアドバイス通りコーヒーを淹れに行くのだった。
―――アンナ、絶対に生きて帰ってこいよ。
◇
一方その頃第一世界。
目を見開き起き上がりながら「あーもー!」と叫ぶ。夢と変わりないペンダント居住区にある一室にてアンナはため息を吐いた。そして目の前にいる男を見やり再び一度目を閉じ、ため息を吐く。そしてゆっくりと目を開いた。
「優雅に眠る"レディ"の寝室に勝手に入るのは控えめに言っても最低では?」
「レディとは程遠いやつが何を吠えている。妙なエーテルの動きを掴んだから発生源に来たらお前の寝室だっただけだ。寝顔もあの時と変わらず最高だったぞ?」
吐きそうな文句につい笑顔を浮かべるのも忘れてしまっていた。本当はいつでも一時的にエオルゼアへ戻れるのだが、執拗にエメトセルクが妨害するのでストレスが溜まり続けている。暁がなんとか一度だけ時間を作ってくれたがシドは不在だしそろそろ納期に追われる時期と言われてしまった。そんなことを言われてしまっては罪喰い討伐時以外は適当に人助けするか目の前の相手をあしらうしかやることはない。体内にたまり続ける光の気持ち悪さと一緒に言葉を吐く。
「そりゃぁどうも」
"あの子"は夢の中で余計なことを言ってしまい疲れてるんだよ、だから"ボク"が代わりに対応してやってるんだと思いながら朝の日課のため着替えに手を伸ばした。
Wavebox
#シド光♀
漆黒メインシナリオ途中のシド光♀。都合のいい妖精王の能力とシド少年時代捏造。
―――苦しかった。光がこんなにも息が詰まり、何も見えなくなるほど気持ち悪いものだなんて思ってもみなかった。しかし根底にある闇が、そして自分だけ見ることが出来る道を示す輝く白い星が私が"ボク"であることの証明である。
「美しい枝、フェオちゃん」
「あら若木私を呼ぶなんて珍しいわね!クスクス」
無意識に呼んでしまった。こみ上がる吐き気を抑えながらもニコリと笑う。
「最近"私"が眠れなくて。ちょっと眠らせる魔法が欲しい」
朧げに呟くとフェオは少しだけ考える素振りを見せた後、ニコリと笑った。そして「しばらく待って頂戴!」と言うとふわりと"ボク"に何か魔法をかけて消えてしまった。
何故自分がこんな苦しみを味わらないといけないんだ、5年ほど前の"アンナ"が聞いたら呆れるだろう。しかし50年前に会ったという若い頃そのままなヤツに遭うぞと言うととっとと逃げろと慌てながら掴まれる姿が浮かんだ。"光の氾濫"という現象を何とかしないと自分らが生まれた世界が危ないなんて今でもよく分からない。
少しだけとろんと瞼が重くなってきた。なるほど徐々に眠くなる魔法だったのか。確かに突然目の前が真っ暗になるよりは不安がない。「ありがとね、フェオちゃん」とボソと呟き睡魔に身を任せた。
◇
「はい今回もギリギリ間に合いましたねお疲れさまでした!」
「疲れた」
「文明人コワイ」
「イイ経験だったろ?」
深夜、ガーロンド・アイアンワークス社工房。会長シドをはじめとする社員たちが突っ伏していた。
赤色の髪のヴィエラの男は初めてのデスマーチに想いを馳せたのかメガネを外し一息ついている。
「修羅場なんて嫁の優先順位くらいしかなかったからな」
「惚気やめてくださいッスよー」
「おいレフはもう離婚してるんだぞ」
「ホー、言うじゃないか。完成物燃やすぞ」
「ヤメロ」
新入社員となったアンナの兄エルファー・レフ・ジルダ。妹にバレたくないのかレフと名乗りながらネロと共に行動し、円滑に行われたオメガの検証を陰で手伝っていた。まあフルネームの一部だったので彼女は偶然と称していたが本能的に察知していたことは本人には教えていない。その後人の名義の領収書を置いて2人で逃げ出したが無事捕獲、働かされている。
そしてつい1週間程度前まではネロとレフを引き連れ、自分の朧げな記憶の確実性を上げるためにドマへ"墓参り"に行った。あとはアンナが戻って来るのを待つだけだとシドは拳を握る。あっさりとした宿題だったとヒゲを撫でコーヒーを飲もうとケトルに手を伸ばそうとした時だった。『クスクス…』という小さな笑い声が聞こえる。
「おいネロ、何か聞こえないか?」
「ハァ?あまりにも徹夜続きで幻聴が始まったか?」
『見ぃつけた』
「ほら聞こえたじゃないか」
頭の中で少女の声が響く。うん? 頭の、中?
「っ!? ガーロンドくんそこから離れろ!!」
『あらあらあなた私が見えるのかしら? クスクス……ちょっとこの人借りるわね? 朝には返すから!』
レフが俺の肩を掴むが徐々に目の前が霞んでくる。そして真っ暗になった。
シドは途端に突っ伏してしまう。社員は大慌てで彼を囲むが寝息が聞こえるが否や呆れた顔をしていた。
レフのみは顔が真っ青になっており、ネロは肩を叩き問いかける。
「おい何が視えた」
「わからん……見たことないエーテルの動きと借りるとか朝には返すとか異国語すぎて分からん」
「暁の人呼びましょうか?」
ネロは舌打ちしながら「とりあえず仮眠室にでも持ってくぞ。クッソこんな時にメスバブーンがいたら片手で運ぶのによ」とシドを引っ張る動きをする。
◇
―――目を開くと真っ白の空間。誰もいない。「おいネロ、レフ、ジェシー」と社員の名前を呼んでいくが返事が返って来ない。
「アンナ」
困った時、呼べばいつも途端に解決してくれるあの人の名前を口に出す。しかし彼女は別の世界で会うことは出来ない。それでももう一度「アンナ」と名前を呼ぶとまたあの笑い声が聞こえた。
『こんにちは! さあ早く、こっちよ』
光が集まりが見えるが俺の目ではその正体を視認できない。魔法的存在だろうか辛うじて第三の眼で判別できるが何かは分からなかった。すると『あらあら、あらあらあらあなたは私が視えないのね!』という声が聞こえた。
『あなたが会いたい人に会わせてあげる!』
胡散臭い。なんて胡散臭い一言なんだとため息を吐くと心を読まれたらしく『会いたくないなら構わないわ! せっかく眠れないあの子のためにいい夢を準備してあげたいのに!』と抗議される。眠れない? あの人がか?
「本当に俺が会いたい人間に会えるのか? 別の世界にいる人間だぞ」
『夢を介してだけど会えるわ。だって私はその世界からあなたを呼んだのよ?』
さあ目を閉じて。あなたの頭の中で会いたい人を思い浮かべてごらんなさい、と言われたので目を閉じ、あの人の名前を呼ぶ。黒髪赤目の、奇麗なヴィエラ。俺を護ると約束した、赤の刃を。
『さあもう大丈夫よ! 目を開けて!』
◇
目を開くと扉の前だった。どこかの宿屋なのだろうか、周辺にも同じような扉がある廊下である。『レディの部屋に入る時は、まずノックをするものだわ』と囁かれたので俺は言われるがままに扉を叩く。ドアノブが回り、扉が開いた。自分よりも頭一つ高い身長、褐色肌で黒髪に赤目の女性。ぼんやりとした目で俺を見るとパタンと扉が閉じられた。しばらく無音の時間が流れ、再び扉を開き俺を二度見する姿は余裕が一切なく「え、うそ、フェオちゃん?」とボソボソ呟いている。
「そっか、夢かあ」
アンナは柔らかい笑顔で俺を強く抱きしめたので硬直してしまう。そうだ、これは夢だろう。孤独な旅人が好きでもないし嫌いでもない相手をいきなり抱きしめる筈がない。「アンナ、とりあえず座らないか?」と言うと「そうだね」と俺を解放し、軽く抱き上げた。
まず目についたのは窓の外の景色だ。明らかにエオルゼアではない不思議な空を見ているとアンナは「外に出たらクリスタルタワーがあるんだよ」と頭を撫でる。相変わらずの子ども扱い―――なのは俺の都合のいいアンナ像だからだろう。
椅子を並べられたので隣り合って座りアンナの話を聞いた。光に満たされ今にも滅びそうな世界、水晶公という人間との出会い、夜を取り戻す闇の戦士になっている話、ソル帝いやアシエン・エメトセルクとの邂逅、罪喰いという生物を倒すたびに自分の体に光が取り込まれ今にもバケモノになりそうな話を空を見上げながら淡々とした口調で話す。何故お前が全部やらないといけないんだ、他の奴に任せられないのかと言ってやると涙を浮かべこちらを向いた。
「わかんない。皆私に助けてっていうから、助けてる。そう、皆弱いから。強いボクが助けないと」
「でも俺たちの世界に帰れないと、意味がないだろ?」
「だってこの世界を救えないと私たちの世界も滅ぶ。このままじゃ第八霊災が起こるって」
それから起こるであろう未来を語った。信じられない話だが、"あの手紙"に書かれていた真実と照らし合わせるとあり得ないと断じられない。だからと言って俺が何か出来るわけではないのだが。彼女に託すしかできないという現実に頭に血が上りそうになる。落ち着かせるために震える体を抱き寄せ、「この話題は終わりにしよう」と言ってやるとこくりと頷いた。
―――あまりにも具体的な自分が知りえない情報に夢なのか、そうでないのかもう分からなかった。
「心配されてるのは分かってる。でも早めにエオルゼアには帰るから」
「ああ絶対に帰って来るんだ。死ぬなよ、待ってる」
口付けを交わす。何度も角度を変え、触れるだけのキスだ。夢だと言うのに柔らかく、ひんやりと冷たかった。流れた涙を舐めとってやり、抱きしめてやる。するとアンナは「なんて都合のいい夢だ。でも嬉しいんだよね」と呟いたので「俺もだ」と返した。
「だって20年前の自分には予想できなかった話」
「―――そうだな?」
「あんな可愛かった少年が本当にヒゲの似合う年齢になってボクの目の前に現れて、冒険できたから」
その低い声で目を見開く。記憶通りの、幼い頃に聞いたし、星芒祭の夜に再会して語り合った旅人の声だった。
彼女があの寒空の夜に出会った人だというのは既に知っている。実際先に知っていたネロに確認したから間違いはない。だからその願望が、リアルタイムに夢として反映されているのだろう。
「お、俺だって思わなかったさ。まさかお前が旅人のお兄さんだったなんてな。知った瞬間に頭が真っ白になった」
「だって命の恩人と別れて以降、アシエンだったソル帝除いたら初めてだったんだよね。ボクを襲ったり怯えた目で見ずにすぐに助けてくれた人間って」
「っ!?」
「だから嫌いになれるわけ、ないじゃないか。そう思ってたからバカみたいな約束をした。ボクに道を示してくれるお星さまならすぐに辿り着けるって」
「アンナ」
「嗚呼絶対帰ってみせるよ。キミたちを護るって約束してるんだから。ねえシド」
俺の頬を触り口付けを交わした後、笑顔を見せた。
「ボクは、初めて会った時からキミのことを」
『若木ー!!!』
「ふぇ、フェオちゃん!?」
俺をここに連れて来た光の声が聞こえる。何やら大きく慌てているようだ。アンナにははっきり様子だが俺にはどうなっているのかさっぱりだ。
『ごめんなさい! 時間切れよ! あの人があなたを無理やり起こそうとしてるのだわ! さあ白い人も帰りましょう!』
「え、は? うそ、これ本人!?」
「なっ―――アンナ!」
周辺が光に包まれていく。どうなっているのか分からないが、うっすらと大慌てのアンナの顔が見えた。
アンナの「わ、忘れて! 忘れろ!!」っていう完全にメッキが剥がれ素の声が聞こえた気がした。満面の笑顔で「ああ忘れないからな!」と言い返してやったが聞こえたか分からない。
―――いい夢だった。
◇
目を開くとそこは会社の仮眠室。起き上がると暁の血盟のクルルとネロ、レフが目を丸くして俺を見ていた。
「あ、あらシド起きたみたい」
「は? オマエマジで寝てるだけだったのかよ」
「こっちは納期のデーモンに殺されかけた後ほぼ寝てないのにな」
「す、すまん」
俺は思わず反射的に謝ってしまう。しかしよく考えなくても自分は悪くないだろう、無理やり眠らされたのだから。
「ねえシド、何があったの? 体内エーテルに異常は見られないけど……身体に違和感とかない?」
「いや、特に何も起こっては……実は意識が落ちた後にな」
夢の一部を説明する。アンナの現在の状況と、第八霊災について。ネロとレフは呆れた目で見ていたがクルルは真面目な顔で「多分第一世界にいる妖精族の仕業ね」と答える。
「私とあとタタルも何度か夢を介してその子に向こうの世界の状況を教えてもらってるの。シドは多分その妖精にアンナの夢の中へ連れて行かれたんだと思う」
「成程妹が現在いる世界のピクシー族的な存在によるイタズラってやつか。仲良くできてそうだな」
「いやいや納得してンじゃねェよ。事実なら無傷で戻れたのは奇跡じゃねェか」
確かにそうだ。特に目立った異変も無いしきちんと眠ってはいたからか体は軽い。
「他に妹は何か言っていたのか?」
「え、いや、どうだったか……」
「ナニもしてないよな?」
「話をしただけだ落ち着け」
「はー僕も妹に会いたいなあ」
レフの視線が痛い。仕事中は一切その素振りを見せずよく働いてくれるが、終了した途端妹を溺愛しすぎてこちらにまで殺意を見せることがあるのは本当に勘弁してほしい。
それよりも一つだけ確信に至ったものもある。アンナに一晩『一般常識を仕込んだもう死んでいる男』だ。あの口ぶりだと相手はアシエン、しかも生まれ故郷の初代皇帝となる。一度迷い込んでソル帝の部屋に辿り着いたという話は正直半信半疑だったのだが、本人の口から示唆されると複雑な過去が余計に整理できなくなった。
「ネロ、俺はどうしたらいいか分からん」
「いやオレだって突然言われても困ンだが」
「だよな……だよなあ……」
怪訝な顔をしながらもクルルに礼を言うと何か言いたげにしていたレフを連れて出て行ってしまった。クルルも「それじゃあお大事に。アンナ視点の第一世界の状況を聞けてよかった。えっと……その感情、落ち着かせるためにコーヒーとか飲んだらいいと思う」と言うと退室してしまった。何を言っているのか理解できないままふらりと立ち上がり洗面台で鏡を見ると、眉間に深く皴が刻まれ自分の目から見ても機嫌が悪い。いい夢を見たハズなのにこれではいけないと思いながら顔を洗いクルルのアドバイス通りコーヒーを淹れに行くのだった。
―――アンナ、絶対に生きて帰ってこいよ。
◇
一方その頃第一世界。
目を見開き起き上がりながら「あーもー!」と叫ぶ。夢と変わりないペンダント居住区にある一室にてアンナはため息を吐いた。そして目の前にいる男を見やり再び一度目を閉じ、ため息を吐く。そしてゆっくりと目を開いた。
「優雅に眠る"レディ"の寝室に勝手に入るのは控えめに言っても最低では?」
「レディとは程遠いやつが何を吠えている。妙なエーテルの動きを掴んだから発生源に来たらお前の寝室だっただけだ。寝顔もあの時と変わらず最高だったぞ?」
吐きそうな文句につい笑顔を浮かべるのも忘れてしまっていた。本当はいつでも一時的にエオルゼアへ戻れるのだが、執拗にエメトセルクが妨害するのでストレスが溜まり続けている。暁がなんとか一度だけ時間を作ってくれたがシドは不在だしそろそろ納期に追われる時期と言われてしまった。そんなことを言われてしまっては罪喰い討伐時以外は適当に人助けするか目の前の相手をあしらうしかやることはない。体内にたまり続ける光の気持ち悪さと一緒に言葉を吐く。
「そりゃぁどうも」
"あの子"は夢の中で余計なことを言ってしまい疲れてるんだよ、だから"ボク"が代わりに対応してやってるんだと思いながら朝の日課のため着替えに手を伸ばした。
Wavebox
#シド光♀
技師は宿題を解きに行く
注意
漆黒5.0中盤辺りな時間軸。シド少年時代捏造
「おいガーロンドどこに向かってンだよ」
「あと少しで近くに着くはずだ」
飛空艇でクガネに降り立った後ハヤブサに乗り大空を飛んでいた。しかしいつまでも言わずにいるのも2人を苛つかせるだけだろう、前にアンナと共に墓参りに行った話をする。初恋と称された命の恩人と呼ばれている男の終の棲家だったんだと言うとエルファーは驚いた声を上げた。
「妹の恩人の墓参りに行った!?」
「そうだ。そこで見かけたやつに既視感があってな。ネロ、確認してほしい」
オレにだぁ? 素っ頓狂な声が響く。
「それにレフも無関係ではないぞ。"無名の旅人"と自称する現在のアンナ全てがこの人きっかけなのさ」
そう、『ボクの呪いを解けるもんなら解いてみな』という言葉の意味は絶対にリンドウが持っている。
対してネロはため息を吐いていた。
「お前、本当に安価な娯楽に興味なかったンだな」
「どういうことだ?」
「予想が正しけりゃ見たら分かる」
ネロの中では心当たりはある。てっきり帝国に足を踏み入れたことがあるアンナが何やらの手段で入手した"東方風牙録"という書物の影響かと思っていた。だが聞いた範囲ではそうではないらしい。苦虫を嚙み潰したような顔を見せた。
◇
3人は山に囲まれた集落付近に降り立った。「同じような風景で飽きるな」とネロは嫌味を言っているがエルファーは無視してシドに尋ねる。
「ここに行ったのか?」
「もう少し歩くんだがその前に挨拶をしようと思ってな」
想定していたよりも栄え、どこか懐かしい雰囲気を見せる村に辿り着く。うろついていると1件の民家の前に黒髪の青年がいた。シドは「テッセンさん」と手を上げながら挨拶をしている。
「あなたはエルダスさんといた。あの時は申し訳ございませんでした。まさかガーロンド・アイアンワークス社の社長さんとは思わなくて」
「そんな改まらなくてもいい。それよりまたあの絵を見せてほしいんだ」
「構いませんけど後ろの方は……ガレアン人の方と、もしかしてエルダスさんの関係者ですか?」
ネロは眉間にしわを寄せる。解放されたとはいえ元々はドマは帝国により占領された地だ、怪訝な顔もされるだろう。どうも思わないがわざわざ言われると少しだけ苛ついているようだ。
「ああ2人共ウチの社員さ。コイツはネロで、あっちはレフ、アンナの兄。俺も生粋のガレアンだから考える所があるかもしれんが悪いことはしない」
「お兄さんでしたか! お会いできて嬉しいです。―――ここは大丈夫ですよ。幸い帝国の戦禍は免れ、平和な場所でした。ただ、ドマが解放されてから久々に見たなというだけで。それに祖父は……いやこの話はいいでしょう。とにかく申し訳ありませんでした」
「まあ無名の旅人の墓があンなら熱心なやつは通ったンだろうな」
さてご案内しますよとテッセンは歩き出す。シドは首を傾げて「どういうことだ?」と聞いている。
「オマエ本当に"龍殺しのリンドウ"って知らねェのか? はー安い娯楽に興味のないおぼっちゃんは困るなァ」
「―――リン、ドウ?」
ネロも歩き出す。シドも追いかけようとするがエルファーはその場で止まったままだ。「おいレフ行くぞ」と声をかけると「あ、ああすまない」とゆっくりと一歩踏み出した。
山道を歩き、開けた場所に辿り着く。そこには小さな小屋と石碑がある。シドの記憶通りのリンドウが最期に過ごしたという終の棲家だ。
「おいおいさっきこの辺り通ったけど上からじゃ何も見えなかったじゃねェかどうなってンだよ」
「だよな。アンナも迷子で彷徨うわけだ」
そういうわけじゃねェと言おうとしたが置いておこうとネロはため息を吐く。道中この男の話を聞いた。名はテッセン・フウガ。リンドウの孫にあたる人間らしい。彼の父が元気だった頃はよくガレアン人を中心に帝国兵が墓参りに来ていたのだという。略奪物もあるであろう大量のお供え物が持ち込まれ、更に最新の技術を導入した宿泊施設を共同で作られた。そして亡命してまで住む者まで現れ、他の地域とは異色の文化を持っていった村は周りから相当疎まれていたらしい。それ程まで祖父は帝国で有名だったのかという質問に対しネロは答える。
「そりゃ"東方風牙録"ってベストセラーが出てたンだぜ? 舞台化もされてオレも観に行ったさ」
「そうだったのか。全然知らなかった」
「はーいい所のぼっちゃんはこれだから困る。木の棒1本を妖刀のように輝かせ龍をバッサリと倒した元英雄とその弟子の少女が各地を旅するって話だったか。―――ンで、だ。その絵画を見せてみろよ」
テッセンは小屋の鍵を開錠し、箱の中から絵画を取り出した。ネロはじっと見つめ肩をすくめる。
「初代皇帝のコレクションにあったな」
「やっぱりか。見覚えあると思った」
槍を持ったヴィエラの少女と、銀髪の侍がオサード地域を旅する絵画は見覚えがあった。魔導城に飾られていた属国から献上された芸術品の一つ、と記憶している。
「で、この赤色ヴィエラがメ……アンナだったってわけか? ハッ傑作だね」
「帝国にあるのはおかしいですよ。これは祖父が依頼して描いてもらった世界に1点しかないもので」
「そうなんだよ。だから俺も自信がなくてネロを連れて来たんだ」
「―――ザクロ、柘榴石、ガーネットってことかよ。何であン時気付かなかったンだオレは」
ボソボソと呟きながら頭をガリガリと掻き、アンナに見せられた手紙を思い出す。その時だった。これまで静かだったエルファーは立ち上がり出口へ向かう。
「エル?」
「ちょっと外の空気を吸ってる」
そのまま扉を閉めた。変なやつと眺めているとテッセンが再び箱の中をまさぐり封筒を手に取った。
「エルダスさんが帰った後に思い出したんですけど祖父が彼女宛に手紙を残していまして。読んでみませんか?」
「オレたちが見てもいいのか? 本人怒ンだろ」
「……正直言って私では渡していいかも分からないものでして」
「アンナのことを知りたくて来たんだ。貸してほしい」
「おいガーロンド」
シドはその手紙を受け取り広げる。ネロも覗き込むが東方の文字に加え達筆で何と書いているか分からない。苦笑しながら「その、力強い筆跡すぎて、な」とテッセンに返す。すると笑顔で「ああ、それでは読み上げますね」と内容を語る。
―――それは2人にとって衝撃的な話であった。
まずは別れた直後、アンナの身に起こった水難事故で死んだと思っていたが生きてここに来たことに対しての喜びの言葉が綴られていた。その後は後悔と謝罪が延々と書かれている。
自分でもどういう理屈で出来るのか分からない不完全なものを殺しかけてまで伝授してしまった。それが世界の崩壊のために利用されつつある絶望。この住処に訪ねて来たアシエンという存在の言葉は全く信じられなかった。だが、目の前で大切な絵画を複製するガレアン人が使えないはずの"魔法"によって信じざるを得なかった。ある約束を交わし、ここは一切の戦禍が降りかからなかったという懺悔が書かれている。
そして幼いアンナの気持ちに気付いていながらも強く突き放せなかった弱い自分への苛立ち。『約束は死んでも守れ。全てを護れないなら捨て去って旅をしろ』という教えを何十年も守っていることを知った時の焦り。どうしてそんなに忠実に守ってしまっているのか。アシエンの手を今からでも振りほどき星空の知識を教えた思い出と共に自由な夜空を愛してほしいという希望。
最後に力の根源を知りたいのならラザハンに行くといい。そして兄エルファーに謝っておいてほしい。妹の体に消えない疵を刻みつけ、"私"を継承してしまい本当にすまなかった。さらば、愛する唯一の弟子であり血の繋がりはないが魂で繋がった家族よという言葉で終わっていた。
「私めには意味が分かりませんがそう書かれております」
「……にわかには信じがてェな」
手紙の内容についてネロは吐き捨てている。現実感はしないが、これまでのアンナを取り巻く出来事を思い返すと事実も多いことは分かるが理解を拒んだ。対してシドは重々しく口を開く。
「いや、俺たちの祖国がアシエンによって作られたものだというのは事実だ。ヴァリス殿下が明かしたとアンナたちから聞いた。ドマ侵攻について書かれているってことはリンドウは俺たちが最近知った知識を30年程度前には知ってたことになる」
「そうかよじゃあアンナが持ってた手紙はそのアシエン本人のお茶目ってことか。趣味悪ィ」
ネロの言葉にシドは首を傾げる。「手紙って何だ?」と尋ねると露骨に嫌そうな顔を見せた。
「アラミゴ解放後にソル帝の便箋で届けられたモンだとよ。『お前の役割は終わりだ』とか書かれててあいつオメガブッ倒しながら怯えてたンだぜ?」
「知らない」
「そりゃオマエはあいつの過去を一切知らないじゃねェか。あの小心者が自分から教えるわけがねェし」
「アンナは小心者じゃない」
そう言いながらもシドの顔が青くなっていく。そうだ、俺は何も知らなかったと視線を落とした。
「もう分かンだろ? あのオンナは"鮮血の赤兎"だ。アシエンが人間1人分の人生使って狙い続けてた実在した兵器なンだよ」
「アンナが、じゃあやっぱりあの夜」
寒空の下、路地裏で寒さに震え座り込んでいた赤髪の旅人。急いで屋敷に戻りスープを渡した時の『温かい』と低い声で溢していた。
「20年ほど前に陛下が兎を捕まえるために誘導したがいつの間にか国外に駆け出して行ってたンだってよ」
出口はどこだと聞かれたので言われるがまま方向を指さすと走り去ったあの不器用な笑顔。
「全てを護る、刃。あぁ―――」
シドの目が見開かれる。今まで忘れていた記憶。肝心の"約束"が、抜け落ちていた。
『"あなたの飛空艇"に乗れて、よかった』
何故か自分の飛空艇と強調したシドが記憶を取り戻した夜。
『私はね、自分に優しくしてくれた人と約束は守ることにしてるんだ』
露骨なほどに約束に拘っていた姿。
『ほーそりゃ楽しみ』
ガーロンド社を紹介してやると言った時の目を細めニィと笑った姿。
『期限はそうだね……キミがお髭がとっても似合う人になるまで、かな? 翼であるキミの飛空艇たちを守る刃になってあげよう。おっと飛空艇たち、というのは簡単だよ? あーんな大きな船をキミ1人で作れるわけないだろう? 全部守ってあげる。こう見えてボクはすっごく強いからね』
手の甲に口付け、幼いシドへ不器用に笑いかけた顔。そうか、これを忘れていたから星芒祭の夜わざわざ眠らせて逃げたのかと拳を握り締める。
テッセンはあの、と声をかける。「ああすまん」とシドは苦笑して見せた。
「あまりにも直球すぎて気付かなかったヒントに頭痛がしただけだ。気にしないでくれ」
あっさりと宿題が終わってしまった。軽くため息を吐くとネロが立ち上がり外へと足を向ける。
「ネロ?」
「一服してくる。1人で結論付けてろ」
そのまま扉を閉められた。シドは目を丸くし、首を傾げる。
「結論付けてろと言われてもな」
まさかここまでネロがアンナについての情報を隠していたとは思ってもみなかった。そしてあっさりと知りたかった事柄の殆どを手に入れてしまうことも予想外で拍子抜けする。
更に複雑な悩みを持ちながら一緒にオメガ相手に戦ったのかということも知ってしまった。微塵も相談してもらえなかったことにショックを受けている。一方的に想いを伝えて、舞い上がっていた自分が莫迦みたいだとため息を吐く。だが最終検証で見せたまるで流星の軌跡のように振り下ろされた一振りが伝授された"気迫"というものなのは確かだ。焼き付けられた脳裏に浮かび上がる。そんな"弱き人が持つ想いの力"の根源にあるヒントがラザハンにあるというのは一番の収穫であった。ラザハンということは錬金術起因のものなのだろう。
しかし一番の謎は"継承"というものだ。リンドウ、レフ、アリスという男らは過去に何をし、アンナに施したのだろうか。
ふと肩を叩かれる。心配そうにテッセンがシドを見ていた。「すまない、考え事をしていて」と苦笑する。テッセンは懐に入れていた装置を手渡した。
「これは?」
「祖父が、最後まで大切に持っていたものです。今は静かなんですけど」
黒色で半球体のようで一見何なのかは分からない。用途は? と聞くと柔らかな笑顔で答える。
「これがあったからアンナさんがエルダスさんって分かったんです」
テッセンによるとリンドウが死んでからもこの装置は小さな光を灯し続けた。ある日ドマを解放した英雄たちの顔を見に行こうと外に出た際に強く輝いたのだという。以降輝き方が不安定だったが、しばらくしてシドとアンナが墓参りに来た日にまた大きく光ったらしい。しかしここ数ヶ月光が消えてしまい心配していた所に3人がやってきたと語る。
「どういう装置なのか分かりません。ですがもしかしたらエルダスさんの何らかに関係しているかもしれません。よかったらどうぞ」
「いいのか? 代々受け継いだ形見みたいなものだろ?」
「……あなたが持っていた方がきっと祖父も喜んでもらえると思います。あと先程言えなかった言葉の続きなのですが」
それからテッセンは自分の身の上を話した。彼の父が誕生し物心がついた頃、実の祖父は亡くなっている。その後祖母は第二の故郷に戻って来たリンドウを治療する内に惹かれ合い、再婚したので血は一切繋がっていない。よって厳密にはリンドウの血縁者はもう存在しないのだ。そして彼の生まれは―――。
「そうだったのか。エレゼンが東方地域にいるのも珍しいのに更に片親はガレアン人と」
「龍殺しのリンドウと呼ばれるまでは実際あまりいい扱いはされて来なかったそうです。本当に強くなるために努力は欠かさない人だったと聞きました。強くなってからは手のひらを返した権力者たちによる色んな思惑に巻き込まれ嫌気がさしていたそうで」
「アンナから嫁と子供がいるから叶わない恋だったと聞いてたんだが……。兄を知ってたから嘘ついてた可能性があるな」
箱の中から書物の山を取り出す。覗き込むと武器の特徴から人から魔物までのスケッチと何らかの文字が書き込まれていた。「療養中暇だったようでとにかく自分の脳に叩き込んでいたものを書いていたそうです」とテッセンは語る。「これも多分アンナに教えていたってことか」と紙をめくる中で明らかに違うものがあった。
「図面……?」
「何かの装置のようですが私にも分からず」
「いやこれは隠す―――形状が見覚えあるな。ちょっと待っててくれ」
シドは家の中を見回し、違和感を探る。即見つかる。入口に置いてあった家の様式に似合わない無骨な金属。手を伸ばそうとすると突然扉が開き、レフがその機械を分捕る。
「これだこれ。さっき家全体を視た時に何かおかしいと思ったんだ」
即蓋を開き、中身をのぞき込んでいる。シドは一瞬唖然とした顔をしたが何も言わず手に持っていた図面を渡した。次はネロが分捕り2人で眺めている。
「なんだこりゃ。ああこれの図面か。―――あのクソ馬鹿が機械装置を作れるわけがない。かと言ってアリスが手間暇かけて作ったものにしてはオリジナリティがない。この図面通りで忠実すぎるものって感じだ」
「読んだ範囲ではこれアレか。魔科学技術を用いた広域妨害装置だ。よく出来てンな」
「成程戦禍がここまで来なかった仕掛けか。アシエンと交わした約束とやらの一つだろ」
「筆跡的にアリスから貰ったやつの冊子から破ったか。この家のどこかにあるかもしれん。テッセンくん、ちょっと家の中物色してもいいか?」
「か、構いませんけど……」
数時間後、顔を真っ青にしたエルファーがフウガの名前を叫んでいた。それをネロはゲラゲラと笑っている。
「ネロ、レフは何と言ってるんだ?」
「お前ら何年間妹といたンだふざけンな辺りじゃね? おーこれそのまま商品化出来ンじゃね?」
「いや流石に考えたのはそのアリスって男だろ? 勝手にやるのは」
「死んだやつの許可なんてどう貰うンだよ」
フウガがメモとして残していた紙と違うものがいくつか発掘された。封筒に入れられた冊子には、数々の古代技術を応用して作られた実用的な機械から人道的に怪しい器具まで数多く書かれている。小さな紙切れが入っており、『リスク分散のご協力感謝 あなたの共犯者ア・リス・ティア』と雑な文字で書かれている。シドらにとっては欠伸が出そうなほど古すぎる技術が殆どだ。しかし自分たちが未だに至っていない領域の一部もあり少々悔しい部分もある。
「エルもこういうの持ってンのか?」
「んぁ? まあ別れる時に少々。今は別の場所に隠してるから持ってないぞ」
というか今の魔導技術に比べたらこれより更に古臭いから価値はないと思うぞと肩をすくめている。
「ってこれはトームストーンか。電源は―――つかないか」
真っ黒な板を取り出す。ボタンのようなものを押すが一切反応はしない。何も言わずポケットに仕舞い込む。
「今流れるようにポケットに入れたな?」
「どうせ眠ってるままなら有効活用する。その装置ももういらんだろ。貰ってもいいか? テッセンくん」
「だ、大丈夫ですよ」
「無理しなくてもいいぞ。あんまり荒らしたらアンナに怒られるから程々にしとけレフ」
「そこで妹の名前を出すんじゃない。―――修理して何でもないモノだったら返すさ」
自分が欲しいもののヒントかもしれないものは全部欲しいからなと口角を上げている。そんなもの俺だって欲しいとシドはジトッとした目で睨みつけた。
◇
それから適当に家探しして村の宿に泊めてもらった。最新技術が適宜取り入れられ快適なもので満足だった。ガーロンド社が納品したであろう装置も沢山あったので外に出た者の名前を聞く。案の定先日ジェシーが連れて来た新入社員たちの名前もあった。もっと詳しく話をしていたらリンドウの情報ももう少しスムーズに手に入ったかもしれないと苦笑する。
ふとポンと音が鳴った。その正体を探ると日中にテッセンから貰った奇妙な装置が光っている。壊れてなかったのかと観察すると小さい光はしばらく点滅を続け、1時間もせずに再び消えてしまった。
―――後に知ったことだが、3人がこちらに来ていた間、一度アンナが帰って来たらしい。シドがいないのを確認した後、少し暗い顔をしてまた帰ったとジェシーから聞いた時、苦虫を嚙み潰したような顔を見せしばらく機嫌が直らなかった。
次の日、村人らに次なる取引の約束と共に見送られハヤブサで上空を飛ぶと空からでも終の棲家を確認出来た。妨害装置は解析が終了すればまた返しに来るとシドが電源を切り鞄の中に仕舞っている。次はアンナと2人で泊まりに行こうと笑みを浮かべた。
目を輝かせたネロとエルファーを青龍壁へ連れて行き、再び積み重なっているであろう仕事をすべく本社へと1人戻るのであった―――。
Wavebox
#シド光♀ #ヴィエラ♂+ネロ #リンドウ関連
漆黒5.0中盤辺りな時間軸。シド少年時代捏造
「おいガーロンドどこに向かってンだよ」
「あと少しで近くに着くはずだ」
飛空艇でクガネに降り立った後ハヤブサに乗り大空を飛んでいた。しかしいつまでも言わずにいるのも2人を苛つかせるだけだろう、前にアンナと共に墓参りに行った話をする。初恋と称された命の恩人と呼ばれている男の終の棲家だったんだと言うとエルファーは驚いた声を上げた。
「妹の恩人の墓参りに行った!?」
「そうだ。そこで見かけたやつに既視感があってな。ネロ、確認してほしい」
オレにだぁ? 素っ頓狂な声が響く。
「それにレフも無関係ではないぞ。"無名の旅人"と自称する現在のアンナ全てがこの人きっかけなのさ」
そう、『ボクの呪いを解けるもんなら解いてみな』という言葉の意味は絶対にリンドウが持っている。
対してネロはため息を吐いていた。
「お前、本当に安価な娯楽に興味なかったンだな」
「どういうことだ?」
「予想が正しけりゃ見たら分かる」
ネロの中では心当たりはある。てっきり帝国に足を踏み入れたことがあるアンナが何やらの手段で入手した"東方風牙録"という書物の影響かと思っていた。だが聞いた範囲ではそうではないらしい。苦虫を嚙み潰したような顔を見せた。
◇
3人は山に囲まれた集落付近に降り立った。「同じような風景で飽きるな」とネロは嫌味を言っているがエルファーは無視してシドに尋ねる。
「ここに行ったのか?」
「もう少し歩くんだがその前に挨拶をしようと思ってな」
想定していたよりも栄え、どこか懐かしい雰囲気を見せる村に辿り着く。うろついていると1件の民家の前に黒髪の青年がいた。シドは「テッセンさん」と手を上げながら挨拶をしている。
「あなたはエルダスさんといた。あの時は申し訳ございませんでした。まさかガーロンド・アイアンワークス社の社長さんとは思わなくて」
「そんな改まらなくてもいい。それよりまたあの絵を見せてほしいんだ」
「構いませんけど後ろの方は……ガレアン人の方と、もしかしてエルダスさんの関係者ですか?」
ネロは眉間にしわを寄せる。解放されたとはいえ元々はドマは帝国により占領された地だ、怪訝な顔もされるだろう。どうも思わないがわざわざ言われると少しだけ苛ついているようだ。
「ああ2人共ウチの社員さ。コイツはネロで、あっちはレフ、アンナの兄。俺も生粋のガレアンだから考える所があるかもしれんが悪いことはしない」
「お兄さんでしたか! お会いできて嬉しいです。―――ここは大丈夫ですよ。幸い帝国の戦禍は免れ、平和な場所でした。ただ、ドマが解放されてから久々に見たなというだけで。それに祖父は……いやこの話はいいでしょう。とにかく申し訳ありませんでした」
「まあ無名の旅人の墓があンなら熱心なやつは通ったンだろうな」
さてご案内しますよとテッセンは歩き出す。シドは首を傾げて「どういうことだ?」と聞いている。
「オマエ本当に"龍殺しのリンドウ"って知らねェのか? はー安い娯楽に興味のないおぼっちゃんは困るなァ」
「―――リン、ドウ?」
ネロも歩き出す。シドも追いかけようとするがエルファーはその場で止まったままだ。「おいレフ行くぞ」と声をかけると「あ、ああすまない」とゆっくりと一歩踏み出した。
山道を歩き、開けた場所に辿り着く。そこには小さな小屋と石碑がある。シドの記憶通りのリンドウが最期に過ごしたという終の棲家だ。
「おいおいさっきこの辺り通ったけど上からじゃ何も見えなかったじゃねェかどうなってンだよ」
「だよな。アンナも迷子で彷徨うわけだ」
そういうわけじゃねェと言おうとしたが置いておこうとネロはため息を吐く。道中この男の話を聞いた。名はテッセン・フウガ。リンドウの孫にあたる人間らしい。彼の父が元気だった頃はよくガレアン人を中心に帝国兵が墓参りに来ていたのだという。略奪物もあるであろう大量のお供え物が持ち込まれ、更に最新の技術を導入した宿泊施設を共同で作られた。そして亡命してまで住む者まで現れ、他の地域とは異色の文化を持っていった村は周りから相当疎まれていたらしい。それ程まで祖父は帝国で有名だったのかという質問に対しネロは答える。
「そりゃ"東方風牙録"ってベストセラーが出てたンだぜ? 舞台化もされてオレも観に行ったさ」
「そうだったのか。全然知らなかった」
「はーいい所のぼっちゃんはこれだから困る。木の棒1本を妖刀のように輝かせ龍をバッサリと倒した元英雄とその弟子の少女が各地を旅するって話だったか。―――ンで、だ。その絵画を見せてみろよ」
テッセンは小屋の鍵を開錠し、箱の中から絵画を取り出した。ネロはじっと見つめ肩をすくめる。
「初代皇帝のコレクションにあったな」
「やっぱりか。見覚えあると思った」
槍を持ったヴィエラの少女と、銀髪の侍がオサード地域を旅する絵画は見覚えがあった。魔導城に飾られていた属国から献上された芸術品の一つ、と記憶している。
「で、この赤色ヴィエラがメ……アンナだったってわけか? ハッ傑作だね」
「帝国にあるのはおかしいですよ。これは祖父が依頼して描いてもらった世界に1点しかないもので」
「そうなんだよ。だから俺も自信がなくてネロを連れて来たんだ」
「―――ザクロ、柘榴石、ガーネットってことかよ。何であン時気付かなかったンだオレは」
ボソボソと呟きながら頭をガリガリと掻き、アンナに見せられた手紙を思い出す。その時だった。これまで静かだったエルファーは立ち上がり出口へ向かう。
「エル?」
「ちょっと外の空気を吸ってる」
そのまま扉を閉めた。変なやつと眺めているとテッセンが再び箱の中をまさぐり封筒を手に取った。
「エルダスさんが帰った後に思い出したんですけど祖父が彼女宛に手紙を残していまして。読んでみませんか?」
「オレたちが見てもいいのか? 本人怒ンだろ」
「……正直言って私では渡していいかも分からないものでして」
「アンナのことを知りたくて来たんだ。貸してほしい」
「おいガーロンド」
シドはその手紙を受け取り広げる。ネロも覗き込むが東方の文字に加え達筆で何と書いているか分からない。苦笑しながら「その、力強い筆跡すぎて、な」とテッセンに返す。すると笑顔で「ああ、それでは読み上げますね」と内容を語る。
―――それは2人にとって衝撃的な話であった。
まずは別れた直後、アンナの身に起こった水難事故で死んだと思っていたが生きてここに来たことに対しての喜びの言葉が綴られていた。その後は後悔と謝罪が延々と書かれている。
自分でもどういう理屈で出来るのか分からない不完全なものを殺しかけてまで伝授してしまった。それが世界の崩壊のために利用されつつある絶望。この住処に訪ねて来たアシエンという存在の言葉は全く信じられなかった。だが、目の前で大切な絵画を複製するガレアン人が使えないはずの"魔法"によって信じざるを得なかった。ある約束を交わし、ここは一切の戦禍が降りかからなかったという懺悔が書かれている。
そして幼いアンナの気持ちに気付いていながらも強く突き放せなかった弱い自分への苛立ち。『約束は死んでも守れ。全てを護れないなら捨て去って旅をしろ』という教えを何十年も守っていることを知った時の焦り。どうしてそんなに忠実に守ってしまっているのか。アシエンの手を今からでも振りほどき星空の知識を教えた思い出と共に自由な夜空を愛してほしいという希望。
最後に力の根源を知りたいのならラザハンに行くといい。そして兄エルファーに謝っておいてほしい。妹の体に消えない疵を刻みつけ、"私"を継承してしまい本当にすまなかった。さらば、愛する唯一の弟子であり血の繋がりはないが魂で繋がった家族よという言葉で終わっていた。
「私めには意味が分かりませんがそう書かれております」
「……にわかには信じがてェな」
手紙の内容についてネロは吐き捨てている。現実感はしないが、これまでのアンナを取り巻く出来事を思い返すと事実も多いことは分かるが理解を拒んだ。対してシドは重々しく口を開く。
「いや、俺たちの祖国がアシエンによって作られたものだというのは事実だ。ヴァリス殿下が明かしたとアンナたちから聞いた。ドマ侵攻について書かれているってことはリンドウは俺たちが最近知った知識を30年程度前には知ってたことになる」
「そうかよじゃあアンナが持ってた手紙はそのアシエン本人のお茶目ってことか。趣味悪ィ」
ネロの言葉にシドは首を傾げる。「手紙って何だ?」と尋ねると露骨に嫌そうな顔を見せた。
「アラミゴ解放後にソル帝の便箋で届けられたモンだとよ。『お前の役割は終わりだ』とか書かれててあいつオメガブッ倒しながら怯えてたンだぜ?」
「知らない」
「そりゃオマエはあいつの過去を一切知らないじゃねェか。あの小心者が自分から教えるわけがねェし」
「アンナは小心者じゃない」
そう言いながらもシドの顔が青くなっていく。そうだ、俺は何も知らなかったと視線を落とした。
「もう分かンだろ? あのオンナは"鮮血の赤兎"だ。アシエンが人間1人分の人生使って狙い続けてた実在した兵器なンだよ」
「アンナが、じゃあやっぱりあの夜」
寒空の下、路地裏で寒さに震え座り込んでいた赤髪の旅人。急いで屋敷に戻りスープを渡した時の『温かい』と低い声で溢していた。
「20年ほど前に陛下が兎を捕まえるために誘導したがいつの間にか国外に駆け出して行ってたンだってよ」
出口はどこだと聞かれたので言われるがまま方向を指さすと走り去ったあの不器用な笑顔。
「全てを護る、刃。あぁ―――」
シドの目が見開かれる。今まで忘れていた記憶。肝心の"約束"が、抜け落ちていた。
『"あなたの飛空艇"に乗れて、よかった』
何故か自分の飛空艇と強調したシドが記憶を取り戻した夜。
『私はね、自分に優しくしてくれた人と約束は守ることにしてるんだ』
露骨なほどに約束に拘っていた姿。
『ほーそりゃ楽しみ』
ガーロンド社を紹介してやると言った時の目を細めニィと笑った姿。
『期限はそうだね……キミがお髭がとっても似合う人になるまで、かな? 翼であるキミの飛空艇たちを守る刃になってあげよう。おっと飛空艇たち、というのは簡単だよ? あーんな大きな船をキミ1人で作れるわけないだろう? 全部守ってあげる。こう見えてボクはすっごく強いからね』
手の甲に口付け、幼いシドへ不器用に笑いかけた顔。そうか、これを忘れていたから星芒祭の夜わざわざ眠らせて逃げたのかと拳を握り締める。
テッセンはあの、と声をかける。「ああすまん」とシドは苦笑して見せた。
「あまりにも直球すぎて気付かなかったヒントに頭痛がしただけだ。気にしないでくれ」
あっさりと宿題が終わってしまった。軽くため息を吐くとネロが立ち上がり外へと足を向ける。
「ネロ?」
「一服してくる。1人で結論付けてろ」
そのまま扉を閉められた。シドは目を丸くし、首を傾げる。
「結論付けてろと言われてもな」
まさかここまでネロがアンナについての情報を隠していたとは思ってもみなかった。そしてあっさりと知りたかった事柄の殆どを手に入れてしまうことも予想外で拍子抜けする。
更に複雑な悩みを持ちながら一緒にオメガ相手に戦ったのかということも知ってしまった。微塵も相談してもらえなかったことにショックを受けている。一方的に想いを伝えて、舞い上がっていた自分が莫迦みたいだとため息を吐く。だが最終検証で見せたまるで流星の軌跡のように振り下ろされた一振りが伝授された"気迫"というものなのは確かだ。焼き付けられた脳裏に浮かび上がる。そんな"弱き人が持つ想いの力"の根源にあるヒントがラザハンにあるというのは一番の収穫であった。ラザハンということは錬金術起因のものなのだろう。
しかし一番の謎は"継承"というものだ。リンドウ、レフ、アリスという男らは過去に何をし、アンナに施したのだろうか。
ふと肩を叩かれる。心配そうにテッセンがシドを見ていた。「すまない、考え事をしていて」と苦笑する。テッセンは懐に入れていた装置を手渡した。
「これは?」
「祖父が、最後まで大切に持っていたものです。今は静かなんですけど」
黒色で半球体のようで一見何なのかは分からない。用途は? と聞くと柔らかな笑顔で答える。
「これがあったからアンナさんがエルダスさんって分かったんです」
テッセンによるとリンドウが死んでからもこの装置は小さな光を灯し続けた。ある日ドマを解放した英雄たちの顔を見に行こうと外に出た際に強く輝いたのだという。以降輝き方が不安定だったが、しばらくしてシドとアンナが墓参りに来た日にまた大きく光ったらしい。しかしここ数ヶ月光が消えてしまい心配していた所に3人がやってきたと語る。
「どういう装置なのか分かりません。ですがもしかしたらエルダスさんの何らかに関係しているかもしれません。よかったらどうぞ」
「いいのか? 代々受け継いだ形見みたいなものだろ?」
「……あなたが持っていた方がきっと祖父も喜んでもらえると思います。あと先程言えなかった言葉の続きなのですが」
それからテッセンは自分の身の上を話した。彼の父が誕生し物心がついた頃、実の祖父は亡くなっている。その後祖母は第二の故郷に戻って来たリンドウを治療する内に惹かれ合い、再婚したので血は一切繋がっていない。よって厳密にはリンドウの血縁者はもう存在しないのだ。そして彼の生まれは―――。
「そうだったのか。エレゼンが東方地域にいるのも珍しいのに更に片親はガレアン人と」
「龍殺しのリンドウと呼ばれるまでは実際あまりいい扱いはされて来なかったそうです。本当に強くなるために努力は欠かさない人だったと聞きました。強くなってからは手のひらを返した権力者たちによる色んな思惑に巻き込まれ嫌気がさしていたそうで」
「アンナから嫁と子供がいるから叶わない恋だったと聞いてたんだが……。兄を知ってたから嘘ついてた可能性があるな」
箱の中から書物の山を取り出す。覗き込むと武器の特徴から人から魔物までのスケッチと何らかの文字が書き込まれていた。「療養中暇だったようでとにかく自分の脳に叩き込んでいたものを書いていたそうです」とテッセンは語る。「これも多分アンナに教えていたってことか」と紙をめくる中で明らかに違うものがあった。
「図面……?」
「何かの装置のようですが私にも分からず」
「いやこれは隠す―――形状が見覚えあるな。ちょっと待っててくれ」
シドは家の中を見回し、違和感を探る。即見つかる。入口に置いてあった家の様式に似合わない無骨な金属。手を伸ばそうとすると突然扉が開き、レフがその機械を分捕る。
「これだこれ。さっき家全体を視た時に何かおかしいと思ったんだ」
即蓋を開き、中身をのぞき込んでいる。シドは一瞬唖然とした顔をしたが何も言わず手に持っていた図面を渡した。次はネロが分捕り2人で眺めている。
「なんだこりゃ。ああこれの図面か。―――あのクソ馬鹿が機械装置を作れるわけがない。かと言ってアリスが手間暇かけて作ったものにしてはオリジナリティがない。この図面通りで忠実すぎるものって感じだ」
「読んだ範囲ではこれアレか。魔科学技術を用いた広域妨害装置だ。よく出来てンな」
「成程戦禍がここまで来なかった仕掛けか。アシエンと交わした約束とやらの一つだろ」
「筆跡的にアリスから貰ったやつの冊子から破ったか。この家のどこかにあるかもしれん。テッセンくん、ちょっと家の中物色してもいいか?」
「か、構いませんけど……」
数時間後、顔を真っ青にしたエルファーがフウガの名前を叫んでいた。それをネロはゲラゲラと笑っている。
「ネロ、レフは何と言ってるんだ?」
「お前ら何年間妹といたンだふざけンな辺りじゃね? おーこれそのまま商品化出来ンじゃね?」
「いや流石に考えたのはそのアリスって男だろ? 勝手にやるのは」
「死んだやつの許可なんてどう貰うンだよ」
フウガがメモとして残していた紙と違うものがいくつか発掘された。封筒に入れられた冊子には、数々の古代技術を応用して作られた実用的な機械から人道的に怪しい器具まで数多く書かれている。小さな紙切れが入っており、『リスク分散のご協力感謝 あなたの共犯者ア・リス・ティア』と雑な文字で書かれている。シドらにとっては欠伸が出そうなほど古すぎる技術が殆どだ。しかし自分たちが未だに至っていない領域の一部もあり少々悔しい部分もある。
「エルもこういうの持ってンのか?」
「んぁ? まあ別れる時に少々。今は別の場所に隠してるから持ってないぞ」
というか今の魔導技術に比べたらこれより更に古臭いから価値はないと思うぞと肩をすくめている。
「ってこれはトームストーンか。電源は―――つかないか」
真っ黒な板を取り出す。ボタンのようなものを押すが一切反応はしない。何も言わずポケットに仕舞い込む。
「今流れるようにポケットに入れたな?」
「どうせ眠ってるままなら有効活用する。その装置ももういらんだろ。貰ってもいいか? テッセンくん」
「だ、大丈夫ですよ」
「無理しなくてもいいぞ。あんまり荒らしたらアンナに怒られるから程々にしとけレフ」
「そこで妹の名前を出すんじゃない。―――修理して何でもないモノだったら返すさ」
自分が欲しいもののヒントかもしれないものは全部欲しいからなと口角を上げている。そんなもの俺だって欲しいとシドはジトッとした目で睨みつけた。
◇
それから適当に家探しして村の宿に泊めてもらった。最新技術が適宜取り入れられ快適なもので満足だった。ガーロンド社が納品したであろう装置も沢山あったので外に出た者の名前を聞く。案の定先日ジェシーが連れて来た新入社員たちの名前もあった。もっと詳しく話をしていたらリンドウの情報ももう少しスムーズに手に入ったかもしれないと苦笑する。
ふとポンと音が鳴った。その正体を探ると日中にテッセンから貰った奇妙な装置が光っている。壊れてなかったのかと観察すると小さい光はしばらく点滅を続け、1時間もせずに再び消えてしまった。
―――後に知ったことだが、3人がこちらに来ていた間、一度アンナが帰って来たらしい。シドがいないのを確認した後、少し暗い顔をしてまた帰ったとジェシーから聞いた時、苦虫を嚙み潰したような顔を見せしばらく機嫌が直らなかった。
次の日、村人らに次なる取引の約束と共に見送られハヤブサで上空を飛ぶと空からでも終の棲家を確認出来た。妨害装置は解析が終了すればまた返しに来るとシドが電源を切り鞄の中に仕舞っている。次はアンナと2人で泊まりに行こうと笑みを浮かべた。
目を輝かせたネロとエルファーを青龍壁へ連れて行き、再び積み重なっているであろう仕事をすべく本社へと1人戻るのであった―――。
Wavebox
#シド光♀ #ヴィエラ♂+ネロ #リンドウ関連
旅人は、目覚めさせる
注意
次元の狭間オメガアルファ編4のお話。暁月終了後から逆算した独自設定。
―――昔からボクの中にはもう1人"ナニカ"が棲んでいた。
『奴らがいないのだから大丈夫だろう。こっちの"圧倒的な力"ってやつを見せてやろうじゃないか。―――』
『憎いか? 自分の無力さが。ケケッ、違う。数人お前の手から零してしまった原因は、"信仰"だ。サァ、存分にその力で千年に及んだ恨みの連鎖を止めてやろう。ほら、願えよ、―――ス』
『オトモダチが出来てよかったじゃないか。違うって? ヒヒッ分かってるって。オニイサマが許してくれないよなァ。……サァ、"アイツ"はこんな龍くらい一瞬で斬り捨てたんだぞ? 貪欲に願え、お前の目的を思い出せ、それを力にしろ―――エルダス』
内なる声が響き、最初は真っ黒に塗りつぶされていった記憶も徐々に鮮明になっていった。エオルゼアを訪れて以降刀身が赤黒く輝く頻度が増えている。アルテマウェポンを、トールダンを、ゼノス―――いや神龍を一閃したこの圧倒的な力は確かに命の恩人から授かったあの"気迫"に酷似したものだった。でも違う、フウガが教えてくれたのは白く、奇麗な流星みたいな力強い希望だったはず。こんな死の手前に絶望させるようなものじゃなかった。
その声は、何も応えてくれない。
◇
透明化とミニマムによって視認できなくなった身体で奇妙なチョコボアルファの上に乗り、アンナは考え込んでいた。ふと横に目をやると同じく息を殺したシドが正面を見つめている。視線に気が付いたようだ、笑顔を向けられるとアンナは目を逸らしシドの手を握った。
考える。オメガが求める解を、小さく弱い人類とやらの代表としてどう示してやろうかと。不完全だが、命の恩人から教えてもらった力があれば容易なはずだ。しかしこれまで溢れてしまった光は孤独な機械に見せつける例としては間違っているだろう。最適解に近付けるために思考を張り巡らせた。
ふとその手を握り返される。別に求めていたわけじゃないのに、莫迦な男だ。振りほどいてよと思いながらもその温かな手を感じ取る。今のボクは1人じゃない、そう思いながら笑顔を浮かべた。
その時、アンナの記憶の中で1つの出来事が引っかかる。それは初めてフウガが自分に圧倒的な力を見せた瞬間だった。
『フレイヤ!!』
お互い向き合って決めたはずの苗字で呼ぶことという規律も忘れ必死な顔で刀を抜き、感情を露わにしていた。それまでアンナの目に映ったフウガは厳しいけれど優しい不器用な旅人だった。だが、その時に見せたお人好しさと圧倒的な強さに憧れたことを思い出す。何度もお願いして根負けさせ、教えてもらったこの剣技をフウガは"気迫"と呼び、後に出会った男は"シハーブ"と呼んで2人は喧嘩していた。
最初こそは死にかけた。体内の自分を形成するものに必要な力を使い切りかけてしまったと後に伝えられる。もう二度と強くなれないのかと薄れゆく意識の中で考えていた記憶があった。しかし、奇跡的にアンナは目を覚まし、"あの時"とは真逆でずっとフウガは謝り続けていたのを今でも鮮明に覚えている。
それ以降からだ、フウガの修行が手に取るように理解出来るようになったのは。そして圧倒的な力を身に付けることになった。重い物を持ち上げようと思ったら軽く持ち上がり、速く走ろうと思ったら自然に足が動く。それでもあの"気迫"と呼んだ斬撃だけは完全に再現出来なかった。だが今、フウガに「それは旅を続ける中でゆっくり見つけろ」と言われていたことを思い出した。
『大切な護りたいものが見つかった時、それは応えてくれる』
森を懐かしんだアンナに船券を渡した際に語ったフウガの言葉だ。この時は理解が出来ず、そしてこれまで忘れていた。
改めて隣の男を見やる。あの寒空の夜に交わした約束を心の中で繰り返しながら、"出番"まで目を閉じた。
―――あの言葉が聞こえた気がした。
◇
アルファの上に乗り、オメガを追いかける。孤独で必死に走りクエと鳴く姿を見守りながらふと気が付く。そういえばアンナと2人きりで最終決戦に向かうのは初めてだな、と。この"賭け"が成功するかも分からない失われつつある空間で緊張しないわけがない。
ふとアンナの方を見ると目が合った。笑顔を向けてやると直ぐ様目を逸らされ冷ややかな質量がシドの手を包み込む。ここで新手のイタズラかからかいかと表情を伺うと手を握ったアンナは少しだけ不安そうな顔をしていた。『そうか、普段何度も1人戦いへ走っていくお前だってそういう感情があるんだな』と思うと少しだけ緊張が解けた気がした。そうだ、こっちは"オメガの誤算"が未だに失われていない。手を握り返すと少しだけ慌てたような目でこちらを伺っていたが直ぐ様いつもの不敵な笑顔を浮かべた。きっと振りほどいてほしかったのだろう。そんなことしてやるものか、待つ姿勢を見せるアンナにボソリと言葉を送る。
「絶対に生きて帰ってあいつを驚かせてやろうな」
目を閉じていたアンナの眉がピクリと動き、「ええ」と呟いた。シドはこれで人に対して特定の感情を抱く気がないのは嘘だろ、と苦笑する。冷たい体温に僅かな熱を渡しながら、最終決戦へ送り出すため転びながらもまた走り続ける勇気ある小さな存在に心の中でエールを送った。
―――アンナ、前に2つの間違いがあるって言ったよな? 違う。オメガはもっと致命的な勘違いをしてたんだ。それは、もう1匹の立派な仲間が頑張れたことさ。
◇
「本当に……よくがんばったな!」
「アルファ、えらい」
絶句するオメガの前にシドとアンナは立つ。
「さあ、オメガ……検証再開だッ!」
「最終決戦を始めるよ、オメガ」
不敵な笑みで同時に言葉を発した。銀球のオメガは人の形を模し、検証へと乗り出す。
アンナは思い切りぶっ飛ばしてこいと見送るシドとアルファにニィと笑顔を向ける。
「それじゃ―――あなたたちがこれから見たものは誰にも言わないでね? そして、どんなに怖くても、私を見届けてほしい」
踵を返し、オメガへ刀を向けた。
「弱き人類の想いというものを見せてあげる」
「真の強さとは何か、全て見せなさい!」
「勿論、叩き斬ってやるさ」
ニィと笑い、共に検証に立ち向かうのための"仲間"を呼び出した。
◇
オメガの多彩な攻撃、変化しながらの検証にアンナは軽く受け流す。シドはそれを息を飲み見守っていた。見た所笑顔を剥き出しにし斬りかかる姿はいつものアンナである。隠すようなものじゃないと考えながらこちらに被害を出さないよう戦う姿を観察した。
ふとアンナは立ち止まり、刀を構えたまま目を閉じる。一瞬2対のオメガはその姿に怯んだが、リミットブレイクを解放し、巨大なレーザーを放つ。対してアンナはニィと笑い、片方のオメガに斬りかかった。
その刀身は赤黒く輝いていた。これまで見せて来た侍としての技ではない。だがこの空気の震えは記憶がある。そう、あれは確かアジス・ラーに来た際、イゼルという氷の巫女が身を挺して帝国艦を退けた直後、火傷しそうな熱と共に感じた。あんなにも優しく笑顔を絶やさないが決して人に身を任せることがなかったアンナが初めて見せた怒りと涙だった。
「まずこれはビッグス、ウェッジ、ネロサンの分!」
その刀身は一瞬で女性体を切り裂いた。残った男性体のオメガは狼狽えながらもまた光線を向ける。だがアンナは何かを否定するように叫んだ。
「でも違う。私が見せたかったのは"これ"ではないんだ! 力を貸して、■■■!!」
次の瞬間、空気の震えは止まり全ての音が消え去った。一瞬だけこちらを見やったアンナの表情にシドは息を飲む。
◆
―――違う。これじゃダメ。
アンナは大きく息を吸い、吐いた。ちらりとシドとアルファを伺うと驚いた顔を向けている。これ位で驚いたら困るさとニィと笑った。
―――見てるんでしょう? あの人たちを護る力の使い方を、ボクに教えて。
『ああ。そうだな、そろそろ教えてあげようじゃないか。人を護る、想いの力ってやつを。―――"いつも通り"に1回で覚えろよ? フレイヤ・エルダス』
あの声が聞こえた。その瞬間意識が真っ黒に包まれかけるが目を見開き、刀を掲げる。
『お前が大事にしたいニンゲンのことを強く想え。それが力になるって"アイツ"も言ってたろ?』
―――嗚呼この光は知っている。フウガ、君の領域にボクは、行くよ。
そして、ねえシド。これらを見てもまだボクを好きでいる気なの? 私を捨てて幸せになって。
◆
「オメガ、むかーしむかし文献で読んだことがある。遠くの星から龍を追い飛来してきた孤独な宇宙生命体。すっごく面白かったんだぜ?」
小さな声だが確実に聞こえたオメガは一瞬その言葉で攻撃の手を止める。赤色の光を放つ刀身を構え、正面の女は目を細めた。
「あーあ、浪漫を感じていたのに実際見てみりゃおうちに帰るためこんな独りよがりのお人形遊びとは情けない。そんじゃ―――"オマエ"に存在しない人類の強みを見せてやるよ。その視覚センサーかっぽじって"ボク"……じゃなかった"私"を見な。目を逸らすなよ? まずさっきのが、怒りという感情だ」
口が三日月のように歪んだ笑顔を見せた女の持つ刀が次の瞬間その赤黒い光が消え去り青白く輝いていく。オメガは目を見開き、光を乱射させる。
「そしてこれが、必殺"シハーブ"。この子の強い"大切な人を想う心"の具現化だ。この"最高傑作"を受け取りなァ!!」
その光線ごと切り裂きながら一瞬で間合いに入り斬撃を放った。描いた軌跡はまるで流星のように相手に向けて長い尾を引き迫り光り輝いく。
オメガの目には確かに正面に存在していたはずの長身のヴィエラが霞み、別の姿が映っていた。びしゃりと水たまり状になる姿をただ歪み切った笑顔で見下していた。音の消えた空間でケラケラと笑い、刀を鞘に納める。やがて軽くため息を吐き目を閉じ、シドとアルファの方へと振り向いた。
「―――ただいま」
ゆっくりと歩み寄りながら、"それ"は女の笑顔に変わっていく。"バケモノ"の存在をアルファに伝えようと形取り彼女に手を伸ばそうとするが倒れ込んでしまう。隣の男の制止を振り切りアルファが駆け寄ってきた。アルファ、彼女を信じてはいけない。そこの男も聞いてほしい、あの言葉が聞こえなかったのか? このログを見て、本当にあなた方はこの"バケモノ"を仲間と認めるのかその疑問を聞いてほしかった。
理解不能。仮に"心"を持つことが出来ても"これ"に勝てたのかも今や知る由もない。負けを認め、すり寄るアルファに対し目を閉じて言葉を発した。
◇
フレースヴェルグの背に乗り、シドはアンナを眺めている。空気を震わせた赤黒い光から静かに青白い光へと変貌した刃―――あれが"気迫"なのだろうか。聞こうと思ったが秘密にしろという約束を交わしていたことを思い出し、開きかけた口を噤んだ。
アルファが心配そうな顔でアンナの衣服の裾を引っ張る。「どうしたの?」と言いながら頭をガシガシと撫でるとクェクェと鳴きながら喜んでいた。
「心配してくれてありがとう。"私"は、大丈夫」
アルファを撫でながらアンナはシドに笑いかけた。
「アルファ、さっきは怖かったでしょ? ごめん」
きょとんとした顔を見せている。その顔を見てアンナは苦笑した。
「え? 怖くなかった?」
クエッと一鳴きし、輝かしい笑顔を向けている姿にシドは笑いを我慢することが出来なかった。アンナはシドをジトっとした目で睨んでいる。
「すまんすまん」
「……なるほどこれが恋は盲目」
「何か言ったか?」
「別に」
ため息を吐き苦笑を見せていた。よく分からないが釣られて笑ってしまう。すると飛翔する龍はアンナに語りかける。
『人の子よ、一瞬空間自体が震え、ざわめいた。あれはお主のものなのか?』
「フレースヴェルグ……"私"は何もしてないよ。ただ、感情に身を任せただけ」
『その行為、人ならざる者に堕ちないよう気を付けることだ』
「忠告ありがとう。でももう遅い―――数十年ほどね」
『―――そのようだな』
アンナは自分の右手を見つめ、目を閉じた。過去に何があったのか、聞こうと思ったがそれを探すのが"宿題"なのだろう。
消えゆく空間に浮かぶ星々を見つめ、アンナを見やった。先程起こったことに関しては恐怖の感情がないというと嘘になる。ただそれ以上に気分が高揚していた。新たな未知の技術を宿した女性に対しての技術者としての本能が震えている。誰かと違い文字通り全てを解析し明かしてしまいたいわけではない。ただ焦がしつけられた心が確実にその先を見たがっていた。
飛び立つ龍を見送りながらシドはアンナの隣に立つ。一瞬だけ冷ややかな質量と音がシドの耳元を掠った。アンナは何も言わず事変の終わりを喜ぶビッグスとウェッジに満面な笑顔を浮かべ親指を立てている。聞こえた音は間違いない、「"私"の傍にいてくれて、ありがとう」という声だった。顔がみるみると熱くなる。美しい青空の下、アンナの背中を叩きながら「さあラールガーズリーチに戻るぞ、英雄の凱旋だ」とそのこみ上がる嬉しさを誤魔化しながら笑い合った―――。
Wavebox
#シド光♀
次元の狭間オメガアルファ編4のお話。暁月終了後から逆算した独自設定。
―――昔からボクの中にはもう1人"ナニカ"が棲んでいた。
『奴らがいないのだから大丈夫だろう。こっちの"圧倒的な力"ってやつを見せてやろうじゃないか。―――』
『憎いか? 自分の無力さが。ケケッ、違う。数人お前の手から零してしまった原因は、"信仰"だ。サァ、存分にその力で千年に及んだ恨みの連鎖を止めてやろう。ほら、願えよ、―――ス』
『オトモダチが出来てよかったじゃないか。違うって? ヒヒッ分かってるって。オニイサマが許してくれないよなァ。……サァ、"アイツ"はこんな龍くらい一瞬で斬り捨てたんだぞ? 貪欲に願え、お前の目的を思い出せ、それを力にしろ―――エルダス』
内なる声が響き、最初は真っ黒に塗りつぶされていった記憶も徐々に鮮明になっていった。エオルゼアを訪れて以降刀身が赤黒く輝く頻度が増えている。アルテマウェポンを、トールダンを、ゼノス―――いや神龍を一閃したこの圧倒的な力は確かに命の恩人から授かったあの"気迫"に酷似したものだった。でも違う、フウガが教えてくれたのは白く、奇麗な流星みたいな力強い希望だったはず。こんな死の手前に絶望させるようなものじゃなかった。
その声は、何も応えてくれない。
◇
透明化とミニマムによって視認できなくなった身体で奇妙なチョコボアルファの上に乗り、アンナは考え込んでいた。ふと横に目をやると同じく息を殺したシドが正面を見つめている。視線に気が付いたようだ、笑顔を向けられるとアンナは目を逸らしシドの手を握った。
考える。オメガが求める解を、小さく弱い人類とやらの代表としてどう示してやろうかと。不完全だが、命の恩人から教えてもらった力があれば容易なはずだ。しかしこれまで溢れてしまった光は孤独な機械に見せつける例としては間違っているだろう。最適解に近付けるために思考を張り巡らせた。
ふとその手を握り返される。別に求めていたわけじゃないのに、莫迦な男だ。振りほどいてよと思いながらもその温かな手を感じ取る。今のボクは1人じゃない、そう思いながら笑顔を浮かべた。
その時、アンナの記憶の中で1つの出来事が引っかかる。それは初めてフウガが自分に圧倒的な力を見せた瞬間だった。
『フレイヤ!!』
お互い向き合って決めたはずの苗字で呼ぶことという規律も忘れ必死な顔で刀を抜き、感情を露わにしていた。それまでアンナの目に映ったフウガは厳しいけれど優しい不器用な旅人だった。だが、その時に見せたお人好しさと圧倒的な強さに憧れたことを思い出す。何度もお願いして根負けさせ、教えてもらったこの剣技をフウガは"気迫"と呼び、後に出会った男は"シハーブ"と呼んで2人は喧嘩していた。
最初こそは死にかけた。体内の自分を形成するものに必要な力を使い切りかけてしまったと後に伝えられる。もう二度と強くなれないのかと薄れゆく意識の中で考えていた記憶があった。しかし、奇跡的にアンナは目を覚まし、"あの時"とは真逆でずっとフウガは謝り続けていたのを今でも鮮明に覚えている。
それ以降からだ、フウガの修行が手に取るように理解出来るようになったのは。そして圧倒的な力を身に付けることになった。重い物を持ち上げようと思ったら軽く持ち上がり、速く走ろうと思ったら自然に足が動く。それでもあの"気迫"と呼んだ斬撃だけは完全に再現出来なかった。だが今、フウガに「それは旅を続ける中でゆっくり見つけろ」と言われていたことを思い出した。
『大切な護りたいものが見つかった時、それは応えてくれる』
森を懐かしんだアンナに船券を渡した際に語ったフウガの言葉だ。この時は理解が出来ず、そしてこれまで忘れていた。
改めて隣の男を見やる。あの寒空の夜に交わした約束を心の中で繰り返しながら、"出番"まで目を閉じた。
―――あの言葉が聞こえた気がした。
◇
アルファの上に乗り、オメガを追いかける。孤独で必死に走りクエと鳴く姿を見守りながらふと気が付く。そういえばアンナと2人きりで最終決戦に向かうのは初めてだな、と。この"賭け"が成功するかも分からない失われつつある空間で緊張しないわけがない。
ふとアンナの方を見ると目が合った。笑顔を向けてやると直ぐ様目を逸らされ冷ややかな質量がシドの手を包み込む。ここで新手のイタズラかからかいかと表情を伺うと手を握ったアンナは少しだけ不安そうな顔をしていた。『そうか、普段何度も1人戦いへ走っていくお前だってそういう感情があるんだな』と思うと少しだけ緊張が解けた気がした。そうだ、こっちは"オメガの誤算"が未だに失われていない。手を握り返すと少しだけ慌てたような目でこちらを伺っていたが直ぐ様いつもの不敵な笑顔を浮かべた。きっと振りほどいてほしかったのだろう。そんなことしてやるものか、待つ姿勢を見せるアンナにボソリと言葉を送る。
「絶対に生きて帰ってあいつを驚かせてやろうな」
目を閉じていたアンナの眉がピクリと動き、「ええ」と呟いた。シドはこれで人に対して特定の感情を抱く気がないのは嘘だろ、と苦笑する。冷たい体温に僅かな熱を渡しながら、最終決戦へ送り出すため転びながらもまた走り続ける勇気ある小さな存在に心の中でエールを送った。
―――アンナ、前に2つの間違いがあるって言ったよな? 違う。オメガはもっと致命的な勘違いをしてたんだ。それは、もう1匹の立派な仲間が頑張れたことさ。
◇
「本当に……よくがんばったな!」
「アルファ、えらい」
絶句するオメガの前にシドとアンナは立つ。
「さあ、オメガ……検証再開だッ!」
「最終決戦を始めるよ、オメガ」
不敵な笑みで同時に言葉を発した。銀球のオメガは人の形を模し、検証へと乗り出す。
アンナは思い切りぶっ飛ばしてこいと見送るシドとアルファにニィと笑顔を向ける。
「それじゃ―――あなたたちがこれから見たものは誰にも言わないでね? そして、どんなに怖くても、私を見届けてほしい」
踵を返し、オメガへ刀を向けた。
「弱き人類の想いというものを見せてあげる」
「真の強さとは何か、全て見せなさい!」
「勿論、叩き斬ってやるさ」
ニィと笑い、共に検証に立ち向かうのための"仲間"を呼び出した。
◇
オメガの多彩な攻撃、変化しながらの検証にアンナは軽く受け流す。シドはそれを息を飲み見守っていた。見た所笑顔を剥き出しにし斬りかかる姿はいつものアンナである。隠すようなものじゃないと考えながらこちらに被害を出さないよう戦う姿を観察した。
ふとアンナは立ち止まり、刀を構えたまま目を閉じる。一瞬2対のオメガはその姿に怯んだが、リミットブレイクを解放し、巨大なレーザーを放つ。対してアンナはニィと笑い、片方のオメガに斬りかかった。
その刀身は赤黒く輝いていた。これまで見せて来た侍としての技ではない。だがこの空気の震えは記憶がある。そう、あれは確かアジス・ラーに来た際、イゼルという氷の巫女が身を挺して帝国艦を退けた直後、火傷しそうな熱と共に感じた。あんなにも優しく笑顔を絶やさないが決して人に身を任せることがなかったアンナが初めて見せた怒りと涙だった。
「まずこれはビッグス、ウェッジ、ネロサンの分!」
その刀身は一瞬で女性体を切り裂いた。残った男性体のオメガは狼狽えながらもまた光線を向ける。だがアンナは何かを否定するように叫んだ。
「でも違う。私が見せたかったのは"これ"ではないんだ! 力を貸して、■■■!!」
次の瞬間、空気の震えは止まり全ての音が消え去った。一瞬だけこちらを見やったアンナの表情にシドは息を飲む。
◆
―――違う。これじゃダメ。
アンナは大きく息を吸い、吐いた。ちらりとシドとアルファを伺うと驚いた顔を向けている。これ位で驚いたら困るさとニィと笑った。
―――見てるんでしょう? あの人たちを護る力の使い方を、ボクに教えて。
『ああ。そうだな、そろそろ教えてあげようじゃないか。人を護る、想いの力ってやつを。―――"いつも通り"に1回で覚えろよ? フレイヤ・エルダス』
あの声が聞こえた。その瞬間意識が真っ黒に包まれかけるが目を見開き、刀を掲げる。
『お前が大事にしたいニンゲンのことを強く想え。それが力になるって"アイツ"も言ってたろ?』
―――嗚呼この光は知っている。フウガ、君の領域にボクは、行くよ。
そして、ねえシド。これらを見てもまだボクを好きでいる気なの? 私を捨てて幸せになって。
◆
「オメガ、むかーしむかし文献で読んだことがある。遠くの星から龍を追い飛来してきた孤独な宇宙生命体。すっごく面白かったんだぜ?」
小さな声だが確実に聞こえたオメガは一瞬その言葉で攻撃の手を止める。赤色の光を放つ刀身を構え、正面の女は目を細めた。
「あーあ、浪漫を感じていたのに実際見てみりゃおうちに帰るためこんな独りよがりのお人形遊びとは情けない。そんじゃ―――"オマエ"に存在しない人類の強みを見せてやるよ。その視覚センサーかっぽじって"ボク"……じゃなかった"私"を見な。目を逸らすなよ? まずさっきのが、怒りという感情だ」
口が三日月のように歪んだ笑顔を見せた女の持つ刀が次の瞬間その赤黒い光が消え去り青白く輝いていく。オメガは目を見開き、光を乱射させる。
「そしてこれが、必殺"シハーブ"。この子の強い"大切な人を想う心"の具現化だ。この"最高傑作"を受け取りなァ!!」
その光線ごと切り裂きながら一瞬で間合いに入り斬撃を放った。描いた軌跡はまるで流星のように相手に向けて長い尾を引き迫り光り輝いく。
オメガの目には確かに正面に存在していたはずの長身のヴィエラが霞み、別の姿が映っていた。びしゃりと水たまり状になる姿をただ歪み切った笑顔で見下していた。音の消えた空間でケラケラと笑い、刀を鞘に納める。やがて軽くため息を吐き目を閉じ、シドとアルファの方へと振り向いた。
「―――ただいま」
ゆっくりと歩み寄りながら、"それ"は女の笑顔に変わっていく。"バケモノ"の存在をアルファに伝えようと形取り彼女に手を伸ばそうとするが倒れ込んでしまう。隣の男の制止を振り切りアルファが駆け寄ってきた。アルファ、彼女を信じてはいけない。そこの男も聞いてほしい、あの言葉が聞こえなかったのか? このログを見て、本当にあなた方はこの"バケモノ"を仲間と認めるのかその疑問を聞いてほしかった。
理解不能。仮に"心"を持つことが出来ても"これ"に勝てたのかも今や知る由もない。負けを認め、すり寄るアルファに対し目を閉じて言葉を発した。
◇
フレースヴェルグの背に乗り、シドはアンナを眺めている。空気を震わせた赤黒い光から静かに青白い光へと変貌した刃―――あれが"気迫"なのだろうか。聞こうと思ったが秘密にしろという約束を交わしていたことを思い出し、開きかけた口を噤んだ。
アルファが心配そうな顔でアンナの衣服の裾を引っ張る。「どうしたの?」と言いながら頭をガシガシと撫でるとクェクェと鳴きながら喜んでいた。
「心配してくれてありがとう。"私"は、大丈夫」
アルファを撫でながらアンナはシドに笑いかけた。
「アルファ、さっきは怖かったでしょ? ごめん」
きょとんとした顔を見せている。その顔を見てアンナは苦笑した。
「え? 怖くなかった?」
クエッと一鳴きし、輝かしい笑顔を向けている姿にシドは笑いを我慢することが出来なかった。アンナはシドをジトっとした目で睨んでいる。
「すまんすまん」
「……なるほどこれが恋は盲目」
「何か言ったか?」
「別に」
ため息を吐き苦笑を見せていた。よく分からないが釣られて笑ってしまう。すると飛翔する龍はアンナに語りかける。
『人の子よ、一瞬空間自体が震え、ざわめいた。あれはお主のものなのか?』
「フレースヴェルグ……"私"は何もしてないよ。ただ、感情に身を任せただけ」
『その行為、人ならざる者に堕ちないよう気を付けることだ』
「忠告ありがとう。でももう遅い―――数十年ほどね」
『―――そのようだな』
アンナは自分の右手を見つめ、目を閉じた。過去に何があったのか、聞こうと思ったがそれを探すのが"宿題"なのだろう。
消えゆく空間に浮かぶ星々を見つめ、アンナを見やった。先程起こったことに関しては恐怖の感情がないというと嘘になる。ただそれ以上に気分が高揚していた。新たな未知の技術を宿した女性に対しての技術者としての本能が震えている。誰かと違い文字通り全てを解析し明かしてしまいたいわけではない。ただ焦がしつけられた心が確実にその先を見たがっていた。
飛び立つ龍を見送りながらシドはアンナの隣に立つ。一瞬だけ冷ややかな質量と音がシドの耳元を掠った。アンナは何も言わず事変の終わりを喜ぶビッグスとウェッジに満面な笑顔を浮かべ親指を立てている。聞こえた音は間違いない、「"私"の傍にいてくれて、ありがとう」という声だった。顔がみるみると熱くなる。美しい青空の下、アンナの背中を叩きながら「さあラールガーズリーチに戻るぞ、英雄の凱旋だ」とそのこみ上がる嬉しさを誤魔化しながら笑い合った―――。
Wavebox
#シド光♀
旅人を闇は抱きしめる
注意
シド光♀前提のエメ→光♀です。漆黒ストーリー中盤辺り。
―――あの人の露骨に嫌そうな顔を見て、これは守らないといけないと俺は決心したのだ。
「ウリエンジェ、少々よろしいか?」
「どうされましたか、水晶公」
秘密裏に協力して貰っているあの人の仲間、ウリエンジェを呼び止める。
「アンナとエメトセルクをなるべくでいい、2人きりにしないように誘導してもらえないだろうか」
「構いませんが……貴方はお二方の関係もご存じなのですか?」
「勿論。その内本人の口から話をすると思われるから詳細は避けよう。……アンナは彼とは一度しか会わず、アシエンだったということも知らずに英雄となったことだけは伝えておきたい」
「それが聞けただけ安心しました。昨日エメトセルクが挨拶に来た際、ものすごく動揺していたのを見て私たちは心配しておりました」
皆になるべく付いて行くよう進言しておきましょう、と言いながら去る姿を見送り、自分のやるべきことに戻る。
◇
何かがおかしい、アンナは考え込む。
絶対に暁の誰かが付いてきている。今までは個人行動が多かった気がするのだがラケティカ大森林に行くことになった時以降、誰かが隣にいた。まあエオルゼアと違って危険すぎる世界だ。手の届く範囲で彼らを守ることができるのは嬉しい話なのでそこは気にしない。あとは彼らがいる際はあまりエメトセルクが干渉してこないというのも大きい。大体皆が対応してくれて自分はニコニコ笑うだけでいいというのは楽な話だ。胃の痛みが抑えられているのも確かだ。
まあ流石にペンダント居住区の自室までは来ないのでその隙をついて滅茶苦茶滞在している。寂しがりのお爺ちゃんみたいだ。言ったらどんな嫌味が飛んで来るか面倒で考えたくないから黙っている。
ボクはある日「この手紙、あなたが犯人ってコトでいい?」と聞くと何も悪びれずに「そうだ」と言いやがったのは少々イラっとした。
「お前にやらせようと思っていたことは曾孫のゼノスがやってくれたからな邪魔になったんだよ」
「こんな無名の旅人に破られる程度のヒトしか集められなかった方に問題があるんじゃな―――ッ」
バランスを崩し、目の前には明らかにお怒りなエメトセルク。なるほどこれが押し倒される側ってやつか覚えておこうと呑気に考える自分の脳が少し怖かった。
「バケモノが何を言っている。楽しかったか? 人間ごっこは。エオルゼア全体を騙し英雄とちやほやされて」
「ナイスジョーク。痛いから離してもらいたい」
押さえつける腕を強引に掴み抵抗しようとするがビクともしない。まるで全身に重りを固定されたかのようだ。いい機会だ、あの件も聞いておこう。帝国兵に伝わる奇妙な話の真相を。
「ていうか手紙だけじゃない。なんなのあの怪談、ふざけないで」
「嗚呼鮮血の赤兎のことか? アレは兵が勝手に作った話だ私は何もしていない」
「……それ以外やらかしてない?」
「嗚呼一部隊お前を追いかけさせて報告させてた位か?」
「やらかしてるじゃないか! いつか国ごと燃やす!! ていうか本当に痛いから離して!」
この男は人のことを一切考えず押さえつける力が容赦ない。ていうか何がしたいんだと。話するだけならばそこに立ってればいい。これではまるで―――。
「お前が記憶に残りたくないと言うから忘れられないようにしてやった。感謝してほしいくらいだが?」
「いらない」
金の双眸が睨みつける様に笑顔を浮かべる。段々思い出してきた。あの頃、どういう感情でこの男を見たのかを。アシエンだということが分かればあの夜何をしでかしたのも予想が付く。
以前ヤ・シュトラが『奥底に闇の杭が打たれ、何者かの手によって一度エーテル、というより魂そのものに操作を施されたような形跡がある』と言っていた。これは目の前の男によるエーテル操作。目的は自分を逃がさないために施した永遠に消えない疵。出会うアシエンが一瞬詰まるようなリアクションをするのも当然である。彼は本気で帝国の狗にさせる気満々だったのだ。
―――実際は幼い頃のあの人によって防がれてしまったのだが。愉快なことこの上ない。ゲラゲラと笑いたい感情を隠し不敵な笑みで睨み返してやる。
当然、アシエンだと知った時は怖く感じていた。だが、『でもコイツ子供に自分の計画阻止されたんだよな』と思うと全く恐怖はなかった。
「あの頃のボクだと思うなよ?」
「勿論だ腑抜けた兎がどこまで足掻けるか期待しているぞ?」
「守るべきものが出来たと言っていただきたい」
ボクは「バァン」と言いながら襟を焦がしてやると反射的にキレて離れてくれた。その後思いっきり鳩尾にエーテルの塊を一発喰らう。だがニィと歯を見せ耐えてみせた。
「"私"にどけって言ってどいてくれなかった陛下サマが悪い」
「普通なりそこないはここで倒れると思うんだがお前はどういう体の作りをしている」
「沢山旅をするとこうなるさ」
「普通はならん」
どうしてこうなっているかはこっちが聞きたいんだよなと思う。いつの間にか無駄に強くなった理由なんて聞かれたら"ボク"は困惑しかできない。
「バケモノが」
「今と違う人類のアシエンってやつに言われて嬉しいねェ」
ニィと笑いこみ上がる吐き気を抑える。
嗚呼闇が恋しいよ。胸の奥にある残り続ける僅かな闇と2つの輝く白い星を抱きしめた。
ふと目の前が黒に支配される。柔らかく包まれ、"ボク"は目を閉じた。
ボクには3人の命の恩人がいる。広かったけど狭い森の中で育った子供のボクに世界を教えてくれたヒト、私に空への道を示してくれたヒト、そして―――
Wavebox
シド光♀前提のエメ→光♀です。漆黒ストーリー中盤辺り。
―――あの人の露骨に嫌そうな顔を見て、これは守らないといけないと俺は決心したのだ。
「ウリエンジェ、少々よろしいか?」
「どうされましたか、水晶公」
秘密裏に協力して貰っているあの人の仲間、ウリエンジェを呼び止める。
「アンナとエメトセルクをなるべくでいい、2人きりにしないように誘導してもらえないだろうか」
「構いませんが……貴方はお二方の関係もご存じなのですか?」
「勿論。その内本人の口から話をすると思われるから詳細は避けよう。……アンナは彼とは一度しか会わず、アシエンだったということも知らずに英雄となったことだけは伝えておきたい」
「それが聞けただけ安心しました。昨日エメトセルクが挨拶に来た際、ものすごく動揺していたのを見て私たちは心配しておりました」
皆になるべく付いて行くよう進言しておきましょう、と言いながら去る姿を見送り、自分のやるべきことに戻る。
◇
何かがおかしい、アンナは考え込む。
絶対に暁の誰かが付いてきている。今までは個人行動が多かった気がするのだがラケティカ大森林に行くことになった時以降、誰かが隣にいた。まあエオルゼアと違って危険すぎる世界だ。手の届く範囲で彼らを守ることができるのは嬉しい話なのでそこは気にしない。あとは彼らがいる際はあまりエメトセルクが干渉してこないというのも大きい。大体皆が対応してくれて自分はニコニコ笑うだけでいいというのは楽な話だ。胃の痛みが抑えられているのも確かだ。
まあ流石にペンダント居住区の自室までは来ないのでその隙をついて滅茶苦茶滞在している。寂しがりのお爺ちゃんみたいだ。言ったらどんな嫌味が飛んで来るか面倒で考えたくないから黙っている。
ボクはある日「この手紙、あなたが犯人ってコトでいい?」と聞くと何も悪びれずに「そうだ」と言いやがったのは少々イラっとした。
「お前にやらせようと思っていたことは曾孫のゼノスがやってくれたからな邪魔になったんだよ」
「こんな無名の旅人に破られる程度のヒトしか集められなかった方に問題があるんじゃな―――ッ」
バランスを崩し、目の前には明らかにお怒りなエメトセルク。なるほどこれが押し倒される側ってやつか覚えておこうと呑気に考える自分の脳が少し怖かった。
「バケモノが何を言っている。楽しかったか? 人間ごっこは。エオルゼア全体を騙し英雄とちやほやされて」
「ナイスジョーク。痛いから離してもらいたい」
押さえつける腕を強引に掴み抵抗しようとするがビクともしない。まるで全身に重りを固定されたかのようだ。いい機会だ、あの件も聞いておこう。帝国兵に伝わる奇妙な話の真相を。
「ていうか手紙だけじゃない。なんなのあの怪談、ふざけないで」
「嗚呼鮮血の赤兎のことか? アレは兵が勝手に作った話だ私は何もしていない」
「……それ以外やらかしてない?」
「嗚呼一部隊お前を追いかけさせて報告させてた位か?」
「やらかしてるじゃないか! いつか国ごと燃やす!! ていうか本当に痛いから離して!」
この男は人のことを一切考えず押さえつける力が容赦ない。ていうか何がしたいんだと。話するだけならばそこに立ってればいい。これではまるで―――。
「お前が記憶に残りたくないと言うから忘れられないようにしてやった。感謝してほしいくらいだが?」
「いらない」
金の双眸が睨みつける様に笑顔を浮かべる。段々思い出してきた。あの頃、どういう感情でこの男を見たのかを。アシエンだということが分かればあの夜何をしでかしたのも予想が付く。
以前ヤ・シュトラが『奥底に闇の杭が打たれ、何者かの手によって一度エーテル、というより魂そのものに操作を施されたような形跡がある』と言っていた。これは目の前の男によるエーテル操作。目的は自分を逃がさないために施した永遠に消えない疵。出会うアシエンが一瞬詰まるようなリアクションをするのも当然である。彼は本気で帝国の狗にさせる気満々だったのだ。
―――実際は幼い頃のあの人によって防がれてしまったのだが。愉快なことこの上ない。ゲラゲラと笑いたい感情を隠し不敵な笑みで睨み返してやる。
当然、アシエンだと知った時は怖く感じていた。だが、『でもコイツ子供に自分の計画阻止されたんだよな』と思うと全く恐怖はなかった。
「あの頃のボクだと思うなよ?」
「勿論だ腑抜けた兎がどこまで足掻けるか期待しているぞ?」
「守るべきものが出来たと言っていただきたい」
ボクは「バァン」と言いながら襟を焦がしてやると反射的にキレて離れてくれた。その後思いっきり鳩尾にエーテルの塊を一発喰らう。だがニィと歯を見せ耐えてみせた。
「"私"にどけって言ってどいてくれなかった陛下サマが悪い」
「普通なりそこないはここで倒れると思うんだがお前はどういう体の作りをしている」
「沢山旅をするとこうなるさ」
「普通はならん」
どうしてこうなっているかはこっちが聞きたいんだよなと思う。いつの間にか無駄に強くなった理由なんて聞かれたら"ボク"は困惑しかできない。
「バケモノが」
「今と違う人類のアシエンってやつに言われて嬉しいねェ」
ニィと笑いこみ上がる吐き気を抑える。
嗚呼闇が恋しいよ。胸の奥にある残り続ける僅かな闇と2つの輝く白い星を抱きしめた。
ふと目の前が黒に支配される。柔らかく包まれ、"ボク"は目を閉じた。
ボクには3人の命の恩人がいる。広かったけど狭い森の中で育った子供のボクに世界を教えてくれたヒト、私に空への道を示してくれたヒト、そして―――
Wavebox
旅人は暗闇の過去に逢う
注意
漆黒ネタバレ。
「これは失敬。同胞を消滅させた英雄の前だからな。恐ろしくて、つい保険をかけてしまった。ガーネットという獣が怖くてねえ」
「ガー」
「ネッ」
「ト……?」
「違う!!」
ボクの反射的に出た叫び声がクリスタリウムに響いた。
「うるさいじゃないか、赤兎。嗚呼今はアンナと言ったっけか? 英雄殿」
「知らない。初対面」
後ろからの視線が痛い。あまりにも露骨に反応を見せてしまった事を後悔している。
アシエン・エメトセルクーーー厄介な因縁が今更になって現れた。
皇帝ソル、忘れる筈もない。あの寒空の国を治め、対面してしまった男。死んだと思っていたが実はアシエンだったということを知ったのはつい最近。嫌な予感がする。どこかで鉢合わせして殴り合わないといけないとは察していた。しかしその真実を突き付けられた現場には暁のメンバーはアリゼーしかいなかったので言う気がしなかった。理由は簡単、一々説明が面倒だからである。第一世界で合流し始めた今これを機に暁の人間位には言っておかないといけない。なんて分かっていてもこれはあまりにも現実離れした話。いつ切り出したらいいものかと悩んでいたが―――まさかここで会い、よりにもよって昔の名前を呼びやがるとは。
「なんだ、誰も知らないのか? まあ言えるわけないか。ではな、諸君……またすぐに会おう」
それだけ言ってエメトセルクは闇の中へと消えて行った。この気まずい状況を作った本人が真っ先に逃げやがった。
「アンナ」
「知らない人。あのアシエンは、今が初対面だ」
吐き捨てるように嘘をついた。いやあの男がアシエンとして会ったのは初めてだから間違っていない。ただ動揺しすぎて言葉がまとまらない。胃も痛くなってきた。今日はもう寝たい。
◇
「ねえどう思う?」
「アンナのことか? 彼女はよく分からないからどうにも言えんが……まあ喋ってくれるのを待つしか出来ないだろ」
あの後アンナは暗い顔でペンダント居住区方向へ歩いて行った。ガーネットとはと聞いても「昔名乗ってた名前。いつか話す」としか言われなかった。今更彼女が帝国と繋がっていると思ってはいないが―――。
「そういえばヴァリス帝との話し合いで初代皇帝がアシエンだったという言葉を聞いた時一番衝撃を受けてたのはアンナだったわ。……ガイウスも赤兎って呼んでた。話を聞く前にこっちに来ちゃったんだけど」
「彼女をいくら調べても過去は出てきませんでした。話したくないというよりかはどこか」
英雄として活躍してきた彼女を今更疑っているわけではない。しかし何も語らないというのはこれまで共に冒険してきた仲間として寂しい所もある。
「アンナ、言ってくれないと分からないじゃないか」
アルフィノの弱弱しい声が空に消えた。
◆
ネロサン、ガイウスと来て次はご本人登場か! 余計なこと言いやがって! ペンダント居住区の一室でボクはそう叫ぼうとした口を必死に塞ぐ。
奴がトラウマだとかそういうわけではない。ただ会った時期が人に言いたくない過去なのだ。
アルバートがボクを不審げな目で見ている。観念して少しだけ話をした。
「私、昔エメトセルクに会ったことがあった。いや正しく言うとガレマール帝国初代皇帝に直接会ったことがある」
「そうなのか? ていうかお前は何歳なんだよ」
「ヒミツ。当時ガーネットって名乗った。髪の色も赤かったし服はそこらの屍体から取ってて。ヴィエラは珍しい存在。フードで耳を隠し、胸は弓を引くためにサラシを巻いた。人から見たら怖かったのかも、沢山襲われて返り討ちにしたりね。今と全然違う生活してた」
「おいおい英雄とは程遠い存在じゃないか。それで、そのアシエンと何があったんだ?」
少しだけ語った。特に何かしたわけじゃない。偶然大きな箱が置いてあってその中で寝てる間に積み荷と一緒に運ばれたらしく気が付いたらガレマール帝国にいた。ボクを捕まえようとする兵士を気絶させながら無我夢中に逃げ、城の中に。目の前に扉があったから入ったらなんと皇帝の寝室。初代皇帝サマとのご対面だった。
「いやあビックリ。相手の変なものを見た顔も面白かったね」
「無法か!」
「まあそこで一晩お付き合いするのと引き換えに外に放逐する約束をした」
アルバートがむせている。「私は最近まで処女だったからね?」と言うと「いらん! その情報は今必要ない!」と顔を真っ赤にしながら手で覆っている。
「色々あって何かバリバリと身体の一部を引き剥がされるほど痛い事はあったけど性行為はしていない。……以前仲間が『貴方はエーテルで多少内面が操作された形跡がある』って言ってたんだけど多分その時の傷」
「意味が分からん」
「私も意味分かんなかった。……次の日彼の使用人から新しい服一式貰って。帝国領外に運んでもらった」
あなたなら絶対に誰にも漏らさないから話したんだよ? って振ると「まあ物理的にお前以外から見えないしな」とぼやく。知ってる、だから話をしたのだ。少しだけ心が軽くなった気がする。
「ありがとね、明日以降奴に会ってもキレ散らかしはしなさそう」
「だったらいいんだけどな。ていうかそれなら周りに素直に言えばいいだろ?」
「……全員揃ってない内に話すのはなって」
「勝手にやってろ」
アルバートはため息を吐き、消えていく。私は久々に少々泣いてしまった。こんなにも苦しい時に限って、シドの声を聞く事が出来ないのだから。
◆
正直期待以上の反応を見せてくれた。正直彼女に渡す予定だった『役割』は曾孫がやったのだから最早必要のない厄介な女だったが、内包された【魂】で捨てきれない存在。かつての獣のように奔る赤兎なら自分の思想も【理解】、いや【約束】を守り手を取っただろう。小さな国民によって阻まれ、彼女を捕えることが出来なかったのが計算外だった。その後ヘタクソな偽装をしてきやがったので死んだ事にしてやったがまさかハイデリンに選ばれ英雄となり私の目の前に現れるとは。黒薔薇でなりそこない共を絶望させるための見せしめに殺してやろうと思ったが今第一世界の地に立っている。殺し合いをするだけなら簡単である。しかし改めて話し合いをすることで【約束】ではなく【理解】を示すかもしれない。牙を抜かれたお前がどれだけ戦えるか、楽しみにしているぞ? 鮮血の赤兎よ―――
Wavebox
漆黒ネタバレ。
「これは失敬。同胞を消滅させた英雄の前だからな。恐ろしくて、つい保険をかけてしまった。ガーネットという獣が怖くてねえ」
「ガー」
「ネッ」
「ト……?」
「違う!!」
ボクの反射的に出た叫び声がクリスタリウムに響いた。
「うるさいじゃないか、赤兎。嗚呼今はアンナと言ったっけか? 英雄殿」
「知らない。初対面」
後ろからの視線が痛い。あまりにも露骨に反応を見せてしまった事を後悔している。
アシエン・エメトセルクーーー厄介な因縁が今更になって現れた。
皇帝ソル、忘れる筈もない。あの寒空の国を治め、対面してしまった男。死んだと思っていたが実はアシエンだったということを知ったのはつい最近。嫌な予感がする。どこかで鉢合わせして殴り合わないといけないとは察していた。しかしその真実を突き付けられた現場には暁のメンバーはアリゼーしかいなかったので言う気がしなかった。理由は簡単、一々説明が面倒だからである。第一世界で合流し始めた今これを機に暁の人間位には言っておかないといけない。なんて分かっていてもこれはあまりにも現実離れした話。いつ切り出したらいいものかと悩んでいたが―――まさかここで会い、よりにもよって昔の名前を呼びやがるとは。
「なんだ、誰も知らないのか? まあ言えるわけないか。ではな、諸君……またすぐに会おう」
それだけ言ってエメトセルクは闇の中へと消えて行った。この気まずい状況を作った本人が真っ先に逃げやがった。
「アンナ」
「知らない人。あのアシエンは、今が初対面だ」
吐き捨てるように嘘をついた。いやあの男がアシエンとして会ったのは初めてだから間違っていない。ただ動揺しすぎて言葉がまとまらない。胃も痛くなってきた。今日はもう寝たい。
◇
「ねえどう思う?」
「アンナのことか? 彼女はよく分からないからどうにも言えんが……まあ喋ってくれるのを待つしか出来ないだろ」
あの後アンナは暗い顔でペンダント居住区方向へ歩いて行った。ガーネットとはと聞いても「昔名乗ってた名前。いつか話す」としか言われなかった。今更彼女が帝国と繋がっていると思ってはいないが―――。
「そういえばヴァリス帝との話し合いで初代皇帝がアシエンだったという言葉を聞いた時一番衝撃を受けてたのはアンナだったわ。……ガイウスも赤兎って呼んでた。話を聞く前にこっちに来ちゃったんだけど」
「彼女をいくら調べても過去は出てきませんでした。話したくないというよりかはどこか」
英雄として活躍してきた彼女を今更疑っているわけではない。しかし何も語らないというのはこれまで共に冒険してきた仲間として寂しい所もある。
「アンナ、言ってくれないと分からないじゃないか」
アルフィノの弱弱しい声が空に消えた。
◆
ネロサン、ガイウスと来て次はご本人登場か! 余計なこと言いやがって! ペンダント居住区の一室でボクはそう叫ぼうとした口を必死に塞ぐ。
奴がトラウマだとかそういうわけではない。ただ会った時期が人に言いたくない過去なのだ。
アルバートがボクを不審げな目で見ている。観念して少しだけ話をした。
「私、昔エメトセルクに会ったことがあった。いや正しく言うとガレマール帝国初代皇帝に直接会ったことがある」
「そうなのか? ていうかお前は何歳なんだよ」
「ヒミツ。当時ガーネットって名乗った。髪の色も赤かったし服はそこらの屍体から取ってて。ヴィエラは珍しい存在。フードで耳を隠し、胸は弓を引くためにサラシを巻いた。人から見たら怖かったのかも、沢山襲われて返り討ちにしたりね。今と全然違う生活してた」
「おいおい英雄とは程遠い存在じゃないか。それで、そのアシエンと何があったんだ?」
少しだけ語った。特に何かしたわけじゃない。偶然大きな箱が置いてあってその中で寝てる間に積み荷と一緒に運ばれたらしく気が付いたらガレマール帝国にいた。ボクを捕まえようとする兵士を気絶させながら無我夢中に逃げ、城の中に。目の前に扉があったから入ったらなんと皇帝の寝室。初代皇帝サマとのご対面だった。
「いやあビックリ。相手の変なものを見た顔も面白かったね」
「無法か!」
「まあそこで一晩お付き合いするのと引き換えに外に放逐する約束をした」
アルバートがむせている。「私は最近まで処女だったからね?」と言うと「いらん! その情報は今必要ない!」と顔を真っ赤にしながら手で覆っている。
「色々あって何かバリバリと身体の一部を引き剥がされるほど痛い事はあったけど性行為はしていない。……以前仲間が『貴方はエーテルで多少内面が操作された形跡がある』って言ってたんだけど多分その時の傷」
「意味が分からん」
「私も意味分かんなかった。……次の日彼の使用人から新しい服一式貰って。帝国領外に運んでもらった」
あなたなら絶対に誰にも漏らさないから話したんだよ? って振ると「まあ物理的にお前以外から見えないしな」とぼやく。知ってる、だから話をしたのだ。少しだけ心が軽くなった気がする。
「ありがとね、明日以降奴に会ってもキレ散らかしはしなさそう」
「だったらいいんだけどな。ていうかそれなら周りに素直に言えばいいだろ?」
「……全員揃ってない内に話すのはなって」
「勝手にやってろ」
アルバートはため息を吐き、消えていく。私は久々に少々泣いてしまった。こんなにも苦しい時に限って、シドの声を聞く事が出来ないのだから。
◆
正直期待以上の反応を見せてくれた。正直彼女に渡す予定だった『役割』は曾孫がやったのだから最早必要のない厄介な女だったが、内包された【魂】で捨てきれない存在。かつての獣のように奔る赤兎なら自分の思想も【理解】、いや【約束】を守り手を取っただろう。小さな国民によって阻まれ、彼女を捕えることが出来なかったのが計算外だった。その後ヘタクソな偽装をしてきやがったので死んだ事にしてやったがまさかハイデリンに選ばれ英雄となり私の目の前に現れるとは。黒薔薇でなりそこない共を絶望させるための見せしめに殺してやろうと思ったが今第一世界の地に立っている。殺し合いをするだけなら簡単である。しかし改めて話し合いをすることで【約束】ではなく【理解】を示すかもしれない。牙を抜かれたお前がどれだけ戦えるか、楽しみにしているぞ? 鮮血の赤兎よ―――
Wavebox
キャラ設定:エルファー・レフ・ジルダ
見た目
種族:ラヴァ・ヴィエラ
髪色:赤、左目隠れヘア
目:右目緑、左目赤
一人称:僕、二人称:君、三人称:アイツ
趣味:分解、機械の改造、遺跡巡り(ジャンル不問)
設定
- アンナ・サリスの実の兄。嫁が8人いたが現在は離婚している。
- 元々生まれ故郷を護るための任を果たす存在だったが、ある時アラグ時代の遺跡を発見したことでこっそり調べ回るようになっていた。
- 死んだと思っていた妹が60年以上ぶりに再会して喜んだが全く違う存在になってしまったことを嘆いている。その真実を知るために故郷を捨ててエオルゼアを旅している。
- 超える力は持っていないただの技師。ある人間が持っていた装置を見て興味を持ち各地にあるカストルムに忍び込んだり機械装置の修理しながら独学で技術を学んだ。
- 陰で集落を護るという意識が強かったのでどちらかというと斥候が得意。そのため軽量静音化された機械を作る研究をこっそり行っていた。
- ゲーム的に言うと黒魔道士メインな機工士。双剣士も多少嗜んでいて金属扱う系のクラフターもレベリングされている感じ。
- 左目を髪で隠しているのは両目では"よく視えてしまう"ため。それは故郷でも一部関係者しか知らない厳重に守られた"聖石"に触れてしまい、魂までも視ることが出来るようになってしまった。副作用としてとんでもない頭痛に襲われるので隠している。普段は右目と物音だけで判断しており、細かいエーテル視を行う時だけ髪をかき上げる姿を見せる。
- かつて友人2人と新たな技術を作り出した。しかし彼が関わっていた頃の技術は相当な精神力、生命力が無いと使い物にならない"火事場の馬鹿力"の具現化だった。リンドウの"気迫"と呼ぶネーミングセンスの悪さにそれぞれ"必殺剣:流星"(エルファー)、"シハーブ"(アリス)と名付けたが無視される。
- 紅蓮前に表向きは妹の謎を追うためにネロを利用しようと近付いたが、漆黒突入後いつの間にかガーロンド社で働くことになり首を傾げた。
- 妹にはガーロンド社どころかエオルゼアにいることすら公然の秘密にしている。理由は自分のせいで彼女を変えてしまったことを理解してしまったため。
性格
シスコン。笑顔がヘタクソで愛想はあまりよくないがお人好しで基本的に妹が絡まなければ怒ったりもしない。
しかし怒ったら人を吊り下げたり火で炙ろうとする。
複数人嫁がいたこともありとことん甘やかして溶かすのが好き。
#エルファー関連
20240107メモ
漆黒ネタバレを大いに含むものです。ご注意ください。
続きを読む オメガ終了後に色々種を蒔いていますがそれが繋がるのが水晶公です。
彼女はネロに本を託し、またシドに鍵を渡します。それは死を予感して個人判断でのやらかし。これには自分が見てきた世界が全て書き留められています。
謎の手紙を受け取ったのはアラミゴ解放の次の日。書いたのはオメガシグマ編終了後、つまりネロが襲撃されてブッ倒れてシドに発破かけてたら何故か初夜となった次の日に温泉宿で引きこもり5日でまとめました。すごいですね。
本人としてはちゃんとシドは自分を引き留める宿題は終わらせられるだろうって自覚はしています。だから実質死んだら読んでねという記録帳なんだよね。
第八霊災が起こってしまい、ネロはアンナの墓の前で茫然自失になっているシドに本を渡します。鍵の事は即思い出し、解錠して読むとそれは彼女の目線で語られた自分へ宛てた物語。どう思ったんでしょうね。
それは歴代ガーロンド社会長に託されて、最終的に目覚めたグ・ラハに託されるというのが当サイトの設定です。なので水晶公はアンナの過去も本名も知った状態で漆黒のヴィランズが開始されるんですね。
多分第八霊災時空で死んだアンナもそこまで受け継がれる予想はしてなかっただろうし、現在のアンナにとっては自分が書いた封印されている本と何故か封印解除された本と2冊存在することになります。もれなくアンナは死ぬ。
でもこうやって全てを知っているグ・ラハがいることで漆黒で起こるだろうアンナの胃痛は半減することになり結果オーライ。
ちょっとずつ自己満足なものを書いて行きます。誰かに刺さったら嬉しいし刺さらなくてもアウトプットはし続けるので温かい目で見守っていただければ嬉しい限り。畳む
Wavebox
続きを読む オメガ終了後に色々種を蒔いていますがそれが繋がるのが水晶公です。
彼女はネロに本を託し、またシドに鍵を渡します。それは死を予感して個人判断でのやらかし。これには自分が見てきた世界が全て書き留められています。
謎の手紙を受け取ったのはアラミゴ解放の次の日。書いたのはオメガシグマ編終了後、つまりネロが襲撃されてブッ倒れてシドに発破かけてたら何故か初夜となった次の日に温泉宿で引きこもり5日でまとめました。すごいですね。
本人としてはちゃんとシドは自分を引き留める宿題は終わらせられるだろうって自覚はしています。だから実質死んだら読んでねという記録帳なんだよね。
第八霊災が起こってしまい、ネロはアンナの墓の前で茫然自失になっているシドに本を渡します。鍵の事は即思い出し、解錠して読むとそれは彼女の目線で語られた自分へ宛てた物語。どう思ったんでしょうね。
それは歴代ガーロンド社会長に託されて、最終的に目覚めたグ・ラハに託されるというのが当サイトの設定です。なので水晶公はアンナの過去も本名も知った状態で漆黒のヴィランズが開始されるんですね。
多分第八霊災時空で死んだアンナもそこまで受け継がれる予想はしてなかっただろうし、現在のアンナにとっては自分が書いた封印されている本と何故か封印解除された本と2冊存在することになります。もれなくアンナは死ぬ。
でもこうやって全てを知っているグ・ラハがいることで漆黒で起こるだろうアンナの胃痛は半減することになり結果オーライ。
ちょっとずつ自己満足なものを書いて行きます。誰かに刺さったら嬉しいし刺さらなくてもアウトプットはし続けるので温かい目で見守っていただければ嬉しい限り。畳む
Wavebox
序章:紅蓮の先へと続く物語
注意
漆黒ネタバレ。色々第八霊災捏造。
『もしも、また新たな空への道が現れたなら。白く光る星に好きという言葉を伝えたい』
―――この本の最後に拙い古代アラグ文字で走り書きされ涙の跡が残る一文が、きっと彼らの記憶を想起し、奇跡を起こしたのだろう。
フードを被った男は古びた本の頁をめくる。ある人物から手渡された『あなたに贈るため代々受け継がれた旅人譚』―――興味深い話だった。
最初に持ったあの人への感情は憧れ。優しい笑顔で圧倒的な力を人助けために使う姿がカッコよかった。突然エオルゼアの地に現れ、あっという間に各地を救う英雄となった者の人柄に誰もが好きになっていったのだという。かつて枯れない花が供えられた墓の前で、全てを受け継いだ人がそう語っていた。旅人を救いたいがために、時代の先へ行くために。あの人の命と生涯愛し続けた男が託した重い選択というデカい船に沢山の想いや願いが無数に集まって、今の俺があるんだ。その願いを込められた技術で俺は別れから200年後に目覚め、世界を超えて時代を遡り待つこととなっている。
"氾濫"から抵抗しながらも毎日のようにこの本を読んだ。英雄であったあの人について書かれた偉大な物語はいくつも語り継がれていたが、これは全く違うものである。
それは生まれてから、死ぬ少し前までの本人目線で書かれた世界に1つしかない物語。いつだって見せていた優しい笑顔という仮面の下にあった長命種特有の悩みによる涙が不器用に描かれていた。頼られることも決して悪い気はしなかったが、誰かを愛することも拒絶する方法も分からない自分を憐れむ記録。死ぬことは察していたが、どう死ぬか予想もしていなかったのだろう―――この本を託した"彼"や周辺の人間に宛てた『こんな無名の旅人のことなんて忘れて、幸せになって欲しい』という言葉が何度も書き込まれていた。
英雄ではなく、旅人として苦しみ、悩み続けた外からは一切観測できなかった全く違う視線で書かれた物語に俺は涙を流し、救いたいと何度も原初世界繋がる"扉"へ手を伸ばす。どうしてあの人にばかり悲しき運命が課されてしまったのか! 唯一特別だった人に宛てた遺言を抱きしめ、目を閉じた。
―――もうすぐ"あちら"は終わりの分岐点がやって来る。絶対に、失敗できない時代の先に俺の手で連れて行くんだ。呼びかけるために杖を掲げ願いを解き放つ。
「あなたのためなら未来を書き換えてみせるさ、全てを救うために、私を、私たちを【助けて】欲しい。アンナ……いやフレイヤ・エルダス!」
俺は叫び、詠唱を開始する。必死に腕を伸ばし、少しでも確実性を上げるために誰にも教えなかったという本当の名前を叫んだ。
Wavebox
#水晶公 #第八霊災関連
漆黒ネタバレ。色々第八霊災捏造。
『もしも、また新たな空への道が現れたなら。白く光る星に好きという言葉を伝えたい』
―――この本の最後に拙い古代アラグ文字で走り書きされ涙の跡が残る一文が、きっと彼らの記憶を想起し、奇跡を起こしたのだろう。
フードを被った男は古びた本の頁をめくる。ある人物から手渡された『あなたに贈るため代々受け継がれた旅人譚』―――興味深い話だった。
最初に持ったあの人への感情は憧れ。優しい笑顔で圧倒的な力を人助けために使う姿がカッコよかった。突然エオルゼアの地に現れ、あっという間に各地を救う英雄となった者の人柄に誰もが好きになっていったのだという。かつて枯れない花が供えられた墓の前で、全てを受け継いだ人がそう語っていた。旅人を救いたいがために、時代の先へ行くために。あの人の命と生涯愛し続けた男が託した重い選択というデカい船に沢山の想いや願いが無数に集まって、今の俺があるんだ。その願いを込められた技術で俺は別れから200年後に目覚め、世界を超えて時代を遡り待つこととなっている。
"氾濫"から抵抗しながらも毎日のようにこの本を読んだ。英雄であったあの人について書かれた偉大な物語はいくつも語り継がれていたが、これは全く違うものである。
それは生まれてから、死ぬ少し前までの本人目線で書かれた世界に1つしかない物語。いつだって見せていた優しい笑顔という仮面の下にあった長命種特有の悩みによる涙が不器用に描かれていた。頼られることも決して悪い気はしなかったが、誰かを愛することも拒絶する方法も分からない自分を憐れむ記録。死ぬことは察していたが、どう死ぬか予想もしていなかったのだろう―――この本を託した"彼"や周辺の人間に宛てた『こんな無名の旅人のことなんて忘れて、幸せになって欲しい』という言葉が何度も書き込まれていた。
英雄ではなく、旅人として苦しみ、悩み続けた外からは一切観測できなかった全く違う視線で書かれた物語に俺は涙を流し、救いたいと何度も原初世界繋がる"扉"へ手を伸ばす。どうしてあの人にばかり悲しき運命が課されてしまったのか! 唯一特別だった人に宛てた遺言を抱きしめ、目を閉じた。
―――もうすぐ"あちら"は終わりの分岐点がやって来る。絶対に、失敗できない時代の先に俺の手で連れて行くんだ。呼びかけるために杖を掲げ願いを解き放つ。
「あなたのためなら未来を書き換えてみせるさ、全てを救うために、私を、私たちを【助けて】欲しい。アンナ……いやフレイヤ・エルダス!」
俺は叫び、詠唱を開始する。必死に腕を伸ばし、少しでも確実性を上げるために誰にも教えなかったという本当の名前を叫んだ。
Wavebox
#水晶公 #第八霊災関連
赤兎と、狩人
注意
紅蓮4.5ストーリー途中に起こったお話です。
「うぬは、まさか―――」
プロト・アルテマに乗り込んだガイウスは赤に染まった"冒険者"を見て絶句した。獣のような唸り声を上げながら丈夫な外殻を剥がそうと刀を振り回し、確実にアルテマウェポンを破壊しようと試みる。正気を失っているようで何がトリガーか予想が付かない。我を失った冒険者を振り払い、応戦する内に「シドが死んでたら、お前のせいだ」と朧げな呟きが聞こえる。どうやら彼女の中でシドは先程の大魔法に巻き込まれたと思っているようだ。しかしそれだけにしては異常な強さを見せる冒険者の説明にはならない。
ふとそういえば過去に部下であったネロにあまりこのヴィエラを刺激しない方がいいとデータと共に進言されたなと思い返す。詳細を聞けばよかったかもしれないと後悔しながらも感情に身を任せた獣との戦いに彼も全力を持って応戦した。
『かつて陛下の前にまで辿り着いた侵入者の話であり、現在もあの方が執着している赤髪のヴィエラだ。どうやら1部隊使って誘導して帝国領内を走らせているらしい』
魔導城プラエトリウムが崩れ行く中、ガイウスはとある日に聞いた【過去】とかつて読んだ報告書が浮かび上がる。現在は上級士官以上にしか立ち入りを許可されない書架に封印されている記録。
―――まだ死ぬわけにはいかない。
◇
ザ・バーンにて、突如倒れてしまったアルフィノを抱えアンナの前に現れることになる。
黒髪のヴィエラは相変わらず人のために戦い続ける立派な強き者だなとガイウスはかつて刃を交わしたヒトを見つめた。
情報提供のいう名の確信に至るための最後のピースとして黒薔薇プラントにあった初代ソル帝の人造生命体の話をすると明らかに反応が変わった。一瞬目を見開き、険しい顔を見せる。これは、確定だろうと判断し、ガイウスは別れの挨拶とともに言い放った。
「また会おう、真に強き光の戦士、いや赤兎よ」
「赤、ウサギとな?」
「―――!! 待て! あ、あなた!!!!」
アンナはガイウスを掴み、ヒエンとアリゼーに「少し『お話』してくるから待ってて」と言い引きずって行った。
◇
「ガイウス、あなた」
「魔導城にてうぬが見せた技と先程の反応で確信した。まさかソル帝が目を付けていたヴィエラがうぬだとは全くもって予想がつかなかったぞ」
「うえぇ……まだ知ってるヤツがいた……あの時確実にトドメさせばよかった……」
小型飛空艇の前でアンナは頭を抱え座り込む。さりげなく物騒なことも言っているが触れずに目を逸らした。
「よりにもよってアリゼーの前で言わなくていいじゃない……」
「なんだうぬは未だ誰にもその過去を申しておらぬのか?」
「帝国といざこざしてる時にできる話じゃない」
アンナの隠しきれない動揺と抗議の様子が少々子供っぽくガイウスの口から笑みがこぼれる。と思ったら突然大げさに手を広げ舞台役者のような演技ががかった口調で語り始めた。
「そうだよ、ボクが50年ほど前に【鮮血の赤兎】と呼ばれたガレマール帝国で怪談として伝わり続けたヴィエラさ!」
「ソル帝に出会ったあの夜、何があった?」
「……あ、それに関しては今思うと恥ずかしいのでトップシークレットにしていただきたい……。あとポーション投げ捨てるんじゃなくて後でまとめて渡したよ相当盛られてるからその話……」
「そ、そうか」
即小さくなりながらため息を吐いている。どうやらその場では殺し合ったわけではないようだ。
ただ単に迷い込んだにしては運が良すぎるが果たして。
「多分あなたも犯人じゃないんだよね?」
「何がだ」
アンナから「これ」と言われながら黒色の便箋を手渡される。渡された物を眺めるとソル帝が用いていたものと酷似しており、「開けてもよいのか?」と聞くと「勝手にどうぞ」と言われた。中身を確認すると、【お前の役割は終わった】という文面とガーネットが施された装飾品が入っている。
「我はこんなことはせぬ」
「だよねえ」
「これを知っている者は?」
「まあ1人だけ。ボクにオマエは帝国で怪談になっていると教えてくれたお節介焼きがいてね」
「うぬは面倒な運命とともにしておるのだな」
好きでやってるわけじゃないという抗議が聞こえたが流してやるとアンナは立ち上がり、笑顔を見せた。そんな彼女に報告書で気になった記述を投げかける。
「うぬは、20年程前シドに救われたというのでいいのだな?」
「は? 何で知ってるの?」
「……我はシドの後見人であった」
「ああそういえばそうだった。聞いてたのね。誰にも話してないって言ってたじゃないか……ハァ……」
やれやれと肩をすくめため息を吐いている。どうやら監視されていたことは知らないようなので誤魔化してしまったと目を閉じて心の中で謝罪をしておいた。
「どいつもこいつもボクの過去を知ってる奴らはもれなくシドのことを聞いてくるから困るね」
頭を搔きながら不貞腐れているようだ。「先に言っておくけどボクは特定の人間に好きや嫌いやらの感情は持たない方針だから」と言っているがガイウスはまだ何も言葉にしていない。
「ま、次生きて会えたら何があったかまとめておくさ」
「うぬのことを知りたい人間はいくらでもいるだろう。我だけにではなくきちんとゆっくりと考えて話すといい」
「まったく無名の旅人に言われてもなあ興味持たれる理由が分からないねえ」
アンナが踵を返し、歩き出す。祖国で発行された作品で聞いたことのある単語にガイウスは反応した。
「龍殺しのリンドウの話も、また聞かせて欲しい」
ガイウスの言葉に一瞬アンナの歩みが止まるが、片手を上げ振りながら仲間の元に帰って行った。
拾った子供たちに聞かせた作品のうちの一つに、とある東方地域の逸話があった。山のように大きな龍をその辺りの木の棒で一閃したと言われる刀使いと共に旅をするものであり生涯唯一の弟子でもあった赤髪の少女がいたという。少女はザクロといった。そして彼女が持っていた手紙の中に入っていたものといえば柘榴石。それは即ち―――
「偶然であればいいのだが」
飛空艇に乗り込み、真実を確認するため、祖国のため男は旅立つのであった。
Wavebox
#ガイウス
紅蓮4.5ストーリー途中に起こったお話です。
「うぬは、まさか―――」
プロト・アルテマに乗り込んだガイウスは赤に染まった"冒険者"を見て絶句した。獣のような唸り声を上げながら丈夫な外殻を剥がそうと刀を振り回し、確実にアルテマウェポンを破壊しようと試みる。正気を失っているようで何がトリガーか予想が付かない。我を失った冒険者を振り払い、応戦する内に「シドが死んでたら、お前のせいだ」と朧げな呟きが聞こえる。どうやら彼女の中でシドは先程の大魔法に巻き込まれたと思っているようだ。しかしそれだけにしては異常な強さを見せる冒険者の説明にはならない。
ふとそういえば過去に部下であったネロにあまりこのヴィエラを刺激しない方がいいとデータと共に進言されたなと思い返す。詳細を聞けばよかったかもしれないと後悔しながらも感情に身を任せた獣との戦いに彼も全力を持って応戦した。
『かつて陛下の前にまで辿り着いた侵入者の話であり、現在もあの方が執着している赤髪のヴィエラだ。どうやら1部隊使って誘導して帝国領内を走らせているらしい』
魔導城プラエトリウムが崩れ行く中、ガイウスはとある日に聞いた【過去】とかつて読んだ報告書が浮かび上がる。現在は上級士官以上にしか立ち入りを許可されない書架に封印されている記録。
―――まだ死ぬわけにはいかない。
◇
ザ・バーンにて、突如倒れてしまったアルフィノを抱えアンナの前に現れることになる。
黒髪のヴィエラは相変わらず人のために戦い続ける立派な強き者だなとガイウスはかつて刃を交わしたヒトを見つめた。
情報提供のいう名の確信に至るための最後のピースとして黒薔薇プラントにあった初代ソル帝の人造生命体の話をすると明らかに反応が変わった。一瞬目を見開き、険しい顔を見せる。これは、確定だろうと判断し、ガイウスは別れの挨拶とともに言い放った。
「また会おう、真に強き光の戦士、いや赤兎よ」
「赤、ウサギとな?」
「―――!! 待て! あ、あなた!!!!」
アンナはガイウスを掴み、ヒエンとアリゼーに「少し『お話』してくるから待ってて」と言い引きずって行った。
◇
「ガイウス、あなた」
「魔導城にてうぬが見せた技と先程の反応で確信した。まさかソル帝が目を付けていたヴィエラがうぬだとは全くもって予想がつかなかったぞ」
「うえぇ……まだ知ってるヤツがいた……あの時確実にトドメさせばよかった……」
小型飛空艇の前でアンナは頭を抱え座り込む。さりげなく物騒なことも言っているが触れずに目を逸らした。
「よりにもよってアリゼーの前で言わなくていいじゃない……」
「なんだうぬは未だ誰にもその過去を申しておらぬのか?」
「帝国といざこざしてる時にできる話じゃない」
アンナの隠しきれない動揺と抗議の様子が少々子供っぽくガイウスの口から笑みがこぼれる。と思ったら突然大げさに手を広げ舞台役者のような演技ががかった口調で語り始めた。
「そうだよ、ボクが50年ほど前に【鮮血の赤兎】と呼ばれたガレマール帝国で怪談として伝わり続けたヴィエラさ!」
「ソル帝に出会ったあの夜、何があった?」
「……あ、それに関しては今思うと恥ずかしいのでトップシークレットにしていただきたい……。あとポーション投げ捨てるんじゃなくて後でまとめて渡したよ相当盛られてるからその話……」
「そ、そうか」
即小さくなりながらため息を吐いている。どうやらその場では殺し合ったわけではないようだ。
ただ単に迷い込んだにしては運が良すぎるが果たして。
「多分あなたも犯人じゃないんだよね?」
「何がだ」
アンナから「これ」と言われながら黒色の便箋を手渡される。渡された物を眺めるとソル帝が用いていたものと酷似しており、「開けてもよいのか?」と聞くと「勝手にどうぞ」と言われた。中身を確認すると、【お前の役割は終わった】という文面とガーネットが施された装飾品が入っている。
「我はこんなことはせぬ」
「だよねえ」
「これを知っている者は?」
「まあ1人だけ。ボクにオマエは帝国で怪談になっていると教えてくれたお節介焼きがいてね」
「うぬは面倒な運命とともにしておるのだな」
好きでやってるわけじゃないという抗議が聞こえたが流してやるとアンナは立ち上がり、笑顔を見せた。そんな彼女に報告書で気になった記述を投げかける。
「うぬは、20年程前シドに救われたというのでいいのだな?」
「は? 何で知ってるの?」
「……我はシドの後見人であった」
「ああそういえばそうだった。聞いてたのね。誰にも話してないって言ってたじゃないか……ハァ……」
やれやれと肩をすくめため息を吐いている。どうやら監視されていたことは知らないようなので誤魔化してしまったと目を閉じて心の中で謝罪をしておいた。
「どいつもこいつもボクの過去を知ってる奴らはもれなくシドのことを聞いてくるから困るね」
頭を搔きながら不貞腐れているようだ。「先に言っておくけどボクは特定の人間に好きや嫌いやらの感情は持たない方針だから」と言っているがガイウスはまだ何も言葉にしていない。
「ま、次生きて会えたら何があったかまとめておくさ」
「うぬのことを知りたい人間はいくらでもいるだろう。我だけにではなくきちんとゆっくりと考えて話すといい」
「まったく無名の旅人に言われてもなあ興味持たれる理由が分からないねえ」
アンナが踵を返し、歩き出す。祖国で発行された作品で聞いたことのある単語にガイウスは反応した。
「龍殺しのリンドウの話も、また聞かせて欲しい」
ガイウスの言葉に一瞬アンナの歩みが止まるが、片手を上げ振りながら仲間の元に帰って行った。
拾った子供たちに聞かせた作品のうちの一つに、とある東方地域の逸話があった。山のように大きな龍をその辺りの木の棒で一閃したと言われる刀使いと共に旅をするものであり生涯唯一の弟子でもあった赤髪の少女がいたという。少女はザクロといった。そして彼女が持っていた手紙の中に入っていたものといえば柘榴石。それは即ち―――
「偶然であればいいのだが」
飛空艇に乗り込み、真実を確認するため、祖国のため男は旅立つのであった。
Wavebox
#ガイウス
20240104メモ
遂に1週間位悩んだ初夜話をアップしました。エロを表に出すのは初めてなので拙い文章で恥ずかしい。パスワードはトップにヒント書いてるんでそれで判断してください。
色々詰め込んで一晩中自機には頑張ってもらいました。解釈違いとの戦いを制しましてまあ満足です。
本文中でも書きましたが自機は性的なコトに関しては自分に当て嵌めることなくゲラゲラ笑うコンテンツになっています。想う相手も作らず自慰行為にふけっても時間の無駄だったってやつですね。性的機能は未熟なままで胸だけデカくなったウサギさんです。そこからズルズル堕とされるのが性癖なので面倒なものを書く羽目になりました。本当は色々シーンぶつ切りにするのもよくないししっかり喘ぎ声とかも書きたいんですけど自機は♡喘ぎするの想像して気持ち悪いよ……ってなる。インプットが少ないのでもう少しいろんな本を読まないといけないですね。
シドとしては新生終了地点でもうズルズルと片想いしていたけど、誰にでも優しく自由にはばたくこの人の隣にいれればいいと遠慮してました。しかし向こうからそんな提案されてなんかテクニックもありますでも処女ですされたらまあ狂うよねって。過去に相手いたのかなはまあまあ考えたけどおぼっちゃまだからそれ位はあるでしょというわけで。
じゃ、明日からは何事もなく会いましょうで出来るのがアンナでムリなのがシドです。真っ先にネロに見せつけるのかわいいねが後日談です。
ネロ的には自機は記憶より全体的に柔らかくなってるものの本質はゴリラなのでアレに恋愛感情抱くとか正気か? まあ破れ鍋に閉じ蓋かとは最終的に結論付けます。
だってネロは女性的な体つきしてるけど滅茶苦茶強い災害を制御できるヤツなンて絶対いないだろオレが全部解析して飼い慣らしてェって思ってたけどシドにかっさらわれたので。今思うとガーロンドに押し付けられてよかったなって思う自由奔放さを遠い目で見ています。コレ相手は勃たねェからって明言してるので自機は漆黒以降有事の際は真っ先に頼る程度には信用しています。
Q.どうして暁や特にガーロンドに頼らないンだ? A.くっっっそ面倒だから。その点ネロサンは知り合いの中で唯一大して介入しない自由に動ける大人なので。って感じ。
どちらかというと兄と同じ感じに見てる感じですね。年下の兄。
そしてこの話以降からルート分岐の準備となります。本編時空と、第八霊災が起こる時空、そして第八霊災は起こらないかつ答えが見つからず1年経ってしまった後の時空。最後は絶対あり得ないんですけど準備はされてます。
本編準拠ですが少しだけ違う自機の旅を続けて行こうと思います。
色々詰め込んで一晩中自機には頑張ってもらいました。解釈違いとの戦いを制しましてまあ満足です。
本文中でも書きましたが自機は性的なコトに関しては自分に当て嵌めることなくゲラゲラ笑うコンテンツになっています。想う相手も作らず自慰行為にふけっても時間の無駄だったってやつですね。性的機能は未熟なままで胸だけデカくなったウサギさんです。そこからズルズル堕とされるのが性癖なので面倒なものを書く羽目になりました。本当は色々シーンぶつ切りにするのもよくないししっかり喘ぎ声とかも書きたいんですけど自機は♡喘ぎするの想像して気持ち悪いよ……ってなる。インプットが少ないのでもう少しいろんな本を読まないといけないですね。
シドとしては新生終了地点でもうズルズルと片想いしていたけど、誰にでも優しく自由にはばたくこの人の隣にいれればいいと遠慮してました。しかし向こうからそんな提案されてなんかテクニックもありますでも処女ですされたらまあ狂うよねって。過去に相手いたのかなはまあまあ考えたけどおぼっちゃまだからそれ位はあるでしょというわけで。
じゃ、明日からは何事もなく会いましょうで出来るのがアンナでムリなのがシドです。真っ先にネロに見せつけるのかわいいねが後日談です。
ネロ的には自機は記憶より全体的に柔らかくなってるものの本質はゴリラなのでアレに恋愛感情抱くとか正気か? まあ破れ鍋に閉じ蓋かとは最終的に結論付けます。
だってネロは女性的な体つきしてるけど滅茶苦茶強い災害を制御できるヤツなンて絶対いないだろオレが全部解析して飼い慣らしてェって思ってたけどシドにかっさらわれたので。今思うとガーロンドに押し付けられてよかったなって思う自由奔放さを遠い目で見ています。コレ相手は勃たねェからって明言してるので自機は漆黒以降有事の際は真っ先に頼る程度には信用しています。
Q.どうして暁や特にガーロンドに頼らないンだ? A.くっっっそ面倒だから。その点ネロサンは知り合いの中で唯一大して介入しない自由に動ける大人なので。って感じ。
どちらかというと兄と同じ感じに見てる感じですね。年下の兄。
そしてこの話以降からルート分岐の準備となります。本編時空と、第八霊災が起こる時空、そして第八霊災は起こらないかつ答えが見つからず1年経ってしまった後の時空。最後は絶対あり得ないんですけど準備はされてます。
本編準拠ですが少しだけ違う自機の旅を続けて行こうと思います。
旅人は人を見舞う
注意
旅人は奮い立たせたい後日談です。
「よっネロサン生きてる?」
「おかげさまで、な。久々じゃねェか」
ラールガーズリーチ、野戦病院。オメガに襲撃され大けがを負ったネロは意識こそ回復したものの未だに絶対安静を言い渡されている。
そんな彼の前に黒髪のヴィエラが顔を出した。
「お前毎日回復魔法かけてたンだろ? ガーロンドのところに顔出さずに」
「あら知ってたの?」
「ビッグスとウェッジが言ってた。喧嘩でもしてンのか?」
「邪魔になるでしょ?」
アンナは温泉旅行というものは名ばかりで実は毎晩こっそりケガを負っていたビッグス、ウェッジ、ネロに白魔法をかけていた。ネロが薄目を開くと時々噂だけ聞いていたシャーレアン式占星術師の格好もしていたが。そして疲れた分はまた温泉に行き、個室で作業をする生活を5日程繰り返している。
シドの所は顔を出すか考えたが集中が阻害されるだろうと考え現れないようにしていた。もちろんジェシーにもバレないように忍び込んでいる。
「キミがいない分いっぱい頭使って働いてるんだし集中させてあげたいのさ」
「そりゃ優しいことで。ってリンゴか?」
「さっきそれぞれビッグスとウェッジにもあげてきたところでねえ。お見舞いの定番」
「そうか?」
アンナは「多分」と言いながらナイフとリンゴを取り出し皮を剥き始めた。器用に剥かれていくいく紅い果実をネロはしばらく眺めていたらアンナが「そういえば……これ、知ってる?」と言いながら便箋を取り出す。黒色に金のラインが引かれた便箋。ネロからするとよく見ていた印がつけられたものだ。
「ああ当然だろ? 祖国の初代陛下が使っていたヤツだよ。どこで手に入れたンだ?」
「アラミゴ解放パーティが終わって次の日に置かれてた」
「はあ? あの方はとっくに亡くなってて使ってるヤツもいねェぞ」
「でしょうね」
あっという間に赤いリンゴは白に変貌し、等分される。「はい」とネロの口元に押し付けられたのでそのまま食べる。
「おいしい?」
「うめェな。じゃなくて! 何が書いてあった?」
「その前に。ネロサンじゃないんだよね? このイタズラ」
「オレがやるわけねェだろ」
「だってボクがアレだって知ってるのはキミしか把握してないし。だから聞きに来た」
「オレが犯人だとして白昼堂々と尋ねンじゃねェ」
次々とリンゴを口に押し込まれる。「一気に食えねェよ皿に置いて渡せ!」と言ってやると「面倒」と返された。そう言いながらも皿にリンゴに乗せて横に置く。その後鞄の中を漁り始めた。
「じゃあ準備しとくに越したことはないか。……はい」
ネロに1冊の本が手渡される。豪華な装丁にグルグルと鎖が巻きつけられた分厚い不審物をネロは怪訝な目で眺めている。
「なンだこれ?」
「答え」
「は?」
「いやキミに対してのものではなく。……ボクが死ぬか今日から1年後ガーロンド社に帰ってくることがなくなった時、シドに渡してほしい」
「ンでオレが」
「ヒミツと約束を守ってくれそうな人、キミしか知らないからさ」
押し返そうとするが珍しく弱った顔で見てくるので詰まってしまう。そんな顔ができたのかこのメスバブーンという本音を仕舞い込んだ。
「何でそんな準備をする必要がある?」
「『お前の役割は終わった』」
「ア?」
「手紙の内容」
アンナは手紙を開封し、手渡された。真っ黒な紙に書かれた白色の文字とガーネットが施された装飾品。ネロがガーネットの意味を問うとアンナは昔皇帝に名乗ったからと答える。
「こんなイタズラされたら遺言の準備もしたくなるさ」
「物騒なこと言うンじゃねェ。てかお前これ抱えたままこっち手伝ってたのかよ……誰かに相談してンのか?」
「こんなの誰にも言えるわけないでしょ? ちょうどキミが過去のボクを知っていたからね。やっと話せてスッキリした」
アンナは足を組みため息を吐く。ネロは手紙を閉じ突き返した。
「ったくまあ受け取ってやるが中身見るぞ?」
「その錠はいろいろ技術練って簡単には開かないようにしてるよ。後でシドに鍵渡すからそれが揃って初めて開封できる」
「楽しいギミックを作りやがって」
「カンニングされたら困るからね」
さっきから何を言ってンだ? とネロは聞くとアンナは今シドに宿題をあげててねと答える。
「もし死を回避できてもさ。1年後、彼が宿題を解けなければエオルゼアから出て行こうと思っているんだ。あ、これも内緒だよ?」
「また突然なこと言うなオマエ」
「彼が喉から手が出るほど欲しい答えは全てそれに書いている。猛烈に後悔させる予定さ」
クククと笑う姿を見てネロはため息を吐いた。痴話喧嘩か何かに巻き込まれてしまったようだと気が付いた時にはもう受けるしかない状況に追い込まれている。とりあえず傍に置いている鞄の中に投げた。それを見たアンナは「ありがとう」と満面の笑顔に戻っている。その後何かに気が付いたのか頭部を指さした。
「あ、髪にゴミ付いてるじゃんのけてあげるよ病人サン」
「へいへいって近づく必要ねェだろ!?」
「絶対安静でしょ」
ネロの寝台に手を置き、髪の毛をぐしゃりと撫でながらゴミを払い、乱れた髪型も直して見せた。アンナの顔が頬に寄せられ香水の匂いがほのかに香る。
対してネロは猛烈に慌てていた。なぜかというと、背後にちょうど今休憩のためか外に出て即気が付いた大層機嫌の悪い噂の男が大股で近付き腕組みしてネロを睨みつけていたからである。
「おい! メスバブーン離れろ!」
「言われなくても。騒ぐ必要ない」
「う、し、ろ、見ろ!」
ここでアンナはようやく後ろを振り返る。
「あ、シド」
「久しぶりだな、アンナ。温泉旅行は楽しかったか?」
「久々の休暇、羽伸ばし。シド、進捗は?」
「まあまあって所だ。そこのリンゴ貰っていいか?」
「いいよ」
シドは側に置いていたリンゴをシャリシャリとネロをジトリとした目で睨みつけながら食べている。「あと1つだ。あ、ネロサン食べといて」とネロの口に近付けたので「それはガーロンドに渡せ! 病人を殺す気かよ!?」と押し返しながら悲鳴に近い声をあげた。
アンナは首を傾げながら「そっか。じゃあはいあげる」とシドの口に押し付けるとそのまま食べていた。
「腹減っていたからちょうどよかった」
「ならちゃんとご飯。私もお腹空いた。今行く?」
「おう」
じゃ、ネロサン。お大事にと言いながら椅子から立ち上がり踵を返した。シドもそれに付いて行く。
「おいマジかよ」
ネロは即腐れ縁の異変に気が付く。一瞬ネロに笑顔を向けた後アンナの腰に手を回し、歩いているからだ。えらく密着しているがアンナは一切動じず何を食べるか聞いている。
「マジかよ」
残されたネロは乾いた笑いで見送るしかできないのであった―――。
◇
アンナが温泉旅行に行ってから一切顔を出さなくなった。リンクパールで通信を試みたが基本的に装着しない人間に通じるわけはなく。
ヤりすぎたし反省もしている。自分も身体を引きずりながら送られてきたデータと睨み合っていた。
あの親父がやらかしたシタデル・ボズヤ蒸発事変のものなのだ、未だに震える手を抑えることが出来ないが、気分は不思議と沈み切っていない。
アンナは1年以内は俺の前からは逃げない、分かっている。きっと集中できるように配慮しているのだ。適度に会える方が嬉しいのだがと電子タバコをくわえながらため息を吐く。
小腹が減ったので外に出る。ジェシーに飯を食いに行ってくると言い、ついでにネロの方に顔でも出すかと思い野戦病院に向かうと見覚えのある後ろ姿が。アンナは何故俺でなくネロのところに真っ先に向かった? 目を凝らしてみると傍に置いていた皿にリンゴが乗っている。
ただのケガ人への見舞いだったらしい。なんだと思いながら近づこうとしたらアンナは急にネロを寝台に乗っかりヤツの顔に自分の顔を近づけていきやがった。
「は?」
つい声が出てしまった。俺は慌てて大股で近付く。ネロと目が合った。即気が付いたらしく必死にアンナに後ろを見ろと言っている。そこで初めてアンナが振り向き何事もなく「あ、シド」と呑気な声で俺の名前を呼ぶ。
いつも通りの彼女である。数日前あんなにも乱れていたとは思えないほど、変わらず奇麗な人だった。やはり強いなと考えながら剥いてあったリンゴを1つ貰う。するとアンナは残っていたあと1つの欠片をネロの口元に持って行ったのだ。ネロは必死に押し返しながら「それはガーロンドに渡せ! 殺す気か!?」と言っていたので許すことにする。アンナは首を傾げながら俺に渡してくれたので遠慮なく貰った。
しかし何で真っ先に俺の口へ運ばなかったのかと思ったが、そういえばネロは病み上がりで未だ絶対安静の身だったことを思い出す。アンナは基本的に弱った者には優しい。ビッグスとウェッジが倒れた時も白魔法で回復する姿を見た。殺意を見せない限りは優しくしたい、という言葉を以前聞いている。
この後一緒にご飯食べるか聞いてきたので快諾したさ。とりあえず温泉話でも聞こうかと俺はアンナの隣を歩く。「何食べる?」「個人的にあの屋台の飯、美味」等喋りながらふと顔を見上げると話し方は誰もが知るものだというのに少しだけ視線が泳いでいた。自然と笑顔がこみ上がっていくのも当然だろう。ネロにその顔を見せつけてやった。
そう、優しいと見せかけて氷のように冷たい心を持った彼女は変わり始めている。だから早く、呪いを解く方法を、考えてやらないと。俺の前から消えてしまうより先に、な―――
Wavebox
#シド光♀ #ネロ
旅人は奮い立たせたい後日談です。
「よっネロサン生きてる?」
「おかげさまで、な。久々じゃねェか」
ラールガーズリーチ、野戦病院。オメガに襲撃され大けがを負ったネロは意識こそ回復したものの未だに絶対安静を言い渡されている。
そんな彼の前に黒髪のヴィエラが顔を出した。
「お前毎日回復魔法かけてたンだろ? ガーロンドのところに顔出さずに」
「あら知ってたの?」
「ビッグスとウェッジが言ってた。喧嘩でもしてンのか?」
「邪魔になるでしょ?」
アンナは温泉旅行というものは名ばかりで実は毎晩こっそりケガを負っていたビッグス、ウェッジ、ネロに白魔法をかけていた。ネロが薄目を開くと時々噂だけ聞いていたシャーレアン式占星術師の格好もしていたが。そして疲れた分はまた温泉に行き、個室で作業をする生活を5日程繰り返している。
シドの所は顔を出すか考えたが集中が阻害されるだろうと考え現れないようにしていた。もちろんジェシーにもバレないように忍び込んでいる。
「キミがいない分いっぱい頭使って働いてるんだし集中させてあげたいのさ」
「そりゃ優しいことで。ってリンゴか?」
「さっきそれぞれビッグスとウェッジにもあげてきたところでねえ。お見舞いの定番」
「そうか?」
アンナは「多分」と言いながらナイフとリンゴを取り出し皮を剥き始めた。器用に剥かれていくいく紅い果実をネロはしばらく眺めていたらアンナが「そういえば……これ、知ってる?」と言いながら便箋を取り出す。黒色に金のラインが引かれた便箋。ネロからするとよく見ていた印がつけられたものだ。
「ああ当然だろ? 祖国の初代陛下が使っていたヤツだよ。どこで手に入れたンだ?」
「アラミゴ解放パーティが終わって次の日に置かれてた」
「はあ? あの方はとっくに亡くなってて使ってるヤツもいねェぞ」
「でしょうね」
あっという間に赤いリンゴは白に変貌し、等分される。「はい」とネロの口元に押し付けられたのでそのまま食べる。
「おいしい?」
「うめェな。じゃなくて! 何が書いてあった?」
「その前に。ネロサンじゃないんだよね? このイタズラ」
「オレがやるわけねェだろ」
「だってボクがアレだって知ってるのはキミしか把握してないし。だから聞きに来た」
「オレが犯人だとして白昼堂々と尋ねンじゃねェ」
次々とリンゴを口に押し込まれる。「一気に食えねェよ皿に置いて渡せ!」と言ってやると「面倒」と返された。そう言いながらも皿にリンゴに乗せて横に置く。その後鞄の中を漁り始めた。
「じゃあ準備しとくに越したことはないか。……はい」
ネロに1冊の本が手渡される。豪華な装丁にグルグルと鎖が巻きつけられた分厚い不審物をネロは怪訝な目で眺めている。
「なンだこれ?」
「答え」
「は?」
「いやキミに対してのものではなく。……ボクが死ぬか今日から1年後ガーロンド社に帰ってくることがなくなった時、シドに渡してほしい」
「ンでオレが」
「ヒミツと約束を守ってくれそうな人、キミしか知らないからさ」
押し返そうとするが珍しく弱った顔で見てくるので詰まってしまう。そんな顔ができたのかこのメスバブーンという本音を仕舞い込んだ。
「何でそんな準備をする必要がある?」
「『お前の役割は終わった』」
「ア?」
「手紙の内容」
アンナは手紙を開封し、手渡された。真っ黒な紙に書かれた白色の文字とガーネットが施された装飾品。ネロがガーネットの意味を問うとアンナは昔皇帝に名乗ったからと答える。
「こんなイタズラされたら遺言の準備もしたくなるさ」
「物騒なこと言うンじゃねェ。てかお前これ抱えたままこっち手伝ってたのかよ……誰かに相談してンのか?」
「こんなの誰にも言えるわけないでしょ? ちょうどキミが過去のボクを知っていたからね。やっと話せてスッキリした」
アンナは足を組みため息を吐く。ネロは手紙を閉じ突き返した。
「ったくまあ受け取ってやるが中身見るぞ?」
「その錠はいろいろ技術練って簡単には開かないようにしてるよ。後でシドに鍵渡すからそれが揃って初めて開封できる」
「楽しいギミックを作りやがって」
「カンニングされたら困るからね」
さっきから何を言ってンだ? とネロは聞くとアンナは今シドに宿題をあげててねと答える。
「もし死を回避できてもさ。1年後、彼が宿題を解けなければエオルゼアから出て行こうと思っているんだ。あ、これも内緒だよ?」
「また突然なこと言うなオマエ」
「彼が喉から手が出るほど欲しい答えは全てそれに書いている。猛烈に後悔させる予定さ」
クククと笑う姿を見てネロはため息を吐いた。痴話喧嘩か何かに巻き込まれてしまったようだと気が付いた時にはもう受けるしかない状況に追い込まれている。とりあえず傍に置いている鞄の中に投げた。それを見たアンナは「ありがとう」と満面の笑顔に戻っている。その後何かに気が付いたのか頭部を指さした。
「あ、髪にゴミ付いてるじゃんのけてあげるよ病人サン」
「へいへいって近づく必要ねェだろ!?」
「絶対安静でしょ」
ネロの寝台に手を置き、髪の毛をぐしゃりと撫でながらゴミを払い、乱れた髪型も直して見せた。アンナの顔が頬に寄せられ香水の匂いがほのかに香る。
対してネロは猛烈に慌てていた。なぜかというと、背後にちょうど今休憩のためか外に出て即気が付いた大層機嫌の悪い噂の男が大股で近付き腕組みしてネロを睨みつけていたからである。
「おい! メスバブーン離れろ!」
「言われなくても。騒ぐ必要ない」
「う、し、ろ、見ろ!」
ここでアンナはようやく後ろを振り返る。
「あ、シド」
「久しぶりだな、アンナ。温泉旅行は楽しかったか?」
「久々の休暇、羽伸ばし。シド、進捗は?」
「まあまあって所だ。そこのリンゴ貰っていいか?」
「いいよ」
シドは側に置いていたリンゴをシャリシャリとネロをジトリとした目で睨みつけながら食べている。「あと1つだ。あ、ネロサン食べといて」とネロの口に近付けたので「それはガーロンドに渡せ! 病人を殺す気かよ!?」と押し返しながら悲鳴に近い声をあげた。
アンナは首を傾げながら「そっか。じゃあはいあげる」とシドの口に押し付けるとそのまま食べていた。
「腹減っていたからちょうどよかった」
「ならちゃんとご飯。私もお腹空いた。今行く?」
「おう」
じゃ、ネロサン。お大事にと言いながら椅子から立ち上がり踵を返した。シドもそれに付いて行く。
「おいマジかよ」
ネロは即腐れ縁の異変に気が付く。一瞬ネロに笑顔を向けた後アンナの腰に手を回し、歩いているからだ。えらく密着しているがアンナは一切動じず何を食べるか聞いている。
「マジかよ」
残されたネロは乾いた笑いで見送るしかできないのであった―――。
◇
アンナが温泉旅行に行ってから一切顔を出さなくなった。リンクパールで通信を試みたが基本的に装着しない人間に通じるわけはなく。
ヤりすぎたし反省もしている。自分も身体を引きずりながら送られてきたデータと睨み合っていた。
あの親父がやらかしたシタデル・ボズヤ蒸発事変のものなのだ、未だに震える手を抑えることが出来ないが、気分は不思議と沈み切っていない。
アンナは1年以内は俺の前からは逃げない、分かっている。きっと集中できるように配慮しているのだ。適度に会える方が嬉しいのだがと電子タバコをくわえながらため息を吐く。
小腹が減ったので外に出る。ジェシーに飯を食いに行ってくると言い、ついでにネロの方に顔でも出すかと思い野戦病院に向かうと見覚えのある後ろ姿が。アンナは何故俺でなくネロのところに真っ先に向かった? 目を凝らしてみると傍に置いていた皿にリンゴが乗っている。
ただのケガ人への見舞いだったらしい。なんだと思いながら近づこうとしたらアンナは急にネロを寝台に乗っかりヤツの顔に自分の顔を近づけていきやがった。
「は?」
つい声が出てしまった。俺は慌てて大股で近付く。ネロと目が合った。即気が付いたらしく必死にアンナに後ろを見ろと言っている。そこで初めてアンナが振り向き何事もなく「あ、シド」と呑気な声で俺の名前を呼ぶ。
いつも通りの彼女である。数日前あんなにも乱れていたとは思えないほど、変わらず奇麗な人だった。やはり強いなと考えながら剥いてあったリンゴを1つ貰う。するとアンナは残っていたあと1つの欠片をネロの口元に持って行ったのだ。ネロは必死に押し返しながら「それはガーロンドに渡せ! 殺す気か!?」と言っていたので許すことにする。アンナは首を傾げながら俺に渡してくれたので遠慮なく貰った。
しかし何で真っ先に俺の口へ運ばなかったのかと思ったが、そういえばネロは病み上がりで未だ絶対安静の身だったことを思い出す。アンナは基本的に弱った者には優しい。ビッグスとウェッジが倒れた時も白魔法で回復する姿を見た。殺意を見せない限りは優しくしたい、という言葉を以前聞いている。
この後一緒にご飯食べるか聞いてきたので快諾したさ。とりあえず温泉話でも聞こうかと俺はアンナの隣を歩く。「何食べる?」「個人的にあの屋台の飯、美味」等喋りながらふと顔を見上げると話し方は誰もが知るものだというのに少しだけ視線が泳いでいた。自然と笑顔がこみ上がっていくのも当然だろう。ネロにその顔を見せつけてやった。
そう、優しいと見せかけて氷のように冷たい心を持った彼女は変わり始めている。だから早く、呪いを解く方法を、考えてやらないと。俺の前から消えてしまうより先に、な―――
Wavebox
#シド光♀ #ネロ
旅人は奮い立たせたい
注意
レイド次元の狭間オメガシグマ編4終了後のシド光♀。事後描写有り(最中は無し)。
―――ビッグスが、ウェッジが。ネロまでヤツの襲撃に遭った。俺は軽口をたたきながらも深い傷によりグッタリとしたネロを抱え出口に向かった。するとケフカの検証の時には見られなかった神妙な顔をするアンナとへとへとになったアルファが戻って来た。
怖かった。俺以外の検証に参加した仲間が目の前で倒れていく姿をこれ以上は見たくなかった。"あのデータ"を取り寄せるよう言いつけて俺はありったけの酒を持ち支社の与えられた部屋に籠る。
「ジェシー。シドは?」
「あらアンナ。会長なら暗い顔して部屋でお休みよ。あなたこそ何やってたの?」
「ビッグスとウェッジとついでにネロサンにちょっとだけ回復魔法をかけてあげてた」
「ありがとう。あなたも色々あったのに疲れたでしょ?」
「大丈夫。体力だけが取り柄だから。シドの方が精神的に疲れてると思う」
ラールガーズリーチでアルファと後片付けをしていたジェシーの元にアンナはふらりと現れた。珍しく白魔道士の装束をまとい杖を持ち上げながら背伸びして体を伸ばす動きをしている。置いてあったケトルでコーヒーを淹れ、一気に飲み込む。
アンナの手によってオメガによって行われるシグマグループとの検証が終わった。ぐったりとしたネロを引き連れて戻って来たシドの顔は精神的に限界を見せていた。ジェシーが心配するのは当然の話で。アンナは肩をすくめながら話しかける。
「まあ親友が大ケガでぶっ倒れたらさすがに決壊するよねって思う」
「確かに……会長大丈夫かしら」
ジェシーの言葉にアンナは少し考えるそぶりを見せる。ここ最近は仕事だけではなく脱線してオメガの行方ばかり追いかけストレスが溜まっているだろう。それなら少々慰めて様子を見てみればいい。そんな最近の彼の動きを考えながら「そうだ」とつぶやいた。
「なんとなく私に任せてほしい。発破かけてくる」
「いつも大変な役回りばかりさせちゃうわね」
「大丈夫。普段から助けてもらってるから」
ジェシーはアンナにシドがいる部屋の位置を教える。「迷子にならないかしら?」とジェシーが冗談を言うと「善処する」と消えて行った。
「多分あなたにしか出来ない役回りよ。頑張って、アンナ」
1人残されたジェシーはため息を吐いた。足元のアルファは「クエッ?」と鳴いた。
◇
ドアを数回叩かれる。もう資料が届いたのだろうか? 開いてるぞ、と口を開こうとする前に扉が開かれアンナが顔を出す。第一声が「酒くさい」だったので「悪かったな」を返してやった。彼女は扉を閉め倒れた酒瓶を起こしながら俺の前に座る。部屋に充満するアルコールの香りの中からふわりとせっけんの香りがする。改めて彼女の服装をちらりと見るといつもと違い少しだけ軽装ところを見るに先に風呂にでも入っていたのだろう。武器も外し完全なオフの格好に見える。少しだけ沈黙が流れた後彼女が口を開いた。
「シド、落ち込んでる?」
「ま、まあな」
「そりゃ連日部下からケガ人が出てたらそうなるか」
やれやれと言いながら俺の髪を丁寧に梳くように撫でる。熱くなった頬に触れながら「ほら今のあなたはお酒が入ってる。誰にも言わないからさ? 吐いてしまえばいい」という言葉に心の中のナニカが決壊する。
「皆が倒れていく。なぜ俺だけ無事なんだ。お前もいなくなるかもしれない」
「私は負けないよ?」
「うそをつくんじゃない。お前だって合流した時、苦しそうだったじゃないか! 社員を、アンナを失わないために何かできるのか? 俺は―――」
「シド!」
肩を掴まれ、彼女の俺を呼ぶ叫び声でハッとわれに返る。
「オメガは真っ先に残っていたビッグスやウェッジ、ネロサンを狙った。検証終わりを狙って私を殺そうともしたさ!」
「そうだ、だから」
「でもアイツは2つも間違えてしまった大莫迦機械だよ。まずミドガルズオルムのおかげで私は生還した。そして何よりもシドを狙わなかった。毎回壮大な夢物語を現実で形にして世界や私のために道を作る、あなたを」
彼女は俺を力強く抱きしめた。冷たい肌の感覚とバクバクと心臓の鼓動が聞こえる。普段と変わらない声色なのに緊張はしてるのかと彼女の硬い胸へと頭を沈めた。
「心臓の音、聞こえる? 私は生きてる。……アルテマウェポンを破壊するときも、トールダン7世をぶちのめすときも。アレキサンダーを停止させるときだって確かにほとんど私が全部斬ったさ。でもそこへ向かう道を作ってくれたのはシド、あなただ」
「アンナ―――」
「アジス・ラーの時言ってくれたよね? 俺は生きてるって。そうだよ自らを犠牲にせずみんなに伝え、空へ道をつないで支援に徹するのが天才機工師であるあなたの役目さ」
彼女の体に手を回そうとした瞬間体が離れていった。気配察知だけは相変わらず上手なようで優しい笑顔で俺を見ている。つい釣られて笑みを浮かべてしまう。
「元気になった?」
「ま、まあな」
「よかった」
頭をぐしゃりと撫でまわされた。「子供扱いしてるのか?」と聞くと「私からしたら今のシドは子供みたいなもん」とキシシと笑っている。自称26か40か忘れたがそんなに変わらない年齢だろうと小突いてやった。
「だから、オメガを止める協力、よろしく」
「それは俺のセリフだ。お前がいないと終わらせることはできないからな。俺は……」
「……うーんまだ本調子じゃないね」
「? って、なっ!?」
彼女のつぶやきの意味を考える前に身体に痛みが走り天井を見上げていた。そして彼女の顔が近づいたところで俺は初めて押し倒されたと判断する。抵抗しようにも腕を押さえつけられ身動きが取れない。やはり彼女は無駄に力が強すぎる。俺の抗議を無視して彼女は妙な事を言い出す。
「私は敵を数体薙ぎ払えば悩みや欲求不満なんて吹っ飛ぶけど……まぁ普通の人は違うよねえ」
「あ、ああそんなストレス解消方法があるのはお前だけだが―――」
「聞いたことがあるんだ。男というヤツはさ」
不敵な笑顔を見せ一息入れた後恥じらいもせず言い切りやがった。
「一発ヌいたらいいんでしょ?」
さっきまでのいい空気が台無しだチクショウ。天を仰ぎため息を吐いた。
◇
意識を飛ばしたアンナの後処理をした後、しばらく本当にこの人と性行為を行ってしまったのかとぼんやり考えた。考えても仕方ないと眠ろうと寝そべり睡魔に身を任せようとした瞬間、アンナは起き上がった。「マジかぁ」という声が聞こえた。自分の体を確認している動きを見せた後いきなりシドの頭を撫でたので何が起こったのか一瞬理解できなかった。
立ち上がろうとしたので慌てて抱きしめ、「行くな」というと、振り向き苦笑した顔を見せ再び寝そべった。見捨てる気はないらしい。
アンナは無言で熱がこもった目で自分を見るシドを見つめる。一瞬無言の時間が流れ、アンナは口を開く。
「一度しか言わない」
寝起きでぼんやりしているシドにアンナはかすれた声で囁きかける。喘ぎすぎて声を枯らしてしまったか、罪悪感が湧いてくる。しかし、過去にどこかで聞いたような懐かしい声色だ。
「"この子"に特別な感情を抱かせたかったら……宿題だ。最高の殺し文句を考えておいで。期限は今日から1年」
「いち、ねん」
「キミがもし見つけるコトができなかったらアンナ·サリスはキミを……世界ごと捨てていなくなる」
「消えても、絶対に捕まえてやる」
「ダメ。ちゃんと頭を使って考えて。キミがどれだけ想ってくれているかは、痛いほど分かった。2人きりならキスも許すし好きと言うのも止めないよ。でも、"今のボク"はキミに感情を抱くことはできない。ボクの呪いを解けるもんなら解いてみな。多分世界中どこを探しても解くことが出来る人間は、キミだけだから。そのために"ボク"は―――」
「お前が欲しい、言葉。ヒントもなしか?」
「もう揃ってる。……さあ寝るんだ。もう出すもん出し切ったでしょ? 身体が重いったらありゃしない。絶対オメガの検証を完了させよう」
「ああ。―――ごめんな」
アンナは「"ボク"は気にしてないし謝るくらいならヤるな可哀想だろ」とシドの頭を撫でながら再び目を閉じた。その優しい手にシドも目を閉じ、あっという間に眠ってしまった。
◇
目が覚めるとシドは1人寝台に転がっていた。夢だったのだろうか、と気怠い身体を起こし鏡を確認すると昨晩付けられた痕跡が現実だと教えてくれる。
カーテンを開けると外はすっかり明るくそりゃ彼女はいないわけだと苦笑する。衣服が整えられ酒瓶が片付けられているのを見ると彼女はしっかり後片付けまでしたようで。のんきに眠っていた自分が恥ずかしくなってくる。「そうか、ついにやってしまったか」とボソリと呟いた。
ウソまで吐いてこれまで叶わなかった彼女と抱き潰すように体を重ねるという結果を残してしまった。罪悪感がないわけではないが先に仕掛けて来たのは彼女だ。
兎も角空腹で倒れそうなので上着を羽織って外に出ようと扉を開いた。念のため鏡を再び確認すると一度イタズラで付けやがった時にも思ったがパッと見えない位置に付けている。相も変わらずその技術は見事な手法だと笑みがこぼれた。対して自分はどこに噛みついたのか記憶をたどったが思い出せない。
「会長、やっと起きたんですか」
「ああすまないな。……アンナは?」
「アンナですか? オメガの検証で疲れた身体を癒やすためにクガネで温泉一時休暇旅って言ってました」
「そ、そうか」
いつもだったら笑顔であいさつしてくれるハズの彼女が、いない。ジェシーの「何かあったんですか?」という言葉を適当にかわしつつ食事をとろうと外に出る。まだ手が震えるが少しでも勝率を上げるために、彼女を勝利へと導くために。何よりも彼が道を作るために必要なモノを待つ。
何よりも隣にいてもいいという【許し】を得られたことが、そしてようやくSOSを聞かせてくれたのが何よりも嬉しいと笑みをこぼす。1人でどこまでできるか分からないが、やれるところまでやってやろうと思いながらコーヒーに手を伸ばすのであった。
あの言葉が夢ではなければあと1年だ。そうしないと、シドは、世界ごと捨てられてしまう。そんなこと、認められるわけがないと不味いコーヒーを一気に飲み干した。
―――一方その頃。
「ちくしょー騙された。容赦なさすぎる」
アンナはクガネにある温泉につかりながらボソボソとつぶやいている。幸い人がいない時間帯だったので噛み痕だらけの体を人に見られることはない。今朝は早々に起き上がりジェシーに「しばらくクガネにいるから。適当なタイミングでお見舞いするね」と言ってそそくさとテレポで離れてしまった。殆ど拭き取られていたがドロリと垂れ落ちる感覚に気持ち悪さを抱きながらチェックインする自分に嫌気がさす。どれだけヤられたんだと首元をさすりながら荷物を置いた。
しかしネロがいない分検証に勝ち上がる準備に時間がかかるだろう。ときどきは何も考えず英気を養うための温泉旅行も悪くない。
「まあでもスッキリ元気になったならいいか。ボクは……とりあえず風呂から出たら寝るか」
切り替えていつも通りに行こうと伸びをした。しかし、人の記憶に残したくないからと置いていた壁が一晩で破壊されてしまった気持ちと、どこかハジメテという行為が彼でよかったと安堵する感情がアンナの情緒をぐちゃぐちゃに乱していく。切り替えようと頭をぐしゃりとかき乱し深呼吸する。
最近自分の中で決めていたリズムが崩されて困っている。悩みの元はシドだけじゃない。暁のメンバーや最近ならばドマの人たちにも。自分が引いた線よりも中に土足で入り込んでくる。孤独な無名の旅人に、何故。理解が出来ない、どうすればいい?
とりあえずオメガを斬ったら、分かるかな?
Wavebox
#シド光♀
レイド次元の狭間オメガシグマ編4終了後のシド光♀。事後描写有り(最中は無し)。
―――ビッグスが、ウェッジが。ネロまでヤツの襲撃に遭った。俺は軽口をたたきながらも深い傷によりグッタリとしたネロを抱え出口に向かった。するとケフカの検証の時には見られなかった神妙な顔をするアンナとへとへとになったアルファが戻って来た。
怖かった。俺以外の検証に参加した仲間が目の前で倒れていく姿をこれ以上は見たくなかった。"あのデータ"を取り寄せるよう言いつけて俺はありったけの酒を持ち支社の与えられた部屋に籠る。
「ジェシー。シドは?」
「あらアンナ。会長なら暗い顔して部屋でお休みよ。あなたこそ何やってたの?」
「ビッグスとウェッジとついでにネロサンにちょっとだけ回復魔法をかけてあげてた」
「ありがとう。あなたも色々あったのに疲れたでしょ?」
「大丈夫。体力だけが取り柄だから。シドの方が精神的に疲れてると思う」
ラールガーズリーチでアルファと後片付けをしていたジェシーの元にアンナはふらりと現れた。珍しく白魔道士の装束をまとい杖を持ち上げながら背伸びして体を伸ばす動きをしている。置いてあったケトルでコーヒーを淹れ、一気に飲み込む。
アンナの手によってオメガによって行われるシグマグループとの検証が終わった。ぐったりとしたネロを引き連れて戻って来たシドの顔は精神的に限界を見せていた。ジェシーが心配するのは当然の話で。アンナは肩をすくめながら話しかける。
「まあ親友が大ケガでぶっ倒れたらさすがに決壊するよねって思う」
「確かに……会長大丈夫かしら」
ジェシーの言葉にアンナは少し考えるそぶりを見せる。ここ最近は仕事だけではなく脱線してオメガの行方ばかり追いかけストレスが溜まっているだろう。それなら少々慰めて様子を見てみればいい。そんな最近の彼の動きを考えながら「そうだ」とつぶやいた。
「なんとなく私に任せてほしい。発破かけてくる」
「いつも大変な役回りばかりさせちゃうわね」
「大丈夫。普段から助けてもらってるから」
ジェシーはアンナにシドがいる部屋の位置を教える。「迷子にならないかしら?」とジェシーが冗談を言うと「善処する」と消えて行った。
「多分あなたにしか出来ない役回りよ。頑張って、アンナ」
1人残されたジェシーはため息を吐いた。足元のアルファは「クエッ?」と鳴いた。
◇
ドアを数回叩かれる。もう資料が届いたのだろうか? 開いてるぞ、と口を開こうとする前に扉が開かれアンナが顔を出す。第一声が「酒くさい」だったので「悪かったな」を返してやった。彼女は扉を閉め倒れた酒瓶を起こしながら俺の前に座る。部屋に充満するアルコールの香りの中からふわりとせっけんの香りがする。改めて彼女の服装をちらりと見るといつもと違い少しだけ軽装ところを見るに先に風呂にでも入っていたのだろう。武器も外し完全なオフの格好に見える。少しだけ沈黙が流れた後彼女が口を開いた。
「シド、落ち込んでる?」
「ま、まあな」
「そりゃ連日部下からケガ人が出てたらそうなるか」
やれやれと言いながら俺の髪を丁寧に梳くように撫でる。熱くなった頬に触れながら「ほら今のあなたはお酒が入ってる。誰にも言わないからさ? 吐いてしまえばいい」という言葉に心の中のナニカが決壊する。
「皆が倒れていく。なぜ俺だけ無事なんだ。お前もいなくなるかもしれない」
「私は負けないよ?」
「うそをつくんじゃない。お前だって合流した時、苦しそうだったじゃないか! 社員を、アンナを失わないために何かできるのか? 俺は―――」
「シド!」
肩を掴まれ、彼女の俺を呼ぶ叫び声でハッとわれに返る。
「オメガは真っ先に残っていたビッグスやウェッジ、ネロサンを狙った。検証終わりを狙って私を殺そうともしたさ!」
「そうだ、だから」
「でもアイツは2つも間違えてしまった大莫迦機械だよ。まずミドガルズオルムのおかげで私は生還した。そして何よりもシドを狙わなかった。毎回壮大な夢物語を現実で形にして世界や私のために道を作る、あなたを」
彼女は俺を力強く抱きしめた。冷たい肌の感覚とバクバクと心臓の鼓動が聞こえる。普段と変わらない声色なのに緊張はしてるのかと彼女の硬い胸へと頭を沈めた。
「心臓の音、聞こえる? 私は生きてる。……アルテマウェポンを破壊するときも、トールダン7世をぶちのめすときも。アレキサンダーを停止させるときだって確かにほとんど私が全部斬ったさ。でもそこへ向かう道を作ってくれたのはシド、あなただ」
「アンナ―――」
「アジス・ラーの時言ってくれたよね? 俺は生きてるって。そうだよ自らを犠牲にせずみんなに伝え、空へ道をつないで支援に徹するのが天才機工師であるあなたの役目さ」
彼女の体に手を回そうとした瞬間体が離れていった。気配察知だけは相変わらず上手なようで優しい笑顔で俺を見ている。つい釣られて笑みを浮かべてしまう。
「元気になった?」
「ま、まあな」
「よかった」
頭をぐしゃりと撫でまわされた。「子供扱いしてるのか?」と聞くと「私からしたら今のシドは子供みたいなもん」とキシシと笑っている。自称26か40か忘れたがそんなに変わらない年齢だろうと小突いてやった。
「だから、オメガを止める協力、よろしく」
「それは俺のセリフだ。お前がいないと終わらせることはできないからな。俺は……」
「……うーんまだ本調子じゃないね」
「? って、なっ!?」
彼女のつぶやきの意味を考える前に身体に痛みが走り天井を見上げていた。そして彼女の顔が近づいたところで俺は初めて押し倒されたと判断する。抵抗しようにも腕を押さえつけられ身動きが取れない。やはり彼女は無駄に力が強すぎる。俺の抗議を無視して彼女は妙な事を言い出す。
「私は敵を数体薙ぎ払えば悩みや欲求不満なんて吹っ飛ぶけど……まぁ普通の人は違うよねえ」
「あ、ああそんなストレス解消方法があるのはお前だけだが―――」
「聞いたことがあるんだ。男というヤツはさ」
不敵な笑顔を見せ一息入れた後恥じらいもせず言い切りやがった。
「一発ヌいたらいいんでしょ?」
さっきまでのいい空気が台無しだチクショウ。天を仰ぎため息を吐いた。
◇
意識を飛ばしたアンナの後処理をした後、しばらく本当にこの人と性行為を行ってしまったのかとぼんやり考えた。考えても仕方ないと眠ろうと寝そべり睡魔に身を任せようとした瞬間、アンナは起き上がった。「マジかぁ」という声が聞こえた。自分の体を確認している動きを見せた後いきなりシドの頭を撫でたので何が起こったのか一瞬理解できなかった。
立ち上がろうとしたので慌てて抱きしめ、「行くな」というと、振り向き苦笑した顔を見せ再び寝そべった。見捨てる気はないらしい。
アンナは無言で熱がこもった目で自分を見るシドを見つめる。一瞬無言の時間が流れ、アンナは口を開く。
「一度しか言わない」
寝起きでぼんやりしているシドにアンナはかすれた声で囁きかける。喘ぎすぎて声を枯らしてしまったか、罪悪感が湧いてくる。しかし、過去にどこかで聞いたような懐かしい声色だ。
「"この子"に特別な感情を抱かせたかったら……宿題だ。最高の殺し文句を考えておいで。期限は今日から1年」
「いち、ねん」
「キミがもし見つけるコトができなかったらアンナ·サリスはキミを……世界ごと捨てていなくなる」
「消えても、絶対に捕まえてやる」
「ダメ。ちゃんと頭を使って考えて。キミがどれだけ想ってくれているかは、痛いほど分かった。2人きりならキスも許すし好きと言うのも止めないよ。でも、"今のボク"はキミに感情を抱くことはできない。ボクの呪いを解けるもんなら解いてみな。多分世界中どこを探しても解くことが出来る人間は、キミだけだから。そのために"ボク"は―――」
「お前が欲しい、言葉。ヒントもなしか?」
「もう揃ってる。……さあ寝るんだ。もう出すもん出し切ったでしょ? 身体が重いったらありゃしない。絶対オメガの検証を完了させよう」
「ああ。―――ごめんな」
アンナは「"ボク"は気にしてないし謝るくらいならヤるな可哀想だろ」とシドの頭を撫でながら再び目を閉じた。その優しい手にシドも目を閉じ、あっという間に眠ってしまった。
◇
目が覚めるとシドは1人寝台に転がっていた。夢だったのだろうか、と気怠い身体を起こし鏡を確認すると昨晩付けられた痕跡が現実だと教えてくれる。
カーテンを開けると外はすっかり明るくそりゃ彼女はいないわけだと苦笑する。衣服が整えられ酒瓶が片付けられているのを見ると彼女はしっかり後片付けまでしたようで。のんきに眠っていた自分が恥ずかしくなってくる。「そうか、ついにやってしまったか」とボソリと呟いた。
ウソまで吐いてこれまで叶わなかった彼女と抱き潰すように体を重ねるという結果を残してしまった。罪悪感がないわけではないが先に仕掛けて来たのは彼女だ。
兎も角空腹で倒れそうなので上着を羽織って外に出ようと扉を開いた。念のため鏡を再び確認すると一度イタズラで付けやがった時にも思ったがパッと見えない位置に付けている。相も変わらずその技術は見事な手法だと笑みがこぼれた。対して自分はどこに噛みついたのか記憶をたどったが思い出せない。
「会長、やっと起きたんですか」
「ああすまないな。……アンナは?」
「アンナですか? オメガの検証で疲れた身体を癒やすためにクガネで温泉一時休暇旅って言ってました」
「そ、そうか」
いつもだったら笑顔であいさつしてくれるハズの彼女が、いない。ジェシーの「何かあったんですか?」という言葉を適当にかわしつつ食事をとろうと外に出る。まだ手が震えるが少しでも勝率を上げるために、彼女を勝利へと導くために。何よりも彼が道を作るために必要なモノを待つ。
何よりも隣にいてもいいという【許し】を得られたことが、そしてようやくSOSを聞かせてくれたのが何よりも嬉しいと笑みをこぼす。1人でどこまでできるか分からないが、やれるところまでやってやろうと思いながらコーヒーに手を伸ばすのであった。
あの言葉が夢ではなければあと1年だ。そうしないと、シドは、世界ごと捨てられてしまう。そんなこと、認められるわけがないと不味いコーヒーを一気に飲み干した。
―――一方その頃。
「ちくしょー騙された。容赦なさすぎる」
アンナはクガネにある温泉につかりながらボソボソとつぶやいている。幸い人がいない時間帯だったので噛み痕だらけの体を人に見られることはない。今朝は早々に起き上がりジェシーに「しばらくクガネにいるから。適当なタイミングでお見舞いするね」と言ってそそくさとテレポで離れてしまった。殆ど拭き取られていたがドロリと垂れ落ちる感覚に気持ち悪さを抱きながらチェックインする自分に嫌気がさす。どれだけヤられたんだと首元をさすりながら荷物を置いた。
しかしネロがいない分検証に勝ち上がる準備に時間がかかるだろう。ときどきは何も考えず英気を養うための温泉旅行も悪くない。
「まあでもスッキリ元気になったならいいか。ボクは……とりあえず風呂から出たら寝るか」
切り替えていつも通りに行こうと伸びをした。しかし、人の記憶に残したくないからと置いていた壁が一晩で破壊されてしまった気持ちと、どこかハジメテという行為が彼でよかったと安堵する感情がアンナの情緒をぐちゃぐちゃに乱していく。切り替えようと頭をぐしゃりとかき乱し深呼吸する。
最近自分の中で決めていたリズムが崩されて困っている。悩みの元はシドだけじゃない。暁のメンバーや最近ならばドマの人たちにも。自分が引いた線よりも中に土足で入り込んでくる。孤独な無名の旅人に、何故。理解が出来ない、どうすればいい?
とりあえずオメガを斬ったら、分かるかな?
Wavebox
#シド光♀
ioで呟いたアンナ概念(今後書く予定もあるしSSにしてるやつもある)
埋もれるからlog化しときます。
家族
何度か書いてますが兄がいます
自機と60年以上再会出来なかったあまりクールに見せてますが心の中ではシスコンです
エーテル視が出来て弓より魔法が得意なのでスニーキングミッシションが得意
妹と再会するまではよく帝国の基地に忍び込んで知的好奇心を満たすために勝手に機械弄りしてました
しかし妹の記憶はイタズラ好きで里の女性全員と結婚するんだと口説きまくる狩りが得意なクソガキなので今の無駄に強くて人を突き放しながら無名の旅人だと人に対して壁を作る妹なんて知らない!誰だこんな子にしたのは兄は絶対許さないぞ!って怒って里に帰らず妹に黙ってエオルゼアで彼女の軌跡を調べています
里では今でも両親は健在だし兄もこの通り元気ですが自機は迷子にならず帰れる自信がないし神に絶望したので信仰深い里に帰っても合わせる顔がないって思ってます
兄は大好きです
トラウマ
という程じゃないけど自分の過去に繋がる要素には分かりやすいほど反応する
バレたら突き放されるだろうし下手したら殺そうと襲いかかってくる
それを反射的に勢い余って殺してしまってまた孤独になるんだって思ってる感じ
だからその前に消えて早く皆私のこと忘れて幸せに生きてほしいって心の中ではタイミング伺ってるよ
そういう意味では自分を見る目が恐怖に歪むところ見るのがトラウマなのかもしれないね
だから余計なものを見られたくないと無名の旅人だからって言う
これを言う時は大体自分に言い聞かせたい時
暁月過ぎた今はエオルゼアの人らの優しさのおかげで立ち直り、少しでも自分のことを知ってほしいと思うようになってるよ
仲間に過去を話しても「そりゃ強いわけだわ」って言われただけだったからね
今では星だと思ってる相手もいるしね
逆に言うと漆黒までは吐露は無いって事だけど救いは間違いなく存在するよ
人を突き返すことやってるもんって言い聞かせて周りの好感度上げ続けてたウサギは愚か:kawaiine:
だって人助けの方法は教えてもらってたけど人に関わらなすぎたから見捨てることは出来ないし嫌われる方法を知らないからね
初恋
命の恩人の30歳程度年上な侍のヒゲのおじさま
彼女の価値観は殆ど(一緒に旅した頃の)この人から出来ている
すべてを捨てて旅している人でしたが嫁や子供がいる相手だったので自機は告白はせず恩人も好意に気が付いてはいたのでお互い親しながらも壁を作っていました
刀以外にも色々な武器に長けていたので(エオルゼアの冒険者の性質に近い)彼女の弓や槍の修行もつけました
無駄に強い原因もこの人が原因です
生きていく上の知識もこの人直伝
グリダニアを目指すようになったのもこの人の提案だし無名の旅人はこの人の口癖でした
星芒祭
SSの次の年はシドがやり返すためにもらったビックリ箱を解析、小型改良化して自機に渡します
自機は人を驚かせるイタズラが好きですが驚かされる事に慣れていないので真顔になった後泣き出しましたかわいいね
蒼天の頃の自機(何でもできるに対して)
欲しい物ー作るか金積めばいいんでしょ
お相手ー故郷に帰れ(れ)ばお相手いるよ
友達ーいらん
騒げる相手ー友好蛮族と満たせてる
だから人の欲求を満たしてあげる事しか考えない
助けてとか欲しいとか言われたら先回りしちゃおうって思ってる
頼られるのって悪くないな…ってエオルゼアの英雄になっちゃった時に感じちゃったから
でも誰かのものになるというのは「何て?どうせ先に死ぬくせに」って思って自分の領域には入れたくないからふと思い付いた時に突き放すような動きを反射的にしてしまう
結局自分が先に死ぬという発想はなくて自分の前で失ってしまうのが怖いというのが自覚はしてないが憶測で感じ取ってるのでその辺りの恐怖を取り除かれないと諸々を自覚できないって感じ
実際蒼天でいろんな人が目の前で死んだ時にその考えがグワッと強くなる
だから死なずに空に道を作ってくれるシドに無意識に縋ってしまうんですね
縋ってしまう感情といや自分は全てを捨てた旅人として生きるんだという感情が事故ってバグる
光
今更自分が光に届くことはないが光が無いと迷子になるとすがり続ける子です
周りから見ると彼女が全てを照らす強く赤に輝く焔なんですけどね
彼女に近付いたら焼け焦がれるんですよ
考え自体は闇なんだけど周りから見たら本人なりの正義で動く光というのが好きなのでそういう要素があると思ってるんですよね
精神世界(自分の精神世界IDが作られたら?って話題)
多分過去追想方式で道中は鮮血の赤兎時代に自機を恐れて襲いかかってきた人達だよ
ボスはツクヨミ方式な優しかった人が責め立てる感じで(1ボスは兄、2ボスは命の恩人モチーフのモンスター)
ラスボスはゼノスみたいになった自分自身で倒したらある人が待ってくれてるよ
自機からしたら絶対見せたくないものオンパレードですね
表では笑顔で「ありがとう」って言ってるけど内心では特にアリゼーやアルフィノには見せなくなかったなあ!って終わってから悶絶してます
~1ボス
船の上。希望に向かう若き自機が見える。しかし座礁して暗転し、気が付いたら無人島。野生生物中心、1ボスは兄が何故ヴィエラの責務から逃げたと叱咤しモンスターの姿になる。【守り人エルファー・レフ・ジルダ】
1ボス後~2ボス
暗闇の中道を迷う再現。袋小路にはならず者やモンスター達が襲い掛かる。2ボスは弱い心を叱咤する命の恩人【龍殺しのリンドウ】
2ボス後~3ボス
在りし日のガレマール帝国。帝国兵が襲い掛かって来るので魔導城まで走ろう。城内、扉の前で3ボスはゼノスに会った事で心の中で生まれた自分がもし少年に逢わなかったらのif【鮮血の赤兎ガーネット】
3ボス中少年の声が、シドの声が響くことでPTにバフ、ボスにデバフがかかる
3ボス後にカットシーン。若い頃の自機の幻影が扉を開く。その先にいたのは何故かエメトセルク
な感じのものを何度かアウトプットするか悩んでたからそんな感じで
名前の由来
昔ノートした気がするけど命名規則知らなかったのでオリキャラの名前を流用してました
なのでそれを街の名にして森の名を最近決めましたね
アイスランドの人名一覧からいい感じの響きのものと赤か火が入っててほしいなーってエルダス族とかいう種族が生えました
言うかどうか(エロ本があったぞ)
普通に言いますね
ぱっと読んだ内容もデカい声で
シドはあまりにも自機がオープンすぎてもう慣れたらしい
多分悟り開いてるギャグ概念しか増えない原因
閉じ込め(えっちな服着ないと出ないと部屋にCP相手と閉じ込められた話題)
普通に目の前で着替えますね
恥じらいは無し
「すまないシド、あなたも着たいかもしれないけど私がちゃんと全て着てやるから安心したらいい」
「……着たくないから助かるが???」
「あまりにも普通に着るからつまらん、男も着ないとだめらしいよ、シド(嘘だけど)。着せてあげるからまず脱がせるね」
「そう言われるなら仕方がないんだが……自分で出来るから後ろ向くんだ」
「えっ」
「えっ」
以前話題になってた自機が助けを求めるという話と叡智な話を組み合わせたNPC自機なギャグ概念のプロット
依頼でカチコミかけたアジトで興奮剤を原液でぶっかけられてしまい凶暴化しそうになる自機が後片付けのためにサンクレッドに助けを求める
「昂る熱は戦闘で落ち着かせるから近付くな」と各所に飛んでモンスター狩りながら暴れ回るアンナの勘違いを鎮めるために作戦を練った結果、人里に降り立つ前にシド1人を生贄に捧げることで世界を救おうとする暁とガーロンド社員達のお話
#log
家族
何度か書いてますが兄がいます
自機と60年以上再会出来なかったあまりクールに見せてますが心の中ではシスコンです
エーテル視が出来て弓より魔法が得意なのでスニーキングミッシションが得意
妹と再会するまではよく帝国の基地に忍び込んで知的好奇心を満たすために勝手に機械弄りしてました
しかし妹の記憶はイタズラ好きで里の女性全員と結婚するんだと口説きまくる狩りが得意なクソガキなので今の無駄に強くて人を突き放しながら無名の旅人だと人に対して壁を作る妹なんて知らない!誰だこんな子にしたのは兄は絶対許さないぞ!って怒って里に帰らず妹に黙ってエオルゼアで彼女の軌跡を調べています
里では今でも両親は健在だし兄もこの通り元気ですが自機は迷子にならず帰れる自信がないし神に絶望したので信仰深い里に帰っても合わせる顔がないって思ってます
兄は大好きです
トラウマ
という程じゃないけど自分の過去に繋がる要素には分かりやすいほど反応する
バレたら突き放されるだろうし下手したら殺そうと襲いかかってくる
それを反射的に勢い余って殺してしまってまた孤独になるんだって思ってる感じ
だからその前に消えて早く皆私のこと忘れて幸せに生きてほしいって心の中ではタイミング伺ってるよ
そういう意味では自分を見る目が恐怖に歪むところ見るのがトラウマなのかもしれないね
だから余計なものを見られたくないと無名の旅人だからって言う
これを言う時は大体自分に言い聞かせたい時
暁月過ぎた今はエオルゼアの人らの優しさのおかげで立ち直り、少しでも自分のことを知ってほしいと思うようになってるよ
仲間に過去を話しても「そりゃ強いわけだわ」って言われただけだったからね
今では星だと思ってる相手もいるしね
逆に言うと漆黒までは吐露は無いって事だけど救いは間違いなく存在するよ
人を突き返すことやってるもんって言い聞かせて周りの好感度上げ続けてたウサギは愚か:kawaiine:
だって人助けの方法は教えてもらってたけど人に関わらなすぎたから見捨てることは出来ないし嫌われる方法を知らないからね
初恋
命の恩人の30歳程度年上な侍のヒゲのおじさま
彼女の価値観は殆ど(一緒に旅した頃の)この人から出来ている
すべてを捨てて旅している人でしたが嫁や子供がいる相手だったので自機は告白はせず恩人も好意に気が付いてはいたのでお互い親しながらも壁を作っていました
刀以外にも色々な武器に長けていたので(エオルゼアの冒険者の性質に近い)彼女の弓や槍の修行もつけました
無駄に強い原因もこの人が原因です
生きていく上の知識もこの人直伝
グリダニアを目指すようになったのもこの人の提案だし無名の旅人はこの人の口癖でした
星芒祭
SSの次の年はシドがやり返すためにもらったビックリ箱を解析、小型改良化して自機に渡します
自機は人を驚かせるイタズラが好きですが驚かされる事に慣れていないので真顔になった後泣き出しましたかわいいね
蒼天の頃の自機(何でもできるに対して)
欲しい物ー作るか金積めばいいんでしょ
お相手ー故郷に帰れ(れ)ばお相手いるよ
友達ーいらん
騒げる相手ー友好蛮族と満たせてる
だから人の欲求を満たしてあげる事しか考えない
助けてとか欲しいとか言われたら先回りしちゃおうって思ってる
頼られるのって悪くないな…ってエオルゼアの英雄になっちゃった時に感じちゃったから
でも誰かのものになるというのは「何て?どうせ先に死ぬくせに」って思って自分の領域には入れたくないからふと思い付いた時に突き放すような動きを反射的にしてしまう
結局自分が先に死ぬという発想はなくて自分の前で失ってしまうのが怖いというのが自覚はしてないが憶測で感じ取ってるのでその辺りの恐怖を取り除かれないと諸々を自覚できないって感じ
実際蒼天でいろんな人が目の前で死んだ時にその考えがグワッと強くなる
だから死なずに空に道を作ってくれるシドに無意識に縋ってしまうんですね
縋ってしまう感情といや自分は全てを捨てた旅人として生きるんだという感情が事故ってバグる
光
今更自分が光に届くことはないが光が無いと迷子になるとすがり続ける子です
周りから見ると彼女が全てを照らす強く赤に輝く焔なんですけどね
彼女に近付いたら焼け焦がれるんですよ
考え自体は闇なんだけど周りから見たら本人なりの正義で動く光というのが好きなのでそういう要素があると思ってるんですよね
精神世界(自分の精神世界IDが作られたら?って話題)
多分過去追想方式で道中は鮮血の赤兎時代に自機を恐れて襲いかかってきた人達だよ
ボスはツクヨミ方式な優しかった人が責め立てる感じで(1ボスは兄、2ボスは命の恩人モチーフのモンスター)
ラスボスはゼノスみたいになった自分自身で倒したらある人が待ってくれてるよ
自機からしたら絶対見せたくないものオンパレードですね
表では笑顔で「ありがとう」って言ってるけど内心では特にアリゼーやアルフィノには見せなくなかったなあ!って終わってから悶絶してます
~1ボス
船の上。希望に向かう若き自機が見える。しかし座礁して暗転し、気が付いたら無人島。野生生物中心、1ボスは兄が何故ヴィエラの責務から逃げたと叱咤しモンスターの姿になる。【守り人エルファー・レフ・ジルダ】
1ボス後~2ボス
暗闇の中道を迷う再現。袋小路にはならず者やモンスター達が襲い掛かる。2ボスは弱い心を叱咤する命の恩人【龍殺しのリンドウ】
2ボス後~3ボス
在りし日のガレマール帝国。帝国兵が襲い掛かって来るので魔導城まで走ろう。城内、扉の前で3ボスはゼノスに会った事で心の中で生まれた自分がもし少年に逢わなかったらのif【鮮血の赤兎ガーネット】
3ボス中少年の声が、シドの声が響くことでPTにバフ、ボスにデバフがかかる
3ボス後にカットシーン。若い頃の自機の幻影が扉を開く。その先にいたのは何故かエメトセルク
な感じのものを何度かアウトプットするか悩んでたからそんな感じで
名前の由来
昔ノートした気がするけど命名規則知らなかったのでオリキャラの名前を流用してました
なのでそれを街の名にして森の名を最近決めましたね
アイスランドの人名一覧からいい感じの響きのものと赤か火が入っててほしいなーってエルダス族とかいう種族が生えました
言うかどうか(エロ本があったぞ)
普通に言いますね
ぱっと読んだ内容もデカい声で
シドはあまりにも自機がオープンすぎてもう慣れたらしい
多分悟り開いてるギャグ概念しか増えない原因
閉じ込め(えっちな服着ないと出ないと部屋にCP相手と閉じ込められた話題)
普通に目の前で着替えますね
恥じらいは無し
「すまないシド、あなたも着たいかもしれないけど私がちゃんと全て着てやるから安心したらいい」
「……着たくないから助かるが???」
「あまりにも普通に着るからつまらん、男も着ないとだめらしいよ、シド(嘘だけど)。着せてあげるからまず脱がせるね」
「そう言われるなら仕方がないんだが……自分で出来るから後ろ向くんだ」
「えっ」
「えっ」
以前話題になってた自機が助けを求めるという話と叡智な話を組み合わせたNPC自機なギャグ概念のプロット
依頼でカチコミかけたアジトで興奮剤を原液でぶっかけられてしまい凶暴化しそうになる自機が後片付けのためにサンクレッドに助けを求める
「昂る熱は戦闘で落ち着かせるから近付くな」と各所に飛んでモンスター狩りながら暴れ回るアンナの勘違いを鎮めるために作戦を練った結果、人里に降り立つ前にシド1人を生贄に捧げることで世界を救おうとする暁とガーロンド社員達のお話
#log
旅人は、取り戻せない
注意
蒼天3.0メインストーリー中の自機の心情を補完する即興SSです
―――英雄を乗せ、生まれ変わったエンタープライズは飛び立った。
彼女はぼんやりと空を見つめていた。いつものような笑顔も見せず神妙な顔。それもそうか、俺たちはトールダン7世と最終決戦になるだろうアジス・ラーへ向かった。目論見通り防壁を越えることに成功したが帝国の飛空艇の猛攻を退けるためにシヴァ、氷の巫女と呼ばれたイゼルが散った。無事上陸を果たし仲間たちが飛空艇から降りる中、彼女はぼんやりとその場から動かず空を見上げていた。
「アンナ」
「別に悲しんでいるわけじゃないよ」
「何も言ってないんだが」
「……あらあら」
アンナは俺の方に向き苦笑いしている。俺はそのまま彼女の横に立ち空を見上げた。
淀み切った空は俺たちに何も教えてくれない。しばらく何も言わず立っていた。
「たくさん、人が死んでいるの」
ポツリと呟く声はいつもより低い。
「私に優しくしてくれたヒトが真っ先に死んでいく」
「誰にだって限界はあるさ」
「ホー、超える力だって言ってるくせにこんなちっぽけなことも抗えないなんて。知らなかったわ」
拳を握り締め、振り下ろしている。顔を見ると目を見開き一筋の涙が落ちた。
「やっぱり神様ってクソッタレ。ムーンブリダを、オルシュファンを、イゼルを返せ」
ガン、ガンと飛空艇の外装に拳を振り下ろしている。俺は彼女のその痛めつけられている手を力いっぱい押さえた。
「悲しかったんだな」
「違う、本来あるべき場所から奪ったヤツを、私は、私は」
目が見開かれ、空気がナニカに反応したのかどこか震えヒリヒリと痛む。彼女の手が熱い。明らかに様子がおかしい。「アンナ!」と俺は叫ぶ。彼女はビックリした顔で俺を見ている。
「俺は生きている。アルフィノも、ミンフィリアも、サンクレッドだってお前さんが救ったじゃないか。お前は全てに手を差し伸べる神になるつもりか!?」
手の熱が収まった。そして彼女は俺の肩に頭を置く。そして「5分」とボソとつぶやいた。
「何もしないで。ただそこに立ってて、ください」
「あ、ああ」
「―――面識のない旅人を助けたって何も利益がないくせに、何で」
彼女はボソボソとつぶやき始める。
「私に触らなければ死ななかった。私が現れなければ世界はそのままだった」
「アンナ」
「でも私がここにいないと世界は変わらなかった。私がいないと達成されなかった。私が手を伸ばして救えた人もいっぱいいた」
「そう、だな」
「ただの"旅人"に優しくする人たちが分からない。勝手にみんな死んでいく。どうして、どうして―――」
「アンナは悪くない。今だけ、な」
そこから彼女は何も言わず震えていた。俺はただ彼女の肩を撫でることしかできなかった。
それはザナラーンの教会でしか見なかった彼女の弱さだった―――
◇
5分後。彼女は顔を上げた。俺の耳元で「ごめんなさい」と囁いた後、目をこすりいつもの笑顔を見せた。
「もったいない」
「何か言った?」
「あ、ああ何でもない」
「私たちに悲しみながら人を弔う暇なんてないよ。……みんな待たせてる、行きましょ」
途中から心配したのか戻ってきた仲間たちに見られていたが彼女は気が付いていなかったようだ。即しっしっと手で払うしぐさをしたら戻って行ったがバレないに越したことはない。
彼女は強い。刀を握り締め全てを斬るために奔る。しかし心は絶望的に、脆い。それは多分1人旅で長年人と関わってこなかったからだろう。
誰かが支えないと、そばにいないとすぐに崩れ去るのではないかと踵を返し歩き出した彼女の後ろ姿を見守る。
「もしお前が許すなら」
俺が隣に立ってはいけないだろうか?
Wavebox
#シド光♀ #即興SS
蒼天3.0メインストーリー中の自機の心情を補完する即興SSです
―――英雄を乗せ、生まれ変わったエンタープライズは飛び立った。
彼女はぼんやりと空を見つめていた。いつものような笑顔も見せず神妙な顔。それもそうか、俺たちはトールダン7世と最終決戦になるだろうアジス・ラーへ向かった。目論見通り防壁を越えることに成功したが帝国の飛空艇の猛攻を退けるためにシヴァ、氷の巫女と呼ばれたイゼルが散った。無事上陸を果たし仲間たちが飛空艇から降りる中、彼女はぼんやりとその場から動かず空を見上げていた。
「アンナ」
「別に悲しんでいるわけじゃないよ」
「何も言ってないんだが」
「……あらあら」
アンナは俺の方に向き苦笑いしている。俺はそのまま彼女の横に立ち空を見上げた。
淀み切った空は俺たちに何も教えてくれない。しばらく何も言わず立っていた。
「たくさん、人が死んでいるの」
ポツリと呟く声はいつもより低い。
「私に優しくしてくれたヒトが真っ先に死んでいく」
「誰にだって限界はあるさ」
「ホー、超える力だって言ってるくせにこんなちっぽけなことも抗えないなんて。知らなかったわ」
拳を握り締め、振り下ろしている。顔を見ると目を見開き一筋の涙が落ちた。
「やっぱり神様ってクソッタレ。ムーンブリダを、オルシュファンを、イゼルを返せ」
ガン、ガンと飛空艇の外装に拳を振り下ろしている。俺は彼女のその痛めつけられている手を力いっぱい押さえた。
「悲しかったんだな」
「違う、本来あるべき場所から奪ったヤツを、私は、私は」
目が見開かれ、空気がナニカに反応したのかどこか震えヒリヒリと痛む。彼女の手が熱い。明らかに様子がおかしい。「アンナ!」と俺は叫ぶ。彼女はビックリした顔で俺を見ている。
「俺は生きている。アルフィノも、ミンフィリアも、サンクレッドだってお前さんが救ったじゃないか。お前は全てに手を差し伸べる神になるつもりか!?」
手の熱が収まった。そして彼女は俺の肩に頭を置く。そして「5分」とボソとつぶやいた。
「何もしないで。ただそこに立ってて、ください」
「あ、ああ」
「―――面識のない旅人を助けたって何も利益がないくせに、何で」
彼女はボソボソとつぶやき始める。
「私に触らなければ死ななかった。私が現れなければ世界はそのままだった」
「アンナ」
「でも私がここにいないと世界は変わらなかった。私がいないと達成されなかった。私が手を伸ばして救えた人もいっぱいいた」
「そう、だな」
「ただの"旅人"に優しくする人たちが分からない。勝手にみんな死んでいく。どうして、どうして―――」
「アンナは悪くない。今だけ、な」
そこから彼女は何も言わず震えていた。俺はただ彼女の肩を撫でることしかできなかった。
それはザナラーンの教会でしか見なかった彼女の弱さだった―――
◇
5分後。彼女は顔を上げた。俺の耳元で「ごめんなさい」と囁いた後、目をこすりいつもの笑顔を見せた。
「もったいない」
「何か言った?」
「あ、ああ何でもない」
「私たちに悲しみながら人を弔う暇なんてないよ。……みんな待たせてる、行きましょ」
途中から心配したのか戻ってきた仲間たちに見られていたが彼女は気が付いていなかったようだ。即しっしっと手で払うしぐさをしたら戻って行ったがバレないに越したことはない。
彼女は強い。刀を握り締め全てを斬るために奔る。しかし心は絶望的に、脆い。それは多分1人旅で長年人と関わってこなかったからだろう。
誰かが支えないと、そばにいないとすぐに崩れ去るのではないかと踵を返し歩き出した彼女の後ろ姿を見守る。
「もしお前が許すなら」
俺が隣に立ってはいけないだろうか?
Wavebox
#シド光♀ #即興SS
セイブ・ザ・クイーン途中。"嫉妬"であったシドがネロにリンクパールで悩みを明かした直後の話。
静かにため息を吐き、片隅で1人座りうずくまる。震えが止まらず、心がカラカラに乾いている。ふとリンクパールが鳴り響き、慎重に出るとあの飄々とした明るい声だった。
『よおメスバブーン、機嫌はどうだ?』
「最悪、かも」
今自分の心の中を大きく占める男の友人の声だ。思い当たる用事も無いのにかけてくるのは珍しい。否、もしかしたら"アラグの悪魔"の噂でも聞いたかもしれない。
「アラグの悪魔はまだ調査中」
『なンだそれ』
「あ、こっちの話。知らないならそれでいい。用が無いなら、切る」
『用があるかは俺が決めンだよ。お前、槍持ってるらしいじゃねェか。どういう風の吹き回しだ?』
目を見開き、少しだけ黙り込む。すると自分の中の"内なる存在"が『代われ』と声を掛けて来た。仕方がないので"切り替え"てやる。
「それについては"ボク"が説明する」
『その言い回しは……あっちか。何してンだ?』
「シドから聞いたね? いやあちょっとシドのせいで"この子"の機嫌が悪いからストレス解消させてるんだ」
『ハァタレコミ通りかよ。どうした、泣きの連絡が来て困ってンだよ』
「うん少々拗ねてたね。まあ過去がバレることを承知に暴れ回ってるのは本当に反省してるさ。でもこれに関してはシド悪くないから気にするなとしか」
『あいつのせいなのに悪くねェって何だそりゃ』
ネロの少々困惑した声にニィと笑ってしまう。
「『自分、ミコトさんとボスはお似合いだと思うッス』『あの朴念仁の旦那、あれで結構、モテると思うゼ。早くしないと誰かに獲られちゃうかもな?』」
『ア?』
「シドが一度会社に戻るってなった直後"ボク"の前で起こった会話。ミコトっていうシャーレアン方面の研究職の子がまあ淡い事言っててねぇ。それに関して周りの評価」
『あー……ガーロンドが悪いが、本人は気にしなくていいってそういうことかよ。確かにいない間に機嫌悪くなってるのも間違ってねェな』
「その時は笑顔で見守ってたけど後から内心イラッとね。目の前のスクラップが砂のように砕けて正直面白―――じゃなかった。あんま戦場で精神的に乱されると下手すりゃ死んじまう。そりゃぁ困るってことでね。今回の敵は帝国兵純度100%だからまあ色々アドバイスしてあげたのさ」
『はー成程ただの惚気をこのド深夜にブチ込ンだってわけだなあのバカ』
「そうなるね。いやあゴメンゴメン」
盛大な溜息が聞こえる。自分からかけてきたくせにどういう態度だと思うが置いておく。
「"この子"的には今までなかった感情さ。それに困惑してるのも事実。まあまだ決着ついてなかった感情に整理つけるきっかけになるだろうし放っておいたらいい」
『マァ本人が言うならもう触れねェが。つかまだウジウジ考えてンだな』
「そゆこと。というわけでまたちぎっては投げて来るね。いつまでもシドを寂しがらせるのも悪いし」
『ハァ』
「じゃあキミにも迷惑かけたし帝国が発掘したらしい"アラグの悪魔"の情報集まったらあげるね。"兄さんにもよろしく"」
返事を待つ前に通信を切る。自らの中で眠ってしまった"アンナ"にクスリと笑みをこぼし槍を握りしめた。
「ヒヒッ」
瞬時に跳躍し、宵闇の中に消えていく。
"内なる存在"はこれまで自らが何者か、分からなかった。気が付いたらもう1人の"アンナ・サリス"として生きている。しかしこれまでの冒険、そして"アラグの悪魔"の噂でどこか熱が宿った。もしかしたら、"それ"を見たら自分へのヒントが見つかるかもしれない。"彼女"の心が滾るに決まっていた。
◇
「エル、マジで信じらンねェなバブーン2匹。脳までゴリラかよ」
「おうおう僕の妹は除外しといてくれないかな?」
「メスの方のバブーンは筆頭だろうが」
通信を一方的に切られ、ため息を吐く。深夜にシドからの通信に起こされ、好奇心のままアンナに通信を繋いだらただの惚気話だったことに落胆した。もっと面白いものかと思ったのにナァと肩を落とすと隣にいたエルファーは苦笑していた。傍に置いてあったリンクパール通信の内容を傍受するスピーカーの電源を切りながら目を細める。
「そうかい。……で、我が妹が嫉妬してたってことだな?」
「おう。その笑いながら怒るのやめねェか?」
エルファーの顔は一見ヘタクソな笑顔なのだが口元は歪み、目はギラギラと輝いている。引きつった笑みで落ち着かせようと窘める。
「ほらアレだ。まず新入りに関しては明日ジェシーにでも報告すっか。これに関しちゃそれで勝手に話進むんじゃね。吊るそうとすンな」
「瞬時に社内で拡散される未来が見えてまた僕の肩身が狭くなる」
「今更だろ」
「うっせ」
ネロの頬を抓ると再び書物に視線を戻してる。その様子にため息を吐きながら没収し、ブックマーカーを挟み投げ捨ててやる。
「コラ」
「寝ンぞ」
「あと1刻」
「アホ」
1刻経過する、つまり睡眠を取る気はなく朝まで読書するつもりらしい。腕を引っ張り寝台に転がしてメガネを外す。諦めたのか丸まってしまった。
「いじけンなよガキか」
「ママが僕を虐めて来たんでな」
「だーれがママだお前の方が3倍は年上じゃねェか。ほら狭ェから寄れよ」
無言で寝返りを打って隅に寄って行く。妙な所は素直な生き物だと思いながら横たわり、ランプを消す。
暗闇の中、モゾモゾと物音が聞こえた。
◇
次の日。一連の出来事を半笑いでジェシーに伝えてやる。
ジェシーは青筋を浮かべながら即リンクシェルを繋いだ。そして「リリヤ、あなた帰ってきたら覚悟しておきなさい。会長は! とっくに! アンナの! 返事待ちよ!」と少々よく分からないことを叫ぶ。チクったネロとしては正直どうでもいい。だが、あの鈍感本人が不在の中、全てが拡散される瞬間程愉快なものはないだろう。察したリリヤの『ま、まさか……そりゃないッスよ姉御ぉ! ていうかどこで聞いたッスかぁ!』という悲痛の叫びまでも即噂好き社員らが交わす話題の種だ。
ちなみに。その横では「余計なことを"社用回線"で言わないでくれ女史ぃ! 少しは僕の立場というもの考えてくれないか!」と相変わらず凹んでいるエルファーをベテラン社員らが宥めている。「殺してくれ……」と呻く男をゲラゲラと笑いながら整備スペースに歩みを進めるのであった―――。
Wavebox