FF14の二次創作置き場

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No.86

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注意 漆黒メインシナリオ途中のシド光♀。都合のいい妖精王の能力とシド少年時代捏造…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

"夢"
注意
 漆黒メインシナリオ途中のシド光♀。都合のいい妖精王の能力とシド少年時代捏造。
 
―――苦しかった。光がこんなにも息が詰まり、何も見えなくなるほど気持ち悪いものだなんて思ってもみなかった。しかし根底にある闇が、そして自分だけ見ることが出来る道を示す輝く白い星が私が"ボク"であることの証明である。

「美しい枝、フェオちゃん」
「あら若木私を呼ぶなんて珍しいわね!クスクス」

 無意識に呼んでしまった。こみ上がる吐き気を抑えながらもニコリと笑う。

「最近"私"が眠れなくて。ちょっと眠らせる魔法が欲しい」

 朧げに呟くとフェオは少しだけ考える素振りを見せた後、ニコリと笑った。そして「しばらく待って頂戴!」と言うとふわりと"ボク"に何か魔法をかけて消えてしまった。
 何故自分がこんな苦しみを味わらないといけないんだ、5年ほど前の"アンナ"が聞いたら呆れるだろう。しかし50年前に会ったという若い頃そのままなヤツに遭うぞと言うととっとと逃げろと慌てながら掴まれる姿が浮かんだ。"光の氾濫"という現象を何とかしないと自分らが生まれた世界が危ないなんて今でもよく分からない。
 少しだけとろんと瞼が重くなってきた。なるほど徐々に眠くなる魔法だったのか。確かに突然目の前が真っ暗になるよりは不安がない。「ありがとね、フェオちゃん」とボソと呟き睡魔に身を任せた。



「はい今回もギリギリ間に合いましたねお疲れさまでした!」

「疲れた」
「文明人コワイ」
「イイ経験だったろ?」

 深夜、ガーロンド・アイアンワークス社工房。会長シドをはじめとする社員たちが突っ伏していた。
 赤色の髪のヴィエラの男は初めてのデスマーチに想いを馳せたのかメガネを外し一息ついている。

「修羅場なんて嫁の優先順位くらいしかなかったからな」
「惚気やめてくださいッスよー」
「おいレフはもう離婚してるんだぞ」
「ホー、言うじゃないか。完成物燃やすぞ」
「ヤメロ」

 新入社員となったアンナの兄エルファー・レフ・ジルダ。妹にバレたくないのかレフと名乗りながらネロと共に行動し、円滑に行われたオメガの検証を陰で手伝っていた。まあフルネームの一部だったので彼女は偶然と称していたが本能的に察知していたことは本人には教えていない。その後人の名義の領収書を置いて2人で逃げ出したが無事捕獲、働かされている。
 そしてつい1週間程度前まではネロとレフを引き連れ、自分の朧げな記憶の確実性を上げるためにドマへ"墓参り"に行った。あとはアンナが戻って来るのを待つだけだとシドは拳を握る。あっさりとした宿題だったとヒゲを撫でコーヒーを飲もうとケトルに手を伸ばそうとした時だった。『クスクス…』という小さな笑い声が聞こえる。

「おいネロ、何か聞こえないか?」
「ハァ?あまりにも徹夜続きで幻聴が始まったか?」
『見ぃつけた』
「ほら聞こえたじゃないか」

 頭の中で少女の声が響く。うん? 頭の、中?

「っ!? ガーロンドくんそこから離れろ!!」
『あらあらあなた私が見えるのかしら? クスクス……ちょっとこの人借りるわね? 朝には返すから!』

 レフが俺の肩を掴むが徐々に目の前が霞んでくる。そして真っ暗になった。

 シドは途端に突っ伏してしまう。社員は大慌てで彼を囲むが寝息が聞こえるが否や呆れた顔をしていた。
 レフのみは顔が真っ青になっており、ネロは肩を叩き問いかける。

「おい何が視えた」
「わからん……見たことないエーテルの動きと借りるとか朝には返すとか異国語すぎて分からん」
「暁の人呼びましょうか?」

 ネロは舌打ちしながら「とりあえず仮眠室にでも持ってくぞ。クッソこんな時にメスバブーンがいたら片手で運ぶのによ」とシドを引っ張る動きをする。



―――目を開くと真っ白の空間。誰もいない。「おいネロ、レフ、ジェシー」と社員の名前を呼んでいくが返事が返って来ない。

「アンナ」

 困った時、呼べばいつも途端に解決してくれるあの人の名前を口に出す。しかし彼女は別の世界で会うことは出来ない。それでももう一度「アンナ」と名前を呼ぶとまたあの笑い声が聞こえた。

『こんにちは! さあ早く、こっちよ』

 光が集まりが見えるが俺の目ではその正体を視認できない。魔法的存在だろうか辛うじて第三の眼で判別できるが何かは分からなかった。すると『あらあら、あらあらあらあなたは私が視えないのね!』という声が聞こえた。

『あなたが会いたい人に会わせてあげる!』

 胡散臭い。なんて胡散臭い一言なんだとため息を吐くと心を読まれたらしく『会いたくないなら構わないわ! せっかく眠れないあの子のためにいい夢を準備してあげたいのに!』と抗議される。眠れない? あの人がか?

「本当に俺が会いたい人間に会えるのか? 別の世界にいる人間だぞ」
『夢を介してだけど会えるわ。だって私はその世界からあなたを呼んだのよ?』

 さあ目を閉じて。あなたの頭の中で会いたい人を思い浮かべてごらんなさい、と言われたので目を閉じ、あの人の名前を呼ぶ。黒髪赤目の、奇麗なヴィエラ。俺を護ると約束した、赤の刃を。

『さあもう大丈夫よ! 目を開けて!』



 目を開くと扉の前だった。どこかの宿屋なのだろうか、周辺にも同じような扉がある廊下である。『レディの部屋に入る時は、まずノックをするものだわ』と囁かれたので俺は言われるがままに扉を叩く。ドアノブが回り、扉が開いた。自分よりも頭一つ高い身長、褐色肌で黒髪に赤目の女性。ぼんやりとした目で俺を見るとパタンと扉が閉じられた。しばらく無音の時間が流れ、再び扉を開き俺を二度見する姿は余裕が一切なく「え、うそ、フェオちゃん?」とボソボソ呟いている。

「そっか、夢かあ」

 アンナは柔らかい笑顔で俺を強く抱きしめたので硬直してしまう。そうだ、これは夢だろう。孤独な旅人が好きでもないし嫌いでもない相手をいきなり抱きしめる筈がない。「アンナ、とりあえず座らないか?」と言うと「そうだね」と俺を解放し、軽く抱き上げた。
 まず目についたのは窓の外の景色だ。明らかにエオルゼアではない不思議な空を見ているとアンナは「外に出たらクリスタルタワーがあるんだよ」と頭を撫でる。相変わらずの子ども扱い―――なのは俺の都合のいいアンナ像だからだろう。

 椅子を並べられたので隣り合って座りアンナの話を聞いた。光に満たされ今にも滅びそうな世界、水晶公という人間との出会い、夜を取り戻す闇の戦士になっている話、ソル帝いやアシエン・エメトセルクとの邂逅、罪喰いという生物を倒すたびに自分の体に光が取り込まれ今にもバケモノになりそうな話を空を見上げながら淡々とした口調で話す。何故お前が全部やらないといけないんだ、他の奴に任せられないのかと言ってやると涙を浮かべこちらを向いた。

「わかんない。皆私に助けてっていうから、助けてる。そう、皆弱いから。強いボクが助けないと」
「でも俺たちの世界に帰れないと、意味がないだろ?」
「だってこの世界を救えないと私たちの世界も滅ぶ。このままじゃ第八霊災が起こるって」

 それから起こるであろう未来を語った。信じられない話だが、"あの手紙"に書かれていた真実と照らし合わせるとあり得ないと断じられない。だからと言って俺が何か出来るわけではないのだが。彼女に託すしかできないという現実に頭に血が上りそうになる。落ち着かせるために震える体を抱き寄せ、「この話題は終わりにしよう」と言ってやるとこくりと頷いた。
―――あまりにも具体的な自分が知りえない情報に夢なのか、そうでないのかもう分からなかった。

「心配されてるのは分かってる。でも早めにエオルゼアには帰るから」
「ああ絶対に帰って来るんだ。死ぬなよ、待ってる」

 口付けを交わす。何度も角度を変え、触れるだけのキスだ。流れた涙を舐めとってやり、抱きしめてやる。するとアンナは「なんて都合のいい夢だ。でも嬉しいんだよね」と呟いたので「俺もだ」と返した。

「だって20年前の自分には予想できなかった話だよ」
「―――そうだな?」
「あんな可愛かった少年が本当にヒゲの似合う年齢になって現れて、冒険できたから」

 その低い声で目を見開く。記憶通りの、幼い頃に聞いたし、星芒祭の夜に再会して語り合った旅人の声だった。
 彼女があの寒空の夜に出会った人だというのは既に知っている。実際先に知っていたネロに確認したから間違いはない。だからその願望が、リアルタイムに夢として反映されているのだろう。

「お、俺だって思わなかったさ。まさかお前が旅人のお兄さんだったなんてな」
「命の恩人と別れて以降、アシエンだったソル帝除いたら初めてだったんだよね。ボクを襲ったり怯えた目で見ずにすぐに助けてくれた人間って」
「っ!?」
「だから嫌いになれるわけ、ないじゃないか。そう思ってたからバカみたいな約束をした。ボクに道を示してくれるお星さまならすぐに辿り着けるって」
「アンナ」
「嗚呼絶対帰ってみせるよ。キミたちを護るって約束してるんだから。ねえシド」

 俺の頬を触り口付けを交わした後、笑顔を見せた。

「ボクは、キミのことが、す」
『若木ー!!!』
「ふぇ、フェオちゃん!?」

 俺をここに連れて来た光の声が聞こえる。何やら大きく慌てているようだ。アンナにははっきり様子だが俺にはどうなっているのかさっぱりだ。

『ごめんなさい! 時間切れよ! あの人があなたを無理やり起こそうとしてるのだわ! さあ白い人も帰りましょう!』
「え、は? うそ、これ本人!?」
「なっ―――アンナ!」

 周辺が光に包まれていく。どうなっているのか分からないが、うっすらと大慌てのアンナの顔が見えた。

 アンナの「わ、忘れて! 忘れろ!!」っていう完全にメッキが剥がれ素の声が聞こえた気がした。満面の笑顔で「ああ忘れないからな!」と言い返してやったが聞こえたか分からない。
―――いい夢だった。



 目を開くとそこは会社の仮眠室。起き上がると暁の血盟のクルルとネロ、レフが目を丸くして俺を見ていた。

「あ、あらシド起きたみたい」
「は? オマエマジで寝てるだけだったのかよ」
「こっちは納期のデーモンに殺されかけた後ほぼ寝てないのにな」
「す、すまん」

 俺は思わず反射的に謝ってしまう。しかしよく考えなくても自分は悪くないだろう、無理やり眠らされたのだから。

「ねえシド、何があったの? 体内エーテルに異常は見られないけど……身体に違和感とかない?」
「いや、特に何も起こっては……実は意識が落ちた後にな」

 夢の一部を説明する。アンナの現在の状況と、第八霊災について。ネロとレフは呆れた目で見ていたがクルルは真面目な顔で「多分第一世界にいる妖精族の仕業ね」と答える。

「私とあとタタルも何度か夢を介してその子に向こうの世界の状況を教えてもらってるの。シドは多分その妖精にアンナの夢の中へ連れて行かれたんだと思う」
「成程妹が現在いる世界のピクシー族的な存在によるイタズラってやつか。仲良くできてそうだな」
「いやいや納得してンじゃねェよ。事実なら無傷で戻れたのは奇跡じゃねェか」

 確かにそうだ。特に目立った異変も無いしきちんと眠ってはいたからか体は軽い。

「他に妹は何か言っていたのか?」
「え、いや、どうだったか……」
「ナニもしてないよな?」
「話をしただけだ落ち着け」
「はー僕も妹に会いたいなあ」

 レフの視線が痛い。仕事中は一切その素振りを見せずよく働いてくれるが、終了した途端妹を溺愛しすぎてこちらにまで殺意を見せることがあるのは本当に勘弁してほしい。
 それよりも一つだけ確信に至ったものもある。アンナに一晩『一般常識を仕込んだもう死んでいる男』だ。あの口ぶりだと相手はアシエン、しかも生まれ故郷の初代皇帝となる。一度迷い込んでソル帝の部屋に辿り着いたという話は正直半信半疑だったのだが、本人の口から示唆されると複雑な過去が余計に整理できなくなった。

「ネロ、俺はどうしたらいいか分からん」
「いやオレだって突然言われても困るンだが」
「だよな……だよなあ……」

 怪訝な顔をしながらもクルルに礼を言うと何か言いたげにしていたレフを連れて出て行ってしまった。クルルも「それじゃあお大事に。アンナ視点の第一世界の状況を聞けてよかった。えっと……その感情、落ち着かせるためにコーヒーとか飲んだらいいと思う」と言うと退室してしまった。何を言っているのか理解できないままふらりと立ち上がり洗面台で鏡を見ると、眉間に深く皴が刻まれ自分の目から見ても機嫌が悪い。いい夢を見たハズなのにこれではいけないと思いながら顔を洗いクルルのアドバイス通りコーヒーを淹れに行くのだった。

―――アンナ、絶対に生きて帰ってこいよ。



 一方その頃第一世界。

 目を見開き起き上がりながら「あーもー!」と叫ぶ。夢と変わりないペンダント居住区にある一室にてアンナはため息を吐いた。そして目の前にいる男を見やり再び一度目を閉じ、ため息を吐く。そしてゆっくりと目を開いた。

「優雅に眠る"レディ"の寝室に勝手に入るのは控えめに言っても最低では?」
「レディとは程遠いやつが何を吠えている。妙なエーテルの動きを掴んだから発生源に来たらお前の寝室だっただけだ。寝顔もあの時と変わらず最高だったぞ?」

 吐きそうな文句につい笑顔を浮かべるのも忘れてしまっていた。本当はいつでも一時的にエオルゼアへ戻れるのだが、執拗にエメトセルクが妨害するのでストレスが溜まり続けている。暁がなんとか一度だけ時間を作ってくれたがシドは不在だしそろそろ納期に追われる時期と言われてしまった。そんなことを言われてしまっては罪喰い討伐時以外は適当に人助けするか目の前の相手をあしらうしかやることはない。体内にたまり続ける光の気持ち悪さと一緒に言葉を吐く。

「そりゃぁどうも」

 "あの子"は夢の中で余計なことを言ってしまい疲れてるんだよ、だから"ボク"が代わりに対応してやってるんだと思いながら朝の日課のため着替えに手を伸ばした。


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