FF14の二次創作置き場
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- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
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"召し上がれ"
補足
Lv39メインクエスト前後のお話。
「アルフィノ、大丈夫?」
「あ、ああサリスか。大した事はないよ」
白い息を吐きながら少年ははにかんだ。
◇
クルザス、ホワイトブリム前哨地。ボクたちは今、シド・ガーロンドが造ったと言われる"エンタープライズ"を探す手がかりがこの地にあるという情報を掴み、やって来た。余所者お断りの気候と同じく冷たい人間たちの扱いに困りながら、人助けをしている。まあその人助けも異端審問官が邪魔をして大して実ってないわけだが。
記憶を失った男シドも自分が出来ることを探し、装置を修理している。しかし、ザナラーンで潜んでいたボクたちを見つけ出しここまで連れてきた少年アルフィノは地道な活動が苦手らしい。外で何やら考えことをしていた。
見ていると非常に寒そうである。特に腹を冷やしそうでボクはそわそわしていた。見かねてつい旅用のマントを羽織らせる。
「いいのかい?」
「まあ少しは慣れてるからね。それにしても―――シドの方が寒そうなのに。無茶しちゃだめだよ?」
「確かにシドは見てるこっちが寒くなるがね……」
薄い布のように見える半袖。アルフィノの言う通りとても寒いと思われる格好だ。本人はどうも思ってなさそうだが。
「ガレマール帝国はとても寒い土地にある国だしね。これ位誤差なんでしょ」
「ふふっそうかもしれないね」
「お前たち何を話してると思ったら……」
いつの間にか苦笑しながらシドが立っていた。ボクとアルフィノは笑顔を見せる。
「ほらアルフィノ、噂をすれば寒そうな人だよ」
「サリスからマントを預かってるが―――もしかしたらこれは君が羽織ってる方がいいかもしれないね」
「お、俺は大丈夫だ。アルフィノ、風邪を引いたら大変だ。それで温まるといい」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
苦笑する彼らを見て、ボクは少し考える。そしてふと過去の記憶が浮かび上がった。
『温かい―――』
食材は、ある。調理道具もある。じゃあちょっと火を借りたら行けそうか。
「アルフィノ、ちょっと待っててね」
彼らの言葉を聞く前に砦へ走り去る。頑張って再現出来るようになったモノを、差し上げよう。
◇
「サリス。これは……いいのかい?」
「ちゃんと食べないと身体が冷えていつまでも温まらないよ」
思い付いた時は煮込む工程を忘れていた。おかげさまで思ったより完成まで時間がかかってしまった。マントにくるまったアルフィノは目を丸くし、ボクが手渡したカップを両手で持っている。年相応って感じで可愛いね。
湯気が立ち、肉と切った野菜が白くとろみのある汁の中に沈んでいる。これがなかなか当時作ろうとしたけど難しくて苦戦したっけ。理由は簡単。どうしてもあの夜に食べた味にならなかったから。いや味自体は作れるようになった。温かく、自分の身体の芯に火が灯されたあの感覚を得ることが出来ない。
「これは―――シチューか?」
「うん。シドも食べる?」
「丁度腹が減ってきてた。貰えるか?」
「そう」
シドにも渡し、ボクはニコニコと2人が食べている所を見守る。
「美味しい。サリス、とっても美味しいよ」
「ああ。お前はどんな料理も出来るんだな」
「ふふっ。長く旅をしていたらね、料理の1つや2つ出来るようになるよ」
満面の笑顔。よかった。もし美味しくないと言われたらどうしようかと。
「ああ。それに、どこか懐かしい味がするんだ」
シドはカップの中身をじっと見つめ、目を細めた。―――まあそうでしょうね。
「あなたがガレマール帝国出身の方なら、そうかもしれないわね」
じゃあ片付けするから、と踵を返し歩を進める。「どういうことだ、サリス」という声が聞こえたが何も言わず手を振った。
嗚呼。別に、どんな顔されてるか見たくないからじゃないよ。いつまでもボクの鍋を置きっぱなしにしてるのは失礼だなって思っただけなんだから。
―――記憶を取り戻したら、飛空艇を夢見た機工師がいなかったか聞いてみようかな。意味はないけど。
◇
あの時ボクを助けた白色の少年。今どこで、何をしているのかな。ボクを探す飛空艇は作れたのだろうか。いや、キミの故郷は今こうやって急激に勢力を広げてる。だから、恐ろしい兵器を造ってるのかもしれない。
もしかしたら、敵として会ってしまうかも。ちょっとだけ怖いな。だから、なるべく出会わないことを祈ってるよ。
ボクは旅人。それ以上でもそれ以下でもない。誰のモノにもならないし、誰かを愛することもない。
忘れてくれてたら、嬉しいな。
#即興SS
Lv39メインクエスト前後のお話。
「アルフィノ、大丈夫?」
「あ、ああサリスか。大した事はないよ」
白い息を吐きながら少年ははにかんだ。
◇
クルザス、ホワイトブリム前哨地。ボクたちは今、シド・ガーロンドが造ったと言われる"エンタープライズ"を探す手がかりがこの地にあるという情報を掴み、やって来た。余所者お断りの気候と同じく冷たい人間たちの扱いに困りながら、人助けをしている。まあその人助けも異端審問官が邪魔をして大して実ってないわけだが。
記憶を失った男シドも自分が出来ることを探し、装置を修理している。しかし、ザナラーンで潜んでいたボクたちを見つけ出しここまで連れてきた少年アルフィノは地道な活動が苦手らしい。外で何やら考えことをしていた。
見ていると非常に寒そうである。特に腹を冷やしそうでボクはそわそわしていた。見かねてつい旅用のマントを羽織らせる。
「いいのかい?」
「まあ少しは慣れてるからね。それにしても―――シドの方が寒そうなのに。無茶しちゃだめだよ?」
「確かにシドは見てるこっちが寒くなるがね……」
薄い布のように見える半袖。アルフィノの言う通りとても寒いと思われる格好だ。本人はどうも思ってなさそうだが。
「ガレマール帝国はとても寒い土地にある国だしね。これ位誤差なんでしょ」
「ふふっそうかもしれないね」
「お前たち何を話してると思ったら……」
いつの間にか苦笑しながらシドが立っていた。ボクとアルフィノは笑顔を見せる。
「ほらアルフィノ、噂をすれば寒そうな人だよ」
「サリスからマントを預かってるが―――もしかしたらこれは君が羽織ってる方がいいかもしれないね」
「お、俺は大丈夫だ。アルフィノ、風邪を引いたら大変だ。それで温まるといい」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
苦笑する彼らを見て、ボクは少し考える。そしてふと過去の記憶が浮かび上がった。
『温かい―――』
食材は、ある。調理道具もある。じゃあちょっと火を借りたら行けそうか。
「アルフィノ、ちょっと待っててね」
彼らの言葉を聞く前に砦へ走り去る。頑張って再現出来るようになったモノを、差し上げよう。
◇
「サリス。これは……いいのかい?」
「ちゃんと食べないと身体が冷えていつまでも温まらないよ」
思い付いた時は煮込む工程を忘れていた。おかげさまで思ったより完成まで時間がかかってしまった。マントにくるまったアルフィノは目を丸くし、ボクが手渡したカップを両手で持っている。年相応って感じで可愛いね。
湯気が立ち、肉と切った野菜が白くとろみのある汁の中に沈んでいる。これがなかなか当時作ろうとしたけど難しくて苦戦したっけ。理由は簡単。どうしてもあの夜に食べた味にならなかったから。いや味自体は作れるようになった。温かく、自分の身体の芯に火が灯されたあの感覚を得ることが出来ない。
「これは―――シチューか?」
「うん。シドも食べる?」
「丁度腹が減ってきてた。貰えるか?」
「そう」
シドにも渡し、ボクはニコニコと2人が食べている所を見守る。
「美味しい。サリス、とっても美味しいよ」
「ああ。お前はどんな料理も出来るんだな」
「ふふっ。長く旅をしていたらね、料理の1つや2つ出来るようになるよ」
満面の笑顔。よかった。もし美味しくないと言われたらどうしようかと。
「ああ。それに、どこか懐かしい味がするんだ」
シドはカップの中身をじっと見つめ、目を細めた。―――まあそうでしょうね。
「あなたがガレマール帝国出身の方なら、そうかもしれないわね」
じゃあ片付けするから、と踵を返し歩を進める。「どういうことだ、サリス」という声が聞こえたが何も言わず手を振った。
嗚呼。別に、どんな顔されてるか見たくないからじゃないよ。いつまでもボクの鍋を置きっぱなしにしてるのは失礼だなって思っただけなんだから。
―――記憶を取り戻したら、飛空艇を夢見た機工師がいなかったか聞いてみようかな。意味はないけど。
◇
あの時ボクを助けた白色の少年。今どこで、何をしているのかな。ボクを探す飛空艇は作れたのだろうか。いや、キミの故郷は今こうやって急激に勢力を広げてる。だから、恐ろしい兵器を造ってるのかもしれない。
もしかしたら、敵として会ってしまうかも。ちょっとだけ怖いな。だから、なるべく出会わないことを祈ってるよ。
ボクは旅人。それ以上でもそれ以下でもない。誰のモノにもならないし、誰かを愛することもない。
忘れてくれてたら、嬉しいな。
#即興SS
"食事"
補足
お互い感情を持っていなかった頃のシド光♀。
シドがアンナをクールでミステリアス→面白生物という評価になった瞬間の話。
―――俺はアンナをどう思っているのだろうか。
「水くさいじゃないか。困ったときはお互い様だろ?」
「……ええ、そうだね」
第七霊災を終結させ、光の戦士と呼ばれるようになった女性がいる。名前はアンナ・サリス。趣味は人助けのお人好し。年齢、出身、誕生日、経歴全てが不詳の謎に包まれた"旅人"。
「冒険者はエオルゼアで活動するのに都合がいいだけなの。だから旅人って呼んで欲しいですわ。ずーっとそうだったから」
ある時こんなことを言われたので俺はそう称している。周りは経歴を調べようとしているらしい。だが、一向に情報が集まらないのを見るにそもそも名前だって偽名の可能性も高そうだ。誰にも隙を見せない、完璧なヴィエラである。
だが、俺はそれでもいいと思っている。古くから冒険者という生業の人間はどんな過去でも受け入れられる職業じゃないか。それにこちらが敵意を向けない限り、決してその笑顔を崩すことはないのだから。
そんなアンナとは俺が事故で記憶を失い、心を閉ざしていた頃に出会った。その手を引っ張られ、自らの使命を思い出した後、共に祖国でもある帝国打倒のため走り回る。
英雄と呼ばれるようになったアンナと同じ戦場に立つという行為は非常に誇らしく、好奇心が満たされていった。勿論クリスタルタワーでの出来事も記憶に新しい。時には共に戦い、またある時には護られ、必要に迫られれば共犯者にだってなる。まさにかけがえのない仲間というやつだ。
―――まあ、相手はどう思っているか分からないがな。どうせ助けている内の1人って認識だろう。俺は別にそれでも構わない。アンナに付いて行くだけで面白いことが起こるのだ。口実を見つけて追いかけるに決まっているじゃないか。
旅に出るのを引き留めるため、意を決して会社に連れて行った時。好奇心に満ちた笑顔で周りを見回していた。それから荷運びや護衛は勿論、手頃な話相手になるし差し入れにと菓子も持ってくる。嬉しいが嫌な顔一つせず何でも引き受けてるのは流石に申し訳ないと思ってしまう。
「アンナ、少しくらいは断ってもいいんだぞ?」
「面白いから大丈夫だよ」
なんて綺麗なニコリとした笑顔を見せやがる。なのでアンナが社内で何かを引き受ける時は、俺もなるべく付いて行くことにした。人と会話している時も、頼まれごとを引き受けている時も。流石に護衛中は周りに怒られるので大人しくしているが。
そうしていると理由は分からないが、少しだけ周りからの頼まれ事が減り、2人で世間話をする時間が増えた。最近訪れた場所や出会った人、動物に奇妙な装置と聞ける話は何でも聞いてやる。程よく刺激を受けるので全く苦にもならない。
ついでに美味しかった食べ物を再現したと持ってきた時もあった。それが凄い美味い。餌付けされてるような気もするがそれはただの杞憂としておこう。
「ねえ、そういえばプライベートでは何してるの?」
「暇だから次の案件の設計図やら理論について考えてるな」
「ん? ……それって仕事じゃないのかしら?」
「手は動かしてないぞ? じゃあお前さんは何をやってるんだ」
「? "旅人"は仕事じゃないよ。あ、暁の血盟関係ない人助けがプライベートってやつかもしれない」
なるほど。アンナはいつ休んでるんだと思っていたが、そもそも休みの概念が存在しないのだということに気が付いた。それならばと、他人のように断られる前提で「じゃあよかったら明日休みだから飯でも行かないか? ほら1人だと仕事の延長になってしまうからな」と誘ってみる。すると「いいよ」と即答が返って来た。
言い出しっぺのくせに一瞬心臓が高鳴ってしまい、平静を装うのに精いっぱいだった。
◇
アンナ・サリスという人はクールでミステリアスな女性だと思っていた。が、別にそうでもないかもしれないと最近気が付いた。その筆頭が食事風景である。ネロがクリスタルタワーで"珍獣"やら"野生動物"と喧嘩するごとに口にしていた。あの時は否定していたが、これを見てしまった俺もそうかもなと考え込んでしまう。
その日は突然やって来た。レヴナンツトールで合流し、飯屋で他愛ない話をしながら飯を食っていた時のこと。これまでの俺たち2人は、言うなれば仕事や作戦中隣に立っていたようなもので。こうやって完全にプライベートで会うという行為はマーチオブアルコンズ作戦直後以来であった。
最初こそは適度に楽しい食事の時間であったが、即違和感を抱くことになる。会話中は一切食事に手を付けないのは分かる。しかし少し目を離した隙にアンナ周辺から食べ物が消えているのだ。それとなく余所見するよう誘導され、振り向くと既にないのは誰でもおかしいことに気付くだろう。念のために机の下を見て落としてないことを確認してみるが綺麗だった。嫌な予感がし、勢いよく顔を上げる。すると俺は見てしまった。―――料理が口の中に"吸い込まれる"瞬間を。
俺はその場で素っ頓狂な声を上げてしまう。それから俺の休暇は、主にアンナに人間の食事方法を教えることへと費やされていった。
「何か襲撃が起こるかもしれないじゃない」
「この辺りでお前さんが出張るほど震撼するような襲撃が起きるわけないだろ!?」
「う……リンクパールで呼ばれるかもしれないじゃん」
「お前今も付けてないじゃないか!」
「あー……し、シドに食べられるかも」
「俺はそこまで食い意地張ってないぞ失礼だな!?」
子供っぽい言い訳と共に少しずつ小さくなっていくアンナに食器を押し付ける。そう、よく見ると目の前にはナイフやフォークの類がない。「箸なら知ってるんだけど」と首を傾げながら眺める姿に『こいつまさかひんがしの国にある森の中で野生動物に育てられたのか?』という予想がよぎる。その食べ方は見ているこっちの寿命が擦り切れそうだ。
「アンナ、飯代は今までウチで手伝ってくれた礼がてら俺が出す。休みの日はお前が、ちゃんと、食事が出来るようになるまで! 連れ回してやるから覚悟しろ」
「ホー……いやまあご飯美味しいなら別に構わないけど」
「というかあの食べ方で何で美味い料理を忠実に作れるんだ……」
味わえそうもない吸引に見えたのだが、体の構造はどうなってるのだろうか。俺も行儀よく食えてるかと言われると少し疑問だが、流石にこれよりかは"文明的"だ。マシだと思いたい。いやそこらの動物でも野蛮を通り越して芸術的な食べ方はしないだろう。とりあえず、今までの人生で自分にテーブルマナーについてとやかく言ってくれた家族らに感謝しようと思ってしまった。
―――後に。偶然2人で食事に行く姿を社員に目撃されてしまい、デートやら何だという噂が広がる。あいつらは実際の"戦場"を見てないからそんな戯言を言えるんだ。いや確かに冷静に考えればこれは俗にいうデートと思われる時間かもしれない。期待に沿えず残念だが、これは少しだけ刺激のある友人との食事という認識だ。
最初こそはどうしてこうなったと思っていた。が、逢瀬を繰り返し、アンナという人間をほんの少しずつ知るごとに、ミステリアスというイメージからユーモアな人間という印象に落ち着く。口調も穏やかで丁寧なものから徐々に変わっていき、当初より喋りやすくなったと思う。
そう、食べ方以外は本当に魅力的に映る人だった。いや食事風景も面白いのだが。いつの間にか教えるという行為が楽しい時間だと思うようになっている。
それが無意識下で友人以上の感情へと熟成されていたことを知るのはまだまだ先の話。
#シド光♀ #即興SS
お互い感情を持っていなかった頃のシド光♀。
シドがアンナをクールでミステリアス→面白生物という評価になった瞬間の話。
―――俺はアンナをどう思っているのだろうか。
「水くさいじゃないか。困ったときはお互い様だろ?」
「……ええ、そうだね」
第七霊災を終結させ、光の戦士と呼ばれるようになった女性がいる。名前はアンナ・サリス。趣味は人助けのお人好し。年齢、出身、誕生日、経歴全てが不詳の謎に包まれた"旅人"。
「冒険者はエオルゼアで活動するのに都合がいいだけなの。だから旅人って呼んで欲しいですわ。ずーっとそうだったから」
ある時こんなことを言われたので俺はそう称している。周りは経歴を調べようとしているらしい。だが、一向に情報が集まらないのを見るにそもそも名前だって偽名の可能性も高そうだ。誰にも隙を見せない、完璧なヴィエラである。
だが、俺はそれでもいいと思っている。古くから冒険者という生業の人間はどんな過去でも受け入れられる職業じゃないか。それにこちらが敵意を向けない限り、決してその笑顔を崩すことはないのだから。
そんなアンナとは俺が事故で記憶を失い、心を閉ざしていた頃に出会った。その手を引っ張られ、自らの使命を思い出した後、共に祖国でもある帝国打倒のため走り回る。
英雄と呼ばれるようになったアンナと同じ戦場に立つという行為は非常に誇らしく、好奇心が満たされていった。勿論クリスタルタワーでの出来事も記憶に新しい。時には共に戦い、またある時には護られ、必要に迫られれば共犯者にだってなる。まさにかけがえのない仲間というやつだ。
―――まあ、相手はどう思っているか分からないがな。どうせ助けている内の1人って認識だろう。俺は別にそれでも構わない。アンナに付いて行くだけで面白いことが起こるのだ。口実を見つけて追いかけるに決まっているじゃないか。
旅に出るのを引き留めるため、意を決して会社に連れて行った時。好奇心に満ちた笑顔で周りを見回していた。それから荷運びや護衛は勿論、手頃な話相手になるし差し入れにと菓子も持ってくる。嬉しいが嫌な顔一つせず何でも引き受けてるのは流石に申し訳ないと思ってしまう。
「アンナ、少しくらいは断ってもいいんだぞ?」
「面白いから大丈夫だよ」
なんて綺麗なニコリとした笑顔を見せやがる。なのでアンナが社内で何かを引き受ける時は、俺もなるべく付いて行くことにした。人と会話している時も、頼まれごとを引き受けている時も。流石に護衛中は周りに怒られるので大人しくしているが。
そうしていると理由は分からないが、少しだけ周りからの頼まれ事が減り、2人で世間話をする時間が増えた。最近訪れた場所や出会った人、動物に奇妙な装置と聞ける話は何でも聞いてやる。程よく刺激を受けるので全く苦にもならない。
ついでに美味しかった食べ物を再現したと持ってきた時もあった。それが凄い美味い。餌付けされてるような気もするがそれはただの杞憂としておこう。
「ねえ、そういえばプライベートでは何してるの?」
「暇だから次の案件の設計図やら理論について考えてるな」
「ん? ……それって仕事じゃないのかしら?」
「手は動かしてないぞ? じゃあお前さんは何をやってるんだ」
「? "旅人"は仕事じゃないよ。あ、暁の血盟関係ない人助けがプライベートってやつかもしれない」
なるほど。アンナはいつ休んでるんだと思っていたが、そもそも休みの概念が存在しないのだということに気が付いた。それならばと、他人のように断られる前提で「じゃあよかったら明日休みだから飯でも行かないか? ほら1人だと仕事の延長になってしまうからな」と誘ってみる。すると「いいよ」と即答が返って来た。
言い出しっぺのくせに一瞬心臓が高鳴ってしまい、平静を装うのに精いっぱいだった。
◇
アンナ・サリスという人はクールでミステリアスな女性だと思っていた。が、別にそうでもないかもしれないと最近気が付いた。その筆頭が食事風景である。ネロがクリスタルタワーで"珍獣"やら"野生動物"と喧嘩するごとに口にしていた。あの時は否定していたが、これを見てしまった俺もそうかもなと考え込んでしまう。
その日は突然やって来た。レヴナンツトールで合流し、飯屋で他愛ない話をしながら飯を食っていた時のこと。これまでの俺たち2人は、言うなれば仕事や作戦中隣に立っていたようなもので。こうやって完全にプライベートで会うという行為はマーチオブアルコンズ作戦直後以来であった。
最初こそは適度に楽しい食事の時間であったが、即違和感を抱くことになる。会話中は一切食事に手を付けないのは分かる。しかし少し目を離した隙にアンナ周辺から食べ物が消えているのだ。それとなく余所見するよう誘導され、振り向くと既にないのは誰でもおかしいことに気付くだろう。念のために机の下を見て落としてないことを確認してみるが綺麗だった。嫌な予感がし、勢いよく顔を上げる。すると俺は見てしまった。―――料理が口の中に"吸い込まれる"瞬間を。
俺はその場で素っ頓狂な声を上げてしまう。それから俺の休暇は、主にアンナに人間の食事方法を教えることへと費やされていった。
「何か襲撃が起こるかもしれないじゃない」
「この辺りでお前さんが出張るほど震撼するような襲撃が起きるわけないだろ!?」
「う……リンクパールで呼ばれるかもしれないじゃん」
「お前今も付けてないじゃないか!」
「あー……し、シドに食べられるかも」
「俺はそこまで食い意地張ってないぞ失礼だな!?」
子供っぽい言い訳と共に少しずつ小さくなっていくアンナに食器を押し付ける。そう、よく見ると目の前にはナイフやフォークの類がない。「箸なら知ってるんだけど」と首を傾げながら眺める姿に『こいつまさかひんがしの国にある森の中で野生動物に育てられたのか?』という予想がよぎる。その食べ方は見ているこっちの寿命が擦り切れそうだ。
「アンナ、飯代は今までウチで手伝ってくれた礼がてら俺が出す。休みの日はお前が、ちゃんと、食事が出来るようになるまで! 連れ回してやるから覚悟しろ」
「ホー……いやまあご飯美味しいなら別に構わないけど」
「というかあの食べ方で何で美味い料理を忠実に作れるんだ……」
味わえそうもない吸引に見えたのだが、体の構造はどうなってるのだろうか。俺も行儀よく食えてるかと言われると少し疑問だが、流石にこれよりかは"文明的"だ。マシだと思いたい。いやそこらの動物でも野蛮を通り越して芸術的な食べ方はしないだろう。とりあえず、今までの人生で自分にテーブルマナーについてとやかく言ってくれた家族らに感謝しようと思ってしまった。
―――後に。偶然2人で食事に行く姿を社員に目撃されてしまい、デートやら何だという噂が広がる。あいつらは実際の"戦場"を見てないからそんな戯言を言えるんだ。いや確かに冷静に考えればこれは俗にいうデートと思われる時間かもしれない。期待に沿えず残念だが、これは少しだけ刺激のある友人との食事という認識だ。
最初こそはどうしてこうなったと思っていた。が、逢瀬を繰り返し、アンナという人間をほんの少しずつ知るごとに、ミステリアスというイメージからユーモアな人間という印象に落ち着く。口調も穏やかで丁寧なものから徐々に変わっていき、当初より喋りやすくなったと思う。
そう、食べ方以外は本当に魅力的に映る人だった。いや食事風景も面白いのだが。いつの間にか教えるという行為が楽しい時間だと思うようになっている。
それが無意識下で友人以上の感情へと熟成されていたことを知るのはまだまだ先の話。
#シド光♀ #即興SS
旅人は目印を置く
「アンナそういえばドアの飾りだが懐かしいな」
「? 何のこと?」
遂に気が付きやがったかと目を背け心の中で舌打ちする。ミスト・ヴィレッジにあるアパルトメント"トップマスト"。一時的な荷物置き場として1室を購入して数ヶ月程度経過した。遂にその部屋の入り口であるドアに下げた無骨な金属を打ち付けて作られた飾り細工が話題になってしまう。
「いやアレは俺がまだ記憶喪失だった頃に作ってやったやつだろ?」
「記憶皆無。偶然鞄に入ってたから目印に置いただけだし」
「ならこちらの目を見て言ってくれないか?」
嗚呼気持ち悪いくらい満面の笑顔になっている。そうだ、忘れるわけがないじゃないか。アレはこの正面でニヤつく男に出会った頃のお話。
◇
ボクは走っていた。勝手に巻き込んだ挙句ぐちゃぐちゃになった砂の家。悲惨な現場を見下すような目で眺めた後、恐怖と怒りを腹の中に溜めながらザナラーンを走る。
辿り着いた先はキャンプ・ドライボーン郊外にある教会。一度イフリートの件で邪魔した場所だ。夜遅くに駆け込み、そこにいた司祭に無機質な声で言葉を吐いた。
「私は旅人。お世話になってた場所が、襲撃されて。ここに行け、と言われたの」
愛想なんて捨ててしまうほど精神が疲れ果てていた。哀れに思った司祭イリュドはボクの肩を優しく撫でてくれた。その時にぼんやりと佇んでいたのが墓守のマルケズ、今のシドである。暁の協力者であるイリュドはしばらく隠れる拠点として滞在するように勧めてくれた。
―――本当は彼らも巻き込みたくなかった。相手はボクを探し手中に収めようとした皇帝が治めるガレマール帝国。5年前に"死んだこと"に出来たからと完全に油断していた。蛮族殺しとして名前が通るようになってしまい、耳に届いた可能性もある。どこにも属したくないから旅人と名乗っているのだ、帝国だけはごめんだねと当時は思っていた。当時中立組織とはいえ暁の血盟を拠点にしていた人間に説得力はないかもしれない。しかし助けを求めてくるのだから手を差し伸べるのは当然である。
この日はマルケズに個室まで案内され、寝台に寝そべった。相変わらず朝まで眠れなかった。
次の日、質素な食事をいただきお使いに出る。マルケズが何やら時計を修理したいとのことなのでドライボーンにて素材やら工具やらを集め、手渡した。その後はお腹が空いたので適当に郊外の動物を狩り、調理して食った。臭いを消すために水浴びをし、香水を付ける。戻った後にはすっかり夜で、いつもの場所にマルケズはいなかった。多分修理をしているのだろう。マメなことでと思いながら廊下に立つ。
「……部屋どこだっけ」
同じ扉、暗い廊下。変に開いて違ったら迷惑だろう。ボクはため息を吐き外に出た。
空を見上げるとそれは綺麗な星空だった。笑みを浮かべ、物陰にもたれかかり睡眠をとる。旅をしていた時によくやっているので慣れた姿勢だった。
◇
早朝、誰かが来る前に教会内の椅子に座り祈りを捧げるフリをする。物音が聞こえ目をやるとマルケズがフラフラと歩いてきた。ボクに気が付くとゆっくりと歩み寄り、修理が終わった時計を見せる。あまり詳しい人間ではないがパッと見この辺りでは見かけない仕様のものだなという印象を受けた。そしてえらく手先が器用な人なんだなと思考を張り巡らせる。
―――他人から集めた情報を整理するとエオルゼア方式でなくどちらかというとガレマール式のもの。ということは彼は帝国か属州出身者という所か。素振りを見る限り記憶喪失は演技には見えない。ということは亡命者で、逃げている途中に大ケガを負ってしまいショックで記憶も飛んだという所だろう。深く被ったローブの下にはゴーグルを付けているのが見えた。推測の域を超えないがガレアン人が持つ第三の眼を隠している可能性が高い。きっとエオルゼアではよろしくない目で見られたであろう。自分のことも分からないが何故か迫害される、そりゃ根暗にもなるか。しかし一晩でパッと直して見せた技術は手が勝手に動いたものとしては目を見張る所がある。記憶はなくても身体が技術を覚えていて、手先が器用な所から純ガレアン族で機工師だと結論付けた。
その後声をかけられボクは再びベスパーベイへ。そうか、秘密結社の構成員は死体を送るべき場所が存在しないのか。"冥府"と呼ばれる還る場所は皆一緒なのに、と哀れな目を見せ冷たい躯を運び込む。まるで普段のボクの体温のように冷たく成り果てた数々の大きさのモノをため息を吐きながら持ち上げた。中には滅多刺しになっている死体もあった。確実に殺すのなら一突きでいい。帝国の人間とやらは頭がおかしいやつばかりなのかと1人拳を握り締めた。そして最後に小さなトモダチを黒衣森へと運ぶ。お礼を言われたが、全く嬉しくなかった。自分が現れなければノラクシアは殺されなかっただろう。小さな声で再び謝った。
腹が減ったので再び適当に狩りをしてから教会に報告する。相変わらず辛気臭いマルケズは不気味だった。まあ自分も周りから不気味だと囁かれているのはちゃんと耳に届いていた。ヴィエラなんだからこの長い耳で全部聞こえてるに決まってるだろう。相変わらず与えられた一室の場所が分からなかったので野宿した。
◇
それからまた次の日も何も起こらないまま外で狩りをしながら見回りを行い、夜は外で星を見ながら野宿を決める。別に恥を忍んでもう一度部屋の場所を聞いてもよかった。が、また忘れてしまい夜も更け寝ようと思った時に気付く。自分のことより周りに帝国の陰が見えるような気がして、そちらに集中してしまうのが一番よくない話だった。
今日も空を見上げながら伸びをするとふと教会の扉が開く音が聞こえた。誰か忘れものでもしたのかなと無視していると「何を、している」と声をかけられる。声の主へと目をやるとマルケズがいた。「星を見ているの」と返してやると少しだけボクを見つめた後少し離れた場所に座る。何がしたいんだこの人。墓場でなければ異性と星空を見上げるという行為はロマンチックだろうねえ。そう思いながら無言が耐え切れなくなったボクは呟いた。
「暗闇は、嫌い」
ボクは昔から暗闇が嫌いである。生まれ故郷を飛び出したあの真っ暗闇の世界が未だに忘れられず、何度か夢にも出て来た。彼は目を細め、「なぜだ?」と聞いてくる。
「真実を隠し、私を狂わせるから」
「俺は好きだ。落ち着くんだ」
真逆の思考である。そうか、今の彼からしたらこの闇は記憶のない自分を包み込んでくれる優しい存在なのかと察する。ため息を吐き頭を両膝に埋めた。本当に何で、旅人なのにこんな所で怯えないといけないんだ。体が寒いとガタガタ震えが抑えられなくなってくる。すると突然背中に温かい感触。マルケズが「だ、大丈夫か?」と背中を優しくさすったようだ。どこか少しだけその寒さが消え去った気がする。「大丈夫」と次なる話題を探した。そうだ、言うなら今だろう。
「あと迷子になる」
「……は?」
顔を上げ、真剣な目で言ってやる。マルケズは面喰ったような顔を見せた後、「そういえばいつも朝礼拝堂で座ってたな。まさかと思うが自室が分からないのか?」と聞いてきた。
「……はい。って笑う所あった?」
「す、すまない。短い通路で迷われるとは思わなくて」
「むぅ失礼なヒト。違う部屋を開けたら失礼かもしれないっていう配慮だよ。でもまあ……笑えるんだ、よかった」
今まで不愛想な対応をしていた男が笑う。少しだけほっとした。優しい笑顔が綺麗な若造だなって印象を抱く。
「何かトラウマで笑えないのかなって」
「その、俺はただ―――」
どうせ記憶喪失で不安だっただけだろう? 言葉を遮るように早速部屋まで案内してもらうために立ち上がり手を差し伸べた。
「さ、誰かに見られたくないでしょ? 私みたいな悪い人に襲われちゃうかもよ?」
手を引っ張り立たせる。少し慌てている顔が面白い。ゴツゴツする手を触り、観察する。自分とは真逆の温かく、大きくて、手入れはあまりしていないのだろうその指はガサガサと荒れ、マメがあった。ふむ予想通り技術者でそれなりに熟練の人間か。「な、何をしている?」と聞くので極力優しい声で答えてやる。
「技術者の手」
「そう、か?」
「数日観察の結果、ね。今触ってみて確信した。大きくて、しっかりとしてて私は嫌いじゃないな」
目を見開きボクを見つめている。面倒だから「明日に支障が出るよ? あなたがね」と言いながら教会へと足を進める。待てと言葉と共にマルケズがボクを追い抜き、その後部屋まで案内してくれた。「ありがと、おやすみ」と言ってやると「ああおやすみ。もう迷子になるなよ」と素っ気なく返される。慌てて自分の部屋だと思われる場所に早歩きで去って行った男の表情は深く被ったローブで見ることが出来なかった。多分相当眠かったのだろう。
◇
久々に寝台の上で目を覚ました。昨日までよりもどこか晴れやかな気分で。身体をうんと伸ばしながら外に出る。
機嫌がいいので朝食の手伝いをした。その時の驚く教会の人間の顔は忘れられない。未だ出て来ない男の部屋の場所を教えてもらい扉を叩くとゆっくりと開く音が聞こえた。目を見開き「どうした?」と聞くので肩をすくめてやる。
「もう朝ですよ。イリュドが心配してたわ」
「ああすまない。完成したから今から出よう」
何を? と聞くと付いて来いと言われたので歩いた先はボクに与えられた部屋だった。慣れた手つきでドアに銀色の無骨な飾りを下げる。
「これでもう迷子にならないだろ?」
「―――もしかして一晩で作ったの?」
ニコリと笑いマルケズはその場を去ろうとした。お礼ぐらい言わせろと腕を引っ張る。
「ありがとね」
それだけ言って離してやる。嗚呼今日はなんていい日なんだ、そんな笑みがこぼれた。
また数日後、少年アルフィノがボクとマルケズ、いやシドを連れ出した。その時、何も言わず飾りを鞄に入れる。役割を終えたそれは初めて彼がくれた"目印"で。その時何故か分からなかったけれど、誰かのものにしたくなかったのは確かだった―――
◇
「そういえば少し前、個人的な用事で司祭に会いに行った時見当たらないなとは思ってたんだ」
「知らない」
「観念しろ」
「しーらーなーいー」
うざい。これ見よがしに全力で絡んできやがる。いや逆の身だったら自分もネタにするから強く突き放せない。両手を上げ降参のポーズを見せる。
「あー……ここだって同じドアばっか。見分けつけるのにちょうどいいやつあるじゃんって思っただけ。それ以外の理由はない」
「今だったら工房に行けばもっといいもの作れるぞ? 有りもので作ったやつだし少々恥ずかしいんだが」
「これでいい。忙しいキミの手を煩わせたくない」
「まあアンナがそう言うならいいが……いややっぱ次に贈るものとして考えておこう」
「だからアレでいいの。自分の場所って一目で分かればそれでいい」
そう、これでいい。ボクは笑みをこぼした。
#シド光♀
「? 何のこと?」
遂に気が付きやがったかと目を背け心の中で舌打ちする。ミスト・ヴィレッジにあるアパルトメント"トップマスト"。一時的な荷物置き場として1室を購入して数ヶ月程度経過した。遂にその部屋の入り口であるドアに下げた無骨な金属を打ち付けて作られた飾り細工が話題になってしまう。
「いやアレは俺がまだ記憶喪失だった頃に作ってやったやつだろ?」
「記憶皆無。偶然鞄に入ってたから目印に置いただけだし」
「ならこちらの目を見て言ってくれないか?」
嗚呼気持ち悪いくらい満面の笑顔になっている。そうだ、忘れるわけがないじゃないか。アレはこの正面でニヤつく男に出会った頃のお話。
◇
ボクは走っていた。勝手に巻き込んだ挙句ぐちゃぐちゃになった砂の家。悲惨な現場を見下すような目で眺めた後、恐怖と怒りを腹の中に溜めながらザナラーンを走る。
辿り着いた先はキャンプ・ドライボーン郊外にある教会。一度イフリートの件で邪魔した場所だ。夜遅くに駆け込み、そこにいた司祭に無機質な声で言葉を吐いた。
「私は旅人。お世話になってた場所が、襲撃されて。ここに行け、と言われたの」
愛想なんて捨ててしまうほど精神が疲れ果てていた。哀れに思った司祭イリュドはボクの肩を優しく撫でてくれた。その時にぼんやりと佇んでいたのが墓守のマルケズ、今のシドである。暁の協力者であるイリュドはしばらく隠れる拠点として滞在するように勧めてくれた。
―――本当は彼らも巻き込みたくなかった。相手はボクを探し手中に収めようとした皇帝が治めるガレマール帝国。5年前に"死んだこと"に出来たからと完全に油断していた。蛮族殺しとして名前が通るようになってしまい、耳に届いた可能性もある。どこにも属したくないから旅人と名乗っているのだ、帝国だけはごめんだねと当時は思っていた。当時中立組織とはいえ暁の血盟を拠点にしていた人間に説得力はないかもしれない。しかし助けを求めてくるのだから手を差し伸べるのは当然である。
この日はマルケズに個室まで案内され、寝台に寝そべった。相変わらず朝まで眠れなかった。
次の日、質素な食事をいただきお使いに出る。マルケズが何やら時計を修理したいとのことなのでドライボーンにて素材やら工具やらを集め、手渡した。その後はお腹が空いたので適当に郊外の動物を狩り、調理して食った。臭いを消すために水浴びをし、香水を付ける。戻った後にはすっかり夜で、いつもの場所にマルケズはいなかった。多分修理をしているのだろう。マメなことでと思いながら廊下に立つ。
「……部屋どこだっけ」
同じ扉、暗い廊下。変に開いて違ったら迷惑だろう。ボクはため息を吐き外に出た。
空を見上げるとそれは綺麗な星空だった。笑みを浮かべ、物陰にもたれかかり睡眠をとる。旅をしていた時によくやっているので慣れた姿勢だった。
◇
早朝、誰かが来る前に教会内の椅子に座り祈りを捧げるフリをする。物音が聞こえ目をやるとマルケズがフラフラと歩いてきた。ボクに気が付くとゆっくりと歩み寄り、修理が終わった時計を見せる。あまり詳しい人間ではないがパッと見この辺りでは見かけない仕様のものだなという印象を受けた。そしてえらく手先が器用な人なんだなと思考を張り巡らせる。
―――他人から集めた情報を整理するとエオルゼア方式でなくどちらかというとガレマール式のもの。ということは彼は帝国か属州出身者という所か。素振りを見る限り記憶喪失は演技には見えない。ということは亡命者で、逃げている途中に大ケガを負ってしまいショックで記憶も飛んだという所だろう。深く被ったローブの下にはゴーグルを付けているのが見えた。推測の域を超えないがガレアン人が持つ第三の眼を隠している可能性が高い。きっとエオルゼアではよろしくない目で見られたであろう。自分のことも分からないが何故か迫害される、そりゃ根暗にもなるか。しかし一晩でパッと直して見せた技術は手が勝手に動いたものとしては目を見張る所がある。記憶はなくても身体が技術を覚えていて、手先が器用な所から純ガレアン族で機工師だと結論付けた。
その後声をかけられボクは再びベスパーベイへ。そうか、秘密結社の構成員は死体を送るべき場所が存在しないのか。"冥府"と呼ばれる還る場所は皆一緒なのに、と哀れな目を見せ冷たい躯を運び込む。まるで普段のボクの体温のように冷たく成り果てた数々の大きさのモノをため息を吐きながら持ち上げた。中には滅多刺しになっている死体もあった。確実に殺すのなら一突きでいい。帝国の人間とやらは頭がおかしいやつばかりなのかと1人拳を握り締めた。そして最後に小さなトモダチを黒衣森へと運ぶ。お礼を言われたが、全く嬉しくなかった。自分が現れなければノラクシアは殺されなかっただろう。小さな声で再び謝った。
腹が減ったので再び適当に狩りをしてから教会に報告する。相変わらず辛気臭いマルケズは不気味だった。まあ自分も周りから不気味だと囁かれているのはちゃんと耳に届いていた。ヴィエラなんだからこの長い耳で全部聞こえてるに決まってるだろう。相変わらず与えられた一室の場所が分からなかったので野宿した。
◇
それからまた次の日も何も起こらないまま外で狩りをしながら見回りを行い、夜は外で星を見ながら野宿を決める。別に恥を忍んでもう一度部屋の場所を聞いてもよかった。が、また忘れてしまい夜も更け寝ようと思った時に気付く。自分のことより周りに帝国の陰が見えるような気がして、そちらに集中してしまうのが一番よくない話だった。
今日も空を見上げながら伸びをするとふと教会の扉が開く音が聞こえた。誰か忘れものでもしたのかなと無視していると「何を、している」と声をかけられる。声の主へと目をやるとマルケズがいた。「星を見ているの」と返してやると少しだけボクを見つめた後少し離れた場所に座る。何がしたいんだこの人。墓場でなければ異性と星空を見上げるという行為はロマンチックだろうねえ。そう思いながら無言が耐え切れなくなったボクは呟いた。
「暗闇は、嫌い」
ボクは昔から暗闇が嫌いである。生まれ故郷を飛び出したあの真っ暗闇の世界が未だに忘れられず、何度か夢にも出て来た。彼は目を細め、「なぜだ?」と聞いてくる。
「真実を隠し、私を狂わせるから」
「俺は好きだ。落ち着くんだ」
真逆の思考である。そうか、今の彼からしたらこの闇は記憶のない自分を包み込んでくれる優しい存在なのかと察する。ため息を吐き頭を両膝に埋めた。本当に何で、旅人なのにこんな所で怯えないといけないんだ。体が寒いとガタガタ震えが抑えられなくなってくる。すると突然背中に温かい感触。マルケズが「だ、大丈夫か?」と背中を優しくさすったようだ。どこか少しだけその寒さが消え去った気がする。「大丈夫」と次なる話題を探した。そうだ、言うなら今だろう。
「あと迷子になる」
「……は?」
顔を上げ、真剣な目で言ってやる。マルケズは面喰ったような顔を見せた後、「そういえばいつも朝礼拝堂で座ってたな。まさかと思うが自室が分からないのか?」と聞いてきた。
「……はい。って笑う所あった?」
「す、すまない。短い通路で迷われるとは思わなくて」
「むぅ失礼なヒト。違う部屋を開けたら失礼かもしれないっていう配慮だよ。でもまあ……笑えるんだ、よかった」
今まで不愛想な対応をしていた男が笑う。少しだけほっとした。優しい笑顔が綺麗な若造だなって印象を抱く。
「何かトラウマで笑えないのかなって」
「その、俺はただ―――」
どうせ記憶喪失で不安だっただけだろう? 言葉を遮るように早速部屋まで案内してもらうために立ち上がり手を差し伸べた。
「さ、誰かに見られたくないでしょ? 私みたいな悪い人に襲われちゃうかもよ?」
手を引っ張り立たせる。少し慌てている顔が面白い。ゴツゴツする手を触り、観察する。自分とは真逆の温かく、大きくて、手入れはあまりしていないのだろうその指はガサガサと荒れ、マメがあった。ふむ予想通り技術者でそれなりに熟練の人間か。「な、何をしている?」と聞くので極力優しい声で答えてやる。
「技術者の手」
「そう、か?」
「数日観察の結果、ね。今触ってみて確信した。大きくて、しっかりとしてて私は嫌いじゃないな」
目を見開きボクを見つめている。面倒だから「明日に支障が出るよ? あなたがね」と言いながら教会へと足を進める。待てと言葉と共にマルケズがボクを追い抜き、その後部屋まで案内してくれた。「ありがと、おやすみ」と言ってやると「ああおやすみ。もう迷子になるなよ」と素っ気なく返される。慌てて自分の部屋だと思われる場所に早歩きで去って行った男の表情は深く被ったローブで見ることが出来なかった。多分相当眠かったのだろう。
◇
久々に寝台の上で目を覚ました。昨日までよりもどこか晴れやかな気分で。身体をうんと伸ばしながら外に出る。
機嫌がいいので朝食の手伝いをした。その時の驚く教会の人間の顔は忘れられない。未だ出て来ない男の部屋の場所を教えてもらい扉を叩くとゆっくりと開く音が聞こえた。目を見開き「どうした?」と聞くので肩をすくめてやる。
「もう朝ですよ。イリュドが心配してたわ」
「ああすまない。完成したから今から出よう」
何を? と聞くと付いて来いと言われたので歩いた先はボクに与えられた部屋だった。慣れた手つきでドアに銀色の無骨な飾りを下げる。
「これでもう迷子にならないだろ?」
「―――もしかして一晩で作ったの?」
ニコリと笑いマルケズはその場を去ろうとした。お礼ぐらい言わせろと腕を引っ張る。
「ありがとね」
それだけ言って離してやる。嗚呼今日はなんていい日なんだ、そんな笑みがこぼれた。
また数日後、少年アルフィノがボクとマルケズ、いやシドを連れ出した。その時、何も言わず飾りを鞄に入れる。役割を終えたそれは初めて彼がくれた"目印"で。その時何故か分からなかったけれど、誰かのものにしたくなかったのは確かだった―――
◇
「そういえば少し前、個人的な用事で司祭に会いに行った時見当たらないなとは思ってたんだ」
「知らない」
「観念しろ」
「しーらーなーいー」
うざい。これ見よがしに全力で絡んできやがる。いや逆の身だったら自分もネタにするから強く突き放せない。両手を上げ降参のポーズを見せる。
「あー……ここだって同じドアばっか。見分けつけるのにちょうどいいやつあるじゃんって思っただけ。それ以外の理由はない」
「今だったら工房に行けばもっといいもの作れるぞ? 有りもので作ったやつだし少々恥ずかしいんだが」
「これでいい。忙しいキミの手を煩わせたくない」
「まあアンナがそう言うならいいが……いややっぱ次に贈るものとして考えておこう」
「だからアレでいいの。自分の場所って一目で分かればそれでいい」
そう、これでいい。ボクは笑みをこぼした。
#シド光♀
“兄”
「そういえばシドに兄の事話したかな?」
クリスタルタワー調査の合間にアンナはふとシドの方に向きつぶやいた。シドはアゴヒゲを撫でながら首をかしげている。
「いや、聞いた事ないな。そもそもアンナは全然自分の事を一切話さないじゃないか」
「はーメスバブーンの身内なンだからどうせまた立派なバブーンじゃねェか?」
「一言余計なの。兄さんは私よりも一回り小さくて非力で可愛いよ」
シドとネロの「可愛い、ねえ(なあ)」と言葉が重なる。アンナはにこりと笑う。
「先日砂の家に来たの。英雄になったヴィエラって聞いて私って気付いたんですって。性別分かって家出したから成人前の姿しか知らないし名前も違うのに分かるのはさすがだよね」
「いいお兄さんじゃないか」
「ヴィエラなンて珍しいがボチボチ見ンじゃねェか。……っていやさりげなく何言ってンだオマエいくつから走り回ってンだ!?」
「おっざっと数えて26歳に失礼ね? オジサン」
ネロの「嘘つくンじゃねェ!」と言う叫びが辺りに響く。シドも心の中でもっと言ってやれと念を送る。彼としては明らかに最低でも10は年を取ってると思っている。
「私がヴィエラが住む里から旅に出たのは14の頃なの。その後紆余曲折あって船に乗って難破して迷子になって第七霊災後ここ来てとざっと計算したら26ね。ほら完璧な計算じゃない」
「待て。歴史を知らねェ野生動物のために教えてやるが25年前にはドマは帝国に占領されてンだぜ? ヨチヨチのクソガキがあの辺りから船で渡れるほど甘い場所じゃなくなってンの。サバ読むならもう少しな?」
「そうなんだ。知識の更新をしますわ。……40歳!」
「オバサン」
ネロが一言放った瞬間頬に風を切る感触を感じる。引きつった笑顔を浮かべながらアンナを見るといつの間にか彼女は笑顔で弓を構えていた。
「ヤ・シュトラと違って今更年齢は気にしないけど……女性にそういう年齢的な事を言うの、よくないよ? ごめんなさい今ケアルするから」
「メスバブーンが何言ってンだ! あとさっきオマエが言ったのを! そのまンま返しただけだ!」
「お前たちいつの間にか仲良くなって嬉しいぞ」
2人の「なってないンだが!?」「なってないよ」と声が重なるのを見てシドは満足していた。クリスタルタワーでネロと再会し、アンナとネロは睨み合っていた。特にネロからの嫌味は留まる事を知らず。当たり前だ。自分との戦闘中に集中せずに通話を始め目の前で『第一印象』という名の悪口を言われるのはシドでも怒るだろう。しかし今や息も合っているし意外と似た者同士な気もしてきた。一匹狼である事を好み、決して目の前の事柄へは諦めず喰らい付く。一度熱中したらなかなか集中力が切れないし知識を吸収したがる所も似ている。まあアンナはネロ程口は悪くないし努力家というよりかは天才型だ。だが想定していたよりも仲良くなるのも早いし組めばいいコンビになるだろう。なぜかは分からないが突然チクリと胸が痛くなった。
妙な考えを払拭するために持ってきていたケトルでコーヒーを淹れる。アンナは受け取りネロには断られた。未だに睨み合う2人の間に座り込むとアンナもちょこんと座り込んだ。
「あーアンナ、その兄というのはいつでも会えるのか?」
「師匠とちょっとしたルート使って里に帰るって言ってたわ。手紙送ったりしよって」
「ちょっとしたって、なァ」
「お嫁さん8人と子作り期みたいだしジャマするのよくないよ」
シドは飲んだコーヒーを盛大に吹き出した。「きったね!」とネロはむせるシドの肩を殴った。
「ハァ? なンだって? もっかい言ってみ?」
「だから兄さんはお嫁さん……私から見た親戚の姉さま達8人と結婚してて、じっくり交」
「それ以上は言わんでいい! デカい声で言うな! まだ昼だからな!」
ネロはゲラゲラと笑いシドは顔を真っ赤にしている。アンナはきょとんとして彼らを見て一瞬考えこんだ後、ポンと手を叩く。
「ヴィエラの男性って女性に比べたら希少なの。一夫多妻制あっても不思議じゃないでしょう? まあミコッテほどじゃないけど。それでヴィエラの男性は普段は修行や使命のため里にはいないけど3~5年に一度交尾のために帰ってるの。別に夜のネタでもなく種族の生態の話です。君らガレアンと考え方や価値観が違うの。OK?」
「はぁ」
「私ももし男だったら村全員の女性抱く予定だったよ。まあカミサマってやつはクソッタレってなってかつて家出しちゃった」
「そっすか。いい野望持ってンな」
んじゃ、ちょっと1回見回りしてくるね、とアンナはその場から立ち去る。
男2人が残される。非常に気まずい。かつてのライバルでつい先日敵として会っていたはずなのに、今や不本意とはいえ一緒に新たな好奇心の塊に座り込んでいるのは不思議な話だ。
「……ちょっと待てさりげなくやべー事言ってなかったか? 村全員の女性を何とか」
「俺は何も聞いてない。聞かなかった」
「なンでダメージ受けてンだよ……」
ふとネロは彼女の兄だという情報を元に記憶を紡いでいく。そういえば、これまでもう1人性格がよろしくないヴィエラに会っていたような。褐色肌、赤髪で、神出鬼没で、言いたくないが可愛い系の片目を髪で隠したオッドアイの男。
「ゲッ―――まさかアイツか?」
「どうした? ネロ」
「ンでもねェよクソ。嫌なもン思い出しちまったぜ」
煙草を取り出し口にくわえながらため息を吐く。シドは何も分からないままネロをしばらく見つめていたがやがてアンナが去った方をじっと見つめていた―――
#シド #ネロ
クリスタルタワー調査の合間にアンナはふとシドの方に向きつぶやいた。シドはアゴヒゲを撫でながら首をかしげている。
「いや、聞いた事ないな。そもそもアンナは全然自分の事を一切話さないじゃないか」
「はーメスバブーンの身内なンだからどうせまた立派なバブーンじゃねェか?」
「一言余計なの。兄さんは私よりも一回り小さくて非力で可愛いよ」
シドとネロの「可愛い、ねえ(なあ)」と言葉が重なる。アンナはにこりと笑う。
「先日砂の家に来たの。英雄になったヴィエラって聞いて私って気付いたんですって。性別分かって家出したから成人前の姿しか知らないし名前も違うのに分かるのはさすがだよね」
「いいお兄さんじゃないか」
「ヴィエラなンて珍しいがボチボチ見ンじゃねェか。……っていやさりげなく何言ってンだオマエいくつから走り回ってンだ!?」
「おっざっと数えて26歳に失礼ね? オジサン」
ネロの「嘘つくンじゃねェ!」と言う叫びが辺りに響く。シドも心の中でもっと言ってやれと念を送る。彼としては明らかに最低でも10は年を取ってると思っている。
「私がヴィエラが住む里から旅に出たのは14の頃なの。その後紆余曲折あって船に乗って難破して迷子になって第七霊災後ここ来てとざっと計算したら26ね。ほら完璧な計算じゃない」
「待て。歴史を知らねェ野生動物のために教えてやるが25年前にはドマは帝国に占領されてンだぜ? ヨチヨチのクソガキがあの辺りから船で渡れるほど甘い場所じゃなくなってンの。サバ読むならもう少しな?」
「そうなんだ。知識の更新をしますわ。……40歳!」
「オバサン」
ネロが一言放った瞬間頬に風を切る感触を感じる。引きつった笑顔を浮かべながらアンナを見るといつの間にか彼女は笑顔で弓を構えていた。
「ヤ・シュトラと違って今更年齢は気にしないけど……女性にそういう年齢的な事を言うの、よくないよ? ごめんなさい今ケアルするから」
「メスバブーンが何言ってンだ! あとさっきオマエが言ったのを! そのまンま返しただけだ!」
「お前たちいつの間にか仲良くなって嬉しいぞ」
2人の「なってないンだが!?」「なってないよ」と声が重なるのを見てシドは満足していた。クリスタルタワーでネロと再会し、アンナとネロは睨み合っていた。特にネロからの嫌味は留まる事を知らず。当たり前だ。自分との戦闘中に集中せずに通話を始め目の前で『第一印象』という名の悪口を言われるのはシドでも怒るだろう。しかし今や息も合っているし意外と似た者同士な気もしてきた。一匹狼である事を好み、決して目の前の事柄へは諦めず喰らい付く。一度熱中したらなかなか集中力が切れないし知識を吸収したがる所も似ている。まあアンナはネロ程口は悪くないし努力家というよりかは天才型だ。だが想定していたよりも仲良くなるのも早いし組めばいいコンビになるだろう。なぜかは分からないが突然チクリと胸が痛くなった。
妙な考えを払拭するために持ってきていたケトルでコーヒーを淹れる。アンナは受け取りネロには断られた。未だに睨み合う2人の間に座り込むとアンナもちょこんと座り込んだ。
「あーアンナ、その兄というのはいつでも会えるのか?」
「師匠とちょっとしたルート使って里に帰るって言ってたわ。手紙送ったりしよって」
「ちょっとしたって、なァ」
「お嫁さん8人と子作り期みたいだしジャマするのよくないよ」
シドは飲んだコーヒーを盛大に吹き出した。「きったね!」とネロはむせるシドの肩を殴った。
「ハァ? なンだって? もっかい言ってみ?」
「だから兄さんはお嫁さん……私から見た親戚の姉さま達8人と結婚してて、じっくり交」
「それ以上は言わんでいい! デカい声で言うな! まだ昼だからな!」
ネロはゲラゲラと笑いシドは顔を真っ赤にしている。アンナはきょとんとして彼らを見て一瞬考えこんだ後、ポンと手を叩く。
「ヴィエラの男性って女性に比べたら希少なの。一夫多妻制あっても不思議じゃないでしょう? まあミコッテほどじゃないけど。それでヴィエラの男性は普段は修行や使命のため里にはいないけど3~5年に一度交尾のために帰ってるの。別に夜のネタでもなく種族の生態の話です。君らガレアンと考え方や価値観が違うの。OK?」
「はぁ」
「私ももし男だったら村全員の女性抱く予定だったよ。まあカミサマってやつはクソッタレってなってかつて家出しちゃった」
「そっすか。いい野望持ってンな」
んじゃ、ちょっと1回見回りしてくるね、とアンナはその場から立ち去る。
男2人が残される。非常に気まずい。かつてのライバルでつい先日敵として会っていたはずなのに、今や不本意とはいえ一緒に新たな好奇心の塊に座り込んでいるのは不思議な話だ。
「……ちょっと待てさりげなくやべー事言ってなかったか? 村全員の女性を何とか」
「俺は何も聞いてない。聞かなかった」
「なンでダメージ受けてンだよ……」
ふとネロは彼女の兄だという情報を元に記憶を紡いでいく。そういえば、これまでもう1人性格がよろしくないヴィエラに会っていたような。褐色肌、赤髪で、神出鬼没で、言いたくないが可愛い系の片目を髪で隠したオッドアイの男。
「ゲッ―――まさかアイツか?」
「どうした? ネロ」
「ンでもねェよクソ。嫌なもン思い出しちまったぜ」
煙草を取り出し口にくわえながらため息を吐く。シドは何も分からないままネロをしばらく見つめていたがやがてアンナが去った方をじっと見つめていた―――
#シド #ネロ
技師は過去を振り返る
注意
新生2.0振り返り要素有り。シド少年時代捏造。
―――俺が彼女に惚れていた事を自覚したのはいつ頃だろうか。
ガレマルド出身であるシドは故郷からエオルゼアに亡命し、ガーロンド・アイアンワークス社を興した。しかし、第七霊災で起こった事故でシドは記憶を無くしウルダハの教会で何も分からぬまま隠れて暮らすことになる。
ガレアンの証である第三の眼によって差別する者もいれば神父であるイリュドみたいに傷が癒えるまで匿ってくれる存在もいた。マルケズと名付けられ、墓守として生活を送っていた時に出会ったのが後のエオルゼアの英雄と呼ばれることになる、アンナ・サリス。頼まれごとで不在の間に暁の血盟の拠点であった砂の家をガレマールの軍人によって襲撃された。一時の避難場所として協力者がいる教会に行けと言われたと口を開く。「私は旅人。お世話になってた場所が、襲撃されて。ここに行け、と言われたの」と淡々と抑揚なく語る姿がまるで作り物みたいな不気味な人で。これがアンナを目の前にして抱いた第一印象である。
後に「帝国が自分を認知して襲ってきた目的が理解出来ず、冷静を装ってただけ」と舌をペロリと出しながら話してくれた。―――確か彼女がやって来た3日目の夜の姿で印象が変わったんだっけな、と思い出す。
◇
夜も更けた頃、マルケズはふと外の物音に反応する。慎重に教会の扉を開き外を覗くと墓の横に座り込み空を見上げる黒髪のヴィエラが見えた。
出会った頃の2人は日中は頼み事以外一切会話をせず、彼女もふらりと出て行っては帰って来るを繰り返していた。教会の人間も含め、新しく転がり込んできた女性は笑顔で応対はしてくれる。だが、どこか仮面みたいな―――マルケズにも負けない不気味な人だと囁かれていた。
しかしオルセンは以前助けてもらった事があるようで『アンナさんは正義感が強い素敵な方です』と言っていたのだが。実はその時には既に顔を合わせてはいたらしい。しかしお互い印象に残っていなかった。
「何を、している」
「―――星を見ているの」
虚ろな目でマルケズを見上げたアンナは一切表情を変えなかった。しかしマルケズは見逃さなかった。平静を装いながらも震え揺れるアンナの宝石みたいな赤い瞳を。少しだけ離れて彼女の隣に座り、同じく空を見上げた。
綺麗な星空だった。街頭1つない真っ暗な場所で見る星はますます光り輝いていると感じた。墓場である事を覗けばロマンチックだと言えるだろう。ふと彼女は「暗闇は、嫌い」と吐き捨てた。
「なぜだ?」
「真実を隠し、私を狂わせるから」
「俺は好きだ。落ち着くんだ」
マルケズにとっての暗闇は隠れていれば自分の不安を包み込み、少しだけ気が楽になっていた。軽くため息を吐く音が聞こえたので彼女の方を見ると両膝に顔を埋め、少し震えていた。慌てながら「だ、大丈夫か?」と背中を優しくさすってやると「大丈夫」と弱弱しい声が聞こえた。そして突然顔を上げ彼の方に向くと真剣な目で言ったのだ。「あと迷子になる」、と。
予想もしなかった言葉に目が点になったのを覚えている。教会の廊下を思い出すと先程夜も更けたからと消灯していた。
「まさかと思うが自室が分からないのか?」
「……はい。って笑う所あった?」
「す、すまない。短い通路で迷われるとは思わなくて」
「むぅ失礼なヒトね。違う部屋を開けたら失礼かもしれないっていう配慮だよ。でもまあ……笑えるんだ、よかった」
首をかしげるとアンナはクスクスと笑いながら言葉を続ける。
「何かトラウマで笑えないのかなって」
「その、俺はただ―――」
いつの間にか彼女への恐怖心が消えてしまっていたマルケズの心を見透かされたのだろうか。それとも知る気が無かったのかアンナはふと何か思い立ったのか立ち上がる。「さ、誰かに見られたくないでしょ?」と言いながら手を差し伸ばした。マルケズは何も考えずその手を握ると、アンナは軽く息を吸った後片手で引っ張り上げる。
細い見た目に反して大男を軽く引き上げるほど力強いのはさすが冒険者と呼ばれる存在で。普通の屈強な冒険者と違う所と言えばふわりと漂うフローラルな香りだろうか。これまで見えもしなかった作り物ではない女性の部分が垣間見えた瞬間に少しうろたえる。
感情を悟られないよう「次はちゃんと部屋の場所覚えるんだ」とからかった。が、当の彼女はその言葉を無視しながら細い指で彼の手を触ったり指を動かしている。突然の行為に「な、何をしている?」と聞くとアンナは優しい声で答えた。
「技術者の手」
「そう、か?」
「数日観察の結果、ね。今触ってみて確信した。大きくて、しっかりとしてて私は嫌いじゃないな」
目を見開くマルケズを見たアンナは「明日に支障が出るよ? あなたがね」と言いながら教会の中へと消えて行く。追いかけるようにマルケズも教会に戻り、扉を閉めた。彼は顔を見せないようそっぽを向き彼女の部屋へ案内しながら赤くなった顔をローブで隠すのに手一杯だった。視線を感じていなかった事も無いのだが不愛想だった自分を観察し続けていた事にも驚いたし、『笑えるんだ』とは自分も投げつけたい言葉であった。初めて見た彼女の優しく自然で、綺麗なヒトの笑顔だった。
自室に戻り、ハンマーと傍に置いていた金属に手を伸ばす。もう部屋に戻れないからと野宿はさせない、そう想いながら一晩打ち付け形作った。
―――思えばこの地点で俺は焔を宿した宝石の如く赤い瞳に射止められた愚かな獣になっていたのかもしれない。
◇
アルフィノによって外の世界に連れ出され、エンタープライズ号で自分がシドである事の記憶を取り戻した日。アンナからのシドを見る目が変わったのを今でも覚えている。
星を見上げた夜以降、アンナは何かに安心したのか少しだけ笑顔を取り戻した。そして積極的に教会の手伝いや料理を振舞ってもらえるようになった。彼女は教会のご飯だけでは足りなかったので郊外で狩った動物と採取した物で自給自足しながら怪しい奴がいないか巡回していたらしい。マルケズに「遠慮せずに食べて。あなたデカいんだから」と分厚い肉を押し付けられたのは平和になった今でも覚えている。
教会の人間も彼女の姿に安堵し、次第に打ち解けていく姿が嬉しかった。しかし、昨日まで沈んだ顔をしていながらも神父のかわりに用件を聞く自分を頼り合っていた、つもりで。そんな彼女の周りに人が集まり近付きにくくなったのはどこか少し寂しい感情もあった。
そんな中アルフィノが現れ、2人を外へ連れ出す。教会に身を寄せる人間たちに大層惜しまれつつエンタープライズ号を探す旅が始まったのはマルケズ、いやシドにとって嬉しい話でもあった。『もっと彼女を知る事ができる』、『自分が何者か分かる時が来たのだ』と。確かに知ろうとする行為は怖かった。しかし祖父の遺志を継ぎ立派でいようとする青年と、ミステリアスで強い冒険者の彼女がいれば大丈夫だろうと確信していた。
そう、当時のシドにとってのアンナはミステリアスでクールだと感じていたのだ。実は『とんでもない猫かぶり』だったわけだが、真実を知るのは相当後の事になる。
飛空艇で大空を翔る中、シドは記憶の一部を取り戻す。清々しい気分だった。ただ、当時の自分の元へ行けるなら、ついでに赤髪のヴィエラとの約束も一字一句間違えずに思い出せと本気で殴りたいと未だに思っている。
なんとアンナは【超える力】でシドの過去を覗き見た時に彼が『約束』を交わした少年だったと気が付いていたらしい。あの時の言葉はそういう意味だったのかと時間が経った今でも歯ぎしりしたくなる。
「綺麗な星空ね」
「よく見えるだろ?」
ガルーダの元へと向かう夜、星空を見上げるアンナを苦笑しながら見つめた。アルフィノはアンナに「明日決戦なんだからちゃんと寝て。背伸びないよ?」と言われ文句を言いながらも彼女が持っていたマントに包まれ目を閉じていた。
アンナは飛空艇から身を乗り出して空を見上げている。「危ないぞ」と彼女の肩に手を置き引っ張った。彼女は「うん最高」と言いながら満面の笑顔を浮かべている。
「エオルゼアに来るまで飛空艇に乗った事はなくて」
「意外だな。旅人なんだから普通に飛空艇や船で移動しているのかと」
「私が乗る船はよく沈んでたから」
ずっと運が悪かったみたい、と言いながら相変わらず星空を目で追いかけているようだ。
「俺の飛空艇まで沈めてくれるなよ?」
「もー、エオルゼアに来てからは一度も沈めてないし」
イタズラっぽく言ってやると初めてシドの方を向き頬を膨らます柘榴石色の瞳と目が合う。「あ……」と声が漏れる。ここでシドは普通に冗談言い合っていた相手が女性だった事を思い出した。彼女の肩に置いたままだった手を「す、すまん!」と言いながら引っ込めた。きょとんとしている顔から踵を返し、「お前も寝た方がいいだろう。何せ明日決戦なんだからな?」と言ってやると「あなたの方が寝た方がいい」と返されながら腕を掴まれた。
「自動的に操縦するとか出来ない? 見張っておくから先に寝ときなよ。不安」
「俺は別に1日位は寝なくても大丈夫だ。それよりずっと走り回って疲れてるアンナが寝るべきだろう」
「私も長旅は慣れてるから」
「いやいや」
「休んで」
2人で譲り合うかの如く言い合っていると「ならば2人とも私に任せて眠ってくれないだろうか?」といつの間にか起き上がっていたアルフィノに言われ2人は顔を見合わせ笑い合うのであった。
「『あなたの飛空艇』に乗れて、よかった」
と言いながらアンナは立ったまま操縦桿に乗りかかり目を閉じた。「おい」と声をかけると「30分寝るから」と答えが返って来る。
「アンナ、あなたは立ったまま眠れるのか?」
「長い間旅に出てたから。もう一種の特技って感じ。一番落ち着くの」
「せめて座ってくれ。見てるこっちが休まらんからな」
「ああ頼むよ、アンナ」
しょうがないなあと口を尖らせながらもアルフィノから返されたマントを膝に置いた。「ほらシドも」と言いながら膝をポンポン叩いている。
「お、俺は向こうで寝るから大丈夫だ」
「そっか。じゃ、アルフィノ来る? 膝、いいよ」
「あー私も遠慮しておこう」
男2人の返答にただ一言「知ってる」と答えたまま目を閉じている。眠っているかは一切見分けがつかない。2人は顔を見合わせる。アルフィノの方は顔が少し赤くなっていた。
「断ると分かっててわざと言いやがったのか? いやまさか」
「彼女は……なかなかクセがあるみたいだね。どうだいシド、隣で寝てもいいんじゃないか? 絵でも描いてあげるよ」
「魅力的な誘いだがさすがに断るからな」
―――この時の俺は『あなたの飛空艇』と強調していた意味が分からなかった。今思うと答えを言われていたに等しい行為だった。
◇
ガルーダとの戦いで初めてシドはアンナの戦いを見る事になる。この時の彼女は両手杖を掲げる癒し手としての戦い方だった。動物を狩る時は弓、人前で戦う時は基本的に人を癒す事に徹しているらしい。「まだ駆け出しだから」と言いながらこまめに回復する姿は、確かに不敵な笑みを浮かべた冒険者のモノとは程遠い練度だった。
ガルーダとの戦闘が終わり、最終的にアンナの勝利で終わる。光の加護により蛮神によるテンパード化を防ぐ―――まさにエオルゼア軍の奥の手。確かに【超える力】を持ち戦いも出来る彼女にかかれば蛮神問題も解決できるだろうと安堵していた時、ガイウスが俺の目の前に現れた。
軍団長であるガイウスの圧倒的力を持つ存在と、実戦投入された最終兵器アルテマウェポン。蛮神を喰らい、力とする存在を目の前に俺たちは一時撤退の4文字しか選択肢がなかった。ふと「あれが、漆黒の王狼……」と低く無機質な声が聞こえてくる。アンナの声、だったと思う。英雄になるだろう冒険者を失うまいと必死にエンタープライズ号を操舵するシドに確認する術は存在しなかった。
古代兵器の再始動を目の当たりにした3人はこれからの事を話し合う。まずはミンフィリア達の救出。アルテマウェポン破壊、そしてエオルゼアからガレマール帝国を撤退させる。「やる事、たくさんだね」とアンナは呟いていた。考えていても埒が明かないのでとりあえず『希望を光を再び灯すために砂の家に行くか』と結論を出し、ベスパーベイへ。襲撃を逃れていた暁の血盟のイダ、そしてヤ・シュトラと再会するのであった。
イダとアルフィノは目を閉じ、一時の休息を取っていた。シドはアンナに「一番疲れているのはお前だ」と楽にするよう促した。
「そんな事言われたの成人前位だなって」
「何言ってるんだお前は十分若者の範囲内だろ」
「ホー。じゃああなたは何歳なの?」
「34。お前は?」
アンナはクスクスと笑いながらさぁね、と言った。「あまり人と関わらないように旅をしていた時期があってね。何年彷徨ってたか分からないの」と呟く姿は少し寂しそうに見えた。かける言葉が頭から浮かばない。フリーズしてる様を見て彼女は人差し指を突き立て言い切った。
「ちゃんと性別は女性と分かってから旅を始めたし、それから云年経って、アンナと名乗って5年だから……26位かな?」
明らかに嘘なのはその辺にある石ころでも分かるだろう。しかし彼女の精神性と、思ったよりも気さくに話が出来そうな雰囲気から自分と同じ年位だろうと思っておく事にした。―――後にウチの社員になる彼女の兄によるとシドよりも50は上らしい。計算がざっくりとしすぎているな、と赤色の髪の男と苦笑しながら酒を飲み交わした。
◇
次に印象のある出来事と言えば魔導アーマーを鹵獲して修理した時の話だろうか。再び少し沈んだ表情をしながら当時偶然弓を持っていたアンナの隣で戦った。戦闘を重ねるごとに少しだけ笑顔になっていくのが少し怖かったのだがここでは置いておく。
「カストルム・セントリに潜入してミンフィリアを助け出すぞ!」と言った時のアンナの不敵な笑みが何よりもシドにとっての活力となったのだ。人の事はあまり言えないなと当の本人は苦笑しながらも隣に立てるのが何よりも嬉しい。アンナはどう思っていたのだろうか。何度か思い出した時に聞いているが照れくさいのか答えてくれない。
「お世話になっている人たちだし。助けるのは当然の話だよ」
旅人だとよく強調するクセになぜ自分や暁の血盟の人らに肩入れしてくれているのかと聞いたのもこの時だった。レヴナンツトールの整備用拠点で魔導アーマーを見上げながら話をしていたのを覚えている。
「私はね、自分を優しくしてくれた人と約束は守る事にしてるの」
「これまた大きく出たな」
「実はアルフィノとはね―――」
話を聞くとアルフィノとの出会いが彼女の冒険者生活スタートのきっかけだったらしい。蛮族に囲まれていたアルフィノとアリゼーを助けたお礼にグリダニア行のチョコボキャリッジに乗せてもらったのだと。アルフィノが暁の血盟の人間だと知ったのはつい最近で。奇妙な縁だな、と思いながら付いてきてるんだ、と苦笑を浮かべながら喋る姿は少しだけ新鮮に思えた。
思えば彼女の過去をこの時まで聞いた事が無かった。シドの過去の一部は【超える力】で視られてしまっていたのにアンナの歩いてきた軌跡は一切見る事が出来ていない。だから少しだけ遠慮がちに話をする彼女が"新鮮だ"と表現できた。
「元々冒険者になろうとは思ってなかったよ。けど、エオルゼアで動くなら色々と便利かなって思ってね。人助けも好きだしやっちゃえと走り回ってたらいつの間にか暁の人らと行動してたの」
「なかなか飛躍した面白い動機じゃないか。ところで冒険者になる前はどこを旅して」
「あ、カエル食に興味ない? レヴナンツトールのすぐ外にいるやつの肉を食べられないか少し頑張ってみたんだけど」
露骨に話題を逸らしていた。そしてニクス肉の料理は丁重に断った。未来の俺からしたら『約束』という言葉を使っていたのに何も疑問に浮かばなかった自分を蹴飛ばしたい―――
◇
アンナというエオルゼアの英雄が誕生するまでに外せない出来事と言えばやはり魔導城プラエトリウムでの活躍だろう。シドも魔導アーマーで援護してカストルム・メリディアヌムを制圧。そしてエンタープライズ号で空からの侵入を果たしたシドとアンナ達冒険者はガイウスと対峙する。
そういえば作戦【マーチ・オブ・アルコンズ】が始動して間もない時に初めて彼女が刀を持つ姿を見た。珍しい武器を持っていたので聞くと偶然出会ったムソウサイと名乗る侍の弟子になったんだと語る。
「仮にもヴィエラの集落生まれだからね。出身はオサードの方だから刀は見た事あったの。ウルダハで見かけて懐かしくなって」
雷を受けたような衝撃を受けた。舌をペロリと出しながら愛しげに鍔の辺りを撫でる姿に少しだけ、ほんの少しだけ決して表に出せない一つの感情を刺激する。今は作戦中だと自分に言い聞かせすぐに引っ込めたのだが―――少し席を外す時間があったら少々危なかったかもしれない。
そんな姿を見てからだったのだろうか、彼女の戦う姿に対してそそる様になったのは。魔導アーマーを操りながらふと交戦中の彼女に目をやると、ニィと歯を見せた笑顔で帝国兵と斬り合っていた姿が印象的で、世界が違う人間だと今でも思っている。自分のように後方支援を行う姿よりやはり正面切って刀で一閃する方が似合っているし、何よりシド自身の欲情が刺激されていった。
それは文字通り最後の"希望"が自分の隣に立ち、返り血を浴びながら自分を護りながら斬り捨て、他人とは少しだけ違う笑顔を向けてくる。その姿にゾクリと背筋が凍るような未知の感覚が襲い掛かっていたのだ。思えばよくこの頃に想いを自覚できてなかったなと自らの鈍感さに少々嫌気がさす。
閑話休題。魔導城ではシドが捨てた故郷の者達が語りかけて来た。ある者は友の息子であった自分に期待を裏切られてもなお再び傍に置いてやろうとした男。またある者は伝説とされてしまった自分に焼け焦げながら劣情をぶつけて来た幼馴染と呼べる男だった。
そう、坊ちゃんとして育った自分が考えもしなかった感情たちが襲い掛かる。そんなまるで郷愁とぶつけられた一種の劣等感により闇へと落とされていく葛藤を赤い閃光は全て斬り払った。ガイウスの誘いも即断り、現れる敵は躊躇なく斬り捨てていく。
現在もだが味方としていてくれて心から助かった。当のアンナは「顔見えてたら危なかったかもね。あなたほどじゃないけどナイスヒゲだし」と後に語る。冗談だよな? と聞いたが目は笑っていなかった。―――本当に味方でよかった。
「シドは別に亡命して後悔してないんでしょう?」
「勿論だ。ガイウスに引導を渡してやる、頼んだぞ」
「ええ、それでいい。あんな奴といると『自由』に手を伸ばせないよ。そのために全部護ってあげるから」
「俺が世界を、と言ったら護ってくれるのか?」
「ホー……あなたが思うのなら。でも今は違うでしょう?」
アンナはシドを勇気づけるが如く語りかけながら頭をポンと撫でてやりエレベーターに消えて行った。アンナの方が背が高いので撫でる行為は容易である。行為を受けたシドといえば少し恥ずかしい気持ちで溢れかえっていたのだが。
ネロとの会話後―――アレはほぼ一方的な感情の吐露だったが、アンナは戦いながらシドへリンクシェル通信を再び繋いでいた。『大丈夫』『私は、知ってる』『ネロとかいう、趣味悪い赤の、自称天才プライド高すぎ鎧野郎よりさ、あなたの方が数段強いから。ね?』なんて息一つ乱さず囁くような声を聞かせる。と思ったら、『あっやっべ聞こえてたかも』と声が漏れてきた直後、通信をブチ切られた様に自分の張りつめた緊張が解けていった。ネロが再び強制的にジャミングして切ったのだろう。一瞬だけ『かもじゃねェが!? ぶっ殺すぞテメェ!』だと思われる声が断片的に聞こえたからだ。目の前で片手間にボソボソ自分の陰口をたたいていたら普段温和なシドでも物凄くキレ散らかすだろう。
戦闘中なのに余裕がありすぎる姿に頼もしさもあるが少々危うさもある。ガイウスに、アルテマウェポンに勝てるのだろうか。刀を握り始めて大した時期が経っていないんだ、途中で膝を突いてしまうのではないか。いや彼女が賜った【超える力】が有れば大丈夫。―――なはずと考える内に眉間の皴がより一層深くなったのを感じた。
ふと一瞬だけ城内の電力が落ちる。嫌な予感がした。モニター室のシステムから確認すると地下深い場所に電力を集中させている事が分かる。つまり、と考えた瞬間に彼女のリンクシェルへ繋いだ。先程外から流れて来た情報を渡し、あとはアルテマウェポンを破壊するだけだと伝える。
「いいか、死ぬなよ生きて帰って来るんだ」
アンナの声は聞こえなかった。ノイズが酷すぎて自分の言葉が伝わったかも分からない。シドは祈る事しかできなかった。お膳立ては出来たのだ、あとは彼女の頑張りで世界の行く末が決まる。
ここまで来てしまったらもう自分にやる事はない。シドは一足先にモニター室から離脱し、脱出した。
◆◆◆
―――シドは脱出できたのだろうか。心配になる。
アンナの中ではかろうじて聞こえた『生きて帰って来るんだ』という言葉が反芻していた所にガイウスが降って来た。偉そうに演説し時間稼ぎをしたガイウスをまだ慣れぬ刀でなんとか斬り払い、追いかけた先で目の前に現れたのはアルテマウェポン。自分よりも遥かに大きいものに対して少しだけ怖かったが、吸収していた蛮神は一度倒した相手だ。そう考えると一瞬持った恐怖は薄まってきている。何とか恐ろしい古代兵器から蛮神を引き剥がし、ようやく互角以上に戦えると思った瞬間だった。アシエンが現れ、トンデモない事をしでかす。
ガイウスも知らなかった最終兵器究極魔法アルテマ、空へ放たれた大魔法の威力は絶大だった。一発でプラエトリウムが壊滅する程度の威力を持っている。アンナはハイデリンの加護により何とか無傷だったのだが懸念が生まれた。
『シドは脱出できたのだろうか』
リンクパールに手を当てても何も反応はしない。当たり前だ、通信が途切れると言われていたのだから。ガイウスとラハブレアが何かを言っていたようだがアンナの頭の中には入ってこない。『いや大丈夫。今まで見てきたシドなら引き際位わかってる。でももし万が一失敗してたら』頭の中でずっとグルグルと渦巻き彼女は顔を伏せる。
「しかし、今は! この者らを倒し我に力有りと証明するッ!」
うるさい、キミはシドを大事にしたかったんじゃないのか? ただ一度の拒絶で捨てる程度の存在だったのか?
「どちらが真に『持つ者』なのか決着ををつけようじゃないか冒険者!」
厭だ、力なんていらない。約束を交わした少年を助けられなかった、約束を果たせなかった力なんて、ボクは。
構えた刀に、身体から放出されるナニカが流れ込んでいく様を感じる。"これ"はまさか……いけない、分かっていても自分の中のナニカが『奴らがいないのだから大丈夫だろう。"ボク"達の圧倒的な力ってやつを見せてやろうじゃないか。―――』と囁いた。「シ、ド」とボソとアンナは呟く。小さな言葉は周りの冒険者やガイウス、そしてアンナ本人の耳にも届かないだろう。冷たい体に焔が灯され、過去によく聞いた獣のような唸り声を漏らした。
ここからアンナの記憶は塗りつぶされたかの如く真っ黒になる。はっと気が付くとアルテマウェポンから弾き飛ばされたガイウスが倒れていた―――
◆◆◆
―――心臓がいくつあっても足りなかったさ。あの閃光を見た時、絶望しかけていたしとっととエンタープライズで助けに行ってやりたかった。強く、ただ強く戻ってくるようにと祈る。するとあの人は爆発する中、焼き切れていたはずの魔導アーマーで奔ってきた。サンクレッドの救出も成功し、新たなエオルゼアの英雄、『光の戦士』の誕生である。
アンナはただ笑みを浮かべ、彼らの祝福を受け取っていた。ふとシドと目が合い、お互い笑顔を浮かべ「よかった」と言葉が重なった。
◇
「シド」
「旅人の英雄さんじゃないか」
「英雄は余計よ」
第七星歴の宣言が行われ、数日の時が経った。何となくレヴナンツトールで落ち合い、軽食でもどうだと誘うとあっさりとついてくる。噂で暁の血盟の拠点を引っ越しすると聞いていた。忙しいだろうに、とシドは言うと「それは私の仕事ではないからね」とウィンク付きの返事が返って来た。
「ガイウスとの戦いももう昔の話みたいで不思議な感じがするね」
「そういえばお前ネロの前で陰口叩いた後何があった?」
「第一印象を言っただけだよ? 殺すぞって言いながら私を執拗に狙ってきたの。聞いた方が悪いのに」
「いや戦闘中に他事は失礼だろう。……って待て、刀振り回してたんだよな? 目の前で言ってるしキレられて当然じゃないか」
「うーん……あなたが不安で潰されてないか心配だったから。あなたが悪いかな」
シドは「俺のせいにするな」と言いながら小突いてやると彼女は満面の笑顔で「ごめんごめん」と舌をペロリと出した。プライドが高いネロの事だろう、アンナの小言は相当効いたに違いない。
当時、何を思ったか聞いてみたいと思っていた。しかし死んだ者に直接問いかけ答えてもらう術は確立されていない。いやもしかしたら死んでない可能性もあるか。噂では死体は発見されてないと聞く。どこかで会うかもしれないのが厄介だと今後起こるであろう面倒事に想いを馳せていた。現在も聞けていないから今度聞いてみようと考えている。
「それを言ったら私も心配してたよ? アルテマウェポンがやらかした爆発の時、脱出できてたのかなって」
「お前と連絡取れなくなった地点で役目は終わりだと思って脱出した。心配かけちまったみたいだな」
「そっか。怪我、無くてよかった」
どうやら自分の身よりも他人の方が心配だったらしい。どこまでも英雄にふさわしい考え方を持っているようだが、裏を返すと自分の限界を知らない危うさも存在するという事。その証拠として魔導アーマーで生還し、祝福の喜びを受けた後操縦席で突っ伏して眠ってしまったのである。
彼女を取り巻いていた人間全員が慌てていた所、寝息が聞こえるや否や皆溜息を吐いた後笑顔を浮かべていた。実は安心した顔で眠ったアンナを見たのが初めてであり、シドも含めて安心してもらえたのが何よりも嬉しかったのだから。
「これからどうする?」
「蛮神問題を片付けたらまた旅に出たいかな」
「お前は旅人だから言うと思ったぜ。でも英雄さんをあっさり自由にさせてくれるのか?」
「―――頑張ったのは暁の皆だからなんとかなるんじゃない? 私はただの旅人だからね」
「あー……そんな事より、案内したい所があるから落ち着いた時にまた連絡が欲しい」
彼女の口癖を聞きながらリンクシェルにシド直通の連絡先を追加してやる。ついでに直通のリンクパールも渡した。本能的に今渡さないと二度とチャンスが来ないと思ったからだ。アンナは笑顔で受け取った後、「どこに?」と聞いた。
「決まってるだろ? ガーロンド・アイアンワークス社だ」
「ホーそれは楽しみにしとこうかな」
2人の笑い声が重なった。楽しみが増えた、と言いながらお互い別れる。彼女が興味を持つ存在を定期的に与えることが出来れば。しっかりと彼女の力を求めればもうしばらくエオルゼアに残ってくれるだろうと確信していた。しかしその前に会長代理として任せていたジェシーの説教の続きと積まれた仕事を片付けないと。
―――まあその後すぐにクリスタルタワーの案件で再会するのだが。しかしガーロンド社に連れて行く事に対して楽しみと答えたのも今思えば当然じゃないか! 浮かれていた自分を本当に責めたいと何度も思ったさ。
#シド光♀
新生2.0振り返り要素有り。シド少年時代捏造。
―――俺が彼女に惚れていた事を自覚したのはいつ頃だろうか。
ガレマルド出身であるシドは故郷からエオルゼアに亡命し、ガーロンド・アイアンワークス社を興した。しかし、第七霊災で起こった事故でシドは記憶を無くしウルダハの教会で何も分からぬまま隠れて暮らすことになる。
ガレアンの証である第三の眼によって差別する者もいれば神父であるイリュドみたいに傷が癒えるまで匿ってくれる存在もいた。マルケズと名付けられ、墓守として生活を送っていた時に出会ったのが後のエオルゼアの英雄と呼ばれることになる、アンナ・サリス。頼まれごとで不在の間に暁の血盟の拠点であった砂の家をガレマールの軍人によって襲撃された。一時の避難場所として協力者がいる教会に行けと言われたと口を開く。「私は旅人。お世話になってた場所が、襲撃されて。ここに行け、と言われたの」と淡々と抑揚なく語る姿がまるで作り物みたいな不気味な人で。これがアンナを目の前にして抱いた第一印象である。
後に「帝国が自分を認知して襲ってきた目的が理解出来ず、冷静を装ってただけ」と舌をペロリと出しながら話してくれた。―――確か彼女がやって来た3日目の夜の姿で印象が変わったんだっけな、と思い出す。
◇
夜も更けた頃、マルケズはふと外の物音に反応する。慎重に教会の扉を開き外を覗くと墓の横に座り込み空を見上げる黒髪のヴィエラが見えた。
出会った頃の2人は日中は頼み事以外一切会話をせず、彼女もふらりと出て行っては帰って来るを繰り返していた。教会の人間も含め、新しく転がり込んできた女性は笑顔で応対はしてくれる。だが、どこか仮面みたいな―――マルケズにも負けない不気味な人だと囁かれていた。
しかしオルセンは以前助けてもらった事があるようで『アンナさんは正義感が強い素敵な方です』と言っていたのだが。実はその時には既に顔を合わせてはいたらしい。しかしお互い印象に残っていなかった。
「何を、している」
「―――星を見ているの」
虚ろな目でマルケズを見上げたアンナは一切表情を変えなかった。しかしマルケズは見逃さなかった。平静を装いながらも震え揺れるアンナの宝石みたいな赤い瞳を。少しだけ離れて彼女の隣に座り、同じく空を見上げた。
綺麗な星空だった。街頭1つない真っ暗な場所で見る星はますます光り輝いていると感じた。墓場である事を覗けばロマンチックだと言えるだろう。ふと彼女は「暗闇は、嫌い」と吐き捨てた。
「なぜだ?」
「真実を隠し、私を狂わせるから」
「俺は好きだ。落ち着くんだ」
マルケズにとっての暗闇は隠れていれば自分の不安を包み込み、少しだけ気が楽になっていた。軽くため息を吐く音が聞こえたので彼女の方を見ると両膝に顔を埋め、少し震えていた。慌てながら「だ、大丈夫か?」と背中を優しくさすってやると「大丈夫」と弱弱しい声が聞こえた。そして突然顔を上げ彼の方に向くと真剣な目で言ったのだ。「あと迷子になる」、と。
予想もしなかった言葉に目が点になったのを覚えている。教会の廊下を思い出すと先程夜も更けたからと消灯していた。
「まさかと思うが自室が分からないのか?」
「……はい。って笑う所あった?」
「す、すまない。短い通路で迷われるとは思わなくて」
「むぅ失礼なヒトね。違う部屋を開けたら失礼かもしれないっていう配慮だよ。でもまあ……笑えるんだ、よかった」
首をかしげるとアンナはクスクスと笑いながら言葉を続ける。
「何かトラウマで笑えないのかなって」
「その、俺はただ―――」
いつの間にか彼女への恐怖心が消えてしまっていたマルケズの心を見透かされたのだろうか。それとも知る気が無かったのかアンナはふと何か思い立ったのか立ち上がる。「さ、誰かに見られたくないでしょ?」と言いながら手を差し伸ばした。マルケズは何も考えずその手を握ると、アンナは軽く息を吸った後片手で引っ張り上げる。
細い見た目に反して大男を軽く引き上げるほど力強いのはさすが冒険者と呼ばれる存在で。普通の屈強な冒険者と違う所と言えばふわりと漂うフローラルな香りだろうか。これまで見えもしなかった作り物ではない女性の部分が垣間見えた瞬間に少しうろたえる。
感情を悟られないよう「次はちゃんと部屋の場所覚えるんだ」とからかった。が、当の彼女はその言葉を無視しながら細い指で彼の手を触ったり指を動かしている。突然の行為に「な、何をしている?」と聞くとアンナは優しい声で答えた。
「技術者の手」
「そう、か?」
「数日観察の結果、ね。今触ってみて確信した。大きくて、しっかりとしてて私は嫌いじゃないな」
目を見開くマルケズを見たアンナは「明日に支障が出るよ? あなたがね」と言いながら教会の中へと消えて行く。追いかけるようにマルケズも教会に戻り、扉を閉めた。彼は顔を見せないようそっぽを向き彼女の部屋へ案内しながら赤くなった顔をローブで隠すのに手一杯だった。視線を感じていなかった事も無いのだが不愛想だった自分を観察し続けていた事にも驚いたし、『笑えるんだ』とは自分も投げつけたい言葉であった。初めて見た彼女の優しく自然で、綺麗なヒトの笑顔だった。
自室に戻り、ハンマーと傍に置いていた金属に手を伸ばす。もう部屋に戻れないからと野宿はさせない、そう想いながら一晩打ち付け形作った。
―――思えばこの地点で俺は焔を宿した宝石の如く赤い瞳に射止められた愚かな獣になっていたのかもしれない。
◇
アルフィノによって外の世界に連れ出され、エンタープライズ号で自分がシドである事の記憶を取り戻した日。アンナからのシドを見る目が変わったのを今でも覚えている。
星を見上げた夜以降、アンナは何かに安心したのか少しだけ笑顔を取り戻した。そして積極的に教会の手伝いや料理を振舞ってもらえるようになった。彼女は教会のご飯だけでは足りなかったので郊外で狩った動物と採取した物で自給自足しながら怪しい奴がいないか巡回していたらしい。マルケズに「遠慮せずに食べて。あなたデカいんだから」と分厚い肉を押し付けられたのは平和になった今でも覚えている。
教会の人間も彼女の姿に安堵し、次第に打ち解けていく姿が嬉しかった。しかし、昨日まで沈んだ顔をしていながらも神父のかわりに用件を聞く自分を頼り合っていた、つもりで。そんな彼女の周りに人が集まり近付きにくくなったのはどこか少し寂しい感情もあった。
そんな中アルフィノが現れ、2人を外へ連れ出す。教会に身を寄せる人間たちに大層惜しまれつつエンタープライズ号を探す旅が始まったのはマルケズ、いやシドにとって嬉しい話でもあった。『もっと彼女を知る事ができる』、『自分が何者か分かる時が来たのだ』と。確かに知ろうとする行為は怖かった。しかし祖父の遺志を継ぎ立派でいようとする青年と、ミステリアスで強い冒険者の彼女がいれば大丈夫だろうと確信していた。
そう、当時のシドにとってのアンナはミステリアスでクールだと感じていたのだ。実は『とんでもない猫かぶり』だったわけだが、真実を知るのは相当後の事になる。
飛空艇で大空を翔る中、シドは記憶の一部を取り戻す。清々しい気分だった。ただ、当時の自分の元へ行けるなら、ついでに赤髪のヴィエラとの約束も一字一句間違えずに思い出せと本気で殴りたいと未だに思っている。
なんとアンナは【超える力】でシドの過去を覗き見た時に彼が『約束』を交わした少年だったと気が付いていたらしい。あの時の言葉はそういう意味だったのかと時間が経った今でも歯ぎしりしたくなる。
「綺麗な星空ね」
「よく見えるだろ?」
ガルーダの元へと向かう夜、星空を見上げるアンナを苦笑しながら見つめた。アルフィノはアンナに「明日決戦なんだからちゃんと寝て。背伸びないよ?」と言われ文句を言いながらも彼女が持っていたマントに包まれ目を閉じていた。
アンナは飛空艇から身を乗り出して空を見上げている。「危ないぞ」と彼女の肩に手を置き引っ張った。彼女は「うん最高」と言いながら満面の笑顔を浮かべている。
「エオルゼアに来るまで飛空艇に乗った事はなくて」
「意外だな。旅人なんだから普通に飛空艇や船で移動しているのかと」
「私が乗る船はよく沈んでたから」
ずっと運が悪かったみたい、と言いながら相変わらず星空を目で追いかけているようだ。
「俺の飛空艇まで沈めてくれるなよ?」
「もー、エオルゼアに来てからは一度も沈めてないし」
イタズラっぽく言ってやると初めてシドの方を向き頬を膨らます柘榴石色の瞳と目が合う。「あ……」と声が漏れる。ここでシドは普通に冗談言い合っていた相手が女性だった事を思い出した。彼女の肩に置いたままだった手を「す、すまん!」と言いながら引っ込めた。きょとんとしている顔から踵を返し、「お前も寝た方がいいだろう。何せ明日決戦なんだからな?」と言ってやると「あなたの方が寝た方がいい」と返されながら腕を掴まれた。
「自動的に操縦するとか出来ない? 見張っておくから先に寝ときなよ。不安」
「俺は別に1日位は寝なくても大丈夫だ。それよりずっと走り回って疲れてるアンナが寝るべきだろう」
「私も長旅は慣れてるから」
「いやいや」
「休んで」
2人で譲り合うかの如く言い合っていると「ならば2人とも私に任せて眠ってくれないだろうか?」といつの間にか起き上がっていたアルフィノに言われ2人は顔を見合わせ笑い合うのであった。
「『あなたの飛空艇』に乗れて、よかった」
と言いながらアンナは立ったまま操縦桿に乗りかかり目を閉じた。「おい」と声をかけると「30分寝るから」と答えが返って来る。
「アンナ、あなたは立ったまま眠れるのか?」
「長い間旅に出てたから。もう一種の特技って感じ。一番落ち着くの」
「せめて座ってくれ。見てるこっちが休まらんからな」
「ああ頼むよ、アンナ」
しょうがないなあと口を尖らせながらもアルフィノから返されたマントを膝に置いた。「ほらシドも」と言いながら膝をポンポン叩いている。
「お、俺は向こうで寝るから大丈夫だ」
「そっか。じゃ、アルフィノ来る? 膝、いいよ」
「あー私も遠慮しておこう」
男2人の返答にただ一言「知ってる」と答えたまま目を閉じている。眠っているかは一切見分けがつかない。2人は顔を見合わせる。アルフィノの方は顔が少し赤くなっていた。
「断ると分かっててわざと言いやがったのか? いやまさか」
「彼女は……なかなかクセがあるみたいだね。どうだいシド、隣で寝てもいいんじゃないか? 絵でも描いてあげるよ」
「魅力的な誘いだがさすがに断るからな」
―――この時の俺は『あなたの飛空艇』と強調していた意味が分からなかった。今思うと答えを言われていたに等しい行為だった。
◇
ガルーダとの戦いで初めてシドはアンナの戦いを見る事になる。この時の彼女は両手杖を掲げる癒し手としての戦い方だった。動物を狩る時は弓、人前で戦う時は基本的に人を癒す事に徹しているらしい。「まだ駆け出しだから」と言いながらこまめに回復する姿は、確かに不敵な笑みを浮かべた冒険者のモノとは程遠い練度だった。
ガルーダとの戦闘が終わり、最終的にアンナの勝利で終わる。光の加護により蛮神によるテンパード化を防ぐ―――まさにエオルゼア軍の奥の手。確かに【超える力】を持ち戦いも出来る彼女にかかれば蛮神問題も解決できるだろうと安堵していた時、ガイウスが俺の目の前に現れた。
軍団長であるガイウスの圧倒的力を持つ存在と、実戦投入された最終兵器アルテマウェポン。蛮神を喰らい、力とする存在を目の前に俺たちは一時撤退の4文字しか選択肢がなかった。ふと「あれが、漆黒の王狼……」と低く無機質な声が聞こえてくる。アンナの声、だったと思う。英雄になるだろう冒険者を失うまいと必死にエンタープライズ号を操舵するシドに確認する術は存在しなかった。
古代兵器の再始動を目の当たりにした3人はこれからの事を話し合う。まずはミンフィリア達の救出。アルテマウェポン破壊、そしてエオルゼアからガレマール帝国を撤退させる。「やる事、たくさんだね」とアンナは呟いていた。考えていても埒が明かないのでとりあえず『希望を光を再び灯すために砂の家に行くか』と結論を出し、ベスパーベイへ。襲撃を逃れていた暁の血盟のイダ、そしてヤ・シュトラと再会するのであった。
イダとアルフィノは目を閉じ、一時の休息を取っていた。シドはアンナに「一番疲れているのはお前だ」と楽にするよう促した。
「そんな事言われたの成人前位だなって」
「何言ってるんだお前は十分若者の範囲内だろ」
「ホー。じゃああなたは何歳なの?」
「34。お前は?」
アンナはクスクスと笑いながらさぁね、と言った。「あまり人と関わらないように旅をしていた時期があってね。何年彷徨ってたか分からないの」と呟く姿は少し寂しそうに見えた。かける言葉が頭から浮かばない。フリーズしてる様を見て彼女は人差し指を突き立て言い切った。
「ちゃんと性別は女性と分かってから旅を始めたし、それから云年経って、アンナと名乗って5年だから……26位かな?」
明らかに嘘なのはその辺にある石ころでも分かるだろう。しかし彼女の精神性と、思ったよりも気さくに話が出来そうな雰囲気から自分と同じ年位だろうと思っておく事にした。―――後にウチの社員になる彼女の兄によるとシドよりも50は上らしい。計算がざっくりとしすぎているな、と赤色の髪の男と苦笑しながら酒を飲み交わした。
◇
次に印象のある出来事と言えば魔導アーマーを鹵獲して修理した時の話だろうか。再び少し沈んだ表情をしながら当時偶然弓を持っていたアンナの隣で戦った。戦闘を重ねるごとに少しだけ笑顔になっていくのが少し怖かったのだがここでは置いておく。
「カストルム・セントリに潜入してミンフィリアを助け出すぞ!」と言った時のアンナの不敵な笑みが何よりもシドにとっての活力となったのだ。人の事はあまり言えないなと当の本人は苦笑しながらも隣に立てるのが何よりも嬉しい。アンナはどう思っていたのだろうか。何度か思い出した時に聞いているが照れくさいのか答えてくれない。
「お世話になっている人たちだし。助けるのは当然の話だよ」
旅人だとよく強調するクセになぜ自分や暁の血盟の人らに肩入れしてくれているのかと聞いたのもこの時だった。レヴナンツトールの整備用拠点で魔導アーマーを見上げながら話をしていたのを覚えている。
「私はね、自分を優しくしてくれた人と約束は守る事にしてるの」
「これまた大きく出たな」
「実はアルフィノとはね―――」
話を聞くとアルフィノとの出会いが彼女の冒険者生活スタートのきっかけだったらしい。蛮族に囲まれていたアルフィノとアリゼーを助けたお礼にグリダニア行のチョコボキャリッジに乗せてもらったのだと。アルフィノが暁の血盟の人間だと知ったのはつい最近で。奇妙な縁だな、と思いながら付いてきてるんだ、と苦笑を浮かべながら喋る姿は少しだけ新鮮に思えた。
思えば彼女の過去をこの時まで聞いた事が無かった。シドの過去の一部は【超える力】で視られてしまっていたのにアンナの歩いてきた軌跡は一切見る事が出来ていない。だから少しだけ遠慮がちに話をする彼女が"新鮮だ"と表現できた。
「元々冒険者になろうとは思ってなかったよ。けど、エオルゼアで動くなら色々と便利かなって思ってね。人助けも好きだしやっちゃえと走り回ってたらいつの間にか暁の人らと行動してたの」
「なかなか飛躍した面白い動機じゃないか。ところで冒険者になる前はどこを旅して」
「あ、カエル食に興味ない? レヴナンツトールのすぐ外にいるやつの肉を食べられないか少し頑張ってみたんだけど」
露骨に話題を逸らしていた。そしてニクス肉の料理は丁重に断った。未来の俺からしたら『約束』という言葉を使っていたのに何も疑問に浮かばなかった自分を蹴飛ばしたい―――
◇
アンナというエオルゼアの英雄が誕生するまでに外せない出来事と言えばやはり魔導城プラエトリウムでの活躍だろう。シドも魔導アーマーで援護してカストルム・メリディアヌムを制圧。そしてエンタープライズ号で空からの侵入を果たしたシドとアンナ達冒険者はガイウスと対峙する。
そういえば作戦【マーチ・オブ・アルコンズ】が始動して間もない時に初めて彼女が刀を持つ姿を見た。珍しい武器を持っていたので聞くと偶然出会ったムソウサイと名乗る侍の弟子になったんだと語る。
「仮にもヴィエラの集落生まれだからね。出身はオサードの方だから刀は見た事あったの。ウルダハで見かけて懐かしくなって」
雷を受けたような衝撃を受けた。舌をペロリと出しながら愛しげに鍔の辺りを撫でる姿に少しだけ、ほんの少しだけ決して表に出せない一つの感情を刺激する。今は作戦中だと自分に言い聞かせすぐに引っ込めたのだが―――少し席を外す時間があったら少々危なかったかもしれない。
そんな姿を見てからだったのだろうか、彼女の戦う姿に対してそそる様になったのは。魔導アーマーを操りながらふと交戦中の彼女に目をやると、ニィと歯を見せた笑顔で帝国兵と斬り合っていた姿が印象的で、世界が違う人間だと今でも思っている。自分のように後方支援を行う姿よりやはり正面切って刀で一閃する方が似合っているし、何よりシド自身の欲情が刺激されていった。
それは文字通り最後の"希望"が自分の隣に立ち、返り血を浴びながら自分を護りながら斬り捨て、他人とは少しだけ違う笑顔を向けてくる。その姿にゾクリと背筋が凍るような未知の感覚が襲い掛かっていたのだ。思えばよくこの頃に想いを自覚できてなかったなと自らの鈍感さに少々嫌気がさす。
閑話休題。魔導城ではシドが捨てた故郷の者達が語りかけて来た。ある者は友の息子であった自分に期待を裏切られてもなお再び傍に置いてやろうとした男。またある者は伝説とされてしまった自分に焼け焦げながら劣情をぶつけて来た幼馴染と呼べる男だった。
そう、坊ちゃんとして育った自分が考えもしなかった感情たちが襲い掛かる。そんなまるで郷愁とぶつけられた一種の劣等感により闇へと落とされていく葛藤を赤い閃光は全て斬り払った。ガイウスの誘いも即断り、現れる敵は躊躇なく斬り捨てていく。
現在もだが味方としていてくれて心から助かった。当のアンナは「顔見えてたら危なかったかもね。あなたほどじゃないけどナイスヒゲだし」と後に語る。冗談だよな? と聞いたが目は笑っていなかった。―――本当に味方でよかった。
「シドは別に亡命して後悔してないんでしょう?」
「勿論だ。ガイウスに引導を渡してやる、頼んだぞ」
「ええ、それでいい。あんな奴といると『自由』に手を伸ばせないよ。そのために全部護ってあげるから」
「俺が世界を、と言ったら護ってくれるのか?」
「ホー……あなたが思うのなら。でも今は違うでしょう?」
アンナはシドを勇気づけるが如く語りかけながら頭をポンと撫でてやりエレベーターに消えて行った。アンナの方が背が高いので撫でる行為は容易である。行為を受けたシドといえば少し恥ずかしい気持ちで溢れかえっていたのだが。
ネロとの会話後―――アレはほぼ一方的な感情の吐露だったが、アンナは戦いながらシドへリンクシェル通信を再び繋いでいた。『大丈夫』『私は、知ってる』『ネロとかいう、趣味悪い赤の、自称天才プライド高すぎ鎧野郎よりさ、あなたの方が数段強いから。ね?』なんて息一つ乱さず囁くような声を聞かせる。と思ったら、『あっやっべ聞こえてたかも』と声が漏れてきた直後、通信をブチ切られた様に自分の張りつめた緊張が解けていった。ネロが再び強制的にジャミングして切ったのだろう。一瞬だけ『かもじゃねェが!? ぶっ殺すぞテメェ!』だと思われる声が断片的に聞こえたからだ。目の前で片手間にボソボソ自分の陰口をたたいていたら普段温和なシドでも物凄くキレ散らかすだろう。
戦闘中なのに余裕がありすぎる姿に頼もしさもあるが少々危うさもある。ガイウスに、アルテマウェポンに勝てるのだろうか。刀を握り始めて大した時期が経っていないんだ、途中で膝を突いてしまうのではないか。いや彼女が賜った【超える力】が有れば大丈夫。―――なはずと考える内に眉間の皴がより一層深くなったのを感じた。
ふと一瞬だけ城内の電力が落ちる。嫌な予感がした。モニター室のシステムから確認すると地下深い場所に電力を集中させている事が分かる。つまり、と考えた瞬間に彼女のリンクシェルへ繋いだ。先程外から流れて来た情報を渡し、あとはアルテマウェポンを破壊するだけだと伝える。
「いいか、死ぬなよ生きて帰って来るんだ」
アンナの声は聞こえなかった。ノイズが酷すぎて自分の言葉が伝わったかも分からない。シドは祈る事しかできなかった。お膳立ては出来たのだ、あとは彼女の頑張りで世界の行く末が決まる。
ここまで来てしまったらもう自分にやる事はない。シドは一足先にモニター室から離脱し、脱出した。
◆◆◆
―――シドは脱出できたのだろうか。心配になる。
アンナの中ではかろうじて聞こえた『生きて帰って来るんだ』という言葉が反芻していた所にガイウスが降って来た。偉そうに演説し時間稼ぎをしたガイウスをまだ慣れぬ刀でなんとか斬り払い、追いかけた先で目の前に現れたのはアルテマウェポン。自分よりも遥かに大きいものに対して少しだけ怖かったが、吸収していた蛮神は一度倒した相手だ。そう考えると一瞬持った恐怖は薄まってきている。何とか恐ろしい古代兵器から蛮神を引き剥がし、ようやく互角以上に戦えると思った瞬間だった。アシエンが現れ、トンデモない事をしでかす。
ガイウスも知らなかった最終兵器究極魔法アルテマ、空へ放たれた大魔法の威力は絶大だった。一発でプラエトリウムが壊滅する程度の威力を持っている。アンナはハイデリンの加護により何とか無傷だったのだが懸念が生まれた。
『シドは脱出できたのだろうか』
リンクパールに手を当てても何も反応はしない。当たり前だ、通信が途切れると言われていたのだから。ガイウスとラハブレアが何かを言っていたようだがアンナの頭の中には入ってこない。『いや大丈夫。今まで見てきたシドなら引き際位わかってる。でももし万が一失敗してたら』頭の中でずっとグルグルと渦巻き彼女は顔を伏せる。
「しかし、今は! この者らを倒し我に力有りと証明するッ!」
うるさい、キミはシドを大事にしたかったんじゃないのか? ただ一度の拒絶で捨てる程度の存在だったのか?
「どちらが真に『持つ者』なのか決着ををつけようじゃないか冒険者!」
厭だ、力なんていらない。約束を交わした少年を助けられなかった、約束を果たせなかった力なんて、ボクは。
構えた刀に、身体から放出されるナニカが流れ込んでいく様を感じる。"これ"はまさか……いけない、分かっていても自分の中のナニカが『奴らがいないのだから大丈夫だろう。"ボク"達の圧倒的な力ってやつを見せてやろうじゃないか。―――』と囁いた。「シ、ド」とボソとアンナは呟く。小さな言葉は周りの冒険者やガイウス、そしてアンナ本人の耳にも届かないだろう。冷たい体に焔が灯され、過去によく聞いた獣のような唸り声を漏らした。
ここからアンナの記憶は塗りつぶされたかの如く真っ黒になる。はっと気が付くとアルテマウェポンから弾き飛ばされたガイウスが倒れていた―――
◆◆◆
―――心臓がいくつあっても足りなかったさ。あの閃光を見た時、絶望しかけていたしとっととエンタープライズで助けに行ってやりたかった。強く、ただ強く戻ってくるようにと祈る。するとあの人は爆発する中、焼き切れていたはずの魔導アーマーで奔ってきた。サンクレッドの救出も成功し、新たなエオルゼアの英雄、『光の戦士』の誕生である。
アンナはただ笑みを浮かべ、彼らの祝福を受け取っていた。ふとシドと目が合い、お互い笑顔を浮かべ「よかった」と言葉が重なった。
◇
「シド」
「旅人の英雄さんじゃないか」
「英雄は余計よ」
第七星歴の宣言が行われ、数日の時が経った。何となくレヴナンツトールで落ち合い、軽食でもどうだと誘うとあっさりとついてくる。噂で暁の血盟の拠点を引っ越しすると聞いていた。忙しいだろうに、とシドは言うと「それは私の仕事ではないからね」とウィンク付きの返事が返って来た。
「ガイウスとの戦いももう昔の話みたいで不思議な感じがするね」
「そういえばお前ネロの前で陰口叩いた後何があった?」
「第一印象を言っただけだよ? 殺すぞって言いながら私を執拗に狙ってきたの。聞いた方が悪いのに」
「いや戦闘中に他事は失礼だろう。……って待て、刀振り回してたんだよな? 目の前で言ってるしキレられて当然じゃないか」
「うーん……あなたが不安で潰されてないか心配だったから。あなたが悪いかな」
シドは「俺のせいにするな」と言いながら小突いてやると彼女は満面の笑顔で「ごめんごめん」と舌をペロリと出した。プライドが高いネロの事だろう、アンナの小言は相当効いたに違いない。
当時、何を思ったか聞いてみたいと思っていた。しかし死んだ者に直接問いかけ答えてもらう術は確立されていない。いやもしかしたら死んでない可能性もあるか。噂では死体は発見されてないと聞く。どこかで会うかもしれないのが厄介だと今後起こるであろう面倒事に想いを馳せていた。現在も聞けていないから今度聞いてみようと考えている。
「それを言ったら私も心配してたよ? アルテマウェポンがやらかした爆発の時、脱出できてたのかなって」
「お前と連絡取れなくなった地点で役目は終わりだと思って脱出した。心配かけちまったみたいだな」
「そっか。怪我、無くてよかった」
どうやら自分の身よりも他人の方が心配だったらしい。どこまでも英雄にふさわしい考え方を持っているようだが、裏を返すと自分の限界を知らない危うさも存在するという事。その証拠として魔導アーマーで生還し、祝福の喜びを受けた後操縦席で突っ伏して眠ってしまったのである。
彼女を取り巻いていた人間全員が慌てていた所、寝息が聞こえるや否や皆溜息を吐いた後笑顔を浮かべていた。実は安心した顔で眠ったアンナを見たのが初めてであり、シドも含めて安心してもらえたのが何よりも嬉しかったのだから。
「これからどうする?」
「蛮神問題を片付けたらまた旅に出たいかな」
「お前は旅人だから言うと思ったぜ。でも英雄さんをあっさり自由にさせてくれるのか?」
「―――頑張ったのは暁の皆だからなんとかなるんじゃない? 私はただの旅人だからね」
「あー……そんな事より、案内したい所があるから落ち着いた時にまた連絡が欲しい」
彼女の口癖を聞きながらリンクシェルにシド直通の連絡先を追加してやる。ついでに直通のリンクパールも渡した。本能的に今渡さないと二度とチャンスが来ないと思ったからだ。アンナは笑顔で受け取った後、「どこに?」と聞いた。
「決まってるだろ? ガーロンド・アイアンワークス社だ」
「ホーそれは楽しみにしとこうかな」
2人の笑い声が重なった。楽しみが増えた、と言いながらお互い別れる。彼女が興味を持つ存在を定期的に与えることが出来れば。しっかりと彼女の力を求めればもうしばらくエオルゼアに残ってくれるだろうと確信していた。しかしその前に会長代理として任せていたジェシーの説教の続きと積まれた仕事を片付けないと。
―――まあその後すぐにクリスタルタワーの案件で再会するのだが。しかしガーロンド社に連れて行く事に対して楽しみと答えたのも今思えば当然じゃないか! 浮かれていた自分を本当に責めたいと何度も思ったさ。
#シド光♀
旅人は過去を視る
注意
ガルーダ討伐前のおはなし。シド少年時代捏造。
―――ボクが身につけてしまった力は正直に言うと旅をするうえで邪魔な代物。だけど、旅の中で見つけた星は心の奥底では求めていた縛り付けられるための【希望】だったかもしれない。
視てしまった。何をって? 決まってるでしょう、人の過去です。第七霊災と呼ばれる星降る夜を見届けた数年後。アルフィノ、アリゼーという双子のかわいい子達に連れられてグリダニアに向かう道の途中でだ。変な声を聞いてからボクは人の過去を視る【超える力】というものを手にしたことを自覚する。口頭説明だけでなく過去を見ることで状況を把握しやすくなったのはいいこと。しかし一々眩暈が伴うのは勘弁してほしかった。いや、眩暈以外ではリスクなしで蛮神による洗脳? を無効化するという効果も一緒に渡されたと考えればお得なものだったかもしれない。
閑話休題。今回視た対象は一味違う。突然協力関係になった組織【暁の血盟】の拠点である砂の家をあの男が興したガレマール帝国の者達に襲撃された。意味も分からぬまま協力者がいるというウルダハのキャンプ・ドライボーン郊外にある教会に転がり込んだ。正直な話自分が『バレた』のかと思って怯えていたがどうやら蛮神殺しとなった自分が鬱陶しかったらしい。紛らわしいことをしやがって……ではなく命拾いした。慣れない武器で走り回る自分はあくまでもちょっと超える力なんて得てしまったひよっこ冒険者なのだ。襲われないに越した事はない。
その後聖アダマ・ランダマ教会という場所で記憶を失っていた墓守の男マルケズに出会う。不思議な雰囲気を醸し出す白い人だった。手先が器用で、無意識だが魔導機械を修理できる程度の知識がある。帝国の目的が分かるまで少々怯えていた自分を慰めてくれた"お人好し"だった。こりゃあの国の偉い技師かそれに近しいやつだったのかなあとぼんやりと考えていた。その正体はガルーダ討滅のためアルフィノ少年が探している飛空艇エンタープライズ号を作り、エオルゼアの魔導技術を一気に発展させた帝国からの亡命者シド・ガーロンド。彼が大空を翔るエンタープライズ号で取り戻した記憶を、隣でのぞいてしまった。
結論を言うと"内なる存在"と話をした【あの少年】だった。寒空の夜、偶然自分の目の前に現れた偉大な父の背中と技術を夢見る可愛らしい白色の髪のあの子だ。
◇
「俺、絶対にお兄さんに凄い飛空艇を見せるんだ」
「ホー、そりゃ楽しみだ。でも迷子になる"ボク"を見つけることはできるかな?」
「空からならきっと見つかるって! そしてお兄さんを目的地へすぐに連れて行けるじゃないか」
「ホーそりゃいい夢だ」
もう来たくなかったあの寒空の中、このままだと凍死か捕まってゲームオーバーかと諦めた所に温かい飲み物を持って来てくれた。自分の事は男だと思っていたのだろう、お兄さんと呼ぶ所は育ちがいい子なんだなあと思うくらいで。"ボク"と彼は名乗り合わず、ただの【旅人と少年】として出会い、少しだけ話をした。お互いの故郷の話、ボクは迷子クセがあるいう話、彼の家の話、そして若き少年である彼の将来の話。
「じゃあ次はキミから全力で逃げてみようかな」
「次?」
「"ボク"を捕まえてごらん」
「っ!?」
あの頃のボクは同じ人間には会わない旅人と決めていたはずなのにな。あまりにも面白かったし、朧げな意識の中初めての純粋な優しさが嬉しかったという感情が"内なる存在"にも伝わり、つい手の甲に口付けを送りながらこう言いやがったのだ。
「期限はそうだね……キミがお髭がとっても似合う人になるまで、かな? 翼であるキミの飛空艇たちを守る刃になってあげよう。おっと飛空艇たち、というのは簡単だよ? あんな大きな船をキミ1人で作れるわけないだろう? 全部守ってあげる。こう見えて"ボク"はすっごく強いからね」
「俺が翼で、お兄さんが刃」
「道教えてくれてありがと。あと入学おめでとう。学校、がんばれ」
「ありが……って道違う! 逆! 迷子何とかしたいなら方向覚えなよ!」
◇
嗚呼懐かしい。あの少年がこんなにもヒゲの似合う男になってしまったのか。これまで流れた時間ってあまり気にした事はなかったが残酷である。そして彼の運の良さにボクは恐怖を覚えたよ。
いろいろあったんだなあ。ボクよりも短い時しか生きてないくせに濃縮されてる人生送ってるね、キミ。だからかな? あの寒空の夜を覚えてないみたいだね。いい事だ。ボクとしては捕まりたくないからそっちの方が都合がいいんだよね。そりゃあ少しだけ寂しいけどさ。
「アンナ、大丈夫か?」
「ん……大丈夫だよ」
「ははっ旅人さんは乗り物酔いでもしたか?」
「飛空艇、乗り慣れてないからそうかもしれないの」
とりあえずキミ達との出会いという幸運に感謝して、蛮神殴ってガレマール帝国の野望を阻止してあげよう。ボクはヴィエラ、時間はたっぷりある。これが終わったら、また広い世界を旅すればいい。
ボクはアンナ・サリス。何にも縛られない、何者でもないただの無名な旅人さ。どうせキミ達の方が先に死ぬんでしょ? 誰もボクに構わないでよ―――。
#シド光♀
ガルーダ討伐前のおはなし。シド少年時代捏造。
―――ボクが身につけてしまった力は正直に言うと旅をするうえで邪魔な代物。だけど、旅の中で見つけた星は心の奥底では求めていた縛り付けられるための【希望】だったかもしれない。
視てしまった。何をって? 決まってるでしょう、人の過去です。第七霊災と呼ばれる星降る夜を見届けた数年後。アルフィノ、アリゼーという双子のかわいい子達に連れられてグリダニアに向かう道の途中でだ。変な声を聞いてからボクは人の過去を視る【超える力】というものを手にしたことを自覚する。口頭説明だけでなく過去を見ることで状況を把握しやすくなったのはいいこと。しかし一々眩暈が伴うのは勘弁してほしかった。いや、眩暈以外ではリスクなしで蛮神による洗脳? を無効化するという効果も一緒に渡されたと考えればお得なものだったかもしれない。
閑話休題。今回視た対象は一味違う。突然協力関係になった組織【暁の血盟】の拠点である砂の家をあの男が興したガレマール帝国の者達に襲撃された。意味も分からぬまま協力者がいるというウルダハのキャンプ・ドライボーン郊外にある教会に転がり込んだ。正直な話自分が『バレた』のかと思って怯えていたがどうやら蛮神殺しとなった自分が鬱陶しかったらしい。紛らわしいことをしやがって……ではなく命拾いした。慣れない武器で走り回る自分はあくまでもちょっと超える力なんて得てしまったひよっこ冒険者なのだ。襲われないに越した事はない。
その後聖アダマ・ランダマ教会という場所で記憶を失っていた墓守の男マルケズに出会う。不思議な雰囲気を醸し出す白い人だった。手先が器用で、無意識だが魔導機械を修理できる程度の知識がある。帝国の目的が分かるまで少々怯えていた自分を慰めてくれた"お人好し"だった。こりゃあの国の偉い技師かそれに近しいやつだったのかなあとぼんやりと考えていた。その正体はガルーダ討滅のためアルフィノ少年が探している飛空艇エンタープライズ号を作り、エオルゼアの魔導技術を一気に発展させた帝国からの亡命者シド・ガーロンド。彼が大空を翔るエンタープライズ号で取り戻した記憶を、隣でのぞいてしまった。
結論を言うと"内なる存在"と話をした【あの少年】だった。寒空の夜、偶然自分の目の前に現れた偉大な父の背中と技術を夢見る可愛らしい白色の髪のあの子だ。
◇
「俺、絶対にお兄さんに凄い飛空艇を見せるんだ」
「ホー、そりゃ楽しみだ。でも迷子になる"ボク"を見つけることはできるかな?」
「空からならきっと見つかるって! そしてお兄さんを目的地へすぐに連れて行けるじゃないか」
「ホーそりゃいい夢だ」
もう来たくなかったあの寒空の中、このままだと凍死か捕まってゲームオーバーかと諦めた所に温かい飲み物を持って来てくれた。自分の事は男だと思っていたのだろう、お兄さんと呼ぶ所は育ちがいい子なんだなあと思うくらいで。"ボク"と彼は名乗り合わず、ただの【旅人と少年】として出会い、少しだけ話をした。お互いの故郷の話、ボクは迷子クセがあるいう話、彼の家の話、そして若き少年である彼の将来の話。
「じゃあ次はキミから全力で逃げてみようかな」
「次?」
「"ボク"を捕まえてごらん」
「っ!?」
あの頃のボクは同じ人間には会わない旅人と決めていたはずなのにな。あまりにも面白かったし、朧げな意識の中初めての純粋な優しさが嬉しかったという感情が"内なる存在"にも伝わり、つい手の甲に口付けを送りながらこう言いやがったのだ。
「期限はそうだね……キミがお髭がとっても似合う人になるまで、かな? 翼であるキミの飛空艇たちを守る刃になってあげよう。おっと飛空艇たち、というのは簡単だよ? あんな大きな船をキミ1人で作れるわけないだろう? 全部守ってあげる。こう見えて"ボク"はすっごく強いからね」
「俺が翼で、お兄さんが刃」
「道教えてくれてありがと。あと入学おめでとう。学校、がんばれ」
「ありが……って道違う! 逆! 迷子何とかしたいなら方向覚えなよ!」
◇
嗚呼懐かしい。あの少年がこんなにもヒゲの似合う男になってしまったのか。これまで流れた時間ってあまり気にした事はなかったが残酷である。そして彼の運の良さにボクは恐怖を覚えたよ。
いろいろあったんだなあ。ボクよりも短い時しか生きてないくせに濃縮されてる人生送ってるね、キミ。だからかな? あの寒空の夜を覚えてないみたいだね。いい事だ。ボクとしては捕まりたくないからそっちの方が都合がいいんだよね。そりゃあ少しだけ寂しいけどさ。
「アンナ、大丈夫か?」
「ん……大丈夫だよ」
「ははっ旅人さんは乗り物酔いでもしたか?」
「飛空艇、乗り慣れてないからそうかもしれないの」
とりあえずキミ達との出会いという幸運に感謝して、蛮神殴ってガレマール帝国の野望を阻止してあげよう。ボクはヴィエラ、時間はたっぷりある。これが終わったら、また広い世界を旅すればいい。
ボクはアンナ・サリス。何にも縛られない、何者でもないただの無名な旅人さ。どうせキミ達の方が先に死ぬんでしょ? 誰もボクに構わないでよ―――。
#シド光♀
新生メインクエスト"魔導兵器のみる夢"後のシド光♀。まだ何も意識し合ってない頃。
ミンフィリア救出作戦の一環で魔導アーマーを鹵獲した。修理・整備を終わらせ、試運転中に異変に気付いたのか帝国兵が飛んで来る。まあ冒険者と一緒に即蹴散らし、その後無事起動することを確認できた。
最終調整を行うためビッグスとウェッジが魔導アーマーを整備用拠点へと連れて行く所を見送る。そして、いつの間にか隣からいなくなっていた冒険者である黒髪のヴィエラを探すため、周りを見回した。見つけた。先程まで戦闘していた場所で座り込んでいる。
「アンナ、何をやってるんだ?」
「研究」
魔導兵器をじっと睨みながらノートを取り出す。首を傾げながら覗き込むと、細かな文字と魔導アーマーのスケッチが描かれていた。今は先程破壊した重装型について書き留めている。文字は異国の言語でよく分からない。何処の言葉なのかと聞くと「ひんがしの方の」とだけ溢した。
「かつて私に戦闘を教えてくれた人が昔いたんだけど。この魔導アーマーたちに関しては何も教えてくれなかったの。仕方ないのは分かってるけどね」
「それで、研究と?」
機体に触れ、中を覗き、何かを記していく。俺は隣に座りそれを眺めた。アンナは苦笑しながらこちらを見ている。
「先に戻ってもいいんだよ。これは私個人がやりたいこと」
「まあいいじゃないか。それに俺はこう見えてこいつらを設計する側に立つ予定だったんだ。目視だけじゃ分からんことやら色々教えてやってもいいぜ」
「―――じゃあ質問なんだけど」
最初に聞かれたのは"コアの位置"。次に"無人兵器の場合、どこを殴れば信号を打ち止められるのか"。"砲塔に使われた金属の強度"、"センサーの位置"、"ビーム装填中に砲塔詰まらせたら暴発してどの位の範囲影響あるのか"―――確実に破壊するための手順を聞いて来る。実際のスクラップを指さしながら分かる範囲のものは教えた。
「勉強熱心なんだな」
「戦う上で苦手なものが存在すると致命的なミスに繋がることがあるからね。んーやっぱり本職の人に聞くのが一番楽しいかも」
「お前さえよかったら工房にいくつか設計図が持ち込まれてたはずだ。読んでみないか?」
「いいの? こんな怪しい旅人にポンポン大切なモノ見せちゃだめだよ」
横から頬を抓り引っ張ってやる。
「俺たちは同じ敵を持った仲間じゃないか。打倒帝国とかいう少しでも大きすぎる目標を持ってんだ。達成する確率を上げるために賭けをするのも悪くないだろ?」
「ホー。そういうものなのかしら?」
「それに真剣な顔して色々聞くお前を見てると何か楽しくなってきてな。よかったら一緒に考えてみないか? 俺も何かいい対策が浮かぶかもしれん」
アンナは目を見開きこちらを一瞬見たと思ったら即後ろを向く。名前を呼ぶと少しだけ肩が跳ね、ポソリと呟いた。
「―――レヴナンツトールに戻りましょ。いっぱい聞くから覚悟して」
「! ああ。対策会議をしよう」
その言葉にアンナは振り向き立ち上がる。そしていつもの笑顔でこちらに手を差し伸べた。俺はその手を取りニィと笑う。引っ張り上げられ、そのまま前へとエスコートされた。
まあこの時の俺はアンナが一瞬そっぽを向いた理由に気付けなかった。そう、あいつは思考が一瞬フリーズし、感情を処理できず真顔になっていたのだ。悟られないようそっぽを向いたと色々見てきた今なら判断できる。すぐに察せていれば、もっと違う道程を辿れたかもしれないと思うと悔しい所があった。
◇
その後。隠れ工房にて俺たち2人で魔導兵器について語り合う。基本的にアンナは相槌を打ち、気になった部分を質問していただけだった。が、時々顔を見ると真剣な顔で目の前の魔導アーマーと睨み合っていた。―――まあ視線にすぐに気付き、いつもの笑顔で首を傾げながらこちらの顔を見る。そうやって気が付いたら一晩徹夜していたらしい。いつの間にか邪魔しないように外に出ていたビックスとウェッジが戻り、少しだけ呆れたような顔をしてこちらを見ていた。
Wavebox
#シド光♀ #即興SS