FF14の二次創作置き場
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- 2024/05/19 連作:紅蓮レイド編【完結済み】 紅蓮,
- 2024/05/15 "カーバンクル&qu… 漆黒
- 2024/05/09 旅人、猫を拾う 漆黒
- 2024/05/08 技師は紅き星を振り返る 漆黒,
- 2024/04/11 旅人は答えを見つける 漆黒,
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影は猫と見守る
注意
アンナの影身とリテイナーのお話2本立て。色々独自設定。暁月ジョブの話題があるので暁月カテゴリーに入れてますが漆黒以降のどこかであったお話です。
はじまりは
彼女が寝静まった夜、影は形を作りリテイナーのベルを鳴らす。扉が静かに開き、金髪ミコッテのリテイナーが現れた。一瞬満面の笑顔を見せていたが相手の姿を見るなり眉間に皴を寄せる。
「へへっお呼びかご主人……ってなんだテメェかよ」
「酒に付き合え」
「へいへい」
フレイがバルビュートを脱ぎ、素顔を見せるとアリスは「へぇ」と笑う。まずは金色だった目は青色に変わった。サラサラとした銀髪を揺らしながら傍に置いてあったグラスとワインのボトルをテーブルの中央に置く。アリスは笑いながら座り、懐から取り出した小型の装置を机に置きスイッチを押した。「それは何だ?」とフレイが聞くと「ご主人が起きたら困るだろ? 俺様の新発明防音空間発生装置」と笑った。「よく分からないものを作るのは"記憶"も一緒なのだな」とグラスを渡すと「ケケッ楽しいだろ?」とその赤色のワインを眺め、目の前の男を観察する。
「ヴィエラになってんのな。身長はそのまんまなのによ。エルがクソ切れそう」
「元の肉体であるエルダスの影響だろう。そしてこの力は"影身のフレイ"と呼ばれた男やら負の感情やらと混じり合った副産物って所か」
「まあご主人の悩みはリンとほぼ一緒だったからな。俺様の元みたいに人格として宿るだけでなく影として実体化までしちまったと」
「エーテルというものは便利だな。本当に生前大して使えなかったのが勿体ないくらいだ」
笑みを浮かべ指の上で炎を発生させる。
「ご満足いただけて何より」
そう歯を見せて笑うアリスにフレイは「そういえば先日遂にシドと直接会話してな」と手を叩く。
「へぇそりゃぁめでてぇな」
「まあ数言交わしただけだぞ。おぬしの"魂"がエルが少々複雑な顔をしておったと云う理由が分かった」
「そりゃ何より」
「悪いやつには見えん。素直で人タラシと呼ばれる理由も分かったが―――ちと危うい部分も多い。それに……」
それに、何だ? とアリスが問うと目を逸らし少しだけ顔を赤めた。少々震えながら口を開く。
「婚前交渉以前に告白するよりも先にその、性行為を行うというのは信じられん。あと説教と性欲を混ぜるのはもっといかん。鍛錬が足りぬなありゃ」
「童貞で死んだ古いお爺ちゃんが言うと説得力が凄いな!? ヒヒッ、ご主人いい大人なんだからセックス位許してやれって!」
「はしたないことをデカい声で言うんじゃない! 大体おぬしも相当の年齢ではないか! というかおぬしはエルより年上だったであろう!」
「ヘッヘッヘッ年齢はリセットされて30代だぜぇ。つーか話題振ったのそっちじゃんよ。ていうかフレイヤちゃん俺様達と違ってちゃんと性欲あったのはよかったじゃん」
ワインを飲みながらゲラゲラと笑っている。フレイはため息を吐き指をさす。
「で、ではおぬしは、その、経験あるのか? ああ恋人はいたか」
「んー研究のパートナーって感じだったな……じゃあ俺も生前童貞だったわニャハハハ!」
ハハハと2人は一頻りに笑った後、頬杖をつきながら眠る"主人"を見つめる。
「理解出来ん」
「近頃の若ぇヤツってすげぇなあ。そういやさ、2人がヤッてる時はどうしてんだ? 相変わらず引き籠ってんの?」
「外出してる。鎧が目立つから何とかしたいものだ」
「そりゃご苦労なこって」
俺様たちにはなかった要素だと眉をひそめた。いつまでも続けていたら最低な酒盛りになる。そう判断し、話題を変えようとアリスは脳みそをフル回転させる。そしてふと相手の名前について思い出した。
「で、どう呼べばいいんだ?」
「? 何がだ?」
「何が、じゃねぇよ。お前は"フレイ"なのか、それとも」
「フレイでよい。私はもう20年ほど前に舞台から消え去り肉体を捨てた名もなき存在。生前の名前も捨てるに決まっておる」
「―――俺様と弟子以外はあっさり捨てる所は相変わらずで嬉しいぜ。ハッピーバースデー、フレイ」
ニィと笑い杯を交わす。これはまだ誰も知らない"彼女"の最悪な内面らのお話―――
"収穫者"
「やはりリーパーと魔導技術が混じって厄介なものなのか? ガレマール帝国と言うものは」
「お爺ちゃんリーパーはもう帝国から追放されて存在しないぞ」
フレイは目を見開き「まことか」と呟いた。彼に存在する"ガレマール"の知識はほぼ共和国時代で止まっている。ソルが即位した頃の話はかいつまんだ情報しか伝わっていなかった。
「童の頃に父が持っていた鎌を振ってみたことがありはした。まさかリーパーと違い前線に人を置かずとも戦闘を終わらせることが出来るとはいえ機械技術にあっさりその席を奪われるとは」
若い頃を思い返す。ヴォイドと交信出来た父親と違い、妖異の力は相性が悪く扱い切れなかった。だが追放までされていたとは予想出来なかったらしい。
「ていうかテメェが存命の時にはほぼ用無し扱いされてたっつーの。怒った一族が暗殺企てたけどアシエンに勝てるわけもなく、な。ケケッ古き技術が淘汰されるというのは当然な話ではあるが哀れだよなァ」
「ふむ父は間一髪の亡命だった、と。私は本当に運に恵まれておる」
ニィとフレイが口角を上げながらアリスの髪に触れると「ケッお上手なことで」と額を指で弾く。話題を変えるように手を大きく広げる。
「かつてヴォイドと繋がる技術としてちょっと勉強したが中々面白かったぜ。流石に扱い切れないから実用化はしてねぇけどさ」
「おぬしでも触りたくないものはあるのだな」
「ったりめーよ。俺様は世界を滅ぼしたいわけじゃねぇし。いやあフレイヤちゃんに憑いて行って正解だったぜーこんな面白いことになるのは予想外じゃん」
ガハハと笑うアリスに対し、苦虫を嚙み潰したような顔を見せたフレイはボソリと呟く。
「……あまりいい気分はしないんだがな」
#フレイ #即興SS
アンナの影身とリテイナーのお話2本立て。色々独自設定。暁月ジョブの話題があるので暁月カテゴリーに入れてますが漆黒以降のどこかであったお話です。
はじまりは
彼女が寝静まった夜、影は形を作りリテイナーのベルを鳴らす。扉が静かに開き、金髪ミコッテのリテイナーが現れた。一瞬満面の笑顔を見せていたが相手の姿を見るなり眉間に皴を寄せる。
「へへっお呼びかご主人……ってなんだテメェかよ」
「酒に付き合え」
「へいへい」
フレイがバルビュートを脱ぎ、素顔を見せるとアリスは「へぇ」と笑う。まずは金色だった目は青色に変わった。サラサラとした銀髪を揺らしながら傍に置いてあったグラスとワインのボトルをテーブルの中央に置く。アリスは笑いながら座り、懐から取り出した小型の装置を机に置きスイッチを押した。「それは何だ?」とフレイが聞くと「ご主人が起きたら困るだろ? 俺様の新発明防音空間発生装置」と笑った。「よく分からないものを作るのは"記憶"も一緒なのだな」とグラスを渡すと「ケケッ楽しいだろ?」とその赤色のワインを眺め、目の前の男を観察する。
「ヴィエラになってんのな。身長はそのまんまなのによ。エルがクソ切れそう」
「元の肉体であるエルダスの影響だろう。そしてこの力は"影身のフレイ"と呼ばれた男やら負の感情やらと混じり合った副産物って所か」
「まあご主人の悩みはリンとほぼ一緒だったからな。俺様の元みたいに人格として宿るだけでなく影として実体化までしちまったと」
「エーテルというものは便利だな。本当に生前大して使えなかったのが勿体ないくらいだ」
笑みを浮かべ指の上で炎を発生させる。
「ご満足いただけて何より」
そう歯を見せて笑うアリスにフレイは「そういえば先日遂にシドと直接会話してな」と手を叩く。
「へぇそりゃぁめでてぇな」
「まあ数言交わしただけだぞ。おぬしの"魂"がエルが少々複雑な顔をしておったと云う理由が分かった」
「そりゃ何より」
「悪いやつには見えん。素直で人タラシと呼ばれる理由も分かったが―――ちと危うい部分も多い。それに……」
それに、何だ? とアリスが問うと目を逸らし少しだけ顔を赤めた。少々震えながら口を開く。
「婚前交渉以前に告白するよりも先にその、性行為を行うというのは信じられん。あと説教と性欲を混ぜるのはもっといかん。鍛錬が足りぬなありゃ」
「童貞で死んだ古いお爺ちゃんが言うと説得力が凄いな!? ヒヒッ、ご主人いい大人なんだからセックス位許してやれって!」
「はしたないことをデカい声で言うんじゃない! 大体おぬしも相当の年齢ではないか! というかおぬしはエルより年上だったであろう!」
「ヘッヘッヘッ年齢はリセットされて30代だぜぇ。つーか話題振ったのそっちじゃんよ。ていうかフレイヤちゃん俺様達と違ってちゃんと性欲あったのはよかったじゃん」
ワインを飲みながらゲラゲラと笑っている。フレイはため息を吐き指をさす。
「で、ではおぬしは、その、経験あるのか? ああ恋人はいたか」
「んー研究のパートナーって感じだったな……じゃあ俺も生前童貞だったわニャハハハ!」
ハハハと2人は一頻りに笑った後、頬杖をつきながら眠る"主人"を見つめる。
「理解出来ん」
「近頃の若ぇヤツってすげぇなあ。そういやさ、2人がヤッてる時はどうしてんだ? 相変わらず引き籠ってんの?」
「外出してる。鎧が目立つから何とかしたいものだ」
「そりゃご苦労なこって」
俺様たちにはなかった要素だと眉をひそめた。いつまでも続けていたら最低な酒盛りになる。そう判断し、話題を変えようとアリスは脳みそをフル回転させる。そしてふと相手の名前について思い出した。
「で、どう呼べばいいんだ?」
「? 何がだ?」
「何が、じゃねぇよ。お前は"フレイ"なのか、それとも」
「フレイでよい。私はもう20年ほど前に舞台から消え去り肉体を捨てた名もなき存在。生前の名前も捨てるに決まっておる」
「―――俺様と弟子以外はあっさり捨てる所は相変わらずで嬉しいぜ。ハッピーバースデー、フレイ」
ニィと笑い杯を交わす。これはまだ誰も知らない"彼女"の最悪な内面らのお話―――
"収穫者"
「やはりリーパーと魔導技術が混じって厄介なものなのか? ガレマール帝国と言うものは」
「お爺ちゃんリーパーはもう帝国から追放されて存在しないぞ」
フレイは目を見開き「まことか」と呟いた。彼に存在する"ガレマール"の知識はほぼ共和国時代で止まっている。ソルが即位した頃の話はかいつまんだ情報しか伝わっていなかった。
「童の頃に父が持っていた鎌を振ってみたことがありはした。まさかリーパーと違い前線に人を置かずとも戦闘を終わらせることが出来るとはいえ機械技術にあっさりその席を奪われるとは」
若い頃を思い返す。ヴォイドと交信出来た父親と違い、妖異の力は相性が悪く扱い切れなかった。だが追放までされていたとは予想出来なかったらしい。
「ていうかテメェが存命の時にはほぼ用無し扱いされてたっつーの。怒った一族が暗殺企てたけどアシエンに勝てるわけもなく、な。ケケッ古き技術が淘汰されるというのは当然な話ではあるが哀れだよなァ」
「ふむ父は間一髪の亡命だった、と。私は本当に運に恵まれておる」
ニィとフレイが口角を上げながらアリスの髪に触れると「ケッお上手なことで」と額を指で弾く。話題を変えるように手を大きく広げる。
「かつてヴォイドと繋がる技術としてちょっと勉強したが中々面白かったぜ。流石に扱い切れないから実用化はしてねぇけどさ」
「おぬしでも触りたくないものはあるのだな」
「ったりめーよ。俺様は世界を滅ぼしたいわけじゃねぇし。いやあフレイヤちゃんに憑いて行って正解だったぜーこんな面白いことになるのは予想外じゃん」
ガハハと笑うアリスに対し、苦虫を嚙み潰したような顔を見せたフレイはボソリと呟く。
「……あまりいい気分はしないんだがな」
#フレイ #即興SS
『好きな人』3
注意
シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。シド少年時代捏造。
時系列は次元の狭間オメガ終了後。
『アンナさんはとても強いし料理も上手です』『アンナさんに先日護衛してもらい何事もなく帰れました』『不愛想かと思っていましたが優しい方です』『社長と付き合ってますよね?』『アンナさんに告白したけど笑顔で断られました』『アンナさんにエスコートしてもらい買い物に連れて行ってもらいました選んでもらった香水で彼氏が出来ました』『王子様みたいです』
「これが社員から匿名で貰ったアンケートの一部よ」
「アンナやっぱモテるッスねー」
「告白した奴複数人いるのか親方でも玉砕状態なのによくやるなあ」
ネロがレフと一緒にシド名義の領収書を盛大に置いて『長期療養』に入った事件から数日後。レヴナンツトールのとある酒場にて久々に『自分たちの上司であるシドと旅人アンナの関係を見守る会』が行われた。今回は当人にバレないようアンナに関するアンケート調査を行った。大体このような突発的なものは無視されて終わるかいい加減な回答が多い。だが今回は渡したほぼ全員から回答有りで提出された。大体の人間はアンナに対して嫌悪感を抱くどころか好意的なものが多い。英雄である彼女の人たらしっぷりが発揮されている。
「ちなみに会長はアンナが女性社員を口説いてることは知りません」
「あんな白昼堂々やってるのにですか!?」
「恋は盲目ってやつッスかぁ!?」
「だから困ってるのよね。その場で口説いたら満足してあとは躱すから」
「ひえー男だったらとっくに死んでるやつじゃないですか」
アンナは女性社員を見かけたら絶対に歯が浮きそうなセリフで口説く。意外と大胆な人だというのは社員たちから言われるまでジェシーは知らなかった。当たり前である。レヴナンツトールで初対面時にシドに関しての説教を長々と行ったからだ。しかし、アンナが初めてガーロンド社へ案内された時のこと。嫌うことなく真っ先に自分の元にまずは護衛が必要な時は呼んで欲しいと手を差し出された。間違いなく優しい人である。しかし、優しくされる理由が一切見当たらない。
「それで今回のメインなんだけど。……少し前になるけどアンナが私たちに肩入れする理由を何とか聞くことに成功したの」
だから一度単刀直入に聞いてみたことがあった。
◇
「私が皆に優しい理由?」
「はい、何故いつも我が社を助けてくれるんですか?」
「そんな改まらなくていい。あなたたちに頼られてるから、と言えば簡単。でもそうだねえ―――ジェシーならいっか。少し昔に"旅人仲間"から聞いた可愛らしい話」
ある日の昼下がり、ラールガーズリーチにて。シドが機材の定期メンテナンスのため出払っていた時にアンナが現れる。ついでに軽く世間話ついでに聞いてみたのだ。すると「シドには内緒にしてね」と人差し指を口に当てながらこう言って帰った。
「昔ね、ある旅人が凍え死にそうになった寒空の下で命を助けてくれた真っ白な子供と約束をした。ヒゲが似合う男になるまでに再会、捕まえたら彼の手に広がった夢を、支えてくれる人を全部守ってあげる、と。その人は何も持たない旅人なのに大胆で莫迦な約束をしちゃった。それと重ねちゃって、ね?」
◇
「え、それって……親方!?」
「そこまでは話してくれなかったの。もしそうだったら……やばいわよ。確実に会長の脳みそがショートどころか爆発するわ」
「でも親方そんな話した事ないですよ。覚えていたら少なくとも今みたいな距離感には絶対ならないような」
「覚えてないんじゃない?」
ジェシーの一言にビッグスは考え込み「あぁ……」と天を仰いだ。アンナの行動を振り返ると確かにシドに気にかけ、どちらかというと子供扱いするようにからかっていた。そうしながらもシドが興した会社ごと護ろうともしている。それを「あなたたちに頼られてる内はエオルゼアに残る」と誤魔化して。なんという回りくどいヒントの出し方。
対して仕事以外は不器用な男は一切疑問に思っていないようだ。シドとしてはアンナに離れて欲しくないのだろう。何かあると水くさいじゃないかと付いて行き、社員の護衛等の手伝いもありがたいと言う。その傍ら暗に何かあれば彼女に頼れと社員を無意識にジトっとした目で睨んだ。『覚えるのが苦手』と言いながらも知識の吸収が早い彼女にアラグの文献を渡しているのも社員の一部は知っている。このすれ違いはきっとアンナも分かってやっている。今のままではあの男はネロのように頃合いを見て逃げられてから気が付き、ブチ切れる未来が見えた。
「勿体ない……ああなんて勿体ないシチューション……」
「その口ぶりはまだ捕まってない、って判定ッスよね? これ今俺たちが頼ってるから残ってるだけで絶対アンナさん頃合い見て逃げるッスよぉぉ」
「やっぱり親方に伝えるべきでは?」
「私たちが教えるのは何か違うでしょ」
ヤることはもうヤッてるしあの2人という言葉を飲み込みながら子供じゃないんだから気付くまで放っておきましょと苦笑しグラスを傾けた。
#即興SS
シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。シド少年時代捏造。
時系列は次元の狭間オメガ終了後。
『アンナさんはとても強いし料理も上手です』『アンナさんに先日護衛してもらい何事もなく帰れました』『不愛想かと思っていましたが優しい方です』『社長と付き合ってますよね?』『アンナさんに告白したけど笑顔で断られました』『アンナさんにエスコートしてもらい買い物に連れて行ってもらいました選んでもらった香水で彼氏が出来ました』『王子様みたいです』
「これが社員から匿名で貰ったアンケートの一部よ」
「アンナやっぱモテるッスねー」
「告白した奴複数人いるのか親方でも玉砕状態なのによくやるなあ」
ネロがレフと一緒にシド名義の領収書を盛大に置いて『長期療養』に入った事件から数日後。レヴナンツトールのとある酒場にて久々に『自分たちの上司であるシドと旅人アンナの関係を見守る会』が行われた。今回は当人にバレないようアンナに関するアンケート調査を行った。大体このような突発的なものは無視されて終わるかいい加減な回答が多い。だが今回は渡したほぼ全員から回答有りで提出された。大体の人間はアンナに対して嫌悪感を抱くどころか好意的なものが多い。英雄である彼女の人たらしっぷりが発揮されている。
「ちなみに会長はアンナが女性社員を口説いてることは知りません」
「あんな白昼堂々やってるのにですか!?」
「恋は盲目ってやつッスかぁ!?」
「だから困ってるのよね。その場で口説いたら満足してあとは躱すから」
「ひえー男だったらとっくに死んでるやつじゃないですか」
アンナは女性社員を見かけたら絶対に歯が浮きそうなセリフで口説く。意外と大胆な人だというのは社員たちから言われるまでジェシーは知らなかった。当たり前である。レヴナンツトールで初対面時にシドに関しての説教を長々と行ったからだ。しかし、アンナが初めてガーロンド社へ案内された時のこと。嫌うことなく真っ先に自分の元にまずは護衛が必要な時は呼んで欲しいと手を差し出された。間違いなく優しい人である。しかし、優しくされる理由が一切見当たらない。
「それで今回のメインなんだけど。……少し前になるけどアンナが私たちに肩入れする理由を何とか聞くことに成功したの」
だから一度単刀直入に聞いてみたことがあった。
◇
「私が皆に優しい理由?」
「はい、何故いつも我が社を助けてくれるんですか?」
「そんな改まらなくていい。あなたたちに頼られてるから、と言えば簡単。でもそうだねえ―――ジェシーならいっか。少し昔に"旅人仲間"から聞いた可愛らしい話」
ある日の昼下がり、ラールガーズリーチにて。シドが機材の定期メンテナンスのため出払っていた時にアンナが現れる。ついでに軽く世間話ついでに聞いてみたのだ。すると「シドには内緒にしてね」と人差し指を口に当てながらこう言って帰った。
「昔ね、ある旅人が凍え死にそうになった寒空の下で命を助けてくれた真っ白な子供と約束をした。ヒゲが似合う男になるまでに再会、捕まえたら彼の手に広がった夢を、支えてくれる人を全部守ってあげる、と。その人は何も持たない旅人なのに大胆で莫迦な約束をしちゃった。それと重ねちゃって、ね?」
◇
「え、それって……親方!?」
「そこまでは話してくれなかったの。もしそうだったら……やばいわよ。確実に会長の脳みそがショートどころか爆発するわ」
「でも親方そんな話した事ないですよ。覚えていたら少なくとも今みたいな距離感には絶対ならないような」
「覚えてないんじゃない?」
ジェシーの一言にビッグスは考え込み「あぁ……」と天を仰いだ。アンナの行動を振り返ると確かにシドに気にかけ、どちらかというと子供扱いするようにからかっていた。そうしながらもシドが興した会社ごと護ろうともしている。それを「あなたたちに頼られてる内はエオルゼアに残る」と誤魔化して。なんという回りくどいヒントの出し方。
対して仕事以外は不器用な男は一切疑問に思っていないようだ。シドとしてはアンナに離れて欲しくないのだろう。何かあると水くさいじゃないかと付いて行き、社員の護衛等の手伝いもありがたいと言う。その傍ら暗に何かあれば彼女に頼れと社員を無意識にジトっとした目で睨んだ。『覚えるのが苦手』と言いながらも知識の吸収が早い彼女にアラグの文献を渡しているのも社員の一部は知っている。このすれ違いはきっとアンナも分かってやっている。今のままではあの男はネロのように頃合いを見て逃げられてから気が付き、ブチ切れる未来が見えた。
「勿体ない……ああなんて勿体ないシチューション……」
「その口ぶりはまだ捕まってない、って判定ッスよね? これ今俺たちが頼ってるから残ってるだけで絶対アンナさん頃合い見て逃げるッスよぉぉ」
「やっぱり親方に伝えるべきでは?」
「私たちが教えるのは何か違うでしょ」
ヤることはもうヤッてるしあの2人という言葉を飲み込みながら子供じゃないんだから気付くまで放っておきましょと苦笑しグラスを傾けた。
#即興SS
"歩み"
注意
前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。
―――アンナは誰とでもいつも数歩後ろを歩く。
「アンナ、こっちッス!」
「感謝」
「いつも悪いなあ」
「構わない」
先頭のビッグスと少し後ろにいるウェッジの更に数歩分後ろを歩くアンナはニコリと笑う。今回は魔大陸にて見覚えのない装置があるという報告を受け、護衛としてアンナを連れて来た。ちなみにシドは別件で忙しく不在である。
アンナは2人の話を聞きながら相槌を打つ。そして敵が見えると目にも留まらぬ勢いで斬りかかりあっという間に両断された。終わるとニコリと笑顔を向け、再び彼らの後ろを歩く。
「そういえばアンナっていつも皆の後ろを歩いてるッスけどどうしてッスか?」
「そんなに変?」
「親方と歩いてる時もそうだよな。もしかして無意識か?」
その言葉にアンナはしばらく首を傾げ考え込んでいたがすぐにぽんと手を叩く。
「若い頃からのクセみたいなもの。気にしないで」
「なるほど。……なるほど?」
◇
「っていう話があったんスよ親方!」
「具体的理由はなしと」
「あの人全然自分の話はしないのは親方が一番分かってるはずなんだがなあ」
「聞こえてるぞビッグス」
シドは自分が不在の場で部下と何かあれば"アンナとどういう話をしたか"と絶対に聴取しに来る。今回はウェッジの報告への反応に対し、ボソリとビッグスはつい呟いてしまう。案の定聞こえてしまったらしくジトっとした目で睨まれた。「すいません」と濁し落ち着かせる。
「確かに俺も気になってはいた。暁相手でもいつも笑いながら数歩後ろ歩いてる」
「ララフェルの歩幅にも合わせられるのは凄いよなあ。特殊技能だ」
「アンナは特殊技能しか持ってないと思うッス」
「瞬間移動みたいな運動神経。色んな武器の使い分け。手先も器用、エーテル操作も難なくこなせて超える力持ち。盛られまくってるな」
「天は二物を与えずって言葉絶対嘘ッスよねー」
羨ましいがその対価を考えるとああはなりたくないなとビッグスとウェッジはため息を吐く。それに対しシドはぼんやりと次にアンナに聞いてみるかと考えていた。
◇
「なあアンナって何でそうやって後ろ歩いているんだ。話しにくいだろ、横にでも来たらいい」
「私は大丈夫」
今日は飯でも食いに行かないかと誘うとあっさり了承を貰いレヴナンツトールで待ち合わせをしていた。合流し歩き出したが、いくらスピードを落としても絶対一定の距離から気配を感じる。シドはそれに見かねて立ち止まり、振り向くとアンナは首を傾げた。
「何かあったら即追い抜き解決。私、人の後姿を見るの好き」
「後姿を、か?」
予想していなかった回答に首を傾げるとアンナは笑顔を見せた。
「小さい頃、後姿を追いかけながら会話してた。ついでにどんな顔をして話してるか想像、楽しい」
ほら歩いた歩いたと急かされると諦めたのか再び前を向き足を踏み出した。
「お前さん使用人でもしてたのか?」
「んーちょと違う。……師弟関係?」
「なるほどな。今俺はどういう顔してるか分かるか?」
「うーん……笑顔」
シドは少々眉間に皴を寄せ呆れた顔をしていた。新たな単語の"師匠"という存在が気になっている。どうしてそこまで興味を持ってしまっていたのか。しかももやもやする気分付きで。この時のシドはその心理が理解が出来なかった―――。
◇
「昔お前がずっと後ろ歩いていた理由を聞いた話を覚えてるか?」
「覚えてない。私は大丈夫」
「覚えてるじゃないか。ってこれ前に別の話題でもやったな」
シドは歩きながらアンナを小突く。お互いの想いを確認しあった後、まずやったことは隣に歩かせるために腕を掴み引っ張ることだった。最初こそは抵抗していた。だが5回ほど繰り返すと諦めたのかようやく自分の隣を歩くようになる。流石にまだ手を繋ぐことすらしていないが近いうちにまた教えたらいいだろう。微妙な距離感でも一歩前進していることが目に見えて分かるのだから。
「"師匠"ってリンドウのことだよな?」
「うん。フウガ、私よりひょろ長。足幅大きく歩くスピード速し。だから追いつけず」
「配慮出来ない人だったのか?」
「いや、本人はゆっくりのつもり。当時ちっちゃかったし。フウガデカい目印。迷子は無縁」
不器用な人だったと笑顔を見せている。シドはジトっとした目で見つめている。それに気付いたアンナは「あなたが振った話題」とため息を吐いた。直後、シドはふと何か思い浮かんだのだろう、拳を握りニィと笑う。
「だが俺はリンドウよりも先に行ってると自信があるぜ」
「えらい自信」
「今アンナと生きてるからな。しかもこうやって横を歩いてるんだ。それだけでアドバンテージがある」
「じゃあ妙な嫉妬しない。フウガの話題妙に突っかかるじゃん」
「嫉妬なんてしてないさ」
一瞬でバレる嘘はつかない、とアンナはシドの頬を抓る。その後、目線を合わせるように少しだけ屈み笑顔を見せた。
「まあその、えっと、フウガより大量に思い出を作ればいい。今を生きてるんでしょ?」
「―――言われなくともそのつもりさ」
夜空を見上げ、軽く息を吐く。煌めく星が今日も輝き2人を見下ろしていた―――。
#シド光♀ #即興SS
前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。
―――アンナは誰とでもいつも数歩後ろを歩く。
「アンナ、こっちッス!」
「感謝」
「いつも悪いなあ」
「構わない」
先頭のビッグスと少し後ろにいるウェッジの更に数歩分後ろを歩くアンナはニコリと笑う。今回は魔大陸にて見覚えのない装置があるという報告を受け、護衛としてアンナを連れて来た。ちなみにシドは別件で忙しく不在である。
アンナは2人の話を聞きながら相槌を打つ。そして敵が見えると目にも留まらぬ勢いで斬りかかりあっという間に両断された。終わるとニコリと笑顔を向け、再び彼らの後ろを歩く。
「そういえばアンナっていつも皆の後ろを歩いてるッスけどどうしてッスか?」
「そんなに変?」
「親方と歩いてる時もそうだよな。もしかして無意識か?」
その言葉にアンナはしばらく首を傾げ考え込んでいたがすぐにぽんと手を叩く。
「若い頃からのクセみたいなもの。気にしないで」
「なるほど。……なるほど?」
◇
「っていう話があったんスよ親方!」
「具体的理由はなしと」
「あの人全然自分の話はしないのは親方が一番分かってるはずなんだがなあ」
「聞こえてるぞビッグス」
シドは自分が不在の場で部下と何かあれば"アンナとどういう話をしたか"と絶対に聴取しに来る。今回はウェッジの報告への反応に対し、ボソリとビッグスはつい呟いてしまう。案の定聞こえてしまったらしくジトっとした目で睨まれた。「すいません」と濁し落ち着かせる。
「確かに俺も気になってはいた。暁相手でもいつも笑いながら数歩後ろ歩いてる」
「ララフェルの歩幅にも合わせられるのは凄いよなあ。特殊技能だ」
「アンナは特殊技能しか持ってないと思うッス」
「瞬間移動みたいな運動神経。色んな武器の使い分け。手先も器用、エーテル操作も難なくこなせて超える力持ち。盛られまくってるな」
「天は二物を与えずって言葉絶対嘘ッスよねー」
羨ましいがその対価を考えるとああはなりたくないなとビッグスとウェッジはため息を吐く。それに対しシドはぼんやりと次にアンナに聞いてみるかと考えていた。
◇
「なあアンナって何でそうやって後ろ歩いているんだ。話しにくいだろ、横にでも来たらいい」
「私は大丈夫」
今日は飯でも食いに行かないかと誘うとあっさり了承を貰いレヴナンツトールで待ち合わせをしていた。合流し歩き出したが、いくらスピードを落としても絶対一定の距離から気配を感じる。シドはそれに見かねて立ち止まり、振り向くとアンナは首を傾げた。
「何かあったら即追い抜き解決。私、人の後姿を見るの好き」
「後姿を、か?」
予想していなかった回答に首を傾げるとアンナは笑顔を見せた。
「小さい頃、後姿を追いかけながら会話してた。ついでにどんな顔をして話してるか想像、楽しい」
ほら歩いた歩いたと急かされると諦めたのか再び前を向き足を踏み出した。
「お前さん使用人でもしてたのか?」
「んーちょと違う。……師弟関係?」
「なるほどな。今俺はどういう顔してるか分かるか?」
「うーん……笑顔」
シドは少々眉間に皴を寄せ呆れた顔をしていた。新たな単語の"師匠"という存在が気になっている。どうしてそこまで興味を持ってしまっていたのか。しかももやもやする気分付きで。この時のシドはその心理が理解が出来なかった―――。
◇
「昔お前がずっと後ろ歩いていた理由を聞いた話を覚えてるか?」
「覚えてない。私は大丈夫」
「覚えてるじゃないか。ってこれ前に別の話題でもやったな」
シドは歩きながらアンナを小突く。お互いの想いを確認しあった後、まずやったことは隣に歩かせるために腕を掴み引っ張ることだった。最初こそは抵抗していた。だが5回ほど繰り返すと諦めたのかようやく自分の隣を歩くようになる。流石にまだ手を繋ぐことすらしていないが近いうちにまた教えたらいいだろう。微妙な距離感でも一歩前進していることが目に見えて分かるのだから。
「"師匠"ってリンドウのことだよな?」
「うん。フウガ、私よりひょろ長。足幅大きく歩くスピード速し。だから追いつけず」
「配慮出来ない人だったのか?」
「いや、本人はゆっくりのつもり。当時ちっちゃかったし。フウガデカい目印。迷子は無縁」
不器用な人だったと笑顔を見せている。シドはジトっとした目で見つめている。それに気付いたアンナは「あなたが振った話題」とため息を吐いた。直後、シドはふと何か思い浮かんだのだろう、拳を握りニィと笑う。
「だが俺はリンドウよりも先に行ってると自信があるぜ」
「えらい自信」
「今アンナと生きてるからな。しかもこうやって横を歩いてるんだ。それだけでアドバンテージがある」
「じゃあ妙な嫉妬しない。フウガの話題妙に突っかかるじゃん」
「嫉妬なんてしてないさ」
一瞬でバレる嘘はつかない、とアンナはシドの頬を抓る。その後、目線を合わせるように少しだけ屈み笑顔を見せた。
「まあその、えっと、フウガより大量に思い出を作ればいい。今を生きてるんでしょ?」
「―――言われなくともそのつもりさ」
夜空を見上げ、軽く息を吐く。煌めく星が今日も輝き2人を見下ろしていた―――。
#シド光♀ #即興SS
"煙草"
注意・補足
煙草にまつわる漆黒以降のギャグ概念。
リン:レフの旧友にしてアンナの命の恩人であるリンドウ・フウガの愛称。アンナが34歳になるまで一緒に旅をしていた。
龍殺しの:リンドウの二つ名。ガレマールで戯曲化もされた東の英雄。欲のない無名の旅人。
納期は間近。またギリギリになる可能性も高いが"普段よりかは"間に合うだろう、シドは頭を晴らすために休憩室で1人電子タバコを吸う。味が好きなわけではない、ただ〆切が近づいた時にその煙をぼんやりと吸う。アンナは毎回「邪魔になるね」と言い5日程度連絡を一切交わさない。つまり合間の気分転換先がないのでこうやって一服することがあった。
ふと扉が開け放たれネロとレフがやって来る。シドの顔を見るなり「うわ酷い面だな会長クン」と言うのは失礼極まりない。ジトッとした目で睨むとレフは口元を上げた。
ネロが1本煙草を取り出すとレフはパチンと指を鳴らし火を灯す。横に座り副流煙を味わう姿に「お前は歩くライターか」とぼやく。
「僕も吸ってもいいんだが普段持ってる奴はネロに止められてね」
「お前が吸うシガーは慣れてねェやつが匂い嗅ぐだけで下手すりゃ業務に支障が出ちまうンだわ」
「何吸ってるんだお前……」
どうやらレフは故郷特有の特殊な葉巻を持っているらしい。ネロによると相当"脳にクる"ものだという。確かにこの時期にそんな匂いのものをぶち撒けられたら仕事に影響が出てしまうだろう。
「そういやお前メスバブーンに煙草のこと言ってなかったンだな」
「アンナはこういう時期は絶対来ないからな。何か言ってたか?」
「へーだってよ。興味なさそうだったぜ」
知ってたとシドは肩をすくめたがレフの言葉に固まる。
「まあ別に妹は煙草自体に嫌悪感はないだろう。リンもアリスもヘビースモーカーだったし。慣れてる文化だろうからスルーは仕方ないだろうな」
「は?」
「そういや蒼天街で火ィ点けてもらった時だいぶ手慣れてンなとは思ってたが」
「子供に火を点けさせるのは流石にしてないと思いたいが妹の方からやってた可能性はあるな」
シドはしばらくの沈黙の後ふと立ち上がる。「おい仕事に戻るのか?」とネロが問うと「ちょっと、アンナの所に、確認を」と眉間に皴を寄せボソボソ呟くのでギョッとした顔で2人がかりで押さえ込む。
「離せネロ、レフ! 俺は少し確かめに行くだけだ」
「やめとけ!」
「疲れで頭おかしくしてンじゃねェぞ!」
ジェシーの「会長早く仕事に戻ってください! ってネロもレフも大人げなく何やってるの!」という怒りの声が響き渡るまでこの騒ぎは収まらないのであった―――。
◇
後日。
「あ、ネロサンじゃん。煙草? 抵抗なし。でもあまり慣れない匂いが付くと戦闘に支障が出るから吸わない」
「アーそういう方向か。煙草の匂い如きで調子崩すってのはちと分かんねェが」
アンナの言葉に肩をすくめる。それに対しはにかんだ笑みを見せた。
「うんちの臭いで集中できないのと一緒。あーでも昔命の恩人が吸ってたやつはとってもいい匂いで阻害はされないかも」
「はー龍殺しの。ていうかクソと対比すンじゃねェよ不味くなンだろが」
軽く小突いてやるとニィと笑っている。アンナは思い出すように口元に指を寄せた。
「たまにキセルとかも見せてくれた。そういうコレクションが数少ない趣味だって。そういえば終の棲家には見当たらなかった。捨ててるかも」
「見たかったかもな。意外と知り合いにあげてンじゃね?」
「なかなか価値がありそうだから売ったとかもありえるだろ」
アンナは軽くため息を吐き「話題が逸れた」と切り替える。優しい笑顔を見せ語った。
「うーん銘柄不明だし20年程度の旅な記憶だから大人の味への憧れって記憶補正の可能性。実はクールに煙草吸うヒゲのおじさまが好きでね」
「ハァ。ていうか20年一緒に旅してたとか初耳だな。なあガーロンド」
「お前が男の趣味を語るなんて珍しいな。俺も初めて聞いたぞ」
「そう? キミと同じ年まで一緒に旅してたよ。そうだねえ、聞かれてないから言うわけないじゃん。―――あ、シドには内緒。面倒な未来しか見えない。ってうわシド偶然」
いつの間にかアンナの横にシドは腕組みをし立っていた。いつからいたのかと顔を青くしながら聞くとネロは「だいぶ序盤からいたぞ」と爆笑している。シドはガシリと腕を掴み笑顔を見せているが目は笑っていない。
「よおアンナ、元気そうに話してるじゃないか。で、うわとか面倒ってどういうことだ?」
「いや今のはその。面倒? あなたの聞き間違い。あ! 用事思い出した! じゃ!」
「お前昔『フウガとは成人してから少し後までしかいなかったよ』って言ってたよな?」
「え、そ、そうだっけなあ。いやヴィエラの成人って何歳なんだろーハハハ」
「きっちり聞かれてンじゃねえか。お前本ッ当に学ばねェな」
ネロは火元から逃げるようその場からそそくさと立ち去って行く。また「待てネロサン、キミがいないとシドの説教の度合いが変わる!」というアンナの悲痛な叫び声が響くのであった。
#エルファー関連 #ギャグ #即興SS
煙草にまつわる漆黒以降のギャグ概念。
リン:レフの旧友にしてアンナの命の恩人であるリンドウ・フウガの愛称。アンナが34歳になるまで一緒に旅をしていた。
龍殺しの:リンドウの二つ名。ガレマールで戯曲化もされた東の英雄。欲のない無名の旅人。
納期は間近。またギリギリになる可能性も高いが"普段よりかは"間に合うだろう、シドは頭を晴らすために休憩室で1人電子タバコを吸う。味が好きなわけではない、ただ〆切が近づいた時にその煙をぼんやりと吸う。アンナは毎回「邪魔になるね」と言い5日程度連絡を一切交わさない。つまり合間の気分転換先がないのでこうやって一服することがあった。
ふと扉が開け放たれネロとレフがやって来る。シドの顔を見るなり「うわ酷い面だな会長クン」と言うのは失礼極まりない。ジトッとした目で睨むとレフは口元を上げた。
ネロが1本煙草を取り出すとレフはパチンと指を鳴らし火を灯す。横に座り副流煙を味わう姿に「お前は歩くライターか」とぼやく。
「僕も吸ってもいいんだが普段持ってる奴はネロに止められてね」
「お前が吸うシガーは慣れてねェやつが匂い嗅ぐだけで下手すりゃ業務に支障が出ちまうンだわ」
「何吸ってるんだお前……」
どうやらレフは故郷特有の特殊な葉巻を持っているらしい。ネロによると相当"脳にクる"ものだという。確かにこの時期にそんな匂いのものをぶち撒けられたら仕事に影響が出てしまうだろう。
「そういやお前メスバブーンに煙草のこと言ってなかったンだな」
「アンナはこういう時期は絶対来ないからな。何か言ってたか?」
「へーだってよ。興味なさそうだったぜ」
知ってたとシドは肩をすくめたがレフの言葉に固まる。
「まあ別に妹は煙草自体に嫌悪感はないだろう。リンもアリスもヘビースモーカーだったし。慣れてる文化だろうからスルーは仕方ないだろうな」
「は?」
「そういや蒼天街で火ィ点けてもらった時だいぶ手慣れてンなとは思ってたが」
「子供に火を点けさせるのは流石にしてないと思いたいが妹の方からやってた可能性はあるな」
シドはしばらくの沈黙の後ふと立ち上がる。「おい仕事に戻るのか?」とネロが問うと「ちょっと、アンナの所に、確認を」と眉間に皴を寄せボソボソ呟くのでギョッとした顔で2人がかりで押さえ込む。
「離せネロ、レフ! 俺は少し確かめに行くだけだ」
「やめとけ!」
「疲れで頭おかしくしてンじゃねェぞ!」
ジェシーの「会長早く仕事に戻ってください! ってネロもレフも大人げなく何やってるの!」という怒りの声が響き渡るまでこの騒ぎは収まらないのであった―――。
◇
後日。
「あ、ネロサンじゃん。煙草? 抵抗なし。でもあまり慣れない匂いが付くと戦闘に支障が出るから吸わない」
「アーそういう方向か。煙草の匂い如きで調子崩すってのはちと分かんねェが」
アンナの言葉に肩をすくめる。それに対しはにかんだ笑みを見せた。
「うんちの臭いで集中できないのと一緒。あーでも昔命の恩人が吸ってたやつはとってもいい匂いで阻害はされないかも」
「はー龍殺しの。ていうかクソと対比すンじゃねェよ不味くなンだろが」
軽く小突いてやるとニィと笑っている。アンナは思い出すように口元に指を寄せた。
「たまにキセルとかも見せてくれた。そういうコレクションが数少ない趣味だって。そういえば終の棲家には見当たらなかった。捨ててるかも」
「見たかったかもな。意外と知り合いにあげてンじゃね?」
「なかなか価値がありそうだから売ったとかもありえるだろ」
アンナは軽くため息を吐き「話題が逸れた」と切り替える。優しい笑顔を見せ語った。
「うーん銘柄不明だし20年程度の旅な記憶だから大人の味への憧れって記憶補正の可能性。実はクールに煙草吸うヒゲのおじさまが好きでね」
「ハァ。ていうか20年一緒に旅してたとか初耳だな。なあガーロンド」
「お前が男の趣味を語るなんて珍しいな。俺も初めて聞いたぞ」
「そう? キミと同じ年まで一緒に旅してたよ。そうだねえ、聞かれてないから言うわけないじゃん。―――あ、シドには内緒。面倒な未来しか見えない。ってうわシド偶然」
いつの間にかアンナの横にシドは腕組みをし立っていた。いつからいたのかと顔を青くしながら聞くとネロは「だいぶ序盤からいたぞ」と爆笑している。シドはガシリと腕を掴み笑顔を見せているが目は笑っていない。
「よおアンナ、元気そうに話してるじゃないか。で、うわとか面倒ってどういうことだ?」
「いや今のはその。面倒? あなたの聞き間違い。あ! 用事思い出した! じゃ!」
「お前昔『フウガとは成人してから少し後までしかいなかったよ』って言ってたよな?」
「え、そ、そうだっけなあ。いやヴィエラの成人って何歳なんだろーハハハ」
「きっちり聞かれてンじゃねえか。お前本ッ当に学ばねェな」
ネロは火元から逃げるようその場からそそくさと立ち去って行く。また「待てネロサン、キミがいないとシドの説教の度合いが変わる!」というアンナの悲痛な叫び声が響くのであった。
#エルファー関連 #ギャグ #即興SS
"感謝のチョコレート"
注意
自機出番少な目なのと倫理観無し。シド光♀匂わせ程度なギャグ概念。
どちらかというと自機兄+ネロ風味。
レフ→自機の兄。ガーロンド社に出入りしている技師。嫁が8人いたが離婚済みで故郷からも追放されている。妹が絡まなければ物静かで笑顔がヘタクソな人間。
「そういえばガーロンドくん、昨年僕の妹から貰ったチョコはどんな感じだったんだ?」
アンナの兄レフの一言から今回の一件は始まった。ネロはゲラゲラと笑う。
「やっぱ手加減知らねぇメスバブーンのことだから山のように作って社員全員に振る舞ったンじゃねェの。ンでその中の1つを雑に投げられたって感じか?」
「あー確か去年の手紙でヴァレンティオンデーってよく分からんって書かれてたな。僕も知らなかったから『可哀想な男共に優しい手を差し伸べる慈善事業の日でもあるよな』って返したぞ」
「あの余計な一言はお前が原因だったのか……」
シドはため息を吐いた。昨年のヴァレンティオンデーはそれはもう凄かったと語る。突然ガーロンド社に訪れ、大きなバッグから取り出される『お母さん以外の異性から手作りチョコを貰ったことがない人優先の素材から拘った手作りチョコレート』をばら撒いた。シドは毎年結構な量を貰い社員と食べていたのだが、その多さに今年はいらないと言われほぼ1人で数日間片付けていた。挙句の果てに、アンナからは「シドいっぱい貰ってる。こっちはあげない」と言われるおまけ付きで。その後、先に試作したが少々失敗したというカカオ95%チョコを渡され、言われるがままホットミルクに溶かして飲んだ。ちょうどいい苦みがあって美味しかったと振り返る。
「レフのせいで俺は酷い目に遭ったんだぞ」
「はっはっはざまあみやがれ。ってちゃっかり貰ってるじゃないか阿呆」
「おいレフホンネ出てンぜ?」
「というかアンナも大量に貰ってたんだぞ? それは悔しくないのか兄として」
「お前と一緒で僕の妹に本命という概念が理解できるわけがないだろ」
「そーだな」
「流石にアンナよりマシだと思うぞ!?」
ネロとレフの言葉にシドは素っ頓狂な声を上げた。似てると言われるのは悪くは思わないがさすがに恋愛関係で一緒にされたくなかった。
「気にせず社員に分けてるアホが何か言ってンぜ?」
「まったく最低な男だなガーロンドくん」
「いや俺は仮にも偉い人間だし義理で渡すくらいはあるだろ。どう消費しても文句はないはずだ。お前たちだって確実に貰ってただろ」
「ガレマルドにヴァレンティオンなンてなかっただろうが」
「僕は嫁いたし。基本的に人から手作りの食べ物は貰わない主義なんだ。何混入してるか分からん」
「おいおいレフもズレてンな」
「―――おいレフ、お前人から貰ったものは受け取らないのか?」
シドに嫌な予感がよぎる。兄がこれなら人の教えを忠実に守る妹は。
「そりゃそうだろう毒とか入ってたら困るし」
「アンナもそれを知ってるのか?」
「勿論。護人としての心構えで真っ先に故郷では教えられるさ。そこから瓦解したら大変だろう?」
「……アー」
ネロも察した様子を見せながら肩をすくめ、レフに便箋を指さす。
「手紙書け。プレゼントは全部断れってな」
「現れる前に気付いてよかったぜ」
「君たち本当に心の問題に関しては妹のこと信用してないな。僕も書いた方がいいって思ったけど。というか去年貰ったものどうしたか聞くか」
ここ数日、またアンナと連絡が途絶えていた。暁の人間によると『やはり道具から拘る方がいいよね』と言いながらどこかに飛んで行ったのだという。連絡をするならば一番確実なのがレターモーグリだろうと判断し、レフはペンを手に取った。
◇
レフは手短な手紙を書き、レターモーグリ経由で送ると1日で返事が返って来た。しかし内容をシドに伝えることはなかった。
「……僕は教育方針を間違えてたかもしれない」
「ケケッ、オマエこれまでの生涯通しても合計1年分も会ってねェだろ」
「うるせ」
『兄さんへ
私への配慮、ありがとうございます。お返しはいらないと言って渡しているので安心してください。
あと私のような旅人には本命や義理も関係ないし感謝の気持ちを込めて燃やしてるので大丈夫。
ところで試作品を作ったからどうぞ。兄さんの感想が私がお世話になっている人たちの胃の運命が決まります。よろしくね。
フレイヤ』
手紙と一緒に小袋が入っており、中身はアルファの顔が描かれたアイシングクッキーとオメガを模した立体チョコレートだった。容赦なくパキリと割り満面の笑顔で噛みしめるように食べるレフの姿にネロは引く。
「おいしい……嗚呼滅茶苦茶おいしいぞ妹よ。だが頼むから人からの贈り物は完全に拒否してくれ……」
「オマエ本当にメスバブーン絡んだら気持ち悪ィな」
「一言余計。ほら半分に割ってるから君も食え。多分君もいっぱいもらってるからあげない組だぞ」
「いや別にオレは」
「は? 君は妹の作ったものが不味いからいらないと言いたいのか?」
「ンなこと一言も言ってねェよ!」
ネロは眉間にしわを寄せながらクッキーを一口摘まむ。ちょうどいい焼き加減でサクサクとして本当にあのデリカシー無しで脳筋が作ったものなのかと疑うほど美味い。
「バブーンじゃなけりゃなァ」
「は? 妹は可愛いが?」
「顔はいい方だけど中身が最悪だって言いたいンだよ」
「最悪の中身が混じり込んでるんだからしょうがないだろ」
「ヒヒッ違いねェ」
よし美味しかったと手紙を返しておこうとペンを手に取る姿をネロは苦笑する。素直に会いに行けよと思うが心の中に仕舞い込んだ。
―――数日後。アンナは石の家とガーロンド・アイアンワークス社に大きなバッグを持って現れた。色々な表情をしたアルファが描かれたアイシングクッキーとオメガ型立体チョコが入った小袋を『お母さん以外の異性から手作りで貰ったことがない人優先の調理道具から拘った手作りチョコレート』と称してばら撒く。昨年と違う所はなんと男女問わず渡されるチョコレートをごめんと言いながら拒否している所だ。ネロは兄の説得が心に届いたのかとマグカップを手に口をあんぐりと開けそれを見守る。ふと目が合うと意外なことに2つの袋を手渡された。両手に紙袋を持ちながらふらつくシドがやって来るとアンナは動きを止める。
「ホー昨日あんだけ説教してきたくせに自分はモテますアピール」
「いや、アンナ。断ったが押し付けられてな。また一緒に食うか?」
「自分で片付けたらいい」
踵を返し次は女性陣へと渡しに行く姿をシドはため息を吐きネロの隣に立つ。
「いや昨日ようやく連絡がついてな。問いただしたらゲロったから少々手荒に"説教"した」
「ハァ。その両手のブツがなければ説得力あったろうにな」
「俺もそう思ってるさ。とりあえずレフにはお前の説得で妹は余計な悲しみを生まさずに済んだとでも伝えておいてくれ」
「……まあその方があいつも小躍りすっか」
真面目なシドのことだ、一晩中ものすごくキツく𠮟ったのだろう。大欠伸を噛み殺しながら、いつもの内面に存在する複数の人間に込められた渦巻かれた闇1つ悟らせない満面の笑みでチョコをばら撒き去って行くアンナを見守っていた。
その横でネロはふと誰も触れていない引っかかった疑問を口にする。
「―――ン? 調理道具から拘ったってどういうことだ?」
「文字通り1から作ったってことだろ。そりゃ一切連絡つかないさ」
満面の笑顔で鉱石から採掘に行く姿が男2人の脳内で共有され馬鹿じゃねェの? と呆れた声が響き渡った―――。
#即興SS #季節イベント
自機出番少な目なのと倫理観無し。シド光♀匂わせ程度なギャグ概念。
どちらかというと自機兄+ネロ風味。
レフ→自機の兄。ガーロンド社に出入りしている技師。嫁が8人いたが離婚済みで故郷からも追放されている。妹が絡まなければ物静かで笑顔がヘタクソな人間。
「そういえばガーロンドくん、昨年僕の妹から貰ったチョコはどんな感じだったんだ?」
アンナの兄レフの一言から今回の一件は始まった。ネロはゲラゲラと笑う。
「やっぱ手加減知らねぇメスバブーンのことだから山のように作って社員全員に振る舞ったンじゃねェの。ンでその中の1つを雑に投げられたって感じか?」
「あー確か去年の手紙でヴァレンティオンデーってよく分からんって書かれてたな。僕も知らなかったから『可哀想な男共に優しい手を差し伸べる慈善事業の日でもあるよな』って返したぞ」
「あの余計な一言はお前が原因だったのか……」
シドはため息を吐いた。昨年のヴァレンティオンデーはそれはもう凄かったと語る。突然ガーロンド社に訪れ、大きなバッグから取り出される『お母さん以外の異性から手作りチョコを貰ったことがない人優先の素材から拘った手作りチョコレート』をばら撒いた。シドは毎年結構な量を貰い社員と食べていたのだが、その多さに今年はいらないと言われほぼ1人で数日間片付けていた。挙句の果てに、アンナからは「シドいっぱい貰ってる。こっちはあげない」と言われるおまけ付きで。その後、先に試作したが少々失敗したというカカオ95%チョコを渡され、言われるがままホットミルクに溶かして飲んだ。ちょうどいい苦みがあって美味しかったと振り返る。
「レフのせいで俺は酷い目に遭ったんだぞ」
「はっはっはざまあみやがれ。ってちゃっかり貰ってるじゃないか阿呆」
「おいレフホンネ出てンぜ?」
「というかアンナも大量に貰ってたんだぞ? それは悔しくないのか兄として」
「お前と一緒で僕の妹に本命という概念が理解できるわけがないだろ」
「そーだな」
「流石にアンナよりマシだと思うぞ!?」
ネロとレフの言葉にシドは素っ頓狂な声を上げた。似てると言われるのは悪くは思わないがさすがに恋愛関係で一緒にされたくなかった。
「気にせず社員に分けてるアホが何か言ってンぜ?」
「まったく最低な男だなガーロンドくん」
「いや俺は仮にも偉い人間だし義理で渡すくらいはあるだろ。どう消費しても文句はないはずだ。お前たちだって確実に貰ってただろ」
「ガレマルドにヴァレンティオンなンてなかっただろうが」
「僕は嫁いたし。基本的に人から手作りの食べ物は貰わない主義なんだ。何混入してるか分からん」
「おいおいレフもズレてンな」
「―――おいレフ、お前人から貰ったものは受け取らないのか?」
シドに嫌な予感がよぎる。兄がこれなら人の教えを忠実に守る妹は。
「そりゃそうだろう毒とか入ってたら困るし」
「アンナもそれを知ってるのか?」
「勿論。護人としての心構えで真っ先に故郷では教えられるさ。そこから瓦解したら大変だろう?」
「……アー」
ネロも察した様子を見せながら肩をすくめ、レフに便箋を指さす。
「手紙書け。プレゼントは全部断れってな」
「現れる前に気付いてよかったぜ」
「君たち本当に心の問題に関しては妹のこと信用してないな。僕も書いた方がいいって思ったけど。というか去年貰ったものどうしたか聞くか」
ここ数日、またアンナと連絡が途絶えていた。暁の人間によると『やはり道具から拘る方がいいよね』と言いながらどこかに飛んで行ったのだという。連絡をするならば一番確実なのがレターモーグリだろうと判断し、レフはペンを手に取った。
◇
レフは手短な手紙を書き、レターモーグリ経由で送ると1日で返事が返って来た。しかし内容をシドに伝えることはなかった。
「……僕は教育方針を間違えてたかもしれない」
「ケケッ、オマエこれまでの生涯通しても合計1年分も会ってねェだろ」
「うるせ」
『兄さんへ
私への配慮、ありがとうございます。お返しはいらないと言って渡しているので安心してください。
あと私のような旅人には本命や義理も関係ないし感謝の気持ちを込めて燃やしてるので大丈夫。
ところで試作品を作ったからどうぞ。兄さんの感想が私がお世話になっている人たちの胃の運命が決まります。よろしくね。
フレイヤ』
手紙と一緒に小袋が入っており、中身はアルファの顔が描かれたアイシングクッキーとオメガを模した立体チョコレートだった。容赦なくパキリと割り満面の笑顔で噛みしめるように食べるレフの姿にネロは引く。
「おいしい……嗚呼滅茶苦茶おいしいぞ妹よ。だが頼むから人からの贈り物は完全に拒否してくれ……」
「オマエ本当にメスバブーン絡んだら気持ち悪ィな」
「一言余計。ほら半分に割ってるから君も食え。多分君もいっぱいもらってるからあげない組だぞ」
「いや別にオレは」
「は? 君は妹の作ったものが不味いからいらないと言いたいのか?」
「ンなこと一言も言ってねェよ!」
ネロは眉間にしわを寄せながらクッキーを一口摘まむ。ちょうどいい焼き加減でサクサクとして本当にあのデリカシー無しで脳筋が作ったものなのかと疑うほど美味い。
「バブーンじゃなけりゃなァ」
「は? 妹は可愛いが?」
「顔はいい方だけど中身が最悪だって言いたいンだよ」
「最悪の中身が混じり込んでるんだからしょうがないだろ」
「ヒヒッ違いねェ」
よし美味しかったと手紙を返しておこうとペンを手に取る姿をネロは苦笑する。素直に会いに行けよと思うが心の中に仕舞い込んだ。
―――数日後。アンナは石の家とガーロンド・アイアンワークス社に大きなバッグを持って現れた。色々な表情をしたアルファが描かれたアイシングクッキーとオメガ型立体チョコが入った小袋を『お母さん以外の異性から手作りで貰ったことがない人優先の調理道具から拘った手作りチョコレート』と称してばら撒く。昨年と違う所はなんと男女問わず渡されるチョコレートをごめんと言いながら拒否している所だ。ネロは兄の説得が心に届いたのかとマグカップを手に口をあんぐりと開けそれを見守る。ふと目が合うと意外なことに2つの袋を手渡された。両手に紙袋を持ちながらふらつくシドがやって来るとアンナは動きを止める。
「ホー昨日あんだけ説教してきたくせに自分はモテますアピール」
「いや、アンナ。断ったが押し付けられてな。また一緒に食うか?」
「自分で片付けたらいい」
踵を返し次は女性陣へと渡しに行く姿をシドはため息を吐きネロの隣に立つ。
「いや昨日ようやく連絡がついてな。問いただしたらゲロったから少々手荒に"説教"した」
「ハァ。その両手のブツがなければ説得力あったろうにな」
「俺もそう思ってるさ。とりあえずレフにはお前の説得で妹は余計な悲しみを生まさずに済んだとでも伝えておいてくれ」
「……まあその方があいつも小躍りすっか」
真面目なシドのことだ、一晩中ものすごくキツく𠮟ったのだろう。大欠伸を噛み殺しながら、いつもの内面に存在する複数の人間に込められた渦巻かれた闇1つ悟らせない満面の笑みでチョコをばら撒き去って行くアンナを見守っていた。
その横でネロはふと誰も触れていない引っかかった疑問を口にする。
「―――ン? 調理道具から拘ったってどういうことだ?」
「文字通り1から作ったってことだろ。そりゃ一切連絡つかないさ」
満面の笑顔で鉱石から採掘に行く姿が男2人の脳内で共有され馬鹿じゃねェの? と呆れた声が響き渡った―――。
#即興SS #季節イベント
"耳"
「だから触るな!」
「いいじゃないか」
アンナは壁に追いやられながら威嚇するがシドはどこ吹く風かと手を伸ばしている。眉間に皴を寄せながら必死にその手を握りしめ抵抗した。
そう、アンナは耳を優しく触れられる行為に対して非常に弱く、"シドに"触られるとほぼ"終わり"となる。なので手段を選ばず何としても手を出すシドと度々小競り合いが起こった。今回は仕事疲れで戻って来たシドが癒してほしいと言うので、"多少の"スキンシップを許可した所まではいい。しばらく首や顎、頬を撫でまわしていたが突然耳に手をかけようとしたので、耳だけはやめろと拒否する。
「触ってもいいってさっき言ってたじゃないか」
「してない。許可した個所は顔」
「頭部の一部じゃないか」
かすってない! とシドの両手を片手で掴みながら額のゴーグルを外し指さす。
「あなた以前第三の眼で遊ぶの拒否したでしょ?」
「お前のパワーで何かされたら命の危機だろ」
「失礼な。耳だって命の危機と隣り合う器官」
「力加減位できるさ」
埒が明かない。他の話題を探して有耶無耶にするかとアンナは判断し、床に転がす。今回はきちんと受け身を取ったようだ。胸板の上に乗り腕を押さえる。
「誘ってるのか?」
「違う」
「お前知ってるぞ、以前人に触らせてただろ耳」
どこから話が漏れたんだとアンナはため息を吐く。グ・ラハとレヴナンツトールを歩いていると通りすがりの子供が声をかけて来た。ヴィエラが珍しかったのか長い耳に興味を持っていたので仕方なく触らせる。すると思い切り掴み引っ張られたので、頬を引っ張りながら笑顔を見せてやった。喋った犯人はグ・ラハだなと思いながら適当に心を抉る言葉を吐く。
「シドの触り方おっさん臭くて嫌い」
シドの表情が固まる。よし、このまま傷付いてろとため息を吐き畳みかける。
「お子様が手加減無しで掴んで、ビックリして頬を引っ張った。一度だけ。何度もせがむおっさんとは大違い」
「ぐ。いや待てお前の方が遥かに年上じゃないか」
「まあ君が子供と仮定しても絶対不許可」
悲しげな表情を見せた。そこまで傷付くのか? と苦笑するがそこで手を差し伸べてはいけない。ここから痛い目に何度も遭って来た。
シドが耳を狙う理由は簡単である。普段は全く動かない耳を"シドが"触り続けるとふにゃりと垂れ下がってしまうからだ。アンナは相手に感情を読まれないよう極力耳を反応させない修行を行った。そんなアンナの弱った姿を見て自分の精神を癒やそうとする悪意と下心が丸見えなので許可は与えない。勿論相当なことがない限り絶対に他人が触ろうとすると反射的に刀に手をかける。アンナにとってはこれでも優しく断っているつもりだった。
「人の嫌がるとこ狙うの最低」
「う」
「純粋にあなたに会うために来たのに残念」
「す、すまん」
「もうジェシーやネロサンとお茶飲んで帰る。明日は折角の休みなのに残念だねえ」
ちらとシドを見るといつの間にか泣きそうな顔が消え、少々機嫌が悪い顔になっている。またやってしまったと慌てながら訂正する。
「いやさすがに帰るのは冗談」
「本当か?」
「私、嘘はつかない」
機嫌を取るように頬に口付けてやる。「ん」と舌を差し出してきたのでそのまま舌を絡めてやった。指を絡め合い、目を閉じて行為の終わりを待つ。いつの間にか力が抜けてしまったか急に手が振りほどかれ抱きしめられる。仕方がない、「苦しい」と言いながら離れると次の瞬間ひっくり返される。
「へ?」
見上げると笑顔のシド。騙されたかと一瞬考えたがよく見ると目は笑っていなかった。これは、終わったなとアンナは察した。
「悪かったな触り方がおっさん臭くて」
次の瞬間、シドは思い切り長い耳を掴んだ。アンナは目を見開き叫んでしまう。
「いっ―――たぁ!?」
「流石に痛いのか。すまん」
本当はそんなに痛くはない。しかし突然の行為に対し反射的にリアクションをしてしまった。
「怒ったからって子供のマネ? 大人が力加減無しでやるな、普通のヴィエラなら潰れる。拷問したいの?」
「いや大丈夫かと思ってつい」
「もーフウガぶりだ。負けず手加減しないね」
意外な名前が出て来てシドは「リンドウが?」と言うとアンナはため息を吐く。心がざわめく感情を抱いているがまだアンナは気付かない。
「里で修行できなかった分。おかげで多少では耳は動じない。ってシド凄い目が怖い」
「修行?」
「いや、護人が耳で色々バレるの、ダメ。真っ先に対策必要。だから……って撫でるな!」
シドは思い切り掴んだ部分を優しく撫でる。アンナはその手首を掴み抵抗するが弱々しい。その姿にシドはクスリと笑う。
「痛くしてすまん。―――もうあっという間に弱ってる。本当にそれは修行だったのか?」
「ひゃ、それはあなたが」
「俺が?」
内側を擦りながら形をなぞるように撫でまわされると勝手に口元から甘い吐息が漏れた。なんとか言葉にし、抗議する。
「触り方がっ、普通はしないやつ―――ッ」
首のゾワゾワと甘い痺れに身体がピクリと痙攣する。頭がぼんやりとするから触られたくない。と思っていたら突然寝台へと抱き上げられる。温かい体温が背中を通して感じた。アンナは普段シドを抱き上げているがシドもアンナを軽く持ち上げることができる。以前重くないかと尋ねたら「機材に比べたらとても軽い」と笑顔を見せていた。
シドは長い耳の間に顔を埋め、再び優しく耳を撫でている。指を口元に持ってきたので口に含むと舌に絡められた。上下に擦られると反射的に指を甘噛みしてしまい背後からくくと笑い声が漏れた。もうこうなってしまったら満足するまで続くだろう。耳はどうすれば動かせるのかを思い返した。集中を解き、リラックスし、あと何が必要だったかとアンナは一瞬考え込んだ後、ふと名前を呼ぶ。
「シ、ド」
「どうした?」
「くび、噛んで」
「仰せのままに」
襟元を緩めてやり、シドはそのままガリと未だ消えていない痕を上書きするように噛みついた。
「ッ―――!」
痛みに対し反射的にビクリと跳ね、シドは身体が逃げないように強く抱きしめた。耳の付け根を握りながら内側を引っ掻く様に動かされると力が一気に抜ける感触を味わう。そして耳がふにゃりと垂れ下がり、シドの目的は達成である。
「満足?」
アンナは深く呼吸をしながら背後のシドに声をかけるが反応はない。転がり顔を見合わせると唇を合わされる。耳を巻き込むように大きく頭を撫でつけた。こうなるから厭だったんだよと手首を掴む。
「終わり」
「疲れを癒させてくれ」
「最低。疲れたならそのまま寝て」
胸元に押し込み頭を撫でながら子守歌を唄う。かつて故郷で毎日聴いていた"よく眠れる歌"だ。勿論シドも好きなようですぐに寝息が聞こえてくる。
「おつかれ」
ポツリと呟き、目を閉じる。シドが連日の仕事詰めの疲れで癒しを求めるように、アンナも癒しを求めていたのも確かだ。耳も最終的に許可するのは外で見せることのないバカ騒ぎができればそれで構わないという一種の甘え方になる。冷たい身体に相手の熱が少しだけ溶け込む感覚に穏やかな表情を見せた。
#シド光♀ #即興SS
「いいじゃないか」
アンナは壁に追いやられながら威嚇するがシドはどこ吹く風かと手を伸ばしている。眉間に皴を寄せながら必死にその手を握りしめ抵抗した。
そう、アンナは耳を優しく触れられる行為に対して非常に弱く、"シドに"触られるとほぼ"終わり"となる。なので手段を選ばず何としても手を出すシドと度々小競り合いが起こった。今回は仕事疲れで戻って来たシドが癒してほしいと言うので、"多少の"スキンシップを許可した所まではいい。しばらく首や顎、頬を撫でまわしていたが突然耳に手をかけようとしたので、耳だけはやめろと拒否する。
「触ってもいいってさっき言ってたじゃないか」
「してない。許可した個所は顔」
「頭部の一部じゃないか」
かすってない! とシドの両手を片手で掴みながら額のゴーグルを外し指さす。
「あなた以前第三の眼で遊ぶの拒否したでしょ?」
「お前のパワーで何かされたら命の危機だろ」
「失礼な。耳だって命の危機と隣り合う器官」
「力加減位できるさ」
埒が明かない。他の話題を探して有耶無耶にするかとアンナは判断し、床に転がす。今回はきちんと受け身を取ったようだ。胸板の上に乗り腕を押さえる。
「誘ってるのか?」
「違う」
「お前知ってるぞ、以前人に触らせてただろ耳」
どこから話が漏れたんだとアンナはため息を吐く。グ・ラハとレヴナンツトールを歩いていると通りすがりの子供が声をかけて来た。ヴィエラが珍しかったのか長い耳に興味を持っていたので仕方なく触らせる。すると思い切り掴み引っ張られたので、頬を引っ張りながら笑顔を見せてやった。喋った犯人はグ・ラハだなと思いながら適当に心を抉る言葉を吐く。
「シドの触り方おっさん臭くて嫌い」
シドの表情が固まる。よし、このまま傷付いてろとため息を吐き畳みかける。
「お子様が手加減無しで掴んで、ビックリして頬を引っ張った。一度だけ。何度もせがむおっさんとは大違い」
「ぐ。いや待てお前の方が遥かに年上じゃないか」
「まあ君が子供と仮定しても絶対不許可」
悲しげな表情を見せた。そこまで傷付くのか? と苦笑するがそこで手を差し伸べてはいけない。ここから痛い目に何度も遭って来た。
シドが耳を狙う理由は簡単である。普段は全く動かない耳を"シドが"触り続けるとふにゃりと垂れ下がってしまうからだ。アンナは相手に感情を読まれないよう極力耳を反応させない修行を行った。そんなアンナの弱った姿を見て自分の精神を癒やそうとする悪意と下心が丸見えなので許可は与えない。勿論相当なことがない限り絶対に他人が触ろうとすると反射的に刀に手をかける。アンナにとってはこれでも優しく断っているつもりだった。
「人の嫌がるとこ狙うの最低」
「う」
「純粋にあなたに会うために来たのに残念」
「す、すまん」
「もうジェシーやネロサンとお茶飲んで帰る。明日は折角の休みなのに残念だねえ」
ちらとシドを見るといつの間にか泣きそうな顔が消え、少々機嫌が悪い顔になっている。またやってしまったと慌てながら訂正する。
「いやさすがに帰るのは冗談」
「本当か?」
「私、嘘はつかない」
機嫌を取るように頬に口付けてやる。「ん」と舌を差し出してきたのでそのまま舌を絡めてやった。指を絡め合い、目を閉じて行為の終わりを待つ。いつの間にか力が抜けてしまったか急に手が振りほどかれ抱きしめられる。仕方がない、「苦しい」と言いながら離れると次の瞬間ひっくり返される。
「へ?」
見上げると笑顔のシド。騙されたかと一瞬考えたがよく見ると目は笑っていなかった。これは、終わったなとアンナは察した。
「悪かったな触り方がおっさん臭くて」
次の瞬間、シドは思い切り長い耳を掴んだ。アンナは目を見開き叫んでしまう。
「いっ―――たぁ!?」
「流石に痛いのか。すまん」
本当はそんなに痛くはない。しかし突然の行為に対し反射的にリアクションをしてしまった。
「怒ったからって子供のマネ? 大人が力加減無しでやるな、普通のヴィエラなら潰れる。拷問したいの?」
「いや大丈夫かと思ってつい」
「もーフウガぶりだ。負けず手加減しないね」
意外な名前が出て来てシドは「リンドウが?」と言うとアンナはため息を吐く。心がざわめく感情を抱いているがまだアンナは気付かない。
「里で修行できなかった分。おかげで多少では耳は動じない。ってシド凄い目が怖い」
「修行?」
「いや、護人が耳で色々バレるの、ダメ。真っ先に対策必要。だから……って撫でるな!」
シドは思い切り掴んだ部分を優しく撫でる。アンナはその手首を掴み抵抗するが弱々しい。その姿にシドはクスリと笑う。
「痛くしてすまん。―――もうあっという間に弱ってる。本当にそれは修行だったのか?」
「ひゃ、それはあなたが」
「俺が?」
内側を擦りながら形をなぞるように撫でまわされると勝手に口元から甘い吐息が漏れた。なんとか言葉にし、抗議する。
「触り方がっ、普通はしないやつ―――ッ」
首のゾワゾワと甘い痺れに身体がピクリと痙攣する。頭がぼんやりとするから触られたくない。と思っていたら突然寝台へと抱き上げられる。温かい体温が背中を通して感じた。アンナは普段シドを抱き上げているがシドもアンナを軽く持ち上げることができる。以前重くないかと尋ねたら「機材に比べたらとても軽い」と笑顔を見せていた。
シドは長い耳の間に顔を埋め、再び優しく耳を撫でている。指を口元に持ってきたので口に含むと舌に絡められた。上下に擦られると反射的に指を甘噛みしてしまい背後からくくと笑い声が漏れた。もうこうなってしまったら満足するまで続くだろう。耳はどうすれば動かせるのかを思い返した。集中を解き、リラックスし、あと何が必要だったかとアンナは一瞬考え込んだ後、ふと名前を呼ぶ。
「シ、ド」
「どうした?」
「くび、噛んで」
「仰せのままに」
襟元を緩めてやり、シドはそのままガリと未だ消えていない痕を上書きするように噛みついた。
「ッ―――!」
痛みに対し反射的にビクリと跳ね、シドは身体が逃げないように強く抱きしめた。耳の付け根を握りながら内側を引っ掻く様に動かされると力が一気に抜ける感触を味わう。そして耳がふにゃりと垂れ下がり、シドの目的は達成である。
「満足?」
アンナは深く呼吸をしながら背後のシドに声をかけるが反応はない。転がり顔を見合わせると唇を合わされる。耳を巻き込むように大きく頭を撫でつけた。こうなるから厭だったんだよと手首を掴む。
「終わり」
「疲れを癒させてくれ」
「最低。疲れたならそのまま寝て」
胸元に押し込み頭を撫でながら子守歌を唄う。かつて故郷で毎日聴いていた"よく眠れる歌"だ。勿論シドも好きなようですぐに寝息が聞こえてくる。
「おつかれ」
ポツリと呟き、目を閉じる。シドが連日の仕事詰めの疲れで癒しを求めるように、アンナも癒しを求めていたのも確かだ。耳も最終的に許可するのは外で見せることのないバカ騒ぎができればそれで構わないという一種の甘え方になる。冷たい身体に相手の熱が少しだけ溶け込む感覚に穏やかな表情を見せた。
#シド光♀ #即興SS
"冷たい肌"
前半蒼天終了辺り、後半漆黒付き合った後のお話。メインストーリーには特に触れないです。
「アンナっていつも思うがお前冷たいよな」
「悪口?」
「体温の話だ」
アンナの怪訝な目に対してシドはため息を吐く。イシュガルドの騒動以降さりげなく手を触れる機会が増えたが、いつもひんやりと冷たい。
「冷え性?」
「俺に聞かれても分からん」
「故郷の儀式で火には強い。冷たさの原因は不明」
「初めて聞いたんだが?」
「聞かれたことない」
アンナは目を細め「バァン」と言いながら指から一瞬だけ火花らしき輝きを出す。シドは目を丸くしてそれを見つめた。一瞬別の感情が湧き出そうになるのをグッと我慢する。
「故郷は火を大切にしてる部族でね。火の操作に関してはまあまあ」
「着火剤いらずで便利じゃないか」
「旅のお役立ち」
「それでも指熱くならないのは凄いな」
火を出していた指に軽く触れるとやはり冷たいままだ。アンナはニコリと笑い「不思議」と言う。
褐色の細くて長い指をシドはぼんやりと絡めながら眺めている。
「シドの手、大きくて温かい。嫌いではない」
「そうか? まあ言われて悪い感じはしないが」
「褒めてるし」
「そうだな」
2人は笑い合う。手袋とかした方がいい、夏だったら冷房いらずだな、ちゃんと寝る時は温かくしろと言うシドをアンナはニコニコと相槌を打っている。
ここはガーロンド社休憩スペース、居合わせた社員たちはポカンとした顔でその掛け合いを見つめていた。
◇
「昔お前が冷たい話したこと覚えてるか?」
「悪口の話?」
「体温の話だ」
同じような会話したぞちゃんと覚えてるなと軽く小突く。
最初こそは全身が冷たいものだった。しかし思考を溶かし、体を重ねると徐々に熱が灯され蕩けさせると人並みの体温を感じられる。自分の体温と混じり合う感覚が他では味わえない未知のもので。それはもうクセになる。
胸元に口付けを落とすと頭に手刀をお見舞いされた。痛いと言うと呆れた声でアンナは「今日はもう終わり」と返した。
「叩かなくてもいいだろ」
「キミは久方振りなボクとの休日を"また"一日中寝る行為に使うつもりかい?」
ボクはもう疲れてるんだよとアンナはジトッとした目で見つめる男に対しため息を吐く。リップ音を立てながら第三の眼付近に口付けを落とし、ボソリと喋り目を閉じた。シドは目を丸くしながら飛び起きる。
「本当か?」
アンナは寝返りを打ち、何も言わない。そんな彼女を後ろから抱きしめ「おやすみ」と囁いた。
#シド光♀ #即興SS
「アンナっていつも思うがお前冷たいよな」
「悪口?」
「体温の話だ」
アンナの怪訝な目に対してシドはため息を吐く。イシュガルドの騒動以降さりげなく手を触れる機会が増えたが、いつもひんやりと冷たい。
「冷え性?」
「俺に聞かれても分からん」
「故郷の儀式で火には強い。冷たさの原因は不明」
「初めて聞いたんだが?」
「聞かれたことない」
アンナは目を細め「バァン」と言いながら指から一瞬だけ火花らしき輝きを出す。シドは目を丸くしてそれを見つめた。一瞬別の感情が湧き出そうになるのをグッと我慢する。
「故郷は火を大切にしてる部族でね。火の操作に関してはまあまあ」
「着火剤いらずで便利じゃないか」
「旅のお役立ち」
「それでも指熱くならないのは凄いな」
火を出していた指に軽く触れるとやはり冷たいままだ。アンナはニコリと笑い「不思議」と言う。
褐色の細くて長い指をシドはぼんやりと絡めながら眺めている。
「シドの手、大きくて温かい。嫌いではない」
「そうか? まあ言われて悪い感じはしないが」
「褒めてるし」
「そうだな」
2人は笑い合う。手袋とかした方がいい、夏だったら冷房いらずだな、ちゃんと寝る時は温かくしろと言うシドをアンナはニコニコと相槌を打っている。
ここはガーロンド社休憩スペース、居合わせた社員たちはポカンとした顔でその掛け合いを見つめていた。
◇
「昔お前が冷たい話したこと覚えてるか?」
「悪口の話?」
「体温の話だ」
同じような会話したぞちゃんと覚えてるなと軽く小突く。
最初こそは全身が冷たいものだった。しかし思考を溶かし、体を重ねると徐々に熱が灯され蕩けさせると人並みの体温を感じられる。自分の体温と混じり合う感覚が他では味わえない未知のもので。それはもうクセになる。
胸元に口付けを落とすと頭に手刀をお見舞いされた。痛いと言うと呆れた声でアンナは「今日はもう終わり」と返した。
「叩かなくてもいいだろ」
「キミは久方振りなボクとの休日を"また"一日中寝る行為に使うつもりかい?」
ボクはもう疲れてるんだよとアンナはジトッとした目で見つめる男に対しため息を吐く。リップ音を立てながら第三の眼付近に口付けを落とし、ボソリと喋り目を閉じた。シドは目を丸くしながら飛び起きる。
「本当か?」
アンナは寝返りを打ち、何も言わない。そんな彼女を後ろから抱きしめ「おやすみ」と囁いた。
#シド光♀ #即興SS
旅人と赤色
―――魔導城プラエトリウム以前、あの旅人には数度会った事がある。その中でも異質だったグリダニア入りする前の彼女を語っておこうと思う
1.高地ラノシアより
あの頃、オレはエーテル計測のために独断でエオルゼアに潜入していた。今回は高地ラノシアでタイタンのエーテル計測に洒落込もうと1人森の中で計測装置と睨み合っている。エオルゼアでは敵視されるであろう第三の眼を隠すため仮面を被り行動していたのもあり少々視界が狭い。それを補う手は持っていたのであってないようなものだが。とにかく手に持った端末でエーテル観測装置動きを見る。
急にエーテル反応が激しく上下し、興奮した。どこから来ているモノなのか、タイタンと関係してるのか? いやあの小さき蛮族たちにはまだ召喚できるほどの余裕はないハズだ。未知の発見に大人げなく目を輝かせていたらやらかした。いつの間にかコボルド族に囲まれ俺はため息を吐く。
別にコイツらくらい即追っ払える。いつものハンマーは持って来ていないが、小型ガンブレードを取り出そうとニィと笑いながら懐に手を突っ込もうと瞬間だった。観測装置が何やらブザーを鳴らし、端末で映し出していたデータがぐわんと動いたのだ。どういうことだ、と思った瞬間だった。
オレの前にヒトが降って来た。
赤色の髪、長い耳。鋭い"銀色"の目にすらりと高い背丈はオレと同じくらいだろう。長い耳を含めたらアウラ族の男と同じくらいには大きい。聞いたことがある。オサードの方に住むヴィエラ族。急に天に向かい矢を打ち放ちオレに「伏せな」と一言。その異質な声に一瞬鳥肌が立った。これは殺意、それも目の前の女から。オレは反射的に地面に伏せた。更に腕を掴みながら抱き寄せられた瞬間、頭上が風を切った。先程まで自分がいた場所に大量の矢が落ちる。
コボルド族の叫び声を皮切りに、断続的に何かが落ちてくる音が聞こえた。
「いいよ」
と朗らかな声が聞こえ、細い肢体から離れながら顔を上げると周りに散乱した矢、そしてコボルド族の死体。うめき声も聞こえる。仲間を見捨てて逃げ行くヤツもいた。
目の前でそのヴィエラは「恨むならあの男じゃなくて、"私"」と言いながら笑顔で致命傷を負ったコボルド族にトドメを刺す。ヒュ、と喉が鳴った。観測装置をチラりと眺めるといつの間にか何事もなく推移していた。
◇
「ケガはない?」
「あ、ああ」
「よかった」
一頻り作業が終わったのかオレのところにヴィエラが駆け寄ってくる。優しい"銀色"の目が細められた。
「騒ぎ声が聞こえて木の上から確認したらあなたが蛮族に囲まれてたから乱入してみたさ」
「あ、ありがとナ?」
引きつった笑顔でとりあえず礼を言う。会話は出来るらしい。ひとまず安堵するがあのパワーがどこから出て来ているのか分からなかった。
健康的な褐色の肌に引き締まった筋肉、男とは異なる柔らかそうなそこらの女より豊満であろう胸。背面を隠すマントの下に見える民族衣装の特徴的にもオンナだと分かるが理解を拒む。
「あ、"私"は通りすがりの旅人、あなたも……旅人だな?」
「まあ異国から来たからオマエと一緒ってやつか」
「そう。だから名乗り合わず一期一会って所。ああ仮面も外さなくて構わない。"この子"は興味ないだろうから」
「怪我をしているもンでな。助かるぜ」
「そう。最近蛮族やモンスターが騒がしいから気を付けてな」
オンナは踵を返し手を振る。
「じゃ、逃げたあなたを襲ったコボルド族のトドメ刺しておいてやるから。あまり知られたくないでしょう? イヒヒッ」
逃げて行った奴らの方向へ走って行った。その後俺は汗が噴き出し座り込んだ。手の震えを止めようと端末のログを見つめた。
あんなまとまった殺意を隣で受けたのだ。ビビるに決まってンだろ。だが当時のオレにとっては一つの興味も湧いてしまったのだ。
「面白ェ玩具を見つけたぜ」
当時のオレを殴りたい。あンなヤツに興味持った地点でオレは終わってンだよ。
でたらめに撃ち上げた矢と回し蹴りだけで小型生物であれ笑顔で生き物を殺せる人間を扱えるヤツがいるわけがないじゃねェか。
2.戻ってこない
俺はとりあえず何人かに金を握らせてそのヴィエラの情報を集めた。名前はすぐに分かった。『アンナ・サリス』、第七霊災以降エオルゼア周辺に現れた『旅人』らしい。困ったことはないかと声をかけ、牧畜の手伝いからモンスター討伐まで大体のことは何でもやってもらえるのだという。加えて報酬は現金でなく食事や泊まる場所の提供でいいというお人好しだとか。
よく分かんねェヤツだった。あんな軍人でもある自分が本能的にやべェとなる旅人が存在するわけがないだろと平和な脳みそのやつらだとため息を吐く。
また調べたら冒険者として登録もされていない本当にフリーの旅人というわけで。いや絶対どこかで雇われた傭兵とかスパイだろ? そうだと言って欲しかった。
じゃなければアレは、山から下りてきた危険生物か災害の擬人化だ。
しかし気になったこともある。金を握らせた情報屋たちが日を重ねるごとに来なくなった。持ち逃げされたのか? とその時は思ったが、オレはある時とンでもない話を通りすがった衛兵の話が聞こえたのだ。「最近よく情報屋の死体が上がるな」、と。
詳細を聞くべきか衛兵に声をかけようとした瞬間肩を叩かれた。一瞬風がざわめき心臓が止まりそうになりながらも振り向くとそこには、あのヴィエラがいた。"赤色"の目を細め、会釈する。
「こんにちは」
「お、おう」
「いい天気だね」
「そうだな」
しばらくこの調子で他愛のない話が続く。この辺りのおいしかった食べ物の話や、特産物の話。グリダニアに行きたいんだけどねと漏らした女に大体の方向を指さしたりもした。
「うん、あなたではなさそう。じゃ」
と一頻り話をした後軽やかなステップで去って行ったのであった。そしてボソと無機質な小さな声が俺の心臓を掴んだことを覚えている。
「この辺りで合流するって口を割ったんだけどなあ」
振り向くがそこには誰も、いなかった。
アイツが殺せるのはモンスターだけではない。人も、あの笑顔で、手にかけることができる。
アレをもし閣下の元に持って行ったらどうなるだろうか。いや、忠実に人の言うことを聞くオンナには見えない。それ以前にアレを、誰にも渡したくない。当時のオレはそンな下らないことを考えていた。異性としての感情ではない。ただ、今復元しようとしている旧い技術と並ぶ"奥の手"として欲するようになったのだ。
あの時のオレに言いたいことがある。やめておけ。鮮血の赤兎に、殺されかけるぞ。
◆
というのがあのオンナがグリダニアに辿り着く前の話ってやつだ。今や髪色を変え性格も柔らかく見せガーロンドの野郎に懐くバカウサギになっている。
未だ底を見せないあのオンナのバケモノスペックを前によくデレデレ出来るもンだ。
練度が低かったとはいえ小型のカストルムを1時間経たずに1人で殲滅させる実力を持つバカがオンナなわけがねェだろ。隠蔽したこっちの身にもなれって話だ。
#ネロ #即興SS
旅人のはじまり
―――ボクは森で住んでいながらも炎に重きを置き崇める部族、エルダス族の集落で生まれた。
「ボクは将来貴方と結婚して一緒に産み落とされた愛の結晶を育てる」
「ねえさま、今日もキレイだ。お茶でもいかが?」
「ボクは里で一番の戦士になって、絶対みんな幸せにする」
ベタな口説きセリフ。これは兄の師匠がよく言ってた口説き文句を自分なりにアレンジした言葉だった。「―――くんったら」って適当にあしらわれてたけどね。
狩りも好きだった。槍も同世代の中で一番強かった。いつか性別が判明して、兄と一緒に修行の旅に出るんだって約束したんだ。
「こら―――!またイタズラばっかりして!」
「引っかかった方がわるいんだよー!」
イタズラも大好きだった。椅子に何か仕込んだり洗濯物をシャッフルしたり。自分でも今思うと悪ガキだったと思う。血のつながっていない姉たちにとっ捕まって頭をぐりぐりされて。ゲラゲラと笑いながら彼女らのお尻を触って逃げたりもした。
「ボク兄さんと絶対に旅に出る!」
「ああ俺もお前と切磋琢磨し合える未来を祈っているさ」
ボクより10以上年上だった血のつながった兄は数年に一度帰ってきて抱き上げて振り回してくれた。なんと言えばいいか―――子供の頃の自分にとっての世界って森の中にあるものだけで。外の世界の悪意という存在を知らなかった幸せな日々だったと思う。
14歳、性別がはっきりしたあの時までは。
◇
「ない」
男を象徴するものが、ない。何度も確かめた。でもないモノはないのだ。
母のボクを呼ぶ声が聞こえた気がした。ボロボロと涙が落ちる。森の守護者ではなく護人として護られて生きなければならない。
それからボクの耳にはオンナタチのボクを気の毒に見る目と、ののしる声が脳内から離れなくなってしまった。笑われていたんだよ、滑稽な姿だっただろうから。昨日までの自分に焼かれ堕ちていくボク自身がこわくてかなしくてくるしくて。
目の前の景色から色が失われてしまった、そんな感覚を味わった。ボクは耐えられなくなり、性別が分かってから1ヵ月もせずに、集落から飛び出してしまった。
◇
ボクは走り続けた。方向も分からない。とにかく走りたかった。自分をオンナにしたカミサマを呪う言葉を吐きながら、真っ暗な森を走った。何度も転んだし野生生物も襲い掛かってきたがボクの敵ではない。確実に急所を打ち抜き、その肉を喰らった。髪の赤色と血の赤色がぐちゃぐちゃになり、何も感覚が分からなくなった頃ボクは真っ黒な森を抜けた。
家の帰り方はもう分からない。歩き続けるしかない。地面を踏みしめ終わりの見えない道を歩く。
しばらくして。食べられなさそうなモンスターばかりの道を歩き続けたボクは「おなかすいた」とつぶやきバタリと倒れた。ここで終わりか。カミサマを呪ったからバチが当たったんだ。「いやだ、ごめんなさい、兄さん」知らない低い声で呻くように泣く。ボクはどうしたらよかったのだろうか。生まれ変わったら何になろうか。そう考えながら目を閉じようとした。その時だった。
「おぬし、モンスターではないな。大丈夫か?」
かすむ視界にナニカが映る。ボクは必死に手を伸ばし「おなか、すいた」とつぶやいたら急に手に持っていたらしい水をかけられた。
びっくりして起き上がるとボクの手に何かを握らされ、「食べなさい」と声が聞こえた。ボクはすぐにむさぼるように、食い散らす。その人はボクの背中を撫でながら「急がなくてもいい。私がいる限り、おぬしを危険な目に遭うことはない」となだめてくれた。
徐々に視界が晴れていく。見上げるとそこには、銀髪でヒゲがよく似合う侍のおじさまが無表情ながらどこか優しい雰囲気を見せていた。それからボクの視界は昔みたいに奇麗で鮮やかに映るようになったんだ。
「名前は?」
「……―――」
「よい名前だ。私はリンドウ・フウガ、無名の旅人」
「フウガ」
伸ばされた手を握り立ち上がろうとするが体が動かない。それを見たフウガはボクを軽々と背負い歩き出した。
「エルダス、おぬしは……ヴィエラか。家は?」
「帰れない」
「訳アリか。言わなくてもいい」
それからボクは魔物退治を依頼されて滞在していたと近くの村に運ばれた。怪訝な顔をされながらも血を洗い流され村人から女の子だったのかと驚愕された。亡くなった娘が着ていたものだという服を渡され着替えたボクはフウガのところへ戻ると1人タバコをくわえたたずんでいた。
藍色の着物と結われた髪、いつも額に巻かれたハチマキとヒゲが似合う奇麗な人だった。今思うと異国から来た人だったのかもしれない。すらりと細い体躯から軽やかな身のこなしで敵を斬る姿が幼い自分の心に大きく刻まれている。
「これから、どうする」
「……フウガ、ボクも旅人になりたい」
「帰る場所もない訳アリが適当な村で暮らせるわけもないか」
「じゃあ!」
何も言わず手を差し伸べてくれた。ボクはその固い手を握り歩き出した。
―――これがボクの旅の始まり。何も知らなかったボクに世界を教えてくれた初恋さ。
#リンドウ関連 #即興SS
「ボクは将来貴方と結婚して一緒に産み落とされた愛の結晶を育てる」
「ねえさま、今日もキレイだ。お茶でもいかが?」
「ボクは里で一番の戦士になって、絶対みんな幸せにする」
ベタな口説きセリフ。これは兄の師匠がよく言ってた口説き文句を自分なりにアレンジした言葉だった。「―――くんったら」って適当にあしらわれてたけどね。
狩りも好きだった。槍も同世代の中で一番強かった。いつか性別が判明して、兄と一緒に修行の旅に出るんだって約束したんだ。
「こら―――!またイタズラばっかりして!」
「引っかかった方がわるいんだよー!」
イタズラも大好きだった。椅子に何か仕込んだり洗濯物をシャッフルしたり。自分でも今思うと悪ガキだったと思う。血のつながっていない姉たちにとっ捕まって頭をぐりぐりされて。ゲラゲラと笑いながら彼女らのお尻を触って逃げたりもした。
「ボク兄さんと絶対に旅に出る!」
「ああ俺もお前と切磋琢磨し合える未来を祈っているさ」
ボクより10以上年上だった血のつながった兄は数年に一度帰ってきて抱き上げて振り回してくれた。なんと言えばいいか―――子供の頃の自分にとっての世界って森の中にあるものだけで。外の世界の悪意という存在を知らなかった幸せな日々だったと思う。
14歳、性別がはっきりしたあの時までは。
◇
「ない」
男を象徴するものが、ない。何度も確かめた。でもないモノはないのだ。
母のボクを呼ぶ声が聞こえた気がした。ボロボロと涙が落ちる。森の守護者ではなく護人として護られて生きなければならない。
それからボクの耳にはオンナタチのボクを気の毒に見る目と、ののしる声が脳内から離れなくなってしまった。笑われていたんだよ、滑稽な姿だっただろうから。昨日までの自分に焼かれ堕ちていくボク自身がこわくてかなしくてくるしくて。
目の前の景色から色が失われてしまった、そんな感覚を味わった。ボクは耐えられなくなり、性別が分かってから1ヵ月もせずに、集落から飛び出してしまった。
◇
ボクは走り続けた。方向も分からない。とにかく走りたかった。自分をオンナにしたカミサマを呪う言葉を吐きながら、真っ暗な森を走った。何度も転んだし野生生物も襲い掛かってきたがボクの敵ではない。確実に急所を打ち抜き、その肉を喰らった。髪の赤色と血の赤色がぐちゃぐちゃになり、何も感覚が分からなくなった頃ボクは真っ黒な森を抜けた。
家の帰り方はもう分からない。歩き続けるしかない。地面を踏みしめ終わりの見えない道を歩く。
しばらくして。食べられなさそうなモンスターばかりの道を歩き続けたボクは「おなかすいた」とつぶやきバタリと倒れた。ここで終わりか。カミサマを呪ったからバチが当たったんだ。「いやだ、ごめんなさい、兄さん」知らない低い声で呻くように泣く。ボクはどうしたらよかったのだろうか。生まれ変わったら何になろうか。そう考えながら目を閉じようとした。その時だった。
「おぬし、モンスターではないな。大丈夫か?」
かすむ視界にナニカが映る。ボクは必死に手を伸ばし「おなか、すいた」とつぶやいたら急に手に持っていたらしい水をかけられた。
びっくりして起き上がるとボクの手に何かを握らされ、「食べなさい」と声が聞こえた。ボクはすぐにむさぼるように、食い散らす。その人はボクの背中を撫でながら「急がなくてもいい。私がいる限り、おぬしを危険な目に遭うことはない」となだめてくれた。
徐々に視界が晴れていく。見上げるとそこには、銀髪でヒゲがよく似合う侍のおじさまが無表情ながらどこか優しい雰囲気を見せていた。それからボクの視界は昔みたいに奇麗で鮮やかに映るようになったんだ。
「名前は?」
「……―――」
「よい名前だ。私はリンドウ・フウガ、無名の旅人」
「フウガ」
伸ばされた手を握り立ち上がろうとするが体が動かない。それを見たフウガはボクを軽々と背負い歩き出した。
「エルダス、おぬしは……ヴィエラか。家は?」
「帰れない」
「訳アリか。言わなくてもいい」
それからボクは魔物退治を依頼されて滞在していたと近くの村に運ばれた。怪訝な顔をされながらも血を洗い流され村人から女の子だったのかと驚愕された。亡くなった娘が着ていたものだという服を渡され着替えたボクはフウガのところへ戻ると1人タバコをくわえたたずんでいた。
藍色の着物と結われた髪、いつも額に巻かれたハチマキとヒゲが似合う奇麗な人だった。今思うと異国から来た人だったのかもしれない。すらりと細い体躯から軽やかな身のこなしで敵を斬る姿が幼い自分の心に大きく刻まれている。
「これから、どうする」
「……フウガ、ボクも旅人になりたい」
「帰る場所もない訳アリが適当な村で暮らせるわけもないか」
「じゃあ!」
何も言わず手を差し伸べてくれた。ボクはその固い手を握り歩き出した。
―――これがボクの旅の始まり。何も知らなかったボクに世界を教えてくれた初恋さ。
#リンドウ関連 #即興SS
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“苦いコーヒー”
―――彼女は俺が淹れるコーヒーをいつも美味いと言ってくれる。
「シドおはよう」
「アンナか。今日は……また変な事してるな?」
俺はジェシーによる怒りの月末恒例地獄の書類整理を終わらせ仮眠室にて数時間の睡眠をとった。未だ徹夜続きで重たい身体を引きずり会長室に戻ると黒髪のヴィエラが椅子の上に胡坐で座り込み辺りの書物を読んでいた。当然のように通されているのはセキュリティな心配が浮かぶが、俺が仲良くする旅人なら大丈夫だろうと彼女は社員から信用されているようだ。嬉しい事だが少々複雑である。俺は「アンナ、面白いものでもあったか?」と聞くと報告書から顔を上げる。
「機密の収集?」
「会社の秘密を勝手に持っていかれるのは困る」
「大丈夫。何か読み物がないと落ち着かなかっただけ。理解しようとは思ってない」
「言い方考えろ」
あははと笑う彼女に俺はため息を吐いてやる。ケトルに手を伸ばしながら「コーヒーでいいか?」と聞くと「ん」と答えが返って来た。渡してやると「ありがと」と言いながら口に含んでいる。
「おいしい」
「そうか? 社員達からの評判も悪いまっずいコーヒーだ」
「そうかな。あなたが淹れてくれるものなら私は何でもおいしいと思うよ?」
恒例の天然タラシだ。アンナは何も考えず俺が言葉を詰まらせる言葉をシラフで放つ。ここで下手に何か言うとカラカラとはぐらかすかのように笑って終わる。その日常に慣れた俺は何とか目を逸らし咳払いのみしてから無言を貫くのだ。
最近俺は出会った時からアンナの事は異性として好意を寄せている事が分かった。奇麗な顔に反してウルダハの剣闘士のように力強い戦い方をし、ぶっきらぼうに見せかけて意外と分かりやすい表情も見せる。褐色肌にガーネットみたいな紅い瞳を持った彼女が見せる敵に対する不敵な笑みがときどき恐ろしく見えるのだが―――そこに興奮する自分もいた。自分よりも頭一つ分高い身長、細い肢体でありながら無駄のない引き締まった筋肉。愛しそうに刀を撫でる姿も、鋭い目で敵を射止め斬り捨てる姿も俺の目には全て魅力的に映る。あと少しで手に届きそうなのに、その”あと一歩”に届くことがない。延々と『おあずけ』され続けているわけだ。
社員らで呑みに行った時何度「アンナさんといつ付き合うんすか」やら「付き合う気がないなら娘さんを僕にください」と言われたことか。娘じゃないし渡す気もないし前者に関しては俺が聞きたい。というかコイツらにあの気まぐれ屋を制御できるわけがないだろう。
俺は逢瀬を重ねるたびに自分の中で膨れ上がる感情に対して【この人は俺の事をどう思っているのだろうか?】という難題を何度も考えた。呼べば来てくれるしアンナ自身も弱った時は慰めて欲しいのか俺にリンクシェル通信を入れる。みっともない姿を見せても彼女は即自分を元気づけるように動くし、彼女が周りからの期待と重圧で苦しそうな姿を見せる時はいつもそばでフォローを入れていた。
傍から見ると付き合ってる風に見えるだろ? 情けない話だが何も起こっていないんだ。
考えていると彼女に「おーい」と声を掛けられる。振り向くと目前にいつの間にか立ち上がった彼女の、開いた首元からチラリと見える褐色の肌。自分の体がビクッと跳ねたのが分かる。慌てて後ずさった。これも一種のイタズラってやつだ。彼女とコミュニケーションを取り続けたいのなら引っかかってはいけない。
このアンナという女は大人しい女性という雰囲気を見せながらもモーグリ族やシルフ族みたいにイタズラが好きという習性がある。いや俺も最近まで知らなかった。クッションに何か仕込んだり食べ物にとびきり辛い物を潜ませるのは序の口。恋人ならば性行為に突入するような一歩間違えたら自爆につながる事も真顔でやる。本人は一切顔色を変えないのだが俺としては心臓がいくつあっても足りない。ときどきは注意してやるとする。
「あのな、お前は何をしたいんだ」
「? 何をとは?」
「こういうイタズラは誰にでもするのか?」
「しててほしい?」
少しずつこちらににじり寄って来る。俺はとっくの昔に扉を背に動けなくなっていた。ニィと笑い手で扉をドンと叩きながら俺の反応を見るために体を軽く曲げ最接近する。
「そんなわけないじゃないか」
「でしょ? あなたが楽しいって思ってるから、望んでいる事をしているだけ」
「お前がどう思っているか知りたい。俺が、じゃなくてな」
負けじと彼女の頬を両手で覆ってやる。むぅと聞こえたが他は何も言わない。彼女は都合の悪い事を聞かれたら少々ばつの悪い顔をして口を閉じる。軽く目が泳ぎ、予想だがどう言えばいいのか頭の中で考え込み軽くショートしているみたいだ。
「黙秘権ってやつか? 不利になったらいつもそれだ。俺は、もっと、お前を知りたい」
長く落とした赤色のメッシュが混じった黒髪に触れ、少しずつ上に沿うように指を走らせる。長い耳の付け根に届く、そろそろだろう。
「ああああなたは知らなくてもいい。私はあなたをからかえれば楽しいだけだし?」
彼女は近付けていた顔を上げそっぽを向いた。「やべ」と言いながら少々引きつった笑顔で言う様は明らかに挙動不審である。先述の通り基本的に表情は崩さないが分かりやすく反応はする人だ。あと知らなくてもいいと言いながらきちんと答えを返すのは律義な所がある。そしてこれも予想だが彼女は耳が『とびきり弱い』。リンクパールは「何かゾワゾワするから」と周りから言われない限り率先して付けず、決して人に耳を近づけない。何かあった時は髪を伝って耳に指を近づけるだけであっという間に大人しく引き下がるのだ。それが把握されている事も既に向こうには察知されているらしくいつも「やべ」と言って引き下がるのが分かりやすい。なら変な事するなとしか言いようがない。
「あ。コーヒーが冷めたら美味しくなくなるから飲まないと―――ね?」
「そうだな。ちょうど誰かさんに邪魔されて寝起きのコーヒーを飲む事が出来なかったんだ。……何も入れてないだろうな?」
「発想になかった。次から考える」
いらん、と言いながら俺は自分が淹れたコーヒーを彼女に対する感情と共に一気に飲み込む。明らかにコーヒーだけではない形容しがたい苦みが身体の芯まで染み渡らせた―――
#シド光♀ #即興SS
『好きな人』
注意
・シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。
「アンナは好きな人とかいるんですか?」
「作らないようにしてる」
ガーロンド・アイアンワークス社。今日もせわしなく社員達が仕事をしている中、旅人と自称する冒険者のアンナは現れた。ちょうど一息つこうと休憩室へ向かっていた会長代理であるジェシーに話しかけるとそのまま一緒にお茶でも飲みましょうと連れて行かれ、現在に至る。
お茶を飲みながらさりげなく最近気になっていたことをジェシーは聞いてみたら少し外れた答えが返ってきた。
「勿体ないわね。あなたのような人ならいくらでも求められてるでしょ」
「うーん私は無名な旅人だからモテるわけないさ」
「いやいやアンタ有名人だろ? むっちゃモテてるけど全部断ってるって噂聞いてるぞ」
「じゃあウチの会長でも貰ってくれないしら? きっと今よりかは大人しくなるわ」
「余計にアグレッシブになると思うッスよ?」
唐突に始まった英雄と呼ばれる冒険者の花のある話にふと通りかかったララフェルとルガディンのコンビが入ってくる。
「あー絶対そうね。今の無しで。じゃあ付き合いとか別としてアンナの好きな男のタイプってどんな感じ?」
「好きなタイプ、ねえ」
「やっぱりイケメンとかッスか?」
「ヴィエラ族のアンナからしたら多分見慣れてるんじゃないか? やっぱ自分より強い人とかだろ」
「……故郷でイケメン高身長な同族見慣れてるから論外」
それから断片的にアンナは好きな要素をポロポロと溢すように喋った。
「ヒゲが似合う」
「がっしりとして体系で」
「光のような人ッスか」
「別に強さは問わないよ? 弱くても護ればいいし」
3人の『ウチの会長(親方)じゃん』という心の声が重なったのは言うまでもない。
◇
数日後。
「親方に好きな異性のタイプは? って聞いてきたッス!」
「度胸あるわね…」
「何かオチも予想できるんだが……」
仕事が一段落した夜、モードゥナの酒場にて密かに開かれる会がある。自分たちの上司であるシドと旅人アンナの関係を見守る会だ。最初は社長の仕事を妨害する存在と思っていた旅人のヴィエラは今や会社の一種の癒しと化し、大量の差し入れから危険地域へ向かう社員の護衛まで顔色一つ変えず引き受けてくれる便利な存在。何度か給金を渡そうとしたがシドのポケットマネーで食事に連れて行ってもらっている必要ないといつも断られている。絶対割に合っていないだろうにと思っているが本人がそれでいいのなら甘えることにした。
「赤色が似合う神出鬼没なフォロー上手の綺麗な人ッス!」
「女版ネロじゃないのその特徴」
「まあアンナだよなあ……」
旅人はともかく仕事以外は不器用な男の方は完璧に意識しているのではという疑問が3人によぎる。しかしあまりにも何も起こらなさすぎて2人の本心が思い浮かばない。いや本当は何か起こっているのかもしれないが特に旅人の動きが全く読めないのである。食事に行ってるとは言うもののどこでどういうものを食べているのかも男は決して口を割らないのだ。
「何であの2人甘い話聞こえないんだろうなあ」
「会長が奥手すぎるかとっくに心折れてるか距離感おかしいすぎて逆に自覚してないんじゃないの?」
「流石にこれはアンナさんのスタンスの問題じゃないッスかね」
2人の恋は前途多難。密かに応援しようと決意を新たに何度目か分からない乾杯をするのであった―――。
#即興SS
・シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。
「アンナは好きな人とかいるんですか?」
「作らないようにしてる」
ガーロンド・アイアンワークス社。今日もせわしなく社員達が仕事をしている中、旅人と自称する冒険者のアンナは現れた。ちょうど一息つこうと休憩室へ向かっていた会長代理であるジェシーに話しかけるとそのまま一緒にお茶でも飲みましょうと連れて行かれ、現在に至る。
お茶を飲みながらさりげなく最近気になっていたことをジェシーは聞いてみたら少し外れた答えが返ってきた。
「勿体ないわね。あなたのような人ならいくらでも求められてるでしょ」
「うーん私は無名な旅人だからモテるわけないさ」
「いやいやアンタ有名人だろ? むっちゃモテてるけど全部断ってるって噂聞いてるぞ」
「じゃあウチの会長でも貰ってくれないしら? きっと今よりかは大人しくなるわ」
「余計にアグレッシブになると思うッスよ?」
唐突に始まった英雄と呼ばれる冒険者の花のある話にふと通りかかったララフェルとルガディンのコンビが入ってくる。
「あー絶対そうね。今の無しで。じゃあ付き合いとか別としてアンナの好きな男のタイプってどんな感じ?」
「好きなタイプ、ねえ」
「やっぱりイケメンとかッスか?」
「ヴィエラ族のアンナからしたら多分見慣れてるんじゃないか? やっぱ自分より強い人とかだろ」
「……故郷でイケメン高身長な同族見慣れてるから論外」
それから断片的にアンナは好きな要素をポロポロと溢すように喋った。
「ヒゲが似合う」
「がっしりとして体系で」
「光のような人ッスか」
「別に強さは問わないよ? 弱くても護ればいいし」
3人の『ウチの会長(親方)じゃん』という心の声が重なったのは言うまでもない。
◇
数日後。
「親方に好きな異性のタイプは? って聞いてきたッス!」
「度胸あるわね…」
「何かオチも予想できるんだが……」
仕事が一段落した夜、モードゥナの酒場にて密かに開かれる会がある。自分たちの上司であるシドと旅人アンナの関係を見守る会だ。最初は社長の仕事を妨害する存在と思っていた旅人のヴィエラは今や会社の一種の癒しと化し、大量の差し入れから危険地域へ向かう社員の護衛まで顔色一つ変えず引き受けてくれる便利な存在。何度か給金を渡そうとしたがシドのポケットマネーで食事に連れて行ってもらっている必要ないといつも断られている。絶対割に合っていないだろうにと思っているが本人がそれでいいのなら甘えることにした。
「赤色が似合う神出鬼没なフォロー上手の綺麗な人ッス!」
「女版ネロじゃないのその特徴」
「まあアンナだよなあ……」
旅人はともかく仕事以外は不器用な男の方は完璧に意識しているのではという疑問が3人によぎる。しかしあまりにも何も起こらなさすぎて2人の本心が思い浮かばない。いや本当は何か起こっているのかもしれないが特に旅人の動きが全く読めないのである。食事に行ってるとは言うもののどこでどういうものを食べているのかも男は決して口を割らないのだ。
「何であの2人甘い話聞こえないんだろうなあ」
「会長が奥手すぎるかとっくに心折れてるか距離感おかしいすぎて逆に自覚してないんじゃないの?」
「流石にこれはアンナさんのスタンスの問題じゃないッスかね」
2人の恋は前途多難。密かに応援しようと決意を新たに何度目か分からない乾杯をするのであった―――。
#即興SS
「そう?」
黒髪のヴィエラアンナの膝に乗る青色のカーバンクルをジトリとした目でシドは見た。
アンナは器用なものでエーテルを扱う力も片手間にこなすことができる。初めて見た時、「昔エーテルの扱い方が下手だったから修行したんだよ」と苦笑いしながら長い指をクルクルと回していた。直後、高く飛ぶカーバンクルに突然飛び蹴りを喰らったのを未だ根に持っているらしい。
「そこまで悪い子じゃないのに。どうしたんだろ。やめるようにちゃんと躾けとくね。ごめんなさい」
そう当時苦笑しながら額の宝石を優しく弾いていた。ちなみに現在、流石に飛び蹴りまではされないが未だに噛みつかれたりと懐かれていない。ジェシーをはじめとした部下には懐いてるらしく何故かシドにのみそうするのだ。
「そういえばこのカーバンクルってやつはいろんな色がいるよな?」
「うん」
「以前ヤ・シュトラからお前さんのエーテルの色を聞いた。てっきり赤いやつかと思ったが」
「あー確かに。不思議」
クシャリと撫でじっと見つめているとシドは隣に座る。少しだけ召喚物をじっと見つめている。
「どしたの?」
アンナは首を傾げる。
そう、アンナからは見えないがカーバンクルは撫でられながらシドを見上げている。まるでここは自分の特等席だと言いたいが如く目を細めすり寄っていた。
「いや、何でもないからな」
そっぽを向く。アンナはしばらく考え込み「まさか」と軽くため息を吐いた。
「キミ、まさか召喚した子にまで嫉妬? いや流石にそんな」
少しだけばつの悪そうな顔でこちらを見ている。まじかぁと呆れたような声を上げた。
「この子は悪い子じゃないよ。だから仲良く」
ほらシドもと抱き寄せくしゃりと頭を撫でる。ふと顔を見ると眉間に皴は寄せているものの口元は緩みこれはもし尻尾が生えていたならば激しく振ってるだろうなと苦笑した。
「まったくどっちのシドも嫉妬深くて困る」
「悪かったな小動物にまで嫉妬し……うん?」
「あ」
アンナは用事思い出したと離れようとしたがシドはその腕を掴む。"また"余計なことを言ってしまったと手で口を覆った。
「今何と? よく聞こえなかったからもう一度言ってくれ」
「別に、何でも」
「どっちの何って言ったんだ?」
「聞こえてるじゃん! ……カーバンクル! 頭突き!」
顔を真っ赤にしながらカーバンクルに指示しているが珍しく何もせず頭に乗っている。両耳の間に器用に立っているのは正直凄いと目を細めた。アンナは「こういう時に限って! 言う事聞く!」と震え思い切り目を逸らす。頭を激しく振っても頑なに動かない。一方隣に座っているシドの機嫌は一転し、笑いながら背中を叩く。
「チクショー……もー!!」
アンナは理解している。このカーバンクルは今名前を呼ばないと指示を聞く気がない。自爆したお前が悪いと言いたいが如くつむじを足で突いていた。しかしもし呼んでしまえば次は隣の大男がこちらへ頭を擦り付けてくるだろう。絶対何か勘違いしている。
何故当時の自分は『少しだけ寂しいしどこか似てるね』と何も考えず名付けてしまったのか。しばらくがっくりと項垂れ、頭をぐしゃぐしゃと掻き盛大な溜息を吐いた―――。
Wavebox
#シド光♀ #即興SS