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No.53

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注意 自機出番なし。紅蓮~次元の狭間オメガ開始前までの自機兄+ネロ話短編4本。&…

紅蓮,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

紅蓮,ネタバレ有り

旅人の兄が歩んだ短編集
注意
 自機出番なし。紅蓮~次元の狭間オメガ開始前までの自機兄+ネロ話短編4本。
 
"嫁"
「エル、そういや嫁複数人いたンだよな?」
「ああいたな」

 酒場で酒を煽りながらふとネロは以前妹から聞いていた情報を思い出し話題を振る。エルファーは首を傾げた後「あー妹から聞いてるのか」と苦笑した。

「情けない話だが離婚してるんだ」
「全員とか!?」
「ああ、8人の嫁全員と」

 私たちと妹さんどっちが大事なのと聞かれたので妹と即答したんだと笑顔で言う姿にネロは開いた口がふさがれない。

「オマエ世の男共が羨ましがるハーレムをそんな一言で終わらせたンだな」
「正しく言うと妹と知的欲求が大事ってやつだな。そうしたおかげで今は君と行動することになったから結果オーライということになる」
「割に合ってねェだろ」

 そうか? と首を傾げているがゴリラの天然タラシはこの男由来だということが痛いほど分かった。アレと一緒で性欲より云々系だろうかとため息を吐く。

「どうした? 紹介してほしかったのか?」
「ンなわけねェだろ。肉食系はタイプじゃねンだわ。オレは元々オマエの妹から故郷で交尾してるって聞いてたから気になったンだよ」
「ホー相変わらずデリカシーがないなあ我が妹は」

 オマエが言うんじゃねェよ! と啖呵切ってやるとエルファーはぶっきらぼうだが柔らかな笑顔を見せた。

 基本的にはアンナの男版っぽい容姿をしているが細かい性質は彼女とは異なる。
 まずは表情が固い。妹は基本的に笑顔が中心で結構顔に出る。しかし兄は愛想は正直よくない。結構笑顔は引きつる。まあベースの顔はいいし妹が絡まなければ話術も秀でている。妹と同じく話題を振らなければ最低限の会話しかしないのでこの件に関しては本質はまだ分からないのだが。更にさりげない配慮等は出来るからそこは流石嫁が8人いただけはある。
 知識の差も圧倒的に異なる。アンナは基本的にサバイバル知識以外はさっぱりだが一度教えれば大体できるとガーロンドから聞いた。それに対してエルファーは野生生物と違って人と関わり合いながら己を理解して長生きしてるだけあって知識量の差は圧倒的である。
 そして何よりも違う所はアンナは切り込み隊長でエルファーは魔法も駆使できる技術者。表には滅多に姿を現さず、後方支援を得意としていた。絶対にゴリラにはできない芸当だ。議論のし甲斐もあるし劣等感も抱くこともない。ましてやこっちが技術を提供する側でもあり、一々感謝されるので悪い気はしない。
 振り返ってみたが少なくとも見た目とデリカシー無しな面以外はあのアンナの兄とは信じられないと叫びたくなる。

 最初こそは珍獣の兄という要素に興味を持ち旅の道連れ兼話し相手になった程度の存在だった。現在エルファーは一種の助手として共に各地を回る技術屋になっている。というか放っておくとまたほぼ無償で機械弄りするかカストルム爆破しに行く未来が見える。ガーロンド社に押し付けようにも妹にバレたくないと駄々をこねるしそれならいっそ技術を共有する方が有意義だ。

―――何よりも少しでも殺意を出したら殺す前提のアンナと、説得や無力化させようと動くエルファーなら後者の方がマシである。

 
"装備"
「おいエルファー聞け!」
「どうしたそんなキレながら帰って来て。奇麗な顔が台無しだ。レディにぼったくられたか?」

 ネロがレヴナンツトールに用事があるらしく近郊で待っていると怒りながら大股で戻って来る。

「いや用事自体はスムーズに終わったンだが。あの周辺の冒険者が付けている装備を見たか?」
「あの辺りで見るというならロウェナ商会が卸している装備だろう? それがどうした」

 歩き出した彼を追いかけながら話を聞いてやる。

「その装備の名前知ってっか?」
「さあ?」
「ガーロンド」
「もう一度」
「ガーロンド装備って言ってンだよ、わざと二度も言わせてンな!? ハァ……つまりあのガーロンドが手掛けた装備ってこったァ!」
「はあ。それで?」

 まあコイツが怒る要因は彼しかないだろう。予想通りだ。そして次に言いそうなことも予想が付く。
 立ち止まり不敵な笑みで自らを指さしながら言い放った。

「オレが作るンだよ」
「何をだ?」
「聡明で天才なオレの方がもっといい装備が開発出来るに決まってンだろ。アレはオレを煽ってるようなもンだ」
「まあ元軍人だし君の方がいいものは作れそうだな」
「だろ? さーて今日から寝る暇ねェぞ」

 どうやら僕も巻き込むつもりらしい。

「魔法使う奴ら方面の最終調整をやって欲しいンだわ。嗜んでる人間がやる方がもっといいモンになる」
「そりゃまた人使いが荒い事を言う。まあロウェナ嬢に卸すものならばいつか妹が纏うことになる装備だ。いいものを作ろうじゃないか」
「ケッ妹が絡ンだら即やる気出してンなァエルファー」
「エルでいい。呼びにくいだろう?」

 まあ黙っておくお詫びってやつだ。嫁たちにしか呼ばせなかった愛称を教えてやる。
 実はガーロンド装備のことは知識にあった。もちろん設計した人間に関してもだ。
 この装備はシド・ガーロンドではなくガーロンド社名義として出されている。会長行方不明時代に会社を立て直すために会長代理の人間が開発し、ロウェナ商会に卸したということも把握している。つまりネロは勝手に勘違いして対抗心を燃やしているのだ。多分ロウェナ嬢もそれを知ってて煽ったのだろう。哀れ。

「ン、ああそうかエル」

 許せガーロンドくん。君は悪くないからな。

 
"就職?"
「というわけで正式配属はまだだがガーロンド社の社員になったンだわ」
「ホー面白い話だな。フリーランスをやめるとはよっぽどいい環境でも提示されたか?」
「聞いて驚くな、会長サマの来月の給料から落ちるンだぜ?」
「ホー最高じゃないか」

 エルファーは急に青色の制服を着る人間に連れて行かれたと思ったら就職したというネロを驚いた顔で見てしまう。
 数ヶ月の間、こっそり尾行するようにネロ・スカエウァと呼ばれる人間と行動してきた。これまでは妹のフレイヤ、いやエオルゼアではアンナだったか。彼女に存在する空白でありながらも真っ黒な記録を探しながら趣味である機械装置を触りながら旅をしている。これまでよりもガレマール帝国の秀でた魔導技術に触れやすくなり、しかも数々のアラグ時代に作られたであろう遺跡も調べやすくなったエオルゼアの地はすっかり気に入った。あまりにも熱中しすぎて師匠から破門されるわ嫁たちとは離婚することになるわと故郷に帰れなくなった。そんな捨てヴィエラのエルファーが妹の手がかり兼興味関心を満たせる相手と目を付けたのがこのネロという男である。すっかり返事が来なくなった妹の手紙を暗唱できるほど読み込み選んだ相手でもある。この金髪のガレアンとの話も刺激的な物であったから故郷に捨てられたのも悪いものばかりではない。

「しばらくラールガーズリーチにある支社で手伝うついでに飛んでったオメガを探すコトになってな。エルも来るよな?」
「ああオメガという機械生命体は文献で見かけてから滅茶苦茶気になってたぞ。しかしガーロンドくんにバレたくないなあ」

 エルファーはわざと大げさに考え込むような素振りを見せるとネロはため息を吐いた。

「別に顔を合わせないようにすりゃいいだけだろ。ほら制服2着貰っといたから持っとけ」
「必要ないのでは?」
「身分証明みたいなもンだ。制服着たオレと歩いてたら怪しまれンぞ。その耳隠してメガネでもしときゃバレねェって」
「意外とその会社の人間はバカなのか?」

 言ってやンなとネロは小突く。とりあえずいただいてはおくと受け取り「で? 染めるんだろ?」と聞くと赤を好む男は「当然だ。シュミ悪い青より赤がいいに決まってンだろ」と返した。

「じゃあまずはその会長サマが来る前にそのラールガーズリーチ支社を改造してやろう」
「おうやってやろうぜ、ガーロンドの金でなァ!」

 悪い笑みを浮かべ、明日以降の企みを一晩語り合う。正式配属はまだ先だが仕事をしてはいけないとは言われていない。やってやろうじゃないかと拳を突き立てた。
 しかし彼らはまだ知らない。スカウトされた際にシドが不在だった理由を。更にアンナの過去へ繋がるヒントに一番近い存在がシドになっていることに。



『新入りが好き勝手設備を弄っている』

 ジェシーは支社からの報告に眩暈を起こす。十中八九ネロのことだ。急に休暇を取ったシドがいない分走り回っているのは助かるが、その傍ら勝手にラールガーズリーチの施設を弄っているらしく心配する声が届いている。
 まさか他の社員にとって不利益な仕様にすることはないだろう。実際各小部屋や拠点周辺の空調装置をはじめとする住環境は整いつつあるらしい。気になるのはその金はどこから出ているのかという部分と明らかにネロ以外にもう1人関わってる奴がいるという情報だった。確かに制服を2着くれとは言われるままに渡した記憶はある。用途を聞いたが「替えの服もくれンのか? ッたくケチな職場だなァ」とぼやきやがったので叩きつけてやった。

「やっと会長も帰って来たしネロを呼びつけて話を聞かなきゃ気が済まないわ…!」

 もう1人いるならちゃんと言いなさいよ、とぼやきながらペンを折った。

 
"配属"
「本日付けで配属になったぜ。さあ、オメガの調査といこうか……ガーロンドォ……!」

 完全に不意打ちな大型新人の登場にシドは驚きを隠せていない。
 雇用条件等ふざけるなという抗議をジェシーは適当に躱しながら窘める。
 結局今日までネロからは噂のもう1人について口を割らせることは出来なかった。いるのは分かっているのだ、何度かリンクパールで会話を交わしているところを見ている。

「ンあ? あーちょっと待ってろ」

 ネロはふと後ろを向きまた通話しているようだ。「おう、白いのが偉い奴だな」「隣の女には逆らうンじゃねェぞ」やら聞こえる。シドは怪訝な目で見ながら声をかけている。

「オマエには関係ない相手なンだわ」
「ほほー仕事中にプライベートを持ち込むのか? 大型新人とやらは」
「アー……助手、ってやつ、か?」

 助手だと? とシドは素っ頓狂な声をあげる。ジェシーとしても不意打ちだった。噂は本当だったのが分かったのはいいが見回してもその助手は見当たらない。

「とりあえずレフって呼んでやってくれ。訳アリでオレも普段どこで見てるかは知らねェがな」
「頭の病院に行こうか、ネロ」
「ア?」

 険悪な空気だ。ここで本当に『助手のようなやつ』が現れれば解決だが出てくる気はないらしい。ネロはシドをスルーしこっちに「ンで? 怪しい場所はどこなンだ?」と聞いてくる。シドの方はというと「まだ連れて行くとは言ってないぞ」と機嫌が悪い。

―――こういう時にアンナがいたら楽なんだけどな、とため息を吐いた。



「ホーあれがガーロンドくんか。想定していたよりも若造じゃないか」

 そりゃネロと同い年なら当たり前かと肩をすくめる。エルファーは少し離れた場所から望遠鏡で彼らの邂逅を覗いていた。とりあえず自分のことを聞かれたらレフと呼ぶように頼んでおいてよかったと安堵する。流石に何も考えず喋ってしまい申し訳ないと謝罪し、通信を切る。
 ニィと笑い、再びオメガについての文献を整理しようと踵を返した―――


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