FF14の二次創作置き場

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No.115

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注意旅人は星を見つけるの冒頭独白シドバージョンです。   寒い夜。ガキ…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

技師は紅き星を振り返る
注意
旅人は星を見つけるの冒頭独白シドバージョンです。
 
 寒い夜。ガキの頃、俺は言いつけを破り何かに導かれたように外へ出た。キョロキョロと周りを見渡し少しだけ裏路地に入ると大きな塊。それに恐る恐る近付くと長い槍に、褐色の長い指が見えた。まじまじと観察する前に『人を、呼ばなくては』と判断する。踵を返し、巡回兵を呼ぼうとすると俺の服の裾を掴まれた。振り向くと、フードを深く被った人が「寒い」と小さく呟く。その時、キレイで不思議な赤色の旅人に心を奪われた―――。

 初めて抱いた感情は、物静かで、作り物のような不気味さ。記憶を失い陰鬱としていた自分が人のこと言えるかと聞かれると何も言い返せない。だが本当にこれから死にに行くんじゃないかという位思いつめていた。しかしそんな何かに怯え続けながらも、裏では俺や周りを観察していた。器用な人だ、なんて思いながら渡された肉をいただく。あの星空が綺麗な夜、それまで暗い雰囲気だった"彼女"が突然見せた柔らかな笑顔に衝撃を受けてしまった時のことは未だに覚えている。綺麗な顔で細い身体から繰り出される強い力。―――その時の自分との正反対さが目を細めてしまうほど眩しかった。
 俺が記憶を取り戻した時の、あの優しげな目を覚えている。元気になって、よかったという言葉だけでは説明出来ない"彼女"の目に灯る星を見た。それから蛮神討伐、そして仲間の救出という同じ目的を共有した冒険が何よりも楽しかった。だからそれ以降も何気なく付いて行こうと画策するようになる。"彼女"が何らかに関わるだけで未知の技術が転がり込んでくるのだ。技術者としての自分も簡単に"彼女"という存在を手放せるわけがないさ。
 "彼女"が刀を持った日、内面に沸き立つ興奮が初めて俺の心を焼き焦がす。舌をペロリと出しながら愛しげに刀の柄を撫でる姿に本能がこのオンナは危険だと警笛を鳴らした。それに反し、自らの情熱は熱が灯りかけ、作戦中じゃなければ非常に危なかった。絶対に敵に回したくないと決心するくらい、斬り払う時の笑顔にゾクリと背筋が凍るほどの美しさを覚える。

 だが戦闘以外ではとにかく優しかった。助けを求める人間がいれば積極的に走る姿を沢山見たし、俺だって頼ったさ。皆"彼女"のことを注目していたし感謝している。まあ当の本人にとっては周りに一切興味を示さず、人助けさえ出来ればそれでいいという献身的な思想の持ち主だったのだが。しかしそんな"彼女"を気に入らなかった勢力も存在した。存在感が強くなるごとに陰謀へと巻き込まれ、意味も分からぬまま逃げる姿を何度も見ることになる。何かあるごとに絶対俺は手を差し伸べて飛空艇に乗せた。勿論無意識下では少々下心もあっただろう。人の感情に敏感な"彼女"に悟られない程度には己でも無自覚ではあったのだが。
 イシュガルドでの"彼女"は無理矢理にでも周り全てを護ろうとしていた。だが一度、うっかりと手から零れ落ちてしまったヒトに対し悲しむ弱さを目の当たりにしてしまう。どうすればいいのか分からず、肩を撫で続けることしか出来なかった。一瞬火傷しそうなほど熱くなった身体と震えた空気。―――それが"彼女"と俺の違いを見せつけられた、そんな錯覚さえ起こる。震える肩を少しでも強く握るとすぐに壊れてしまいそうで。なんて繊細な機械装置のような綺麗なヒトなんだ、と思ってしまう。
 あの星芒祭での出来事を境に少しだけ素を見せるようになった。何気に精巧な技術を用いたイタズラに説教しながらも居場所だと認識してくれたことに対して喜びを覚える。"あの人"が置いて行った髪飾りを握りしめ、何としても"彼女"の助けになろうと追いかけた。思い返すとお互いの距離感がおかしくなったのもこの出来事がきっかけだったかもしれない。狂い始めた歯車は、軋み続けていった。

 例え暴力装置だと揶揄されても不敵な笑顔を浮かべるのが"彼女"の魅力だ。どんな陰謀も斬り払い"無名の旅人"であり続けようとする。個人的には『絶対に生きて帰ってこい』と言うと必ず生還し、俺に向かって笑顔を見せてくれたことが何よりも嬉しかった。その反面、頑なに周辺に感情を見せないよう立ち回っている姿に違和感も覚え始める。どうして、そんなにも"無名の旅人"であろうとするのか。胸がチクリと痛みながらもその正体を探る。
 ドマで初めて具体的な"彼女"の過去を目の当たりした。同じく"無名の旅人"と自称していた命の恩人から与えられた全ての始まりを知る。再会することは出来なかったと少し悲しそうな姿を見て隣に立ってもいいのだろうか、という疑問が湧く。しかし当時の自分は気付いていなかった。もうすでに何度も焦がされていた心は修理不可能なほどその熱で歪み切っていたことに。そしてこの時から、"あの人"と"彼女"を重ね始めていた。
 いつも数歩後ろを歩く"彼女"と常に隣で笑い合ってみたかった。そんな反面、全てを斬り払うための道を作ると、流星の如く走り抜き去っていく後ろ姿を見守る。―――そんな"彼女"を支える行為も楽しかった。紅く光る流星が灼熱の炎で俺の心ごと文字通り全て燃やし尽くす。"彼女"に無意識下で長い間恋焦がれていたと、初めて首元に噛みついた夜に自覚してしまった。甘い香りと冷たい肌に歯を立てた瞬間の少しだけビクリと震え喉から発せられた甘い声。その直後遅れて湧き出したのは底知れぬもっと欲しいという欲望。だが、予想外なことが起こると頭で考えるより先に言葉が出てしまったと更に慌てた反応が楽しいだけさ。なんて俺は今の関係がいいと想いを封印し、笑い合うことを選ぶ。それは2人きりの時に何が起こっても、表では平静で居続けるという人に無関心な"彼女"に甘え続けていたのも確かで。この後オメガによって引き起こされた検証事変で再び共闘出来ることを喜んでいた。

 オメガによる度重なる仲間への襲撃に対し落ち込んだ時、遂に慰めに来た"彼女"を抱いて想いを伝えてしまった。まるで一目見てから我慢し続けた感情を全てぶつけるかのようにトンデモ理論と勢いで押し切る。いや、きっかけも"今まで出会った人間の中で初めてならキミがいいとは考えていた"と煽ったのも向こうだから俺は悪くないさ。と思いたい。ただただ相手は初めてだったのに、手加減無しで一晩中衝動に任せて抱き潰した。そう、その夜は幸か不幸かバカみたいにあってしまったお互いの体力に感謝し、自分の"好き"に塗り替えていく行為に夢中になってしまう。後日何度も謝り倒すくらい反省した。だが、そこで命の恩人の言葉に縋る理由も分かったので有意義な時間ではあった。そしてどこか懐かしい低い声で"宿題"を言い渡された時、絶対解いてやると決心する。誰も手中に収めることが出来なかった"彼女"という報酬が手に入るのだから躍起にもなるだろう。そこまで決起した理由は簡単だ。それは初めて"彼女"の口から漏れた"SOS"。だから全力で解きに行くに決まっている。
 それからしばらく温泉旅行と称して連絡を絶たれたのは寂しかった。自分が与えた永遠に消えない傷を癒すためだろうから文句は言えない。だがその後、何事もなく戻って来て検証を終わらせることが出来た。やはり人に興味がなさすぎるのではという疑問が湧いてしまう。考えても仕方がないと渡された用途不明な銀色の鍵を握りしめ、また"彼女"と違う道を走り出した。
 その最後の検証で初めて弱き人間の想いを込めたという"本気"を見る。顔こそはよく確認出来なかった。だが、怒りの感情に合わせるかの如く空気が震え赤黒く染まった後、全ての音が消えた世界で刀が青白く光り人を模したオメガを斬り伏せる。振り下ろされた時に現れた光の斬撃はまるで流星の軌跡のように綺麗で。これが、命の恩人から教わった"気迫"なのかと問うとただ笑顔を見せていた。青白い光の意味は未だに分からない。ただただこの人が敵じゃなくて本当によかったと痛感する。だってもしも敵だったら二度とこの美しい流星が見えないじゃないか。疲れたのか少しだけ動きがぎこちない"彼女"の背中を叩きながら笑い合う。
 故郷はアシエンが動乱のために作った国だった。―――真実を聞かされた時、そりゃショックが大きかったさ。なるべく表に出さないようにしながら自分の出来ることを片付けていく。そんな俺を見て何も言わず抱きしめた。興味はないくせに人の感情に敏感な"彼女"にはすぐにバレたらしい。それがとても嬉しいと感じて尻尾を振る自分に少々嫌気が差した。それから"彼女"は何者かに呼ばれ、別の世界に消えてしまう。

 オメガの後処理に鬼のような量の仕事。それらを終わらせた後、いつの間にか悪友と親しくなっていた"彼女"の兄と対面する。―――驚くほどにそっくりだった。その赤髪も、喋り方も、故郷の髪飾りも。俺は彼も連れ、"宿題"を解くために命の恩人の墓へ向かう。そこで"真実"を知った。彼が遺した言葉はこれまでの"彼女"との旅路がなければ信じられなかっただろう。しかし第七霊災の兆候すらなかった頃に全てを知ってしまい、何も出来なかった彼の心はどれだけ痛かったか。あんなにも身を焦がされるほど嫉妬していた相手だったはずなのに憐れみさえも覚える。そして"宿題"の答えは"これ"でいい。少しの間だけ反応したがまた光が消えた用途不明な装置を受け取りエオルゼアへと帰る。
 別の世界に消えて約1か月後、"夢の世界"に連れて行かれた。そこは少しだけ弱った"彼女"と真実を照らし合わせる幸せな夢。相手は俺が当の本人だと気が付かず迂闊を晒し大慌てだった。正直に言うとここまで挙動不審になった所を初めて目の当たりにしたから最高だった。現実でももっと見せてほしい。絶対に生きて戻ってこいという俺が与えられる最高の"呪い"。命の恩人の教えに上書きするかのように吹き込み、帰りを待った。
 青龍壁の調整をし、飛空艇の整備を行い、何事もなく納期もやってくる。―――そんな数々の仕事が"彼女"がいなくても日常は続いた。『会いたい』とため息を吐く。するとふとあの解析しても用途が一切不明だった装置がポンと音を鳴らした。俺はそれを持ち上げ、何が起こったのかと思いながら見つめているとリンクパールが鳴る。送信主は暁の血盟のクルル。どうしたのか、いや彼女からならば1つしかない。分かっていながらも平静を装うために用件を問うとこう言ったのだ。

『アンナが帰って来たの。嫌そうな顔をしながらガーロンド社へ向かったから、頑張ってね』

 俺は反射的にネロと"彼女"の兄レフが軽量化、再調整した捕獲装置を手に取り慌てて部屋を飛び出す。謎の装置の光が徐々に強くなっているのが見えた。これは、もしかして―――。


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