FF14の二次創作置き場
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- 2024/05/19 連作:紅蓮レイド編【完結済み】 紅蓮,
- 2024/05/15 "カーバンクル&qu… 漆黒
- 2024/05/09 旅人、猫を拾う 漆黒
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- 2024/04/11 旅人は答えを見つける 漆黒,
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"煙草"
注意・補足
煙草にまつわる漆黒以降のギャグ概念。
リン:レフの旧友にしてアンナの命の恩人であるリンドウ・フウガの愛称。アンナが34歳になるまで一緒に旅をしていた。
龍殺しの:リンドウの二つ名。ガレマールで戯曲化もされた東の英雄。欲のない無名の旅人。
納期は間近。またギリギリになる可能性も高いが"普段よりかは"間に合うだろう、シドは頭を晴らすために休憩室で1人電子タバコを吸う。味が好きなわけではない、ただ〆切が近づいた時にその煙をぼんやりと吸う。アンナは毎回「邪魔になるね」と言い5日程度連絡を一切交わさない。つまり合間の気分転換先がないのでこうやって一服することがあった。
ふと扉が開け放たれネロとレフがやって来る。シドの顔を見るなり「うわ酷い面だな会長クン」と言うのは失礼極まりない。ジトッとした目で睨むとレフは口元を上げた。
ネロが1本煙草を取り出すとレフはパチンと指を鳴らし火を灯す。横に座り副流煙を味わう姿に「お前は歩くライターか」とぼやく。
「僕も吸ってもいいんだが普段持ってる奴はネロに止められてね」
「お前が吸うシガーは慣れてねェやつが匂い嗅ぐだけで下手すりゃ業務に支障が出ちまうンだわ」
「何吸ってるんだお前……」
どうやらレフは故郷特有の特殊な葉巻を持っているらしい。ネロによると相当"脳にクる"ものだという。確かにこの時期にそんな匂いのものをぶち撒けられたら仕事に影響が出てしまうだろう。
「そういやお前メスバブーンに煙草のこと言ってなかったンだな」
「アンナはこういう時期は絶対来ないからな。何か言ってたか?」
「へーだってよ。興味なさそうだったぜ」
知ってたとシドは肩をすくめたがレフの言葉に固まる。
「まあ別に妹は煙草自体に嫌悪感はないだろう。リンもアリスもヘビースモーカーだったし。慣れてる文化だろうからスルーは仕方ないだろうな」
「は?」
「そういや蒼天街で火ィ点けてもらった時だいぶ手慣れてンなとは思ってたが」
「子供に火を点けさせるのは流石にしてないと思いたいが妹の方からやってた可能性はあるな」
シドはしばらくの沈黙の後ふと立ち上がる。「おい仕事に戻るのか?」とネロが問うと「ちょっと、アンナの所に、確認を」と眉間に皴を寄せボソボソ呟くのでギョッとした顔で2人がかりで押さえ込む。
「離せネロ、レフ! 俺は少し確かめに行くだけだ」
「やめとけ!」
「疲れで頭おかしくしてンじゃねェぞ!」
ジェシーの「会長早く仕事に戻ってください! ってネロもレフも大人げなく何やってるの!」という怒りの声が響き渡るまでこの騒ぎは収まらないのであった―――。
◇
後日。
「あ、ネロサンじゃん。煙草? 抵抗なし。でもあまり慣れない匂いが付くと戦闘に支障が出るから吸わない」
「アーそういう方向か。煙草の匂い如きで調子崩すってのはちと分かんねェが」
アンナの言葉に肩をすくめる。それに対しはにかんだ笑みを見せた。
「うんちの臭いで集中できないのと一緒。あーでも昔命の恩人が吸ってたやつはとってもいい匂いで阻害はされないかも」
「はー龍殺しの。ていうかクソと対比すンじゃねェよ不味くなンだろが」
軽く小突いてやるとニィと笑っている。アンナは思い出すように口元に指を寄せた。
「たまにキセルとかも見せてくれた。そういうコレクションが数少ない趣味だって。そういえば終の棲家には見当たらなかった。捨ててるかも」
「見たかったかもな。意外と知り合いにあげてンじゃね?」
「なかなか価値がありそうだから売ったとかもありえるだろ」
アンナは軽くため息を吐き「話題が逸れた」と切り替える。優しい笑顔を見せ語った。
「うーん銘柄不明だし20年程度の旅な記憶だから大人の味への憧れって記憶補正の可能性。実はクールに煙草吸うヒゲのおじさまが好きでね」
「ハァ。ていうか20年一緒に旅してたとか初耳だな。なあガーロンド」
「お前が男の趣味を語るなんて珍しいな。俺も初めて聞いたぞ」
「そう? キミと同じ年まで一緒に旅してたよ。そうだねえ、聞かれてないから言うわけないじゃん。―――あ、シドには内緒。面倒な未来しか見えない。ってうわシド偶然」
いつの間にかアンナの横にシドは腕組みをし立っていた。いつからいたのかと顔を青くしながら聞くとネロは「だいぶ序盤からいたぞ」と爆笑している。シドはガシリと腕を掴み笑顔を見せているが目は笑っていない。
「よおアンナ、元気そうに話してるじゃないか。で、うわとか面倒ってどういうことだ?」
「いや今のはその。面倒? あなたの聞き間違い。あ! 用事思い出した! じゃ!」
「お前昔『フウガとは成人してから少し後までしかいなかったよ』って言ってたよな?」
「え、そ、そうだっけなあ。いやヴィエラの成人って何歳なんだろーハハハ」
「きっちり聞かれてンじゃねえか。お前本ッ当に学ばねェな」
ネロは火元から逃げるようその場からそそくさと立ち去って行く。また「待てネロサン、キミがいないとシドの説教の度合いが変わる!」というアンナの悲痛な叫び声が響くのであった。
#エルファー関連 #ギャグ #即興SS
煙草にまつわる漆黒以降のギャグ概念。
リン:レフの旧友にしてアンナの命の恩人であるリンドウ・フウガの愛称。アンナが34歳になるまで一緒に旅をしていた。
龍殺しの:リンドウの二つ名。ガレマールで戯曲化もされた東の英雄。欲のない無名の旅人。
納期は間近。またギリギリになる可能性も高いが"普段よりかは"間に合うだろう、シドは頭を晴らすために休憩室で1人電子タバコを吸う。味が好きなわけではない、ただ〆切が近づいた時にその煙をぼんやりと吸う。アンナは毎回「邪魔になるね」と言い5日程度連絡を一切交わさない。つまり合間の気分転換先がないのでこうやって一服することがあった。
ふと扉が開け放たれネロとレフがやって来る。シドの顔を見るなり「うわ酷い面だな会長クン」と言うのは失礼極まりない。ジトッとした目で睨むとレフは口元を上げた。
ネロが1本煙草を取り出すとレフはパチンと指を鳴らし火を灯す。横に座り副流煙を味わう姿に「お前は歩くライターか」とぼやく。
「僕も吸ってもいいんだが普段持ってる奴はネロに止められてね」
「お前が吸うシガーは慣れてねェやつが匂い嗅ぐだけで下手すりゃ業務に支障が出ちまうンだわ」
「何吸ってるんだお前……」
どうやらレフは故郷特有の特殊な葉巻を持っているらしい。ネロによると相当"脳にクる"ものだという。確かにこの時期にそんな匂いのものをぶち撒けられたら仕事に影響が出てしまうだろう。
「そういやお前メスバブーンに煙草のこと言ってなかったンだな」
「アンナはこういう時期は絶対来ないからな。何か言ってたか?」
「へーだってよ。興味なさそうだったぜ」
知ってたとシドは肩をすくめたがレフの言葉に固まる。
「まあ別に妹は煙草自体に嫌悪感はないだろう。リンもアリスもヘビースモーカーだったし。慣れてる文化だろうからスルーは仕方ないだろうな」
「は?」
「そういや蒼天街で火ィ点けてもらった時だいぶ手慣れてンなとは思ってたが」
「子供に火を点けさせるのは流石にしてないと思いたいが妹の方からやってた可能性はあるな」
シドはしばらくの沈黙の後ふと立ち上がる。「おい仕事に戻るのか?」とネロが問うと「ちょっと、アンナの所に、確認を」と眉間に皴を寄せボソボソ呟くのでギョッとした顔で2人がかりで押さえ込む。
「離せネロ、レフ! 俺は少し確かめに行くだけだ」
「やめとけ!」
「疲れで頭おかしくしてンじゃねェぞ!」
ジェシーの「会長早く仕事に戻ってください! ってネロもレフも大人げなく何やってるの!」という怒りの声が響き渡るまでこの騒ぎは収まらないのであった―――。
◇
後日。
「あ、ネロサンじゃん。煙草? 抵抗なし。でもあまり慣れない匂いが付くと戦闘に支障が出るから吸わない」
「アーそういう方向か。煙草の匂い如きで調子崩すってのはちと分かんねェが」
アンナの言葉に肩をすくめる。それに対しはにかんだ笑みを見せた。
「うんちの臭いで集中できないのと一緒。あーでも昔命の恩人が吸ってたやつはとってもいい匂いで阻害はされないかも」
「はー龍殺しの。ていうかクソと対比すンじゃねェよ不味くなンだろが」
軽く小突いてやるとニィと笑っている。アンナは思い出すように口元に指を寄せた。
「たまにキセルとかも見せてくれた。そういうコレクションが数少ない趣味だって。そういえば終の棲家には見当たらなかった。捨ててるかも」
「見たかったかもな。意外と知り合いにあげてンじゃね?」
「なかなか価値がありそうだから売ったとかもありえるだろ」
アンナは軽くため息を吐き「話題が逸れた」と切り替える。優しい笑顔を見せ語った。
「うーん銘柄不明だし20年程度の旅な記憶だから大人の味への憧れって記憶補正の可能性。実はクールに煙草吸うヒゲのおじさまが好きでね」
「ハァ。ていうか20年一緒に旅してたとか初耳だな。なあガーロンド」
「お前が男の趣味を語るなんて珍しいな。俺も初めて聞いたぞ」
「そう? キミと同じ年まで一緒に旅してたよ。そうだねえ、聞かれてないから言うわけないじゃん。―――あ、シドには内緒。面倒な未来しか見えない。ってうわシド偶然」
いつの間にかアンナの横にシドは腕組みをし立っていた。いつからいたのかと顔を青くしながら聞くとネロは「だいぶ序盤からいたぞ」と爆笑している。シドはガシリと腕を掴み笑顔を見せているが目は笑っていない。
「よおアンナ、元気そうに話してるじゃないか。で、うわとか面倒ってどういうことだ?」
「いや今のはその。面倒? あなたの聞き間違い。あ! 用事思い出した! じゃ!」
「お前昔『フウガとは成人してから少し後までしかいなかったよ』って言ってたよな?」
「え、そ、そうだっけなあ。いやヴィエラの成人って何歳なんだろーハハハ」
「きっちり聞かれてンじゃねえか。お前本ッ当に学ばねェな」
ネロは火元から逃げるようその場からそそくさと立ち去って行く。また「待てネロサン、キミがいないとシドの説教の度合いが変わる!」というアンナの悲痛な叫び声が響くのであった。
#エルファー関連 #ギャグ #即興SS
"悪夢"2
注意
自機出番なし。"捕獲"の次の日の話。
―――夢を見た。遠い過去の友人が立っている。
あの男が僕に久しぶりだなと声をかけて来た。
「なんだ生きてたのか」
「俺様を勝手に殺すんじゃねえよ」
やれやれとその金髪を揺らしながらため息を吐く。相変わらず真っ白い肌が心配になるミコッテだ。
「やっと完成したんだ 見てくれよ」
"コイツ"は僕に手を広げながら笑いかける。なんだよ、って言ってやると周りから気配を感じた。
―――金髪の女が1人、2人、3人。いやもっといる。同じ顔をした、"コイツ"の恋人。
「ほら俺様の女を蘇らせたんだ。勿論褒めてくれるよな? エルファー」
◇
「エル!!!!」
見知った人間の呼ぶ声でハッと目が覚める。飛空艇に揺られ、エルファーは周りを見回す。いない、夢だったようだ。流れる汗をぬぐい、血でないことも確認する。
「どうしただいぶうなされていたぞレフ」
「あー……ちょっと悪夢をな」
頭を掻きながら起き上がる。長い船路の途中で眠ってしまったらしい。
オメガ検証で好き勝手して逃げたら捕まってしまった次の日。シドに連れられネロと共にひんがしの国へと向かっていた。着いてからも移動が長いということで先に休むかという話になった。結局眠れるわけがないと言いながら寝ていた事実に苦笑する。ふと夢の男を思い浮かべてからネロをぼんやり見つめた。ついポロリと言葉をこぼしてしまう。
「ネロ、君が狂いきってなくてよかった」
「ハァ?」
「いや、久々に僕の友人が出てくる夢を見たんだが……これがものすごい狂ってた奴でな」
彼の名はア・リス・ティア。エルファーがこれまで出会った中では一番の天才であった。勿論目の前の2人より優れていると胸を張って言える。一言こういうものが欲しいと言うとどんな無茶でも最終的に理論を確立できる才能に憧れた面もあった。社会不適合者だったが世話をしてくれる奇麗な恋人がいたらしい。それなりに幸せな生活を送っていたようだがある時事故で失ってしまった。
そんな男に出会ったのは妹が誕生する少し前。修行からこっそり抜け出してイルサバード大陸にて趣味である遺跡探訪の途中だった。彼は恋人を蘇らせるために本場の錬金術を学びに来ていたのだという。
「うわよく聞くやつじゃねェか」
「ああ確かウルダハの錬金術師ギルドのマスターもそういうことしようとしてたとアンナが言ってたな」
「でも早いうちに彼女そのものを蘇らせるのは無理だと察したみたいでねぇ。まあ並行して行っていた別の研究の手伝いをしてから別れたんだ。僕と、アリスと、あとまあ1人いたんだがそれは関係ないから置いておこう」
思い出すだけで虫唾が走る男だからなと笑ってやるとシドとネロは顔を見合わせていた。そして彼が別れる際に言っていた言葉が未だに心に刺さっていたと話す。それは『アラグの技術にクローンを作るものがあるんだと、ちょっと深堀りしてくるわ』だった。これがエルファーが聞いた最後の言葉だった。そこから何となく会いたくないから会ってない。
「うわ、ヤバいヤツじゃないか」
「バカだろ? そのアリスって男はクローンでナニしようとしてたンだよ」
「未だに無限に増えるその恋人を見せびらかす夢を見る。死んで……たらいいな」
「怖いこと言うンじゃねェぞ」
エルファーは空を見上げふっと笑う。確かに怖いのだが不老不死の術が生まれたという話は聞いたことがないので「安心しろ」と言った。
「出会ったのは妹が生まれるより前って言っただろう? 今も生きてたら120超えてる」
「レフ、お前何歳なんだ?」
「お前らの4倍位だよ? ちなみに妹は3桁ではないからな?」
シドとネロの『ジジィ』という言葉が重なった。エルファーはにこりと笑いじゃあ少しは敬えよ? と言いながら手をポンと叩く。シドの顔を至近距離で見つめ、あのムカつく男の顔を浮かべた。シドは狼狽えながら下がっている。
「成程ガーロンド君がムカつくヤツだと思った理由はあのクソ野郎と似てるからだな! ネロも最初アリスと重なったからそんなに違和感なく近付けたのね。あぁ納得した」
「オレをさっき話したヤツと同カテゴリにしやがったなオマエ!?」
「はースッキリしたそういうことか」
「いや俺もさりげなく罵られたんだがそのクソ野郎とは?」
シドは眉間にしわを寄せながら言う姿に対し「そうそうその顔が滅茶苦茶似てるんだよ」と笑い声をあげる。顔は相変わらずクシャっとしているのみで笑顔ではないのだが。
その男はかつてアリスと一緒に出会ったヒトだった。真面目で正義感が強くて不愛想のお人好しだったとため息を吐く。
「クソ野郎要素ないじゃないか」
「アレだな、同族嫌悪じゃねェか?」
「一緒にするなよ? アレはな、自分で習得しておいて得てしまった圧倒的な力に怯えて全て捨てて逃げたアホなんだわ。俺は旅人だーとか言ってさ。そういやアイツも白くてヒゲだった。思い出すだけでムカつく」
「理不尽すぎないか?」
この時シドは言葉にすることができなかった。『それどちらかというとお前の妹では?』と。絶対に口に出せばヒゲを燃やされることは分かる。ふとネロの方に目をやると同じことを考えているのかエルファーからさりげなく目を逸らしていた。
―――エルファーはまだ知らない。この後、輪にかけて"ムカつく"真実が待ち受けていることに。
#エルファー関連 #シド
自機出番なし。"捕獲"の次の日の話。
―――夢を見た。遠い過去の友人が立っている。
あの男が僕に久しぶりだなと声をかけて来た。
「なんだ生きてたのか」
「俺様を勝手に殺すんじゃねえよ」
やれやれとその金髪を揺らしながらため息を吐く。相変わらず真っ白い肌が心配になるミコッテだ。
「やっと完成したんだ 見てくれよ」
"コイツ"は僕に手を広げながら笑いかける。なんだよ、って言ってやると周りから気配を感じた。
―――金髪の女が1人、2人、3人。いやもっといる。同じ顔をした、"コイツ"の恋人。
「ほら俺様の女を蘇らせたんだ。勿論褒めてくれるよな? エルファー」
◇
「エル!!!!」
見知った人間の呼ぶ声でハッと目が覚める。飛空艇に揺られ、エルファーは周りを見回す。いない、夢だったようだ。流れる汗をぬぐい、血でないことも確認する。
「どうしただいぶうなされていたぞレフ」
「あー……ちょっと悪夢をな」
頭を掻きながら起き上がる。長い船路の途中で眠ってしまったらしい。
オメガ検証で好き勝手して逃げたら捕まってしまった次の日。シドに連れられネロと共にひんがしの国へと向かっていた。着いてからも移動が長いということで先に休むかという話になった。結局眠れるわけがないと言いながら寝ていた事実に苦笑する。ふと夢の男を思い浮かべてからネロをぼんやり見つめた。ついポロリと言葉をこぼしてしまう。
「ネロ、君が狂いきってなくてよかった」
「ハァ?」
「いや、久々に僕の友人が出てくる夢を見たんだが……これがものすごい狂ってた奴でな」
彼の名はア・リス・ティア。エルファーがこれまで出会った中では一番の天才であった。勿論目の前の2人より優れていると胸を張って言える。一言こういうものが欲しいと言うとどんな無茶でも最終的に理論を確立できる才能に憧れた面もあった。社会不適合者だったが世話をしてくれる奇麗な恋人がいたらしい。それなりに幸せな生活を送っていたようだがある時事故で失ってしまった。
そんな男に出会ったのは妹が誕生する少し前。修行からこっそり抜け出してイルサバード大陸にて趣味である遺跡探訪の途中だった。彼は恋人を蘇らせるために本場の錬金術を学びに来ていたのだという。
「うわよく聞くやつじゃねェか」
「ああ確かウルダハの錬金術師ギルドのマスターもそういうことしようとしてたとアンナが言ってたな」
「でも早いうちに彼女そのものを蘇らせるのは無理だと察したみたいでねぇ。まあ並行して行っていた別の研究の手伝いをしてから別れたんだ。僕と、アリスと、あとまあ1人いたんだがそれは関係ないから置いておこう」
思い出すだけで虫唾が走る男だからなと笑ってやるとシドとネロは顔を見合わせていた。そして彼が別れる際に言っていた言葉が未だに心に刺さっていたと話す。それは『アラグの技術にクローンを作るものがあるんだと、ちょっと深堀りしてくるわ』だった。これがエルファーが聞いた最後の言葉だった。そこから何となく会いたくないから会ってない。
「うわ、ヤバいヤツじゃないか」
「バカだろ? そのアリスって男はクローンでナニしようとしてたンだよ」
「未だに無限に増えるその恋人を見せびらかす夢を見る。死んで……たらいいな」
「怖いこと言うンじゃねェぞ」
エルファーは空を見上げふっと笑う。確かに怖いのだが不老不死の術が生まれたという話は聞いたことがないので「安心しろ」と言った。
「出会ったのは妹が生まれるより前って言っただろう? 今も生きてたら120超えてる」
「レフ、お前何歳なんだ?」
「お前らの4倍位だよ? ちなみに妹は3桁ではないからな?」
シドとネロの『ジジィ』という言葉が重なった。エルファーはにこりと笑いじゃあ少しは敬えよ? と言いながら手をポンと叩く。シドの顔を至近距離で見つめ、あのムカつく男の顔を浮かべた。シドは狼狽えながら下がっている。
「成程ガーロンド君がムカつくヤツだと思った理由はあのクソ野郎と似てるからだな! ネロも最初アリスと重なったからそんなに違和感なく近付けたのね。あぁ納得した」
「オレをさっき話したヤツと同カテゴリにしやがったなオマエ!?」
「はースッキリしたそういうことか」
「いや俺もさりげなく罵られたんだがそのクソ野郎とは?」
シドは眉間にしわを寄せながら言う姿に対し「そうそうその顔が滅茶苦茶似てるんだよ」と笑い声をあげる。顔は相変わらずクシャっとしているのみで笑顔ではないのだが。
その男はかつてアリスと一緒に出会ったヒトだった。真面目で正義感が強くて不愛想のお人好しだったとため息を吐く。
「クソ野郎要素ないじゃないか」
「アレだな、同族嫌悪じゃねェか?」
「一緒にするなよ? アレはな、自分で習得しておいて得てしまった圧倒的な力に怯えて全て捨てて逃げたアホなんだわ。俺は旅人だーとか言ってさ。そういやアイツも白くてヒゲだった。思い出すだけでムカつく」
「理不尽すぎないか?」
この時シドは言葉にすることができなかった。『それどちらかというとお前の妹では?』と。絶対に口に出せばヒゲを燃やされることは分かる。ふとネロの方に目をやると同じことを考えているのかエルファーからさりげなく目を逸らしていた。
―――エルファーはまだ知らない。この後、輪にかけて"ムカつく"真実が待ち受けていることに。
#エルファー関連 #シド
注意自機出番なし。自機兄+ネロ話。 ―――夢を見た。過去のものだ。オ…
"悪夢"
注意
自機出番なし。自機兄+ネロ話。
―――夢を見た。過去のものだ。オレが殺した人間どもが足にしがみつき、呪いの言葉を吐きながら深淵へと引きずり込む。軍人だったからそりゃ直接手にかけた時もあったし、技術者でもあったから間接的に殺す兵器だって作った。いつも自分の先に行っていたあの男の鼻を明かすためなら手段は選べなかった。
これまでの人生の集大成だった最高傑作をあっさりと斬り捨てられ、全てのしがらみから逃げ出し自由に生きることにして。赦されたいわけじゃない。今の旅は別に罪滅ぼしのためでもなく知的好奇心を満たすための自分勝手の旅だ。
過去にやった事に関しては技術の発展には犠牲はつきものと結論付けてはいるが稀に苦しむ夢は見るものだ。
目を見開き起き上がると隣で照明を引き絞り読書するメガネをかけた赤髪の男が驚いた顔で自分を見ていた。よりにもよって人がいる時に見たか。気持ち悪さにため息を吐く。
「どうした悪い夢でも見たのか?」
「オレだってそういう夢くらい見ることはある。オマエこそいつまで読書してンだ」
「あと少しで読み終わって眠る所だった。えらくうなされてたからそろそろ叩き起こそうとも思ってたが」
汗がすごいぞ、とタオルを渡された。受け取り顔を埋めながら「エル」と声を振り絞る。
「人を殺したことはあるか?」
「護人をやってるとな、色々侵入者を撃ち落としてサバいたことはある。君は……あぁ軍人だったか」
「超えたい奴がいた。そのためには軍人から成りあがるしかなかったンだよ」
「それもまた青春だ」
この時は捕えて裁判をするような文化の集落なのかと眺めていた。青春という言葉の意味は分からないが、夢の内容をこぼすと「君は優しいんだな」と奇妙なことを言われ「ハァ?」と顔を上げた。本を閉じてオレを見るエルは相変わらず不器用な笑顔を浮かべている。
「ンなわけねェだろ耳でも腐ってンのか?」
「誰にだってコンプレックスはあるさ。トラウマだってある。僕も妹が生きてるって分かるまで何度も妹が男として産まれなかったことを呪う言葉を吐いて目の前で自害される夢を見てたな。それからまともに眠れなくなっちまった」
そういえば昔あのメスバブーンは『自分がもし男だったら村全員の女性抱く予定だった』と言っていたことを思い出す。あの言葉はジョークじゃなかったのかと驚き呆れた。
「あのメスバブーンとの思い出話聞かせろ」
「ホー君が妹の話を聞きたがるとは珍しいじゃないか」
「夢と真逆な境遇でも聞いてりゃ眠れンだろ多分」
そんなものなのか? と首を傾げるエルを見ながら寝そべってやるとポツリと話し始めた。
「妹は、僕と同じく男に生まれたと思っていたんだ。毎日修行をしながら里の女性を口説いたりしてさ。イタズラも大好きでまあ元気なクソガキだったよ」
「想像出来ねェな。ていうか性別くらい生まれた時から分かるもンだろ」
「あーヴィエラはな、産まれた時は性別は表から判別できないんだ。大体第二次成長期に表層化する。妹は14歳の頃に女の子だって分かった」
エルに目をやると悲しそうな顔をしていた。何も言わずその言葉を聞く。
「僕が里に帰って来た時にはもう、妹はいなくなっていた。里の奴らが寝静まった頃に飛び出して行ってしまったらしい。あの子の性別が分かった時、僕が村にいればと今でも後悔している」
「そんなショック受けてンならオマエがいても変わンねェだろ」
「かもな。性別が発現してからあの子から笑顔が消えたんだと。誰にも触らなくなり、イタズラもやめ、毎日1人で素振りをしていたらしい。母親の言葉にも一切耳を傾けず、ある日部屋に籠って出て来なくなり、気が付いたらいなくなっていた」
目を閉じてニィと笑っている。少し眉間に皴が寄っているみたいだ。
「『大きくなったら兄さんと一緒に修行の旅に出る』って言葉が妹の目標であり、僕の活力でもあった。それが脆く崩れ去った。いなくなった僕の穴を埋めてくれたのが8人の嫁と、知的好奇心だった」
「もう離婚してるじゃねェかまたぽっかり開いてンぞ心の穴」
「そういやそうだったな。―――村の文化があの子を歪めた原因の一つだっていうのも理解しているさ。それでも何だよあの体内に構成されたドス黒いエーテルは……意味わかんねぇよ……」
これ以上は、いけないだろう。オレは震える目の前のヤツの服の裾を掴む。ちらりと濁った眼を向けられたので「寝ンぞ」って言ってやると「君が子守唄がてら話せって言ったんだろう?」と隣に寝そべる。
「最後にこれだけ聞いてくれ。妹をがむしゃらに探し回っていた時に偶然発見した墜落した飛空艇が、一番僕に生きる気力を与えてくれたんだ。機械油や青燐燃料の残っていたニオイに金属の冷たさ、精巧な芸術作品のような構造に脳が刺激されていった。だから今こうやって君と技師の真似事が出来ているのが楽しい」
「ケッ口説いてるつもりか?」
「ははっ都合のいい解釈で考えてくれて貰って構わない」
「相手が男じゃロマンスがねェな」
ゲラゲラと笑う声と大人2人が乗った寝台のきしむ音が響く。エルはメガネを外し、天井を見上げている。
「超えたかった相手のことか僕のことでも考えながら眠るんだ。妹は許さんぞ? まあとにかく視点は変わっていくんじゃないかな?」
「ガーロンドやゴリラのことを考えるなンて絶ッ対にお断りだ」
「はっはっはっ」
頬を引っ張りながら思いつく限りのガーロンドに対する罵詈雑言を吐き続ける。エルはずっと笑顔で聞き続けていた。別にヤツに対して未だにコンプレックスを持ってるわけではない。苛つくだけだ。それを目の前の男にぶつけても意味はないのだが。その苛つく原因はこのヴィエラの妹も絡んでいるのだ、言われる権利はある。
そういえばいつの間にか悪夢を見た後の気持ち悪さが消え去っていた。
#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ
自機出番なし。自機兄+ネロ話。
―――夢を見た。過去のものだ。オレが殺した人間どもが足にしがみつき、呪いの言葉を吐きながら深淵へと引きずり込む。軍人だったからそりゃ直接手にかけた時もあったし、技術者でもあったから間接的に殺す兵器だって作った。いつも自分の先に行っていたあの男の鼻を明かすためなら手段は選べなかった。
これまでの人生の集大成だった最高傑作をあっさりと斬り捨てられ、全てのしがらみから逃げ出し自由に生きることにして。赦されたいわけじゃない。今の旅は別に罪滅ぼしのためでもなく知的好奇心を満たすための自分勝手の旅だ。
過去にやった事に関しては技術の発展には犠牲はつきものと結論付けてはいるが稀に苦しむ夢は見るものだ。
目を見開き起き上がると隣で照明を引き絞り読書するメガネをかけた赤髪の男が驚いた顔で自分を見ていた。よりにもよって人がいる時に見たか。気持ち悪さにため息を吐く。
「どうした悪い夢でも見たのか?」
「オレだってそういう夢くらい見ることはある。オマエこそいつまで読書してンだ」
「あと少しで読み終わって眠る所だった。えらくうなされてたからそろそろ叩き起こそうとも思ってたが」
汗がすごいぞ、とタオルを渡された。受け取り顔を埋めながら「エル」と声を振り絞る。
「人を殺したことはあるか?」
「護人をやってるとな、色々侵入者を撃ち落としてサバいたことはある。君は……あぁ軍人だったか」
「超えたい奴がいた。そのためには軍人から成りあがるしかなかったンだよ」
「それもまた青春だ」
この時は捕えて裁判をするような文化の集落なのかと眺めていた。青春という言葉の意味は分からないが、夢の内容をこぼすと「君は優しいんだな」と奇妙なことを言われ「ハァ?」と顔を上げた。本を閉じてオレを見るエルは相変わらず不器用な笑顔を浮かべている。
「ンなわけねェだろ耳でも腐ってンのか?」
「誰にだってコンプレックスはあるさ。トラウマだってある。僕も妹が生きてるって分かるまで何度も妹が男として産まれなかったことを呪う言葉を吐いて目の前で自害される夢を見てたな。それからまともに眠れなくなっちまった」
そういえば昔あのメスバブーンは『自分がもし男だったら村全員の女性抱く予定だった』と言っていたことを思い出す。あの言葉はジョークじゃなかったのかと驚き呆れた。
「あのメスバブーンとの思い出話聞かせろ」
「ホー君が妹の話を聞きたがるとは珍しいじゃないか」
「夢と真逆な境遇でも聞いてりゃ眠れンだろ多分」
そんなものなのか? と首を傾げるエルを見ながら寝そべってやるとポツリと話し始めた。
「妹は、僕と同じく男に生まれたと思っていたんだ。毎日修行をしながら里の女性を口説いたりしてさ。イタズラも大好きでまあ元気なクソガキだったよ」
「想像出来ねェな。ていうか性別くらい生まれた時から分かるもンだろ」
「あーヴィエラはな、産まれた時は性別は表から判別できないんだ。大体第二次成長期に表層化する。妹は14歳の頃に女の子だって分かった」
エルに目をやると悲しそうな顔をしていた。何も言わずその言葉を聞く。
「僕が里に帰って来た時にはもう、妹はいなくなっていた。里の奴らが寝静まった頃に飛び出して行ってしまったらしい。あの子の性別が分かった時、僕が村にいればと今でも後悔している」
「そんなショック受けてンならオマエがいても変わンねェだろ」
「かもな。性別が発現してからあの子から笑顔が消えたんだと。誰にも触らなくなり、イタズラもやめ、毎日1人で素振りをしていたらしい。母親の言葉にも一切耳を傾けず、ある日部屋に籠って出て来なくなり、気が付いたらいなくなっていた」
目を閉じてニィと笑っている。少し眉間に皴が寄っているみたいだ。
「『大きくなったら兄さんと一緒に修行の旅に出る』って言葉が妹の目標であり、僕の活力でもあった。それが脆く崩れ去った。いなくなった僕の穴を埋めてくれたのが8人の嫁と、知的好奇心だった」
「もう離婚してるじゃねェかまたぽっかり開いてンぞ心の穴」
「そういやそうだったな。―――村の文化があの子を歪めた原因の一つだっていうのも理解しているさ。それでも何だよあの体内に構成されたドス黒いエーテルは……意味わかんねぇよ……」
これ以上は、いけないだろう。オレは震える目の前のヤツの服の裾を掴む。ちらりと濁った眼を向けられたので「寝ンぞ」って言ってやると「君が子守唄がてら話せって言ったんだろう?」と隣に寝そべる。
「最後にこれだけ聞いてくれ。妹をがむしゃらに探し回っていた時に偶然発見した墜落した飛空艇が、一番僕に生きる気力を与えてくれたんだ。機械油や青燐燃料の残っていたニオイに金属の冷たさ、精巧な芸術作品のような構造に脳が刺激されていった。だから今こうやって君と技師の真似事が出来ているのが楽しい」
「ケッ口説いてるつもりか?」
「ははっ都合のいい解釈で考えてくれて貰って構わない」
「相手が男じゃロマンスがねェな」
ゲラゲラと笑う声と大人2人が乗った寝台のきしむ音が響く。エルはメガネを外し、天井を見上げている。
「超えたかった相手のことか僕のことでも考えながら眠るんだ。妹は許さんぞ? まあとにかく視点は変わっていくんじゃないかな?」
「ガーロンドやゴリラのことを考えるなンて絶ッ対にお断りだ」
「はっはっはっ」
頬を引っ張りながら思いつく限りのガーロンドに対する罵詈雑言を吐き続ける。エルはずっと笑顔で聞き続けていた。別にヤツに対して未だにコンプレックスを持ってるわけではない。苛つくだけだ。それを目の前の男にぶつけても意味はないのだが。その苛つく原因はこのヴィエラの妹も絡んでいるのだ、言われる権利はある。
そういえばいつの間にか悪夢を見た後の気持ち悪さが消え去っていた。
#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ
旅人の兄は機工を操る
注意
自機出番なし。前半は蒼天後、後半は非光の戦士な自機兄+ネロ話。
「これがその爆弾か?」
「はい。心当たりありますか?」
ガーロンド社に持ち込まれた不審物が不思議な出来事を開く扉となった―――。
それは突然起こった。夜も更けた頃、未だに残るカストルムの一つにて爆発が起こったのだという。ガイウスが死んだ今、帝国軍自体はエオルゼアでは弱体化し、本国からの補給物資は絶てたとはいえ軍事機能は生きている。残党も残っており、稀に小競り合いが起きていた。
その内の1つが突然爆破され、それに使われた爆弾と思われるが起爆しなかったものを手に入れたエオルゼア同盟軍がガーロンド社に調査として持ち込まれる。会長のシドと複数人の社員がそれを囲み観察した。真っ白なフォルムに羽根のような模様が刻み込まれ、裏返すと見知らぬ文字が刻まれている。
「帝国産……でもなさそうッスね」
「超小型化されてパッと見では起爆装置か分からん。よく見つけたなあ」
「偶然でした。あなた方が作ったものでもなさそうですね」
「流石に戦争の火種になりそうなことはしないさ」
社員の1人が慎重にパーツを外し中身を覗く。「こりゃすごい」と感嘆する声を上げたのでシドも覗いてみた所それはシンプルな構造であった。
「シンプルで従来品よりもだいぶ軽量化されている。だが見た事のない無茶苦茶な機構だ」
「魔導機械でありながら起爆のスイッチはエーテルを反応させるものじゃないかしら? 火薬周辺に使われている部品が―――」
集まりメモを取りながらの議論が始まっている。シドはアゴ髭を触りながらその風景を眺め、専門外の来訪者にかみ砕いて解説した。
「ていうか本当に動くのか不思議な装置と思ってくれて構わない。爆発したやつの残骸はなかったのか?」
「完璧に消し飛んでいたのか調査に来た帝国兵が回収したのかまでは俺たちが知る由はありません。爆心地周辺は誰もおらず死者はなし。兵士はこれがあった場所に全員魔法で眠らされ、要塞内にあった魔導機械や資料のいくつかが盗まれてるんだと。証拠も見つからないからと調査は終わりそのカストルムは放棄された」
「なんだ盛大な強盗か? 脅威は弱まっているとはいえ実行犯は大胆すぎるだろう」
ですよね、と肩をすくめ考え込んでいる人間の姿を見ながらシドも分解されていく装置を凝視ている。
シンプルな中身と裏腹に火薬が思ったよりも込められており、もしこれが動作していたら周辺で眠っていた人間は最悪死んでいた。
「もしかしたら裏でこの装置を売り込むために試しに仕掛けたって可能性ないですか?」
社員の1人の発言で全員一瞬静止し、装置を眺める。「探りを入れておきます! ありがとうございました!」と大慌てで去って行く人間を見送りながらシドは考え込んでいた。
この装置を作れるほどの腕があるフリーの機工師は1人しか心当たりがない。しかし売り込むとはいえ祖国の基地を利用するような人間ではないはず。しかも盗みまでするというのは『絶対に』ありえない。
ということは全く知らないフリーの機工師が存在する。なんとしても、他所よりも先に尻尾を掴みたい。やらかしていることは許されるものじゃないが話くらいならできるハズだ。
「ジェシー、この犯人をどうにか調査するように依頼しておいてくれないか」
「会長まさかこの人雇うとか言い出しませんよね!?」
「いや見てみたいだろ? こんな妙な技術持ちだ。俺たちとはまた違う視線を持った人間なんてそう会えんぞ」
「火傷しても知りませんからね」
シドは肩をすくめ、部屋を後にした。
◇
―――後の調査の結果、そういった爆発物を売り込む人間は存在しなかったという。エオルゼア同盟軍でもただの純粋な物盗りだろうと帝国側と同じ結論に落ち着いた。
それは俺たち周辺でも奇妙な現象が起こっているので考える暇が無くなったというのも大きい。
どうやらエオルゼア各地で"修理屋"が現れたという。各所に導入されている機械装置が壊れ困っているところにほぼ無償で修理するどころか"改善"していく輩がいると定期メンテナンスを行っている社員らから報告を受けた時は眩暈がした。特徴を聞く限りでは腐れ縁のフリーランスでもないというのが余計に頭痛の種になる。しかもシンプルで、無茶苦茶な仕様だ。明らかに爆弾犯と同一人物である。
「なんとしても! この人間を! とっ捕まえろ!!」
昼下がり、そんな怒り狂ったシドの叫び声が聞こえたとか聞こえなかったとか。
◇
―――一方その頃。
「オマエ、マジで無茶ばっかしてンだな」
金髪の男はそこは妹と一緒かよと言いながら作業をする男を眺める。当の相手は目の前の装置の中身と睨み合っていた。
2人が出会ったのは数日前。偶然移動していた森の中でネロの前に現れたのは褐色赤髪ヴィエラの男。独学で魔導技術を学んでいる技術者気質であの女の兄という部分が程々に興味を持ったので共に行動するようになっている。といっても普段は姿を消して手を上げて呼べば現れる奇妙な男だったが。
「妹に見つかったら困るんだ」
これが目の前の男、アンナの兄エルファーの口癖である。だから奇妙な魔導ビットを飛ばして離れた場所から観測したりしていたらしい。流石に妹付近に飛ばせば一瞬でバレるらしくネロを起点に追いかけていたと悪びれずに答えている。
一度会ったことはあった。あれは幕僚長時代、アーマーを纏いタイタンのエーテル監視を行っていた所に現れた。顔は見られていなかったはずなのに記憶に残っていたエーテルの色だけでストーカーを決める勢いがネロにとっては恐ろしい。
話を聞くと妹の過去を探るために内緒でエオルゼア中を探しているらしい。最初こそは暁の血盟の盟主とも協力関係を結んでいたらしいが、結局空振りで途絶えた。『妹と一番仲のいい人間らしいシド・ガーロンドは手紙を読む限りすぐに表情に出て妹にバレるから会えん。だから同じ雰囲気でかつ一度だけ手紙に記述があったネロに目を付けた』と笑みを浮かべていた。
恐ろしい所が、この男は風の噂で聞いた少し前で起こったカストルム爆発騒動の犯人である。犯行理由はアシエンについて調べたかった。魔導装置と一部書類は勉強のために貰い、爆発は手がかり持っていなかった腹いせということだった。
「オレが真っ先に疑われてたンだぞ」
「だから責任取って君に捕まってあげただろう?」
「理屈がメスバブーンみたいに無茶苦茶すぎンだろ!」
「アァン? 僕の妹がゴリラって言いてぇのかぁ?」
「オマエはアレの戦いを見たことねェから言えンだよ」
グリダニアにてエオルゼア同盟軍や暁の連中、シドと顔を合わせた時にまとめられた設計図を突き付けられたことを思い出す。全く心当たりがない身からしたら不愉快極まりなかった。しかも作動しなかったのが奇跡な程度に無駄にしっかりとしたものだった。興味ついでに絶対捕まえてやると思っていた矢先に現れたのがまさかのエオルゼアの英雄と呼ばれる人間の血縁者である。この事実をシドらに伝えたらどうなるのだろうか。面白そうだがしばらくは放置でいい。
「よし、これで修理完了だ。ご主人、動かしてみてくれ」
蓋を閉じ、外の人間に声をかけている。この男がやっていた行為に『絶対ガーロンドキレるな』と思いながら試運転を見守っていた。想定通りにかつ従来品より静かに動く装置に店主は満足し、報酬を渡そうとしたが拒否している。『あ、こりゃ絶対ガーロンド躍起になって探すな』と苦笑しながら代わりに報酬の交渉をしながら踵を返し歩き去ろうとするエルファーを掴んだ。
「報酬は貰いな。今後商売でアレをメンテする奴らの身になれ」
「素人がやったことに金を貰うのは迷惑だろう?」
「勝手に改造してる奴が何言ってンだ」
そういうものなのかとぼやく確実に自分よりも年上なくせに世間知らずのエルファーを尻目に店主との交渉は続く。
終わった頃には日が暮れ始め、近くの隠れ家で一夜過ごすことにする。結局報酬は少しだけ安めに貰い、装置を作った腐れ縁の会社の顔に泥を塗らない程度にはフォローを入れておいた。
その肝心のエルファーは置かれている書物にかじりつき離れない。眺めながらため息を吐いた。
「オマエその知識どこで手に入れたンだ?」
「昔から修行の合間に色んな遺跡に忍び込んだりしててね。いにしえの技術を調べる機会はいくらでもあったんだわ」
「妹は知ってンのか?」
「ふむ手先が器用ってしか言ってないから知らないと思う。65年会ってなかったんだぞ?」
「あの女自分のこと26歳やら40歳やら言ってンぞ」
「はっはっはっなんて可愛い妹だ」
シスコンが、という言葉を飲み込み寝台に寝そべり以前シドから見せられた爆破装置の設計図を目にやる。あの男は遠隔から火のエーテルを注入して爆破させるものと評していたがネロの目線では全く違うものだと判断していた。
「エーテルで張り巡らせた糸で伝播させて誘爆する装置とか普通の人間は作らねェぞ」
「いやあまさか不発でしかも人に発見されるとは予想しなかった。すまないすまない」
「後ろに刻まれている文字が起爆のトリガーだろ? 分解時よく爆発しなかったな」
「万が一のために繋がった糸が切り離された地点でガラクタになるようにしてるんだ。動いた実物見ずに設計図だけで判断できるのはすげえな、天才機工師様」
「調査した奴らの報告書が程々にお上手だったンだよ。ま、ガーロンドも自分で全部分解してたら気付いただろうな。そんな仕様が分かってもオマエの扱いなンてどうしようもねェだろ」
気軽に量産できてかつ足付かないルートから手に入る材料を考えるとこれしかなくてなと書物から目を離さず話をしていた。「もうやるんじゃねェぞ」と言うと「さすがに派手にやりすぎたからな」とヘタクソな笑みを見せている。
エルファーとの会話は程々に弾むものだった。振った話題は大体返ってくる。アラグ文明の技術関連の話や各地の伝承、昔読んだ物語に加えて機械装置の相談まで全て会話が成立した。妹の話さえしなければ完璧な技術者である。帝国外に彼のような存在がいるとは予想もしなかったというのが本音であり、そこは『流浪の旅をしてみるもンだな』と思っていた。
何と言えばいいのか―――そうか、助手のポジションにあっという間に収まっていったのが不思議な話である。
#エルファー関連,#ヴィエラ♂+ネロ
自機出番なし。前半は蒼天後、後半は非光の戦士な自機兄+ネロ話。
「これがその爆弾か?」
「はい。心当たりありますか?」
ガーロンド社に持ち込まれた不審物が不思議な出来事を開く扉となった―――。
それは突然起こった。夜も更けた頃、未だに残るカストルムの一つにて爆発が起こったのだという。ガイウスが死んだ今、帝国軍自体はエオルゼアでは弱体化し、本国からの補給物資は絶てたとはいえ軍事機能は生きている。残党も残っており、稀に小競り合いが起きていた。
その内の1つが突然爆破され、それに使われた爆弾と思われるが起爆しなかったものを手に入れたエオルゼア同盟軍がガーロンド社に調査として持ち込まれる。会長のシドと複数人の社員がそれを囲み観察した。真っ白なフォルムに羽根のような模様が刻み込まれ、裏返すと見知らぬ文字が刻まれている。
「帝国産……でもなさそうッスね」
「超小型化されてパッと見では起爆装置か分からん。よく見つけたなあ」
「偶然でした。あなた方が作ったものでもなさそうですね」
「流石に戦争の火種になりそうなことはしないさ」
社員の1人が慎重にパーツを外し中身を覗く。「こりゃすごい」と感嘆する声を上げたのでシドも覗いてみた所それはシンプルな構造であった。
「シンプルで従来品よりもだいぶ軽量化されている。だが見た事のない無茶苦茶な機構だ」
「魔導機械でありながら起爆のスイッチはエーテルを反応させるものじゃないかしら? 火薬周辺に使われている部品が―――」
集まりメモを取りながらの議論が始まっている。シドはアゴ髭を触りながらその風景を眺め、専門外の来訪者にかみ砕いて解説した。
「ていうか本当に動くのか不思議な装置と思ってくれて構わない。爆発したやつの残骸はなかったのか?」
「完璧に消し飛んでいたのか調査に来た帝国兵が回収したのかまでは俺たちが知る由はありません。爆心地周辺は誰もおらず死者はなし。兵士はこれがあった場所に全員魔法で眠らされ、要塞内にあった魔導機械や資料のいくつかが盗まれてるんだと。証拠も見つからないからと調査は終わりそのカストルムは放棄された」
「なんだ盛大な強盗か? 脅威は弱まっているとはいえ実行犯は大胆すぎるだろう」
ですよね、と肩をすくめ考え込んでいる人間の姿を見ながらシドも分解されていく装置を凝視ている。
シンプルな中身と裏腹に火薬が思ったよりも込められており、もしこれが動作していたら周辺で眠っていた人間は最悪死んでいた。
「もしかしたら裏でこの装置を売り込むために試しに仕掛けたって可能性ないですか?」
社員の1人の発言で全員一瞬静止し、装置を眺める。「探りを入れておきます! ありがとうございました!」と大慌てで去って行く人間を見送りながらシドは考え込んでいた。
この装置を作れるほどの腕があるフリーの機工師は1人しか心当たりがない。しかし売り込むとはいえ祖国の基地を利用するような人間ではないはず。しかも盗みまでするというのは『絶対に』ありえない。
ということは全く知らないフリーの機工師が存在する。なんとしても、他所よりも先に尻尾を掴みたい。やらかしていることは許されるものじゃないが話くらいならできるハズだ。
「ジェシー、この犯人をどうにか調査するように依頼しておいてくれないか」
「会長まさかこの人雇うとか言い出しませんよね!?」
「いや見てみたいだろ? こんな妙な技術持ちだ。俺たちとはまた違う視線を持った人間なんてそう会えんぞ」
「火傷しても知りませんからね」
シドは肩をすくめ、部屋を後にした。
◇
―――後の調査の結果、そういった爆発物を売り込む人間は存在しなかったという。エオルゼア同盟軍でもただの純粋な物盗りだろうと帝国側と同じ結論に落ち着いた。
それは俺たち周辺でも奇妙な現象が起こっているので考える暇が無くなったというのも大きい。
どうやらエオルゼア各地で"修理屋"が現れたという。各所に導入されている機械装置が壊れ困っているところにほぼ無償で修理するどころか"改善"していく輩がいると定期メンテナンスを行っている社員らから報告を受けた時は眩暈がした。特徴を聞く限りでは腐れ縁のフリーランスでもないというのが余計に頭痛の種になる。しかもシンプルで、無茶苦茶な仕様だ。明らかに爆弾犯と同一人物である。
「なんとしても! この人間を! とっ捕まえろ!!」
昼下がり、そんな怒り狂ったシドの叫び声が聞こえたとか聞こえなかったとか。
◇
―――一方その頃。
「オマエ、マジで無茶ばっかしてンだな」
金髪の男はそこは妹と一緒かよと言いながら作業をする男を眺める。当の相手は目の前の装置の中身と睨み合っていた。
2人が出会ったのは数日前。偶然移動していた森の中でネロの前に現れたのは褐色赤髪ヴィエラの男。独学で魔導技術を学んでいる技術者気質であの女の兄という部分が程々に興味を持ったので共に行動するようになっている。といっても普段は姿を消して手を上げて呼べば現れる奇妙な男だったが。
「妹に見つかったら困るんだ」
これが目の前の男、アンナの兄エルファーの口癖である。だから奇妙な魔導ビットを飛ばして離れた場所から観測したりしていたらしい。流石に妹付近に飛ばせば一瞬でバレるらしくネロを起点に追いかけていたと悪びれずに答えている。
一度会ったことはあった。あれは幕僚長時代、アーマーを纏いタイタンのエーテル監視を行っていた所に現れた。顔は見られていなかったはずなのに記憶に残っていたエーテルの色だけでストーカーを決める勢いがネロにとっては恐ろしい。
話を聞くと妹の過去を探るために内緒でエオルゼア中を探しているらしい。最初こそは暁の血盟の盟主とも協力関係を結んでいたらしいが、結局空振りで途絶えた。『妹と一番仲のいい人間らしいシド・ガーロンドは手紙を読む限りすぐに表情に出て妹にバレるから会えん。だから同じ雰囲気でかつ一度だけ手紙に記述があったネロに目を付けた』と笑みを浮かべていた。
恐ろしい所が、この男は風の噂で聞いた少し前で起こったカストルム爆発騒動の犯人である。犯行理由はアシエンについて調べたかった。魔導装置と一部書類は勉強のために貰い、爆発は手がかり持っていなかった腹いせということだった。
「オレが真っ先に疑われてたンだぞ」
「だから責任取って君に捕まってあげただろう?」
「理屈がメスバブーンみたいに無茶苦茶すぎンだろ!」
「アァン? 僕の妹がゴリラって言いてぇのかぁ?」
「オマエはアレの戦いを見たことねェから言えンだよ」
グリダニアにてエオルゼア同盟軍や暁の連中、シドと顔を合わせた時にまとめられた設計図を突き付けられたことを思い出す。全く心当たりがない身からしたら不愉快極まりなかった。しかも作動しなかったのが奇跡な程度に無駄にしっかりとしたものだった。興味ついでに絶対捕まえてやると思っていた矢先に現れたのがまさかのエオルゼアの英雄と呼ばれる人間の血縁者である。この事実をシドらに伝えたらどうなるのだろうか。面白そうだがしばらくは放置でいい。
「よし、これで修理完了だ。ご主人、動かしてみてくれ」
蓋を閉じ、外の人間に声をかけている。この男がやっていた行為に『絶対ガーロンドキレるな』と思いながら試運転を見守っていた。想定通りにかつ従来品より静かに動く装置に店主は満足し、報酬を渡そうとしたが拒否している。『あ、こりゃ絶対ガーロンド躍起になって探すな』と苦笑しながら代わりに報酬の交渉をしながら踵を返し歩き去ろうとするエルファーを掴んだ。
「報酬は貰いな。今後商売でアレをメンテする奴らの身になれ」
「素人がやったことに金を貰うのは迷惑だろう?」
「勝手に改造してる奴が何言ってンだ」
そういうものなのかとぼやく確実に自分よりも年上なくせに世間知らずのエルファーを尻目に店主との交渉は続く。
終わった頃には日が暮れ始め、近くの隠れ家で一夜過ごすことにする。結局報酬は少しだけ安めに貰い、装置を作った腐れ縁の会社の顔に泥を塗らない程度にはフォローを入れておいた。
その肝心のエルファーは置かれている書物にかじりつき離れない。眺めながらため息を吐いた。
「オマエその知識どこで手に入れたンだ?」
「昔から修行の合間に色んな遺跡に忍び込んだりしててね。いにしえの技術を調べる機会はいくらでもあったんだわ」
「妹は知ってンのか?」
「ふむ手先が器用ってしか言ってないから知らないと思う。65年会ってなかったんだぞ?」
「あの女自分のこと26歳やら40歳やら言ってンぞ」
「はっはっはっなんて可愛い妹だ」
シスコンが、という言葉を飲み込み寝台に寝そべり以前シドから見せられた爆破装置の設計図を目にやる。あの男は遠隔から火のエーテルを注入して爆破させるものと評していたがネロの目線では全く違うものだと判断していた。
「エーテルで張り巡らせた糸で伝播させて誘爆する装置とか普通の人間は作らねェぞ」
「いやあまさか不発でしかも人に発見されるとは予想しなかった。すまないすまない」
「後ろに刻まれている文字が起爆のトリガーだろ? 分解時よく爆発しなかったな」
「万が一のために繋がった糸が切り離された地点でガラクタになるようにしてるんだ。動いた実物見ずに設計図だけで判断できるのはすげえな、天才機工師様」
「調査した奴らの報告書が程々にお上手だったンだよ。ま、ガーロンドも自分で全部分解してたら気付いただろうな。そんな仕様が分かってもオマエの扱いなンてどうしようもねェだろ」
気軽に量産できてかつ足付かないルートから手に入る材料を考えるとこれしかなくてなと書物から目を離さず話をしていた。「もうやるんじゃねェぞ」と言うと「さすがに派手にやりすぎたからな」とヘタクソな笑みを見せている。
エルファーとの会話は程々に弾むものだった。振った話題は大体返ってくる。アラグ文明の技術関連の話や各地の伝承、昔読んだ物語に加えて機械装置の相談まで全て会話が成立した。妹の話さえしなければ完璧な技術者である。帝国外に彼のような存在がいるとは予想もしなかったというのが本音であり、そこは『流浪の旅をしてみるもンだな』と思っていた。
何と言えばいいのか―――そうか、助手のポジションにあっという間に収まっていったのが不思議な話である。
#エルファー関連,#ヴィエラ♂+ネロ
表題でカットしたネロとエルファーサイドの話。
一服は、嘘ではない。それよりも外の男が心配だった。「エル」と声をかけると赤髪のヴィエラはゆっくりと口を開いた。
「……長い耳舐めんな。全部聞こえた」
石碑の前に座り込んでいる。顔を凝視すると涙を拭った痕跡が見えた。こちらに来ると気付いて急いでこすったのだろう。
「クソが。だからコイツ嫌い」
「まさかガーロンドと似てるつって毒吐いてた奴が」
煙草を取り出し咥えるとエルファーは指をパチンと鳴らし火が灯された。
「臆病者。本質は年を取っても変わらず。大方妹を雑な扱いして死んだら僕に殺されるって思ってたんだろ」
眉間に皴を寄せる。空に手を伸ばし、吐き捨てる。
「まさか"僕ら"が作った理論を妹が使いこなすようになるとは予想外」
「そりゃどういうもンだよ」
「"奥義:流星"、門外不出。それに―――科学で解明できないものなんて嫌いだろう?」
火事場の馬鹿力を表層的なものにした錬金術由来のモノ、って感じかな? と言うとネロは眉間に皴を寄せ煙を吐いた。
「ほーら嫌な顔。僕だって現実感皆無で嫌い」
「そーだな。だがな、エル。オレはオマエのことだけはもっと知りてェなァ」
笑ってやるとエルファーも釣られたように口元が持ち上がった。笑っているつもりなのだろう。
「でもきっとそのリンドウと自分が似てるなンてガーロンドにバレたら不味くね。嫉妬でバグるぜ?」
「ありえる。ほらこれ、当時描いてもらった」
懐から取り出した劣化防止された紙を眺める。それには3人の男が描かれていた。
中央にいる片目を髪で隠したヴィエラ、背の低い笑顔を見せるミコッテの男、そして背の高いエレゼンの男。
「そのエレゼンがリン。ハーフガレアンだったんだよ」
「はぁ!?」
「言っただろう? 親の影響でエーテル操作が下手だったって。まあそういうこと。多分妹も知らない。酒の席で樽2個飲ませてようやく口を割った」
「こわ」
3人が出会った頃はまだガレマール共和国時代であった。父親は鎌を持つとある集落の"農耕民族"だったが生活苦で亡命。オサードで呪術士として旅をしていた母親に出会ったらしい。そして成人後、強くなるために父が持っていたものやエーテルとはまた違う技術に頼ることにした。各地を旅する内にサベネア島に辿り着き、現地人と話をしていたアリスとエルファーに出会うこととなる。
「やべェな。共和国時代か。何つーか昔すぎる話に現実感がねェ」
「言っただろう? 僕は君が思っているより年より上。―――不思議な男だったよ。第一印象は、な。その後、ラザハンの伝承で面白そうなものがあってね。アリスが理論をこね、僕が協力して形作る。んで、全てリンの体で実験、実証」
「実験、ねェ」
「はっはっはいっぱい苦しめてやった。その結果魂自体も少し歪んだ。そのドス黒い闇の歪みがな、実は今の妹にもある」
「―――は?」
「察してた。だが、信じたくない。僕が関わった研究でバケモノにしてしまった事実から目を背けたかった。だから自分の好奇心を満たす旅を優先した。最低だろう?」
君の前に現れたのも本当はそれが理由だったと目を細め、石碑を撫でる。ネロは吸殻を踏みつぶし、隣に座った。
「あの野郎の手紙に"継承"とあったみたいだが理論だけではない。文字通りリンの全てを魂ごと受け継いでるんだよ。細かいクセも影響されたというには忠実すぎる。完璧にアリスのアホも一枚噛んでるな」
「ンなこと出来ンのか? 聞いたことねェぞ。ていうかオマエ魂視れンの?」
「昔色々あった。―――アリスならありえる。しかもその上でアシエンに魂を弄られている。挙句の果てにハイデリンの加護だぁ? 笑える。何で妹ばっかりこんな目に遭わないといけない」
エルファーは苦虫を嚙み潰したような顔を見せ、拳を握り締める。
「正直に言う。正気なのが奇跡。―――それは多分リンの教えで自らを縛り、ガーロンドクンがいたから人の形を保っているんだと思う。それが無い今の妹はきっとハイデリンの加護が全て。アシエンに保証されてるとは思いたくない」
「ナァ」
ネロはうじうじとマイナス方向に考えを張り巡らせるエルファーの思考を打ち切るように声をかける。
「もう妹以外のこと考えねェか? ずっと現実から目を背けてこのオレ様とイイコトでもしようぜ?」
目を見開き少しだけ慌てた顔をしているのを見てゲラゲラ笑う。「か、からかうんじゃない」と咳ばらいをしながら小突いた。
「そうだな、妹は大丈夫。あの子は強い。どれもこれも全てリンとガーロンドクンのせい。アイツらが似てるのが悪い、うん」
「ああそうだガーロンドが悪い。しかし余計にバレたら機嫌悪くなりそうな話だなァ」
「だな。今の話は無しだ」
立ち上がり、鞄からミネラルウォーターを取り出しそのまま石碑に注ぐ。
「アリス共々冥府で頭冷やせ。あと100年位したらそっちに行ってやるから指くわえて待ってろ。―――よし、ネロ。さっきから気になってたモンが家の中にある。見に行こう」
前髪を払い左の紅色の目を開き口角を上げた。
Wavebox
#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ