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No.56

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注意次元の狭間オメガ途中の自機兄+ネロ短編6本。  "悩み&…

紅蓮,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

紅蓮,ネタバレ有り

旅人の兄が歩んだ短編集2
注意
次元の狭間オメガ途中の自機兄+ネロ短編6本。
 
"悩み"
―――レフというヒトは存在するのか、オメガを追いかけながらのもう一つの悩みが俺に襲いかかる。

「シド、悩み事?」
「よ、アンナ。まあそうだな―――最近この辺りに妙なヤツが現れたんだ」

 最近起こっている妙な出来事をふらりと現れたアンナに話す。
 ネロにレフという助手が出来ていること、ラールガーズリーチのどこかにいるらしいことに、社員が欲しい備品や装置をぼやいたら次の日に置かれていること。一度試しに俺もぼやいてみたが何もくれなかったこと。ネロに話したらゲラゲラ笑われたんだと言うとアンナはクスクス笑っている。

「お前も笑うのか」
「ごめんごめん。シドその人に何かした?」
「挨拶どころか顔すら合わせてない人間に何かしたと思うか? あったとしても身に覚えのない一方的な恨みくらいだ」
「だよね」

 思い返してもそのレフという人間に心当たりはない。レフという技術者に会ったことはあるか? と聞いてみるが「知らない」と大げさに肩をすくめた。

「忍者な技師とか属性過多だね」
「単刀直入に言うと検証の協力もして欲しいんだがネロによると断られてるんだとか」
「シド嫌われすぎてない? 大丈夫?」

 アンナの可哀想なモノを見る目が痛い。だから俺が何をしたと言うのか。

「私もネロが隅で独り言を言ってるのを見た。それがレフって人との会話?」
「だと思うんだが……出来ればお前の方でも聞いてみてほしい」
「覚えてたら」

 腕組みしながらアンナは「レフ、かぁ……」とボソと呟いた。「どうした?」と聞くと耳元に近付き、「私の兄、名前にレフって入ってる。手先が器用で隠密行動が得意。偶然ーって思っただけ」と囁く。目を丸くして見やると肩をすくめながら人差し指を口元に当てる。そうか、気が付いたらモノが届けられるということはレフとやらがどこかで聞き耳を立てている可能性が高いのか。俺も極力小さな声で「そりゃすごい偶然だな」と言ってやるとアンナはふふふと笑った。



「ククッ」

 少し離れた場所で男の笑い声が響く。

『何やってンだ?』

 リンクパールから男の声が聞こえる。通話中だということを思い出しすまんと謝罪する。

「いやガーロンドくんが遂に我が妹に俺の話題を出しやがったんだ」
『ヘェ』
「今思うと割とマジでガーロンドくんに会わなくてよかったな。滅茶苦茶仲良すぎてポンポン余計なことを喋りやがる。僕は距離を置かれているというのに許さん……」
『そーだな気配でメスバブーンにバレるぞ』

 取り寄せに行った資料を手に持ち立ち上がる。「今から部屋に持って行く」と言うと短い返事が戻って来た。
 近いうちにネロに妹へ言っておいて欲しい言葉でも考えるかと脳を切り替えながらニィと笑う。

 
"秘密"
 アンナ・サリスは祖国の怪談だった。異常な強さとあの赤髪は確かによく考えなくてもそうだろう。まあ秘密にしてろと言われてるので心の中に仕舞い込んだ。ガーロンドに言う気はないが、一つ問題がある。

―――エルに言うべきだろうか。多分これはヤツが探している妹が変質した原因の一つだ。そう思うと言わない方がいい。単身帝国に乗り込み暴れ回る未来が見える。彼女を見初めたのであろう人間はもう死んでいるのに。

 この男は妹程強くはないのだ。あっという間に潰されてしまう。そんな姿を見るのは絶対にイヤだ。
 よく分からない感情を持ちながら俺は「機嫌取りしたいさせてさせろネロサン」と言いながら肩を粉砕しようとするメスバブーンを「そういうのは口に出すンじゃねェ」と押しのけガーロンドの無言の睨みから逸らすように目を閉じる。

 
"痛み"
「おいエル喋っても大丈夫だ」
『珍しいじゃないかガーロンドくんたちは?』
「……まあ今はいない。それより調べて欲しいものが、ある」

 基本的に聞かせたらマズい時以外は情報共有の為リンクパール通信は繋ぎっぱなしにしていた。1人になった隙にオメガの尖兵にやられ、何とか起き上がりながらも検証のための準備を進める。

『様子がおかしいぞ。何があった』

 流石複数人の妻を愛していただけあり察する能力は高いようだ。

「何かあったって思ってンなら、喋り続けてくれ。静かだと意識飛ばしそうなンだわ」
『オメガにやられたか? クソッガーロンドくんは何をやってるんだ……まあいい。調べて欲しいデータとは?』
「滅茶苦茶な敵のデータを手に入れた。解析するためのヒントが欲しいコイツについての文献を漁れ。名前は―――」

 オレはとにかくエルに話をさせた。そうしないと痛みで意識がトんでしまいそうだ。コイツを置いて、逝くわけにはいかない。何やらかすか考えたくないしアンナにも、ガーロンドにも渡したくねェんだ。オレの方が天才で、自分の技術でクソッタレな機械の鼻を明かしてやらなきゃ気が済まない。
 モニターと睨み合い、通話相手の声を聞きながら気合を入れる。



 様子がおかしいネロの頼みを聞きながら僕はとにかく話を続けてやった。徐々に息が荒くなりながらも事象の究明のための資料を指名する。僕は古書屋にて資料になりそうなモノを探し、店主に押し付けた。領収書をもらい走りながらその資料を読み上げた。くだらない話も振ってやったしガーロンドくんの判断力のなさにため息を吐いた。
 ビッグスとウェッジという部下が目を離した隙に襲撃をされたというのに何故1人にしやがった。オメガを舐めすぎだろう。まあ僕も表舞台には一切現れず裏方に徹しているので強くは言えないのだが。

 大ケガで運び込まれたネロを見た時、僕は思い詰めている男のヒゲでもこっそり焼いてやりたかったが、痛みで苦しそうな顔が見えた時、何とも言えない感情が僕の手を止めた。優しすぎる、それがこのシド・ガーロンドという男に対して抱いた感想だ。何かあればすぐに自分の責任にし、思いつめた顔をする。それに加え宥めようとする妹を見てふざけた怒りを振り上げようとは思えない。

 僕に出来ること……簡単だ。少しだけ、助けてあげることしかないだろう。

 
"接触"
「シダテル・ボズヤ事変、か」

 会長代理と我が妹の会話を少し遠くで盗み聞きしながら僕はため息を吐く。噂を耳にしたことはあったがまさかあの野郎のお父様がやらかしたものとは思わなかった。落ち込んでたなぁちょっとくらいは助けてやるかと翌日覗いたらちゃっかり妹に手を出しやがった。そんな会長サマはトラウマに手を震わせながらオメガを倒す最終兵器を作成し、レディに仕上げを任せて"2人"で大穴へと向かう。正直助走をつけてブン殴りたかったのだがネロと妹が期待をかけている相手だ、その感情は心の中に仕舞い込んだ。工房に消えて行った会長代理のレディを追いかける。ガーロンドくんが残した物の前に立ち止まり、資料に目を通そうとする瞬間、僕は「お困りかな? レディ」声をかけてやった。

 彼女はビクリと身体が跳ね振り向いた。「誰、あなた」と怪訝な目で僕を観察している。制服を見て、何かを察したらしい。

「まさかあなたが」
「ネロから聞いているだろう? ようやく人前に顔を出す勇気が湧いたんだ」
「あ、あなたが……」

 歓迎されるか、それとも追い出されるか。反応をうかがっていると僕を睨む。

「あなたがさっさと出て来て会長たちのフォローを入れてたらもっと早く終わってたんですけど!?」

 まさかお説教と思わなかったな。さすがという所だ。



「あなたがどういう存在かの予想もついてるわ。カストルム爆破事件の犯人で各地の装置を改造しまくった極悪人でしょう!」
「ホー証拠は?」
「全部同じ羽根のマークを入れてるじゃない! 会長はまだ気付いてないけど時間の問題よ。何でネロと行動してるの?」

 洞察力が高いレディで助かる。まあ説教はいつか受け入れるとして。

「それより装置を急がなくてもいいのかな? 僕も彼らが戻って来るより前に撤退したいんだ。まだバレたくないもんでね」
「……分かったわ。今は会長には黙っておくから手伝ってちょうだい。でもアレンジは禁止よ」
「この短時間でデータを読み込んで改造するのは無理だ。僕は天才たちとは違うのでね」

 本場の技術を読み込めるチャンスなのだ。逃すわけにはいかない。ニィと笑い「さあ新入社員にご教授願いたい」と言うと、社員にした覚えはないわよと隣を開けてくれた。「そのフードとメガネは取らないのかしら?」と聞かれたので「見せられる顔ではないので申し訳ない、レディ」とフードを深く被った。



 突然現れた男にどこかデジャヴ感を抱く。
 フードを深く被り先が見えているのか心配なメガネを付けた前髪で片眼を隠した男は会長に仕上げを頼まれた直後急に降り立った。
 目を凝らすと緑目と赤色の髪先が見える。そして少しだけはみ出た長い耳の端。バレたくない理由―――まさかね。
 ジェシーが組み立てていく装置をじっと見ながら資料を確認する姿は悪い人間ではなさそうだった。

 とりあえず「爆発事件の動機は?」とだけ聞くと「欲しい情報がなかったからむしゃくしゃしてやっただけだ。後ろ暗い理由はない」とだけ答え、パーツを手渡された。じゃあ早々に自首したらよかったのにと思いながら受け取り、取り付けていく。
 会話する限り世間を知らない人間というわけでもなく、理解の早さも相まってあっという間に会長に頼まれた装置が完成した。「ありがとう」とお礼を言おうとすると既に隣にはおらず扉に向かっていた。「コーヒー位飲んでいって」と言うと頭を掻きながら「レディのお誘いは断れないな」と不器用な笑顔を見せた。ケトルで湯を沸かしている間に少しだけ話を聞く。

「ネロとはいつから行動してるの?」
「君たちがオメガを起動した後」
「得意分野は?」
「君たちの会長くんやネロ程じゃないけどまあエーテル工学絡みかな」
「爆弾の仕様」
「複数個にエーテルを編み込んだ糸を張った誘爆方式」
「製造場所」
「帝国基地から拝借」
「捕まる前にウチの社員になって」

 肩を掴み「給料はちゃんと出すから」と言ってやると「今はちょっと、な」と窘められる。

「今君のところの会長くんに会ったら多分殴り飛ばしそうだから少し時間が欲しいんだ。魅力的なお誘いに感謝するよ、レディ」
「あらウチの会長と何か因縁でも?」
「天才機工師くんが傷で寝込んでいる間に女の子とよろしくセックスしてた脳みそお花畑の部下になるのは今はごめんだ」

 コーヒーありがとうとマグカップを持ちながら外へと消えた。ジェシーの笑顔が一瞬固まり、そして「…………はい?」という声しか引き出すことが出来なかった。

 最後の発言でジェシーは一つだけわかったことがある。このデリカシーの無さを見るに先程までいた男は絶対、アンナの血縁者である。そういえば兄がいると言っていた。星芒祭の時に話題を出していたし、置かれていた懐中時計も思い返せば羽根の意匠が彫り込まれていた。ということは今レフという男がキレている理由は、会長は遂に―――

「ここで知りたくはなかったわ……」

 
"逃走"
 いつまでもうじうじするシドに発破をかけた後、オメガジャマーが完成され、2人と1匹はオメガの元へ向かったらしい。エルの言葉にネロはニィと笑う。

「そうか、じゃアンナが勝つな」
「ああ。というわけで僕は先に雲隠れさせてもらう」

 ハァ? と首を傾げるのでエルはニコリと笑う。

「我が妹に手を出した野郎の顔を見たら殴りたくなるからな。とりあえず動けるようになったら連絡が欲しい。迎えに行こう」
「ケッ、ガーロンドの様子がおかしかったのはやっぱそういうことなンだな」

 ネロは荷物いくつか預かっておくと言われたのでそばに置いていた鞄を渡した。エルは即一番上にあった錠が付いた本を見つける。これは何か、と聞くとネロは頭を掻く。

「お前の妹が死ンだらガーロンドに渡せって押し付けて来たンだよ」
「妹が死ぬわけないじゃないか」
「……オレも思ってンだよ。まあまた隠れ家に戻ったらその錠と鎖を解析してみようじゃねェか。オマエの愛しの妹ちゃんが特別に作ったンだってよ」

 前髪をかき上げて隠していた片方の紅色の目を細めながらエルは鎖を眺めている。「確かに、特殊な仕様だ。面白い」と呟きながらそれを鞄にしまった。
 普段はほぼ右目だけで生活をしているが本格的にエーテルを視る時だけその隠している紅色を見せる。髪を切らないのかとネロは聞いたことがある。すると一言だけ「色々視えすぎて困るんだ」返された。どんな世界が視えているのだろうかと少しだけ想いを馳せてみたことがある。エーテル視は自らの魔力を削りながら行使するものと聞いた。さすがに視力を失った賢人のように常に命を削るような行為をしているわけではないだろう。続けているのなら止めてやりたい。

「じゃあよろしくな」

 エルは大人しく傷を治せよな、と不器用な笑顔を見せながらネロを撫で、足早に行ってしまった。

「どうしてあの兄妹はいい年した大人を子ども扱いするンだよと」

 ため息を吐き、野戦病院の天井を見上げた。

 数日後、オメガの検証が終わった2人と1匹の喧騒と報告を聞き遂げ、アンナから約束だと渡された故郷の薬とやらを飲み動けるようになったのでエルを呼びラールガーズリーチを後にした。

 
"残された者"
「なんだこの領収書の量はふざけるんじゃないぞネロ!!」

 膨大な量の領収書に目を通しながら怒るシドをジェシーはため息を吐いた。

「というか機材代は置いておいて本はいつ手に入れたんだずっとここにいた筈だろ!?」
「レフさんじゃないですか?」
「というか周辺に散らかしている図面は何だ変な修正しやがって」
「レフさんですね。この施設で改造した分はメンテナンスのためにちゃんと図に起こしてとお願いしたので」
「じゃあこの知らないコーヒー豆は」
「レフさんかもしれないですね。同じコーヒーばかりで飽きるだろうって一度持ってきましたし」

 シドは目を点にしてジェシーを見ているので「どうしましたか?」と聞く。

「いや、会ったこと、あるのか? そのネロの助手ってやつに」
「オメガジャマー手伝ってもらったんですよ。スカウトは断られましたが、ネロ経由で業務用のリンクパール渡したら応対はしてくれてましたね」
「俺は聞いてないんだが」
「秘密にしろって言われましたし。でもネロと一緒に逃げたなら黙っておく義理はないと思ったので報告しました」

 シドは表情をコロコロと変えながらその場に座り込む。「見た目は?」と聞くのでジェシーは「フードを被っていたのでよく分かりませんでした」と答える。嘘はついていない。

「メガネをかけてたんですけど左目は前髪で隠しててよく見えませんでしたね」
「分からんやはり心当たりがない」

 どうやらシドは自分が恨まれている原因を未だ探し続けているようだった。ミコッテだったならば耳がへたり込んでいるだろうその背中に笑いかけた。

「そういえば会長、ネロはロウェナ商会に新しい装備を卸したらしいですよ?」
「知ってる。それがどうしたか?」
「ネロを捕まえるなら簡単じゃないですか。給料分働いてもらえないと困るのは私も同じですよ」

 シドは手をポンと叩く。そして不敵な笑みを浮かべているが、それ以前にやることがある。ジェシーは「それではやる気が出た所で、お仕事の時間ですよ」と言うとシドの笑顔が固まり首を傾げている。

「今回の損失の分、働いてくださいね?」

 ネロに逃げられ、逃走幇助をしたであろうアンナにもそそくさと逃げられ、レフには唾を吐かれている情けない男はガックリとうなだれた。


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