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No.126

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 3日目。アンナからまた新たな原稿と袋をもらいながらアパートを後にする。会社の敷…

漆黒

漆黒

旅人は子供になりすごすfull―3日目―


 3日目。アンナからまた新たな原稿と袋をもらいながらアパートを後にする。会社の敷居をまたぐと仁王立ちでガチ切れしたシドが立っていた。遂にバレたか? と思っていると経理から先日の領収書を渡されたらしい。

「おいネロこれは何だ!!」
「ほらよ」

 詫びと書かれた袋を渡し通り過ぎる。「はぁ!?」という素っ頓狂な声が聞こえた。袋の中身は先日使った分の倍入っている。やらなくていいとは言っておいたが確かにちゃんと金を渡しておいた時のリアクションを見たいというのは確かだ。

「最初から経費で下りないと分かってるものに対して一々俺の名前で切るんじゃない! 嫌がらせか!?」

 驚愕の叫び声が聞こえるが無視しておいた。その声本当に愛しの恋人にも聞かせられるのか? と思いながらニィとほくそ笑んでしまう。
 面白い声が聞けたぜと昼休みにアンナへ報告してやれば『でしょ?』という声が聞こえた。

『喜んでもらえて幸いだねぇ』
「つーか一々金額計算してたのがこえーよ」
『そう? 嗜み嗜み』
「へへっそうか。その時のガーロンドがよ―――」

 ふと嫌な予感がし、休憩室の扉を開くと慌てた素振りをしたウェッジがいた。無言の時が流れ、適当な言葉を喋る。

「あーオレは大丈夫だ……おう愛してるぜ子猫ちゃん」
『―――嗚呼なるほど。厭だねえ』

 通信を切断し、舌打ちをしながら部屋を後にした。ちなみにこのセリフも原稿の1つだ。一部聞かれてしまったという事実を示すときに使うのだ。あの小説の一節を現実で使う羽目になるとは思わなかったが聞かれた相手がシドではなくてよかったと少しだけ安堵してしまう。途中、鉢合わせしたエルファーに12歳の頃のバブーンの話をしろと頼むと30分程度拘束された。正直妹が絡むと面倒だしうざいとは思うが、今だけは聞いておくに越したことはないとため息を吐く。
 早歩きで工房に向かい、それから籠る。書類作業の休憩中だったシドに怪訝な目で見られながら放置されていた台を踏み台へと調整した。「部屋の模様替えで届かねェ場所があンだよ」と言い、完成した台を抱え定時退社を決める。

 部屋の前に立つと案の定我慢出来なくなったのかささやかな罠が仕掛けられていた。ため息を吐き懐からツールを取り出す。慎重に罠解除し、扉を開けてやると「あー!」と悔しがるアンナがいた。「残念だったなァ。俺はガーロンドと違って素直に引っかからねンだよ。……次やったら会社に引き摺ってくからな」と笑いながら持ち帰った踏み台を見せると一転して明るい表情を見せている。早速使うとキッチンに持って行くので「今日はオレの当番だろうが」と言いながらも手伝ってもらった。



 シドはうんと伸びをし倒れ込む。最近は忙しくて仮眠室で眠っていたが一段落ついたということで久々に自室の寝台で寝そべった。
 アンナは元気だろうか、軽くため息を吐きながらろくでもない仕込みをしている姿を想像した。スキップしてたということはきっと相当ウキウキしている。ふと近くにあった"発信機"に手を取った。これは命の恩人と呼ぶ存在の子孫から譲り受けた"アンナを指し示す装置"だ。仕掛けは不明だが近付くほど光が強まり遠くなるほど小さくなる。主な用途は気になった時はこれでどのギルドに籠ってるか推測し、イタズラのジャンルを絞り込むのが習慣と化していた。そうでもしないと日に日にパワーアップするイタズラへの心の準備が出来ない。

「……第一世界にいるのか?」

 意外なことに発信機は真っ暗である。光がないということは死んだか別世界にいるということだ。昨日ギルドに籠って作業していると聞いた筈である。これは相当怪しい。何かがおかしいが今は確かめる術がない。きっとそのイタズラ材料の仕込みをあちらでしているのだろう、ということにして目を閉じた。


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