FF14の二次創作置き場

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FF14二次創作関係の保管庫です。滅茶苦茶独自設定で走っているのでそういうの嫌い…

About
FF14二次創作関係の保管庫です。滅茶苦茶独自設定で走っているのでそういうの嫌いな方はブラウザを閉じてください。
・基本シド光♀、ヒカセンはヴィエラ族で超独自設定。ギャグ多め
・メインストーリーやレイドのストーリー補完話を書いた時は拡張タイトルとネタバレ有りというカテゴリを付けますので各自判断してください
・基本的にカテゴリの紅蓮は一線越える前後、漆黒は付き合った後の話です。
・気に入った作品があればwaveboxを置いているのでぽちぽち押していただければ更新速度が上がります
・ヒカセン独自設定はこちら→キャラ設定(メインストーリーネタバレ無し)キャラ設定(暁月までネタバレ有り)
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#シド光♀ - メインコンテンツ#季節イベント - シーズナルイベント関係#ギャ…

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#シド光♀ #季節イベント #ギャグ #即興SS #リンドウ関連 #エルファー関連

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#シド光♀ - メインコンテンツ
#季節イベント - シーズナルイベント関係
#ギャグ - キャラ崩壊等ギャグ概念が入ってます
#即興SS - Misskeyioのチャンネルで出たお題を見てアウトプットしたもの中心
#リンドウ関連 - 自機の過去に出てくる命の恩人についてのお話に付くタグです
#エルファー関連 - 自機の兄が自機の過去を探る旅をしている時に付くタグです。基本自機出番なし。

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R作品にはパスワードを付けています。共通鍵:18↑?(yes/no)個別鍵旅人は…

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パスワードについて
R作品にはパスワードを付けています。
共通鍵:18↑?(yes/no)
個別鍵
旅人は初めての夜を過ごす(SideA) : アルファベット4文字のスラングを大文字で

 基本的に共通鍵で開けるようにしたいですがさすがに自分しか満足しないような内容のものは個別鍵を入れておきます。

2024年5月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

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補足漆黒以降、シドとアンナ付き合い始めた後。リテイナーア・リスとアンナが出会って…

漆黒

漆黒

旅人、猫を拾う
補足
漆黒以降、シドとアンナ付き合い始めた後。リテイナーア・リスとアンナが出会っていた話です。
 
「あ、そろそろリテイナーくんたち帰って来るか」

 クガネで伸びをしながらアンナは世話をしている"子供たち"を労うために意気揚々とお菓子を準備する。さあベルで呼ぶかとふとリストを見やると首を傾げた。

「1人多くない?」

 確かフウガ、リリア、ノラという名付けた子を拾ってリテイナー契約をしていた筈。しかし4人目の枠が存在した。何かの間違いではと一度目をこすりその場を離れ戻るが変わりない。名前を確認する。試しに読んでみよう。ベルを鳴らし、口を開いた。

「えっと、ア・リス・ティア?」
「呼んだか呼んだなご主人!」
「ひゃん!?」

 ビクリと身体が跳ねてしまった。キョロキョロと見渡していると「下!」と言われる。見下ろすとそこには金髪のミコッテが満面の笑顔で立っていた。これまで気配が一切無かった筈なのにいつの間に。白衣のようなものを纏う不敵な笑みを浮かべる男性。一瞬だけ今まで会った人間でいえばネロに少し近い雰囲気を感じた。まああの男はこんなイタズラが好きそうな無邪気な兄ちゃんではないのだが。

「え、あの」
「ちゃんと行ってきたぜ面白い掘り出し物があったんだよご主人!」
「あ、ああありがとう。はいスクリップとお菓子焼いたんだけど食べる?」
「お! 嬉しいな! フーガから聞いてたんだよご主人の手作り料理美味しいってな!」

 その場でもぐもぐとうめーうめー言いながら食べてくれるのが嬉しい。嬉しいのだが、誰だこいつ。知らない。

「待って。あの、ア・リス……サン?」
「おうア・リス様だぜ」
「どちら様?」

 その言葉にガクンと膝から崩れ落ちる。流石に言葉がダメだったか。アンナは「ご、ごめん」と言う。すると「いや大丈夫、俺様それ位じゃ折れない」と拳を握り締めた。

「ご主人あの時疲れてたみたいだからな。俺様が振り返ってやろう。ほわんほわんほわん」
「その擬音言う必要ある?」

 とりあえず何かあったか説明してくれるらしい。少しだけ懐かしさも感じる男の話を聞いてみる。



 俺様はア・リス・ティア。天才トレジャーハンターなミコッテさ。ある日東方地域にある不思議な塔を見つけてこっそり侵入する。しかし凶悪な罠に気付かずかかって大ケガしちまった! なんとか身体を引きずってクガネに帰還。だがお腹も空いてバタリと倒れてしまった。そこに偶然通りかかったかわいこちゃんに「えっと、大丈夫?」と声を掛けられたんだぜ!

「それがご主人、アンナちゃんだぜ!」
「へ、へぇボクって優しいね」

 残念ながら事情を聞いてもアンナには全く記憶に残っていない。もしかしたら最近疲れ気味だったので"内なる存在"が対応したのかもしれないと考え付く。ここ数日の記憶が一切無いし、ありえると手をポンと叩いた。

「ご飯一緒に食べに行って美味しかったぞ! そこで『トレジャーハンター危険、よかったらリテイナー契約しない? 掘り出し物私がかわりに換金。あなた心配』ってのも忘れちゃった?」
「うん? うーん―――言ったかもしれない?」
「だろー? あ! ついでに俺たち付き合っちゃおっか! って言ったら『え、ごめん。そういうの間に合ってる』ってあっさり断ったのも忘れたなら俺様にチャンス来た?」
「あ、それは記憶ある」
「ちぇー」

 その言葉は何か朧げに記憶がある。確かにそういう断り方した相手はいた。このミコッテかは忘れたのだが。そういえばと持ち帰った来たものとやらを見る。何やらトームストーンのようだった。

「ア・リス、持ち帰り物、何?」
「よくぞ聞いてくれたな! 遺跡で拾ったんだよ! 何かお宝データとか入ってるかも? 電源入らないみたいだから壊れちゃってるみたいでな」
「あーその辺り修理する専門家の知り合いいるからいいよ。ありがと」
「へへっ! どういたしまして! じゃあ次も何か持って来るからよろしくな!」
「うん、君のこと覚えとくよ。よろしく、ア・リス」
「にゃはははは!」

 走り去って行った。アンナは嵐のような人だなあと苦笑しながら軽くため息を吐く。とりあえず先程会う約束を交わしたシドではなくネロと兄にでも渡そうかと1人頷いた。兄は誤魔化しているつもりらしい。が、ちゃんとエオルゼアに滞在し、しかもガーロンド社で働いてること位は把握している。何でバレないと思っているのかとノリで話を合わせているだけだ。しかしどこで拾ったかとか聞かれるのが面倒なので誤魔化し方を考えなければいけない。そう、例えば―――また壊したから修理してほしい、とか。



「ヒヒッ」

 金髪のミコッテは笑いながらテレポでエオルゼアへ戻って行く主人アンナを屋根の上から見守る。

「ささ、ナイスイタズラな"仕込み"も終わったしちょと来客用にラボの掃除して、60年、いや違うか。80年振りにエルの顔でも拝んでやろうか。愉しみだナァ」

 目を閉じた後、常人を超越する高さを跳躍しながら笛でチョコボを呼び出し上空を飛び去って行く。

―――封印は、解き放たれた。


Wavebox

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注意旅人は星を見つけるの冒頭独白シドバージョンです。   寒い夜。ガキ…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

技師は紅き星を振り返る
注意
旅人は星を見つけるの冒頭独白シドバージョンです。
 
 寒い夜。ガキの頃の俺は言いつけを破り何かに導かれたように外へ出た。キョロキョロと周りを見渡し少しだけ裏路地に入ると大きな塊。それに恐る恐る近付くと長い槍に、褐色の長い指が見えた。まじまじと観察する前に『人を、呼ばなくては』と判断する。踵を返し、巡回兵を呼ぼうとすると俺の服の裾を掴まれた。振り向くと、フードを深く被った人が「寒い」と小さく呟く。その時、キレイで不思議な赤色の旅人に心を奪われた―――。

 初めて抱いた感情は、物静かで、作り物のような不気味さ。記憶を失い陰鬱としていた自分が人のこと言えるかと聞かれると何も言い返せない。だが本当にこれから死にに行くんじゃないかという位思いつめていた。しかしそんな何かに怯え続けながらも、裏では俺や周りを観察していた。器用な人だ、なんて思いながら渡された肉をいただく。あの星空が綺麗な夜、それまで暗い雰囲気だった"彼女"が突然見せた柔らかな笑顔に衝撃を受けてしまった時のことは未だに覚えている。綺麗な顔で細い身体から繰り出される強い力。―――その時の自分との正反対さが目を細めてしまうほど眩しかった。
 俺が記憶を取り戻した時の、あの優しげな目を覚えている。元気になって、よかったという言葉だけでは説明出来ない"彼女"の目に灯る星を見た。それから蛮神討伐、そして仲間の救出という同じ目的を共有した冒険が何よりも楽しかった。だからそれ以降も何気なく付いて行こうと画策するようになる。"彼女"が何らかに関わるだけで未知の技術が転がり込んでくるのだ。技術者としての自分も簡単に"彼女"という存在を手放せるわけがないさ。
 "彼女"が刀を持った日、内面に沸き立つ興奮が初めて俺の心を焼き焦がす。舌をペロリと出しながら愛しげに刀の柄を撫でる姿に本能がこのオンナは危険だと警笛を鳴らした。それに反し、自らの情熱は熱が灯りかけ、作戦中じゃなければ非常に危なかった。絶対に敵に回したくないと決心するくらい、斬り払う時の笑顔にゾクリと背筋が凍るほどの美しさを覚える。

 だが戦闘以外ではとにかく優しかった。助けを求める人間がいれば積極的に走る姿を沢山見たし、俺だって頼ったさ。皆"彼女"のことを注目していたし感謝している。まあ当の本人にとっては周りに一切興味を示さず、人助けさえ出来ればそれでいいという献身的な思想の持ち主だったのだが。しかしそんな"彼女"を気に入らなかった勢力も存在した。存在感が強くなるごとに陰謀へと巻き込まれ、意味も分からぬまま逃げる姿を何度も見ることになる。何かあるごとに絶対俺は手を差し伸べて飛空艇に乗せた。勿論無意識下では少々下心もあっただろう。人の感情に敏感な"彼女"に悟られない程度には己でも無自覚ではあったのだが。
 イシュガルドでの"彼女"は無理矢理にでも周り全てを護ろうとしていた。だが一度、うっかりと手から零れ落ちてしまったヒトに対し悲しむ弱さを目の当たりにしてしまう。どうすればいいのか分からず、肩を撫で続けることしか出来なかった。一瞬火傷しそうなほど熱くなった身体と震えた空気。―――それが"彼女"と俺の違いを見せつけられた、そんな錯覚さえ起こる。震える肩を少しでも強く握るとすぐに壊れてしまいそうで。なんて繊細な機械装置のような綺麗なヒトなんだ、と思ってしまう。
 あの星芒祭での出来事を境に少しだけ素を見せるようになった。何気に精巧な技術を用いたイタズラに説教しながらも居場所だと認識してくれたことに対して喜びを覚える。"あの人"が置いて行った髪飾りを握りしめ、何としても"彼女"の助けになろうと追いかけた。思い返すとお互いの距離感がおかしくなったのもこの出来事がきっかけだったかもしれない。狂い始めた歯車は、軋み続けていった。

 例え暴力装置だと揶揄されても不敵な笑顔を浮かべるのが"彼女"の魅力だ。どんな陰謀も斬り払い"無名の旅人"であり続けようとする。個人的には『絶対に生きて帰ってこい』と言うと必ず生還し、俺に向かって笑顔を見せてくれたことが何よりも嬉しかった。その反面、頑なに周辺に感情を見せないよう立ち回っている姿に違和感も覚え始める。どうして、そんなにも"無名の旅人"であろうとするのか。胸がチクリと痛みながらもその正体を探る。
 ドマで初めて具体的な"彼女"の過去を目の当たりした。同じく"無名の旅人"と自称していた命の恩人から与えられた全ての始まりを知る。再会することは出来なかったと少し悲しそうな姿を見て隣に立ってもいいのだろうか、という疑問が湧く。しかし当時の自分は気付いていなかった。もうすでに何度も焦がされていた心は修理不可能なほどその熱で歪み切っていたことに。そしてこの時から、"あの人"と"彼女"を重ね始めていた。
 いつも数歩後ろを歩く"彼女"と常に隣で笑い合ってみたかった。そんな反面、全てを斬り払うための道を作ると、流星の如く走り抜き去っていく後ろ姿を見守る。―――そんな"彼女"を支える行為も楽しかった。紅く光る流星が灼熱の炎で俺の心ごと文字通り全て燃やし尽くす。"彼女"に無意識下で長い間恋焦がれていたと、初めて首元に噛みついた夜に自覚してしまった。甘い香りと冷たい肌に歯を立てた瞬間の少しだけビクリと震え喉から発せられた甘い声。その直後遅れて湧き出したのは底知れぬもっと欲しいという欲望。だが、予想外なことが起こると頭で考えるより先に言葉が出てしまったと更に慌てた反応が楽しいだけさ。なんて俺は今の関係がいいと想いを封印し、笑い合うことを選ぶ。それは2人きりの時に何が起こっても、表では平静で居続けるという人に無関心な"彼女"に甘え続けていたのも確かで。この後オメガによって引き起こされた検証事変で再び共闘出来ることを喜んでいた。

 オメガによる度重なる仲間への襲撃に対し落ち込んだ時、遂に慰めに来た"彼女"を抱いて想いを伝えてしまった。まるで一目見てから我慢し続けた感情を全てぶつけるかのようにトンデモ理論と勢いで押し切る。いや、きっかけも"今まで出会った人間の中で初めてならキミがいいとは考えていた"と煽ったのも向こうだから俺は悪くないさ。と思いたい。ただただ相手は初めてだったのに、手加減無しで一晩中衝動に任せて抱き潰した。そう、その夜は幸か不幸かバカみたいにあってしまったお互いの体力に感謝し、自分の"好き"に塗り替えていく行為に夢中になってしまう。後日何度も謝り倒すくらい反省した。だが、そこで命の恩人の言葉に縋る理由も分かったので有意義な時間ではあった。そしてどこか懐かしい低い声で"宿題"を言い渡された時、絶対解いてやると決心する。誰も手中に収めることが出来なかった"彼女"という報酬が手に入るのだから躍起にもなるだろう。そこまで決起した理由は簡単だ。それは初めて"彼女"の口から漏れた"SOS"。だから全力で解きに行くに決まっている。
 それからしばらく温泉旅行と称して連絡を絶たれたのは寂しかった。自分が与えた永遠に消えない傷を癒すためだろうから文句は言えない。だがその後、何事もなく戻って来て検証を終わらせることが出来た。やはり人に興味がなさすぎるのではという疑問が湧いてしまう。考えても仕方がないと渡された用途不明な銀色の鍵を握りしめ、また"彼女"と違う道を走り出した。
 その最後の検証で初めて弱き人間の想いを込めたという"本気"を見る。顔こそはよく確認出来なかった。だが、怒りの感情に合わせるかの如く空気が震え赤黒く染まった後、全ての音が消えた世界で刀が青白く光り人を模したオメガを斬り伏せる。振り下ろされた時に現れた光の斬撃はまるで流星の軌跡のように綺麗で。これが、命の恩人から教わった"気迫"なのかと問うとただ笑顔を見せていた。青白い光の意味は未だに分からない。ただただこの人が敵じゃなくて本当によかったと痛感する。だってもしも敵だったら二度とこの美しい流星が見えないじゃないか。疲れたのか少しだけ動きがぎこちない"彼女"の背中を叩きながら笑い合う。
 故郷はアシエンが動乱のために作った国だった。―――真実を聞かされた時、そりゃショックが大きかったさ。なるべく表に出さないようにしながら自分の出来ることを片付けていく。そんな俺を見て何も言わず抱きしめた。興味はないくせに人の感情に敏感な"彼女"にはすぐにバレたらしい。それがとても嬉しいと感じて尻尾を振る自分に少々嫌気が差した。それから"彼女"は何者かに呼ばれ、別の世界に消えてしまう。

 オメガの後処理に鬼のような量の仕事。それらを終わらせた後、いつの間にか悪友と親しくなっていた"彼女"の兄と対面する。―――驚くほどにそっくりだった。その赤髪も、喋り方も、故郷の髪飾りも。俺は彼も連れ、"宿題"を解くために命の恩人の墓へ向かう。そこで"真実"を知った。彼が遺した言葉はこれまでの"彼女"との旅路がなければ信じられなかっただろう。しかし第七霊災の兆候すらなかった頃に全てを知ってしまい、何も出来なかった彼の心はどれだけ痛かったか。あんなにも身を焦がされるほど嫉妬していた相手だったはずなのに憐れみさえも覚える。そして"宿題"の答えは"これ"でいい。少しの間だけ反応したがまた光が消えた用途不明な装置を受け取りエオルゼアへと帰る。
 別の世界に消えて約1か月後、"夢の世界"に連れて行かれた。そこは少しだけ弱った"彼女"と真実を照らし合わせる幸せな夢。相手は俺が当の本人だと気が付かず迂闊を晒し大慌てだった。正直に言うとここまで挙動不審になった所を初めて目の当たりにしたから最高だった。現実でももっと見せてほしい。絶対に生きて戻ってこいという俺が与えられる最高の"呪い"。命の恩人の教えに上書きするかのように吹き込み、帰りを待った。
 青龍壁の調整をし、飛空艇の整備を行い、何事もなく納期もやってくる。―――そんな数々の仕事が"彼女"がいなくても日常は続いた。『会いたい』とため息を吐く。するとふとあの解析しても用途が一切不明だった装置がポンと音を鳴らした。俺はそれを持ち上げ、何が起こったのかと思いながら見つめているとリンクパールが鳴る。送信主は暁の血盟のクルル。どうしたのか、いや彼女からならば1つしかない。分かっていながらも平静を装うために用件を問うとこう言ったのだ。

『アンナが帰って来たの。嫌そうな顔をしながらガーロンド社へ向かったから、頑張ってね』

 俺は反射的にネロと"彼女"の兄レフが軽量化、再調整した捕獲装置を手に取り慌てて部屋を飛び出す。謎の装置の光が徐々に強くなっているのが見えた。これは、もしかして―――。


Wavebox

#シド光♀

2024年4月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

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注意・補足ボズヤ、ウェルリト後、遂に付き合うことになる話。  ―――故…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

旅人は答えを見つける
注意・補足
ボズヤ、ウェルリト後、遂に付き合うことになる話。
 
―――故郷でも、命の恩人からも、教えてもらえなかったコト、皆誰から学んでるの?



「ビッグス、社内で流れてる噂聞いた?」
「噂、ですか?」

 ある日の昼下がりのガーロンド・アイアンワークス社。ジェシーはビッグスに近頃起こっている奇妙な話について聞く。

「アンナが手当たり次第に人を捕まえて、質問攻めしてるらしいのよ」
「こっちには来てませんが…」
「それオイラの所に来たッスよ!」

 傍で作業していたウェッジがパタパタと走って来る。

「恋や愛って何? と聞かれたッス!」
『恋!?』

 ジェシーとビッグスの声が重なった。

「いや『好きな人いたよね? いつ好きに? どういう所好き? どうやって伝える? どこでその感情を学習?』とか畳みかけられたッス!」
「え、アンナ何言ってるの?」
「どこで学習? おいおいまさか」
「事情を聞いてみたら『何度考えても頭真っ白。結論のために質問の旅』って言いながら去って行ったッスよ! その、本当にまだ親方とアンナって付き合ってないんだって察したッス」

 3人はため息を吐いてしまう。今更何を言っているんだという言葉しか脳に浮かばない。

「私、最初は会長があまりにも鈍感で奥手で不器用すぎてそれがボトルネックだと思ってたんだけど」
「まさか完全にアンナの思考とは……」

 別の世界での人助けが終わり霊災も回避され、賢人たちの意識も無事回復し、少しの時間が経過した。その辺りからアンナの様子が少々おかしい。いや変なのは出会った当初からだが、考え込んでいる時間が増えた。一見いつもの笑顔は見せているのだが最近ぼんやりとしているようで。
 閑話休題。恋愛関係で聞き回っているということはシド関連なのだろう。とっくの昔に、遅くても第一世界から一度戻ってきた日に決着がついたと思っていた。だがどうやら当人たちの間では未だそうなっていないらしい。

「あ、ジェシーいた」

 3人が振り向くと噂のアンナが手を挙げながら部屋に入って来る。ウェッジの話を聞く限り次は自分に聞きたいのだろう、大慌てで椅子と紅茶を準備した。



「ジェシーとビッグスは恋したことある? ウェッジは知ってる」

 紅茶を飲みながらアンナはニコリと笑った。3人は顔を見合わせる。

「そりゃ一度はあるでしょ」
「ですよねえ」
「うん、私もあると思ってた。でもねえ」

 肩をすくめ、ため息を吐く。

「いや正直恋って判断どこでしたのか理解不能。初恋は憧れとか幼い淡い体験にした。が、問題は大人になってから」
「はい」
「恋は学校の授業には存在せず。私も故郷では聞かなかったし命の恩人―――フウガも教えてくれなかった」
「そうかもしれないッスね」
「だから人はどう愛や恋を察知し、どうその先へ行くのか知るため暁やガーロンド社で聴取」
「分からない……過去一アンナが分からなくなったぞ……」

 シドが時々アンナが分からんと言いながら眉間に皴を寄せ頭を抱えてる姿を見せる時があった。今その気持ちが理解出来たかもしれないとビッグスは片手で顔を覆う。

「フウガに向けていた感想とは全く異なる。だから恋というもの、どういう瞬間に感じるのか気になる」
「え、アンナ確か好きなタイプ聞いた時あっさり答えたじゃない。髭が似合って、がっしりとした体形で、光のような人って」
「フウガ"も"だよ? 髭が似合い、がっしりした体形、人助けが趣味、光のような人」
「ああ……」

 あの時の言葉はどうやら別の人間を指していたらしい。もしかして重ねていたのだろうかとジェシーは眉間に指を当てて考えているとアンナはニコリと笑いながら聞く。

「んで、各々の恋した瞬間、記憶ある?」
「そうねえ。やっぱり憧れとか?」
「フウガは憧れ。けど……」
「優しいなって思ったり」
「優しい。けど恋までは」
「じゃあ一目惚れとかどうッスか!」
「確かにキレイな星。でも別に見てて何も」
「アーンーナー」

 ジェシーのジトっとした目にあははごめんと苦笑いしている。

「ちなみにネロサンに聞いたら呆れた顔で色んな小説山積み。兄さんに"8人の嫁さんのプロポーズどうやって? 参考にする"って手紙送ったけど返事来ない」
「嗚呼……」

 最近のアンナの兄である社員レフの様子がおかしい原因も彼女だったようだ。休憩中に『僕の答えがそのまま横に流される……』と遠い目で呟いていた意味がはっきりする。

「アンナ、恋愛ごとに理屈は考えちゃいけないと思うの。言葉が出ないなら行動で示したら流石に会長も分かってくれるから」
「そういうもの? ……あれ? そういえば皆何故シドの話と思って? 言った記憶皆無」
「この段階で知らないって思ってたのか!?」



 散々悩んだ後アンナはまたフラフラと歩いて行った。ジェシーらは生暖かい目で見送る。その後喫煙室にいた休憩中のエルとネロを捕まえる。

「何か? ホー……昇給?」
「アレだろ、メスバブーン関連」
「嗚呼」

 エルの目から光が消えた。相当悩みこんでいたらしい。先程あったアンナとの話をするとネロは一頻り大爆笑した後エルを指さした。

「いつもは妹から手紙来たって小躍りして即返事出す癖に悶絶続けてンだ」

 机に突っ伏し呪詛のような言葉を吐いているがジェシーは解読が出来ない。「ネロ、レフは何と?」と聞く。

「自分の言葉を引用してまンまプロポーズされちゃガーロンド吊る必要が出てくっからメスバブーンは一生悩んでろってよ」
「そこまでは言ってないやい」
「近くはあるんスね……」
「レフ、あなたの妹付き合ってすらいないのにプロポーズまでは飛躍しすぎよ」

 ジェシーの言葉に頭を勢いよく上げる。やれやれと言いながら呆れた目を見せた。

「はぁ? いやいや妹から指輪渡すんだろ? 会長クンはすぐ近くにこの僕がいると知っていながら一言挨拶無しで更に先手にも回れないのか最低って話題じゃ」
「エル、あの無欲の権化(リンドウ)の思考がそのまま反映された妹なんだろ? 未だ恋愛っつー器用なおままごとする可愛いお花畑チャンに見えてンのか? 確かにプロポーズなンざ先手取らなきゃ気が済まねえって顔してるだろうがよ」
「……うっそだろ……」

 再び突っ伏したまま震えている。また何か判別出来ない短い言葉を吐いているのでウェッジはネロに通訳を頼む。

「恥ずかしすぎて消えてェってよ」
「合ってる」
「合ってるのか……」
「ここまで上司と実の妹の内情が社内で拡散され切ってて死にたい! さぞ君らは面白いだろうねぇ! ああそうだよ僕だったら絶対面白がるからな!」
「まあアンナからしたらレフはここにいないはずだもんなあ」
「うるせ! 会長クンに言いつけてやる! 君ら諸共僕は死ぬ!」
「ちっちゃいプライドのためにオイラ達まで巻き込まないで欲しいッス!!」
「ゴホン! 俺がどうした?」

 その場にいた全員が固まる。喫煙室入り口を見るとシドの姿が。怪訝な顔をしてネロらを睨んでいる。

「あ、あれ親方仕事は」
「休憩させてくれ。今回も中々苦戦しててなあ。お前たちも世間話は程々にして手伝ってくれないか」
「それは構いませんけど」
「で、俺に言いつけるとは? レフがアンナみたいなキレ方してるなんて珍しいが何かやらかしたのか?」

 ネロ以外全員シドから目を逸らす。これは言ってもいいのか、いけないのか。アンナは秘密にしろとは言っていない。渋々エルが突っ伏した状態で抑揚のない言葉を吐いたのでビッグスはネロに翻訳を頼んだ。何度か振ったはいいものの何故言葉が解読が出来ているのはよく分からない。

「ンで一々俺に言わせてンだよ! はぁ―――最近妹とどうだってよ」
「アンナか? 最近何か考え込んでて声もまともに掛けられなくてな……って何で休憩中とはいえ今お前たちに話す必要あるんだ。プライベートで聞いてくれ」
「アー? そうかよ。妹からトンデモレターが届いて以降仕事に対するモチベ最悪だからテメーで何とかしろってよ。あと暁や可愛い部下困らせンな」
「トンデモ? ―――困らせ??」

 シドは突き付けられたエルが貰ったという手紙の一部を眺め首を傾げている。案の定周りの状況を当の本人だけ知らないらしい。ジェシーはジトっとした目で報告する。

「アンナが手当たり次第に恋やら愛って何って聞いて回ってるんですよ。さっき私の所にも来ました」
「な、何やってるんだアイツ!?」
「心当たりありますよね?」

 素っ頓狂な声を上げた後考え込んでいる。しばらくしして「あ」と漏らした。

『その旅が終わったら、即結論は教える』

 第一世界から帰ってきた直後、話をしていた気がする。そういえば記憶探索後に何か言おうとして固まっていた。以降、会っても上の空で呼ばれては首を触りながら「何でもない」と言われる日々。どうなっているか一切理解出来なかった。

「いや、分からん。何でそういうことを聞き回っているかは俺にはさっぱり」

 少し頭痛がしたような気がする。―――今までこっちをからかっていた人間だ。まさか今更恋やら愛やらで悩んでいるわけはないだろう。多分どうやってこちらで遊んでやろうかと周りを巻き込んでいるに違いない。

「とりあえず俺の方から注意しておこう、スマン」

 シドはジトっとした目でそそくさとその場を後にする。

「絶対会長クンは誤解してるな」
「イタズラの仕込みって判断したみたいだなあ。もう少し言った方がよかったかもしれん」
「どう見てもアンナの日頃の行いが悪くて流石に擁護は出来ないわね」
「アンナ……ごめんなさいッス……!」

 ジェシー、ビッグス、ウェッジは半笑いで空を見上げた。

「いやクッソ面白ェ。エルどっちに転ぶか賭けでもすっか」
「賭けにもならん。ジェシー女史、会長クンに明日休暇を与えよう。機嫌が悪い所を延々見続けるとなっては社員の士気にも関わる」

 あなた達会長に聞かれても知らないからねとジェシーはため息を吐いた。



 仕事をキリのいい所まで早急に終わらせシドはアンナを探し走っていた。流石に部下から苦情が来るほど迷惑をかけるのはいけないと一言怒っておかないといけない。『そこまで言わないと分からない子供だったのか?』という疑問が湧くが置いておこう。暁にも聞き回っているのなら今はレヴナンツトールに滞在しているはずだ。急いで向かう。
 まずは石の家でタタルとクルルにアンナの様子について尋ねてみる。確かに色々聞かれたと言われた。アリゼーやヤ・シュトラも恋と憧れの違いについて質問攻めにあったらしい。ウリエンジェは想い人の話をニコニコとした顔で聞いていたと言い、サンクレッドも女性を口説いている時の気持ちを聞かれた困惑したと。グ・ラハやアルフィノからはアンナが本気で悩んでいて心配だと言われた。『バカか!?』と心の中で叫ぶ。今では顔を熱くしながら街中を探す始末だ。

 ふとよく知ってる声が聞こえた。見上げると建物の屋上で佇む探し人。急いで駆けあがり背後に立つ。しかし珍しくこちらに気付いてないようだ。さっきの兄みたいにブツブツと何かを言っている。あちらと違い言語判別は出来た。恋だの好きだの万が一だのよく分からない。

「フウガだったらどう切り抜けるんだろう」

 鮮明に聞こえた一文を耳にした瞬間にカッと頭に血が上る。反射的にその細く引き締まった腕を掴んだ。
 ビクリと跳ねた後、アンナはこちらを振り向く。

「誰ッ―――あ、シド」

 いつもの冷静な顔ではなく少しだけ困ったような泣きそうな顔を見せている。

「え、ちょっと!?」

 そのまま引っ張り大股で進んで行く。今の表情がどうなっているか分からない。しかし"また"リンドウに対して行き場のない怒りが湧いているのは理解出来ていた。肉親の記憶よりも刻み付けられている存在への憤りが。更に違うと言いながらも未だ恋焦がれているのかという呆れも混じり頭がぐちゃぐちゃになる。
 あっという間にいつも取っている宿に到着し、個室へと連れて行く。扉を閉め、その場で抱きしめた。漂う甘い匂いが脳を刺激し、少しだけ落ち着いてくる。

「っ!?」
「俺よりリンドウに頼るのか? 未だに」
「え、いや、その……って痛い痛い! 手加減!」

 アンナの言葉お構いなしに強く抱きしめる。

「逃げるかもしれないだろ?」
「いやここまで来たら逃走無し! 私を何だと思ってる!?」
「まずイタズラ好きで都合が悪くなると逃げ出す旅人だろ?」

 言葉が詰まっている。肩を落とし頭を撫でられた。機嫌取りをしようとしているらしい。それ位は鈍感だと言われるシドでも分かる。

「別に、フウガはそういうのじゃない。し、シドのことで色々考えてた。だからあなたに助けを求めない」
「俺の?」

 何も言わず頬に口付ける。そして顔ごと逸らした。

「本当は兄さんの返事が来てから決めたかった」

 首を傾げる。見上げると顔が赤くなっている。目元を手で隠し、ボソリと呟いた。

「結論を教えたくて。けど、何か言おうとしても、その。頭が真っ白。だから皆に教えてもらおうと」
「今更か? お前あんだけ人をからかって今更そんなこと言ってんのか?」
「う、うるさい」

 お前そんなにか弱い生物だったのか? と思っていると首元を触りながら目をギュッと閉じ呻き声を上げている。珍しく嘘は吐いていないようだ。そういう姿も好きかもしれないとシドは苦笑する。
 そんなことよりも。確か首元を触る時は自分に対する何らかの感情を感じ取った時のはず。どういうことかとシドの方も恥ずかしくなった。少しだけ力が緩んだ隙に振りほどかれ、抱き上げられる。相変わらず軽々と持ち上げるのでいつもプライドが砕かれかけていた。

「おい!?」
「場所変えさせて。こんな所で話しなくて、いい」

 寝台に座らされ、アンナも正面に正座した。相変わらず顔は赤いままで目を逸らしている。

「えっと、私は、あなたを知るために少し旅をしてきた」
「そう言ってたもんな」
「流石にガレマルドまでは行けず」
「今そんなこと出来ない状況って聞くからな」
「何か変わるかなと思ったがそうでもなく」
「―――そうか」

 結論の発表会をしたかったらしい。完全に弱り切り、珍しく長い耳も倒れている。まるでミコッテのようだ。あれだけあの耳ピョコ分かりやすいやつと違うと豪語していた人間が何をしているのか。

「だって恋とか故郷やフウガは教えてくれなかったし」
「別に学校で習うモノでもないぞ?」
「どこでそういうのを知ったのかって聞きたくなり。あの、部下の皆さんにご迷惑をかけたようで」
「俺に聞けばいいだろ?」
「一番アテにならない人が何を?」
「ぐ」

 ジトっとした目で言われた。確かに参考にならないと思うがそこまで単刀直入で言わなくてもいいじゃないかとシドはため息を吐く。

「まあガイウスからの言葉で結論というか方向性は決定済」
「ウェルリトでまで迷惑をかけるなよ」
「ヒエンたちの所にも行ったよ?」
「今度ドマにも一緒に詫びの品持って行くぞ。―――エオルゼア三国とイシュガルドとアラミゴのお偉いさんにも聞きに行ったとか言わないよな?」
「……イッテナイ。面白い話が聞けた。でも行ってないヨ」
「俺が悪かった」

 何日休みを取れれば終わる日程になるのか気が遠くなるほどの人間に聞き回ったらしい。あまり言いたくないが元首たちもいくら相手が世界を救った英雄だからとはいえ素直に答えるなよとため息を吐く。すると頭を掻きながらボソボソと喋り出した。

「別にシドのこととは一言も言ってないのに皆あなたのこと話すんだよね」
「……何でだろうなあ」

 確かにそれは身に覚えがない。アンナのような無神経な人間ではないので誰かに相談した記憶は存在しなかった。しかし大体の人間にアンナの話題を出されるという点は同じで。どこかから、関係が漏れている。ジェシーや暁だったらタタル辺りが察して言いふらしたのだろうか。

「そこでまだ付き合ってないのかとか嘘でしょとか謂れのない驚愕が」
「俺もよく言われてるな。1年以上な」
「不思議」
「不思議だよなあ」

 いつの間にかお互いの顔を見合わせ笑っていた。



「第一世界で分かったことがあったんだ」
「何だ?」

 天井を見上げるアンナはボソリと呟く。

「1年後、キミが答えを見つけられなかったら旅に出るって言ったくせに、いざ1人でキミのいない世界を走り抜けたら怖かった。無限に喉が渇いたようにカラカラで余裕がなく。今までそんな経験なし」
「お前―――」
「だから夢の中でキミが出て来た時凄く嬉しくて。良い夢なんてあまり見なかったから急にキミが扉を叩いた時羽目を外しかけた。その結果が自爆」
「ああだから急に抱きしめにかかったのか」

 別世界の妖精族のイタズラでアンナの夢と繋がってしまった時の記憶。目の前にあった扉を叩くと出て来たアンナが二度見した後柔らかな笑顔を浮かべ抱きしめてきた。夢での出来事だったから都合のいい記憶と混ざっていたと思っていたらそういう真意があったのかと感心する。

「別に暁の皆やあちらの人たちが嫌いだったとかじゃなく。何かが欠けてしまったみたいで常に苦しくて。挙句の果てにバケモノになりかけ、意識も真っ白になり、嗚呼もうダメだってキミにずっと謝ってた。そしたらフウガに『さあ帰るぞ』って引っ張り上げられた気がして。目を開けたら全部終わってた」
「……人に聞き回る前にそれを言え!!」

 シドは起き上がり顔を赤くする。アンナはきょとんとした顔を見せた。

「いやそれ依存ってやつじゃん。恋やら愛じゃないさ。それだけ言ったらどうなるかと考えると共依存しか思いつかない。やだ。だから一度リセットして他の視点でキミについて考え直そうと思い。で、いざやるぞと気合入れたら頭が真っ白になっちゃって」

 軽くため息を吐き、肩をすくめた。手を重ね、目を閉じる。

「色んな人に恋の瞬間を、愛とは何か、その先をどう進みたいのか。聞いてからでも遅くはないかなって。まあ結論は『キミはボクが必要だし、ボクにもキミが必要だ。少なくとも上下関係ではなく対等なものとしてそういう感情を持っている。受け入れよう』と諦め」
「まあアンナがそういう結論を持って来たのなら受け止めるが」
「厭?」
「俺もお前が別の世界で冒険してる間に改めて色々考えさせてもらったからな。まあ同じような結論だ」
「そっか」

 その言葉を聞いたアンナは目を閉じて少し黙り込んだ後、顔を近づけ、これまで見たことない柔らかな笑顔を浮かべている。

「これからも、よろしく。シド」

 瞬時に顔が熱くなり反射的に「あ、ああ」と声が出た。それはどちらかというと少年っぽい整った笑顔。細めた目付きが兄のエルと全くそっくりで―――あのガレマルドや星芒祭の夜に会った時の記憶そのままだ。所謂普段纏っていた仮面が取り払われた瞬間、ということになるのだろう。強く抱きしめ、耳先に口付けを落とした。


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#シド光♀

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注意・補足ヤ・シュトラから見た漆黒アンナのお話。  ―――ノルヴラント…

漆黒,ネタバレ有り

#即興SS

漆黒,ネタバレ有り

"エーテル"
注意・補足
ヤ・シュトラから見た漆黒アンナのお話。
 
―――ノルヴラントで"あの旅人"を見守って、分かったことがあるの。あまり綺麗とは言い切れない旅路の一端を見た気がしたわ。

 アンナと呼ばれる旅人が暁の血盟に出入りを初めて1年半以上が経過した。それなりに心を開いて喋るようになり、未だ底が見えない強さを感じている。でもエーテルを視るとこの人は明らかに異常だった。
 歪みが見える。エーテルを行使するごとに周辺のエーテルが特定部位周辺に集まり、消えていく。それと共に体内エーテルもぐわりと揺らぎを見せた。まるでそれは放出を妨害するかのように膜のようなものが張られている。

 彼女の右腕はどうやら魔石のようなものが埋め込まれているようだ。エーテルを行使するとその辺りが熱を帯びて小さく光っている。
 あと気になる場所は首元と背中よ。特に背中は大きなひっかき傷のような奇妙な模様が浮かび上がっている。それはまるで傷自体が一種の魔紋のようになっていたのが分かった。ノルヴラントに来るまではあまり違和感を抱くことはなかったのが不思議なくらい。

 おかしいという感想を明確に抱いたのは水晶公がエメトセルクに攫われた時。そう彼女に宿れる光の許容限界を超えてしまった時のこと。一度気絶し、目を覚ましたら―――まるで別人のようで。いや確かに喋りや表層的な波長は彼女。しかし何か本質的なモノが変わり、無理矢理躯を動かすようにフラフラと薄い銀色を見せた。そう、光の中でエーテルが柘榴石(ガーネット)色ではなく、銀色に揺らいでいたの。一瞬彼女に擬態したナニカがテンペストへと向かおうとしていたように見えてしまう。
 戦闘スタイルも一見変わりはない。いつものように自在に刀を振り回す。しかしエメトセルクとの最後の戦いでまた別の光を見せる。

『何故だ! 何故幕を下ろした"貴様"が"そこ"にいる!!』

 驚愕の声を上げたエメトセルクの言った通り、私の目からも彼女の姿は消えていた。大罪喰いによる白い光と、青白い光が彼女を取り込み、そこで見せたのは―――ひんがしの着物を纏った銀色のひょろりと背が高いヒトの形をしたモノ。きっと魂から見ることが出来るエメトセルクはもっと違うモノが視えてしまったのでしょう。首元から背中の傷へ、そして右腕に青白い光が集まり、持っていた刀の刃に纏われた。

「さあ帰るぞ―――エルダス」

 優しく小さな声は明らかにそう言ったわ。巨大な刃のような光は巨大なエメトセルクを斬り捨て戦いは終わり―――。振り下ろされた光の軌跡はまるで流星のように光り輝いていた。

 全ての戦いが終わった後、いつものよく知っている彼女に戻っていた。穏やかで、柘榴石色の奥底に闇を宿した旅人。やっぱりあなたはそれが一番似合っているわ。


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注意セイブザクイーン【シダテル・ボズヤ蒸発事変】の記憶探索終了後のお話。落ち込ん…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

"追憶"
注意
セイブザクイーン【シダテル・ボズヤ蒸発事変】の記憶探索終了後のお話。落ち込んだシドを自機なりに慰めたり家族について語る感じ。
時系列的にはメイン5.3終了までには起こってる感じ。
 
「英雄さんどこに行ったッスかぁ」

 金髪のヴィエラリリヤはガンゴッシュ内をうろつき赤髪ヴィエラのアンナを探す。先程まで記憶探索の後処理でミコトといた筈なのだがいつの間にかふらりとどこかに消えていた。英雄と呼ばれているが、本人としてはフリーな旅人だと噂では聞いていたので気にはしていない。少々尋ねたいことが残っていただけで。ガンゴッシュ外には行っていないようなので、キョロキョロと周辺を見回していると見覚えのある背中を発見する。

「あ」

 探していたアンナ―――と一度帰ると言っていた筈のシドが2人で空を見上げていた。シドの頭を優しくポンと撫でながら肩に寄せる姿にリリヤは一瞬止まってしまう。後ずさり、リンクパールを手にしながら慌ててその場を離れて行った。



 シドは記憶探索も終わり一度山積みになっているだろう仕事のため飛空艇で戻ることにする。しかし少し歩くと待って、と呼び止められた。振り向くとそこにはいつもの笑顔を浮かべたアンナがいる。

「どうした、アンナ」
「少しだけ時間ちょうだい」

 腕を引っ張られ、喧騒から離れた場所にて2人は立つ。アンナは空を見上げていたので釣られて頭を上げた。すると頭をポンと撫でながら自らの肩へと寄せる。瞬時に赤くしていると表情一つ変えずボソリと喋った。

「色々あった日はね、フウガがこうやって空を見上げながら頭を撫でてくれたんだ。本当は星空だけど。おっと感情はまだ取っておいて」

 ニコリと笑い、耳元で囁く。それはまるで悪魔の囁きのように甘いお誘いだった。

「もし時間があるなら今夜望海楼においで。お仕事ラブならそのまま帰ってもいい」

 シドの返事を聞く前に耳にキスを落とし、パッと離れた。後処理まだ残ってて探してるかも、と言いながら元いた場所へと戻って行く。1人残された男はしばらく口をあんぐりと開き、去った先を見つめていた。

「帰れるわけないじゃないか……」



 夜、飛空艇で一先ずクガネに降り立つ。リンクパールでジェシーに一晩泊まって帰るからもう少し遅くなるがいいか、と聞いてみる。意外なことに即機嫌のよい声で許可を貰えた。不気味だ、と思いながら望海楼の方に行くと入り口前でアンナが佇んでいる。即こちらに気付いたようでニコリと笑顔で手を上げた。

「おやおやてっきり帰ってるかと」
「どうせ先にジェシーに連絡してるんだろ」
「バレたか」

 まさかとは思ったが本当に先回りしていたらしい。さすが準備のいい女だ、実質断れなかったかと背中を叩いてやるとニヤニヤ笑っていた。じゃあご飯準備してもらってるからと手を差し伸ばされる。

「本来は逆だといつも思うんだが」
「そんな顔してる男の人にエスコートされたくない」

 手を握ると指先に軽く口付けた後に引っ張られ、部屋へと案内された。チェックインは先に終わらせていたらしい。すれ違う従業員に物珍しい目で見られているが、アンナは仕草1つ変えずいつも通りだ。個室には既に豪勢な食事が準備され、座るように促される。

「お金は考えなくていい。何かあった時は一杯ご飯を食べて寝るのが一番」
「ヌく方が効率的とか言ってた人間とは思えない発言が飛んだな」
「おうおうご飯時にそういう話はご法度」
「最近誰かさんに影響されているのではと言われたんでな」

 アンナは一体誰かな、許さないねえと肩をすくめている。シドはニヤと笑っていると、すぐに調子が戻ったのか飯を食いたいのか「いただきます」と手を合わすので、その声に釣られて同じく手を合わせてしまった。



「食事どうだった?」
「お前さんの料理ほどではなかったが美味しかったな」
「流石にプロの方がレベル高いと思うよ?」

 東方料理だけでなく多少エオルゼアでもよく見る揚げ物等も添えられ食べ応えがあった。酒は、と問うと「絶対悪酔いするから今度ね」と言われる。
 その後アンナは苦笑しながら置かれていたタオルや浴衣を押し付けた。

「お風呂。大きい温泉、ゆっくりつかるの、いい。その間に布団敷いてもらう。それともご飯食べたから帰る?」
「帰らんと言ってるだろ」

 小突きながら道具を受け取り部屋を後にする。いい休息になりそうだ、と思いながら共同浴場へ向かった。

 言われるがままぼんやりと入浴し、部屋に戻ると確かに布団が敷かれていた。エオルゼア様式の寝台もいいが布団というものも悪くない。アンナはまだ戻っていない様子で。外を見上げると綺麗な月が雲の間から覗かせている。繁華街からの喧騒もかすかに聞こえ、その音も心地がいい。少しだけ目頭が熱くなったタイミングでアンナが部屋に戻ってきた。

「おや先に―――嗚呼遅くなってゴメン」

 着替えを放り投げ駆け寄って来る。シドは思ったよりも震えた声で口を開く。

「日中みたいに」
「ん。座って」

 月明りの下、隣に座り、アンナの肩に頭を寄せるとそのままポンと撫でられた。涙が溢れ、嗚咽が漏れる。

「泣け泣け。今は私しかいない。明日からまた笑顔を見せておくれ」

 多分フウガが言っていた言葉をそのまま口にしているのだろう。我慢できなくなり、そのまま押し倒し強く抱きしめた。

「甘えたい年頃?」
「うるせぇぞ。リンドウの真似をするな」
「嗚呼そういう。人の慰め方を他に知らずつい」

 ごめんごめんと言いながら身体に手を回し、抱き返す。その後アンナは何も言わずその堰き止めていた感情を受け止めていた。



 少しだけ落ち着いた頃、アンナは突然思い付いたかのように脇腹へと指を這わせた。

「私的にはその銃創の謎が解けたからボズヤのレジスタンスに協力してよかったなって。―――あーあ、誰かさんのせいで自分勝手な考えをするように」
「っ、それでもいいんじゃないか? アンナは完全に部外者だろ」
「その部外者でも首を突っ込んでしまうのが無名の旅人。―――ってそんな顔しないでよ冗談冗談。もうただの旅人さ」

 ジトッとした目を避けるように苦笑している。シドは「次言ったら分かってるよな?」と眉間に皴を寄せるとアンナは「はいはい」と窘める。

「ねえシド」
「どうした?」

 アンナは何かを言おうとする。しかし首を傾げた。どうしたとシドは再び聞くが目を閉じたまま固まっている。

「何か、言おうとした。でも分からず」

 ようやく口を開いたと思ったらよく分からないことを言っている。必死に考えこんでいるようだ。

「ごめん、シド」

 頭をグシャグシャと掻きながら悩み続けている。珍しいと思いながらシドはその風景を見つめた。
 アンナは確かに何か言おうと思っていた。しかし何も浮かばない。"結論がついたらすぐに報告する"と約束したのに、それを表現するための言葉が頭から消えた。あんなにも人を口説いていたはずなのに。

「まだ、足りないかも」
「うおっ!?」

 シドを強く抱きしめ、撫で続ける。強く、締まる位に。流石に苦しくなってきたので腕を掴み抗議した。

「アンナ、流石に手加減無しで抱きしめるのは」
「……ゴメン」
「その辺り考えられん位悩むことって何かあったのか?」
「う……」

 そっぽを向き、何も言わない。いつもより子供っぽい姿に笑みがこぼれた。くしゃりと頭を撫で、口付けた。

「別に今すぐ言わないといけないことなんてないだろ? ゆっくりでいいさ。それとも何かやらかしたのか?」
「そう、だね。別に悪いことして言葉詰まってるわけじゃないよ失礼。あ! そうだ!」

 どうした、と聞くと目を輝かせながら話を促す。

「あなたの家族の話、聞かせて」
「……そんなのでいいのか?」
「色々確執が消えた今だからできる話ってあるでしょう? 気が変わる前に早く」

 それもそうかとシドは呟いた。提案しておいて気が変わる前にとかなんて我儘な人間なのだろうかとも思う。だがあの人に興味を持たない女が話せとせがむのだ。悪い気はしない。優しかった少年時代の家族との日々を少しずつ紐を解くように話す。アンナはずっといつもの笑顔で聞いていた。そうしながらも、まるで自分に欠けている部分を補完するかのように家族やその周りの環境について尋ねる。

「お互い帰らずの故郷で家族の話なのに聞いてて楽しいなんて思わず」

 一通り話終わった後にポソリと呟いた言葉が印象的だった。

「お前さんはいつでも兄に手紙で聞けるだろ?」
「兄さんは血が繋がった家族の話はしない。"聖なる場所"へと旅立った父さまと色々あって」

 そういえばこの兄妹の家族についての話は一切聞いたことがなかったなと思い出す。しかし思ったより珍妙な単語が出た。首を傾げてしまう。

「聖なる、場所?」
「ヘーヘっヘっへっ、この世にゃ知らなくてもいいことっていっぱいあんだぜ兄ちゃん」
「何だその口調は」
「まあ死んでるって感じでいいと思う。顔の記憶すらないから会ったことないんでしょ、多分」

 その場所もどういうものかは私も知らないしとはにかんでいる。

「……お前の故郷グリダニアも吃驚な余所者お断りの面倒な村だな?」
「超純血主義の帝国出身な人に言われても。あと成人前に飛び出したから知らなぁい。ささ、もう寝よ? 明日少しでも早く会社に戻ってあげなきゃ」
「話題逸らされた気がするんだが」

 第三の眼付近に口付けてから目を閉じる様を見たシドのぼやきは虚空に消える。相変わらずアンナという存在を全て掴めた気はしない。いつか知ることはあるのだろうか。―――とりあえず帰ってから少しだけ兄に聞いてみよう。そう思いながらその冷たい身体を抱きしめ、目を閉じた。


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#シド光♀

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注意アンナの影身とリテイナーのお話2本立て。色々独自設定。暁月ジョブの話題がある…

暁月

#フレイ #即興SS

暁月

影は猫と見守る
注意
アンナの影身とリテイナーのお話2本立て。色々独自設定。暁月ジョブの話題があるので暁月カテゴリーに入れてますが漆黒以降のどこかであったお話です。
 
はじまりは
 彼女が寝静まった夜、影は形を作りリテイナーのベルを鳴らす。扉が静かに開き、金髪ミコッテのリテイナーが現れた。一瞬満面の笑顔を見せていたが相手の姿を見るなり眉間に皴を寄せる。

「へへっお呼びかご主人……ってなんだテメェかよ」
「酒に付き合え」
「へいへい」

 フレイがバルビュートを脱ぎ、素顔を見せるとアリスは「へぇ」と笑う。まずは金色だった目は青色に変わった。サラサラとした銀髪を揺らしながら傍に置いてあったグラスとワインのボトルをテーブルの中央に置く。アリスは笑いながら座り、懐から取り出した小型の装置を机に置きスイッチを押した。「それは何だ?」とフレイが聞くと「ご主人が起きたら困るだろ? 俺様の新発明防音空間発生装置」と笑った。「よく分からないものを作るのは"記憶"も一緒なのだな」とグラスを渡すと「ケケッ楽しいだろ?」とその赤色のワインを眺め、目の前の男を観察する。

「ヴィエラになってんのな。身長はそのまんまなのによ。エルがクソ切れそう」
「元の肉体であるエルダスの影響だろう。そしてこの力は"影身のフレイ"と呼ばれた男やら負の感情やらと混じり合った副産物って所か」
「まあご主人の悩みはリンとほぼ一緒だったからな。俺様の元みたいに人格として宿るだけでなく影として実体化までしちまったと」
「エーテルというものは便利だな。本当に生前大して使えなかったのが勿体ないくらいだ」

 笑みを浮かべ指の上で炎を発生させる。

「ご満足いただけて何より」

 そう歯を見せて笑うアリスにフレイは「そういえば先日遂にシドと直接会話してな」と手を叩く。

「へぇそりゃぁめでてぇな」
「まあ数言交わしただけだぞ。おぬしの"魂"がエルが少々複雑な顔をしておったと云う理由が分かった」
「そりゃ何より」
「悪いやつには見えん。素直で人タラシと呼ばれる理由も分かったが―――ちと危うい部分も多い。それに……」

 それに、何だ? とアリスが問うと目を逸らし少しだけ顔を赤めた。少々震えながら口を開く。

「婚前交渉以前に告白するよりも先にその、性行為を行うというのは信じられん。あと説教と性欲を混ぜるのはもっといかん。鍛錬が足りぬなありゃ」
「童貞で死んだ古いお爺ちゃんが言うと説得力が凄いな!? ヒヒッ、ご主人いい大人なんだからセックス位許してやれって!」
「はしたないことをデカい声で言うんじゃない! 大体おぬしも相当の年齢ではないか! というかおぬしはエルより年上だったであろう!」
「ヘッヘッヘッ年齢はリセットされて30代だぜぇ。つーか話題振ったのそっちじゃんよ。ていうかフレイヤちゃん俺様達と違ってちゃんと性欲あったのはよかったじゃん」

 ワインを飲みながらゲラゲラと笑っている。フレイはため息を吐き指をさす。

「で、ではおぬしは、その、経験あるのか? ああ恋人はいたか」
「んー研究のパートナーって感じだったな……じゃあ俺も生前童貞だったわニャハハハ!」

 ハハハと2人は一頻りに笑った後、頬杖をつきながら眠る"主人"を見つめる。

「理解出来ん」
「近頃の若ぇヤツってすげぇなあ。そういやさ、2人がヤッてる時はどうしてんだ? 相変わらず引き籠ってんの?」
「外出してる。鎧が目立つから何とかしたいものだ」
「そりゃご苦労なこって」

 俺様たちにはなかった要素だと眉をひそめた。いつまでも続けていたら最低な酒盛りになる。そう判断し、話題を変えようとアリスは脳みそをフル回転させる。そしてふと相手の名前について思い出した。

「で、どう呼べばいいんだ?」
「? 何がだ?」
「何が、じゃねぇよ。お前は"フレイ"なのか、それとも」
「フレイでよい。私はもう20年ほど前に舞台から消え去り肉体を捨てた名もなき存在。生前の名前も捨てるに決まっておる」
「―――俺様と弟子以外はあっさり捨てる所は相変わらずで嬉しいぜ。ハッピーバースデー、フレイ」

 ニィと笑い杯を交わす。これはまだ誰も知らない"彼女"の最悪な内面らのお話―――

 
"収穫者"
「やはりリーパーと魔導技術が混じって厄介なものなのか? ガレマール帝国と言うものは」
「お爺ちゃんリーパーはもう帝国から追放されて存在しないぞ」

 フレイは目を見開き「まことか」と呟いた。彼に存在する"ガレマール"の知識はほぼ共和国時代で止まっている。ソルが即位した頃の話はかいつまんだ情報しか伝わっていなかった。

「童の頃に父が持っていた鎌を振ってみたことがありはした。まさかリーパーと違い前線に人を置かずとも戦闘を終わらせることが出来るとはいえ機械技術にあっさりその席を奪われるとは」

 若い頃を思い返す。ヴォイドと交信出来た父親と違い、妖異の力は相性が悪く扱い切れなかった。だが追放までされていたとは予想出来なかったらしい。

「ていうかテメェが存命の時にはほぼ用無し扱いされてたっつーの。怒った一族が暗殺企てたけどアシエンに勝てるわけもなく、な。ケケッ古き技術が淘汰されるというのは当然な話ではあるが哀れだよなァ」
「ふむ父は間一髪の亡命だった、と。私は本当に運に恵まれておる」

 ニィとフレイが口角を上げながらアリスの髪に触れると「ケッお上手なことで」と額を指で弾く。話題を変えるように手を大きく広げる。

「かつてヴォイドと繋がる技術としてちょっと勉強したが中々面白かったぜ。流石に扱い切れないから実用化はしてねぇけどさ」
「おぬしでも触りたくないものはあるのだな」
「ったりめーよ。俺様は世界を滅ぼしたいわけじゃねぇし。いやあフレイヤちゃんに憑いて行って正解だったぜーこんな面白いことになるのは予想外じゃん」

 ガハハと笑うアリスに対し、苦虫を嚙み潰したような顔を見せたフレイはボソリと呟く。

「……あまりいい気分はしないんだがな」


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#フレイ #即興SS

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注意命の恩人リンドウとアンナの過去短編集。  消えない疵―――フウガは…

本編前

#リンドウ関連

本編前

風の旅人と歩み続ける
注意
命の恩人リンドウとアンナの過去短編集。
 

消えない疵
―――フウガはボクに沢山のことを教えてくれた。星空の話や国、サバイバル術、ご飯の作り方、戦い、人助けの心構え。故郷では兄以外からはただ狩りの方法やイタズラに使える縄の使い方、外の人間の恐ろしさだけしか教わらなかった。それが全て新鮮で!

 白色の背中が頼もしかった。ボクは少し後ろを追いかけ、いつも笑顔を向けていた。襲い来る悪意は全部斬り放つ姿に自分もこうなりたいと志を抱く。ボクや出会った人等よりも豊富な外の知識が今のボクを形作っていたのかもしれない。
 この頃はまだ今みたいに強くはなかった。多分そのまま成長していたらシドを持ち上げることも出来なかったと思う。というか普通は抱っこしないだろう。まずどんなに重いものも持ち上げるフウガにどうやったの? と聞くとこう答えた。

「重いものの持ち上げ方? こう、持ち上げるぞと念じてそれを力とするのだ」
「よく分かんない」
「普通は出来んからな」
「ボクも出来るようになる?」
「己の限界を嚙み締めなさい。おぬしは人よりも長生き。少しずつ鍛錬を重ね、誰かのためにその力を使うのだ」

 今思うとこの言葉は自分の領域に来るなと言いたかったのだろう。でも一度火の灯った憧れを止めることは出来ず、運命の時が訪れた。



 フウガに槍の修行を付けてもらい、少しだけ自分の実力に自信を持てるようになった頃。あの人はどんな武器に対しても豊富な知識を披露した。「エルダス、強くなりたいのなら得意でない武器も識ることも大事だぞ」と何度も言われた。そこで必死に勉強をしたから現在色々な得物を使いこなせるようになったのかもしれない。
 そんな頃に通りかかった村で子供が大きな魔物に連れて行かれたから助けてほしいという依頼を受ける。フウガは最初反対していたが、ボクは居ても立っても居られなくなり飛び出した。
 僅かに聞こえた泣き叫ぶ子供の声を頼りに走る。長い耳は遠くの物音も判別が出来るのだ。フウガの力がなくても多少の魔物なら勝てる。そう思い上がっていた私はその場にへたり込んでいだ子供の前に立つ。

「逃げて!」

 自分より3倍は大きいであろう異形の存在は確かに少々怖かった。しかし今までの修行は無駄ではないこと、ボクのような少女でも人助けは出来るのだと証明したかった。構えた槍で飛び上がり急所を穿つ。勝負は一瞬だった。その魔物は地に伏せる。ボクは向きを変え、怯えた子供に手を差し伸べた。

「大丈夫?」

 明るい顔でボクの手を握ろうとしたが途端に青くなっている。

「フレイヤ!!」

 フウガの怒鳴る声、背中が熱くなる感触。振り向くと倒れた筈の存在が大きな爪で再びボクを切り裂こうと振り下ろそうとしている。最後に見えた風景は、いつの間にかボクの前に立ち、空気が震えるほどの殺意を見せたフウガ。青白い流星のようなオーラをその刀に纏わせながら魔物を一刀両断していった―――。



 目が覚める。うつ伏せに倒され寝返りを打とうとするとフウガに止められた。背中の痛みに小さな声が漏れる。まずボクは「ごめんなさい」と謝った。涙が溢れ止まらない。あの時ちゃんとフウガの忠告を聞いていれば。ただ謝り続けた所にあの時の子供がやってきた。

「お姉ちゃんありがとう」

 目を見開いた。ボクは負けたというのに、何故お礼を言うのか分からなかった。

「だってお姉ちゃんはあんな大きな怖いやつが相手でもすぐ飛び出して私の前に立ってくれたんだよ! 私もお姉ちゃんみたいになれるかな」
「―――きっとなれるよ。ボクもいっぱい旅しながら修行したから」

 フウガはボクの頭をずっと撫でてくれた。高熱にうなされながら傷はどうなってるの? と聞くと「大きなひっかき傷だけだ。他は特に外傷はない」と薬を塗りながら答える。

「あの大きな魔物を斬る時のフウガ、すごいかっこよかった。ボクもあんな風になれるかな」
「……まずはその熱を下げなさい、エルダス」
「はぁい」

 目を閉じてその手の冷たさを感じ取る。ボク程ではないがフウガも手がひんやりと冷たい。この後1週間熱は下がらなかった。だがフウガがどこからか持ってきた解熱剤によりボクは元気を取り戻し再び旅に出た。

 

「エルダス、おぬし結構耳動くが―――それはいいのか?」

 フウガの一言に首を傾げる。そんなに動いてる? と聞くと「集中してない時は結構」と返される。確かに人に感情を耳で悟られてしまうのはよろしくないと子供のボクでも分かっていた。

「本来はもっと故郷で修行するんだけど途中で飛び出したから不完全かも」
「なるほど」
「じゃあフウガが修行つけて。耳ピクピクさせないように頑張りたい!」

 そのままフウガは考え込んだ。そりゃヴィエラ特有の現象の修行なんてやったことがないだろう、悩むに決まっている。数刻後、手をポンと叩き「分かった」と言いながらフウガは思い切りボクの両耳を掴んだ。

「いっっっったああああ!?!?」

 叫び声が喉から発せられた後、耳がビクリと跳ねる。フウガは慌てたように手を離す。

「違ったか?」
「うえぇフウガそれ絶対拷問とかでやるやつだよ!?」
「しかし一番反応してまずい時は痛みではないのか?」
「う……確かに痛みに耐えられるようになったら動かなくなるかもしれない……」

 不器用に耳を撫でるフウガの言葉を聞き、そのくすぐったさを我慢するかのように考え込む。確かに集中力を一番阻害される要素は痛みだ。それならばこういう訓練を続ければ、耳は動かなくなるかもしれない。

「ちゃんと頑張る。も、もしかしたら故郷でも集中力を高める修行の一環でするかもしれないし!」
「そうか。集中力を持続させるメニューと共に数日に1回掴む感じでやってみよう」

 当時のボクはよし頑張るぞと拳を振り上げていた。後に知るのだが、ヴィエラの里ではそんな耳に直接的な強い刺激を用いた集中力を鍛える修行は一切存在しない。お互い勘違いしたまま、ビシバシと勝手に厳しい修行をすることとなる。結果、人とは違う技能を伸ばす羽目になってしまった。

 
気迫
「あの技教えてほしいの! フウガ! お願い!」
「駄目だ絶対に誰も使いこなすことなど出来ぬ」

 あれからボクは何度もフウガにあの時見せた大技の使い方を教えてもらおうとした。まるで流星の軌跡のような光を纏った刀身に感動したからである。これまで一度も見せずにいたのだ。興味を持つに決まっている。

「あの光は力を欲した誰もが挑戦したが結局使うことも出来なかった。何よりこの圧倒的な力を得ても、1つもいいことはない」
「ボクはフウガのような旅人になりたい! 沢山人助けする!」

 今思うとこれが本当にボクという人間が変わってしまった出来事のきっかけかもしれない。半ば無理矢理押し切り、フウガは誰もいない山の中で力の振るい方を教える。

「感情を込める」
「感情」
「その感情に合わせて、光が帯びる」

 フウガが目を閉じ大きく息を吸うと周辺の音が消え、刀に光を帯びだす。鳥肌が立った。本能的にこれは、ヤバいと子供のボクでも分かる位危険だと脳内でアラートが鳴る。フウガが「ん」と刀を振るった。すると目の前の巨木に光の刃が入り、まるでバターのようにスライスされ倒れていく。ボクは息を飲み、それを見つめた。

「普通の人間には出来ぬ。まあエルダス、少しやってみろ」

 フウガは刀を仕舞い、肩をすくめる。ボクは「よーし」と言いながら槍を構えた。

「感情ってどういう感情込めるの?」
「好きなモノに対しての、だ」
「今のは誰に?」
「……内緒だ」
「フウガのけち!」

 目を閉じ、隣にいるフウガのことを思い浮かべる。そして槍を振るうが何も起こらない。

「ほらな」
「悔しい」

 頬を膨らます。もう1回と言いながら槍を構え直した。

「あ、そっかエーテルを乗せればいいのか」

 ポンと手を叩く。今まで武器を振るうことしか考えていなかった。それを想いと誤魔化したんだなとその時のボクは判断する。

「待てエルダス、それは」

 フウガの制止を振り切り、先程見た光の強さを思い出す。目を閉じ、手を通じてエーテルを武器に乗せていく。形することはあまり得意ではなかったが、この時のボクは絶対に出来ると確信してきた。

「止めろフレイヤ!!」

 目を閉じたままその声と同時に槍を穿つ。何かが砕かれる音が聞こえたので目を開くと倒れていた木が粉々に粉砕され、成功したのが分かる。

「ねえフウガ! でき、た、」

 ガクンと力が抜け、目の前が霞んでいく。慌ててボクに駆け寄る音を聞きながらそのまま倒れてしまった―――。



 薄く目を開く。眩しい光に「うん……」と呟いた。

「エルダス」

 キョロキョロと見渡し声の主を探す。泣きそうな顔でフウガはボクを見ていた。

「すまない」

 そう言いながら手を握った。その時のボクは意味が分かっていなかった。

「すまない」

 またフウガは謝罪の言葉を口にする。背中に大きな傷が残ってしまった時とは逆の構図だ。ボクはニコリと笑いかける。

「ボクは大丈夫だよ、フウガ」

 少しだけ右腕が痛いような気がする。でも泣きそうなフウガの方が大事だ。
 ふと自分の手の内を確認する。いつも付けていた故郷の髪飾りを握らされていた。

「エルダス、それは絶対に身に付けておきなさい」
「捨てるつもり、ないよ?」

 そうかと苦笑している。ゆっくりと身体を起こし、伸びをした。倒れる前より身体が軽くなった気がする。
 思えばボクという人間はこの地点で、死んでいたのだ。ただでさえ冷たかった身体が死人のようになってしまったのはこの頃からなのだから。



 外に出ると知らない男の人がタバコを吸っていた。

「おや、起きたのか嬢ちゃん」
「おじさん、誰?」

 どんな姿か思い出せない。金髪、だったと思う。その人がボクの頭を撫でた。

「俺様は―――様だ。お嬢ちゃんのお師匠のオトモダチさ」

 名前も朧げで思い出せない。今のボクはこの頃から記憶が少し曖昧になっている。

「お嬢ちゃんが生命エーテルほぼ使い切ったってんで"治療"したんだ」
「ボク、そんなに大変だった?」
「おう。滅茶苦茶」

 俺様がいないと死んでたぜ、なんてケケケと笑っている男の頭にフウガはゲンコツを落とす。見たことのなかった複雑な顔していたので本当に長い付き合いの友人のようだった。

「教育に悪いから帰れ」
「おいおい天才の俺様は教育的象徴だろぉ? フレイヤちゃん、だったよな?」

 ボクはこくりと頷くとその男はニィと笑ったんだ。

「エーテル制御とリン―――コイツと同じ力の使い方をこれから一緒に教えてやる。ケケッ、お嬢ちゃんは俺様達より絶対に強くなる。保証してやるぜぇ?」


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#リンドウ関連

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注意シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。シド少年時代捏造。…

紅蓮

#即興SS

紅蓮

『好きな人』3
注意
シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。シド少年時代捏造。
時系列は次元の狭間オメガ終了後。
 
『アンナさんはとても強いし料理も上手です』『アンナさんに先日護衛してもらい何事もなく帰れました』『不愛想かと思っていましたが優しい方です』『社長と付き合ってますよね?』『アンナさんに告白したけど笑顔で断られました』『アンナさんにエスコートしてもらい買い物に連れて行ってもらいました選んでもらった香水で彼氏が出来ました』『王子様みたいです』

「これが社員から匿名で貰ったアンケートの一部よ」
「アンナやっぱモテるッスねー」
「告白した奴複数人いるのか親方でも玉砕状態なのによくやるなあ」

 ネロがレフと一緒にシド名義の領収書を盛大に置いて『長期療養』に入った事件から数日後。レヴナンツトールのとある酒場にて久々に『自分たちの上司であるシドと旅人アンナの関係を見守る会』が行われた。今回は当人にバレないようアンナに関するアンケート調査を行った。大体このような突発的なものは無視されて終わるかいい加減な回答が多い。だが今回は渡したほぼ全員から回答有りで提出された。大体の人間はアンナに対して嫌悪感を抱くどころか好意的なものが多い。英雄である彼女の人たらしっぷりが発揮されている。

「ちなみに会長はアンナが女性社員を口説いてることは知りません」
「あんな白昼堂々やってるのにですか!?」
「恋は盲目ってやつッスかぁ!?」
「だから困ってるのよね。その場で口説いたら満足してあとは躱すから」
「ひえー男だったらとっくに死んでるやつじゃないですか」

 アンナは女性社員を見かけたら絶対に歯が浮きそうなセリフで口説く。意外と大胆な人だというのは社員たちから言われるまでジェシーは知らなかった。当たり前である。レヴナンツトールで初対面時にシドに関しての説教を長々と行ったからだ。しかし、アンナが初めてガーロンド社へ案内された時のこと。嫌うことなく真っ先に自分の元にまずは護衛が必要な時は呼んで欲しいと手を差し出された。間違いなく優しい人である。しかし、優しくされる理由が一切見当たらない。

「それで今回のメインなんだけど。……少し前になるけどアンナが私たちに肩入れする理由を何とか聞くことに成功したの」

 だから一度単刀直入に聞いてみたことがあった。



「私が皆に優しい理由?」
「はい、何故いつも我が社を助けてくれるんですか?」
「そんな改まらなくていい。あなたたちに頼られてるから、と言えば簡単。でもそうだねえ―――ジェシーならいっか。少し昔に"旅人仲間"から聞いた可愛らしい話」

 ある日の昼下がり、ラールガーズリーチにて。シドが機材の定期メンテナンスのため出払っていた時にアンナが現れる。ついでに軽く世間話ついでに聞いてみたのだ。すると「シドには内緒にしてね」と人差し指を口に当てながらこう言って帰った。

「昔ね、ある旅人が凍え死にそうになった寒空の下で命を助けてくれた真っ白な子供と約束をした。ヒゲが似合う男になるまでに再会、捕まえたら彼の手に広がった夢を、支えてくれる人を全部守ってあげる、と。その人は何も持たない旅人なのに大胆で莫迦な約束をしちゃった。それと重ねちゃって、ね?」



「え、それって……親方!?」
「そこまでは話してくれなかったの。もしそうだったら……やばいわよ。確実に会長の脳みそがショートどころか爆発するわ」
「でも親方そんな話した事ないですよ。覚えていたら少なくとも今みたいな距離感には絶対ならないような」
「覚えてないんじゃない?」

 ジェシーの一言にビッグスは考え込み「あぁ……」と天を仰いだ。アンナの行動を振り返ると確かにシドに気にかけ、どちらかというと子供扱いするようにからかっていた。そうしながらもシドが興した会社ごと護ろうともしている。それを「あなたたちに頼られてる内はエオルゼアに残る」と誤魔化して。なんという回りくどいヒントの出し方。
 対して仕事以外は不器用な男は一切疑問に思っていないようだ。シドとしてはアンナに離れて欲しくないのだろう。何かあると水くさいじゃないかと付いて行き、社員の護衛等の手伝いもありがたいと言う。その傍ら暗に何かあれば彼女に頼れと社員を無意識にジトっとした目で睨んだ。『覚えるのが苦手』と言いながらも知識の吸収が早い彼女にアラグの文献を渡しているのも社員の一部は知っている。このすれ違いはきっとアンナも分かってやっている。今のままではあの男はネロのように頃合いを見て逃げられてから気が付き、ブチ切れる未来が見えた。

「勿体ない……ああなんて勿体ないシチューション……」
「その口ぶりはまだ捕まってない、って判定ッスよね? これ今俺たちが頼ってるから残ってるだけで絶対アンナさん頃合い見て逃げるッスよぉぉ」
「やっぱり親方に伝えるべきでは?」
「私たちが教えるのは何か違うでしょ」

 ヤることはもうヤッてるしあの2人という言葉を飲み込みながら子供じゃないんだから気付くまで放っておきましょと苦笑しグラスを傾けた。


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#即興SS

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注意次元の狭間オメガ後日談。旅人は密会するから数日後。紅蓮メインでいうと4.3後…

紅蓮,ネタバレ有り

#シド光♀

紅蓮,ネタバレ有り

【NSFW】旅人は首元を押さえる
注意
次元の狭間オメガ後日談。旅人は密会するから数日後。紅蓮メインでいうと4.3後。性描写を振り返るシーンがあるので閲覧注意。
 
 ボクには特技というまででもないがある本能的なセンサーのようなものが付いている。
 それは命の恩人も持っていた奇妙な特殊能力。数々の自分への感情に反応するように首の後ろがゾワリとして判断出来るのだ。その中でも悪意を持って利用しようと近付く人間相手は特に鳥肌が立つくらい即反応してしまう。かつてフウガにどうしていたかと聞くとこう答えた。

「怖いならば斬り捨てればいい」
「ボクにはどう感じるの? ゾワゾワする?」
「おぬしは……純粋すぎる」

 なんて言いながら首の後ろを撫で、苦笑していた。当時のボクには意味が理解出来なかった。しかし現在は"それ"の正体を知っている。そう、真っ直ぐで淡く、ふわふわとするような温かい恋愛感情だ。思わず少し触れてしまうくすぐったい感覚。初めて体感したのはあの星芒祭、アプカルの滝の前でのこと。シドがボクに向けた小さな感情をほんの一瞬だけ確認出来た。
 そんなこともあったので以降何かあるごとにからかう材料になる。だって本人も自覚していなかったのだから。分かってしまう前に、旅に出てしまえばいい。どうせかつて交わした"約束"の細かい部分なんて覚えていないのだからいつでも逃げる準備は出来ていると思っていた。逢瀬を重ねるごとにちり、と感じる頻度が上がっていく。理解していながらも、まるでチキンレースのような面白さに夢中になってしまっていた。

 さて、ボクはあと1つ、異様な感情というものを察知することが出来る。所謂下心だ。少しでも勘違いされたら抱いてきやがる性愛も混じった"それ"が大嫌いだった。首どころか背中までゾワゾワと粟立ち、気持ち悪さが勝る。"それ"はフウガと別れてから感じ取り始めたモノだった。だから余計に吐き気がする"自分の性別"と"大人特有"のものだということは理解している。一時期本当に嫌で、再び生まれ持った性質を呪っていた時期もあった。現在はどうも思ってないのだが。大体はゾワリとした瞬間に悟られないよう笑顔を見せ、離脱する。それでも縋ってきたら冷たい言葉で断るのがこれまでの旅路だった。
 人助けをやめればいいだけだ。が、そんな理由でやめてしまったらフウガは怒るだろう。あの人は善人は勿論、悪人だって関係なく助けては名乗らずに去る。圧倒的な力は、弱き者のために使う―――それがボクの憧れだった。だからその通りに動いてるだけ。
 シドが持ってしまったと初めて感じたのは墓参りから数日後、首元を噛まれた夜。今まで一度もなかった恐怖に襲われる。肌に歯を立てられる瞬間まで微塵もなかったので本当に驚いた。まあ、冗談でも許可をしたのはボクなので誰がどう見ても自業自得だったのだが。直後、泉から湧き出すようにくすぐったさとは別に粟立った感覚が一気に畳みかけて来る。この時は忘れたとかとぼけて煙に巻き、逃げることしか出来なかった自分が情けない。『通話程度だったら特に反応しないから置いておこう。だが次はどんな顔して会えばいい? ……普段通りでいいか』と思いながらアラミゴ解放後、ラールガーズリーチで久々に直接顔を合わせる。意外なことに何も感じることなく普通にいつもの関係が続いたことに何重にも驚いた。まあそれを"また"崩したのはボクだったのだが。もう奇妙なことは起こらないだろうと高を括り"効率的なストレス解消手段"を提案、からかっただけでとんでもない目に遭った。これは誰も予想は出来なかっただろう。勿論ボク含めても、だ。数々の感情の移り変わりが首元を通じてダイレクトに伝わり、更に全身は痛みとは別の感覚が脳を焼く。その後、"貰っていた手紙"と共にどう処理すればいいのか分からなかった。結果、温泉旅行と称してまたしばらく逃げることしか出来なかった自分にも嫌気がさす。そろそろかと戻ってからは何事もなく検証が終わった。相変わらずこの人はボクをどうしたいんだと思う。個人的には本当に最後までヤッてしまえば後腐れなく気まずくもなかったというのが事実だったので悔しい。



『先日はお土産ありがとね。折角ならこっちにも顔出したらよかったのに』

 暁からの次の"お願い"待ちで付けっぱなしにしていたリンクパールが鳴る。「もしもし」と出てみるとジェシーの声。とりあえず「夜も遅かったし。また改めて挨拶行く」と答えるとうふふと笑う声が聞こえた。

『会長もあなたが来た後頑張ってたわ。一晩で書類を終わらせたのよ! アンナには本当に感謝してるわ』
「は、はは……」

 嘘でしょと乾いた笑いが漏れる。そこまであの一言に期待を抱いたのかと唖然となった。

"そのお仕事終わったら、ご飯行こうか"

 数日前、暇つぶしにぼんやり作業しているとリンクパールが鳴った。出てみると疲れ切ったシド。何食わぬ顔で通話中に「会いたい」と苦笑していた。なので適当な土産を持ってサプライズで現れた際、耳打ちした台詞だ。本当はこれまでのように手酷く扱い捨ててやることも考えたのだ。でも、"あの時の子供"にそんなことが出来るわけがない。更に"内なる存在"があと1年と明確なタイムリミットを決めやがったからだ。だから今すぐ旅に逃げるという選択肢も潰されている。シド関係では余計なことしかしないもう1人の自分に苛立った。ジェシーに適当な挨拶を返し、次はご褒美を待つ犬のような男に通信を繋ぐ。どうしてボクを好きになったのか、食事ついでに話し合うのも悪くはないだろう。

「やあシド、寝てたでしょごめん。ジェシーから聞いた。ご飯の件」
『今夜』
「いやムリせず週末とかでも」
『今夜、レヴナンツトールのエーテライト前で待ってる』

 プツリと切られた。「うっそでしょ……」と呆れる言葉が何とか喉から発せられる。とりあえず現在の状況を確認した。悔しいが和平交渉が一段落つき情報収集の最中、つまり戦闘要員である自分は暇。そしてボクは現在石の家に滞在中。適当な人に「何か動きあったらすぐに連絡、よろしく」と声をかけ"準備"のためテレポを詠唱した。



 夕方。『立ち寄りはしたけどいなかった』というアリバイ作りのために集合時間よりも30分程度早くレヴナンツトールに飛ぶ。誰相手に対してもとりあえず約束の時間より30分程度早く来るのはもう一種のルーチンだ。―――よし、元から滞在してたとはいえ集合場所に来ました。というわけで帰ろうと歩き出そうとした瞬間に腕を掴まれる。一瞬漂った匂いとその大きな手から誰かは予想が付いた。

「や、やあシド」

 振り向くとジトっとした目でシドがボクを見ていた。いつもは思ったより仕事に手こずったからとギリギリか遅く来るはず。冷静に立ち回りたいのに、急に想定外のことが起こり心臓がバクバクと鳴っていた。

「さ、先に石の家でクルルに現状報告後、待機予定で」
「そうだったか」

 適当なことを言い、ニコリといつもの笑顔を作ると同じく笑顔が返って来る。何だ寝起きで少々機嫌が悪かっただけか。特に首元がざわめくこともないのでホッとする。

「さあ行こうか」
「うん」

 ガシリと腰に手を回すように掴まれた。逃げると思われているらしい。恥ずかしいわけではなく、流石にこの辺りで人に見られるのは"よろしくない"。「シド、私逃げない。普通に、さ」と苦笑してやると寂しそうな目でただじっとボクを見つめる。やめて。そんな目で、見ないでよ。

「あーもー! そんな顔しない! 分かったから! とっととご飯!」

 そう言った瞬間不敵な笑みを浮かべそのまま引き摺られていく。騙された。「子供か」と盛大にため息を吐く。どうすればいいんだ。フウガ、助けてと空を見上げた。



「何で、私のことが"好き"?」
「―――は?」

 よく2人で行くレストランで単刀直入に聞いてやる。きょとんとした顔でシドは見る。

「だーかーらー、今後の参考に。私何か勘違いさせるような特別なことした?」
「俺は勘違いしてないぞ」
「それが理解不能。私はただ人助けをしているだけ。あなたは助けた人間のうちの1人」
「俺にだけイタズラかける件は?」
「遊べる」
「こら」

 軽く足を蹴られた。そうかイタズラも拍車をかけていたんだね。

「あなたになら少しは遊びを入れてもどうもならないかなって思って?」
「そういう所だ」
「あなたを護るのは私。分かってほしかった」

 あ、顔が真っ赤になった。真っ白い肌だからすぐに分かる。ニコリと笑ってやった。

「前も言った。私はそれなりにだけどシドに恩は感じてる。英雄への道を作ってくれたのは間違いなくあなた」

 そう、シドはその飛空艇や新たな装置でいつも助けてくれている。エオルゼアで迫害されず自由に人助けしながら暮らす生活が出来ているのはこの人のおかげだ。それなり、じゃない。本当は凄く感謝しているけど調子に乗るので程々ということにしておく。

「あなたがいないととっくに旅出ってる。差し伸ばされた手を握った。―――それをちゃんと自覚してほしかったのさ」
「それが一種の告白だと思わないアンナは凄いな……」

 眉間に指を当て、ため息を吐いた。何故そういう言葉が出て来るか分からない。

「だって私が人助けするのもフウガに憧れたからだ。特定の感情なんて存在しない」
「違う、お前がやっている行為は無償の愛を注ぐ献身的なものだ。誰だってその―――"勘違い"する。今までよく何も起こらなかったな」
「去るだけでいい。すぐに判別可能」
「アンナ……」
「フウガがやっていたことをしてるだけなのに何で? 私の性別が悪い?」

 一切理解不能。先程と一転して顔が青くなったシドは机を隔てて肩を掴んだ。

「本気でそれを言ってるのか?」
「? うん」
「―――もしお前の性別が男で同じことをして来ても、俺は間違いなく好きになる」

 へ? とボクは目を見開いてしまう。何を言ってるんだ、この人。

「リンドウはどうしてたんだ」
「人助けして、帰ってたよ」
「違う。アンナと一緒で特定の人間に感情を抱く前に逃げてたんだ。間違いなくモテたぞ」
「当たり前。フウガは無名の旅人だから」
「お前も人助けをする姿がカッコよかったあの人が好きだったんだろ? それと同じ感情を、俺は持っている」

 ふわりとくすぐったさが湧き上がったので反射的に首元を撫でてしまう。つい「やめて」と弱々しい声が漏れた。ボクの手を掴み握りしめる。柔らかな笑顔を見せ、突然とんでもないことを言い出した。

「綺麗な姿も、自分よりも先に人助けをする勇敢さも、優しい笑顔も。ああ少しでも想定外なことが起こったらすぐに狼狽える表情もいいよな」
「へ?」

 誰の、話? もしかしてボクのことを言っているのだろうか。思考停止したこちらを無視し、言葉が続く。

「刀を撫でながら笑う姿も、圧倒的な強さも。アンナが関わると絶対新しい技術が転がり込んでくるそんな運も助かってる。イタズラにこもった地味に高い技術力もほしいくらいさ。あとは」
「分かった! 分かったよ!!」

 流石に恥ずかしくなったので止めてしまう。あとこれ以降は多分表で言わせてはいけない感情が絡んだモノになると本能的に察知した。

「幾らでもお前の好きな所は言えるぞ?」
「満足! ストップ! そこまで拗らさせた私が悪かった!!」
「本気だって分かっただろ?」

 嗚呼その真っ直ぐな目をやめてほしい。何も言えなくなってしまう。顔が熱い。どうしようもない感情を、ボクはシドの耳で囁くと目を見開き見つめて来た。




 シドはボクの隣に座る。頭を優しく撫でながら笑っていた。

「首元押さえるのは、照れてるだけでよかった。本当に体調が悪かったらどうすればいいかと」
「別に照れてるわけじゃない」

 嗚呼ムズムズして頭が変になりそうだ。なんてこの人は純粋なんだ。眩しい光が赤く染まるボクを焼く。嫌悪感はない。ついポロリと溢す。

「フウガみたいに昔から、自分に向けられる感情に首の後ろがゾワッてして分かる。それだけ」

 目を丸くしてボクを見ている。そしてボクも遂に人に言ってしまったと血の気が引いた。「じ、冗談」と離れようと動くが強く抱きしめられる。不器用に首の後ろを撫で、離さない。

「なあいつから俺はお前が好きだったんだ」
「うーざーいー、触るな! いつからとか言うわけないでしょうが自分で考える!」

 濁りが一切ない真っ直ぐな感情と直接触られる感覚がくすぐったい。そんな感情を、ボクに向けないでよ。

「キミがボクのことが本当に好きなのは分かったから」

 あと僅か1年、"宿題"とやらが解けるのは分かりきっている。この冷たい肌がほしいのなら、精々頑張ったらいいさ。

「ボクに好きと言わせたい気持ちは痛いほど分かったけど絶対にそうはならないよ」
「ふん、いつか言わせてやるさ。逃げるんじゃないぞ」
「―――まだ気は変わってないから。キミは純粋すぎるんだよ」
「ハハハ」

 そっぽを向くと後ろから優しく抱きしめられた。ブランケットを被り、「おやすみ」と呟き目を閉じた。


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#シド光♀

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注意漆黒以降ネタバレ。独自設定の入った小説のあとがき ずっと第八霊災が起こった時…

メモ,ネタバレ有り

メモ,ネタバレ有り

20240320メモ
注意
漆黒以降ネタバレ。独自設定の入った小説のあとがき

 ずっと第八霊災が起こった時代について色々考えて頭から一度消したかったのでアウトプットしました。

 以下あとがき隠し
 まず第八霊災が起こった次元でのアンナとシドの関係について。アンナが"観念する"のは第一世界での出来事後なのでそれ無しで死んでしまうことになります。
 そして初夜のタイミングもきっと違ったんだろうなあってぼんやり思ったり。シドも想いを伝え切れず、体の関係が先立ってそのまま熟成されたまま運命の日を迎えてしまう感じ。
 具体的に言うとリンドウの墓参り夜に事が起こります。その時は"お礼"と称して行為を行い、シドは想いを伝えるがアンナはこういうセリフを残すでしょう。

「私よりもいい女性はこの星空の下にいくらでもいる。その相手が見つかるまではあなたのやりたいようにさせてあげるよ。あなたが死ぬまで幸せでいられるよう、全ての外敵から護ってあげる」

 そんな感じ。シドは相手を作る気なんてその時にはもうなかったが、隣にいてくれるならそれでいいと甘んじてしまいました。"宿題"が与えられることもなくオメガの検証も円滑に行われ、暁のメンバー誰も倒れず最終決戦へアンナは走り去ってしまう。

 第八霊災が起こり、アンナが死んでしまった後。シドは彼女のために墓を作ってやり、そこでネロから預かっていたという本を渡されます。それは旅人は人を見舞うで託された"答え"です。宿題の話が無くてもエメトセルクの手紙は届いてるし遺言として準備をしていました。本は大切に保存され、後にグ・ラハに託されます。(序章:紅蓮の先へと続く物語
 その本に挟み込まれていた紙片が今回のお話に繋がります。"内なる存在"が念のために入れた地図で、それはとある場所にある研究所へ導きました。

 今回のお話はそんな"内なる存在"となったア・リス・ティアという男の複製体ア・リス視点で彼らの生涯を観測するというものになります。この複製体がメイン時空ではリテイナーとして走り回る自称トレジャーハンターだったり。彼はア・リスが持っていた知識、記憶をインプットさせておいたクローンです。魂はアンナに捧げ、肉体は朽ち果て消えてしまっています。"ドアホの魂の一部も持って"と言ってますが、それはこっちに書いてます(旅人に"魂"は宿る)。
 これまでエルファーの過去やアンナが持っていた謎等全て詰め込みました。これらはメイン時空のお話では公開する予定はほぼないがちゃんと見える位置に置いておきたかったのでお話として出力しておきます。
 誰も幸せにならなかった話を書くのは初めてだったのでぶっちゃけ結構苦痛でしたが、いい感じにまとめられてよかった。まだ幾らでも盛れるけどそれは野暮かなって感じ。

 ア・リスが何度も「もし過去を本当に改竄出来たら」と強調しますが彼としては本当にこの理論が成功するかは五分五分な感覚を持っていました。本人としては俺様と俺様の友人が幸せになればそれでいい勝手にさせろと思っているので無責任に救ってやってくれと声をかけてやったりしています。リンドウは弱虫、ア・リスは狂ってるとエルファーは称していましたが、それはあくまでも妹まで実験感覚で余計なことしてと拗ねてただけで本当はちゃんと懐いてました。
 というかエルファーは優しさはあるが愛想の悪さで嫁8人と友人2人しかいない人間だったので距離感がバグってたり。数十年後、ネロと行動し、ガーロンド社で働くことになってからはそれなりに柔らかくなっていました。因習より社畜の方がマシってなってたんでしょうね。本当か? でも第八霊災でそのそれなりな幸せが崩れ去り、再び暗くなっていきます。"肉"を喰いという描写はまあ察してください。故郷の因習で抵抗がない人間だったってやつです。
 そんな姿をネロはずっと分かっていながらも目を逸らしていました。何とかしてやりたかった、けどどうすればいいのか分からないって感じ。感情としては親しい友人としてのものでそれ以上の感情を持っていたかは伏せてます。ネロってその辺り全て隠して歩み続けることが出来る人間だと思っているのでどっちでもいいんじゃないかな。アンナに対してはバカ騒ぎ出来るビックリ人間って感覚でそれ以外の感情は一切ないのは言い切れますが。

 オメガとア・リスは現在を記録するモノと過去を記録するモノと分けられるんですよね。本編中には書かれてませんが、ア・リスはそれまで聞いてきた人間の名前と大体の過去の所感、アンナとの思い出を全て書き残し、エルファーに託しています。意思疎通は取れなかったけどそれなりに空気は読んで仲良くしてるように見せてました。実際は少々語弊はあるけど"内なる存在"と同一人物なのでオメガ的にはどちらかというと狼藉働かないか見張っていたの方が正しいんですけどね。畳む


 以下暁月ネタバレ入れたお話。
 アンナとリンドウが持っていた気迫と呼ぶものに関して。初めてお話としてどういったものなのかと明記しました。要するにア・リスらはエンテレケイアを再現したような技術を開発したってことになります。つまりリンドウと別れてからのアンナはしばらく心を塞ぎ込み暴れて"鮮血の赤兎"と呼ばれていましたがそれは終焉ちゃんみたいな状態になりかけていたってことですね。暁月編でその辺りに触ったお話は書く予定ではありましたがいつになるか分からなかったのでここで先出しって感じ。そういう意味ではアンナやリンドウ、ついでにア・リスはメーティオンに寄り添いやすい人間かもしれません。畳む

 そんな感じ。これから上げるものの予定ですが、リンドウ墓参り二度目であったエルファーとネロの会話、オメガ検証後日談を1つ、感情を機敏に受け取るアンナの話、リテイナーア・リスの短編集辺りが予定に入ってます。

(対象画像がありません)

注意&補足第八霊災ネタ。死ネタ。暁月ネタ有り。自機出番なし。漆黒後に現れるリテイ…

暁月,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

暁月,ネタバレ有り

その複製体は聞き記す
注意&補足
第八霊災ネタ。死ネタ。暁月ネタ有り。自機出番なし。
漆黒後に現れるリテイナーのア・リスが第八霊災が起こった後に"起動"される話。
メイン軸では触れられないだろうアンナとエルファー、ア・リス、リンドウの秘密な独自設定を明かしています。
 
―――俺様が起こされたのは"傑作"が世界によって壊された後の話だ。

 俺様はかつて友人の遺言を遂行し、"傑作"を最高なものに仕上げるために奔走した男の複製体。作った"親"は友人の魂の一部と共に想いを託し消えた。
 そんな"傑作"が完成し、ある"トリガー"を引いた際に俺様が起動するよう誘導させる、これが当初の計画である。しかしその願いが叶うことはなかった。

 目が覚めたら周りにいたのは赤や青の同じような服を着た男たちと勝手に"トリガー"役に任命した友人。驚愕した顔で俺様を見下ろしていた。

「お前、何で」
「起きたお姫様にはおはよう、だろ? よお久々だなエル、大体60年ぶりか?」
「……85年ぶりだ、寝ぼけたことを言ってるんじゃない阿呆」
「そっか。フレイヤちゃん元気? 念のために言うがテメェの可愛い妹のことだぞ? あの子がいないと俺様は起きることが出来ないはずだから知ってるよなァ? 会わせてくれよ俺様の最高傑作にさ。ケケッ」

 俺様はそこでこれまでにあった話を聞かされた。第七どころか第八霊災が起こり、フレイヤ―――いやアンナ・サリスは死んだらしい。"親"と友人の魂を抱えたままで、だ。どういう作り話だよと笑ってやったが隣にいた白色の男に胸倉を掴まれたことで現実と知る。

「お前がアンナを壊したのか!?」
「壊したぁ? 人聞きが悪いことを言うな。俺様が『生・か・し・て』やったんだよ。ていうかテメェはあの子の何なんだよ。あ、まさかコレか? ケケッそんな怖い顔すんなよ。俺様は嬉しいんだ。あの子が人間に近付いていたってことになァ」

 その白色の男はえらく友人にそっくりな真面目そうなヒトだった。多分アンナも無意識に追いかけていたんだろうな。でも反応的にはお互い想いを伝えることはなく両片想いだったのは分かる。焼き焦がれるほど想っていたのだろう。ああなんて青い男なんだ。
 それよりも少し離れた場所からの気配が気になる。賑やかだったから近付いてきたのだろう、これは悪意を何もない獣だ。このラボが壊されては困る。その腕を振りほどき、そばに置いていた短銃を手に取る。俺様用にカスタムされた特殊なモノだ。外に向けてぶっ放す。爆音が響き渡り俺様以外の人間が耳を押さえている。

「お前!?」
「うっせぇなどけどけこの中のものが壊れされたら嫌なんだよ」

 その言葉と同時に外で見張っていたのだろう女が「魔物がこちらに向かって! きゃっ!?」という声を上げた。すかさず足に力を籠め"跳ぶ"。エルファーは目を見開き俺様を見た。

「エル、俺様はただウロウロ遺跡を荒らしてただけじゃないんだぜ? 俺様はこの施設を"護りたい"んだ」



 外にいた魔物をあっという間に片付けると白い男が俺に声をかけた。

「よしよし問題なく使えてよかったぜ」
「それは気迫か?」
「おー懐かしい。リンが付けた名前じゃないか。違うぜ、これはシハーブってんだよ。だっせぇ名で呼ぶな」

 造られた身体に施されたモノにより"再現"された技術に満足出来た。エルは大股で近付き怒鳴って来る。

「どういうことだ!? "それ"を何で使えるんだお前は!!」
「そりゃ普通の人で実験したら下手すりゃ溶けちまうだろ? 先にアラグのクローン技術を"再現"していっぱい自分の複製体を作り試してたんだ。んで、成功した"俺様"をバックアップとしてこの地に保存してたってわけだ」
「ハァ!? オマエそンな理由でクローン複製したってか!?」

 次はひょろ長い兄ちゃんが必死な顔して言ってくる。これで察した。コイツらは技術者集団のようだ。エルは中々楽しい奴らをオトモダチに持ったみたいで安心する。

「さあエル、こんな所に長居は不要。これから俺様をどうする? 今殺すか? それとも―――連れてくかい? あの飛空艇に乗せてさ」
「―――会長クン、君に託そう。彼、の元は僕のかつての友人であり、リンと共にアンナを歪ませた元凶だ。だがどんな無茶も叶えてくれる天才でもある」
「ケケッその技術はテメェも共犯者だろ?」

 会長、と呼ばれた白色の男はしばらくこちらを見つめていた。そして口を開く。

「条件がある」

 条件、それはこれからの自分たちに対して口出しをするなという。その腕っぷしで護衛しろと言いたいらしい。一種のカミサマとして置いておくということなのだろう。気に入った、快諾してやったよ。

「じゃあ次はこっちが条件を出すか。俺様が持っている記憶はリンが死んだ直後までだ。それ以降は何も知らない。この世界の歴史だけじゃない。お前たちそれぞれの人生を順番に聞かせてくれ」
「―――全員か?」
「おう。ここにいるメンバーだけじゃない。俺様が死ぬまで文字通り全員の記憶と、アンナちゃんとの思い出を聞かせてくれないか」

 こんなにもあの子に必死になるような人間が増えたことが何よりも嬉しかった。赦される気はない、ただその歴史と記憶を全て聞いてそれを形にしたいだけで。
 まあ一種の懺悔室扱いされることになったんだけどな。それもまた人生だねケケッ。

「ああ自己紹介がまだだったな。俺様はア・リス、しがない科学者の複製体さ」

 ニィと笑ってやると何故か拘束されて連れて行かれることになった。何でだよ。



 飛空艇の上から各地の様相を見せてもらったがそりゃ酷いものだった。いつだって人間は勝手な生き物だなとため息を吐く。大体の為政者は死に、大気中のエーテルも弱り今まで使っていた燃料もゴミになった。だからどの勢力も余裕がないということらしい。幸い俺様を縛っている奴らはどこにも属さない技術を握る会社だったため狂った人間があまり出なかったみたいだ。何人も死人を出しながらもなんとか飛空艇の燃料である青燐水の変換を行い、アンナちゃんが遺したモノに挟まっていた地図を辿りラボに足を踏み入れたらしい。

「アンナちゃんは俺様の最高傑作になる予定だった。"アシエン"とやらに使い潰されるより先にリンと同じく欠けちまったものを取り戻す。そのために肉体を捨てたんだが完成する前に壊れちまうとはなあ」
「これ以上アンナをモノ扱いするとここから落としてやるからな」
「ひえー会長サマはコワイコワイ。そもそもリンがやらかさなきゃ俺様はあの子に何も施さねぇって。だからアイツを恨んでくれよ」

 シドという白い男はとにかくアンナのことを問いただしてきた。自分の知らないあの子の過去が気になるのだろう、覚えてる範囲で少々教えてやった。そして逆にコイツからも聞き出してやる。子供の頃、寒空の中助けて20年後に気付かぬ内に再会、仲良くしていたらしい。

「そうか、リンが死んで俺様が消えた次の年にテメェがかつてアンナちゃんを助けて、ねえ。想定通りの仕様として動いていてよかったさ」
「想定、通り?」
「あの子の意識が途切れても体内エーテルが尽きるまでは"俺様"が身体を動かせたんだよ。尽きたら本当に死ぬんだけどな。多分その時凍死しかけてたぞ。テメェが通りかからなかったら皇帝の前に持って行かれてたかもな」
「どういうことをしたらそうなるんだ」
「俺様最後の研究。アンナちゃんの"もう一つの人格"になってやってたんだよ。そうでもしねえとリンみたいな無欲で枯れた閉じ切ったアホの再演になったんだわ。ついでに反省させようとドアホの魂の一部も持ってな。時々意識乗っ取って必要な情報を見せて教育してやることにしたんだよあの底抜けたアホと一緒にすんじゃねぇ」
「オマエがアレかよ!?」

 近くで聞いてた金髪の男ネロが乱入してくる。どうやらコイツの前では結構出て来ていたらしい。

「時々変な含みのある喋りしてンなって思ったンだ。いつもより頭も良かったしよ」
「俺の前では出て来なかったぞ?」
「いやオメガ倒した後こっちに顔出した時は明らかにメスバブーンじゃなかったぜ? ガーロンドが気付かなかっただけじゃね」
「ぐっ……そ、そういえば何度か他人事みたいな言い方したことはあったが……」
「会長サマ鈍感なんだねぇ。好きだったんなら異変位気付いてやれよ」
「悪かったな鈍感で」

 からかい甲斐がある奴らだ。ネロという男に関しては"俺様"も相当気に入ってたのだろう。しかしそんなことよりエーテルが死んだ影響か纏わりつくような大気が気持ち悪い。拠点に連れて行ってもらったら屋内くらいは快適に暮らせるように変換器でも作ってやろう。ひとまず頭の中で仕様図と計算式をいくつか思い浮かべる。マァ再びリセットされてしまった時代に役立つものかは分からない。まずはそこから勉強し直しだろう。
 ラボの中にあるモノは燃料にでもすればいいと渡してやる。すると大体の奴らが「そんなこと出来るわけないだろ!?」と目を見開いていた。こっちにとっては通過点でしかなかった盗掘物やコーデックスの翻訳が彼らには刺激的に映ったらしい。俺様が入っていた睡眠装置もそうだ。魔導技術も使わず永久機関と化している部分に興味を持っているとか。確かにエーテルも大して消費させずに動かしているから変に映ったのかもしれない。実際は自然に頼ったもので、俺様としてはあと数年したら身体は腐っていたと見た。そんな代物だが自分たちで調べて判断すればいいだろう。
 以降、定期的に彼らはラボを出入りすることになる。だが、持って帰れたものは極一部で大体は途中で事故が起こったり略奪された。まあ過去の知識としてインプットされただけでもマシだろう。書物くらい再び俺様がペンを取って書き記せばいい。装置だってほぼ役立たないからスクラップにでもすればいいじゃないか。
 そんな俺様からしたらオメガとアレキサンダーをはじめとした報告書が非常に興味深いもので。文献で何度も見かけたクリスタルタワーも実際にこの目で確認出来るとは予想だにしなかった。本当にあの時アンナを生かしておいてよかったと好奇心が喜ぶ。まあもう死んでしまったのだが。

 レヴナンツトールに降り立った後、"最高傑作"になる予定だった人間の墓の前にぼんやりと座る。違和感を感じ目を凝らして視ると奇妙なものが映った。この子は既に死んでいるはず。が、埋められているであろう棺周辺がエーテルのようなもので包み込まれているのだ。まるでその躯を護るかのように。一体誰がやらかしたのか。自分の命を削ってまでそんな仕様を作るやつがいるわけがないだろう。

「―――アシエンの仕業だなこりゃ」

 1人ボソリと呟く。いや、この護る結界の主を見る限りヤツだけではないだろう。そういうことにしておく方が隣の男のためだ。俺様を拘束するロープを持ったエルは眉をひそめ「お前も視たんだな」とため息を吐いている。

「これあの会社の人間たちに言ってるのか?」
「否。というか掘り返してどうなるかも分からない要素を伝えるわけがないだろ」

 絶対に会長クンが掘りだそうとすると肩をすくめている姿を見て「あー」ということしか出来ない。

「どうして妹だけがこんな目に遭わないといけなかったんだ。僕も一緒に背負いたかった。家族なのに、何で話してくれなかったんだよ、フレイヤ」

 座り込み、顔を伏せている。俺様はその隣に座り「わかんね」とため息を吐く。

「そういう星の下に生まれた子と判断するしかねぇだろ。相変わらずネガティブで泣き虫なのは変わらなくて安心したぜ?」
「うるさい」

 鼻を啜る音が聞こえる。予想だが彼らの前では涙を流す姿は一切見せてないのだろう。戻ってこないエルが心配だったのか、ネロがやって来るまで泣き続けていた。声が聞こえた瞬間に咳ばらいをし必死に涙を拭っていたのは少々面白かった。
 ネロとエルはどうやらしばらく一緒にフリーランスの技師として旅をした仲らしい。あの嫁以外の話題では冷淡だった男が少しだけ柔らかくなった姿に驚いた。親しいながらもお互いあまり踏み込まない"良き友人"関係がかつての恋人シェリーと重ね目を細めてしまう。



―――数十年の時が経過した。

 最初に会った人間たちは徐々に老け、死にゆく中全く姿の変わらない俺様とエルは陰で"理論"確立のサポートを行った。多少の物資調達や特に失ってはいけないシドとネロの護衛が俺様たち2人の仕事である。当人たちのご希望通り、研究に必要になるであろう知識は一切提供しなかった。エルは人知れず"肉"を喰いながら彼らの営みをただ少し遠くで見守っていた。時間が経つごとに協力者も増え、既に第八霊災が起こった原因もほぼ特定されている。正直数々の分野のエキスパート達が集まり何日も議論を重ねる姿は新鮮で、見ているだけで面白かった。そして予想通りであったが、彼らが導いた結論は"第八霊災回避のためにはやはりアンナが必要だ"、と。―――なんてこんなにも求められていることに密かに涙を流す姿を何度も見ることになる。素直に礼を言えばいいじゃないか。まあ言えるような人間じゃない位長い付き合いの中で知っている。この結論をきっかけにもっと人が集まってきたという事実が、ちゃんとアンナは胸を張って"人間"として生きられていたと目に見えて確認出来、すぐに彼女の墓の前で報告してやっていた。
 一方、そんなエルを見ていた俺様は、故郷の闇という"呪縛"が未だ解かれていないことも痛感した。折角追放という名のしがらみからの解放が、霊災というクソみたいな出来事により再び闇へ堕としてしまったとため息を吐く。

「なあネロくん。もしさ、もし過去が本当に改竄出来たらエルを救ってくれないだろうか」

 我慢出来なかった俺様はつい仮眠しているネロにボソリと呟いてしまう。皴くちゃになり、すっかり年老いた彼も眠る時間が増えた。シドだってそうだ。ずっとアンナを想いながらも涙を枯らし、研究のため羽根ペンを握り続けていて。新たな隠れ家の壁はネロと議論するために文字だらけだった。自分にもこんな時があったなと苦笑する。

「エルはな、本当は泣き虫で甘えん坊なんだがその甘え方を知らないんだぜ? 滅茶苦茶リンに懐いてアイツのために僕の長い時間の一部を捧げてやるって言ってたんだ」

 思い浮かんだのはリンを差し置いてエルとラザハンで議論していた頃の話。一番の年下だったはずが落ち着き大人びていたリンのことが俺様たちは好きだったのだ。

「そんなエルが今は自分の残された時間をお前さんのために使ってるんだってよ。妹のためじゃなくてな。知らなかっただろ?」
「―――知ってたぜ」
「おいおい起きてたのかよ残念だ」
「うるさいから起きちまったンだよ」

 やれやれとゆっくりと身体を起こすネロを支えてやる。少し嫌味ったらしなのは年を取っても変わらないねえと笑ってやるとケケと笑っていた。

「あいつ隠せてると思い込ンでるみたいだが何年一緒にいンだよってな」
「だよな」
「でも触るのが怖かったンだよ。あいつ下手な機械や女より繊細じゃねェか」
「分かる」
「俺だって分かってンだ全部罪をエルに擦り付けてたってな。アンナを暴力装置呼ばわりしてたやつらと一緒なことしちまって、バケモノとして生きてやがる」

 そうか、コイツはエルが何を喰って生きているかも気が付いていたようだ。まあ追及しても理論立て優先だろとのらりくらりと避けただろうし心の中に仕舞っておくのは正解である。

「おっとそれ以降の言葉はエルに言ってくれ。俺様は何も聞いちゃいねぇから」
「いつぞやに全て話せって言った人間のセリフとは思えねェな」
「聞かせろと言ったが俺様は懺悔マシーンじゃねぇんだよ」

 数十年もの間、人々の軌跡を聞き続けた。そして1つ、"面白いモノ"を作って渡した。花を模った金属片から使い物にならなくなったシャードを加工した光るお守りまで。―――彼らの思い出にまつわる象徴を贈ってやる。それは俺様なりのお礼ってやつだ。

「それともネロくんや、やっと自分の思い出話をしてくれる気になったか?」

 そう、未だに軌跡を聞けていない存在がいる。シドとネロだ。コイツらだけは決して口を割りゃしない。
 露骨に嫌そうな顔をした後、苦笑しながら肩をすくめた男は遂に口を開いた。

「俺は、ガレマルドの貧しい田舎で生まれた。恵まれたガーロンドとは全く違う環境で育ってよ―――」



 長い話だった。腐れ縁となったシドに対する長きにわたるコンプレックスとその払拭に、エルとの出会い。アンナはメスバブーンと呼びながらも妙に騒げるいい友人だったと振り返った。でもこれまで聞いた奴らの中では激動な人生で面白さは上位だ。手元にあった針金を弄り、少しだけ残していた白と金の塗料を塗りウサギを模したものを渡す。目を丸くしてそれを見つめていたネロに「話のお礼だ。お守りとして持っとけ」とニィと笑ってやる。

「近い内に終の棲家を決めてけよ、ネロくん」
「いきなり何言ってンだ」
「昨晩あの紙束を見せてもらった。予言してやるよ。お前たちの研究はもうすぐ纏まる。最期の安住の地と墓の場所をシドくんと決めとけ。俺様とエルが絶対作り出してやるよ」

 ささやかなご褒美さと言いながらその場を去ろうとすると「待て」とネロは口を開く。

「墓の場所は決めてンだよ。俺もガーロンドもな」
「そか。……嗚呼レヴナンツトール」
「クリスタルタワーがよく見える場所でって決めてンだ。若造たちの頑張りを眺めてェ」
「―――そう言うと思ったぜ。シドくんは確定だと思ってたけどお前さんもとは思わなかったぜヘヘヘ」

 起こして悪かったな、小さな黒い塊を引き連れ外へ出た。いつの間にか"記録"のために入り込んでいたらしい。意思疎通は取れなかったが"これ"は何がしたいかは分かっていた。人間たちは現状の報告はコイツにし、過去の話はこっちへ。それが彼らにとってどういう意味を持っていたかは知る由はない。が、少しでも心が軽くなっていれば嬉しい。こんな陰鬱な滅びへ向かう世界を切り捨てるが如く巻き込み、"在るべき未来"へ繋ぐ。―――そんな彼らが2体は好きになっていた、のだろう多分。俺様はそうだがこの機械の塊はどう考えているか分からない。だって"これ"はそれに至るための感情が存在しないのだから。きっと理解するために未だ観測を続けているのだろう。外で待っていた黄色い生物を撫で、何もない空を見上げた。



「お前とアンナが持っていた気迫について聞いておきたい」

 全うに年齢を重ね皴だらけの手が俺様の腕を掴んだ。理論は完成し、あとは今後の人間に託す準備で"彼らの役目"が終わる。少しでも故郷に近い環境であり、モードゥナ近郊に位置するクルザス。そこで小さな家を構えシドとネロは暮らしている。現役を退いた今も伝説の機工師に会うためにとやって来る客の選別が俺様の仕事だ。エルは相変わらず物資調達役となっている。

「シハーブだっつってんだろ。……ラザハン式錬金術にな、"アーカーシャ"という概念があるのは知っているか?」
「聞いたことないな」
「目には見えない想いが動かす力。まあ普通だったら人の手では何も加えることが出来ないものだ。火事場の馬鹿力という言葉は知ってるだろ?」
「まあな。強い意志で何かをするってことか?」
「そうそう。それを力として形にし、行使出来ないかと聞いたのがリン。アイツ、ハーフガレアンでな。ママみたいなエーテル操作は不得意だしパパみたいに鎌持って妖異と契約も出来なかった。代替となる力が欲しいっつーから俺様とエルで叶えてやったんだよ。代償はキツいものだったけどな」

 その力は人の身に余りすぎるもの。だがリン、それに加えアンナは使いこなすことが出来てしまった。いや、アンナに関しては使えるように手を加えたのだが。

「怒りや悲しみが籠れば赤黒くなり、"大切な人と護るべきもの"への感情が強くなるほど青白く輝く」
「大切な、人」
「テメェはアレを目の当たりにしたんだろ? アンナちゃんは何やかんやちゃんと見てくれてたんだよ。リンの言いつけで大切な人を作らないように立ち回ってただろうにな」
「―――代償は何だったんだ?」
「人の感情に対して敏感になる。"俺様"も起きてから痛感したんだが自分への感情変化で首がゾワッて来るんだわ。もう鳥肌立つくらいにだぜ? かつてリンは複数人から悪意を持って近付かれたもんだから怖くなって逃げたんだよ。それが無名の旅人って名乗り始めた理由だ」

 アンナちゃんの行動も妙な時はあっただろ? と聞くと「確かに」とボソリと呟いた。

「あいつは一定の距離感以内に入ると首を押さえながら離れたりしていた」
「そのセンサーをかいくぐってテメェは懐に潜り込むことは出来たんだろ? いくら昔助けてくれた人だったとしても長い間相手になってたのはいい所まで行ってたな」
「―――初めて怖がらずに手を差し伸べられた相手だと、書かれていた」

 シドは机に置いていた分厚い本を手渡してくる。これは、意地でもこっちに見せなかった"アンナの手記"だ。

「まずその本はネロ、開くための鍵は俺が持っていた。"自分が死んだら開けろ"って、まるで自分が死ぬことが分かっていたかのようにネロに託していたんだ」
「お前さんもやっと話してくれる気になったんだな」
「自分のことを話すというのは、恥ずかしくてな。忘れてしまう前に聞いて欲しい。俺は伝説の機工師なんかじゃない、ただの愚かな人間だ」

 本を開き、彼の話に耳を傾けた。素直で不器用な、恵まれていたが波乱万丈な人生を送った男のまっすぐな想いが込められたアンナとの思い出を聞く。



「俺様はお前が羨ましいや」
「何故、そう言える」

 嗚呼面白い話だったよチクショウ。聞いてるこっちが恥ずかしい程のロマンチストだとは思ってもみなかった。そしてこの本はアンナが生まれてから死ぬ少し前までの内面が書かれた手記で。本当にこの子らはお互い惚れ込んでいながらも、感情よりも先に肉体関係を持って幸せになって欲しいと勝手に願う大莫迦者達だった。下手したらリンよりも愚者だと俺様は思ったね。すれ違いの悲恋を聞いて涙が出そうだよ。そのご褒美はモノではなくお話をプレゼントしてやる。

「俺様が生きていた時代はな。今のような技術はロストテクノロジー―――要するに都市伝説で。だから評価してくれるやつなんて存在しなかった」

 ただの狂人扱いされ、ぐちゃぐちゃな自暴自棄になっていた頃。そんな時、後に恋人となるシェリーに出会う。

「シェリーはな、ニームの軍学を少しでも人に知ってもらうべく研究を行う学者だった。当時ニーム文明が気になってたから色々調べ回ってた時でな。こりゃまたおもしれー女だったよ」

 これまでの自分の成果を見せると明るい表情を見せてくれた。そして知識を共有し合い、更に研究に火が灯される。

「それまでの人生で俺様を評価してれたのがアイツだけだった。あの時は幸せだった。だがそんな日々は長くは続かない。遺跡の崩落事故で俺様を庇って瓦礫の下敷きさ」

 それからまた真っ暗な日々に逆戻り。腹いせに各地の遺跡を荒らし、重要そうなデータは全部いただいてやった。と、ゲラゲラ笑ってやると眉間に皴を寄せたシドが口を開く。

「そのせいでどれだけ数々の分野に迷惑をかけたと思っているんだ」
「知らねえよ。大体の人間が興味ないモンどう使ったってこっちの勝手だ。……それからシェリーの蘇生技術探すついでにサベネアの遺跡荒らしてやろって思ってな。壁剥がそうとしたところでエルと鉢合わせ。あっという間に拘束されてごめんなさいさせられた。その縁で錬金術の話を聞かせてもらう途中、リンがふらりと現れた」

 偶然の巡り合わせが今奇妙な縁に繋がるのが人生の面白い所だよなと笑ってやる。

「コイツらは莫迦だった。俺様が持っていた装置一つ取っても全部すげーって言うんだぜ? そりゃ調子にも乗る。錬金術師共もアレを作ってくれこれを直してくれってうるせぇ。とりあえずどんどん形にしてやったさ。釜の再調整とか薬の保管場所の空調管理とかさ。初めて脳みそに詰まっていた知識をフル稼働させて。いつの間にかシェリーのことなんて後回し」
「―――それがレフたちとの出会いだったのか」
「そーだ。超天才な俺様と縁を持つことが出来た運のいい奴らのお話ってやつ。……で、だ。俺様とお前の違いだったな」

 分かるだろ? と聞いてやると軽く首を傾げている。恵まれた人間には難しすぎたみたいだ、苦笑して見せた。

「テメェにはネロっていう天才が並んで立っていた。競い合って洗練させていくという行為は技術の進歩に必要なものだ。そして沢山の部下に恵まれ色んな国からの信頼からの資金提供有りだろ? 俺様になかったものばっかで羨ましいったらありゃしない」

 俺様は既にあったものを組み合わせただけで何もすごくない。だからシドとネロが羨ましく感じた。まあ資金に関しては性格が災いしていたのは自覚している。

「ナァ、本当に過去が改竄出来たらさ、アンナちゃんを救ってくれないか?」
「それはお前さんの最高傑作として完成させてくれってことか?」
「うーんそれもある。まあ罪悪感はあるんだよ多少はさ。そしてエルもきっと楽になると思う」

 この技術はエルもノリノリで作ったんだ。それもあって今もなお罪悪感真っ只中なんだよと言ってやるとシドは驚いた顔を見せる。

「リンだってアンナちゃんを追い詰めたかったわけじゃない。ただの事故からああなった。俺様ら3人は一生苦しみながら死ぬことになってるからさ。せめてアンナちゃんだけでも助けてあげて欲しい」
「―――何度だって絶対にアンナを助けるし好きになるさ。レフだって何とかしてやるしア・リスお前もだぞ。流石にリンドウは死んでるからどうにも出来んが。……ありがとな」
「何で感謝されなきゃいけねぇんだ」
「だってお前さんだって今まで俺たちに自分の話をしなかっただろ? 仲間として認めてもらえて嬉しいんだ」

 うわあこの人タラシという言葉を飲み込みニィと笑ってやる。

「テメェがいい話をしてくれたからご褒美としてあげただけだ。勘違いすんなよ? アンナが最高傑作として完成したら、この複製体の俺様はもっと自由に走り回る予定だったんだよ。ケケッ」
「第八霊災を防げたら次はお前さんが暗躍しだすと? 冗談はやめてくれ。絶対捕まえてやるからな」

 シドはため息を吐き「喋りすぎた」と寝そべった。俺様は「おうすまん」と笑いながらその布団をかけ直してやる。アンナの手記を再びテーブルに置き、またいつの間にか現れていたオメガの模型を抱き上げ立ち去った。



―――それから2人の"シド"によって自分らが作り出した"理論"を2代目ガーロンド・アイアンワークス社会長らに"継承"し、その生涯を終えた。これから確立されるかは彼ら次第。協力してやろうか、とイタズラな笑みを見せてやるとシドと同じく「命尽きるまで見守っていて欲しい」と言われた。そういう所が俺様は気に入っていたからよかったぜ。もう表舞台に立てるような存在じゃないからな。
 彼らの墓は勿論クリスタルタワーがよく見えるレヴナンツトールの近郊に作られた。あのエオルゼアの英雄と呼ばれた女の隣だ。これからの人間たちの旅路を、仲良く見守っていればいい。"アイツ"もついでにとまとめて護ってくれるさ。絶対に気に入るからさ。
 俺様はどうするかだって? ―――複製体にだって寿命はある。延命させる技術は流石にエーテルが弱り切った現在、1人で成しえることは不可能だった。

「エル、すまねぇな。お前の死に目まで一緒にいられなくて」
「君の元になった存在は既に人生を閉じてるだろ」
「ケケッそうだったな」
「本当はあの墓を護ってたヤツの件も僕のために隠してたんだろ? 分かってんだよ」

 エルは動かなくなってきた俺様の身体を抱き上げ、とある底の見えない崖の上に立っている。嗚呼コイツを1人にしてしまうのかと思うと憐れみしか湧かない。

「お前の左目、治したかったな」
「……気持ちだけで嬉しい」

 エルの目は、昔故郷に安置されていた"聖石"に触れてしまったことで変容してしまっていた。"視えてはいけないもの"まで映り、その副作用で頭痛が発生し続ける一種の不治の病。それを何とかするのも元の俺様が複製体を作ってまで探ろうと決心した動機の一つである。第八霊災で全ての予定が崩れ、結局何も出来ず時間だけ過ぎてしまった。それを放置して、この世を去ることが一番の心残りである。もしも、もしもだ。本当に歴史を改竄出来るのなら、俺様は―――。いやそれを言うのは野暮だろう。心の奥にしまっておく。ふとエルはボソリと呟いた。

「アリス、複製体のお前も死んだら冥府に行けるのか?」
「知るか。……リンの代わりに行ってやってもいいかもしれんな。―――精々死ぬまで奴らを見守ってやってくれ。達者でな、エルファー・レフ・ジルダ(可愛い血の繋がらない弟)
「元からそういうつもりだ……おやすみ、ア・リス・ティア(バカ兄貴)
「ケケッ。こんな俺様のために泣くな莫迦」

 それからエルは俺様を投げ捨てた。嗚呼嗚咽を漏らし涙が溢れだしているのが見える。薄れゆく意識の中、彼らの理論が確立されてもこの世界が回り続けるよう祈りながら。造られた俺様の、その生涯を終えた。


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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

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注意前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。  ―――アンナは誰…

蒼天

#シド光♀ #即興SS

蒼天

"歩み"
注意
前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。
 
―――アンナは誰とでもいつも数歩後ろを歩く。

「アンナ、こっちッス!」
「感謝」
「いつも悪いなあ」
「構わない」

 先頭のビッグスと少し後ろにいるウェッジの更に数歩分後ろを歩くアンナはニコリと笑う。今回は魔大陸にて見覚えのない装置があるという報告を受け、護衛としてアンナを連れて来た。ちなみにシドは別件で忙しく不在である。
 アンナは2人の話を聞きながら相槌を打つ。そして敵が見えると目にも留まらぬ勢いで斬りかかりあっという間に両断された。終わるとニコリと笑顔を向け、再び彼らの後ろを歩く。

「そういえばアンナっていつも皆の後ろを歩いてるッスけどどうしてッスか?」
「そんなに変?」
「親方と歩いてる時もそうだよな。もしかして無意識か?」

 その言葉にアンナはしばらく首を傾げ考え込んでいたがすぐにぽんと手を叩く。

「若い頃からのクセみたいなもの。気にしないで」
「なるほど。……なるほど?」



「っていう話があったんスよ親方!」
「具体的理由はなしと」
「あの人全然自分の話はしないのは親方が一番分かってるはずなんだがなあ」
「聞こえてるぞビッグス」

 シドは自分が不在の場で部下と何かあれば"アンナとどういう話をしたか"と絶対に聴取しに来る。今回はウェッジの報告への反応に対し、ボソリとビッグスはつい呟いてしまう。案の定聞こえてしまったらしくジトっとした目で睨まれた。「すいません」と濁し落ち着かせる。

「確かに俺も気になってはいた。暁相手でもいつも笑いながら数歩後ろ歩いてる」
「ララフェルの歩幅にも合わせられるのは凄いよなあ。特殊技能だ」
「アンナは特殊技能しか持ってないと思うッス」
「瞬間移動みたいな運動神経。色んな武器の使い分け。手先も器用、エーテル操作も難なくこなせて超える力持ち。盛られまくってるな」
「天は二物を与えずって言葉絶対嘘ッスよねー」

 羨ましいがその対価を考えるとああはなりたくないなとビッグスとウェッジはため息を吐く。それに対しシドはぼんやりと次にアンナに聞いてみるかと考えていた。



「なあアンナって何でそうやって後ろ歩いているんだ。話しにくいだろ、横にでも来たらいい」
「私は大丈夫」

 今日は飯でも食いに行かないかと誘うとあっさり了承を貰いレヴナンツトールで待ち合わせをしていた。合流し歩き出したが、いくらスピードを落としても絶対一定の距離から気配を感じる。シドはそれに見かねて立ち止まり、振り向くとアンナは首を傾げた。

「何かあったら即追い抜き解決。私、人の後姿を見るの好き」
「後姿を、か?」

 予想していなかった回答に首を傾げるとアンナは笑顔を見せた。

「小さい頃、後姿を追いかけながら会話してた。ついでにどんな顔をして話してるか想像、楽しい」

 ほら歩いた歩いたと急かされると諦めたのか再び前を向き足を踏み出した。

「お前さん使用人でもしてたのか?」
「んーちょと違う。……師弟関係?」
「なるほどな。今俺はどういう顔してるか分かるか?」
「うーん……笑顔」

 シドは少々眉間に皴を寄せ呆れた顔をしていた。新たな単語の"師匠"という存在が気になっている。どうしてそこまで興味を持ってしまっていたのか。しかももやもやする気分付きで。この時のシドはその心理が理解が出来なかった―――。



「昔お前がずっと後ろ歩いていた理由を聞いた話を覚えてるか?」
「覚えてない。私は大丈夫」
「覚えてるじゃないか。ってこれ前に別の話題でもやったな」

 シドは歩きながらアンナを小突く。お互いの想いを確認しあった後、まずやったことは隣に歩かせるために腕を掴み引っ張ることだった。最初こそは抵抗していた。だが5回ほど繰り返すと諦めたのかようやく自分の隣を歩くようになる。流石にまだ手を繋ぐことすらしていないが近いうちにまた教えたらいいだろう。微妙な距離感でも一歩前進していることが目に見えて分かるのだから。

「"師匠"ってリンドウのことだよな?」
「うん。フウガ、私よりひょろ長。足幅大きく歩くスピード速し。だから追いつけず」
「配慮出来ない人だったのか?」
「いや、本人はゆっくりのつもり。当時ちっちゃかったし。フウガデカい目印。迷子は無縁」

 不器用な人だったと笑顔を見せている。シドはジトっとした目で見つめている。それに気付いたアンナは「あなたが振った話題」とため息を吐いた。直後、シドはふと何か思い浮かんだのだろう、拳を握りニィと笑う。

「だが俺はリンドウよりも先に行ってると自信があるぜ」
「えらい自信」
「今アンナと生きてるからな。しかもこうやって横を歩いてるんだ。それだけでアドバンテージがある」
「じゃあ妙な嫉妬しない。フウガの話題妙に突っかかるじゃん」
「嫉妬なんてしてないさ」

 一瞬でバレる嘘はつかない、とアンナはシドの頬を抓る。その後、目線を合わせるように少しだけ屈み笑顔を見せた。

「まあその、えっと、フウガより大量に思い出を作ればいい。今を生きてるんでしょ?」
「―――言われなくともそのつもりさ」

 夜空を見上げ、軽く息を吐く。煌めく星が今日も輝き2人を見下ろしていた―――。


Wavebox

#シド光♀ #即興SS

(対象画像がありません)

注意漆黒以降の自機が子供化ギャグ概念をまとめたページです。漆黒以降のキャラがいる…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

長編:旅人は子供になりすごす
注意
漆黒以降の自機が子供化ギャグ概念をまとめたページです。漆黒以降のキャラがいるのでネタバレ有りに入れています。キャラ崩壊がすごい。
ネロ+光♀気味のシド光♀。ネロと自機はお互い気が合う友人以上の感情は一切無し。その4だけシド光♀です。
R18パートはがっつり特殊性癖なので自己責任で。

長編
その1 // その2 // その3 // その4

フルver(R18入り、約32,000字)

後日談

いつか

(対象画像がありません)

注意漆黒以降暗黒騎士の力を手に入れた自機と影身フレイの短編3本立て  …

漆黒

#シド光♀ #フレイ

漆黒

ウサギは影と踊る
注意
漆黒以降暗黒騎士の力を手に入れた自機と影身フレイの短編3本立て
 
"英雄"
「逃げたくないのですか? 英雄という枷から」
「フレイ」

 目を開くとひょろりと長い影がアンナを見下ろしている。どうやら自室のソファで寝落ちしていたらしい。決してその顔を覆うバルビュートを外さない彼の者フレイは主の答えを待つ。

「何度も逃げようと思ったさ。でも今が一番楽しい」
「楽しい、ですか」
「そそ。辛いこともあったし、苦しかった時もあった」

 脳裏に浮かぶのはこれまでの旅路。英雄と呼ばれるようになり数々の陰謀に巻き込まれてきた。しかし"運のいい"彼女はいつも差し伸べられた手を握りしめ走り続ける。フレイは未だにその姿が不安に思っているのだろう、安心させるかのように優しく語った。

「でも何も目的もなく嫌な目で見られながら旅をしていた頃に比べたらマシさ」
「……それはあなたが手にしてしまった力のせいですか?」

 手にしてしまった力、それは命の恩人に教えてもらった"無駄に強い"もの。そもそもそれが原因で悲惨な目に遭い、"鮮血の赤兎"と恐れられた時期もあったのだ。フレイはそれを言いたいのだろう、アンナは笑う。

「そうだよ。でもこれは人を護るために教えてもらえた唯一無二のものなんだ。誰にも否定なんてさせない」
「そう、ですか」

 フレイは洗練された動きで跪き、寝そべるアンナと同じ視線で見やる。アンナはクスリと笑いそのバルビュートの口元に手をかけるが大きな手で阻まれてしまう。ケチとボソリと呟くと金色の双眸を細めながら額を指で弾かれた。

「いけません。あなたには見せられない顔な故」
「いいじゃん減るもんじゃなし」

 唇を尖らせて不満を言う様にクスリと笑う声が漏れていた。直後アンナを抱き上げ、ベッドに優しく落とす。一瞬驚いた顔を見せたがすぐにいつもの余裕のある笑顔を見せた。

「あなたが英雄であり続ける限り、"ボク"もあなたと共に戦いましょう」
「ええ。折角闇と向き合おうって決心した成果なんだから地獄の果てまで付き合ってほしいね」

 おやすみなさい、とフレイが言うとすぐにアンナは目を閉じ、寝息を立てている。クスリと笑い声を漏らし寝台から離れ、ドレッサーの前へ立った。その眼を閉じてバルビュートを脱ぎ、その顔をじっと見つめるように開いた。

―――長い銀色の髪に青色の目。左の目元に傷があり、長い耳を揺らした男はため息を吐いた。

「おぬしの闇、ということは"私"が出て来るのも仕方のない話」

 自らと溶け込んだ"フレイ"、そして主人格である"アンナ"と同じ笑みを浮かべ、眠る赤髪の女をじっと見つめた。

「地獄の果て、か―――そこへ行くのは"私"だけでよいのだ、エルダス」

 再びバルビュートを被り、闇に溶け込むように消えた。

 
"修練"
―――影はどんな武器も扱うことが出来た。

「うーフレイ強すぎ」
「あなたがまだ未熟なだけですよ、アンナ」

 フレイは暗黒騎士の影でありながらも数々の武器を"影"で作り出し、修練に付き合ってくれた。稀にリテイナーのアリスも手伝ってくれるがやはり自分の影で殴り合える方が楽しい。と思っていた。自分の影なら実力が互角になるというのがお約束だろうにフレイの方が圧倒的に強くあっという間に転がされる。両手剣も、斧も、双剣も、刀や槍でさえ勝ることはない。息一つ乱さずその金の目で確実にクセを読まれ弾かれる。一度勝ったはずの相手なのに、自分と混じり合った影響で余計に強くなるなんて予想外だ。

「手加減しろー」
「しています」
「その武器の射程減らせー」
「本番に弱くなりますよ」

 重そうな鎧と視界が狭そうな兜を被っているくせにどうしてそんなにも軽やかに動けるんだとアンナは悔しがる。
 しかし裏返すと共に戦う時は心強い味方になるということだ。

「ほらもう今日はもう終わりにしましょう。2時間ぶっ続けは疲れましたよね?」

 そして程よいタイミングでこうやって自分を甘やかす。勝てないな、そうアンナは苦笑を浮かべた。

「今日は何を食べようかな」
「蕎麦とかどうでしょうか?」
「もーフレイ本当に蕎麦好きだね。天ぷらと食べようか。今日シド来る予定なんだよね」
「……"ボク"の分はなしと」
「フレイどの道私の前じゃ食べないじゃん。おにぎりと一緒に置いとくから夜中に食べて」
「寿司にしてください」
「はいはい」

 フレイは東方料理が気に入ったらしい。食事は特に必要ない性質らしいがやはりあると意欲が上がるようで「美味しいですよ」という言葉を聞いていて楽しい。
 兜を脱ぐからかアンナは食べている所を見たことはないが。気が付いたら空になった食器があるのが日常である。

「いつか一緒にフレイとご飯食べたいな」
「考えておきますよ」

 こう言う時は大体考えるポーズを取るだけなのは知っていた。まるで「努力しよう」と言うシドのようだと頬を膨らます。自分よりもすらりと高い影を見上げ、鎧を小突いた。

 早々に仕込みをし、デスマーチで疲れたシドを迎える。側に置いてある3つ目の皿に首を傾げる男をケラケラ笑いながら夜は更けていった。
 深夜、2人が寝静まると影は音を立てず形を作り暗闇の中食事を摘む。バルビュートの口元を外し青色の目を細めながら幸せそうに笑うアンナの顔を浮かべ、再び闇に溶け込み消えた。次の日、寝る前はあったはずの天ぷらが消え慌てる何も知らないシドに「夜食はダメ。太るよ?」とからかい笑うアンナの姿があった―――。

 
"浮気?"
「アンナが見知らぬ男と鍛錬してた?」

 シドは大きなため息を吐いた。整備帰りの社員が偶然飛空艇の上から見かけたらしい。全身甲冑を纏った長細い男と思われる人間と戦っていたのだという。見た所、喧嘩や殺し合いというわけでもなくアンナが斬りかかっては弾き飛ばされ転がされていたという話はにわかには信じがたい。あの負け知らずのアンナが、見間違いではないかと言うが間違いなく黒髪赤メッシュヴィエラ女と聞くと本人だろう。まさか今になって何も言わず他の男の所に行くとは思えないが、また変なことをしている想い人にため息しか出ない。試しにリンクパールに繋げてみる。

『もしもし』
「アンナ、今いいか?」
『何か私の力が必要になる変な仕事でも?』
「いや、最近お前さん修行でもしてるのか?」
『―――あー』

 どこか歯切れが悪い。息も少し上がっている気がする。

『してないしてない。ごめんちょっと用事思い出した。切る』
「お、おいアンナ!」

 プツリと切断される。怪しい。

「なあレフ、アンナが何か怪しいのだが」
「また喧嘩でもするのか?」
「そういえば先日飯食いに行った時も変だった」

 1人分余分に作られ、目が覚めると無くなっていた。おかしいと思わないかと言うとレフは肩をすくめネロは爆笑している。

「寝ぼけてどちらかが食ったでなければネズミでもいるんじゃないか?」
「ネズミ」
「ケッケッケッ、いやあ分かンねェぞ新たなバブーンでも拾ったンじゃね? ヒトじゃなくてガチモンの野生生物をな」
「お前たち人の不幸を面白がってるんじゃない。というかそこらの生物に天ぷらを食わすわけないだろ」

 とりあえず本日最終便でリムサ・ロミンサに行くかと拳を握る。



「フレイ、シドに察されたかも」
「言えばいいじゃないですか」
「まだ遊べる」

 アンナはリンクパールを切った後自らの影と対話する。鍛錬の合間にかかってきて平静を装うのも疲れたと座り込んだ。

「妙な勘違いされて痛い目を見るのはあなたですよ? アンナ」
「むーそうなんだけどどう説明すればいいのかも分からんね」

 闇と向き合いもう1人の自分が影身として具現化し、それと修行をしていますなんて言える? と聞くとフレイは肩をすくめた。

「"ボク"だったら呪術士の元に連れて行くかもしれませんね。マハで妖異にでも憑かれたかもしれない、助けてほしいと」
「ほらー!」
「はい休憩は終了です。続きを始めましょうか」

 フレイはアンナから欠けていた感情である。"無名の旅人"として負の感情を触らないようにし、斬り払うように奔り別の世界までも救った。
―――きっかけは護ると決めた男だった。英雄という道を作ってくれた白い星と一度次元の壁に隔たれた時に"それ"が牙をむき蹂躙する光と共に襲い掛かって来た情景を思い出すだけで未だに震えてしまう。もうそんな弱さを露呈させるわけにはいかない。だからどこか懐かしさも感じる男に今日も刃を向けその不安を落ち着かせるために修練を重ねる。
 溢れ出した感情に引っ張られた"力"が"また"誰かを傷つけるのではないかと手が震える。―――自分が使う"力"はまだ大切な人たちを傷つけたことがないはずなのに、不安が襲い掛かるようになった。何度も護ると決心した人間たちまでも傷つける夢を見るようになり、目が覚めた後何度も小さな声で謝る時もあった。そんな時にエーテルで補強された長細い影のフレイが現れ、修練に付き合ってくれるようになる。そうだ、英雄であるために、弱さと向き合うためにアンナはシドにも言わずその剣を自分より頭一つ位大きな自らの影に振るう。"内なる存在"とはまた違う相棒という存在が久々にアンナの心を滾らせた。
 ニィと笑い、腕に力を集中させる。

「ああ、私はまだやれるさ」
「ええ、あなたの全力を"ボク"に見せてください」

 空気が震え、赤黒い光を抱きしめる。怒りも、この護るという意志も全て、自分のものだと飲み込みながらその力を穿った。

「あーご主人らやってんねぇ」

 1人と1体に悟られない距離まで離れた場所にて白衣を纏った金髪ミコッテの青年はカラカラと笑いながらスコープを覗いている。アンナのリテイナーであるアリスはそのエーテルの塊である影を凝視しながら呟いた。

「イシュガルドの暗黒騎士ってやつァよく分かんねぇな。ちと調べて今後の参考にすっか」

 2人の歪んだ"家族団欒"(修行)を邪魔するわけにもいかねぇしよ、と踵を返し掘り出し物探しへと走り去っていった。



 シドは貰った鍵を回し、扉を開いた。既に真っ暗で寝息が聞こえる。珍しくもう眠っているらしい。少し遅い時間だったが思えば一言も連絡なしで来たのだから何も準備されていないだろう。
 連絡を交わしてから全く集中出来なかった。レフが手回ししたのかきちんと飛空艇の最終便へ間に合うように帰らされる。明日は朝一の便で行けば大丈夫だろうと感謝しながら軽くため息を吐いた。
 椅子をアンナの前まで運び座り見つめる。そして頬に手を近づけた瞬間、ふと声をかけられた。アンナと自分以外誰もいないはずなのに、だ。

「レディの寝込みを襲いに来たのですか? なかなか大胆なことで」
「っ!? 誰むぐ」

 真っ黒なガントレットがシドの口を塞ぐ。見上げるとひょろりと長い全身鎧姿のヒトが口元に指を当て見下ろしていた。

「"ボク"だったらあからさまに不審な態度で連絡を切られたらその日のうちに様子を見に来る。申し訳ございません。"我が主"はどう説明すればいいのか、悩んでいただけ」

 まあまだ遊べるとも言っていましたがとくすくす笑う男の声に眉をひそめた。

「お前は、誰だ」
「フレイとお呼びください。"ボク"はアンナの影、闇が具現化したもの。所謂アンナの弱さ、"負の感情"」
「何を言っている。アンナの森の名と何の関係が」
「そうとしか説明が出来ないのですよ。あぁ既に表舞台から去った存在たちとも言えますね」
「……アンナは"また"厄介なやつに絡まれているってことでいいか?」
「新たな力を使いこなすための修行中、と言ってほしいですね。兎に角あなたの敵ではないということだけ分かっていただいたら幸いです」

 のらりくらりと自分の質問を躱す姿に頭痛がし、少しだけ眉間に皴が寄って行く。

「もしあなたに危害を与えてしまうと、"我が主"が怒ってしまいますからそんな目をしないでください。殺意を持たれたら、手が出てしまいます」

 フレイと名乗った男は跪きシドの手を優しく握りしめた。金の双眸が細められじっと見つめる様にどこか懐かしさを覚え少々緊張が解けていく。

「"ボクたち"は"我が主"の心の壁を壊し、氷を融かしたあなたに感謝しています。だからどうか、これからも末永く、"この子"を頼みたい」

 返事を返す前にそれは暗闇の中に溶け込み、消えた。顔が熱い、そう思いながらコートを脱ぎ頭を冷やすためにシャワーを浴びに行く。「俺は、疲れてるんだな」というボヤキは水音でかき消された。

 シドがシャワー室へと向かい数刻後、再び影は形を作った。バルビュートを脱ぎ不器用な笑顔でその先を見つめている。

「確かにあやつの言った通りか。エルが複雑な感情をもつわけだ」

 男の目に宿っていた星のおかげで"圧倒的な力"に怯えず前へ進む"主"の髪を優しく梳き再び溶け消えた。直後、シドはブランケットで髪とヒゲを乾かしながら現れる。寝台で眠るアンナの横に座るとふと腕を掴まれる。

「し、ど?」

 半覚醒状態のアンナがとろんとした目でシドを見ている。

「ああ起こしてしまったか?」
「ん、だいじょーぶ」

 まだ寝ぼけているようだ。普段だったら「何でいるの!?」と驚くだろうに。ここにいるのが当然のような動きを見せているのが少し面白かった。

「はやく、寝よ?」
「ああ俺もちょうど疲れてたんだ」
「ん、おやすみなさい」

 心の中で浮気ではないようでよかったと安堵する。冷たい身体を抱き寄せ、目を閉じた。



 いつもの起床時間だとアンナは目を覚ます。何だか身体が重いとその腕を掴んだ。

「……腕?」

 視界は肌色。飛び起き隣を見ると寝る前にいなかったはずの男が眠っている。記憶を呼び寄せてもトップマストの一室に来るという連絡は受けていない。アンナは首を傾げまずは日付を思い出す。間違いなく休日ではない。ということは朝一の便で帰るということか。時計を見やり「こっちに来る時は事前に連絡!」と言いながらゲンコツを入れるとシドは情けない声を上げながら目を開けた。

「ああすまん。お前さんがまた変なことしてるのかと思うと居ても立っても居られなくなってな」
「寝ぼけて変なこと言ってる? 軽く朝食作ってあげるから遅刻しないでね」
「ん、ああ勿論」

 言ってくれれば晩飯も置いといたのにとボヤきながらエプロンを付けキッチンへ向かう。シドは「日中用事があるって一方的に通信を切った人間の言葉じゃないな」と目をこすりながら着替えを手に取った―――。

「それで? アンナ、俺に『まだ遊べる』って隠していることとかないだろうな?」
「……ナイヨ?」
「いつか話すんだぞ。苦しみも全て、一緒に背負うって言っただろう」
「―――分かってるつもりさ」

 ジトっとした目で睨むシドから目を逸らし、焼いたパンをいつもより多めに押し付ける。一連の動作に子供かと思いながらコーヒーを啜るのであった。


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#シド光♀ #フレイ

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ここ数ヶ月でノートしたメモlog  アクセの話星芒祭ネタのやつで設定上…

メモ

#log

メモ

ioで呟いたアンナ概念(今後書く予定もあるしSSにしてるやつもある)2
ここ数ヶ月でノートしたメモlog
 
アクセの話
星芒祭ネタのやつで設定上はアイオライトがあしらわれた髪飾りをシドから貰って完全に1人旅の途中は付けてるよって設定になってる
メインストーリー中は落としたり壊れたら嫌だから外してる

アイオライトの石言葉が「道しるべ」「誠実」って感じで
お話上ではその辺り考えずにあげたけど自機は即気付いて嬉しいって思ってるよって感じ
 
SかMか
普段の行動やら戦闘方法やら見てるとそういう枠組みが存在しないかSと思われがちだけど実際はMですねえ
アンナも自覚は無いけど相手からは把握されてる感じ
 
絵心(ピクトマンサー話題の時に)
そんなに嗜んでこなかったから多少旅の記録として発見した珍しいものや構造物をスケッチする程度
地図書く腕はありません
 
ギャザクラ
何でも出来るよって感じに上げてますね
料理が一番得意
1人で生きていけるからってアピール
50年以上迷子でサバイバルしてたんだから料理とギャザラー要素とあと木工革細工くらいはできるに決まってるよなあって感じで
そのスキルは現在イタズラ装置を作るのに役立ててます
 
守る守られる
お互い守ってもらってるなあって思ってるよ
そりゃ人やシドから見たら圧倒的パワーで自機が守ってるって感じだけど自機は「彼の作った道に守られて進んでるだけだよボクはね」って笑顔で言うよ
 
ジョブの話
まず、自機の後付けで付けた森の名は『フレイヤ・エルダス』で
エルダス(Eldur)とはアイスランド語で火という意味なので生まれ故郷は森の中にいながらも火を重んじている部族なんですよ
だからそういう魔術への理解も早いんですね
だから魔術系ジョブはヨシとしています

竜騎士というか槍術士が育成遅れたのは、「『鮮血の赤兎』時代が槍持ってたのですぐに高揚して殺意漏れるから過去バレしちゃうと怖がっていた」という後付け設定を作ったんですね
暗黒は、前にノートしたけど迷子になるから闇が嫌いという事で理解が出来なかったけど、漆黒終わってから「ずっと明るくても迷子にはなる」と少しだけ向き合うようになったんです
そういう意味ではリーパーも一緒

逆に侍がメインジョブなのは、何も考えずに森を飛び出して行き倒れていた所助けてくれたのが侍なヒゲのおじ様だったからですね
憧れの命の恩人みたいに刀を振るい人助けしたいと思い手に取ったわけです
殺意溢れる気迫はこのおじ様から受け継いでいます
ゴウセツ氏はその侍のおじ様を知っており、時々溢れる気迫が似てると指摘されます
ウサギは照れてますっていう設定

要するに、紅蓮辺りまでは槍以外はどの武器も慣れてないからその辺りの冒険者と変わらないよーっていう無害アピール
つまりメインでボロ負けするのは一種の舐めプという後付け設定
 
自機の脳みそ(Y談ビームから派生)
そもそもY談内容は自分と一切結びついていない脳筋野生生物なのでへーこういうのがあるんだってねーすごいね人体って思ってるよ
だからああいう物語になっちゃうんですね

自機の影響された環境が
リンドウ(20年旅してた)>アリス(15年程度会ってた)>里(14年過ごした)>>>>エルファー(合計1年も一緒にいない)
なのでお兄ちゃん可哀想
 
内なるやつ関連
内なるやつとフレイくん的なポジションになるやつは違うヤツです
先に言っておきます内なるやつはまじでお前なんなんだよ!ってなりますなりました
 
戦い方教えて!
アンナ「右腕に戦うぞパワーを溜めてそれを刀に込めて力にしズバッといけば一撃必殺」
リンドウ「全身に戦うための力を溜めそれを刀に込めて振りかぶれば一撃必殺だ」
ア・リス「こうやるぞ!って腕にズバーンってやってドン!っとやればいいんだよ!こんなもんフィーリングだ!」

エルファー「(こめかみに指を当て震えている)」

リンドウ「では今から出て来たモンスターを使って解説しよう。まず貴様が持っている武器の間合いからだが(くどくど)」
ア・リス「んなもん考えなくても俺様の秘密兵器を使えばな!」
エルファー「吊るして燃やせばいいだろ」

リンドウ(アンナの命の恩人で師匠)は努力で強くなって更に大ドーピングした人間なので各モンスターやら人の特性を理解した上で理詰めも出来る感じ
アンナはそれをそのままそっくり暗記してるから無意識にやるから脳筋解答になる

エルファーは吊るして燃やせばいいって思ってるしア・リスは色々荒らした"成果"でモノを作ってるからそれ使おうぜーお代はお前の命なーって冗談混じりで言う
 
アンナはメスバブーンとか野生生物かって言われたら実はちょっと違うんだよね
武器の特性とかも含めて全部理解させられた上で事故で死にかけたアンナの命を救うため仕方なくリンドウと同じ大ドーピングされたからただの人間兵器なんだよね。

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注意漆黒5.0終了直後の話なのでふんわりネタバレ   旅人は星を見つけ…

メモ

メモ

20240304メモ
注意
漆黒5.0終了直後の話なのでふんわりネタバレ
 
 旅人は星を見つけるというようやく観念し、自分の想いと向き合おうとする話を書きましたのでそのあとがき。
 5.0メインストーリー終了直後のお話です。

 シドは旅人は奮い立たせたいで言い渡された宿題をアンナが第一世界に行っている間に解くためにネロとアンナの兄エルファーと共に命の恩人リンドウ・フウガの終の棲家へ再び訪れる話(技師は宿題を解きに行く)と妖精のイタズラで夢で繋がり話をする不思議な出来事("夢")を経て今回の話になります。
 アンナ自体は"夢"で余計なことまで喋っちゃったから会いたくねー!って思ってるけどまあ報告には帰らないとだめだよね。じゃあ石の家行ったら帰る! え? ガロ社行け? ……まあ今回も別次元とはいえ助けてもらった人たちだし行かないとね……。ジェシーに挨拶して逃げようって感情でした。まあ"宿題"とやらは早々に終わり夢で逢った後も準備をしっかり先回りしているので捕まるんですけど。

 アンナの新生から漆黒までのシドに対する感情を初めてしっかり公開しました。実はそのモノローグの中で書いてない話が一つだけあるのでそれもいつか出しておきたいですね。
 鮮血の赤兎がアンナになって初めて出会った時から無意識に一つの星を見出して、ガルーダ戦の前には感情がバグり散らしていました。お前を助けるのはボクだ、ボクだけ見ろというのが星芒祭での話で、それからどんどん歯車が軋みオメガでのやらかしに繋がります。そして別に約束覚えてないなら隙を見て消えてもいいんじゃない? と思ってたりもしてたし人の心が理解できていませんでした。というかこれで特定の感情持ってないですは嘘だろ!? ってなるのも仕方ないです。普通は本気にされるよ。

 それも全てかつて命の恩人リンドウがしていたことを真似していただけという認識なんですね。実はリンドウもそのアンナと同じ感情になってるんですけど。「私の教えは成長するごとに忘れて行き、自分の目で大切な人を見極めて全てを護る強き存在になれと言いたかった。頑なに孤独で旅をして怒りに任せて暴れるだけでなく世界を滅ぼすトリガーに利用されろとは言ってない」って感じで。手紙にそう書き残す位には後悔していました。

 その想いを受け取ったシドが"宿題"の答えとして「俺はアンナが好きだ。だからお前を絶対に獣にはしない。俺はお前が最大限の力を発揮するための道を示す、星になる。だから、もう無名の旅人にならなくてもいい。アンナ・サリスとして隣に立っていてくれ。"お願い"だ」という言葉を送りました。リンドウの手紙に書かれていた『私はアンナを獣にし、人々を絶望させるために全てを教えたわけではない。アシエンの手を今からでも振りほどき星空の知識を教えた思い出と共に自由な夜空を愛してほしい』という部分から取って来たんですね。基本的に仕事相手以外には不器用だけどここまではっきりと明示されたらピンポイントにツボは押さえてくれると解釈しています。



 リンドウとアンナの最終的な関係。アンナからしたら命の恩人であり、師匠であり、幼い頃の初恋で、厳しいが優しい血の繋がりのない父であった人。リンドウからは全てが枯れた後に育てた娘という認識でした。というか枯れてなくても年齢差が30位あるし友人の妹に手は出せないという考えがあったり。墓参りの話のネロとエルファーの会話をカットしているので明かされてはいないのですがリンドウは度重なる"実験"により欲だけでなく生殖機能まで失い子孫を遺せなかった存在なのでアンナは本当に大切な娘として刻み込まれ、そして"継承"させてしまいました。

 手紙に残されていた友人が準備した"奥の手"が"内なる存在"と呼ばれるもう一人のアンナになります。どうやって準備されたかはまた別の機会に。これが時々アンナの意識を乗っ取って今回の話に繋がって行きました。乗っ取る基準は"ダメージを一定以上喰らった時"、"気絶した時"、"ストレスが一定以上になった時"と一種の補助電源のような存在になっています。一度死にそうになってもこの"内なる存在"が動ける限りは少しだけコイツが生き永らえさせることが出来ます。しかし本体が本当に死んでしまうと体内エーテルが切れた地点でおしまい。

 例としては幼少期シドと出会った時ですね。この時は凍死しかけ"内なる存在"に切り替わり、帝国兵に捕まるのだろうかと悩んでる内に偶然通りかかったシドに助けられました。その時に会話したのが"内なる存在"のアンナ。なので星芒祭の夜に再会した時の"旅人さん"も"内なる存在"が演じています。確実にシドの記憶に残すためにアンナを騙しあえてやりました。策士ですね。元のアンナが単純すぎるだけともいう。
 というわけでその"内なる存在"がどう介入していたかというのを加筆修正しました。対象の作品はこちら。時系列準。

・本編前
旅人と赤色
・新生
旅人は過去を視る
・蒼天
星降る夜の奇跡の話―中―
・紅蓮
好奇心は旅人を起こす // 旅人は奮い立たせたい // 旅人は、目覚めさせる // 旅人と約束
・漆黒
旅人を闇は抱きしめる

 以上。あとは差し替え以降に書いてるので省略。この辺りは確実に"ボク"になっています。見分け方はボクと"ボク"で実際喋ってる時もイントネーションが違う感じになっています。出番数的にネロだけは違和感に気付いています。シドの前に出たのは星芒祭と初夜後と検証終了直後に少々だけなのでちょっと検証材料が足りない状態。

 これらに加えて漆黒の大罪喰いを全て倒した後以降ハーデス戦が終わるまで全部"内なる存在"が終わらせています。理由としては本体は内包された光の気持ち悪さにダウンしてしまい1人塞ぎ込んでしまったから。全部フラフラしながら"内なる存在"が片付けました。しかし塞ぎ込みすぎてかつては自分の中に大量に溜め込まれた闇を、今回は光を体内から排出させてくれたエメトセルクにお礼が言えず後悔しています。それに関しては「知らん」と語る"内なる存在"であった。

 閑話休題。これ以降はボズヤ、ウェルリトを経てアンナによるシドを知る旅編が始まります。リンドウと別れて以降初めて人に興味を抱いたアンナはそれを知り、自分がどういう感情を抱いているかを自覚しようと努力します。シドだけではなく周りからするともうとっくに一線も越えて想いを伝えあう以外は大体終わってるのに今更何を言ってるんだと思われてますが、アンナは人の気持ちを一切理解してこなかったので考える事にしました。
 というのもこれまでのアンナは徹底的に君を助けるんだやらナイスイタズラやら自分の気持ちを押し付けるようにしてたんですね。人がどう思ったか反応を見る前に立ち去るのがこのウサギでした。でもエオルゼアの人間たちは絶対にお礼を言いに来たりシドは追いかけてどういう技術使ってんだと説教したりと「何でボクに構うんだよこっち見ないでよ!」って思うようなことになっています。ばかですね。冒険者だからだよ。かわいいね。

 もうくっついた後の話も何本も書いてるけど本軸もゆっくり進めたりエルファーメインのリンドウ、ア・リスという存在が色々やらかしてる話もしっかり準備はしてるので読みたい方はまたよろしくお願いします。

 あ、あと初夜話なんですけどfullを下げてシド視点とアンナ視点で書き直しました。

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注意漆黒5.0終了直後の自機が人に"興味"を持ち始める話。シ…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

旅人は星を見つける
注意
漆黒5.0終了直後の自機が人に"興味"を持ち始める話。シド少年時代捏造。
 
 最初に抱いた感情は同じ帝国に狙われた可哀想な人。記憶を失い、現地民に疎まれ、更に祖国から追われている様に同情する目を向けることしかできなかった。陰気なやつだと思っていたが話をしてみると意外と優しい人間で気に入った。初めてもらった"道しるべ"を隠し持って、彼らを追いかけることにする。
 "彼"が記憶を取り戻した時、"彼"はボクが護ると約束した人だと思い出してしまった。"彼"が歩む先の障害を排除する。だからボクが進めるべく英雄という道を作ってくれればそれでよかった。それはただのアンナ・サリスとして共に障害を破壊する行為で。大きな声で言えないがとても楽しかった。
 英雄という存在となったボクはいつも不安だった。いつまで"いい子"でいられるか分からなかったからである。それでも"彼"がいれば何とかなる、頼られるしもう少しだけ頑張ってみようかなと思うようになった。そして何よりも絶対に生きて帰ってこい、それは新たなボクを縛り付ける言葉だった。でも全然苦しくない。それどころか力が湧き出てくる。どうしてなのかは分からなかった。その期待に応え、何度も勝利を収めた。
 "彼"の前で、ボクは少しだけ自分を見せることにする。理由は簡単、キミを護る存在だということを分かって欲しかったから。誰もボクらの関係に介在されたくなかった。この人たちを護るのは、ボクなんだよ。一方で、"彼"の刃になるか、それともまた旅に出て消えてしまうか悩んでいた。ふわりと首がくすぐったくなるよく分からない感情が怖かったから。
 何も考えたくなかったので過去のボクを完璧に捨てる儀式を"任せる"。唯一残した故郷を繋ぐ証を押し付け、処分させることにした。相手は覚えていないのだから刃になる必要はない。頼られれば、歩み寄り、必要無くなったならば表舞台から消えてしまえばいいんだ。思えばそれが一番の間違いであり、2人の関係を表す歯車が軋みだす瞬間だったのかもしれない。要するに"内なる存在"に嵌められたってことだ。
 暴力装置と揶揄されてもボクは走り続けた。どう呼ばれても"無名の旅人"であると心に決めている限り、折れることはない。求められたから"内なる存在"と共に全ての陰謀を斬り捨てた。人助け以外には、興味はない。手に届く範囲の人たちを救うことが出来ればそれでよかった。
 いつの間にか、ボクを見る"彼"の目は熱く焼かれそうなほどのものに変わっていた。でも、真っ白な自由の象徴である彼の隣に立つ存在は、もっと綺麗で護りたくなるような人間がいいに決まっている。赤くて黒いボクは、裏で"彼"の代わりに罪を背負えばいいのだ。本当はね、キミの歩く道は色々な犠牲も生み出しているのさ。悟らせないために、裏でいろんな人が頑張ってる。そのお手伝いもボクはしていた。誰に対しても優しいあなたの心を乾かさないために、ボクは求められるまま存在しているんだよ。
―――そう、ボクは怒りと悲しみに委ね沢山人を殺めて来た。恨み、憎しみ、苦しみを全部自分に向けろと言いながら全て穿ち、斬り放った。そんなボクは幸せになるべきではないし人を幸せに出来るはずがない、そう思っている。だから、だからボクにそんな目を向けないで。

 初めて身体を重ねた夜、ここで白い"彼"の内面をドス黒く染めてしまっていたことに気が付いた。どこで間違えてしまったのか、ボクには分からなかった。それを考えるには人と関わるという経験がなさすぎたのである。これ以上は、ダメ。ボクは無名の旅人なんだ。キミと幸せを共有できる人間はこの広い星空に沢山存在する。その星々ごと、護らせてほしい。ただそれだけで今のボクは救われるんだ。
 どうやらボクがやってきたことは人を勘違いさせるただ無償の愛を降り注ぐだけの行為だったらしい。違う、ただその星に光が灯されていればいい、そう思っていただけだよ? かつてのフウガと同じことをしていただけだったのに、何でそんな顔をして、ボクを見てるの?
 そう、綺麗な空を飛んだ時の喜びを教えてもらったから、恩返ししただけ。ぐちゃぐちゃになって逃げだしていたボクに手を差し伸べたから、握り返しただけ。それ以外、何も、考えないようにしてる。だって、考えれば考えるほど、苦しいだけなんだもの。
―――だってキミはボクより遥かに早く死ぬ人間なんだよ? キミが死んだ後、どうしたらいいの? 一生想いを引きずって苦しんで最期は発狂して死ねって言いたいのかい?
 そんな余計な感情を抱くくらいなら。フウガの教えの通り名も無き旅人で居続け、全てから逃げ続ける方がマシなんだよ。だから、その手を離して。抱きしめないでよ。

 原初世界でのにぎやかさに対し第一世界では、"孤独"だった。いや、仲間や"内なる存在"はいる。嫌味を言いながらもフォローに回る敵か味方か分からない存在もいた。この世界の住人もとても優しくて、眩しかった。でもボクの心は乾き、溢れる光を身体に取り込み続ける。あんなにも嫌いだった闇が、恋しく感じた。目を閉じたら映る輝く星が最後の心の支えになる。ボクはただただ空に夜を取り戻すために斬り払い続け、どこがゴールか分からぬまま、とにかく走り抜けた。それは長い間やってきた旅と同じ筈なのに、空虚で悲しい気持ちに支配され壊れそうで、それでもボクは足掻き続けた。
 身体の中で暴れ続ける光で苦しかった時、夢に"彼"が現れる。嬉しかったからつい抱きしめてしまったし、余計なことを口にしてしまう。そう、妖精の悪戯により目の前にいた"彼"と夢を通して繋がっていたらしい。出してこなかった感情に身を任せた行為をよりにもよって"彼"に見られたのが恥ずかしくて、消えてしまいたかった。でも心が物凄く軽くなった気がする。"彼"の言う通り生きて、帰らなきゃ。

 全ての大罪喰いの光を喰らった後、意識が真っ暗になった。ハッと気が付くとあの男を消滅させ、世界の滅びも一次的に回避できた"らしい"。記憶は朧げにあるものの死に目に自分自身の言葉で挨拶も出来なかった。その時の笑顔と一筋の涙が流れた理由は、分からない。自分の身を挺してまで光を吐き切らせたアシエンを、ボクはどう思っていたのだろう。―――そうだ、この人は2人目の命の恩人だった。かつては闇を剥がし、次は光を剥がしたボクの中にあるナニカを見出した可哀想な人。どうか安らかに、星になっていて欲しい。
 仲間たちから一度原初世界へ報告しに帰れと言われた。正直、あの夢での件もあって少々会いたくなかった。だって答え合わせをする前に答えを出してしまったようなもので。しかしそれを誰かに言えるはずもなく、仕方ないから石の家で報告してからすぐに戻ろう。
 タタルに「ガーロンド・アイアンワークス社に顔を出してあげてほしいでっす! 皆会いたいって言ってたでっすよ!」と言われた。まあ今回霊災を回避できたのは別の時代の彼らなのだ。感謝を告げてからシドと鉢合わせする前に戻ってしまえばいいだろう。足取り重く護るべき者たちがいる場所へ向かった。



 足取り重くガーロンドアイアンワークス社に訪れるとシドから逃げていたはずのネロが立っていた。

「あれ、ネロサン。逃走生活終了?」
「なンだお前帰って来てたのか。……珍しく辛気臭ぇ顔してンな」

 そうだよだって休みなしでアシエン斬り倒して世界救ってきたしと肩をすくめて見せると「おつかれさン」とニィと笑っている。

「で? 他の世界には何か珍しい技術でもあったか?」
「キミはねぇ……あったよ。時代と次元の跳躍とかいう現実感のないすっごいのがね」
「ヒヒッそりゃよかったことで。そんなモン作った天才に是非ともお会いしたいナァ」

 その内の一人はキミだよと言いたい気持ちを今は抑え笑顔を向ける。

「まあボクは元気ってシドに伝言よろしく。別の時代の君たちのおかげでボクは死ななかったんだ。いやあこう戻って来ても暁の皆は第一世界から帰れないままだし。皆で手がかりを探してる所」

 手を上げ、踵を返す。「おいメスバブーン待てよ! 止まった方が自分のためだぜ?」という言葉を無視し、顔を上げ入口を見るとジトっとした目で仁王立ちしたシドがいた。

「はい?」
「お前さんやっぱり逃げる気だったか」

 ワンテンポ反応が遅れた隙にいつの間にか手に持っていたバズーカのようなものがボクに向かって撃ち込まれる。それは強力な網のようなものであっという間に捕らえられ倒れ伏せてしまう。ネロを見やるとニィと見下しており、「ま、まさかネロサンもグル!?」と言ってやると「だから言ったのになァ!」とゲラゲラ笑いながらどこかへ行ってしまった。軽々と持ち上げられ担がれていく。
 出会う社員たちに「アンナさんおかえりなさい!」やら「よかったですね会長!」やら罰ゲームのような雰囲気を味わう。力を込めても全く切れそうもない材質って何だよと思いながらなんとか指を網に向け「バァン」と火で穴を開けようとすると網全体が熱くなる。

「あっつ!?」
「アンナお前何やってるんだ!? 熱っ!」

 シドも思わず手から落としてしまうほど熱くなった網をバタバタと暴れるがびくともしない。

「アンナ!!」

 その時扉が勢い良く開き赤髪のヴィエラが飛び出してきた。シドは唖然とした表情で見ている。

「兄さん!?」
「駄目じゃないか! その網は僕が焦がしたらあっさりと切れてしまったからその反省点を生かして改良したんだよ。まさか妹の身体を火傷だらけにさせてしまう機構になるとは思わなかった、嗚呼可哀想なアンナ。うん、そこは反省している。よし反省会終わり。次回以降の改善点にしておくとして。じゃあ冷ましてやるから待ってろ」

 懐から何やら金属片を持ち出しそれを当てるとあっという間に冷たくなった。

「え、あ、ありがとう兄さん」
「ところで妹よ、僕は今ここにいるのは妹には秘密にしてるんだ。だから内緒な」
「うん? ……うん、分かった」
「おつかれ、よく頑張ったな」

 頭をぐしゃりと撫でられそのまま兄はどこかに去って行った。そっか内緒にしておかないといけないな。そう思ってると怪訝な顔をしたシドは再びボクを持ち上げて部屋へ運ぶ。抵抗する気も失せた。自室に連れ込まれた後その網を切り、笑顔を浮かべていた。

「さあアンナ、"宿題"の答え合わせをするか」



「怖いよな、失うことって。リンドウも自分の刃に大切な人を巻き込みたくなかったから逃げていたんだ」
「はぁ!? キミに何が分かる! フウガはそんな腰抜けな人間じゃない! ……ってあっ」

 最初に口に出したのはまさかのフウガの悪口。つい感情的に言い返してしまったことに気が付き口を閉じる。シドは優しく笑っていた。

「いいや、あの人は今のお前のように全て怖くなったから逃げ出して感情を封印してたんだ。―――俺は絶対、お前の目の前で死ぬさ。ああ決められた寿命ギリギリまで生きて死んでやるって約束する。でもお前は、俺の目の届かない所で死にたいんだろ? 死に目にも立ち会えず、苦しめって言うのか?」
「それは、だって私は沢山の人に恨まれて、苦しむんだからそれを誰にも見せたくないからで。キミが苦しむことなんて―――」
「俺も一緒に背負う。見て見ぬふりなんてしない。刃は1人でに動かないだろ? 整備も必要だし、それを行使するヒトも必要だ」
「ダメ! キミは自由で。キレイで。皆の前に立って。笑顔で幸せな所を見せて。そして私がキミを護らせてくれたらそれでいい。私を、そんな目で見ないで」
「俺は綺麗じゃない」

 頭をくしゃりと撫でられ、額をこつんと合わせる。

「俺はアンナが好きだ。だからお前を絶対に獣にはしない。俺はお前が最大限の力を発揮するための道を示す、星になる。だから、もう無名の旅人にならなくてもいい。アンナ・サリスとして隣に立っていてくれ。"お願い"だ」

 シドがボクの手の甲に口付け笑いかける。朧げな記憶の中に残っている寒空の夜と、逆の姿。星、そうだボクは星を探していた。光り輝く星を、ずっと。"彼"の目に宿る星を見る。ボクはザナラーンの星空の下でこの星を見た時、気に入ったと思ったのだ。

「ねえシド、本当に私は人の隣に立つ資格はあるの? いっぱい、捨てて来たのに」
「だってお前ずっと俺のこと好きでいてくれたじゃないか」

 は? この男は何を言っているのだろうか。ボクが特定の人間に感情を抱くわけがない。それがフウガの教えで。でも。

「お前も俺も、もう相手無しで生活なんてできんさ。観念しろ」
「そう―――かもしれないねぇ」

 温かい手を握り、目を閉じた。反証する材料が手持ちに一切存在しない、いい加減観念するべきだろう。だがそのための材料も足りない。

「でも感情に関してはもう少し待ってほしい」
「この段階まで来て何を」
「あなたに興味が湧いたんだ」

 キミはボクなんかのことを頑張っていっぱい探してきて結論を見つけたかもしれない。でもボクはキミのことは何も知らないんだ。ただたくさんある星の1つを愛でていたにすぎない。

「あのね、私はあなたの歩んできた道は一切知らない。興味なかったから」

 魔導院時代の話も、後見人だったガイウスとの因縁も、その脇腹の銃創の意味も。父親を失い亡命するきっかけになった事件もこれまで一切興味が湧かなかったのだ。

「今教えなくてもいいよ。私だって自分の足で探したい。その旅が終わったら、即結論は教える。だから―――」

 口付けてやり、少しだけ屈みその相変わらず分厚い胸板に頭をぶつける。汗と機械油の匂いにボクは"ここ"に帰って来られたんだな、と安心した。それに、さっきから少々人に見せられない顔になっているだろう、恥ずかしいんだ。

「第一世界は、1人で怖かった。そんな世界を頑張って救って帰って来たんだよ? 労ってくれてもいいじゃないか。兄さんやネロサンと違って帰って来るなり答え合わせとか言い出してさ。そんながっついて来ないでよ。子供か」
「あ。す、すまん」

 頭に温かな手が置かれる。そこでボクは声を出しわんわんと泣いた。こんなに泣いたのは、フウガの前で崩れた時以降一切なかった。

『蒔いた種はようやく実りやっと一歩前進、か。遅すぎ』

 内なる存在の声が聞こえた気がした。意味は理解できなかったが今のボクの感情に対して邪魔をする気はないらしい。

『泣け泣け。奴しか見てないんだからさ』

 温かさに包み込まれながらボクはこの世界に戻って来られた喜びを噛み締めた。



 声を出して泣きじゃくる彼女の頭を撫でてやる。確かに労いの言葉もなしにこっちの言いたい事を投げ始めたのは悪かった。早くしないと"また"逃げられるかもしれないと慌てた想いが先行してしまっていた。
 第一世界で何があったかはまだ話をしていないかは分からない。夢で見た地点で参っていたのは分かっていたが、相当精神的にも肉体的にも限界が来てたらしい。素直に一緒にいた暁の血盟の人間に助けを求めたらよかったのにと肩をすくめる。しかしそれを覚えてしまったら自分の所に来る頻度が減ってしまうじゃないか。そう考えると今のままでもいいかもしれない。
 しかしキスを交わしこうやって弱音を吐いてまだ感情を抱いてませんこれから考えますは嘘だろ? と思ってしまう。既に一線は越えているしあと何が必要なのかと聞きたくなるが流石に喉元で抑えた。

「おつかれさん」

 顔を上げさせ、彼女の顔を見つめた。頬を赤らめ、涙が溢れる目にいつもの余裕ある笑顔はなく弱々しい声で「見るなぁ」と言っている。

「ゆっくり結論を探せばいい。どうせお互い多忙で滅多に会えない関係なのは変わらないからな」

 そうだ、自分たちはそれぞれ周りに求められている存在だ。今までも何とか時間を作り逢瀬を重ねてここまで来た。それはこれからも変わらないだろう。強く抱きしめ、久々の冷たさを味わった。


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#シド光♀

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注意・補足森の名を知りたいシドと全てを教えたい自機のギャグ概念です。レフ:エルフ…

漆黒

#シド光♀ #ギャグ

漆黒

"名前"
注意・補足
森の名を知りたいシドと全てを教えたい自機のギャグ概念です。
レフ:エルファー・レフ・ジルダ。アンナの実の兄。笑顔がヘタクソ。妹に負い目を感じている。
ア・リス:アンナが雇った新人リテイナー。エルファーの友人と似ているらしいが…?
リン:リンドウ・フウガ。アンナの命の恩人にして旅の始まりにして元凶。不器用で感情表現が下手な枯れた男。20年前には死んでる。
 
「アンナ、そろそろ名前教えてくれてもよくないか?」
「はい?」

 シドの一言が今回の長い戦いの始まりだった。

「もしかしてボケ始まったやつ? アンナ・サリスさ」
「違う。それは今エオルゼアで名乗っている"街の名"だろ? ていうか今ボケとか言ったか?」
「おっと口が滑ってしまった。―――それでいいじゃない。今の私はアンナだよ」

 アンナ・サリスは彼女がエオルゼアに来てから咄嗟に名乗ったものだ。生まれた時に付けられた名前ではない。集落で名乗っていた生まれながらの名前は"森の名"と言うらしい。ヴィエラの女性は部族名がファミリーネームと聞いている。なのでエルダスという所までは把握しているのだが、そのファーストネームは未だに不明なままであった。

「その、好きな人間のことは全て知りたいに決まってるだろ? 普段呼ぶ呼ばない関係なく」
「そういうものなの?」
「そういうものだ」
「ふーむ全てを知りたい、ねぇ」

 しばらく考え込む姿を見せる。「よし」と呟きアンナは口を開く。

「ネリネ」



「レフ」
「おや会長クンじゃないか。どうした?」

 シドは小走りでアンナの兄であり、社員として働いているレフに話しかける。

「アンナの"森の名"って知ってるよな?」
「勿論。実の妹なんだからな」
「ネリネ」

 その単語にレフは首を傾げる。シドは反応を見てため息を吐いた。

「違うんだな?」
「違うな」
「教えてほしい」
「本人から聞き給え。答え合わせはしてやろう。僕以外に判断要素がないだろうからな」

 やれやれと肩をすくめる姿にシドは拳を握り、「絶対に聞き出してやる」と闘志を燃やしている。
 近くでコーヒーを啜っていたネロは呆れた目でその風景を見ていた。



「アマリリス」
「……違うな」
「ダリア」
「かすってもいない」
「カリス」
「文字数も違う」
「ガーベラ」
「一文字もないな」
「ルディン」
「ない」
「スピネル」
「全く違う」
「ガーネット」
「ソル帝の前で名乗ってたやつじゃねェか?」
「確かに」
「ベリル」
「もう4文字の名前が出るまで僕に聞くな」

 直接会った時、リンクパールで連絡した時、一緒に食事に行った時。数々の逢瀬で聞き出してはレフに尋ねに行く。そういえば珍しくリンクパールを常に付けていたりレヴナンツトールに滞在を続けているなと考えがよぎる。だが全く真実に近付きそうにもない状態にシドは歯ぎしりをする。どうしてそんなにも躱そうとするのか、本当に嫌なのならばはっきりと断ればいい。その筈なのに延々と偽名を口に出すのは意図が読めない。ため息を吐いた。



「おっ今日もいいもの持って帰って来たぜご主人!」
「ご苦労様、ア・リス」

 アンナははにかみ最近雇ったリテイナーである金髪ミコッテの青年から掘り出し物を受け取る。今日は奇妙な歯車と食材のようだ。お礼を言いながら再び給金代わりのスクリップを渡そうとするとア・リスは首を傾げる。

「ナァ最近シドのダンナ機嫌悪くね?」
「まーたどこで覗いてるのかな? 名前教えろって言われたから教えてるだけだよ」
「森の名をか? 教えりゃいいじゃん」
「あっさり言ったらコミュニケーションが終わっちゃうよ?」

 ニコリと笑いながらアンナはこれまでシドに教えた名前を挙げる。

「これらはね、昔名乗っていた街の名なの」
「そんなにあんのか!」
「まだまだあるよ? 何せ50年程度は旅して街や地域ごとに変えてたんだからいっぱいあるさ」
「……それダンナには街の名だって言ってんの?」
「言ってないよ?」

 ア・リスはうわぁと言葉を詰まらせた。それに対しアンナは首を傾げている。「何か問題でも?」と言うとア・リスはいやいやと言いながら肩を掴む。

「そういうのはちゃんと先に言っとけ。それでいつも痛い目に遭ってんじゃねえか」
「? 向こうがこれが森の名だなって思ったらそれで終わりでもいいよ?」
「後から面倒になるやつじゃん!」
「いやボクもそう思うんだけどね。"全てを知りたい"なんて言われちゃったらさ」
「俺様は忠告したからな? どうなっても知らねえぞ?」

 へへと顔を赤らめながら改める気のないアンナの行動に呆れた目を見せながらアリスはパタパタと走って行った。アンナは首を傾げ逆の方向に歩き出した。



 数日後。

「レフ! ……フレイヤか?」
「おっ会長クン大正解だ。よく頑張ったじゃないか」

 よしと拳を振り上げ喜びを隠しきれないシドをレフは口角を上げ笑っているような姿を見せる。

「やっと教えてもらえたんだな?」
「まあようやく街の名のストックが切れたとか言って教えてくれたさ」

 お前に申告なしの名前だけでもあれから20個くらいあったがなと疲れた切った表情を見せている。レフは「そうかこれまでの街の名だったのか」と頷いている。その後指を突き立てる。

「貴重な妹の過去を聞けたから嬉しい。じゃあ次に君も気になるお題を出そうか」
「何だ? また時間のかかりそうなものは嫌だからな」
「サリスの由来、聞きたくないか?」

 その言葉にシドは目を見開く。「そういえば、どこから出て来たのか知らんな」とボソボソと呟いている。

「じゃあ今聞いて来るか」
「おう行ってこい行ってこい。それに関しては僕も正解を知らないからな、ゆっくり教えてもらったらいい」

 シドは小走りでその場から去って行く。ネロは怪訝な顔をしてレフに近付く。

「ネロ、サリスというのはリンの父方のファミリーネームなんだ。フウガは母方のだって昔聞いてる」
「ゲッ、知ってて行かせてンのか」
「勿論。まあ偶然の一致かもしれんからな。念のために聞いててほしいと思ってね」
「いやガーロンドの地雷じゃなかったか? メスバブーンの命の恩人関連ってよ」

 レフは勿論知っているとニコリと笑う。シドにとって命の恩人(リンドウ)に関わる話は露骨に機嫌が悪くなる"地雷"な話題だ。アンナは何度がポロリと話してしまい「やっべ」と溢す局面に遭った。

「1週間位惚気のダシに使われて僕は疲れてるんだ。まあ少しくらい妹の躾を行っても罰は当たらん。あと僕の予想だが最初に聞いてきた時の街の名"ネリネ"はアリスとリンのクソ野郎2人が付けたやつだと思ってるよ。姫彼岸花、リンドウと同じ秋の花の名前だ」

 ネロの乾いた笑い声にレフはウィンクのつもりなのか目を閉じて口角を上げている。片目は髪で隠しているから分からないのだが本人は気付いていないし多分出来ていないだろう。
 数分後、シドの「待て逃げるな!」という怒鳴り声が聞こえ、「アンナ逃げやがったぞ! アレは絶対リンドウ関係だ!!」と駆け込んでくる姿に対し「ほらな」と腕組みするレフの姿があった。

 この後1週間程度アンナとは連絡を取れなくなったという。しかし事前に石の家へ行き根回しをし、何とか捕獲された。



「ほら言ったじゃねえか。痛い目に遭うぞって」
「だって……だってぇ……」

 捕獲からの"お話"から何とか逃げ出し、楽しいんだからしょうがないじゃん! という開き直る姿に偶然通りかかったア・リスはため息を吐く。直後真面目な顔を見せ、ボソリと呟く。

「人間って残酷だよね。1を知れば100が欲しくなる、貪欲な生き物だ」
「あっさり森の名教えてりゃ今のファミリーネームの由来なんざ聞かれなかっただろ」
「ぐ、ぐぬぬ」

 言い返せない様子にア・リスはニャハハと笑う。しかし人の気配を感じるとア・リスは耳をピンと立て走り去って行った。アンナは「あれ?」とキョロキョロ見回していると背後から肩を叩かれる。石のように一瞬固まる。慎重に振り向くと笑顔のシドの姿が。

「アンナ、話は終わってないからな?」
「へ、へへっ、旦那、仲良くしやしょうぜ……」

 教訓。故郷が関係することの話題は早急に事実を伝え終わらせよう。そうアンナの胸に刻み込まれるのであった―――。


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#シド光♀ #ギャグ  

2024年2月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

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「はー苦労だけかけさせやがって! 俺様じゃなかったら見つからなかったぜ。……テメ…

本編前

#リンドウ関連

本編前

旅人に"魂"は宿る
「はー苦労だけかけさせやがって! 俺様じゃなかったら見つからなかったぜ。……テメェは立派なリンの弟子だ! アハハハ! ……はぁ」

 鬱蒼と茂る森の中、年老いた金髪ミコッテの男は光が点滅する黒色の装置を確認しながらボヤいた後何かを詠唱する。ざわめく風は止まり、まるで周りの時が止まったかのようだ。男はゆっくりと対象に近付く。
 正面にはフードを深く被った赤髪のヴィエラ。立ったまま目を閉じ、眠っていたようだ。

「感謝しろよ? テメェが大好きだったお師匠サマの遺言だ。絶対にバケモノになんてさせねぇよ。一緒に連れて行ってやれ」

 銀と赤の目を細めニィと笑い懐の白の宝石を取り出す。握り締めると青白く光り、近付けると"それ"はヴィエラに吸い込まれていく。

「ついでに俺様の人生の中で一番の"最高傑作"になってくれよなァ? んー、魂にけったいな加工されてるがこの天才技術者様には造作もねぇ仕様だ、絶対に成功する」

 シワシワな手を差し伸べ、目を閉じる。そして名前を呼び、優しく語り掛けるかのように口を開いた。

「"シハーブ"が使えるのは遂にリンとテメェと俺様だけだったんだぜ? 色々研究して少しくらい使える人間増やそうと頑張ったが、リンが逝ったから"今"はもう手詰まりだ。しかも子孫だって残せねぇからテメェが"唯一"の成功作になるんだぜ! 光栄だろう? だからさ、こーんな浪漫溢れる力で世界を滅ぼさせるわけにゃいけねぇんだよ」

 歪んだ笑顔を見せる反面、頬に優しく触れる。思い浮かぶのは若い頃の自分と並ぶ2人の男の姿。

「えらくエルに似た顔になっちゃってマァ。色々あったんだな、"可哀想に"。―――嗚呼エル、すまんな。"俺様たち"はテメェと同じ所には行けなくなっちまったぜ。ケケッ」

 次第に光が彼に纏わり今も修行と護人の使命に雁字搦めになっているであろう男の妹にその光が送られていく。

「流石に"肉体"だけ冥界に行くことなんて出来ねぇだろうからなァ。ケケケッ、もしよければ"記憶"の俺様に、よろしくな。―――嗚呼最ッ高の人生だった。"完成"も楽しみだぜ」

 男は強い光に包まれ、消えると再び風がざわめきを取り戻す。カタンと何かが落ちる音が響いた。
 その音に反応してか、ヴィエラは目を開く。音の元を探そうと赤色の瞳を細めた。

「―――誰がいるのか?」

 中性的な声を発しながら辺りを見回しふと何か固いものを蹴る。拾ってみるとそれは黒い変な塊だった。しばらく眺めた後、放り投げようとした瞬間立ち眩みが起こり目の前が真っ黒になる。その場に座り込みながら目を閉じる。
 目を開くとヴィエラはその装置を懐に仕舞い込んだ。その瞳の色は―――銀色。ニィと笑い身体をうんと伸ばし歩き出す。



――― "ボク"は気が付いたら存在した"もう一人のフレイヤ・エルダス"だ。そう、少しだけ幸運なヴィエラである。"ボク"が初めて発現した次の年。紆余曲折あり何故かガレマルドへ再び連れて行かれてしまう。偶然現地の少年が現れなければ捕まってしまっていた可能性が高い。実際寒くて"表のフレイヤ・エルダス"は意識を失い、"ボク"が対応したのだ。だがこれは"運命"かもしれないとはにかんだ。自分を狙う面倒な"アレ"が作った帝国というものを内側から破壊する一手を繰り出すために"わざと"印象に残すよう再会の約束をし、青燐機関車に乗り込み何とか脱出して旅を再開する。
 それから自分の持っていた"能力"と備えられた"知識"で"この子"を導いた。まずはエオルゼアへ案内し"英雄"に仕立て上げる。理由は簡単。"そうしないといけない"と思ったからである。そしてまさか二度目のガレマルド来訪から20年余り後に蒔いていた種が成長し、運良く目論見が"大成功"してしまうのは予想外だった。あの時にやった咄嗟の判断に感謝する。
 そうだ、もう恐怖の象徴となった【鮮血の赤兎】は戻ってこない。闇に纏われた記憶と記録を全て捨て、"大切な人"を見つけた"この子"は小さな一歩を踏み出した。"アレ"を思い出すことさえなかったら、"ボク"は影として長いヴィエラの寿命たっぷり生きて、終わっていただろう。

 そういえば好奇心はクアールを殺す、そんな言葉をご存じだろうか。まさにクアールの尻尾を踏んでしまった男たちは、最悪の"記憶"を起こすことになる。いくつもの混じり合った"魂"はため息を吐き、リンドウとお揃いの黒い古びたトームストーンを胸に抱いた。


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#リンドウ関連

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注意 漆黒メインシナリオ途中のシド光♀。都合のいい妖精王の能力とシド少年時代捏造…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

"夢"
注意
 漆黒メインシナリオ途中のシド光♀。都合のいい妖精王の能力とシド少年時代捏造。
 
―――苦しかった。光がこんなにも息が詰まり、何も見えなくなるほど気持ち悪いものだなんて思ってもみなかった。しかし根底にある闇が、そして自分だけ見ることが出来る道を示す輝く白い星が私が"ボク"であることの証明である。

「美しい枝、フェオちゃん」
「あら若木私を呼ぶなんて珍しいわね!クスクス」

 無意識に呼んでしまった。こみ上がる吐き気を抑えながらもニコリと笑う。

「最近"私"が眠れなくて。ちょっと眠らせる魔法が欲しい」

 朧げに呟くとフェオは少しだけ考える素振りを見せた後、ニコリと笑った。そして「しばらく待って頂戴!」と言うとふわりと"ボク"に何か魔法をかけて消えてしまった。
 何故自分がこんな苦しみを味わらないといけないんだ、5年ほど前の"アンナ"が聞いたら呆れるだろう。しかし50年前に会ったという若い頃そのままなヤツに遭うぞと言うととっとと逃げろと慌てながら掴まれる姿が浮かんだ。"光の氾濫"という現象を何とかしないと自分らが生まれた世界が危ないなんて今でもよく分からない。
 少しだけとろんと瞼が重くなってきた。なるほど徐々に眠くなる魔法だったのか。確かに突然目の前が真っ暗になるよりは不安がない。「ありがとね、フェオちゃん」とボソと呟き睡魔に身を任せた。



「はい今回もギリギリ間に合いましたねお疲れさまでした!」

「疲れた」
「文明人コワイ」
「イイ経験だったろ?」

 深夜、ガーロンド・アイアンワークス社工房。会長シドをはじめとする社員たちが突っ伏していた。
 赤色の髪のヴィエラの男は初めてのデスマーチに想いを馳せたのかメガネを外し一息ついている。

「修羅場なんて嫁の優先順位くらいしかなかったからな」
「惚気やめてくださいッスよー」
「おいレフはもう離婚してるんだぞ」
「ホー、言うじゃないか。完成物燃やすぞ」
「ヤメロ」

 新入社員となったアンナの兄エルファー・レフ・ジルダ。妹にバレたくないのかレフと名乗りながらネロと共に行動し、円滑に行われたオメガの検証を陰で手伝っていた。まあフルネームの一部だったので彼女は偶然と称していたが本能的に察知していたことは本人には教えていない。その後人の名義の領収書を置いて2人で逃げ出したが無事捕獲、働かされている。
 そしてつい1週間程度前まではネロとレフを引き連れ、自分の朧げな記憶の確実性を上げるためにドマへ"墓参り"に行った。あとはアンナが戻って来るのを待つだけだとシドは拳を握る。あっさりとした宿題だったとヒゲを撫でコーヒーを飲もうとケトルに手を伸ばそうとした時だった。『クスクス…』という小さな笑い声が聞こえる。

「おいネロ、何か聞こえないか?」
「ハァ?あまりにも徹夜続きで幻聴が始まったか?」
『見ぃつけた』
「ほら聞こえたじゃないか」

 頭の中で少女の声が響く。うん? 頭の、中?

「っ!? ガーロンドくんそこから離れろ!!」
『あらあらあなた私が見えるのかしら? クスクス……ちょっとこの人借りるわね? 朝には返すから!』

 レフが俺の肩を掴むが徐々に目の前が霞んでくる。そして真っ暗になった。

 シドは途端に突っ伏してしまう。社員は大慌てで彼を囲むが寝息が聞こえるが否や呆れた顔をしていた。
 レフのみは顔が真っ青になっており、ネロは肩を叩き問いかける。

「おい何が視えた」
「わからん……見たことないエーテルの動きと借りるとか朝には返すとか異国語すぎて分からん」
「暁の人呼びましょうか?」

 ネロは舌打ちしながら「とりあえず仮眠室にでも持ってくぞ。クッソこんな時にメスバブーンがいたら片手で運ぶのによ」とシドを引っ張る動きをする。



―――目を開くと真っ白の空間。誰もいない。「おいネロ、レフ、ジェシー」と社員の名前を呼んでいくが返事が返って来ない。

「アンナ」

 困った時、呼べばいつも途端に解決してくれるあの人の名前を口に出す。しかし彼女は別の世界で会うことは出来ない。それでももう一度「アンナ」と名前を呼ぶとまたあの笑い声が聞こえた。

『こんにちは! さあ早く、こっちよ』

 光が集まりが見えるが俺の目ではその正体を視認できない。魔法的存在だろうか辛うじて第三の眼で判別できるが何かは分からなかった。すると『あらあら、あらあらあらあなたは私が視えないのね!』という声が聞こえた。

『あなたが会いたい人に会わせてあげる!』

 胡散臭い。なんて胡散臭い一言なんだとため息を吐くと心を読まれたらしく『会いたくないなら構わないわ! せっかく眠れないあの子のためにいい夢を準備してあげたいのに!』と抗議される。眠れない? あの人がか?

「本当に俺が会いたい人間に会えるのか? 別の世界にいる人間だぞ」
『夢を介してだけど会えるわ。だって私はその世界からあなたを呼んだのよ?』

 さあ目を閉じて。あなたの頭の中で会いたい人を思い浮かべてごらんなさい、と言われたので目を閉じ、あの人の名前を呼ぶ。黒髪赤目の、奇麗なヴィエラ。俺を護ると約束した、赤の刃を。

『さあもう大丈夫よ! 目を開けて!』



 目を開くと扉の前だった。どこかの宿屋なのだろうか、周辺にも同じような扉がある廊下である。『レディの部屋に入る時は、まずノックをするものだわ』と囁かれたので俺は言われるがままに扉を叩く。ドアノブが回り、扉が開いた。自分よりも頭一つ高い身長、褐色肌で黒髪に赤目の女性。ぼんやりとした目で俺を見るとパタンと扉が閉じられた。しばらく無音の時間が流れ、再び扉を開き俺を二度見する姿は余裕が一切なく「え、うそ、フェオちゃん?」とボソボソ呟いている。

「そっか、夢かあ」

 アンナは柔らかい笑顔で俺を強く抱きしめたので硬直してしまう。そうだ、これは夢だろう。孤独な旅人が好きでもないし嫌いでもない相手をいきなり抱きしめる筈がない。「アンナ、とりあえず座らないか?」と言うと「そうだね」と俺を解放し、軽く抱き上げた。
 まず目についたのは窓の外の景色だ。明らかにエオルゼアではない不思議な空を見ているとアンナは「外に出たらクリスタルタワーがあるんだよ」と頭を撫でる。相変わらずの子ども扱い―――なのは俺の都合のいいアンナ像だからだろう。

 椅子を並べられたので隣り合って座りアンナの話を聞いた。光に満たされ今にも滅びそうな世界、水晶公という人間との出会い、夜を取り戻す闇の戦士になっている話、ソル帝いやアシエン・エメトセルクとの邂逅、罪喰いという生物を倒すたびに自分の体に光が取り込まれ今にもバケモノになりそうな話を空を見上げながら淡々とした口調で話す。何故お前が全部やらないといけないんだ、他の奴に任せられないのかと言ってやると涙を浮かべこちらを向いた。

「わかんない。皆私に助けてっていうから、助けてる。そう、皆弱いから。強いボクが助けないと」
「でも俺たちの世界に帰れないと、意味がないだろ?」
「だってこの世界を救えないと私たちの世界も滅ぶ。このままじゃ第八霊災が起こるって」

 それから起こるであろう未来を語った。信じられない話だが、"あの手紙"に書かれていた真実と照らし合わせるとあり得ないと断じられない。だからと言って俺が何か出来るわけではないのだが。彼女に託すしかできないという現実に頭に血が上りそうになる。落ち着かせるために震える体を抱き寄せ、「この話題は終わりにしよう」と言ってやるとこくりと頷いた。
―――あまりにも具体的な自分が知りえない情報に夢なのか、そうでないのかもう分からなかった。

「心配されてるのは分かってる。でも早めにエオルゼアには帰るから」
「ああ絶対に帰って来るんだ。死ぬなよ、待ってる」

 口付けを交わす。何度も角度を変え、触れるだけのキスだ。流れた涙を舐めとってやり、抱きしめてやる。するとアンナは「なんて都合のいい夢だ。でも嬉しいんだよね」と呟いたので「俺もだ」と返した。

「だって20年前の自分には予想できなかった話だよ」
「―――そうだな?」
「あんな可愛かった少年が本当にヒゲの似合う年齢になって現れて、冒険できたから」

 その低い声で目を見開く。記憶通りの、幼い頃に聞いたし、星芒祭の夜に再会して語り合った旅人の声だった。
 彼女があの寒空の夜に出会った人だというのは既に知っている。実際先に知っていたネロに確認したから間違いはない。だからその願望が、リアルタイムに夢として反映されているのだろう。

「お、俺だって思わなかったさ。まさかお前が旅人のお兄さんだったなんてな」
「命の恩人と別れて以降、アシエンだったソル帝除いたら初めてだったんだよね。ボクを襲ったり怯えた目で見ずにすぐに助けてくれた人間って」
「っ!?」
「だから嫌いになれるわけ、ないじゃないか。そう思ってたからバカみたいな約束をした。ボクに道を示してくれるお星さまならすぐに辿り着けるって」
「アンナ」
「嗚呼絶対帰ってみせるよ。キミたちを護るって約束してるんだから。ねえシド」

 俺の頬を触り口付けを交わした後、笑顔を見せた。

「ボクは、キミのことが、す」
『若木ー!!!』
「ふぇ、フェオちゃん!?」

 俺をここに連れて来た光の声が聞こえる。何やら大きく慌てているようだ。アンナにははっきり様子だが俺にはどうなっているのかさっぱりだ。

『ごめんなさい! 時間切れよ! あの人があなたを無理やり起こそうとしてるのだわ! さあ白い人も帰りましょう!』
「え、は? うそ、これ本人!?」
「なっ―――アンナ!」

 周辺が光に包まれていく。どうなっているのか分からないが、うっすらと大慌てのアンナの顔が見えた。

 アンナの「わ、忘れて! 忘れろ!!」っていう完全にメッキが剥がれ素の声が聞こえた気がした。満面の笑顔で「ああ忘れないからな!」と言い返してやったが聞こえたか分からない。
―――いい夢だった。



 目を開くとそこは会社の仮眠室。起き上がると暁の血盟のクルルとネロ、レフが目を丸くして俺を見ていた。

「あ、あらシド起きたみたい」
「は? オマエマジで寝てるだけだったのかよ」
「こっちは納期のデーモンに殺されかけた後ほぼ寝てないのにな」
「す、すまん」

 俺は思わず反射的に謝ってしまう。しかしよく考えなくても自分は悪くないだろう、無理やり眠らされたのだから。

「ねえシド、何があったの? 体内エーテルに異常は見られないけど……身体に違和感とかない?」
「いや、特に何も起こっては……実は意識が落ちた後にな」

 夢の一部を説明する。アンナの現在の状況と、第八霊災について。ネロとレフは呆れた目で見ていたがクルルは真面目な顔で「多分第一世界にいる妖精族の仕業ね」と答える。

「私とあとタタルも何度か夢を介してその子に向こうの世界の状況を教えてもらってるの。シドは多分その妖精にアンナの夢の中へ連れて行かれたんだと思う」
「成程妹が現在いる世界のピクシー族的な存在によるイタズラってやつか。仲良くできてそうだな」
「いやいや納得してンじゃねェよ。事実なら無傷で戻れたのは奇跡じゃねェか」

 確かにそうだ。特に目立った異変も無いしきちんと眠ってはいたからか体は軽い。

「他に妹は何か言っていたのか?」
「え、いや、どうだったか……」
「ナニもしてないよな?」
「話をしただけだ落ち着け」
「はー僕も妹に会いたいなあ」

 レフの視線が痛い。仕事中は一切その素振りを見せずよく働いてくれるが、終了した途端妹を溺愛しすぎてこちらにまで殺意を見せることがあるのは本当に勘弁してほしい。
 それよりも一つだけ確信に至ったものもある。アンナに一晩『一般常識を仕込んだもう死んでいる男』だ。あの口ぶりだと相手はアシエン、しかも生まれ故郷の初代皇帝となる。一度迷い込んでソル帝の部屋に辿り着いたという話は正直半信半疑だったのだが、本人の口から示唆されると複雑な過去が余計に整理できなくなった。

「ネロ、俺はどうしたらいいか分からん」
「いやオレだって突然言われても困るンだが」
「だよな……だよなあ……」

 怪訝な顔をしながらもクルルに礼を言うと何か言いたげにしていたレフを連れて出て行ってしまった。クルルも「それじゃあお大事に。アンナ視点の第一世界の状況を聞けてよかった。えっと……その感情、落ち着かせるためにコーヒーとか飲んだらいいと思う」と言うと退室してしまった。何を言っているのか理解できないままふらりと立ち上がり洗面台で鏡を見ると、眉間に深く皴が刻まれ自分の目から見ても機嫌が悪い。いい夢を見たハズなのにこれではいけないと思いながら顔を洗いクルルのアドバイス通りコーヒーを淹れに行くのだった。

―――アンナ、絶対に生きて帰ってこいよ。



 一方その頃第一世界。

 目を見開き起き上がりながら「あーもー!」と叫ぶ。夢と変わりないペンダント居住区にある一室にてアンナはため息を吐いた。そして目の前にいる男を見やり再び一度目を閉じ、ため息を吐く。そしてゆっくりと目を開いた。

「優雅に眠る"レディ"の寝室に勝手に入るのは控えめに言っても最低では?」
「レディとは程遠いやつが何を吠えている。妙なエーテルの動きを掴んだから発生源に来たらお前の寝室だっただけだ。寝顔もあの時と変わらず最高だったぞ?」

 吐きそうな文句につい笑顔を浮かべるのも忘れてしまっていた。本当はいつでも一時的にエオルゼアへ戻れるのだが、執拗にエメトセルクが妨害するのでストレスが溜まり続けている。暁がなんとか一度だけ時間を作ってくれたがシドは不在だしそろそろ納期に追われる時期と言われてしまった。そんなことを言われてしまっては罪喰い討伐時以外は適当に人助けするか目の前の相手をあしらうしかやることはない。体内にたまり続ける光の気持ち悪さと一緒に言葉を吐く。

「そりゃぁどうも」

 "あの子"は夢の中で余計なことを言ってしまい疲れてるんだよ、だから"ボク"が代わりに対応してやってるんだと思いながら朝の日課のため着替えに手を伸ばした。


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#シド光♀

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注意漆黒5.0中盤辺りな時間軸。シド少年時代捏造  「おいガーロンドど…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀ #ヴィエラ♂+ネロ #リンドウ関連

漆黒,ネタバレ有り

技師は宿題を解きに行く
注意
漆黒5.0中盤辺りな時間軸。シド少年時代捏造
 
「おいガーロンドどこに向かってるんだよ」
「あと少しで近くに着くはずだ」

 飛空艇でクガネに降り立った後ハヤブサに乗り大空を飛んでいた。しかしいつまでも言わずにいるのも2人を苛つかせるだけだろう、前にアンナと共に墓参りに行った話をする。初恋と称された命の恩人と呼ばれている男の終の棲家だったんだと言うとエルファーは驚いた声を上げた。

「妹の恩人の墓参りに行った!?」
「そうだ。そこで見かけたやつに既視感があってな。ネロ、確認してほしい」

 オレにだぁ? 素っ頓狂な声が響く。

「それにレフにも無関係ではない。"無名の旅人"と自称する現在のアンナ全てがこの人きっかけなのさ」

 そう、『ボクの呪いを解けるもんなら解いてみな』という言葉の意味は絶対にリンドウが持っている。
 対してネロはため息を吐いていた。

「お前、本当に安価な娯楽に興味なかったンだな」
「どういうことだ?」
「予想が正しけりゃ見たら分かる」

 ネロの中では心当たりはある。てっきり帝国に足を踏み入れたことがあるアンナが何やらの手段で入手した"東方風牙録"という書物の影響かと思っていた。だが聞いた範囲ではそうではないらしい。苦虫を嚙み潰したような顔を見せた。



 3人は山に囲まれた集落付近に降り立った。「同じような風景で飽きるな」とネロは嫌味を言っているがエルファーは無視してシドに尋ねる。

「ここに行ったのか?」
「もう少し歩くんだがその前に挨拶をしようと思ってな」

 想定していたよりも栄え、どこか懐かしい雰囲気を見せる村に辿り着く。うろついていると1件の民家の前に黒髪の青年がいた。シドは「テッセンさん」と手を上げながら挨拶をしている。

「あなたはエルダスさんといた。あの時は申し訳ございませんでした。まさかガーロンド・アイアンワークス社の会長さんとは思わなくて」
「そんな改まらなくてもいい。それよりまたあの絵を見せてほしいんだ」
「構いませんけど後ろの方は……ガレアン人の方と、もしかしてエルダスさんの関係者ですか?」

 ネロは眉間にしわを寄せる。解放されたとはいえ元々はドマは帝国により占領された地だ、怪訝な顔もされるだろう。どうも思わないがわざわざ言われると少しだけ苛ついているようだ。

「ああ2人共ウチの社員さ。コイツはネロで、あっちはレフ、アンナの兄。俺も生粋のガレアンだから考える所があるかもしれんが悪いことはしない」
「お兄さんでしたか! お会いできて嬉しいです。―――ここは大丈夫ですよ。幸い帝国の戦禍は免れ、平和な場所でした。ただ、ドマが解放されてから久々に見たなというだけで。それに祖父は……いやこの話はいいでしょう。とにかく申し訳ありませんでした」
「まあ無名の旅人の墓があンなら熱心なやつは通ったンだろうな」

 さてご案内しますよとテッセンは歩き出す。シドは首を傾げて「どういうことだ?」と聞いている。

「オマエ本当に"龍殺しのリンドウ"って知らねェのか? はー安い娯楽に興味のないおぼっちゃんは困るなァ」
「―――リン、ドウ?」

 ネロも歩き出す。シドも追いかけようとするがエルファーはその場で止まったままだ。「おいレフ行くぞ」と声をかけると「あ、ああすまない」とゆっくりと一歩踏み出した。

 山道を歩き、開けた場所に辿り着く。そこには小さな小屋と石碑がある。シドの記憶通りのリンドウが最期に過ごしたという終の棲家だ。

「おいおいさっきこの辺り通ったけど上からじゃ何も見えなかったじゃねェかどうなってンだよ」
「だよな。アンナも迷子で彷徨うわけだ」

 そういうわけじゃねェと言おうとしたが置いておこうとネロはため息を吐く。道中この男の話を聞いた。名はテッセン・フウガ。リンドウの孫にあたる人間らしい。彼の父が元気だった頃はよくガレアン人を中心に帝国兵が墓参りに来ていたのだという。略奪物もあるであろう大量のお供え物が持ち込まれ、更に最新の技術を導入した宿泊施設を共同で作られた。そして亡命してまで住む者まで現れ、他の地域とは異色の文化を持っていった村は周りから相当疎まれていたらしい。それ程まで祖父は帝国で有名だったのかという質問に対しネロは答える。

「そりゃ"東方風牙録"ってベストセラーが出てたンだぜ? 舞台化もされてオレも観に行ったさ」
「そうだったのか。全然知らなかった」
「はーいい所のぼっちゃんはこれだから困る。木の棒1本を妖刀のように輝かせ龍をバッサリと倒した元英雄とその弟子の少女が各地を旅するって話だったんだぜ。―――ンで、だ。その絵画を見せてみろよ」

 テッセンは小屋の鍵を開錠し、箱の中から絵画を取り出した。ネロはじっと見つめ肩をすくめる。

「初代皇帝のコレクションで見たな」
「やっぱりか。見覚えあると思った」

 槍を持ったヴィエラの少女と、銀髪の侍がオサード地域を旅する絵画は見覚えがあった。魔導城に飾られていた属国から献上された芸術品の一つ、と記憶している。

「で、この赤色ヴィエラがメ……アンナだったってわけか? ハッ傑作だね」
「帝国にあるのはおかしいですよ。これは祖父が依頼して描いてもらった世界に1点しかないもので」
「そうなんだよ。だから俺も自信がなくてネロを連れて来たんだ」
「―――ザクロ、柘榴石、ガーネットってことかよ。何であの時気付かなかったンだオレは」

 ボソボソと呟きながら頭をガリガリと掻き、アンナに見せられた手紙を思い出す。その時だった。これまで静かだったエルファーは立ち上がり出口へ向かう。

「エル?」
「ちょっと外の空気を吸ってる」

 そのまま扉を閉めた。変なやつと眺めているとテッセンが再び箱の中をまさぐり封筒を手に取った。

「エルダスさんが帰った後に思い出したんですけど祖父が彼女宛に手紙を残していまして。読んでみませんか?」
「オレたちが見てもいいのか? 本人怒るンじゃね?」
「……正直言って私では渡していいかも分からないものでして」
「アンナのことを知りたくて来たんだ。貸してほしい」
「おいガーロンド」

 シドはその手紙を受け取り広げる。ネロも覗き込むが東方の文字に加え達筆であり何と書いているか分からない。苦笑しながら「その、力強い筆跡すぎて、な」とテッセンに返す。すると笑顔で「ああ、それでは読み上げますね」と内容を語る。

―――それは2人にとって衝撃的な話であった。
 まずは別れた直後、アンナの身に起こった水難事故で死んだと思っていたが生きてここに来たことに対しての喜びの言葉が綴られていた。その後は後悔と謝罪が延々と書かれている。
 自分でもどういう理屈で出来るのか分からない不完全なものを殺しかけてまで伝授してしまった。それが世界の崩壊のために利用されつつある絶望。この住処に訪ねて来たアシエンという存在の言葉は全く信じられなかった。だが、目の前で大切な絵画を複製するガレアン人が使えないはずの"魔法"によって信じざるを得なかった。『もう一度会えるようにこぎ着けてやる。これからドマを戦地にするがこの場所は絶対に壊させないようにしよう』という甘い囁きに手を伸ばしてしまった。その後本当にドマが占領されたが、ここは一切の戦禍が降りかからなかったという懺悔が書かれている。
 そして幼いアンナの気持ちに気付いていながらも強く突き放せなかった弱い自分への苛立ち。『約束は死んでも守れ。全てを護れないなら捨て去って旅をしろ』という教えを何十年も守っていることを知った時の焦り。自分は蝕まれていく"代償"と孤独に耐えられなくて再び家族の元に戻ってしまったというのに。どうしてそんなに忠実に守ってしまっているのか。これからは大切な人という星を見つけ、護る刃になりなさい。絶対に未来を歩むことが出来る"なりそこない"であり続けるために世界の統合を起こしてはいけない。これは人を護るという強い心を形に変えた新たな力だ。私はアンナを獣にし、人々を絶望させるために全てを教えたわけではない。アシエンの手を今からでも振りほどき星空の知識を教えた思い出と共に自由な夜空を愛してほしいという希望。そのための"奥の手"は友人が準備し終わっているから安心してくれ。そして力の根源を知りたいのならラザハンに行くといい。最後に兄エルファーに謝っておいてほしい。妹の体に消えない疵を刻みつけ、"私"を継承してしまい本当にすまなかった。さようなら、愛する唯一の弟子であり血の繋がりはないが魂で繋がった家族よという言葉で終わっていた。

「私めには意味が分かりませんがそう書かれております」
「……にわかには信じがてェな」

 手紙の内容についてネロは吐き捨てている。現実感はしないが、これまでのアンナを取り巻く出来事を思い返すと事実も多いことは分かるが理解を拒んだ。対してシドは重々しく口を開く。

「いや、俺たちの祖国がアシエンによって作られたものだというのは事実だ。ヴァリス殿下が明かしたとアンナたちから聞いた。ドマ侵攻について書かれているってことはリンドウは俺たちが最近知った知識を30年程度前には知ってたことになる」
「そうかよじゃあアンナが持ってた手紙はそのアシエン本人のお茶目ってことか。趣味悪ィ」

 ネロの言葉にシドは首を傾げる。「手紙って何だ?」と尋ねると露骨に嫌そうな顔を見せた。

「アラミゴ解放後に押し付けられたソル帝の便箋で届けられたモノだとよ。『お前の役割は終わりだ』とか書かれててあいつオメガブッ倒しながら怯えてたンだぜ?」
「知らない」
「そりゃオマエはあいつの過去を一切知らないじゃねェか。あの小心者が自分から教えるわけがねェし」
「アンナは小心者じゃない」

 そう言いながらもシドの顔が青くなっていく。そうだ、俺は何も知らなかったと視線を落とした。

「もう分かンだろ? あのオンナは【鮮血の赤兎】だ。アシエンが人間1人分の人生使って狙い続けてた実在した兵器なンだよ」
「アンナが、じゃあやっぱりあの夜」

 寒空の下、路地裏で寒さに震え座り込んでいた赤髪の旅人。急いで屋敷に戻りスープを渡した時の『温かい』と低い声で溢していた。

「20年ほど前に陛下が兎を捕まえるために誘導したがいつの間にか国外に駆け出して行ってたンだってよ」

 出口はどこだと聞かれたので言われるがまま方向を指さすと走り去ったあの不器用な笑顔。

「全てを護る、刃。あぁ―――」

 シドの目が見開かれる。今まで忘れていた記憶。肝心の"約束"が、抜け落ちていた。

『"あなたの飛空艇"に乗れて、よかった』

 何故か自分の飛空艇と強調したシドが記憶を取り戻した夜。

『私はね、自分に優しくしてくれた人と約束は守ることにしてるんだ』

 露骨なほどに約束に拘っていた姿。

『ほーそりゃ楽しみ』

 ガーロンド社を紹介してやると言った時の目を細めニィと笑った姿。

『期限はそうだね……キミがお髭がとっても似合う人になるまで、かな? 翼であるキミの飛空艇たちを守る刃になってあげよう。おっと飛空艇たち、というのは簡単だよ? あーんな大きな船をキミ1人で作れるわけないだろう? 全部守ってあげる。こう見えてボクはすっごく強いからね』

 手の甲に口付け、幼いシドへ不器用に笑いかけた顔。そうか、これを忘れていたから星芒祭の夜わざわざ眠らせて逃げたのかと拳を握り締める。
 テッセンはあの、と声をかける。「ああすまん」とシドは苦笑して見せた。

「あまりにも直球すぎて気付かなかったヒントに頭痛がしただけだ。気にしないでくれ」

 あっさりと宿題が終わってしまった。軽くため息を吐くとネロが立ち上がり外へと足を向ける。

「ネロ?」
「一服してくる。1人で結論付けてろ」

 そのまま扉を閉められた。シドは目を丸くし、首を傾げる。

「結論付けてろと言われてもな」

 まさかここまでネロがアンナについての情報を隠していたとは思ってもみなかった。そしてあっさりと知りたかった事柄の殆どを手に入れてしまうことも予想外で拍子抜けする。
 更に複雑な悩みを持ちながら一緒にオメガ相手に戦ったのかということも知ってしまった。微塵も相談してもらえなかったことにショックを受けている。一方的に想いを伝えて、舞い上がっていた自分が莫迦みたいだとため息を吐く。だが最終検証で見せたまるで流星の軌跡のように振り下ろされた一振りが伝授された"気迫"というものなのは確かだ。焼き付けられた脳裏に浮かび上がる。そんな"弱き人が持つ想いの力"の根源にあるヒントがラザハンにあるというのは一番の収穫であった。ラザハンということは錬金術起因のものなのだろう。
 しかし一番の謎は"継承"というものだ。リンドウ、レフ、アリスという男らは過去に何をし、アンナに施したのだろうか。
 ふと肩を叩かれる。心配そうにテッセンがシドを見ていた。「すまない、考え事をしていて」と苦笑する。テッセンは懐に入れていた装置を手渡した。

「これは?」
「祖父が、最後まで大切に持っていたものです。今は静かなんですけど」

 黒色で半球体のようで一見何なのかは分からない。用途は? と聞くと柔らかな笑顔で答える。

「これがあったからアンナさんがエルダスさんって分かったんです」

 テッセンによるとリンドウが死んでからもこの装置は小さな光を灯し続けた。ある日ドマを解放した英雄たちの顔を見に行こうと外に出た際に強く輝いたのだという。以降輝き方が不安定だったが、しばらくしてシドとアンナが墓参りに来た日にまた大きく光ったらしい。しかしここ数ヶ月光が消えてしまい心配していた所に3人がやってきたと語る。

「どういう装置なのか分かりません。ですがもしかしたらエルダスさんの何らかに関係しているかもしれません。よかったらどうぞ」
「いいのか? 代々受け継いだ形見みたいなものだろ?」
「……あなたが持っていた方がきっと祖父も喜んでもらえると思います。あと先程言えなかった言葉の続きなのですが」

 それからテッセンは自分の身の上を話した。父が誕生し物心がついた頃、実の祖父は亡くなっている。その後祖母は第二の故郷に戻って来たリンドウを治療する内に惹かれ合い、再婚したので血は一切繋がっていない。よって厳密にはリンドウの血縁者はもう存在しないのだ。そして彼の生まれは―――。

「そうだったのか。エレゼンが東方地域にいるのも珍しいのに更に片親はガレアン人と」
「龍殺しのリンドウと呼ばれるまでは実際あまりいい扱いはされて来なかったそうです。本当に強くなるために努力は欠かさない人だったと聞きました。強くなってからは手のひらを返した権力者たちによる色んな思惑に巻き込まれ嫌気がさしていたそうで」
「アンナから嫁と子供がいるから叶わない恋だったと聞いてたんだが……。兄を知ってたから嘘ついてた可能性があるな」

 箱の中から書物の山を取り出す。覗き込むと武器の特徴から人から魔物までのスケッチと何らかの文字が書き込まれていた。「療養中暇だったようでとにかく自分の脳に叩き込んでいたものを書いていたそうです」とテッセンは語る。「これも多分アンナに教えていたってことか」と紙をめくる中で明らかに違うものがあった。

「図面……?」
「何かの装置のようですが私にも分からず」
「いやこれは隠す―――形状が見覚えあるな。ちょっと待っててくれ」

 シドは家の中を見回し、違和感を探る。即見つかる。入口に置いてあった家の様式に似合わない無骨な金属。手を伸ばそうとすると突然扉が開き、レフがその機械を分捕る。

「これだこれ。さっき家全体を視た時に何かおかしいと思ったんだ」

 即蓋を開き、中身をのぞき込んでいる。シドは一瞬唖然とした顔をしたが何も言わず手に持っていた図面を渡した。次はネロが分捕り2人で眺めている。

「なんだこりゃ。ああこれの図面か。―――あのクソ馬鹿が機械装置を作れるわけがない。かと言ってアリスが手間暇かけて作ったものにしてはオリジナリティがない。この図面通りで忠実すぎるものって感じだ」
「読んだ範囲ではこれアレか。魔科学技術を用いた広域妨害装置だ。よく出来てンね」
「成程戦禍がここまで来なかった仕掛けか。アシエンと交わした約束とやらの一つだろ」
「筆跡的にアリスから貰ったやつの冊子から破ったか。この家のどこかにあるかもしれん。テッセンくん、ちょっと家の中物色してもいいか?」
「か、構いませんけど……」

 数時間後、顔を真っ青にしたエルファーがフウガの名前を叫んでいた。それをネロはゲラゲラと笑っている。

「ネロ、レフは何と言ってるんだ?」
「お前ら何年間妹といたンだふざけンな辺りじゃね? おーこれそのまま商品化出来ンじゃね?」
「いや流石に考えたのはそのアリスって男だろ? 勝手にやるのは」
「死んだやつの許可なんてどう貰うンだよ」

 フウガがメモとして残していた紙と違うものがいくつか発掘された。封筒に入れられた冊子には、数々の古代技術を応用して作られた実用的な機械から人道的に怪しい器具まで数多く書かれている。小さな紙切れが入っており、『リスク分散のご協力感謝 あなたの共犯者ア・リス・ティア』と雑な文字で書かれている。シドらにとっては欠伸が出そうな古すぎる技術が殆どだ。しかし自分たちが未だに至っていない領域の一部もあり少々悔しい部分もある。

「エルもこういうの持ってンのか?」
「んぁ? まあ別れる時に少々。今は別の場所に隠してるから持ってないぞ」

 というか今の魔導技術に比べたらこれより更に古臭いから価値はないと思うぞと肩をすくめている。

「ってこれはトームストーンか。電源は―――つかないか」

 真っ黒な板を取り出す。ボタンのようなものを押すが一切反応はしない。何も言わずポケットに仕舞い込む。

「今流れるようにポケットに入れたな?」
「どうせ眠ってるままなら有効活用する。その装置ももういらんだろ。貰ってもいいか? テッセンくん」
「だ、大丈夫ですよ」
「無理しなくてもいいぞ。あんまり荒らしたらアンナに怒られるから程々にしとけレフ」
「そこで妹の名前を出すんじゃない。―――修理して何でもないモノだったら返すさ」

 自分が欲しいもののヒントかもしれないものは全部欲しいからなと口角を上げている。そんなもの俺だって欲しいとシドはジトッとした目で睨みつけた。



 それから適当に家探しして村の宿に泊めてもらった。最新技術が適宜取り入れられ快適なもので満足だった。ガーロンド社が納品したであろう装置も沢山あったので外に出た者の名前を聞く。案の定先日ジェシーが連れて来た新入社員たちの名前もあった。もっと詳しく話をしていたらリンドウの情報ももう少しスムーズに手に入ったかもしれないと苦笑する。
 ふとポンと音が鳴った。その正体を探ると日中にテッセンから貰った奇妙な装置が光っている。壊れてなかったのかと観察すると小さい光はしばらく点滅を続け、1時間もせずに再び消えてしまった。
―――後に知ったことだが、3人がこちらに来ていた間、一度アンナが帰って来たらしい。シドがいないのを確認した後、少し暗い顔をしてまた帰ったとジェシーから聞いた時、苦虫を嚙み潰したような顔を見せしばらく機嫌が直らなかった。

 次の日、村人らに次なる取引の約束と共に見送られハヤブサで上空を飛ぶと空からでも終の棲家を確認出来た。妨害装置は解析が終了すればまた返しに来るとシドが電源を切り鞄の中に仕舞っている。次はアンナと2人で泊まりに行こうと笑みを浮かべた。
 目を輝かせたネロとエルファーを青龍壁へ連れて行き、再び積み重なっているであろう仕事をすべく本社へと1人戻るのであった―――。


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 頭がクラクラする。どこか熱い気がする。だからボクは―――戦闘をしていた。 刀を…

蒼天

#シド光♀

蒼天

"風邪"
 頭がクラクラする。どこか熱い気がする。だからボクは―――戦闘をしていた。
 刀を振りぬき敵を斬って行く。ストレスが溜まった等何か1つでも違和感がある時はとにかく体を動かしていたら元気になる。それは長年旅をしていた頃からずっとそうだった。

「あっ」

 急にふらついてしまい、その隙を突かれ敵の横殴りが入る。そこからボクの意識は真っ暗になった。



「ばっっっかじゃねぇの!?」

 "ボク"は無理やり敵を一閃し、足に力を籠め、走り去った。平熱が死人のように冷たい人間の体温が38度超えて暴れ回るのは莫迦以外言いようがない。

「どこまでリンと一緒なんだよド阿呆!」

 撒けたようだ。とりあえずレヴナンツトールにテレポで飛ぶ。一瞬再び身体がふらつくが気合で耐える。
 さあここからだ。最寄りの施療院に行くか、それ以外か。エーテライトにもたれかかりぼんやりとする脳みそをフル回転させる。

「医者は……つまらないな。どうせ疲れが原因だろうし。ならば石の家か、ガーロンド社か。これは―――後者だな」

 弱い部分を見せたら一歩前進もありえる、そう考えながら少々ふらつきながら歩き出す。
 アンナ・サリスは人とコミュニケーションを取っている風に見えて全くやる気のない人間だ。要するに短命種に過剰に関わる時間はないというわけだ。しかし幼い記憶を思い出すからか無意識にヴィエラを見かけたら距離を取っている。自分より年齢を重ねる種族なんて妖異かアシエンくらいだろうが。少しは"普通の"人間と変わらない生活を送ってほしい。そのためにもやっと見つけた存在を手放させるわけにはいけないのだ。
 "ボク"は自分が何者か分からない。気が付いたら"ボク"に備わっていた力を全て行使し、アンナ・サリスを支えていた。何故かそうしないといけないという使命感が存在する。分かっていることは命の恩人"リン"の『私たちはとんでもないことをしでかしてしまった。責任を、取らなければ』という言葉だ。これはアンナ・サリスが聞き得ない言葉だって? それも分からない。でも"彼"の言う通り"ボク"は彼女のナカで支え続ける。
 支えると言っても常に視ているだけではない。ストレスが一定以上溜まってプッツリとキレた時や脳内情報処理の限界に達したり今回のようにぶっ倒れるくらいのダメージを喰らった瞬間に"交代"していた。稀に乗っ取ったりするがそれもこの子のためである。

 考え込んでいるうちに何とかガーロンド社に辿り着いた。フラフラと歩きながら建物に侵入し、見渡す。

「あらアンナ!」

 彼女は―――嗚呼ジェシーだったか。手を軽く振ってやると駆け寄って来た。

「今日はどうしたの?」
「うん。ごめん、あとは頼んだ」

 流石に病気を最後までカバーすることはできない。先程から目の前がグルグルと渦巻き限界だったのだ。下手したら最後の振りかぶりと全力疾走が原因で熱が上がったな。しかし"安息の場所"まで運べただけ頑張ったと自分にエールを送りたい。

「アンナ!? って熱っ!?」

 まずはレディに迷惑をかけてしまうことになるが仕方がない。「ごめん」と呟きながらそのまま意識を手放してしまった。



 玄関口で騒ぎ声が聞こえる。休憩中のシドはどうしたのかと顔を出すと人だかりができていた。

「どうした?」
「会長! その、アンナが」

 シドは怪訝な顔で近付くと中心では顔を真っ赤にして倒れたアンナがいた。つい二度見してしまうほど現実感がない風景に驚愕する。

「な、何があった」
「それがいきなりやって来たと思ったら『あとは頼んだ』って言って倒れてしまって」
「ジェシー、とりあえず医者を呼んでくれ。彼女は仮眠室にでも運んでおくか……って熱いな!?」

 普段の冷たい肌に慣れすぎて熱く感じる。平熱が低すぎる彼女から考えるとよく歩いて来れたなとその精神力の強靭さに頭がおかしくなりそうだ。
 そういえば初めてアンナを抱き上げるなと思いながら持ち上げるととても軽かった。この軽さであの圧倒的な強さを支え切っているのかと不安になる。周囲の視線は気になるが心を無にし仮眠室に運び込んだ。



 どうやらただほぼ休みなしで世界を救うために走り回った連日の疲れからきたものらしい。そういえばエオルゼアで英雄と呼ばれ始め、以降ずっとイシュガルドで走り回り、次はアラミゴに行くぞと拳を振り上げていた。その合間も時々こちらに顔を出しては色々手伝いしてもらったり野宿しているという話も聞いた。振り返るといつ完全に休んでいるのか―――思い返すと謎である。体温は40度近く行っているがそれは無理して動いていたからだろう、安静にしていたら治るらしい。ついでに殴られた形跡があったので処置してもらった。

「ウェッジ、これ何だと思う?」
「……魔物とサシで殴り合いしてたんスかね」
「『多少しんどくても戦ってりゃ治るでしょ』って言って油断して殴られたんだと思うぞ」
「あーありえる」
「親方流石ッスね……」

 3人の脳内にフラフラと顔を真っ赤にしながら敵に斬りかかるビジョンが浮かぶ。ため息を吐いているとふとか細い声が聞こえた。

「にい、さん……」
「寝言か?」

 うめき声を上げながらうわごとのように呟いている。

「ごめん、なさい」
「ビッグス、ウェッジ仕事に戻っておいてくれないか?」
「親方卑怯ッスよ!?」
「まあいいじゃないか。行こう」

 2人は退室していく。ニヤけ顔に少々イラついたが気にしないことにした。アンナは相変わらず小さな声で何かを呟いている。見たことのない弱さがシドを狼狽えさせる。

「―――ド」
「ん?」
「シ、ド」

 確実に呼ばれた。相変わらず眠ったまま眉間に皴を寄せ寝言を繰り返している。

「いか、ないで。1人は、いや」

 何も言わず手を握ってやると少しだけ緊張が解け、またすやすやと眠っている。どうしてやればいいのか、分からなかった。



 ふと目が覚めると屋内。起き上がろうとするが身体が重い。腕だけで支え周りを見渡すとジェシーが驚いた顔をして口を開いた。

「アンナ! 目が覚めてよかった」
「―――ガーロンド社?」

 何故自分がここにいるのかが記憶になかった。確か敵から横殴りにされて意識が真っ暗になっていたはず。

「救援されてここにいるのはおかしい……」
「あなた自分でここまで歩いてきたの覚えてないの?」

 ジェシーは心配そうな顔してアンナを見ている。首を傾げしばらく考え込んだ。

「あ、そ、そうだったかもしれない。あはは」

 覚えていないが適当に返しておく。

「迷惑かけちゃってごめん。ありがと」

 苦笑しながらとりあえず謝罪しておく。ジェシーはニコリと笑っている。

「じゃあ会長呼んで来るから」
「シドが起きたらいないのは意外」
「気持ちは分かるわ。困惑しながらあとは頼むって言っておきながら結構こまめに見に来てたからちゃんとお礼言っておいてね」

 1分もせずにシドが部屋に駆け込んできた。人の顔を見るなり「よかった」と言いながら一瞬笑顔を見せる。それに釣られて笑顔を見せたがその瞬間、お説教が始まった。

「お前何をしてるんだ! いきなりやって来たかと思ったらぶっ倒れて丸一日眠って心配したんだぞ!」
「いやだって戦ってたら治るし」
「悪化させてきたやつが何言っても説得力がないだろ」
「う……それは偶然そうだっただけで」
「何だと?」
「な、ナンデモナイデス……」

 アンナは小さくなっている。何を言ってもムダだと察し困った顔をしてシドの反応伺う。結構怒っているが正直何故怒っているかは理解ができなかった。

「次からは無理せず戦わず水に顔を突っ込んで熱を冷ましてから戦う……」
「馬鹿か!?」

 そこからまた長時間の説教が始まった。頭が未だぼんやりして半分も入ってこないがここまで言われるのは命の恩人ぶりで少しくすぐったい。次は迷惑かけないように、何とかしよう。

「おいアンナお前次は人に迷惑かけないよう何とかしようとか思ってないだろうな?」
「え、あ、はい」
「やめろ。素直にちゃんと人を頼ってくれ。今回こっちに助けを求めたのは、その、嬉しかったからな」
「嬉しい? 変なの」
「いつも頼ってしまってるんだ、困った時はお互い様だろ」

 目を見開き固まる。「いや私のことは、気にするな。好きで人助けしてるだけ」と首を撫でながら取り繕うように言うと頬を引っ張られた。またよくないことを言ってしまったらしい。理解できなかった。弱くなってるからって調子に乗るんじゃないと思いながら再び寝そべる。どこかちくりと棘が刺さったように痛いのはきっと風邪の症状だろう。

「シド、もう少しだけ寝る」
「……そうしてくれ」
「仕事、戻って大丈夫だよ」
「もう少しだけ休憩させてくれ」

 ニコリと笑い合いそれからアンナが眠るまで雑談していた。少しだけ休息になった、気がする。



 阿呆共。この一言に尽きる。実は倒れてからも相手の反応は伺っていた。"ボク"は寝言のフリして反応を見る。何も言わず顔を赤くしながら手を握り、しばらくしたら部下に任せ慌てたように退室した。何度か様子を見ては出て行っての繰り返しで正直何をやりたいんだこの人と思いながら呆れる。
 身体が動かないので1日ゆっくり眠らせてやった。そしてようやくアンナの意識が回復してきたので無事目を覚ます。レディは慌てて男を呼びに行き、すぐさまお説教が始まった。それに関してはぐうの音も出ないほどの正論だったのでこれを機にアンナも反省してほしい。まあ自分は死なないと高を括っているし"反省"という言葉が辞書に載ってるわけがないのだが。嗚呼また説教が始まった。当人は満更でもなさそうに聞いている。怒鳴られるのは命の恩人ぶりとか感慨深くなってる場合じゃないのだがアンナに理解できるわけもなく。
 最終的にいい空気になってよかった。だが人の心というヤツを理解しないアンナと明らかに友人以上に向ける目をしておきながら何も自覚できていない男に呆れる部分があった。しかしこの男でないと任せることはできないと認識している。まあ"ボク"は惚れた腫れたに介入する気は全く存在しない。それは本人が何とかするべき問題だ。
 この子の心に関しては時間が何とかしてくれるだろう。今は明らかに休息が足りていないのも確かなのでこれを機にもう少しゆっくりするという行為を覚えてくれたらいいなと考えながら意識を手放したのであった―――。


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#シド光♀

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注意次元の狭間オメガアルファ編4のお話。暁月終了後から逆算した独自設定。&nbs…

紅蓮,ネタバレ有り

#シド光♀

紅蓮,ネタバレ有り

旅人は、目覚めさせる
注意
次元の狭間オメガアルファ編4のお話。暁月終了後から逆算した独自設定。
 
―――昔からボクの中にはもう1人"ナニカ"が棲んでいた。

『奴らがいないのだから大丈夫だろう。こっちの"圧倒的な力"ってやつを見せてやろうじゃないか。―――』

『憎いか? 自分の無力さが。ケケッ、違う。数人お前の手から零してしまった原因は、"信仰"だ。サァ、存分にその力で千年に及んだ恨みの連鎖を止めてやろう。ほら、願えよ、―――ス』

『オトモダチが出来てよかったじゃないか。違うって? ヒヒッ分かってるって。オニイサマが許してくれないよなァ。……サァ、"アイツ"はこんな龍くらい一瞬で斬り捨てたんだぞ? 貪欲に願え、お前の目的を思い出せ、それを力にしろ―――エルダス』

 内なる声が響き、最初は真っ黒に塗りつぶされていった記憶も徐々に鮮明になっていった。エオルゼアを訪れて以降刀身が赤黒く輝く頻度が増えている。アルテマウェポンを、トールダンを、ゼノス―――いや神龍を一閃したこの圧倒的な力は確かに命の恩人から授かったあの"気迫"に酷似したものだった。でも違う、フウガが教えてくれたのは白く、奇麗な流星みたいな力強い希望だったはず。こんな死の手前に絶望させるようなものじゃなかった。
 その声は、何も応えてくれない。



 透明化とミニマムによって視認できなくなった身体で奇妙なチョコボアルファの上に乗り、アンナは考え込んでいた。ふと横に目をやると同じく息を殺したシドが正面を見つめている。視線に気が付いたようだ、笑顔を向けられるとアンナは目を逸らしシドの手を握った。
 考える。オメガが求める解を、小さく弱い人類とやらの代表としてどう示してやろうかと。不完全だが、命の恩人から教えてもらった力があれば容易なはずだ。しかしこれまで溢れてしまった光は孤独な機械に見せつける例としては間違っているだろう。最適解に近付けるために思考を張り巡らせた。
 ふとその手を握り返される。別に求めていたわけじゃないのに、莫迦な男だ。振りほどいてよと思いながらもその温かな手を感じ取る。今のボクは1人じゃない、そう思いながら笑顔を浮かべた。
 その時、アンナの記憶の中で1つの出来事が引っかかる。それは初めてフウガが自分に圧倒的な力を見せた瞬間だった。

『フレイヤ!!』

 お互い向き合って決めたはずの苗字で呼ぶことという規律も忘れ必死な顔で刀を抜き、感情を露わにしていた。それまでアンナの目に映ったフウガは厳しいけれど優しい不器用な旅人だった。だが、その時に見せたお人好しさと圧倒的な強さに憧れたことを思い出す。何度もお願いして根負けさせ、教えてもらったこの剣技をフウガは"気迫"と呼び、後に出会った男は"シハーブ"と呼んで2人は喧嘩していた。
 最初こそは死にかけた。体内の自分を形成するものに必要な力を使い切りかけてしまったと後に伝えられる。もう二度と強くなれないのかと薄れゆく意識の中で考えていた記憶があった。しかし、奇跡的にアンナは目を覚まし、"あの時"とは真逆でずっとフウガは謝り続けていたのを今でも鮮明に覚えている。
 それ以降からだ、フウガの修行が手に取るように理解出来るようになったのは。そして圧倒的な力を身に付けることになった。重い物を持ち上げようと思ったら軽く持ち上がり、速く走ろうと思ったら自然に足が動く。それでもあの"気迫"と呼んだ斬撃だけは完全に再現出来なかった。だが今、フウガに「それは旅を続ける中でゆっくり見つけろ」と言われていたことを思い出した。

『大切な護りたいものが見つかった時、それは応えてくれる』

 森を懐かしんだアンナに船券を渡した際に語ったフウガの言葉だ。この時は理解が出来ず、そしてこれまで忘れていた。
 改めて隣の男を見やる。あの寒空の夜に交わした約束を心の中で繰り返しながら、"出番"まで目を閉じた。

―――あの言葉が聞こえた気がした。



 アルファの上に乗り、オメガを追いかける。孤独で必死に走りクエと鳴く姿を見守りながらふと気が付く。そういえばアンナと2人きりで最終決戦に向かうのは初めてだな、と。この"賭け"が成功するかも分からない失われつつある空間で緊張しないわけがない。
 ふとアンナの方を見ると目が合った。笑顔を向けてやると直ぐ様目を逸らされ冷ややかな質量がシドの手を包み込む。ここで新手のイタズラかからかいかと表情を伺うと手を握ったアンナは少しだけ不安そうな顔をしていた。『そうか、普段何度も1人戦いへ走っていくお前だってそういう感情があるんだな』と思うと少しだけ緊張が解けた気がした。そうだ、こっちは"オメガの誤算"が未だに失われていない。手を握り返すと少しだけ慌てたような目でこちらを伺っていたが直ぐ様いつもの不敵な笑顔を浮かべた。きっと振りほどいてほしかったのだろう。そんなことしてやるものか、待つ姿勢を見せるアンナにボソリと言葉を送る。

「絶対に生きて帰ってあいつを驚かせてやろうな」

 目を閉じていたアンナの眉がピクリと動き、「ええ」と呟いた。シドはこれで人に対して特定の感情を抱く気がないのは嘘だろ、と苦笑する。冷たい体温に僅かな熱を渡しながら、最終決戦へ送り出すため転びながらもまた走り続ける勇気ある小さな存在に心の中でエールを送った。

―――アンナ、前に2つの間違いがあるって言ったよな? 違う。オメガはもっと致命的な勘違いをしてたんだ。それは、もう1匹の立派な仲間が頑張れたことさ。



「本当に……よくがんばったな!」
「アルファ、えらい」

 絶句するオメガの前にシドとアンナは立つ。

「さあ、オメガ……検証再開だッ!」
「最終決戦を始めるよ、オメガ」

 不敵な笑みで同時に言葉を発した。銀球のオメガは人の形を模し、検証へと乗り出す。
 アンナは思い切りぶっ飛ばしてこいと見送るシドとアルファにニィと笑顔を向ける。

「それじゃ―――あなたたちがこれから見たものは誰にも言わないでね? そして、どんなに怖くても、私を見届けてほしい」

 踵を返し、オメガへ刀を向けた。

「弱き人類の想いというものを見せてあげる」
「真の強さとは何か、全て見せなさい!」
「勿論、叩き斬ってやるさ」

 ニィと笑い、共に検証に立ち向かうのための"仲間"を呼び出した。



 オメガの多彩な攻撃、変化しながらの検証にアンナは軽く受け流す。シドはそれを息を飲み見守っていた。見た所笑顔を剥き出しにし斬りかかる姿はいつものアンナである。隠すようなものじゃないと考えながらこちらに被害を出さないよう戦う姿を観察した。
 ふとアンナは立ち止まり、刀を構えたまま目を閉じる。一瞬2対のオメガはその姿に怯んだが、リミットブレイクを解放し、巨大なレーザーを放つ。対してアンナはニィと笑い、片方のオメガに斬りかかった。
 その刀身は赤黒く輝いていた。これまで見せて来た侍としての技ではない。だがこの空気の震えは記憶がある。そう、あれは確かアジス・ラーに来た際、イゼルという氷の巫女が身を挺して帝国艦を退けた直後、火傷しそうな熱と共に感じた。あんなにも優しく笑顔を絶やさないが決して人に身を任せることがなかったアンナが初めて見せた怒りと涙だった。

「まずこれはビッグス、ウェッジ、ネロサンの分!」

 その刀身は一瞬で女性体を切り裂いた。残った男性体のオメガは狼狽えながらもまた光線を向ける。だがアンナは何かを否定するように叫んだ。

「でも違う。私が見せたかったのは"これ"ではないんだ! 力を貸して、■■■!!」

 次の瞬間、空気の震えは止まり全ての音が消え去った。一瞬だけこちらを見やったアンナの表情にシドは息を飲む。



―――違う。これじゃダメ。

 アンナは大きく息を吸い、吐いた。ちらりとシドとアルファを伺うと驚いた顔を向けている。これ位で驚いたら困るさとニィと笑った。

―――見てるんでしょう? あの人たちを護る力の使い方を、ボクに教えて。

『ああ。そうだな、そろそろ教えてあげようじゃないか。人を護る、想いの力ってやつを。―――"いつも通り"に1回で覚えろよ? フレイヤ・エルダス』

 あの声が聞こえた。その瞬間意識が真っ黒に包まれかけるが目を見開き、刀を掲げる。

『お前が大事にしたいニンゲンのことを強く想え。それが力になるって"アイツ"も言ってたろ?』

―――嗚呼この光は知っている。フウガ、君の領域にボクは、行くよ。
 そして、ねえシド。これらを見てもまだボクを好きでいる気なの? 私を捨てて幸せになって(嫌いにならないで)




「オメガ、むかーしむかし文献で読んだことがある。遠くの星から龍を追い飛来してきた孤独な宇宙生命体。すっごく面白かったんだぜ?」

 小さな声だが確実に聞こえたオメガは一瞬その言葉で攻撃の手を止める。赤色の光を放つ刀身を構え、正面の女は目を細めた。

「あーあ、浪漫を感じていたのに実際見てみりゃおうちに帰るためこんな独りよがりのお人形遊びとは情けない。そんじゃ―――"オマエ"に存在しない人類の強みを見せてやるよ。その視覚センサーかっぽじって"ボク"……じゃなかった"私"を見な。目を逸らすなよ? まずさっきのが、怒りという感情だ」

 口が三日月のように歪んだ笑顔を見せた女の持つ刀が次の瞬間その赤黒い光が消え去り青白く輝いていく。オメガは目を見開き、光を乱射させる。

「そしてこれが、必殺"シハーブ"。この子の強い"大切な人を想う心"の具現化だ。この"最高傑作"を受け取りなァ!!」

 その光線ごと切り裂きながら一瞬で間合いに入り斬撃を放った。描いた軌跡はまるで流星のように相手に向けて長い尾を引き迫り光り輝いく。
 オメガの目には確かに正面に存在していたはずの長身のヴィエラが霞み、別の姿が映っていた。びしゃりと水たまり状になる姿をただ歪み切った笑顔で見下していた。音の消えた空間でケラケラと笑い、刀を鞘に納める。やがて軽くため息を吐き目を閉じ、シドとアルファの方へと振り向いた。

「―――ただいま」

 ゆっくりと歩み寄りながら、"それ"は女の笑顔に変わっていく。"バケモノ"の存在をアルファに伝えようと形取り彼女に手を伸ばそうとするが倒れ込んでしまう。隣の男の制止を振り切りアルファが駆け寄ってきた。アルファ、彼女を信じてはいけない。そこの男も聞いてほしい、あの言葉が聞こえなかったのか? このログを見て、本当にあなた方はこの"バケモノ"を仲間と認めるのかその疑問を聞いてほしかった。
 理解不能。仮に"心"を持つことが出来ても"これ"に勝てたのかも今や知る由もない。負けを認め、すり寄るアルファに対し目を閉じて言葉を発した。



 フレースヴェルグの背に乗り、シドはアンナを眺めている。空気を震わせた赤黒い光から静かに青白い光へと変貌した刃―――あれが"気迫"なのだろうか。聞こうと思ったが秘密にしろという約束を交わしていたことを思い出し、開きかけた口を噤んだ。
 アルファが心配そうな顔でアンナの衣服の裾を引っ張る。「どうしたの?」と言いながら頭をガシガシと撫でるとクェクェと鳴きながら喜んでいた。

「心配してくれてありがとう。"私"は、大丈夫」

 アルファを撫でながらアンナはシドに笑いかけた。

「アルファ、さっきは怖かったでしょ? ごめん」

 きょとんとした顔を見せている。その顔を見てアンナは苦笑した。

「え? 怖くなかった?」

 クエッと一鳴きし、輝かしい笑顔を向けている姿にシドは笑いを我慢することが出来なかった。アンナはシドをジトっとした目で睨んでいる。

「すまんすまん」
「……なるほどこれが恋は盲目」
「何か言ったか?」
「別に」

 ため息を吐き苦笑を見せていた。よく分からないが釣られて笑ってしまう。すると飛翔する龍はアンナに語りかける。

『人の子よ、一瞬空間自体が震え、ざわめいた。あれはお主のものなのか?』
「フレースヴェルグ……"私"は何もしてないよ。ただ、感情に身を任せただけ」
『その行為、人ならざる者に堕ちないよう気を付けることだ』
「忠告ありがとう。でももう遅い―――数十年ほどね」
『―――そのようだな』

 アンナは自分の右手を見つめ、目を閉じた。過去に何があったのか、聞こうと思ったがそれを探すのが"宿題"なのだろう。
 消えゆく空間に浮かぶ星々を見つめ、アンナを見やった。先程起こったことに関しては恐怖の感情がないというと嘘になる。ただそれ以上に気分が高揚していた。新たな未知の技術を宿した女性に対しての技術者としての本能が震えている。誰かと違い文字通り全てを解析し明かしてしまいたいわけではない。ただ焦がしつけられた心が確実にその先を見たがっていた。

 飛び立つ龍を見送りながらシドはアンナの隣に立つ。一瞬だけ冷ややかな質量と音がシドの耳元を掠った。アンナは何も言わず事変の終わりを喜ぶビッグスとウェッジに満面な笑顔を浮かべ親指を立てている。聞こえた音は間違いない、「"私"の傍にいてくれて、ありがとう」という声だった。顔がみるみると熱くなる。美しい青空の下、アンナの背中を叩きながら「さあラールガーズリーチに戻るぞ、英雄の凱旋だ」とそのこみ上がる嬉しさを誤魔化しながら笑い合った―――。


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#シド光♀

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注意自機出番少な目なのと倫理観無し。シド光♀匂わせ程度なギャグ概念。どちらかとい…

漆黒

#即興SS #季節イベント

漆黒

"感謝のチョコレート"
注意
自機出番少な目なのと倫理観無し。シド光♀匂わせ程度なギャグ概念。
どちらかというと自機兄+ネロ風味。
レフ→自機の兄。ガーロンド社に出入りしている技師。嫁が8人いたが離婚済みで故郷からも追放されている。妹が絡まなければ物静かで笑顔がヘタクソな人間。
 
「そういえばガーロンドくん、昨年僕の妹から貰ったチョコはどんな感じだったんだ?」

 アンナの兄レフの一言から今回の一件は始まった。ネロはゲラゲラと笑う。

「やっぱ手加減知らねぇメスバブーンのことだから山のように作って社員全員に振る舞ったンじゃねェの。ンでその中の1つを雑に投げられたって感じか?」
「あー確か去年の手紙でヴァレンティオンデーってよく分からんって書かれてたな。僕も知らなかったから『可哀想な男共に優しい手を差し伸べる慈善事業の日でもあるよな』って返したぞ」
「あの余計な一言はお前が原因だったのか……」

 シドはため息を吐いた。昨年のヴァレンティオンデーはそれはもう凄かったと語る。突然ガーロンド社に訪れ、大きなバッグから取り出される『お母さん以外の異性から手作りチョコを貰ったことがない人優先の素材から拘った手作りチョコレート』をばら撒いた。シドは毎年結構な量を貰い社員と食べていたのだが、その多さに今年はいらないと言われほぼ1人で数日間片付けていた。挙句の果てに、アンナからは「シドいっぱい貰ってる。こっちはあげない」と言われるおまけ付きで。その後、先に試作したが少々失敗したというカカオ95%チョコを渡され、言われるがままホットミルクに溶かして飲んだ。ちょうどいい苦みがあって美味しかったと振り返る。

「レフのせいで俺は酷い目に遭ったんだぞ」
「はっはっはざまあみやがれ。ってちゃっかり貰ってるじゃないか阿呆」
「おいレフホンネ出てンぜ?」
「というかアンナも大量に貰ってたんだぞ? それは悔しくないのか兄として」
「お前と一緒で僕の妹に本命という概念が理解できるわけがないだろ」
「そーだな」
「流石にアンナよりマシだと思うぞ!?」

 ネロとレフの言葉にシドは素っ頓狂な声を上げた。似てると言われるのは悪くは思わないがさすがに恋愛関係で一緒にされたくなかった。

「気にせず社員に分けてるアホが何か言ってンぜ?」
「まったく最低な男だなガーロンドくん」
「いや俺は仮にも偉い人間だし義理で渡すくらいはあるだろ。どう消費しても文句はないはずだ。お前たちだって確実に貰ってただろ」
「ガレマルドにヴァレンティオンなンてなかっただろうが」
「僕は嫁いたし。基本的に人から手作りの食べ物は貰わない主義なんだ。何混入してるか分からん」
「おいおいレフもズレてンな」
「―――おいレフ、お前人から貰ったものは受け取らないのか?」

 シドに嫌な予感がよぎる。兄がこれなら人の教えを忠実に守る妹は。

「そりゃそうだろう毒とか入ってたら困るし」
「アンナもそれを知ってるのか?」
「勿論。護人としての心構えで真っ先に故郷では教えられるさ。そこから瓦解したら大変だろう?」
「……アー」

 ネロも察した様子を見せながら肩をすくめ、レフに便箋を指さす。

「手紙書け。プレゼントは全部断れってな」
「現れる前に気付いてよかったぜ」
「君たち本当に心の問題に関しては妹のこと信用してないな。僕も書いた方がいいって思ったけど。というか去年貰ったものどうしたか聞くか」

 ここ数日、またアンナと連絡が途絶えていた。暁の人間によると『やはり道具から拘る方がいいよね』と言いながらどこかに飛んで行ったのだという。連絡をするならば一番確実なのがレターモーグリだろうと判断し、レフはペンを手に取った。



 レフは手短な手紙を書き、レターモーグリ経由で送ると1日で返事が返って来た。しかし内容をシドに伝えることはなかった。

「……僕は教育方針を間違えてたかもしれない」
「ケケッ、オマエこれまでの生涯通しても合計1年分も会ってねェだろ」
「うるせ」

『兄さんへ
 私への配慮、ありがとうございます。お返しはいらないと言って渡しているので安心してください。
 あと私のような旅人には本命や義理も関係ないし感謝の気持ちを込めて燃やしてるので大丈夫。
 ところで試作品を作ったからどうぞ。兄さんの感想が私がお世話になっている人たちの胃の運命が決まります。よろしくね。
 フレイヤ』

 手紙と一緒に小袋が入っており、中身はアルファの顔が描かれたアイシングクッキーとオメガを模した立体チョコレートだった。容赦なくパキリと割り満面の笑顔で噛みしめるように食べるレフの姿にネロは引く。

「おいしい……嗚呼滅茶苦茶おいしいぞ妹よ。だが頼むから人からの贈り物は完全に拒否してくれ……」
「オマエ本当にメスバブーン絡んだら気持ち悪ィな」
「一言余計。ほら半分に割ってるから君も食え。多分君もいっぱいもらってるからあげない組だぞ」
「いや別にオレは」
「は? 君は妹の作ったものが不味いからいらないと言いたいのか?」
「ンなこと一言も言ってねェよ!」

 ネロは眉間にしわを寄せながらクッキーを一口摘まむ。ちょうどいい焼き加減でサクサクとして本当にあのデリカシー無しで脳筋が作ったものなのかと疑うほど美味い。

「バブーンじゃなけりゃなァ」
「は? 妹は可愛いが?」
「顔はいい方だけど中身が最悪だって言いたいンだよ」
「最悪の中身が混じり込んでるんだからしょうがないだろ」
「ヒヒッ違いねェ」

 よし美味しかったと手紙を返しておこうとペンを手に取る姿をネロは苦笑する。素直に会いに行けよと思うが心の中に仕舞い込んだ。

―――数日後。アンナは石の家とガーロンド・アイアンワークス社に大きなバッグを持って現れた。色々な表情をしたアルファが描かれたアイシングクッキーとオメガ型立体チョコが入った小袋を『お母さん以外の異性から手作りで貰ったことがない人優先の調理道具から拘った手作りチョコレート』と称してばら撒く。昨年と違う所はなんと男女問わず渡されるチョコレートをごめんと言いながら拒否している所だ。ネロは兄の説得が心に届いたのかとマグカップを手に口をあんぐりと開けそれを見守る。ふと目が合うと意外なことに2つの袋を手渡された。両手に紙袋を持ちながらふらつくシドがやって来るとアンナは動きを止める。

「ホー昨日あんだけ説教してきたくせに自分はモテますアピール」
「いや、アンナ。断ったが押し付けられてな。また一緒に食うか?」
「自分で片付けたらいい」

 踵を返し次は女性陣へと渡しに行く姿をシドはため息を吐きネロの隣に立つ。

「いや昨日ようやく連絡がついてな。問いただしたらゲロったから少々手荒に"説教"した」
「ハァ。その両手のブツがなければ説得力あったろうにな」
「俺もそう思ってるさ。とりあえずレフにはお前の説得で妹は余計な悲しみを生まさずに済んだとでも伝えておいてくれ」
「……まあその方があいつも小躍りすっか」

 真面目なシドのことだ、一晩中ものすごくキツく𠮟ったのだろう。大欠伸を噛み殺しながら、いつもの内面に存在する複数の人間に込められた渦巻かれた闇1つ悟らせない満面の笑みでチョコをばら撒き去って行くアンナを見守っていた。
 その横でネロはふと誰も触れていない引っかかった疑問を口にする。

「―――ン? 調理道具から拘ったってどういうことだ?」
「文字通り1から作ったってことだろ。そりゃ一切連絡つかないさ」

 満面の笑顔で鉱石から採掘に行く姿が男2人の脳内で共有され馬鹿じゃねェの? と呆れた声が響き渡った―――。


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注意暁月までネタバレ有り  リンドウ・フウガ アンナの命の恩人であり、…

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暁月までネタバレ有り
 
リンドウ・フウガ
 アンナの命の恩人であり、初恋であり、呪いでもあったエレゼンとガレアンのハーフ。かつて生み出した技を幼いアンナに教えた際、体内エーテルを急激に消費させてしまった。彼女が死にかけていた所、友人の技術を使って自らを"継承"させ、息を吹き返させる。

 かつて父はガレマール共和国で誕生し、リーパーとして鎌を振るっていたが、生活苦によりドマへ亡命した。亡命中行き倒れそうになったところで呪術師の旅人だった女性と結婚し、息子リンドウは誕生した。後に母親の故郷で出会った女性と結婚することになる。
 強くなるために数々の武器や魔法に対しての豊富な知識を持っていた。しかし、父親の影響によりエーテル操作は不得意であった。そのため代替技術を探す旅をした結果ラザハンに辿り着く。錬金術の概念として存在した"アーカーシャ"に注目した。それを表層化させる技術を友人2人が理論を作り出した後リンドウの体で実験を行う。結果は成功し、エーテルを用いず自らの強く想う心、負の感情を刀身に纏わせ全てを斬り伏せる"奥義"を会得した。だが、副産物として想いの力を作用させ異常な怪力や体力も制御するようになるバケモノと化す。その力を人のために使うべくドマに戻り旅をした。だが英雄だと囃し立てる一方で恐れられ刺客を差し向けられる生活に嫌気がさしていく。それに加え、自分よりも遥かに大きい妖異を一発で斬り伏せる等圧倒的すぎる自分の力を目の当たりにしたリンドウは、少しでも人間に見せるために"無名の旅人"と名乗り人助けをしながらも誰かに介入するという行為をやめた。

 友人の1人が妹が誕生したという報を受け3人の奇妙な旅は終わる。だが、リンドウと3人目の男ア・リス・ティアは経過観察という名の交流は続けていた。
 行き倒れていた所を助けてやったアンナとは約20年共に旅をし、自分の持つ全てを継承させた。それは絶対に死なさない、茨の道へと突っ込ませてしまった罪悪感から起こした行動である。森を懐かしんでいるが故郷に帰りたいわけではなかったアンナのためにエオルゼアへの舟券を与え旅に出したが、水難事故で行方不明になったことを知る。多大に後悔し、苦しんでいたが訪れたアリスにより死んではいないことを彼女の命を示す"発信機"を渡された。その後、彼女が自分よりも先に死なないよう祈る旅を続けたが長年の無理が祟り倒れてしまう。
 意気消沈したまま故郷の村へ戻った。そこで献身的に治療してくれた病気で旦那に先立たれ既に子供もいた女性と結婚。手に入れた小さな幸せにより少しだけ元気になり離れの山に家を建て、療養生活を送ることになる。

 ある夜、その住処に1人の男が訪ねて来た。第三の眼を持った猫背で金目の黒い男によって語られた話によりショックを受けてしまう。それはバケモノと化しかけたかつての唯一の弟子と、自らの正体、これからその力を利用し滅ぼされる世界の真実。信じるに値しない話だと思った。だが、大切にしていた絵画を"魔法"で複製して見せたありえない行為と苦しめようと締め上げるエーテルに現実だと思わされた。そこで提示された約束は『いずれ貴様の大切な弟子をここに訪れさせるしもうすぐ尽きる命を無事冥府へと送り届けてやろう』、『だから指をくわえて何もせずここで最期を迎えろ』というもの。せめて愛する人やその周辺を護りたかったリンドウは『この場所を、戦地にするのはやめろ』と言いながらその手を握ることしかできなかった。
 数年後、ドマが占領されたが自分の住処と家族が住む村には一切の被害はなかった。守られてしまった約束と、アンナに対する後悔を抱ることになった。その後、ドマ侵略から3年後、家族と同じく年老いたア・リスに看取られ生涯を閉じる。享年89歳。

 
ア・リス・ティア
 リンドウが欲した力を理論化させ、アンナにリンドウを"継承"させたマッドサイエンティストなミコッテ。
 かつて恋人と幸せに暮らしていたが事故により失い心が壊れてしまった。蘇らせるための技術を探し、数々の過去の文明を荒らしまわる。偶然錬金術で人を蘇らせることができるという噂を聞きラザハンに訪れていた所にリンドウともう1人に出会った。そこで錬金術の概念の話を聞いたアリスは蘇生よりも面白そうな"新たな技術"にのめり込んでいく。これまで集めた技術とリンドウ自身の技量と精神力で新たな理論を作り出した。

 3人別れた後もリンドウとは会い続けていた。もう1人と交流が途絶えたのは森に帰ったので連絡が付かなかったからである。その傍らアラグ文明のクローン技術に興味を示していたので数々の資料や重要そうな装置を持ち逃げした。
 ある日容体確認のために数年ぶりに会いに行くと衰弱しきった少女にただただ謝罪するリンドウの姿があった。詳しく聞くと自分たちが作った技術の一部を教えると一瞬で習得し倒れてしまったという。持っていた装置で確認すると、その少女は体内エーテルが異常に少なかった。状況を見るに、アーカーシャを用いる所を体内エーテルで代用し再現した行為が原因。このままでは死んでしまうだろうと告げた。『どんな手を用いてもいいからこの子を死なせないでくれ』というリンドウの声に、かつて俺たちで作り上げた技術を彼女に施せばいいと提案する。別れた後も科学的に説明できない未知の理論を研究し、"比較的"リスクを減らした発展形を作り上げていた。だがそれに耐えうる存在が未だに見つからなかったので丁度いい。それに加えリンドウのエーテルがあればそのまま"継承"させることもできる可能性が高いだろう。リンドウは最初こそ反対したが時間がないことを悟ると重い腰を上げアンナの命を繋ぐ。エーテル制御の装置をいくつか渡し、最低限死なないように立ち回る指導をリンドウと共に行った。

 いつの間にかには恋人なんてもうどうでもいいと思っていた。既知の技術を探るより未知の技術を作り出すことに喜びを見出した彼はかつて漁ったデータをトームストーン3つに分散させ、リンドウとアンナで共有する。本当は3人目の友人でありアンナの兄エルファーに渡したかったが会える気がしなかったのでアンナに託す。当時のアンナはリンドウとお揃いのものが手に入ったと喜んだ。結局彼女には自分の身体がどうなってしまっているか等一切教えなかった。
 その後アンナが死んだと落ち込むリンドウに彼女を示す"発信機"を渡す。それは2人の変質したエーテル反応を視覚化させる機械である。それを大切そうに握り締める姿を見てア・リスは「俺たちも年を取ったな」と苦笑した。
 リンドウの死に目を確認した後、表舞台から消え去った。彼の抱えた"真実"をあと1つのトームストーンに込めながら―――。

 
"気迫"
 リンドウ、ア・リス、エルファーが作り出した新たな"理論"を用いた必殺技。またの名を"奥義:流星"、"シハーブ"。各々呼び名が異なっている。
 木の棒1本でもあれば妖刀のように光り輝き全てを斬り捨てる。振り下ろす刀身の軌跡が流星のように見えたためア・リスとエルファーはそう名付けていた。
 大切な人を想う力に満ちると青白く光り、負の感情に満ちると赤く光る。意志が強ければ強いほどその力は強大となった。かつてアンナはアーカーシャではなくエーテルで再現し体に大きな負荷をかけてしまう。だが、ア・リスに施された"手術"によりリンドウと同じ力を得るようになった。しかし、大切な人とは何か理解できなかった彼女は人々の恨みを吸収しながら終末の獣のような現象に陥ってしまう。それを救ったのが何も知らなかったエメトセルクだった。
 エオルゼアに辿り着いてからは不慣れな武器を使い隠していた。だが、無意識に魔導城プラエトリウムのアルテマウェポン戦にて赤黒く輝かせる。その後、トールダンやゼノスにも失った者達に対する負の感情に塗りつぶされながら斬り払った。しかしオメガとの最終決戦にてシドの前で意識的に"弱き人間の想いの力"という例として発現させるとそれは青白く輝いた。それは初めて無意識だが明確的に"シドを護る"という想いに応えた力となる。

 圧倒的な力を行使できるようになるが、副作用として自分に向けられた感情を敏感に感じ取れるようになってしまう。好意も悪意も全て首筋に伝わっていくとこの技を得た人間は語った。

 
アンナの身体の秘密
 ア・リスの手術により元のフレイヤ・エルダスとは全く別の存在に変わっていた。リンドウが40年以上費やして身に付けた技術や知識とエーテルで補われている。背中の傷が残り続けているのもその手術の影響だった。その後、負の感情が魂にまで纏わりついたところをエメトセルクが引き剥がし、変質されないよう保護されている。
 エルファーやヤ・シュトラが称した『奥底に闇の杭が打たれ、何者かの手によってエーテル、というより魂そのものに操作を施されたような形跡』とは前者はア・リス後者はエメトセルクが行ったもの。闇の杭はエメトセルクが覗いた時にはもう施されており、それに自分のエーテルを混ぜ込んだ。
 重い物を持ち上げたり身体能力が高いのも想いの力の無駄遣い。マンダウィル家と一緒。

 
"東方風雅録"
 ガレマール帝国がドマ侵略を行った後に出版された東方地域に伝わる伝説の英雄の話。"龍殺しのリンドウ"とその弟子ザクロの旅の記録が綴られた大衆向け冒険小説。舞台化もされ、彼の奥義とされる光の刀身は公演によって日替わりで目玉の一つにされていた。
 その影響でリンドウの終の棲家があるとされた村に毎日帝国兵が墓参りに訪れていた所を目撃されている。お供え物として持って来られる金品、ゆっくり滞在するための最新の魔導機械が導入された宿が作られた。それにより山奥でありながらも生活が苦にならない独自の文化が形成された村となっている。いつの間にか伝説になったリンドウにとっていいことなのかは、知る術はない。
 なお周辺には飛空艇を停泊させる場所が存在しない。石碑周辺は上空から住処を発見することが出来ない不思議な結界が張られているという都市伝説が囁かれている。実際はリンドウの家にジャミング、カモフラージュさせる装置が設置されていただけなのだが。

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「だから触るな!」「いいじゃないか」 アンナは壁に追いやられながら威嚇するがシド…

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#シド光♀ #即興SS

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"耳"
「だから触るな!」
「いいじゃないか」

 アンナは壁に追いやられながら威嚇するがシドはどこ吹く風かと手を伸ばしている。眉間に皴を寄せながら必死にその手を握りしめ抵抗した。
 そう、アンナは耳を優しく触れられる行為に対して非常に弱く、"シドに"触られるとほぼ"終わり"となる。なので手段を選ばず何としても手を出すシドと度々小競り合いが起こった。今回は仕事疲れで戻って来たシドが癒してほしいと言うので、"多少の"スキンシップを許可した所まではいい。しばらく首や顎、頬を撫でまわしていたが突然耳に手をかけようとしたので、耳だけはやめろと拒否する。

「触ってもいいってさっき言ってたじゃないか」
「してない。許可した個所は顔」
「頭部の一部じゃないか」

 かすってない! とシドの両手を片手で掴みながら額のゴーグルを外し指さす。

「あなた以前第三の眼で遊ぶの拒否したでしょ?」
「お前のパワーで何かされたら命の危機だろ」
「失礼な。耳だって命の危機と隣り合う器官」
「力加減位できるさ」

 埒が明かない。他の話題を探して有耶無耶にするかとアンナは判断し、床に転がす。今回はきちんと受け身を取ったようだ。胸板の上に乗り腕を押さえる。

「誘ってるのか?」
「違う」
「お前知ってるぞ、以前人に触らせてただろ耳」

 どこから話が漏れたんだとアンナはため息を吐く。グ・ラハとレヴナンツトールを歩いていると通りすがりの子供が声をかけて来た。ヴィエラが珍しかったのか長い耳に興味を持っていたので仕方なく触らせる。すると思い切り掴み引っ張られたので、頬を引っ張りながら笑顔を見せてやった。喋った犯人はグ・ラハだなと思いながら適当に心を抉る言葉を吐く。

「シドの触り方おっさん臭くて嫌い」

 シドの表情が固まる。よし、このまま傷付いてろとため息を吐き畳みかける。

「お子様が手加減無しで掴んで、ビックリして頬を引っ張った。一度だけ。何度もせがむおっさんとは大違い」
「ぐ。いや待てお前の方が遥かに年上じゃないか」
「まあ君が子供と仮定しても絶対不許可」

 悲しげな表情を見せた。そこまで傷付くのか? と苦笑するがそこで手を差し伸べてはいけない。ここから痛い目に何度も遭って来た。
 シドが耳を狙う理由は簡単である。普段は全く動かない耳を"シドが"触り続けるとふにゃりと垂れ下がってしまうからだ。アンナは相手に感情を読まれないよう極力耳を反応させない修行を行った。そんなアンナの弱った姿を見て自分の精神を癒やそうとする悪意と下心が丸見えなので許可は与えない。勿論相当なことがない限り絶対に他人が触ろうとすると反射的に刀に手をかける。アンナにとってはこれでも優しく断っているつもりだった。

「人の嫌がるとこ狙うの最低」
「う」
「純粋にあなたに会うために来たのに残念」
「す、すまん」
「もうジェシーやネロサンとお茶飲んで帰る。明日は折角の休みなのに残念だねえ」

 ちらとシドを見るといつの間にか泣きそうな顔が消え、少々機嫌が悪い顔になっている。またやってしまったと慌てながら訂正する。

「いやさすがに帰るのは冗談」
「本当か?」
「私、嘘はつかない」

 機嫌を取るように頬に口付けてやる。「ん」と舌を差し出してきたのでそのまま舌を絡めてやった。指を絡め合い、目を閉じて行為の終わりを待つ。いつの間にか力が抜けてしまったか急に手が振りほどかれ抱きしめられる。仕方がない、「苦しい」と言いながら離れると次の瞬間ひっくり返される。

「へ?」

 見上げると笑顔のシド。騙されたかと一瞬考えたがよく見ると目は笑っていなかった。これは、終わったなとアンナは察した。

「悪かったな触り方がおっさん臭くて」

 次の瞬間、シドは思い切り長い耳を掴んだ。アンナは目を見開き叫んでしまう。

「いっ―――たぁ!?」
「流石に痛いのか。すまん」

 本当はそんなに痛くはない。しかし突然の行為に対し反射的にリアクションをしてしまった。

「怒ったからって子供のマネ? 大人が力加減無しでやるな、普通のヴィエラなら潰れる。拷問したいの?」
「いや大丈夫かと思ってつい」
「もーフウガぶりだ。負けず手加減しないね」

 意外な名前が出て来てシドは「リンドウが?」と言うとアンナはため息を吐く。心がざわめく感情を抱いているがまだアンナは気付かない。

「里で修行できなかった分。おかげで多少では耳は動じない。ってシド凄い目が怖い」
「修行?」
「いや、護人が耳で色々バレるの、ダメ。真っ先に対策必要。だから……って撫でるな!」

 シドは思い切り掴んだ部分を優しく撫でる。アンナはその手首を掴み抵抗するが弱々しい。その姿にシドはクスリと笑う。

「痛くしてすまん。―――もうあっという間に弱ってる。本当にそれは修行だったのか?」
「ひゃ、それはあなたが」
「俺が?」

 内側を擦りながら形をなぞるように撫でまわされると勝手に口元から甘い吐息が漏れた。なんとか言葉にし、抗議する。

「触り方がっ、普通はしないやつ―――ッ」

 首のゾワゾワと甘い痺れに身体がピクリと痙攣する。頭がぼんやりとするから触られたくない。と思っていたら突然寝台へと抱き上げられる。温かい体温が背中を通して感じた。アンナは普段シドを抱き上げているがシドもアンナを軽く持ち上げることができる。以前重くないかと尋ねたら「機材に比べたらとても軽い」と笑顔を見せていた。
 シドは長い耳の間に顔を埋め、再び優しく耳を撫でている。指を口元に持ってきたので口に含むと舌に絡められた。上下に擦られると反射的に指を甘噛みしてしまい背後からくくと笑い声が漏れた。もうこうなってしまったら満足するまで続くだろう。耳はどうすれば動かせるのかを思い返した。集中を解き、リラックスし、あと何が必要だったかとアンナは一瞬考え込んだ後、ふと名前を呼ぶ。

「シ、ド」
「どうした?」
「くび、噛んで」
「仰せのままに」

 襟元を緩めてやり、シドはそのままガリと未だ消えていない痕を上書きするように噛みついた。

「ッ―――!」

 痛みに対し反射的にビクリと跳ね、シドは身体が逃げないように強く抱きしめた。耳の付け根を握りながら内側を引っ掻く様に動かされると力が一気に抜ける感触を味わう。そして耳がふにゃりと垂れ下がり、シドの目的は達成である。

「満足?」

 アンナは深く呼吸をしながら背後のシドに声をかけるが反応はない。転がり顔を見合わせると唇を合わされる。耳を巻き込むように大きく頭を撫でつけた。こうなるから厭だったんだよと手首を掴む。

「終わり」
「疲れを癒させてくれ」
「最低。疲れたならそのまま寝て」

 胸元に押し込み頭を撫でながら子守歌を唄う。かつて故郷で毎日聴いていた"よく眠れる歌"だ。勿論シドも好きなようですぐに寝息が聞こえてくる。

「おつかれ」

 ポツリと呟き、目を閉じる。シドが連日の仕事詰めの疲れで癒しを求めるように、アンナも癒しを求めていたのも確かだ。耳も最終的に許可するのは外で見せることのないバカ騒ぎができればそれで構わないという一種の甘え方になる。冷たい身体に相手の熱が少しだけ溶け込む感覚に穏やかな表情を見せた。


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 シドは白い髪飾りを撫でる。星芒祭の朝に握っていた"あの人"…

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#シド光♀ #リンドウ関連

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"髪飾り"

 シドは白い髪飾りを撫でる。星芒祭の朝に握っていた"あの人"から貰った不思議な羽根と花の意匠が凝られたモノ。以降、1人ぼんやりとする時は引き出しの中から取り出し、思い返していた。

「忘れろ、って言われてもな」

 ボソリと囁きあの無機質で中性的な声をした人の姿を思い浮かべる。再び会えたというのに、勿体ないことをした。次はしっかりと腕を掴んで逃がさないようにしよう、と握り締めた時だった。

「硬い……?」

 髪飾りは柔らかな布素材を使われていたがある一点だけ硬い金属の物体を感じ取った。同じ白色で目立たないが明らかに後から取り付けられたものだということは分かる。慎重に取り出し、その物体を観察する。魔導装置のものでもない。何か彼のヒントに繋がるかもしれない、工房の解析装置に足を運ぶ。



「明らかに最近の技術のものではないな」

 ゴーグルを外し考え込む。小さな回路に極小なクリスタルが埋め込まれ、何らかを反応させるための装置だということは分かった。使われている金属と書かれた魔紋の形からアラグのものであると仮定し、データベースと睨み合う。
 途中から暇そうだった社員数人を捕まえ調べているがそれらしきものは見当たらない。

「一部文献は未だに見つかってませんしもしかしたらその中にあるものかもしれないですよ」
「困ったな、じゃあ解析してこれからのデータとして追加してやれ。終わったら返せよ」
「構いませんけどこれはどこで」

 シドはため息を吐き首を横に振った後席を外す。久々に煙草を取り出し火をつけた。また手がかりが煙のようにすり抜けていくのかと思うと憂鬱になる。分野的にネロに聞けば何か知っているだろうか。否、捕まらない人間について考えても解決はしないかと霧散させた。

 数日に及ぶ解析の結果、空気中のエーテルを取り入れ変換させるものだということが分かった。だからといって何か"あの人"の手がかりに繋がるわけもなく。

「アラグの技術は確かに奇妙なものも多いがそんなことも出来るのか、というかよく分かったな」
「親方が一服に行った後に一部ページ引っかかったんですよ。まあそれ以降は見つからなかったですが」
「うん? 欠けてるってことか?」

 どうやら遥か昔に抜き取られているのだという。聖コイナク財団より先に発見した人間がいたのか、それとも盗掘家が価値も分からず偶然持って行ってしまったのか。それとも出し抜いた人間がいたのか現在の彼らに知る由はない。分かることは旅人のあの人がそんなことをするわけがないという確信だった。

「先程まで聖コイナク財団の方に一緒に検証してもらって用途も分かったんです。本当にこれどこで手に入れたんですか?」
「いや、まあ俺も偶然見つけてな」

 兎に角返してもらうからな、と装置を受け取り部屋に籠る。再び髪飾りに付け握り締める。

「アンタは一体何者なんだ。旅人さん―――」



―――数年後。

「なあアンナ、この髪飾りなんだが」
「知らない、私は何も知りません」
「お前が一芝居打って俺にあげたものじゃないか」

 街ごと俺を騙しやがってと持ち主アンナに突き付けると本人は露骨に嫌そうな顔を見せた。「捨ててると思ったんだけどねえ」と言いながらそれを摘まみ空へ掲げる。「ただの故郷と私を繋ぐ印さ。何も価値はない」と吐き捨てシドに投げ返す。

「変な装置が付いていたんだがこれはお前の集落伝統のものなのか?」
「はい?」

 シドはこれと固い部分をつついた。アンナは首を傾げる。そういえばよく見れば、材質が違う気がするとボソボソ呟きながら考え込む。

「そんなわけないじゃん。故郷ではただの髪飾りだったよ」
「いやこれはエーテル制御の装置らしくてな」
「うーん……?」

 心当たり無いなあと呟きながら首を傾げている。シドはここで当時持っていたヒントではこの面倒な旅人をどうにかすることは出来なかったことを知り、苦笑しながら肩をすくめた。
 しかしふとアンナは「あ」と声を出す。どうした、と聞くと「いや分かったとかそういうのではないけど」と笑う。

「昔初めてフウガに教えてもらった技を撃った時数日起きられなかったんだ」

 急激な体内エーテル消費により生死を彷徨っていた時があって死んだかと思ったら生きてたんだと語る。またリンドウかとシドは苦虫を嚙み潰したような表情を見せながらそれがどうしたと聞く。呪縛を解いたというのに無限に出てくる命の恩人で初恋の人でもあったリンドウ・フウガの話に対しては正直未だに嫉妬に溢れていた。

「いやもしこれが最初から付いてたらさ、倒れなかったんじゃないかなって。だからその時以降に付けられたのかも」
「そうだったのか。―――ずっと付けてなかったのか?」
「いや肌身離さず付けてたよ。……あー確かに目が覚めた後にフウガがずっと付けとけって言ってたやつの一つだ。ついでに外にいた旧友も紹介してもらったかな」

 金髪で小さいおっさんからからくり装置の作り方教えてもらったと答える姿にシドは頭痛がする。また変な知らない人間が出て来たという感想がよぎる。
 いや、フウガはアンナの兄と旧知の仲であり、その更に知り合い、金髪。そういえば以前金髪でネロに雰囲気が似てる男がいたと語っていた。最後に『アラグの技術にクローンを作るものがあるんだと』と言い残し別れたという。まさか、アラグの技術を持って行った犯人は。

「自由か」
「え? シドどうした?」
「いや世間は狭いなと思っただけだ。何か言ってなかったか?」
「うーん昔の話だよ? いいおっさんだった。お小遣いくれたしフウガとお揃いのカードもくれた、し……あっ」

 アンナの顔が青くなりやっばと言いながら鞄を必死に隠した。そして「よ、用事思い出したから帰る」と下がるがシドに掴まれる。

「出すんだ」
「嫌。思い出の品を奪うの、最低」
「人聞きの悪い事を言うな。見せてほしいだけだ」

 見るだけだよ? とアンナは鞄の隠しポケットから黒い物体を手に取った。トームストーンに酷似した薄い板だ。「リンドウもこれを?」とシドが聞くと「渡されてたねえ」と返ってきた。その板に手をかけ、引っ張るとアンナはちょっと! と言いながら取り合う形になる。

「ちょっと借りる」
「やだ」
「すぐ返す。何もなかったらだが」
「それ絶対何かある時に言うやつ」
「壊さない」
「やだ」
「お願いだ」
「う……」

 シドのお願いという言葉に弱いアンナは黙り込む。そして押し付けた。

「明日までに返して」
「分かった。すぐ戻る」
「はあ!?」

 シドは受け取るや否や部屋のドアを勢い良く開きネロの元へ走って行く。アンナは大慌てで追いかける。待て、許可してない、返せという声が聞こえた。ビッグスと談笑していたネロに投げ「多分"アリス"の遺物でアラグ関係だ!」と言ってやると口笛を吹き走り去る。その後胸倉を掴まれ珍しく人前で顔を真っ赤にしながら説教されたがどこか気分が晴れやかだった。

―――解析の結果、厳重に暗号化されたデータが保存してあるトームストーンだということが分かった。その後、アンナの元に返されたのは5日後になる。シドはアンナの機嫌を直すのに更に3日かかった。

「すまない、いや世紀の発見の予感がしてな。あの、本当に悪かった」
「まだパスワード総当たり中なンだがありゃぜってェいいモノだぜ。メスバブーンにしてはやるじゃねェか」
「……思い出の品をそういう扱いするのサイテー」
「そういえば髪飾りについていたのが持っとけと言われたヤツの一つだと言っていたがまだあるのか?」
「言うわけないでしょ」

 ゴミを見る目でこちらを睨む行為を必要経費と言い切るネロと小さくなるシドという対照的な風景をガーロンド社員たちは遠巻きに見つめていた。


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#シド光♀ #リンドウ関連

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