FF14の二次創作置き場

更新履歴

No.125

(対象画像がありません)

「というわけでシドにアレを言うのと、昼に報告よろしく」 と、このちっこいバブーン…

漆黒

漆黒

旅人は子供になりすごすfull―2日目―

「というわけでシドにアレを言うのと、昼に報告よろしく」

 と、このちっこいバブーンに見送られる。
 2日目、目が覚めるとすでに朝飯が作られていた。早起きなンだなと欠伸をすると「腹時計」と淹れたコーヒーを渡される。よく分からないので単語は脳の隅に追いやった。そしてどこぞのおぼっちゃんと違って気が利いて旨いと思いながらフルーツを摘まむやつを観察した。

 ガーロンド社に到着すると裏で起こっていることを片鱗すら気付いていないシドと傍から見たら軟禁状態なアンナの兄エルファーが腕組みして待っていた。「サボリと犯罪はよくないぞ」と肩を叩くエルファーと「違うと信じたいが今日はちゃんと働けよ」とジトっとした目で不味そうなコーヒーを啜るシドに「保護者か」と言いながら通り過ぎる。
 と、忘れていた。準備に時間をかけるガキに渡された原稿を読み上げる。

「ガーロンド、そういや昨日抜け出した時にメスバブーンがいたンだわ」
「は? お前アンナに会ったのか。どこで」
「レヴナンツトールのエーテライト近くでな。1週間程度各所で引き籠ってサプライズの仕込みすっから連絡も出来ねェってよ。スキップしながら去ってったな」
「まーた妹は変な企んでる。すっかり平和だな」

 片や勘弁してくれとため息を吐き、片や鼻を高くしている。両極端の反応にそうはならンだろと思いながら「ンじゃあな」と手を上げ去ろうとする。しかしシドの一言で足を止め、顔をしかめてしまった。

「ネロお前香水でも変えたのか?」

―――数時間後。

『こわー。前にキミが勧めてくれた作者の小説で見た。浮気に敏感、面倒な彼女』
「ちッたァ冷や汗かいた俺の身にはなンねェのか? あ、クソガキには無理か」
『一言余計。コートに匂い付いちゃってかわいそうに。色んなトコ寄ったしで混ざったからかボクと繋がらなかったのは奇跡。というかそこまで気付いたのに……。致命的ミスしたねぇシド』

 片隅でコーヒーを啜りながらバブーンにリンクパールで声を潜め報告すると滅茶苦茶笑われた。『多分ボクがいつも色んな香水付けるからムダに嗅覚が良くなってる』と何かを弄る物音と共に聞こえる。心臓が止まりかけたンだぞと言うと『万が一バレてもそこまで怒らないって』と警戒心無しに答えた。そんなわけがない。この女は知らないだけで今の状況を把握されたら十二分にキレる。ついでにエルファーからも怒りと笑いが混ざったような顔で吊るし上げられる未来が見えた。
 しかし今日は一層周囲の視線が痛い。昨日手紙で煽られるがまま抜けたのは流石にマズかったか? と思ったがどうやらそうではないらしい。午後、ジェシーの言葉で再び突っ伏す羽目になる。

「昨夜あなたが小さい子を連れて歩いてた目撃情報あったけど遂に子供を使った人体実験でも始めたの?」
「ンなわけねェだろ!? まさかそれで変な目で見るヤツが多いのか? 急用終わらせて帰る途中に迷子のガキにくっ付かれたからロウェナ記念会館に連れてったンだよ」

 アンナが準備していた『誘拐疑惑とか湧いてたらこれで大体誤魔化せる』という原稿を読み上げる。役に立ってよかったがまさか子供という実験生物を捕まえた疑惑まで出て来ていたとは予想外だし心外だ。さすがにエルファーの友人だった男と違いそこまで倫理観は死んでいない。―――傍から見るとそう誤解されてもおかしくない状況かもしれないのだが。あらそうだったのごめんなさいというジェシーに「とンだ酷い疑惑だな。てか誰だよ拡散したヤツ。社内の誤解解いとけ」と吐き捨ててその場を後にしながら『まさか朝2人が待ち構えてた理由はこれか?』という悪寒を捨てる。



 ラストスパートだと書類に押しつぶされたシドを眺めつつ定時退社を決める。こんな状態じゃ絶対ガキになった女の面倒は見られなかっただろうなと鼻で笑いラスボスに捕まる前に帰途についた。
 欲しい物はあるかと連絡を入れると『暇をつぶす本があればいい』と返って来た。適当に書店を物色していると赤髪のミコッテとばったり会ってしまう。

「ネロじゃないか」
「元気か?」
「ああ。アンタも元気そうでよかった」

 適当に会話を交わしながら小説を選んでいるとふと思い付く。暁にも言っておく方がいいな、と。

「なあ、ガーロンドから聞いたんだがメスバブーンがな―――」
「メスバブーン……? ああアンナのことか! そういえば日中連絡しても出なかったから気になってたんだ。アンナは何をしているのだろうか?」
「……ガーロンド含めてお前らにサプライズを準備すっから1週間位連絡すンなってよ。つーかあの女リンクパール嫌いだから作戦中でもない限り付けねェぞ」
「それは本当か!? アンナはイタズラが大好きで俺たちにもやってみたかったって書いてたんだ。とても楽しみだよ!」

 グ・ラハ・ティアという男は時折何言ってるか分からない時がある。どうやらこちらが把握していないアンナの秘密を知っているようだ。
 ありがとうと明るい声で去って行くのを見送り、シド名義で領収書を切ってから帰宅する。

 扉の前に立つといい匂いがした。すでに料理の準備をしていたようで、一部人間からダメ人間製造機と言われる原因を目の当たりにする。扉を開きよう飯作ってンのか、と言うと「おかえり、味が合うか分からないけど」と笑顔を見せた。背が低いからか無理やり椅子の上で作業しているので明日は踏み台でも持って帰るかと思いながら一服しコートを脱ぎ捨てた。

「そういやグ・ラハに会ったな」
「へー」
「お前に用事あったみたいだぞ。ガーロンドとほぼ同じこと言っといたぜ」
「ありがと。命拾い」

 先にシャワー浴びておきなよ、終わったくらいにできると思うからと言われたので言葉の通り浴室へ。衣服はきちんと洗濯され浴室内もきっちり掃除されていた。帰宅時間を伝えた記憶はない。英雄のゴリラじゃなかったらいい嫁になっていたかもなァと思う。本当にエオルゼアまで人と関わらなかったのかという疑問が浮かぶほど気が利く。そういえば兄も結構気が利く人間だったことを思い出す。生まれ故郷は使用人教育でもしているのだろうかと思いながら服に手をかけた。

 飯はそりゃ美味かった。森育ちのバブーンのことだ、豪勢な肉食事でも出されるだろう。下手したらニクス肉料理かもな。―――と思ったら味付けもしっかりしているし魚の焼き加減もバッチリだ。普段狩りもするが人生の4分の1程度は東方地域で旅していたので本来はドマやひんがしの料理が得意なのだという。普段から社員共が餌付けされている気持ちは何となくわかる。毎日食わされりゃ健康になるかデブのダメ人間になるだろう。

「お前、マジでダメ人間製造機だな」
「いきなり失礼なこと言う」
「とっととガーロンドに嫁入りでもしてやれよ。皆喜ぶぜ」
「はー旅人がずっと1ヶ所に留まれると思うとか愉快な思考」
「そっちかよ。つーかそれ言ったらあいつキレるぞ」
「ネロサン昨日からシドキレさせることしか言ってないね」
「オ・マ・エ・だ・よ!」

 ゲンコツを落としてやると痛っと言いながら涙目でこっちを見る。少し良心が傷付くような気もするが相手はあの野生動物だ。

「ンな目しても俺ァ謝ンねェぞ」
「チッ……」

 ほらガキである自分を有効に使おうとしていやがった。この後ドライヤーで耳が垂れ下がる風景を眺め、昼にカチャカチャ言わせていたブツの正体を見せてもらう。ゼンマイで動く機械仕掛けのウサギ―――のようなものだった。まだ完成はしていないらしい。

「最終的に跳ねる。でも今やったら多分壊れる」
「昨日買ったパーツはこれにか」
「そそ」

 量産射出楽しそうと不穏なことを言っているがスルーしておく。このガキはどこまでシドをキレさせたら気が済むのだろうか。「俺までそのクソみてェな野望の巻き添えにすンじゃねェぞ」とだけ言い寝かしつけた。


Wavebox

1日目 // 2日目 // 3日目 // 4日目 // 5日目 // 6日目 // 【R18】7日目 // エピローグ

このサイトの見方
(カテゴリを選択)から大体の拡張タイトルごとの時系列なページに飛ぶことが出来ます。
漆黒以降のメインストーリーネタバレ要素があるものはちゃんと記載しています。