FF14の二次創作置き場

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注意・補足セイブ・ザ・クイーン途中。"嫉妬"であったシドがネ…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

"嫉妬"、その裏で
注意・補足
セイブ・ザ・クイーン途中。"嫉妬"であったシドがネロにリンクパールで悩みを明かした直後の話。
 
 静かにため息を吐き、片隅で1人座りうずくまる。震えが止まらず、心がカラカラに乾いている。ふとリンクパールが鳴り響き、慎重に出るとあの飄々とした明るい声だった。

『よおメスバブーン、機嫌はどうだ?』
「最悪、かも」

 今自分の心の中を大きく占める男の友人の声だ。思い当たる用事も無いのにかけてくるのは珍しい。否、もしかしたら"アラグの悪魔"の噂でも聞いたかもしれない。

「アラグの悪魔はまだ調査中」
『なンだそれ』
「あ、こっちの話。知らないならそれでいい。用が無いなら、切る」
『用があるかは俺が決めンだよ。お前、槍持ってるらしいじゃねェか。どういう風の吹き回しだ?』

 目を見開き、少しだけ黙り込む。すると自分の中の"内なる存在"が『代われ』と声を掛けて来た。仕方がないので"切り替え"てやる。

「それについては"ボク"が説明する」
『その言い回しは……あっちか。何してンだ?』
「シドから聞いたね? いやあちょっとシドのせいで"この子"の機嫌が悪いからストレス解消させてるんだ」
『ハァタレコミ通りかよ。どうした、泣きの連絡が来て困ってンだよ』
「うん少々拗ねてたね。まあ過去がバレることを承知に暴れ回ってるのは本当に反省してるさ。でもこれに関してはシド悪くないから気にするなとしか」
『あいつのせいなのに悪くねェって何だそりゃ』

 ネロの少々困惑した声にニィと笑ってしまう。

「『自分、ミコトさんとボスはお似合いだと思うッス』『あの朴念仁の旦那、あれで結構、モテると思うゼ。早くしないと誰かに獲られちゃうかもな?』」
『ア?』
「シドが一度会社に戻るってなった直後"ボク"の前で起こった会話。ミコトっていうシャーレアン方面の研究職の子がまあ淡い事言っててねぇ。それに関して周りの評価」
『あー……ガーロンドが悪いが、本人は気にしなくていいってそういうことかよ。確かにいない間に機嫌悪くなってるのも間違ってねェな』
「その時は笑顔で見守ってたけど後から内心イラッとね。目の前のスクラップが砂のように砕けて正直面白―――じゃなかった。あんま戦場で精神的に乱されると下手すりゃ死んじまう。そりゃぁ困るってことでね。今回の敵は帝国兵純度100%だからまあ色々アドバイスしてあげたのさ」
『はー成程ただの惚気をこのド深夜にブチ込ンだってわけだなあのバカ』
「そうなるね。いやあゴメンゴメン」

 盛大な溜息が聞こえる。自分からかけてきたくせにどういう態度だと思うが置いておく。

「"この子"的には今までなかった感情さ。それに困惑してるのも事実。まあまだ決着ついてなかった感情に整理つけるきっかけになるだろうし放っておいたらいい」
『マァ本人が言うならもう触れねェが。つかまだウジウジ考えてンだな』
「そゆこと。というわけでまたちぎっては投げて来るね。いつまでもシドを寂しがらせるのも悪いし」
『ハァ』
「じゃあキミにも迷惑かけたし帝国が発掘したらしい"アラグの悪魔"の情報集まったらあげるね。"兄さんにもよろしく"」

 返事を待つ前に通信を切る。自らの中で眠ってしまった"アンナ"にクスリと笑みをこぼし槍を握りしめた。

「ヒヒッ」

 瞬時に跳躍し、宵闇の中に消えていく。
 "内なる存在"はこれまで自らが何者か、分からなかった。気が付いたらもう1人の"アンナ・サリス"として生きている。しかしこれまでの冒険、そして"アラグの悪魔"の噂でどこか熱が宿った。もしかしたら、"それ"を見たら自分へのヒントが見つかるかもしれない。"彼女"の心が滾るに決まっていた。



「エル、マジで信じらンねェなバブーン2匹。脳までゴリラかよ」
「おうおう僕の妹は除外しといてくれないかな?」
「メスの方のバブーンは筆頭だろうが」

 通信を一方的に切られ、ため息を吐く。深夜にシドからの通信に起こされ、好奇心のままアンナに通信を繋いだらただの惚気話だったことに落胆した。もっと面白いものかと思ったのにナァと肩を落とすと隣にいたエルファーは苦笑していた。傍に置いてあったリンクパール通信の内容を傍受するスピーカーの電源を切りながら目を細める。

「そうかい。……で、我が妹が嫉妬してたってことだな?」
「おう。その笑いながら怒るのやめねェか?」

 エルファーの顔は一見ヘタクソな笑顔なのだが口元は歪み、目はギラギラと輝いている。引きつった笑みで落ち着かせようと窘める。

「ほらアレだ。まず新入りに関しては明日ジェシーにでも報告すっか。これに関しちゃそれで勝手に話進むんじゃね。吊るそうとすンな」
「瞬時に社内で拡散される未来が見えてまた僕の肩身が狭くなる」
「今更だろ」
「うっせ」

 ネロの頬を抓ると再び書物に視線を戻してる。その様子にため息を吐きながら没収し、ブックマーカーを挟み投げ捨ててやる。

「コラ」
「寝ンぞ」
「あと1刻」
「アホ」

 1刻経過する、つまり睡眠を取る気はなく朝まで読書するつもりらしい。腕を引っ張り寝台に転がしてメガネを外す。諦めたのか丸まってしまった。

「いじけンなよガキか」
「ママが僕を虐めて来たんでな」
「だーれがママだお前の方が3倍は年上じゃねェか。ほら狭ェから寄れよ」

 無言で寝返りを打って隅に寄って行く。妙な所は素直な生き物だと思いながら横たわり、ランプを消す。
 暗闇の中、モゾモゾと物音が聞こえた。



 次の日。一連の出来事を半笑いでジェシーに伝えてやる。
 ジェシーは青筋を浮かべながら即リンクシェルを繋いだ。そして「リリヤ、あなた帰ってきたら覚悟しておきなさい。会長は! とっくに! アンナの! 返事待ちよ!」と少々よく分からないことを叫ぶ。チクったネロとしては正直どうでもいい。だが、あの鈍感本人が不在の中、全てが拡散される瞬間程愉快なものはないだろう。察したリリヤの『ま、まさか……そりゃないッスよ姉御ぉ! ていうかどこで聞いたッスかぁ!』という悲痛の叫びまでも即噂好き社員らが交わす話題の種だ。
 ちなみに。その横では「余計なことを"社用回線"で言わないでくれ女史ぃ! 少しは僕の立場というもの考えてくれないか!」と相変わらず凹んでいるエルファーをベテラン社員らが宥めている。「殺してくれ……」と呻く男をゲラゲラと笑いながら整備スペースに歩みを進めるのであった―――。


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『彼シャツは男受け抜群! 男性をトリコにする魅力とは!』 アンナは雑誌をジトリと…

漆黒

#シド光♀ #即興SS

漆黒

"彼シャツ"
『彼シャツは男受け抜群! 男性をトリコにする魅力とは!』

 アンナは雑誌をジトリとした目で読む。

「いやありえないでしょ」

 鼻で笑いながらソファに放り寝台へと向かう。そこには恋人であるシドのコート。

 約2週間ぶりに会い、トップマストで飯を振舞った。今はシャワーを浴びに行っている。その隙にアンナは眉間に皴を寄せ、正座でそれを見つめていた。
 ―――ちゃんと気にはしている。恋人とはどういうものか、何をしたらいいのか。いやそれっぽいことは付き合う前からやっていたと周りは言うがアンナ本人はピンとこない。なので所謂恋愛小説というものや週刊誌を中心に学習中である。

「そもそもボクの方が背が高いんだよね。こう、写真みたいにブカブカにならないでしょ。ていうかここボクの住処だし借りてとかないない。これは前提が崩れてる。与太話」

 唸りながらまずはそのコートを抱きしめてみる。

「……理解不能」

 纏ってみる。腕は絶対に通さない。バレたら誤魔化すのが面倒だ。いつでも投げる準備は出来ている。

「んー想定より重たい」

 意外と重量があるようだ。防寒の用途もあるのだろう。普段胸元開いて見せてるくせにだ。襟を掴み、軽く息を吸う。

「なんかシドの匂い、する。当たり前か」

 ボソリと呟き、笑みを浮かべていると「アンナ?」と声が聞こえた。勢いよく振り向くとそこには持ち主が。

「お前まさかまた変なイタズラ企んでるのか? 今日も懲りないな」
「……」

 アンナは少し黙り込み、そのコートを投げつけながら叫んだ。

「すけべ!!」

 上掛けを被り、そのまま拗ねるように潜り込んでしまう。

 雑誌には"今来てる!"と書かれていたが流行りに疎いシドはピンと来ていない様子だった。ならばこれは今から作られるブームなのだろう。流行というものはこの男でも知っているものというのが第一条件だとアンナは個人的に考えている。一瞬でも信じた自分を殴りたいと悶絶するような声を上げた。



「どうしたものか」

 シドは首を傾げ丸まったアンナを眺めている。
 浴室から出るとアンナが自分のコートにくるまり、何か仕込みをしているように見えた。なので声を掛けたら顔を真っ赤にしながらコートを投げつけられ顔にそのまま激突した。結構重たいはずだが相変わらず優秀なコントロール能力である。
 首を傾げながら周囲を見渡す。アンナがこういう奇行を突然行う時は近くに何かおかしなモノがあるはずだ。

 その違和感はすぐに発見する。ソファの上に放り投げられた週刊誌。パラパラと捲り、関連性が高いのは―――。

「いやまさか」

 しかし他にわざわざ人のコートで何かをしようとする動機が見当たらない。それ以前に概要を読んでもピンと来ない。が、妙なことをするアンナを見るのは楽しいのでたまにはいいだろう。
 シドはクスリと笑い寝台に座り上掛けの上から優しくトントンと叩いた。

「なんだ珍しく誘ってたのか?」
「ご機嫌斜め。今日はなし」
「これでおあずけされると明日は激しいかもな」

 アンナはゆっくりと顔を出し、舌を出す。眉間に皴を寄せ、ジトリとした目でこちらを見た。

「毎回でしょ」
「アンナは綺麗だが少し生意気だからな」
「開き直らない」

 上掛けを引き剥がし起こしてやり、「続きを」と言いながらコートを押し付けた。アンナは非常に嫌そうな顔を見せている。

「やだ。キミの前でとかマシなことにならない未来しか見えず!」
「男の前でやらないと意味ないだろうこれは。別に雑誌の趣旨の通り、シャツの方持って来てもいいぞ?」

 ダメな行為を覚えさせてしまったかもしれない、とアンナは盛大なため息を吐く。あの好奇心に満ちた真剣な目は、絶対に折れることがない時に見せるものだ。



 仕方がないので羽織ってやることにする。予想通り袖が短い。シドは少しだけ恨むような目で見ている。

「ボクの方が縦に大きいから仕方ないでしょ。でもキミ横に大きいから腕ダボダボだし。肩幅の関係でちょっとだらしない……ってひゃん!?」

 話をしている途中に寝台の上に倒される。見上げると物凄くご機嫌な顔。

「有りかもしれん」

 慣れた手つきでコート以外の布を脱がしていく。阻止しようとするが全く通用せずあっという間にコートの下は裸になった。

「ちょっと!?」

 顎に手を当てながら考える仕草を見せている。アンナは呆れた顔で「変なこと企まない」と言ってやるとかぶりつくように口付けられる。

 この時の彼女は余計な欲を刺激させたくないのか太腿を擦り合わせながら胸元を袖で隠している。というか何故下着の上からコートを羽織っていたのか。やはり誘っているのかと腕を掴み上げる。そして凝視していると「面白くないから見ない」と振りほどいた手で手刀を落とされた。

「いやいい感じに谷間も見えて悪くは」
「普段のキミの露出度と変わらないけど!?」
「女性がするのとは違うだろ! よし、他人には見せるんじゃないぞ」
「生憎普段肌を見せる服を着ないからそれは杞憂! キミと一緒にしない!」
「さっきから気になってたが俺を露出狂みたいな扱いをするな!」
「はぁ!? 痴女と何も変わらず!」

 この後しばらく普段の露出に関する言い合いが続く。

「お前装いに関しては一切恥じらいがないじゃないか! 背中の傷がなかったらもっと色々際どいのも着てただろ! 痴女はどっちだ!」
「そうだよでもキミからしたら他の人に見せたくないって思ってるよね!?」
「ああそうだいつも悪いな」
「当然!」

 2人はしばらく声を出して笑い、寝そべる。シドはアンナの腰に手を回すと、彼女は押しのけながらため息を吐いた。

「皴になる。終わり」
「別にそのままでいいじゃないか」
「やだ。キミの企み分かる。……ヤらないなら今のままでもいい」

 足を絡めながらニィと笑うとシドは一瞬顔を引きつらせた後、コートをはぎ取った。

「へ?」
「アンナが悪いからな」

 コートを床に投げ捨て、そのままアンナに口付ける。

「どうしてこうなるかなあ」

 アンナのボヤきが虚空に消えた。


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#シド光♀ #即興SS

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補足 アルファ、オメガとビッグスが怪しげなミコッテに出会う話。   ク…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

その猫、神出鬼没
補足
 アルファ、オメガとビッグスが怪しげなミコッテに出会う話。
 
 クエックエッと鼻歌を歌いながら黄色い鳥は黒色の塊とレヴナンツトールを走る。
 しかし少しだけ余所見をしている間にドンと何かにぶつかってしまう。

「なーんだ、この黄色いの。チョコボか?」

 どうやらぶつかったのは人間の足だったようだ。彼はクエ……と謝るそぶりを見せた。



 ガーロンド・アイアンワークス社で働くビッグスは休みということでレヴナンツトールの屋台で飯を食おうと1人歩いていた。その時視界にあの黄色いチョコボが映る。

「アルファじゃないか!」

 男は手を挙げると気が付いたアルファと呼ばれたチョコボは駆け寄って来て泣きそうな顔をしながら裾を引っ張っている。

「どうしたんだ」
「クエェ……クエ! クエクエ!」

 その時「痛ぇ!」という声と硬いものがぶつかる音が響いた。慌てて音の主へと駆け寄ると黒い小さなミニオンが金髪ミコッテの脛に延々と体当たりをしかけていた。

「何だよこいつ! 俺様"は"何もしてないっての! 見間違えてんじゃねぇこのポンコツ!」

 パッと見た感じ半泣きで避けようとする足をオメガは器用に動きを解析し、ぶつかっているように見えた。また「いでぇ!」という声が響き渡る。

「クエェ……」
「オメガどうした!」

 ビッグスはその黒いボディを掴み抱える。ビービーと音を鳴らしながら足を動かしていた。強く押さえないとそのまま次は顔にでも飛んで行きそうだ。

「あー痛かった。すまんな、兄ちゃん」

 白衣を纏った青年はニィと笑う。年齢はシドらと同じか少し上だろうか。採掘道具を背負っている所から採掘師のようだ。

「おたくの会社が作ったミニオンだろ? よーく見て修理しとけよこのポ・ン・コ・ツがよ」

 オメガを指さし威嚇するように耳がピンと立ち尻尾をブンブンと振っている。ビッグスは「すんません」と頭を下げるがすぐに疑問を抱く。

「あれ、何で分かったんですか?」
「ア? こんな繊細な機械物体を作れる会社はその制服のトコ位だろ? 腕、中々いいと思うぜ。繊細で、小型ながら御伽噺のオメガそっくりだ。ムカつくぜ」
「は、はは……ありがとうございます」

 この男なりの誉め言葉だと受け取っておく。やれやれと肩をすくめていたが、やがてリンクパールの着信音が聞こえた。

「ア! しまったこんな所で道草食ってる場合じゃねえ。お嬢に呼ばれてんだった。んじゃーなアルファとオメガにビッグスさんや」

 そのまま男は駆け出していく。「ま、待ってくれ!」とビッグスは止めようとするがやがてテレポを唱えながらどこかへ消えてしまった。ため息を吐きながら「アルファ、オメガのメンテナンスするから会社来るか?」と聞くとアルファは元気にクエッと返事をした。
 しばらく歩いた後ふと最後の男の言葉をに引っかかる。

「―――あれ? 俺名乗ったっけ? まあいいか」



「ンア? ビッグス、お前休みじゃなかったのか?」
「アルファ久しぶりじゃないか!」
「実はオメガが変な挙動をしてたから確認してるんです」

 整備スペースにてアルファに適当な食べ物を与えオメガのメンテナンスをしているとネロが顔を覗かせた。後ろにはエルファーとシドもいる。

「変な挙動とは? ただのミニオンだろう?」
「それがレヴナンツトールで人の脛に延々とぶつかってたんです。苦情を言われたから仕方なく見てるんですが」
「確かに変だな。んで、異常個所があったのか?」
「それが全然。その方がいた時は確かに少しブザーのような音を鳴らしてたんですが今は静かですし」
「そいつが蹴ったンじゃね?」

 ネロの呆れたような声にビッグスは「それはないと思う」と否定する。

「どうやらオメガの文献についても知ってたみたいですし。一瞬だけ機械油の匂いもしたのでその手の仕事も理解ある人かと」
「また野生の技師がいるのか。レフみたいなのはもう勘弁してくれ」
「おうおう会長くん"また"とは何だ"また"とは」
「特徴は?」

 ビッグスはその男の容姿を振り返る。

「ミコッテの男性で、低身長。金髪に赤と銀目のオッドアイで白衣を着てる推定リテイナー契約されてる人かと。採掘道具とお嬢とやらを待たせてるようでしたし」

 エルファーは目を見開く。

「口は悪かったが結構アグレッシブな印象で―――ってレフ?」
「いや、何でもない。そうかそんな奴が現代にもいるんだな」

 と言いながら踵を返す。ネロが「おい」と声を掛けると「タバコ」と言いながら去って行った。

「―――旧友でも思い出したんじゃないか? 片方金髪ミコッテだっただろ確か」
「アー確かに」
「レフの友人、ですか」
「ミコッテで遺跡荒らしが趣味の技術者がいたらしいんだ。こちらの道に進む動機になったみたいでな」
「相当口悪ィがまあ今も生きてたらアレと同じく120超えだとよ」
「それは凄い偶然で……あ、さっきその男の容姿のスケッチを描きました。何か妙な予感がしたんで」

 ビッグスは傍に置いてあった紙をシドに手渡す。ネロも覗き込むが2人は口をあんぐりと開き塞がらない。

「どうしました?」

 その容姿はまさしく、エルファーが大切にしている友人らとの肖像画に描かれたあのミコッテの男と瓜二つだったのだから。


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注意時々は攻めに回りたいアンナさんが悪魔の囁きに乗せられるままシドにミコッテ化錬…

漆黒

#シド光♀ #ギャグ

漆黒

【NSFW】旅人、虎の尾を踏む
注意
時々は攻めに回りたいアンナさんが悪魔の囁きに乗せられるままシドにミコッテ化錬金薬を盛る話。直接的なエロはないけど背後注意。
 
―――幻聴でもない悪魔の囁きというものは聞いたことがあるだろうか? ボクはある。結論を言うとその時は最高な気分になるが後に最大の後悔と仕返しという名の復讐に襲われる。もし過去を改変できるならばあの囁きを聞くなと自分にアドバイスしたい。

「うーぐや゙じい゙」

 アンナは迷惑にならない程度にのたうち回りながらため息を吐く。早朝、レヴナンツトールの宿屋にて盛大にイビキをかく男の隣で腰をさする。
 今日も、負けた。約半月ぶりに食事でもと誘われたので何も疑わずバカ正直に付いて行った。それがアンナにとっての不幸の始まり。まずはそこで失言をしてしまう。いや当人はやらかしたとは思わなかった。気が付いたら真剣な目を見せ、腕を掴まれ連れて行かれる。それから"また"気を失うまで抱き潰された。まあ今回は一晩超過じゃなかっただけマシだと思っておこう。
―――実際はデザートを食べていた際、口元にクリームが付いていたので、『お子ちゃま』と言いながら指で拭ってやった。そのまま「自分で片付け」と舐めさせる。その後、クリームがうっすら残った指を舐めて見せると「今のは、お前が、悪い!」と言われながら連れて行かれたというのが事の顛末である。

 すべては多忙で徹夜明け、かつご無沙汰だった所に重ねられ理性の糸が切れたのが原因だった。残念ながら悪意以外の欲は朧げにしか理解していないアンナには分からない。

「時々はこっちが勝ちたいんだけどなぁ」

 普段の腕っぷしや口、イタズラ、逃げ足は勝ち誇ることができる。しかし初夜をはじめとした性行為に関しては、降参させた経験は皆無だった。弱い場所を全て把握され、器用かつ的確に。そして執拗に刺激する行為に対し手も足も出ない。それが悔しくてたまらないのがアンナ・サリスという人間である。
 勿論シドも負けず嫌いであり、不敵な笑みを浮かべ生意気なことを言うアンナを組み敷きたいと日頃から思っていた。どちらかが大人しくすれば済む話だが、残念ながら両者妥協という言葉は辞書に存在しない。

 別にシドとの性行為が嫌だというわけではないことを強調しておきたい。もし本当に嫌だったらとっくの昔に加減無しで蹴飛ばしている。何やかんや滅茶苦茶気持ちいいのが余計に悔しいのだ。
 ただ、一度始まるとシドの機嫌一つで一晩超過かそうでないかが決まる。―――これに関してはアンナが日頃の行いを顧みれば多少何とかなる話でもあった。リンクパールが嫌いと耳から外して連絡もせず、気まぐれな旅でまともに顔を出さない。もう少し連絡や会う頻度を増やすだけで一度の行為は減るのだが、同じ場所に留まることが苦手な人間にそれは無茶な要求であった。



 さて、アンナは最近雇ったリテイナーがいる。ある日行き倒れていたア・リスと名乗る自称トレジャーハンターを見つけ、そのまま契約した"らしい"。他人事なのは"内なる存在"が対応したものと思われるので、アンナは"らしい"としか言いようがなかった。
 まるで御伽噺に出て来るネコのような怪しい笑みを浮かべ、掘り出し物を持ち帰る奇妙なミコッテ。―――イタズラに役立つ道具を持って来たりすることもあるので非常に利用価値が高く面白い子というのがアンナの評価である。

「ご主人! おもしれーもん持って帰って来たぞ! こりゃ給金弾むな! ヒヒヒッ」
「詳細」

 ベルで呼ぶと満面の笑みで現れたア・リスはアンナに1本の瓶を渡した。普段こういった奇妙なものを持って帰った時は大体説明書も渡されるのだが珍しくそういったものは付いていなかった。

「これ何?」
「俺様とお揃いになる薬!」

 首を傾げると彼はニィと笑う。

「ご主人前に子供になる薬浴びたことあるんだって?」
「誰から聞いたの」
「俺様は情報通でもあるんだぜ? へへっなんと今回持って帰って来た錬金薬はその類のモノらしいぞ!」

アンナが『えぇ……』と露骨に嫌そうな表情を見せると「最高な顔サンキュー!」とア・リスはケラケラと笑った。

「えっとお揃いになる、ということはミコッテ?」
「そそ! ミコッテになる薬らしいぞ! 本当かはわかんね! なるかならないか、2分の1だぞこりゃーシンプルだな!」
「効果時間」
「長くないぞ! 最長半日だ!」
「子供化は1週間位続いたのに」
「それだけ作った奴の腕がいいってこった! 運がいいなご主人! 早速飲んでみっか?」
「うん? どこから持って来たの?」
「ないしょ!」
「じゃあ今回はちょっといいかな」

 相変わらず入手経路に関しては笑顔ではぐらかされる。正直な話持ち帰るモノは相当自分に被害がなさそうなもの以外は1人では試さない。絶対命に別状はないものであることを条件に持ち帰らせているので大体シドで様子を見ている。実際に満足したら給金がてらの食事が豪華になり、ア・リスはそれが楽しみだと両手を上げて喜ぶのだ。
 しかし今回ばかりは怪しいと突き返す。「えー」と口を尖らせた。

「試すの怖いなら、人でやればいいじゃんか」
「う、でも錬金薬は危険じゃない? 万が一支障が出たら」
「ただ見た目が俺様のようなミコッテになるだけだぜ? 脳を弄るわけじゃねーから生活に支障は一切ないぞ。それどころかいつもより身体が軽かったりしてな!」
「む、確かに」
「服用した際の眩暈等はご主人が浴びた粗悪品より軽減されてるはず。―――ほらご主人前言ってたじゃん。一度くらいシドの旦那に勝ちたいって」
「う、そうだけど……」

 呻き声を上げる。それは確かに、そうだがとアンナは目を閉じる。ア・リスにそんなことを言った記憶はないような気がするがどうでもよくなっていた。

「耳掴まれてガシガシされるの、嫌いなんだろ? ヒトミミの奴らは理解してくんねえよな。俺様だって耳を好き放題されるのは大嫌いだ。一度くらい、知ってもらってもいいんじゃね?」
「あ……」

 ア・リスはニィと笑い瓶を軽く振りながら見せる。アンナは目を細め、それを眺めている。まるで、悪魔の囁きのようだ。断ることができない。その瓶の輪郭を優しく指でなぞる。

「ささ、ナイスなイタズラ始めようぜ?」

 アンナはそれを手に取り、鞄に仕舞い込む。リテイナースクリップと、焼いてあった菓子を渡し宿を後にするのであった―――。



 ガーロンド・アイアンワークス社。詰まっていた案件もほぼ終わり、残るはシドの書類仕事のみとなっていた。休憩がてら自室を覗くと珍しくアンナがニコニコと笑い座っていた。

「この時期にいるなんて珍しいじゃないか」
「そうかも」

 地獄のデスマーチに突入する5日前、甘えていた途中にスイッチが入りヤりすぎたと反省していたシドはてっきり2週間程度旅で帰って来ないだろうと思っていた。少しだけ疲れが吹っ飛んだ気がするのは単純すぎて自分でも苦笑してしまう。

「あとどれ位?」
「ああ書類を片付けたら。お前さんに会えたからすぐに終わらせるさ」
「調子のいいことを言うねえ。あ、そうだ」

 アンナは机に置いた飲み物を指さす。

「疲れには、甘い飲み物。いかが?」
「貰おうじゃないか」

 丁度飲み物が欲しかったんだとコップに手を取る。そして何も疑わず一気に飲み干した。

「えらく甘い飲み物だな。何だこ―――」

 一瞬目の前が真っ暗になったように錯覚する。チカチカと星が散り、その場にへたり込む。少しだけ動悸がし、アンナを見上げると一瞬驚いたような目を見せた後満面の笑顔になった。そしてこう言ったのだ。

「ナイスイタズラ」

 扉を開け放ち、走り出すので「待て!」と叫びながら立ち上がり必死に追いかける。
 気持ち身体が軽い気がする。一瞬疲れたかのように重かったのに。確かに疲れに効くものなのだろう。いや一瞬ぶっ倒れるかと思ったのだが。
 すれ違う社員たちがシドを二度見する。気になるがアンナを追いかける方が先だと走っていると曲がり角で人とぶつかる。

「ああスマン! ってネロか。アンナ見なかったか!?」
「っ痛ぇな! どこ見てンだよガーロ……ンン!?」

 ネロは一瞬固まった後失礼なことにゲラゲラと大爆笑している。

「お前人を指さして笑うんじゃない!」
「ヒーいやこりゃァ傑作だな! メスバブーンの新手のイタズラか最近パワーアップしてンなァ!」
「はぁ!?」

 何を言っているかが分からない。すると後ろからジェシーが「会長! って本当にどうなって!?」と驚愕した声を上げている。お前もか、失礼だなと首を傾げ振り向くと手鏡を差し出される。まじまじと見つめると―――。

「ねこ、耳」

 幻覚かと思い頭上の三角に触れると薄く柔らかいモノが当たる。ふと違和感を抱き慎重に尻周辺を触れると尾てい骨辺りから何かが垂れ下がっている。

「しっぽ」

 嫌な予感がしたのでゴーグルを外すと第三の眼がない。前髪を払うと普段の人の耳もない。つまりさっき飲んだものは。一瞬絶句して声も出せなかった。しかし今の事象に対して何か言わないといけない。とりあえず顔を青くしながら叫ぶ。

「アンナ、お前、何やってるんだ!?!?」

 ケラケラと聞き覚えのない男の笑い声が、聞こえた気がした。



「おうメスバブーンから聞いてやったぞ。効果時間は最高半日、らしいぜ」
「いや出所も聞いて欲しかったんだが。どこから貰って来たんだ錬金術師ギルドか?」
「僕も気になってギルドに問い合わせてみたが我が妹は最近来てないみたいだ。別口だろう」

 社員と計器に囲まれるご機嫌斜めなシドはため息を吐く。時折可愛いやら癒しとよく分からない言葉も飛び交い、またアンナに振り回されてるなと満足げに見ている野次馬も多い。

「特にエーテルの乱れやら異常はないみたいですね」
「まあ確かに薬盛られた後即元気に走り回ってたからなあ親方」
「じゃあ仕事に支障はないですね」

 ジェシーの笑顔にシドは素っ頓狂な声を上げてしまう。

「おいお前たち最高責任者が薬を盛られたんだぞもっと心配するとかないのか!?」
「ハァ? 今一連のチェックしたばっかじゃねェか。耳と尻尾が生えただけでなンもなし。ツマンネェ」
「そうですよただの恋人からの疲れを癒やすプレゼントじゃないですか。サボリの口実にはしないでくださいね」

 シドは呆れて開いた口が塞がらない。盛大なため息が部屋に響き渡った。

「錬金薬は専門外ッスけど見た感じ本当にミコッテになってるのって面白いッスねー」
「ガレアンからミコッテに変わったからちゃんと第三の眼がない、と。ウルダハ中心に出回ってる幻想薬の類だろうな。一体我が妹はどこで調達したのやら」
「レフ、あいつ最近"イタズラ"の質が異常に上がってるんだ。兄であるお前からも一言ガツンと言ってくれないか? 流石に仕事中のやらかしは目に余るだろ」
「妹は可愛いなあ」
「だめだこりゃ誰かこいつの脳みそ入れ替えてくれ」

 エルファーは「見つけましたよ」と駆け込んできた社員数人に奥の部屋へと連れて行かれた。どうやらまだ作業が残っていたらしい。タイミングがよすぎて一瞬本当に脳手術でもされるのかと思ってしまった。

「じゃあ会長、ちゃんと倒れないか見張っているので仕事頑張ってくださいね」

 アンナ本当に覚えてろよ、早々に仕上げて苦情をぶつけてやるとシドは眉間に皴を寄せながら机に向かう。周囲は相変わらず今回の錬金薬の効果について議論を交わしながら計器でシドのバイタルチェックを行っている。仕事熱心な部下を持って最高だなと思うことでこれ以上の思考をシャットダウンしておいた。

 この場では何を言おうとも無駄であることは普段からよく分かっている。自分だって目の前で誰かが同じ状態になればどうするか予想もつくのだから。



「やっと解放された……」

 深夜、シドはフラフラと歩いている。あれから書類仕事中は、少し姿勢を変える毎に何か異常が出たのかと周囲から言い寄られ、あれやこれやと自分の頭上で議論をするものだから流石に怒鳴り散らして全員追い出した。

 最初こそは『アンナが現れ、更にまだ彼女には言ってないが明日は久々の休暇。今日は幸運だな』と思っていた。が、現在はドッと疲れが襲いかかり早く寝たいという感情が先にある。
 視線を落とし考えていたからか目の前に人がいたことに気付かずぶつかってしまう。直後ふわりと漂う甘い匂い。相手に身に覚えがあるがとりあえず「ああスマン」と謝っておく。言いながら見上げるとそこには諸悪の根源が。

「アーンーナー」
「ごめんごめんまさか本当にミコッテになるとは思わず逃げちゃった」

 悪びれず笑うアンナの頬を掴み引っ張る。それより覚えのない匂いが気になる。

「新しい香水か?」
「うん。ちょっと気になって。検証」

 シドは首を傾げる。そのまま帽子を被せられ、引き摺られた。

「お、おい!?」
「お腹空いたでしょ? お詫び」
「まあ確かに腹は減ったが尻尾が隠せ」
「ああ休憩室にご飯置いてるよ?」

 目を見開いてしまう。珍しい。アンナからはこれまで菓子以外を振舞われたことがほぼなかったのでつい吃驚してしまった。しかし先刻やらかされたばかりだ。次は何を混ぜられているのか、当然だが信用できない。

「あー私が何か混ぜてるって思ったね?」
「当たり前だ。これが信用ってやつだ分かるか?」
「そっか。いらないなら全部食べるよ。あなたは私がおいしく食べてる所を見る役。悲しくひもじくなろう楽しいね」
「食べないとは言ってないだろ」

 正直で助かるよと笑みを浮かべるアンナにシドはため息を吐く。しかし明らかに自分の尻尾が垂直にピンと立てているのが正直すぎてジトリとした目で後ろを睨みつけた。

「じゃあ何で帽子を被せたんだ」
「ヒミツ」

―――少しだけ身体が火照っているような気がした。



 休憩室で振舞われた東方料理は美味かった。魚料理が中心で味も以前クガネで食べたものとほぼ同じで驚いた。修行でもしてたのかと聞いたら「自己流。得意分野」と舌をペロリと見せた。
 いや食事を褒めている場合ではない。自室に引っ張り鍵を閉め肩を掴んだ。詫びだとは言っているが今日の行いは流石に許すことはできない。アンナは呑気に「何か?」と聞くので「あのなあ」と威嚇する。

「流石に仕事中に薬を盛るのだけはやめてくれないか? というか先に試したいなら試したいとオフの日事前に一言だな」

 アンナはその言葉を無視し、シドに被せていた帽子をもぎ取る。そして輪郭をなぞった。突然の行為に身体がビクリと反応し「おいアンナ!?」とその手を掴む。

「? 何か?」
「いやいきなり何するんだお前!?」
「シドだって普段脈略無しに触る」

 ぐっ、と言葉を詰まらせてしまった。アンナはニコリと笑いシドを抱き上げ、寝台に座らせる。相変わらずどこに大の男を抱えるための筋肉があるのかが分からない。後ろに座られ、そのまま頭を乗せられた。そしてまた耳をさすり始める。息を吹きかけながら、全体を撫でた後、跳ねた毛で遊ぶように指をクルクル回している。手慣れた動きに甘い不思議な匂い、身体が異常に火照っている。正直に言うと何かがおかしい。

「お、おいアンナ」
「どしたの? 未知の感覚?」
「っ!?」

 耳元で優しく小さな声で囁かれる。

「シドがよくやってることじゃん」
「いやそうかもしれんが! ッ、噛むんじゃない! ちょっとくすぐったいんだ一度ストップしてくれ」

 腕を掴み荒い息を整える。心臓がバクバクし、これ以上触られるとまた理性の糸が切れて襲ってしまいそうだ。流石にもう謝罪の朝は遠慮したいとは思っているのだがアンナに煽られるとつい毎回やらかしてしまう。
 そう考え込み、油断していたのがいけなかった。アンナはふーんと言いながら鞄から何かを取り出しシドの両手を片手で持つ。不思議なことにビクともしない。シドは突然の行為に目を見開き口を開こうとするともう片方の手に持っているものに気付く。そのままガシャンと音を立て、両手に手錠をはめ込む。

「はい、これで大丈夫」
「いやどうしたんだこれ!?」
「いつぞやに耳触り対策で購入、今回初投入」
「だろうな!」

 じゃあ続行とアンナは再びシドの耳を丹念に触り始める。いつまで続くのか、と思うが少し前に延々と耳を弄って怒らせたことを思い出す。まさか今回のイタズラの動機はそのやり返しということだろうか。質問を投げようとすると「そういえば」とアンナは口を開く。

「今回のイタズラにあたってちょっと人に会ったんだ」
「ッ、お前に錬金薬を渡した商人とかか?」
「違う違う。ウルダハの娼館のお姉さんたち」
「しょ、しょうかん? 確か召喚士というか巴術士ギルドはリムサ・ロミンサだろ?」
「おっそのボケ今する? 娼婦の綺麗なレディーたちに個人的取材。んで色々聞いたのさ」

 全く声色を変えず言葉を続ける姿は少しだけ怖いなとシドは顔を赤くしながら早く終わるよう念じていると口の中に指を滑り込まれた。

「ぐぁっ!?」
「おー本当に舌ザラザラしてる」
「ひゃめるんだ、くっ」
「牙もいいねえ嫌いじゃない。んで話の続き。そこで興味深いコトを聞いたんだ。オスのミコッテを満足させる方法」

 ものすごく怒っている。これより先の話は絶望しかない。つまりはそのテクを本場の人間から伝授されてきたのだ。

「あ、別に実際お客さんを相手してとかじゃないよ。こうやって触ってるのはただ普段キミがよくやるような感じにしてるだけ。聞いたのはそうだね……この香水、ミコッテによく効くんだって。マタタビ効果、的な? いやいや嘘でしょって思ってたけど身体すっごーく熱そうだねぇシド」

 食事かと思ったらそっちかと膝を打ちそうになるが今回のためだけにわざわざ準備してきたのかと感心する。どんな時もイタズラには全力でつい尊敬してしまった。
 しかし本人なりに普段のやり返しをしたいのだろう。手錠を掛けられ、アンナの足で身体は動かせず、指は耳と口の中。匂いで感覚が研ぎ澄まされ、好き勝手に刺激される様は嫌がらせというよりかは―――『一種のご褒美だよな? これは夢でも見てるのか?』という感想しか抱けない。今の状況は多分誰がどう見てもアンナが主導権を握ってイチャついてるだけだ。ここまで積極的な姿は初めて見たしそんなに耳は嫌だったのか、という感想が先行する。『ほら嫌でしょ? だから二度とやるなよ』という心と好奇心で動くアンナにシドは笑みがこぼれた。ミコッテの耳じゃ普段やるような耳を掴むことなんてできないのに。

「でも耳はひんやりしてて触り心地いいなあ。あ、ピクッて動いた。ミコッテの耳ってすぐにピョコってするよねぇ」

 "お前も結構分かりやすく耳倒すじゃないか!"とツッコミを入れたいが口の中の指に阻まれる。これも何度かやったことあるが個人的には悪くないなと呑気にシドは考えていた。

「あ! そうだシド。気になることがあって」
「っ、何だ。というか手の外してく」
「タイニークァールってさ、尻尾の付け根トントンしたら気持ちいいってなるらしい。実際なってた。かわいい」
「ん? ああ聞いたことあるな。……おいまさか」
「ミコッテはどうなんだろうねえ」

 流石にまずい匂いがする。抵抗する間もなうつ伏せに転がされた。アンナは「おい! やめろ!」という声を無視し、まずは尻尾を優しく掴む。それだけで身体がビクビクと痙攣するように反応した。これは、ヤバいと本能が警笛を鳴らす。徐々に根元へと指が優しく動いているのを感じ取る。正直に言うと腰にクる。爪を立てシーツを噛み、震えるシドをアンナはクスクスと笑った。

「尻尾そんなに太くして警戒しなくてもいいんだよ? ほら撫でるよー、っと」
「おい待て、ッ―――!」
「普段ボクが待てって言っても止まらないから待たない」

 正直下半身がもう悲惨なことになっているのは感じるのでこれ以上の刺激は本当にマズイ。しかしその抗議を無視したまま尻尾の付け根を優しく撫で始める。逃げるように身体を引こうとするが、「そんなお尻上げながら悦ばないでよ。ふふっクァールというよりゲイラキャットみたい。にゃぁん」と嬉しそうに言われてしまう。これが"拷問"と称した行為かと思いながら何も言わずシーツを掴んだ。そう、生殺しされている。耳先を弄りながら「そんなに震えない」と囁かれ、尻尾の付け根を優しく叩くように触れた。普段ならどうも思わない行為だが身体は勝手に粟立つように震え、脳が真っ白になる。目の奥が弾け、全身から汗が吹き出し力が抜けた。直接性器を触れられることもなく、完全に未知の感覚でイかされた。少しだけ屈辱的だが、それをあのアンナにされたことに喜びを見出す自分もいたのに驚いてしまう。

「あら」

 アンナはシドの真っ白な尻尾が腕にふわりと絡ませる姿にニコリと笑う。当の本人は顔を伏せきり気付いていないのが面白い。愛し気に口付け、撫でているとまた身体がビクリと跳ねた。

「アンナ、なあッ」
「んー?」
「シたい」
「だーめ」
「キスだけでも」
「顔伏せながら何言ってるの?」

 仰向けにされ、上に跨りながら顔を覗き込んでいる。正直に言うと人に見られたくない状態だ。実際アンナも悪い笑みを浮かべている。額、鼻、頬へと口付けをするので舌を出してやると「おあずけ」と顎下を撫でる。優しくて気持ちいいが先程の刺激を考えると物足りない。

「自分が嫌だと思うことはしちゃダメって分かった?」

 妖艶な笑みに対し、シドは反射的に目を閉じ、頷いてしまう。

「ああよく分かったさ。だからこれ外して」
「それとこれとは話は別」
「なっ!?」

 ここまで焦らしておいてかと抗議するがアンナはきょとんとした顔をしてる。

「焦らす? ボクはイタズラしかしてないよ? 満足、就寝」

 最高に悪い笑顔を見せている。確実にこちらがどうなってるか把握してる上での意地悪だ。そもそも誰だこいつに悪知恵を与えた人間は。錬金薬だけじゃない、何か"悪いコト"を仕向けているヒトが明らかに存在する。―――上等だ。悔しいが興奮する。

「頼む、もっと」
「もっと?」
「手のは付けたままでいいから、"イタズラ"してくれ」

 アンナは考え込む仕草を見せている。やはりダメか? と肩をすくめようとすると不意に唇に柔らかいものが触れる。

「よく言えました」

 どうやらこれを言わせたかったらしい。「子供扱いするんじゃない」と眉間に皴を寄せてしまった。



「よおご主人!」
「ア・リス……うえぇ」

 2日後。アンナは謝罪を重ねるシドを普段通りな顔で見送る。いなくなったのを確認した直後、身体を引きずりながらため息を吐きリテイナーを呼んだ。スクリップを渡し、拾ってきたモノを確認する。今回は錬金薬ではない。よかった。

「ご主人! 旦那をギャフンと言わせることはできたか?」
「一晩は。次の日が悲惨だったからア・リスのお給料増額はなし」
「そんなぁ! その様子だとちゃんとなったんだろ?」
「次の日に数倍返し」
「あーそこは俺様はどうにもできないぞぉ」

 あれから負けだと乞われ完全に勝ったと確信できた。
 しかし次の日の早朝、"ミコッテになったシドも悪くなかったがやはりいつもの顔が一番見慣れてるしナイスヒゲだ"とはにかみ、撤退しようとすると捕まる。そのまま休みだというシドに1日中説教という名の行為が続いた。途中、場所を変えるからと羞恥プレイのような目にも遭った。『次の日動けない位もっと濃密にすればよかった』とアンナの心に刻まれ、次からは先に一言入れようという教訓を得る。
 ア・リスは肩をすくめ、スクリップを指で遊ぶ。アンナは涙目で「まあ約束させたからその分はあげる」とマシュマロを渡すと無邪気に頬張っていた。

「ア・リスのこと言っちゃった。いつか紹介することになった」
「えー俺様はシャイだから旦那に会いたくないなあ」
「本物の恥ずかしがり屋は自分の事シャイとは言わず。まあミコッテの新しいリテイナーを雇ったとしか言ってないからまた時間合えば」

 アンナはそう言うが、ア・リスは何も答えずそのままニャハハと笑いながら踵を返した。気まぐれな人間だなあ人のことは言えないけどと思いながらまた寝台に寝転ぶ。
 昔、リンドウに教えてもらった諺、『危うきことトラの尾を踏むが如し』という言葉を浮かべながら不貞寝するのであった。


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#シド光♀ #ギャグ

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注意 ヴィエラ自機子供化概念。ネロ+光♀要素有り。5日目以降シド光♀で一部成人向…

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旅人は子供になりすごすfull―1日目―
注意
 ヴィエラ自機子供化概念。ネロ+光♀要素有り。5日目以降シド光♀で一部成人向け表現有る日有り。
 
 やらかした。その一言に尽きる。

「サ、サリスさん大丈夫ですか!?」

 覚醒するとベッドの上。アンナは身体をゆっくり起こし、錬金術ギルドの人を見上げた。どうしてそんなにも心配そうな顔で見ているのかと腕組みすると自分の腕がえらく細いことに気付いた。鏡を渡されたのでちらと覗くと、小さな子供が自分を眺めている。

「は? え?」

 喉から幼い声が出てる? アンナは察した。
 衣服は子供用に着替えさせられ、数人がずっと頭を下げている。

 なんと事故で被った錬金薬で、子供になってしまっていた。
 下肢を確認すると、察する。14歳以下、つまりヴィエラの性別がはっきりする前の年齢に変化しているらしい。あっという間に血の気が引くのを感じた。こめかみを押さえながらとりあえずこれからのことを考え込む。

「個人差はありますが数日で戻っていると思います! ただ結構な量頭から被ってしまったので……」
「いやまあいつか戻るなら気にしてない。……誰かに連絡した?」
「いえ、サリスさんの意識が回復してからでいいかと思い。荷物はギルドの方でお預かりしています」
「ありがとう。……ツテはあるから大丈夫。後から取りに来るね」

 介抱してくれたのであろう女性の手を振り払い寝台から降りる。

「絶対、暁には、ナイショでおねがい」

 アンナは人差し指を口の前に持って行き、ウィンクをした。大人たちはキャーと黄色い声を上げている。チョロいもんだとニィと笑った。
 とりあえずはレターモーグリに頼むことにする。まずは手早く紙に一言書いた。そしてふわふわと浮かんでいるポンポンがチャームポイントの可愛らしい生物に小さく咳払いした後話しかけた。

「モーグリさん! お手紙送ってくださいな!」
「分かったクポ! 誰に送るクポ?」
「ガーロンド・アイアンワークス社にいるネロパパ!」
「そうなのクポ!? 隠し子がいたのは知らなかったクポ! これは誠意を込めて送ってあげるクポ!」
「なるべく急ぎで他の人に見られないように! えへへ、パパねー会社では私のこと隠してるから! とーっても優しいんだよ! 大好き!」

 アンナはフードを被り血反吐を吐きそうになりながら子供のフリをしてレターモーグリに便箋を渡す。
 この奇妙な出来事を何とか現実として受け止めながらも流してもらえる存在が"彼"しか思い浮かばなかった。それはシドではない。大切な人だが酷い目に遭う未来が見えたので知り合いの中でも一番見られたくなかった。そしてなるべく多くの人にバレたくないのだ、あまり頼りたくない人間の1人だが仕方のない話だろう。
 まさか相手があの英雄であろうとはつゆ知らず。ふわふわ飛んで行くモーグリを見送りながら待ち合わせ場所に向かった。大丈夫、これだけバカみたいな嘘吐いたらすぐに飛んで来るさと笑う。



 ガーロンド・アイアンワークス社。今日もせわしなくシド含めた社員たちが働く中、ネロは休憩室でサボっていた。本当はまた自由になりたかった。だが、シドやメスバブーンを中心とした環境は数々の好奇心を満たす事件や案件をもたらすのでつい残ってしまう。
 タバコをふかし物思いに更けていると目の前にポンとモーグリが現れた。

「ンだこの白豚」
「クポー! ガーロンド・アイアンワークス社のネロさんクポね! お手紙どうぞクポ!」
「俺に手紙だぁ? 誰からだよ」
「娘さんクポ! 家族想いで意外といい人とは知らなかったクポー」
「アァ!?」
「と、とにかく渡したから失礼クポ! 大好きな娘さんによろしくクポー!」

 こっちの話を聞かず手紙を押し付け逃げるように消える。「何言ってンだクソが」と呟きながらとりあえず手紙を開くと可愛らしい文字で短い文が記されていた。

【緊急 誰にもバレずにウルダハクイックサンド前に来い 可愛い娘より】

 紙切れをグシャリと丸め灰皿の上で燃やす。どういうことだとっちめてやると言いながらコートを羽織り鞄に手を取った。

「ちょっとネロあなたどこに行くの!?」
「用事できたから早退」
「おいサボるんじゃない!」

 会長と会長代理の言葉を無視し、チョコボを呼びウルダハへと走り出した。



 精一杯飛ばし、日が傾くより前に何とか辿り着いた。クソがと悪態つきながらクイックサンド付近を見回すとララフェルの男数人とフードを被った小さな物体が。

「お坊ちゃん迷子かい? おじさんが一緒に探してあげようか?」
「いやいやワタクシがご一緒しましょう」
「可愛いねえ僕」

 知ったこっちゃない。こんなクソみたいなイタズラ手紙送った首謀者は絶対にあのメスバブーンだ。遂にシドだけで満足できず俺にまで悪影響を与えに来やがった。なーにが大好きな可愛い娘だ。どこにいやがるとため息を吐いているとフードを被ったガキがこっちを振り向いている。遠目からでも分かる位目を輝かせながら中性的な声でこう言いやがった。

「パパ!」
「アァ!?」

 小走りで抱き着いてきやがった。危うくもう少しずれていたら鳩尾に頭が激突する所だった。そして普通のガキよりも少し強い力で腕を掴み引っ張る。

「おじさんたち話し相手になってくれてありがとう! ほらパパ行こ!」
「エ、ちょ、おま」

 ポカンと見ている男たちを尻目にガキは同じく状況が理解できない俺を引っ張ってナル回廊へ連れて行かれる。
 程々に人がいない所でこのガキの首根っこを掴み怒鳴ってやった。

「テメエのことなンぞ知らねェ! ガキはとっととおうちでママのおっぱいでも吸って寝てろ! ……っておま」
「はー今日はツイてない。しかし時々は元軍人の固い腹筋に当たるのも悪くない」

 掴み上げフードを取り払うと長い耳。黒色の髪に赤色のメッシュ、赤色の目で褐色の肌。血の気が引いて行くのが分かる。

「いやあネロサンならあんな血反吐吐きそうな手紙書いたら即飛んで来ると思ったよ嬉しいねぇ」
「メスバ、なに、ハ????」

 毒づいていた相手と同じ喋り方をしたガキはケラケラと笑っている。厄介事に巻き込まれてしまった、そうとしか言えないと片手で顔を覆った。



「で? 錬金薬が事故でぶっかかってガキの姿にと」
「そうそう」
「くっっっだらねェな……つーかナニしたらそンな事故起きンだよ」

 食事でもしようかとクイックサンドに連れて行かれ座らされる。周りの視線が痛い。ガレアン人とフードを被ったガキとなると異質に映るだろう。勝手に付いてきただけだと主のモモディには言っておいた。

「いやあ頼れる人間を考えたらキミしかいなくてねえ」
「ガーロンドや暁にでも言えばいいじゃねェか」
「いや暁はグ・ラハとアリゼーが怖いし。シドは……特にめんど、じゃなかった性犯罪者にしたくないなって」
「俺はいいってのかよ」
「まず子供になったボクに対して過大なリアクションをしない存在。そして秘密を守って匿ってくれる。発情しない。シドの動きをいつでも確認できる相手」

 アンナはサラダを頬張りながら順番に指を立てる。発情という言葉が引っかかるが何も言わず話を聞いてやる。

「その条件を満たせる知り合いって考えるとネロサンしかいないってわけ」
「スマンが呆れて何も言えねェわ。つーかお前がガーロンドやグ・ラハらをどういう目で見てンのかよく分かった」
「普段妄信的な目で見ているヤツらにキャーって言いながら抱きしめられたり着替えさせて来るのがイヤ。あとシドのヒゲ絶対痛い」

 なるほどナァとその情景を思い浮かべた。多分ガーロンド社に連れて行っても同じようなリアクションをされるだろう。兄もいるしそりゃ祭りになるのは想像に難くない。

「だから! ネロサン! いやカミサマネロサマ! 拠点あるでしょ? しばらく泊めて! おねがい!」
「イヤに決まってンだろ!? ガーロンドに殺されるわ!!」
「パパのいじわる!」
「俺はバブーンじゃねェ!!」

 ギャーギャー言い合っていると周りの視線が刺さる。舌打ちしながら座り直しため息を吐いた。

「家で大人しくするし料理も作るしその分のお金は色付けて出すから。キミはシドの動向さえ教えてくれたらそれでいい」
「なンでお前はそう変な方向に突っ切れンだよ……」

 時折思い切りが怖いというシドのボヤキを思い出す。これは、ダメだと眉間にしわを寄せ天を見上げた。



 結局ガキになっても変わらないアンナのゴリ押しに負け連れ帰ることにした。
 まずは服を買いたいと引っ張られていく。今は冒険者ではなく庶民向けの服屋で下着等の選別を見守っている。

「子供の頃、普通の服ってもらったやつしかなかった。新鮮」
「ハァ」
「ネロサンもお金は後から出すから適当に服見繕って。今から錬金術師ギルド行く。その下の制服見られたら面倒」
「ハァ」

 目を輝かせながら言っている姿に『その姿の頃は可愛げあったンだな』という言葉が浮かんだが仕舞い込んでおくことにする。レジへと持って行こうとするので分捕りながら店主に突き付ける。

「あ、お金は」
「領収書、名前はガーロンド・アイアンワークス社のシド・ガーロンド。ネロサマに苦労をかけさせたお詫びで頼む」
「え」

 着替えさせられ次は錬金術ギルドに向かうために帽子を深く被らされた。
 不審な目で見られながら荷物をもらう。「パパ」と呼ばれながらただ心を無にして重い鞄を持っている。こういうストレスを解消する手段は簡単だ。「ほら次は食材でも買い込むぞ。あぁガーロンド・アイアンワークス社のシド・ガーロンドで頼ンだぞ」とヤツの名義で買い物するのに限る。お互いの心が痛まない楽しい手段だ。

「こんなに買って大丈夫?」
「最終的に全てガーロンドに行くから俺は痛くねェよ。単純だからお前が関わってるつったら許すだろ」
「……そうだね! シド超単純。暇つぶしにほしいものがジャンク屋にあったからそれもいいかな?」
「いいぜ買ってやろうじゃねェかクソガキがよ。……経費かガーロンドの金でなァ!」
「ホーいいなあ……ヘッヘッヘッそういうのやってみたかったんだよねえ!」

 2人はゲラゲラと笑いながらウルダハの街に消えて行った。



 その後アンナの持っていた2人乗り用のマウントだというものに乗りレヴナンツトール付近に降り立った。変形ロボットとはロマンが分かってンじゃねェかと言ってやると満面の笑みを浮かべていた。
 しっかりとフードを被せ、荷物は買ったデカいスーツケースに入れて引っ張る。多分体を折り曲げたら横で手を引いているガキも入るかもしれないとふと頭に浮かび上がった。さすがに猟奇的な犯罪でしかない思考なので置いておく。
 周囲を見回し、ガーロンド社で働き出してから拠点にしているアパートの一室に帰った。アンナは早速キョロキョロと部屋の設備を確認している。

「キッチン、よし。風呂トイレ別、よし。ベッドは1つか。まあ今の私小さいから2人行ける」
「おいおい俺ァソファで寝るぞ」
「家主にそんなことさせるわけないじゃん。別に何も起こらない」
「バレたら殺されるつってンだろ!」

 主にシドとお前の兄にな! と心の中で呟く。そんな考えもいざ知らず「別にキミがヘマしなきゃ誰も死なないよ?」と首を傾げた。お前、マジかという言葉を飲み込みながらキッチンに食材を置く。

「飯は当番制でいいか? 今日は俺が作ってやっから明日はお前がやれ」
「いいの? ていうかネロサン料理できるんだ」
「おぼっちゃんと一緒にされるのは心外だナァ」

 病み上がりみたいなやつなンだから座ってろと言いながら食材を手に取った。



 適当な料理を与えると意外なことに普通に食べた。いつもだったら一瞬で消える引くような食事が一般的な時間で胃袋に収まっている。さすがに大人のような暴れっぷりは発揮されないようだ。現在はシャワーを浴びに行っており、シドから怒りが込められたリンクパール通信が来たので適当に受け答えする。

『だからお前は急にどこに行って』
「アー大丈夫だ。明日はキチンと出社して片付けるっつーの」

 扉が開く音が聞こえた。「スマンがありがてェ説教は明日な」と切断し、それと同時にタオルを頭に乗せパジャマ姿のアンナが現れた。

「通話中?」
「お前愛しの会長サマからの説教だぜ。何せお前のひっでェラブレターで飛び出したわけだからな。怒髪天なンだわ」
「あっそう」
「っておい何髪拭かずにこっち来てンだよ! 濡れンだろうが!」

 興味なさそうに髪から雫を落としながら歩いているので注意した。するときょとんとした顔で「自然乾燥」と言うので「この野生児が」と頭を抱えながらドライヤーで乾かしてやる。

「耳に触ったら殺す」
「無茶言うな。イヤならその耳取り外せ」
「ふっ……耳だけにイヤと―――何でもない。そう言われると何も言い返せないねぇ」

 そう言いながら鞄から香水を取り出そうとするので強引に分捕った。

「や、め、ろ」
「なぜ? ガキが色気付くな?」
「オレはお前が付ける香水持ってねェから。バレたくねェつってただろ」
「ホーそこまで配慮してなかった」

 確かに万が一があるか、と言いながらソファにもたれかかる。何でオレがガキのドライヤーの世話をしないといけないんだ、ボソボソ呟きながら軽く乾かしてやる。途中から気持ちがよかったのか気の抜けるような声と一緒に長い耳が垂れ下がっているが指摘したら怒り狂いそうなので何も言わない。普段この行為をしてないような言い分なので多分これはシドも知らないだろうなと思いながら終わったぞと頭をポンと撫でてやった。
 その後、今回のブツも含め他に錬金術師ギルドにあった薬の効果について質疑応答を繰り返しながら時間を過ごし、夜が更ける頃に布団に投げ込み眠らせた。メスバブーンと呼ぶものの"明らかに存在するもう1人"の影響か少々頭が切れる部分があることを最近察した。"命の恩人"とやらに何やら施されてしまった技術の恩恵をいつか解析してやりたいと思っているが"障害"が多すぎて辟易する。
 寝る前に小さな肩に触れてしまった。ひんやりと冷気が伝わる。

「うわ冷て。いやこりゃ意外と冷房代わりになるか」

 つい抱き寄せそのまま眠ってしまった。普段からこれ位大人しければもっと別の道があったかもしれないという考えを煙に巻きながら明日以降のシドやエルファーへの誤魔化し方を考えるのであった―――。


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1日目 // 2日目 // 3日目 // 4日目 // 5日目 // 6日目 // 【R18】7日目 // エピローグ

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「やあシド」「アンナか、ってお前さん何を持ってるんだ?」 聞き慣れた声に振り向く…

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#シド光♀ #即興SS #季節イベント

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"七夕"

「やあシド」
「アンナか、ってお前さん何を持ってるんだ?」

 聞き慣れた声に振り向くと目の前は緑色。何やら紙がぶら下がっているようだ。

「笹。願い事をほら書いて」

 そう言いながらアンナは紙とペンを押し付ける。シドは首を傾げ詳細を聞いてみた。

「7月7日、東方地域では七夕という行事がある。願い事、笹に吊るして、ロマンチック」
「分からん。ていうか笹だけならともかく紙まで吊り下げて重たくないか?」
「大丈夫。まああなた神事がない所出身だしそういうのあまり分からないかもね」

 苦笑しながらアンナは東方に伝わる七夕の伝承について話をする。シドは相槌を打ちながら聞いていたが、話終わったら否や首を傾げた。

「引き離された恋人についての伝承から短冊に願い事を書くという行為に繋がりはあるのか?」
「それ帝国出身のロマン分からずやたちが同じようなこと言ってた。まあそういうもんって受け取ってよ。前に日付を見てね、そういえば昔フウガがそういう行事あるって説明してくれたの思い出し。暁とガーロンド社の人たちに願い書いてもらってた。キミ最後」

 またリンドウ関係かよと眉間に皴を寄せるが、唐突に淡い思い出に付き合わされることになった面々に同情する。多分自分も拒否権は無いだろうなと苦笑し、書かれた願い事を眺める。

「っと『ボーナスが欲しい』に『長期休暇が欲しい』はウチの社員か。おいおい予算に関わることも書いてるじゃないか。ん? これ誰が書いたか分かるか?」
「書いてもらう際いずれも匿名希望が条件。いやあでも欲望たっぷりなご要望もいっぱいあったから燃やす前にジェシーとシドにはとりあえず見てもらおうと。面白いでしょ?」
「燃やすのか?」
「願いを昇華する儀式ってやつだよ。ていうか燃やさないならどこに置く気?」

 そっち側の短冊はガーロンド社で、自分の方にあるやつは暁のだと苦笑しながら笹を揺らした。シドはいくつか短冊を眺めた後、そういえばと口を開く。

「……アンナのはどうした」
「は?」
「アンナは何を願ったんだ?」
「まだ書いてない。なつかしーって当時の出来事反芻してるのみ」
「じゃあ当時は何って書いたんだ?」

 アンナは「確かねえ。フウ……」と言いかけた所でハッと我に返りシドの顔色を伺う。少しだけ目付きが変わったように見えた。慌てながら軌道修正を図る。

「フウガがその少し前に言ってた言葉があってねえ! それを書いた! 無病息災!」
「むびょ、何だそれ」
「東方の言葉で病気知らず、健康である。そんな感じだと思えば」
「じゃあそれにするか。元気でいたいからな、向こうの文字でどう書くか教えてくれないか」

 ニィとシドが笑ってやるとアンナは一瞬目を見開く。「それに」と言葉を続けると少しだけ泣きそうな顔を見せた。

「お前さんも元気でいて欲しいしな」
「え」
「俺よりも倍以上生きるつもりなんだろ? 少しでも長生きしないとな。アンナは何と書くんだ? ってどうした」

 怪訝な目で見ているとその視線に気付いたのか、アンナは咳払いをしニィと笑った。

「シドが少しでも長生きしますようにとでも書いておくよ」



「フウガ、村の中心に竹があるのは何で? 前来た時なかったよ」
「ああ七夕の時期だからだろう」
「たなばた?」

 赤髪の小さなヴィエラはすらりと背が高く真っ白な壮年のエレゼンの手を握り、その緑色をじっと見つめながら話を聞いた。

「という伝承があってな。その祭りとして、願い事を短冊に書いて吊るす地域が有る」
「ホー面白いね」
「どうだ、エルダス。よければお主も書いてみないか?」
「フウガも書くなら!」

 ニコリと笑いながら跳ねる姿に不器用な笑みを返した。近くにいた村人から短冊と筆を受け取り、フウガと呼ばれた男は慣れた手つきで文字を書く。少女はそれを眺めながら「何書いた?」と聞く。

「無病息災」
「どういう意味?」
「病気知らず、健康である。そんな感じだと思えばよい。私もだがエルダスにも元気でいて欲しいのもある。何せお主は私よりも3倍以上長生きするんだ。少しでも長生きせんとな」
「もーフウガったら。フウガは強いんだからぜーったい病気にはならないよ」
「そうかそうか。さあエルダスも書きなさい。何と書くのだ?」

 少女は「決まってるよ」と笑顔を見せた。そして拙い字で願い事を書く。フウガは覗き込み、苦笑した。

「フウガが少しでも長生きしますように!」


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#シド光♀ #即興SS #季節イベント

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注意・補足セイブ・ザ・クイーン第4章終了後ストーリー補完。ちょっとあまりにもシド…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

"嫉妬"
注意・補足
セイブ・ザ・クイーン第4章終了後ストーリー補完。ちょっとあまりにもシド自機の話にかち合うので急いで書きました。
 
 自分を苦しめ続けた全てに片が付いた、気がした。ペンダントの蓋を開き、その写真を見つめる。1人酒を飲み、優しく微笑んだ。

「シド。ああ邪魔だった?」
「アンナか。いや、そろそろ呼ぼうとは思っていた」

 ボズヤ解放戦線はひとまず終わった。否、彼らにとっては一つの始まりになる。東奔西走し、武器を振り回していたヴィエラのアンナはジョッキを持ち、はにかんでいた。

―――途中から彼女と言葉をあまり交わさなかった。いや、避けられていた気がする。理由は分からないが。ただ槍を手にし、冷ややかな目で作戦内容を聞いていた。声を掛けてもすぐに「用事、あるから」と去る。それは初めて見せた目付きだった。が、振り返ってみると俺や暁の人間以外に向ける視線はこんな感じだった、と思う。兎に角、これまでの時間を考えると一瞬だけ他所他所しくなり少しだけ寂しかった。



 作戦中に社員リリヤが大怪我を負い、クガネに連れて行った。治療の合間にふとそれをネロにリンクパール経由でアンナが急に冷たくなったと言うと爆笑される。そしてこう言ったのだ。

『アイツ、槍握るとすげェ怖くなンぞ。オメガの一件中に一瞬マジな殺意喰らった。まさしくあの"鮮血の赤兎"、息が詰まって殺されンじゃねってな。ンで? ガーロンド、何やった?』
「分からん。記憶探索の後まではいつものアンナだった。クガネで慰めてくれたし。それから徐々に態度が冷たくなって、そういや槍を持ってるって思ってな」
『マァ相当ストレスが来たンだろ。だが多少の戦闘でそこまでキレるバブーンじゃねェ。お前が悪いンだろ絶対』
「きっかけがリリヤらから宿題を渡されて一度戻った後からかもしれん。そん時会話交わす暇もなかった。だから俺不在の間に機嫌を崩されちゃどうしようもないだろ」

 失礼なことにため息を吐きながら切られた次の日、再びネロの方から連絡が来る。すると『ただの惚気話に巻き込むンじゃねェぞ』と呆れたような声がした。わざわざ本人に聞いてくれたのかと感謝の言葉を述べようと思い、どういうことだと尋ねる。だが、『鈍感な男は本格的に嫌われンぜ? マァ新入りは復帰後お仕事増量しとくと代理サマからの伝言だ』としか言わない。モヤモヤとした気持ちを持ったまま第IV軍団との最終決戦を迎える。
 そして作戦終了後、リンクパール通信経由でリリヤが『あと英雄サン本当にごめんなさいッス! 姉御達から聞いてビックリしたッスよぉ……。だからボスの件は反省してるんで! どうか、どうか姉御に鬼な仕事量減らすように進言して欲しいッス!!』という悲痛な命乞いに俺含め周囲は首を傾げていたがアンナは「何を聞いたの?」と苦笑していたのが印象的だった。

 それが俺から見たアンナとボズヤ解放戦線の後半戦だ。判断ミスで大切な社員を大怪我させてしまったのは大失態だが、俺にとっては一つの区切りで。酒盛りの喧騒から離れ、1人親父との写真を眺めながら飲んでいると、よく分からないがいつもの物静かなアンナが姿を見せる。



「隣、いい?」
「ああ」

 隣に座り込む。一瞬だけ俺の脚に顔を擦り付けた。息を飲み、目を見開いてしまう。しかし何事もなくペンダントの方を指さす。

「それ、あなたとお父様?」
「ああ。15年ぶりに開いた」
「吹っ切れたってやつね。よかった」

 ほら、とジョッキを向けられたので軽く合わせる。アンナは一気にエールを煽り、俺に少し複雑そうな笑顔を見せた。

「冷たくしてごめん。あなたは悪くない。怖い思いさせちゃった」
「いや俺は大丈夫だ」
「……あれも私。"ガレマール帝国"の初代皇帝が欲し、兵士の間では怪談になったヒト。あなたが過去と向き合ったように私だって―――ね?」
「アンナ」
「アレを見ても、あなたは……私のことスキ? それとも兵器として利用してみる?」

 じっとこちらを見上げ、答えを待っている。笑みがこぼれ、肩を軽く叩き、寄せてやった。

「アンナは人間だ。兵器じゃない。いつも言ってるじゃないか。ただの旅人ってな」
「杞憂だったかぁ」
「そもそも兵器として見るならオメガの一件までにはそうしてるさ。今更だろう。アンナはもう余計なものを1人で突っ走る必要はない。俺も一緒に行くからな」
「バイシャーエンからも同じようなこと言われたよ。『そこまで解放者殿が背負う必要はありません』ってね。―――あの人が最後に止めてくれなかったら本気で過去に引っ張られてたかもしれない位やりすぎたのは反省してる」

 命の恩人(リンドウ)の修行による影響でバカみたいに強い力でこれまで色々解決してきた人間だ。今更目の色変えてしまうわけがないだろうに―――ここまで来てそんな心配をしていたらしい。だが、確かに"鮮血の赤兎"と呼ばれていた頃があったことを、嫌でも思い出した。心の奥底で罪悪感を持ち続けていた俺のように、アンナも笑顔という仮面を被り決して過去がバレないよう立ち回る。そうやってお互いずっと触れられたくない過去を封印し、見ないようにしてきた。きっと今回は帝国兵が相手だったから、そういう手段も取れたのだろう。向こう側がどういう反応をしていたのか気になる所ではある。
 そう思った所で意外なことを言い出した。舌をペロリと出し、イタズラな笑みを浮かべながら聞き飽きたあの言葉を吐く。

「まあ昔の私だったら、『だからあの人の方がいいよ。まとめて護ってあげる』って言ったかもね」
「おいだから何を今更」
「現実は怖くて言えなかった。不思議だね」

 ペンダントの方を見つめながらボソリと暗いトーンで機嫌が悪かった本当の理由を語り始めた。

「周りから見たらあなたとミコト、お似合いなんだってね」
「そうか?」
「頭いいし、ちっちゃくて可愛らしいし。護ってあげたい子だよね。研究職な子だし、真面目なあなたなら議論のし甲斐もあるでしょ?」

 鈍感だと周りに言われ続けた俺でも流石にここで気が付く。ネロから"惚気話"と吐き捨てられ、ジェシーによるリリヤに課された謎の"仕事増量"。そしてリリヤが何故かアンナ"に"命乞いをする声で察するべきだったかもしれない。声を出して笑ってしまう。

「何が面白い?」
「いやお前さんもちゃんと嫉妬するんだなって思ってな」
「別に。周囲がアドバイスやらで盛り上がってて少しだけイラッとしたから槍を振り回して……あっ」
「ほら嫉妬じゃないか」

 そっぽを向かれる。よく見ると肩が少し震えていた。まさか自分がいない間にそんな話がされてるとは微塵も考えになかった。そしてアンナが複雑な気持ちを持ってくれているとも予想せず笑みがこぼれる。これでまだ男女の付き合いをしてないというのが嘘だろ? と思う位には面白く感じた。

「きゃ、客観的に見たら最終的にそうなっただけで別に私自体はその。だから背中バンバン叩くなぁ!」
「今から言いに行くか? 俺にはアンナがいるから」
「必要ない! ヒミツはヒミツのままでいいし第一私はまだ結論が、ついてなく」
「はははそうだったな」

 きっとヒト耳だったら耳まで真っ赤な姿が見れただろう。少しだけ長い耳が後ろに倒れている。そのまま耳と一緒に頭を撫でてやるとジトリとした目でこちらを見上げた。

「待ってるぞ」
「……期待しないで欲しいねぇ」

 目を細め苦笑しながらアンナはその手を握り指先に口付ける。仕草はもう恋人そのものに見えるし、以前と違い見上げるように座っていることが嬉しい。昔だったら耳を触られたくないからという事実を誤魔化し、立ったまま飲んでいただろう。

「でもまあ……同じ背負うという行為ならば騒ぎながら"キミ"の重たい過去や夢と一緒に歩けるのは私だけなのは分かる。普通の人だったら押し潰されてるね」
「そんなにか?」
「キミの好き嫌いもその料理の作り方も、イタズラされた時の怒ってる顔が面白いことだって知ってる。あとキミだってよく不機嫌な顔して話に割って入るね。不在の間に起こったこと部下に聞いてるんでしょ? 把握してる。性行為中に見るなつってもずっと私を見る顔も、満足してイビキかいてるムカツク程腑抜けた寝顔だってぜーんぶ見てるさ」
「コラッ、外で言うんじゃない」
「でもね、どう言えばいいのかな。結論を出すには材料が足りない」
「いい加減観念してくれないか?」

 ここまで人のことを把握しておいて待たされるのはずっと待てをされ続けている犬の気分になる。目の前にご褒美があるというのにどうしてこんなにも焦らされるのか。ジトリとした目を向けると少しだけ困った顔をしている。

「中途半端な結論は絶対に後悔するから。慎重に考えてる、んじゃないかな、うん。ええっと、その」

 しどろもどろに言葉を紡ぐ姿が珍しく感じる。今までこちらの感情を散々煽っていた時の面影は存在しない。自分はされたくないのかと呆れてしまうがそれが本来の姿なのだろう。

「―――いつか一緒にガレマルド、見に行こうね。キミの故郷で、ボク達が出会った場所」
「……ああ」
「かつてどう魔導城まで走ったかも教えてあげるよ、その時」
「それは楽しみかもしれんな」

 どうやら感情についてはもう聞いて欲しくないらしい。仕方がない、今夜"は"我慢しようじゃないか。傍に置いてあった酒を再びジョッキに注ぎ、星を見上げながら2人で静かに飲んだ。
 途中、酔っぱらったゲロルト達も乱入し、その静かな時間も破壊された。だがまあそれも楽しかったからいいだろうと笑い合う。結局飲みすぎてしまい、ほぼ全員まとめて酔わないアンナが介抱する羽目になったのはまた別の話。


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#シド光♀

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注意旅人、猫を拾うと同じ頃に起こったお話。少しだけその複製体は聞き記すと繋がって…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

"ボトルレター"
注意
旅人、猫を拾うと同じ頃に起こったお話。少しだけその複製体は聞き記すと繋がっている話でもある。
 
―――アンナがリテイナーア・リスを認知した一方その頃ガーロンド・アイアンワークス社。

「会長、手紙が届いてますよ」
「俺にか?」
「いえ会長というよりかは会社にって感じでしょうか」

 会長代理であるジェシーは少し怪訝な顔でボトルを差し出す。ボトルレターかと呟きながらそれを観察する。確かに中に入っている紙には『ガーロンド・アイアンワークス社に届くことを願って』と書かれていた。

「新生祭の実行委員会から受け取りました。勝手ながら中身を確認したがこちらでは理解が出来なかったのでと」
「えらく古びた手紙じゃねェか」

 偶然通りかかったネロはニィと笑いながらボトルを凝視する。

「開けねェのか?」
「いや今から取り出そうとは思ったが」

 シドはボトルの蓋を開き手紙を取り出す。非常に質の悪い紙に文字が刻まれていた。

「何々、―――は?」

 シドは目を丸くし手紙を凝視している。ジェシーとネロも覗き込むと同じく眉間に皴を寄せた。

『目覚めた猫に愛しの女を盗られるなよ シド・ガーロンド』

 手紙の陰で見えなかったがウサギを模すように巻かれた針金に白と金の塗料を塗ったものが転がり落ちる。それを拾いながらシドは首を傾げた。

「よく分からん」
「全然分かりませんね」
「イタズラにしちゃ年季が入ってンな……ア」

 ネロは少しだけ悩む素振りを見せた直後シドが持っていた手紙とウサギを分捕る。

「おいネロ!」
「貰ってくぜ」
「いや何でお前が持って行くんだ!?」

 そそくさとその場を後にする姿をシドは呆れた目で見送った。



『"最高傑作"を完成させる永い旅の準備を終わらせた』

 先日あるミコッテが遺したトームストーンに入っていた映像で確かにその単語が入っていた。最高傑作というのは明言はしていなかったがあの英雄のことだろう。命を捧げ何らかを施した―――らしい。シドはその場に居合わせなかったからこの言葉を知らない。知っているのは一度しか再生されないビデオレターを見たネロとエルファーだけだ。

「エルに言うべきかねェ」

 不思議なウサギの物体を指で遊びながらため息を吐く。普通のミコッテ相手ならばもう死んでいるだろう存在について心配することはない。しかし相手は話を聞いた限りでは普通というカテゴリに収まれない。しかもソイツはかつてのエルファーと共に何かをやらかした友人だ。"第八霊災を防ぐことが出来なかった世界"という話を以前暁やアンナが口にしている。もしもこの忠告が本当に時間と次元を越え流された手紙ならば何かが起こってからでは遅い。ありえないと思いたいが問題の英雄周辺では"絶対にありえない"ことが起こり続けている。やはり一言だけ伝えておく方がいいのかもしれないと判断した。次に酒が入った時に言っておこうと1人頷き歩み出す。
 ふと窓の外から視線を感じた。思わず振り向き確認するが気配は消えている。

―――それから彼らの周りで奇妙な現象が起こるようになる。視界の端に何やら細長い尻尾を捉えたりアンナが不思議な装置や錬金薬を見せるようになるとか、だ。

『こういう面倒事に巻き込まれンのはガーロンドだけでいいじゃねェか』

 そうネロは怪訝な目をするエルファーの隣でため息を吐いた。


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「アンナ今日は召喚士か、珍しいな」「そう?」 黒髪のヴィエラアンナの膝に乗る青色…

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#シド光♀ #即興SS

漆黒

"カーバンクル"
「アンナ今日は召喚士か、珍しいな」
「そう?」

 黒髪のヴィエラアンナの膝に乗る青色のカーバンクルをジトリとした目でシドは見た。
 アンナは器用なものでエーテルを扱う力も片手間にこなすことができる。初めて見た時、「昔エーテルの扱い方が下手だったから修行したんだよ」と苦笑いしながら長い指をクルクルと回していた。直後、高く飛ぶカーバンクルに突然飛び蹴りを喰らったのを未だ根に持っているらしい。

「そこまで悪い子じゃないのに。どうしたんだろ。やめるようにちゃんと躾けとくね。ごめんなさい」

 そう当時苦笑しながら額の宝石を優しく弾いていた。ちなみに現在、流石に飛び蹴りまではされないが未だに噛みつかれたりと懐かれていない。ジェシーをはじめとした部下には懐いてるらしく何故かシドにのみそうするのだ。召喚者と同じくイタズラしているつもりなのだろうと自分を納得させているが面白くはない。
 ふとその召喚物をじっと見つめる。違和感がある。そうだ、以前暁の血盟のヤ・シュトラから聞いたアンナについての情報を思い出した。

「そういえばこのカーバンクルってやつはいろんな色がいるよな?」
「うん」
「以前ヤ・シュトラからお前さんのエーテルの色を聞いた。てっきり赤いやつになるかと思ったが青なんだな」
「あー確かに。不思議」

 クシャリと撫でじっと見つめているとシドは隣に座る。少しだけ召喚物をじっと見つめている。

「どしたの?」

 アンナは首を傾げる。
 そう、アンナからは見えないがカーバンクルは撫でられながらシドを見上げている。まるでここは自分の特等席だと言いたいが如く目を細めすり寄っていた。

「いや、何でもないからな」

 そっぽを向く。アンナはしばらく考え込み「まさか」と軽くため息を吐いた。
 シドという男はほんの少しだけ嫉妬深い所を見せることがあった。恋心を自覚する前から気が付いたら隣に立っていたり、密かに話し相手を睨んだりと、アンナの目には何かと妙なことをしているように映っている。

「キミ、まさか召喚した子にまで嫉妬? いや流石にそんな」

 少しだけばつの悪そうな顔でこちらを見ている。まじかぁと呆れたような声を上げた。

「この子は悪い子じゃないよ。だから仲良く」

 ほらシドもと抱き寄せくしゃりと頭を撫でる。ふと顔を見ると、眉間に皴は寄せているものの口元は緩みこれはもし尻尾が生えていたならば激しく振ってるだろうなと苦笑した。

「まったくどっちのシドも嫉妬深くて困る」
「悪かったな小動物にまで嫉妬し……うん?」
「あ」

 アンナは用事思い出したと離れようとしたがシドはその腕を掴む。"また"余計なことを言ってしまったと手で口を覆った。

「今何と? よく聞こえなかったからもう一度言ってくれ」
「別に、何でも」
「どっちの何って言ったんだ?」
「聞こえてるじゃん! ……カーバンクル! 頭突き!」

 顔を真っ赤にしながらカーバンクルに指示しているが珍しく何もせず頭に乗っている。両耳の間に器用に立っているのは正直凄いと目を細めた。アンナは「こういう時に限って! 言う事聞く!」と震え思い切り目を逸らす。頭を激しく振っても頑なに動かない。一方隣に座っているシドの機嫌は一転し、笑いながら背中を叩く。

「チクショー……もー!!」

 アンナは理解している。このカーバンクルは今名前を呼ばないと指示を聞く気がない。自爆したお前が悪いと言いたいが如くつむじを足で突いていた。しかし、もし呼んでしまえば次は隣の大男がこちらへ頭を擦り付けてくるだろう。絶対何か勘違いしている。
 何故当時の自分は『なんか似てるね』と何も考えず呼んでしまったのか。しばらくがっくりと項垂れ、頭をぐしゃぐしゃと掻き盛大な溜息を吐いた―――。


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補足漆黒以降、シドとアンナ付き合い始めた後。リテイナーア・リスとアンナが出会って…

漆黒

漆黒

旅人、猫を拾う
補足
漆黒以降、シドとアンナ付き合い始めた後。リテイナーア・リスとアンナが出会っていた話です。
 
「あ、そろそろリテイナーくんたち帰って来るか」

 クガネで伸びをしながらアンナは世話をしている"子供たち"を労うために意気揚々とお菓子を準備する。さあベルで呼ぶかとふとリストを見やると首を傾げた。

「1人多くない?」

 確かフウガ、リリア、ノラという名付けた子を拾ってリテイナー契約をしていた筈。しかし4人目の枠が存在した。何かの間違いではと一度目をこすりその場を離れ戻るが変わりない。名前を確認する。試しに読んでみよう。ベルを鳴らし、口を開いた。

「えっと、ア・リス・ティア?」
「呼んだか呼んだなご主人!」
「ひゃん!?」

 ビクリと身体が跳ねてしまった。キョロキョロと見渡していると「下!」と言われる。見下ろすとそこには金髪のミコッテが満面の笑顔で立っていた。これまで気配が一切無かった筈なのにいつの間に。白衣のようなものを纏う不敵な笑みを浮かべる男性。一瞬だけ今まで会った人間でいえばネロに少し近い雰囲気を感じた。まああの男はこんなイタズラが好きそうな無邪気な兄ちゃんではないのだが。

「え、あの」
「ちゃんと行ってきたぜ面白い掘り出し物があったんだよご主人!」
「あ、ああありがとう。はいスクリップとお菓子焼いたんだけど食べる?」
「お! 嬉しいな! フーガから聞いてたんだよご主人の手作り料理美味しいってな!」

 その場でもぐもぐとうめーうめー言いながら食べてくれるのが嬉しい。嬉しいのだが、誰だこいつ。知らない。

「待って。あの、ア・リス……サン?」
「おうア・リス様だぜ」
「どちら様?」

 その言葉にガクンと膝から崩れ落ちる。流石に言葉がダメだったか。アンナは「ご、ごめん」と言う。すると「いや大丈夫、俺様それ位じゃ折れない」と拳を握り締めた。

「ご主人あの時疲れてたみたいだからな。俺様が振り返ってやろう。ほわんほわんほわん」
「その擬音言う必要ある?」

 とりあえず何かあったか説明してくれるらしい。少しだけ懐かしさも感じる男の話を聞いてみる。



 俺様はア・リス・ティア。天才トレジャーハンターなミコッテさ。ある日東方地域にある不思議な塔を見つけてこっそり侵入する。しかし凶悪な罠に気付かずかかって大ケガしちまった! なんとか身体を引きずってクガネに帰還。だがお腹も空いてバタリと倒れてしまった。そこに偶然通りかかったかわいこちゃんに「えっと、大丈夫?」と声を掛けられたんだぜ!

「それがご主人、アンナちゃんだぜ!」
「へ、へぇボクって優しいね」

 残念ながら事情を聞いてもアンナには全く記憶に残っていない。もしかしたら最近疲れ気味だったので"内なる存在"が対応したのかもしれないと考え付く。ここ数日の記憶が一切無いし、ありえると手をポンと叩いた。

「ご飯一緒に食べに行って美味しかったぞ! そこで『トレジャーハンター危険、よかったらリテイナー契約しない? 掘り出し物私がかわりに換金。あなた心配』ってのも忘れちゃった?」
「うん? うーん―――言ったかもしれない?」
「だろー? あ! ついでに俺たち付き合っちゃおっか! って言ったら『え、ごめん。そういうの間に合ってる』ってあっさり断ったのも忘れたなら俺様にチャンス来た?」
「あ、それは記憶ある」
「ちぇー」

 その言葉は何か朧げに記憶がある。確かにそういう断り方した相手はいた。このミコッテかは忘れたのだが。そういえばと持ち帰った来たものとやらを見る。何やらトームストーンのようだった。

「ア・リス、持ち帰り物、何?」
「よくぞ聞いてくれたな! 遺跡で拾ったんだよ! 何かお宝データとか入ってるかも? 電源入らないみたいだから壊れちゃってるみたいでな」
「あーその辺り修理する専門家の知り合いいるからいいよ。ありがと」
「へへっ! どういたしまして! じゃあ次も何か持って来るからよろしくな!」
「うん、君のこと覚えとくよ。よろしく、ア・リス」
「にゃはははは!」

 走り去って行った。アンナは嵐のような人だなあと苦笑しながら軽くため息を吐く。とりあえず先程会う約束を交わした何故か機嫌が悪そうだったシドではなくネロと兄にでも渡そうかと1人頷いた。シドは以前フウガとお揃いのトームストーンの"写真"を見て嫉妬したのか少しだけ機嫌が悪いみたいで。数日置いたら大丈夫かなと思っていたが悪化していた。
 あと兄エルファーはアンナに対して誤魔化しているつもりらしい。が、ちゃんとエオルゼアに滞在し、しかもガーロンド社で働いてること位は把握している。何でバレないと思っているのかとノリで話を合わせているだけだ。しかしどこで拾ったかとか聞かれるのが面倒なので誤魔化し方を考えなければいけない。そうだ、例えば―――また壊したから修理してほしい、とか。



「ヒヒッ」

 金髪のミコッテは笑いながらテレポでエオルゼアへ戻って行く主人アンナを屋根の上から見守る。

「ささ、ナイスイタズラな"仕込み"も終わったしちょと来客用にラボの掃除して、60年、いや違うか。80年振りにエルの顔でも拝んでやろうか。愉しみだナァ」

 目を閉じた後、常人を超越する高さを跳躍しながら笛でチョコボを呼び出し上空を飛び去って行く。

―――封印は、解き放たれた。


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注意旅人は星を見つけるの冒頭独白シドバージョンです。   寒い夜。ガキ…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

技師は紅き星を振り返る
注意
旅人は星を見つけるの冒頭独白シドバージョンです。
 
 寒い夜。ガキの頃、俺は言いつけを破り何かに導かれたように外へ出た。キョロキョロと周りを見渡し少しだけ裏路地に入ると大きな塊。それに恐る恐る近付くと長い槍に、褐色の長い指が見えた。まじまじと観察する前に『人を、呼ばなくては』と判断する。踵を返し、巡回兵を呼ぼうとすると俺の服の裾を掴まれた。振り向くと、フードを深く被った人が「寒い」と小さく呟く。その時、キレイで不思議な赤色の旅人に心を奪われた―――。

 初めて抱いた感情は、物静かで、作り物のような不気味さ。しかしそんな何かに怯え続けながらも、裏では俺や周りを観察していた。
 あの星空が綺麗な夜、それまで暗い雰囲気だった"彼女"が見せた柔らかな笑顔に衝撃を受けてしまった時のことは未だに覚えている。綺麗な顔で細い身体から繰り出される強い力。―――その時の自分との正反対さが目を細めてしまうほど眩しかった。思えばこの地点で既に"彼女"に惚れてしまっていたのかもしれない。

 俺が記憶を取り戻した時の、あの優しげな目を覚えている。元気になって、よかったという言葉だけでは説明出来ない"彼女"の目に灯る星を見た。それから蛮神討伐、そして仲間の救出という同じ目的を共有した冒険が何よりも楽しかった。だからそれ以降も何気なく付いて行こうと画策するようになる。"彼女"が何らかに関わるだけで未知の技術が転がり込んでくるのだ。技術者としての自分も簡単に"彼女"という存在を手放せるわけがないさ。
 "彼女"が刀を持った日、内面に沸き立つ興奮が初めて俺の心を焼き焦がす。舌をペロリと出しながら愛しげに刀の柄を撫でる姿に本能がこのオンナは危険だと警笛を鳴らした。それに反し、自らの情熱は熱が灯りかけ、作戦中じゃなければ非常に危なかった。絶対に敵に回したくないと決心するくらい、斬り払う時の笑顔にゾクリと背筋が凍るほどの美しさを覚える。

 一度、うっかりと手から零れ落ちてしまったヒトに対し悲しむ弱さを目の当たりにしてしまう。どうすればいいのか分からず、肩を撫で続けることしか出来なかった。一瞬火傷しそうなほど熱くなった身体と震えた空気。その肩を少しでも強く握るとすぐに壊れてしまいそうで。なんて繊細な機械装置のようなヒトなんだ、と思ってしまう。
 あの星芒祭での出来事を境に少しだけ素を見せるようになった。何気に精巧な技術を用いたイタズラに説教しながらも居場所だと認識してくれたことに対して喜びを覚える。"あの人"が置いて行った髪飾りを握りしめ、何としても"彼女"の助けになろうと追いかけた。
 思い返すとお互いの距離感がおかしくなったのもこの出来事がきっかけだったかもしれない。狂い始めた歯車は、軋み続けていった。

 ドマで初めて具体的な"彼女"の過去を目の当たりした。同じく"無名の旅人"と名乗っていた命の恩人から与えられた全ての始まりを知る。再会の約束が叶わなかったと少し悲しそうな姿を見て、このまま傍にいてもいいのか、という疑問が湧く。しかし当時の自分は気付いていなかった。もうすでに何度も焦がされていた心は修理不可能なほどその熱で歪み切っていたことに。そしてこの時から、確実に"あの人"と"彼女"を重ね始めていた。

 いつも数歩後ろを歩く"彼女"と常に隣で笑い合ってみたかった。そんな反面、全てを斬り払うための道を作ると、流星の如く走り抜き去っていく後ろ姿を見守る。―――そんな"彼女"を支える行為も楽しかった。紅く光る流星が、灼熱の炎で俺の心ごと文字通り全て燃やし尽くす。"彼女"に無意識下で長い間恋焦がれていたと、初めて首元に噛みついた夜に自覚してしまった。甘い香りと冷たい肌に歯を立てた瞬間の少しだけビクリと震え喉から発せられた甘い声。その直後遅れて湧き出したのは底知れぬもっと欲しいという欲望。だが、俺は今の関係がいいと想いを封印し、笑い合うことを選ぶ。それは2人きりの時に何が起こっても、表では平静で居続ける行為が可能な、そう、人に無関心な"彼女"に甘え続けていたのも確かで。この後オメガによって引き起こされた事変で再び共闘出来ることをただただ喜んでいた。

 オメガによる度重なる仲間への襲撃に対し落ち込んだ時、遂に慰めに来た"彼女"を抱き、想いを伝えてしまった。まるで一目見てから我慢し続けた感情を全てぶつけるかのようにトンデモ理論と勢いで押し切る。いや、きっかけも"今まで出会った人間の中で初めてならキミがいいとは考えていた"と煽ったのも向こうだから俺は悪くないさ。と思いたい。
 ただただ相手は初めてだったのに、手加減無しで一晩中衝動に任せて抱き潰した。そう、その夜は甘くもなく自分の"好き"に塗り替えていく行為に夢中になってしまう。後日何度も謝り倒した。
 だが、そこで命の恩人の言葉に縋る理由も分かったので有意義な時間ではあった。そしてどこか懐かしい低い声で"宿題"を言い渡された時、絶対解いてやると決心する。誰も手中に収めることが出来なかった"彼女"という報酬が手に入るのだから躍起にもなるだろう。
―――それは初めて"彼女"の口から漏れた"SOS"。だから全力で解きに行くに決まっている。

 最後の検証で初めて弱き人間の想いを込めたという"本気"を見る。怒りの感情に合わせるかの如く空気が震え赤黒く染まった後、全ての音が消えた世界で刀身が青白く光り、人を模したオメガを斬り伏せる。振り下ろされた時に現れた光の斬撃はまるで流星の軌跡のように綺麗で。
 青白い光の意味は未だに分からない。ただただこの人が敵じゃなくて本当によかったと痛感する。だってもしも敵だったら二度とこの美しい流星が見えないじゃないか。疲れたのか少しだけ動きがぎこちない"彼女"の背中を叩きながら笑い合う。
 その後、"彼女"は何者かに呼ばれ、別の世界に消えてしまった。

 オメガの後処理に鬼のような量の仕事。それらを終わらせた後、いつの間にか悪友と親しくなっていた"彼女"の兄と対面する。―――驚くほどにそっくりだった。その赤髪も、喋り方も、故郷の髪飾りも。俺は彼も連れ、"宿題"を解くために命の恩人の墓へ向かう。そこで"真実"を知った。彼が遺した手紙はこれまでの"彼女"との旅路がなければ信じられなかっただろう。
 そして"宿題"の答えは"これ"でいい。少しの間だけ反応したがまた光が消えた用途不明な装置を受け取りエオルゼアへと帰る。

 別の世界に消えてしばらくして、"夢の世界"に連れて行かれた。そこは少しだけ弱った"彼女"と真実を照らし合わせる幸せな夢。絶対に生きて戻ってこいという俺が与えられる最高の"呪い"。命の恩人の教えに上書きするかのように吹き込み、帰りを待った。

 青龍壁の調整をし、飛空艇の整備を行い、何事もなく納期もやってくる。―――"彼女"がいなくてもつまらない日常は回り続けた。
 俺は『会いたい』とため息を吐く。するとふとあの解析しても用途が一切不明だった装置が突然ポンと音を鳴らした。それを持ち上げ、何が起こったのかと思いながら見つめているとリンクパールが鳴る。送信主は暁の血盟のクルル。どうしたのか、いや彼女からならば1つしかない。分かっていながらも平静を装うために用件を問うとこう言ったのだ。

『アンナが帰って来たの。嫌そうな顔をしながらガーロンド社へ向かったから、頑張ってね』

 俺は反射的にネロと"彼女"の兄レフが軽量化、再調整した捕獲装置を手に取り慌てて部屋を飛び出す。謎の装置の光が徐々に強くなっているのが見えた。これは、もしかして―――。


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#シド光♀

(対象画像がありません)

注意・補足ボズヤ、ウェルリト後、遂に付き合うことになる話。  ―――故…

漆黒,ネタバレ有り

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漆黒,ネタバレ有り

旅人は答えを見つける
注意・補足
ボズヤ、ウェルリト後、遂に付き合うことになる話。
 
―――故郷でも、命の恩人からも、教えてもらえなかったコト、皆誰から学んでるの?



「ビッグス、社内で流れてる噂聞いた?」
「噂、ですか?」

 ある日の昼下がりのガーロンド・アイアンワークス社。ジェシーはビッグスに近頃起こっている奇妙な話について聞く。

「アンナが手当たり次第に人を捕まえて、質問攻めしてるらしいのよ」
「こっちには来てませんが…」
「それオイラの所に来たッスよ!」

 傍で作業していたウェッジがパタパタと走って来る。

「恋や愛って何? と聞かれたッス!」
『恋!?』

 ジェシーとビッグスの声が重なった。

「いや『好きな人いたよね? いつ好きに? どういう所好き? どうやって伝える? どこでその感情を学習?』とか畳みかけられたッス!」
「え、アンナ何言ってるの?」
「どこで学習? おいおいまさか」
「事情を聞いてみたら『何度考えても頭真っ白。結論のために質問の旅』って言いながら去って行ったッスよ! その、本当にまだ親方とアンナって付き合ってないんだって察したッス」

 3人はため息を吐いてしまう。今更何を言っているんだという言葉しか脳に浮かばない。

「私、最初は会長があまりにも鈍感で奥手で不器用すぎてそれがボトルネックだと思ってたんだけど」
「まさか完全にアンナの思考とは……」

 別の世界での人助けが終わり霊災も回避され、賢人たちの意識も無事回復し、少しの時間が経過した。その辺りからアンナの様子が少々おかしい。いや変なのは出会った当初からだが、考え込んでいる時間が増えた。一見いつもの笑顔は見せているのだが最近ぼんやりとしているようで。
 閑話休題。恋愛関係で聞き回っているということはシド関連なのだろう。とっくの昔に、遅くても第一世界から一度戻ってきた日に決着がついたと思っていた。少なくとも最近ボズヤでも色々あった筈だがどうやら当人たちの間では未だそうなっていないらしい。

「あ、ジェシーいた」

 3人が振り向くと噂のアンナが手を挙げながら部屋に入って来る。ウェッジの話を聞く限り次は自分に聞きたいのだろう、大慌てで椅子と紅茶を準備した。



「ジェシーとビッグスは恋したことある? ウェッジは知ってる」

 紅茶を飲みながらアンナはニコリと笑った。3人は顔を見合わせる。

「そりゃ一度はあるでしょ」
「ですよねえ」
「うん、私もあると思ってた。でもねえ」

 肩をすくめ、ため息を吐く。

「いや正直恋って判断どこでしたのか理解不能。初恋は憧れとか幼い淡い体験にした。が、問題は大人になってから」
「はい」
「恋は学校の授業には存在せず。私も故郷では聞かなかったし命の恩人―――フウガも教えてくれなかった」
「そうかもしれないッスね」
「だから人はどう愛や恋を察知し、どうその先へ行くのか知るため暁やガーロンド社で聴取」
「分からない……過去一アンナが分からなくなったぞ……」

 シドが時々アンナが分からんと言いながら眉間に皴を寄せ頭を抱えてる姿を見せる時があった。今その気持ちが理解出来たかもしれないとビッグスは片手で顔を覆う。

「フウガに向けていた感想とは全く異なる。だから恋というもの、どういう瞬間に感じるのか気になる」
「え、アンナ確か好きなタイプ聞いた時あっさり答えたじゃない。髭が似合って、がっしりとした体形で、光のような人って」
「フウガ"も"だよ? 髭が似合い、がっしりした体形、人助けが趣味、光のような人」
「ああ……」

 あの時の言葉はどうやら別の人間を指していたらしい。もしかして重ねていたのだろうかとジェシーは眉間に指を当てて考えているとアンナはニコリと笑いながら聞く。

「んで、各々の恋した瞬間、記憶ある?」
「そうねえ。やっぱり憧れとか?」
「フウガは憧れ。けど……」
「優しいなって思ったり」
「優しい。けど恋までは」
「じゃあ一目惚れとかどうッスか!」
「確かにキレイな星。でも別に見てて何も」
「アーンーナー」

 ジェシーのジトっとした目にあははごめんと苦笑いしている。

「ちなみにネロサンに聞いたら呆れた顔で色んな哲学書山積み。兄さんに"8人の嫁さんのプロポーズどうやって? 参考にする"って手紙送ったけど返事来ず」
「嗚呼……」

 最近のアンナの兄である社員エルファーの様子がおかしい原因も彼女だったようだ。休憩中に『僕の恥がそのまま横流し……』と遠い目で呟いていた意味がはっきりする。

「アンナ、恋愛ごとに理屈は考えちゃいけないと思うの。言葉が出ないなら行動で示したら流石に会長も分かってくれるから」
「そういうもの? ……あれ? そういえば皆何故シドの話と思って? 言った記憶皆無」
「この段階で知らないって思ってたのか!?」
「あなた先日ボズヤでどうなってたか思い出しなさい!」



 散々悩んだ後アンナはまたフラフラと歩いて行った。ジェシーらは生暖かい目で見送る。その後喫煙室にいた休憩中のエルファーとネロを捕まえる。

「何か? ……遂に昇給?」
「アレだろ、メスバブーン関連」
「嗚呼」

 エルファーの目から光が消えた。相当悩みこんでいたらしい。先程あったアンナとの話をするとネロは一頻り大爆笑した後項垂れる男を指さした。

「いつもは妹から手紙来たって小躍りして即返事出す癖に悶絶続けてンだ」

 机に突っ伏し呪詛のような言葉を吐いているがジェシーは解読が出来ない。「ネロ、レフは何と?」と聞く。

「自分の言葉を引用してまンまプロポーズされちゃガーロンド吊る必要が出てくっからメスバブーンは一生悩んでろってよ」
「そこまでは言ってないやい」
「近くはあるんスね……」
「レフ、あなたの妹付き合ってすらいないのにプロポーズまでは飛躍しすぎよ」

 ジェシーの言葉に頭を勢いよく上げる。やれやれと言いながら呆れた目を見せた。

「はぁ? いやいや妹から指輪渡すんだろ? 会長クンはすぐ近くにこの僕がいると知っていながら一言挨拶無しで更に先手にも回れないのかヘタレって話題じゃ」
「エル、あの無欲の権化(リンドウ)の思考がそのまま反映されちまった妹なンだろ? 未だ恋愛っつー器用なおままごとする可愛いお花畑チャンに見えてンのか? 確かにプロポーズなンざ先手取らなきゃ気が済まねえって顔してるだろうがよ」
「……うっそだろ……」

 再び突っ伏したまま震えている。また何か判別出来ない短い言葉を吐いているのでウェッジはネロに通訳を頼む。

「恥ずかしすぎて消えてェってよ」
「合ってる」
「合ってるのか……」
「何年その状態続いてんだよ! あとここまで上司と実の妹の内情が社内で拡散され切ってて死にたいんだが! さぞ君らは面白いだろうねぇ! ああそうだよ僕だったら絶対面白がるからな!」
「まあアンナからしたらレフはここにいないはずだもんなあ」
「うるせ! 会長クンに言いつけてやる! 君ら諸共僕は死ぬ!」
「ちっちゃいプライドのためにオイラ達まで巻き込まないで欲しいッス!!」
「ゴホン! 俺がどうした?」

 その場にいた全員が固まる。喫煙室入り口を見るとシドの姿が。怪訝な顔をしてネロらを睨んでいる。

「あ、あれ親方仕事は」
「休憩させてくれ。今回も中々苦戦しててなあ。お前たちも世間話は程々にして手伝ってくれないか」
「それは構いませんけど」
「で、俺に言いつけるとは? レフがアンナみたいなキレ方してるなんて珍しいな。初めて兄妹だと思ったぞ。で、お前ら何かやらかしたのか?」

 ネロ以外全員シドから目を逸らす。これは言ってもいいのか、いけないのか。アンナは秘密にしろとは言っていない。渋々エルファーが突っ伏した状態で抑揚のない言葉を吐いたのでビッグスはネロに翻訳を頼んだ。何度か振ったはいいものの何故言葉が解読が出来ているのはよく分からない。

「ンで一々俺に言わせてンだよ! はぁ―――最近妹とどうだってよ」
「アンナか? 最近何か考え込んでて声もまともに掛けられなくてな……って何で休憩中とはいえ今お前たちに話す必要あるんだ。せめてプライベートで聞けと」
「アー? そうかよ。妹からトンデモレターが届いて以降仕事に対するモチベ最悪だからテメーで何とかしろってよ。あと暁や可愛い部下困らせンな」
「トンデモ? ―――困らせ??」

 シドは突き付けられたエルファーが貰ったという手紙の一部を眺め首を傾げている。案の定周りの状況を当の本人だけ知らないらしい。ジェシーはジトっとした目で報告する。

「アンナが手当たり次第に恋やら愛って何って聞いて回ってるんですよ。さっき私の所にも来ました」
「な、何やってるんだアイツ!?」
「心当たりありますよね?」

 素っ頓狂な声を上げた後考え込んでいる。しばらくしして「あ」と漏らした。

『その旅が終わったら、即結論は教える』

 第一世界から帰ってきた直後、そんな話をしていた気がする。そういえば記憶探索後に何か言おうとして固まっていた。その後も嫉妬されたりしたがそれも解決済みである。落ち着いた後は、会っても上の空で呼ばれては首を触りながら「何でもない」と言われる日々。どうなっているか一切理解出来なかった。

「いや、分からん。何でそういうことを聞き回っているかは俺にはさっぱり」

 少し頭痛がしたような気がする。―――今までこっちをからかっていた人間なのに反応がおかしい。まさか今更恋やら愛やらで悩んでいるわけはないだろう。多分どうやってこちらで遊んでやろうかと周りを巻き込んでいるに違いない。

「とりあえず俺の方から強く注意しておこう、スマン」

 シドはジトリとした目でそそくさとその場を後にする。

「絶対会長クンは誤解してるな」
「イタズラの仕込みって判断したみたいだなあ。もう少し言った方がよかったかもしれん」
「どう見てもアンナの日頃の行いが悪くて流石に擁護は出来ないわね」
「アンナ……ごめんなさいッス……!」

 ジェシー、ビッグス、ウェッジは半笑いで空を見上げた。

「いやクッソ面白ェ。エルどっちに転ぶか賭けでもすっか」
「賭けにもならん。ジェシー女史、会長クンに明日休暇を与えよう。機嫌が悪い所を延々見続けるとなっては社員の士気にも関わる」

 あなた達会長に聞かれても知らないからねとジェシーはため息を吐いた。



 仕事をキリのいい所まで早急に終わらせシドはアンナを探し走っていた。流石に部下から苦情が来るほど迷惑をかけるのはいけないだろと一言怒っておかないといけない。『そこまで言わないと分からない子供だったのか?』という疑問が湧くが置いておこう。暁にも聞き回っているのなら今はレヴナンツトールに滞在しているはずだ。急いで向かう。
 まずは石の家でタタルとクルルにアンナの様子について尋ねてみる。確かに色々聞かれたと言われた。アリゼーやヤ・シュトラも恋と憧れの違いについて質問攻めにあったらしい。ウリエンジェは想い人の話をニコニコとした顔で聞いていたと言い、サンクレッドも女性を口説いている時の気持ちを聞かれた困惑したと。グ・ラハやアルフィノからは"アンナはどうやら数日寝てないらしく、フラフラしながら聞き回ってて心配だ"と言われた。『バカか!?』と心の中で叫ぶ。今では顔を熱くしながら街中を探す始末だ。

 ふとよく知ってる声が聞こえた。見上げると建物の屋上で佇む探し人。急いで駆けあがり背後に立つ。しかし珍しくこちらに気付いてないようだ。さっきの兄みたいにブツブツと何かを言っている。あちらと違い言語判別は出来た。恋だの好きだの万が一だのよく分からない。

「フウガだったらどう切り抜けるんだろう」

 鮮明に聞こえた一文を耳にした瞬間にカッと頭に血が上る。反射的にその細く引き締まった腕を掴んだ。
 ビクリと跳ねた後、アンナはこちらを振り向く。

「誰ッ―――あ、シド」

 いつもの冷静な顔ではなく少しだけ困ったような泣きそうな顔を見せている。

「え、ちょっと!?」

 そのまま引っ張り大股で進んで行く。今の表情がどうなっているか分からない。しかし"また"リンドウに対して行き場のない怒りが湧いているのは理解出来ていた。肉親の記憶よりも刻み付けられている存在への憤りが。更に違うと言いながらも未だ恋焦がれているのかという呆れも混じり頭がぐちゃぐちゃになる。
 あっという間にいつも取っている宿に到着し、個室へと連れて行く。扉を閉め、その場で抱きしめた。漂う甘い匂いが脳を刺激し、少しだけ落ち着いてくる。

「っ!?」
「俺よりリンドウに頼るのか? 未だに」
「え、いや、その……って痛い痛い! 手加減!」

 アンナの言葉お構いなしに強く抱きしめる。

「逃げるかもしれないだろ?」
「いやここまで来たら逃走無し! 私を何だと思ってる!?」
「まずイタズラ好きで都合が悪くなると逃げ出す旅人だろ?」

 言葉が詰まっている。肩を落とし頭を撫でられた。機嫌取りをしようとしているらしい。それ位は鈍感だと言われるシドでも分かる。

「別に、フウガはそういうのじゃない。し、シドのことで色々考えてた。だからあなたに助けを求めない」
「俺の?」

 何も言わず頬に口付ける。そして顔ごと逸らした。

「本当は兄さんの返事が来てから決めたかった」

 首を傾げる。見上げると顔が赤くなっている。目元を手で隠し、ボソリと呟いた。

「結論を教えたくて。けど、何か言おうとしても、その。頭が真っ白。だから皆に教えてもらおうと」
「今更か? お前あんだけ人をからかって今更そんなこと言ってんのか?」
「う、うるさい」

 お前そんなにか弱い生物だったのか? と思っていると首元を触りながら目をギュッと閉じ呻き声を上げている。珍しく嘘は吐いていないようだ。そういう姿も好きかもしれないとシドは苦笑する。
 そんなことよりも。確か首元を触る時は自分に対する何らかの感情を感じ取った時のはず。どういうことかとシドの方も恥ずかしくなった。少しだけ力が緩んだ隙に振りほどかれ、抱き上げられる。相変わらず軽々と持ち上げるのでいつもプライドが砕かれかけていた。

「おい!?」
「場所変えさせて。こんな所で話しなくて、いい」

 寝台に座らされ、アンナも正面に正座した。相変わらず顔は赤いままで目を逸らしている。

「えっと、私は、あなたを知るために少し旅をしてきた」
「そう言ってたもんな」
「流石にガレマルドまでは行けず」
「今そんなこと出来ない状況って聞くからな」
「何か変わるかなと思ったがそうでもなく」
「―――そうか」

 結論の発表会をしたかったらしい。完全に弱り切り、珍しく長い耳も倒れている。まるでミコッテのようだ。あれだけあの耳ピョコ分かりやすいやつと違うと豪語していた人間が何をしているのか。

「だって恋とか故郷やフウガは教えてくれなかったし」
「別に学校で習うモノでもないぞ?」
「どこでそういうのを知ったのかって聞きたくなり。あの、部下の皆さんにご迷惑をかけたようで」
「俺に聞けばいいだろ?」
「一番アテにならない人が何を?」
「ぐ」

 ジトっとした目で言われた。確かに参考にならないと思うがそこまで単刀直入で言わなくてもいいじゃないかとシドはため息を吐く。

「まあガイウスからの言葉で結論というか方向性は決定済」
「ウェルリトでまで迷惑をかけるなよ」
「ヒエンたちの所にも行ったよ?」
「今度ドマにも一緒に詫びの品持って行くぞ。―――エオルゼア三国とイシュガルドとアラミゴのお偉いさんにも聞きに行ったとか言わないよな?」
「……イッテナイ。面白い話が聞けた。でも行ってないヨ」
「俺が悪かった」

 何日休みを取れれば終わる日程になるのか気が遠くなるほどの人間に聞き回ったらしい。あまり言いたくないが元首たちもいくら相手が世界を救った英雄だからとはいえ素直に答えるなよとため息を吐く。すると頭を掻きながらボソボソと喋り出した。

「別にシドのこととは一言も言ってないのに皆あなたのこと話すんだよね」
「……何でだろうなあ」

 確かにそれは身に覚えがない。アンナのような無神経な人間ではないので誰かに相談した記憶は存在しなかった。しかし大体の人間にアンナの話題を出されるという点は同じで。どこかから、関係が漏れている。ジェシーや暁だったらタタル辺りが察して言いふらしたのだろうか。

「そこでまだ付き合ってないのかとか嘘でしょとか謂れのない驚愕が」
「俺もよく言われてるな。1年以上な」
「不思議」
「不思議だよなあ」

 いつの間にかお互いの顔を見合わせ笑っていた。



「第一世界で分かったことがあったんだ」
「何だ?」

 天井を見上げるアンナはボソリと呟く。

「1年後、キミが答えを見つけられなかったら旅に出るって言ったくせに、いざ1人でキミのいない世界を走り抜けたら怖かった。無限に喉が渇いたようにカラカラで余裕がなく。今までそんな経験なし」
「お前―――」
「だから夢の中でキミが出て来た時凄く嬉しくて。良い夢なんてあまり見なかったから急にキミが扉を叩いた時羽目を外しかけた。その結果が自爆」
「ああだから急に抱きしめにかかったのか」

 別世界の妖精族のイタズラでアンナの夢と繋がってしまった時の記憶。目の前にあった扉を叩くと出て来たアンナが二度見した後柔らかな笑顔を浮かべ抱きしめてきた。夢での出来事だったから都合のいい記憶と混ざっていたと思っていたらそういう真意があったのかと感心する。

「別に暁の皆やあちらの人たちが嫌いだったとかじゃなく。何かが欠けてしまったみたいで常に苦しくて。挙句の果てにバケモノになりかけ、意識も真っ白になり、嗚呼もうダメだってキミにずっと謝ってた。そしたらフウガに『さあ帰るぞ』って引っ張り上げられた気がして。目を開けたら全部終わってた」
「……人に聞き回る前にそれを言え!!」

 シドは起き上がり顔を赤くする。アンナはきょとんとした顔を見せた。

「いやそれ依存ってやつじゃん。恋やら愛じゃないさ。それだけ言ったらどうなるかと考えると共依存しか思いつかない。やだ。だから一度リセットして他の視点でキミについて考え直そうと思い。で、いざやるぞと気合入れてたらボズヤでの一件が起こり、それから頭が真っ白になっちゃって」

 軽くため息を吐き、肩をすくめた。手を重ね、目を閉じる。

「色んな人に恋の瞬間を、愛とは何か、その先をどう進みたいのか。聞いてからでも遅くはないかなって。まあ結論は『キミはボクが必要だし、ボクにもキミが必要だ。少なくとも上下関係ではなく対等なものとしてそういう感情を持っている。受け入れよう』と諦め」
「やっぱりそうじゃないか。まあアンナがそういう結論を持って来たのなら受け止めるが」
「厭?」
「俺もお前が別の世界で冒険してる間に改めて色々考えさせてもらったからな。前も言ったように導かれた解は一緒だ」
「そっか」

 その言葉を聞いたアンナは目を閉じて少し黙り込んだ後、顔を近づけ、これまで見たことない柔らかな笑顔を浮かべている。

「これからも、よろしく。シド」

 瞬時に顔が熱くなり反射的に「あ、ああ」と声が出た。それはどちらかというと少年っぽい整った笑顔。細めた目付きが兄のエルファーと全くそっくりで―――あのガレマルドや星芒祭の夜に会った時の記憶そのままだ。所謂普段纏っていた仮面が取り払われた瞬間、ということになるのだろう。強く抱きしめ、耳先に口付けを落とした。


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注意・補足ヤ・シュトラから見た漆黒アンナのお話。  ―――ノルヴラント…

漆黒,ネタバレ有り

#即興SS

漆黒,ネタバレ有り

"エーテル"
注意・補足
ヤ・シュトラから見た漆黒アンナのお話。
 
―――ノルヴラントで"あの旅人"を見守って、分かったことがあるの。あまり綺麗とは言い切れない旅路の一端を見た気がしたわ。

 アンナと呼ばれる旅人が暁の血盟に出入りを初めて1年半以上が経過した。それなりに心を開いて喋るようになったが、反面未だ底が見えない強さを感じている。エーテルを視るとこの人は明らかに異常だった。
 歪みが見える。エーテルを行使するごとに周辺のエーテルが特定部位周辺に集まり、消えていく。同時に体内エーテルもぐわりと揺らぎを見せた。まるで放出を妨害するかのように膜のようなものが張られている。それは生まれ持ったわけではなく後天的なものであることは明らかで、一体何をしたらそんな身体になってしまうのか逆に気になった。

 彼女の右腕はどうやら魔石のようなものが埋め込まれているようで。エーテルを行使するとその辺りが熱を帯びて小さく光っている。
 あと気になる場所は首元と背中よ。特に背中は大きなひっかき傷のような奇妙な模様が浮かび上がっている。それはまるで傷自体が一種の魔紋のようになっていたのが分かった。ノルヴラントに来るまであまり違和感を抱くことはなかったのが不思議なくらい。

 おかしいという感想を明確に抱いたのは水晶公がエメトセルクに攫われた時。そう彼女に宿れる光の許容限界を超えてしまった時のこと。一度気絶し、目を覚ましたら―――まるで別人のようで。いや確かに喋りや表層的な波長は彼女。しかし何か本質的なモノが変わり、無理矢理躯を動かすようにフラフラと薄い銀色を見せた。そう、光の中でエーテルが柘榴石(ガーネット)色ではなく、銀色に揺らいでいたの。一瞬彼女に擬態したナニカがテンペストへと向かおうとしていたように見えてしまう。
 戦闘スタイルも一見変わりはない。いつものように自在に刀を振り回す。しかしエメトセルクとの最後の戦いでまた別の光を見せた。

『何故だ! 何故幕を下ろした筈の"貴様"が"そこ"にいる!!』

 驚愕の声を上げたエメトセルクの言った通り、私の目からも彼女の姿は消えていた。大罪喰いによる白い光と、青白い光が彼女を取り込み、そこで見せたのは―――ひんがしの着物を纏った銀色のひょろりと背が高いヒトの形をしたモノ。きっと魂から見ることが出来るエメトセルクはもっと違うモノが視えてしまったのでしょう。首元から背中の傷へ、そして右腕に青白いエーテルのような光が集まり、持っていた刀の刃に纏われた。

「さあ帰るぞ―――エルダス」

 優しく小さな声は明らかにそう言ったわ。巨大な刃のような光は巨大なエメトセルクを斬り捨て戦いは終わり―――。振り下ろされた光の軌跡はまるで流星のように光り輝いていた。シドから報告を受けていた通りの、大技。アルフィノ経由で未知の技術だと興奮していたのを半信半疑で聞いていたけどこれは確かに興味を抱く気持ちは分かったわ。

 全ての戦いが終わった後、いつものよく知っている彼女に戻っていた。穏やかで、柘榴石色の奥底に闇を宿した旅人。やっぱりあなたはそれが一番似合っているわ。


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注意セイブザクイーン【シダテル・ボズヤ蒸発事変】の記憶探索終了後のお話。落ち込ん…

漆黒,ネタバレ有り

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漆黒,ネタバレ有り

"追想の傷"
注意
セイブザクイーン【シダテル・ボズヤ蒸発事変】の記憶探索終了後のお話。落ち込んだシドを自機なりに慰めたり家族について語る感じ。
時系列的にはメイン5.3終了までには起こってる感じ。
 
 シドは記憶探索も終わり一度山積みになっているだろう仕事のため飛空艇で戻ることにする。しかし少し歩くと待って、と呼び止められた。振り向くとそこにはいつもの笑顔を浮かべたアンナがいる。

「どうした、アンナ」
「少しだけ時間ちょうだい」

 腕を引っ張られ、喧騒から離れた場所にて2人は立つ。アンナは空を見上げていたので釣られて頭を上げた。すると頭をポンと撫でながら自らの肩へと寄せる。瞬時に赤くしていると表情一つ変えずボソリと喋った。

「色々あった日はね、フウガがこうやって空を見上げながら頭を撫でてくれたんだ。本当は星空だけど。おっと感情はまだ取っておいて」

 ニコリと笑い、耳元で囁く。それはまるで悪魔の囁きのように甘い誘いだった。

「もし時間があるなら今夜望海楼においで。お仕事ラブならそのまま帰ってもいい」

 シドの返事を聞く前に耳にキスを落とし、パッと離れた。後処理まだ残ってて探してるかも、と言いながら元いた場所へと戻って行く。1人残された男はしばらく口をあんぐりと開き、去った先を見つめていた。

「帰れるわけないじゃないか……」



 夜、飛空艇で一先ずクガネに降り立つ。リンクパールでジェシーに一晩泊まって帰るからもう少し遅くなるがいいか、と聞いてみる。怒りが飛んでくると思ったら意外なことに即機嫌の良い声で許可を貰えた。逆に不気味すぎないか、と思いながら望海楼へ向かうと入り口前でアンナが佇んでいる。テレポがあると便利だな、アンナも即こちらに気付いたようでニコリと笑顔で手を上げた。

「おやおやてっきり帰ってるかと」
「どうせ先にジェシーに連絡してるんだろ」
「バレたか」

 まさかとは思ったが本当に先回りしていたらしい。さすが準備のいい女だ、実質断れなかったかと背中を叩いてやるといつものようにニコニコと笑っていた。じゃあご飯準備してもらってるからと手を差し伸ばされる。

「本来は逆だといつも思うんだが」
「そんな顔してる男の人にエスコートされたくない」

 手を握ってやる。すると指先に軽く口付けられた後に引っ張られ、部屋へと案内された。チェックインは先に終わらせていたらしい。すれ違う従業員に物珍しい目で見られているが、アンナは仕草1つ変えずいつも通りだ。個室には既に豪勢な食事が準備され、座るように促される。

「お金は考えなくていい。何かあった時は一杯ご飯を食べて寝るのが一番」
「ストレス解消についてヌく方が効率的とか言ってた人間とは思えない発言が飛んだな」
「おうおうご飯時にそういう話はご法度」
「最近誰かさんに影響されているのではと言われたんでな」

 アンナは一体誰かな、許さないねえと肩をすくめている。シドはニヤと笑っていると、すぐに調子が戻ったのか飯を食いたいのか「いただきます」と手を合わすので、その声に釣られて同じく手を合わせてしまった。



「食事どうだった?」
「お前さんの料理ほどではなかったが美味しかったな」
「流石にプロの方がレベル高いと思うよ?」

 東方料理だけでなく、多少エオルゼアでもよく見る揚げ物等も添えられ食べ応えがあった。酒は、と問うと「絶対悪酔いするからまた今度」と言われる。
 その後アンナは苦笑しながら置かれていたタオルや浴衣を押し付けた。

「お風呂。大きい温泉、ゆっくりつかるの、いい。その間に布団敷いてもらう。ベッドもいいけど布団も捨て難し。それともご飯食べたから帰る?」
「帰らんと言ってるだろ」

 小突きながら道具を受け取り部屋を後にする。いい気分転換になりそうだ、と思いながら共同浴場へ向かった。

 言われるがままぼんやりと入浴し、部屋に戻ると確かに布団が敷かれていた。エオルゼア様式の寝台もいいが布団というものも悪くない。アンナはまだ戻っていない様子で。外を見上げると綺麗な月が雲の間から覗かせている。繁華街からの喧騒もかすかに聞こえ、その音も心地がいい。少しだけ目頭が熱くなったタイミングでアンナが部屋に戻ってきた。浴衣姿で相変わらずどこに仕舞っているのか聞きたくなるほどの豊かな胸の谷間が見える。

「おや先に―――嗚呼遅くなってゴメン」

 着替えを放り投げ駆け寄って来る。シドは思ったよりも震えた声で口を開く。

「日中みたいに」
「ん。座って」

 月明りの下、畳の上。隣に座り、アンナの肩に頭を寄せるとそのままポンと撫でられた。涙が溢れ、嗚咽が漏れる。

「泣け泣け。今は私しかいない。明日からまた笑顔を見せておくれ」

 予想だが、リンドウの言葉をそのまま口にしているのだろう。我慢できなくなり、そのまま押し倒し強く抱きしめた。

「甘えたい年頃?」
「うるせぇぞ。リンドウの真似をするな」
「嗚呼そういう。人の慰め方を他に知らずつい」

 ごめんごめんと言いながら身体に手を回し、抱き返す。その後アンナは何も言わずその堰き止めていた感情を受け止めていた。



「すまん、アンナ。ありがとな」
「別に。いいモノ見せてもらったしそれ位」

 少しだけ落ち着いた頃、アンナは突然思い付いたかのように脇腹へと指を這わせた。

「私的にはその銃創の謎が解けたからボズヤのレジスタンスに協力してよかったなって。―――あーあ、誰かさんのせいで自分勝手な考えをするように」
「っ、それでもいいんじゃないか? アンナは完全に部外者だろ」
「その部外者のくせに首を突っ込んで去るのもまた無名の旅人。―――ってそんな顔しないでよ冗談冗談。もうただの旅人さ」

 ジトリとした目を避けるように苦笑している。シドは「次言ったら分かってるよな?」と眉間に皴を寄せるとアンナは「はいはい」と窘める。

「ねえシド」
「どうした?」

 アンナは何かを言おうとする。しかし首を傾げた。どうしたとシドは再び尋ねるが、目を閉じたまま固まっている。

「何か、言おうとした。でも分からず」

 ようやく口を開いたと思ったらよく分からないことを言っている。必死に考えこんでいるようだ。

「ごめん、シド」

 頭をグシャグシャと掻きながら悩み続けている。珍しいと思いながらシドはその風景を見つめた。
 アンナは確かに何か言おうと思っていた。しかし突然頭が真っ白になり、何も浮かばない。"結論がついたらすぐに報告する"と約束したのに、それを表現するための言葉が頭から消えた。あんなにも人を口説いていたはずなのに。それに早く言うこと言っておかないと―――。

「まだ、足りないかも」
「うおっ!?」

 シドを強く抱きしめ、撫で続ける。肩に顎を擦りつけながら強く、締まる位に。流石に苦しくなってきたので腕を掴み抗議した。

「アンナ、流石にお前の腕力で手加減無しに抱きしめるのは」
「……ゴメン」
「その辺り考えられん位悩むことって何かあったのか?」
「う……」

 そっぽを向き、何も言わない。いつもより子供っぽい姿に笑みがこぼれた。くしゃりと頭を撫で、口付けた。

「別に今すぐ言わないといけないことなんてないだろ? ゆっくりでいいさ。それとも何かやらかしたのか?」
「そう、だね。別に悪いことして言葉詰まってるわけじゃないよ。失礼。あ! そうだ!」

 どうした、と聞くと目を輝かせながら話を促す。

「あなたの家族の話、聞かせて」
「……そんなのでいいのか?」
「色々確執が消えた今だからできる話ってあるでしょう? 気が変わる前に早く」

 それもそうかとシドは呟いた。提案しておいて気が変わる前にとかなんて我儘な人間なのだろうかとも思う。だがあの人に興味を持たない女が話せとせがむのだ。悪い気はしない。優しかった少年時代の家族との日々を少しずつ紐を解くように話す。アンナはずっといつもの笑顔で聞いていた。そうしながらも、まるで自分に欠けている部分を補完するかのように、家族やその周りの環境について尋ねる。

「お互い帰らずの故郷で知らない家族の話なのに、聞いてて楽しいなんて思わず」

 一通り話終わった後にポソリと呟いた言葉が印象的だった。

「お前さんはいつでも兄に手紙で家族のことは聞けるだろ?」
「兄さんは血が繋がった家族の話はしない。母さまはとっても厳しい人だし、"聖なる場所"へと旅立った父さまとも色々あって」

 そういえばこの兄妹の家族についての話は一切聞いたことがなかったなと思い出す。しかし思ったより珍妙な単語が出た。首を傾げてしまう。

「聖なる、場所?」
「ヘーヘっヘっへっ、この世にゃ知らなくてもいいことっていっぱいあんだぜ兄ちゃん」
「何だその口調は」
「まあ死んでるって感じでいいと思う。顔の記憶すらないから会ったことないんでしょ、多分」

 その場所もどういうものかは私も知らないしとはにかんでいる。

「……お前の故郷、グリダニアも吃驚な余所者お断りの面倒な村だな?」
「超純血主義の帝国出身な人に言われても。あと成人前に飛び出したから故郷のことは知らなぁい。ささ、もう寝よ? 明日少しでも早く会社に戻ってあげなきゃ」
「話題逸らされた気がするんだが」

 第三の眼付近に口付けてから目を閉じる様を見たシドのぼやきは虚空に消える。相変わらずアンナという存在を全て掴めた気はしない。いつか知ることはあるのだろうか。―――とりあえず帰ってから少しだけ兄に聞いてみよう。そう思いながらその冷たい身体を抱きしめ、目を閉じた。


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#シド光♀

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注意漆黒以降の自機が子供化ギャグ概念をまとめたページです。漆黒以降のキャラがいる…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

長編:旅人は子供になりすごす
注意
漆黒以降の自機が子供化ギャグ概念をまとめたページです。漆黒以降のキャラがいるのでネタバレ有りに入れています。キャラ崩壊がすごい。
ネロ+光♀気味のシド光♀。ネロと自機はお互い気が合う友人以上の感情は一切無し。その4だけシド光♀です。
R18パートはがっつり特殊性癖なので自己責任で。

長編
その1 // その2 // その3 // その4

フルver(R18入り、約35,000字程度。5日目からシド光♀)
1日目 // 2日目 // 3日目 // 4日目 // 5日目 // 6日目 // 【R18】7日目 // エピローグ

後日談
【R18】後日談:目覚め直後の恨みつらみ :: 自機が大人に戻った日の朝の話。シド光♀。

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注意漆黒以降暗黒騎士の力を手に入れた自機と影身フレイの短編3本立て  …

漆黒

#シド光♀ #フレイ

漆黒

ウサギは影と踊る
注意
漆黒以降暗黒騎士の力を手に入れた自機と影身フレイの短編3本立て
 
"英雄"
「逃げたくないのですか? 英雄という枷から」
「フレイ」

 目を開くとひょろりと長い影がアンナを見下ろしている。どうやら自室のソファで寝落ちしていたらしい。決してその顔を覆うバルビュートを外さない彼の者フレイは主の答えを待つ。

「何度も逃げようと思ったさ。でも今が一番楽しい」
「楽しい、ですか」
「そそ。辛いこともあったし、苦しかった時もあった」

 脳裏に浮かぶのはこれまでの旅路。英雄と呼ばれるようになり数々の陰謀に巻き込まれてきた。しかし"運のいい"彼女はいつも差し伸べられた手を握りしめ走り続ける。フレイは未だにその姿が不安に思っているのだろう、安心させるかのように優しく語った。

「でも何も目的もなく嫌な目で見られながら旅をしていた頃に比べたらマシさ」
「……それはあなたが手にしてしまった力のせいですか?」

 手にしてしまった力、それは命の恩人に教えてもらった"無駄に強い"もの。そもそもそれが原因で悲惨な目に遭い、"鮮血の赤兎"と恐れられた時期もあったのだ。フレイはそれを言いたいのだろう、アンナは笑う。

「そうだよ。でもこれは人を護るために教えてもらえた唯一無二のものなんだ。誰にも否定なんてさせない」
「そう、ですか」

 フレイは洗練された動きで跪き、寝そべるアンナと同じ視線で見やる。アンナはクスリと笑いそのバルビュートの口元に手をかけるが大きな手で阻まれてしまう。ケチとボソリと呟くと金色の双眸を細めながら額を指で弾かれた。

「いけません。あなたには見せられない顔な故」
「いいじゃん減るもんじゃなし」

 唇を尖らせて不満を言う様にクスリと笑う声が漏れていた。直後アンナを抱き上げ、ベッドに優しく落とす。一瞬驚いた顔を見せたがすぐにいつもの余裕のある笑顔を見せた。

「あなたが英雄であり続ける限り、"ボク"もあなたと共に戦いましょう」
「ええ。折角闇と向き合おうって決心した成果なんだから地獄の果てまで付き合ってほしいね」

 おやすみなさい、とフレイが言うとすぐにアンナは目を閉じ、寝息を立てている。クスリと笑い声を漏らし寝台から離れ、ドレッサーの前へ立った。その眼を閉じてバルビュートを脱ぎ、その顔をじっと見つめるように開いた。

―――長い銀色の髪に青色の目。左の目元に傷があり、長い耳を揺らした男はため息を吐いた。

「おぬしの闇、ということは"私"が出て来るのも仕方のない話」

 自らと溶け込んだ"フレイ"、そして主人格である"アンナ"と同じ笑みを浮かべ、眠る赤髪の女をじっと見つめた。

「地獄の果て、か―――そこへ行くのは"私"だけでよいのだ、エルダス」

 再びバルビュートを被り、闇に溶け込むように消えた。

 
"修練"
―――影はどんな武器も扱うことが出来た。

「うーフレイ強すぎ」
「あなたがまだ未熟なだけですよ、アンナ」

 フレイは暗黒騎士の影でありながらも数々の武器を"影"で作り出し、修練に付き合ってくれた。稀にリテイナーのアリスも手伝ってくれるがやはり自分の影で殴り合える方が楽しい。と思っていた。自分の影なら実力が互角になるというのがお約束だろうにフレイの方が圧倒的に強くあっという間に転がされる。両手剣も、斧も、双剣も、刀や槍でさえ勝ることはない。息一つ乱さずその金の目で確実にクセを読まれ弾かれる。一度勝ったはずの相手なのに、自分と混じり合った影響で余計に強くなるなんて予想外だ。

「手加減しろー」
「しています」
「その武器の射程減らせー」
「本番に弱くなりますよ」

 重そうな鎧と視界が狭そうな兜を被っているくせにどうしてそんなにも軽やかに動けるんだとアンナは悔しがる。
 しかし裏返すと共に戦う時は心強い味方になるということだ。

「ほらもう今日はもう終わりにしましょう。2時間ぶっ続けは疲れましたよね?」

 そして程よいタイミングでこうやって自分を甘やかす。勝てないな、そうアンナは苦笑を浮かべた。

「今日は何を食べようかな」
「蕎麦とかどうでしょうか?」
「もーフレイ本当に蕎麦好きだね。天ぷらと食べようか。今日シド来る予定なんだよね」
「……"ボク"の分はなしと」
「フレイどの道私の前じゃ食べないじゃん。おにぎりと一緒に置いとくから夜中に食べて」
「寿司にしてください」
「はいはい」

 フレイは東方料理が気に入ったらしい。食事は特に必要ない性質らしいがやはりあると意欲が上がるようで「美味しいですよ」という言葉を聞いていて楽しい。
 兜を脱ぐからかアンナは食べている所を見たことはないが。気が付いたら空になった食器があるのが日常である。

「いつか一緒にフレイとご飯食べたいな」
「考えておきますよ」

 こう言う時は大体考えるポーズを取るだけなのは知っていた。まるで「努力しよう」と言うシドのようだと頬を膨らます。自分よりもすらりと高い影を見上げ、鎧を小突いた。

 早々に仕込みをし、デスマーチで疲れたシドを迎える。側に置いてある3つ目の皿に首を傾げる男をケラケラ笑いながら夜は更けていった。
 深夜、2人が寝静まると影は音を立てず形を作り暗闇の中食事を摘む。バルビュートの口元を外し青色の目を細めながら幸せそうに笑うアンナの顔を浮かべ、再び闇に溶け込み消えた。次の日、寝る前はあったはずの天ぷらが消え慌てる何も知らないシドに「夜食はダメ。太るよ?」とからかい笑うアンナの姿があった―――。

 
"浮気?"
「アンナが見知らぬ男と鍛錬してた?」

 シドは大きなため息を吐いた。整備帰りの社員が偶然飛空艇の上から見かけたらしい。全身甲冑を纏った長細い男と思われる人間と戦っていたのだという。見た所、喧嘩や殺し合いというわけでもなくアンナが斬りかかっては弾き飛ばされ転がされていたという話はにわかには信じがたい。あの負け知らずのアンナが、見間違いではないかと言うが間違いなく黒髪赤メッシュヴィエラ女と聞くと本人だろう。まさか今になって何も言わず他の男の所に行くとは思えないが、また変なことをしている想い人にため息しか出ない。試しにリンクパールに繋げてみる。

『もしもし』
「アンナ、今いいか?」
『何か私の力が必要になる変な仕事でも?』
「いや、最近お前さん修行でもしてるのか?」
『―――あー』

 どこか歯切れが悪い。息も少し上がっている気がする。

『してないしてない。ごめんちょっと用事思い出した。切る』
「お、おいアンナ!」

 プツリと切断される。怪しい。

「なあレフ、アンナが何か怪しいのだが」
「また喧嘩でもするのか?」
「そういえば先日飯食いに行った時も変だった」

 1人分余分に作られ、目が覚めると無くなっていた。おかしいと思わないかと言うとレフは肩をすくめネロは爆笑している。

「寝ぼけてどちらかが食ったでなければネズミでもいるんじゃないか?」
「ネズミ」
「ケッケッケッ、いやあ分かンねェぞ新たなバブーンでも拾ったンじゃね? ヒトじゃなくてガチモンの野生生物をな」
「お前たち人の不幸を面白がってるんじゃない。というかそこらの生物に天ぷらを食わすわけないだろ」

 とりあえず本日最終便でリムサ・ロミンサに行くかと拳を握る。



「フレイ、シドに察されたかも」
「言えばいいじゃないですか」
「まだ遊べる」

 アンナはリンクパールを切った後自らの影と対話する。鍛錬の合間にかかってきて平静を装うのも疲れたと座り込んだ。

「妙な勘違いされて痛い目を見るのはあなたですよ? アンナ」
「むーそうなんだけどどう説明すればいいのかも分からんね」

 闇と向き合いもう1人の自分が影身として具現化し、それと修行をしていますなんて言える? と聞くとフレイは肩をすくめた。

「"ボク"だったら呪術士の元に連れて行くかもしれませんね。マハで妖異にでも憑かれたかもしれない、助けてほしいと」
「ほらー!」
「はい休憩は終了です。続きを始めましょうか」

 フレイはアンナから欠けていた感情である。"無名の旅人"として負の感情を触らないようにし、斬り払うように奔り別の世界までも救った。
―――きっかけは護ると決めた男だった。英雄という道を作ってくれた白い星と一度次元の壁に隔たれた時のお話。"それ"が牙を剝き、蹂躙する光と共に襲い掛かって来た情景を思い出すだけで未だに身体が震えてしまう。もうそんな弱さを露呈させるわけにはいかない。だからどこか懐かしさも感じる男に、今日も刃を向け、その不安を落ち着かせるため修練を重ねる。
 溢れ出した感情に引っ張られた"力"が"また"誰かを傷つけるのではないかと手が震える。―――自分が使う"力"がまだ大切な人たちを傷つけたことがないはずなのに、不安が襲い掛かるようになった。何度も護ると決心した人間までも傷つける夢を見るようになり、目が覚めた後何度も小さな声で謝る時もあった。そんな時にエーテルで補強された長細い影のフレイが現れ、修練に付き合ってくれるようになる。そうだ、英雄であるために、また弱さと向き合うために。アンナはシドにも秘密にし、その剣を自分より頭一つ位大きな自らの影に振るう。"内なる存在"とはまた違う相棒という存在が、久々にアンナの心を滾らせた。
 ニィと笑い、腕に力を集中させる。

「ああ、私はまだやれるさ」
「ええ、あなたの全力を"ボク"に見せてください」

 空気が震え、赤黒い光を抱きしめる。怒りも、この護るという意志も全て、自分のものだと飲み込みながらその力を穿った。

「あーご主人らやってんねぇ」

 1人と1体に悟られない距離まで離れた場所。白衣を纏った金髪ミコッテの青年は、カラカラと笑いながらスコープを覗いている。アンナのリテイナーであるアリスはそのエーテルの塊である影を凝視しながら呟いた。

「イシュガルドの暗黒騎士ってやつァよく分かんねぇな。ちと調べて今後の参考にすっか」

 2人の歪んだ"家族団欒"(修行)を邪魔するわけにもいかねぇしよ、と踵を返し、掘り出し物探しへと走り去っていった。



 シドは貰った鍵を回し、扉を開いた。既に真っ暗で寝息が聞こえる。珍しくもう眠っているらしい。少し遅い時間だったが、思えば一言も連絡なしで来たのだから何も準備されていないだろう。
 連絡を交わしてから全く集中出来なかった。レフが手回ししたのか、きちんと飛空艇の最終便へ間に合うように帰らされる。明日は朝一の便で行けば大丈夫だろうと感謝しながら軽くため息を吐いた。
 椅子をアンナの前まで運び座り見つめる。そして頬に手を近づけた瞬間、「もし」と声をかけられた。アンナと自分以外誰もいないはずなのに、だ。

「レディの寝込みを襲いに来たのですか? なかなか大胆なことで」
「っ!? 誰むぐ」

 真っ黒なガントレットがシドの口を塞ぐ。見上げるとひょろりと長い全身鎧姿のヒトが口元に指を当て見下ろしていた。明らかにアンナよりも背が高く、輝く金色の目が少しだけ恐ろしく見える。

「"ボク"だってあからさまに不審な態度で連絡を切られたら、その日のうちに様子を見に来る。申し訳ございません。"我が主"はどう説明すればいいのか、悩んでいただけ」

 まあまだ遊べるとも言っていましたがとくすくす笑う男の声に眉をひそめた。

「お前は、誰だ」
「フレイとでもお呼びください。"ボク"はアンナの影、闇が具現化したもの。所謂アンナの弱さ、"負の感情"」
「何を言っている。アンナは弱くないが」
「そうとしか説明が出来ないのですよ。あぁ既に表舞台から去った存在たちとも言えますね」
「……こいつは"また"厄介なやつに絡まれているってことでいいか?」
「新たな力を使いこなすための修行中、と言ってほしいですね。兎に角あなたの敵ではないということだけ分かっていただいたら幸いです」

 のらりくらりと自分の質問を躱す姿に頭痛がし、少しだけ眉間に皴が寄って行く。

「もしあなたに危害を与えてしまうと、"我が主"が怒ってしまいますからそんな目をしないでください。殺意を持たれたら、手が出てしまいます」

 フレイと名乗った男は跪きシドの手を優しく握りしめた。先程まで怖く感じた金の双眸が細められ、じっと見つめる様にどこか懐かしさを覚え少々緊張が解けていく。

「"ボクたち"は"我が主"の心の壁を壊し、氷を融かしたあなたに感謝しています。だからどうか、これからも末永く、"この子"を頼みたい」

 返事を返す前にそれは暗闇の中に溶け込み、消えた。顔が熱い、そう思いながらコートを脱ぎ頭を冷やすためにシャワーを浴びに行く。「俺は、疲れてるんだな」というボヤキは水音でかき消された。

 シドがシャワー室へと向かい数刻後、再び影は形を作った。バルビュートを脱ぎ不器用な笑顔でその先を見つめている。

「確かにあやつの言った通りか。エルが複雑な感情をもつわけだ」

 男の目に宿っていた星のおかげで"圧倒的な力"に怯えず前へ進む"主"の髪を優しく梳き再び溶け消えた。直後、シドはブランケットで髪とヒゲを乾かしながら現れる。寝台で眠るアンナの横に座るとふと腕を掴まれる。

「し、ど?」

 半覚醒状態のアンナがとろんとした目でシドを見ている。

「ああ起こしてしまったか?」
「ん、だいじょーぶ」

 まだ寝ぼけているようだ。普段だったら「何でいるの!?」と驚くだろうに。ここにいるのが当然のような動きを見せているのが少し面白かった。

「ねえ、はやく、寝よ?」
「ああ俺もちょうど疲れてたんだ」
「ん、おやすみなさい」

 心の中で浮気ではないようでよかったと安堵する。冷たい身体を抱き寄せ、目を閉じた。



 いつもの起床時間だとアンナは目を覚ます。何だか身体が重いとその腕を掴んだ。

「……腕?」

 視界は肌色。飛び起き、隣を見ると寝る前にいなかったはずの男が眠っている。記憶を呼び寄せてもトップマストの一室に来るという連絡は受けていない。アンナは首を傾げ、まずは日付を思い出す。間違いなく休日ではない。ということは朝一の便で帰るということか。
 時計を見やり、「こっちに来る時は事前に連絡!」と言いながらゲンコツを入れるとシドは情けない声を上げながら目を開けた。

「ああすまん。お前さんがまた変なことしてるのかと思うと居ても立っても居られなくなってな」
「寝ぼけて変なこと言ってる? 軽く朝食作ってあげるから遅刻しないでね」
「ん、ああ勿論」

 言ってくれれば晩飯も置いといたのにとボヤきながらエプロンを付けキッチンへ向かう。シドは「日中用事があるって一方的に通信を切った人間の言葉じゃないな」と目をこすりながら着替えを手に取った。

「それで? アンナ、俺に『まだ遊べる』って隠していることとかないだろうな?」
「……ナイヨ?」
「いつか話すんだぞ。苦しみも全て、一緒に背負うって言っただろ」
「―――分かってるつもりさ」

 ジトリとした目で睨むシドから目を逸らし、焼いたパンをいつもより多めに押し付ける。一連の動作に子供かと思いながらコーヒーを啜るのであった。


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#シド光♀ #フレイ

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注意漆黒5.0終了直後の自機が人に"興味"を持ち始める話。シ…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

旅人は星を見つける
注意
漆黒5.0終了直後の自機が人に"興味"を持ち始める話。シド少年時代捏造。
 
 最初に抱いた感情は同じ帝国に狙われた可哀想な人。記憶を失い、現地民に疎まれ、更に祖国から追われている様に同情する目を向けることしかできなかった。陰気なやつだと思っていたが話をしてみると意外と優しい人間で気に入った。初めてもらった"道しるべ"を隠し持って、彼らを追いかけることにする。
 "彼"が記憶を取り戻した時、"彼"は"ボク"が護ると約束した人だと思い出してしまった。"彼"が歩む先の障害を排除する。大きな声で言えないがとても楽しかった。

 英雄という存在となったボクはいつも不安だった。それでも"彼"がいれば何とかなる、頼られるしもう少しだけ頑張ってみようかなと思うようになった。何よりも『絶対に生きて帰ってこい』、それは新たなボクを縛り付ける言葉。でも全然苦しくない。それどころか力が湧き出てくる。どうしてなのかは分からなかった。

 "彼"の前で、ボクは少しだけ自分を見せることにする。理由は簡単、キミを護る存在だということを分かって欲しかったから。
 何も考えたくなかったので過去のボクを完璧に捨てる儀式を"任せる"。忘れさせることで頼られれば、歩み寄り、必要無くなったならば表舞台から消えてしまえばいいんだ。思えばそれが一番の間違いであり、2人の関係を表す歯車が軋みだす瞬間だったのかもしれない。要するに"内なる存在"に嵌められたってことだ。

 いつの間にか、ボクを見る"彼"の目は熱く焼かれそうなほどのものに変わっていた。でも、真っ白な自由の象徴である彼の隣に立つ存在は、もっと綺麗で護りたくなるような人間がいいに決まっている。誰に対しても優しいあなたの心を乾かさないために、ボクは助けを求められるまま存在していればいいんだよ。
―――ボクは幸せになるべきではないし人を幸せに出来るはずがない、そう思っている。だから、だからボクにそんな目を向けないで。

 初めて身体を重ねた夜、ここで白い"彼"の内面をドス黒く染めてしまっていたことに気が付いた。どこで間違えてしまったのか、ボクには分からなかった。
 これ以上は、ダメ。キミと幸せを共有できる人間はこの広い星空に沢山存在する。その星々ごと、護らせてほしい。ただそれだけで今のボクは救われるんだ。
 どうやらボクがやってきたことは人を勘違いさせるただ無償の愛を降り注ぐだけの行為だったらしい。違う、ただその星に光が灯されていればいい、そう思っていただけだよ? かつてのフウガと同じことをしていただけだったのに、何でそんな顔をして、ボクを見てるの?

―――だってキミはボクより遥かに早く死ぬ人間なんだよ? キミが死んだ後、どうしたらいいの? 一生想いを引きずって苦しんで最期は発狂して死ねって言いたいのかい?
 そんな余計な感情を抱くくらいなら。フウガの教えの通り名も無き旅人で居続け、全てから逃げ続ける方がマシなんだよ。だから、その手を離して(ボクを助けて)抱きしめないでよ(嫌いにならないで)

 原初世界でのにぎやかさに対し第一世界では、"孤独"だった。いや、仲間や"内なる存在"はいる。嫌味を言いながらもフォローに回る敵か味方か分からない存在もいた。この世界の住人もとても優しくて、眩しかった。でもボクの心は乾き、溢れる光を身体に取り込み続ける。
 どこがゴールか分からぬまま、とにかく走り続けた。それは長い間やってきた旅と同じ筈なのに、空虚で悲しい気持ちに支配され壊れそうで、それでもボクは足掻き続けた。

 全ての大罪喰いの光を喰らった後、意識が真っ暗になった。ハッと気が付くとあの男を消滅させ、世界の滅びも一次的に回避できた"らしい"。
 自分の身を挺してまで光を吐き切らせたアシエンを、ボクはどう思っていたのだろう。―――そうだ、この人も命の恩人だった。かつては闇を剥がし、次は光を剥がしたボクの中にあるナニカを見出した可哀想な人。どうか安らかに、星になっていて欲しい。

 仲間たちから一度原初世界へ報告しに帰れと言われた。正直、あの夢での件もあって少々会いたくなかった。だって答え合わせをする前に答えを出してしまったようなもので。しかしそれを誰かに言えるはずもなく、仕方ないから石の家で報告してからすぐに戻ろう。
 タタルに「ガーロンド・アイアンワークス社に顔を出してあげてほしいでっす! 皆会いたいって言ってたでっすよ!」と言われた。まあ今回霊災を回避できたのは別の時代の彼らなのだ。感謝を告げてからシドと鉢合わせする前に戻ってしまえばいいだろう。足取り重く護るべき者たちがいる場所へ向かった。



 足取り重くガーロンドアイアンワークス社に訪れるとシドから逃げていたはずのネロが立っていた。

「あれ、ネロサン。逃走生活終了?」
「なンだお前帰って来てたのか。……珍しく辛気臭ぇ顔してンな」

 そうだよだって休みなしで世界救ってきたしと肩をすくめて見せると「おつかれさン」とニィと笑っている。

「で? 他の世界には何か珍しい技術でもあったか? またレポートに纏めろよ」
「キミはねぇ……あったよ。時代と次元の跳躍とかいう現実感のないすっごいのがね」
「ヒヒッそりゃよかったことで。そんなモン作った天才に是非ともお会いしたいナァ」

 その内の一人はキミだよと言いたい気持ちを今は抑え笑顔を向ける。

―――この時のボクは何故わざわざネロがここで待ち構えていたのか、その意味を察しないまま逃走準備を進めていた。ここでやるべきはテレポだったと思う。

「まあボクは元気ってシドに伝言よろしく。別の時代の君たちのおかげでボクは死ななかったんだ。いやあこう戻って来ても暁の皆は第一世界から帰れないままだし。皆で手がかりを探してる所」

 手を上げ、踵を返す。「おいメスバブーン待てよ! 止まった方が自分のためだぜ?」という言葉を無視し、顔を上げ入口を見るとジトっとした目で仁王立ちしたシドがいた。

「はい?」
「お前さんやっぱり逃げる気だったか」

 ワンテンポ反応が遅れた隙にいつの間にか手に持っていたバズーカのようなものがボクに向かって撃ち込まれる。それは強力な網のようなものであっという間に捕らえられ倒れ伏せてしまう。ネロを見やるとニィと見下しており、「ま、まさかネロサンもグル!?」と言ってやると「だから言ったのになァ!」とゲラゲラ笑いながらどこかへ行ってしまった。軽々と持ち上げられ担がれていく。
 出会う社員たちに「アンナさんおかえりなさい!」やら「よかったですね会長!」やら罰ゲームのような雰囲気を味わう。力を込めても全く切れそうもない材質って何だよと思いながらなんとか指を網に向け「バァン」と火で穴を開けようとすると網全体が熱くなる。

「あっつ!?」
「アンナお前何やってるんだ!? 熱っ!」

 シドも思わず手から落としてしまうほど熱くなった網をバタバタと暴れるがびくともしない。

「我が妹!!」

 その時扉が勢い良く開き赤髪のヴィエラが飛び出してきた。シドは唖然とした表情で見ている。

「兄さん!?」
「駄目じゃないか! その網は僕が焦がしたらあっさりと切れてしまったからその反省点を生かして改良したんだよ。まさか妹の身体を火傷だらけにさせてしまう機構になるとは思わなかった、嗚呼可哀想な我が妹よ。うん、そこは反省している。よし反省会終わり。これは次回以降の改善点にしておくとして。じゃあ冷ましてやるから待ってろ」

 懐から何やら金属片を持ち出しそれを当てるとあっという間に冷たくなった。

「え、あ、ありがとう兄さん」
「ところで妹よ、僕は今ここにいるのは妹には秘密にしてるんだ。だから内緒な」
「うん? ……うん、分かった」
「おつかれ、よく頑張ったな」

 頭をぐしゃりと撫でられそのまま兄はどこかに去って行った。そっか内緒にしておかないといけないな。そう思ってると怪訝な顔をしたシドは再びボクを持ち上げて部屋へ運ぶ。抵抗する気も失せた。自室に連れ込まれた後その網を切り、笑顔を浮かべていた。

「さあアンナ、"宿題"の答え合わせをするか」



「怖いよな、失うことって。リンドウも自分の刃に大切な人を巻き込みたくなかったから逃げていたんだ」
「はぁ!? キミに何が分かる! フウガはそんな腰抜けな人間じゃない! ……ってあっ」

 最初に口に出したのはまさかのフウガの悪口。つい感情的に言い返してしまったことに気が付き口を閉じる。シドは優しく笑っていた。

「いいや、あの人は今のお前のように全て怖くなったから逃げ出して感情を封印してたんだ。―――俺は絶対、お前の目の前で死ぬさ。ああ決められた寿命ギリギリまで生きて死んでやるって約束する。でもお前は、俺の目の届かない所で死にたいんだろ? 死に目にも立ち会えず、苦しめって言うのか?」
「それは、だって私は沢山の人に恨まれて、苦しむんだからそれを誰にも見せたくないからで。どうせ先に死ぬキミが苦しむことなんて―――」
「俺も一緒に背負う。見て見ぬふりなんてしない。刃は1人でに動かないだろ? 整備も必要だし、それを行使するヒトも必要だ」
「ダメ! キミは自由で。キレイで。皆の前に立って。笑顔で幸せな所を見せて。そして私がキミを護らせてくれたらそれでいい。私を、そんな目で見ないで」
「俺は綺麗じゃない」

 頭をくしゃりと撫でられ、額をこつんと合わせる。

「俺はアンナが好きだ。だからお前を絶対に獣にはしない。俺はお前が最大限の力を発揮するための道を示す、星になる。だから、もう無名の旅人にならなくてもいい。アンナ・サリスとして隣に立っていてくれ。"お願い"だ」

 シドがボクの手の甲に口付け笑いかける。朧げな記憶の中に残っている寒空の夜と、逆の姿。星、そうだボクは星を探していた。熱く光り輝く星を、ずっと。"彼"の目に宿る星を見る。ボクはザナラーンの星空の下でこの星を見た時、気に入ったと思ったのだ。

「ねえシド、本当に私は人の隣に立つ資格はあるの? いっぱい、捨てて来たしキミも捨てようとしたのに」
「だってお前ずっと俺のこと好きでいてくれたじゃないか」

 は? この男は何を言っているのだろうか。ボクが特定の人間に感情を抱くわけがない。それがフウガの教えで。でも。

「お前も俺も、もう相手無しで生活なんてできんさ。観念しろ」
「そう―――かもしれないねぇ」

 温かい手を握り、目を閉じた。反証する材料が手持ちに一切存在しない、いい加減観念するべきだろう。だがそのための材料も足りない。

「でも感情に関してはもう少し待ってほしい」
「この段階まで来て何を」
「あなたに興味が湧いたんだ」

 キミはボクなんかのことを頑張っていっぱい探してきて結論を見つけたかもしれない。でもボクはキミのことは何も知らないんだ。ただたくさんある星の1つを愛でていたにすぎない。

「あのね、私はあなたの歩んできた道は一切知らない。興味なかったから」

 魔導院時代の話も、後見人だったガイウスとの因縁も、その脇腹の銃創の意味も。父親を失い亡命するきっかけになった事件もこれまで一切興味が湧かなかったのだ。

「今教えなくてもいいよ。私だって自分の足で探したい。その旅が終わったら、即結論は教える。だから―――」

 口付けてやり、少しだけ屈みその相変わらず分厚い胸板に頭をぶつける。汗と機械油の匂いにボクは"ここ"に帰って来られたんだな、と安心した。それに、さっきから少々人に見せられない顔になっているだろう、恥ずかしいんだ。

「第一世界は、1人で怖かった。そんな世界を頑張って救って帰って来たんだよ? 労ってくれてもいいじゃないか。兄さんやネロサンと違って帰って来るなり答え合わせとか言い出してさ。そんながっついて来ないでよ。子供か」
「あ。す、すまん」

 頭に温かな手が置かれる。そこでボクは声を出しわんわんと泣いた。こんなに泣いたのは、フウガの前で崩れた時以降一切なかった。

『蒔いた種はようやく実りやっと一歩前進、か。遅すぎ』

 内なる存在の声が聞こえた気がした。意味は理解できなかったが今のボクの感情に対して邪魔をする気はないらしい。

『泣け泣け。奴しか見てないんだからさ』

 温かさに包み込まれながらボクはこの世界に戻って来られた喜びを噛み締めた。



 声を出して泣きじゃくる彼女の頭を撫でてやる。確かに労いの言葉もなしにこっちの言いたい事を投げ始めたのは悪かった。早くしないと"また"逃げられるかもしれないと慌てた想いが先行してしまっていた。
 第一世界で何があったかはまだ話をしていないかは分からない。夢で見た地点で参っていたのは分かっていたが、相当精神的にも肉体的にも限界が来てたらしい。素直に一緒にいた暁の血盟の人間に助けを求めたらよかったのにと肩をすくめる。しかしそれを覚えてしまったら自分の所に来る頻度が減ってしまうじゃないか。そう考えると今のままでもいいかもしれない。
 しかしキスを交わしこうやって弱音を吐いてまだ感情を抱いてませんこれから考えますは嘘だろ? と思ってしまう。既に一線は越えているしあと何が必要なのかと聞きたくなるが流石に喉元で抑えた。

「おつかれさん」

 顔を上げさせ、彼女の顔を見つめた。頬を赤らめ、涙が溢れる目にいつもの余裕ある笑顔はなく弱々しい声で「見るなぁ」と言っている。

「ゆっくり結論を探せばいい。どうせお互い多忙で滅多に会えない関係なのは変わらないからな」

 そうだ、自分たちはそれぞれ周りに求められている存在だ。今までも何とか時間を作り逢瀬を重ねてここまで来た。それはこれからも変わらないだろう。強く抱きしめ、久々の冷たさを味わった。


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#シド光♀

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注意・補足森の名を知りたいシドと全てを教えたい自機のギャグ概念です。レフ:エルフ…

漆黒

#シド光♀ #ギャグ

漆黒

"名前"
注意・補足
森の名を知りたいシドと全てを教えたい自機のギャグ概念です。
レフ:エルファー・レフ・ジルダ。アンナの実の兄。笑顔がヘタクソ。妹に負い目を感じている。
ア・リス:アンナが雇った新人リテイナー。エルファーの友人と似ているらしいが…?
リン:リンドウ・フウガ。アンナの命の恩人にして旅の始まりにして元凶。不器用で感情表現が下手な枯れた男。20年前には死んでる。
 
「アンナ、そろそろ名前教えてくれてもよくないか?」
「はい?」

 シドの一言が今回の長い戦いの始まりだった。

「もしかしてボケ始まったやつ? アンナ・サリスさ」
「違う。それは今エオルゼアで名乗っている"街の名"だろ? ていうか今ボケとか言ったか?」
「おっと口が滑ってしまった。―――それでいいじゃない。今の私はアンナだよ」

 アンナ・サリスは彼女がエオルゼアに来てから咄嗟に名乗ったものだ。生まれた時に付けられた名前ではない。集落で名乗っていた生まれながらの名前は"森の名"と言うらしい。ヴィエラの女性は部族名がファミリーネームと聞いている。なのでエルダスという所までは把握しているのだが、そのファーストネームは未だに不明なままであった。

「その、好きな人間のことは全て知りたいに決まってるだろ? 普段呼ぶ呼ばない関係なく」
「そういうものなの?」
「そういうものだ」
「ふーむ全てを知りたい、ねぇ」

 しばらく考え込む姿を見せる。「よし」と呟きアンナは口を開く。

「ネリネ」



「レフ」
「おや会長クンじゃないか。どうした?」

 シドは小走りでアンナの兄であり、社員として働いているレフに話しかける。

「アンナの"森の名"って知ってるよな?」
「勿論。実の妹なんだからな」
「ネリネ」

 その単語にレフは首を傾げる。シドは反応を見てため息を吐いた。

「違うんだな?」
「違うな」
「教えてほしい」
「本人から聞き給え。答え合わせはしてやろう。僕以外に判断要素がないだろうからな」

 やれやれと肩をすくめる姿にシドは拳を握り、「絶対に聞き出してやる」と闘志を燃やしている。
 近くでコーヒーを啜っていたネロは呆れた目でその風景を見ていた。



「アマリリス」
「……違うな」
「ダリア」
「かすってもいない」
「カリス」
「文字数も違う」
「ガーベラ」
「一文字もないな」
「ルディン」
「ない」
「スピネル」
「全く違う」
「ガーネット」
「ソル帝の前で名乗ってたやつじゃねェか?」
「確かに」
「ベリル」
「もう4文字の名前が出るまで僕に聞くな」

 直接会った時、リンクパールで連絡した時、一緒に食事に行った時。数々の逢瀬で聞き出してはレフに尋ねに行く。そういえば珍しくリンクパールを常に付けていたりレヴナンツトールに滞在を続けているなと考えがよぎる。だが全く真実に近付きそうにもない状態にシドは歯ぎしりをする。どうしてそんなにも躱そうとするのか、本当に嫌なのならばはっきりと断ればいい。その筈なのに延々と偽名を口に出すのは意図が読めない。ため息を吐いた。



「おっ今日もいいもの持って帰って来たぜご主人!」
「ご苦労様、ア・リス」

 アンナははにかみ最近雇ったリテイナーである金髪ミコッテの青年から掘り出し物を受け取る。今日は奇妙な歯車と食材のようだ。お礼を言いながら再び給金代わりのスクリップを渡そうとするとア・リスは首を傾げる。

「ナァ最近シドのダンナ機嫌悪くね?」
「まーたどこで覗いてるのかな? 名前教えろって言われたから教えてるだけだよ」
「森の名をか? 教えりゃいいじゃん」
「あっさり言ったらコミュニケーションが終わっちゃうよ?」

 ニコリと笑いながらアンナはこれまでシドに教えた名前を挙げる。

「これらはね、昔名乗っていた街の名なの」
「そんなにあんのか!」
「まだまだあるよ? 何せ50年程度は旅して街や地域ごとに変えてたんだからいっぱいあるさ」
「……それダンナには街の名だって言ってんの?」
「言ってないよ?」

 ア・リスはうわぁと言葉を詰まらせた。それに対しアンナは首を傾げている。「何か問題でも?」と言うとア・リスはいやいやと言いながら肩を掴む。

「そういうのはちゃんと先に言っとけ。それでいつも痛い目に遭ってんじゃねえか」
「? 向こうがこれが森の名だなって思ったらそれで終わりでもいいよ?」
「後から面倒になるやつじゃん!」
「いやボクもそう思うんだけどね。"全てを知りたい"なんて言われちゃったらさ」
「俺様は忠告したからな? どうなっても知らねえぞ?」

 へへと顔を赤らめながら改める気のないアンナの行動に呆れた目を見せながらアリスはパタパタと走って行った。アンナは首を傾げ逆の方向に歩き出した。



 数日後。

「レフ! ……フレイヤか?」
「おっ会長クン大正解だ。よく頑張ったじゃないか」

 よしと拳を振り上げ喜びを隠しきれないシドをレフは口角を上げ笑っているような姿を見せる。

「やっと教えてもらえたんだな?」
「まあようやく街の名のストックが切れたとか言って教えてくれたさ」

 お前に申告なしの名前だけでもあれから20個くらいあったがなと疲れた切った表情を見せている。レフは「そうかこれまでの街の名だったのか」と頷いている。その後指を突き立てる。

「貴重な妹の過去を聞けたから嬉しい。じゃあ次に君も気になるお題を出そうか」
「何だ? また時間のかかりそうなものは嫌だからな」
「サリスの由来、聞きたくないか?」

 その言葉にシドは目を見開く。「そういえば、どこから出て来たのか知らんな」とボソボソと呟いている。

「じゃあ今聞いて来るか」
「おう行ってこい行ってこい。それに関しては僕も正解を知らないからな、ゆっくり教えてもらったらいい」

 シドは小走りでその場から去って行く。ネロは怪訝な顔をしてレフに近付く。

「ネロ、サリスというのはリンの父方のファミリーネームなんだ。フウガは母方のだって昔聞いてる」
「ゲッ、知ってて行かせてンのか」
「勿論。まあ偶然の一致かもしれんからな。念のために聞いててほしいと思ってね」
「いやガーロンドの地雷じゃなかったか? メスバブーンの命の恩人関連ってよ」

 レフは勿論知っているとニコリと笑う。シドにとって命の恩人(リンドウ)に関わる話は露骨に機嫌が悪くなる"地雷"な話題だ。アンナは何度がポロリと話してしまい「やっべ」と溢す局面に遭った。

「1週間位惚気のダシに使われて僕は疲れてるんだ。君だってそうだろう? ガーロンドくんより先に知ってる身からしたら結構苛ついてたよな。タバコ増えてたし。―――まあ少しくらい妹の躾を行っても罰は当たらん。あと僕の予想だが最初に聞いてきた時の街の名"ネリネ"はアリスとリンのクソ野郎2人が付けたやつだと思ってるよ。姫彼岸花、リンドウと同じ秋の花の名前だ」

 ネロの乾いた笑い声にレフはウィンクのつもりなのか目を閉じて口角を上げている。片目は髪で隠しているから分からないのだが本人は気付いていないし多分出来ていないだろう。
 数分後、シドの「待て逃げるな!」という怒鳴り声が聞こえ、「アンナ逃げやがったぞ! アレは絶対リンドウ関係だ!!」と駆け込んでくる姿に対し「ほらな」と腕組みするレフの姿があった。

 この後1週間程度アンナとは連絡を取れなくなったという。しかし事前に石の家へ行き根回しをし、何とか捕獲された。



「ほら言ったじゃねえか。痛い目に遭うぞって」
「だって……だってぇ……」

 捕獲からの"お話"から何とか逃げ出し、楽しいんだからしょうがないじゃん! という開き直る姿に偶然通りかかったア・リスはため息を吐く。直後真面目な顔を見せ、ボソリと呟く。

「人間って残酷だよね。1を知れば100が欲しくなる、貪欲な生き物だ」
「あっさり森の名教えてりゃ今のファミリーネームの由来なんざ聞かれなかっただろ」
「ぐ、ぐぬぬ」

 言い返せない様子にア・リスはニャハハと笑う。アンナは絶対に言えなかった。当時適当に頭に浮かんだから名乗ったものの、後に振り返ると命の恩人(フウガ)のファミリーネームと一緒だと気付いたことを。これを素直に言うとどうなるか、想像するだけで怖い。
 ふと人の気配を感じるとア・リスは耳をピンと立て全速力で走り去って行った。アンナは「あれ?」とキョロキョロ見回していると背後から肩を叩かれる。石のように一瞬固まる。慎重に振り向くと笑顔のシドの姿が。

「アンナ、話は終わってないからな?」
「へ、へへっ、シドの旦那、仲良くしやしょうぜ……」

 教訓。故郷が関係することの話題は早急に事実を伝え終わらせよう。そうアンナの胸に刻み込まれるのであった―――。


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#シド光♀ #ギャグ  

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注意 漆黒メインシナリオ途中のシド光♀。都合のいい妖精王の能力とシド少年時代捏造…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

"夢"
注意
 漆黒メインシナリオ途中のシド光♀。都合のいい妖精王の能力とシド少年時代捏造。
 
―――苦しかった。光がこんなにも息が詰まり、何も見えなくなるほど気持ち悪いものだなんて思ってもみなかった。しかし根底にある闇が、そして自分だけ見ることが出来る道を示す輝く白い星が私が"ボク"であることの証明である。

「美しい枝、フェオちゃん」
「あら若木私を呼ぶなんて珍しいわね!クスクス」

 無意識に呼んでしまった。こみ上がる吐き気を抑えながらもニコリと笑う。

「最近"私"が眠れなくて。ちょっと眠らせる魔法が欲しい」

 朧げに呟くとフェオは少しだけ考える素振りを見せた後、ニコリと笑った。そして「しばらく待って頂戴!」と言うとふわりと"ボク"に何か魔法をかけて消えてしまった。
 何故自分がこんな苦しみを味わらないといけないんだ、5年ほど前の"アンナ"が聞いたら呆れるだろう。しかし50年前に会ったという若い頃そのままなヤツに遭うぞと言うととっとと逃げろと慌てながら掴まれる姿が浮かんだ。"光の氾濫"という現象を何とかしないと自分らが生まれた世界が危ないなんて今でもよく分からない。
 少しだけとろんと瞼が重くなってきた。なるほど徐々に眠くなる魔法だったのか。確かに突然目の前が真っ暗になるよりは不安がない。「ありがとね、フェオちゃん」とボソと呟き睡魔に身を任せた。



「はい今回もギリギリ間に合いましたねお疲れさまでした!」

「疲れた」
「文明人コワイ」
「イイ経験だったろ?」

 深夜、ガーロンド・アイアンワークス社工房。会長シドをはじめとする社員たちが突っ伏していた。
 赤色の髪のヴィエラの男は初めてのデスマーチに想いを馳せたのかメガネを外し一息ついている。

「修羅場なんて嫁の優先順位くらいしかなかったからな」
「惚気やめてくださいッスよー」
「おいレフはもう離婚してるんだぞ」
「ホー、言うじゃないか。完成物燃やすぞ」
「ヤメロ」

 新入社員となったアンナの兄エルファー・レフ・ジルダ。妹にバレたくないのかレフと名乗りながらネロと共に行動し、円滑に行われたオメガの検証を陰で手伝っていた。まあフルネームの一部だったので彼女は偶然と称していたが本能的に察知していたことは本人には教えていない。その後人の名義の領収書を置いて2人で逃げ出したが無事捕獲、働かされている。
 そしてつい1週間程度前まではネロとレフを引き連れ、自分の朧げな記憶の確実性を上げるためにドマへ"墓参り"に行った。あとはアンナが戻って来るのを待つだけだとシドは拳を握る。あっさりとした宿題だったとヒゲを撫でコーヒーを飲もうとケトルに手を伸ばそうとした時だった。『クスクス…』という小さな笑い声が聞こえる。

「おいネロ、何か聞こえないか?」
「ハァ?あまりにも徹夜続きで幻聴が始まったか?」
『見ぃつけた』
「ほら聞こえたじゃないか」

 頭の中で少女の声が響く。うん? 頭の、中?

「っ!? ガーロンドくんそこから離れろ!!」
『あらあらあなた私が見えるのかしら? クスクス……ちょっとこの人借りるわね? 朝には返すから!』

 レフが俺の肩を掴むが徐々に目の前が霞んでくる。そして真っ暗になった。

 シドは途端に突っ伏してしまう。社員は大慌てで彼を囲むが寝息が聞こえるが否や呆れた顔をしていた。
 レフのみは顔が真っ青になっており、ネロは肩を叩き問いかける。

「おい何が視えた」
「わからん……見たことないエーテルの動きと借りるとか朝には返すとか異国語すぎて分からん」
「暁の人呼びましょうか?」

 ネロは舌打ちしながら「とりあえず仮眠室にでも持ってくぞ。クッソこんな時にメスバブーンがいたら片手で運ぶのによ」とシドを引っ張る動きをする。



―――目を開くと真っ白の空間。誰もいない。「おいネロ、レフ、ジェシー」と社員の名前を呼んでいくが返事が返って来ない。

「アンナ」

 困った時、呼べばいつも途端に解決してくれるあの人の名前を口に出す。しかし彼女は別の世界で会うことは出来ない。それでももう一度「アンナ」と名前を呼ぶとまたあの笑い声が聞こえた。

『こんにちは! さあ早く、こっちよ』

 光が集まりが見えるが俺の目ではその正体を視認できない。魔法的存在だろうか辛うじて第三の眼で判別できるが何かは分からなかった。すると『あらあら、あらあらあらあなたは私が視えないのね!』という声が聞こえた。

『あなたが会いたい人に会わせてあげる!』

 胡散臭い。なんて胡散臭い一言なんだとため息を吐くと心を読まれたらしく『会いたくないなら構わないわ! せっかく眠れないあの子のためにいい夢を準備してあげたいのに!』と抗議される。眠れない? あの人がか?

「本当に俺が会いたい人間に会えるのか? 別の世界にいる人間だぞ」
『夢を介してだけど会えるわ。だって私はその世界からあなたを呼んだのよ?』

 さあ目を閉じて。あなたの頭の中で会いたい人を思い浮かべてごらんなさい、と言われたので目を閉じ、あの人の名前を呼ぶ。黒髪赤目の、奇麗なヴィエラ。俺を護ると約束した、赤の刃を。

『さあもう大丈夫よ! 目を開けて!』



 目を開くと扉の前だった。どこかの宿屋なのだろうか、周辺にも同じような扉がある廊下である。『レディの部屋に入る時は、まずノックをするものだわ』と囁かれたので俺は言われるがままに扉を叩く。ドアノブが回り、扉が開いた。自分よりも頭一つ高い身長、褐色肌で黒髪に赤目の女性。ぼんやりとした目で俺を見るとパタンと扉が閉じられた。しばらく無音の時間が流れ、再び扉を開き俺を二度見する姿は余裕が一切なく「え、うそ、フェオちゃん?」とボソボソ呟いている。

「そっか、夢かあ」

 アンナは柔らかい笑顔で俺を強く抱きしめたので硬直してしまう。そうだ、これは夢だろう。孤独な旅人が好きでもないし嫌いでもない相手をいきなり抱きしめる筈がない。「アンナ、とりあえず座らないか?」と言うと「そうだね」と俺を解放し、軽く抱き上げた。
 まず目についたのは窓の外の景色だ。明らかにエオルゼアではない不思議な空を見ているとアンナは「外に出たらクリスタルタワーがあるんだよ」と頭を撫でる。相変わらずの子ども扱い―――なのは俺の都合のいいアンナ像だからだろう。

 椅子を並べられたので隣り合って座りアンナの話を聞いた。光に満たされ今にも滅びそうな世界、水晶公という人間との出会い、夜を取り戻す闇の戦士になっている話、ソル帝いやアシエン・エメトセルクとの邂逅、罪喰いという生物を倒すたびに自分の体に光が取り込まれ今にもバケモノになりそうな話を空を見上げながら淡々とした口調で話す。何故お前が全部やらないといけないんだ、他の奴に任せられないのかと言ってやると涙を浮かべこちらを向いた。

「わかんない。皆私に助けてっていうから、助けてる。そう、皆弱いから。強いボクが助けないと」
「でも俺たちの世界に帰れないと、意味がないだろ?」
「だってこの世界を救えないと私たちの世界も滅ぶ。このままじゃ第八霊災が起こるって」

 それから起こるであろう未来を語った。信じられない話だが、"あの手紙"に書かれていた真実と照らし合わせるとあり得ないと断じられない。だからと言って俺が何か出来るわけではないのだが。彼女に託すしかできないという現実に頭に血が上りそうになる。落ち着かせるために震える体を抱き寄せ、「この話題は終わりにしよう」と言ってやるとこくりと頷いた。
―――あまりにも具体的な自分が知りえない情報に夢なのか、そうでないのかもう分からなかった。

「心配されてるのは分かってる。でも早めにエオルゼアには帰るから」
「ああ絶対に帰って来るんだ。死ぬなよ、待ってる」

 口付けを交わす。何度も角度を変え、触れるだけのキスだ。夢だと言うのに柔らかく、ひんやりと冷たかった。流れた涙を舐めとってやり、抱きしめてやる。するとアンナは「なんて都合のいい夢だ。でも嬉しいんだよね」と呟いたので「俺もだ」と返した。

「だって20年前の自分には予想できなかった話」
「―――そうだな?」
「あんな可愛かった少年が本当にヒゲの似合う年齢になってボクの目の前に現れて、冒険できたから」

 その低い声で目を見開く。記憶通りの、幼い頃に聞いたし、星芒祭の夜に再会して語り合った旅人の声だった。
 彼女があの寒空の夜に出会った人だというのは既に知っている。実際先に知っていたネロに確認したから間違いはない。だからその願望が、リアルタイムに夢として反映されているのだろう。

「お、俺だって思わなかったさ。まさかお前が旅人のお兄さんだったなんてな。知った瞬間に頭が真っ白になった」
「だって命の恩人と別れて以降、アシエンだったソル帝除いたら初めてだったんだよね。ボクを襲ったり怯えた目で見ずにすぐに助けてくれた人間って」
「っ!?」
「だから嫌いになれるわけ、ないじゃないか。そう思ってたからバカみたいな約束をした。ボクに道を示してくれるお星さまならすぐに辿り着けるって」
「アンナ」
「嗚呼絶対帰ってみせるよ。キミたちを護るって約束してるんだから。ねえシド」

 俺の頬を触り口付けを交わした後、笑顔を見せた。

「ボクは、初めて会った時からキミのことを」
『若木ー!!!』
「ふぇ、フェオちゃん!?」

 俺をここに連れて来た光の声が聞こえる。何やら大きく慌てているようだ。アンナにははっきり様子だが俺にはどうなっているのかさっぱりだ。

『ごめんなさい! 時間切れよ! あの人があなたを無理やり起こそうとしてるのだわ! さあ白い人も帰りましょう!』
「え、は? うそ、これ本人!?」
「なっ―――アンナ!」

 周辺が光に包まれていく。どうなっているのか分からないが、うっすらと大慌てのアンナの顔が見えた。

 アンナの「わ、忘れて! 忘れろ!!」っていう完全にメッキが剥がれ素の声が聞こえた気がした。満面の笑顔で「ああ忘れないからな!」と言い返してやったが聞こえたか分からない。
―――いい夢だった。



 目を開くとそこは会社の仮眠室。起き上がると暁の血盟のクルルとネロ、レフが目を丸くして俺を見ていた。

「あ、あらシド起きたみたい」
「は? オマエマジで寝てるだけだったのかよ」
「こっちは納期のデーモンに殺されかけた後ほぼ寝てないのにな」
「す、すまん」

 俺は思わず反射的に謝ってしまう。しかしよく考えなくても自分は悪くないだろう、無理やり眠らされたのだから。

「ねえシド、何があったの? 体内エーテルに異常は見られないけど……身体に違和感とかない?」
「いや、特に何も起こっては……実は意識が落ちた後にな」

 夢の一部を説明する。アンナの現在の状況と、第八霊災について。ネロとレフは呆れた目で見ていたがクルルは真面目な顔で「多分第一世界にいる妖精族の仕業ね」と答える。

「私とあとタタルも何度か夢を介してその子に向こうの世界の状況を教えてもらってるの。シドは多分その妖精にアンナの夢の中へ連れて行かれたんだと思う」
「成程妹が現在いる世界のピクシー族的な存在によるイタズラってやつか。仲良くできてそうだな」
「いやいや納得してンじゃねェよ。事実なら無傷で戻れたのは奇跡じゃねェか」

 確かにそうだ。特に目立った異変も無いしきちんと眠ってはいたからか体は軽い。

「他に妹は何か言っていたのか?」
「え、いや、どうだったか……」
「ナニもしてないよな?」
「話をしただけだ落ち着け」
「はー僕も妹に会いたいなあ」

 レフの視線が痛い。仕事中は一切その素振りを見せずよく働いてくれるが、終了した途端妹を溺愛しすぎてこちらにまで殺意を見せることがあるのは本当に勘弁してほしい。
 それよりも一つだけ確信に至ったものもある。アンナに一晩『一般常識を仕込んだもう死んでいる男』だ。あの口ぶりだと相手はアシエン、しかも生まれ故郷の初代皇帝となる。一度迷い込んでソル帝の部屋に辿り着いたという話は正直半信半疑だったのだが、本人の口から示唆されると複雑な過去が余計に整理できなくなった。

「ネロ、俺はどうしたらいいか分からん」
「いやオレだって突然言われても困ンだが」
「だよな……だよなあ……」

 怪訝な顔をしながらもクルルに礼を言うと何か言いたげにしていたレフを連れて出て行ってしまった。クルルも「それじゃあお大事に。アンナ視点の第一世界の状況を聞けてよかった。えっと……その感情、落ち着かせるためにコーヒーとか飲んだらいいと思う」と言うと退室してしまった。何を言っているのか理解できないままふらりと立ち上がり洗面台で鏡を見ると、眉間に深く皴が刻まれ自分の目から見ても機嫌が悪い。いい夢を見たハズなのにこれではいけないと思いながら顔を洗いクルルのアドバイス通りコーヒーを淹れに行くのだった。

―――アンナ、絶対に生きて帰ってこいよ。



 一方その頃第一世界。

 目を見開き起き上がりながら「あーもー!」と叫ぶ。夢と変わりないペンダント居住区にある一室にてアンナはため息を吐いた。そして目の前にいる男を見やり再び一度目を閉じ、ため息を吐く。そしてゆっくりと目を開いた。

「優雅に眠る"レディ"の寝室に勝手に入るのは控えめに言っても最低では?」
「レディとは程遠いやつが何を吠えている。妙なエーテルの動きを掴んだから発生源に来たらお前の寝室だっただけだ。寝顔もあの時と変わらず最高だったぞ?」

 吐きそうな文句につい笑顔を浮かべるのも忘れてしまっていた。本当はいつでも一時的にエオルゼアへ戻れるのだが、執拗にエメトセルクが妨害するのでストレスが溜まり続けている。暁がなんとか一度だけ時間を作ってくれたがシドは不在だしそろそろ納期に追われる時期と言われてしまった。そんなことを言われてしまっては罪喰い討伐時以外は適当に人助けするか目の前の相手をあしらうしかやることはない。体内にたまり続ける光の気持ち悪さと一緒に言葉を吐く。

「そりゃぁどうも」

 "あの子"は夢の中で余計なことを言ってしまい疲れてるんだよ、だから"ボク"が代わりに対応してやってるんだと思いながら朝の日課のため着替えに手を伸ばした。


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#シド光♀

(対象画像がありません)

注意漆黒5.0中盤辺りな時間軸。シド少年時代捏造  「おいガーロンドど…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀ #ヴィエラ♂+ネロ #リンドウ関連

漆黒,ネタバレ有り

技師は宿題を解きに行く
注意
漆黒5.0中盤辺りな時間軸。シド少年時代捏造
 
「おいガーロンドどこに向かってンだよ」
「あと少しで近くに着くはずだ」

 飛空艇でクガネに降り立った後ハヤブサに乗り大空を飛んでいた。しかしいつまでも言わずにいるのも2人を苛つかせるだけだろう、前にアンナと共に墓参りに行った話をする。初恋と称された命の恩人と呼ばれている男の終の棲家だったんだと言うとエルファーは驚いた声を上げた。

「妹の恩人の墓参りに行った!?」
「そうだ。そこで見かけたやつに既視感があってな。ネロ、確認してほしい」

 オレにだぁ? 素っ頓狂な声が響く。

「それにレフも無関係ではないぞ。"無名の旅人"と自称する現在のアンナ全てがこの人きっかけなのさ」

 そう、『ボクの呪いを解けるもんなら解いてみな』という言葉の意味は絶対にリンドウが持っている。
 対してネロはため息を吐いていた。

「お前、本当に安価な娯楽に興味なかったンだな」
「どういうことだ?」
「予想が正しけりゃ見たら分かる」

 ネロの中では心当たりはある。てっきり帝国に足を踏み入れたことがあるアンナが何やらの手段で入手した"東方風牙録"という書物の影響かと思っていた。だが聞いた範囲ではそうではないらしい。苦虫を嚙み潰したような顔を見せた。



 3人は山に囲まれた集落付近に降り立った。「同じような風景で飽きるな」とネロは嫌味を言っているがエルファーは無視してシドに尋ねる。

「ここに行ったのか?」
「もう少し歩くんだがその前に挨拶をしようと思ってな」

 想定していたよりも栄え、どこか懐かしい雰囲気を見せる村に辿り着く。うろついていると1件の民家の前に黒髪の青年がいた。シドは「テッセンさん」と手を上げながら挨拶をしている。

「あなたはエルダスさんといた。あの時は申し訳ございませんでした。まさかガーロンド・アイアンワークス社の社長さんとは思わなくて」
「そんな改まらなくてもいい。それよりまたあの絵を見せてほしいんだ」
「構いませんけど後ろの方は……ガレアン人の方と、もしかしてエルダスさんの関係者ですか?」

 ネロは眉間にしわを寄せる。解放されたとはいえ元々はドマは帝国により占領された地だ、怪訝な顔もされるだろう。どうも思わないがわざわざ言われると少しだけ苛ついているようだ。

「ああ2人共ウチの社員さ。コイツはネロで、あっちはレフ、アンナの兄。俺も生粋のガレアンだから考える所があるかもしれんが悪いことはしない」
「お兄さんでしたか! お会いできて嬉しいです。―――ここは大丈夫ですよ。幸い帝国の戦禍は免れ、平和な場所でした。ただ、ドマが解放されてから久々に見たなというだけで。それに祖父は……いやこの話はいいでしょう。とにかく申し訳ありませんでした」
「まあ無名の旅人の墓があンなら熱心なやつは通ったンだろうな」

 さてご案内しますよとテッセンは歩き出す。シドは首を傾げて「どういうことだ?」と聞いている。

「オマエ本当に"龍殺しのリンドウ"って知らねェのか? はー安い娯楽に興味のないおぼっちゃんは困るなァ」
「―――リン、ドウ?」

 ネロも歩き出す。シドも追いかけようとするがエルファーはその場で止まったままだ。「おいレフ行くぞ」と声をかけると「あ、ああすまない」とゆっくりと一歩踏み出した。

 山道を歩き、開けた場所に辿り着く。そこには小さな小屋と石碑がある。シドの記憶通りのリンドウが最期に過ごしたという終の棲家だ。

「おいおいさっきこの辺り通ったけど上からじゃ何も見えなかったじゃねェかどうなってンだよ」
「だよな。アンナも迷子で彷徨うわけだ」

 そういうわけじゃねェと言おうとしたが置いておこうとネロはため息を吐く。道中この男の話を聞いた。名はテッセン・フウガ。リンドウの孫にあたる人間らしい。彼の父が元気だった頃はよくガレアン人を中心に帝国兵が墓参りに来ていたのだという。略奪物もあるであろう大量のお供え物が持ち込まれ、更に最新の技術を導入した宿泊施設を共同で作られた。そして亡命してまで住む者まで現れ、他の地域とは異色の文化を持っていった村は周りから相当疎まれていたらしい。それ程まで祖父は帝国で有名だったのかという質問に対しネロは答える。

「そりゃ"東方風牙録"ってベストセラーが出てたンだぜ? 舞台化もされてオレも観に行ったさ」
「そうだったのか。全然知らなかった」
「はーいい所のぼっちゃんはこれだから困る。木の棒1本を妖刀のように輝かせ龍をバッサリと倒した元英雄とその弟子の少女が各地を旅するって話だったか。―――ンで、だ。その絵画を見せてみろよ」

 テッセンは小屋の鍵を開錠し、箱の中から絵画を取り出した。ネロはじっと見つめ肩をすくめる。

「初代皇帝のコレクションにあったな」
「やっぱりか。見覚えあると思った」

 槍を持ったヴィエラの少女と、銀髪の侍がオサード地域を旅する絵画は見覚えがあった。魔導城に飾られていた属国から献上された芸術品の一つ、と記憶している。

「で、この赤色ヴィエラがメ……アンナだったってわけか? ハッ傑作だね」
「帝国にあるのはおかしいですよ。これは祖父が依頼して描いてもらった世界に1点しかないもので」
「そうなんだよ。だから俺も自信がなくてネロを連れて来たんだ」
「―――ザクロ、柘榴石、ガーネットってことかよ。何であン時気付かなかったンだオレは」

 ボソボソと呟きながら頭をガリガリと掻き、アンナに見せられた手紙を思い出す。その時だった。これまで静かだったエルファーは立ち上がり出口へ向かう。

「エル?」
「ちょっと外の空気を吸ってる」

 そのまま扉を閉めた。変なやつと眺めているとテッセンが再び箱の中をまさぐり封筒を手に取った。

「エルダスさんが帰った後に思い出したんですけど祖父が彼女宛に手紙を残していまして。読んでみませんか?」
「オレたちが見てもいいのか? 本人怒ンだろ」
「……正直言って私では渡していいかも分からないものでして」
「アンナのことを知りたくて来たんだ。貸してほしい」
「おいガーロンド」

 シドはその手紙を受け取り広げる。ネロも覗き込むが東方の文字に加え達筆で何と書いているか分からない。苦笑しながら「その、力強い筆跡すぎて、な」とテッセンに返す。すると笑顔で「ああ、それでは読み上げますね」と内容を語る。

―――それは2人にとって衝撃的な話であった。
 まずは別れた直後、アンナの身に起こった水難事故で死んだと思っていたが生きてここに来たことに対しての喜びの言葉が綴られていた。その後は後悔と謝罪が延々と書かれている。
 自分でもどういう理屈で出来るのか分からない不完全なものを殺しかけてまで伝授してしまった。それが世界の崩壊のために利用されつつある絶望。この住処に訪ねて来たアシエンという存在の言葉は全く信じられなかった。だが、目の前で大切な絵画を複製するガレアン人が使えないはずの"魔法"によって信じざるを得なかった。ある約束を交わし、ここは一切の戦禍が降りかからなかったという懺悔が書かれている。
 そして幼いアンナの気持ちに気付いていながらも強く突き放せなかった弱い自分への苛立ち。『約束は死んでも守れ。全てを護れないなら捨て去って旅をしろ』という教えを何十年も守っていることを知った時の焦り。どうしてそんなに忠実に守ってしまっているのか。アシエンの手を今からでも振りほどき星空の知識を教えた思い出と共に自由な夜空を愛してほしいという希望。
 最後に力の根源を知りたいのならラザハンに行くといい。そして兄エルファーに謝っておいてほしい。妹の体に消えない疵を刻みつけ、"私"を継承してしまい本当にすまなかった。さらば、愛する唯一の弟子であり血の繋がりはないが魂で繋がった家族よという言葉で終わっていた。

「私めには意味が分かりませんがそう書かれております」
「……にわかには信じがてェな」

 手紙の内容についてネロは吐き捨てている。現実感はしないが、これまでのアンナを取り巻く出来事を思い返すと事実も多いことは分かるが理解を拒んだ。対してシドは重々しく口を開く。

「いや、俺たちの祖国がアシエンによって作られたものだというのは事実だ。ヴァリス殿下が明かしたとアンナたちから聞いた。ドマ侵攻について書かれているってことはリンドウは俺たちが最近知った知識を30年程度前には知ってたことになる」
「そうかよじゃあアンナが持ってた手紙はそのアシエン本人のお茶目ってことか。趣味悪ィ」

 ネロの言葉にシドは首を傾げる。「手紙って何だ?」と尋ねると露骨に嫌そうな顔を見せた。

「アラミゴ解放後にソル帝の便箋で届けられたモンだとよ。『お前の役割は終わりだ』とか書かれててあいつオメガブッ倒しながら怯えてたンだぜ?」
「知らない」
「そりゃオマエはあいつの過去を一切知らないじゃねェか。あの小心者が自分から教えるわけがねェし」
「アンナは小心者じゃない」

 そう言いながらもシドの顔が青くなっていく。そうだ、俺は何も知らなかったと視線を落とした。

「もう分かンだろ? あのオンナは"鮮血の赤兎"だ。アシエンが人間1人分の人生使って狙い続けてた実在した兵器なンだよ」
「アンナが、じゃあやっぱりあの夜」

 寒空の下、路地裏で寒さに震え座り込んでいた赤髪の旅人。急いで屋敷に戻りスープを渡した時の『温かい』と低い声で溢していた。

「20年ほど前に陛下が兎を捕まえるために誘導したがいつの間にか国外に駆け出して行ってたンだってよ」

 出口はどこだと聞かれたので言われるがまま方向を指さすと走り去ったあの不器用な笑顔。

「全てを護る、刃。あぁ―――」

 シドの目が見開かれる。今まで忘れていた記憶。肝心の"約束"が、抜け落ちていた。

『"あなたの飛空艇"に乗れて、よかった』

 何故か自分の飛空艇と強調したシドが記憶を取り戻した夜。

『私はね、自分に優しくしてくれた人と約束は守ることにしてるんだ』

 露骨なほどに約束に拘っていた姿。

『ほーそりゃ楽しみ』

 ガーロンド社を紹介してやると言った時の目を細めニィと笑った姿。

『期限はそうだね……キミがお髭がとっても似合う人になるまで、かな? 翼であるキミの飛空艇たちを守る刃になってあげよう。おっと飛空艇たち、というのは簡単だよ? あーんな大きな船をキミ1人で作れるわけないだろう? 全部守ってあげる。こう見えてボクはすっごく強いからね』

 手の甲に口付け、幼いシドへ不器用に笑いかけた顔。そうか、これを忘れていたから星芒祭の夜わざわざ眠らせて逃げたのかと拳を握り締める。
 テッセンはあの、と声をかける。「ああすまん」とシドは苦笑して見せた。

「あまりにも直球すぎて気付かなかったヒントに頭痛がしただけだ。気にしないでくれ」

 あっさりと宿題が終わってしまった。軽くため息を吐くとネロが立ち上がり外へと足を向ける。

「ネロ?」
「一服してくる。1人で結論付けてろ」

 そのまま扉を閉められた。シドは目を丸くし、首を傾げる。

「結論付けてろと言われてもな」

 まさかここまでネロがアンナについての情報を隠していたとは思ってもみなかった。そしてあっさりと知りたかった事柄の殆どを手に入れてしまうことも予想外で拍子抜けする。
 更に複雑な悩みを持ちながら一緒にオメガ相手に戦ったのかということも知ってしまった。微塵も相談してもらえなかったことにショックを受けている。一方的に想いを伝えて、舞い上がっていた自分が莫迦みたいだとため息を吐く。だが最終検証で見せたまるで流星の軌跡のように振り下ろされた一振りが伝授された"気迫"というものなのは確かだ。焼き付けられた脳裏に浮かび上がる。そんな"弱き人が持つ想いの力"の根源にあるヒントがラザハンにあるというのは一番の収穫であった。ラザハンということは錬金術起因のものなのだろう。
 しかし一番の謎は"継承"というものだ。リンドウ、レフ、アリスという男らは過去に何をし、アンナに施したのだろうか。
 ふと肩を叩かれる。心配そうにテッセンがシドを見ていた。「すまない、考え事をしていて」と苦笑する。テッセンは懐に入れていた装置を手渡した。

「これは?」
「祖父が、最後まで大切に持っていたものです。今は静かなんですけど」

 黒色で半球体のようで一見何なのかは分からない。用途は? と聞くと柔らかな笑顔で答える。

「これがあったからアンナさんがエルダスさんって分かったんです」

 テッセンによるとリンドウが死んでからもこの装置は小さな光を灯し続けた。ある日ドマを解放した英雄たちの顔を見に行こうと外に出た際に強く輝いたのだという。以降輝き方が不安定だったが、しばらくしてシドとアンナが墓参りに来た日にまた大きく光ったらしい。しかしここ数ヶ月光が消えてしまい心配していた所に3人がやってきたと語る。

「どういう装置なのか分かりません。ですがもしかしたらエルダスさんの何らかに関係しているかもしれません。よかったらどうぞ」
「いいのか? 代々受け継いだ形見みたいなものだろ?」
「……あなたが持っていた方がきっと祖父も喜んでもらえると思います。あと先程言えなかった言葉の続きなのですが」

 それからテッセンは自分の身の上を話した。彼の父が誕生し物心がついた頃、実の祖父は亡くなっている。その後祖母は第二の故郷に戻って来たリンドウを治療する内に惹かれ合い、再婚したので血は一切繋がっていない。よって厳密にはリンドウの血縁者はもう存在しないのだ。そして彼の生まれは―――。

「そうだったのか。エレゼンが東方地域にいるのも珍しいのに更に片親はガレアン人と」
「龍殺しのリンドウと呼ばれるまでは実際あまりいい扱いはされて来なかったそうです。本当に強くなるために努力は欠かさない人だったと聞きました。強くなってからは手のひらを返した権力者たちによる色んな思惑に巻き込まれ嫌気がさしていたそうで」
「アンナから嫁と子供がいるから叶わない恋だったと聞いてたんだが……。兄を知ってたから嘘ついてた可能性があるな」

 箱の中から書物の山を取り出す。覗き込むと武器の特徴から人から魔物までのスケッチと何らかの文字が書き込まれていた。「療養中暇だったようでとにかく自分の脳に叩き込んでいたものを書いていたそうです」とテッセンは語る。「これも多分アンナに教えていたってことか」と紙をめくる中で明らかに違うものがあった。

「図面……?」
「何かの装置のようですが私にも分からず」
「いやこれは隠す―――形状が見覚えあるな。ちょっと待っててくれ」

 シドは家の中を見回し、違和感を探る。即見つかる。入口に置いてあった家の様式に似合わない無骨な金属。手を伸ばそうとすると突然扉が開き、レフがその機械を分捕る。

「これだこれ。さっき家全体を視た時に何かおかしいと思ったんだ」

 即蓋を開き、中身をのぞき込んでいる。シドは一瞬唖然とした顔をしたが何も言わず手に持っていた図面を渡した。次はネロが分捕り2人で眺めている。

「なんだこりゃ。ああこれの図面か。―――あのクソ馬鹿が機械装置を作れるわけがない。かと言ってアリスが手間暇かけて作ったものにしてはオリジナリティがない。この図面通りで忠実すぎるものって感じだ」
「読んだ範囲ではこれアレか。魔科学技術を用いた広域妨害装置だ。よく出来てンな」
「成程戦禍がここまで来なかった仕掛けか。アシエンと交わした約束とやらの一つだろ」
「筆跡的にアリスから貰ったやつの冊子から破ったか。この家のどこかにあるかもしれん。テッセンくん、ちょっと家の中物色してもいいか?」
「か、構いませんけど……」

 数時間後、顔を真っ青にしたエルファーがフウガの名前を叫んでいた。それをネロはゲラゲラと笑っている。

「ネロ、レフは何と言ってるんだ?」
「お前ら何年間妹といたンだふざけンな辺りじゃね? おーこれそのまま商品化出来ンじゃね?」
「いや流石に考えたのはそのアリスって男だろ? 勝手にやるのは」
「死んだやつの許可なんてどう貰うンだよ」

 フウガがメモとして残していた紙と違うものがいくつか発掘された。封筒に入れられた冊子には、数々の古代技術を応用して作られた実用的な機械から人道的に怪しい器具まで数多く書かれている。小さな紙切れが入っており、『リスク分散のご協力感謝 あなたの共犯者ア・リス・ティア』と雑な文字で書かれている。シドらにとっては欠伸が出そうなほど古すぎる技術が殆どだ。しかし自分たちが未だに至っていない領域の一部もあり少々悔しい部分もある。

「エルもこういうの持ってンのか?」
「んぁ? まあ別れる時に少々。今は別の場所に隠してるから持ってないぞ」

 というか今の魔導技術に比べたらこれより更に古臭いから価値はないと思うぞと肩をすくめている。

「ってこれはトームストーンか。電源は―――つかないか」

 真っ黒な板を取り出す。ボタンのようなものを押すが一切反応はしない。何も言わずポケットに仕舞い込む。

「今流れるようにポケットに入れたな?」
「どうせ眠ってるままなら有効活用する。その装置ももういらんだろ。貰ってもいいか? テッセンくん」
「だ、大丈夫ですよ」
「無理しなくてもいいぞ。あんまり荒らしたらアンナに怒られるから程々にしとけレフ」
「そこで妹の名前を出すんじゃない。―――修理して何でもないモノだったら返すさ」

 自分が欲しいもののヒントかもしれないものは全部欲しいからなと口角を上げている。そんなもの俺だって欲しいとシドはジトッとした目で睨みつけた。



 それから適当に家探しして村の宿に泊めてもらった。最新技術が適宜取り入れられ快適なもので満足だった。ガーロンド社が納品したであろう装置も沢山あったので外に出た者の名前を聞く。案の定先日ジェシーが連れて来た新入社員たちの名前もあった。もっと詳しく話をしていたらリンドウの情報ももう少しスムーズに手に入ったかもしれないと苦笑する。
 ふとポンと音が鳴った。その正体を探ると日中にテッセンから貰った奇妙な装置が光っている。壊れてなかったのかと観察すると小さい光はしばらく点滅を続け、1時間もせずに再び消えてしまった。
―――後に知ったことだが、3人がこちらに来ていた間、一度アンナが帰って来たらしい。シドがいないのを確認した後、少し暗い顔をしてまた帰ったとジェシーから聞いた時、苦虫を嚙み潰したような顔を見せしばらく機嫌が直らなかった。

 次の日、村人らに次なる取引の約束と共に見送られハヤブサで上空を飛ぶと空からでも終の棲家を確認出来た。妨害装置は解析が終了すればまた返しに来るとシドが電源を切り鞄の中に仕舞っている。次はアンナと2人で泊まりに行こうと笑みを浮かべた。
 目を輝かせたネロとエルファーを青龍壁へ連れて行き、再び積み重なっているであろう仕事をすべく本社へと1人戻るのであった―――。


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#シド光♀ #ヴィエラ♂+ネロ #リンドウ関連

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注意自機出番少な目なのと倫理観無し。シド光♀匂わせ程度なギャグ概念。どちらかとい…

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#即興SS #季節イベント

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"感謝のチョコレート"
注意
自機出番少な目なのと倫理観無し。シド光♀匂わせ程度なギャグ概念。
どちらかというと自機兄+ネロ風味。
レフ→自機の兄。ガーロンド社に出入りしている技師。嫁が8人いたが離婚済みで故郷からも追放されている。妹が絡まなければ物静かで笑顔がヘタクソな人間。
 
「そういえばガーロンドくん、昨年僕の妹から貰ったチョコはどんな感じだったんだ?」

 アンナの兄レフの一言から今回の一件は始まった。ネロはゲラゲラと笑う。

「やっぱ手加減知らねぇメスバブーンのことだから山のように作って社員全員に振る舞ったンじゃねェの。ンでその中の1つを雑に投げられたって感じか?」
「あー確か去年の手紙でヴァレンティオンデーってよく分からんって書かれてたな。僕も知らなかったから『可哀想な男共に優しい手を差し伸べる慈善事業の日でもあるよな』って返したぞ」
「あの余計な一言はお前が原因だったのか……」

 シドはため息を吐いた。昨年のヴァレンティオンデーはそれはもう凄かったと語る。突然ガーロンド社に訪れ、大きなバッグから取り出される『お母さん以外の異性から手作りチョコを貰ったことがない人優先の素材から拘った手作りチョコレート』をばら撒いた。シドは毎年結構な量を貰い社員と食べていたのだが、その多さに今年はいらないと言われほぼ1人で数日間片付けていた。挙句の果てに、アンナからは「シドいっぱい貰ってる。こっちはあげない」と言われるおまけ付きで。その後、先に試作したが少々失敗したというカカオ95%チョコを渡され、言われるがままホットミルクに溶かして飲んだ。ちょうどいい苦みがあって美味しかったと振り返る。

「レフのせいで俺は酷い目に遭ったんだぞ」
「はっはっはざまあみやがれ。ってちゃっかり貰ってるじゃないか阿呆」
「おいレフホンネ出てンぜ?」
「というかアンナも大量に貰ってたんだぞ? それは悔しくないのか兄として」
「お前と一緒で僕の妹に本命という概念が理解できるわけがないだろ」
「そーだな」
「流石にアンナよりマシだと思うぞ!?」

 ネロとレフの言葉にシドは素っ頓狂な声を上げた。似てると言われるのは悪くは思わないがさすがに恋愛関係で一緒にされたくなかった。

「気にせず社員に分けてるアホが何か言ってンぜ?」
「まったく最低な男だなガーロンドくん」
「いや俺は仮にも偉い人間だし義理で渡すくらいはあるだろ。どう消費しても文句はないはずだ。お前たちだって確実に貰ってただろ」
「ガレマルドにヴァレンティオンなンてなかっただろうが」
「僕は嫁いたし。基本的に人から手作りの食べ物は貰わない主義なんだ。何混入してるか分からん」
「おいおいレフもズレてンな」
「―――おいレフ、お前人から貰ったものは受け取らないのか?」

 シドに嫌な予感がよぎる。兄がこれなら人の教えを忠実に守る妹は。

「そりゃそうだろう毒とか入ってたら困るし」
「アンナもそれを知ってるのか?」
「勿論。護人としての心構えで真っ先に故郷では教えられるさ。そこから瓦解したら大変だろう?」
「……アー」

 ネロも察した様子を見せながら肩をすくめ、レフに便箋を指さす。

「手紙書け。プレゼントは全部断れってな」
「現れる前に気付いてよかったぜ」
「君たち本当に心の問題に関しては妹のこと信用してないな。僕も書いた方がいいって思ったけど。というか去年貰ったものどうしたか聞くか」

 ここ数日、またアンナと連絡が途絶えていた。暁の人間によると『やはり道具から拘る方がいいよね』と言いながらどこかに飛んで行ったのだという。連絡をするならば一番確実なのがレターモーグリだろうと判断し、レフはペンを手に取った。



 レフは手短な手紙を書き、レターモーグリ経由で送ると1日で返事が返って来た。しかし内容をシドに伝えることはなかった。

「……僕は教育方針を間違えてたかもしれない」
「ケケッ、オマエこれまでの生涯通しても合計1年分も会ってねェだろ」
「うるせ」

『兄さんへ
 私への配慮、ありがとうございます。お返しはいらないと言って渡しているので安心してください。
 あと私のような旅人には本命や義理も関係ないし感謝の気持ちを込めて燃やしてるので大丈夫。
 ところで試作品を作ったからどうぞ。兄さんの感想が私がお世話になっている人たちの胃の運命が決まります。よろしくね。
 フレイヤ』

 手紙と一緒に小袋が入っており、中身はアルファの顔が描かれたアイシングクッキーとオメガを模した立体チョコレートだった。容赦なくパキリと割り満面の笑顔で噛みしめるように食べるレフの姿にネロは引く。

「おいしい……嗚呼滅茶苦茶おいしいぞ妹よ。だが頼むから人からの贈り物は完全に拒否してくれ……」
「オマエ本当にメスバブーン絡んだら気持ち悪ィな」
「一言余計。ほら半分に割ってるから君も食え。多分君もいっぱいもらってるからあげない組だぞ」
「いや別にオレは」
「は? 君は妹の作ったものが不味いからいらないと言いたいのか?」
「ンなこと一言も言ってねェよ!」

 ネロは眉間にしわを寄せながらクッキーを一口摘まむ。ちょうどいい焼き加減でサクサクとして本当にあのデリカシー無しで脳筋が作ったものなのかと疑うほど美味い。

「バブーンじゃなけりゃなァ」
「は? 妹は可愛いが?」
「顔はいい方だけど中身が最悪だって言いたいンだよ」
「最悪の中身が混じり込んでるんだからしょうがないだろ」
「ヒヒッ違いねェ」

 よし美味しかったと手紙を返しておこうとペンを手に取る姿をネロは苦笑する。素直に会いに行けよと思うが心の中に仕舞い込んだ。

―――数日後。アンナは石の家とガーロンド・アイアンワークス社に大きなバッグを持って現れた。色々な表情をしたアルファが描かれたアイシングクッキーとオメガ型立体チョコが入った小袋を『お母さん以外の異性から手作りで貰ったことがない人優先の調理道具から拘った手作りチョコレート』と称してばら撒く。昨年と違う所はなんと男女問わず渡されるチョコレートをごめんと言いながら拒否している所だ。ネロは兄の説得が心に届いたのかとマグカップを手に口をあんぐりと開けそれを見守る。ふと目が合うと意外なことに2つの袋を手渡された。両手に紙袋を持ちながらふらつくシドがやって来るとアンナは動きを止める。

「ホー昨日あんだけ説教してきたくせに自分はモテますアピール」
「いや、アンナ。断ったが押し付けられてな。また一緒に食うか?」
「自分で片付けたらいい」

 踵を返し次は女性陣へと渡しに行く姿をシドはため息を吐きネロの隣に立つ。

「いや昨日ようやく連絡がついてな。問いただしたらゲロったから少々手荒に"説教"した」
「ハァ。その両手のブツがなければ説得力あったろうにな」
「俺もそう思ってるさ。とりあえずレフにはお前の説得で妹は余計な悲しみを生まさずに済んだとでも伝えておいてくれ」
「……まあその方があいつも小躍りすっか」

 真面目なシドのことだ、一晩中ものすごくキツく𠮟ったのだろう。大欠伸を噛み殺しながら、いつもの内面に存在する複数の人間に込められた渦巻かれた闇1つ悟らせない満面の笑みでチョコをばら撒き去って行くアンナを見守っていた。
 その横でネロはふと誰も触れていない引っかかった疑問を口にする。

「―――ン? 調理道具から拘ったってどういうことだ?」
「文字通り1から作ったってことだろ。そりゃ一切連絡つかないさ」

 満面の笑顔で鉱石から採掘に行く姿が男2人の脳内で共有され馬鹿じゃねェの? と呆れた声が響き渡った―――。


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#即興SS #季節イベント

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「だから触るな!」「いいじゃないか」 アンナは壁に追いやられながら威嚇するがシド…

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#シド光♀ #即興SS

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"耳"
「だから触るな!」
「いいじゃないか」

 アンナは壁に追いやられながら威嚇するがシドはどこ吹く風かと手を伸ばしている。眉間に皴を寄せながら必死にその手を握りしめ抵抗した。
 そう、アンナは耳を優しく触れられる行為に対して非常に弱く、"シドに"触られるとほぼ"終わり"となる。なので手段を選ばず何としても手を出すシドと度々小競り合いが起こった。今回は仕事疲れで戻って来たシドが癒してほしいと言うので、"多少の"スキンシップを許可した所まではいい。しばらく首や顎、頬を撫でまわしていたが突然耳に手をかけようとしたので、耳だけはやめろと拒否する。

「触ってもいいってさっき言ってたじゃないか」
「してない。許可した個所は顔」
「頭部の一部じゃないか」

 かすってない! とシドの両手を片手で掴みながら額のゴーグルを外し指さす。

「あなた以前第三の眼で遊ぶの拒否したでしょ?」
「お前のパワーで何かされたら命の危機だろ」
「失礼な。耳だって命の危機と隣り合う器官」
「力加減位できるさ」

 埒が明かない。他の話題を探して有耶無耶にするかとアンナは判断し、床に転がす。今回はきちんと受け身を取ったようだ。胸板の上に乗り腕を押さえる。

「誘ってるのか?」
「違う」
「お前知ってるぞ、以前人に触らせてただろ耳」

 どこから話が漏れたんだとアンナはため息を吐く。グ・ラハとレヴナンツトールを歩いていると通りすがりの子供が声をかけて来た。ヴィエラが珍しかったのか長い耳に興味を持っていたので仕方なく触らせる。すると思い切り掴み引っ張られたので、頬を引っ張りながら笑顔を見せてやった。喋った犯人はグ・ラハだなと思いながら適当に心を抉る言葉を吐く。

「シドの触り方おっさん臭くて嫌い」

 シドの表情が固まる。よし、このまま傷付いてろとため息を吐き畳みかける。

「お子様が手加減無しで掴んで、ビックリして頬を引っ張った。一度だけ。何度もせがむおっさんとは大違い」
「ぐ。いや待てお前の方が遥かに年上じゃないか」
「まあ君が子供と仮定しても絶対不許可」

 悲しげな表情を見せた。そこまで傷付くのか? と苦笑するがそこで手を差し伸べてはいけない。ここから痛い目に何度も遭って来た。
 シドが耳を狙う理由は簡単である。普段は全く動かない耳を"シドが"触り続けるとふにゃりと垂れ下がってしまうからだ。アンナは相手に感情を読まれないよう極力耳を反応させない修行を行った。そんなアンナの弱った姿を見て自分の精神を癒やそうとする悪意と下心が丸見えなので許可は与えない。勿論相当なことがない限り絶対に他人が触ろうとすると反射的に刀に手をかける。アンナにとってはこれでも優しく断っているつもりだった。

「人の嫌がるとこ狙うの最低」
「う」
「純粋にあなたに会うために来たのに残念」
「す、すまん」
「もうジェシーやネロサンとお茶飲んで帰る。明日は折角の休みなのに残念だねえ」

 ちらとシドを見るといつの間にか泣きそうな顔が消え、少々機嫌が悪い顔になっている。またやってしまったと慌てながら訂正する。

「いやさすがに帰るのは冗談」
「本当か?」
「私、嘘はつかない」

 機嫌を取るように頬に口付けてやる。「ん」と舌を差し出してきたのでそのまま舌を絡めてやった。指を絡め合い、目を閉じて行為の終わりを待つ。いつの間にか力が抜けてしまったか急に手が振りほどかれ抱きしめられる。仕方がない、「苦しい」と言いながら離れると次の瞬間ひっくり返される。

「へ?」

 見上げると笑顔のシド。騙されたかと一瞬考えたがよく見ると目は笑っていなかった。これは、終わったなとアンナは察した。

「悪かったな触り方がおっさん臭くて」

 次の瞬間、シドは思い切り長い耳を掴んだ。アンナは目を見開き叫んでしまう。

「いっ―――たぁ!?」
「流石に痛いのか。すまん」

 本当はそんなに痛くはない。しかし突然の行為に対し反射的にリアクションをしてしまった。

「怒ったからって子供のマネ? 大人が力加減無しでやるな、普通のヴィエラなら潰れる。拷問したいの?」
「いや大丈夫かと思ってつい」
「もーフウガぶりだ。負けず手加減しないね」

 意外な名前が出て来てシドは「リンドウが?」と言うとアンナはため息を吐く。心がざわめく感情を抱いているがまだアンナは気付かない。

「里で修行できなかった分。おかげで多少では耳は動じない。ってシド凄い目が怖い」
「修行?」
「いや、護人が耳で色々バレるの、ダメ。真っ先に対策必要。だから……って撫でるな!」

 シドは思い切り掴んだ部分を優しく撫でる。アンナはその手首を掴み抵抗するが弱々しい。その姿にシドはクスリと笑う。

「痛くしてすまん。―――もうあっという間に弱ってる。本当にそれは修行だったのか?」
「ひゃ、それはあなたが」
「俺が?」

 内側を擦りながら形をなぞるように撫でまわされると勝手に口元から甘い吐息が漏れた。なんとか言葉にし、抗議する。

「触り方がっ、普通はしないやつ―――ッ」

 首のゾワゾワと甘い痺れに身体がピクリと痙攣する。頭がぼんやりとするから触られたくない。と思っていたら突然寝台へと抱き上げられる。温かい体温が背中を通して感じた。アンナは普段シドを抱き上げているがシドもアンナを軽く持ち上げることができる。以前重くないかと尋ねたら「機材に比べたらとても軽い」と笑顔を見せていた。
 シドは長い耳の間に顔を埋め、再び優しく耳を撫でている。指を口元に持ってきたので口に含むと舌に絡められた。上下に擦られると反射的に指を甘噛みしてしまい背後からくくと笑い声が漏れた。もうこうなってしまったら満足するまで続くだろう。耳はどうすれば動かせるのかを思い返した。集中を解き、リラックスし、あと何が必要だったかとアンナは一瞬考え込んだ後、ふと名前を呼ぶ。

「シ、ド」
「どうした?」
「くび、噛んで」
「仰せのままに」

 襟元を緩めてやり、シドはそのままガリと未だ消えていない痕を上書きするように噛みついた。

「ッ―――!」

 痛みに対し反射的にビクリと跳ね、シドは身体が逃げないように強く抱きしめた。耳の付け根を握りながら内側を引っ掻く様に動かされると力が一気に抜ける感触を味わう。そして耳がふにゃりと垂れ下がり、シドの目的は達成である。

「満足?」

 アンナは深く呼吸をしながら背後のシドに声をかけるが反応はない。転がり顔を見合わせると唇を合わされる。耳を巻き込むように大きく頭を撫でつけた。こうなるから厭だったんだよと手首を掴む。

「終わり」
「疲れを癒させてくれ」
「最低。疲れたならそのまま寝て」

 胸元に押し込み頭を撫でながら子守歌を唄う。かつて故郷で毎日聴いていた"よく眠れる歌"だ。勿論シドも好きなようですぐに寝息が聞こえてくる。

「おつかれ」

 ポツリと呟き、目を閉じる。シドが連日の仕事詰めの疲れで癒しを求めるように、アンナも癒しを求めていたのも確かだ。耳も最終的に許可するのは外で見せることのないバカ騒ぎができればそれで構わないという一種の甘え方になる。冷たい身体に相手の熱が少しだけ溶け込む感覚に穏やかな表情を見せた。


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 シドは白い髪飾りを撫でる。星芒祭の朝に握っていた"あの人"…

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"髪飾り"

 シドは白い髪飾りを撫でる。星芒祭の朝に握っていた"あの人"から貰った不思議な羽根と花の意匠が凝られたモノ。以降、1人ぼんやりとする時は引き出しの中から取り出し、思い返していた。

「忘れろ、って言われてもな」

 ボソリと囁きあの無機質で中性的な声をした人の姿を思い浮かべる。再び会えたというのに、勿体ないことをした。次はしっかりと腕を掴んで逃がさないようにしよう、と握り締めた時だった。

「硬い……?」

 髪飾りは柔らかな布素材を使われていたがある一点だけ硬い金属の物体を感じ取った。同じ白色で目立たないが明らかに後から取り付けられたものだということは分かる。慎重に取り出し、その物体を観察する。魔導装置のものでもない。何か彼のヒントに繋がるかもしれない、工房の解析装置に足を運ぶ。



「明らかに最近の技術のものではないな」

 ゴーグルを外し考え込む。小さな回路に極小なクリスタルが埋め込まれ、何らかを反応させるための装置だということは分かった。使われている金属と書かれた魔紋の形からアラグのものであると仮定し、データベースと睨み合う。
 途中から暇そうだった社員数人を捕まえ調べているがそれらしきものは見当たらない。

「一部文献は未だに見つかってませんしもしかしたらその中にあるものかもしれないですよ」
「困ったな、じゃあ解析してこれからのデータとして追加してやれ。終わったら返せよ」
「構いませんけどこれはどこで」

 シドはため息を吐き首を横に振った後席を外す。久々に電子タバコを取り出し煙を燻らせた。また手がかりがこの煙のようにすり抜けていくのかと思うと憂鬱になる。分野的にネロに聞けば何か知っているだろうか。否、捕まらない人間について考えても解決はしないかと霧散させた。

 数日に及ぶ解析の結果、空気中のエーテルを取り入れ変換させるものだということが分かった。だからといって何か"あの人"の手がかりに繋がるわけもなく。

「アラグの技術は確かに奇妙なものも多いがそんなことも出来るのか、というかよく分かったな」
「親方が退室した後に一部ページ引っかかったんですよ。まあそれ以降は見つからなかったですが」
「うん? 欠けてるってことか?」

 どうやら遥か昔に抜き取られているのだという。聖コイナク財団より先に発見した人間がいたのか、それとも盗掘家が価値も分からず偶然持って行ってしまったのか。かつて出し抜いた人間がいたのか現在の彼らに知る由はない。分かることは旅人であるあの人がそんなことをするわけがないという確信だった。

「先程まで聖コイナク財団の関係者と一緒に検証して分かったんです。しかしあくまでもこれは変換のみで出力するための装置も必要だと思いますがそれは分かりませんでした。―――本当にこれどこで手に入れたんです?」
「いや、まあ俺も偶然な」

 兎に角返してもらうぞ、と装置を受け取り部屋に籠る。再び髪飾りに付け握り締める。

「アンタは一体何者なんだ。旅人さん―――」



―――数年後。

「なあアンナ、この髪飾りなんだが」
「知らない、私は何も知りません」
「お前が一芝居打って俺にあげたものじゃないか」

 街ごと俺を騙しやがってと持ち主アンナに突き付けると本人は露骨に嫌そうな顔を見せた。「捨ててると思ってたんだけどねえ」と言いながらそれを摘まみ空へ掲げる。「ただの故郷と私を繋ぐ印さ。何も価値はない」と吐き捨てシドに投げ返す。

「変な装置が付いていたんだがこれはお前の集落伝統のものなのか?」
「はい?」

 シドはこれと固い部分をつついた。アンナは首を傾げる。そういえばよく見れば、材質が違う気がするとボソボソ呟きながら考え込む。

「そんなわけないじゃん。故郷ではただの髪飾りだったよ」
「いやこれはエーテル制御の装置らしくてな」
「うーん……?」

 心当たり無いなあと呟きながら首を傾げている。その反応でで当時持っていたヒントではこの面倒な旅人をどうにかすることは出来なかったことを知り、苦笑しながら肩をすくめた。
 しかしふとアンナは「あ」と声を出す。どうした、と聞くと「いや分かったとかそういうのではないけど」と笑う。

「昔初めてフウガに教えてもらった技を撃った時数日起きられなかったんだ」

 急激な体内エーテル消費により生死を彷徨っていた時があり、死んだかと思ったら生きてたんだと語る。またリンドウかとシドは苦虫を嚙み潰したような表情を見せながらそれがどうしたと聞く。呪縛を解いたというのに無限に出てくる命の恩人で初恋の人でもあったリンドウ・フウガの話に対しては正直未だに嫉妬の感情に溢れていた。

「いやもしこれが最初から付いてたらさ、倒れなかったんじゃないかなって。だからその時以降に付けられたのかも」
「そうだったのか。―――ずっと付けてなかったのか?」
「いや肌身離さず付けてたよ。……あー確かに目が覚めた後にフウガがずっと付けとけって言ってたやつの一つだ。ついでに外にいた旧友も紹介してもらったかな」

 金髪な人からからくり装置の作り方教えてもらったと答える姿にシドは頭痛がする。また変な知らない人間が出て来たという感想がよぎる。
 いや、フウガはアンナの兄と旧知の仲であり、その更に知り合い、金髪。そういえば以前金髪でネロに雰囲気が似てる男がいたと語っていた。最後に『アラグの技術にクローンを作るものがあるんだと』と言い残し別れたという。まさか、アラグの技術を持って行った犯人は。

「自由か」
「え? シドどうした?」
「いや世間は狭いなと思っただけだ。何か言ってなかったか?」
「うーん昔の話だよ? いいおっさんだった。多分。お小遣いくれたしフウガとお揃いの板もくれた、し……あっ」

 アンナの顔が一瞬で青くなりやっばと言いながら鞄を必死に押さえた。そして「よ、用事思い出したから帰る」と下がるがシドに腕を掴まれる。

「出すんだ」
「嫌。思い出の品を奪うの、最低」
「人聞きの悪い事を言うな。見せてほしいだけだ」

 見るだけだよ? とアンナは鞄の隠しポケットから黒い物体を手に取った。トームストーンに酷似した薄い板だ。というか最近入手したものと同一品である。「リンドウもこれを?」とシドが聞くと「渡されてたねえ」と返ってきた。その板に手をかけ、引っ張るとアンナはちょっと! と言いながら取り合う形になる。

「ちょっと借りる」
「やだ」
「すぐ返す」
「それ絶対何かある時に言うやつ」
「壊さない」
「やだ」
「お願いだ」
「う……」

 シドのお願いという言葉に弱いアンナは黙り込む。そして押し付けた。

「明日までに返して」
「分かった。すぐ戻る」
「はあ!?」

 シドは受け取るや否や部屋のドアを勢い良く開きネロの元へ走って行く。アンナは大慌てで追いかける。待て、それは許可してない、返せというドスの利いた低い声が聞こえた。ビッグスと談笑していたネロに投げ「多分"アリス"の遺物でアラグ関係だ!」と言ってやると口笛を吹き走り去る。その後胸倉を掴まれ珍しく人前で顔を真っ赤にしながら説教されたがどこか気分が晴れやかだった。

―――解析の結果、厳重に暗号化されたデータが保存してあるトームストーンだということが分かった。その後、アンナの元に返されたのは3日後になる。シドはアンナの機嫌を直すのに更に3日かかった。

「すまない、いや世紀の発見の予感がしてな。あの、本当に悪かった」
「まだパスワード総当たり中なンだがありゃぜってェいいモンだぜ。メスバブーンにしたァやるじゃねェか」
「……思い出の品をそういう扱いするのサイテー」
「そういえば髪飾りについていたのが持っとけと言われたヤツの一つだと言っていたがまだあるよな? いやあの髪飾りからエーテルを取り出すための何らかのものはあるだろ、ちょっと見せてほしいんだが」
「あっても言うわけないでしょ莫迦?」

 ゴミを見る目でこちらを睨む行為を必要経費と言い切るネロと小さくなるシドという対照的な風景をガーロンド社員たちは遠巻きに見つめていた。


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#シド光♀ #リンドウ関連

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注意漆黒5.0終了後想いを伝えあってから間もない頃のシド光♀です。  …

漆黒

#シド光♀

漆黒

"口調"
注意
漆黒5.0終了後想いを伝えあってから間もない頃のシド光♀です。
 
 アンナはネロ相手の時だけ話し方が変わる。さん付けしながらも子供っぽく喋り、対等な位置に立っている。俺はというと周辺と変わらない最低限のことだけ喋り笑顔を浮かべるだけなのに。アンナの隣に立っていてもいいのだろうか。本当はネロの方が好きなのではないか? 正直な話をネロにぶつけると鼻で笑われてしまう。

「オレが? アンナを? ない、絶対にありえねェ。メスバブーンと恋仲とか絶対無理に決まってンだろ」
「そこまでゴリラではないぞ失礼なことを言うな」

 ネロ行きつけのバーにて俺は最近浮かんだ自分の悩みを打ち明ける。アンナのことが分からない、と。するとゲラゲラと笑いだす。

「オマエが分かンねェならこの世で生きてるヤツら誰一人理解できてねェ。少なくともあいつに近いのはオマエだろ。ていうかその話本人にしろよ何でオレにすンだよ」
「まあそれはそうなんだがどうやってそんな話し方するような関係になったか知りたくてな」
「何もしちゃいねェぞ。どちらかというと舐められてる感じだぜ? アーでも一度殴り合いで舐めプされて負けた身だしオマエもそうすりゃいンじゃね」

 確かにそうか。いやアンナと喧嘩なんてありえない。口でも力でも負ける未来が見える。

「大体あの喋り方は兄のマネしてるだけじゃねェか? どこにうらやましい要素があンだよ」

 知ったことかとこの日はため息を吐きながらネロに嫉妬の感情をぶつけ終わった。



「てのがな」
「へぇシドって真っ当な嫉妬もするんだ。意外」

 ネロは恨み言をアンナにぶつけている。なんとかしろ、と睨むがそんなこと言われてもと返される。

「そもそもネロサンと話してる時の口調が本来の自分とは限らないでしょ」
「はーそう来たか。じゃあガーロンド相手が本来のか?」
「……絶対違うねぇ。ていうか本来の口調というものが分からず」

 グリダニアに着くまでどういう生活してたか知ってるでしょ? と言うとネロは「アー」と肩をすくめた。

「人との話し方なんて相手によって変えるに決まってるじゃん。ネロサンだって上官相手とそれ以外で態度違ったよね?」
「上下関係持って来ンのは反則じゃねェか?」
「素というものを出すのって諸刃の剣。仮面を使い分けて世渡りするのが人間ってやつだろう?」

 まあバカ正直なシドと違ってボクは仮面しか持ってないって感覚だけどねと苦笑しているのを見てネロはため息を吐く。煙草をくわえるとアンナは指を向け、「バァン」と火を灯す。兄妹揃って着火剤いらずだなァと思いながらふと目をやるとシドがいつの間にか立っていた。毎回タイミングが悪すぎると眉間に指を当てる。

「それ、日頃からオマエの背後にいるやつにな?」
「え、何言って……あ、シド」

 あまりよろしくない機嫌のシドにアンナは困ったような笑顔を見せた。一息ついてネロに手を振った後先手を取るようにシドの腕を引っ張り部屋を出た。



 仮眠室に使用中の札を付け、扉を閉め鍵をかける。そして固いベッドにシドを倒し上に乗る。

「あ、アンナ? まだ昼だぞ」
「言いたいこと、ある?」

 眉間、頬、首元、胸に口付けた。これはシド相手には本音を引き出す手段として効率的だと判断している。他の相手にするはずがない。

「私がこれをネロサンにすると思う?」
「し、しないしさせん」
「ベッドの上で他人行儀だったことある?」
「……ない」
「普段から人前でイチャつけって言いたい?」
「わ、悪かった。そういうことじゃなくてな」

 じゃあどういうこと? と耳元で囁いてやる。髪の毛を優しく撫で言葉を待つ。

「もっと親しくなりたい。本当のアンナを知りたいんだ。お前の隣に立つにふさわしい男かも分からない」
「ばーか」
「真剣に悩んでるんだぞ?」
「……真剣に莫迦」

 鈍感かと頬をつねる。最大限の扱いをしているつもりなんだがと口には出さず胸の内を話してやる。

「誰がネロサンの前では素って言った? あの話し方する相手は他にもいる。あと最低限にしか喋らないのは旅人を印象に残さない名残。それに」
「それに?」
「……あなたが見て来た自分がそんな自分。イメージ崩したくないし幻滅されたくない。あと急に態度変えたら普通は驚き」

 シドは目を丸くしている。そしてくくくと笑った。笑うなと言ってやると突然世界が反転する。上に乗り、垂らしている髪に口付けている。そして「すまなかった」と顎を固定しかぶりつくようにキスをした。

「優しくする所では?」
「バカと言われたからな」
「そっちかあ」
「よくイタズラしてゲラゲラ笑っておいて今更幻滅とか言うんじゃない」

 襟元を緩められ、噛みつかれる。アンナは目を見開き「痛っ」と声を漏らした。首元がゾワリと粟立ち、本能的にこれはヤバいと察知しながら思い切り手刀を落とす。

「仕事中!」
「アンナが悪いだろ明らかに―――ぐっ!?」
「話を聞く!」

 痛みに悶絶するシドから"ヤバイ予感がする"雰囲気が消え安堵した。趣向を変えようとニィと笑顔で声のトーンを落とし言ってやる。

「はいはいボクが悪かったですよーだ。まったくキミはいつサカろうとするか分かんないねぇ」
「う……いやそれはお前が」
「今日はレヴナンツトールに1日滞在するから働いてきなよ」

 パッとしない感じになってしまったと思いながら相手の反応を伺うと笑顔になっている。分かりやすい顔だなあと目を細めながら「ほらジェシーに怒られるよ」と送り出してやる。
 シドが立ち去った後、天井を見上げながらため息を吐いた。一拍置いた後、「はー人間って分かんね」と浮かぶ笑顔を抑えることができなくなっていた。あの男はとても面白い。人と関わるために立てる予想が彼相手だと結構な割合で最終的に外れてしまう。まだまだ兄と違って未熟だなと緩む口元を引き締めた。


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#シド光♀

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注意 シド光♀前提のエメ→光♀です。漆黒ストーリー中盤辺り。  ―――…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

旅人を闇は抱きしめる
注意
 シド光♀前提のエメ→光♀です。漆黒ストーリー中盤辺り。
 
―――あの人の露骨に嫌そうな顔を見て、これは守らないといけないと俺は決心したのだ。

「ウリエンジェ、少々よろしいか?」
「どうされましたか、水晶公」

 秘密裏に協力して貰っているあの人の仲間、ウリエンジェを呼び止める。

「アンナとエメトセルクをなるべくでいい、2人きりにしないように誘導してもらえないだろうか」
「構いませんが……貴方はお二方の関係もご存じなのですか?」
「勿論。その内本人の口から話をすると思われるから詳細は避けよう。……アンナは彼とは一度しか会わず、アシエンだったということも知らずに英雄となったことだけは伝えておきたい」
「それが聞けただけ安心しました。昨日エメトセルクが挨拶に来た際、ものすごく動揺していたのを見て私たちは心配しておりました」

 皆になるべく付いて行くよう進言しておきましょう、と言いながら去る姿を見送り、自分のやるべきことに戻る。



 何かがおかしい、アンナは考え込む。
 絶対に暁の誰かが付いてきている。今までは個人行動が多かった気がするのだがラケティカ大森林に行くことになった時以降、誰かが隣にいた。まあエオルゼアと違って危険すぎる世界だ。手の届く範囲で彼らを守ることができるのは嬉しい話なのでそこは気にしない。あとは彼らがいる際はあまりエメトセルクが干渉してこないというのも大きい。大体皆が対応してくれて自分はニコニコ笑うだけでいいというのは楽な話だ。胃の痛みが抑えられているのも確かだ。
 まあ流石にペンダント居住区の自室までは来ないのでその隙をついて滅茶苦茶滞在している。寂しがりのお爺ちゃんみたいだ。言ったらどんな嫌味が飛んで来るか面倒で考えたくないから黙っている。
 ボクはある日「この手紙、あなたが犯人ってコトでいい?」と聞くと何も悪びれずに「そうだ」と言いやがったのは少々イラっとした。

「お前にやらせようと思っていたことは曾孫のゼノスがやってくれたからな邪魔になったんだよ」
「こんな無名の旅人に破られる程度のヒトしか集められなかった方に問題があるんじゃな―――ッ」

 バランスを崩し、目の前には明らかにお怒りなエメトセルク。なるほどこれが押し倒される側ってやつか覚えておこうと呑気に考える自分の脳が少し怖かった。

「バケモノが何を言っている。楽しかったか? 人間ごっこは。エオルゼア全体を騙し英雄とちやほやされて」
「ナイスジョーク。痛いから離してもらいたい」

 押さえつける腕を強引に掴み抵抗しようとするがビクともしない。まるで全身に重りを固定されたかのようだ。いい機会だ、あの件も聞いておこう。帝国兵に伝わる奇妙な話の真相を。

「ていうか手紙だけじゃない。なんなのあの怪談、ふざけないで」
「嗚呼鮮血の赤兎のことか? アレは兵が勝手に作った話だ私は何もしていない」
「……それ以外やらかしてない?」
「嗚呼一部隊お前を追いかけさせて報告させてた位か?」
「やらかしてるじゃないか! いつか国ごと燃やす!! ていうか本当に痛いから離して!」

 この男は人のことを一切考えず押さえつける力が容赦ない。ていうか何がしたいんだと。話するだけならばそこに立ってればいい。これではまるで―――。

「お前が記憶に残りたくないと言うから忘れられないようにしてやった。感謝してほしいくらいだが?」
「いらない」

 金の双眸が睨みつける様に笑顔を浮かべる。段々思い出してきた。あの頃、どういう感情でこの男を見たのかを。アシエンだということが分かればあの夜何をしでかしたのも予想が付く。
 以前ヤ・シュトラが『奥底に闇の杭が打たれ、何者かの手によって一度エーテル、というより魂そのものに操作を施されたような形跡がある』と言っていた。これは目の前の男によるエーテル操作。目的は自分を逃がさないために施した永遠に消えない疵。出会うアシエンが一瞬詰まるようなリアクションをするのも当然である。彼は本気で帝国の狗にさせる気満々だったのだ。
―――実際は幼い頃のあの人によって防がれてしまったのだが。愉快なことこの上ない。ゲラゲラと笑いたい感情を隠し不敵な笑みで睨み返してやる。
 当然、アシエンだと知った時は怖く感じていた。だが、『でもコイツ子供に自分の計画阻止されたんだよな』と思うと全く恐怖はなかった。

「あの頃のボクだと思うなよ?」
「勿論だ腑抜けた兎がどこまで足掻けるか期待しているぞ?」
「守るべきものが出来たと言っていただきたい」

 ボクは「バァン」と言いながら襟を焦がしてやると反射的にキレて離れてくれた。その後思いっきり鳩尾にエーテルの塊を一発喰らう。だがニィと歯を見せ耐えてみせた。

「"私"にどけって言ってどいてくれなかった陛下サマが悪い」
「普通なりそこないはここで倒れると思うんだがお前はどういう体の作りをしている」
「沢山旅をするとこうなるさ」
「普通はならん」

 どうしてこうなっているかはこっちが聞きたいんだよなと思う。いつの間にか無駄に強くなった理由なんて聞かれたら"ボク"は困惑しかできない。

「バケモノが」
「今と違う人類のアシエンってやつに言われて嬉しいねェ」

 ニィと笑いこみ上がる吐き気を抑える。
 嗚呼闇が恋しいよ。胸の奥にある残り続ける僅かな闇と2つの輝く白い星を抱きしめた。
 ふと目の前が黒に支配される。柔らかく包まれ、"ボク"は目を閉じた。

 ボクには3人の命の恩人がいる。広かったけど狭い森の中で育った子供のボクに世界を教えてくれたヒト、私に空への道を示してくれたヒト、そして―――


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注意"エプロン"の後日談なSSです。  「シドの莫…

漆黒

#シド光♀ #ギャグ

漆黒

おまけ"エプロン"
注意
"エプロン"の後日談なSSです。
 
「シドの莫迦はどこ!!」
「アンナじゃないか。お使いは終わったのか?」

 ある日のガーロンド社。箱を脇に抱え珍しく怒りの形相でシドの前に現れた。周りの社員たちも物珍しそうな目でアンナを見た。石の家に預けていたものを持っている姿を見て笑顔になる。

「ああ石の家に行ってたのか」
「何呑気な声出してる、表出な一発殴らせて」
「お前に殴られたら顔の形が残らないだろうが」
「失礼な。手加減位できる」

 まあとりあえず部屋で話は聞くからと宥めながら工房を後にした。大方エプロンに対する感想だろう。デカい声で万が一兄の耳に届いてしまうと最悪自分ごと燃やされる可能性が高い。
 残された社員たちは各々の神やら空に祈りを捧げている。覚えてろよと思いながらアンナの手を引っ張った。そして自室に連れて行き、鍵を閉める。

「珍しく怒ってるじゃないか。どうした?」
「まさか心当たりが、無い!?」

 呆れた顔に笑みがこぼれる。数年前では絶対に見せなかった表情だ。すっかり憑き物が落ち、女性というよりは少年っぽいアンナに愛おしさが増していく。箱を開き中に入っていた布を指さす。白いフリルが眩しい丈が短いエプロンだ。

「確かにシンプルで可愛さと実用性が両立したエプロン使ってたけど、せめて実用的な方面に! キミ仮にも物作る会社の社長じゃなかったっけ!?」
「シンプルだろ? いででで」

 思い切りヒゲを引っ張られた。あのね、と言うので首を傾げる。

「百億歩譲ってこれを着るとする」
「嬉しいな」
「まずこんなレース私に似合うわけない、ていうかこのエプロン知ってるよ? 他の布は?」
「アンナは何でも着るじゃないか。ああドレス部分等まとめて保管はしてる」
「趣味悪」

 アンナはエプロンの入手経路に関して心当たりがあったようだ。いずれ見せてもらえたら嬉しい。だが普通に着こなしそうでつまらないと思い、エプロンだけ渡したのはバレているみたいだ。結構恥ずかしかったんだぞと言ってやると「でしょうね!?」と素っ頓狂な声を上げた。

「考えて、あなた裸オーバーオールやれって言ったらやる?」
「俺がやっても面白くないだろ何言ってるんだ」
「それは私も同じ。あ、いやそんなこの世の絶望みたいな顔しないで。ただ白は汚れが目立つし普段使い出来ないかもってだけ」

 そんな顔をしていたのだろうか? 確かに突き返されそうな雰囲気だったので少々悲しかったが、アンナはシドの頭を優しく撫でる。

「あー実用的だったら幻影化させて自慢したよ? これは……あなたの前でしか着ることが出来ない」

 頬にリップ音を立て口付けられると顔が熱くなり、ふわりと漂う汗のにおいに喉が鳴る。珍しく香水を付けていない。本当に走り回った帰りに荷物を受け取ってからここに来たのかと思うと興奮してくる。それに渡したのは自分の前でだけ着てほしいという下心も一切なかったわけではない。さすがにそこまで心は読まれていないようだ、サッと離れ「ほら仕事に戻りな」と扉を指さす。

「今日食事どう?」
「定時で帰れるように調整しようじゃないか」
「無理な方に賭ける」
「アンナが関わると仕事の効率が上がると評判だぞ?」
「胸を張らず普段から頑張れ」

 じゃあここで待ってるから行ってきなさいとそっぽを向き手を振っている。ああすまないと言いながら部屋を後にした。稀に文句を口にするが決して受け取り拒否はしないアンナは本当にいい人だなと笑顔が漏れた。

―――数日後。アンナは渡したエプロンを堂々と着てガーロンド社に現れる。兎に角「シドから貰った」と強調しながら笑顔で社内を歩き回った。そこには男性社員からは好奇心の目で見られ、女性社員からは睨まれ小さくなったシドの姿があった。そういえば自分だけに見せてくれ、とは言わなかったなと思い返す。しかし『自分の前でしか着ることが出来ない』って言っていたじゃないかと頭を抱えた。罰ゲームのような時間を過ごし、もう二度とやるまいと誓う。
 数日あらぬ噂が囁かれ必死に誤解を解いて回った。勿論即彼女の兄にもバレ、写真片手にお礼を言われながら飛び蹴りを喰らったのはまた別の話。


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#シド光♀ #ギャグ

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注意 漆黒以降のお話ですが展開には触れてません。付き合った後の裸エプロン云々ギャ…

漆黒

#シド光♀ #ギャグ

漆黒

"エプロン"
注意
 漆黒以降のお話ですが展開には触れてません。付き合った後の裸エプロン云々ギャグ概念。R18無しバージョン。事後描写有り。
 
「久々に会って早速? おうおう徹夜明けにしては元気」

 黒髪のヴィエラは目を細め、抱きしめる男の頬をつねった。

 お互い想いを伝えてからそれなりの時間が経過したが何も変わらない時が流れていた。無自覚だったが、付き合い始める前からほぼ恋人同士がやる行為は大体していたらしいので、変わらないのも仕方がないのかもしれない。唯一やってないことといえばと周りに報告した際、大体「今更何言ってるんだコイツら」とリアクションをされたので多分そうなのだろう。兄との決戦が一番盛り上がったのも記憶に新しい。
 閑話休題。目の前の問題は解決していないもののようやく合致する空いた時間を捻出することができた。よって「ご飯でも作ってやる」とトップマストの一室へ招待した。定住するつもりはないが、もうしばらくの間はエオルゼアにいるので荷物置きがてら購入を決めた。しかし今日まで誰にもこの場所の話をしていない。ちょうどいい機会だし一番最初に言うならシドだなと判断したのが決め手である。
 部屋はいつでも引き払えるよう極力シンプルな配置にした。荷物置き、寝る場所、あと作業スペースとキッチントイレシャワーがある程度だ。本当は命の恩人の絵とオルシュファンの肖像画が飾っていたのだが隠している。意外と嫉妬する人間らしく、"スイッチ"がどこにあるか分からないのだ。そんなことで怒ったりしないのは知っているが不安要素は極力排除するに限る。
 扉を開き、案内された徹夜明けのシドは目を丸くし「ここは?」と聞く。「私の部屋。初めて人を招いた」と言ってやると分かりやすいくらい満面な笑顔でこっちを見た。その場で荷物を下ろし抱きしめようとしたので「扉閉めるまで待てバカ」と力で押しのけた。

「色気のない部屋で悪いね」
「効率を追い求めたらこうなるだろう。俺も部屋を作れと言われたらキッチン以外は同じ感じになるな」
「そういうものかぁ」

 生活観はそんなに変わらなかったらしい、持っていた荷物を下ろしながらアンナは苦笑する。諸々の報告合間に仕込みは終わらせていたので、エプロンをつけながらキッチンへ足を向けようとした直後、抱きしめられた。呆れた顔して名前を呼ぶと「エプロン、似合うな」と言い、離す様子はない。これは真っ黒な布地に胸元のヒナチョコボの刺繍が可愛いシンプルなものだった。似合うと言われても大体の人間は着ても違和感持たれないオーソドックスなものじゃないかと首を傾げる。そういえばシドには製作作業中の姿は初めて見せるかと思い出した。
 どうやら抱き返さないといけないのだろう、「そうだね」と頭に片手を置き、ついでに「今はこれで満足して」とアゴの髭を撫でてやる。顔を上げたので頬に口付け、振りほどこうとしたら首に腕を回され唇を奪われた。完璧に"スイッチ"でも入ったかと思い薄く口を開き、舌先を差し出してやると肉厚な舌を絡まされる。キスの仕方はもう覚えた。どうやれば相手が喜ぶのか、それを忠実に再現するだけで大体は満足して離れるので正直言ってチョロい話である。ニィと笑いながら料理の手順を浮かべていたが今回はいつまで経っても解放されそうにない。少々苦しくなり「シ、ド」と声を漏らすとようやく離れていく。そしてなんとか冒頭の言葉を吐き、頬を思い切りつねった。顔を赤くしながら解放するシドの腕を引っ張り椅子に座らせる。

「ご飯終わるまでいい子にしてて」
「ああすまんな」

 料理の邪魔をしたら追い出すからねと釘を刺し調理場に立った。流石にそこまで言えば大人しくするだろう。しかし1人のために料理を作ってやるのは初めてだなあとぼんやりと思い返した。



 手伝うことはないのかという言葉に必要ない、またいつかねと返しつつ作った料理は今回も自信作であった。お互い味は特に気にしていない。相当ダークマターや生焼けでない限り食べるが美味しいに越したことはない。アンナはシドを笑顔で観察する。雑な所もあるがさすがおぼっちゃんだっただけあり自分と違い丁寧だ。残念ながらアンナのテーブルマナーに対する知識は多少教えてもらったのと本で読んだ分しか知らないが。
 子供っぽい夢の追いかけ方をしているが基本的には堅物だし細かい所で大人だなあと思う部分がある。そんな人間が60年程度人と関わってこなかった自分に対し、気を長く教えながら付いて来ている事実が少しだけ照れくさい。世の中には魅力的な女性がたくさんいるのにね、と言えば「お前以上の人間なんて知らんぞ」と返す。―――まあシドのみならず複数人から「あなたに慣れるといろんな意味でもう他では満足できなくなるダメ人間製造機」とありがたい言葉をいただいた。何を言っているのか分からないので考えないことにする。
 気になったのかふと「アンナ?」と名前を呼ばれた。

「? どうした?」
「いやそんなに見つめられても困るんだが」
「人がおいしそうに食べてるの見るのは悪くないねえ」

 あなただってよく見つめてくるでしょと言うと肩をすくめた。ワインも開け喉に流し込む。昔から酔うことのないただの色の付いた水だったモノもこの人と出会ってから有意義な時間を過ごすためのものになった。食事という行為だってそう。生きるため早急に摂取するものからこうやって人と談笑するために変わり悪くはないなと思うようになった。昔の自分が見たらどう思うだろう。『情けない、短命のやつらと無駄な時間を過ごすな』と言うなと苦笑した。
 そうだ、"彼ら"は普通だったらアンナより遥かに早く死ぬ。しかし別の未来の話を聞いた時、寿命の大小なんて考える必要はないな、と思うようになった。流石にシドが死んだら心が苦しくなるかもしれない。適度に長生きできるように手を回してやったらいいかなと目を閉じた。―――まあそんな辛気臭いことに延々と想いを馳せるのはやめておく。口に出したら説教が始まるに違いない事柄をあまり考えるな、というのが付き合う際に約束した取り決めの一つだ。
 閑話休題。考えをかき消すように近況を交わし合う。奇妙な機械について、妙な現象の専門家たちの見解、最近シドが関わった案件の続報等、話すことは大量にある。シド側からもさすがに会社の詳しい事柄は立場上聞きたくない。なのでつい先ほどまでの納期に追われことや社員たちの暴走についての話を聞きお互い大変だなあと笑いあった。



 後片付けを終わらせエプロンを脱ぎ、部屋内をうろうろ見回っていたシドに「おまたせ」と言うと「ああ特に待ってはいない」と返すのでソファに座わらせる。勿論シドは自分の上だ。所謂お姫様抱っこのような形だ。いつもこの姿勢を取ると死んだ目になるので非常に愉快な気分になる。「逆だと思わないか?」という抗議も適当に流し、手はしっかり掴んでおく。過去に隙を見せたら耳に触れやがったので当然の措置だ。これで大丈夫だろうと高を括っていたら耳を食み、そのまま「アンナ」と名前を囁いた。ビクリと身体が跳ね、反撃としてヒゲを引っ張る。

「……次は手錠でも用意して頭も押さえつけるように考慮する」
「やめるという発想はないんだな」
「優越感に浸れるからね」
「そういう意図でいつもやっていたのかお前は」

 あ、やっべ本音が出てしまったと気が付いた時にはもう遅い。いつの間にか手を振りほどかれ体勢を変えるよう動いた。座った自分を見下すように立ち、両肩を掴みながらジトっとした目で睨んでいる。怒るよね、そりゃと思いながらも笑顔になるとシドも笑顔を見せた。酒が入った後にこれは下手なこと言って余計に火を点ける未来が見える。言い訳はしないと両手を上げ、降参のポーズを見せた。

 シド・ガーロンドという男は使命と理性に雁字搦めになった仕事以外さっぱりなヒトである。無意識に、気ままに与え続けたヒントにも気付かず2年以上無意識下に熟成されてしまった感情のトリガーを引いてしまったのは間違いなくアンナ自身だった。それ以降、何度か"そういう空気"になったがいずれにしても自爆スイッチを入れきっかけを作ってしまったもアンナである。別にヤりたくてやっているわけではない。ただ失言、無意識、ほんの少しからかっただけで雰囲気がガラッと変わる。それから何度も一晩中相手して作った取り決めを口にする。

「あー1回だけだよ? キミ一睡もしてない。途中で寝られたら多分笑いすぎて腹筋が死ぬ。分かった?」
「俺はまだ何も言ってないぞ?」

 また嵌められてしまった、と思いながらアンナは立ち上がり、シドはソファに座らせ向かい合って乗りかかる形になる。「何も言ってないならこれで満足できるね?」と頭を撫でてやると腰に手を回され身体を密着させた。名前を呼びながら首元に鼻を近づけ匂いを確認するが如く呼吸する姿にアンナは呑ませすぎたかという感想を抱く。どうやら自分と出会ってから嗅覚が鋭くなっているらしく首元に顔を持って行くと噛みつくか匂いを嗅がれるのだ。犬かと思いながらその頭を撫でてやるとポツリと一言漏らす。

「アンナ、シたい」
「おあずけ」
「俺は犬じゃない。……しばらく会ってすらなかっただろ? あとさっきアンナから1回だけって言ったな」
「言ってない。忘れた。1人でしてたら……あ、いや何でもない。ほら抱きしめる程度だったらいくらでも受け入れる。やめてベルト緩めるな」

 今の状態だったら自慰行為を延々見せつけられる未来が過るほど本気の目が一瞬見えたので必死に止める。機嫌を取るように顎を掴み上げ「ほらいい子いい子」と口付けてやると頭を押さえつけられ深くキスをする羽目になる。大きな手が身体を撫でまわす感触が伝わり、まるでこれから抱く相手の存在を確かめるかのようで嫌いではないがどこか落ち着かない。丹念に触られ全身が軽く痙攣しながら甘い息が漏れる。

―――2人の間で交わされるキスは3種類ある。まずは基本的にはアンナが与える複数部位に軽く触れるだけのもの。主にくすぐったい感情を刺激して放置する行為が当人にとっては楽しい。2つ目は少し機嫌を損ねてしまった時にする。ただシドを満足させるためのマニュアル通りに行う"チョロい"と称する深い口付け。これに加えて適当に撫でると顔を赤くしながらあっさり許してくれるので嫌いな行為ではない。そして最後にシドが仕掛けるアンナの判断力を堕とし理性を捨てさせるためのモノ。アンナがシドの仕様を把握してるということは、シドもどうすれば確実に堕とせるかを理解している。普段は流されないように立ち回っている。だが、どこでスイッチが入るか分からず、ヤバいと気付いてもこのキスが降ってきた地点でもう逃げることはできない。口を頑なに閉じようとしても全身に与えられる甘い刺激で緩まり、舌が強引に差し込まれアンナの口内を蹂躙する。一度好奇心と抵抗の意思を見せるため軽く噛みついてやったことがあったが、その夜は酷かった。身体中噛みつかれながらこれまで決して触れられなかった部位を穿ち上げられ痛みと快楽の海に容赦なく沈められる。次の日、土下座され延々と反省の意を示された。だがアンナとしても窮鼠猫を嚙むよう襲われた行為として二度とやるまいと刻み込まれていた。なので起き上がるのもやっとな身体に鞭打ちながら困ったような笑顔を見せた記憶がある。我ながらシドに対してのみ甘すぎる対応をしていることは自覚している。

 酸欠になりそうだ、と思いながらなんとか引き剥がした。口元から惜しむように結ぶ糸の様子にこれは向こうの火を灯してしまうと笑顔が引きつる。逃げようにもがっしりと抱きしめられ動くことが出来ない。「あの、シド……サン?」と恐る恐る顔を見ると何か思いついた様子。「えっと、どうした?」と聞くと、「頼みたい事がある」と指さしながら言うので「断る!」と反射的に叫んだ。そちらはエプロンの方向。このヤる気になった段階でエプロンというのはアンナでも察するところはある。

「まだ提案の内容を言っていない。聞いてから断っても遅くないぞ」
「いやオチが見える。未来視持ってなくても分かる」
「成程考えることが同じ、シナジーがあると」
「私は推理しただけだからねこの酔っ払い!」

 声を荒げるアンナを無視しながらシドは"お願い"を言った。

「裸の上にエプロンを着てほしい」

 嫌に決まってるだろとアンナは「バカかい?」と天を仰ぎため息を吐いた。



 結局熱意で押し切られ、下着着用を条件に着ることになった。アンナは覚えてろよと呪詛を吐きながら壁を背にいつ振り向いていいのかと呑気に聞くシドへ威嚇している。
 別にどんな服を纏うのも恥ずかしくはない。あえて言うと女性らしさに極振りされたフリル等は似合わないと思っているくらいだ。しかし欲に塗れた人間によって行使されるオチが鮮明に見える行為はなるべくしたくないのだ。
 それでも多少受け入れるのは相手がシドだからある。この人でなければ反射的に首を刎ねていたかもしれない。あと背中をあまり見せたくないし、作業で使うものを性的な要素と繋げたくないのだ。とりあえず着たが見せるとは一言も言っていない。このまま相手が寝るまで後ろにいるかと慎重に背後に近付き抱きしめた。シドはその腕を掴み見上げようとするので片手で頭を押さえた。

「いやあ時間かかってすまないねえ。ああゆっくりしてもらっても構わないよ。へへっ旦那、肩でも揉んでやりますぜ」
「……時間稼ぎする気だな?」

 あからさますぎたかと反省したがこういう時に限って鋭いと思わずアンナは舌打ちしてしまう。上を向かせ触れるだけのキスを繰り返すとエプロンの紐を引っ張り噛みつくように口付けられた。逃げるように「背中が寒い」と言いながらベッドに転がり込み布団を被る。シドがゆっくりと歩いて来る気配を感じた。慎重に下がるようにモゾモゾと動く姿は情けないだろうなあと思うが身体が勝手に動くのだ、仕方がない。しかし相手は不気味なほどに静かだ。これは呆れてるな、つまり勝ったか? いやまだ油断してはいけない。しばらく動きを止め、反応を見る。触る気配もない。率直な男なので調子に乗って剝ぎ取ろうとするはずだとアンナは普段の駆け引きを思い返す。これは本当に勝ちか、早く着替えさせてもらおう、顔だけ出して相手の出方をうかがう。

 目の前に覗き込む顔があった。ずっと顔を出すのを待っていたらしい。反射的にもう一度隠そうとするが掴まれ動くことが出来ない。「えらく可愛いことをするじゃないか」と布団に手をかけている。取られるくらいなら後ろだけは見せないよう包まりながら起き上がった。

「もう終わりか?」
「趣味悪」
「お前がそうさせるんだ」

 仰向けに倒されエプロンに手をかけようとするので抵抗しようと手を動かすと押さえつけられた。流石に下に回ってしまっては普段は勝っている力も腕力で押さえ込まれる。

「あーその寒いという発想はなかった。すまなかった」
「適当に言った言葉に謝罪されるとなんかむず痒い」
「嘘だったのか?」

 やっべと思った時にはもう遅かった。「似合うな」とアンナの両手は片手で固定される。これ以上向こうの空気に流されるわけにはいかない。恐る恐る口を開く。

「6割は、事実で」
「残り4割」
「じ、自分へのやさしさ3割」
「あとは何だ?」
「あの酔っ払いが早く寝てくれたらエプロン汚れないだろうねえ」
「こら」

 シドは思い切りアンナの頬を引っ張る。この調子だ、アンナは心の中で笑う。やりすぎると痛い目に遭うのは何度も体験している。だが学ぶことを知らないアンナは地雷原へと突っ走った。

「だってこのエプロンお気に入りなんだよ。貰ったんだ」
「珍しい、誰にだ?」
「そりゃある優しい暁所属の冒険者にね。お礼に現金たんまり渡したのと一緒にご飯を、あ……」

 アンナはシドの表情の変化に気付いた。笑顔だが、目は笑っていない。ここに呼ぶ時に確かめたじゃないか、意外と嫉妬する人間だから変なスイッチ入らないように、と。なのに何をしているんだ。まずは言葉が足らなかったことを弁明しようと口を開こうとしたが遅かった。

「俺は別に嫉妬はしてないぞ?」
「説得力ない、というかやめ」

 強引にひっくり返され布団を剥がれた。未だ消えぬ背中の傷にシドは口付け、舌を這わせるとアンナの身体は緊張で固まる。嗚呼もうどうにでもなれと思いながら口を押さえた。



「このエプロンね、蒼天街で貰えるものだった。実用さと可愛らしさが両立してるって思ってねぇ」

 珍しく1回で終わった行為の数時間後、シドはスッキリとした気分で目が覚めた。だがまずはタオルを噛まされたまま睨むアンナを見ることになった。慌てて外してやると「正座」と言われ座らされた。

「まあでも振興券が足りなくてねえ、困ってた所に暁所属の"女性"冒険者が複数持ってるからって1着くれた」
「う……」
「無料で貰うのはボクのポリシーに反するんだ。だからちゃんとマーケットでの相場に加えてご飯をおごったんだよ。そこまで分かった?」
「ああ」

 アンナにヒゲを掴まれる。珍しく口調を隠さず怒っているのは分かった。

「それを、あなたはどう勘違いしたのかなァ? 気になるねぇ」
「い、いや……ああてっきり戦闘事以外鈍いお前のことだから男相手でも釣られるかと」
「ハァ?」
「すまなかった……」
「最後エプロンにぶっかけたのが一番最低だと思うよ?」
「新しく買ってやるから、な? だからその手に持ったロープで縛って吊るし上げるのは勘弁してほしい」

 シドはそこから何度もアンナに謝罪した。何かあるとすぐに人を縛り付けて吊るし上げようとするのは兄妹変わらない。そう考えていると「ボクも説明足らずだったのが悪いんだけどねぇ」と言いながらため息を吐いている。

「でもちゃんと約束は守ったのはいい子だね。うんそこは褒めよう」

 第三の眼付近に軽く口付けてやり、シャワー浴びてくると奥へ消えて行った。シドははにかみ、再び寝転ぶ。直後必死に頭を掻きながら数時間前の自分の行動を思い起こそうとする。

―――シドは手料理を食べた以降の出来事をほぼ覚えていなかった。白濁の液が吐き出された形跡のあるエプロンに目をやる。アレに関しては本当に思い出せない。しかしそのまま言ったら絶対に数日ゴミを見るような目で対応される未来が見える。そこまではまあ人によったら一種のご褒美になるものだろう。だがそれに加えてデリカシーや恥というものを理解していないアンナのことだ。絶対に人に言いふらし、最終的に彼女の兄の耳に届く。そして縛り上げられる未来が超える力を持っていないシドでも鮮明に見えた。とりあえず、再び謝ろう。そして似合いそうな新しいエプロンも考えて機嫌を直してもらおうと心に決めた。



 数日後。

「あらアンナおかえりなさい。シドから荷物が届いてるわよ?」

 シドに料理を振る舞いやらかされてからまた各地を走り回り、まともに連絡を取っていない。あの件に関しては別に洗濯すればいいだけだと思っていたので特に気にしてなかった。
 一段落ついたので石の家に顔を出すとクルルから小包を渡される。置いて行くなんて珍しいな、と呟きながらその場でまずは走り書きされた手紙を読む。

『先日は本当にすまなかった。約束通り詫びとしてエプロンを新しく購入したので使ってほしい。あと今度見せてほしい』
「懲りてないなこの人」

 軽くため息を吐き買ったエプロンとやらを確認するように布を掴み、引き上げる。

「は?」

 真っ白い、フリルがあしらわれたものが見えた瞬間に手を離し反射的に箱を閉じる。クルルは目を点にしてアンナを見つめていた。
 笑顔で口を開く。

「クルル、見た?」
「な、何も。ええ」
「だよね?」

 荷物を抱え、大股で石の家を後にする。扉を閉める直前「ごちそうさま」という声が聞こえてきたが何も聞かなかったことにする。

「いつかキミを裸オーバーオールにしてやるから覚悟しとけよシド……」

 やられる覚悟がない奴がそんな要求するわけないよねぇ? ボソリと呟きながらガーロンド社へ足を向けるのであった―――。


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#シド光♀ #ギャグ

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注意漆黒ネタバレ。  「これは失敬。同胞を消滅させた英雄の前だからな。…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

旅人は暗闇の過去に逢う
注意
漆黒ネタバレ。
 
「これは失敬。同胞を消滅させた英雄の前だからな。恐ろしくて、つい保険をかけてしまった。ガーネットという獣が怖くてねえ」
「ガー」
「ネッ」
「ト……?」
「違う!!」

 ボクの反射的に出た叫び声がクリスタリウムに響いた。

「うるさいじゃないか、赤兎。嗚呼今はアンナと言ったっけか? 英雄殿」
「知らない。初対面」

 後ろからの視線が痛い。あまりにも露骨に反応を見せてしまった事を後悔している。
 アシエン・エメトセルクーーー厄介な因縁が今更になって現れた。

 皇帝ソル、忘れる筈もない。あの寒空の国を治め、対面してしまった男。死んだと思っていたが実はアシエンだったということを知ったのはつい最近。嫌な予感がする。どこかで鉢合わせして殴り合わないといけないとは察していた。しかしその真実を突き付けられた現場には暁のメンバーはアリゼーしかいなかったので言う気がしなかった。理由は簡単、一々説明が面倒だからである。第一世界で合流し始めた今これを機に暁の人間位には言っておかないといけない。なんて分かっていてもこれはあまりにも現実離れした話。いつ切り出したらいいものかと悩んでいたが―――まさかここで会い、よりにもよって昔の名前を呼びやがるとは。

「なんだ、誰も知らないのか? まあ言えるわけないか。ではな、諸君……またすぐに会おう」

 それだけ言ってエメトセルクは闇の中へと消えて行った。この気まずい状況を作った本人が真っ先に逃げやがった。

「アンナ」
「知らない人。あのアシエンは、今が初対面だ」

 吐き捨てるように嘘をついた。いやあの男がアシエンとして会ったのは初めてだから間違っていない。ただ動揺しすぎて言葉がまとまらない。胃も痛くなってきた。今日はもう寝たい。



「ねえどう思う?」
「アンナのことか? 彼女はよく分からないからどうにも言えんが……まあ喋ってくれるのを待つしか出来ないだろ」

 あの後アンナは暗い顔でペンダント居住区方向へ歩いて行った。ガーネットとはと聞いても「昔名乗ってた名前。いつか話す」としか言われなかった。今更彼女が帝国と繋がっていると思ってはいないが―――。

「そういえばヴァリス帝との話し合いで初代皇帝がアシエンだったという言葉を聞いた時一番衝撃を受けてたのはアンナだったわ。……ガイウスも赤兎って呼んでた。話を聞く前にこっちに来ちゃったんだけど」
「彼女をいくら調べても過去は出てきませんでした。話したくないというよりかはどこか」

 英雄として活躍してきた彼女を今更疑っているわけではない。しかし何も語らないというのはこれまで共に冒険してきた仲間として寂しい所もある。

「アンナ、言ってくれないと分からないじゃないか」

 アルフィノの弱弱しい声が空に消えた。



 ネロサン、ガイウスと来て次はご本人登場か! 余計なこと言いやがって! ペンダント居住区の一室でボクはそう叫ぼうとした口を必死に塞ぐ。
 奴がトラウマだとかそういうわけではない。ただ会った時期が人に言いたくない過去なのだ。
 アルバートがボクを不審げな目で見ている。観念して少しだけ話をした。

「私、昔エメトセルクに会ったことがあった。いや正しく言うとガレマール帝国初代皇帝に直接会ったことがある」
「そうなのか? ていうかお前は何歳なんだよ」
「ヒミツ。当時ガーネットって名乗った。髪の色も赤かったし服はそこらの屍体から取ってて。ヴィエラは珍しい存在。フードで耳を隠し、胸は弓を引くためにサラシを巻いた。人から見たら怖かったのかも、沢山襲われて返り討ちにしたりね。今と全然違う生活してた」
「おいおい英雄とは程遠い存在じゃないか。それで、そのアシエンと何があったんだ?」

 少しだけ語った。特に何かしたわけじゃない。偶然大きな箱が置いてあってその中で寝てる間に積み荷と一緒に運ばれたらしく気が付いたらガレマール帝国にいた。ボクを捕まえようとする兵士を気絶させながら無我夢中に逃げ、城の中に。目の前に扉があったから入ったらなんと皇帝の寝室。初代皇帝サマとのご対面だった。

「いやあビックリ。相手の変なものを見た顔も面白かったね」
「無法か!」
「まあそこで一晩お付き合いするのと引き換えに外に放逐する約束をした」

 アルバートがむせている。「私は最近まで処女だったからね?」と言うと「いらん! その情報は今必要ない!」と顔を真っ赤にしながら手で覆っている。

「色々あって何かバリバリと身体の一部を引き剥がされるほど痛い事はあったけど性行為はしていない。……以前仲間が『貴方はエーテルで多少内面が操作された形跡がある』って言ってたんだけど多分その時の傷」
「意味が分からん」
「私も意味分かんなかった。……次の日彼の使用人から新しい服一式貰って。帝国領外に運んでもらった」

 あなたなら絶対に誰にも漏らさないから話したんだよ? って振ると「まあ物理的にお前以外から見えないしな」とぼやく。知ってる、だから話をしたのだ。少しだけ心が軽くなった気がする。

「ありがとね、明日以降奴に会ってもキレ散らかしはしなさそう」
「だったらいいんだけどな。ていうかそれなら周りに素直に言えばいいだろ?」
「……全員揃ってない内に話すのはなって」
「勝手にやってろ」

 アルバートはため息を吐き、消えていく。私は久々に少々泣いてしまった。こんなにも苦しい時に限って、シドの声を聞く事が出来ないのだから。



 正直期待以上の反応を見せてくれた。正直彼女に渡す予定だった『役割』は曾孫がやったのだから最早必要のない厄介な女だったが、内包された【魂】で捨てきれない存在。かつての獣のように奔る赤兎なら自分の思想も【理解】、いや【約束】を守り手を取っただろう。小さな国民によって阻まれ、彼女を捕えることが出来なかったのが計算外だった。その後ヘタクソな偽装をしてきやがったので死んだ事にしてやったがまさかハイデリンに選ばれ英雄となり私の目の前に現れるとは。黒薔薇でなりそこない共を絶望させるための見せしめに殺してやろうと思ったが今第一世界の地に立っている。殺し合いをするだけなら簡単である。しかし改めて話し合いをすることで【約束】ではなく【理解】を示すかもしれない。牙を抜かれたお前がどれだけ戦えるか、楽しみにしているぞ? 鮮血の赤兎よ―――


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注意漆黒ネタバレ。色々第八霊災捏造。  『もしも、また新たな空への道が…

漆黒,ネタバレ有り

#水晶公 #第八霊災関連

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序章:紅蓮の先へと続く物語
注意
漆黒ネタバレ。色々第八霊災捏造。
 
『もしも、また新たな空への道が現れたなら。白く光る星に好きという言葉を伝えたい』
―――この本の最後に拙い古代アラグ文字で走り書きされ涙の跡が残る一文が、きっと彼らの記憶を想起し、奇跡を起こしたのだろう。

 フードを被った男は古びた本の頁をめくる。ある人物から手渡された『あなたに贈るため代々受け継がれた旅人譚』―――興味深い話だった。
 最初に持ったあの人への感情は憧れ。優しい笑顔で圧倒的な力を人助けために使う姿がカッコよかった。突然エオルゼアの地に現れ、あっという間に各地を救う英雄となった者の人柄に誰もが好きになっていったのだという。かつて枯れない花が供えられた墓の前で、全てを受け継いだ人がそう語っていた。旅人を救いたいがために、時代の先へ行くために。あの人の命と生涯愛し続けた男が託した重い選択というデカい船に沢山の想いや願いが無数に集まって、今の俺があるんだ。その願いを込められた技術で俺は別れから200年後に目覚め、世界を超えて時代を遡り待つこととなっている。
 "氾濫"から抵抗しながらも毎日のようにこの本を読んだ。英雄であったあの人について書かれた偉大な物語はいくつも語り継がれていたが、これは全く違うものである。
 それは生まれてから、死ぬ少し前までの本人目線で書かれた世界に1つしかない物語。いつだって見せていた優しい笑顔という仮面の下にあった長命種特有の悩みによる涙が不器用に描かれていた。頼られることも決して悪い気はしなかったが、誰かを愛することも拒絶する方法も分からない自分を憐れむ記録。死ぬことは察していたが、どう死ぬか予想もしていなかったのだろう―――この本を託した"彼"や周辺の人間に宛てた『こんな無名の旅人のことなんて忘れて、幸せになって欲しい』という言葉が何度も書き込まれていた。
 英雄ではなく、旅人として苦しみ、悩み続けた外からは一切観測できなかった全く違う視線で書かれた物語に俺は涙を流し、救いたいと何度も原初世界繋がる"扉"へ手を伸ばす。どうしてあの人にばかり悲しき運命が課されてしまったのか! 唯一特別だった人に宛てた遺言を抱きしめ、目を閉じた。
―――もうすぐ"あちら"は終わりの分岐点がやって来る。絶対に、失敗できない時代の先に俺の手で連れて行くんだ。呼びかけるために杖を掲げ願いを解き放つ。

「あなたのためなら未来を書き換えてみせるさ、全てを救うために、私を、私たちを【助けて】欲しい。アンナ……いやフレイヤ・エルダス!」

 俺は叫び、詠唱を開始する。必死に腕を伸ばし、少しでも確実性を上げるために誰にも教えなかったという本当の名前を叫んだ。


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#水晶公 #第八霊災関連

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―――明日は降神祭という年が一巡することを記念する日。何でもお祝い化するエオルゼ…

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#シド光♀ #季節イベント

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旅人は新年の空を見上げる
―――明日は降神祭という年が一巡することを記念する日。何でもお祝い化するエオルゼアに来て何年が経過したのだろう。新年祝い程度なら故郷でも無かったわけではないが本当にこの地域は色々な国のお祭りを柔軟に取り入れるなぁ。

 今日はまず今年も色々ありました、と感謝のしるしに石の家の掃除を手伝った。今年の汚れは今年のうちに。旅人である自分には無縁の文化だったがそれも楽しかった。
 ついでに自分の鞄や相棒チョコボのフレイム、リテイナーのフウガ、リリア、ノラに預けた荷物も整理し新年を迎える準備も終わらせる。今日は休んでいいよ、と料理をあげたらみんな喜んでくれて嬉しいね。
 いろんな組織から年忘れの会に誘われたがふわりと断り、現在黒衣森にて1人焚き火の前で空を見上げていた。
 この空を見上げる行為がこれまでの新年を越える瞬間の過ごし方で。いや、いつが新年かなんて見分けがつかなかったからそう言ってるだけさ。まあ何十年も続けてるわけだから簡単に変わるわけもなく。

 さっき釣った魚や狩った動物の肉を焼き、先程グリダニアで調理した餅を食べる。ついでにいつも後ろに付いてきているハシビロコウに適当に生魚を投げた。本当にいつの間にか付いて来たしどこか"忘れて欲しくなさそうに"佇んでいるものだから邪険に扱うことが出来なかった。
 少しずつ自分の中で決めてきた日常に誰かの手が入っているのは少々面白い。最初は心がバラバラになりそうなくらい苦痛で厭だったが、一度作っていた壁を正面から破壊されるとそれも悪くないと思うようになっていった。
 懐中時計を開くとあともう少しで時計の針が一巡し、新しい世界に足を踏み入れる。何か物足りないと思う心を撫でながらまた星空を見上げているとふと人が走ってくる音が聞こえた。
 音が聞こえる方をいつもの笑顔で眺めていると白色の男が息切れしながら走って来た。

「やっと見つけた……」
「おや社畜のお偉いさんが走って来た」

 やってきた足りなかったパーツ(シド·ガーロンド)に「まあとりあえずおいで」と開けておいた隣を指さしミネラルウォーターを開けた。さすがにその辺りの水をおぼっちゃまにあげるほど終わった価値観はしていない。
 シドは私の隣に座り水を飲んだ。

「最低限やるべき仕事は終わらせたさ。細かい作業も片付けておこうと思ったらお前座標だけリンクシェル通信で流しただろ? おかげでジェシーたちに満面の笑顔で見送られたさ」
「別に社員と迎えてもよかったんだよ? 地獄の新年」
「アンナがいないだろ?」

 シラフで何言っているんだコイツ。まあシラフでいろいろ吐くのはボクも変わらないか。

「こうやって過ごすクセが抜けなくてねえ。故郷もこれよりも大きい焚き火の周りで火に感謝しながら酒の交わし合っていたのさ。未成年だったボクはとっとと寝させられたけど」

 時計の針を見るとあと数刻で日が変わるようだ。

「まあ理由もわかるよね?」
「予想はつくから言わなくてもいい」
「察しのいいキミが大好きだよ」
「お前なあ」

 カラカラと笑ってやるとシドは顔を片手で覆いため息を吐いた。まあからかうと反応が面白いわけ。
 残り約十秒。よし来たときにと考えていたプランを実行する。「シド」と名前を呼んで彼の方を向こうとするとぐいと引っ張られた。そしてボクの口に唇を押し当てられた。
 横目で見るとジャスト0時。やられた、と目を閉じた。

「ちくしょーボクがする予定だったのにな」
「それだけ慣れたんだ」
「悔しいなあ」
「新年から悔しがる姿が見れたからいい一年になりそうだ」
「……バーカ」

 私が作っていた壁を壊し、呪いに新たな祝福を上書きした男の肩に手を回し密着させた。「だから逆だろ」という言葉は無視することにする。兄さんもお嫁さんたちとこうしているのかな。

「そうだ、リムサロミンサに行かない? 今年の運勢を見よ」
「今からか? 初日の出を見に行くのが先だろう」
「今から気象予報を見て来いって? 無茶言うなって」
「それ位調べてきたさ。コスタでいいだろ?」
「リムサ行くのにはかわりないじゃん。というか間に合わないって」
「……じゃあここでいいな。お前別にそういう文化はここに来るまで触れずに星空眺めてたんだろ?」
「うん、そだね」

 1人だったハズの場所に常に誰かいるというのは少し照れくさい。でもそういうのも、悪くない。
 しかしこれから誰かと過ごすならば同じ見晴らしがいい場所でももっといい所がたくさんある。

「来年は、ここ以外を考えておく」
「そうしてくれ」

 とりあえず、殴り込みかな。

―――一方その頃ガーロンド・アイアンワークス社。
「俺が! 妹と! 過ごしたかった! 君たちなぜ止めた……あぁ……」という表情をコロコロと変えながら呻き声をあげる赤髪ヴィエラの男を肴に残った社員で仕事を片付ける会が行われていたことをアンナは知らない。


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