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注意表題でカットしたネロとエルファーサイドの話。   一服は、嘘ではな…

漆黒,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

漆黒,ネタバレ有り

技師は宿題を解きに行く-幕間-
注意
表題でカットしたネロとエルファーサイドの話。
 
 一服は、嘘ではない。それよりも外の男が心配だった。「エル」と声をかけると赤髪のヴィエラはゆっくりと口を開いた。

「……長い耳舐めんな。全部聞こえた」

 石碑の前に座り込んでいる。顔を凝視すると涙を拭った痕跡が見えた。こちらに来ると気付いて急いでこすったのだろう。

「クソが。だからコイツ嫌い」
「まさかガーロンドと似てるつって毒吐いてた奴が」

 煙草を取り出し咥えるとエルファーは指をパチンと鳴らし火が灯された。

「臆病者。本質は年を取っても変わらず。大方妹を雑な扱いして死んだら僕に殺されるって思ってたんだろ」

 眉間に皴を寄せる。空に手を伸ばし、吐き捨てる。

「まさか"僕ら"が作った理論を妹が使いこなすようになるとは予想外」
「そりゃどういうもンだよ」
「"奥義:流星"、門外不出。それに―――科学で解明できないものなんて嫌いだろう?」

 火事場の馬鹿力を表層的なものにした錬金術由来のモノ、って感じかな? と言うとネロは眉間に皴を寄せ煙を吐いた。

「ほーら嫌な顔。僕だって現実感皆無で嫌い」
「そーだな。だがな、エル。オレはオマエのことだけはもっと知りてェなァ」

 笑ってやるとエルファーも釣られたように口元が持ち上がった。笑っているつもりなのだろう。

「でもきっとそのリンドウと自分が似てるなンてガーロンドにバレたら不味くね。嫉妬でバグるぜ?」
「ありえる。ほらこれ、当時描いてもらった」

 懐から取り出した劣化防止された紙を眺める。それには3人の男が描かれていた。
 中央にいる片目を髪で隠したヴィエラ、背の低い笑顔を見せるミコッテの男、そして背の高いエレゼンの男。

「そのエレゼンがリン。ハーフガレアンだったんだよ」
「はぁ!?」
「言っただろう? 親の影響でエーテル操作が下手だったって。まあそういうこと。多分妹も知らない。酒の席で樽2個飲ませてようやく口を割った」
「こわ」

 3人が出会った頃はまだガレマール共和国時代であった。父親は鎌を持つとある集落の"農耕民族"だったが生活苦で亡命。オサードで呪術士として旅をしていた母親に出会ったらしい。そして成人後、強くなるために父が持っていたものやエーテルとはまた違う技術に頼ることにした。各地を旅する内にサベネア島に辿り着き、現地人と話をしていたアリスとエルファーに出会うこととなる。

「やべェな。共和国時代か。何つーか昔すぎる話に現実感がねェ」
「言っただろう? 僕は君が思っているより年より上。―――不思議な男だったよ。第一印象は、な。その後、ラザハンの伝承で面白そうなものがあってね。アリスが理論をこね、僕が協力して形作る。んで、全てリンの体で実験、実証」
「実験、ねェ」
「はっはっはいっぱい苦しめてやった。その結果魂自体も少し歪んだ。そのドス黒い闇の歪みがな、実は今の妹にもある」
「―――は?」
「察してた。だが、信じたくない。僕が関わった研究でバケモノにしてしまった事実から目を背けたかった。だから自分の好奇心を満たす旅を優先した。最低だろう?」

 君の前に現れたのも本当はそれが理由だったと目を細め、石碑を撫でる。ネロは吸殻を踏みつぶし、隣に座った。

「あの野郎の手紙に"継承"とあったみたいだが理論だけではない。文字通りリンの全てを魂ごと受け継いでるんだよ。細かいクセも影響されたというには忠実すぎる。完璧にアリスのアホも一枚噛んでるな」
「ンなこと出来ンのか? 聞いたことねェぞ。ていうかオマエ魂視れンの?」
「昔色々あった。―――アリスならありえる。しかもその上でアシエンに魂を弄られている。挙句の果てにハイデリンの加護だぁ? 笑える。何で妹ばっかりこんな目に遭わないといけない」

 エルファーは苦虫を嚙み潰したような顔を見せ、拳を握り締める。

「正直に言う。正気なのが奇跡。―――それは多分リンの教えで自らを縛り、ガーロンドクンがいたから人の形を保っているんだと思う。それが無い今の妹はきっとハイデリンの加護が全て。アシエンに保証されてるとは思いたくない」
「ナァ」

 ネロはうじうじとマイナス方向に考えを張り巡らせるエルファーの思考を打ち切るように声をかける。

「もう妹以外のこと考えねェか? ずっと現実から目を背けてこのオレ様とイイコトでもしようぜ?」

 目を見開き少しだけ慌てた顔をしているのを見てゲラゲラ笑う。「か、からかうんじゃない」と咳ばらいをしながら小突いた。

「そうだな、妹は大丈夫。あの子は強い。どれもこれも全てリンとガーロンドクンのせい。アイツらが似てるのが悪い、うん」
「ああそうだガーロンドが悪い。しかし余計にバレたら機嫌悪くなりそうな話だなァ」
「だな。今の話は無しだ」

 立ち上がり、鞄からミネラルウォーターを取り出しそのまま石碑に注ぐ。

「アリス共々冥府で頭冷やせ。あと100年位したらそっちに行ってやるから指くわえて待ってろ。―――よし、ネロ。さっきから気になってたモンが家の中にある。見に行こう」

 前髪を払い左の紅色の目を開き口角を上げた。


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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

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注意&補足第八霊災ネタ。死ネタ。暁月ネタ有り。自機出番なし。漆黒後に現れるリテイ…

暁月,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

暁月,ネタバレ有り

その複製体は聞き記す
注意&補足
第八霊災ネタ。死ネタ。暁月ネタ有り。自機出番なし。
漆黒後に現れるリテイナーのア・リスが第八霊災が起こった後に"起動"される話。
メイン軸では触れられないだろうアンナとエルファー、ア・リス、リンドウの秘密な独自設定を明かしています。
 
―――俺様が起こされたのは"傑作"が世界によって壊された後の話だ。

 俺様はかつて友人の遺言を遂行し、"傑作"を最高なものに仕上げるために奔走した男の複製体。作った"親"は友人の魂の一部と共に想いを託し消えた。
 そんな"傑作"が完成し、ある"トリガー"を引いた際に俺様が起動するよう誘導させる、これが当初の計画である。しかしその願いが叶うことはなかった。

 目が覚めたら周りにいたのは赤や青の同じような服を着た男たちと勝手に"トリガー"役に任命した友人。驚愕した顔で俺様を見下ろしていた。

「お前、何で」
「起きたお姫様にはおはよう、だろ? よお久々だなエル、大体60年ぶりか?」
「……85年ぶりだ、寝ぼけたことを言ってるんじゃない阿呆」
「そっか。フレイヤちゃん元気? 念のために言うがテメェの可愛い妹のことだぞ? あの子がいないと俺様は起きることが出来ないはずだから知ってるよなァ? 会わせてくれよ俺様の最高傑作にさ。ケケッ」

 俺様はそこでこれまでにあった話を聞かされた。第七どころか第八霊災が起こり、フレイヤ―――いやアンナ・サリスは死んだらしい。"親"と友人の魂を抱えたままで、だ。どういう作り話だよと笑ってやったが隣にいた白色の男に胸倉を掴まれたことで現実と知る。

「お前がアンナを壊したのか!?」
「壊したぁ? 人聞きが悪いことを言うな。俺様が『生・か・し・て』やったんだよ。ていうかテメェはあの子の何なんだよ。あ、まさかコレか? ケケッそんな怖い顔すんなよ。俺様は嬉しいんだ。あの子が人間に近付いていたってことになァ」

 その白色の男はえらく友人にそっくりな真面目そうなヒトだった。多分アンナも無意識に追いかけていたんだろうな。でも反応的にはお互い想いを伝えることはなく両片想いだったのは分かる。焼き焦がれるほど想っていたのだろう。ああなんて青い男なんだ。
 それよりも少し離れた場所からの気配が気になる。賑やかだったから近付いてきたのだろう、これは悪意を何もない獣だ。このラボが壊されては困る。その腕を振りほどき、そばに置いていた短銃を手に取る。俺様用にカスタムされた特殊なモノだ。外に向けてぶっ放す。爆音が響き渡り俺様以外の人間が耳を押さえている。

「お前!?」
「うっせぇなどけどけこの中のものが壊れされたら嫌なんだよ」

 その言葉と同時に外で見張っていたのだろう女が「魔物がこちらに向かって! きゃっ!?」という声を上げた。すかさず足に力を籠め"跳ぶ"。エルファーは目を見開き俺様を見た。

「エル、俺様はただウロウロ遺跡を荒らしてただけじゃないんだぜ? 俺様はこの施設を"護りたい"んだ」



 外にいた魔物をあっという間に片付けると白い男が俺に声をかけた。

「よしよし問題なく使えてよかったぜ」
「それは気迫か?」
「おー懐かしい。リンが付けた名前じゃないか。違うぜ、これはシハーブってんだよ。だっせぇ名で呼ぶな」

 造られた身体に施されたモノにより"再現"された技術に満足出来た。エルは大股で近付き怒鳴って来る。

「どういうことだ!? "それ"を何で使えるんだお前は!!」
「そりゃ普通の人で実験したら下手すりゃ溶けちまうだろ? 先にアラグのクローン技術を"再現"していっぱい自分の複製体を作り試してたんだ。んで、成功した"俺様"をバックアップとしてこの地に保存してたってわけだ」
「ハァ!? オマエそンな理由でクローン複製したってか!?」

 次はひょろ長い兄ちゃんが必死な顔して言ってくる。これで察した。コイツらは技術者集団のようだ。エルは中々楽しい奴らをオトモダチに持ったみたいで安心する。

「さあエル、こんな所に長居は不要。これから俺様をどうする? 今殺すか? それとも―――連れてくかい? あの飛空艇に乗せてさ」
「―――会長クン、君に託そう。彼、の元は僕のかつての友人であり、リンと共にアンナを歪ませた元凶だ。だがどんな無茶も叶えてくれる天才でもある」
「ケケッその技術はテメェも共犯者だろ?」

 会長、と呼ばれた白色の男はしばらくこちらを見つめていた。そして口を開く。

「条件がある」

 条件、それはこれからの自分たちに対して口出しをするなという。その腕っぷしで護衛しろと言いたいらしい。一種のカミサマとして置いておくということなのだろう。気に入った、快諾してやったよ。

「じゃあ次はこっちが条件を出すか。俺様が持っている記憶はリンが死んだ直後までだ。それ以降は何も知らない。この世界の歴史だけじゃない。お前たちそれぞれの人生を順番に聞かせてくれ」
「―――全員か?」
「おう。ここにいるメンバーだけじゃない。俺様が死ぬまで文字通り全員の記憶と、アンナちゃんとの思い出を聞かせてくれないか」

 こんなにもあの子に必死になるような人間が増えたことが何よりも嬉しかった。赦される気はない、ただその歴史と記憶を全て聞いてそれを形にしたいだけで。
 まあ一種の懺悔室扱いされることになったんだけどな。それもまた人生だねケケッ。

「ああ自己紹介がまだだったな。俺様はア・リス、しがない科学者の複製体さ」

 ニィと笑ってやると何故か拘束されて連れて行かれることになった。何でだよ。



 飛空艇の上から各地の様相を見せてもらったがそりゃ酷いものだった。いつだって人間は勝手な生き物だなとため息を吐く。大体の為政者は死に、大気中のエーテルも弱り今まで使っていた燃料もゴミになった。だからどの勢力も余裕がないということらしい。幸い俺様を縛っている奴らはどこにも属さない技術を握る会社だったため狂った人間があまり出なかったみたいだ。何人も死人を出しながらもなんとか飛空艇の燃料である青燐水の変換を行い、アンナちゃんが遺したモノに挟まっていた地図を辿りラボに足を踏み入れたらしい。

「アンナちゃんは俺様の最高傑作になる予定だった。"アシエン"とやらに使い潰されるより先にリンと同じく欠けちまったものを取り戻す。そのために肉体を捨てたんだが完成する前に壊れちまうとはなあ」
「これ以上アンナをモノ扱いするとここから落としてやるからな」
「ひえー会長サマはコワイコワイ。そもそもリンがやらかさなきゃ俺様はあの子に何も施さねぇって。だからアイツを恨んでくれよ」

 シドという白い男はとにかくアンナのことを問いただしてきた。自分の知らないあの子の過去が気になるのだろう、覚えてる範囲で少々教えてやった。そして逆にコイツからも聞き出してやる。子供の頃、寒空の中助けて20年後に気付かぬ内に再会、仲良くしていたらしい。

「そうか、リンが死んで俺様が消えた次の年にテメェがかつてアンナちゃんを助けて、ねえ。想定通りの仕様として動いていてよかったさ」
「想定、通り?」
「あの子の意識が途切れても体内エーテルが尽きるまでは"俺様"が身体を動かせたんだよ。尽きたら本当に死ぬんだけどな。多分その時凍死しかけてたぞ。テメェが通りかからなかったら皇帝の前に持って行かれてたかもな」
「どういうことをしたらそうなるんだ」
「俺様最後の研究。アンナちゃんの"もう一つの人格"になってやってたんだよ。そうでもしねえとリンみたいな無欲で枯れた閉じ切ったアホの再演になったんだわ。ついでに反省させようとドアホの魂の一部も持ってな。時々意識乗っ取って必要な情報を見せて教育してやることにしたんだよあの底抜けたアホと一緒にすんじゃねぇ」
「オマエがアレかよ!?」

 近くで聞いてた金髪の男ネロが乱入してくる。どうやらコイツの前では結構出て来ていたらしい。

「時々変な含みのある喋りしてンなって思ったンだ。いつもより頭も良かったしよ」
「俺の前では出て来なかったぞ?」
「いやオメガ倒した後こっちに顔出した時は明らかにメスバブーンじゃなかったぜ? ガーロンドが気付かなかっただけじゃね」
「ぐっ……そ、そういえば何度か他人事みたいな言い方したことはあったが……」
「会長サマ鈍感なんだねぇ。好きだったんなら異変位気付いてやれよ」
「悪かったな鈍感で」

 からかい甲斐がある奴らだ。ネロという男に関しては"俺様"も相当気に入ってたのだろう。しかしそんなことよりエーテルが死んだ影響か纏わりつくような大気が気持ち悪い。拠点に連れて行ってもらったら屋内くらいは快適に暮らせるように変換器でも作ってやろう。ひとまず頭の中で仕様図と計算式をいくつか思い浮かべる。マァ再びリセットされてしまった時代に役立つものかは分からない。まずはそこから勉強し直しだろう。
 ラボの中にあるモノは燃料にでもすればいいと渡してやる。すると大体の奴らが「そんなこと出来るわけないだろ!?」と目を見開いていた。こっちにとっては通過点でしかなかった盗掘物やコーデックスの翻訳が彼らには刺激的に映ったらしい。俺様が入っていた睡眠装置もそうだ。魔導技術も使わず永久機関と化している部分に興味を持っているとか。確かにエーテルも大して消費させずに動かしているから変に映ったのかもしれない。実際は自然に頼ったもので、俺様としてはあと数年したら身体は腐っていたと見た。そんな代物だが自分たちで調べて判断すればいいだろう。
 以降、定期的に彼らはラボを出入りすることになる。だが、持って帰れたものは極一部で大体は途中で事故が起こったり略奪された。まあ過去の知識としてインプットされただけでもマシだろう。書物くらい再び俺様がペンを取って書き記せばいい。装置だってほぼ役立たないからスクラップにでもすればいいじゃないか。
 そんな俺様からしたらオメガとアレキサンダーをはじめとした報告書が非常に興味深いもので。文献で何度も見かけたクリスタルタワーも実際にこの目で確認出来るとは予想だにしなかった。本当にあの時アンナを生かしておいてよかったと好奇心が喜ぶ。まあもう死んでしまったのだが。

 レヴナンツトールに降り立った後、"最高傑作"になる予定だった人間の墓の前にぼんやりと座る。違和感を感じ目を凝らして視ると奇妙なものが映った。この子は既に死んでいるはず。が、埋められているであろう棺周辺がエーテルのようなもので包み込まれているのだ。まるでその躯を護るかのように。一体誰がやらかしたのか。自分の命を削ってまでそんな仕様を作るやつがいるわけがないだろう。

「―――アシエンの仕業だなこりゃ」

 1人ボソリと呟く。いや、この護る結界の主を見る限りヤツだけではないだろう。そういうことにしておく方が隣の男のためだ。俺様を拘束するロープを持ったエルは眉をひそめ「お前も視たんだな」とため息を吐いている。

「これあの会社の人間たちに言ってるのか?」
「否。というか掘り返してどうなるかも分からない要素を伝えるわけがないだろ」

 絶対に会長クンが掘りだそうとすると肩をすくめている姿を見て「あー」ということしか出来ない。

「どうして妹だけがこんな目に遭わないといけなかったんだ。僕も一緒に背負いたかった。家族なのに、何で話してくれなかったんだよ、フレイヤ」

 座り込み、顔を伏せている。俺様はその隣に座り「わかんね」とため息を吐く。

「そういう星の下に生まれた子と判断するしかねぇだろ。相変わらずネガティブで泣き虫なのは変わらなくて安心したぜ?」
「うるさい」

 鼻を啜る音が聞こえる。予想だが彼らの前では涙を流す姿は一切見せてないのだろう。戻ってこないエルが心配だったのか、ネロがやって来るまで泣き続けていた。声が聞こえた瞬間に咳ばらいをし必死に涙を拭っていたのは少々面白かった。
 ネロとエルはどうやらしばらく一緒にフリーランスの技師として旅をした仲らしい。あの嫁以外の話題では冷淡だった男が少しだけ柔らかくなった姿に驚いた。親しいながらもお互いあまり踏み込まない"良き友人"関係がかつての恋人シェリーと重ね目を細めてしまう。



―――数十年の時が経過した。

 最初に会った人間たちは徐々に老け、死にゆく中全く姿の変わらない俺様とエルは陰で"理論"確立のサポートを行った。多少の物資調達や特に失ってはいけないシドとネロの護衛が俺様たち2人の仕事である。当人たちのご希望通り、研究に必要になるであろう知識は一切提供しなかった。エルは人知れず"肉"を喰いながら彼らの営みをただ少し遠くで見守っていた。時間が経つごとに協力者も増え、既に第八霊災が起こった原因もほぼ特定されている。正直数々の分野のエキスパート達が集まり何日も議論を重ねる姿は新鮮で、見ているだけで面白かった。そして予想通りであったが、彼らが導いた結論は"第八霊災回避のためにはやはりアンナが必要だ"、と。―――なんてこんなにも求められていることに密かに涙を流す姿を何度も見ることになる。素直に礼を言えばいいじゃないか。まあ言えるような人間じゃない位長い付き合いの中で知っている。この結論をきっかけにもっと人が集まってきたという事実が、ちゃんとアンナは胸を張って"人間"として生きられていたと目に見えて確認出来、すぐに彼女の墓の前で報告してやっていた。
 一方、そんなエルを見ていた俺様は、故郷の闇という"呪縛"が未だ解かれていないことも痛感した。折角追放という名のしがらみからの解放が、霊災というクソみたいな出来事により再び闇へ堕としてしまったとため息を吐く。

「なあネロくん。もしさ、もし過去が本当に改竄出来たらエルを救ってくれないだろうか」

 我慢出来なかった俺様はつい仮眠しているネロにボソリと呟いてしまう。皴くちゃになり、すっかり年老いた彼も眠る時間が増えた。シドだってそうだ。ずっとアンナを想いながらも涙を枯らし、研究のため羽根ペンを握り続けていて。新たな隠れ家の壁はネロと議論するために文字だらけだった。自分にもこんな時があったなと苦笑する。

「エルはな、本当は泣き虫で甘えん坊なんだがその甘え方を知らないんだぜ? 滅茶苦茶リンに懐いてアイツのために僕の長い時間の一部を捧げてやるって言ってたんだ」

 思い浮かんだのはリンを差し置いてエルとラザハンで議論していた頃の話。一番の年下だったはずが落ち着き大人びていたリンのことが俺様たちは好きだったのだ。

「そんなエルが今は自分の残された時間をお前さんのために使ってるんだってよ。妹のためじゃなくてな。知らなかっただろ?」
「―――知ってたぜ」
「おいおい起きてたのかよ残念だ」
「うるさいから起きちまったンだよ」

 やれやれとゆっくりと身体を起こすネロを支えてやる。少し嫌味ったらしなのは年を取っても変わらないねえと笑ってやるとケケと笑っていた。

「あいつ隠せてると思い込ンでるみたいだが何年一緒にいンだよってな」
「だよな」
「でも触るのが怖かったンだよ。あいつ下手な機械や女より繊細じゃねェか」
「分かる」
「俺だって分かってンだ全部罪をエルに擦り付けてたってな。アンナを暴力装置呼ばわりしてたやつらと一緒なことしちまって、バケモノとして生きてやがる」

 そうか、コイツはエルが何を喰って生きているかも気が付いていたようだ。まあ追及しても理論立て優先だろとのらりくらりと避けただろうし心の中に仕舞っておくのは正解である。

「おっとそれ以降の言葉はエルに言ってくれ。俺様は何も聞いちゃいねぇから」
「いつぞやに全て話せって言った人間のセリフとは思えねェな」
「聞かせろと言ったが俺様は懺悔マシーンじゃねぇんだよ」

 数十年もの間、人々の軌跡を聞き続けた。そして1つ、"面白いモノ"を作って渡した。花を模った金属片から使い物にならなくなったシャードを加工した光るお守りまで。―――彼らの思い出にまつわる象徴を贈ってやる。それは俺様なりのお礼ってやつだ。

「それともネロくんや、やっと自分の思い出話をしてくれる気になったか?」

 そう、未だに軌跡を聞けていない存在がいる。シドとネロだ。コイツらだけは決して口を割りゃしない。
 露骨に嫌そうな顔をした後、苦笑しながら肩をすくめた男は遂に口を開いた。

「俺は、ガレマルドの貧しい田舎で生まれた。恵まれたガーロンドとは全く違う環境で育ってよ―――」



 長い話だった。腐れ縁となったシドに対する長きにわたるコンプレックスとその払拭に、エルとの出会い。アンナはメスバブーンと呼びながらも妙に騒げるいい友人だったと振り返った。でもこれまで聞いた奴らの中では激動な人生で面白さは上位だ。手元にあった針金を弄り、少しだけ残していた白と金の塗料を塗りウサギを模したものを渡す。目を丸くしてそれを見つめていたネロに「話のお礼だ。お守りとして持っとけ」とニィと笑ってやる。

「近い内に終の棲家を決めてけよ、ネロくん」
「いきなり何言ってンだ」
「昨晩あの紙束を見せてもらった。予言してやるよ。お前たちの研究はもうすぐ纏まる。最期の安住の地と墓の場所をシドくんと決めとけ。俺様とエルが絶対作り出してやるよ」

 ささやかなご褒美さと言いながらその場を去ろうとすると「待て」とネロは口を開く。

「墓の場所は決めてンだよ。俺もガーロンドもな」
「そか。……嗚呼レヴナンツトール」
「クリスタルタワーがよく見える場所でって決めてンだ。若造たちの頑張りを眺めてェ」
「―――そう言うと思ったぜ。シドくんは確定だと思ってたけどお前さんもとは思わなかったぜヘヘヘ」

 起こして悪かったな、小さな黒い塊を引き連れ外へ出た。いつの間にか"記録"のために入り込んでいたらしい。意思疎通は取れなかったが"これ"は何がしたいかは分かっていた。人間たちは現状の報告はコイツにし、過去の話はこっちへ。それが彼らにとってどういう意味を持っていたかは知る由はない。が、少しでも心が軽くなっていれば嬉しい。こんな陰鬱な滅びへ向かう世界を切り捨てるが如く巻き込み、"在るべき未来"へ繋ぐ。―――そんな彼らが2体は好きになっていた、のだろう多分。俺様はそうだがこの機械の塊はどう考えているか分からない。だって"これ"はそれに至るための感情が存在しないのだから。きっと理解するために未だ観測を続けているのだろう。外で待っていた黄色い生物を撫で、何もない空を見上げた。



「お前とアンナが持っていた気迫について聞いておきたい」

 全うに年齢を重ね皴だらけの手が俺様の腕を掴んだ。理論は完成し、あとは今後の人間に託す準備で"彼らの役目"が終わる。少しでも故郷に近い環境であり、モードゥナ近郊に位置するクルザス。そこで小さな家を構えシドとネロは暮らしている。現役を退いた今も伝説の機工師に会うためにとやって来る客の選別が俺様の仕事だ。エルは相変わらず物資調達役となっている。

「シハーブだっつってんだろ。……ラザハン式錬金術にな、"アーカーシャ"という概念があるのは知っているか?」
「聞いたことないな」
「目には見えない想いが動かす力。まあ普通だったら人の手では何も加えることが出来ないものだ。火事場の馬鹿力という言葉は知ってるだろ?」
「まあな。強い意志で何かをするってことか?」
「そうそう。それを力として形にし、行使出来ないかと聞いたのがリン。アイツ、ハーフガレアンでな。ママみたいなエーテル操作は不得意だしパパみたいに鎌持って妖異と契約も出来なかった。代替となる力が欲しいっつーから俺様とエルで叶えてやったんだよ。代償はキツいものだったけどな」

 その力は人の身に余りすぎるもの。だがリン、それに加えアンナは使いこなすことが出来てしまった。いや、アンナに関しては使えるように手を加えたのだが。

「怒りや悲しみが籠れば赤黒くなり、"大切な人と護るべきもの"への感情が強くなるほど青白く輝く」
「大切な、人」
「テメェはアレを目の当たりにしたんだろ? アンナちゃんは何やかんやちゃんと見てくれてたんだよ。リンの言いつけで大切な人を作らないように立ち回ってただろうにな」
「―――代償は何だったんだ?」
「人の感情に対して敏感になる。"俺様"も起きてから痛感したんだが自分への感情変化で首がゾワッて来るんだわ。もう鳥肌立つくらいにだぜ? かつてリンは複数人から悪意を持って近付かれたもんだから怖くなって逃げたんだよ。それが無名の旅人って名乗り始めた理由だ」

 アンナちゃんの行動も妙な時はあっただろ? と聞くと「確かに」とボソリと呟いた。

「あいつは一定の距離感以内に入ると首を押さえながら離れたりしていた」
「そのセンサーをかいくぐってテメェは懐に潜り込むことは出来たんだろ? いくら昔助けてくれた人だったとしても長い間相手になってたのはいい所まで行ってたな」
「―――初めて怖がらずに手を差し伸べられた相手だと、書かれていた」

 シドは机に置いていた分厚い本を手渡してくる。これは、意地でもこっちに見せなかった"アンナの手記"だ。

「まずその本はネロ、開くための鍵は俺が持っていた。"自分が死んだら開けろ"って、まるで自分が死ぬことが分かっていたかのようにネロに託していたんだ」
「お前さんもやっと話してくれる気になったんだな」
「自分のことを話すというのは、恥ずかしくてな。忘れてしまう前に聞いて欲しい。俺は伝説の機工師なんかじゃない、ただの愚かな人間だ」

 本を開き、彼の話に耳を傾けた。素直で不器用な、恵まれていたが波乱万丈な人生を送った男のまっすぐな想いが込められたアンナとの思い出を聞く。



「俺様はお前が羨ましいや」
「何故、そう言える」

 嗚呼面白い話だったよチクショウ。聞いてるこっちが恥ずかしい程のロマンチストだとは思ってもみなかった。そしてこの本はアンナが生まれてから死ぬ少し前までの内面が書かれた手記で。本当にこの子らはお互い惚れ込んでいながらも、感情よりも先に肉体関係を持って幸せになって欲しいと勝手に願う大莫迦者達だった。下手したらリンよりも愚者だと俺様は思ったね。すれ違いの悲恋を聞いて涙が出そうだよ。そのご褒美はモノではなくお話をプレゼントしてやる。

「俺様が生きていた時代はな。今のような技術はロストテクノロジー―――要するに都市伝説で。だから評価してくれるやつなんて存在しなかった」

 ただの狂人扱いされ、ぐちゃぐちゃな自暴自棄になっていた頃。そんな時、後に恋人となるシェリーに出会う。

「シェリーはな、ニームの軍学を少しでも人に知ってもらうべく研究を行う学者だった。当時ニーム文明が気になってたから色々調べ回ってた時でな。こりゃまたおもしれー女だったよ」

 これまでの自分の成果を見せると明るい表情を見せてくれた。そして知識を共有し合い、更に研究に火が灯される。

「それまでの人生で俺様を評価してれたのがアイツだけだった。あの時は幸せだった。だがそんな日々は長くは続かない。遺跡の崩落事故で俺様を庇って瓦礫の下敷きさ」

 それからまた真っ暗な日々に逆戻り。腹いせに各地の遺跡を荒らし、重要そうなデータは全部いただいてやった。と、ゲラゲラ笑ってやると眉間に皴を寄せたシドが口を開く。

「そのせいでどれだけ数々の分野に迷惑をかけたと思っているんだ」
「知らねえよ。大体の人間が興味ないモンどう使ったってこっちの勝手だ。……それからシェリーの蘇生技術探すついでにサベネアの遺跡荒らしてやろって思ってな。壁剥がそうとしたところでエルと鉢合わせ。あっという間に拘束されてごめんなさいさせられた。その縁で錬金術の話を聞かせてもらう途中、リンがふらりと現れた」

 偶然の巡り合わせが今奇妙な縁に繋がるのが人生の面白い所だよなと笑ってやる。

「コイツらは莫迦だった。俺様が持っていた装置一つ取っても全部すげーって言うんだぜ? そりゃ調子にも乗る。錬金術師共もアレを作ってくれこれを直してくれってうるせぇ。とりあえずどんどん形にしてやったさ。釜の再調整とか薬の保管場所の空調管理とかさ。初めて脳みそに詰まっていた知識をフル稼働させて。いつの間にかシェリーのことなんて後回し」
「―――それがレフたちとの出会いだったのか」
「そーだ。超天才な俺様と縁を持つことが出来た運のいい奴らのお話ってやつ。……で、だ。俺様とお前の違いだったな」

 分かるだろ? と聞いてやると軽く首を傾げている。恵まれた人間には難しすぎたみたいだ、苦笑して見せた。

「テメェにはネロっていう天才が並んで立っていた。競い合って洗練させていくという行為は技術の進歩に必要なものだ。そして沢山の部下に恵まれ色んな国からの信頼からの資金提供有りだろ? 俺様になかったものばっかで羨ましいったらありゃしない」

 俺様は既にあったものを組み合わせただけで何もすごくない。だからシドとネロが羨ましく感じた。まあ資金に関しては性格が災いしていたのは自覚している。

「ナァ、本当に過去が改竄出来たらさ、アンナちゃんを救ってくれないか?」
「それはお前さんの最高傑作として完成させてくれってことか?」
「うーんそれもある。まあ罪悪感はあるんだよ多少はさ。そしてエルもきっと楽になると思う」

 この技術はエルもノリノリで作ったんだ。それもあって今もなお罪悪感真っ只中なんだよと言ってやるとシドは驚いた顔を見せる。

「リンだってアンナちゃんを追い詰めたかったわけじゃない。ただの事故からああなった。俺様ら3人は一生苦しみながら死ぬことになってるからさ。せめてアンナちゃんだけでも助けてあげて欲しい」
「―――何度だって絶対にアンナを助けるし好きになるさ。レフだって何とかしてやるしア・リスお前もだぞ。流石にリンドウは死んでるからどうにも出来んが。……ありがとな」
「何で感謝されなきゃいけねぇんだ」
「だってお前さんだって今まで俺たちに自分の話をしなかっただろ? 仲間として認めてもらえて嬉しいんだ」

 うわあこの人タラシという言葉を飲み込みニィと笑ってやる。

「テメェがいい話をしてくれたからご褒美としてあげただけだ。勘違いすんなよ? アンナが最高傑作として完成したら、この複製体の俺様はもっと自由に走り回る予定だったんだよ。ケケッ」
「第八霊災を防げたら次はお前さんが暗躍しだすと? 冗談はやめてくれ。絶対捕まえてやるからな」

 シドはため息を吐き「喋りすぎた」と寝そべった。俺様は「おうすまん」と笑いながらその布団をかけ直してやる。アンナの手記を再びテーブルに置き、またいつの間にか現れていたオメガの模型を抱き上げ立ち去った。



―――それから2人の"シド"によって自分らが作り出した"理論"を2代目ガーロンド・アイアンワークス社会長らに"継承"し、その生涯を終えた。これから確立されるかは彼ら次第。協力してやろうか、とイタズラな笑みを見せてやるとシドと同じく「命尽きるまで見守っていて欲しい」と言われた。そういう所が俺様は気に入っていたからよかったぜ。もう表舞台に立てるような存在じゃないからな。
 彼らの墓は勿論クリスタルタワーがよく見えるレヴナンツトールの近郊に作られた。あのエオルゼアの英雄と呼ばれた女の隣だ。これからの人間たちの旅路を、仲良く見守っていればいい。"アイツ"もついでにとまとめて護ってくれるさ。絶対に気に入るからさ。
 俺様はどうするかだって? ―――複製体にだって寿命はある。延命させる技術は流石にエーテルが弱り切った現在、1人で成しえることは不可能だった。

「エル、すまねぇな。お前の死に目まで一緒にいられなくて」
「君の元になった存在は既に人生を閉じてるだろ」
「ケケッそうだったな」
「本当はあの墓を護ってたヤツの件も僕のために隠してたんだろ? 分かってんだよ」

 エルは動かなくなってきた俺様の身体を抱き上げ、とある底の見えない崖の上に立っている。嗚呼コイツを1人にしてしまうのかと思うと憐れみしか湧かない。

「お前の左目、治したかったな」
「……気持ちだけで嬉しい」

 エルの目は、昔故郷に安置されていた"聖石"に触れてしまったことで変容してしまっていた。"視えてはいけないもの"まで映り、その副作用で頭痛が発生し続ける一種の不治の病。それを何とかするのも元の俺様が複製体を作ってまで探ろうと決心した動機の一つである。第八霊災で全ての予定が崩れ、結局何も出来ず時間だけ過ぎてしまった。それを放置して、この世を去ることが一番の心残りである。もしも、もしもだ。本当に歴史を改竄出来るのなら、俺様は―――。いやそれを言うのは野暮だろう。心の奥にしまっておく。ふとエルはボソリと呟いた。

「アリス、複製体のお前も死んだら冥府に行けるのか?」
「知るか。……リンの代わりに行ってやってもいいかもしれんな。―――精々死ぬまで奴らを見守ってやってくれ。達者でな、エルファー・レフ・ジルダ(可愛い血の繋がらない弟)
「元からそういうつもりだ……おやすみ、ア・リス・ティア(バカ兄貴)
「ケケッ。こんな俺様のために泣くな莫迦」

 それからエルは俺様を投げ捨てた。嗚呼嗚咽を漏らし涙が溢れだしているのが見える。薄れゆく意識の中、彼らの理論が確立されてもこの世界が回り続けるよう祈りながら。造られた俺様の、その生涯を終えた。


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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

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注意漆黒5.0中盤辺りな時間軸。シド少年時代捏造  「おいガーロンドど…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀ #ヴィエラ♂+ネロ #リンドウ関連

漆黒,ネタバレ有り

技師は宿題を解きに行く
注意
漆黒5.0中盤辺りな時間軸。シド少年時代捏造
 
「おいガーロンドどこに向かってるんだよ」
「あと少しで近くに着くはずだ」

 飛空艇でクガネに降り立った後ハヤブサに乗り大空を飛んでいた。しかしいつまでも言わずにいるのも2人を苛つかせるだけだろう、前にアンナと共に墓参りに行った話をする。初恋と称された命の恩人と呼ばれている男の終の棲家だったんだと言うとエルファーは驚いた声を上げた。

「妹の恩人の墓参りに行った!?」
「そうだ。そこで見かけたやつに既視感があってな。ネロ、確認してほしい」

 オレにだぁ? 素っ頓狂な声が響く。

「それにレフにも無関係ではない。"無名の旅人"と自称する現在のアンナ全てがこの人きっかけなのさ」

 そう、『ボクの呪いを解けるもんなら解いてみな』という言葉の意味は絶対にリンドウが持っている。
 対してネロはため息を吐いていた。

「お前、本当に安価な娯楽に興味なかったンだな」
「どういうことだ?」
「予想が正しけりゃ見たら分かる」

 ネロの中では心当たりはある。てっきり帝国に足を踏み入れたことがあるアンナが何やらの手段で入手した"東方風牙録"という書物の影響かと思っていた。だが聞いた範囲ではそうではないらしい。苦虫を嚙み潰したような顔を見せた。



 3人は山に囲まれた集落付近に降り立った。「同じような風景で飽きるな」とネロは嫌味を言っているがエルファーは無視してシドに尋ねる。

「ここに行ったのか?」
「もう少し歩くんだがその前に挨拶をしようと思ってな」

 想定していたよりも栄え、どこか懐かしい雰囲気を見せる村に辿り着く。うろついていると1件の民家の前に黒髪の青年がいた。シドは「テッセンさん」と手を上げながら挨拶をしている。

「あなたはエルダスさんといた。あの時は申し訳ございませんでした。まさかガーロンド・アイアンワークス社の会長さんとは思わなくて」
「そんな改まらなくてもいい。それよりまたあの絵を見せてほしいんだ」
「構いませんけど後ろの方は……ガレアン人の方と、もしかしてエルダスさんの関係者ですか?」

 ネロは眉間にしわを寄せる。解放されたとはいえ元々はドマは帝国により占領された地だ、怪訝な顔もされるだろう。どうも思わないがわざわざ言われると少しだけ苛ついているようだ。

「ああ2人共ウチの社員さ。コイツはネロで、あっちはレフ、アンナの兄。俺も生粋のガレアンだから考える所があるかもしれんが悪いことはしない」
「お兄さんでしたか! お会いできて嬉しいです。―――ここは大丈夫ですよ。幸い帝国の戦禍は免れ、平和な場所でした。ただ、ドマが解放されてから久々に見たなというだけで。それに祖父は……いやこの話はいいでしょう。とにかく申し訳ありませんでした」
「まあ無名の旅人の墓があンなら熱心なやつは通ったンだろうな」

 さてご案内しますよとテッセンは歩き出す。シドは首を傾げて「どういうことだ?」と聞いている。

「オマエ本当に"龍殺しのリンドウ"って知らねェのか? はー安い娯楽に興味のないおぼっちゃんは困るなァ」
「―――リン、ドウ?」

 ネロも歩き出す。シドも追いかけようとするがエルファーはその場で止まったままだ。「おいレフ行くぞ」と声をかけると「あ、ああすまない」とゆっくりと一歩踏み出した。

 山道を歩き、開けた場所に辿り着く。そこには小さな小屋と石碑がある。シドの記憶通りのリンドウが最期に過ごしたという終の棲家だ。

「おいおいさっきこの辺り通ったけど上からじゃ何も見えなかったじゃねェかどうなってンだよ」
「だよな。アンナも迷子で彷徨うわけだ」

 そういうわけじゃねェと言おうとしたが置いておこうとネロはため息を吐く。道中この男の話を聞いた。名はテッセン・フウガ。リンドウの孫にあたる人間らしい。彼の父が元気だった頃はよくガレアン人を中心に帝国兵が墓参りに来ていたのだという。略奪物もあるであろう大量のお供え物が持ち込まれ、更に最新の技術を導入した宿泊施設を共同で作られた。そして亡命してまで住む者まで現れ、他の地域とは異色の文化を持っていった村は周りから相当疎まれていたらしい。それ程まで祖父は帝国で有名だったのかという質問に対しネロは答える。

「そりゃ"東方風牙録"ってベストセラーが出てたンだぜ? 舞台化もされてオレも観に行ったさ」
「そうだったのか。全然知らなかった」
「はーいい所のぼっちゃんはこれだから困る。木の棒1本を妖刀のように輝かせ龍をバッサリと倒した元英雄とその弟子の少女が各地を旅するって話だったんだぜ。―――ンで、だ。その絵画を見せてみろよ」

 テッセンは小屋の鍵を開錠し、箱の中から絵画を取り出した。ネロはじっと見つめ肩をすくめる。

「初代皇帝のコレクションで見たな」
「やっぱりか。見覚えあると思った」

 槍を持ったヴィエラの少女と、銀髪の侍がオサード地域を旅する絵画は見覚えがあった。魔導城に飾られていた属国から献上された芸術品の一つ、と記憶している。

「で、この赤色ヴィエラがメ……アンナだったってわけか? ハッ傑作だね」
「帝国にあるのはおかしいですよ。これは祖父が依頼して描いてもらった世界に1点しかないもので」
「そうなんだよ。だから俺も自信がなくてネロを連れて来たんだ」
「―――ザクロ、柘榴石、ガーネットってことかよ。何であの時気付かなかったンだオレは」

 ボソボソと呟きながら頭をガリガリと掻き、アンナに見せられた手紙を思い出す。その時だった。これまで静かだったエルファーは立ち上がり出口へ向かう。

「エル?」
「ちょっと外の空気を吸ってる」

 そのまま扉を閉めた。変なやつと眺めているとテッセンが再び箱の中をまさぐり封筒を手に取った。

「エルダスさんが帰った後に思い出したんですけど祖父が彼女宛に手紙を残していまして。読んでみませんか?」
「オレたちが見てもいいのか? 本人怒るンじゃね?」
「……正直言って私では渡していいかも分からないものでして」
「アンナのことを知りたくて来たんだ。貸してほしい」
「おいガーロンド」

 シドはその手紙を受け取り広げる。ネロも覗き込むが東方の文字に加え達筆であり何と書いているか分からない。苦笑しながら「その、力強い筆跡すぎて、な」とテッセンに返す。すると笑顔で「ああ、それでは読み上げますね」と内容を語る。

―――それは2人にとって衝撃的な話であった。
 まずは別れた直後、アンナの身に起こった水難事故で死んだと思っていたが生きてここに来たことに対しての喜びの言葉が綴られていた。その後は後悔と謝罪が延々と書かれている。
 自分でもどういう理屈で出来るのか分からない不完全なものを殺しかけてまで伝授してしまった。それが世界の崩壊のために利用されつつある絶望。この住処に訪ねて来たアシエンという存在の言葉は全く信じられなかった。だが、目の前で大切な絵画を複製するガレアン人が使えないはずの"魔法"によって信じざるを得なかった。『もう一度会えるようにこぎ着けてやる。これからドマを戦地にするがこの場所は絶対に壊させないようにしよう』という甘い囁きに手を伸ばしてしまった。その後本当にドマが占領されたが、ここは一切の戦禍が降りかからなかったという懺悔が書かれている。
 そして幼いアンナの気持ちに気付いていながらも強く突き放せなかった弱い自分への苛立ち。『約束は死んでも守れ。全てを護れないなら捨て去って旅をしろ』という教えを何十年も守っていることを知った時の焦り。自分は蝕まれていく"代償"と孤独に耐えられなくて再び家族の元に戻ってしまったというのに。どうしてそんなに忠実に守ってしまっているのか。これからは大切な人という星を見つけ、護る刃になりなさい。絶対に未来を歩むことが出来る"なりそこない"であり続けるために世界の統合を起こしてはいけない。これは人を護るという強い心を形に変えた新たな力だ。私はアンナを獣にし、人々を絶望させるために全てを教えたわけではない。アシエンの手を今からでも振りほどき星空の知識を教えた思い出と共に自由な夜空を愛してほしいという希望。そのための"奥の手"は友人が準備し終わっているから安心してくれ。そして力の根源を知りたいのならラザハンに行くといい。最後に兄エルファーに謝っておいてほしい。妹の体に消えない疵を刻みつけ、"私"を継承してしまい本当にすまなかった。さようなら、愛する唯一の弟子であり血の繋がりはないが魂で繋がった家族よという言葉で終わっていた。

「私めには意味が分かりませんがそう書かれております」
「……にわかには信じがてェな」

 手紙の内容についてネロは吐き捨てている。現実感はしないが、これまでのアンナを取り巻く出来事を思い返すと事実も多いことは分かるが理解を拒んだ。対してシドは重々しく口を開く。

「いや、俺たちの祖国がアシエンによって作られたものだというのは事実だ。ヴァリス殿下が明かしたとアンナたちから聞いた。ドマ侵攻について書かれているってことはリンドウは俺たちが最近知った知識を30年程度前には知ってたことになる」
「そうかよじゃあアンナが持ってた手紙はそのアシエン本人のお茶目ってことか。趣味悪ィ」

 ネロの言葉にシドは首を傾げる。「手紙って何だ?」と尋ねると露骨に嫌そうな顔を見せた。

「アラミゴ解放後に押し付けられたソル帝の便箋で届けられたモノだとよ。『お前の役割は終わりだ』とか書かれててあいつオメガブッ倒しながら怯えてたンだぜ?」
「知らない」
「そりゃオマエはあいつの過去を一切知らないじゃねェか。あの小心者が自分から教えるわけがねェし」
「アンナは小心者じゃない」

 そう言いながらもシドの顔が青くなっていく。そうだ、俺は何も知らなかったと視線を落とした。

「もう分かンだろ? あのオンナは【鮮血の赤兎】だ。アシエンが人間1人分の人生使って狙い続けてた実在した兵器なンだよ」
「アンナが、じゃあやっぱりあの夜」

 寒空の下、路地裏で寒さに震え座り込んでいた赤髪の旅人。急いで屋敷に戻りスープを渡した時の『温かい』と低い声で溢していた。

「20年ほど前に陛下が兎を捕まえるために誘導したがいつの間にか国外に駆け出して行ってたンだってよ」

 出口はどこだと聞かれたので言われるがまま方向を指さすと走り去ったあの不器用な笑顔。

「全てを護る、刃。あぁ―――」

 シドの目が見開かれる。今まで忘れていた記憶。肝心の"約束"が、抜け落ちていた。

『"あなたの飛空艇"に乗れて、よかった』

 何故か自分の飛空艇と強調したシドが記憶を取り戻した夜。

『私はね、自分に優しくしてくれた人と約束は守ることにしてるんだ』

 露骨なほどに約束に拘っていた姿。

『ほーそりゃ楽しみ』

 ガーロンド社を紹介してやると言った時の目を細めニィと笑った姿。

『期限はそうだね……キミがお髭がとっても似合う人になるまで、かな? 翼であるキミの飛空艇たちを守る刃になってあげよう。おっと飛空艇たち、というのは簡単だよ? あーんな大きな船をキミ1人で作れるわけないだろう? 全部守ってあげる。こう見えてボクはすっごく強いからね』

 手の甲に口付け、幼いシドへ不器用に笑いかけた顔。そうか、これを忘れていたから星芒祭の夜わざわざ眠らせて逃げたのかと拳を握り締める。
 テッセンはあの、と声をかける。「ああすまん」とシドは苦笑して見せた。

「あまりにも直球すぎて気付かなかったヒントに頭痛がしただけだ。気にしないでくれ」

 あっさりと宿題が終わってしまった。軽くため息を吐くとネロが立ち上がり外へと足を向ける。

「ネロ?」
「一服してくる。1人で結論付けてろ」

 そのまま扉を閉められた。シドは目を丸くし、首を傾げる。

「結論付けてろと言われてもな」

 まさかここまでネロがアンナについての情報を隠していたとは思ってもみなかった。そしてあっさりと知りたかった事柄の殆どを手に入れてしまうことも予想外で拍子抜けする。
 更に複雑な悩みを持ちながら一緒にオメガ相手に戦ったのかということも知ってしまった。微塵も相談してもらえなかったことにショックを受けている。一方的に想いを伝えて、舞い上がっていた自分が莫迦みたいだとため息を吐く。だが最終検証で見せたまるで流星の軌跡のように振り下ろされた一振りが伝授された"気迫"というものなのは確かだ。焼き付けられた脳裏に浮かび上がる。そんな"弱き人が持つ想いの力"の根源にあるヒントがラザハンにあるというのは一番の収穫であった。ラザハンということは錬金術起因のものなのだろう。
 しかし一番の謎は"継承"というものだ。リンドウ、レフ、アリスという男らは過去に何をし、アンナに施したのだろうか。
 ふと肩を叩かれる。心配そうにテッセンがシドを見ていた。「すまない、考え事をしていて」と苦笑する。テッセンは懐に入れていた装置を手渡した。

「これは?」
「祖父が、最後まで大切に持っていたものです。今は静かなんですけど」

 黒色で半球体のようで一見何なのかは分からない。用途は? と聞くと柔らかな笑顔で答える。

「これがあったからアンナさんがエルダスさんって分かったんです」

 テッセンによるとリンドウが死んでからもこの装置は小さな光を灯し続けた。ある日ドマを解放した英雄たちの顔を見に行こうと外に出た際に強く輝いたのだという。以降輝き方が不安定だったが、しばらくしてシドとアンナが墓参りに来た日にまた大きく光ったらしい。しかしここ数ヶ月光が消えてしまい心配していた所に3人がやってきたと語る。

「どういう装置なのか分かりません。ですがもしかしたらエルダスさんの何らかに関係しているかもしれません。よかったらどうぞ」
「いいのか? 代々受け継いだ形見みたいなものだろ?」
「……あなたが持っていた方がきっと祖父も喜んでもらえると思います。あと先程言えなかった言葉の続きなのですが」

 それからテッセンは自分の身の上を話した。父が誕生し物心がついた頃、実の祖父は亡くなっている。その後祖母は第二の故郷に戻って来たリンドウを治療する内に惹かれ合い、再婚したので血は一切繋がっていない。よって厳密にはリンドウの血縁者はもう存在しないのだ。そして彼の生まれは―――。

「そうだったのか。エレゼンが東方地域にいるのも珍しいのに更に片親はガレアン人と」
「龍殺しのリンドウと呼ばれるまでは実際あまりいい扱いはされて来なかったそうです。本当に強くなるために努力は欠かさない人だったと聞きました。強くなってからは手のひらを返した権力者たちによる色んな思惑に巻き込まれ嫌気がさしていたそうで」
「アンナから嫁と子供がいるから叶わない恋だったと聞いてたんだが……。兄を知ってたから嘘ついてた可能性があるな」

 箱の中から書物の山を取り出す。覗き込むと武器の特徴から人から魔物までのスケッチと何らかの文字が書き込まれていた。「療養中暇だったようでとにかく自分の脳に叩き込んでいたものを書いていたそうです」とテッセンは語る。「これも多分アンナに教えていたってことか」と紙をめくる中で明らかに違うものがあった。

「図面……?」
「何かの装置のようですが私にも分からず」
「いやこれは隠す―――形状が見覚えあるな。ちょっと待っててくれ」

 シドは家の中を見回し、違和感を探る。即見つかる。入口に置いてあった家の様式に似合わない無骨な金属。手を伸ばそうとすると突然扉が開き、レフがその機械を分捕る。

「これだこれ。さっき家全体を視た時に何かおかしいと思ったんだ」

 即蓋を開き、中身をのぞき込んでいる。シドは一瞬唖然とした顔をしたが何も言わず手に持っていた図面を渡した。次はネロが分捕り2人で眺めている。

「なんだこりゃ。ああこれの図面か。―――あのクソ馬鹿が機械装置を作れるわけがない。かと言ってアリスが手間暇かけて作ったものにしてはオリジナリティがない。この図面通りで忠実すぎるものって感じだ」
「読んだ範囲ではこれアレか。魔科学技術を用いた広域妨害装置だ。よく出来てンね」
「成程戦禍がここまで来なかった仕掛けか。アシエンと交わした約束とやらの一つだろ」
「筆跡的にアリスから貰ったやつの冊子から破ったか。この家のどこかにあるかもしれん。テッセンくん、ちょっと家の中物色してもいいか?」
「か、構いませんけど……」

 数時間後、顔を真っ青にしたエルファーがフウガの名前を叫んでいた。それをネロはゲラゲラと笑っている。

「ネロ、レフは何と言ってるんだ?」
「お前ら何年間妹といたンだふざけンな辺りじゃね? おーこれそのまま商品化出来ンじゃね?」
「いや流石に考えたのはそのアリスって男だろ? 勝手にやるのは」
「死んだやつの許可なんてどう貰うンだよ」

 フウガがメモとして残していた紙と違うものがいくつか発掘された。封筒に入れられた冊子には、数々の古代技術を応用して作られた実用的な機械から人道的に怪しい器具まで数多く書かれている。小さな紙切れが入っており、『リスク分散のご協力感謝 あなたの共犯者ア・リス・ティア』と雑な文字で書かれている。シドらにとっては欠伸が出そうな古すぎる技術が殆どだ。しかし自分たちが未だに至っていない領域の一部もあり少々悔しい部分もある。

「エルもこういうの持ってンのか?」
「んぁ? まあ別れる時に少々。今は別の場所に隠してるから持ってないぞ」

 というか今の魔導技術に比べたらこれより更に古臭いから価値はないと思うぞと肩をすくめている。

「ってこれはトームストーンか。電源は―――つかないか」

 真っ黒な板を取り出す。ボタンのようなものを押すが一切反応はしない。何も言わずポケットに仕舞い込む。

「今流れるようにポケットに入れたな?」
「どうせ眠ってるままなら有効活用する。その装置ももういらんだろ。貰ってもいいか? テッセンくん」
「だ、大丈夫ですよ」
「無理しなくてもいいぞ。あんまり荒らしたらアンナに怒られるから程々にしとけレフ」
「そこで妹の名前を出すんじゃない。―――修理して何でもないモノだったら返すさ」

 自分が欲しいもののヒントかもしれないものは全部欲しいからなと口角を上げている。そんなもの俺だって欲しいとシドはジトッとした目で睨みつけた。



 それから適当に家探しして村の宿に泊めてもらった。最新技術が適宜取り入れられ快適なもので満足だった。ガーロンド社が納品したであろう装置も沢山あったので外に出た者の名前を聞く。案の定先日ジェシーが連れて来た新入社員たちの名前もあった。もっと詳しく話をしていたらリンドウの情報ももう少しスムーズに手に入ったかもしれないと苦笑する。
 ふとポンと音が鳴った。その正体を探ると日中にテッセンから貰った奇妙な装置が光っている。壊れてなかったのかと観察すると小さい光はしばらく点滅を続け、1時間もせずに再び消えてしまった。
―――後に知ったことだが、3人がこちらに来ていた間、一度アンナが帰って来たらしい。シドがいないのを確認した後、少し暗い顔をしてまた帰ったとジェシーから聞いた時、苦虫を嚙み潰したような顔を見せしばらく機嫌が直らなかった。

 次の日、村人らに次なる取引の約束と共に見送られハヤブサで上空を飛ぶと空からでも終の棲家を確認出来た。妨害装置は解析が終了すればまた返しに来るとシドが電源を切り鞄の中に仕舞っている。次はアンナと2人で泊まりに行こうと笑みを浮かべた。
 目を輝かせたネロとエルファーを青龍壁へ連れて行き、再び積み重なっているであろう仕事をすべく本社へと1人戻るのであった―――。


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#シド光♀ #ヴィエラ♂+ネロ #リンドウ関連

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注意次元の狭間オメガ途中の自機兄+ネロ短編6本。  "悩み&…

紅蓮,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

紅蓮,ネタバレ有り

旅人の兄が歩んだ短編集2
注意
次元の狭間オメガ途中の自機兄+ネロ短編6本。
 
"悩み"
―――レフというヒトは存在するのか、オメガを追いかけながらのもう一つの悩みが俺に襲いかかる。

「シド、悩み事?」
「よ、アンナ。まあそうだな―――最近この辺りに妙なヤツが現れたんだ」

 最近起こっている妙な出来事をふらりと現れたアンナに話す。
 ネロにレフという助手が出来ていること、ラールガーズリーチのどこかにいるらしいことに、社員が欲しい備品や装置をぼやいたら次の日に置かれていること。一度試しに俺もぼやいてみたが何もくれなかったこと。ネロに話したらゲラゲラ笑われたんだと言うとアンナはクスクス笑っている。

「お前も笑うのか」
「ごめんごめん。シドその人に何かした?」
「挨拶どころか顔すら合わせてない人間に何かしたと思うか? あったとしても身に覚えのない一方的な恨みくらいだ」
「だよね」

 思い返してもそのレフという人間に心当たりはない。レフという技術者に会ったことはあるか? と聞いてみるが「知らない」と大げさに肩をすくめた。

「忍者な技師とか属性過多だね」
「単刀直入に言うと検証の協力もして欲しいんだがネロによると断られてるんだとか」
「シド嫌われすぎてない? 大丈夫?」

 アンナの可哀想なモノを見る目が痛い。だから俺が何をしたと言うのか。

「私もネロが隅で独り言を言ってるのを見た。それがレフって人との会話?」
「だと思うんだが……出来ればお前の方でも聞いてみてほしい」
「覚えてたら」

 腕組みしながらアンナは「レフ、かぁ……」とボソと呟いた。「どうした?」と聞くと耳元に近付き、「私の兄、名前にレフって入ってる。手先が器用で隠密行動が得意。偶然ーって思っただけ」と囁く。目を丸くして見やると肩をすくめながら人差し指を口元に当てる。そうか、気が付いたらモノが届けられるということはレフとやらがどこかで聞き耳を立てている可能性が高いのか。俺も極力小さな声で「そりゃすごい偶然だな」と言ってやるとアンナはふふふと笑った。



「ククッ」

 少し離れた場所で男の笑い声が響く。

『何やってンだ?』

 リンクパールから男の声が聞こえる。通話中だということを思い出しすまんと謝罪する。

「いやガーロンドくんが遂に我が妹に俺の話題を出しやがったんだ」
『ヘェ』
「今思うと割とマジでガーロンドくんに会わなくてよかったな。滅茶苦茶仲良すぎてポンポン余計なことを喋りやがる。僕は距離を置かれているというのに許さん……」
『そーだな気配でメスバブーンにバレるぞ』

 取り寄せに行った資料を手に持ち立ち上がる。「今から部屋に持って行く」と言うと短い返事が戻って来た。
 近いうちにネロに妹へ言っておいて欲しい言葉でも考えるかと脳を切り替えながらニィと笑う。

 
"秘密"
 アンナ・サリスは祖国の怪談だった。異常な強さとあの赤髪は確かによく考えなくてもそうだろう。まあ秘密にしてろと言われてるので心の中に仕舞い込んだ。ガーロンドに言う気はないが、一つ問題がある。

―――エルに言うべきだろうか。多分これはヤツが探している妹が変質した原因の一つだ。そう思うと言わない方がいい。単身帝国に乗り込み暴れ回る未来が見える。彼女を見初めたのであろう人間はもう死んでいるのに。

 この男は妹程強くはないのだ。あっという間に潰されてしまう。そんな姿を見るのは絶対にイヤだ。
 よく分からない感情を持ちながら俺は「機嫌取りしたいさせてさせろネロサン」と言いながら肩を粉砕しようとするメスバブーンを「そういうのは口に出すンじゃねェ」と押しのけガーロンドの無言の睨みから逸らすように目を閉じる。

 
"痛み"
「おいエル喋っても大丈夫だ」
『珍しいじゃないかガーロンドくんたちは?』
「……まあ今はいない。それより調べて欲しいものが、ある」

 基本的に聞かせたらマズい時以外は情報共有の為リンクパール通信は繋ぎっぱなしにしていた。1人になった隙にオメガの尖兵にやられ、何とか起き上がりながらも検証のための準備を進める。

『様子がおかしいぞ。何があった』

 流石複数人の妻を愛していただけあり察する能力は高いようだ。

「何かあったって思ってンなら、喋り続けてくれ。静かだと意識飛ばしそうなンだわ」
『オメガにやられたか? クソッガーロンドくんは何をやってるんだ……まあいい。調べて欲しいデータとは?』
「滅茶苦茶な敵のデータを手に入れた。解析するためのヒントが欲しいコイツについての文献を漁れ。名前は―――」

 オレはとにかくエルに話をさせた。そうしないと痛みで意識がトんでしまいそうだ。コイツを置いて、逝くわけにはいかない。何やらかすか考えたくないしアンナにも、ガーロンドにも渡したくねェんだ。オレの方が天才で、自分の技術でクソッタレな機械の鼻を明かしてやらなきゃ気が済まない。
 モニターと睨み合い、通話相手の声を聞きながら気合を入れる。



 様子がおかしいネロの頼みを聞きながら僕はとにかく話を続けてやった。徐々に息が荒くなりながらも事象の究明のための資料を指名する。僕は古書屋にて資料になりそうなモノを探し、店主に押し付けた。領収書をもらい走りながらその資料を読み上げた。くだらない話も振ってやったしガーロンドくんの判断力のなさにため息を吐いた。
 ビッグスとウェッジという部下が目を離した隙に襲撃をされたというのに何故1人にしやがった。オメガを舐めすぎだろう。まあ僕も表舞台には一切現れず裏方に徹しているので強くは言えないのだが。

 大ケガで運び込まれたネロを見た時、僕は思い詰めている男のヒゲでもこっそり焼いてやりたかったが、痛みで苦しそうな顔が見えた時、何とも言えない感情が僕の手を止めた。優しすぎる、それがこのシド・ガーロンドという男に対して抱いた感想だ。何かあればすぐに自分の責任にし、思いつめた顔をする。それに加え宥めようとする妹を見てふざけた怒りを振り上げようとは思えない。

 僕に出来ること……簡単だ。少しだけ、助けてあげることしかないだろう。

 
"接触"
「シダテル・ボズヤ事変、か」

 会長代理と我が妹の会話を少し遠くで盗み聞きしながら僕はため息を吐く。噂を耳にしたことはあったがまさかあの野郎のお父様がやらかしたものとは思わなかった。落ち込んでたなぁちょっとくらいは助けてやるかと翌日覗いたらちゃっかり妹に手を出しやがった。そんな会長サマはトラウマに手を震わせながらオメガを倒す最終兵器を作成し、レディに仕上げを任せて"2人"で大穴へと向かう。正直助走をつけてブン殴りたかったのだがネロと妹が期待をかけている相手だ、その感情は心の中に仕舞い込んだ。工房に消えて行った会長代理のレディを追いかける。ガーロンドくんが残した物の前に立ち止まり、資料に目を通そうとする瞬間、僕は「お困りかな? レディ」声をかけてやった。

 彼女はビクリと身体が跳ね振り向いた。「誰、あなた」と怪訝な目で僕を観察している。制服を見て、何かを察したらしい。

「まさかあなたが」
「ネロから聞いているだろう? ようやく人前に顔を出す勇気が湧いたんだ」
「あ、あなたが……」

 歓迎されるか、それとも追い出されるか。反応をうかがっていると僕を睨む。

「あなたがさっさと出て来て会長たちのフォローを入れてたらもっと早く終わってたんですけど!?」

 まさかお説教と思わなかったな。さすがという所だ。



「あなたがどういう存在かの予想もついてるわ。カストルム爆破事件の犯人で各地の装置を改造しまくった極悪人でしょう!」
「ホー証拠は?」
「全部同じ羽根のマークを入れてるじゃない! 会長はまだ気付いてないけど時間の問題よ。何でネロと行動してるの?」

 洞察力が高いレディで助かる。まあ説教はいつか受け入れるとして。

「それより装置を急がなくてもいいのかな? 僕も彼らが戻って来るより前に撤退したいんだ。まだバレたくないもんでね」
「……分かったわ。今は会長には黙っておくから手伝ってちょうだい。でもアレンジは禁止よ」
「この短時間でデータを読み込んで改造するのは無理だ。僕は天才たちとは違うのでね」

 本場の技術を読み込めるチャンスなのだ。逃すわけにはいかない。ニィと笑い「さあ新入社員にご教授願いたい」と言うと、社員にした覚えはないわよと隣を開けてくれた。「そのフードとメガネは取らないのかしら?」と聞かれたので「見せられる顔ではないので申し訳ない、レディ」とフードを深く被った。



 突然現れた男にどこかデジャヴ感を抱く。
 フードを深く被り先が見えているのか心配なメガネを付けた前髪で片眼を隠した男は会長に仕上げを頼まれた直後急に降り立った。
 目を凝らすと緑目と赤色の髪先が見える。そして少しだけはみ出た長い耳の端。バレたくない理由―――まさかね。
 ジェシーが組み立てていく装置をじっと見ながら資料を確認する姿は悪い人間ではなさそうだった。

 とりあえず「爆発事件の動機は?」とだけ聞くと「欲しい情報がなかったからむしゃくしゃしてやっただけだ。後ろ暗い理由はない」とだけ答え、パーツを手渡された。じゃあ早々に自首したらよかったのにと思いながら受け取り、取り付けていく。
 会話する限り世間を知らない人間というわけでもなく、理解の早さも相まってあっという間に会長に頼まれた装置が完成した。「ありがとう」とお礼を言おうとすると既に隣にはおらず扉に向かっていた。「コーヒー位飲んでいって」と言うと頭を掻きながら「レディのお誘いは断れないな」と不器用な笑顔を見せた。ケトルで湯を沸かしている間に少しだけ話を聞く。

「ネロとはいつから行動してるの?」
「君たちがオメガを起動した後」
「得意分野は?」
「君たちの会長くんやネロ程じゃないけどまあエーテル工学絡みかな」
「爆弾の仕様」
「複数個にエーテルを編み込んだ糸を張った誘爆方式」
「製造場所」
「帝国基地から拝借」
「捕まる前にウチの社員になって」

 肩を掴み「給料はちゃんと出すから」と言ってやると「今はちょっと、な」と窘められる。

「今君のところの会長くんに会ったら多分殴り飛ばしそうだから少し時間が欲しいんだ。魅力的なお誘いに感謝するよ、レディ」
「あらウチの会長と何か因縁でも?」
「天才機工師くんが傷で寝込んでいる間に女の子とよろしくセックスしてた脳みそお花畑の部下になるのは今はごめんだ」

 コーヒーありがとうとマグカップを持ちながら外へと消えた。ジェシーの笑顔が一瞬固まり、そして「…………はい?」という声しか引き出すことが出来なかった。

 最後の発言でジェシーは一つだけわかったことがある。このデリカシーの無さを見るに先程までいた男は絶対、アンナの血縁者である。そういえば兄がいると言っていた。星芒祭の時に話題を出していたし、置かれていた懐中時計も思い返せば羽根の意匠が彫り込まれていた。ということは今レフという男がキレている理由は、会長は遂に―――

「ここで知りたくはなかったわ……」

 
"逃走"
 いつまでもうじうじするシドに発破をかけた後、オメガジャマーが完成され、2人と1匹はオメガの元へ向かったらしい。エルの言葉にネロはニィと笑う。

「そうか、じゃアンナが勝つな」
「ああ。というわけで僕は先に雲隠れさせてもらう」

 ハァ? と首を傾げるのでエルはニコリと笑う。

「我が妹に手を出した野郎の顔を見たら殴りたくなるからな。とりあえず動けるようになったら連絡が欲しい。迎えに行こう」
「ケッ、ガーロンドの様子がおかしかったのはやっぱそういうことなンだな」

 ネロは荷物いくつか預かっておくと言われたのでそばに置いていた鞄を渡した。エルは即一番上にあった錠が付いた本を見つける。これは何か、と聞くとネロは頭を掻く。

「お前の妹が死ンだらガーロンドに渡せって押し付けて来たンだよ」
「妹が死ぬわけないじゃないか」
「……オレも思ってンだよ。まあまた隠れ家に戻ったらその錠と鎖を解析してみようじゃねェか。オマエの愛しの妹ちゃんが特別に作ったンだってよ」

 前髪をかき上げて隠していた片方の紅色の目を細めながらエルは鎖を眺めている。「確かに、特殊な仕様だ。面白い」と呟きながらそれを鞄にしまった。
 普段はほぼ右目だけで生活をしているが本格的にエーテルを視る時だけその隠している紅色を見せる。髪を切らないのかとネロは聞いたことがある。すると一言だけ「色々視えすぎて困るんだ」返された。どんな世界が視えているのだろうかと少しだけ想いを馳せてみたことがある。エーテル視は自らの魔力を削りながら行使するものと聞いた。さすがに視力を失った賢人のように常に命を削るような行為をしているわけではないだろう。続けているのなら止めてやりたい。

「じゃあよろしくな」

 エルは大人しく傷を治せよな、と不器用な笑顔を見せながらネロを撫で、足早に行ってしまった。

「どうしてあの兄妹はいい年した大人を子ども扱いするンだよと」

 ため息を吐き、野戦病院の天井を見上げた。

 数日後、オメガの検証が終わった2人と1匹の喧騒と報告を聞き遂げ、アンナから約束だと渡された故郷の薬とやらを飲み動けるようになったのでエルを呼びラールガーズリーチを後にした。

 
"残された者"
「なんだこの領収書の量はふざけるんじゃないぞネロ!!」

 膨大な量の領収書に目を通しながら怒るシドをジェシーはため息を吐いた。

「というか機材代は置いておいて本はいつ手に入れたんだずっとここにいた筈だろ!?」
「レフさんじゃないですか?」
「というか周辺に散らかしている図面は何だ変な修正しやがって」
「レフさんですね。この施設で改造した分はメンテナンスのためにちゃんと図に起こしてとお願いしたので」
「じゃあこの知らないコーヒー豆は」
「レフさんかもしれないですね。同じコーヒーばかりで飽きるだろうって一度持ってきましたし」

 シドは目を点にしてジェシーを見ているので「どうしましたか?」と聞く。

「いや、会ったこと、あるのか? そのネロの助手ってやつに」
「オメガジャマー手伝ってもらったんですよ。スカウトは断られましたが、ネロ経由で業務用のリンクパール渡したら応対はしてくれてましたね」
「俺は聞いてないんだが」
「秘密にしろって言われましたし。でもネロと一緒に逃げたなら黙っておく義理はないと思ったので報告しました」

 シドは表情をコロコロと変えながらその場に座り込む。「見た目は?」と聞くのでジェシーは「フードを被っていたのでよく分かりませんでした」と答える。嘘はついていない。

「メガネをかけてたんですけど左目は前髪で隠しててよく見えませんでしたね」
「分からんやはり心当たりがない」

 どうやらシドは自分が恨まれている原因を未だ探し続けているようだった。ミコッテだったならば耳がへたり込んでいるだろうその背中に笑いかけた。

「そういえば会長、ネロはロウェナ商会に新しい装備を卸したらしいですよ?」
「知ってる。それがどうしたか?」
「ネロを捕まえるなら簡単じゃないですか。給料分働いてもらえないと困るのは私も同じですよ」

 シドは手をポンと叩く。そして不敵な笑みを浮かべているが、それ以前にやることがある。ジェシーは「それではやる気が出た所で、お仕事の時間ですよ」と言うとシドの笑顔が固まり首を傾げている。

「今回の損失の分、働いてくださいね?」

 ネロに逃げられ、逃走幇助をしたであろうアンナにもそそくさと逃げられ、レフには唾を吐かれている情けない男はガックリとうなだれた。


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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

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注意自機出番なし。自機兄+ネロ話。  ―――夢を見た。過去のものだ。オ…

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

"悪夢"
注意
自機出番なし。自機兄+ネロ話。
 
―――夢を見た。過去のものだ。オレが殺した人間どもが足にしがみつき、呪いの言葉を吐きながら深淵へと引きずり込む。軍人だったからそりゃ直接手にかけた時もあったし、技術者でもあったから間接的に殺す兵器だって作った。いつも自分の先に行っていたあの男の鼻を明かすためなら手段は選べなかった。
 これまでの人生の集大成だった最高傑作をあっさりと斬り捨てられ、全てのしがらみから逃げ出し自由に生きることにして。赦されたいわけじゃない。今の旅は別に罪滅ぼしのためでもなく知的好奇心を満たすための自分勝手の旅だ。
 過去にやった事に関しては技術の発展には犠牲はつきものと結論付けてはいるが稀に苦しむ夢は見るものだ。

 目を見開き起き上がると隣で照明を引き絞り読書するメガネをかけた赤髪の男が驚いた顔で自分を見ていた。よりにもよって人がいる時に見たか。気持ち悪さにため息を吐く。

「どうした悪い夢でも見たのか?」
「オレだってそういう夢くらい見ることはある。オマエこそいつまで読書してンだ」
「あと少しで読み終わって眠る所だった。えらくうなされてたからそろそろ叩き起こそうとも思ってたが」

 汗がすごいぞ、とタオルを渡された。受け取り顔を埋めながら「エル」と声を振り絞る。

「人を殺したことはあるか?」
「護人をやってるとな、色々侵入者を撃ち落としてサバいたことはある。君は……あぁ軍人だったか」
「超えたい奴がいた。そのためには軍人から成りあがるしかなかったンだよ」
「それもまた青春だ」

 この時は捕えて裁判をするような文化の集落なのかと眺めていた。青春という言葉の意味は分からないが、夢の内容をこぼすと「君は優しいんだな」と奇妙なことを言われ「ハァ?」と顔を上げた。本を閉じてオレを見るエルは相変わらず不器用な笑顔を浮かべている。

「ンなわけねェだろ耳でも腐ってンのか?」
「誰にだってコンプレックスはあるさ。トラウマだってある。僕も妹が生きてるって分かるまで何度も妹が男として産まれなかったことを呪う言葉を吐いて目の前で自害される夢を見てたな。それからまともに眠れなくなっちまった」

 そういえば昔あのメスバブーンは『自分がもし男だったら村全員の女性抱く予定だった』と言っていたことを思い出す。あの言葉はジョークじゃなかったのかと驚き呆れた。

「あのメスバブーンとの思い出話聞かせろ」
「ホー君が妹の話を聞きたがるとは珍しいじゃないか」
「夢と真逆な境遇でも聞いてりゃ眠れンだろ多分」

 そんなものなのか? と首を傾げるエルを見ながら寝そべってやるとポツリと話し始めた。

「妹は、僕と同じく男に生まれたと思っていたんだ。毎日修行をしながら里の女性を口説いたりしてさ。イタズラも大好きでまあ元気なクソガキだったよ」
「想像出来ねェな。ていうか性別くらい生まれた時から分かるもンだろ」
「あーヴィエラはな、産まれた時は性別は表から判別できないんだ。大体第二次成長期に表層化する。妹は14歳の頃に女の子だって分かった」

 エルに目をやると悲しそうな顔をしていた。何も言わずその言葉を聞く。

「僕が里に帰って来た時にはもう、妹はいなくなっていた。里の奴らが寝静まった頃に飛び出して行ってしまったらしい。あの子の性別が分かった時、僕が村にいればと今でも後悔している」
「そんなショック受けてンならオマエがいても変わンねェだろ」
「かもな。性別が発現してからあの子から笑顔が消えたんだと。誰にも触らなくなり、イタズラもやめ、毎日1人で素振りをしていたらしい。母親の言葉にも一切耳を傾けず、ある日部屋に籠って出て来なくなり、気が付いたらいなくなっていた」

 目を閉じてニィと笑っている。少し眉間に皴が寄っているみたいだ。

「『大きくなったら兄さんと一緒に修行の旅に出る』って言葉が妹の目標であり、僕の活力でもあった。それが脆く崩れ去った。いなくなった僕の穴を埋めてくれたのが8人の嫁と、知的好奇心だった」
「もう離婚してるじゃねェかまたぽっかり開いてンぞ心の穴」
「そういやそうだったな。―――村の文化があの子を歪めた原因の一つだっていうのも理解しているさ。それでも何だよあの体内に構成されたドス黒いエーテルは……意味わかんねぇよ……」

 これ以上は、いけないだろう。オレは震える目の前のヤツの服の裾を掴む。ちらりと濁った眼を向けられたので「寝ンぞ」って言ってやると「君が子守唄がてら話せって言ったんだろう?」と隣に寝そべる。

「最後にこれだけ聞いてくれ。妹をがむしゃらに探し回っていた時に偶然発見した墜落した飛空艇が、一番僕に生きる気力を与えてくれたんだ。機械油や青燐燃料の残っていたニオイに金属の冷たさ、精巧な芸術作品のような構造に脳が刺激されていった。だから今こうやって君と技師の真似事が出来ているのが楽しい」
「ケッ口説いてるつもりか?」
「ははっ都合のいい解釈で考えてくれて貰って構わない」
「相手が男じゃロマンスがねェな」

 ゲラゲラと笑う声と大人2人が乗った寝台のきしむ音が響く。エルはメガネを外し、天井を見上げている。

「超えたかった相手のことか僕のことでも考えながら眠るんだ。妹は許さんぞ? まあとにかく視点は変わっていくんじゃないかな?」
「ガーロンドやゴリラのことを考えるなンて絶ッ対にお断りだ」
「はっはっはっ」

 頬を引っ張りながら思いつく限りのガーロンドに対する罵詈雑言を吐き続ける。エルはずっと笑顔で聞き続けていた。別にヤツに対して未だにコンプレックスを持ってるわけではない。苛つくだけだ。それを目の前の男にぶつけても意味はないのだが。その苛つく原因はこのヴィエラの妹も絡んでいるのだ、言われる権利はある。

 そういえばいつの間にか悪夢を見た後の気持ち悪さが消え去っていた。


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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

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注意 自機出番なし。紅蓮~次元の狭間オメガ開始前までの自機兄+ネロ話短編4本。&…

紅蓮,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

紅蓮,ネタバレ有り

旅人の兄が歩んだ短編集
注意
 自機出番なし。紅蓮~次元の狭間オメガ開始前までの自機兄+ネロ話短編4本。
 
"嫁"
「エル、そういや嫁複数人いたンだよな?」
「ああいたな」

 酒場で酒を煽りながらふとネロは以前妹から聞いていた情報を思い出し話題を振る。エルファーは首を傾げた後「あー妹から聞いてるのか」と苦笑した。

「情けない話だが離婚してるんだ」
「全員とか!?」
「ああ、8人の嫁全員と」

 私たちと妹さんどっちが大事なのと聞かれたので妹と即答したんだと笑顔で言う姿にネロは開いた口がふさがれない。

「オマエ世の男共が羨ましがるハーレムをそんな一言で終わらせたンだな」
「正しく言うと妹と知的欲求が大事ってやつだな。そうしたおかげで今は君と行動することになったから結果オーライということになる」
「割に合ってねェだろ」

 そうか? と首を傾げているがゴリラの天然タラシはこの男由来だということが痛いほど分かった。アレと一緒で性欲より云々系だろうかとため息を吐く。

「どうした? 紹介してほしかったのか?」
「ンなわけねェだろ。肉食系はタイプじゃねンだわ。オレは元々オマエの妹から故郷で交尾してるって聞いてたから気になったンだよ」
「ホー相変わらずデリカシーがないなあ我が妹は」

 オマエが言うんじゃねェよ! と啖呵切ってやるとエルファーはぶっきらぼうだが柔らかな笑顔を見せた。

 基本的にはアンナの男版っぽい容姿をしているが細かい性質は彼女とは異なる。
 まずは表情が固い。妹は基本的に笑顔が中心で結構顔に出る。しかし兄は愛想は正直よくない。結構笑顔は引きつる。まあベースの顔はいいし妹が絡まなければ話術も秀でている。妹と同じく話題を振らなければ最低限の会話しかしないのでこの件に関しては本質はまだ分からないのだが。更にさりげない配慮等は出来るからそこは流石嫁が8人いただけはある。
 知識の差も圧倒的に異なる。アンナは基本的にサバイバル知識以外はさっぱりだが一度教えれば大体できるとガーロンドから聞いた。それに対してエルファーは野生生物と違って人と関わり合いながら己を理解して長生きしてるだけあって知識量の差は圧倒的である。
 そして何よりも違う所はアンナは切り込み隊長でエルファーは魔法も駆使できる技術者。表には滅多に姿を現さず、後方支援を得意としていた。絶対にゴリラにはできない芸当だ。議論のし甲斐もあるし劣等感も抱くこともない。ましてやこっちが技術を提供する側でもあり、一々感謝されるので悪い気はしない。
 振り返ってみたが少なくとも見た目とデリカシー無しな面以外はあのアンナの兄とは信じられないと叫びたくなる。

 最初こそは珍獣の兄という要素に興味を持ち旅の道連れ兼話し相手になった程度の存在だった。現在エルファーは一種の助手として共に各地を回る技術屋になっている。というか放っておくとまたほぼ無償で機械弄りするかカストルム爆破しに行く未来が見える。ガーロンド社に押し付けようにも妹にバレたくないと駄々をこねるしそれならいっそ技術を共有する方が有意義だ。

―――何よりも少しでも殺意を出したら殺す前提のアンナと、説得や無力化させようと動くエルファーなら後者の方がマシである。

 
"装備"
「おいエルファー聞け!」
「どうしたそんなキレながら帰って来て。奇麗な顔が台無しだ。レディにぼったくられたか?」

 ネロがレヴナンツトールに用事があるらしく近郊で待っていると怒りながら大股で戻って来る。

「いや用事自体はスムーズに終わったンだが。あの周辺の冒険者が付けている装備を見たか?」
「あの辺りで見るというならロウェナ商会が卸している装備だろう? それがどうした」

 歩き出した彼を追いかけながら話を聞いてやる。

「その装備の名前知ってっか?」
「さあ?」
「ガーロンド」
「もう一度」
「ガーロンド装備って言ってンだよ、わざと二度も言わせてンな!? ハァ……つまりあのガーロンドが手掛けた装備ってこったァ!」
「はあ。それで?」

 まあコイツが怒る要因は彼しかないだろう。予想通りだ。そして次に言いそうなことも予想が付く。
 立ち止まり不敵な笑みで自らを指さしながら言い放った。

「オレが作るンだよ」
「何をだ?」
「聡明で天才なオレの方がもっといい装備が開発出来るに決まってンだろ。アレはオレを煽ってるようなもンだ」
「まあ元軍人だし君の方がいいものは作れそうだな」
「だろ? さーて今日から寝る暇ねェぞ」

 どうやら僕も巻き込むつもりらしい。

「魔法使う奴ら方面の最終調整をやって欲しいンだわ。嗜んでる人間がやる方がもっといいモンになる」
「そりゃまた人使いが荒い事を言う。まあロウェナ嬢に卸すものならばいつか妹が纏うことになる装備だ。いいものを作ろうじゃないか」
「ケッ妹が絡ンだら即やる気出してンなァエルファー」
「エルでいい。呼びにくいだろう?」

 まあ黙っておくお詫びってやつだ。嫁たちにしか呼ばせなかった愛称を教えてやる。
 実はガーロンド装備のことは知識にあった。もちろん設計した人間に関してもだ。
 この装備はシド・ガーロンドではなくガーロンド社名義として出されている。会長行方不明時代に会社を立て直すために会長代理の人間が開発し、ロウェナ商会に卸したということも把握している。つまりネロは勝手に勘違いして対抗心を燃やしているのだ。多分ロウェナ嬢もそれを知ってて煽ったのだろう。哀れ。

「ン、ああそうかエル」

 許せガーロンドくん。君は悪くないからな。

 
"就職?"
「というわけで正式配属はまだだがガーロンド社の社員になったンだわ」
「ホー面白い話だな。フリーランスをやめるとはよっぽどいい環境でも提示されたか?」
「聞いて驚くな、会長サマの来月の給料から落ちるンだぜ?」
「ホー最高じゃないか」

 エルファーは急に青色の制服を着る人間に連れて行かれたと思ったら就職したというネロを驚いた顔で見てしまう。
 数ヶ月の間、こっそり尾行するようにネロ・スカエウァと呼ばれる人間と行動してきた。これまでは妹のフレイヤ、いやエオルゼアではアンナだったか。彼女に存在する空白でありながらも真っ黒な記録を探しながら趣味である機械装置を触りながら旅をしている。これまでよりもガレマール帝国の秀でた魔導技術に触れやすくなり、しかも数々のアラグ時代に作られたであろう遺跡も調べやすくなったエオルゼアの地はすっかり気に入った。あまりにも熱中しすぎて師匠から破門されるわ嫁たちとは離婚することになるわと故郷に帰れなくなった。そんな捨てヴィエラのエルファーが妹の手がかり兼興味関心を満たせる相手と目を付けたのがこのネロという男である。すっかり返事が来なくなった妹の手紙を暗唱できるほど読み込み選んだ相手でもある。この金髪のガレアンとの話も刺激的な物であったから故郷に捨てられたのも悪いものばかりではない。

「しばらくラールガーズリーチにある支社で手伝うついでに飛んでったオメガを探すコトになってな。エルも来るよな?」
「ああオメガという機械生命体は文献で見かけてから滅茶苦茶気になってたぞ。しかしガーロンドくんにバレたくないなあ」

 エルファーはわざと大げさに考え込むような素振りを見せるとネロはため息を吐いた。

「別に顔を合わせないようにすりゃいいだけだろ。ほら制服2着貰っといたから持っとけ」
「必要ないのでは?」
「身分証明みたいなもンだ。制服着たオレと歩いてたら怪しまれンぞ。その耳隠してメガネでもしときゃバレねェって」
「意外とその会社の人間はバカなのか?」

 言ってやンなとネロは小突く。とりあえずいただいてはおくと受け取り「で? 染めるんだろ?」と聞くと赤を好む男は「当然だ。シュミ悪い青より赤がいいに決まってンだろ」と返した。

「じゃあまずはその会長サマが来る前にそのラールガーズリーチ支社を改造してやろう」
「おうやってやろうぜ、ガーロンドの金でなァ!」

 悪い笑みを浮かべ、明日以降の企みを一晩語り合う。正式配属はまだ先だが仕事をしてはいけないとは言われていない。やってやろうじゃないかと拳を突き立てた。
 しかし彼らはまだ知らない。スカウトされた際にシドが不在だった理由を。更にアンナの過去へ繋がるヒントに一番近い存在がシドになっていることに。



『新入りが好き勝手設備を弄っている』

 ジェシーは支社からの報告に眩暈を起こす。十中八九ネロのことだ。急に休暇を取ったシドがいない分走り回っているのは助かるが、その傍ら勝手にラールガーズリーチの施設を弄っているらしく心配する声が届いている。
 まさか他の社員にとって不利益な仕様にすることはないだろう。実際各小部屋や拠点周辺の空調装置をはじめとする住環境は整いつつあるらしい。気になるのはその金はどこから出ているのかという部分と明らかにネロ以外にもう1人関わってる奴がいるという情報だった。確かに制服を2着くれとは言われるままに渡した記憶はある。用途を聞いたが「替えの服もくれンのか? ッたくケチな職場だなァ」とぼやきやがったので叩きつけてやった。

「やっと会長も帰って来たしネロを呼びつけて話を聞かなきゃ気が済まないわ…!」

 もう1人いるならちゃんと言いなさいよ、とぼやきながらペンを折った。

 
"配属"
「本日付けで配属になったぜ。さあ、オメガの調査といこうか……ガーロンドォ……!」

 完全に不意打ちな大型新人の登場にシドは驚きを隠せていない。
 雇用条件等ふざけるなという抗議をジェシーは適当に躱しながら窘める。
 結局今日までネロからは噂のもう1人について口を割らせることは出来なかった。いるのは分かっているのだ、何度かリンクパールで会話を交わしているところを見ている。

「ンあ? あーちょっと待ってろ」

 ネロはふと後ろを向きまた通話しているようだ。「おう、白いのが偉い奴だな」「隣の女には逆らうンじゃねェぞ」やら聞こえる。シドは怪訝な目で見ながら声をかけている。

「オマエには関係ない相手なンだわ」
「ほほー仕事中にプライベートを持ち込むのか? 大型新人とやらは」
「アー……助手、ってやつ、か?」

 助手だと? とシドは素っ頓狂な声をあげる。ジェシーとしても不意打ちだった。噂は本当だったのが分かったのはいいが見回してもその助手は見当たらない。

「とりあえずレフって呼んでやってくれ。訳アリでオレも普段どこで見てるかは知らねェがな」
「頭の病院に行こうか、ネロ」
「ア?」

 険悪な空気だ。ここで本当に『助手のようなやつ』が現れれば解決だが出てくる気はないらしい。ネロはシドをスルーしこっちに「ンで? 怪しい場所はどこなンだ?」と聞いてくる。シドの方はというと「まだ連れて行くとは言ってないぞ」と機嫌が悪い。

―――こういう時にアンナがいたら楽なんだけどな、とため息を吐いた。



「ホーあれがガーロンドくんか。想定していたよりも若造じゃないか」

 そりゃネロと同い年なら当たり前かと肩をすくめる。エルファーは少し離れた場所から望遠鏡で彼らの邂逅を覗いていた。とりあえず自分のことを聞かれたらレフと呼ぶように頼んでおいてよかったと安堵する。流石に何も考えず喋ってしまい申し訳ないと謝罪し、通信を切る。
 ニィと笑い、再びオメガについての文献を整理しようと踵を返した―――


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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

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注意自機出番なし。前半は蒼天後、後半は非光の戦士な自機兄+ネロ話。  …

蒼天

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

蒼天

旅人の兄は機工を操る
注意
自機出番なし。前半は蒼天後、後半は非光の戦士な自機兄+ネロ話。
 
「これがその爆弾か?」
「はい。心当たりありますか?」

 ガーロンド社に持ち込まれた不審物が不思議な出来事を開く扉となった―――。

 それは突然起こった。夜も更けた頃、未だに残るカストルムの一つにて爆発が起こったのだという。ガイウスが死んだ今、帝国軍自体はエオルゼアでは弱体化し、本国からの補給物資は絶てたとはいえ軍事機能は生きている。残党も残っており、稀に小競り合いが起きていた。
 その内の1つが突然爆破され、それに使われた爆弾と思われるが起爆しなかったものを手に入れたエオルゼア同盟軍がガーロンド社に調査として持ち込まれる。会長のシドと複数人の社員がそれを囲み観察した。真っ白なフォルムに羽根のような模様が刻み込まれ、裏返すと見知らぬ文字が刻まれている。

「帝国産……でもなさそうッスね」
「超小型化されてパッと見では起爆装置か分からん。よく見つけたなあ」
「偶然でした。あなた方が作ったものでもなさそうですね」
「流石に戦争の火種になりそうなことはしないさ」

 社員の1人が慎重にパーツを外し中身を覗く。「こりゃすごい」と感嘆する声を上げたのでシドも覗いてみた所それはシンプルな構造であった。

「シンプルで従来品よりもだいぶ軽量化されている。だが見た事のない無茶苦茶な機構だ」
「魔導機械でありながら起爆のスイッチはエーテルを反応させるものじゃないかしら? 火薬周辺に使われている部品が―――」

 集まりメモを取りながらの議論が始まっている。シドはアゴ髭を触りながらその風景を眺め、専門外の来訪者にかみ砕いて解説した。

「ていうか本当に動くのか不思議な装置と思ってくれて構わない。爆発したやつの残骸はなかったのか?」
「完璧に消し飛んでいたのか調査に来た帝国兵が回収したのかまでは俺たちが知る由はありません。爆心地周辺は誰もおらず死者はなし。兵士はこれがあった場所に全員魔法で眠らされ、要塞内にあった魔導機械や資料のいくつかが盗まれてるんだと。証拠も見つからないからと調査は終わりそのカストルムは放棄された」
「なんだ盛大な強盗か? 脅威は弱まっているとはいえ実行犯は大胆すぎるだろう」

 ですよね、と肩をすくめ考え込んでいる人間の姿を見ながらシドも分解されていく装置を凝視ている。
 シンプルな中身と裏腹に火薬が思ったよりも込められており、もしこれが動作していたら周辺で眠っていた人間は最悪死んでいた。

「もしかしたら裏でこの装置を売り込むために試しに仕掛けたって可能性ないですか?」

 社員の1人の発言で全員一瞬静止し、装置を眺める。「探りを入れておきます! ありがとうございました!」と大慌てで去って行く人間を見送りながらシドは考え込んでいた。

 この装置を作れるほどの腕があるフリーの機工師は1人しか心当たりがない。しかし売り込むとはいえ祖国の基地を利用するような人間ではないはず。しかも盗みまでするというのは『絶対に』ありえない。
 ということは全く知らないフリーの機工師が存在する。なんとしても、他所よりも先に尻尾を掴みたい。やらかしていることは許されるものじゃないが話くらいならできるハズだ。

「ジェシー、この犯人をどうにか調査するように依頼しておいてくれないか」
「会長まさかこの人雇うとか言い出しませんよね!?」
「いや見てみたいだろ? こんな妙な技術持ちだ。俺たちとはまた違う視線を持った人間なんてそう会えんぞ」
「火傷しても知りませんからね」

 シドは肩をすくめ、部屋を後にした。



―――後の調査の結果、そういった爆発物を売り込む人間は存在しなかったという。エオルゼア同盟軍でもただの純粋な物盗りだろうと帝国側と同じ結論に落ち着いた。
 それは俺たち周辺でも奇妙な現象が起こっているので考える暇が無くなったというのも大きい。
 どうやらエオルゼア各地で"修理屋"が現れたという。各所に導入されている機械装置が壊れ困っているところにほぼ無償で修理するどころか"改善"していく輩がいると定期メンテナンスを行っている社員らから報告を受けた時は眩暈がした。特徴を聞く限りでは腐れ縁のフリーランスでもないというのが余計に頭痛の種になる。しかもシンプルで、無茶苦茶な仕様だ。明らかに爆弾犯と同一人物である。

「なんとしても! この人間を! とっ捕まえろ!!」

 昼下がり、そんな怒り狂ったシドの叫び声が聞こえたとか聞こえなかったとか。



―――一方その頃。

「オマエ、マジで無茶ばっかしてンだな」

 金髪の男はそこは妹と一緒かよと言いながら作業をする男を眺める。当の相手は目の前の装置の中身と睨み合っていた。
 2人が出会ったのは数日前。偶然移動していた森の中でネロの前に現れたのは褐色赤髪ヴィエラの男。独学で魔導技術を学んでいる技術者気質であの女の兄という部分が程々に興味を持ったので共に行動するようになっている。といっても普段は姿を消して手を上げて呼べば現れる奇妙な男だったが。

「妹に見つかったら困るんだ」

 これが目の前の男、アンナの兄エルファーの口癖である。だから奇妙な魔導ビットを飛ばして離れた場所から観測したりしていたらしい。流石に妹付近に飛ばせば一瞬でバレるらしくネロを起点に追いかけていたと悪びれずに答えている。
 一度会ったことはあった。あれは幕僚長時代、アーマーを纏いタイタンのエーテル監視を行っていた所に現れた。顔は見られていなかったはずなのに記憶に残っていたエーテルの色だけでストーカーを決める勢いがネロにとっては恐ろしい。
 話を聞くと妹の過去を探るために内緒でエオルゼア中を探しているらしい。最初こそは暁の血盟の盟主とも協力関係を結んでいたらしいが、結局空振りで途絶えた。『妹と一番仲のいい人間らしいシド・ガーロンドは手紙を読む限りすぐに表情に出て妹にバレるから会えん。だから同じ雰囲気でかつ一度だけ手紙に記述があったネロに目を付けた』と笑みを浮かべていた。
 恐ろしい所が、この男は風の噂で聞いた少し前で起こったカストルム爆発騒動の犯人である。犯行理由はアシエンについて調べたかった。魔導装置と一部書類は勉強のために貰い、爆発は手がかり持っていなかった腹いせということだった。

「オレが真っ先に疑われてたンだぞ」
「だから責任取って君に捕まってあげただろう?」
「理屈がメスバブーンみたいに無茶苦茶すぎンだろ!」
「アァン? 僕の妹がゴリラって言いてぇのかぁ?」
「オマエはアレの戦いを見たことねェから言えンだよ」

 グリダニアにてエオルゼア同盟軍や暁の連中、シドと顔を合わせた時にまとめられた設計図を突き付けられたことを思い出す。全く心当たりがない身からしたら不愉快極まりなかった。しかも作動しなかったのが奇跡な程度に無駄にしっかりとしたものだった。興味ついでに絶対捕まえてやると思っていた矢先に現れたのがまさかのエオルゼアの英雄と呼ばれる人間の血縁者である。この事実をシドらに伝えたらどうなるのだろうか。面白そうだがしばらくは放置でいい。

「よし、これで修理完了だ。ご主人、動かしてみてくれ」

 蓋を閉じ、外の人間に声をかけている。この男がやっていた行為に『絶対ガーロンドキレるな』と思いながら試運転を見守っていた。想定通りにかつ従来品より静かに動く装置に店主は満足し、報酬を渡そうとしたが拒否している。『あ、こりゃ絶対ガーロンド躍起になって探すな』と苦笑しながら代わりに報酬の交渉をしながら踵を返し歩き去ろうとするエルファーを掴んだ。

「報酬は貰いな。今後商売でアレをメンテする奴らの身になれ」
「素人がやったことに金を貰うのは迷惑だろう?」
「勝手に改造してる奴が何言ってンだ」

 そういうものなのかとぼやく確実に自分よりも年上なくせに世間知らずのエルファーを尻目に店主との交渉は続く。
 終わった頃には日が暮れ始め、近くの隠れ家で一夜過ごすことにする。結局報酬は少しだけ安めに貰い、装置を作った腐れ縁の会社の顔に泥を塗らない程度にはフォローを入れておいた。
 その肝心のエルファーは置かれている書物にかじりつき離れない。眺めながらため息を吐いた。

「オマエその知識どこで手に入れたンだ?」
「昔から修行の合間に色んな遺跡に忍び込んだりしててね。いにしえの技術を調べる機会はいくらでもあったんだわ」
「妹は知ってンのか?」
「ふむ手先が器用ってしか言ってないから知らないと思う。65年会ってなかったんだぞ?」
「あの女自分のこと26歳やら40歳やら言ってンぞ」
「はっはっはっなんて可愛い妹だ」

 シスコンが、という言葉を飲み込み寝台に寝そべり以前シドから見せられた爆破装置の設計図を目にやる。あの男は遠隔から火のエーテルを注入して爆破させるものと評していたがネロの目線では全く違うものだと判断していた。

「エーテルで張り巡らせた糸で伝播させて誘爆する装置とか普通の人間は作らねェぞ」
「いやあまさか不発でしかも人に発見されるとは予想しなかった。すまないすまない」
「後ろに刻まれている文字が起爆のトリガーだろ? 分解時よく爆発しなかったな」
「万が一のために繋がった糸が切り離された地点でガラクタになるようにしてるんだ。動いた実物見ずに設計図だけで判断できるのはすげえな、天才機工師様」
「調査した奴らの報告書が程々にお上手だったンだよ。ま、ガーロンドも自分で全部分解してたら気付いただろうな。そんな仕様が分かってもオマエの扱いなンてどうしようもねェだろ」

 気軽に量産できてかつ足付かないルートから手に入る材料を考えるとこれしかなくてなと書物から目を離さず話をしていた。「もうやるんじゃねェぞ」と言うと「さすがに派手にやりすぎたからな」とヘタクソな笑みを見せている。

 エルファーとの会話は程々に弾むものだった。振った話題は大体返ってくる。アラグ文明の技術関連の話や各地の伝承、昔読んだ物語に加えて機械装置の相談まで全て会話が成立した。妹の話さえしなければ完璧な技術者である。帝国外に彼のような存在がいるとは予想もしなかったというのが本音であり、そこは『流浪の旅をしてみるもンだな』と思っていた。
 何と言えばいいのか―――そうか、助手のポジションにあっという間に収まっていったのが不思議な話である。


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