FF14の二次創作置き場

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No.93

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注意漆黒5.0終了直後の自機が人に"興味"を持ち始める話。シ…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

旅人は星を見つける
注意
漆黒5.0終了直後の自機が人に"興味"を持ち始める話。シド少年時代捏造。
 
 最初に抱いた感情は同じ帝国に狙われた可哀想な人。記憶を失い、現地民に疎まれ、更に祖国から追われている様に同情する目を向けることしかできなかった。陰気なやつだと思っていたが話をしてみると意外と優しい人間で気に入った。初めてもらった"道しるべ"を隠し持って、彼らを追いかけることにする。
 "彼"が記憶を取り戻した時、"彼"はボクが護ると約束した人だと思い出してしまった。"彼"が歩む先の障害を排除する。だからボクが進めるべく英雄という道を作ってくれればそれでよかった。それはただのアンナ・サリスとして共に障害を破壊する行為で。大きな声で言えないがとても楽しかった。
 英雄という存在となったボクはいつも不安だった。いつまで"いい子"でいられるか分からなかったからである。それでも"彼"がいれば何とかなる、頼られるしもう少しだけ頑張ってみようかなと思うようになった。そして何よりも絶対に生きて帰ってこい、それは新たなボクを縛り付ける言葉だった。でも全然苦しくない。それどころか力が湧き出てくる。どうしてなのかは分からなかった。その期待に応え、何度も勝利を収めた。
 "彼"の前で、ボクは少しだけ自分を見せることにする。理由は簡単、キミを護る存在だということを分かって欲しかったから。誰もボクらの関係に介在されたくなかった。この人たちを護るのは、ボクなんだよ。一方で、"彼"の刃になるか、それともまた旅に出て消えてしまうか悩んでいた。ふわりと首がくすぐったくなるよく分からない感情が怖かったから。
 何も考えたくなかったので過去のボクを完璧に捨てる儀式を"任せる"。唯一残した故郷を繋ぐ証を押し付け、処分させることにした。相手は覚えていないのだから刃になる必要はない。頼られれば、歩み寄り、必要無くなったならば表舞台から消えてしまえばいいんだ。思えばそれが一番の間違いであり、2人の関係を表す歯車が軋みだす瞬間だったのかもしれない。要するに"内なる存在"に嵌められたってことだ。
 暴力装置と揶揄されてもボクは走り続けた。どう呼ばれても"無名の旅人"であると心に決めている限り、折れることはない。求められたから"内なる存在"と共に全ての陰謀を斬り捨てた。人助け以外には、興味はない。手に届く範囲の人たちを救うことが出来ればそれでよかった。
 いつの間にか、ボクを見る"彼"の目は熱く焼かれそうなほどのものに変わっていた。でも、真っ白な自由の象徴である彼の隣に立つ存在は、もっと綺麗で護りたくなるような人間がいいに決まっている。赤くて黒いボクは、裏で"彼"の代わりに罪を背負えばいいのだ。本当はね、キミの歩く道は色々な犠牲も生み出しているのさ。悟らせないために、裏でいろんな人が頑張ってる。そのお手伝いもボクはしていた。誰に対しても優しいあなたの心を乾かさないために、ボクは求められるまま存在しているんだよ。
―――そう、ボクは怒りと悲しみに委ね沢山人を殺めて来た。恨み、憎しみ、苦しみを全部自分に向けろと言いながら全て穿ち、斬り放った。そんなボクは幸せになるべきではないし人を幸せに出来るはずがない、そう思っている。だから、だからボクにそんな目を向けないで。

 初めて身体を重ねた夜、ここで白い"彼"の内面をドス黒く染めてしまっていたことに気が付いた。どこで間違えてしまったのか、ボクには分からなかった。それを考えるには人と関わるという経験がなさすぎたのである。これ以上は、ダメ。ボクは無名の旅人なんだ。キミと幸せを共有できる人間はこの広い星空に沢山存在する。その星々ごと、護らせてほしい。ただそれだけで今のボクは救われるんだ。
 どうやらボクがやってきたことは人を勘違いさせるただ無償の愛を降り注ぐだけの行為だったらしい。違う、ただその星に光が灯されていればいい、そう思っていただけだよ? かつてのフウガと同じことをしていただけだったのに、何でそんな顔をして、ボクを見てるの?
 そう、綺麗な空を飛んだ時の喜びを教えてもらったから、恩返ししただけ。ぐちゃぐちゃになって逃げだしていたボクに手を差し伸べたから、握り返しただけ。それ以外、何も、考えないようにしてる。だって、考えれば考えるほど、苦しいだけなんだもの。
―――だってキミはボクより遥かに早く死ぬ人間なんだよ? キミが死んだ後、どうしたらいいの? 一生想いを引きずって苦しんで最期は発狂して死ねって言いたいのかい?
 そんな余計な感情を抱くくらいなら。フウガの教えの通り名も無き旅人で居続け、全てから逃げ続ける方がマシなんだよ。だから、その手を離して。抱きしめないでよ。

 原初世界でのにぎやかさに対し第一世界では、"孤独"だった。いや、仲間や"内なる存在"はいる。嫌味を言いながらもフォローに回る敵か味方か分からない存在もいた。この世界の住人もとても優しくて、眩しかった。でもボクの心は乾き、溢れる光を身体に取り込み続ける。あんなにも嫌いだった闇が、恋しく感じた。目を閉じたら映る輝く星が最後の心の支えになる。ボクはただただ空に夜を取り戻すために斬り払い続け、どこがゴールか分からぬまま、とにかく走り抜けた。それは長い間やってきた旅と同じ筈なのに、空虚で悲しい気持ちに支配され壊れそうで、それでもボクは足掻き続けた。
 身体の中で暴れ続ける光で苦しかった時、夢に"彼"が現れる。嬉しかったからつい抱きしめてしまったし、余計なことを口にしてしまう。そう、妖精の悪戯により目の前にいた"彼"と夢を通して繋がっていたらしい。出してこなかった感情に身を任せた行為をよりにもよって"彼"に見られたのが恥ずかしくて、消えてしまいたかった。でも心が物凄く軽くなった気がする。"彼"の言う通り生きて、帰らなきゃ。

 全ての大罪喰いの光を喰らった後、意識が真っ暗になった。ハッと気が付くとあの男を消滅させ、世界の滅びも一次的に回避できた"らしい"。記憶は朧げにあるものの死に目に自分自身の言葉で挨拶も出来なかった。その時の笑顔と一筋の涙が流れた理由は、分からない。自分の身を挺してまで光を吐き切らせたアシエンを、ボクはどう思っていたのだろう。―――そうだ、この人は2人目の命の恩人だった。かつては闇を剥がし、次は光を剥がしたボクの中にあるナニカを見出した可哀想な人。どうか安らかに、星になっていて欲しい。
 仲間たちから一度原初世界へ報告しに帰れと言われた。正直、あの夢での件もあって少々会いたくなかった。だって答え合わせをする前に答えを出してしまったようなもので。しかしそれを誰かに言えるはずもなく、仕方ないから石の家で報告してからすぐに戻ろう。
 タタルに「ガーロンド・アイアンワークス社に顔を出してあげてほしいでっす! 皆会いたいって言ってたでっすよ!」と言われた。まあ今回霊災を回避できたのは別の時代の彼らなのだ。感謝を告げてからシドと鉢合わせする前に戻ってしまえばいいだろう。足取り重く護るべき者たちがいる場所へ向かった。



 足取り重くガーロンドアイアンワークス社に訪れるとシドから逃げていたはずのネロが立っていた。

「あれ、ネロサン。逃走生活終了?」
「なンだお前帰って来てたのか。……珍しく辛気臭ぇ顔してンな」

 そうだよだって休みなしでアシエン斬り倒して世界救ってきたしと肩をすくめて見せると「おつかれさン」とニィと笑っている。

「で? 他の世界には何か珍しい技術でもあったか?」
「キミはねぇ……あったよ。時代と次元の跳躍とかいう現実感のないすっごいのがね」
「ヒヒッそりゃよかったことで。そんなモン作った天才に是非ともお会いしたいナァ」

 その内の一人はキミだよと言いたい気持ちを今は抑え笑顔を向ける。

「まあボクは元気ってシドに伝言よろしく。別の時代の君たちのおかげでボクは死ななかったんだ。いやあこう戻って来ても暁の皆は第一世界から帰れないままだし。皆で手がかりを探してる所」

 手を上げ、踵を返す。「おいメスバブーン待てよ! 止まった方が自分のためだぜ?」という言葉を無視し、顔を上げ入口を見るとジトっとした目で仁王立ちしたシドがいた。

「はい?」
「お前さんやっぱり逃げる気だったか」

 ワンテンポ反応が遅れた隙にいつの間にか手に持っていたバズーカのようなものがボクに向かって撃ち込まれる。それは強力な網のようなものであっという間に捕らえられ倒れ伏せてしまう。ネロを見やるとニィと見下しており、「ま、まさかネロサンもグル!?」と言ってやると「だから言ったのになァ!」とゲラゲラ笑いながらどこかへ行ってしまった。軽々と持ち上げられ担がれていく。
 出会う社員たちに「アンナさんおかえりなさい!」やら「よかったですね会長!」やら罰ゲームのような雰囲気を味わう。力を込めても全く切れそうもない材質って何だよと思いながらなんとか指を網に向け「バァン」と火で穴を開けようとすると網全体が熱くなる。

「あっつ!?」
「アンナお前何やってるんだ!? 熱っ!」

 シドも思わず手から落としてしまうほど熱くなった網をバタバタと暴れるがびくともしない。

「アンナ!!」

 その時扉が勢い良く開き赤髪のヴィエラが飛び出してきた。シドは唖然とした表情で見ている。

「兄さん!?」
「駄目じゃないか! その網は僕が焦がしたらあっさりと切れてしまったからその反省点を生かして改良したんだよ。まさか妹の身体を火傷だらけにさせてしまう機構になるとは思わなかった、嗚呼可哀想なアンナ。うん、そこは反省している。よし反省会終わり。次回以降の改善点にしておくとして。じゃあ冷ましてやるから待ってろ」

 懐から何やら金属片を持ち出しそれを当てるとあっという間に冷たくなった。

「え、あ、ありがとう兄さん」
「ところで妹よ、僕は今ここにいるのは妹には秘密にしてるんだ。だから内緒な」
「うん? ……うん、分かった」
「おつかれ、よく頑張ったな」

 頭をぐしゃりと撫でられそのまま兄はどこかに去って行った。そっか内緒にしておかないといけないな。そう思ってると怪訝な顔をしたシドは再びボクを持ち上げて部屋へ運ぶ。抵抗する気も失せた。自室に連れ込まれた後その網を切り、笑顔を浮かべていた。

「さあアンナ、"宿題"の答え合わせをするか」



「怖いよな、失うことって。リンドウも自分の刃に大切な人を巻き込みたくなかったから逃げていたんだ」
「はぁ!? キミに何が分かる! フウガはそんな腰抜けな人間じゃない! ……ってあっ」

 最初に口に出したのはまさかのフウガの悪口。つい感情的に言い返してしまったことに気が付き口を閉じる。シドは優しく笑っていた。

「いいや、あの人は今のお前のように全て怖くなったから逃げ出して感情を封印してたんだ。―――俺は絶対、お前の目の前で死ぬさ。ああ決められた寿命ギリギリまで生きて死んでやるって約束する。でもお前は、俺の目の届かない所で死にたいんだろ? 死に目にも立ち会えず、苦しめって言うのか?」
「それは、だって私は沢山の人に恨まれて、苦しむんだからそれを誰にも見せたくないからで。キミが苦しむことなんて―――」
「俺も一緒に背負う。見て見ぬふりなんてしない。刃は1人でに動かないだろ? 整備も必要だし、それを行使するヒトも必要だ」
「ダメ! キミは自由で。キレイで。皆の前に立って。笑顔で幸せな所を見せて。そして私がキミを護らせてくれたらそれでいい。私を、そんな目で見ないで」
「俺は綺麗じゃない」

 頭をくしゃりと撫でられ、額をこつんと合わせる。

「俺はアンナが好きだ。だからお前を絶対に獣にはしない。俺はお前が最大限の力を発揮するための道を示す、星になる。だから、もう無名の旅人にならなくてもいい。アンナ・サリスとして隣に立っていてくれ。"お願い"だ」

 シドがボクの手の甲に口付け笑いかける。朧げな記憶の中に残っている寒空の夜と、逆の姿。星、そうだボクは星を探していた。光り輝く星を、ずっと。"彼"の目に宿る星を見る。ボクはザナラーンの星空の下でこの星を見た時、気に入ったと思ったのだ。

「ねえシド、本当に私は人の隣に立つ資格はあるの? いっぱい、捨てて来たのに」
「だってお前ずっと俺のこと好きでいてくれたじゃないか」

 は? この男は何を言っているのだろうか。ボクが特定の人間に感情を抱くわけがない。それがフウガの教えで。でも。

「お前も俺も、もう相手無しで生活なんてできんさ。観念しろ」
「そう―――かもしれないねぇ」

 温かい手を握り、目を閉じた。反証する材料が手持ちに一切存在しない、いい加減観念するべきだろう。だがそのための材料も足りない。

「でも感情に関してはもう少し待ってほしい」
「この段階まで来て何を」
「あなたに興味が湧いたんだ」

 キミはボクなんかのことを頑張っていっぱい探してきて結論を見つけたかもしれない。でもボクはキミのことは何も知らないんだ。ただたくさんある星の1つを愛でていたにすぎない。

「あのね、私はあなたの歩んできた道は一切知らない。興味なかったから」

 魔導院時代の話も、後見人だったガイウスとの因縁も、その脇腹の銃創の意味も。父親を失い亡命するきっかけになった事件もこれまで一切興味が湧かなかったのだ。

「今教えなくてもいいよ。私だって自分の足で探したい。その旅が終わったら、即結論は教える。だから―――」

 口付けてやり、少しだけ屈みその相変わらず分厚い胸板に頭をぶつける。汗と機械油の匂いにボクは"ここ"に帰って来られたんだな、と安心した。それに、さっきから少々人に見せられない顔になっているだろう、恥ずかしいんだ。

「第一世界は、1人で怖かった。そんな世界を頑張って救って帰って来たんだよ? 労ってくれてもいいじゃないか。兄さんやネロサンと違って帰って来るなり答え合わせとか言い出してさ。そんながっついて来ないでよ。子供か」
「あ。す、すまん」

 頭に温かな手が置かれる。そこでボクは声を出しわんわんと泣いた。こんなに泣いたのは、フウガの前で崩れた時以降一切なかった。

『蒔いた種はようやく実りやっと一歩前進、か。遅すぎ』

 内なる存在の声が聞こえた気がした。意味は理解できなかったが今のボクの感情に対して邪魔をする気はないらしい。

『泣け泣け。奴しか見てないんだからさ』

 温かさに包み込まれながらボクはこの世界に戻って来られた喜びを噛み締めた。



 声を出して泣きじゃくる彼女の頭を撫でてやる。確かに労いの言葉もなしにこっちの言いたい事を投げ始めたのは悪かった。早くしないと"また"逃げられるかもしれないと慌てた想いが先行してしまっていた。
 第一世界で何があったかはまだ話をしていないかは分からない。夢で見た地点で参っていたのは分かっていたが、相当精神的にも肉体的にも限界が来てたらしい。素直に一緒にいた暁の血盟の人間に助けを求めたらよかったのにと肩をすくめる。しかしそれを覚えてしまったら自分の所に来る頻度が減ってしまうじゃないか。そう考えると今のままでもいいかもしれない。
 しかしキスを交わしこうやって弱音を吐いてまだ感情を抱いてませんこれから考えますは嘘だろ? と思ってしまう。既に一線は越えているしあと何が必要なのかと聞きたくなるが流石に喉元で抑えた。

「おつかれさん」

 顔を上げさせ、彼女の顔を見つめた。頬を赤らめ、涙が溢れる目にいつもの余裕ある笑顔はなく弱々しい声で「見るなぁ」と言っている。

「ゆっくり結論を探せばいい。どうせお互い多忙で滅多に会えない関係なのは変わらないからな」

 そうだ、自分たちはそれぞれ周りに求められている存在だ。今までも何とか時間を作り逢瀬を重ねてここまで来た。それはこれからも変わらないだろう。強く抱きしめ、久々の冷たさを味わった。


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