FF14の二次創作置き場

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FF14二次創作関係の保管庫です。滅茶苦茶独自設定で走っているのでそういうの嫌い…

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FF14二次創作関係の保管庫です。滅茶苦茶独自設定で走っているのでそういうの嫌いな方はブラウザを閉じてください。
・基本シド光♀、ヒカセンはヴィエラ族で超独自設定。ギャグ多め
・メインストーリーやレイドのストーリー補完話を書いた時は拡張タイトルとネタバレ有りというカテゴリを付けますので各自判断してください
・基本的にカテゴリの紅蓮は一線越える前後、漆黒は付き合った後の話です。
・気に入った作品があればwaveboxを置いているのでぽちぽち押していただければ更新速度が上がります
・ヒカセン独自設定はこちら→キャラ設定(メインストーリーネタバレ無し)キャラ設定(暁月までネタバレ有り)
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#シド光♀ - メインコンテンツ#季節イベント - シーズナルイベント関係#ギャ…

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#シド光♀ #季節イベント #ギャグ #即興SS #リンドウ関連 #エルファー関連 #謎メモ

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#シド光♀ - メインコンテンツ
#季節イベント - シーズナルイベント関係
#ギャグ - キャラ崩壊等ギャグ概念が入ってます
#即興SS - Misskeyioのチャンネルで出たお題を見てアウトプットしたもの中心
#リンドウ関連 - 自機の過去に出てくる命の恩人についてのお話に付くタグです
#エルファー関連 - 自機の兄が自機の過去を探る旅をしている時に付くタグです。基本自機出番なし。
#謎メモ - 自機視点のメインクエスト。実際にプレイしながら書いてるので不定期更新。

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R作品にはパスワードを付けています。共通鍵:18↑?(yes/no)個別鍵旅人は…

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パスワードについて
R作品にはパスワードを付けています。
共通鍵:18↑?(yes/no)
個別鍵
旅人は初めての夜を過ごす(SideA) : アルファベット4文字のスラングを大文字で

 基本的に共通鍵で開けるようにしたいですがさすがに自分しか満足しないような内容のものは個別鍵を入れておきます。

2025年2月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

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補足 2025年のヴァレンティオンデークエストに少し触れたシド光♀です。 少しだ…

漆黒

#シド光♀ #季節イベント

漆黒

旅人は花を置く
補足
 2025年のヴァレンティオンデークエストに少し触れたシド光♀です。
 少しだけ黄金ネタ有り。(物語の核心に繋がるネタではないです)
 
 
1.平和なヴァレンティオンデー朝
「今年もあるんだな……」

 シドは苦笑いして見せた。目の前には"これまで以下略チョコレート"と書かれている。毎年変なことを言いながら渡していたが、ついに建前を考えることすら面倒になったらしい。
 ヴァレンティオンデー。本来好きな人に「愛」を伝える祝祭と記憶している。だが、アンナが莫大な量のチョコレートを変な口実付けて配る日と化していた。
 原因はアンナの兄であり現在社員として働いているエルファーによる見当違いなアドバイス。しかし残念ながらシドだけは現物を貰えたことがない。

 閑話休題。今年はアンナ本人から手渡さず、自分で取る方式らしい。近くにいたジェシーにこれを置いて帰ったヤツはどこに隠れているのかと聞いた。どうやら「グリダニアで仕込み」と言ったのだとか。

「で、止めずに行かせたと」
「いいじゃないですか。恋人の奇行くらい許容しましょうよ」
「ああ、お前らもついに奇行と認めたか……」

 仕込みというキーワード。それは彼女の厄介な"趣味"に起因するものである。最初こそは微塵も見せていなかったが、彼女はモーグリ族顔負けのイタズラ趣味を持っている。
 多少のサプライズならどうってこともない。だが、彼女は何事にも全力を尽くす人間だ。無駄に器用な技術を用い、あの手この手でこちらを驚かせ、満足したら去る。救いなのはそのイタズラ相手はシドだけで、他人には相変わらずすました顔で対応していた。
 しかし毎回怒鳴りながら追いかけている姿は社員の間でも「また見せつけて来てる」と惚気の一種だと勘違いされている。確かに間違いなく愛はある。あるのだが――心臓がいくつあっても足りないというのが本音だ。

「だって会長、アンナさんからイタズラされた後機嫌いいですし」
「毎日されててほしいよなあ」
「オイラは毎回愛って何か考えさせられるッスよ……」

 このように社員らの目には機嫌を直す薬として見られているらしい。どういう解釈をしたらそういう解を導くことができるのか、是非とも詳しく聞いてみたい。が、理解できそうもないのでやめておく。
 嫌な予感を察知しながらも、どさくさに紛れてチョコを手に取りながら本日も業務が始まった。

2.サプライズには花束を
 珍しく彼女は夕方まで現れなかった。

「やあシド」
「またバカみたいな量のチョコを作ってたな」

 シドは苦笑しながら自室に現れたアンナを迎えた。何かを後ろに隠している。怪訝な目で見ているとアンナは満面な笑顔で差し出した。

「ほらチョコレートなんかより。バラの花束、いかが?」
「ど、どうしたんだいきなり」
「今、グリダニアで、バラが熱い」

 アンナによると、現在グリダニアでは愛する人に渡すバラを配っているのだという。お手伝いのお礼で貰ったからあげる、と。
 ニッコリと笑いながら大きな花束を押し付けてくる。

「日頃のお礼だよ」
「だからそれをやるなら俺の方だと」
「早いもん勝ち」

 ほら早く手に取って、とアンナはまた一層押し付けてくる。シドはやれやれと言いながらその花束を受け取る。
 見た目は何もない赤いバラの花束だ。まじまじと眺め、どこのバラかと聞くと昔はイシュガルドで。霊災による気候変動の影響で今はグリダニアの人が育てているとアンナは答えた。
 シドは柔らかな笑みを見せる。それを握り、どこに飾ればいいのかと考えているとカチッという音が鳴った。

「カチ?」

 鳴り響くクラッカーの音。飛び散る紙吹雪。一瞬で理解する。これが朝聞いた仕込み、かと。アンナを見る。いつの間にか扉を開きこちらを見ていた。ニィと不敵な笑みを浮かべていつもの一言を口にする。

「ナイスイタズラ」

 その言葉と共に一目散に走り去る。シドは「待てアンナ!」と怒りながら、今日もまた追いかけ回した。

3.真実は突然に
「今日も平和すぎて欠伸が出るな」
「まーた変なことしてたのか我が妹は」

 また逃げられてしまった。逃げ足だけは本当に早い。ため息を吐きながら彼女の兄に苦情を言いに行く。
 こいつらにも平和扱いされるのかと思いながら大体の出来事を話す。

「ということがあってな」
「赤のバラ、ねぇ」
「よしここで新開発したシステム披露。OKカイルくん」

 エルファーが手を上げると青色に光る玉がコロコロとやって来る。

『ピピッ、何について調べますカ?』
「何だこれ」
「お前最近また引き籠ってンなと思ったら変なモン作ってたのか」
「変なのとは何だ変なのとは。まあ見てろ。……赤いバラ、花言葉」

 手を叩きながら検索ワードを語りかけるとしばらく読み込み音が聞こえた後、電子音声が鳴り響く。

『ピピッ、愛の誓い! 愚問ですネ!』
「今さらだな。ガーロンドくん、何本?」
「何がだ?」
「お前そンなことも分かんねェのか。本数によってまた花言葉が変わンだよ」

 なぜ俺が呆れられないといけないのかとジトリとした目で見ながら、思い返す。しかし、まじまじと眺め数えてはいなかった。

「いや覚えてないな。10本は超えていた、と思う」
「……まあ想像の範疇。OKカイルくん」
「なぁそのOKまでいるのか?」
「これがいいんじゃないか。コホン、赤いバラの花束、10本以上、我が妹が好きそうな花言葉」

 またジジジと読み込み音が聞こえる。30秒余り経過した後、電子音声が鳴り響いた。

『ピピッ、21本』
「なぜ?」
『ピピッ、花言葉はあなただけに尽くします。ついでにヴァレンティオンデーの概要を確認しますカ?』
「はいカイルくんありがとうもうお腹いっぱいだ」
『ピピッ、お役に立てたようで何よりでス! またいつでも質問してくださいネ!』

 そのまま物陰へ去っていくのを見届けた後、エルファーとネロはジトリとした目でシドをちらりと見た。

「結論、照れ隠し」
「ハッ、茹蛸になってンな」
「お、お前たちうるさいぞ!」

 そういえばイタズラの後片付けを忘れていたことを思い出す。急いで自室へ駆けだした姿を呆れた目で2人は見守っていた。

4.照れ隠し
 自室へ戻ると即違和感を抱く。そのまま飛び出したのでイタズラの残骸が残っていたはずだ。しかし綺麗に掃除されている。首を傾げているとふと気配を感じた。
 肩をすくめた後、ゴーグルを外す。そして神経を研ぎ澄まし、第三の眼で確認をすると、何かが部屋の隅で丸まっていた。ゆっくりと近づき、目の前に座る。

「人をストレートに口説きたいなら変なギミック加えない方がいいぜ」
「……チッ」
「舌打ちをするな。ほら姿を見せてくれ」
「やだ」
「透明化はアルファ――じゃないな。これはシルフ族のおまじないから着想でも得たのか? 相変わらず錬金術で遊んでるな」

 ボンという音と煙で何も見えなくなる。だが、ガレアン人が持つ目を持ってすれば小手先の策は通じない。姿を現しながら立ち上がろうとした彼女の腕を掴み、そのまま抱きしめた。

「っ――!?」
「アンナ」
「離して」
「逃げるじゃないか」
「帰る」
「帰すわけないだろ」

 みるみる煙が晴れ、そこには顔を真っ赤にした恋人が。アンナ・サリスという人間はイタズラ好きのクセに、いざやらかしたらこうやって隅で震えている。初めてやらかされた時は逃げた先で泣いていた。
 だから強く責めることもできない。何より器用な技術が気になるからと後で調べることも多かった。そして少しだけ改良してやり返したらこれも泣く。シドはそんな姿もまた愛おしく感じていた。
 そう、あの血も涙もないと一部で囁かれているこの英雄様。実は意外と泣き虫な面がある。兄によれば「人と関わってこなかったから分からなくて泣き出すのだろう。まだまだ子供で可愛いよな。ついにガーロンドくんにも分かってもらえるとは思わず」らしい。これは酒の席で出た発言なので流石に気持ち悪いぞ一緒にするなと釘を刺しておいた。
 まあ確かに彼女の泣き顔は少しだけ、そうほんの少しだけそそる所もあるのだが、絶対に言うわけがない。吊るされるというオチが浮かぶ。

「造花だよな?」
「もちろん。本物はジェシーがいい花瓶準備してくれた」
「明日部下たちからどういう目で見られるか」
「愉快」
「お前なぁ……っとそうだった」

 シドはふと後で食べようとそばに置いていたチョコレートに手を取る。

「キミはママ以外からいっぱい貰ったことある。何貰ってるの」
「うるさいぞ」

 今年はコーンっぽいものを模した立体チョコレートと、白いモコモコとしたような動物を描いたアイシングクッキーだ。

「これは最近お前が行った場所で生息してる生物か? いやこれは食べ物か?」
「アルパカとモロコシ様だけど」
「モロ、コシ……?」

 相変わらずどこを旅すれば奇妙な体験をするのか理解ができない。もう少し説明を求めたら満面な笑みを見せた。

「アルパカはこっちでいうチョコボみたいなやつだよ。モロコシ様はモロコシ様。とっても優しくておいしいんじゃぞ」
「また妙な語尾を……」
「で? いきなりそれを持ち出してどうしたの?」
「決まってるだろ」
「……お断り」

 シドは何も言わずにジトリとした目で見ると、アンナは両手を上げた。

5.サプライズはメインディッシュ
 目を覚ますと、既にアンナはいなかった。相変わらず早朝の日課とやらが大切らしい。伸びをしながら着替えを手に取った。
 嫌な予感がしながらも外へ出るとやはり視線が気になる。アンナは一体どこに飾ったというのだろう。
 工房に入るとネロとエルファーが笑顔で立っていた。そして手に持っていた"カイルくん"が浮かび上がりシドを案内する。その先には複数の大きな花瓶に生けられたバラの花。

「OKカイルくん、女心が分からない会長クンに本数数えて花言葉、どうぞ」
『ピピッ』

 上部のフタが開き、レンズが現れた。そして光と共にバラを照らした後、再び読み込み音が流れる。高らかな電子音声が響いた。

『ピピッ、バラの花束、99本ですネ! 永遠の愛、長年の想い、ずっと一緒にいてください! こちら七度目の質問でス!』
「まーた茹蛸になってンな」
「兄は割とマジで許さないぞとしか言えん」
『ピピッ、また何かありましたらいつでも質問してくださいネ!』
「いらん!」

 ポケットを漁ると心当たりのない紙切れの感触。恐る恐る開くと『満足』と書かれていた。
 シドは再び顔を真っ赤にしながら恋人の名前を叫んだ。


Wavebox

#シド光♀ #季節イベント

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補足 時間軸はウェルリト後なので念のためにネタバレ有り行きにしてます。 本当は兄…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

旅人は悩みを解決したい
補足
 時間軸はウェルリト後なので念のためにネタバレ有り行きにしてます。
 本当は兄のエルファーとご飯きっかけに文通以外でお話したい自機の話。
 

――ウェルリト。

「おおアンナか、すまぬ」
「ガイウス、別に着替えしてるわけでもなしそのままでいいよ」

 エオルゼアの英雄であり、かつて"鮮血の赤兎"と祖国で恐れられたヴィエラは宿泊スペースで刀の手入れを行っていた。手招きをされたのでガイウスはアンナの近くへと寄る。そしてしばらく慣れた動きを眺め、感心した。

「器用なものだな」
「慣れてるから」
「龍殺しに教えてもらったのか?」

 アンナは目を見開きガイウスを見る。しかし「あーそういや帝国の人ってフウガ知ってるんだっけ」とすぐ刀に視線を落とす。

「旅人たるもの武器の手入れを怠るなって教えてもらったんだ」
「流石唯一の弟子と伝わっているだけある。うぬは苦手なこともないのか?」
「んーフウガには最後まで勝てなかったよ。だから戦うのも苦手。木の棒でドラゴンを倒したり岩をチーズのようにスライスしたりもできないよ。ボクは全然すごくないさ」

 苦笑しながら柄に入れ、顔を上げた。手入れ道具を片付け身体を伸ばす。

「せっかくよい環境におるのだ。一度プロに見てもらった方がいいかもしれぬぞ?」
「うーん……武器ってさ。持ち主の身体の一部だと思ってる。だからそれを気軽に渡して見せるってのはねえ」

 少しだけ唸るような声を上げた後「あーでも」と手をポンと叩く。

「銃系が分かんないんだよね」
「銃、と申すと?」
「ほら、機工士が使う銃とガンブレイカーのガンブレイドだよ。フウガって魔導技術革新より前の時代の人間だから、教えてもらえてないのさ。とりあえずイシュガルドの工房で、整備の仕方は一通り教えてもらったんだけど。まあガンブレイドの方はさっぱりってやつ」

 お手上げなんだよねってと肩をすくめるとガイウスは少しだけ考える。その後愛用のガンブレイドを取りだした。アンナは首を傾げ、それを見ている。

「こいつは、No.IXと言ってな。ワシの親友、ミド・ガーロンドが軍団長就任祝いにと贈って来たものだったのだ」
「……ホー」
「うぬが持っておるものとは仕様が異なるかもしれぬが、魔導機工師ならきちんと頼めば診てもらえるのではないか? ……信頼できる人がおるだろう?」
「確かに、そうかもねぇ」

 アンナは不敵な笑みを浮かべる。そして今回の企みで脳内がフル回転された。これをダシにしたら、あわよくば兄のエルファーとご飯を食べられるかもしれない。

「よし。ガイウス、いい思い出話ありがとね。かわりにちょっとだけフウガの話をするよ」
「子供たちも呼んでいいだろうか」
「……あんのアシエンどこでフウガを知ったんだよほんとに」

 即苦笑しながらため息を軽くつき、呼びに行ったガイウスを待つ。
 その後、少しだけリンドウとの旅の思い出を話してやる。アンナは"そういえば、こうやってフウガの詳しいこと人に話すのは初めてだっけ"と考えながら、夜が更けるまでその話をした。



 作戦はこう。ネロサンに武器の整備を依頼し、次の日にいつもネロサンの部屋に隠れてる兄さんを呼び、一緒に朝ごはんを食べる。これをきっかけに引きこもってないで時々は一緒に買い物とか行こうと誘う。ネロサンもノッてくれるはずだ。よし、我ながら完璧。

「というわけで武器の整備をお願いしたいんだよね」
「なーにがというわけだ? ガーロンドに頼みゃいいだろ」
「適材適所」

 ガーロンド・アイアンワークス社。休憩室で優雅にコーヒーを飲んでいた男をラボと称している場所に引っ張り武器を突きつけた。

「元軍属なら銃とガンブレイドの整備位朝飯前でしょ?」
「マァそうだがそンな使ってねェよ。俺の戦い方位知ってンだろ?」
「む、お金出すし少々使える方向に改造してもいいから」
「いやガーロンドに殺されっか」
「あ、もしかしてボクが使う武器触るの怖い? まあ結構使いやすいように弄ってるしね。壊しちゃうって思ってるんだ。天才のくーせーに、意外と繊細。メンタルがザ」

 その畳みかけるようなセリフにネロはカチンと来る。ヘタクソな罵倒言葉を打ち切るように震えながらキレ散らかした。

「やってやろうじゃねェかよこの野郎! この天才機工師の俺様にできないことはねェ!」
「じゃあ明日までによろしくね。はいお代先払い」

 勢いで言ってしまった。ネロはその場に突っ伏してしまう。アンナは重みのある革袋を武器の横に置き、踵を返した。扉を開く直前にネロが「そういやよ」と引き留める。アンナは「何?」と言うと、ネロは指さした。

「いきなり何で武器を整備しろって言い出したンだ。お前何でも自分でできるハズだろ? 動機教えろ動機」
「え、ウェルリトでガンブレイド整備方法不明ってガイウスに言ったら"信用できる人がおるだろう?"ってヒント教えてくれたからだよ? そういやあの人が持ってる武器ってミド・ガーロンドに贈ってもらったものなんだって」
「ア?」
「じゃ、ボクは別の用事こなしてくるからまた明日」

 ネロが止める間もなくアンナは去ってしまった。顔に手を当てため息を吐いているとひょっこりとエルファーが現れる。

「アレ、絶対意味履き違えてるよな。俺の勘違いじゃなけりゃ、超遠回しにガーロンドに頼めつってるよな閣下」
「だな。でもまあ一先ず隠そうか。よし、華麗に会長くんへ全仕事を押し付け、定時退社。腹ごしらえ後整備だ。我が妹の武器がどんなもんか見てみたかったんだ」
「マァ使いやすいように弄ってるっつーのがどういうのか気になるがよ」

 ま、バレなきゃ何も起こらないかと肩をすくめ、笑みのようなものを見せるエルファーに笑いかけた。部屋を後にし、今晩の計画を練る。



「で、俺に全部仕事を押し付けてお前たち2人は優雅に外部からの依頼、と。金もたんまりと貰ってな」
「黙秘権行使」
「しかもこれ見たことあるぞ。アンナのだよな。どういうことだ? ネロ」

 2人は"普段は鈍感なくせにこういう時に限って鋭い"と舌打ちする。
 優雅な定時退社を決め、整備するための道具を準備した後腹ごしらえだとレヴナンツトールで飯を食いに行く。戻ると、"ちょっと聞くことがあったから"とラボを覗いた後、何かに気づいたシドがジトリとした目で待っていた。笑顔を引きつらせながら「何か用でもあったか?」と聞くと「それはこっちのセリフだ」と吐き捨てた。
 見るからに自分は不機嫌だと顔に書いている。

「前にも言ったよな? 勝手に、アンナの、お願いを聞くなって」
「記憶にねェな」
「初耳」
「いつ何回言ったか覚えてるぞ言ってやろうか?」
「クソッ、適材適所つって押し付けてきたンだよ恨むなら日ごろからアピールしてねェ自分を恨め」
「武器なら元軍属のネロに頼るのは自然だろう? 我が妹は意外と合理主義なことを忘れたのかいガーロンドくん」
「うぐ……」

 シドは言葉を詰まらせる。面白いわけがなかった。これがあるということは日中アンナが来ていたということ。自分の所へは挨拶にすら来ずに。大方最初は断ろうとしたが、どうしてもと押し付けてきたのだろう。アンナが一度思いついたことは絶対に曲げない頑固さがあることを、鈍感なシドでも体感してきた。

「―――じゃあ今日の所はお前がやってるのを見る。次はないからな」
「勝手にしろ」

 ネロはため息をつき道具を広げる。隣で2人分の視線を受けながら"あのバブーン覚えてろよ"とグチグチ言いながら夜は過ぎた。



「やあやあ取り立てにきたよネロ、サ、うわぁシドいるじゃん。……じゃなかったおはよ」

 早朝、アンナは日課を早々に終わらせこっそりとガーロンド社に顔を出す。この時間ならシドも起きていないだろうしと思いながら、軽やかなステップで3回ノック後、ネロの部屋に入る。いの一番に笑顔で立っているシドと目が合った。ネロは隣で大欠伸をしながら伸びをしている。

「うわぁって何だ。また1週間程度連絡つかなかったが元気そうじゃないか。アンナ」
「いや私がそんなこと言うわけないじゃない、お早いお目覚めとは健康で結構結構。へへっ……頼みごとの回収終わったら顔出す予定だったでやんすよ」
「変な誤魔化し方してると後で酷い目遭うの位いい加減に覚えとけ。……ほらメスバブーン終わったぞ。ったくアホみたいに弄りやがって。結構苦戦したかンな」
「帝国式に比べたらクセはあるがこれ位俺でもできるさ。ネロじゃなくて俺に頼れ」

 アンナは武器を受け取りながら苦笑する。しばらく眺めた後、3人分のサンドイッチを机に置いた。

「私的には。あなたと武器、似合わないなって思ったからネロサンに押し付けただけだよ。でもまあ何かプランがあるのなら、次はお願いしようかな」
「嘘つきやがるのもお上手で」
「ネロサンお黙り」

 シドは目を丸くしてアンナを見る。

「んじゃ、報酬代わり。3人で食べてね。ありがと」

 そのまま踵を返し、部屋から抜け出した。シドの声が聞こえたが無視して扉を閉じる。
 しばらく歩き、ジェシーと鉢合わせした。

「あらアンナ、おはよう早いわね。会長に会いに来たの?」
「……兄さんと朝ごはん食べたかったなぁ」

 盛大なため息を吐く姿をジェシーは珍しいものを見る目で眺めていた。


Wavebox

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注意・補足 新生以降紅蓮以内のシド光♀。モンクジョブクエ50前提。  …

新生,ネタバレ有り

#シド光♀

新生,ネタバレ有り

"武器と手加減"
注意・補足
 新生以降紅蓮以内のシド光♀。モンクジョブクエ50前提。
 

 目を閉じて、息を大きく吸う。目に見えぬ何かをまとわせ、それを拳へ集中させる。重心を下半身に、上半身は力を抜き、"気"を意識。

「アンナじゃないか」
「っ!?」

 突然声を掛けられ集中が途切れてしまった。振り向くと白い男が手を振りながら走り寄って来る。

「だいぶ早い時間に起きるんだな」
「そんなことないよ? シドこそ早い。……いや徹夜明け?」
「正解だ」

 肩をすくめ、苦笑している。そして何をしていたんだと聞くのでボクはいつもの笑顔を見せた。

「朝の日課は運動から始まる」
「ああ準備運動みたいなもんか」
「昔ある人に教えてもらった。武術、その"型"と言えばいいのかな? 体操の代用」
「アラミゴの僧兵か?」
「あーそれに近い。本場のモンクの人に色々教えてもらったけど違う動きだったの。多分別流派」

 じゃあそういうことでと再び構えるとシドはそのまま少し離れた場所で見ている。首を傾げた。

「いいじゃないか」
「楽しくないよ?」
「楽しいとかじゃないさ」

 よく分からないので放置しておこう。そのままいつも通り、姿勢を正してゆっくりと呼吸を整え、そして―――



汗を拭きながら、一息吐く。シドは―――ずっといたみたい。

「凄いな」
「毎日やってれば誰だってできるものだよ。健康体操みたいなもん。君もやってみる?」
「あー今度にしてくれ」
「やる気はなし」
「邪魔をしたくないんだ」

 しっかり自覚して結構と言ってやると顔がほころんでいた。どうやら褒め言葉だと思っているらしい。もうそれでいいよ。

「まあこの辺りでやっているのも理由があるんだ」
「理由、か?」
「ここモードゥナは"世界の中心"とやららしいからね。確かにエーテルの吸収をしやすい。流れも掴みやすく、面白いことがやりやすいんだよね」
「俺の論文読んだのか?」
「ちょっと借りたのよ」

 目を丸くしているシドにニィと笑ってやり、装備していた格闘武器を外す。1本の樹木の前に立ち、息を吸う。そして拳を当てがい、エーテルを集中させた。

「例えばこうやって」

 拳に力を入れる。その瞬間パンと破裂音が響き渡った。小鳥たちの慌てたように飛び立つ音が聞こえる。

「木が」

 シドの顔を見るとどんどん血の気が引いているのが分かる。当たり前だ。跡形もなく樹木がバラバラになったのだから。

「エーテルって便利だね」

 満面の笑みで言ってやる。こうすると大体の人間はボクの周りから去って行くのだ。
 しかしこの男は違った。

「おい拳は痛くないのか!?」

 その手を握りボクを心配するような目を見せている。どこまでも優しい男だ。首元がくすぐったい。

「? エーテルを拳に集中させて撃ってるだけだし。やってることはモンクの体術と一緒だよ? チャクラは体内エーテルの流れのことだし」
「いやそんな激しく体内エーテルを消費するような行為も身体に悪いだろ! 無茶をするな」
「こんなのめったに人に見せないしやらないよ。だから武器装備してる」

 傍に置いてある刀を持ちシドに触らせる。鞘を通し、長い刀身をなでさせた。

「これは他の人に内緒だよ? 私にとって武器というものは手加減の道具。これがないととーっても困っちゃうの」
「手加減」
「少しでも拳に力を入れちゃったらあなただって一瞬で粉砕しちゃう。人間として、エオルゼアにいるための大事なパーツ」

 耳元にまで近づき、笑みを浮かべた。子供に言い聞かせるように優しくささやく。

「私は強大すぎる力を得てしまった。誰の手にも負えない、だからどの勢力にも属せない。そんな私があなたの"手伝い"をしている。その意味をよーく考えてね」

 震える手を一瞬だけ握り、離れてやった。シドは一瞬ポカンとして顔を見せた後に咳払いをし、苦笑する。

「抑止力としての忠告のつもりか?」
「さあどうでしょう。……お腹空いたから朝ごはんにしましょ?」
「ああ俺も腹が減ってた所なんだ」

 屋台で何を食べようかとシドは聞いてきた。そうだね、ご機嫌な朝ごはんと言いながら一緒に歩き出す。

 乾いた風が今日も小心者なボクの心を嗤っていた―――。


Wavebox

#シド光♀

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注意・補足 星芒祭2漆黒編。星芒祭話蒼天編前提。シド光♀付き合い始めて以降の話で…

漆黒

#シド光♀ #季節イベント

漆黒

星降る夜に誓いを乗せて
注意・補足
 星芒祭2漆黒編。星芒祭話蒼天編前提。シド光♀付き合い始めて以降の話です。シド少年時代捏造。
 

 ―――夜空、それはボクにとって重要な記憶。眠れない夜、フウガはいつも星の知識を教えてくれた。不確実な占いではなく、旅する上で必要な知識の1つとしてね。
 そしてその輝く星はただのゴツゴツした何もない大地だと教えてくれた夢を理解できない男もいた。でも、聞いてく内に、ボクはそんな夜空へ旅立ちたいって思うようになったのさ。
 でも飛空艇を知るまで空という大海を泳ぐ船なんて存在しないと思ってたし、ただの現実味のないぜいたくな要求だと思っていた。何より旅人に欲は必要ない。ただその大地を踏みしめればいいと。そう、キレイな白いお星さまに出会うまでは確実にそんなことを考えてた。
 ねぇ、キミならボクのワガママを聞いてくれるかな? 確証もない聞きかじりの知識を聞いて。そして、全部護らせてほしいな。

 ◇

「アンナ、そういやもうすぐ星芒祭が来るだろ」
「そうだね」

 料理から目を離さず、シドの言葉にアンナは相槌を打った。
 風が冷たくなり始めた頃、いわゆる恋人関係になってから初めての冬。久々にトップマストの一室にて休日を過ごしていた。シドは壁に掛けられたカレンダーを見上げ、冒頭の言葉をつぶやく。

「何かほしいものとかあるか?」
「いきなりどうしたのそんなこと言って」

 苦笑しながら鍋を見つめている。シドは「決まってるだろ」と言葉を続ける。2人は最近まで恋人としてではなく、ただの友人として関わってきた。そして星芒祭といえば、最初の年に暁の血盟とガーロンド・アイアンワークス社合同の盛大なパーティにてプレゼント交換をし、次の年は諸々の事情で何も渡せなかった。今年こそは何かをしたいと、シドは考える。

「せっかくこうやって隣にいられる関係になれたんだ。何か渡そうと思ってな。またプレゼント交換というのも悪くないが、素直にほしいものを聞いた方がいいだろ? いらんと思われるものを渡したくないんだ」
「んー……私はシドなら何をくれても嬉しいけど?」

 アンナは手を止め、シドの方へ振り向いた。いやそうじゃなくてな、とジトリとした目で見る。いつもアンナは何を渡しても満面の笑顔で受け取る。―――大体の人間からもらったモノは丁寧に処分するが、今のシドはまだ知らない。
 とにかく、時々はきちんとほしいものをはっきりと見せてほしいなんて要望をしっかりとアピールした。するとシドが予想もしていなかった言葉が返って来る。

「キミの休日」

 目を丸くし、それはどういうと問う。アンナは「そんなに難しいことでも言った?」と首をかしげた。
 基本的に一緒にいる時間は多数の勢力を巻き込んだ作戦中。それかガーロンド社に手伝いへ行った時だった。完全な休日にのんびりと料理を作りながら会話を交わし始めたのは、ここ"トップマスト"の一室を荷物置きがてら借りてからなのだ。時折トラブルによる泣きの通信が入り、本社へ戻る日も少なくない。それならば、確実に邪魔が入らない休日を作り出してもいいのでは、とアンナはぼんやりと考えていた。素直にその考えを口にする。

「悪くない提案でしょ? モノと言ったら違うかもしれないけどさ」
「む、そう言われたらありかもしれん」

 次第に顔が高揚していくシドの姿を見てアンナはニコリと笑い、再び鍋の中へと視線を戻す。
 今日はいい肉を手に入れたのでビーフシチューを煮込んでいる。アンナはシチューの類が好きだ。特にシドと一緒に食べるという行為が格別なのだが、本人が知ると調子に乗るのがわかっているので教えていない。

「で、シドは何がほしい? 私だけ聞いておいて自分は教えないなんて言わないよね?」
「考えてはいたんだがアンナの言葉で吹っ飛んじまった。ちょっと待っててくれ」

 シドが考え込んでいる姿を見てアンナは苦笑した。鍋のフタを閉じ、エプロンを脱ぎながら傍へと歩み寄る。
 ふと何かを思いついたのか手をポンとたたく。アンナは少しだけ嫌な予感がよぎった。そのしぐさはロクなことにならないことしか思い浮かんでいない時のやつだ。実際首元がざわついて来る。これは、ダメなヤツだとアンナは一歩後ずさった。

「髪をあ」
「やだ」

 即答。シドはそれでもめげずに言葉を続ける。

「赤」
「絶対やだ」
「どうしてきちんと人の話を聞かず断るんだ」
「ロクなことにならない提案が聞こえたからだけど?」

 アンナは食い気味に断りながら威嚇している。それに対しシドも眉間にシワを寄せながら対抗する。

「いやそんなことはない。ほらちゃんと全文聞いてから判断しても遅くないだろ。頼むからちゃんとしゃべらせてくれ」
「うぐ……じゃあわかった聞くだけ聞いてあげるよ言ってごらん」

 真剣な目。アンナはそれに一番弱い。肩を落とし、投げやりに許可を与えるとシドは明るい顔をして言い放った。

「髪を赤く染めて来てくれないか?」
「ぜーったいにお断り!」

 ほら、まともな要求じゃない。アンナは盛大にため息をついた。

 ◇

 赤髪。それは出会いまで遡る。寒空の夜、白色の少年は性別不詳の凍死しかけていた赤髪のヴィエラを見つけ、助けた。温かい"シチュー"を手渡し、少しだけ熱が灯ったヴィエラは旅人だと名乗る。そして、少年の話を聞いた後、"次はキミがボクを捕まえてごらん。キミの夢である空へ運ぶ船を造るすべてを護ってあげるから"と約束し去る。その白色の少年こそがシドであり、赤髪のヴィエラこそがアンナだった。
 以前の星芒祭で「会いたい人がいる」と口走ったシドの要望を拾い上げ、グリダニアで一晩の奇跡を起こしたように見せた。きっと不意にそれを思い出したのだろう。

 アンナは腕組みをしながらシドをにらむと、凄く寂しそうな顔をしていた。徐々にしょぼくれていく顔に肩を落とし、まるで雨に打たれて尾を垂れた野良犬のように哀愁が漂っている。アンナは言葉を詰まらせ、「ああわかった! 理由要求!」と言ってやるとシドは満面な笑顔を見せた。

「前の星芒祭では見せてくれたじゃないか。俺はあの時確かに"会いたい人がいる"と言ったが、行き倒れていた旅人のこととは一言も言わんかったぞ?」
「うぐ」
「街全体で俺を騙して気合入れてくれたじゃないか」
「いやあの件は本当に悪かったって」
「もう一度見たい。ダメか?」

 その言葉にアンナは必死に目を逸らす。

「ちゃんと最高なプレゼントの準備してくる」

 シドは優しく手を取り、何も言わずアンナを見る。そしてしばらく沈黙が流れた。
 その沈黙に耐え切れず、アンナはついに口を開く。

「あーもー! いつにするか決まり次第予定を教えて! あと期待しないで!」

 シドは楽しみだ、そう言いながら頭の中でアンナを驚かせるための策を練り始めた。
 それに対しアンナは過去の自分の行いを呪う。どうしてこうなった、片手で顔を覆った。

 ◇

「いいですよ。予定の調整しておきますので1週間程度ゆっくり楽しんできてください!」

 ざわつく周囲。目が点になった真っ白い男。満面の笑顔を見せる会長代理。
 もうすぐ年末。数々の地獄の前兆を見せているガーロンド・アイアンワークス社で、シドは首をかしげた。

 少しだけ長い休暇をほしいと予定調整役のジェシーに話すと、当然理由を聞かれる。素直に「アンナと少し遠出しようと思ってな。暁や案件とは一切関係ないぞ」と言うと顔を輝かせながら冒頭の言葉を発した。その声に周囲も驚いたような顔をし、話題の渦中へ視線が向く。

「本当にいいのか?」
「会長、先日の完全な休みは何日ぶりでした?」
「1週間位か?」
「18日ぶりですけど。アンナが現れたからようやく詰めてた作業を終わらせたじゃないですか。今回も彼女に言われたからですよね?」

 あれは2日前のこと。アンナが久々にガーロンド・アイアンワークス社に現れた。ジェシーはアンナが入って来るなり泣きつく。具体的には『どんな手段を選んでもいいから会長を仕事から引きはがしてほしいの。アンナがいないともうずっとしかめっ面で寝ずに作業を続けるんだから!』と言った。するとしばらく考え込んだ後、暴れるシドを抱えて戻って来た。

『じゃあこのワーカーホリック1日借りる。あとホースとデッキブラシ借りるね』
『悪かった! シャワー位1人でできるから下ろしてくれ!』

 大男が抵抗してもビクともしていない腕力は相変わらず味方でいることに感謝する。そうしてようやくシドは完全な休暇を迎えたのであった。

「どういった計画をしているかは聞きませんよ。ちゃんとお土産は持って帰ってくださいね」
「む……まあそうしようか」

 シドが仕事を詰めていたのも彼なりに理由はある。『アンナがいないとどこか落ち着かないので、手を動かす方がマシだ』というもので。アンナがもっと頻繁に連絡を交わし、顔を出すだけで解決するものではある。しかし、それはアンナというどこまでも自由な旅人だから不可能な願いなのだ。
 好奇心の視線を避けるようにシドはその場を後にした。行く場所は1つ。今回メインの目的になるだろうブツを回収しに行った。

 ◇

 扉を軽くノックした。こうしないと部屋の主に吊るされるのだ、仕方ない。『いや業務中は俺の方が偉いはず、どうしてこうなった』と思うが、ぐっと我慢する。

「開いてる」
「仕事中すまん、レフ」

 扉を開くと何やら機械をいじくり回すエルファーとネロ。「普通に話をするのは久々、会長クン」とエルファーははにかんだ。

「ケッ、メスバブーンとの休暇はどうだったよ」
「久々に普通の料理を食べたさ。相変わらずシチューが好きなようでな」
「我が妹が元気そうで何より。で、昇給のお知らせでもしに来たのかな?」

 ンなわけねェだろ夢見すぎというあきれた声を無視し、部屋の片隅に置かれた装置を指さす。

「休暇を取ったんだ。その装置、解析終わっただろ? 元あった場所に持ってく。もちろんアンナとな」

 エルファーの「はぁ!?」という素っ頓狂な声が響く。
 それはリンドウの終の棲家に置いてあった奇妙な装置。周辺一帯をカモフラージュさせるという大掛かりな現象がこの小さな機械1つで行われていた。上空から見ると完全に森で覆われているように見え、一体どう立ち回ればそんな装置を工面できたのかと疑問が残る。とにかく解析してみようと彼の孫から許可をもらい、しばらく会社に置いていた。
 そう、今回はその装置を返すついでにリンドウの孫であるテッセンが営む宿で宿泊することに決めた。アンナを驚かせるプレゼントといえばまずはこれだろう。それに対し、エルファーの「僕も行く!」という言葉に即「ムリだろ」とネロは頭をたたく。

「君だけずるいぞ! 僕も妹と連休旅行!」
「メスバブーンが来たら姿隠すお前にそんなコトできるわきゃねェっつーの」
「うぐ……おいネロ、君も僕の敵なのか!?」
「別に俺は構わないぞ? 行きたいならジェシーと交渉すればいいじゃねえか」
「む、言われなくともそうさせてもらうやい」

 そのままエルファーは走り去るが、すぐに肩を落として戻って来る。ネロはニヤニヤと笑いながら「愛しの妹サマとバケーションはできそうか?」と聞いてやるとエルファーはこの世の絶望を見たような声で吐き捨てる。

「ダメだと言われた」
「知ってた」
「悪いな、レフ。ちゃんとお前さんの分もリンドウに報告しておくからな」
「僕は別にリンのクソ野郎の所に行きたいから志願したわけじゃないが!?」
「そうだったのか。てっきり俺は一緒に墓参りに行きたいのかと」

 違ったのかと首をかしげるとエルファーは怒りながらそっぽを向いた。

「じゃあしょうがないな。とにかくもらっていくからあとはよろしく頼んだぞ」

 エルファーの恨みが込められた言葉を無視しながらシドはその場を後にした。そして休みの日と集合場所を告げるためリンクパールに手を取った。

 ◇

 ―――一方その頃。某所宿屋。

「なーにをすればいいんだ」

 アンナは本日何度目かもわからないため息をついた。そう、髪を赤く染めて現れろと言われてもどういう顔で行けばいいのか悩んでいる。普段の自分ではなくきっとかつての自分を要求していることだけはわかった。正直言って気乗りしない。

『じゃあ"ボク"が全部やってあげようか?』

 内なる存在が語りかけて来る。アンナは「はぁ!?」とあきれた声を出す。そして姿なき存在に向かって威嚇した。だまされてはいけない。この存在が余計なことをしなければ変に距離が近づくこともなかったし、あってももっと順序的にことが進み、あんな散々な初夜にはならなかったとアンナは信じている。

「そもそもこんなことになったのキミが原因。やらせるわけないでしょ」
『ケチ。"ボク"も時々はシドで遊びたい』
「ダメ。以前の星芒祭でシドが色々感情抱いた原因の力なんて絶対借りない!」
『チッ……』

 舌打ちしやがったなとアンナはまくし立てるが周辺には誰もいない独り言で虚しさが勝つ。またため息をつきながら奥に仕舞い込んでいた衣装を吊り下げた。箱から"赤髪"用の小道具を取りだし机に並べる。
 そして小さなカバンに金平糖と非常食を突っ込んだ。金平糖は口寂しい時に舐める用であり、シドの機嫌を直す用だ。それから以前より準備していた"アレ"を広げる。これはずっとプレゼントとして準備していたものだ。渡せる雰囲気になればいいが―――。それはいつでもいい、置いとこう。
 準備はこれ位だろうか? と思った瞬間にリンクパールが鳴る。「ひゃん!?」とまた小さな悲鳴を上げてしまう。やはり不意打ちに耳元で音が鳴るものは苦手だ。今回はシドが予定がわかり次第繋げると言われたので仕方なく装着している。せきばらいをし、「もしもし」と出てみるともちろんシド。当然だ、今日の通信予定は彼しかいないのだから。

『俺だ。今大丈夫か?』
「大丈夫じゃないって言ったら切る?」
『よし言う余裕があるなら大丈夫だな』
「はいはい。用件」

 聞いてみるとどうやらちゃんと休みが取れたらしい。予定の日と集合場所としてなぜかリムサ・ロミンサの飛空艇発着場を指定される。生返事した後、こっそりと舌打ちをしたが聞こえてしまったようだ。「覚えてろ」って言われ、挨拶を交わし切られてしまった。

「―――ボク、終わったな」

 柔らかな笑みを浮かべ、ベッドに沈んだ。

 ◇

 当日。シドは約束の時間より少し前にリムサ・ロミンサに降り立つ。ランディングで周囲を見回すと―――いた。

「待たせたか? 旅人さん」

 赤髪でぶっきらぼうな顔をした"旅人"が座っていた。予想通り相当早い時間から座っていたらしい。虚ろな眼差しでシドを見上げていた。隣に座り、腕を掴んだ。

「やっと捕まえたぞ」
「もしかしてそれがしたかっただけとは言わないよね?」
「半分くらいは」
「莫迦」

 アンナはシドの頬をつねる。どこに行くのかと聞くと「まああと少しで来るからな」と苦笑を返された。

「お前さん、初めてこの周辺に降り立ったのはグリダニアじゃなくてリムサ・ロミンサだったらしいじゃないか」
「―――黒渦団からでも聞いたの?」
「ある情報筋だ」

 そう、アンナが最初に三国に降り立ったのはリムサ・ロミンサだった。あれは5年以上前、第七霊災が起こった時のこと。迷子になりながらたどり着いたカルテノーで偶然黒渦団の人間を助けた時、街を探してると言ったらここまで連れてきてもらった。その時は飛空艇ではなくチョコボキャリッジと船で乗り継いだ。しばらく人助けをし、偶然商人が売っていたヴィエラ族の民族衣装を購入したのもこの時期である。懐かしい思い出だが、まあ必要ない情報なので誰にも言った記憶はない。
 首をかしげながら待っていると普段より大きな飛空艇がランディングに到着した。普段乗せてもらっているハイウィンド飛空社定期便と違い客室があるタイプのものだ。アンナは目を丸くし、それを眺めているとシドは立ち上がり、「さあ行くか」とニィと笑う。

「え、は?」
「おいせっかく来てもらってるんだ乗るぞ」
「えぇ……」

 引っ張られ、慣れた手つきでチケットを船員に渡し乗船する。そしてまったく落ち着かないキレイな個室に案内された。丸い窓からは外の景色が見える。ここまで大きな飛空艇は劇団マジェスティック所有の"プリマビスタ"ぶりだ。この時だってシドは時々顔を出してきたっけと少しだけ昔のことを思い出す。

「本当にどこ行く気?」
「その内わかるさ」
「高かったんじゃ?」
「これまでアンナがイタズラに使った金額よりかは安いんじゃないか?」
「くっ……金銭感覚お坊ちゃん」
「人のこと言えないだろ」

 小突き合ってる内に飛空艇は飛び立ち、アンナはふと窓の外を見ると青い空が広がっていた。椅子に座り、金平糖を一口食べる。

「これがプレゼント?」
「違うさ。ただ限られた時間で往復すると考えたら空路がいい」
「……クガネ」
「着いてからのお楽しみだ」

 はいはいと言いながら隣に座ったシドを見る。相も変わらず笑顔でため息をつきたくなる。肩を抱き寄せ軽くたたいてやると「だからそれは俺からさせてくれ」と言いながらもそのまま身を預けていた。

「こうやってアンナと2人で飛空艇に乗るのは珍しいよな」
「基本一緒に乗るの作戦中」
「ちゃんといい休暇になるよう計画したんだ。覚悟しろ」
「言葉が違うよね?」
「途中で逃げられたらたまったもんじゃないからな」
「つまんないってならなきゃ逃げない」

 軽く口付けてやるとそのまま舌をねじ込まれる。はいはいと心の中で言いながらそのまま絡め合った。水音とくぐもった吐息にアンナはギュッと目を閉じ、終わりを待つ。そして離れた瞬間に眉間にシワを寄せながら頭をなでた。

「ここまでだよ。流石に迷惑」
「わかってるさ」

 瞬時にアンナは後悔することになる。それからベッドまで抱き上げられ、そのままキスを繰り返した。そう、角度を変えながら唇にキスを落とすだけ。優しく抱きしめ、ただもどかしい行為が続く。相変わらずトリガーを引くのはアンナの役目ということなのだろう。

「俺は悔しかったんだ」
「何が」
「お前さんにとって初めての飛空艇ってのが俺が造ったものじゃなかったことがな」
「ああそういう。しょうがないでしょ。ていうか行方不明だったじゃん。無理」
「だから悔しいんだ」

 数分後、少しだけざわついた首元が何事もなく楽になっていた。そしてキスに満足したのか急に語り出す。相変わらずこっちが余計なことをしなければ鉄の理性だとアンナは感心した。

「初めて飛空艇に乗ったのがエオルゼアに来てからだろ? アンナがあの旅人だって気づかなくてもチャンスはあったさ」
「悔しければ第七霊災後事故って記憶を失った自分を恨んどいたらいい」
「ぐっ……」
「せめて思い出した時に"旅人さん"のこともちゃんと認識できてたら楽しいことになったのに残念だったねぇ」
「それに関しては今も気にしてるから言うんじゃない!」

 そう、シド自身も気にしていた。記憶喪失になっていたシドがエンタープライズ号で大空へ飛び立ち、思い出した瞬間のアンナの笑顔。柔らかく、何かを懐かしむように目を細めシドを見ていた。この時、アンナだけが過去に巡り合った記憶を想起し、捕まることはないとほくそ笑んでいたことを知った時は拳を握りしめるほど悔しかった。カラカラと笑っているとシドは顔を赤くし、そのままアンナの上に乗る。

「ちょっと?」
「ああちょっとだけだ」
「今の別に合意したわけじゃない!?」
「アンナが悪い」
「弁償したいの!?」
「そんなことするわけないだろ。まあ最終的にちょっとだけアンナの口を」
「最低! ほんっと最低なこと素面で言うなぁエロオヤジ!」

 シドは何も言わずほっぺをつねった。アンナは痛い痛いと言いながら表情を窺うと非常に機嫌がよろしくない。消えていたハズだが徐々に首元がざわつき、鳥肌が立つ。

 やらかした。天井を見上げ、これからの行為に想いを巡らせる。まあ忠告しているから流石にキツいことはしないだろう。せめて下船するまでには終わらせようと苦笑した。

 ◇

 長時間の船旅が終わり、外へ出るとそこはクガネ。アンナが予想していた通りの場所だ。温泉巡りでもするのかと聞くとそれもいいがと苦笑している。

「とりあえず宿屋で休もうじゃないか。明日は早いからな」
「はぁ」
「そしたら続きをだな」

 アンナのあきれたような声がランディングに響く。シドはニィと笑顔を見せた。

「さっき物足りない顔をしてたからな。大丈夫だ、俺だって明日に支障が出るし一晩付き合わせる気はないぞ」
「それが当たり前なんだけどなぁ!?」
「人と惚れた腫れたの駆け引きを一切してこなかったお前が当たり前を語るんじゃない」
「私だってあなたにだけは言われたくないけど!?」

 ケラケラと笑いながら温泉宿で一晩過ごし、朝になるとシドは大隼屋の方へと引っ張っていく。
 たどり着いた第二波止場には意外な人物がいた。着物の男にシドは大きく手を振る。

「テッセン、久しぶりだな」
「急に連絡をいただいた時はびっくりしましたよ、シドさん」
「え、テッセン。何で?」

 黒色の短い髪に柔らかな笑顔を浮かべる青年が駆け寄って来る。命の恩人であるリンドウの孫にあたるテッセンは髪を指さしながら、驚いた顔をしたアンナへ話しかけた。

「髪色、戻したんですね。お久しぶりですエルダスさん」
「むーそういうことかぁ。―――シドにやれって言われただけだから近日中に戻す予定」
「俺は別にずっと赤髪でもいいと思ってるがな。ほら暗くなっちまう前に行こうじゃないか」

 2人用のはきちんと予約しておきましたのでとニコリと笑顔を見せている。アンナは苦笑し、シドのほっぺをつねった。

 大隼がドマの空を飛ぶ。その景色をアンナはぼんやりと見つめていた。山へ行くごとに徐々に深く茂った森が増え、リンドウとの旅路を少しだけ思い出す。
 ふと先を見ると山の上に、見覚えのある小屋があった。

「フウガの家。前見えなかった」
「そうだな」
「この村本来の姿ですよ」

 以前訪れた時は樹に覆われた森が空から見えていたはずだ。2人が言っていることにアンナはピンと来ない。
 村に降り立つと以前より人がにぎわう場所と化していた。アンナはそれを目を丸くして見ている。

「シドさんがアレを持って帰ってからまた観光客が増えたんですよ。おかげで大忙しで」
「あー……すまない」
「いいんですよ。祖父は複雑でしょうがね」
「何の話?」

 テッセンは笑みを浮かべ、実は祖父のリンドウが帝国で有名人だったという話をする。出版されていた本の中では幼い頃のアンナも登場することや、最近それについて書かれた本と舞台の記憶を見せてもらったと言うとアンナは露骨に嫌そうな顔をした。

「あんのアシエン……」
「それで昔から遥々ガレマール帝国や属州よりたくさんの人が墓参りに来ていただいていたんですよ。出会いに恵まれ、こうやって生活させてもらってます。ドマ解放から減ってましたが村を出た子供たちがエオルゼアを中心に噂として広めたようで」
「うちの新入社員にもここ出身のやつが最近来ててな。ああ不思議なことに昔からここだけ魔導技術が普及されていたんだ」
「―――本当に余計なことをしやがって。どんだけあいつ私のこと好きだったのさ」

 小さな声でアンナはつぶやく。シドには聞こえていたようで、ジトリとした目でにらんでいることに気づいたアンナは「死人に口なし」とだけ言って金平糖を放り込んだ後にアゴヒゲをなでた。

 ◇

 夜。アンナはリンドウの家の前で空を見ていた。静かな場所で星が輝いている。「やっぱりここにいたか!」とシドは息が上がりながら駆け寄って来る。

「俺が少し呼ばれてる間に抜け出すんじゃない!」
「別に逃げたわけじゃないんだから大げさな。ほら星がキレイだから見て」

 アンナはニコリと笑顔で空を指さす。シドはため息をつきながら隣に立ち、空を見上げる。確かにキレイだなと笑みを浮かべた。ふとアンナはあのさと口を開く。シドは首をかしげるとそのままボソボソと話し始めた。

「昨日の話の続き。初めて乗せたかったとかそういう」
「俺に余計なことを思い出させる気か?」
「ちーがーう」

 くるりと回りながら数歩歩き出す。そして、笑顔でこう言った。

「あなた―――いや、キミはこの空で満足してる?」
「……は?」

 アンナは手を開き、昔ある人に教えてもらった知識を披露した。この空を抜けると宇宙という海が広がり、輝く星に降り立つことができる。まあ普段輝いている星は、ただのデコボコとした塊だから面白くないみたいだが。そしてもっと進むといつもキレイに輝き満ち欠けする大きな月があり、さらにその先がどうなっているか誰も知らないのだと。

「そして月にはボクのように耳長ウサギちゃんがいるんだって。いやホントにひんがしの国では月の黒っぽい部分がね、こうウサギが餅つきしてるように見えるって逸話もある。ほら、もしかしたら故郷かも?」
「そんなわけないだろう。今立ってる世界がお前さんが生まれ育った場所だ」
「ふふっどうでしょう。その場所に連れてってくれたらわかるかもよ?」

 そしてボクはもっとその先を見たいのさ、とアンナはニィと笑う。シドはそのアンナの笑顔に見惚れ、ぼんやりと見つめていた。その後ジャンプを1回、2回。跳ねながら空へ手を伸ばす。

「でもさ、ボクが今いくらジャンプしても、月どころかこの空さえ越えることができない。じゃあ何が言いたいかわかるよね?」

 手を握り、シドを引っ張りながらまたくるりと回る。シドはバランスを崩さないよう必死に回る。2回、3回と2人は星空の下で踊った。

「その空を飛ぶためのものをさ、キミが造るんだ。アラグはかつて空へ衛星を飛ばした。じゃあ今のキミなら人と希望を乗せて、もっと遠くまで飛ばせるんじゃない? オメガだって何とかしちゃったキミなら、何だってできるハズ」
「お前さんを乗せる、船」
「今そんな船、存在しないでしょ? いやまあどこかが極秘に開発してるとかあったら知らないけどボクがそんな所お邪魔するわけない。じゃあ今度こそその"ハジメテ"とやらをボクから奪うことができる。悪くはない提案でしょう?」

 リンドウが占星術の知識を教えてくれたように。誰かが宇宙の知識を教えてくれた時、心が躍ったことをアンナは今でも鮮明に覚えている。そして現在、それを叶えてくれそうな人を見つけたことを、前人未踏の地を旅できるかもしれないこともすべてが嬉しくてたまらなかった。

「だから、そのボクの夢である宇宙(そら)へ運ぶ船を造るキミを、キミが必要だと思う人たちを、その場所も全部ぜーんぶ! ボクが護ってあげる。ボクはこう見えてとーっても強いんだから。せっかく捕まえられたんだよ? それ位の楽しみがほしい!」

 ボクは意外と貪欲なんだよ、知ってた? とアンナがニィと笑顔を見せる。シドはその言葉に目を丸くした。

「ど、どうしたんだいきなりそんな」
「む……そりゃあ旅を延期する言い訳さ。それ位気づこうよ、ボクの天才機工師様?」

 満面な笑顔に、今まで聞くことがなかったアンナの本音。シドは心のどこかに火を灯された感覚を味わう。

「ほら誓ってよ。フウガのお墓の前でさ。ボクを奪って、遠い宇宙(そら)へ連れていくって。生きてる者の特権を、存分に使ってやるってさ。―――厭かな?」

 ピタリと止まり、アンナは目を細め、シドを見やった。しばらく静寂が辺りを包み込む。じっと見つめ合い、答えを待つ。今、世界で一番ワガママだろうこの願いを、受け入れてほしいとアンナは願った。

「―――さ」
「うん?」
「それ位お安い御用さ、お姫様。なんてな」

 そんなワガママを、シドは断れるわけがなかった。未だ誰も達成していない夢があふれたその願いは、シドもずっとほしかったモノ。元より好きだと自覚するより前からこの人について行くだけで、思わぬ技術が転がって来ることに一喜一憂していた。また一緒に何かを成し遂げる目標ができる、それが嬉しくてたまらない。

「あーのーねー。ボク、お姫様ってナリじゃないよ?」
「俺からしたら今のアンナは十二分にそんな存在さ」
「莫迦。ほら早く戻ろ? ボクは眠いのさ」
「ああ夜は長いからな。ゆっくりしような」
「ねえ今の言葉聞いてた? 難聴が始まってるんじゃないかって時々心配に、って!?」

 ねえ、ちょっと、いや逃げないから腰を掴むなという抗議を無視し山を下りていく。
 ふとシドは浮かんでいた疑問をアンナにぶつける。

「月のことを教えてくれた人は、誰なんだ」
「知らない」

 無機質な声。シドは立ち止まり、アンナを見上げる。銀と赤の目に無表情でアンナは何か、と言った。

「―――あー多分旅の途中で聞いただけだからさ。旅人は名前なんて細かく覚えないスタンスだったし」
「そう、か」

 両目共に柘榴石(ガーネット)色の瞳、月の光による錯覚だったのだろうか。いつもの見知った笑顔に切り替わっている姿が少しだけ恐ろしく感じる。

 アンナは以前から察してはいたが少しだけ記憶が怪しい部分がある。どこか専門的な知識についての出所を問うとこうやって知らないと即答するのだ。入れ知恵した主に心当たりがある。アンナの兄であるエルファーの旧友、ア・リス・ティア。かつて時代にそぐわぬ知識量と技術力にエルファーも憧れ、技術者の道へと進んだという。アンナが本当にかつてその男に会ったかは確かめる術はない。だが、両者の友人であるリンドウといたのなら、ありえない話とは言い切れなかった。

『あの子が本当にリンのすべてを"継承"しているのなら、強く"絶対に勝って帰って来い"と願えばいい。きっとすべて終わらせて君の所へ帰って来る。かつて僕とアリスはリンをそういう体に変えたから』

 いつかその時が来たら教えると言われた秘密が、シドの頭の隅で引っかかっている。流星の軌跡のような斬撃を放てるのならば、確実に普通の人の道からは外れている―――と言われていた。
 それでもいばらの道を歩み続けるキレイな人の傍にいたいと、その体を抱き寄せた。



 シドが朝目を覚ますと既にアンナは起床し、炊事場付近にいた。少しだけフラフラと重そうに歩くアンナを見て苦笑する。

「もっと寝ててもよかったんじゃないか? 手伝いもさせてもらえないんだろ」
「絶対にやだ」

 ジトリとした目でにらんでいる。昨晩はそんな余裕もなくなっていたくせにとシドは少しだけ優越感に浸っていた。テッセンはそんな2人へニコリと笑いながら食事を運ぶ。

「おはようございます、お2人さん。よく眠れましたか?」
「ああもちろん」
「……ノーコメント」

 アンナは気づいていることもあるが黙る。『それは藪蛇というものだ』と昔リンドウに教えられた。
 食事は事前に要望を伝えていた通りのひんがしの国式だ。炊いた白米に焼いた魚、味噌汁と軽い付け合わせ。"大人しく、普通に、食べろ"と目で伝えるとアンナはニコリと笑い返した。
 朝食後、持って来ていた装置をテッセンに手渡す。

「もし悪意を持ったやつが来だしたらまたこれの電源を入れたらいい」
「―――ありがとうございます。そうだ、エルダスさん。どうぞ」

 テッセンは紙の束を差しだす。アンナは首をかしげると柔らかな笑みを浮かべた。そしてシドに聞こえないように耳打ちする。

「フレイヤさん。祖父があなたに遺した手紙ですよ。やっとお渡しできました」
「本当に!?」

 アンナの問いにテッセンは肯定を返すと即手紙を開き、目を通す。シドはジトリとした目でそれを覗き込むと以前見せてもらった達筆のモノだった。

「アンナは読めるのか?」
「うん。フウガ、昔から強い文字を書く人だったから慣れるまで苦労した」

 笑顔、もの言いたげな顔、歯を食いしばり、最後は泣きそうな顔でその手紙を読んでいた。持って帰ってもいいかと問うとテッセンは笑顔でうなづく。ふとシドの方を見ると少しだけ目を逸らし、機嫌はよくない。厭な予感がする。それでも聞きたいことはあった。

「ねえ、聞きたいんだけど」
「何ですか?」
「どうした?」
「……シド、私が超絶苦労して世界救ってる間にここ来てこの手紙読んだでしょ?」

 シドは即そっぽを向く。そして「知らん」と言った。眉間にシワを寄せ、手紙のある部分を指さしながら声を上げる。

「こっちの目を見て言ってくれないかなぁ? ねえあなたがあの時に言ったことそのものが書いてあるんだけど?」
「いやその、アンナ落ち着いてくれないか」
「あなた魔導院でテストの時、カンニングペーパーでも作って臨んでた?」

 アンナは両ほっぺを引っ張る。シドはその顔を見ると真っ赤で少しだけ涙を溜めていた。言葉が詰まりながらも、後頭部を撫でる。

「ずるい。そんなことされて断れると思ってる?」
「断られたくないから確実な手を使ったに決まってるだろう」
「―――ずるい。テッセンも」

 アンナはテッセンのほっぺも引っ張る。ニコニコと笑顔ですみませんと言った。

「懐かしいですね。失言したらいつも祖父にこうやってほっぺを引っ張られてました」
「私も散々されたし。年取っても変わらなかったんだ」
「……おいアンナそれもリンドウのクセだったのか?」
「あっ」

 やってしまったと判断する。ニコリと笑みを見せるとシドも笑みを見せた。次の瞬間には腕を掴み、引っ張っていく。

「テッセン、そろそろ帰る支度をしようと思う。一度部屋に戻るからな」
「はいごゆっくり」
「ゆっくりしない! 帰る! 私すぐ帰りたい!」

 そのまま客室へ引っ張られていく姿を仲居たちは見守っている。

「若いですねえ」

 テッセンは体を伸ばしながら、手渡された装置を祖父の家へ持っていくために歩きだした。



 お土産をたくさんもらい、村を後にした。また旅の思い出を報告に行くとアンナが言えば、背後にてジトリとした目で見られるので肩をすくめ、「もちろんこの人も」と苦笑する。

「あとよければお兄様も連れて来たらいかがでしょうか? きっと祖父も喜ぶと思いますよ」
「確かに。まさか兄さんがフウガの知り合いだったなんて思わず」

 シドは心の中で"絶対に暴れるが、アンナに行こうと言われたら多分掌返すだろうな"と普段の言動を思い出していた。確実にエルファーはやだと言うがアンナに手を握られると満面の笑顔になり、今まで恨み言ばかり吐いていたくせに美しい思い出を話すだろう。

「兄さんはここ知らないんだよね?」
「ええ。お友達だという方は時々来てたのですがヴィエラの方は来ませんでした」
「フウガの、友達」
「お名前は覚えてませんがとても元気な方で」

 アンナは覚えがないなあと首をかしげる。そんな友達がいたのなら一緒に旅をしていた頃会ったことあるだろうに、不思議だと思った。シドはそれが誰かとエルファーから話は聞いている。しかし思い出話を延々とされる予感がしたので、絶対に名前を出したくなかった。話題を打ち切るように「じゃあそろそろ帰るか」とニィと笑ってやるとアンナも柔らかな笑みを浮かべる。
 そうしてテッセンたちと軽く会釈を交わし、大隼に乗った。

「楽しかったか?」
「ん、悪くはなかったよ」
「そりゃよかった」

 本当は凄く嬉しい時であったが素直に伝えると調子に乗られるので素っ気なく返した。シドはそれでも機嫌よくアンナへ寄りかかる。肌寒い空の下、静かな時が過ぎ去った。



「これは?」
「プレゼント」

 クガネに戻り、街を適当に散策しながらまたお土産を買った。これは暁の血盟用にしよう、じゃあこっちは会社用かと会話を交わしながら菓子や小物を物色する。
 気が済んだら今日はまた望海楼に泊まることにした。飯をいただいた後、畳の上でアンナはカバンから袋を取りだす。少し厚みのあるそれに首をかしげながらシドは受け取った。

「あっちで渡したらよかったんじゃ」
「タイミングが難しかった」
「イタズラ装置じゃないよな?」
「あなたの会社に準備してるよ」

 シドにとってそれは初耳だった。作動する前に見つけるからなとブツブツ言いながらシドは袋を開く。
―――黒と赤のマフラー。相当長い。羽根のような意匠が施されている。

「編んだのか? 相当長いが」
「暇だったから」

 脳裏に無心で延々と棒針編みをする姿が容易に浮かんだ。アンナはシドの手からマフラーをくすねると、そのままぐるぐると首に巻く。

「温かいな」
「でしょ? 今回の休日のお礼」

 抱き寄せ、額にキスをした。シドは慌てながらそれは俺がすることだとほっぺを引っ張る。そしてシドもまたカバンの中から袋を取りだした。アンナは開けたらいいのかと問えば当然だと胸を張る。
 開くとガーロンド・アイアンワークス社のエンブレムが施されたツールベルトが入っていた。目を丸くしてそれを持つ。

「これで気合を入れてイタズラに励んだらいいの?」
「そんなわけないだろう。お前何でもかんでも旅用のカバンから取りだすじゃないか。製作用道具とかなくさないか心配でな」
「あはは、ありがと」

 仕方ないから使ってあげるよと苦笑してやると、シドは巻いていたマフラーを少しだけ解き、そのままアンナの首に掛ける。アンナは肩をすくめそのまま巻かれた。

「これはこういう使い方をしたらいいんだろ?」
「……ご想像にお任せ」
「多分立ってても行けるな」
「外ではしないからね」
「寒い外で巻かないでいつ使うんだ」

 何も言わず後ろから覆いかぶさるように抱きしめてやるとシドは苦笑しながらその腕を握る。

「私はいつも冷たいんだから、首にちょっと巻いても誤差。あなたがちゃんと温かいってなってる所、見たい」

 そう言いながら頭の上に顎を置き、擦りつけるように動かした。アンナはいつも死人のように体温が冷たい。昔はもう少し温かかったと成人前のことしかわからないエルファーは言っているが、本当のことはシドにはわからなかった。しかしわかることは1つだけある。

「じゃあ今から少し温まるか」
「ねぇ脈略」
「今のは明らかに誘ってただろ」

 アンナの体温は体を重ねると人並みのものになる。それはシドだけが知っている秘密。どういうプロセスを踏んだらそうなるかは未だわからないが。いつか解明したいとは思っている。
 ニィと笑い、振り向くとばつの悪そうな顔でこちらを見ていた。嫌がっている動きは見せていないということは合意と取ってもいいのだろう。ゆっくりと体の向きを変え、アンナの膝の上に座り向き合う形になった。こうするとちょうど視線の高さが合うので、じっと見つめてやると、柘榴石(ガーネット)色の瞳が揺れた後細められる。額をこつんと合わせ、首に手を回した。

「むー……そんなにシたいなら付き合ってあげるから」
「そうだな。俺がしたいからしょうがないだろ?」
「そういうこと」

 アンナは手持ち無沙汰となった手をシドの腰へと回した。そう、気づいていないわけがない。どさくさに紛れて変なモノを買ってたことを。しかしどこかそれを楽しみにしている自分がいるのだ。あきれてため息をつきたくなる。



 次の日。軽い朝食を済ませ、そのままクガネランディングへ向かう。

「もう帰るの?」
「アンナが作った飯が恋しいからな」
「はいはい。何食べたい?」

 ニィと笑い、言ってやる。

「シチューに決まってるだろ?」
「じゃあリムサ・ロミンサで買い出ししなきゃね。そんなにシドが好きなら仕方ないなぁ」
「ああ俺が好きだからな」

 もっと自分をはっきり出せばいいのにとシドは苦笑する。口にしたらそっぽ向きしゃべらなくなるので言わないが。
 今回の休暇で少しだけアンナという存在を再び掴めた気がして嬉しくなった。寄りかかり、明日戻るであろう日常に対し少し憂鬱な気分になりながら、またアンナにありがとうと礼をつぶやく。
 そんなシドの姿を見てアンナは肩を掴み、優しくなでる。脳内で兄に送る手紙の文面を練りながらシチューの具を考える。ここ数日ずっとひんがしの国やドマ料理ばかりだったので少し違うものにしたい、パンも食べたいな。ボソボソと声に出してメニューを考えると隣にいるシドが程よくあれがいいこれがいいと茶々を入れて来る。
 目を細め、これが人といるという行為かと笑みを見せる。それは1人で旅をしていた頃にはまったく想像していなかった日常。リンドウの手紙に書いてあった言葉を胸に刻みながら、夢を叶えてくれる男に心の中で"好き"とつぶやいた――――。


Wavebox

#シド光♀ #季節イベント

(対象画像がありません)

注意&補足第八霊災ネタ。死ネタ。暁月の致命的なネタバレを差し替えたものです。自機…

漆黒,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

漆黒,ネタバレ有り

その複製体は聞き記す(ネタバレ配慮版)
注意&補足
第八霊災ネタ。死ネタ。暁月の致命的なネタバレを差し替えたものです。自機出番なし。
漆黒後に現れるリテイナーのア・リスが第八霊災が起こった後に"起動"される話。
メイン軸では触れられないだろうアンナとエルファー、ア・リス、リンドウの秘密な独自設定を明かしています。
 
―――俺様が起こされたのは"傑作"が世界によって壊された後の話だ。

 俺様はかつて友人の遺言を遂行し、"傑作"を最高なものに仕上げるために奔走した男の複製体。作った"親"は友人の魂の一部と共に想いを託し消えた。
 そんな"傑作"が完成し、ある"トリガー"を引いた際に俺様が起動するよう誘導させる、これが当初の計画である。しかしその願いが叶うことはなかった。

 目が覚めたら周りにいたのは赤や青の同じような服を着た男たちと勝手に"トリガー"役に任命した友人。驚愕した顔で俺様を見下ろしていた。

「お前、何で」
「起きたお姫様にはおはよう、だろ? よお久々だなエル、大体60年ぶりか?」
「……85年ぶりだ、寝ぼけたことを言ってるんじゃない阿呆」
「そっか。フレイヤちゃん元気? 念のために言うがテメェの可愛い妹のことだぞ? あの子がいないと俺様は起きることが出来ないはずだから知ってるよなァ? 会わせてくれよ俺様の最高傑作にさ。ケケッ」

 俺様はそこでこれまでにあった話を聞かされた。第七どころか第八霊災が起こり、フレイヤ―――いやアンナ・サリスは死んだらしい。"親"と友人の魂を抱えたままで、だ。どういう作り話だよと笑ってやったが隣にいた白色の男に胸倉を掴まれたことで現実と知る。

「お前がアンナを壊したのか!?」
「壊したぁ? 人聞きが悪いことを言うな。俺様が『生・か・し・て』やったんだよ。ていうかテメェはあの子の何なんだよ。あ、まさかコレか? ケケッそんな怖い顔すんなよ。俺様は嬉しいんだ。あの子が人間に近付いていたってことになァ」

 その白色の男はえらく友人にそっくりな真面目そうなヒトだった。多分アンナちゃんも無意識に追いかけていたんだろうな。でも反応的にはお互い想いを伝えることはなく両片想いだったのは分かる。焼き焦がれるほど想っていたのだろう。ああなんて青い男なんだ。
 それよりも少し離れた場所からの気配が気になる。賑やかだったから近付いてきたのだろう、これは悪意を何もない獣だ。このラボが壊されては困る。その腕を振りほどき、そばに置いていた短銃を手に取る。俺様用にカスタムされた特殊なモノだ。外に向けてぶっ放す。爆音が響き渡り俺様以外の人間が耳を押さえている。

「お前!?」
「うっせぇなどけどけこの中のものが壊れされたら嫌なんだよ」

 その言葉と同時に外で見張っていたのだろう女が「魔物がこちらに向かって! きゃっ!?」という声を上げた。すかさず足に力を籠め"跳ぶ"。エルファーは目を見開き俺様を見た。

「エル、俺様はただウロウロ遺跡を荒らしてただけじゃないんだぜ? 俺様はこの施設を"護りたい"んだ」



 外にいた魔物をあっという間に片付けると白い男が俺に声をかけた。

「よしよし問題なく使えてよかったぜ」
「それは気迫か?」
「おー懐かしい。リンが付けた名前じゃないか。違うぜ、これはシハーブってんだよ。だっせぇ名で呼ぶな」

 造られた身体に施されたモノにより"再現"された技術に満足出来た。エルは大股で近付き怒鳴って来る。

「どういうことだ!? "それ"を何で使えるんだアリス!!」
「そりゃ普通の人で実験したら下手すりゃ溶けちまうだろ? 先にアラグのクローン技術を"再現"していっぱい自分の複製体を作り試してたんだ。んで、成功した"俺様"をバックアップとしてこの地に保存してたってわけだ」
「ハァ!? オマエそンな理由でクローン複製したってか!?」

 次はひょろ長い兄ちゃんが必死な顔して言ってくる。これで察した。コイツらは技術者集団のようだ。エルは中々楽しい奴らをオトモダチに持ったみたいで安心する。

「さあエル、こんな所に長居は不要。これから俺様をどうする? 今殺すか? それとも―――連れてくかい? あの飛空艇に乗せてさ」
「―――会長クン、君に託そう。彼、の元は僕のかつての友人であり、リンと共にアンナを歪ませた元凶だ。だがどんな無茶も叶えてくれる天才でもある」
「ケケッその技術はテメェも共犯者だろ?」

 会長、と呼ばれた白色の男はしばらくこちらを見つめていた。そして口を開く。

「条件がある」

 条件、それはこれからの自分たちに対して口出しをするなという。その腕っぷしで護衛しろと言いたいらしい。一種のカミサマとして置いておくということなのだろう。気に入った、快諾してやったよ。

「じゃあ次はこっちが条件を出すか。俺様が持っている記憶はリンが死んだ直後までだ。それ以降は何も知らない。この世界の歴史だけじゃない。お前たちそれぞれの人生を順番に聞かせてくれ」
「―――全員か?」
「おう。ここにいるメンバーだけじゃない。俺様が死ぬまで文字通り全員の記憶と、アンナちゃんとの思い出を聞かせてくれないか」

 こんなにもあの子に必死になるような人間が増えたことが何よりも嬉しかった。赦される気はない、ただその歴史と記憶を全て聞いてそれを形にしたいだけで。
 まあ一種の懺悔室扱いされることになったんだけどな。それもまた人生だねケケッ。

「ああ自己紹介がまだだったな。俺様はア・リス、しがない科学者の複製体さ」

 ニィと笑ってやると何故か拘束されて連れて行かれることになった。何でだよ。



 飛空艇の上から各地の様相を見せてもらったがそりゃ酷いものだった。いつだって人間は勝手な生き物だなとため息を吐く。大体の為政者は死に、大気中のエーテルも弱り今まで使っていた燃料もゴミになった。だからどの勢力も余裕がないということらしい。幸い俺様を縛っている奴らはどこにも属さない技術を握る会社だったため狂った人間があまり出なかったみたいだ。何人も死人を出しながらもなんとか飛空艇の燃料である青燐水の変換を行い、アンナちゃんが遺したモノに挟まっていた地図を辿りラボに足を踏み入れたらしい。

「アンナちゃんは俺様の最高傑作になる予定だった。"アシエン"とやらに使い潰されるより先にリンと同じく欠けちまったものを取り戻す。そのために肉体を捨てたんだが完成する前に壊れちまうとはなあ」
「これ以上アンナをモノ扱いするとここから落としてやるからな」
「ひえー会長サマはコワイコワイ。そもそもリンがやらかさなきゃ俺様はあの子に何も施さねぇって。だからアイツを恨んでくれよ」

 シドという白い男はとにかくアンナちゃんのことを問いただしてきた。自分の知らないあの子の過去が気になるのだろう、覚えてる範囲で少々教えてやった。そして逆にコイツからも聞き出してやる。子供の頃、寒空の中助けて20年後に気付かぬ内に再会、仲良くしていたらしい。

「そうか、リンが死んで俺様が消えた次の年にテメェがかつてアンナちゃんを助けて、ねえ。想定通りの仕様として動いていてよかったさ」
「想定、通り?」
「あの子の意識が途切れても体内エーテルが尽きるまでは"俺様"が身体を動かせたんだよ。尽きたら本当に死ぬんだけどな。多分その時凍死しかけてたぞ。テメェが通りかからなかったら皇帝の前に持って行かれてたかもな」
「どういうことをしたらそうなるんだ」
「俺様最後の研究。アンナちゃんの"もう一つの人格"になってやってたんだよ。そうでもしねえとリンみたいな無欲で枯れた閉じ切ったアホの再演になったんだわ。ついでに反省させようとドアホの魂の一部も持ってな。時々意識乗っ取って必要な情報を見せて教育してやることにしたんだよあの底抜けたアホと一緒にすんじゃねぇ」
「オマエがアレかよ!?」

 近くで聞いてた金髪の男ネロが乱入してくる。どうやらコイツの前では結構出て来ていたらしい。

「時々変な含みのある喋りしてンなって思ったンだ。いつもより頭も良かったしよ」
「俺の前では出て来なかったぞ?」
「いやオメガ倒した後こっちに顔出した時は明らかにメスバブーンじゃなかったぜ? ガーロンドが気付かなかっただけじゃね」
「ぐっ……そ、そういえば何度か他人事みたいな言い方したことはあったが……」
「会長サマ鈍感なんだねぇ。好きだったんなら異変位気付いてやれよ」
「悪かったな鈍感で」

 からかい甲斐がある奴らだ。ネロという男に関しては"俺様"も相当気に入ってたのだろう。しかしそんなことよりエーテルが死んだ影響か纏わりつくような大気が気持ち悪い。拠点に連れて行ってもらったら屋内くらいは快適に暮らせるように変換器でも作ってやろう。ひとまず頭の中で仕様図と計算式をいくつか思い浮かべる。マァ再びリセットされてしまった時代に役立つものかは分からない。まずはそこから勉強し直しだろう。
 ラボの中にあるモノは燃料にでもすればいいと渡してやる。すると大体の奴らが「そんなこと出来るわけないだろ!?」と目を見開いていた。こっちにとっては通過点でしかなかった盗掘物やコーデックスの翻訳が彼らには刺激的に映ったらしい。俺様が入っていた睡眠装置もそうだ。魔導技術も使わず永久機関と化している部分に興味を持っているとか。確かにエーテルも大して消費させずに動かしているから変に映ったのかもしれない。実際は自然に頼ったもので、俺様としてはあと数年したら身体は腐っていたと見た。そんな代物だが自分たちで調べて判断すればいいだろう。
 以降、定期的に彼らはラボを出入りすることになる。だが、持って帰れたものは極一部で大体は途中で事故が起こったり略奪された。まあ過去の知識としてインプットされただけでもマシだろう。書物くらい再び俺様がペンを取って書き記せばいい。装置だってほぼ役立たないからスクラップにでもすればいいじゃないか。
 そんな俺様からしたらオメガとアレキサンダーをはじめとした報告書が非常に興味深いもので。文献で何度も見かけたクリスタルタワーも実際にこの目で確認出来るとは予想だにしなかった。本当にあの時アンナちゃんを生かしておいてよかったと好奇心が喜ぶ。まあもう死んでしまったのだが。

 レヴナンツトールに降り立った後、"最高傑作"になる予定だった人間の墓の前にぼんやりと座る。違和感を感じ目を凝らして視ると奇妙なものが映った。この子は既に死んでいるはず。が、埋められているであろう棺周辺がエーテルのようなもので包み込まれているのだ。まるでその躯を護るかのように。一体誰がやらかしたのか。自分の命を削ってまでそんな仕様を作るやつがいるわけがないだろう。

「―――アシエンの仕業か?」

 1人ボソリと呟く。いや、この護る結界の主を見る限りヤツだけではないだろう。そういうことにしておく方が隣の男のためだ。俺様を拘束するロープを持ったエルは眉をひそめ「お前も視たんだな」とため息を吐いている。

「これあの会社の人間たちに言ってるのか?」
「否。というか掘り返してどうなるかも分からない要素を伝えるわけがないだろ」

 絶対に会長クンが掘りだそうとすると肩をすくめている姿を見て「あー」ということしか出来ない。

「どうして妹だけがこんな目に遭わないといけなかったんだ。僕も一緒に背負いたかった。家族なのに、何で話してくれなかったんだよ、フレイヤ」

 座り込み、顔を伏せている。俺様はその隣に座り「わかんね」とため息を吐く。

「そういう星の下に生まれた子と判断するしかねぇだろ。相変わらずネガティブで泣き虫なのは変わらなくて安心したぜ?」
「うるさい」

 鼻を啜る音が聞こえる。予想だが彼らの前では涙を流す姿は一切見せてないのだろう。戻ってこないエルが心配だったのか、ネロがやって来るまで泣き続けていた。声が聞こえた瞬間に咳ばらいをし必死に涙を拭っていたのは少々面白かった。
 ネロとエルはどうやらしばらく一緒にフリーランスの技師として旅をした仲らしい。あの嫁以外の話題では冷淡だった男が少しだけ柔らかくなった姿に驚いた。親しいながらもお互いあまり踏み込まない"良き友人"関係がかつての恋人シェリーと重ね目を細めてしまう。



―――数十年の時が経過した。

 最初に会った人間たちは徐々に老け、死にゆく中全く姿の変わらない俺様とエルは陰で"理論"確立のサポートを行った。多少の物資調達や特に失ってはいけないシドとネロの護衛が俺様たち2人の仕事である。当人たちのご希望通り、研究に必要になるであろう知識は一切提供しなかった。エルは人知れず"肉"を喰いながら彼らの営みをただ少し遠くで見守っていた。時間が経つごとに協力者も増え、既に第八霊災が起こった原因もほぼ特定されている。正直数々の分野のエキスパート達が集まり何日も議論を重ねる姿は新鮮で、見ているだけで面白かった。そして予想通りであったが、彼らが導いた結論は"第八霊災回避のためにはやはりアンナが必要だ"、と。―――なんてこんなにも求められていることに密かに涙を流す姿を何度も見ることになる。素直に礼を言えばいいじゃないか。まあ言えるような人間じゃない位長い付き合いの中で知っている。この結論をきっかけにもっと人が集まってきたという事実が、ちゃんとアンナちゃんは胸を張って"人間"として生きられていたと目に見えて確認出来、すぐに彼女の墓の前で報告してやっていた。
 一方、そんなエルを見ていた俺様は、故郷の闇という"呪縛"が未だ解かれていないことも痛感した。折角追放という名のしがらみからの解放が、霊災というクソみたいな出来事により再び闇へ堕としてしまったとため息を吐く。

「なあネロくん。もしさ、もし過去が本当に改竄出来たらエルを救ってくれないだろうか」

 我慢出来なかった俺様はつい仮眠しているネロにボソリと呟いてしまう。皴くちゃになり、すっかり年老いた彼も眠る時間が増えた。シドだってそうだ。ずっとアンナちゃんを想いながらも涙を枯らし、研究のため羽根ペンを握り続けていて。新たな隠れ家の壁はネロと議論するために文字だらけだった。自分にもこんな時があったなと苦笑する。

「エルはな、本当は泣き虫で甘えん坊なんだがその甘え方を知らないんだぜ? 滅茶苦茶リンに懐いてアイツのために僕の長い時間の一部を捧げてやるって言ってたんだ」

 思い浮かんだのはリンを差し置いてエルとラザハンで議論していた頃の話。一番の年下だったはずが落ち着き大人びていたリンのことが俺様たちは好きだったのだ。

「そんなエルが今は自分の残された時間をお前さんのために使ってるんだってよ。妹のためじゃなくてな。知らなかっただろ?」
「―――知ってたぜ」
「おいおい起きてたのかよ残念だ」
「うるさいから起きちまったンだよ」

 やれやれとゆっくりと身体を起こすネロを支えてやる。少し嫌味ったらしなのは年を取っても変わらないねえと笑ってやるとケケと笑っていた。

「あいつ隠せてると思い込ンでるみたいだが何年一緒にいンだよってな」
「だよな」
「でも触るのが怖かったンだよ。あいつ下手な機械や女より繊細じゃねェか」
「分かる」
「俺だって分かってンだ全部罪をエルに擦り付けてたってな。アンナを暴力装置呼ばわりしてたやつらと一緒なことしちまって、バケモノとして生きてやがる」

 そうか、コイツはエルが何を喰って生きているかも気が付いていたようだ。まあ追及しても理論立て優先だろとのらりくらりと避けただろうし心の中に仕舞っておくのは正解である。

「おっとそれ以降の言葉はエルに言ってくれ。俺様は何も聞いちゃいねぇから」
「いつぞやに全て話せって言った人間のセリフとは思えねェな」
「聞かせろと言ったが俺様は懺悔マシーンじゃねぇんだよ」

 数十年もの間、人々の軌跡を聞き続けた。そして1つ、"面白いモノ"を作って渡した。花を模った金属片から使い物にならなくなったシャードを加工した光るお守りまで。―――彼らの思い出にまつわる象徴を贈ってやる。それは俺様なりのお礼ってやつだ。

「それともネロくんや、やっと自分の思い出話をしてくれる気になったか?」

 そう、未だに軌跡を聞けていない存在がいる。シドとネロだ。コイツらだけは決して口を割りゃしない。
 露骨に嫌そうな顔をした後、苦笑しながら肩をすくめた男は遂に口を開いた。

「俺は、ガレマルドの貧しい田舎で生まれた。恵まれたガーロンドとは全く違う環境で育ってよ―――」



 長い話だった。腐れ縁となったシドに対する長きにわたるコンプレックスとその払拭に、エルとの出会い。アンナちゃんはメスバブーンと呼びながらも妙に騒げるいい友人だったのだという。
 こりゃ今まで聞いた奴らの中では激動な人生で面白さは上位だ。手元にあった針金を弄り、少しだけ残していた白と金の塗料を塗りウサギを模したものを渡す。目を丸くしてそれを見つめていたネロに「話の礼だ。お守りとして持っとけ」とニィと笑ってやる。

「んじゃ近い内に終の棲家を決めてけよ、ネロくん」
「いきなり何言ってンだ」
「昨晩あの紙束を見せてもらった。予言してやるよ。―――おめでとう。お前らの研究はもうすぐ纏まる。最期の安住の地と墓の場所をシドくんと決めとけ。俺様とエルが絶対作り出してやるよ」

 歴史として残らないクローンからのささやかなご褒美さと言いながらその場を去ろうとすると「待て」とネロは口を開く。

「墓の場所は決めてンだよ。俺もガーロンドもな」
「そか。……嗚呼レヴナンツトール」
「クリスタルタワーがよく見える場所でって決めてンだ。若造たちの頑張りを眺めてェよなってよ」
「―――そう言うと思ったぜ。シドくんは確定だと思ってたけどお前さんもとは思わなかったぜヘヘヘ」

 起こして悪かったな、と小さな黒い塊を引き連れ外へ出た。いつの間にか"記録"のために入り込んでいたらしい。意思疎通は取れなかったが"これ"は何がしたいかは分かっていた。人間たちは現状の報告はコイツにし、過去の話はこっちへ。それが彼らにとってどういう意味を持っていたかは知る由はない。が、少しでも心が軽くなっていれば嬉しい。こんな陰鬱な滅びへ向かう世界を切り捨てるが如く巻き込み、"在るべき未来"へ繋ぐ。―――そんな彼らが2体は好きになっていた、のだろう多分。俺様はそうだがこの機械の塊はどう考えているか分からない。だって"これ"はそれに至るための感情が存在しないのだから。きっと理解するために未だ観測を続けているのだろう。外で待っていた黄色い生物を撫で、何もない空を見上げた。



「お前とアンナが持っていた気迫について聞いておきたい」

 全うに年齢を重ね皴だらけの手が俺様の腕を掴んだ。理論は完成し、あとは今後の人間に託す準備で"彼らの役目"が終わる。少しでも故郷に近い環境であり、モードゥナ近郊に位置するクルザス。そこで小さな家を構えシドとネロは暮らしている。現役を退いた今も伝説の機工師に会うためにとやって来る客の選別が俺様の仕事だ。エルは相変わらず物資調達役となっている。

「シハーブだっつってんだろ。……想いの力って概念、信じてっか?」
「想いの力、とは?」
「目には見えない、まあ普通だったら人の手では何も加えることが出来ないものだ。例えば―――火事場の馬鹿力という言葉は聞いたことあんだろ?」
「まあな。気合で何かをするってことか?」
「そうそう。それを目に見える形にし、力として行使出来ないかと聞いたのがリン。アイツ、ハーフガレアンでな。高名な呪術士だったママがやってたエーテル操作は不得意だし、パパみたいに鎌持って妖異と契約、っつーのも出来なかった。代替となる力が欲しいから旅をしてたっつーから俺様とエルで叶えてやったんだよ。代償はキツいものだったけどな」

 その力は人の身に余りすぎるもの。だがリン、それに加えアンナちゃんは使いこなすことが出来てしまった。いや、アンナちゃんとついでに俺様に関しては使えるように手を加えたのだが。

「怒りや悲しみが籠れば赤黒くなり、"大切な人と護るべきもの"への感情が強くなるほど青白く輝く。すげー綺麗なんだよ。そんな美しい刃がシハーブ」
「大切な、人」
「テメェはアレを目の当たりにしたんだろ? アンナちゃんは何やかんやちゃんと見てくれてたんだよ。リンの言いつけで大切な人を作らないように立ち回ってただろうにな」
「―――代償は何だったんだ?」
「ちょっと力を込めるだけでドン引きするほど怪力になり、そして人の感情に対して敏感になる。"俺様"も起きてから痛感したんだが自分への感情変化で首がゾワッて来るんだわ。もう鳥肌立つくらいにだぜ? かつてリンは複数人から悪意を持って近付かれたもんだから怖くなって逃げたんだよ。それが無名の旅人って名乗り始めた理由だ」

 アンナちゃんの行動も妙な時はあっただろ? と聞くと「確かに」とボソリと呟いた。

「あいつは一定の距離感以内に入ると首を押さえながら離れたりしていた」
「そのセンサーをかいくぐってテメェは懐に潜り込むことは出来たんだろ? いくら昔助けてくれた人だったとしても長い間相手になってたのはいい所まで行ってたな」
「―――初めて怖がらずに手を差し伸べられた相手だと、書かれていた」

 シドは机に置いていた分厚い本を手渡してくる。これは、意地でもこっちに見せなかった"アンナちゃんの手記"だ。

「まずその本はネロ、開くための鍵は俺が持っていた。"自分が死んだら開けろ"って、まるで自分が死ぬことが分かっていたかのように俺たち2人に託していたんだ」
「お前さんもやっと話してくれる気になったんだな」
「自分のことを話すというのは、恥ずかしくてな。忘れてしまう前に聞いて欲しい。俺は伝説の機工師なんかじゃない、ただの愚かな人間だ」

 本を開き、彼の話に耳を傾けた。素直で不器用な、恵まれていたが波乱万丈な人生を送った男のまっすぐな想いが込められたアンナちゃんとの思い出を聞く。



「俺様はお前が羨ましいや」
「何故、そう言える」

 嗚呼面白い話だったよチクショウ。聞いてるこっちが恥ずかしい程のロマンチストだとは思ってもみなかった。そしてこの本はアンナちゃんが生まれてから死ぬ少し前までの決して表に出さなかった感情が書かれた手記で。本当にこの子らはお互い惚れ込んでいながらも、感情よりも先に肉体関係を持って誰よりも幸せになって欲しいと勝手に願う大莫迦者達だった。下手したらリンよりも愚者だと俺様は思ったね。すれ違いの悲恋を聞いて涙が出そうだよ。そのご褒美はモノではなくお話をプレゼントしてやる。

「俺様が生きていた時代はな。今のような技術はロストテクノロジー―――要するに都市伝説で。だから評価してくれるやつなんて存在しなかった」

 ある遺跡で見つけた知識を利用し、モノを造り発表してもただの狂人扱いされ、ぐちゃぐちゃな自暴自棄になっていた頃。そんな時、後に恋人となるシェリーに出会う。

「シェリーはな、ニームの軍学を少しでも人に知ってもらうべく研究を行う学者だった。当時俺様もニーム文明が気になってたから色々調べ回ってた時でな。こりゃまたおもしれー女だったよ」

 これまでの自分の成果を見せると明るい表情を見せてくれた。小さな体に似合わぬ大きな希望と夢を引っ提げてたんだよな。そして俺とあの子は知識を共有し合い、更に研究に火が灯される。

「それまでの人生で俺様を評価してれたのがアイツだけだった。あの時は幸せだった。だがそんな日々は長くは続かない。遺跡の崩落事故で俺様を庇って瓦礫の下敷きさ」

 それからまた真っ暗な日々に逆戻り。腹いせに各地の遺跡を荒らし、重要そうなデータは全部いただいてやった。と、ゲラゲラ笑ってやると眉間に皴を寄せたシドが口を開く。

「そのせいでどれだけ数々の分野に迷惑をかけたと思っているんだ」
「知らねえよ。大体の人間が興味ないモンどう使ったってこっちの勝手だ。……それからシェリーの蘇生技術探すついでにある国の遺跡荒らしてやろって思ってな。壁剥がそうとしたところでエルと鉢合わせ。あっという間に拘束されてごめんなさいさせられた。その縁で興味深い技術の話を聞かせてもらう途中、リンがふらりと現れた」

 偶然の巡り合わせが今奇妙な縁に繋がるのが人生の面白い所だよなと笑ってやる。

「コイツらは莫迦だった。俺様が持っていた装置一つ取っても全部すげーって言うんだぜ? そりゃ調子にも乗る。学者たちもアレを作ってくれこれを直してくれってうるせぇ。とりあえずどんどん形にしてやったさ。装置の再調整とか、材料の保管場所に設置してる空調管理とかさ。初めて脳みそに詰まっていた知識をフル稼働させて。いつの間にかシェリーのことなんてどうでもよくなってた」
「―――それがレフたちとの出会いだったのか」
「そーだ。超天才な俺様と縁を持つことが出来た運のいい奴らのお話ってやつ。……で、だ。俺様とお前の違いだったな」

 分かるだろ? と聞いてやると軽く首を傾げている。恵まれた人間には難しすぎたみたいだ、苦笑して見せた。

「テメェにはネロっていう天才が並んで立っていた。競い合って洗練させていくという行為は技術の進歩に必要なものだ。そして沢山の部下に恵まれ色んな国からの信頼からの資金提供有りだろ? 俺様になかったものばっかで羨ましいったらありゃしない」

 俺様は既にあったものを組み合わせただけで何もすごくない。だからシドとネロの環境が羨ましく感じた。まあ資金に関しては性格が災いしていたのは自覚している。

「ナァ、本当に過去が改竄出来たらさ、アンナちゃんを救ってくれないか?」
「それはお前さんの最高傑作として完成させてくれってことか?」
「うーんそれもある。まあ罪悪感はあるんだよ多少はさ。そしてエルもきっと楽になると思う」

 この技術はエルもノリノリで作ったんだ。それもあって今もなお罪悪感真っ只中なんだよと言ってやるとシドは驚いた顔を見せる。

「リンだってアンナちゃんを追い詰めたかったわけじゃない。ただの事故からああなった。俺様ら3人は一生苦しみながら死ぬことになってるからさ。せめてアンナちゃ……じゃなかったお嬢だけでも助けてあげて欲しい」
「―――何度だって絶対にアンナを助けるし好きになるさ。レフだって何とかしてやるし、どうせ起床するだろうア・リスお前もだぞ。流石にリンドウは死んでるからどうにも出来んが。……ありがとな」
「何で感謝されなきゃいけねぇんだ」
「だってお前さんだって今まで俺たちに自分の話をしなかっただろ? 仲間として認めてもらえて嬉しいんだ」

 うわあこの人タラシという言葉を飲み込みニィと笑ってやる。

「テメェがいい話をしてくれたからご褒美としてあげただけだ。勘違いすんなよ? お嬢が最高傑作として完成したら、この複製体の俺様はもっと自由に走り回る予定だったんだよ。ケケッ」
「第八霊災を防げたら次はお前さんが暗躍しだすと? 冗談はやめてくれ。別の世界の俺が絶対捕まえてレフの前に突き出してやる」

 シドはため息を吐き「喋りすぎた」と寝そべった。俺様は「おうすまん」と笑いながらその布団をかけ直してやる。アンナちゃんの手記を再びテーブルに置き、またいつの間にか現れていたオメガの模型を抱き上げ立ち去った。



―――それから2人の"シド"によって自分らが作り出した"理論"を2代目ガーロンド・アイアンワークス社会長らに"継承"し、その生涯を終えた。これから確立されるかは彼ら次第。協力してやろうか、とイタズラな笑みを見せてやるとシドと同じく「命尽きるまで見守っていて欲しい」と言われた。そういう所が俺様は気に入っていたからよかったぜ。もう表舞台に立てるような存在じゃないからな。
 彼らの墓は勿論クリスタルタワーがよく見えるレヴナンツトールの近郊に作られた。あのエオルゼアの英雄と呼ばれた女の隣だ。これからの人間たちの旅路を、仲良く見守っていればいい。"アイツ"もついでにとまとめて護ってくれるさ。絶対に気に入ってるだろう。
 俺様はどうするかだって? ―――複製体にだって寿命はある。延命させる技術は流石にエーテルが弱り切った現在、1人で成しえることは不可能だった。

「エル、すまねぇな。お前の死に目まで一緒にいられなくて」
「君の元になった存在は既に人生を閉じてるだろ」
「ケケッそうだったな」
「本当はあの墓を護ってたヤツの件も僕のために隠してたんだろ? 分かってんだよ」

 エルは動かなくなってきた俺様の身体を抱き上げ、とある底の見えない崖の上に立っている。嗚呼コイツを1人にしてしまうのかと思うと憐れみしか湧かない。

「お前の左目、治したかったな」
「……気持ちだけで嬉しい」

 エルの目は、昔故郷に安置されていた"聖石"に触れてしまったことで変容してしまっていた。"視えてはいけないもの"まで映り、その副作用で頭痛が発生し続ける一種の不治の病。それを何とかするのも元の俺様が複製体を作ってまで探ろうと決心した動機の一つである。第八霊災で全ての予定が崩れ、結局何も出来ず時間だけ過ぎてしまった。それを放置して、この世を去ることが一番の心残りである。もしも、もしもだ。本当に歴史を改竄出来るのなら、俺様は―――。いやそれを言うのは野暮だろう。心の奥にしまっておく。ふとエルはボソリと呟いた。

「アリス、複製体のお前も死んだら冥府に行けるのか?」
「知るか。……今も頑張ってるリンの代わりに行ってやってもいいかもしれんな。―――精々死ぬまで奴らを見守ってやってくれ。達者でな、エルファー・レフ・ジルダ(可愛い血の繋がらない弟)
「元からそういうつもりだ……おやすみ、ア・リス・ティア(バカ兄貴)
「ケケッ。こんな俺様のために泣くな莫迦」

 それからエルは俺様を投げ捨てた。嗚呼、嗚咽を漏らし涙が溢れだしているのが見える。薄れゆく意識の中、彼らの理論が確立されてもこの世界が回り続けるよう祈りながら。造られた俺様の、その生涯を終えた。


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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

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注意・補足漆黒.3後付き合ってからの星芒祭話導入。蒼天星芒祭編の数年後。シド少年…

漆黒

#シド光♀ #季節イベント

漆黒

星降る夜に誓いを乗せて~導入~
注意・補足
漆黒.3後付き合ってからの星芒祭話導入。蒼天星芒祭編の数年後。シド少年時代捏造。
あくまでも導入編なので後日フルバージョンがアップされます。
 
「アンナ、そういやもうすぐ星芒祭が来るな」
「そうだね」

 料理から目を離さず、シドの言葉にアンナは相槌を打った。
 風が冷たくなり始めた頃、所謂恋人関係になってから初めての冬。久々にトップマストの一室にて休日を過ごしていた。シドは壁に掛けられたカレンダーを見上げ、冒頭の言葉をつぶやく。

「何か欲しいものとかあるか?」
「いきなりどうしたのそんなこと言って」

 苦笑しながら鍋を見つめている。シドは「決まってるだろ」と言葉を続ける。

「折角こうやって隣にいられる関係になれたんだ。何か渡そうと思ってな。またプレゼント交換というのも悪くないが、素直に欲しいものを聞いた方がいいだろ? いらんと思われるものを渡したくないんだ」
「んー……私はシドなら何をくれても嬉しいけど?」

 アンナは手を止め、シドの方へ振り向いた。いやそうじゃなくてな、とジトリとした目で見る。するとシドが予想もしていなかった言葉が返って来る。

「キミの休日」

 目を丸くし、それはどういうと問う。アンナは「そんなに難しいこと言った?」と首を傾げた。

「だって私たち基本的に作戦中しかまあまあな時間一緒にいないじゃない。時々はさ、誰の邪魔なく纏まった休日を一緒に過ごすというのも悪くない提案でしょ? モノと言ったら違うかもしれないけどさ」
「む、そう言われたら有りかもしれん。……流石に星芒祭のシーズンは色々忙しい。まとまった休みは取れないからだいぶ前倒しになるぞ?」
「私は大丈夫」

 次第に顔が高揚していくシドの姿を見てアンナはニコリと笑い、再び鍋の中へと視線を戻す。
 今日はいい肉を手に入れたのでビーフシチューを煮込んでいる。アンナはシチューの類が好きだ。特にシドと食べるという行為が格別なのだが、本人が知ると調子に乗るのが分かっているので教えていない。

「で、シドは何が欲しい? 私だけ聞いておいて自分は教えないなんてないよね?」
「考えてはいたんだがアンナの言葉で吹っ飛んじまった。ちょっと待っててくれ」

 シドが考え込んでいる姿を見てアンナは苦笑した。鍋の蓋を閉じ、エプロンを脱ぎながら傍へと歩み寄る。
 ふと何かを思いついたのか手をポンと叩いた。アンナは少しだけ嫌な予感がよぎる。その仕草は碌なことにならないことしか考えていない時のやつだ。実際首元がざわついて来る。これは、ダメなヤツだとアンナは一歩後ずさった。

「髪をあ」
「やだ」

 即答。シドはそれでもめげずに言葉を続ける。

「赤」
「絶対やだ」
「どうしてきちんと人の話を聞かず断るんだ」
「碌なことにならない提案が聞こえたからだけど?」

 アンナは食い気味に断りながら威嚇している。それに対しシドも眉間に皴を寄せながら対抗する。

「いやそんなことはない。ほらちゃんと全文聞いてから判断しても遅くないだろ。頼むからちゃんと喋らせてくれ」
「うぐ……じゃあ分かったよ聞くだけ聞いてあげるよ言ってごらん」

 真剣な目。アンナはそれに一番弱い。肩を落とし、嫌々許可を与えるとシドは明るい顔をして言い放った。

「髪を赤く染めて来てくれないか?」
「ぜーったいにお断り!」

 ほらまともな要求じゃない、アンナは盛大にため息を吐いた。



 赤髪。それは出会いまで遡る。寒空の夜、白色の少年は性別不詳の凍死しかけていた赤髪のヴィエラを見つけ、助けた。温かいシチューを手渡し、少しだけ熱が灯ったヴィエラは旅人だと名乗る。そして、少年の話を聞いた後、"次はキミがボクを捕まえてごらん。キミの夢である空へ運ぶ船を造る全てを護ってあげるから"と約束し去る。その白色の少年こそがシドであり、赤髪のヴィエラこそがアンナだった。
 以前の星芒祭で「会いたい人がいる」と溢したシドの想いを汲み、グリダニアで一晩の奇跡を起こしたように見せた。きっと不意にそれを思い出したのだろう。

 アンナは腕組みをしながらシドを睨むと、凄く寂しそうな顔をしていた。徐々にしょぼくれていく顔に肩を落とし、まるで雨に打たれて尾を垂れた野良犬のように哀愁が漂っている。アンナは言葉を詰まらせ、「ああ分かった! 理由要求!」と投げやりに言ってやるとシドは満面な笑顔を見せた。

「前の星芒祭では見せてくれたじゃないか。俺はあの時確かに"会いたい人がいる"と言ったが、行き倒れていた旅人のこととは一言も言わんかったぞ?」
「うぐ」
「街全体で俺を騙して気合入れてくれたじゃないか」
「いやあの件は本当に悪かったって」
「もう一度見たい。ダメか?」

 その言葉にアンナは必死に目を逸らす。

「ちゃんと最高なプレゼントの準備してくる」

 シドは優しく手を取り、何も言わずアンナを見る。そしてしばらく沈黙が流れた。
 その沈黙に耐え切れず、アンナは遂に口を開く。

「あーもー! いつにするか決まり次第予定を教えて! あと期待しないで!」

 シドは楽しみだ、そう言いながら頭の中でアンナを驚かせるための策を練り始めた。
 それに対しアンナは過去の自分の行いを呪う。どうしてこうなった、片手で顔を覆った。


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#シド光♀ #季節イベント

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補足新生メインクエスト"魔導兵器のみる夢"後のシド光♀。まだ…

新生

#シド光♀ #即興SS

新生

旅人は魔導兵器を識りたい
補足
新生メインクエスト"魔導兵器のみる夢"後のシド光♀。まだ何も意識し合ってない頃。
 
 ミンフィリア救出作戦の一環で魔導アーマーを鹵獲した。修理・整備を終わらせ、試運転中に異変に気付いたのか帝国兵が飛んで来る。まあ冒険者と一緒に即蹴散らし、その後無事起動することを確認できた。
 最終調整を行うためビッグスとウェッジが魔導アーマーを整備用拠点へと連れて行く所を見送る。そして、いつの間にか隣からいなくなっていた冒険者である黒髪のヴィエラを探すため、周りを見回した。見つけた。先程まで戦闘していた場所で座り込んでいる。

「アンナ、何をやってるんだ?」
「研究」

 魔導兵器をじっと睨みながらノートを取り出す。首を傾げながら覗き込むと、細かな文字と魔導アーマーのスケッチが描かれていた。今は先程破壊した重装型について書き留めている。文字は異国の言語でよく分からない。何処の言葉なのかと聞くと「ひんがしの方の」とだけ溢した。

「かつて私に戦闘を教えてくれた人が昔いたんだけど。この魔導アーマーたちに関しては何も教えてくれなかったの。仕方ないのは分かってるけどね」
「それで、研究と?」

 機体に触れ、中を覗き、何かを記していく。俺は隣に座りそれを眺めた。アンナは苦笑しながらこちらを見ている。

「先に戻ってもいいんだよ。これは私個人がやりたいこと」
「まあいいじゃないか。それに俺はこう見えてこいつらを設計する側に立つ予定だったんだ。目視だけじゃ分からんことやら色々教えてやってもいいぜ」
「―――じゃあ質問なんだけど」

 最初に聞かれたのは"コアの位置"。次に"無人兵器の場合、どこを殴れば信号を打ち止められるのか"。"砲塔に使われた金属の強度"、"センサーの位置"、"ビーム装填中に砲塔詰まらせたら暴発してどの位の範囲影響あるのか"―――確実に破壊するための手順を聞いて来る。実際のスクラップを指さしながら分かる範囲のものは教えた。

「勉強熱心なんだな」
「戦う上で苦手なものが存在すると致命的なミスに繋がることがあるからね。んーやっぱり本職の人に聞くのが一番楽しいかも」
「お前さえよかったら工房にいくつか設計図が持ち込まれてたはずだ。読んでみないか?」
「いいの? こんな怪しい旅人にポンポン大切なモノ見せちゃだめだよ」

 横から頬を抓り引っ張ってやる。

「俺たちは同じ敵を持った仲間じゃないか。打倒帝国とかいう少しでも大きすぎる目標を持ってんだ。達成する確率を上げるために賭けをするのも悪くないだろ?」
「ホー。そういうものなのかしら?」
「それに真剣な顔して色々聞くお前を見てると何か楽しくなってきてな。よかったら一緒に考えてみないか? 俺も何かいい対策が浮かぶかもしれん」

 アンナは目を見開きこちらを一瞬見たと思ったら即後ろを向く。名前を呼ぶと少しだけ肩が跳ね、ポソリと呟いた。

「―――レヴナンツトールに戻りましょ。いっぱい聞くから覚悟して」
「! ああ。対策会議をしよう」

 その言葉にアンナは振り向き立ち上がる。そしていつもの笑顔でこちらに手を差し伸べた。俺はその手を取りニィと笑う。引っ張り上げられ、そのまま前へとエスコートされた。

 まあこの時の俺はアンナが一瞬そっぽを向いた理由に気付けなかった。そう、あいつは思考が一瞬フリーズし、感情を処理できず真顔になっていたのだ。悟られないようそっぽを向いたと色々見てきた今なら判断できる。すぐに察せていれば、もっと違う道程を辿れたかもしれないと思うと悔しい所があった。



 その後。隠れ工房にて俺たち2人で魔導兵器について語り合う。基本的にアンナは相槌を打ち、気になった部分を質問していただけだった。が、時々顔を見ると真剣な顔で目の前の魔導アーマーと睨み合っていた。その顔が兎に角良いもので見惚れてしまう。―――まあ視線にすぐに気付き、いつもの笑顔で首を傾げながらこちらの顔を見た。そうやって気が付いたら一晩徹夜していたらしい。いつの間にか邪魔しないように外に出ていたビックスとウェッジが戻り、少しだけ呆れたような顔をしてこちらを見ていた。


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#シド光♀ #即興SS

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補足Lv39メインクエスト前後のお話。  「アルフィノ、大丈夫?」「あ…

新生

#即興SS

新生

"召し上がれ"
補足
Lv39メインクエスト前後のお話。
 
「アルフィノ、大丈夫?」
「あ、ああサリスか。大した事はないよ」

 白い息を吐きながら少年ははにかんだ。



 クルザス、ホワイトブリム前哨地。ボクたちは今、シド・ガーロンドが造ったと言われる"エンタープライズ"を探す手がかりがこの地にあるという情報を掴み、やって来た。余所者お断りの気候と同じく冷たい人間たちの扱いに困りながら、人助けをしている。まあその人助けも異端審問官が邪魔をして大して実ってないわけだが。
 記憶を失った男シドも自分が出来ることを探し、装置を修理している。しかし、ザナラーンで潜んでいたボクたちを見つけ出しここまで連れてきた少年アルフィノは地道な活動が苦手らしい。外で何やら考えことをしていた。

 見ていると非常に寒そうである。特に腹を冷やしそうでボクはそわそわしていた。見かねてつい旅用のマントを羽織らせる。

「いいのかい?」
「まあ少しは慣れてるからね。それにしても―――シドの方が寒そうなのに。無茶しちゃだめだよ?」
「確かにシドは見てるこっちが寒くなるがね……」

 薄い布のように見える半袖。アルフィノの言う通りとても寒いと思われる格好だ。本人はどうも思ってなさそうだが。

「ガレマール帝国はとても寒い土地にある国だしね。これ位誤差なんでしょ」
「ふふっそうかもしれないね」
「お前たち何を話してると思ったら……」

 いつの間にか苦笑しながらシドが立っていた。ボクとアルフィノは笑顔を見せる。

「ほらアルフィノ、噂をすれば寒そうな人だよ」
「サリスからマントを預かってるが―――もしかしたらこれは君が羽織ってる方がいいかもしれないね」
「お、俺は大丈夫だ。アルフィノ、風邪を引いたら大変だ。それで温まるといい」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」

 苦笑する彼らを見て、ボクは少し考える。そしてふと過去の記憶が浮かび上がった。

『温かい―――』

 食材は、ある。調理道具もある。じゃあちょっと火を借りたら行けそうか。

「アルフィノ、ちょっと待っててね」

 彼らの言葉を聞く前に砦へ走り去る。頑張って再現出来るようになったモノを、差し上げよう。



「サリス。これは……いいのかい?」
「ちゃんと食べないと身体が冷えていつまでも温まらないよ」

 思い付いた時は煮込む工程を忘れていた。おかげさまで思ったより完成まで時間がかかってしまった。マントにくるまったアルフィノは目を丸くし、ボクが手渡したカップを両手で持っている。年相応って感じで可愛いね。
 湯気が立ち、肉と切った野菜が白くとろみのある汁の中に沈んでいる。これがなかなか当時作ろうとしたけど難しくて苦戦したっけ。理由は簡単。どうしてもあの夜に食べた味にならなかったから。いや味自体は作れるようになった。温かく、自分の身体の芯に火が灯されたあの感覚を得ることが出来ない。

「これは―――シチューか?」
「うん。シドも食べる?」
「丁度腹が減ってきてた。貰えるか?」
「そう」

 シドにも渡し、ボクはニコニコと2人が食べている所を見守る。

「美味しい。サリス、とっても美味しいよ」
「ああ。お前はどんな料理も出来るんだな」
「ふふっ。長く旅をしていたらね、料理の1つや2つ出来るようになるよ」

 満面の笑顔。よかった。もし美味しくないと言われたらどうしようかと。

「ああ。それに、どこか懐かしい味がするんだ」

 シドはカップの中身をじっと見つめ、目を細めた。―――まあそうでしょうね。

「あなたがガレマール帝国出身の方なら、そうかもしれないわね」

 じゃあ片付けするから、と踵を返し歩を進める。「どういうことだ、サリス」という声が聞こえたが何も言わず手を振った。

 嗚呼。別に、どんな顔されてるか見たくないからじゃないよ。いつまでもボクの鍋を置きっぱなしにしてるのは失礼だなって思っただけなんだから。
―――シドが記憶を取り戻したら、飛空艇を夢見た真っ白な機工師がいなかったか聞いてみようかな。意味はないけど。



 あの時ボクを助けた白色の少年。今どこで、何をしているのかな。ボクを探す飛空艇は作れたのだろうか。いや、キミの故郷は今こうやって急激に勢力を広げてる。だから、恐ろしい兵器を造ってるのかもしれない。
 もしかしたら、敵として会ってしまうかも。ちょっとだけ怖いな。だから、なるべく出会わないことを祈ってるよ。
 ボクは旅人。それ以上でもそれ以下でもない。誰のモノにもならないし、誰かを愛することもない。
 忘れてくれてたら、嬉しいな。


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#即興SS

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注意・補足 紅蓮レイド後、旅人は密会する数日前の独り言。   オメガの…

紅蓮

#シド光♀

紅蓮

溶けあうもの
注意・補足
 紅蓮レイド後、旅人は密会する数日前の独り言。
 
 オメガの一件が終わり、一段落ついた頃。ボクはある疑問の解を探すため、考えを張り巡らせていた。

―――あのボクの体が温かくなる現象。理解不能。今までどんな手を使っても、死人のように冷たいままだったのに。あの白色の男と体を重ね、初めて熱を帯びたのだ。

 温泉旅行と称し、クガネで休息した日。まず数時間湯船に浸かったがやはり冷たいまま。火に直接手を当てても体の芯から熱を帯びる感覚は味わえなかった。本当に初めてで、正直言って少し怖い。

「ボクの体はどうしてしまったの?」

 胸を手を置いて考えてみても、浮かばない。そんな特殊な事例、誰も答えは分からないだろう。
 いや待て。誰もが持っている、生者を形成するために必須の要素。そういえばあの後石の家に立ち寄った際、ヤ・シュトラがボクに「おめでとう」と言ってきたじゃないか。彼女が何を視てボクにそんなことを言ってきたのか、ちゃんと分かっている。

「そうか、エーテル」

 混じり合ったエーテルを視たのだ。自分の心の中に仕舞ってと思うが―――まあ珍しいものを視たから言ってきたのだろう。そりゃそうか。
 ふと右腕にある傷に指を這わせる。ボクの二の腕には硬い何かが埋め込まれ、傷口は縫合されていた。そう、この部分はエーテル操作を行う際、ほんのりと熱を帯びる。全身でその現象が起こっている可能性も0ではない。

 当初の疑問は解決。さあ次浮かんだ謎。これ、シド相手以外でも起こるのかな。

「いやない。絶対ヤらない」

 自分の頬を叩く。何故自分からそんなことをしなければいけないんだ。そんなことヤるならまだシドと二度目の行為をする方がマシ。脳から候補を取り除く。

「いや二度目もないが!?」

 あの夜からボクの考えがおかしい。まるでボクがあの男を意識してるみたいじゃないか!
 違う。ありえない。どういう感情を持ってるか勝手にすればいいが―――ボクは無名の旅人だ。誰にも感情なんて抱かない。

「ボクは! ぜーったい! 誰も! 好きにならない!!」

 拳を正面の岩に当て、パワーを溜め込み息を吸った後放出、そして粉砕する。今日も鮮やかな岩砕きだ。

「バレないようにしないと。調子に乗られてしまう」

 結論とは言ったものの確定させるための物的証拠はない。そしてこんな妙な体質を人に悟られるのが一番嫌だ。特にシドはダメ。真っ直ぐな目をして考察、実験、検証と称して―――もうどうなるか想像したくない絶対酷い目に遭う! よし、今回の件は心の中に仕舞い込み、とりあえずドマの一件を解決しよう。話はそれからだ。

―――数日後。ボクはシドからのリンクパール通信をきっかけに"また"やらかすことになる。
 二度目はないと、決心したのに。ボクはなんて莫迦なヴィエラなんだ! しかもあの男が持ってしまった感情は一時的な勘違いじゃないという裏付けを得てしまう。頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。

 1年後、ボクは旅に出ることできるのかな。もう何もかも、理解不能。どうすればいいんだ、助けて、フウガ。


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#シド光♀

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補足蒼天以降のまだお互い感情を自覚してない頃のシド光♀。エオルゼアにポッキーが存…

蒼天

#シド光♀ #即興SS

蒼天

"11月11日"
補足
蒼天以降のまだお互い感情を自覚してない頃のシド光♀。エオルゼアにポッキーが存在する概念です。
 
「シド」
「アンナか。どうした?」

 ガーロンド・アイアンワークス社。シドは休憩にと伸びをしていると後ろから旅人のヴィエラアンナに話しかけられる。
 人助けが趣味のお人好し。いつも助けてもらっているし、手伝ってほしいと言われたら全てを放り出し飛んで行った。クールでミステリアスな雰囲気で、何を考えているのか分からないそんな女性だったが最近分かったことがある。
 ―――その顔は完全に仮面であり、本来の彼女はイタズラが好きな人間だった。何かあるごとに色々な手段で驚かされ、心臓が何個あっても足りない。だが無かったら無かったで物足りない。
 きっかけは星芒祭でのプレゼント交換。以降、どこか距離感が変わった気がする。やっと少しだけ心を開いてくれたのかとシドは肩をすくめていた。

「見て。ポッキー」
「そうだな。既製品を持って来るなんて珍しいじゃないか」

 差し出されたのは長細いチョコレート菓子。その内の1本をそのまま貰う。

「さっき街で"ぽっきぃげぇむ"というものを聞いた。知ってる?」
「聞いたことないな。というか何だそのイントネーションは」
「ふふっ予想通り。あなた流行に疎いもんね」
「なっ。失礼だな。……そ、それ位知ってるぞ」

 シドはジトリとした目でアンナを睨むとニコリと笑顔を浮かべた。

「どんなの?」
「先に折れたら負けだろ」
「うーん合ってるか違うか微妙なライン」
「じゃあそれで正解じゃないか。ほらもう1本出せ」
「うんうん違ったね。それじゃほら口に咥えて」

 チョコレートの部分を口に向け「ほら」と含まされる。首を傾げているとスナック側からアンナはカリカリと食べ始めた。逃がさないかのように、後頭部を押さえつけられる。

「っ!?」
「折った方が負け」

 シドの顔は瞬時に赤くなるがアンナはいつもの笑顔を浮かべ少しずつ食べていく。このままでは唇に触れてしまう、そうか所謂カップル層向けのゲームだったのかと脳内で慌てていた。そしてもう数イルムで触れてしまう直前で、ポキリと折れた。

「ナイスイタズラ」

 アンナは額をゴーグルにこつりと当てた後、耳元で囁いた。

「アンナ、おま、お前、お前!?」
「残りのポッキーあげるから。じゃ」

 踵を返し、走り去って行く。その場には耳まで真っ赤に高揚しきったシドのみが残される。手で顔を覆い、ため息を吐いた。



 次の日。アンナはレヴナンツトールにて食材調達のため歩き回っていた。そこに「アンナ!」と聞き覚えのある声が呼び止める。

「シド」
「よかったまだレヴナンツトールにいたんだな」
「旅の準備」

 いつものように小走りでやって来た白色の男にアンナはニコリと笑顔を見せた。

「何かあった?」
「いや昨日の礼を言いたいなと」
「礼? 何かあったっけ?」

 シドも同じように笑顔を浮かべる。

「いや昨日ポッキー置いてっただろ。まあ全部仕事の合間に食べた。ありがとな」
「なんだそんなこと。別に気にもしてないよ」
「一粒で二度おいしいというのはそういうことを言うんだなと学びもあったからな。旅は程々にしてまたこっちの手助け頼むぞ」
「? うん。何か手伝ってほしいことあるなら引き受けるよ」
「じゃあな」

 そのまま走り去って行く。アンナは何が起こったか分からず首を傾げていた―――。


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#シド光♀ #即興SS

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注意・補足セイブ・ザ・クイーン途中。"嫉妬"であったシドがネ…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

"嫉妬"、その裏で
注意・補足
セイブ・ザ・クイーン途中。"嫉妬"であったシドがネロにリンクパールで悩みを明かした直後の話。
 
 静かにため息を吐き、片隅で1人座りうずくまる。震えが止まらず、心がカラカラに乾いている。ふとリンクパールが鳴り響き、慎重に出るとあの飄々とした明るい声だった。

『よおメスバブーン、機嫌はどうだ?』
「最悪、かも」

 今自分の心の中を大きく占める男の友人の声だ。思い当たる用事も無いのにかけてくるのは珍しい。否、もしかしたら"アラグの悪魔"の噂でも聞いたかもしれない。

「アラグの悪魔はまだ調査中」
『なンだそれ』
「あ、こっちの話。知らないならそれでいい。用が無いなら、切る」
『用があるかは俺が決めンだよ。お前、槍持ってるらしいじゃねェか。どういう風の吹き回しだ?』

 目を見開き、少しだけ黙り込む。すると自分の中の"内なる存在"が『代われ』と声を掛けて来た。仕方がないので"切り替え"てやる。

「それについては"ボク"が説明する」
『その言い回しは……あっちか。何してンだ?』
「シドから聞いたね? いやあちょっとシドのせいで"この子"の機嫌が悪いからストレス解消させてるんだ」
『ハァタレコミ通りかよ。どうした、泣きの連絡が来て困ってンだよ』
「うん少々拗ねてたね。まあ過去がバレることを承知に暴れ回ってるのは本当に反省してるさ。でもこれに関してはシド悪くないから気にするなとしか」
『あいつのせいなのに悪くねェって何だそりゃ』

 ネロの少々困惑した声にニィと笑ってしまう。

「『自分、ミコトさんとボスはお似合いだと思うッス』『あの朴念仁の旦那、あれで結構、モテると思うゼ。早くしないと誰かに獲られちゃうかもな?』」
『ア?』
「シドが一度会社に戻るってなった直後"ボク"の前で起こった会話。ミコトっていうシャーレアン方面の研究職の子がまあ淡い事言っててねぇ。それに関して周りの評価」
『あー……ガーロンドが悪いが、本人は気にしなくていいってそういうことかよ。確かにいない間に機嫌悪くなってるのも間違ってねェな』
「その時は笑顔で見守ってたけど後から内心イラッとね。目の前のスクラップが砂のように砕けて正直面白―――じゃなかった。あんま戦場で精神的に乱されると下手すりゃ死んじまう。そりゃぁ困るってことでね。今回の敵は帝国兵純度100%だからまあ色々アドバイスしてあげたのさ」
『はー成程ただの惚気をこのド深夜にブチ込ンだってわけだなあのバカ』
「そうなるね。いやあゴメンゴメン」

 盛大な溜息が聞こえる。自分からかけてきたくせにどういう態度だと思うが置いておく。

「"この子"的には今までなかった感情さ。それに困惑してるのも事実。まあまだ決着ついてなかった感情に整理つけるきっかけになるだろうし放っておいたらいい」
『マァ本人が言うならもう触れねェが。つかまだウジウジ考えてンだな』
「そゆこと。というわけでまたちぎっては投げて来るね。いつまでもシドを寂しがらせるのも悪いし」
『ハァ』
「じゃあキミにも迷惑かけたし帝国が発掘したらしい"アラグの悪魔"の情報集まったらあげるね。"兄さんにもよろしく"」

 返事を待つ前に通信を切る。自らの中で眠ってしまった"アンナ"にクスリと笑みをこぼし槍を握りしめた。

「ヒヒッ」

 瞬時に跳躍し、宵闇の中に消えていく。
 "内なる存在"はこれまで自らが何者か、分からなかった。気が付いたらもう1人の"アンナ・サリス"として生きている。しかしこれまでの冒険、そして"アラグの悪魔"の噂でどこか熱が宿った。もしかしたら、"それ"を見たら自分へのヒントが見つかるかもしれない。"彼女"の心が滾るに決まっていた。



「エル、マジで信じらンねェなバブーン2匹。脳までゴリラかよ」
「おうおう僕の妹は除外しといてくれないかな?」
「メスの方のバブーンは筆頭だろうが」

 通信を一方的に切られ、ため息を吐く。深夜にシドからの通信に起こされ、好奇心のままアンナに通信を繋いだらただの惚気話だったことに落胆した。もっと面白いものかと思ったのにナァと肩を落とすと隣にいたエルファーは苦笑していた。傍に置いてあったリンクパール通信の内容を傍受するスピーカーの電源を切りながら目を細める。

「そうかい。……で、我が妹が嫉妬してたってことだな?」
「おう。その笑いながら怒るのやめねェか?」

 エルファーの顔は一見ヘタクソな笑顔なのだが口元は歪み、目はギラギラと輝いている。引きつった笑みで落ち着かせようと窘める。

「ほらアレだ。まず新入りに関しては明日ジェシーにでも報告すっか。これに関しちゃそれで勝手に話進むんじゃね。吊るそうとすンな」
「瞬時に社内で拡散される未来が見えてまた僕の肩身が狭くなる」
「今更だろ」
「うっせ」

 ネロの頬を抓ると再び書物に視線を戻してる。その様子にため息を吐きながら没収し、ブックマーカーを挟み投げ捨ててやる。

「コラ」
「寝ンぞ」
「あと1刻」
「アホ」

 1刻経過する、つまり睡眠を取る気はなく朝まで読書するつもりらしい。腕を引っ張り寝台に転がしてメガネを外す。諦めたのか丸まってしまった。

「いじけンなよガキか」
「ママが僕を虐めて来たんでな」
「だーれがママだお前の方が3倍は年上じゃねェか。ほら狭ェから寄れよ」

 無言で寝返りを打って隅に寄って行く。妙な所は素直な生き物だと思いながら横たわり、ランプを消す。
 暗闇の中、モゾモゾと物音が聞こえた。



 次の日。一連の出来事を半笑いでジェシーに伝えてやる。
 ジェシーは青筋を浮かべながら即リンクシェルを繋いだ。そして「リリヤ、あなた帰ってきたら覚悟しておきなさい。会長は! とっくに! アンナの! 返事待ちよ!」と少々よく分からないことを叫ぶ。チクったネロとしては正直どうでもいい。だが、あの鈍感本人が不在の中、全てが拡散される瞬間程愉快なものはないだろう。察したリリヤの『ま、まさか……そりゃないッスよ姉御ぉ! ていうかどこで聞いたッスかぁ!』という悲痛の叫びまでも即噂好き社員らが交わす話題の種だ。
 ちなみに。その横では「余計なことを"社用回線"で言わないでくれ女史ぃ! 少しは僕の立場というもの考えてくれないか!」と相変わらず凹んでいるエルファーをベテラン社員らが宥めている。「殺してくれ……」と呻く男をゲラゲラと笑いながら整備スペースに歩みを進めるのであった―――。


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『彼シャツは男受け抜群! 男性をトリコにする魅力とは!』 アンナは雑誌をジトリと…

漆黒

#シド光♀ #即興SS

漆黒

"彼シャツ"
『彼シャツは男受け抜群! 男性をトリコにする魅力とは!』

 アンナは雑誌をジトリとした目で読む。

「いやありえないでしょ」

 鼻で笑いながらソファに放り寝台へと向かう。そこには恋人であるシドのコート。

 約2週間ぶりに会い、トップマストで飯を振舞った。今はシャワーを浴びに行っている。その隙にアンナは眉間に皴を寄せ、正座でそれを見つめていた。
 ―――ちゃんと気にはしている。恋人とはどういうものか、何をしたらいいのか。いやそれっぽいことは付き合う前からやっていたと周りは言うがアンナ本人はピンとこない。なので所謂恋愛小説というものや週刊誌を中心に学習中である。

「そもそもボクの方が背が高いんだよね。こう、写真みたいにブカブカにならないでしょ。ていうかここボクの住処だし借りてとかないない。これは前提が崩れてる。与太話」

 唸りながらまずはそのコートを抱きしめてみる。

「……理解不能」

 纏ってみる。腕は絶対に通さない。バレたら誤魔化すのが面倒だ。いつでも投げる準備は出来ている。

「んー想定より重たい」

 意外と重量があるようだ。防寒の用途もあるのだろう。普段胸元開いて見せてるくせにだ。襟を掴み、軽く息を吸う。

「なんかシドの匂い、する。当たり前か」

 ボソリと呟き、笑みを浮かべていると「アンナ?」と声が聞こえた。勢いよく振り向くとそこには持ち主が。

「お前まさかまた変なイタズラ企んでるのか? 今日も懲りないな」
「……」

 アンナは少し黙り込み、そのコートを投げつけながら叫んだ。

「すけべ!!」

 上掛けを被り、そのまま拗ねるように潜り込んでしまう。

 雑誌には"今来てる!"と書かれていたが流行りに疎いシドはピンと来ていない様子だった。ならばこれは今から作られるブームなのだろう。流行というものはこの男でも知っているものというのが第一条件だとアンナは個人的に考えている。一瞬でも信じた自分を殴りたいと悶絶するような声を上げた。



「どうしたものか」

 シドは首を傾げ丸まったアンナを眺めている。
 浴室から出るとアンナが自分のコートにくるまり、何か仕込みをしているように見えた。なので声を掛けたら顔を真っ赤にしながらコートを投げつけられ顔にそのまま激突した。結構重たいはずだが相変わらず優秀なコントロール能力である。
 首を傾げながら周囲を見渡す。アンナがこういう奇行を突然行う時は近くに何かおかしなモノがあるはずだ。

 その違和感はすぐに発見する。ソファの上に放り投げられた週刊誌。パラパラと捲り、関連性が高いのは―――。

「いやまさか」

 しかし他にわざわざ人のコートで何かをしようとする動機が見当たらない。それ以前に概要を読んでもピンと来ない。が、妙なことをするアンナを見るのは楽しいのでたまにはいいだろう。
 シドはクスリと笑い寝台に座り上掛けの上から優しくトントンと叩いた。

「なんだ珍しく誘ってたのか?」
「ご機嫌斜め。今日はなし」
「これでおあずけされると明日は激しいかもな」

 アンナはゆっくりと顔を出し、舌を出す。眉間に皴を寄せ、ジトリとした目でこちらを見た。

「毎回でしょ」
「アンナは綺麗だが少し生意気だからな」
「開き直らない」

 上掛けを引き剥がし起こしてやり、「続きを」と言いながらコートを押し付けた。アンナは非常に嫌そうな顔を見せている。

「やだ。キミの前でとかマシなことにならない未来しか見えず!」
「男の前でやらないと意味ないだろうこれは。別に雑誌の趣旨の通り、シャツの方持って来てもいいぞ?」

 ダメな行為を覚えさせてしまったかもしれない、とアンナは盛大なため息を吐く。あの好奇心に満ちた真剣な目は、絶対に折れることがない時に見せるものだ。



 仕方がないので羽織ってやることにする。予想通り袖が短い。シドは少しだけ恨むような目で見ている。

「ボクの方が縦に大きいから仕方ないでしょ。でもキミ横に大きいから腕ダボダボだし。肩幅の関係でちょっとだらしない……ってひゃん!?」

 話をしている途中に寝台の上に倒される。見上げると物凄くご機嫌な顔。

「有りかもしれん」

 慣れた手つきでコート以外の布を脱がしていく。阻止しようとするが全く通用せずあっという間にコートの下は裸になった。

「ちょっと!?」

 顎に手を当てながら考える仕草を見せている。アンナは呆れた顔で「変なこと企まない」と言ってやるとかぶりつくように口付けられる。

 この時の彼女は余計な欲を刺激させたくないのか太腿を擦り合わせながら胸元を袖で隠している。というか何故下着の上からコートを羽織っていたのか。やはり誘っているのかと腕を掴み上げる。そして凝視していると「面白くないから見ない」と振りほどいた手で手刀を落とされた。

「いやいい感じに谷間も見えて悪くは」
「普段のキミの露出度と変わらないけど!?」
「女性がするのとは違うだろ! よし、他人には見せるんじゃないぞ」
「生憎普段肌を見せる服を着ないからそれは杞憂! キミと一緒にしない!」
「さっきから気になってたが俺を露出狂みたいな扱いをするな!」
「はぁ!? 痴女と何も変わらず!」

 この後しばらく普段の露出に関する言い合いが続く。

「お前装いに関しては一切恥じらいがないじゃないか! 背中の傷がなかったらもっと色々際どいのも着てただろ! 痴女はどっちだ!」
「そうだよでもキミからしたら他の人に見せたくないって思ってるよね!?」
「ああそうだいつも悪いな」
「当然!」

 2人はしばらく声を出して笑い、寝そべる。シドはアンナの腰に手を回すと、彼女は押しのけながらため息を吐いた。

「皴になる。終わり」
「別にそのままでいいじゃないか」
「やだ。キミの企み分かる。……ヤらないなら今のままでもいい」

 足を絡めながらニィと笑うとシドは一瞬顔を引きつらせた後、コートをはぎ取った。

「へ?」
「アンナが悪いからな」

 コートを床に投げ捨て、そのままアンナに口付ける。

「どうしてこうなるかなあ」

 アンナのボヤきが虚空に消えた。


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#シド光♀ #即興SS

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補足自機の匂い観の話題がみすきーで話題になったので。それで即興SS。蒼天辺りの関…

蒼天

#シド光♀ #即興SS

蒼天

"あなたの匂い"
補足
自機の匂い観の話題がみすきーで話題になったので。それで即興SS。
蒼天辺りの関係性なのでお互い自覚ない頃。
 
「皆さんお疲れ様。休憩室にサンドイッチ置いてるから食べてから寝てね」

 アンナ・サリスは気まぐれである。ふらりとガーロンドイ・アイアンワークス社に現れては"差し入れ"を置き、シドと数言交わして帰って行く。手伝ってほしいと言えばいつの間にか現れ、何でもこなした。
 しかし納期のデーモンが暴れる時期には決して現れない。どうやらピリピリとした空気は嫌いらしい。

 今回はほぼ案件終了後、げっそりと疲れ切った社員らの前に満面の笑顔で現れた。現場にいた彼らには天使のように映ったと後に語る。ワイワイと休憩室へ歩いて行く社員たちの波を避け、キョロキョロと見回すアンナはまずジェシーを発見した。

 相当疲れているのかため息を吐いていた。ふと気配を感じたのか振り向き、アンナを見る。

「あらアンナじゃない」
「お疲れ様、ジェシー」
「相変わらずいいタイミングで現れるわね、って結構疲れてる?」
「そりゃサンドイッチいっぱい作ってきたからね。休憩室、今ゾンビーみたいな人らが集ってるから落ち着いてからどうぞ」
「いつもありがとね。またお礼いっぱいしなきゃ」
「ちゃんとシドから貰ってるよ。大丈夫」

 奥の扉が開き、白色の男がため息を吐きながら現れる。同じくギリギリな仕事で寝ずに労働していたようで、酷く眠そうだ。

「あら会長お疲れさまでした」
「ああ今回も中々苦戦したな……ってアンナじゃないか」
「ん」

 シドは必死に目をこすり両頬を叩いた後ニィと笑顔を見せる。ジェシーは相変わらず分かりやすいと苦笑した。
 アンナも手を振りながらシドの方へフラフラと歩く。少しだけ考える姿勢を見せた。

「―――アンナ?」

 次の瞬間アンナはシドの首元に顔を沈める。ジェシーをはじめとした残っていた社員らは目を点にし、シドは固まる。そしてどんどん頬が高揚していった。

「懐かしいにおいがする」

 ボソリと呟いた瞬間アンナも自分が何をしたのかに気が付いたらしく素早く離れた。咳払いをする。

「疲れてるかも。ごめんなさい」
「あ、ああ」
「流石に新鮮なうちにとサンドイッチ一気に作ったのが響いたかなあ。私もう帰るね。……あ、今日付けてる香水、今のシドのニオイと相性悪いから残ってるって思ったらクリーニングに出す方がいいかも」
「そ、そうなのか?」

 アンナは笑顔を見せた。

「とにかくしっかりシャワー浴びて、ご飯食べて、歯磨きしてからしっかり寝るんだよ。健康なのが大事だからね」
「それは当然だな」
「でしょ?」

 しかし、シドの少しだけ嬉しそうな表情を見てアンナは少しだけ考える仕草を見せた後、恐る恐る口を開く。

「あの……本当に申し訳ないんだけど今表に出るのはあまりよろしくないと思う。だからサンドイッチ置いてる。なるべく社内で用事を済ませて。旅人の私は気にしないけどとにかく配慮は必要」
「アンナそれ超遠回しに臭いって言ってない?」
「ジェシー。そりゃずっと寝ずに働き詰めだったから当然でしょう? 流石に『5日位村に立ち寄らず色々誤魔化しながら旅してたヒゲのおじさまみたいだね』とかそんな理不尽な罵倒はできないよ。まあ純粋に休息大事ってことで。いやそれは今ここにいる人大体そうだけど。じゃ、シド。お疲れさまでした。おやすみなさい」

 苦笑しながらシドの鼻を軽く摘まんだ後、頭をグシャリと撫で小走りで去って行った。当のシドは何も言わず固まっている。

「親方の心がアンナが現れることで急速に修復されたと思ったら光速でバキバキに折られてるッス……」
「最速記録じゃないかしらあれ」
「欠片も残ってなさそうだな」
「そこうるさいぞ!」

 後に知ることになるが。アンナが例えとして使っていた事例はリンドウのことだったらしい。懐かしいにおいとはそういうことだったのかとシドは歯ぎしりをした。
 しかし時々風呂に入れと言いながらも、笑顔でくっついて来ることがあるのでリンドウに感謝する姿も見せ、アンナはもっと気を引き締めようと決心するのであった―――。


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#シド光♀ #即興SS

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補足新生終了以降、紅蓮より前のシド光♀。お互い感情に気付いていない頃の2人です。…

蒼天

#シド光♀ #即興SS

蒼天

"縁談"
補足
新生終了以降、紅蓮より前のシド光♀。お互い感情に気付いていない頃の2人です。
 
「アンナすまん俺のことを聞かれても知らんと言ってくれ!」
「? 分かった」

 レヴナンツトール。石の家でやることがなくなったアンナは気分転換にと外を歩いていた。すると、全力疾走してきたシドと鉢合わせする。傍にある物陰に隠れた少し後、次はジェシーが小走りでやって来た。

「アンナ! 会長見なかった!?」
「? 見てないよ。えっと、私は東の方から歩いてきたから―――いるなら西じゃないかな」
「ありがとう。見かけたら簀巻きにしてでも連れて来て。お願い」
「分かりましたの」

 そのままアンナが指し示した方向へと走り去って行く。しばらくヒラヒラと手を振った後、首を傾げながら安堵の息を吐くシドの方を向いた。よっぽど激しく走って来たのだろう―――乱れたコートを直してやる。

「ああすまん助かった」
「どうしたの? そんなにお仕事が嫌に? いや先日飛び出した時のお説教かな?」
「あー今回は違うんだ」
「今回"は"、ねぇ……」

 シドは強調しないでくれと苦笑しながら、事情を話す。



「資金援助を出しにしたご令嬢との歓談」
「ああ」
「似合う言葉を聞いたことあるな。枕え」
「お前の口から聞きたくなかった言葉だな!」
「冗談だよ。―――そういうの嫌いなの? 本来お話し合いすることがお偉いさんであるあなたの役目じゃない?」
「いやまあ面倒でな」

 アンナは心の中で『これ別に突き出してもよかったのでは?』と呆れる。そんなことを思われているとはつゆ知らず、シドは肩をすくめながら語った。

「ウチは色々持っているからな。独り身というもあって会うだけでもという話がよく来るんだ。とっとと身を固めろって話だろうが」
「へぇ、じゃあウルダハの人中心なんだ。欲しいのは箔と。両者共に違う意味で可哀想に」
「そうだな。恋愛以外の……特に利益目当ては嫌だが、純粋に恋愛事を前提にだとがっついて来られるのも正直苦手でな。こっちは相手のこと何も知らないからな。あと出身を考えるとこの地では茨の道だろ? 絶対に幸せには出来ん」

 手渡された水を飲みながらシドはため息を吐く。シドの元には常に"そういうもの"が届いた。
 飛空艇をはじめとする数々の技術を我が物にと自由を掲げるガーロンド・アイアンワークス社を縛り付けようとやって来る輩は絶えない。流石に足元を見るような要求が乗るものは断っているが、ギリギリの経営をしているのも確かで。そういう姿勢だけでも見せなければと定期的に引っ張られて行く。―――少し前までは無理矢理体を引きずって各所を巡っていたが、今は何故か気乗りしない。
 答えは簡単だ。食べ方以外は最高じゃないかと考えるほど優しく強い人に出会ってしまったからである。こっちがどう思っていようとも一定の距離感を保つ事を公言されているので気楽だ。その優しさに甘んじてしまう結果、逃げる頻度が増えてしまう。今回はまさか逃走中に張本人と鉢合わせするとは予想だにしていなかったが。

「そういや私も結構縁談ってやつ来るんだよ。モテモテで困っちゃう」
「あー英雄だから話くらいなら来るか。いや棒読みで思ってもない言葉を付け足すな」
「旅人だってば。……ほら私経由で暁やあなたの所へのコネが手に入るしね。色んな勢力から来てるみたいだよ。金持ちから各地の要人、屈強な戦士まで。全部断って貰ってるけど」

 縁談というものはアンナの元にも毎日のように届いている。エオルゼアを救った光の戦士であり、普段から各地で一人旅という名の人助けを趣味としているようなお人好し。関係を持つことで、どれだけ利益がもたらされるか。暁の血盟やガードンド・アイアンワークス社をはじめとした数々の人脈も一種の鉱脈だ。
 だがアンナからするといきなり助けを求めているわけでもない人に会えと言われても困る。―――何より基本的に人の顔なんて一々覚えない主義だ。なので、あの時助けられてという言葉も勿論笑顔で躱すしかない。人脈も別に顎で使えるような身分ではないので利用価値はないだろうにとアンナは思っていた。

 シドはというと"この人を口説ける度胸ある男がいるのか"と驚いていた。絶対無視されるかバッサリと斬られるだけだろうに。アンナのいい所や致命的な難点を何も知らないくせに、命知らずだと心の中で一蹴する。

「お互い苦労してるんだな」
「みたいだねえ」

 笑い合う。ふとアンナは肩を掴み、引き寄せた。シドは見上げてみるとクスリと笑っている。

「ふふん、旅人を枷に嵌めるなんて百年早いのよ」
「確かにな。誰かの横にいるなんて絶対あり得ないだろ」
「でしょ? あなただって"私と仕事どっちが大事なの!?"と聞かれて信用のための納期と即答しそう。ギリギリまで余裕ぶるクセに」
「かもしれん。というか似たようなこと言ったことがあるような気がするな。成果の方が大事だろって」
「え、冗談で言ったんだけど。―――あー私はあなたが誰かを連れて来てもどうも思わないよ? 頼られがいがある」
「あまりからかわないでくれ。第一、ありえんがもし相手を見つけたとしよう。お前さんに会わせなんてしたら猛嫉妬されそうだろ。アンナは何でも出来るからな」
「これも冗談だよ、ふふっ」

 小突きながらジトリとした目で見る。するとアンナはどこからか取り出したチョコレートを口へと放り込んだ。一瞬だけ口の中に、細い指が当たる。その後ゆっくりと唇へ沿うように這わせながら目を細めた。シドはぼんやりとその瞳を見つめながらチョコレートを舐めて溶かす。ふわりと指が離された後、口を開いた。

「甘いな」
「当たり前。まぁ程々なタイミングで帰ってあげるんだよ?」
「毎回恒例だから周りは慣れてるさ」
「……あんまり社員を困らせちゃダメ」
「すぐどっかに行くアンナには負けるな」

 アルフィノ達をあんまり困らせるなよと言ってやると、ニィと笑った。

「私は旅人が本業なので」
「お人好しとの間違いだろう」
「シドにだけは言われたくない。……でもあなたの理想的な夢を持ってそれを貫く姿は嫌いじゃないよ。だからさ」

 ほらそろそろ戻ってあげなさいとアンナはシドの頭をぐしゃりと撫でる。シドはそうするかと肩をすくめた。

「あぁアンナ、今夜食事でもどうだ?」
「ん、覚えておく。ちゃんと終わらせてから来てね」
「勿論だ。じゃあな」

 アンナは何も言わずに手を振り、歩き去って行く。シドも先程走った影響か熱い顔を冷ましながら会社へ戻ろうと反対方向へ走り去った。

「―――少しだけガーロンド社に行く頻度でも増やそうかな」

 ちくりとした胸の痛みと小さなつぶやきは、アンナ本人も今はまだ気付いていない。


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#シド光♀ #即興SS

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補足 アルファ、オメガとビッグスが怪しげなミコッテに出会う話。   ク…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

その猫、神出鬼没
補足
 アルファ、オメガとビッグスが怪しげなミコッテに出会う話。
 
 クエックエッと鼻歌を歌いながら黄色い鳥は黒色の塊とレヴナンツトールを走る。
 しかし少しだけ余所見をしている間にドンと何かにぶつかってしまう。

「なーんだ、この黄色いの。チョコボか?」

 どうやらぶつかったのは人間の足だったようだ。彼はクエ……と謝るそぶりを見せた。



 ガーロンド・アイアンワークス社で働くビッグスは休みということでレヴナンツトールの屋台で飯を食おうと1人歩いていた。その時視界にあの黄色いチョコボが映る。

「アルファじゃないか!」

 男は手を挙げると気が付いたアルファと呼ばれたチョコボは駆け寄って来て泣きそうな顔をしながら裾を引っ張っている。

「どうしたんだ」
「クエェ……クエ! クエクエ!」

 その時「痛ぇ!」という声と硬いものがぶつかる音が響いた。慌てて音の主へと駆け寄ると黒い小さなミニオンが金髪ミコッテの脛に延々と体当たりをしかけていた。

「何だよこいつ! 俺様"は"何もしてないっての! 見間違えてんじゃねぇこのポンコツ!」

 パッと見た感じ半泣きで避けようとする足をオメガは器用に動きを解析し、ぶつかっているように見えた。また「いでぇ!」という声が響き渡る。

「クエェ……」
「オメガどうした!」

 ビッグスはその黒いボディを掴み抱える。ビービーと音を鳴らしながら足を動かしていた。強く押さえないとそのまま次は顔にでも飛んで行きそうだ。

「あー痛かった。すまんな、兄ちゃん」

 白衣を纏った青年はニィと笑う。年齢はシドらと同じか少し上だろうか。採掘道具を背負っている所から採掘師のようだ。

「おたくの会社が作ったミニオンだろ? よーく見て修理しとけよこのポ・ン・コ・ツがよ」

 オメガを指さし威嚇するように耳がピンと立ち尻尾をブンブンと振っている。ビッグスは「すんません」と頭を下げるがすぐに疑問を抱く。

「あれ、何で分かったんですか?」
「ア? こんな繊細な機械物体を作れる会社はその制服のトコ位だろ? 腕、中々いいと思うぜ。繊細で、小型ながら御伽噺のオメガそっくりだ。ムカつくぜ」
「は、はは……ありがとうございます」

 この男なりの誉め言葉だと受け取っておく。やれやれと肩をすくめていたが、やがてリンクパールの着信音が聞こえた。

「ア! しまったこんな所で道草食ってる場合じゃねえ。お嬢に呼ばれてんだった。んじゃーなアルファとオメガにビッグスさんや」

 そのまま男は駆け出していく。「ま、待ってくれ!」とビッグスは止めようとするがやがてテレポを唱えながらどこかへ消えてしまった。ため息を吐きながら「アルファ、オメガのメンテナンスするから会社来るか?」と聞くとアルファは元気にクエッと返事をした。
 しばらく歩いた後ふと最後の男の言葉をに引っかかる。

「―――あれ? 俺名乗ったっけ? まあいいか」



「ンア? ビッグス、お前休みじゃなかったのか?」
「アルファ久しぶりじゃないか!」
「実はオメガが変な挙動をしてたから確認してるんです」

 整備スペースにてアルファに適当な食べ物を与えオメガのメンテナンスをしているとネロが顔を覗かせた。後ろにはエルファーとシドもいる。

「変な挙動とは? ただのミニオンだろう?」
「それがレヴナンツトールで人の脛に延々とぶつかってたんです。苦情を言われたから仕方なく見てるんですが」
「確かに変だな。んで、異常個所があったのか?」
「それが全然。その方がいた時は確かに少しブザーのような音を鳴らしてたんですが今は静かですし」
「そいつが蹴ったンじゃね?」

 ネロの呆れたような声にビッグスは「それはないと思う」と否定する。

「どうやらオメガの文献についても知ってたみたいですし。一瞬だけ機械油の匂いもしたのでその手の仕事も理解ある人かと」
「また野生の技師がいるのか。レフみたいなのはもう勘弁してくれ」
「おうおう会長くん"また"とは何だ"また"とは」
「特徴は?」

 ビッグスはその男の容姿を振り返る。

「ミコッテの男性で、低身長。金髪に赤と銀目のオッドアイで白衣を着てる推定リテイナー契約されてる人かと。採掘道具とお嬢とやらを待たせてるようでしたし」

 エルファーは目を見開く。

「口は悪かったが結構アグレッシブな印象で―――ってレフ?」
「いや、何でもない。そうかそんな奴が現代にもいるんだな」

 と言いながら踵を返す。ネロが「おい」と声を掛けると「タバコ」と言いながら去って行った。

「―――旧友でも思い出したんじゃないか? 片方金髪ミコッテだっただろ確か」
「アー確かに」
「レフの友人、ですか」
「ミコッテで遺跡荒らしが趣味の技術者がいたらしいんだ。こちらの道に進む動機になったみたいでな」
「相当口悪ィがまあ今も生きてたらアレと同じく120超えだとよ」
「それは凄い偶然で……あ、さっきその男の容姿のスケッチを描きました。何か妙な予感がしたんで」

 ビッグスは傍に置いてあった紙をシドに手渡す。ネロも覗き込むが2人は口をあんぐりと開き塞がらない。

「どうしました?」

 その容姿はまさしく、エルファーが大切にしている友人らとの肖像画に描かれたあのミコッテの男と瓜二つだったのだから。


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「なあアンナ、覚えてるか?」「何?」「俺の告白を断った時の言葉」「記憶にない」 …

紅蓮

#シド光♀ #即興SS

紅蓮

それは本当に、"恋"なのか

「なあアンナ、覚えてるか?」
「何?」
「俺の告白を断った時の言葉」
「記憶にない」

 シドは笑顔を引きつらせながらアンナの頬を抓み引っ張る。

「お前『あなたが好きなのは過去に会った旅人でそれと重ねてるだけ』って言ったことあったよな?」
「……知らないねぇ」
「とぼけるんじゃない。蓋を開いたら重なるどころか本人だったじゃないか!」

 そう、あれは想いを伝えてからしばらくしてアンナが次なる冒険へと旅立つ直前の話。



 シドはアンナを抱きしめた。あの時言った通り確かに一切抵抗せず受け入れている。
 しかしその腕はシドを抱き返すことはなかった。しかし時々頭を優しく撫で回す、その柔らかく冷たい手が心地いい。

「今日も仕事が大変だった?」
「まあ。でも最近のお前さんに比べたら全然だ」
「―――かもねぇ」

 リンクシェルが鳴る。取ってみると防衛装置の調整についてのあれこれが流れていた。明日は休みの筈だが全く休める気がしない。

「休日出勤予定?」
「行かん」

 小さな声に対し小突く。指示を回し切断した直後、アンナを押し倒す。

「お前さんとの数少ない時間の方が重要だからな」
「そう」
「好きな人といる時間は大切にしたいってのはおかしいことか?」
「別に私はあなたのこと好きじゃないし。嫌いでもないけど」

 少しだけ傷付く言葉だ。ジトリとした目で睨みつけるとアンナはため息を吐く。

「あなたが好きなのは私じゃなくて旅人のヴィエラという記号。そうじゃなくて?」
「違う、俺はアンナが」
「違わない。あなたは昔会ったヒトと私を重ねてるだけ。それを違うってちゃんと言い切れる?」

 シドは目を見開き固まってしまう。あの夜、何度も"赤色の旅人"と姿が重なりながらも抱き潰した。後日お詫びにと寸止めしまくってからじっくり頂いたりもしたが。そう、あの不思議な雰囲気とどうしても重なることが多い。が、考えないようにしていたのを見透かされていたようだ。

「ほら言えないでしょ? ヒトってそんなもん。"宿題"はそれも含めたモノ、だと思うよ? よーく考えて」

 力が緩んだ隙に振り払われ、次はシドが押し倒される。アンナは跨り、額に口付けた。

「振り返ってみたら、意外と私じゃなくてもいいって分かると思うよ? 無名の旅人よりも魅力的なヒトってこの世にいーっぱいいるからさ」

 それはまるで子供に言い聞かせるような優しい声。頬を撫でながら切ない笑顔を見せ、アンナは目を閉じた。

『そんな顔をされたら余計に諦めることができなくなるじゃないか』

 冷たい言葉とは裏腹に優しい仕草が欲を刺激していく。本当に嫌なら他の人と同じく冷たく突き放せばいいのにどうしてそんな泣きそうな顔をするんだとシドはぼんやりと見上げた。

「それでも、今はアンナじゃないと嫌だ。分かってほしい」

 身体に手を回し、その冷たい肌を味わった。



「いやホントに覚えなし」
「だからとぼけるな。俺はあれ以降滅茶苦茶悩んでたんだぞ。意地悪すぎだと思わないか?」
「愛というものは障害がつきものらしい。知ってた?」
「意味が違うだろ意味が!」

 アンナが世界を救いに消えていた間、シドはずっとその言葉が刺さり続けていた。そしてネロとエルファーを連れてリンドウの終の棲家へ行き、アンナの過去を知ると驚愕する。
 ずっと遠回しに自分だとアピールしていたことに気付かない己の鈍感っぷりに呆れた。それと同時に『当の本人なら重なるのも当然じゃないか』と拳を握り締める。

「だって本当に分からなかったし。ボクが好きなのか、昔の"ボク"が好きだから勘違いしてるのかって」
「うぐ」
「ボクはもう過去に戻る気はないし忘れて欲しいって言ったのに。キミは覚え続けて勝手に重ねて葛藤しただけじゃん。解決できてよかったねー」
「確かにまとめて欲しいとは思っていたがな、言い方ってもんがあるだろ!」
「ふん。開き直るんじゃないよ。ボクはただ事実を言ったまで。ていうか何で気付かなかったの? 恋は盲目?」

 シドは睨みつけながら押し倒す。アンナは「何」と怪訝な目を向けた。

「あークソッ、抱く」
「脈略無し。反論できないからって力で押し切るんだ。酷い人」
「うるさい。自分の過去に嫉妬するアンナが可愛いのが悪い」

 してないという言葉も虚しく舌を絡み取られてしまった。アンナは心の中で『まーたボクは余計なことをしちゃったかあ』と呪う。まあ勝とうと思えば勝てるのだがこういうのにノッてあげるのも悪くはない。
 せめて今日は一晩超過コースにならないようにと祈りながら笑みを浮かべ、その手を握り返すのであった―――。


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補足猫被ってる時の自機に質問しましたという体です。※がある時は基本的に嘘ついてる…

情報

情報

ヒカセン向けの100の質問
補足
猫被ってる時の自機に質問しましたという体です。※がある時は基本的に嘘ついてるか補足してます。
テンプレはこちら→privatter.net/p/8741440
 
1.名前は?
「アンナ・サリスですわ」
※森の名はフレイヤ・エルダス

2.名前は誰がつけた? 由来もあれば
「あらあらお母さまが大切に付けた名前ですわよ? 由来はだいぶ昔に教えてもらいましたが―――忘れちゃいました」
※冒険者登録時に新しい街の名をとパッと浮かんだ名前。ちなみにファミリーネームのサリスは命の恩人であるリンドウの母方の姓と同じ。無意識に浮かんだ。

3.愛称はある?
「旅人さんって呼ばれてますわ」
※子供の頃は兄のエルファーにレーと呼ばれていた。帝国や裏の世界では"鮮血の赤兎"と呼ばれていた頃がある。

4.性別・種族は?
「とりあえず肉体の性別なら女性、ラヴァ・ヴィエラ族ですわね」

5.親の種族・国籍は?
「私と同じくラヴァ・ヴィエラ族ですわよ。オサード大陸の奥地に故郷があったと思いますわ」

6.育った地域は?
「オサード大陸の森。あまり外界との関りはありませんでしたの」

7.兄弟等、家族構成は?
「お母さまと兄さんが。お父様は物心がついた頃にはいなかったので知りませんの。兄さんはお嫁さんが8人いますわ」
※母親はエルダス族の族長。父親はエルファーとの決闘に負け、"聖なる場所"へ連れて行かれた。

8.身長は?
「耳含めなかったら6フルムと少しだと思いますわよ?」
※ヴィエラ最大身長にしてます。実際はそれより少しだけ高いって設定。

9.体重は軽め? 重め?
「軽いらしいですわ」

10.顔面含む、身体の特徴は?
「あまり特徴ってものはありませんわよ?普通のヴィエラですよ」
※背中に魔物に引っかかれた傷、右腕に手術痕。死人のように冷たい。

11.守護神は?
「アーゼマ様ですわ。火を大事にする集落出身ですの」

12.誕生日は?
「さあいつでしょ? 覚えていませんわ」
※霊4月(8月) 15日

13.年齢は?
「うーん……数えたことありませんけど確か26位ですわね」
※83歳

14.メインジョブは?
「侍。命の恩人とお揃い、ですわ」

15.得意なジョブは?
「武器の扱い、エーテルの扱いは修行してきたので得意なモノというのはよく分かりませんわ」

16.苦手なジョブは?
「旅人たるもの苦手だと思うものは作ってませんので」

17.ギャザクラは得意?
「旅で色々収集したりもしてたので」

18.こだわりの装備はある?
「着れたら何でもいいですわよ?」
※背中は聞かれたら面倒だから上半身は露出無しの装備を好む。

19.好きな依頼のタイプは?(例:戦闘/宝探し/人助け/採集/製作……)
「人助けが好きですけど旅人たるもの依頼にえり好みはいたしませんよ?」
※中身の影響で人助けと宝探しは気持ちワクワクしてるように見える。

20.よく受ける依頼のタイプは?
「助けてと言われたらどんな依頼もやりますよ?」
※純粋に助けて欲しい人は助けたいと思っている。善も悪も問わない。下心やら持ったら最後だけど。

21.冒険者になったのはいつ頃? その理由は?
「グリダニアに訪れて、登録させていただきました」

22.冒険者になる前はどこで何をしていた?
「旅人をやってましたの。どこかに留まるようなことは特にしてませんでしたわ」
※旅という名の迷子になりながら人助けしてた。

23.命のやり取りで高揚するタイプ?
「いえいえそんな」
※戦闘大好き

24.野宿は得意? 外でも眠れる?
「ずっと旅をしてきたので慣れたものですわよ」

25.所属のGCは? 思い入れは強い?
「双蛇党にいますわ。グリダニアはとても縁がありますので」

26.冒険者小隊の面倒見てる?
「最近は色々任務を頑張ってもらってますの」
※メタ的には全ジョブ60にするまではつきっきりだった。それからは毎週の任務指示しかしてないです。

27.住んでいる場所は? 寝泊まりはどこ?
「特に決めてる場所はありませんわ。人助けで色々な地域に走り回ってるので基本野宿してますの」
※漆黒以降はトップマスト(ラノシア)、暁月以降はエンピレアム

28.主な活動地域は?
「特に決めてませんの。呼ばれたらそっちに行きますわよ? あ、最近はモードゥナ周辺が多いかもしれませんわね?」

29.ごはんちゃんと食べてる?
「美味しいですわよね」
※少々食べなくても生活は出来る。

30.休みの日は何してる?
「旅人は職業じゃないので。作戦関係ない時は人助けしてますよ」
※漆黒以降はシドと遊んでる。

31.普段の起床時間、就寝時間は?
「日が昇る頃に目が覚めて、寝る時間は落ち着ける場所に到着したら準備が終わり次第寝るので特に決めてませんわ。もう昔からのクセでして」

32.ストレス発散法は?
「ちょっと料理を」
※モブハン手配書片手に飛び回ってます。

33.趣味は?
「人助けですわ」
※イタズラ

34.口癖は?
「何かありましたっけ?」
※「ホー」

35.座右の銘は?
「東の国の言葉で為せば成るというものがありまして」

36.いつも持ち歩いているものは?
「旅用鞄の中にあるモノは大体大切ですわ!」
※命の恩人の肖像画、からくり装置のカタログ、香水セット、イタズラ道具

37.家事は得意な方?
「大体はこなしますよ」

38.部屋や荷物は片付いてる?
「大体分かるようにはしてますよ」
※部屋は最低限のモノしか置いてない。荷物は結構ゴチャゴチャしてる。

39.手先は器用な方?
「普通の人よりかは」

40.努力や地道な作業は得意?
「必要なモノですね」

41.字は綺麗?
「読みやすいとは言われますね」

42.絵心はある?
「旅で見たものをスケッチはしていたので」

43.物を大事にできる?
「必要な物でしたら」
※人から貰ったものは基本的に何が起こるか分からないので処分してることが多い

44.好きな街は?
「グリダニア、ですね」

45.好きな色は?
「赤色」

46.好きな動物は?
「鳥全般。自由に空へ飛び立つ姿が大好きですわ」
※大型犬が好き。

47.好きな音楽・歌は?
「何でも聴きますわよ?」
※基本的に故郷の子守歌以外雑音だって思ってるよ。

48.賭け事は好き?
「やれと言われたらやりますよ」
※運で全部勝つ。イカサマされたら完全コピーでやり返す。

49.好きな食べ物・嫌いな食べ物は?
「何でも食べます。旅人たるもの好き嫌いするなと言われたので」
※ダークマターじゃない限り大体食べます。

50.好きな果物は?
「甘かったら大体食べます」
※林檎が好きらしいよ。

51.肉派? 魚派?
「あえて言うなら魚を食べますの。勿論肉も好きですわ」

52.紅茶派? コーヒー派?
「エオルゼアに来てからはコーヒーをよく飲んでる気がしますわね」

53.甘いものは好き? 特に好きなお菓子は?
「好きですよ。よくチョコレートを食べてます」

54.酒は好き? 飲める? 好きなつまみは?
「人と飲んだら相手が先に倒れますね。私そんなに強くないですのに。おつまみはナッツ系をよく添えてますの」
※ザル。樽飲んでも酔わない。

55.人から貰って嬉しいものは?
「うふふ、何でも嬉しいですよ」
※大体捨ててるけど。

56.何をしている時が一番楽しい?
「人助けをしている時ですわよ!」
※イタズラ企んでる時です。

57.よく通うお店は?
「自給自足」
※よくジャンクパーツ屋にいる所を目撃されているぞ!

58.何にお金をかけてる?
「最近知り合いに本を勧められて」
※シドへのイタズラ

59.おしゃれにこだわりはある?
「人に会う時は最低限ちゃんとしないといけませんわよ?」

60.バディチョコボに思い入れがある?
「ウチのフレイムとっても可愛くて。いつも酷使してて申し訳ありませんの」

61.自室で一番目立つものは?
「台所でしょうか?」(漆黒以降)

62.コレクションしてるものとかある?
「香水、ですかね? 色々準備してますの」

63.よく言われる第一印象は?(例:社交的/神経質/穏和……)
「優しそうな人って言われてますわ。ふふっ」

64.察しはいい方? 悪い方?
「勿論いいですわよ!」
※察しはいいが理解してない。

65.流されやすいタイプ?
「どうでしょ?」
※主張は一貫しているものもあるが基本的に空気を読む。

66.嘘をついたり誤魔化すのは得意?
「私は嘘つかないですよ?」
※自分のことに関しては嘘しかついてない。

67.騙されやすいタイプ? 騙すタイプ?
「旅人が人を騙したりなんてするわけないじゃないですか」
※本当はだまし討ちはするのもされるのも大嫌い。空気を呼んで騙されるフリをするくらいの演技は出来る。

68.好きなタイプ(恋人)は?
「タバコが似合う正義感があり、優しいヒゲの筋肉があるお方が好きですわ」
※白くてガッチリしててヒゲの人が好き。自分が強いので当人の強さは問わない。

69.好きなタイプ(友人)は?
「秘密を守ってくれる面白い人」
※過剰に介入し合わないドライな関係が築ける人。兄が認めてる人。

70.苦手なタイプは?
「悪い人」
※下心ある人や一貫性のないイキり野郎だそうです。

71.モテる? どんな層から?
「旅人はモテないですよ」
※本来の人格を知らないと顔が良くて優しいのでモテる。

72.恋愛願望ある? 恋愛観は?
「旅人なので誰かのモノになる気はないですよ?」
※長命種なので無駄に死の悲しみを味わいたくない。同種は細くて好きじゃない。だから恋愛には興味なし。

73.結婚願望ある? 子供は欲しい?
「この私を1ヶ所に留められると思っちゃダメ」

74.友達は多い? 少ない?
「旅人なので。同じ旅人で気が合う人はいますよ」
※漆黒終了まで長命種の悩みが原因で心に壁を作ってるので友達という認識は存在しない。

75.人見知りする?
「初めて会う人とお話する時は緊張しますわよね」
※平静を装ってるように見えて結構人見知りする性格。

76.人と話したり遊ぶのは好き?
「旅の話をするのは好きですよ。大体面白いリアクションをしてくれる人がいますの」
※大嫌い。本当は最低限以外の情報は伝えたくない。

77.お祭りなど、賑やかな場は好き?
「楽しい場所は好きですよ」
※大嫌い。静かに旅をしていたい。

78.子供は好き? 子供に好かれる?
「嫌いではないですよ? 気持ち悪い大人と違って純粋だからね。護るべき対象です」

79.憧れてる/目標としてる人はいる?
「かつて私を助けてくれた命の恩人はとてもすごい人でしたの。あの人のようにどんな人も助け、名乗らず去る流浪の旅人が目標ですわ」
※ちなみにこれ漆黒後どこかのシドに聞かれたら"お仕置き"されます。NGワード。

80.具体的に苦手な相手はいる?
「特にいませんよ? 特定の相手を好きやら嫌いやらラベルを付ける行為はしないようにしてます」

81.嫌味/悪口などを言われたら言い返す?
「無名の旅人は嫌味や悪口を言わない主義です」

82.秘密はある?
「旅人には秘密がつきものですよ?」
※自分の過去は知られたくないって思ってるよ。

83.トラウマはある?
「あえて言うと……真っ暗闇でしょうか?」

84.夢はある?
「誰も私の助けを借りずに幸せになって欲しいですわ」
※孤独で乾いた自分の心を救ってくれる人が欲しい(漆黒以前)

85.自分の人生に満足してる?
「ええとっても」
※心のどこかが欠けたままで気持ち悪く思ってるよ。

86.身体的精神的問わず、コンプレックスはある?
「無駄に育ってしまってるので……小さくて可愛い子が羨ましいって思ってしまったことはありますわね?」

87.最も嫌うことは?(例:嘘/裏切り/過干渉……) その理由は?
「いえいえ特にそんな」
※下心を持って近付かれること

88.自分を善人だと思ってる? 悪を許さない心がある?
「私は私。風が吹くまま気の向くまま」
※助けを求められたら善悪関係なく助けろと教えられてきたため。悪の中にもその人間の正義があることを理解しているので純粋に悪を許さない心というものが分からない。

89.直感か理論、どちらを信じる?
「知識が全てですよ」
※バリバリの直感で動く

90.前世や運命を信じる?
「特に信じていませんわ」

91.占いの運勢とか気にする?
「そういえば気にしたこと、ありませんわね」

92.笑いの沸点は高い方? 低い方?
「さあどうでしょう?」
※素面に見せかけて笑いは堪えるタイプ

93.怒りの沸点は高い方? 低い方?
「そんなに怒りませんよ」
※滅茶苦茶低い。少しでも悪意や殺意を向けたら刀に手を添えている。

94.どんな時に怒る?
「食べ物を粗末にされた時でしょうか」
※シドの信念を侮辱する奴がいても怒るかも

95.どんな時に照れる?
「お礼を言われた時、ですね」
※気になる人に直球で口説かれた時

96.どんな時に緊張する?
「やっぱり強敵と戦う直前は緊張しますね。負けたらおしまいですし」
※シドにイタズラをする瞬間

97.どんなものを恐れる?
「信じていた人が道を踏み外してしまうことでしょう」
※シドに嫌われる時

98.信仰心はある? どの神を、何を信じている?
「神は信じないようにしてますわ」

99.ガレマール帝国や他国・他種族等に恨みはある?
「特にこれと言った恨みはありませんよ?」

100.ヒカセンでなくても、超える力がある?
「どうでしょうねえ。自分の力が全てですわ」

(対象画像がありません)

補足お互い感情を持っていなかった頃のシド光♀。シドがアンナをクールでミステリアス…

新生

#シド光♀ #即興SS

新生

"食事"
補足
お互い感情を持っていなかった頃のシド光♀。
シドがアンナをクールでミステリアス→面白生物という評価になった瞬間の話。
 
―――俺はアンナをどう思っているのだろうか。

「水くさいじゃないか。困ったときはお互い様だろ?」
「……ええ、そうだね」

 第七霊災を終結させ、光の戦士と呼ばれるようになった女性がいる。名前はアンナ・サリス。趣味は人助けのお人好し。年齢、出身、誕生日、経歴全てが不詳の謎に包まれた"旅人"。

「冒険者はエオルゼアで活動するのに都合がいいだけなの。だから旅人って呼んで欲しいですわ。ずーっとそうだったから」

 ある時こんなことを言われたので俺はそう称している。周りは経歴を調べようとしているらしい。だが、一向に情報が集まらないのを見るにそもそも名前だって偽名の可能性も高そうだ。誰にも隙を見せない、完璧なヴィエラである。
 だが、俺はそれでもいいと思っている。古くから冒険者という生業の人間はどんな過去でも受け入れられる職業じゃないか。それにこちらが敵意を向けない限り、決してその笑顔を崩すことはないのだから。

 そんなアンナとは俺が事故で記憶を失い、心を閉ざしていた頃に出会った。その手を引っ張られ、自らの使命を思い出した後、共に祖国でもある帝国打倒のため走り回る。
 英雄と呼ばれるようになったアンナと同じ戦場に立つという行為は非常に誇らしく、好奇心が満たされていった。勿論クリスタルタワーでの出来事も記憶に新しい。時には共に戦い、またある時には護られ、必要に迫られれば共犯者にだってなる。まさにかけがえのない仲間というやつだ。
 ―――まあ、相手はどう思っているか分からないがな。どうせ助けている内の1人って認識だろう。俺は別にそれでも構わない。アンナに付いて行くだけで面白いことが起こるのだ。口実を見つけて追いかけるに決まっているじゃないか。
 旅に出るのを引き留めるため、意を決して会社に連れて行った時。好奇心に満ちた笑顔で周りを見回していた。それから荷運びや護衛は勿論、手頃な話相手になるし差し入れにと菓子も持ってくる。嬉しいが嫌な顔一つせず何でも引き受けてるのは流石に申し訳ないと思ってしまう。

「アンナ、少しくらいは断ってもいいんだぞ?」
「面白いから大丈夫だよ」

 なんて綺麗なニコリとした笑顔を見せやがる。なのでアンナが社内で何かを引き受ける時は、俺もなるべく付いて行くことにした。人と会話している時も、頼まれごとを引き受けている時も。流石に護衛中は周りに怒られるので大人しくしているが。
 そうしていると理由は分からないが、少しだけ周りからの頼まれ事が減り、2人で世間話をする時間が増えた。最近訪れた場所や出会った人、動物に奇妙な装置と聞ける話は何でも聞いてやる。程よく刺激を受けるので全く苦にもならない。
 ついでに美味しかった食べ物を再現したと持ってきた時もあった。それが凄い美味い。餌付けされてるような気もするがそれはただの杞憂としておこう。

「ねえ、そういえばプライベートでは何してるの?」
「暇だから次の案件の設計図やら理論について考えてるな」
「ん? ……それって仕事じゃないのかしら?」
「手は動かしてないぞ? じゃあお前さんは何をやってるんだ」
「? "旅人"は仕事じゃないよ。あ、暁の血盟関係ない人助けがプライベートってやつかもしれない」

 なるほど。アンナはいつ休んでるんだと思っていたが、そもそも休みの概念が存在しないのだということに気が付いた。それならばと、他人のように断られる前提で「じゃあよかったら明日休みだから飯でも行かないか? ほら1人だと仕事の延長になってしまうからな」と誘ってみる。すると「いいよ」と即答が返って来た。
 言い出しっぺのくせに一瞬心臓が高鳴ってしまい、平静を装うのに精いっぱいだった。



 アンナ・サリスという人はクールでミステリアスな女性だと思っていた。が、別にそうでもないかもしれないと最近気が付いた。その筆頭が食事風景である。ネロがクリスタルタワーで"珍獣"やら"野生動物"と喧嘩するごとに口にしていた。あの時は否定していたが、これを見てしまった俺もそうかもなと考え込んでしまう。

 その日は突然やって来た。レヴナンツトールで合流し、飯屋で他愛ない話をしながら飯を食っていた時のこと。これまでの俺たち2人は、言うなれば仕事や作戦中隣に立っていたようなもので。こうやって完全にプライベートで会うという行為はマーチオブアルコンズ作戦直後以来であった。
 最初こそは適度に楽しい食事の時間であったが、即違和感を抱くことになる。会話中は一切食事に手を付けないのは分かる。しかし少し目を離した隙にアンナ周辺から食べ物が消えているのだ。それとなく余所見するよう誘導され、振り向くと既にないのは誰でもおかしいことに気付くだろう。念のために机の下を見て落としてないことを確認してみるが綺麗だった。嫌な予感がし、勢いよく顔を上げる。すると俺は見てしまった。―――料理が口の中に"吸い込まれる"瞬間を。
 俺はその場で素っ頓狂な声を上げてしまう。それから俺の休暇は、主にアンナに人間の食事方法を教えることへと費やされていった。

「何か襲撃が起こるかもしれないじゃない」
「この辺りでお前さんが出張るほど震撼するような襲撃が起きるわけないだろ!?」
「う……リンクパールで呼ばれるかもしれないじゃん」
「お前今も付けてないじゃないか!」
「あー……し、シドに食べられるかも」
「俺はそこまで食い意地張ってないぞ失礼だな!?」

 子供っぽい言い訳と共に少しずつ小さくなっていくアンナに食器を押し付ける。そう、よく見ると目の前にはナイフやフォークの類がない。「箸なら知ってるんだけど」と首を傾げながら眺める姿に『こいつまさかひんがしの国にある森の中で野生動物に育てられたのか?』という予想がよぎる。その食べ方は見ているこっちの寿命が擦り切れそうだ。

「アンナ、飯代は今までウチで手伝ってくれた礼がてら俺が出す。休みの日はお前が、ちゃんと、食事が出来るようになるまで! 連れ回してやるから覚悟しろ」
「ホー……いやまあご飯美味しいなら別に構わないけど」
「というかあの食べ方で何で美味い料理を忠実に作れるんだ……」

 味わえそうもない吸引に見えたのだが、体の構造はどうなってるのだろうか。俺も行儀よく食えてるかと言われると少し疑問だが、流石にこれよりかは"文明的"だ。マシだと思いたい。いやそこらの動物でも野蛮を通り越して芸術的な食べ方はしないだろう。とりあえず、今までの人生で自分にテーブルマナーについてとやかく言ってくれた家族らに感謝しようと思ってしまった。

―――後に。偶然2人で食事に行く姿を社員に目撃されてしまい、デートやら何だという噂が広がる。あいつらは実際の"戦場"を見てないからそんな戯言を言えるんだ。いや確かに冷静に考えればこれは俗にいうデートと思われる時間かもしれない。期待に沿えず残念だが、これは少しだけ刺激のある友人との食事という認識だ。

 最初こそはどうしてこうなったと思っていた。が、逢瀬を繰り返し、アンナという人間をほんの少しずつ知るごとに、ミステリアスというイメージからユーモアな人間という印象に落ち着く。口調も穏やかで丁寧なものから徐々に変わっていき、当初より喋りやすくなったと思う。
 そう、食べ方以外は本当に魅力的に映る人だった。いや食事風景も面白いのだが。いつの間にか教えるという行為が楽しい時間だと思うようになっている。

 それが無意識下で友人以上の感情へと熟成されていたことを知るのはまだまだ先の話。


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#シド光♀ #即興SS

アンナは背中と右腕に大きな傷があるって話
アンナは背中と右腕に大きな傷があるって話

注意シド光♀中心背後注意な絵をまとめてる場所。アンナ単体もあります。直接的エロは…

#シド光♀

【NSFW】落書きlog(シド光♀)
注意
シド光♀中心背後注意な絵をまとめてる場所。アンナ単体もあります。直接的エロは描いてないです。
 
アンナは背中と右腕に大きな傷があるって話
アンナは背中と右腕に大きな傷があるって話
アンナ「耳ばっかやめて!」
アンナ「耳ばっかやめて!」
メイド服を着せてみる
メイド服を着せてみる
ウサギ年な年末にバニー納めした時の奴
ウサギ年な年末にバニー納めした時の奴
こうなるから背中見える服着ないんだよ(傷指摘されて)
こうなるから背中見える服着ないんだよ(傷指摘されて)
シドにもバニー着て欲しくて…
シドにもバニー着て欲しくて…
シド「人前でそんなに肌を見せないでくれ」
シド「人前でそんなに肌を見せないでくれ」
耳が性感帯になりすぎて寂しい時は「違う」って言いながら耳コキしててほしい
耳が性感帯になりすぎて寂しい時は「違う」って言いながら耳コキしててほしい
シド「前にあげたやつで裸エプロンしてほしい」
シド「前にあげたやつで裸エプロンしてほしい」
えち
えち
実際夏なアンナさんミラプリはサマーサンセット上、エクスペディションパンタレットだよ
実際夏なアンナさんミラプリはサマーサンセット上、エクスペディションパンタレットだよ
"赤面の旅人"ラストシーン
"赤面の旅人"ラストシーン


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#シド光♀

休日のシドを描きたくて

注意SNS等で上げた落書きをまとめる場所。今回はシド単体、シド光♀、ネロで全年齢…

#シド光♀

落書きlog(シド光♀、全年齢)
注意
SNS等で上げた落書きをまとめる場所。
今回はシド単体、シド光♀、ネロで全年齢
 
休日のシドを描きたくてぐわーっとシド描いた時のやつシド落書きとして上げた奴2人で夏休み作って海に行って欲しいね。無人島でもいいよピース!シド「もう行ってしまうのか?」アンナ「(そこに手を置くなばか!)」アンナ普段は結構自信たっぷりに口説いたり持ち上げたりするけどいざやり返したら弱々しくなるよ(2人きりの時は)紅蓮頃に壁ドンは経験してると思う(アンナがする方)かなり最初期に描いたやつ。からかいこんなデレ見せる時なんて絶対無いよシド「何でお前が引いてるんだ」これもトーン練習がてらフリーポーズ集からトレスしてるんですけど男女想定逆だと思うんですねモブ「会長って絶対アンナさんに引っ張り回されてる大型犬みたいですよね」まあ実際はこうなんですけどねトーン練習に描いた奴ヴァレンティオンデーでハートエモート出た時に描いた奴2人でハート作る奴やろうと思ったら2人共魔が差した拳をぶつけ合った後。ミトンっぽいので当ててくるのは反則ヴィエラの愛情表現が顎スリだったらいいよねっていう概念(蒼天頃、無自覚)シドを軽々お姫様抱っこできる程度には腕力がある自機シド見てるだけで寒いからヒートテック着てくれないか?フリーのやつトレスしてるんですけどアンナの方が背が高い関係でいつも男想定されてる方が彼女になってるんですよね寂しがらせちゃったぶっちゃけネコ似合うのシドよりネロだよねって話題で描いた奴シドはネコ耳も似合うんじゃないかなって描いたやつ。後にミコッテ化したギャグの文書いたアンナ「これで懲りたら耳触るのをやめる!」自機子供化概念ドライヤーかけたら耳が垂れ下がるのを知った瞬間「にゃーって言ってみて」(表、シドの前)

#シド光♀

自機描く時にいつも横に置いてるやつ

補足SNS等に投稿した落書きをまとめる場所。これは自機、エルファー、リンドウ、リ…

落書きlog(自機単体、全年齢)
補足
SNS等に投稿した落書きをまとめる場所。
これは自機、エルファー、リンドウ、リテイナー関係のみ
 
自機描く時にいつも横に置いてるやつioアイコン用ioアイコン差分最初期ioのアイコン、今Discordのアイコンになってるやつだいぶ最初期に描いたアンナさんだいぶ最初期に描いたアンナさん差分暁月IDのタンク装備自機機工暁月AF自機"二重人格?""内なる存在"リテイナーのア・リス"内なる存在"自機が雇ってるリテイナーアンナさんの中身イイコト、イケナイコト若い頃のリンドウ、ア・リス、エルファーアンナの方が背が高いよな兄妹

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(対象画像がありません)

補足蒼天.5終了以降紅蓮.0のどこかで起こったシドとアリゼーの会話。シドと自機が…

紅蓮

#即興SS

紅蓮

"スキンシップ"
補足
蒼天.5終了以降紅蓮.0のどこかで起こったシドとアリゼーの会話。シドと自機がまだ感情に自覚してない頃です。
 
「ねえシドあなた」
「アリゼーか。どうした?」
「アンナのスキンシップに慣れすぎてない?」

 偶然休憩中に佇んでいたシドは急にアリゼーに話しかけられ首を傾げる。しばらく考え込んだ後、「ああ」と手をポンと叩く。

「だいぶ前に諦めたし周りも当然のようにスルーだから異常というのも忘れてたな」
「あなたの会社どうなってるの!?」

 アリゼーは先程あったことを語る。それとなく「アンナとシドって距離感バグってないかしら? そういう関係なの?」とアルフィノに聞いてみると「アンナとシドはああ見えて交際していないよ」と苦笑した。なので自分も試しに「アンナ!」と呼びながら横に立つ。そして不敵な笑みで腰に手を回してみると急に笑顔で「どうしたの?」とお姫様抱っこをされたという。公衆の面前で堂々とやるものだから嬉しかったけど流石に恥ずかしかったと振り返った。

「ああ成程。俺にもそんな頃があったな」
「そんな懐かしむほどなの?」
「いや俺も平気で抱き上げられるからもうプライドはボロボロなんだ。……って何だその哀れな目は。悪かったな」

 アンナは細長い見た目に反して怪力である。どんな重い物も涼しい顔で持ち上げていた。手伝って欲しいと言うとシドごと運ぶこともザラにある。シドは最初こそ異常事態じゃないかと思っていたがもう当然のように受け入れている。それはどちらかというと諦めなのだが。

「だが俺以外にもそういうスキンシップ出来るとは思わなかったな。大体の人間相手は避けるぞ? あいつ」
「そうなの?」
「サンクレッド辺りに聞いてみたらいい。アンナはああ見えて人とコミュニケーションを取りたくないし記憶に残されたくない"無名の旅人"という生き物だからな」
「誰相手にも優しいからてっきり普通なのかと思ってたわ……」

 言われてみれば大体アンナは誰かと会話している時は温和な態度を取っているが一定の距離感を保っていた。

「前にどうしてそう人をからかうんだと聞いたら護りたい相手には優しくしたいからって言ってたぞ。そういうもんだと受け入れて日常に収めてしまえば楽しいと思うぜ」

 そろそろ戻らないといけないとシドはその場を後にする。アリゼーは目を丸くし、しばらく佇んでいた。が、徐々にどういうことか飲み込み始めると顔が赤くなっていった。
 自分が、アンナに、護るべき存在と認識されている。口に手を当て悶えるような声を上げた。


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#即興SS

(対象画像がありません)

注意時々は攻めに回りたいアンナさんが悪魔の囁きに乗せられるままシドにミコッテ化錬…

漆黒

#シド光♀ #ギャグ

漆黒

【NSFW】旅人、虎の尾を踏む
注意
時々は攻めに回りたいアンナさんが悪魔の囁きに乗せられるままシドにミコッテ化錬金薬を盛る話。直接的なエロはないけど背後注意。
 
―――幻聴でもない悪魔の囁きというものは聞いたことがあるだろうか? ボクはある。結論を言うとその時は最高な気分になるが後に最大の後悔と仕返しという名の復讐に襲われる。もし過去を改変できるならばあの囁きを聞くなと自分にアドバイスしたい。

「うーぐや゙じい゙」

 アンナは迷惑にならない程度にのたうち回りながらため息を吐く。早朝、レヴナンツトールの宿屋にて盛大にイビキをかく男の隣で腰をさする。
 今日も、負けた。約半月ぶりに食事でもと誘われたので何も疑わずバカ正直に付いて行った。それがアンナにとっての不幸の始まり。まずはそこで失言をしてしまう。いや当人はやらかしたとは思わなかった。気が付いたら真剣な目を見せ、腕を掴まれ連れて行かれる。それから"また"気を失うまで抱き潰された。まあ今回は一晩超過じゃなかっただけマシだと思っておこう。
―――実際はデザートを食べていた際、口元にクリームが付いていたので、『お子ちゃま』と言いながら指で拭ってやった。そのまま「自分で片付け」と舐めさせる。その後、クリームがうっすら残った指を舐めて見せると「今のは、お前が、悪い!」と言われながら連れて行かれたというのが事の顛末である。

 すべては多忙で徹夜明け、かつご無沙汰だった所に重ねられ理性の糸が切れたのが原因だった。残念ながら悪意以外の欲は朧げにしか理解していないアンナには分からない。

「時々はこっちが勝ちたいんだけどなぁ」

 普段の腕っぷしや口、イタズラ、逃げ足は勝ち誇ることができる。しかし初夜をはじめとした性行為に関しては、降参させた経験は皆無だった。弱い場所を全て把握され、器用かつ的確に。そして執拗に刺激する行為に対し手も足も出ない。それが悔しくてたまらないのがアンナ・サリスという人間である。
 勿論シドも負けず嫌いであり、不敵な笑みを浮かべ生意気なことを言うアンナを組み敷きたいと日頃から思っていた。どちらかが大人しくすれば済む話だが、残念ながら両者妥協という言葉は辞書に存在しない。

 別にシドとの性行為が嫌だというわけではないことを強調しておきたい。もし本当に嫌だったらとっくの昔に加減無しで蹴飛ばしている。何やかんや滅茶苦茶気持ちいいのが余計に悔しいのだ。
 ただ、一度始まるとシドの機嫌一つで一晩超過かそうでないかが決まる。―――これに関してはアンナが日頃の行いを顧みれば多少何とかなる話でもあった。リンクパールが嫌いと耳から外して連絡もせず、気まぐれな旅でまともに顔を出さない。もう少し連絡や会う頻度を増やすだけで一度の行為は減るのだが、同じ場所に留まることが苦手な人間にそれは無茶な要求であった。



 さて、アンナは最近雇ったリテイナーがいる。ある日行き倒れていたア・リスと名乗る自称トレジャーハンターを見つけ、そのまま契約した"らしい"。他人事なのは"内なる存在"が対応したものと思われるので、アンナは"らしい"としか言いようがなかった。
 まるで御伽噺に出て来るネコのような怪しい笑みを浮かべ、掘り出し物を持ち帰る奇妙なミコッテ。―――イタズラに役立つ道具を持って来たりすることもあるので非常に利用価値が高く面白い子というのがアンナの評価である。

「ご主人! おもしれーもん持って帰って来たぞ! こりゃ給金弾むな! ヒヒヒッ」
「詳細」

 ベルで呼ぶと満面の笑みで現れたア・リスはアンナに1本の瓶を渡した。普段こういった奇妙なものを持って帰った時は大体説明書も渡されるのだが珍しくそういったものは付いていなかった。

「これ何?」
「俺様とお揃いになる薬!」

 首を傾げると彼はニィと笑う。

「ご主人前に子供になる薬浴びたことあるんだって?」
「誰から聞いたの」
「俺様は情報通でもあるんだぜ? へへっなんと今回持って帰って来た錬金薬はその類のモノらしいぞ!」

アンナが『えぇ……』と露骨に嫌そうな表情を見せると「最高な顔サンキュー!」とア・リスはケラケラと笑った。

「えっとお揃いになる、ということはミコッテ?」
「そそ! ミコッテになる薬らしいぞ! 本当かはわかんね! なるかならないか、2分の1だぞこりゃーシンプルだな!」
「効果時間」
「長くないぞ! 最長半日だ!」
「子供化は1週間位続いたのに」
「それだけ作った奴の腕がいいってこった! 運がいいなご主人! 早速飲んでみっか?」
「うん? どこから持って来たの?」
「ないしょ!」
「じゃあ今回はちょっといいかな」

 相変わらず入手経路に関しては笑顔ではぐらかされる。正直な話持ち帰るモノは相当自分に被害がなさそうなもの以外は1人では試さない。絶対命に別状はないものであることを条件に持ち帰らせているので大体シドで様子を見ている。実際に満足したら給金がてらの食事が豪華になり、ア・リスはそれが楽しみだと両手を上げて喜ぶのだ。
 しかし今回ばかりは怪しいと突き返す。「えー」と口を尖らせた。

「試すの怖いなら、人でやればいいじゃんか」
「う、でも錬金薬は危険じゃない? 万が一支障が出たら」
「ただ見た目が俺様のようなミコッテになるだけだぜ? 脳を弄るわけじゃねーから生活に支障は一切ないぞ。それどころかいつもより身体が軽かったりしてな!」
「む、確かに」
「服用した際の眩暈等はご主人が浴びた粗悪品より軽減されてるはず。―――ほらご主人前言ってたじゃん。一度くらいシドの旦那に勝ちたいって」
「う、そうだけど……」

 呻き声を上げる。それは確かに、そうだがとアンナは目を閉じる。ア・リスにそんなことを言った記憶はないような気がするがどうでもよくなっていた。

「耳掴まれてガシガシされるの、嫌いなんだろ? ヒトミミの奴らは理解してくんねえよな。俺様だって耳を好き放題されるのは大嫌いだ。一度くらい、知ってもらってもいいんじゃね?」
「あ……」

 ア・リスはニィと笑い瓶を軽く振りながら見せる。アンナは目を細め、それを眺めている。まるで、悪魔の囁きのようだ。断ることができない。その瓶の輪郭を優しく指でなぞる。

「ささ、ナイスなイタズラ始めようぜ?」

 アンナはそれを手に取り、鞄に仕舞い込む。リテイナースクリップと、焼いてあった菓子を渡し宿を後にするのであった―――。



 ガーロンド・アイアンワークス社。詰まっていた案件もほぼ終わり、残るはシドの書類仕事のみとなっていた。休憩がてら自室を覗くと珍しくアンナがニコニコと笑い座っていた。

「この時期にいるなんて珍しいじゃないか」
「そうかも」

 地獄のデスマーチに突入する5日前、甘えていた途中にスイッチが入りヤりすぎたと反省していたシドはてっきり2週間程度旅で帰って来ないだろうと思っていた。少しだけ疲れが吹っ飛んだ気がするのは単純すぎて自分でも苦笑してしまう。

「あとどれ位?」
「ああ書類を片付けたら。お前さんに会えたからすぐに終わらせるさ」
「調子のいいことを言うねえ。あ、そうだ」

 アンナは机に置いた飲み物を指さす。

「疲れには、甘い飲み物。いかが?」
「貰おうじゃないか」

 丁度飲み物が欲しかったんだとコップに手を取る。そして何も疑わず一気に飲み干した。

「えらく甘い飲み物だな。何だこ―――」

 一瞬目の前が真っ暗になったように錯覚する。チカチカと星が散り、その場にへたり込む。少しだけ動悸がし、アンナを見上げると一瞬驚いたような目を見せた後満面の笑顔になった。そしてこう言ったのだ。

「ナイスイタズラ」

 扉を開け放ち、走り出すので「待て!」と叫びながら立ち上がり必死に追いかける。
 気持ち身体が軽い気がする。一瞬疲れたかのように重かったのに。確かに疲れに効くものなのだろう。いや一瞬ぶっ倒れるかと思ったのだが。
 すれ違う社員たちがシドを二度見する。気になるがアンナを追いかける方が先だと走っていると曲がり角で人とぶつかる。

「ああスマン! ってネロか。アンナ見なかったか!?」
「っ痛ぇな! どこ見てンだよガーロ……ンン!?」

 ネロは一瞬固まった後失礼なことにゲラゲラと大爆笑している。

「お前人を指さして笑うんじゃない!」
「ヒーいやこりゃァ傑作だな! メスバブーンの新手のイタズラか最近パワーアップしてンなァ!」
「はぁ!?」

 何を言っているかが分からない。すると後ろからジェシーが「会長! って本当にどうなって!?」と驚愕した声を上げている。お前もか、失礼だなと首を傾げ振り向くと手鏡を差し出される。まじまじと見つめると―――。

「ねこ、耳」

 幻覚かと思い頭上の三角に触れると薄く柔らかいモノが当たる。ふと違和感を抱き慎重に尻周辺を触れると尾てい骨辺りから何かが垂れ下がっている。

「しっぽ」

 嫌な予感がしたのでゴーグルを外すと第三の眼がない。前髪を払うと普段の人の耳もない。つまりさっき飲んだものは。一瞬絶句して声も出せなかった。しかし今の事象に対して何か言わないといけない。とりあえず顔を青くしながら叫ぶ。

「アンナ、お前、何やってるんだ!?!?」

 ケラケラと聞き覚えのない男の笑い声が、聞こえた気がした。



「おうメスバブーンから聞いてやったぞ。効果時間は最高半日、らしいぜ」
「いや出所も聞いて欲しかったんだが。どこから貰って来たんだ錬金術師ギルドか?」
「僕も気になってギルドに問い合わせてみたが我が妹は最近来てないみたいだ。別口だろう」

 社員と計器に囲まれるご機嫌斜めなシドはため息を吐く。時折可愛いやら癒しとよく分からない言葉も飛び交い、またアンナに振り回されてるなと満足げに見ている野次馬も多い。

「特にエーテルの乱れやら異常はないみたいですね」
「まあ確かに薬盛られた後即元気に走り回ってたからなあ親方」
「じゃあ仕事に支障はないですね」

 ジェシーの笑顔にシドは素っ頓狂な声を上げてしまう。

「おいお前たち最高責任者が薬を盛られたんだぞもっと心配するとかないのか!?」
「ハァ? 今一連のチェックしたばっかじゃねェか。耳と尻尾が生えただけでなンもなし。ツマンネェ」
「そうですよただの恋人からの疲れを癒やすプレゼントじゃないですか。サボリの口実にはしないでくださいね」

 シドは呆れて開いた口が塞がらない。盛大なため息が部屋に響き渡った。

「錬金薬は専門外ッスけど見た感じ本当にミコッテになってるのって面白いッスねー」
「ガレアンからミコッテに変わったからちゃんと第三の眼がない、と。ウルダハ中心に出回ってる幻想薬の類だろうな。一体我が妹はどこで調達したのやら」
「レフ、あいつ最近"イタズラ"の質が異常に上がってるんだ。兄であるお前からも一言ガツンと言ってくれないか? 流石に仕事中のやらかしは目に余るだろ」
「妹は可愛いなあ」
「だめだこりゃ誰かこいつの脳みそ入れ替えてくれ」

 エルファーは「見つけましたよ」と駆け込んできた社員数人に奥の部屋へと連れて行かれた。どうやらまだ作業が残っていたらしい。タイミングがよすぎて一瞬本当に脳手術でもされるのかと思ってしまった。

「じゃあ会長、ちゃんと倒れないか見張っているので仕事頑張ってくださいね」

 アンナ本当に覚えてろよ、早々に仕上げて苦情をぶつけてやるとシドは眉間に皴を寄せながら机に向かう。周囲は相変わらず今回の錬金薬の効果について議論を交わしながら計器でシドのバイタルチェックを行っている。仕事熱心な部下を持って最高だなと思うことでこれ以上の思考をシャットダウンしておいた。

 この場では何を言おうとも無駄であることは普段からよく分かっている。自分だって目の前で誰かが同じ状態になればどうするか予想もつくのだから。



「やっと解放された……」

 深夜、シドはフラフラと歩いている。あれから書類仕事中は、少し姿勢を変える毎に何か異常が出たのかと周囲から言い寄られ、あれやこれやと自分の頭上で議論をするものだから流石に怒鳴り散らして全員追い出した。

 最初こそは『アンナが現れ、更にまだ彼女には言ってないが明日は久々の休暇。今日は幸運だな』と思っていた。が、現在はドッと疲れが襲いかかり早く寝たいという感情が先にある。
 視線を落とし考えていたからか目の前に人がいたことに気付かずぶつかってしまう。直後ふわりと漂う甘い匂い。相手に身に覚えがあるがとりあえず「ああスマン」と謝っておく。言いながら見上げるとそこには諸悪の根源が。

「アーンーナー」
「ごめんごめんまさか本当にミコッテになるとは思わず逃げちゃった」

 悪びれず笑うアンナの頬を掴み引っ張る。それより覚えのない匂いが気になる。

「新しい香水か?」
「うん。ちょっと気になって。検証」

 シドは首を傾げる。そのまま帽子を被せられ、引き摺られた。

「お、おい!?」
「お腹空いたでしょ? お詫び」
「まあ確かに腹は減ったが尻尾が隠せ」
「ああ休憩室にご飯置いてるよ?」

 目を見開いてしまう。珍しい。アンナからはこれまで菓子以外を振舞われたことがほぼなかったのでつい吃驚してしまった。しかし先刻やらかされたばかりだ。次は何を混ぜられているのか、当然だが信用できない。

「あー私が何か混ぜてるって思ったね?」
「当たり前だ。これが信用ってやつだ分かるか?」
「そっか。いらないなら全部食べるよ。あなたは私がおいしく食べてる所を見る役。悲しくひもじくなろう楽しいね」
「食べないとは言ってないだろ」

 正直で助かるよと笑みを浮かべるアンナにシドはため息を吐く。しかし明らかに自分の尻尾が垂直にピンと立てているのが正直すぎてジトリとした目で後ろを睨みつけた。

「じゃあ何で帽子を被せたんだ」
「ヒミツ」

―――少しだけ身体が火照っているような気がした。



 休憩室で振舞われた東方料理は美味かった。魚料理が中心で味も以前クガネで食べたものとほぼ同じで驚いた。修行でもしてたのかと聞いたら「自己流。得意分野」と舌をペロリと見せた。
 いや食事を褒めている場合ではない。自室に引っ張り鍵を閉め肩を掴んだ。詫びだとは言っているが今日の行いは流石に許すことはできない。アンナは呑気に「何か?」と聞くので「あのなあ」と威嚇する。

「流石に仕事中に薬を盛るのだけはやめてくれないか? というか先に試したいなら試したいとオフの日事前に一言だな」

 アンナはその言葉を無視し、シドに被せていた帽子をもぎ取る。そして輪郭をなぞった。突然の行為に身体がビクリと反応し「おいアンナ!?」とその手を掴む。

「? 何か?」
「いやいきなり何するんだお前!?」
「シドだって普段脈略無しに触る」

 ぐっ、と言葉を詰まらせてしまった。アンナはニコリと笑いシドを抱き上げ、寝台に座らせる。相変わらずどこに大の男を抱えるための筋肉があるのかが分からない。後ろに座られ、そのまま頭を乗せられた。そしてまた耳をさすり始める。息を吹きかけながら、全体を撫でた後、跳ねた毛で遊ぶように指をクルクル回している。手慣れた動きに甘い不思議な匂い、身体が異常に火照っている。正直に言うと何かがおかしい。

「お、おいアンナ」
「どしたの? 未知の感覚?」
「っ!?」

 耳元で優しく小さな声で囁かれる。

「シドがよくやってることじゃん」
「いやそうかもしれんが! ッ、噛むんじゃない! ちょっとくすぐったいんだ一度ストップしてくれ」

 腕を掴み荒い息を整える。心臓がバクバクし、これ以上触られるとまた理性の糸が切れて襲ってしまいそうだ。流石にもう謝罪の朝は遠慮したいとは思っているのだがアンナに煽られるとつい毎回やらかしてしまう。
 そう考え込み、油断していたのがいけなかった。アンナはふーんと言いながら鞄から何かを取り出しシドの両手を片手で持つ。不思議なことにビクともしない。シドは突然の行為に目を見開き口を開こうとするともう片方の手に持っているものに気付く。そのままガシャンと音を立て、両手に手錠をはめ込む。

「はい、これで大丈夫」
「いやどうしたんだこれ!?」
「いつぞやに耳触り対策で購入、今回初投入」
「だろうな!」

 じゃあ続行とアンナは再びシドの耳を丹念に触り始める。いつまで続くのか、と思うが少し前に延々と耳を弄って怒らせたことを思い出す。まさか今回のイタズラの動機はそのやり返しということだろうか。質問を投げようとすると「そういえば」とアンナは口を開く。

「今回のイタズラにあたってちょっと人に会ったんだ」
「ッ、お前に錬金薬を渡した商人とかか?」
「違う違う。ウルダハの娼館のお姉さんたち」
「しょ、しょうかん? 確か召喚士というか巴術士ギルドはリムサ・ロミンサだろ?」
「おっそのボケ今する? 娼婦の綺麗なレディーたちに個人的取材。んで色々聞いたのさ」

 全く声色を変えず言葉を続ける姿は少しだけ怖いなとシドは顔を赤くしながら早く終わるよう念じていると口の中に指を滑り込まれた。

「ぐぁっ!?」
「おー本当に舌ザラザラしてる」
「ひゃめるんだ、くっ」
「牙もいいねえ嫌いじゃない。んで話の続き。そこで興味深いコトを聞いたんだ。オスのミコッテを満足させる方法」

 ものすごく怒っている。これより先の話は絶望しかない。つまりはそのテクを本場の人間から伝授されてきたのだ。

「あ、別に実際お客さんを相手してとかじゃないよ。こうやって触ってるのはただ普段キミがよくやるような感じにしてるだけ。聞いたのはそうだね……この香水、ミコッテによく効くんだって。マタタビ効果、的な? いやいや嘘でしょって思ってたけど身体すっごーく熱そうだねぇシド」

 食事かと思ったらそっちかと膝を打ちそうになるが今回のためだけにわざわざ準備してきたのかと感心する。どんな時もイタズラには全力でつい尊敬してしまった。
 しかし本人なりに普段のやり返しをしたいのだろう。手錠を掛けられ、アンナの足で身体は動かせず、指は耳と口の中。匂いで感覚が研ぎ澄まされ、好き勝手に刺激される様は嫌がらせというよりかは―――『一種のご褒美だよな? これは夢でも見てるのか?』という感想しか抱けない。今の状況は多分誰がどう見てもアンナが主導権を握ってイチャついてるだけだ。ここまで積極的な姿は初めて見たしそんなに耳は嫌だったのか、という感想が先行する。『ほら嫌でしょ? だから二度とやるなよ』という心と好奇心で動くアンナにシドは笑みがこぼれた。ミコッテの耳じゃ普段やるような耳を掴むことなんてできないのに。

「でも耳はひんやりしてて触り心地いいなあ。あ、ピクッて動いた。ミコッテの耳ってすぐにピョコってするよねぇ」

 "お前も結構分かりやすく耳倒すじゃないか!"とツッコミを入れたいが口の中の指に阻まれる。これも何度かやったことあるが個人的には悪くないなと呑気にシドは考えていた。

「あ! そうだシド。気になることがあって」
「っ、何だ。というか手の外してく」
「タイニークァールってさ、尻尾の付け根トントンしたら気持ちいいってなるらしい。実際なってた。かわいい」
「ん? ああ聞いたことあるな。……おいまさか」
「ミコッテはどうなんだろうねえ」

 流石にまずい匂いがする。抵抗する間もなうつ伏せに転がされた。アンナは「おい! やめろ!」という声を無視し、まずは尻尾を優しく掴む。それだけで身体がビクビクと痙攣するように反応した。これは、ヤバいと本能が警笛を鳴らす。徐々に根元へと指が優しく動いているのを感じ取る。正直に言うと腰にクる。爪を立てシーツを噛み、震えるシドをアンナはクスクスと笑った。

「尻尾そんなに太くして警戒しなくてもいいんだよ? ほら撫でるよー、っと」
「おい待て、ッ―――!」
「普段ボクが待てって言っても止まらないから待たない」

 正直下半身がもう悲惨なことになっているのは感じるのでこれ以上の刺激は本当にマズイ。しかしその抗議を無視したまま尻尾の付け根を優しく撫で始める。逃げるように身体を引こうとするが、「そんなお尻上げながら悦ばないでよ。ふふっクァールというよりゲイラキャットみたい。にゃぁん」と嬉しそうに言われてしまう。これが"拷問"と称した行為かと思いながら何も言わずシーツを掴んだ。そう、生殺しされている。耳先を弄りながら「そんなに震えない」と囁かれ、尻尾の付け根を優しく叩くように触れた。普段ならどうも思わない行為だが身体は勝手に粟立つように震え、脳が真っ白になる。目の奥が弾け、全身から汗が吹き出し力が抜けた。直接性器を触れられることもなく、完全に未知の感覚でイかされた。少しだけ屈辱的だが、それをあのアンナにされたことに喜びを見出す自分もいたのに驚いてしまう。

「あら」

 アンナはシドの真っ白な尻尾が腕にふわりと絡ませる姿にニコリと笑う。当の本人は顔を伏せきり気付いていないのが面白い。愛し気に口付け、撫でているとまた身体がビクリと跳ねた。

「アンナ、なあッ」
「んー?」
「シたい」
「だーめ」
「キスだけでも」
「顔伏せながら何言ってるの?」

 仰向けにされ、上に跨りながら顔を覗き込んでいる。正直に言うと人に見られたくない状態だ。実際アンナも悪い笑みを浮かべている。額、鼻、頬へと口付けをするので舌を出してやると「おあずけ」と顎下を撫でる。優しくて気持ちいいが先程の刺激を考えると物足りない。

「自分が嫌だと思うことはしちゃダメって分かった?」

 妖艶な笑みに対し、シドは反射的に目を閉じ、頷いてしまう。

「ああよく分かったさ。だからこれ外して」
「それとこれとは話は別」
「なっ!?」

 ここまで焦らしておいてかと抗議するがアンナはきょとんとした顔をしてる。

「焦らす? ボクはイタズラしかしてないよ? 満足、就寝」

 最高に悪い笑顔を見せている。確実にこちらがどうなってるか把握してる上での意地悪だ。そもそも誰だこいつに悪知恵を与えた人間は。錬金薬だけじゃない、何か"悪いコト"を仕向けているヒトが明らかに存在する。―――上等だ。悔しいが興奮する。

「頼む、もっと」
「もっと?」
「手のは付けたままでいいから、"イタズラ"してくれ」

 アンナは考え込む仕草を見せている。やはりダメか? と肩をすくめようとすると不意に唇に柔らかいものが触れる。

「よく言えました」

 どうやらこれを言わせたかったらしい。「子供扱いするんじゃない」と眉間に皴を寄せてしまった。



「よおご主人!」
「ア・リス……うえぇ」

 2日後。アンナは謝罪を重ねるシドを普段通りな顔で見送る。いなくなったのを確認した直後、身体を引きずりながらため息を吐きリテイナーを呼んだ。スクリップを渡し、拾ってきたモノを確認する。今回は錬金薬ではない。よかった。

「ご主人! 旦那をギャフンと言わせることはできたか?」
「一晩は。次の日が悲惨だったからア・リスのお給料増額はなし」
「そんなぁ! その様子だとちゃんとなったんだろ?」
「次の日に数倍返し」
「あーそこは俺様はどうにもできないぞぉ」

 あれから負けだと乞われ完全に勝ったと確信できた。
 しかし次の日の早朝、"ミコッテになったシドも悪くなかったがやはりいつもの顔が一番見慣れてるしナイスヒゲだ"とはにかみ、撤退しようとすると捕まる。そのまま休みだというシドに1日中説教という名の行為が続いた。途中、場所を変えるからと羞恥プレイのような目にも遭った。『次の日動けない位もっと濃密にすればよかった』とアンナの心に刻まれ、次からは先に一言入れようという教訓を得る。
 ア・リスは肩をすくめ、スクリップを指で遊ぶ。アンナは涙目で「まあ約束させたからその分はあげる」とマシュマロを渡すと無邪気に頬張っていた。

「ア・リスのこと言っちゃった。いつか紹介することになった」
「えー俺様はシャイだから旦那に会いたくないなあ」
「本物の恥ずかしがり屋は自分の事シャイとは言わず。まあミコッテの新しいリテイナーを雇ったとしか言ってないからまた時間合えば」

 アンナはそう言うが、ア・リスは何も答えずそのままニャハハと笑いながら踵を返した。気まぐれな人間だなあ人のことは言えないけどと思いながらまた寝台に寝転ぶ。
 昔、リンドウに教えてもらった諺、『危うきことトラの尾を踏むが如し』という言葉を浮かべながら不貞寝するのであった。


Wavebox

#シド光♀ #ギャグ

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注意 ヴィエラ自機子供化概念。ネロ+光♀要素有り。5日目以降シド光♀で一部成人向…

漆黒

漆黒

旅人は子供になりすごすfull―1日目―
注意
 ヴィエラ自機子供化概念。ネロ+光♀要素有り。5日目以降シド光♀で一部成人向け表現有る日有り。
 
 やらかした。その一言に尽きる。

「サ、サリスさん大丈夫ですか!?」

 覚醒するとベッドの上。アンナは身体をゆっくり起こし、錬金術ギルドの人を見上げた。どうしてそんなにも心配そうな顔で見ているのかと腕組みすると自分の腕がえらく細いことに気付いた。鏡を渡されたのでちらと覗くと、小さな子供が自分を眺めている。

「は? え?」

 喉から幼い声が出てる? アンナは察した。
 衣服は子供用に着替えさせられ、数人がずっと頭を下げている。

 なんと事故で被った錬金薬で、子供になってしまっていた。
 下肢を確認すると、察する。14歳以下、つまりヴィエラの性別がはっきりする前の年齢に変化しているらしい。あっという間に血の気が引くのを感じた。こめかみを押さえながらとりあえずこれからのことを考え込む。

「個人差はありますが数日で戻っていると思います! ただ結構な量頭から被ってしまったので……」
「いやまあいつか戻るなら気にしてない。……誰かに連絡した?」
「いえ、サリスさんの意識が回復してからでいいかと思い。荷物はギルドの方でお預かりしています」
「ありがとう。……ツテはあるから大丈夫。後から取りに来るね」

 介抱してくれたのであろう女性の手を振り払い寝台から降りる。

「絶対、暁には、ナイショでおねがい」

 アンナは人差し指を口の前に持って行き、ウィンクをした。大人たちはキャーと黄色い声を上げている。チョロいもんだとニィと笑った。
 とりあえずはレターモーグリに頼むことにする。まずは手早く紙に一言書いた。そしてふわふわと浮かんでいるポンポンがチャームポイントの可愛らしい生物に小さく咳払いした後話しかけた。

「モーグリさん! お手紙送ってくださいな!」
「分かったクポ! 誰に送るクポ?」
「ガーロンド・アイアンワークス社にいるネロパパ!」
「そうなのクポ!? 隠し子がいたのは知らなかったクポ! これは誠意を込めて送ってあげるクポ!」
「なるべく急ぎで他の人に見られないように! えへへ、パパねー会社では私のこと隠してるから! とーっても優しいんだよ! 大好き!」

 アンナはフードを被り血反吐を吐きそうになりながら子供のフリをしてレターモーグリに便箋を渡す。
 この奇妙な出来事を何とか現実として受け止めながらも流してもらえる存在が"彼"しか思い浮かばなかった。それはシドではない。大切な人だが酷い目に遭う未来が見えたので知り合いの中でも一番見られたくなかった。そしてなるべく多くの人にバレたくないのだ、あまり頼りたくない人間の1人だが仕方のない話だろう。
 まさか相手があの英雄であろうとはつゆ知らず。ふわふわ飛んで行くモーグリを見送りながら待ち合わせ場所に向かった。大丈夫、これだけバカみたいな嘘吐いたらすぐに飛んで来るさと笑う。



 ガーロンド・アイアンワークス社。今日もせわしなくシド含めた社員たちが働く中、ネロは休憩室でサボっていた。本当はまた自由になりたかった。だが、シドやメスバブーンを中心とした環境は数々の好奇心を満たす事件や案件をもたらすのでつい残ってしまう。
 タバコをふかし物思いに更けていると目の前にポンとモーグリが現れた。

「ンだこの白豚」
「クポー! ガーロンド・アイアンワークス社のネロさんクポね! お手紙どうぞクポ!」
「俺に手紙だぁ? 誰からだよ」
「娘さんクポ! 家族想いで意外といい人とは知らなかったクポー」
「アァ!?」
「と、とにかく渡したから失礼クポ! 大好きな娘さんによろしくクポー!」

 こっちの話を聞かず手紙を押し付け逃げるように消える。「何言ってンだクソが」と呟きながらとりあえず手紙を開くと可愛らしい文字で短い文が記されていた。

【緊急 誰にもバレずにウルダハクイックサンド前に来い 可愛い娘より】

 紙切れをグシャリと丸め灰皿の上で燃やす。どういうことだとっちめてやると言いながらコートを羽織り鞄に手を取った。

「ちょっとネロあなたどこに行くの!?」
「用事できたから早退」
「おいサボるんじゃない!」

 会長と会長代理の言葉を無視し、チョコボを呼びウルダハへと走り出した。



 精一杯飛ばし、日が傾くより前に何とか辿り着いた。クソがと悪態つきながらクイックサンド付近を見回すとララフェルの男数人とフードを被った小さな物体が。

「お坊ちゃん迷子かい? おじさんが一緒に探してあげようか?」
「いやいやワタクシがご一緒しましょう」
「可愛いねえ僕」

 知ったこっちゃない。こんなクソみたいなイタズラ手紙送った首謀者は絶対にあのメスバブーンだ。遂にシドだけで満足できず俺にまで悪影響を与えに来やがった。なーにが大好きな可愛い娘だ。どこにいやがるとため息を吐いているとフードを被ったガキがこっちを振り向いている。遠目からでも分かる位目を輝かせながら中性的な声でこう言いやがった。

「パパ!」
「アァ!?」

 小走りで抱き着いてきやがった。危うくもう少しずれていたら鳩尾に頭が激突する所だった。そして普通のガキよりも少し強い力で腕を掴み引っ張る。

「おじさんたち話し相手になってくれてありがとう! ほらパパ行こ!」
「エ、ちょ、おま」

 ポカンと見ている男たちを尻目にガキは同じく状況が理解できない俺を引っ張ってナル回廊へ連れて行かれる。
 程々に人がいない所でこのガキの首根っこを掴み怒鳴ってやった。

「テメエのことなンぞ知らねェ! ガキはとっととおうちでママのおっぱいでも吸って寝てろ! ……っておま」
「はー今日はツイてない。しかし時々は元軍人の固い腹筋に当たるのも悪くない」

 掴み上げフードを取り払うと長い耳。黒色の髪に赤色のメッシュ、赤色の目で褐色の肌。血の気が引いて行くのが分かる。

「いやあネロサンならあんな血反吐吐きそうな手紙書いたら即飛んで来ると思ったよ嬉しいねぇ」
「メスバ、なに、ハ????」

 毒づいていた相手と同じ喋り方をしたガキはケラケラと笑っている。厄介事に巻き込まれてしまった、そうとしか言えないと片手で顔を覆った。



「で? 錬金薬が事故でぶっかかってガキの姿にと」
「そうそう」
「くっっっだらねェな……つーかナニしたらそンな事故起きンだよ」

 食事でもしようかとクイックサンドに連れて行かれ座らされる。周りの視線が痛い。ガレアン人とフードを被ったガキとなると異質に映るだろう。勝手に付いてきただけだと主のモモディには言っておいた。

「いやあ頼れる人間を考えたらキミしかいなくてねえ」
「ガーロンドや暁にでも言えばいいじゃねェか」
「いや暁はグ・ラハとアリゼーが怖いし。シドは……特にめんど、じゃなかった性犯罪者にしたくないなって」
「俺はいいってのかよ」
「まず子供になったボクに対して過大なリアクションをしない存在。そして秘密を守って匿ってくれる。発情しない。シドの動きをいつでも確認できる相手」

 アンナはサラダを頬張りながら順番に指を立てる。発情という言葉が引っかかるが何も言わず話を聞いてやる。

「その条件を満たせる知り合いって考えるとネロサンしかいないってわけ」
「スマンが呆れて何も言えねェわ。つーかお前がガーロンドやグ・ラハらをどういう目で見てンのかよく分かった」
「普段妄信的な目で見ているヤツらにキャーって言いながら抱きしめられたり着替えさせて来るのがイヤ。あとシドのヒゲ絶対痛い」

 なるほどナァとその情景を思い浮かべた。多分ガーロンド社に連れて行っても同じようなリアクションをされるだろう。兄もいるしそりゃ祭りになるのは想像に難くない。

「だから! ネロサン! いやカミサマネロサマ! 拠点あるでしょ? しばらく泊めて! おねがい!」
「イヤに決まってンだろ!? ガーロンドに殺されるわ!!」
「パパのいじわる!」
「俺はバブーンじゃねェ!!」

 ギャーギャー言い合っていると周りの視線が刺さる。舌打ちしながら座り直しため息を吐いた。

「家で大人しくするし料理も作るしその分のお金は色付けて出すから。キミはシドの動向さえ教えてくれたらそれでいい」
「なンでお前はそう変な方向に突っ切れンだよ……」

 時折思い切りが怖いというシドのボヤキを思い出す。これは、ダメだと眉間にしわを寄せ天を見上げた。



 結局ガキになっても変わらないアンナのゴリ押しに負け連れ帰ることにした。
 まずは服を買いたいと引っ張られていく。今は冒険者ではなく庶民向けの服屋で下着等の選別を見守っている。

「子供の頃、普通の服ってもらったやつしかなかった。新鮮」
「ハァ」
「ネロサンもお金は後から出すから適当に服見繕って。今から錬金術師ギルド行く。その下の制服見られたら面倒」
「ハァ」

 目を輝かせながら言っている姿に『その姿の頃は可愛げあったンだな』という言葉が浮かんだが仕舞い込んでおくことにする。レジへと持って行こうとするので分捕りながら店主に突き付ける。

「あ、お金は」
「領収書、名前はガーロンド・アイアンワークス社のシド・ガーロンド。ネロサマに苦労をかけさせたお詫びで頼む」
「え」

 着替えさせられ次は錬金術ギルドに向かうために帽子を深く被らされた。
 不審な目で見られながら荷物をもらう。「パパ」と呼ばれながらただ心を無にして重い鞄を持っている。こういうストレスを解消する手段は簡単だ。「ほら次は食材でも買い込むぞ。あぁガーロンド・アイアンワークス社のシド・ガーロンドで頼ンだぞ」とヤツの名義で買い物するのに限る。お互いの心が痛まない楽しい手段だ。

「こんなに買って大丈夫?」
「最終的に全てガーロンドに行くから俺は痛くねェよ。単純だからお前が関わってるつったら許すだろ」
「……そうだね! シド超単純。暇つぶしにほしいものがジャンク屋にあったからそれもいいかな?」
「いいぜ買ってやろうじゃねェかクソガキがよ。……経費かガーロンドの金でなァ!」
「ホーいいなあ……ヘッヘッヘッそういうのやってみたかったんだよねえ!」

 2人はゲラゲラと笑いながらウルダハの街に消えて行った。



 その後アンナの持っていた2人乗り用のマウントだというものに乗りレヴナンツトール付近に降り立った。変形ロボットとはロマンが分かってンじゃねェかと言ってやると満面の笑みを浮かべていた。
 しっかりとフードを被せ、荷物は買ったデカいスーツケースに入れて引っ張る。多分体を折り曲げたら横で手を引いているガキも入るかもしれないとふと頭に浮かび上がった。さすがに猟奇的な犯罪でしかない思考なので置いておく。
 周囲を見回し、ガーロンド社で働き出してから拠点にしているアパートの一室に帰った。アンナは早速キョロキョロと部屋の設備を確認している。

「キッチン、よし。風呂トイレ別、よし。ベッドは1つか。まあ今の私小さいから2人行ける」
「おいおい俺ァソファで寝るぞ」
「家主にそんなことさせるわけないじゃん。別に何も起こらない」
「バレたら殺されるつってンだろ!」

 主にシドとお前の兄にな! と心の中で呟く。そんな考えもいざ知らず「別にキミがヘマしなきゃ誰も死なないよ?」と首を傾げた。お前、マジかという言葉を飲み込みながらキッチンに食材を置く。

「飯は当番制でいいか? 今日は俺が作ってやっから明日はお前がやれ」
「いいの? ていうかネロサン料理できるんだ」
「おぼっちゃんと一緒にされるのは心外だナァ」

 病み上がりみたいなやつなンだから座ってろと言いながら食材を手に取った。



 適当な料理を与えると意外なことに普通に食べた。いつもだったら一瞬で消える引くような食事が一般的な時間で胃袋に収まっている。さすがに大人のような暴れっぷりは発揮されないようだ。現在はシャワーを浴びに行っており、シドから怒りが込められたリンクパール通信が来たので適当に受け答えする。

『だからお前は急にどこに行って』
「アー大丈夫だ。明日はキチンと出社して片付けるっつーの」

 扉が開く音が聞こえた。「スマンがありがてェ説教は明日な」と切断し、それと同時にタオルを頭に乗せパジャマ姿のアンナが現れた。

「通話中?」
「お前愛しの会長サマからの説教だぜ。何せお前のひっでェラブレターで飛び出したわけだからな。怒髪天なンだわ」
「あっそう」
「っておい何髪拭かずにこっち来てンだよ! 濡れンだろうが!」

 興味なさそうに髪から雫を落としながら歩いているので注意した。するときょとんとした顔で「自然乾燥」と言うので「この野生児が」と頭を抱えながらドライヤーで乾かしてやる。

「耳に触ったら殺す」
「無茶言うな。イヤならその耳取り外せ」
「ふっ……耳だけにイヤと―――何でもない。そう言われると何も言い返せないねぇ」

 そう言いながら鞄から香水を取り出そうとするので強引に分捕った。

「や、め、ろ」
「なぜ? ガキが色気付くな?」
「オレはお前が付ける香水持ってねェから。バレたくねェつってただろ」
「ホーそこまで配慮してなかった」

 確かに万が一があるか、と言いながらソファにもたれかかる。何でオレがガキのドライヤーの世話をしないといけないんだ、ボソボソ呟きながら軽く乾かしてやる。途中から気持ちがよかったのか気の抜けるような声と一緒に長い耳が垂れ下がっているが指摘したら怒り狂いそうなので何も言わない。普段この行為をしてないような言い分なので多分これはシドも知らないだろうなと思いながら終わったぞと頭をポンと撫でてやった。
 その後、今回のブツも含め他に錬金術師ギルドにあった薬の効果について質疑応答を繰り返しながら時間を過ごし、夜が更ける頃に布団に投げ込み眠らせた。メスバブーンと呼ぶものの"明らかに存在するもう1人"の影響か少々頭が切れる部分があることを最近察した。"命の恩人"とやらに何やら施されてしまった技術の恩恵をいつか解析してやりたいと思っているが"障害"が多すぎて辟易する。
 寝る前に小さな肩に触れてしまった。ひんやりと冷気が伝わる。

「うわ冷て。いやこりゃ意外と冷房代わりになるか」

 つい抱き寄せそのまま眠ってしまった。普段からこれ位大人しければもっと別の道があったかもしれないという考えを煙に巻きながら明日以降のシドやエルファーへの誤魔化し方を考えるのであった―――。


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1日目 // 2日目 // 3日目 // 4日目 // 5日目 // 6日目 // 【R18】7日目 // エピローグ

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「やあシド」「アンナか、ってお前さん何を持ってるんだ?」 聞き慣れた声に振り向く…

漆黒

#シド光♀ #即興SS #季節イベント

漆黒

"七夕"

「やあシド」
「アンナか、ってお前さん何を持ってるんだ?」

 聞き慣れた声に振り向くと目の前は緑色。何やら紙がぶら下がっているようだ。

「笹。願い事をほら書いて」

 そう言いながらアンナは紙とペンを押し付ける。シドは首を傾げ詳細を聞いてみた。

「7月7日、東方地域では七夕という行事がある。願い事、笹に吊るして、ロマンチック」
「分からん。ていうか笹だけならともかく紙まで吊り下げて重たくないか?」
「大丈夫。まああなた神事がない所出身だしそういうのあまり分からないかもね」

 苦笑しながらアンナは東方に伝わる七夕の伝承について話をする。シドは相槌を打ちながら聞いていたが、話終わったら否や首を傾げた。

「引き離された恋人についての伝承から短冊に願い事を書くという行為に繋がりはあるのか?」
「それ帝国出身のロマン分からずやたちが同じようなこと言ってた。まあそういうもんって受け取ってよ。前に日付を見てね、そういえば昔フウガがそういう行事あるって説明してくれたの思い出し。暁とガーロンド社の人たちに願い書いてもらってた。キミ最後」

 またリンドウ関係かよと眉間に皴を寄せるが、唐突に淡い思い出に付き合わされることになった面々に同情する。多分自分も拒否権は無いだろうなと苦笑し、書かれた願い事を眺める。

「っと『ボーナスが欲しい』に『長期休暇が欲しい』はウチの社員か。おいおい予算に関わることも書いてるじゃないか。ん? これ誰が書いたか分かるか?」
「書いてもらう際いずれも匿名希望が条件。いやあでも欲望たっぷりなご要望もいっぱいあったから燃やす前にジェシーとシドにはとりあえず見てもらおうと。面白いでしょ?」
「燃やすのか?」
「願いを昇華する儀式ってやつだよ。ていうか燃やさないならどこに置く気?」

 そっち側の短冊はガーロンド社で、自分の方にあるやつは暁のだと苦笑しながら笹を揺らした。シドはいくつか短冊を眺めた後、そういえばと口を開く。

「……アンナのはどうした」
「は?」
「アンナは何を願ったんだ?」
「まだ書いてない。なつかしーって当時の出来事反芻してるのみ」
「じゃあ当時は何って書いたんだ?」

 アンナは「確かねえ。フウ……」と言いかけた所でハッと我に返りシドの顔色を伺う。少しだけ目付きが変わったように見えた。慌てながら軌道修正を図る。

「フウガがその少し前に言ってた言葉があってねえ! それを書いた! 無病息災!」
「むびょ、何だそれ」
「東方の言葉で病気知らず、健康である。そんな感じだと思えば」
「じゃあそれにするか。元気でいたいからな、向こうの文字でどう書くか教えてくれないか」

 ニィとシドが笑ってやるとアンナは一瞬目を見開く。「それに」と言葉を続けると少しだけ泣きそうな顔を見せた。

「お前さんも元気でいて欲しいしな」
「え」
「俺よりも倍以上生きるつもりなんだろ? 少しでも長生きしないとな。アンナは何と書くんだ? ってどうした」

 怪訝な目で見ているとその視線に気付いたのか、アンナは咳払いをしニィと笑った。

「シドが少しでも長生きしますようにとでも書いておくよ」



「フウガ、村の中心に竹があるのは何で? 前来た時なかったよ」
「ああ七夕の時期だからだろう」
「たなばた?」

 赤髪の小さなヴィエラはすらりと背が高く真っ白な壮年のエレゼンの手を握り、その緑色をじっと見つめながら話を聞いた。

「という伝承があってな。その祭りとして、願い事を短冊に書いて吊るす地域が有る」
「ホー面白いね」
「どうだ、エルダス。よければお主も書いてみないか?」
「フウガも書くなら!」

 ニコリと笑いながら跳ねる姿に不器用な笑みを返した。近くにいた村人から短冊と筆を受け取り、フウガと呼ばれた男は慣れた手つきで文字を書く。少女はそれを眺めながら「何書いた?」と聞く。

「無病息災」
「どういう意味?」
「病気知らず、健康である。そんな感じだと思えばよい。私もだがエルダスにも元気でいて欲しいのもある。何せお主は私よりも3倍以上長生きするんだ。少しでも長生きせんとな」
「もーフウガったら。フウガは強いんだからぜーったい病気にはならないよ」
「そうかそうか。さあエルダスも書きなさい。何と書くのだ?」

 少女は「決まってるよ」と笑顔を見せた。そして拙い字で願い事を書く。フウガは覗き込み、苦笑した。

「フウガが少しでも長生きしますように!」


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#シド光♀ #即興SS #季節イベント

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注意&補足暁月.0終了後、実際ゲーム中でエンピに家を建てたのでそれを反映したお話…

暁月

#シド光♀

暁月

"帰る場所"
注意&補足
暁月.0終了後、実際ゲーム中でエンピに家を建てたのでそれを反映したお話です。
 
―――最近"また"アンナの様子がおかしい。いや、変なのは最早日常だ。が、今回ばかりは意味合いが違う。

 アンナがまた世界を救い、負ってしまった傷が癒えた後。あの人は何事もなく気ままに人助けをしながら現れる生活を繰り返していた。が、約1ヶ月後、また連絡の頻度が減り滅多に顔も出さなくなった。まだ説教が足りなかったのかとため息を吐いているとリンクパールが鳴る。

『次の休日はいつ?』
「ああ一段落ついたから週末は休みだが」
『世界が滅ぶまで休み無しかあ』
「違うに決まってるだろ」
『ナイスジョーク。じゃあまた迎えに行くね』

 飄々とした声で一方的に用件も言わず数言交わして切られる。やっぱり様子がおかしいのとどこかデジャヴ感があった。またリテイナーからイタズラにしか使えない変な道具を渡したか知恵を貰ったのかもしれない。アレが作ったと判明した"発信機"によると、主にイシュガルドで"仕込み"を行っているのは分かっている。少しだけ胃が痛くなった。



 数日後。

「久しぶり」
「だからお前は勝手すぎると何度言えば」
「ずっとエオルゼア周辺にはいたからノーカン」

 ほらこっちこっちと腕を引っ張られ、飛空艇のチケットをチラリと見せた。「トップマストか?」と聞くと「違う」と言いながら放り込まれた。確かにこの時間に出る便はイシュガルドだったかと記憶を辿っていると目の前が真っ暗になる。どうやら目隠しを施されたようだ。

「こら」
「サプライズ。私がエスコート。それとも抱っこがいい?」
「往来でそんなことをするんじゃない!」
「人通り少ない場所は把握済み。安心」

 何が安心だ。また変な企みかとため息を吐きながら「せめて飛空艇から降りるまでは外してくれないか。どの選択肢でも怪我するだろ」と言ってやると「ほんとだ」と外した。イタズラっぽい笑顔が相変わらず綺麗でため息を吐く。だってこれで少しだけ許してしまう自分がいるのだから呆れるのも当然じゃないか。

 イシュガルドランディングを抜け、再び視界を覆われた。手を引かれ、歩かされる。時々「こちらへ」等声が聞こえた。食事会にでも連れて行かれているのだろうかと首を傾げていると「怖くない怖くない」と頭を撫でられる。「俺は子供じゃない」と威嚇するような素振りを見せるとクスクスと笑う声が聞こえた。
 ふと「止まって」と言うので立ち止まり、「どうした」と聞くと目隠しが外される。光で目が眩み、目を細めながら正面を見るとそこには一軒家。そして傍には赤色のバディチョコボ"フレイム"がいる小さな厩舎。嫌な予感がする。眉間に皴が寄っていった。

「フレイヤ、お前まさかと思うが」
「アンナと呼ぶ。―――私の家」

 あえて本名で呼んでやる。デジャヴ感は間違えていなかった。トップマストの一室に連れて行かれた時と全く同じ状況で。とりあえずどういう意図で連れて来たのかを問う。

「もうしばらくエオルゼアに留まるなら本格的に腰を落ち着かせる場所を準備しようと思い」
「分かる」
「そしたらイシュガルド復興プロジェクト完了、エンピレアムオープン」
「新聞で読んだな」
「じゃあここにSでいいから土地買お」
「……ん?」
「即応募、無事当選、購入。内装はとぼんやり手を動かし気が付くと1ヶ月経過。連絡より考える優先だとしてたのもあり反省し。一番最初に人を呼ぶのはキミと思ったのが数日前」
「お前薄々感じてたが相当のバカだな?」

 外界のことを忘れ鼻歌を歌いながら内装を整えている姿は容易に想像できた。肩を落とし、ため息を吐く。その姿を見たアンナはニコリと笑い、「寒いでしょ? ささ、中へ」と案内した。



 玄関に入るとキッチンやリテイナーを呼ぶベルに食事スペース。真っ白な庭を見渡せる窓の傍には雑に物を積んだ作業机があった。手狭だが最低限の実用家具だけがそろえられている。「休みスペースは地下」と言いながら案内されると確かに寝台やクローゼット。暖を取る場所も少しだけ準備されていた。アパルトメントと違い置かれている家具は大体大人2人以上がゆったり使えそうで。風呂やトイレはあっちと呑気に案内するアンナをジトリとした目で見ると不敵な笑みを浮かべていた。

「ラノシアより本社に近いでしょ?」
「……そうだな?」
「キミもいい加減会社以外に住むことを覚えなよ。前にほぼ会社にいるからそういう所出払ってるなんて聞いてたし」

 目を見開くと耳元でボソリと囁かれた。

「真っ白で寒い場所、キミと出会った時を思い出せる。グッドでしょ?」
「フレイヤ」
「だーかーらーアーンーナー。―――ボクら、故郷は捨てた身で帰る場所は無かった。まあキミはこれから復興するお手伝いとかもあるだろうけど。そろそろ作ってもいいんじゃないかな?」
「お前」
「まあお互い……特にボクは滅多に帰って来ないだろうけど帰る住処、いいなと思い。流石に終の棲家ではないけどさ。そういうのあると心の安定とやらが違うんでしょ? 書物で見た。あ、お仕事持ち帰ってやっててもよし」
「毎回何で! そういうことを相談もせず勝手にやるんだ! あといくら使った、正直に答えてくれないか!」

 頭痛がする。思い付けば即実行のアンナにはいつも驚かされてきたが遂にサプライズとやらが突き抜けた。どこぞの社員2人みたいに俺の名義で勝手に領収書を切られていないだけマシだが、脳の処理が追いつけずソファに崩れ落ち項垂れた。

「金銭心配不要。最近色々大儲け。ぐっへっへっ」
「似合わん笑い方だな。ってそういう問題じゃない。いつも貰ってばっかなのが情けないんだが」
「じゃあこれからカスタマイズすればいい。好きに弄ってよし」
「だからな」
「あ、もしかして寒い場所は故郷を思い出して嫌い?」

 少しだけしょんぼりとしたような顔で隣に座ったアンナに狼狽えてしまった。咳ばらいをし、笑みを返す。完全にガキの頃の話を持ち出されるのは不意打ちだっただけで問題はなかった。そして確かに少々肌寒い方が性に合う。

「いやそういうわけじゃない。こういうことするなら一言先にくれないか? サプライズにしては少々重いぞ。今後の人生的な意味で、だ」
「……ホー」

 それは一切考えに入れてなかったと柔らかい笑みを浮かべた。他意なくこういうことをやらかすアンナは本当に心臓に悪い。今回も遠回しの告白ではなくただ何も考えずにやらかしただけだろう。少しだけやり返すことにする。

「じゃあ一軒家ならいいよな」
「? 何かメリットあった?」

 ニィと笑いながら抱き寄せ耳元で囁いてやる。

「装置、無くても声出せるよな? 隣の家もそんなに近くない」
「……すけべ」
「いででで」

 ジトリとした目で思い切りヒゲを引っ張られた。まあこうされるのも当然な話だろう。恥の概念が搭載されていない人間が何を言っているんだとも思うが。
 ただ、トップマストにいる時は万が一に備えてとどこか慎重に対応されていた。後にあのリテイナーが持って来たという防音壁発生装置なんて都合のいいものが導入されてからは箍が外れつつあったがそれは置いておこう。頬に口付けを落としてやると盛大な溜息が聞こえた。

「帰る場所、か」

 本当に悪くない提案かもしれない。あの『人と深く関わりたくない』と頑なに拒否していた旅人がそんなことを口にしたのだ。1年前の自分に言っても信じてくれないだろう。まあどうせ明日にはまた別々の道を奔って滅多に会えない関係なのは変わらないのだけは分かる。

「―――私だって少しはここで休む努力するさ。リテイナーが何やらかすか不明」
「は? まさかあのミコッテか?」
「上の作業机、あの子が希望、設置。内装考えてる時に凄く駄々こねられて」
「俺もなるべく帰れるよう頑張るが……何やってんだあいつ」

 どうやら相当我儘を言われたらしい。少しだけ疲れた顔をしている。

「『外の景色を気分転換で見れる場所がいい! 俺様だって住みたい! いいだろいいよねいーいーよーなー』がメインだったかな。もーあの子たちの中では一番の大人なのに中身はお子ちゃん」

 まさに前に見たビデオレターと変わらないムカつく男である。アレは御伽噺で見たような不気味な笑顔を見せる部下でありアンナの兄の友人だ。遥か昔に自らを模した"クローン"を作成し、現在は当時の記憶もそのままに各地を元気に走り回っている。近頃アンナによって行われるイタズラはこの男が"持って帰って来たもの"で起こされていた。本当に持っている技術が惜しいがアンナの関係者じゃなかったら絶対に関わりたくない。腕は確かなのだが、この男にだけは絶対頭を下げたくなかった。
 閑話休題。少し考え込んでいると視線を感じた。アンナがこちらをジトリとした目で見ている。

「ああ待たせてしまったな」
「別に」

 もう一度口付けてやるとため息を吐き目を閉じる。ククと笑いそのまま身体を倒してやった―――。



「とりあえず近日中に私物は持ち込もうと思う」
「ご自由に」

 早朝。着替えながら今後の計画を話し合う。高い買い物をされてしまったので好きにやらせてもらおうと悟った。以前『メスバブーンに関しては目の前で起こったことは全力で楽しむ方が有意義だ』と誰かが言っていたが、確かにそうだと思ってしまう。何故あいつの方がこの結論に至るのが早かったかはムカつくだろうから聞きたくない。

「本当に好きに弄ってもいいんだな?」
「ボクは怒らない。リテイナーたちの休憩場所とキッチンさえちゃんと残してくれてたら違法建築可能」
「いやそこまではできないが。まあア・リス以外の子らはお前さんにとって大切な家族だしな」
「でしょ? ていうかア・リスあんまりいじめちゃダメ。情けないって思っちゃうくらい泣かれるよ?」

 なんて言いながらアンナはニィと笑いながら肩に顎を乗せる。最初こそは頭上で身長が縮むだろうと冗談を言い合っていたが、実はヴィエラ族が行う一種の愛情表現だったことを後に知り衝撃を受けた。まあ当の本人は自覚していなかったようだが。

「ほら、今日は暁からお呼ばれ」
「―――ああ」

 ぐしゃりと頭を撫でてやると所謂"余所行き"の笑顔を見せていく姿は、以前の黙って何もかも背負っていた祖国の怪談であり、英雄でもある人間とは思えない。

「好きだぞ、アンナ」
「―――知ってる。素面で言わない」
「言ってやらないと分かってくれないじゃないか。……帰って来いよ」
「折角高い買い物したのに簡単に消えると思って?」

 じゃあ次のイタズラをお楽しみにと言いながら鍵を押し付け外へ出て行った。自分も行かねばと軽くため息を吐きながら出立の準備をする。

―――流石にこれより上のイタズラはプロポーズより先なのではと思いながら。


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#シド光♀

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注意・補足セイブ・ザ・クイーン第4章終了後ストーリー補完。ちょっとあまりにもシド…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

"嫉妬"
注意・補足
セイブ・ザ・クイーン第4章終了後ストーリー補完。ちょっとあまりにもシド自機の話にかち合うので急いで書きました。
 
 自分を苦しめ続けた全てに片が付いた、気がした。ペンダントの蓋を開き、その写真を見つめる。1人酒を飲み、優しく微笑んだ。

「シド。ああ邪魔だった?」
「アンナか。いや、そろそろ呼ぼうとは思っていた」

 ボズヤ解放戦線はひとまず終わった。否、彼らにとっては一つの始まりになる。東奔西走し、武器を振り回していたヴィエラのアンナはジョッキを持ち、はにかんでいた。

―――途中から彼女と言葉をあまり交わさなかった。いや、避けられていた気がする。理由は分からないが。ただ槍を手にし、冷ややかな目で作戦内容を聞いていた。声を掛けてもすぐに「用事、あるから」と去る。それは初めて見せた目付きだった。が、振り返ってみると俺や暁の人間以外に向ける視線はこんな感じだった、と思う。兎に角、これまでの時間を考えると一瞬だけ他所他所しくなり少しだけ寂しかった。



 作戦中に社員リリヤが大怪我を負い、クガネに連れて行った。治療の合間にふとそれをネロにリンクパール経由でアンナが急に冷たくなったと言うと爆笑される。そしてこう言ったのだ。

『アイツ、槍握るとすげェ怖くなンぞ。オメガの一件中に一瞬マジな殺意喰らった。まさしくあの"鮮血の赤兎"、息が詰まって殺されンじゃねってな。ンで? ガーロンド、何やった?』
「分からん。記憶探索の後まではいつものアンナだった。クガネで慰めてくれたし。それから徐々に態度が冷たくなって、そういや槍を持ってるって思ってな」
『マァ相当ストレスが来たンだろ。だが多少の戦闘でそこまでキレるバブーンじゃねェ。お前が悪いンだろ絶対』
「きっかけがリリヤらから宿題を渡されて一度戻った後からかもしれん。そん時会話交わす暇もなかった。だから俺不在の間に機嫌を崩されちゃどうしようもないだろ」

 失礼なことにため息を吐きながら切られた次の日、再びネロの方から連絡が来る。すると『ただの惚気話に巻き込むンじゃねェぞ』と呆れたような声がした。わざわざ本人に聞いてくれたのかと感謝の言葉を述べようと思い、どういうことだと尋ねる。だが、『鈍感な男は本格的に嫌われンぜ? マァ新入りは復帰後お仕事増量しとくと代理サマからの伝言だ』としか言わない。モヤモヤとした気持ちを持ったまま第IV軍団との最終決戦を迎える。
 そして作戦終了後、リンクパール通信経由でリリヤが『あと英雄サン本当にごめんなさいッス! 姉御達から聞いてビックリしたッスよぉ……。だからボスの件は反省してるんで! どうか、どうか姉御に鬼な仕事量減らすように進言して欲しいッス!!』という悲痛な命乞いに俺含め周囲は首を傾げていたがアンナは「何を聞いたの?」と苦笑していたのが印象的だった。

 それが俺から見たアンナとボズヤ解放戦線の後半戦だ。判断ミスで大切な社員を大怪我させてしまったのは大失態だが、俺にとっては一つの区切りで。酒盛りの喧騒から離れ、1人親父との写真を眺めながら飲んでいると、よく分からないがいつもの物静かなアンナが姿を見せる。



「隣、いい?」
「ああ」

 隣に座り込む。一瞬だけ俺の脚に顔を擦り付けた。息を飲み、目を見開いてしまう。しかし何事もなくペンダントの方を指さす。

「それ、あなたとお父様?」
「ああ。15年ぶりに開いた」
「吹っ切れたってやつね。よかった」

 ほら、とジョッキを向けられたので軽く合わせる。アンナは一気にエールを煽り、俺に少し複雑そうな笑顔を見せた。

「冷たくしてごめん。あなたは悪くない。怖い思いさせちゃった」
「いや俺は大丈夫だ」
「……あれも私。"ガレマール帝国"の初代皇帝が欲し、兵士の間では怪談になったヒト。あなたが過去と向き合ったように私だって―――ね?」
「アンナ」
「アレを見ても、あなたは……私のことスキ? それとも兵器として利用してみる?」

 じっとこちらを見上げ、答えを待っている。笑みがこぼれ、肩を軽く叩き、寄せてやった。

「アンナは人間だ。兵器じゃない。いつも言ってるじゃないか。ただの旅人ってな」
「杞憂だったかぁ」
「そもそも兵器として見るならオメガの一件までにはそうしてるさ。今更だろう。アンナはもう余計なものを1人で突っ走る必要はない。俺も一緒に行くからな」
「バイシャーエンからも同じようなこと言われたよ。『そこまで解放者殿が背負う必要はありません』ってね。―――あの人が最後に止めてくれなかったら本気で過去に引っ張られてたかもしれない位やりすぎたのは反省してる」

 命の恩人(リンドウ)の修行による影響でバカみたいに強い力でこれまで色々解決してきた人間だ。今更目の色変えてしまうわけがないだろうに―――ここまで来てそんな心配をしていたらしい。だが、確かに"鮮血の赤兎"と呼ばれていた頃があったことを、嫌でも思い出した。心の奥底で罪悪感を持ち続けていた俺のように、アンナも笑顔という仮面を被り決して過去がバレないよう立ち回る。そうやってお互いずっと触れられたくない過去を封印し、見ないようにしてきた。きっと今回は帝国兵が相手だったから、そういう手段も取れたのだろう。向こう側がどういう反応をしていたのか気になる所ではある。
 そう思った所で意外なことを言い出した。舌をペロリと出し、イタズラな笑みを浮かべながら聞き飽きたあの言葉を吐く。

「まあ昔の私だったら、『だからあの人の方がいいよ。まとめて護ってあげる』って言ったかもね」
「おいだから何を今更」
「現実は怖くて言えなかった。不思議だね」

 ペンダントの方を見つめながらボソリと暗いトーンで機嫌が悪かった本当の理由を語り始めた。

「周りから見たらあなたとミコト、お似合いなんだってね」
「そうか?」
「頭いいし、ちっちゃくて可愛らしいし。護ってあげたい子だよね。研究職な子だし、真面目なあなたなら議論のし甲斐もあるでしょ?」

 鈍感だと周りに言われ続けた俺でも流石にここで気が付く。ネロから"惚気話"と吐き捨てられ、ジェシーによるリリヤに課された謎の"仕事増量"。そしてリリヤが何故かアンナ"に"命乞いをする声で察するべきだったかもしれない。声を出して笑ってしまう。

「何が面白い?」
「いやお前さんもちゃんと嫉妬するんだなって思ってな」
「別に。周囲がアドバイスやらで盛り上がってて少しだけイラッとしたから槍を振り回して……あっ」
「ほら嫉妬じゃないか」

 そっぽを向かれる。よく見ると肩が少し震えていた。まさか自分がいない間にそんな話がされてるとは微塵も考えになかった。そしてアンナが複雑な気持ちを持ってくれているとも予想せず笑みがこぼれる。これでまだ男女の付き合いをしてないというのが嘘だろ? と思う位には面白く感じた。

「きゃ、客観的に見たら最終的にそうなっただけで別に私自体はその。だから背中バンバン叩くなぁ!」
「今から言いに行くか? 俺にはアンナがいるから」
「必要ない! ヒミツはヒミツのままでいいし第一私はまだ結論が、ついてなく」
「はははそうだったな」

 きっとヒト耳だったら耳まで真っ赤な姿が見れただろう。少しだけ長い耳が後ろに倒れている。そのまま耳と一緒に頭を撫でてやるとジトリとした目でこちらを見上げた。

「待ってるぞ」
「……期待しないで欲しいねぇ」

 目を細め苦笑しながらアンナはその手を握り指先に口付ける。仕草はもう恋人そのものに見えるし、以前と違い見上げるように座っていることが嬉しい。昔だったら耳を触られたくないからという事実を誤魔化し、立ったまま飲んでいただろう。

「でもまあ……同じ背負うという行為ならば騒ぎながら"キミ"の重たい過去や夢と一緒に歩けるのは私だけなのは分かる。普通の人だったら押し潰されてるね」
「そんなにか?」
「キミの好き嫌いもその料理の作り方も、イタズラされた時の怒ってる顔が面白いことだって知ってる。あとキミだってよく不機嫌な顔して話に割って入るね。不在の間に起こったこと部下に聞いてるんでしょ? 把握してる。性行為中に見るなつってもずっと私を見る顔も、満足してイビキかいてるムカツク程腑抜けた寝顔だってぜーんぶ見てるさ」
「コラッ、外で言うんじゃない」
「でもね、どう言えばいいのかな。結論を出すには材料が足りない」
「いい加減観念してくれないか?」

 ここまで人のことを把握しておいて待たされるのはずっと待てをされ続けている犬の気分になる。目の前にご褒美があるというのにどうしてこんなにも焦らされるのか。ジトリとした目を向けると少しだけ困った顔をしている。

「中途半端な結論は絶対に後悔するから。慎重に考えてる、んじゃないかな、うん。ええっと、その」

 しどろもどろに言葉を紡ぐ姿が珍しく感じる。今までこちらの感情を散々煽っていた時の面影は存在しない。自分はされたくないのかと呆れてしまうがそれが本来の姿なのだろう。

「―――いつか一緒にガレマルド、見に行こうね。キミの故郷で、ボク達が出会った場所」
「……ああ」
「かつてどう魔導城まで走ったかも教えてあげるよ、その時」
「それは楽しみかもしれんな」

 どうやら感情についてはもう聞いて欲しくないらしい。仕方がない、今夜"は"我慢しようじゃないか。傍に置いてあった酒を再びジョッキに注ぎ、星を見上げながら2人で静かに飲んだ。
 途中、酔っぱらったゲロルト達も乱入し、その静かな時間も破壊された。だがまあそれも楽しかったからいいだろうと笑い合う。結局飲みすぎてしまい、ほぼ全員まとめて酔わないアンナが介抱する羽目になったのはまた別の話。


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