FF14の二次創作置き場

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注意漆黒5.0終了後想いを伝えあってから間もない頃のシド光♀です。  …

漆黒

#シド光♀

漆黒

"口調"
注意
漆黒5.0終了後想いを伝えあってから間もない頃のシド光♀です。
 
 アンナはネロ相手の時だけ話し方が変わる。さん付けしながらも子供っぽく喋り、対等な位置に立っている。俺はというと周辺と変わらない最低限のことだけ喋り笑顔を浮かべるだけなのに。アンナの隣に立っていてもいいのだろうか。本当はネロの方が好きなのではないか? 正直な話をネロにぶつけると鼻で笑われてしまう。

「オレが? アンナを? ない、絶対にありえねェ。メスバブーンと恋仲とか絶対無理に決まってンだろ」
「そこまでゴリラではないぞ失礼なことを言うな」

 ネロ行きつけのバーにて俺は最近浮かんだ自分の悩みを打ち明ける。アンナのことが分からない、と。するとゲラゲラと笑いだす。

「オマエが分かンねェならこの世で生きてるヤツら誰一人理解できてねェ。少なくともあいつに近いのはオマエだろ。ていうかその話本人にしろよ何でオレにすンだよ」
「まあそれはそうなんだがどうやってそんな話し方するような関係になったか知りたくてな」
「何もしちゃいねェぞ。どちらかというと舐められてる感じだぜ? アーでも一度殴り合いで舐めプされて負けた身だしオマエもそうすりゃいンじゃね」

 確かにそうか。いやアンナと喧嘩なんてありえない。口でも力でも負ける未来が見える。

「大体あの喋り方は兄のマネしてるだけじゃねェか? どこにうらやましい要素があンだよ」

 知ったことかとこの日はため息を吐きながらネロに嫉妬の感情をぶつけ終わった。



「てのがな」
「へぇシドって真っ当な嫉妬もするんだ。意外」

 ネロは恨み言をアンナにぶつけている。なんとかしろ、と睨むがそんなこと言われてもと返される。

「そもそもネロサンと話してる時の口調が本来の自分とは限らないでしょ」
「はーそう来たか。じゃあガーロンド相手が本来のか?」
「……絶対違うねぇ。ていうか本来の口調というものが分からず」

 グリダニアに着くまでどういう生活してたか知ってるでしょ? と言うとネロは「アー」と肩をすくめた。

「人との話し方なんて相手によって変えるに決まってるじゃん。ネロサンだって上官相手とそれ以外で態度違ったよね?」
「上下関係持って来ンのは反則じゃねェか?」
「素というものを出すのって諸刃の剣。仮面を使い分けて世渡りするのが人間ってやつだろう?」

 まあバカ正直なシドと違ってボクは仮面しか持ってないって感覚だけどねと苦笑しているのを見てネロはため息を吐く。煙草をくわえるとアンナは指を向け、「バァン」と火を灯す。兄妹揃って着火剤いらずだなァと思いながらふと目をやるとシドがいつの間にか立っていた。毎回タイミングが悪すぎると眉間に指を当てる。

「それ、日頃からオマエの背後にいるやつにな?」
「え、何言って……あ、シド」

 あまりよろしくない機嫌のシドにアンナは困ったような笑顔を見せた。一息ついてネロに手を振った後先手を取るようにシドの腕を引っ張り部屋を出た。



 仮眠室に使用中の札を付け、扉を閉め鍵をかける。そして固いベッドにシドを倒し上に乗る。

「あ、アンナ? まだ昼だぞ」
「言いたいこと、ある?」

 眉間、頬、首元、胸に口付けた。これはシド相手には本音を引き出す手段として効率的だと判断している。他の相手にするはずがない。

「私がこれをネロサンにすると思う?」
「し、しないしさせん」
「ベッドの上で他人行儀だったことある?」
「……ない」
「普段から人前でイチャつけって言いたい?」
「わ、悪かった。そういうことじゃなくてな」

 じゃあどういうこと? と耳元で囁いてやる。髪の毛を優しく撫で言葉を待つ。

「もっと親しくなりたい。本当のアンナを知りたいんだ。お前の隣に立つにふさわしい男かも分からない」
「ばーか」
「真剣に悩んでるんだぞ?」
「……真剣に莫迦」

 鈍感かと頬をつねる。最大限の扱いをしているつもりなんだがと口には出さず胸の内を話してやる。

「誰がネロサンの前では素って言った? あの話し方する相手は他にもいる。あと最低限にしか喋らないのは旅人を印象に残さない名残。それに」
「それに?」
「……あなたが見て来た自分がそんな自分。イメージ崩したくないし幻滅されたくない。あと急に態度変えたら普通は驚き」

 シドは目を丸くしている。そしてくくくと笑った。笑うなと言ってやると突然世界が反転する。上に乗り、垂らしている髪に口付けている。そして「すまなかった」と顎を固定しかぶりつくようにキスをした。

「優しくする所では?」
「バカと言われたからな」
「そっちかあ」
「よくイタズラしてゲラゲラ笑っておいて今更幻滅とか言うんじゃない」

 襟元を緩められ、噛みつかれる。アンナは目を見開き「痛っ」と声を漏らした。首元がゾワリと粟立ち、本能的にこれはヤバいと察知しながら思い切り手刀を落とす。

「仕事中!」
「アンナが悪いだろ明らかに―――ぐっ!?」
「話を聞く!」

 痛みに悶絶するシドから"ヤバイ予感がする"雰囲気が消え安堵した。趣向を変えようとニィと笑顔で声のトーンを落とし言ってやる。

「はいはいボクが悪かったですよーだ。まったくキミはいつサカろうとするか分かんないねぇ」
「う……いやそれはお前が」
「今日はレヴナンツトールに1日滞在するから働いてきなよ」

 パッとしない感じになってしまったと思いながら相手の反応を伺うと笑顔になっている。分かりやすい顔だなあと目を細めながら「ほらジェシーに怒られるよ」と送り出してやる。
 シドが立ち去った後、天井を見上げながらため息を吐いた。一拍置いた後、「はー人間って分かんね」と浮かぶ笑顔を抑えることができなくなっていた。あの男はとても面白い。人と関わるために立てる予想が彼相手だと結構な割合で最終的に外れてしまう。まだまだ兄と違って未熟だなと緩む口元を引き締めた。


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#シド光♀

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 漆黒編上げてます。あとマルケズ時代の自機視点のお話も上げました。まずは後者のお…

メモ

メモ

20240127メモ
 漆黒編上げてます。あとマルケズ時代の自機視点のお話も上げました。まずは後者のお話。

 よくシドがアンナが過去に会った旅人だと分かったらバグるぞという表現をしていましたが実はとっくの昔にアンナが通った道だよっていう話です。
 アンナ視点のマルケズのお話をいつか書きたいと思っていたのできっかけを考えてたら過去に書いてた話で与えられた部屋の場所を忘れて外にいたというのがあったのを思い出したのでそれを採用しました。
 シドは初めてアンナに渡したプレゼントというのは星芒祭の時の髪飾りだと思っていましたが、実は目印として徹夜で手作りしたドアに付けた銀色の飾りだった。本人はそれを彼女のアパルトメントの扉に付けているのを見るまで忘れていたけどって感じ。だから手作りのからくり装置を準備していたんですね。後付け設定ですけど。
 この地点で既に少しだけ意識はシドに向いていて、ガルーダ戦前にあの寒空に出会った少年だったと分かり衝撃を受けます。そして無意識にアピールし始めるんですね。本人はあまりバレたくないのに何やってるんだ! ってバグってます。この地点で分かってたら寄り添うつもりだったけど覚えてなかったら覚えてなかったでそちらの方が絶対に幸せだと思っているので葛藤しています。
 というのもあってこのドア飾りが最初の彼女を導く星だったわけですね。お守りとして鞄に仕舞い込んでいました。
 漆黒後に実際ミスト・ヴィレッジにアパルトメントを購入してたんですね。そのネタで色々書いたので扉に目印としてまた付けたことにしましたって感じ。何度か休暇時にシドも訪れていて、ある日何か見覚えあるぞ? ってなり思い出しました。本人は知らん覚えてないと一点張りしますがまあね。甘い感じのオチに出来たので満足です。

 以下漆黒編。
 紅蓮以降の仕込みがほぼ終わったので書き始めています。まず前にも書いたように水晶公はアンナの過去を全て知っている設定です。
 エメトセルクの話。アンナが露骨に嫌な顔をするので心配した水晶公+暁のメンバーが守護ってくれています。アンナ本人は胃の痛みが軽減されて助かると思っています。
 2人が出会ったのは50年程度前のガレマール帝国。次に捕まったらキミの言うことを聞いてやるよという約束を交わします。しかし鮮血の赤兎であった自分は5年ほど前に死んだしソル帝は死んだからノーカンだよね!? と挙動不審になっています。エメトセルクはもうコイツは用済みだし仲間消滅させたしバケモノがよと思っています。
 そして何度か出した『奥底に闇の杭が打たれ、何者かの手によって一度エーテル、というより魂そのものに操作を施されたような形跡がある』ってやつですね。これは『一部だけ』エメトセルクがやったことになります。出会った時のアンナ、その時はガーネットと名乗りましたがその時の彼女はひどいものでした。あの人の魂が辛うじて見えるほど恨みと憎しみに支配されこのままでは飲み込まれて本物のバケモノになる所を彼が剥がしたのです。それが旅人は人に擬態するであった『心が引き裂かれるように痛かったけど何かこびりついた憑き物を落としてくれた』ですね。その時に少しだけ仕込んだりもしましたが初夜にまでは至りませんでした。
 ちなみにこの時はアンナはまだ身長も胸囲も最高ではありませんでした。彼に会った以降で急成長しました。創造魔法でもかけられたんですかね?畳む


 ちょいちょい書いた自機兄の話。
 新生以降に裏で登場し、アンナの詳しい空白の過去に迫る話を中心に仕込みを行っています。お相手はネロで、蒼天終了後に一緒に行動する流浪の技術者として登場します。ぼちぼち出身の集落の異常さも出てきたりしますが、基本的にそういう"お仕事"をし出すのは性別が発現し、成人の儀を行ってから。なので性別が分かってほぼすぐに集落を飛び出したアンナは綺麗な存在です。それ位本来は淡白で効率的に仕事を行う不愛想なヴィエラが兄のエルファーです。
 漆黒開始後にガーロンド社に正式に出入りするようになり、アンナにバレないように立ち回るように。ネロとは信頼関係で、シドは一方的に目の敵にするがまあ嫌いじゃないって感じの印象。
 とりあえずnot光の戦士の話なのでタグだけ付けて拡張名の検索では出ないようにしています。読みたい人だけどうぞ。畳む

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「アンナそういえばドアの飾りだが懐かしいな」「? 何のこと?」 遂に気が付きやが…

新生

#シド光♀

新生

旅人は目印を置く
「アンナそういえばドアの飾りだが懐かしいな」
「? 何のこと?」

 遂に気が付きやがったかと目を背け心の中で舌打ちする。ミスト・ヴィレッジにあるアパルトメント"トップマスト"。一時的な荷物置き場として1室を購入して数ヶ月程度経過した。遂にその部屋の入り口であるドアに下げた無骨な金属を打ち付けて作られた飾り細工が話題になってしまう。

「いやアレは俺がまだ記憶喪失だった頃に作ってやったやつだろ?」
「記憶皆無。偶然鞄に入ってたから目印に置いただけだし」
「ならこちらの目を見て言ってくれないか?」

 嗚呼気持ち悪いくらい満面の笑顔になっている。そうだ、忘れるわけがないじゃないか。アレはこの正面でニヤつく男に出会った頃のお話。



 ボクは走っていた。勝手に巻き込んだ挙句ぐちゃぐちゃになった砂の家。悲惨な現場を見下すような目で眺めた後、恐怖と怒りを腹の中に溜めながらザナラーンを走る。
 辿り着いた先はキャンプ・ドライボーン郊外にある教会。一度イフリートの件で邪魔した場所だ。夜遅くに駆け込み、そこにいた司祭に無機質な声で言葉を吐いた。

「私は旅人。お世話になってた場所が、襲撃されて。ここに行け、と言われたの」

 愛想なんて捨ててしまうほど精神が疲れ果てていた。哀れに思った司祭イリュドはボクの肩を優しく撫でてくれた。その時にぼんやりと佇んでいたのが墓守のマルケズ、今のシドである。暁の協力者であるイリュドはしばらく隠れる拠点として滞在するように勧めてくれた。
―――本当は彼らも巻き込みたくなかった。相手はボクを探し手中に収めようとした皇帝が治めるガレマール帝国。5年前に"死んだこと"に出来たからと完全に油断していた。蛮族殺しとして名前が通るようになってしまい、耳に届いた可能性もある。どこにも属したくないから旅人と名乗っているのだ、帝国だけはごめんだねと当時は思っていた。当時中立組織とはいえ暁の血盟を拠点にしていた人間に説得力はないかもしれない。しかし助けを求めてくるのだから手を差し伸べるのは当然である。
 この日はマルケズに個室まで案内され、寝台に寝そべった。相変わらず朝まで眠れなかった。

 次の日、質素な食事をいただきお使いに出る。マルケズが何やら時計を修理したいとのことなのでドライボーンにて素材やら工具やらを集め、手渡した。その後はお腹が空いたので適当に郊外の動物を狩り、調理して食った。臭いを消すために水浴びをし、香水を付ける。戻った後にはすっかり夜で、いつもの場所にマルケズはいなかった。多分修理をしているのだろう。マメなことでと思いながら廊下に立つ。

「……部屋どこだっけ」

 同じ扉、暗い廊下。変に開いて違ったら迷惑だろう。ボクはため息を吐き外に出た。
 空を見上げるとそれは綺麗な星空だった。笑みを浮かべ、物陰にもたれかかり睡眠をとる。旅をしていた時によくやっているので慣れた姿勢だった。



 早朝、誰かが来る前に教会内の椅子に座り祈りを捧げるフリをする。物音が聞こえ目をやるとマルケズがフラフラと歩いてきた。ボクに気が付くとゆっくりと歩み寄り、修理が終わった時計を見せる。あまり詳しい人間ではないがパッと見この辺りでは見かけない仕様のものだなという印象を受けた。そしてえらく手先が器用な人なんだなと思考を張り巡らせる。
―――他人から集めた情報を整理するとエオルゼア方式でなくどちらかというとガレマール式のもの。ということは彼は帝国か属州出身者という所か。素振りを見る限り記憶喪失は演技には見えない。ということは亡命者で、逃げている途中に大ケガを負ってしまいショックで記憶も飛んだという所だろう。深く被ったローブの下にはゴーグルを付けているのが見えた。推測の域を超えないがガレアン人が持つ第三の眼を隠している可能性が高い。きっとエオルゼアではよろしくない目で見られたであろう。自分のことも分からないが何故か迫害される、そりゃ根暗にもなるか。しかし一晩でパッと直して見せた技術は手が勝手に動いたものとしては目を見張る所がある。記憶はなくても身体が技術を覚えていて、手先が器用な所から純ガレアン族で機工師だと結論付けた。

 その後声をかけられボクは再びベスパーベイへ。そうか、秘密結社の構成員は死体を送るべき場所が存在しないのか。"冥府"と呼ばれる還る場所は皆一緒なのに、と哀れな目を見せ冷たい躯を運び込む。まるで普段のボクの体温のように冷たく成り果てた数々の大きさのモノをため息を吐きながら持ち上げた。中には滅多刺しになっている死体もあった。確実に殺すのなら一突きでいい。帝国の人間とやらは頭がおかしいやつばかりなのかと1人拳を握り締めた。そして最後に小さなトモダチを黒衣森へと運ぶ。お礼を言われたが、全く嬉しくなかった。自分が現れなければノラクシアは殺されなかっただろう。小さな声で再び謝った。

 腹が減ったので再び適当に狩りをしてから教会に報告する。相変わらず辛気臭いマルケズは不気味だった。まあ自分も周りから不気味だと囁かれているのはちゃんと耳に届いていた。ヴィエラなんだからこの長い耳で全部聞こえてるに決まってるだろう。相変わらず与えられた一室の場所が分からなかったので野宿した。



 それからまた次の日も何も起こらないまま外で狩りをしながら見回りを行い、夜は外で星を見ながら野宿を決める。別に恥を忍んでもう一度部屋の場所を聞いてもよかった。が、また忘れてしまい夜も更け寝ようと思った時に気付く。自分のことより周りに帝国の陰が見えるような気がして、そちらに集中してしまうのが一番よくない話だった。

 今日も空を見上げながら伸びをするとふと教会の扉が開く音が聞こえた。誰か忘れものでもしたのかなと無視していると「何を、している」と声をかけられる。声の主へと目をやるとマルケズがいた。「星を見ているの」と返してやると少しだけボクを見つめた後少し離れた場所に座る。何がしたいんだこの人。墓場でなければ異性と星空を見上げるという行為はロマンチックだろうねえ。そう思いながら無言が耐え切れなくなったボクは呟いた。

「暗闇は、嫌い」

 ボクは昔から暗闇が嫌いである。生まれ故郷を飛び出したあの真っ暗闇の世界が未だに忘れられず、何度か夢にも出て来た。彼は目を細め、「なぜだ?」と聞いてくる。

「真実を隠し、私を狂わせるから」
「俺は好きだ。落ち着くんだ」

 真逆の思考である。そうか、今の彼からしたらこの闇は記憶のない自分を包み込んでくれる優しい存在なのかと察する。ため息を吐き頭を両膝に埋めた。本当に何で、旅人なのにこんな所で怯えないといけないんだ。体が寒いとガタガタ震えが抑えられなくなってくる。すると突然背中に温かい感触。マルケズが「だ、大丈夫か?」と背中を優しくさすったようだ。どこか少しだけその寒さが消え去った気がする。「大丈夫」と次なる話題を探した。そうだ、言うなら今だろう。

「あと迷子になる」
「……は?」

 顔を上げ、真剣な目で言ってやる。マルケズは面喰ったような顔を見せた後、「そういえばいつも朝礼拝堂で座ってたな。まさかと思うが自室が分からないのか?」と聞いてきた。

「……はい。って笑う所あった?」
「す、すまない。短い通路で迷われるとは思わなくて」
「むぅ失礼なヒト。違う部屋を開けたら失礼かもしれないっていう配慮だよ。でもまあ……笑えるんだ、よかった」

 今まで不愛想な対応をしていた男が笑う。少しだけほっとした。優しい笑顔が綺麗な若造だなって印象を抱く。

「何かトラウマで笑えないのかなって」
「その、俺はただ―――」

 どうせ記憶喪失で不安だっただけだろう? 言葉を遮るように早速部屋まで案内してもらうために立ち上がり手を差し伸べた。

「さ、誰かに見られたくないでしょ? 私みたいな悪い人に襲われちゃうかもよ?」

 手を引っ張り立たせる。少し慌てている顔が面白い。ゴツゴツする手を触り、観察する。自分とは真逆の温かく、大きくて、手入れはあまりしていないのだろうその指はガサガサと荒れ、マメがあった。ふむ予想通り技術者でそれなりに熟練の人間か。「な、何をしている?」と聞くので極力優しい声で答えてやる。

「技術者の手」
「そう、か?」
「数日観察の結果、ね。今触ってみて確信した。大きくて、しっかりとしてて私は嫌いじゃないな」

 目を見開きボクを見つめている。面倒だから「明日に支障が出るよ? あなたがね」と言いながら教会へと足を進める。待てと言葉と共にマルケズがボクを追い抜き、その後部屋まで案内してくれた。「ありがと、おやすみ」と言ってやると「ああおやすみ。もう迷子になるなよ」と素っ気なく返される。慌てて自分の部屋だと思われる場所に早歩きで去って行った男の表情は深く被ったローブで見ることが出来なかった。多分相当眠かったのだろう。



 久々に寝台の上で目を覚ました。昨日までよりもどこか晴れやかな気分で。身体をうんと伸ばしながら外に出る。
 機嫌がいいので朝食の手伝いをした。その時の驚く教会の人間の顔は忘れられない。未だ出て来ない男の部屋の場所を教えてもらい扉を叩くとゆっくりと開く音が聞こえた。目を見開き「どうした?」と聞くので肩をすくめてやる。

「もう朝ですよ。イリュドが心配してたわ」
「ああすまない。完成したから今から出よう」

 何を? と聞くと付いて来いと言われたので歩いた先はボクに与えられた部屋だった。慣れた手つきでドアに銀色の無骨な飾りを下げる。

「これでもう迷子にならないだろ?」
「―――もしかして一晩で作ったの?」

 ニコリと笑いマルケズはその場を去ろうとした。お礼ぐらい言わせろと腕を引っ張る。

「ありがとね」

 それだけ言って離してやる。嗚呼今日はなんていい日なんだ、そんな笑みがこぼれた。

 また数日後、少年アルフィノがボクとマルケズ、いやシドを連れ出した。その時、何も言わず飾りを鞄に入れる。役割を終えたそれは初めて彼がくれた"目印"で。その時何故か分からなかったけれど、誰かのものにしたくなかったのは確かだった―――



「そういえば少し前、個人的な用事で司祭に会いに行った時見当たらないなとは思ってたんだ」
「知らない」
「観念しろ」
「しーらーなーいー」

 うざい。これ見よがしに全力で絡んできやがる。いや逆の身だったら自分もネタにするから強く突き放せない。両手を上げ降参のポーズを見せる。

「あー……ここだって同じドアばっか。見分けつけるのにちょうどいいやつあるじゃんって思っただけ。それ以外の理由はない」
「今だったら工房に行けばもっといいもの作れるぞ? 有りもので作ったやつだし少々恥ずかしいんだが」
「これでいい。忙しいキミの手を煩わせたくない」
「まあアンナがそう言うならいいが……いややっぱ次に贈るものとして考えておこう」
「だからアレでいいの。自分の場所って一目で分かればそれでいい」

 そう、これでいい。ボクは笑みをこぼした。


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#シド光♀

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注意 シド光♀前提のエメ→光♀です。漆黒ストーリー中盤辺り。  ―――…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

旅人を闇は抱きしめる
注意
 シド光♀前提のエメ→光♀です。漆黒ストーリー中盤辺り。
 
―――あの人の露骨に嫌そうな顔を見て、これは守らないといけないと俺は決心したのだ。

「ウリエンジェ、少々よろしいか?」
「どうされましたか、水晶公」

 秘密裏に協力して貰っているあの人の仲間、ウリエンジェを呼び止める。

「アンナとエメトセルクをなるべくでいい、2人きりにしないように誘導してもらえないだろうか」
「構いませんが……貴方はお二方の関係もご存じなのですか?」
「勿論。その内本人の口から話をすると思われるから詳細は避けよう。……アンナは彼とは一度しか会わず、アシエンだったということも知らずに英雄となったことだけは伝えておきたい」
「それが聞けただけ安心しました。昨日エメトセルクが挨拶に来た際、ものすごく動揺していたのを見て私たちは心配しておりました」

 皆になるべく付いて行くよう進言しておきましょう、と言いながら去る姿を見送り、自分のやるべきことに戻る。



 何かがおかしい、アンナは考え込む。
 絶対に暁の誰かが付いてきている。今までは個人行動が多かった気がするのだがラケティカ大森林に行くことになった時以降、誰かが隣にいた。まあエオルゼアと違って危険すぎる世界だ。手の届く範囲で彼らを守ることができるのは嬉しい話なのでそこは気にしない。あとは彼らがいる際はあまりエメトセルクが干渉してこないというのも大きい。大体皆が対応してくれて自分はニコニコ笑うだけでいいというのは楽な話だ。胃の痛みが抑えられているのも確かだ。
 まあ流石にペンダント居住区の自室までは来ないのでその隙をついて滅茶苦茶滞在している。寂しがりのお爺ちゃんみたいだ。言ったらどんな嫌味が飛んで来るか面倒で考えたくないから黙っている。
 ボクはある日「この手紙、あなたが犯人ってコトでいい?」と聞くと何も悪びれずに「そうだ」と言いやがったのは少々イラっとした。

「お前にやらせようと思っていたことは曾孫のゼノスがやってくれたからな邪魔になったんだよ」
「こんな無名の旅人に破られる程度のヒトしか集められなかった方に問題があるんじゃな―――ッ」

 バランスを崩し、目の前には明らかにお怒りなエメトセルク。なるほどこれが押し倒される側ってやつか覚えておこうと呑気に考える自分の脳が少し怖かった。

「バケモノが何を言っている。楽しかったか? 人間ごっこは。エオルゼア全体を騙し英雄とちやほやされて」
「ナイスジョーク。痛いから離してもらいたい」

 押さえつける腕を強引に掴み抵抗しようとするがビクともしない。まるで全身に重りを固定されたかのようだ。いい機会だ、あの件も聞いておこう。帝国兵に伝わる奇妙な話の真相を。

「ていうか手紙だけじゃない。なんなのあの怪談、ふざけないで」
「嗚呼鮮血の赤兎のことか? アレは兵が勝手に作った話だ私は何もしていない」
「……それ以外やらかしてない?」
「嗚呼一部隊お前を追いかけさせて報告させてた位か?」
「やらかしてるじゃないか! いつか国ごと燃やす!! ていうか本当に痛いから離して!」

 この男は人のことを一切考えず押さえつける力が容赦ない。ていうか何がしたいんだと。話するだけならばそこに立ってればいい。これではまるで―――。

「お前が記憶に残りたくないと言うから忘れられないようにしてやった。感謝してほしいくらいだが?」
「いらない」

 金の双眸が睨みつける様に笑顔を浮かべる。段々思い出してきた。あの頃、どういう感情でこの男を見たのかを。アシエンだということが分かればあの夜何をしでかしたのも予想が付く。
 以前ヤ・シュトラが『奥底に闇の杭が打たれ、何者かの手によって一度エーテル、というより魂そのものに操作を施されたような形跡がある』と言っていた。これは目の前の男によるエーテル操作。目的は自分を逃がさないために施した永遠に消えない疵。出会うアシエンが一瞬詰まるようなリアクションをするのも当然である。彼は本気で帝国の狗にさせる気満々だったのだ。
―――実際は幼い頃のあの人によって防がれてしまったのだが。愉快なことこの上ない。ゲラゲラと笑いたい感情を隠し不敵な笑みで睨み返してやる。
 当然、アシエンだと知った時は怖く感じていた。だが、『でもコイツ子供に自分の計画阻止されたんだよな』と思うと全く恐怖はなかった。

「あの頃のボクだと思うなよ?」
「勿論だ腑抜けた兎がどこまで足掻けるか期待しているぞ?」
「守るべきものが出来たと言っていただきたい」

 ボクは「バァン」と言いながら襟を焦がしてやると反射的にキレて離れてくれた。その後思いっきり鳩尾にエーテルの塊を一発喰らう。だがニィと歯を見せ耐えてみせた。

「"私"にどけって言ってどいてくれなかった陛下サマが悪い」
「普通なりそこないはここで倒れると思うんだがお前はどういう体の作りをしている」
「沢山旅をするとこうなるさ」
「普通はならん」

 どうしてこうなっているかはこっちが聞きたいんだよなと思う。いつの間にか無駄に強くなった理由なんて聞かれたら"ボク"は困惑しかできない。

「バケモノが」
「今と違う人類のアシエンってやつに言われて嬉しいねェ」

 ニィと笑いこみ上がる吐き気を抑える。
 嗚呼闇が恋しいよ。胸の奥にある残り続ける僅かな闇と2つの輝く白い星を抱きしめた。
 ふと目の前が黒に支配される。柔らかく包まれ、"ボク"は目を閉じた。

 ボクには3人の命の恩人がいる。広かったけど狭い森の中で育った子供のボクに世界を教えてくれたヒト、私に空への道を示してくれたヒト、そして―――


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注意"エプロン"の後日談なSSです。  「シドの莫…

漆黒

#シド光♀ #ギャグ

漆黒

おまけ"エプロン"
注意
"エプロン"の後日談なSSです。
 
「シドの莫迦はどこ!!」
「アンナじゃないか。お使いは終わったのか?」

 ある日のガーロンド社。箱を脇に抱え珍しく怒りの形相でシドの前に現れた。周りの社員たちも物珍しそうな目でアンナを見た。石の家に預けていたものを持っている姿を見て笑顔になる。

「ああ石の家に行ってたのか」
「何呑気な声出してる、表出な一発殴らせて」
「お前に殴られたら顔の形が残らないだろうが」
「失礼な。手加減位できる」

 まあとりあえず部屋で話は聞くからと宥めながら工房を後にした。大方エプロンに対する感想だろう。デカい声で万が一兄の耳に届いてしまうと最悪自分ごと燃やされる可能性が高い。
 残された社員たちは各々の神やら空に祈りを捧げている。覚えてろよと思いながらアンナの手を引っ張った。そして自室に連れて行き、鍵を閉める。

「珍しく怒ってるじゃないか。どうした?」
「まさか心当たりが、無い!?」

 呆れた顔に笑みがこぼれる。数年前では絶対に見せなかった表情だ。すっかり憑き物が落ち、女性というよりは少年っぽいアンナに愛おしさが増していく。箱を開き中に入っていた布を指さす。白いフリルが眩しい丈が短いエプロンだ。

「確かにシンプルで可愛さと実用性が両立したエプロン使ってたけど、せめて実用的な方面に! キミ仮にも物作る会社の社長じゃなかったっけ!?」
「シンプルだろ? いででで」

 思い切りヒゲを引っ張られた。あのね、と言うので首を傾げる。

「百億歩譲ってこれを着るとする」
「嬉しいな」
「まずこんなレース私に似合うわけない、ていうかこのエプロン知ってるよ? 他の布は?」
「アンナは何でも着るじゃないか。ああドレス部分等まとめて保管はしてる」
「趣味悪」

 アンナはエプロンの入手経路に関して心当たりがあったようだ。いずれ見せてもらえたら嬉しい。だが普通に着こなしそうでつまらないと思い、エプロンだけ渡したのはバレているみたいだ。結構恥ずかしかったんだぞと言ってやると「でしょうね!?」と素っ頓狂な声を上げた。

「考えて、あなた裸オーバーオールやれって言ったらやる?」
「俺がやっても面白くないだろ何言ってるんだ」
「それは私も同じ。あ、いやそんなこの世の絶望みたいな顔しないで。ただ白は汚れが目立つし普段使い出来ないかもってだけ」

 そんな顔をしていたのだろうか? 確かに突き返されそうな雰囲気だったので少々悲しかったが、アンナはシドの頭を優しく撫でる。

「あー実用的だったら幻影化させて自慢したよ? これは……あなたの前でしか着ることが出来ない」

 頬にリップ音を立て口付けられると顔が熱くなり、ふわりと漂う汗のにおいに喉が鳴る。珍しく香水を付けていない。本当に走り回った帰りに荷物を受け取ってからここに来たのかと思うと興奮してくる。それに渡したのは自分の前でだけ着てほしいという下心も一切なかったわけではない。さすがにそこまで心は読まれていないようだ、サッと離れ「ほら仕事に戻りな」と扉を指さす。

「今日食事どう?」
「定時で帰れるように調整しようじゃないか」
「無理な方に賭ける」
「アンナが関わると仕事の効率が上がると評判だぞ?」
「胸を張らず普段から頑張れ」

 じゃあここで待ってるから行ってきなさいとそっぽを向き手を振っている。ああすまないと言いながら部屋を後にした。稀に文句を口にするが決して受け取り拒否はしないアンナは本当にいい人だなと笑顔が漏れた。

―――数日後。アンナは渡したエプロンを堂々と着てガーロンド社に現れる。兎に角「シドから貰った」と強調しながら笑顔で社内を歩き回った。そこには男性社員からは好奇心の目で見られ、女性社員からは睨まれ小さくなったシドの姿があった。そういえば自分だけに見せてくれ、とは言わなかったなと思い返す。しかし『自分の前でしか着ることが出来ない』って言っていたじゃないかと頭を抱えた。罰ゲームのような時間を過ごし、もう二度とやるまいと誓う。
 数日あらぬ噂が囁かれ必死に誤解を解いて回った。勿論即彼女の兄にもバレ、写真片手にお礼を言われながら飛び蹴りを喰らったのはまた別の話。


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#シド光♀ #ギャグ

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注意 漆黒以降のお話ですが展開には触れてません。付き合った後の裸エプロン云々ギャ…

漆黒

#シド光♀ #ギャグ

漆黒

"エプロン"
注意
 漆黒以降のお話ですが展開には触れてません。付き合った後の裸エプロン云々ギャグ概念。R18無しバージョン。事後描写有り。
 
「久々に会って早速? おうおう徹夜明けにしては元気」

 黒髪のヴィエラは目を細め、抱きしめる男の頬をつねった。

 お互い想いを伝えてからそれなりの時間が経過したが何も変わらない時が流れていた。無自覚だったが、付き合い始める前からほぼ恋人同士がやる行為は大体していたらしいので、変わらないのも仕方がないのかもしれない。唯一やってないことといえばと周りに報告した際、大体「今更何言ってるんだコイツら」とリアクションをされたので多分そうなのだろう。兄との決戦が一番盛り上がったのも記憶に新しい。
 閑話休題。目の前の問題は解決していないもののようやく合致する空いた時間を捻出することができた。よって「ご飯でも作ってやる」とトップマストの一室へ招待した。定住するつもりはないが、もうしばらくの間はエオルゼアにいるので荷物置きがてら購入を決めた。しかし今日まで誰にもこの場所の話をしていない。ちょうどいい機会だし一番最初に言うならシドだなと判断したのが決め手である。
 部屋はいつでも引き払えるよう極力シンプルな配置にした。荷物置き、寝る場所、あと作業スペースとキッチントイレシャワーがある程度だ。本当は命の恩人の絵とオルシュファンの肖像画が飾っていたのだが隠している。意外と嫉妬する人間らしく、"スイッチ"がどこにあるか分からないのだ。そんなことで怒ったりしないのは知っているが不安要素は極力排除するに限る。
 扉を開き、案内された徹夜明けのシドは目を丸くし「ここは?」と聞く。「私の部屋。初めて人を招いた」と言ってやると分かりやすいくらい満面な笑顔でこっちを見た。その場で荷物を下ろし抱きしめようとしたので「扉閉めるまで待てバカ」と力で押しのけた。

「色気のない部屋で悪いね」
「効率を追い求めたらこうなるだろう。俺も部屋を作れと言われたらキッチン以外は同じ感じになるな」
「そういうものかぁ」

 生活観はそんなに変わらなかったらしい、持っていた荷物を下ろしながらアンナは苦笑する。諸々の報告合間に仕込みは終わらせていたので、エプロンをつけながらキッチンへ足を向けようとした直後、抱きしめられた。呆れた顔して名前を呼ぶと「エプロン、似合うな」と言い、離す様子はない。これは真っ黒な布地に胸元のヒナチョコボの刺繍が可愛いシンプルなものだった。似合うと言われても大体の人間は着ても違和感持たれないオーソドックスなものじゃないかと首を傾げる。そういえばシドには製作作業中の姿は初めて見せるかと思い出した。
 どうやら抱き返さないといけないのだろう、「そうだね」と頭に片手を置き、ついでに「今はこれで満足して」とアゴの髭を撫でてやる。顔を上げたので頬に口付け、振りほどこうとしたら首に腕を回され唇を奪われた。完璧に"スイッチ"でも入ったかと思い薄く口を開き、舌先を差し出してやると肉厚な舌を絡まされる。キスの仕方はもう覚えた。どうやれば相手が喜ぶのか、それを忠実に再現するだけで大体は満足して離れるので正直言ってチョロい話である。ニィと笑いながら料理の手順を浮かべていたが今回はいつまで経っても解放されそうにない。少々苦しくなり「シ、ド」と声を漏らすとようやく離れていく。そしてなんとか冒頭の言葉を吐き、頬を思い切りつねった。顔を赤くしながら解放するシドの腕を引っ張り椅子に座らせる。

「ご飯終わるまでいい子にしてて」
「ああすまんな」

 料理の邪魔をしたら追い出すからねと釘を刺し調理場に立った。流石にそこまで言えば大人しくするだろう。しかし1人のために料理を作ってやるのは初めてだなあとぼんやりと思い返した。



 手伝うことはないのかという言葉に必要ない、またいつかねと返しつつ作った料理は今回も自信作であった。お互い味は特に気にしていない。相当ダークマターや生焼けでない限り食べるが美味しいに越したことはない。アンナはシドを笑顔で観察する。雑な所もあるがさすがおぼっちゃんだっただけあり自分と違い丁寧だ。残念ながらアンナのテーブルマナーに対する知識は多少教えてもらったのと本で読んだ分しか知らないが。
 子供っぽい夢の追いかけ方をしているが基本的には堅物だし細かい所で大人だなあと思う部分がある。そんな人間が60年程度人と関わってこなかった自分に対し、気を長く教えながら付いて来ている事実が少しだけ照れくさい。世の中には魅力的な女性がたくさんいるのにね、と言えば「お前以上の人間なんて知らんぞ」と返す。―――まあシドのみならず複数人から「あなたに慣れるといろんな意味でもう他では満足できなくなるダメ人間製造機」とありがたい言葉をいただいた。何を言っているのか分からないので考えないことにする。
 気になったのかふと「アンナ?」と名前を呼ばれた。

「? どうした?」
「いやそんなに見つめられても困るんだが」
「人がおいしそうに食べてるの見るのは悪くないねえ」

 あなただってよく見つめてくるでしょと言うと肩をすくめた。ワインも開け喉に流し込む。昔から酔うことのないただの色の付いた水だったモノもこの人と出会ってから有意義な時間を過ごすためのものになった。食事という行為だってそう。生きるため早急に摂取するものからこうやって人と談笑するために変わり悪くはないなと思うようになった。昔の自分が見たらどう思うだろう。『情けない、短命のやつらと無駄な時間を過ごすな』と言うなと苦笑した。
 そうだ、"彼ら"は普通だったらアンナより遥かに早く死ぬ。しかし別の未来の話を聞いた時、寿命の大小なんて考える必要はないな、と思うようになった。流石にシドが死んだら心が苦しくなるかもしれない。適度に長生きできるように手を回してやったらいいかなと目を閉じた。―――まあそんな辛気臭いことに延々と想いを馳せるのはやめておく。口に出したら説教が始まるに違いない事柄をあまり考えるな、というのが付き合う際に約束した取り決めの一つだ。
 閑話休題。考えをかき消すように近況を交わし合う。奇妙な機械について、妙な現象の専門家たちの見解、最近シドが関わった案件の続報等、話すことは大量にある。シド側からもさすがに会社の詳しい事柄は立場上聞きたくない。なのでつい先ほどまでの納期に追われことや社員たちの暴走についての話を聞きお互い大変だなあと笑いあった。



 後片付けを終わらせエプロンを脱ぎ、部屋内をうろうろ見回っていたシドに「おまたせ」と言うと「ああ特に待ってはいない」と返すのでソファに座わらせる。勿論シドは自分の上だ。所謂お姫様抱っこのような形だ。いつもこの姿勢を取ると死んだ目になるので非常に愉快な気分になる。「逆だと思わないか?」という抗議も適当に流し、手はしっかり掴んでおく。過去に隙を見せたら耳に触れやがったので当然の措置だ。これで大丈夫だろうと高を括っていたら耳を食み、そのまま「アンナ」と名前を囁いた。ビクリと身体が跳ね、反撃としてヒゲを引っ張る。

「……次は手錠でも用意して頭も押さえつけるように考慮する」
「やめるという発想はないんだな」
「優越感に浸れるからね」
「そういう意図でいつもやっていたのかお前は」

 あ、やっべ本音が出てしまったと気が付いた時にはもう遅い。いつの間にか手を振りほどかれ体勢を変えるよう動いた。座った自分を見下すように立ち、両肩を掴みながらジトっとした目で睨んでいる。怒るよね、そりゃと思いながらも笑顔になるとシドも笑顔を見せた。酒が入った後にこれは下手なこと言って余計に火を点ける未来が見える。言い訳はしないと両手を上げ、降参のポーズを見せた。

 シド・ガーロンドという男は使命と理性に雁字搦めになった仕事以外さっぱりなヒトである。無意識に、気ままに与え続けたヒントにも気付かず2年以上無意識下に熟成されてしまった感情のトリガーを引いてしまったのは間違いなくアンナ自身だった。それ以降、何度か"そういう空気"になったがいずれにしても自爆スイッチを入れきっかけを作ってしまったもアンナである。別にヤりたくてやっているわけではない。ただ失言、無意識、ほんの少しからかっただけで雰囲気がガラッと変わる。それから何度も一晩中相手して作った取り決めを口にする。

「あー1回だけだよ? キミ一睡もしてない。途中で寝られたら多分笑いすぎて腹筋が死ぬ。分かった?」
「俺はまだ何も言ってないぞ?」

 また嵌められてしまった、と思いながらアンナは立ち上がり、シドはソファに座らせ向かい合って乗りかかる形になる。「何も言ってないならこれで満足できるね?」と頭を撫でてやると腰に手を回され身体を密着させた。名前を呼びながら首元に鼻を近づけ匂いを確認するが如く呼吸する姿にアンナは呑ませすぎたかという感想を抱く。どうやら自分と出会ってから嗅覚が鋭くなっているらしく首元に顔を持って行くと噛みつくか匂いを嗅がれるのだ。犬かと思いながらその頭を撫でてやるとポツリと一言漏らす。

「アンナ、シたい」
「おあずけ」
「俺は犬じゃない。……しばらく会ってすらなかっただろ? あとさっきアンナから1回だけって言ったな」
「言ってない。忘れた。1人でしてたら……あ、いや何でもない。ほら抱きしめる程度だったらいくらでも受け入れる。やめてベルト緩めるな」

 今の状態だったら自慰行為を延々見せつけられる未来が過るほど本気の目が一瞬見えたので必死に止める。機嫌を取るように顎を掴み上げ「ほらいい子いい子」と口付けてやると頭を押さえつけられ深くキスをする羽目になる。大きな手が身体を撫でまわす感触が伝わり、まるでこれから抱く相手の存在を確かめるかのようで嫌いではないがどこか落ち着かない。丹念に触られ全身が軽く痙攣しながら甘い息が漏れる。

―――2人の間で交わされるキスは3種類ある。まずは基本的にはアンナが与える複数部位に軽く触れるだけのもの。主にくすぐったい感情を刺激して放置する行為が当人にとっては楽しい。2つ目は少し機嫌を損ねてしまった時にする。ただシドを満足させるためのマニュアル通りに行う"チョロい"と称する深い口付け。これに加えて適当に撫でると顔を赤くしながらあっさり許してくれるので嫌いな行為ではない。そして最後にシドが仕掛けるアンナの判断力を堕とし理性を捨てさせるためのモノ。アンナがシドの仕様を把握してるということは、シドもどうすれば確実に堕とせるかを理解している。普段は流されないように立ち回っている。だが、どこでスイッチが入るか分からず、ヤバいと気付いてもこのキスが降ってきた地点でもう逃げることはできない。口を頑なに閉じようとしても全身に与えられる甘い刺激で緩まり、舌が強引に差し込まれアンナの口内を蹂躙する。一度好奇心と抵抗の意思を見せるため軽く噛みついてやったことがあったが、その夜は酷かった。身体中噛みつかれながらこれまで決して触れられなかった部位を穿ち上げられ痛みと快楽の海に容赦なく沈められる。次の日、土下座され延々と反省の意を示された。だがアンナとしても窮鼠猫を嚙むよう襲われた行為として二度とやるまいと刻み込まれていた。なので起き上がるのもやっとな身体に鞭打ちながら困ったような笑顔を見せた記憶がある。我ながらシドに対してのみ甘すぎる対応をしていることは自覚している。

 酸欠になりそうだ、と思いながらなんとか引き剥がした。口元から惜しむように結ぶ糸の様子にこれは向こうの火を灯してしまうと笑顔が引きつる。逃げようにもがっしりと抱きしめられ動くことが出来ない。「あの、シド……サン?」と恐る恐る顔を見ると何か思いついた様子。「えっと、どうした?」と聞くと、「頼みたい事がある」と指さしながら言うので「断る!」と反射的に叫んだ。そちらはエプロンの方向。このヤる気になった段階でエプロンというのはアンナでも察するところはある。

「まだ提案の内容を言っていない。聞いてから断っても遅くないぞ」
「いやオチが見える。未来視持ってなくても分かる」
「成程考えることが同じ、シナジーがあると」
「私は推理しただけだからねこの酔っ払い!」

 声を荒げるアンナを無視しながらシドは"お願い"を言った。

「裸の上にエプロンを着てほしい」

 嫌に決まってるだろとアンナは「バカかい?」と天を仰ぎため息を吐いた。



 結局熱意で押し切られ、下着着用を条件に着ることになった。アンナは覚えてろよと呪詛を吐きながら壁を背にいつ振り向いていいのかと呑気に聞くシドへ威嚇している。
 別にどんな服を纏うのも恥ずかしくはない。あえて言うと女性らしさに極振りされたフリル等は似合わないと思っているくらいだ。しかし欲に塗れた人間によって行使されるオチが鮮明に見える行為はなるべくしたくないのだ。
 それでも多少受け入れるのは相手がシドだからある。この人でなければ反射的に首を刎ねていたかもしれない。あと背中をあまり見せたくないし、作業で使うものを性的な要素と繋げたくないのだ。とりあえず着たが見せるとは一言も言っていない。このまま相手が寝るまで後ろにいるかと慎重に背後に近付き抱きしめた。シドはその腕を掴み見上げようとするので片手で頭を押さえた。

「いやあ時間かかってすまないねえ。ああゆっくりしてもらっても構わないよ。へへっ旦那、肩でも揉んでやりますぜ」
「……時間稼ぎする気だな?」

 あからさますぎたかと反省したがこういう時に限って鋭いと思わずアンナは舌打ちしてしまう。上を向かせ触れるだけのキスを繰り返すとエプロンの紐を引っ張り噛みつくように口付けられた。逃げるように「背中が寒い」と言いながらベッドに転がり込み布団を被る。シドがゆっくりと歩いて来る気配を感じた。慎重に下がるようにモゾモゾと動く姿は情けないだろうなあと思うが身体が勝手に動くのだ、仕方がない。しかし相手は不気味なほどに静かだ。これは呆れてるな、つまり勝ったか? いやまだ油断してはいけない。しばらく動きを止め、反応を見る。触る気配もない。率直な男なので調子に乗って剝ぎ取ろうとするはずだとアンナは普段の駆け引きを思い返す。これは本当に勝ちか、早く着替えさせてもらおう、顔だけ出して相手の出方をうかがう。

 目の前に覗き込む顔があった。ずっと顔を出すのを待っていたらしい。反射的にもう一度隠そうとするが掴まれ動くことが出来ない。「えらく可愛いことをするじゃないか」と布団に手をかけている。取られるくらいなら後ろだけは見せないよう包まりながら起き上がった。

「もう終わりか?」
「趣味悪」
「お前がそうさせるんだ」

 仰向けに倒されエプロンに手をかけようとするので抵抗しようと手を動かすと押さえつけられた。流石に下に回ってしまっては普段は勝っている力も腕力で押さえ込まれる。

「あーその寒いという発想はなかった。すまなかった」
「適当に言った言葉に謝罪されるとなんかむず痒い」
「嘘だったのか?」

 やっべと思った時にはもう遅かった。「似合うな」とアンナの両手は片手で固定される。これ以上向こうの空気に流されるわけにはいかない。恐る恐る口を開く。

「6割は、事実で」
「残り4割」
「じ、自分へのやさしさ3割」
「あとは何だ?」
「あの酔っ払いが早く寝てくれたらエプロン汚れないだろうねえ」
「こら」

 シドは思い切りアンナの頬を引っ張る。この調子だ、アンナは心の中で笑う。やりすぎると痛い目に遭うのは何度も体験している。だが学ぶことを知らないアンナは地雷原へと突っ走った。

「だってこのエプロンお気に入りなんだよ。貰ったんだ」
「珍しい、誰にだ?」
「そりゃある優しい暁所属の冒険者にね。お礼に現金たんまり渡したのと一緒にご飯を、あ……」

 アンナはシドの表情の変化に気付いた。笑顔だが、目は笑っていない。ここに呼ぶ時に確かめたじゃないか、意外と嫉妬する人間だから変なスイッチ入らないように、と。なのに何をしているんだ。まずは言葉が足らなかったことを弁明しようと口を開こうとしたが遅かった。

「俺は別に嫉妬はしてないぞ?」
「説得力ない、というかやめ」

 強引にひっくり返され布団を剥がれた。未だ消えぬ背中の傷にシドは口付け、舌を這わせるとアンナの身体は緊張で固まる。嗚呼もうどうにでもなれと思いながら口を押さえた。



「このエプロンね、蒼天街で貰えるものだった。実用さと可愛らしさが両立してるって思ってねぇ」

 珍しく1回で終わった行為の数時間後、シドはスッキリとした気分で目が覚めた。だがまずはタオルを噛まされたまま睨むアンナを見ることになった。慌てて外してやると「正座」と言われ座らされた。

「まあでも振興券が足りなくてねえ、困ってた所に暁所属の"女性"冒険者が複数持ってるからって1着くれた」
「う……」
「無料で貰うのはボクのポリシーに反するんだ。だからちゃんとマーケットでの相場に加えてご飯をおごったんだよ。そこまで分かった?」
「ああ」

 アンナにヒゲを掴まれる。珍しく口調を隠さず怒っているのは分かった。

「それを、あなたはどう勘違いしたのかなァ? 気になるねぇ」
「い、いや……ああてっきり戦闘事以外鈍いお前のことだから男相手でも釣られるかと」
「ハァ?」
「すまなかった……」
「最後エプロンにぶっかけたのが一番最低だと思うよ?」
「新しく買ってやるから、な? だからその手に持ったロープで縛って吊るし上げるのは勘弁してほしい」

 シドはそこから何度もアンナに謝罪した。何かあるとすぐに人を縛り付けて吊るし上げようとするのは兄妹変わらない。そう考えていると「ボクも説明足らずだったのが悪いんだけどねぇ」と言いながらため息を吐いている。

「でもちゃんと約束は守ったのはいい子だね。うんそこは褒めよう」

 第三の眼付近に軽く口付けてやり、シャワー浴びてくると奥へ消えて行った。シドははにかみ、再び寝転ぶ。直後必死に頭を掻きながら数時間前の自分の行動を思い起こそうとする。

―――シドは手料理を食べた以降の出来事をほぼ覚えていなかった。白濁の液が吐き出された形跡のあるエプロンに目をやる。アレに関しては本当に思い出せない。しかしそのまま言ったら絶対に数日ゴミを見るような目で対応される未来が見える。そこまではまあ人によったら一種のご褒美になるものだろう。だがそれに加えてデリカシーや恥というものを理解していないアンナのことだ。絶対に人に言いふらし、最終的に彼女の兄の耳に届く。そして縛り上げられる未来が超える力を持っていないシドでも鮮明に見えた。とりあえず、再び謝ろう。そして似合いそうな新しいエプロンも考えて機嫌を直してもらおうと心に決めた。



 数日後。

「あらアンナおかえりなさい。シドから荷物が届いてるわよ?」

 シドに料理を振る舞いやらかされてからまた各地を走り回り、まともに連絡を取っていない。あの件に関しては別に洗濯すればいいだけだと思っていたので特に気にしてなかった。
 一段落ついたので石の家に顔を出すとクルルから小包を渡される。置いて行くなんて珍しいな、と呟きながらその場でまずは走り書きされた手紙を読む。

『先日は本当にすまなかった。約束通り詫びとしてエプロンを新しく購入したので使ってほしい。あと今度見せてほしい』
「懲りてないなこの人」

 軽くため息を吐き買ったエプロンとやらを確認するように布を掴み、引き上げる。

「は?」

 真っ白い、フリルがあしらわれたものが見えた瞬間に手を離し反射的に箱を閉じる。クルルは目を点にしてアンナを見つめていた。
 笑顔で口を開く。

「クルル、見た?」
「な、何も。ええ」
「だよね?」

 荷物を抱え、大股で石の家を後にする。扉を閉める直前「ごちそうさま」という声が聞こえてきたが何も聞かなかったことにする。

「いつかキミを裸オーバーオールにしてやるから覚悟しとけよシド……」

 やられる覚悟がない奴がそんな要求するわけないよねぇ? ボソリと呟きながらガーロンド社へ足を向けるのであった―――。


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#シド光♀ #ギャグ

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注意漆黒ネタバレ。  「これは失敬。同胞を消滅させた英雄の前だからな。…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

旅人は暗闇の過去に逢う
注意
漆黒ネタバレ。
 
「これは失敬。同胞を消滅させた英雄の前だからな。恐ろしくて、つい保険をかけてしまった。ガーネットという獣が怖くてねえ」
「ガー」
「ネッ」
「ト……?」
「違う!!」

 ボクの反射的に出た叫び声がクリスタリウムに響いた。

「うるさいじゃないか、赤兎。嗚呼今はアンナと言ったっけか? 英雄殿」
「知らない。初対面」

 後ろからの視線が痛い。あまりにも露骨に反応を見せてしまった事を後悔している。
 アシエン・エメトセルクーーー厄介な因縁が今更になって現れた。

 皇帝ソル、忘れる筈もない。あの寒空の国を治め、対面してしまった男。死んだと思っていたが実はアシエンだったということを知ったのはつい最近。嫌な予感がする。どこかで鉢合わせして殴り合わないといけないとは察していた。しかしその真実を突き付けられた現場には暁のメンバーはアリゼーしかいなかったので言う気がしなかった。理由は簡単、一々説明が面倒だからである。第一世界で合流し始めた今これを機に暁の人間位には言っておかないといけない。なんて分かっていてもこれはあまりにも現実離れした話。いつ切り出したらいいものかと悩んでいたが―――まさかここで会い、よりにもよって昔の名前を呼びやがるとは。

「なんだ、誰も知らないのか? まあ言えるわけないか。ではな、諸君……またすぐに会おう」

 それだけ言ってエメトセルクは闇の中へと消えて行った。この気まずい状況を作った本人が真っ先に逃げやがった。

「アンナ」
「知らない人。あのアシエンは、今が初対面だ」

 吐き捨てるように嘘をついた。いやあの男がアシエンとして会ったのは初めてだから間違っていない。ただ動揺しすぎて言葉がまとまらない。胃も痛くなってきた。今日はもう寝たい。



「ねえどう思う?」
「アンナのことか? 彼女はよく分からないからどうにも言えんが……まあ喋ってくれるのを待つしか出来ないだろ」

 あの後アンナは暗い顔でペンダント居住区方向へ歩いて行った。ガーネットとはと聞いても「昔名乗ってた名前。いつか話す」としか言われなかった。今更彼女が帝国と繋がっていると思ってはいないが―――。

「そういえばヴァリス帝との話し合いで初代皇帝がアシエンだったという言葉を聞いた時一番衝撃を受けてたのはアンナだったわ。……ガイウスも赤兎って呼んでた。話を聞く前にこっちに来ちゃったんだけど」
「彼女をいくら調べても過去は出てきませんでした。話したくないというよりかはどこか」

 英雄として活躍してきた彼女を今更疑っているわけではない。しかし何も語らないというのはこれまで共に冒険してきた仲間として寂しい所もある。

「アンナ、言ってくれないと分からないじゃないか」

 アルフィノの弱弱しい声が空に消えた。



 ネロサン、ガイウスと来て次はご本人登場か! 余計なこと言いやがって! ペンダント居住区の一室でボクはそう叫ぼうとした口を必死に塞ぐ。
 奴がトラウマだとかそういうわけではない。ただ会った時期が人に言いたくない過去なのだ。
 アルバートがボクを不審げな目で見ている。観念して少しだけ話をした。

「私、昔エメトセルクに会ったことがあった。いや正しく言うとガレマール帝国初代皇帝に直接会ったことがある」
「そうなのか? ていうかお前は何歳なんだよ」
「ヒミツ。当時ガーネットって名乗った。髪の色も赤かったし服はそこらの屍体から取ってて。ヴィエラは珍しい存在。フードで耳を隠し、胸は弓を引くためにサラシを巻いた。人から見たら怖かったのかも、沢山襲われて返り討ちにしたりね。今と全然違う生活してた」
「おいおい英雄とは程遠い存在じゃないか。それで、そのアシエンと何があったんだ?」

 少しだけ語った。特に何かしたわけじゃない。偶然大きな箱が置いてあってその中で寝てる間に積み荷と一緒に運ばれたらしく気が付いたらガレマール帝国にいた。ボクを捕まえようとする兵士を気絶させながら無我夢中に逃げ、城の中に。目の前に扉があったから入ったらなんと皇帝の寝室。初代皇帝サマとのご対面だった。

「いやあビックリ。相手の変なものを見た顔も面白かったね」
「無法か!」
「まあそこで一晩お付き合いするのと引き換えに外に放逐する約束をした」

 アルバートがむせている。「私は最近まで処女だったからね?」と言うと「いらん! その情報は今必要ない!」と顔を真っ赤にしながら手で覆っている。

「色々あって何かバリバリと身体の一部を引き剥がされるほど痛い事はあったけど性行為はしていない。……以前仲間が『貴方はエーテルで多少内面が操作された形跡がある』って言ってたんだけど多分その時の傷」
「意味が分からん」
「私も意味分かんなかった。……次の日彼の使用人から新しい服一式貰って。帝国領外に運んでもらった」

 あなたなら絶対に誰にも漏らさないから話したんだよ? って振ると「まあ物理的にお前以外から見えないしな」とぼやく。知ってる、だから話をしたのだ。少しだけ心が軽くなった気がする。

「ありがとね、明日以降奴に会ってもキレ散らかしはしなさそう」
「だったらいいんだけどな。ていうかそれなら周りに素直に言えばいいだろ?」
「……全員揃ってない内に話すのはなって」
「勝手にやってろ」

 アルバートはため息を吐き、消えていく。私は久々に少々泣いてしまった。こんなにも苦しい時に限って、シドの声を聞く事が出来ないのだから。



 正直期待以上の反応を見せてくれた。正直彼女に渡す予定だった『役割』は曾孫がやったのだから最早必要のない厄介な女だったが、内包された【魂】で捨てきれない存在。かつての獣のように奔る赤兎なら自分の思想も【理解】、いや【約束】を守り手を取っただろう。小さな国民によって阻まれ、彼女を捕えることが出来なかったのが計算外だった。その後ヘタクソな偽装をしてきやがったので死んだ事にしてやったがまさかハイデリンに選ばれ英雄となり私の目の前に現れるとは。黒薔薇でなりそこない共を絶望させるための見せしめに殺してやろうと思ったが今第一世界の地に立っている。殺し合いをするだけなら簡単である。しかし改めて話し合いをすることで【約束】ではなく【理解】を示すかもしれない。牙を抜かれたお前がどれだけ戦えるか、楽しみにしているぞ? 鮮血の赤兎よ―――


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エルファー

(画像省略)見た目種族:ラヴァ・ヴィエラ髪色:赤、左目隠れヘア目:右目緑、左目赤…

情報,ネタバレ有り

#エルファー関連

情報,ネタバレ有り

キャラ設定:エルファー・レフ・ジルダ
エルファー
見た目
種族:ラヴァ・ヴィエラ
髪色:赤、左目隠れヘア
目:右目緑、左目赤
一人称:僕、二人称:君、三人称:アイツ
趣味:分解、機械の改造、遺跡巡り(ジャンル不問)

設定
  • アンナ・サリスの実の兄。嫁が8人いたが現在は離婚している。
  • 元々生まれ故郷を護るための任を果たす存在だったが、ある時アラグ時代の遺跡を発見したことでこっそり調べ回るようになっていた。
  • 死んだと思っていた妹が60年以上ぶりに再会して喜んだが全く違う存在になってしまったことを嘆いている。その真実を知るために故郷を捨ててエオルゼアを旅している。
  • 超える力は持っていないただの技師。ある人間が持っていた装置を見て興味を持ち各地にあるカストルムに忍び込んだり機械装置の修理しながら独学で技術を学んだ。
  • 陰で集落を護るという意識が強かったのでどちらかというと斥候が得意。そのため軽量静音化された機械を作る研究をこっそり行っていた。
  • ゲーム的に言うと黒魔道士メインな機工士。双剣士も多少嗜んでいて金属扱う系のクラフターもレベリングされている感じ。
  • 左目を髪で隠しているのは両目では"よく視えてしまう"ため。それは故郷でも一部関係者しか知らない厳重に守られた"聖石"に触れてしまい、魂までも視ることが出来るようになってしまった。副作用としてとんでもない頭痛に襲われるので隠している。普段は右目と物音だけで判断しており、細かいエーテル視を行う時だけ髪をかき上げる姿を見せる。
  • かつて友人2人と新たな技術を作り出した。しかし彼が関わっていた頃の技術は相当な精神力、生命力が無いと使い物にならない"火事場の馬鹿力"の具現化だった。リンドウの"気迫"と呼ぶネーミングセンスの悪さにそれぞれ"必殺剣:流星"(エルファー)、"シハーブ"(アリス)と名付けたが無視される。
  • 紅蓮前に表向きは妹の謎を追うためにネロを利用しようと近付いたが、漆黒突入後いつの間にかガーロンド社で働くことになり首を傾げた。
  • 妹にはガーロンド社どころかエオルゼアにいることすら公然の秘密にしている。理由は自分のせいで彼女を変えてしまったことを理解してしまったため。


性格
シスコン。笑顔がヘタクソで愛想はあまりよくないがお人好しで基本的に妹が絡まなければ怒ったりもしない。
しかし怒ったら人を吊り下げたり火で炙ろうとする。
複数人嫁がいたこともありとことん甘やかして溶かすのが好き。

#エルファー関連

(対象画像がありません)

 前半蒼天終了辺り、後半漆黒付き合った後のお話。メインストーリーには特に触れない…

蒼天

#シド光♀ #即興SS

蒼天

"冷たい肌"
 前半蒼天終了辺り、後半漆黒付き合った後のお話。メインストーリーには特に触れないです。
 
「アンナっていつも思うがお前冷たいよな」
「悪口?」
「体温の話だ」

 アンナの怪訝な目に対してシドはため息を吐く。イシュガルドの騒動以降さりげなく手を触れる機会が増えたが、いつもひんやりと冷たい。

「冷え性、かも?」
「俺に聞かれても分からん」
「故郷の儀式で火には強いの。冷たさの原因は不明だけど」
「初めて聞いたんだが?」
「聞かれたことないから」

 アンナは目を細め「バァン」と言いながら指から一瞬だけ火花らしき輝きを出す。シドは目を丸くしてそれを見つめた。一瞬別の感情が湧き出そうになるのをグッと我慢する。

「故郷は火を大切にしてる部族でね。火の操作に関してはまあまあ人より上手なの」
「着火剤いらずで便利じゃないか」
「旅のお役立ちでしょ?」
「それでも指熱くならないのは凄いな」

 火を出していた指に軽く触れるとやはり冷たいままだ。アンナはニコリと笑い「不思議ね」と言う。
 褐色の細くて長い指をシドはぼんやりと絡めながら眺めている。

「シドの手、大きくて温かい。嫌いじゃない」
「そうか? まあ言われて悪い感じはしないが」
「褒めてるし」
「そうだな」

 2人は笑い合う。手袋とかした方がいい、夏だったら冷房いらずだな、ちゃんと寝る時は温かくしろと言うシドをアンナはニコニコと相槌を打っている。
 ここはガーロンド社休憩スペース、居合わせた社員たちはポカンとした顔でその掛け合いを見つめていた。



「昔お前が冷たい話したこと覚えてるか?」
「悪口の話?」
「体温の話だ」

 同じような会話したぞちゃんと覚えてるなと軽く小突く。
 最初こそは全身が冷たいものだった。しかし思考を溶かし、体を重ねると徐々に熱が灯され蕩けさせると人並みの体温を感じられる。自分の体温と混じり合う感覚が他では味わえない未知のもので。それはもうクセになる。
 胸元に口付けを落とすと頭に手刀をお見舞いされた。痛いと言うと呆れた声でアンナは「今日はもう終わり」と返した。

「叩かなくてもいいだろ」
「キミは久方振りなボクとの休日を"また"一日中寝る行為に使うつもりかい?」

 ボクはもう疲れてるんだよとアンナはジトッとした目で見つめる男に対しため息を吐く。リップ音を立てながら第三の眼付近に口付けを落とし、ボソリと喋り目を閉じた。シドは目を丸くしながら飛び起きる。

「本当か?」

 アンナは寝返りを打ち、何も言わない。そんな彼女を後ろから抱きしめ「おやすみ」と囁いた。


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#シド光♀ #即興SS

 次元の狭間オメガ関係の話終了後。性描写は口淫まで。 投稿を見るには鍵を入力:

紅蓮,ネタバレ有り

紅蓮,ネタバレ有り

【R18】旅人は密会する【pass:共通鍵】
 次元の狭間オメガ関係の話終了後。性描写は口淫まで。
投稿を見るには鍵を入力:

(対象画像がありません)

 漆黒ネタバレを大いに含むものです。ご注意ください。続きを読む オメガ終了後に色…

メモ,ネタバレ有り

メモ,ネタバレ有り

20240107メモ
 漆黒ネタバレを大いに含むものです。ご注意ください。

 オメガ終了後に色々種を蒔いていますがそれが繋がるのが水晶公です。
 彼女はネロに本を託し、またシドに鍵を渡します。それは死を予感して個人判断でのやらかし。これには自分が見てきた世界が全て書き留められています。
 謎の手紙を受け取ったのはアラミゴ解放の次の日。書いたのはオメガシグマ編終了後、つまりネロが襲撃されてブッ倒れてシドに発破かけてたら何故か初夜となった次の日に温泉宿で引きこもり5日でまとめました。すごいですね。
 本人としてはちゃんとシドは自分を引き留める宿題は終わらせられるだろうって自覚はしています。だから実質死んだら読んでねという記録帳なんだよね。

 第八霊災が起こってしまい、ネロはアンナの墓の前で茫然自失になっているシドに本を渡します。鍵の事は即思い出し、解錠して読むとそれは彼女の目線で語られた自分へ宛てた物語。どう思ったんでしょうね。
 それは歴代ガーロンド社会長に託されて、最終的に目覚めたグ・ラハに託されるというのが当サイトの設定です。なので水晶公はアンナの過去も本名も知った状態で漆黒のヴィランズが開始されるんですね。
 多分第八霊災時空で死んだアンナもそこまで受け継がれる予想はしてなかっただろうし、現在のアンナにとっては自分が書いた封印されている本と何故か封印解除された本と2冊存在することになります。もれなくアンナは死ぬ。
 でもこうやって全てを知っているグ・ラハがいることで漆黒で起こるだろうアンナの胃痛は半減することになり結果オーライ。
 ちょっとずつ自己満足なものを書いて行きます。誰かに刺さったら嬉しいし刺さらなくてもアウトプットはし続けるので温かい目で見守っていただければ嬉しい限り。畳む


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注意漆黒ネタバレ。色々第八霊災捏造。  『もしも、また新たな空への道が…

漆黒,ネタバレ有り

#水晶公 #第八霊災関連

漆黒,ネタバレ有り

序章:紅蓮の先へと続く物語
注意
漆黒ネタバレ。色々第八霊災捏造。
 
『もしも、また新たな空への道が現れたなら。白く光る星に好きという言葉を伝えたい』
―――この本の最後に拙い古代アラグ文字で走り書きされ涙の跡が残る一文が、きっと彼らの記憶を想起し、奇跡を起こしたのだろう。

 フードを被った男は古びた本の頁をめくる。ある人物から手渡された『あなたに贈るため代々受け継がれた旅人譚』―――興味深い話だった。
 最初に持ったあの人への感情は憧れ。優しい笑顔で圧倒的な力を人助けために使う姿がカッコよかった。突然エオルゼアの地に現れ、あっという間に各地を救う英雄となった者の人柄に誰もが好きになっていったのだという。かつて枯れない花が供えられた墓の前で、全てを受け継いだ人がそう語っていた。旅人を救いたいがために、時代の先へ行くために。あの人の命と生涯愛し続けた男が託した重い選択というデカい船に沢山の想いや願いが無数に集まって、今の俺があるんだ。その願いを込められた技術で俺は別れから200年後に目覚め、世界を超えて時代を遡り待つこととなっている。
 "氾濫"から抵抗しながらも毎日のようにこの本を読んだ。英雄であったあの人について書かれた偉大な物語はいくつも語り継がれていたが、これは全く違うものである。
 それは生まれてから、死ぬ少し前までの本人目線で書かれた世界に1つしかない物語。いつだって見せていた優しい笑顔という仮面の下にあった長命種特有の悩みによる涙が不器用に描かれていた。頼られることも決して悪い気はしなかったが、誰かを愛することも拒絶する方法も分からない自分を憐れむ記録。死ぬことは察していたが、どう死ぬか予想もしていなかったのだろう―――この本を託した"彼"や周辺の人間に宛てた『こんな無名の旅人のことなんて忘れて、幸せになって欲しい』という言葉が何度も書き込まれていた。
 英雄ではなく、旅人として苦しみ、悩み続けた外からは一切観測できなかった全く違う視線で書かれた物語に俺は涙を流し、救いたいと何度も原初世界繋がる"扉"へ手を伸ばす。どうしてあの人にばかり悲しき運命が課されてしまったのか! 唯一特別だった人に宛てた遺言を抱きしめ、目を閉じた。
―――もうすぐ"あちら"は終わりの分岐点がやって来る。絶対に、失敗できない時代の先に俺の手で連れて行くんだ。呼びかけるために杖を掲げ願いを解き放つ。

「あなたのためなら未来を書き換えてみせるさ、全てを救うために、私を、私たちを【助けて】欲しい。アンナ……いやフレイヤ・エルダス!」

 俺は叫び、詠唱を開始する。必死に腕を伸ばし、少しでも確実性を上げるために誰にも教えなかったという本当の名前を叫んだ。


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#水晶公 #第八霊災関連

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注意 紅蓮4.5ストーリー途中に起こったお話です。  「うぬは、まさか…

紅蓮,ネタバレ有り

#ガイウス

紅蓮,ネタバレ有り

赤兎と、狩人
注意
 紅蓮4.5ストーリー途中に起こったお話です。
 
「うぬは、まさか―――」

 プロト・アルテマに乗り込んだガイウスは赤に染まった"冒険者"を見て絶句した。獣のような唸り声を上げながら丈夫な外殻を剥がそうと刀を振り回し、確実にアルテマウェポンを破壊しようと試みる。正気を失っているようで何がトリガーか予想が付かない。我を失った冒険者を振り払い、応戦する内に「シドが死んでたら、お前のせいだ」と朧げな呟きが聞こえる。どうやら彼女の中でシドは先程の大魔法に巻き込まれたと思っているようだ。しかしそれだけにしては異常な強さを見せる冒険者の説明にはならない。
 ふとそういえば過去に部下であったネロにあまりこのヴィエラを刺激しない方がいいとデータと共に進言されたなと思い返す。詳細を聞けばよかったかもしれないと後悔しながらも感情に身を任せた獣との戦いに彼も全力を持って応戦した。

『かつて陛下の前にまで辿り着いた侵入者の話であり、現在もあの方が執着している赤髪のヴィエラだ。どうやら1部隊使って誘導して帝国領内を走らせているらしい』

 魔導城プラエトリウムが崩れ行く中、ガイウスはとある日に聞いた【過去】とかつて読んだ報告書が浮かび上がる。現在は上級士官以上にしか立ち入りを許可されない書架に封印されている記録。

―――まだ死ぬわけにはいかない。



 ザ・バーンにて、突如倒れてしまったアルフィノを抱えアンナの前に現れることになる。
 黒髪のヴィエラは相変わらず人のために戦い続ける立派な強き者だなとガイウスはかつて刃を交わしたヒトを見つめた。

 情報提供のいう名の確信に至るための最後のピースとして黒薔薇プラントにあった初代ソル帝の人造生命体の話をすると明らかに反応が変わった。一瞬目を見開き、険しい顔を見せる。これは、確定だろうと判断し、ガイウスは別れの挨拶とともに言い放った。

「また会おう、真に強き光の戦士、いや赤兎よ」
「赤、ウサギとな?」
「―――!! 待て! あ、あなた!!!!」

 アンナはガイウスを掴み、ヒエンとアリゼーに「少し『お話』してくるから待ってて」と言い引きずって行った。



「ガイウス、あなた」
「魔導城にてうぬが見せた技と先程の反応で確信した。まさかソル帝が目を付けていたヴィエラがうぬだとは全くもって予想がつかなかったぞ」
「うえぇ……まだ知ってるヤツがいた……あの時確実にトドメさせばよかった……」

 小型飛空艇の前でアンナは頭を抱え座り込む。さりげなく物騒なことも言っているが触れずに目を逸らした。

「よりにもよってアリゼーの前で言わなくていいじゃない……」
「なんだうぬは未だ誰にもその過去を申しておらぬのか?」
「帝国といざこざしてる時にできる話じゃない」

 アンナの隠しきれない動揺と抗議の様子が少々子供っぽくガイウスの口から笑みがこぼれる。と思ったら突然大げさに手を広げ舞台役者のような演技ががかった口調で語り始めた。

「そうだよ、ボクが50年ほど前に【鮮血の赤兎】と呼ばれたガレマール帝国で怪談として伝わり続けたヴィエラさ!」
「ソル帝に出会ったあの夜、何があった?」
「……あ、それに関しては今思うと恥ずかしいのでトップシークレットにしていただきたい……。あとポーション投げ捨てるんじゃなくて後でまとめて渡したよ相当盛られてるからその話……」
「そ、そうか」

 即小さくなりながらため息を吐いている。どうやらその場では殺し合ったわけではないようだ。
 ただ単に迷い込んだにしては運が良すぎるが果たして。

「多分あなたも犯人じゃないんだよね?」
「何がだ」

 アンナから「これ」と言われながら黒色の便箋を手渡される。渡された物を眺めるとソル帝が用いていたものと酷似しており、「開けてもよいのか?」と聞くと「勝手にどうぞ」と言われた。中身を確認すると、【お前の役割は終わった】という文面とガーネットが施された装飾品が入っている。

「我はこんなことはせぬ」
「だよねえ」
「これを知っている者は?」
「まあ1人だけ。ボクにオマエは帝国で怪談になっていると教えてくれたお節介焼きがいてね」
「うぬは面倒な運命とともにしておるのだな」

 好きでやってるわけじゃないという抗議が聞こえたが流してやるとアンナは立ち上がり、笑顔を見せた。そんな彼女に報告書で気になった記述を投げかける。

「うぬは、20年程前シドに救われたというのでいいのだな?」
「は? 何で知ってるの?」
「……我はシドの後見人であった」
「ああそういえばそうだった。聞いてたのね。誰にも話してないって言ってたじゃないか……ハァ……」

 やれやれと肩をすくめため息を吐いている。どうやら監視されていたことは知らないようなので誤魔化してしまったと目を閉じて心の中で謝罪をしておいた。

「どいつもこいつもボクの過去を知ってる奴らはもれなくシドのことを聞いてくるから困るね」

 頭を搔きながら不貞腐れているようだ。「先に言っておくけどボクは特定の人間に好きや嫌いやらの感情は持たない方針だから」と言っているがガイウスはまだ何も言葉にしていない。

「ま、次生きて会えたら何があったかまとめておくさ」
「うぬのことを知りたい人間はいくらでもいるだろう。我だけにではなくきちんとゆっくりと考えて話すといい」
「まったく無名の旅人に言われてもなあ興味持たれる理由が分からないねえ」

 アンナが踵を返し、歩き出す。祖国で発行された作品で聞いたことのある単語にガイウスは反応した。

「龍殺しのリンドウの話も、また聞かせて欲しい」

 ガイウスの言葉に一瞬アンナの歩みが止まるが、片手を上げ振りながら仲間の元に帰って行った。

 拾った子供たちに聞かせた作品のうちの一つに、とある東方地域の逸話があった。山のように大きな龍をその辺りの木の棒で一閃したと言われる刀使いと共に旅をするものであり生涯唯一の弟子でもあった赤髪の少女がいたという。少女はザクロといった。そして彼女が持っていた手紙の中に入っていたものといえば柘榴石(ガーネット)。それは即ち―――

「偶然であればいいのだが」

 飛空艇に乗り込み、真実を確認するため、祖国のため男は旅立つのであった。


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#ガイウス

 シド光♀初夜話。旅人は奮い立たせたいで起こった話です。何でも許せる方向け。 投…

紅蓮,ネタバレ有り

紅蓮,ネタバレ有り

【R18】旅人は初めての夜を過ごす【pass:共通鍵】
 シド光♀初夜話。旅人は奮い立たせたいで起こった話です。何でも許せる方向け。
投稿を見るには鍵を入力:

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 遂に1週間位悩んだ初夜話をアップしました。エロを表に出すのは初めてなので拙い文…

メモ,ネタバレ有り

メモ,ネタバレ有り

20240104メモ
 遂に1週間位悩んだ初夜話をアップしました。エロを表に出すのは初めてなので拙い文章で恥ずかしい。パスワードはトップにヒント書いてるんでそれで判断してください。
 色々詰め込んで一晩中自機には頑張ってもらいました。解釈違いとの戦いを制しましてまあ満足です。

 本文中でも書きましたが自機は性的なコトに関しては自分に当て嵌めることなくゲラゲラ笑うコンテンツになっています。想う相手も作らず自慰行為にふけっても時間の無駄だったってやつですね。性的機能は未熟なままで胸だけデカくなったウサギさんです。そこからズルズル堕とされるのが性癖なので面倒なものを書く羽目になりました。本当は色々シーンぶつ切りにするのもよくないししっかり喘ぎ声とかも書きたいんですけど自機は♡喘ぎするの想像して気持ち悪いよ……ってなる。インプットが少ないのでもう少しいろんな本を読まないといけないですね。

 シドとしては新生終了地点でもうズルズルと片想いしていたけど、誰にでも優しく自由にはばたくこの人の隣にいれればいいと遠慮してました。しかし向こうからそんな提案されてなんかテクニックもありますでも処女ですされたらまあ狂うよねって。過去に相手いたのかなはまあまあ考えたけどおぼっちゃまだからそれ位はあるでしょというわけで。
 じゃ、明日からは何事もなく会いましょうで出来るのがアンナでムリなのがシドです。真っ先にネロに見せつけるのかわいいねが後日談です。

 ネロ的には自機は記憶より全体的に柔らかくなってるものの本質はゴリラなのでアレに恋愛感情抱くとか正気か? まあ破れ鍋に閉じ蓋かとは最終的に結論付けます。
 だってネロは女性的な体つきしてるけど滅茶苦茶強い災害を制御できるヤツなンて絶対いないだろオレが全部解析して飼い慣らしてェって思ってたけどシドにかっさらわれたので。今思うとガーロンドに押し付けられてよかったなって思う自由奔放さを遠い目で見ています。コレ相手は勃たねェからって明言してるので自機は漆黒以降有事の際は真っ先に頼る程度には信用しています。
Q.どうして暁や特にガーロンドに頼らないンだ? A.くっっっそ面倒だから。その点ネロサンは知り合いの中で唯一大して介入しない自由に動ける大人なので。って感じ。
 どちらかというと兄と同じ感じに見てる感じですね。年下の兄。

 そしてこの話以降からルート分岐の準備となります。本編時空と、第八霊災が起こる時空、そして第八霊災は起こらないかつ答えが見つからず1年経ってしまった後の時空。最後は絶対あり得ないんですけど準備はされてます。
 本編準拠ですが少しだけ違う自機の旅を続けて行こうと思います。

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注意旅人は奮い立たせたい後日談です。  「よっネロサン生きてる?」「お…

紅蓮,ネタバレ有り

#シド光♀ #ネロ

紅蓮,ネタバレ有り

旅人は人を見舞う
注意
旅人は奮い立たせたい後日談です。
 
「よっネロサン生きてる?」
「おかげさまで、な。久々じゃねェか」

 ラールガーズリーチ、野戦病院。オメガに襲撃され大けがを負ったネロは意識こそ回復したものの未だに絶対安静を言い渡されている。
 そんな彼の前に黒髪のヴィエラが顔を出した。

「お前毎日回復魔法かけてたンだろ? ガーロンドのところに顔出さずに」
「あら知ってたの?」
「ビッグスとウェッジが言ってた。喧嘩でもしてンのか?」
「邪魔になるでしょ?」

 アンナは温泉旅行というものは名ばかりで実は毎晩こっそりケガを負っていたビッグス、ウェッジ、ネロに白魔法をかけていた。ネロが薄目を開くと時々噂だけ聞いていたシャーレアン式占星術師の格好もしていたが。そして疲れた分はまた温泉に行き、個室で作業をする生活を5日程繰り返している。
 シドの所は顔を出すか考えたが集中が阻害されるだろうと考え現れないようにしていた。もちろんジェシーにもバレないように忍び込んでいる。

「キミがいない分いっぱい頭使って働いてるんだし集中させてあげたいのさ」
「そりゃ優しいことで。ってリンゴか?」
「さっきそれぞれビッグスとウェッジにもあげてきたところでねえ。お見舞いの定番」
「そうか?」

 アンナは「多分」と言いながらナイフとリンゴを取り出し皮を剥き始めた。器用に剥かれていくいく紅い果実をネロはしばらく眺めていたらアンナが「そういえば……これ、知ってる?」と言いながら便箋を取り出す。黒色に金のラインが引かれた便箋。ネロからするとよく見ていた印がつけられたものだ。

「ああ当然だろ? 祖国の初代陛下が使っていたヤツだよ。どこで手に入れたンだ?」
「アラミゴ解放パーティが終わって次の日に置かれてた」
「はあ? あの方はとっくに亡くなってて使ってるヤツもいねェぞ」
「でしょうね」

 あっという間に赤いリンゴは白に変貌し、等分される。「はい」とネロの口元に押し付けられたのでそのまま食べる。

「おいしい?」
「うめェな。じゃなくて! 何が書いてあった?」
「その前に。ネロサンじゃないんだよね? このイタズラ」
「オレがやるわけねェだろ」
「だってボクがアレだって知ってるのはキミしか把握してないし。だから聞きに来た」
「オレが犯人だとして白昼堂々と尋ねンじゃねェ」

 次々とリンゴを口に押し込まれる。「一気に食えねェよ皿に置いて渡せ!」と言ってやると「面倒」と返された。そう言いながらも皿にリンゴに乗せて横に置く。その後鞄の中を漁り始めた。

「じゃあ準備しとくに越したことはないか。……はい」

 ネロに1冊の本が手渡される。豪華な装丁にグルグルと鎖が巻きつけられた分厚い不審物をネロは怪訝な目で眺めている。

「なンだこれ?」
「答え」
「は?」
「いやキミに対してのものではなく。……ボクが死ぬか今日から1年後ガーロンド社に帰ってくることがなくなった時、シドに渡してほしい」
「ンでオレが」
「ヒミツと約束を守ってくれそうな人、キミしか知らないからさ」

 押し返そうとするが珍しく弱った顔で見てくるので詰まってしまう。そんな顔ができたのかこのメスバブーンという本音を仕舞い込んだ。

「何でそんな準備をする必要がある?」
「『お前の役割は終わった』」
「ア?」
「手紙の内容」

 アンナは手紙を開封し、手渡された。真っ黒な紙に書かれた白色の文字とガーネットが施された装飾品。ネロがガーネットの意味を問うとアンナは昔皇帝に名乗ったからと答える。

「こんなイタズラされたら遺言の準備もしたくなるさ」
「物騒なこと言うンじゃねェ。てかお前これ抱えたままこっち手伝ってたのかよ……誰かに相談してンのか?」
「こんなの誰にも言えるわけないでしょ? ちょうどキミが過去のボクを知っていたからね。やっと話せてスッキリした」

 アンナは足を組みため息を吐く。ネロは手紙を閉じ突き返した。

「ったくまあ受け取ってやるが中身見るぞ?」
「その錠はいろいろ技術練って簡単には開かないようにしてるよ。後でシドに鍵渡すからそれが揃って初めて開封できる」
「楽しいギミックを作りやがって」
「カンニングされたら困るからね」

 さっきから何を言ってンだ? とネロは聞くとアンナは今シドに宿題をあげててねと答える。

「もし死を回避できてもさ。1年後、彼が宿題を解けなければエオルゼアから出て行こうと思っているんだ。あ、これも内緒だよ?」
「また突然なこと言うなオマエ」
「彼が喉から手が出るほど欲しい答えは全てそれに書いている。猛烈に後悔させる予定さ」

 クククと笑う姿を見てネロはため息を吐いた。痴話喧嘩か何かに巻き込まれてしまったようだと気が付いた時にはもう受けるしかない状況に追い込まれている。とりあえず傍に置いている鞄の中に投げた。それを見たアンナは「ありがとう」と満面の笑顔に戻っている。その後何かに気が付いたのか頭部を指さした。

「あ、髪にゴミ付いてるじゃんのけてあげるよ病人サン」
「へいへいって近づく必要ねェだろ!?」
「絶対安静でしょ」

 ネロの寝台に手を置き、髪の毛をぐしゃりと撫でながらゴミを払い、乱れた髪型も直して見せた。アンナの顔が頬に寄せられ香水の匂いがほのかに香る。
 対してネロは猛烈に慌てていた。なぜかというと、背後にちょうど今休憩のためか外に出て即気が付いた大層機嫌の悪い噂の男が大股で近付き腕組みしてネロを睨みつけていたからである。

「おい! メスバブーン離れろ!」
「言われなくても。騒ぐ必要ない」
「う、し、ろ、見ろ!」

 ここでアンナはようやく後ろを振り返る。

「あ、シド」
「久しぶりだな、アンナ。温泉旅行は楽しかったか?」
「久々の休暇、羽伸ばし。シド、進捗は?」
「まあまあって所だ。そこのリンゴ貰っていいか?」
「いいよ」

 シドは側に置いていたリンゴをシャリシャリとネロをジトリとした目で睨みつけながら食べている。「あと1つだ。あ、ネロサン食べといて」とネロの口に近付けたので「それはガーロンドに渡せ! 病人を殺す気かよ!?」と押し返しながら悲鳴に近い声をあげた。
 アンナは首を傾げながら「そっか。じゃあはいあげる」とシドの口に押し付けるとそのまま食べていた。

「腹減っていたからちょうどよかった」
「ならちゃんとご飯。私もお腹空いた。今行く?」
「おう」

 じゃ、ネロサン。お大事にと言いながら椅子から立ち上がり踵を返した。シドもそれに付いて行く。

「おいマジかよ」

 ネロは即腐れ縁の異変に気が付く。一瞬ネロに笑顔を向けた後アンナの腰に手を回し、歩いているからだ。えらく密着しているがアンナは一切動じず何を食べるか聞いている。

「マジかよ」

 残されたネロは乾いた笑いで見送るしかできないのであった―――。



 アンナが温泉旅行に行ってから一切顔を出さなくなった。リンクパールで通信を試みたが基本的に装着しない人間に通じるわけはなく。
 ヤりすぎたし反省もしている。自分も身体を引きずりながら送られてきたデータと睨み合っていた。
 あの親父がやらかしたシタデル・ボズヤ蒸発事変のものなのだ、未だに震える手を抑えることが出来ないが、気分は不思議と沈み切っていない。
 アンナは1年以内は俺の前からは逃げない、分かっている。きっと集中できるように配慮しているのだ。適度に会える方が嬉しいのだがと電子タバコをくわえながらため息を吐く。

 小腹が減ったので外に出る。ジェシーに飯を食いに行ってくると言い、ついでにネロの方に顔でも出すかと思い野戦病院に向かうと見覚えのある後ろ姿が。アンナは何故俺でなくネロのところに真っ先に向かった? 目を凝らしてみると傍に置いていた皿にリンゴが乗っている。
 ただのケガ人への見舞いだったらしい。なんだと思いながら近づこうとしたらアンナは急にネロを寝台に乗っかりヤツの顔に自分の顔を近づけていきやがった。

「は?」

 つい声が出てしまった。俺は慌てて大股で近付く。ネロと目が合った。即気が付いたらしく必死にアンナに後ろを見ろと言っている。そこで初めてアンナが振り向き何事もなく「あ、シド」と呑気な声で俺の名前を呼ぶ。
 いつも通りの彼女である。数日前あんなにも乱れていたとは思えないほど、変わらず奇麗な人だった。やはり強いなと考えながら剥いてあったリンゴを1つ貰う。するとアンナは残っていたあと1つの欠片をネロの口元に持って行ったのだ。ネロは必死に押し返しながら「それはガーロンドに渡せ! 殺す気か!?」と言っていたので許すことにする。アンナは首を傾げながら俺に渡してくれたので遠慮なく貰った。

 しかし何で真っ先に俺の口へ運ばなかったのかと思ったが、そういえばネロは病み上がりで未だ絶対安静の身だったことを思い出す。アンナは基本的に弱った者には優しい。ビッグスとウェッジが倒れた時も白魔法で回復する姿を見た。殺意を見せない限りは優しくしたい、という言葉を以前聞いている。

 この後一緒にご飯食べるか聞いてきたので快諾したさ。とりあえず温泉話でも聞こうかと俺はアンナの隣を歩く。「何食べる?」「個人的にあの屋台の飯、美味」等喋りながらふと顔を見上げると話し方は誰もが知るものだというのに少しだけ視線が泳いでいた。自然と笑顔がこみ上がっていくのも当然だろう。ネロにその顔を見せつけてやった。

 そう、優しいと見せかけて氷のように冷たい心を持った彼女は変わり始めている。だから早く、呪いを解く方法を、考えてやらないと。俺の前から消えてしまうより先に、な―――


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#シド光♀ #ネロ

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―――明日は降神祭という年が一巡することを記念する日。何でもお祝い化するエオルゼ…

漆黒

#シド光♀ #季節イベント

漆黒

旅人は新年の空を見上げる
―――明日は降神祭という年が一巡することを記念する日。何でもお祝い化するエオルゼアに来て何年が経過したのだろう。新年祝い程度なら故郷でも無かったわけではないが本当にこの地域は色々な国のお祭りを柔軟に取り入れるなぁ。

 今日はまず今年も色々ありました、と感謝のしるしに石の家の掃除を手伝った。今年の汚れは今年のうちに。旅人である自分には無縁の文化だったがそれも楽しかった。
 ついでに自分の鞄や相棒チョコボのフレイム、リテイナーのフウガ、リリア、ノラに預けた荷物も整理し新年を迎える準備も終わらせる。今日は休んでいいよ、と料理をあげたらみんな喜んでくれて嬉しいね。
 いろんな組織から年忘れの会に誘われたがふわりと断り、現在黒衣森にて1人焚き火の前で空を見上げていた。
 この空を見上げる行為がこれまでの新年を越える瞬間の過ごし方で。いや、いつが新年かなんて見分けがつかなかったからそう言ってるだけさ。まあ何十年も続けてるわけだから簡単に変わるわけもなく。

 さっき釣った魚や狩った動物の肉を焼き、先程グリダニアで調理した餅を食べる。ついでにいつも後ろに付いてきているハシビロコウに適当に生魚を投げた。本当にいつの間にか付いて来たしどこか"忘れて欲しくなさそうに"佇んでいるものだから邪険に扱うことが出来なかった。
 少しずつ自分の中で決めてきた日常に誰かの手が入っているのは少々面白い。最初は心がバラバラになりそうなくらい苦痛で厭だったが、一度作っていた壁を正面から破壊されるとそれも悪くないと思うようになっていった。
 懐中時計を開くとあともう少しで時計の針が一巡し、新しい世界に足を踏み入れる。何か物足りないと思う心を撫でながらまた星空を見上げているとふと人が走ってくる音が聞こえた。
 音が聞こえる方をいつもの笑顔で眺めていると白色の男が息切れしながら走って来た。

「やっと見つけた……」
「おや社畜のお偉いさんが走って来た」

 やってきた足りなかったパーツ(シド·ガーロンド)に「まあとりあえずおいで」と開けておいた隣を指さしミネラルウォーターを開けた。さすがにその辺りの水をおぼっちゃまにあげるほど終わった価値観はしていない。
 シドは私の隣に座り水を飲んだ。

「最低限やるべき仕事は終わらせたさ。細かい作業も片付けておこうと思ったらお前座標だけリンクシェル通信で流しただろ? おかげでジェシーたちに満面の笑顔で見送られたさ」
「別に社員と迎えてもよかったんだよ? 地獄の新年」
「アンナがいないだろ?」

 シラフで何言っているんだコイツ。まあシラフでいろいろ吐くのはボクも変わらないか。

「こうやって過ごすクセが抜けなくてねえ。故郷もこれよりも大きい焚き火の周りで火に感謝しながら酒の交わし合っていたのさ。未成年だったボクはとっとと寝させられたけど」

 時計の針を見るとあと数刻で日が変わるようだ。

「まあ理由もわかるよね?」
「予想はつくから言わなくてもいい」
「察しのいいキミが大好きだよ」
「お前なあ」

 カラカラと笑ってやるとシドは顔を片手で覆いため息を吐いた。まあからかうと反応が面白いわけ。
 残り約十秒。よし来たときにと考えていたプランを実行する。「シド」と名前を呼んで彼の方を向こうとするとぐいと引っ張られた。そしてボクの口に唇を押し当てられた。
 横目で見るとジャスト0時。やられた、と目を閉じた。

「ちくしょーボクがする予定だったのにな」
「それだけ慣れたんだ」
「悔しいなあ」
「新年から悔しがる姿が見れたからいい一年になりそうだ」
「……バーカ」

 私が作っていた壁を壊し、呪いに新たな祝福を上書きした男の肩に手を回し密着させた。「だから逆だろ」という言葉は無視することにする。兄さんもお嫁さんたちとこうしているのかな。

「そうだ、リムサロミンサに行かない? 今年の運勢を見よ」
「今からか? 初日の出を見に行くのが先だろう」
「今から気象予報を見て来いって? 無茶言うなって」
「それ位調べてきたさ。コスタでいいだろ?」
「リムサ行くのにはかわりないじゃん。というか間に合わないって」
「……じゃあここでいいな。お前別にそういう文化はここに来るまで触れずに星空眺めてたんだろ?」
「うん、そだね」

 1人だったハズの場所に常に誰かいるというのは少し照れくさい。でもそういうのも、悪くない。
 しかしこれから誰かと過ごすならば同じ見晴らしがいい場所でももっといい所がたくさんある。

「来年は、ここ以外を考えておく」
「そうしてくれ」

 とりあえず、殴り込みかな。

―――一方その頃ガーロンド・アイアンワークス社。
「俺が! 妹と! 過ごしたかった! 君たちなぜ止めた……あぁ……」という表情をコロコロと変えながら呻き声をあげる赤髪ヴィエラの男を肴に残った社員で仕事を片付ける会が行われていたことをアンナは知らない。


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#シド光♀ #季節イベント

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―――あれは魔導城プラエトリウムで堂々と影口を叩かれ、舐めプされた挙句あっさり負…

本編前

#ネロ #即興SS

本編前

旅人と赤色

―――あれは魔導城プラエトリウムで堂々と影口を叩かれ、舐めプされた挙句あっさり負けることになった出来事よりも前だ。羅列したら今でもかなりムカついてきたなこりゃ。すまねェ話題が逸れる所だった。あの旅人には数度会った事がある。確実にガーロンドが会うよりも前。そうだ、まだアレが赤髪だった頃。自分が『鮮血の赤兎』だってコト隠す気あったのか? と疑問に思うグリダニア入りする前のアレについて少々語っておこう。

1.高地ラノシアより

 あの頃、オレはエーテル計測のために何度か独断でエオルゼア内に潜入していた。今回は高地ラノシアでタイタンのエーテル計測に洒落込もうと1人森の中で計測装置と睨み合っている。エオルゼアでは敵視されるであろう第三の眼を隠すため仮面を被り行動していたのもあり少々視界が狭い。それを補う手は持っていたのであってないようなものだが。とにかく手に持った端末でエーテル観測装置動きを見る。
 急にエーテル反応が激しく上下し、興奮した。どこから来ているモノなのか、タイタンと関係してるのか? いやあの小さき蛮族たちにはまだ召喚できるほどの余裕はないハズだ。未知の発見に大人げなく目を輝かせていたらやらかした。いつの間にかコボルド族に囲まれ俺はため息を吐く。
 別にコイツらくらい即追っ払える。いつものハンマーは持って来ていないが、小型ガンブレードを取り出そうとニィと笑いながら懐に手を突っ込もうと瞬間だった。観測装置が何やらブザーを鳴らし、端末で映し出していたデータがぐわんと動いたのだ。どういうことだ、と思った瞬間だった。

 オレの前にヒトが降って来た。

 赤色の髪、長い耳。鋭い"銀色"の目にすらりと高い背丈はオレと同じくらいだろう。長い耳を含めたらアウラ族の男と同じくらいには大きい。聞いたことがある。オサードの方に住むヴィエラ族。急に天に向かい矢を打ち放ちオレに「伏せな」と一言。その異質な声に一瞬鳥肌が立った。これは殺意、それも目の前の女から。オレは反射的に地面に伏せた。更に腕を掴みながら抱き寄せられた瞬間、頭上が風を切った。先程まで自分がいた場所に大量の矢が落ちる。

 コボルド族の叫び声を皮切りに、断続的に何かが落ちてくる音が聞こえた。

「いいよ」

 と朗らかな声が聞こえ、細い肢体から離れながら顔を上げると周りに散乱した矢、そしてコボルド族の死体。うめき声も聞こえる。仲間を見捨てて逃げ行くヤツもいた。
 目の前でそのヴィエラは「恨むならあの男じゃなくて、"私"」と言いながら笑顔で致命傷を負ったコボルド族にトドメを刺す。ヒュ、と喉が鳴った。観測装置をチラりと眺めるといつの間にか何事もなく推移していた。



「ケガはない?」
「あ、ああ」
「よかった」

 一頻り作業が終わったのかオレのところにヴィエラが駆け寄ってくる。優しい"銀色"の目が細められた。

「騒ぎ声が聞こえて木の上から確認したらあなたが蛮族に囲まれてたから乱入してみたのさ」
「あ、ありがとナ?」

 引きつった笑顔でとりあえず礼を言う。会話は出来るらしい。ひとまず安堵するがあのパワーがどこから出て来ているのか分からなかった。
 健康的な褐色の肌に引き締まった筋肉、男とは異なる柔らかそうなそこらの女より豊満であろう胸。背面を隠すマントの下に見える民族衣装の特徴的にもオンナだと分かるが理解を拒む。

「あ、"私"は通りすがりの旅人、あなたも……旅人だな?」
「まあ異国から来たからオマエと一緒ってやつか」
「そう。だから名乗り合わず一期一会って所。ああ仮面も外さなくて構わない。"この子"は興味ないだろうから」
「怪我をしているもンでな。助かるぜ」
「そう。最近蛮族やモンスターが騒がしいから気を付けてな」   

 オンナは踵を返し手を振る。一瞬だけ翻されたマントの下に引っ掻かれたような傷痕が見えた。それがこのオンナの想像もつかない旅路の一端が伺える。

「じゃ、逃げたあなたを襲ったコボルド族のトドメ刺しておいてやるから。あまり知られたくないでしょう? イヒヒッ」

 逃げて行った奴らの方向へ走って行った。その後俺は汗が噴き出し座り込んだ。手の震えを止めようと端末のログを見つめた。
 あんなまとまった殺意を隣で受けたのだ。ビビるに決まってンだろ。だが当時のオレにとっては一つの興味も湧いてしまったのだ。

「面白ェ玩具を見つけたぜ」

 当時のオレを殴りたい。あンなヤツに興味持った地点でオレは終わってンだよ。
 でたらめに撃ち上げた矢と回し蹴りだけで小型生物であれ笑顔で生き物を殺せる人間を扱えるヤツがいるわけがないじゃねェか。

2.戻ってこない

 閣下がエオルゼア入りして間もない頃、俺は何人かに金を握らせてそのヴィエラの情報を集めた。名前はすぐに分かった。『アンナ・サリス』、第七霊災以降エオルゼア周辺に現れた『旅人』らしい。困ったことはないかと声をかけ、牧畜の手伝いからモンスター討伐まで大体のことは何でもやってもらえるのだという。加えて報酬は現金でなく食事や泊まる場所の提供でいいというお人好しだとか。
 よく分かんねェヤツだった。あんな軍人でもある自分が本能的にやべェとなる旅人が存在するわけがないだろと平和な脳みそのやつらだとため息を吐く。
 また調べたら最近グリダニアで冒険者として登録したのだという。この登録が行われるよりも前から自発的な人助けが行われていたらしい。いや絶対どこかで雇われた傭兵とか草だろ? そうだと言って欲しかった。そっちの方がいっそ精神的に楽になる。
 じゃなければアレは、山から下りてきた危険生物か災害の擬人化だ。
 しかし気になったこともある。金を握らせた情報屋たちが日を重ねるごとに来なくなった。持ち逃げされたのか? とその時は思ったが、オレはある時とンでもない話を通りすがった衛兵の話が聞こえたのだ。「最近よく情報屋の死体が上がるな」、と。
 詳細を聞くべきか衛兵に声をかけようとした瞬間肩を叩かれた。一瞬風がざわめき心臓が止まりそうになりながらも振り向くとそこには、あのヴィエラがいた。"赤色"の目を細め、会釈する。

「こんにちは」
「お、おう」
「いい天気だね」
「そうだな」

 しばらくこの調子で他愛のない話が続く。この辺りのおいしかった食べ物の話や、特産物の話。グリダニア、とっても落ち着くしいいよねと笑顔で語るのを聞く。

「うん、あなたではなさそう。じゃ」

 と一頻り話をした後軽やかなステップで去って行った。そしてボソと無機質な小さな声が俺の心臓を掴んだことを覚えている。

「この辺りで合流するって口を割ったんだけどなあ」

 振り向くがそこには誰も、いなかった。
 アイツが殺せるのはモンスターだけではない。人も、あの笑顔で、手にかけることができる。
 アレをもし閣下の元に持って行ったらどうなるだろうか。いや、忠実に人の言うことを聞くオンナには見えない。それ以前にアレを、誰にも渡したくない。当時のオレはそンな下らないことを考えていた。異性としての感情ではない。ただ、今復元しようとしている旧い技術と並ぶ"奥の手"として欲するようになったのだ。
 あの時のオレに言いたいことがある。やめておけ。鮮血の赤兎に、殺されかけるぞ。



 というのがあのオンナがガーロンドに出会うよりも前の昔話ってやつだ。今や髪色を変え、性格も柔らかく見せながらガーロンドの野郎に懐くバカウサギになっている。
 未だ底を見せないあのオンナのバケモノスペックを前によくデレデレ出来るもンだ。
 練度が低かったとはいえ小型のカストルムを1時間経たずに1人で殲滅させる実力を持つバカがオンナなわけがねェだろ。隠蔽したこっちの身にもなれって話だ。


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#ネロ #即興SS

2023年12月 この範囲を時系列順で読む この範囲をファイルに出力する

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注意レイド次元の狭間オメガシグマ編4終了後のシド光♀。事後描写有り(最中は無し)…

紅蓮,ネタバレ有り

#シド光♀

紅蓮,ネタバレ有り

旅人は奮い立たせたい
注意
レイド次元の狭間オメガシグマ編4終了後のシド光♀。事後描写有り(最中は無し)。
 

―――ビッグスが、ウェッジが。ネロまでヤツの襲撃に遭った。俺は軽口をたたきながらも深い傷によりグッタリとしたネロを抱え出口に向かった。するとケフカの検証の時には見られなかった神妙な顔をするアンナとへとへとになったアルファが戻って来た。
 怖かった。俺以外の検証に参加した仲間が目の前で倒れていく姿をこれ以上は見たくなかった。"あのデータ"を取り寄せるよう言いつけて俺はありったけの酒を持ち支社の与えられた部屋に籠る。


「ジェシー。シドは?」
「あらアンナ。会長なら暗い顔して部屋でお休みよ。あなたこそ何やってたの?」
「ビッグスとウェッジとついでにネロサンにちょっとだけ回復魔法をかけてあげてた」
「ありがとう。あなたも色々あったのに疲れたでしょ?」
「大丈夫。体力だけが取り柄だから。シドの方が精神的に疲れてると思う」

 ラールガーズリーチでアルファと後片付けをしていたジェシーの元にアンナはふらりと現れた。珍しく白魔道士の装束をまとい杖を持ち上げながら背伸びして体を伸ばす動きをしている。置いてあったケトルでコーヒーを淹れ、一気に飲み込む。
 アンナの手によってオメガによって行われるシグマグループとの検証が終わった。ぐったりとしたネロを引き連れて戻って来たシドの顔は精神的に限界を見せていた。ジェシーが心配するのは当然の話で。アンナは肩をすくめながら話しかける。

「まあ親友が大ケガでぶっ倒れたらさすがに決壊するよねって思う」
「確かに……会長大丈夫かしら」

 ジェシーの言葉にアンナは少し考えるそぶりを見せる。ここ最近は仕事だけではなく脱線してオメガの行方ばかり追いかけストレスが溜まっているだろう。それなら少々慰めて様子を見てみればいい。そんな最近の彼の動きを考えながら「そうだ」とつぶやいた。

「なんとなく私に任せてほしい。発破かけてくる」
「いつも大変な役回りばかりさせちゃうわね」
「大丈夫。普段から助けてもらってるから」

 ジェシーはアンナにシドがいる部屋の位置を教える。「迷子にならないかしら?」とジェシーが冗談を言うと「善処する」と消えて行った。

「多分あなたにしか出来ない役回りよ。頑張って、アンナ」

 1人残されたジェシーはため息を吐いた。足元のアルファは「クエッ?」と鳴いた。



 ドアを数回叩かれる。もう資料が届いたのだろうか? 開いてるぞ、と口を開こうとする前に扉が開かれアンナが顔を出す。第一声が「酒くさい」だったので「悪かったな」を返してやった。彼女は扉を閉め倒れた酒瓶を起こしながら俺の前に座る。部屋に充満するアルコールの香りの中からふわりとせっけんの香りがする。改めて彼女の服装をちらりと見るといつもと違い少しだけ軽装ところを見るに先に風呂にでも入っていたのだろう。武器も外し完全なオフの格好に見える。少しだけ沈黙が流れた後彼女が口を開いた。

「シド、落ち込んでる?」
「ま、まあな」
「そりゃ連日部下からケガ人が出てたらそうなるか」

 やれやれと言いながら俺の髪を丁寧に梳くように撫でる。熱くなった頬に触れながら「ほら今のあなたはお酒が入ってる。誰にも言わないからさ? 吐いてしまえばいい」という言葉に心の中のナニカが決壊する。

「皆が倒れていく。なぜ俺だけ無事なんだ。お前もいなくなるかもしれない」
「私は負けないよ?」
「うそをつくんじゃない。お前だって合流した時、苦しそうだったじゃないか! 社員を、アンナを失わないために何かできるのか? 俺は―――」
「シド!」

 肩を掴まれ、彼女の俺を呼ぶ叫び声でハッとわれに返る。

「オメガは真っ先に残っていたビッグスやウェッジ、ネロサンを狙った。検証終わりを狙って私を殺そうともしたさ!」
「そうだ、だから」
「でもアイツは2つも間違えてしまった大莫迦機械だよ。まずミドガルズオルムのおかげで私は生還した。そして何よりもシドを狙わなかった。毎回壮大な夢物語を現実で形にして世界や私のために道を作る、あなたを」

 彼女は俺を力強く抱きしめた。冷たい肌の感覚とバクバクと心臓の鼓動が聞こえる。普段と変わらない声色なのに緊張はしてるのかと彼女の硬い胸へと頭を沈めた。

「心臓の音、聞こえる? 私は生きてる。……アルテマウェポンを破壊するときも、トールダン7世をぶちのめすときも。アレキサンダーを停止させるときだって確かにほとんど私が全部斬ったさ。でもそこへ向かう道を作ってくれたのはシド、あなただ」
「アンナ―――」
「アジス・ラーの時言ってくれたよね? 俺は生きてるって。そうだよ自らを犠牲にせずみんなに伝え、空へ道をつないで支援に徹するのが天才機工師であるあなたの役目さ」

 彼女の体に手を回そうとした瞬間体が離れていった。気配察知だけは相変わらず上手なようで優しい笑顔で俺を見ている。つい釣られて笑みを浮かべてしまう。

「元気になった?」
「ま、まあな」
「よかった」

 頭をぐしゃりと撫でまわされた。「子供扱いしてるのか?」と聞くと「私からしたら今のシドは子供みたいなもん」とキシシと笑っている。自称26か40か忘れたがそんなに変わらない年齢だろうと小突いてやった。

「だから、オメガを止める協力、よろしく」
「それは俺のセリフだ。お前がいないと終わらせることはできないからな。俺は……」
「……うーんまだ本調子じゃないね」
「? って、なっ!?」

 彼女のつぶやきの意味を考える前に身体に痛みが走り天井を見上げていた。そして彼女の顔が近づいたところで俺は初めて押し倒されたと判断する。抵抗しようにも腕を押さえつけられ身動きが取れない。やはり彼女は無駄に力が強すぎる。俺の抗議を無視して彼女は妙な事を言い出す。

「私は敵を数体薙ぎ払えば悩みや欲求不満なんて吹っ飛ぶけど……まぁ普通の人は違うよねえ」
「あ、ああそんなストレス解消方法があるのはお前だけだが―――」
「聞いたことがあるんだ。男というヤツはさ」

 不敵な笑顔を見せ一息入れた後恥じらいもせず言い切りやがった。

「一発ヌいたらいいんでしょ?」

 さっきまでのいい空気が台無しだチクショウ。天を仰ぎため息を吐いた。



 意識を飛ばしたアンナの後処理をした後、しばらく本当にこの人と性行為を行ってしまったのかとぼんやり考えた。考えても仕方ないと眠ろうと寝そべり睡魔に身を任せようとした瞬間、アンナは起き上がった。「マジかぁ」という声が聞こえた。自分の体を確認している動きを見せた後いきなりシドの頭を撫でたので何が起こったのか一瞬理解できなかった。
 立ち上がろうとしたので慌てて抱きしめ、「行くな」というと、振り向き苦笑した顔を見せ再び寝そべった。見捨てる気はないらしい。
 アンナは無言で熱がこもった目で自分を見るシドを見つめる。一瞬無言の時間が流れ、アンナは口を開く。

「一度しか言わない」

 寝起きでぼんやりしているシドにアンナはかすれた声で囁きかける。喘ぎすぎて声を枯らしてしまったか、罪悪感が湧いてくる。しかし、過去にどこかで聞いたような懐かしい声色だ。

「"この子"に特別な感情を抱かせたかったら……宿題だ。最高の殺し文句を考えておいで。期限は今日から1年」
「いち、ねん」
「キミがもし見つけるコトができなかったらアンナ·サリスはキミを……世界ごと捨てていなくなる」
「消えても、絶対に捕まえてやる」
「ダメ。ちゃんと頭を使って考えて。キミがどれだけ想ってくれているかは、痛いほど分かった。2人きりならキスも許すし好きと言うのも止めないよ。でも、"今のボク"はキミに感情を抱くことはできない。ボクの呪いを解けるもんなら解いてみな。多分世界中どこを探しても解くことが出来る人間は、キミだけだから。そのために"ボク"は―――」
「お前が欲しい、言葉。ヒントもなしか?」
「もう揃ってる。……さあ寝るんだ。もう出すもん出し切ったでしょ? 身体が重いったらありゃしない。絶対オメガの検証を完了させよう」
「ああ。―――ごめんな」

 アンナは「"ボク"は気にしてないし謝るくらいならヤるな可哀想だろ」とシドの頭を撫でながら再び目を閉じた。その優しい手にシドも目を閉じ、あっという間に眠ってしまった。



 目が覚めるとシドは1人寝台に転がっていた。夢だったのだろうか、と気怠い身体を起こし鏡を確認すると昨晩付けられた痕跡が現実だと教えてくれる。
 カーテンを開けると外はすっかり明るくそりゃ彼女はいないわけだと苦笑する。衣服が整えられ酒瓶が片付けられているのを見ると彼女はしっかり後片付けまでしたようで。のんきに眠っていた自分が恥ずかしくなってくる。「そうか、ついにやってしまったか」とボソリと呟いた。
 ウソまで吐いてこれまで叶わなかった彼女と抱き潰すように体を重ねるという結果を残してしまった。罪悪感がないわけではないが先に仕掛けて来たのは彼女だ。
 兎も角空腹で倒れそうなので上着を羽織って外に出ようと扉を開いた。念のため鏡を再び確認すると一度イタズラで付けやがった時にも思ったがパッと見えない位置に付けている。相も変わらずその技術は見事な手法だと笑みがこぼれた。対して自分はどこに噛みついたのか記憶をたどったが思い出せない。

「会長、やっと起きたんですか」
「ああすまないな。……アンナは?」
「アンナですか? オメガの検証で疲れた身体を癒やすためにクガネで温泉一時休暇旅って言ってました」
「そ、そうか」

 いつもだったら笑顔であいさつしてくれるハズの彼女が、いない。ジェシーの「何かあったんですか?」という言葉を適当にかわしつつ食事をとろうと外に出る。まだ手が震えるが少しでも勝率を上げるために、彼女を勝利へと導くために。何よりも彼が道を作るために必要なモノを待つ。
 何よりも隣にいてもいいという【許し】を得られたことが、そしてようやくSOSを聞かせてくれたのが何よりも嬉しいと笑みをこぼす。1人でどこまでできるか分からないが、やれるところまでやってやろうと思いながらコーヒーに手を伸ばすのであった。
 あの言葉が夢ではなければあと1年だ。そうしないと、シドは、世界ごと捨てられてしまう。そんなこと、認められるわけがないと不味いコーヒーを一気に飲み干した。

―――一方その頃。

「ちくしょー騙された。容赦なさすぎる」

 アンナはクガネにある温泉につかりながらボソボソとつぶやいている。幸い人がいない時間帯だったので噛み痕だらけの体を人に見られることはない。今朝は早々に起き上がりジェシーに「しばらくクガネにいるから。適当なタイミングでお見舞いするね」と言ってそそくさとテレポで離れてしまった。殆ど拭き取られていたがドロリと垂れ落ちる感覚に気持ち悪さを抱きながらチェックインする自分に嫌気がさす。どれだけヤられたんだと首元をさすりながら荷物を置いた。
 しかしネロがいない分検証に勝ち上がる準備に時間がかかるだろう。ときどきは何も考えず英気を養うための温泉旅行も悪くない。

「まあでもスッキリ元気になったならいいか。ボクは……とりあえず風呂から出たら寝るか」

 切り替えていつも通りに行こうと伸びをした。しかし、人の記憶に残したくないからと置いていた壁が一晩で破壊されてしまった気持ちと、どこかハジメテという行為が彼でよかったと安堵する感情がアンナの情緒をぐちゃぐちゃに乱していく。切り替えようと頭をぐしゃりとかき乱し深呼吸する。

 最近自分の中で決めていたリズムが崩されて困っている。悩みの元はシドだけじゃない。暁のメンバーや最近ならばドマの人たちにも。自分が引いた線よりも中に土足で入り込んでくる。孤独な無名の旅人に、何故。理解が出来ない、どうすればいい?

 とりあえずオメガを斬ったら、分かるかな?


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#シド光♀

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―――ボクは森で住んでいながらも炎に重きを置き崇める部族、エルダス族の集落で生ま…

本編前

#リンドウ関連 #即興SS

本編前

旅人のはじまり
―――ボクは森で住んでいながらも炎に重きを置き崇める部族、エルダス族の集落で生まれた。

「ボクは将来貴方と結婚して一緒に産み落とされた愛の結晶を育てる」
「ねえさま、今日もキレイだ。お茶でもいかが?」
「ボクは里で一番の戦士になって、絶対みんな幸せにする」

 ベタな口説きセリフ。これは兄がよく言ってた口説き文句を自分なりにアレンジした言葉だった。「―――くんったら」って適当にあしらわれてたけどね。
 狩りも好きだった。槍も同世代の中で一番強かった。いつか性別が判明して、兄と一緒に修行の旅に出るんだって約束したんだ。

「こら―――!またイタズラばっかりして!」
「引っかかった方がわるいんだよー!」

 イタズラも大好きだった。椅子に何か仕込んだり洗濯物をシャッフルしたり。自分でも今思うと悪ガキだったと思う。血のつながっていない姉たちにとっ捕まって頭をぐりぐりされて。ゲラゲラと笑いながら彼女らのお尻を触って逃げたりもした。

「ボク、兄さんと絶対に旅に出る!」
「ああ僕もお前と切磋琢磨し合える未来を祈っているさ」

 ボクより10以上年上だった血のつながった兄は数年に一度帰ってきて抱き上げて振り回してくれた。なんと言えばいいか―――子供の頃の自分にとっての世界って森の中にあるものだけで。外の世界の悪意という存在を知らなかった幸せな日々だったと思う。
 14歳、性別がはっきりしたあの時までは。



「ない」

 男を象徴するものが、ない。何度も確かめた。でもないモノはないのだ。
 母のボクを呼ぶ声が聞こえた気がした。ボロボロと涙が落ちる。森の守護者ではなく護人として護られながら集落のために生きなければならない。
 それからボクの耳にはオンナタチのボクを気の毒に見る目と、罵る声が脳内から離れなくなってしまった。笑われていたんだよ、滑稽な姿だっただろうから。昨日までの無垢な笑みを浮かべる自分に焼かれ堕ちていくボク自身がこわくてかなしくてくるしくて。

 目の前の景色から色が失われてしまった、そんな感覚を味わった。ボクは耐えられなくなり、兄の帰郷も待つことも出来ない。性別が分かってから1ヵ月もせずに、集落から飛び出してしまった。



 ボクは走り続けた。方向も分からない。とにかく走りたかった。自分をオンナにしたカミサマを呪う言葉を吐きながら、真っ暗な森を走った。何度も転んだし野生生物も襲い掛かってきたがボクの敵ではない。確実に急所を打ち抜き、その肉を喰らった。髪の赤色と血の赤色がぐちゃぐちゃになり、何も感覚が分からなくなった頃ボクは真っ黒な森を抜けた。
 家の帰り方はもう分からない。歩き続けるしかない。色のない地面を踏みしめ終わりの見えない道を歩く。
 しばらくして。食べられなさそうなモンスターばかりの道を歩き続けたボクは「おなかすいた」とつぶやきバタリと倒れた。ここで終わりか。カミサマを呪ったからバチが当たったんだ。「いやだ、ごめんなさい、兄さん」知らない低い声で呻くように泣く。ボクはどうしたらよかったのだろうか。生まれ変わったら何になろうか。そう考えながら目を閉じようとした。その時だった。

「おぬし、モンスターではないな。大丈夫か?」

 かすむ視界にナニカが映る。ボクは必死に手を伸ばし「おなか、すいた」とつぶやいたら急に手に持っていたらしい水をかけられた。
 びっくりして起き上がるとボクの手に何かを握らされ、「食べなさい」と声が聞こえた。ボクはすぐにむさぼるように、食い散らす。その人はボクの背中を撫でながら「急がなくてもいい。私がいる限り、おぬしを危険な目に遭うことはない」となだめてくれた。
 徐々に視界が晴れていく。見上げるとそこには、銀髪でヒゲがよく似合う侍のおじさまが無表情ながらどこか優しい雰囲気を見せていた。そう、この人を見た瞬間、ボクの視界は昔みたいに奇麗で鮮やかに映るようになったんだ。

「名前は?」
「……フレイヤ・エルダス」
「よい名前だ。私はリンドウ・フウガ、無名の旅人をしておる。―――フウガと呼びなさい」
「フウガ」

 伸ばされた手を握り立ち上がろうとするが体が動かない。それを見かねたフウガはボクを軽々と背負い歩き出した。

「エルダス、おぬしは……ヴィエラか。家は?」
「帰れない」
「訳アリか。嗚呼言わなくてもよい。お互いのことを興味持つ必要性は皆無」

 それからボクは魔物退治を依頼されて滞在していたと近くの村に運ばれた。怪訝な顔をされながらも血を洗い流され村人から女の子だったのかと驚愕された。亡くなった娘が着ていたものだという服を渡され着替えたボクはフウガのところへ戻ると1人タバコをくわえたたずんでいた。
 藍色の着物と結われた髪、いつも額に巻かれたハチマキとヒゲが似合う奇麗な人だった。今思うと異国から来た人だったのかもしれない。すらりと細い体躯から軽やかな身のこなしで敵を斬る姿が幼い自分の心に大きく刻まれている。

「これから、どうする」
「……フウガ、ボクも旅人になりたい」
「帰る場所もない訳アリが適当な村で暮らせるわけもないか」
「じゃあ!」

 何も言わず手を差し伸べてくれた。ボクはその固い手を握り歩き出した。

―――これがボクの旅の始まり。何も知らなかったボクに世界を教えてくれた初恋さ。


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#リンドウ関連 #即興SS

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埋もれるからlog化しときます。  家族何度か書いてますが兄がいます自…

メモ,ネタバレ有り

#log

メモ,ネタバレ有り

ioで呟いたアンナ概念(今後書く予定もあるしSSにしてるやつもある)
埋もれるからlog化しときます。
 
家族
何度か書いてますが兄がいます
自機と60年以上再会出来なかったあまりクールに見せてますが心の中ではシスコンです
エーテル視が出来て弓より魔法が得意なのでスニーキングミッシションが得意
妹と再会するまではよく帝国の基地に忍び込んで知的好奇心を満たすために勝手に機械弄りしてました

しかし妹の記憶はイタズラ好きで里の女性全員と結婚するんだと口説きまくる狩りが得意なクソガキなので今の無駄に強くて人を突き放しながら無名の旅人だと人に対して壁を作る妹なんて知らない!誰だこんな子にしたのは兄は絶対許さないぞ!って怒って里に帰らず妹に黙ってエオルゼアで彼女の軌跡を調べています

里では今でも両親は健在だし兄もこの通り元気ですが自機は迷子にならず帰れる自信がないし神に絶望したので信仰深い里に帰っても合わせる顔がないって思ってます
兄は大好きです
 
トラウマ
という程じゃないけど自分の過去に繋がる要素には分かりやすいほど反応する
バレたら突き放されるだろうし下手したら殺そうと襲いかかってくる
それを反射的に勢い余って殺してしまってまた孤独になるんだって思ってる感じ
だからその前に消えて早く皆私のこと忘れて幸せに生きてほしいって心の中ではタイミング伺ってるよ

そういう意味では自分を見る目が恐怖に歪むところ見るのがトラウマなのかもしれないね
だから余計なものを見られたくないと無名の旅人だからって言う
これを言う時は大体自分に言い聞かせたい時

暁月過ぎた今はエオルゼアの人らの優しさのおかげで立ち直り、少しでも自分のことを知ってほしいと思うようになってるよ
仲間に過去を話しても「そりゃ強いわけだわ」って言われただけだったからね
今では星だと思ってる相手もいるしね

逆に言うと漆黒までは吐露は無いって事だけど救いは間違いなく存在するよ
人を突き返すことやってるもんって言い聞かせて周りの好感度上げ続けてたウサギは愚か:kawaiine:
だって人助けの方法は教えてもらってたけど人に関わらなすぎたから見捨てることは出来ないし嫌われる方法を知らないからね
 
初恋
命の恩人の30歳程度年上な侍のヒゲのおじさま
彼女の価値観は殆ど(一緒に旅した頃の)この人から出来ている
すべてを捨てて旅している人でしたが嫁や子供がいる相手だったので自機は告白はせず恩人も好意に気が付いてはいたのでお互い親しながらも壁を作っていました
刀以外にも色々な武器に長けていたので(エオルゼアの冒険者の性質に近い)彼女の弓や槍の修行もつけました
無駄に強い原因もこの人が原因です
生きていく上の知識もこの人直伝
グリダニアを目指すようになったのもこの人の提案だし無名の旅人はこの人の口癖でした
 
星芒祭
SSの次の年はシドがやり返すためにもらったビックリ箱を解析、小型改良化して自機に渡します
自機は人を驚かせるイタズラが好きですが驚かされる事に慣れていないので真顔になった後泣き出しましたかわいいね
 
蒼天の頃の自機(何でもできるに対して)
欲しい物ー作るか金積めばいいんでしょ
お相手ー故郷に帰れ(れ)ばお相手いるよ
友達ーいらん
騒げる相手ー友好蛮族と満たせてる

だから人の欲求を満たしてあげる事しか考えない
助けてとか欲しいとか言われたら先回りしちゃおうって思ってる
頼られるのって悪くないな…ってエオルゼアの英雄になっちゃった時に感じちゃったから
でも誰かのものになるというのは「何て?どうせ先に死ぬくせに」って思って自分の領域には入れたくないからふと思い付いた時に突き放すような動きを反射的にしてしまう

結局自分が先に死ぬという発想はなくて自分の前で失ってしまうのが怖いというのが自覚はしてないが憶測で感じ取ってるのでその辺りの恐怖を取り除かれないと諸々を自覚できないって感じ
実際蒼天でいろんな人が目の前で死んだ時にその考えがグワッと強くなる
だから死なずに空に道を作ってくれるシドに無意識に縋ってしまうんですね
縋ってしまう感情といや自分は全てを捨てた旅人として生きるんだという感情が事故ってバグる
 

今更自分が光に届くことはないが光が無いと迷子になるとすがり続ける子です
周りから見ると彼女が全てを照らす強く赤に輝く焔なんですけどね
彼女に近付いたら焼け焦がれるんですよ

考え自体は闇なんだけど周りから見たら本人なりの正義で動く光というのが好きなのでそういう要素があると思ってるんですよね
 
精神世界(自分の精神世界IDが作られたら?って話題)
多分過去追想方式で道中は鮮血の赤兎時代に自機を恐れて襲いかかってきた人達だよ
ボスはツクヨミ方式な優しかった人が責め立てる感じで(1ボスは兄、2ボスは命の恩人モチーフのモンスター)
ラスボスはゼノスみたいになった自分自身で倒したらある人が待ってくれてるよ
自機からしたら絶対見せたくないものオンパレードですね
表では笑顔で「ありがとう」って言ってるけど内心では特にアリゼーやアルフィノには見せなくなかったなあ!って終わってから悶絶してます

~1ボス
船の上。希望に向かう若き自機が見える。しかし座礁して暗転し、気が付いたら無人島。野生生物中心、1ボスは兄が何故ヴィエラの責務から逃げたと叱咤しモンスターの姿になる。【守り人エルファー・レフ・ジルダ】
1ボス後~2ボス
暗闇の中道を迷う再現。袋小路にはならず者やモンスター達が襲い掛かる。2ボスは弱い心を叱咤する命の恩人【龍殺しのリンドウ】
2ボス後~3ボス
在りし日のガレマール帝国。帝国兵が襲い掛かって来るので魔導城まで走ろう。城内、扉の前で3ボスはゼノスに会った事で心の中で生まれた自分がもし少年に逢わなかったらのif【鮮血の赤兎ガーネット】
3ボス中少年の声が、シドの声が響くことでPTにバフ、ボスにデバフがかかる
3ボス後にカットシーン。若い頃の自機の幻影が扉を開く。その先にいたのは何故かエメトセルク
な感じのものを何度かアウトプットするか悩んでたからそんな感じで
 
名前の由来
昔ノートした気がするけど命名規則知らなかったのでオリキャラの名前を流用してました
なのでそれを街の名にして森の名を最近決めましたね
アイスランドの人名一覧からいい感じの響きのものと赤か火が入っててほしいなーってエルダス族とかいう種族が生えました
 
言うかどうか(エロ本があったぞ)
普通に言いますね
ぱっと読んだ内容もデカい声で

シドはあまりにも自機がオープンすぎてもう慣れたらしい
多分悟り開いてるギャグ概念しか増えない原因
 
閉じ込め(えっちな服着ないと出ないと部屋にCP相手と閉じ込められた話題)
普通に目の前で着替えますね
恥じらいは無し

「すまないシド、あなたも着たいかもしれないけど私がちゃんと全て着てやるから安心したらいい」
「……着たくないから助かるが???」

「あまりにも普通に着るからつまらん、男も着ないとだめらしいよ、シド(嘘だけど)。着せてあげるからまず脱がせるね」
「そう言われるなら仕方がないんだが……自分で出来るから後ろ向くんだ」
「えっ」
「えっ」
 
以前話題になってた自機が助けを求めるという話と叡智な話を組み合わせたNPC自機なギャグ概念のプロット
依頼でカチコミかけたアジトで興奮剤を原液でぶっかけられてしまい凶暴化しそうになる自機が後片付けのためにサンクレッドに助けを求める
「昂る熱は戦闘で落ち着かせるから近付くな」と各所に飛んでモンスター狩りながら暴れ回るアンナの勘違いを鎮めるために作戦を練った結果、人里に降り立つ前にシド1人を生贄に捧げることで世界を救おうとする暁とガーロンド社員達のお話

#log

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移行作業が終わりました。というわけで本館は最低限の奴だけ一覧に残してあとはこっち…

メモ

メモ

20231226メモ
移行作業が終わりました。というわけで本館は最低限の奴だけ一覧に残してあとはこっちに置いて行こうと思います。
TOPの絵を下書き終わってからシドここに手が来るのおかしくない!?お前アンナより低身長だろ!?ってなりましたので踏み台に乗ってるかアンナが持ち上げてます。かわいいね。
あとがきこれからどうしようかな。メモに残すようにしようかな。でも更新履歴が埋まっちゃうなあと悩み

最近思ったんですけどサンホラのよだかの星の歌詞がとてもマルケズからのシドって感じがして染み渡りました。ありがとう陛下。

(対象画像がありません)

注意蒼天3.0メインストーリー中の自機の心情を補完する即興SSです  …

蒼天,ネタバレ有り

#シド光♀ #即興SS

蒼天,ネタバレ有り

旅人は、取り戻せない
注意
蒼天3.0メインストーリー中の自機の心情を補完する即興SSです
 

―――英雄を乗せ、生まれ変わったエンタープライズは飛び立った。

 彼女はぼんやりと空を見つめていた。いつものような笑顔も見せず神妙な顔。それもそうか、俺たちはトールダン7世と最終決戦になるだろうアジス・ラーへ向かった。目論見通り防壁を越えることに成功したが帝国の飛空艇の猛攻を退けるためにシヴァ、氷の巫女と呼ばれたイゼルが散った。無事上陸を果たし仲間たちが飛空艇から降りる中、彼女はぼんやりとその場から動かず空を見上げていた。

「アンナ」
「別に悲しんでいるわけじゃないよ」
「何も言ってないんだが」
「……あらあら」

 アンナは俺の方に向き苦笑いしている。俺はそのまま彼女の横に立ち空を見上げた。
 淀み切った空は俺たちに何も教えてくれない。しばらく何も言わず立っていた。

「たくさん、人が死んでいるの」

 ポツリと呟く声はいつもより低い。

「私に優しくしてくれたヒトが真っ先に死んでいく」
「誰にだって限界はあるさ」
「ホー、超える力だって言ってるくせにこんなちっぽけなことも抗えないなんて。知らなかったわ」

 拳を握り締め、振り下ろしている。顔を見ると目を見開き一筋の涙が落ちた。

「やっぱり神様ってクソッタレ。ムーンブリダを、オルシュファンを、イゼルを返せ」

 ガン、ガンと飛空艇の外装に拳を振り下ろしている。俺は彼女のその痛めつけられている手を力いっぱい押さえた。

「悲しかったんだな」
「違う、本来あるべき場所から奪ったヤツを、私は、私は」

 目が見開かれ、空気がナニカに反応したのかどこか震えヒリヒリと痛む。彼女の手が熱い。明らかに様子がおかしい。「アンナ!」と俺は叫ぶ。彼女はビックリした顔で俺を見ている。

「俺は生きている。アルフィノも、ミンフィリアも、サンクレッドだってお前さんが救ったじゃないか。お前は全てに手を差し伸べる神になるつもりか!?」

 手の熱が収まった。そして彼女は俺の肩に頭を置く。そして「5分」とボソとつぶやいた。

「何もしないで。ただそこに立ってて、ください」
「あ、ああ」
「―――面識のない旅人を助けたって何も利益がないくせに、何で」

 彼女はボソボソとつぶやき始める。

「私に触らなければ死ななかった。私が現れなければ世界はそのままだった」
「アンナ」
「でも私がここにいないと世界は変わらなかった。私がいないと達成されなかった。私が手を伸ばして救えた人もいっぱいいた」
「そう、だな」
「ただの"旅人"に優しくする人たちが分からない。勝手にみんな死んでいく。どうして、どうして―――」
「アンナは悪くない。今だけ、な」

 そこから彼女は何も言わず震えていた。俺はただ彼女の肩を撫でることしかできなかった。

 それはザナラーンの教会でしか見なかった彼女の弱さだった―――



 5分後。彼女は顔を上げた。俺の耳元で「ごめんなさい」と囁いた後、目をこすりいつもの笑顔を見せた。

「もったいない」
「何か言った?」
「あ、ああ何でもない」
「私たちに悲しみながら人を弔う暇なんてないよ。……みんな待たせてる、行きましょ」

 途中から心配したのか戻ってきた仲間たちに見られていたが彼女は気が付いていなかったようだ。即しっしっと手で払うしぐさをしたら戻って行ったがバレないに越したことはない。

 彼女は強い。刀を握り締め全てを斬るために奔る。しかし心は絶望的に、脆い。それは多分1人旅で長年人と関わってこなかったからだろう。
 誰かが支えないと、そばにいないとすぐに崩れ去るのではないかと踵を返し歩き出した彼女の後ろ姿を見守る。

「もしお前が許すなら」

 俺が隣に立ってはいけないだろうか?

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#シド光♀ #即興SS

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「頭を撫でさせてほしい?」「ダメか?」 ふと思い付いたので『お願い』してみる事に…

漆黒

#シド光♀

漆黒

“頭を撫でる”sideC

「頭を撫でさせてほしい?」
「ダメか?」

 ふと思い付いたので『お願い』してみる事にする。アンナは頭、特に耳周辺が弱いので決して首から上は隙を見せない。正しく言うと座ってもらわないと頭頂部まで届かない。いや届くのだがどうせイジワルな彼女の事だ、背伸びをして邪魔をする未来が見えるのでこうやってお願いするのだ。
 ”無名の旅人”でありたい彼女を隣にいるよう告白したのはつい最近。彼女からの宿題である”最高の殺し文句”でボロボロに泣いた彼女がいまだに記憶に残っている。―――まあ付き合い始めても距離感やお互いの忙しさも相まって一切ぱっと見変わらない日々だったのだが。今日は約1ヶ月ぶりに「支社から頼まれていた資料を持ってきた」とガーロンド社に顔を出したので「休憩だ」と社員達に言い残し部屋に来てもらった。

「ボクが気が向いたら撫でてあげてるよね?」
「いや、それは嬉しいがそうではなくてな。お前の頭を撫でたいんだ」
「そんな年齢じゃないよ。キミの倍は生きてるボクを撫でて何かメリットはあるのかい? 報告書にまとめて提出してくれたら考えてあげるよ会長さま?」

 今日のはぐらかし方は少々偉そうだ。シャーレアンにでも行っていたのだろうか。まあ報告書作れは冗談だろうけどときどきは受けて立とうじゃないか。「じゃあ今すぐ書くから待ってろ」と言いながら机に向かい紙とペンを準備すると「冗談さ」と分捕られた。少しだけ困った顔をしているのが見ていて面白い。きちんと理由を言わないと納得しないようなのでもう少し押してみる。

「お前が俺を撫でたいと思うように、俺だってお前をゆっくり撫でて楽しみたいのさ」
「よく分かんない」
「というかお前だってこんな男を撫でて何が楽しいんだ。まさかと思うがお前にはいまだに俺があの頃の坊ちゃんにでも見えてるのか?」
「さあどうでしょう?」
「疑問で返すんじゃない」

 アンナは14の頃に故郷を飛び出して旅をしてきたヴィエラだ。自分よりも倍以上の年月を生き、旅を続けて来た。少年の頃にちょっとした縁で出会い、いろいろあって再会した。彼女の目にはそんな小さい頃の俺が映ってるかのように見る時もあるようでよく頭を撫でてくる。優しくて気持ちがいいのだがやられっぱなしというのもよくない。場所を考えずにやるので毎回プライドを砕かれそうになるのを耐え続けているのだ。少しくらいは負けだと言う彼女の可愛らしい所を見たいわけで。だから恥を忍んで今回お願いをしてみたのだ、と思った瞬間だった。俺は完全に油断していた。涼しい顔して抱き上げられ、ソファに腰掛ける。その細い腕に大の大人を運ぶどれだけ筋力あるのかといつも考える。というか俺は重い機材を運んだりする関係で体は普通の人より鍛えている。そして彼女が来るまで機材のメンテナンスしていたので工具の袋やら腰に下げていていつもよりも重たい。そのハズなのにあっさり抱き上げられるのは本当に彼女の人とは違う人生の歩み方に舌を巻く所がある。以前「俺を持ち上げるコツとかあるのか?」と聞くと「持ち上げるぞパワーをためる」と言われた。意味が分からない。
 考えているうちにも両足を広げて座った彼女は、慣れた手つきで俺を自らの太ももの上に足を乗せる形で座らせ、手を握る。そして彼女は少しだけ背中を丸め自らの後頭部に俺の手を押し当てた。

「その指耳に当てたらもぐから」
「ナニをだ!?」
「男性器に決まってるじゃないか。ほらボクの気が変わる前に体験したまえ。全然楽しくないからさ」

 彼女には恥じらいという概念はあまり存在しない。育ちの違いか分からないが下ネタも直接的にデカい声で言うからこっちが恥ずかしい。ネロを筆頭に男性社員達とゲラゲラと笑っている姿も度々目撃されている。とても豊かな性知識に対し実際の経験は俺が初めてなのは本当にチグハグなヒトである。
 閑話休題。彼女の気まぐれで許可をもらえたので早速撫でさせてもらおう。恐る恐る手を動かし彼女の髪の感触を味わう。きちんと毎日手入れされているだろうサラサラとした髪は心地が良かった。ふと彼女の顔を見ると目を閉じていた。俺が撫でようとする行為を邪魔したくないのだろう。この姿勢で邪魔なんてされたら正直すでに切れかかっている理性の糸が危ないので感謝する。次は頭頂部も触りたい。冗談とは分かっているがもがれたくないので耳に触らないように慎重に手を上げぽんとたたく。「ん……」と一瞬アンナの声が漏れる。気持ち少し笑顔になっているようだ。何が楽しくないから、だ。もの凄く楽しいじゃないか。しかし少し後ろに傾く耳に触らずに撫でろというのは今は無理な話だ。そう、今の状態だったらだ。

 ところで彼女が目を閉じているのは見つめ合う事に慣れていないからだ。彼女は『君が慣れてないからしょうがないから目をつぶってあげているんだ』と言っているがそれは間違いだ。彼女は意外とすぐに目を逸らす。いつだって平静を装っているが心臓が破裂するほど高鳴っているのを俺は知っている。俺はその彼女の柔らかな唇に唇を重ねてやった。
 彼女の目が見開かれる。そして「ちょっと!?」と言いながら離れようとしたので頭を押さえまた唇を奪う。何度も角度を変え、啄むようにそしてわざとらしくリップ音を立ててやると目をギュッと閉じ行為が終わるのを待っている。小さな声で俺の名前を呼びながら舌を差し出してきたので絡めてやるとくぐもった声が漏れる。こんな姿を知っている生者なんて俺以外にはいないだろう。いつの間にか指を絡ませ合い姿勢も両足の間に足を挟んでやりながら膝で立つ。一瞬だけ離れ顔を上げさせればこれで俺の方が高い位置から彼女を見ることができる。顎を固定し、再び口付けながら首の後ろを撫でるとふわりと香水の匂いが漂う。今日は―――フローラル系の匂いか。という事は大丈夫だな。

 満足したのでキスから解放してやると目をゆっくりと開き少々考え込むそぶりを見せる。そしてこう言った。

「シド、最初からこれ目的だったな?」
「そうだが?」

 ため息を吐かれた。そして彼女は両手を上げる。降参だと言いたいらしい。心の中でガッツポーズをする。珍しく俺の勝ちだと思ったのもつかの間。まだ仕事中なのでこれ以上は何もできないという生殺しをこれから数時間喰らう事になる。

 そうだよ結局今日も俺の負けさ。「もう撫でさせてあげないからねー」という満面の笑顔付きの言葉をもらいながら俺は見せしめのように仕事場に引きずられていくのだった―――

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#シド光♀

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「頭を撫でさせてほしい?」「ダメか?」 ビックリした。身長差的にシドはボクの頭上…

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#シド光♀

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“頭を撫でる”sideA

「頭を撫でさせてほしい?」
「ダメか?」

 ビックリした。身長差的にシドはボクの頭上までは届かないから許可を貰おうとしてるのだろう。律義な男だ。いつもちょっかいかける時もボクが少し屈んで顔を見るんだよね。しかし理解が出来ない。なぜボクが撫でるわけではなく彼がボクの頭を撫でたいのか。

「ボクが気が向いたら撫でてあげてるよね?」
「いや、それは嬉しいがそうではなくてな。お前の頭を撫でたいんだ」
「そんな年齢じゃないよ。キミの倍は生きてるボクを撫でて何かメリットはあるのかい? 報告書にまとめて提出してくれたら考えてあげるよ会長さま?」

 適当に返してやるとシドは溜息を吐き「じゃあ今すぐ書くから待ってろ」と紙とペンを持った。「冗談さ」と言いながらサッと取り上げる。冗談をすぐに真に受ける所も楽しい人だよね。暇にはならないから一期一会の旅人と一般人としてではなく時折こうやって隣で楽しく話をする人生を選んだ。
 エオルゼアに来てから楽しい時も辛い時も前に進む時もシド・ガーロンドという男がいた。いつもこの男が空に道を作り、私を敵の場所へ送り出してくれる。ボクはその期待に応え全て斬り捨てる。ボクは英雄と呼ばれているがそうじゃない。英雄であるボクを作り出したのはボクの隣にいる、ヒゲの似合うカッコイイボクの白く輝く星なのだ。―――まあ一番苦しかった時は会いたくても会えなかったけどね。

「お前が俺を撫でたいと思うように、俺だってお前をゆっくり撫でて楽しみたいのさ」
「よく分かんない」
「というかこんな男を撫でて何が楽しいんだ。まさかと思うがお前には未だに俺があの頃の坊ちゃんにでも見えてるのか?」
「さあどうでしょう?」

 疑問で返すなという指摘を躱しつつボクは彼を抱き上げソファに座る。「おいっ」とうわずった声が相変わらず面白い。そして彼の大きな手を取り、ボクの後頭部に置いてやる。

「その指耳に当てたらもぐから」
「ナニをだ!?」
「男性器に決まってるじゃないか。ほらボクの気が変わる前に体験したまえ。全然楽しくないからさ」

 あのなあと顔を赤くしながらボクの後頭部を優しく触れ、動かす。個人的にはやる事がなく退屈なので目を閉じて彼の手の感触を味わってやる事にした。少しだけくすぐったい。思えば自分は頭を撫でられるという経験はほぼ存在しなかった。まずは子供の頃に兄が褒めてくれた時だろうか。兄みたいに立派な番人になりたかったから褒められたら嬉しいに決まってた。あと熱にうなされていた時にボクが憧れた旅人がずっと撫でてくれてたっけ。とても強くて不器用だけど優しい人だったな。それ以降はあまり善い行いもしてこなかったし普通の人に会う旅をせずに年を取ってしまった。その結果、自分より年下の奴らに今更撫でられてもどうも思わないカワイソウなウサギのできあがり。そんな紅い獣を今髪を梳くように撫でる男はあの夜怖がらずに手を差し伸べてくれたのだ。だから今回は特別だ、成長した少年に優しくして何が悪い。
 では次に過去を思い浮かべながら今の彼の顔でも想像してみようか。反応を見るために目を開けてもいいのだがイマイチ見つめあうのはボクではなく『この男が』慣れていないので。おや、少し触る場所が変わったな。耳には当てないよう慎重に頭頂部に手を移動させ、ぽんぽん叩いている。多分結構緊張した顔してるんだろうなあ。何度も裸まで見た奴が今更何を恥ずかしがるのか。そんなにもがれたくないのかちょっと笑みが止まらない。

 いや今自分が表情を変える必要なんてないだろう、変な誤解されたくない。少々恥ずかしくなってきたなと思った瞬間唇に柔らかい感触が。目を開けると彼の顔が目の前にあり、「ちょっと」と言いながら離れようとすると頭を押さえつけられ再び唇を重ねる。何度も角度を変え、啄まれる。何だか妙な気持になったのでギュッとまた目を閉じてしまった。ボクと会うまで整備していたのだろう、機械の油のにおいが漂う。普段軽々しく抱き上げたりしてるけどガッシリと大きく鍛えられた体。同族の異性では絶対に見かけない見た目はああそうだよ凄い好みさ。数分後満足したのか離れてくれた。目を開けるといつの間にか体勢を変え首に手を回し笑顔でボクを見る彼がいた。
 しかし今の状態はどういえばいいのか―――スイッチというものはいつ入るか分からないというのが正しいか。色々考え込んでしまうがこれだけは分かる。

「シド、最初からこれ目的だったな?」
「そうだが?」

 やられた。こればかりは予想できなかったボクが悪い。両手を上げ負けを受け入れた。
 二度と撫でさせてやるもんか。

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#シド光♀

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注意次元の狭間オメガでの検証終了後の話。先に好奇心は旅人を起こすを読んでね。シド…

紅蓮,ネタバレ有り

#シド光♀ #ネロ #ギャグ

紅蓮,ネタバレ有り

旅人と約束
注意
次元の狭間オメガでの検証終了後の話。先に好奇心は旅人を起こすを読んでね。シド少年時代捏造。
 

―――アルファと共に歩く。途中でぐわんと世界が回る。そりゃ2回連続で斬り払ったのだ、流石に慣れないことをするべきではなかった。アルファが駆け寄って来る。「大丈夫」とポツリと呟きその場に座り込み、項垂れる。クエッと泣き出しそうな声が聞こえた。目の前が真っ暗になりながら『あとは任せろ』という声に安心し、目を閉じた。

「"私"は大丈夫だよ、アルファ」

 ニコリと笑い、奇妙なチョコボの頭を撫でた。クエッとぴょんぴょん跳ねる。ハイタッチしてやり、その後野戦病院へと歩みを進めて行った。



 オメガとの検証が終わった―――アルファを引き連れてやってきた英雄の報告に野戦病院にて傷を癒すネロはほっと一息ついた。いや、既に聞いてはいたのだが当事者からの報告を受けて初めて作戦は終了となる。自分が最後まで関われないことが悔しいのだが既に少々オメガという玩具に飽きていたのでよしとする。

「キミがいなければオメガジャマーは完成できなかった。"ボク"も身体張ってたんだけどねえ」
「詳しい話は聞かねェからな。ってなンだそれ」

 どこか顔色が悪い気がするアンナはネロの手に粉の入った袋を握らせる。どうやらゼノスに大怪我を負わされた際に『無理をするため』送ってもらった薬だという。水も渡され飲むように急かされた。水と一緒に苦い薬草の味が喉に流れ込む。むせそうになるがなんとか踏みとどまった。

「まっず……」
「良薬は口に苦し。傷の治りも多少早くなる。痛みもしばらくは感じなくなるし走れるようになると思う。あと2つあげる。それだけあったら完治する」
「やべェの飲ませやがったな!?」
「大丈夫"ボク"が証明する。約束したでしょ? 逃走のお手伝いするって」

 ネロは「そンな事も言ってたな……」と目元に手を当て虚空を見上げる。目の前の女の過去を看破した時にそんな事も言ってたような気がする。ふとぼんやりと寝台で寝転びながらシドの話と記憶に残っている彼女に対する『報告書』の一部を思い出した際に出て来た疑問を彼女に投げかける。

「ガーロンドの所に顔を出すのは約束をしたからなのか?」
「アー……シドから聞いた?」
「アンタは20年程前にもガレマールに来たンだろ? そこでガーロンドに会っていつか大空を案内するって約束したって言われたらしいじゃねェか」
「んー微妙に違う。ケケッその辺りはやっぱり曖昧かぁ。やっぱりまだまだだね」

 それでいい、とアンナは苦笑しながら呟いていた。どうやら肝心な部分をシドは覚えていないようだった。「本当の所はどうだったンだ?」と聞くと笑顔で答える。

「詳しいことはシドに流出したら困るから言えないけどまあ約束があるのは本当。思い出す前にとんずらするつもり」
「はあ? 明らかにガーロンドはアンタの事」
「何のこと? "ボク"は旅人だからさ。各所から『お願い』されてるから想定外な程留まっているに過ぎない」

 ネロの言葉を切るように口癖である旅人だからと言う。しかももう本来の口調を隠しもしていない。正直ジェシーからシドのためにも目の前にいる女らしきものについて調べるよう頼まれてはいるものの、かつて目の敵にしていた男の恋路など興味はなかった。しかし相手のクセが強すぎるし人の気持ちを踏みにじろうとしているのはあまり聞いていていいものとは思えなかった。捨てる気なのか、そう問うと「いつか彼にとってアンナ・サリスが必要なくなるだけだよ」と子供に聞かせるような優しい声でネロに言い聞かせる。

「"ボク"はキミ達よりも少し長く生きてるから知ってるけど……ヒトというやつはすぐに過ぎ去ったものは忘れて行くんだ。それだけさ。少なくとも"この子"はそう思ってる。シドだって新しい人を見つければ、"ボク"のような旅人なんて忘れるよ。現に死んだことになった途端に君の口以外から【鮮血の赤兎】は聞かなくなった。滑稽だよねぇ。だからそう遠くない内に"この子"は世界を救ったのは暁の血盟が頑張ったことにする予定さ。かつての『光の戦士』のようにね」
「アァ確かにアンタの考えることは滑稽なンだよ」

 先日の会話も含め、見た所彼女の旅路が書かれた『報告書』の存在を知らないようだ。そういえば怪談になっていた事すら知らなかった人間だったことを思い出す。アンナはその言葉に対し何も言わないまま踵を返し「ルートに『パンくず』を置いておいた。誰にも見られずに街の外に出るポイントを見つけたからさ。この秘密を持って、"ボク"みたいに過去から逃げるゲームしようじゃないか」と言いながらきょとんとした顔で話を聞いていたアルファを片手で抱き上げ手を振りながら病室から出て行く直前にネロは声をかけた。

「もしあの時、ガキの頃のガーロンドがアンタを見つけなかったら今どうなったと思う」
「何も対処がなかったら……ゼノスとエオルゼアを蹂躙してたかな。いやソルが死んだ地点でガレマールから出て行ってるだろうから未だにどの国からもリスキーモブ扱いだったかもね。まーそんなことさせないようにしてたけど」
「じゃあアイツが世界を救った英雄サマを作り出した存在ってやつか」
「イヒヒッ、かもしれないねぇ。じゃ、ナイスバケーション」

 暗闇に消えて行ったアンナを見送ったネロは痛みの消えた身体を起こしながら服に手を伸ばす。
 脳裏に焼き付いたのは一瞬見せた彼女の優しいが少し震えた声。彼女の仕草で察してしまった。過去に交わした約束とやらを。再会できたら守ってやるよとかそういうことを軽率に言っているのだろう。

 そしてシドは現在覚えていないが性別不明の人と約束交わしていたことを思い出し、再会出来ました分かった時、しかもそれが信頼している女性でしたしかも逃げる予定ですって分かったらどうなるだろうか。今の時点でも『分かりやすすぎる』彼の事だろう確実に脳に不具合を起こす。

「面白れェからしばらくほっとくか」

 手荷物をまとめ外に出る。近くにいた社員を捕まえ「休養に入る」とだけ口にした後、ふと野戦病院の裏へ出ると確かに『目印』が置いてある。それを気配を消し拾いながら進むと誰にも会うことなく街の外へ向かう道が見えた。「あの女本当に約束だけは守るンだな」と呟きながら歩みを進める。
 数刻後、大騒ぎする声が聞こえて来たので早々に逃げ出してしまおうと駆け出した。彼女の言う通り確かに薬の効果が出ているようだ。またエオルゼア潜入時代に作った隠れ家に置いている計器で薬の解析でもしようかとポケットの中に入れてある粉薬を撫でる。
 ふとラールガーズリーチ入口を見下ろすと、シドらがアルファと小さなミニオンの旅を送り出していた。
 ニヤリと笑っているとアンナと目が合った。小さく手を振っている。

「マジかよこわ」

 ネロは苦笑して見せ、シド達に悟られない内に走り去った。



「今すぐネロを探せッ!!!!」

 この声に"ボク"は笑いを耐えるのに必死だった。どうやらちゃんと脱出できているようで。シドには悪いがこれは約束だったので。約束は守れ、それも恩人フウガからの教えだ。それがいくら敵や味方が不利になる行為でも約束だけは守ろうと自分を戒めている。

 そんな中私たちは旅立つ決心をしたアルファを見送る。ふと気配を感じたので見上げるとネロもアルファを見送っていたようだ。バレるぞ、と笑顔で手を振ってやるとなんか口元が引きつっている。そそくさと去って行くのを見送った。

「そういえば」

 ジェシーの声が聞こえる。

「アンナさんさっきアルファと散歩に行ってた時野戦病院の方に行ってたって目撃情報有りましたけど」
「おっとアルフィノに呼ばれてるから帰る」
「何だと? おいアンナ? ちょっと待て!!」

 悟られる前に退散しよう。そうしよう。チョコボを呼び街の外へ走り出した。

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#シド光♀ #ネロ #ギャグ

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注意旅人は過去を懐かしむ後日談その3。好きな人2と同時刻のおはなし。 …

紅蓮

#シド光♀

紅蓮

赤面の旅人
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旅人は過去を懐かしむ後日談その3。好きな人2と同時刻のおはなし。
 

 書類、書類、書類。シドの周りには先が見えないほどの書類がまた積まれていた。まあ3日程飛び出してしまった分のツケだ。これ位は痛くないとは思っている。しかしだ。

「必要ないやつまで混じってるじゃないか……」

 書類選別から始めないといけない積み方はどうかと本日何度目か分からないほどのため息をついた。不審なほどに大量の新商品についての仕様書や機構が書かれた設計図から予算の承認、取引履歴まで自分がいなかったにしては『効率よく事が進みすぎている』。何かがおかしい。

「会長! お仕事頑張ってください!」

 交代で見張りに来る社員達の顔は未だに機嫌がいい。先に戻ってきていたアンナが目を見張るほどの土産を置いて行き大騒ぎになっている中シドは帰って来た。満面な笑顔の会長代理が持っていた金色の箱には『会長貸出料』と書かれており、「アンナといたならもっと早く言ってくださいよ! で、何してたんですか?」と土産話を要求された。かいつまんで説明すると次第に目から光が消え呆れた顔になっていたのは少し理解できなかった。シド本人としても自分に呆れている。彼女という靄に一つ触ることが出来た筈なのにどこか近付いた感じがしない。酒の勢いで身体を合わせてしまったのかと思いモヤモヤとしていたら2日前の『ナイスイタズラ』騒動で強引に現実に引き戻されてしまった。人を驚かす行為が好きなのは知っていたが、目的のためなら自爆に等しい事もやらかす人なのは初めて知った。
 またため息を吐く。薄くなっているであろう肩に付けられた印を手で押さえる。「アンナ」とボソリと騒動から顔を出していない彼女の名前を呟く。その時だった。

「何?」

 真上から声が響く。目を見開きながら見上げるとそこには自分をいつもの笑顔で見るここ数日の悩みの種がこちらを見つめていた。

「あれ、見張りがいたと思うんだが……」
「30分休憩。勿論内緒の約束済」

 アンナは左手人差し指を口の前に当てながら右手に持っていたサンドイッチが乗せられた皿をシドに差し出す。シドが「変なの入れてないだろうな?」と聞くと「先日のお詫び」と笑顔を浮かべた。どうやら罪悪感という概念は存在したらしい。シドは礼を言いながら受け取る。
 それに続きアンナは「あとほら」と言いながら書類を軽く押しのけながら机に座りコートの留め具を外しながら首元を見せシドに近付く。突然の行為に口をポカンと開きアンナを見ていると目を細め三日月のような笑顔を見せながら耳元で囁く。

「仕返ししてみる? まあ私の肌の色では痕跡なんて付かないからご満足いただけないでしょうけど」

 一切反省してないじゃないかという理性と裏腹にふわりと漂うパーシモンの香りにごくりと息を飲む。唇が触れる手前でアンナは「なーんて。ナイスイタズラ」と言いながら離れようとした。"また"逃がしてしまう、つい反射的に「待て」と言いアンナの肩を掴み―――首元に噛り付いた。

「っ!?」

 アンナの小さく短い悲鳴が聞こえた。一瞬ビクリと震えたのが分かる。完全にやり返されることは考えていなかったであろう細く引き締まった身体を強く抱きしめながらガリと歯を立てながら吸い、これまで叶わなかった彼女を味わう。汗とは違う甘い匂いと思ったよりも柔らかい肌に女性らしい要素もあることに安心した。幸いなことに抵抗はされなかった。だがいっそのこと跳ね除けてくれた方が諦めがついていただろうにと思いながら出来た痕跡に舌を這わせながら後頭部をぐしゃりと撫でる。髭が当たりくすぐったいのかくぐもったような息遣いが聞こえた。

「噛み痕なら付く」
「……そうみたいだねえ」

 首元から顔を離しアンナの顔を見ると少しだけばつの悪そうな表情を見せながらも頬は褐色な肌の上からでも分かるくらい真っ赤に高揚していた。「煽ったのはアンナだからな?」と言ってやると「わ、忘れた」と呟きながら首元を隠すように押さえた。そして踵を返し出口の方へ歩き出す。

「そろそろ30分。サンドイッチ食べて頑張れ」
「いやまだ10分も経ってないんだが」
「……から厭だ」

 ボソボソと呟いた後アンナは手を上げ数度振りながら暗闇に消えて行った。
 手渡されたサンドイッチを口に含む。新鮮なラノシアレタスとルビートマト、卵が入った定番の品だ。とりあえず今は食べることに集中しよう。そして早々に仕事も終わらせてしまいたい。
 先程の首元に付けた証と真っ赤になった怯えた目をする彼女の顔が脳裏にこびりついていた。そして去り際に残した「これ以上いたらキミがボクから離れられなくなるからイヤだ」という言葉にニヤけが止まらない。「もう遅いさ」という呟きが闇夜に溶けて消えた。

 シドは『そうか、本当に俺はあの人を友人としてではなく異性として好きだと思っていたのか。そして彼女の心だけでない、身体にも自分だけの痕跡を残したいと強く願うほど歪んだ独占欲も持ち合わせていたのか』とこの瞬間に悟る。抱きしめ、噛み痕は残せた、じゃあ次に求めてしまう欲求はまさか―――いやそれはないだろう。しかしモヤモヤとした心が少しだけ晴れた気がした。



「うそでしょ……」

 翌朝、ジェシー達が出社すると積み上げておいた書類はほぼ全て片付けられ、ネロが組み上げていた設計図と睨み合う完徹だが異常に上機嫌なシドが座っているのであった―――

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#シド光♀

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注意旅人は過去を懐かしむ後日談その2。『紅の旅人』数日後のおはなし。 …

紅蓮

紅蓮

『好きな人』2
注意
旅人は過去を懐かしむ後日談その2。『紅の旅人』数日後のおはなし。
 

「はい今回は非常に残念なお知らせがあります」

 仕事が一段落した夜、モードゥナの酒場にて密かに開かれる会―――その名も『自分たちの上司であるシドと旅人アンナの関係を見守る会』。久々に開かれた夜会に会長代理のジェシー、社員のビッグズとウェッジは集まり酒を呑んでいる。
 一方その頃会社では、会長であるシドが大量の書類に押しつぶされていたのだがそれは置いておく。

「先日会長が突然数日失踪したのは覚えてるわね?」
「確かクガネまでアンナさんを探しに行ったんでしたっけ?」
「すげーお金とお土産貰ったッスねー。親方と違ってフォローの速さが段違いッス」
「2人で温泉宿に泊まり、アンナの恩人の墓参りに行って飲み会したそうよ? そこまではいいの」

 会長であるシドが失踪したのは約1週間前、暁の血盟所属のアルフィノと何やら話をした後飛び出して行った。申し訳なさそうに謝る銀髪の少年の姿が未だ頭に残っている。そして連絡が付いたのが3日前。そして悠々と空の旅をして戻ってきた。ちなみにアンナはテレポで先にモードゥナに戻り、クガネ土産と『会長貸出料』と書かれたものを渡された。「こういうの黄金色のお菓子って言うらしいの。本当にシド貸してくれてありがとう」って言われながら蓋を開けるとお菓子の下に目玉が飛び出しそうな金額のギルが詰め込まれていた。その後盛大に謝りながら帰ってきたシドと盛り上がりきった社内の空気の温度差が忘れられない。
 そして何とか詳細を聞きだしたジェシーは報告会を開き、眉間を抑えながら言い切った。

「何もなかったそうよ」
「何も」
「そう、2泊一緒にいておいて何も起こらなかったそうよ」

 盛大に溜息を吐くジェシー。目が点になり固まる他2人。

「1日目は風呂から出たら既にアンナは就寝、2日目は会長が酒の呑みすぎで即就寝よ。ほんっとあの2人信じられないわ……」
「親方……」
「誤魔化してるとかでもなく、か」
「アンナからも聞いたの。あの人の場合さらっと嘘つくから本当か分からないけどここ数日全然変わらないわあの2人。昨日会長の怒鳴り声が聞こえたけどそれはまあ日常茶飯事よ。というわけで今回ゲストを呼びました」

 誰が、とビッグスが聞こうとすると「そろそろ来るわよ」とジェシーは手を上げる。足音が聞こえ2人は振り向くと。「変な時間に呼びつけられて来たら何やってンだ? お前ら」と言いながらシドのライバル(自称)であり元帝国幕僚長であったネロ・スカエウァが溜息を吐きながら歩み寄ってきた。



「ガーロンドが、あのバブーンみたいな女を」
「アンナさん確かに強いけどそこまでゴリラじゃないッスよ!」

 話を聞いたネロはゲラゲラと一頻り笑った後息を整えながら吐き捨てる。元々帝国を見捨ててから放浪していたが、シドが不在の間にオメガという餌をぶら下げてジェシーがヘッドハンティングしておいた。そして未だにシドへ報告はしていない。ネロのおかげで止まっていた業務を再開し、あとは会長であるシドのサインさえあればどうとでもなる状態にしていたので実は飛んで行ったことに対してはそんなに怒ってはいなかった。しかししっかり説教しておかないと気が済まなかったのでリンクパール通信は流し続けていたのだが。あの男は外してポケットの中に入れっぱなしで、なんと深夜にアンナが出るまで放置されていた。「ごめん、明日お詫びに行くから。明日の朝また出させるから着信入れて欲しい」という普段の明るい声がジェシーの心を少しだけ安心させていた。

「愉快な子なのよ? そりゃ外から見たらあんまり喋らない無駄に強い最終兵器みたいな人にしか見えないでしょうけど」
「料理もうまいし護衛とかも嫌な顔せずやってくれるんだよな。ちょっと親方の前だと愉快になるが」
「アンナさん手料理作ってください! って言ったら狩りに出かけたりする変な人だけどとってもいい人なんッスよ!」
「ただの少しだけ意思疎通取れる野生生物かよ。ンで? 何でおたくらの会長サマが惚れてるって分かンだよ?」

 盛大にやれやれと溜息を吐いている。ジェシーはニッコリと笑いながら「決まってるでしょ」という。

「アンナが来た後露骨に仕事の速度上がるし数日来なかったら日に日にしょんぼりしていくのよあの人」
「ちなみに無意識らしいッス」
「ガキかよ……。んで? そのバブーン2匹の恋愛を見届けるために俺を呼ンだのか?」

 厭味ったらしく言うネロに対して「違うにきまってるじゃない」とジェシーは苦笑しながら言う。

「アンナを調べて欲しいの。暁の血盟も調査はしてるらしいんだけど全然分からないみたい。普通冒険者に過去は関係ないけど……会社としては結構お世話になってる人だしこれからもずっと彼女に頼っていいか、会長を任せていいか調べておきたいの。全然その辺り会長も聞いてくれなくてようやく聞けたことが『剣豪ゴウセツも認めたある侍仕立てのヤバい気迫を持っている』って事だけ。そういえばネロは戦ったことあったわね。見たことある?」
「普通より数段力強い冒険者って感じだったがナァ……いや」

 もしかしたらガイウス閣下なら知ってたかもなと茶化すように言うと3人は溜息を吐く。気迫とは何か分からなかったがただでさえ強いクセして更にそんな力を持っているとは全く知らなかった。確かにアンナは謎めいた存在だ。ネロとしてもバブーンと吐き捨てはいるがあの場所で会った時から興味はある。

「そういや昔あの女に助けられたことがあンだよ」
「いつの話よ」
「閣下が再びエオルゼア入りする事になる数年前、まだアレもただの旅人だった頃だな。油断してコボルド族に囲まれた時にあっという間に辺りを弓と蹴りで吹っ飛ばしやがった。アレが俺が一番味わった殺意かもナ」

 エオルゼア潜伏調査をしていた頃の話である。計測に夢中で一瞬気を抜いた隙にコボルド族に囲まれてしまった時があった。ネロが懐にしまった小型の武器を取り出そうとした瞬間、ヴィエラの伝統衣装を纏った赤髪の女がどこからともかく乱入し、弓矢と蹴りだけで十数匹のコボルド族を吹っ飛ばす。半分以上はそのまま絶命し、残り少数はあまりにも恐ろしい気迫に逃げ出してしまった。これまた一瞬の出来事であまりの迫力に固まっていた彼を見て「大丈夫?」と笑顔を見せ、手を差し伸べた。少し会話を交わした後、「あなたに危害を与えようとした残りも刈っとくから」と言って去って行くのを口が閉じられないまま見送った記憶がよみがえる。

「アレは相当場数を踏んだやべェ女だってなった記憶がある。下手すりゃ別ンとこで傭兵か軍人だったンじゃね?」
「それだったら暁の血盟辺りが書類を掴んでくると思うのよ。どうやら第七霊災始まって間もなくエオルゼア近郊で目撃され始めたって話。それ以前の情報はさっぱり」
「10年以上迷子になってグリダニアに辿り着いたから私は強いって口癖ですよねあの人」
「ヴィエラならオサード方面出身だろ? そっから……泳いだンじゃねェか?」
「いやいやそんなこと」
「あるわけな……」

 4人は頭の中で思い浮かぶ。大海の中泳いでエオルゼア大陸近郊まで辿り着こうとするヴィエラの彼女の姿。

「余裕で浮かぶンだわ」
「やるわあの人……」
「シュールすぎるッス……」
「お、俺はしないと思ってますよ!」

 その後彼らはとりあえず呑むかとグラスを掲げるのであった。実はネロはもう一つアンナの手がかりを持っていたのだが、交渉の奥の手として仕舞い込んでいることにジェシー達は気付いていない。

 一方その頃ガーロンド社。残業で潰れそうになるシドの所にアンナが現れていたのだが―――彼らにそれを知る由は無いのであった。

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注意旅人は過去を懐かしむ後日談その1。シド少年時代捏造。   ふととあ…

紅蓮

#シド光♀

紅蓮

『紅の旅人』
注意
旅人は過去を懐かしむ後日談その1。シド少年時代捏造。
 
 ふととある旅人と彼女を重ねてしまった。少年の頃に出会った寒いガレマルドの人が滅多に通らない路地裏の物陰で行き倒れていたあの人を。

「どうしたの?」

 優しく語り掛ける声にハッと我に返ると目の前にはアンナの顔。目と鼻の先にあるアンナの綺麗な顔に慌ててしまいシドは椅子から崩れ落ちてしまった。当の彼女はクスクスと笑い手を差し伸べる。今更何を驚愕しているのだろうか、ふぅと溜息を軽くつきながらシドはその手を握る。
 アンナと出会ってから程々な時が経った。霊災後、記憶を失いウルダハの教会に身を寄せていた頃に出会ってからというものの―――自分の責務を思い出してから蛮神討伐、ガレマール帝国の侵攻を跳ね除け、竜詩戦争を終結させた。そして遂にはドマとアラミゴを解放しようと走り続ける彼女を、大切な仲間で親しい友人として社員を巻き込み全力で裏でフォローし続けている。『会社の利益にならないことは程々にして欲しい』という部下の言葉をふわりと躱しつつなんとしてもアンナに喰らい付こうとするシドをアンナ本人はどう見ているかはまだ分からない。これは予想だが、どうも思っていないだろう。それでもいいと走り続けた結果、謎に包まれた過去を知ろうと調べ続けている最も近しい仲間である筈の暁のメンバー達よりもアンナという存在の靄に触れることが出来そうな……そんな関係を形成しつつもあった。

「いや、少し昔のことを思い出してな」
「昔……第七霊災当時?」
「もっと過去の話だ。というかお前さんといて何で急にその辺りの時代を思い出すと思ったんだ」
「うーん私が一番分からない辺りの話だからかな? 興味はそれなり」
「生まれてたよな?」
「迷ってた時に光が見えたとかしか」

 シドは「お前どこで迷ってたんだ?」と苦笑しながらあの日以降頭から離れなくなった旅人の話をする。
 魔導院へ飛び級で入学する直前に出会った帝国領内で行き倒れていた赤髪の男か女かも判断が付きにくいヴィエラ族を助けたことがあった。冷たく凍えていたので温かいスープを与えたら不器用だが柔らかな笑顔でお礼を口にする。そして少しの間だけ会話を交わした後、どこかへ走り去って行った。―――現在目の前にいる同じくヴィエラである彼女にいつの間にか執着してしまった原因でもあるような気がすると考えていたがそれは口には出さなかった。アンナは何も言わずシドの話を聞いていたが、語り終わるや否や満面な笑顔で「いい話」とシドの腰に手を回しながら手を取り、ニィと笑った。まるで御伽噺に出る王子様のようで。しかし相手はいい年した大人の男なのだが。

「あ、アンナ!?」
「その話、誰かにしたの?」
「しない、幼い頃の話をする機会なんてそんな…というかいきなり何をするんだ!?」
「そんなヒミツ、私に教えていいの? ただの旅人にするには重たい話」

 シドの話を無視し、鼻先が触れ合ってしまいそうな位の距離に顔を近づけてくる。逃げようにも腰に置かれた手が逃がしてくれない。目を細めクスクスと笑う姿はまるでシドを試しているようで。

「先日お前にとって大事な人の墓参りに連れて行ってもらったんだ、俺の事も話したくなってもおかしくないだろ?」
「いやああなたそんなに私の事好きなのかって思ってお気持ち代弁?」

 ふわりと離れながら恥じらうような素振りも見せず言ってのけるアンナには正直尊敬していた。まあ恋愛方面の話でも一切感情を揺さぶられるような人でも無いだろうなとは思っていたが。しかし『好きなのかと思って』?
 あの夜『あんなこと』しておいて嫌いとかそういう事は無いとは分かっているが改めて正面から言われるとシドとしては恥ずかしくなる。が、何も気まずく思わず会いに来るアンナは度胸ある、というか恥じらいが無いのか? 会いに来なくなったらそれはそれで困るのでアンナの習性には感謝しかない。

「お前はどう思ってるんだ? 俺の事」
「嫌いな男の部屋に何度も訪れる人に見える? あ、ごめん流石に語弊」
「あのなあ…」

 瞬時に顔が熱くなったシドの顔を見てアンナは慌てて謝罪した。他意は無い言い方だというのは普段の色気というものが存在しない彼女を見てると分かるのだが、瞬時に謝罪されるとそれはそれで余計に恥ずかしい気分になる。その反応を見たからなのか慌てたまま言葉を続けた。

「私は確かにきm…違う、あなたの部屋に来るのは気分転換……そう! 気分転換。勿論仕事疲れなあなたの」
「そ、そうか」
「前も言ったけど、私は旅人。本来は同じ場所に残りたくない。痕跡も残さない。だから無意識に距離を取る。本来はここにも来ないようにしなきゃと」
「今更どこに消えるつもりだ?」

 アンナは珍しく慌てふためいている。命の恩人の墓参り中でも見せなかった姿が少し新鮮に思えた。そしてシドは徐々に普段とは違う口調を正す姿に無理しなくてもいいのにとぼんやりと見つめながら見つめている。

「ヒミツ! 旅人はミステリアスに。それがポリシー」
「確かにお前さんは謎が多い人だが」
「とにかく! キミがボクの事が好きだから先にナイスイタズラ! いやあいい反応見れて楽し……あ」
「ボク……か」

 あー! と奇声を上げている。今のが『本来のアンナ・サリス』だったのだろう。趣があっていいものだと思うが本人にとっては化けの皮が剝がれたようなもので。アンナは頭を抱え部屋の寝台に頭をぶつけている。

「前から薄々感じてたがもしかしてあんまり喋らないのは」
「忘れて」
「えらく分厚い猫かぶりだな」
「気のせい」
「俺は好きだな。別に普段からそういう口調でもいいんじゃないか?」

 アンナは「忘れろって言ってるっ!!!」と言いながら顔を真っ赤にし手元の刀を振りぬきブンブンと振り回し始める。シドがこれを窘めるのにまた時間がかかったのは言うまでもない。

 そんな暴れ馬は只今盛大な溜息を吐き正座をしていた。

「ごめんなさい。冷静であらず」
「いやまあ弄った俺も悪かった」

 それと、とシドはアンナの肩をつかみながら頭を下げる。

「えっとな、一度仕切り直させてほしい」
「?」
「ああいうのは男である俺にやらせてほしい。ちゃんとした場所で、ほらもっとムードというのを考えてだな」
「今更私は気にしない」
「俺が気になるんだ。既に、その、あんなことし合った間柄で言っても変な話なんだが」

 その言葉にアンナはクスクスと笑っている。一度暴れ回り冷静になったのか先程のような言動は消えてしまっていた。勿体ない、次はいつ見れるのか。そう考えながら拙い手つきで頭を撫でた。ふわりとシトラスな香りがシドのまだ隠していたい、アンナを否定できない感情を刺激する。ふと『あの人』も香水の香りがしたなと思い出す。何故再び重ねてしまったのか、調子が狂っているのは自分の方だったかもしれないと笑みが漏れる。

「あなたに撫でられるのも悪くはない」
「そうか。そういえば香水はどこで買ってるんだ? ほぼいつも違うが」
「気分で。昔からほとんど自分で調合」
「そりゃ凄いじゃないか」
「子供の頃に故郷で教えて貰った数少ないもの」

 いつも通りの会話だ。他愛のない会話をしてアンナの笑顔で昨日までの疲れが吹っ飛んでいって。残されている莫大な書類も片付けできそうだ。
 自分はあの『残したくない』彼女が尊敬し、唯一彼女が『残していた』立派な侍であるリンドウ・フウガにはなれない。しかしせめて彼女の隣に立っていられる。それはあの絵画には存在しない今を生きる者の特権である。以前より隣に座ることも増えても絶対に拒否されるだろう2文字の想いを心の奥に仕舞い込みながらシドは『余所行き』の笑顔を見せるアンナを見送るのだ。いつもだったら。
―――再び扉を開きアンナはこう言いやがったのだ。

「シド、勘違いしてるみたいだけどあなたあの夜何もしてないからね? 雑だった浴衣直して放り出してた服畳んで、ただ好奇心で肩にキスマーク付けて。そこまでしてもあなた呑気にイビキかいてて起きそうもなかった。普通に布団かけて私も就寝。そりゃ起きてたら個人的用事に付いて来てくれたお礼位考えたけど」
「…………は?」
「『見なかったことにしよう』って聞こえて来た時は正直爆笑した。今の顔も最高。その顔が見たかった。ナイスイタズラ。じゃあね」
「待て! 今の話詳しく聞かせろ! おいアンナ! 俺の悩んでた数日を返せ!!」

 しかしこの時の俺は知らなかった。決して俺の手が届かない場所で彼女が最も隠していた過去と、俺の生まれ故郷との奇妙な縁が牙を剥いて襲い掛かってしまうことに―――

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#シド光♀

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「飾りはこっちに置いて!」「料理の準備できたわ。あとはアンナを待つだけね」「プレ…

蒼天

#シド光♀ #季節イベント

蒼天

星降る夜の奇跡の話―後―

「飾りはこっちに置いて!」
「料理の準備できたわ。あとはアンナを待つだけね」
「プレゼント箱搬入終わったぞ!」
「天井に吊り下げるモノ、準備終わっている」

 アンナとシドがプレゼント交換を約束した当日。カーラインカフェの片隅で暁の血盟とガーロンド・アイアンワークス社の面々はアンナを驚かせるためにと最終準備をしていた。アンナはレヴナンツトールにてタタルに足止めするよう頼んでいるので現場には来ないだろう。

「親方! ボーっとしてないで手伝ってほしいッス!」
「―――あ、ああすまん」

 シドは朝からずっと上の空で、ヤ・シュトラはため息を吐きながら近づく。

「あらあなたが気合入れないと今回のサプライズは成功しないわよ?」
「む、そうだな。そうだったな」

 上の空なのも当たり前だった。昨晩の事を誰にも相談できず1人悶々と悩んでいる。まるで名も無き旅人の事がなかったかのように動き続ける時にイラつきさえも覚える。しかし今は考えている暇はない。手を動かしていれば今は大丈夫だろう、そう考え箱を手に取った。

「親方、その箱は何ですか?」
「ん? ここに置いてるからてっきりお前たちが持ってきたやつかと」
「まあ誰かが持ってきたんでしょう。とりあえず一緒に飾っておきましょうか」
「そうだな」

 いいのか? と思いながら気合を入れて、持ち上げた。



「も、もう少し待つでっす! 紅茶のおかわりありまっす!」
「んーでも人と待ち合わせしてるの。1時間前には待ち構えたいなって」
「ふふっ、ときどきはゆっくり行っても罪じゃないと思うわよ」

 ボクはグリダニアでぼんやりと一晩過ごした後タタルに呼ばれレヴナンツトールにいた。普段なら個人的に驚かせるためにずっと現地で待つのがボクだ。まぁそういえばいつの間にかパーティになってたんだっけと思い出し、彼女らの時間稼ぎに付き合っている。

「タタル私思う。モードゥナに拠点がある人同士何かするならここでやるべきだと思うんだけどどう?」
「え! アンナさん知ってたんでっすか!? ってあ!」
「まあアンナなら知ってるわよね。確かに私も思ったんだけど」

 タタルに「い、いつからでっすか!?」って言われたから「あなたがシドと拳を交わし合ってたところ」と答えるとクルルは「最初からだったのね」とふふと笑っている。

「うん、何かすごいなって思ったら近付けなかった。……私も本気出さなきゃって。こんな経験ない。どうすればいいのかしら―――」

 分かってたら1週間前なんて急な予定にしない、と言うと2人は笑顔でボクを見ていた。

「アンナには来たばかりの私でもお世話になってるわ。日頃の感謝を伝えるチャンスって言われるとみんなやる気も出ちゃうのよ」
「そういうものなの?」
「そうでっす!」
「ただの旅人相手によくやるよ」

 エオルゼアの人間はお祝い事が好きらしい。度々街が飾りつけされているのを見ると相当数お祭りが用意されているのだろう。神様も十二神と多神教な土地だけあってごちゃまぜな文化が少しこそばゆい。何せ生まれ集落は森や動物に感謝する儀式や火にまつわる祭りしか存在しなかった。あとここ60年位は集落にはめったに近寄らなかった。しかし旅人として再スタートを切って5年、いろんな文化を知れるのが嬉しかったし今でも好奇心が収まらない。
 現在―――面倒な出来事も終わり訪れた年末、感謝を示す行為は祭り関係なく誰だって当然なんだろう。自分を頼りきる人たちと盛大に遊ぶのも悪くない。だから準備はしてきたのだ。大きな箱と、小さな箱たち。実は小さな箱に関してはもう会場には置いてきていたのだが。

「クポー! アンナさんいたクポ!」
「よかった間に合った。ありがと。これクッキー。仲間と食べて」
「ありがとうクポ!」

 いつもより少しだけ大きな封筒を受け取る。開くとパーツがいくつか入っている。欲しかったサイズの木製の歯車だ。準備した物、これはかつて成人前にドマを命を救ってくれた恩人と修行の旅をしていた時に見て感動したからくり装置。遠い昔、興味あるならと貰った書物を参考に設計図だけ作ったが、途中で飽きてしまった物をちょうどいい機会だからと完成させてみた。彼の故郷の技術に比べたら原始的に映るかもしれないが気にしない。まあそもそも手に取るかも分からないのだ。それもまた一興。ボクとしては”外箱”ごと捨ててもらっても別に気にしない。旅人であるボクがいた記憶をなるべく残してほしくないのだから。

「あとはこれを―――できた」
「あらそれは何かしら?」

 木の小箱を開くと木彫りのウサギがあり、周辺の歯車をいくつか取り換える。

「内緒」

 人差し指を口元に持っていき笑顔を見せてやる。そして大箱を慎重に開き中身の意匠を触らないよう奥に安置し、箱を閉じた。そしてクルルの耳元で「誰にも言わないでね」とささやく。

「一度目の前の事に熱中したら本来の目的を忘れるボケが始まったオジサンの目を覚ましてあげようって感じ。で、これはおまけ。多分外箱ごと捨てられるだろうから適当に……ね?」
「あらあら」
「アンナさーん! そろそろ一緒にグリダニアに行くでっす!」

 準備できたんだ、と言いながらタタルの元に走っていく。

「私には大切な人にあげるための準備に見えるな」
「何か言った? ほらクルルも来てよ。せっかくなら皆でお祝いしましょう?」
「分かったわ」

 呼ばれたクルルも小走りで石の家を飛び出して飛空艇でグリダニアに向かう。さあどんな準備をしてくれたのかな? 楽しみだ。



「よ、よおアンナ」
「あらシド。ここで待ってたんだ」
「お前の方が遅いなんて珍しいじゃないか」

 アンナがタタルやクルルと一緒にグリダニアランディングに降り立つとそこにはぎこちない動きと引きつった笑顔のシドがいた。「分かりやすすぎるわ」「サプライズ下手すぎでっす……」と小声が聞こえる。だがシドは無視して「とりあえず飯でも食おうぜ」と指をさし歩き出す。アンナは笑顔でその数歩後ろを付いて行く。階段を上るとそこにはきらびやかな装飾と食べ物とケーキ。プレゼントの山が積まれ、暁の血盟のメンバーやガーロンド社の人間たちが。アルフィノが優しい笑顔で手を振っている。

「アンナ。いつもありがとうな」

 シドの言葉にアンナは一瞬目を見開き、止まっていた。徐々にいつも見せる笑顔は消え、目をぱちくりとさせている。

「あら? どうしたのかしらあの人。立ち止まってるわ」
「アンナ早く来るッスよー!」

 表情一つ変わらず、やがて何かに気が付いたのか慌てて手で顔を覆う。シドは横でキョトンとした顔で見つめているととつぜん手を外し、彼の方に向き見慣れた笑顔を見せた。

「だーれーがーここまでやれって?」
「え、あー、ごめんな?」

 一瞬シドのヒゲを掴みながら、踵を返し皆の元に走り出した。

「ありがとう」

 小さい声だったが確実に聞こえた。彼女から初めて引っ張られたヒゲをさすり彼女を見つめていると腰辺りを突かれた。見るとクルルが笑顔で「もしかしたら慣れてなかったのかもしれないわよ?」と言い先へ進むよう促した。

 よく考えたら彼女は長い間1人で旅をしてきた。振り返ればエオルゼアで出会ってから今まであった祝賀会や式典は陰謀に巻き込まれたりと彼女が休まる時はなかった。そんな彼女が星芒祭だと口実があるとはいえ突然政治主張等関係ない誕生日でもない日に祝われたら。本当に考えがフリーズしたのか、あのいつも余裕ぶった笑顔の旅人が。シドの口元から笑みがこぼれだす。「いいものを見た」と呟きながらゆっくりと歩き出した。



 パーティは盛り上がった。アンナの前に食べ物を置くと気が付いたら消えているので「自分の食べる量をキープしろ!」「俺たちの食べる物が無くなっちまう!!」と怒号が飛び交っている。シドたちは「何かやってるなーって静観してたの。ガーロンド社の人たちまでいるとは思わなかったけどね」という言葉で計画の半分程度はバレていたかと驚いた。「じゃあ余計にレヴナンツトールでやりなさいよ」とアンナの呆れた声にシドは「発想になかったな。グリダニアでと約束したんでな」と悪びれず答えた。

「いいじゃないか。私は君と出会うきっかけになったグリダニアでこうやって祝えるのが嬉しいよ」
「そんなもんなの?」
「いいのではないでしょうか。貴方にも休息は必要ですから」
「サンクレッドが来なかったのが残念ね。彼にも少し休んでほしかったんだけど」

 その後アンナはプレゼントを積んでいる山を指さしながら「小さいやつ、大体は私からの贈り物」と言った。ある箱は画材、ある箱は香水。またある箱には羽ペンと羊皮紙。奇麗なナイフにシャード詰め合わせ。

「アンナ、合計いくら使った?」
「今回のパーティに使われたお金に比べたら安い。好きな物持って行っていいよー」
「じゃあ次は私たちからもあげないとね」

 彼女の周りにプレゼントの山が積まれていく。「こんなに貰ってもどこへ持ち帰ればいいの?」と苦笑いしながら開封していく。

「あらミニオン」
「ウチの新製品の新型エンタープライズモチーフッス!」
「ちっちゃくてかわいい。こっちは調理道具セットか。いいねえ」
「あら会長は最初私にね―――」
「ゴホン。まあよく料理を振る舞ってくれるからな。使って欲しい」
「いいよ」

 暁の血盟側から渡された物はまずは淡く光るクリスタルがあしらわれた小物入れ。マフラーや手袋、アルフィノが描いたグリダニアの風景画。「もっと早く分かってたらとびきりなものを準備したでっす! でも自信作でっすよ!」とタタルは胸を張っている。アンナは笑顔で「みんなさ、旅人に贈る量じゃないってば」と言いながら箱を開いては取り出し優しく撫でている。

「来年もよろしく、アンナ」

 思い思いの言葉を伝えたが全員の言葉を要約するとこうだった。アンナの目が見開かれ、しばらく固まった後頭をかきながら「しょうがないなあ」と照れた笑顔を見せた。その後話題を変えようと赤色の箱から何やら装飾具を取り出す。中央に赤色の宝石、羽根のようなおしゃれな模様が張り巡らされボタンを押すとカチャリと音を立てながら開くと時計盤。

「あら懐中時計」
「俺じゃないぞ」
「私たちでもないね」
「見た事もないデザインの物だしもしかしてオーダーメイドかしら?」

 理由は分からないがオーダーメイドという単語でシドの表情が引きつる。しかし箱の底に残っていた紙切れを見て「兄さんだ」と呟く声が聞こえるとと少しだけ和らいだ。アンナは何も言わずそのまま身に付ける。俺たちは彼女が持っていた紙切れをのぞき込むとぱっと見読み取れない言語で書かれている。「崩した古代ヴィエラ文字。お疲れさまと兄の名前が書いてるよ」とアンナは説明してくれた。いつの間に現れて置いて行ったのだろうか。

「多分レターモーグリーが持ってきたのかも? だって兄さん今は故郷にいるハズ」

 シドは兄がいるとクリスタルタワーで言っていたと思い出す。ついでに5年程度に一度故郷に帰る習性もあると。しかしその場にいる人間たち何も言わず置いて行くサービスは聞いた記憶はないのだが指摘するのは野暮だろうと置いておく。それよりやらないといかないメインイベントが残っているとシドはアンナを引っ張って表に連れ出す。数人の視線が痛いが無視しておく。



「どうしたの?」

 アンナは笑顔で俺を見下ろしている。俺は「忘れたのか?」と言いながら準備していた袋を取り出す。

「―――ああちゃんと覚えてたんだね。結構結構」

 言葉のトゲが痛い。すっかり忘れてるなと思われていたらしい。―――実際昨日急いで工面した物だから言い返せない。彼女はカラカラと笑いながらカバンの中から大きめの箱を取り出した。

「デカくないか?」
「普通普通。ほらちょうだい」
「おう……」

 お互いプレゼントを交換し見つめている。「開けていい?」と言われたので「いいぞ」と返してやる。

「髪飾り。いいじゃない。青い石は……アイオライトか。粋だねえ」
「そうなのか?」
「旅人の私にピッタリだよ」

 この時はどういう意味か分からなかったのだが後日調べてみると宝石言葉は『道しるべ』や『誠実』であったらしい。確かに図らずも旅人である彼女に合う物を選んでいたみたいだ。少しだけホッとした。

「私の分は開けないの?」
「お、そうだったな。どれどれ」

 開いた瞬間パンッと大きな音が響き渡る。反射的に箱を手放そうとしたが瞬時に『ヤバい』と思い必死に落とさないよう掴む。箱の中からはたくさんのリボンや紙飾り、湧き出る小さな泡が破裂音を出している。ふとカフェ内を見ると全員がこっちを向き、アンナの方を見ると俺を指をさして笑っていた。気まずい。

「ナイスイタズラ。ヒヒッ、じゃね」
「待てアンナ! ど、どうなってんだこれ!?」
「直前まで忘れてた罰だよーっと」

 ケラケラと笑うアンナは旧市街地の方に消え俺だけ残される。カフェ内からも笑う声が聞こえる。俺が何したって言うんだ!「え、あ、はぁ!?」としか言えない。走り出したアンナを追いかけようとしたらふと肩を持たれ止まる。振り向くとドマからの使者であるユウギリが立っていた。

「失礼、敵襲かと思い来たが」
「あ、アンナが急に……心臓に悪いやつでな」
「……ビックリ箱か。なかなか作りこまれていてアンナは器用な人だ」

 そうかもしれんがと言いながらのぞき込むと確かに開けるまでは一切音を出さず油断させる技術は本物である。今度図面でも見せてもらおう。あわよくばやり返したい。ユウギリに「少し借りても?」と聞かれたので渡すと箱の中に手を突っ込む。

「お、おい」
「いえ箱の深さにしては浅い所から飛び出しているなと思い……やはり何かあったな。どうぞ」

 手のひらサイズの木の小箱を渡される。横に木のゼンマイが付いている。「回してみるといい。予想が正しければ害はないと思われる」と言われたのでまた変な物じゃないだろうな?と思いながら巻いてみる。するとひとりでに箱が開いた。
 夜空の森の中で木製の赤色ウサギが木の歯車がかみ合い跳ねるようにカタカタと動いている。

「ひんがしの国の技術で作ったからくり装置でしょう。なかなか巧妙に隠されていた」
「何だ驚かすだけかと思ったらメインはこれか」
「あらシド、発見したのね。よかった」

 クルルがクスクスと笑いながら近づいてきた。どういうことだと聞くとこう答えた。

「来る前に最終工程だけ見たの。『一度目の前の事に熱中したら本来の目的を忘れる人に渡すんだけどこれは捨てられるおまけ』って言ってたわ。私の目にはとっても大切に扱っていたけどね」
「ほう全て手作りで。シドは幸せ者であるな」

 瞬時に顔に熱が集まっていく。口元を抑えながら「いやそうはならないと思うが?」と言うとクルルはふふと笑っている。処分前提でって何をやっているんだアンナはとシドはため息を吐く。
 それよりもイタズラというやつだ。今まで微塵も見当たらなかった単語が彼女の口から飛び出すとは思わなかった。意外と子供っぽい所もあるみたいでどこか安心する。居ても立っても居られない俺は箱を抱き走り出した。

「まさか両片想いだったのかしら」
「なるほど……」

 何か聞こえた気がするが頭に入ってこなかった。「ナイスイタズラ」と言った後の顔が満面の笑顔だったが少しだけ潤った瞳を見逃せなかった。まるでやってはいけないことをやってしまったと後から気が付きパニックになった子供みたいな彼女を追いかける。



「うーむ……いつ戻ろう」

 ボクはアプカル滝の前で空を見上げていた。さすがに目の前でキレたシドによって投げ捨てられるプレゼント箱を見たくないのでつい走り出してしまった。しかし予想通りのいい反応を見せてくれた。あの顔だけでご飯3杯は行けそうだし、しばらく機嫌も悪くならないだろう。向こうの機嫌は知らないが。おや目の前がかすんで見える。こすろうとすると声が聞こえた。

「アンナ! 隠れるならもっと近くでな! ……ってやっぱり泣いてたか」

 息が上がりながら走って来たシドだった。どうしたと言われてもここに座ってるだけで。慌てながら走り寄ってきてボクの目元を拭う。

「俺は怒ってない。その、からくり装置すごいな。ありがとよ」
「……あー見つけた? 残念」
「残念じゃない。というか渡したいならもっと分かりやすくだな」

 隣に座り軽くため息を吐いている。「別にプレゼント交換ももともとビックリ箱の予定だっただけだし。おまけでカバンの中に入れっぱなしだった物を突っ込んだだけだし」と言うと「そうかそうか」と隣で笑い出す。

「何が面白いの?」
「お前の可愛らしい所だ」
「今更気付いたの?」
「夢中さ」
「そういう冗談はもっとかわいらしいレディに言って」

 昨日まで過去のボクに見とれてたやつが何言ってるんだ。流石にそれは言わないけど。ふと話題を変えるようにシドは「アンナ、信じてくれないかもしれんが」と切り出した。何かあったのだろうかとどうしたの、と聞くと年甲斐もなくはしゃぎだす。

「前に子供の頃に欲しかったモノの話しただろ?」
「あー会いたい人とか言ってたやつ」
「叶った。嬉しかったぜ」
「よかったね」
「だが手に届かなかった」

 心の中でうわさをしたら言いやがったよコイツ。シドは空に手を伸ばしている。

「次会ったら飛空艇に乗せるって約束してたのにな、逃げられちまった」
「ホー、淡いねえ」
「まあ次こそとっ捕まえたらいいさ。もう忘れたくないからな」
「―――そう」

 あくまでも忘れる気はないらしい。薄々思ってたけど面と向かって言われると何か背筋がムズムズする。首元がくすぐったくて、何か不思議な感覚。

「あとお前の紹介もしたい」
「ははっ私のような旅人なんて面白くないよ」
「俺がしたいんだよ」

 一度言った事は曲げない人間である彼のことだ。本気でボクをボクに紹介したいらしい。つい大笑いしてしまう。

「アンナ?」
「いやあ面白い。しばらくは旅に出る暇無いかな」
「……楽しいことなら俺がいくらでもあげるぞ」
「じゃあ一瞬でも暇だと思ったら消えるよ?」
「逃がさん」

 ぎこちない動きで肩に手を回されながら言われた言葉に『うん? とんでもない約束をしてしまった気がするぞ?』と何か今までと違う歯車が回り始めた感覚が湧いてくる。くすぐったい首元を押さえながら苦笑した。

「ま、当面はいっか」
「でもな……イタズラはやっても怒らんがほどほどにしてくれ心臓に悪い」
「善処しまーす」

 頬をつねってやり少しだけ彼の肩にもたれかかってやった。ピクリと彼の体が揺れ動くが無視してやる。騒がしい祭りというやつも、悪くない。

 この後、帰りにくいと言うボクの言葉をシドは無視し腕を引っ張られカフェに戻った。直前で手を振り払いのぞき込むと食事もあらかた減り大人たちは酒が入りつつあった。「親方遅いっすよー」「アンナはお酒大丈夫かしら?」なんて声に私たち2人は笑みがこぼれた。

―――この後飲み比べしようぜと言われたので酒樽の大半をボクが飲んでやったさ。そしたらシドを含めた周りの男共はグラスを持ったまま倒れていった。その風景は簡単に言うと死屍累々ってやつで。顔を青くしたアルフィノと飲めないと断った人間たちで後片付けをする羽目になる。パーティなんて経験がなかったが片付けが終わるまでがパーティだってくらい知っているさ。見ていたミューヌの「ここで君に競争を持ちかけようとした人間がいたら今後絶対止めてあげるから」なんて優しい言葉に「それがいい」と返しながら旅館の部屋へ担ぎ込んで転がしていった。思えば皆にボクは酔わないって言ってなかったなあ。ふふっ。

//後
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#シド光♀ #季節イベント

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漆黒以降のメインストーリーネタバレ要素があるものはちゃんと記載しています。