FF14の二次創作置き場

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注意前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。  ―――アンナは誰…

蒼天

#シド光♀ #即興SS

蒼天

"歩み"
注意
前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。
 
―――アンナは誰とでもいつも数歩後ろを歩く。

「アンナ、こっちッス!」
「感謝」
「いつも悪いなあ」
「構わない」

 先頭のビッグスと少し後ろにいるウェッジの更に数歩分後ろを歩くアンナはニコリと笑う。今回は魔大陸にて見覚えのない装置があるという報告を受け、護衛としてアンナを連れて来た。ちなみにシドは別件で忙しく不在である。
 アンナは2人の話を聞きながら相槌を打つ。そして敵が見えると目にも留まらぬ勢いで斬りかかりあっという間に両断された。終わるとニコリと笑顔を向け、再び彼らの後ろを歩く。

「そういえばアンナっていつも皆の後ろを歩いてるッスけどどうしてッスか?」
「そんなに変?」
「親方と歩いてる時もそうだよな。もしかして無意識か?」

 その言葉にアンナはしばらく首を傾げ考え込んでいたがすぐにぽんと手を叩く。

「若い頃からのクセみたいなもの。気にしないで」
「なるほど。……なるほど?」



「っていう話があったんスよ親方!」
「具体的理由はなしと」
「あの人全然自分の話はしないのは親方が一番分かってるはずなんだがなあ」
「聞こえてるぞビッグス」

 シドは自分が不在の場で部下と何かあれば"アンナとどういう話をしたか"と絶対に聴取しに来る。今回はウェッジの報告への反応に対し、ボソリとビッグスはつい呟いてしまう。案の定聞こえてしまったらしくジトっとした目で睨まれた。「すいません」と濁し落ち着かせる。

「確かに俺も気になってはいた。暁相手でもいつも笑いながら数歩後ろ歩いてる」
「ララフェルの歩幅にも合わせられるのは凄いよなあ。特殊技能だ」
「アンナは特殊技能しか持ってないと思うッス」
「瞬間移動みたいな運動神経。色んな武器の使い分け。手先も器用、エーテル操作も難なくこなせて超える力持ち。盛られまくってるな」
「天は二物を与えずって言葉絶対嘘ッスよねー」

 羨ましいがその対価を考えるとああはなりたくないなとビッグスとウェッジはため息を吐く。それに対しシドはぼんやりと次にアンナに聞いてみるかと考えていた。



「なあアンナって何でそうやって後ろ歩いているんだ。話しにくいだろ、横にでも来たらいい」
「私は大丈夫」

 今日は飯でも食いに行かないかと誘うとあっさり了承を貰いレヴナンツトールで待ち合わせをしていた。合流し歩き出したが、いくらスピードを落としても絶対一定の距離から気配を感じる。シドはそれに見かねて立ち止まり、振り向くとアンナは首を傾げた。

「何かあったら即追い抜き解決。私、人の後姿を見るの好き」
「後姿を、か?」

 予想していなかった回答に首を傾げるとアンナは笑顔を見せた。

「小さい頃、後姿を追いかけながら会話してた。ついでにどんな顔をして話してるか想像、楽しい」

 ほら歩いた歩いたと急かされると諦めたのか再び前を向き足を踏み出した。

「お前さん使用人でもしてたのか?」
「んーちょと違う。……師弟関係?」
「なるほどな。今俺はどういう顔してるか分かるか?」
「うーん……笑顔」

 シドは少々眉間に皴を寄せ呆れた顔をしていた。新たな単語の"師匠"という存在が気になっている。どうしてそこまで興味を持ってしまっていたのか。しかももやもやする気分付きで。この時のシドはその心理が理解が出来なかった―――。



「昔お前がずっと後ろ歩いていた理由を聞いた話を覚えてるか?」
「覚えてない。私は大丈夫」
「覚えてるじゃないか。ってこれ前に別の話題でもやったな」

 シドは歩きながらアンナを小突く。お互いの想いを確認しあった後、まずやったことは隣に歩かせるために腕を掴み引っ張ることだった。最初こそは抵抗していた。だが5回ほど繰り返すと諦めたのかようやく自分の隣を歩くようになる。流石にまだ手を繋ぐことすらしていないが近いうちにまた教えたらいいだろう。微妙な距離感でも一歩前進していることが目に見えて分かるのだから。

「"師匠"ってリンドウのことだよな?」
「うん。フウガ、私よりひょろ長。足幅大きく歩くスピード速し。だから追いつけず」
「配慮出来ない人だったのか?」
「いや、本人はゆっくりのつもり。当時ちっちゃかったし。フウガデカい目印。迷子は無縁」

 不器用な人だったと笑顔を見せている。シドはジトっとした目で見つめている。それに気付いたアンナは「あなたが振った話題」とため息を吐いた。直後、シドはふと何か思い浮かんだのだろう、拳を握りニィと笑う。

「だが俺はリンドウよりも先に行ってると自信があるぜ」
「えらい自信」
「今アンナと生きてるからな。しかもこうやって横を歩いてるんだ。それだけでアドバンテージがある」
「じゃあ妙な嫉妬しない。フウガの話題妙に突っかかるじゃん」
「嫉妬なんてしてないさ」

 一瞬でバレる嘘はつかない、とアンナはシドの頬を抓る。その後、目線を合わせるように少しだけ屈み笑顔を見せた。

「まあその、えっと、フウガより大量に思い出を作ればいい。今を生きてるんでしょ?」
「―――言われなくともそのつもりさ」

 夜空を見上げ、軽く息を吐く。煌めく星が今日も輝き2人を見下ろしていた―――。


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#シド光♀ #即興SS

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 頭がクラクラする。どこか熱い気がする。だからボクは―――戦闘をしていた。 刀を…

蒼天

#シド光♀

蒼天

"風邪"
 頭がクラクラする。どこか熱い気がする。だからボクは―――戦闘をしていた。
 刀を振りぬき敵を斬って行く。ストレスが溜まった等何か1つでも違和感がある時はとにかく体を動かしていたら元気になる。それは長年旅をしていた頃からずっとそうだった。

「あっ」

 急にふらついてしまい、その隙を突かれ敵の横殴りが入る。そこからボクの意識は真っ暗になった。



「ばっっっかじゃねぇの!?」

 "ボク"は無理やり敵を一閃し、足に力を籠め、走り去った。平熱が死人のように冷たい人間の体温が38度超えて暴れ回るのは莫迦以外言いようがない。

「どこまでリンと一緒なんだよド阿呆!」

 撒けたようだ。とりあえずレヴナンツトールにテレポで飛ぶ。一瞬再び身体がふらつくが気合で耐える。
 さあここからだ。最寄りの施療院に行くか、それ以外か。エーテライトにもたれかかりぼんやりとする脳みそをフル回転させる。

「医者は……つまらないな。どうせ疲れが原因だろうし。ならば石の家か、ガーロンド社か。これは―――後者だな」

 弱い部分を見せたら一歩前進もありえる、そう考えながら少々ふらつきながら歩き出す。
 アンナ・サリスは人とコミュニケーションを取っている風に見えて全くやる気のない人間だ。要するに短命種に過剰に関わる時間はないというわけだ。しかし幼い記憶を思い出すからか無意識にヴィエラを見かけたら距離を取っている。自分より年齢を重ねる種族なんて妖異かアシエンくらいだろうが。少しは"普通の"人間と変わらない生活を送ってほしい。そのためにもやっと見つけた存在を手放させるわけにはいけないのだ。
 "ボク"は自分が何者か分からない。気が付いたら"ボク"に備わっていた力を全て行使し、アンナ・サリスを支えていた。何故かそうしないといけないという使命感が存在する。分かっていることは命の恩人"リン"の『私たちはとんでもないことをしでかしてしまった。責任を、取らなければ』という言葉だ。これはアンナ・サリスが聞き得ない言葉だって? それも分からない。でも"彼"の言う通り"ボク"は彼女のナカで支え続ける。
 支えると言っても常に視ているだけではない。ストレスが一定以上溜まってプッツリとキレた時や脳内情報処理の限界に達したり今回のようにぶっ倒れるくらいのダメージを喰らった瞬間に"交代"していた。稀に乗っ取ったりするがそれもこの子のためである。

 考え込んでいるうちに何とかガーロンド社に辿り着いた。フラフラと歩きながら建物に侵入し、見渡す。

「あらアンナ!」

 彼女は―――嗚呼ジェシーだったか。手を軽く振ってやると駆け寄って来た。

「今日はどうしたの?」
「うん。ごめん、あとは頼んだ」

 流石に病気を最後までカバーすることはできない。先程から目の前がグルグルと渦巻き限界だったのだ。下手したら最後の振りかぶりと全力疾走が原因で熱が上がったな。しかし"安息の場所"まで運べただけ頑張ったと自分にエールを送りたい。

「アンナ!? って熱っ!?」

 まずはレディに迷惑をかけてしまうことになるが仕方がない。「ごめん」と呟きながらそのまま意識を手放してしまった。



 玄関口で騒ぎ声が聞こえる。休憩中のシドはどうしたのかと顔を出すと人だかりができていた。

「どうした?」
「会長! その、アンナが」

 シドは怪訝な顔で近付くと中心では顔を真っ赤にして倒れたアンナがいた。つい二度見してしまうほど現実感がない風景に驚愕する。

「な、何があった」
「それがいきなりやって来たと思ったら『あとは頼んだ』って言って倒れてしまって」
「ジェシー、とりあえず医者を呼んでくれ。彼女は仮眠室にでも運んでおくか……って熱いな!?」

 普段の冷たい肌に慣れすぎて熱く感じる。平熱が低すぎる彼女から考えるとよく歩いて来れたなとその精神力の強靭さに頭がおかしくなりそうだ。
 そういえば初めてアンナを抱き上げるなと思いながら持ち上げるととても軽かった。この軽さであの圧倒的な強さを支え切っているのかと不安になる。周囲の視線は気になるが心を無にし仮眠室に運び込んだ。



 どうやらただほぼ休みなしで世界を救うために走り回った連日の疲れからきたものらしい。そういえばエオルゼアで英雄と呼ばれ始め、以降ずっとイシュガルドで走り回り、次はアラミゴに行くぞと拳を振り上げていた。その合間も時々こちらに顔を出しては色々手伝いしてもらったり野宿しているという話も聞いた。振り返るといつ完全に休んでいるのか―――思い返すと謎である。体温は40度近く行っているがそれは無理して動いていたからだろう、安静にしていたら治るらしい。ついでに殴られた形跡があったので処置してもらった。

「ウェッジ、これ何だと思う?」
「……魔物とサシで殴り合いしてたんスかね」
「『多少しんどくても戦ってりゃ治るでしょ』って言って油断して殴られたんだと思うぞ」
「あーありえる」
「親方流石ッスね……」

 3人の脳内にフラフラと顔を真っ赤にしながら敵に斬りかかるビジョンが浮かぶ。ため息を吐いているとふとか細い声が聞こえた。

「にい、さん……」
「寝言か?」

 うめき声を上げながらうわごとのように呟いている。

「ごめん、なさい」
「ビッグス、ウェッジ仕事に戻っておいてくれないか?」
「親方卑怯ッスよ!?」
「まあいいじゃないか。行こう」

 2人は退室していく。ニヤけ顔に少々イラついたが気にしないことにした。アンナは相変わらず小さな声で何かを呟いている。見たことのない弱さがシドを狼狽えさせる。

「―――ド」
「ん?」
「シ、ド」

 確実に呼ばれた。相変わらず眠ったまま眉間に皴を寄せ寝言を繰り返している。

「いか、ないで。1人は、いや」

 何も言わず手を握ってやると少しだけ緊張が解け、またすやすやと眠っている。どうしてやればいいのか、分からなかった。



 ふと目が覚めると屋内。起き上がろうとするが身体が重い。腕だけで支え周りを見渡すとジェシーが驚いた顔をして口を開いた。

「アンナ! 目が覚めてよかった」
「―――ガーロンド社?」

 何故自分がここにいるのかが記憶になかった。確か敵から横殴りにされて意識が真っ暗になっていたはず。

「救援されてここにいるのはおかしい……」
「あなた自分でここまで歩いてきたの覚えてないの?」

 ジェシーは心配そうな顔してアンナを見ている。首を傾げしばらく考え込んだ。

「あ、そ、そうだったかもしれない。あはは」

 覚えていないが適当に返しておく。

「迷惑かけちゃってごめん。ありがと」

 苦笑しながらとりあえず謝罪しておく。ジェシーはニコリと笑っている。

「じゃあ会長呼んで来るから」
「シドが起きたらいないのは意外」
「気持ちは分かるわ。困惑しながらあとは頼むって言っておきながら結構こまめに見に来てたからちゃんとお礼言っておいてね」

 1分もせずにシドが部屋に駆け込んできた。人の顔を見るなり「よかった」と言いながら一瞬笑顔を見せる。それに釣られて笑顔を見せたがその瞬間、お説教が始まった。

「お前何をしてるんだ! いきなりやって来たかと思ったらぶっ倒れて丸一日眠って心配したんだぞ!」
「いやだって戦ってたら治るし」
「悪化させてきたやつが何言っても説得力がないだろ」
「う……それは偶然そうだっただけで」
「何だと?」
「な、ナンデモナイデス……」

 アンナは小さくなっている。何を言ってもムダだと察し困った顔をしてシドの反応伺う。結構怒っているが正直何故怒っているかは理解ができなかった。

「次からは無理せず戦わず水に顔を突っ込んで熱を冷ましてから戦う……」
「馬鹿か!?」

 そこからまた長時間の説教が始まった。頭が未だぼんやりして半分も入ってこないがここまで言われるのは命の恩人ぶりで少しくすぐったい。次は迷惑かけないように、何とかしよう。

「おいアンナお前次は人に迷惑かけないよう何とかしようとか思ってないだろうな?」
「え、あ、はい」
「やめろ。素直にちゃんと人を頼ってくれ。今回こっちに助けを求めたのは、その、嬉しかったからな」
「嬉しい? 変なの」
「いつも頼ってしまってるんだ、困った時はお互い様だろ」

 目を見開き固まる。「いや私のことは、気にするな。好きで人助けしてるだけ」と首を撫でながら取り繕うように言うと頬を引っ張られた。またよくないことを言ってしまったらしい。理解できなかった。弱くなってるからって調子に乗るんじゃないと思いながら再び寝そべる。どこかちくりと棘が刺さったように痛いのはきっと風邪の症状だろう。

「シド、もう少しだけ寝る」
「……そうしてくれ」
「仕事、戻って大丈夫だよ」
「もう少しだけ休憩させてくれ」

 ニコリと笑い合いそれからアンナが眠るまで雑談していた。少しだけ休息になった、気がする。



 阿呆共。この一言に尽きる。実は倒れてからも相手の反応は伺っていた。"ボク"は寝言のフリして反応を見る。何も言わず顔を赤くしながら手を握り、しばらくしたら部下に任せ慌てたように退室した。何度か様子を見ては出て行っての繰り返しで正直何をやりたいんだこの人と思いながら呆れる。
 身体が動かないので1日ゆっくり眠らせてやった。そしてようやくアンナの意識が回復してきたので無事目を覚ます。レディは慌てて男を呼びに行き、すぐさまお説教が始まった。それに関してはぐうの音も出ないほどの正論だったのでこれを機にアンナも反省してほしい。まあ自分は死なないと高を括っているし"反省"という言葉が辞書に載ってるわけがないのだが。嗚呼また説教が始まった。当人は満更でもなさそうに聞いている。怒鳴られるのは命の恩人ぶりとか感慨深くなってる場合じゃないのだがアンナに理解できるわけもなく。
 最終的にいい空気になってよかった。だが人の心というヤツを理解しないアンナと明らかに友人以上に向ける目をしておきながら何も自覚できていない男に呆れる部分があった。しかしこの男でないと任せることはできないと認識している。まあ"ボク"は惚れた腫れたに介入する気は全く存在しない。それは本人が何とかするべき問題だ。
 この子の心に関しては時間が何とかしてくれるだろう。今は明らかに休息が足りていないのも確かなのでこれを機にもう少しゆっくりするという行為を覚えてくれたらいいなと考えながら意識を手放したのであった―――。


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#シド光♀

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 前半蒼天終了辺り、後半漆黒付き合った後のお話。メインストーリーには特に触れない…

蒼天

#シド光♀ #即興SS

蒼天

"冷たい肌"
 前半蒼天終了辺り、後半漆黒付き合った後のお話。メインストーリーには特に触れないです。
 
「アンナっていつも思うがお前冷たいよな」
「悪口?」
「体温の話だ」

 アンナの怪訝な目に対してシドはため息を吐く。イシュガルドの騒動以降さりげなく手を触れる機会が増えたが、いつもひんやりと冷たい。

「冷え性?」
「俺に聞かれても分からん」
「故郷の儀式で火には強い。冷たさの原因は不明」
「初めて聞いたんだが?」
「聞かれたことない」

 アンナは目を細め「バァン」と言いながら指から一瞬だけ火花らしき輝きを出す。シドは目を丸くしてそれを見つめた。一瞬別の感情が湧き出そうになるのをグッと我慢する。

「故郷は火を大切にしてる部族でね。火の操作に関してはまあまあ」
「着火剤いらずで便利じゃないか」
「旅のお役立ち」
「それでも指熱くならないのは凄いな」

 火を出していた指に軽く触れるとやはり冷たいままだ。アンナはニコリと笑い「不思議」と言う。
 褐色の細くて長い指をシドはぼんやりと絡めながら眺めている。

「シドの手、大きくて温かい。嫌いではない」
「そうか? まあ言われて悪い感じはしないが」
「褒めてるし」
「そうだな」

 2人は笑い合う。手袋とかした方がいい、夏だったら冷房いらずだな、ちゃんと寝る時は温かくしろと言うシドをアンナはニコニコと相槌を打っている。
 ここはガーロンド社休憩スペース、居合わせた社員たちはポカンとした顔でその掛け合いを見つめていた。



「昔お前が冷たい話したこと覚えてるか?」
「悪口の話?」
「体温の話だ」

 同じような会話したぞちゃんと覚えてるなと軽く小突く。
 最初こそは全身が冷たいものだった。しかし思考を溶かし、体を重ねると徐々に熱が灯され蕩けさせると人並みの体温を感じられる。自分の体温と混じり合う感覚が他では味わえない未知のもので。それはもうクセになる。
 胸元に口付けを落とすと頭に手刀をお見舞いされた。痛いと言うと呆れた声でアンナは「今日はもう終わり」と返した。

「叩かなくてもいいだろ」
「キミは久方振りなボクとの休日を"また"一日中寝る行為に使うつもりかい?」

 ボクはもう疲れてるんだよとアンナはジトッとした目で見つめる男に対しため息を吐く。リップ音を立てながら第三の眼付近に口付けを落とし、ボソリと喋り目を閉じた。シドは目を丸くしながら飛び起きる。

「本当か?」

 アンナは寝返りを打ち、何も言わない。そんな彼女を後ろから抱きしめ「おやすみ」と囁いた。


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#シド光♀ #即興SS

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注意蒼天3.0メインストーリー中の自機の心情を補完する即興SSです  …

蒼天,ネタバレ有り

#シド光♀ #即興SS

蒼天,ネタバレ有り

旅人は、取り戻せない
注意
蒼天3.0メインストーリー中の自機の心情を補完する即興SSです
 

―――英雄を乗せ、生まれ変わったエンタープライズは飛び立った。

 彼女はぼんやりと空を見つめていた。いつものような笑顔も見せず神妙な顔。それもそうか、俺たちはトールダン7世と最終決戦になるだろうアジス・ラーへ向かった。目論見通り防壁を越えることに成功したが帝国の飛空艇の猛攻を退けるためにシヴァ、氷の巫女と呼ばれたイゼルが散った。無事上陸を果たし仲間たちが飛空艇から降りる中、彼女はぼんやりとその場から動かず空を見上げていた。

「アンナ」
「別に悲しんでいるわけじゃない」
「何も言ってないんだが」
「……まじか」

 アンナは俺の方に向き苦笑いしている。俺はそのまま彼女の横に立ち空を見上げた。
 淀み切った空は俺たちに何も教えてくれない。しばらく何も言わず立っていた。

「たくさん人が死んでいる」

 ポツリと呟く声はいつもより低い。

「私に優しくしてくれたヒトが死んでいく」
「誰にだって限界はあるさ」
「超える力だって言ってるくせにこんなちっぽけな限界は超えてくれないんだね。知らなかった」

 拳を握り締め、振り下ろしている。顔を見ると目を見開き一筋の涙が落ちた。

「やっぱり神様ってクソッタレ。ムーンブリダを、オルシュファンを、イゼルを返せ」

 ガン、ガンと飛空艇の外装に拳を振り下ろしている。俺は彼女のその痛めつけられている手を力いっぱい押さえた。

「悲しかったんだな」
「違う、本来あるべき場所から奪ったヤツを、私は、私は」

 目が見開かれ、空気がナニカに反応したのかどこか震えヒリヒリと痛む。彼女の手が熱い。明らかに様子がおかしい。「アンナ!」と俺は叫ぶ。彼女はビックリした顔で俺を見ている。

「俺は生きている。アルフィノも、ミンフィリアも、サンクレッドだってお前が救ったじゃないか。お前は全てに手を差し伸べる神になるつもりなのか!?」

 手の熱が収まった。そして彼女は俺の肩に頭を置く。そして「5分」とボソとつぶやいた。

「何もするな。ただそこに立ってて」
「あ、ああ」
「―――無名の旅人を助けても何も利益がないくせに、何で」

 彼女はボソボソとつぶやき始める。

「私に触らなければ死ななかった。私が現れなければ世界はそのままだった」
「アンナ」
「でも私がここにいないと世界は変わらなかった。私がいないと達成されなかった。私が手を伸ばして救えた人もいっぱいいた」
「そう、だな」
「ただの"無名の旅人"に優しくする人たちが分からない。みんな死んでいく。どうして、どうして―――」

 そこから彼女は何も言わず震えていた。俺はただ彼女の肩を撫でることしかできなかった。

 それはウルダハの教会でしか見たことがなかった彼女の弱さだった―――



 5分後。彼女は顔を上げた。ばつの悪そうな顔で「ごめん」と言った後目をこすりいつもの笑顔を見せた。

「もったいない」
「何か言った?」
「あ、ああ何でもない」
「私たちに悲しみながら人を弔う暇なんてない。……みんな待たせてる、行こう」

 途中から心配したのか戻ってきた仲間たちに見られていたが彼女は気が付いていなかったようだ。即しっしっと手で払うしぐさをしたら戻って行ったがバレないに越したことはない。

 彼女は強い、刀を握り締め全てを斬るために奔る。しかし心は絶望的に、脆い。それは多分1人旅で長年人と関わってこなかったからだろう。
 誰かが支えないと、そばにいないとすぐに崩れ去るのではないかと踵を返し歩き出した彼女の後ろ姿を見守る。

「もしお前が許すなら」

 俺が隣に立ってはいけないだろうか?

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#シド光♀ #即興SS

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「飾りはこっちに置いて!」「料理の準備できたわ。あとはアンナを待つだけね」「プレ…

蒼天

#シド光♀ #季節イベント

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星降る夜の奇跡の話―後―

「飾りはこっちに置いて!」
「料理の準備できたわ。あとはアンナを待つだけね」
「プレゼント箱搬入終わったぞ!」
「天井に吊り下げるモノ、準備終わっている」

 アンナとシドがプレゼント交換を約束した当日。カーラインカフェの片隅で暁の血盟とガーロンド・アイアンワークス社の面々はアンナを驚かせるためにと最終準備をしていた。アンナはレヴナンツトールにてタタルに足止めするよう頼んでいるので現場には来ないだろう。

「親方! ボーっとしてないで手伝ってほしいッス!」
「―――あ、ああすまん」

 シドは朝からずっと上の空で、ヤ・シュトラはため息を吐きながら近づく。

「あらあなたが気合入れないと今回のサプライズは成功しないわよ?」
「む、そうだな。そうだったな」

 上の空なのも当たり前だった。昨晩の事を誰にも相談できず1人悶々と悩んでいる。まるで名も無き旅人の事がなかったかのように動き続ける時にイラつきさえも覚える。しかし今は考えている暇はない。手を動かしていれば今は大丈夫だろう、そう考え箱を手に取った。

「親方、その箱は何ですか?」
「ん? ここに置いてるからてっきりお前たちが持ってきたやつかと」
「まあ誰かが持ってきたんでしょう。とりあえず一緒に飾っておきましょうか」
「そうだな」

 いいのか? と思いながら気合を入れて、持ち上げた。



「も、もう少し待つでっす! 紅茶のおかわりありまっす!」
「んーでも人と待ち合わせしてて。1時間前には待ち構えたい」
「ふふっ、ときどきはゆっくり行っても罪じゃないと思うわよ」

 ボクはグリダニアでぼんやりと一晩過ごした後タタルに呼ばれレヴナンツトールにいた。普段なら個人的に驚かせるためにずっと現地で待つのがボクだ。まぁそういえばいつの間にかパーティになってたんだっけと思い出し、彼女らの時間稼ぎに付き合っている。

「タタル私思う。モードゥナに拠点がある人同士何かするならここでやるべきだと思うんだけどどう?」
「え! アンナさん知ってたんでっすか!? ってあ!」
「まあアンナなら知ってるわよね。確かに私も思ったんだけど」

 タタルに「い、いつからでっすか!?」って言われたから「あなたがシドと拳を交わし合ったところ」と答えるとクルルは「最初からだったのね」とふふと笑っている。

「うん、何かすごいなって思ったら近付けなかった。……私も本気出さなきゃって。こんな経験ない。どうすれば―――」

 分かってたら1週間前なんて急な予定にしない、と言うと2人は笑顔でボクを見ていた。

「アンナには来たばかりの私でもお世話になってるわ。日頃の感謝を伝えるチャンスって言われるとやる気も出ちゃうのよ」
「そういうものなの?」
「そうでっす!」
「ただの無名の旅人相手によくやるよ」

 エオルゼアの人間はお祝い事が好きらしい。度々街が飾りつけされているのを見ると相当数お祭りが用意されているのだろう。神様も十二神と多神教な土地だけあってごちゃまぜな文化が少しこそばゆい。何せ生まれ集落は森や動物に感謝する儀式や火にまつわる祭りしか存在しなかった。あとここ60年位は集落にはめったに近寄らなかった。しかし旅人として再スタートを切って5年、いろんな文化を知れるのが嬉しかったし今でも好奇心が収まらない。
 現在―――面倒な出来事も終わり訪れた年末、感謝を示す行為は祭り関係なく誰だって当然なんだろう。自分を頼りきる人たちと盛大に遊ぶのも悪くない。だから準備はしてきたのだ。大きな箱と、小さな箱たち。実は小さな箱に関してはもう会場には置いてきていたのだが。

「クポー! アンナさんいたクポ!」
「よかった間に合った。ありがと。これクッキー。仲間と食べて」
「ありがとうクポ!」

 いつもより少しだけ大きな封筒を受け取る。開くとパーツがいくつか入っている。欲しかったサイズの木製の歯車だ。準備した物、これはかつて成人前にドマを命を救ってくれた恩人と修行の旅をしていた時に見て感動したからくり装置。遠い昔、興味あるならと貰った書物を参考に設計図だけ作ったが、途中で飽きてしまった物をちょうどいい機会だからと完成させてみた。彼の故郷の技術に比べたら原始的に映るかもしれないが気にしない。まあそもそも手に取るかも分からないのだ。それもまた一興。ボクとしては”外箱”ごと捨ててもらっても別に気にしない。無名の旅人であるボクがいた記憶をなるべく残してほしくないのだから。

「あとはこれを―――できた」
「あらそれは何かしら?」

 木の小箱を開くと木彫りのウサギがあり、周辺の歯車をいくつか取り換える。

「内緒」

 人差し指を口元に持っていき笑顔を見せてやる。そして大箱を慎重に開き中身の意匠を触らないよう奥に安置し、箱を閉じた。そしてクルルの耳元で「誰にも言わないでね」とささやく。

「一度目の前の事に熱中したら本来の目的を忘れるボケが始まったオジサンの目を覚ましてあげようって感じ。で、これはおまけ。多分外箱ごと捨てられるだろうから適当」
「あらあら」
「アンナさーん! そろそろ一緒にグリダニアに行くでっす!」

 準備できたんだ、と言いながらタタルの元に走っていく。

「私には大切な人にあげるための準備に見えるな」
「何か言った? ほらクルルも来て。せっかくなら皆でお祝い」
「分かったわ」

 呼ばれたクルルも小走りで石の家を飛び出して飛空艇でグリダニアに向かう。さあどんな準備をしてくれたのかな? 楽しみだ。



「よ、よおアンナ」
「あらシド。ここで待ってたんだ」
「お前の方が遅いなんて珍しいじゃないか」

 アンナがタタルやクルルと一緒にグリダニアランディングに降り立つとそこにはぎこちない動きと引きつった笑顔のシドがいた。「分かりやすすぎるわ」「サプライズ下手すぎでっす……」と小声が聞こえる。だがシドは無視して「とりあえず飯でも食おうぜ」と指をさし歩き出す。アンナは笑顔でその数歩後ろを付いて行く。階段を上るとそこにはきらびやかな装飾と食べ物とケーキ。プレゼントの山が積まれ、暁の血盟のメンバーやガーロンド社の人間たちが。アルフィノが優しい笑顔で手を振っている。

「アンナ。いつもありがとうな」

 シドの言葉にアンナは一瞬目を見開き、止まっていた。徐々にいつも見せる笑顔は消え、目をぱちくりとさせている。

「あら? どうしたのかしらあの人。立ち止まってるわ」
「アンナ早く来るッスよー!」

 表情一つ変わらず、やがて何かに気が付いたのか慌てて手で顔を覆う。シドは横でキョトンとした顔で見つめているととつぜん手を外し、彼の方に向き見慣れた笑顔を見せた。

「だーれーがーここまでやれって?」
「え、あー、ごめんな?」

 一瞬シドのヒゲを掴みながら、踵を返し皆の元に走り出した。

「ありがとう」

 小さい声だったが確実に聞こえた。彼女から初めて引っ張られたヒゲをさすり彼女を見つめていると腰辺りを突かれた。見るとクルルが笑顔で「もしかしたら慣れてなかったのかもしれないわよ?」と言い先へ進むよう促した。

 よく考えたら彼女は長い間1人で旅をしてきた。振り返ればエオルゼアで出会ってから今まであった祝賀会や式典は陰謀に巻き込まれたりと彼女が休まる時はなかった。そんな彼女が星芒祭だと口実があるとはいえ突然政治主張等関係ない誕生日でもない日に祝われたら。本当に考えがフリーズしたのか、あのいつも余裕ぶった笑顔の旅人が。シドの口元から笑みがこぼれだす。「いいものを見た」と呟きながらゆっくりと歩き出した。



 パーティは盛り上がった。アンナの前に食べ物を置くと気が付いたら消えているので「自分の食べる量をキープしろ!」「俺たちの食べる物が無くなっちまう!!」と怒号が飛び交っている。シドたちは「何かやってるなーって静観してた。ガーロンド社の人たちまでいるとは思わなかった」という言葉で計画の半分程度はバレていたかと驚いた。「じゃあ余計にレヴナンツトールでやりなさいよ」とアンナの呆れた声にシドは「発想になかったな。グリダニアでと約束したんでな」と悪びれず答えた。

「いいじゃないか。私は君と出会うきっかけになったグリダニアでこうやって祝えるのが嬉しいよ」
「そんなもんなの?」
「いいのではないでしょうか。貴方にも休息は必要ですから」
「サンクレッドが来なかったのが残念ね。彼にも少し休んでほしかったんだけど」

 その後アンナはプレゼントを積んでいる山を指さしながら「小さいやつ、大体は私からの贈り物」と言った。ある箱は画材、ある箱は香水。またある箱には羽ペンと羊皮紙。奇麗なナイフにシャード詰め合わせ。

「アンナ、合計いくら使った?」
「今回のパーティに使われたお金に比べたら安い。好きな物持って行っていいよー」
「じゃあ次は私たちからもあげないとね」

 彼女の周りにプレゼントの山が積まれていく。「こんなに貰ってもどこへ持ち帰ればいいの?」と苦笑いしながら開封していく。

「あらミニオン」
「ウチの新製品の新型エンタープライズモチーフッス!」
「ちっちゃくてかわいい。こっちは調理道具セットか。いいねえ」
「あら会長は最初私にね―――」
「ゴホン。まあよく料理を振る舞ってくれるからな。使って欲しい」
「いいよ」

 暁の血盟側から渡された物はまずは淡く光るクリスタルがあしらわれた小物入れ。マフラーや手袋、アルフィノが描いたグリダニアの風景画。「もっと早く分かってたらとびきりなものを準備したでっす! でも自信作でっすよ!」とタタルは胸を張っている。アンナは笑顔で「みんなさ、旅人に贈る量じゃないってば」と言いながら箱を開いては取り出し優しく撫でている。

「来年もよろしく、アンナ」

 思い思いの言葉を伝えたが全員の言葉を要約するとこうだった。アンナの目が見開かれ、しばらく固まった後頭をかきながら「しょうがないなあ」と照れた笑顔を見せた。その後話題を変えようと赤色の箱から何やら装飾具を取り出す。中央に赤色の宝石、羽根のようなおしゃれな模様が張り巡らされボタンを押すとカチャリと音を立てながら開くと時計盤。

「あら懐中時計」
「俺じゃないぞ」
「私たちでもないね」
「見た事もないデザインの物だしもしかしてオーダーメイドかしら?」

 箱の底に残っていた紙切れを見て「兄さんだ」と呟く。アンナは何も言わずそのまま身に付ける。俺たちは彼女が持っていた紙切れをのぞき込むとぱっと見読み取れない言語で書かれている。「お疲れさまと兄の名前」とアンナは説明してくれた。いつの間に現れて置いて行ったのだろうか。

「多分レターモーグリーが持ってきた? 兄さん今は故郷にいるハズ」

 シドは兄がいるとクリスタルタワーで言っていたと思い出す。ついでに5年程度に一度故郷に帰る習性もあると。しかしその場にいる人間たち何も言わず置いて行くサービスは聞いた記憶はないのだが指摘するのは野暮だろうと置いておく。それよりやらないといかないメインイベントが残っているとシドはアンナを引っ張って表に連れ出す。数人の視線が痛いが無視しておく。



「どうしたの?」

 アンナは笑顔で俺を見下ろしている。俺は「忘れたのか?」と言いながら準備していた袋を取り出す。

「―――ああちゃんと覚えてたんだね。結構結構」

 言葉のとげが痛い。すっかり忘れてるなと思われていたらしい。―――実際昨日急いで工面した物だから言い返せない。彼女はカラカラと笑いながらカバンの中から大きめの箱を取り出した。

「デカくないか?」
「普通普通。ほらちょうだい」
「おう……」

 お互いプレゼントを交換し見つめている。「開けていい?」と言われたので「いいぞ」と返してやる。

「髪飾り。いいじゃん。青い石は……アイオライトか。粋だねえ」
「そうなのか?」
「旅人の私にピッタリ」

 この時はどういう意味か分からなかったのだが後日調べてみると宝石言葉は『道しるべ』や『誠実』であったらしい。確かに図らずも旅人である彼女に合う物を選んでいたみたいだ。少しだけホッとした。

「私の分は開けないの?」
「お、そうだったな。どれどれ」

 開いた瞬間パンッと大きな音が響き渡る。反射的に箱を手放そうとしたが瞬時に『ヤバい』と思い必死に落とさないよう掴む。箱の中からはたくさんのリボンや紙飾り、湧き出る小さな泡が破裂音を出している。ふとカフェ内を見ると全員がこっちを向き、アンナの方を見ると俺を指をさして笑っていた。気まずい。

「ナイスイタズラ。じゃ」
「待てアンナ! ど、どうなってんだこれ!?」
「直前まで忘れてた罰だよーっと」

 ケラケラと笑うアンナは旧市街地の方に消え俺だけ残される。カフェ内からも笑う声が聞こえる。俺が何したって言うんだ!「え、あ、はぁ!?」としか言えない。走り出したアンナを追いかけようとしたらふと肩を持たれ止まる。振り向くとドマからの使者であるユウギリが立っていた。

「失礼、敵襲かと思い来たが」
「あ、アンナが急に……心臓に悪いやつでな」
「……ビックリ箱か。なかなか作りこまれていてアンナは器用な人だ」

 そうかもしれんがと言いながらのぞき込むと確かに開けるまでは一切音を出さず油断させる技術は本物である。今度図面でも見せてもらおう。あわよくばやり返したい。ユウギリに「少し借りても?」と聞かれたので渡すと箱の中に手を突っ込む。

「お、おい」
「いえ箱の深さにしては浅い所から飛び出しているなと思い……やはり何かあったな。どうぞ」

 手のひらサイズの木の小箱を渡される。横に木のゼンマイが付いている。「回してみるといい。予想が正しければ害はないと思われる」と言われたのでまた変な物じゃないだろうな?と思いながら巻いてみる。するとひとりでに箱が開いた。
 夜空の森の中で木製の赤色ウサギが木の歯車がかみ合い跳ねるようにカタカタと動いている。

「ひんがしの国の技術で作ったからくり装置でしょう。なかなか巧妙に隠されていた」
「何だ驚かしのイタズラだけかと思ったらメインはこれか」
「あらシド、発見したのね。よかった」

 クルルがクスクスと笑いながら近づいてきた。どういうことだと聞くとこう答えた。

「来る前に装置の最終工程だけ見たの。『一度目の前の事に熱中したら本来の目的を忘れる人に渡すんだけどこれは捨てられるおまけ』って言ってたわ。私の目にはとっても大切に扱っていたけどね」
「ほう全て手作りで。シドは幸せ者であるな」

 瞬時に顔に熱が集まっていく。口元を抑えながら「いやそうはならないと思うが?」と言うとクルルはふふと笑っている。処分前提でって何をやっているんだアンナは。
 それよりもイタズラというやつだ。今まで微塵も見当たらなかった単語が彼女の口から飛び出すとは思わなかった。意外と子供っぽい所もあるみたいでどこか安心する。居ても立っても居られない俺は箱を抱き走り出した。

「もしかして両想いだったのかしら」
「なるほど……」

 何か聞こえた気がするが頭に入ってこなかった。「ナイスイタズラ」と言った後の顔が満面の笑顔だったが少しだけ潤った瞳を見逃せなかった。まるでやってはいけないことをやってしまったと後から気が付きパニックになった子供みたいな彼女を追いかける。



「うーむ……いつ戻ろう」

 ボクはアプカル滝の前で空を見上げていた。さすがに目の前でキレたシドによって投げ捨てられるプレゼント箱を見たくないのでつい走り出してしまった。しかし予想通りのいい反応を見せてくれた。あの顔だけでご飯3杯は行けそうだし、しばらく機嫌も悪くならないだろう。向こうの機嫌は知らないが。おや目の前がかすんで見える。こすろうとすると声が聞こえた。

「アンナ! 隠れるならもっと近くでな! ……ってやっぱり泣いてたか」

 息が上がりながら走って来たシドだった。どうしたと言われてもここに座ってるだけで。慌てながら走り寄ってきてボクの目元を拭う。

「俺は怒ってない。その、からくり装置すごいな。ありがとよ」
「……あー見つけた? 残念」
「残念じゃない。というか渡したいならもっと分かりやすくだな」

 隣に座り軽くため息を吐いている。「別にプレゼント交換ももともとビックリ箱の予定だっただけだし。おまけでカバンの中に入れっぱなしだった物を突っ込んだだけだし」と言うと「そうかそうか」と隣で笑い出す。

「何が面白いの?」
「お前の可愛らしい所だ」
「今更気付いたかい?」
「夢中さ」
「そういう冗談はもっとかわいらしいレディに言って」

 昨日まで過去のボクに見とれてたやつが何言ってるんだ。流石にそれは言わないけど。ふと話題を変えるようにシドは「アンナ、信じてくれないかもしれんが」と切り出した。何かあったのだろうかとどうしたの、と聞くと年甲斐もなくはしゃぎだす。

「前に子供の頃に欲しかったモノの話しただろ?」
「あー会いたい人とか言ってたやつ」
「叶った。嬉しかったぜ」
「よかったね」
「だが手に届かなかった」

 心の中でうわさをしたら言いやがったよコイツ。シドは空に手を伸ばしている。

「次会ったら飛空艇に乗せるって約束してたのにな、逃げられちまった」
「淡いねえ」
「まあ次こそとっ捕まえたらいいさ。もう忘れたくないからな」
「―――そう」

 あくまでも忘れる気はないらしい。薄々思ってたけど面と向かって言われると何か背筋がムズムズする。首元がくすぐったくて、何か不思議な感覚。

「あとお前の紹介もしたい」
「ははっ無名の旅人なんて面白くないよ」
「俺がしたいんだよ」

 一度言った事は曲げない人間である彼のことだ。本気でボクをボクに紹介したいらしい。つい大笑いしてしまう。

「アンナ?」
「いやあ面白い。しばらくは旅に出る暇無し」
「……楽しいことなら俺がいくらでもあげるぞ」
「じゃあ一瞬でも暇だと思ったら消えるよ?」
「逃がさん」

 ぎこちない動きで肩に手を回されながら言われた言葉に『うん? とんでもない約束をしてしまった気がするぞ?』と何か今までと違う歯車が回り始めた感覚が湧いてくる。くすぐったい首元を押さえながら苦笑した。

「ま、当面はいっか」
「でもな……イタズラはやっても怒らんがほどほどにしてくれ心臓に悪い」
「善処しまーす」

 頬をつねってやり少しだけ彼の肩にもたれかかってやった。ピクリと彼の体が揺れ動くが無視してやる。騒がしい祭りというやつも、悪くない。

 この後、帰りにくいと言うボクの言葉をシドは無視し腕を引っ張られカフェに戻った。直前で手を振り払いのぞき込むと食事もあらかた減り大人たちは酒が入りつつあった。「親方遅いっすよー」「アンナはお酒大丈夫かしら?」なんて声に私たち2人は笑みがこぼれた。

―――この後飲み比べしようぜと言われたので酒樽の大半をボクが飲んでやったさ。そしたらシドを含めた周りの男共はグラスを持ったまま倒れていった。その風景は簡単に言うと死屍累々ってやつで。顔を青くしたアルフィノと飲めないと断った人間たちで後片付けをする羽目になる。パーティなんて経験がなかったが片付けが終わるまでがパーティだってくらい知っているさ。見ていたミューヌの「ここで君に競争を持ちかけようとした人間は今後絶対止めてあげるから」なんて優しい言葉に「それがいい」と返しながら旅館の部屋へ担ぎ込んで転がしていった。思えば皆にボクは酔わないって言ってなかったなあ。ふふっ。

//後
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#シド光♀ #季節イベント

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 突発的なアンナの提案によるプレゼント交換前日。 暁の血盟のメンバーらと英雄でも…

蒼天

#シド光♀ #季節イベント

蒼天

星降る夜の奇跡の話―中―

 突発的なアンナの提案によるプレゼント交換前日。

 暁の血盟のメンバーらと英雄でもあり旅人であるアンナにプレゼントを用意することになったシド。彼は数日の間”定時退社”し、何を渡すかどういうセッティングで彼女を驚かせるかと相談していた。3日前に怪しまれたジェシーにバレてしまい「私たちもアンナにはお世話になってるんですよ!」となぜか社員らと合流。カーラインカフェの一角を貸し切りパーティのセッティングもしようと思ったよりも大きなパーティになってしまった。最終調整のため代表者にされてしまったシドはカーラインカフェにて一足先に前日晩最終確認する予定である。
 準備した物は大量の料理と新製品予定のミニオン。暁も何やら他に準備しているらしい。そして今鞄の中に潜ませている袋の中身は個人的に急いで用意した髪飾り。実はシドにとって恥ずかしい話だが”プレゼント交換”しようという当初の目的を昨晩まで忘れ去っていた。グリダニアへ向かう前に急遽ウルダハに立ち寄り青色の髪飾りを買ってしまった。自分としてはベタな物を買ってしまったのは理解している。しかし唐突に青も似合いそうだな、と装飾店前でつい考え込んでしまいそのまま購入した。控えめな飾りなので装備等の邪魔にはならない、と思う。「ガーロンド社の会長さんもついにお相手ですか?」という店員の言葉を適当に濁し飛空艇に乗り込む。

 そういえば提案者のアンナは準備期間の間彼らの前に現れなかった。また人助けでもしているのだろうか、笑みがこぼれた。カーラインカフェのミューヌと明日の予定を話し合い準備を終わらせた。

「そういえばアンナ見たか?」
「あの人なら日中は子供たちへのプレゼント配りの手伝いをしていたよ」
「鉢合わせしなくてよかった」

 ミューヌは「君たち彼女のために大掛かりな準備していたからね」とクスクス笑っている。シドは「ここまで大きくする予定はなかったんだがな」と肩をすくめながら話す。

「まあお人好しな英雄をめいっぱいねぎらってあげたいなんて僕たちグリダニアの民も思ってるからさ。明日ぜひ楽しんでほしい」
「ああ、そうさせてもらうさ」
「そうだ、もう夜も更けてきたね。街の飾りつけが結構自信作だから夜の外も散歩してみてほしいんだ」
「ひと眠りするにも早すぎるからな。アンナ探すついでに見てみるか」

 シドはミューヌにあいさつしながら外へ出て行った。

「これでいいんだね? アンナ」

 1人残されたミューヌは軽くため息を吐きながら屋外の一点を見る。預かっているモノを持ち”準備”のために受付の裏に消えた。



 グリダニアにいるなら先に連絡をくれてもよかったのに、とシドはため息を吐き辺りを見回しながら歩いた。可愛らしい雪だるまに可愛らしい飾り。プレゼント箱が飾りつけされた樹の周辺に積み上げられ、確かに自分の故郷にはなかった一種の”温かさ”があった。
 それにしても夜とはいえ普段より人が少ないなと思いながら周りを見回した。ふと赤色の長い耳先が見えた気がする。旧市街地の方に向かったのだろうか。シドも続いて走り出した。

 息が上がりながら走り抜けるとミィ・ケット野外音楽堂の前のひときわ大きなツリーの前に大きな塊があった。塊はモゾと動き、かろうじてヒトだと分かる。くすんだ色のマントを被っている姿を見てここで過去の景色と重なる。恐る恐る近付きしゃがむと、少しだけ震えた指が見える。「なあ」と声をかけても何も反応がない。よし人を呼ぼう、そう思い立ち上がり踵を返し歩こうとすると自分のコートの裾を掴まれる。これも、同じだ。

「まさ、か」
「―――おなかすいた」

 無機質で男か女か判断できない中性的な声。俺はこの声を、知っている。そういえば先程外に出る直前にクッキーをもらっていた。恐る恐る振り向き「食うか?」とクッキーを差し出すと手が伸びカリと食べる音が聞こえた。

「ありがとう」

 顔を上げると深く被ったマントの中から見える赤色の髪、奇麗なガーネット色の目のヒト。少し年季の入った服を纏い俺を眉一つ動かさず見上げていた。

「ボクはただの通りすがりの旅人で」
「ずっと探していたエオルゼアに辿り着いた、だろ?」

 この人の言おうとした言葉を遮った。少し目を見開いた気がする。「ああ」と言いながら慣れていないのか固い笑顔を浮かべた。

「俺の故郷と違ってここは安全だから、とりあえずカーラインカフェに行こう。”旅人さん”」

 手を差し伸べ立ち上がるよう促す。旅人は何も言わずその手を握り立ち上がった。ひょろりと高い背が記憶と変わらない。成長しても彼よりも大きくならなかったか、少しだけ残念に思った。道案内しようとそのまま手を引っ張り歩き出す。旅人は振り払いもせず数歩後ろを歩いている。



―――俺はそのまま一方的にこれまであった話をした。20年も会わなかったんだ、積もる話はたくさんある。入学した魔導院でネロと切磋琢磨していた話、親父がトンデモない計画で死んでから環境が激変し故郷に愛想つかせて亡命した話。会社を興して魔導技術をエオルゼアに広めている話、先代光の戦士を運ぶ飛空艇を飛ばした話を。そして最近奇麗なヴィエラのヒトに出会い新たなエオルゼアの英雄の誕生をこの目で見た話。彼女も旅人でとても面白い人だと言う俺を旅人は「ホー」と相槌を打ちながらずっと聞いてくれた。

「今度は旅人さんの話を聞かせてくれよ」
「"ボク"はずっといろんな場所を見て来ただけだよ。キミほど激動な場所にはいなかったな」
「空と地上じゃ見えるものが違うじゃないか」
「ホーそうかもしれない」

 でも森とか荒れ地ばっかだから面白い話はないよ、と聞こえた。立ち止まり振り向くと少しだけ悲しげな顔をしていた。ふと目が合うと旅人は首を傾げる。

「進まないのか?」
「いや、そうだな。座ってから話をした方がいいよな」
「そうしたらいい」

 あとは何も言わず新市街地へ歩き、カーラインカフェに辿り着いた。



「地味に遠かったな」
「そうだな」

 ここに座っておいてくれよ、と空いていた席に案内し旅人を座らせた。珍しく客が1人もいない空間は少しだけ寒く感じたのでミューヌに温かい飲み物を出してほしいと頼みに行った。すると「後で持っていくから君が連れて来た人と話でもしてなよ」と言われた。その言葉に甘えて彼の元へ戻る。

 旅人は変わらずフードを被ったまま黄昏ていた。俺は旅人を片手は指さしもう片方の手でフードを外すしぐさをしながら言う。

「ここは別に旅人さんを追いかける人なんていないから外さないか? まあよそ者に厳しい人は少なくないが今はそんなやつはいない。俺が許さないからな」
「ホー。そういえばこれでずっと慣れていたから気にしていなかった」

 彼が羽織っていたマントを外した。ボサボサの赤色の髪に長い耳。ヴィエラの民族的意匠が込められていると思われる白色の髪飾りが映える。一度見た記憶のままの【あの人】だった。

「凄い心配したんだ。再会する約束してたのにな、どう会えばいいんだって」
「ホー子供の頃に一度会っただけで覚えられているとは思わなかったな。ただの旅人と偶然立ち寄った街の少年だよ"ボク"とキミって」
「初恋のようなモンさ。……まあ本当の事を言うと子供の頃に欲しかったもの、と言われて連想したんだ」
「ホー」

 俺の感心するような声に苦笑しているとミューヌが温かいココアを持ってきた。お礼を言って受け取り一口だけ飲むと冷えた体が温まっていく。旅人もマグカップを手に持ち温まっているようだ。

「旅人さんはどうやってここに辿り着いたんだ?」
「出会いに恵まれてね。これが神のおぼしめしってやつかもしれない」
「そりゃいい。残念ながら俺は願う神がいないから何とも言えないが」
「……"ボク"もさ」

 目を細め、俺を見ている。何だか少し照れくさい。相手は男のハズだが子供の時には分からなかった自分にはない色気に夢中になっていく。もっと知りたい、話をしたい。ココアをまた一口。そういえばどこかいつもより甘い気がする。

「ヴィエラはカミサマへの信仰が深い種族なんだけど"ボク"にはそれが疑問だったんだ。実はそれを探す旅をしていたのさ。精霊に、ノフィカへの祈りに興味があったからエオルゼアの中でもグリダニアを選んでいたのさ」
「確かに神への信仰の深さならここかイシュガルドが分かりやすいな」
「イシュガルドは"ボク"みたいな旅人には厳しい。グリダニアだったら比較的怪しい旅人でも出入り可能みたいだしなにより故郷である森の環境に近い」

 ココアを飲みながら旅人の優しい声を聞く。少しだけ瞼が落ちてきた気がする。そうだ、話をするのもいい。そうじゃない。今、言わなければいけないコトがあったのだ。

「そうだ、俺の名前」
「言わなくていい。キミは旅人と出会っただけのヒトなんだ。"ボク"はまた旅に出るからお互い知らないままでいいんだ。―――もう"ボク"の事は忘れなさい。そうすれば、眠れる」
「嫌だ、絶対に忘れてたまるものか。知ってほしいんだ。ああ旅人さんは名乗らなくていい。俺の自己満足かもしれないが―――」

 俺の名前は、と口が動くが意識が遠のいていく。見覚えのある笑顔を見せる【旅人のお兄さん】に手を伸ばそうとするがそのまま目の前が真っ暗になった。



「空いてる部屋、ある? シド寝たからベッドに置いてくる」
「アンナ……君はなかなか演技派だねえ」
「ヒヒッ"私"ができる数少ない芸さ」

 ニィと笑い咳ばらいをし赤色の髪を掻きまわしながらシドが持っていたココアが入ったマグカップをこぼさないよう支えている。

「まあその内また旅に出る予定だからね。1年お世話になったお礼ってやつ、かな?」
「なかなか悪い女だねえ」
「いえいえ魔女さんには負けますって」

 2人はふふふと笑っていた。
 彼女の"仕込み"が始まったのは3日前。裁縫師ギルドで当時着ていた服と似たものを持ち込み加工し、ボロボロに見えるマントも取り繕った。そして今朝、美容師ジャンドゥレーヌに頼み髪を赤く染め、中性的に見えるようにメイクを施す。着替えて客室から現れるとミューヌを始めとする周りの人々から赤色の髪を久々に見たと辺りに集まって来た。そして彼らに夜中は早く寝てほしいと”作戦”を告げるとあっという間にカ・ヌエ経由で”街中に”通達が出回った。『そこまでしなくてもいいんだよ?』とアンナは苦笑したがその好意に甘えた。最後にミューヌに睡眠薬を渡し、自分とシドが戻ってきたらシドが頼むであろう飲み物にこれを入れてとお願いした。仕込みが終わったらわざわざシドを外で待ち伏せ、耳が見えるように足早に走り樹の前で倒れるのは金輪際やりたくない。しかし【彼の願いだったから】演じ切ったのだが。

「ところでシドは君の事を完璧に男だと思い込んでたみたいだけど」
「……別に気にしてない。そういう会い方をしたからね、かつて」
「というかどこから見てもちょっと声を低くしたアンナだったのに彼にはどう見えてたのさ。ちょっと聞かせてくれよ」
「ミューヌにならいつか話すよ、絶対」

―――もう戻る気はなかった。"この子"の思惑としてはもう血生臭い日々なんて厭。気ままに旅をし、いろんな人間に出会って人助けをする旅人でいたい。名前を捨て、故郷の思い出も捨て、すべてを文字通り斬り捨ててきた。そう、【命の恩人(リン)】みたいに。だがそれだけはやっちゃいけない。"ボク"は"この子"が人として幸せになってもらうために存在するのだ。だから"ボク"はようやく見つけた"護るべき人()"の意志を強くするため、特別に"今回の計画"を練ったのだから。

 ミューヌの「楽しみにしてるよ」という声を聞きつつ突っ伏すシドを起こし抱き上げる。そして旅館【止まり木】の受付で大男を軽々運ぶ女性を驚いた目で見る人から鍵を受け取り個室に向かう。部屋の扉を開き、そのまま彼を寝台に寝かせる。そして唯一残していた過去である髪飾りを外し、手に握らせてやる。

「まだ捕まるわけには、いかないんだよ? シド」

 仕込みは終わった。低く無機質な声で大きくなったね、と呟きながら彼のゴーグルを外して第三の眼に口付けを落とし、扉を閉める。その時のアンナには"もう1人の自分"がなぜ髪飾りを置いて行ってしまったのか、眠っている人間相手とはいえ口付けをしてしまったのか理解が出来なかった。



 目を開くとそこは【止まり木】の客室だった。俺は確か、あの人に会って、話をして、そのまま意識が―――。「夢だったのか?」と呟きながら手に握っていたモノを見る。白色の髪飾り。昨晩会った旅人が付けていたモノだ。俺は慌てて荷物をまとめて外に出る。

「ミューヌ! 昨日俺と会ってた人!」
「おやシドお早いお目覚めで」
「赤髪のあの人はもう行ったのか!?」

 ミューヌは考え込むポーズを見せた。

「いや、君は夜中に散歩に行った後1人で帰ってきてそのまま宿屋で眠っていたよ。何せ今日は大きなサプライズ予定だろう?」
「え? あ、そ、そうだな?」
「それかもしかしたら聖者様が持ってきた奇跡かもしれないね」

 ミューヌは俺の変化する顔を見て笑っている。俺はポケットに忍ばせた髪飾りを握り、「夢じゃないな」とボソリと呟いた。おぼろげな記憶に残っている『大きくなったね』という言葉が反芻している。

「いつか絶対、お前"も"捕まえてやるからな」

 その言葉と貰ったコーヒーを一気に飲み込んだ。

/中/
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#シド光♀ #季節イベント

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注意メイン3.3終了後周辺のお話(メインストーリー言及無し)。シド少年時代捏造。…

蒼天

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蒼天

星降る夜の奇跡の話―前―
注意
メイン3.3終了後周辺のお話(メインストーリー言及無し)。シド少年時代捏造。
 
「星芒祭っていうのがあるらしいね」

 アンナの一言が今回の不思議な出来事の始まりだった。

「シドはそういう経験ないの?」
「その祭はエオルゼア特有のイベントだから俺の故郷には無かったさ」

 ある日の昼下がり。ガーロンド社の一角に作ったシドの自室に通されたアンナは、先程グリダニアで見た大きな木と子供たちにプレゼントを振舞うふわふわヒゲな人たちの話をする。

「じゃあ貰ったことないんだかわいそう」
「お前もないだろ?」
「うん。じゃあシドは子供の頃何か欲しい物とかあった?」

 じゃあって何だと言いながらシドはヒゲを撫でながら考え込む。

「そりゃ新しい装置の設計図とか工具とか欲しかったな」
「今自由に買える環境になってよかったね。夢のない回答をありがとう」
「子供の頃の話じゃなかったのか?」
「ああそうだった。私から見たらあなたは子供みたいな年齢だからつい」

 シドは『26歳じゃなかったのか?』という言葉を飲み込み再び考え込む。何か、欲しかった物か。ふと一つだけ誰にも話せず、絶対に誰も持ってきてもらえないモノを切望していたことを思い出した。

「会いたい人がいた」

 魔導院に入学する直前に出会った『旅人のお兄さん』が浮かんだ。アンナは一瞬だが目を開き、「あるじゃん」と言いながら笑顔になった。シドはその笑顔から目を逸らしながら疑問を返す。

「アンナは何か欲しい物とかなかったのか? 子供の頃」
「昔すぎて覚えてない。……今だったら世界平和とかかな?」
「これまた大きく出たな」
「だってやろうと思えば何でも手に入る身だし。絶対にムリなものを言った」
「お前も夢がないなあ」

 そう言いながら小突くと彼女は不意に手をポンと叩く。

「それじゃグリダニアでプレゼント交換でもする? やってみたかったんだよね」

 シドは「はぁ!?」と言いながら顔を赤くした。



 プレゼント交換。この年でしかも仮にも異性とすることになるとは思わなかった。
 普段世話になってるし感謝のしるしとして何かあげるなら今しかないだろう。しかし何を渡せばいいのだろうか。多分彼女の事だから「あなたからなら何貰っても嬉しい」とこっちが恥ずかしいセリフをいつもの笑顔で言うだろう。それに甘える事は出来ない。というわけでそれとなく人に相談することにした。

「女性にプレゼント? 会長そんな頭あったんですね」
「失礼だなジェシー。俺だって考える事はあるさ」

 相談と言っても即乗ってくれそうな人はジェシーしか浮かばなかった。アンナである事は隠しさりげなく休憩室にいたジェシーに声をかけた。

「その人は何が好きなんですか?」
「何って……」
「ほら興味あるものですよ。演劇とか裁縫とか」

 シドは考え込む。そういえばアンナの趣味は知らない。あえていうと食べる事と戦闘だろうか。色気がない。というかそれを言ったらジェシーに即バレてからかわれ社内で共有されてしまう。まあバレなくても女性にプレゼントを渡すなんて話がこれから広まるかと浮上した考えはうやむやにしようと煙に巻いた。ふとよく差し入れを振舞ってくれることを思い出す。これだ。

「……料理が得意、だと思う」
「じゃあ調理用具とかでいいと思いますよ」
「ふむトースターとか作って渡せばいいか……いや使う場所がないか?」
「アンナにあげるのでしたらまだ包丁仕立てる方がマシだと思いますけど」

 飲んでいたコーヒーを吹き出した。ジェシーは「何ビックリしてるんですか?」とあきれた目をしている。

「いや会長が今唐突に女性の話をするならアンナしかいませんよね?」
「そうか……そうだったか……実は」

 昨日言われたアンナからの提案の話をする。正直何渡せばいいのか分からないと話すと「それは私に聞かれても分かりませんよ」と返された。

「だよな」
「というか会長がアンナを異性として考える行為が出来たのが驚きなんですけど」
「さすがに分かってるさ。ときどきはそういう面も見ておきたいと思ってな」
「へー……」

 ジトッとした視線が気になる。「悪いか?」と聞くとそっけなく「別にいいんじゃないですか?」と返される。

「アンナは多分何渡しても表では笑顔しか見せんだろうからな。驚かせたいんだ」
「あー確かに何あげてもごきげんになりますよね彼女」
「多分その辺りの石ころあげても褒めるぞ」
「ですね。……暁の人に相談したらいいんじゃないですか?」
「そうなるか……そうだよな……」

 じゃあ少し出てくると言いながら踵を返し休憩室を出た。さて、ヤ・シュトラでいいだろうか。アルフィノよりかは把握してくれるだろう多分。

「これは楽しい事になりそうね」

 その頃1人残されたジェシーは笑顔でガッツポーズをしていた。



「アンナの好きな物かしら? 考えた事がなかったわね」
「何あげても喜ぶと思う、でっす!」
「だよなあ」

 石の家の扉を開ける。ちょうど賢人ヤ・シュトラと受付嬢タタルが何やら話し合っていたので手を上げてあいさつを交わした。少し世間話をした後にさりげなく聞いてみる。

「いやガーロンド社としては結構お世話になってるんでな。何かあげようと思ったんだ。何でも喜ぶと思うがせっかくなら徹底的にリサーチして驚かせたいんだ。だから何でもいいからアンナの好みを知ってる奴がいないかとここに尋ねてみたんだが」

 突然自分がプレゼントを渡したいなんて言うと怪しいだろうと道中に言い訳を考えていたのが功を奏した。タタルは少し考え込みながら「あ!」と言った。

「最近アンナさん色々走り回ってるでっす! 星芒祭近いしもしかして」

 咳払いをする。ヤ・シュトラはクスクス笑い話題を変える。

「あら彼女にプレゼントを渡したいと思っているのはあなただけじゃないのよ? よかったら暁一同協力させてもらってもいいかしら」
「あまり大ごとにはしたくないが……そうだな。アンナを驚かせるなら大勢の方がいい」
「じゃあ他の人たちも呼んで来るでっす! 絶対ビックリさせるでっす!」
「ああ!」

 タタルとシドは拳を交わし準備を始めている。ヤ・シュトラはそんな2人を見てため息を吐く。

「発案した私が言うのもおかしいかもしれないけど―――少しズレてるのはいいの?」

 ヤ・シュトラはこの地点で少し察するものがあった。この時期にプレゼントといえば星芒祭だ。アンナとシドは仲がいいのは知っている。会社としてあげたいのなら私達ではなく社内で考えるはず。ということはプライベートで個人的にあげるのだろう。彼女は"私達にさりげなく好きな物があるか聞いて準備するという計画だった"のではないかと考えていた。それをいつの間にか暁の血盟全員で驚かせてやろうぜという話にすり替わっている。

 そう、この地点でシドはアンナと【2人で】プレゼント交換するという当初の目的を忘れてしまっている。

「えっと……私も本気出さないとダメか」

 一方その頃彼らが盛り上がる部屋の前では。偶然用事で訪れたアンナがその会話を聞いてしまい扉の前で頭を抱えている。予定ではシド相手なら多少羽目を外しても許されるだろう、そうだ! 彫金師ギルドに籠ってビックリ箱を作って驚かせてやろう! という意気だったが何やら相手方が本気で渡す気になっているらしく方針転換を強いられてしまった。【唯一残している物】を握りしめ裁縫師ギルドへ向かう。

 イベントは6日後。英雄活動で疲れた彼女の心を癒せる最高のイベントにしようとガッツポーズするシドの姿があった―――
前//
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#シド光♀ #季節イベント

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注意・シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。「アンナは好きな…

蒼天

#即興SS

蒼天

『好きな人』
注意
・シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。

「アンナは好きな人とかいるんですか?」
「作らないようにしてる」

 ガーロンド・アイアンワークス社。今日もせわしなく社員達が仕事をしている中、旅人と自称する冒険者のアンナは現れた。ちょうど一息つこうと休憩室へ向かっていた会長代理であるジェシーに話しかけるとそのまま一緒にお茶でも飲みましょうと連れて行かれ、現在に至る。
 お茶を飲みながらさりげなく最近気になっていたことをジェシーは聞いてみたら少し外れた答えが返ってきた。

「勿体ないわね。あなたのような人ならいくらでも求められてるでしょ」
「うーん私は無名な旅人だからモテるわけないさ」
「いやいやアンタ有名人だろ? むっちゃモテてるけど全部断ってるって噂聞いてるぞ」
「じゃあウチの会長でも貰ってくれないしら? きっと今よりかは大人しくなるわ」
「余計にアグレッシブになると思うッスよ?」

 唐突に始まった英雄と呼ばれる冒険者の花のある話にふと通りかかったララフェルとルガディンのコンビが入ってくる。

「あー絶対そうね。今の無しで。じゃあ付き合いとか別としてアンナの好きな男のタイプってどんな感じ?」
「好きなタイプ、ねえ」
「やっぱりイケメンとかッスか?」
「ヴィエラ族のアンナからしたら多分見慣れてるんじゃないか? やっぱ自分より強い人とかだろ」
「……故郷でイケメン高身長な同族見慣れてるから論外」

 それから断片的にアンナは好きな要素をポロポロと溢すように喋った。

「ヒゲが似合う」
「がっしりとして体系で」
「光のような人ッスか」
「別に強さは問わないよ? 弱くても護ればいいし」

 3人の『ウチの会長(親方)じゃん』という心の声が重なったのは言うまでもない。



 数日後。

「親方に好きな異性のタイプは? って聞いてきたッス!」
「度胸あるわね…」
「何かオチも予想できるんだが……」

 仕事が一段落した夜、モードゥナの酒場にて密かに開かれる会がある。自分たちの上司であるシドと旅人アンナの関係を見守る会だ。最初は社長の仕事を妨害する存在と思っていた旅人のヴィエラは今や会社の一種の癒しと化し、大量の差し入れから危険地域へ向かう社員の護衛まで顔色一つ変えず引き受けてくれる便利な存在。何度か給金を渡そうとしたがシドのポケットマネーで食事に連れて行ってもらっている必要ないといつも断られている。絶対割に合っていないだろうにと思っているが本人がそれでいいのなら甘えることにした。

「赤色が似合う神出鬼没なフォロー上手の綺麗な人ッス!」
「女版ネロじゃないのその特徴」
「まあアンナだよなあ……」

 旅人はともかく仕事以外は不器用な男の方は完璧に意識しているのではという疑問が3人によぎる。しかしあまりにも何も起こらなさすぎて2人の本心が思い浮かばない。いや本当は何か起こっているのかもしれないが特に旅人の動きが全く読めないのである。食事に行ってるとは言うもののどこでどういうものを食べているのかも男は決して口を割らないのだ。

「何であの2人甘い話聞こえないんだろうなあ」
「会長が奥手すぎるかとっくに心折れてるか距離感おかしいすぎて逆に自覚してないんじゃないの?」
「流石にこれはアンナさんのスタンスの問題じゃないッスかね」

 2人の恋は前途多難。密かに応援しようと決意を新たに何度目か分からない乾杯をするのであった―――。

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#即興SS

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 慎重なノックの後、扉が開きひょっこりと首を出すヴィエラの女性。未だ過去は謎に包…

蒼天

#シド光♀ #アルフィノ

蒼天

旅人、心掴めず
 慎重なノックの後、扉が開きひょっこりと首を出すヴィエラの女性。未だ過去は謎に包まれている―――

「珈琲、入ってるよ」
「ありが、って器用だな」
「……慣れてるから」

 苦笑しながら両手にカップを持つ男よりも遥かに身長が高い女性は肘を使って扉を押し開け、足で軽く蹴るように扉を閉めた。普段遠慮がちに話す人見知りな反面、大胆でかつ鮮やかな戦闘センスにはシドをはじめとするガーロンド社も例に漏れず幾度も助けられている。黒色の髪で日に焼けた健康的な褐色肌に炎のように燃える赤色の目。すらりと細い体のどこにそんな力が込められているのだろうかと以前尋ねてみると「10年以上歩いて旅したらいい」と笑顔で言い放った。絶対に違うのだけは分かる。

「デスマ中だった?」
「まだ大丈夫だ」
「だろうと思った」

 何故かこちらの予定を把握されており、ジェシーに怒られながらの納期や決算前には絶対に現れない。最初こそは手土産を持って遠慮気味な笑顔で男の元に現れ無言の時間も少なくなかったが、現在は我が家のように通され談笑するようになっていた。謎に包まれている部分も多いが気さくで話しやすい英雄様、という印象からどちらかというと冗談を言い合う男友達のような、しかし彼女という靄を掴もうと近付くとするりと避けられる。現在も話は出来る、とはいっても底を見せる隙を見せてはもらえない。暁の人間ともそういう間柄なのだろうか、ふと気になったことはある。「暁の人間とはどんな話をしているのか?」と聞いてみた。

「んー……少々前に行った時は頼まれたものを取ってきたとか倒してきたとかそんな感じの話をしたかな」
「他だよ他、俺と話してるみたいなさ」
「してない。彼らはあくまでも仕事上の仲間系。なんていうか……話しかけにくい」
「今日の天気とかも話さないのか?」
「話はちゃんと聞いてる。それより焼き菓子、どう?」

 どうやら自分の話は全くしていないようだった。まあ男にもあまり過去については話さないのだが。というのも以前何故か暁の少年から『どうやったらアンナが君相手のように心を開いてくれるのか分からない』と相談されたからで。詳細を聞くと滅多に石の家に現れないし何も語らず自分達の話を聞いて終わったらまたふらふらとどこかへ去っていくのだという。『確かにそれは共に帝国からエオルゼアを守り、竜詩戦争も終わらせた仲間との距離感ではないな』と少しだけ彼女が興味を持っているものや話題を提供した。しかし彼女の方もきっかけを掴みかねてる感じというのは予想外だった。少しだけフォローしてもいいかもしれないと顎の髭を触りながら考える。

 男が「なあ旅人さん」と呼びかけると彼女は珈琲から視線を外しきょとんとした顔でじっと見つめてきた。珈琲片手にいつの間にか鞄から取り出したのだろう菓子を小さな机に並べ慣れた手つきでタワーを作っていたようだ。時々彼女は変なものを残して去っていく。菓子で作ったタワーがその筆頭だ。一度器用だと褒めるとこれまで見たこともなかった満面な笑顔でクリスタルタワーのような立派な建造物を作り、社員総出で片付けという名の彼女手作りの菓子を振る舞う時間と化していた。それからというもののまだ彼女は来ないのか、またあのクッキーを食べたい、会長だけ羨ましい、仕事しろ等の喜びのコメントが社内から寄せられるようになっている。
 閑話休題。呼びかけられた人間からの言葉を待つ彼女に優しく促すように話しかける。

「時々は石の家に行ってやれよ」
「呼ばれたら行ってる。こことも近いしエーテライトの目の前だから迷子にもならない」
「じゃなくてな」
「……あぁ。えっとね」

 少し視線を落とし考え込んでいる。そんなに暁の人間と関わりたくないのだろうか、と男も神妙な顔になると彼女は目を見開き「ち、ちがう!」と何かを否定するように口を開く。

「えっと、滅多に石の家に行かないのは職場が嫌だからとか、そういうのじゃない」
「というと?」
「……行こうと思えば、いつでもテレポで行ける。でも他の頼みとかで面倒な所に行くと、ね?」
「ああ迷子になると」

 遠慮気味にこくりと頷いている。彼女は極度の方向音痴だ。10年以上旅をしていたというのもひっくり返せばただグリダニアに行けなくて迷っていただけ。自分が乗ると絶対に船は難破するわ、賊に襲われるか崖から落ちるから、とチョコボキャリッジも使わず歩いていた、らしい。ふと女性に年齢を聞くのは失礼なので口には出したことないが彼女はいくつなのだろうかと考えたことはある。成人前から旅をしていると前に聞いたから同じくらいの年齢かもしれない。本当に10年程度の旅であればだが。
 しかし少しでも入り組んだ道に入ると出るのに時間がかかる方向音痴のくせによく途中で死ななかったなと彼は思う。もしかしたら自分が考えているより勘と腕っぷしが強いのかもしれないが、それを直接彼女に確認する勇気までは存在しなかった。かろうじて口に出せた「現地の人に道を尋ねなかったのか?」という質問は何も言わず首を横に振られるだけで終わっている。人に質問するのは苦手らしい。
 それにしては何度かリンクパール通信が来たと思いきや「ここはどこ?」と地図と本人の証言を手がかりに通信を介して道案内する羽目になったことがある。あまりにも難関すぎて途中ビッグスとウェッジも呼ぶこともあった。「一種のゲームみたいで楽しいッスね!」「バカあの人は真剣に迷ってるんだぞ」という彼女との通信を切った後の2人の言葉に笑いをこらえながらお礼を述べ仕事に戻るよう部屋から追い出したのだが。
 要するに石の家に行かない理由は人助けが迷子によって長引いていたからだと言いたいらしい。

「終わればきちんと私から立ち寄る予定。最近ドラヴァニア雲海周辺にいる」
「あの辺り大丈夫か? 地図あってもお前は」
「流石に迷子になれない。でも目標の場所が遥か空の上で、チョコボや『貴方たち』が整備した魔導アーマーにはいつも無茶をさせてる」

 突然胸に手を当て、どうやらチョコボや整備した魔導アーマーに対して想いを馳せているらしい。その姿もまた綺麗で。とぼんやりと考えているとアンナは珈琲を飲み終わったのか荷物をまとめ始める。

「もう行くのか」
「うん。お土産持って石の家に。……アルフィノ辺りに頼まれたんでしょ?」
「なんだバレてたのか。迷惑だったか?」
「そうでもないと暁の話題にはならないって思うとね。心配されてるとは―――ありがとう」

 改めて礼を言われるとどこかくすぐったく頭を掻いてしまう。そんな彼の頭をぐしゃりと撫で、様子を見ながらにこりと『余所行き』の笑顔を見せる。最近彼女は彼と別れるとき絶対に見せるその表情は所謂スイッチを入れる動作というわけだ。「大丈夫だ」と言ってやるとこくりと頷き、部屋から去って行った。

 数日後、暁の少年から「アンナが手土産で持ってきたクッキーを褒めたら急に取り出した菓子で大きなタワーを作って帰って行ったんだけどこれは君の所でよくある話なのかい!?」という喜びの声を貰ったので一応効果はあったようだ。

#シド光♀ #アルフィノ

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