FF14の二次創作置き場
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- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.106, No.105, No.104, No.103, No.102, No.101, No.100[7件]
"歩み"
注意
前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。
―――アンナは誰とでもいつも数歩後ろを歩く。
「アンナ、こっちッス!」
「あらあら」
「いつも悪いなあ」
「構わないよ」
先頭のビッグスと少し後ろにいるウェッジの更に数歩分後ろを歩くアンナはニコリと笑う。今回は魔大陸にて見覚えのない装置があるという報告を受け、護衛としてアンナを連れて来た。ちなみにシドは別件で忙しく不在である。
アンナは2人の話を聞きながら相槌を打つ。そして敵が見えると目にも留まらぬ勢いで斬りかかりあっという間に両断された。終わるとニコリと笑顔を向け、再び彼らの後ろを歩く。
「そういえばアンナっていつも皆の後ろを歩いてるッスけどどうしてッスか?」
「変かな?」
「親方と歩いてる時でもそうだよな。もしかして無意識か?」
その言葉にアンナはしばらく首を傾げ考え込んでいたがすぐにぽんと手を叩く。
「子供の頃からのクセみたいなものですわ。気にしないで」
「なるほど。……なるほど?」
◇
「っていう話があったんスよ親方!」
「具体的理由は聞けず、と」
「あの人全然自分の話をしないのは親方が一番分かってるはずなんだがなあ」
「聞こえてるぞビッグス」
シドは自分が不在の場にてアンナと部下で何かあれば"どういう話をしたか"と絶対に聴取しに来る。ウェッジの報告への反応に対し、ボソリとビッグスはつい呟いてしまった。案の定聞こえてしまったらしくジトっとした目で睨まれる。「すいません」と濁し落ち着かせた。
「確かに俺も気になってはいた。暁相手でもいつも笑いながら数歩後ろ歩いてる」
「ララフェルの歩幅にも合わせられるのは凄いよなあ。特殊技能だ」
「アンナは特殊技能しか持ってないと思うッス」
「瞬間移動みたいな運動神経。色んな武器の使い分け。手先も器用、エーテル操作も難なくこなせて超える力持ち。生産職も難なくこなして大活躍と盛られまくってるな」
「天は二物を与えずって言葉絶対嘘ッスよねー」
羨ましいがその対価を考えるとああはなりたくないなとビッグスとウェッジはため息を吐く。それに対しシドはぼんやりと次にアンナに聞いてみるかと考えていた。
◇
「なあアンナ、何でそうやって後ろ歩いているんだ。話しにくいだろ、横にでも来たらいい」
「私は大丈夫」
今日は飯でも食いに行かないかと誘うとあっさり了承を貰いレヴナンツトールで待ち合わせをしていた。エーテライト前で合流し歩き出したが、いくらスピードを落としても絶対一定の距離から気配を感じる。シドはそれに見かねて立ち止まり、振り向くとアンナは首を傾げた。
「何かあったら即追い抜き解決出来るから平気。あと私、人の後姿を見るの好きなの」
「後姿を、か?」
予想していなかった回答に首を傾げるとアンナは笑顔を見せた。
「小さい頃、後姿を追いかけながら会話してた。ついでにどんな顔をして話してるか想像、楽しい」
ほら歩いた歩いたと急かされると諦めたのか再び前を向き足を踏み出した。
「お前さん使用人でもしてたのか?」
「んーちょと違うかな。……師弟関係?」
「なるほどな。今俺はどういう顔してるか分かるか?」
「うーん……笑顔でしょ、知ってる」
シドは少々眉間に皴を寄せ呆れた顔をしていた。新たな単語の"師匠"という存在が気になっている。しかも『どうしてそこまで興味を持ってしまっているのか』ともやもやする気分付きで。この時のシドは自分の考えながらその心理が理解出来なかった―――。
◇
「昔お前がずっと後ろ歩いていた理由を聞いた話を覚えてるか?」
「記憶皆無。私は大丈夫」
「覚えてるじゃないか。ってこれ前に別の話題でもやったな」
シドは歩きながらアンナを小突く。お互いの想いを確認しあった後、まずやったことは隣に歩かせるために腕を掴み引っ張ることだった。最初こそは抵抗していた。だが5回ほど繰り返すと諦めたのかようやく自分の隣を歩くようになる。流石にまだ手を繋ぐことすらしていないが近いうちにまた教えたらいいだろう。微妙な距離感でも一歩前進していることが目に見えて分かるのだから。
「"師匠"ってリンドウのことだよな?」
「うん。フウガ、多分今の私よりもひょろ長。足幅大きく歩くスピード速し。だから追いつけず」
「配慮出来ない人だったのか?」
「いや、本人はゆっくりのつもり。だって当時ちっちゃかったし。しょうがない。それにフウガ、デカい目印になる。迷子は無縁」
不器用な人と柔らかな笑顔を見せている。シドはジトリとした目で見つめていた。それに気付いたアンナは「あなたが振った話題」とため息を吐く。直後、シドはふと何か思い浮かんだのだろう、拳を握りニィと笑う。相変わらずコロコロと表情が変わるなとアンナは嫌な予感がする言葉を待った。
「―――だが俺はリンドウよりも先に行ってると自信があるぜ」
「ホー、えらい自信」
「今アンナと生きてるからな。しかもこうやって横を歩いてるんだ。それだけでアドバンテージがある」
「じゃあ妙な嫉妬しない。いっつもフウガの話題妙に突っかかるじゃん」
「嫉妬なんてしてないさ」
一瞬でバレる嘘はつかない、とアンナはシドの頬を抓る。その後、目線を合わせるように少しだけ屈み照れたような笑顔を見せた。
「まあその、えっと、フウガより大量に思い出を作ればいい。今を生きてるんでしょ?」
「―――言われなくともそのつもりさ」
夜空を見上げ、軽く息を吐く。煌めく星が今日も輝き2人を見下ろしていた―――。
#シド光♀ #即興SS
前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。
―――アンナは誰とでもいつも数歩後ろを歩く。
「アンナ、こっちッス!」
「あらあら」
「いつも悪いなあ」
「構わないよ」
先頭のビッグスと少し後ろにいるウェッジの更に数歩分後ろを歩くアンナはニコリと笑う。今回は魔大陸にて見覚えのない装置があるという報告を受け、護衛としてアンナを連れて来た。ちなみにシドは別件で忙しく不在である。
アンナは2人の話を聞きながら相槌を打つ。そして敵が見えると目にも留まらぬ勢いで斬りかかりあっという間に両断された。終わるとニコリと笑顔を向け、再び彼らの後ろを歩く。
「そういえばアンナっていつも皆の後ろを歩いてるッスけどどうしてッスか?」
「変かな?」
「親方と歩いてる時でもそうだよな。もしかして無意識か?」
その言葉にアンナはしばらく首を傾げ考え込んでいたがすぐにぽんと手を叩く。
「子供の頃からのクセみたいなものですわ。気にしないで」
「なるほど。……なるほど?」
◇
「っていう話があったんスよ親方!」
「具体的理由は聞けず、と」
「あの人全然自分の話をしないのは親方が一番分かってるはずなんだがなあ」
「聞こえてるぞビッグス」
シドは自分が不在の場にてアンナと部下で何かあれば"どういう話をしたか"と絶対に聴取しに来る。ウェッジの報告への反応に対し、ボソリとビッグスはつい呟いてしまった。案の定聞こえてしまったらしくジトっとした目で睨まれる。「すいません」と濁し落ち着かせた。
「確かに俺も気になってはいた。暁相手でもいつも笑いながら数歩後ろ歩いてる」
「ララフェルの歩幅にも合わせられるのは凄いよなあ。特殊技能だ」
「アンナは特殊技能しか持ってないと思うッス」
「瞬間移動みたいな運動神経。色んな武器の使い分け。手先も器用、エーテル操作も難なくこなせて超える力持ち。生産職も難なくこなして大活躍と盛られまくってるな」
「天は二物を与えずって言葉絶対嘘ッスよねー」
羨ましいがその対価を考えるとああはなりたくないなとビッグスとウェッジはため息を吐く。それに対しシドはぼんやりと次にアンナに聞いてみるかと考えていた。
◇
「なあアンナ、何でそうやって後ろ歩いているんだ。話しにくいだろ、横にでも来たらいい」
「私は大丈夫」
今日は飯でも食いに行かないかと誘うとあっさり了承を貰いレヴナンツトールで待ち合わせをしていた。エーテライト前で合流し歩き出したが、いくらスピードを落としても絶対一定の距離から気配を感じる。シドはそれに見かねて立ち止まり、振り向くとアンナは首を傾げた。
「何かあったら即追い抜き解決出来るから平気。あと私、人の後姿を見るの好きなの」
「後姿を、か?」
予想していなかった回答に首を傾げるとアンナは笑顔を見せた。
「小さい頃、後姿を追いかけながら会話してた。ついでにどんな顔をして話してるか想像、楽しい」
ほら歩いた歩いたと急かされると諦めたのか再び前を向き足を踏み出した。
「お前さん使用人でもしてたのか?」
「んーちょと違うかな。……師弟関係?」
「なるほどな。今俺はどういう顔してるか分かるか?」
「うーん……笑顔でしょ、知ってる」
シドは少々眉間に皴を寄せ呆れた顔をしていた。新たな単語の"師匠"という存在が気になっている。しかも『どうしてそこまで興味を持ってしまっているのか』ともやもやする気分付きで。この時のシドは自分の考えながらその心理が理解出来なかった―――。
◇
「昔お前がずっと後ろ歩いていた理由を聞いた話を覚えてるか?」
「記憶皆無。私は大丈夫」
「覚えてるじゃないか。ってこれ前に別の話題でもやったな」
シドは歩きながらアンナを小突く。お互いの想いを確認しあった後、まずやったことは隣に歩かせるために腕を掴み引っ張ることだった。最初こそは抵抗していた。だが5回ほど繰り返すと諦めたのかようやく自分の隣を歩くようになる。流石にまだ手を繋ぐことすらしていないが近いうちにまた教えたらいいだろう。微妙な距離感でも一歩前進していることが目に見えて分かるのだから。
「"師匠"ってリンドウのことだよな?」
「うん。フウガ、多分今の私よりもひょろ長。足幅大きく歩くスピード速し。だから追いつけず」
「配慮出来ない人だったのか?」
「いや、本人はゆっくりのつもり。だって当時ちっちゃかったし。しょうがない。それにフウガ、デカい目印になる。迷子は無縁」
不器用な人と柔らかな笑顔を見せている。シドはジトリとした目で見つめていた。それに気付いたアンナは「あなたが振った話題」とため息を吐く。直後、シドはふと何か思い浮かんだのだろう、拳を握りニィと笑う。相変わらずコロコロと表情が変わるなとアンナは嫌な予感がする言葉を待った。
「―――だが俺はリンドウよりも先に行ってると自信があるぜ」
「ホー、えらい自信」
「今アンナと生きてるからな。しかもこうやって横を歩いてるんだ。それだけでアドバンテージがある」
「じゃあ妙な嫉妬しない。いっつもフウガの話題妙に突っかかるじゃん」
「嫉妬なんてしてないさ」
一瞬でバレる嘘はつかない、とアンナはシドの頬を抓る。その後、目線を合わせるように少しだけ屈み照れたような笑顔を見せた。
「まあその、えっと、フウガより大量に思い出を作ればいい。今を生きてるんでしょ?」
「―――言われなくともそのつもりさ」
夜空を見上げ、軽く息を吐く。煌めく星が今日も輝き2人を見下ろしていた―――。
#シド光♀ #即興SS
旅人は子供になりすごす-4-
注意
漆黒以降の自機が子供化したギャグ概念。ここからシド光♀。
その1、その2、その3から読んでね。
罪人2人をレヴナンツトールに連れて帰る。勿論アンナはしっかりと抱いて、だ。ネロはガーロンド社へと連れて行かれる。シドは次の日にネロの部屋に置いてある荷物の類を回収する約束をし、宿にアンナを連れ込んだ。普段のアンナの仕草を見せているのに見下ろす形なのは新鮮だ。そう思いながら軽々と抱き上げると「子供扱いしない」と頬を膨らませている。
「普段俺にしてるじゃないか」
「私はいいの」
薄い身体に普段より気持ち温かいが人より冷たい体温。抱きしめてやるとアンナは頭を優しく撫でた。額に頬に、そして唇に優しく口付けるとアンナは眉間にしわを寄せた。
「ヒゲくすぐったい」
「いつも通りじゃないか」
「子供の姿だからかな。刺さる、って続行しない!」
小さくて、やわらかい。細い身体は確かに抱き心地がよかった。
「そういえばさ、シド」
「どうした?」
「―――今の私の身体、第二次性徴前」
耳元でボソリと呟かれると顔が熱くなっていく。改めて言われると恥ずかしくなる。クスクスと笑い声がした後「お風呂入って来るから、大人しくしててね」と下ろすよう床を指さした。言われるがまま解放すると部屋着を持って浴室へ駈け込んでいった。
◇
暇だ、と思いそろそろ説教も終わっているであろうネロにリンクパール通信を繋ぐ。
『あ?』
「ああネロ大丈夫か?」
『妹自慢が終わった所だ。ッたく受けるンじゃなかったぜ』
疲れ切った声が聞こえて来た。いい罰だ、優越感が勝る。
「お前の家ではアンナはどんな感じだったんだ?」
『料理は当番制で適当に本やらジャンクパーツで遊ンで寝させてただけだっつーの』
「健全だな」
『ッたりめェだろ。お前と違ってメスバブーン相手にはどうも思わねェよ』
談笑していると扉がキィと鳴る。アンナがふとこちらを見ている。ただじっと。何か手に持っているようだがよく見えない。「アンナ、どうした?」と聞くが何も言わず奥に消えて行った。首を傾げながらネロに問う。
「風呂から出たら何かしてたか?」
『ドライヤーかけてやってただけだ。家の中濡らされたくなかったンだよ。面白ェもン見れたから苦になる作業じゃなかったぜ?』
「なるほど。じゃあ一度切るからな」
ネロの答えを聞くより前に通信を切り、アンナの様子を伺いに立ち上がる。覗き込んでみるとドライヤーを手に持って四苦八苦しているようだ。使い方を教えずただやってあげてたのかとため息を吐きながらその機械を手に取る。
「あ」
「ほらやってやるから」
耳を触らないように暖かい風をかけてやる。正面にある鏡でアンナの表情はよく見えた。珍しく誰の目から見ても分かる程度にはご機嫌のようで。よっぽどこれが気に入っているのかと苦笑した。もっと早く気付いていたらとネロに対し舌打ちしていると「んー」と言いながらふにゃりと耳が垂れ下がった。
「アンナ?」
「―――へ?」
鏡で今の自分の状況を見たらしい。顔を赤くし、固まっている。耳を押さえ声が震えている。
「待って、シド、誤解。知らない」
「アンナ、髪はまだ乾いてないぞ?」
逃がさないよう固定し、頭をガシガシと撫でてやると「やーめーろー!」と抗議の声が聞こえた。動かさないように修行していると言っているくせにふとした拍子にこう垂れ下がる姿を見せる。しかしいちいち丹念に触らなくても即見れる手段ができたのは朗報だと考えた。
「スマンドライヤーの音で何も聞こえないな」
「嘘つかない! あ、じゃあやーいばーか! おーじーさーんー!」
「俺は普段のお前より半分以下の年齢だ」
「聞こえてるじゃん! 都合のいい耳だなあ!」
聞こえないと言われたら思ったより幼い悪口が飛び出し苦笑する。絶対に大人に戻ったらやらせないという恨み言が飛び出した。「それなら子供のうちにゆっくり堪能しないとな」と後先考えずに喋るアンナに感謝する。
直後、可愛らしい「みぎゃー!」という叫び声が響き渡った。やりすぎたかもしれない、一瞬その手を止める。
数十分後、少々機嫌が悪くなったアンナの機嫌取りをしようやく抱きかかえる許可がもらえた。一回り小さな頭に顎を置き、アンナが読んでいる本を眺めている。滲んだ文字が多めな東方地域のからくり装置のカタログを呼んでいるようだ。その筆跡はどこかで見たことがある気がするが思い出せない。
とりあえず程々な時間で錬金術師ギルドで何を仕込みする気満々だったのか聞きながら眠らせる。どうやら大したことをするわけでもなくただ"今後の参考"のために錬金術の勉強をしていたらしい。「嘘をつくな。蒼天街で割った煙幕の幻影だろ」とネロやヤ・シュトラからの報告内容をぶつける。すると舌打ちしそっぽを向いて無言を貫きそのまま眠っていた。戻った後、まだ残っているであろう試作品を絶対全回収しようと決心しながら目を閉じる。
◇
5日目。目が覚めると子供のままのアンナは既に着替えをし、本を読んでいた。相変わらず早起きだなと欠伸をしながら体を起こすと気が付いたようだ、「おはよ」とニコリと笑顔を見せた。
「とりあえず今日は石の家に連れて行くからな。まあ溜まった仕事を終わらせて定時で迎えに行く」
「昨日も無理やり迎えに来たし皆怒ってるんじゃないの。別にゆっくり徹夜してもいいんだよ?」
「絶対に終わらせてくるからな」
頬をギュッと引っ張った後、一緒に朝食を食べに行き石の家へ引っ張って行く。少々ばつの悪そうな顔をしながら笑顔を見せているタタルとクルルに手を引かれ、奥へと連れて行かれるところを確認した後会社へ向かう。
「会長、アンナさんは連れて来てないんですか?」
ジェシーをはじめとする人間に何度も聞かれた。石の家にいると返しながらその後ろにある子供服を隠しとけとため息を吐く。人へ過剰に関与しないアンナからするとこれが嫌だから隠れていたんだな。そう思うと結果的にはネロに頼り隠れていたのは間違っていなかったのかもしれない。なら声くらいは聞かせろとぼやくことしかできなかった。ネロのことをパパと呼び自分のことをおじさんと呼んだのも未だムカつく所がある。しかも三度も呼んだ。ジェシーに明日大人に戻っていなかったら連れて来るという条件を持ち出し、ネロへ仕事を押し付けていく。
夜、石の家に顔を出すと少し疲れた顔をしたアンナがいた。こちらに気が付くといつもの笑顔に戻り「おや特大なお仕事は?」と聞くので「"調整"してくれたからな」と笑顔を返すと舌打ちしている。とりあえずどういう意味だと小突いた。抱き上げアンナと談笑していたクルルに会釈をしその場を後にする。
外で日中何があったのか聞きながら晩飯を済ませ、ネロの部屋からアンナの荷物を回収した。大きなスーツケースに纏められている。「デカいな。頑張ればアンナが入る」と呟くと足を踏まれながら「通報」と言われたし、ネロにも「口には出すな」呆れられた。流石に実行はしないと苦笑しながら宿に運び込む。
シャワーから出て来たアンナの髪を乾かしてやり、自分も頭を冷やしがてらシャワーを浴びた。戻ると昨日とは打って変わって既に寝転びながら身体を伸ばしていた。隣に座ると少しだけジトッとした目でこちらを見る。その後何か思いついたのかのそりと起き上がり膝の上に頭を置きニィと笑った。
「もう二度とないかもしれない体験で嬉しいでしょ?」
「大人に戻ってもやればいいじゃないか」
「やだ」
膝枕はさせる方が好きなんだよと柔らかな笑みを浮かべ膝の上でゴロゴロ転がっている。長い耳が当たってくすぐったい。
「石の家で子供っぽい動きとは何かとララフェルの方々に聞いてた。だから色々と試す」
「それは口に出さない方がよかったかもしれんな」
顔に手を当てため息を吐く。アンナは唐突に腕を掴み、顔へと持って行かせた。首元を撫でてやると笑顔を見せている。
「そもそも子供とは何かという所から議論をした」
「哲学は専門外だから分からんな」
「言葉を舌足らずにとかキャーキャー喚いたりとか。でもそれ私が嫌い。だからやらない。ならば普段から可愛いララフェル先輩に聞くのが一番」
「まあ突然そんなことされたら呪術士の所に連れて行くかもな。マハで妖異にでも憑かれたかもしれんと」
「非科学的なものに頼りに行こうって思う程異常に見えるってことね、オーケーオーケー」
私が普段どういう目で見られてるかよーく分かったよと言う口に反し笑みを隠さずその指をカリと甘噛みする。
「というか自分が子供の頃と同じ感じで行けるだろう。覚えてないのか?」
「ずっと素振りしてるか部屋中イタズラの仕掛けをして女の人のお尻触ってもいいなら」
「却下だ」
忘れかけていたがアンナは当初自分が男として生まれたと思っていた。実際普段の姿で見慣れているだけで笑顔で立っていなかったら十分少年だと言われても信じる自信はある。
「とにかく子供である利点をもう少し楽しもう。これ今日のまとめ」
「それを先の4日間で気付くべきだったな」
「やだ。そんな長く好奇心の目に晒されるとか頭おかしくなる」
普段のビックリ人間ショーみたいな英雄行為はいいのかと思うが口には出さないでおく。
それから適当に子供とはどういうものなのかという話を交わし眠った。
◇
6日目。いつもより早起きしたが既にアンナも起床していた。柔軟運動をしている姿はまだ子供のままだ。少しだけ安堵している自分を叱咤しながら身体を起こす。
「もっとゆっくり眠っててもいいんだぞ?」
「ホー今日は早い。……習慣だし。どうせ寝起きの姿見たいだけでしょ?」
「そうかもしれん」
やっぱりと言いながらこちらに近付き口付けた。今日は社に連れて行くからなと言うと一瞬笑顔が引きつっていたが即平静を装っていた。「そこまで酷いことはならんさ、多分」と言ってやると「だといいけどねえ」とアンナは苦笑した。
子供になったアンナの姿を見るや否や飛びついて行く老若男女問わない社員たち。ヒッという声を上げながら逃げることもかなわず捕まり奥へと連れて行かれた。その中には旅人服を着たレフがいる。どさくさに紛れて何やっているんだと思いながらネロに事情を聞く。すると「そういう体でいるために昨日休暇をもぎ取ったんだぜ? ただのアホだろ」と返された。あの男は意地でもちゃんと模範的な生活を送る護人であるという所を妹にだけは見せたいらしい。偶然にしてもここにいるのはどう考えてもおかしいだろと言いたかったが多分アンナは信じるだろう。それ位兄は嘘をつかない規律的な人間だと思っているからだ。実際は護人時代から黙って抜け出して興味関心を満たしたり、既に自分勝手な理由で離婚して里とも断絶している生粋のシスコンなのだが。
「蒼天街でファットキャットのパーカー着てたっつーと滅茶苦茶目を輝かせた奴らがいてな」
「お前絶対それアンナが話して欲しくなかったやつじゃ」
「ケッ散々迷惑かけられたンだ。アレ見てちょっと清々したぜ」
ミギャーという叫び声が聞こえる。あの声は不味い。流石に戻った後の荒みっぷりが想像できないので小走りで止めに行くことにした。
「おいおい止めに行くのか?」
「このままじゃ戻った後今回の錬金薬を量産して社内にぶちまけて大パニックにするぞ」
「アー"あっち"が絡んだらやりそうだな」
あっちという表現はよく分からないが程々にしとけと小部屋に行く。そこには髪を赤く染め、ウィスパーファインウールを着せられたアンナがいた。
「シド! に、兄さんにまで裏切られたし、社員教育はどうなってるんだ!」
「え、あ、似合うな?」
「ちがーう! このぉ……エロオヤジ!」
「あ、それは減給がやば。ゴホン! ……よーし妹よ! 兄と彼らのお仕事の邪魔にならないようにお出かけするか! な!」
「ずるいぞ!」
「マスコットとして置きなさいよ!」
「どこぞの会長クンの顔を見てから言う! ほら妹よ行くぞー」
「んー体鈍ってるから運動したいな」
「ああ久々に組み手でもしよう」
並ぶ姿を見ると確かに兄妹だ。なぜかパワーアップした罵倒を放ち、一瞬こっちを見やりくるりと回る姿が非常に可愛く周辺からも歓声が上がった。明らかに煽ってる姿に歯を食いしばりそのまま兄に引っ張られていく姿を見送る。覚えてろと思いながら早々に仕事を終わらせようと書類に向き合う。
◇
何とか仕事を終わらせレヴナンツトール中を歩き回っていた兄妹を捕まえ回収した。兄からの視線がとても痛かったが無視し連れ帰る。
「兄とはどういう話をしたんだ?」
「別に? いきなり会っても何話したらいいか分からないし……。故郷でヤることが終わってよかったって話と。ご飯食べて、街の中歩き回って色々買い物して、あとは郊外で組み手した」
里にいた頃思い出して楽しかったと笑顔で言う姿にため息を吐き頭を撫でてやる。3日程度ほぼ室内でのんびりしていたから身体を動かせて満足しているようだ。その辺りを汲んで付き合ったのなら兄は本当に有能な人間だなと思う。どうせ言われるがまま遊んでやっただけだろうが。
現在は汗をかいたからとシャワーを浴びに行っている。髪は赤いままで「戻ったら美容師にお願いする」とぶっきらぼうな顔で言っていた。個人的にはこれが本当のアンナの幼少時代の姿かと思うと少々興奮してしまう。そんなこと言ったらまた子供相手に云々と言われるので心の中にしまっておいた。
カタンという音が聞こえ振り向くとこちらに顔を覗かせている姿が見えた。多分ドライヤーかけろという合図なのだろう。しかしあえて無視してやると下着一枚でこちらでやってきてヒゲを引っ張る。
「いたた」
「ド・ラ・イ・ヤー」
「分かった分かった」
もうやらせんと言ったくせにワガママな子供である。素直に引っ張られてやり耳が垂れ下がる姿を見ながらドライヤーをかけてやった。「戻った後のためにやり方、教えて」と言われたが無視し髪をグシャグシャとかき回してやる。「ケチ!」という言葉に笑い終わった後は抱きしめてやる。再び耳を硬く立たせようとするので妨害するために優しく撫でまわし甘噛みしてやった。
「あーもー邪魔しない!」
「勿体ないからな」
抱き上げベッドまで運ぶ。「服は着ないのか?」と聞くと「そろそろ戻りそうな予感がしてねえ」と言いながらも風邪ひくからと布団を被る。
「ほら君もシャワー浴びてきなよ。汗臭い」
そっぽを向き手を振った。大人しく言う通りにすることにする。シャワーから出るともう既に眠っていたのでそのまま隣に倒れ抱き寄せながら眠りにつく。
◇
早朝、シドはふと腕がずしりと重くなり薄目を開いた。目の前には"いつものアンナ"がいた。そろそろ戻るような予感がしたという彼女の予想は当たっていたらしい。くすりと笑いが漏れてしまった。今すぐにでも抱きしめようと思ったがぐっと我慢をし、目覚めるのを待つ。
更に1時間もしない頃、多分いつもの起床時間なのだろう、アンナが起き上がり「あ」という声が聞こえた。「よし」という声も漏れ嬉しそうだ。「起きる前に撤退しよっと」と呟きながらそろりと寝台から離れようとしたので腕を掴んでやる。
「げぇっ」
「何がげ、だ。どこに行くつもりだ?」
「いや、ほら、もう起床時間で日課をこなさなければ、ね?」
「戻った直後にいきなり大量にタスクを課すのは身体への負荷が半端ないと思うんだが?」
ニコリと笑顔を見せ合う。こちらはここ数日の子供な言動と蛮行に我慢してきたのだ、そのまま行かせるわけにはいかない。しばらく沈黙が流れたがアンナが動き出す前に力いっぱいベッドへと引き摺り込んだ―――。
◇
「ネロサン、迷惑をかけた」
「なンだお前戻ったのか。結局1週間位かかっちまってたな」
夕方、ガーロンド社にフラフラと髪を黒く染め直したアンナが現れる。戻ったんですねというすれ違う人に会釈をしながらネロを見つけ手に持った袋を渡す。中を見ると菓子、迷惑料と書かれた袋、そして冊子が1冊入っていた。パラパラと捲るといくつか走り書きされた図面たち。「何だこれ?」と聞くと「さあ? どう使うかはご自由に」とニィと笑う。見たことのない魔法人形に、奇妙な小銃のようなもの、先日渡された煙幕の幻影関係のデータも入っている。
「"ボク"の体は重役出勤したであろう人間の説教で疲れてるんでね、失礼するよ」
「……アー」
昼の出来事を思い出す。早朝社員に突然遅刻すると連絡を寄越したシドは昼に機嫌よく出勤した。それから部屋に篭らされ書類に埋まっているが嫌そうな顔一つ見せない。ジェシーも「ねえ今日の会長怖すぎない?」と引いていた風景を半笑いで眺めた。
「戻ったのは早朝。それから説教に重なる説教でボクはダウン。でもちゃんと戻った件はなるべく早急に報告しないといけないからね。何とか"ボク"が身体を起こして錬金術師ギルドと暁に顔を出してきたのさ」
「ハァそりゃお疲れさまなこって」
それじゃシドに会う前に帰る、と踵を返し、手を振りながら去って行った。
「"ボク"は何が起こっていたのか分からないんだけどねぇ。とりあえずは教訓だ。錬金薬の扱いは慎重に。イヒヒッ」
空を見上げ伸びをする。なまった身体をまずは程よい運動でリハビリしよう、アンナはテレポを唱え、どこかへ飛んだ―――。
-終わり-
#シド光♀ #ギャグ
漆黒以降の自機が子供化したギャグ概念。ここからシド光♀。
その1、その2、その3から読んでね。
罪人2人をレヴナンツトールに連れて帰る。勿論アンナはしっかりと抱いて、だ。ネロはガーロンド社へと連れて行かれる。シドは次の日にネロの部屋に置いてある荷物の類を回収する約束をし、宿にアンナを連れ込んだ。普段のアンナの仕草を見せているのに見下ろす形なのは新鮮だ。そう思いながら軽々と抱き上げると「子供扱いしない」と頬を膨らませている。
「普段俺にしてるじゃないか」
「私はいいの」
薄い身体に普段より気持ち温かいが人より冷たい体温。抱きしめてやるとアンナは頭を優しく撫でた。額に頬に、そして唇に優しく口付けるとアンナは眉間にしわを寄せた。
「ヒゲくすぐったい」
「いつも通りじゃないか」
「子供の姿だからかな。刺さる、って続行しない!」
小さくて、やわらかい。細い身体は確かに抱き心地がよかった。
「そういえばさ、シド」
「どうした?」
「―――今の私の身体、第二次性徴前」
耳元でボソリと呟かれると顔が熱くなっていく。改めて言われると恥ずかしくなる。クスクスと笑い声がした後「お風呂入って来るから、大人しくしててね」と下ろすよう床を指さした。言われるがまま解放すると部屋着を持って浴室へ駈け込んでいった。
◇
暇だ、と思いそろそろ説教も終わっているであろうネロにリンクパール通信を繋ぐ。
『あ?』
「ああネロ大丈夫か?」
『妹自慢が終わった所だ。ッたく受けるンじゃなかったぜ』
疲れ切った声が聞こえて来た。いい罰だ、優越感が勝る。
「お前の家ではアンナはどんな感じだったんだ?」
『料理は当番制で適当に本やらジャンクパーツで遊ンで寝させてただけだっつーの』
「健全だな」
『ッたりめェだろ。お前と違ってメスバブーン相手にはどうも思わねェよ』
談笑していると扉がキィと鳴る。アンナがふとこちらを見ている。ただじっと。何か手に持っているようだがよく見えない。「アンナ、どうした?」と聞くが何も言わず奥に消えて行った。首を傾げながらネロに問う。
「風呂から出たら何かしてたか?」
『ドライヤーかけてやってただけだ。家の中濡らされたくなかったンだよ。面白ェもン見れたから苦になる作業じゃなかったぜ?』
「なるほど。じゃあ一度切るからな」
ネロの答えを聞くより前に通信を切り、アンナの様子を伺いに立ち上がる。覗き込んでみるとドライヤーを手に持って四苦八苦しているようだ。使い方を教えずただやってあげてたのかとため息を吐きながらその機械を手に取る。
「あ」
「ほらやってやるから」
耳を触らないように暖かい風をかけてやる。正面にある鏡でアンナの表情はよく見えた。珍しく誰の目から見ても分かる程度にはご機嫌のようで。よっぽどこれが気に入っているのかと苦笑した。もっと早く気付いていたらとネロに対し舌打ちしていると「んー」と言いながらふにゃりと耳が垂れ下がった。
「アンナ?」
「―――へ?」
鏡で今の自分の状況を見たらしい。顔を赤くし、固まっている。耳を押さえ声が震えている。
「待って、シド、誤解。知らない」
「アンナ、髪はまだ乾いてないぞ?」
逃がさないよう固定し、頭をガシガシと撫でてやると「やーめーろー!」と抗議の声が聞こえた。動かさないように修行していると言っているくせにふとした拍子にこう垂れ下がる姿を見せる。しかしいちいち丹念に触らなくても即見れる手段ができたのは朗報だと考えた。
「スマンドライヤーの音で何も聞こえないな」
「嘘つかない! あ、じゃあやーいばーか! おーじーさーんー!」
「俺は普段のお前より半分以下の年齢だ」
「聞こえてるじゃん! 都合のいい耳だなあ!」
聞こえないと言われたら思ったより幼い悪口が飛び出し苦笑する。絶対に大人に戻ったらやらせないという恨み言が飛び出した。「それなら子供のうちにゆっくり堪能しないとな」と後先考えずに喋るアンナに感謝する。
直後、可愛らしい「みぎゃー!」という叫び声が響き渡った。やりすぎたかもしれない、一瞬その手を止める。
数十分後、少々機嫌が悪くなったアンナの機嫌取りをしようやく抱きかかえる許可がもらえた。一回り小さな頭に顎を置き、アンナが読んでいる本を眺めている。滲んだ文字が多めな東方地域のからくり装置のカタログを呼んでいるようだ。その筆跡はどこかで見たことがある気がするが思い出せない。
とりあえず程々な時間で錬金術師ギルドで何を仕込みする気満々だったのか聞きながら眠らせる。どうやら大したことをするわけでもなくただ"今後の参考"のために錬金術の勉強をしていたらしい。「嘘をつくな。蒼天街で割った煙幕の幻影だろ」とネロやヤ・シュトラからの報告内容をぶつける。すると舌打ちしそっぽを向いて無言を貫きそのまま眠っていた。戻った後、まだ残っているであろう試作品を絶対全回収しようと決心しながら目を閉じる。
◇
5日目。目が覚めると子供のままのアンナは既に着替えをし、本を読んでいた。相変わらず早起きだなと欠伸をしながら体を起こすと気が付いたようだ、「おはよ」とニコリと笑顔を見せた。
「とりあえず今日は石の家に連れて行くからな。まあ溜まった仕事を終わらせて定時で迎えに行く」
「昨日も無理やり迎えに来たし皆怒ってるんじゃないの。別にゆっくり徹夜してもいいんだよ?」
「絶対に終わらせてくるからな」
頬をギュッと引っ張った後、一緒に朝食を食べに行き石の家へ引っ張って行く。少々ばつの悪そうな顔をしながら笑顔を見せているタタルとクルルに手を引かれ、奥へと連れて行かれるところを確認した後会社へ向かう。
「会長、アンナさんは連れて来てないんですか?」
ジェシーをはじめとする人間に何度も聞かれた。石の家にいると返しながらその後ろにある子供服を隠しとけとため息を吐く。人へ過剰に関与しないアンナからするとこれが嫌だから隠れていたんだな。そう思うと結果的にはネロに頼り隠れていたのは間違っていなかったのかもしれない。なら声くらいは聞かせろとぼやくことしかできなかった。ネロのことをパパと呼び自分のことをおじさんと呼んだのも未だムカつく所がある。しかも三度も呼んだ。ジェシーに明日大人に戻っていなかったら連れて来るという条件を持ち出し、ネロへ仕事を押し付けていく。
夜、石の家に顔を出すと少し疲れた顔をしたアンナがいた。こちらに気が付くといつもの笑顔に戻り「おや特大なお仕事は?」と聞くので「"調整"してくれたからな」と笑顔を返すと舌打ちしている。とりあえずどういう意味だと小突いた。抱き上げアンナと談笑していたクルルに会釈をしその場を後にする。
外で日中何があったのか聞きながら晩飯を済ませ、ネロの部屋からアンナの荷物を回収した。大きなスーツケースに纏められている。「デカいな。頑張ればアンナが入る」と呟くと足を踏まれながら「通報」と言われたし、ネロにも「口には出すな」呆れられた。流石に実行はしないと苦笑しながら宿に運び込む。
シャワーから出て来たアンナの髪を乾かしてやり、自分も頭を冷やしがてらシャワーを浴びた。戻ると昨日とは打って変わって既に寝転びながら身体を伸ばしていた。隣に座ると少しだけジトッとした目でこちらを見る。その後何か思いついたのかのそりと起き上がり膝の上に頭を置きニィと笑った。
「もう二度とないかもしれない体験で嬉しいでしょ?」
「大人に戻ってもやればいいじゃないか」
「やだ」
膝枕はさせる方が好きなんだよと柔らかな笑みを浮かべ膝の上でゴロゴロ転がっている。長い耳が当たってくすぐったい。
「石の家で子供っぽい動きとは何かとララフェルの方々に聞いてた。だから色々と試す」
「それは口に出さない方がよかったかもしれんな」
顔に手を当てため息を吐く。アンナは唐突に腕を掴み、顔へと持って行かせた。首元を撫でてやると笑顔を見せている。
「そもそも子供とは何かという所から議論をした」
「哲学は専門外だから分からんな」
「言葉を舌足らずにとかキャーキャー喚いたりとか。でもそれ私が嫌い。だからやらない。ならば普段から可愛いララフェル先輩に聞くのが一番」
「まあ突然そんなことされたら呪術士の所に連れて行くかもな。マハで妖異にでも憑かれたかもしれんと」
「非科学的なものに頼りに行こうって思う程異常に見えるってことね、オーケーオーケー」
私が普段どういう目で見られてるかよーく分かったよと言う口に反し笑みを隠さずその指をカリと甘噛みする。
「というか自分が子供の頃と同じ感じで行けるだろう。覚えてないのか?」
「ずっと素振りしてるか部屋中イタズラの仕掛けをして女の人のお尻触ってもいいなら」
「却下だ」
忘れかけていたがアンナは当初自分が男として生まれたと思っていた。実際普段の姿で見慣れているだけで笑顔で立っていなかったら十分少年だと言われても信じる自信はある。
「とにかく子供である利点をもう少し楽しもう。これ今日のまとめ」
「それを先の4日間で気付くべきだったな」
「やだ。そんな長く好奇心の目に晒されるとか頭おかしくなる」
普段のビックリ人間ショーみたいな英雄行為はいいのかと思うが口には出さないでおく。
それから適当に子供とはどういうものなのかという話を交わし眠った。
◇
6日目。いつもより早起きしたが既にアンナも起床していた。柔軟運動をしている姿はまだ子供のままだ。少しだけ安堵している自分を叱咤しながら身体を起こす。
「もっとゆっくり眠っててもいいんだぞ?」
「ホー今日は早い。……習慣だし。どうせ寝起きの姿見たいだけでしょ?」
「そうかもしれん」
やっぱりと言いながらこちらに近付き口付けた。今日は社に連れて行くからなと言うと一瞬笑顔が引きつっていたが即平静を装っていた。「そこまで酷いことはならんさ、多分」と言ってやると「だといいけどねえ」とアンナは苦笑した。
子供になったアンナの姿を見るや否や飛びついて行く老若男女問わない社員たち。ヒッという声を上げながら逃げることもかなわず捕まり奥へと連れて行かれた。その中には旅人服を着たレフがいる。どさくさに紛れて何やっているんだと思いながらネロに事情を聞く。すると「そういう体でいるために昨日休暇をもぎ取ったんだぜ? ただのアホだろ」と返された。あの男は意地でもちゃんと模範的な生活を送る護人であるという所を妹にだけは見せたいらしい。偶然にしてもここにいるのはどう考えてもおかしいだろと言いたかったが多分アンナは信じるだろう。それ位兄は嘘をつかない規律的な人間だと思っているからだ。実際は護人時代から黙って抜け出して興味関心を満たしたり、既に自分勝手な理由で離婚して里とも断絶している生粋のシスコンなのだが。
「蒼天街でファットキャットのパーカー着てたっつーと滅茶苦茶目を輝かせた奴らがいてな」
「お前絶対それアンナが話して欲しくなかったやつじゃ」
「ケッ散々迷惑かけられたンだ。アレ見てちょっと清々したぜ」
ミギャーという叫び声が聞こえる。あの声は不味い。流石に戻った後の荒みっぷりが想像できないので小走りで止めに行くことにした。
「おいおい止めに行くのか?」
「このままじゃ戻った後今回の錬金薬を量産して社内にぶちまけて大パニックにするぞ」
「アー"あっち"が絡んだらやりそうだな」
あっちという表現はよく分からないが程々にしとけと小部屋に行く。そこには髪を赤く染め、ウィスパーファインウールを着せられたアンナがいた。
「シド! に、兄さんにまで裏切られたし、社員教育はどうなってるんだ!」
「え、あ、似合うな?」
「ちがーう! このぉ……エロオヤジ!」
「あ、それは減給がやば。ゴホン! ……よーし妹よ! 兄と彼らのお仕事の邪魔にならないようにお出かけするか! な!」
「ずるいぞ!」
「マスコットとして置きなさいよ!」
「どこぞの会長クンの顔を見てから言う! ほら妹よ行くぞー」
「んー体鈍ってるから運動したいな」
「ああ久々に組み手でもしよう」
並ぶ姿を見ると確かに兄妹だ。なぜかパワーアップした罵倒を放ち、一瞬こっちを見やりくるりと回る姿が非常に可愛く周辺からも歓声が上がった。明らかに煽ってる姿に歯を食いしばりそのまま兄に引っ張られていく姿を見送る。覚えてろと思いながら早々に仕事を終わらせようと書類に向き合う。
◇
何とか仕事を終わらせレヴナンツトール中を歩き回っていた兄妹を捕まえ回収した。兄からの視線がとても痛かったが無視し連れ帰る。
「兄とはどういう話をしたんだ?」
「別に? いきなり会っても何話したらいいか分からないし……。故郷でヤることが終わってよかったって話と。ご飯食べて、街の中歩き回って色々買い物して、あとは郊外で組み手した」
里にいた頃思い出して楽しかったと笑顔で言う姿にため息を吐き頭を撫でてやる。3日程度ほぼ室内でのんびりしていたから身体を動かせて満足しているようだ。その辺りを汲んで付き合ったのなら兄は本当に有能な人間だなと思う。どうせ言われるがまま遊んでやっただけだろうが。
現在は汗をかいたからとシャワーを浴びに行っている。髪は赤いままで「戻ったら美容師にお願いする」とぶっきらぼうな顔で言っていた。個人的にはこれが本当のアンナの幼少時代の姿かと思うと少々興奮してしまう。そんなこと言ったらまた子供相手に云々と言われるので心の中にしまっておいた。
カタンという音が聞こえ振り向くとこちらに顔を覗かせている姿が見えた。多分ドライヤーかけろという合図なのだろう。しかしあえて無視してやると下着一枚でこちらでやってきてヒゲを引っ張る。
「いたた」
「ド・ラ・イ・ヤー」
「分かった分かった」
もうやらせんと言ったくせにワガママな子供である。素直に引っ張られてやり耳が垂れ下がる姿を見ながらドライヤーをかけてやった。「戻った後のためにやり方、教えて」と言われたが無視し髪をグシャグシャとかき回してやる。「ケチ!」という言葉に笑い終わった後は抱きしめてやる。再び耳を硬く立たせようとするので妨害するために優しく撫でまわし甘噛みしてやった。
「あーもー邪魔しない!」
「勿体ないからな」
抱き上げベッドまで運ぶ。「服は着ないのか?」と聞くと「そろそろ戻りそうな予感がしてねえ」と言いながらも風邪ひくからと布団を被る。
「ほら君もシャワー浴びてきなよ。汗臭い」
そっぽを向き手を振った。大人しく言う通りにすることにする。シャワーから出るともう既に眠っていたのでそのまま隣に倒れ抱き寄せながら眠りにつく。
◇
早朝、シドはふと腕がずしりと重くなり薄目を開いた。目の前には"いつものアンナ"がいた。そろそろ戻るような予感がしたという彼女の予想は当たっていたらしい。くすりと笑いが漏れてしまった。今すぐにでも抱きしめようと思ったがぐっと我慢をし、目覚めるのを待つ。
更に1時間もしない頃、多分いつもの起床時間なのだろう、アンナが起き上がり「あ」という声が聞こえた。「よし」という声も漏れ嬉しそうだ。「起きる前に撤退しよっと」と呟きながらそろりと寝台から離れようとしたので腕を掴んでやる。
「げぇっ」
「何がげ、だ。どこに行くつもりだ?」
「いや、ほら、もう起床時間で日課をこなさなければ、ね?」
「戻った直後にいきなり大量にタスクを課すのは身体への負荷が半端ないと思うんだが?」
ニコリと笑顔を見せ合う。こちらはここ数日の子供な言動と蛮行に我慢してきたのだ、そのまま行かせるわけにはいかない。しばらく沈黙が流れたがアンナが動き出す前に力いっぱいベッドへと引き摺り込んだ―――。
◇
「ネロサン、迷惑をかけた」
「なンだお前戻ったのか。結局1週間位かかっちまってたな」
夕方、ガーロンド社にフラフラと髪を黒く染め直したアンナが現れる。戻ったんですねというすれ違う人に会釈をしながらネロを見つけ手に持った袋を渡す。中を見ると菓子、迷惑料と書かれた袋、そして冊子が1冊入っていた。パラパラと捲るといくつか走り書きされた図面たち。「何だこれ?」と聞くと「さあ? どう使うかはご自由に」とニィと笑う。見たことのない魔法人形に、奇妙な小銃のようなもの、先日渡された煙幕の幻影関係のデータも入っている。
「"ボク"の体は重役出勤したであろう人間の説教で疲れてるんでね、失礼するよ」
「……アー」
昼の出来事を思い出す。早朝社員に突然遅刻すると連絡を寄越したシドは昼に機嫌よく出勤した。それから部屋に篭らされ書類に埋まっているが嫌そうな顔一つ見せない。ジェシーも「ねえ今日の会長怖すぎない?」と引いていた風景を半笑いで眺めた。
「戻ったのは早朝。それから説教に重なる説教でボクはダウン。でもちゃんと戻った件はなるべく早急に報告しないといけないからね。何とか"ボク"が身体を起こして錬金術師ギルドと暁に顔を出してきたのさ」
「ハァそりゃお疲れさまなこって」
それじゃシドに会う前に帰る、と踵を返し、手を振りながら去って行った。
「"ボク"は何が起こっていたのか分からないんだけどねぇ。とりあえずは教訓だ。錬金薬の扱いは慎重に。イヒヒッ」
空を見上げ伸びをする。なまった身体をまずは程よい運動でリハビリしよう、アンナはテレポを唱え、どこかへ飛んだ―――。
-終わり-
#シド光♀ #ギャグ
次元の狭間オメガ後日談。旅人は密会するから数日後。紅蓮メインでいうと4.3後。性描写を振り返るシーンがあるので閲覧注意。
ボクには特技というまででもないがある本能的なセンサーのようなものが付いている。
それは命の恩人も持っていた奇妙な特殊能力。数々の自分への感情に反応するように首の後ろがゾワリとして判断出来るのだ。その中でも悪意を持って利用しようと近付く人間相手は特に鳥肌が立つくらい即反応してしまう。かつてフウガにどうしていたかと聞くとこう答えた。
「怖いならば斬り捨てればいい」
「ボクにはどう感じるの? ゾワゾワする?」
「おぬしは……純粋すぎる」
なんて言いながら首の後ろを撫で、苦笑していた。当時のボクには意味が理解出来なかった。しかし現在は"それ"の正体を知っている。そう、真っ直ぐで淡く、ふわふわとするような温かい恋愛感情だ。思わず少し触れてしまうくすぐったい感覚。
初めて体感したのはあの星芒祭、アプカルの滝の前でのこと。シドがボクに向けた小さな感情をほんの一瞬だけ確認出来た。
そんなこともあったので以降何かあるごとにからかう材料になる。だって本人も自覚していなかったのだから。分かってしまう前に、旅に出てしまえばいい。
どうせかつて交わした"約束"の細かい部分なんて覚えていないのだからいつでも逃げる準備は出来ていると思っていた。逢瀬を重ねるごとにちり、と感じる頻度が上がっていく。理解していながらも、まるでチキンレースのような面白さに夢中になってしまっていた。
さて、ボクはあと1つ、異様な感情というものを察知することが出来る。所謂下心だ。少しでも勘違いされたら抱いてきやがる性愛も混じった"それ"が大嫌いだった。首どころか背中までゾワゾワと粟立ち、気持ち悪さが勝る。
"それ"はフウガと別れてから感じ取り始めたモノだった。だから余計に吐き気がする"自分の性別"と"大人特有"のものだということは理解している。一時期本当に嫌で、再び生まれ持った性質を呪っていた時期もあった。現在はどうも思ってないのだが。大体はゾワリとした瞬間に悟られないよう笑顔を見せ、離脱する。それでも縋ってきたら冷たい言葉で断るのがこれまでの旅路だった。
人助けをやめればいいだけだ。が、そんな理由でやめてしまったらフウガは怒るだろう。あの人は善人は勿論、悪人だって関係なく助けては名乗らずに去る。圧倒的な力は、弱き者のために使う―――それがボクの憧れだった。だからその通りに動いてるだけ。
シドが持ってしまったと初めて感じたのは墓参りから数日後、首元を噛まれた夜。今まで一度もなかった恐怖に襲われる。肌に歯を立てられる瞬間まで微塵もなかったので本当に驚いた。
まあ、冗談でも許可をしたのはボクなので誰がどう見ても自業自得だったのだが。直後、泉から湧き出すようにくすぐったさとは別に粟立った感覚が一気に畳みかけて来る。この時は忘れたとかとぼけて煙に巻き、逃げることしか出来なかった自分が情けない。
その後、『通話程度だったら特に反応しないから置いておこう。だが次はどんな顔して会えばいい? ……普段通りでいいか』と思いながらアラミゴ解放後、ラールガーズリーチで久々に直接顔を合わせる。
意外なことに何も感じることなく普通にいつもの関係が続いたことに何重にも驚いた。まあそれを"また"崩したのはボクだったのだが。
もう奇妙なことは起こらないだろうと高を括り"効率的なストレス解消手段"を提案、からかっただけで処女を散らされた夜になる。これは誰も予想は出来なかっただろう。勿論ボク含めても、だ。しかも屁理屈と強引さが混じり合い意識を失うまで抱き潰された。数々の感情の移り変わりが首元を通じてダイレクトに伝わり、更に全身は痛みとは別の感覚が脳を焼く。
その後、"貰っていた手紙"と共にどう処理すればいいのか分からなかった。結果、温泉旅行と称してまたしばらく逃げることしか出来なかった自分にも嫌気がさす。そろそろかと戻ってからは何事もなく検証が終わった。相変わらずこの人はボクをどうしたいんだと思う。個人的には本当に最後までヤッてしまえば後腐れなく気まずくもなかったというのが事実だったので悔しい。
◇
『先日はお土産ありがとね。折角ならこっちにも顔出したらよかったのに』
暁からの次の"お願い"待ちで付けっぱなしにしていたリンクパールが鳴る。「もしもし」と出てみるとジェシーの声。とりあえず「夜も遅かったし。また改めて挨拶行く」と答えるとうふふと笑う声が聞こえた。
『会長もあなたが来た後頑張ってたわ。一晩で書類を終わらせたのよ! アンナには本当に感謝してるわ』
「は、はは……」
嘘でしょと乾いた笑いが漏れる。そこまであの一言に期待を抱いたのかと唖然となった。
"そのお仕事終わったら、ご飯行こうか"
数日前、帰燕館の個室にて暇つぶしにぼんやり作業していると付けっぱなしにしていたリンクパールが鳴った。突然鳴ってビクリと身体が跳ねながら出てみると連日缶詰だったのか疲れ切ったシド。何食わぬ顔で通話中に「会いたい」と苦笑していた。
なので適当な土産を持ってサプライズで現れたついでにヌいてやった後に耳打ちした台詞だ。何でそうなったかは期待されたからとしか言えない。
散々な初めて身体を重ねたあの夜の後、本当はこれまでのように手酷く扱い捨ててやることも考えたのだ。
でも、"あの時の子供"にそんなことが出来るわけがない。更に"内なる存在"があと1年絶対に消息を絶たないと明確なタイムリミットを決めやがった。
だから今すぐ旅に逃げるという選択肢も潰されている。シド関係では余計なことしかしないもう1人の自分に苛立った。
ジェシーに適当な挨拶を返し、次はご褒美を待つ犬のようになってるであろう男に通信を繋ぐ。まあどうしてボクを好きになったのか、食事ついでに話し合うのも悪くはないだろう。
「やあシド、寝てたでしょごめん。ジェシーから聞いた。ご飯の件」
『今夜』
「いやムリせず週末とかでも」
『今夜、レヴナンツトールのエーテライト前で待ってる。逃げるなよ』
プツリと切られた。「うっそでしょ……」と呆れる言葉が何とか喉から発せられる。とりあえず現在の状況を確認した。悔しいが和平交渉が一段落つき情報収集の最中、つまり戦闘要員である自分は暇。そしてボクは現在石の家に滞在中。
適当な人に「何か動きあったらすぐに連絡、よろしく」と声をかけ"準備"のためテレポを詠唱した。
それに―――ボクが最初から逃げるという行為なんてするわけないじゃないか。莫迦にしないでほしい。
◇
夕方。『立ち寄りはしたけどいなかった。いやあ残念』というアリバイ作りのために集合時間よりも30分程度早くレヴナンツトールに飛ぶ。誰相手に対してもとりあえず約束の時間より早く来て待つのはもう一種のルーチンだ。―――よし、元から滞在してたとはいえ集合場所に来ました。というわけで帰ろうと歩き出そうとした瞬間に腕を掴まれる。一瞬漂った機械油の匂いとその大きな手から誰かは予想が付いた。
「や、やあシド」
振り向くとジトリとした目でシドがボクを見ていた。
いつもは思ったより仕事に手こずったからとギリギリか遅く来るはず。冷静に立ち回りたいのに、急に想定外のことが起こり心臓がバクバクと鳴っていた。
「さ、先に石の家でクルルに現状報告後、待機予定で」
「そうだったか」
適当なことを言い、ニコリといつもの笑顔を作ると同じく笑顔が返って来る。
何だ寝起きで少々機嫌が悪かっただけか。特に首元がざわめくこともないのでホッとする。
「さあ行こうか」
「うん」
ガシリと腰に手を回すように掴まれた。まだ逃げると思っているらしい。恥ずかしいわけではなく、流石にこの辺りで人に見られるのは"よろしくない"。こっちは何も感情を持っていないというのに他人から誤解されるような行為はなるべく避けたいと思っているのだ。
ボクが「シド、私逃げない。普通に、さ」と苦笑してやると寂しそうな目でただじっと見つめてくる。ただただ何も言わず絶対に折れる気はないという視線を向けられ、先にこちらが音を上げてしまった。
「あーもー! そんな顔しない! 分かったから! とっととご飯!」
そう言った瞬間不敵な笑みを浮かべ、そのまま引き摺られていく。騙された。「子供か」と盛大にため息を吐く。
こんなのどうすればいいんだ。フウガ、助けてと空を見上げた。
◇
「何で、私のことが"好き"?」
「―――は?」
よく2人で行くレストランで単刀直入に聞いてやる。きょとんとした顔でシドは見る。
「だーかーらー、今後の参考に。私何か勘違いさせるような特別なことした?」
「俺は勘違いしてないぞ」
「それが理解不能。私はただ人助けをしているだけ。あなたは助けた人間のうちの1人」
「俺にだけイタズラかける件は?」
「遊べる」
「こら」
軽く足を蹴られた。そうかイタズラも拍車をかけていたんだね。確かにシド以外の人間にする気は起きない。
「あなたになら少しは遊びを入れてもどうもならないかなって思って?」
「そういう所だ」
「あなたを護るのは私。私を見て、手を握り、頼っていればいい。そのためならどんなイタズラだってする」
あ、顔が真っ赤になった。ニコリと笑ってやる。
「前も言った。私はそれなりにだけどあなたに恩は感じてる。英雄への道を作ってくれたのは間違いなくあなた」
そう、シドはその飛空艇や新たな装置でいつも助けてくれている。エオルゼアで迫害されず自由に人助けしながら暮らす生活が出来ているのはこの人のおかげだ。それなり、じゃない。本当は凄く感謝しているけど調子に乗るので程々ということにしておく。
「あなたがいなかったらとっくに旅出ってる。何も分からなかった私に差し伸ばされた手を握り返してやった。だから求められる限り、恩返し。ついでに私の手が届く距離で笑って―――それをちゃんと自覚してほしかったのさ」
「それが一種の告白だと思わないアンナは凄いな……」
眉間に指を当て、ため息を吐いた。何故そういう言葉が出て来るか分からない。
「それに人助けの理由、フウガに憧れたから。特定の感情なし」
「違う、お前がやっている行為は無償の愛を注ぐ献身的なものだ。誰だってその―――"勘違い"する。今までよく何も起こらなかったな」
「去るだけでいい。すぐに判別可能」
「アンナ……」
「ねえフウガと同じことしてるだけなのに何で? 性別が悪い?」
一切理解不能。すると先程と一転して顔が青くなったシドは机を隔てて肩を掴んだ。
「本気でそれを言ってるのか?」
「? うん」
「―――もしお前の性別が男で同じことになっても、俺は間違いなく好きになるし抱く」
へ? とボクは目を見開いてしまう。何を言ってるんだ、この人。
「リンドウはどうしてたんだ」
「人助けして、帰ってたよ」
「違う。アンナと一緒で特定の人間に感情を抱く前に逃げてたんだ。間違いなくモテたぞ」
「当たり前。フウガは無名の旅人だから。カッコよく去る」
「お前も人助けをする姿がカッコよかったあの人が好きだったんだろ? それと同じ感情を、俺は持っている」
ふわりとくすぐったさが湧き上がったので反射的に首元を撫でてしまう。つい「やめて」と弱々しい声が漏れた。ボクの手を掴み握りしめる。柔らかな笑顔を見せ、突然とんでもないことを言い出した。
「綺麗な姿も、自分よりも先に人助けをする勇敢さも、優しい笑顔も。ああ少しでも想定外なことが起こったらすぐに狼狽える表情もいいよな。グッと来る」
「へ?」
誰の、話? 思考停止したこちらを無視し、言葉が続く。
「刀を撫でながら笑う姿も、圧倒的な強さも。何度手を出すのを我慢したか分からん。アンナが関わると絶対新しい技術が転がり込んでくる。イタズラに使ってる地味に高い技術力もほしいくらいさ。冷たく柔らかい肌も、徐々に温かくなっていく行為の楽しさもな。他所では体験出来ん。あとは」
「分かった! 分かったよ!!」
流石に恥ずかしくなったので止めてしまう。あとこれ以降は多分表で言わせてはいけない感情が絡んだモノになると本能的に察知した。
「幾らでもお前の好きな所は言えるぞ?」
「満足! ストップ! そこまで拗らさせた私が悪かった!!」
「本気だって分かったな?」
嗚呼その真っ直ぐな目をやめてほしい。何も言えなくなってしまう。顔が熱い。どうしようもない感情を、ボクはシドの耳で囁くと目を見開き見つめて来た。
◇
シドはボクの隣に座る。頭を優しく撫でながら笑っていた。
「首元押さえるのは、照れてるだけでよかった。本当に体調が悪かったらどうすればいいかと」
「別に照れてるわけじゃない」
嗚呼ムズムズして頭が変になりそうだ。なんてこの人は純粋なんだ。眩しい光が赤く染まるボクを焼く。嫌悪感はない。ついポロリと溢す。
「フウガみたいに昔から、自分に向けられる感情に首の後ろがゾワッてして分かる。それだけ」
目を丸くしてボクを見ている。そしてボクも遂に人に言ってしまったと血の気が引いた。「じ、冗談」と離れようと動くが強く抱きしめられる。不器用に首の後ろを撫で、離さない。
「なあいつから俺はお前が好きだったんだ」
「うーざーいー、触るな! いつからとか言うわけないでしょうが自分で考える!」
濁りが一切ない真っ直ぐな感情と直接触られる感覚がくすぐったい。そんな感情を、ボクに向けないでよ。
「キミがボクのことが本当に好きなのは分かったから」
あと僅か1年、"宿題"とやらが解けるのは分かりきっている。この冷たい肌がほしいのなら、精々頑張ったらいいさ。
「ボクに好きと言わせたい気持ちは痛いほど分かったけど絶対にそうはならないよ」
「ふん、いつか言わせてやるさ。逃げるんじゃないぞ」
「―――まだ気は変わってないから。キミは純粋すぎるんだよ」
「ハハハ」
そっぽを向くと後ろから優しく抱きしめられた。ブランケットを被り、「おやすみ」と呟き目を閉じた。
Wavebox
#シド光♀