FF14の二次創作置き場

更新履歴

2024年3月の投稿(時系列順)12件]

2024年3月2日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

(対象画像がありません)

注意・補足森の名を知りたいシドと全てを教えたい自機のギャグ概念です。レフ:エルフ…

漆黒

#シド光♀ #ギャグ

漆黒

"名前"
注意・補足
森の名を知りたいシドと全てを教えたい自機のギャグ概念です。
レフ:エルファー・レフ・ジルダ。アンナの実の兄。笑顔がヘタクソ。妹に負い目を感じている。
ア・リス:アンナが雇った新人リテイナー。エルファーの友人と似ているらしいが…?
リン:リンドウ・フウガ。アンナの命の恩人にして旅の始まりにして元凶。不器用で感情表現が下手な枯れた男。20年前には死んでる。
 
「アンナ、そろそろ名前教えてくれてもよくないか?」
「はい?」

 シドの一言が今回の長い戦いの始まりだった。

「もしかしてボケ始まったやつ? アンナ・サリスさ」
「違う。それは今エオルゼアで名乗っている"街の名"だろ? ていうか今ボケとか言ったか?」
「おっと口が滑ってしまった。―――それでいいじゃない。今の私はアンナだよ」

 アンナ・サリスは彼女がエオルゼアに来てから咄嗟に名乗ったものだ。生まれた時に付けられた名前ではない。集落で名乗っていた生まれながらの名前は"森の名"と言うらしい。ヴィエラの女性は部族名がファミリーネームと聞いている。なのでエルダスという所までは把握しているのだが、そのファーストネームは未だに不明なままであった。

「その、好きな人間のことは全て知りたいに決まってるだろ? 普段呼ぶ呼ばない関係なく」
「そういうものなの?」
「そういうものだ」
「ふーむ全てを知りたい、ねぇ」

 しばらく考え込む姿を見せる。「よし」と呟きアンナは口を開く。

「ネリネ」



「レフ」
「おや会長クンじゃないか。どうした?」

 シドは小走りでアンナの兄であり、社員として働いているレフに話しかける。

「アンナの"森の名"って知ってるよな?」
「勿論。実の妹なんだからな」
「ネリネ」

 その単語にレフは首を傾げる。シドは反応を見てため息を吐いた。

「違うんだな?」
「違うな」
「教えてほしい」
「本人から聞き給え。答え合わせはしてやろう。僕以外に判断要素がないだろうからな」

 やれやれと肩をすくめる姿にシドは拳を握り、「絶対に聞き出してやる」と闘志を燃やしている。
 近くでコーヒーを啜っていたネロは呆れた目でその風景を見ていた。



「アマリリス」
「……違うな」
「ダリア」
「かすってもいない」
「カリス」
「文字数も違う」
「ガーベラ」
「一文字もないな」
「ルディン」
「ない」
「スピネル」
「全く違う」
「ガーネット」
「ソル帝の前で名乗ってたやつじゃねェか?」
「確かに」
「ベリル」
「もう4文字の名前が出るまで僕に聞くな」

 直接会った時、リンクパールで連絡した時、一緒に食事に行った時。数々の逢瀬で聞き出してはレフに尋ねに行く。そういえば珍しくリンクパールを常に付けていたりレヴナンツトールに滞在を続けているなと考えがよぎる。だが全く真実に近付きそうにもない状態にシドは歯ぎしりをする。どうしてそんなにも躱そうとするのか、本当に嫌なのならばはっきりと断ればいい。その筈なのに延々と偽名を口に出すのは意図が読めない。ため息を吐いた。



「おっ今日もいいもの持って帰って来たぜご主人!」
「ご苦労様、ア・リス」

 アンナははにかみ最近雇ったリテイナーである金髪ミコッテの青年から掘り出し物を受け取る。今日は奇妙な歯車と食材のようだ。お礼を言いながら再び給金代わりのスクリップを渡そうとするとア・リスは首を傾げる。

「ナァ最近シドのダンナ機嫌悪くね?」
「まーたどこで覗いてるのかな? 名前教えろって言われたから教えてるだけだよ」
「森の名をか? 教えりゃいいじゃん」
「あっさり言ったらコミュニケーションが終わっちゃうよ?」

 ニコリと笑いながらアンナはこれまでシドに教えた名前を挙げる。

「これらはね、昔名乗っていた街の名なの」
「そんなにあんのか!」
「まだまだあるよ? 何せ50年程度は旅して街や地域ごとに変えてたんだからいっぱいあるさ」
「……それダンナには街の名だって言ってんの?」
「言ってないよ?」

 ア・リスはうわぁと言葉を詰まらせた。それに対しアンナは首を傾げている。「何か問題でも?」と言うとア・リスはいやいやと言いながら肩を掴む。

「そういうのはちゃんと先に言っとけ。それでいつも痛い目に遭ってんじゃねえか」
「? 向こうがこれが森の名だなって思ったらそれで終わりでもいいよ?」
「後から面倒になるやつじゃん!」
「いやボクもそう思うんだけどね。"全てを知りたい"なんて言われちゃったらさ」
「俺様は忠告したからな? どうなっても知らねえぞ?」

 へへと顔を赤らめながら改める気のないアンナの行動に呆れた目を見せながらアリスはパタパタと走って行った。アンナは首を傾げ逆の方向に歩き出した。



 数日後。

「レフ! ……フレイヤか?」
「おっ会長クン大正解だ。よく頑張ったじゃないか」

 よしと拳を振り上げ喜びを隠しきれないシドをレフは口角を上げ笑っているような姿を見せる。

「やっと教えてもらえたんだな?」
「まあようやく街の名のストックが切れたとか言って教えてくれたさ」

 お前に申告なしの名前だけでもあれから20個くらいあったがなと疲れた切った表情を見せている。レフは「そうかこれまでの街の名だったのか」と頷いている。その後指を突き立てる。

「貴重な妹の過去を聞けたから嬉しい。じゃあ次に君も気になるお題を出そうか」
「何だ? また時間のかかりそうなものは嫌だからな」
「サリスの由来、聞きたくないか?」

 その言葉にシドは目を見開く。「そういえば、どこから出て来たのか知らんな」とボソボソと呟いている。

「じゃあ今聞いて来るか」
「おう行ってこい行ってこい。それに関しては僕も正解を知らないからな、ゆっくり教えてもらったらいい」

 シドは小走りでその場から去って行く。ネロは怪訝な顔をしてレフに近付く。

「ネロ、サリスというのはリンの父方のファミリーネームなんだ。フウガは母方のだって昔聞いてる」
「ゲッ、知ってて行かせてンのか」
「勿論。まあ偶然の一致かもしれんからな。念のために聞いててほしいと思ってね」
「いやガーロンドの地雷じゃなかったか? メスバブーンの命の恩人関連ってよ」

 レフは勿論知っているとニコリと笑う。シドにとって命の恩人(リンドウ)に関わる話は露骨に機嫌が悪くなる"地雷"な話題だ。アンナは何度がポロリと話してしまい「やっべ」と溢す局面に遭った。

「1週間位惚気のダシに使われて僕は疲れてるんだ。まあ少しくらい妹の躾を行っても罰は当たらん。あと僕の予想だが最初に聞いてきた時の街の名"ネリネ"はアリスとリンのクソ野郎2人が付けたやつだと思ってるよ。姫彼岸花、リンドウと同じ秋の花の名前だ」

 ネロの乾いた笑い声にレフはウィンクのつもりなのか目を閉じて口角を上げている。片目は髪で隠しているから分からないのだが本人は気付いていないし多分出来ていないだろう。
 数分後、シドの「待て逃げるな!」という怒鳴り声が聞こえ、「アンナ逃げやがったぞ! アレは絶対リンドウ関係だ!!」と駆け込んでくる姿に対し「ほらな」と腕組みするレフの姿があった。

 この後1週間程度アンナとは連絡を取れなくなったという。しかし事前に石の家へ行き根回しをし、何とか捕獲された。



「ほら言ったじゃねえか。痛い目に遭うぞって」
「だって……だってぇ……」

 捕獲からの"お話"から何とか逃げ出し、楽しいんだからしょうがないじゃん! という開き直る姿に偶然通りかかったア・リスはため息を吐く。直後真面目な顔を見せ、ボソリと呟く。

「人間って残酷だよね。1を知れば100が欲しくなる、貪欲な生き物だ」
「あっさり森の名教えてりゃ今のファミリーネームの由来なんざ聞かれなかっただろ」
「ぐ、ぐぬぬ」

 言い返せない様子にア・リスはニャハハと笑う。しかし人の気配を感じるとア・リスは耳をピンと立て走り去って行った。アンナは「あれ?」とキョロキョロ見回していると背後から肩を叩かれる。石のように一瞬固まる。慎重に振り向くと笑顔のシドの姿が。

「アンナ、話は終わってないからな?」
「へ、へへっ、旦那、仲良くしやしょうぜ……」

 教訓。故郷が関係することの話題は早急に事実を伝え終わらせよう。そうアンナの胸に刻み込まれるのであった―――。


Wavebox

#シド光♀ #ギャグ  

2024年3月4日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

(対象画像がありません)

注意漆黒5.0終了直後の自機が人に"興味"を持ち始める話。シ…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

旅人は星を見つける
注意
漆黒5.0終了直後の自機が人に"興味"を持ち始める話。シド少年時代捏造。
 
 最初に抱いた感情は同じ帝国に狙われた可哀想な人。記憶を失い、現地民に疎まれ、更に祖国から追われている様に同情する目を向けることしかできなかった。陰気なやつだと思っていたが話をしてみると意外と優しい人間で気に入った。初めてもらった"道しるべ"を隠し持って、彼らを追いかけることにする。
 "彼"が記憶を取り戻した時、"彼"はボクが護ると約束した人だと思い出してしまった。"彼"が歩む先の障害を排除する。だからボクが進めるべく英雄という道を作ってくれればそれでよかった。それはただのアンナ・サリスとして共に障害を破壊する行為で。大きな声で言えないがとても楽しかった。
 英雄という存在となったボクはいつも不安だった。いつまで"いい子"でいられるか分からなかったからである。それでも"彼"がいれば何とかなる、頼られるしもう少しだけ頑張ってみようかなと思うようになった。そして何よりも絶対に生きて帰ってこい、それは新たなボクを縛り付ける言葉だった。でも全然苦しくない。それどころか力が湧き出てくる。どうしてなのかは分からなかった。その期待に応え、何度も勝利を収めた。
 "彼"の前で、ボクは少しだけ自分を見せることにする。理由は簡単、キミを護る存在だということを分かって欲しかったから。誰もボクらの関係に介在されたくなかった。この人たちを護るのは、ボクなんだよ。一方で、"彼"の刃になるか、それともまた旅に出て消えてしまうか悩んでいた。ふわりと首がくすぐったくなるよく分からない感情が怖かったから。
 何も考えたくなかったので過去のボクを完璧に捨てる儀式を"任せる"。唯一残した故郷を繋ぐ証を押し付け、処分させることにした。相手は覚えていないのだから刃になる必要はない。頼られれば、歩み寄り、必要無くなったならば表舞台から消えてしまえばいいんだ。思えばそれが一番の間違いであり、2人の関係を表す歯車が軋みだす瞬間だったのかもしれない。要するに"内なる存在"に嵌められたってことだ。
 暴力装置と揶揄されてもボクは走り続けた。どう呼ばれても"無名の旅人"であると心に決めている限り、折れることはない。求められたから"内なる存在"と共に全ての陰謀を斬り捨てた。人助け以外には、興味はない。手に届く範囲の人たちを救うことが出来ればそれでよかった。
 いつの間にか、ボクを見る"彼"の目は熱く焼かれそうなほどのものに変わっていた。でも、真っ白な自由の象徴である彼の隣に立つ存在は、もっと綺麗で護りたくなるような人間がいいに決まっている。赤くて黒いボクは、裏で"彼"の代わりに罪を背負えばいいのだ。本当はね、キミの歩く道は色々な犠牲も生み出しているのさ。悟らせないために、裏でいろんな人が頑張ってる。そのお手伝いもボクはしていた。誰に対しても優しいあなたの心を乾かさないために、ボクは求められるまま存在しているんだよ。
―――そう、ボクは怒りと悲しみに委ね沢山人を殺めて来た。恨み、憎しみ、苦しみを全部自分に向けろと言いながら全て穿ち、斬り放った。そんなボクは幸せになるべきではないし人を幸せに出来るはずがない、そう思っている。だから、だからボクにそんな目を向けないで。

 初めて身体を重ねた夜、ここで白い"彼"の内面をドス黒く染めてしまっていたことに気が付いた。どこで間違えてしまったのか、ボクには分からなかった。それを考えるには人と関わるという経験がなさすぎたのである。これ以上は、ダメ。ボクは無名の旅人なんだ。キミと幸せを共有できる人間はこの広い星空に沢山存在する。その星々ごと、護らせてほしい。ただそれだけで今のボクは救われるんだ。
 どうやらボクがやってきたことは人を勘違いさせるただ無償の愛を降り注ぐだけの行為だったらしい。違う、ただその星に光が灯されていればいい、そう思っていただけだよ? かつてのフウガと同じことをしていただけだったのに、何でそんな顔をして、ボクを見てるの?
 そう、綺麗な空を飛んだ時の喜びを教えてもらったから、恩返ししただけ。ぐちゃぐちゃになって逃げだしていたボクに手を差し伸べたから、握り返しただけ。それ以外、何も、考えないようにしてる。だって、考えれば考えるほど、苦しいだけなんだもの。
―――だってキミはボクより遥かに早く死ぬ人間なんだよ? キミが死んだ後、どうしたらいいの? 一生想いを引きずって苦しんで最期は発狂して死ねって言いたいのかい?
 そんな余計な感情を抱くくらいなら。フウガの教えの通り名も無き旅人で居続け、全てから逃げ続ける方がマシなんだよ。だから、その手を離して。抱きしめないでよ。

 原初世界でのにぎやかさに対し第一世界では、"孤独"だった。いや、仲間や"内なる存在"はいる。嫌味を言いながらもフォローに回る敵か味方か分からない存在もいた。この世界の住人もとても優しくて、眩しかった。でもボクの心は乾き、溢れる光を身体に取り込み続ける。あんなにも嫌いだった闇が、恋しく感じた。目を閉じたら映る輝く星が最後の心の支えになる。ボクはただただ空に夜を取り戻すために斬り払い続け、どこがゴールか分からぬまま、とにかく走り抜けた。それは長い間やってきた旅と同じ筈なのに、空虚で悲しい気持ちに支配され壊れそうで、それでもボクは足掻き続けた。
 身体の中で暴れ続ける光で苦しかった時、夢に"彼"が現れる。嬉しかったからつい抱きしめてしまったし、余計なことを口にしてしまう。そう、妖精の悪戯により目の前にいた"彼"と夢を通して繋がっていたらしい。出してこなかった感情に身を任せた行為をよりにもよって"彼"に見られたのが恥ずかしくて、消えてしまいたかった。でも心が物凄く軽くなった気がする。"彼"の言う通り生きて、帰らなきゃ。

 全ての大罪喰いの光を喰らった後、意識が真っ暗になった。ハッと気が付くとあの男を消滅させ、世界の滅びも一次的に回避できた"らしい"。記憶は朧げにあるものの死に目に自分自身の言葉で挨拶も出来なかった。その時の笑顔と一筋の涙が流れた理由は、分からない。自分の身を挺してまで光を吐き切らせたアシエンを、ボクはどう思っていたのだろう。―――そうだ、この人は2人目の命の恩人だった。かつては闇を剥がし、次は光を剥がしたボクの中にあるナニカを見出した可哀想な人。どうか安らかに、星になっていて欲しい。
 仲間たちから一度原初世界へ報告しに帰れと言われた。正直、あの夢での件もあって少々会いたくなかった。だって答え合わせをする前に答えを出してしまったようなもので。しかしそれを誰かに言えるはずもなく、仕方ないから石の家で報告してからすぐに戻ろう。
 タタルに「ガーロンド・アイアンワークス社に顔を出してあげてほしいでっす! 皆会いたいって言ってたでっすよ!」と言われた。まあ今回霊災を回避できたのは別の時代の彼らなのだ。感謝を告げてからシドと鉢合わせする前に戻ってしまえばいいだろう。足取り重く護るべき者たちがいる場所へ向かった。



 足取り重くガーロンドアイアンワークス社に訪れるとシドから逃げていたはずのネロが立っていた。

「あれ、ネロサン。逃走生活終了?」
「なンだお前帰って来てたのか。……珍しく辛気臭ぇ顔してンな」

 そうだよだって休みなしでアシエン斬り倒して世界救ってきたしと肩をすくめて見せると「おつかれさン」とニィと笑っている。

「で? 他の世界には何か珍しい技術でもあったか?」
「キミはねぇ……あったよ。時代と次元の跳躍とかいう現実感のないすっごいのがね」
「ヒヒッそりゃよかったことで。そんなモン作った天才に是非ともお会いしたいナァ」

 その内の一人はキミだよと言いたい気持ちを今は抑え笑顔を向ける。

「まあボクは元気ってシドに伝言よろしく。別の時代の君たちのおかげでボクは死ななかったんだ。いやあこう戻って来ても暁の皆は第一世界から帰れないままだし。皆で手がかりを探してる所」

 手を上げ、踵を返す。「おいメスバブーン待てよ! 止まった方が自分のためだぜ?」という言葉を無視し、顔を上げ入口を見るとジトっとした目で仁王立ちしたシドがいた。

「はい?」
「お前さんやっぱり逃げる気だったか」

 ワンテンポ反応が遅れた隙にいつの間にか手に持っていたバズーカのようなものがボクに向かって撃ち込まれる。それは強力な網のようなものであっという間に捕らえられ倒れ伏せてしまう。ネロを見やるとニィと見下しており、「ま、まさかネロサンもグル!?」と言ってやると「だから言ったのになァ!」とゲラゲラ笑いながらどこかへ行ってしまった。軽々と持ち上げられ担がれていく。
 出会う社員たちに「アンナさんおかえりなさい!」やら「よかったですね会長!」やら罰ゲームのような雰囲気を味わう。力を込めても全く切れそうもない材質って何だよと思いながらなんとか指を網に向け「バァン」と火で穴を開けようとすると網全体が熱くなる。

「あっつ!?」
「アンナお前何やってるんだ!? 熱っ!」

 シドも思わず手から落としてしまうほど熱くなった網をバタバタと暴れるがびくともしない。

「アンナ!!」

 その時扉が勢い良く開き赤髪のヴィエラが飛び出してきた。シドは唖然とした表情で見ている。

「兄さん!?」
「駄目じゃないか! その網は僕が焦がしたらあっさりと切れてしまったからその反省点を生かして改良したんだよ。まさか妹の身体を火傷だらけにさせてしまう機構になるとは思わなかった、嗚呼可哀想なアンナ。うん、そこは反省している。よし反省会終わり。次回以降の改善点にしておくとして。じゃあ冷ましてやるから待ってろ」

 懐から何やら金属片を持ち出しそれを当てるとあっという間に冷たくなった。

「え、あ、ありがとう兄さん」
「ところで妹よ、僕は今ここにいるのは妹には秘密にしてるんだ。だから内緒な」
「うん? ……うん、分かった」
「おつかれ、よく頑張ったな」

 頭をぐしゃりと撫でられそのまま兄はどこかに去って行った。そっか内緒にしておかないといけないな。そう思ってると怪訝な顔をしたシドは再びボクを持ち上げて部屋へ運ぶ。抵抗する気も失せた。自室に連れ込まれた後その網を切り、笑顔を浮かべていた。

「さあアンナ、"宿題"の答え合わせをするか」



「怖いよな、失うことって。リンドウも自分の刃に大切な人を巻き込みたくなかったから逃げていたんだ」
「はぁ!? キミに何が分かる! フウガはそんな腰抜けな人間じゃない! ……ってあっ」

 最初に口に出したのはまさかのフウガの悪口。つい感情的に言い返してしまったことに気が付き口を閉じる。シドは優しく笑っていた。

「いいや、あの人は今のお前のように全て怖くなったから逃げ出して感情を封印してたんだ。―――俺は絶対、お前の目の前で死ぬさ。ああ決められた寿命ギリギリまで生きて死んでやるって約束する。でもお前は、俺の目の届かない所で死にたいんだろ? 死に目にも立ち会えず、苦しめって言うのか?」
「それは、だって私は沢山の人に恨まれて、苦しむんだからそれを誰にも見せたくないからで。キミが苦しむことなんて―――」
「俺も一緒に背負う。見て見ぬふりなんてしない。刃は1人でに動かないだろ? 整備も必要だし、それを行使するヒトも必要だ」
「ダメ! キミは自由で。キレイで。皆の前に立って。笑顔で幸せな所を見せて。そして私がキミを護らせてくれたらそれでいい。私を、そんな目で見ないで」
「俺は綺麗じゃない」

 頭をくしゃりと撫でられ、額をこつんと合わせる。

「俺はアンナが好きだ。だからお前を絶対に獣にはしない。俺はお前が最大限の力を発揮するための道を示す、星になる。だから、もう無名の旅人にならなくてもいい。アンナ・サリスとして隣に立っていてくれ。"お願い"だ」

 シドがボクの手の甲に口付け笑いかける。朧げな記憶の中に残っている寒空の夜と、逆の姿。星、そうだボクは星を探していた。光り輝く星を、ずっと。"彼"の目に宿る星を見る。ボクはザナラーンの星空の下でこの星を見た時、気に入ったと思ったのだ。

「ねえシド、本当に私は人の隣に立つ資格はあるの? いっぱい、捨てて来たのに」
「だってお前ずっと俺のこと好きでいてくれたじゃないか」

 は? この男は何を言っているのだろうか。ボクが特定の人間に感情を抱くわけがない。それがフウガの教えで。でも。

「お前も俺も、もう相手無しで生活なんてできんさ。観念しろ」
「そう―――かもしれないねぇ」

 温かい手を握り、目を閉じた。反証する材料が手持ちに一切存在しない、いい加減観念するべきだろう。だがそのための材料も足りない。

「でも感情に関してはもう少し待ってほしい」
「この段階まで来て何を」
「あなたに興味が湧いたんだ」

 キミはボクなんかのことを頑張っていっぱい探してきて結論を見つけたかもしれない。でもボクはキミのことは何も知らないんだ。ただたくさんある星の1つを愛でていたにすぎない。

「あのね、私はあなたの歩んできた道は一切知らない。興味なかったから」

 魔導院時代の話も、後見人だったガイウスとの因縁も、その脇腹の銃創の意味も。父親を失い亡命するきっかけになった事件もこれまで一切興味が湧かなかったのだ。

「今教えなくてもいいよ。私だって自分の足で探したい。その旅が終わったら、即結論は教える。だから―――」

 口付けてやり、少しだけ屈みその相変わらず分厚い胸板に頭をぶつける。汗と機械油の匂いにボクは"ここ"に帰って来られたんだな、と安心した。それに、さっきから少々人に見せられない顔になっているだろう、恥ずかしいんだ。

「第一世界は、1人で怖かった。そんな世界を頑張って救って帰って来たんだよ? 労ってくれてもいいじゃないか。兄さんやネロサンと違って帰って来るなり答え合わせとか言い出してさ。そんながっついて来ないでよ。子供か」
「あ。す、すまん」

 頭に温かな手が置かれる。そこでボクは声を出しわんわんと泣いた。こんなに泣いたのは、フウガの前で崩れた時以降一切なかった。

『蒔いた種はようやく実りやっと一歩前進、か。遅すぎ』

 内なる存在の声が聞こえた気がした。意味は理解できなかったが今のボクの感情に対して邪魔をする気はないらしい。

『泣け泣け。奴しか見てないんだからさ』

 温かさに包み込まれながらボクはこの世界に戻って来られた喜びを噛み締めた。



 声を出して泣きじゃくる彼女の頭を撫でてやる。確かに労いの言葉もなしにこっちの言いたい事を投げ始めたのは悪かった。早くしないと"また"逃げられるかもしれないと慌てた想いが先行してしまっていた。
 第一世界で何があったかはまだ話をしていないかは分からない。夢で見た地点で参っていたのは分かっていたが、相当精神的にも肉体的にも限界が来てたらしい。素直に一緒にいた暁の血盟の人間に助けを求めたらよかったのにと肩をすくめる。しかしそれを覚えてしまったら自分の所に来る頻度が減ってしまうじゃないか。そう考えると今のままでもいいかもしれない。
 しかしキスを交わしこうやって弱音を吐いてまだ感情を抱いてませんこれから考えますは嘘だろ? と思ってしまう。既に一線は越えているしあと何が必要なのかと聞きたくなるが流石に喉元で抑えた。

「おつかれさん」

 顔を上げさせ、彼女の顔を見つめた。頬を赤らめ、涙が溢れる目にいつもの余裕ある笑顔はなく弱々しい声で「見るなぁ」と言っている。

「ゆっくり結論を探せばいい。どうせお互い多忙で滅多に会えない関係なのは変わらないからな」

 そうだ、自分たちはそれぞれ周りに求められている存在だ。今までも何とか時間を作り逢瀬を重ねてここまで来た。それはこれからも変わらないだろう。強く抱きしめ、久々の冷たさを味わった。


Wavebox

#シド光♀

(対象画像がありません)

注意漆黒5.0終了直後の話なのでふんわりネタバレ   旅人は星を見つけ…

メモ

メモ

20240304メモ
注意
漆黒5.0終了直後の話なのでふんわりネタバレ
 
 旅人は星を見つけるというようやく観念し、自分の想いと向き合おうとする話を書きましたのでそのあとがき。
 5.0メインストーリー終了直後のお話です。

 シドは旅人は奮い立たせたいで言い渡された宿題をアンナが第一世界に行っている間に解くためにネロとアンナの兄エルファーと共に命の恩人リンドウ・フウガの終の棲家へ再び訪れる話(技師は宿題を解きに行く)と妖精のイタズラで夢で繋がり話をする不思議な出来事("夢")を経て今回の話になります。
 アンナ自体は"夢"で余計なことまで喋っちゃったから会いたくねー!って思ってるけどまあ報告には帰らないとだめだよね。じゃあ石の家行ったら帰る! え? ガロ社行け? ……まあ今回も別次元とはいえ助けてもらった人たちだし行かないとね……。ジェシーに挨拶して逃げようって感情でした。まあ"宿題"とやらは早々に終わり夢で逢った後も準備をしっかり先回りしているので捕まるんですけど。

 アンナの新生から漆黒までのシドに対する感情を初めてしっかり公開しました。実はそのモノローグの中で書いてない話が一つだけあるのでそれもいつか出しておきたいですね。
 鮮血の赤兎がアンナになって初めて出会った時から無意識に一つの星を見出して、ガルーダ戦の前には感情がバグり散らしていました。お前を助けるのはボクだ、ボクだけ見ろというのが星芒祭での話で、それからどんどん歯車が軋みオメガでのやらかしに繋がります。そして別に約束覚えてないなら隙を見て消えてもいいんじゃない? と思ってたりもしてたし人の心が理解できていませんでした。というかこれで特定の感情持ってないですは嘘だろ!? ってなるのも仕方ないです。普通は本気にされるよ。

 それも全てかつて命の恩人リンドウがしていたことを真似していただけという認識なんですね。実はリンドウもそのアンナと同じ感情になってるんですけど。「私の教えは成長するごとに忘れて行き、自分の目で大切な人を見極めて全てを護る強き存在になれと言いたかった。頑なに孤独で旅をして怒りに任せて暴れるだけでなく世界を滅ぼすトリガーに利用されろとは言ってない」って感じで。手紙にそう書き残す位には後悔していました。

 その想いを受け取ったシドが"宿題"の答えとして「俺はアンナが好きだ。だからお前を絶対に獣にはしない。俺はお前が最大限の力を発揮するための道を示す、星になる。だから、もう無名の旅人にならなくてもいい。アンナ・サリスとして隣に立っていてくれ。"お願い"だ」という言葉を送りました。リンドウの手紙に書かれていた『私はアンナを獣にし、人々を絶望させるために全てを教えたわけではない。アシエンの手を今からでも振りほどき星空の知識を教えた思い出と共に自由な夜空を愛してほしい』という部分から取って来たんですね。基本的に仕事相手以外には不器用だけどここまではっきりと明示されたらピンポイントにツボは押さえてくれると解釈しています。



 リンドウとアンナの最終的な関係。アンナからしたら命の恩人であり、師匠であり、幼い頃の初恋で、厳しいが優しい血の繋がりのない父であった人。リンドウからは全てが枯れた後に育てた娘という認識でした。というか枯れてなくても年齢差が30位あるし友人の妹に手は出せないという考えがあったり。墓参りの話のネロとエルファーの会話をカットしているので明かされてはいないのですがリンドウは度重なる"実験"により欲だけでなく生殖機能まで失い子孫を遺せなかった存在なのでアンナは本当に大切な娘として刻み込まれ、そして"継承"させてしまいました。

 手紙に残されていた友人が準備した"奥の手"が"内なる存在"と呼ばれるもう一人のアンナになります。どうやって準備されたかはまた別の機会に。これが時々アンナの意識を乗っ取って今回の話に繋がって行きました。乗っ取る基準は"ダメージを一定以上喰らった時"、"気絶した時"、"ストレスが一定以上になった時"と一種の補助電源のような存在になっています。一度死にそうになってもこの"内なる存在"が動ける限りは少しだけコイツが生き永らえさせることが出来ます。しかし本体が本当に死んでしまうと体内エーテルが切れた地点でおしまい。

 例としては幼少期シドと出会った時ですね。この時は凍死しかけ"内なる存在"に切り替わり、帝国兵に捕まるのだろうかと悩んでる内に偶然通りかかったシドに助けられました。その時に会話したのが"内なる存在"のアンナ。なので星芒祭の夜に再会した時の"旅人さん"も"内なる存在"が演じています。確実にシドの記憶に残すためにアンナを騙しあえてやりました。策士ですね。元のアンナが単純すぎるだけともいう。
 というわけでその"内なる存在"がどう介入していたかというのを加筆修正しました。対象の作品はこちら。時系列準。

・本編前
旅人と赤色
・新生
旅人は過去を視る
・蒼天
星降る夜の奇跡の話―中―
・紅蓮
好奇心は旅人を起こす // 旅人は奮い立たせたい // 旅人は、目覚めさせる // 旅人と約束
・漆黒
旅人を闇は抱きしめる

 以上。あとは差し替え以降に書いてるので省略。この辺りは確実に"ボク"になっています。見分け方はボクと"ボク"で実際喋ってる時もイントネーションが違う感じになっています。出番数的にネロだけは違和感に気付いています。シドの前に出たのは星芒祭と初夜後と検証終了直後に少々だけなのでちょっと検証材料が足りない状態。

 これらに加えて漆黒の大罪喰いを全て倒した後以降ハーデス戦が終わるまで全部"内なる存在"が終わらせています。理由としては本体は内包された光の気持ち悪さにダウンしてしまい1人塞ぎ込んでしまったから。全部フラフラしながら"内なる存在"が片付けました。しかし塞ぎ込みすぎてかつては自分の中に大量に溜め込まれた闇を、今回は光を体内から排出させてくれたエメトセルクにお礼が言えず後悔しています。それに関しては「知らん」と語る"内なる存在"であった。

 閑話休題。これ以降はボズヤ、ウェルリトを経てアンナによるシドを知る旅編が始まります。リンドウと別れて以降初めて人に興味を抱いたアンナはそれを知り、自分がどういう感情を抱いているかを自覚しようと努力します。シドだけではなく周りからするともうとっくに一線も越えて想いを伝えあう以外は大体終わってるのに今更何を言ってるんだと思われてますが、アンナは人の気持ちを一切理解してこなかったので考える事にしました。
 というのもこれまでのアンナは徹底的に君を助けるんだやらナイスイタズラやら自分の気持ちを押し付けるようにしてたんですね。人がどう思ったか反応を見る前に立ち去るのがこのウサギでした。でもエオルゼアの人間たちは絶対にお礼を言いに来たりシドは追いかけてどういう技術使ってんだと説教したりと「何でボクに構うんだよこっち見ないでよ!」って思うようなことになっています。ばかですね。冒険者だからだよ。かわいいね。

 もうくっついた後の話も何本も書いてるけど本軸もゆっくり進めたりエルファーメインのリンドウ、ア・リスという存在が色々やらかしてる話もしっかり準備はしてるので読みたい方はまたよろしくお願いします。

 あ、あと初夜話なんですけどfullを下げてシド視点とアンナ視点で書き直しました。

2024年3月7日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

(対象画像がありません)

ここ数ヶ月でノートしたメモlog  アクセの話星芒祭ネタのやつで設定上…

メモ

#log

メモ

ioで呟いたアンナ概念(今後書く予定もあるしSSにしてるやつもある)2
ここ数ヶ月でノートしたメモlog
 
アクセの話
星芒祭ネタのやつで設定上はアイオライトがあしらわれた髪飾りをシドから貰って完全に1人旅の途中は付けてるよって設定になってる
メインストーリー中は落としたり壊れたら嫌だから外してる

アイオライトの石言葉が「道しるべ」「誠実」って感じで
お話上ではその辺り考えずにあげたけど自機は即気付いて嬉しいって思ってるよって感じ
 
SかMか
普段の行動やら戦闘方法やら見てるとそういう枠組みが存在しないかSと思われがちだけど実際はMですねえ
アンナも自覚は無いけど相手からは把握されてる感じ
 
絵心(ピクトマンサー話題の時に)
そんなに嗜んでこなかったから多少旅の記録として発見した珍しいものや構造物をスケッチする程度
地図書く腕はありません
 
ギャザクラ
何でも出来るよって感じに上げてますね
料理が一番得意
1人で生きていけるからってアピール
50年以上迷子でサバイバルしてたんだから料理とギャザラー要素とあと木工革細工くらいはできるに決まってるよなあって感じで
そのスキルは現在イタズラ装置を作るのに役立ててます
 
守る守られる
お互い守ってもらってるなあって思ってるよ
そりゃ人やシドから見たら圧倒的パワーで自機が守ってるって感じだけど自機は「彼の作った道に守られて進んでるだけだよボクはね」って笑顔で言うよ
 
ジョブの話
まず、自機の後付けで付けた森の名は『フレイヤ・エルダス』で
エルダス(Eldur)とはアイスランド語で火という意味なので生まれ故郷は森の中にいながらも火を重んじている部族なんですよ
だからそういう魔術への理解も早いんですね
だから魔術系ジョブはヨシとしています

竜騎士というか槍術士が育成遅れたのは、「『鮮血の赤兎』時代が槍持ってたのですぐに高揚して殺意漏れるから過去バレしちゃうと怖がっていた」という後付け設定を作ったんですね
暗黒は、前にノートしたけど迷子になるから闇が嫌いという事で理解が出来なかったけど、漆黒終わってから「ずっと明るくても迷子にはなる」と少しだけ向き合うようになったんです
そういう意味ではリーパーも一緒

逆に侍がメインジョブなのは、何も考えずに森を飛び出して行き倒れていた所助けてくれたのが侍なヒゲのおじ様だったからですね
憧れの命の恩人みたいに刀を振るい人助けしたいと思い手に取ったわけです
殺意溢れる気迫はこのおじ様から受け継いでいます
ゴウセツ氏はその侍のおじ様を知っており、時々溢れる気迫が似てると指摘されます
ウサギは照れてますっていう設定

要するに、紅蓮辺りまでは槍以外はどの武器も慣れてないからその辺りの冒険者と変わらないよーっていう無害アピール
つまりメインでボロ負けするのは一種の舐めプという後付け設定
 
自機の脳みそ(Y談ビームから派生)
そもそもY談内容は自分と一切結びついていない脳筋野生生物なのでへーこういうのがあるんだってねーすごいね人体って思ってるよ
だからああいう物語になっちゃうんですね

自機の影響された環境が
リンドウ(20年旅してた)>アリス(15年程度会ってた)>里(14年過ごした)>>>>エルファー(合計1年も一緒にいない)
なのでお兄ちゃん可哀想
 
内なるやつ関連
内なるやつとフレイくん的なポジションになるやつは違うヤツです
先に言っておきます内なるやつはまじでお前なんなんだよ!ってなりますなりました
 
戦い方教えて!
アンナ「右腕に戦うぞパワーを溜めてそれを刀に込めて力にしズバッといけば一撃必殺」
リンドウ「全身に戦うための力を溜めそれを刀に込めて振りかぶれば一撃必殺だ」
ア・リス「こうやるぞ!って腕にズバーンってやってドン!っとやればいいんだよ!こんなもんフィーリングだ!」

エルファー「(こめかみに指を当て震えている)」

リンドウ「では今から出て来たモンスターを使って解説しよう。まず貴様が持っている武器の間合いからだが(くどくど)」
ア・リス「んなもん考えなくても俺様の秘密兵器を使えばな!」
エルファー「吊るして燃やせばいいだろ」

リンドウ(アンナの命の恩人で師匠)は努力で強くなって更に大ドーピングした人間なので各モンスターやら人の特性を理解した上で理詰めも出来る感じ
アンナはそれをそのままそっくり暗記してるから無意識にやるから脳筋解答になる

エルファーは吊るして燃やせばいいって思ってるしア・リスは色々荒らした"成果"でモノを作ってるからそれ使おうぜーお代はお前の命なーって冗談混じりで言う
 
アンナはメスバブーンとか野生生物かって言われたら実はちょっと違うんだよね
武器の特性とかも含めて全部理解させられた上で事故で死にかけたアンナの命を救うため仕方なくリンドウと同じ大ドーピングされたからただの人間兵器なんだよね。

#log

2024年3月8日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

(対象画像がありません)

注意漆黒以降暗黒騎士の力を手に入れた自機と影身フレイの短編3本立て  …

漆黒

#シド光♀ #フレイ

漆黒

ウサギは影と踊る
注意
漆黒以降暗黒騎士の力を手に入れた自機と影身フレイの短編3本立て
 
"英雄"
「逃げたくないのですか? 英雄という枷から」
「フレイ」

 目を開くとひょろりと長い影がアンナを見下ろしている。どうやら自室のソファで寝落ちしていたらしい。決してその顔を覆うバルビュートを外さない彼の者フレイは主の答えを待つ。

「何度も逃げようと思ったさ。でも今が一番楽しい」
「楽しい、ですか」
「そそ。辛いこともあったし、苦しかった時もあった」

 脳裏に浮かぶのはこれまでの旅路。英雄と呼ばれるようになり数々の陰謀に巻き込まれてきた。しかし"運のいい"彼女はいつも差し伸べられた手を握りしめ走り続ける。フレイは未だにその姿が不安に思っているのだろう、安心させるかのように優しく語った。

「でも何も目的もなく嫌な目で見られながら旅をしていた頃に比べたらマシさ」
「……それはあなたが手にしてしまった力のせいですか?」

 手にしてしまった力、それは命の恩人に教えてもらった"無駄に強い"もの。そもそもそれが原因で悲惨な目に遭い、"鮮血の赤兎"と恐れられた時期もあったのだ。フレイはそれを言いたいのだろう、アンナは笑う。

「そうだよ。でもこれは人を護るために教えてもらえた唯一無二のものなんだ。誰にも否定なんてさせない」
「そう、ですか」

 フレイは洗練された動きで跪き、寝そべるアンナと同じ視線で見やる。アンナはクスリと笑いそのバルビュートの口元に手をかけるが大きな手で阻まれてしまう。ケチとボソリと呟くと金色の双眸を細めながら額を指で弾かれた。

「いけません。あなたには見せられない顔な故」
「いいじゃん減るもんじゃなし」

 唇を尖らせて不満を言う様にクスリと笑う声が漏れていた。直後アンナを抱き上げ、ベッドに優しく落とす。一瞬驚いた顔を見せたがすぐにいつもの余裕のある笑顔を見せた。

「あなたが英雄であり続ける限り、"ボク"もあなたと共に戦いましょう」
「ええ。折角闇と向き合おうって決心した成果なんだから地獄の果てまで付き合ってほしいね」

 おやすみなさい、とフレイが言うとすぐにアンナは目を閉じ、寝息を立てている。クスリと笑い声を漏らし寝台から離れ、ドレッサーの前へ立った。その眼を閉じてバルビュートを脱ぎ、その顔をじっと見つめるように開いた。

―――長い銀色の髪に青色の目。左の目元に傷があり、長い耳を揺らした男はため息を吐いた。

「おぬしの闇、ということは"私"が出て来るのも仕方のない話」

 自らと溶け込んだ"フレイ"、そして主人格である"アンナ"と同じ笑みを浮かべ、眠る赤髪の女をじっと見つめた。

「地獄の果て、か―――そこへ行くのは"私"だけでよいのだ、エルダス」

 再びバルビュートを被り、闇に溶け込むように消えた。

 
"修練"
―――影はどんな武器も扱うことが出来た。

「うーフレイ強すぎ」
「あなたがまだ未熟なだけですよ、アンナ」

 フレイは暗黒騎士の影でありながらも数々の武器を"影"で作り出し、修練に付き合ってくれた。稀にリテイナーのアリスも手伝ってくれるがやはり自分の影で殴り合える方が楽しい。と思っていた。自分の影なら実力が互角になるというのがお約束だろうにフレイの方が圧倒的に強くあっという間に転がされる。両手剣も、斧も、双剣も、刀や槍でさえ勝ることはない。息一つ乱さずその金の目で確実にクセを読まれ弾かれる。一度勝ったはずの相手なのに、自分と混じり合った影響で余計に強くなるなんて予想外だ。

「手加減しろー」
「しています」
「その武器の射程減らせー」
「本番に弱くなりますよ」

 重そうな鎧と視界が狭そうな兜を被っているくせにどうしてそんなにも軽やかに動けるんだとアンナは悔しがる。
 しかし裏返すと共に戦う時は心強い味方になるということだ。

「ほらもう今日はもう終わりにしましょう。2時間ぶっ続けは疲れましたよね?」

 そして程よいタイミングでこうやって自分を甘やかす。勝てないな、そうアンナは苦笑を浮かべた。

「今日は何を食べようかな」
「蕎麦とかどうでしょうか?」
「もーフレイ本当に蕎麦好きだね。天ぷらと食べようか。今日シド来る予定なんだよね」
「……"ボク"の分はなしと」
「フレイどの道私の前じゃ食べないじゃん。おにぎりと一緒に置いとくから夜中に食べて」
「寿司にしてください」
「はいはい」

 フレイは東方料理が気に入ったらしい。食事は特に必要ない性質らしいがやはりあると意欲が上がるようで「美味しいですよ」という言葉を聞いていて楽しい。
 兜を脱ぐからかアンナは食べている所を見たことはないが。気が付いたら空になった食器があるのが日常である。

「いつか一緒にフレイとご飯食べたいな」
「考えておきますよ」

 こう言う時は大体考えるポーズを取るだけなのは知っていた。まるで「努力しよう」と言うシドのようだと頬を膨らます。自分よりもすらりと高い影を見上げ、鎧を小突いた。

 早々に仕込みをし、デスマーチで疲れたシドを迎える。側に置いてある3つ目の皿に首を傾げる男をケラケラ笑いながら夜は更けていった。
 深夜、2人が寝静まると影は音を立てず形を作り暗闇の中食事を摘む。バルビュートの口元を外し青色の目を細めながら幸せそうに笑うアンナの顔を浮かべ、再び闇に溶け込み消えた。次の日、寝る前はあったはずの天ぷらが消え慌てる何も知らないシドに「夜食はダメ。太るよ?」とからかい笑うアンナの姿があった―――。

 
"浮気?"
「アンナが見知らぬ男と鍛錬してた?」

 シドは大きなため息を吐いた。整備帰りの社員が偶然飛空艇の上から見かけたらしい。全身甲冑を纏った長細い男と思われる人間と戦っていたのだという。見た所、喧嘩や殺し合いというわけでもなくアンナが斬りかかっては弾き飛ばされ転がされていたという話はにわかには信じがたい。あの負け知らずのアンナが、見間違いではないかと言うが間違いなく黒髪赤メッシュヴィエラ女と聞くと本人だろう。まさか今になって何も言わず他の男の所に行くとは思えないが、また変なことをしている想い人にため息しか出ない。試しにリンクパールに繋げてみる。

『もしもし』
「アンナ、今いいか?」
『何か私の力が必要になる変な仕事でも?』
「いや、最近お前さん修行でもしてるのか?」
『―――あー』

 どこか歯切れが悪い。息も少し上がっている気がする。

『してないしてない。ごめんちょっと用事思い出した。切る』
「お、おいアンナ!」

 プツリと切断される。怪しい。

「なあレフ、アンナが何か怪しいのだが」
「また喧嘩でもするのか?」
「そういえば先日飯食いに行った時も変だった」

 1人分余分に作られ、目が覚めると無くなっていた。おかしいと思わないかと言うとレフは肩をすくめネロは爆笑している。

「寝ぼけてどちらかが食ったでなければネズミでもいるんじゃないか?」
「ネズミ」
「ケッケッケッ、いやあ分かンねェぞ新たなバブーンでも拾ったンじゃね? ヒトじゃなくてガチモンの野生生物をな」
「お前たち人の不幸を面白がってるんじゃない。というかそこらの生物に天ぷらを食わすわけないだろ」

 とりあえず本日最終便でリムサ・ロミンサに行くかと拳を握る。



「フレイ、シドに察されたかも」
「言えばいいじゃないですか」
「まだ遊べる」

 アンナはリンクパールを切った後自らの影と対話する。鍛錬の合間にかかってきて平静を装うのも疲れたと座り込んだ。

「妙な勘違いされて痛い目を見るのはあなたですよ? アンナ」
「むーそうなんだけどどう説明すればいいのかも分からんね」

 闇と向き合いもう1人の自分が影身として具現化し、それと修行をしていますなんて言える? と聞くとフレイは肩をすくめた。

「"ボク"だったら呪術士の元に連れて行くかもしれませんね。マハで妖異にでも憑かれたかもしれない、助けてほしいと」
「ほらー!」
「はい休憩は終了です。続きを始めましょうか」

 フレイはアンナから欠けていた感情である。"無名の旅人"として負の感情を触らないようにし、斬り払うように奔り別の世界までも救った。
―――きっかけは護ると決めた男だった。英雄という道を作ってくれた白い星と一度次元の壁に隔たれた時に"それ"が牙をむき蹂躙する光と共に襲い掛かって来た情景を思い出すだけで未だに震えてしまう。もうそんな弱さを露呈させるわけにはいかない。だからどこか懐かしさも感じる男に今日も刃を向けその不安を落ち着かせるために修練を重ねる。
 溢れ出した感情に引っ張られた"力"が"また"誰かを傷つけるのではないかと手が震える。―――自分が使う"力"はまだ大切な人たちを傷つけたことがないはずなのに、不安が襲い掛かるようになった。何度も護ると決心した人間たちまでも傷つける夢を見るようになり、目が覚めた後何度も小さな声で謝る時もあった。そんな時にエーテルで補強された長細い影のフレイが現れ、修練に付き合ってくれるようになる。そうだ、英雄であるために、弱さと向き合うためにアンナはシドにも言わずその剣を自分より頭一つ位大きな自らの影に振るう。"内なる存在"とはまた違う相棒という存在が久々にアンナの心を滾らせた。
 ニィと笑い、腕に力を集中させる。

「ああ、私はまだやれるさ」
「ええ、あなたの全力を"ボク"に見せてください」

 空気が震え、赤黒い光を抱きしめる。怒りも、この護るという意志も全て、自分のものだと飲み込みながらその力を穿った。

「あーご主人らやってんねぇ」

 1人と1体に悟られない距離まで離れた場所にて白衣を纏った金髪ミコッテの青年はカラカラと笑いながらスコープを覗いている。アンナのリテイナーであるアリスはそのエーテルの塊である影を凝視しながら呟いた。

「イシュガルドの暗黒騎士ってやつァよく分かんねぇな。ちと調べて今後の参考にすっか」

 2人の歪んだ"家族団欒"(修行)を邪魔するわけにもいかねぇしよ、と踵を返し掘り出し物探しへと走り去っていった。



 シドは貰った鍵を回し、扉を開いた。既に真っ暗で寝息が聞こえる。珍しくもう眠っているらしい。少し遅い時間だったが思えば一言も連絡なしで来たのだから何も準備されていないだろう。
 連絡を交わしてから全く集中出来なかった。レフが手回ししたのかきちんと飛空艇の最終便へ間に合うように帰らされる。明日は朝一の便で行けば大丈夫だろうと感謝しながら軽くため息を吐いた。
 椅子をアンナの前まで運び座り見つめる。そして頬に手を近づけた瞬間、ふと声をかけられた。アンナと自分以外誰もいないはずなのに、だ。

「レディの寝込みを襲いに来たのですか? なかなか大胆なことで」
「っ!? 誰むぐ」

 真っ黒なガントレットがシドの口を塞ぐ。見上げるとひょろりと長い全身鎧姿のヒトが口元に指を当て見下ろしていた。

「"ボク"だったらあからさまに不審な態度で連絡を切られたらその日のうちに様子を見に来る。申し訳ございません。"我が主"はどう説明すればいいのか、悩んでいただけ」

 まあまだ遊べるとも言っていましたがとくすくす笑う男の声に眉をひそめた。

「お前は、誰だ」
「フレイとお呼びください。"ボク"はアンナの影、闇が具現化したもの。所謂アンナの弱さ、"負の感情"」
「何を言っている。アンナの森の名と何の関係が」
「そうとしか説明が出来ないのですよ。あぁ既に表舞台から去った存在たちとも言えますね」
「……アンナは"また"厄介なやつに絡まれているってことでいいか?」
「新たな力を使いこなすための修行中、と言ってほしいですね。兎に角あなたの敵ではないということだけ分かっていただいたら幸いです」

 のらりくらりと自分の質問を躱す姿に頭痛がし、少しだけ眉間に皴が寄って行く。

「もしあなたに危害を与えてしまうと、"我が主"が怒ってしまいますからそんな目をしないでください。殺意を持たれたら、手が出てしまいます」

 フレイと名乗った男は跪きシドの手を優しく握りしめた。金の双眸が細められじっと見つめる様にどこか懐かしさを覚え少々緊張が解けていく。

「"ボクたち"は"我が主"の心の壁を壊し、氷を融かしたあなたに感謝しています。だからどうか、これからも末永く、"この子"を頼みたい」

 返事を返す前にそれは暗闇の中に溶け込み、消えた。顔が熱い、そう思いながらコートを脱ぎ頭を冷やすためにシャワーを浴びに行く。「俺は、疲れてるんだな」というボヤキは水音でかき消された。

 シドがシャワー室へと向かい数刻後、再び影は形を作った。バルビュートを脱ぎ不器用な笑顔でその先を見つめている。

「確かにあやつの言った通りか。エルが複雑な感情をもつわけだ」

 男の目に宿っていた星のおかげで"圧倒的な力"に怯えず前へ進む"主"の髪を優しく梳き再び溶け消えた。直後、シドはブランケットで髪とヒゲを乾かしながら現れる。寝台で眠るアンナの横に座るとふと腕を掴まれる。

「し、ど?」

 半覚醒状態のアンナがとろんとした目でシドを見ている。

「ああ起こしてしまったか?」
「ん、だいじょーぶ」

 まだ寝ぼけているようだ。普段だったら「何でいるの!?」と驚くだろうに。ここにいるのが当然のような動きを見せているのが少し面白かった。

「はやく、寝よ?」
「ああ俺もちょうど疲れてたんだ」
「ん、おやすみなさい」

 心の中で浮気ではないようでよかったと安堵する。冷たい身体を抱き寄せ、目を閉じた。



 いつもの起床時間だとアンナは目を覚ます。何だか身体が重いとその腕を掴んだ。

「……腕?」

 視界は肌色。飛び起き隣を見ると寝る前にいなかったはずの男が眠っている。記憶を呼び寄せてもトップマストの一室に来るという連絡は受けていない。アンナは首を傾げまずは日付を思い出す。間違いなく休日ではない。ということは朝一の便で帰るということか。時計を見やり「こっちに来る時は事前に連絡!」と言いながらゲンコツを入れるとシドは情けない声を上げながら目を開けた。

「ああすまん。お前さんがまた変なことしてるのかと思うと居ても立っても居られなくなってな」
「寝ぼけて変なこと言ってる? 軽く朝食作ってあげるから遅刻しないでね」
「ん、ああ勿論」

 言ってくれれば晩飯も置いといたのにとボヤきながらエプロンを付けキッチンへ向かう。シドは「日中用事があるって一方的に通信を切った人間の言葉じゃないな」と目をこすりながら着替えを手に取った―――。

「それで? アンナ、俺に『まだ遊べる』って隠していることとかないだろうな?」
「……ナイヨ?」
「いつか話すんだぞ。苦しみも全て、一緒に背負うって言っただろう」
「―――分かってるつもりさ」

 ジトっとした目で睨むシドから目を逸らし、焼いたパンをいつもより多めに押し付ける。一連の動作に子供かと思いながらコーヒーを啜るのであった。


Wavebox

#シド光♀ #フレイ

2024年3月10日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

(対象画像がありません)

注意漆黒以降の自機が子供化ギャグ概念をまとめたページです。漆黒以降のキャラがいる…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

長編:旅人は子供になりすごす
注意
漆黒以降の自機が子供化ギャグ概念をまとめたページです。漆黒以降のキャラがいるのでネタバレ有りに入れています。キャラ崩壊がすごい。
ネロ+光♀気味のシド光♀。ネロと自機はお互い気が合う友人以上の感情は一切無し。その4だけシド光♀です。
R18パートはがっつり特殊性癖なので自己責任で。

長編
その1 // その2 // その3 // その4

フルver(R18入り、約32,000字)

後日談

いつか

2024年3月18日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

(対象画像がありません)

注意前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。  ―――アンナは誰…

蒼天

#シド光♀ #即興SS

蒼天

"歩み"
注意
前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。
 
―――アンナは誰とでもいつも数歩後ろを歩く。

「アンナ、こっちッス!」
「感謝」
「いつも悪いなあ」
「構わない」

 先頭のビッグスと少し後ろにいるウェッジの更に数歩分後ろを歩くアンナはニコリと笑う。今回は魔大陸にて見覚えのない装置があるという報告を受け、護衛としてアンナを連れて来た。ちなみにシドは別件で忙しく不在である。
 アンナは2人の話を聞きながら相槌を打つ。そして敵が見えると目にも留まらぬ勢いで斬りかかりあっという間に両断された。終わるとニコリと笑顔を向け、再び彼らの後ろを歩く。

「そういえばアンナっていつも皆の後ろを歩いてるッスけどどうしてッスか?」
「そんなに変?」
「親方と歩いてる時もそうだよな。もしかして無意識か?」

 その言葉にアンナはしばらく首を傾げ考え込んでいたがすぐにぽんと手を叩く。

「若い頃からのクセみたいなもの。気にしないで」
「なるほど。……なるほど?」



「っていう話があったんスよ親方!」
「具体的理由はなしと」
「あの人全然自分の話はしないのは親方が一番分かってるはずなんだがなあ」
「聞こえてるぞビッグス」

 シドは自分が不在の場で部下と何かあれば"アンナとどういう話をしたか"と絶対に聴取しに来る。今回はウェッジの報告への反応に対し、ボソリとビッグスはつい呟いてしまう。案の定聞こえてしまったらしくジトっとした目で睨まれた。「すいません」と濁し落ち着かせる。

「確かに俺も気になってはいた。暁相手でもいつも笑いながら数歩後ろ歩いてる」
「ララフェルの歩幅にも合わせられるのは凄いよなあ。特殊技能だ」
「アンナは特殊技能しか持ってないと思うッス」
「瞬間移動みたいな運動神経。色んな武器の使い分け。手先も器用、エーテル操作も難なくこなせて超える力持ち。盛られまくってるな」
「天は二物を与えずって言葉絶対嘘ッスよねー」

 羨ましいがその対価を考えるとああはなりたくないなとビッグスとウェッジはため息を吐く。それに対しシドはぼんやりと次にアンナに聞いてみるかと考えていた。



「なあアンナって何でそうやって後ろ歩いているんだ。話しにくいだろ、横にでも来たらいい」
「私は大丈夫」

 今日は飯でも食いに行かないかと誘うとあっさり了承を貰いレヴナンツトールで待ち合わせをしていた。合流し歩き出したが、いくらスピードを落としても絶対一定の距離から気配を感じる。シドはそれに見かねて立ち止まり、振り向くとアンナは首を傾げた。

「何かあったら即追い抜き解決。私、人の後姿を見るの好き」
「後姿を、か?」

 予想していなかった回答に首を傾げるとアンナは笑顔を見せた。

「小さい頃、後姿を追いかけながら会話してた。ついでにどんな顔をして話してるか想像、楽しい」

 ほら歩いた歩いたと急かされると諦めたのか再び前を向き足を踏み出した。

「お前さん使用人でもしてたのか?」
「んーちょと違う。……師弟関係?」
「なるほどな。今俺はどういう顔してるか分かるか?」
「うーん……笑顔」

 シドは少々眉間に皴を寄せ呆れた顔をしていた。新たな単語の"師匠"という存在が気になっている。どうしてそこまで興味を持ってしまっていたのか。しかももやもやする気分付きで。この時のシドはその心理が理解が出来なかった―――。



「昔お前がずっと後ろ歩いていた理由を聞いた話を覚えてるか?」
「覚えてない。私は大丈夫」
「覚えてるじゃないか。ってこれ前に別の話題でもやったな」

 シドは歩きながらアンナを小突く。お互いの想いを確認しあった後、まずやったことは隣に歩かせるために腕を掴み引っ張ることだった。最初こそは抵抗していた。だが5回ほど繰り返すと諦めたのかようやく自分の隣を歩くようになる。流石にまだ手を繋ぐことすらしていないが近いうちにまた教えたらいいだろう。微妙な距離感でも一歩前進していることが目に見えて分かるのだから。

「"師匠"ってリンドウのことだよな?」
「うん。フウガ、私よりひょろ長。足幅大きく歩くスピード速し。だから追いつけず」
「配慮出来ない人だったのか?」
「いや、本人はゆっくりのつもり。当時ちっちゃかったし。フウガデカい目印。迷子は無縁」

 不器用な人だったと笑顔を見せている。シドはジトっとした目で見つめている。それに気付いたアンナは「あなたが振った話題」とため息を吐いた。直後、シドはふと何か思い浮かんだのだろう、拳を握りニィと笑う。

「だが俺はリンドウよりも先に行ってると自信があるぜ」
「えらい自信」
「今アンナと生きてるからな。しかもこうやって横を歩いてるんだ。それだけでアドバンテージがある」
「じゃあ妙な嫉妬しない。フウガの話題妙に突っかかるじゃん」
「嫉妬なんてしてないさ」

 一瞬でバレる嘘はつかない、とアンナはシドの頬を抓る。その後、目線を合わせるように少しだけ屈み笑顔を見せた。

「まあその、えっと、フウガより大量に思い出を作ればいい。今を生きてるんでしょ?」
「―――言われなくともそのつもりさ」

 夜空を見上げ、軽く息を吐く。煌めく星が今日も輝き2人を見下ろしていた―――。


Wavebox

#シド光♀ #即興SS

2024年3月19日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

(対象画像がありません)

注意&補足第八霊災ネタ。死ネタ。暁月ネタ有り。自機出番なし。漆黒後に現れるリテイ…

暁月,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

暁月,ネタバレ有り

その複製体は聞き記す
注意&補足
第八霊災ネタ。死ネタ。暁月ネタ有り。自機出番なし。
漆黒後に現れるリテイナーのア・リスが第八霊災が起こった後に"起動"される話。
メイン軸では触れられないだろうアンナとエルファー、ア・リス、リンドウの秘密な独自設定を明かしています。
 
―――俺様が起こされたのは"傑作"が世界によって壊された後の話だ。

 俺様はかつて友人の遺言を遂行し、"傑作"を最高なものに仕上げるために奔走した男の複製体。作った"親"は友人の魂の一部と共に想いを託し消えた。
 そんな"傑作"が完成し、ある"トリガー"を引いた際に俺様が起動するよう誘導させる、これが当初の計画である。しかしその願いが叶うことはなかった。

 目が覚めたら周りにいたのは赤や青の同じような服を着た男たちと勝手に"トリガー"役に任命した友人。驚愕した顔で俺様を見下ろしていた。

「お前、何で」
「起きたお姫様にはおはよう、だろ? よお久々だなエル、大体60年ぶりか?」
「……85年ぶりだ、寝ぼけたことを言ってるんじゃない阿呆」
「そっか。フレイヤちゃん元気? 念のために言うがテメェの可愛い妹のことだぞ? あの子がいないと俺様は起きることが出来ないはずだから知ってるよなァ? 会わせてくれよ俺様の最高傑作にさ。ケケッ」

 俺様はそこでこれまでにあった話を聞かされた。第七どころか第八霊災が起こり、フレイヤ―――いやアンナ・サリスは死んだらしい。"親"と友人の魂を抱えたままで、だ。どういう作り話だよと笑ってやったが隣にいた白色の男に胸倉を掴まれたことで現実と知る。

「お前がアンナを壊したのか!?」
「壊したぁ? 人聞きが悪いことを言うな。俺様が『生・か・し・て』やったんだよ。ていうかテメェはあの子の何なんだよ。あ、まさかコレか? ケケッそんな怖い顔すんなよ。俺様は嬉しいんだ。あの子が人間に近付いていたってことになァ」

 その白色の男はえらく友人にそっくりな真面目そうなヒトだった。多分アンナも無意識に追いかけていたんだろうな。でも反応的にはお互い想いを伝えることはなく両片想いだったのは分かる。焼き焦がれるほど想っていたのだろう。ああなんて青い男なんだ。
 それよりも少し離れた場所からの気配が気になる。賑やかだったから近付いてきたのだろう、これは悪意を何もない獣だ。このラボが壊されては困る。その腕を振りほどき、そばに置いていた短銃を手に取る。俺様用にカスタムされた特殊なモノだ。外に向けてぶっ放す。爆音が響き渡り俺様以外の人間が耳を押さえている。

「お前!?」
「うっせぇなどけどけこの中のものが壊れされたら嫌なんだよ」

 その言葉と同時に外で見張っていたのだろう女が「魔物がこちらに向かって! きゃっ!?」という声を上げた。すかさず足に力を籠め"跳ぶ"。エルファーは目を見開き俺様を見た。

「エル、俺様はただウロウロ遺跡を荒らしてただけじゃないんだぜ? 俺様はこの施設を"護りたい"んだ」



 外にいた魔物をあっという間に片付けると白い男が俺に声をかけた。

「よしよし問題なく使えてよかったぜ」
「それは気迫か?」
「おー懐かしい。リンが付けた名前じゃないか。違うぜ、これはシハーブってんだよ。だっせぇ名で呼ぶな」

 造られた身体に施されたモノにより"再現"された技術に満足出来た。エルは大股で近付き怒鳴って来る。

「どういうことだ!? "それ"を何で使えるんだお前は!!」
「そりゃ普通の人で実験したら下手すりゃ溶けちまうだろ? 先にアラグのクローン技術を"再現"していっぱい自分の複製体を作り試してたんだ。んで、成功した"俺様"をバックアップとしてこの地に保存してたってわけだ」
「ハァ!? オマエそンな理由でクローン複製したってか!?」

 次はひょろ長い兄ちゃんが必死な顔して言ってくる。これで察した。コイツらは技術者集団のようだ。エルは中々楽しい奴らをオトモダチに持ったみたいで安心する。

「さあエル、こんな所に長居は不要。これから俺様をどうする? 今殺すか? それとも―――連れてくかい? あの飛空艇に乗せてさ」
「―――会長クン、君に託そう。彼、の元は僕のかつての友人であり、リンと共にアンナを歪ませた元凶だ。だがどんな無茶も叶えてくれる天才でもある」
「ケケッその技術はテメェも共犯者だろ?」

 会長、と呼ばれた白色の男はしばらくこちらを見つめていた。そして口を開く。

「条件がある」

 条件、それはこれからの自分たちに対して口出しをするなという。その腕っぷしで護衛しろと言いたいらしい。一種のカミサマとして置いておくということなのだろう。気に入った、快諾してやったよ。

「じゃあ次はこっちが条件を出すか。俺様が持っている記憶はリンが死んだ直後までだ。それ以降は何も知らない。この世界の歴史だけじゃない。お前たちそれぞれの人生を順番に聞かせてくれ」
「―――全員か?」
「おう。ここにいるメンバーだけじゃない。俺様が死ぬまで文字通り全員の記憶と、アンナちゃんとの思い出を聞かせてくれないか」

 こんなにもあの子に必死になるような人間が増えたことが何よりも嬉しかった。赦される気はない、ただその歴史と記憶を全て聞いてそれを形にしたいだけで。
 まあ一種の懺悔室扱いされることになったんだけどな。それもまた人生だねケケッ。

「ああ自己紹介がまだだったな。俺様はア・リス、しがない科学者の複製体さ」

 ニィと笑ってやると何故か拘束されて連れて行かれることになった。何でだよ。



 飛空艇の上から各地の様相を見せてもらったがそりゃ酷いものだった。いつだって人間は勝手な生き物だなとため息を吐く。大体の為政者は死に、大気中のエーテルも弱り今まで使っていた燃料もゴミになった。だからどの勢力も余裕がないということらしい。幸い俺様を縛っている奴らはどこにも属さない技術を握る会社だったため狂った人間があまり出なかったみたいだ。何人も死人を出しながらもなんとか飛空艇の燃料である青燐水の変換を行い、アンナちゃんが遺したモノに挟まっていた地図を辿りラボに足を踏み入れたらしい。

「アンナちゃんは俺様の最高傑作になる予定だった。"アシエン"とやらに使い潰されるより先にリンと同じく欠けちまったものを取り戻す。そのために肉体を捨てたんだが完成する前に壊れちまうとはなあ」
「これ以上アンナをモノ扱いするとここから落としてやるからな」
「ひえー会長サマはコワイコワイ。そもそもリンがやらかさなきゃ俺様はあの子に何も施さねぇって。だからアイツを恨んでくれよ」

 シドという白い男はとにかくアンナのことを問いただしてきた。自分の知らないあの子の過去が気になるのだろう、覚えてる範囲で少々教えてやった。そして逆にコイツからも聞き出してやる。子供の頃、寒空の中助けて20年後に気付かぬ内に再会、仲良くしていたらしい。

「そうか、リンが死んで俺様が消えた次の年にテメェがかつてアンナちゃんを助けて、ねえ。想定通りの仕様として動いていてよかったさ」
「想定、通り?」
「あの子の意識が途切れても体内エーテルが尽きるまでは"俺様"が身体を動かせたんだよ。尽きたら本当に死ぬんだけどな。多分その時凍死しかけてたぞ。テメェが通りかからなかったら皇帝の前に持って行かれてたかもな」
「どういうことをしたらそうなるんだ」
「俺様最後の研究。アンナちゃんの"もう一つの人格"になってやってたんだよ。そうでもしねえとリンみたいな無欲で枯れた閉じ切ったアホの再演になったんだわ。ついでに反省させようとドアホの魂の一部も持ってな。時々意識乗っ取って必要な情報を見せて教育してやることにしたんだよあの底抜けたアホと一緒にすんじゃねぇ」
「オマエがアレかよ!?」

 近くで聞いてた金髪の男ネロが乱入してくる。どうやらコイツの前では結構出て来ていたらしい。

「時々変な含みのある喋りしてンなって思ったンだ。いつもより頭も良かったしよ」
「俺の前では出て来なかったぞ?」
「いやオメガ倒した後こっちに顔出した時は明らかにメスバブーンじゃなかったぜ? ガーロンドが気付かなかっただけじゃね」
「ぐっ……そ、そういえば何度か他人事みたいな言い方したことはあったが……」
「会長サマ鈍感なんだねぇ。好きだったんなら異変位気付いてやれよ」
「悪かったな鈍感で」

 からかい甲斐がある奴らだ。ネロという男に関しては"俺様"も相当気に入ってたのだろう。しかしそんなことよりエーテルが死んだ影響か纏わりつくような大気が気持ち悪い。拠点に連れて行ってもらったら屋内くらいは快適に暮らせるように変換器でも作ってやろう。ひとまず頭の中で仕様図と計算式をいくつか思い浮かべる。マァ再びリセットされてしまった時代に役立つものかは分からない。まずはそこから勉強し直しだろう。
 ラボの中にあるモノは燃料にでもすればいいと渡してやる。すると大体の奴らが「そんなこと出来るわけないだろ!?」と目を見開いていた。こっちにとっては通過点でしかなかった盗掘物やコーデックスの翻訳が彼らには刺激的に映ったらしい。俺様が入っていた睡眠装置もそうだ。魔導技術も使わず永久機関と化している部分に興味を持っているとか。確かにエーテルも大して消費させずに動かしているから変に映ったのかもしれない。実際は自然に頼ったもので、俺様としてはあと数年したら身体は腐っていたと見た。そんな代物だが自分たちで調べて判断すればいいだろう。
 以降、定期的に彼らはラボを出入りすることになる。だが、持って帰れたものは極一部で大体は途中で事故が起こったり略奪された。まあ過去の知識としてインプットされただけでもマシだろう。書物くらい再び俺様がペンを取って書き記せばいい。装置だってほぼ役立たないからスクラップにでもすればいいじゃないか。
 そんな俺様からしたらオメガとアレキサンダーをはじめとした報告書が非常に興味深いもので。文献で何度も見かけたクリスタルタワーも実際にこの目で確認出来るとは予想だにしなかった。本当にあの時アンナを生かしておいてよかったと好奇心が喜ぶ。まあもう死んでしまったのだが。

 レヴナンツトールに降り立った後、"最高傑作"になる予定だった人間の墓の前にぼんやりと座る。違和感を感じ目を凝らして視ると奇妙なものが映った。この子は既に死んでいるはず。が、埋められているであろう棺周辺がエーテルのようなもので包み込まれているのだ。まるでその躯を護るかのように。一体誰がやらかしたのか。自分の命を削ってまでそんな仕様を作るやつがいるわけがないだろう。

「―――アシエンの仕業だなこりゃ」

 1人ボソリと呟く。いや、この護る結界の主を見る限りヤツだけではないだろう。そういうことにしておく方が隣の男のためだ。俺様を拘束するロープを持ったエルは眉をひそめ「お前も視たんだな」とため息を吐いている。

「これあの会社の人間たちに言ってるのか?」
「否。というか掘り返してどうなるかも分からない要素を伝えるわけがないだろ」

 絶対に会長クンが掘りだそうとすると肩をすくめている姿を見て「あー」ということしか出来ない。

「どうして妹だけがこんな目に遭わないといけなかったんだ。僕も一緒に背負いたかった。家族なのに、何で話してくれなかったんだよ、フレイヤ」

 座り込み、顔を伏せている。俺様はその隣に座り「わかんね」とため息を吐く。

「そういう星の下に生まれた子と判断するしかねぇだろ。相変わらずネガティブで泣き虫なのは変わらなくて安心したぜ?」
「うるさい」

 鼻を啜る音が聞こえる。予想だが彼らの前では涙を流す姿は一切見せてないのだろう。戻ってこないエルが心配だったのか、ネロがやって来るまで泣き続けていた。声が聞こえた瞬間に咳ばらいをし必死に涙を拭っていたのは少々面白かった。
 ネロとエルはどうやらしばらく一緒にフリーランスの技師として旅をした仲らしい。あの嫁以外の話題では冷淡だった男が少しだけ柔らかくなった姿に驚いた。親しいながらもお互いあまり踏み込まない"良き友人"関係がかつての恋人シェリーと重ね目を細めてしまう。



―――数十年の時が経過した。

 最初に会った人間たちは徐々に老け、死にゆく中全く姿の変わらない俺様とエルは陰で"理論"確立のサポートを行った。多少の物資調達や特に失ってはいけないシドとネロの護衛が俺様たち2人の仕事である。当人たちのご希望通り、研究に必要になるであろう知識は一切提供しなかった。エルは人知れず"肉"を喰いながら彼らの営みをただ少し遠くで見守っていた。時間が経つごとに協力者も増え、既に第八霊災が起こった原因もほぼ特定されている。正直数々の分野のエキスパート達が集まり何日も議論を重ねる姿は新鮮で、見ているだけで面白かった。そして予想通りであったが、彼らが導いた結論は"第八霊災回避のためにはやはりアンナが必要だ"、と。―――なんてこんなにも求められていることに密かに涙を流す姿を何度も見ることになる。素直に礼を言えばいいじゃないか。まあ言えるような人間じゃない位長い付き合いの中で知っている。この結論をきっかけにもっと人が集まってきたという事実が、ちゃんとアンナは胸を張って"人間"として生きられていたと目に見えて確認出来、すぐに彼女の墓の前で報告してやっていた。
 一方、そんなエルを見ていた俺様は、故郷の闇という"呪縛"が未だ解かれていないことも痛感した。折角追放という名のしがらみからの解放が、霊災というクソみたいな出来事により再び闇へ堕としてしまったとため息を吐く。

「なあネロくん。もしさ、もし過去が本当に改竄出来たらエルを救ってくれないだろうか」

 我慢出来なかった俺様はつい仮眠しているネロにボソリと呟いてしまう。皴くちゃになり、すっかり年老いた彼も眠る時間が増えた。シドだってそうだ。ずっとアンナを想いながらも涙を枯らし、研究のため羽根ペンを握り続けていて。新たな隠れ家の壁はネロと議論するために文字だらけだった。自分にもこんな時があったなと苦笑する。

「エルはな、本当は泣き虫で甘えん坊なんだがその甘え方を知らないんだぜ? 滅茶苦茶リンに懐いてアイツのために僕の長い時間の一部を捧げてやるって言ってたんだ」

 思い浮かんだのはリンを差し置いてエルとラザハンで議論していた頃の話。一番の年下だったはずが落ち着き大人びていたリンのことが俺様たちは好きだったのだ。

「そんなエルが今は自分の残された時間をお前さんのために使ってるんだってよ。妹のためじゃなくてな。知らなかっただろ?」
「―――知ってたぜ」
「おいおい起きてたのかよ残念だ」
「うるさいから起きちまったンだよ」

 やれやれとゆっくりと身体を起こすネロを支えてやる。少し嫌味ったらしなのは年を取っても変わらないねえと笑ってやるとケケと笑っていた。

「あいつ隠せてると思い込ンでるみたいだが何年一緒にいンだよってな」
「だよな」
「でも触るのが怖かったンだよ。あいつ下手な機械や女より繊細じゃねェか」
「分かる」
「俺だって分かってンだ全部罪をエルに擦り付けてたってな。アンナを暴力装置呼ばわりしてたやつらと一緒なことしちまって、バケモノとして生きてやがる」

 そうか、コイツはエルが何を喰って生きているかも気が付いていたようだ。まあ追及しても理論立て優先だろとのらりくらりと避けただろうし心の中に仕舞っておくのは正解である。

「おっとそれ以降の言葉はエルに言ってくれ。俺様は何も聞いちゃいねぇから」
「いつぞやに全て話せって言った人間のセリフとは思えねェな」
「聞かせろと言ったが俺様は懺悔マシーンじゃねぇんだよ」

 数十年もの間、人々の軌跡を聞き続けた。そして1つ、"面白いモノ"を作って渡した。花を模った金属片から使い物にならなくなったシャードを加工した光るお守りまで。―――彼らの思い出にまつわる象徴を贈ってやる。それは俺様なりのお礼ってやつだ。

「それともネロくんや、やっと自分の思い出話をしてくれる気になったか?」

 そう、未だに軌跡を聞けていない存在がいる。シドとネロだ。コイツらだけは決して口を割りゃしない。
 露骨に嫌そうな顔をした後、苦笑しながら肩をすくめた男は遂に口を開いた。

「俺は、ガレマルドの貧しい田舎で生まれた。恵まれたガーロンドとは全く違う環境で育ってよ―――」



 長い話だった。腐れ縁となったシドに対する長きにわたるコンプレックスとその払拭に、エルとの出会い。アンナはメスバブーンと呼びながらも妙に騒げるいい友人だったと振り返った。でもこれまで聞いた奴らの中では激動な人生で面白さは上位だ。手元にあった針金を弄り、少しだけ残していた白と金の塗料を塗りウサギを模したものを渡す。目を丸くしてそれを見つめていたネロに「話のお礼だ。お守りとして持っとけ」とニィと笑ってやる。

「近い内に終の棲家を決めてけよ、ネロくん」
「いきなり何言ってンだ」
「昨晩あの紙束を見せてもらった。予言してやるよ。お前たちの研究はもうすぐ纏まる。最期の安住の地と墓の場所をシドくんと決めとけ。俺様とエルが絶対作り出してやるよ」

 ささやかなご褒美さと言いながらその場を去ろうとすると「待て」とネロは口を開く。

「墓の場所は決めてンだよ。俺もガーロンドもな」
「そか。……嗚呼レヴナンツトール」
「クリスタルタワーがよく見える場所でって決めてンだ。若造たちの頑張りを眺めてェ」
「―――そう言うと思ったぜ。シドくんは確定だと思ってたけどお前さんもとは思わなかったぜヘヘヘ」

 起こして悪かったな、小さな黒い塊を引き連れ外へ出た。いつの間にか"記録"のために入り込んでいたらしい。意思疎通は取れなかったが"これ"は何がしたいかは分かっていた。人間たちは現状の報告はコイツにし、過去の話はこっちへ。それが彼らにとってどういう意味を持っていたかは知る由はない。が、少しでも心が軽くなっていれば嬉しい。こんな陰鬱な滅びへ向かう世界を切り捨てるが如く巻き込み、"在るべき未来"へ繋ぐ。―――そんな彼らが2体は好きになっていた、のだろう多分。俺様はそうだがこの機械の塊はどう考えているか分からない。だって"これ"はそれに至るための感情が存在しないのだから。きっと理解するために未だ観測を続けているのだろう。外で待っていた黄色い生物を撫で、何もない空を見上げた。



「お前とアンナが持っていた気迫について聞いておきたい」

 全うに年齢を重ね皴だらけの手が俺様の腕を掴んだ。理論は完成し、あとは今後の人間に託す準備で"彼らの役目"が終わる。少しでも故郷に近い環境であり、モードゥナ近郊に位置するクルザス。そこで小さな家を構えシドとネロは暮らしている。現役を退いた今も伝説の機工師に会うためにとやって来る客の選別が俺様の仕事だ。エルは相変わらず物資調達役となっている。

「シハーブだっつってんだろ。……ラザハン式錬金術にな、"アーカーシャ"という概念があるのは知っているか?」
「聞いたことないな」
「目には見えない想いが動かす力。まあ普通だったら人の手では何も加えることが出来ないものだ。火事場の馬鹿力という言葉は知ってるだろ?」
「まあな。強い意志で何かをするってことか?」
「そうそう。それを力として形にし、行使出来ないかと聞いたのがリン。アイツ、ハーフガレアンでな。ママみたいなエーテル操作は不得意だしパパみたいに鎌持って妖異と契約も出来なかった。代替となる力が欲しいっつーから俺様とエルで叶えてやったんだよ。代償はキツいものだったけどな」

 その力は人の身に余りすぎるもの。だがリン、それに加えアンナは使いこなすことが出来てしまった。いや、アンナに関しては使えるように手を加えたのだが。

「怒りや悲しみが籠れば赤黒くなり、"大切な人と護るべきもの"への感情が強くなるほど青白く輝く」
「大切な、人」
「テメェはアレを目の当たりにしたんだろ? アンナちゃんは何やかんやちゃんと見てくれてたんだよ。リンの言いつけで大切な人を作らないように立ち回ってただろうにな」
「―――代償は何だったんだ?」
「人の感情に対して敏感になる。"俺様"も起きてから痛感したんだが自分への感情変化で首がゾワッて来るんだわ。もう鳥肌立つくらいにだぜ? かつてリンは複数人から悪意を持って近付かれたもんだから怖くなって逃げたんだよ。それが無名の旅人って名乗り始めた理由だ」

 アンナちゃんの行動も妙な時はあっただろ? と聞くと「確かに」とボソリと呟いた。

「あいつは一定の距離感以内に入ると首を押さえながら離れたりしていた」
「そのセンサーをかいくぐってテメェは懐に潜り込むことは出来たんだろ? いくら昔助けてくれた人だったとしても長い間相手になってたのはいい所まで行ってたな」
「―――初めて怖がらずに手を差し伸べられた相手だと、書かれていた」

 シドは机に置いていた分厚い本を手渡してくる。これは、意地でもこっちに見せなかった"アンナの手記"だ。

「まずその本はネロ、開くための鍵は俺が持っていた。"自分が死んだら開けろ"って、まるで自分が死ぬことが分かっていたかのようにネロに託していたんだ」
「お前さんもやっと話してくれる気になったんだな」
「自分のことを話すというのは、恥ずかしくてな。忘れてしまう前に聞いて欲しい。俺は伝説の機工師なんかじゃない、ただの愚かな人間だ」

 本を開き、彼の話に耳を傾けた。素直で不器用な、恵まれていたが波乱万丈な人生を送った男のまっすぐな想いが込められたアンナとの思い出を聞く。



「俺様はお前が羨ましいや」
「何故、そう言える」

 嗚呼面白い話だったよチクショウ。聞いてるこっちが恥ずかしい程のロマンチストだとは思ってもみなかった。そしてこの本はアンナが生まれてから死ぬ少し前までの内面が書かれた手記で。本当にこの子らはお互い惚れ込んでいながらも、感情よりも先に肉体関係を持って幸せになって欲しいと勝手に願う大莫迦者達だった。下手したらリンよりも愚者だと俺様は思ったね。すれ違いの悲恋を聞いて涙が出そうだよ。そのご褒美はモノではなくお話をプレゼントしてやる。

「俺様が生きていた時代はな。今のような技術はロストテクノロジー―――要するに都市伝説で。だから評価してくれるやつなんて存在しなかった」

 ただの狂人扱いされ、ぐちゃぐちゃな自暴自棄になっていた頃。そんな時、後に恋人となるシェリーに出会う。

「シェリーはな、ニームの軍学を少しでも人に知ってもらうべく研究を行う学者だった。当時ニーム文明が気になってたから色々調べ回ってた時でな。こりゃまたおもしれー女だったよ」

 これまでの自分の成果を見せると明るい表情を見せてくれた。そして知識を共有し合い、更に研究に火が灯される。

「それまでの人生で俺様を評価してれたのがアイツだけだった。あの時は幸せだった。だがそんな日々は長くは続かない。遺跡の崩落事故で俺様を庇って瓦礫の下敷きさ」

 それからまた真っ暗な日々に逆戻り。腹いせに各地の遺跡を荒らし、重要そうなデータは全部いただいてやった。と、ゲラゲラ笑ってやると眉間に皴を寄せたシドが口を開く。

「そのせいでどれだけ数々の分野に迷惑をかけたと思っているんだ」
「知らねえよ。大体の人間が興味ないモンどう使ったってこっちの勝手だ。……それからシェリーの蘇生技術探すついでにサベネアの遺跡荒らしてやろって思ってな。壁剥がそうとしたところでエルと鉢合わせ。あっという間に拘束されてごめんなさいさせられた。その縁で錬金術の話を聞かせてもらう途中、リンがふらりと現れた」

 偶然の巡り合わせが今奇妙な縁に繋がるのが人生の面白い所だよなと笑ってやる。

「コイツらは莫迦だった。俺様が持っていた装置一つ取っても全部すげーって言うんだぜ? そりゃ調子にも乗る。錬金術師共もアレを作ってくれこれを直してくれってうるせぇ。とりあえずどんどん形にしてやったさ。釜の再調整とか薬の保管場所の空調管理とかさ。初めて脳みそに詰まっていた知識をフル稼働させて。いつの間にかシェリーのことなんて後回し」
「―――それがレフたちとの出会いだったのか」
「そーだ。超天才な俺様と縁を持つことが出来た運のいい奴らのお話ってやつ。……で、だ。俺様とお前の違いだったな」

 分かるだろ? と聞いてやると軽く首を傾げている。恵まれた人間には難しすぎたみたいだ、苦笑して見せた。

「テメェにはネロっていう天才が並んで立っていた。競い合って洗練させていくという行為は技術の進歩に必要なものだ。そして沢山の部下に恵まれ色んな国からの信頼からの資金提供有りだろ? 俺様になかったものばっかで羨ましいったらありゃしない」

 俺様は既にあったものを組み合わせただけで何もすごくない。だからシドとネロが羨ましく感じた。まあ資金に関しては性格が災いしていたのは自覚している。

「ナァ、本当に過去が改竄出来たらさ、アンナちゃんを救ってくれないか?」
「それはお前さんの最高傑作として完成させてくれってことか?」
「うーんそれもある。まあ罪悪感はあるんだよ多少はさ。そしてエルもきっと楽になると思う」

 この技術はエルもノリノリで作ったんだ。それもあって今もなお罪悪感真っ只中なんだよと言ってやるとシドは驚いた顔を見せる。

「リンだってアンナちゃんを追い詰めたかったわけじゃない。ただの事故からああなった。俺様ら3人は一生苦しみながら死ぬことになってるからさ。せめてアンナちゃんだけでも助けてあげて欲しい」
「―――何度だって絶対にアンナを助けるし好きになるさ。レフだって何とかしてやるしア・リスお前もだぞ。流石にリンドウは死んでるからどうにも出来んが。……ありがとな」
「何で感謝されなきゃいけねぇんだ」
「だってお前さんだって今まで俺たちに自分の話をしなかっただろ? 仲間として認めてもらえて嬉しいんだ」

 うわあこの人タラシという言葉を飲み込みニィと笑ってやる。

「テメェがいい話をしてくれたからご褒美としてあげただけだ。勘違いすんなよ? アンナが最高傑作として完成したら、この複製体の俺様はもっと自由に走り回る予定だったんだよ。ケケッ」
「第八霊災を防げたら次はお前さんが暗躍しだすと? 冗談はやめてくれ。絶対捕まえてやるからな」

 シドはため息を吐き「喋りすぎた」と寝そべった。俺様は「おうすまん」と笑いながらその布団をかけ直してやる。アンナの手記を再びテーブルに置き、またいつの間にか現れていたオメガの模型を抱き上げ立ち去った。



―――それから2人の"シド"によって自分らが作り出した"理論"を2代目ガーロンド・アイアンワークス社会長らに"継承"し、その生涯を終えた。これから確立されるかは彼ら次第。協力してやろうか、とイタズラな笑みを見せてやるとシドと同じく「命尽きるまで見守っていて欲しい」と言われた。そういう所が俺様は気に入っていたからよかったぜ。もう表舞台に立てるような存在じゃないからな。
 彼らの墓は勿論クリスタルタワーがよく見えるレヴナンツトールの近郊に作られた。あのエオルゼアの英雄と呼ばれた女の隣だ。これからの人間たちの旅路を、仲良く見守っていればいい。"アイツ"もついでにとまとめて護ってくれるさ。絶対に気に入るからさ。
 俺様はどうするかだって? ―――複製体にだって寿命はある。延命させる技術は流石にエーテルが弱り切った現在、1人で成しえることは不可能だった。

「エル、すまねぇな。お前の死に目まで一緒にいられなくて」
「君の元になった存在は既に人生を閉じてるだろ」
「ケケッそうだったな」
「本当はあの墓を護ってたヤツの件も僕のために隠してたんだろ? 分かってんだよ」

 エルは動かなくなってきた俺様の身体を抱き上げ、とある底の見えない崖の上に立っている。嗚呼コイツを1人にしてしまうのかと思うと憐れみしか湧かない。

「お前の左目、治したかったな」
「……気持ちだけで嬉しい」

 エルの目は、昔故郷に安置されていた"聖石"に触れてしまったことで変容してしまっていた。"視えてはいけないもの"まで映り、その副作用で頭痛が発生し続ける一種の不治の病。それを何とかするのも元の俺様が複製体を作ってまで探ろうと決心した動機の一つである。第八霊災で全ての予定が崩れ、結局何も出来ず時間だけ過ぎてしまった。それを放置して、この世を去ることが一番の心残りである。もしも、もしもだ。本当に歴史を改竄出来るのなら、俺様は―――。いやそれを言うのは野暮だろう。心の奥にしまっておく。ふとエルはボソリと呟いた。

「アリス、複製体のお前も死んだら冥府に行けるのか?」
「知るか。……リンの代わりに行ってやってもいいかもしれんな。―――精々死ぬまで奴らを見守ってやってくれ。達者でな、エルファー・レフ・ジルダ(可愛い血の繋がらない弟)
「元からそういうつもりだ……おやすみ、ア・リス・ティア(バカ兄貴)
「ケケッ。こんな俺様のために泣くな莫迦」

 それからエルは俺様を投げ捨てた。嗚呼嗚咽を漏らし涙が溢れだしているのが見える。薄れゆく意識の中、彼らの理論が確立されてもこの世界が回り続けるよう祈りながら。造られた俺様の、その生涯を終えた。


Wavebox

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

2024年3月20日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

(対象画像がありません)

注意漆黒以降ネタバレ。独自設定の入った小説のあとがき ずっと第八霊災が起こった時…

メモ,ネタバレ有り

メモ,ネタバレ有り

20240320メモ
注意
漆黒以降ネタバレ。独自設定の入った小説のあとがき

 ずっと第八霊災が起こった時代について色々考えて頭から一度消したかったのでアウトプットしました。

 以下あとがき隠し
 まず第八霊災が起こった次元でのアンナとシドの関係について。アンナが"観念する"のは第一世界での出来事後なのでそれ無しで死んでしまうことになります。
 そして初夜のタイミングもきっと違ったんだろうなあってぼんやり思ったり。シドも想いを伝え切れず、体の関係が先立ってそのまま熟成されたまま運命の日を迎えてしまう感じ。
 具体的に言うとリンドウの墓参り夜に事が起こります。その時は"お礼"と称して行為を行い、シドは想いを伝えるがアンナはこういうセリフを残すでしょう。

「私よりもいい女性はこの星空の下にいくらでもいる。その相手が見つかるまではあなたのやりたいようにさせてあげるよ。あなたが死ぬまで幸せでいられるよう、全ての外敵から護ってあげる」

 そんな感じ。シドは相手を作る気なんてその時にはもうなかったが、隣にいてくれるならそれでいいと甘んじてしまいました。"宿題"が与えられることもなくオメガの検証も円滑に行われ、暁のメンバー誰も倒れず最終決戦へアンナは走り去ってしまう。

 第八霊災が起こり、アンナが死んでしまった後。シドは彼女のために墓を作ってやり、そこでネロから預かっていたという本を渡されます。それは旅人は人を見舞うで託された"答え"です。宿題の話が無くてもエメトセルクの手紙は届いてるし遺言として準備をしていました。本は大切に保存され、後にグ・ラハに託されます。(序章:紅蓮の先へと続く物語
 その本に挟み込まれていた紙片が今回のお話に繋がります。"内なる存在"が念のために入れた地図で、それはとある場所にある研究所へ導きました。

 今回のお話はそんな"内なる存在"となったア・リス・ティアという男の複製体ア・リス視点で彼らの生涯を観測するというものになります。この複製体がメイン時空ではリテイナーとして走り回る自称トレジャーハンターだったり。彼はア・リスが持っていた知識、記憶をインプットさせておいたクローンです。魂はアンナに捧げ、肉体は朽ち果て消えてしまっています。"ドアホの魂の一部も持って"と言ってますが、それはこっちに書いてます(旅人に"魂"は宿る)。
 これまでエルファーの過去やアンナが持っていた謎等全て詰め込みました。これらはメイン時空のお話では公開する予定はほぼないがちゃんと見える位置に置いておきたかったのでお話として出力しておきます。
 誰も幸せにならなかった話を書くのは初めてだったのでぶっちゃけ結構苦痛でしたが、いい感じにまとめられてよかった。まだ幾らでも盛れるけどそれは野暮かなって感じ。

 ア・リスが何度も「もし過去を本当に改竄出来たら」と強調しますが彼としては本当にこの理論が成功するかは五分五分な感覚を持っていました。本人としては俺様と俺様の友人が幸せになればそれでいい勝手にさせろと思っているので無責任に救ってやってくれと声をかけてやったりしています。リンドウは弱虫、ア・リスは狂ってるとエルファーは称していましたが、それはあくまでも妹まで実験感覚で余計なことしてと拗ねてただけで本当はちゃんと懐いてました。
 というかエルファーは優しさはあるが愛想の悪さで嫁8人と友人2人しかいない人間だったので距離感がバグってたり。数十年後、ネロと行動し、ガーロンド社で働くことになってからはそれなりに柔らかくなっていました。因習より社畜の方がマシってなってたんでしょうね。本当か? でも第八霊災でそのそれなりな幸せが崩れ去り、再び暗くなっていきます。"肉"を喰いという描写はまあ察してください。故郷の因習で抵抗がない人間だったってやつです。
 そんな姿をネロはずっと分かっていながらも目を逸らしていました。何とかしてやりたかった、けどどうすればいいのか分からないって感じ。感情としては親しい友人としてのものでそれ以上の感情を持っていたかは伏せてます。ネロってその辺り全て隠して歩み続けることが出来る人間だと思っているのでどっちでもいいんじゃないかな。アンナに対してはバカ騒ぎ出来るビックリ人間って感覚でそれ以外の感情は一切ないのは言い切れますが。

 オメガとア・リスは現在を記録するモノと過去を記録するモノと分けられるんですよね。本編中には書かれてませんが、ア・リスはそれまで聞いてきた人間の名前と大体の過去の所感、アンナとの思い出を全て書き残し、エルファーに託しています。意思疎通は取れなかったけどそれなりに空気は読んで仲良くしてるように見せてました。実際は少々語弊はあるけど"内なる存在"と同一人物なのでオメガ的にはどちらかというと狼藉働かないか見張っていたの方が正しいんですけどね。畳む


 以下暁月ネタバレ入れたお話。
 アンナとリンドウが持っていた気迫と呼ぶものに関して。初めてお話としてどういったものなのかと明記しました。要するにア・リスらはエンテレケイアを再現したような技術を開発したってことになります。つまりリンドウと別れてからのアンナはしばらく心を塞ぎ込み暴れて"鮮血の赤兎"と呼ばれていましたがそれは終焉ちゃんみたいな状態になりかけていたってことですね。暁月編でその辺りに触ったお話は書く予定ではありましたがいつになるか分からなかったのでここで先出しって感じ。そういう意味ではアンナやリンドウ、ついでにア・リスはメーティオンに寄り添いやすい人間かもしれません。畳む

 そんな感じ。これから上げるものの予定ですが、リンドウ墓参り二度目であったエルファーとネロの会話、オメガ検証後日談を1つ、感情を機敏に受け取るアンナの話、リテイナーア・リスの短編集辺りが予定に入ってます。

2024年3月24日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

(対象画像がありません)

注意次元の狭間オメガ後日談。旅人は密会するから数日後。紅蓮メインでいうと4.3後…

紅蓮,ネタバレ有り

#シド光♀

紅蓮,ネタバレ有り

【NSFW】旅人は首元を押さえる
注意
次元の狭間オメガ後日談。旅人は密会するから数日後。紅蓮メインでいうと4.3後。性描写を振り返るシーンがあるので閲覧注意。
 
 ボクには特技というまででもないがある本能的なセンサーのようなものが付いている。
 それは命の恩人も持っていた奇妙な特殊能力。数々の自分への感情に反応するように首の後ろがゾワリとして判断出来るのだ。その中でも悪意を持って利用しようと近付く人間相手は特に鳥肌が立つくらい即反応してしまう。かつてフウガにどうしていたかと聞くとこう答えた。

「怖いならば斬り捨てればいい」
「ボクにはどう感じるの? ゾワゾワする?」
「おぬしは……純粋すぎる」

 なんて言いながら首の後ろを撫で、苦笑していた。当時のボクには意味が理解出来なかった。しかし現在は"それ"の正体を知っている。そう、真っ直ぐで淡く、ふわふわとするような温かい恋愛感情だ。思わず少し触れてしまうくすぐったい感覚。初めて体感したのはあの星芒祭、アプカルの滝の前でのこと。シドがボクに向けた小さな感情をほんの一瞬だけ確認出来た。
 そんなこともあったので以降何かあるごとにからかう材料になる。だって本人も自覚していなかったのだから。分かってしまう前に、旅に出てしまえばいい。どうせかつて交わした"約束"の細かい部分なんて覚えていないのだからいつでも逃げる準備は出来ていると思っていた。逢瀬を重ねるごとにちり、と感じる頻度が上がっていく。理解していながらも、まるでチキンレースのような面白さに夢中になってしまっていた。

 さて、ボクはあと1つ、異様な感情というものを察知することが出来る。所謂下心だ。少しでも勘違いされたら抱いてきやがる性愛も混じった"それ"が大嫌いだった。首どころか背中までゾワゾワと粟立ち、気持ち悪さが勝る。"それ"はフウガと別れてから感じ取り始めたモノだった。だから余計に吐き気がする"自分の性別"と"大人特有"のものだということは理解している。一時期本当に嫌で、再び生まれ持った性質を呪っていた時期もあった。現在はどうも思ってないのだが。大体はゾワリとした瞬間に悟られないよう笑顔を見せ、離脱する。それでも縋ってきたら冷たい言葉で断るのがこれまでの旅路だった。
 人助けをやめればいいだけだ。が、そんな理由でやめてしまったらフウガは怒るだろう。あの人は善人は勿論、悪人だって関係なく助けては名乗らずに去る。圧倒的な力は、弱き者のために使う―――それがボクの憧れだった。だからその通りに動いてるだけ。
 シドが持ってしまったと初めて感じたのは墓参りから数日後、首元を噛まれた夜。今まで一度もなかった恐怖に襲われる。肌に歯を立てられる瞬間まで微塵もなかったので本当に驚いた。まあ、冗談でも許可をしたのはボクなので誰がどう見ても自業自得だったのだが。直後、泉から湧き出すようにくすぐったさとは別に粟立った感覚が一気に畳みかけて来る。この時は忘れたとかとぼけて煙に巻き、逃げることしか出来なかった自分が情けない。『通話程度だったら特に反応しないから置いておこう。だが次はどんな顔して会えばいい? ……普段通りでいいか』と思いながらアラミゴ解放後、ラールガーズリーチで久々に直接顔を合わせる。意外なことに何も感じることなく普通にいつもの関係が続いたことに何重にも驚いた。まあそれを"また"崩したのはボクだったのだが。もう奇妙なことは起こらないだろうと高を括り"効率的なストレス解消手段"を提案、からかっただけでとんでもない目に遭った。これは誰も予想は出来なかっただろう。勿論ボク含めても、だ。数々の感情の移り変わりが首元を通じてダイレクトに伝わり、更に全身は痛みとは別の感覚が脳を焼く。その後、"貰っていた手紙"と共にどう処理すればいいのか分からなかった。結果、温泉旅行と称してまたしばらく逃げることしか出来なかった自分にも嫌気がさす。そろそろかと戻ってからは何事もなく検証が終わった。相変わらずこの人はボクをどうしたいんだと思う。個人的には本当に最後までヤッてしまえば後腐れなく気まずくもなかったというのが事実だったので悔しい。



『先日はお土産ありがとね。折角ならこっちにも顔出したらよかったのに』

 暁からの次の"お願い"待ちで付けっぱなしにしていたリンクパールが鳴る。「もしもし」と出てみるとジェシーの声。とりあえず「夜も遅かったし。また改めて挨拶行く」と答えるとうふふと笑う声が聞こえた。

『会長もあなたが来た後頑張ってたわ。一晩で書類を終わらせたのよ! アンナには本当に感謝してるわ』
「は、はは……」

 嘘でしょと乾いた笑いが漏れる。そこまであの一言に期待を抱いたのかと唖然となった。

"そのお仕事終わったら、ご飯行こうか"

 数日前、暇つぶしにぼんやり作業しているとリンクパールが鳴った。出てみると疲れ切ったシド。何食わぬ顔で通話中に「会いたい」と苦笑していた。なので適当な土産を持ってサプライズで現れた際、耳打ちした台詞だ。本当はこれまでのように手酷く扱い捨ててやることも考えたのだ。でも、"あの時の子供"にそんなことが出来るわけがない。更に"内なる存在"があと1年と明確なタイムリミットを決めやがったからだ。だから今すぐ旅に逃げるという選択肢も潰されている。シド関係では余計なことしかしないもう1人の自分に苛立った。ジェシーに適当な挨拶を返し、次はご褒美を待つ犬のような男に通信を繋ぐ。どうしてボクを好きになったのか、食事ついでに話し合うのも悪くはないだろう。

「やあシド、寝てたでしょごめん。ジェシーから聞いた。ご飯の件」
『今夜』
「いやムリせず週末とかでも」
『今夜、レヴナンツトールのエーテライト前で待ってる』

 プツリと切られた。「うっそでしょ……」と呆れる言葉が何とか喉から発せられる。とりあえず現在の状況を確認した。悔しいが和平交渉が一段落つき情報収集の最中、つまり戦闘要員である自分は暇。そしてボクは現在石の家に滞在中。適当な人に「何か動きあったらすぐに連絡、よろしく」と声をかけ"準備"のためテレポを詠唱した。



 夕方。『立ち寄りはしたけどいなかった』というアリバイ作りのために集合時間よりも30分程度早くレヴナンツトールに飛ぶ。誰相手に対してもとりあえず約束の時間より30分程度早く来るのはもう一種のルーチンだ。―――よし、元から滞在してたとはいえ集合場所に来ました。というわけで帰ろうと歩き出そうとした瞬間に腕を掴まれる。一瞬漂った匂いとその大きな手から誰かは予想が付いた。

「や、やあシド」

 振り向くとジトっとした目でシドがボクを見ていた。いつもは思ったより仕事に手こずったからとギリギリか遅く来るはず。冷静に立ち回りたいのに、急に想定外のことが起こり心臓がバクバクと鳴っていた。

「さ、先に石の家でクルルに現状報告後、待機予定で」
「そうだったか」

 適当なことを言い、ニコリといつもの笑顔を作ると同じく笑顔が返って来る。何だ寝起きで少々機嫌が悪かっただけか。特に首元がざわめくこともないのでホッとする。

「さあ行こうか」
「うん」

 ガシリと腰に手を回すように掴まれた。逃げると思われているらしい。恥ずかしいわけではなく、流石にこの辺りで人に見られるのは"よろしくない"。「シド、私逃げない。普通に、さ」と苦笑してやると寂しそうな目でただじっとボクを見つめる。やめて。そんな目で、見ないでよ。

「あーもー! そんな顔しない! 分かったから! とっととご飯!」

 そう言った瞬間不敵な笑みを浮かべそのまま引き摺られていく。騙された。「子供か」と盛大にため息を吐く。どうすればいいんだ。フウガ、助けてと空を見上げた。



「何で、私のことが"好き"?」
「―――は?」

 よく2人で行くレストランで単刀直入に聞いてやる。きょとんとした顔でシドは見る。

「だーかーらー、今後の参考に。私何か勘違いさせるような特別なことした?」
「俺は勘違いしてないぞ」
「それが理解不能。私はただ人助けをしているだけ。あなたは助けた人間のうちの1人」
「俺にだけイタズラかける件は?」
「遊べる」
「こら」

 軽く足を蹴られた。そうかイタズラも拍車をかけていたんだね。

「あなたになら少しは遊びを入れてもどうもならないかなって思って?」
「そういう所だ」
「あなたを護るのは私。分かってほしかった」

 あ、顔が真っ赤になった。真っ白い肌だからすぐに分かる。ニコリと笑ってやった。

「前も言った。私はそれなりにだけどシドに恩は感じてる。英雄への道を作ってくれたのは間違いなくあなた」

 そう、シドはその飛空艇や新たな装置でいつも助けてくれている。エオルゼアで迫害されず自由に人助けしながら暮らす生活が出来ているのはこの人のおかげだ。それなり、じゃない。本当は凄く感謝しているけど調子に乗るので程々ということにしておく。

「あなたがいないととっくに旅出ってる。差し伸ばされた手を握った。―――それをちゃんと自覚してほしかったのさ」
「それが一種の告白だと思わないアンナは凄いな……」

 眉間に指を当て、ため息を吐いた。何故そういう言葉が出て来るか分からない。

「だって私が人助けするのもフウガに憧れたからだ。特定の感情なんて存在しない」
「違う、お前がやっている行為は無償の愛を注ぐ献身的なものだ。誰だってその―――"勘違い"する。今までよく何も起こらなかったな」
「去るだけでいい。すぐに判別可能」
「アンナ……」
「フウガがやっていたことをしてるだけなのに何で? 私の性別が悪い?」

 一切理解不能。先程と一転して顔が青くなったシドは机を隔てて肩を掴んだ。

「本気でそれを言ってるのか?」
「? うん」
「―――もしお前の性別が男で同じことをして来ても、俺は間違いなく好きになる」

 へ? とボクは目を見開いてしまう。何を言ってるんだ、この人。

「リンドウはどうしてたんだ」
「人助けして、帰ってたよ」
「違う。アンナと一緒で特定の人間に感情を抱く前に逃げてたんだ。間違いなくモテたぞ」
「当たり前。フウガは無名の旅人だから」
「お前も人助けをする姿がカッコよかったあの人が好きだったんだろ? それと同じ感情を、俺は持っている」

 ふわりとくすぐったさが湧き上がったので反射的に首元を撫でてしまう。つい「やめて」と弱々しい声が漏れた。ボクの手を掴み握りしめる。柔らかな笑顔を見せ、突然とんでもないことを言い出した。

「綺麗な姿も、自分よりも先に人助けをする勇敢さも、優しい笑顔も。ああ少しでも想定外なことが起こったらすぐに狼狽える表情もいいよな」
「へ?」

 誰の、話? もしかしてボクのことを言っているのだろうか。思考停止したこちらを無視し、言葉が続く。

「刀を撫でながら笑う姿も、圧倒的な強さも。アンナが関わると絶対新しい技術が転がり込んでくるそんな運も助かってる。イタズラにこもった地味に高い技術力もほしいくらいさ。あとは」
「分かった! 分かったよ!!」

 流石に恥ずかしくなったので止めてしまう。あとこれ以降は多分表で言わせてはいけない感情が絡んだモノになると本能的に察知した。

「幾らでもお前の好きな所は言えるぞ?」
「満足! ストップ! そこまで拗らさせた私が悪かった!!」
「本気だって分かっただろ?」

 嗚呼その真っ直ぐな目をやめてほしい。何も言えなくなってしまう。顔が熱い。どうしようもない感情を、ボクはシドの耳で囁くと目を見開き見つめて来た。




 シドはボクの隣に座る。頭を優しく撫でながら笑っていた。

「首元押さえるのは、照れてるだけでよかった。本当に体調が悪かったらどうすればいいかと」
「別に照れてるわけじゃない」

 嗚呼ムズムズして頭が変になりそうだ。なんてこの人は純粋なんだ。眩しい光が赤く染まるボクを焼く。嫌悪感はない。ついポロリと溢す。

「フウガみたいに昔から、自分に向けられる感情に首の後ろがゾワッてして分かる。それだけ」

 目を丸くしてボクを見ている。そしてボクも遂に人に言ってしまったと血の気が引いた。「じ、冗談」と離れようと動くが強く抱きしめられる。不器用に首の後ろを撫で、離さない。

「なあいつから俺はお前が好きだったんだ」
「うーざーいー、触るな! いつからとか言うわけないでしょうが自分で考える!」

 濁りが一切ない真っ直ぐな感情と直接触られる感覚がくすぐったい。そんな感情を、ボクに向けないでよ。

「キミがボクのことが本当に好きなのは分かったから」

 あと僅か1年、"宿題"とやらが解けるのは分かりきっている。この冷たい肌がほしいのなら、精々頑張ったらいいさ。

「ボクに好きと言わせたい気持ちは痛いほど分かったけど絶対にそうはならないよ」
「ふん、いつか言わせてやるさ。逃げるんじゃないぞ」
「―――まだ気は変わってないから。キミは純粋すぎるんだよ」
「ハハハ」

 そっぽを向くと後ろから優しく抱きしめられた。ブランケットを被り、「おやすみ」と呟き目を閉じた。


Wavebox

#シド光♀

2024年3月29日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

(対象画像がありません)

注意シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。シド少年時代捏造。…

紅蓮

#即興SS

紅蓮

『好きな人』3
注意
シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。シド少年時代捏造。
時系列は次元の狭間オメガ終了後。
 
『アンナさんはとても強いし料理も上手です』『アンナさんに先日護衛してもらい何事もなく帰れました』『不愛想かと思っていましたが優しい方です』『社長と付き合ってますよね?』『アンナさんに告白したけど笑顔で断られました』『アンナさんにエスコートしてもらい買い物に連れて行ってもらいました選んでもらった香水で彼氏が出来ました』『王子様みたいです』

「これが社員から匿名で貰ったアンケートの一部よ」
「アンナやっぱモテるッスねー」
「告白した奴複数人いるのか親方でも玉砕状態なのによくやるなあ」

 ネロがレフと一緒にシド名義の領収書を盛大に置いて『長期療養』に入った事件から数日後。レヴナンツトールのとある酒場にて久々に『自分たちの上司であるシドと旅人アンナの関係を見守る会』が行われた。今回は当人にバレないようアンナに関するアンケート調査を行った。大体このような突発的なものは無視されて終わるかいい加減な回答が多い。だが今回は渡したほぼ全員から回答有りで提出された。大体の人間はアンナに対して嫌悪感を抱くどころか好意的なものが多い。英雄である彼女の人たらしっぷりが発揮されている。

「ちなみに会長はアンナが女性社員を口説いてることは知りません」
「あんな白昼堂々やってるのにですか!?」
「恋は盲目ってやつッスかぁ!?」
「だから困ってるのよね。その場で口説いたら満足してあとは躱すから」
「ひえー男だったらとっくに死んでるやつじゃないですか」

 アンナは女性社員を見かけたら絶対に歯が浮きそうなセリフで口説く。意外と大胆な人だというのは社員たちから言われるまでジェシーは知らなかった。当たり前である。レヴナンツトールで初対面時にシドに関しての説教を長々と行ったからだ。しかし、アンナが初めてガーロンド社へ案内された時のこと。嫌うことなく真っ先に自分の元にまずは護衛が必要な時は呼んで欲しいと手を差し出された。間違いなく優しい人である。しかし、優しくされる理由が一切見当たらない。

「それで今回のメインなんだけど。……少し前になるけどアンナが私たちに肩入れする理由を何とか聞くことに成功したの」

 だから一度単刀直入に聞いてみたことがあった。



「私が皆に優しい理由?」
「はい、何故いつも我が社を助けてくれるんですか?」
「そんな改まらなくていい。あなたたちに頼られてるから、と言えば簡単。でもそうだねえ―――ジェシーならいっか。少し昔に"旅人仲間"から聞いた可愛らしい話」

 ある日の昼下がり、ラールガーズリーチにて。シドが機材の定期メンテナンスのため出払っていた時にアンナが現れる。ついでに軽く世間話ついでに聞いてみたのだ。すると「シドには内緒にしてね」と人差し指を口に当てながらこう言って帰った。

「昔ね、ある旅人が凍え死にそうになった寒空の下で命を助けてくれた真っ白な子供と約束をした。ヒゲが似合う男になるまでに再会、捕まえたら彼の手に広がった夢を、支えてくれる人を全部守ってあげる、と。その人は何も持たない旅人なのに大胆で莫迦な約束をしちゃった。それと重ねちゃって、ね?」



「え、それって……親方!?」
「そこまでは話してくれなかったの。もしそうだったら……やばいわよ。確実に会長の脳みそがショートどころか爆発するわ」
「でも親方そんな話した事ないですよ。覚えていたら少なくとも今みたいな距離感には絶対ならないような」
「覚えてないんじゃない?」

 ジェシーの一言にビッグスは考え込み「あぁ……」と天を仰いだ。アンナの行動を振り返ると確かにシドに気にかけ、どちらかというと子供扱いするようにからかっていた。そうしながらもシドが興した会社ごと護ろうともしている。それを「あなたたちに頼られてる内はエオルゼアに残る」と誤魔化して。なんという回りくどいヒントの出し方。
 対して仕事以外は不器用な男は一切疑問に思っていないようだ。シドとしてはアンナに離れて欲しくないのだろう。何かあると水くさいじゃないかと付いて行き、社員の護衛等の手伝いもありがたいと言う。その傍ら暗に何かあれば彼女に頼れと社員を無意識にジトっとした目で睨んだ。『覚えるのが苦手』と言いながらも知識の吸収が早い彼女にアラグの文献を渡しているのも社員の一部は知っている。このすれ違いはきっとアンナも分かってやっている。今のままではあの男はネロのように頃合いを見て逃げられてから気が付き、ブチ切れる未来が見えた。

「勿体ない……ああなんて勿体ないシチューション……」
「その口ぶりはまだ捕まってない、って判定ッスよね? これ今俺たちが頼ってるから残ってるだけで絶対アンナさん頃合い見て逃げるッスよぉぉ」
「やっぱり親方に伝えるべきでは?」
「私たちが教えるのは何か違うでしょ」

 ヤることはもうヤッてるしあの2人という言葉を飲み込みながら子供じゃないんだから気付くまで放っておきましょと苦笑しグラスを傾けた。


Wavebox

#即興SS

(対象画像がありません)

注意命の恩人リンドウとアンナの過去短編集。  消えない疵―――フウガは…

本編前

#リンドウ関連

本編前

風の旅人と歩み続ける
注意
命の恩人リンドウとアンナの過去短編集。
 

消えない疵
―――フウガはボクに沢山のことを教えてくれた。星空の話や国、サバイバル術、ご飯の作り方、戦い、人助けの心構え。故郷では兄以外からはただ狩りの方法やイタズラに使える縄の使い方、外の人間の恐ろしさだけしか教わらなかった。それが全て新鮮で!

 白色の背中が頼もしかった。ボクは少し後ろを追いかけ、いつも笑顔を向けていた。襲い来る悪意は全部斬り放つ姿に自分もこうなりたいと志を抱く。ボクや出会った人等よりも豊富な外の知識が今のボクを形作っていたのかもしれない。
 この頃はまだ今みたいに強くはなかった。多分そのまま成長していたらシドを持ち上げることも出来なかったと思う。というか普通は抱っこしないだろう。まずどんなに重いものも持ち上げるフウガにどうやったの? と聞くとこう答えた。

「重いものの持ち上げ方? こう、持ち上げるぞと念じてそれを力とするのだ」
「よく分かんない」
「普通は出来んからな」
「ボクも出来るようになる?」
「己の限界を嚙み締めなさい。おぬしは人よりも長生き。少しずつ鍛錬を重ね、誰かのためにその力を使うのだ」

 今思うとこの言葉は自分の領域に来るなと言いたかったのだろう。でも一度火の灯った憧れを止めることは出来ず、運命の時が訪れた。



 フウガに槍の修行を付けてもらい、少しだけ自分の実力に自信を持てるようになった頃。あの人はどんな武器に対しても豊富な知識を披露した。「エルダス、強くなりたいのなら得意でない武器も識ることも大事だぞ」と何度も言われた。そこで必死に勉強をしたから現在色々な得物を使いこなせるようになったのかもしれない。
 そんな頃に通りかかった村で子供が大きな魔物に連れて行かれたから助けてほしいという依頼を受ける。フウガは最初反対していたが、ボクは居ても立っても居られなくなり飛び出した。
 僅かに聞こえた泣き叫ぶ子供の声を頼りに走る。長い耳は遠くの物音も判別が出来るのだ。フウガの力がなくても多少の魔物なら勝てる。そう思い上がっていた私はその場にへたり込んでいだ子供の前に立つ。

「逃げて!」

 自分より3倍は大きいであろう異形の存在は確かに少々怖かった。しかし今までの修行は無駄ではないこと、ボクのような少女でも人助けは出来るのだと証明したかった。構えた槍で飛び上がり急所を穿つ。勝負は一瞬だった。その魔物は地に伏せる。ボクは向きを変え、怯えた子供に手を差し伸べた。

「大丈夫?」

 明るい顔でボクの手を握ろうとしたが途端に青くなっている。

「フレイヤ!!」

 フウガの怒鳴る声、背中が熱くなる感触。振り向くと倒れた筈の存在が大きな爪で再びボクを切り裂こうと振り下ろそうとしている。最後に見えた風景は、いつの間にかボクの前に立ち、空気が震えるほどの殺意を見せたフウガ。青白い流星のようなオーラをその刀に纏わせながら魔物を一刀両断していった―――。



 目が覚める。うつ伏せに倒され寝返りを打とうとするとフウガに止められた。背中の痛みに小さな声が漏れる。まずボクは「ごめんなさい」と謝った。涙が溢れ止まらない。あの時ちゃんとフウガの忠告を聞いていれば。ただ謝り続けた所にあの時の子供がやってきた。

「お姉ちゃんありがとう」

 目を見開いた。ボクは負けたというのに、何故お礼を言うのか分からなかった。

「だってお姉ちゃんはあんな大きな怖いやつが相手でもすぐ飛び出して私の前に立ってくれたんだよ! 私もお姉ちゃんみたいになれるかな」
「―――きっとなれるよ。ボクもいっぱい旅しながら修行したから」

 フウガはボクの頭をずっと撫でてくれた。高熱にうなされながら傷はどうなってるの? と聞くと「大きなひっかき傷だけだ。他は特に外傷はない」と薬を塗りながら答える。

「あの大きな魔物を斬る時のフウガ、すごいかっこよかった。ボクもあんな風になれるかな」
「……まずはその熱を下げなさい、エルダス」
「はぁい」

 目を閉じてその手の冷たさを感じ取る。ボク程ではないがフウガも手がひんやりと冷たい。この後1週間熱は下がらなかった。だがフウガがどこからか持ってきた解熱剤によりボクは元気を取り戻し再び旅に出た。

 

「エルダス、おぬし結構耳動くが―――それはいいのか?」

 フウガの一言に首を傾げる。そんなに動いてる? と聞くと「集中してない時は結構」と返される。確かに人に感情を耳で悟られてしまうのはよろしくないと子供のボクでも分かっていた。

「本来はもっと故郷で修行するんだけど途中で飛び出したから不完全かも」
「なるほど」
「じゃあフウガが修行つけて。耳ピクピクさせないように頑張りたい!」

 そのままフウガは考え込んだ。そりゃヴィエラ特有の現象の修行なんてやったことがないだろう、悩むに決まっている。数刻後、手をポンと叩き「分かった」と言いながらフウガは思い切りボクの両耳を掴んだ。

「いっっっったああああ!?!?」

 叫び声が喉から発せられた後、耳がビクリと跳ねる。フウガは慌てたように手を離す。

「違ったか?」
「うえぇフウガそれ絶対拷問とかでやるやつだよ!?」
「しかし一番反応してまずい時は痛みではないのか?」
「う……確かに痛みに耐えられるようになったら動かなくなるかもしれない……」

 不器用に耳を撫でるフウガの言葉を聞き、そのくすぐったさを我慢するかのように考え込む。確かに集中力を一番阻害される要素は痛みだ。それならばこういう訓練を続ければ、耳は動かなくなるかもしれない。

「ちゃんと頑張る。も、もしかしたら故郷でも集中力を高める修行の一環でするかもしれないし!」
「そうか。集中力を持続させるメニューと共に数日に1回掴む感じでやってみよう」

 当時のボクはよし頑張るぞと拳を振り上げていた。後に知るのだが、ヴィエラの里ではそんな耳に直接的な強い刺激を用いた集中力を鍛える修行は一切存在しない。お互い勘違いしたまま、ビシバシと勝手に厳しい修行をすることとなる。結果、人とは違う技能を伸ばす羽目になってしまった。

 
気迫
「あの技教えてほしいの! フウガ! お願い!」
「駄目だ絶対に誰も使いこなすことなど出来ぬ」

 あれからボクは何度もフウガにあの時見せた大技の使い方を教えてもらおうとした。まるで流星の軌跡のような光を纏った刀身に感動したからである。これまで一度も見せずにいたのだ。興味を持つに決まっている。

「あの光は力を欲した誰もが挑戦したが結局使うことも出来なかった。何よりこの圧倒的な力を得ても、1つもいいことはない」
「ボクはフウガのような旅人になりたい! 沢山人助けする!」

 今思うとこれが本当にボクという人間が変わってしまった出来事のきっかけかもしれない。半ば無理矢理押し切り、フウガは誰もいない山の中で力の振るい方を教える。

「感情を込める」
「感情」
「その感情に合わせて、光が帯びる」

 フウガが目を閉じ大きく息を吸うと周辺の音が消え、刀に光を帯びだす。鳥肌が立った。本能的にこれは、ヤバいと子供のボクでも分かる位危険だと脳内でアラートが鳴る。フウガが「ん」と刀を振るった。すると目の前の巨木に光の刃が入り、まるでバターのようにスライスされ倒れていく。ボクは息を飲み、それを見つめた。

「普通の人間には出来ぬ。まあエルダス、少しやってみろ」

 フウガは刀を仕舞い、肩をすくめる。ボクは「よーし」と言いながら槍を構えた。

「感情ってどういう感情込めるの?」
「好きなモノに対しての、だ」
「今のは誰に?」
「……内緒だ」
「フウガのけち!」

 目を閉じ、隣にいるフウガのことを思い浮かべる。そして槍を振るうが何も起こらない。

「ほらな」
「悔しい」

 頬を膨らます。もう1回と言いながら槍を構え直した。

「あ、そっかエーテルを乗せればいいのか」

 ポンと手を叩く。今まで武器を振るうことしか考えていなかった。それを想いと誤魔化したんだなとその時のボクは判断する。

「待てエルダス、それは」

 フウガの制止を振り切り、先程見た光の強さを思い出す。目を閉じ、手を通じてエーテルを武器に乗せていく。形することはあまり得意ではなかったが、この時のボクは絶対に出来ると確信してきた。

「止めろフレイヤ!!」

 目を閉じたままその声と同時に槍を穿つ。何かが砕かれる音が聞こえたので目を開くと倒れていた木が粉々に粉砕され、成功したのが分かる。

「ねえフウガ! でき、た、」

 ガクンと力が抜け、目の前が霞んでいく。慌ててボクに駆け寄る音を聞きながらそのまま倒れてしまった―――。



 薄く目を開く。眩しい光に「うん……」と呟いた。

「エルダス」

 キョロキョロと見渡し声の主を探す。泣きそうな顔でフウガはボクを見ていた。

「すまない」

 そう言いながら手を握った。その時のボクは意味が分かっていなかった。

「すまない」

 またフウガは謝罪の言葉を口にする。背中に大きな傷が残ってしまった時とは逆の構図だ。ボクはニコリと笑いかける。

「ボクは大丈夫だよ、フウガ」

 少しだけ右腕が痛いような気がする。でも泣きそうなフウガの方が大事だ。
 ふと自分の手の内を確認する。いつも付けていた故郷の髪飾りを握らされていた。

「エルダス、それは絶対に身に付けておきなさい」
「捨てるつもり、ないよ?」

 そうかと苦笑している。ゆっくりと身体を起こし、伸びをした。倒れる前より身体が軽くなった気がする。
 思えばボクという人間はこの地点で、死んでいたのだ。ただでさえ冷たかった身体が死人のようになってしまったのはこの頃からなのだから。



 外に出ると知らない男の人がタバコを吸っていた。

「おや、起きたのか嬢ちゃん」
「おじさん、誰?」

 どんな姿か思い出せない。金髪、だったと思う。その人がボクの頭を撫でた。

「俺様は―――様だ。お嬢ちゃんのお師匠のオトモダチさ」

 名前も朧げで思い出せない。今のボクはこの頃から記憶が少し曖昧になっている。

「お嬢ちゃんが生命エーテルほぼ使い切ったってんで"治療"したんだ」
「ボク、そんなに大変だった?」
「おう。滅茶苦茶」

 俺様がいないと死んでたぜ、なんてケケケと笑っている男の頭にフウガはゲンコツを落とす。見たことのなかった複雑な顔していたので本当に長い付き合いの友人のようだった。

「教育に悪いから帰れ」
「おいおい天才の俺様は教育的象徴だろぉ? フレイヤちゃん、だったよな?」

 ボクはこくりと頷くとその男はニィと笑ったんだ。

「エーテル制御とリン―――コイツと同じ力の使い方をこれから一緒に教えてやる。ケケッ、お嬢ちゃんは俺様達より絶対に強くなる。保証してやるぜぇ?」


Wavebox

#リンドウ関連

このサイトの見方
(カテゴリを選択)から大体の拡張タイトルごとの時系列なページに飛ぶことが出来ます。
漆黒以降のメインストーリーネタバレ要素があるものはちゃんと記載しています。