FF14の二次創作置き場
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- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.105, No.104, No.103, No.102, No.101, No.100, No.99[7件]
"歩み"
注意
前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。
―――アンナは誰とでもいつも数歩後ろを歩く。
「アンナ、こっちッス!」
「あらあら」
「いつも悪いなあ」
「構わないよ」
先頭のビッグスと少し後ろにいるウェッジの更に数歩分後ろを歩くアンナはニコリと笑う。今回は魔大陸にて見覚えのない装置があるという報告を受け、護衛としてアンナを連れて来た。ちなみにシドは別件で忙しく不在である。
アンナは2人の話を聞きながら相槌を打つ。そして敵が見えると目にも留まらぬ勢いで斬りかかりあっという間に両断された。終わるとニコリと笑顔を向け、再び彼らの後ろを歩く。
「そういえばアンナっていつも皆の後ろを歩いてるッスけどどうしてッスか?」
「変かな?」
「親方と歩いてる時でもそうだよな。もしかして無意識か?」
その言葉にアンナはしばらく首を傾げ考え込んでいたがすぐにぽんと手を叩く。
「子供の頃からのクセみたいなものですわ。気にしないで」
「なるほど。……なるほど?」
◇
「っていう話があったんスよ親方!」
「具体的理由は聞けず、と」
「あの人全然自分の話をしないのは親方が一番分かってるはずなんだがなあ」
「聞こえてるぞビッグス」
シドは自分が不在の場にてアンナと部下で何かあれば"どういう話をしたか"と絶対に聴取しに来る。ウェッジの報告への反応に対し、ボソリとビッグスはつい呟いてしまった。案の定聞こえてしまったらしくジトっとした目で睨まれる。「すいません」と濁し落ち着かせた。
「確かに俺も気になってはいた。暁相手でもいつも笑いながら数歩後ろ歩いてる」
「ララフェルの歩幅にも合わせられるのは凄いよなあ。特殊技能だ」
「アンナは特殊技能しか持ってないと思うッス」
「瞬間移動みたいな運動神経。色んな武器の使い分け。手先も器用、エーテル操作も難なくこなせて超える力持ち。生産職も難なくこなして大活躍と盛られまくってるな」
「天は二物を与えずって言葉絶対嘘ッスよねー」
羨ましいがその対価を考えるとああはなりたくないなとビッグスとウェッジはため息を吐く。それに対しシドはぼんやりと次にアンナに聞いてみるかと考えていた。
◇
「なあアンナ、何でそうやって後ろ歩いているんだ。話しにくいだろ、横にでも来たらいい」
「私は大丈夫」
今日は飯でも食いに行かないかと誘うとあっさり了承を貰いレヴナンツトールで待ち合わせをしていた。エーテライト前で合流し歩き出したが、いくらスピードを落としても絶対一定の距離から気配を感じる。シドはそれに見かねて立ち止まり、振り向くとアンナは首を傾げた。
「何かあったら即追い抜き解決出来るから平気。あと私、人の後姿を見るの好きなの」
「後姿を、か?」
予想していなかった回答に首を傾げるとアンナは笑顔を見せた。
「小さい頃、後姿を追いかけながら会話してた。ついでにどんな顔をして話してるか想像、楽しい」
ほら歩いた歩いたと急かされると諦めたのか再び前を向き足を踏み出した。
「お前さん使用人でもしてたのか?」
「んーちょと違うかな。……師弟関係?」
「なるほどな。今俺はどういう顔してるか分かるか?」
「うーん……笑顔でしょ、知ってる」
シドは少々眉間に皴を寄せ呆れた顔をしていた。新たな単語の"師匠"という存在が気になっている。しかも『どうしてそこまで興味を持ってしまっているのか』ともやもやする気分付きで。この時のシドは自分の考えながらその心理が理解出来なかった―――。
◇
「昔お前がずっと後ろ歩いていた理由を聞いた話を覚えてるか?」
「記憶皆無。私は大丈夫」
「覚えてるじゃないか。ってこれ前に別の話題でもやったな」
シドは歩きながらアンナを小突く。お互いの想いを確認しあった後、まずやったことは隣に歩かせるために腕を掴み引っ張ることだった。最初こそは抵抗していた。だが5回ほど繰り返すと諦めたのかようやく自分の隣を歩くようになる。流石にまだ手を繋ぐことすらしていないが近いうちにまた教えたらいいだろう。微妙な距離感でも一歩前進していることが目に見えて分かるのだから。
「"師匠"ってリンドウのことだよな?」
「うん。フウガ、多分今の私よりもひょろ長。足幅大きく歩くスピード速し。だから追いつけず」
「配慮出来ない人だったのか?」
「いや、本人はゆっくりのつもり。だって当時ちっちゃかったし。しょうがない。それにフウガ、デカい目印になる。迷子は無縁」
不器用な人と柔らかな笑顔を見せている。シドはジトリとした目で見つめていた。それに気付いたアンナは「あなたが振った話題」とため息を吐く。直後、シドはふと何か思い浮かんだのだろう、拳を握りニィと笑う。相変わらずコロコロと表情が変わるなとアンナは嫌な予感がする言葉を待った。
「―――だが俺はリンドウよりも先に行ってると自信があるぜ」
「ホー、えらい自信」
「今アンナと生きてるからな。しかもこうやって横を歩いてるんだ。それだけでアドバンテージがある」
「じゃあ妙な嫉妬しない。いっつもフウガの話題妙に突っかかるじゃん」
「嫉妬なんてしてないさ」
一瞬でバレる嘘はつかない、とアンナはシドの頬を抓る。その後、目線を合わせるように少しだけ屈み照れたような笑顔を見せた。
「まあその、えっと、フウガより大量に思い出を作ればいい。今を生きてるんでしょ?」
「―――言われなくともそのつもりさ」
夜空を見上げ、軽く息を吐く。煌めく星が今日も輝き2人を見下ろしていた―――。
#シド光♀ #即興SS
前半蒼天終了後、後半は漆黒終了後のシド光♀話。
―――アンナは誰とでもいつも数歩後ろを歩く。
「アンナ、こっちッス!」
「あらあら」
「いつも悪いなあ」
「構わないよ」
先頭のビッグスと少し後ろにいるウェッジの更に数歩分後ろを歩くアンナはニコリと笑う。今回は魔大陸にて見覚えのない装置があるという報告を受け、護衛としてアンナを連れて来た。ちなみにシドは別件で忙しく不在である。
アンナは2人の話を聞きながら相槌を打つ。そして敵が見えると目にも留まらぬ勢いで斬りかかりあっという間に両断された。終わるとニコリと笑顔を向け、再び彼らの後ろを歩く。
「そういえばアンナっていつも皆の後ろを歩いてるッスけどどうしてッスか?」
「変かな?」
「親方と歩いてる時でもそうだよな。もしかして無意識か?」
その言葉にアンナはしばらく首を傾げ考え込んでいたがすぐにぽんと手を叩く。
「子供の頃からのクセみたいなものですわ。気にしないで」
「なるほど。……なるほど?」
◇
「っていう話があったんスよ親方!」
「具体的理由は聞けず、と」
「あの人全然自分の話をしないのは親方が一番分かってるはずなんだがなあ」
「聞こえてるぞビッグス」
シドは自分が不在の場にてアンナと部下で何かあれば"どういう話をしたか"と絶対に聴取しに来る。ウェッジの報告への反応に対し、ボソリとビッグスはつい呟いてしまった。案の定聞こえてしまったらしくジトっとした目で睨まれる。「すいません」と濁し落ち着かせた。
「確かに俺も気になってはいた。暁相手でもいつも笑いながら数歩後ろ歩いてる」
「ララフェルの歩幅にも合わせられるのは凄いよなあ。特殊技能だ」
「アンナは特殊技能しか持ってないと思うッス」
「瞬間移動みたいな運動神経。色んな武器の使い分け。手先も器用、エーテル操作も難なくこなせて超える力持ち。生産職も難なくこなして大活躍と盛られまくってるな」
「天は二物を与えずって言葉絶対嘘ッスよねー」
羨ましいがその対価を考えるとああはなりたくないなとビッグスとウェッジはため息を吐く。それに対しシドはぼんやりと次にアンナに聞いてみるかと考えていた。
◇
「なあアンナ、何でそうやって後ろ歩いているんだ。話しにくいだろ、横にでも来たらいい」
「私は大丈夫」
今日は飯でも食いに行かないかと誘うとあっさり了承を貰いレヴナンツトールで待ち合わせをしていた。エーテライト前で合流し歩き出したが、いくらスピードを落としても絶対一定の距離から気配を感じる。シドはそれに見かねて立ち止まり、振り向くとアンナは首を傾げた。
「何かあったら即追い抜き解決出来るから平気。あと私、人の後姿を見るの好きなの」
「後姿を、か?」
予想していなかった回答に首を傾げるとアンナは笑顔を見せた。
「小さい頃、後姿を追いかけながら会話してた。ついでにどんな顔をして話してるか想像、楽しい」
ほら歩いた歩いたと急かされると諦めたのか再び前を向き足を踏み出した。
「お前さん使用人でもしてたのか?」
「んーちょと違うかな。……師弟関係?」
「なるほどな。今俺はどういう顔してるか分かるか?」
「うーん……笑顔でしょ、知ってる」
シドは少々眉間に皴を寄せ呆れた顔をしていた。新たな単語の"師匠"という存在が気になっている。しかも『どうしてそこまで興味を持ってしまっているのか』ともやもやする気分付きで。この時のシドは自分の考えながらその心理が理解出来なかった―――。
◇
「昔お前がずっと後ろ歩いていた理由を聞いた話を覚えてるか?」
「記憶皆無。私は大丈夫」
「覚えてるじゃないか。ってこれ前に別の話題でもやったな」
シドは歩きながらアンナを小突く。お互いの想いを確認しあった後、まずやったことは隣に歩かせるために腕を掴み引っ張ることだった。最初こそは抵抗していた。だが5回ほど繰り返すと諦めたのかようやく自分の隣を歩くようになる。流石にまだ手を繋ぐことすらしていないが近いうちにまた教えたらいいだろう。微妙な距離感でも一歩前進していることが目に見えて分かるのだから。
「"師匠"ってリンドウのことだよな?」
「うん。フウガ、多分今の私よりもひょろ長。足幅大きく歩くスピード速し。だから追いつけず」
「配慮出来ない人だったのか?」
「いや、本人はゆっくりのつもり。だって当時ちっちゃかったし。しょうがない。それにフウガ、デカい目印になる。迷子は無縁」
不器用な人と柔らかな笑顔を見せている。シドはジトリとした目で見つめていた。それに気付いたアンナは「あなたが振った話題」とため息を吐く。直後、シドはふと何か思い浮かんだのだろう、拳を握りニィと笑う。相変わらずコロコロと表情が変わるなとアンナは嫌な予感がする言葉を待った。
「―――だが俺はリンドウよりも先に行ってると自信があるぜ」
「ホー、えらい自信」
「今アンナと生きてるからな。しかもこうやって横を歩いてるんだ。それだけでアドバンテージがある」
「じゃあ妙な嫉妬しない。いっつもフウガの話題妙に突っかかるじゃん」
「嫉妬なんてしてないさ」
一瞬でバレる嘘はつかない、とアンナはシドの頬を抓る。その後、目線を合わせるように少しだけ屈み照れたような笑顔を見せた。
「まあその、えっと、フウガより大量に思い出を作ればいい。今を生きてるんでしょ?」
「―――言われなくともそのつもりさ」
夜空を見上げ、軽く息を吐く。煌めく星が今日も輝き2人を見下ろしていた―――。
#シド光♀ #即興SS
旅人は子供になりすごす-4-
注意
漆黒以降の自機が子供化したギャグ概念。ここからシド光♀。
その1、その2、その3から読んでね。
罪人2人をレヴナンツトールに連れて帰る。勿論アンナはしっかりと抱いて、だ。ネロはガーロンド社へと連れて行かれる。シドは次の日にネロの部屋に置いてある荷物の類を回収する約束をし、宿にアンナを連れ込んだ。普段のアンナの仕草を見せているのに見下ろす形なのは新鮮だ。そう思いながら軽々と抱き上げると「子供扱いしない」と頬を膨らませている。
「普段俺にしてるじゃないか」
「私はいいの」
薄い身体に普段より気持ち温かいが人より冷たい体温。抱きしめてやるとアンナは頭を優しく撫でた。額に頬に、そして唇に優しく口付けるとアンナは眉間にしわを寄せた。
「ヒゲくすぐったい」
「いつも通りじゃないか」
「子供の姿だからかな。刺さる、って続行しない!」
小さくて、やわらかい。細い身体は確かに抱き心地がよかった。
「そういえばさ、シド」
「どうした?」
「―――今の私の身体、第二次性徴前」
耳元でボソリと呟かれると顔が熱くなっていく。改めて言われると恥ずかしくなる。クスクスと笑い声がした後「お風呂入って来るから、大人しくしててね」と下ろすよう床を指さした。言われるがまま解放すると部屋着を持って浴室へ駈け込んでいった。
◇
暇だ、と思いそろそろ説教も終わっているであろうネロにリンクパール通信を繋ぐ。
『あ?』
「ああネロ大丈夫か?」
『妹自慢が終わった所だ。ッたく受けるンじゃなかったぜ』
疲れ切った声が聞こえて来た。いい罰だ、優越感が勝る。
「お前の家ではアンナはどんな感じだったんだ?」
『料理は当番制で適当に本やらジャンクパーツで遊ンで寝させてただけだっつーの』
「健全だな」
『ッたりめェだろ。お前と違ってメスバブーン相手にはどうも思わねェよ』
談笑していると扉がキィと鳴る。アンナがふとこちらを見ている。ただじっと。何か手に持っているようだがよく見えない。「アンナ、どうした?」と聞くが何も言わず奥に消えて行った。首を傾げながらネロに問う。
「風呂から出たら何かしてたか?」
『ドライヤーかけてやってただけだ。家の中濡らされたくなかったンだよ。面白ェもン見れたから苦になる作業じゃなかったぜ?』
「なるほど。じゃあ一度切るからな」
ネロの答えを聞くより前に通信を切り、アンナの様子を伺いに立ち上がる。覗き込んでみるとドライヤーを手に持って四苦八苦しているようだ。使い方を教えずただやってあげてたのかとため息を吐きながらその機械を手に取る。
「あ」
「ほらやってやるから」
耳を触らないように暖かい風をかけてやる。正面にある鏡でアンナの表情はよく見えた。珍しく誰の目から見ても分かる程度にはご機嫌のようで。よっぽどこれが気に入っているのかと苦笑した。もっと早く気付いていたらとネロに対し舌打ちしていると「んー」と言いながらふにゃりと耳が垂れ下がった。
「アンナ?」
「―――へ?」
鏡で今の自分の状況を見たらしい。顔を赤くし、固まっている。耳を押さえ声が震えている。
「待って、シド、誤解。知らない」
「アンナ、髪はまだ乾いてないぞ?」
逃がさないよう固定し、頭をガシガシと撫でてやると「やーめーろー!」と抗議の声が聞こえた。動かさないように修行していると言っているくせにふとした拍子にこう垂れ下がる姿を見せる。しかしいちいち丹念に触らなくても即見れる手段ができたのは朗報だと考えた。
「スマンドライヤーの音で何も聞こえないな」
「嘘つかない! あ、じゃあやーいばーか! おーじーさーんー!」
「俺は普段のお前より半分以下の年齢だ」
「聞こえてるじゃん! 都合のいい耳だなあ!」
聞こえないと言われたら思ったより幼い悪口が飛び出し苦笑する。絶対に大人に戻ったらやらせないという恨み言が飛び出した。「それなら子供のうちにゆっくり堪能しないとな」と後先考えずに喋るアンナに感謝する。
直後、可愛らしい「みぎゃー!」という叫び声が響き渡った。やりすぎたかもしれない、一瞬その手を止める。
数十分後、少々機嫌が悪くなったアンナの機嫌取りをしようやく抱きかかえる許可がもらえた。一回り小さな頭に顎を置き、アンナが読んでいる本を眺めている。滲んだ文字が多めな東方地域のからくり装置のカタログを呼んでいるようだ。その筆跡はどこかで見たことがある気がするが思い出せない。
とりあえず程々な時間で錬金術師ギルドで何を仕込みする気満々だったのか聞きながら眠らせる。どうやら大したことをするわけでもなくただ"今後の参考"のために錬金術の勉強をしていたらしい。「嘘をつくな。蒼天街で割った煙幕の幻影だろ」とネロやヤ・シュトラからの報告内容をぶつける。すると舌打ちしそっぽを向いて無言を貫きそのまま眠っていた。戻った後、まだ残っているであろう試作品を絶対全回収しようと決心しながら目を閉じる。
◇
5日目。目が覚めると子供のままのアンナは既に着替えをし、本を読んでいた。相変わらず早起きだなと欠伸をしながら体を起こすと気が付いたようだ、「おはよ」とニコリと笑顔を見せた。
「とりあえず今日は石の家に連れて行くからな。まあ溜まった仕事を終わらせて定時で迎えに行く」
「昨日も無理やり迎えに来たし皆怒ってるんじゃないの。別にゆっくり徹夜してもいいんだよ?」
「絶対に終わらせてくるからな」
頬をギュッと引っ張った後、一緒に朝食を食べに行き石の家へ引っ張って行く。少々ばつの悪そうな顔をしながら笑顔を見せているタタルとクルルに手を引かれ、奥へと連れて行かれるところを確認した後会社へ向かう。
「会長、アンナさんは連れて来てないんですか?」
ジェシーをはじめとする人間に何度も聞かれた。石の家にいると返しながらその後ろにある子供服を隠しとけとため息を吐く。人へ過剰に関与しないアンナからするとこれが嫌だから隠れていたんだな。そう思うと結果的にはネロに頼り隠れていたのは間違っていなかったのかもしれない。なら声くらいは聞かせろとぼやくことしかできなかった。ネロのことをパパと呼び自分のことをおじさんと呼んだのも未だムカつく所がある。しかも三度も呼んだ。ジェシーに明日大人に戻っていなかったら連れて来るという条件を持ち出し、ネロへ仕事を押し付けていく。
夜、石の家に顔を出すと少し疲れた顔をしたアンナがいた。こちらに気が付くといつもの笑顔に戻り「おや特大なお仕事は?」と聞くので「"調整"してくれたからな」と笑顔を返すと舌打ちしている。とりあえずどういう意味だと小突いた。抱き上げアンナと談笑していたクルルに会釈をしその場を後にする。
外で日中何があったのか聞きながら晩飯を済ませ、ネロの部屋からアンナの荷物を回収した。大きなスーツケースに纏められている。「デカいな。頑張ればアンナが入る」と呟くと足を踏まれながら「通報」と言われたし、ネロにも「口には出すな」呆れられた。流石に実行はしないと苦笑しながら宿に運び込む。
シャワーから出て来たアンナの髪を乾かしてやり、自分も頭を冷やしがてらシャワーを浴びた。戻ると昨日とは打って変わって既に寝転びながら身体を伸ばしていた。隣に座ると少しだけジトッとした目でこちらを見る。その後何か思いついたのかのそりと起き上がり膝の上に頭を置きニィと笑った。
「もう二度とないかもしれない体験で嬉しいでしょ?」
「大人に戻ってもやればいいじゃないか」
「やだ」
膝枕はさせる方が好きなんだよと柔らかな笑みを浮かべ膝の上でゴロゴロ転がっている。長い耳が当たってくすぐったい。
「石の家で子供っぽい動きとは何かとララフェルの方々に聞いてた。だから色々と試す」
「それは口に出さない方がよかったかもしれんな」
顔に手を当てため息を吐く。アンナは唐突に腕を掴み、顔へと持って行かせた。首元を撫でてやると笑顔を見せている。
「そもそも子供とは何かという所から議論をした」
「哲学は専門外だから分からんな」
「言葉を舌足らずにとかキャーキャー喚いたりとか。でもそれ私が嫌い。だからやらない。ならば普段から可愛いララフェル先輩に聞くのが一番」
「まあ突然そんなことされたら呪術士の所に連れて行くかもな。マハで妖異にでも憑かれたかもしれんと」
「非科学的なものに頼りに行こうって思う程異常に見えるってことね、オーケーオーケー」
私が普段どういう目で見られてるかよーく分かったよと言う口に反し笑みを隠さずその指をカリと甘噛みする。
「というか自分が子供の頃と同じ感じで行けるだろう。覚えてないのか?」
「ずっと素振りしてるか部屋中イタズラの仕掛けをして女の人のお尻触ってもいいなら」
「却下だ」
忘れかけていたがアンナは当初自分が男として生まれたと思っていた。実際普段の姿で見慣れているだけで笑顔で立っていなかったら十分少年だと言われても信じる自信はある。
「とにかく子供である利点をもう少し楽しもう。これ今日のまとめ」
「それを先の4日間で気付くべきだったな」
「やだ。そんな長く好奇心の目に晒されるとか頭おかしくなる」
普段のビックリ人間ショーみたいな英雄行為はいいのかと思うが口には出さないでおく。
それから適当に子供とはどういうものなのかという話を交わし眠った。
◇
6日目。いつもより早起きしたが既にアンナも起床していた。柔軟運動をしている姿はまだ子供のままだ。少しだけ安堵している自分を叱咤しながら身体を起こす。
「もっとゆっくり眠っててもいいんだぞ?」
「ホー今日は早い。……習慣だし。どうせ寝起きの姿見たいだけでしょ?」
「そうかもしれん」
やっぱりと言いながらこちらに近付き口付けた。今日は社に連れて行くからなと言うと一瞬笑顔が引きつっていたが即平静を装っていた。「そこまで酷いことはならんさ、多分」と言ってやると「だといいけどねえ」とアンナは苦笑した。
子供になったアンナの姿を見るや否や飛びついて行く老若男女問わない社員たち。ヒッという声を上げながら逃げることもかなわず捕まり奥へと連れて行かれた。その中には旅人服を着たレフがいる。どさくさに紛れて何やっているんだと思いながらネロに事情を聞く。すると「そういう体でいるために昨日休暇をもぎ取ったんだぜ? ただのアホだろ」と返された。あの男は意地でもちゃんと模範的な生活を送る護人であるという所を妹にだけは見せたいらしい。偶然にしてもここにいるのはどう考えてもおかしいだろと言いたかったが多分アンナは信じるだろう。それ位兄は嘘をつかない規律的な人間だと思っているからだ。実際は護人時代から黙って抜け出して興味関心を満たしたり、既に自分勝手な理由で離婚して里とも断絶している生粋のシスコンなのだが。
「蒼天街でファットキャットのパーカー着てたっつーと滅茶苦茶目を輝かせた奴らがいてな」
「お前絶対それアンナが話して欲しくなかったやつじゃ」
「ケッ散々迷惑かけられたンだ。アレ見てちょっと清々したぜ」
ミギャーという叫び声が聞こえる。あの声は不味い。流石に戻った後の荒みっぷりが想像できないので小走りで止めに行くことにした。
「おいおい止めに行くのか?」
「このままじゃ戻った後今回の錬金薬を量産して社内にぶちまけて大パニックにするぞ」
「アー"あっち"が絡んだらやりそうだな」
あっちという表現はよく分からないが程々にしとけと小部屋に行く。そこには髪を赤く染め、ウィスパーファインウールを着せられたアンナがいた。
「シド! に、兄さんにまで裏切られたし、社員教育はどうなってるんだ!」
「え、あ、似合うな?」
「ちがーう! このぉ……エロオヤジ!」
「あ、それは減給がやば。ゴホン! ……よーし妹よ! 兄と彼らのお仕事の邪魔にならないようにお出かけするか! な!」
「ずるいぞ!」
「マスコットとして置きなさいよ!」
「どこぞの会長クンの顔を見てから言う! ほら妹よ行くぞー」
「んー体鈍ってるから運動したいな」
「ああ久々に組み手でもしよう」
並ぶ姿を見ると確かに兄妹だ。なぜかパワーアップした罵倒を放ち、一瞬こっちを見やりくるりと回る姿が非常に可愛く周辺からも歓声が上がった。明らかに煽ってる姿に歯を食いしばりそのまま兄に引っ張られていく姿を見送る。覚えてろと思いながら早々に仕事を終わらせようと書類に向き合う。
◇
何とか仕事を終わらせレヴナンツトール中を歩き回っていた兄妹を捕まえ回収した。兄からの視線がとても痛かったが無視し連れ帰る。
「兄とはどういう話をしたんだ?」
「別に? いきなり会っても何話したらいいか分からないし……。故郷でヤることが終わってよかったって話と。ご飯食べて、街の中歩き回って色々買い物して、あとは郊外で組み手した」
里にいた頃思い出して楽しかったと笑顔で言う姿にため息を吐き頭を撫でてやる。3日程度ほぼ室内でのんびりしていたから身体を動かせて満足しているようだ。その辺りを汲んで付き合ったのなら兄は本当に有能な人間だなと思う。どうせ言われるがまま遊んでやっただけだろうが。
現在は汗をかいたからとシャワーを浴びに行っている。髪は赤いままで「戻ったら美容師にお願いする」とぶっきらぼうな顔で言っていた。個人的にはこれが本当のアンナの幼少時代の姿かと思うと少々興奮してしまう。そんなこと言ったらまた子供相手に云々と言われるので心の中にしまっておいた。
カタンという音が聞こえ振り向くとこちらに顔を覗かせている姿が見えた。多分ドライヤーかけろという合図なのだろう。しかしあえて無視してやると下着一枚でこちらでやってきてヒゲを引っ張る。
「いたた」
「ド・ラ・イ・ヤー」
「分かった分かった」
もうやらせんと言ったくせにワガママな子供である。素直に引っ張られてやり耳が垂れ下がる姿を見ながらドライヤーをかけてやった。「戻った後のためにやり方、教えて」と言われたが無視し髪をグシャグシャとかき回してやる。「ケチ!」という言葉に笑い終わった後は抱きしめてやる。再び耳を硬く立たせようとするので妨害するために優しく撫でまわし甘噛みしてやった。
「あーもー邪魔しない!」
「勿体ないからな」
抱き上げベッドまで運ぶ。「服は着ないのか?」と聞くと「そろそろ戻りそうな予感がしてねえ」と言いながらも風邪ひくからと布団を被る。
「ほら君もシャワー浴びてきなよ。汗臭い」
そっぽを向き手を振った。大人しく言う通りにすることにする。シャワーから出るともう既に眠っていたのでそのまま隣に倒れ抱き寄せながら眠りにつく。
◇
早朝、シドはふと腕がずしりと重くなり薄目を開いた。目の前には"いつものアンナ"がいた。そろそろ戻るような予感がしたという彼女の予想は当たっていたらしい。くすりと笑いが漏れてしまった。今すぐにでも抱きしめようと思ったがぐっと我慢をし、目覚めるのを待つ。
更に1時間もしない頃、多分いつもの起床時間なのだろう、アンナが起き上がり「あ」という声が聞こえた。「よし」という声も漏れ嬉しそうだ。「起きる前に撤退しよっと」と呟きながらそろりと寝台から離れようとしたので腕を掴んでやる。
「げぇっ」
「何がげ、だ。どこに行くつもりだ?」
「いや、ほら、もう起床時間で日課をこなさなければ、ね?」
「戻った直後にいきなり大量にタスクを課すのは身体への負荷が半端ないと思うんだが?」
ニコリと笑顔を見せ合う。こちらはここ数日の子供な言動と蛮行に我慢してきたのだ、そのまま行かせるわけにはいかない。しばらく沈黙が流れたがアンナが動き出す前に力いっぱいベッドへと引き摺り込んだ―――。
◇
「ネロサン、迷惑をかけた」
「なンだお前戻ったのか。結局1週間位かかっちまってたな」
夕方、ガーロンド社にフラフラと髪を黒く染め直したアンナが現れる。戻ったんですねというすれ違う人に会釈をしながらネロを見つけ手に持った袋を渡す。中を見ると菓子、迷惑料と書かれた袋、そして冊子が1冊入っていた。パラパラと捲るといくつか走り書きされた図面たち。「何だこれ?」と聞くと「さあ? どう使うかはご自由に」とニィと笑う。見たことのない魔法人形に、奇妙な小銃のようなもの、先日渡された煙幕の幻影関係のデータも入っている。
「"ボク"の体は重役出勤したであろう人間の説教で疲れてるんでね、失礼するよ」
「……アー」
昼の出来事を思い出す。早朝社員に突然遅刻すると連絡を寄越したシドは昼に機嫌よく出勤した。それから部屋に篭らされ書類に埋まっているが嫌そうな顔一つ見せない。ジェシーも「ねえ今日の会長怖すぎない?」と引いていた風景を半笑いで眺めた。
「戻ったのは早朝。それから説教に重なる説教でボクはダウン。でもちゃんと戻った件はなるべく早急に報告しないといけないからね。何とか"ボク"が身体を起こして錬金術師ギルドと暁に顔を出してきたのさ」
「ハァそりゃお疲れさまなこって」
それじゃシドに会う前に帰る、と踵を返し、手を振りながら去って行った。
「"ボク"は何が起こっていたのか分からないんだけどねぇ。とりあえずは教訓だ。錬金薬の扱いは慎重に。イヒヒッ」
空を見上げ伸びをする。なまった身体をまずは程よい運動でリハビリしよう、アンナはテレポを唱え、どこかへ飛んだ―――。
-終わり-
#シド光♀ #ギャグ
漆黒以降の自機が子供化したギャグ概念。ここからシド光♀。
その1、その2、その3から読んでね。
罪人2人をレヴナンツトールに連れて帰る。勿論アンナはしっかりと抱いて、だ。ネロはガーロンド社へと連れて行かれる。シドは次の日にネロの部屋に置いてある荷物の類を回収する約束をし、宿にアンナを連れ込んだ。普段のアンナの仕草を見せているのに見下ろす形なのは新鮮だ。そう思いながら軽々と抱き上げると「子供扱いしない」と頬を膨らませている。
「普段俺にしてるじゃないか」
「私はいいの」
薄い身体に普段より気持ち温かいが人より冷たい体温。抱きしめてやるとアンナは頭を優しく撫でた。額に頬に、そして唇に優しく口付けるとアンナは眉間にしわを寄せた。
「ヒゲくすぐったい」
「いつも通りじゃないか」
「子供の姿だからかな。刺さる、って続行しない!」
小さくて、やわらかい。細い身体は確かに抱き心地がよかった。
「そういえばさ、シド」
「どうした?」
「―――今の私の身体、第二次性徴前」
耳元でボソリと呟かれると顔が熱くなっていく。改めて言われると恥ずかしくなる。クスクスと笑い声がした後「お風呂入って来るから、大人しくしててね」と下ろすよう床を指さした。言われるがまま解放すると部屋着を持って浴室へ駈け込んでいった。
◇
暇だ、と思いそろそろ説教も終わっているであろうネロにリンクパール通信を繋ぐ。
『あ?』
「ああネロ大丈夫か?」
『妹自慢が終わった所だ。ッたく受けるンじゃなかったぜ』
疲れ切った声が聞こえて来た。いい罰だ、優越感が勝る。
「お前の家ではアンナはどんな感じだったんだ?」
『料理は当番制で適当に本やらジャンクパーツで遊ンで寝させてただけだっつーの』
「健全だな」
『ッたりめェだろ。お前と違ってメスバブーン相手にはどうも思わねェよ』
談笑していると扉がキィと鳴る。アンナがふとこちらを見ている。ただじっと。何か手に持っているようだがよく見えない。「アンナ、どうした?」と聞くが何も言わず奥に消えて行った。首を傾げながらネロに問う。
「風呂から出たら何かしてたか?」
『ドライヤーかけてやってただけだ。家の中濡らされたくなかったンだよ。面白ェもン見れたから苦になる作業じゃなかったぜ?』
「なるほど。じゃあ一度切るからな」
ネロの答えを聞くより前に通信を切り、アンナの様子を伺いに立ち上がる。覗き込んでみるとドライヤーを手に持って四苦八苦しているようだ。使い方を教えずただやってあげてたのかとため息を吐きながらその機械を手に取る。
「あ」
「ほらやってやるから」
耳を触らないように暖かい風をかけてやる。正面にある鏡でアンナの表情はよく見えた。珍しく誰の目から見ても分かる程度にはご機嫌のようで。よっぽどこれが気に入っているのかと苦笑した。もっと早く気付いていたらとネロに対し舌打ちしていると「んー」と言いながらふにゃりと耳が垂れ下がった。
「アンナ?」
「―――へ?」
鏡で今の自分の状況を見たらしい。顔を赤くし、固まっている。耳を押さえ声が震えている。
「待って、シド、誤解。知らない」
「アンナ、髪はまだ乾いてないぞ?」
逃がさないよう固定し、頭をガシガシと撫でてやると「やーめーろー!」と抗議の声が聞こえた。動かさないように修行していると言っているくせにふとした拍子にこう垂れ下がる姿を見せる。しかしいちいち丹念に触らなくても即見れる手段ができたのは朗報だと考えた。
「スマンドライヤーの音で何も聞こえないな」
「嘘つかない! あ、じゃあやーいばーか! おーじーさーんー!」
「俺は普段のお前より半分以下の年齢だ」
「聞こえてるじゃん! 都合のいい耳だなあ!」
聞こえないと言われたら思ったより幼い悪口が飛び出し苦笑する。絶対に大人に戻ったらやらせないという恨み言が飛び出した。「それなら子供のうちにゆっくり堪能しないとな」と後先考えずに喋るアンナに感謝する。
直後、可愛らしい「みぎゃー!」という叫び声が響き渡った。やりすぎたかもしれない、一瞬その手を止める。
数十分後、少々機嫌が悪くなったアンナの機嫌取りをしようやく抱きかかえる許可がもらえた。一回り小さな頭に顎を置き、アンナが読んでいる本を眺めている。滲んだ文字が多めな東方地域のからくり装置のカタログを呼んでいるようだ。その筆跡はどこかで見たことがある気がするが思い出せない。
とりあえず程々な時間で錬金術師ギルドで何を仕込みする気満々だったのか聞きながら眠らせる。どうやら大したことをするわけでもなくただ"今後の参考"のために錬金術の勉強をしていたらしい。「嘘をつくな。蒼天街で割った煙幕の幻影だろ」とネロやヤ・シュトラからの報告内容をぶつける。すると舌打ちしそっぽを向いて無言を貫きそのまま眠っていた。戻った後、まだ残っているであろう試作品を絶対全回収しようと決心しながら目を閉じる。
◇
5日目。目が覚めると子供のままのアンナは既に着替えをし、本を読んでいた。相変わらず早起きだなと欠伸をしながら体を起こすと気が付いたようだ、「おはよ」とニコリと笑顔を見せた。
「とりあえず今日は石の家に連れて行くからな。まあ溜まった仕事を終わらせて定時で迎えに行く」
「昨日も無理やり迎えに来たし皆怒ってるんじゃないの。別にゆっくり徹夜してもいいんだよ?」
「絶対に終わらせてくるからな」
頬をギュッと引っ張った後、一緒に朝食を食べに行き石の家へ引っ張って行く。少々ばつの悪そうな顔をしながら笑顔を見せているタタルとクルルに手を引かれ、奥へと連れて行かれるところを確認した後会社へ向かう。
「会長、アンナさんは連れて来てないんですか?」
ジェシーをはじめとする人間に何度も聞かれた。石の家にいると返しながらその後ろにある子供服を隠しとけとため息を吐く。人へ過剰に関与しないアンナからするとこれが嫌だから隠れていたんだな。そう思うと結果的にはネロに頼り隠れていたのは間違っていなかったのかもしれない。なら声くらいは聞かせろとぼやくことしかできなかった。ネロのことをパパと呼び自分のことをおじさんと呼んだのも未だムカつく所がある。しかも三度も呼んだ。ジェシーに明日大人に戻っていなかったら連れて来るという条件を持ち出し、ネロへ仕事を押し付けていく。
夜、石の家に顔を出すと少し疲れた顔をしたアンナがいた。こちらに気が付くといつもの笑顔に戻り「おや特大なお仕事は?」と聞くので「"調整"してくれたからな」と笑顔を返すと舌打ちしている。とりあえずどういう意味だと小突いた。抱き上げアンナと談笑していたクルルに会釈をしその場を後にする。
外で日中何があったのか聞きながら晩飯を済ませ、ネロの部屋からアンナの荷物を回収した。大きなスーツケースに纏められている。「デカいな。頑張ればアンナが入る」と呟くと足を踏まれながら「通報」と言われたし、ネロにも「口には出すな」呆れられた。流石に実行はしないと苦笑しながら宿に運び込む。
シャワーから出て来たアンナの髪を乾かしてやり、自分も頭を冷やしがてらシャワーを浴びた。戻ると昨日とは打って変わって既に寝転びながら身体を伸ばしていた。隣に座ると少しだけジトッとした目でこちらを見る。その後何か思いついたのかのそりと起き上がり膝の上に頭を置きニィと笑った。
「もう二度とないかもしれない体験で嬉しいでしょ?」
「大人に戻ってもやればいいじゃないか」
「やだ」
膝枕はさせる方が好きなんだよと柔らかな笑みを浮かべ膝の上でゴロゴロ転がっている。長い耳が当たってくすぐったい。
「石の家で子供っぽい動きとは何かとララフェルの方々に聞いてた。だから色々と試す」
「それは口に出さない方がよかったかもしれんな」
顔に手を当てため息を吐く。アンナは唐突に腕を掴み、顔へと持って行かせた。首元を撫でてやると笑顔を見せている。
「そもそも子供とは何かという所から議論をした」
「哲学は専門外だから分からんな」
「言葉を舌足らずにとかキャーキャー喚いたりとか。でもそれ私が嫌い。だからやらない。ならば普段から可愛いララフェル先輩に聞くのが一番」
「まあ突然そんなことされたら呪術士の所に連れて行くかもな。マハで妖異にでも憑かれたかもしれんと」
「非科学的なものに頼りに行こうって思う程異常に見えるってことね、オーケーオーケー」
私が普段どういう目で見られてるかよーく分かったよと言う口に反し笑みを隠さずその指をカリと甘噛みする。
「というか自分が子供の頃と同じ感じで行けるだろう。覚えてないのか?」
「ずっと素振りしてるか部屋中イタズラの仕掛けをして女の人のお尻触ってもいいなら」
「却下だ」
忘れかけていたがアンナは当初自分が男として生まれたと思っていた。実際普段の姿で見慣れているだけで笑顔で立っていなかったら十分少年だと言われても信じる自信はある。
「とにかく子供である利点をもう少し楽しもう。これ今日のまとめ」
「それを先の4日間で気付くべきだったな」
「やだ。そんな長く好奇心の目に晒されるとか頭おかしくなる」
普段のビックリ人間ショーみたいな英雄行為はいいのかと思うが口には出さないでおく。
それから適当に子供とはどういうものなのかという話を交わし眠った。
◇
6日目。いつもより早起きしたが既にアンナも起床していた。柔軟運動をしている姿はまだ子供のままだ。少しだけ安堵している自分を叱咤しながら身体を起こす。
「もっとゆっくり眠っててもいいんだぞ?」
「ホー今日は早い。……習慣だし。どうせ寝起きの姿見たいだけでしょ?」
「そうかもしれん」
やっぱりと言いながらこちらに近付き口付けた。今日は社に連れて行くからなと言うと一瞬笑顔が引きつっていたが即平静を装っていた。「そこまで酷いことはならんさ、多分」と言ってやると「だといいけどねえ」とアンナは苦笑した。
子供になったアンナの姿を見るや否や飛びついて行く老若男女問わない社員たち。ヒッという声を上げながら逃げることもかなわず捕まり奥へと連れて行かれた。その中には旅人服を着たレフがいる。どさくさに紛れて何やっているんだと思いながらネロに事情を聞く。すると「そういう体でいるために昨日休暇をもぎ取ったんだぜ? ただのアホだろ」と返された。あの男は意地でもちゃんと模範的な生活を送る護人であるという所を妹にだけは見せたいらしい。偶然にしてもここにいるのはどう考えてもおかしいだろと言いたかったが多分アンナは信じるだろう。それ位兄は嘘をつかない規律的な人間だと思っているからだ。実際は護人時代から黙って抜け出して興味関心を満たしたり、既に自分勝手な理由で離婚して里とも断絶している生粋のシスコンなのだが。
「蒼天街でファットキャットのパーカー着てたっつーと滅茶苦茶目を輝かせた奴らがいてな」
「お前絶対それアンナが話して欲しくなかったやつじゃ」
「ケッ散々迷惑かけられたンだ。アレ見てちょっと清々したぜ」
ミギャーという叫び声が聞こえる。あの声は不味い。流石に戻った後の荒みっぷりが想像できないので小走りで止めに行くことにした。
「おいおい止めに行くのか?」
「このままじゃ戻った後今回の錬金薬を量産して社内にぶちまけて大パニックにするぞ」
「アー"あっち"が絡んだらやりそうだな」
あっちという表現はよく分からないが程々にしとけと小部屋に行く。そこには髪を赤く染め、ウィスパーファインウールを着せられたアンナがいた。
「シド! に、兄さんにまで裏切られたし、社員教育はどうなってるんだ!」
「え、あ、似合うな?」
「ちがーう! このぉ……エロオヤジ!」
「あ、それは減給がやば。ゴホン! ……よーし妹よ! 兄と彼らのお仕事の邪魔にならないようにお出かけするか! な!」
「ずるいぞ!」
「マスコットとして置きなさいよ!」
「どこぞの会長クンの顔を見てから言う! ほら妹よ行くぞー」
「んー体鈍ってるから運動したいな」
「ああ久々に組み手でもしよう」
並ぶ姿を見ると確かに兄妹だ。なぜかパワーアップした罵倒を放ち、一瞬こっちを見やりくるりと回る姿が非常に可愛く周辺からも歓声が上がった。明らかに煽ってる姿に歯を食いしばりそのまま兄に引っ張られていく姿を見送る。覚えてろと思いながら早々に仕事を終わらせようと書類に向き合う。
◇
何とか仕事を終わらせレヴナンツトール中を歩き回っていた兄妹を捕まえ回収した。兄からの視線がとても痛かったが無視し連れ帰る。
「兄とはどういう話をしたんだ?」
「別に? いきなり会っても何話したらいいか分からないし……。故郷でヤることが終わってよかったって話と。ご飯食べて、街の中歩き回って色々買い物して、あとは郊外で組み手した」
里にいた頃思い出して楽しかったと笑顔で言う姿にため息を吐き頭を撫でてやる。3日程度ほぼ室内でのんびりしていたから身体を動かせて満足しているようだ。その辺りを汲んで付き合ったのなら兄は本当に有能な人間だなと思う。どうせ言われるがまま遊んでやっただけだろうが。
現在は汗をかいたからとシャワーを浴びに行っている。髪は赤いままで「戻ったら美容師にお願いする」とぶっきらぼうな顔で言っていた。個人的にはこれが本当のアンナの幼少時代の姿かと思うと少々興奮してしまう。そんなこと言ったらまた子供相手に云々と言われるので心の中にしまっておいた。
カタンという音が聞こえ振り向くとこちらに顔を覗かせている姿が見えた。多分ドライヤーかけろという合図なのだろう。しかしあえて無視してやると下着一枚でこちらでやってきてヒゲを引っ張る。
「いたた」
「ド・ラ・イ・ヤー」
「分かった分かった」
もうやらせんと言ったくせにワガママな子供である。素直に引っ張られてやり耳が垂れ下がる姿を見ながらドライヤーをかけてやった。「戻った後のためにやり方、教えて」と言われたが無視し髪をグシャグシャとかき回してやる。「ケチ!」という言葉に笑い終わった後は抱きしめてやる。再び耳を硬く立たせようとするので妨害するために優しく撫でまわし甘噛みしてやった。
「あーもー邪魔しない!」
「勿体ないからな」
抱き上げベッドまで運ぶ。「服は着ないのか?」と聞くと「そろそろ戻りそうな予感がしてねえ」と言いながらも風邪ひくからと布団を被る。
「ほら君もシャワー浴びてきなよ。汗臭い」
そっぽを向き手を振った。大人しく言う通りにすることにする。シャワーから出るともう既に眠っていたのでそのまま隣に倒れ抱き寄せながら眠りにつく。
◇
早朝、シドはふと腕がずしりと重くなり薄目を開いた。目の前には"いつものアンナ"がいた。そろそろ戻るような予感がしたという彼女の予想は当たっていたらしい。くすりと笑いが漏れてしまった。今すぐにでも抱きしめようと思ったがぐっと我慢をし、目覚めるのを待つ。
更に1時間もしない頃、多分いつもの起床時間なのだろう、アンナが起き上がり「あ」という声が聞こえた。「よし」という声も漏れ嬉しそうだ。「起きる前に撤退しよっと」と呟きながらそろりと寝台から離れようとしたので腕を掴んでやる。
「げぇっ」
「何がげ、だ。どこに行くつもりだ?」
「いや、ほら、もう起床時間で日課をこなさなければ、ね?」
「戻った直後にいきなり大量にタスクを課すのは身体への負荷が半端ないと思うんだが?」
ニコリと笑顔を見せ合う。こちらはここ数日の子供な言動と蛮行に我慢してきたのだ、そのまま行かせるわけにはいかない。しばらく沈黙が流れたがアンナが動き出す前に力いっぱいベッドへと引き摺り込んだ―――。
◇
「ネロサン、迷惑をかけた」
「なンだお前戻ったのか。結局1週間位かかっちまってたな」
夕方、ガーロンド社にフラフラと髪を黒く染め直したアンナが現れる。戻ったんですねというすれ違う人に会釈をしながらネロを見つけ手に持った袋を渡す。中を見ると菓子、迷惑料と書かれた袋、そして冊子が1冊入っていた。パラパラと捲るといくつか走り書きされた図面たち。「何だこれ?」と聞くと「さあ? どう使うかはご自由に」とニィと笑う。見たことのない魔法人形に、奇妙な小銃のようなもの、先日渡された煙幕の幻影関係のデータも入っている。
「"ボク"の体は重役出勤したであろう人間の説教で疲れてるんでね、失礼するよ」
「……アー」
昼の出来事を思い出す。早朝社員に突然遅刻すると連絡を寄越したシドは昼に機嫌よく出勤した。それから部屋に篭らされ書類に埋まっているが嫌そうな顔一つ見せない。ジェシーも「ねえ今日の会長怖すぎない?」と引いていた風景を半笑いで眺めた。
「戻ったのは早朝。それから説教に重なる説教でボクはダウン。でもちゃんと戻った件はなるべく早急に報告しないといけないからね。何とか"ボク"が身体を起こして錬金術師ギルドと暁に顔を出してきたのさ」
「ハァそりゃお疲れさまなこって」
それじゃシドに会う前に帰る、と踵を返し、手を振りながら去って行った。
「"ボク"は何が起こっていたのか分からないんだけどねぇ。とりあえずは教訓だ。錬金薬の扱いは慎重に。イヒヒッ」
空を見上げ伸びをする。なまった身体をまずは程よい運動でリハビリしよう、アンナはテレポを唱え、どこかへ飛んだ―――。
-終わり-
#シド光♀ #ギャグ
漆黒以降ネタバレ。独自設定の入った小説のあとがき
ずっと第八霊災が起こった時代について色々考えて頭から一度消したかったのでアウトプットしました。
以下あとがき隠し
まず第八霊災が起こった次元でのアンナとシドの関係について。アンナが"観念する"のは第一世界での出来事後なのでそれ無しで死んでしまうことになります。
そして初夜のタイミングもきっと違ったんだろうなあってぼんやり思ったり。シドも想いを伝え切れず、体の関係が先立ってそのまま熟成されたまま運命の日を迎えてしまう感じ。
具体的に言うとリンドウの墓参り夜に事が起こります。その時は"お礼"と称して行為を行い、シドは想いを伝えるがアンナはこういうセリフを残すでしょう。
「私よりもいい女性はこの星空の下にいくらでもいる。その相手が見つかるまではあなたのやりたいようにさせてあげるよ。あなたが死ぬまで幸せでいられるよう、全ての外敵から護ってあげる」
そんな感じ。シドは相手を作る気なんてその時にはもうなかったが、隣にいてくれるならそれでいいと甘んじてしまいました。"宿題"が与えられることもなくオメガの検証も円滑に行われ、暁のメンバー誰も倒れず最終決戦へアンナは走り去ってしまう。
第八霊災が起こり、アンナが死んでしまった後。シドは彼女のために墓を作ってやり、そこでネロから預かっていたという本を渡されます。それは旅人は人を見舞うで託された"答え"です。宿題の話が無くてもエメトセルクの手紙は届いてるし遺言として準備をしていました。本は大切に保存され、後にグ・ラハに託されます。(序章:紅蓮の先へと続く物語)
その本に挟み込まれていた紙片が今回のお話に繋がります。"内なる存在"が念のために入れた地図で、それはとある場所にある研究所へ導きました。
今回のお話はそんな"内なる存在"となったア・リス・ティアという男の複製体ア・リス視点で彼らの生涯を観測するというものになります。この複製体がメイン時空ではリテイナーとして走り回る自称トレジャーハンターだったり。彼はア・リスが持っていた知識、記憶をインプットさせておいたクローンです。魂はアンナに捧げ、肉体は朽ち果て消えてしまっています。"ドアホの魂の一部も持って"と言ってますが、それはこっちに書いてます(旅人に"魂"は宿る)。
これまでエルファーの過去やアンナが持っていた謎等全て詰め込みました。これらはメイン時空のお話では公開する予定はほぼないがちゃんと見える位置に置いておきたかったのでお話として出力しておきます。
誰も幸せにならなかった話を書くのは初めてだったのでぶっちゃけ結構苦痛でしたが、いい感じにまとめられてよかった。まだ幾らでも盛れるけどそれは野暮かなって感じ。
ア・リスが何度も「もし過去を本当に改竄出来たら」と強調しますが彼としては本当にこの理論が成功するかは五分五分な感覚を持っていました。本人としては俺様と俺様の友人が幸せになればそれでいい勝手にさせろと思っているので無責任に救ってやってくれと声をかけてやったりしています。リンドウは弱虫、ア・リスは狂ってるとエルファーは称していましたが、それはあくまでも妹まで実験感覚で余計なことしてと拗ねてただけで本当はちゃんと懐いてました。
というかエルファーは優しさはあるが愛想の悪さで嫁8人と友人2人しかいない人間だったので距離感がバグってたり。数十年後、ネロと行動し、ガーロンド社で働くことになってからはそれなりに柔らかくなっていました。因習より社畜の方がマシってなってたんでしょうね。本当か? でも第八霊災でそのそれなりな幸せが崩れ去り、再び暗くなっていきます。"肉"を喰いという描写はまあ察してください。故郷の因習で抵抗がない人間だったってやつです。
そんな姿をネロはずっと分かっていながらも目を逸らしていました。何とかしてやりたかった、けどどうすればいいのか分からないって感じ。感情としては親しい友人としてのものでそれ以上の感情を持っていたかは伏せてます。ネロってその辺り全て隠して歩み続けることが出来る人間だと思っているのでどっちでもいいんじゃないかな。アンナに対してはバカ騒ぎ出来るビックリ人間って感覚でそれ以外の感情は一切ないのは言い切れますが。
オメガとア・リスは現在を記録するモノと過去を記録するモノと分けられるんですよね。本編中には書かれてませんが、ア・リスはそれまで聞いてきた人間の名前と大体の過去の所感、アンナとの思い出を全て書き残し、エルファーに託しています。意思疎通は取れなかったけどそれなりに空気は読んで仲良くしてるように見せてました。実際は少々語弊はあるけど"内なる存在"と同一人物なのでオメガ的にはどちらかというと狼藉働かないか見張っていたの方が正しいんですけどね。畳む
以下暁月ネタバレ入れたお話。
アンナとリンドウが持っていた気迫と呼ぶものに関して。初めてお話としてどういったものなのかと明記しました。要するにア・リスらはエンテレケイアを再現したような技術を開発したってことになります。つまりリンドウと別れてからのアンナはしばらく心を塞ぎ込み暴れて"鮮血の赤兎"と呼ばれていましたがそれは終焉ちゃんみたいな状態になりかけていたってことですね。暁月編でその辺りに触ったお話は書く予定ではありましたがいつになるか分からなかったのでここで先出しって感じ。そういう意味ではアンナやリンドウ、ついでにア・リスはメーティオンに寄り添いやすい人間かもしれません。畳む
そんな感じ。これから上げるものの予定ですが、リンドウ墓参り二度目であったエルファーとネロの会話、オメガ検証後日談を1つ、感情を機敏に受け取るアンナの話、リテイナーア・リスの短編集辺りが予定に入ってます。