FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.124, No.123, No.122, No.121, No.120, No.119, No.118[7件]
"七夕"
「やあシド」
「アンナか、ってお前さん何を持ってるんだ?」
聞き慣れた声に振り向くと目の前は緑色。何やら紙がぶら下がっているようだ。
「笹。願い事をほら書いて」
そう言いながらアンナは紙とペンを押し付ける。シドは首を傾げ詳細を聞いてみた。
「7月7日、東方地域では七夕という行事がある。願い事、笹に吊るして、ロマンチック」
「分からん。ていうか笹だけならともかく紙まで吊り下げて重たくないか?」
「大丈夫。まああなた神事がない所出身だしそういうのあまり分からないかもね」
苦笑しながらアンナは東方に伝わる七夕の伝承について話をする。シドは相槌を打ちながら聞いていたが、話終わったら否や首を傾げた。
「引き離された恋人についての伝承から短冊に願い事を書くという行為に繋がりはあるのか?」
「それ帝国出身のロマン分からずやたちが同じようなこと言ってた。まあそういうもんって受け取ってよ。前に日付を見てね、そういえば昔フウガがそういう行事あるって説明してくれたの思い出し。暁とガーロンド社の人たちに願い書いてもらってた。キミ最後」
またリンドウ関係かよと眉間に皴を寄せるが、唐突に淡い思い出に付き合わされることになった面々に同情する。多分自分も拒否権は無いだろうなと苦笑し、書かれた願い事を眺める。
「っと『ボーナスが欲しい』に『長期休暇が欲しい』はウチの社員か。おいおい予算に関わることも書いてるじゃないか。ん? これ誰が書いたか分かるか?」
「書いてもらう際いずれも匿名希望が条件。いやあでも欲望たっぷりなご要望もいっぱいあったから燃やす前にジェシーとシドにはとりあえず見てもらおうと。面白いでしょ?」
「燃やすのか?」
「願いを昇華する儀式ってやつだよ。ていうか燃やさないならどこに置く気?」
そっち側の短冊はガーロンド社で、自分の方にあるやつは暁のだと苦笑しながら笹を揺らした。シドはいくつか短冊を眺めた後、そういえばと口を開く。
「……アンナのはどうした」
「は?」
「アンナは何を願ったんだ?」
「まだ書いてない。なつかしーって当時の出来事反芻してるのみ」
「じゃあ当時は何って書いたんだ?」
アンナは「確かねえ。フウ……」と言いかけた所でハッと我に返りシドの顔色を伺う。少しだけ目付きが変わったように見えた。慌てながら軌道修正を図る。
「フウガがその少し前に言ってた言葉があってねえ! それを書いた! 無病息災!」
「むびょ、何だそれ」
「東方の言葉で病気知らず、健康である。そんな感じだと思えば」
「じゃあそれにするか。元気でいたいからな、向こうの文字でどう書くか教えてくれないか」
ニィとシドが笑ってやるとアンナは一瞬目を見開く。「それに」と言葉を続けると少しだけ泣きそうな顔を見せた。
「お前さんも元気でいて欲しいしな」
「え」
「俺よりも倍以上生きるつもりなんだろ? 少しでも長生きしないとな。アンナは何と書くんだ? ってどうした」
怪訝な目で見ているとその視線に気付いたのか、アンナは咳払いをしニィと笑った。
「シドが少しでも長生きしますようにとでも書いておくよ」
◆
「フウガ、村の中心に竹があるのは何で? 前来た時なかったよ」
「ああ七夕の時期だからだろう」
「たなばた?」
赤髪の小さなヴィエラはすらりと背が高く真っ白な壮年のエレゼンの手を握り、その緑色をじっと見つめながら話を聞いた。
「という伝承があってな。その祭りとして、願い事を短冊に書いて吊るす地域が有る」
「ホー面白いね」
「どうだ、エルダス。よければお主も書いてみないか?」
「フウガも書くなら!」
ニコリと笑いながら跳ねる姿に不器用な笑みを返した。近くにいた村人から短冊と筆を受け取り、フウガと呼ばれた男は慣れた手つきで文字を書く。少女はそれを眺めながら「何書いた?」と聞く。
「無病息災」
「どういう意味?」
「病気知らず、健康である。そんな感じだと思えばよい。私もだがエルダスにも元気でいて欲しいのもある。何せお主は私よりも3倍以上長生きするんだ。少しでも長生きせんとな」
「もーフウガったら。フウガは強いんだからぜーったい病気にはならないよ」
「そうかそうか。さあエルダスも書きなさい。何と書くのだ?」
少女は「決まってるよ」と笑顔を見せた。そして拙い字で願い事を書く。フウガは覗き込み、苦笑した。
「フウガが少しでも長生きしますように!」
#シド光♀ #即興SS #季節イベント
"帰る場所"
注意&補足
暁月.0終了後、実際ゲーム中でエンピに家を建てたのでそれを反映したお話です。
―――最近"また"アンナの様子がおかしい。いや、変なのは最早日常だ。が、今回ばかりは意味合いが違う。
アンナがまた世界を救い、負ってしまった傷が癒えた後。あの人は何事もなく気ままに人助けをしながら現れる生活を繰り返していた。が、約1ヶ月後、また連絡の頻度が減り滅多に顔も出さなくなった。まだ説教が足りなかったのかとため息を吐いているとリンクパールが鳴る。
『次の休日はいつ?』
「ああ一段落ついたから週末は休みだが」
『世界が滅ぶまで休み無しかあ』
「違うに決まってるだろ」
『ナイスジョーク。じゃあまた迎えに行くね』
飄々とした声で一方的に用件も言わず数言交わして切られる。やっぱり様子がおかしいのとどこかデジャヴ感があった。またリテイナーからイタズラにしか使えない変な道具を渡したか知恵を貰ったのかもしれない。アレが作ったと判明した"発信機"によると、主にイシュガルドで"仕込み"を行っているのは分かっている。少しだけ胃が痛くなった。
◇
数日後。
「久しぶり」
「だからお前は勝手すぎると何度言えば」
「ずっとエオルゼア周辺にはいたからノーカン」
ほらこっちこっちと腕を引っ張られ、飛空艇のチケットをチラリと見せた。「トップマストか?」と聞くと「違う」と言いながら放り込まれた。確かにこの時間に出る便はイシュガルドだったかと記憶を辿っていると目の前が真っ暗になる。どうやら目隠しを施されたようだ。
「こら」
「サプライズ。私がエスコート。それとも抱っこがいい?」
「往来でそんなことをするんじゃない!」
「人通り少ない場所は把握済み。安心」
何が安心だ。また変な企みかとため息を吐きながら「せめて飛空艇から降りるまでは外してくれないか。どの選択肢でも怪我するだろ」と言ってやると「ほんとだ」と外した。イタズラっぽい笑顔が相変わらず綺麗でため息を吐く。だってこれで少しだけ許してしまう自分がいるのだから呆れるのも当然じゃないか。
イシュガルドランディングを抜け、再び視界を覆われた。手を引かれ、歩かされる。時々「こちらへ」等声が聞こえた。食事会にでも連れて行かれているのだろうかと首を傾げていると「怖くない怖くない」と頭を撫でられる。「俺は子供じゃない」と威嚇するような素振りを見せるとクスクスと笑う声が聞こえた。
ふと「止まって」と言うので立ち止まり、「どうした」と聞くと目隠しが外される。光で目が眩み、目を細めながら正面を見るとそこには一軒家。そして傍には赤色のバディチョコボ"フレイム"がいる小さな厩舎。嫌な予感がする。眉間に皴が寄っていった。
「フレイヤ、お前まさかと思うが」
「アンナと呼ぶ。―――私の家」
あえて本名で呼んでやる。デジャヴ感は間違えていなかった。トップマストの一室に連れて行かれた時と全く同じ状況で。とりあえずどういう意図で連れて来たのかを問う。
「もうしばらくエオルゼアに留まるなら本格的に腰を落ち着かせる場所を準備しようと思い」
「分かる」
「そしたらイシュガルド復興プロジェクト完了、エンピレアムオープン」
「新聞で読んだな」
「じゃあここにSでいいから土地買お」
「……ん?」
「即応募、無事当選、購入。内装はとぼんやり手を動かし気が付くと1ヶ月経過。連絡より考える優先だとしてたのもあり反省し。一番最初に人を呼ぶのはキミと思ったのが数日前」
「お前薄々感じてたが相当のバカだな?」
外界のことを忘れ鼻歌を歌いながら内装を整えている姿は容易に想像できた。肩を落とし、ため息を吐く。その姿を見たアンナはニコリと笑い、「寒いでしょ? ささ、中へ」と案内した。
◇
玄関に入るとキッチンやリテイナーを呼ぶベルに食事スペース。真っ白な庭を見渡せる窓の傍には雑に物を積んだ作業机があった。手狭だが最低限の実用家具だけがそろえられている。「休みスペースは地下」と言いながら案内されると確かに寝台やクローゼット。暖を取る場所も少しだけ準備されていた。アパルトメントと違い置かれている家具は大体大人2人以上がゆったり使えそうで。風呂やトイレはあっちと呑気に案内するアンナをジトリとした目で見ると不敵な笑みを浮かべていた。
「ラノシアより本社に近いでしょ?」
「……そうだな?」
「キミもいい加減会社以外に住むことを覚えなよ。前にほぼ会社にいるからそういう所出払ってるなんて聞いてたし」
目を見開くと耳元でボソリと囁かれた。
「真っ白で寒い場所、キミと出会った時を思い出せる。グッドでしょ?」
「フレイヤ」
「だーかーらーアーンーナー。―――ボクら、故郷は捨てた身で帰る場所は無かった。まあキミはこれから復興するお手伝いとかもあるだろうけど。そろそろ作ってもいいんじゃないかな?」
「お前」
「まあお互い……特にボクは滅多に帰って来ないだろうけど帰る住処、いいなと思い。流石に終の棲家ではないけどさ。そういうのあると心の安定とやらが違うんでしょ? 書物で見た。あ、お仕事持ち帰ってやっててもよし」
「毎回何で! そういうことを相談もせず勝手にやるんだ! あといくら使った、正直に答えてくれないか!」
頭痛がする。思い付けば即実行のアンナにはいつも驚かされてきたが遂にサプライズとやらが突き抜けた。どこぞの社員2人みたいに俺の名義で勝手に領収書を切られていないだけマシだが、脳の処理が追いつけずソファに崩れ落ち項垂れた。
「金銭心配不要。最近色々大儲け。ぐっへっへっ」
「似合わん笑い方だな。ってそういう問題じゃない。いつも貰ってばっかなのが情けないんだが」
「じゃあこれからカスタマイズすればいい。好きに弄ってよし」
「だからな」
「あ、もしかして寒い場所は故郷を思い出して嫌い?」
少しだけしょんぼりとしたような顔で隣に座ったアンナに狼狽えてしまった。咳ばらいをし、笑みを返す。完全にガキの頃の話を持ち出されるのは不意打ちだっただけで問題はなかった。そして確かに少々肌寒い方が性に合う。
「いやそういうわけじゃない。こういうことするなら一言先にくれないか? サプライズにしては少々重いぞ。今後の人生的な意味で、だ」
「……ホー」
それは一切考えに入れてなかったと柔らかい笑みを浮かべた。他意なくこういうことをやらかすアンナは本当に心臓に悪い。今回も遠回しの告白ではなくただ何も考えずにやらかしただけだろう。少しだけやり返すことにする。
「じゃあ一軒家ならいいよな」
「? 何かメリットあった?」
ニィと笑いながら抱き寄せ耳元で囁いてやる。
「装置、無くても声出せるよな? 隣の家もそんなに近くない」
「……すけべ」
「いででで」
ジトリとした目で思い切りヒゲを引っ張られた。まあこうされるのも当然な話だろう。恥の概念が搭載されていない人間が何を言っているんだとも思うが。
ただ、トップマストにいる時は万が一に備えてとどこか慎重に対応されていた。後にあのリテイナーが持って来たという防音壁発生装置なんて都合のいいものが導入されてからは箍が外れつつあったがそれは置いておこう。頬に口付けを落としてやると盛大な溜息が聞こえた。
「帰る場所、か」
本当に悪くない提案かもしれない。あの『人と深く関わりたくない』と頑なに拒否していた旅人がそんなことを口にしたのだ。1年前の自分に言っても信じてくれないだろう。まあどうせ明日にはまた別々の道を奔って滅多に会えない関係なのは変わらないのだけは分かる。
「―――私だって少しはここで休む努力するさ。リテイナーが何やらかすか不明」
「は? まさかあのミコッテか?」
「上の作業机、あの子が希望、設置。内装考えてる時に凄く駄々こねられて」
「俺もなるべく帰れるよう頑張るが……何やってんだあいつ」
どうやら相当我儘を言われたらしい。少しだけ疲れた顔をしている。
「『外の景色を気分転換で見れる場所がいい! 俺様だって住みたい! いいだろいいよねいーいーよーなー』がメインだったかな。もーあの子たちの中では一番の大人なのに中身はお子ちゃん」
まさに前に見たビデオレターと変わらないムカつく男である。アレは御伽噺で見たような不気味な笑顔を見せる部下でありアンナの兄の友人だ。遥か昔に自らを模した"クローン"を作成し、現在は当時の記憶もそのままに各地を元気に走り回っている。近頃アンナによって行われるイタズラはこの男が"持って帰って来たもの"で起こされていた。本当に持っている技術が惜しいがアンナの関係者じゃなかったら絶対に関わりたくない。腕は確かなのだが、この男にだけは絶対頭を下げたくなかった。
閑話休題。少し考え込んでいると視線を感じた。アンナがこちらをジトリとした目で見ている。
「ああ待たせてしまったな」
「別に」
もう一度口付けてやるとため息を吐き目を閉じる。ククと笑いそのまま身体を倒してやった―――。
◇
「とりあえず近日中に私物は持ち込もうと思う」
「ご自由に」
早朝。着替えながら今後の計画を話し合う。高い買い物をされてしまったので好きにやらせてもらおうと悟った。以前『メスバブーンに関しては目の前で起こったことは全力で楽しむ方が有意義だ』と誰かが言っていたが、確かにそうだと思ってしまう。何故あいつの方がこの結論に至るのが早かったかはムカつくだろうから聞きたくない。
「本当に好きに弄ってもいいんだな?」
「ボクは怒らない。リテイナーたちの休憩場所とキッチンさえちゃんと残してくれてたら違法建築可能」
「いやそこまではできないが。まあア・リス以外の子らはお前さんにとって大切な家族だしな」
「でしょ? ていうかア・リスあんまりいじめちゃダメ。情けないって思っちゃうくらい泣かれるよ?」
なんて言いながらアンナはニィと笑いながら肩に顎を乗せる。最初こそは頭上で身長が縮むだろうと冗談を言い合っていたが、実はヴィエラ族が行う一種の愛情表現だったことを後に知り衝撃を受けた。まあ当の本人は自覚していなかったようだが。
「ほら、今日は暁からお呼ばれ」
「―――ああ」
ぐしゃりと頭を撫でてやると所謂"余所行き"の笑顔を見せていく姿は、以前の黙って何もかも背負っていた祖国の怪談であり、英雄でもある人間とは思えない。
「好きだぞ、アンナ」
「―――知ってる。素面で言わない」
「言ってやらないと分かってくれないじゃないか。……帰って来いよ」
「折角高い買い物したのに簡単に消えると思って?」
じゃあ次のイタズラをお楽しみにと言いながら鍵を押し付け外へ出て行った。自分も行かねばと軽くため息を吐きながら出立の準備をする。
―――流石にこれより上のイタズラはプロポーズより先なのではと思いながら。
#シド光♀
暁月.0終了後、実際ゲーム中でエンピに家を建てたのでそれを反映したお話です。
―――最近"また"アンナの様子がおかしい。いや、変なのは最早日常だ。が、今回ばかりは意味合いが違う。
アンナがまた世界を救い、負ってしまった傷が癒えた後。あの人は何事もなく気ままに人助けをしながら現れる生活を繰り返していた。が、約1ヶ月後、また連絡の頻度が減り滅多に顔も出さなくなった。まだ説教が足りなかったのかとため息を吐いているとリンクパールが鳴る。
『次の休日はいつ?』
「ああ一段落ついたから週末は休みだが」
『世界が滅ぶまで休み無しかあ』
「違うに決まってるだろ」
『ナイスジョーク。じゃあまた迎えに行くね』
飄々とした声で一方的に用件も言わず数言交わして切られる。やっぱり様子がおかしいのとどこかデジャヴ感があった。またリテイナーからイタズラにしか使えない変な道具を渡したか知恵を貰ったのかもしれない。アレが作ったと判明した"発信機"によると、主にイシュガルドで"仕込み"を行っているのは分かっている。少しだけ胃が痛くなった。
◇
数日後。
「久しぶり」
「だからお前は勝手すぎると何度言えば」
「ずっとエオルゼア周辺にはいたからノーカン」
ほらこっちこっちと腕を引っ張られ、飛空艇のチケットをチラリと見せた。「トップマストか?」と聞くと「違う」と言いながら放り込まれた。確かにこの時間に出る便はイシュガルドだったかと記憶を辿っていると目の前が真っ暗になる。どうやら目隠しを施されたようだ。
「こら」
「サプライズ。私がエスコート。それとも抱っこがいい?」
「往来でそんなことをするんじゃない!」
「人通り少ない場所は把握済み。安心」
何が安心だ。また変な企みかとため息を吐きながら「せめて飛空艇から降りるまでは外してくれないか。どの選択肢でも怪我するだろ」と言ってやると「ほんとだ」と外した。イタズラっぽい笑顔が相変わらず綺麗でため息を吐く。だってこれで少しだけ許してしまう自分がいるのだから呆れるのも当然じゃないか。
イシュガルドランディングを抜け、再び視界を覆われた。手を引かれ、歩かされる。時々「こちらへ」等声が聞こえた。食事会にでも連れて行かれているのだろうかと首を傾げていると「怖くない怖くない」と頭を撫でられる。「俺は子供じゃない」と威嚇するような素振りを見せるとクスクスと笑う声が聞こえた。
ふと「止まって」と言うので立ち止まり、「どうした」と聞くと目隠しが外される。光で目が眩み、目を細めながら正面を見るとそこには一軒家。そして傍には赤色のバディチョコボ"フレイム"がいる小さな厩舎。嫌な予感がする。眉間に皴が寄っていった。
「フレイヤ、お前まさかと思うが」
「アンナと呼ぶ。―――私の家」
あえて本名で呼んでやる。デジャヴ感は間違えていなかった。トップマストの一室に連れて行かれた時と全く同じ状況で。とりあえずどういう意図で連れて来たのかを問う。
「もうしばらくエオルゼアに留まるなら本格的に腰を落ち着かせる場所を準備しようと思い」
「分かる」
「そしたらイシュガルド復興プロジェクト完了、エンピレアムオープン」
「新聞で読んだな」
「じゃあここにSでいいから土地買お」
「……ん?」
「即応募、無事当選、購入。内装はとぼんやり手を動かし気が付くと1ヶ月経過。連絡より考える優先だとしてたのもあり反省し。一番最初に人を呼ぶのはキミと思ったのが数日前」
「お前薄々感じてたが相当のバカだな?」
外界のことを忘れ鼻歌を歌いながら内装を整えている姿は容易に想像できた。肩を落とし、ため息を吐く。その姿を見たアンナはニコリと笑い、「寒いでしょ? ささ、中へ」と案内した。
◇
玄関に入るとキッチンやリテイナーを呼ぶベルに食事スペース。真っ白な庭を見渡せる窓の傍には雑に物を積んだ作業机があった。手狭だが最低限の実用家具だけがそろえられている。「休みスペースは地下」と言いながら案内されると確かに寝台やクローゼット。暖を取る場所も少しだけ準備されていた。アパルトメントと違い置かれている家具は大体大人2人以上がゆったり使えそうで。風呂やトイレはあっちと呑気に案内するアンナをジトリとした目で見ると不敵な笑みを浮かべていた。
「ラノシアより本社に近いでしょ?」
「……そうだな?」
「キミもいい加減会社以外に住むことを覚えなよ。前にほぼ会社にいるからそういう所出払ってるなんて聞いてたし」
目を見開くと耳元でボソリと囁かれた。
「真っ白で寒い場所、キミと出会った時を思い出せる。グッドでしょ?」
「フレイヤ」
「だーかーらーアーンーナー。―――ボクら、故郷は捨てた身で帰る場所は無かった。まあキミはこれから復興するお手伝いとかもあるだろうけど。そろそろ作ってもいいんじゃないかな?」
「お前」
「まあお互い……特にボクは滅多に帰って来ないだろうけど帰る住処、いいなと思い。流石に終の棲家ではないけどさ。そういうのあると心の安定とやらが違うんでしょ? 書物で見た。あ、お仕事持ち帰ってやっててもよし」
「毎回何で! そういうことを相談もせず勝手にやるんだ! あといくら使った、正直に答えてくれないか!」
頭痛がする。思い付けば即実行のアンナにはいつも驚かされてきたが遂にサプライズとやらが突き抜けた。どこぞの社員2人みたいに俺の名義で勝手に領収書を切られていないだけマシだが、脳の処理が追いつけずソファに崩れ落ち項垂れた。
「金銭心配不要。最近色々大儲け。ぐっへっへっ」
「似合わん笑い方だな。ってそういう問題じゃない。いつも貰ってばっかなのが情けないんだが」
「じゃあこれからカスタマイズすればいい。好きに弄ってよし」
「だからな」
「あ、もしかして寒い場所は故郷を思い出して嫌い?」
少しだけしょんぼりとしたような顔で隣に座ったアンナに狼狽えてしまった。咳ばらいをし、笑みを返す。完全にガキの頃の話を持ち出されるのは不意打ちだっただけで問題はなかった。そして確かに少々肌寒い方が性に合う。
「いやそういうわけじゃない。こういうことするなら一言先にくれないか? サプライズにしては少々重いぞ。今後の人生的な意味で、だ」
「……ホー」
それは一切考えに入れてなかったと柔らかい笑みを浮かべた。他意なくこういうことをやらかすアンナは本当に心臓に悪い。今回も遠回しの告白ではなくただ何も考えずにやらかしただけだろう。少しだけやり返すことにする。
「じゃあ一軒家ならいいよな」
「? 何かメリットあった?」
ニィと笑いながら抱き寄せ耳元で囁いてやる。
「装置、無くても声出せるよな? 隣の家もそんなに近くない」
「……すけべ」
「いででで」
ジトリとした目で思い切りヒゲを引っ張られた。まあこうされるのも当然な話だろう。恥の概念が搭載されていない人間が何を言っているんだとも思うが。
ただ、トップマストにいる時は万が一に備えてとどこか慎重に対応されていた。後にあのリテイナーが持って来たという防音壁発生装置なんて都合のいいものが導入されてからは箍が外れつつあったがそれは置いておこう。頬に口付けを落としてやると盛大な溜息が聞こえた。
「帰る場所、か」
本当に悪くない提案かもしれない。あの『人と深く関わりたくない』と頑なに拒否していた旅人がそんなことを口にしたのだ。1年前の自分に言っても信じてくれないだろう。まあどうせ明日にはまた別々の道を奔って滅多に会えない関係なのは変わらないのだけは分かる。
「―――私だって少しはここで休む努力するさ。リテイナーが何やらかすか不明」
「は? まさかあのミコッテか?」
「上の作業机、あの子が希望、設置。内装考えてる時に凄く駄々こねられて」
「俺もなるべく帰れるよう頑張るが……何やってんだあいつ」
どうやら相当我儘を言われたらしい。少しだけ疲れた顔をしている。
「『外の景色を気分転換で見れる場所がいい! 俺様だって住みたい! いいだろいいよねいーいーよーなー』がメインだったかな。もーあの子たちの中では一番の大人なのに中身はお子ちゃん」
まさに前に見たビデオレターと変わらないムカつく男である。アレは御伽噺で見たような不気味な笑顔を見せる部下でありアンナの兄の友人だ。遥か昔に自らを模した"クローン"を作成し、現在は当時の記憶もそのままに各地を元気に走り回っている。近頃アンナによって行われるイタズラはこの男が"持って帰って来たもの"で起こされていた。本当に持っている技術が惜しいがアンナの関係者じゃなかったら絶対に関わりたくない。腕は確かなのだが、この男にだけは絶対頭を下げたくなかった。
閑話休題。少し考え込んでいると視線を感じた。アンナがこちらをジトリとした目で見ている。
「ああ待たせてしまったな」
「別に」
もう一度口付けてやるとため息を吐き目を閉じる。ククと笑いそのまま身体を倒してやった―――。
◇
「とりあえず近日中に私物は持ち込もうと思う」
「ご自由に」
早朝。着替えながら今後の計画を話し合う。高い買い物をされてしまったので好きにやらせてもらおうと悟った。以前『メスバブーンに関しては目の前で起こったことは全力で楽しむ方が有意義だ』と誰かが言っていたが、確かにそうだと思ってしまう。何故あいつの方がこの結論に至るのが早かったかはムカつくだろうから聞きたくない。
「本当に好きに弄ってもいいんだな?」
「ボクは怒らない。リテイナーたちの休憩場所とキッチンさえちゃんと残してくれてたら違法建築可能」
「いやそこまではできないが。まあア・リス以外の子らはお前さんにとって大切な家族だしな」
「でしょ? ていうかア・リスあんまりいじめちゃダメ。情けないって思っちゃうくらい泣かれるよ?」
なんて言いながらアンナはニィと笑いながら肩に顎を乗せる。最初こそは頭上で身長が縮むだろうと冗談を言い合っていたが、実はヴィエラ族が行う一種の愛情表現だったことを後に知り衝撃を受けた。まあ当の本人は自覚していなかったようだが。
「ほら、今日は暁からお呼ばれ」
「―――ああ」
ぐしゃりと頭を撫でてやると所謂"余所行き"の笑顔を見せていく姿は、以前の黙って何もかも背負っていた祖国の怪談であり、英雄でもある人間とは思えない。
「好きだぞ、アンナ」
「―――知ってる。素面で言わない」
「言ってやらないと分かってくれないじゃないか。……帰って来いよ」
「折角高い買い物したのに簡単に消えると思って?」
じゃあ次のイタズラをお楽しみにと言いながら鍵を押し付け外へ出て行った。自分も行かねばと軽くため息を吐きながら出立の準備をする。
―――流石にこれより上のイタズラはプロポーズより先なのではと思いながら。
#シド光♀
"カーバンクル"
「アンナ今日は召喚士か、珍しいな」
「そう?」
黒髪のヴィエラアンナの膝に乗る青色のカーバンクルをジトリとした目でシドは見た。
アンナは器用なものでエーテルを扱う力も片手間にこなすことができる。初めて見た時、「昔エーテルの扱い方が下手だったから修行したんだよ」と苦笑いしながら長い指をクルクルと回していた。直後、高く飛ぶカーバンクルに突然飛び蹴りを喰らったのを未だ根に持っているらしい。
「そこまで悪い子じゃないのに。どうしたんだろ。やめるようにちゃんと躾けとくね。ごめんなさい」
そう当時苦笑しながら額の宝石を優しく弾いていた。ちなみに現在、流石に飛び蹴りまではされないが未だに噛みつかれたりと懐かれていない。ジェシーをはじめとした部下には懐いてるらしく何故かシドにのみそうするのだ。召喚者と同じくイタズラしているつもりなのだろうと自分を納得させているが面白くはない。
ふとその召喚物をじっと見つめる。違和感がある。そうだ、以前暁の血盟のヤ・シュトラから聞いたアンナについての情報を思い出した。
「そういえばこのカーバンクルってやつはいろんな色がいるよな?」
「うん」
「以前ヤ・シュトラからお前さんのエーテルの色を聞いた。てっきり赤いやつになるかと思ったが青なんだな」
「あー確かに。不思議」
クシャリと撫でじっと見つめているとシドは隣に座る。少しだけ召喚物をじっと見つめている。
「どしたの?」
アンナは首を傾げる。
そう、アンナからは見えないがカーバンクルは撫でられながらシドを見上げている。まるでここは自分の特等席だと言いたいが如く目を細めすり寄っていた。
「いや、何でもないからな」
そっぽを向く。アンナはしばらく考え込み「まさか」と軽くため息を吐いた。
シドという男はほんの少しだけ嫉妬深い所を見せることがあった。恋心を自覚する前から気が付いたら隣に立っていたり、密かに話し相手を睨んだりと、アンナの目には何かと妙なことをしているように映っている。
「キミ、まさか召喚した子にまで嫉妬? いや流石にそんな」
少しだけばつの悪そうな顔でこちらを見ている。まじかぁと呆れたような声を上げた。
「この子は悪い子じゃないよ。だから仲良く」
ほらシドもと抱き寄せくしゃりと頭を撫でる。ふと顔を見ると、眉間に皴は寄せているものの口元は緩みこれはもし尻尾が生えていたならば激しく振ってるだろうなと苦笑した。
「まったくどっちのシドも嫉妬深くて困る」
「悪かったな小動物にまで嫉妬し……うん?」
「あ」
アンナは用事思い出したと離れようとしたがシドはその腕を掴む。"また"余計なことを言ってしまったと手で口を覆った。
「今何と? よく聞こえなかったからもう一度言ってくれ」
「別に、何でも」
「どっちの何って言ったんだ?」
「聞こえてるじゃん! ……カーバンクル! 頭突き!」
顔を真っ赤にしながらカーバンクルに指示しているが珍しく何もせず頭に乗っている。両耳の間に器用に立っているのは正直凄いと目を細めた。アンナは「こういう時に限って! 言う事聞く!」と震え思い切り目を逸らす。頭を激しく振っても頑なに動かない。一方隣に座っているシドの機嫌は一転し、笑いながら背中を叩く。
「チクショー……もー!!」
アンナは理解している。このカーバンクルは今名前を呼ばないと指示を聞く気がない。自爆したお前が悪いと言いたいが如くつむじを足で突いていた。しかし、もし呼んでしまえば次は隣の大男がこちらへ頭を擦り付けてくるだろう。絶対何か勘違いしている。
何故当時の自分は『なんか似てるね』と何も考えず呼んでしまったのか。しばらくがっくりと項垂れ、頭をぐしゃぐしゃと掻き盛大な溜息を吐いた―――。
#シド光♀ #即興SS
「そう?」
黒髪のヴィエラアンナの膝に乗る青色のカーバンクルをジトリとした目でシドは見た。
アンナは器用なものでエーテルを扱う力も片手間にこなすことができる。初めて見た時、「昔エーテルの扱い方が下手だったから修行したんだよ」と苦笑いしながら長い指をクルクルと回していた。直後、高く飛ぶカーバンクルに突然飛び蹴りを喰らったのを未だ根に持っているらしい。
「そこまで悪い子じゃないのに。どうしたんだろ。やめるようにちゃんと躾けとくね。ごめんなさい」
そう当時苦笑しながら額の宝石を優しく弾いていた。ちなみに現在、流石に飛び蹴りまではされないが未だに噛みつかれたりと懐かれていない。ジェシーをはじめとした部下には懐いてるらしく何故かシドにのみそうするのだ。召喚者と同じくイタズラしているつもりなのだろうと自分を納得させているが面白くはない。
ふとその召喚物をじっと見つめる。違和感がある。そうだ、以前暁の血盟のヤ・シュトラから聞いたアンナについての情報を思い出した。
「そういえばこのカーバンクルってやつはいろんな色がいるよな?」
「うん」
「以前ヤ・シュトラからお前さんのエーテルの色を聞いた。てっきり赤いやつになるかと思ったが青なんだな」
「あー確かに。不思議」
クシャリと撫でじっと見つめているとシドは隣に座る。少しだけ召喚物をじっと見つめている。
「どしたの?」
アンナは首を傾げる。
そう、アンナからは見えないがカーバンクルは撫でられながらシドを見上げている。まるでここは自分の特等席だと言いたいが如く目を細めすり寄っていた。
「いや、何でもないからな」
そっぽを向く。アンナはしばらく考え込み「まさか」と軽くため息を吐いた。
シドという男はほんの少しだけ嫉妬深い所を見せることがあった。恋心を自覚する前から気が付いたら隣に立っていたり、密かに話し相手を睨んだりと、アンナの目には何かと妙なことをしているように映っている。
「キミ、まさか召喚した子にまで嫉妬? いや流石にそんな」
少しだけばつの悪そうな顔でこちらを見ている。まじかぁと呆れたような声を上げた。
「この子は悪い子じゃないよ。だから仲良く」
ほらシドもと抱き寄せくしゃりと頭を撫でる。ふと顔を見ると、眉間に皴は寄せているものの口元は緩みこれはもし尻尾が生えていたならば激しく振ってるだろうなと苦笑した。
「まったくどっちのシドも嫉妬深くて困る」
「悪かったな小動物にまで嫉妬し……うん?」
「あ」
アンナは用事思い出したと離れようとしたがシドはその腕を掴む。"また"余計なことを言ってしまったと手で口を覆った。
「今何と? よく聞こえなかったからもう一度言ってくれ」
「別に、何でも」
「どっちの何って言ったんだ?」
「聞こえてるじゃん! ……カーバンクル! 頭突き!」
顔を真っ赤にしながらカーバンクルに指示しているが珍しく何もせず頭に乗っている。両耳の間に器用に立っているのは正直凄いと目を細めた。アンナは「こういう時に限って! 言う事聞く!」と震え思い切り目を逸らす。頭を激しく振っても頑なに動かない。一方隣に座っているシドの機嫌は一転し、笑いながら背中を叩く。
「チクショー……もー!!」
アンナは理解している。このカーバンクルは今名前を呼ばないと指示を聞く気がない。自爆したお前が悪いと言いたいが如くつむじを足で突いていた。しかし、もし呼んでしまえば次は隣の大男がこちらへ頭を擦り付けてくるだろう。絶対何か勘違いしている。
何故当時の自分は『なんか似てるね』と何も考えず呼んでしまったのか。しばらくがっくりと項垂れ、頭をぐしゃぐしゃと掻き盛大な溜息を吐いた―――。
#シド光♀ #即興SS
ヴィエラ自機子供化概念。ネロ+光♀要素有り。5日目以降シド光♀で一部成人向け表現有る日有り。
やらかした。その一言に尽きる。
「サ、サリスさん大丈夫ですか!?」
覚醒するとベッドの上。アンナは身体をゆっくり起こし、錬金術ギルドの人を見上げた。どうしてそんなにも心配そうな顔で見ているのかと腕組みすると自分の腕がえらく細いことに気付いた。鏡を渡されたのでちらと覗くと、小さな子供が自分を眺めている。
「は? え?」
喉から幼い声が出てる? アンナは察した。
衣服は子供用に着替えさせられ、数人がずっと頭を下げている。
なんと事故で被った錬金薬で、子供になってしまっていた。
下肢を確認すると、察する。14歳以下、つまりヴィエラの性別がはっきりする前の年齢に変化しているらしい。あっという間に血の気が引くのを感じた。こめかみを押さえながらとりあえずこれからのことを考え込む。
「個人差はありますが数日で戻っていると思います! ただ結構な量頭から被ってしまったので……」
「いやまあいつか戻るなら気にしてない。……誰かに連絡した?」
「いえ、サリスさんの意識が回復してからでいいかと思い。荷物はギルドの方でお預かりしています」
「ありがとう。……ツテはあるから大丈夫。後から取りに来るね」
介抱してくれたのであろう女性の手を振り払い寝台から降りる。
「絶対、暁には、ナイショでおねがい」
アンナは人差し指を口の前に持って行き、ウィンクをした。大人たちはキャーと黄色い声を上げている。チョロいもんだとニィと笑った。
とりあえずはレターモーグリに頼むことにする。まずは手早く紙に一言書いた。そしてふわふわと浮かんでいるポンポンがチャームポイントの可愛らしい生物に小さく咳払いした後話しかけた。
「モーグリさん! お手紙送ってくださいな!」
「分かったクポ! 誰に送るクポ?」
「ガーロンド・アイアンワークス社にいるネロパパ!」
「そうなのクポ!? 隠し子がいたのは知らなかったクポ! これは誠意を込めて送ってあげるクポ!」
「なるべく急ぎで他の人に見られないように! えへへ、パパねー会社では私のこと隠してるから! とーっても優しいんだよ! 大好き!」
アンナはフードを被り血反吐を吐きそうになりながら子供のフリをしてレターモーグリに便箋を渡す。
この奇妙な出来事を何とか現実として受け止めながらも流してもらえる存在が"彼"しか思い浮かばなかった。それはシドではない。大切な人だが酷い目に遭う未来が見えたので知り合いの中でも一番見られたくなかった。そしてなるべく多くの人にバレたくないのだ、あまり頼りたくない人間の1人だが仕方のない話だろう。
まさか相手があの英雄であろうとはつゆ知らず。ふわふわ飛んで行くモーグリを見送りながら待ち合わせ場所に向かった。大丈夫、これだけバカみたいな嘘吐いたらすぐに飛んで来るさと笑う。
◇
ガーロンド・アイアンワークス社。今日もせわしなくシド含めた社員たちが働く中、ネロは休憩室でサボっていた。本当はまた自由になりたかった。だが、シドやメスバブーンを中心とした環境は数々の好奇心を満たす事件や案件をもたらすのでつい残ってしまう。
タバコをふかし物思いに更けていると目の前にポンとモーグリが現れた。
「ンだこの白豚」
「クポー! ガーロンド・アイアンワークス社のネロさんクポね! お手紙どうぞクポ!」
「俺に手紙だぁ? 誰からだよ」
「娘さんクポ! 家族想いで意外といい人とは知らなかったクポー」
「アァ!?」
「と、とにかく渡したから失礼クポ! 大好きな娘さんによろしくクポー!」
こっちの話を聞かず手紙を押し付け逃げるように消える。「何言ってンだクソが」と呟きながらとりあえず手紙を開くと可愛らしい文字で短い文が記されていた。
【緊急 誰にもバレずにウルダハクイックサンド前に来い 可愛い娘より】
紙切れをグシャリと丸め灰皿の上で燃やす。どういうことだとっちめてやると言いながらコートを羽織り鞄に手を取った。
「ちょっとネロあなたどこに行くの!?」
「用事できたから早退」
「おいサボるんじゃない!」
会長と会長代理の言葉を無視し、チョコボを呼びウルダハへと走り出した。
◇
精一杯飛ばし、日が傾くより前に何とか辿り着いた。クソがと悪態つきながらクイックサンド付近を見回すとララフェルの男数人とフードを被った小さな物体が。
「お坊ちゃん迷子かい? おじさんが一緒に探してあげようか?」
「いやいやワタクシがご一緒しましょう」
「可愛いねえ僕」
知ったこっちゃない。こんなクソみたいなイタズラ手紙送った首謀者は絶対にあのメスバブーンだ。遂にシドだけで満足できず俺にまで悪影響を与えに来やがった。なーにが大好きな可愛い娘だ。どこにいやがるとため息を吐いているとフードを被ったガキがこっちを振り向いている。遠目からでも分かる位目を輝かせながら中性的な声でこう言いやがった。
「パパ!」
「アァ!?」
小走りで抱き着いてきやがった。危うくもう少しずれていたら鳩尾に頭が激突する所だった。そして普通のガキよりも少し強い力で腕を掴み引っ張る。
「おじさんたち話し相手になってくれてありがとう! ほらパパ行こ!」
「エ、ちょ、おま」
ポカンと見ている男たちを尻目にガキは同じく状況が理解できない俺を引っ張ってナル回廊へ連れて行かれる。
程々に人がいない所でこのガキの首根っこを掴み怒鳴ってやった。
「テメエのことなンぞ知らねェ! ガキはとっととおうちでママのおっぱいでも吸って寝てろ! ……っておま」
「はー今日はツイてない。しかし時々は元軍人の固い腹筋に当たるのも悪くない」
掴み上げフードを取り払うと長い耳。黒色の髪に赤色のメッシュ、赤色の目で褐色の肌。血の気が引いて行くのが分かる。
「いやあネロサンならあんな血反吐吐きそうな手紙書いたら即飛んで来ると思ったよ嬉しいねぇ」
「メスバ、なに、ハ????」
毒づいていた相手と同じ喋り方をしたガキはケラケラと笑っている。厄介事に巻き込まれてしまった、そうとしか言えないと片手で顔を覆った。
◇
「で? 錬金薬が事故でぶっかかってガキの姿にと」
「そうそう」
「くっっっだらねェな……つーかナニしたらそンな事故起きンだよ」
食事でもしようかとクイックサンドに連れて行かれ座らされる。周りの視線が痛い。ガレアン人とフードを被ったガキとなると異質に映るだろう。勝手に付いてきただけだと主のモモディには言っておいた。
「いやあ頼れる人間を考えたらキミしかいなくてねえ」
「ガーロンドや暁にでも言えばいいじゃねェか」
「いや暁はグ・ラハとアリゼーが怖いし。シドは……特にめんど、じゃなかった性犯罪者にしたくないなって」
「俺はいいってのかよ」
「まず子供になったボクに対して過大なリアクションをしない存在。そして秘密を守って匿ってくれる。発情しない。シドの動きをいつでも確認できる相手」
アンナはサラダを頬張りながら順番に指を立てる。発情という言葉が引っかかるが何も言わず話を聞いてやる。
「その条件を満たせる知り合いって考えるとネロサンしかいないってわけ」
「スマンが呆れて何も言えねェわ。つーかお前がガーロンドやグ・ラハらをどういう目で見てンのかよく分かった」
「普段妄信的な目で見ているヤツらにキャーって言いながら抱きしめられたり着替えさせて来るのがイヤ。あとシドのヒゲ絶対痛い」
なるほどナァとその情景を思い浮かべた。多分ガーロンド社に連れて行っても同じようなリアクションをされるだろう。兄もいるしそりゃ祭りになるのは想像に難くない。
「だから! ネロサン! いやカミサマネロサマ! 拠点あるでしょ? しばらく泊めて! おねがい!」
「イヤに決まってンだろ!? ガーロンドに殺されるわ!!」
「パパのいじわる!」
「俺はバブーンじゃねェ!!」
ギャーギャー言い合っていると周りの視線が刺さる。舌打ちしながら座り直しため息を吐いた。
「家で大人しくするし料理も作るしその分のお金は色付けて出すから。キミはシドの動向さえ教えてくれたらそれでいい」
「なンでお前はそう変な方向に突っ切れンだよ……」
時折思い切りが怖いというシドのボヤキを思い出す。これは、ダメだと眉間にしわを寄せ天を見上げた。
◇
結局ガキになっても変わらないアンナのゴリ押しに負け連れ帰ることにした。
まずは服を買いたいと引っ張られていく。今は冒険者ではなく庶民向けの服屋で下着等の選別を見守っている。
「子供の頃、普通の服ってもらったやつしかなかった。新鮮」
「ハァ」
「ネロサンもお金は後から出すから適当に服見繕って。今から錬金術師ギルド行く。その下の制服見られたら面倒」
「ハァ」
目を輝かせながら言っている姿に『その姿の頃は可愛げあったンだな』という言葉が浮かんだが仕舞い込んでおくことにする。レジへと持って行こうとするので分捕りながら店主に突き付ける。
「あ、お金は」
「領収書、名前はガーロンド・アイアンワークス社のシド・ガーロンド。ネロサマに苦労をかけさせたお詫びで頼む」
「え」
着替えさせられ次は錬金術ギルドに向かうために帽子を深く被らされた。
不審な目で見られながら荷物をもらう。「パパ」と呼ばれながらただ心を無にして重い鞄を持っている。こういうストレスを解消する手段は簡単だ。「ほら次は食材でも買い込むぞ。あぁガーロンド・アイアンワークス社のシド・ガーロンドで頼ンだぞ」とヤツの名義で買い物するのに限る。お互いの心が痛まない楽しい手段だ。
「こんなに買って大丈夫?」
「最終的に全てガーロンドに行くから俺は痛くねェよ。単純だからお前が関わってるつったら許すだろ」
「……そうだね! シド超単純。暇つぶしにほしいものがジャンク屋にあったからそれもいいかな?」
「いいぜ買ってやろうじゃねェかクソガキがよ。……経費かガーロンドの金でなァ!」
「ホーいいなあ……ヘッヘッヘッそういうのやってみたかったんだよねえ!」
2人はゲラゲラと笑いながらウルダハの街に消えて行った。
◇
その後アンナの持っていた2人乗り用のマウントだというものに乗りレヴナンツトール付近に降り立った。変形ロボットとはロマンが分かってンじゃねェかと言ってやると満面の笑みを浮かべていた。
しっかりとフードを被せ、荷物は買ったデカいスーツケースに入れて引っ張る。多分体を折り曲げたら横で手を引いているガキも入るかもしれないとふと頭に浮かび上がった。さすがに猟奇的な犯罪でしかない思考なので置いておく。
周囲を見回し、ガーロンド社で働き出してから拠点にしているアパートの一室に帰った。アンナは早速キョロキョロと部屋の設備を確認している。
「キッチン、よし。風呂トイレ別、よし。ベッドは1つか。まあ今の私小さいから2人行ける」
「おいおい俺ァソファで寝るぞ」
「家主にそんなことさせるわけないじゃん。別に何も起こらない」
「バレたら殺されるつってンだろ!」
主にシドとお前の兄にな! と心の中で呟く。そんな考えもいざ知らず「別にキミがヘマしなきゃ誰も死なないよ?」と首を傾げた。お前、マジかという言葉を飲み込みながらキッチンに食材を置く。
「飯は当番制でいいか? 今日は俺が作ってやっから明日はお前がやれ」
「いいの? ていうかネロサン料理できるんだ」
「おぼっちゃんと一緒にされるのは心外だナァ」
病み上がりみたいなやつなンだから座ってろと言いながら食材を手に取った。
◇
適当な料理を与えると意外なことに普通に食べた。いつもだったら一瞬で消える引くような食事が一般的な時間で胃袋に収まっている。さすがに大人のような暴れっぷりは発揮されないようだ。現在はシャワーを浴びに行っており、シドから怒りが込められたリンクパール通信が来たので適当に受け答えする。
『だからお前は急にどこに行って』
「アー大丈夫だ。明日はキチンと出社して片付けるっつーの」
扉が開く音が聞こえた。「スマンがありがてェ説教は明日な」と切断し、それと同時にタオルを頭に乗せパジャマ姿のアンナが現れた。
「通話中?」
「お前愛しの会長サマからの説教だぜ。何せお前のひっでェラブレターで飛び出したわけだからな。怒髪天なンだわ」
「あっそう」
「っておい何髪拭かずにこっち来てンだよ! 濡れンだろうが!」
興味なさそうに髪から雫を落としながら歩いているので注意した。するときょとんとした顔で「自然乾燥」と言うので「この野生児が」と頭を抱えながらドライヤーで乾かしてやる。
「耳に触ったら殺す」
「無茶言うな。イヤならその耳取り外せ」
「ふっ……耳だけにイヤと―――何でもない。そう言われると何も言い返せないねぇ」
そう言いながら鞄から香水を取り出そうとするので強引に分捕った。
「や、め、ろ」
「なぜ? ガキが色気付くな?」
「オレはお前が付ける香水持ってねェから。バレたくねェつってただろ」
「ホーそこまで配慮してなかった」
確かに万が一があるか、と言いながらソファにもたれかかる。何でオレがガキのドライヤーの世話をしないといけないんだ、ボソボソ呟きながら軽く乾かしてやる。途中から気持ちがよかったのか気の抜けるような声と一緒に長い耳が垂れ下がっているが指摘したら怒り狂いそうなので何も言わない。普段この行為をしてないような言い分なので多分これはシドも知らないだろうなと思いながら終わったぞと頭をポンと撫でてやった。
その後、今回のブツも含め他に錬金術師ギルドにあった薬の効果について質疑応答を繰り返しながら時間を過ごし、夜が更ける頃に布団に投げ込み眠らせた。メスバブーンと呼ぶものの"明らかに存在するもう1人"の影響か少々頭が切れる部分があることを最近察した。"命の恩人"とやらに何やら施されてしまった技術の恩恵をいつか解析してやりたいと思っているが"障害"が多すぎて辟易する。
寝る前に小さな肩に触れてしまった。ひんやりと冷気が伝わる。
「うわ冷て。いやこりゃ意外と冷房代わりになるか」
つい抱き寄せそのまま眠ってしまった。普段からこれ位大人しければもっと別の道があったかもしれないという考えを煙に巻きながら明日以降のシドやエルファーへの誤魔化し方を考えるのであった―――。
Wavebox
1日目 // 2日目 // 3日目 // 4日目 // 5日目 // 6日目 // 【R18】7日目 // エピローグ