FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.121, No.120, No.119, No.118, No.117, No.116, No.115[7件]
"カーバンクル"
「アンナ今日は召喚士か、珍しいな」
「そう?」
黒髪のヴィエラアンナの膝に乗る青色のカーバンクルをジトリとした目でシドは見た。
アンナは器用なものでエーテルを扱う力も片手間にこなすことができる。初めて見た時、「昔エーテルの扱い方が下手だったから修行したんだよ」と苦笑いしながら長い指をクルクルと回していた。直後、高く飛ぶカーバンクルに突然飛び蹴りを喰らったのを未だ根に持っているらしい。
「そこまで悪い子じゃないのに。どうしたんだろ。やめるようにちゃんと躾けとくね。ごめんなさい」
そう当時苦笑しながら額の宝石を優しく弾いていた。ちなみに現在、流石に飛び蹴りまではされないが未だに噛みつかれたりと懐かれていない。ジェシーをはじめとした部下には懐いてるらしく何故かシドにのみそうするのだ。召喚者と同じくイタズラしているつもりなのだろうと自分を納得させているが面白くはない。
ふとその召喚物をじっと見つめる。違和感がある。そうだ、以前暁の血盟のヤ・シュトラから聞いたアンナについての情報を思い出した。
「そういえばこのカーバンクルってやつはいろんな色がいるよな?」
「うん」
「以前ヤ・シュトラからお前さんのエーテルの色を聞いた。てっきり赤いやつになるかと思ったが青なんだな」
「あー確かに。不思議」
クシャリと撫でじっと見つめているとシドは隣に座る。少しだけ召喚物をじっと見つめている。
「どしたの?」
アンナは首を傾げる。
そう、アンナからは見えないがカーバンクルは撫でられながらシドを見上げている。まるでここは自分の特等席だと言いたいが如く目を細めすり寄っていた。
「いや、何でもないからな」
そっぽを向く。アンナはしばらく考え込み「まさか」と軽くため息を吐いた。
シドという男はほんの少しだけ嫉妬深い所を見せることがあった。恋心を自覚する前から気が付いたら隣に立っていたり、密かに話し相手を睨んだりと、アンナの目には何かと妙なことをしているように映っている。
「キミ、まさか召喚した子にまで嫉妬? いや流石にそんな」
少しだけばつの悪そうな顔でこちらを見ている。まじかぁと呆れたような声を上げた。
「この子は悪い子じゃないよ。だから仲良く」
ほらシドもと抱き寄せくしゃりと頭を撫でる。ふと顔を見ると、眉間に皴は寄せているものの口元は緩みこれはもし尻尾が生えていたならば激しく振ってるだろうなと苦笑した。
「まったくどっちのシドも嫉妬深くて困る」
「悪かったな小動物にまで嫉妬し……うん?」
「あ」
アンナは用事思い出したと離れようとしたがシドはその腕を掴む。"また"余計なことを言ってしまったと手で口を覆った。
「今何と? よく聞こえなかったからもう一度言ってくれ」
「別に、何でも」
「どっちの何って言ったんだ?」
「聞こえてるじゃん! ……カーバンクル! 頭突き!」
顔を真っ赤にしながらカーバンクルに指示しているが珍しく何もせず頭に乗っている。両耳の間に器用に立っているのは正直凄いと目を細めた。アンナは「こういう時に限って! 言う事聞く!」と震え思い切り目を逸らす。頭を激しく振っても頑なに動かない。一方隣に座っているシドの機嫌は一転し、笑いながら背中を叩く。
「チクショー……もー!!」
アンナは理解している。このカーバンクルは今名前を呼ばないと指示を聞く気がない。自爆したお前が悪いと言いたいが如くつむじを足で突いていた。しかし、もし呼んでしまえば次は隣の大男がこちらへ頭を擦り付けてくるだろう。絶対何か勘違いしている。
何故当時の自分は『なんか似てるね』と何も考えず呼んでしまったのか。しばらくがっくりと項垂れ、頭をぐしゃぐしゃと掻き盛大な溜息を吐いた―――。
#シド光♀ #即興SS
「そう?」
黒髪のヴィエラアンナの膝に乗る青色のカーバンクルをジトリとした目でシドは見た。
アンナは器用なものでエーテルを扱う力も片手間にこなすことができる。初めて見た時、「昔エーテルの扱い方が下手だったから修行したんだよ」と苦笑いしながら長い指をクルクルと回していた。直後、高く飛ぶカーバンクルに突然飛び蹴りを喰らったのを未だ根に持っているらしい。
「そこまで悪い子じゃないのに。どうしたんだろ。やめるようにちゃんと躾けとくね。ごめんなさい」
そう当時苦笑しながら額の宝石を優しく弾いていた。ちなみに現在、流石に飛び蹴りまではされないが未だに噛みつかれたりと懐かれていない。ジェシーをはじめとした部下には懐いてるらしく何故かシドにのみそうするのだ。召喚者と同じくイタズラしているつもりなのだろうと自分を納得させているが面白くはない。
ふとその召喚物をじっと見つめる。違和感がある。そうだ、以前暁の血盟のヤ・シュトラから聞いたアンナについての情報を思い出した。
「そういえばこのカーバンクルってやつはいろんな色がいるよな?」
「うん」
「以前ヤ・シュトラからお前さんのエーテルの色を聞いた。てっきり赤いやつになるかと思ったが青なんだな」
「あー確かに。不思議」
クシャリと撫でじっと見つめているとシドは隣に座る。少しだけ召喚物をじっと見つめている。
「どしたの?」
アンナは首を傾げる。
そう、アンナからは見えないがカーバンクルは撫でられながらシドを見上げている。まるでここは自分の特等席だと言いたいが如く目を細めすり寄っていた。
「いや、何でもないからな」
そっぽを向く。アンナはしばらく考え込み「まさか」と軽くため息を吐いた。
シドという男はほんの少しだけ嫉妬深い所を見せることがあった。恋心を自覚する前から気が付いたら隣に立っていたり、密かに話し相手を睨んだりと、アンナの目には何かと妙なことをしているように映っている。
「キミ、まさか召喚した子にまで嫉妬? いや流石にそんな」
少しだけばつの悪そうな顔でこちらを見ている。まじかぁと呆れたような声を上げた。
「この子は悪い子じゃないよ。だから仲良く」
ほらシドもと抱き寄せくしゃりと頭を撫でる。ふと顔を見ると、眉間に皴は寄せているものの口元は緩みこれはもし尻尾が生えていたならば激しく振ってるだろうなと苦笑した。
「まったくどっちのシドも嫉妬深くて困る」
「悪かったな小動物にまで嫉妬し……うん?」
「あ」
アンナは用事思い出したと離れようとしたがシドはその腕を掴む。"また"余計なことを言ってしまったと手で口を覆った。
「今何と? よく聞こえなかったからもう一度言ってくれ」
「別に、何でも」
「どっちの何って言ったんだ?」
「聞こえてるじゃん! ……カーバンクル! 頭突き!」
顔を真っ赤にしながらカーバンクルに指示しているが珍しく何もせず頭に乗っている。両耳の間に器用に立っているのは正直凄いと目を細めた。アンナは「こういう時に限って! 言う事聞く!」と震え思い切り目を逸らす。頭を激しく振っても頑なに動かない。一方隣に座っているシドの機嫌は一転し、笑いながら背中を叩く。
「チクショー……もー!!」
アンナは理解している。このカーバンクルは今名前を呼ばないと指示を聞く気がない。自爆したお前が悪いと言いたいが如くつむじを足で突いていた。しかし、もし呼んでしまえば次は隣の大男がこちらへ頭を擦り付けてくるだろう。絶対何か勘違いしている。
何故当時の自分は『なんか似てるね』と何も考えず呼んでしまったのか。しばらくがっくりと項垂れ、頭をぐしゃぐしゃと掻き盛大な溜息を吐いた―――。
#シド光♀ #即興SS
旅人、猫を拾う
補足
漆黒以降、シドとアンナ付き合い始めた後。リテイナーア・リスとアンナが出会っていた話です。
「あ、そろそろリテイナーくんたち帰って来るか」
クガネで伸びをしながらアンナは世話をしている"子供たち"を労うために意気揚々とお菓子を準備する。さあベルで呼ぶかとふとリストを見やると首を傾げた。
「1人多くない?」
確かフウガ、リリア、ノラという名付けた子を拾ってリテイナー契約をしていた筈。しかし4人目の枠が存在した。何かの間違いではと一度目をこすりその場を離れ戻るが変わりない。名前を確認する。試しに読んでみよう。ベルを鳴らし、口を開いた。
「えっと、ア・リス・ティア?」
「呼んだか呼んだなご主人!」
「ひゃん!?」
ビクリと身体が跳ねてしまった。キョロキョロと見渡していると「下!」と言われる。見下ろすとそこには金髪のミコッテが満面の笑顔で立っていた。これまで気配が一切無かった筈なのにいつの間に。白衣のようなものを纏う不敵な笑みを浮かべる男性。一瞬だけ今まで会った人間でいえばネロに少し近い雰囲気を感じた。まああの男はこんなイタズラが好きそうな無邪気な兄ちゃんではないのだが。
「え、あの」
「ちゃんと行ってきたぜ面白い掘り出し物があったんだよご主人!」
「あ、ああありがとう。はいスクリップとお菓子焼いたんだけど食べる?」
「お! 嬉しいな! フーガから聞いてたんだよご主人の手作り料理美味しいってな!」
その場でもぐもぐとうめーうめー言いながら食べてくれるのが嬉しい。嬉しいのだが、誰だこいつ。知らない。
「待って。あの、ア・リス……サン?」
「おうア・リス様だぜ」
「どちら様?」
その言葉にガクンと膝から崩れ落ちる。流石に言葉がダメだったか。アンナは「ご、ごめん」と言う。すると「いや大丈夫、俺様それ位じゃ折れない」と拳を握り締めた。
「ご主人あの時疲れてたみたいだからな。俺様が振り返ってやろう。ほわんほわんほわん」
「その擬音言う必要ある?」
とりあえず何かあったか説明してくれるらしい。少しだけ懐かしさも感じる男の話を聞いてみる。
◇
俺様はア・リス・ティア。天才トレジャーハンターなミコッテさ。ある日東方地域にある不思議な塔を見つけてこっそり侵入する。しかし凶悪な罠に気付かずかかって大ケガしちまった! なんとか身体を引きずってクガネに帰還。だがお腹も空いてバタリと倒れてしまった。そこに偶然通りかかったかわいこちゃんに「えっと、大丈夫?」と声を掛けられたんだぜ!
「それがご主人、アンナちゃんだぜ!」
「へ、へぇボクって優しいね」
残念ながら事情を聞いてもアンナには全く記憶に残っていない。もしかしたら最近疲れ気味だったので"内なる存在"が対応したのかもしれないと考え付く。ここ数日の記憶が一切無いし、ありえると手をポンと叩いた。
「ご飯一緒に食べに行って美味しかったぞ! そこで『トレジャーハンター危険、よかったらリテイナー契約しない? 掘り出し物私がかわりに換金。あなた心配』ってのも忘れちゃった?」
「うん? うーん―――言ったかもしれない?」
「だろー? あ! ついでに俺たち付き合っちゃおっか! って言ったら『え、ごめん。そういうの間に合ってる』ってあっさり断ったのも忘れたなら俺様にチャンス来た?」
「あ、それは記憶ある」
「ちぇー」
その言葉は何か朧げに記憶がある。確かにそういう断り方した相手はいた。このミコッテかは忘れたのだが。そういえばと持ち帰った来たものとやらを見る。何やらトームストーンのようだった。
「ア・リス、持ち帰り物、何?」
「よくぞ聞いてくれたな! 遺跡で拾ったんだよ! 何かお宝データとか入ってるかも? 電源入らないみたいだから壊れちゃってるみたいでな」
「あーその辺り修理する専門家の知り合いいるからいいよ。ありがと」
「へへっ! どういたしまして! じゃあ次も何か持って来るからよろしくな!」
「うん、君のこと覚えとくよ。よろしく、ア・リス」
「にゃはははは!」
走り去って行った。アンナは嵐のような人だなあと苦笑しながら軽くため息を吐く。とりあえず先程会う約束を交わした何故か機嫌が悪そうだったシドではなくネロと兄にでも渡そうかと1人頷いた。シドは以前フウガとお揃いのトームストーンの"写真"を見て嫉妬したのか少しだけ機嫌が悪いみたいで。数日置いたら大丈夫かなと思っていたが悪化していた。
あと兄エルファーはアンナに対して誤魔化しているつもりらしい。が、ちゃんとエオルゼアに滞在し、しかもガーロンド社で働いてること位は把握している。何でバレないと思っているのかとノリで話を合わせているだけだ。しかしどこで拾ったかとか聞かれるのが面倒なので誤魔化し方を考えなければいけない。そうだ、例えば―――また壊したから修理してほしい、とか。
◇
「ヒヒッ」
金髪のミコッテは笑いながらテレポでエオルゼアへ戻って行く主人アンナを屋根の上から見守る。
「ささ、ナイスイタズラな"仕込み"も終わったしちょと来客用にラボの掃除して、60年、いや違うか。80年振りにエルの顔でも拝んでやろうか。愉しみだナァ」
目を閉じた後、常人を超越する高さを跳躍しながら笛でチョコボを呼び出し上空を飛び去って行く。
―――封印は、解き放たれた。
漆黒以降、シドとアンナ付き合い始めた後。リテイナーア・リスとアンナが出会っていた話です。
「あ、そろそろリテイナーくんたち帰って来るか」
クガネで伸びをしながらアンナは世話をしている"子供たち"を労うために意気揚々とお菓子を準備する。さあベルで呼ぶかとふとリストを見やると首を傾げた。
「1人多くない?」
確かフウガ、リリア、ノラという名付けた子を拾ってリテイナー契約をしていた筈。しかし4人目の枠が存在した。何かの間違いではと一度目をこすりその場を離れ戻るが変わりない。名前を確認する。試しに読んでみよう。ベルを鳴らし、口を開いた。
「えっと、ア・リス・ティア?」
「呼んだか呼んだなご主人!」
「ひゃん!?」
ビクリと身体が跳ねてしまった。キョロキョロと見渡していると「下!」と言われる。見下ろすとそこには金髪のミコッテが満面の笑顔で立っていた。これまで気配が一切無かった筈なのにいつの間に。白衣のようなものを纏う不敵な笑みを浮かべる男性。一瞬だけ今まで会った人間でいえばネロに少し近い雰囲気を感じた。まああの男はこんなイタズラが好きそうな無邪気な兄ちゃんではないのだが。
「え、あの」
「ちゃんと行ってきたぜ面白い掘り出し物があったんだよご主人!」
「あ、ああありがとう。はいスクリップとお菓子焼いたんだけど食べる?」
「お! 嬉しいな! フーガから聞いてたんだよご主人の手作り料理美味しいってな!」
その場でもぐもぐとうめーうめー言いながら食べてくれるのが嬉しい。嬉しいのだが、誰だこいつ。知らない。
「待って。あの、ア・リス……サン?」
「おうア・リス様だぜ」
「どちら様?」
その言葉にガクンと膝から崩れ落ちる。流石に言葉がダメだったか。アンナは「ご、ごめん」と言う。すると「いや大丈夫、俺様それ位じゃ折れない」と拳を握り締めた。
「ご主人あの時疲れてたみたいだからな。俺様が振り返ってやろう。ほわんほわんほわん」
「その擬音言う必要ある?」
とりあえず何かあったか説明してくれるらしい。少しだけ懐かしさも感じる男の話を聞いてみる。
◇
俺様はア・リス・ティア。天才トレジャーハンターなミコッテさ。ある日東方地域にある不思議な塔を見つけてこっそり侵入する。しかし凶悪な罠に気付かずかかって大ケガしちまった! なんとか身体を引きずってクガネに帰還。だがお腹も空いてバタリと倒れてしまった。そこに偶然通りかかったかわいこちゃんに「えっと、大丈夫?」と声を掛けられたんだぜ!
「それがご主人、アンナちゃんだぜ!」
「へ、へぇボクって優しいね」
残念ながら事情を聞いてもアンナには全く記憶に残っていない。もしかしたら最近疲れ気味だったので"内なる存在"が対応したのかもしれないと考え付く。ここ数日の記憶が一切無いし、ありえると手をポンと叩いた。
「ご飯一緒に食べに行って美味しかったぞ! そこで『トレジャーハンター危険、よかったらリテイナー契約しない? 掘り出し物私がかわりに換金。あなた心配』ってのも忘れちゃった?」
「うん? うーん―――言ったかもしれない?」
「だろー? あ! ついでに俺たち付き合っちゃおっか! って言ったら『え、ごめん。そういうの間に合ってる』ってあっさり断ったのも忘れたなら俺様にチャンス来た?」
「あ、それは記憶ある」
「ちぇー」
その言葉は何か朧げに記憶がある。確かにそういう断り方した相手はいた。このミコッテかは忘れたのだが。そういえばと持ち帰った来たものとやらを見る。何やらトームストーンのようだった。
「ア・リス、持ち帰り物、何?」
「よくぞ聞いてくれたな! 遺跡で拾ったんだよ! 何かお宝データとか入ってるかも? 電源入らないみたいだから壊れちゃってるみたいでな」
「あーその辺り修理する専門家の知り合いいるからいいよ。ありがと」
「へへっ! どういたしまして! じゃあ次も何か持って来るからよろしくな!」
「うん、君のこと覚えとくよ。よろしく、ア・リス」
「にゃはははは!」
走り去って行った。アンナは嵐のような人だなあと苦笑しながら軽くため息を吐く。とりあえず先程会う約束を交わした何故か機嫌が悪そうだったシドではなくネロと兄にでも渡そうかと1人頷いた。シドは以前フウガとお揃いのトームストーンの"写真"を見て嫉妬したのか少しだけ機嫌が悪いみたいで。数日置いたら大丈夫かなと思っていたが悪化していた。
あと兄エルファーはアンナに対して誤魔化しているつもりらしい。が、ちゃんとエオルゼアに滞在し、しかもガーロンド社で働いてること位は把握している。何でバレないと思っているのかとノリで話を合わせているだけだ。しかしどこで拾ったかとか聞かれるのが面倒なので誤魔化し方を考えなければいけない。そうだ、例えば―――また壊したから修理してほしい、とか。
◇
「ヒヒッ」
金髪のミコッテは笑いながらテレポでエオルゼアへ戻って行く主人アンナを屋根の上から見守る。
「ささ、ナイスイタズラな"仕込み"も終わったしちょと来客用にラボの掃除して、60年、いや違うか。80年振りにエルの顔でも拝んでやろうか。愉しみだナァ」
目を閉じた後、常人を超越する高さを跳躍しながら笛でチョコボを呼び出し上空を飛び去って行く。
―――封印は、解き放たれた。
セイブ・ザ・クイーン第4章終了後ストーリー補完。ちょっとあまりにもシド自機の話にかち合うので急いで書きました。
自分を苦しめ続けた全てに片が付いた、気がした。ペンダントの蓋を開き、その写真を見つめる。1人酒を飲み、優しく微笑んだ。
「シド。ああ邪魔だった?」
「アンナか。いや、そろそろ呼ぼうとは思っていた」
ボズヤ解放戦線はひとまず終わった。否、彼らにとっては一つの始まりになる。東奔西走し、武器を振り回していたヴィエラのアンナはジョッキを持ち、はにかんでいた。
―――途中から彼女と言葉をあまり交わさなかった。いや、避けられていた気がする。理由は分からないが。ただ槍を手にし、冷ややかな目で作戦内容を聞いていた。声を掛けてもすぐに「用事、あるから」と去る。それは初めて見せた目付きだった。が、振り返ってみると俺や暁の人間以外に向ける視線はこんな感じだった、と思う。兎に角、これまでの時間を考えると一瞬だけ他所他所しくなり少しだけ寂しかった。
◇
作戦中に社員リリヤが大怪我を負い、クガネに連れて行った。治療の合間にふとそれをネロにリンクパール経由でアンナが急に冷たくなったと言うと爆笑される。そしてこう言ったのだ。
『アイツ、槍握るとすげェ怖くなンぞ。オメガの一件中に一瞬マジな殺意喰らった。まさしくあの"鮮血の赤兎"、息が詰まって殺されンじゃねってな。ンで? ガーロンド、何やった?』
「分からん。記憶探索の後まではいつものアンナだった。クガネで慰めてくれたし。それから徐々に態度が冷たくなって、そういや槍を持ってるって思ってな」
『マァ相当ストレスが来たンだろ。だが多少の戦闘でそこまでキレるバブーンじゃねェ。お前が悪いンだろ絶対』
「きっかけがリリヤらから宿題を渡されて一度戻った後からかもしれん。そん時会話交わす暇もなかった。だから俺不在の間に機嫌を崩されちゃどうしようもないだろ」
失礼なことにため息を吐きながら切られた次の日、再びネロの方から連絡が来る。すると『ただの惚気話に巻き込むンじゃねェぞ』と呆れたような声がした。わざわざ本人に聞いてくれたのかと感謝の言葉を述べようと思い、どういうことだと尋ねる。だが、『鈍感な男は本格的に嫌われンぜ? マァ新入りは復帰後お仕事増量しとくと代理サマからの伝言だ』としか言わない。モヤモヤとした気持ちを持ったまま第IV軍団との最終決戦を迎える。
そして作戦終了後、リンクパール通信経由でリリヤが『あと英雄サン本当にごめんなさいッス! 姉御達から聞いてビックリしたッスよぉ……。だからボスの件は反省してるんで! どうか、どうか姉御に鬼な仕事量減らすように進言して欲しいッス!!』という悲痛な命乞いに俺含め周囲は首を傾げていたがアンナは「何を聞いたの?」と苦笑していたのが印象的だった。
それが俺から見たアンナとボズヤ解放戦線の後半戦だ。判断ミスで大切な社員を大怪我させてしまったのは大失態だが、俺にとっては一つの区切りで。酒盛りの喧騒から離れ、1人親父との写真を眺めながら飲んでいると、よく分からないがいつもの物静かなアンナが姿を見せる。
◇
「隣、いい?」
「ああ」
隣に座り込む。一瞬だけ俺の脚に顔を擦り付けた。息を飲み、目を見開いてしまう。しかし何事もなくペンダントの方を指さす。
「それ、あなたとお父様?」
「ああ。15年ぶりに開いた」
「吹っ切れたってやつね。よかった」
ほら、とジョッキを向けられたので軽く合わせる。アンナは一気にエールを煽り、俺に少し複雑そうな笑顔を見せた。
「冷たくしてごめん。あなたは悪くない。怖い思いさせちゃった」
「いや俺は大丈夫だ」
「……あれも私。"ガレマール帝国"の初代皇帝が欲し、兵士の間では怪談になったヒト。あなたが過去と向き合ったように私だって―――ね?」
「アンナ」
「アレを見ても、あなたは……私のことスキ? それとも兵器として利用してみる?」
じっとこちらを見上げ、答えを待っている。笑みがこぼれ、肩を軽く叩き、寄せてやった。
「アンナは人間だ。兵器じゃない。いつも言ってるじゃないか。ただの旅人ってな」
「杞憂だったかぁ」
「そもそも兵器として見るならオメガの一件までにはそうしてるさ。今更だろう。アンナはもう余計なものを1人で突っ走る必要はない。俺も一緒に行くからな」
「バイシャーエンからも同じようなこと言われたよ。『そこまで解放者殿が背負う必要はありません』ってね。―――あの人が最後に止めてくれなかったら本気で過去に引っ張られてたかもしれない位やりすぎたのは反省してる」
命の恩人の修行による影響でバカみたいに強い力でこれまで色々解決してきた人間だ。今更目の色変えてしまうわけがないだろうに―――ここまで来てそんな心配をしていたらしい。だが、確かに"鮮血の赤兎"と呼ばれていた頃があったことを、嫌でも思い出した。心の奥底で罪悪感を持ち続けていた俺のように、アンナも笑顔という仮面を被り決して過去がバレないよう立ち回る。そうやってお互いずっと触れられたくない過去を封印し、見ないようにしてきた。きっと今回は帝国兵が相手だったから、そういう手段も取れたのだろう。向こう側がどういう反応をしていたのか気になる所ではある。
そう思った所で意外なことを言い出した。舌をペロリと出し、イタズラな笑みを浮かべながら聞き飽きたあの言葉を吐く。
「まあ昔の私だったら、『だからあの人の方がいいよ。まとめて護ってあげる』って言ったかもね」
「おいだから何を今更」
「現実は怖くて言えなかった。不思議だね」
ペンダントの方を見つめながらボソリと暗いトーンで機嫌が悪かった本当の理由を語り始めた。
「周りから見たらあなたとミコト、お似合いなんだってね」
「そうか?」
「頭いいし、ちっちゃくて可愛らしいし。護ってあげたい子だよね。研究職な子だし、真面目なあなたなら議論のし甲斐もあるでしょ?」
鈍感だと周りに言われ続けた俺でも流石にここで気が付く。ネロから"惚気話"と吐き捨てられ、ジェシーによるリリヤに課された謎の"仕事増量"。そしてリリヤが何故かアンナ"に"命乞いをする声で察するべきだったかもしれない。声を出して笑ってしまう。
「何が面白い?」
「いやお前さんもちゃんと嫉妬するんだなって思ってな」
「別に。周囲がアドバイスやらで盛り上がってて少しだけイラッとしたから槍を振り回して……あっ」
「ほら嫉妬じゃないか」
そっぽを向かれる。よく見ると肩が少し震えていた。まさか自分がいない間にそんな話がされてるとは微塵も考えになかった。そしてアンナが複雑な気持ちを持ってくれているとも予想せず笑みがこぼれる。これでまだ男女の付き合いをしてないというのが嘘だろ? と思う位には面白く感じた。
「きゃ、客観的に見たら最終的にそうなっただけで別に私自体はその。だから背中バンバン叩くなぁ!」
「今から言いに行くか? 俺にはアンナがいるから」
「必要ない! ヒミツはヒミツのままでいいし第一私はまだ結論が、ついてなく」
「はははそうだったな」
きっとヒト耳だったら耳まで真っ赤な姿が見れただろう。少しだけ長い耳が後ろに倒れている。そのまま耳と一緒に頭を撫でてやるとジトリとした目でこちらを見上げた。
「待ってるぞ」
「……期待しないで欲しいねぇ」
目を細め苦笑しながらアンナはその手を握り指先に口付ける。仕草はもう恋人そのものに見えるし、以前と違い見上げるように座っていることが嬉しい。昔だったら耳を触られたくないからという事実を誤魔化し、立ったまま飲んでいただろう。
「でもまあ……同じ背負うという行為ならば騒ぎながら"キミ"の重たい過去や夢と一緒に歩けるのは私だけなのは分かる。普通の人だったら押し潰されてるね」
「そんなにか?」
「キミの好き嫌いもその料理の作り方も、イタズラされた時の怒ってる顔が面白いことだって知ってる。あとキミだってよく不機嫌な顔して話に割って入るね。不在の間に起こったこと部下に聞いてるんでしょ? 把握してる。性行為中に見るなつってもずっと私を見る顔も、満足してイビキかいてるムカツク程腑抜けた寝顔だってぜーんぶ見てるさ」
「コラッ、外で言うんじゃない」
「でもね、どう言えばいいのかな。結論を出すには材料が足りない」
「いい加減観念してくれないか?」
ここまで人のことを把握しておいて待たされるのはずっと待てをされ続けている犬の気分になる。目の前にご褒美があるというのにどうしてこんなにも焦らされるのか。ジトリとした目を向けると少しだけ困った顔をしている。
「中途半端な結論は絶対に後悔するから。慎重に考えてる、んじゃないかな、うん。ええっと、その」
しどろもどろに言葉を紡ぐ姿が珍しく感じる。今までこちらの感情を散々煽っていた時の面影は存在しない。自分はされたくないのかと呆れてしまうがそれが本来の姿なのだろう。
「―――いつか一緒にガレマルド、見に行こうね。キミの故郷で、ボク達が出会った場所」
「……ああ」
「かつてどう魔導城まで走ったかも教えてあげるよ、その時」
「それは楽しみかもしれんな」
どうやら感情についてはもう聞いて欲しくないらしい。仕方がない、今夜"は"我慢しようじゃないか。傍に置いてあった酒を再びジョッキに注ぎ、星を見上げながら2人で静かに飲んだ。
途中、酔っぱらったゲロルト達も乱入し、その静かな時間も破壊された。だがまあそれも楽しかったからいいだろうと笑い合う。結局飲みすぎてしまい、ほぼ全員まとめて酔わないアンナが介抱する羽目になったのはまた別の話。
Wavebox
#シド光♀