FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.93, No.92, No.90, No.88, No.86, No.85, No.84[7件]
"煙草"
注意・補足
煙草にまつわる漆黒以降のギャグ概念。
リン:レフの旧友にしてアンナの命の恩人であるリンドウ・フウガの愛称。アンナが34歳になるまで一緒に旅をしていた。
龍殺しの:リンドウの二つ名。ガレマールで戯曲化もされた東の英雄。欲のない無名の旅人。
納期は間近。またギリギリになる可能性も高いが"普段よりかは"間に合うだろう、シドは頭を晴らすために休憩室で1人電子タバコを吸う。味が好きなわけではない、ただ〆切が近づいた時にその煙をぼんやりと吸う。アンナは毎回「邪魔になるね」と言い5日程度連絡を一切交わさない。つまり合間の気分転換先がないのでこうやって一服することがあった。
ふと扉が開け放たれネロとレフがやって来る。シドの顔を見るなり「うわ酷い面だな会長クン」と言うのは失礼極まりない。変わらないだろうとジトリとした目で睨むとレフは口元を上げた。
ネロが1本煙草を取り出すとレフはパチンと指を鳴らし火を灯す。横に座り副流煙を味わう姿に「お前は歩くライターか」とぼやく。
「僕も吸ってもいいんだが普段持ってる奴はネロに止められてね」
「お前が吸うシガーは慣れてねェやつが匂い嗅ぐだけで下手すりゃ業務に支障が出ちまうンだわ」
「何吸ってるんだお前……」
どうやらレフは故郷特有の特殊な葉巻を持っているらしい。ネロによると相当"脳にクる"ものだという。確かにこの時期にそんな匂いのものをぶち撒けられたら仕事に影響が出てしまうだろう。
「そういやお前メスバブーンに煙草のこと言ってなかったンだな」
「アンナはこういう時期は絶対来ないからな。何か言ってたか?」
「へーだってよ。興味なさそうだったぜ」
知ってたとシドは肩をすくめたがレフの言葉に固まる。
「まあ別に妹は煙草自体に嫌悪感はないだろう。リンもアリスもヘビースモーカーだったし。慣れてる文化だろうからスルーは仕方ないだろうな」
「は?」
「そういや蒼天街で火ィ点けてもらった時だいぶ手慣れてンなとは思ってたが」
「子供に火を点けさせるのは流石にしてないと思いたいが妹の方からやってた可能性はあるな」
シドはしばらくの沈黙の後ふと立ち上がる。「おい仕事戻ンのか?」とネロが問うと「ちょっと、アンナの所に、確認を」と眉間に皴を寄せボソボソ呟くのでギョッとした顔で2人がかりで押さえ込む。
「離せネロ、レフ! 俺は少し確かめに行くだけだ」
「やめとけ!」
「疲れで頭おかしくしてンじゃねェぞ!」
ジェシーの「会長早く仕事に戻ってください! ってネロもレフも大人げなく何やってるの!」という怒りの声が響き渡るまでこの騒ぎは収まらないのであった―――。
◇
後日。
「あ、ネロサンじゃん。煙草? 抵抗なし。でもあまり慣れない匂いが付くと戦闘に支障が出るから吸わない」
「アーそういう方向か。煙草の匂い如きで調子崩すってのはちと分かんねェが」
アンナの言葉に肩をすくめる。それに対しはにかんだ笑みを見せた。
「うんちの臭いで集中できないのと一緒。あーでも昔命の恩人が吸ってたやつはとってもいい匂いで阻害はされないかも」
「はー龍殺しの。ていうかクソと対比すンじゃねェよ不味くなンだろが」
軽く小突いてやるとニィと笑っている。アンナは思い出すように口元に指を寄せた。
「たまにキセルとかも見せてくれた。そういうコレクションが数少ない趣味だって。そういえば終の棲家には見当たらなかった。捨ててるかも」
「見たかったかもな。意外と知り合いにあげてンじゃね?」
「なかなか価値がありそうだから売ったとかもありえるだろ」
アンナは軽くため息を吐き「話題が逸れた」と切り替える。優しい笑顔を見せ語った。
「うーん銘柄不明だし20年程度の旅な記憶だから大人の味への憧れって記憶補正の可能性。実はクールに煙草吸うヒゲのおじさまが好きでね」
「ハァ。ていうか20年一緒に旅してたとか初耳だな。なあガーロンド」
「お前が男の趣味を語るなんて珍しいな。俺も初めて聞いたぞ」
「そう? キミと同じ年まで一緒に旅してたよ。そうだねえ、聞かれてないから言うわけないじゃん。―――あ、シドには内緒。面倒な未来しか見えない。ってうわシド偶然」
いつの間にかアンナの横にシドは腕組みをし立っていた。いつからいたのかと顔を青くしながら聞くとネロは「だいぶ序盤からいたぞ」と爆笑している。シドはガシリと腕を掴み笑顔を見せているが目は笑っていない。
「よおアンナ、元気そうに話してるじゃないか。で、うわとか面倒ってどういうことだ?」
「いや今のはその。面倒? あなたの聞き間違い。あ! 用事思い出した! じゃ!」
「お前昔『フウガとは成人してから少し後までしかいなかったよ』って言ってたよな?」
「え、そ、そうだっけなあ。いやヴィエラの成人って何歳なんだろーハハハ」
「きっちり聞かれてンじゃねえか。お前本ッ当に学ばねェな」
ネロは火元から逃げるようその場からそそくさと立ち去って行く。また「待てネロサン、キミがいないとシドの説教の度合いが変わる!」というアンナの悲痛な叫び声が響くのであった。
#エルファー関連 #ギャグ #即興SS
煙草にまつわる漆黒以降のギャグ概念。
リン:レフの旧友にしてアンナの命の恩人であるリンドウ・フウガの愛称。アンナが34歳になるまで一緒に旅をしていた。
龍殺しの:リンドウの二つ名。ガレマールで戯曲化もされた東の英雄。欲のない無名の旅人。
納期は間近。またギリギリになる可能性も高いが"普段よりかは"間に合うだろう、シドは頭を晴らすために休憩室で1人電子タバコを吸う。味が好きなわけではない、ただ〆切が近づいた時にその煙をぼんやりと吸う。アンナは毎回「邪魔になるね」と言い5日程度連絡を一切交わさない。つまり合間の気分転換先がないのでこうやって一服することがあった。
ふと扉が開け放たれネロとレフがやって来る。シドの顔を見るなり「うわ酷い面だな会長クン」と言うのは失礼極まりない。変わらないだろうとジトリとした目で睨むとレフは口元を上げた。
ネロが1本煙草を取り出すとレフはパチンと指を鳴らし火を灯す。横に座り副流煙を味わう姿に「お前は歩くライターか」とぼやく。
「僕も吸ってもいいんだが普段持ってる奴はネロに止められてね」
「お前が吸うシガーは慣れてねェやつが匂い嗅ぐだけで下手すりゃ業務に支障が出ちまうンだわ」
「何吸ってるんだお前……」
どうやらレフは故郷特有の特殊な葉巻を持っているらしい。ネロによると相当"脳にクる"ものだという。確かにこの時期にそんな匂いのものをぶち撒けられたら仕事に影響が出てしまうだろう。
「そういやお前メスバブーンに煙草のこと言ってなかったンだな」
「アンナはこういう時期は絶対来ないからな。何か言ってたか?」
「へーだってよ。興味なさそうだったぜ」
知ってたとシドは肩をすくめたがレフの言葉に固まる。
「まあ別に妹は煙草自体に嫌悪感はないだろう。リンもアリスもヘビースモーカーだったし。慣れてる文化だろうからスルーは仕方ないだろうな」
「は?」
「そういや蒼天街で火ィ点けてもらった時だいぶ手慣れてンなとは思ってたが」
「子供に火を点けさせるのは流石にしてないと思いたいが妹の方からやってた可能性はあるな」
シドはしばらくの沈黙の後ふと立ち上がる。「おい仕事戻ンのか?」とネロが問うと「ちょっと、アンナの所に、確認を」と眉間に皴を寄せボソボソ呟くのでギョッとした顔で2人がかりで押さえ込む。
「離せネロ、レフ! 俺は少し確かめに行くだけだ」
「やめとけ!」
「疲れで頭おかしくしてンじゃねェぞ!」
ジェシーの「会長早く仕事に戻ってください! ってネロもレフも大人げなく何やってるの!」という怒りの声が響き渡るまでこの騒ぎは収まらないのであった―――。
◇
後日。
「あ、ネロサンじゃん。煙草? 抵抗なし。でもあまり慣れない匂いが付くと戦闘に支障が出るから吸わない」
「アーそういう方向か。煙草の匂い如きで調子崩すってのはちと分かんねェが」
アンナの言葉に肩をすくめる。それに対しはにかんだ笑みを見せた。
「うんちの臭いで集中できないのと一緒。あーでも昔命の恩人が吸ってたやつはとってもいい匂いで阻害はされないかも」
「はー龍殺しの。ていうかクソと対比すンじゃねェよ不味くなンだろが」
軽く小突いてやるとニィと笑っている。アンナは思い出すように口元に指を寄せた。
「たまにキセルとかも見せてくれた。そういうコレクションが数少ない趣味だって。そういえば終の棲家には見当たらなかった。捨ててるかも」
「見たかったかもな。意外と知り合いにあげてンじゃね?」
「なかなか価値がありそうだから売ったとかもありえるだろ」
アンナは軽くため息を吐き「話題が逸れた」と切り替える。優しい笑顔を見せ語った。
「うーん銘柄不明だし20年程度の旅な記憶だから大人の味への憧れって記憶補正の可能性。実はクールに煙草吸うヒゲのおじさまが好きでね」
「ハァ。ていうか20年一緒に旅してたとか初耳だな。なあガーロンド」
「お前が男の趣味を語るなんて珍しいな。俺も初めて聞いたぞ」
「そう? キミと同じ年まで一緒に旅してたよ。そうだねえ、聞かれてないから言うわけないじゃん。―――あ、シドには内緒。面倒な未来しか見えない。ってうわシド偶然」
いつの間にかアンナの横にシドは腕組みをし立っていた。いつからいたのかと顔を青くしながら聞くとネロは「だいぶ序盤からいたぞ」と爆笑している。シドはガシリと腕を掴み笑顔を見せているが目は笑っていない。
「よおアンナ、元気そうに話してるじゃないか。で、うわとか面倒ってどういうことだ?」
「いや今のはその。面倒? あなたの聞き間違い。あ! 用事思い出した! じゃ!」
「お前昔『フウガとは成人してから少し後までしかいなかったよ』って言ってたよな?」
「え、そ、そうだっけなあ。いやヴィエラの成人って何歳なんだろーハハハ」
「きっちり聞かれてンじゃねえか。お前本ッ当に学ばねェな」
ネロは火元から逃げるようその場からそそくさと立ち去って行く。また「待てネロサン、キミがいないとシドの説教の度合いが変わる!」というアンナの悲痛な叫び声が響くのであった。
#エルファー関連 #ギャグ #即興SS
"名前"
注意・補足
森の名を知りたいシドと全てを教えたい自機のギャグ概念です。
レフ:エルファー・レフ・ジルダ。アンナの実の兄。笑顔がヘタクソ。妹に負い目を感じている。
ア・リス:アンナが雇った新人リテイナー。エルファーの友人と似ているらしいが…?
リン:リンドウ・フウガ。アンナの命の恩人にして旅の始まりにして元凶。不器用で感情表現が下手な枯れた男。20年前には死んでる。
「アンナ、そろそろ名前教えてくれてもよくないか?」
「はい?」
シドの一言が今回の長い戦いの始まりだった。
「もしかしてボケ始まったやつ? アンナ・サリスさ」
「違う。それは今エオルゼアで名乗っている"街の名"だろ? ていうか今ボケとか言ったか?」
「おっと口が滑ってしまった。―――それでいいじゃない。今の私はアンナだよ」
アンナ・サリスは彼女がエオルゼアに来てから咄嗟に名乗ったものだ。生まれた時に付けられた名前ではない。集落で名乗っていた生まれながらの名前は"森の名"と言うらしい。ヴィエラの女性は部族名がファミリーネームと聞いている。なのでエルダスという所までは把握しているのだが、そのファーストネームは未だに不明なままであった。
「その、好きな人間のことは全て知りたいに決まってるだろ? 普段呼ぶ呼ばない関係なく」
「そういうものなの?」
「そういうものだ」
「ふーむ全てを知りたい、ねぇ」
しばらく考え込む姿を見せる。「よし」と呟きアンナは口を開く。
「ネリネ」
◇
「レフ」
「おや会長クンじゃないか。どうした?」
シドは小走りでアンナの兄であり、社員として働いているレフに話しかける。
「アンナの"森の名"って知ってるよな?」
「勿論。実の妹なんだからな」
「ネリネ」
その単語にレフは首を傾げる。シドは反応を見てため息を吐いた。
「違うんだな?」
「違うな」
「教えてほしい」
「本人から聞き給え。答え合わせはしてやろう。僕以外に判断要素がないだろうからな」
やれやれと肩をすくめる姿にシドは拳を握り、「絶対に聞き出してやる」と闘志を燃やしている。
近くでコーヒーを啜っていたネロは呆れた目でその風景を見ていた。
◇
「アマリリス」
「……違うな」
「ダリア」
「かすってもいない」
「カリス」
「文字数も違う」
「ガーベラ」
「一文字もないな」
「ルディン」
「ない」
「スピネル」
「全く違う」
「ガーネット」
「ソル帝の前で名乗ってたやつじゃねェか?」
「確かに」
「ベリル」
「もう4文字の名前が出るまで僕に聞くな」
直接会った時、リンクパールで連絡した時、一緒に食事に行った時。数々の逢瀬で聞き出してはレフに尋ねに行く。そういえば珍しくリンクパールを常に付けていたりレヴナンツトールに滞在を続けているなと考えがよぎる。だが全く真実に近付きそうにもない状態にシドは歯ぎしりをする。どうしてそんなにも躱そうとするのか、本当に嫌なのならばはっきりと断ればいい。その筈なのに延々と偽名を口に出すのは意図が読めない。ため息を吐いた。
◇
「おっ今日もいいもの持って帰って来たぜご主人!」
「ご苦労様、ア・リス」
アンナははにかみ最近雇ったリテイナーである金髪ミコッテの青年から掘り出し物を受け取る。今日は奇妙な歯車と食材のようだ。お礼を言いながら再び給金代わりのスクリップを渡そうとするとア・リスは首を傾げる。
「ナァ最近シドのダンナ機嫌悪くね?」
「まーたどこで覗いてるのかな? 名前教えろって言われたから教えてるだけだよ」
「森の名をか? 教えりゃいいじゃん」
「あっさり言ったらコミュニケーションが終わっちゃうよ?」
ニコリと笑いながらアンナはこれまでシドに教えた名前を挙げる。
「これらはね、昔名乗っていた街の名なの」
「そんなにあんのか!」
「まだまだあるよ? 何せ50年程度は旅して街や地域ごとに変えてたんだからいっぱいあるさ」
「……それダンナには街の名だって言ってんの?」
「言ってないよ?」
ア・リスはうわぁと言葉を詰まらせた。それに対しアンナは首を傾げている。「何か問題でも?」と言うとア・リスはいやいやと言いながら肩を掴む。
「そういうのはちゃんと先に言っとけ。それでいつも痛い目に遭ってんじゃねえか」
「? 向こうがこれが森の名だなって思ったらそれで終わりでもいいよ?」
「後から面倒になるやつじゃん!」
「いやボクもそう思うんだけどね。"全てを知りたい"なんて言われちゃったらさ」
「俺様は忠告したからな? どうなっても知らねえぞ?」
へへと顔を赤らめながら改める気のないアンナの行動に呆れた目を見せながらアリスはパタパタと走って行った。アンナは首を傾げ逆の方向に歩き出した。
◇
数日後。
「レフ! ……フレイヤか?」
「おっ会長クン大正解だ。よく頑張ったじゃないか」
よしと拳を振り上げ喜びを隠しきれないシドをレフは口角を上げ笑っているような姿を見せる。
「やっと教えてもらえたんだな?」
「まあようやく街の名のストックが切れたとか言って教えてくれたさ」
お前に申告なしの名前だけでもあれから20個くらいあったがなと疲れた切った表情を見せている。レフは「そうかこれまでの街の名だったのか」と頷いている。その後指を突き立てる。
「貴重な妹の過去を聞けたから嬉しい。じゃあ次に君も気になるお題を出そうか」
「何だ? また時間のかかりそうなものは嫌だからな」
「サリスの由来、聞きたくないか?」
その言葉にシドは目を見開く。「そういえば、どこから出て来たのか知らんな」とボソボソと呟いている。
「じゃあ今聞いて来るか」
「おう行ってこい行ってこい。それに関しては僕も正解を知らないからな、ゆっくり教えてもらったらいい」
シドは小走りでその場から去って行く。ネロは怪訝な顔をしてレフに近付く。
「ネロ、サリスというのはリンの父方のファミリーネームなんだ。フウガは母方のだって昔聞いてる」
「ゲッ、知ってて行かせてンのか」
「勿論。まあ偶然の一致かもしれんからな。念のために聞いててほしいと思ってね」
「いやガーロンドの地雷じゃなかったか? メスバブーンの命の恩人関連ってよ」
レフは勿論知っているとニコリと笑う。シドにとって命の恩人に関わる話は露骨に機嫌が悪くなる"地雷"な話題だ。アンナは何度がポロリと話してしまい「やっべ」と溢す局面に遭った。
「1週間位惚気のダシに使われて僕は疲れてるんだ。君だってそうだろう? ガーロンドくんより先に知ってる身からしたら結構苛ついてたよな。タバコ増えてたし。―――まあ少しくらい妹の躾を行っても罰は当たらん。あと僕の予想だが最初に聞いてきた時の街の名"ネリネ"はアリスとリンのクソ野郎2人が付けたやつだと思ってるよ。姫彼岸花、リンドウと同じ秋の花の名前だ」
ネロの乾いた笑い声にレフはウィンクのつもりなのか目を閉じて口角を上げている。片目は髪で隠しているから分からないのだが本人は気付いていないし多分出来ていないだろう。
数分後、シドの「待て逃げるな!」という怒鳴り声が聞こえ、「アンナ逃げやがったぞ! アレは絶対リンドウ関係だ!!」と駆け込んでくる姿に対し「ほらな」と腕組みするレフの姿があった。
この後1週間程度アンナとは連絡を取れなくなったという。しかし事前に石の家へ行き根回しをし、何とか捕獲された。
◇
「ほら言ったじゃねえか。痛い目に遭うぞって」
「だって……だってぇ……」
捕獲からの"お話"から何とか逃げ出し、楽しいんだからしょうがないじゃん! という開き直る姿に偶然通りかかったア・リスはため息を吐く。直後真面目な顔を見せ、ボソリと呟く。
「人間って残酷だよね。1を知れば100が欲しくなる、貪欲な生き物だ」
「あっさり森の名教えてりゃ今のファミリーネームの由来なんざ聞かれなかっただろ」
「ぐ、ぐぬぬ」
言い返せない様子にア・リスはニャハハと笑う。アンナは絶対に言えなかった。当時適当に頭に浮かんだから名乗ったものの、後に振り返ると命の恩人のファミリーネームと一緒だと気付いたことを。これを素直に言うとどうなるか、想像するだけで怖い。
ふと人の気配を感じるとア・リスは耳をピンと立て全速力で走り去って行った。アンナは「あれ?」とキョロキョロ見回していると背後から肩を叩かれる。石のように一瞬固まる。慎重に振り向くと笑顔のシドの姿が。
「アンナ、話は終わってないからな?」
「へ、へへっ、シドの旦那、仲良くしやしょうぜ……」
教訓。故郷が関係することの話題は早急に事実を伝え終わらせよう。そうアンナの胸に刻み込まれるのであった―――。
#シド光♀ #ギャグ
森の名を知りたいシドと全てを教えたい自機のギャグ概念です。
レフ:エルファー・レフ・ジルダ。アンナの実の兄。笑顔がヘタクソ。妹に負い目を感じている。
ア・リス:アンナが雇った新人リテイナー。エルファーの友人と似ているらしいが…?
リン:リンドウ・フウガ。アンナの命の恩人にして旅の始まりにして元凶。不器用で感情表現が下手な枯れた男。20年前には死んでる。
「アンナ、そろそろ名前教えてくれてもよくないか?」
「はい?」
シドの一言が今回の長い戦いの始まりだった。
「もしかしてボケ始まったやつ? アンナ・サリスさ」
「違う。それは今エオルゼアで名乗っている"街の名"だろ? ていうか今ボケとか言ったか?」
「おっと口が滑ってしまった。―――それでいいじゃない。今の私はアンナだよ」
アンナ・サリスは彼女がエオルゼアに来てから咄嗟に名乗ったものだ。生まれた時に付けられた名前ではない。集落で名乗っていた生まれながらの名前は"森の名"と言うらしい。ヴィエラの女性は部族名がファミリーネームと聞いている。なのでエルダスという所までは把握しているのだが、そのファーストネームは未だに不明なままであった。
「その、好きな人間のことは全て知りたいに決まってるだろ? 普段呼ぶ呼ばない関係なく」
「そういうものなの?」
「そういうものだ」
「ふーむ全てを知りたい、ねぇ」
しばらく考え込む姿を見せる。「よし」と呟きアンナは口を開く。
「ネリネ」
◇
「レフ」
「おや会長クンじゃないか。どうした?」
シドは小走りでアンナの兄であり、社員として働いているレフに話しかける。
「アンナの"森の名"って知ってるよな?」
「勿論。実の妹なんだからな」
「ネリネ」
その単語にレフは首を傾げる。シドは反応を見てため息を吐いた。
「違うんだな?」
「違うな」
「教えてほしい」
「本人から聞き給え。答え合わせはしてやろう。僕以外に判断要素がないだろうからな」
やれやれと肩をすくめる姿にシドは拳を握り、「絶対に聞き出してやる」と闘志を燃やしている。
近くでコーヒーを啜っていたネロは呆れた目でその風景を見ていた。
◇
「アマリリス」
「……違うな」
「ダリア」
「かすってもいない」
「カリス」
「文字数も違う」
「ガーベラ」
「一文字もないな」
「ルディン」
「ない」
「スピネル」
「全く違う」
「ガーネット」
「ソル帝の前で名乗ってたやつじゃねェか?」
「確かに」
「ベリル」
「もう4文字の名前が出るまで僕に聞くな」
直接会った時、リンクパールで連絡した時、一緒に食事に行った時。数々の逢瀬で聞き出してはレフに尋ねに行く。そういえば珍しくリンクパールを常に付けていたりレヴナンツトールに滞在を続けているなと考えがよぎる。だが全く真実に近付きそうにもない状態にシドは歯ぎしりをする。どうしてそんなにも躱そうとするのか、本当に嫌なのならばはっきりと断ればいい。その筈なのに延々と偽名を口に出すのは意図が読めない。ため息を吐いた。
◇
「おっ今日もいいもの持って帰って来たぜご主人!」
「ご苦労様、ア・リス」
アンナははにかみ最近雇ったリテイナーである金髪ミコッテの青年から掘り出し物を受け取る。今日は奇妙な歯車と食材のようだ。お礼を言いながら再び給金代わりのスクリップを渡そうとするとア・リスは首を傾げる。
「ナァ最近シドのダンナ機嫌悪くね?」
「まーたどこで覗いてるのかな? 名前教えろって言われたから教えてるだけだよ」
「森の名をか? 教えりゃいいじゃん」
「あっさり言ったらコミュニケーションが終わっちゃうよ?」
ニコリと笑いながらアンナはこれまでシドに教えた名前を挙げる。
「これらはね、昔名乗っていた街の名なの」
「そんなにあんのか!」
「まだまだあるよ? 何せ50年程度は旅して街や地域ごとに変えてたんだからいっぱいあるさ」
「……それダンナには街の名だって言ってんの?」
「言ってないよ?」
ア・リスはうわぁと言葉を詰まらせた。それに対しアンナは首を傾げている。「何か問題でも?」と言うとア・リスはいやいやと言いながら肩を掴む。
「そういうのはちゃんと先に言っとけ。それでいつも痛い目に遭ってんじゃねえか」
「? 向こうがこれが森の名だなって思ったらそれで終わりでもいいよ?」
「後から面倒になるやつじゃん!」
「いやボクもそう思うんだけどね。"全てを知りたい"なんて言われちゃったらさ」
「俺様は忠告したからな? どうなっても知らねえぞ?」
へへと顔を赤らめながら改める気のないアンナの行動に呆れた目を見せながらアリスはパタパタと走って行った。アンナは首を傾げ逆の方向に歩き出した。
◇
数日後。
「レフ! ……フレイヤか?」
「おっ会長クン大正解だ。よく頑張ったじゃないか」
よしと拳を振り上げ喜びを隠しきれないシドをレフは口角を上げ笑っているような姿を見せる。
「やっと教えてもらえたんだな?」
「まあようやく街の名のストックが切れたとか言って教えてくれたさ」
お前に申告なしの名前だけでもあれから20個くらいあったがなと疲れた切った表情を見せている。レフは「そうかこれまでの街の名だったのか」と頷いている。その後指を突き立てる。
「貴重な妹の過去を聞けたから嬉しい。じゃあ次に君も気になるお題を出そうか」
「何だ? また時間のかかりそうなものは嫌だからな」
「サリスの由来、聞きたくないか?」
その言葉にシドは目を見開く。「そういえば、どこから出て来たのか知らんな」とボソボソと呟いている。
「じゃあ今聞いて来るか」
「おう行ってこい行ってこい。それに関しては僕も正解を知らないからな、ゆっくり教えてもらったらいい」
シドは小走りでその場から去って行く。ネロは怪訝な顔をしてレフに近付く。
「ネロ、サリスというのはリンの父方のファミリーネームなんだ。フウガは母方のだって昔聞いてる」
「ゲッ、知ってて行かせてンのか」
「勿論。まあ偶然の一致かもしれんからな。念のために聞いててほしいと思ってね」
「いやガーロンドの地雷じゃなかったか? メスバブーンの命の恩人関連ってよ」
レフは勿論知っているとニコリと笑う。シドにとって命の恩人に関わる話は露骨に機嫌が悪くなる"地雷"な話題だ。アンナは何度がポロリと話してしまい「やっべ」と溢す局面に遭った。
「1週間位惚気のダシに使われて僕は疲れてるんだ。君だってそうだろう? ガーロンドくんより先に知ってる身からしたら結構苛ついてたよな。タバコ増えてたし。―――まあ少しくらい妹の躾を行っても罰は当たらん。あと僕の予想だが最初に聞いてきた時の街の名"ネリネ"はアリスとリンのクソ野郎2人が付けたやつだと思ってるよ。姫彼岸花、リンドウと同じ秋の花の名前だ」
ネロの乾いた笑い声にレフはウィンクのつもりなのか目を閉じて口角を上げている。片目は髪で隠しているから分からないのだが本人は気付いていないし多分出来ていないだろう。
数分後、シドの「待て逃げるな!」という怒鳴り声が聞こえ、「アンナ逃げやがったぞ! アレは絶対リンドウ関係だ!!」と駆け込んでくる姿に対し「ほらな」と腕組みするレフの姿があった。
この後1週間程度アンナとは連絡を取れなくなったという。しかし事前に石の家へ行き根回しをし、何とか捕獲された。
◇
「ほら言ったじゃねえか。痛い目に遭うぞって」
「だって……だってぇ……」
捕獲からの"お話"から何とか逃げ出し、楽しいんだからしょうがないじゃん! という開き直る姿に偶然通りかかったア・リスはため息を吐く。直後真面目な顔を見せ、ボソリと呟く。
「人間って残酷だよね。1を知れば100が欲しくなる、貪欲な生き物だ」
「あっさり森の名教えてりゃ今のファミリーネームの由来なんざ聞かれなかっただろ」
「ぐ、ぐぬぬ」
言い返せない様子にア・リスはニャハハと笑う。アンナは絶対に言えなかった。当時適当に頭に浮かんだから名乗ったものの、後に振り返ると命の恩人のファミリーネームと一緒だと気付いたことを。これを素直に言うとどうなるか、想像するだけで怖い。
ふと人の気配を感じるとア・リスは耳をピンと立て全速力で走り去って行った。アンナは「あれ?」とキョロキョロ見回していると背後から肩を叩かれる。石のように一瞬固まる。慎重に振り向くと笑顔のシドの姿が。
「アンナ、話は終わってないからな?」
「へ、へへっ、シドの旦那、仲良くしやしょうぜ……」
教訓。故郷が関係することの話題は早急に事実を伝え終わらせよう。そうアンナの胸に刻み込まれるのであった―――。
#シド光♀ #ギャグ
旅人に"魂"は宿る
「はー苦労だけかけさせやがって! 俺様じゃなかったら見つからなかったぜ。……テメェは立派なリンの弟子だ! アハハハ! ……はぁ」
鬱蒼と茂る森の中、年老いた金髪ミコッテの男は光が点滅する黒色の装置を確認しながらボヤいた後何かを詠唱する。ざわめく風は止まり、まるで周りの時が止まったかのようだ。男はゆっくりと対象に近付く。
正面にはフードを深く被った赤髪のヴィエラ。立ったまま目を閉じ、眠っていたようだ。
「感謝しろよ? テメェが大好きだったお師匠サマの遺言だ。絶対にバケモノになんてさせねぇよ。一緒に連れて行ってやれ」
銀と赤の目を細めニィと笑い懐の白の宝石を取り出す。握り締めると青白く光り、近付けると"それ"はヴィエラに吸い込まれていく。
「ついでに俺様の人生の中で一番の"最高傑作"になってくれよなァ? んー、魂にけったいな加工されてるがこの天才技術者様には造作もねぇ仕様だ、絶対に成功する」
シワシワな手を差し伸べ、目を閉じる。そして名前を呼び、優しく語り掛けるかのように口を開いた。
「"シハーブ"が使えるのは遂にリンとテメェと俺様だけだったんだぜ? 色々研究して少しくらい使える人間増やそうと頑張ったが、リンが逝ったから"今"はもう手詰まりだ。しかも子孫だって残せねぇからテメェが"唯一"の成功作になるんだぜ! 光栄だろう? だからさ、こーんな浪漫溢れる力で世界を滅ぼさせるわけにゃいけねぇんだよ」
歪んだ笑顔を見せる反面、頬に優しく触れる。思い浮かぶのは若い頃の自分と並ぶ2人の男の姿。
「えらくエルに似た顔になっちゃってマァ。色々あったんだな、"可哀想に"。―――嗚呼エル、すまんな。"俺様たち"はテメェと同じ所には行けなくなっちまったぜ。ケケッ」
次第に光が彼に纏わり今も修行と護人の使命に雁字搦めになっているであろう男の妹にその光が送られていく。
「流石に"肉体"だけ冥界に行くことなんて出来ねぇだろうからなァ。ケケケッ、もしよければ"記憶"の俺様に、よろしくな。―――嗚呼最ッ高の人生だった。"完成"も楽しみだぜ」
男は強い光に包まれ、消えると再び風がざわめきを取り戻す。カタンと何かが落ちる音が響いた。
その音に反応してか、ヴィエラは目を開く。音の元を探そうと赤色の瞳を細めた。
「―――誰がいるのか?」
中性的な声を発しながら辺りを見回しふと何か固いものを蹴る。拾ってみるとそれは黒い変な塊だった。しばらく眺めた後、放り投げようとした瞬間立ち眩みが起こり目の前が真っ黒になる。その場に座り込みながら目を閉じる。
目を開くとヴィエラはその装置を懐に仕舞い込んだ。その瞳の色は―――銀色。ニィと笑い身体をうんと伸ばし歩き出す。
◇
――― "ボク"は気が付いたら存在した"もう一人のフレイヤ・エルダス"だ。そう、少しだけ幸運なヴィエラである。"ボク"が初めて発現した次の年。紆余曲折あり何故かガレマルドへ再び連れて行かれてしまう。偶然現地の少年が現れなければ捕まってしまっていた可能性が高い。実際寒くて"表のフレイヤ・エルダス"は意識を失い、"ボク"が対応したのだ。だがこれは"運命"かもしれないとはにかんだ。自分を狙う面倒な"アレ"が作った帝国というものを内側から破壊する一手を繰り出すために"わざと"印象に残すよう再会の約束をし、青燐機関車に乗り込み何とか脱出して旅を再開する。
それから自分の持っていた"能力"と備えられた"知識"で"この子"を導いた。まずはエオルゼアへ案内し"英雄"に仕立て上げる。理由は簡単。"そうしないといけない"と思ったからである。そしてまさか二度目のガレマルド来訪から20年余り後に蒔いていた種が成長し、運良く目論見が"大成功"してしまうのは予想外だった。あの時にやった咄嗟の判断に感謝する。
そうだ、もう恐怖の象徴となった【鮮血の赤兎】は戻ってこない。闇に纏われた記憶と記録を全て捨て、"大切な人"を見つけた"この子"は小さな一歩を踏み出した。"アレ"を思い出すことさえなかったら、"ボク"は影として長いヴィエラの寿命たっぷり生きて、終わっていただろう。
そういえば好奇心はクアールを殺す、そんな言葉をご存じだろうか。まさにクアールの尻尾を踏んでしまった男たちは、最悪の"記憶"を起こすことになる。いくつもの混じり合った"魂"はため息を吐き、リンドウとお揃いの黒い古びたトームストーンを胸に抱いた。
#リンドウ関連
鬱蒼と茂る森の中、年老いた金髪ミコッテの男は光が点滅する黒色の装置を確認しながらボヤいた後何かを詠唱する。ざわめく風は止まり、まるで周りの時が止まったかのようだ。男はゆっくりと対象に近付く。
正面にはフードを深く被った赤髪のヴィエラ。立ったまま目を閉じ、眠っていたようだ。
「感謝しろよ? テメェが大好きだったお師匠サマの遺言だ。絶対にバケモノになんてさせねぇよ。一緒に連れて行ってやれ」
銀と赤の目を細めニィと笑い懐の白の宝石を取り出す。握り締めると青白く光り、近付けると"それ"はヴィエラに吸い込まれていく。
「ついでに俺様の人生の中で一番の"最高傑作"になってくれよなァ? んー、魂にけったいな加工されてるがこの天才技術者様には造作もねぇ仕様だ、絶対に成功する」
シワシワな手を差し伸べ、目を閉じる。そして名前を呼び、優しく語り掛けるかのように口を開いた。
「"シハーブ"が使えるのは遂にリンとテメェと俺様だけだったんだぜ? 色々研究して少しくらい使える人間増やそうと頑張ったが、リンが逝ったから"今"はもう手詰まりだ。しかも子孫だって残せねぇからテメェが"唯一"の成功作になるんだぜ! 光栄だろう? だからさ、こーんな浪漫溢れる力で世界を滅ぼさせるわけにゃいけねぇんだよ」
歪んだ笑顔を見せる反面、頬に優しく触れる。思い浮かぶのは若い頃の自分と並ぶ2人の男の姿。
「えらくエルに似た顔になっちゃってマァ。色々あったんだな、"可哀想に"。―――嗚呼エル、すまんな。"俺様たち"はテメェと同じ所には行けなくなっちまったぜ。ケケッ」
次第に光が彼に纏わり今も修行と護人の使命に雁字搦めになっているであろう男の妹にその光が送られていく。
「流石に"肉体"だけ冥界に行くことなんて出来ねぇだろうからなァ。ケケケッ、もしよければ"記憶"の俺様に、よろしくな。―――嗚呼最ッ高の人生だった。"完成"も楽しみだぜ」
男は強い光に包まれ、消えると再び風がざわめきを取り戻す。カタンと何かが落ちる音が響いた。
その音に反応してか、ヴィエラは目を開く。音の元を探そうと赤色の瞳を細めた。
「―――誰がいるのか?」
中性的な声を発しながら辺りを見回しふと何か固いものを蹴る。拾ってみるとそれは黒い変な塊だった。しばらく眺めた後、放り投げようとした瞬間立ち眩みが起こり目の前が真っ黒になる。その場に座り込みながら目を閉じる。
目を開くとヴィエラはその装置を懐に仕舞い込んだ。その瞳の色は―――銀色。ニィと笑い身体をうんと伸ばし歩き出す。
◇
――― "ボク"は気が付いたら存在した"もう一人のフレイヤ・エルダス"だ。そう、少しだけ幸運なヴィエラである。"ボク"が初めて発現した次の年。紆余曲折あり何故かガレマルドへ再び連れて行かれてしまう。偶然現地の少年が現れなければ捕まってしまっていた可能性が高い。実際寒くて"表のフレイヤ・エルダス"は意識を失い、"ボク"が対応したのだ。だがこれは"運命"かもしれないとはにかんだ。自分を狙う面倒な"アレ"が作った帝国というものを内側から破壊する一手を繰り出すために"わざと"印象に残すよう再会の約束をし、青燐機関車に乗り込み何とか脱出して旅を再開する。
それから自分の持っていた"能力"と備えられた"知識"で"この子"を導いた。まずはエオルゼアへ案内し"英雄"に仕立て上げる。理由は簡単。"そうしないといけない"と思ったからである。そしてまさか二度目のガレマルド来訪から20年余り後に蒔いていた種が成長し、運良く目論見が"大成功"してしまうのは予想外だった。あの時にやった咄嗟の判断に感謝する。
そうだ、もう恐怖の象徴となった【鮮血の赤兎】は戻ってこない。闇に纏われた記憶と記録を全て捨て、"大切な人"を見つけた"この子"は小さな一歩を踏み出した。"アレ"を思い出すことさえなかったら、"ボク"は影として長いヴィエラの寿命たっぷり生きて、終わっていただろう。
そういえば好奇心はクアールを殺す、そんな言葉をご存じだろうか。まさにクアールの尻尾を踏んでしまった男たちは、最悪の"記憶"を起こすことになる。いくつもの混じり合った"魂"はため息を吐き、リンドウとお揃いの黒い古びたトームストーンを胸に抱いた。
#リンドウ関連
"風邪"
頭がクラクラする。どこか熱い気がする。だからボクは―――戦闘をしていた。
刀を振りぬき敵を斬って行く。ストレスが溜まった等何か1つでも違和感がある時はとにかく体を動かしていたら元気になる。それは長年旅をしていた頃からずっとそうだった。
「あっ」
急にふらついてしまい、その隙を突かれ敵の横殴りが入る。そこからボクの意識は真っ暗になった。
◆
「ばっっっかじゃねぇの!?」
"ボク"は無理やり敵を一閃し、足に力を籠め、走り去った。平熱が死人のように冷たい人間の体温が38度超えて暴れ回るのは莫迦以外言いようがない。
「どこまでリンと一緒なんだよド阿呆!」
撒けたようだ。とりあえずレヴナンツトールにテレポで飛ぶ。一瞬再び身体がふらつくが気合で耐える。
さあここからだ。最寄りの施療院に行くか、それ以外か。エーテライトにもたれかかりぼんやりとする脳みそをフル回転させる。
「医者は……つまらないな。どうせ疲れが原因だろうし。ならば石の家か、ガーロンド社か。これは―――後者だな」
弱い部分を見せたら一歩前進もありえる、そう考えながら少々ふらつきながら歩き出す。
アンナ・サリスは人とコミュニケーションを取っている風に見えて全くやる気のない人間だ。要するに短命種に過剰に関わる時間はないというわけだ。しかし幼い記憶を思い出すからか無意識にヴィエラを見かけたら距離を取っている。自分より年齢を重ねる種族なんて妖異かアシエンくらいだろうが。少しは"普通の"人間と変わらない生活を送ってほしい。そのためにもやっと見つけた存在を手放させるわけにはいけないのだ。
"ボク"は自分が何者か分からない。気が付いたら"ボク"に備わっていた力を全て行使し、アンナ・サリスを支えていた。何故かそうしないといけないという使命感が存在する。分かっていることは命の恩人"リン"の『私たちはとんでもないことをしでかしてしまった。責任を、取らなければ』という言葉だ。これはアンナ・サリスが聞き得ない言葉だって? それも分からない。でも"彼"の言う通り"ボク"は彼女のナカで支え続ける。
支えると言っても常に視ているだけではない。ストレスが一定以上溜まってプッツリとキレた時や脳内情報処理の限界に達したり今回のようにぶっ倒れるくらいのダメージを喰らった瞬間に"交代"していた。稀に乗っ取ったりするがそれもこの子のためである。
考え込んでいるうちに何とかガーロンド社に辿り着いた。フラフラと歩きながら建物に侵入し、見渡す。
「あらアンナ!」
彼女は―――嗚呼ジェシーだったか。手を軽く振ってやると駆け寄って来た。
「今日はどうしたの?」
「うん。ごめん、あとは頼んだ」
流石に病気を最後までカバーすることはできない。先程から目の前がグルグルと渦巻き限界だったのだ。下手したら最後の振りかぶりと全力疾走が原因で熱が上がったな。しかし"安息の場所"まで運べただけ頑張ったと自分にエールを送りたい。
「アンナ!? って熱っ!?」
まずはレディに迷惑をかけてしまうことになるが仕方がない。「ごめん」と呟きながらそのまま意識を手放してしまった。
◆
玄関口で騒ぎ声が聞こえる。休憩中のシドはどうしたのかと顔を出すと人だかりができていた。
「どうした?」
「会長! その、アンナが」
シドは怪訝な顔で近付くと中心では顔を真っ赤にして倒れたアンナがいた。つい二度見してしまうほど現実感がない風景に驚愕する。
「な、何があった」
「それがいきなりやって来たと思ったら『あとは頼んだ』って言って倒れてしまって」
「ジェシー、とりあえず医者を呼んでくれ。彼女は仮眠室にでも運んでおくか……って熱いな!?」
普段の冷たい肌に慣れすぎて熱く感じる。平熱が低すぎる彼女から考えるとよく歩いて来れたなとその精神力の強靭さに頭がおかしくなりそうだ。
そういえば初めてアンナを抱き上げるなと思いながら持ち上げるととても軽かった。この軽さであの圧倒的な強さを支え切っているのかと不安になる。周囲の視線は気になるが心を無にし仮眠室に運び込んだ。
◇
どうやらただほぼ休みなしで世界を救うために走り回った連日の疲れからきたものらしい。そういえばエオルゼアで英雄と呼ばれ始め、以降ずっとイシュガルドで走り回り、次はアラミゴに行くぞと拳を振り上げていた。その合間も時々こちらに顔を出しては色々手伝いしてもらったり野宿しているという話も聞いた。いつ完全に休んでいるのか―――思い返すと謎である。体温は40度近く行っているがそれは無理して動いていたからだろう、安静にしていたら治るらしい。ついでに殴られた形跡があったので処置してもらった。
「ウェッジ、これ何だと思う?」
「……魔物とサシで殴り合いしてたんスかね」
「『多少しんどくても戦ってりゃ治るでしょ』って言って油断して殴られたんだと思うぞ」
「あーありえる」
「親方流石ッスね……」
3人の脳内にフラフラと顔を真っ赤にしながら敵に斬りかかるビジョンが浮かぶ。ため息を吐いているとふとか細い声が聞こえた。
「にい、さん……」
「寝言か?」
うめき声を上げながらうわごとのように呟いている。
「ごめん、なさい」
「ビッグス、ウェッジ仕事に戻っておいてくれないか?」
「親方卑怯ッスよ!?」
「まあいいじゃないか。行こう」
2人は退室していく。ニヤけ顔に少々イラついたが気にしないことにした。アンナは相変わらず小さな声で何かを呟いている。見たことのない弱さがシドを狼狽えさせる。
「―――ド」
「ん?」
「シ、ド」
確実に呼ばれた。相変わらず眠ったまま眉間に皴を寄せ寝言を繰り返している。
「いか、ないで。1人は、いや」
何も言わず手を握ってやると少しだけ緊張が解け、またすやすやと眠っている。どうしてやればいいのか、分からなかった。
◇
ふと目が覚めると屋内。起き上がろうとするが身体が重い。腕だけで支え周りを見渡すとジェシーが驚いた顔をして口を開いた。
「アンナ! 目が覚めてよかった」
「―――ガーロンド社?」
何故自分がここにいるのかが記憶になかった。確か敵から横殴りにされて意識が真っ暗になっていたはず。
「救援されてここにいるのはおかしい……」
「あなた自分でここまで歩いてきたの覚えてないの?」
ジェシーは心配そうな顔してアンナを見ている。首を傾げしばらく考え込んだ。
「あ、そ、そうだったかもしれない。あはは」
覚えていないが適当に返しておく。
「迷惑かけちゃってごめん。ありがと」
苦笑しながらとりあえず謝罪しておく。ジェシーはニコリと笑っている。
「じゃあ会長呼んで来るから」
「シドが起きたらいないのは意外」
「気持ちは分かるわ。困惑しながらあとは頼むって言っておきながら結構こまめに見に来てたからちゃんとお礼言っておいてね」
1分もせずにシドが部屋に駆け込んできた。人の顔を見るなり「よかった」と言いながら一瞬笑顔を見せる。それに釣られて笑顔を見せたがその瞬間、お説教が始まった。
「お前何をしてるんだ! いきなりやって来たかと思ったらぶっ倒れて丸一日眠って心配したんだぞ!」
「いやだって戦ってたら治るし」
「悪化させてきたやつが何言っても説得力がないだろ」
「う……それは偶然そうだっただけで」
「何だと?」
「な、ナンデモナイデス……」
アンナは小さくなっている。何を言ってもムダだと察し困った顔をしてシドの反応伺う。結構怒っているが正直何故怒っているかは理解ができなかった。
「次からは無理せず戦わず水に顔を突っ込んで熱を冷ましてから戦う……」
「馬鹿か!?」
そこからまた長時間の説教が始まった。頭が未だぼんやりして半分も入ってこないがここまで言われるのは命の恩人ぶりで少しくすぐったい。次は迷惑かけないように、何とかしよう。
「おいアンナお前次は人に迷惑かけないよう何とかしようとか思ってないだろうな?」
「え、あ、はい」
「やめろ。素直にちゃんと人を頼ってくれ。今回こっちに助けを求めたのは、その、嬉しかったからな」
「嬉しい? 変なの」
「いつも頼ってしまってるんだ、困った時はお互い様だろ」
目を見開き固まる。「いや私のことは、気にするな。好きで人助けしてるだけ」と首を撫でながら取り繕うように言うと頬を引っ張られた。またよくないことを言ってしまったらしい。理解できなかった。弱くなってるからって調子に乗るんじゃないと思いながら再び寝そべる。どこかちくりと棘が刺さったように痛いのはきっと風邪の症状だろう。
「シド、もう少しだけ寝る」
「……そうしてくれ」
「仕事、戻って大丈夫だよ」
「もう少しだけ休憩させてくれ」
ニコリと笑い合いそれからアンナが眠るまで雑談していた。少しだけ休息になった、気がする。
◆
阿呆共。この一言に尽きる。実は倒れてからも相手の反応は伺っていた。"ボク"は寝言のフリして反応を見る。何も言わず顔を赤くしながら手を握り、しばらくしたら部下に任せ慌てたように退室した。何度か様子を見ては出て行っての繰り返しで正直何をやりたいんだこの人と思いながら呆れる。
身体が動かないので1日ゆっくり眠らせてやった。そしてようやくアンナの意識が回復してきたので無事目を覚ます。レディは慌てて男を呼びに行き、すぐさまお説教が始まった。それに関してはぐうの音も出ないほどの正論だったのでこれを機にアンナも反省してほしい。まあ自分は死なないと高を括っているし"反省"という言葉が辞書に載ってるわけがないのだが。嗚呼また説教が始まった。当人は満更でもなさそうに聞いている。怒鳴られるのは命の恩人ぶりとか感慨深くなってる場合じゃないのだがアンナに理解できるわけもなく。
最終的にいい空気になってよかった。だが人の心というヤツを理解しないアンナと明らかに友人以上に向ける目をしておきながら何も自覚できていない男に呆れる部分があった。しかしこの男でないと任せることはできないと認識している。まあ"ボク"は惚れた腫れたに介入する気は全く存在しない。それは本人が何とかするべき問題だ。
この子の心に関しては時間が何とかしてくれるだろう。今は明らかに休息が足りていないのも確かなのでこれを機にもう少しゆっくりするという行為を覚えてくれたらいいなと考えながら意識を手放したのであった―――。
#シド光♀
刀を振りぬき敵を斬って行く。ストレスが溜まった等何か1つでも違和感がある時はとにかく体を動かしていたら元気になる。それは長年旅をしていた頃からずっとそうだった。
「あっ」
急にふらついてしまい、その隙を突かれ敵の横殴りが入る。そこからボクの意識は真っ暗になった。
◆
「ばっっっかじゃねぇの!?」
"ボク"は無理やり敵を一閃し、足に力を籠め、走り去った。平熱が死人のように冷たい人間の体温が38度超えて暴れ回るのは莫迦以外言いようがない。
「どこまでリンと一緒なんだよド阿呆!」
撒けたようだ。とりあえずレヴナンツトールにテレポで飛ぶ。一瞬再び身体がふらつくが気合で耐える。
さあここからだ。最寄りの施療院に行くか、それ以外か。エーテライトにもたれかかりぼんやりとする脳みそをフル回転させる。
「医者は……つまらないな。どうせ疲れが原因だろうし。ならば石の家か、ガーロンド社か。これは―――後者だな」
弱い部分を見せたら一歩前進もありえる、そう考えながら少々ふらつきながら歩き出す。
アンナ・サリスは人とコミュニケーションを取っている風に見えて全くやる気のない人間だ。要するに短命種に過剰に関わる時間はないというわけだ。しかし幼い記憶を思い出すからか無意識にヴィエラを見かけたら距離を取っている。自分より年齢を重ねる種族なんて妖異かアシエンくらいだろうが。少しは"普通の"人間と変わらない生活を送ってほしい。そのためにもやっと見つけた存在を手放させるわけにはいけないのだ。
"ボク"は自分が何者か分からない。気が付いたら"ボク"に備わっていた力を全て行使し、アンナ・サリスを支えていた。何故かそうしないといけないという使命感が存在する。分かっていることは命の恩人"リン"の『私たちはとんでもないことをしでかしてしまった。責任を、取らなければ』という言葉だ。これはアンナ・サリスが聞き得ない言葉だって? それも分からない。でも"彼"の言う通り"ボク"は彼女のナカで支え続ける。
支えると言っても常に視ているだけではない。ストレスが一定以上溜まってプッツリとキレた時や脳内情報処理の限界に達したり今回のようにぶっ倒れるくらいのダメージを喰らった瞬間に"交代"していた。稀に乗っ取ったりするがそれもこの子のためである。
考え込んでいるうちに何とかガーロンド社に辿り着いた。フラフラと歩きながら建物に侵入し、見渡す。
「あらアンナ!」
彼女は―――嗚呼ジェシーだったか。手を軽く振ってやると駆け寄って来た。
「今日はどうしたの?」
「うん。ごめん、あとは頼んだ」
流石に病気を最後までカバーすることはできない。先程から目の前がグルグルと渦巻き限界だったのだ。下手したら最後の振りかぶりと全力疾走が原因で熱が上がったな。しかし"安息の場所"まで運べただけ頑張ったと自分にエールを送りたい。
「アンナ!? って熱っ!?」
まずはレディに迷惑をかけてしまうことになるが仕方がない。「ごめん」と呟きながらそのまま意識を手放してしまった。
◆
玄関口で騒ぎ声が聞こえる。休憩中のシドはどうしたのかと顔を出すと人だかりができていた。
「どうした?」
「会長! その、アンナが」
シドは怪訝な顔で近付くと中心では顔を真っ赤にして倒れたアンナがいた。つい二度見してしまうほど現実感がない風景に驚愕する。
「な、何があった」
「それがいきなりやって来たと思ったら『あとは頼んだ』って言って倒れてしまって」
「ジェシー、とりあえず医者を呼んでくれ。彼女は仮眠室にでも運んでおくか……って熱いな!?」
普段の冷たい肌に慣れすぎて熱く感じる。平熱が低すぎる彼女から考えるとよく歩いて来れたなとその精神力の強靭さに頭がおかしくなりそうだ。
そういえば初めてアンナを抱き上げるなと思いながら持ち上げるととても軽かった。この軽さであの圧倒的な強さを支え切っているのかと不安になる。周囲の視線は気になるが心を無にし仮眠室に運び込んだ。
◇
どうやらただほぼ休みなしで世界を救うために走り回った連日の疲れからきたものらしい。そういえばエオルゼアで英雄と呼ばれ始め、以降ずっとイシュガルドで走り回り、次はアラミゴに行くぞと拳を振り上げていた。その合間も時々こちらに顔を出しては色々手伝いしてもらったり野宿しているという話も聞いた。いつ完全に休んでいるのか―――思い返すと謎である。体温は40度近く行っているがそれは無理して動いていたからだろう、安静にしていたら治るらしい。ついでに殴られた形跡があったので処置してもらった。
「ウェッジ、これ何だと思う?」
「……魔物とサシで殴り合いしてたんスかね」
「『多少しんどくても戦ってりゃ治るでしょ』って言って油断して殴られたんだと思うぞ」
「あーありえる」
「親方流石ッスね……」
3人の脳内にフラフラと顔を真っ赤にしながら敵に斬りかかるビジョンが浮かぶ。ため息を吐いているとふとか細い声が聞こえた。
「にい、さん……」
「寝言か?」
うめき声を上げながらうわごとのように呟いている。
「ごめん、なさい」
「ビッグス、ウェッジ仕事に戻っておいてくれないか?」
「親方卑怯ッスよ!?」
「まあいいじゃないか。行こう」
2人は退室していく。ニヤけ顔に少々イラついたが気にしないことにした。アンナは相変わらず小さな声で何かを呟いている。見たことのない弱さがシドを狼狽えさせる。
「―――ド」
「ん?」
「シ、ド」
確実に呼ばれた。相変わらず眠ったまま眉間に皴を寄せ寝言を繰り返している。
「いか、ないで。1人は、いや」
何も言わず手を握ってやると少しだけ緊張が解け、またすやすやと眠っている。どうしてやればいいのか、分からなかった。
◇
ふと目が覚めると屋内。起き上がろうとするが身体が重い。腕だけで支え周りを見渡すとジェシーが驚いた顔をして口を開いた。
「アンナ! 目が覚めてよかった」
「―――ガーロンド社?」
何故自分がここにいるのかが記憶になかった。確か敵から横殴りにされて意識が真っ暗になっていたはず。
「救援されてここにいるのはおかしい……」
「あなた自分でここまで歩いてきたの覚えてないの?」
ジェシーは心配そうな顔してアンナを見ている。首を傾げしばらく考え込んだ。
「あ、そ、そうだったかもしれない。あはは」
覚えていないが適当に返しておく。
「迷惑かけちゃってごめん。ありがと」
苦笑しながらとりあえず謝罪しておく。ジェシーはニコリと笑っている。
「じゃあ会長呼んで来るから」
「シドが起きたらいないのは意外」
「気持ちは分かるわ。困惑しながらあとは頼むって言っておきながら結構こまめに見に来てたからちゃんとお礼言っておいてね」
1分もせずにシドが部屋に駆け込んできた。人の顔を見るなり「よかった」と言いながら一瞬笑顔を見せる。それに釣られて笑顔を見せたがその瞬間、お説教が始まった。
「お前何をしてるんだ! いきなりやって来たかと思ったらぶっ倒れて丸一日眠って心配したんだぞ!」
「いやだって戦ってたら治るし」
「悪化させてきたやつが何言っても説得力がないだろ」
「う……それは偶然そうだっただけで」
「何だと?」
「な、ナンデモナイデス……」
アンナは小さくなっている。何を言ってもムダだと察し困った顔をしてシドの反応伺う。結構怒っているが正直何故怒っているかは理解ができなかった。
「次からは無理せず戦わず水に顔を突っ込んで熱を冷ましてから戦う……」
「馬鹿か!?」
そこからまた長時間の説教が始まった。頭が未だぼんやりして半分も入ってこないがここまで言われるのは命の恩人ぶりで少しくすぐったい。次は迷惑かけないように、何とかしよう。
「おいアンナお前次は人に迷惑かけないよう何とかしようとか思ってないだろうな?」
「え、あ、はい」
「やめろ。素直にちゃんと人を頼ってくれ。今回こっちに助けを求めたのは、その、嬉しかったからな」
「嬉しい? 変なの」
「いつも頼ってしまってるんだ、困った時はお互い様だろ」
目を見開き固まる。「いや私のことは、気にするな。好きで人助けしてるだけ」と首を撫でながら取り繕うように言うと頬を引っ張られた。またよくないことを言ってしまったらしい。理解できなかった。弱くなってるからって調子に乗るんじゃないと思いながら再び寝そべる。どこかちくりと棘が刺さったように痛いのはきっと風邪の症状だろう。
「シド、もう少しだけ寝る」
「……そうしてくれ」
「仕事、戻って大丈夫だよ」
「もう少しだけ休憩させてくれ」
ニコリと笑い合いそれからアンナが眠るまで雑談していた。少しだけ休息になった、気がする。
◆
阿呆共。この一言に尽きる。実は倒れてからも相手の反応は伺っていた。"ボク"は寝言のフリして反応を見る。何も言わず顔を赤くしながら手を握り、しばらくしたら部下に任せ慌てたように退室した。何度か様子を見ては出て行っての繰り返しで正直何をやりたいんだこの人と思いながら呆れる。
身体が動かないので1日ゆっくり眠らせてやった。そしてようやくアンナの意識が回復してきたので無事目を覚ます。レディは慌てて男を呼びに行き、すぐさまお説教が始まった。それに関してはぐうの音も出ないほどの正論だったのでこれを機にアンナも反省してほしい。まあ自分は死なないと高を括っているし"反省"という言葉が辞書に載ってるわけがないのだが。嗚呼また説教が始まった。当人は満更でもなさそうに聞いている。怒鳴られるのは命の恩人ぶりとか感慨深くなってる場合じゃないのだがアンナに理解できるわけもなく。
最終的にいい空気になってよかった。だが人の心というヤツを理解しないアンナと明らかに友人以上に向ける目をしておきながら何も自覚できていない男に呆れる部分があった。しかしこの男でないと任せることはできないと認識している。まあ"ボク"は惚れた腫れたに介入する気は全く存在しない。それは本人が何とかするべき問題だ。
この子の心に関しては時間が何とかしてくれるだろう。今は明らかに休息が足りていないのも確かなのでこれを機にもう少しゆっくりするという行為を覚えてくれたらいいなと考えながら意識を手放したのであった―――。
#シド光♀
漆黒5.0終了直後の自機が人に"興味"を持ち始める話。シド少年時代捏造。
最初に抱いた感情は同じ帝国に狙われた可哀想な人。記憶を失い、現地民に疎まれ、更に祖国から追われている様に同情する目を向けることしかできなかった。陰気なやつだと思っていたが話をしてみると意外と優しい人間で気に入った。初めてもらった"道しるべ"を隠し持って、彼らを追いかけることにする。
"彼"が記憶を取り戻した時、"彼"は"ボク"が護ると約束した人だと思い出してしまった。"彼"が歩む先の障害を排除する。大きな声で言えないがとても楽しかった。
英雄という存在となったボクはいつも不安だった。それでも"彼"がいれば何とかなる、頼られるしもう少しだけ頑張ってみようかなと思うようになった。何よりも『絶対に生きて帰ってこい』、それは新たなボクを縛り付ける言葉。でも全然苦しくない。それどころか力が湧き出てくる。どうしてなのかは分からなかった。
"彼"の前で、ボクは少しだけ自分を見せることにする。理由は簡単、キミを護る存在だということを分かって欲しかったから。
何も考えたくなかったので過去のボクを完璧に捨てる儀式を"任せる"。忘れさせることで頼られれば、歩み寄り、必要無くなったならば表舞台から消えてしまえばいいんだ。思えばそれが一番の間違いであり、2人の関係を表す歯車が軋みだす瞬間だったのかもしれない。要するに"内なる存在"に嵌められたってことだ。
いつの間にか、ボクを見る"彼"の目は熱く焼かれそうなほどのものに変わっていた。でも、真っ白な自由の象徴である彼の隣に立つ存在は、もっと綺麗で護りたくなるような人間がいいに決まっている。誰に対しても優しいあなたの心を乾かさないために、ボクは助けを求められるまま存在していればいいんだよ。
―――ボクは幸せになるべきではないし人を幸せに出来るはずがない、そう思っている。だから、だからボクにそんな目を向けないで。
初めて身体を重ねた夜、ここで白い"彼"の内面をドス黒く染めてしまっていたことに気が付いた。どこで間違えてしまったのか、ボクには分からなかった。
これ以上は、ダメ。キミと幸せを共有できる人間はこの広い星空に沢山存在する。その星々ごと、護らせてほしい。ただそれだけで今のボクは救われるんだ。
どうやらボクがやってきたことは人を勘違いさせるただ無償の愛を降り注ぐだけの行為だったらしい。違う、ただその星に光が灯されていればいい、そう思っていただけだよ? かつてのフウガと同じことをしていただけだったのに、何でそんな顔をして、ボクを見てるの?
―――だってキミはボクより遥かに早く死ぬ人間なんだよ? キミが死んだ後、どうしたらいいの? 一生想いを引きずって苦しんで最期は発狂して死ねって言いたいのかい?
そんな余計な感情を抱くくらいなら。フウガの教えの通り名も無き旅人で居続け、全てから逃げ続ける方がマシなんだよ。だから、その手を離して。抱きしめないでよ。
原初世界でのにぎやかさに対し第一世界では、"孤独"だった。いや、仲間や"内なる存在"はいる。嫌味を言いながらもフォローに回る敵か味方か分からない存在もいた。この世界の住人もとても優しくて、眩しかった。でもボクの心は乾き、溢れる光を身体に取り込み続ける。
どこがゴールか分からぬまま、とにかく走り続けた。それは長い間やってきた旅と同じ筈なのに、空虚で悲しい気持ちに支配され壊れそうで、それでもボクは足掻き続けた。
全ての大罪喰いの光を喰らった後、意識が真っ暗になった。ハッと気が付くとあの男を消滅させ、世界の滅びも一次的に回避できた"らしい"。
自分の身を挺してまで光を吐き切らせたアシエンを、ボクはどう思っていたのだろう。―――そうだ、この人も命の恩人だった。かつては闇を剥がし、次は光を剥がしたボクの中にあるナニカを見出した可哀想な人。どうか安らかに、星になっていて欲しい。
仲間たちから一度原初世界へ報告しに帰れと言われた。正直、あの夢での件もあって少々会いたくなかった。だって答え合わせをする前に答えを出してしまったようなもので。しかしそれを誰かに言えるはずもなく、仕方ないから石の家で報告してからすぐに戻ろう。
タタルに「ガーロンド・アイアンワークス社に顔を出してあげてほしいでっす! 皆会いたいって言ってたでっすよ!」と言われた。まあ今回霊災を回避できたのは別の時代の彼らなのだ。感謝を告げてからシドと鉢合わせする前に戻ってしまえばいいだろう。足取り重く護るべき者たちがいる場所へ向かった。
◇
足取り重くガーロンドアイアンワークス社に訪れるとシドから逃げていたはずのネロが立っていた。
「あれ、ネロサン。逃走生活終了?」
「なンだお前帰って来てたのか。……珍しく辛気臭ぇ顔してンな」
そうだよだって休みなしで世界救ってきたしと肩をすくめて見せると「おつかれさン」とニィと笑っている。
「で? 他の世界には何か珍しい技術でもあったか? またレポートに纏めろよ」
「キミはねぇ……あったよ。時代と次元の跳躍とかいう現実感のないすっごいのがね」
「ヒヒッそりゃよかったことで。そんなモン作った天才に是非ともお会いしたいナァ」
その内の一人はキミだよと言いたい気持ちを今は抑え笑顔を向ける。
―――この時のボクは何故わざわざネロがここで待ち構えていたのか、その意味を察しないまま逃走準備を進めていた。ここでやるべきはテレポだったと思う。
「まあボクは元気ってシドに伝言よろしく。別の時代の君たちのおかげでボクは死ななかったんだ。いやあこう戻って来ても暁の皆は第一世界から帰れないままだし。皆で手がかりを探してる所」
手を上げ、踵を返す。「おいメスバブーン待てよ! 止まった方が自分のためだぜ?」という言葉を無視し、顔を上げ入口を見るとジトっとした目で仁王立ちしたシドがいた。
「はい?」
「お前さんやっぱり逃げる気だったか」
ワンテンポ反応が遅れた隙にいつの間にか手に持っていたバズーカのようなものがボクに向かって撃ち込まれる。それは強力な網のようなものであっという間に捕らえられ倒れ伏せてしまう。ネロを見やるとニィと見下しており、「ま、まさかネロサンもグル!?」と言ってやると「だから言ったのになァ!」とゲラゲラ笑いながらどこかへ行ってしまった。軽々と持ち上げられ担がれていく。
出会う社員たちに「アンナさんおかえりなさい!」やら「よかったですね会長!」やら罰ゲームのような雰囲気を味わう。力を込めても全く切れそうもない材質って何だよと思いながらなんとか指を網に向け「バァン」と火で穴を開けようとすると網全体が熱くなる。
「あっつ!?」
「アンナお前何やってるんだ!? 熱っ!」
シドも思わず手から落としてしまうほど熱くなった網をバタバタと暴れるがびくともしない。
「我が妹!!」
その時扉が勢い良く開き赤髪のヴィエラが飛び出してきた。シドは唖然とした表情で見ている。
「兄さん!?」
「駄目じゃないか! その網は僕が焦がしたらあっさりと切れてしまったからその反省点を生かして改良したんだよ。まさか妹の身体を火傷だらけにさせてしまう機構になるとは思わなかった、嗚呼可哀想な我が妹よ。うん、そこは反省している。よし反省会終わり。これは次回以降の改善点にしておくとして。じゃあ冷ましてやるから待ってろ」
懐から何やら金属片を持ち出しそれを当てるとあっという間に冷たくなった。
「え、あ、ありがとう兄さん」
「ところで妹よ、僕は今ここにいるのは妹には秘密にしてるんだ。だから内緒な」
「うん? ……うん、分かった」
「おつかれ、よく頑張ったな」
頭をぐしゃりと撫でられそのまま兄はどこかに去って行った。そっか内緒にしておかないといけないな。そう思ってると怪訝な顔をしたシドは再びボクを持ち上げて部屋へ運ぶ。抵抗する気も失せた。自室に連れ込まれた後その網を切り、笑顔を浮かべていた。
「さあアンナ、"宿題"の答え合わせをするか」
◇
「怖いよな、失うことって。リンドウも自分の刃に大切な人を巻き込みたくなかったから逃げていたんだ」
「はぁ!? キミに何が分かる! フウガはそんな腰抜けな人間じゃない! ……ってあっ」
最初に口に出したのはまさかのフウガの悪口。つい感情的に言い返してしまったことに気が付き口を閉じる。シドは優しく笑っていた。
「いいや、あの人は今のお前のように全て怖くなったから逃げ出して感情を封印してたんだ。―――俺は絶対、お前の目の前で死ぬさ。ああ決められた寿命ギリギリまで生きて死んでやるって約束する。でもお前は、俺の目の届かない所で死にたいんだろ? 死に目にも立ち会えず、苦しめって言うのか?」
「それは、だって私は沢山の人に恨まれて、苦しむんだからそれを誰にも見せたくないからで。どうせ先に死ぬキミが苦しむことなんて―――」
「俺も一緒に背負う。見て見ぬふりなんてしない。刃は1人でに動かないだろ? 整備も必要だし、それを行使するヒトも必要だ」
「ダメ! キミは自由で。キレイで。皆の前に立って。笑顔で幸せな所を見せて。そして私がキミを護らせてくれたらそれでいい。私を、そんな目で見ないで」
「俺は綺麗じゃない」
頭をくしゃりと撫でられ、額をこつんと合わせる。
「俺はアンナが好きだ。だからお前を絶対に獣にはしない。俺はお前が最大限の力を発揮するための道を示す、星になる。だから、もう無名の旅人にならなくてもいい。アンナ・サリスとして隣に立っていてくれ。"お願い"だ」
シドがボクの手の甲に口付け笑いかける。朧げな記憶の中に残っている寒空の夜と、逆の姿。星、そうだボクは星を探していた。熱く光り輝く星を、ずっと。"彼"の目に宿る星を見る。ボクはザナラーンの星空の下でこの星を見た時、気に入ったと思ったのだ。
「ねえシド、本当に私は人の隣に立つ資格はあるの? いっぱい、捨てて来たしキミも捨てようとしたのに」
「だってお前ずっと俺のこと好きでいてくれたじゃないか」
は? この男は何を言っているのだろうか。ボクが特定の人間に感情を抱くわけがない。それがフウガの教えで。でも。
「お前も俺も、もう相手無しで生活なんてできんさ。観念しろ」
「そう―――かもしれないねぇ」
温かい手を握り、目を閉じた。反証する材料が手持ちに一切存在しない、いい加減観念するべきだろう。だがそのための材料も足りない。
「でも感情に関してはもう少し待ってほしい」
「この段階まで来て何を」
「あなたに興味が湧いたんだ」
キミはボクなんかのことを頑張っていっぱい探してきて結論を見つけたかもしれない。でもボクはキミのことは何も知らないんだ。ただたくさんある星の1つを愛でていたにすぎない。
「あのね、私はあなたの歩んできた道は一切知らない。興味なかったから」
魔導院時代の話も、後見人だったガイウスとの因縁も、その脇腹の銃創の意味も。父親を失い亡命するきっかけになった事件もこれまで一切興味が湧かなかったのだ。
「今教えなくてもいいよ。私だって自分の足で探したい。その旅が終わったら、即結論は教える。だから―――」
口付けてやり、少しだけ屈みその相変わらず分厚い胸板に頭をぶつける。汗と機械油の匂いにボクは"ここ"に帰って来られたんだな、と安心した。それに、さっきから少々人に見せられない顔になっているだろう、恥ずかしいんだ。
「第一世界は、1人で怖かった。そんな世界を頑張って救って帰って来たんだよ? 労ってくれてもいいじゃないか。兄さんやネロサンと違って帰って来るなり答え合わせとか言い出してさ。そんながっついて来ないでよ。子供か」
「あ。す、すまん」
頭に温かな手が置かれる。そこでボクは声を出しわんわんと泣いた。こんなに泣いたのは、フウガの前で崩れた時以降一切なかった。
『蒔いた種はようやく実りやっと一歩前進、か。遅すぎ』
内なる存在の声が聞こえた気がした。意味は理解できなかったが今のボクの感情に対して邪魔をする気はないらしい。
『泣け泣け。奴しか見てないんだからさ』
温かさに包み込まれながらボクはこの世界に戻って来られた喜びを噛み締めた。
◇
声を出して泣きじゃくる彼女の頭を撫でてやる。確かに労いの言葉もなしにこっちの言いたい事を投げ始めたのは悪かった。早くしないと"また"逃げられるかもしれないと慌てた想いが先行してしまっていた。
第一世界で何があったかはまだ話をしていないかは分からない。夢で見た地点で参っていたのは分かっていたが、相当精神的にも肉体的にも限界が来てたらしい。素直に一緒にいた暁の血盟の人間に助けを求めたらよかったのにと肩をすくめる。しかしそれを覚えてしまったら自分の所に来る頻度が減ってしまうじゃないか。そう考えると今のままでもいいかもしれない。
しかしキスを交わしこうやって弱音を吐いてまだ感情を抱いてませんこれから考えますは嘘だろ? と思ってしまう。既に一線は越えているしあと何が必要なのかと聞きたくなるが流石に喉元で抑えた。
「おつかれさん」
顔を上げさせ、彼女の顔を見つめた。頬を赤らめ、涙が溢れる目にいつもの余裕ある笑顔はなく弱々しい声で「見るなぁ」と言っている。
「ゆっくり結論を探せばいい。どうせお互い多忙で滅多に会えない関係なのは変わらないからな」
そうだ、自分たちはそれぞれ周りに求められている存在だ。今までも何とか時間を作り逢瀬を重ねてここまで来た。それはこれからも変わらないだろう。強く抱きしめ、久々の冷たさを味わった。
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#シド光♀