FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.90, No.88, No.86, No.85, No.84, No.83, No.81[7件]
旅人に"魂"は宿る
「はー苦労だけかけさせやがって! 俺様じゃなかったら見つからなかったぜ。……テメェは立派なリンの弟子だ! アハハハ! ……はぁ」
鬱蒼と茂る森の中、年老いた金髪ミコッテの男は光が点滅する黒色の装置を確認しながらボヤいた後何かを詠唱する。ざわめく風は止まり、まるで周りの時が止まったかのようだ。男はゆっくりと対象に近付く。
正面にはフードを深く被った赤髪のヴィエラ。立ったまま目を閉じ、眠っていたようだ。
「感謝しろよ? テメェが大好きだったお師匠サマの遺言だ。絶対にバケモノになんてさせねぇよ。一緒に連れて行ってやれ」
銀と赤の目を細めニィと笑い懐の白の宝石を取り出す。握り締めると青白く光り、近付けると"それ"はヴィエラに吸い込まれていく。
「ついでに俺様の人生の中で一番の"最高傑作"になってくれよなァ? んー、魂にけったいな加工されてるがこの天才技術者様には造作もねぇ仕様だ、絶対に成功する」
シワシワな手を差し伸べ、目を閉じる。そして名前を呼び、優しく語り掛けるかのように口を開いた。
「"シハーブ"が使えるのは遂にリンとテメェと俺様だけだったんだぜ? 色々研究して少しくらい使える人間増やそうと頑張ったが、リンが逝ったから"今"はもう手詰まりだ。しかも子孫だって残せねぇからテメェが"唯一"の成功作になるんだぜ! 光栄だろう? だからさ、こーんな浪漫溢れる力で世界を滅ぼさせるわけにゃいけねぇんだよ」
歪んだ笑顔を見せる反面、頬に優しく触れる。思い浮かぶのは若い頃の自分と並ぶ2人の男の姿。
「えらくエルに似た顔になっちゃってマァ。色々あったんだな、"可哀想に"。―――嗚呼エル、すまんな。"俺様たち"はテメェと同じ所には行けなくなっちまったぜ。ケケッ」
次第に光が彼に纏わり今も修行と護人の使命に雁字搦めになっているであろう男の妹にその光が送られていく。
「流石に"肉体"だけ冥界に行くことなんて出来ねぇだろうからなァ。ケケケッ、もしよければ"記憶"の俺様に、よろしくな。―――嗚呼最ッ高の人生だった。"完成"も楽しみだぜ」
男は強い光に包まれ、消えると再び風がざわめきを取り戻す。カタンと何かが落ちる音が響いた。
その音に反応してか、ヴィエラは目を開く。音の元を探そうと赤色の瞳を細めた。
「―――誰がいるのか?」
中性的な声を発しながら辺りを見回しふと何か固いものを蹴る。拾ってみるとそれは黒い変な塊だった。しばらく眺めた後、放り投げようとした瞬間立ち眩みが起こり目の前が真っ黒になる。その場に座り込みながら目を閉じる。
目を開くとヴィエラはその装置を懐に仕舞い込んだ。その瞳の色は―――銀色。ニィと笑い身体をうんと伸ばし歩き出す。
◇
――― "ボク"は気が付いたら存在した"もう一人のフレイヤ・エルダス"だ。そう、少しだけ幸運なヴィエラである。"ボク"が初めて発現した次の年。紆余曲折あり何故かガレマルドへ再び連れて行かれてしまう。偶然現地の少年が現れなければ捕まってしまっていた可能性が高い。実際寒くて"表のフレイヤ・エルダス"は意識を失い、"ボク"が対応したのだ。だがこれは"運命"かもしれないとはにかんだ。自分を狙う面倒な"アレ"が作った帝国というものを内側から破壊する一手を繰り出すために"わざと"印象に残すよう再会の約束をし、青燐機関車に乗り込み何とか脱出して旅を再開する。
それから自分の持っていた"能力"と備えられた"知識"で"この子"を導いた。まずはエオルゼアへ案内し"英雄"に仕立て上げる。理由は簡単。"そうしないといけない"と思ったからである。そしてまさか二度目のガレマルド来訪から20年余り後に蒔いていた種が成長し、運良く目論見が"大成功"してしまうのは予想外だった。あの時にやった咄嗟の判断に感謝する。
そうだ、もう恐怖の象徴となった【鮮血の赤兎】は戻ってこない。闇に纏われた記憶と記録を全て捨て、"大切な人"を見つけた"この子"は小さな一歩を踏み出した。"アレ"を思い出すことさえなかったら、"ボク"は影として長いヴィエラの寿命たっぷり生きて、終わっていただろう。
そういえば好奇心はクアールを殺す、そんな言葉をご存じだろうか。まさにクアールの尻尾を踏んでしまった男たちは、最悪の"記憶"を起こすことになる。いくつもの混じり合った"魂"はため息を吐き、リンドウとお揃いの黒い古びたトームストーンを胸に抱いた。
#リンドウ関連
鬱蒼と茂る森の中、年老いた金髪ミコッテの男は光が点滅する黒色の装置を確認しながらボヤいた後何かを詠唱する。ざわめく風は止まり、まるで周りの時が止まったかのようだ。男はゆっくりと対象に近付く。
正面にはフードを深く被った赤髪のヴィエラ。立ったまま目を閉じ、眠っていたようだ。
「感謝しろよ? テメェが大好きだったお師匠サマの遺言だ。絶対にバケモノになんてさせねぇよ。一緒に連れて行ってやれ」
銀と赤の目を細めニィと笑い懐の白の宝石を取り出す。握り締めると青白く光り、近付けると"それ"はヴィエラに吸い込まれていく。
「ついでに俺様の人生の中で一番の"最高傑作"になってくれよなァ? んー、魂にけったいな加工されてるがこの天才技術者様には造作もねぇ仕様だ、絶対に成功する」
シワシワな手を差し伸べ、目を閉じる。そして名前を呼び、優しく語り掛けるかのように口を開いた。
「"シハーブ"が使えるのは遂にリンとテメェと俺様だけだったんだぜ? 色々研究して少しくらい使える人間増やそうと頑張ったが、リンが逝ったから"今"はもう手詰まりだ。しかも子孫だって残せねぇからテメェが"唯一"の成功作になるんだぜ! 光栄だろう? だからさ、こーんな浪漫溢れる力で世界を滅ぼさせるわけにゃいけねぇんだよ」
歪んだ笑顔を見せる反面、頬に優しく触れる。思い浮かぶのは若い頃の自分と並ぶ2人の男の姿。
「えらくエルに似た顔になっちゃってマァ。色々あったんだな、"可哀想に"。―――嗚呼エル、すまんな。"俺様たち"はテメェと同じ所には行けなくなっちまったぜ。ケケッ」
次第に光が彼に纏わり今も修行と護人の使命に雁字搦めになっているであろう男の妹にその光が送られていく。
「流石に"肉体"だけ冥界に行くことなんて出来ねぇだろうからなァ。ケケケッ、もしよければ"記憶"の俺様に、よろしくな。―――嗚呼最ッ高の人生だった。"完成"も楽しみだぜ」
男は強い光に包まれ、消えると再び風がざわめきを取り戻す。カタンと何かが落ちる音が響いた。
その音に反応してか、ヴィエラは目を開く。音の元を探そうと赤色の瞳を細めた。
「―――誰がいるのか?」
中性的な声を発しながら辺りを見回しふと何か固いものを蹴る。拾ってみるとそれは黒い変な塊だった。しばらく眺めた後、放り投げようとした瞬間立ち眩みが起こり目の前が真っ黒になる。その場に座り込みながら目を閉じる。
目を開くとヴィエラはその装置を懐に仕舞い込んだ。その瞳の色は―――銀色。ニィと笑い身体をうんと伸ばし歩き出す。
◇
――― "ボク"は気が付いたら存在した"もう一人のフレイヤ・エルダス"だ。そう、少しだけ幸運なヴィエラである。"ボク"が初めて発現した次の年。紆余曲折あり何故かガレマルドへ再び連れて行かれてしまう。偶然現地の少年が現れなければ捕まってしまっていた可能性が高い。実際寒くて"表のフレイヤ・エルダス"は意識を失い、"ボク"が対応したのだ。だがこれは"運命"かもしれないとはにかんだ。自分を狙う面倒な"アレ"が作った帝国というものを内側から破壊する一手を繰り出すために"わざと"印象に残すよう再会の約束をし、青燐機関車に乗り込み何とか脱出して旅を再開する。
それから自分の持っていた"能力"と備えられた"知識"で"この子"を導いた。まずはエオルゼアへ案内し"英雄"に仕立て上げる。理由は簡単。"そうしないといけない"と思ったからである。そしてまさか二度目のガレマルド来訪から20年余り後に蒔いていた種が成長し、運良く目論見が"大成功"してしまうのは予想外だった。あの時にやった咄嗟の判断に感謝する。
そうだ、もう恐怖の象徴となった【鮮血の赤兎】は戻ってこない。闇に纏われた記憶と記録を全て捨て、"大切な人"を見つけた"この子"は小さな一歩を踏み出した。"アレ"を思い出すことさえなかったら、"ボク"は影として長いヴィエラの寿命たっぷり生きて、終わっていただろう。
そういえば好奇心はクアールを殺す、そんな言葉をご存じだろうか。まさにクアールの尻尾を踏んでしまった男たちは、最悪の"記憶"を起こすことになる。いくつもの混じり合った"魂"はため息を吐き、リンドウとお揃いの黒い古びたトームストーンを胸に抱いた。
#リンドウ関連
"風邪"
頭がクラクラする。どこか熱い気がする。だからボクは―――戦闘をしていた。
刀を振りぬき敵を斬って行く。ストレスが溜まった等何か1つでも違和感がある時はとにかく体を動かしていたら元気になる。それは長年旅をしていた頃からずっとそうだった。
「あっ」
急にふらついてしまい、その隙を突かれ敵の横殴りが入る。そこからボクの意識は真っ暗になった。
◆
「ばっっっかじゃねぇの!?」
"ボク"は無理やり敵を一閃し、足に力を籠め、走り去った。平熱が死人のように冷たい人間の体温が38度超えて暴れ回るのは莫迦以外言いようがない。
「どこまでリンと一緒なんだよド阿呆!」
撒けたようだ。とりあえずレヴナンツトールにテレポで飛ぶ。一瞬再び身体がふらつくが気合で耐える。
さあここからだ。最寄りの施療院に行くか、それ以外か。エーテライトにもたれかかりぼんやりとする脳みそをフル回転させる。
「医者は……つまらないな。どうせ疲れが原因だろうし。ならば石の家か、ガーロンド社か。これは―――後者だな」
弱い部分を見せたら一歩前進もありえる、そう考えながら少々ふらつきながら歩き出す。
アンナ・サリスは人とコミュニケーションを取っている風に見えて全くやる気のない人間だ。要するに短命種に過剰に関わる時間はないというわけだ。しかし幼い記憶を思い出すからか無意識にヴィエラを見かけたら距離を取っている。自分より年齢を重ねる種族なんて妖異かアシエンくらいだろうが。少しは"普通の"人間と変わらない生活を送ってほしい。そのためにもやっと見つけた存在を手放させるわけにはいけないのだ。
"ボク"は自分が何者か分からない。気が付いたら"ボク"に備わっていた力を全て行使し、アンナ・サリスを支えていた。何故かそうしないといけないという使命感が存在する。分かっていることは命の恩人"リン"の『私たちはとんでもないことをしでかしてしまった。責任を、取らなければ』という言葉だ。これはアンナ・サリスが聞き得ない言葉だって? それも分からない。でも"彼"の言う通り"ボク"は彼女のナカで支え続ける。
支えると言っても常に視ているだけではない。ストレスが一定以上溜まってプッツリとキレた時や脳内情報処理の限界に達したり今回のようにぶっ倒れるくらいのダメージを喰らった瞬間に"交代"していた。稀に乗っ取ったりするがそれもこの子のためである。
考え込んでいるうちに何とかガーロンド社に辿り着いた。フラフラと歩きながら建物に侵入し、見渡す。
「あらアンナ!」
彼女は―――嗚呼ジェシーだったか。手を軽く振ってやると駆け寄って来た。
「今日はどうしたの?」
「うん。ごめん、あとは頼んだ」
流石に病気を最後までカバーすることはできない。先程から目の前がグルグルと渦巻き限界だったのだ。下手したら最後の振りかぶりと全力疾走が原因で熱が上がったな。しかし"安息の場所"まで運べただけ頑張ったと自分にエールを送りたい。
「アンナ!? って熱っ!?」
まずはレディに迷惑をかけてしまうことになるが仕方がない。「ごめん」と呟きながらそのまま意識を手放してしまった。
◆
玄関口で騒ぎ声が聞こえる。休憩中のシドはどうしたのかと顔を出すと人だかりができていた。
「どうした?」
「会長! その、アンナが」
シドは怪訝な顔で近付くと中心では顔を真っ赤にして倒れたアンナがいた。つい二度見してしまうほど現実感がない風景に驚愕する。
「な、何があった」
「それがいきなりやって来たと思ったら『あとは頼んだ』って言って倒れてしまって」
「ジェシー、とりあえず医者を呼んでくれ。彼女は仮眠室にでも運んでおくか……って熱いな!?」
普段の冷たい肌に慣れすぎて熱く感じる。平熱が低すぎる彼女から考えるとよく歩いて来れたなとその精神力の強靭さに頭がおかしくなりそうだ。
そういえば初めてアンナを抱き上げるなと思いながら持ち上げるととても軽かった。この軽さであの圧倒的な強さを支え切っているのかと不安になる。周囲の視線は気になるが心を無にし仮眠室に運び込んだ。
◇
どうやらただほぼ休みなしで世界を救うために走り回った連日の疲れからきたものらしい。そういえばエオルゼアで英雄と呼ばれ始め、以降ずっとイシュガルドで走り回り、次はアラミゴに行くぞと拳を振り上げていた。その合間も時々こちらに顔を出しては色々手伝いしてもらったり野宿しているという話も聞いた。いつ完全に休んでいるのか―――思い返すと謎である。体温は40度近く行っているがそれは無理して動いていたからだろう、安静にしていたら治るらしい。ついでに殴られた形跡があったので処置してもらった。
「ウェッジ、これ何だと思う?」
「……魔物とサシで殴り合いしてたんスかね」
「『多少しんどくても戦ってりゃ治るでしょ』って言って油断して殴られたんだと思うぞ」
「あーありえる」
「親方流石ッスね……」
3人の脳内にフラフラと顔を真っ赤にしながら敵に斬りかかるビジョンが浮かぶ。ため息を吐いているとふとか細い声が聞こえた。
「にい、さん……」
「寝言か?」
うめき声を上げながらうわごとのように呟いている。
「ごめん、なさい」
「ビッグス、ウェッジ仕事に戻っておいてくれないか?」
「親方卑怯ッスよ!?」
「まあいいじゃないか。行こう」
2人は退室していく。ニヤけ顔に少々イラついたが気にしないことにした。アンナは相変わらず小さな声で何かを呟いている。見たことのない弱さがシドを狼狽えさせる。
「―――ド」
「ん?」
「シ、ド」
確実に呼ばれた。相変わらず眠ったまま眉間に皴を寄せ寝言を繰り返している。
「いか、ないで。1人は、いや」
何も言わず手を握ってやると少しだけ緊張が解け、またすやすやと眠っている。どうしてやればいいのか、分からなかった。
◇
ふと目が覚めると屋内。起き上がろうとするが身体が重い。腕だけで支え周りを見渡すとジェシーが驚いた顔をして口を開いた。
「アンナ! 目が覚めてよかった」
「―――ガーロンド社?」
何故自分がここにいるのかが記憶になかった。確か敵から横殴りにされて意識が真っ暗になっていたはず。
「救援されてここにいるのはおかしい……」
「あなた自分でここまで歩いてきたの覚えてないの?」
ジェシーは心配そうな顔してアンナを見ている。首を傾げしばらく考え込んだ。
「あ、そ、そうだったかもしれない。あはは」
覚えていないが適当に返しておく。
「迷惑かけちゃってごめん。ありがと」
苦笑しながらとりあえず謝罪しておく。ジェシーはニコリと笑っている。
「じゃあ会長呼んで来るから」
「シドが起きたらいないのは意外」
「気持ちは分かるわ。困惑しながらあとは頼むって言っておきながら結構こまめに見に来てたからちゃんとお礼言っておいてね」
1分もせずにシドが部屋に駆け込んできた。人の顔を見るなり「よかった」と言いながら一瞬笑顔を見せる。それに釣られて笑顔を見せたがその瞬間、お説教が始まった。
「お前何をしてるんだ! いきなりやって来たかと思ったらぶっ倒れて丸一日眠って心配したんだぞ!」
「いやだって戦ってたら治るし」
「悪化させてきたやつが何言っても説得力がないだろ」
「う……それは偶然そうだっただけで」
「何だと?」
「な、ナンデモナイデス……」
アンナは小さくなっている。何を言ってもムダだと察し困った顔をしてシドの反応伺う。結構怒っているが正直何故怒っているかは理解ができなかった。
「次からは無理せず戦わず水に顔を突っ込んで熱を冷ましてから戦う……」
「馬鹿か!?」
そこからまた長時間の説教が始まった。頭が未だぼんやりして半分も入ってこないがここまで言われるのは命の恩人ぶりで少しくすぐったい。次は迷惑かけないように、何とかしよう。
「おいアンナお前次は人に迷惑かけないよう何とかしようとか思ってないだろうな?」
「え、あ、はい」
「やめろ。素直にちゃんと人を頼ってくれ。今回こっちに助けを求めたのは、その、嬉しかったからな」
「嬉しい? 変なの」
「いつも頼ってしまってるんだ、困った時はお互い様だろ」
目を見開き固まる。「いや私のことは、気にするな。好きで人助けしてるだけ」と首を撫でながら取り繕うように言うと頬を引っ張られた。またよくないことを言ってしまったらしい。理解できなかった。弱くなってるからって調子に乗るんじゃないと思いながら再び寝そべる。どこかちくりと棘が刺さったように痛いのはきっと風邪の症状だろう。
「シド、もう少しだけ寝る」
「……そうしてくれ」
「仕事、戻って大丈夫だよ」
「もう少しだけ休憩させてくれ」
ニコリと笑い合いそれからアンナが眠るまで雑談していた。少しだけ休息になった、気がする。
◆
阿呆共。この一言に尽きる。実は倒れてからも相手の反応は伺っていた。"ボク"は寝言のフリして反応を見る。何も言わず顔を赤くしながら手を握り、しばらくしたら部下に任せ慌てたように退室した。何度か様子を見ては出て行っての繰り返しで正直何をやりたいんだこの人と思いながら呆れる。
身体が動かないので1日ゆっくり眠らせてやった。そしてようやくアンナの意識が回復してきたので無事目を覚ます。レディは慌てて男を呼びに行き、すぐさまお説教が始まった。それに関してはぐうの音も出ないほどの正論だったのでこれを機にアンナも反省してほしい。まあ自分は死なないと高を括っているし"反省"という言葉が辞書に載ってるわけがないのだが。嗚呼また説教が始まった。当人は満更でもなさそうに聞いている。怒鳴られるのは命の恩人ぶりとか感慨深くなってる場合じゃないのだがアンナに理解できるわけもなく。
最終的にいい空気になってよかった。だが人の心というヤツを理解しないアンナと明らかに友人以上に向ける目をしておきながら何も自覚できていない男に呆れる部分があった。しかしこの男でないと任せることはできないと認識している。まあ"ボク"は惚れた腫れたに介入する気は全く存在しない。それは本人が何とかするべき問題だ。
この子の心に関しては時間が何とかしてくれるだろう。今は明らかに休息が足りていないのも確かなのでこれを機にもう少しゆっくりするという行為を覚えてくれたらいいなと考えながら意識を手放したのであった―――。
#シド光♀
刀を振りぬき敵を斬って行く。ストレスが溜まった等何か1つでも違和感がある時はとにかく体を動かしていたら元気になる。それは長年旅をしていた頃からずっとそうだった。
「あっ」
急にふらついてしまい、その隙を突かれ敵の横殴りが入る。そこからボクの意識は真っ暗になった。
◆
「ばっっっかじゃねぇの!?」
"ボク"は無理やり敵を一閃し、足に力を籠め、走り去った。平熱が死人のように冷たい人間の体温が38度超えて暴れ回るのは莫迦以外言いようがない。
「どこまでリンと一緒なんだよド阿呆!」
撒けたようだ。とりあえずレヴナンツトールにテレポで飛ぶ。一瞬再び身体がふらつくが気合で耐える。
さあここからだ。最寄りの施療院に行くか、それ以外か。エーテライトにもたれかかりぼんやりとする脳みそをフル回転させる。
「医者は……つまらないな。どうせ疲れが原因だろうし。ならば石の家か、ガーロンド社か。これは―――後者だな」
弱い部分を見せたら一歩前進もありえる、そう考えながら少々ふらつきながら歩き出す。
アンナ・サリスは人とコミュニケーションを取っている風に見えて全くやる気のない人間だ。要するに短命種に過剰に関わる時間はないというわけだ。しかし幼い記憶を思い出すからか無意識にヴィエラを見かけたら距離を取っている。自分より年齢を重ねる種族なんて妖異かアシエンくらいだろうが。少しは"普通の"人間と変わらない生活を送ってほしい。そのためにもやっと見つけた存在を手放させるわけにはいけないのだ。
"ボク"は自分が何者か分からない。気が付いたら"ボク"に備わっていた力を全て行使し、アンナ・サリスを支えていた。何故かそうしないといけないという使命感が存在する。分かっていることは命の恩人"リン"の『私たちはとんでもないことをしでかしてしまった。責任を、取らなければ』という言葉だ。これはアンナ・サリスが聞き得ない言葉だって? それも分からない。でも"彼"の言う通り"ボク"は彼女のナカで支え続ける。
支えると言っても常に視ているだけではない。ストレスが一定以上溜まってプッツリとキレた時や脳内情報処理の限界に達したり今回のようにぶっ倒れるくらいのダメージを喰らった瞬間に"交代"していた。稀に乗っ取ったりするがそれもこの子のためである。
考え込んでいるうちに何とかガーロンド社に辿り着いた。フラフラと歩きながら建物に侵入し、見渡す。
「あらアンナ!」
彼女は―――嗚呼ジェシーだったか。手を軽く振ってやると駆け寄って来た。
「今日はどうしたの?」
「うん。ごめん、あとは頼んだ」
流石に病気を最後までカバーすることはできない。先程から目の前がグルグルと渦巻き限界だったのだ。下手したら最後の振りかぶりと全力疾走が原因で熱が上がったな。しかし"安息の場所"まで運べただけ頑張ったと自分にエールを送りたい。
「アンナ!? って熱っ!?」
まずはレディに迷惑をかけてしまうことになるが仕方がない。「ごめん」と呟きながらそのまま意識を手放してしまった。
◆
玄関口で騒ぎ声が聞こえる。休憩中のシドはどうしたのかと顔を出すと人だかりができていた。
「どうした?」
「会長! その、アンナが」
シドは怪訝な顔で近付くと中心では顔を真っ赤にして倒れたアンナがいた。つい二度見してしまうほど現実感がない風景に驚愕する。
「な、何があった」
「それがいきなりやって来たと思ったら『あとは頼んだ』って言って倒れてしまって」
「ジェシー、とりあえず医者を呼んでくれ。彼女は仮眠室にでも運んでおくか……って熱いな!?」
普段の冷たい肌に慣れすぎて熱く感じる。平熱が低すぎる彼女から考えるとよく歩いて来れたなとその精神力の強靭さに頭がおかしくなりそうだ。
そういえば初めてアンナを抱き上げるなと思いながら持ち上げるととても軽かった。この軽さであの圧倒的な強さを支え切っているのかと不安になる。周囲の視線は気になるが心を無にし仮眠室に運び込んだ。
◇
どうやらただほぼ休みなしで世界を救うために走り回った連日の疲れからきたものらしい。そういえばエオルゼアで英雄と呼ばれ始め、以降ずっとイシュガルドで走り回り、次はアラミゴに行くぞと拳を振り上げていた。その合間も時々こちらに顔を出しては色々手伝いしてもらったり野宿しているという話も聞いた。いつ完全に休んでいるのか―――思い返すと謎である。体温は40度近く行っているがそれは無理して動いていたからだろう、安静にしていたら治るらしい。ついでに殴られた形跡があったので処置してもらった。
「ウェッジ、これ何だと思う?」
「……魔物とサシで殴り合いしてたんスかね」
「『多少しんどくても戦ってりゃ治るでしょ』って言って油断して殴られたんだと思うぞ」
「あーありえる」
「親方流石ッスね……」
3人の脳内にフラフラと顔を真っ赤にしながら敵に斬りかかるビジョンが浮かぶ。ため息を吐いているとふとか細い声が聞こえた。
「にい、さん……」
「寝言か?」
うめき声を上げながらうわごとのように呟いている。
「ごめん、なさい」
「ビッグス、ウェッジ仕事に戻っておいてくれないか?」
「親方卑怯ッスよ!?」
「まあいいじゃないか。行こう」
2人は退室していく。ニヤけ顔に少々イラついたが気にしないことにした。アンナは相変わらず小さな声で何かを呟いている。見たことのない弱さがシドを狼狽えさせる。
「―――ド」
「ん?」
「シ、ド」
確実に呼ばれた。相変わらず眠ったまま眉間に皴を寄せ寝言を繰り返している。
「いか、ないで。1人は、いや」
何も言わず手を握ってやると少しだけ緊張が解け、またすやすやと眠っている。どうしてやればいいのか、分からなかった。
◇
ふと目が覚めると屋内。起き上がろうとするが身体が重い。腕だけで支え周りを見渡すとジェシーが驚いた顔をして口を開いた。
「アンナ! 目が覚めてよかった」
「―――ガーロンド社?」
何故自分がここにいるのかが記憶になかった。確か敵から横殴りにされて意識が真っ暗になっていたはず。
「救援されてここにいるのはおかしい……」
「あなた自分でここまで歩いてきたの覚えてないの?」
ジェシーは心配そうな顔してアンナを見ている。首を傾げしばらく考え込んだ。
「あ、そ、そうだったかもしれない。あはは」
覚えていないが適当に返しておく。
「迷惑かけちゃってごめん。ありがと」
苦笑しながらとりあえず謝罪しておく。ジェシーはニコリと笑っている。
「じゃあ会長呼んで来るから」
「シドが起きたらいないのは意外」
「気持ちは分かるわ。困惑しながらあとは頼むって言っておきながら結構こまめに見に来てたからちゃんとお礼言っておいてね」
1分もせずにシドが部屋に駆け込んできた。人の顔を見るなり「よかった」と言いながら一瞬笑顔を見せる。それに釣られて笑顔を見せたがその瞬間、お説教が始まった。
「お前何をしてるんだ! いきなりやって来たかと思ったらぶっ倒れて丸一日眠って心配したんだぞ!」
「いやだって戦ってたら治るし」
「悪化させてきたやつが何言っても説得力がないだろ」
「う……それは偶然そうだっただけで」
「何だと?」
「な、ナンデモナイデス……」
アンナは小さくなっている。何を言ってもムダだと察し困った顔をしてシドの反応伺う。結構怒っているが正直何故怒っているかは理解ができなかった。
「次からは無理せず戦わず水に顔を突っ込んで熱を冷ましてから戦う……」
「馬鹿か!?」
そこからまた長時間の説教が始まった。頭が未だぼんやりして半分も入ってこないがここまで言われるのは命の恩人ぶりで少しくすぐったい。次は迷惑かけないように、何とかしよう。
「おいアンナお前次は人に迷惑かけないよう何とかしようとか思ってないだろうな?」
「え、あ、はい」
「やめろ。素直にちゃんと人を頼ってくれ。今回こっちに助けを求めたのは、その、嬉しかったからな」
「嬉しい? 変なの」
「いつも頼ってしまってるんだ、困った時はお互い様だろ」
目を見開き固まる。「いや私のことは、気にするな。好きで人助けしてるだけ」と首を撫でながら取り繕うように言うと頬を引っ張られた。またよくないことを言ってしまったらしい。理解できなかった。弱くなってるからって調子に乗るんじゃないと思いながら再び寝そべる。どこかちくりと棘が刺さったように痛いのはきっと風邪の症状だろう。
「シド、もう少しだけ寝る」
「……そうしてくれ」
「仕事、戻って大丈夫だよ」
「もう少しだけ休憩させてくれ」
ニコリと笑い合いそれからアンナが眠るまで雑談していた。少しだけ休息になった、気がする。
◆
阿呆共。この一言に尽きる。実は倒れてからも相手の反応は伺っていた。"ボク"は寝言のフリして反応を見る。何も言わず顔を赤くしながら手を握り、しばらくしたら部下に任せ慌てたように退室した。何度か様子を見ては出て行っての繰り返しで正直何をやりたいんだこの人と思いながら呆れる。
身体が動かないので1日ゆっくり眠らせてやった。そしてようやくアンナの意識が回復してきたので無事目を覚ます。レディは慌てて男を呼びに行き、すぐさまお説教が始まった。それに関してはぐうの音も出ないほどの正論だったのでこれを機にアンナも反省してほしい。まあ自分は死なないと高を括っているし"反省"という言葉が辞書に載ってるわけがないのだが。嗚呼また説教が始まった。当人は満更でもなさそうに聞いている。怒鳴られるのは命の恩人ぶりとか感慨深くなってる場合じゃないのだがアンナに理解できるわけもなく。
最終的にいい空気になってよかった。だが人の心というヤツを理解しないアンナと明らかに友人以上に向ける目をしておきながら何も自覚できていない男に呆れる部分があった。しかしこの男でないと任せることはできないと認識している。まあ"ボク"は惚れた腫れたに介入する気は全く存在しない。それは本人が何とかするべき問題だ。
この子の心に関しては時間が何とかしてくれるだろう。今は明らかに休息が足りていないのも確かなのでこれを機にもう少しゆっくりするという行為を覚えてくれたらいいなと考えながら意識を手放したのであった―――。
#シド光♀
"感謝のチョコレート"
注意
自機出番少な目なのと倫理観無し。シド光♀匂わせ程度なギャグ概念。
どちらかというと自機兄+ネロ風味。
レフ→自機の兄。ガーロンド社に出入りしている技師。嫁が8人いたが離婚済みで故郷からも追放されている。妹が絡まなければ物静かで笑顔がヘタクソな人間。
「そういえばガーロンドくん、昨年僕の妹から貰ったチョコはどんな感じだったんだ?」
アンナの兄レフの一言から今回の一件は始まった。ネロはゲラゲラと笑う。
「やっぱ手加減知らねぇメスバブーンのことだから山のように作って社員全員に振る舞ったンじゃねェの。ンでその中の1つを雑に投げられたって感じか?」
「あー確か去年の手紙でヴァレンティオンデーってよく分からんって書かれてたな。僕も知らなかったから『可哀想な男共に優しい手を差し伸べる慈善事業の日でもあるよな』って返したぞ」
「あの余計な一言はお前が原因だったのか……」
シドはため息を吐いた。昨年のヴァレンティオンデーはそれはもう凄かったと語る。突然ガーロンド社に訪れ、大きなバッグから取り出される『お母さん以外の異性から手作りチョコを貰ったことがない人優先の素材から拘った手作りチョコレート』をばら撒いた。シドは毎年結構な量を貰い社員と食べていたのだが、その多さに今年はいらないと言われほぼ1人で数日間片付けていた。挙句の果てに、アンナからは「シドいっぱい貰ってる。こっちはあげない」と言われるおまけ付きで。その後、先に試作したが少々失敗したというカカオ95%チョコを渡され、言われるがままホットミルクに溶かして飲んだ。ちょうどいい苦みがあって美味しかったと振り返る。
「レフのせいで俺は酷い目に遭ったんだぞ」
「はっはっはざまあみやがれ。ってちゃっかり貰ってるじゃないか阿呆」
「おいレフホンネ出てンぜ?」
「というかアンナも大量に貰ってたんだぞ? それは悔しくないのか兄として」
「お前と一緒で僕の妹に本命という概念が理解できるわけがないだろ」
「そーだな」
「流石にアンナよりマシだと思うぞ!?」
ネロとレフの言葉にシドは素っ頓狂な声を上げた。似てると言われるのは悪くは思わないがさすがに恋愛関係で一緒にされたくなかった。
「気にせず社員に分けてるアホが何か言ってンぜ?」
「まったく最低な男だなガーロンドくん」
「いや俺は仮にも偉い人間だし義理で渡すくらいはあるだろ。どう消費しても文句はないはずだ。お前たちだって確実に貰ってただろ」
「ガレマルドにヴァレンティオンなンてなかっただろうが」
「僕は嫁いたし。基本的に人から手作りの食べ物は貰わない主義なんだ。何混入してるか分からん」
「おいおいレフもズレてンな」
「―――おいレフ、お前人から貰ったものは受け取らないのか?」
シドに嫌な予感がよぎる。兄がこれなら人の教えを忠実に守る妹は。
「そりゃそうだろう毒とか入ってたら困るし」
「アンナもそれを知ってるのか?」
「勿論。護人としての心構えで真っ先に故郷では教えられるさ。そこから瓦解したら大変だろう?」
「……アー」
ネロも察した様子を見せながら肩をすくめ、レフに便箋を指さす。
「手紙書け。プレゼントは全部断れってな」
「現れる前に気付いてよかったぜ」
「君たち本当に心の問題に関しては妹のこと信用してないな。僕も書いた方がいいって思ったけど。というか去年貰ったものどうしたか聞くか」
ここ数日、またアンナと連絡が途絶えていた。暁の人間によると『やはり道具から拘る方がいいよね』と言いながらどこかに飛んで行ったのだという。連絡をするならば一番確実なのがレターモーグリだろうと判断し、レフはペンを手に取った。
◇
レフは手短な手紙を書き、レターモーグリ経由で送ると1日で返事が返って来た。しかし内容をシドに伝えることはなかった。
「……僕は教育方針を間違えてたかもしれない」
「ケケッ、オマエこれまでの生涯通しても合計1年分も会ってねェだろ」
「うるせ」
『兄さんへ
私への配慮、ありがとうございます。お返しはいらないと言って渡しているので安心してください。
あと私のような旅人には本命や義理も関係ないし感謝の気持ちを込めて燃やしてるので大丈夫。
ところで試作品を作ったからどうぞ。兄さんの感想が私がお世話になっている人たちの胃の運命が決まります。よろしくね。
フレイヤ』
手紙と一緒に小袋が入っており、中身はアルファの顔が描かれたアイシングクッキーとオメガを模した立体チョコレートだった。容赦なくパキリと割り満面の笑顔で噛みしめるように食べるレフの姿にネロは引く。
「おいしい……嗚呼滅茶苦茶おいしいぞ妹よ。だが頼むから人からの贈り物は完全に拒否してくれ……」
「オマエ本当にメスバブーン絡んだら気持ち悪ィな」
「一言余計。ほら半分に割ってるから君も食え。多分君もいっぱいもらってるからあげない組だぞ」
「いや別にオレは」
「は? 君は妹の作ったものが不味いからいらないと言いたいのか?」
「ンなこと一言も言ってねェよ!」
ネロは眉間にしわを寄せながらクッキーを一口摘まむ。ちょうどいい焼き加減でサクサクとして本当にあのデリカシー無しで脳筋が作ったものなのかと疑うほど美味い。
「バブーンじゃなけりゃなァ」
「は? 妹は可愛いが?」
「顔はいい方だけど中身が最悪だって言いたいンだよ」
「最悪の中身が混じり込んでるんだからしょうがないだろ」
「ヒヒッ違いねェ」
よし美味しかったと手紙を返しておこうとペンを手に取る姿をネロは苦笑する。素直に会いに行けよと思うが心の中に仕舞い込んだ。
―――数日後。アンナは石の家とガーロンド・アイアンワークス社に大きなバッグを持って現れた。色々な表情をしたアルファが描かれたアイシングクッキーとオメガ型立体チョコが入った小袋を『お母さん以外の異性から手作りで貰ったことがない人優先の調理道具から拘った手作りチョコレート』と称してばら撒く。昨年と違う所はなんと男女問わず渡されるチョコレートをごめんと言いながら拒否している所だ。ネロは兄の説得が心に届いたのかとマグカップを手に口をあんぐりと開けそれを見守る。ふと目が合うと意外なことに2つの袋を手渡された。両手に紙袋を持ちながらふらつくシドがやって来るとアンナは動きを止める。
「ホー昨日あんだけ説教してきたくせに自分はモテますアピール」
「いや、アンナ。断ったが押し付けられてな。また一緒に食うか?」
「自分で片付けたらいい」
踵を返し次は女性陣へと渡しに行く姿をシドはため息を吐きネロの隣に立つ。
「いや昨日ようやく連絡がついてな。問いただしたらゲロったから少々手荒に"説教"した」
「ハァ。その両手のブツがなければ説得力あったろうにな」
「俺もそう思ってるさ。とりあえずレフにはお前の説得で妹は余計な悲しみを生まさずに済んだとでも伝えておいてくれ」
「……まあその方があいつも小躍りすっか」
真面目なシドのことだ、一晩中ものすごくキツく𠮟ったのだろう。大欠伸を噛み殺しながら、いつもの内面に存在する複数の人間に込められた渦巻かれた闇1つ悟らせない満面の笑みでチョコをばら撒き去って行くアンナを見守っていた。
その横でネロはふと誰も触れていない引っかかった疑問を口にする。
「―――ン? 調理道具から拘ったってどういうことだ?」
「文字通り1から作ったってことだろ。そりゃ一切連絡つかないさ」
満面の笑顔で鉱石から採掘に行く姿が男2人の脳内で共有され馬鹿じゃねェの? と呆れた声が響き渡った―――。
#即興SS #季節イベント
自機出番少な目なのと倫理観無し。シド光♀匂わせ程度なギャグ概念。
どちらかというと自機兄+ネロ風味。
レフ→自機の兄。ガーロンド社に出入りしている技師。嫁が8人いたが離婚済みで故郷からも追放されている。妹が絡まなければ物静かで笑顔がヘタクソな人間。
「そういえばガーロンドくん、昨年僕の妹から貰ったチョコはどんな感じだったんだ?」
アンナの兄レフの一言から今回の一件は始まった。ネロはゲラゲラと笑う。
「やっぱ手加減知らねぇメスバブーンのことだから山のように作って社員全員に振る舞ったンじゃねェの。ンでその中の1つを雑に投げられたって感じか?」
「あー確か去年の手紙でヴァレンティオンデーってよく分からんって書かれてたな。僕も知らなかったから『可哀想な男共に優しい手を差し伸べる慈善事業の日でもあるよな』って返したぞ」
「あの余計な一言はお前が原因だったのか……」
シドはため息を吐いた。昨年のヴァレンティオンデーはそれはもう凄かったと語る。突然ガーロンド社に訪れ、大きなバッグから取り出される『お母さん以外の異性から手作りチョコを貰ったことがない人優先の素材から拘った手作りチョコレート』をばら撒いた。シドは毎年結構な量を貰い社員と食べていたのだが、その多さに今年はいらないと言われほぼ1人で数日間片付けていた。挙句の果てに、アンナからは「シドいっぱい貰ってる。こっちはあげない」と言われるおまけ付きで。その後、先に試作したが少々失敗したというカカオ95%チョコを渡され、言われるがままホットミルクに溶かして飲んだ。ちょうどいい苦みがあって美味しかったと振り返る。
「レフのせいで俺は酷い目に遭ったんだぞ」
「はっはっはざまあみやがれ。ってちゃっかり貰ってるじゃないか阿呆」
「おいレフホンネ出てンぜ?」
「というかアンナも大量に貰ってたんだぞ? それは悔しくないのか兄として」
「お前と一緒で僕の妹に本命という概念が理解できるわけがないだろ」
「そーだな」
「流石にアンナよりマシだと思うぞ!?」
ネロとレフの言葉にシドは素っ頓狂な声を上げた。似てると言われるのは悪くは思わないがさすがに恋愛関係で一緒にされたくなかった。
「気にせず社員に分けてるアホが何か言ってンぜ?」
「まったく最低な男だなガーロンドくん」
「いや俺は仮にも偉い人間だし義理で渡すくらいはあるだろ。どう消費しても文句はないはずだ。お前たちだって確実に貰ってただろ」
「ガレマルドにヴァレンティオンなンてなかっただろうが」
「僕は嫁いたし。基本的に人から手作りの食べ物は貰わない主義なんだ。何混入してるか分からん」
「おいおいレフもズレてンな」
「―――おいレフ、お前人から貰ったものは受け取らないのか?」
シドに嫌な予感がよぎる。兄がこれなら人の教えを忠実に守る妹は。
「そりゃそうだろう毒とか入ってたら困るし」
「アンナもそれを知ってるのか?」
「勿論。護人としての心構えで真っ先に故郷では教えられるさ。そこから瓦解したら大変だろう?」
「……アー」
ネロも察した様子を見せながら肩をすくめ、レフに便箋を指さす。
「手紙書け。プレゼントは全部断れってな」
「現れる前に気付いてよかったぜ」
「君たち本当に心の問題に関しては妹のこと信用してないな。僕も書いた方がいいって思ったけど。というか去年貰ったものどうしたか聞くか」
ここ数日、またアンナと連絡が途絶えていた。暁の人間によると『やはり道具から拘る方がいいよね』と言いながらどこかに飛んで行ったのだという。連絡をするならば一番確実なのがレターモーグリだろうと判断し、レフはペンを手に取った。
◇
レフは手短な手紙を書き、レターモーグリ経由で送ると1日で返事が返って来た。しかし内容をシドに伝えることはなかった。
「……僕は教育方針を間違えてたかもしれない」
「ケケッ、オマエこれまでの生涯通しても合計1年分も会ってねェだろ」
「うるせ」
『兄さんへ
私への配慮、ありがとうございます。お返しはいらないと言って渡しているので安心してください。
あと私のような旅人には本命や義理も関係ないし感謝の気持ちを込めて燃やしてるので大丈夫。
ところで試作品を作ったからどうぞ。兄さんの感想が私がお世話になっている人たちの胃の運命が決まります。よろしくね。
フレイヤ』
手紙と一緒に小袋が入っており、中身はアルファの顔が描かれたアイシングクッキーとオメガを模した立体チョコレートだった。容赦なくパキリと割り満面の笑顔で噛みしめるように食べるレフの姿にネロは引く。
「おいしい……嗚呼滅茶苦茶おいしいぞ妹よ。だが頼むから人からの贈り物は完全に拒否してくれ……」
「オマエ本当にメスバブーン絡んだら気持ち悪ィな」
「一言余計。ほら半分に割ってるから君も食え。多分君もいっぱいもらってるからあげない組だぞ」
「いや別にオレは」
「は? 君は妹の作ったものが不味いからいらないと言いたいのか?」
「ンなこと一言も言ってねェよ!」
ネロは眉間にしわを寄せながらクッキーを一口摘まむ。ちょうどいい焼き加減でサクサクとして本当にあのデリカシー無しで脳筋が作ったものなのかと疑うほど美味い。
「バブーンじゃなけりゃなァ」
「は? 妹は可愛いが?」
「顔はいい方だけど中身が最悪だって言いたいンだよ」
「最悪の中身が混じり込んでるんだからしょうがないだろ」
「ヒヒッ違いねェ」
よし美味しかったと手紙を返しておこうとペンを手に取る姿をネロは苦笑する。素直に会いに行けよと思うが心の中に仕舞い込んだ。
―――数日後。アンナは石の家とガーロンド・アイアンワークス社に大きなバッグを持って現れた。色々な表情をしたアルファが描かれたアイシングクッキーとオメガ型立体チョコが入った小袋を『お母さん以外の異性から手作りで貰ったことがない人優先の調理道具から拘った手作りチョコレート』と称してばら撒く。昨年と違う所はなんと男女問わず渡されるチョコレートをごめんと言いながら拒否している所だ。ネロは兄の説得が心に届いたのかとマグカップを手に口をあんぐりと開けそれを見守る。ふと目が合うと意外なことに2つの袋を手渡された。両手に紙袋を持ちながらふらつくシドがやって来るとアンナは動きを止める。
「ホー昨日あんだけ説教してきたくせに自分はモテますアピール」
「いや、アンナ。断ったが押し付けられてな。また一緒に食うか?」
「自分で片付けたらいい」
踵を返し次は女性陣へと渡しに行く姿をシドはため息を吐きネロの隣に立つ。
「いや昨日ようやく連絡がついてな。問いただしたらゲロったから少々手荒に"説教"した」
「ハァ。その両手のブツがなければ説得力あったろうにな」
「俺もそう思ってるさ。とりあえずレフにはお前の説得で妹は余計な悲しみを生まさずに済んだとでも伝えておいてくれ」
「……まあその方があいつも小躍りすっか」
真面目なシドのことだ、一晩中ものすごくキツく𠮟ったのだろう。大欠伸を噛み殺しながら、いつもの内面に存在する複数の人間に込められた渦巻かれた闇1つ悟らせない満面の笑みでチョコをばら撒き去って行くアンナを見守っていた。
その横でネロはふと誰も触れていない引っかかった疑問を口にする。
「―――ン? 調理道具から拘ったってどういうことだ?」
「文字通り1から作ったってことだろ。そりゃ一切連絡つかないさ」
満面の笑顔で鉱石から採掘に行く姿が男2人の脳内で共有され馬鹿じゃねェの? と呆れた声が響き渡った―――。
#即興SS #季節イベント
森の名を知りたいシドと全てを教えたい自機のギャグ概念です。
レフ:エルファー・レフ・ジルダ。アンナの実の兄。笑顔がヘタクソ。妹に負い目を感じている。
ア・リス:アンナが雇った新人リテイナー。エルファーの友人と似ているらしいが…?
リン:リンドウ・フウガ。アンナの命の恩人にして旅の始まりにして元凶。不器用で感情表現が下手な枯れた男。20年前には死んでる。
「アンナ、そろそろ名前教えてくれてもよくないか?」
「はい?」
シドの一言が今回の長い戦いの始まりだった。
「もしかしてボケ始まったやつ? アンナ・サリスさ」
「違う。それは今エオルゼアで名乗っている"街の名"だろ? ていうか今ボケとか言ったか?」
「おっと口が滑ってしまった。―――それでいいじゃない。今の私はアンナだよ」
アンナ・サリスは彼女がエオルゼアに来てから咄嗟に名乗ったものだ。生まれた時に付けられた名前ではない。集落で名乗っていた生まれながらの名前は"森の名"と言うらしい。ヴィエラの女性は部族名がファミリーネームと聞いている。なのでエルダスという所までは把握しているのだが、そのファーストネームは未だに不明なままであった。
「その、好きな人間のことは全て知りたいに決まってるだろ? 普段呼ぶ呼ばない関係なく」
「そういうものなの?」
「そういうものだ」
「ふーむ全てを知りたい、ねぇ」
しばらく考え込む姿を見せる。「よし」と呟きアンナは口を開く。
「ネリネ」
◇
「レフ」
「おや会長クンじゃないか。どうした?」
シドは小走りでアンナの兄であり、社員として働いているレフに話しかける。
「アンナの"森の名"って知ってるよな?」
「勿論。実の妹なんだからな」
「ネリネ」
その単語にレフは首を傾げる。シドは反応を見てため息を吐いた。
「違うんだな?」
「違うな」
「教えてほしい」
「本人から聞き給え。答え合わせはしてやろう。僕以外に判断要素がないだろうからな」
やれやれと肩をすくめる姿にシドは拳を握り、「絶対に聞き出してやる」と闘志を燃やしている。
近くでコーヒーを啜っていたネロは呆れた目でその風景を見ていた。
◇
「アマリリス」
「……違うな」
「ダリア」
「かすってもいない」
「カリス」
「文字数も違う」
「ガーベラ」
「一文字もないな」
「ルディン」
「ない」
「スピネル」
「全く違う」
「ガーネット」
「ソル帝の前で名乗ってたやつじゃねェか?」
「確かに」
「ベリル」
「もう4文字の名前が出るまで僕に聞くな」
直接会った時、リンクパールで連絡した時、一緒に食事に行った時。数々の逢瀬で聞き出してはレフに尋ねに行く。そういえば珍しくリンクパールを常に付けていたりレヴナンツトールに滞在を続けているなと考えがよぎる。だが全く真実に近付きそうにもない状態にシドは歯ぎしりをする。どうしてそんなにも躱そうとするのか、本当に嫌なのならばはっきりと断ればいい。その筈なのに延々と偽名を口に出すのは意図が読めない。ため息を吐いた。
◇
「おっ今日もいいもの持って帰って来たぜご主人!」
「ご苦労様、ア・リス」
アンナははにかみ最近雇ったリテイナーである金髪ミコッテの青年から掘り出し物を受け取る。今日は奇妙な歯車と食材のようだ。お礼を言いながら再び給金代わりのスクリップを渡そうとするとア・リスは首を傾げる。
「ナァ最近シドのダンナ機嫌悪くね?」
「まーたどこで覗いてるのかな? 名前教えろって言われたから教えてるだけだよ」
「森の名をか? 教えりゃいいじゃん」
「あっさり言ったらコミュニケーションが終わっちゃうよ?」
ニコリと笑いながらアンナはこれまでシドに教えた名前を挙げる。
「これらはね、昔名乗っていた街の名なの」
「そんなにあんのか!」
「まだまだあるよ? 何せ50年程度は旅して街や地域ごとに変えてたんだからいっぱいあるさ」
「……それダンナには街の名だって言ってんの?」
「言ってないよ?」
ア・リスはうわぁと言葉を詰まらせた。それに対しアンナは首を傾げている。「何か問題でも?」と言うとア・リスはいやいやと言いながら肩を掴む。
「そういうのはちゃんと先に言っとけ。それでいつも痛い目に遭ってんじゃねえか」
「? 向こうがこれが森の名だなって思ったらそれで終わりでもいいよ?」
「後から面倒になるやつじゃん!」
「いやボクもそう思うんだけどね。"全てを知りたい"なんて言われちゃったらさ」
「俺様は忠告したからな? どうなっても知らねえぞ?」
へへと顔を赤らめながら改める気のないアンナの行動に呆れた目を見せながらアリスはパタパタと走って行った。アンナは首を傾げ逆の方向に歩き出した。
◇
数日後。
「レフ! ……フレイヤか?」
「おっ会長クン大正解だ。よく頑張ったじゃないか」
よしと拳を振り上げ喜びを隠しきれないシドをレフは口角を上げ笑っているような姿を見せる。
「やっと教えてもらえたんだな?」
「まあようやく街の名のストックが切れたとか言って教えてくれたさ」
お前に申告なしの名前だけでもあれから20個くらいあったがなと疲れた切った表情を見せている。レフは「そうかこれまでの街の名だったのか」と頷いている。その後指を突き立てる。
「貴重な妹の過去を聞けたから嬉しい。じゃあ次に君も気になるお題を出そうか」
「何だ? また時間のかかりそうなものは嫌だからな」
「サリスの由来、聞きたくないか?」
その言葉にシドは目を見開く。「そういえば、どこから出て来たのか知らんな」とボソボソと呟いている。
「じゃあ今聞いて来るか」
「おう行ってこい行ってこい。それに関しては僕も正解を知らないからな、ゆっくり教えてもらったらいい」
シドは小走りでその場から去って行く。ネロは怪訝な顔をしてレフに近付く。
「ネロ、サリスというのはリンの父方のファミリーネームなんだ。フウガは母方のだって昔聞いてる」
「ゲッ、知ってて行かせてンのか」
「勿論。まあ偶然の一致かもしれんからな。念のために聞いててほしいと思ってね」
「いやガーロンドの地雷じゃなかったか? メスバブーンの命の恩人関連ってよ」
レフは勿論知っているとニコリと笑う。シドにとって命の恩人に関わる話は露骨に機嫌が悪くなる"地雷"な話題だ。アンナは何度がポロリと話してしまい「やっべ」と溢す局面に遭った。
「1週間位惚気のダシに使われて僕は疲れてるんだ。君だってそうだろう? ガーロンドくんより先に知ってる身からしたら結構苛ついてたよな。タバコ増えてたし。―――まあ少しくらい妹の躾を行っても罰は当たらん。あと僕の予想だが最初に聞いてきた時の街の名"ネリネ"はアリスとリンのクソ野郎2人が付けたやつだと思ってるよ。姫彼岸花、リンドウと同じ秋の花の名前だ」
ネロの乾いた笑い声にレフはウィンクのつもりなのか目を閉じて口角を上げている。片目は髪で隠しているから分からないのだが本人は気付いていないし多分出来ていないだろう。
数分後、シドの「待て逃げるな!」という怒鳴り声が聞こえ、「アンナ逃げやがったぞ! アレは絶対リンドウ関係だ!!」と駆け込んでくる姿に対し「ほらな」と腕組みするレフの姿があった。
この後1週間程度アンナとは連絡を取れなくなったという。しかし事前に石の家へ行き根回しをし、何とか捕獲された。
◇
「ほら言ったじゃねえか。痛い目に遭うぞって」
「だって……だってぇ……」
捕獲からの"お話"から何とか逃げ出し、楽しいんだからしょうがないじゃん! という開き直る姿に偶然通りかかったア・リスはため息を吐く。直後真面目な顔を見せ、ボソリと呟く。
「人間って残酷だよね。1を知れば100が欲しくなる、貪欲な生き物だ」
「あっさり森の名教えてりゃ今のファミリーネームの由来なんざ聞かれなかっただろ」
「ぐ、ぐぬぬ」
言い返せない様子にア・リスはニャハハと笑う。アンナは絶対に言えなかった。当時適当に頭に浮かんだから名乗ったものの、後に振り返ると命の恩人のファミリーネームと一緒だと気付いたことを。これを素直に言うとどうなるか、想像するだけで怖い。
ふと人の気配を感じるとア・リスは耳をピンと立て全速力で走り去って行った。アンナは「あれ?」とキョロキョロ見回していると背後から肩を叩かれる。石のように一瞬固まる。慎重に振り向くと笑顔のシドの姿が。
「アンナ、話は終わってないからな?」
「へ、へへっ、シドの旦那、仲良くしやしょうぜ……」
教訓。故郷が関係することの話題は早急に事実を伝え終わらせよう。そうアンナの胸に刻み込まれるのであった―――。
Wavebox
#シド光♀ #ギャグ