FF14の二次創作置き場

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注意・補足 星芒祭2漆黒編。星芒祭話蒼天編前提。シド光♀付き合い始めて以降の話で…

漆黒

#シド光♀ #季節イベント

漆黒

星降る夜に誓いを乗せて
注意・補足
 星芒祭2漆黒編。星芒祭話蒼天編前提。シド光♀付き合い始めて以降の話です。シド少年時代捏造。
 

 ―――夜空、それはボクにとって重要な記憶。眠れない夜、フウガはいつも星の知識を教えてくれた。不確実な占いではなく、旅する上で必要な知識の1つとしてね。
 そしてその輝く星はただのゴツゴツした何もない大地だと教えてくれた夢を理解できない男もいた。でも、聞いてく内に、ボクはそんな夜空へ旅立ちたいって思うようになったのさ。
 でも飛空艇を知るまで空という大海を泳ぐ船なんて存在しないと思ってたし、ただの現実味のないぜいたくな要求だと思っていた。何より旅人に欲は必要ない。ただその大地を踏みしめればいいと。そう、キレイな白いお星さまに出会うまでは確実にそんなことを考えてた。
 ねぇ、キミならボクのワガママを聞いてくれるかな? 確証もない聞きかじりの知識を聞いて。そして、全部護らせてほしいな。

 ◇

「アンナ、そういやもうすぐ星芒祭が来るだろ」
「そうだね」

 料理から目を離さず、シドの言葉にアンナは相槌を打った。
 風が冷たくなり始めた頃、いわゆる恋人関係になってから初めての冬。久々にトップマストの一室にて休日を過ごしていた。シドは壁に掛けられたカレンダーを見上げ、冒頭の言葉をつぶやく。

「何かほしいものとかあるか?」
「いきなりどうしたのそんなこと言って」

 苦笑しながら鍋を見つめている。シドは「決まってるだろ」と言葉を続ける。2人は最近まで恋人としてではなく、ただの友人として関わってきた。そして星芒祭といえば、最初の年に暁の血盟とガーロンド・アイアンワークス社合同の盛大なパーティにてプレゼント交換をし、次の年は諸々の事情で何も渡せなかった。今年こそは何かをしたいと、シドは考える。

「せっかくこうやって隣にいられる関係になれたんだ。何か渡そうと思ってな。またプレゼント交換というのも悪くないが、素直にほしいものを聞いた方がいいだろ? いらんと思われるものを渡したくないんだ」
「んー……私はシドなら何をくれても嬉しいけど?」

 アンナは手を止め、シドの方へ振り向いた。いやそうじゃなくてな、とジトリとした目で見る。いつもアンナは何を渡しても満面の笑顔で受け取る。―――大体の人間からもらったモノは丁寧に処分するが、今のシドはまだ知らない。
 とにかく、時々はきちんとほしいものをはっきりと見せてほしいなんて要望をしっかりとアピールした。するとシドが予想もしていなかった言葉が返って来る。

「キミの休日」

 目を丸くし、それはどういうと問う。アンナは「そんなに難しいことでも言った?」と首をかしげた。
 基本的に一緒にいる時間は多数の勢力を巻き込んだ作戦中。それかガーロンド社に手伝いへ行った時だった。完全な休日にのんびりと料理を作りながら会話を交わし始めたのは、ここ"トップマスト"の一室を荷物置きがてら借りてからなのだ。時折トラブルによる泣きの通信が入り、本社へ戻る日も少なくない。それならば、確実に邪魔が入らない休日を作り出してもいいのでは、とアンナはぼんやりと考えていた。素直にその考えを口にする。

「悪くない提案でしょ? モノと言ったら違うかもしれないけどさ」
「む、そう言われたらありかもしれん」

 次第に顔が高揚していくシドの姿を見てアンナはニコリと笑い、再び鍋の中へと視線を戻す。
 今日はいい肉を手に入れたのでビーフシチューを煮込んでいる。アンナはシチューの類が好きだ。特にシドと一緒に食べるという行為が格別なのだが、本人が知ると調子に乗るのがわかっているので教えていない。

「で、シドは何がほしい? 私だけ聞いておいて自分は教えないなんて言わないよね?」
「考えてはいたんだがアンナの言葉で吹っ飛んじまった。ちょっと待っててくれ」

 シドが考え込んでいる姿を見てアンナは苦笑した。鍋のフタを閉じ、エプロンを脱ぎながら傍へと歩み寄る。
 ふと何かを思いついたのか手をポンとたたく。アンナは少しだけ嫌な予感がよぎった。そのしぐさはロクなことにならないことしか思い浮かんでいない時のやつだ。実際首元がざわついて来る。これは、ダメなヤツだとアンナは一歩後ずさった。

「髪をあ」
「やだ」

 即答。シドはそれでもめげずに言葉を続ける。

「赤」
「絶対やだ」
「どうしてきちんと人の話を聞かず断るんだ」
「ロクなことにならない提案が聞こえたからだけど?」

 アンナは食い気味に断りながら威嚇している。それに対しシドも眉間にシワを寄せながら対抗する。

「いやそんなことはない。ほらちゃんと全文聞いてから判断しても遅くないだろ。頼むからちゃんとしゃべらせてくれ」
「うぐ……じゃあわかった聞くだけ聞いてあげるよ言ってごらん」

 真剣な目。アンナはそれに一番弱い。肩を落とし、投げやりに許可を与えるとシドは明るい顔をして言い放った。

「髪を赤く染めて来てくれないか?」
「ぜーったいにお断り!」

 ほら、まともな要求じゃない。アンナは盛大にため息をついた。

 ◇

 赤髪。それは出会いまで遡る。寒空の夜、白色の少年は性別不詳の凍死しかけていた赤髪のヴィエラを見つけ、助けた。温かい"シチュー"を手渡し、少しだけ熱が灯ったヴィエラは旅人だと名乗る。そして、少年の話を聞いた後、"次はキミがボクを捕まえてごらん。キミの夢である空へ運ぶ船を造るすべてを護ってあげるから"と約束し去る。その白色の少年こそがシドであり、赤髪のヴィエラこそがアンナだった。
 以前の星芒祭で「会いたい人がいる」と口走ったシドの要望を拾い上げ、グリダニアで一晩の奇跡を起こしたように見せた。きっと不意にそれを思い出したのだろう。

 アンナは腕組みをしながらシドをにらむと、凄く寂しそうな顔をしていた。徐々にしょぼくれていく顔に肩を落とし、まるで雨に打たれて尾を垂れた野良犬のように哀愁が漂っている。アンナは言葉を詰まらせ、「ああわかった! 理由要求!」と言ってやるとシドは満面な笑顔を見せた。

「前の星芒祭では見せてくれたじゃないか。俺はあの時確かに"会いたい人がいる"と言ったが、行き倒れていた旅人のこととは一言も言わんかったぞ?」
「うぐ」
「街全体で俺を騙して気合入れてくれたじゃないか」
「いやあの件は本当に悪かったって」
「もう一度見たい。ダメか?」

 その言葉にアンナは必死に目を逸らす。

「ちゃんと最高なプレゼントの準備してくる」

 シドは優しく手を取り、何も言わずアンナを見る。そしてしばらく沈黙が流れた。
 その沈黙に耐え切れず、アンナはついに口を開く。

「あーもー! いつにするか決まり次第予定を教えて! あと期待しないで!」

 シドは楽しみだ、そう言いながら頭の中でアンナを驚かせるための策を練り始めた。
 それに対しアンナは過去の自分の行いを呪う。どうしてこうなった、片手で顔を覆った。

 ◇

「いいですよ。予定の調整しておきますので1週間程度ゆっくり楽しんできてください!」

 ざわつく周囲。目が点になった真っ白い男。満面の笑顔を見せる会長代理。
 もうすぐ年末。数々の地獄の前兆を見せているガーロンド・アイアンワークス社で、シドは首をかしげた。

 少しだけ長い休暇をほしいと予定調整役のジェシーに話すと、当然理由を聞かれる。素直に「アンナと少し遠出しようと思ってな。暁や案件とは一切関係ないぞ」と言うと顔を輝かせながら冒頭の言葉を発した。その声に周囲も驚いたような顔をし、話題の渦中へ視線が向く。

「本当にいいのか?」
「会長、先日の完全な休みは何日ぶりでした?」
「1週間位か?」
「18日ぶりですけど。アンナが現れたからようやく詰めてた作業を終わらせたじゃないですか。今回も彼女に言われたからですよね?」

 あれは2日前のこと。アンナが久々にガーロンド・アイアンワークス社に現れた。ジェシーはアンナが入って来るなり泣きつく。具体的には『どんな手段を選んでもいいから会長を仕事から引きはがしてほしいの。アンナがいないともうずっとしかめっ面で寝ずに作業を続けるんだから!』と言った。するとしばらく考え込んだ後、暴れるシドを抱えて戻って来た。

『じゃあこのワーカーホリック1日借りる。あとホースとデッキブラシ借りるね』
『悪かった! シャワー位1人でできるから下ろしてくれ!』

 大男が抵抗してもビクともしていない腕力は相変わらず味方でいることに感謝する。そうしてようやくシドは完全な休暇を迎えたのであった。

「どういった計画をしているかは聞きませんよ。ちゃんとお土産は持って帰ってくださいね」
「む……まあそうしようか」

 シドが仕事を詰めていたのも彼なりに理由はある。『アンナがいないとどこか落ち着かないので、手を動かす方がマシだ』というもので。アンナがもっと頻繁に連絡を交わし、顔を出すだけで解決するものではある。しかし、それはアンナというどこまでも自由な旅人だから不可能な願いなのだ。
 好奇心の視線を避けるようにシドはその場を後にした。行く場所は1つ。今回メインの目的になるだろうブツを回収しに行った。

 ◇

 扉を軽くノックした。こうしないと部屋の主に吊るされるのだ、仕方ない。『いや業務中は俺の方が偉いはず、どうしてこうなった』と思うが、ぐっと我慢する。

「開いてる」
「仕事中すまん、レフ」

 扉を開くと何やら機械をいじくり回すエルファーとネロ。「普通に話をするのは久々、会長クン」とエルファーははにかんだ。

「ケッ、メスバブーンとの休暇はどうだったよ」
「久々に普通の料理を食べたさ。相変わらずシチューが好きなようでな」
「我が妹が元気そうで何より。で、昇給のお知らせでもしに来たのかな?」

 ンなわけねェだろ夢見すぎというあきれた声を無視し、部屋の片隅に置かれた装置を指さす。

「休暇を取ったんだ。その装置、解析終わっただろ? 元あった場所に持ってく。もちろんアンナとな」

 エルファーの「はぁ!?」という素っ頓狂な声が響く。
 それはリンドウの終の棲家に置いてあった奇妙な装置。周辺一帯をカモフラージュさせるという大掛かりな現象がこの小さな機械1つで行われていた。上空から見ると完全に森で覆われているように見え、一体どう立ち回ればそんな装置を工面できたのかと疑問が残る。とにかく解析してみようと彼の孫から許可をもらい、しばらく会社に置いていた。
 そう、今回はその装置を返すついでにリンドウの孫であるテッセンが営む宿で宿泊することに決めた。アンナを驚かせるプレゼントといえばまずはこれだろう。それに対し、エルファーの「僕も行く!」という言葉に即「ムリだろ」とネロは頭をたたく。

「君だけずるいぞ! 僕も妹と連休旅行!」
「メスバブーンが来たら姿隠すお前にそんなコトできるわきゃねェっつーの」
「うぐ……おいネロ、君も僕の敵なのか!?」
「別に俺は構わないぞ? 行きたいならジェシーと交渉すればいいじゃねえか」
「む、言われなくともそうさせてもらうやい」

 そのままエルファーは走り去るが、すぐに肩を落として戻って来る。ネロはニヤニヤと笑いながら「愛しの妹サマとバケーションはできそうか?」と聞いてやるとエルファーはこの世の絶望を見たような声で吐き捨てる。

「ダメだと言われた」
「知ってた」
「悪いな、レフ。ちゃんとお前さんの分もリンドウに報告しておくからな」
「僕は別にリンのクソ野郎の所に行きたいから志願したわけじゃないが!?」
「そうだったのか。てっきり俺は一緒に墓参りに行きたいのかと」

 違ったのかと首をかしげるとエルファーは怒りながらそっぽを向いた。

「じゃあしょうがないな。とにかくもらっていくからあとはよろしく頼んだぞ」

 エルファーの恨みが込められた言葉を無視しながらシドはその場を後にした。そして休みの日と集合場所を告げるためリンクパールに手を取った。

 ◇

 ―――一方その頃。某所宿屋。

「なーにをすればいいんだ」

 アンナは本日何度目かもわからないため息をついた。そう、髪を赤く染めて現れろと言われてもどういう顔で行けばいいのか悩んでいる。普段の自分ではなくきっとかつての自分を要求していることだけはわかった。正直言って気乗りしない。

『じゃあ"ボク"が全部やってあげようか?』

 内なる存在が語りかけて来る。アンナは「はぁ!?」とあきれた声を出す。そして姿なき存在に向かって威嚇した。だまされてはいけない。この存在が余計なことをしなければ変に距離が近づくこともなかったし、あってももっと順序的にことが進み、あんな散々な初夜にはならなかったとアンナは信じている。

「そもそもこんなことになったのキミが原因。やらせるわけないでしょ」
『ケチ。"ボク"も時々はシドで遊びたい』
「ダメ。以前の星芒祭でシドが色々感情抱いた原因の力なんて絶対借りない!」
『チッ……』

 舌打ちしやがったなとアンナはまくし立てるが周辺には誰もいない独り言で虚しさが勝つ。またため息をつきながら奥に仕舞い込んでいた衣装を吊り下げた。箱から"赤髪"用の小道具を取りだし机に並べる。
 そして小さなカバンに金平糖と非常食を突っ込んだ。金平糖は口寂しい時に舐める用であり、シドの機嫌を直す用だ。それから以前より準備していた"アレ"を広げる。これはずっとプレゼントとして準備していたものだ。渡せる雰囲気になればいいが―――。それはいつでもいい、置いとこう。
 準備はこれ位だろうか? と思った瞬間にリンクパールが鳴る。「ひゃん!?」とまた小さな悲鳴を上げてしまう。やはり不意打ちに耳元で音が鳴るものは苦手だ。今回はシドが予定がわかり次第繋げると言われたので仕方なく装着している。せきばらいをし、「もしもし」と出てみるともちろんシド。当然だ、今日の通信予定は彼しかいないのだから。

『俺だ。今大丈夫か?』
「大丈夫じゃないって言ったら切る?」
『よし言う余裕があるなら大丈夫だな』
「はいはい。用件」

 聞いてみるとどうやらちゃんと休みが取れたらしい。予定の日と集合場所としてなぜかリムサ・ロミンサの飛空艇発着場を指定される。生返事した後、こっそりと舌打ちをしたが聞こえてしまったようだ。「覚えてろ」って言われ、挨拶を交わし切られてしまった。

「―――ボク、終わったな」

 柔らかな笑みを浮かべ、ベッドに沈んだ。

 ◇

 当日。シドは約束の時間より少し前にリムサ・ロミンサに降り立つ。ランディングで周囲を見回すと―――いた。

「待たせたか? 旅人さん」

 赤髪でぶっきらぼうな顔をした"旅人"が座っていた。予想通り相当早い時間から座っていたらしい。虚ろな眼差しでシドを見上げていた。隣に座り、腕を掴んだ。

「やっと捕まえたぞ」
「もしかしてそれがしたかっただけとは言わないよね?」
「半分くらいは」
「莫迦」

 アンナはシドの頬をつねる。どこに行くのかと聞くと「まああと少しで来るからな」と苦笑を返された。

「お前さん、初めてこの周辺に降り立ったのはグリダニアじゃなくてリムサ・ロミンサだったらしいじゃないか」
「―――黒渦団からでも聞いたの?」
「ある情報筋だ」

 そう、アンナが最初に三国に降り立ったのはリムサ・ロミンサだった。あれは5年以上前、第七霊災が起こった時のこと。迷子になりながらたどり着いたカルテノーで偶然黒渦団の人間を助けた時、街を探してると言ったらここまで連れてきてもらった。その時は飛空艇ではなくチョコボキャリッジと船で乗り継いだ。しばらく人助けをし、偶然商人が売っていたヴィエラ族の民族衣装を購入したのもこの時期である。懐かしい思い出だが、まあ必要ない情報なので誰にも言った記憶はない。
 首をかしげながら待っていると普段より大きな飛空艇がランディングに到着した。普段乗せてもらっているハイウィンド飛空社定期便と違い客室があるタイプのものだ。アンナは目を丸くし、それを眺めているとシドは立ち上がり、「さあ行くか」とニィと笑う。

「え、は?」
「おいせっかく来てもらってるんだ乗るぞ」
「えぇ……」

 引っ張られ、慣れた手つきでチケットを船員に渡し乗船する。そしてまったく落ち着かないキレイな個室に案内された。丸い窓からは外の景色が見える。ここまで大きな飛空艇は劇団マジェスティック所有の"プリマビスタ"ぶりだ。この時だってシドは時々顔を出してきたっけと少しだけ昔のことを思い出す。

「本当にどこ行く気?」
「その内わかるさ」
「高かったんじゃ?」
「これまでアンナがイタズラに使った金額よりかは安いんじゃないか?」
「くっ……金銭感覚お坊ちゃん」
「人のこと言えないだろ」

 小突き合ってる内に飛空艇は飛び立ち、アンナはふと窓の外を見ると青い空が広がっていた。椅子に座り、金平糖を一口食べる。

「これがプレゼント?」
「違うさ。ただ限られた時間で往復すると考えたら空路がいい」
「……クガネ」
「着いてからのお楽しみだ」

 はいはいと言いながら隣に座ったシドを見る。相も変わらず笑顔でため息をつきたくなる。肩を抱き寄せ軽くたたいてやると「だからそれは俺からさせてくれ」と言いながらもそのまま身を預けていた。

「こうやってアンナと2人で飛空艇に乗るのは珍しいよな」
「基本一緒に乗るの作戦中」
「ちゃんといい休暇になるよう計画したんだ。覚悟しろ」
「言葉が違うよね?」
「途中で逃げられたらたまったもんじゃないからな」
「つまんないってならなきゃ逃げない」

 軽く口付けてやるとそのまま舌をねじ込まれる。はいはいと心の中で言いながらそのまま絡め合った。水音とくぐもった吐息にアンナはギュッと目を閉じ、終わりを待つ。そして離れた瞬間に眉間にシワを寄せながら頭をなでた。

「ここまでだよ。流石に迷惑」
「わかってるさ」

 瞬時にアンナは後悔することになる。それからベッドまで抱き上げられ、そのままキスを繰り返した。そう、角度を変えながら唇にキスを落とすだけ。優しく抱きしめ、ただもどかしい行為が続く。相変わらずトリガーを引くのはアンナの役目ということなのだろう。

「俺は悔しかったんだ」
「何が」
「お前さんにとって初めての飛空艇ってのが俺が造ったものじゃなかったことがな」
「ああそういう。しょうがないでしょ。ていうか行方不明だったじゃん。無理」
「だから悔しいんだ」

 数分後、少しだけざわついた首元が何事もなく楽になっていた。そしてキスに満足したのか急に語り出す。相変わらずこっちが余計なことをしなければ鉄の理性だとアンナは感心した。

「初めて飛空艇に乗ったのがエオルゼアに来てからだろ? アンナがあの旅人だって気づかなくてもチャンスはあったさ」
「悔しければ第七霊災後事故って記憶を失った自分を恨んどいたらいい」
「ぐっ……」
「せめて思い出した時に"旅人さん"のこともちゃんと認識できてたら楽しいことになったのに残念だったねぇ」
「それに関しては今も気にしてるから言うんじゃない!」

 そう、シド自身も気にしていた。記憶喪失になっていたシドがエンタープライズ号で大空へ飛び立ち、思い出した瞬間のアンナの笑顔。柔らかく、何かを懐かしむように目を細めシドを見ていた。この時、アンナだけが過去に巡り合った記憶を想起し、捕まることはないとほくそ笑んでいたことを知った時は拳を握りしめるほど悔しかった。カラカラと笑っているとシドは顔を赤くし、そのままアンナの上に乗る。

「ちょっと?」
「ああちょっとだけだ」
「今の別に合意したわけじゃない!?」
「アンナが悪い」
「弁償したいの!?」
「そんなことするわけないだろ。まあ最終的にちょっとだけアンナの口を」
「最低! ほんっと最低なこと素面で言うなぁエロオヤジ!」

 シドは何も言わずほっぺをつねった。アンナは痛い痛いと言いながら表情を窺うと非常に機嫌がよろしくない。消えていたハズだが徐々に首元がざわつき、鳥肌が立つ。

 やらかした。天井を見上げ、これからの行為に想いを巡らせる。まあ忠告しているから流石にキツいことはしないだろう。せめて下船するまでには終わらせようと苦笑した。

 ◇

 長時間の船旅が終わり、外へ出るとそこはクガネ。アンナが予想していた通りの場所だ。温泉巡りでもするのかと聞くとそれもいいがと苦笑している。

「とりあえず宿屋で休もうじゃないか。明日は早いからな」
「はぁ」
「そしたら続きをだな」

 アンナのあきれたような声がランディングに響く。シドはニィと笑顔を見せた。

「さっき物足りない顔をしてたからな。大丈夫だ、俺だって明日に支障が出るし一晩付き合わせる気はないぞ」
「それが当たり前なんだけどなぁ!?」
「人と惚れた腫れたの駆け引きを一切してこなかったお前が当たり前を語るんじゃない」
「私だってあなたにだけは言われたくないけど!?」

 ケラケラと笑いながら温泉宿で一晩過ごし、朝になるとシドは大隼屋の方へと引っ張っていく。
 たどり着いた第二波止場には意外な人物がいた。着物の男にシドは大きく手を振る。

「テッセン、久しぶりだな」
「急に連絡をいただいた時はびっくりしましたよ、シドさん」
「え、テッセン。何で?」

 黒色の短い髪に柔らかな笑顔を浮かべる青年が駆け寄って来る。命の恩人であるリンドウの孫にあたるテッセンは髪を指さしながら、驚いた顔をしたアンナへ話しかけた。

「髪色、戻したんですね。お久しぶりですエルダスさん」
「むーそういうことかぁ。―――シドにやれって言われただけだから近日中に戻す予定」
「俺は別にずっと赤髪でもいいと思ってるがな。ほら暗くなっちまう前に行こうじゃないか」

 2人用のはきちんと予約しておきましたのでとニコリと笑顔を見せている。アンナは苦笑し、シドのほっぺをつねった。

 大隼がドマの空を飛ぶ。その景色をアンナはぼんやりと見つめていた。山へ行くごとに徐々に深く茂った森が増え、リンドウとの旅路を少しだけ思い出す。
 ふと先を見ると山の上に、見覚えのある小屋があった。

「フウガの家。前見えなかった」
「そうだな」
「この村本来の姿ですよ」

 以前訪れた時は樹に覆われた森が空から見えていたはずだ。2人が言っていることにアンナはピンと来ない。
 村に降り立つと以前より人がにぎわう場所と化していた。アンナはそれを目を丸くして見ている。

「シドさんがアレを持って帰ってからまた観光客が増えたんですよ。おかげで大忙しで」
「あー……すまない」
「いいんですよ。祖父は複雑でしょうがね」
「何の話?」

 テッセンは笑みを浮かべ、実は祖父のリンドウが帝国で有名人だったという話をする。出版されていた本の中では幼い頃のアンナも登場することや、最近それについて書かれた本と舞台の記憶を見せてもらったと言うとアンナは露骨に嫌そうな顔をした。

「あんのアシエン……」
「それで昔から遥々ガレマール帝国や属州よりたくさんの人が墓参りに来ていただいていたんですよ。出会いに恵まれ、こうやって生活させてもらってます。ドマ解放から減ってましたが村を出た子供たちがエオルゼアを中心に噂として広めたようで」
「うちの新入社員にもここ出身のやつが最近来ててな。ああ不思議なことに昔からここだけ魔導技術が普及されていたんだ」
「―――本当に余計なことをしやがって。どんだけあいつ私のこと好きだったのさ」

 小さな声でアンナはつぶやく。シドには聞こえていたようで、ジトリとした目でにらんでいることに気づいたアンナは「死人に口なし」とだけ言って金平糖を放り込んだ後にアゴヒゲをなでた。

 ◇

 夜。アンナはリンドウの家の前で空を見ていた。静かな場所で星が輝いている。「やっぱりここにいたか!」とシドは息が上がりながら駆け寄って来る。

「俺が少し呼ばれてる間に抜け出すんじゃない!」
「別に逃げたわけじゃないんだから大げさな。ほら星がキレイだから見て」

 アンナはニコリと笑顔で空を指さす。シドはため息をつきながら隣に立ち、空を見上げる。確かにキレイだなと笑みを浮かべた。ふとアンナはあのさと口を開く。シドは首をかしげるとそのままボソボソと話し始めた。

「昨日の話の続き。初めて乗せたかったとかそういう」
「俺に余計なことを思い出させる気か?」
「ちーがーう」

 くるりと回りながら数歩歩き出す。そして、笑顔でこう言った。

「あなた―――いや、キミはこの空で満足してる?」
「……は?」

 アンナは手を開き、昔ある人に教えてもらった知識を披露した。この空を抜けると宇宙という海が広がり、輝く星に降り立つことができる。まあ普段輝いている星は、ただのデコボコとした塊だから面白くないみたいだが。そしてもっと進むといつもキレイに輝き満ち欠けする大きな月があり、さらにその先がどうなっているか誰も知らないのだと。

「そして月にはボクのように耳長ウサギちゃんがいるんだって。いやホントにひんがしの国では月の黒っぽい部分がね、こうウサギが餅つきしてるように見えるって逸話もある。ほら、もしかしたら故郷かも?」
「そんなわけないだろう。今立ってる世界がお前さんが生まれ育った場所だ」
「ふふっどうでしょう。その場所に連れてってくれたらわかるかもよ?」

 そしてボクはもっとその先を見たいのさ、とアンナはニィと笑う。シドはそのアンナの笑顔に見惚れ、ぼんやりと見つめていた。その後ジャンプを1回、2回。跳ねながら空へ手を伸ばす。

「でもさ、ボクが今いくらジャンプしても、月どころかこの空さえ越えることができない。じゃあ何が言いたいかわかるよね?」

 手を握り、シドを引っ張りながらまたくるりと回る。シドはバランスを崩さないよう必死に回る。2回、3回と2人は星空の下で踊った。

「その空を飛ぶためのものをさ、キミが造るんだ。アラグはかつて空へ衛星を飛ばした。じゃあ今のキミなら人と希望を乗せて、もっと遠くまで飛ばせるんじゃない? オメガだって何とかしちゃったキミなら、何だってできるハズ」
「お前さんを乗せる、船」
「今そんな船、存在しないでしょ? いやまあどこかが極秘に開発してるとかあったら知らないけどボクがそんな所お邪魔するわけない。じゃあ今度こそその"ハジメテ"とやらをボクから奪うことができる。悪くはない提案でしょう?」

 リンドウが占星術の知識を教えてくれたように。誰かが宇宙の知識を教えてくれた時、心が躍ったことをアンナは今でも鮮明に覚えている。そして現在、それを叶えてくれそうな人を見つけたことを、前人未踏の地を旅できるかもしれないこともすべてが嬉しくてたまらなかった。

「だから、そのボクの夢である宇宙(そら)へ運ぶ船を造るキミを、キミが必要だと思う人たちを、その場所も全部ぜーんぶ! ボクが護ってあげる。ボクはこう見えてとーっても強いんだから。せっかく捕まえられたんだよ? それ位の楽しみがほしい!」

 ボクは意外と貪欲なんだよ、知ってた? とアンナがニィと笑顔を見せる。シドはその言葉に目を丸くした。

「ど、どうしたんだいきなりそんな」
「む……そりゃあ旅を延期する言い訳さ。それ位気づこうよ、ボクの天才機工師様?」

 満面な笑顔に、今まで聞くことがなかったアンナの本音。シドは心のどこかに火を灯された感覚を味わう。

「ほら誓ってよ。フウガのお墓の前でさ。ボクを奪って、遠い宇宙(そら)へ連れていくって。生きてる者の特権を、存分に使ってやるってさ。―――厭かな?」

 ピタリと止まり、アンナは目を細め、シドを見やった。しばらく静寂が辺りを包み込む。じっと見つめ合い、答えを待つ。今、世界で一番ワガママだろうこの願いを、受け入れてほしいとアンナは願った。

「―――さ」
「うん?」
「それ位お安い御用さ、お姫様。なんてな」

 そんなワガママを、シドは断れるわけがなかった。未だ誰も達成していない夢があふれたその願いは、シドもずっとほしかったモノ。元より好きだと自覚するより前からこの人について行くだけで、思わぬ技術が転がって来ることに一喜一憂していた。また一緒に何かを成し遂げる目標ができる、それが嬉しくてたまらない。

「あーのーねー。ボク、お姫様ってナリじゃないよ?」
「俺からしたら今のアンナは十二分にそんな存在さ」
「莫迦。ほら早く戻ろ? ボクは眠いのさ」
「ああ夜は長いからな。ゆっくりしような」
「ねえ今の言葉聞いてた? 難聴が始まってるんじゃないかって時々心配に、って!?」

 ねえ、ちょっと、いや逃げないから腰を掴むなという抗議を無視し山を下りていく。
 ふとシドは浮かんでいた疑問をアンナにぶつける。

「月のことを教えてくれた人は、誰なんだ」
「知らない」

 無機質な声。シドは立ち止まり、アンナを見上げる。銀と赤の目に無表情でアンナは何か、と言った。

「―――あー多分旅の途中で聞いただけだからさ。旅人は名前なんて細かく覚えないスタンスだったし」
「そう、か」

 両目共に柘榴石(ガーネット)色の瞳、月の光による錯覚だったのだろうか。いつもの見知った笑顔に切り替わっている姿が少しだけ恐ろしく感じる。

 アンナは以前から察してはいたが少しだけ記憶が怪しい部分がある。どこか専門的な知識についての出所を問うとこうやって知らないと即答するのだ。入れ知恵した主に心当たりがある。アンナの兄であるエルファーの旧友、ア・リス・ティア。かつて時代にそぐわぬ知識量と技術力にエルファーも憧れ、技術者の道へと進んだという。アンナが本当にかつてその男に会ったかは確かめる術はない。だが、両者の友人であるリンドウといたのなら、ありえない話とは言い切れなかった。

『あの子が本当にリンのすべてを"継承"しているのなら、強く"絶対に勝って帰って来い"と願えばいい。きっとすべて終わらせて君の所へ帰って来る。かつて僕とアリスはリンをそういう体に変えたから』

 いつかその時が来たら教えると言われた秘密が、シドの頭の隅で引っかかっている。流星の軌跡のような斬撃を放てるのならば、確実に普通の人の道からは外れている―――と言われていた。
 それでもいばらの道を歩み続けるキレイな人の傍にいたいと、その体を抱き寄せた。



 シドが朝目を覚ますと既にアンナは起床し、炊事場付近にいた。少しだけフラフラと重そうに歩くアンナを見て苦笑する。

「もっと寝ててもよかったんじゃないか? 手伝いもさせてもらえないんだろ」
「絶対にやだ」

 ジトリとした目でにらんでいる。昨晩はそんな余裕もなくなっていたくせにとシドは少しだけ優越感に浸っていた。テッセンはそんな2人へニコリと笑いながら食事を運ぶ。

「おはようございます、お2人さん。よく眠れましたか?」
「ああもちろん」
「……ノーコメント」

 アンナは気づいていることもあるが黙る。『それは藪蛇というものだ』と昔リンドウに教えられた。
 食事は事前に要望を伝えていた通りのひんがしの国式だ。炊いた白米に焼いた魚、味噌汁と軽い付け合わせ。"大人しく、普通に、食べろ"と目で伝えるとアンナはニコリと笑い返した。
 朝食後、持って来ていた装置をテッセンに手渡す。

「もし悪意を持ったやつが来だしたらまたこれの電源を入れたらいい」
「―――ありがとうございます。そうだ、エルダスさん。どうぞ」

 テッセンは紙の束を差しだす。アンナは首をかしげると柔らかな笑みを浮かべた。そしてシドに聞こえないように耳打ちする。

「フレイヤさん。祖父があなたに遺した手紙ですよ。やっとお渡しできました」
「本当に!?」

 アンナの問いにテッセンは肯定を返すと即手紙を開き、目を通す。シドはジトリとした目でそれを覗き込むと以前見せてもらった達筆のモノだった。

「アンナは読めるのか?」
「うん。フウガ、昔から強い文字を書く人だったから慣れるまで苦労した」

 笑顔、もの言いたげな顔、歯を食いしばり、最後は泣きそうな顔でその手紙を読んでいた。持って帰ってもいいかと問うとテッセンは笑顔でうなづく。ふとシドの方を見ると少しだけ目を逸らし、機嫌はよくない。厭な予感がする。それでも聞きたいことはあった。

「ねえ、聞きたいんだけど」
「何ですか?」
「どうした?」
「……シド、私が超絶苦労して世界救ってる間にここ来てこの手紙読んだでしょ?」

 シドは即そっぽを向く。そして「知らん」と言った。眉間にシワを寄せ、手紙のある部分を指さしながら声を上げる。

「こっちの目を見て言ってくれないかなぁ? ねえあなたがあの時に言ったことそのものが書いてあるんだけど?」
「いやその、アンナ落ち着いてくれないか」
「あなた魔導院でテストの時、カンニングペーパーでも作って臨んでた?」

 アンナは両ほっぺを引っ張る。シドはその顔を見ると真っ赤で少しだけ涙を溜めていた。言葉が詰まりながらも、後頭部を撫でる。

「ずるい。そんなことされて断れると思ってる?」
「断られたくないから確実な手を使ったに決まってるだろう」
「―――ずるい。テッセンも」

 アンナはテッセンのほっぺも引っ張る。ニコニコと笑顔ですみませんと言った。

「懐かしいですね。失言したらいつも祖父にこうやってほっぺを引っ張られてました」
「私も散々されたし。年取っても変わらなかったんだ」
「……おいアンナそれもリンドウのクセだったのか?」
「あっ」

 やってしまったと判断する。ニコリと笑みを見せるとシドも笑みを見せた。次の瞬間には腕を掴み、引っ張っていく。

「テッセン、そろそろ帰る支度をしようと思う。一度部屋に戻るからな」
「はいごゆっくり」
「ゆっくりしない! 帰る! 私すぐ帰りたい!」

 そのまま客室へ引っ張られていく姿を仲居たちは見守っている。

「若いですねえ」

 テッセンは体を伸ばしながら、手渡された装置を祖父の家へ持っていくために歩きだした。



 お土産をたくさんもらい、村を後にした。また旅の思い出を報告に行くとアンナが言えば、背後にてジトリとした目で見られるので肩をすくめ、「もちろんこの人も」と苦笑する。

「あとよければお兄様も連れて来たらいかがでしょうか? きっと祖父も喜ぶと思いますよ」
「確かに。まさか兄さんがフウガの知り合いだったなんて思わず」

 シドは心の中で"絶対に暴れるが、アンナに行こうと言われたら多分掌返すだろうな"と普段の言動を思い出していた。確実にエルファーはやだと言うがアンナに手を握られると満面の笑顔になり、今まで恨み言ばかり吐いていたくせに美しい思い出を話すだろう。

「兄さんはここ知らないんだよね?」
「ええ。お友達だという方は時々来てたのですがヴィエラの方は来ませんでした」
「フウガの、友達」
「お名前は覚えてませんがとても元気な方で」

 アンナは覚えがないなあと首をかしげる。そんな友達がいたのなら一緒に旅をしていた頃会ったことあるだろうに、不思議だと思った。シドはそれが誰かとエルファーから話は聞いている。しかし思い出話を延々とされる予感がしたので、絶対に名前を出したくなかった。話題を打ち切るように「じゃあそろそろ帰るか」とニィと笑ってやるとアンナも柔らかな笑みを浮かべる。
 そうしてテッセンたちと軽く会釈を交わし、大隼に乗った。

「楽しかったか?」
「ん、悪くはなかったよ」
「そりゃよかった」

 本当は凄く嬉しい時であったが素直に伝えると調子に乗られるので素っ気なく返した。シドはそれでも機嫌よくアンナへ寄りかかる。肌寒い空の下、静かな時が過ぎ去った。



「これは?」
「プレゼント」

 クガネに戻り、街を適当に散策しながらまたお土産を買った。これは暁の血盟用にしよう、じゃあこっちは会社用かと会話を交わしながら菓子や小物を物色する。
 気が済んだら今日はまた望海楼に泊まることにした。飯をいただいた後、畳の上でアンナはカバンから袋を取りだす。少し厚みのあるそれに首をかしげながらシドは受け取った。

「あっちで渡したらよかったんじゃ」
「タイミングが難しかった」
「イタズラ装置じゃないよな?」
「あなたの会社に準備してるよ」

 シドにとってそれは初耳だった。作動する前に見つけるからなとブツブツ言いながらシドは袋を開く。
―――黒と赤のマフラー。相当長い。羽根のような意匠が施されている。

「編んだのか? 相当長いが」
「暇だったから」

 脳裏に無心で延々と棒針編みをする姿が容易に浮かんだ。アンナはシドの手からマフラーをくすねると、そのままぐるぐると首に巻く。

「温かいな」
「でしょ? 今回の休日のお礼」

 抱き寄せ、額にキスをした。シドは慌てながらそれは俺がすることだとほっぺを引っ張る。そしてシドもまたカバンの中から袋を取りだした。アンナは開けたらいいのかと問えば当然だと胸を張る。
 開くとガーロンド・アイアンワークス社のエンブレムが施されたツールベルトが入っていた。目を丸くしてそれを持つ。

「これで気合を入れてイタズラに励んだらいいの?」
「そんなわけないだろう。お前何でもかんでも旅用のカバンから取りだすじゃないか。製作用道具とかなくさないか心配でな」
「あはは、ありがと」

 仕方ないから使ってあげるよと苦笑してやると、シドは巻いていたマフラーを少しだけ解き、そのままアンナの首に掛ける。アンナは肩をすくめそのまま巻かれた。

「これはこういう使い方をしたらいいんだろ?」
「……ご想像にお任せ」
「多分立ってても行けるな」
「外ではしないからね」
「寒い外で巻かないでいつ使うんだ」

 何も言わず後ろから覆いかぶさるように抱きしめてやるとシドは苦笑しながらその腕を握る。

「私はいつも冷たいんだから、首にちょっと巻いても誤差。あなたがちゃんと温かいってなってる所、見たい」

 そう言いながら頭の上に顎を置き、擦りつけるように動かした。アンナはいつも死人のように体温が冷たい。昔はもう少し温かかったと成人前のことしかわからないエルファーは言っているが、本当のことはシドにはわからなかった。しかしわかることは1つだけある。

「じゃあ今から少し温まるか」
「ねぇ脈略」
「今のは明らかに誘ってただろ」

 アンナの体温は体を重ねると人並みのものになる。それはシドだけが知っている秘密。どういうプロセスを踏んだらそうなるかは未だわからないが。いつか解明したいとは思っている。
 ニィと笑い、振り向くとばつの悪そうな顔でこちらを見ていた。嫌がっている動きは見せていないということは合意と取ってもいいのだろう。ゆっくりと体の向きを変え、アンナの膝の上に座り向き合う形になった。こうするとちょうど視線の高さが合うので、じっと見つめてやると、柘榴石(ガーネット)色の瞳が揺れた後細められる。額をこつんと合わせ、首に手を回した。

「むー……そんなにシたいなら付き合ってあげるから」
「そうだな。俺がしたいからしょうがないだろ?」
「そういうこと」

 アンナは手持ち無沙汰となった手をシドの腰へと回した。そう、気づいていないわけがない。どさくさに紛れて変なモノを買ってたことを。しかしどこかそれを楽しみにしている自分がいるのだ。あきれてため息をつきたくなる。



 次の日。軽い朝食を済ませ、そのままクガネランディングへ向かう。

「もう帰るの?」
「アンナが作った飯が恋しいからな」
「はいはい。何食べたい?」

 ニィと笑い、言ってやる。

「シチューに決まってるだろ?」
「じゃあリムサ・ロミンサで買い出ししなきゃね。そんなにシドが好きなら仕方ないなぁ」
「ああ俺が好きだからな」

 もっと自分をはっきり出せばいいのにとシドは苦笑する。口にしたらそっぽ向きしゃべらなくなるので言わないが。
 今回の休暇で少しだけアンナという存在を再び掴めた気がして嬉しくなった。寄りかかり、明日戻るであろう日常に対し少し憂鬱な気分になりながら、またアンナにありがとうと礼をつぶやく。
 そんなシドの姿を見てアンナは肩を掴み、優しくなでる。脳内で兄に送る手紙の文面を練りながらシチューの具を考える。ここ数日ずっとひんがしの国やドマ料理ばかりだったので少し違うものにしたい、パンも食べたいな。ボソボソと声に出してメニューを考えると隣にいるシドが程よくあれがいいこれがいいと茶々を入れて来る。
 目を細め、これが人といるという行為かと笑みを見せる。それは1人で旅をしていた頃にはまったく想像していなかった日常。リンドウの手紙に書いてあった言葉を胸に刻みながら、夢を叶えてくれる男に心の中で"好き"とつぶやいた――――。


Wavebox

#シド光♀ #季節イベント

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注意&補足第八霊災ネタ。死ネタ。暁月の致命的なネタバレを差し替えたものです。自機…

漆黒,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

漆黒,ネタバレ有り

その複製体は聞き記す(ネタバレ配慮版)
注意&補足
第八霊災ネタ。死ネタ。暁月の致命的なネタバレを差し替えたものです。自機出番なし。
漆黒後に現れるリテイナーのア・リスが第八霊災が起こった後に"起動"される話。
メイン軸では触れられないだろうアンナとエルファー、ア・リス、リンドウの秘密な独自設定を明かしています。
 
―――俺様が起こされたのは"傑作"が世界によって壊された後の話だ。

 俺様はかつて友人の遺言を遂行し、"傑作"を最高なものに仕上げるために奔走した男の複製体。作った"親"は友人の魂の一部と共に想いを託し消えた。
 そんな"傑作"が完成し、ある"トリガー"を引いた際に俺様が起動するよう誘導させる、これが当初の計画である。しかしその願いが叶うことはなかった。

 目が覚めたら周りにいたのは赤や青の同じような服を着た男たちと勝手に"トリガー"役に任命した友人。驚愕した顔で俺様を見下ろしていた。

「お前、何で」
「起きたお姫様にはおはよう、だろ? よお久々だなエル、大体60年ぶりか?」
「……85年ぶりだ、寝ぼけたことを言ってるんじゃない阿呆」
「そっか。フレイヤちゃん元気? 念のために言うがテメェの可愛い妹のことだぞ? あの子がいないと俺様は起きることが出来ないはずだから知ってるよなァ? 会わせてくれよ俺様の最高傑作にさ。ケケッ」

 俺様はそこでこれまでにあった話を聞かされた。第七どころか第八霊災が起こり、フレイヤ―――いやアンナ・サリスは死んだらしい。"親"と友人の魂を抱えたままで、だ。どういう作り話だよと笑ってやったが隣にいた白色の男に胸倉を掴まれたことで現実と知る。

「お前がアンナを壊したのか!?」
「壊したぁ? 人聞きが悪いことを言うな。俺様が『生・か・し・て』やったんだよ。ていうかテメェはあの子の何なんだよ。あ、まさかコレか? ケケッそんな怖い顔すんなよ。俺様は嬉しいんだ。あの子が人間に近付いていたってことになァ」

 その白色の男はえらく友人にそっくりな真面目そうなヒトだった。多分アンナちゃんも無意識に追いかけていたんだろうな。でも反応的にはお互い想いを伝えることはなく両片想いだったのは分かる。焼き焦がれるほど想っていたのだろう。ああなんて青い男なんだ。
 それよりも少し離れた場所からの気配が気になる。賑やかだったから近付いてきたのだろう、これは悪意を何もない獣だ。このラボが壊されては困る。その腕を振りほどき、そばに置いていた短銃を手に取る。俺様用にカスタムされた特殊なモノだ。外に向けてぶっ放す。爆音が響き渡り俺様以外の人間が耳を押さえている。

「お前!?」
「うっせぇなどけどけこの中のものが壊れされたら嫌なんだよ」

 その言葉と同時に外で見張っていたのだろう女が「魔物がこちらに向かって! きゃっ!?」という声を上げた。すかさず足に力を籠め"跳ぶ"。エルファーは目を見開き俺様を見た。

「エル、俺様はただウロウロ遺跡を荒らしてただけじゃないんだぜ? 俺様はこの施設を"護りたい"んだ」



 外にいた魔物をあっという間に片付けると白い男が俺に声をかけた。

「よしよし問題なく使えてよかったぜ」
「それは気迫か?」
「おー懐かしい。リンが付けた名前じゃないか。違うぜ、これはシハーブってんだよ。だっせぇ名で呼ぶな」

 造られた身体に施されたモノにより"再現"された技術に満足出来た。エルは大股で近付き怒鳴って来る。

「どういうことだ!? "それ"を何で使えるんだアリス!!」
「そりゃ普通の人で実験したら下手すりゃ溶けちまうだろ? 先にアラグのクローン技術を"再現"していっぱい自分の複製体を作り試してたんだ。んで、成功した"俺様"をバックアップとしてこの地に保存してたってわけだ」
「ハァ!? オマエそンな理由でクローン複製したってか!?」

 次はひょろ長い兄ちゃんが必死な顔して言ってくる。これで察した。コイツらは技術者集団のようだ。エルは中々楽しい奴らをオトモダチに持ったみたいで安心する。

「さあエル、こんな所に長居は不要。これから俺様をどうする? 今殺すか? それとも―――連れてくかい? あの飛空艇に乗せてさ」
「―――会長クン、君に託そう。彼、の元は僕のかつての友人であり、リンと共にアンナを歪ませた元凶だ。だがどんな無茶も叶えてくれる天才でもある」
「ケケッその技術はテメェも共犯者だろ?」

 会長、と呼ばれた白色の男はしばらくこちらを見つめていた。そして口を開く。

「条件がある」

 条件、それはこれからの自分たちに対して口出しをするなという。その腕っぷしで護衛しろと言いたいらしい。一種のカミサマとして置いておくということなのだろう。気に入った、快諾してやったよ。

「じゃあ次はこっちが条件を出すか。俺様が持っている記憶はリンが死んだ直後までだ。それ以降は何も知らない。この世界の歴史だけじゃない。お前たちそれぞれの人生を順番に聞かせてくれ」
「―――全員か?」
「おう。ここにいるメンバーだけじゃない。俺様が死ぬまで文字通り全員の記憶と、アンナちゃんとの思い出を聞かせてくれないか」

 こんなにもあの子に必死になるような人間が増えたことが何よりも嬉しかった。赦される気はない、ただその歴史と記憶を全て聞いてそれを形にしたいだけで。
 まあ一種の懺悔室扱いされることになったんだけどな。それもまた人生だねケケッ。

「ああ自己紹介がまだだったな。俺様はア・リス、しがない科学者の複製体さ」

 ニィと笑ってやると何故か拘束されて連れて行かれることになった。何でだよ。



 飛空艇の上から各地の様相を見せてもらったがそりゃ酷いものだった。いつだって人間は勝手な生き物だなとため息を吐く。大体の為政者は死に、大気中のエーテルも弱り今まで使っていた燃料もゴミになった。だからどの勢力も余裕がないということらしい。幸い俺様を縛っている奴らはどこにも属さない技術を握る会社だったため狂った人間があまり出なかったみたいだ。何人も死人を出しながらもなんとか飛空艇の燃料である青燐水の変換を行い、アンナちゃんが遺したモノに挟まっていた地図を辿りラボに足を踏み入れたらしい。

「アンナちゃんは俺様の最高傑作になる予定だった。"アシエン"とやらに使い潰されるより先にリンと同じく欠けちまったものを取り戻す。そのために肉体を捨てたんだが完成する前に壊れちまうとはなあ」
「これ以上アンナをモノ扱いするとここから落としてやるからな」
「ひえー会長サマはコワイコワイ。そもそもリンがやらかさなきゃ俺様はあの子に何も施さねぇって。だからアイツを恨んでくれよ」

 シドという白い男はとにかくアンナちゃんのことを問いただしてきた。自分の知らないあの子の過去が気になるのだろう、覚えてる範囲で少々教えてやった。そして逆にコイツからも聞き出してやる。子供の頃、寒空の中助けて20年後に気付かぬ内に再会、仲良くしていたらしい。

「そうか、リンが死んで俺様が消えた次の年にテメェがかつてアンナちゃんを助けて、ねえ。想定通りの仕様として動いていてよかったさ」
「想定、通り?」
「あの子の意識が途切れても体内エーテルが尽きるまでは"俺様"が身体を動かせたんだよ。尽きたら本当に死ぬんだけどな。多分その時凍死しかけてたぞ。テメェが通りかからなかったら皇帝の前に持って行かれてたかもな」
「どういうことをしたらそうなるんだ」
「俺様最後の研究。アンナちゃんの"もう一つの人格"になってやってたんだよ。そうでもしねえとリンみたいな無欲で枯れた閉じ切ったアホの再演になったんだわ。ついでに反省させようとドアホの魂の一部も持ってな。時々意識乗っ取って必要な情報を見せて教育してやることにしたんだよあの底抜けたアホと一緒にすんじゃねぇ」
「オマエがアレかよ!?」

 近くで聞いてた金髪の男ネロが乱入してくる。どうやらコイツの前では結構出て来ていたらしい。

「時々変な含みのある喋りしてンなって思ったンだ。いつもより頭も良かったしよ」
「俺の前では出て来なかったぞ?」
「いやオメガ倒した後こっちに顔出した時は明らかにメスバブーンじゃなかったぜ? ガーロンドが気付かなかっただけじゃね」
「ぐっ……そ、そういえば何度か他人事みたいな言い方したことはあったが……」
「会長サマ鈍感なんだねぇ。好きだったんなら異変位気付いてやれよ」
「悪かったな鈍感で」

 からかい甲斐がある奴らだ。ネロという男に関しては"俺様"も相当気に入ってたのだろう。しかしそんなことよりエーテルが死んだ影響か纏わりつくような大気が気持ち悪い。拠点に連れて行ってもらったら屋内くらいは快適に暮らせるように変換器でも作ってやろう。ひとまず頭の中で仕様図と計算式をいくつか思い浮かべる。マァ再びリセットされてしまった時代に役立つものかは分からない。まずはそこから勉強し直しだろう。
 ラボの中にあるモノは燃料にでもすればいいと渡してやる。すると大体の奴らが「そんなこと出来るわけないだろ!?」と目を見開いていた。こっちにとっては通過点でしかなかった盗掘物やコーデックスの翻訳が彼らには刺激的に映ったらしい。俺様が入っていた睡眠装置もそうだ。魔導技術も使わず永久機関と化している部分に興味を持っているとか。確かにエーテルも大して消費させずに動かしているから変に映ったのかもしれない。実際は自然に頼ったもので、俺様としてはあと数年したら身体は腐っていたと見た。そんな代物だが自分たちで調べて判断すればいいだろう。
 以降、定期的に彼らはラボを出入りすることになる。だが、持って帰れたものは極一部で大体は途中で事故が起こったり略奪された。まあ過去の知識としてインプットされただけでもマシだろう。書物くらい再び俺様がペンを取って書き記せばいい。装置だってほぼ役立たないからスクラップにでもすればいいじゃないか。
 そんな俺様からしたらオメガとアレキサンダーをはじめとした報告書が非常に興味深いもので。文献で何度も見かけたクリスタルタワーも実際にこの目で確認出来るとは予想だにしなかった。本当にあの時アンナちゃんを生かしておいてよかったと好奇心が喜ぶ。まあもう死んでしまったのだが。

 レヴナンツトールに降り立った後、"最高傑作"になる予定だった人間の墓の前にぼんやりと座る。違和感を感じ目を凝らして視ると奇妙なものが映った。この子は既に死んでいるはず。が、埋められているであろう棺周辺がエーテルのようなもので包み込まれているのだ。まるでその躯を護るかのように。一体誰がやらかしたのか。自分の命を削ってまでそんな仕様を作るやつがいるわけがないだろう。

「―――アシエンの仕業か?」

 1人ボソリと呟く。いや、この護る結界の主を見る限りヤツだけではないだろう。そういうことにしておく方が隣の男のためだ。俺様を拘束するロープを持ったエルは眉をひそめ「お前も視たんだな」とため息を吐いている。

「これあの会社の人間たちに言ってるのか?」
「否。というか掘り返してどうなるかも分からない要素を伝えるわけがないだろ」

 絶対に会長クンが掘りだそうとすると肩をすくめている姿を見て「あー」ということしか出来ない。

「どうして妹だけがこんな目に遭わないといけなかったんだ。僕も一緒に背負いたかった。家族なのに、何で話してくれなかったんだよ、フレイヤ」

 座り込み、顔を伏せている。俺様はその隣に座り「わかんね」とため息を吐く。

「そういう星の下に生まれた子と判断するしかねぇだろ。相変わらずネガティブで泣き虫なのは変わらなくて安心したぜ?」
「うるさい」

 鼻を啜る音が聞こえる。予想だが彼らの前では涙を流す姿は一切見せてないのだろう。戻ってこないエルが心配だったのか、ネロがやって来るまで泣き続けていた。声が聞こえた瞬間に咳ばらいをし必死に涙を拭っていたのは少々面白かった。
 ネロとエルはどうやらしばらく一緒にフリーランスの技師として旅をした仲らしい。あの嫁以外の話題では冷淡だった男が少しだけ柔らかくなった姿に驚いた。親しいながらもお互いあまり踏み込まない"良き友人"関係がかつての恋人シェリーと重ね目を細めてしまう。



―――数十年の時が経過した。

 最初に会った人間たちは徐々に老け、死にゆく中全く姿の変わらない俺様とエルは陰で"理論"確立のサポートを行った。多少の物資調達や特に失ってはいけないシドとネロの護衛が俺様たち2人の仕事である。当人たちのご希望通り、研究に必要になるであろう知識は一切提供しなかった。エルは人知れず"肉"を喰いながら彼らの営みをただ少し遠くで見守っていた。時間が経つごとに協力者も増え、既に第八霊災が起こった原因もほぼ特定されている。正直数々の分野のエキスパート達が集まり何日も議論を重ねる姿は新鮮で、見ているだけで面白かった。そして予想通りであったが、彼らが導いた結論は"第八霊災回避のためにはやはりアンナが必要だ"、と。―――なんてこんなにも求められていることに密かに涙を流す姿を何度も見ることになる。素直に礼を言えばいいじゃないか。まあ言えるような人間じゃない位長い付き合いの中で知っている。この結論をきっかけにもっと人が集まってきたという事実が、ちゃんとアンナちゃんは胸を張って"人間"として生きられていたと目に見えて確認出来、すぐに彼女の墓の前で報告してやっていた。
 一方、そんなエルを見ていた俺様は、故郷の闇という"呪縛"が未だ解かれていないことも痛感した。折角追放という名のしがらみからの解放が、霊災というクソみたいな出来事により再び闇へ堕としてしまったとため息を吐く。

「なあネロくん。もしさ、もし過去が本当に改竄出来たらエルを救ってくれないだろうか」

 我慢出来なかった俺様はつい仮眠しているネロにボソリと呟いてしまう。皴くちゃになり、すっかり年老いた彼も眠る時間が増えた。シドだってそうだ。ずっとアンナちゃんを想いながらも涙を枯らし、研究のため羽根ペンを握り続けていて。新たな隠れ家の壁はネロと議論するために文字だらけだった。自分にもこんな時があったなと苦笑する。

「エルはな、本当は泣き虫で甘えん坊なんだがその甘え方を知らないんだぜ? 滅茶苦茶リンに懐いてアイツのために僕の長い時間の一部を捧げてやるって言ってたんだ」

 思い浮かんだのはリンを差し置いてエルとラザハンで議論していた頃の話。一番の年下だったはずが落ち着き大人びていたリンのことが俺様たちは好きだったのだ。

「そんなエルが今は自分の残された時間をお前さんのために使ってるんだってよ。妹のためじゃなくてな。知らなかっただろ?」
「―――知ってたぜ」
「おいおい起きてたのかよ残念だ」
「うるさいから起きちまったンだよ」

 やれやれとゆっくりと身体を起こすネロを支えてやる。少し嫌味ったらしなのは年を取っても変わらないねえと笑ってやるとケケと笑っていた。

「あいつ隠せてると思い込ンでるみたいだが何年一緒にいンだよってな」
「だよな」
「でも触るのが怖かったンだよ。あいつ下手な機械や女より繊細じゃねェか」
「分かる」
「俺だって分かってンだ全部罪をエルに擦り付けてたってな。アンナを暴力装置呼ばわりしてたやつらと一緒なことしちまって、バケモノとして生きてやがる」

 そうか、コイツはエルが何を喰って生きているかも気が付いていたようだ。まあ追及しても理論立て優先だろとのらりくらりと避けただろうし心の中に仕舞っておくのは正解である。

「おっとそれ以降の言葉はエルに言ってくれ。俺様は何も聞いちゃいねぇから」
「いつぞやに全て話せって言った人間のセリフとは思えねェな」
「聞かせろと言ったが俺様は懺悔マシーンじゃねぇんだよ」

 数十年もの間、人々の軌跡を聞き続けた。そして1つ、"面白いモノ"を作って渡した。花を模った金属片から使い物にならなくなったシャードを加工した光るお守りまで。―――彼らの思い出にまつわる象徴を贈ってやる。それは俺様なりのお礼ってやつだ。

「それともネロくんや、やっと自分の思い出話をしてくれる気になったか?」

 そう、未だに軌跡を聞けていない存在がいる。シドとネロだ。コイツらだけは決して口を割りゃしない。
 露骨に嫌そうな顔をした後、苦笑しながら肩をすくめた男は遂に口を開いた。

「俺は、ガレマルドの貧しい田舎で生まれた。恵まれたガーロンドとは全く違う環境で育ってよ―――」



 長い話だった。腐れ縁となったシドに対する長きにわたるコンプレックスとその払拭に、エルとの出会い。アンナちゃんはメスバブーンと呼びながらも妙に騒げるいい友人だったのだという。
 こりゃ今まで聞いた奴らの中では激動な人生で面白さは上位だ。手元にあった針金を弄り、少しだけ残していた白と金の塗料を塗りウサギを模したものを渡す。目を丸くしてそれを見つめていたネロに「話の礼だ。お守りとして持っとけ」とニィと笑ってやる。

「んじゃ近い内に終の棲家を決めてけよ、ネロくん」
「いきなり何言ってンだ」
「昨晩あの紙束を見せてもらった。予言してやるよ。―――おめでとう。お前らの研究はもうすぐ纏まる。最期の安住の地と墓の場所をシドくんと決めとけ。俺様とエルが絶対作り出してやるよ」

 歴史として残らないクローンからのささやかなご褒美さと言いながらその場を去ろうとすると「待て」とネロは口を開く。

「墓の場所は決めてンだよ。俺もガーロンドもな」
「そか。……嗚呼レヴナンツトール」
「クリスタルタワーがよく見える場所でって決めてンだ。若造たちの頑張りを眺めてェよなってよ」
「―――そう言うと思ったぜ。シドくんは確定だと思ってたけどお前さんもとは思わなかったぜヘヘヘ」

 起こして悪かったな、と小さな黒い塊を引き連れ外へ出た。いつの間にか"記録"のために入り込んでいたらしい。意思疎通は取れなかったが"これ"は何がしたいかは分かっていた。人間たちは現状の報告はコイツにし、過去の話はこっちへ。それが彼らにとってどういう意味を持っていたかは知る由はない。が、少しでも心が軽くなっていれば嬉しい。こんな陰鬱な滅びへ向かう世界を切り捨てるが如く巻き込み、"在るべき未来"へ繋ぐ。―――そんな彼らが2体は好きになっていた、のだろう多分。俺様はそうだがこの機械の塊はどう考えているか分からない。だって"これ"はそれに至るための感情が存在しないのだから。きっと理解するために未だ観測を続けているのだろう。外で待っていた黄色い生物を撫で、何もない空を見上げた。



「お前とアンナが持っていた気迫について聞いておきたい」

 全うに年齢を重ね皴だらけの手が俺様の腕を掴んだ。理論は完成し、あとは今後の人間に託す準備で"彼らの役目"が終わる。少しでも故郷に近い環境であり、モードゥナ近郊に位置するクルザス。そこで小さな家を構えシドとネロは暮らしている。現役を退いた今も伝説の機工師に会うためにとやって来る客の選別が俺様の仕事だ。エルは相変わらず物資調達役となっている。

「シハーブだっつってんだろ。……想いの力って概念、信じてっか?」
「想いの力、とは?」
「目には見えない、まあ普通だったら人の手では何も加えることが出来ないものだ。例えば―――火事場の馬鹿力という言葉は聞いたことあんだろ?」
「まあな。気合で何かをするってことか?」
「そうそう。それを目に見える形にし、力として行使出来ないかと聞いたのがリン。アイツ、ハーフガレアンでな。高名な呪術士だったママがやってたエーテル操作は不得意だし、パパみたいに鎌持って妖異と契約、っつーのも出来なかった。代替となる力が欲しいから旅をしてたっつーから俺様とエルで叶えてやったんだよ。代償はキツいものだったけどな」

 その力は人の身に余りすぎるもの。だがリン、それに加えアンナちゃんは使いこなすことが出来てしまった。いや、アンナちゃんとついでに俺様に関しては使えるように手を加えたのだが。

「怒りや悲しみが籠れば赤黒くなり、"大切な人と護るべきもの"への感情が強くなるほど青白く輝く。すげー綺麗なんだよ。そんな美しい刃がシハーブ」
「大切な、人」
「テメェはアレを目の当たりにしたんだろ? アンナちゃんは何やかんやちゃんと見てくれてたんだよ。リンの言いつけで大切な人を作らないように立ち回ってただろうにな」
「―――代償は何だったんだ?」
「ちょっと力を込めるだけでドン引きするほど怪力になり、そして人の感情に対して敏感になる。"俺様"も起きてから痛感したんだが自分への感情変化で首がゾワッて来るんだわ。もう鳥肌立つくらいにだぜ? かつてリンは複数人から悪意を持って近付かれたもんだから怖くなって逃げたんだよ。それが無名の旅人って名乗り始めた理由だ」

 アンナちゃんの行動も妙な時はあっただろ? と聞くと「確かに」とボソリと呟いた。

「あいつは一定の距離感以内に入ると首を押さえながら離れたりしていた」
「そのセンサーをかいくぐってテメェは懐に潜り込むことは出来たんだろ? いくら昔助けてくれた人だったとしても長い間相手になってたのはいい所まで行ってたな」
「―――初めて怖がらずに手を差し伸べられた相手だと、書かれていた」

 シドは机に置いていた分厚い本を手渡してくる。これは、意地でもこっちに見せなかった"アンナちゃんの手記"だ。

「まずその本はネロ、開くための鍵は俺が持っていた。"自分が死んだら開けろ"って、まるで自分が死ぬことが分かっていたかのように俺たち2人に託していたんだ」
「お前さんもやっと話してくれる気になったんだな」
「自分のことを話すというのは、恥ずかしくてな。忘れてしまう前に聞いて欲しい。俺は伝説の機工師なんかじゃない、ただの愚かな人間だ」

 本を開き、彼の話に耳を傾けた。素直で不器用な、恵まれていたが波乱万丈な人生を送った男のまっすぐな想いが込められたアンナちゃんとの思い出を聞く。



「俺様はお前が羨ましいや」
「何故、そう言える」

 嗚呼面白い話だったよチクショウ。聞いてるこっちが恥ずかしい程のロマンチストだとは思ってもみなかった。そしてこの本はアンナちゃんが生まれてから死ぬ少し前までの決して表に出さなかった感情が書かれた手記で。本当にこの子らはお互い惚れ込んでいながらも、感情よりも先に肉体関係を持って誰よりも幸せになって欲しいと勝手に願う大莫迦者達だった。下手したらリンよりも愚者だと俺様は思ったね。すれ違いの悲恋を聞いて涙が出そうだよ。そのご褒美はモノではなくお話をプレゼントしてやる。

「俺様が生きていた時代はな。今のような技術はロストテクノロジー―――要するに都市伝説で。だから評価してくれるやつなんて存在しなかった」

 ある遺跡で見つけた知識を利用し、モノを造り発表してもただの狂人扱いされ、ぐちゃぐちゃな自暴自棄になっていた頃。そんな時、後に恋人となるシェリーに出会う。

「シェリーはな、ニームの軍学を少しでも人に知ってもらうべく研究を行う学者だった。当時俺様もニーム文明が気になってたから色々調べ回ってた時でな。こりゃまたおもしれー女だったよ」

 これまでの自分の成果を見せると明るい表情を見せてくれた。小さな体に似合わぬ大きな希望と夢を引っ提げてたんだよな。そして俺とあの子は知識を共有し合い、更に研究に火が灯される。

「それまでの人生で俺様を評価してれたのがアイツだけだった。あの時は幸せだった。だがそんな日々は長くは続かない。遺跡の崩落事故で俺様を庇って瓦礫の下敷きさ」

 それからまた真っ暗な日々に逆戻り。腹いせに各地の遺跡を荒らし、重要そうなデータは全部いただいてやった。と、ゲラゲラ笑ってやると眉間に皴を寄せたシドが口を開く。

「そのせいでどれだけ数々の分野に迷惑をかけたと思っているんだ」
「知らねえよ。大体の人間が興味ないモンどう使ったってこっちの勝手だ。……それからシェリーの蘇生技術探すついでにある国の遺跡荒らしてやろって思ってな。壁剥がそうとしたところでエルと鉢合わせ。あっという間に拘束されてごめんなさいさせられた。その縁で興味深い技術の話を聞かせてもらう途中、リンがふらりと現れた」

 偶然の巡り合わせが今奇妙な縁に繋がるのが人生の面白い所だよなと笑ってやる。

「コイツらは莫迦だった。俺様が持っていた装置一つ取っても全部すげーって言うんだぜ? そりゃ調子にも乗る。学者たちもアレを作ってくれこれを直してくれってうるせぇ。とりあえずどんどん形にしてやったさ。装置の再調整とか、材料の保管場所に設置してる空調管理とかさ。初めて脳みそに詰まっていた知識をフル稼働させて。いつの間にかシェリーのことなんてどうでもよくなってた」
「―――それがレフたちとの出会いだったのか」
「そーだ。超天才な俺様と縁を持つことが出来た運のいい奴らのお話ってやつ。……で、だ。俺様とお前の違いだったな」

 分かるだろ? と聞いてやると軽く首を傾げている。恵まれた人間には難しすぎたみたいだ、苦笑して見せた。

「テメェにはネロっていう天才が並んで立っていた。競い合って洗練させていくという行為は技術の進歩に必要なものだ。そして沢山の部下に恵まれ色んな国からの信頼からの資金提供有りだろ? 俺様になかったものばっかで羨ましいったらありゃしない」

 俺様は既にあったものを組み合わせただけで何もすごくない。だからシドとネロの環境が羨ましく感じた。まあ資金に関しては性格が災いしていたのは自覚している。

「ナァ、本当に過去が改竄出来たらさ、アンナちゃんを救ってくれないか?」
「それはお前さんの最高傑作として完成させてくれってことか?」
「うーんそれもある。まあ罪悪感はあるんだよ多少はさ。そしてエルもきっと楽になると思う」

 この技術はエルもノリノリで作ったんだ。それもあって今もなお罪悪感真っ只中なんだよと言ってやるとシドは驚いた顔を見せる。

「リンだってアンナちゃんを追い詰めたかったわけじゃない。ただの事故からああなった。俺様ら3人は一生苦しみながら死ぬことになってるからさ。せめてアンナちゃ……じゃなかったお嬢だけでも助けてあげて欲しい」
「―――何度だって絶対にアンナを助けるし好きになるさ。レフだって何とかしてやるし、どうせ起床するだろうア・リスお前もだぞ。流石にリンドウは死んでるからどうにも出来んが。……ありがとな」
「何で感謝されなきゃいけねぇんだ」
「だってお前さんだって今まで俺たちに自分の話をしなかっただろ? 仲間として認めてもらえて嬉しいんだ」

 うわあこの人タラシという言葉を飲み込みニィと笑ってやる。

「テメェがいい話をしてくれたからご褒美としてあげただけだ。勘違いすんなよ? お嬢が最高傑作として完成したら、この複製体の俺様はもっと自由に走り回る予定だったんだよ。ケケッ」
「第八霊災を防げたら次はお前さんが暗躍しだすと? 冗談はやめてくれ。別の世界の俺が絶対捕まえてレフの前に突き出してやる」

 シドはため息を吐き「喋りすぎた」と寝そべった。俺様は「おうすまん」と笑いながらその布団をかけ直してやる。アンナちゃんの手記を再びテーブルに置き、またいつの間にか現れていたオメガの模型を抱き上げ立ち去った。



―――それから2人の"シド"によって自分らが作り出した"理論"を2代目ガーロンド・アイアンワークス社会長らに"継承"し、その生涯を終えた。これから確立されるかは彼ら次第。協力してやろうか、とイタズラな笑みを見せてやるとシドと同じく「命尽きるまで見守っていて欲しい」と言われた。そういう所が俺様は気に入っていたからよかったぜ。もう表舞台に立てるような存在じゃないからな。
 彼らの墓は勿論クリスタルタワーがよく見えるレヴナンツトールの近郊に作られた。あのエオルゼアの英雄と呼ばれた女の隣だ。これからの人間たちの旅路を、仲良く見守っていればいい。"アイツ"もついでにとまとめて護ってくれるさ。絶対に気に入ってるだろう。
 俺様はどうするかだって? ―――複製体にだって寿命はある。延命させる技術は流石にエーテルが弱り切った現在、1人で成しえることは不可能だった。

「エル、すまねぇな。お前の死に目まで一緒にいられなくて」
「君の元になった存在は既に人生を閉じてるだろ」
「ケケッそうだったな」
「本当はあの墓を護ってたヤツの件も僕のために隠してたんだろ? 分かってんだよ」

 エルは動かなくなってきた俺様の身体を抱き上げ、とある底の見えない崖の上に立っている。嗚呼コイツを1人にしてしまうのかと思うと憐れみしか湧かない。

「お前の左目、治したかったな」
「……気持ちだけで嬉しい」

 エルの目は、昔故郷に安置されていた"聖石"に触れてしまったことで変容してしまっていた。"視えてはいけないもの"まで映り、その副作用で頭痛が発生し続ける一種の不治の病。それを何とかするのも元の俺様が複製体を作ってまで探ろうと決心した動機の一つである。第八霊災で全ての予定が崩れ、結局何も出来ず時間だけ過ぎてしまった。それを放置して、この世を去ることが一番の心残りである。もしも、もしもだ。本当に歴史を改竄出来るのなら、俺様は―――。いやそれを言うのは野暮だろう。心の奥にしまっておく。ふとエルはボソリと呟いた。

「アリス、複製体のお前も死んだら冥府に行けるのか?」
「知るか。……今も頑張ってるリンの代わりに行ってやってもいいかもしれんな。―――精々死ぬまで奴らを見守ってやってくれ。達者でな、エルファー・レフ・ジルダ(可愛い血の繋がらない弟)
「元からそういうつもりだ……おやすみ、ア・リス・ティア(バカ兄貴)
「ケケッ。こんな俺様のために泣くな莫迦」

 それからエルは俺様を投げ捨てた。嗚呼、嗚咽を漏らし涙が溢れだしているのが見える。薄れゆく意識の中、彼らの理論が確立されてもこの世界が回り続けるよう祈りながら。造られた俺様の、その生涯を終えた。


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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

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注意・補足漆黒.3後付き合ってからの星芒祭話導入。蒼天星芒祭編の数年後。シド少年…

漆黒

#シド光♀ #季節イベント

漆黒

星降る夜に誓いを乗せて~導入~
注意・補足
漆黒.3後付き合ってからの星芒祭話導入。蒼天星芒祭編の数年後。シド少年時代捏造。
あくまでも導入編なので後日フルバージョンがアップされます。
 
「アンナ、そういやもうすぐ星芒祭が来るな」
「そうだね」

 料理から目を離さず、シドの言葉にアンナは相槌を打った。
 風が冷たくなり始めた頃、所謂恋人関係になってから初めての冬。久々にトップマストの一室にて休日を過ごしていた。シドは壁に掛けられたカレンダーを見上げ、冒頭の言葉をつぶやく。

「何か欲しいものとかあるか?」
「いきなりどうしたのそんなこと言って」

 苦笑しながら鍋を見つめている。シドは「決まってるだろ」と言葉を続ける。

「折角こうやって隣にいられる関係になれたんだ。何か渡そうと思ってな。またプレゼント交換というのも悪くないが、素直に欲しいものを聞いた方がいいだろ? いらんと思われるものを渡したくないんだ」
「んー……私はシドなら何をくれても嬉しいけど?」

 アンナは手を止め、シドの方へ振り向いた。いやそうじゃなくてな、とジトリとした目で見る。するとシドが予想もしていなかった言葉が返って来る。

「キミの休日」

 目を丸くし、それはどういうと問う。アンナは「そんなに難しいこと言った?」と首を傾げた。

「だって私たち基本的に作戦中しかまあまあな時間一緒にいないじゃない。時々はさ、誰の邪魔なく纏まった休日を一緒に過ごすというのも悪くない提案でしょ? モノと言ったら違うかもしれないけどさ」
「む、そう言われたら有りかもしれん。……流石に星芒祭のシーズンは色々忙しい。まとまった休みは取れないからだいぶ前倒しになるぞ?」
「私は大丈夫」

 次第に顔が高揚していくシドの姿を見てアンナはニコリと笑い、再び鍋の中へと視線を戻す。
 今日はいい肉を手に入れたのでビーフシチューを煮込んでいる。アンナはシチューの類が好きだ。特にシドと食べるという行為が格別なのだが、本人が知ると調子に乗るのが分かっているので教えていない。

「で、シドは何が欲しい? 私だけ聞いておいて自分は教えないなんてないよね?」
「考えてはいたんだがアンナの言葉で吹っ飛んじまった。ちょっと待っててくれ」

 シドが考え込んでいる姿を見てアンナは苦笑した。鍋の蓋を閉じ、エプロンを脱ぎながら傍へと歩み寄る。
 ふと何かを思いついたのか手をポンと叩いた。アンナは少しだけ嫌な予感がよぎる。その仕草は碌なことにならないことしか考えていない時のやつだ。実際首元がざわついて来る。これは、ダメなヤツだとアンナは一歩後ずさった。

「髪をあ」
「やだ」

 即答。シドはそれでもめげずに言葉を続ける。

「赤」
「絶対やだ」
「どうしてきちんと人の話を聞かず断るんだ」
「碌なことにならない提案が聞こえたからだけど?」

 アンナは食い気味に断りながら威嚇している。それに対しシドも眉間に皴を寄せながら対抗する。

「いやそんなことはない。ほらちゃんと全文聞いてから判断しても遅くないだろ。頼むからちゃんと喋らせてくれ」
「うぐ……じゃあ分かったよ聞くだけ聞いてあげるよ言ってごらん」

 真剣な目。アンナはそれに一番弱い。肩を落とし、嫌々許可を与えるとシドは明るい顔をして言い放った。

「髪を赤く染めて来てくれないか?」
「ぜーったいにお断り!」

 ほらまともな要求じゃない、アンナは盛大にため息を吐いた。



 赤髪。それは出会いまで遡る。寒空の夜、白色の少年は性別不詳の凍死しかけていた赤髪のヴィエラを見つけ、助けた。温かいシチューを手渡し、少しだけ熱が灯ったヴィエラは旅人だと名乗る。そして、少年の話を聞いた後、"次はキミがボクを捕まえてごらん。キミの夢である空へ運ぶ船を造る全てを護ってあげるから"と約束し去る。その白色の少年こそがシドであり、赤髪のヴィエラこそがアンナだった。
 以前の星芒祭で「会いたい人がいる」と溢したシドの想いを汲み、グリダニアで一晩の奇跡を起こしたように見せた。きっと不意にそれを思い出したのだろう。

 アンナは腕組みをしながらシドを睨むと、凄く寂しそうな顔をしていた。徐々にしょぼくれていく顔に肩を落とし、まるで雨に打たれて尾を垂れた野良犬のように哀愁が漂っている。アンナは言葉を詰まらせ、「ああ分かった! 理由要求!」と投げやりに言ってやるとシドは満面な笑顔を見せた。

「前の星芒祭では見せてくれたじゃないか。俺はあの時確かに"会いたい人がいる"と言ったが、行き倒れていた旅人のこととは一言も言わんかったぞ?」
「うぐ」
「街全体で俺を騙して気合入れてくれたじゃないか」
「いやあの件は本当に悪かったって」
「もう一度見たい。ダメか?」

 その言葉にアンナは必死に目を逸らす。

「ちゃんと最高なプレゼントの準備してくる」

 シドは優しく手を取り、何も言わずアンナを見る。そしてしばらく沈黙が流れた。
 その沈黙に耐え切れず、アンナは遂に口を開く。

「あーもー! いつにするか決まり次第予定を教えて! あと期待しないで!」

 シドは楽しみだ、そう言いながら頭の中でアンナを驚かせるための策を練り始めた。
 それに対しアンナは過去の自分の行いを呪う。どうしてこうなった、片手で顔を覆った。


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#シド光♀ #季節イベント

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補足新生メインクエスト"魔導兵器のみる夢"後のシド光♀。まだ…

新生

#シド光♀ #即興SS

新生

旅人は魔導兵器を識りたい
補足
新生メインクエスト"魔導兵器のみる夢"後のシド光♀。まだ何も意識し合ってない頃。
 
 ミンフィリア救出作戦の一環で魔導アーマーを鹵獲した。修理・整備を終わらせ、試運転中に異変に気付いたのか帝国兵が飛んで来る。まあ冒険者と一緒に即蹴散らし、その後無事起動することを確認できた。
 最終調整を行うためビッグスとウェッジが魔導アーマーを整備用拠点へと連れて行く所を見送る。そして、いつの間にか隣からいなくなっていた冒険者である黒髪のヴィエラを探すため、周りを見回した。見つけた。先程まで戦闘していた場所で座り込んでいる。

「アンナ、何をやってるんだ?」
「研究」

 魔導兵器をじっと睨みながらノートを取り出す。首を傾げながら覗き込むと、細かな文字と魔導アーマーのスケッチが描かれていた。今は先程破壊した重装型について書き留めている。文字は異国の言語でよく分からない。何処の言葉なのかと聞くと「ひんがしの方の」とだけ溢した。

「かつて私に戦闘を教えてくれた人が昔いたんだけど。この魔導アーマーたちに関しては何も教えてくれなかったの。仕方ないのは分かってるけどね」
「それで、研究と?」

 機体に触れ、中を覗き、何かを記していく。俺は隣に座りそれを眺めた。アンナは苦笑しながらこちらを見ている。

「先に戻ってもいいんだよ。これは私個人がやりたいこと」
「まあいいじゃないか。それに俺はこう見えてこいつらを設計する側に立つ予定だったんだ。目視だけじゃ分からんことやら色々教えてやってもいいぜ」
「―――じゃあ質問なんだけど」

 最初に聞かれたのは"コアの位置"。次に"無人兵器の場合、どこを殴れば信号を打ち止められるのか"。"砲塔に使われた金属の強度"、"センサーの位置"、"ビーム装填中に砲塔詰まらせたら暴発してどの位の範囲影響あるのか"―――確実に破壊するための手順を聞いて来る。実際のスクラップを指さしながら分かる範囲のものは教えた。

「勉強熱心なんだな」
「戦う上で苦手なものが存在すると致命的なミスに繋がることがあるからね。んーやっぱり本職の人に聞くのが一番楽しいかも」
「お前さえよかったら工房にいくつか設計図が持ち込まれてたはずだ。読んでみないか?」
「いいの? こんな怪しい旅人にポンポン大切なモノ見せちゃだめだよ」

 横から頬を抓り引っ張ってやる。

「俺たちは同じ敵を持った仲間じゃないか。打倒帝国とかいう少しでも大きすぎる目標を持ってんだ。達成する確率を上げるために賭けをするのも悪くないだろ?」
「ホー。そういうものなのかしら?」
「それに真剣な顔して色々聞くお前を見てると何か楽しくなってきてな。よかったら一緒に考えてみないか? 俺も何かいい対策が浮かぶかもしれん」

 アンナは目を見開きこちらを一瞬見たと思ったら即後ろを向く。名前を呼ぶと少しだけ肩が跳ね、ポソリと呟いた。

「―――レヴナンツトールに戻りましょ。いっぱい聞くから覚悟して」
「! ああ。対策会議をしよう」

 その言葉にアンナは振り向き立ち上がる。そしていつもの笑顔でこちらに手を差し伸べた。俺はその手を取りニィと笑う。引っ張り上げられ、そのまま前へとエスコートされた。

 まあこの時の俺はアンナが一瞬そっぽを向いた理由に気付けなかった。そう、あいつは思考が一瞬フリーズし、感情を処理できず真顔になっていたのだ。悟られないようそっぽを向いたと色々見てきた今なら判断できる。すぐに察せていれば、もっと違う道程を辿れたかもしれないと思うと悔しい所があった。



 その後。隠れ工房にて俺たち2人で魔導兵器について語り合う。基本的にアンナは相槌を打ち、気になった部分を質問していただけだった。が、時々顔を見ると真剣な顔で目の前の魔導アーマーと睨み合っていた。その顔が兎に角良いもので見惚れてしまう。―――まあ視線にすぐに気付き、いつもの笑顔で首を傾げながらこちらの顔を見た。そうやって気が付いたら一晩徹夜していたらしい。いつの間にか邪魔しないように外に出ていたビックスとウェッジが戻り、少しだけ呆れたような顔をしてこちらを見ていた。


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#シド光♀ #即興SS

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補足Lv39メインクエスト前後のお話。  「アルフィノ、大丈夫?」「あ…

新生

#即興SS

新生

"召し上がれ"
補足
Lv39メインクエスト前後のお話。
 
「アルフィノ、大丈夫?」
「あ、ああサリスか。大した事はないよ」

 白い息を吐きながら少年ははにかんだ。



 クルザス、ホワイトブリム前哨地。ボクたちは今、シド・ガーロンドが造ったと言われる"エンタープライズ"を探す手がかりがこの地にあるという情報を掴み、やって来た。余所者お断りの気候と同じく冷たい人間たちの扱いに困りながら、人助けをしている。まあその人助けも異端審問官が邪魔をして大して実ってないわけだが。
 記憶を失った男シドも自分が出来ることを探し、装置を修理している。しかし、ザナラーンで潜んでいたボクたちを見つけ出しここまで連れてきた少年アルフィノは地道な活動が苦手らしい。外で何やら考えことをしていた。

 見ていると非常に寒そうである。特に腹を冷やしそうでボクはそわそわしていた。見かねてつい旅用のマントを羽織らせる。

「いいのかい?」
「まあ少しは慣れてるからね。それにしても―――シドの方が寒そうなのに。無茶しちゃだめだよ?」
「確かにシドは見てるこっちが寒くなるがね……」

 薄い布のように見える半袖。アルフィノの言う通りとても寒いと思われる格好だ。本人はどうも思ってなさそうだが。

「ガレマール帝国はとても寒い土地にある国だしね。これ位誤差なんでしょ」
「ふふっそうかもしれないね」
「お前たち何を話してると思ったら……」

 いつの間にか苦笑しながらシドが立っていた。ボクとアルフィノは笑顔を見せる。

「ほらアルフィノ、噂をすれば寒そうな人だよ」
「サリスからマントを預かってるが―――もしかしたらこれは君が羽織ってる方がいいかもしれないね」
「お、俺は大丈夫だ。アルフィノ、風邪を引いたら大変だ。それで温まるといい」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」

 苦笑する彼らを見て、ボクは少し考える。そしてふと過去の記憶が浮かび上がった。

『温かい―――』

 食材は、ある。調理道具もある。じゃあちょっと火を借りたら行けそうか。

「アルフィノ、ちょっと待っててね」

 彼らの言葉を聞く前に砦へ走り去る。頑張って再現出来るようになったモノを、差し上げよう。



「サリス。これは……いいのかい?」
「ちゃんと食べないと身体が冷えていつまでも温まらないよ」

 思い付いた時は煮込む工程を忘れていた。おかげさまで思ったより完成まで時間がかかってしまった。マントにくるまったアルフィノは目を丸くし、ボクが手渡したカップを両手で持っている。年相応って感じで可愛いね。
 湯気が立ち、肉と切った野菜が白くとろみのある汁の中に沈んでいる。これがなかなか当時作ろうとしたけど難しくて苦戦したっけ。理由は簡単。どうしてもあの夜に食べた味にならなかったから。いや味自体は作れるようになった。温かく、自分の身体の芯に火が灯されたあの感覚を得ることが出来ない。

「これは―――シチューか?」
「うん。シドも食べる?」
「丁度腹が減ってきてた。貰えるか?」
「そう」

 シドにも渡し、ボクはニコニコと2人が食べている所を見守る。

「美味しい。サリス、とっても美味しいよ」
「ああ。お前はどんな料理も出来るんだな」
「ふふっ。長く旅をしていたらね、料理の1つや2つ出来るようになるよ」

 満面の笑顔。よかった。もし美味しくないと言われたらどうしようかと。

「ああ。それに、どこか懐かしい味がするんだ」

 シドはカップの中身をじっと見つめ、目を細めた。―――まあそうでしょうね。

「あなたがガレマール帝国出身の方なら、そうかもしれないわね」

 じゃあ片付けするから、と踵を返し歩を進める。「どういうことだ、サリス」という声が聞こえたが何も言わず手を振った。

 嗚呼。別に、どんな顔されてるか見たくないからじゃないよ。いつまでもボクの鍋を置きっぱなしにしてるのは失礼だなって思っただけなんだから。
―――シドが記憶を取り戻したら、飛空艇を夢見た真っ白な機工師がいなかったか聞いてみようかな。意味はないけど。



 あの時ボクを助けた白色の少年。今どこで、何をしているのかな。ボクを探す飛空艇は作れたのだろうか。いや、キミの故郷は今こうやって急激に勢力を広げてる。だから、恐ろしい兵器を造ってるのかもしれない。
 もしかしたら、敵として会ってしまうかも。ちょっとだけ怖いな。だから、なるべく出会わないことを祈ってるよ。
 ボクは旅人。それ以上でもそれ以下でもない。誰のモノにもならないし、誰かを愛することもない。
 忘れてくれてたら、嬉しいな。


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#即興SS

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 嗚呼、キミは。どうして現れてしまったんだ。白く綺麗なお星さま、どうかボクに気付…

メモ,新生

#謎メモ

メモ,新生

謎のメモ(新生3)
 嗚呼、キミは。どうして現れてしまったんだ。白く綺麗なお星さま、どうかボクに気付きませんように。



 黒渦団にタイタン討伐の報告後、ミンフィリアからリンクパール通信が来る。報告しに帰ろう。
 ベスパーベイ、砂の家。あれ? 受付嬢のタタルがいない。ミンフィリアとお喋り中?
 いや違う。静かすぎる。意を決して扉を開く。正面には―――死体。まさか。暁の血盟メンバーだけじゃない。帝国兵の死体まで。これは。暁の間に入る。

 シルフのノラクシアが、倒れていた。ウリエンジェも、タタルも、ビッグスやウェッジ、ミンフィリアまでいない。
 嗚呼記憶が流れ込んでくる。

 帝国兵。そして白色の鎧の女。ボクが目的。まさか―――偽装に失敗したのか? イフリートとタイタンを倒したから。余計なことを。そんな。

 ノラクシアが伝えたかった伝言。東ザナラーン、聖アダマ・ランダマ教会。イフリートの時に世話になった教会か。そこでしばらく身を隠せと。
 キミのような小さな子が、あんな奴らに勝てるわけがないでしょ。どうして。ボクがそこにいたら―――いや考えるのはよそう。連れて行かれたくない。あのボケた爺の駒になんて、なりたくないんだから。

「みんなを……助け……て……」

 そう言い残し、ノラクシアは事切れた。

「ええ、分かった。策を、練って、そして―――」

 助けてあげる。ボクがいないとあっさりと連れて行かれてしまった愚かな弱き人らを、絶対に。
 その鎧、覚えたからな。最も醜く、煽り嬲って殺してやる。
 もう何も考えたくない。フードを深く被り、ザナラーンを奔る。



 "のばら"、その合言葉を伝える。ボクはイリュドに砂の家で起こったことを説明した。
 神父イリュドはミンフィリアとは古くから知り合いだったらしい。暁の血盟のメンバーという顔も持っていたみたい。
 とにかく考える時間が欲しかった。お言葉に甘え、しばらく滞在することにする。

 次の日、頭をリセットさせるために教会の皆からのお願いを聞くついでにイリュドのお使いもこなす。死体が持っていた時計をマルケズが修理したいんだって。先細のタガネと小さなヤットコを受け取り、渡してやる。
 驚いた。修理された時計はとても繊細なもので。その大きな手でそんな小さな時計を修理できるのか。案内された部屋がどこか忘れてしまったので、野宿をしながら考える。

 目が覚め、エルネドが手伝い手が欲しいと聞いたので尋ねる。ベスパーベイの、死体回収、ねぇ。
 嗚呼ノラクシア、何て軽い。こうやって抱き上げて、初めて種族の違いを体感する。もっと遊んであげたかったかも。一緒にイタズラしたかったな。まあ後悔してももう遅いが。あーもー折角一晩で思考をリセットしたのに。死体回収は終わり。教会へ戻る。

 ため息を吐いているとマルケズと目が合う。「何か困ったことでもあったのか?」と聞かれたので「てっきりベスパーベイで死体の回収を行うのはあなたかと思ってたんですって」と言ってやると申し訳なさそうにしょんぼりとした顔を見せた。

「気にしてないよ。そんな顔しないで」
「いや大丈夫だ。―――ありがとう」

 そっぽを向き、去って行った。少しだけ心が落ち着いた気がする。ノラクシアの亡骸を持って、黒衣森へ向かった。

「ノラクシアは最後まで立派だったのでぶっち?」

 ボクは何も言わず、頷く。長ちゃまが何かあった時は、手伝ってくれるって。エオルゼアのことはエオルゼアの人が解決するものだ。最高な提案だと思うよ? ボクは―――最後まで、見届けられたらいいな。



 夜遅くなったので野宿。ふむ、少し周辺が臭う。少しだけ陰に移動し、目を閉じた。
 次の日、マルケズも視線に気付いたらしく、見てきてほしいと言われた。墓地を見回すと、ビンゴ。密偵だ。殴り倒す。まさかもうバレてしまったのか?
 マルケズの見立てではボクではなく自分の方じゃないかという。確かにキミが持っている技術を考えると何かあってもおかしくないかもね。もう少しだけ見回りして、せめてその陰気な雰囲気が際立たないよう頑張ってみようじゃないか。



―――暗闇は、嫌い。真実を隠し、私を狂わせるから。何も見えない闇が私をあざ笑う。そんな声が聞こえる。空を見上げ、星へと手を伸ばす。その手を掴んだのは、温かく大きな手。目に星を宿した、ヒゲが似合う男の人。少しだけ、笑みがこぼれた。

 夜、ボクはマルケズと空を見た。どこで帝国兵が見てるかも分からないのに。莫迦な子だ。そして改めて部屋の位置を教えてもらい、久々に寝台で眠った。
 スッキリとした目醒め。飯を振舞い、手伝いをした夕方。昨日あったことをイリュドに報告し、帝国対策を考えようとした時、扉が開いた。

 アルフィノ少年だった。どうやらボクと、マルケズを探してたみたい。いや、彼は"シド会長"らしい。成程、色々考えていた仮説の説明はつく。

 イクサル族が蛮神を召喚したらしい。好戦的で凶暴な存在が今暴れているのだとか。
 休息は取れた。必要とされている力を、振るってやろうじゃない。
 シドとやらの記憶も戻るかもしれないし、色々試してみる価値はあるだろう。北部森林へ。

 ふむ。やはりクルザスに行かないといけないみたい。寒い地で聞き込みを行おうとするがやはり噂通り余所者に厳しい。まあ旅をしてりゃ慣れてる扱いだ。とりあえず人探しから始めるとしよう。
 何と言うか内輪揉めみたいなことをずっと続けてる人たちなんだねえここの人たち。滞在許可はくれているだけ優しいと思っておくが―――。とりあえずこの辺りで偉い四大名家のデュランデル家以外の人間らにも会ってみたい。紹介してもらおう。

 襲撃された荷運び人の荷物を救出し、手渡すと厄介なことに巻き込まれる。四大貴族の内の1家が異端者と繋がっている疑いがあるという。どうやらそこに紹介される予定だったらしいが思わぬトラブルだ。近くにいた元使用人によるとそういう人間ではないとのことらしいが―――直接聞いてみるしかない。アインハルト家のフランセルの元に行くとまあ否定するよね。話した感じ性格的にも異端者と繋がってるようには見えない。自分の代わりにとフォルタン家のオルシュファンという人間を紹介してもらえた。

 流石にあらぬ疑いをかけられた人間は見ていて可哀想なので何とか、助けてあげられればいいが。



 何て熱い人なんだ。この地の雪を溶かしそうなほど燃え上がった若者にボクは驚く。

 キャンプドラゴンヘッドに辿り着く。そこで出迎えた男はオルシュファンというフォルタン家の人間。えらく熱い歓迎を受けた。確かに他の貴族に比べたら余所者に優しい。彼の名前を利用して情報集めをする。
 異端者を疑われた人間は審問官に連れて行かれ谷底に落とされるらしい。じゃああのフランセルというお坊ちゃんも―――うーん放ってはおけないな。どうやらお坊ちゃんだけでなく複数人疑いがあるらしくてんやわんやみたいだ。
 気になるのは新しい異端審問官か? 着任してから異端者がいっぱい見つかってるとか。仕事熱心か、それとも―――。まあそこまで考えてあげる義理はないか。こいつを何とか出来ればデュランデル家も話を聞いてくれるのかな。
 情報収集はぱっとしない。その間にフランセルがストーンヴィジルがドラゴン狩りへ行った話を聞く。オルシュファンはそんな情報を持ってない、と。はて。嫌な予感がするので見に行ってほしいと言われる。言われなくともそうするつもりさ。
 身の潔白のために真偽不明の情報に飛びついた、と。嗚呼なんて可哀想な人。オルシュファンに報告しに帰る。飛空艇の情報も掴めそうだったがフランセルの身の潔白を晴らさない限りは手に入れることは出来なさそうだ。面倒だが動くしかない。
 荷運び人を追えばアインハルト家宛の荷物全部に疑いの目を向けるための装飾品が入っていた。適当すぎる。そんなのに嵌められて谷に落とされるのは流石に哀れだ。止めに行く。

 異端審問官ギイェーム殿が連れてた騎士が異端者の装飾品を持っていた。一先ず審判は中止、帰ってもらう。捨て台詞が心地いい。
 飛空艇の情報もゲットする。ストーンヴィジルと呼ばれる要塞に堕ちたのだという。そしてそこの持ち主は―――デュランデル家。面倒だなあ! オルシュファンとフランセルの紹介状を持ってホワイトブリム前哨地へ。たらい回しにされながらドリユモンとやらの元へ行くがまたギイェーム殿だよ。別に気にしてないけど殴り倒すチャンス来ないかな。



 記憶は無くとも、機転と技術は腕に刻み込まれている。やっぱりこうやって装置を触っている方が楽しそうにするのが彼の本質なのだろう。そういう意味では本当に噂のシドと言われる存在みたい。
 しかし、異端審問官邪魔だなぁ。俺たちに恨みがあるのか、という言葉に少しピンと来る。そういえば砦の奪還も手をこまねいているみたいだし彼の動き方はまるで―――。とりあえず聞き込みを行おう。地道な手伝いが性に合わない彼のために、ね?
 キミよりシドの方が寒そうだけどそれはまああの寒い国出身かの違いだろう。さあ作戦会議だ。

 吹雪の夜に東門側、か。それに加えおあつらえ向きの崖と。下りてみると―――ビンゴ。奴の凍死体だ。殴れないのが残念だが、まあこのギイェームが犯人"では"ないことは分かったから十分だろう。ドラゴンの骨の近くに落ちているのが見てていやーな予感がする。血塗られた任命状を持ってアルフィノの元へ行く。

 殺しの現場を下っ端に見られたのは好都合か、残念か。ずさんな犯行手口でも顎で使い、信じ込まされるのは流石異端審問官様という肩書だ。証拠をドリユモンに突き付け、これ以上無罪な人間を殺させないためスノークローク大氷壁へ。
 やはり目的は4大名家のバランスを崩し人間同士の争いを増やす事か。なんと言うかイシュガルドの根は深そうだ。しかし外の人間を巻き込んだのが悪いね。素直に飛空艇を渡してたら、あなたの悪事はバレなかっただろうに。

 霊災の直前、ドリユモンをはじめとするデュランデル家の人間はエンタープライズを発見したらしい。そうして整備と保管の為、ストーンヴィジル砦の中に格納していたのだとか。だが、ドラゴンが飛来し、そこがねぐらになってしまったのだという。まあ困ってるみたいだし船を手に入れるついでに砦を取り戻そうか。



 エンタープライズはゆっくりと飛ぶ。応急処置で済んでよかった。途中、アシエンがドラゴンを起こしてしまったが、幻具を持って応戦する。グリダニアに着陸させ、次は本格的にガルーダ討伐の準備だ。

 "風属性を火属性に変換する偏属性クリスタル"、か。確かに暴風の中大爆走するなら風を火に変換するのが一番いい。彼らが修理を行う間、ボクはそれを探しに行くとしよう。

 まずはザナラーンへ。ラルベンタン先生とやらに会いに行く。東ザナラーンのバーニングウォールの偏属性クリスタルを採掘したが、どうやらそれは"土属性を火属性に変換する"モノだったらしい。そう上手くはいかないか。ならば別の場所にあるかもしれない"風属性を土属性に変換する"モノを探せばいいじゃない、と。なるほど、しらみつぶしに探しに行くのも有りか。幻影諸島と呼ばれるラノシアの島にもクリスタルがあるらしいので行ってみよう。

 何だい何だい次は幽霊騒動で欠航中か。欲しいものにはまだほど遠いようだ。トホホ。
 灯台守がいるという場所を探したら牢屋の中。そして狂い切っている。歌、か。海、歌、これはいやーな予感。
 重い足を引き摺って幻影諸島へ行ってみれば魔物討伐依頼。霊災の影響で潮の流れが変わり、船の墓場になったとか。歌声で虜にし、精気を吸い取り死霊化させる魔物の仕業。こんな所で"また"会ってしまうとはねぇ―――。
 嗚呼あの記憶の存在だ。だけど昔のボクとは、違うよ。耳栓も持ってるしね。追い払ってやった。
 そうしてクリスタルを分けてもらってきたが、まあここは海だ。"風属性を水属性に変換する"モノだった。次は"水属性を土属性に変換する"ものを探せばいい。ランベルタンが教える3人目の生徒がグリダニアにいるらしいので会いに行く。

 中央森林にある枯骨の森に偏属性クリスタルの塊があり、それは大食いスプリガンが殆ど食べちゃったらしい。まあそれ自体はすぐに終わるだろう。妙な事件に巻き込まれるよりかはマシだ。
 うえぇヨダレだらけ。まあこのまま壺に突っ込もう。生徒の元に持って行き、取り出してもらう。こうして無事手に入った。シドの元へ。

 3属性を直列に繋ぎ、変換させる。そんなもんポンポンと作れるもんなんだね。びっくり。"作業に没頭していると、何故か心が浮き立つ"か―――。シドって男は仕事人間?

「エンタープライズ、発進!」

 こういう時に出す言葉といえば。"ヨーソロー"、船乗りの掛け声だってフウガから聞いたことがある。口には出さない。そうしてボクらは、空を飛んだ。



 シドが、記憶を思い出した。そしてボクも、気付いてしまった。超える力でこの男の記憶の一部を覗き、あの少年の夢を見てしまう。なんてこった。そんな偶然が重なるの? 覚えてないようだし、悟られないよう立ち回るか。

 暴風域を越え、ガルーダを殴る。確かにこの風は癒すのが厄介だ。一番凶暴と言われるだけある。
 強まった光の加護で、ガルーダが弱った。これで倒せると思った時だった。
 甲冑の男が現れる。弱ったガルーダを煽り、そしてタイタンとイフリートを無理矢理捕まえた他種族の奴らから召喚しやがった。こんなの無理だ。流石に逃げる。
 その時だった。シドがガイウスと呼んだ鎧野郎は空から機械兵器を投入した。蛮神を喰らい、力とする。これは―――アラグか。遠い昔、そんな超技術があったなんて聞いたことがある。そこまでしてエオルゼアを手に入れたいのか、あの爺は。

 次殴る目標はあの大きな兵器ということで、アルフィノの要望通り砂の家へ向かう。
 不思議と片付いた廊下を抜け、暁の間に入るとイダがいた。無事だったんだ。
 どうやらヤ・シュトラも無事らしい。今は情報収集をしているとか。これだけ戦力があれば大丈夫だろう。
 そしてガイウスの目的はボク―――の持っている"超える力"。なぁんだ。気付かれたわけじゃなかったのか。怯えて損した。タイミングよくここで一休みできるらしい。少しだけ座り込んだ。

 夢を見た。星の意思"ハイデリン"が、ボクに語り掛けて来る。だが要領を得ないふわふわとした言葉で、どうすればいいのやら。どうしてこんな力を、ボクが得てしまったんだろうね。
 物音に反応し、目が覚める。ヤ・シュトラが情報を持って帰って来た。どうやらポルトゥレーンが帝国の情報集めもしているらしい。話を聞きに行く。

 その途中に戦歌とは何か、ジュアンテルの歌声を聞きながら考える。歌というものはやはりあまり理解する気はない。だが、人を勇気付け、希望を与える。ただ弓を射るだけなら、その辺りの賊でも出来ることだ。仲間を大切にしてるように見せるため、必要な行為だろう。覚えておく。

 どうやらクルザスに飛空艇が不時着したらしい。ルガディンとララフェルのガーロンド・アイアンワークス社の制服を着た人間の目撃情報。ビッグスとウェッジが隙を見て帝国飛空艇から逃げ出したって所か。
 シド、そんな必死に頼まなくても助けるに決まってるでしょう? だってボクは―――。いいや、これは一時的に協力するだけ。余計なことは、考えなくてもいい。

 小さな足跡を辿った先で、ウェッジを見つけた。ビッグスは帝国兵の気を引くために別方向へ逃げたらしい。現地の人間から逃げそうな場所を聞きながら巨石の丘へ向かうと―――ビンゴ。帝国兵に囲まれているビッグスを発見。斧で蹴散らす。体力的に考えてあまり悠長に回復してる暇はない。

 こうして2人は無事シドと再会できた。見るからに喜んでてこっちが嬉しくなるね。再会を喜ぶ間もなく次は暁を救うんだなんて―――キミは切り替えが早い人間だ。



 戦士の強さとは、痛くて苦しくても逃げずに己の弱さに立ち向かう心の強さ。そしてその強さにありつくために、ボクを目標とする―――。青いが悪くない結論だ。自分の場合は何も考えないようにしてるだけだが、言う必要はないだろう。

 蛮族の中でもやはり色々な派閥があるらしい。シルフ族にテンパード化した"悪い子"がいたように、アマルジャ族、サハギン族、コボルド族にも普通の人間では分からないであろうややこしい事情を持っているようだ。そうだね―――フウガはきっと種族関係なくエオルゼアの全てを見てこいって言いたかったのだろう。だから少々手伝うことにした。

 まあそちらも大事だが今はミンフィリアたちを救出することが優先事項だ。運び込まれたのだというカストルム・セントリがあるモードゥナへ向かう。
 エリックは言った。シドの論文によるとこのモードゥナという地は"惑星の中心"らしい。エーテルが濃く、それが収束する場所ということなのだろう。確かにあの大きな兵器を調整するための物資を集めるには好都合な場所だ。チャクラはエーテルであり、それならばボクの得意分野だ。復讐の力のことしか考えられない、そんな人間がボクに勝てるわけないじゃないか。ふふっ、頭を冷やす事ね、ウィダルゲルト。

 暁に再び灯を与える作戦名は"帝国軍あざむき作戦"、ね。正面から侵入とはまた堂々とした―――ふふっ、面白そうじゃないか。そういうの好きだよ。そのために魔導アーマーを鹵獲する、ということは物凄く近くで見れるってことだよね? ちょっと頑張ってみるか。
 カストルムの通気口経由で盗み聞きをする。リウィアという人がミンフィリアを尋問しているらしい。怖いねぇ。まあ、こういう"どこかで誰かが聞いてるかもしれない"という意識がない人間のおかげで内情も分かった。さっさと立ち去るに限る。

 グラウムントという冒険者が作戦立ててる間、シドも出来ることをしておくらしい。だからその手伝いをする。なんと帝国軍が使う"電波通信"の妨害装置を準備するのだとか。"火属性を雷属性に変換する"偏属性クリスタルの塊に細工を施すんだって。そんなこともすぐに出来るのか。設置地点に関する調査を頼まれる。そういう足での調査は得意だよ。任せて。
 それと並行して潜入のために必要な物を集める。帝国式の挨拶を覚え、軍服を剥ぎ取って。何か申し訳ないね。別にいらないしミンフィリアたちを救出出来たら返すよ。

 うわ本当に適当に服着て敬礼しただけで騙された。頻繁に人を入れ替えるのが仇になってるねぇ。そうして預かった発煙筒を撃ち出し待ち伏せする。
 シドも技術屋としてついてきた。さあネズミ捕りの時間だ。

「シドも戦えるんだね」
「まあ護身用程度だけどな」

 無事魔導アーマーを鹵獲に成功したが―――ちょっと打ち所が悪かったみたい。派手な煙出しちゃって。しばらく修理するみたい。隠された工房に案内され、話を聞く。
 なるほど。脳みその部分の損傷が深刻なのか。その代わりになるものが "魔法人形のコア"みたい。確かにどっちも自律操作に使うモノか。制御は出来るだろう。専門的な部分はさっぱりなのでそこは彼らに任せて、ボクはそれの調達に向かった。

 彫金師ギルドでどの位請求されるかなと思ったら、アルフィノが話を通してたみたい。どうやら彼のおうちとは長い付き合いみたい。持つべきものはコネってやつだね。早々に帰る。
 取り付け、あっという間に動き出す。さあ試運転をするか。

 動作に問題はないらしい。だが"起きる気"がないようだ。それはそれはとんだお寝坊さんだ。
 そうやって手をこまねいていると流石に帝国兵に気付かれてしまう。
 でも撃退後、魔導アーマーは"起床"した。問題なく動くようで、これでミンフィリアを助けに行ける。
 その前に、少しだけデータを整理しようか。



 すっかり徹夜してしまった。シドと魔導兵器について話し合い、入念に対策を頭に叩き込んだ。とりあえず今回の所はこれで何とかなるだろう。
 追剥ぎした服を纏い、潜入ミッションだ。ヤ・シュトラ、イダ、そしてシドの無茶をするなという激励を受けビッグス、ウェッジと主にカストルムへ向かった。

 チョロい。あっさり奪えたぞ鍵。物資保管庫とやらへ向かう。いた。ミンフィリア救出、正面から突破する。
 魔導コロッサス。新手の魔導リーパーか。まあ人型なら何とかなるだろう。蹴散らして出口へ向かう。ヤ・シュトラ、イダとも合流しこれで任務も終わり。魔導アーマーが残ってしまったのは残念だが命が大事。走り出す。飛空艇へ飛び下り、空へと逃げる。

 脱出途中、これまでの謎だったピースが集まる。サンクレッドが、アシエン。そうか全部筒抜けだったと。なるほど。

『いーやアレは憑依だ。天使いにゃ実体はないらしいからねぇ』

 またどこかから知らない声が響く。―――嗚呼どちらでもいい。助けを求められたのだから、それに応えるだけ。為政者らの元へ急ごう。灯を照らしてあげるのさ。ボクのような怪しい旅人の手助けでね。
 だってボクが助けないとこの人たちは、あっという間に負けそうなほど脆いんだから。

 実際、あの声の言う通りサンクレッドはアシエンに憑依されてしまった存在らしい。声の存在よ、いい加減ボクの目の前に現れて何故知ってたか説明してほしいものだ。

「どうか、彼を助けてあげて……。そしてエオルゼアの平和のために、あなたの力を貸して!」

 ふふっ、言われなくたってそうしてやろうと思ってた所さ。



 再び灯が灯された砂の家に集まり、これからの話を聞く。生き残り数人と、噂を聞き付けた冒険者がもう現れ、再び賑やかな場所へと戻ろうとしている。嬉しいものだ。
 エオルゼア三国、12の大きな組織が参加する大作戦。コードネームは"マーチ・オブ・アルコンズ"。
 そしてボクは"冒険者選抜部隊"の隊長なんて役職。旅人に持たせていいものじゃないよ?
 さあまずはリットアティンとやら。別に何か恨みがあるわけじゃないけど―――その命貰うよ。

 リットアティンに、ガイウス。この男たちは顔こそ分からないが本人なりの忠義と大義がある。ボクがエオルゼアで人助けをしていなかったら、仲良く出来たかもしれないとふと思った。しかしそうはならなかった。
 どれだけ平和のために立派な武力を手に入れたとしても、その後一体どこに行って誰と戦うつもりなの? その玩具は人の域を超えたモノ、破壊させてもらうから。その前座として、リットアティンの命は貰うよ。ボクは誰も見ていないのをいいことに斧を取り出す。

 今回はギリギリな戦いだった。火事場の馬鹿力ほど厄介なものはない。そんなにも慕われる部下がいるガイウスは幸せ者だろう。まあボクはキミの部下であるだろう白い鎧の女と赤い鎧の男を煽り倒してジワジワと殺していく目的が残っているので冥界で指くわえて見ててね。ふふっ。



 次なる作戦のため北ザナラーンへ向かう。その途中、ウルダハで個人的な最終決戦に向けての物資調達を行っていた。その時、闘技場でひんがしの国の剣士が観客を魅了したという噂を聞く。これは―――まさか。ボクはすかさず走り出し、飛び入り参加希望を出しに行った。

 流石にフウガではなかった。しかし、ムソウサイという男はまた別の魅力があった。大義の為、悪を斬る正義を抱いた、芯の通った男。師事するのも悪くはないかも。刀の基本的な立ち回りはまだ辛うじて覚えてる。魂技石と刀を借り、腕試しだ。

 絶対強い。明らかに手加減されている。まあ殺し合い前提の試合ではないので当然だ。ボクだって加減してるし。いやとにかくこれまで出会った人間の中でも実力者であることは確かだ。流石流浪の旅をしているだけある。うん、これは人助けしながら色々教えてもらおう。先にこの刀で、アルテマウェポンを斬り捨てるのもいいかもね。
 しかし―――連続して志を貫き通す男が現れるなんてツイてるなぁ。旅をするもんだ。

 ムソウサイという男について分かったことはもう1つだけある。悪は無条件で許さない、大義に拘るこの男と、善悪関係なく人助けするフウガは絶対にスタンスが合わない。だからあの人について聞くのが怖い。

 さて用事を終わらせ次こそ北ザナラーンへ。ラウバーンのお願いにより不滅隊の隊員たちを元気づけることに。ここで鼓舞をかけ、一気に終わらせてやろう。

 ―――クリスタルの導きあれ。ボクからしたら知ったこっちゃないがまあいいでしょう。帝国本陣のお手並み拝見。

 カストルム・メリディアヌムの外郭にあるフィールド発生装置を癒し手として破壊しに行く。半分くらい魔導アーマーに乗ったシドが壊してくれたけど。一緒にこうやって戦えるのが嬉しそうだ。若いねぇ。
 そこであの白い鎧の女、リウィアと対峙する。この人は、ノラクシアの敵だ。ふふっふふふふっ。

「あらぁ? もう終わりですかぁ? 私はまだまだ癒やせますけどぉ? あなたも回復してもいいよ? まだ足りないから」

 ボクはそうやって最接近し、囁く。この人の技はモンクに近いか。一般的な女性の間合いなのでいなしやすい。

「あなたのようなヒステリックで執着酷い人に付きまとわれてガイウス可哀想! あなたがあの時砂の家を襲撃してなければもしかしたら部下も仲間も失わなかったかもしれないのにねぇ」
「っ!? あなた…!」
「私はただの癒し手。非力な存在に負けちゃうの? ねぇねぇ。ガイウス様に失望されちゃうよ?」
「うるさい!」

 攻撃を軽く避けてやる。逃げ回りながら癒やす姿は冒険者たちからは変な目で見られていただろう。
 風を纏わせながらじわりじわりと削りあとは周りに任せる。敵は取ったよ、ノラクシア。

「あなたは何者なの!? ただの癒し手のくせに」
「うーん? 私はただの旅人。じゃ、もう飽きたから。さよなら」

 振り向きもせず、走り寄って来たシドを迎える。ガイウスの愛を求めて散った、ねぇ。いい言葉。



 最終決戦だ。当初の企み通り、刀を携えシドの元へ行く。

「変わった武器を持ってるな」
「ウルダハで弟子入りしてみましたわ。ちょっと懐かしくなっちゃって」
「そう、か……」

 一瞬シドの眉間に皴が寄る。しかしいつも通りの笑みを見せた。厭だったのだろうか? 素直に聞く。

「え、ああいや別に文句はあるわけじゃないさ。慣れない武器で無茶するんじゃないぞ」

 嗚呼成程、急遽今まで持って来なかった武器を出したから心配されたのか。ボクは大丈夫だよ、と言い飛空艇に乗り込んだ。

 ボクらは"工房"へ向かう道を進む。途中でガイウスがこちらに語り掛けてきた。
 いい理想だ。それも正義。しかし残念ながら手に余る力で伏せるやり方は好きじゃない。父親の話をされ、戸惑うシドの背中を叩き、魔導兵器を斬り伏せた。

 進むボクたちの前にあの鹵獲した魔導アーマーがあった。こちらに送られてきていたのね。使わせてもらう。
 結果、無茶をさせてしまい沈黙してしまった。ごめんね。絶対キミのことは忘れないから。その先へ進むと、あの赤い鎧がいた。

 超える力で長ちゃまの過去を視た時も察したがシドへのコンプレックスバリバリな野郎だった。いやあ天才というのは面倒、いや大変な悩みを持っているねぇ。落ち込んでいるだろうシドに再びリンクシェル通信を送る。

「大丈夫。私は、知ってますわ。ネロとかいう、趣味悪い赤の、自称天才プライド高すぎ鎧野郎よりさ、あなたの方が数段強いから。ね?」

 そう言った瞬間、ふと赤いのと目が合った。いや全身鎧だから目の位置分からないわ。でも明らかにこっちを見てるのは分かる。あ、聞こえたのね。

「あっやっべ聞こえてたかも」

 棒読みで言ってやると明らかに奴はボクに対し啖呵を切る。

「かもじゃねェが!? ぶっ殺すぞテメェ!」

 再びジャミング装置を起動し、この通信はぶった切られる。

「あははは! 怒っちゃいましたねぇ」

 ボクはすかさず辺りを走り出すと明らかにこっちを追いかけ、ガンハンマーを振り回す。真新しい武器だが大体どんな動きをする人間かは理解した。簡単に捌ける。

「待ちやがれクソが!!! ゴリラ女がァ!」
「だーれがゴリラですか。私はか弱い癒し手から侍に転向したての初心者ですよっと」
「嘘つくンじゃねェぞ!? お前のこたァちゃんと調べがついてンだよ! あの喧嘩両成敗とか言って小型カストルムの人間全滅させたのを証拠隠滅したのは誰だと思ってンだ!」
「え、あの時通信出たのあなただったの? お疲れ様でした」
「なーにがお疲れ様でしただここで言うのは礼だろうが! こっちはもう一度ガーロンドに繋がせて言ってやってもいいンだぜ!?」
「もう繋げるわけないでしょ戦闘に集中しなさいよ。赤いの」
「お・前・が・言・う・なァ!!!! お前なンぞザクロじゃねェし俺はネロ・スカエウァ様だ覚えてろゴリラ女ァ!」

 殺さないよう最大限に手加減しつつ、息を上がらせ、そして足払いで転がしてやりながら吹っ飛ばす。

「何のことやらさっぱり。はい、お疲れさまでした」
「クソが……だがアルテマウェポンは起動成功したから俺の勝ちだかンな!!」

 一瞬だけ消灯した隙に逃げやがった。まあいいでしょう。負けた奴が本国でどういう扱いされるか予想つくし。ボクが見てない所で勝手に死ぬだろう。



 強大な熱源反応がある地下へと昇降機を使い降りていく。その途中、シドとの通信が切れてしまった。

『いいか、死ぬなよ生きて帰って来るんだ』

 ノイズの中で明らかにそう聞こえた。嗚呼、ボクは死ぬ気はないよ。ニィと笑った瞬間、気配を感じた。
 その気配の主は降って来た。ガイウスだ。どこで待ってたんだい? まあそれはいいや。
 高説垂れて酔いしれて。ボクを消せばエオルゼアを手に入るとお思いで?笑わせないでほしい。
 あんなデカブツに頼らないと蛮神1体刺せないキミがボクに勝てると思ってるなら片腹痛いよ。
 とはいっても未だ慣れない刀で斬り払うが逃がしてしまう。追いかけたその先にはアルテマウェポン。アレを破壊できれば全て終わる。さあ最終決戦だ。

 確かに自分よりも遥かに大きいものに対して少しだけ怖かったが、吸収していた蛮神は一度倒した相手だ。そう考えると一瞬持った恐怖は薄まってきている。何とか恐ろしい古代兵器から蛮神を引き剥がし、ようやく互角以上に戦えると思った瞬間だった。アシエンが現れ、トンデモない事をしでかす。

 ガイウスも知らなかった最終兵器究極魔法アルテマ、空へ放たれた大魔法の威力は絶大だった。一発でプラエトリウムが壊滅する程度の威力を持っている。ボクはハイデリンの加護により何とか無傷だったのだが懸念が生まれた。

『シドは脱出できたのだろうか』

 リンクパールに手を当てても何も反応はしない。当たり前だ、通信が途切れると言われていたのだから。

『いや大丈夫。今まで見てきたシドなら引き際位わかってる。でももし万が一失敗してたら』

 頭の中でずっとグルグルと渦巻き、顔を伏せてしまう。

「しかし、今は! この者らを倒し我に力有りと証明するッ!」

 うるさい、キミはシドを大事にしたかったんじゃないのか? ただ一度の拒絶で捨てる程度の存在だったのか?

「どちらが真に『持つ者』なのか決着ををつけようじゃないか冒険者!」

 厭だ、力なんていらない。約束を交わした少年を助けられなかった、約束を果たせなかった力なんて、ボクは。

 構えた刀に、身体から放出されるナニカが流れ込んでいく様を感じる。"これ"はまさか……いけない、分かっていても自分の中のナニカが『奴らがいないのだから大丈夫だろう。"ボク"達の圧倒的な力ってやつを見せてやろうじゃないか。―――』と囁いた。

「シ、ド」

 小さな言葉は周りの冒険者やガイウス、そしてアンナ本人の耳にも届かないだろう。冷たい体に焔が灯され、過去によく聞いた獣のような唸り声を漏らした。



 あの冒険者に異変が起こったのは即理解した。明らかに先程の雰囲気と異なり、怒り狂っている。こちらの攻撃を全て刀で受け流しながら、丈夫な外殻を剥がそうと刀を振り回し、確実にアルテマウェポンを破壊しようと試みる。
 我を失った冒険者を振り払い、応戦する内に「シドが死んでたら、お前のせいだ」と朧げな呟きが聞こえる。どうやら彼女の中でシドは先程の大魔法に巻き込まれたと思っているようだ。しかしそれだけにしては異常な強さを見せる冒険者の説明にはならない。
 刀にみるみると赤黒い光が纏われ、笑顔が歪んでいく。これは、まさか、龍殺しの―――。

 ふとそういえば過去に部下であったネロにあまりこのヴィエラを刺激しない方がいいとデータと共に進言されたなと思い返す。あの時は理解できず計画を優先させてしまった。詳細を聞けばよかったかもしれないと後悔しながらも感情に身を任せた獣との戦いに彼も全力を持って応戦した。



 はっと気が付くとアルテマウェポンから弾き飛ばされたガイウスが倒れていた。何が起こったのか分からない。だが久々に怒りに火がついてしまったのは確定的に明らかである。
 アルテマウェポンを持ち出してこなかったら、友人位にはなれたかもしれない。シドが無事であることを祈りつつ、現れたアシエンを睨みつける。
 しかし開口一言が意味不明なものであった。

「今からでも遅くない、光の加護を捨てて我らの元へ来ないか?」
「は? 嫌ですけど」

 今こいつは何を?

「では何故あの男の印を刻まれている?」
「誰のことか、分かりませんわ」

 刀を構え、睨む。闇は嫌いだ。だから仲良くする気はない。とっとと約束である"サンクレッドを救う"というタスクを済ませたいの。

 無謀に挑んでみたがあっという間に魔法で吹っ飛ばされる。ボクの意識はまた沈み―――。



「天使い、アシエン。数々の世界のバランスを崩壊させ、この地に次元圧縮(アーダー)、霊災を発生させる者達」

 アシエンは明らかに変わった冒険者を見る。その魂は明らかに変質し、別の者へと変貌していた。

「何だ、何が起こっている」
「"お前"の先程の質問を返そう。あの男とは偶然出会い、闇を剥がされた。それだけ、らしい」

 冒険者は刀を向け、目を見開く。濁った"青"の目が睨んだ。

「"この子"はまだ知りえない情報を教えたのだ。感謝して、この"我ら"の力を、受けるがよい」

 光が辺りを包み込み、その青白く輝いた刀の刃に、あっという間に貫かれた。
 これが光。人と人を繋ぐ、光の意思だけではない明らかにエーテルとも違う"我らが持ちえない力"。我らがそれに、負けるのか?
 否、この者はまだ脅威ではない。今回は退散するとしよう。

「さあまた眠るとしよう。私は微睡の中、"この子"の旅路を見たいのだから」



 また目が覚めたらサンクレッドが倒れていた。こういう時困るね本当に。辺りが爆発し崩壊する中、あの魔導アーマーが飛んできた。ナイスタイミング。さぁ凱旋だ。
 エオルゼアの人たちが戻って来たボクを祝福している。ふとシドと目が合った。よかった、生きてる。
 そんなことより。ボクはもう疲れたんだよね。全て力を出し切ったみたい。そのまま眠ってしまった。

―――フウガがいたら隙を見せるな殺されたらどうするんだ莫迦と怒っただろうなぁ。でも、この人たちが、シドが見張ってくれるだろうから大丈夫だよ。もうしばらくこの辺りで色々見て回ろうかな。

その2へ // その4へ


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#謎メモ

(対象画像がありません)

注意・補足 紅蓮レイド後、旅人は密会する数日前の独り言。   オメガの…

紅蓮

#シド光♀

紅蓮

溶けあうもの
注意・補足
 紅蓮レイド後、旅人は密会する数日前の独り言。
 
 オメガの一件が終わり、一段落ついた頃。ボクはある疑問の解を探すため、考えを張り巡らせていた。

―――あのボクの体が温かくなる現象。理解不能。今までどんな手を使っても、死人のように冷たいままだったのに。あの白色の男と体を重ね、初めて熱を帯びたのだ。

 温泉旅行と称し、クガネで休息した日。まず数時間湯船に浸かったがやはり冷たいまま。火に直接手を当てても体の芯から熱を帯びる感覚は味わえなかった。本当に初めてで、正直言って少し怖い。

「ボクの体はどうしてしまったの?」

 胸を手を置いて考えてみても、浮かばない。そんな特殊な事例、誰も答えは分からないだろう。
 いや待て。誰もが持っている、生者を形成するために必須の要素。そういえばあの後石の家に立ち寄った際、ヤ・シュトラがボクに「おめでとう」と言ってきたじゃないか。彼女が何を視てボクにそんなことを言ってきたのか、ちゃんと分かっている。

「そうか、エーテル」

 混じり合ったエーテルを視たのだ。自分の心の中に仕舞ってと思うが―――まあ珍しいものを視たから言ってきたのだろう。そりゃそうか。
 ふと右腕にある傷に指を這わせる。ボクの二の腕には硬い何かが埋め込まれ、傷口は縫合されていた。そう、この部分はエーテル操作を行う際、ほんのりと熱を帯びる。全身でその現象が起こっている可能性も0ではない。

 当初の疑問は解決。さあ次浮かんだ謎。これ、シド相手以外でも起こるのかな。

「いやない。絶対ヤらない」

 自分の頬を叩く。何故自分からそんなことをしなければいけないんだ。そんなことヤるならまだシドと二度目の行為をする方がマシ。脳から候補を取り除く。

「いや二度目もないが!?」

 あの夜からボクの考えがおかしい。まるでボクがあの男を意識してるみたいじゃないか!
 違う。ありえない。どういう感情を持ってるか勝手にすればいいが―――ボクは無名の旅人だ。誰にも感情なんて抱かない。

「ボクは! ぜーったい! 誰も! 好きにならない!!」

 拳を正面の岩に当て、パワーを溜め込み息を吸った後放出、そして粉砕する。今日も鮮やかな岩砕きだ。

「バレないようにしないと。調子に乗られてしまう」

 結論とは言ったものの確定させるための物的証拠はない。そしてこんな妙な体質を人に悟られるのが一番嫌だ。特にシドはダメ。真っ直ぐな目をして考察、実験、検証と称して―――もうどうなるか想像したくない絶対酷い目に遭う! よし、今回の件は心の中に仕舞い込み、とりあえずドマの一件を解決しよう。話はそれからだ。

―――数日後。ボクはシドからのリンクパール通信をきっかけに"また"やらかすことになる。
 二度目はないと、決心したのに。ボクはなんて莫迦なヴィエラなんだ! しかもあの男が持ってしまった感情は一時的な勘違いじゃないという裏付けを得てしまう。頭の中はもうぐちゃぐちゃだ。

 1年後、ボクは旅に出ることできるのかな。もう何もかも、理解不能。どうすればいいんだ、助けて、フウガ。


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#シド光♀

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