FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.116, No.115, No.114, No.113, No.112, No.111, No.110[7件]
影は猫と見守る
注意
アンナの影身とリテイナーのお話2本立て。色々独自設定。暁月ジョブの話題があるので暁月カテゴリーに入れてますが漆黒以降のどこかであったお話です。
はじまりは
彼女が寝静まった夜、影は形を作りリテイナーのベルを鳴らす。扉が静かに開き、金髪ミコッテのリテイナーが現れた。一瞬満面の笑顔を見せていたが相手の姿を見るなり眉間に皴を寄せる。
「へへっお呼びかご主人……ってなんだテメェかよ」
「酒に付き合え」
「へいへい」
フレイがバルビュートを脱ぎ、素顔を見せるとアリスは「へぇ」と笑う。まずは金色だった目は青色に変わった。サラサラとした銀髪を揺らしながら傍に置いてあったグラスとワインのボトルをテーブルの中央に置く。アリスは笑いながら座り、懐から取り出した小型の装置を机に置きスイッチを押した。「それは何だ?」とフレイが聞くと「ご主人が起きたら困るだろ? 俺様の新発明防音空間発生装置」と笑った。「よく分からないものを作るのは"記憶"も一緒なのだな」とグラスを渡すと「ケケッ楽しいだろ?」とその赤色のワインを眺め、目の前の男を観察する。
「ヴィエラになってんのな。身長はそのまんまなのによ。エルがクソ切れそう」
「元の肉体であるエルダスの影響だろう。そしてこの力は"影身のフレイ"と呼ばれた男やら負の感情やらと混じり合った副産物って所か」
「まあご主人の悩みはリンとほぼ一緒だったからな。俺様の元みたいに人格として宿るだけでなく影として実体化までしちまったと」
「エーテルというものは便利だな。本当に生前大して使えなかったのが勿体ないくらいだ」
笑みを浮かべ指の上で炎を発生させる。
「ご満足いただけて何より」
そう歯を見せて笑うアリスにフレイは「そういえば先日遂にシドと直接会話してな」と手を叩く。
「へぇそりゃぁめでてぇな」
「まあ数言交わしただけだぞ。おぬしの"魂"に聞いてたがエルが少々複雑な顔をしておったと云う理由が分かった」
「そりゃ何より」
「悪いやつには見えん。素直で人タラシと呼ばれる理由も分かったが―――ちと危うい部分も多い。それに……」
それに、何だ? とアリスが問うと目を逸らし少しだけ顔を赤めた。少々震えながら口を開く。
「婚前交渉以前に告白するよりも先にその、性行為を行うというのは信じられん。あと説教と性欲を混ぜるのはもっといかん。鍛錬が足りぬなありゃ」
「童貞で死んだ古いお爺ちゃんが言うと説得力が凄いな!? ヒヒッ、ご主人いい大人なんだからセックス位許してやれって!」
「はしたないことをデカい声で言うんじゃない! 大体おぬしも相当の年齢ではないか! というかおぬしはエルより年上だったであろう!」
「ヘッヘッヘッ年齢はリセットされて30代だぜぇ。つーか話題振ったのそっちじゃんよ。ていうかフレイヤちゃん俺様達と違ってちゃんと性欲あったのはよかったじゃん」
ワインを飲みながらゲラゲラと笑っている。フレイはため息を吐き指をさす。
「で、ではおぬしは、その、経験あるのか? ああ恋人はいたか」
「んー研究のパートナーって感じだったな……じゃあ俺も生前童貞だったわニャハハハ!」
ハハハと2人は一頻りに笑った後、頬杖をつきながら眠る"主人"を見つめる。
「理解出来ん」
「近頃の若ぇヤツってすげぇなあ。そういやさ、2人がヤッてる時はどうしてんだ? 相変わらず引き籠ってんの?」
「外出してる。鎧が目立つから何とかしたいものだ」
「そりゃご苦労なこって」
俺様たちにはなかった要素だと眉をひそめた。いつまでも続けていたら最低な酒盛りになる。そう判断し、話題を変えようとアリスは脳みそをフル回転させる。そしてふと相手の名前について思い出した。
「で、どう呼べばいいんだ?」
「? 何がだ?」
「何が、じゃねぇよ。お前は"フレイ"なのか、それとも」
「フレイでよい。私はもう20年ほど前に舞台から消え去り肉体を捨てた名もなき存在。生前の名前も捨てるに決まっておる」
「―――俺様と弟子以外はあっさり捨てる所は相変わらずで嬉しいぜ。ハッピーバースデー、フレイ」
ニィと笑い杯を交わす。これはまだ誰も知らない"彼女"の最悪な内面らのお話―――
"収穫者"
「やはりリーパーと魔導技術が混じって厄介なものなのか? ガレマール帝国と言うものは」
「お爺ちゃんリーパーはもう帝国から追放されて存在しないぞ」
フレイは目を見開き「まことか」と呟いた。彼に存在する"ガレマール"の知識はほぼ共和国時代で止まっている。ソルが即位した頃の話はかいつまんだ情報しか伝わっていなかった。
「童の頃に父が持っていた鎌を振ってみたことがありはした。まさかリーパーと違い前線に人を置かずとも戦闘を終わらせることが出来るとはいえ機械技術にあっさりその席を奪われるとは」
若い頃を思い返す。ヴォイドと交信出来た父親と違い、妖異の力は相性が悪く扱い切れなかった。だが追放までされていたとは予想出来なかったらしい。
「ていうかテメェが存命の時にはほぼ用無し扱いされてたっつーの。怒った一族が暗殺企てたけどアシエンに勝てるわけもなく、な。ケケッ古き技術が淘汰されるというのは当然な話ではあるが哀れだよなァ」
「ふむ父は間一髪の亡命だった、と。私は本当に運に恵まれておる」
ニィとフレイが口角を上げながらアリスの髪に触れると「ケッお上手なことで」と額を指で弾く。話題を変えるように手を大きく広げる。
「かつてヴォイドと繋がる技術としてちょっと勉強したが中々面白かったぜ。流石に扱い切れないから実用化はしてねぇけどさ」
「おぬしでも触りたくないものはあるのだな」
「ったりめーよ。俺様は世界を滅ぼしたいわけじゃねぇし。いやあフレイヤちゃんに憑いて行って正解だったぜーこんな面白いことになるのは予想外じゃん」
ガハハと笑うアリスに対し、苦虫を嚙み潰したような顔を見せたフレイはボソリと呟く。
「……あまりいい気分はしないんだがな」
#フレイ #即興SS
アンナの影身とリテイナーのお話2本立て。色々独自設定。暁月ジョブの話題があるので暁月カテゴリーに入れてますが漆黒以降のどこかであったお話です。
はじまりは
彼女が寝静まった夜、影は形を作りリテイナーのベルを鳴らす。扉が静かに開き、金髪ミコッテのリテイナーが現れた。一瞬満面の笑顔を見せていたが相手の姿を見るなり眉間に皴を寄せる。
「へへっお呼びかご主人……ってなんだテメェかよ」
「酒に付き合え」
「へいへい」
フレイがバルビュートを脱ぎ、素顔を見せるとアリスは「へぇ」と笑う。まずは金色だった目は青色に変わった。サラサラとした銀髪を揺らしながら傍に置いてあったグラスとワインのボトルをテーブルの中央に置く。アリスは笑いながら座り、懐から取り出した小型の装置を机に置きスイッチを押した。「それは何だ?」とフレイが聞くと「ご主人が起きたら困るだろ? 俺様の新発明防音空間発生装置」と笑った。「よく分からないものを作るのは"記憶"も一緒なのだな」とグラスを渡すと「ケケッ楽しいだろ?」とその赤色のワインを眺め、目の前の男を観察する。
「ヴィエラになってんのな。身長はそのまんまなのによ。エルがクソ切れそう」
「元の肉体であるエルダスの影響だろう。そしてこの力は"影身のフレイ"と呼ばれた男やら負の感情やらと混じり合った副産物って所か」
「まあご主人の悩みはリンとほぼ一緒だったからな。俺様の元みたいに人格として宿るだけでなく影として実体化までしちまったと」
「エーテルというものは便利だな。本当に生前大して使えなかったのが勿体ないくらいだ」
笑みを浮かべ指の上で炎を発生させる。
「ご満足いただけて何より」
そう歯を見せて笑うアリスにフレイは「そういえば先日遂にシドと直接会話してな」と手を叩く。
「へぇそりゃぁめでてぇな」
「まあ数言交わしただけだぞ。おぬしの"魂"に聞いてたがエルが少々複雑な顔をしておったと云う理由が分かった」
「そりゃ何より」
「悪いやつには見えん。素直で人タラシと呼ばれる理由も分かったが―――ちと危うい部分も多い。それに……」
それに、何だ? とアリスが問うと目を逸らし少しだけ顔を赤めた。少々震えながら口を開く。
「婚前交渉以前に告白するよりも先にその、性行為を行うというのは信じられん。あと説教と性欲を混ぜるのはもっといかん。鍛錬が足りぬなありゃ」
「童貞で死んだ古いお爺ちゃんが言うと説得力が凄いな!? ヒヒッ、ご主人いい大人なんだからセックス位許してやれって!」
「はしたないことをデカい声で言うんじゃない! 大体おぬしも相当の年齢ではないか! というかおぬしはエルより年上だったであろう!」
「ヘッヘッヘッ年齢はリセットされて30代だぜぇ。つーか話題振ったのそっちじゃんよ。ていうかフレイヤちゃん俺様達と違ってちゃんと性欲あったのはよかったじゃん」
ワインを飲みながらゲラゲラと笑っている。フレイはため息を吐き指をさす。
「で、ではおぬしは、その、経験あるのか? ああ恋人はいたか」
「んー研究のパートナーって感じだったな……じゃあ俺も生前童貞だったわニャハハハ!」
ハハハと2人は一頻りに笑った後、頬杖をつきながら眠る"主人"を見つめる。
「理解出来ん」
「近頃の若ぇヤツってすげぇなあ。そういやさ、2人がヤッてる時はどうしてんだ? 相変わらず引き籠ってんの?」
「外出してる。鎧が目立つから何とかしたいものだ」
「そりゃご苦労なこって」
俺様たちにはなかった要素だと眉をひそめた。いつまでも続けていたら最低な酒盛りになる。そう判断し、話題を変えようとアリスは脳みそをフル回転させる。そしてふと相手の名前について思い出した。
「で、どう呼べばいいんだ?」
「? 何がだ?」
「何が、じゃねぇよ。お前は"フレイ"なのか、それとも」
「フレイでよい。私はもう20年ほど前に舞台から消え去り肉体を捨てた名もなき存在。生前の名前も捨てるに決まっておる」
「―――俺様と弟子以外はあっさり捨てる所は相変わらずで嬉しいぜ。ハッピーバースデー、フレイ」
ニィと笑い杯を交わす。これはまだ誰も知らない"彼女"の最悪な内面らのお話―――
"収穫者"
「やはりリーパーと魔導技術が混じって厄介なものなのか? ガレマール帝国と言うものは」
「お爺ちゃんリーパーはもう帝国から追放されて存在しないぞ」
フレイは目を見開き「まことか」と呟いた。彼に存在する"ガレマール"の知識はほぼ共和国時代で止まっている。ソルが即位した頃の話はかいつまんだ情報しか伝わっていなかった。
「童の頃に父が持っていた鎌を振ってみたことがありはした。まさかリーパーと違い前線に人を置かずとも戦闘を終わらせることが出来るとはいえ機械技術にあっさりその席を奪われるとは」
若い頃を思い返す。ヴォイドと交信出来た父親と違い、妖異の力は相性が悪く扱い切れなかった。だが追放までされていたとは予想出来なかったらしい。
「ていうかテメェが存命の時にはほぼ用無し扱いされてたっつーの。怒った一族が暗殺企てたけどアシエンに勝てるわけもなく、な。ケケッ古き技術が淘汰されるというのは当然な話ではあるが哀れだよなァ」
「ふむ父は間一髪の亡命だった、と。私は本当に運に恵まれておる」
ニィとフレイが口角を上げながらアリスの髪に触れると「ケッお上手なことで」と額を指で弾く。話題を変えるように手を大きく広げる。
「かつてヴォイドと繋がる技術としてちょっと勉強したが中々面白かったぜ。流石に扱い切れないから実用化はしてねぇけどさ」
「おぬしでも触りたくないものはあるのだな」
「ったりめーよ。俺様は世界を滅ぼしたいわけじゃねぇし。いやあフレイヤちゃんに憑いて行って正解だったぜーこんな面白いことになるのは予想外じゃん」
ガハハと笑うアリスに対し、苦虫を嚙み潰したような顔を見せたフレイはボソリと呟く。
「……あまりいい気分はしないんだがな」
#フレイ #即興SS
風の旅人と歩み続ける
注意
命の恩人リンドウとアンナの過去短編集。
消えない疵
―――フウガはボクに沢山のことを教えてくれた。星空の話や国、サバイバル術、ご飯の作り方、戦い、人助けの心構え。故郷では兄以外からはただ狩りの方法やイタズラに使える縄の使い方、外の人間の恐ろしさだけしか教わらなかった。それが全て新鮮で!
白色の背中が頼もしかった。ボクは少し後ろを追いかけ、いつも笑顔を向けていた。襲い来る悪意は全部斬り放つ姿に自分もこうなりたいと志を抱く。ボクや出会った人等よりも豊富な外の知識が今のボクを形作っていたのかもしれない。
この頃はまだ今みたいに強くはなかった。多分そのまま成長していたらシドを持ち上げることも出来なかったと思う。というか普通は抱っこしないだろう。まずどんなに重いものも持ち上げるフウガにどうやったの? と聞くとこう答えた。
「重いものの持ち上げ方? こう、持ち上げるぞと念じてそれを力とするのだ」
「よく分かんない」
「普通は出来んからな」
「ボクも出来るようになる?」
「己の限界を嚙み締めなさい。おぬしは人よりも長生き。少しずつ鍛錬を重ね、誰かのためにその力を使うのだ」
今思うとこの言葉は自分の領域に来るなと言いたかったのだろう。でも一度火の灯った憧れを止めることは出来ず、運命の時が訪れた。
◇
フウガに槍の修行を付けてもらい、少しだけ自分の実力に自信を持てるようになった頃。あの人はどんな武器に対しても豊富な知識を披露した。「エルダス、強くなりたいのなら得意でない武器も識ることも大事だぞ」と何度も言われた。そこで必死に勉強をしたから現在色々な得物を使いこなせるようになったのかもしれない。
そんな頃に通りかかった村で子供が大きな魔物に連れて行かれたから助けてほしいという依頼を受ける。フウガは最初反対していたが、ボクは居ても立っても居られなくなり飛び出した。
僅かに聞こえた泣き叫ぶ子供の声を頼りに走る。長い耳は遠くの物音も判別が出来るのだ。フウガの力がなくても多少の魔物なら勝てる。そう思い上がっていた私はその場にへたり込んでいだ子供の前に立つ。
「逃げて!」
自分より3倍は大きいであろう異形の存在は確かに少々怖かった。しかし今までの修行は無駄ではないこと、ボクのような少女でも人助けは出来るのだと証明したかった。構えた槍で飛び上がり急所を穿つ。勝負は一瞬だった。その魔物は地に伏せる。ボクは向きを変え、怯えた子供に手を差し伸べた。
「大丈夫?」
明るい顔でボクの手を握ろうとしたが途端に青くなっている。
「フレイヤ!!」
フウガの怒鳴る声、背中が熱くなる感触。振り向くと倒れた筈の存在が大きな爪で再びボクを切り裂こうと振り下ろそうとしている。最後に見えた風景は、いつの間にかボクの前に立ち、空気が震えるほどの殺意を見せたフウガ。青白い流星のようなオーラをその刀に纏わせながら魔物を一刀両断していった―――。
◇
目が覚める。うつ伏せに倒され寝返りを打とうとするとフウガに止められた。背中の痛みに小さな声が漏れる。まずボクは「ごめんなさい」と謝った。涙が溢れ止まらない。あの時ちゃんとフウガの忠告を聞いていれば。ただ謝り続けた所にあの時の子供がやってきた。
「お姉ちゃんありがとう」
目を見開いた。ボクは負けたというのに、何故お礼を言うのか分からなかった。
「だってお姉ちゃんはあんな大きな怖いやつが相手でもすぐ飛び出して私の前に立ってくれたんだよ! 私もお姉ちゃんみたいになれるかな」
「―――きっとなれるよ。ボクもいっぱい旅しながら修行したから」
フウガはボクの頭をずっと撫でてくれた。高熱にうなされながら傷はどうなってるの? と聞くと「大きなひっかき傷だけだ。他は特に外傷はない」と薬を塗りながら答える。
「あの大きな魔物を斬る時のフウガ、すごいかっこよかった。ボクもあんな風になれるかな」
「……まずはその熱を下げなさい、エルダス」
「はぁい」
目を閉じてその手の冷たさを感じ取る。ボク程ではないがフウガも手がひんやりと冷たい。この後1週間熱は下がらなかった。だがフウガがどこからか持ってきた解熱剤によりボクは元気を取り戻し再び旅に出た。
耳
「エルダス、おぬし結構耳動くが―――それはいいのか?」
フウガの一言に首を傾げる。そんなに動いてる? と聞くと「集中してない時は結構」と返される。確かに人に感情を耳で悟られてしまうのはよろしくないと子供のボクでも分かっていた。
「本来はもっと故郷で修行するんだけど途中で飛び出したから不完全かも」
「なるほど」
「じゃあフウガが修行つけて。耳ピクピクさせないように頑張りたい!」
そのままフウガは考え込んだ。そりゃヴィエラ特有の現象の修行なんてやったことがないだろう、悩むに決まっている。数刻後、手をポンと叩き「分かった」と言いながらフウガは思い切りボクの両耳を掴んだ。
「いっっっったああああ!?!?」
叫び声が喉から発せられた後、耳がビクリと跳ねる。フウガは慌てたように手を離す。
「違ったか?」
「うえぇフウガそれ絶対拷問とかでやるやつだよ!?」
「しかし一番反応してまずい時は痛みではないのか?」
「う……確かに痛みに耐えられるようになったら動かなくなるかもしれない……」
不器用に耳を撫でるフウガの言葉を聞き、そのくすぐったさを我慢するかのように考え込む。確かに集中力を一番阻害される要素は痛みだ。それならばこういう訓練を続ければ、耳は動かなくなるかもしれない。
「ちゃんと頑張る。も、もしかしたら故郷でも集中力を高める修行の一環でするかもしれないし!」
「そうか。集中力を持続させるメニューと共に数日に1回掴む感じでやってみよう」
当時のボクはよし頑張るぞと拳を振り上げていた。後に知るのだが、ヴィエラの里ではそんな耳に直接的な強い刺激を用いた集中力を鍛える修行は一切存在しない。お互い勘違いしたまま、ビシバシと勝手に厳しい修行をすることとなる。結果、人とは違う技能を伸ばす羽目になってしまった。
気迫
「あの技教えてほしいの! フウガ! お願い!」
「駄目だ絶対に誰も使いこなすことなど出来ぬ」
あれからボクは何度もフウガにあの時見せた大技の使い方を教えてもらおうとした。まるで流星の軌跡のような光を纏った刀身に感動したからである。これまで一度も見せずにいたのだ。興味を持つに決まっている。
「あの光は力を欲した誰もが挑戦したが結局使うことも出来なかった。何よりこの圧倒的な力を得ても、1つもいいことはない」
「ボクはフウガのような旅人になりたい! 沢山人助けする!」
今思うとこれが本当にボクという人間が変わってしまった出来事のきっかけかもしれない。半ば無理矢理押し切り、フウガは誰もいない山の中で力の振るい方を教える。
「感情を込める」
「感情」
「その感情に合わせて、光が帯びる」
フウガが目を閉じ大きく息を吸うと周辺の音が消え、刀に光を帯びだす。鳥肌が立った。本能的にこれは、ヤバいと子供のボクでも分かる位危険だと脳内でアラートが鳴る。フウガが「ん」と刀を振るった。すると目の前の巨木に光の刃が入り、まるでバターのようにスライスされ倒れていく。ボクは息を飲み、それを見つめた。
「普通の人間には出来ぬ。まあエルダス、少しやってみろ」
フウガは刀を仕舞い、肩をすくめる。ボクは「よーし」と言いながら槍を構えた。
「感情ってどういう感情込めるの?」
「好きなモノに対しての、だ」
「今のは誰に?」
「……内緒だ」
「フウガのけち!」
目を閉じ、隣にいるフウガのことを思い浮かべる。そして槍を振るうが何も起こらない。
「ほらな」
「悔しい」
頬を膨らます。もう1回と言いながら槍を構え直した。
「あ、そっかエーテルを乗せればいいのか」
ポンと手を叩く。今まで武器を振るうことしか考えていなかった。それを想いと誤魔化したんだなとその時のボクは判断する。
「待てエルダス、それは」
フウガの制止を振り切り、先程見た光の強さを思い出す。目を閉じ、手を通じてエーテルを武器に乗せていく。形することはあまり得意ではなかったが、この時のボクは絶対に出来ると確信してきた。
「止めろフレイヤ! 止めてくれ!!」
目を閉じたままその声と同時に槍を穿つ。何かが砕かれる音が聞こえたので目を開くと倒れていた木が粉々に粉砕され、成功したのが分かる。
「ねえフウガ! でき、た、」
ガクンと力が抜け、目の前が霞んでいく。慌ててボクに駆け寄る音を聞きながらそのまま倒れてしまった―――。
◇
薄く目を開く。眩しい光に「うん……」と呟いた。
「エルダス」
キョロキョロと見渡し声の主を探す。泣きそうな顔でフウガはボクを見ていた。
「すまない」
そう言いながら手を握った。その時のボクは意味が分かっていなかった。
「すまない」
またフウガは謝罪の言葉を口にする。背中に大きな傷が残ってしまった時とは逆の構図だ。ボクはニコリと笑いかける。
「ボクは大丈夫だよ、フウガ」
少しだけ右腕が痛いような気がする。でも泣きそうなフウガの方が大事だ。
ふと自分の手の内を確認する。いつも付けていた故郷の髪飾りを握らされていた。
「エルダス、それは絶対に身に付けておきなさい」
「捨てるつもり、ないよ?」
そうかと苦笑している。ゆっくりと身体を起こし、伸びをした。倒れる前より身体が軽くなった気がする。
思えばボクという人間はこの地点で、死んでいたのだ。ただでさえ冷たかった身体が死人のようになってしまったのはこの頃からなのだから。
◇
外に出ると知らない男の人がタバコを吸っていた。
「おや、起きたのか嬢ちゃん」
「おじさん、誰?」
どんな姿か思い出せない。金髪、だったと思う。その人がボクの頭を撫でた。
「俺様は―――様だ。お嬢ちゃんのお師匠のオトモダチさ」
名前も朧げで思い出せない。今のボクはこの頃から記憶が少し曖昧になっている。
「お嬢ちゃんが生命エーテルほぼ使い切ったってんで"治療"したんだ」
「ボク、そんなに大変だった?」
「おう。滅茶苦茶」
俺様がいないと死んでたぜ、なんてケケケと笑っている男の頭にフウガはゲンコツを落とす。見たことのなかった複雑な顔していたので本当に長い付き合いの友人のようだった。
「教育に悪いから帰れ」
「おいおい天才の俺様は教育的象徴だろぉ? フレイヤちゃん、だったよな?」
ボクはこくりと頷くとその男はニィと笑ったんだ。
「エーテル制御とリン―――コイツと同じ力の使い方をこれから一緒に教えてやる。ケケッ、お嬢ちゃんは俺様達より絶対に強くなる。保証してやるぜぇ?」
#リンドウ関連
命の恩人リンドウとアンナの過去短編集。
消えない疵
―――フウガはボクに沢山のことを教えてくれた。星空の話や国、サバイバル術、ご飯の作り方、戦い、人助けの心構え。故郷では兄以外からはただ狩りの方法やイタズラに使える縄の使い方、外の人間の恐ろしさだけしか教わらなかった。それが全て新鮮で!
白色の背中が頼もしかった。ボクは少し後ろを追いかけ、いつも笑顔を向けていた。襲い来る悪意は全部斬り放つ姿に自分もこうなりたいと志を抱く。ボクや出会った人等よりも豊富な外の知識が今のボクを形作っていたのかもしれない。
この頃はまだ今みたいに強くはなかった。多分そのまま成長していたらシドを持ち上げることも出来なかったと思う。というか普通は抱っこしないだろう。まずどんなに重いものも持ち上げるフウガにどうやったの? と聞くとこう答えた。
「重いものの持ち上げ方? こう、持ち上げるぞと念じてそれを力とするのだ」
「よく分かんない」
「普通は出来んからな」
「ボクも出来るようになる?」
「己の限界を嚙み締めなさい。おぬしは人よりも長生き。少しずつ鍛錬を重ね、誰かのためにその力を使うのだ」
今思うとこの言葉は自分の領域に来るなと言いたかったのだろう。でも一度火の灯った憧れを止めることは出来ず、運命の時が訪れた。
◇
フウガに槍の修行を付けてもらい、少しだけ自分の実力に自信を持てるようになった頃。あの人はどんな武器に対しても豊富な知識を披露した。「エルダス、強くなりたいのなら得意でない武器も識ることも大事だぞ」と何度も言われた。そこで必死に勉強をしたから現在色々な得物を使いこなせるようになったのかもしれない。
そんな頃に通りかかった村で子供が大きな魔物に連れて行かれたから助けてほしいという依頼を受ける。フウガは最初反対していたが、ボクは居ても立っても居られなくなり飛び出した。
僅かに聞こえた泣き叫ぶ子供の声を頼りに走る。長い耳は遠くの物音も判別が出来るのだ。フウガの力がなくても多少の魔物なら勝てる。そう思い上がっていた私はその場にへたり込んでいだ子供の前に立つ。
「逃げて!」
自分より3倍は大きいであろう異形の存在は確かに少々怖かった。しかし今までの修行は無駄ではないこと、ボクのような少女でも人助けは出来るのだと証明したかった。構えた槍で飛び上がり急所を穿つ。勝負は一瞬だった。その魔物は地に伏せる。ボクは向きを変え、怯えた子供に手を差し伸べた。
「大丈夫?」
明るい顔でボクの手を握ろうとしたが途端に青くなっている。
「フレイヤ!!」
フウガの怒鳴る声、背中が熱くなる感触。振り向くと倒れた筈の存在が大きな爪で再びボクを切り裂こうと振り下ろそうとしている。最後に見えた風景は、いつの間にかボクの前に立ち、空気が震えるほどの殺意を見せたフウガ。青白い流星のようなオーラをその刀に纏わせながら魔物を一刀両断していった―――。
◇
目が覚める。うつ伏せに倒され寝返りを打とうとするとフウガに止められた。背中の痛みに小さな声が漏れる。まずボクは「ごめんなさい」と謝った。涙が溢れ止まらない。あの時ちゃんとフウガの忠告を聞いていれば。ただ謝り続けた所にあの時の子供がやってきた。
「お姉ちゃんありがとう」
目を見開いた。ボクは負けたというのに、何故お礼を言うのか分からなかった。
「だってお姉ちゃんはあんな大きな怖いやつが相手でもすぐ飛び出して私の前に立ってくれたんだよ! 私もお姉ちゃんみたいになれるかな」
「―――きっとなれるよ。ボクもいっぱい旅しながら修行したから」
フウガはボクの頭をずっと撫でてくれた。高熱にうなされながら傷はどうなってるの? と聞くと「大きなひっかき傷だけだ。他は特に外傷はない」と薬を塗りながら答える。
「あの大きな魔物を斬る時のフウガ、すごいかっこよかった。ボクもあんな風になれるかな」
「……まずはその熱を下げなさい、エルダス」
「はぁい」
目を閉じてその手の冷たさを感じ取る。ボク程ではないがフウガも手がひんやりと冷たい。この後1週間熱は下がらなかった。だがフウガがどこからか持ってきた解熱剤によりボクは元気を取り戻し再び旅に出た。
耳
「エルダス、おぬし結構耳動くが―――それはいいのか?」
フウガの一言に首を傾げる。そんなに動いてる? と聞くと「集中してない時は結構」と返される。確かに人に感情を耳で悟られてしまうのはよろしくないと子供のボクでも分かっていた。
「本来はもっと故郷で修行するんだけど途中で飛び出したから不完全かも」
「なるほど」
「じゃあフウガが修行つけて。耳ピクピクさせないように頑張りたい!」
そのままフウガは考え込んだ。そりゃヴィエラ特有の現象の修行なんてやったことがないだろう、悩むに決まっている。数刻後、手をポンと叩き「分かった」と言いながらフウガは思い切りボクの両耳を掴んだ。
「いっっっったああああ!?!?」
叫び声が喉から発せられた後、耳がビクリと跳ねる。フウガは慌てたように手を離す。
「違ったか?」
「うえぇフウガそれ絶対拷問とかでやるやつだよ!?」
「しかし一番反応してまずい時は痛みではないのか?」
「う……確かに痛みに耐えられるようになったら動かなくなるかもしれない……」
不器用に耳を撫でるフウガの言葉を聞き、そのくすぐったさを我慢するかのように考え込む。確かに集中力を一番阻害される要素は痛みだ。それならばこういう訓練を続ければ、耳は動かなくなるかもしれない。
「ちゃんと頑張る。も、もしかしたら故郷でも集中力を高める修行の一環でするかもしれないし!」
「そうか。集中力を持続させるメニューと共に数日に1回掴む感じでやってみよう」
当時のボクはよし頑張るぞと拳を振り上げていた。後に知るのだが、ヴィエラの里ではそんな耳に直接的な強い刺激を用いた集中力を鍛える修行は一切存在しない。お互い勘違いしたまま、ビシバシと勝手に厳しい修行をすることとなる。結果、人とは違う技能を伸ばす羽目になってしまった。
気迫
「あの技教えてほしいの! フウガ! お願い!」
「駄目だ絶対に誰も使いこなすことなど出来ぬ」
あれからボクは何度もフウガにあの時見せた大技の使い方を教えてもらおうとした。まるで流星の軌跡のような光を纏った刀身に感動したからである。これまで一度も見せずにいたのだ。興味を持つに決まっている。
「あの光は力を欲した誰もが挑戦したが結局使うことも出来なかった。何よりこの圧倒的な力を得ても、1つもいいことはない」
「ボクはフウガのような旅人になりたい! 沢山人助けする!」
今思うとこれが本当にボクという人間が変わってしまった出来事のきっかけかもしれない。半ば無理矢理押し切り、フウガは誰もいない山の中で力の振るい方を教える。
「感情を込める」
「感情」
「その感情に合わせて、光が帯びる」
フウガが目を閉じ大きく息を吸うと周辺の音が消え、刀に光を帯びだす。鳥肌が立った。本能的にこれは、ヤバいと子供のボクでも分かる位危険だと脳内でアラートが鳴る。フウガが「ん」と刀を振るった。すると目の前の巨木に光の刃が入り、まるでバターのようにスライスされ倒れていく。ボクは息を飲み、それを見つめた。
「普通の人間には出来ぬ。まあエルダス、少しやってみろ」
フウガは刀を仕舞い、肩をすくめる。ボクは「よーし」と言いながら槍を構えた。
「感情ってどういう感情込めるの?」
「好きなモノに対しての、だ」
「今のは誰に?」
「……内緒だ」
「フウガのけち!」
目を閉じ、隣にいるフウガのことを思い浮かべる。そして槍を振るうが何も起こらない。
「ほらな」
「悔しい」
頬を膨らます。もう1回と言いながら槍を構え直した。
「あ、そっかエーテルを乗せればいいのか」
ポンと手を叩く。今まで武器を振るうことしか考えていなかった。それを想いと誤魔化したんだなとその時のボクは判断する。
「待てエルダス、それは」
フウガの制止を振り切り、先程見た光の強さを思い出す。目を閉じ、手を通じてエーテルを武器に乗せていく。形することはあまり得意ではなかったが、この時のボクは絶対に出来ると確信してきた。
「止めろフレイヤ! 止めてくれ!!」
目を閉じたままその声と同時に槍を穿つ。何かが砕かれる音が聞こえたので目を開くと倒れていた木が粉々に粉砕され、成功したのが分かる。
「ねえフウガ! でき、た、」
ガクンと力が抜け、目の前が霞んでいく。慌ててボクに駆け寄る音を聞きながらそのまま倒れてしまった―――。
◇
薄く目を開く。眩しい光に「うん……」と呟いた。
「エルダス」
キョロキョロと見渡し声の主を探す。泣きそうな顔でフウガはボクを見ていた。
「すまない」
そう言いながら手を握った。その時のボクは意味が分かっていなかった。
「すまない」
またフウガは謝罪の言葉を口にする。背中に大きな傷が残ってしまった時とは逆の構図だ。ボクはニコリと笑いかける。
「ボクは大丈夫だよ、フウガ」
少しだけ右腕が痛いような気がする。でも泣きそうなフウガの方が大事だ。
ふと自分の手の内を確認する。いつも付けていた故郷の髪飾りを握らされていた。
「エルダス、それは絶対に身に付けておきなさい」
「捨てるつもり、ないよ?」
そうかと苦笑している。ゆっくりと身体を起こし、伸びをした。倒れる前より身体が軽くなった気がする。
思えばボクという人間はこの地点で、死んでいたのだ。ただでさえ冷たかった身体が死人のようになってしまったのはこの頃からなのだから。
◇
外に出ると知らない男の人がタバコを吸っていた。
「おや、起きたのか嬢ちゃん」
「おじさん、誰?」
どんな姿か思い出せない。金髪、だったと思う。その人がボクの頭を撫でた。
「俺様は―――様だ。お嬢ちゃんのお師匠のオトモダチさ」
名前も朧げで思い出せない。今のボクはこの頃から記憶が少し曖昧になっている。
「お嬢ちゃんが生命エーテルほぼ使い切ったってんで"治療"したんだ」
「ボク、そんなに大変だった?」
「おう。滅茶苦茶」
俺様がいないと死んでたぜ、なんてケケケと笑っている男の頭にフウガはゲンコツを落とす。見たことのなかった複雑な顔していたので本当に長い付き合いの友人のようだった。
「教育に悪いから帰れ」
「おいおい天才の俺様は教育的象徴だろぉ? フレイヤちゃん、だったよな?」
ボクはこくりと頷くとその男はニィと笑ったんだ。
「エーテル制御とリン―――コイツと同じ力の使い方をこれから一緒に教えてやる。ケケッ、お嬢ちゃんは俺様達より絶対に強くなる。保証してやるぜぇ?」
#リンドウ関連
表題でカットしたネロとエルファーサイドの話。
一服は、嘘ではない。それよりも外の男が心配だった。「エル」と声をかけると赤髪のヴィエラはゆっくりと口を開いた。
「……長い耳舐めんな。全部聞こえた」
石碑の前に座り込んでいる。顔を凝視すると涙を拭った痕跡が見えた。こちらに来ると気付いて急いでこすったのだろう。
「クソが。だからコイツ嫌い」
「まさかガーロンドと似てるつって毒吐いてた奴が」
煙草を取り出し咥えるとエルファーは指をパチンと鳴らし火が灯された。
「臆病者。本質は年を取っても変わらず。大方妹を雑な扱いして死んだら僕に殺されるって思ってたんだろ」
眉間に皴を寄せる。空に手を伸ばし、吐き捨てる。
「まさか"僕ら"が作った理論を妹が使いこなすようになるとは予想外」
「そりゃどういうもンだよ」
「"奥義:流星"、門外不出。それに―――科学で解明できないものなんて嫌いだろう?」
火事場の馬鹿力を表層的なものにした錬金術由来のモノ、って感じかな? と言うとネロは眉間に皴を寄せ煙を吐いた。
「ほーら嫌な顔。僕だって現実感皆無で嫌い」
「そーだな。だがな、エル。オレはオマエのことだけはもっと知りてェなァ」
笑ってやるとエルファーも釣られたように口元が持ち上がった。笑っているつもりなのだろう。
「でもきっとそのリンドウと自分が似てるなンてガーロンドにバレたら不味くね。嫉妬でバグるぜ?」
「ありえる。ほらこれ、当時描いてもらった」
懐から取り出した劣化防止された紙を眺める。それには3人の男が描かれていた。
中央にいる片目を髪で隠したヴィエラ、背の低い笑顔を見せるミコッテの男、そして背の高いエレゼンの男。
「そのエレゼンがリン。ハーフガレアンだったんだよ」
「はぁ!?」
「言っただろう? 親の影響でエーテル操作が下手だったって。まあそういうこと。多分妹も知らない。酒の席で樽2個飲ませてようやく口を割った」
「こわ」
3人が出会った頃はまだガレマール共和国時代であった。父親は鎌を持つとある集落の"農耕民族"だったが生活苦で亡命。オサードで呪術士として旅をしていた母親に出会ったらしい。そして成人後、強くなるために父が持っていたものやエーテルとはまた違う技術に頼ることにした。各地を旅する内にサベネア島に辿り着き、現地人と話をしていたアリスとエルファーに出会うこととなる。
「やべェな。共和国時代か。何つーか昔すぎる話に現実感がねェ」
「言っただろう? 僕は君が思っているより年より上。―――不思議な男だったよ。第一印象は、な。その後、ラザハンの伝承で面白そうなものがあってね。アリスが理論をこね、僕が協力して形作る。んで、全てリンの体で実験、実証」
「実験、ねェ」
「はっはっはいっぱい苦しめてやった。その結果魂自体も少し歪んだ。そのドス黒い闇の歪みがな、実は今の妹にもある」
「―――は?」
「察してた。だが、信じたくない。僕が関わった研究でバケモノにしてしまった事実から目を背けたかった。だから自分の好奇心を満たす旅を優先した。最低だろう?」
君の前に現れたのも本当はそれが理由だったと目を細め、石碑を撫でる。ネロは吸殻を踏みつぶし、隣に座った。
「あの野郎の手紙に"継承"とあったみたいだが理論だけではない。文字通りリンの全てを魂ごと受け継いでるんだよ。細かいクセも影響されたというには忠実すぎる。完璧にアリスのアホも一枚噛んでるな」
「ンなこと出来ンのか? 聞いたことねェぞ。ていうかオマエ魂視れンの?」
「昔色々あった。―――アリスならありえる。しかもその上でアシエンに魂を弄られている。挙句の果てにハイデリンの加護だぁ? 笑える。何で妹ばっかりこんな目に遭わないといけない」
エルファーは苦虫を嚙み潰したような顔を見せ、拳を握り締める。
「正直に言う。正気なのが奇跡。―――それは多分リンの教えで自らを縛り、ガーロンドクンがいたから人の形を保っているんだと思う。それが無い今の妹はきっとハイデリンの加護が全て。アシエンに保証されてるとは思いたくない」
「ナァ」
ネロはうじうじとマイナス方向に考えを張り巡らせるエルファーの思考を打ち切るように声をかける。
「もう妹以外のこと考えねェか? ずっと現実から目を背けてこのオレ様とイイコトでもしようぜ?」
目を見開き少しだけ慌てた顔をしているのを見てゲラゲラ笑う。「か、からかうんじゃない」と咳ばらいをしながら小突いた。
「そうだな、妹は大丈夫。あの子は強い。どれもこれも全てリンとガーロンドクンのせい。アイツらが似てるのが悪い、うん」
「ああそうだガーロンドが悪い。しかし余計にバレたら機嫌悪くなりそうな話だなァ」
「だな。今の話は無しだ」
立ち上がり、鞄からミネラルウォーターを取り出しそのまま石碑に注ぐ。
「アリス共々冥府で頭冷やせ。あと100年位したらそっちに行ってやるから指くわえて待ってろ。―――よし、ネロ。さっきから気になってたモンが家の中にある。見に行こう」
前髪を払い左の紅色の目を開き口角を上げた。
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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ