FF14の二次創作置き場

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注意命の恩人リンドウとアンナの過去短編集。  消えない疵―――フウガは…

本編前

#リンドウ関連

本編前

風の旅人と歩み続ける
注意
命の恩人リンドウとアンナの過去短編集。
 

消えない疵
―――フウガはボクに沢山のことを教えてくれた。星空の話や国、サバイバル術、ご飯の作り方、戦い、人助けの心構え。故郷では兄以外からはただ狩りの方法やイタズラに使える縄の使い方、外の人間の恐ろしさだけしか教わらなかった。それが全て新鮮で!

 白色の背中が頼もしかった。ボクは少し後ろを追いかけ、いつも笑顔を向けていた。襲い来る悪意は全部斬り放つ姿に自分もこうなりたいと志を抱く。ボクや出会った人等よりも豊富な外の知識が今のボクを形作っていたのかもしれない。
 この頃はまだ今みたいに強くはなかった。多分そのまま成長していたらシドを持ち上げることも出来なかったと思う。というか普通は抱っこしないだろう。まずどんなに重いものも持ち上げるフウガにどうやったの? と聞くとこう答えた。

「重いものの持ち上げ方? こう、持ち上げるぞと念じてそれを力とするのだ」
「よく分かんない」
「普通は出来んからな」
「ボクも出来るようになる?」
「己の限界を嚙み締めなさい。おぬしは人よりも長生き。少しずつ鍛錬を重ね、誰かのためにその力を使うのだ」

 今思うとこの言葉は自分の領域に来るなと言いたかったのだろう。でも一度火の灯った憧れを止めることは出来ず、運命の時が訪れた。



 フウガに槍の修行を付けてもらい、少しだけ自分の実力に自信を持てるようになった頃。あの人はどんな武器に対しても豊富な知識を披露した。「エルダス、強くなりたいのなら得意でない武器も識ることも大事だぞ」と何度も言われた。そこで必死に勉強をしたから現在色々な得物を使いこなせるようになったのかもしれない。
 そんな頃に通りかかった村で子供が大きな魔物に連れて行かれたから助けてほしいという依頼を受ける。フウガは最初反対していたが、ボクは居ても立っても居られなくなり飛び出した。
 僅かに聞こえた泣き叫ぶ子供の声を頼りに走る。長い耳は遠くの物音も判別が出来るのだ。フウガの力がなくても多少の魔物なら勝てる。そう思い上がっていた私はその場にへたり込んでいだ子供の前に立つ。

「逃げて!」

 自分より3倍は大きいであろう異形の存在は確かに少々怖かった。しかし今までの修行は無駄ではないこと、ボクのような少女でも人助けは出来るのだと証明したかった。構えた槍で飛び上がり急所を穿つ。勝負は一瞬だった。その魔物は地に伏せる。ボクは向きを変え、怯えた子供に手を差し伸べた。

「大丈夫?」

 明るい顔でボクの手を握ろうとしたが途端に青くなっている。

「フレイヤ!!」

 フウガの怒鳴る声、背中が熱くなる感触。振り向くと倒れた筈の存在が大きな爪で再びボクを切り裂こうと振り下ろそうとしている。最後に見えた風景は、いつの間にかボクの前に立ち、空気が震えるほどの殺意を見せたフウガ。青白い流星のようなオーラをその刀に纏わせながら魔物を一刀両断していった―――。



 目が覚める。うつ伏せに倒され寝返りを打とうとするとフウガに止められた。背中の痛みに小さな声が漏れる。まずボクは「ごめんなさい」と謝った。涙が溢れ止まらない。あの時ちゃんとフウガの忠告を聞いていれば。ただ謝り続けた所にあの時の子供がやってきた。

「お姉ちゃんありがとう」

 目を見開いた。ボクは負けたというのに、何故お礼を言うのか分からなかった。

「だってお姉ちゃんはあんな大きな怖いやつが相手でもすぐ飛び出して私の前に立ってくれたんだよ! 私もお姉ちゃんみたいになれるかな」
「―――きっとなれるよ。ボクもいっぱい旅しながら修行したから」

 フウガはボクの頭をずっと撫でてくれた。高熱にうなされながら傷はどうなってるの? と聞くと「大きなひっかき傷だけだ。他は特に外傷はない」と薬を塗りながら答える。

「あの大きな魔物を斬る時のフウガ、すごいかっこよかった。ボクもあんな風になれるかな」
「……まずはその熱を下げなさい、エルダス」
「はぁい」

 目を閉じてその手の冷たさを感じ取る。ボク程ではないがフウガも手がひんやりと冷たい。この後1週間熱は下がらなかった。だがフウガがどこからか持ってきた解熱剤によりボクは元気を取り戻し再び旅に出た。

 

「エルダス、おぬし結構耳動くが―――それはいいのか?」

 フウガの一言に首を傾げる。そんなに動いてる? と聞くと「集中してない時は結構」と返される。確かに人に感情を耳で悟られてしまうのはよろしくないと子供のボクでも分かっていた。

「本来はもっと故郷で修行するんだけど途中で飛び出したから不完全かも」
「なるほど」
「じゃあフウガが修行つけて。耳ピクピクさせないように頑張りたい!」

 そのままフウガは考え込んだ。そりゃヴィエラ特有の現象の修行なんてやったことがないだろう、悩むに決まっている。数刻後、手をポンと叩き「分かった」と言いながらフウガは思い切りボクの両耳を掴んだ。

「いっっっったああああ!?!?」

 叫び声が喉から発せられた後、耳がビクリと跳ねる。フウガは慌てたように手を離す。

「違ったか?」
「うえぇフウガそれ絶対拷問とかでやるやつだよ!?」
「しかし一番反応してまずい時は痛みではないのか?」
「う……確かに痛みに耐えられるようになったら動かなくなるかもしれない……」

 不器用に耳を撫でるフウガの言葉を聞き、そのくすぐったさを我慢するかのように考え込む。確かに集中力を一番阻害される要素は痛みだ。それならばこういう訓練を続ければ、耳は動かなくなるかもしれない。

「ちゃんと頑張る。も、もしかしたら故郷でも集中力を高める修行の一環でするかもしれないし!」
「そうか。集中力を持続させるメニューと共に数日に1回掴む感じでやってみよう」

 当時のボクはよし頑張るぞと拳を振り上げていた。後に知るのだが、ヴィエラの里ではそんな耳に直接的な強い刺激を用いた集中力を鍛える修行は一切存在しない。お互い勘違いしたまま、ビシバシと勝手に厳しい修行をすることとなる。結果、人とは違う技能を伸ばす羽目になってしまった。

 
気迫
「あの技教えてほしいの! フウガ! お願い!」
「駄目だ絶対に誰も使いこなすことなど出来ぬ」

 あれからボクは何度もフウガにあの時見せた大技の使い方を教えてもらおうとした。まるで流星の軌跡のような光を纏った刀身に感動したからである。これまで一度も見せずにいたのだ。興味を持つに決まっている。

「あの光は力を欲した誰もが挑戦したが結局使うことも出来なかった。何よりこの圧倒的な力を得ても、1つもいいことはない」
「ボクはフウガのような旅人になりたい! 沢山人助けする!」

 今思うとこれが本当にボクという人間が変わってしまった出来事のきっかけかもしれない。半ば無理矢理押し切り、フウガは誰もいない山の中で力の振るい方を教える。

「感情を込める」
「感情」
「その感情に合わせて、光が帯びる」

 フウガが目を閉じ大きく息を吸うと周辺の音が消え、刀に光を帯びだす。鳥肌が立った。本能的にこれは、ヤバいと子供のボクでも分かる位危険だと脳内でアラートが鳴る。フウガが「ん」と刀を振るった。すると目の前の巨木に光の刃が入り、まるでバターのようにスライスされ倒れていく。ボクは息を飲み、それを見つめた。

「普通の人間には出来ぬ。まあエルダス、少しやってみろ」

 フウガは刀を仕舞い、肩をすくめる。ボクは「よーし」と言いながら槍を構えた。

「感情ってどういう感情込めるの?」
「好きなモノに対しての、だ」
「今のは誰に?」
「……内緒だ」
「フウガのけち!」

 目を閉じ、隣にいるフウガのことを思い浮かべる。そして槍を振るうが何も起こらない。

「ほらな」
「悔しい」

 頬を膨らます。もう1回と言いながら槍を構え直した。

「あ、そっかエーテルを乗せればいいのか」

 ポンと手を叩く。今まで武器を振るうことしか考えていなかった。それを想いと誤魔化したんだなとその時のボクは判断する。

「待てエルダス、それは」

 フウガの制止を振り切り、先程見た光の強さを思い出す。目を閉じ、手を通じてエーテルを武器に乗せていく。形することはあまり得意ではなかったが、この時のボクは絶対に出来ると確信してきた。

「止めろフレイヤ! 止めてくれ!!」

 目を閉じたままその声と同時に槍を穿つ。何かが砕かれる音が聞こえたので目を開くと倒れていた木が粉々に粉砕され、成功したのが分かる。

「ねえフウガ! でき、た、」

 ガクンと力が抜け、目の前が霞んでいく。慌ててボクに駆け寄る音を聞きながらそのまま倒れてしまった―――。



 薄く目を開く。眩しい光に「うん……」と呟いた。

「エルダス」

 キョロキョロと見渡し声の主を探す。泣きそうな顔でフウガはボクを見ていた。

「すまない」

 そう言いながら手を握った。その時のボクは意味が分かっていなかった。

「すまない」

 またフウガは謝罪の言葉を口にする。背中に大きな傷が残ってしまった時とは逆の構図だ。ボクはニコリと笑いかける。

「ボクは大丈夫だよ、フウガ」

 少しだけ右腕が痛いような気がする。でも泣きそうなフウガの方が大事だ。
 ふと自分の手の内を確認する。いつも付けていた故郷の髪飾りを握らされていた。

「エルダス、それは絶対に身に付けておきなさい」
「捨てるつもり、ないよ?」

 そうかと苦笑している。ゆっくりと身体を起こし、伸びをした。倒れる前より身体が軽くなった気がする。
 思えばボクという人間はこの地点で、死んでいたのだ。ただでさえ冷たかった身体が死人のようになってしまったのはこの頃からなのだから。



 外に出ると知らない男の人がタバコを吸っていた。

「おや、起きたのか嬢ちゃん」
「おじさん、誰?」

 どんな姿か思い出せない。金髪、だったと思う。その人がボクの頭を撫でた。

「俺様は―――様だ。お嬢ちゃんのお師匠のオトモダチさ」

 名前も朧げで思い出せない。今のボクはこの頃から記憶が少し曖昧になっている。

「お嬢ちゃんが生命エーテルほぼ使い切ったってんで"治療"したんだ」
「ボク、そんなに大変だった?」
「おう。滅茶苦茶」

 俺様がいないと死んでたぜ、なんてケケケと笑っている男の頭にフウガはゲンコツを落とす。見たことのなかった複雑な顔していたので本当に長い付き合いの友人のようだった。

「教育に悪いから帰れ」
「おいおい天才の俺様は教育的象徴だろぉ? フレイヤちゃん、だったよな?」

 ボクはこくりと頷くとその男はニィと笑ったんだ。

「エーテル制御とリン―――コイツと同じ力の使い方をこれから一緒に教えてやる。ケケッ、お嬢ちゃんは俺様達より絶対に強くなる。保証してやるぜぇ?」


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#リンドウ関連

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注意シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。シド少年時代捏造。…

紅蓮

#即興SS

紅蓮

『好きな人』3
注意
シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。シド少年時代捏造。
時系列は次元の狭間オメガ終了後。
 
『アンナさんはとても強いし料理も上手です』『アンナさんに先日護衛してもらい何事もなく帰れました』『不愛想かと思っていましたが優しい方です』『社長と付き合ってますよね?』『アンナさんに告白したけど笑顔で断られました』『アンナさんにエスコートしてもらい買い物に連れて行ってもらいました選んでもらった香水で彼氏が出来ました』『王子様みたいです』

「これが社員から匿名で貰ったアンケートの一部よ」
「アンナやっぱモテるッスねー」
「告白した奴複数人いるのか親方でも玉砕状態なのによくやるなあ」

 ネロがレフと一緒にシド名義の領収書を盛大に置いて『長期療養』に入った事件から数日後。レヴナンツトールのとある酒場にて久々に『自分たちの上司であるシドと旅人アンナの関係を見守る会』が行われた。今回は当人にバレないようアンナに関するアンケート調査を行った。大体このような突発的なものは無視されて終わるかいい加減な回答が多い。だが今回は渡したほぼ全員から回答有りで提出された。大体の人間はアンナに対して嫌悪感を抱くどころか好意的なものが多い。英雄である彼女の人たらしっぷりが発揮されている。

「ちなみに会長はアンナが女性社員を口説いてることは知りません」
「あんな白昼堂々やってるのにですか!?」
「恋は盲目ってやつッスかぁ!?」
「だから困ってるのよね。その場で口説いたら満足してあとは躱すから」
「ひえー男だったらとっくに死んでるやつじゃないですか」

 アンナは女性社員を見かけたら絶対に歯が浮きそうなセリフで口説く。意外と大胆な人だというのは社員たちから言われるまでジェシーは知らなかった。当たり前である。レヴナンツトールで初対面時にシドに関しての説教を長々と行ったからだ。しかし、アンナが初めてガーロンド社へ案内された時のこと。嫌うことなく真っ先に自分の元にまずは護衛が必要な時は呼んで欲しいと手を差し出された。間違いなく優しい人である。しかし、優しくされる理由が一切見当たらない。

「それで今回のメインなんだけど。……少し前になるけどアンナが私たちに肩入れする理由を何とか聞くことに成功したの」

 だから一度単刀直入に聞いてみたことがあった。



「私が皆に優しい理由?」
「はい、何故いつも我が社を助けてくれるんですか?」
「そんな改まらなくていい。あなたたちに頼られてるから、と言えば簡単。でもそうだねえ―――ジェシーならいっか。少し昔に"旅人仲間"から聞いた可愛らしい話」

 ある日の昼下がり、ラールガーズリーチにて。シドが機材の定期メンテナンスのため出払っていた時にアンナが現れる。ついでに軽く世間話ついでに聞いてみたのだ。すると「シドには内緒にしてね」と人差し指を口に当てながらこう言って帰った。

「昔ね、ある旅人が凍え死にそうになった寒空の下で命を助けてくれた真っ白な子供と約束をした。ヒゲが似合う男になるまでに再会、捕まえたら彼の手に広がった夢を、支えてくれる人を全部守ってあげる、と。その人は何も持たない旅人なのに大胆で莫迦な約束をしちゃった。それと重ねちゃって、ね?」



「え、それって……親方!?」
「そこまでは話してくれなかったの。もしそうだったら……やばいわよ。確実に会長の脳みそがショートどころか爆発するわ」
「でも親方そんな話した事ないですよ。覚えていたら少なくとも今みたいな距離感には絶対ならないような」
「覚えてないんじゃない?」

 ジェシーの一言にビッグスは考え込み「あぁ……」と天を仰いだ。アンナの行動を振り返ると確かにシドに気にかけ、どちらかというと子供扱いするようにからかっていた。そうしながらもシドが興した会社ごと護ろうともしている。それを「あなたたちに頼られてる内はエオルゼアに残る」と誤魔化して。なんという回りくどいヒントの出し方。
 対して仕事以外は不器用な男は一切疑問に思っていないようだ。シドとしてはアンナに離れて欲しくないのだろう。何かあると水くさいじゃないかと付いて行き、社員の護衛等の手伝いもありがたいと言う。その傍ら暗に何かあれば彼女に頼れと社員を無意識にジトっとした目で睨んだ。『覚えるのが苦手』と言いながらも知識の吸収が早い彼女にアラグの文献を渡しているのも社員の一部は知っている。このすれ違いはきっとアンナも分かってやっている。今のままではあの男はネロのように頃合いを見て逃げられてから気が付き、ブチ切れる未来が見えた。

「勿体ない……ああなんて勿体ないシチューション……」
「その口ぶりはまだ捕まってない、って判定ッスよね? これ今俺たちが頼ってるから残ってるだけで絶対アンナさん頃合い見て逃げるッスよぉぉ」
「やっぱり親方に伝えるべきでは?」
「私たちが教えるのは何か違うでしょ」

 ヤることはもうヤッてるしあの2人という言葉を飲み込みながら子供じゃないんだから気付くまで放っておきましょと苦笑しグラスを傾けた。


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#即興SS

【R18】旅人は首元を押さえる【full】のシド視点。少々男性向け気味。 投稿を…

紅蓮,ネタバレ有り

紅蓮,ネタバレ有り

【R18】旅人は首元を押さえる(SideC)【pass:共通鍵】
【R18】旅人は首元を押さえる【full】のシド視点。少々男性向け気味。
投稿を見るには鍵を入力:

次元の狭間オメガ後日談。旅人は密会するから数日後。紅蓮メインでいうと4.3後。 …

紅蓮,ネタバレ有り

紅蓮,ネタバレ有り

【R18】旅人は首元を押さえる(full)【pass:共通鍵】
次元の狭間オメガ後日談。旅人は密会するから数日後。紅蓮メインでいうと4.3後。
投稿を見るには鍵を入力:

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注意次元の狭間オメガ後日談。旅人は密会するから数日後。紅蓮メインでいうと4.3後…

紅蓮,ネタバレ有り

#シド光♀

紅蓮,ネタバレ有り

【NSFW】旅人は首元を押さえる
注意
次元の狭間オメガ後日談。旅人は密会するから数日後。紅蓮メインでいうと4.3後。性描写を振り返るシーンがあるので閲覧注意。
 
 ボクには特技というまででもないがある本能的なセンサーのようなものが付いている。
 それは命の恩人も持っていた奇妙な特殊能力。数々の自分への感情に反応するように首の後ろがゾワリとして判断出来るのだ。その中でも悪意を持って利用しようと近付く人間相手は特に鳥肌が立つくらい即反応してしまう。かつてフウガにどうしていたかと聞くとこう答えた。

「怖いならば斬り捨てればいい」
「ボクにはどう感じるの? ゾワゾワする?」
「おぬしは……純粋すぎる」

 なんて言いながら首の後ろを撫で、苦笑していた。当時のボクには意味が理解出来なかった。しかし現在は"それ"の正体を知っている。そう、真っ直ぐで淡く、ふわふわとするような温かい恋愛感情だ。思わず少し触れてしまうくすぐったい感覚。
 初めて体感したのはあの星芒祭、アプカルの滝の前でのこと。シドがボクに向けた小さな感情をほんの一瞬だけ確認出来た。
 そんなこともあったので以降何かあるごとにからかう材料になる。だって本人も自覚していなかったのだから。分かってしまう前に、旅に出てしまえばいい。
 どうせかつて交わした"約束"の細かい部分なんて覚えていないのだからいつでも逃げる準備は出来ていると思っていた。逢瀬を重ねるごとにちり、と感じる頻度が上がっていく。理解していながらも、まるでチキンレースのような面白さに夢中になってしまっていた。

 さて、ボクはあと1つ、異様な感情というものを察知することが出来る。所謂下心だ。少しでも勘違いされたら抱いてきやがる性愛も混じった"それ"が大嫌いだった。首どころか背中までゾワゾワと粟立ち、気持ち悪さが勝る。
 "それ"はフウガと別れてから感じ取り始めたモノだった。だから余計に吐き気がする"自分の性別"と"大人特有"のものだということは理解している。一時期本当に嫌で、再び生まれ持った性質を呪っていた時期もあった。現在はどうも思ってないのだが。大体はゾワリとした瞬間に悟られないよう笑顔を見せ、離脱する。それでも縋ってきたら冷たい言葉で断るのがこれまでの旅路だった。
 人助けをやめればいいだけだ。が、そんな理由でやめてしまったらフウガは怒るだろう。あの人は善人は勿論、悪人だって関係なく助けては名乗らずに去る。圧倒的な力は、弱き者のために使う―――それがボクの憧れだった。だからその通りに動いてるだけ。

 シドが持ってしまったと初めて感じたのは墓参りから数日後、首元を噛まれた夜。今まで一度もなかった恐怖に襲われる。肌に歯を立てられる瞬間まで微塵もなかったので本当に驚いた。
 まあ、冗談でも許可をしたのはボクなので誰がどう見ても自業自得だったのだが。直後、泉から湧き出すようにくすぐったさとは別に粟立った感覚が一気に畳みかけて来る。この時は忘れたとかとぼけて煙に巻き、逃げることしか出来なかった自分が情けない。

 その後、『通話程度だったら特に反応しないから置いておこう。だが次はどんな顔して会えばいい? ……普段通りでいいか』と思いながらアラミゴ解放後、ラールガーズリーチで久々に直接顔を合わせる。
 意外なことに何も感じることなく普通にいつもの関係が続いたことに何重にも驚いた。まあそれを"また"崩したのはボクだったのだが。

 もう奇妙なことは起こらないだろうと高を括り"効率的なストレス解消手段"を提案、からかっただけで処女を散らされた夜になる。これは誰も予想は出来なかっただろう。勿論ボク含めても、だ。しかも屁理屈と強引さが混じり合い意識を失うまで抱き潰された。数々の感情の移り変わりが首元を通じてダイレクトに伝わり、更に全身は痛みとは別の感覚が脳を焼く。

 その後、"貰っていた手紙"と共にどう処理すればいいのか分からなかった。結果、温泉旅行と称してまたしばらく逃げることしか出来なかった自分にも嫌気がさす。そろそろかと戻ってからは何事もなく検証が終わった。相変わらずこの人はボクをどうしたいんだと思う。個人的には本当に最後までヤッてしまえば後腐れなく気まずくもなかったというのが事実だったので悔しい。



『先日はお土産ありがとね。折角ならこっちにも顔出したらよかったのに』

 暁からの次の"お願い"待ちで付けっぱなしにしていたリンクパールが鳴る。「もしもし」と出てみるとジェシーの声。とりあえず「夜も遅かったし。また改めて挨拶行く」と答えるとうふふと笑う声が聞こえた。

『会長もあなたが来た後頑張ってたわ。一晩で書類を終わらせたのよ! アンナには本当に感謝してるわ』
「は、はは……」

 嘘でしょと乾いた笑いが漏れる。そこまであの一言に期待を抱いたのかと唖然となった。

"そのお仕事終わったら、ご飯行こうか"

 数日前、帰燕館の個室にて暇つぶしにぼんやり作業していると付けっぱなしにしていたリンクパールが鳴った。突然鳴ってビクリと身体が跳ねながら出てみると連日缶詰だったのか疲れ切ったシド。何食わぬ顔で通話中に「会いたい」と苦笑していた。
 なので適当な土産を持ってサプライズで現れたついでにヌいてやった後に耳打ちした台詞だ。何でそうなったかは期待されたからとしか言えない。

 散々な初めて身体を重ねたあの夜の後、本当はこれまでのように手酷く扱い捨ててやることも考えたのだ。
 でも、"あの時の子供"にそんなことが出来るわけがない。更に"内なる存在"があと1年絶対に消息を絶たないと明確なタイムリミットを決めやがった。
 だから今すぐ旅に逃げるという選択肢も潰されている。シド関係では余計なことしかしないもう1人の自分に苛立った。

 ジェシーに適当な挨拶を返し、次はご褒美を待つ犬のようになってるであろう男に通信を繋ぐ。まあどうしてボクを好きになったのか、食事ついでに話し合うのも悪くはないだろう。

「やあシド、寝てたでしょごめん。ジェシーから聞いた。ご飯の件」
『今夜』
「いやムリせず週末とかでも」
『今夜、レヴナンツトールのエーテライト前で待ってる。逃げるなよ』

 プツリと切られた。「うっそでしょ……」と呆れる言葉が何とか喉から発せられる。とりあえず現在の状況を確認した。悔しいが和平交渉が一段落つき情報収集の最中、つまり戦闘要員である自分は暇。そしてボクは現在石の家に滞在中。
 適当な人に「何か動きあったらすぐに連絡、よろしく」と声をかけ"準備"のためテレポを詠唱した。

 それに―――ボクが最初から逃げるという行為なんてするわけないじゃないか。莫迦にしないでほしい。



 夕方。『立ち寄りはしたけどいなかった。いやあ残念』というアリバイ作りのために集合時間よりも30分程度早くレヴナンツトールに飛ぶ。誰相手に対してもとりあえず約束の時間より早く来て待つのはもう一種のルーチンだ。―――よし、元から滞在してたとはいえ集合場所に来ました。というわけで帰ろうと歩き出そうとした瞬間に腕を掴まれる。一瞬漂った機械油の匂いとその大きな手から誰かは予想が付いた。

「や、やあシド」

 振り向くとジトリとした目でシドがボクを見ていた。
 いつもは思ったより仕事に手こずったからとギリギリか遅く来るはず。冷静に立ち回りたいのに、急に想定外のことが起こり心臓がバクバクと鳴っていた。

「さ、先に石の家でクルルに現状報告後、待機予定で」
「そうだったか」

 適当なことを言い、ニコリといつもの笑顔を作ると同じく笑顔が返って来る。
 何だ寝起きで少々機嫌が悪かっただけか。特に首元がざわめくこともないのでホッとする。

「さあ行こうか」
「うん」

 ガシリと腰に手を回すように掴まれた。まだ逃げると思っているらしい。恥ずかしいわけではなく、流石にこの辺りで人に見られるのは"よろしくない"。こっちは何も感情を持っていないというのに他人から誤解されるような行為はなるべく避けたいと思っているのだ。
 ボクが「シド、私逃げない。普通に、さ」と苦笑してやると寂しそうな目でただじっと見つめてくる。ただただ何も言わず絶対に折れる気はないという視線を向けられ、先にこちらが音を上げてしまった。

「あーもー! そんな顔しない! 分かったから! とっととご飯!」

 そう言った瞬間不敵な笑みを浮かべ、そのまま引き摺られていく。騙された。「子供か」と盛大にため息を吐く。
 こんなのどうすればいいんだ。フウガ、助けてと空を見上げた。



「何で、私のことが"好き"?」
「―――は?」

 よく2人で行くレストランで単刀直入に聞いてやる。きょとんとした顔でシドは見る。

「だーかーらー、今後の参考に。私何か勘違いさせるような特別なことした?」
「俺は勘違いしてないぞ」
「それが理解不能。私はただ人助けをしているだけ。あなたは助けた人間のうちの1人」
「俺にだけイタズラかける件は?」
「遊べる」
「こら」

 軽く足を蹴られた。そうかイタズラも拍車をかけていたんだね。確かにシド以外の人間にする気は起きない。

「あなたになら少しは遊びを入れてもどうもならないかなって思って?」
「そういう所だ」
「あなたを護るのは私。私を見て、手を握り、頼っていればいい。そのためならどんなイタズラだってする」

 あ、顔が真っ赤になった。ニコリと笑ってやる。

「前も言った。私はそれなりにだけどあなたに恩は感じてる。英雄への道を作ってくれたのは間違いなくあなた」

 そう、シドはその飛空艇や新たな装置でいつも助けてくれている。エオルゼアで迫害されず自由に人助けしながら暮らす生活が出来ているのはこの人のおかげだ。それなり、じゃない。本当は凄く感謝しているけど調子に乗るので程々ということにしておく。

「あなたがいなかったらとっくに旅出ってる。何も分からなかった私に差し伸ばされた手を握り返してやった。だから求められる限り、恩返し。ついでに私の手が届く距離で笑って―――それをちゃんと自覚してほしかったのさ」
「それが一種の告白だと思わないアンナは凄いな……」

 眉間に指を当て、ため息を吐いた。何故そういう言葉が出て来るか分からない。

「それに人助けの理由、フウガに憧れたから。特定の感情なし」
「違う、お前がやっている行為は無償の愛を注ぐ献身的なものだ。誰だってその―――"勘違い"する。今までよく何も起こらなかったな」
「去るだけでいい。すぐに判別可能」
「アンナ……」
「ねえフウガと同じことしてるだけなのに何で? 性別が悪い?」

 一切理解不能。すると先程と一転して顔が青くなったシドは机を隔てて肩を掴んだ。

「本気でそれを言ってるのか?」
「? うん」
「―――もしお前の性別が男で同じことになっても、俺は間違いなく好きになるし抱く」

 へ? とボクは目を見開いてしまう。何を言ってるんだ、この人。

「リンドウはどうしてたんだ」
「人助けして、帰ってたよ」
「違う。アンナと一緒で特定の人間に感情を抱く前に逃げてたんだ。間違いなくモテたぞ」
「当たり前。フウガは無名の旅人だから。カッコよく去る」
「お前も人助けをする姿がカッコよかったあの人が好きだったんだろ? それと同じ感情を、俺は持っている」

 ふわりとくすぐったさが湧き上がったので反射的に首元を撫でてしまう。つい「やめて」と弱々しい声が漏れた。ボクの手を掴み握りしめる。柔らかな笑顔を見せ、突然とんでもないことを言い出した。

「綺麗な姿も、自分よりも先に人助けをする勇敢さも、優しい笑顔も。ああ少しでも想定外なことが起こったらすぐに狼狽える表情もいいよな。グッと来る」
「へ?」

 誰の、話? 思考停止したこちらを無視し、言葉が続く。

「刀を撫でながら笑う姿も、圧倒的な強さも。何度手を出すのを我慢したか分からん。アンナが関わると絶対新しい技術が転がり込んでくる。イタズラに使ってる地味に高い技術力もほしいくらいさ。冷たく柔らかい肌も、徐々に温かくなっていく行為の楽しさもな。他所では体験出来ん。あとは」
「分かった! 分かったよ!!」

 流石に恥ずかしくなったので止めてしまう。あとこれ以降は多分表で言わせてはいけない感情が絡んだモノになると本能的に察知した。

「幾らでもお前の好きな所は言えるぞ?」
「満足! ストップ! そこまで拗らさせた私が悪かった!!」
「本気だって分かったな?」

 嗚呼その真っ直ぐな目をやめてほしい。何も言えなくなってしまう。顔が熱い。どうしようもない感情を、ボクはシドの耳で囁くと目を見開き見つめて来た。




 シドはボクの隣に座る。頭を優しく撫でながら笑っていた。

「首元押さえるのは、照れてるだけでよかった。本当に体調が悪かったらどうすればいいかと」
「別に照れてるわけじゃない」

 嗚呼ムズムズして頭が変になりそうだ。なんてこの人は純粋なんだ。眩しい光が赤く染まるボクを焼く。嫌悪感はない。ついポロリと溢す。

「フウガみたいに昔から、自分に向けられる感情に首の後ろがゾワッてして分かる。それだけ」

 目を丸くしてボクを見ている。そしてボクも遂に人に言ってしまったと血の気が引いた。「じ、冗談」と離れようと動くが強く抱きしめられる。不器用に首の後ろを撫で、離さない。

「なあいつから俺はお前が好きだったんだ」
「うーざーいー、触るな! いつからとか言うわけないでしょうが自分で考える!」

 濁りが一切ない真っ直ぐな感情と直接触られる感覚がくすぐったい。そんな感情を、ボクに向けないでよ。

「キミがボクのことが本当に好きなのは分かったから」

 あと僅か1年、"宿題"とやらが解けるのは分かりきっている。この冷たい肌がほしいのなら、精々頑張ったらいいさ。

「ボクに好きと言わせたい気持ちは痛いほど分かったけど絶対にそうはならないよ」
「ふん、いつか言わせてやるさ。逃げるんじゃないぞ」
「―――まだ気は変わってないから。キミは純粋すぎるんだよ」
「ハハハ」

 そっぽを向くと後ろから優しく抱きしめられた。ブランケットを被り、「おやすみ」と呟き目を閉じた。


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#シド光♀

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注意漆黒以降ネタバレ。独自設定の入った小説のあとがき ずっと第八霊災が起こった時…

メモ,ネタバレ有り

メモ,ネタバレ有り

20240320メモ
注意
漆黒以降ネタバレ。独自設定の入った小説のあとがき

 ずっと第八霊災が起こった時代について色々考えて頭から一度消したかったのでアウトプットしました。

 以下あとがき隠し
 まず第八霊災が起こった次元でのアンナとシドの関係について。アンナが"観念する"のは第一世界での出来事後なのでそれ無しで死んでしまうことになります。
 そして初夜のタイミングもきっと違ったんだろうなあってぼんやり思ったり。シドも想いを伝え切れず、体の関係が先立ってそのまま熟成されたまま運命の日を迎えてしまう感じ。
 具体的に言うとリンドウの墓参り夜に事が起こります。その時は"お礼"と称して行為を行い、シドは想いを伝えるがアンナはこういうセリフを残すでしょう。

「私よりもいい女性はこの星空の下にいくらでもいる。その相手が見つかるまではあなたのやりたいようにさせてあげるよ。あなたが死ぬまで幸せでいられるよう、全ての外敵から護ってあげる」

 そんな感じ。シドは相手を作る気なんてその時にはもうなかったが、隣にいてくれるならそれでいいと甘んじてしまいました。"宿題"が与えられることもなくオメガの検証も円滑に行われ、暁のメンバー誰も倒れず最終決戦へアンナは走り去ってしまう。

 第八霊災が起こり、アンナが死んでしまった後。シドは彼女のために墓を作ってやり、そこでネロから預かっていたという本を渡されます。それは旅人は人を見舞うで託された"答え"です。宿題の話が無くてもエメトセルクの手紙は届いてるし遺言として準備をしていました。本は大切に保存され、後にグ・ラハに託されます。(序章:紅蓮の先へと続く物語
 その本に挟み込まれていた紙片が今回のお話に繋がります。"内なる存在"が念のために入れた地図で、それはとある場所にある研究所へ導きました。

 今回のお話はそんな"内なる存在"となったア・リス・ティアという男の複製体ア・リス視点で彼らの生涯を観測するというものになります。この複製体がメイン時空ではリテイナーとして走り回る自称トレジャーハンターだったり。彼はア・リスが持っていた知識、記憶をインプットさせておいたクローンです。魂はアンナに捧げ、肉体は朽ち果て消えてしまっています。"ドアホの魂の一部も持って"と言ってますが、それはこっちに書いてます(旅人に"魂"は宿る)。
 これまでエルファーの過去やアンナが持っていた謎等全て詰め込みました。これらはメイン時空のお話では公開する予定はほぼないがちゃんと見える位置に置いておきたかったのでお話として出力しておきます。
 誰も幸せにならなかった話を書くのは初めてだったのでぶっちゃけ結構苦痛でしたが、いい感じにまとめられてよかった。まだ幾らでも盛れるけどそれは野暮かなって感じ。

 ア・リスが何度も「もし過去を本当に改竄出来たら」と強調しますが彼としては本当にこの理論が成功するかは五分五分な感覚を持っていました。本人としては俺様と俺様の友人が幸せになればそれでいい勝手にさせろと思っているので無責任に救ってやってくれと声をかけてやったりしています。リンドウは弱虫、ア・リスは狂ってるとエルファーは称していましたが、それはあくまでも妹まで実験感覚で余計なことしてと拗ねてただけで本当はちゃんと懐いてました。
 というかエルファーは優しさはあるが愛想の悪さで嫁8人と友人2人しかいない人間だったので距離感がバグってたり。数十年後、ネロと行動し、ガーロンド社で働くことになってからはそれなりに柔らかくなっていました。因習より社畜の方がマシってなってたんでしょうね。本当か? でも第八霊災でそのそれなりな幸せが崩れ去り、再び暗くなっていきます。"肉"を喰いという描写はまあ察してください。故郷の因習で抵抗がない人間だったってやつです。
 そんな姿をネロはずっと分かっていながらも目を逸らしていました。何とかしてやりたかった、けどどうすればいいのか分からないって感じ。感情としては親しい友人としてのものでそれ以上の感情を持っていたかは伏せてます。ネロってその辺り全て隠して歩み続けることが出来る人間だと思っているのでどっちでもいいんじゃないかな。アンナに対してはバカ騒ぎ出来るビックリ人間って感覚でそれ以外の感情は一切ないのは言い切れますが。

 オメガとア・リスは現在を記録するモノと過去を記録するモノと分けられるんですよね。本編中には書かれてませんが、ア・リスはそれまで聞いてきた人間の名前と大体の過去の所感、アンナとの思い出を全て書き残し、エルファーに託しています。意思疎通は取れなかったけどそれなりに空気は読んで仲良くしてるように見せてました。実際は少々語弊はあるけど"内なる存在"と同一人物なのでオメガ的にはどちらかというと狼藉働かないか見張っていたの方が正しいんですけどね。畳む


 以下暁月ネタバレ入れたお話。
 アンナとリンドウが持っていた気迫と呼ぶものに関して。初めてお話としてどういったものなのかと明記しました。要するにア・リスらはエンテレケイアを再現したような技術を開発したってことになります。つまりリンドウと別れてからのアンナはしばらく心を塞ぎ込み暴れて"鮮血の赤兎"と呼ばれていましたがそれは終焉ちゃんみたいな状態になりかけていたってことですね。暁月編でその辺りに触ったお話は書く予定ではありましたがいつになるか分からなかったのでここで先出しって感じ。そういう意味ではアンナやリンドウ、ついでにア・リスはメーティオンに寄り添いやすい人間かもしれません。畳む

 そんな感じ。これから上げるものの予定ですが、リンドウ墓参り二度目であったエルファーとネロの会話、オメガ検証後日談を1つ、感情を機敏に受け取るアンナの話、リテイナーア・リスの短編集辺りが予定に入ってます。

(対象画像がありません)

注意&補足第八霊災ネタ。死ネタ。暁月ネタ有り。自機出番なし。漆黒後に現れるリテイ…

暁月,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

暁月,ネタバレ有り

その複製体は聞き記す
注意&補足
第八霊災ネタ。死ネタ。暁月ネタ有り。自機出番なし。
漆黒後に現れるリテイナーのア・リスが第八霊災が起こった後に"起動"される話。
メイン軸では触れられないだろうアンナとエルファー、ア・リス、リンドウの秘密な独自設定を明かしています。
 
―――俺様が起こされたのは"傑作"が世界によって壊された後の話だ。

 俺様はかつて友人の遺言を遂行し、"傑作"を最高なものに仕上げるために奔走した男の複製体。作った"親"は友人の魂の一部と共に想いを託し消えた。
 そんな"傑作"が完成し、ある"トリガー"を引いた際に俺様が起動するよう誘導させる、これが当初の計画である。しかしその願いが叶うことはなかった。

 目が覚めたら周りにいたのは赤や青の同じような服を着た男たちと勝手に"トリガー"役に任命した友人。驚愕した顔で俺様を見下ろしていた。

「お前、何で」
「起きたお姫様にはおはよう、だろ? よお久々だなエル、大体60年ぶりか?」
「……85年ぶりだ、寝ぼけたことを言ってるんじゃない阿呆」
「そっか。フレイヤちゃん元気? 念のために言うがテメェの可愛い妹のことだぞ? あの子がいないと俺様は起きることが出来ないはずだから知ってるよなァ? 会わせてくれよ俺様の最高傑作にさ。ケケッ」

 俺様はそこでこれまでにあった話を聞かされた。第七どころか第八霊災が起こり、フレイヤ―――いやアンナ・サリスは死んだらしい。"親"と友人の魂を抱えたままで、だ。どういう作り話だよと笑ってやったが隣にいた白色の男に胸倉を掴まれたことで現実と知る。

「お前がアンナを壊したのか!?」
「壊したぁ? 人聞きが悪いことを言うな。俺様が『生・か・し・て』やったんだよ。ていうかテメェはあの子の何なんだよ。あ、まさかコレか? ケケッそんな怖い顔すんなよ。俺様は嬉しいんだ。あの子が人間に近付いていたってことになァ」

 その白色の男はえらく友人にそっくりな真面目そうなヒトだった。多分アンナも無意識に追いかけていたんだろうな。でも反応的にはお互い想いを伝えることはなく両片想いだったのは分かる。焼き焦がれるほど想っていたのだろう。ああなんて青い男なんだ。
 それよりも少し離れた場所からの気配が気になる。賑やかだったから近付いてきたのだろう、これは悪意を何もない獣だ。このラボが壊されては困る。その腕を振りほどき、そばに置いていた短銃を手に取る。俺様用にカスタムされた特殊なモノだ。外に向けてぶっ放す。爆音が響き渡り俺様以外の人間が耳を押さえている。

「お前!?」
「うっせぇなどけどけこの中のものが壊れされたら嫌なんだよ」

 その言葉と同時に外で見張っていたのだろう女が「魔物がこちらに向かって! きゃっ!?」という声を上げた。すかさず足に力を籠め"跳ぶ"。エルファーは目を見開き俺様を見た。

「エル、俺様はただウロウロ遺跡を荒らしてただけじゃないんだぜ? 俺様はこの施設を"護りたい"んだ」



 外にいた魔物をあっという間に片付けると白い男が俺に声をかけた。

「よしよし問題なく使えてよかったぜ」
「それは気迫か?」
「おー懐かしい。リンが付けた名前じゃないか。違うぜ、これはシハーブってんだよ。だっせぇ名で呼ぶな」

 造られた身体に施されたモノにより"再現"された技術に満足出来た。エルは大股で近付き怒鳴って来る。

「どういうことだ!? "それ"を何で使えるんだお前は!!」
「そりゃ普通の人で実験したら下手すりゃ溶けちまうだろ? 先にアラグのクローン技術を"再現"していっぱい自分の複製体を作り試してたんだ。んで、成功した"俺様"をバックアップとしてこの地に保存してたってわけだ」
「ハァ!? オマエそンな理由でクローン複製したってか!?」

 次はひょろ長い兄ちゃんが必死な顔して言ってくる。これで察した。コイツらは技術者集団のようだ。エルは中々楽しい奴らをオトモダチに持ったみたいで安心する。

「さあエル、こんな所に長居は不要。これから俺様をどうする? 今殺すか? それとも―――連れてくかい? あの飛空艇に乗せてさ」
「―――会長クン、君に託そう。彼、の元は僕のかつての友人であり、リンと共にアンナを歪ませた元凶だ。だがどんな無茶も叶えてくれる天才でもある」
「ケケッその技術はテメェも共犯者だろ?」

 会長、と呼ばれた白色の男はしばらくこちらを見つめていた。そして口を開く。

「条件がある」

 条件、それはこれからの自分たちに対して口出しをするなという。その腕っぷしで護衛しろと言いたいらしい。一種のカミサマとして置いておくということなのだろう。気に入った、快諾してやったよ。

「じゃあ次はこっちが条件を出すか。俺様が持っている記憶はリンが死んだ直後までだ。それ以降は何も知らない。この世界の歴史だけじゃない。お前たちそれぞれの人生を順番に聞かせてくれ」
「―――全員か?」
「おう。ここにいるメンバーだけじゃない。俺様が死ぬまで文字通り全員の記憶と、アンナちゃんとの思い出を聞かせてくれないか」

 こんなにもあの子に必死になるような人間が増えたことが何よりも嬉しかった。赦される気はない、ただその歴史と記憶を全て聞いてそれを形にしたいだけで。
 まあ一種の懺悔室扱いされることになったんだけどな。それもまた人生だねケケッ。

「ああ自己紹介がまだだったな。俺様はア・リス、しがない科学者の複製体さ」

 ニィと笑ってやると何故か拘束されて連れて行かれることになった。何でだよ。



 飛空艇の上から各地の様相を見せてもらったがそりゃ酷いものだった。いつだって人間は勝手な生き物だなとため息を吐く。大体の為政者は死に、大気中のエーテルも弱り今まで使っていた燃料もゴミになった。だからどの勢力も余裕がないということらしい。幸い俺様を縛っている奴らはどこにも属さない技術を握る会社だったため狂った人間があまり出なかったみたいだ。何人も死人を出しながらもなんとか飛空艇の燃料である青燐水の変換を行い、アンナちゃんが遺したモノに挟まっていた地図を辿りラボに足を踏み入れたらしい。

「アンナちゃんは俺様の最高傑作になる予定だった。"アシエン"とやらに使い潰されるより先にリンと同じく欠けちまったものを取り戻す。そのために肉体を捨てたんだが完成する前に壊れちまうとはなあ」
「これ以上アンナをモノ扱いするとここから落としてやるからな」
「ひえー会長サマはコワイコワイ。そもそもリンがやらかさなきゃ俺様はあの子に何も施さねぇって。だからアイツを恨んでくれよ」

 シドという白い男はとにかくアンナのことを問いただしてきた。自分の知らないあの子の過去が気になるのだろう、覚えてる範囲で少々教えてやった。そして逆にコイツからも聞き出してやる。子供の頃、寒空の中助けて20年後に気付かぬ内に再会、仲良くしていたらしい。

「そうか、リンが死んで俺様が消えた次の年にテメェがかつてアンナちゃんを助けて、ねえ。想定通りの仕様として動いていてよかったさ」
「想定、通り?」
「あの子の意識が途切れても体内エーテルが尽きるまでは"俺様"が身体を動かせたんだよ。尽きたら本当に死ぬんだけどな。多分その時凍死しかけてたぞ。テメェが通りかからなかったら皇帝の前に持って行かれてたかもな」
「どういうことをしたらそうなるんだ」
「俺様最後の研究。アンナちゃんの"もう一つの人格"になってやってたんだよ。そうでもしねえとリンみたいな無欲で枯れた閉じ切ったアホの再演になったんだわ。ついでに反省させようとドアホの魂の一部も持ってな。時々意識乗っ取って必要な情報を見せて教育してやることにしたんだよあの底抜けたアホと一緒にすんじゃねぇ」
「オマエがアレかよ!?」

 近くで聞いてた金髪の男ネロが乱入してくる。どうやらコイツの前では結構出て来ていたらしい。

「時々変な含みのある喋りしてンなって思ったンだ。いつもより頭も良かったしよ」
「俺の前では出て来なかったぞ?」
「いやオメガ倒した後こっちに顔出した時は明らかにメスバブーンじゃなかったぜ? ガーロンドが気付かなかっただけじゃね」
「ぐっ……そ、そういえば何度か他人事みたいな言い方したことはあったが……」
「会長サマ鈍感なんだねぇ。好きだったんなら異変位気付いてやれよ」
「悪かったな鈍感で」

 からかい甲斐がある奴らだ。ネロという男に関しては"俺様"も相当気に入ってたのだろう。しかしそんなことよりエーテルが死んだ影響か纏わりつくような大気が気持ち悪い。拠点に連れて行ってもらったら屋内くらいは快適に暮らせるように変換器でも作ってやろう。ひとまず頭の中で仕様図と計算式をいくつか思い浮かべる。マァ再びリセットされてしまった時代に役立つものかは分からない。まずはそこから勉強し直しだろう。
 ラボの中にあるモノは燃料にでもすればいいと渡してやる。すると大体の奴らが「そんなこと出来るわけないだろ!?」と目を見開いていた。こっちにとっては通過点でしかなかった盗掘物やコーデックスの翻訳が彼らには刺激的に映ったらしい。俺様が入っていた睡眠装置もそうだ。魔導技術も使わず永久機関と化している部分に興味を持っているとか。確かにエーテルも大して消費させずに動かしているから変に映ったのかもしれない。実際は自然に頼ったもので、俺様としてはあと数年したら身体は腐っていたと見た。そんな代物だが自分たちで調べて判断すればいいだろう。
 以降、定期的に彼らはラボを出入りすることになる。だが、持って帰れたものは極一部で大体は途中で事故が起こったり略奪された。まあ過去の知識としてインプットされただけでもマシだろう。書物くらい再び俺様がペンを取って書き記せばいい。装置だってほぼ役立たないからスクラップにでもすればいいじゃないか。
 そんな俺様からしたらオメガとアレキサンダーをはじめとした報告書が非常に興味深いもので。文献で何度も見かけたクリスタルタワーも実際にこの目で確認出来るとは予想だにしなかった。本当にあの時アンナを生かしておいてよかったと好奇心が喜ぶ。まあもう死んでしまったのだが。

 レヴナンツトールに降り立った後、"最高傑作"になる予定だった人間の墓の前にぼんやりと座る。違和感を感じ目を凝らして視ると奇妙なものが映った。この子は既に死んでいるはず。が、埋められているであろう棺周辺がエーテルのようなもので包み込まれているのだ。まるでその躯を護るかのように。一体誰がやらかしたのか。自分の命を削ってまでそんな仕様を作るやつがいるわけがないだろう。

「―――アシエンの仕業だなこりゃ」

 1人ボソリと呟く。いや、この護る結界の主を見る限りヤツだけではないだろう。そういうことにしておく方が隣の男のためだ。俺様を拘束するロープを持ったエルは眉をひそめ「お前も視たんだな」とため息を吐いている。

「これあの会社の人間たちに言ってるのか?」
「否。というか掘り返してどうなるかも分からない要素を伝えるわけがないだろ」

 絶対に会長クンが掘りだそうとすると肩をすくめている姿を見て「あー」ということしか出来ない。

「どうして妹だけがこんな目に遭わないといけなかったんだ。僕も一緒に背負いたかった。家族なのに、何で話してくれなかったんだよ、フレイヤ」

 座り込み、顔を伏せている。俺様はその隣に座り「わかんね」とため息を吐く。

「そういう星の下に生まれた子と判断するしかねぇだろ。相変わらずネガティブで泣き虫なのは変わらなくて安心したぜ?」
「うるさい」

 鼻を啜る音が聞こえる。予想だが彼らの前では涙を流す姿は一切見せてないのだろう。戻ってこないエルが心配だったのか、ネロがやって来るまで泣き続けていた。声が聞こえた瞬間に咳ばらいをし必死に涙を拭っていたのは少々面白かった。
 ネロとエルはどうやらしばらく一緒にフリーランスの技師として旅をした仲らしい。あの嫁以外の話題では冷淡だった男が少しだけ柔らかくなった姿に驚いた。親しいながらもお互いあまり踏み込まない"良き友人"関係がかつての恋人シェリーと重ね目を細めてしまう。



―――数十年の時が経過した。

 最初に会った人間たちは徐々に老け、死にゆく中全く姿の変わらない俺様とエルは陰で"理論"確立のサポートを行った。多少の物資調達や特に失ってはいけないシドとネロの護衛が俺様たち2人の仕事である。当人たちのご希望通り、研究に必要になるであろう知識は一切提供しなかった。エルは人知れず"肉"を喰いながら彼らの営みをただ少し遠くで見守っていた。時間が経つごとに協力者も増え、既に第八霊災が起こった原因もほぼ特定されている。正直数々の分野のエキスパート達が集まり何日も議論を重ねる姿は新鮮で、見ているだけで面白かった。そして予想通りであったが、彼らが導いた結論は"第八霊災回避のためにはやはりアンナが必要だ"、と。―――なんてこんなにも求められていることに密かに涙を流す姿を何度も見ることになる。素直に礼を言えばいいじゃないか。まあ言えるような人間じゃない位長い付き合いの中で知っている。この結論をきっかけにもっと人が集まってきたという事実が、ちゃんとアンナは胸を張って"人間"として生きられていたと目に見えて確認出来、すぐに彼女の墓の前で報告してやっていた。
 一方、そんなエルを見ていた俺様は、故郷の闇という"呪縛"が未だ解かれていないことも痛感した。折角追放という名のしがらみからの解放が、霊災というクソみたいな出来事により再び闇へ堕としてしまったとため息を吐く。

「なあネロくん。もしさ、もし過去が本当に改竄出来たらエルを救ってくれないだろうか」

 我慢出来なかった俺様はつい仮眠しているネロにボソリと呟いてしまう。皴くちゃになり、すっかり年老いた彼も眠る時間が増えた。シドだってそうだ。ずっとアンナを想いながらも涙を枯らし、研究のため羽根ペンを握り続けていて。新たな隠れ家の壁はネロと議論するために文字だらけだった。自分にもこんな時があったなと苦笑する。

「エルはな、本当は泣き虫で甘えん坊なんだがその甘え方を知らないんだぜ? 滅茶苦茶リンに懐いてアイツのために僕の長い時間の一部を捧げてやるって言ってたんだ」

 思い浮かんだのはリンを差し置いてエルとラザハンで議論していた頃の話。一番の年下だったはずが落ち着き大人びていたリンのことが俺様たちは好きだったのだ。

「そんなエルが今は自分の残された時間をお前さんのために使ってるんだってよ。妹のためじゃなくてな。知らなかっただろ?」
「―――知ってたぜ」
「おいおい起きてたのかよ残念だ」
「うるさいから起きちまったンだよ」

 やれやれとゆっくりと身体を起こすネロを支えてやる。少し嫌味ったらしなのは年を取っても変わらないねえと笑ってやるとケケと笑っていた。

「あいつ隠せてると思い込ンでるみたいだが何年一緒にいンだよってな」
「だよな」
「でも触るのが怖かったンだよ。あいつ下手な機械や女より繊細じゃねェか」
「分かる」
「俺だって分かってンだ全部罪をエルに擦り付けてたってな。アンナを暴力装置呼ばわりしてたやつらと一緒なことしちまって、バケモノとして生きてやがる」

 そうか、コイツはエルが何を喰って生きているかも気が付いていたようだ。まあ追及しても理論立て優先だろとのらりくらりと避けただろうし心の中に仕舞っておくのは正解である。

「おっとそれ以降の言葉はエルに言ってくれ。俺様は何も聞いちゃいねぇから」
「いつぞやに全て話せって言った人間のセリフとは思えねェな」
「聞かせろと言ったが俺様は懺悔マシーンじゃねぇんだよ」

 数十年もの間、人々の軌跡を聞き続けた。そして1つ、"面白いモノ"を作って渡した。花を模った金属片から使い物にならなくなったシャードを加工した光るお守りまで。―――彼らの思い出にまつわる象徴を贈ってやる。それは俺様なりのお礼ってやつだ。

「それともネロくんや、やっと自分の思い出話をしてくれる気になったか?」

 そう、未だに軌跡を聞けていない存在がいる。シドとネロだ。コイツらだけは決して口を割りゃしない。
 露骨に嫌そうな顔をした後、苦笑しながら肩をすくめた男は遂に口を開いた。

「俺は、ガレマルドの貧しい田舎で生まれた。恵まれたガーロンドとは全く違う環境で育ってよ―――」



 長い話だった。腐れ縁となったシドに対する長きにわたるコンプレックスとその払拭に、エルとの出会い。アンナはメスバブーンと呼びながらも妙に騒げるいい友人だったと振り返った。でもこれまで聞いた奴らの中では激動な人生で面白さは上位だ。手元にあった針金を弄り、少しだけ残していた白と金の塗料を塗りウサギを模したものを渡す。目を丸くしてそれを見つめていたネロに「話のお礼だ。お守りとして持っとけ」とニィと笑ってやる。

「近い内に終の棲家を決めてけよ、ネロくん」
「いきなり何言ってンだ」
「昨晩あの紙束を見せてもらった。予言してやるよ。お前たちの研究はもうすぐ纏まる。最期の安住の地と墓の場所をシドくんと決めとけ。俺様とエルが絶対作り出してやるよ」

 ささやかなご褒美さと言いながらその場を去ろうとすると「待て」とネロは口を開く。

「墓の場所は決めてンだよ。俺もガーロンドもな」
「そか。……嗚呼レヴナンツトール」
「クリスタルタワーがよく見える場所でって決めてンだ。若造たちの頑張りを眺めてェ」
「―――そう言うと思ったぜ。シドくんは確定だと思ってたけどお前さんもとは思わなかったぜヘヘヘ」

 起こして悪かったな、小さな黒い塊を引き連れ外へ出た。いつの間にか"記録"のために入り込んでいたらしい。意思疎通は取れなかったが"これ"は何がしたいかは分かっていた。人間たちは現状の報告はコイツにし、過去の話はこっちへ。それが彼らにとってどういう意味を持っていたかは知る由はない。が、少しでも心が軽くなっていれば嬉しい。こんな陰鬱な滅びへ向かう世界を切り捨てるが如く巻き込み、"在るべき未来"へ繋ぐ。―――そんな彼らが2体は好きになっていた、のだろう多分。俺様はそうだがこの機械の塊はどう考えているか分からない。だって"これ"はそれに至るための感情が存在しないのだから。きっと理解するために未だ観測を続けているのだろう。外で待っていた黄色い生物を撫で、何もない空を見上げた。



「お前とアンナが持っていた気迫について聞いておきたい」

 全うに年齢を重ね皴だらけの手が俺様の腕を掴んだ。理論は完成し、あとは今後の人間に託す準備で"彼らの役目"が終わる。少しでも故郷に近い環境であり、モードゥナ近郊に位置するクルザス。そこで小さな家を構えシドとネロは暮らしている。現役を退いた今も伝説の機工師に会うためにとやって来る客の選別が俺様の仕事だ。エルは相変わらず物資調達役となっている。

「シハーブだっつってんだろ。……ラザハン式錬金術にな、"アーカーシャ"という概念があるのは知っているか?」
「聞いたことないな」
「目には見えない想いが動かす力。まあ普通だったら人の手では何も加えることが出来ないものだ。火事場の馬鹿力という言葉は知ってるだろ?」
「まあな。強い意志で何かをするってことか?」
「そうそう。それを力として形にし、行使出来ないかと聞いたのがリン。アイツ、ハーフガレアンでな。ママみたいなエーテル操作は不得意だしパパみたいに鎌持って妖異と契約も出来なかった。代替となる力が欲しいっつーから俺様とエルで叶えてやったんだよ。代償はキツいものだったけどな」

 その力は人の身に余りすぎるもの。だがリン、それに加えアンナは使いこなすことが出来てしまった。いや、アンナに関しては使えるように手を加えたのだが。

「怒りや悲しみが籠れば赤黒くなり、"大切な人と護るべきもの"への感情が強くなるほど青白く輝く」
「大切な、人」
「テメェはアレを目の当たりにしたんだろ? アンナちゃんは何やかんやちゃんと見てくれてたんだよ。リンの言いつけで大切な人を作らないように立ち回ってただろうにな」
「―――代償は何だったんだ?」
「人の感情に対して敏感になる。"俺様"も起きてから痛感したんだが自分への感情変化で首がゾワッて来るんだわ。もう鳥肌立つくらいにだぜ? かつてリンは複数人から悪意を持って近付かれたもんだから怖くなって逃げたんだよ。それが無名の旅人って名乗り始めた理由だ」

 アンナちゃんの行動も妙な時はあっただろ? と聞くと「確かに」とボソリと呟いた。

「あいつは一定の距離感以内に入ると首を押さえながら離れたりしていた」
「そのセンサーをかいくぐってテメェは懐に潜り込むことは出来たんだろ? いくら昔助けてくれた人だったとしても長い間相手になってたのはいい所まで行ってたな」
「―――初めて怖がらずに手を差し伸べられた相手だと、書かれていた」

 シドは机に置いていた分厚い本を手渡してくる。これは、意地でもこっちに見せなかった"アンナの手記"だ。

「まずその本はネロ、開くための鍵は俺が持っていた。"自分が死んだら開けろ"って、まるで自分が死ぬことが分かっていたかのようにネロに託していたんだ」
「お前さんもやっと話してくれる気になったんだな」
「自分のことを話すというのは、恥ずかしくてな。忘れてしまう前に聞いて欲しい。俺は伝説の機工師なんかじゃない、ただの愚かな人間だ」

 本を開き、彼の話に耳を傾けた。素直で不器用な、恵まれていたが波乱万丈な人生を送った男のまっすぐな想いが込められたアンナとの思い出を聞く。



「俺様はお前が羨ましいや」
「何故、そう言える」

 嗚呼面白い話だったよチクショウ。聞いてるこっちが恥ずかしい程のロマンチストだとは思ってもみなかった。そしてこの本はアンナが生まれてから死ぬ少し前までの内面が書かれた手記で。本当にこの子らはお互い惚れ込んでいながらも、感情よりも先に肉体関係を持って幸せになって欲しいと勝手に願う大莫迦者達だった。下手したらリンよりも愚者だと俺様は思ったね。すれ違いの悲恋を聞いて涙が出そうだよ。そのご褒美はモノではなくお話をプレゼントしてやる。

「俺様が生きていた時代はな。今のような技術はロストテクノロジー―――要するに都市伝説で。だから評価してくれるやつなんて存在しなかった」

 ただの狂人扱いされ、ぐちゃぐちゃな自暴自棄になっていた頃。そんな時、後に恋人となるシェリーに出会う。

「シェリーはな、ニームの軍学を少しでも人に知ってもらうべく研究を行う学者だった。当時ニーム文明が気になってたから色々調べ回ってた時でな。こりゃまたおもしれー女だったよ」

 これまでの自分の成果を見せると明るい表情を見せてくれた。そして知識を共有し合い、更に研究に火が灯される。

「それまでの人生で俺様を評価してれたのがアイツだけだった。あの時は幸せだった。だがそんな日々は長くは続かない。遺跡の崩落事故で俺様を庇って瓦礫の下敷きさ」

 それからまた真っ暗な日々に逆戻り。腹いせに各地の遺跡を荒らし、重要そうなデータは全部いただいてやった。と、ゲラゲラ笑ってやると眉間に皴を寄せたシドが口を開く。

「そのせいでどれだけ数々の分野に迷惑をかけたと思っているんだ」
「知らねえよ。大体の人間が興味ないモンどう使ったってこっちの勝手だ。……それからシェリーの蘇生技術探すついでにサベネアの遺跡荒らしてやろって思ってな。壁剥がそうとしたところでエルと鉢合わせ。あっという間に拘束されてごめんなさいさせられた。その縁で錬金術の話を聞かせてもらう途中、リンがふらりと現れた」

 偶然の巡り合わせが今奇妙な縁に繋がるのが人生の面白い所だよなと笑ってやる。

「コイツらは莫迦だった。俺様が持っていた装置一つ取っても全部すげーって言うんだぜ? そりゃ調子にも乗る。錬金術師共もアレを作ってくれこれを直してくれってうるせぇ。とりあえずどんどん形にしてやったさ。釜の再調整とか薬の保管場所の空調管理とかさ。初めて脳みそに詰まっていた知識をフル稼働させて。いつの間にかシェリーのことなんて後回し」
「―――それがレフたちとの出会いだったのか」
「そーだ。超天才な俺様と縁を持つことが出来た運のいい奴らのお話ってやつ。……で、だ。俺様とお前の違いだったな」

 分かるだろ? と聞いてやると軽く首を傾げている。恵まれた人間には難しすぎたみたいだ、苦笑して見せた。

「テメェにはネロっていう天才が並んで立っていた。競い合って洗練させていくという行為は技術の進歩に必要なものだ。そして沢山の部下に恵まれ色んな国からの信頼からの資金提供有りだろ? 俺様になかったものばっかで羨ましいったらありゃしない」

 俺様は既にあったものを組み合わせただけで何もすごくない。だからシドとネロが羨ましく感じた。まあ資金に関しては性格が災いしていたのは自覚している。

「ナァ、本当に過去が改竄出来たらさ、アンナちゃんを救ってくれないか?」
「それはお前さんの最高傑作として完成させてくれってことか?」
「うーんそれもある。まあ罪悪感はあるんだよ多少はさ。そしてエルもきっと楽になると思う」

 この技術はエルもノリノリで作ったんだ。それもあって今もなお罪悪感真っ只中なんだよと言ってやるとシドは驚いた顔を見せる。

「リンだってアンナちゃんを追い詰めたかったわけじゃない。ただの事故からああなった。俺様ら3人は一生苦しみながら死ぬことになってるからさ。せめてアンナちゃんだけでも助けてあげて欲しい」
「―――何度だって絶対にアンナを助けるし好きになるさ。レフだって何とかしてやるしア・リスお前もだぞ。流石にリンドウは死んでるからどうにも出来んが。……ありがとな」
「何で感謝されなきゃいけねぇんだ」
「だってお前さんだって今まで俺たちに自分の話をしなかっただろ? 仲間として認めてもらえて嬉しいんだ」

 うわあこの人タラシという言葉を飲み込みニィと笑ってやる。

「テメェがいい話をしてくれたからご褒美としてあげただけだ。勘違いすんなよ? アンナが最高傑作として完成したら、この複製体の俺様はもっと自由に走り回る予定だったんだよ。ケケッ」
「第八霊災を防げたら次はお前さんが暗躍しだすと? 冗談はやめてくれ。絶対捕まえてやるからな」

 シドはため息を吐き「喋りすぎた」と寝そべった。俺様は「おうすまん」と笑いながらその布団をかけ直してやる。アンナの手記を再びテーブルに置き、またいつの間にか現れていたオメガの模型を抱き上げ立ち去った。



―――それから2人の"シド"によって自分らが作り出した"理論"を2代目ガーロンド・アイアンワークス社会長らに"継承"し、その生涯を終えた。これから確立されるかは彼ら次第。協力してやろうか、とイタズラな笑みを見せてやるとシドと同じく「命尽きるまで見守っていて欲しい」と言われた。そういう所が俺様は気に入っていたからよかったぜ。もう表舞台に立てるような存在じゃないからな。
 彼らの墓は勿論クリスタルタワーがよく見えるレヴナンツトールの近郊に作られた。あのエオルゼアの英雄と呼ばれた女の隣だ。これからの人間たちの旅路を、仲良く見守っていればいい。"アイツ"もついでにとまとめて護ってくれるさ。絶対に気に入るからさ。
 俺様はどうするかだって? ―――複製体にだって寿命はある。延命させる技術は流石にエーテルが弱り切った現在、1人で成しえることは不可能だった。

「エル、すまねぇな。お前の死に目まで一緒にいられなくて」
「君の元になった存在は既に人生を閉じてるだろ」
「ケケッそうだったな」
「本当はあの墓を護ってたヤツの件も僕のために隠してたんだろ? 分かってんだよ」

 エルは動かなくなってきた俺様の身体を抱き上げ、とある底の見えない崖の上に立っている。嗚呼コイツを1人にしてしまうのかと思うと憐れみしか湧かない。

「お前の左目、治したかったな」
「……気持ちだけで嬉しい」

 エルの目は、昔故郷に安置されていた"聖石"に触れてしまったことで変容してしまっていた。"視えてはいけないもの"まで映り、その副作用で頭痛が発生し続ける一種の不治の病。それを何とかするのも元の俺様が複製体を作ってまで探ろうと決心した動機の一つである。第八霊災で全ての予定が崩れ、結局何も出来ず時間だけ過ぎてしまった。それを放置して、この世を去ることが一番の心残りである。もしも、もしもだ。本当に歴史を改竄出来るのなら、俺様は―――。いやそれを言うのは野暮だろう。心の奥にしまっておく。ふとエルはボソリと呟いた。

「アリス、複製体のお前も死んだら冥府に行けるのか?」
「知るか。……リンの代わりに行ってやってもいいかもしれんな。―――精々死ぬまで奴らを見守ってやってくれ。達者でな、エルファー・レフ・ジルダ(可愛い血の繋がらない弟)
「元からそういうつもりだ……おやすみ、ア・リス・ティア(バカ兄貴)
「ケケッ。こんな俺様のために泣くな莫迦」

 それからエルは俺様を投げ捨てた。嗚呼嗚咽を漏らし涙が溢れだしているのが見える。薄れゆく意識の中、彼らの理論が確立されてもこの世界が回り続けるよう祈りながら。造られた俺様の、その生涯を終えた。


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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ #シド #リンドウ関連 #第八霊災関連

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