FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.86, No.85, No.84, No.83, No.81, No.80, No.78[7件]
"風邪"
頭がクラクラする。どこか熱い気がする。だからボクは―――戦闘をしていた。
刀を振りぬき敵を斬って行く。ストレスが溜まった等何か1つでも違和感がある時はとにかく体を動かしていたら元気になる。それは長年旅をしていた頃からずっとそうだった。
「あっ」
急にふらついてしまい、その隙を突かれ敵の横殴りが入る。そこからボクの意識は真っ暗になった。
◆
「ばっっっかじゃねぇの!?」
"ボク"は無理やり敵を一閃し、足に力を籠め、走り去った。平熱が死人のように冷たい人間の体温が38度超えて暴れ回るのは莫迦以外言いようがない。
「どこまでリンと一緒なんだよド阿呆!」
撒けたようだ。とりあえずレヴナンツトールにテレポで飛ぶ。一瞬再び身体がふらつくが気合で耐える。
さあここからだ。最寄りの施療院に行くか、それ以外か。エーテライトにもたれかかりぼんやりとする脳みそをフル回転させる。
「医者は……つまらないな。どうせ疲れが原因だろうし。ならば石の家か、ガーロンド社か。これは―――後者だな」
弱い部分を見せたら一歩前進もありえる、そう考えながら少々ふらつきながら歩き出す。
アンナ・サリスは人とコミュニケーションを取っている風に見えて全くやる気のない人間だ。要するに短命種に過剰に関わる時間はないというわけだ。しかし幼い記憶を思い出すからか無意識にヴィエラを見かけたら距離を取っている。自分より年齢を重ねる種族なんて妖異かアシエンくらいだろうが。少しは"普通の"人間と変わらない生活を送ってほしい。そのためにもやっと見つけた存在を手放させるわけにはいけないのだ。
"ボク"は自分が何者か分からない。気が付いたら"ボク"に備わっていた力を全て行使し、アンナ・サリスを支えていた。何故かそうしないといけないという使命感が存在する。分かっていることは命の恩人"リン"の『私たちはとんでもないことをしでかしてしまった。責任を、取らなければ』という言葉だ。これはアンナ・サリスが聞き得ない言葉だって? それも分からない。でも"彼"の言う通り"ボク"は彼女のナカで支え続ける。
支えると言っても常に視ているだけではない。ストレスが一定以上溜まってプッツリとキレた時や脳内情報処理の限界に達したり今回のようにぶっ倒れるくらいのダメージを喰らった瞬間に"交代"していた。稀に乗っ取ったりするがそれもこの子のためである。
考え込んでいるうちに何とかガーロンド社に辿り着いた。フラフラと歩きながら建物に侵入し、見渡す。
「あらアンナ!」
彼女は―――嗚呼ジェシーだったか。手を軽く振ってやると駆け寄って来た。
「今日はどうしたの?」
「うん。ごめん、あとは頼んだ」
流石に病気を最後までカバーすることはできない。先程から目の前がグルグルと渦巻き限界だったのだ。下手したら最後の振りかぶりと全力疾走が原因で熱が上がったな。しかし"安息の場所"まで運べただけ頑張ったと自分にエールを送りたい。
「アンナ!? って熱っ!?」
まずはレディに迷惑をかけてしまうことになるが仕方がない。「ごめん」と呟きながらそのまま意識を手放してしまった。
◆
玄関口で騒ぎ声が聞こえる。休憩中のシドはどうしたのかと顔を出すと人だかりができていた。
「どうした?」
「会長! その、アンナが」
シドは怪訝な顔で近付くと中心では顔を真っ赤にして倒れたアンナがいた。つい二度見してしまうほど現実感がない風景に驚愕する。
「な、何があった」
「それがいきなりやって来たと思ったら『あとは頼んだ』って言って倒れてしまって」
「ジェシー、とりあえず医者を呼んでくれ。彼女は仮眠室にでも運んでおくか……って熱いな!?」
普段の冷たい肌に慣れすぎて熱く感じる。平熱が低すぎる彼女から考えるとよく歩いて来れたなとその精神力の強靭さに頭がおかしくなりそうだ。
そういえば初めてアンナを抱き上げるなと思いながら持ち上げるととても軽かった。この軽さであの圧倒的な強さを支え切っているのかと不安になる。周囲の視線は気になるが心を無にし仮眠室に運び込んだ。
◇
どうやらただほぼ休みなしで世界を救うために走り回った連日の疲れからきたものらしい。そういえばエオルゼアで英雄と呼ばれ始め、以降ずっとイシュガルドで走り回り、次はアラミゴに行くぞと拳を振り上げていた。その合間も時々こちらに顔を出しては色々手伝いしてもらったり野宿しているという話も聞いた。いつ完全に休んでいるのか―――思い返すと謎である。体温は40度近く行っているがそれは無理して動いていたからだろう、安静にしていたら治るらしい。ついでに殴られた形跡があったので処置してもらった。
「ウェッジ、これ何だと思う?」
「……魔物とサシで殴り合いしてたんスかね」
「『多少しんどくても戦ってりゃ治るでしょ』って言って油断して殴られたんだと思うぞ」
「あーありえる」
「親方流石ッスね……」
3人の脳内にフラフラと顔を真っ赤にしながら敵に斬りかかるビジョンが浮かぶ。ため息を吐いているとふとか細い声が聞こえた。
「にい、さん……」
「寝言か?」
うめき声を上げながらうわごとのように呟いている。
「ごめん、なさい」
「ビッグス、ウェッジ仕事に戻っておいてくれないか?」
「親方卑怯ッスよ!?」
「まあいいじゃないか。行こう」
2人は退室していく。ニヤけ顔に少々イラついたが気にしないことにした。アンナは相変わらず小さな声で何かを呟いている。見たことのない弱さがシドを狼狽えさせる。
「―――ド」
「ん?」
「シ、ド」
確実に呼ばれた。相変わらず眠ったまま眉間に皴を寄せ寝言を繰り返している。
「いか、ないで。1人は、いや」
何も言わず手を握ってやると少しだけ緊張が解け、またすやすやと眠っている。どうしてやればいいのか、分からなかった。
◇
ふと目が覚めると屋内。起き上がろうとするが身体が重い。腕だけで支え周りを見渡すとジェシーが驚いた顔をして口を開いた。
「アンナ! 目が覚めてよかった」
「―――ガーロンド社?」
何故自分がここにいるのかが記憶になかった。確か敵から横殴りにされて意識が真っ暗になっていたはず。
「救援されてここにいるのはおかしい……」
「あなた自分でここまで歩いてきたの覚えてないの?」
ジェシーは心配そうな顔してアンナを見ている。首を傾げしばらく考え込んだ。
「あ、そ、そうだったかもしれない。あはは」
覚えていないが適当に返しておく。
「迷惑かけちゃってごめん。ありがと」
苦笑しながらとりあえず謝罪しておく。ジェシーはニコリと笑っている。
「じゃあ会長呼んで来るから」
「シドが起きたらいないのは意外」
「気持ちは分かるわ。困惑しながらあとは頼むって言っておきながら結構こまめに見に来てたからちゃんとお礼言っておいてね」
1分もせずにシドが部屋に駆け込んできた。人の顔を見るなり「よかった」と言いながら一瞬笑顔を見せる。それに釣られて笑顔を見せたがその瞬間、お説教が始まった。
「お前何をしてるんだ! いきなりやって来たかと思ったらぶっ倒れて丸一日眠って心配したんだぞ!」
「いやだって戦ってたら治るし」
「悪化させてきたやつが何言っても説得力がないだろ」
「う……それは偶然そうだっただけで」
「何だと?」
「な、ナンデモナイデス……」
アンナは小さくなっている。何を言ってもムダだと察し困った顔をしてシドの反応伺う。結構怒っているが正直何故怒っているかは理解ができなかった。
「次からは無理せず戦わず水に顔を突っ込んで熱を冷ましてから戦う……」
「馬鹿か!?」
そこからまた長時間の説教が始まった。頭が未だぼんやりして半分も入ってこないがここまで言われるのは命の恩人ぶりで少しくすぐったい。次は迷惑かけないように、何とかしよう。
「おいアンナお前次は人に迷惑かけないよう何とかしようとか思ってないだろうな?」
「え、あ、はい」
「やめろ。素直にちゃんと人を頼ってくれ。今回こっちに助けを求めたのは、その、嬉しかったからな」
「嬉しい? 変なの」
「いつも頼ってしまってるんだ、困った時はお互い様だろ」
目を見開き固まる。「いや私のことは、気にするな。好きで人助けしてるだけ」と首を撫でながら取り繕うように言うと頬を引っ張られた。またよくないことを言ってしまったらしい。理解できなかった。弱くなってるからって調子に乗るんじゃないと思いながら再び寝そべる。どこかちくりと棘が刺さったように痛いのはきっと風邪の症状だろう。
「シド、もう少しだけ寝る」
「……そうしてくれ」
「仕事、戻って大丈夫だよ」
「もう少しだけ休憩させてくれ」
ニコリと笑い合いそれからアンナが眠るまで雑談していた。少しだけ休息になった、気がする。
◆
阿呆共。この一言に尽きる。実は倒れてからも相手の反応は伺っていた。"ボク"は寝言のフリして反応を見る。何も言わず顔を赤くしながら手を握り、しばらくしたら部下に任せ慌てたように退室した。何度か様子を見ては出て行っての繰り返しで正直何をやりたいんだこの人と思いながら呆れる。
身体が動かないので1日ゆっくり眠らせてやった。そしてようやくアンナの意識が回復してきたので無事目を覚ます。レディは慌てて男を呼びに行き、すぐさまお説教が始まった。それに関してはぐうの音も出ないほどの正論だったのでこれを機にアンナも反省してほしい。まあ自分は死なないと高を括っているし"反省"という言葉が辞書に載ってるわけがないのだが。嗚呼また説教が始まった。当人は満更でもなさそうに聞いている。怒鳴られるのは命の恩人ぶりとか感慨深くなってる場合じゃないのだがアンナに理解できるわけもなく。
最終的にいい空気になってよかった。だが人の心というヤツを理解しないアンナと明らかに友人以上に向ける目をしておきながら何も自覚できていない男に呆れる部分があった。しかしこの男でないと任せることはできないと認識している。まあ"ボク"は惚れた腫れたに介入する気は全く存在しない。それは本人が何とかするべき問題だ。
この子の心に関しては時間が何とかしてくれるだろう。今は明らかに休息が足りていないのも確かなのでこれを機にもう少しゆっくりするという行為を覚えてくれたらいいなと考えながら意識を手放したのであった―――。
#シド光♀
刀を振りぬき敵を斬って行く。ストレスが溜まった等何か1つでも違和感がある時はとにかく体を動かしていたら元気になる。それは長年旅をしていた頃からずっとそうだった。
「あっ」
急にふらついてしまい、その隙を突かれ敵の横殴りが入る。そこからボクの意識は真っ暗になった。
◆
「ばっっっかじゃねぇの!?」
"ボク"は無理やり敵を一閃し、足に力を籠め、走り去った。平熱が死人のように冷たい人間の体温が38度超えて暴れ回るのは莫迦以外言いようがない。
「どこまでリンと一緒なんだよド阿呆!」
撒けたようだ。とりあえずレヴナンツトールにテレポで飛ぶ。一瞬再び身体がふらつくが気合で耐える。
さあここからだ。最寄りの施療院に行くか、それ以外か。エーテライトにもたれかかりぼんやりとする脳みそをフル回転させる。
「医者は……つまらないな。どうせ疲れが原因だろうし。ならば石の家か、ガーロンド社か。これは―――後者だな」
弱い部分を見せたら一歩前進もありえる、そう考えながら少々ふらつきながら歩き出す。
アンナ・サリスは人とコミュニケーションを取っている風に見えて全くやる気のない人間だ。要するに短命種に過剰に関わる時間はないというわけだ。しかし幼い記憶を思い出すからか無意識にヴィエラを見かけたら距離を取っている。自分より年齢を重ねる種族なんて妖異かアシエンくらいだろうが。少しは"普通の"人間と変わらない生活を送ってほしい。そのためにもやっと見つけた存在を手放させるわけにはいけないのだ。
"ボク"は自分が何者か分からない。気が付いたら"ボク"に備わっていた力を全て行使し、アンナ・サリスを支えていた。何故かそうしないといけないという使命感が存在する。分かっていることは命の恩人"リン"の『私たちはとんでもないことをしでかしてしまった。責任を、取らなければ』という言葉だ。これはアンナ・サリスが聞き得ない言葉だって? それも分からない。でも"彼"の言う通り"ボク"は彼女のナカで支え続ける。
支えると言っても常に視ているだけではない。ストレスが一定以上溜まってプッツリとキレた時や脳内情報処理の限界に達したり今回のようにぶっ倒れるくらいのダメージを喰らった瞬間に"交代"していた。稀に乗っ取ったりするがそれもこの子のためである。
考え込んでいるうちに何とかガーロンド社に辿り着いた。フラフラと歩きながら建物に侵入し、見渡す。
「あらアンナ!」
彼女は―――嗚呼ジェシーだったか。手を軽く振ってやると駆け寄って来た。
「今日はどうしたの?」
「うん。ごめん、あとは頼んだ」
流石に病気を最後までカバーすることはできない。先程から目の前がグルグルと渦巻き限界だったのだ。下手したら最後の振りかぶりと全力疾走が原因で熱が上がったな。しかし"安息の場所"まで運べただけ頑張ったと自分にエールを送りたい。
「アンナ!? って熱っ!?」
まずはレディに迷惑をかけてしまうことになるが仕方がない。「ごめん」と呟きながらそのまま意識を手放してしまった。
◆
玄関口で騒ぎ声が聞こえる。休憩中のシドはどうしたのかと顔を出すと人だかりができていた。
「どうした?」
「会長! その、アンナが」
シドは怪訝な顔で近付くと中心では顔を真っ赤にして倒れたアンナがいた。つい二度見してしまうほど現実感がない風景に驚愕する。
「な、何があった」
「それがいきなりやって来たと思ったら『あとは頼んだ』って言って倒れてしまって」
「ジェシー、とりあえず医者を呼んでくれ。彼女は仮眠室にでも運んでおくか……って熱いな!?」
普段の冷たい肌に慣れすぎて熱く感じる。平熱が低すぎる彼女から考えるとよく歩いて来れたなとその精神力の強靭さに頭がおかしくなりそうだ。
そういえば初めてアンナを抱き上げるなと思いながら持ち上げるととても軽かった。この軽さであの圧倒的な強さを支え切っているのかと不安になる。周囲の視線は気になるが心を無にし仮眠室に運び込んだ。
◇
どうやらただほぼ休みなしで世界を救うために走り回った連日の疲れからきたものらしい。そういえばエオルゼアで英雄と呼ばれ始め、以降ずっとイシュガルドで走り回り、次はアラミゴに行くぞと拳を振り上げていた。その合間も時々こちらに顔を出しては色々手伝いしてもらったり野宿しているという話も聞いた。いつ完全に休んでいるのか―――思い返すと謎である。体温は40度近く行っているがそれは無理して動いていたからだろう、安静にしていたら治るらしい。ついでに殴られた形跡があったので処置してもらった。
「ウェッジ、これ何だと思う?」
「……魔物とサシで殴り合いしてたんスかね」
「『多少しんどくても戦ってりゃ治るでしょ』って言って油断して殴られたんだと思うぞ」
「あーありえる」
「親方流石ッスね……」
3人の脳内にフラフラと顔を真っ赤にしながら敵に斬りかかるビジョンが浮かぶ。ため息を吐いているとふとか細い声が聞こえた。
「にい、さん……」
「寝言か?」
うめき声を上げながらうわごとのように呟いている。
「ごめん、なさい」
「ビッグス、ウェッジ仕事に戻っておいてくれないか?」
「親方卑怯ッスよ!?」
「まあいいじゃないか。行こう」
2人は退室していく。ニヤけ顔に少々イラついたが気にしないことにした。アンナは相変わらず小さな声で何かを呟いている。見たことのない弱さがシドを狼狽えさせる。
「―――ド」
「ん?」
「シ、ド」
確実に呼ばれた。相変わらず眠ったまま眉間に皴を寄せ寝言を繰り返している。
「いか、ないで。1人は、いや」
何も言わず手を握ってやると少しだけ緊張が解け、またすやすやと眠っている。どうしてやればいいのか、分からなかった。
◇
ふと目が覚めると屋内。起き上がろうとするが身体が重い。腕だけで支え周りを見渡すとジェシーが驚いた顔をして口を開いた。
「アンナ! 目が覚めてよかった」
「―――ガーロンド社?」
何故自分がここにいるのかが記憶になかった。確か敵から横殴りにされて意識が真っ暗になっていたはず。
「救援されてここにいるのはおかしい……」
「あなた自分でここまで歩いてきたの覚えてないの?」
ジェシーは心配そうな顔してアンナを見ている。首を傾げしばらく考え込んだ。
「あ、そ、そうだったかもしれない。あはは」
覚えていないが適当に返しておく。
「迷惑かけちゃってごめん。ありがと」
苦笑しながらとりあえず謝罪しておく。ジェシーはニコリと笑っている。
「じゃあ会長呼んで来るから」
「シドが起きたらいないのは意外」
「気持ちは分かるわ。困惑しながらあとは頼むって言っておきながら結構こまめに見に来てたからちゃんとお礼言っておいてね」
1分もせずにシドが部屋に駆け込んできた。人の顔を見るなり「よかった」と言いながら一瞬笑顔を見せる。それに釣られて笑顔を見せたがその瞬間、お説教が始まった。
「お前何をしてるんだ! いきなりやって来たかと思ったらぶっ倒れて丸一日眠って心配したんだぞ!」
「いやだって戦ってたら治るし」
「悪化させてきたやつが何言っても説得力がないだろ」
「う……それは偶然そうだっただけで」
「何だと?」
「な、ナンデモナイデス……」
アンナは小さくなっている。何を言ってもムダだと察し困った顔をしてシドの反応伺う。結構怒っているが正直何故怒っているかは理解ができなかった。
「次からは無理せず戦わず水に顔を突っ込んで熱を冷ましてから戦う……」
「馬鹿か!?」
そこからまた長時間の説教が始まった。頭が未だぼんやりして半分も入ってこないがここまで言われるのは命の恩人ぶりで少しくすぐったい。次は迷惑かけないように、何とかしよう。
「おいアンナお前次は人に迷惑かけないよう何とかしようとか思ってないだろうな?」
「え、あ、はい」
「やめろ。素直にちゃんと人を頼ってくれ。今回こっちに助けを求めたのは、その、嬉しかったからな」
「嬉しい? 変なの」
「いつも頼ってしまってるんだ、困った時はお互い様だろ」
目を見開き固まる。「いや私のことは、気にするな。好きで人助けしてるだけ」と首を撫でながら取り繕うように言うと頬を引っ張られた。またよくないことを言ってしまったらしい。理解できなかった。弱くなってるからって調子に乗るんじゃないと思いながら再び寝そべる。どこかちくりと棘が刺さったように痛いのはきっと風邪の症状だろう。
「シド、もう少しだけ寝る」
「……そうしてくれ」
「仕事、戻って大丈夫だよ」
「もう少しだけ休憩させてくれ」
ニコリと笑い合いそれからアンナが眠るまで雑談していた。少しだけ休息になった、気がする。
◆
阿呆共。この一言に尽きる。実は倒れてからも相手の反応は伺っていた。"ボク"は寝言のフリして反応を見る。何も言わず顔を赤くしながら手を握り、しばらくしたら部下に任せ慌てたように退室した。何度か様子を見ては出て行っての繰り返しで正直何をやりたいんだこの人と思いながら呆れる。
身体が動かないので1日ゆっくり眠らせてやった。そしてようやくアンナの意識が回復してきたので無事目を覚ます。レディは慌てて男を呼びに行き、すぐさまお説教が始まった。それに関してはぐうの音も出ないほどの正論だったのでこれを機にアンナも反省してほしい。まあ自分は死なないと高を括っているし"反省"という言葉が辞書に載ってるわけがないのだが。嗚呼また説教が始まった。当人は満更でもなさそうに聞いている。怒鳴られるのは命の恩人ぶりとか感慨深くなってる場合じゃないのだがアンナに理解できるわけもなく。
最終的にいい空気になってよかった。だが人の心というヤツを理解しないアンナと明らかに友人以上に向ける目をしておきながら何も自覚できていない男に呆れる部分があった。しかしこの男でないと任せることはできないと認識している。まあ"ボク"は惚れた腫れたに介入する気は全く存在しない。それは本人が何とかするべき問題だ。
この子の心に関しては時間が何とかしてくれるだろう。今は明らかに休息が足りていないのも確かなのでこれを機にもう少しゆっくりするという行為を覚えてくれたらいいなと考えながら意識を手放したのであった―――。
#シド光♀
"感謝のチョコレート"
注意
自機出番少な目なのと倫理観無し。シド光♀匂わせ程度なギャグ概念。
どちらかというと自機兄+ネロ風味。
レフ→自機の兄。ガーロンド社に出入りしている技師。嫁が8人いたが離婚済みで故郷からも追放されている。妹が絡まなければ物静かで笑顔がヘタクソな人間。
「そういえばガーロンドくん、昨年僕の妹から貰ったチョコはどんな感じだったんだ?」
アンナの兄レフの一言から今回の一件は始まった。ネロはゲラゲラと笑う。
「やっぱ手加減知らねぇメスバブーンのことだから山のように作って社員全員に振る舞ったンじゃねェの。ンでその中の1つを雑に投げられたって感じか?」
「あー確か去年の手紙でヴァレンティオンデーってよく分からんって書かれてたな。僕も知らなかったから『可哀想な男共に優しい手を差し伸べる慈善事業の日でもあるよな』って返したぞ」
「あの余計な一言はお前が原因だったのか……」
シドはため息を吐いた。昨年のヴァレンティオンデーはそれはもう凄かったと語る。突然ガーロンド社に訪れ、大きなバッグから取り出される『お母さん以外の異性から手作りチョコを貰ったことがない人優先の素材から拘った手作りチョコレート』をばら撒いた。シドは毎年結構な量を貰い社員と食べていたのだが、その多さに今年はいらないと言われほぼ1人で数日間片付けていた。挙句の果てに、アンナからは「シドいっぱい貰ってる。こっちはあげない」と言われるおまけ付きで。その後、先に試作したが少々失敗したというカカオ95%チョコを渡され、言われるがままホットミルクに溶かして飲んだ。ちょうどいい苦みがあって美味しかったと振り返る。
「レフのせいで俺は酷い目に遭ったんだぞ」
「はっはっはざまあみやがれ。ってちゃっかり貰ってるじゃないか阿呆」
「おいレフホンネ出てンぜ?」
「というかアンナも大量に貰ってたんだぞ? それは悔しくないのか兄として」
「お前と一緒で僕の妹に本命という概念が理解できるわけがないだろ」
「そーだな」
「流石にアンナよりマシだと思うぞ!?」
ネロとレフの言葉にシドは素っ頓狂な声を上げた。似てると言われるのは悪くは思わないがさすがに恋愛関係で一緒にされたくなかった。
「気にせず社員に分けてるアホが何か言ってンぜ?」
「まったく最低な男だなガーロンドくん」
「いや俺は仮にも偉い人間だし義理で渡すくらいはあるだろ。どう消費しても文句はないはずだ。お前たちだって確実に貰ってただろ」
「ガレマルドにヴァレンティオンなンてなかっただろうが」
「僕は嫁いたし。基本的に人から手作りの食べ物は貰わない主義なんだ。何混入してるか分からん」
「おいおいレフもズレてンな」
「―――おいレフ、お前人から貰ったものは受け取らないのか?」
シドに嫌な予感がよぎる。兄がこれなら人の教えを忠実に守る妹は。
「そりゃそうだろう毒とか入ってたら困るし」
「アンナもそれを知ってるのか?」
「勿論。護人としての心構えで真っ先に故郷では教えられるさ。そこから瓦解したら大変だろう?」
「……アー」
ネロも察した様子を見せながら肩をすくめ、レフに便箋を指さす。
「手紙書け。プレゼントは全部断れってな」
「現れる前に気付いてよかったぜ」
「君たち本当に心の問題に関しては妹のこと信用してないな。僕も書いた方がいいって思ったけど。というか去年貰ったものどうしたか聞くか」
ここ数日、またアンナと連絡が途絶えていた。暁の人間によると『やはり道具から拘る方がいいよね』と言いながらどこかに飛んで行ったのだという。連絡をするならば一番確実なのがレターモーグリだろうと判断し、レフはペンを手に取った。
◇
レフは手短な手紙を書き、レターモーグリ経由で送ると1日で返事が返って来た。しかし内容をシドに伝えることはなかった。
「……僕は教育方針を間違えてたかもしれない」
「ケケッ、オマエこれまでの生涯通しても合計1年分も会ってねェだろ」
「うるせ」
『兄さんへ
私への配慮、ありがとうございます。お返しはいらないと言って渡しているので安心してください。
あと私のような旅人には本命や義理も関係ないし感謝の気持ちを込めて燃やしてるので大丈夫。
ところで試作品を作ったからどうぞ。兄さんの感想が私がお世話になっている人たちの胃の運命が決まります。よろしくね。
フレイヤ』
手紙と一緒に小袋が入っており、中身はアルファの顔が描かれたアイシングクッキーとオメガを模した立体チョコレートだった。容赦なくパキリと割り満面の笑顔で噛みしめるように食べるレフの姿にネロは引く。
「おいしい……嗚呼滅茶苦茶おいしいぞ妹よ。だが頼むから人からの贈り物は完全に拒否してくれ……」
「オマエ本当にメスバブーン絡んだら気持ち悪ィな」
「一言余計。ほら半分に割ってるから君も食え。多分君もいっぱいもらってるからあげない組だぞ」
「いや別にオレは」
「は? 君は妹の作ったものが不味いからいらないと言いたいのか?」
「ンなこと一言も言ってねェよ!」
ネロは眉間にしわを寄せながらクッキーを一口摘まむ。ちょうどいい焼き加減でサクサクとして本当にあのデリカシー無しで脳筋が作ったものなのかと疑うほど美味い。
「バブーンじゃなけりゃなァ」
「は? 妹は可愛いが?」
「顔はいい方だけど中身が最悪だって言いたいンだよ」
「最悪の中身が混じり込んでるんだからしょうがないだろ」
「ヒヒッ違いねェ」
よし美味しかったと手紙を返しておこうとペンを手に取る姿をネロは苦笑する。素直に会いに行けよと思うが心の中に仕舞い込んだ。
―――数日後。アンナは石の家とガーロンド・アイアンワークス社に大きなバッグを持って現れた。色々な表情をしたアルファが描かれたアイシングクッキーとオメガ型立体チョコが入った小袋を『お母さん以外の異性から手作りで貰ったことがない人優先の調理道具から拘った手作りチョコレート』と称してばら撒く。昨年と違う所はなんと男女問わず渡されるチョコレートをごめんと言いながら拒否している所だ。ネロは兄の説得が心に届いたのかとマグカップを手に口をあんぐりと開けそれを見守る。ふと目が合うと意外なことに2つの袋を手渡された。両手に紙袋を持ちながらふらつくシドがやって来るとアンナは動きを止める。
「ホー昨日あんだけ説教してきたくせに自分はモテますアピール」
「いや、アンナ。断ったが押し付けられてな。また一緒に食うか?」
「自分で片付けたらいい」
踵を返し次は女性陣へと渡しに行く姿をシドはため息を吐きネロの隣に立つ。
「いや昨日ようやく連絡がついてな。問いただしたらゲロったから少々手荒に"説教"した」
「ハァ。その両手のブツがなければ説得力あったろうにな」
「俺もそう思ってるさ。とりあえずレフにはお前の説得で妹は余計な悲しみを生まさずに済んだとでも伝えておいてくれ」
「……まあその方があいつも小躍りすっか」
真面目なシドのことだ、一晩中ものすごくキツく𠮟ったのだろう。大欠伸を噛み殺しながら、いつもの内面に存在する複数の人間に込められた渦巻かれた闇1つ悟らせない満面の笑みでチョコをばら撒き去って行くアンナを見守っていた。
その横でネロはふと誰も触れていない引っかかった疑問を口にする。
「―――ン? 調理道具から拘ったってどういうことだ?」
「文字通り1から作ったってことだろ。そりゃ一切連絡つかないさ」
満面の笑顔で鉱石から採掘に行く姿が男2人の脳内で共有され馬鹿じゃねェの? と呆れた声が響き渡った―――。
#即興SS #季節イベント
自機出番少な目なのと倫理観無し。シド光♀匂わせ程度なギャグ概念。
どちらかというと自機兄+ネロ風味。
レフ→自機の兄。ガーロンド社に出入りしている技師。嫁が8人いたが離婚済みで故郷からも追放されている。妹が絡まなければ物静かで笑顔がヘタクソな人間。
「そういえばガーロンドくん、昨年僕の妹から貰ったチョコはどんな感じだったんだ?」
アンナの兄レフの一言から今回の一件は始まった。ネロはゲラゲラと笑う。
「やっぱ手加減知らねぇメスバブーンのことだから山のように作って社員全員に振る舞ったンじゃねェの。ンでその中の1つを雑に投げられたって感じか?」
「あー確か去年の手紙でヴァレンティオンデーってよく分からんって書かれてたな。僕も知らなかったから『可哀想な男共に優しい手を差し伸べる慈善事業の日でもあるよな』って返したぞ」
「あの余計な一言はお前が原因だったのか……」
シドはため息を吐いた。昨年のヴァレンティオンデーはそれはもう凄かったと語る。突然ガーロンド社に訪れ、大きなバッグから取り出される『お母さん以外の異性から手作りチョコを貰ったことがない人優先の素材から拘った手作りチョコレート』をばら撒いた。シドは毎年結構な量を貰い社員と食べていたのだが、その多さに今年はいらないと言われほぼ1人で数日間片付けていた。挙句の果てに、アンナからは「シドいっぱい貰ってる。こっちはあげない」と言われるおまけ付きで。その後、先に試作したが少々失敗したというカカオ95%チョコを渡され、言われるがままホットミルクに溶かして飲んだ。ちょうどいい苦みがあって美味しかったと振り返る。
「レフのせいで俺は酷い目に遭ったんだぞ」
「はっはっはざまあみやがれ。ってちゃっかり貰ってるじゃないか阿呆」
「おいレフホンネ出てンぜ?」
「というかアンナも大量に貰ってたんだぞ? それは悔しくないのか兄として」
「お前と一緒で僕の妹に本命という概念が理解できるわけがないだろ」
「そーだな」
「流石にアンナよりマシだと思うぞ!?」
ネロとレフの言葉にシドは素っ頓狂な声を上げた。似てると言われるのは悪くは思わないがさすがに恋愛関係で一緒にされたくなかった。
「気にせず社員に分けてるアホが何か言ってンぜ?」
「まったく最低な男だなガーロンドくん」
「いや俺は仮にも偉い人間だし義理で渡すくらいはあるだろ。どう消費しても文句はないはずだ。お前たちだって確実に貰ってただろ」
「ガレマルドにヴァレンティオンなンてなかっただろうが」
「僕は嫁いたし。基本的に人から手作りの食べ物は貰わない主義なんだ。何混入してるか分からん」
「おいおいレフもズレてンな」
「―――おいレフ、お前人から貰ったものは受け取らないのか?」
シドに嫌な予感がよぎる。兄がこれなら人の教えを忠実に守る妹は。
「そりゃそうだろう毒とか入ってたら困るし」
「アンナもそれを知ってるのか?」
「勿論。護人としての心構えで真っ先に故郷では教えられるさ。そこから瓦解したら大変だろう?」
「……アー」
ネロも察した様子を見せながら肩をすくめ、レフに便箋を指さす。
「手紙書け。プレゼントは全部断れってな」
「現れる前に気付いてよかったぜ」
「君たち本当に心の問題に関しては妹のこと信用してないな。僕も書いた方がいいって思ったけど。というか去年貰ったものどうしたか聞くか」
ここ数日、またアンナと連絡が途絶えていた。暁の人間によると『やはり道具から拘る方がいいよね』と言いながらどこかに飛んで行ったのだという。連絡をするならば一番確実なのがレターモーグリだろうと判断し、レフはペンを手に取った。
◇
レフは手短な手紙を書き、レターモーグリ経由で送ると1日で返事が返って来た。しかし内容をシドに伝えることはなかった。
「……僕は教育方針を間違えてたかもしれない」
「ケケッ、オマエこれまでの生涯通しても合計1年分も会ってねェだろ」
「うるせ」
『兄さんへ
私への配慮、ありがとうございます。お返しはいらないと言って渡しているので安心してください。
あと私のような旅人には本命や義理も関係ないし感謝の気持ちを込めて燃やしてるので大丈夫。
ところで試作品を作ったからどうぞ。兄さんの感想が私がお世話になっている人たちの胃の運命が決まります。よろしくね。
フレイヤ』
手紙と一緒に小袋が入っており、中身はアルファの顔が描かれたアイシングクッキーとオメガを模した立体チョコレートだった。容赦なくパキリと割り満面の笑顔で噛みしめるように食べるレフの姿にネロは引く。
「おいしい……嗚呼滅茶苦茶おいしいぞ妹よ。だが頼むから人からの贈り物は完全に拒否してくれ……」
「オマエ本当にメスバブーン絡んだら気持ち悪ィな」
「一言余計。ほら半分に割ってるから君も食え。多分君もいっぱいもらってるからあげない組だぞ」
「いや別にオレは」
「は? 君は妹の作ったものが不味いからいらないと言いたいのか?」
「ンなこと一言も言ってねェよ!」
ネロは眉間にしわを寄せながらクッキーを一口摘まむ。ちょうどいい焼き加減でサクサクとして本当にあのデリカシー無しで脳筋が作ったものなのかと疑うほど美味い。
「バブーンじゃなけりゃなァ」
「は? 妹は可愛いが?」
「顔はいい方だけど中身が最悪だって言いたいンだよ」
「最悪の中身が混じり込んでるんだからしょうがないだろ」
「ヒヒッ違いねェ」
よし美味しかったと手紙を返しておこうとペンを手に取る姿をネロは苦笑する。素直に会いに行けよと思うが心の中に仕舞い込んだ。
―――数日後。アンナは石の家とガーロンド・アイアンワークス社に大きなバッグを持って現れた。色々な表情をしたアルファが描かれたアイシングクッキーとオメガ型立体チョコが入った小袋を『お母さん以外の異性から手作りで貰ったことがない人優先の調理道具から拘った手作りチョコレート』と称してばら撒く。昨年と違う所はなんと男女問わず渡されるチョコレートをごめんと言いながら拒否している所だ。ネロは兄の説得が心に届いたのかとマグカップを手に口をあんぐりと開けそれを見守る。ふと目が合うと意外なことに2つの袋を手渡された。両手に紙袋を持ちながらふらつくシドがやって来るとアンナは動きを止める。
「ホー昨日あんだけ説教してきたくせに自分はモテますアピール」
「いや、アンナ。断ったが押し付けられてな。また一緒に食うか?」
「自分で片付けたらいい」
踵を返し次は女性陣へと渡しに行く姿をシドはため息を吐きネロの隣に立つ。
「いや昨日ようやく連絡がついてな。問いただしたらゲロったから少々手荒に"説教"した」
「ハァ。その両手のブツがなければ説得力あったろうにな」
「俺もそう思ってるさ。とりあえずレフにはお前の説得で妹は余計な悲しみを生まさずに済んだとでも伝えておいてくれ」
「……まあその方があいつも小躍りすっか」
真面目なシドのことだ、一晩中ものすごくキツく𠮟ったのだろう。大欠伸を噛み殺しながら、いつもの内面に存在する複数の人間に込められた渦巻かれた闇1つ悟らせない満面の笑みでチョコをばら撒き去って行くアンナを見守っていた。
その横でネロはふと誰も触れていない引っかかった疑問を口にする。
「―――ン? 調理道具から拘ったってどういうことだ?」
「文字通り1から作ったってことだろ。そりゃ一切連絡つかないさ」
満面の笑顔で鉱石から採掘に行く姿が男2人の脳内で共有され馬鹿じゃねェの? と呆れた声が響き渡った―――。
#即興SS #季節イベント
頻繁に出る設定、キーワード
注意
暁月までネタバレ有り
リンドウ・フウガ
アンナの命の恩人であり、初恋であり、呪いでもあったエレゼンとガレアンのハーフ。かつて生み出した技を幼いアンナに教えた際、体内エーテルを急激に消費させてしまった。彼女が死にかけていた所、友人の技術を使って自らを"継承"させ、息を吹き返させる。
かつて父はガレマール共和国で誕生し、リーパーとして鎌を振るっていたが、生活苦によりドマへ亡命した。亡命中行き倒れそうになったところで呪術師の旅人だった女性と結婚し、息子リンドウは誕生した。後に母親の故郷で出会った女性と結婚することになる。
強くなるために数々の武器や魔法に対しての豊富な知識を持っていた。しかし、父親の影響によりエーテル操作は不得意であった。そのため代替技術を探す旅をした結果ラザハンに辿り着く。錬金術の概念として存在した"アーカーシャ"に注目した。それを表層化させる技術を友人2人が理論を作り出した後リンドウの体で実験を行う。結果は成功し、エーテルを用いず自らの強く想う心、負の感情を刀身に纏わせ全てを斬り伏せる"奥義"を会得した。だが、副産物として想いの力を作用させ異常な怪力や体力も制御するようになるバケモノと化す。その力を人のために使うべくドマに戻り旅をした。だが英雄だと囃し立てる一方で恐れられ刺客を差し向けられる生活に嫌気がさしていく。それに加え、自分よりも遥かに大きい妖異を一発で斬り伏せる等圧倒的すぎる自分の力を目の当たりにしたリンドウは、少しでも人間に見せるために"無名の旅人"と名乗り人助けをしながらも誰かに介入するという行為をやめた。
友人の1人が妹が誕生したという報を受け3人の奇妙な旅は終わる。だが、リンドウと3人目の男ア・リス・ティアは経過観察という名の交流は続けていた。
行き倒れていた所を助けてやったアンナとは約20年共に旅をし、自分の持つ全てを継承させた。それは絶対に死なさない、茨の道へと突っ込ませてしまった罪悪感から起こした行動である。森を懐かしんでいるが故郷に帰りたいわけではなかったアンナのためにエオルゼアへの舟券を与え旅に出したが、水難事故で行方不明になったことを知る。多大に後悔し、苦しんでいたが訪れたアリスにより死んではいないことを彼女の命を示す"発信機"を渡された。その後、彼女が自分よりも先に死なないよう祈る旅を続けたが長年の無理が祟り倒れてしまう。
意気消沈したまま故郷の村へ戻った。そこで献身的に治療してくれた病気で旦那に先立たれ既に子供もいた女性と結婚。手に入れた小さな幸せにより少しだけ元気になり離れの山に家を建て、療養生活を送ることになる。
ある夜、その住処に1人の男が訪ねて来た。第三の眼を持った猫背で金目の黒い男によって語られた話によりショックを受けてしまう。それはバケモノと化しかけたかつての唯一の弟子と、自らの正体、これからその力を利用し滅ぼされる世界の真実。信じるに値しない話だと思った。だが、大切にしていた絵画を"魔法"で複製して見せたありえない行為と苦しめようと締め上げるエーテルに現実だと思わされた。そこで提示された約束は『いずれ貴様の大切な弟子をここに訪れさせるしもうすぐ尽きる命を無事冥府へと送り届けてやろう』、『だから指をくわえて何もせずここで最期を迎えろ』というもの。せめて愛する人やその周辺を護りたかったリンドウは『この場所を、戦地にするのはやめろ』と言いながらその手を握ることしかできなかった。
数年後、ドマが占領されたが自分の住処と家族が住む村には一切の被害はなかった。守られてしまった約束と、アンナに対する後悔を抱ることになった。その後、ドマ侵略から3年後、家族と同じく年老いたア・リスに看取られ生涯を閉じる。享年89歳。
ア・リス・ティア
リンドウが欲した力を理論化させ、アンナにリンドウを"継承"させたマッドサイエンティストなミコッテ。
かつて恋人と幸せに暮らしていたが事故により失い心が壊れてしまった。蘇らせるための技術を探し、数々の過去の文明を荒らしまわる。偶然錬金術で人を蘇らせることができるという噂を聞きラザハンに訪れていた所にリンドウともう1人に出会った。そこで錬金術の概念の話を聞いたアリスは蘇生よりも面白そうな"新たな技術"にのめり込んでいく。これまで集めた技術とリンドウ自身の技量と精神力で新たな理論を作り出した。
3人別れた後もリンドウとは会い続けていた。もう1人と交流が途絶えたのは森に帰ったので連絡が付かなかったからである。その傍らアラグ文明のクローン技術に興味を示していたので数々の資料や重要そうな装置を持ち逃げした。
ある日容体確認のために数年ぶりに会いに行くと衰弱しきった少女にただただ謝罪するリンドウの姿があった。詳しく聞くと自分たちが作った技術の一部を教えると一瞬で習得し倒れてしまったという。持っていた装置で確認すると、その少女は体内エーテルが異常に少なかった。状況を見るに、アーカーシャを用いる所を体内エーテルで代用し再現した行為が原因。このままでは死んでしまうだろうと告げた。『どんな手を用いてもいいからこの子を死なせないでくれ』というリンドウの声に、かつて俺たちで作り上げた技術を彼女に施せばいいと提案する。別れた後も科学的に説明できない未知の理論を研究し、"比較的"リスクを減らした発展形を作り上げていた。だがそれに耐えうる存在が未だに見つからなかったので丁度いい。それに加えリンドウのエーテルがあればそのまま"継承"させることもできる可能性が高いだろう。リンドウは最初こそ反対したが時間がないことを悟ると重い腰を上げアンナの命を繋ぐ。エーテル制御の装置をいくつか渡し、最低限死なないように立ち回る指導をリンドウと共に行った。
いつの間にかには恋人なんてもうどうでもいいと思っていた。既知の技術を探るより未知の技術を作り出すことに喜びを見出した彼はかつて漁ったデータをトームストーン3つに分散させ、リンドウとアンナで共有する。本当は3人目の友人でありアンナの兄エルファーに渡したかったが会える気がしなかったのでアンナに託す。当時のアンナはリンドウとお揃いのものが手に入ったと喜んだ。結局彼女には自分の身体がどうなってしまっているか等一切教えなかった。
その後アンナが死んだと落ち込むリンドウに彼女を示す"発信機"を渡す。それは2人の変質したエーテル反応を視覚化させる機械である。それを大切そうに握り締める姿を見てア・リスは「俺たちも年を取ったな」と苦笑した。
リンドウの死に目を確認した後、表舞台から消え去った。彼の抱えた"真実"をあと1つのトームストーンに込めながら―――。
"気迫"
リンドウ、ア・リス、エルファーが作り出した新たな"理論"を用いた必殺技。またの名を"奥義:流星"、"シハーブ"。各々呼び名が異なっている。
木の棒1本でもあれば妖刀のように光り輝き全てを斬り捨てる。振り下ろす刀身の軌跡が流星のように見えたためア・リスとエルファーはそう名付けていた。
大切な人を想う力に満ちると青白く光り、負の感情に満ちると赤く光る。意志が強ければ強いほどその力は強大となった。かつてアンナはアーカーシャではなくエーテルで再現し体に大きな負荷をかけてしまう。だが、ア・リスに施された"手術"によりリンドウと同じ力を得るようになった。しかし、大切な人とは何か理解できなかった彼女は人々の恨みを吸収しながら終末の獣のような現象に陥ってしまう。それを救ったのが何も知らなかったエメトセルクだった。
エオルゼアに辿り着いてからは不慣れな武器を使い隠していた。だが、無意識に魔導城プラエトリウムのアルテマウェポン戦にて赤黒く輝かせる。その後、トールダンやゼノスにも失った者達に対する負の感情に塗りつぶされながら斬り払った。しかしオメガとの最終決戦にてシドの前で意識的に"弱き人間の想いの力"という例として発現させるとそれは青白く輝いた。それは初めて無意識だが明確的に"シドを護る"という想いに応えた力となる。
圧倒的な力を行使できるようになるが、副作用として自分に向けられた感情を敏感に感じ取れるようになってしまう。好意も悪意も全て首筋に伝わっていくとこの技を得た人間は語った。
アンナの身体の秘密
ア・リスの手術により元のフレイヤ・エルダスとは全く別の存在に変わっていた。リンドウが40年以上費やして身に付けた技術や知識とエーテルで補われている。背中の傷が残り続けているのもその手術の影響だった。その後、負の感情が魂にまで纏わりついたところをエメトセルクが引き剥がし、変質されないよう保護されている。
エルファーやヤ・シュトラが称した『奥底に闇の杭が打たれ、何者かの手によってエーテル、というより魂そのものに操作を施されたような形跡』とは前者はア・リス後者はエメトセルクが行ったもの。闇の杭はエメトセルクが覗いた時にはもう施されており、それに自分のエーテルを混ぜ込んだ。
重い物を持ち上げたり身体能力が高いのも想いの力の無駄遣い。マンダウィル家と一緒。
"東方風雅録"
ガレマール帝国がドマ侵略を行った後に出版された東方地域に伝わる伝説の英雄の話。"龍殺しのリンドウ"とその弟子ザクロの旅の記録が綴られた大衆向け冒険小説。舞台化もされ、彼の奥義とされる光の刀身は公演によって日替わりで目玉の一つにされていた。
その影響でリンドウの終の棲家があるとされた村に毎日帝国兵が墓参りに訪れていた所を目撃されている。お供え物として持って来られる金品、ゆっくり滞在するための最新の魔導機械が導入された宿が作られた。それにより山奥でありながらも生活が苦にならない独自の文化が形成された村となっている。いつの間にか伝説になったリンドウにとっていいことなのかは、知る術はない。
なお周辺には飛空艇を停泊させる場所が存在しない。石碑周辺は上空から住処を発見することが出来ない不思議な結界が張られているという都市伝説が囁かれている。実際はリンドウの家にジャミング、カモフラージュさせる装置が設置されていただけなのだが。
暁月までネタバレ有り
リンドウ・フウガ
アンナの命の恩人であり、初恋であり、呪いでもあったエレゼンとガレアンのハーフ。かつて生み出した技を幼いアンナに教えた際、体内エーテルを急激に消費させてしまった。彼女が死にかけていた所、友人の技術を使って自らを"継承"させ、息を吹き返させる。
かつて父はガレマール共和国で誕生し、リーパーとして鎌を振るっていたが、生活苦によりドマへ亡命した。亡命中行き倒れそうになったところで呪術師の旅人だった女性と結婚し、息子リンドウは誕生した。後に母親の故郷で出会った女性と結婚することになる。
強くなるために数々の武器や魔法に対しての豊富な知識を持っていた。しかし、父親の影響によりエーテル操作は不得意であった。そのため代替技術を探す旅をした結果ラザハンに辿り着く。錬金術の概念として存在した"アーカーシャ"に注目した。それを表層化させる技術を友人2人が理論を作り出した後リンドウの体で実験を行う。結果は成功し、エーテルを用いず自らの強く想う心、負の感情を刀身に纏わせ全てを斬り伏せる"奥義"を会得した。だが、副産物として想いの力を作用させ異常な怪力や体力も制御するようになるバケモノと化す。その力を人のために使うべくドマに戻り旅をした。だが英雄だと囃し立てる一方で恐れられ刺客を差し向けられる生活に嫌気がさしていく。それに加え、自分よりも遥かに大きい妖異を一発で斬り伏せる等圧倒的すぎる自分の力を目の当たりにしたリンドウは、少しでも人間に見せるために"無名の旅人"と名乗り人助けをしながらも誰かに介入するという行為をやめた。
友人の1人が妹が誕生したという報を受け3人の奇妙な旅は終わる。だが、リンドウと3人目の男ア・リス・ティアは経過観察という名の交流は続けていた。
行き倒れていた所を助けてやったアンナとは約20年共に旅をし、自分の持つ全てを継承させた。それは絶対に死なさない、茨の道へと突っ込ませてしまった罪悪感から起こした行動である。森を懐かしんでいるが故郷に帰りたいわけではなかったアンナのためにエオルゼアへの舟券を与え旅に出したが、水難事故で行方不明になったことを知る。多大に後悔し、苦しんでいたが訪れたアリスにより死んではいないことを彼女の命を示す"発信機"を渡された。その後、彼女が自分よりも先に死なないよう祈る旅を続けたが長年の無理が祟り倒れてしまう。
意気消沈したまま故郷の村へ戻った。そこで献身的に治療してくれた病気で旦那に先立たれ既に子供もいた女性と結婚。手に入れた小さな幸せにより少しだけ元気になり離れの山に家を建て、療養生活を送ることになる。
ある夜、その住処に1人の男が訪ねて来た。第三の眼を持った猫背で金目の黒い男によって語られた話によりショックを受けてしまう。それはバケモノと化しかけたかつての唯一の弟子と、自らの正体、これからその力を利用し滅ぼされる世界の真実。信じるに値しない話だと思った。だが、大切にしていた絵画を"魔法"で複製して見せたありえない行為と苦しめようと締め上げるエーテルに現実だと思わされた。そこで提示された約束は『いずれ貴様の大切な弟子をここに訪れさせるしもうすぐ尽きる命を無事冥府へと送り届けてやろう』、『だから指をくわえて何もせずここで最期を迎えろ』というもの。せめて愛する人やその周辺を護りたかったリンドウは『この場所を、戦地にするのはやめろ』と言いながらその手を握ることしかできなかった。
数年後、ドマが占領されたが自分の住処と家族が住む村には一切の被害はなかった。守られてしまった約束と、アンナに対する後悔を抱ることになった。その後、ドマ侵略から3年後、家族と同じく年老いたア・リスに看取られ生涯を閉じる。享年89歳。
ア・リス・ティア
リンドウが欲した力を理論化させ、アンナにリンドウを"継承"させたマッドサイエンティストなミコッテ。
かつて恋人と幸せに暮らしていたが事故により失い心が壊れてしまった。蘇らせるための技術を探し、数々の過去の文明を荒らしまわる。偶然錬金術で人を蘇らせることができるという噂を聞きラザハンに訪れていた所にリンドウともう1人に出会った。そこで錬金術の概念の話を聞いたアリスは蘇生よりも面白そうな"新たな技術"にのめり込んでいく。これまで集めた技術とリンドウ自身の技量と精神力で新たな理論を作り出した。
3人別れた後もリンドウとは会い続けていた。もう1人と交流が途絶えたのは森に帰ったので連絡が付かなかったからである。その傍らアラグ文明のクローン技術に興味を示していたので数々の資料や重要そうな装置を持ち逃げした。
ある日容体確認のために数年ぶりに会いに行くと衰弱しきった少女にただただ謝罪するリンドウの姿があった。詳しく聞くと自分たちが作った技術の一部を教えると一瞬で習得し倒れてしまったという。持っていた装置で確認すると、その少女は体内エーテルが異常に少なかった。状況を見るに、アーカーシャを用いる所を体内エーテルで代用し再現した行為が原因。このままでは死んでしまうだろうと告げた。『どんな手を用いてもいいからこの子を死なせないでくれ』というリンドウの声に、かつて俺たちで作り上げた技術を彼女に施せばいいと提案する。別れた後も科学的に説明できない未知の理論を研究し、"比較的"リスクを減らした発展形を作り上げていた。だがそれに耐えうる存在が未だに見つからなかったので丁度いい。それに加えリンドウのエーテルがあればそのまま"継承"させることもできる可能性が高いだろう。リンドウは最初こそ反対したが時間がないことを悟ると重い腰を上げアンナの命を繋ぐ。エーテル制御の装置をいくつか渡し、最低限死なないように立ち回る指導をリンドウと共に行った。
いつの間にかには恋人なんてもうどうでもいいと思っていた。既知の技術を探るより未知の技術を作り出すことに喜びを見出した彼はかつて漁ったデータをトームストーン3つに分散させ、リンドウとアンナで共有する。本当は3人目の友人でありアンナの兄エルファーに渡したかったが会える気がしなかったのでアンナに託す。当時のアンナはリンドウとお揃いのものが手に入ったと喜んだ。結局彼女には自分の身体がどうなってしまっているか等一切教えなかった。
その後アンナが死んだと落ち込むリンドウに彼女を示す"発信機"を渡す。それは2人の変質したエーテル反応を視覚化させる機械である。それを大切そうに握り締める姿を見てア・リスは「俺たちも年を取ったな」と苦笑した。
リンドウの死に目を確認した後、表舞台から消え去った。彼の抱えた"真実"をあと1つのトームストーンに込めながら―――。
"気迫"
リンドウ、ア・リス、エルファーが作り出した新たな"理論"を用いた必殺技。またの名を"奥義:流星"、"シハーブ"。各々呼び名が異なっている。
木の棒1本でもあれば妖刀のように光り輝き全てを斬り捨てる。振り下ろす刀身の軌跡が流星のように見えたためア・リスとエルファーはそう名付けていた。
大切な人を想う力に満ちると青白く光り、負の感情に満ちると赤く光る。意志が強ければ強いほどその力は強大となった。かつてアンナはアーカーシャではなくエーテルで再現し体に大きな負荷をかけてしまう。だが、ア・リスに施された"手術"によりリンドウと同じ力を得るようになった。しかし、大切な人とは何か理解できなかった彼女は人々の恨みを吸収しながら終末の獣のような現象に陥ってしまう。それを救ったのが何も知らなかったエメトセルクだった。
エオルゼアに辿り着いてからは不慣れな武器を使い隠していた。だが、無意識に魔導城プラエトリウムのアルテマウェポン戦にて赤黒く輝かせる。その後、トールダンやゼノスにも失った者達に対する負の感情に塗りつぶされながら斬り払った。しかしオメガとの最終決戦にてシドの前で意識的に"弱き人間の想いの力"という例として発現させるとそれは青白く輝いた。それは初めて無意識だが明確的に"シドを護る"という想いに応えた力となる。
圧倒的な力を行使できるようになるが、副作用として自分に向けられた感情を敏感に感じ取れるようになってしまう。好意も悪意も全て首筋に伝わっていくとこの技を得た人間は語った。
アンナの身体の秘密
ア・リスの手術により元のフレイヤ・エルダスとは全く別の存在に変わっていた。リンドウが40年以上費やして身に付けた技術や知識とエーテルで補われている。背中の傷が残り続けているのもその手術の影響だった。その後、負の感情が魂にまで纏わりついたところをエメトセルクが引き剥がし、変質されないよう保護されている。
エルファーやヤ・シュトラが称した『奥底に闇の杭が打たれ、何者かの手によってエーテル、というより魂そのものに操作を施されたような形跡』とは前者はア・リス後者はエメトセルクが行ったもの。闇の杭はエメトセルクが覗いた時にはもう施されており、それに自分のエーテルを混ぜ込んだ。
重い物を持ち上げたり身体能力が高いのも想いの力の無駄遣い。マンダウィル家と一緒。
"東方風雅録"
ガレマール帝国がドマ侵略を行った後に出版された東方地域に伝わる伝説の英雄の話。"龍殺しのリンドウ"とその弟子ザクロの旅の記録が綴られた大衆向け冒険小説。舞台化もされ、彼の奥義とされる光の刀身は公演によって日替わりで目玉の一つにされていた。
その影響でリンドウの終の棲家があるとされた村に毎日帝国兵が墓参りに訪れていた所を目撃されている。お供え物として持って来られる金品、ゆっくり滞在するための最新の魔導機械が導入された宿が作られた。それにより山奥でありながらも生活が苦にならない独自の文化が形成された村となっている。いつの間にか伝説になったリンドウにとっていいことなのかは、知る術はない。
なお周辺には飛空艇を停泊させる場所が存在しない。石碑周辺は上空から住処を発見することが出来ない不思議な結界が張られているという都市伝説が囁かれている。実際はリンドウの家にジャミング、カモフラージュさせる装置が設置されていただけなのだが。
"耳"
「だから触るな!」
「いいじゃないか」
アンナは壁に追いやられながら威嚇するがシドはどこ吹く風かと手を伸ばしている。眉間に皴を寄せながら必死にその手を握りしめ抵抗した。
そう、アンナは耳を優しく触れられる行為に対して非常に弱く、"シドに"触られるとほぼ"終わり"となる。なので手段を選ばず何としても手を出すシドと度々小競り合いが起こった。今回は仕事疲れで戻って来たシドが癒してほしいと言うので、"多少の"スキンシップを許可した所まではいい。しばらく首や顎、頬を撫でまわしていたが突然耳に手をかけようとしたので、耳だけはやめろと拒否する。
「触ってもいいってさっき言ってたじゃないか」
「してない。許可した個所は顔」
「頭部の一部じゃないか」
かすってない! とシドの両手を片手で掴みながら額のゴーグルを外し指さす。
「あなた以前第三の眼で遊ぶの拒否したでしょ?」
「お前のパワーで何かされたら命の危機だろ」
「失礼な。耳だって命の危機と隣り合う器官」
「力加減位できるさ」
埒が明かない。他の話題を探して有耶無耶にするかとアンナは判断し、床に転がす。今回はきちんと受け身を取ったようだ。胸板の上に乗り腕を押さえる。
「誘ってるのか?」
「違う」
「お前知ってるぞ、以前人に触らせてただろ耳」
どこから話が漏れたんだとアンナはため息を吐く。グ・ラハとレヴナンツトールを歩いていると通りすがりの子供が声をかけて来た。ヴィエラが珍しかったのか長い耳に興味を持っていたので仕方なく触らせる。すると思い切り掴み引っ張られたので、頬を引っ張りながら笑顔を見せてやった。喋った犯人はグ・ラハだなと思いながら適当に心を抉る言葉を吐く。
「シドの触り方おっさん臭くて嫌い」
シドの表情が固まる。よし、このまま傷付いてろとため息を吐き畳みかける。
「お子様が手加減無しで掴んで、ビックリして頬を引っ張った。一度だけ。何度もせがむおっさんとは大違い」
「ぐ。いや待てお前の方が遥かに年上じゃないか」
「まあ君が子供と仮定しても絶対不許可」
悲しげな表情を見せた。そこまで傷付くのか? と苦笑するがそこで手を差し伸べてはいけない。ここから痛い目に何度も遭って来た。
シドが耳を狙う理由は簡単である。普段は全く動かない耳を"シドが"触り続けるとふにゃりと垂れ下がってしまうからだ。アンナは相手に感情を読まれないよう極力耳を反応させない修行を行った。そんなアンナの弱った姿を見て自分の精神を癒やそうとする悪意と下心が丸見えなので許可は与えない。勿論相当なことがない限り絶対に他人が触ろうとすると反射的に刀に手をかける。アンナにとってはこれでも優しく断っているつもりだった。
「人の嫌がるとこ狙うの最低」
「う」
「純粋にあなたに会うために来たのに残念」
「す、すまん」
「もうジェシーやネロサンとお茶飲んで帰る。明日は折角の休みなのに残念だねえ」
ちらとシドを見るといつの間にか泣きそうな顔が消え、少々機嫌が悪い顔になっている。またやってしまったと慌てながら訂正する。
「いやさすがに帰るのは冗談」
「本当か?」
「私、嘘はつかない」
機嫌を取るように頬に口付けてやる。「ん」と舌を差し出してきたのでそのまま舌を絡めてやった。指を絡め合い、目を閉じて行為の終わりを待つ。いつの間にか力が抜けてしまったか急に手が振りほどかれ抱きしめられる。仕方がない、「苦しい」と言いながら離れると次の瞬間ひっくり返される。
「へ?」
見上げると笑顔のシド。騙されたかと一瞬考えたがよく見ると目は笑っていなかった。これは、終わったなとアンナは察した。
「悪かったな触り方がおっさん臭くて」
次の瞬間、シドは思い切り長い耳を掴んだ。アンナは目を見開き叫んでしまう。
「いっ―――たぁ!?」
「流石に痛いのか。すまん」
本当はそんなに痛くはない。しかし突然の行為に対し反射的にリアクションをしてしまった。
「怒ったからって子供のマネ? 大人が力加減無しでやるな、普通のヴィエラなら潰れる。拷問したいの?」
「いや大丈夫かと思ってつい」
「もーフウガぶりだ。負けず手加減しないね」
意外な名前が出て来てシドは「リンドウが?」と言うとアンナはため息を吐く。心がざわめく感情を抱いているがまだアンナは気付かない。
「里で修行できなかった分。おかげで多少では耳は動じない。ってシド凄い目が怖い」
「修行?」
「いや、護人が耳で色々バレるの、ダメ。真っ先に対策必要。だから……って撫でるな!」
シドは思い切り掴んだ部分を優しく撫でる。アンナはその手首を掴み抵抗するが弱々しい。その姿にシドはクスリと笑う。
「痛くしてすまん。―――もうあっという間に弱ってる。本当にそれは修行だったのか?」
「ひゃ、それはあなたが」
「俺が?」
内側を擦りながら形をなぞるように撫でまわされると勝手に口元から甘い吐息が漏れた。なんとか言葉にし、抗議する。
「触り方がっ、普通はしないやつ―――ッ」
首のゾワゾワと甘い痺れに身体がピクリと痙攣する。頭がぼんやりとするから触られたくない。と思っていたら突然寝台へと抱き上げられる。温かい体温が背中を通して感じた。アンナは普段シドを抱き上げているがシドもアンナを軽く持ち上げることができる。以前重くないかと尋ねたら「機材に比べたらとても軽い」と笑顔を見せていた。
シドは長い耳の間に顔を埋め、再び優しく耳を撫でている。指を口元に持ってきたので口に含むと舌に絡められた。上下に擦られると反射的に指を甘噛みしてしまい背後からくくと笑い声が漏れた。もうこうなってしまったら満足するまで続くだろう。耳はどうすれば動かせるのかを思い返した。集中を解き、リラックスし、あと何が必要だったかとアンナは一瞬考え込んだ後、ふと名前を呼ぶ。
「シ、ド」
「どうした?」
「くび、噛んで」
「仰せのままに」
襟元を緩めてやり、シドはそのままガリと未だ消えていない痕を上書きするように噛みついた。
「ッ―――!」
痛みに対し反射的にビクリと跳ね、シドは身体が逃げないように強く抱きしめた。耳の付け根を握りながら内側を引っ掻く様に動かされると力が一気に抜ける感触を味わう。そして耳がふにゃりと垂れ下がり、シドの目的は達成である。
「満足?」
アンナは深く呼吸をしながら背後のシドに声をかけるが反応はない。転がり顔を見合わせると唇を合わされる。耳を巻き込むように大きく頭を撫でつけた。こうなるから厭だったんだよと手首を掴む。
「終わり」
「疲れを癒させてくれ」
「最低。疲れたならそのまま寝て」
胸元に押し込み頭を撫でながら子守歌を唄う。かつて故郷で毎日聴いていた"よく眠れる歌"だ。勿論シドも好きなようですぐに寝息が聞こえてくる。
「おつかれ」
ポツリと呟き、目を閉じる。シドが連日の仕事詰めの疲れで癒しを求めるように、アンナも癒しを求めていたのも確かだ。耳も最終的に許可するのは外で見せることのないバカ騒ぎができればそれで構わないという一種の甘え方になる。冷たい身体に相手の熱が少しだけ溶け込む感覚に穏やかな表情を見せた。
#シド光♀ #即興SS
「いいじゃないか」
アンナは壁に追いやられながら威嚇するがシドはどこ吹く風かと手を伸ばしている。眉間に皴を寄せながら必死にその手を握りしめ抵抗した。
そう、アンナは耳を優しく触れられる行為に対して非常に弱く、"シドに"触られるとほぼ"終わり"となる。なので手段を選ばず何としても手を出すシドと度々小競り合いが起こった。今回は仕事疲れで戻って来たシドが癒してほしいと言うので、"多少の"スキンシップを許可した所まではいい。しばらく首や顎、頬を撫でまわしていたが突然耳に手をかけようとしたので、耳だけはやめろと拒否する。
「触ってもいいってさっき言ってたじゃないか」
「してない。許可した個所は顔」
「頭部の一部じゃないか」
かすってない! とシドの両手を片手で掴みながら額のゴーグルを外し指さす。
「あなた以前第三の眼で遊ぶの拒否したでしょ?」
「お前のパワーで何かされたら命の危機だろ」
「失礼な。耳だって命の危機と隣り合う器官」
「力加減位できるさ」
埒が明かない。他の話題を探して有耶無耶にするかとアンナは判断し、床に転がす。今回はきちんと受け身を取ったようだ。胸板の上に乗り腕を押さえる。
「誘ってるのか?」
「違う」
「お前知ってるぞ、以前人に触らせてただろ耳」
どこから話が漏れたんだとアンナはため息を吐く。グ・ラハとレヴナンツトールを歩いていると通りすがりの子供が声をかけて来た。ヴィエラが珍しかったのか長い耳に興味を持っていたので仕方なく触らせる。すると思い切り掴み引っ張られたので、頬を引っ張りながら笑顔を見せてやった。喋った犯人はグ・ラハだなと思いながら適当に心を抉る言葉を吐く。
「シドの触り方おっさん臭くて嫌い」
シドの表情が固まる。よし、このまま傷付いてろとため息を吐き畳みかける。
「お子様が手加減無しで掴んで、ビックリして頬を引っ張った。一度だけ。何度もせがむおっさんとは大違い」
「ぐ。いや待てお前の方が遥かに年上じゃないか」
「まあ君が子供と仮定しても絶対不許可」
悲しげな表情を見せた。そこまで傷付くのか? と苦笑するがそこで手を差し伸べてはいけない。ここから痛い目に何度も遭って来た。
シドが耳を狙う理由は簡単である。普段は全く動かない耳を"シドが"触り続けるとふにゃりと垂れ下がってしまうからだ。アンナは相手に感情を読まれないよう極力耳を反応させない修行を行った。そんなアンナの弱った姿を見て自分の精神を癒やそうとする悪意と下心が丸見えなので許可は与えない。勿論相当なことがない限り絶対に他人が触ろうとすると反射的に刀に手をかける。アンナにとってはこれでも優しく断っているつもりだった。
「人の嫌がるとこ狙うの最低」
「う」
「純粋にあなたに会うために来たのに残念」
「す、すまん」
「もうジェシーやネロサンとお茶飲んで帰る。明日は折角の休みなのに残念だねえ」
ちらとシドを見るといつの間にか泣きそうな顔が消え、少々機嫌が悪い顔になっている。またやってしまったと慌てながら訂正する。
「いやさすがに帰るのは冗談」
「本当か?」
「私、嘘はつかない」
機嫌を取るように頬に口付けてやる。「ん」と舌を差し出してきたのでそのまま舌を絡めてやった。指を絡め合い、目を閉じて行為の終わりを待つ。いつの間にか力が抜けてしまったか急に手が振りほどかれ抱きしめられる。仕方がない、「苦しい」と言いながら離れると次の瞬間ひっくり返される。
「へ?」
見上げると笑顔のシド。騙されたかと一瞬考えたがよく見ると目は笑っていなかった。これは、終わったなとアンナは察した。
「悪かったな触り方がおっさん臭くて」
次の瞬間、シドは思い切り長い耳を掴んだ。アンナは目を見開き叫んでしまう。
「いっ―――たぁ!?」
「流石に痛いのか。すまん」
本当はそんなに痛くはない。しかし突然の行為に対し反射的にリアクションをしてしまった。
「怒ったからって子供のマネ? 大人が力加減無しでやるな、普通のヴィエラなら潰れる。拷問したいの?」
「いや大丈夫かと思ってつい」
「もーフウガぶりだ。負けず手加減しないね」
意外な名前が出て来てシドは「リンドウが?」と言うとアンナはため息を吐く。心がざわめく感情を抱いているがまだアンナは気付かない。
「里で修行できなかった分。おかげで多少では耳は動じない。ってシド凄い目が怖い」
「修行?」
「いや、護人が耳で色々バレるの、ダメ。真っ先に対策必要。だから……って撫でるな!」
シドは思い切り掴んだ部分を優しく撫でる。アンナはその手首を掴み抵抗するが弱々しい。その姿にシドはクスリと笑う。
「痛くしてすまん。―――もうあっという間に弱ってる。本当にそれは修行だったのか?」
「ひゃ、それはあなたが」
「俺が?」
内側を擦りながら形をなぞるように撫でまわされると勝手に口元から甘い吐息が漏れた。なんとか言葉にし、抗議する。
「触り方がっ、普通はしないやつ―――ッ」
首のゾワゾワと甘い痺れに身体がピクリと痙攣する。頭がぼんやりとするから触られたくない。と思っていたら突然寝台へと抱き上げられる。温かい体温が背中を通して感じた。アンナは普段シドを抱き上げているがシドもアンナを軽く持ち上げることができる。以前重くないかと尋ねたら「機材に比べたらとても軽い」と笑顔を見せていた。
シドは長い耳の間に顔を埋め、再び優しく耳を撫でている。指を口元に持ってきたので口に含むと舌に絡められた。上下に擦られると反射的に指を甘噛みしてしまい背後からくくと笑い声が漏れた。もうこうなってしまったら満足するまで続くだろう。耳はどうすれば動かせるのかを思い返した。集中を解き、リラックスし、あと何が必要だったかとアンナは一瞬考え込んだ後、ふと名前を呼ぶ。
「シ、ド」
「どうした?」
「くび、噛んで」
「仰せのままに」
襟元を緩めてやり、シドはそのままガリと未だ消えていない痕を上書きするように噛みついた。
「ッ―――!」
痛みに対し反射的にビクリと跳ね、シドは身体が逃げないように強く抱きしめた。耳の付け根を握りながら内側を引っ掻く様に動かされると力が一気に抜ける感触を味わう。そして耳がふにゃりと垂れ下がり、シドの目的は達成である。
「満足?」
アンナは深く呼吸をしながら背後のシドに声をかけるが反応はない。転がり顔を見合わせると唇を合わされる。耳を巻き込むように大きく頭を撫でつけた。こうなるから厭だったんだよと手首を掴む。
「終わり」
「疲れを癒させてくれ」
「最低。疲れたならそのまま寝て」
胸元に押し込み頭を撫でながら子守歌を唄う。かつて故郷で毎日聴いていた"よく眠れる歌"だ。勿論シドも好きなようですぐに寝息が聞こえてくる。
「おつかれ」
ポツリと呟き、目を閉じる。シドが連日の仕事詰めの疲れで癒しを求めるように、アンナも癒しを求めていたのも確かだ。耳も最終的に許可するのは外で見せることのないバカ騒ぎができればそれで構わないという一種の甘え方になる。冷たい身体に相手の熱が少しだけ溶け込む感覚に穏やかな表情を見せた。
#シド光♀ #即興SS
漆黒メインシナリオ途中のシド光♀。都合のいい妖精王の能力とシド少年時代捏造。
―――苦しかった。光がこんなにも息が詰まり、何も見えなくなるほど気持ち悪いものだなんて思ってもみなかった。しかし根底にある闇が、そして自分だけ見ることが出来る道を示す輝く白い星が私が"ボク"であることの証明である。
「美しい枝、フェオちゃん」
「あら若木私を呼ぶなんて珍しいわね!クスクス」
無意識に呼んでしまった。こみ上がる吐き気を抑えながらもニコリと笑う。
「最近"私"が眠れなくて。ちょっと眠らせる魔法が欲しい」
朧げに呟くとフェオは少しだけ考える素振りを見せた後、ニコリと笑った。そして「しばらく待って頂戴!」と言うとふわりと"ボク"に何か魔法をかけて消えてしまった。
何故自分がこんな苦しみを味わらないといけないんだ、5年ほど前の"アンナ"が聞いたら呆れるだろう。しかし50年前に会ったという若い頃そのままなヤツに遭うぞと言うととっとと逃げろと慌てながら掴まれる姿が浮かんだ。"光の氾濫"という現象を何とかしないと自分らが生まれた世界が危ないなんて今でもよく分からない。
少しだけとろんと瞼が重くなってきた。なるほど徐々に眠くなる魔法だったのか。確かに突然目の前が真っ暗になるよりは不安がない。「ありがとね、フェオちゃん」とボソと呟き睡魔に身を任せた。
◇
「はい今回もギリギリ間に合いましたねお疲れさまでした!」
「疲れた」
「文明人コワイ」
「イイ経験だったろ?」
深夜、ガーロンド・アイアンワークス社工房。会長シドをはじめとする社員たちが突っ伏していた。
赤色の髪のヴィエラの男は初めてのデスマーチに想いを馳せたのかメガネを外し一息ついている。
「修羅場なんて嫁の優先順位くらいしかなかったからな」
「惚気やめてくださいッスよー」
「おいレフはもう離婚してるんだぞ」
「ホー、言うじゃないか。完成物燃やすぞ」
「ヤメロ」
新入社員となったアンナの兄エルファー・レフ・ジルダ。妹にバレたくないのかレフと名乗りながらネロと共に行動し、円滑に行われたオメガの検証を陰で手伝っていた。まあフルネームの一部だったので彼女は偶然と称していたが本能的に察知していたことは本人には教えていない。その後人の名義の領収書を置いて2人で逃げ出したが無事捕獲、働かされている。
そしてつい1週間程度前まではネロとレフを引き連れ、自分の朧げな記憶の確実性を上げるためにドマへ"墓参り"に行った。あとはアンナが戻って来るのを待つだけだとシドは拳を握る。あっさりとした宿題だったとヒゲを撫でコーヒーを飲もうとケトルに手を伸ばそうとした時だった。『クスクス…』という小さな笑い声が聞こえる。
「おいネロ、何か聞こえないか?」
「ハァ?あまりにも徹夜続きで幻聴が始まったか?」
『見ぃつけた』
「ほら聞こえたじゃないか」
頭の中で少女の声が響く。うん? 頭の、中?
「っ!? ガーロンドくんそこから離れろ!!」
『あらあらあなた私が見えるのかしら? クスクス……ちょっとこの人借りるわね? 朝には返すから!』
レフが俺の肩を掴むが徐々に目の前が霞んでくる。そして真っ暗になった。
シドは途端に突っ伏してしまう。社員は大慌てで彼を囲むが寝息が聞こえるが否や呆れた顔をしていた。
レフのみは顔が真っ青になっており、ネロは肩を叩き問いかける。
「おい何が視えた」
「わからん……見たことないエーテルの動きと借りるとか朝には返すとか異国語すぎて分からん」
「暁の人呼びましょうか?」
ネロは舌打ちしながら「とりあえず仮眠室にでも持ってくぞ。クッソこんな時にメスバブーンがいたら片手で運ぶのによ」とシドを引っ張る動きをする。
◇
―――目を開くと真っ白の空間。誰もいない。「おいネロ、レフ、ジェシー」と社員の名前を呼んでいくが返事が返って来ない。
「アンナ」
困った時、呼べばいつも途端に解決してくれるあの人の名前を口に出す。しかし彼女は別の世界で会うことは出来ない。それでももう一度「アンナ」と名前を呼ぶとまたあの笑い声が聞こえた。
『こんにちは! さあ早く、こっちよ』
光が集まりが見えるが俺の目ではその正体を視認できない。魔法的存在だろうか辛うじて第三の眼で判別できるが何かは分からなかった。すると『あらあら、あらあらあらあなたは私が視えないのね!』という声が聞こえた。
『あなたが会いたい人に会わせてあげる!』
胡散臭い。なんて胡散臭い一言なんだとため息を吐くと心を読まれたらしく『会いたくないなら構わないわ! せっかく眠れないあの子のためにいい夢を準備してあげたいのに!』と抗議される。眠れない? あの人がか?
「本当に俺が会いたい人間に会えるのか? 別の世界にいる人間だぞ」
『夢を介してだけど会えるわ。だって私はその世界からあなたを呼んだのよ?』
さあ目を閉じて。あなたの頭の中で会いたい人を思い浮かべてごらんなさい、と言われたので目を閉じ、あの人の名前を呼ぶ。黒髪赤目の、奇麗なヴィエラ。俺を護ると約束した、赤の刃を。
『さあもう大丈夫よ! 目を開けて!』
◇
目を開くと扉の前だった。どこかの宿屋なのだろうか、周辺にも同じような扉がある廊下である。『レディの部屋に入る時は、まずノックをするものだわ』と囁かれたので俺は言われるがままに扉を叩く。ドアノブが回り、扉が開いた。自分よりも頭一つ高い身長、褐色肌で黒髪に赤目の女性。ぼんやりとした目で俺を見るとパタンと扉が閉じられた。しばらく無音の時間が流れ、再び扉を開き俺を二度見する姿は余裕が一切なく「え、うそ、フェオちゃん?」とボソボソ呟いている。
「そっか、夢かあ」
アンナは柔らかい笑顔で俺を強く抱きしめたので硬直してしまう。そうだ、これは夢だろう。孤独な旅人が好きでもないし嫌いでもない相手をいきなり抱きしめる筈がない。「アンナ、とりあえず座らないか?」と言うと「そうだね」と俺を解放し、軽く抱き上げた。
まず目についたのは窓の外の景色だ。明らかにエオルゼアではない不思議な空を見ているとアンナは「外に出たらクリスタルタワーがあるんだよ」と頭を撫でる。相変わらずの子ども扱い―――なのは俺の都合のいいアンナ像だからだろう。
椅子を並べられたので隣り合って座りアンナの話を聞いた。光に満たされ今にも滅びそうな世界、水晶公という人間との出会い、夜を取り戻す闇の戦士になっている話、ソル帝いやアシエン・エメトセルクとの邂逅、罪喰いという生物を倒すたびに自分の体に光が取り込まれ今にもバケモノになりそうな話を空を見上げながら淡々とした口調で話す。何故お前が全部やらないといけないんだ、他の奴に任せられないのかと言ってやると涙を浮かべこちらを向いた。
「わかんない。皆私に助けてっていうから、助けてる。そう、皆弱いから。強いボクが助けないと」
「でも俺たちの世界に帰れないと、意味がないだろ?」
「だってこの世界を救えないと私たちの世界も滅ぶ。このままじゃ第八霊災が起こるって」
それから起こるであろう未来を語った。信じられない話だが、"あの手紙"に書かれていた真実と照らし合わせるとあり得ないと断じられない。だからと言って俺が何か出来るわけではないのだが。彼女に託すしかできないという現実に頭に血が上りそうになる。落ち着かせるために震える体を抱き寄せ、「この話題は終わりにしよう」と言ってやるとこくりと頷いた。
―――あまりにも具体的な自分が知りえない情報に夢なのか、そうでないのかもう分からなかった。
「心配されてるのは分かってる。でも早めにエオルゼアには帰るから」
「ああ絶対に帰って来るんだ。死ぬなよ、待ってる」
口付けを交わす。何度も角度を変え、触れるだけのキスだ。夢だと言うのに柔らかく、ひんやりと冷たかった。流れた涙を舐めとってやり、抱きしめてやる。するとアンナは「なんて都合のいい夢だ。でも嬉しいんだよね」と呟いたので「俺もだ」と返した。
「だって20年前の自分には予想できなかった話」
「―――そうだな?」
「あんな可愛かった少年が本当にヒゲの似合う年齢になってボクの目の前に現れて、冒険できたから」
その低い声で目を見開く。記憶通りの、幼い頃に聞いたし、星芒祭の夜に再会して語り合った旅人の声だった。
彼女があの寒空の夜に出会った人だというのは既に知っている。実際先に知っていたネロに確認したから間違いはない。だからその願望が、リアルタイムに夢として反映されているのだろう。
「お、俺だって思わなかったさ。まさかお前が旅人のお兄さんだったなんてな。知った瞬間に頭が真っ白になった」
「だって命の恩人と別れて以降、アシエンだったソル帝除いたら初めてだったんだよね。ボクを襲ったり怯えた目で見ずにすぐに助けてくれた人間って」
「っ!?」
「だから嫌いになれるわけ、ないじゃないか。そう思ってたからバカみたいな約束をした。ボクに道を示してくれるお星さまならすぐに辿り着けるって」
「アンナ」
「嗚呼絶対帰ってみせるよ。キミたちを護るって約束してるんだから。ねえシド」
俺の頬を触り口付けを交わした後、笑顔を見せた。
「ボクは、初めて会った時からキミのことを」
『若木ー!!!』
「ふぇ、フェオちゃん!?」
俺をここに連れて来た光の声が聞こえる。何やら大きく慌てているようだ。アンナにははっきり様子だが俺にはどうなっているのかさっぱりだ。
『ごめんなさい! 時間切れよ! あの人があなたを無理やり起こそうとしてるのだわ! さあ白い人も帰りましょう!』
「え、は? うそ、これ本人!?」
「なっ―――アンナ!」
周辺が光に包まれていく。どうなっているのか分からないが、うっすらと大慌てのアンナの顔が見えた。
アンナの「わ、忘れて! 忘れろ!!」っていう完全にメッキが剥がれ素の声が聞こえた気がした。満面の笑顔で「ああ忘れないからな!」と言い返してやったが聞こえたか分からない。
―――いい夢だった。
◇
目を開くとそこは会社の仮眠室。起き上がると暁の血盟のクルルとネロ、レフが目を丸くして俺を見ていた。
「あ、あらシド起きたみたい」
「は? オマエマジで寝てるだけだったのかよ」
「こっちは納期のデーモンに殺されかけた後ほぼ寝てないのにな」
「す、すまん」
俺は思わず反射的に謝ってしまう。しかしよく考えなくても自分は悪くないだろう、無理やり眠らされたのだから。
「ねえシド、何があったの? 体内エーテルに異常は見られないけど……身体に違和感とかない?」
「いや、特に何も起こっては……実は意識が落ちた後にな」
夢の一部を説明する。アンナの現在の状況と、第八霊災について。ネロとレフは呆れた目で見ていたがクルルは真面目な顔で「多分第一世界にいる妖精族の仕業ね」と答える。
「私とあとタタルも何度か夢を介してその子に向こうの世界の状況を教えてもらってるの。シドは多分その妖精にアンナの夢の中へ連れて行かれたんだと思う」
「成程妹が現在いる世界のピクシー族的な存在によるイタズラってやつか。仲良くできてそうだな」
「いやいや納得してンじゃねェよ。事実なら無傷で戻れたのは奇跡じゃねェか」
確かにそうだ。特に目立った異変も無いしきちんと眠ってはいたからか体は軽い。
「他に妹は何か言っていたのか?」
「え、いや、どうだったか……」
「ナニもしてないよな?」
「話をしただけだ落ち着け」
「はー僕も妹に会いたいなあ」
レフの視線が痛い。仕事中は一切その素振りを見せずよく働いてくれるが、終了した途端妹を溺愛しすぎてこちらにまで殺意を見せることがあるのは本当に勘弁してほしい。
それよりも一つだけ確信に至ったものもある。アンナに一晩『一般常識を仕込んだもう死んでいる男』だ。あの口ぶりだと相手はアシエン、しかも生まれ故郷の初代皇帝となる。一度迷い込んでソル帝の部屋に辿り着いたという話は正直半信半疑だったのだが、本人の口から示唆されると複雑な過去が余計に整理できなくなった。
「ネロ、俺はどうしたらいいか分からん」
「いやオレだって突然言われても困ンだが」
「だよな……だよなあ……」
怪訝な顔をしながらもクルルに礼を言うと何か言いたげにしていたレフを連れて出て行ってしまった。クルルも「それじゃあお大事に。アンナ視点の第一世界の状況を聞けてよかった。えっと……その感情、落ち着かせるためにコーヒーとか飲んだらいいと思う」と言うと退室してしまった。何を言っているのか理解できないままふらりと立ち上がり洗面台で鏡を見ると、眉間に深く皴が刻まれ自分の目から見ても機嫌が悪い。いい夢を見たハズなのにこれではいけないと思いながら顔を洗いクルルのアドバイス通りコーヒーを淹れに行くのだった。
―――アンナ、絶対に生きて帰ってこいよ。
◇
一方その頃第一世界。
目を見開き起き上がりながら「あーもー!」と叫ぶ。夢と変わりないペンダント居住区にある一室にてアンナはため息を吐いた。そして目の前にいる男を見やり再び一度目を閉じ、ため息を吐く。そしてゆっくりと目を開いた。
「優雅に眠る"レディ"の寝室に勝手に入るのは控えめに言っても最低では?」
「レディとは程遠いやつが何を吠えている。妙なエーテルの動きを掴んだから発生源に来たらお前の寝室だっただけだ。寝顔もあの時と変わらず最高だったぞ?」
吐きそうな文句につい笑顔を浮かべるのも忘れてしまっていた。本当はいつでも一時的にエオルゼアへ戻れるのだが、執拗にエメトセルクが妨害するのでストレスが溜まり続けている。暁がなんとか一度だけ時間を作ってくれたがシドは不在だしそろそろ納期に追われる時期と言われてしまった。そんなことを言われてしまっては罪喰い討伐時以外は適当に人助けするか目の前の相手をあしらうしかやることはない。体内にたまり続ける光の気持ち悪さと一緒に言葉を吐く。
「そりゃぁどうも」
"あの子"は夢の中で余計なことを言ってしまい疲れてるんだよ、だから"ボク"が代わりに対応してやってるんだと思いながら朝の日課のため着替えに手を伸ばした。
Wavebox
#シド光♀