FF14の二次創作置き場

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"俺、絶対にお兄さんに凄い飛空艇を見せるんだ" 初めての飛空…

メモ,新生

#謎メモ

メモ,新生

謎のメモ(新生2)

"俺、絶対にお兄さんに凄い飛空艇を見せるんだ"

 初めての飛空艇に揺られながらあの夜の夢を見た。20年前に交わされた約束、彼は覚えているだろうか。―――出会った場所を考えると、もしかしたら敵として会う日が来るかもしれない。現在のボクはエオルゼアの便利屋な冒険者。助けを求められてしまった時、ボクは誰の味方をすればいい? 何事もなく、エンカウントせずエオルゼアで過ごせたらいいな。



 まず辿り着いたのはリムサ・ロミンサ。数年ぶりに街の中に入った気がする。
 メルウィブ提督にカルテノーでの出来事を聞いた。"メテオ計劃"―――結局自滅で撤退せざるを得なかったのねあちらさんは。愚かなことをしているな、あの皇帝は。まあそろそろ80超えてるだろうし朦朧としてやらかしたのだろう。
 そこで"救世詩盟"という聞き慣れぬ単語を聞く。ルイゾワ、という男の名前は確かにカ・ヌエ様の記憶で聴いた。また今度調べてみよう。
 リムサにも色々なギルドがあるらしいが、まずは大使としての任を果たそう。ウルダハへ向かうことにする。

 ウルダハではラウバーン局長からガレマール帝国の知識を聞く。現在このエオルゼアにいる侵攻軍は第XIV軍団。ガイウス、えっと漆黒の王狼だったかが軍団長。スパイが刈られてるらしく向こうも動き出す可能性が浮上してきたようだ。
 正直に言う。5年という期間、復興に手一杯だったこの三国同盟に比べ、帝国は力を溜め込むにはいい期間だっただろう。これは―――どうしたものか。

 お使いは終わり。カ・ヌエ様へ報告かなと思ったらリムサの冒険者ギルドに当たる溺れた海豚亭にてマスターのバデロンが助けを求めているらしい。"サスタシャ浸食洞"への調査が目的のようだ亭
 この地域はサハギン族と揉めているらしい。どこも大変だ。そしてそいつらとつるんだ海賊もいるんだとか。現地の人間を脅かす奴らは許さないよ。今から行くね。

 と思ったら悲鳴が聞こえた。現在この辺りは切り裂き魔の話題で持ちきりらしい。走って行くとそこには怯えたレディと錯乱している男。事情を聞くと商売道具を奪われ発狂しているらしい。言われた通り各地のギルドを走り回る。何か発作扱いされているのが微笑ましい。集めて来たものを渡す。すると人が変わったかのように生き生きしている。なんと正体は敏腕美容師様だったらしい。怖いなこの人。

"オメーが新世界に行きたくなったら、オレを呼べ"

 ―――天命だった。これから出会うであろう帝国の人らに少しでも過去を悟られないよう、そしてただの怪しくない冒険者として生きていくために必要なパーツ。早速手形を渡し、髪を整えてもらう。

 束ねていた髪を切り、色を染める。服もヴィエラの民族衣装から変えることにした。他の冒険者との共同訓練をこなし、装備を整える。
 そうしてボクは"サスタシャ浸食洞"の調査へと向かった。



 まあ蓋を開けてみればサハギン族とつるむ海賊ではなく。普通に縄張りに入った莫迦海賊はサハギン族に吹っ飛ばされていた。襲い掛かって来たのでそのまま他の冒険者と共に討伐。ボクは癒し手として突入した。少しは初心者に見えたかな?
 次はグリダニアで募集しているみたい。依頼へ行ってみてもいいが―――少しだけ他のギルドに顔を出してみよう。まずは料理だ。
 料理は好きだ。フウガと修行していた時もよく色々作ってあげた。ひんがし風料理以外大したものを作れないのでバリエーションを増やしてもいいだろう。
 そして釣りだ。釣りはいい。気分転換になる。島にいた頃は釣りして命を繋いでいた。
 装備の修理整備のために彫金、鍛冶、採掘、裁縫も始める。それらに必要な鉱石を掘るための採掘師ギルドにも通う。あまり経営等には興味ないが尻拭いをしたり華を咲かせたり品質勝負したりと忙しい。
 クラフター職の中でも鍛冶、甲冑は火に重きを置く生まれ故郷を思い出す。村の中心で燃え盛る火に、祈りを捧げる母さまや姉さまたち。しばらく炉を眺め、数少ない記憶を想起する。
 兄さんは元気だろうか。お嫁さんと仲良く出来てたらいいな。



 汚れた水を蒸留し、その一滴は奇跡をもたらす。2つのものを掛け合わせ、毒は薬に、また薬も毒に。錬金術とはシンプルなものだ。
 "ボク"は何者か、分からない。しかし錬金道具を持つと心が落ち着く。それは"ボク"がアンナ・サリスではない証拠。
 何も言わず、"この子"を見守る。



「もしかしてアンナかい!?髪を切ったのか」
「少しだけ、イメチェンってやつをしてみましたの。似合わなかった?」
「いやいやとっても似合ってる! さあ詳しい話をするからこっちへおいで」

 ミューヌは驚いた顔でボクを歓迎した。そりゃ正反対のイメージになったんだ、吃驚するよね。後から来たリュウィンも同じように驚きながらも来てくれたことに感謝の意を示している。

 依頼内容はカルト教団"最後の群民"と呼ばれる集団の残党退治。終末思想を広げる危険なやつらの対処と並行してイクサル族も何とかしないといけないのは大変そうだ。喜んで協力してやる。

 あっという間に終わらせ、ミューヌの所に戻る。相変わらず人と行動する時は幻術で癒す。
 そこで気になる話を聞く。最近冒険者ギルドへの依頼が急増しているらしい。なんというか最近の若い子は生き急ぎすぎているんだねぇ。コワイコワイ。
 さあ次はウルダハの冒険者ギルドの依頼だ。何が出て来るのやら。



 ボクはどうやら冒険者ギルド界隈では今賑わせている人間らしい。こんな初心者になんて期待をしてるんだろうね。
 次の依頼は"カッパーベル鉱山"で暴れる巨人"ヘカトンケイレス族"の鎮圧。300年も前に最下層に封印された浪漫溢れるモンスター。復興のための再開発中にうっかりぶち抜いて暴れてるから助けてほしいとはこれまたなんというか―――いやノーコメントとしておこう。暴れた理由もさもありなんで少し鼻につくがまあ置いておこう。
 自分よりも数倍は大きな巨人。これは殴りがいがありそうだと思いながら幻術で冒険者たちを支援する。そりゃ本当は拳で語り合いたいさ。でも、少しでもこれを帝国に見られて自分が鮮血の赤兎だとバレたら……。

『じゃあさ、死んだ事にしたらいいんじゃないか?』

 ―――また悪魔のささやきだ。自分を死んだ事に? そんなの野垂れ死んだとか適当なことに。

『死んだと見せかけるんだよ。新たなヒトとして新生する第一歩として』

 そんなことが、出来るのか? いややろうと思えば、出来ないこともないか。
 少しだけ、考えておこう。今はまだ、そんな工作は出来そうもない。



 カッパーベル鉱山から帰り、まずは鉱山者のペインテッドさんに報告する。その時、女性の悲鳴が響いた。すかさずボクは走り出す。

 そこには貧しい身なりの気弱そうな女性と、ガラの悪い商人たち。
 ちゃんと買ったものだと、女性は言う。因縁付けられたのか、可哀想に。
 助けを求められたのなら、応えないと力の持ち腐れでしょ。

 格闘士か。風を纏わせ様子を見る。弱い、弱すぎる。呪術師に剣術士。可哀想だ。

 適度になぶり、助けてやるとまた眩暈が起こる。
 霊災、難民。これはまた面倒な問題がこの近郊では起こっているらしい。そして、この人はちゃんと買っている。
 それを伝えてやると商人は去って行った。一件落着。
 直後すかさずやって来たのはイダとパパリモ。どうやらボクが見ている"幻"について何やら知っている人がいるらしい。そして力を貸してほしいと。彼女らは秘密組織"暁の血盟"の人間なのだとか。―――そう言われるのは弱い。

 モモディに報告へ戻るとエッダという女性が話しかけて来た。そういえばラノシア辺りから何度か見たような。自分のような怪しい旅人に憧れちゃダメだよ?
 そんなことより暁の血盟とやらだ。どこにあるのか、紹介してもらう。



 ベスパーベイ、砂の家。そこに彼らのアジトがあるらしい。大いなる問題へ立ち向かうため、実力ある冒険者が欲しいのだとか。こんな旅人を欲しがったって何も面白くないと思うんだけどねぇ。
 まあボクが"工作"出来ないと言った理由がこれだ。ずっと誰かが見張っている気配を感じていたから。自由に出来そうもないと判断し、保留していたが原因はよく分かった。とりあえず向かってみることにした。

 砂の家と呼ばれる場所に訪問する。そこには可愛らしいララフェルのレディ。物騒な歌を口ずさむ中話しかけてみる。
 彼女はタタルというらしい。可愛らしいお名前。そしてイダとパパリモの紹介であること、そして自分の名前を伝えると歓迎してくれた。アジトにお邪魔する。
 落ち着いた雰囲気の廊下を抜け、奥の扉の前にいる女性に話しかける。

 奥へ通されるとそこには数人の男女。イダとパパリモもいる。中央にいる女性が、ミンフィリア。暁の血盟の盟主。
 早速この組織についての説明を聞く。

 蛮神。そういえばイクサル族が色々やらかしていた辺りで色々何か言われてたような。そしてその蛮神に立ち向かうための力を、ボクは持っているらしい。
 "言葉の壁"を超える力。"心の壁"を超える力。そして過去を視ることが出来る"時間の壁"を超える力。ボクが持っているのは3つ目。なるほど、少々協力すぎて扱い切れないと。
 勿論世界には人種やら国家やら数々の壁があり、それを超えるための力を行使するのがこの組織。―――単刀直入に言おう。めんどくさい。
 人々を助けたいと思うが救済までは考えた事がなかった。

"エオルゼアに辿り着いたら、お主の好奇心のまま、人助けをし、数々の声に耳を傾け、そして長い人生何をすればいいかよく考えるのだ。そうすれば、この強大な力を扱うための鍵を理解出来よう"

 冒険者支援を貰いながら、このエオルゼア地域について知り、何が起こっているか耳を傾け、そしてこれからどう生きるか考える。協力するメリットはあるか。

 まずは見返りとしてリテイナーと呼ばれる制度の紹介だ。確かにこれから腰を据えて活動をするなら資産管理が必要だろう。ここに来てから荷物も増えて来たし必要な人材だ。コネはないけど。

 合言葉は"のばら"。まあ覚えておこうか。



 別にその男を見て何かを意識したわけではない。ただ、どこかその淀みきった瞳から星を感じた。それだけ。

 "シャーレアン"に"救世詩盟"。その後進組織が暁の血盟。賢人と呼ばれるエキスパートな方々がイダやパパリモをはじめとする人たち。超える力とは便利なものだ。
 自己紹介を終えた後は早速のお仕事。ウルダハと敵対しているアマルジャ族が蛮族を召喚するためにクリスタル強奪や人を誘拐している。―――許すことは出来ないね。サンクレッドと一緒にキャンプ・ドライボーンに調査へ向かう。貧民の誘拐事件を探れば何か見つかるかもしれないとのこと。弱き人を何に使ってるか分からないけどまあ探ってみましょう。

 辿り着いたらまず教会への墓参り客が襲撃されたので死体を回収して来いという。初めてのアマルジャ族との邂逅だ。イセムバードから言われた通り確かにあんなデカい奴が誘拐するのは不可能だ。ふむ、悪い人間が周辺にいるということか。貧民の1人や2人金目当てに引き渡す愚か者がいてもおかしくはない。厄介な事件だ。この辺り生まれの商人がいるそうなのでちょっと調査してみよう。

 ―――へぇキミこの辺りに住むヒトだったんだ。貧民をこき使ってた側、ねぇ。キミのような人間が事態をややこしくしてるのね分かった分かった。貧民に話しかけても塞ぎ込んでて話にならない。教会の人間を味方につけることが出来れば何とか事態が進みそうだがはてさて。まああの男がクロ前提で話を進めときましょ。

 埋葬依頼を1件持って教会へと足を運んだ。教会の前にその墓守は佇んでいる。
 心を込めて埋めてこい、ねぇ。大男にしては可愛らしいことを言う。とりあえず丘の上の墓に埋めてやる。
 簡単に死にたくないもんだね、絶対。
 戻って詳細な話を聞こうとしても「俺は知らん」と。そうかそうか。まあ司祭オルセン様に聞いてみればいいということは分かったのでよしとしよう。「俺はどうせ役に立たん」、ねえ―――。役に立つかはボクが決めるんだよ、おばかさん。
 教会に入りオルセン様に話しかける。なるほどこの人なら貧民は心を開いてくれる。そりゃ利用価値がありそうな場所だ。ついでにマルケズについて聞いてみると第七霊災でトラウマになり怯えている、ねぇ。

 一度ドライボーンに戻り報告する。まあオルセン様が怪しいと言われるのは仕方がない。でも特に"反応"はしないんだよねぇ。別にいいんだけどさ。っておいサンクレッド、マルケズに見覚えあるならちゃんと思い出しときなよ。興味ないけどね。

 次の手がかりを持っていそうなゴールドバザーにいる貧民の少年の所へ向かった。話を聞こうとしたらオルセン様が戻ってこないと。急いで郊外に行くと案の定野盗に襲われていた。少年の母親の形見を取りに、ねぇ。そんないい司祭様が人身売買なんてしないと思うけど。サンクレッドも疑ったことをちょっと後悔してて笑いかけたが平静を装う。怪しいビラを手に入れ、お見舞いに行く。

 司祭になりすまして、ねぇ。悪知恵働くやつのようで。なりすましならなりすまし返してやってみましょうか。
 情報を集める限り貧民は主に池のほとりで集まっているらしい。そこに行けば捕まえられるだろう。

 やーっぱりあの商人だった。まあ金が動機なのも予想の範疇。不滅隊の警備情報はこいつが持ってるわけないからどうせ内部犯がいるのだろう。それは流石に自分らで探してね。ボクはミンフィリアに報告へ戻るから。そして来るべきアマルジャ族との衝突に備えるとしよう。

 多分そいつ、強い方の味方だろうからね。



 戦闘準備のために一度ウルダハへ。その時、ララフェルを拾う。名前のない怯えきった目をしたララフェルの青年。近頃貧民の話を聞いていたからか少々好奇心で話しかけると逃げてしまう。追いかけていると悲鳴が聞こえ、走って行くとその青年がモンスターに襲われていた。そのまま助けてやり、最近調理師ギルドで作ったお菓子をあげる。すると懐かれてしまったようでついて来るようになった。チョロすぎて心配になるよ。

 さあ拾ったもののこの子はどうするべきか。そういえば最近リテイナー契約できるようになったんだっけと思い出す。仕方がないから"働かざるもの食うべからず"と言い放ち、契約を結んだ。資産管理は出来るのかと思ったがどうやら彼は元々資産家の息子で勉強もしていたらしい。だが、第七霊災で両親が死んでしまいそのまま彷徨っていたのだとか。
 そりゃ大変だったことで。任せてもよさそうだ。とりあえずしばらくは色んな知識を与えながら倉庫番でもしててもらおう。見極めるのもご主人様の役目ってやつだろうし。
 名前は―――フウガ。うん。フウガって呼ぼう。よろしくね。



 武器や防具への想いの力を結晶化させる技術。これは凄い。使い込んだ装備は確かに愛着湧くもんね。ちょっと違うか。
 不滅隊がアマルジャ族を叩く作戦に出るみたい。行ってみるか。

―――ちり、と首元がざわつく。マシなことにならなさそうだが、弱き者を苦しませる奴らを許すわけにはいかない。その作戦に乗ってやるよ。あ、勿論幻術でね。
 囲まれている。これはやられたな。いくら倒しても湧いてくる。もう少し待てばサンクレッドたちが来るかもしれないが―――まあここは何が行われているのか実際に見てみるのが一番だろう。

『覚えたからな、テメェら』

 あの声が響く。ダメだ。そのまま倒れておく方が賢い。過去がバレてしまう。だから、大人しくさせて。

 蛮神、イフリート。アマルジャ族が信仰する神だったか。そういえば顕現させるために準備をしているんだっけ。そうかそうか。じゃあこの"超える力"とやらでお手並み拝見といこう。

 赤き焔が吹き荒れ、その蛮神は現れた。ボクはそれを見上げ、人知れず笑顔を見せる。ちり、とまた首元がざわめく。右腕に、焔が宿った。何を考えてるか知らないが、ボクは神の信仰はとっくに捨ててるんでね。神殺しなんてどうも思わない。本当は直接手を下してもいいのだが―――ここは他の冒険者に手柄を譲ろう。ボクはただの初心者癒し手。怪しくなんてないさ。



 ―――オイオイオイ。あのエーテル反応はまさかあの時のヴィエラか。リウィアも何で分かんねェんだ。どっから見ても脅威だろ。杖持って人を癒やすふりしてずっと蛮神の首を狙っておっかねェたらありゃしない。焔が吹き荒れた時しか回復してなかったぞあいつ。
 てか最近消えたと思ったが髪を切って染めてやがったのか。ざけンなよ。小細工でもない手段で一瞬見逃した俺がバカみたいじゃねェか。
 とっととデータ集めて閣下に報告しねェとこっちが損害被ンぞ。



 本来、蛮神の光に()てられるとテンパード、信徒化されてしまうらしい。蛮神の威光で信者を増やし、強大な存在として顕現する。顕現するためにもエネルギーが必要でそれはクリスタルで賄う。なるほどそうやって2つの事件が繋がるのか。
 そしてそのテンパード化を防ぐのがこの超える力による何らかの加護。それがエオルゼアを生きる人々を護るための奥の手だという。なるほどね。

 気になるのはサンクレッド。ボクを危険な目に遭わせてしまったと思っているようだ。別に大丈夫なんだけどね。"急いては事を仕損じる"、あんまり慌ててもいいことないよ?

 って何か騒がしいな。グランドカンパニー? 興味ないんだけど―――しょうがないか。確かにボクみたいな強い力の人間がフラフラしてたら怪しいし面倒なことになるもんねぇ。重い腰上げてまずはボクがグリダニアの使者として回った成果の式典に行ってみましょう。

 リムサ・ロミンサ。2つの蛮族と帝国によって大きな拠点も作られ更には海賊対処も大変、と。覚えておこう。これは"使える"。今は式典で警備も割かれた"最後のチャンス"だ。そういえばコボルド族は爆弾をポイポイ投げてたな。証拠隠滅には持って来いだ。よし。
 ウルダハ周辺。アマルジャ族は火を用いた術が多い。これも利用価値があるかもしれない。青燐水を運ぶ体制が整っているこの辺りなら"発見"されやすいだろう。
 グリダニアは―――下手に森を傷つけたら面倒なことになる。こんなにも落ち着く場所で醜い自分を見せたくない。
 さあグリダニアの式典に行く前に計画の始まりだ。



 疲れた。この一言に尽きる。二度とこんな仕込みはしたくない。あれだけ盛大にやればあのボケたであろう爺な皇帝にも分かるだろう。―――鮮血の赤兎は死んだと。自分が喉から手が出る程欲しかった力が不慮の事故で消えたのだ。現場付近で張っていた結果、第一発見者は帝国兵だった。そしてその遺品は彼らによって回収されるのも確認。
 血に塗れた荷物も全て向こうが処分してくれるので身軽になった。我ながらナイスアイデア、これで厄介な目もなくなる。念のため幻具は持ち続けるが。
 勿論所属は双蛇党。もう少しだけグリダニアに滞在するさ。
 そして着任早々お仕事。そこには飛空艇の乗組員らしきルガディンが帝国兵の動向を見守っていた。声を掛けると早速怪しまれる。まあ当たり前だ。軍服着てないし。双蛇党の人がすぐに誤解を解いてくれた。よかった。
 あの飛空艇は新造艇、最新型らしい。そういえば飛空艇というか魔導技術は帝国由来だったか。亡命者が作った会社の製品なのだろう。ガーロンド・アイアンワークス社という会社は今肝心の会長が行方不明らしく、大変そうだ。

 初めての魔導兵器相手の勝負だ。硬い装甲はぶち壊し甲斐がありそうだが、まあ今は幻具を持っているので大人しくする。人や動物とは違う手ごたえがありそうでいつか自分の手で殴る時が楽しみだ。

 晴れて正式に入隊となり、和やかな空気の中歓迎された。なんだかすごく首元がくすぐったい。そそくさとミンフィリアの元へ戻る。
 この人もボクの活躍が自分のことのように嬉しいのか。面倒見がいい人が本当に多い地域だなここは。
 ついでに前に助けた魔導技師の2人も暁に迎え入れられた様子。確かにどの勢力も欲しそうだよね。
 どこにも属さず中立企業でいるのは凄いと思う。だって頭が行方不明な地点で吸収されててもおかしくないでしょう?

 次の依頼は双蛇党から。照れて逃げたのにすぐに呼び戻されたね。ふふっ。とりあえずチョコボを支給してもらうついでに話だけ聞いてこようか。あと久々にウズウズして拳を行使したくなったんだよね。後でウルダハ行って格闘士のギルドにも寄ってみよう。ついでにパンチ力の威力調整方法とか分かるかもしれないし。

 なるほど。なるべく戦を起こさず対話だけで解決出来そうな種族なのかシルフ族は。モーグリもイタズラ好きだが基本的に怒って来ないのを見てるとこの黒衣森に棲んでる部族は大きな争いは好きじゃないのかもね。森の精霊が怖いから。



 チョコボを支給してもらう。名前はフレイム。バディとして一緒に戦闘もしてくれるらしい。よろしくね、相棒。
 相棒を作ったのは簡単。久々に弓術士ギルドに顔を出して依頼を受けようと思ったからだ。

 密猟者パワ・ムジューク、ねぇ。中々いい腕の持ち主だ。だけど弱き者を困らせる人間は許せないよ。でもあくまでも弓術士ギルドのシルヴェルとレイ・アリアポーに華を持たせる。難しいお仕事だ。ボクは外からやって来た旅人だ。こういう現地の問題はそこの住人が解決するべきだ。自分に足りなかったものに気が付き、それを認め合い、背中を預け合う関係を見るのは好きだ。ボクはいらないけどね。人助けさえできれば、それでいい。
 目を褒めてくれた。ボクのこの目が、今回の偉業を達成したのだと。少しだけ首元がくすぐったい。そして伝説の吟遊詩人について教えてもらう。歌には全く興味はないけれど、人を鼓舞させる能力は気になる。弓握り、この先を見てみたいのだ。

 カッコイイヒゲのおじさまだった。少し陰りのあるエレゼンのおじさまに少しだけフウガの面影を感じた。モーグリ族と心を通わせ、詩歌を奏でるとはいいものだね。ソウルクリスタルと呼ばれるものを受け取り、少しだけ、手に付けてみよう。

 幻術士ギルドにも立ち寄る。どうやら最近森で淀みの発生が多い原因が見つかったみたい。精霊の声が聴けることが分かったシルフィーを連れ、南部森林へと向かう。
 原因はアコーマンという妖異だった。自然の力を受け入れたシルフィーと一緒に元を絶った。道士として一つの成長を果たした彼女が少し眩しく感じる。きっと立派な子になるよ。

 その後、カ・ヌエ様の妹弟が護衛を付けずに儀式へ出立してしまったのでその手助けを頼まれた。エ・スミ様からのお願いなら仕方が無いね、とエバーシェイドへと向かった。
 案の定長老の木周辺の魔物に手を焼いていた。手助けをしてやる。すると彼らのご先祖様に後継者として認められたらしい。白魔法という新たな癒術を習うことになる。弟クンには認められなかったけどまあそれはこれから様子を見ればいいだけ。柔らかな笑みを浮かべる。
 精霊の怒りを鎮める儀式の協力か。そんな経験まで出来るとは旅をしてみるもんだ。



 一通りの頼まれごとを解決したのでシルフ族の件を片付けに行く。近隣に住む住人によれば悪意はないが価値観は人間とだいぶ異なるイタズラ好きらしい。仲良くなれそうだ。
 警戒心が高まっているのか長ちゃまとやらに会わせてもらえない。とりあえず機嫌取りにシルフ助けをする。可愛らしい子達。ぼやかしているが会わせることが出来ないというよりかは行方不明みたいだ。どうやら帝国兵が変なことしているのではないかと予想されているようで。本当ならそれは大変だ。二者の仲を深く繋ぐ英雄とまで言われるとは思わなかったが、人助けは別に苦にもならない。
 長ちゃまとやらは南部森林に行ったまま帰った来ないらしい。向かってみよう。

 バスカロンによるとグリダニアの衛士の中に帝国兵を手引きしている存在がいるらしい。気軽に潜んでたしそうとも言えるか。金払いが良くなった鬼哭隊の男ローレンティス。彼を追いかける。
 犯行動機は金のため。ていうか滅茶苦茶バスカロンブラザーズの近くで取引準備をするなって。バカだなあ。そんな奴に負けるわけないし今回のような件のためにバスカロンは人の心を掴んでるんだよ、おばかさん。本当に気付いたならいいけど……まあ今後の彼次第だ。
 弱き人間1人の力では何も起こせないのは当たり前。ボクは必要ないけどね。何も持たない旅人なんだから。

 情報は集まった。どうやらトトラクに逃げ込んだまま戻ってこないらしい。立ち入り許可を貰い、突入することに。
 その奥にはアシエンが待ち受けていた。アシエン・ラハブレアという存在らしい。蜘蛛を凶暴化させ、襲わせてきた。
 あっという間に討伐し、一息つくと繭の中からシルフ族が飛び出してくる。どうやらこの人が"長ちゃま"らしい。また、超える力が発動し、記憶が再生される。

 捕まったシルフ族は拷問により殺された。そして偉そうな赤鎧は、誰だ? 機工師、らしい。シドという男と因縁があるのか。あの野望だけバリバリありそうな鎧の名前はネロ。覚えておこう。煽って舐めた戦いしてじわじわと追い詰めてバカにしてやるからな。

 無事フリクシオ長ちゃまの救出が終わり、シルフの仮宿に戻った。そこでラムウについての話を聞く。自分たちの領地に入らなければ何もしない、と。それだけ祈りの力が強いということだろう。なら今の所は触らなければ大丈夫と。書簡を貰い、グリダニアに戻る。

 その後ミンフィリアに報告しに行く。あ、ビッグスとウェッジが出したってことはシドはあちら関係か。噂の行方不明の会長サマと。技術を仕込まれてとのことだからやはり相当腕が立つのだろう。
 そして暁の仲間としてシルフのノラクシアがやって来た。賑やかになったね。



 仮面の男の痕跡を辿るとアラミゴ人と取引がある可能性が高いことが分かった。東ザナラーンのリトルアラミゴにて手がかりを探そうとしたが、排他的な彼らから一向に話が出来そうにない。
 仕方がないので人助けだ。格闘士の基本的な型を教えてもらいながら東奔西走する。ボクは少しだけ手加減が苦手なのでどうしても弓に頼ってしまう身。最近街の側に設置してあった木人を吹っ飛ばしてしまった。型を用いた戦い方はとても新鮮。
 森の掟は厄介だ。苦しんだ人を助けることが出来ないのは窮屈ではないだろうか。しかしそれで成り立つ国ならば仕方のない事なのだろう。少しでも楽にできるよう薬の調達を手伝う。お礼として紹介状を書いてもらった。これで進展したらいいが―――。

 どうやらリトルアラミゴの若者たちとその仮面の男が接触しているらしい。何を企んでるか分からないけど―――若いねえ。
 若者クンの1人、ウィルレッドに呼ばれたので話を聞きに行く。何か襲い掛かって来たので毒矢と風でなぶる。どうやらよほど帝国を倒したいらしい。短絡的なガキは嫌いだよ。
 どうやらアマルジャ族からクリスタルを強奪してラールガーを呼び降ろす儀式の手立てを教えてもらっていたらしい。莫迦だ。キレたアマルジャ族も追いかけてきた。莫迦な若者だけど、祖国を救うために真っ直ぐな莫迦は無下には出来ない。護ってやろうじゃないか。
 蹴散らして詳細を聞いたが結局騙されただけで何か手がかりを持っていたわけではなかった。仕方がないので砂の家に戻ろう。

 戻る前に格闘士ギルドのお爺ちゃんを鍛える。いやおかしい。教えてもらいに来たはずなのに教えてる。でも全盛期のキレを見れたからいいかな。闘技場には興味ないけど悪くはない人だった。
 あと―――今まで一撃重視だったけど連続攻撃も悪くないかもね。戦術としてストックしておこ。
 特殊な武術、ねぇ。肉体に宿るエネルギーを制御し、それを力として放出するのは得意分野だ。古戦場を巡り、チャクラと呼ばれるものを開き、修行と。モンクの導き。うん、何か楽しくなってきた。

 ミンフィリアにリトルアラミゴにあったことを報告する。第七霊災以降の騒乱が全てアシエンとやらのせいが浮上してきた。どこまでそうなんだろうねぇ。
 次は黒衣森にアシエンの目撃情報が。見てこよう。

 仮面の男が引きつれた奇妙な目玉の化け物が若い女性の死体を運んでる、ねぇ。共通点は白百合紋のボタン、と。グリダニア内で聞き込みをする。かなり精巧でいいつくりをしていたのでいいお家のものだろうと。
 辿った結果、ダルタンクール家という名門の証らしい。それを知る男ウルサンデルに詳細を聞く。

 かつて美しかった当主が第七霊災で傷を負い、それを治療する儀式を行ったのが仮面の男"たち"。変わり果てたお嬢様はメイドたちを拷問の末に殺していき、死体は外へ運ばれた、と。うーん気持ち悪い。弱き立場の人間を苦しめて殺す人間は嫌いだよ。

 ハウケタ御用邸。確かに先に戦った目玉の化け物が飛んでいる。幻具を手に持ち、その扉を開いた。
 妖異と化した哀れな当主様を吹っ飛ばした後、アシエン2体がやって来た。何人いるんだ、コイツら。
 深淵の司祭とは大きく出たなラハブレアとやら。この世界の真の姿とやらは何か分からないが―――闇なんていらない。
 元使用人のお爺ちゃんも喜んでくれたしこれで調査は終わりだ。砂の家に戻る。

 一通り報告が終わったら次はまた蛮神調査。人使いが荒い。次は―――激戦になりそうだと。まあこちらは幻具を持ってフォローするだけだ。何も苦ではない。そろそろ何か別のギルドに行ってみようかな。次は何にしようか。

 少しだけ暁の血盟の子たちから話を聞く。ノラクシアは人に化けるようになり、アレンヴァルドくんが護衛することになったらしい。微笑ましいね。あと"落ちるダラガブに飛空艇で体当たりをしそうな性格"の親方さまはどんな人間なのかしらね。



 斧術士ギルドに顔を出してみる。船を造るための丸太を手に入れる道具から、圧倒させるための武器へ。攻めるため、護るため戦場に長く残り斧を振り回し敵を砕く。目立ちたくないがスタイルとしては合っている。少しだけ斧を振り回すことにした。
 力ない人々の味方になるため、海賊のように斧を振り回すのは変な感じだ。リムサ・ロミンサの人助けを通じて彼らの生活や主張を聞いて回る。各々彼らなりに正義があることが分かり、嫌いじゃないと思った。

 親を"クジャタ"と呼ばれる魔物に殺された少年を助けた。弱き人を助けるのは、ボクの役目だ。

「姉ちゃんみたいな斧術士になりたい!」

 ふわり、首元が温かな風で撫でられたようにくすぐったい。―――それはキミの頑張り次第。なりたいのなら、修行はサボっちゃダメだよ?



「はい! がんばって行ってきます!」
「いってらっしゃい、フウガ」

 リテイナーのフウガに一通りの植物に関する知識を吸収させた。あとは実践だということでで収集任務をお願いする。スクリップとクッキーを渡し、走って行く姿が可愛らしい。ゆっくりで構わないよと手を振りながら見送った。
 さて、まずはタイタンについてメルウィブ提督から直々に話を聞きに行った。うーむ元々協定を結んでいたが、国の安定のためにという名目で人間の方から破ってしまい防衛のため召喚、と。ウルダハ程じゃないが自分勝手な言い分でこちらに助けを求めてきている。―――まあ政争には興味はない。このまま放置していては被害が広がる一方だ。とりあえずタイタンがいた所に行く術も分からないというのなら、解散した以前タイタンを撃退したという"海雄旅団"のメンバーを探しに行こう。話はそこからだ。

 どうやら"グレイフリート風車群"に元海雄旅団員だと自称する人間がいるらしい。向かってみる。
 ―――おかしい。覇気が見えない。一番の実力者にしてはちょっと不安になる。案の定偽物だったが、どうやら本物さんはコスタ・デル・ソルにいるらしい。そういえば初めて行く場所だ。本当にいるよね? 嘘ついてない? 大丈夫?



 斧術士ギルドでコスタ・デル・ソルで"魔人"が現れたので調査してほしいという依頼も受けたのでついでに見に行ってみることにした。

 コスタ・デル・ソル。富豪ゲゲルジュが買い取った集落。青い空、白い海―――バカンスに持って来いだろうね。ボクは興味ないけど。

 斧を持った赤く輝いた目で吼えるヒト。見るからに暴走している。斧術士とは違うらしい。集まって来た魔物を吹っ飛ばしていると去って行ったはずの魔人とやらが戻って来た。しかし澄んだ目を見せている。協力して斧を振るった。
 この男はどうやら大昔に途絶えたと言われていた"戦士"の技を広めるために修練の旅をしているらしい。実際彼ではないと思われるが海雄旅団員にもいたらしく、それはそれは期待できる技術だ。
 "原初の魂"と呼ばれる己の中に眠る力を呼び覚まし戦う存在、それが戦士らしい。歴代戦士の魂が宿ったクリスタルを受け取り、少しだけ修練を積んでみることにした。

 見つけた。元海雄旅団の副団長ヴェイスケート。タイタンを倒したいと言ってもまともに取り合わず珍味を集めてこい、と。意外とリムサ・ロミンサは余裕あると思っているんだね。まあどうせ他の海雄旅団メンバーと会わせて実力確認がてら酒盛りの準備をしたいのだろう。海賊らしい回りくどさだ。勝手にすればいい。

 黒衣森に行き"アダマンタスの卵"を、ザナラーンに行き"ラントンウォームの肉"を手に入れ、またラノシアに戻る。エオルゼアの珍味なんて呼ばれる食材を自力調達していった。
 その合間に幻術士ギルドに立ち寄るとどうやら見知らぬ手負いの獣が北部森林で目撃されたらしい。治療しに行くとそこにはとても美しい角が生えた白い馬。噂で聞いたことがあるユニコーンみたいだ。傷を癒すと懐かれたのでギルドに戻ると予想通りユニコーンじゃないかと言われる。人に懐かないと聞いていたがそんなあっさりボクのような旅人を信用したらダメだよ? まあ旅は道連れ世は情け。ついて来たければ勝手においで。

 2種類の珍味を集めた後、コスタ・デル・ソルに戻る。どうやら最後の珍味の事を知る"ブレイフクロス"と呼ばれるゴブリンの元で何か面倒な事件が起こったらしい。向かってみると野営地にデカイ何かが襲来したらしく助けてほしいんだって。杖を持って奥地まで行くと毒を吐くドラゴンがいるじゃないか。倒してやると感謝の印として最後の珍味である"ゴブリンチーズ"を貰う。これでいいだろう。
 持って行ってやったら何と言われたと思う? 晩餐に合う最高のワインを持って来いだって。そうかそうか最後の晩餐がお望みか。



「私の光となって、少々手助けしてくれませんか?」

 シャマニという男に会いに行く。元海雄旅団の新人醸造師らしい。究極のワインと言われる、"バッカスの酒"を復活させるため協力してほしいと。第七霊災で"バッカスグレープ"が全滅してしまったみたい。手段を模索する合間にかつて命を助けられたというドレストという男の元へ向かう。
 元帝国兵。成程属州民の人間か。理不尽なもので。故郷へ帰れる日が来たらいいね。

 シャマニが醸造したワインのお礼として回収したココナッツワイン。栓に使われていた葉がどうやら"バッカスグレープ"だったらしい。急いで彼の元へ戻る。
 結果を言うと、グゥーブーの頭に残されていた。枝は手に入った。これで失われたモノを取り戻せるのだろう。こういう人助けは好きだ。人の温かな光を見ることが出来る。バッカスの酒はビルギレントのコレクションから貰った。これで最高のワインも集まったのでいよいよタイタンだ。気を引き締めていこう。

 かつての海雄旅団が蛮神討伐を共にする仲間を見定めるために行う試練。それが3種の珍味と最高のワインを集めさせる。―――いやまあ何も文句は無いよ?
 集めてきた素材で作られた料理はおいしかった。これは―――同じ食材がないと再現は難しいかも。あと美食家ゲゲルジュが集めた料理人が作った最高の料理だ。そんな簡単なモノじゃないよね。
 それじゃあ彼らの英雄譚を、受け取ろうじゃない。
 場所はブロンズレイク。タイタンの元へ。

 蛮風エーテライトというものがあるらしい。成程。コボルド族が住んでる場所は山の穴倉暮らし。1つずつ歩いて調べるなんて日が暮れちゃう。きっとタイタンがいる所へ直接飛ぶエーテライトがあるに違いない、と。
 青色のクリスタルを見つける。これがコボルド族が使っていたエーテライト。ヤ・シュトラがエーテル送り続けることで機能させ、タイタンの元へ送り込んでくれるらしい。

 タイタンはどんな刺激をくれるのかしら。すぐにへばるんじゃないよ?



『盟約をたがえなければ、山を下りることはなかった』
『聖域を踏みにじるヒトの子』

 一方から英雄と言われる存在は、また一方では悪魔と呼ばれることになるとは言うけど―――ふふっあの大義名分じゃあどっちが敵か分からないね。でも自分たちの首を絞めるような蛮神召喚はよくないよ。蛮神召喚でエーテルを侵食、喰らいつくすことで自分達が住めるところがなくなっちゃう。彼らもまた助けなければならない存在なのだろう。まあ助けろとは言われてないので介入する気はないんだけど。

 そうして大きな岩のような存在タイタンを討伐する。どこかひりつくような悪意を首元で感じつつ、その場を後にした。まだ調べものがあるというヤ・シュトラと別れ、リムサ・ロミンサへと報告しに帰ろう。

―――この時のボクは完全に油断し切っていた。過去なんて捨てることは出来ない。どうすればいい、頭の中がグチャグチャになりながら、走ることしか出来なかった。


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#謎メモ

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"聞いて……感じて……考えて……"グリダニアに降り立つ直前夢…

メモ,新生

#謎メモ

メモ,新生

謎のメモ(新生)

"聞いて……感じて……考えて……"

グリダニアに降り立つ直前夢を見た。ふわふわと浮かぶ星空の世界の中、フウガの口癖とよく似た言葉が響く。暗闇の中、星が私に力を与える奇妙な白昼夢。
 声を掛けられ、目が覚めると同乗者の旅商人。先程ボクが野党に襲われている所を助け、お礼としてちょうどグリダニア行のチョコボキャリッジに乗る所だったと連れて行ってくれた。

 あの夢はエーテル酔い、だったのだろうか。

 森の住人に話しかけられた。どうやら今は一緒に乗っていた双子と私にだけ見える存在らしい。奇妙な体験だなと苦笑した。どうやらそれに高じてイタズラ好きみたい。もしかしたらいつか仲良くお話しできるかも。

 この商人はブレモンダという男らしい。冒険者なのかと聞かれた。本当は違うのだが―――まあこの辺りで動き回るなら都合がいい身分なのだろう。合わせておくことにした。
 冒険者になった理由、つまり旅の発端ということだろうか。……力だ。旅をしながらこの圧倒的な力で人助けを行うのが今のボクの使命。戦いは気分が高揚するし、欲求不満の改善にもなる。

"英雄になったとしても、死んじまったら、墓石しか手に入らない"

 いい言葉だと思った。名誉は興味ないが、何でもない旅人だって英雄だって死んでしまえば手に入るものは一緒。
 言われた通りとりあえずグリダニアに着いたら冒険者登録をしよう。

『危ない!』

 どこかから聞こえた声とボクの声が重なった。ブレモンダは驚いたような顔をした直後、矢が傍を掠り刺さった。
 イクサル族。この辺りに生息するトカゲたちのようだ。グリダニアの人間と敵対しているらしい。助けに入るのも悪くはないが折角の街に入るチャンスを無下にしたくない。無事を祈り、その場をやり過ごした。

 歴史に名を残したくないが、誰かに自慢される名も無き冒険者という存在になるのは悪くないかも。



"故郷を懐かしみたいなら、エオルゼアのグリダニアへ行くがいい"

 グリダニア。綺麗な森の中にある古都。どこか懐かしい、フウガの言う通りだ。故郷はもっと小さな里だったと思うけど、澄んだ空気がヴィエラの本能を刺激されたみたい。余所者に厳しいのも故郷と一緒だ。笑みがこぼれる。
 とりあえず身分証明のために冒険者ギルドへ向かった。

 ミューヌという不思議な雰囲気の女性に話しかける。この国についてのレクチャーを受けた。
 野党やイクサル族という部族だけでなくあのガレマール帝国に悩まされているらしく、冒険者という仕事は意外と大変そうだ。

 5年前の霊災というものの後処理がまだ終わってないらしい。あの時ボクは……ああ偶然カルテノーに辿り着いて人助けしたらグリダニア越えてラノシアに送ってもらっちゃったんだっけ。懐かしい。
 あの時に見た、流れ星は未だに覚えている。世界が滅ぶ時ってこんな感じなのかもしれないな、としみじみした。それを何とかしたのが"光の戦士"たちという存在なのだろう。ボクには無縁の存在だから記憶の片隅に置いておこう。

 街の人の話に耳を傾けながら歩き回っていると巨大なクリスタルの前に辿り着いた。そういえばリムサ・ロミンサにもあったな。興味なくてそのままにしてたっけ。転送魔法があるとは知らなかった。これで迷子になった時にここに帰って来れる、かもしれない。冒険者という身分は本当に便利なモノだ。
 人助けはやはり楽しい。子供の心を開かせたり、物を運んだり魔物から剥ぎ取った素材を持って行ったりする。これからしばらくお世話になる街なのだ。信頼を稼ぐのも悪くはない。
 だから槍を封印して、少しでも怪しくないヴィエラと見せなければ。"鮮血の赤兎"の噂がここまで来てなければいいんだけど。

 弓術士ギルドに入門する。故郷やフウガの修行で人よりかは扱えるのだが、素直に人に教えを乞うという行為も戦術の一つだ。

『面倒だが初心にかえって修行も楽しもう。何かいいヒントが見つかるかも』

 どこかから声が聞こえた。その通り。弱き人らの笑顔を引き出すための、冒険者という存在に擬態するため、しばらく弓の修行をしよう。



"強き旅人として歩みたいのならどの武器も好き嫌いせず勉強せよ"

 本職の方々によるとやはりボクの弓の扱いは隙が多いらしい。まあわざと初心者っぽく見せてるんだけど。何もかも完璧だと怪しまれてしまう。あくまでも新人の、人助けが趣味な冒険者として。

 少しだけ未熟な冒険者の演技に慣れ始め、住人に頼られ始めた頃。バノック練兵所からの依頼で乱れたエーテルの先、切り株に刺された剣を見下していると女性に話しかけられた。
 天真爛漫な女性は格闘士のようだ。その隣にはララフェルの呪術士だろうか、杖を背負い奇妙な装置を顔に付けた青年がいる。一瞬ボクの犯行かと疑われたが、一緒にやってきていた森の住人に誤解を解いてもらえた。その直後この森の怒りを見に受けることになる。
 硬い樹木はこの森の精霊なのだろう。怒り狂って闇雲に襲い掛かるのは賢くない。いやあまり悪口はよろしくないだろう。
 流石に精霊の急所は分からない。何とか矢を撃ち、2人と共にその怒りを鎮めた。
 キョロキョロと見渡すと奇妙な石を見つけた。それに手を伸ばそうと瞬間、眩暈を覚え倒れてしまった。

"聞いて……感じて……考えて……"

 奇妙な夢の声の主はハイデリンというらしい。星の意思、らしいがよく分からない。ボクには世界を救う力があるらしいが―――興味はない。ただ旅を続けるだけ。

 後で教えてもらったが彼らはイダ、そしてパパリモというらしい。ボクの次に怪しそうな漫才師に見えたがどうやらえらく信用されているらしい。どこかでまた会えるかもしれないし、どちらかが欠けてしまうかもしれない。



"森には精霊がいる。お主の故郷もそうだっただろう? そうか、知らぬか。……精霊へ感謝の意を示す儀式というものは重要な意味をはらんでいる。絶対に邪魔をしてはならぬ"

 監獄跡にて。儀式に失敗してしまったらしい道士たちを助けるためにインプを払いのけ奥へと進む。そこにいたのは巨大なゴーレム。あっさりと倒し何やら気配を感じたが既にいなくなっていた。一瞬だけ仮面を被った魔道士が見えた。あれがゴーレムを召喚したのか。胸のざわめきがどこか既視感を覚える。
 そこで再びイダとパパリモに出会う。博物学者、らしい。そこで眩暈が襲い掛かった。

―――記憶、だろうか。私が知る由もないはずの風景が、目に映った。

 パパリモが何やら変なことを言っていたが、別に興味は湧いてこなかった。とりあえずボクが出来ることをやっていこう。
 例えば―――弓の他のギルドに顔を出してみるとかね。この一件で道士という彼らの営みに興味を持った。
 そうして人を癒やす力を持つ幻術士ギルドへボクは向かうことになる。

『やれることを増やして人助けの種類を増やすのも有りかもしれないねぇ。少しだけ耳を傾けようか』

 ほら声もそう言っている。ふふっ、旅の知識を生かしてクラフターも有りかもね。

◇◆◇

―――何だあのエーテルは。ありえない。何故光の加護を受けた冒険者の魂に"あの男"のエーテルが纏わりついている。ありえない、絶対に許されない。
 あのヴィエラだけは、存在してはならぬ!


◇◆◇

"自然は我らの味方。必ず大切にしなさい。円滑に旅を行うためにも、自然との対話は欠かしてはならぬ"

 幻術士ギルドにて"土"と"風"についての教義を受けた。自然の力を借りて、それを癒やしの力とする。いい話だ。そしてシルフィーという少女の力の使い方は―――過去の自分を思い出す。力の行使に必要な自然エネルギーの力を借りず癒すということは。代わりに使っているのは己のエーテル。こればかりは痛い目を見ないと分からないだろう。だってボクがそうだったのだから。

 もっと自然との対話というものについて知りたい。というわけで次は園芸師ギルドだ。何か異変があったらすぐに怒る森から資源を貰ってくるということは、道士と同じように自然に近しい存在なのだろう。
 樹木の扱いに関しては全く分からないわけではない。しかしハチェットを担ぎこうやって森の中を走り回った経験はなかったので新鮮な体験だった。そして成果物は姉弟子シセリーの言う通り、裁縫に木工、調理にも生かされる。とりあえず木工師ギルドに顔を出してみよう。新しい弓を作り、調整できるようになりたいしね。
 マスターのベアティヌはとても怪しいけれど、悪い人間ではない。楽しく学ばせていただこう。

 そして自然というものに関して忘れてはいけないのは命への感謝だろう。革細工師ギルドに顔を出してみる。弓と同じく装備も自分の動きやすいものに調節したい。革細工はまあまあ出来る。昔狩猟した皮で衣服を見繕っていた頃がある。"あの男"に物凄く怒鳴られて以降は最低限の加工以外はやっていなかったが。エオルゼア一の革細工ブランドも持つギルドで教えを乞うことも悪くはない体験だ。
 マスターのゲヴァは口は悪いが、腕は確かだ。褒める所は褒めてもらえるし修行には丁度いい。

 自然への理解を深めるうちにやはり幻術士シルフィーは魔法が使えなくなった。原因は当然、自らの生命力切れ。才能があるからこそ起こった壁。同じことをやらかした先輩として何かアドバイスしようとも思ったが、こういうのは本人が気付いて反省してこその成長だ。数歩後ろで、見守ることにする。



"我らが手に入れた力は誰かにとっては厄介なモノだろう。その言葉に怯えず、勇気を見せてやりなさい。"

 チョコボの卵盗難事件の解決を手伝った。なんとモーグリが守ってくれていた。ただ気まぐれにふわふわしてる子達かと思いきやお人好しな所もあっていい子なんだね。ますます気に入った。
 イクサル族の気になる動きを街の方に伝えるように頼まれる。そんな重要なこと旅人に任せちゃって大丈夫なの? 少し穏やかにするだけでこうやって仲間だと任命されるとはちょろいもんだ。
 まさかそれがとある組織とのコネに繋がるとは誰も予想できなかっただろう。

 イクサル族がグリダニアの民にとって重要な"長老の木"を狙った事件だ。どうやらこの聖地でクリスタルを精製し、侵略の足掛かりにするらしい。怪しげな術を使い、妖異を召喚し襲い掛かる。
 ボクは人を癒やす幻術士として手助けをした。協力は勿論するけど―――現地の人間が頑張らないとね。ケアルで癒してやりながらボクは戦闘をこなした。
 大きな妖異を倒し、神勇隊の人らを見送る。その時だった。背後から気配を察知する。振り向くとそこにはあの時の黒衣の男が佇んでいた。

 エーテルの歪み。先程よりも圧倒的に力を感じられる妖異。ボクのことが邪魔らしい。―――舐められたもんだ。土と風の力を借り、立ち向かってやる。
 毒だって? エスナで治療すればいい。風を纏わせ土塊をぶつける。大方妖異を吹っ飛ばし終わる頃、イダとパパリモが助太刀にやって来た。流石に幻術だけであの黒衣をぶちのめせるとは思っていなかったから丁度よかった。
 彼らは天使い、アシエンというらしい。倒した筈だが手応えは感じられなかった。
 不完全燃焼だったがグリダニアの住人には感謝された。なんと長のカ・ヌエ様にまで。大御霊祭りという精霊と人を繋ぐ儀式の主役になって欲しいらしい。あまり目立ちたくはないのだが……時々は悪くないかもしれない。
 仮面を被り、そこで近頃聞いたハイデリンとやらに関わるもの、そして拾ったクリスタルのことを聞かされる。
ボクの許可も得ず"超える力"と呼ばれるものを抱えさせられたことを知った。嗚呼眩暈が、また何か妙なものを、見せられる。

―――赤い、星。ダラガブ、に黒き龍。一方的な殺戮。そういえばあの日もこの風景を見た。赤色の服の人たちを、助けたっけ。抱えて走って、いっぱいお礼を言われて。そしてエオルゼアにやってきた。
 そうか私は過去を視ているんだ。これは、カ・ヌエ様の記憶を通した風景。ノイズも以前より減っている。慣れて来たのだろうか。いやそんな慣れは必要ない。

 目が覚めると宿。案の定ぶっ倒れてしまったらしい。祭りの途中に申し訳ないことをした。
 お詫びに行くとなんと国の代表として同盟国へ親書を持って行ってほしいのだという。―――ボクでいいのかい?

『それだけ"ボクたち"が求められているのさ。悪い話ではないだろう?』

 あの声は別に嫌ではないらしい。ミューヌも自分のように喜んでくれた。
 ……まあ"約束"よりも先に飛空艇に乗ってしまうが、それも別に悪いものではないだろう。冒険者という身分としてもっと広い世界を見て回れるのが楽しみで仕方がない。

 ねえ、キミは今どんな空を見ているのかな。大空へ運んでくれる白い少年クン?

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注意・補足セイブ・ザ・クイーン途中。"嫉妬"であったシドがネ…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

"嫉妬"、その裏で
注意・補足
セイブ・ザ・クイーン途中。"嫉妬"であったシドがネロにリンクパールで悩みを明かした直後の話。
 
 静かにため息を吐き、片隅で1人座りうずくまる。震えが止まらず、心がカラカラに乾いている。ふとリンクパールが鳴り響き、慎重に出るとあの飄々とした明るい声だった。

『よおメスバブーン、機嫌はどうだ?』
「最悪、かも」

 今自分の心の中を大きく占める男の友人の声だ。思い当たる用事も無いのにかけてくるのは珍しい。否、もしかしたら"アラグの悪魔"の噂でも聞いたかもしれない。

「アラグの悪魔はまだ調査中」
『なンだそれ』
「あ、こっちの話。知らないならそれでいい。用が無いなら、切る」
『用があるかは俺が決めンだよ。お前、槍持ってるらしいじゃねェか。どういう風の吹き回しだ?』

 目を見開き、少しだけ黙り込む。すると自分の中の"内なる存在"が『代われ』と声を掛けて来た。仕方がないので"切り替え"てやる。

「それについては"ボク"が説明する」
『その言い回しは……あっちか。何してンだ?』
「シドから聞いたね? いやあちょっとシドのせいで"この子"の機嫌が悪いからストレス解消させてるんだ」
『ハァタレコミ通りかよ。どうした、泣きの連絡が来て困ってンだよ』
「うん少々拗ねてたね。まあ過去がバレることを承知に暴れ回ってるのは本当に反省してるさ。でもこれに関してはシド悪くないから気にするなとしか」
『あいつのせいなのに悪くねェって何だそりゃ』

 ネロの少々困惑した声にニィと笑ってしまう。

「『自分、ミコトさんとボスはお似合いだと思うッス』『あの朴念仁の旦那、あれで結構、モテると思うゼ。早くしないと誰かに獲られちゃうかもな?』」
『ア?』
「シドが一度会社に戻るってなった直後"ボク"の前で起こった会話。ミコトっていうシャーレアン方面の研究職の子がまあ淡い事言っててねぇ。それに関して周りの評価」
『あー……ガーロンドが悪いが、本人は気にしなくていいってそういうことかよ。確かにいない間に機嫌悪くなってるのも間違ってねェな』
「その時は笑顔で見守ってたけど後から内心イラッとね。目の前のスクラップが砂のように砕けて正直面白―――じゃなかった。あんま戦場で精神的に乱されると下手すりゃ死んじまう。そりゃぁ困るってことでね。今回の敵は帝国兵純度100%だからまあ色々アドバイスしてあげたのさ」
『はー成程ただの惚気をこのド深夜にブチ込ンだってわけだなあのバカ』
「そうなるね。いやあゴメンゴメン」

 盛大な溜息が聞こえる。自分からかけてきたくせにどういう態度だと思うが置いておく。

「"この子"的には今までなかった感情さ。それに困惑してるのも事実。まあまだ決着ついてなかった感情に整理つけるきっかけになるだろうし放っておいたらいい」
『マァ本人が言うならもう触れねェが。つかまだウジウジ考えてンだな』
「そゆこと。というわけでまたちぎっては投げて来るね。いつまでもシドを寂しがらせるのも悪いし」
『ハァ』
「じゃあキミにも迷惑かけたし帝国が発掘したらしい"アラグの悪魔"の情報集まったらあげるね。"兄さんにもよろしく"」

 返事を待つ前に通信を切る。自らの中で眠ってしまった"アンナ"にクスリと笑みをこぼし槍を握りしめた。

「ヒヒッ」

 瞬時に跳躍し、宵闇の中に消えていく。
 "内なる存在"はこれまで自らが何者か、分からなかった。気が付いたらもう1人の"アンナ・サリス"として生きている。しかしこれまでの冒険、そして"アラグの悪魔"の噂でどこか熱が宿った。もしかしたら、"それ"を見たら自分へのヒントが見つかるかもしれない。"彼女"の心が滾るに決まっていた。



「エル、マジで信じらンねェなバブーン2匹。脳までゴリラかよ」
「おうおう僕の妹は除外しといてくれないかな?」
「メスの方のバブーンは筆頭だろうが」

 通信を一方的に切られ、ため息を吐く。深夜にシドからの通信に起こされ、好奇心のままアンナに通信を繋いだらただの惚気話だったことに落胆した。もっと面白いものかと思ったのにナァと肩を落とすと隣にいたエルファーは苦笑していた。傍に置いてあったリンクパール通信の内容を傍受するスピーカーの電源を切りながら目を細める。

「そうかい。……で、我が妹が嫉妬してたってことだな?」
「おう。その笑いながら怒るのやめねェか?」

 エルファーの顔は一見ヘタクソな笑顔なのだが口元は歪み、目はギラギラと輝いている。引きつった笑みで落ち着かせようと窘める。

「ほらアレだ。まず新入りに関しては明日ジェシーにでも報告すっか。これに関しちゃそれで勝手に話進むんじゃね。吊るそうとすンな」
「瞬時に社内で拡散される未来が見えてまた僕の肩身が狭くなる」
「今更だろ」
「うっせ」

 ネロの頬を抓ると再び書物に視線を戻してる。その様子にため息を吐きながら没収し、ブックマーカーを挟み投げ捨ててやる。

「コラ」
「寝ンぞ」
「あと1刻」
「アホ」

 1刻経過する、つまり睡眠を取る気はなく朝まで読書するつもりらしい。腕を引っ張り寝台に転がしてメガネを外す。諦めたのか丸まってしまった。

「いじけンなよガキか」
「ママが僕を虐めて来たんでな」
「だーれがママだお前の方が3倍は年上じゃねェか。ほら狭ェから寄れよ」

 無言で寝返りを打って隅に寄って行く。妙な所は素直な生き物だと思いながら横たわり、ランプを消す。
 暗闇の中、モゾモゾと物音が聞こえた。



 次の日。一連の出来事を半笑いでジェシーに伝えてやる。
 ジェシーは青筋を浮かべながら即リンクシェルを繋いだ。そして「リリヤ、あなた帰ってきたら覚悟しておきなさい。会長は! とっくに! アンナの! 返事待ちよ!」と少々よく分からないことを叫ぶ。チクったネロとしては正直どうでもいい。だが、あの鈍感本人が不在の中、全てが拡散される瞬間程愉快なものはないだろう。察したリリヤの『ま、まさか……そりゃないッスよ姉御ぉ! ていうかどこで聞いたッスかぁ!』という悲痛の叫びまでも即噂好き社員らが交わす話題の種だ。
 ちなみに。その横では「余計なことを"社用回線"で言わないでくれ女史ぃ! 少しは僕の立場というもの考えてくれないか!」と相変わらず凹んでいるエルファーをベテラン社員らが宥めている。「殺してくれ……」と呻く男をゲラゲラと笑いながら整備スペースに歩みを進めるのであった―――。


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『彼シャツは男受け抜群! 男性をトリコにする魅力とは!』 アンナは雑誌をジトリと…

漆黒

#シド光♀ #即興SS

漆黒

"彼シャツ"
『彼シャツは男受け抜群! 男性をトリコにする魅力とは!』

 アンナは雑誌をジトリとした目で読む。

「いやありえないでしょ」

 鼻で笑いながらソファに放り寝台へと向かう。そこには恋人であるシドのコート。

 約2週間ぶりに会い、トップマストで飯を振舞った。今はシャワーを浴びに行っている。その隙にアンナは眉間に皴を寄せ、正座でそれを見つめていた。
 ―――ちゃんと気にはしている。恋人とはどういうものか、何をしたらいいのか。いやそれっぽいことは付き合う前からやっていたと周りは言うがアンナ本人はピンとこない。なので所謂恋愛小説というものや週刊誌を中心に学習中である。

「そもそもボクの方が背が高いんだよね。こう、写真みたいにブカブカにならないでしょ。ていうかここボクの住処だし借りてとかないない。これは前提が崩れてる。与太話」

 唸りながらまずはそのコートを抱きしめてみる。

「……理解不能」

 纏ってみる。腕は絶対に通さない。バレたら誤魔化すのが面倒だ。いつでも投げる準備は出来ている。

「んー想定より重たい」

 意外と重量があるようだ。防寒の用途もあるのだろう。普段胸元開いて見せてるくせにだ。襟を掴み、軽く息を吸う。

「なんかシドの匂い、する。当たり前か」

 ボソリと呟き、笑みを浮かべていると「アンナ?」と声が聞こえた。勢いよく振り向くとそこには持ち主が。

「お前まさかまた変なイタズラ企んでるのか? 今日も懲りないな」
「……」

 アンナは少し黙り込み、そのコートを投げつけながら叫んだ。

「すけべ!!」

 上掛けを被り、そのまま拗ねるように潜り込んでしまう。

 雑誌には"今来てる!"と書かれていたが流行りに疎いシドはピンと来ていない様子だった。ならばこれは今から作られるブームなのだろう。流行というものはこの男でも知っているものというのが第一条件だとアンナは個人的に考えている。一瞬でも信じた自分を殴りたいと悶絶するような声を上げた。



「どうしたものか」

 シドは首を傾げ丸まったアンナを眺めている。
 浴室から出るとアンナが自分のコートにくるまり、何か仕込みをしているように見えた。なので声を掛けたら顔を真っ赤にしながらコートを投げつけられ顔にそのまま激突した。結構重たいはずだが相変わらず優秀なコントロール能力である。
 首を傾げながら周囲を見渡す。アンナがこういう奇行を突然行う時は近くに何かおかしなモノがあるはずだ。

 その違和感はすぐに発見する。ソファの上に放り投げられた週刊誌。パラパラと捲り、関連性が高いのは―――。

「いやまさか」

 しかし他にわざわざ人のコートで何かをしようとする動機が見当たらない。それ以前に概要を読んでもピンと来ない。が、妙なことをするアンナを見るのは楽しいのでたまにはいいだろう。
 シドはクスリと笑い寝台に座り上掛けの上から優しくトントンと叩いた。

「なんだ珍しく誘ってたのか?」
「ご機嫌斜め。今日はなし」
「これでおあずけされると明日は激しいかもな」

 アンナはゆっくりと顔を出し、舌を出す。眉間に皴を寄せ、ジトリとした目でこちらを見た。

「毎回でしょ」
「アンナは綺麗だが少し生意気だからな」
「開き直らない」

 上掛けを引き剥がし起こしてやり、「続きを」と言いながらコートを押し付けた。アンナは非常に嫌そうな顔を見せている。

「やだ。キミの前でとかマシなことにならない未来しか見えず!」
「男の前でやらないと意味ないだろうこれは。別に雑誌の趣旨の通り、シャツの方持って来てもいいぞ?」

 ダメな行為を覚えさせてしまったかもしれない、とアンナは盛大なため息を吐く。あの好奇心に満ちた真剣な目は、絶対に折れることがない時に見せるものだ。



 仕方がないので羽織ってやることにする。予想通り袖が短い。シドは少しだけ恨むような目で見ている。

「ボクの方が縦に大きいから仕方ないでしょ。でもキミ横に大きいから腕ダボダボだし。肩幅の関係でちょっとだらしない……ってひゃん!?」

 話をしている途中に寝台の上に倒される。見上げると物凄くご機嫌な顔。

「有りかもしれん」

 慣れた手つきでコート以外の布を脱がしていく。阻止しようとするが全く通用せずあっという間にコートの下は裸になった。

「ちょっと!?」

 顎に手を当てながら考える仕草を見せている。アンナは呆れた顔で「変なこと企まない」と言ってやるとかぶりつくように口付けられる。

 この時の彼女は余計な欲を刺激させたくないのか太腿を擦り合わせながら胸元を袖で隠している。というか何故下着の上からコートを羽織っていたのか。やはり誘っているのかと腕を掴み上げる。そして凝視していると「面白くないから見ない」と振りほどいた手で手刀を落とされた。

「いやいい感じに谷間も見えて悪くは」
「普段のキミの露出度と変わらないけど!?」
「女性がするのとは違うだろ! よし、他人には見せるんじゃないぞ」
「生憎普段肌を見せる服を着ないからそれは杞憂! キミと一緒にしない!」
「さっきから気になってたが俺を露出狂みたいな扱いをするな!」
「はぁ!? 痴女と何も変わらず!」

 この後しばらく普段の露出に関する言い合いが続く。

「お前装いに関しては一切恥じらいがないじゃないか! 背中の傷がなかったらもっと色々際どいのも着てただろ! 痴女はどっちだ!」
「そうだよでもキミからしたら他の人に見せたくないって思ってるよね!?」
「ああそうだいつも悪いな」
「当然!」

 2人はしばらく声を出して笑い、寝そべる。シドはアンナの腰に手を回すと、彼女は押しのけながらため息を吐いた。

「皴になる。終わり」
「別にそのままでいいじゃないか」
「やだ。キミの企み分かる。……ヤらないなら今のままでもいい」

 足を絡めながらニィと笑うとシドは一瞬顔を引きつらせた後、コートをはぎ取った。

「へ?」
「アンナが悪いからな」

 コートを床に投げ捨て、そのままアンナに口付ける。

「どうしてこうなるかなあ」

 アンナのボヤきが虚空に消えた。


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#シド光♀ #即興SS

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補足自機の匂い観の話題がみすきーで話題になったので。それで即興SS。蒼天辺りの関…

蒼天

#シド光♀ #即興SS

蒼天

"あなたの匂い"
補足
自機の匂い観の話題がみすきーで話題になったので。それで即興SS。
蒼天辺りの関係性なのでお互い自覚ない頃。
 
「皆さんお疲れ様。休憩室にサンドイッチ置いてるから食べてから寝てね」

 アンナ・サリスは気まぐれである。ふらりとガーロンドイ・アイアンワークス社に現れては"差し入れ"を置き、シドと数言交わして帰って行く。手伝ってほしいと言えばいつの間にか現れ、何でもこなした。
 しかし納期のデーモンが暴れる時期には決して現れない。どうやらピリピリとした空気は嫌いらしい。

 今回はほぼ案件終了後、げっそりと疲れ切った社員らの前に満面の笑顔で現れた。現場にいた彼らには天使のように映ったと後に語る。ワイワイと休憩室へ歩いて行く社員たちの波を避け、キョロキョロと見回すアンナはまずジェシーを発見した。

 相当疲れているのかため息を吐いていた。ふと気配を感じたのか振り向き、アンナを見る。

「あらアンナじゃない」
「お疲れ様、ジェシー」
「相変わらずいいタイミングで現れるわね、って結構疲れてる?」
「そりゃサンドイッチいっぱい作ってきたからね。休憩室、今ゾンビーみたいな人らが集ってるから落ち着いてからどうぞ」
「いつもありがとね。またお礼いっぱいしなきゃ」
「ちゃんとシドから貰ってるよ。大丈夫」

 奥の扉が開き、白色の男がため息を吐きながら現れる。同じくギリギリな仕事で寝ずに労働していたようで、酷く眠そうだ。

「あら会長お疲れさまでした」
「ああ今回も中々苦戦したな……ってアンナじゃないか」
「ん」

 シドは必死に目をこすり両頬を叩いた後ニィと笑顔を見せる。ジェシーは相変わらず分かりやすいと苦笑した。
 アンナも手を振りながらシドの方へフラフラと歩く。少しだけ考える姿勢を見せた。

「―――アンナ?」

 次の瞬間アンナはシドの首元に顔を沈める。ジェシーをはじめとした残っていた社員らは目を点にし、シドは固まる。そしてどんどん頬が高揚していった。

「懐かしいにおいがする」

 ボソリと呟いた瞬間アンナも自分が何をしたのかに気が付いたらしく素早く離れた。咳払いをする。

「疲れてるかも。ごめんなさい」
「あ、ああ」
「流石に新鮮なうちにとサンドイッチ一気に作ったのが響いたかなあ。私もう帰るね。……あ、今日付けてる香水、今のシドのニオイと相性悪いから残ってるって思ったらクリーニングに出す方がいいかも」
「そ、そうなのか?」

 アンナは笑顔を見せた。

「とにかくしっかりシャワー浴びて、ご飯食べて、歯磨きしてからしっかり寝るんだよ。健康なのが大事だからね」
「それは当然だな」
「でしょ?」

 しかし、シドの少しだけ嬉しそうな表情を見てアンナは少しだけ考える仕草を見せた後、恐る恐る口を開く。

「あの……本当に申し訳ないんだけど今表に出るのはあまりよろしくないと思う。だからサンドイッチ置いてる。なるべく社内で用事を済ませて。旅人の私は気にしないけどとにかく配慮は必要」
「アンナそれ超遠回しに臭いって言ってない?」
「ジェシー。そりゃずっと寝ずに働き詰めだったから当然でしょう? 流石に『5日位村に立ち寄らず色々誤魔化しながら旅してたヒゲのおじさまみたいだね』とかそんな理不尽な罵倒はできないよ。まあ純粋に休息大事ってことで。いやそれは今ここにいる人大体そうだけど。じゃ、シド。お疲れさまでした。おやすみなさい」

 苦笑しながらシドの鼻を軽く摘まんだ後、頭をグシャリと撫で小走りで去って行った。当のシドは何も言わず固まっている。

「親方の心がアンナが現れることで急速に修復されたと思ったら光速でバキバキに折られてるッス……」
「最速記録じゃないかしらあれ」
「欠片も残ってなさそうだな」
「そこうるさいぞ!」

 後に知ることになるが。アンナが例えとして使っていた事例はリンドウのことだったらしい。懐かしいにおいとはそういうことだったのかとシドは歯ぎしりをした。
 しかし時々風呂に入れと言いながらも、笑顔でくっついて来ることがあるのでリンドウに感謝する姿も見せ、アンナはもっと気を引き締めようと決心するのであった―――。


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補足新生終了以降、紅蓮より前のシド光♀。お互い感情に気付いていない頃の2人です。…

蒼天

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蒼天

"縁談"
補足
新生終了以降、紅蓮より前のシド光♀。お互い感情に気付いていない頃の2人です。
 
「アンナすまん俺のことを聞かれても知らんと言ってくれ!」
「? 分かった」

 レヴナンツトール。石の家でやることがなくなったアンナは気分転換にと外を歩いていた。すると、全力疾走してきたシドと鉢合わせする。傍にある物陰に隠れた少し後、次はジェシーが小走りでやって来た。

「アンナ! 会長見なかった!?」
「? 見てないよ。えっと、私は東の方から歩いてきたから―――いるなら西じゃないかな」
「ありがとう。見かけたら簀巻きにしてでも連れて来て。お願い」
「分かりましたの」

 そのままアンナが指し示した方向へと走り去って行く。しばらくヒラヒラと手を振った後、首を傾げながら安堵の息を吐くシドの方を向いた。よっぽど激しく走って来たのだろう―――乱れたコートを直してやる。

「ああすまん助かった」
「どうしたの? そんなにお仕事が嫌に? いや先日飛び出した時のお説教かな?」
「あー今回は違うんだ」
「今回"は"、ねぇ……」

 シドは強調しないでくれと苦笑しながら、事情を話す。



「資金援助を出しにしたご令嬢との歓談」
「ああ」
「似合う言葉を聞いたことあるな。枕え」
「お前の口から聞きたくなかった言葉だな!」
「冗談だよ。―――そういうの嫌いなの? 本来お話し合いすることがお偉いさんであるあなたの役目じゃない?」
「いやまあ面倒でな」

 アンナは心の中で『これ別に突き出してもよかったのでは?』と呆れる。そんなことを思われているとはつゆ知らず、シドは肩をすくめながら語った。

「ウチは色々持っているからな。独り身というもあって会うだけでもという話がよく来るんだ。とっとと身を固めろって話だろうが」
「へぇ、じゃあウルダハの人中心なんだ。欲しいのは箔と。両者共に違う意味で可哀想に」
「そうだな。恋愛以外の……特に利益目当ては嫌だが、純粋に恋愛事を前提にだとがっついて来られるのも正直苦手でな。こっちは相手のこと何も知らないからな。あと出身を考えるとこの地では茨の道だろ? 絶対に幸せには出来ん」

 手渡された水を飲みながらシドはため息を吐く。シドの元には常に"そういうもの"が届いた。
 飛空艇をはじめとする数々の技術を我が物にと自由を掲げるガーロンド・アイアンワークス社を縛り付けようとやって来る輩は絶えない。流石に足元を見るような要求が乗るものは断っているが、ギリギリの経営をしているのも確かで。そういう姿勢だけでも見せなければと定期的に引っ張られて行く。―――少し前までは無理矢理体を引きずって各所を巡っていたが、今は何故か気乗りしない。
 答えは簡単だ。食べ方以外は最高じゃないかと考えるほど優しく強い人に出会ってしまったからである。こっちがどう思っていようとも一定の距離感を保つ事を公言されているので気楽だ。その優しさに甘んじてしまう結果、逃げる頻度が増えてしまう。今回はまさか逃走中に張本人と鉢合わせするとは予想だにしていなかったが。

「そういや私も結構縁談ってやつ来るんだよ。モテモテで困っちゃう」
「あー英雄だから話くらいなら来るか。いや棒読みで思ってもない言葉を付け足すな」
「旅人だってば。……ほら私経由で暁やあなたの所へのコネが手に入るしね。色んな勢力から来てるみたいだよ。金持ちから各地の要人、屈強な戦士まで。全部断って貰ってるけど」

 縁談というものはアンナの元にも毎日のように届いている。エオルゼアを救った光の戦士であり、普段から各地で一人旅という名の人助けを趣味としているようなお人好し。関係を持つことで、どれだけ利益がもたらされるか。暁の血盟やガードンド・アイアンワークス社をはじめとした数々の人脈も一種の鉱脈だ。
 だがアンナからするといきなり助けを求めているわけでもない人に会えと言われても困る。―――何より基本的に人の顔なんて一々覚えない主義だ。なので、あの時助けられてという言葉も勿論笑顔で躱すしかない。人脈も別に顎で使えるような身分ではないので利用価値はないだろうにとアンナは思っていた。

 シドはというと"この人を口説ける度胸ある男がいるのか"と驚いていた。絶対無視されるかバッサリと斬られるだけだろうに。アンナのいい所や致命的な難点を何も知らないくせに、命知らずだと心の中で一蹴する。

「お互い苦労してるんだな」
「みたいだねえ」

 笑い合う。ふとアンナは肩を掴み、引き寄せた。シドは見上げてみるとクスリと笑っている。

「ふふん、旅人を枷に嵌めるなんて百年早いのよ」
「確かにな。誰かの横にいるなんて絶対あり得ないだろ」
「でしょ? あなただって"私と仕事どっちが大事なの!?"と聞かれて信用のための納期と即答しそう。ギリギリまで余裕ぶるクセに」
「かもしれん。というか似たようなこと言ったことがあるような気がするな。成果の方が大事だろって」
「え、冗談で言ったんだけど。―――あー私はあなたが誰かを連れて来てもどうも思わないよ? 頼られがいがある」
「あまりからかわないでくれ。第一、ありえんがもし相手を見つけたとしよう。お前さんに会わせなんてしたら猛嫉妬されそうだろ。アンナは何でも出来るからな」
「これも冗談だよ、ふふっ」

 小突きながらジトリとした目で見る。するとアンナはどこからか取り出したチョコレートを口へと放り込んだ。一瞬だけ口の中に、細い指が当たる。その後ゆっくりと唇へ沿うように這わせながら目を細めた。シドはぼんやりとその瞳を見つめながらチョコレートを舐めて溶かす。ふわりと指が離された後、口を開いた。

「甘いな」
「当たり前。まぁ程々なタイミングで帰ってあげるんだよ?」
「毎回恒例だから周りは慣れてるさ」
「……あんまり社員を困らせちゃダメ」
「すぐどっかに行くアンナには負けるな」

 アルフィノ達をあんまり困らせるなよと言ってやると、ニィと笑った。

「私は旅人が本業なので」
「お人好しとの間違いだろう」
「シドにだけは言われたくない。……でもあなたの理想的な夢を持ってそれを貫く姿は嫌いじゃないよ。だからさ」

 ほらそろそろ戻ってあげなさいとアンナはシドの頭をぐしゃりと撫でる。シドはそうするかと肩をすくめた。

「あぁアンナ、今夜食事でもどうだ?」
「ん、覚えておく。ちゃんと終わらせてから来てね」
「勿論だ。じゃあな」

 アンナは何も言わずに手を振り、歩き去って行く。シドも先程走った影響か熱い顔を冷ましながら会社へ戻ろうと反対方向へ走り去った。

「―――少しだけガーロンド社に行く頻度でも増やそうかな」

 ちくりとした胸の痛みと小さなつぶやきは、アンナ本人も今はまだ気付いていない。


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漆黒

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