FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.149, No.148, No.147, No.146, No.145, No.144, No.143[7件]
"彼シャツ"
『彼シャツは男受け抜群! 男性をトリコにする魅力とは!』
アンナは雑誌をジトリとした目で読む。
「いやありえないでしょ」
鼻で笑いながらソファに放り寝台へと向かう。そこには恋人であるシドのコート。
約2週間ぶりに会い、トップマストで飯を振舞った。今はシャワーを浴びに行っている。その隙にアンナは眉間に皴を寄せ、正座でそれを見つめていた。
―――ちゃんと気にはしている。恋人とはどういうものか、何をしたらいいのか。いやそれっぽいことは付き合う前からやっていたと周りは言うがアンナ本人はピンとこない。なので所謂恋愛小説というものや週刊誌を中心に学習中である。
「そもそもボクの方が背が高いんだよね。こう、写真みたいにブカブカにならないでしょ。ていうかここボクの住処だし借りてとかないない。これは前提が崩れてる。与太話」
唸りながらまずはそのコートを抱きしめてみる。
「……理解不能」
纏ってみる。腕は絶対に通さない。バレたら誤魔化すのが面倒だ。いつでも投げる準備は出来ている。
「んー想定より重たい」
意外と重量があるようだ。防寒の用途もあるのだろう。普段胸元開いて見せてるくせにだ。襟を掴み、軽く息を吸う。
「なんかシドの匂い、する。当たり前か」
ボソリと呟き、笑みを浮かべていると「アンナ?」と声が聞こえた。勢いよく振り向くとそこには持ち主が。
「お前まさかまた変なイタズラ企んでるのか? 今日も懲りないな」
「……」
アンナは少し黙り込み、そのコートを投げつけながら叫んだ。
「すけべ!!」
上掛けを被り、そのまま拗ねるように潜り込んでしまう。
雑誌には"今来てる!"と書かれていたが流行りに疎いシドはピンと来ていない様子だった。ならばこれは今から作られるブームなのだろう。流行というものはこの男でも知っているものというのが第一条件だとアンナは個人的に考えている。一瞬でも信じた自分を殴りたいと悶絶するような声を上げた。
◇
「どうしたものか」
シドは首を傾げ丸まったアンナを眺めている。
浴室から出るとアンナが自分のコートにくるまり、何か仕込みをしているように見えた。なので声を掛けたら顔を真っ赤にしながらコートを投げつけられ顔にそのまま激突した。結構重たいはずだが相変わらず優秀なコントロール能力である。
首を傾げながら周囲を見渡す。アンナがこういう奇行を突然行う時は近くに何かおかしなモノがあるはずだ。
その違和感はすぐに発見する。ソファの上に放り投げられた週刊誌。パラパラと捲り、関連性が高いのは―――。
「いやまさか」
しかし他にわざわざ人のコートで何かをしようとする動機が見当たらない。それ以前に概要を読んでもピンと来ない。が、妙なことをするアンナを見るのは楽しいのでたまにはいいだろう。
シドはクスリと笑い寝台に座り上掛けの上から優しくトントンと叩いた。
「なんだ珍しく誘ってたのか?」
「ご機嫌斜め。今日はなし」
「これでおあずけされると明日は激しいかもな」
アンナはゆっくりと顔を出し、舌を出す。眉間に皴を寄せ、ジトリとした目でこちらを見た。
「毎回でしょ」
「アンナは綺麗だが少し生意気だからな」
「開き直らない」
上掛けを引き剥がし起こしてやり、「続きを」と言いながらコートを押し付けた。アンナは非常に嫌そうな顔を見せている。
「やだ。キミの前でとかマシなことにならない未来しか見えず!」
「男の前でやらないと意味ないだろうこれは。別に雑誌の趣旨の通り、シャツの方持って来てもいいぞ?」
ダメな行為を覚えさせてしまったかもしれない、とアンナは盛大なため息を吐く。あの好奇心に満ちた真剣な目は、絶対に折れることがない時に見せるものだ。
◇
仕方がないので羽織ってやることにする。予想通り袖が短い。シドは少しだけ恨むような目で見ている。
「ボクの方が縦に大きいから仕方ないでしょ。でもキミ横に大きいから腕ダボダボだし。肩幅の関係でちょっとだらしない……ってひゃん!?」
話をしている途中に寝台の上に倒される。見上げると物凄くご機嫌な顔。
「有りかもしれん」
慣れた手つきでコート以外の布を脱がしていく。阻止しようとするが全く通用せずあっという間にコートの下は裸になった。
「ちょっと!?」
顎に手を当てながら考える仕草を見せている。アンナは呆れた顔で「変なこと企まない」と言ってやるとかぶりつくように口付けられる。
この時の彼女は余計な欲を刺激させたくないのか太腿を擦り合わせながら胸元を袖で隠している。というか何故下着の上からコートを羽織っていたのか。やはり誘っているのかと腕を掴み上げる。そして凝視していると「面白くないから見ない」と振りほどいた手で手刀を落とされた。
「いやいい感じに谷間も見えて悪くは」
「普段のキミの露出度と変わらないけど!?」
「女性がするのとは違うだろ! よし、他人には見せるんじゃないぞ」
「生憎普段肌を見せる服を着ないからそれは杞憂! キミと一緒にしない!」
「さっきから気になってたが俺を露出狂みたいな扱いをするな!」
「はぁ!? 痴女と何も変わらず!」
この後しばらく普段の露出に関する言い合いが続く。
「お前装いに関しては一切恥じらいがないじゃないか! 背中の傷がなかったらもっと色々際どいのも着てただろ! 痴女はどっちだ!」
「そうだよでもキミからしたら他の人に見せたくないって思ってるよね!?」
「ああそうだいつも悪いな」
「当然!」
2人はしばらく声を出して笑い、寝そべる。シドはアンナの腰に手を回すと、彼女は押しのけながらため息を吐いた。
「皴になる。終わり」
「別にそのままでいいじゃないか」
「やだ。キミの企み分かる。……ヤらないなら今のままでもいい」
足を絡めながらニィと笑うとシドは一瞬顔を引きつらせた後、コートをはぎ取った。
「へ?」
「アンナが悪いからな」
コートを床に投げ捨て、そのままアンナに口付ける。
「どうしてこうなるかなあ」
アンナのボヤきが虚空に消えた。
#シド光♀ #即興SS
アンナは雑誌をジトリとした目で読む。
「いやありえないでしょ」
鼻で笑いながらソファに放り寝台へと向かう。そこには恋人であるシドのコート。
約2週間ぶりに会い、トップマストで飯を振舞った。今はシャワーを浴びに行っている。その隙にアンナは眉間に皴を寄せ、正座でそれを見つめていた。
―――ちゃんと気にはしている。恋人とはどういうものか、何をしたらいいのか。いやそれっぽいことは付き合う前からやっていたと周りは言うがアンナ本人はピンとこない。なので所謂恋愛小説というものや週刊誌を中心に学習中である。
「そもそもボクの方が背が高いんだよね。こう、写真みたいにブカブカにならないでしょ。ていうかここボクの住処だし借りてとかないない。これは前提が崩れてる。与太話」
唸りながらまずはそのコートを抱きしめてみる。
「……理解不能」
纏ってみる。腕は絶対に通さない。バレたら誤魔化すのが面倒だ。いつでも投げる準備は出来ている。
「んー想定より重たい」
意外と重量があるようだ。防寒の用途もあるのだろう。普段胸元開いて見せてるくせにだ。襟を掴み、軽く息を吸う。
「なんかシドの匂い、する。当たり前か」
ボソリと呟き、笑みを浮かべていると「アンナ?」と声が聞こえた。勢いよく振り向くとそこには持ち主が。
「お前まさかまた変なイタズラ企んでるのか? 今日も懲りないな」
「……」
アンナは少し黙り込み、そのコートを投げつけながら叫んだ。
「すけべ!!」
上掛けを被り、そのまま拗ねるように潜り込んでしまう。
雑誌には"今来てる!"と書かれていたが流行りに疎いシドはピンと来ていない様子だった。ならばこれは今から作られるブームなのだろう。流行というものはこの男でも知っているものというのが第一条件だとアンナは個人的に考えている。一瞬でも信じた自分を殴りたいと悶絶するような声を上げた。
◇
「どうしたものか」
シドは首を傾げ丸まったアンナを眺めている。
浴室から出るとアンナが自分のコートにくるまり、何か仕込みをしているように見えた。なので声を掛けたら顔を真っ赤にしながらコートを投げつけられ顔にそのまま激突した。結構重たいはずだが相変わらず優秀なコントロール能力である。
首を傾げながら周囲を見渡す。アンナがこういう奇行を突然行う時は近くに何かおかしなモノがあるはずだ。
その違和感はすぐに発見する。ソファの上に放り投げられた週刊誌。パラパラと捲り、関連性が高いのは―――。
「いやまさか」
しかし他にわざわざ人のコートで何かをしようとする動機が見当たらない。それ以前に概要を読んでもピンと来ない。が、妙なことをするアンナを見るのは楽しいのでたまにはいいだろう。
シドはクスリと笑い寝台に座り上掛けの上から優しくトントンと叩いた。
「なんだ珍しく誘ってたのか?」
「ご機嫌斜め。今日はなし」
「これでおあずけされると明日は激しいかもな」
アンナはゆっくりと顔を出し、舌を出す。眉間に皴を寄せ、ジトリとした目でこちらを見た。
「毎回でしょ」
「アンナは綺麗だが少し生意気だからな」
「開き直らない」
上掛けを引き剥がし起こしてやり、「続きを」と言いながらコートを押し付けた。アンナは非常に嫌そうな顔を見せている。
「やだ。キミの前でとかマシなことにならない未来しか見えず!」
「男の前でやらないと意味ないだろうこれは。別に雑誌の趣旨の通り、シャツの方持って来てもいいぞ?」
ダメな行為を覚えさせてしまったかもしれない、とアンナは盛大なため息を吐く。あの好奇心に満ちた真剣な目は、絶対に折れることがない時に見せるものだ。
◇
仕方がないので羽織ってやることにする。予想通り袖が短い。シドは少しだけ恨むような目で見ている。
「ボクの方が縦に大きいから仕方ないでしょ。でもキミ横に大きいから腕ダボダボだし。肩幅の関係でちょっとだらしない……ってひゃん!?」
話をしている途中に寝台の上に倒される。見上げると物凄くご機嫌な顔。
「有りかもしれん」
慣れた手つきでコート以外の布を脱がしていく。阻止しようとするが全く通用せずあっという間にコートの下は裸になった。
「ちょっと!?」
顎に手を当てながら考える仕草を見せている。アンナは呆れた顔で「変なこと企まない」と言ってやるとかぶりつくように口付けられる。
この時の彼女は余計な欲を刺激させたくないのか太腿を擦り合わせながら胸元を袖で隠している。というか何故下着の上からコートを羽織っていたのか。やはり誘っているのかと腕を掴み上げる。そして凝視していると「面白くないから見ない」と振りほどいた手で手刀を落とされた。
「いやいい感じに谷間も見えて悪くは」
「普段のキミの露出度と変わらないけど!?」
「女性がするのとは違うだろ! よし、他人には見せるんじゃないぞ」
「生憎普段肌を見せる服を着ないからそれは杞憂! キミと一緒にしない!」
「さっきから気になってたが俺を露出狂みたいな扱いをするな!」
「はぁ!? 痴女と何も変わらず!」
この後しばらく普段の露出に関する言い合いが続く。
「お前装いに関しては一切恥じらいがないじゃないか! 背中の傷がなかったらもっと色々際どいのも着てただろ! 痴女はどっちだ!」
「そうだよでもキミからしたら他の人に見せたくないって思ってるよね!?」
「ああそうだいつも悪いな」
「当然!」
2人はしばらく声を出して笑い、寝そべる。シドはアンナの腰に手を回すと、彼女は押しのけながらため息を吐いた。
「皴になる。終わり」
「別にそのままでいいじゃないか」
「やだ。キミの企み分かる。……ヤらないなら今のままでもいい」
足を絡めながらニィと笑うとシドは一瞬顔を引きつらせた後、コートをはぎ取った。
「へ?」
「アンナが悪いからな」
コートを床に投げ捨て、そのままアンナに口付ける。
「どうしてこうなるかなあ」
アンナのボヤきが虚空に消えた。
#シド光♀ #即興SS
"あなたの匂い"
補足
自機の匂い観の話題がみすきーで話題になったので。それで即興SS。
蒼天辺りの関係性なのでお互い自覚ない頃。
「皆さんお疲れ様。休憩室にサンドイッチ置いてるから食べてから寝てね」
アンナ・サリスは気まぐれである。ふらりとガーロンドイ・アイアンワークス社に現れては"差し入れ"を置き、シドと数言交わして帰って行く。手伝ってほしいと言えばいつの間にか現れ、何でもこなした。
しかし納期のデーモンが暴れる時期には決して現れない。どうやらピリピリとした空気は嫌いらしい。
今回はほぼ案件終了後、げっそりと疲れ切った社員らの前に満面の笑顔で現れた。現場にいた彼らには天使のように映ったと後に語る。ワイワイと休憩室へ歩いて行く社員たちの波を避け、キョロキョロと見回すアンナはまずジェシーを発見した。
相当疲れているのかため息を吐いていた。ふと気配を感じたのか振り向き、アンナを見る。
「あらアンナじゃない」
「お疲れ様、ジェシー」
「相変わらずいいタイミングで現れるわね、って結構疲れてる?」
「そりゃサンドイッチいっぱい作ってきたからね。休憩室、今ゾンビーみたいな人らが集ってるから落ち着いてからどうぞ」
「いつもありがとね。またお礼いっぱいしなきゃ」
「ちゃんとシドから貰ってるよ。大丈夫」
奥の扉が開き、白色の男がため息を吐きながら現れる。同じくギリギリな仕事で寝ずに労働していたようで、酷く眠そうだ。
「あら会長お疲れさまでした」
「ああ今回も中々苦戦したな……ってアンナじゃないか」
「ん」
シドは必死に目をこすり両頬を叩いた後ニィと笑顔を見せる。ジェシーは相変わらず分かりやすいと苦笑した。
アンナも手を振りながらシドの方へフラフラと歩く。少しだけ考える姿勢を見せた。
「―――アンナ?」
次の瞬間アンナはシドの首元に顔を沈める。ジェシーをはじめとした残っていた社員らは目を点にし、シドは固まる。そしてどんどん頬が高揚していった。
「懐かしいにおいがする」
ボソリと呟いた瞬間アンナも自分が何をしたのかに気が付いたらしく素早く離れた。咳払いをする。
「疲れてるかも。ごめんなさい」
「あ、ああ」
「流石に新鮮なうちにとサンドイッチ一気に作ったのが響いたかなあ。私もう帰るね。……あ、今日付けてる香水、今のシドのニオイと相性悪いから残ってるって思ったらクリーニングに出す方がいいかも」
「そ、そうなのか?」
アンナは笑顔を見せた。
「とにかくしっかりシャワー浴びて、ご飯食べて、歯磨きしてからしっかり寝るんだよ。健康なのが大事だからね」
「それは当然だな」
「でしょ?」
しかし、シドの少しだけ嬉しそうな表情を見てアンナは少しだけ考える仕草を見せた後、恐る恐る口を開く。
「あの……本当に申し訳ないんだけど今表に出るのはあまりよろしくないと思う。だからサンドイッチ置いてる。なるべく社内で用事を済ませて。旅人の私は気にしないけどとにかく配慮は必要」
「アンナそれ超遠回しに臭いって言ってない?」
「ジェシー。そりゃずっと寝ずに働き詰めだったから当然でしょう? 流石に『5日位村に立ち寄らず色々誤魔化しながら旅してたヒゲのおじさまみたいだね』とかそんな理不尽な罵倒はできないよ。まあ純粋に休息大事ってことで。いやそれは今ここにいる人大体そうだけど。じゃ、シド。お疲れさまでした。おやすみなさい」
苦笑しながらシドの鼻を軽く摘まんだ後、頭をグシャリと撫で小走りで去って行った。当のシドは何も言わず固まっている。
「親方の心がアンナが現れることで急速に修復されたと思ったら光速でバキバキに折られてるッス……」
「最速記録じゃないかしらあれ」
「欠片も残ってなさそうだな」
「そこうるさいぞ!」
後に知ることになるが。アンナが例えとして使っていた事例はリンドウのことだったらしい。懐かしいにおいとはそういうことだったのかとシドは歯ぎしりをした。
しかし時々風呂に入れと言いながらも、笑顔でくっついて来ることがあるのでリンドウに感謝する姿も見せ、アンナはもっと気を引き締めようと決心するのであった―――。
#シド光♀ #即興SS
自機の匂い観の話題がみすきーで話題になったので。それで即興SS。
蒼天辺りの関係性なのでお互い自覚ない頃。
「皆さんお疲れ様。休憩室にサンドイッチ置いてるから食べてから寝てね」
アンナ・サリスは気まぐれである。ふらりとガーロンドイ・アイアンワークス社に現れては"差し入れ"を置き、シドと数言交わして帰って行く。手伝ってほしいと言えばいつの間にか現れ、何でもこなした。
しかし納期のデーモンが暴れる時期には決して現れない。どうやらピリピリとした空気は嫌いらしい。
今回はほぼ案件終了後、げっそりと疲れ切った社員らの前に満面の笑顔で現れた。現場にいた彼らには天使のように映ったと後に語る。ワイワイと休憩室へ歩いて行く社員たちの波を避け、キョロキョロと見回すアンナはまずジェシーを発見した。
相当疲れているのかため息を吐いていた。ふと気配を感じたのか振り向き、アンナを見る。
「あらアンナじゃない」
「お疲れ様、ジェシー」
「相変わらずいいタイミングで現れるわね、って結構疲れてる?」
「そりゃサンドイッチいっぱい作ってきたからね。休憩室、今ゾンビーみたいな人らが集ってるから落ち着いてからどうぞ」
「いつもありがとね。またお礼いっぱいしなきゃ」
「ちゃんとシドから貰ってるよ。大丈夫」
奥の扉が開き、白色の男がため息を吐きながら現れる。同じくギリギリな仕事で寝ずに労働していたようで、酷く眠そうだ。
「あら会長お疲れさまでした」
「ああ今回も中々苦戦したな……ってアンナじゃないか」
「ん」
シドは必死に目をこすり両頬を叩いた後ニィと笑顔を見せる。ジェシーは相変わらず分かりやすいと苦笑した。
アンナも手を振りながらシドの方へフラフラと歩く。少しだけ考える姿勢を見せた。
「―――アンナ?」
次の瞬間アンナはシドの首元に顔を沈める。ジェシーをはじめとした残っていた社員らは目を点にし、シドは固まる。そしてどんどん頬が高揚していった。
「懐かしいにおいがする」
ボソリと呟いた瞬間アンナも自分が何をしたのかに気が付いたらしく素早く離れた。咳払いをする。
「疲れてるかも。ごめんなさい」
「あ、ああ」
「流石に新鮮なうちにとサンドイッチ一気に作ったのが響いたかなあ。私もう帰るね。……あ、今日付けてる香水、今のシドのニオイと相性悪いから残ってるって思ったらクリーニングに出す方がいいかも」
「そ、そうなのか?」
アンナは笑顔を見せた。
「とにかくしっかりシャワー浴びて、ご飯食べて、歯磨きしてからしっかり寝るんだよ。健康なのが大事だからね」
「それは当然だな」
「でしょ?」
しかし、シドの少しだけ嬉しそうな表情を見てアンナは少しだけ考える仕草を見せた後、恐る恐る口を開く。
「あの……本当に申し訳ないんだけど今表に出るのはあまりよろしくないと思う。だからサンドイッチ置いてる。なるべく社内で用事を済ませて。旅人の私は気にしないけどとにかく配慮は必要」
「アンナそれ超遠回しに臭いって言ってない?」
「ジェシー。そりゃずっと寝ずに働き詰めだったから当然でしょう? 流石に『5日位村に立ち寄らず色々誤魔化しながら旅してたヒゲのおじさまみたいだね』とかそんな理不尽な罵倒はできないよ。まあ純粋に休息大事ってことで。いやそれは今ここにいる人大体そうだけど。じゃ、シド。お疲れさまでした。おやすみなさい」
苦笑しながらシドの鼻を軽く摘まんだ後、頭をグシャリと撫で小走りで去って行った。当のシドは何も言わず固まっている。
「親方の心がアンナが現れることで急速に修復されたと思ったら光速でバキバキに折られてるッス……」
「最速記録じゃないかしらあれ」
「欠片も残ってなさそうだな」
「そこうるさいぞ!」
後に知ることになるが。アンナが例えとして使っていた事例はリンドウのことだったらしい。懐かしいにおいとはそういうことだったのかとシドは歯ぎしりをした。
しかし時々風呂に入れと言いながらも、笑顔でくっついて来ることがあるのでリンドウに感謝する姿も見せ、アンナはもっと気を引き締めようと決心するのであった―――。
#シド光♀ #即興SS
"縁談"
補足
新生終了以降、紅蓮より前のシド光♀。お互い感情に気付いていない頃の2人です。
「アンナすまん俺のことを聞かれても知らんと言ってくれ!」
「? 分かった」
レヴナンツトール。石の家でやることがなくなったアンナは気分転換にと外を歩いていた。すると、全力疾走してきたシドと鉢合わせする。傍にある物陰に隠れた少し後、次はジェシーが小走りでやって来た。
「アンナ! 会長見なかった!?」
「? 見てないよ。えっと、私は東の方から歩いてきたから―――いるなら西じゃないかな」
「ありがとう。見かけたら簀巻きにしてでも連れて来て。お願い」
「分かりましたの」
そのままアンナが指し示した方向へと走り去って行く。しばらくヒラヒラと手を振った後、首を傾げながら安堵の息を吐くシドの方を向いた。よっぽど激しく走って来たのだろう―――乱れたコートを直してやる。
「ああすまん助かった」
「どうしたの? そんなにお仕事が嫌に? いや先日飛び出した時のお説教かな?」
「あー今回は違うんだ」
「今回"は"、ねぇ……」
シドは強調しないでくれと苦笑しながら、事情を話す。
◇
「資金援助を出しにしたご令嬢との歓談」
「ああ」
「似合う言葉を聞いたことあるな。枕え」
「お前の口から聞きたくなかった言葉だな!」
「冗談だよ。―――そういうの嫌いなの? 本来お話し合いすることがお偉いさんであるあなたの役目じゃない?」
「いやまあ面倒でな」
アンナは心の中で『これ別に突き出してもよかったのでは?』と呆れる。そんなことを思われているとはつゆ知らず、シドは肩をすくめながら語った。
「ウチは色々持っているからな。独り身というもあって会うだけでもという話がよく来るんだ。とっとと身を固めろって話だろうが」
「へぇ、じゃあウルダハの人中心なんだ。欲しいのは箔と。両者共に違う意味で可哀想に」
「そうだな。恋愛以外の……特に利益目当ては嫌だが、純粋に恋愛事を前提にだとがっついて来られるのも正直苦手でな。こっちは相手のこと何も知らないからな。あと出身を考えるとこの地では茨の道だろ? 絶対に幸せには出来ん」
手渡された水を飲みながらシドはため息を吐く。シドの元には常に"そういうもの"が届いた。
飛空艇をはじめとする数々の技術を我が物にと自由を掲げるガーロンド・アイアンワークス社を縛り付けようとやって来る輩は絶えない。流石に足元を見るような要求が乗るものは断っているが、ギリギリの経営をしているのも確かで。そういう姿勢だけでも見せなければと定期的に引っ張られて行く。―――少し前までは無理矢理体を引きずって各所を巡っていたが、今は何故か気乗りしない。
答えは簡単だ。食べ方以外は最高じゃないかと考えるほど優しく強い人に出会ってしまったからである。こっちがどう思っていようとも一定の距離感を保つ事を公言されているので気楽だ。その優しさに甘んじてしまう結果、逃げる頻度が増えてしまう。今回はまさか逃走中に張本人と鉢合わせするとは予想だにしていなかったが。
「そういや私も結構縁談ってやつ来るんだよ。モテモテで困っちゃう」
「あー英雄だから話くらいなら来るか。いや棒読みで思ってもない言葉を付け足すな」
「旅人だってば。……ほら私経由で暁やあなたの所へのコネが手に入るしね。色んな勢力から来てるみたいだよ。金持ちから各地の要人、屈強な戦士まで。全部断って貰ってるけど」
縁談というものはアンナの元にも毎日のように届いている。エオルゼアを救った光の戦士であり、普段から各地で一人旅という名の人助けを趣味としているようなお人好し。関係を持つことで、どれだけ利益がもたらされるか。暁の血盟やガードンド・アイアンワークス社をはじめとした数々の人脈も一種の鉱脈だ。
だがアンナからするといきなり助けを求めているわけでもない人に会えと言われても困る。―――何より基本的に人の顔なんて一々覚えない主義だ。なので、あの時助けられてという言葉も勿論笑顔で躱すしかない。人脈も別に顎で使えるような身分ではないので利用価値はないだろうにとアンナは思っていた。
シドはというと"この人を口説ける度胸ある男がいるのか"と驚いていた。絶対無視されるかバッサリと斬られるだけだろうに。アンナのいい所や致命的な難点を何も知らないくせに、命知らずだと心の中で一蹴する。
「お互い苦労してるんだな」
「みたいだねえ」
笑い合う。ふとアンナは肩を掴み、引き寄せた。シドは見上げてみるとクスリと笑っている。
「ふふん、旅人を枷に嵌めるなんて百年早いのよ」
「確かにな。誰かの横にいるなんて絶対あり得ないだろ」
「でしょ? あなただって"私と仕事どっちが大事なの!?"と聞かれて信用のための納期と即答しそう。ギリギリまで余裕ぶるクセに」
「かもしれん。というか似たようなこと言ったことがあるような気がするな。成果の方が大事だろって」
「え、冗談で言ったんだけど。―――あー私はあなたが誰かを連れて来てもどうも思わないよ? 頼られがいがある」
「あまりからかわないでくれ。第一、ありえんがもし相手を見つけたとしよう。お前さんに会わせなんてしたら猛嫉妬されそうだろ。アンナは何でも出来るからな」
「これも冗談だよ、ふふっ」
小突きながらジトリとした目で見る。するとアンナはどこからか取り出したチョコレートを口へと放り込んだ。一瞬だけ口の中に、細い指が当たる。その後ゆっくりと唇へ沿うように這わせながら目を細めた。シドはぼんやりとその瞳を見つめながらチョコレートを舐めて溶かす。ふわりと指が離された後、口を開いた。
「甘いな」
「当たり前。まぁ程々なタイミングで帰ってあげるんだよ?」
「毎回恒例だから周りは慣れてるさ」
「……あんまり社員を困らせちゃダメ」
「すぐどっかに行くアンナには負けるな」
アルフィノ達をあんまり困らせるなよと言ってやると、ニィと笑った。
「私は旅人が本業なので」
「お人好しとの間違いだろう」
「シドにだけは言われたくない。……でもあなたの理想的な夢を持ってそれを貫く姿は嫌いじゃないよ。だからさ」
ほらそろそろ戻ってあげなさいとアンナはシドの頭をぐしゃりと撫でる。シドはそうするかと肩をすくめた。
「あぁアンナ、今夜食事でもどうだ?」
「ん、覚えておく。ちゃんと終わらせてから来てね」
「勿論だ。じゃあな」
アンナは何も言わずに手を振り、歩き去って行く。シドも先程走った影響か熱い顔を冷ましながら会社へ戻ろうと反対方向へ走り去った。
「―――少しだけガーロンド社に行く頻度でも増やそうかな」
ちくりとした胸の痛みと小さなつぶやきは、アンナ本人も今はまだ気付いていない。
#シド光♀ #即興SS
新生終了以降、紅蓮より前のシド光♀。お互い感情に気付いていない頃の2人です。
「アンナすまん俺のことを聞かれても知らんと言ってくれ!」
「? 分かった」
レヴナンツトール。石の家でやることがなくなったアンナは気分転換にと外を歩いていた。すると、全力疾走してきたシドと鉢合わせする。傍にある物陰に隠れた少し後、次はジェシーが小走りでやって来た。
「アンナ! 会長見なかった!?」
「? 見てないよ。えっと、私は東の方から歩いてきたから―――いるなら西じゃないかな」
「ありがとう。見かけたら簀巻きにしてでも連れて来て。お願い」
「分かりましたの」
そのままアンナが指し示した方向へと走り去って行く。しばらくヒラヒラと手を振った後、首を傾げながら安堵の息を吐くシドの方を向いた。よっぽど激しく走って来たのだろう―――乱れたコートを直してやる。
「ああすまん助かった」
「どうしたの? そんなにお仕事が嫌に? いや先日飛び出した時のお説教かな?」
「あー今回は違うんだ」
「今回"は"、ねぇ……」
シドは強調しないでくれと苦笑しながら、事情を話す。
◇
「資金援助を出しにしたご令嬢との歓談」
「ああ」
「似合う言葉を聞いたことあるな。枕え」
「お前の口から聞きたくなかった言葉だな!」
「冗談だよ。―――そういうの嫌いなの? 本来お話し合いすることがお偉いさんであるあなたの役目じゃない?」
「いやまあ面倒でな」
アンナは心の中で『これ別に突き出してもよかったのでは?』と呆れる。そんなことを思われているとはつゆ知らず、シドは肩をすくめながら語った。
「ウチは色々持っているからな。独り身というもあって会うだけでもという話がよく来るんだ。とっとと身を固めろって話だろうが」
「へぇ、じゃあウルダハの人中心なんだ。欲しいのは箔と。両者共に違う意味で可哀想に」
「そうだな。恋愛以外の……特に利益目当ては嫌だが、純粋に恋愛事を前提にだとがっついて来られるのも正直苦手でな。こっちは相手のこと何も知らないからな。あと出身を考えるとこの地では茨の道だろ? 絶対に幸せには出来ん」
手渡された水を飲みながらシドはため息を吐く。シドの元には常に"そういうもの"が届いた。
飛空艇をはじめとする数々の技術を我が物にと自由を掲げるガーロンド・アイアンワークス社を縛り付けようとやって来る輩は絶えない。流石に足元を見るような要求が乗るものは断っているが、ギリギリの経営をしているのも確かで。そういう姿勢だけでも見せなければと定期的に引っ張られて行く。―――少し前までは無理矢理体を引きずって各所を巡っていたが、今は何故か気乗りしない。
答えは簡単だ。食べ方以外は最高じゃないかと考えるほど優しく強い人に出会ってしまったからである。こっちがどう思っていようとも一定の距離感を保つ事を公言されているので気楽だ。その優しさに甘んじてしまう結果、逃げる頻度が増えてしまう。今回はまさか逃走中に張本人と鉢合わせするとは予想だにしていなかったが。
「そういや私も結構縁談ってやつ来るんだよ。モテモテで困っちゃう」
「あー英雄だから話くらいなら来るか。いや棒読みで思ってもない言葉を付け足すな」
「旅人だってば。……ほら私経由で暁やあなたの所へのコネが手に入るしね。色んな勢力から来てるみたいだよ。金持ちから各地の要人、屈強な戦士まで。全部断って貰ってるけど」
縁談というものはアンナの元にも毎日のように届いている。エオルゼアを救った光の戦士であり、普段から各地で一人旅という名の人助けを趣味としているようなお人好し。関係を持つことで、どれだけ利益がもたらされるか。暁の血盟やガードンド・アイアンワークス社をはじめとした数々の人脈も一種の鉱脈だ。
だがアンナからするといきなり助けを求めているわけでもない人に会えと言われても困る。―――何より基本的に人の顔なんて一々覚えない主義だ。なので、あの時助けられてという言葉も勿論笑顔で躱すしかない。人脈も別に顎で使えるような身分ではないので利用価値はないだろうにとアンナは思っていた。
シドはというと"この人を口説ける度胸ある男がいるのか"と驚いていた。絶対無視されるかバッサリと斬られるだけだろうに。アンナのいい所や致命的な難点を何も知らないくせに、命知らずだと心の中で一蹴する。
「お互い苦労してるんだな」
「みたいだねえ」
笑い合う。ふとアンナは肩を掴み、引き寄せた。シドは見上げてみるとクスリと笑っている。
「ふふん、旅人を枷に嵌めるなんて百年早いのよ」
「確かにな。誰かの横にいるなんて絶対あり得ないだろ」
「でしょ? あなただって"私と仕事どっちが大事なの!?"と聞かれて信用のための納期と即答しそう。ギリギリまで余裕ぶるクセに」
「かもしれん。というか似たようなこと言ったことがあるような気がするな。成果の方が大事だろって」
「え、冗談で言ったんだけど。―――あー私はあなたが誰かを連れて来てもどうも思わないよ? 頼られがいがある」
「あまりからかわないでくれ。第一、ありえんがもし相手を見つけたとしよう。お前さんに会わせなんてしたら猛嫉妬されそうだろ。アンナは何でも出来るからな」
「これも冗談だよ、ふふっ」
小突きながらジトリとした目で見る。するとアンナはどこからか取り出したチョコレートを口へと放り込んだ。一瞬だけ口の中に、細い指が当たる。その後ゆっくりと唇へ沿うように這わせながら目を細めた。シドはぼんやりとその瞳を見つめながらチョコレートを舐めて溶かす。ふわりと指が離された後、口を開いた。
「甘いな」
「当たり前。まぁ程々なタイミングで帰ってあげるんだよ?」
「毎回恒例だから周りは慣れてるさ」
「……あんまり社員を困らせちゃダメ」
「すぐどっかに行くアンナには負けるな」
アルフィノ達をあんまり困らせるなよと言ってやると、ニィと笑った。
「私は旅人が本業なので」
「お人好しとの間違いだろう」
「シドにだけは言われたくない。……でもあなたの理想的な夢を持ってそれを貫く姿は嫌いじゃないよ。だからさ」
ほらそろそろ戻ってあげなさいとアンナはシドの頭をぐしゃりと撫でる。シドはそうするかと肩をすくめた。
「あぁアンナ、今夜食事でもどうだ?」
「ん、覚えておく。ちゃんと終わらせてから来てね」
「勿論だ。じゃあな」
アンナは何も言わずに手を振り、歩き去って行く。シドも先程走った影響か熱い顔を冷ましながら会社へ戻ろうと反対方向へ走り去った。
「―――少しだけガーロンド社に行く頻度でも増やそうかな」
ちくりとした胸の痛みと小さなつぶやきは、アンナ本人も今はまだ気付いていない。
#シド光♀ #即興SS
"聞いて……感じて……考えて……"
グリダニアに降り立つ直前夢を見た。ふわふわと浮かぶ星空の世界の中、フウガの口癖とよく似た言葉が響く。暗闇の中、星が私に力を与える奇妙な白昼夢。
声を掛けられ、目が覚めると同乗者の旅商人。先程ボクが野党に襲われている所を助け、お礼としてちょうどグリダニア行のチョコボキャリッジに乗る所だったと連れて行ってくれた。
あの夢はエーテル酔い、だったのだろうか。
森の住人に話しかけられた。どうやら今は一緒に乗っていた双子と私にだけ見える存在らしい。奇妙な体験だなと苦笑した。どうやらそれに高じてイタズラ好きみたい。もしかしたらいつか仲良くお話しできるかも。
この商人はブレモンダという男らしい。冒険者なのかと聞かれた。本当は違うのだが―――まあこの辺りで動き回るなら都合がいい身分なのだろう。合わせておくことにした。
冒険者になった理由、つまり旅の発端ということだろうか。……力だ。旅をしながらこの圧倒的な力で人助けを行うのが今のボクの使命。戦いは気分が高揚するし、欲求不満の改善にもなる。
"英雄になったとしても、死んじまったら、墓石しか手に入らない"
いい言葉だと思った。名誉は興味ないが、何でもない旅人だって英雄だって死んでしまえば手に入るものは一緒。
言われた通りとりあえずグリダニアに着いたら冒険者登録をしよう。
『危ない!』
どこかから聞こえた声とボクの声が重なった。ブレモンダは驚いたような顔をした直後、矢が傍を掠り刺さった。
イクサル族。この辺りに生息するトカゲたちのようだ。グリダニアの人間と敵対しているらしい。助けに入るのも悪くはないが折角の街に入るチャンスを無下にしたくない。無事を祈り、その場をやり過ごした。
歴史に名を残したくないが、誰かに自慢される名も無き冒険者という存在になるのは悪くないかも。
◇
"故郷を懐かしみたいなら、エオルゼアのグリダニアへ行くがいい"
グリダニア。綺麗な森の中にある古都。どこか懐かしい、フウガの言う通りだ。故郷はもっと小さな里だったと思うけど、澄んだ空気がヴィエラの本能を刺激されたみたい。余所者に厳しいのも故郷と一緒だ。笑みがこぼれる。
とりあえず身分証明のために冒険者ギルドへ向かった。
ミューヌという不思議な雰囲気の女性に話しかける。この国についてのレクチャーを受けた。
野党やイクサル族という部族だけでなくあのガレマール帝国に悩まされているらしく、冒険者という仕事は意外と大変そうだ。
5年前の霊災というものの後処理がまだ終わってないらしい。あの時ボクは……ああ偶然カルテノーに辿り着いて人助けしたらグリダニア越えてラノシアに送ってもらっちゃったんだっけ。懐かしい。
あの時に見た、流れ星は未だに覚えている。世界が滅ぶ時ってこんな感じなのかもしれないな、としみじみした。それを何とかしたのが"光の戦士"たちという存在なのだろう。ボクには無縁の存在だから記憶の片隅に置いておこう。
街の人の話に耳を傾けながら歩き回っていると巨大なクリスタルの前に辿り着いた。そういえばリムサ・ロミンサにもあったな。興味なくてそのままにしてたっけ。転送魔法があるとは知らなかった。これで迷子になった時にここに帰って来れる、かもしれない。冒険者という身分は本当に便利なモノだ。
人助けはやはり楽しい。子供の心を開かせたり、物を運んだり魔物から剥ぎ取った素材を持って行ったりする。これからしばらくお世話になる街なのだ。信頼を稼ぐのも悪くはない。
だから槍を封印して、少しでも怪しくないヴィエラと見せなければ。"鮮血の赤兎"の噂がここまで来てなければいいんだけど。
弓術士ギルドに入門する。故郷やフウガの修行で人よりかは扱えるのだが、素直に人に教えを乞うという行為も戦術の一つだ。
『面倒だが初心にかえって修行も楽しもう。何かいいヒントが見つかるかも』
どこかから声が聞こえた。その通り。弱き人らの笑顔を引き出すための、冒険者という存在に擬態するため、しばらく弓の修行をしよう。
◇
"強き旅人として歩みたいのならどの武器も好き嫌いせず勉強せよ"
本職の方々によるとやはりボクの弓の扱いは隙が多いらしい。まあわざと初心者っぽく見せてるんだけど。何もかも完璧だと怪しまれてしまう。あくまでも新人の、人助けが趣味な冒険者として。
少しだけ未熟な冒険者の演技に慣れ始め、住人に頼られ始めた頃。バノック練兵所からの依頼で乱れたエーテルの先、切り株に刺された剣を見下していると女性に話しかけられた。
天真爛漫な女性は格闘士のようだ。その隣にはララフェルの呪術士だろうか、杖を背負い奇妙な装置を顔に付けた青年がいる。一瞬ボクの犯行かと疑われたが、一緒にやってきていた森の住人に誤解を解いてもらえた。その直後この森の怒りを見に受けることになる。
硬い樹木はこの森の精霊なのだろう。怒り狂って闇雲に襲い掛かるのは賢くない。いやあまり悪口はよろしくないだろう。
流石に精霊の急所は分からない。何とか矢を撃ち、2人と共にその怒りを鎮めた。
キョロキョロと見渡すと奇妙な石を見つけた。それに手を伸ばそうと瞬間、眩暈を覚え倒れてしまった。
"聞いて……感じて……考えて……"
奇妙な夢の声の主はハイデリンというらしい。星の意思、らしいがよく分からない。ボクには世界を救う力があるらしいが―――興味はない。ただ旅を続けるだけ。
後で教えてもらったが彼らはイダ、そしてパパリモというらしい。ボクの次に怪しそうな漫才師に見えたがどうやらえらく信用されているらしい。どこかでまた会えるかもしれないし、どちらかが欠けてしまうかもしれない。
◇
"森には精霊がいる。お主の故郷もそうだっただろう? そうか、知らぬか。……精霊へ感謝の意を示す儀式というものは重要な意味をはらんでいる。絶対に邪魔をしてはならぬ"
監獄跡にて。儀式に失敗してしまったらしい道士たちを助けるためにインプを払いのけ奥へと進む。そこにいたのは巨大なゴーレム。あっさりと倒し何やら気配を感じたが既にいなくなっていた。一瞬だけ仮面を被った魔道士が見えた。あれがゴーレムを召喚したのか。胸のざわめきがどこか既視感を覚える。
そこで再びイダとパパリモに出会う。博物学者、らしい。そこで眩暈が襲い掛かった。
―――記憶、だろうか。私が知る由もないはずの風景が、目に映った。
パパリモが何やら変なことを言っていたが、別に興味は湧いてこなかった。とりあえずボクが出来ることをやっていこう。
例えば―――弓の他のギルドに顔を出してみるとかね。この一件で道士という彼らの営みに興味を持った。
そうして人を癒やす力を持つ幻術士ギルドへボクは向かうことになる。
『やれることを増やして人助けの種類を増やすのも有りかもしれないねぇ。少しだけ耳を傾けようか』
ほら声もそう言っている。ふふっ、旅の知識を生かしてクラフターも有りかもね。
◇◆◇
―――何だあのエーテルは。ありえない。何故光の加護を受けた冒険者の魂に"あの男"のエーテルが纏わりついている。ありえない、絶対に許されない。
あのヴィエラだけは、存在してはならぬ!
◇◆◇
"自然は我らの味方。必ず大切にしなさい。円滑に旅を行うためにも、自然との対話は欠かしてはならぬ"
幻術士ギルドにて"土"と"風"についての教義を受けた。自然の力を借りて、それを癒やしの力とする。いい話だ。そしてシルフィーという少女の力の使い方は―――過去の自分を思い出す。力の行使に必要な自然エネルギーの力を借りず癒すということは。代わりに使っているのは己のエーテル。こればかりは痛い目を見ないと分からないだろう。だってボクがそうだったのだから。
もっと自然との対話というものについて知りたい。というわけで次は園芸師ギルドだ。何か異変があったらすぐに怒る森から資源を貰ってくるということは、道士と同じように自然に近しい存在なのだろう。
樹木の扱いに関しては全く分からないわけではない。しかしハチェットを担ぎこうやって森の中を走り回った経験はなかったので新鮮な体験だった。そして成果物は姉弟子シセリーの言う通り、裁縫に木工、調理にも生かされる。とりあえず木工師ギルドに顔を出してみよう。新しい弓を作り、調整できるようになりたいしね。
マスターのベアティヌはとても怪しいけれど、悪い人間ではない。楽しく学ばせていただこう。
そして自然というものに関して忘れてはいけないのは命への感謝だろう。革細工師ギルドに顔を出してみる。弓と同じく装備も自分の動きやすいものに調節したい。革細工はまあまあ出来る。昔狩猟した皮で衣服を見繕っていた頃がある。"あの男"に物凄く怒鳴られて以降は最低限の加工以外はやっていなかったが。エオルゼア一の革細工ブランドも持つギルドで教えを乞うことも悪くはない体験だ。
マスターのゲヴァは口は悪いが、腕は確かだ。褒める所は褒めてもらえるし修行には丁度いい。
自然への理解を深めるうちにやはり幻術士シルフィーは魔法が使えなくなった。原因は当然、自らの生命力切れ。才能があるからこそ起こった壁。同じことをやらかした先輩として何かアドバイスしようとも思ったが、こういうのは本人が気付いて反省してこその成長だ。数歩後ろで、見守ることにする。
◇
"我らが手に入れた力は誰かにとっては厄介なモノだろう。その言葉に怯えず、勇気を見せてやりなさい。"
チョコボの卵盗難事件の解決を手伝った。なんとモーグリが守ってくれていた。ただ気まぐれにふわふわしてる子達かと思いきやお人好しな所もあっていい子なんだね。ますます気に入った。
イクサル族の気になる動きを街の方に伝えるように頼まれる。そんな重要なこと旅人に任せちゃって大丈夫なの? 少し穏やかにするだけでこうやって仲間だと任命されるとはちょろいもんだ。
まさかそれがとある組織とのコネに繋がるとは誰も予想できなかっただろう。
イクサル族がグリダニアの民にとって重要な"長老の木"を狙った事件だ。どうやらこの聖地でクリスタルを精製し、侵略の足掛かりにするらしい。怪しげな術を使い、妖異を召喚し襲い掛かる。
ボクは人を癒やす幻術士として手助けをした。協力は勿論するけど―――現地の人間が頑張らないとね。ケアルで癒してやりながらボクは戦闘をこなした。
大きな妖異を倒し、神勇隊の人らを見送る。その時だった。背後から気配を察知する。振り向くとそこにはあの時の黒衣の男が佇んでいた。
エーテルの歪み。先程よりも圧倒的に力を感じられる妖異。ボクのことが邪魔らしい。―――舐められたもんだ。土と風の力を借り、立ち向かってやる。
毒だって? エスナで治療すればいい。風を纏わせ土塊をぶつける。大方妖異を吹っ飛ばし終わる頃、イダとパパリモが助太刀にやって来た。流石に幻術だけであの黒衣をぶちのめせるとは思っていなかったから丁度よかった。
彼らは天使い、アシエンというらしい。倒した筈だが手応えは感じられなかった。
不完全燃焼だったがグリダニアの住人には感謝された。なんと長のカ・ヌエ様にまで。大御霊祭りという精霊と人を繋ぐ儀式の主役になって欲しいらしい。あまり目立ちたくはないのだが……時々は悪くないかもしれない。
仮面を被り、そこで近頃聞いたハイデリンとやらに関わるもの、そして拾ったクリスタルのことを聞かされる。
ボクの許可も得ず"超える力"と呼ばれるものを抱えさせられたことを知った。嗚呼眩暈が、また何か妙なものを、見せられる。
―――赤い、星。ダラガブ、に黒き龍。一方的な殺戮。そういえばあの日もこの風景を見た。赤色の服の人たちを、助けたっけ。抱えて走って、いっぱいお礼を言われて。そしてエオルゼアにやってきた。
そうか私は過去を視ているんだ。これは、カ・ヌエ様の記憶を通した風景。ノイズも以前より減っている。慣れて来たのだろうか。いやそんな慣れは必要ない。
目が覚めると宿。案の定ぶっ倒れてしまったらしい。祭りの途中に申し訳ないことをした。
お詫びに行くとなんと国の代表として同盟国へ親書を持って行ってほしいのだという。―――ボクでいいのかい?
『それだけ"ボクたち"が求められているのさ。悪い話ではないだろう?』
あの声は別に嫌ではないらしい。ミューヌも自分のように喜んでくれた。
……まあ"約束"よりも先に飛空艇に乗ってしまうが、それも別に悪いものではないだろう。冒険者という身分としてもっと広い世界を見て回れるのが楽しみで仕方がない。
ねえ、キミは今どんな空を見ているのかな。大空へ運んでくれる白い少年クン?
その2へ
Wavebox
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