FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,ネタバレ有り
カテゴリ「ネタバレ有り」に属する投稿[35件](2ページ目)
旅人は強さを求める
注意
紅蓮LV64メインストーリーの自機。前半シド光♀、後半過去の片鱗が見える感じ
―――負けた。【鮮血の赤兎】なんて呼ばれていた頃から一度もなかった完膚なきまでのボロ負けを喫した。
戦った相手はゼノスと呼ばれる戦いに飢えた男。戦う事しか考えていなかった様はまさに獣と言ってもいい相手だった。一度目は自分を一瞥もせず斬り払い去って行った。次は刀は折ってやったがただのコレクション1本折っただけだ。ヤ・シュトラもリセも護れなかった。更に続けてユウギリらドマの民々と暗殺計画を実行するも失敗。これが今の自分が持てる実力の限界、という事なのだろう。
悔しかった。そして何よりも怖かったのだ。まるで過去の自分を見ているようで。寒空の夜で出会わなかった未来をゼノスで重ねてしまっていた。仲間たちには絶対見せないよう、抑えていた恐怖。リセが安心して眠っていた姿を見た途端にあふれ出し、体の震えが止まらない。勝つための手段はある。そう、【鮮血の赤兎】のごとく恨みを、怒りを刃に込め、目の前の敵全てを斬り捨ててしまえばいい。だが勝つためだけにまた自分も獣にならないとならないのか? 他に道があるはずだ。『命の恩人』が愛した地からガレマール帝国を追い払い、褒めてほしかったのが今回彼らに協力しようと決心したきっかけだったのだから。
不審がるアウラの少女シリナに対し「大丈夫。ちょっと席を外すね」と岩陰に座り込みリンクシェルが入った袋に手を伸ばす。アンナは特に誰かと連絡を取り合う予定がない時はリンクパールを袋にしまっている。理由は簡単で耳の付近に何かあるのが邪魔だと思っていたからだ。しかし今回は完全に無意識だった。袋を開いてみるとパールが弱弱しく光り鳴っている。リンクシェルを確認するとどうやら彼のようだ。ゆっくりと手を添えながらパールを耳に取り付け「もしもし」と呟いた。
『アンナ! よかった生きてたか』
「シドじゃん。どうしたの?」
『どうしたのじゃないだろう! 聞いたぞ。ゼノスに斬られたって』
「情報早い。……ああボロ負けしたよ」
ゼノスと同じガレアン族でありながら祖国に失望しエオルゼアへ亡命したシドだ。白色の髪に貯えたヒゲがなかなか決まっている。彼はどこからともなく自分がゼノスに深手を負われた情報を手に入れたのだろう。ずっと通信を試みていたようだ。実際はちゃんと戦える程度に回復してるしそんなに必死に連絡を試みようとしなくてもよかったのに。
「私はちゃんと生きてる。アイツは強さ以外に興味がないただの獣だった。雑魚には興味ないってさ」
『そうか……』
「大丈夫。死ぬならシドを巻き込まない、絶対届かない場所で死ぬから」
『冗談でもそういう事を言うのはやめてくれ』
やれやれ元気そうだな、と言う声が聞こえる。アンナはようやく少しだけ緊張がゆるんだようで笑みを浮かべる事が出来た。
「ねえシド」
『どうした?』
「もし、もしもの話」
アーマリーチェストに仕舞い込んだ未だ恐怖で平常時はあまり触りたくない槍を思い浮かべる。アレを持つとどうしても心がざわつき、自分のストレスを刃に乗せて斬り払ってしまう。それは幼い頃に命の恩人に教えてもらった必要以上に強い力だ。心強いが【鮮血の赤兎】だった自分を思い出し、手が震えてしまう。
「私がゼノスと同じ獣みたいな存在に堕ちてでも勝つ、と言ったら……どう思う?」
『アンナは負けないさ。獣になんてならない』
シドにとって愚問だったのだろう。即答が返ってくる。私は結構真剣に悩んでいるんだぞ、と言いたくなるが今回は飲み込もう。
『今までどんな困難にも打ち勝ってきただろう。負け慣れてないからって弱気になってたのか?』
「そんな事はない。いや確かに云十年での明確な初黒星だったけど」
『お前の言葉を借りるとゼノスは強さに身を任せた孤独な獣だな。だがお前は1人じゃない。暁やエオルゼア同盟、ドマ、アラミゴの奴らだってお前の味方だ。俺は……お前さえよければ装備の調整をやってやるさ。英雄である旅人のためなら協力は惜しまない。俺を、いや俺たちを信じて欲しい』
「……しょうがないなあ。あなたにそこまで言われるならもう少し模索する。刀を持つ相手には、刀で勝ちたい。ありがとう」
『―――絶対に生きて帰って来るんだ。アンナ』
嗚呼自分はこの言葉が聞きたかったから通信に応じたのだ。先程までの恐怖心はもう消えている。絶対に、皆の元に帰らなくては。
「もちろん。それがあなたの願いなら、ね?」
『何を言ってるんだ。ずっと想ってるさ』
まるで口説くような、いやこの人は絶対に無意識に出てきた言葉だろう。じゃあね、と言いながら通信を切った。
さあまずはゴウセツの所に行ってみよう。少しでも勝率を上げるため、『命の恩人』ならまずは修行だって絶対に言う筈。善は急げ、リンクパールを外し、再び袋に仕舞い込む。
嗚呼お前の言う通り生きながらえてやるよ、哀れな獣め―――
◇
「ゴウセツ、いた」
「アンナ殿ではないか。傷は大丈夫であるか?」
「平気。それよりゴウセツにお願いがある」
シドとの通話の後アンナはヒエンと訓練を行っていたゴウセツの元に走り寄り、握りしめた刀を差しだした。そしてゴウセツに深々と頭を下げ、口を開いた。
「本当に取り込み中ごめんなさいとは思っている。……ゴウセツ、私に稽古を付けてほしい。ゼノスに勝つために」
ヒエンとゴウセツの目が見開かれ、アンナを見つめている。「なにゆえじゃ? おぬしは刀に頼らぬとも十分に武芸の達人に見えるが」とゴウセツは何とか口を開く。
「刀を持つ相手には刀で相対したい。でも今の型にはまった動きでは絶対に、勝てない。少しでも勝率を上げるために協力してもらいたい」
「なかなか興味深い事を言うではないか。ゴウセツ、少々見てやったらどうだ」
「ヒエン様が仰るのであれば……。では場所を変えよう。ヒエン様は少々お休みに―――」
「いやわしも見学させてもらう。エオルゼアの英雄と呼ばれる者の戦い方も間近で見ておきたい」
「そんな……私は英雄じゃないよ。ただ困っていた人を助けただけの無名の旅人」
「無名……」
◇
アンナの刀を交えた時に稀に見せる目付き、そして無名の旅人という言葉、ゴウセツはそれに覚えがあった。このオサード地域で生まれ、エーテルを刀に纏わせどんなものも一閃で斬り捨てる伝説の剣士。―――そう呼ばれながらもある時を境に無名の旅人であろうとした人間。まさか、と思いながらも構え方を変える。
「アンナ殿はこちらの方が性に合っていると思われる」
彼女の目が見開かれる。ゴウセツはその表情で悟った。そうか、かつて病に伏せ年老いた戦友が言っていた唯一の、弟子。エオルゼアに旅へ出した槍を持った赤髪のヴィエラは、彼女の事だったのかと。憧れた者誰一人とも会得出来なかったモノを受け取った唯一の存在が今目の前でドマを救おうと奔走している。
『私はとんでもない罪を犯してしまったようだ。あの子以外、弟子を取らなくてよかったと思っている』
『龍殺しのリンドウとも呼ばれていた方がそのような事を言うのはやめてくだされ! ドマを守るためにもリンドウ殿の知恵を貸していただきとうございまする』
『ならぬ。私ももう長くはない。戦火が降りかからないこの終の棲家で、生涯を終えるのだ』
最後に彼と会ったのは帝国がオサード侵攻が始まった間もない頃。リンドウの身内が住む村から少し離れた山奥に終の棲家となる居を構えた。横に思い出と表現した絵画を飾った齢80を超え老け込んだ彼の弱弱しい姿は未だに覚えている。かつての戦友は何らかの罪悪感に苛まれ、話をしてから5年もせずに亡くなったと聞いた。ドマがガレマールに占領された3年後の出来事になる。誰よりも知識を持ち、誰よりも強く、誰よりも冷酷でありながら奥底に優しさと大義を持ち続けた男は何を知ってしまったのか。
「龍殺しリンドウの剣技、拙者が見たもののみでよければお教えしよう」
「お願い、します」
ゴウセツには戦友のようなエーテル操作は不可能だった。『ちょっとコツがある。感情をな、乗せるんだ』と言っていたが理屈は分かっても実行できるほど簡単なものではない。出来ぬと返せば『まあ言い換えればどんな刀も妖刀に変えてしまうようなものだ。簡単に会得されちゃ困る』と冗談を交じえながら言い切った。自分より一回り年上だったリンドウの表情は決して笑顔を見せなかった。しかし彼の普段の剣術位は覚えている。独特な刀の構え方で相手を翻弄し振り回す。もともと森で暮らすヴィエラである身軽なアンナには彼と同じ立ち回り方が動きやすいだろう。
ヒエンはずっと2人の修行風景を見守っていた。『龍殺しのリンドウ』という名は聞き覚えはあった。かつてドマを震え上がらせた【妖異退治の専門家】でありながら、何らかの出来事を境に名を捨て【無名の旅人】となった変わり者。とはいっても誰もが知る一種の英雄であったため完全に自称であったらしいが。その者が見せた剣術は他の武器を扱うが如く奇妙なものであったと聞く。どんな強さを見せるのかヒエンは期待のまなざしを見せている。頃合いを見たゴウセツは近くにいた魔物に向かって刀を振るってみろという。アンナはニィと笑いながらゴウセツが一度だけ見せた剣技を忠実に再現する。力が抜けた彼女の手から一瞬だけ光が見えた気がした。
―――次の瞬間真っ二つにされた哀れな獣が横たわっていた。
「ゴウセツ、フウガ知ってたんだ」
「遠い昔酒を飲み交わした方でござる。何度か妖異狩りの世話にもなった」
「わしも聞いた事はあるぞ。生まれておらんかった頃の話でほぼ御伽噺な存在じゃがのう」
「そっか」
アンナは満面の笑みを浮かべていた。先程の張りつめた緊張は無くなっているようだ。
心の中ではヒエンの生まれてなかった頃という言葉のとげが刺さって痛がっていたが。
「アンナ殿から見たリンドウはどんな存在じゃった?」
「―――成人前に会ったずっと背中を追いかけていたかっこいいヒゲのおじ様だよ。それだけ」
「先程そなたは謎が多いやつと聞いていたからのう、知れて嬉しいぞ」
「あー別に秘密にしてるわけじゃないんだけどね」
ヒエンはうそつけと言いながら小突いている。アンナは柔らかの笑みで「そうだ。フウガって最後どこに住んでた? ……お墓は?」とゴウセツに詰めかける。ゴウセツはたじろきながらが答える。
「このドマのどこかだったまでは覚えておるのじゃが―――おお赤誠組なら知っておるかもしれん。この戦いが終わったら聞いてみるとよい」
「お預けって事ね。了解。絶対ゼノスに勝つ」
ゴウセツはアンナに罪悪感を感じながら嘘をついた。本当は知っていたのだがリセから教えてもらっている極度な方向音痴の彼女を口伝だけで無事に届ける自信が存在しなかったのだ。
しかし宝石みたいな赤色の瞳に焔が宿ったように見える。図らずも彼女の情熱に火をつけたいたようだ。ゴウセツのわずかに張りつめた緊張が緩まっている。リンドウの年齢から考えると彼女の方がゴウセツよりも年上と察するものがあるが、うら若き弟子が増えたような感覚が生まれていた。それはかつて少女だった彼女と旅をしたリンドウも同じ気持ちだったのだろうと伺える。
「さあおぬし達ももう寝なさい。明日の試練に支障が出ては困りますがな」
「確かに。ゴウセツもしっかり休んで。本当にありがとう。あとリセ達には内緒で」
「はははエオルゼアの英雄殿は秘密を多く持ちたがる」
「そういうのじゃないさ。……まあ改めてよろしくね、ヒエン」
―――これはボクの精一杯のワガママにして恩返し。負けるわけにはいかないんだ。でも奥底に仕舞い込んだハズの感情が溢れ出すのを我慢して進み続けるのも、悪くない。
Wavebox
#シド光♀ #ゴウセツ #ヒエン #リンドウ関連
紅蓮LV64メインストーリーの自機。前半シド光♀、後半過去の片鱗が見える感じ
―――負けた。【鮮血の赤兎】なんて呼ばれていた頃から一度もなかった完膚なきまでのボロ負けを喫した。
戦った相手はゼノスと呼ばれる戦いに飢えた男。戦う事しか考えていなかった様はまさに獣と言ってもいい相手だった。一度目は自分を一瞥もせず斬り払い去って行った。次は刀は折ってやったがただのコレクション1本折っただけだ。ヤ・シュトラもリセも護れなかった。更に続けてユウギリらドマの民々と暗殺計画を実行するも失敗。これが今の自分が持てる実力の限界、という事なのだろう。
悔しかった。そして何よりも怖かったのだ。まるで過去の自分を見ているようで。寒空の夜で出会わなかった未来をゼノスで重ねてしまっていた。仲間たちには絶対見せないよう、抑えていた恐怖。リセが安心して眠っていた姿を見た途端にあふれ出し、体の震えが止まらない。勝つための手段はある。そう、【鮮血の赤兎】のごとく恨みを、怒りを刃に込め、目の前の敵全てを斬り捨ててしまえばいい。だが勝つためだけにまた自分も獣にならないとならないのか? 他に道があるはずだ。『命の恩人』が愛した地からガレマール帝国を追い払い、褒めてほしかったのが今回彼らに協力しようと決心したきっかけだったのだから。
不審がるアウラの少女シリナに対し「大丈夫。ちょっと席を外すね」と岩陰に座り込みリンクシェルが入った袋に手を伸ばす。アンナは特に誰かと連絡を取り合う予定がない時はリンクパールを袋にしまっている。理由は簡単で耳の付近に何かあるのが邪魔だと思っていたからだ。しかし今回は完全に無意識だった。袋を開いてみるとパールが弱弱しく光り鳴っている。リンクシェルを確認するとどうやら彼のようだ。ゆっくりと手を添えながらパールを耳に取り付け「もしもし」と呟いた。
『アンナ! よかった生きてたか』
「シドじゃん。どうしたの?」
『どうしたのじゃないだろう! 聞いたぞ。ゼノスに斬られたって』
「情報早い。……ああボロ負けしたよ」
ゼノスと同じガレアン族でありながら祖国に失望しエオルゼアへ亡命したシドだ。白色の髪に貯えたヒゲがなかなか決まっている。彼はどこからともなく自分がゼノスに深手を負われた情報を手に入れたのだろう。ずっと通信を試みていたようだ。実際はちゃんと戦える程度に回復してるしそんなに必死に連絡を試みようとしなくてもよかったのに。
「私はちゃんと生きてる。アイツは強さ以外に興味がないただの獣だった。雑魚には興味ないってさ」
『そうか……』
「大丈夫。死ぬならシドを巻き込まない、絶対届かない場所で死ぬから」
『冗談でもそういう事を言うのはやめてくれ』
やれやれ元気そうだな、と言う声が聞こえる。アンナはようやく少しだけ緊張がゆるんだようで笑みを浮かべる事が出来た。
「ねえシド」
『どうした?』
「もし、もしもの話」
アーマリーチェストに仕舞い込んだ未だ恐怖で平常時はあまり触りたくない槍を思い浮かべる。アレを持つとどうしても心がざわつき、自分のストレスを刃に乗せて斬り払ってしまう。それは幼い頃に命の恩人に教えてもらった必要以上に強い力だ。心強いが【鮮血の赤兎】だった自分を思い出し、手が震えてしまう。
「私がゼノスと同じ獣みたいな存在に堕ちてでも勝つ、と言ったら……どう思う?」
『アンナは負けないさ。獣になんてならない』
シドにとって愚問だったのだろう。即答が返ってくる。私は結構真剣に悩んでいるんだぞ、と言いたくなるが今回は飲み込もう。
『今までどんな困難にも打ち勝ってきただろう。負け慣れてないからって弱気になってたのか?』
「そんな事はない。いや確かに云十年での明確な初黒星だったけど」
『お前の言葉を借りるとゼノスは強さに身を任せた孤独な獣だな。だがお前は1人じゃない。暁やエオルゼア同盟、ドマ、アラミゴの奴らだってお前の味方だ。俺は……お前さえよければ装備の調整をやってやるさ。英雄である旅人のためなら協力は惜しまない。俺を、いや俺たちを信じて欲しい』
「……しょうがないなあ。あなたにそこまで言われるならもう少し模索する。刀を持つ相手には、刀で勝ちたい。ありがとう」
『―――絶対に生きて帰って来るんだ。アンナ』
嗚呼自分はこの言葉が聞きたかったから通信に応じたのだ。先程までの恐怖心はもう消えている。絶対に、皆の元に帰らなくては。
「もちろん。それがあなたの願いなら、ね?」
『何を言ってるんだ。ずっと想ってるさ』
まるで口説くような、いやこの人は絶対に無意識に出てきた言葉だろう。じゃあね、と言いながら通信を切った。
さあまずはゴウセツの所に行ってみよう。少しでも勝率を上げるため、『命の恩人』ならまずは修行だって絶対に言う筈。善は急げ、リンクパールを外し、再び袋に仕舞い込む。
嗚呼お前の言う通り生きながらえてやるよ、哀れな獣め―――
◇
「ゴウセツ、いた」
「アンナ殿ではないか。傷は大丈夫であるか?」
「平気。それよりゴウセツにお願いがある」
シドとの通話の後アンナはヒエンと訓練を行っていたゴウセツの元に走り寄り、握りしめた刀を差しだした。そしてゴウセツに深々と頭を下げ、口を開いた。
「本当に取り込み中ごめんなさいとは思っている。……ゴウセツ、私に稽古を付けてほしい。ゼノスに勝つために」
ヒエンとゴウセツの目が見開かれ、アンナを見つめている。「なにゆえじゃ? おぬしは刀に頼らぬとも十分に武芸の達人に見えるが」とゴウセツは何とか口を開く。
「刀を持つ相手には刀で相対したい。でも今の型にはまった動きでは絶対に、勝てない。少しでも勝率を上げるために協力してもらいたい」
「なかなか興味深い事を言うではないか。ゴウセツ、少々見てやったらどうだ」
「ヒエン様が仰るのであれば……。では場所を変えよう。ヒエン様は少々お休みに―――」
「いやわしも見学させてもらう。エオルゼアの英雄と呼ばれる者の戦い方も間近で見ておきたい」
「そんな……私は英雄じゃないよ。ただ困っていた人を助けただけの無名の旅人」
「無名……」
◇
アンナの刀を交えた時に稀に見せる目付き、そして無名の旅人という言葉、ゴウセツはそれに覚えがあった。このオサード地域で生まれ、エーテルを刀に纏わせどんなものも一閃で斬り捨てる伝説の剣士。―――そう呼ばれながらもある時を境に無名の旅人であろうとした人間。まさか、と思いながらも構え方を変える。
「アンナ殿はこちらの方が性に合っていると思われる」
彼女の目が見開かれる。ゴウセツはその表情で悟った。そうか、かつて病に伏せ年老いた戦友が言っていた唯一の、弟子。エオルゼアに旅へ出した槍を持った赤髪のヴィエラは、彼女の事だったのかと。憧れた者誰一人とも会得出来なかったモノを受け取った唯一の存在が今目の前でドマを救おうと奔走している。
『私はとんでもない罪を犯してしまったようだ。あの子以外、弟子を取らなくてよかったと思っている』
『龍殺しのリンドウとも呼ばれていた方がそのような事を言うのはやめてくだされ! ドマを守るためにもリンドウ殿の知恵を貸していただきとうございまする』
『ならぬ。私ももう長くはない。戦火が降りかからないこの終の棲家で、生涯を終えるのだ』
最後に彼と会ったのは帝国がオサード侵攻が始まった間もない頃。リンドウの身内が住む村から少し離れた山奥に終の棲家となる居を構えた。横に思い出と表現した絵画を飾った齢80を超え老け込んだ彼の弱弱しい姿は未だに覚えている。かつての戦友は何らかの罪悪感に苛まれ、話をしてから5年もせずに亡くなったと聞いた。ドマがガレマールに占領された3年後の出来事になる。誰よりも知識を持ち、誰よりも強く、誰よりも冷酷でありながら奥底に優しさと大義を持ち続けた男は何を知ってしまったのか。
「龍殺しリンドウの剣技、拙者が見たもののみでよければお教えしよう」
「お願い、します」
ゴウセツには戦友のようなエーテル操作は不可能だった。『ちょっとコツがある。感情をな、乗せるんだ』と言っていたが理屈は分かっても実行できるほど簡単なものではない。出来ぬと返せば『まあ言い換えればどんな刀も妖刀に変えてしまうようなものだ。簡単に会得されちゃ困る』と冗談を交じえながら言い切った。自分より一回り年上だったリンドウの表情は決して笑顔を見せなかった。しかし彼の普段の剣術位は覚えている。独特な刀の構え方で相手を翻弄し振り回す。もともと森で暮らすヴィエラである身軽なアンナには彼と同じ立ち回り方が動きやすいだろう。
ヒエンはずっと2人の修行風景を見守っていた。『龍殺しのリンドウ』という名は聞き覚えはあった。かつてドマを震え上がらせた【妖異退治の専門家】でありながら、何らかの出来事を境に名を捨て【無名の旅人】となった変わり者。とはいっても誰もが知る一種の英雄であったため完全に自称であったらしいが。その者が見せた剣術は他の武器を扱うが如く奇妙なものであったと聞く。どんな強さを見せるのかヒエンは期待のまなざしを見せている。頃合いを見たゴウセツは近くにいた魔物に向かって刀を振るってみろという。アンナはニィと笑いながらゴウセツが一度だけ見せた剣技を忠実に再現する。力が抜けた彼女の手から一瞬だけ光が見えた気がした。
―――次の瞬間真っ二つにされた哀れな獣が横たわっていた。
「ゴウセツ、フウガ知ってたんだ」
「遠い昔酒を飲み交わした方でござる。何度か妖異狩りの世話にもなった」
「わしも聞いた事はあるぞ。生まれておらんかった頃の話でほぼ御伽噺な存在じゃがのう」
「そっか」
アンナは満面の笑みを浮かべていた。先程の張りつめた緊張は無くなっているようだ。
心の中ではヒエンの生まれてなかった頃という言葉のとげが刺さって痛がっていたが。
「アンナ殿から見たリンドウはどんな存在じゃった?」
「―――成人前に会ったずっと背中を追いかけていたかっこいいヒゲのおじ様だよ。それだけ」
「先程そなたは謎が多いやつと聞いていたからのう、知れて嬉しいぞ」
「あー別に秘密にしてるわけじゃないんだけどね」
ヒエンはうそつけと言いながら小突いている。アンナは柔らかの笑みで「そうだ。フウガって最後どこに住んでた? ……お墓は?」とゴウセツに詰めかける。ゴウセツはたじろきながらが答える。
「このドマのどこかだったまでは覚えておるのじゃが―――おお赤誠組なら知っておるかもしれん。この戦いが終わったら聞いてみるとよい」
「お預けって事ね。了解。絶対ゼノスに勝つ」
ゴウセツはアンナに罪悪感を感じながら嘘をついた。本当は知っていたのだがリセから教えてもらっている極度な方向音痴の彼女を口伝だけで無事に届ける自信が存在しなかったのだ。
しかし宝石みたいな赤色の瞳に焔が宿ったように見える。図らずも彼女の情熱に火をつけたいたようだ。ゴウセツのわずかに張りつめた緊張が緩まっている。リンドウの年齢から考えると彼女の方がゴウセツよりも年上と察するものがあるが、うら若き弟子が増えたような感覚が生まれていた。それはかつて少女だった彼女と旅をしたリンドウも同じ気持ちだったのだろうと伺える。
「さあおぬし達ももう寝なさい。明日の試練に支障が出ては困りますがな」
「確かに。ゴウセツもしっかり休んで。本当にありがとう。あとリセ達には内緒で」
「はははエオルゼアの英雄殿は秘密を多く持ちたがる」
「そういうのじゃないさ。……まあ改めてよろしくね、ヒエン」
―――これはボクの精一杯のワガママにして恩返し。負けるわけにはいかないんだ。でも奥底に仕舞い込んだハズの感情が溢れ出すのを我慢して進み続けるのも、悪くない。
Wavebox
#シド光♀ #ゴウセツ #ヒエン #リンドウ関連
旅人は人に擬態する?
「人間ごっこは楽しいか?」
ならず者の頭から飛んできた言葉に私の目が反射的に少し見開かれたように感じた。
何度も言われた言葉だ、慣れてはいる。即いつもの笑顔に戻す。
そういえば最近同じような事を言われていた。相手は……そうだ、アシエン・エメトセルクだ。あの時彼は何と言っていたのだろうか。嗚呼思い出した。
◇
『あの頃に比べたら上手に人間みたいに振る舞えるようになったんだな。おい何照れてるんだ褒めてないぞ嗚呼厭だ厭だやはりお前は人間のフリをしたナニカだ』
彼が皇帝として存在していた頃、獣のごとく走り回っていた自分を『奥の手』として引き入れようとした。【鮮血の赤兎】なんて変な二つ名で呼ばれる少し前の話になる。
しかし今思うとそんな自分を『人間ごっこ』できるように多少の常識を叩きつけて来たのはこの胡散臭いお人よしなのだ。彼と死闘を繰り広げた後、少しだけ彼に対して冷静に考えられるようになった時にふと気が付いた。使用人経由で衣服を整えてくれたし、心が引き裂かれるように痛かったけど何かこびりついた憑き物を落としてくれた。あと恥ずかしいが自分は女に生まれたことを改めて一晩イヤミたっぷりに説教された。
以降さらしをキツく巻くことはなくなったし少しだけ今の自分に近付いたきっかけではあった。感謝するかと言われたらしたくないのが本音だが。
あの時から彼が見ていたのは私ではなく私の中にあるナニカなだけ。少し優しくされただけで一喜一憂するような便利なヒトにはなれなかった。
それでも【鮮血の赤兎】と呼ばれてた頃は人扱いされることはめったになかった。道を聞いても皆襲い掛かってくるから斬り倒した。稀に優しくしてくれて家に泊めてくれたりした人はいたけれど何かに怯えるような眼をしていた。怖いなら何で私に構うんだ、そう思いながら寝そべっていたのを覚えている。
あの時は私を鍛えてくれた命の恩人には申し訳ないが、強くなりすぎた事を何度も後悔した。だから私はただの旅人として生きていた『あの人』のように旅を続けるしかなかった。
時代が新たに歩き出したので【鮮血の赤兎】を殺した今、私の周りには人が集まるようになった。笑顔を浮かべ、不器用に振る舞いながらも慣れない武器を振り人助けをしてると何だか分からないが心が温かくなる。
あとエオルゼアに辿り着いてから『超える力』という加護が与えられた。以降私はハイデリンの加護を駆使しながら危なっかしい若者たちを手助けするようになる。あの寒空の夜約束を交わした少年も大きくなり私の前に現れたのも驚いた。本人は最近まで覚えてなかったみたいだがついに過去の事を認識したらしく、捕まってしまった。気楽な旅も悪くはないけど大切な人を守るために戦う生活もいいかもしれない。現在が一番楽しい時を過ごしている、そう思っていた。
―――そこに冒頭の言葉を投げつけられた。
「違う! アンナは優しい人間だ!」
「そうよ。あなたのようなやつと違うわ!」
仲間である銀髪の兄妹は私を庇うように立ち、叫ぶ。私の事を知ろうとする最初こそは面倒だったが今は守りたい子供たち。なるべくどす黒い所は見せたくない。私は首を横に振り、2人の感情を遮ろうと前に出る。
次の動きは一瞬だった。彼の首に届きそうな、ギリギリ傷付けない位置に刀を突き立て笑顔で言おう。
「そう見える? 悲しいな」
ふと男の顔を見るとこの世の絶望を見たかのごとく歪んでいた。
Wavebox
#即興SS
ならず者の頭から飛んできた言葉に私の目が反射的に少し見開かれたように感じた。
何度も言われた言葉だ、慣れてはいる。即いつもの笑顔に戻す。
そういえば最近同じような事を言われていた。相手は……そうだ、アシエン・エメトセルクだ。あの時彼は何と言っていたのだろうか。嗚呼思い出した。
◇
『あの頃に比べたら上手に人間みたいに振る舞えるようになったんだな。おい何照れてるんだ褒めてないぞ嗚呼厭だ厭だやはりお前は人間のフリをしたナニカだ』
彼が皇帝として存在していた頃、獣のごとく走り回っていた自分を『奥の手』として引き入れようとした。【鮮血の赤兎】なんて変な二つ名で呼ばれる少し前の話になる。
しかし今思うとそんな自分を『人間ごっこ』できるように多少の常識を叩きつけて来たのはこの胡散臭いお人よしなのだ。彼と死闘を繰り広げた後、少しだけ彼に対して冷静に考えられるようになった時にふと気が付いた。使用人経由で衣服を整えてくれたし、心が引き裂かれるように痛かったけど何かこびりついた憑き物を落としてくれた。あと恥ずかしいが自分は女に生まれたことを改めて一晩イヤミたっぷりに説教された。
以降さらしをキツく巻くことはなくなったし少しだけ今の自分に近付いたきっかけではあった。感謝するかと言われたらしたくないのが本音だが。
あの時から彼が見ていたのは私ではなく私の中にあるナニカなだけ。少し優しくされただけで一喜一憂するような便利なヒトにはなれなかった。
それでも【鮮血の赤兎】と呼ばれてた頃は人扱いされることはめったになかった。道を聞いても皆襲い掛かってくるから斬り倒した。稀に優しくしてくれて家に泊めてくれたりした人はいたけれど何かに怯えるような眼をしていた。怖いなら何で私に構うんだ、そう思いながら寝そべっていたのを覚えている。
あの時は私を鍛えてくれた命の恩人には申し訳ないが、強くなりすぎた事を何度も後悔した。だから私はただの旅人として生きていた『あの人』のように旅を続けるしかなかった。
時代が新たに歩き出したので【鮮血の赤兎】を殺した今、私の周りには人が集まるようになった。笑顔を浮かべ、不器用に振る舞いながらも慣れない武器を振り人助けをしてると何だか分からないが心が温かくなる。
あとエオルゼアに辿り着いてから『超える力』という加護が与えられた。以降私はハイデリンの加護を駆使しながら危なっかしい若者たちを手助けするようになる。あの寒空の夜約束を交わした少年も大きくなり私の前に現れたのも驚いた。本人は最近まで覚えてなかったみたいだがついに過去の事を認識したらしく、捕まってしまった。気楽な旅も悪くはないけど大切な人を守るために戦う生活もいいかもしれない。現在が一番楽しい時を過ごしている、そう思っていた。
―――そこに冒頭の言葉を投げつけられた。
「違う! アンナは優しい人間だ!」
「そうよ。あなたのようなやつと違うわ!」
仲間である銀髪の兄妹は私を庇うように立ち、叫ぶ。私の事を知ろうとする最初こそは面倒だったが今は守りたい子供たち。なるべくどす黒い所は見せたくない。私は首を横に振り、2人の感情を遮ろうと前に出る。
次の動きは一瞬だった。彼の首に届きそうな、ギリギリ傷付けない位置に刀を突き立て笑顔で言おう。
「そう見える? 悲しいな」
ふと男の顔を見るとこの世の絶望を見たかのごとく歪んでいた。
Wavebox
#即興SS
好奇心は旅人を起こす
注意
次元の狭間オメガ途中の話。シド少年時代捏造。
上級軍人になった頃、オレは新たに立ち入れるようになった軍の資料室で調べモノをしていたンだ。その時偶然『あの怪談』の真実へつなぐ一欠片を見つけてしまった。それが今につながるたァ思わねェよな? 英雄サンよォ―――
◇
「ネロ、面白い話して」
「何言ってンだ? この女ゴリラ」
「あなた、社の中では新人社員」
「だから英雄サマに面白い話を献上しろってかァ? コッチはオシゴト忙しいの」
「あき……新人クンとのコミュニケーションの一環」
今明らかに飽きたと言いかけたな、隣では『保護者』の社長サマが笑いをこらえている。ヤーンの大穴にて発生したオメガの検証。俺やガーロンド社の人間からしたら未知との遭遇であり目を輝かせるものなのだがこの各所で英雄と呼ばれるオンナ(?)にはあまり響かないものだったらしい。
いや物陰でガーロンドに見られないように何かやっているのは把握しているが。
英雄サマは俺を半ば強引に社員として引き入れた"会長代理サマ"とはまた違う女性として認識しにくい。それどころか人間と認識できるか曖昧なほどの強さを持つ。超える力なンて必要ないんじゃねェか? どうせ疑わしいものは全部ぶちのめしていくクセによと思うことは多々ある。ガーロンドや暁の人間がいないと誰も自分の領域に一切入れたがらない孤独な存在だは『知って』るさ。
ていうか何が新人社員とのコミュニケーションだ。そもそも元凶であるアンナは社員でもないやつだ。最初こそ大人しく人助けがシュミな奇妙なウサギかと思っていた。だが、ガーロンドの野郎に懐いて稀に奇行に走る変人だったと聞いたときは正直眩暈がした。社員として招き入れられたからにはいつかこっちに余波が飛んでくると思っていたがまさか今だとは予想外だ。
つーかビッグスとウェッジが倒れた後のくせに呑気すぎる。いやもしかしたらそういう雰囲気にしないと耐えられンないと判断でもされたか? そりゃまた余裕あンな。
しかし事の元凶からの期待するかのような視線が痛い。癪だが従ってやる。この退屈を嫌うヤツが気に入りそうな話はあっただろうか。ウサギ……赤……そういえば昔聞いた話があった。戦い好きにはちょうどいい話でもあるだろう。
「英雄サマに気に入ってもらえるか分かんねェが……今は暑いし新人兵時代に聞いた怪談にすっか」
「お前がそういう話持ってるとは珍しいじゃないか」
「お前なァ……」
次はガーロンド側がうるさい。俺が何したっていうんだ。まァいろいろあったか。記憶を頼りにイイ感じの話にしてやろう。
「昔帝国に奇妙なやつが現れてな」
「私が見た帝国の人皆変だった」
「否定はしねェが大人しく聞いてろ。まあソレは突然帝国領内に現れたそうだ。深々と血塗れのマントを被った戦士だってンだ。面白ェだろ?」
「……え?」
長い耳がピクリと動く。そして少しだけ顔が青い気がする。もしかして怖い話は苦手だったのか? いやそれだったら最初から拒否するか。珍しくスキを見せやがったので少し嬉しくなったもンだから追撃してやる。
「『ここはどこだ、出口はどこだ』と低い声で呻きながら兵士に近付く。無論その場にいた奴らからしたら侵入者だ。捕らえようと動くが手に持った槍であっという間に一網打尽にされたそうな」
「へぇ」
「倒した後ポーションぶっかけて去るんだよ」
「はあ?」
「そしてその名前は」
そういえば不在だがビッグズとウェッジも入隊はしていた事を思い出した。じゃあアイツらも知っているかもしれない。ガーロンドといえばきょとんとした顔でオレを見ている。まァおぼっちゃまにまでは届かなかった血生臭い話だろう。あとさっきから奇声を上げているウサギも見ていて少しだけ面白い。
「鮮血の赤兎」
当の元凶を見ると顔色が真っ青というかいつにも増して様子がおかしい。
◇
「英雄サマはコワイ話は苦手だったかァ? 戦う相手はしっかり選べっていう教訓話だったンだぜ?」と声をかけてやるとビクリと体が跳ね俺を一瞬だけ睨みつけた。その刹那が怖かった。蛇に睨まれた蛙の気持ちが今ならわかる。殺される、本能が警笛を鳴らし喉がひゅっと鳴る音が聞こえた。しかし即座に普段の穏やかな表情を見せると回れ右をし、出口へ走り出した。
「おいアンナどこに」
「う〇ち!」
「仮にも女だろ少しはぼやかす表現しろ!」
「じゃあお花摘み!」
ガーロンドの問いかけに対し遠慮なく言いやがったなコイツ。以前チラッとこのムカつく男からあまりデリカシーというか恥じらいが存在せず男友達みたいで楽しいと聞いた。そうかもしれないが大の大人であるこっちが恥ずかしくなるような事も言うのは少し人としてはどうかと思うがそれはいい。
俺は本能で理解した。特大の地雷を踏んだのだ。面倒くさい。だがどの部分で踏み抜いたンだ?
「しかし不思議なんだが」
アンナが外出した後ガーロンドが何やらブツブツ言っている。
「深くマントを被ったって話なのに何で兎って単語が付いたんだ?」
「そりゃ顔見た勇気あるやつがいたンだろ? ヴィエラなンて俺らの故郷じゃ珍しいし記憶に残ってたンじゃないの」
「それもそうか。……実話なのか?」
ガーロンドは俺の襟を掴み体を揺らす。珍しくスゲェ必死な感じが伝わるが力任せで痛いので強引に払いのける。
「アァ、マジらしいぜ? 真っ赤な髪の返り血が良く似合う性別不明なヴィエラだったってよ」
「会ったことがあるんだ。赤髪赤目で帝国の外への道を聞いてきた不思議なヴィエラの旅人だった」
「ア?」
話を聞くとこうだ。魔導院に入学する直前に偶然夜外に出ると国内で行き倒れかけてたヴィエラがいた。温かい食べ物を渡し出口を教えると走り去ってしまったと。いろいろありすぎて忘れていたが自分が飛空艇に憧れを強めたきっかけでいつか再会できたら大空を案内すると約束したとか。なンという淡い初恋みたいな話。最近グリダニアで会えたとかよくこンな状況で話せンな。
「入学前の頃って事は20年程度前か? 遥か昔にあった騒動が元ネタらしいから違うヤツじゃねェの」
「そうか……ならよかった」
よかったって何言ってンだコイツ。しかし20年程度前? どこか昔の記憶が引っかかる。思い出した、流し読みで終わったアレの記録だ。いざ蓋を開いたらただの過去の不祥事をごまかしたくだらない種明かしだとため息を吐いた『報告書』。そこから俺は頭の中でパズルのピースが嵌め込まれていく感覚を味わった。
◇
外の空気を吸ってくるとロビーから出ると道にはモンスターの死骸が落ちている。恐ろしいほどに分かりやすい感情だ。情景をたどるとそこには血に塗れた槍を持った英雄サマが眉間にしわを寄せ空を見上げていた。
「トイレはいいのか? 英雄サマ……いや『鮮血の赤兎』さんよォ」
俺の軽口に先程見せたクァールもぶッ倒れそうな位細く睨みつけた目を向ける。
「怖い怖い、そのキレイな顔が台無しだぜ?」
「ネロ、サン」
その目は一瞬だった。次にウサギは引きつった笑顔でこう言い放ちやがった。
「"私"、武器振り回した後ポーションはまとめて渡したけど一々ぶっかけた記憶はない。それよりさ、仲良クシマセンカ?」
どうやら地雷、怒りではなくバレた事に対しての怯えの方が大きかったらしい。先程の緊張は何だったのか、ため息を吐く。
あとさりげなく重要なことを言っている。詳しく聞きたかったが先に彼女の質問攻めが始まった。帝国兵だけが知っている話なのか、悪用してやらかしたヴィエラはいないのか、他に変な逸話は出来ていないか。適当に返してやるとアゴに指を添えふむと考え込んでいた。
「勿体ないがやはり帝国消滅……」
「おっかねェこと言うな。ッたくおたくの仲間らに過去の事は?」
「聞かれてないし。そりゃ言っておいた方がいいだろうけどここ最近タイミング悪い」
「そうだな。まァちょっと過去に繋がる話出来るだけでこンな挙動不審になるお前が話せるわけないよなァ?」
「……そもそも何で"私"って分かった?」
オマエの反応があからさますぎたから、と言えば簡単なンだが今まで隠していた情報を出してやる。
「赤髪だったのを見てたンだよなァ」
「……はああああ!?」
期待通りの驚愕する叫び声に笑いを堪えられない。ゲラゲラ笑いながら追撃する。
「前言ったよな? 俺はお前がエオルゼアに来てからずっと見てたってよ」
「いやそれは蛮神殺しやらで監視してたとかそういうやつじゃ」
「バーカ、当時話もしたンだが英雄サマには歯にもかけられない存在だったかァ。悲しいなァ」
「あ、いやそういうのはいい……あっラノシアのあれか? まああれだよなあ」
「ヒヒッ、過去より今が大事なンだろ? ッたくマジかよ……」
「? 何か?」
「こっちの話だ気にすンな。ほら帰ンぞ。保護者心配してンじゃねえか?」
「別にシドは保護者じゃない。―――いや現状の"あの子"を考えるとそうかも?」
俺があの時読んでしまった『報告書』。それはとある部隊が初代皇帝陛下へ報告するためのモノだ。持ち出し不可の書架に置かれた軽く50年を超える記録。帝国占領地内を移動するバケモノの行動が記されていた。当時の俺には全く理解できず。それに加えただの不祥事から作られた創作なンて事実にガッカリした。
しかしこれがもしソル帝が対象のヴィエラが女だったと知ってたらトンデモなく下らねェ理由で創設された部隊になる。
そして幾らか前、再び帝国内に招き入れたが潜伏され帝国領外へ走り去ったなンて記述も記憶にあった。それがもしシド・ガーロンドがやらかした事だったとしたら。そして助けた少年がアレだとアンナ・サリスも気付いていたとしたら。なぜ無名の旅人だと言ってるくせにエオルゼアから出て行かずここにいるのかに対しての見方も変わるじゃねェか。
「なあガーロンドに」
「"ボク"がいつかちゃんと言うから"この子"のために絶ッッッ対に言うな」
「おーコワイコワイそれがお前の本性か。つーか苦しいから離せ」
胸倉を掴み上げられ舌打ちされた。無駄に背が高くてウサ耳褐色肌で一人称ボクの女の見た目をした顔のいいヤツと人によったら大好物かもしれない。中身を見るとトンデモ戦闘兵器なンだが。しかし先程から様子がどこかおかしい。妙に自分に対して他人事だ。ふと我に返ったのか手を放しオレの服を整えながら「アーゴメン」と謝る。俺はため息を吐きながら女の手を軽く振り払った。
「言う気はねェよ。お前の反応をしばらく見てるのも楽しそうだしナァ」
「むー……そう言ってくれると思ってた。キミの本質は"ボク"と変わらなさそうだし」
「女ゴリラと? バカいうんじゃねェよ」
「そうかな? "ボク"みたいに一匹狼でいる方が好きで1人でバカみたいに分厚い仮面を被っている。ほら一緒」
「何が一緒だお前はどっちかっつーとガーロンドと同じお人好し厄介ゴリラバカなンだわ」
「ケケッ"ボク"分かってるんだよ。オメガ片付いたら逃げる気だろう? 黙っててくれるなら"ボク"も内緒にするよ?」
「その秘密と割に合うと思ってるオマエがすげェわ」
目を丸くしている。そして次第にくくくと笑い、いつの間にかオレら2人で大爆笑していた。そしてふと前にガーロンドが言っていた彼女への評価を思い出した。
「男友達みたいで面白い、か」
「ネロサン何か言った?」
「ンでもねェ。つーかさん付け気持ち悪ぃわ」
「いやあ仲良くしましょうぜ、へへ肩でもお揉みしますよダンナァ」
「肩が粉砕されるからいらねェ。くっそ人の過去なんて気軽に暴くもンじゃねェな」
エントランスへ戻る途中、揉み手しながら俺の2歩程後ろを歩く英雄サマはどう考えても気持ち悪すぎる。これはガーロンドの元に戻るまで続き、オメガに対峙するよりも遥かに疲れがたまってしまった。一緒に戻ってくるなり仮眠を取ると決めた俺の顔と満面の笑顔なのだろう後ろの英雄サマを見た時のヤツの反応を見る前にオレは固い床に寝転ぶのであった。クエッと鳴き声がオレの頭上から聞こえる。そのまま掴み引き入れて今後を考えながら意識を底に沈めるのであった―――。
Wavebox
#シド #ネロ #ギャグ
次元の狭間オメガ途中の話。シド少年時代捏造。
上級軍人になった頃、オレは新たに立ち入れるようになった軍の資料室で調べモノをしていたンだ。その時偶然『あの怪談』の真実へつなぐ一欠片を見つけてしまった。それが今につながるたァ思わねェよな? 英雄サンよォ―――
◇
「ネロ、面白い話して」
「何言ってンだ? この女ゴリラ」
「あなた、社の中では新人社員」
「だから英雄サマに面白い話を献上しろってかァ? コッチはオシゴト忙しいの」
「あき……新人クンとのコミュニケーションの一環」
今明らかに飽きたと言いかけたな、隣では『保護者』の社長サマが笑いをこらえている。ヤーンの大穴にて発生したオメガの検証。俺やガーロンド社の人間からしたら未知との遭遇であり目を輝かせるものなのだがこの各所で英雄と呼ばれるオンナ(?)にはあまり響かないものだったらしい。
いや物陰でガーロンドに見られないように何かやっているのは把握しているが。
英雄サマは俺を半ば強引に社員として引き入れた"会長代理サマ"とはまた違う女性として認識しにくい。それどころか人間と認識できるか曖昧なほどの強さを持つ。超える力なンて必要ないんじゃねェか? どうせ疑わしいものは全部ぶちのめしていくクセによと思うことは多々ある。ガーロンドや暁の人間がいないと誰も自分の領域に一切入れたがらない孤独な存在だは『知って』るさ。
ていうか何が新人社員とのコミュニケーションだ。そもそも元凶であるアンナは社員でもないやつだ。最初こそ大人しく人助けがシュミな奇妙なウサギかと思っていた。だが、ガーロンドの野郎に懐いて稀に奇行に走る変人だったと聞いたときは正直眩暈がした。社員として招き入れられたからにはいつかこっちに余波が飛んでくると思っていたがまさか今だとは予想外だ。
つーかビッグスとウェッジが倒れた後のくせに呑気すぎる。いやもしかしたらそういう雰囲気にしないと耐えられンないと判断でもされたか? そりゃまた余裕あンな。
しかし事の元凶からの期待するかのような視線が痛い。癪だが従ってやる。この退屈を嫌うヤツが気に入りそうな話はあっただろうか。ウサギ……赤……そういえば昔聞いた話があった。戦い好きにはちょうどいい話でもあるだろう。
「英雄サマに気に入ってもらえるか分かんねェが……今は暑いし新人兵時代に聞いた怪談にすっか」
「お前がそういう話持ってるとは珍しいじゃないか」
「お前なァ……」
次はガーロンド側がうるさい。俺が何したっていうんだ。まァいろいろあったか。記憶を頼りにイイ感じの話にしてやろう。
「昔帝国に奇妙なやつが現れてな」
「私が見た帝国の人皆変だった」
「否定はしねェが大人しく聞いてろ。まあソレは突然帝国領内に現れたそうだ。深々と血塗れのマントを被った戦士だってンだ。面白ェだろ?」
「……え?」
長い耳がピクリと動く。そして少しだけ顔が青い気がする。もしかして怖い話は苦手だったのか? いやそれだったら最初から拒否するか。珍しくスキを見せやがったので少し嬉しくなったもンだから追撃してやる。
「『ここはどこだ、出口はどこだ』と低い声で呻きながら兵士に近付く。無論その場にいた奴らからしたら侵入者だ。捕らえようと動くが手に持った槍であっという間に一網打尽にされたそうな」
「へぇ」
「倒した後ポーションぶっかけて去るんだよ」
「はあ?」
「そしてその名前は」
そういえば不在だがビッグズとウェッジも入隊はしていた事を思い出した。じゃあアイツらも知っているかもしれない。ガーロンドといえばきょとんとした顔でオレを見ている。まァおぼっちゃまにまでは届かなかった血生臭い話だろう。あとさっきから奇声を上げているウサギも見ていて少しだけ面白い。
「鮮血の赤兎」
当の元凶を見ると顔色が真っ青というかいつにも増して様子がおかしい。
◇
「英雄サマはコワイ話は苦手だったかァ? 戦う相手はしっかり選べっていう教訓話だったンだぜ?」と声をかけてやるとビクリと体が跳ね俺を一瞬だけ睨みつけた。その刹那が怖かった。蛇に睨まれた蛙の気持ちが今ならわかる。殺される、本能が警笛を鳴らし喉がひゅっと鳴る音が聞こえた。しかし即座に普段の穏やかな表情を見せると回れ右をし、出口へ走り出した。
「おいアンナどこに」
「う〇ち!」
「仮にも女だろ少しはぼやかす表現しろ!」
「じゃあお花摘み!」
ガーロンドの問いかけに対し遠慮なく言いやがったなコイツ。以前チラッとこのムカつく男からあまりデリカシーというか恥じらいが存在せず男友達みたいで楽しいと聞いた。そうかもしれないが大の大人であるこっちが恥ずかしくなるような事も言うのは少し人としてはどうかと思うがそれはいい。
俺は本能で理解した。特大の地雷を踏んだのだ。面倒くさい。だがどの部分で踏み抜いたンだ?
「しかし不思議なんだが」
アンナが外出した後ガーロンドが何やらブツブツ言っている。
「深くマントを被ったって話なのに何で兎って単語が付いたんだ?」
「そりゃ顔見た勇気あるやつがいたンだろ? ヴィエラなンて俺らの故郷じゃ珍しいし記憶に残ってたンじゃないの」
「それもそうか。……実話なのか?」
ガーロンドは俺の襟を掴み体を揺らす。珍しくスゲェ必死な感じが伝わるが力任せで痛いので強引に払いのける。
「アァ、マジらしいぜ? 真っ赤な髪の返り血が良く似合う性別不明なヴィエラだったってよ」
「会ったことがあるんだ。赤髪赤目で帝国の外への道を聞いてきた不思議なヴィエラの旅人だった」
「ア?」
話を聞くとこうだ。魔導院に入学する直前に偶然夜外に出ると国内で行き倒れかけてたヴィエラがいた。温かい食べ物を渡し出口を教えると走り去ってしまったと。いろいろありすぎて忘れていたが自分が飛空艇に憧れを強めたきっかけでいつか再会できたら大空を案内すると約束したとか。なンという淡い初恋みたいな話。最近グリダニアで会えたとかよくこンな状況で話せンな。
「入学前の頃って事は20年程度前か? 遥か昔にあった騒動が元ネタらしいから違うヤツじゃねェの」
「そうか……ならよかった」
よかったって何言ってンだコイツ。しかし20年程度前? どこか昔の記憶が引っかかる。思い出した、流し読みで終わったアレの記録だ。いざ蓋を開いたらただの過去の不祥事をごまかしたくだらない種明かしだとため息を吐いた『報告書』。そこから俺は頭の中でパズルのピースが嵌め込まれていく感覚を味わった。
◇
外の空気を吸ってくるとロビーから出ると道にはモンスターの死骸が落ちている。恐ろしいほどに分かりやすい感情だ。情景をたどるとそこには血に塗れた槍を持った英雄サマが眉間にしわを寄せ空を見上げていた。
「トイレはいいのか? 英雄サマ……いや『鮮血の赤兎』さんよォ」
俺の軽口に先程見せたクァールもぶッ倒れそうな位細く睨みつけた目を向ける。
「怖い怖い、そのキレイな顔が台無しだぜ?」
「ネロ、サン」
その目は一瞬だった。次にウサギは引きつった笑顔でこう言い放ちやがった。
「"私"、武器振り回した後ポーションはまとめて渡したけど一々ぶっかけた記憶はない。それよりさ、仲良クシマセンカ?」
どうやら地雷、怒りではなくバレた事に対しての怯えの方が大きかったらしい。先程の緊張は何だったのか、ため息を吐く。
あとさりげなく重要なことを言っている。詳しく聞きたかったが先に彼女の質問攻めが始まった。帝国兵だけが知っている話なのか、悪用してやらかしたヴィエラはいないのか、他に変な逸話は出来ていないか。適当に返してやるとアゴに指を添えふむと考え込んでいた。
「勿体ないがやはり帝国消滅……」
「おっかねェこと言うな。ッたくおたくの仲間らに過去の事は?」
「聞かれてないし。そりゃ言っておいた方がいいだろうけどここ最近タイミング悪い」
「そうだな。まァちょっと過去に繋がる話出来るだけでこンな挙動不審になるお前が話せるわけないよなァ?」
「……そもそも何で"私"って分かった?」
オマエの反応があからさますぎたから、と言えば簡単なンだが今まで隠していた情報を出してやる。
「赤髪だったのを見てたンだよなァ」
「……はああああ!?」
期待通りの驚愕する叫び声に笑いを堪えられない。ゲラゲラ笑いながら追撃する。
「前言ったよな? 俺はお前がエオルゼアに来てからずっと見てたってよ」
「いやそれは蛮神殺しやらで監視してたとかそういうやつじゃ」
「バーカ、当時話もしたンだが英雄サマには歯にもかけられない存在だったかァ。悲しいなァ」
「あ、いやそういうのはいい……あっラノシアのあれか? まああれだよなあ」
「ヒヒッ、過去より今が大事なンだろ? ッたくマジかよ……」
「? 何か?」
「こっちの話だ気にすンな。ほら帰ンぞ。保護者心配してンじゃねえか?」
「別にシドは保護者じゃない。―――いや現状の"あの子"を考えるとそうかも?」
俺があの時読んでしまった『報告書』。それはとある部隊が初代皇帝陛下へ報告するためのモノだ。持ち出し不可の書架に置かれた軽く50年を超える記録。帝国占領地内を移動するバケモノの行動が記されていた。当時の俺には全く理解できず。それに加えただの不祥事から作られた創作なンて事実にガッカリした。
しかしこれがもしソル帝が対象のヴィエラが女だったと知ってたらトンデモなく下らねェ理由で創設された部隊になる。
そして幾らか前、再び帝国内に招き入れたが潜伏され帝国領外へ走り去ったなンて記述も記憶にあった。それがもしシド・ガーロンドがやらかした事だったとしたら。そして助けた少年がアレだとアンナ・サリスも気付いていたとしたら。なぜ無名の旅人だと言ってるくせにエオルゼアから出て行かずここにいるのかに対しての見方も変わるじゃねェか。
「なあガーロンドに」
「"ボク"がいつかちゃんと言うから"この子"のために絶ッッッ対に言うな」
「おーコワイコワイそれがお前の本性か。つーか苦しいから離せ」
胸倉を掴み上げられ舌打ちされた。無駄に背が高くてウサ耳褐色肌で一人称ボクの女の見た目をした顔のいいヤツと人によったら大好物かもしれない。中身を見るとトンデモ戦闘兵器なンだが。しかし先程から様子がどこかおかしい。妙に自分に対して他人事だ。ふと我に返ったのか手を放しオレの服を整えながら「アーゴメン」と謝る。俺はため息を吐きながら女の手を軽く振り払った。
「言う気はねェよ。お前の反応をしばらく見てるのも楽しそうだしナァ」
「むー……そう言ってくれると思ってた。キミの本質は"ボク"と変わらなさそうだし」
「女ゴリラと? バカいうんじゃねェよ」
「そうかな? "ボク"みたいに一匹狼でいる方が好きで1人でバカみたいに分厚い仮面を被っている。ほら一緒」
「何が一緒だお前はどっちかっつーとガーロンドと同じお人好し厄介ゴリラバカなンだわ」
「ケケッ"ボク"分かってるんだよ。オメガ片付いたら逃げる気だろう? 黙っててくれるなら"ボク"も内緒にするよ?」
「その秘密と割に合うと思ってるオマエがすげェわ」
目を丸くしている。そして次第にくくくと笑い、いつの間にかオレら2人で大爆笑していた。そしてふと前にガーロンドが言っていた彼女への評価を思い出した。
「男友達みたいで面白い、か」
「ネロサン何か言った?」
「ンでもねェ。つーかさん付け気持ち悪ぃわ」
「いやあ仲良くしましょうぜ、へへ肩でもお揉みしますよダンナァ」
「肩が粉砕されるからいらねェ。くっそ人の過去なんて気軽に暴くもンじゃねェな」
エントランスへ戻る途中、揉み手しながら俺の2歩程後ろを歩く英雄サマはどう考えても気持ち悪すぎる。これはガーロンドの元に戻るまで続き、オメガに対峙するよりも遥かに疲れがたまってしまった。一緒に戻ってくるなり仮眠を取ると決めた俺の顔と満面の笑顔なのだろう後ろの英雄サマを見た時のヤツの反応を見る前にオレは固い床に寝転ぶのであった。クエッと鳴き声がオレの頭上から聞こえる。そのまま掴み引き入れて今後を考えながら意識を底に沈めるのであった―――。
Wavebox
#シド #ネロ #ギャグ
キャラ設定(暁月までネタバレ有り)
注意
過去
現在
- 独自設定盛り
- 暁月までネタバレ有り
- 全体的にギャグ概念
- 本編と矛盾見つけたらしれっと変える時があります
- シド光♀、エメ→アゼ♀前提です
過去
- 何も考えずに里を飛び出して行き倒れかけていた際、『旅人として生きる』恩人である侍に出会う。そこでの経験・教えは守っており、助けを求めてきた人間は名前も名乗らず助けてきた。ヴィエラに対する知識があった彼から「故郷に帰りたくないというならばグリダニアと呼ばれる場所が貴様の住んでいた森と似ていると思われる。行ってきなさい」というアドバイスが旅の始まりでもある。
- 侍の名前は『リンドウ・フウガ』。当時48歳なヒゲがとっても似合うおじ様(アンナ談)。
- アンナと別れた後もひんがしの国各地を人助けする旅をしており、享年89歳。終の棲家としていた場所に墓が建てられ、子孫が管理しているという。当初リンドウからはエルダスと呼ばれ、アンナはフウガとお互い名前ではなく苗字で呼び合っていた。叶わぬ初恋であった。
- 帝国には二度立ち入ったことがある。一度目はソル帝が若い頃、二度目はシドが魔導院に入学する直前
- 一度目の帝国に訪れた際、女子力どころか蛮族のようなレベルだった。フードを深く被り声も低く弓を引くために邪魔な胸にサラシを巻いているためぱっと見性別を見分けるのは困難。しかし魂がエーテルと共に恨みを吸収しまくっていたため闇へと変質しかけていた。彼は魂から亡霊共を切り離し、自分のエーテルで補わせながらも魂を変質させないようコーティング加工するそして既に刻まれていた杭に目印を混ぜ込んだ。
- この時は『ガーネット』と名乗った。街の名を場所によって変えていたため。無名の旅人だから名乗りたくないなあと思っていた。
- かつて自分が女性として生まれていたことに対して一種の困惑とそれに加えて方向音痴を極めすぎてしまうように産み落とした神に対する怒りを感じており、表には出ていなかったが心のどこかに一種の残虐性も生まれていた。現在も神は信じていないので里には帰れないと思っている。
- リンドウが死ぬ数年前、実はエメトセルクが彼の元を訪ねている。彼女の現状、そして駒として育ててくれたことに感謝の意思を示す。(その時は捕まえられると思っていた)
- それを聞いたリンドウは後悔し老け込んでいく。その時の彼は知らなかったが、ガレマール帝国で伝説の侍として演劇化、冒険小説化される事になる。
- アシエンの手駒にされたくなかったリンドウは友人のア・リスに遺言として『どんな手を使ってもいい、あの子が自由に生きられるように手を回してくれ』と託す。ア・リスは自分とリンドウの魂を対価にアンナに最期の"術"を施した。
- 二度目の帝国来訪はいい加減霊災へ誘導させるための手札に加えたいと思った彼によって誘導されたものだったが、偶然通りかかった幼い頃のシドによって阻止されてしまった。密かにずっとそれを感謝している。
- リンドウが編み出した奥義、彼は【気迫】と呼ぶもの。それはデュナミスを刀に乗せ全てを一閃する必殺技。火事場の馬鹿力の具現化ともいう。大切な人を想うと青白く光り、怒り恨みを込めると赤黒く光る。
- かつて一度その力を無理やり"再現"したアンナは体内エーテルを全て消費しかけ、死にかけた。その時に大地のエーテルや斬られた者や人のエーテルを吸収し還元する装置を右腕に施される。
- 死んだように見せたのはエオルゼアはあの謎の光は霊災と呼ばれるものらしいという話を聞いたのと偶然商人が売っていたヴィエラの初期衣装を見て懐かしい、これなら新たな自分の人生を歩めるんじゃないかと思ったため。髪色はそのままだったが容姿を少々整え口調を封印するために言葉を減らし率先して人助けをするようになった。槍を持つとちょっと心がざわつく為狩りのために使っていた弓を持つようになった。
現在
- という事があったのだが本人は別に隠すつもりはない。聞かれたら答えたかったが、帝国との戦い、ドマ解放、アラミゴ解放とその時に言うと話がややこしくなると判断して何も話さなかっただけである。
- あくまでも昔の話だし迷い込んでしまったものであり、帝国事情を聞かれても困るからなあ今は黙っておこうと放置してたら第一世界に行くことになってしまい、皆に話をする前に全てを知ってしまうことになる。(アシエン・エメトセルクとの邂逅)
- 自分の中にもう1人存在することを自覚しており、一定以上の怒り、ストレス、ダメージを負うと切り替わる。第一世界の大罪喰いを全て吸収し果たした後から放出が終わるまでアンナの意識は無かった。
- 命の恩人リンドウに対し、異常なほどの感情を持ち合わせている。しかしそれは恋や愛ではなくまるで人生そのものの尊敬すべき存在であり、呪いでもあった。
- その呪いは無事にシドによって解かれ、人並みの幸せを小さく願うことが出来るようになった。相変わらず野生生物のような生態なのは変わらないが。
- エルピスに行った際は逆にエメトセルクをからかい弄りぬいた。未来をきめ細かく教えたり本名(森の名)を教えたりした(漆黒では教えなかった)。クライマックスでは怒鳴られる事になる。最後に別れの挨拶が出来安堵していた。
- リテイナーのア・リスはアンナの"内なる存在"となった男の"記憶"を詰め込んだ複製体。兄を利用し表に出て来た。
- フレイはアンナの魂に溶け込んだ"新たに発覚した2人目の内なる存在"が闇の感情として表に出て来た存在に変質している。どんな武器も扱うことが出来る相棒的存在。
次元の狭間オメガでの検証終了後の話。先に好奇心は旅人を起こすを読んでね。シド少年時代捏造。
―――アルファと共に歩く。途中でぐわんと世界が回る。そりゃ2回連続で斬り払ったのだ、流石に慣れないことをするべきではなかった。アルファが駆け寄って来る。「大丈夫」とポツリと呟きその場に座り込み、項垂れる。クエッと泣き出しそうな声が聞こえた。目の前が真っ暗になりながら『あとは任せろ』という声に安心し、目を閉じた。
「"私"は大丈夫だよ、アルファ」
ニコリと笑い、奇妙なチョコボの頭を撫でた。クエッとぴょんぴょん跳ねる。ハイタッチしてやり、その後野戦病院へと歩みを進めて行った。
◇
オメガとの検証が終わった―――アルファを引き連れてやってきた英雄の報告に野戦病院にて傷を癒すネロはほっと一息ついた。いや、既に聞いてはいたのだが当事者からの報告を受けて初めて作戦は終了となる。自分が最後まで関われないことが悔しいのだが既に少々オメガという玩具に飽きていたのでよしとする。
「キミがいなければオメガジャマーは完成できなかった。"ボク"も身体張ってたんだけどねえ」
「詳しい話は聞かねェからな。ってなンだそれ」
どこか顔色が悪い気がするアンナはネロの手に粉の入った袋を握らせる。どうやらゼノスに大怪我を負わされた際に『無理をするため』送ってもらった薬だという。水も渡され飲むように急かされた。水と一緒に苦い薬草の味が喉に流れ込む。むせそうになるがなんとか踏みとどまった。
「まっず……」
「良薬は口に苦し。傷の治りも多少早くなる。痛みもしばらくは感じなくなるし走れるようになると思う。あと2つあげる。それだけあったら完治する」
「やべェの飲ませやがったな!?」
「大丈夫"ボク"が証明する。約束したでしょ? 逃走のお手伝いするって」
ネロは「そンな事も言ってたな……」と目元に手を当て虚空を見上げる。目の前の女の過去を看破した時にそんな事も言ってたような気がする。ふとぼんやりと寝台で寝転びながらシドの話と記憶に残っている彼女に対する『報告書』の一部を思い出した際に出て来た疑問を彼女に投げかける。
「ガーロンドの所に顔を出すのは約束をしたからなのか?」
「アー……シドから聞いた?」
「アンタは20年程前にもガレマールに来たンだろ? そこでガーロンドに会っていつか大空を案内するって約束したって言われたらしいじゃねェか」
「んー微妙に違う。ケケッその辺りはやっぱり曖昧かぁ。やっぱりまだまだだね」
それでいい、とアンナは苦笑しながら呟いていた。どうやら肝心な部分をシドは覚えていないようだった。「本当の所はどうだったンだ?」と聞くと笑顔で答える。
「詳しいことはシドに流出したら困るから言えないけどまあ約束があるのは本当。思い出す前にとんずらするつもり」
「はあ? 明らかにガーロンドはアンタの事」
「何のこと? "ボク"は旅人だからさ。各所から『お願い』されてるから想定外な程留まっているに過ぎない」
ネロの言葉を切るように口癖である旅人だからと言う。しかももう本来の口調を隠しもしていない。正直ジェシーからシドのためにも目の前にいる女らしきものについて調べるよう頼まれてはいるものの、かつて目の敵にしていた男の恋路など興味はなかった。しかし相手のクセが強すぎるし人の気持ちを踏みにじろうとしているのはあまり聞いていていいものとは思えなかった。捨てる気なのか、そう問うと「いつか彼にとってアンナ・サリスが必要なくなるだけだよ」と子供に聞かせるような優しい声でネロに言い聞かせる。
「"ボク"はキミ達よりも少し長く生きてるから知ってるけど……ヒトというやつはすぐに過ぎ去ったものは忘れて行くんだ。それだけさ。少なくとも"この子"はそう思ってる。シドだって新しい人を見つければ、"ボク"のような旅人なんて忘れるよ。現に死んだことになった途端に君の口以外から【鮮血の赤兎】は聞かなくなった。滑稽だよねぇ。だからそう遠くない内に"この子"は世界を救ったのは暁の血盟が頑張ったことにする予定さ。かつての『光の戦士』のようにね」
「アァ確かにアンタの考えることは滑稽なンだよ」
先日の会話も含め、見た所彼女の旅路が書かれた『報告書』の存在を知らないようだ。そういえば怪談になっていた事すら知らなかった人間だったことを思い出す。アンナはその言葉に対し何も言わないまま踵を返し「ルートに『パンくず』を置いておいた。誰にも見られずに街の外に出るポイントを見つけたからさ。この秘密を持って、"ボク"みたいに過去から逃げるゲームしようじゃないか」と言いながらきょとんとした顔で話を聞いていたアルファを片手で抱き上げ手を振りながら病室から出て行く直前にネロは声をかけた。
「もしあの時、ガキの頃のガーロンドがアンタを見つけなかったら今どうなったと思う」
「何も対処がなかったら……ゼノスとエオルゼアを蹂躙してたかな。いやソルが死んだ地点でガレマールから出て行ってるだろうから未だにどの国からもリスキーモブ扱いだったかもね。まーそんなことさせないようにしてたけど」
「じゃあアイツが世界を救った英雄サマを作り出した存在ってやつか」
「イヒヒッ、かもしれないねぇ。じゃ、ナイスバケーション」
暗闇に消えて行ったアンナを見送ったネロは痛みの消えた身体を起こしながら服に手を伸ばす。
脳裏に焼き付いたのは一瞬見せた彼女の優しいが少し震えた声。彼女の仕草で察してしまった。過去に交わした約束とやらを。再会できたら守ってやるよとかそういうことを軽率に言っているのだろう。
そしてシドは現在覚えていないが性別不明の人と約束交わしていたことを思い出し、再会出来ました分かった時、しかもそれが信頼している女性でしたしかも逃げる予定ですって分かったらどうなるだろうか。今の時点でも『分かりやすすぎる』彼の事だろう確実に脳に不具合を起こす。
「面白れェからしばらくほっとくか」
手荷物をまとめ外に出る。近くにいた社員を捕まえ「休養に入る」とだけ口にした後、ふと野戦病院の裏へ出ると確かに『目印』が置いてある。それを気配を消し拾いながら進むと誰にも会うことなく街の外へ向かう道が見えた。「あの女本当に約束だけは守るンだな」と呟きながら歩みを進める。
数刻後、大騒ぎする声が聞こえて来たので早々に逃げ出してしまおうと駆け出した。彼女の言う通り確かに薬の効果が出ているようだ。またエオルゼア潜入時代に作った隠れ家に置いている計器で薬の解析でもしようかとポケットの中に入れてある粉薬を撫でる。
ふとラールガーズリーチ入口を見下ろすと、シドらがアルファと小さなミニオンの旅を送り出していた。
ニヤリと笑っているとアンナと目が合った。小さく手を振っている。
「マジかよこわ」
ネロは苦笑して見せ、シド達に悟られない内に走り去った。
◇
「今すぐネロを探せッ!!!!」
この声に"ボク"は笑いを耐えるのに必死だった。どうやらちゃんと脱出できているようで。シドには悪いがこれは約束だったので。約束は守れ、それも恩人フウガからの教えだ。それがいくら敵や味方が不利になる行為でも約束だけは守ろうと自分を戒めている。
そんな中私たちは旅立つ決心をしたアルファを見送る。ふと気配を感じたので見上げるとネロもアルファを見送っていたようだ。バレるぞ、と笑顔で手を振ってやるとなんか口元が引きつっている。そそくさと去って行くのを見送った。
「そういえば」
ジェシーの声が聞こえる。
「アンナさんさっきアルファと散歩に行ってた時野戦病院の方に行ってたって目撃情報有りましたけど」
「おっとアルフィノに呼ばれてるから帰る」
「何だと? おいアンナ? ちょっと待て!!」
悟られる前に退散しよう。そうしよう。チョコボを呼び街の外へ走り出した。
Wavebox
#シド光♀ #ネロ #ギャグ