FF14の二次創作置き場
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- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.74, No.72, No.71, No.70, No.68, No.67, No.66[7件]
"悪夢"2
注意
自機出番なし。"捕獲"の次の日の話。
―――夢を見た。遠い過去の友人が立っている。
あの男が僕に久しぶりだなと声をかけて来た。
「なんだ生きてたのか」
「俺様を勝手に殺すんじゃねえよ」
やれやれとその金髪を揺らしながらため息を吐く。相変わらず真っ白い肌が心配になるミコッテだ。
「やっと完成したんだ 見てくれよ」
"コイツ"は僕に手を広げながら笑いかける。なんだよ、って言ってやると周りから気配を感じた。
―――金髪の女が1人、2人、3人。いやもっといる。同じ顔をした、"コイツ"の恋人。
「ほら俺様の女を蘇らせたんだ。勿論褒めてくれるよな? エルファー」
◇
「エル!!!!」
見知った人間の呼ぶ声でハッと目が覚める。飛空艇に揺られ、エルファーは周りを見回す。いない、夢だったようだ。流れる汗をぬぐい、血でないことも確認する。
「どうしただいぶうなされていたぞレフ」
「あー……ちょっと悪夢をな」
頭を掻きながら起き上がる。長い船路の途中で眠ってしまったらしい。
オメガ検証で好き勝手して逃げたら捕まってしまった次の日。シドに連れられネロと共にひんがしの国へと向かっていた。着いてからも移動が長いということで先に休むかという話になった。結局眠れるわけがないと言いながら寝ていた事実に苦笑する。ふと夢の男を思い浮かべてからネロをぼんやり見つめた。ついポロリと言葉をこぼしてしまう。
「ネロ、君が狂いきってなくてよかった」
「ハァ?」
「いや、久々に僕の友人が出てくる夢を見たんだが……これがものすごい狂ってた奴でな」
彼の名はア・リス・ティア。エルファーがこれまで出会った中では一番の天才であった。勿論目の前の2人より優れていると胸を張って言える。一言こういうものが欲しいと言うとどんな無茶でも最終的に理論を確立できる才能に憧れた面もあった。社会不適合者だったが世話をしてくれる奇麗な恋人がいたらしい。それなりに幸せな生活を送っていたようだがある時事故で失ってしまった。
そんな男に出会ったのは妹が誕生する少し前。修行からこっそり抜け出してイルサバード大陸にて趣味である遺跡探訪の途中だった。彼は恋人を蘇らせるために本場の錬金術を学びに来ていたのだという。
「うわよく聞くやつじゃねェか」
「ああ確かウルダハの錬金術師ギルドのマスターもそういうことしようとしてたとアンナが言ってたな」
「でも早いうちに彼女そのものを蘇らせるのは無理だと察したみたいでねぇ。まあ並行して行っていた別の研究の手伝いをしてから別れたんだ。僕と、アリスと、あとまあ1人いたんだがそれは関係ないから置いておこう」
思い出すだけで虫唾が走る男だからなと笑ってやるとシドとネロは顔を見合わせていた。そして彼が別れる際に言っていた言葉が未だに心に刺さっていたと話す。それは『アラグの技術にクローンを作るものがあるんだと、ちょっと深堀りしてくるわ』だった。これがエルファーが聞いた最後の言葉だった。そこから何となく会いたくないから会ってない。
「うわ、ヤバいヤツじゃないか」
「バカだろ? そのアリスって男はクローンでナニしようとしてたンだよ」
「未だに無限に増えるその恋人を見せびらかす夢を見る。死んで……たらいいな」
「怖いこと言うンじゃねェぞ」
エルファーは空を見上げふっと笑う。確かに怖いのだが不老不死の術が生まれたという話は聞いたことがないので「安心しろ」と言った。
「出会ったのは妹が生まれるより前って言っただろう? 今も生きてたら120超えてる」
「レフ、お前何歳なんだ?」
「お前らの4倍位だよ? ちなみに妹は3桁ではないからな?」
シドとネロの『ジジィ』という言葉が重なった。エルファーはにこりと笑いじゃあ少しは敬えよ? と言いながら手をポンと叩く。シドの顔を至近距離で見つめ、あのムカつく男の顔を浮かべた。シドは狼狽えながら下がっている。
「成程ガーロンド君がムカつくヤツだと思った理由はあのクソ野郎と似てるからだな! ネロも最初アリスと重なったからそんなに違和感なく近付けたのね。あぁ納得した」
「オレをさっき話したヤツと同カテゴリにしやがったなオマエ!?」
「はースッキリしたそういうことか」
「いや俺もさりげなく罵られたんだがそのクソ野郎とは?」
シドは眉間にしわを寄せながら言う姿に対し「そうそうその顔が滅茶苦茶似てるんだよ」と笑い声をあげる。顔は相変わらずクシャっとしているのみで笑顔ではないのだが。
その男はかつてアリスと一緒に出会ったヒトだった。真面目で正義感が強くて不愛想のお人好しだったとため息を吐く。
「クソ野郎要素ないじゃないか」
「アレだな、同族嫌悪じゃねェか?」
「一緒にするなよ? アレはな、自分で習得しておいて得てしまった圧倒的な力に怯えて全て捨てて逃げたアホなんだわ。俺は旅人だーとか言ってさ。そういやアイツも白くてヒゲだった。思い出すだけでムカつく」
「理不尽すぎないか?」
この時シドは言葉にすることができなかった。『それどちらかというとお前の妹では?』と。絶対に口に出せばヒゲを燃やされることは分かる。ふとネロの方に目をやると同じことを考えているのかエルファーからさりげなく目を逸らしていた。
―――エルファーはまだ知らない。この後、輪にかけて"ムカつく"真実が待ち受けていることに。
#エルファー関連 #シド
自機出番なし。"捕獲"の次の日の話。
―――夢を見た。遠い過去の友人が立っている。
あの男が僕に久しぶりだなと声をかけて来た。
「なんだ生きてたのか」
「俺様を勝手に殺すんじゃねえよ」
やれやれとその金髪を揺らしながらため息を吐く。相変わらず真っ白い肌が心配になるミコッテだ。
「やっと完成したんだ 見てくれよ」
"コイツ"は僕に手を広げながら笑いかける。なんだよ、って言ってやると周りから気配を感じた。
―――金髪の女が1人、2人、3人。いやもっといる。同じ顔をした、"コイツ"の恋人。
「ほら俺様の女を蘇らせたんだ。勿論褒めてくれるよな? エルファー」
◇
「エル!!!!」
見知った人間の呼ぶ声でハッと目が覚める。飛空艇に揺られ、エルファーは周りを見回す。いない、夢だったようだ。流れる汗をぬぐい、血でないことも確認する。
「どうしただいぶうなされていたぞレフ」
「あー……ちょっと悪夢をな」
頭を掻きながら起き上がる。長い船路の途中で眠ってしまったらしい。
オメガ検証で好き勝手して逃げたら捕まってしまった次の日。シドに連れられネロと共にひんがしの国へと向かっていた。着いてからも移動が長いということで先に休むかという話になった。結局眠れるわけがないと言いながら寝ていた事実に苦笑する。ふと夢の男を思い浮かべてからネロをぼんやり見つめた。ついポロリと言葉をこぼしてしまう。
「ネロ、君が狂いきってなくてよかった」
「ハァ?」
「いや、久々に僕の友人が出てくる夢を見たんだが……これがものすごい狂ってた奴でな」
彼の名はア・リス・ティア。エルファーがこれまで出会った中では一番の天才であった。勿論目の前の2人より優れていると胸を張って言える。一言こういうものが欲しいと言うとどんな無茶でも最終的に理論を確立できる才能に憧れた面もあった。社会不適合者だったが世話をしてくれる奇麗な恋人がいたらしい。それなりに幸せな生活を送っていたようだがある時事故で失ってしまった。
そんな男に出会ったのは妹が誕生する少し前。修行からこっそり抜け出してイルサバード大陸にて趣味である遺跡探訪の途中だった。彼は恋人を蘇らせるために本場の錬金術を学びに来ていたのだという。
「うわよく聞くやつじゃねェか」
「ああ確かウルダハの錬金術師ギルドのマスターもそういうことしようとしてたとアンナが言ってたな」
「でも早いうちに彼女そのものを蘇らせるのは無理だと察したみたいでねぇ。まあ並行して行っていた別の研究の手伝いをしてから別れたんだ。僕と、アリスと、あとまあ1人いたんだがそれは関係ないから置いておこう」
思い出すだけで虫唾が走る男だからなと笑ってやるとシドとネロは顔を見合わせていた。そして彼が別れる際に言っていた言葉が未だに心に刺さっていたと話す。それは『アラグの技術にクローンを作るものがあるんだと、ちょっと深堀りしてくるわ』だった。これがエルファーが聞いた最後の言葉だった。そこから何となく会いたくないから会ってない。
「うわ、ヤバいヤツじゃないか」
「バカだろ? そのアリスって男はクローンでナニしようとしてたンだよ」
「未だに無限に増えるその恋人を見せびらかす夢を見る。死んで……たらいいな」
「怖いこと言うンじゃねェぞ」
エルファーは空を見上げふっと笑う。確かに怖いのだが不老不死の術が生まれたという話は聞いたことがないので「安心しろ」と言った。
「出会ったのは妹が生まれるより前って言っただろう? 今も生きてたら120超えてる」
「レフ、お前何歳なんだ?」
「お前らの4倍位だよ? ちなみに妹は3桁ではないからな?」
シドとネロの『ジジィ』という言葉が重なった。エルファーはにこりと笑いじゃあ少しは敬えよ? と言いながら手をポンと叩く。シドの顔を至近距離で見つめ、あのムカつく男の顔を浮かべた。シドは狼狽えながら下がっている。
「成程ガーロンド君がムカつくヤツだと思った理由はあのクソ野郎と似てるからだな! ネロも最初アリスと重なったからそんなに違和感なく近付けたのね。あぁ納得した」
「オレをさっき話したヤツと同カテゴリにしやがったなオマエ!?」
「はースッキリしたそういうことか」
「いや俺もさりげなく罵られたんだがそのクソ野郎とは?」
シドは眉間にしわを寄せながら言う姿に対し「そうそうその顔が滅茶苦茶似てるんだよ」と笑い声をあげる。顔は相変わらずクシャっとしているのみで笑顔ではないのだが。
その男はかつてアリスと一緒に出会ったヒトだった。真面目で正義感が強くて不愛想のお人好しだったとため息を吐く。
「クソ野郎要素ないじゃないか」
「アレだな、同族嫌悪じゃねェか?」
「一緒にするなよ? アレはな、自分で習得しておいて得てしまった圧倒的な力に怯えて全て捨てて逃げたアホなんだわ。俺は旅人だーとか言ってさ。そういやアイツも白くてヒゲだった。思い出すだけでムカつく」
「理不尽すぎないか?」
この時シドは言葉にすることができなかった。『それどちらかというとお前の妹では?』と。絶対に口に出せばヒゲを燃やされることは分かる。ふとネロの方に目をやると同じことを考えているのかエルファーからさりげなく目を逸らしていた。
―――エルファーはまだ知らない。この後、輪にかけて"ムカつく"真実が待ち受けていることに。
#エルファー関連 #シド
"口調"
注意
漆黒5.0終了後想いを伝えあってから間もない頃のシド光♀です。
アンナはネロ相手の時だけ話し方が変わる。さん付けしながらも子供っぽく喋り、対等な位置に立っている。俺はというと周辺と変わらない最低限のことだけ喋り笑顔を浮かべるだけなのに。アンナの隣に立っていてもいいのだろうか。本当はネロの方が好きなのではないか? 正直な話をネロにぶつけると鼻で笑われてしまう。
「オレが? アンナを? ない、絶対にありえねェ。メスバブーンと恋仲とか絶対無理に決まってンだろ」
「そこまでゴリラではないぞ失礼なことを言うな」
ネロ行きつけのバーにて俺は最近浮かんだ自分の悩みを打ち明ける。アンナのことが分からない、と。するとゲラゲラと笑いだす。
「オマエが分かンねェならこの世で生きてるヤツら誰一人理解できてねェ。少なくともあいつに近いのはオマエだろ。ていうかその話本人にしろよ何でオレにすンだよ」
「まあそれはそうなんだがどうやってそんな話し方するような関係になったか知りたくてな」
「何もしちゃいねェぞ。どちらかというと舐められてる感じだぜ? アーでも一度殴り合いで舐めプされて負けた身だしオマエもそうすりゃいンじゃね」
確かにそうか。いやアンナと喧嘩なんてありえない。口でも力でも負ける未来が見える。
「大体あの喋り方は兄のマネしてるだけじゃねェか? どこにうらやましい要素があンだよ」
知ったことかとこの日はため息を吐きながらネロに嫉妬の感情をぶつけ終わった。
◇
「てのがな」
「へぇシドって真っ当な嫉妬もするんだ。意外」
ネロは恨み言をアンナにぶつけている。なんとかしろ、と睨むがそんなこと言われてもと返される。
「そもそもネロサンと話してる時の口調が本来の自分とは限らないでしょ」
「はーそう来たか。じゃあガーロンド相手が本来のか?」
「……絶対違うねぇ。ていうか本来の口調というものが分からず」
グリダニアに着くまでどういう生活してたか知ってるでしょ? と言うとネロは「アー」と肩をすくめた。
「人との話し方なんて相手によって変えるに決まってるじゃん。ネロサンだって上官相手とそれ以外で態度違ったよね?」
「上下関係持って来ンのは反則じゃねェか?」
「素というものを出すのって諸刃の剣。仮面を使い分けて世渡りするのが人間ってやつだろう?」
まあバカ正直なシドと違ってボクは仮面しか持ってないって感覚だけどねと苦笑しているのを見てネロはため息を吐く。煙草をくわえるとアンナは指を向け、「バァン」と火を灯す。兄妹揃って着火剤いらずだなァと思いながらふと目をやるとシドがいつの間にか立っていた。毎回タイミングが悪すぎると眉間に指を当てる。
「それ、日頃からオマエの背後にいるやつにな?」
「え、何言って……あ、シド」
あまりよろしくない機嫌のシドにアンナは困ったような笑顔を見せた。一息ついてネロに手を振った後先手を取るようにシドの腕を引っ張り部屋を出た。
◇
仮眠室に使用中の札を付け、扉を閉め鍵をかける。そして固いベッドにシドを倒し上に乗る。
「あ、アンナ? まだ昼だぞ」
「言いたいこと、ある?」
眉間、頬、首元、胸に口付けた。これはシド相手には本音を引き出す手段として効率的だと判断している。他の相手にするはずがない。
「私がこれをネロサンにすると思う?」
「し、しないしさせん」
「ベッドの上で他人行儀だったことある?」
「……ない」
「普段から人前でイチャつけって言いたい?」
「わ、悪かった。そういうことじゃなくてな」
じゃあどういうこと? と耳元で囁いてやる。髪の毛を優しく撫で言葉を待つ。
「もっと親しくなりたい。本当のアンナを知りたいんだ。お前の隣に立つにふさわしい男かも分からない」
「ばーか」
「真剣に悩んでるんだぞ?」
「……真剣に莫迦」
鈍感かと頬をつねる。最大限の扱いをしているつもりなんだがと口には出さず胸の内を話してやる。
「誰がネロサンの前では素って言った? あの話し方する相手は他にもいる。あと最低限にしか喋らないのは旅人を印象に残さない名残。それに」
「それに?」
「……あなたが見て来た自分がそんな自分。イメージ崩したくないし幻滅されたくない。あと急に態度変えたら普通は驚き」
シドは目を丸くしている。そしてくくくと笑った。笑うなと言ってやると突然世界が反転する。上に乗り、垂らしている髪に口付けている。そして「すまなかった」と顎を固定しかぶりつくようにキスをした。
「優しくする所では?」
「バカと言われたからな」
「そっちかあ」
「よくイタズラしてゲラゲラ笑っておいて今更幻滅とか言うんじゃない」
襟元を緩められ、噛みつかれる。アンナは目を見開き「痛っ」と声を漏らした。首元がゾワリと粟立ち、本能的にこれはヤバいと察知しながら思い切り手刀を落とす。
「仕事中!」
「アンナが悪いだろ明らかに―――ぐっ!?」
「話を聞く!」
痛みに悶絶するシドから"ヤバイ予感がする"雰囲気が消え安堵した。趣向を変えようとニィと笑顔で声のトーンを落とし言ってやる。
「はいはいボクが悪かったですよーだ。まったくキミはいつサカろうとするか分かんないねぇ」
「う……いやそれはお前が」
「今日はレヴナンツトールに1日滞在するから働いてきなよ」
パッとしない感じになってしまったと思いながら相手の反応を伺うと笑顔になっている。分かりやすい顔だなあと目を細めながら「ほらジェシーに怒られるよ」と送り出してやる。
シドが立ち去った後、天井を見上げながらため息を吐いた。一拍置いた後、「はー人間って分かんね」と浮かぶ笑顔を抑えることができなくなっていた。あの男はとても面白い。人と関わるために立てる予想が彼相手だと結構な割合で最終的に外れてしまう。まだまだ兄と違って未熟だなと緩む口元を引き締めた。
#シド光♀
漆黒5.0終了後想いを伝えあってから間もない頃のシド光♀です。
アンナはネロ相手の時だけ話し方が変わる。さん付けしながらも子供っぽく喋り、対等な位置に立っている。俺はというと周辺と変わらない最低限のことだけ喋り笑顔を浮かべるだけなのに。アンナの隣に立っていてもいいのだろうか。本当はネロの方が好きなのではないか? 正直な話をネロにぶつけると鼻で笑われてしまう。
「オレが? アンナを? ない、絶対にありえねェ。メスバブーンと恋仲とか絶対無理に決まってンだろ」
「そこまでゴリラではないぞ失礼なことを言うな」
ネロ行きつけのバーにて俺は最近浮かんだ自分の悩みを打ち明ける。アンナのことが分からない、と。するとゲラゲラと笑いだす。
「オマエが分かンねェならこの世で生きてるヤツら誰一人理解できてねェ。少なくともあいつに近いのはオマエだろ。ていうかその話本人にしろよ何でオレにすンだよ」
「まあそれはそうなんだがどうやってそんな話し方するような関係になったか知りたくてな」
「何もしちゃいねェぞ。どちらかというと舐められてる感じだぜ? アーでも一度殴り合いで舐めプされて負けた身だしオマエもそうすりゃいンじゃね」
確かにそうか。いやアンナと喧嘩なんてありえない。口でも力でも負ける未来が見える。
「大体あの喋り方は兄のマネしてるだけじゃねェか? どこにうらやましい要素があンだよ」
知ったことかとこの日はため息を吐きながらネロに嫉妬の感情をぶつけ終わった。
◇
「てのがな」
「へぇシドって真っ当な嫉妬もするんだ。意外」
ネロは恨み言をアンナにぶつけている。なんとかしろ、と睨むがそんなこと言われてもと返される。
「そもそもネロサンと話してる時の口調が本来の自分とは限らないでしょ」
「はーそう来たか。じゃあガーロンド相手が本来のか?」
「……絶対違うねぇ。ていうか本来の口調というものが分からず」
グリダニアに着くまでどういう生活してたか知ってるでしょ? と言うとネロは「アー」と肩をすくめた。
「人との話し方なんて相手によって変えるに決まってるじゃん。ネロサンだって上官相手とそれ以外で態度違ったよね?」
「上下関係持って来ンのは反則じゃねェか?」
「素というものを出すのって諸刃の剣。仮面を使い分けて世渡りするのが人間ってやつだろう?」
まあバカ正直なシドと違ってボクは仮面しか持ってないって感覚だけどねと苦笑しているのを見てネロはため息を吐く。煙草をくわえるとアンナは指を向け、「バァン」と火を灯す。兄妹揃って着火剤いらずだなァと思いながらふと目をやるとシドがいつの間にか立っていた。毎回タイミングが悪すぎると眉間に指を当てる。
「それ、日頃からオマエの背後にいるやつにな?」
「え、何言って……あ、シド」
あまりよろしくない機嫌のシドにアンナは困ったような笑顔を見せた。一息ついてネロに手を振った後先手を取るようにシドの腕を引っ張り部屋を出た。
◇
仮眠室に使用中の札を付け、扉を閉め鍵をかける。そして固いベッドにシドを倒し上に乗る。
「あ、アンナ? まだ昼だぞ」
「言いたいこと、ある?」
眉間、頬、首元、胸に口付けた。これはシド相手には本音を引き出す手段として効率的だと判断している。他の相手にするはずがない。
「私がこれをネロサンにすると思う?」
「し、しないしさせん」
「ベッドの上で他人行儀だったことある?」
「……ない」
「普段から人前でイチャつけって言いたい?」
「わ、悪かった。そういうことじゃなくてな」
じゃあどういうこと? と耳元で囁いてやる。髪の毛を優しく撫で言葉を待つ。
「もっと親しくなりたい。本当のアンナを知りたいんだ。お前の隣に立つにふさわしい男かも分からない」
「ばーか」
「真剣に悩んでるんだぞ?」
「……真剣に莫迦」
鈍感かと頬をつねる。最大限の扱いをしているつもりなんだがと口には出さず胸の内を話してやる。
「誰がネロサンの前では素って言った? あの話し方する相手は他にもいる。あと最低限にしか喋らないのは旅人を印象に残さない名残。それに」
「それに?」
「……あなたが見て来た自分がそんな自分。イメージ崩したくないし幻滅されたくない。あと急に態度変えたら普通は驚き」
シドは目を丸くしている。そしてくくくと笑った。笑うなと言ってやると突然世界が反転する。上に乗り、垂らしている髪に口付けている。そして「すまなかった」と顎を固定しかぶりつくようにキスをした。
「優しくする所では?」
「バカと言われたからな」
「そっちかあ」
「よくイタズラしてゲラゲラ笑っておいて今更幻滅とか言うんじゃない」
襟元を緩められ、噛みつかれる。アンナは目を見開き「痛っ」と声を漏らした。首元がゾワリと粟立ち、本能的にこれはヤバいと察知しながら思い切り手刀を落とす。
「仕事中!」
「アンナが悪いだろ明らかに―――ぐっ!?」
「話を聞く!」
痛みに悶絶するシドから"ヤバイ予感がする"雰囲気が消え安堵した。趣向を変えようとニィと笑顔で声のトーンを落とし言ってやる。
「はいはいボクが悪かったですよーだ。まったくキミはいつサカろうとするか分かんないねぇ」
「う……いやそれはお前が」
「今日はレヴナンツトールに1日滞在するから働いてきなよ」
パッとしない感じになってしまったと思いながら相手の反応を伺うと笑顔になっている。分かりやすい顔だなあと目を細めながら「ほらジェシーに怒られるよ」と送り出してやる。
シドが立ち去った後、天井を見上げながらため息を吐いた。一拍置いた後、「はー人間って分かんね」と浮かぶ笑顔を抑えることができなくなっていた。あの男はとても面白い。人と関わるために立てる予想が彼相手だと結構な割合で最終的に外れてしまう。まだまだ兄と違って未熟だなと緩む口元を引き締めた。
#シド光♀
20240127メモ
漆黒編上げてます。あとマルケズ時代の自機視点のお話も上げました。まずは後者のお話。
よくシドがアンナが過去に会った旅人だと分かったらバグるぞという表現をしていましたが実はとっくの昔にアンナが通った道だよっていう話です。
アンナ視点のマルケズのお話をいつか書きたいと思っていたのできっかけを考えてたら過去に書いてた話で与えられた部屋の場所を忘れて外にいたというのがあったのを思い出したのでそれを採用しました。
シドは初めてアンナに渡したプレゼントというのは星芒祭の時の髪飾りだと思っていましたが、実は目印として徹夜で手作りしたドアに付けた銀色の飾りだった。本人はそれを彼女のアパルトメントの扉に付けているのを見るまで忘れていたけどって感じ。だから手作りのからくり装置を準備していたんですね。後付け設定ですけど。
この地点で既に少しだけ意識はシドに向いていて、ガルーダ戦前にあの寒空に出会った少年だったと分かり衝撃を受けます。そして無意識にアピールし始めるんですね。本人はあまりバレたくないのに何やってるんだ! ってバグってます。この地点で分かってたら寄り添うつもりだったけど覚えてなかったら覚えてなかったでそちらの方が絶対に幸せだと思っているので葛藤しています。
というのもあってこのドア飾りが最初の彼女を導く星だったわけですね。お守りとして鞄に仕舞い込んでいました。
漆黒後に実際ミスト・ヴィレッジにアパルトメントを購入してたんですね。そのネタで色々書いたので扉に目印としてまた付けたことにしましたって感じ。何度か休暇時にシドも訪れていて、ある日何か見覚えあるぞ? ってなり思い出しました。本人は知らん覚えてないと一点張りしますがまあね。甘い感じのオチに出来たので満足です。
以下漆黒編。
紅蓮以降の仕込みがほぼ終わったので書き始めています。まず前にも書いたように水晶公はアンナの過去を全て知っている設定です。
エメトセルクの話。アンナが露骨に嫌な顔をするので心配した水晶公+暁のメンバーが守護ってくれています。アンナ本人は胃の痛みが軽減されて助かると思っています。
2人が出会ったのは50年程度前のガレマール帝国。次に捕まったらキミの言うことを聞いてやるよという約束を交わします。しかし鮮血の赤兎であった自分は5年ほど前に死んだしソル帝は死んだからノーカンだよね!? と挙動不審になっています。エメトセルクはもうコイツは用済みだし仲間消滅させたしバケモノがよと思っています。
そして何度か出した『奥底に闇の杭が打たれ、何者かの手によって一度エーテル、というより魂そのものに操作を施されたような形跡がある』ってやつですね。これは『一部だけ』エメトセルクがやったことになります。出会った時のアンナ、その時はガーネットと名乗りましたがその時の彼女はひどいものでした。あの人の魂が辛うじて見えるほど恨みと憎しみに支配されこのままでは飲み込まれて本物のバケモノになる所を彼が剥がしたのです。それが旅人は人に擬態するであった『心が引き裂かれるように痛かったけど何かこびりついた憑き物を落としてくれた』ですね。その時に少しだけ仕込んだりもしましたが初夜にまでは至りませんでした。
ちなみにこの時はアンナはまだ身長も胸囲も最高ではありませんでした。彼に会った以降で急成長しました。創造魔法でもかけられたんですかね?畳む
ちょいちょい書いた自機兄の話。
新生以降に裏で登場し、アンナの詳しい空白の過去に迫る話を中心に仕込みを行っています。お相手はネロで、蒼天終了後に一緒に行動する流浪の技術者として登場します。ぼちぼち出身の集落の異常さも出てきたりしますが、基本的にそういう"お仕事"をし出すのは性別が発現し、成人の儀を行ってから。なので性別が分かってほぼすぐに集落を飛び出したアンナは綺麗な存在です。それ位本来は淡白で効率的に仕事を行う不愛想なヴィエラが兄のエルファーです。
漆黒開始後にガーロンド社に正式に出入りするようになり、アンナにバレないように立ち回るように。ネロとは信頼関係で、シドは一方的に目の敵にするがまあ嫌いじゃないって感じの印象。
とりあえずnot光の戦士の話なのでタグだけ付けて拡張名の検索では出ないようにしています。読みたい人だけどうぞ。畳む
よくシドがアンナが過去に会った旅人だと分かったらバグるぞという表現をしていましたが実はとっくの昔にアンナが通った道だよっていう話です。
アンナ視点のマルケズのお話をいつか書きたいと思っていたのできっかけを考えてたら過去に書いてた話で与えられた部屋の場所を忘れて外にいたというのがあったのを思い出したのでそれを採用しました。
シドは初めてアンナに渡したプレゼントというのは星芒祭の時の髪飾りだと思っていましたが、実は目印として徹夜で手作りしたドアに付けた銀色の飾りだった。本人はそれを彼女のアパルトメントの扉に付けているのを見るまで忘れていたけどって感じ。だから手作りのからくり装置を準備していたんですね。後付け設定ですけど。
この地点で既に少しだけ意識はシドに向いていて、ガルーダ戦前にあの寒空に出会った少年だったと分かり衝撃を受けます。そして無意識にアピールし始めるんですね。本人はあまりバレたくないのに何やってるんだ! ってバグってます。この地点で分かってたら寄り添うつもりだったけど覚えてなかったら覚えてなかったでそちらの方が絶対に幸せだと思っているので葛藤しています。
というのもあってこのドア飾りが最初の彼女を導く星だったわけですね。お守りとして鞄に仕舞い込んでいました。
漆黒後に実際ミスト・ヴィレッジにアパルトメントを購入してたんですね。そのネタで色々書いたので扉に目印としてまた付けたことにしましたって感じ。何度か休暇時にシドも訪れていて、ある日何か見覚えあるぞ? ってなり思い出しました。本人は知らん覚えてないと一点張りしますがまあね。甘い感じのオチに出来たので満足です。
以下漆黒編。
紅蓮以降の仕込みがほぼ終わったので書き始めています。まず前にも書いたように水晶公はアンナの過去を全て知っている設定です。
エメトセルクの話。アンナが露骨に嫌な顔をするので心配した水晶公+暁のメンバーが守護ってくれています。アンナ本人は胃の痛みが軽減されて助かると思っています。
2人が出会ったのは50年程度前のガレマール帝国。次に捕まったらキミの言うことを聞いてやるよという約束を交わします。しかし鮮血の赤兎であった自分は5年ほど前に死んだしソル帝は死んだからノーカンだよね!? と挙動不審になっています。エメトセルクはもうコイツは用済みだし仲間消滅させたしバケモノがよと思っています。
そして何度か出した『奥底に闇の杭が打たれ、何者かの手によって一度エーテル、というより魂そのものに操作を施されたような形跡がある』ってやつですね。これは『一部だけ』エメトセルクがやったことになります。出会った時のアンナ、その時はガーネットと名乗りましたがその時の彼女はひどいものでした。あの人の魂が辛うじて見えるほど恨みと憎しみに支配されこのままでは飲み込まれて本物のバケモノになる所を彼が剥がしたのです。それが旅人は人に擬態するであった『心が引き裂かれるように痛かったけど何かこびりついた憑き物を落としてくれた』ですね。その時に少しだけ仕込んだりもしましたが初夜にまでは至りませんでした。
ちなみにこの時はアンナはまだ身長も胸囲も最高ではありませんでした。彼に会った以降で急成長しました。創造魔法でもかけられたんですかね?畳む
ちょいちょい書いた自機兄の話。
新生以降に裏で登場し、アンナの詳しい空白の過去に迫る話を中心に仕込みを行っています。お相手はネロで、蒼天終了後に一緒に行動する流浪の技術者として登場します。ぼちぼち出身の集落の異常さも出てきたりしますが、基本的にそういう"お仕事"をし出すのは性別が発現し、成人の儀を行ってから。なので性別が分かってほぼすぐに集落を飛び出したアンナは綺麗な存在です。それ位本来は淡白で効率的に仕事を行う不愛想なヴィエラが兄のエルファーです。
漆黒開始後にガーロンド社に正式に出入りするようになり、アンナにバレないように立ち回るように。ネロとは信頼関係で、シドは一方的に目の敵にするがまあ嫌いじゃないって感じの印象。
とりあえずnot光の戦士の話なのでタグだけ付けて拡張名の検索では出ないようにしています。読みたい人だけどうぞ。畳む
旅人は目印を置く
「アンナそういえばドアの飾りだが懐かしいな」
「? 何のこと?」
遂に気が付きやがったかと目を背け心の中で舌打ちする。ミスト・ヴィレッジにあるアパルトメント"トップマスト"。一時的な荷物置き場として1室を購入して数ヶ月程度経過した。遂にその部屋の入り口であるドアに下げた無骨な金属を打ち付けて作られた飾り細工が話題になってしまう。
「いやアレは俺がまだ記憶喪失だった頃に作ってやったやつだろ?」
「記憶皆無。偶然鞄に入ってたから目印に置いただけだし」
「ならこちらの目を見て言ってくれないか?」
嗚呼気持ち悪いくらい満面の笑顔になっている。そうだ、忘れるわけがないじゃないか。アレはこの正面でニヤつく男に出会った頃のお話。
◇
ボクは走っていた。勝手に巻き込んだ挙句ぐちゃぐちゃになった砂の家。悲惨な現場を見下すような目で眺めた後、恐怖と怒りを腹の中に溜めながらザナラーンを走る。
辿り着いた先はキャンプ・ドライボーン郊外にある教会。一度イフリートの件で邪魔した場所だ。夜遅くに駆け込み、そこにいた司祭に無機質な声で言葉を吐いた。
「私は旅人。お世話になってた場所が、襲撃されて。ここに行け、と言われたの」
愛想なんて捨ててしまうほど精神が疲れ果てていた。哀れに思った司祭イリュドはボクの肩を優しく撫でてくれた。その時にぼんやりと佇んでいたのが墓守のマルケズ、今のシドである。暁の協力者であるイリュドはしばらく隠れる拠点として滞在するように勧めてくれた。
―――本当は彼らも巻き込みたくなかった。相手はボクを探し手中に収めようとした皇帝が治めるガレマール帝国。5年前に"死んだこと"に出来たからと完全に油断していた。蛮族殺しとして名前が通るようになってしまい、耳に届いた可能性もある。どこにも属したくないから旅人と名乗っているのだ、帝国だけはごめんだねと当時は思っていた。当時中立組織とはいえ暁の血盟を拠点にしていた人間に説得力はないかもしれない。しかし助けを求めてくるのだから手を差し伸べるのは当然である。
この日はマルケズに個室まで案内され、寝台に寝そべった。相変わらず朝まで眠れなかった。
次の日、質素な食事をいただきお使いに出る。マルケズが何やら時計を修理したいとのことなのでドライボーンにて素材やら工具やらを集め、手渡した。その後はお腹が空いたので適当に郊外の動物を狩り、調理して食った。臭いを消すために水浴びをし、香水を付ける。戻った後にはすっかり夜で、いつもの場所にマルケズはいなかった。多分修理をしているのだろう。マメなことでと思いながら廊下に立つ。
「……部屋どこだっけ」
同じ扉、暗い廊下。変に開いて違ったら迷惑だろう。ボクはため息を吐き外に出た。
空を見上げるとそれは綺麗な星空だった。笑みを浮かべ、物陰にもたれかかり睡眠をとる。旅をしていた時によくやっているので慣れた姿勢だった。
◇
早朝、誰かが来る前に教会内の椅子に座り祈りを捧げるフリをする。物音が聞こえ目をやるとマルケズがフラフラと歩いてきた。ボクに気が付くとゆっくりと歩み寄り、修理が終わった時計を見せる。あまり詳しい人間ではないがパッと見この辺りでは見かけない仕様のものだなという印象を受けた。そしてえらく手先が器用な人なんだなと思考を張り巡らせる。
―――他人から集めた情報を整理するとエオルゼア方式でなくどちらかというとガレマール式のもの。ということは彼は帝国か属州出身者という所か。素振りを見る限り記憶喪失は演技には見えない。ということは亡命者で、逃げている途中に大ケガを負ってしまいショックで記憶も飛んだという所だろう。深く被ったローブの下にはゴーグルを付けているのが見えた。推測の域を超えないがガレアン人が持つ第三の眼を隠している可能性が高い。きっとエオルゼアではよろしくない目で見られたであろう。自分のことも分からないが何故か迫害される、そりゃ根暗にもなるか。しかし一晩でパッと直して見せた技術は手が勝手に動いたものとしては目を見張る所がある。記憶はなくても身体が技術を覚えていて、手先が器用な所から純ガレアン族で機工師だと結論付けた。
その後声をかけられボクは再びベスパーベイへ。そうか、秘密結社の構成員は死体を送るべき場所が存在しないのか。"冥府"と呼ばれる還る場所は皆一緒なのに、と哀れな目を見せ冷たい躯を運び込む。まるで普段のボクの体温のように冷たく成り果てた数々の大きさのモノをため息を吐きながら持ち上げた。中には滅多刺しになっている死体もあった。確実に殺すのなら一突きでいい。帝国の人間とやらは頭がおかしいやつばかりなのかと1人拳を握り締めた。そして最後に小さなトモダチを黒衣森へと運ぶ。お礼を言われたが、全く嬉しくなかった。自分が現れなければノラクシアは殺されなかっただろう。小さな声で再び謝った。
腹が減ったので再び適当に狩りをしてから教会に報告する。相変わらず辛気臭いマルケズは不気味だった。まあ自分も周りから不気味だと囁かれているのはちゃんと耳に届いていた。ヴィエラなんだからこの長い耳で全部聞こえてるに決まってるだろう。相変わらず与えられた一室の場所が分からなかったので野宿した。
◇
それからまた次の日も何も起こらないまま外で狩りをしながら見回りを行い、夜は外で星を見ながら野宿を決める。別に恥を忍んでもう一度部屋の場所を聞いてもよかった。が、また忘れてしまい夜も更け寝ようと思った時に気付く。自分のことより周りに帝国の陰が見えるような気がして、そちらに集中してしまうのが一番よくない話だった。
今日も空を見上げながら伸びをするとふと教会の扉が開く音が聞こえた。誰か忘れものでもしたのかなと無視していると「何を、している」と声をかけられる。声の主へと目をやるとマルケズがいた。「星を見ているの」と返してやると少しだけボクを見つめた後少し離れた場所に座る。何がしたいんだこの人。墓場でなければ異性と星空を見上げるという行為はロマンチックだろうねえ。そう思いながら無言が耐え切れなくなったボクは呟いた。
「暗闇は、嫌い」
ボクは昔から暗闇が嫌いである。生まれ故郷を飛び出したあの真っ暗闇の世界が未だに忘れられず、何度か夢にも出て来た。彼は目を細め、「なぜだ?」と聞いてくる。
「真実を隠し、私を狂わせるから」
「俺は好きだ。落ち着くんだ」
真逆の思考である。そうか、今の彼からしたらこの闇は記憶のない自分を包み込んでくれる優しい存在なのかと察する。ため息を吐き頭を両膝に埋めた。本当に何で、旅人なのにこんな所で怯えないといけないんだ。体が寒いとガタガタ震えが抑えられなくなってくる。すると突然背中に温かい感触。マルケズが「だ、大丈夫か?」と背中を優しくさすったようだ。どこか少しだけその寒さが消え去った気がする。「大丈夫」と次なる話題を探した。そうだ、言うなら今だろう。
「あと迷子になる」
「……は?」
顔を上げ、真剣な目で言ってやる。マルケズは面喰ったような顔を見せた後、「そういえばいつも朝礼拝堂で座ってたな。まさかと思うが自室が分からないのか?」と聞いてきた。
「……はい。って笑う所あった?」
「す、すまない。短い通路で迷われるとは思わなくて」
「むぅ失礼なヒト。違う部屋を開けたら失礼かもしれないっていう配慮だよ。でもまあ……笑えるんだ、よかった」
今まで不愛想な対応をしていた男が笑う。少しだけほっとした。優しい笑顔が綺麗な若造だなって印象を抱く。
「何かトラウマで笑えないのかなって」
「その、俺はただ―――」
どうせ記憶喪失で不安だっただけだろう? 言葉を遮るように早速部屋まで案内してもらうために立ち上がり手を差し伸べた。
「さ、誰かに見られたくないでしょ? 私みたいな悪い人に襲われちゃうかもよ?」
手を引っ張り立たせる。少し慌てている顔が面白い。ゴツゴツする手を触り、観察する。自分とは真逆の温かく、大きくて、手入れはあまりしていないのだろうその指はガサガサと荒れ、マメがあった。ふむ予想通り技術者でそれなりに熟練の人間か。「な、何をしている?」と聞くので極力優しい声で答えてやる。
「技術者の手」
「そう、か?」
「数日観察の結果、ね。今触ってみて確信した。大きくて、しっかりとしてて私は嫌いじゃないな」
目を見開きボクを見つめている。面倒だから「明日に支障が出るよ? あなたがね」と言いながら教会へと足を進める。待てと言葉と共にマルケズがボクを追い抜き、その後部屋まで案内してくれた。「ありがと、おやすみ」と言ってやると「ああおやすみ。もう迷子になるなよ」と素っ気なく返される。慌てて自分の部屋だと思われる場所に早歩きで去って行った男の表情は深く被ったローブで見ることが出来なかった。多分相当眠かったのだろう。
◇
久々に寝台の上で目を覚ました。昨日までよりもどこか晴れやかな気分で。身体をうんと伸ばしながら外に出る。
機嫌がいいので朝食の手伝いをした。その時の驚く教会の人間の顔は忘れられない。未だ出て来ない男の部屋の場所を教えてもらい扉を叩くとゆっくりと開く音が聞こえた。目を見開き「どうした?」と聞くので肩をすくめてやる。
「もう朝ですよ。イリュドが心配してたわ」
「ああすまない。完成したから今から出よう」
何を? と聞くと付いて来いと言われたので歩いた先はボクに与えられた部屋だった。慣れた手つきでドアに銀色の無骨な飾りを下げる。
「これでもう迷子にならないだろ?」
「―――もしかして一晩で作ったの?」
ニコリと笑いマルケズはその場を去ろうとした。お礼ぐらい言わせろと腕を引っ張る。
「ありがとね」
それだけ言って離してやる。嗚呼今日はなんていい日なんだ、そんな笑みがこぼれた。
また数日後、少年アルフィノがボクとマルケズ、いやシドを連れ出した。その時、何も言わず飾りを鞄に入れる。役割を終えたそれは初めて彼がくれた"目印"で。その時何故か分からなかったけれど、誰かのものにしたくなかったのは確かだった―――
◇
「そういえば少し前、個人的な用事で司祭に会いに行った時見当たらないなとは思ってたんだ」
「知らない」
「観念しろ」
「しーらーなーいー」
うざい。これ見よがしに全力で絡んできやがる。いや逆の身だったら自分もネタにするから強く突き放せない。両手を上げ降参のポーズを見せる。
「あー……ここだって同じドアばっか。見分けつけるのにちょうどいいやつあるじゃんって思っただけ。それ以外の理由はない」
「今だったら工房に行けばもっといいもの作れるぞ? 有りもので作ったやつだし少々恥ずかしいんだが」
「これでいい。忙しいキミの手を煩わせたくない」
「まあアンナがそう言うならいいが……いややっぱ次に贈るものとして考えておこう」
「だからアレでいいの。自分の場所って一目で分かればそれでいい」
そう、これでいい。ボクは笑みをこぼした。
#シド光♀
「? 何のこと?」
遂に気が付きやがったかと目を背け心の中で舌打ちする。ミスト・ヴィレッジにあるアパルトメント"トップマスト"。一時的な荷物置き場として1室を購入して数ヶ月程度経過した。遂にその部屋の入り口であるドアに下げた無骨な金属を打ち付けて作られた飾り細工が話題になってしまう。
「いやアレは俺がまだ記憶喪失だった頃に作ってやったやつだろ?」
「記憶皆無。偶然鞄に入ってたから目印に置いただけだし」
「ならこちらの目を見て言ってくれないか?」
嗚呼気持ち悪いくらい満面の笑顔になっている。そうだ、忘れるわけがないじゃないか。アレはこの正面でニヤつく男に出会った頃のお話。
◇
ボクは走っていた。勝手に巻き込んだ挙句ぐちゃぐちゃになった砂の家。悲惨な現場を見下すような目で眺めた後、恐怖と怒りを腹の中に溜めながらザナラーンを走る。
辿り着いた先はキャンプ・ドライボーン郊外にある教会。一度イフリートの件で邪魔した場所だ。夜遅くに駆け込み、そこにいた司祭に無機質な声で言葉を吐いた。
「私は旅人。お世話になってた場所が、襲撃されて。ここに行け、と言われたの」
愛想なんて捨ててしまうほど精神が疲れ果てていた。哀れに思った司祭イリュドはボクの肩を優しく撫でてくれた。その時にぼんやりと佇んでいたのが墓守のマルケズ、今のシドである。暁の協力者であるイリュドはしばらく隠れる拠点として滞在するように勧めてくれた。
―――本当は彼らも巻き込みたくなかった。相手はボクを探し手中に収めようとした皇帝が治めるガレマール帝国。5年前に"死んだこと"に出来たからと完全に油断していた。蛮族殺しとして名前が通るようになってしまい、耳に届いた可能性もある。どこにも属したくないから旅人と名乗っているのだ、帝国だけはごめんだねと当時は思っていた。当時中立組織とはいえ暁の血盟を拠点にしていた人間に説得力はないかもしれない。しかし助けを求めてくるのだから手を差し伸べるのは当然である。
この日はマルケズに個室まで案内され、寝台に寝そべった。相変わらず朝まで眠れなかった。
次の日、質素な食事をいただきお使いに出る。マルケズが何やら時計を修理したいとのことなのでドライボーンにて素材やら工具やらを集め、手渡した。その後はお腹が空いたので適当に郊外の動物を狩り、調理して食った。臭いを消すために水浴びをし、香水を付ける。戻った後にはすっかり夜で、いつもの場所にマルケズはいなかった。多分修理をしているのだろう。マメなことでと思いながら廊下に立つ。
「……部屋どこだっけ」
同じ扉、暗い廊下。変に開いて違ったら迷惑だろう。ボクはため息を吐き外に出た。
空を見上げるとそれは綺麗な星空だった。笑みを浮かべ、物陰にもたれかかり睡眠をとる。旅をしていた時によくやっているので慣れた姿勢だった。
◇
早朝、誰かが来る前に教会内の椅子に座り祈りを捧げるフリをする。物音が聞こえ目をやるとマルケズがフラフラと歩いてきた。ボクに気が付くとゆっくりと歩み寄り、修理が終わった時計を見せる。あまり詳しい人間ではないがパッと見この辺りでは見かけない仕様のものだなという印象を受けた。そしてえらく手先が器用な人なんだなと思考を張り巡らせる。
―――他人から集めた情報を整理するとエオルゼア方式でなくどちらかというとガレマール式のもの。ということは彼は帝国か属州出身者という所か。素振りを見る限り記憶喪失は演技には見えない。ということは亡命者で、逃げている途中に大ケガを負ってしまいショックで記憶も飛んだという所だろう。深く被ったローブの下にはゴーグルを付けているのが見えた。推測の域を超えないがガレアン人が持つ第三の眼を隠している可能性が高い。きっとエオルゼアではよろしくない目で見られたであろう。自分のことも分からないが何故か迫害される、そりゃ根暗にもなるか。しかし一晩でパッと直して見せた技術は手が勝手に動いたものとしては目を見張る所がある。記憶はなくても身体が技術を覚えていて、手先が器用な所から純ガレアン族で機工師だと結論付けた。
その後声をかけられボクは再びベスパーベイへ。そうか、秘密結社の構成員は死体を送るべき場所が存在しないのか。"冥府"と呼ばれる還る場所は皆一緒なのに、と哀れな目を見せ冷たい躯を運び込む。まるで普段のボクの体温のように冷たく成り果てた数々の大きさのモノをため息を吐きながら持ち上げた。中には滅多刺しになっている死体もあった。確実に殺すのなら一突きでいい。帝国の人間とやらは頭がおかしいやつばかりなのかと1人拳を握り締めた。そして最後に小さなトモダチを黒衣森へと運ぶ。お礼を言われたが、全く嬉しくなかった。自分が現れなければノラクシアは殺されなかっただろう。小さな声で再び謝った。
腹が減ったので再び適当に狩りをしてから教会に報告する。相変わらず辛気臭いマルケズは不気味だった。まあ自分も周りから不気味だと囁かれているのはちゃんと耳に届いていた。ヴィエラなんだからこの長い耳で全部聞こえてるに決まってるだろう。相変わらず与えられた一室の場所が分からなかったので野宿した。
◇
それからまた次の日も何も起こらないまま外で狩りをしながら見回りを行い、夜は外で星を見ながら野宿を決める。別に恥を忍んでもう一度部屋の場所を聞いてもよかった。が、また忘れてしまい夜も更け寝ようと思った時に気付く。自分のことより周りに帝国の陰が見えるような気がして、そちらに集中してしまうのが一番よくない話だった。
今日も空を見上げながら伸びをするとふと教会の扉が開く音が聞こえた。誰か忘れものでもしたのかなと無視していると「何を、している」と声をかけられる。声の主へと目をやるとマルケズがいた。「星を見ているの」と返してやると少しだけボクを見つめた後少し離れた場所に座る。何がしたいんだこの人。墓場でなければ異性と星空を見上げるという行為はロマンチックだろうねえ。そう思いながら無言が耐え切れなくなったボクは呟いた。
「暗闇は、嫌い」
ボクは昔から暗闇が嫌いである。生まれ故郷を飛び出したあの真っ暗闇の世界が未だに忘れられず、何度か夢にも出て来た。彼は目を細め、「なぜだ?」と聞いてくる。
「真実を隠し、私を狂わせるから」
「俺は好きだ。落ち着くんだ」
真逆の思考である。そうか、今の彼からしたらこの闇は記憶のない自分を包み込んでくれる優しい存在なのかと察する。ため息を吐き頭を両膝に埋めた。本当に何で、旅人なのにこんな所で怯えないといけないんだ。体が寒いとガタガタ震えが抑えられなくなってくる。すると突然背中に温かい感触。マルケズが「だ、大丈夫か?」と背中を優しくさすったようだ。どこか少しだけその寒さが消え去った気がする。「大丈夫」と次なる話題を探した。そうだ、言うなら今だろう。
「あと迷子になる」
「……は?」
顔を上げ、真剣な目で言ってやる。マルケズは面喰ったような顔を見せた後、「そういえばいつも朝礼拝堂で座ってたな。まさかと思うが自室が分からないのか?」と聞いてきた。
「……はい。って笑う所あった?」
「す、すまない。短い通路で迷われるとは思わなくて」
「むぅ失礼なヒト。違う部屋を開けたら失礼かもしれないっていう配慮だよ。でもまあ……笑えるんだ、よかった」
今まで不愛想な対応をしていた男が笑う。少しだけほっとした。優しい笑顔が綺麗な若造だなって印象を抱く。
「何かトラウマで笑えないのかなって」
「その、俺はただ―――」
どうせ記憶喪失で不安だっただけだろう? 言葉を遮るように早速部屋まで案内してもらうために立ち上がり手を差し伸べた。
「さ、誰かに見られたくないでしょ? 私みたいな悪い人に襲われちゃうかもよ?」
手を引っ張り立たせる。少し慌てている顔が面白い。ゴツゴツする手を触り、観察する。自分とは真逆の温かく、大きくて、手入れはあまりしていないのだろうその指はガサガサと荒れ、マメがあった。ふむ予想通り技術者でそれなりに熟練の人間か。「な、何をしている?」と聞くので極力優しい声で答えてやる。
「技術者の手」
「そう、か?」
「数日観察の結果、ね。今触ってみて確信した。大きくて、しっかりとしてて私は嫌いじゃないな」
目を見開きボクを見つめている。面倒だから「明日に支障が出るよ? あなたがね」と言いながら教会へと足を進める。待てと言葉と共にマルケズがボクを追い抜き、その後部屋まで案内してくれた。「ありがと、おやすみ」と言ってやると「ああおやすみ。もう迷子になるなよ」と素っ気なく返される。慌てて自分の部屋だと思われる場所に早歩きで去って行った男の表情は深く被ったローブで見ることが出来なかった。多分相当眠かったのだろう。
◇
久々に寝台の上で目を覚ました。昨日までよりもどこか晴れやかな気分で。身体をうんと伸ばしながら外に出る。
機嫌がいいので朝食の手伝いをした。その時の驚く教会の人間の顔は忘れられない。未だ出て来ない男の部屋の場所を教えてもらい扉を叩くとゆっくりと開く音が聞こえた。目を見開き「どうした?」と聞くので肩をすくめてやる。
「もう朝ですよ。イリュドが心配してたわ」
「ああすまない。完成したから今から出よう」
何を? と聞くと付いて来いと言われたので歩いた先はボクに与えられた部屋だった。慣れた手つきでドアに銀色の無骨な飾りを下げる。
「これでもう迷子にならないだろ?」
「―――もしかして一晩で作ったの?」
ニコリと笑いマルケズはその場を去ろうとした。お礼ぐらい言わせろと腕を引っ張る。
「ありがとね」
それだけ言って離してやる。嗚呼今日はなんていい日なんだ、そんな笑みがこぼれた。
また数日後、少年アルフィノがボクとマルケズ、いやシドを連れ出した。その時、何も言わず飾りを鞄に入れる。役割を終えたそれは初めて彼がくれた"目印"で。その時何故か分からなかったけれど、誰かのものにしたくなかったのは確かだった―――
◇
「そういえば少し前、個人的な用事で司祭に会いに行った時見当たらないなとは思ってたんだ」
「知らない」
「観念しろ」
「しーらーなーいー」
うざい。これ見よがしに全力で絡んできやがる。いや逆の身だったら自分もネタにするから強く突き放せない。両手を上げ降参のポーズを見せる。
「あー……ここだって同じドアばっか。見分けつけるのにちょうどいいやつあるじゃんって思っただけ。それ以外の理由はない」
「今だったら工房に行けばもっといいもの作れるぞ? 有りもので作ったやつだし少々恥ずかしいんだが」
「これでいい。忙しいキミの手を煩わせたくない」
「まあアンナがそう言うならいいが……いややっぱ次に贈るものとして考えておこう」
「だからアレでいいの。自分の場所って一目で分かればそれでいい」
そう、これでいい。ボクは笑みをこぼした。
#シド光♀