FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.41, No.39, No.38, No.37, No.36, No.35, No.34[7件]
旅人は新年の空を見上げる
―――明日は降神祭という年が一巡することを記念する日。何でもお祝い化するエオルゼアに来て何年が経過したのだろう。新年祝い程度なら故郷でも無かったわけではないが本当にこの地域は色々な国のお祭りを柔軟に取り入れるなぁ。
今日はまず今年も色々ありました、と感謝のしるしに石の家の掃除を手伝った。今年の汚れは今年のうちに。旅人である自分には無縁の文化だったがそれも楽しかった。
ついでに自分の鞄や相棒チョコボのフレイム、リテイナーのフウガ、リリア、ノラに預けた荷物も整理し新年を迎える準備も終わらせる。今日は休んでいいよ、と料理をあげたらみんな喜んでくれて嬉しいね。
いろんな組織から年忘れの会に誘われたがふわりと断り、現在黒衣森にて1人焚き火の前で空を見上げていた。
この空を見上げる行為がこれまでの新年を越える瞬間の過ごし方で。いや、いつが新年かなんて見分けがつかなかったからそう言ってるだけさ。まあ何十年も続けてるわけだから簡単に変わるわけもなく。
さっき釣った魚や狩った動物の肉を焼き、先程グリダニアで調理した餅を食べる。ついでにいつも後ろに付いてきているハシビロコウに適当に生魚を投げた。本当にいつの間にか付いて来たしどこか"忘れて欲しくなさそうに"佇んでいるものだから邪険に扱うことが出来なかった。
少しずつ自分の中で決めてきた日常に誰かの手が入っているのは少々面白い。最初は心がバラバラになりそうなくらい苦痛で厭だったが、一度作っていた壁を正面から破壊されるとそれも悪くないと思うようになっていった。
懐中時計を開くとあともう少しで時計の針が一巡し、新しい世界に足を踏み入れる。何か物足りないと思う心を撫でながらまた星空を見上げているとふと人が走ってくる音が聞こえた。
音が聞こえる方をいつもの笑顔で眺めていると白色の男が息切れしながら走って来た。
「やっと見つけた……」
「おや社畜のお偉いさんが走って来た」
やってきた足りなかったパーツに「まあとりあえずおいで」と開けておいた隣を指さしミネラルウォーターを開けた。さすがにその辺りの水をおぼっちゃまにあげるほど終わった価値観はしていない。
シドは私の隣に座り水を飲んだ。
「最低限やるべき仕事は終わらせたさ。細かい作業も片付けておこうと思ったらお前座標だけリンクシェル通信で流しただろ? おかげでジェシーたちに満面の笑顔で見送られたさ」
「別に社員と迎えてもよかったんだよ? 地獄の新年」
「アンナがいないだろ?」
シラフで何言っているんだコイツ。まあシラフでいろいろ吐くのはボクも変わらないか。
「こうやって過ごすクセが抜けなくてねえ。故郷もこれよりも大きい焚き火の周りで火に感謝しながら酒の交わし合っていたのさ。未成年だったボクはとっとと寝させられたけど」
時計の針を見るとあと数刻で日が変わるようだ。
「まあ理由もわかるよね?」
「予想はつくから言わなくてもいい」
「察しのいいキミが大好きだよ」
「お前なあ」
カラカラと笑ってやるとシドは顔を片手で覆いため息を吐いた。まあからかうと反応が面白いわけ。
残り約十秒。よし来たときにと考えていたプランを実行する。「シド」と名前を呼んで彼の方を向こうとするとぐいと引っ張られた。そしてボクの口に唇を押し当てられた。
横目で見るとジャスト0時。やられた、と目を閉じた。
「ちくしょーボクがする予定だったのにな」
「それだけ慣れたんだ」
「悔しいなあ」
「新年から悔しがる姿が見れたからいい一年になりそうだ」
「……バーカ」
私が作っていた壁を壊し、呪いに新たな祝福を上書きした男の肩に手を回し密着させた。「だから逆だろ」という言葉は無視することにする。兄さんもお嫁さんたちとこうしているのかな。
「そうだ、リムサロミンサに行かない? 今年の運勢を見よ」
「今からか? 初日の出を見に行くのが先だろう」
「今から気象予報を見て来いって? 無茶言うなって」
「それ位調べてきたさ。コスタでいいだろ?」
「リムサ行くのにはかわりないじゃん。というか間に合わないって」
「……じゃあここでいいな。お前別にそういう文化はここに来るまで触れずに星空眺めてたんだろ?」
「うん、そだね」
1人だったハズの場所に常に誰かいるというのは少し照れくさい。でもそういうのも、悪くない。
しかしこれから誰かと過ごすならば同じ見晴らしがいい場所でももっといい所がたくさんある。
「来年は、ここ以外を考えておく」
「そうしてくれ」
とりあえず、殴り込みかな。
―――一方その頃ガーロンド・アイアンワークス社。
「俺が! 妹と! 過ごしたかった! 君たちなぜ止めた……あぁ……」という表情をコロコロと変えながら呻き声をあげる赤髪ヴィエラの男を肴に残った社員で仕事を片付ける会が行われていたことをアンナは知らない。
#シド光♀ #季節イベント
今日はまず今年も色々ありました、と感謝のしるしに石の家の掃除を手伝った。今年の汚れは今年のうちに。旅人である自分には無縁の文化だったがそれも楽しかった。
ついでに自分の鞄や相棒チョコボのフレイム、リテイナーのフウガ、リリア、ノラに預けた荷物も整理し新年を迎える準備も終わらせる。今日は休んでいいよ、と料理をあげたらみんな喜んでくれて嬉しいね。
いろんな組織から年忘れの会に誘われたがふわりと断り、現在黒衣森にて1人焚き火の前で空を見上げていた。
この空を見上げる行為がこれまでの新年を越える瞬間の過ごし方で。いや、いつが新年かなんて見分けがつかなかったからそう言ってるだけさ。まあ何十年も続けてるわけだから簡単に変わるわけもなく。
さっき釣った魚や狩った動物の肉を焼き、先程グリダニアで調理した餅を食べる。ついでにいつも後ろに付いてきているハシビロコウに適当に生魚を投げた。本当にいつの間にか付いて来たしどこか"忘れて欲しくなさそうに"佇んでいるものだから邪険に扱うことが出来なかった。
少しずつ自分の中で決めてきた日常に誰かの手が入っているのは少々面白い。最初は心がバラバラになりそうなくらい苦痛で厭だったが、一度作っていた壁を正面から破壊されるとそれも悪くないと思うようになっていった。
懐中時計を開くとあともう少しで時計の針が一巡し、新しい世界に足を踏み入れる。何か物足りないと思う心を撫でながらまた星空を見上げているとふと人が走ってくる音が聞こえた。
音が聞こえる方をいつもの笑顔で眺めていると白色の男が息切れしながら走って来た。
「やっと見つけた……」
「おや社畜のお偉いさんが走って来た」
やってきた足りなかったパーツに「まあとりあえずおいで」と開けておいた隣を指さしミネラルウォーターを開けた。さすがにその辺りの水をおぼっちゃまにあげるほど終わった価値観はしていない。
シドは私の隣に座り水を飲んだ。
「最低限やるべき仕事は終わらせたさ。細かい作業も片付けておこうと思ったらお前座標だけリンクシェル通信で流しただろ? おかげでジェシーたちに満面の笑顔で見送られたさ」
「別に社員と迎えてもよかったんだよ? 地獄の新年」
「アンナがいないだろ?」
シラフで何言っているんだコイツ。まあシラフでいろいろ吐くのはボクも変わらないか。
「こうやって過ごすクセが抜けなくてねえ。故郷もこれよりも大きい焚き火の周りで火に感謝しながら酒の交わし合っていたのさ。未成年だったボクはとっとと寝させられたけど」
時計の針を見るとあと数刻で日が変わるようだ。
「まあ理由もわかるよね?」
「予想はつくから言わなくてもいい」
「察しのいいキミが大好きだよ」
「お前なあ」
カラカラと笑ってやるとシドは顔を片手で覆いため息を吐いた。まあからかうと反応が面白いわけ。
残り約十秒。よし来たときにと考えていたプランを実行する。「シド」と名前を呼んで彼の方を向こうとするとぐいと引っ張られた。そしてボクの口に唇を押し当てられた。
横目で見るとジャスト0時。やられた、と目を閉じた。
「ちくしょーボクがする予定だったのにな」
「それだけ慣れたんだ」
「悔しいなあ」
「新年から悔しがる姿が見れたからいい一年になりそうだ」
「……バーカ」
私が作っていた壁を壊し、呪いに新たな祝福を上書きした男の肩に手を回し密着させた。「だから逆だろ」という言葉は無視することにする。兄さんもお嫁さんたちとこうしているのかな。
「そうだ、リムサロミンサに行かない? 今年の運勢を見よ」
「今からか? 初日の出を見に行くのが先だろう」
「今から気象予報を見て来いって? 無茶言うなって」
「それ位調べてきたさ。コスタでいいだろ?」
「リムサ行くのにはかわりないじゃん。というか間に合わないって」
「……じゃあここでいいな。お前別にそういう文化はここに来るまで触れずに星空眺めてたんだろ?」
「うん、そだね」
1人だったハズの場所に常に誰かいるというのは少し照れくさい。でもそういうのも、悪くない。
しかしこれから誰かと過ごすならば同じ見晴らしがいい場所でももっといい所がたくさんある。
「来年は、ここ以外を考えておく」
「そうしてくれ」
とりあえず、殴り込みかな。
―――一方その頃ガーロンド・アイアンワークス社。
「俺が! 妹と! 過ごしたかった! 君たちなぜ止めた……あぁ……」という表情をコロコロと変えながら呻き声をあげる赤髪ヴィエラの男を肴に残った社員で仕事を片付ける会が行われていたことをアンナは知らない。
#シド光♀ #季節イベント
旅人と赤色
―――あれは魔導城プラエトリウムで堂々と影口を叩かれ、舐めプされた挙句あっさり負けることになった出来事よりも前だ。羅列したら今でもかなりムカついてきたなこりゃ。すまねェ話題が逸れる所だった。あの旅人には数度会った事がある。確実にガーロンドが会うよりも前。そうだ、まだアレが赤髪だった頃。自分が『鮮血の赤兎』だってコト隠す気あったのか? と疑問に思うグリダニア入りする前のアレについて少々語っておこう。
1.高地ラノシアより
あの頃、オレはエーテル計測のために何度か独断でエオルゼア内に潜入していた。今回は高地ラノシアでタイタンのエーテル計測に洒落込もうと1人森の中で計測装置と睨み合っている。エオルゼアでは敵視されるであろう第三の眼を隠すため仮面を被り行動していたのもあり少々視界が狭い。それを補う手は持っていたのであってないようなものだが。とにかく手に持った端末でエーテル観測装置動きを見る。
急にエーテル反応が激しく上下し、興奮した。どこから来ているモノなのか、タイタンと関係してるのか? いやあの小さき蛮族たちにはまだ召喚できるほどの余裕はないハズだ。未知の発見に大人げなく目を輝かせていたらやらかした。いつの間にかコボルド族に囲まれ俺はため息を吐く。
別にコイツらくらい即追っ払える。いつものハンマーは持って来ていないが、小型ガンブレードを取り出そうとニィと笑いながら懐に手を突っ込もうと瞬間だった。観測装置が何やらブザーを鳴らし、端末で映し出していたデータがぐわんと動いたのだ。どういうことだ、と思った瞬間だった。
オレの前にヒトが降って来た。
赤色の髪、長い耳。鋭い"銀色"の目にすらりと高い背丈はオレと同じくらいだろう。長い耳を含めたらアウラ族の男と同じくらいには大きい。聞いたことがある。オサードの方に住むヴィエラ族。急に天に向かい矢を打ち放ちオレに「伏せな」と一言。その異質な声に一瞬鳥肌が立った。これは殺意、それも目の前の女から。オレは反射的に地面に伏せた。更に腕を掴みながら抱き寄せられた瞬間、頭上が風を切った。先程まで自分がいた場所に大量の矢が落ちる。
コボルド族の叫び声を皮切りに、断続的に何かが落ちてくる音が聞こえた。
「いいよ」
と朗らかな声が聞こえ、細い肢体から離れながら顔を上げると周りに散乱した矢、そしてコボルド族の死体。うめき声も聞こえる。仲間を見捨てて逃げ行くヤツもいた。
目の前でそのヴィエラは「恨むならあの男じゃなくて、"私"」と言いながら笑顔で致命傷を負ったコボルド族にトドメを刺す。ヒュ、と喉が鳴った。観測装置をチラりと眺めるといつの間にか何事もなく推移していた。
◇
「ケガはない?」
「あ、ああ」
「よかった」
一頻り作業が終わったのかオレのところにヴィエラが駆け寄ってくる。優しい"銀色"の目が細められた。
「騒ぎ声が聞こえて木の上から確認したらあなたが蛮族に囲まれてたから乱入してみたのさ」
「あ、ありがとナ?」
引きつった笑顔でとりあえず礼を言う。会話は出来るらしい。ひとまず安堵するがあのパワーがどこから出て来ているのか分からなかった。
健康的な褐色の肌に引き締まった筋肉、男とは異なる柔らかそうなそこらの女より豊満であろう胸。背面を隠すマントの下に見える民族衣装の特徴的にもオンナだと分かるが理解を拒む。
「あ、"私"は通りすがりの旅人、あなたも……旅人だな?」
「まあ異国から来たからオマエと一緒ってやつか」
「そう。だから名乗り合わず一期一会って所。ああ仮面も外さなくて構わない。"この子"は興味ないだろうから」
「怪我をしているもンでな。助かるぜ」
「そう。最近蛮族やモンスターが騒がしいから気を付けてな」
オンナは踵を返し手を振る。一瞬だけ翻されたマントの下に引っ掻かれたような傷痕が見えた。それがこのオンナの想像もつかない旅路の一端が伺える。
「じゃ、逃げたあなたを襲ったコボルド族のトドメ刺しておいてやるから。あまり知られたくないでしょう? イヒヒッ」
逃げて行った奴らの方向へ走って行った。その後俺は汗が噴き出し座り込んだ。手の震えを止めようと端末のログを見つめた。
あんなまとまった殺意を隣で受けたのだ。ビビるに決まってンだろ。だが当時のオレにとっては一つの興味も湧いてしまったのだ。
「面白ェ玩具を見つけたぜ」
当時のオレを殴りたい。あンなヤツに興味持った地点でオレは終わってンだよ。
でたらめに撃ち上げた矢と回し蹴りだけで小型生物であれ笑顔で生き物を殺せる人間を扱えるヤツがいるわけがないじゃねェか。
2.戻ってこない
閣下がエオルゼア入りして間もない頃、俺は何人かに金を握らせてそのヴィエラの情報を集めた。名前はすぐに分かった。『アンナ・サリス』、第七霊災以降エオルゼア周辺に現れた『旅人』らしい。困ったことはないかと声をかけ、牧畜の手伝いからモンスター討伐まで大体のことは何でもやってもらえるのだという。加えて報酬は現金でなく食事や泊まる場所の提供でいいというお人好しだとか。
よく分かんねェヤツだった。あんな軍人でもある自分が本能的にやべェとなる旅人が存在するわけがないだろと平和な脳みそのやつらだとため息を吐く。
また調べたら最近グリダニアで冒険者として登録したのだという。この登録が行われるよりも前から自発的な人助けが行われていたらしい。いや絶対どこかで雇われた傭兵とか草だろ? そうだと言って欲しかった。そっちの方がいっそ精神的に楽になる。
じゃなければアレは、山から下りてきた危険生物か災害の擬人化だ。
しかし気になったこともある。金を握らせた情報屋たちが日を重ねるごとに来なくなった。持ち逃げされたのか? とその時は思ったが、オレはある時とンでもない話を通りすがった衛兵の話が聞こえたのだ。「最近よく情報屋の死体が上がるな」、と。
詳細を聞くべきか衛兵に声をかけようとした瞬間肩を叩かれた。一瞬風がざわめき心臓が止まりそうになりながらも振り向くとそこには、あのヴィエラがいた。"赤色"の目を細め、会釈する。
「こんにちは」
「お、おう」
「いい天気だね」
「そうだな」
しばらくこの調子で他愛のない話が続く。この辺りのおいしかった食べ物の話や、特産物の話。グリダニア、とっても落ち着くしいいよねと笑顔で語るのを聞く。
「うん、あなたではなさそう。じゃ」
と一頻り話をした後軽やかなステップで去って行った。そしてボソと無機質な小さな声が俺の心臓を掴んだことを覚えている。
「この辺りで合流するって口を割ったんだけどなあ」
振り向くがそこには誰も、いなかった。
アイツが殺せるのはモンスターだけではない。人も、あの笑顔で、手にかけることができる。
アレをもし閣下の元に持って行ったらどうなるだろうか。いや、忠実に人の言うことを聞くオンナには見えない。それ以前にアレを、誰にも渡したくない。当時のオレはそンな下らないことを考えていた。異性としての感情ではない。ただ、今復元しようとしている旧い技術と並ぶ"奥の手"として欲するようになったのだ。
あの時のオレに言いたいことがある。やめておけ。鮮血の赤兎に、殺されかけるぞ。
◆
というのがあのオンナがガーロンドに出会うよりも前の昔話ってやつだ。今や髪色を変え、性格も柔らかく見せながらガーロンドの野郎に懐くバカウサギになっている。
未だ底を見せないあのオンナのバケモノスペックを前によくデレデレ出来るもンだ。
練度が低かったとはいえ小型のカストルムを1時間経たずに1人で殲滅させる実力を持つバカがオンナなわけがねェだろ。隠蔽したこっちの身にもなれって話だ。
#ネロ #即興SS
旅人のはじまり
―――ボクは森で住んでいながらも炎に重きを置き崇める部族、エルダス族の集落で生まれた。
「ボクは将来貴方と結婚して一緒に産み落とされた愛の結晶を育てる」
「ねえさま、今日もキレイだ。お茶でもいかが?」
「ボクは里で一番の戦士になって、絶対みんな幸せにする」
ベタな口説きセリフ。これは兄がよく言ってた口説き文句を自分なりにアレンジした言葉だった。「―――くんったら」って適当にあしらわれてたけどね。
狩りも好きだった。槍も同世代の中で一番強かった。いつか性別が判明して、兄と一緒に修行の旅に出るんだって約束したんだ。
「こら―――!またイタズラばっかりして!」
「引っかかった方がわるいんだよー!」
イタズラも大好きだった。椅子に何か仕込んだり洗濯物をシャッフルしたり。自分でも今思うと悪ガキだったと思う。血のつながっていない姉たちにとっ捕まって頭をぐりぐりされて。ゲラゲラと笑いながら彼女らのお尻を触って逃げたりもした。
「ボク、兄さんと絶対に旅に出る!」
「ああ僕もお前と切磋琢磨し合える未来を祈っているさ」
ボクより10以上年上だった血のつながった兄は数年に一度帰ってきて抱き上げて振り回してくれた。なんと言えばいいか―――子供の頃の自分にとっての世界って森の中にあるものだけで。外の世界の悪意という存在を知らなかった幸せな日々だったと思う。
14歳、性別がはっきりしたあの時までは。
◇
「ない」
男を象徴するものが、ない。何度も確かめた。でもないモノはないのだ。
母のボクを呼ぶ声が聞こえた気がした。ボロボロと涙が落ちる。森の守護者ではなく護人として護られながら集落のために生きなければならない。
それからボクの耳にはオンナタチのボクを気の毒に見る目と、罵る声が脳内から離れなくなってしまった。笑われていたんだよ、滑稽な姿だっただろうから。昨日までの無垢な笑みを浮かべる自分に焼かれ堕ちていくボク自身がこわくてかなしくてくるしくて。
目の前の景色から色が失われてしまった、そんな感覚を味わった。ボクは耐えられなくなり、兄の帰郷も待つことも出来ない。性別が分かってから1ヵ月もせずに、集落から飛び出してしまった。
◇
ボクは走り続けた。方向も分からない。とにかく走りたかった。自分をオンナにしたカミサマを呪う言葉を吐きながら、真っ暗な森を走った。何度も転んだし野生生物も襲い掛かってきたがボクの敵ではない。確実に急所を打ち抜き、その肉を喰らった。髪の赤色と血の赤色がぐちゃぐちゃになり、何も感覚が分からなくなった頃ボクは真っ黒な森を抜けた。
家の帰り方はもう分からない。歩き続けるしかない。色のない地面を踏みしめ終わりの見えない道を歩く。
しばらくして。食べられなさそうなモンスターばかりの道を歩き続けたボクは「おなかすいた」とつぶやきバタリと倒れた。ここで終わりか。カミサマを呪ったからバチが当たったんだ。「いやだ、ごめんなさい、兄さん」知らない低い声で呻くように泣く。ボクはどうしたらよかったのだろうか。生まれ変わったら何になろうか。そう考えながら目を閉じようとした。その時だった。
「おぬし、モンスターではないな。大丈夫か?」
かすむ視界にナニカが映る。ボクは必死に手を伸ばし「おなか、すいた」とつぶやいたら急に手に持っていたらしい水をかけられた。
びっくりして起き上がるとボクの手に何かを握らされ、「食べなさい」と声が聞こえた。ボクはすぐにむさぼるように、食い散らす。その人はボクの背中を撫でながら「急がなくてもいい。私がいる限り、おぬしを危険な目に遭うことはない」となだめてくれた。
徐々に視界が晴れていく。見上げるとそこには、銀髪でヒゲがよく似合う侍のおじさまが無表情ながらどこか優しい雰囲気を見せていた。そう、この人を見た瞬間、ボクの視界は昔みたいに奇麗で鮮やかに映るようになったんだ。
「名前は?」
「……フレイヤ・エルダス」
「よい名前だ。私はリンドウ・フウガ、無名の旅人をしておる。―――フウガと呼びなさい」
「フウガ」
伸ばされた手を握り立ち上がろうとするが体が動かない。それを見かねたフウガはボクを軽々と背負い歩き出した。
「エルダス、おぬしは……ヴィエラか。家は?」
「帰れない」
「訳アリか。嗚呼言わなくてもよい。お互いのことを興味持つ必要性は皆無」
それからボクは魔物退治を依頼されて滞在していたと近くの村に運ばれた。怪訝な顔をされながらも血を洗い流され村人から女の子だったのかと驚愕された。亡くなった娘が着ていたものだという服を渡され着替えたボクはフウガのところへ戻ると1人タバコをくわえたたずんでいた。
藍色の着物と結われた髪、いつも額に巻かれたハチマキとヒゲが似合う奇麗な人だった。今思うと異国から来た人だったのかもしれない。すらりと細い体躯から軽やかな身のこなしで敵を斬る姿が幼い自分の心に大きく刻まれている。
「これから、どうする」
「……フウガ、ボクも旅人になりたい」
「帰る場所もない訳アリが適当な村で暮らせるわけもないか」
「じゃあ!」
何も言わず手を差し伸べてくれた。ボクはその固い手を握り歩き出した。
―――これがボクの旅の始まり。何も知らなかったボクに世界を教えてくれた初恋さ。
#リンドウ関連 #即興SS
「ボクは将来貴方と結婚して一緒に産み落とされた愛の結晶を育てる」
「ねえさま、今日もキレイだ。お茶でもいかが?」
「ボクは里で一番の戦士になって、絶対みんな幸せにする」
ベタな口説きセリフ。これは兄がよく言ってた口説き文句を自分なりにアレンジした言葉だった。「―――くんったら」って適当にあしらわれてたけどね。
狩りも好きだった。槍も同世代の中で一番強かった。いつか性別が判明して、兄と一緒に修行の旅に出るんだって約束したんだ。
「こら―――!またイタズラばっかりして!」
「引っかかった方がわるいんだよー!」
イタズラも大好きだった。椅子に何か仕込んだり洗濯物をシャッフルしたり。自分でも今思うと悪ガキだったと思う。血のつながっていない姉たちにとっ捕まって頭をぐりぐりされて。ゲラゲラと笑いながら彼女らのお尻を触って逃げたりもした。
「ボク、兄さんと絶対に旅に出る!」
「ああ僕もお前と切磋琢磨し合える未来を祈っているさ」
ボクより10以上年上だった血のつながった兄は数年に一度帰ってきて抱き上げて振り回してくれた。なんと言えばいいか―――子供の頃の自分にとっての世界って森の中にあるものだけで。外の世界の悪意という存在を知らなかった幸せな日々だったと思う。
14歳、性別がはっきりしたあの時までは。
◇
「ない」
男を象徴するものが、ない。何度も確かめた。でもないモノはないのだ。
母のボクを呼ぶ声が聞こえた気がした。ボロボロと涙が落ちる。森の守護者ではなく護人として護られながら集落のために生きなければならない。
それからボクの耳にはオンナタチのボクを気の毒に見る目と、罵る声が脳内から離れなくなってしまった。笑われていたんだよ、滑稽な姿だっただろうから。昨日までの無垢な笑みを浮かべる自分に焼かれ堕ちていくボク自身がこわくてかなしくてくるしくて。
目の前の景色から色が失われてしまった、そんな感覚を味わった。ボクは耐えられなくなり、兄の帰郷も待つことも出来ない。性別が分かってから1ヵ月もせずに、集落から飛び出してしまった。
◇
ボクは走り続けた。方向も分からない。とにかく走りたかった。自分をオンナにしたカミサマを呪う言葉を吐きながら、真っ暗な森を走った。何度も転んだし野生生物も襲い掛かってきたがボクの敵ではない。確実に急所を打ち抜き、その肉を喰らった。髪の赤色と血の赤色がぐちゃぐちゃになり、何も感覚が分からなくなった頃ボクは真っ黒な森を抜けた。
家の帰り方はもう分からない。歩き続けるしかない。色のない地面を踏みしめ終わりの見えない道を歩く。
しばらくして。食べられなさそうなモンスターばかりの道を歩き続けたボクは「おなかすいた」とつぶやきバタリと倒れた。ここで終わりか。カミサマを呪ったからバチが当たったんだ。「いやだ、ごめんなさい、兄さん」知らない低い声で呻くように泣く。ボクはどうしたらよかったのだろうか。生まれ変わったら何になろうか。そう考えながら目を閉じようとした。その時だった。
「おぬし、モンスターではないな。大丈夫か?」
かすむ視界にナニカが映る。ボクは必死に手を伸ばし「おなか、すいた」とつぶやいたら急に手に持っていたらしい水をかけられた。
びっくりして起き上がるとボクの手に何かを握らされ、「食べなさい」と声が聞こえた。ボクはすぐにむさぼるように、食い散らす。その人はボクの背中を撫でながら「急がなくてもいい。私がいる限り、おぬしを危険な目に遭うことはない」となだめてくれた。
徐々に視界が晴れていく。見上げるとそこには、銀髪でヒゲがよく似合う侍のおじさまが無表情ながらどこか優しい雰囲気を見せていた。そう、この人を見た瞬間、ボクの視界は昔みたいに奇麗で鮮やかに映るようになったんだ。
「名前は?」
「……フレイヤ・エルダス」
「よい名前だ。私はリンドウ・フウガ、無名の旅人をしておる。―――フウガと呼びなさい」
「フウガ」
伸ばされた手を握り立ち上がろうとするが体が動かない。それを見かねたフウガはボクを軽々と背負い歩き出した。
「エルダス、おぬしは……ヴィエラか。家は?」
「帰れない」
「訳アリか。嗚呼言わなくてもよい。お互いのことを興味持つ必要性は皆無」
それからボクは魔物退治を依頼されて滞在していたと近くの村に運ばれた。怪訝な顔をされながらも血を洗い流され村人から女の子だったのかと驚愕された。亡くなった娘が着ていたものだという服を渡され着替えたボクはフウガのところへ戻ると1人タバコをくわえたたずんでいた。
藍色の着物と結われた髪、いつも額に巻かれたハチマキとヒゲが似合う奇麗な人だった。今思うと異国から来た人だったのかもしれない。すらりと細い体躯から軽やかな身のこなしで敵を斬る姿が幼い自分の心に大きく刻まれている。
「これから、どうする」
「……フウガ、ボクも旅人になりたい」
「帰る場所もない訳アリが適当な村で暮らせるわけもないか」
「じゃあ!」
何も言わず手を差し伸べてくれた。ボクはその固い手を握り歩き出した。
―――これがボクの旅の始まり。何も知らなかったボクに世界を教えてくれた初恋さ。
#リンドウ関連 #即興SS
20231226メモ
移行作業が終わりました。というわけで本館は最低限の奴だけ一覧に残してあとはこっちに置いて行こうと思います。
TOPの絵を下書き終わってからシドここに手が来るのおかしくない!?お前アンナより低身長だろ!?ってなりましたので踏み台に乗ってるかアンナが持ち上げてます。かわいいね。
あとがきこれからどうしようかな。メモに残すようにしようかな。でも更新履歴が埋まっちゃうなあと悩み
最近思ったんですけどサンホラのよだかの星の歌詞がとてもマルケズからのシドって感じがして染み渡りました。ありがとう陛下。
TOPの絵を下書き終わってからシドここに手が来るのおかしくない!?お前アンナより低身長だろ!?ってなりましたので踏み台に乗ってるかアンナが持ち上げてます。かわいいね。
あとがきこれからどうしようかな。メモに残すようにしようかな。でも更新履歴が埋まっちゃうなあと悩み
最近思ったんですけどサンホラのよだかの星の歌詞がとてもマルケズからのシドって感じがして染み渡りました。ありがとう陛下。
旅人は奮い立たせたい後日談です。
「よっネロサン生きてる?」
「おかげさまで、な。久々じゃねェか」
ラールガーズリーチ、野戦病院。オメガに襲撃され大けがを負ったネロは意識こそ回復したものの未だに絶対安静を言い渡されている。
そんな彼の前に黒髪のヴィエラが顔を出した。
「お前毎日回復魔法かけてたンだろ? ガーロンドのところに顔出さずに」
「あら知ってたの?」
「ビッグスとウェッジが言ってた。喧嘩でもしてンのか?」
「邪魔になるでしょ?」
アンナは温泉旅行というものは名ばかりで実は毎晩こっそりケガを負っていたビッグス、ウェッジ、ネロに白魔法をかけていた。ネロが薄目を開くと時々噂だけ聞いていたシャーレアン式占星術師の格好もしていたが。そして疲れた分はまた温泉に行き、個室で作業をする生活を5日程繰り返している。
シドの所は顔を出すか考えたが集中が阻害されるだろうと考え現れないようにしていた。もちろんジェシーにもバレないように忍び込んでいる。
「キミがいない分いっぱい頭使って働いてるんだし集中させてあげたいのさ」
「そりゃ優しいことで。ってリンゴか?」
「さっきそれぞれビッグスとウェッジにもあげてきたところでねえ。お見舞いの定番」
「そうか?」
アンナは「多分」と言いながらナイフとリンゴを取り出し皮を剥き始めた。器用に剥かれていくいく紅い果実をネロはしばらく眺めていたらアンナが「そういえば……これ、知ってる?」と言いながら便箋を取り出す。黒色に金のラインが引かれた便箋。ネロからするとよく見ていた印がつけられたものだ。
「ああ当然だろ? 祖国の初代陛下が使っていたヤツだよ。どこで手に入れたンだ?」
「アラミゴ解放パーティが終わって次の日に置かれてた」
「はあ? あの方はとっくに亡くなってて使ってるヤツもいねェぞ」
「でしょうね」
あっという間に赤いリンゴは白に変貌し、等分される。「はい」とネロの口元に押し付けられたのでそのまま食べる。
「おいしい?」
「うめェな。じゃなくて! 何が書いてあった?」
「その前に。ネロサンじゃないんだよね? このイタズラ」
「オレがやるわけねェだろ」
「だってボクがアレだって知ってるのはキミしか把握してないし。だから聞きに来た」
「オレが犯人だとして白昼堂々と尋ねンじゃねェ」
次々とリンゴを口に押し込まれる。「一気に食えねェよ皿に置いて渡せ!」と言ってやると「面倒」と返された。そう言いながらも皿にリンゴに乗せて横に置く。その後鞄の中を漁り始めた。
「じゃあ準備しとくに越したことはないか。……はい」
ネロに1冊の本が手渡される。豪華な装丁にグルグルと鎖が巻きつけられた分厚い不審物をネロは怪訝な目で眺めている。
「なンだこれ?」
「答え」
「は?」
「いやキミに対してのものではなく。……ボクが死ぬか今日から1年後ガーロンド社に帰ってくることがなくなった時、シドに渡してほしい」
「ンでオレが」
「ヒミツと約束を守ってくれそうな人、キミしか知らないからさ」
押し返そうとするが珍しく弱った顔で見てくるので詰まってしまう。そんな顔ができたのかこのメスバブーンという本音を仕舞い込んだ。
「何でそんな準備をする必要がある?」
「『お前の役割は終わった』」
「ア?」
「手紙の内容」
アンナは手紙を開封し、手渡された。真っ黒な紙に書かれた白色の文字とガーネットが施された装飾品。ネロがガーネットの意味を問うとアンナは昔皇帝に名乗ったからと答える。
「こんなイタズラされたら遺言の準備もしたくなるさ」
「物騒なこと言うンじゃねェ。てかお前これ抱えたままこっち手伝ってたのかよ……誰かに相談してンのか?」
「こんなの誰にも言えるわけないでしょ? ちょうどキミが過去のボクを知っていたからね。やっと話せてスッキリした」
アンナは足を組みため息を吐く。ネロは手紙を閉じ突き返した。
「ったくまあ受け取ってやるが中身見るぞ?」
「その錠はいろいろ技術練って簡単には開かないようにしてるよ。後でシドに鍵渡すからそれが揃って初めて開封できる」
「楽しいギミックを作りやがって」
「カンニングされたら困るからね」
さっきから何を言ってンだ? とネロは聞くとアンナは今シドに宿題をあげててねと答える。
「もし死を回避できてもさ。1年後、彼が宿題を解けなければエオルゼアから出て行こうと思っているんだ。あ、これも内緒だよ?」
「また突然なこと言うなオマエ」
「彼が喉から手が出るほど欲しい答えは全てそれに書いている。猛烈に後悔させる予定さ」
クククと笑う姿を見てネロはため息を吐いた。痴話喧嘩か何かに巻き込まれてしまったようだと気が付いた時にはもう受けるしかない状況に追い込まれている。とりあえず傍に置いている鞄の中に投げた。それを見たアンナは「ありがとう」と満面の笑顔に戻っている。その後何かに気が付いたのか頭部を指さした。
「あ、髪にゴミ付いてるじゃんのけてあげるよ病人サン」
「へいへいって近づく必要ねェだろ!?」
「絶対安静でしょ」
ネロの寝台に手を置き、髪の毛をぐしゃりと撫でながらゴミを払い、乱れた髪型も直して見せた。アンナの顔が頬に寄せられ香水の匂いがほのかに香る。
対してネロは猛烈に慌てていた。なぜかというと、背後にちょうど今休憩のためか外に出て即気が付いた大層機嫌の悪い噂の男が大股で近付き腕組みしてネロを睨みつけていたからである。
「おい! メスバブーン離れろ!」
「言われなくても。騒ぐ必要ない」
「う、し、ろ、見ろ!」
ここでアンナはようやく後ろを振り返る。
「あ、シド」
「久しぶりだな、アンナ。温泉旅行は楽しかったか?」
「久々の休暇、羽伸ばし。シド、進捗は?」
「まあまあって所だ。そこのリンゴ貰っていいか?」
「いいよ」
シドは側に置いていたリンゴをシャリシャリとネロをジトリとした目で睨みつけながら食べている。「あと1つだ。あ、ネロサン食べといて」とネロの口に近付けたので「それはガーロンドに渡せ! 病人を殺す気かよ!?」と押し返しながら悲鳴に近い声をあげた。
アンナは首を傾げながら「そっか。じゃあはいあげる」とシドの口に押し付けるとそのまま食べていた。
「腹減っていたからちょうどよかった」
「ならちゃんとご飯。私もお腹空いた。今行く?」
「おう」
じゃ、ネロサン。お大事にと言いながら椅子から立ち上がり踵を返した。シドもそれに付いて行く。
「おいマジかよ」
ネロは即腐れ縁の異変に気が付く。一瞬ネロに笑顔を向けた後アンナの腰に手を回し、歩いているからだ。えらく密着しているがアンナは一切動じず何を食べるか聞いている。
「マジかよ」
残されたネロは乾いた笑いで見送るしかできないのであった―――。
◇
アンナが温泉旅行に行ってから一切顔を出さなくなった。リンクパールで通信を試みたが基本的に装着しない人間に通じるわけはなく。
ヤりすぎたし反省もしている。自分も身体を引きずりながら送られてきたデータと睨み合っていた。
あの親父がやらかしたシタデル・ボズヤ蒸発事変のものなのだ、未だに震える手を抑えることが出来ないが、気分は不思議と沈み切っていない。
アンナは1年以内は俺の前からは逃げない、分かっている。きっと集中できるように配慮しているのだ。適度に会える方が嬉しいのだがと電子タバコをくわえながらため息を吐く。
小腹が減ったので外に出る。ジェシーに飯を食いに行ってくると言い、ついでにネロの方に顔でも出すかと思い野戦病院に向かうと見覚えのある後ろ姿が。アンナは何故俺でなくネロのところに真っ先に向かった? 目を凝らしてみると傍に置いていた皿にリンゴが乗っている。
ただのケガ人への見舞いだったらしい。なんだと思いながら近づこうとしたらアンナは急にネロを寝台に乗っかりヤツの顔に自分の顔を近づけていきやがった。
「は?」
つい声が出てしまった。俺は慌てて大股で近付く。ネロと目が合った。即気が付いたらしく必死にアンナに後ろを見ろと言っている。そこで初めてアンナが振り向き何事もなく「あ、シド」と呑気な声で俺の名前を呼ぶ。
いつも通りの彼女である。数日前あんなにも乱れていたとは思えないほど、変わらず奇麗な人だった。やはり強いなと考えながら剥いてあったリンゴを1つ貰う。するとアンナは残っていたあと1つの欠片をネロの口元に持って行ったのだ。ネロは必死に押し返しながら「それはガーロンドに渡せ! 殺す気か!?」と言っていたので許すことにする。アンナは首を傾げながら俺に渡してくれたので遠慮なく貰った。
しかし何で真っ先に俺の口へ運ばなかったのかと思ったが、そういえばネロは病み上がりで未だ絶対安静の身だったことを思い出す。アンナは基本的に弱った者には優しい。ビッグスとウェッジが倒れた時も白魔法で回復する姿を見た。殺意を見せない限りは優しくしたい、という言葉を以前聞いている。
この後一緒にご飯食べるか聞いてきたので快諾したさ。とりあえず温泉話でも聞こうかと俺はアンナの隣を歩く。「何食べる?」「個人的にあの屋台の飯、美味」等喋りながらふと顔を見上げると話し方は誰もが知るものだというのに少しだけ視線が泳いでいた。自然と笑顔がこみ上がっていくのも当然だろう。ネロにその顔を見せつけてやった。
そう、優しいと見せかけて氷のように冷たい心を持った彼女は変わり始めている。だから早く、呪いを解く方法を、考えてやらないと。俺の前から消えてしまうより先に、な―――
Wavebox
#シド光♀ #ネロ