FF14の二次創作置き場

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No.33, No.32, No.31, No.30, No.29, No.28, No.277件]

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注意蒼天3.0メインストーリー中の自機の心情を補完する即興SSです  …

蒼天,ネタバレ有り

#シド光♀ #即興SS

蒼天,ネタバレ有り

旅人は、取り戻せない
注意
蒼天3.0メインストーリー中の自機の心情を補完する即興SSです
 

―――英雄を乗せ、生まれ変わったエンタープライズは飛び立った。

 彼女はぼんやりと空を見つめていた。いつものような笑顔も見せず神妙な顔。それもそうか、俺たちはトールダン7世と最終決戦になるだろうアジス・ラーへ向かった。目論見通り防壁を越えることに成功したが帝国の飛空艇の猛攻を退けるためにシヴァ、氷の巫女と呼ばれたイゼルが散った。無事上陸を果たし仲間たちが飛空艇から降りる中、彼女はぼんやりとその場から動かず空を見上げていた。

「アンナ」
「別に悲しんでいるわけじゃないよ」
「何も言ってないんだが」
「……あらあら」

 アンナは俺の方に向き苦笑いしている。俺はそのまま彼女の横に立ち空を見上げた。
 淀み切った空は俺たちに何も教えてくれない。しばらく何も言わず立っていた。

「たくさん、人が死んでいるの」

 ポツリと呟く声はいつもより低い。

「私に優しくしてくれたヒトが真っ先に死んでいく」
「誰にだって限界はあるさ」
「ホー、超える力だって言ってるくせにこんなちっぽけなことも抗えないなんて。知らなかったわ」

 拳を握り締め、振り下ろしている。顔を見ると目を見開き一筋の涙が落ちた。

「やっぱり神様ってクソッタレ。ムーンブリダを、オルシュファンを、イゼルを返せ」

 ガン、ガンと飛空艇の外装に拳を振り下ろしている。俺は彼女のその痛めつけられている手を力いっぱい押さえた。

「悲しかったんだな」
「違う、本来あるべき場所から奪ったヤツを、私は、私は」

 目が見開かれ、空気がナニカに反応したのかどこか震えヒリヒリと痛む。彼女の手が熱い。明らかに様子がおかしい。「アンナ!」と俺は叫ぶ。彼女はビックリした顔で俺を見ている。

「俺は生きている。アルフィノも、ミンフィリアも、サンクレッドだってお前さんが救ったじゃないか。お前は全てに手を差し伸べる神になるつもりか!?」

 手の熱が収まった。そして彼女は俺の肩に頭を置く。そして「5分」とボソとつぶやいた。

「何もしないで。ただそこに立ってて、ください」
「あ、ああ」
「―――面識のない旅人を助けたって何も利益がないくせに、何で」

 彼女はボソボソとつぶやき始める。

「私に触らなければ死ななかった。私が現れなければ世界はそのままだった」
「アンナ」
「でも私がここにいないと世界は変わらなかった。私がいないと達成されなかった。私が手を伸ばして救えた人もいっぱいいた」
「そう、だな」
「ただの"旅人"に優しくする人たちが分からない。勝手にみんな死んでいく。どうして、どうして―――」
「アンナは悪くない。今だけ、な」

 そこから彼女は何も言わず震えていた。俺はただ彼女の肩を撫でることしかできなかった。

 それはザナラーンの教会でしか見なかった彼女の弱さだった―――



 5分後。彼女は顔を上げた。俺の耳元で「ごめんなさい」と囁いた後、目をこすりいつもの笑顔を見せた。

「もったいない」
「何か言った?」
「あ、ああ何でもない」
「私たちに悲しみながら人を弔う暇なんてないよ。……みんな待たせてる、行きましょ」

 途中から心配したのか戻ってきた仲間たちに見られていたが彼女は気が付いていなかったようだ。即しっしっと手で払うしぐさをしたら戻って行ったがバレないに越したことはない。

 彼女は強い。刀を握り締め全てを斬るために奔る。しかし心は絶望的に、脆い。それは多分1人旅で長年人と関わってこなかったからだろう。
 誰かが支えないと、そばにいないとすぐに崩れ去るのではないかと踵を返し歩き出した彼女の後ろ姿を見守る。

「もしお前が許すなら」

 俺が隣に立ってはいけないだろうか?

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#シド光♀ #即興SS

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#シド光♀ #季節イベント #ギャグ #即興SS #リンドウ関連 #エルファー関連 #謎メモ

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#ギャグ - キャラ崩壊等ギャグ概念が入ってます
#即興SS - Misskeyioのチャンネルで出たお題を見てアウトプットしたもの中心
#リンドウ関連 - 自機の過去に出てくる命の恩人についてのお話に付くタグです
#エルファー関連 - 自機の兄が自機の過去を探る旅をしている時に付くタグです。基本自機出番なし。
#謎メモ - 自機視点のメインクエスト。実際にプレイしながら書いてるので不定期更新。

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「頭を撫でさせてほしい?」「ダメか?」 ふと思い付いたので『お願い』してみる事に…

漆黒

#シド光♀

漆黒

“頭を撫でる”sideC

「頭を撫でさせてほしい?」
「ダメか?」

 ふと思い付いたので『お願い』してみる事にする。アンナは頭、特に耳周辺が弱いので決して首から上は隙を見せない。正しく言うと座ってもらわないと頭頂部まで届かない。いや届くのだがどうせイジワルな彼女の事だ、背伸びをして邪魔をする未来が見えるのでこうやってお願いするのだ。
 ”無名の旅人”でありたい彼女を隣にいるよう告白したのはつい最近。彼女からの宿題である”最高の殺し文句”でボロボロに泣いた彼女がいまだに記憶に残っている。―――まあ付き合い始めても距離感やお互いの忙しさも相まって一切ぱっと見変わらない日々だったのだが。今日は約1ヶ月ぶりに「支社から頼まれていた資料を持ってきた」とガーロンド社に顔を出したので「休憩だ」と社員達に言い残し部屋に来てもらった。

「ボクが気が向いたら撫でてあげてるよね?」
「いや、それは嬉しいがそうではなくてな。お前の頭を撫でたいんだ」
「そんな年齢じゃないよ。キミの倍は生きてるボクを撫でて何かメリットはあるのかい? 報告書にまとめて提出してくれたら考えてあげるよ会長さま?」

 今日のはぐらかし方は少々偉そうだ。シャーレアンにでも行っていたのだろうか。まあ報告書作れは冗談だろうけどときどきは受けて立とうじゃないか。「じゃあ今すぐ書くから待ってろ」と言いながら机に向かい紙とペンを準備すると「冗談さ」と分捕られた。少しだけ困った顔をしているのが見ていて面白い。きちんと理由を言わないと納得しないようなのでもう少し押してみる。

「お前が俺を撫でたいと思うように、俺だってお前をゆっくり撫でて楽しみたいのさ」
「よく分かんない」
「というかお前だってこんな男を撫でて何が楽しいんだ。まさかと思うがお前にはいまだに俺があの頃の坊ちゃんにでも見えてるのか?」
「さあどうでしょう?」
「疑問で返すんじゃない」

 アンナは14の頃に故郷を飛び出して旅をしてきたヴィエラだ。自分よりも倍以上の年月を生き、旅を続けて来た。少年の頃にちょっとした縁で出会い、いろいろあって再会した。彼女の目にはそんな小さい頃の俺が映ってるかのように見る時もあるようでよく頭を撫でてくる。優しくて気持ちがいいのだがやられっぱなしというのもよくない。場所を考えずにやるので毎回プライドを砕かれそうになるのを耐え続けているのだ。少しくらいは負けだと言う彼女の可愛らしい所を見たいわけで。だから恥を忍んで今回お願いをしてみたのだ、と思った瞬間だった。俺は完全に油断していた。涼しい顔して抱き上げられ、ソファに腰掛ける。その細い腕に大の大人を運ぶどれだけ筋力あるのかといつも考える。というか俺は重い機材を運んだりする関係で体は普通の人より鍛えている。そして彼女が来るまで機材のメンテナンスしていたので工具の袋やら腰に下げていていつもよりも重たい。そのハズなのにあっさり抱き上げられるのは本当に彼女の人とは違う人生の歩み方に舌を巻く所がある。以前「俺を持ち上げるコツとかあるのか?」と聞くと「持ち上げるぞパワーをためる」と言われた。意味が分からない。
 考えているうちにも両足を広げて座った彼女は、慣れた手つきで俺を自らの太ももの上に足を乗せる形で座らせ、手を握る。そして彼女は少しだけ背中を丸め自らの後頭部に俺の手を押し当てた。

「その指耳に当てたらもぐから」
「ナニをだ!?」
「男性器に決まってるじゃないか。ほらボクの気が変わる前に体験したまえ。全然楽しくないからさ」

 彼女には恥じらいという概念はあまり存在しない。育ちの違いか分からないが下ネタも直接的にデカい声で言うからこっちが恥ずかしい。ネロを筆頭に男性社員達とゲラゲラと笑っている姿も度々目撃されている。とても豊かな性知識に対し実際の経験は俺が初めてなのは本当にチグハグなヒトである。
 閑話休題。彼女の気まぐれで許可をもらえたので早速撫でさせてもらおう。恐る恐る手を動かし彼女の髪の感触を味わう。きちんと毎日手入れされているだろうサラサラとした髪は心地が良かった。ふと彼女の顔を見ると目を閉じていた。俺が撫でようとする行為を邪魔したくないのだろう。この姿勢で邪魔なんてされたら正直すでに切れかかっている理性の糸が危ないので感謝する。次は頭頂部も触りたい。冗談とは分かっているがもがれたくないので耳に触らないように慎重に手を上げぽんとたたく。「ん……」と一瞬アンナの声が漏れる。気持ち少し笑顔になっているようだ。何が楽しくないから、だ。もの凄く楽しいじゃないか。しかし少し後ろに傾く耳に触らずに撫でろというのは今は無理な話だ。そう、今の状態だったらだ。

 ところで彼女が目を閉じているのは見つめ合う事に慣れていないからだ。彼女は『君が慣れてないからしょうがないから目をつぶってあげているんだ』と言っているがそれは間違いだ。彼女は意外とすぐに目を逸らす。いつだって平静を装っているが心臓が破裂するほど高鳴っているのを俺は知っている。俺はその彼女の柔らかな唇に唇を重ねてやった。
 彼女の目が見開かれる。そして「ちょっと!?」と言いながら離れようとしたので頭を押さえまた唇を奪う。何度も角度を変え、啄むようにそしてわざとらしくリップ音を立ててやると目をギュッと閉じ行為が終わるのを待っている。小さな声で俺の名前を呼びながら舌を差し出してきたので絡めてやるとくぐもった声が漏れる。こんな姿を知っている生者なんて俺以外にはいないだろう。いつの間にか指を絡ませ合い姿勢も両足の間に足を挟んでやりながら膝で立つ。一瞬だけ離れ顔を上げさせればこれで俺の方が高い位置から彼女を見ることができる。顎を固定し、再び口付けながら首の後ろを撫でるとふわりと香水の匂いが漂う。今日は―――フローラル系の匂いか。という事は大丈夫だな。

 満足したのでキスから解放してやると目をゆっくりと開き少々考え込むそぶりを見せる。そしてこう言った。

「シド、最初からこれ目的だったな?」
「そうだが?」

 ため息を吐かれた。そして彼女は両手を上げる。降参だと言いたいらしい。心の中でガッツポーズをする。珍しく俺の勝ちだと思ったのもつかの間。まだ仕事中なのでこれ以上は何もできないという生殺しをこれから数時間喰らう事になる。

 そうだよ結局今日も俺の負けさ。「もう撫でさせてあげないからねー」という満面の笑顔付きの言葉をもらいながら俺は見せしめのように仕事場に引きずられていくのだった―――

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#シド光♀

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「頭を撫でさせてほしい?」「ダメか?」 ビックリした。身長差的にシドはボクの頭上…

漆黒

#シド光♀

漆黒

“頭を撫でる”sideA

「頭を撫でさせてほしい?」
「ダメか?」

 ビックリした。身長差的にシドはボクの頭上までは届かないから許可を貰おうとしてるのだろう。律義な男だ。いつもちょっかいかける時もボクが少し屈んで顔を見るんだよね。しかし理解が出来ない。なぜボクが撫でるわけではなく彼がボクの頭を撫でたいのか。

「ボクが気が向いたら撫でてあげてるよね?」
「いや、それは嬉しいがそうではなくてな。お前の頭を撫でたいんだ」
「そんな年齢じゃないよ。キミの倍は生きてるボクを撫でて何かメリットはあるのかい? 報告書にまとめて提出してくれたら考えてあげるよ会長さま?」

 適当に返してやるとシドは溜息を吐き「じゃあ今すぐ書くから待ってろ」と紙とペンを持った。「冗談さ」と言いながらサッと取り上げる。冗談をすぐに真に受ける所も楽しい人だよね。暇にはならないから一期一会の旅人と一般人としてではなく時折こうやって隣で楽しく話をする人生を選んだ。
 エオルゼアに来てから楽しい時も辛い時も前に進む時もシド・ガーロンドという男がいた。いつもこの男が空に道を作り、私を敵の場所へ送り出してくれる。ボクはその期待に応え全て斬り捨てる。ボクは英雄と呼ばれているがそうじゃない。英雄であるボクを作り出したのはボクの隣にいる、ヒゲの似合うカッコイイボクの白く輝く星なのだ。―――まあ一番苦しかった時は会いたくても会えなかったけどね。

「お前が俺を撫でたいと思うように、俺だってお前をゆっくり撫でて楽しみたいのさ」
「よく分かんない」
「というかこんな男を撫でて何が楽しいんだ。まさかと思うがお前には未だに俺があの頃の坊ちゃんにでも見えてるのか?」
「さあどうでしょう?」

 疑問で返すなという指摘を躱しつつボクは彼を抱き上げソファに座る。「おいっ」とうわずった声が相変わらず面白い。そして彼の大きな手を取り、ボクの後頭部に置いてやる。

「その指耳に当てたらもぐから」
「ナニをだ!?」
「男性器に決まってるじゃないか。ほらボクの気が変わる前に体験したまえ。全然楽しくないからさ」

 あのなあと顔を赤くしながらボクの後頭部を優しく触れ、動かす。個人的にはやる事がなく退屈なので目を閉じて彼の手の感触を味わってやる事にした。少しだけくすぐったい。思えば自分は頭を撫でられるという経験はほぼ存在しなかった。まずは子供の頃に兄が褒めてくれた時だろうか。兄みたいに立派な番人になりたかったから褒められたら嬉しいに決まってた。あと熱にうなされていた時にボクが憧れた旅人がずっと撫でてくれてたっけ。とても強くて不器用だけど優しい人だったな。それ以降はあまり善い行いもしてこなかったし普通の人に会う旅をせずに年を取ってしまった。その結果、自分より年下の奴らに今更撫でられてもどうも思わないカワイソウなウサギのできあがり。そんな紅い獣を今髪を梳くように撫でる男はあの夜怖がらずに手を差し伸べてくれたのだ。だから今回は特別だ、成長した少年に優しくして何が悪い。
 では次に過去を思い浮かべながら今の彼の顔でも想像してみようか。反応を見るために目を開けてもいいのだがイマイチ見つめあうのはボクではなく『この男が』慣れていないので。おや、少し触る場所が変わったな。耳には当てないよう慎重に頭頂部に手を移動させ、ぽんぽん叩いている。多分結構緊張した顔してるんだろうなあ。何度も裸まで見た奴が今更何を恥ずかしがるのか。そんなにもがれたくないのかちょっと笑みが止まらない。

 いや今自分が表情を変える必要なんてないだろう、変な誤解されたくない。少々恥ずかしくなってきたなと思った瞬間唇に柔らかい感触が。目を開けると彼の顔が目の前にあり、「ちょっと」と言いながら離れようとすると頭を押さえつけられ再び唇を重ねる。何度も角度を変え、啄まれる。何だか妙な気持になったのでギュッとまた目を閉じてしまった。ボクと会うまで整備していたのだろう、機械の油のにおいが漂う。普段軽々しく抱き上げたりしてるけどガッシリと大きく鍛えられた体。同族の異性では絶対に見かけない見た目はああそうだよ凄い好みさ。数分後満足したのか離れてくれた。目を開けるといつの間にか体勢を変え首に手を回し笑顔でボクを見る彼がいた。
 しかし今の状態はどういえばいいのか―――スイッチというものはいつ入るか分からないというのが正しいか。色々考え込んでしまうがこれだけは分かる。

「シド、最初からこれ目的だったな?」
「そうだが?」

 やられた。こればかりは予想できなかったボクが悪い。両手を上げ負けを受け入れた。
 二度と撫でさせてやるもんか。

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注意次元の狭間オメガでの検証終了後の話。先に好奇心は旅人を起こすを読んでね。シド…

紅蓮,ネタバレ有り

#シド光♀ #ネロ #ギャグ

紅蓮,ネタバレ有り

旅人と約束
注意
次元の狭間オメガでの検証終了後の話。先に好奇心は旅人を起こすを読んでね。シド少年時代捏造。
 

―――アルファと共に歩く。途中でぐわんと世界が回る。そりゃ2回連続で斬り払ったのだ、流石に慣れないことをするべきではなかった。アルファが駆け寄って来る。「大丈夫」とポツリと呟きその場に座り込み、項垂れる。クエッと泣き出しそうな声が聞こえた。目の前が真っ暗になりながら『あとは任せろ』という声に安心し、目を閉じた。

「"私"は大丈夫だよ、アルファ」

 ニコリと笑い、奇妙なチョコボの頭を撫でた。クエッとぴょんぴょん跳ねる。ハイタッチしてやり、その後野戦病院へと歩みを進めて行った。



 オメガとの検証が終わった―――アルファを引き連れてやってきた英雄の報告に野戦病院にて傷を癒すネロはほっと一息ついた。いや、既に聞いてはいたのだが当事者からの報告を受けて初めて作戦は終了となる。自分が最後まで関われないことが悔しいのだが既に少々オメガという玩具に飽きていたのでよしとする。

「キミがいなければオメガジャマーは完成できなかった。"ボク"も身体張ってたんだけどねえ」
「詳しい話は聞かねェからな。ってなンだそれ」

 どこか顔色が悪い気がするアンナはネロの手に粉の入った袋を握らせる。どうやらゼノスに大怪我を負わされた際に『無理をするため』送ってもらった薬だという。水も渡され飲むように急かされた。水と一緒に苦い薬草の味が喉に流れ込む。むせそうになるがなんとか踏みとどまった。

「まっず……」
「良薬は口に苦し。傷の治りも多少早くなる。痛みもしばらくは感じなくなるし走れるようになると思う。あと2つあげる。それだけあったら完治する」
「やべェの飲ませやがったな!?」
「大丈夫"ボク"が証明する。約束したでしょ? 逃走のお手伝いするって」

 ネロは「そンな事も言ってたな……」と目元に手を当て虚空を見上げる。目の前の女の過去を看破した時にそんな事も言ってたような気がする。ふとぼんやりと寝台で寝転びながらシドの話と記憶に残っている彼女に対する『報告書』の一部を思い出した際に出て来た疑問を彼女に投げかける。

「ガーロンドの所に顔を出すのは約束をしたからなのか?」
「アー……シドから聞いた?」
「アンタは20年程前にもガレマールに来たンだろ? そこでガーロンドに会っていつか大空を案内するって約束したって言われたらしいじゃねェか」
「んー微妙に違う。ケケッその辺りはやっぱり曖昧かぁ。やっぱりまだまだだね」

 それでいい、とアンナは苦笑しながら呟いていた。どうやら肝心な部分をシドは覚えていないようだった。「本当の所はどうだったンだ?」と聞くと笑顔で答える。

「詳しいことはシドに流出したら困るから言えないけどまあ約束があるのは本当。思い出す前にとんずらするつもり」
「はあ? 明らかにガーロンドはアンタの事」
「何のこと? "ボク"は旅人だからさ。各所から『お願い』されてるから想定外な程留まっているに過ぎない」

 ネロの言葉を切るように口癖である旅人だからと言う。しかももう本来の口調を隠しもしていない。正直ジェシーからシドのためにも目の前にいる女らしきものについて調べるよう頼まれてはいるものの、かつて目の敵にしていた男の恋路など興味はなかった。しかし相手のクセが強すぎるし人の気持ちを踏みにじろうとしているのはあまり聞いていていいものとは思えなかった。捨てる気なのか、そう問うと「いつか彼にとってアンナ・サリスが必要なくなるだけだよ」と子供に聞かせるような優しい声でネロに言い聞かせる。

「"ボク"はキミ達よりも少し長く生きてるから知ってるけど……ヒトというやつはすぐに過ぎ去ったものは忘れて行くんだ。それだけさ。少なくとも"この子"はそう思ってる。シドだって新しい人を見つければ、"ボク"のような旅人なんて忘れるよ。現に死んだことになった途端に君の口以外から【鮮血の赤兎】は聞かなくなった。滑稽だよねぇ。だからそう遠くない内に"この子"は世界を救ったのは暁の血盟が頑張ったことにする予定さ。かつての『光の戦士』のようにね」
「アァ確かにアンタの考えることは滑稽なンだよ」

 先日の会話も含め、見た所彼女の旅路が書かれた『報告書』の存在を知らないようだ。そういえば怪談になっていた事すら知らなかった人間だったことを思い出す。アンナはその言葉に対し何も言わないまま踵を返し「ルートに『パンくず』を置いておいた。誰にも見られずに街の外に出るポイントを見つけたからさ。この秘密を持って、"ボク"みたいに過去から逃げるゲームしようじゃないか」と言いながらきょとんとした顔で話を聞いていたアルファを片手で抱き上げ手を振りながら病室から出て行く直前にネロは声をかけた。

「もしあの時、ガキの頃のガーロンドがアンタを見つけなかったら今どうなったと思う」
「何も対処がなかったら……ゼノスとエオルゼアを蹂躙してたかな。いやソルが死んだ地点でガレマールから出て行ってるだろうから未だにどの国からもリスキーモブ扱いだったかもね。まーそんなことさせないようにしてたけど」
「じゃあアイツが世界を救った英雄サマを作り出した存在ってやつか」
「イヒヒッ、かもしれないねぇ。じゃ、ナイスバケーション」

 暗闇に消えて行ったアンナを見送ったネロは痛みの消えた身体を起こしながら服に手を伸ばす。
 脳裏に焼き付いたのは一瞬見せた彼女の優しいが少し震えた声。彼女の仕草で察してしまった。過去に交わした約束とやらを。再会できたら守ってやるよとかそういうことを軽率に言っているのだろう。

 そしてシドは現在覚えていないが性別不明の人と約束交わしていたことを思い出し、再会出来ました分かった時、しかもそれが信頼している女性でしたしかも逃げる予定ですって分かったらどうなるだろうか。今の時点でも『分かりやすすぎる』彼の事だろう確実に脳に不具合を起こす。

「面白れェからしばらくほっとくか」

 手荷物をまとめ外に出る。近くにいた社員を捕まえ「休養に入る」とだけ口にした後、ふと野戦病院の裏へ出ると確かに『目印』が置いてある。それを気配を消し拾いながら進むと誰にも会うことなく街の外へ向かう道が見えた。「あの女本当に約束だけは守るンだな」と呟きながら歩みを進める。
 数刻後、大騒ぎする声が聞こえて来たので早々に逃げ出してしまおうと駆け出した。彼女の言う通り確かに薬の効果が出ているようだ。またエオルゼア潜入時代に作った隠れ家に置いている計器で薬の解析でもしようかとポケットの中に入れてある粉薬を撫でる。
 ふとラールガーズリーチ入口を見下ろすと、シドらがアルファと小さなミニオンの旅を送り出していた。
 ニヤリと笑っているとアンナと目が合った。小さく手を振っている。

「マジかよこわ」

 ネロは苦笑して見せ、シド達に悟られない内に走り去った。



「今すぐネロを探せッ!!!!」

 この声に"ボク"は笑いを耐えるのに必死だった。どうやらちゃんと脱出できているようで。シドには悪いがこれは約束だったので。約束は守れ、それも恩人フウガからの教えだ。それがいくら敵や味方が不利になる行為でも約束だけは守ろうと自分を戒めている。

 そんな中私たちは旅立つ決心をしたアルファを見送る。ふと気配を感じたので見上げるとネロもアルファを見送っていたようだ。バレるぞ、と笑顔で手を振ってやるとなんか口元が引きつっている。そそくさと去って行くのを見送った。

「そういえば」

 ジェシーの声が聞こえる。

「アンナさんさっきアルファと散歩に行ってた時野戦病院の方に行ってたって目撃情報有りましたけど」
「おっとアルフィノに呼ばれてるから帰る」
「何だと? おいアンナ? ちょっと待て!!」

 悟られる前に退散しよう。そうしよう。チョコボを呼び街の外へ走り出した。

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注意旅人は過去を懐かしむ後日談その3。好きな人2と同時刻のおはなし。 …

紅蓮

#シド光♀

紅蓮

赤面の旅人
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旅人は過去を懐かしむ後日談その3。好きな人2と同時刻のおはなし。
 

 書類、書類、書類。シドの周りには先が見えないほどの書類がまた積まれていた。まあ3日程飛び出してしまった分のツケだ。これ位は痛くないとは思っている。しかしだ。

「必要ないやつまで混じってるじゃないか……」

 書類選別から始めないといけない積み方はどうかと本日何度目か分からないほどのため息をついた。不審なほどに大量の新商品についての仕様書や機構が書かれた設計図から予算の承認、取引履歴まで自分がいなかったにしては『効率よく事が進みすぎている』。何かがおかしい。

「会長! お仕事頑張ってください!」

 交代で見張りに来る社員達の顔は未だに機嫌がいい。先に戻ってきていたアンナが目を見張るほどの土産を置いて行き大騒ぎになっている中シドは帰って来た。満面な笑顔の会長代理が持っていた金色の箱には『会長貸出料』と書かれており、「アンナといたならもっと早く言ってくださいよ! で、何してたんですか?」と土産話を要求された。かいつまんで説明すると次第に目から光が消え呆れた顔になっていたのは少し理解できなかった。シド本人としても自分に呆れている。彼女という靄に一つ触ることが出来た筈なのにどこか近付いた感じがしない。酒の勢いで身体を合わせてしまったのかと思いモヤモヤとしていたら2日前の『ナイスイタズラ』騒動で強引に現実に引き戻されてしまった。人を驚かす行為が好きなのは知っていたが、目的のためなら自爆に等しい事もやらかす人なのは初めて知った。
 またため息を吐く。薄くなっているであろう肩に付けられた印を手で押さえる。「アンナ」とボソリと騒動から顔を出していない彼女の名前を呟く。その時だった。

「何?」

 真上から声が響く。目を見開きながら見上げるとそこには自分をいつもの笑顔で見るここ数日の悩みの種がこちらを見つめていた。

「あれ、見張りがいたと思うんだが……」
「30分休憩。勿論内緒の約束済」

 アンナは左手人差し指を口の前に当てながら右手に持っていたサンドイッチが乗せられた皿をシドに差し出す。シドが「変なの入れてないだろうな?」と聞くと「先日のお詫び」と笑顔を浮かべた。どうやら罪悪感という概念は存在したらしい。シドは礼を言いながら受け取る。
 それに続きアンナは「あとほら」と言いながら書類を軽く押しのけながら机に座りコートの留め具を外しながら首元を見せシドに近付く。突然の行為に口をポカンと開きアンナを見ていると目を細め三日月のような笑顔を見せながら耳元で囁く。

「仕返ししてみる? まあ私の肌の色では痕跡なんて付かないからご満足いただけないでしょうけど」

 一切反省してないじゃないかという理性と裏腹にふわりと漂うパーシモンの香りにごくりと息を飲む。唇が触れる手前でアンナは「なーんて。ナイスイタズラ」と言いながら離れようとした。"また"逃がしてしまう、つい反射的に「待て」と言いアンナの肩を掴み―――首元に噛り付いた。

「っ!?」

 アンナの小さく短い悲鳴が聞こえた。一瞬ビクリと震えたのが分かる。完全にやり返されることは考えていなかったであろう細く引き締まった身体を強く抱きしめながらガリと歯を立てながら吸い、これまで叶わなかった彼女を味わう。汗とは違う甘い匂いと思ったよりも柔らかい肌に女性らしい要素もあることに安心した。幸いなことに抵抗はされなかった。だがいっそのこと跳ね除けてくれた方が諦めがついていただろうにと思いながら出来た痕跡に舌を這わせながら後頭部をぐしゃりと撫でる。髭が当たりくすぐったいのかくぐもったような息遣いが聞こえた。

「噛み痕なら付く」
「……そうみたいだねえ」

 首元から顔を離しアンナの顔を見ると少しだけばつの悪そうな表情を見せながらも頬は褐色な肌の上からでも分かるくらい真っ赤に高揚していた。「煽ったのはアンナだからな?」と言ってやると「わ、忘れた」と呟きながら首元を隠すように押さえた。そして踵を返し出口の方へ歩き出す。

「そろそろ30分。サンドイッチ食べて頑張れ」
「いやまだ10分も経ってないんだが」
「……から厭だ」

 ボソボソと呟いた後アンナは手を上げ数度振りながら暗闇に消えて行った。
 手渡されたサンドイッチを口に含む。新鮮なラノシアレタスとルビートマト、卵が入った定番の品だ。とりあえず今は食べることに集中しよう。そして早々に仕事も終わらせてしまいたい。
 先程の首元に付けた証と真っ赤になった怯えた目をする彼女の顔が脳裏にこびりついていた。そして去り際に残した「これ以上いたらキミがボクから離れられなくなるからイヤだ」という言葉にニヤけが止まらない。「もう遅いさ」という呟きが闇夜に溶けて消えた。

 シドは『そうか、本当に俺はあの人を友人としてではなく異性として好きだと思っていたのか。そして彼女の心だけでない、身体にも自分だけの痕跡を残したいと強く願うほど歪んだ独占欲も持ち合わせていたのか』とこの瞬間に悟る。抱きしめ、噛み痕は残せた、じゃあ次に求めてしまう欲求はまさか―――いやそれはないだろう。しかしモヤモヤとした心が少しだけ晴れた気がした。



「うそでしょ……」

 翌朝、ジェシー達が出社すると積み上げておいた書類はほぼ全て片付けられ、ネロが組み上げていた設計図と睨み合う完徹だが異常に上機嫌なシドが座っているのであった―――

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注意旅人は過去を懐かしむ後日談その2。『紅の旅人』数日後のおはなし。 …

紅蓮

紅蓮

『好きな人』2
注意
旅人は過去を懐かしむ後日談その2。『紅の旅人』数日後のおはなし。
 

「はい今回は非常に残念なお知らせがあります」

 仕事が一段落した夜、モードゥナの酒場にて密かに開かれる会―――その名も『自分たちの上司であるシドと旅人アンナの関係を見守る会』。久々に開かれた夜会に会長代理のジェシー、社員のビッグズとウェッジは集まり酒を呑んでいる。
 一方その頃会社では、会長であるシドが大量の書類に押しつぶされていたのだがそれは置いておく。

「先日会長が突然数日失踪したのは覚えてるわね?」
「確かクガネまでアンナさんを探しに行ったんでしたっけ?」
「すげーお金とお土産貰ったッスねー。親方と違ってフォローの速さが段違いッス」
「2人で温泉宿に泊まり、アンナの恩人の墓参りに行って飲み会したそうよ? そこまではいいの」

 会長であるシドが失踪したのは約1週間前、暁の血盟所属のアルフィノと何やら話をした後飛び出して行った。申し訳なさそうに謝る銀髪の少年の姿が未だ頭に残っている。そして連絡が付いたのが3日前。そして悠々と空の旅をして戻ってきた。ちなみにアンナはテレポで先にモードゥナに戻り、クガネ土産と『会長貸出料』と書かれたものを渡された。「こういうの黄金色のお菓子って言うらしいの。本当にシド貸してくれてありがとう」って言われながら蓋を開けるとお菓子の下に目玉が飛び出しそうな金額のギルが詰め込まれていた。その後盛大に謝りながら帰ってきたシドと盛り上がりきった社内の空気の温度差が忘れられない。
 そして何とか詳細を聞きだしたジェシーは報告会を開き、眉間を抑えながら言い切った。

「何もなかったそうよ」
「何も」
「そう、2泊一緒にいておいて何も起こらなかったそうよ」

 盛大に溜息を吐くジェシー。目が点になり固まる他2人。

「1日目は風呂から出たら既にアンナは就寝、2日目は会長が酒の呑みすぎで即就寝よ。ほんっとあの2人信じられないわ……」
「親方……」
「誤魔化してるとかでもなく、か」
「アンナからも聞いたの。あの人の場合さらっと嘘つくから本当か分からないけどここ数日全然変わらないわあの2人。昨日会長の怒鳴り声が聞こえたけどそれはまあ日常茶飯事よ。というわけで今回ゲストを呼びました」

 誰が、とビッグスが聞こうとすると「そろそろ来るわよ」とジェシーは手を上げる。足音が聞こえ2人は振り向くと。「変な時間に呼びつけられて来たら何やってンだ? お前ら」と言いながらシドのライバル(自称)であり元帝国幕僚長であったネロ・スカエウァが溜息を吐きながら歩み寄ってきた。



「ガーロンドが、あのバブーンみたいな女を」
「アンナさん確かに強いけどそこまでゴリラじゃないッスよ!」

 話を聞いたネロはゲラゲラと一頻り笑った後息を整えながら吐き捨てる。元々帝国を見捨ててから放浪していたが、シドが不在の間にオメガという餌をぶら下げてジェシーがヘッドハンティングしておいた。そして未だにシドへ報告はしていない。ネロのおかげで止まっていた業務を再開し、あとは会長であるシドのサインさえあればどうとでもなる状態にしていたので実は飛んで行ったことに対してはそんなに怒ってはいなかった。しかししっかり説教しておかないと気が済まなかったのでリンクパール通信は流し続けていたのだが。あの男は外してポケットの中に入れっぱなしで、なんと深夜にアンナが出るまで放置されていた。「ごめん、明日お詫びに行くから。明日の朝また出させるから着信入れて欲しい」という普段の明るい声がジェシーの心を少しだけ安心させていた。

「愉快な子なのよ? そりゃ外から見たらあんまり喋らない無駄に強い最終兵器みたいな人にしか見えないでしょうけど」
「料理もうまいし護衛とかも嫌な顔せずやってくれるんだよな。ちょっと親方の前だと愉快になるが」
「アンナさん手料理作ってください! って言ったら狩りに出かけたりする変な人だけどとってもいい人なんッスよ!」
「ただの少しだけ意思疎通取れる野生生物かよ。ンで? 何でおたくらの会長サマが惚れてるって分かンだよ?」

 盛大にやれやれと溜息を吐いている。ジェシーはニッコリと笑いながら「決まってるでしょ」という。

「アンナが来た後露骨に仕事の速度上がるし数日来なかったら日に日にしょんぼりしていくのよあの人」
「ちなみに無意識らしいッス」
「ガキかよ……。んで? そのバブーン2匹の恋愛を見届けるために俺を呼ンだのか?」

 厭味ったらしく言うネロに対して「違うにきまってるじゃない」とジェシーは苦笑しながら言う。

「アンナを調べて欲しいの。暁の血盟も調査はしてるらしいんだけど全然分からないみたい。普通冒険者に過去は関係ないけど……会社としては結構お世話になってる人だしこれからもずっと彼女に頼っていいか、会長を任せていいか調べておきたいの。全然その辺り会長も聞いてくれなくてようやく聞けたことが『剣豪ゴウセツも認めたある侍仕立てのヤバい気迫を持っている』って事だけ。そういえばネロは戦ったことあったわね。見たことある?」
「普通より数段力強い冒険者って感じだったがナァ……いや」

 もしかしたらガイウス閣下なら知ってたかもなと茶化すように言うと3人は溜息を吐く。気迫とは何か分からなかったがただでさえ強いクセして更にそんな力を持っているとは全く知らなかった。確かにアンナは謎めいた存在だ。ネロとしてもバブーンと吐き捨てはいるがあの場所で会った時から興味はある。

「そういや昔あの女に助けられたことがあンだよ」
「いつの話よ」
「閣下が再びエオルゼア入りする事になる数年前、まだアレもただの旅人だった頃だな。油断してコボルド族に囲まれた時にあっという間に辺りを弓と蹴りで吹っ飛ばしやがった。アレが俺が一番味わった殺意かもナ」

 エオルゼア潜伏調査をしていた頃の話である。計測に夢中で一瞬気を抜いた隙にコボルド族に囲まれてしまった時があった。ネロが懐にしまった小型の武器を取り出そうとした瞬間、ヴィエラの伝統衣装を纏った赤髪の女がどこからともかく乱入し、弓矢と蹴りだけで十数匹のコボルド族を吹っ飛ばす。半分以上はそのまま絶命し、残り少数はあまりにも恐ろしい気迫に逃げ出してしまった。これまた一瞬の出来事であまりの迫力に固まっていた彼を見て「大丈夫?」と笑顔を見せ、手を差し伸べた。少し会話を交わした後、「あなたに危害を与えようとした残りも刈っとくから」と言って去って行くのを口が閉じられないまま見送った記憶がよみがえる。

「アレは相当場数を踏んだやべェ女だってなった記憶がある。下手すりゃ別ンとこで傭兵か軍人だったンじゃね?」
「それだったら暁の血盟辺りが書類を掴んでくると思うのよ。どうやら第七霊災始まって間もなくエオルゼア近郊で目撃され始めたって話。それ以前の情報はさっぱり」
「10年以上迷子になってグリダニアに辿り着いたから私は強いって口癖ですよねあの人」
「ヴィエラならオサード方面出身だろ? そっから……泳いだンじゃねェか?」
「いやいやそんなこと」
「あるわけな……」

 4人は頭の中で思い浮かぶ。大海の中泳いでエオルゼア大陸近郊まで辿り着こうとするヴィエラの彼女の姿。

「余裕で浮かぶンだわ」
「やるわあの人……」
「シュールすぎるッス……」
「お、俺はしないと思ってますよ!」

 その後彼らはとりあえず呑むかとグラスを掲げるのであった。実はネロはもう一つアンナの手がかりを持っていたのだが、交渉の奥の手として仕舞い込んでいることにジェシー達は気付いていない。

 一方その頃ガーロンド社。残業で潰れそうになるシドの所にアンナが現れていたのだが―――彼らにそれを知る由は無いのであった。

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