FF14の二次創作置き場

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「そういえばシドに兄の事話したかな?」 クリスタルタワー調査の合間にアンナはふと…

新生

#シド #ネロ

新生

“兄”
「そういえばシドに兄の事話したかな?」

 クリスタルタワー調査の合間にアンナはふとシドの方に向きつぶやいた。シドはアゴヒゲを撫でながら首をかしげている。

「いや、聞いた事ないな。そもそもアンナは全然自分の事を一切話さないじゃないか」
「はーメスバブーンの身内なンだからどうせまた立派なバブーンじゃねェか?」
「一言余計なの。兄さんは私よりも一回り小さくて非力で可愛いよ」

 シドとネロの「可愛い、ねえ(なあ)」と言葉が重なる。アンナはにこりと笑う。

「先日砂の家に来たの。英雄になったヴィエラって聞いて私って気付いたんですって。性別分かって家出したから成人前の姿しか知らないし名前も違うのに分かるのはさすがだよね」
「いいお兄さんじゃないか」
「ヴィエラなンて珍しいがボチボチ見ンじゃねェか。……っていやさりげなく何言ってンだオマエいくつから走り回ってンだ!?」
「おっざっと数えて26歳に失礼ね? オジサン」

 ネロの「嘘つくンじゃねェ!」と言う叫びが辺りに響く。シドも心の中でもっと言ってやれと念を送る。彼としては明らかに最低でも10は年を取ってると思っている。

「私がヴィエラが住む里から旅に出たのは14の頃なの。その後紆余曲折あって船に乗って難破して迷子になって第七霊災後ここ来てとざっと計算したら26ね。ほら完璧な計算じゃない」
「待て。歴史を知らねェ野生動物のために教えてやるが25年前にはドマは帝国に占領されてンだぜ? ヨチヨチのクソガキがあの辺りから船で渡れるほど甘い場所じゃなくなってンの。サバ読むならもう少しな?」
「そうなんだ。知識の更新をしますわ。……40歳!」
「オバサン」

 ネロが一言放った瞬間頬に風を切る感触を感じる。引きつった笑顔を浮かべながらアンナを見るといつの間にか彼女は笑顔で弓を構えていた。

「ヤ・シュトラと違って今更年齢は気にしないけど……女性にそういう年齢的な事を言うの、よくないよ? ごめんなさい今ケアルするから」
「メスバブーンが何言ってンだ! あとさっきオマエが言ったのを! そのまンま返しただけだ!」
「お前たちいつの間にか仲良くなって嬉しいぞ」

 2人の「なってないンだが!?」「なってないよ」と声が重なるのを見てシドは満足していた。クリスタルタワーでネロと再会し、アンナとネロは睨み合っていた。特にネロからの嫌味は留まる事を知らず。当たり前だ。自分との戦闘中に集中せずに通話を始め目の前で『第一印象』という名の悪口を言われるのはシドでも怒るだろう。しかし今や息も合っているし意外と似た者同士な気もしてきた。一匹狼である事を好み、決して目の前の事柄へは諦めず喰らい付く。一度熱中したらなかなか集中力が切れないし知識を吸収したがる所も似ている。まあアンナはネロ程口は悪くないし努力家というよりかは天才型だ。だが想定していたよりも仲良くなるのも早いし組めばいいコンビになるだろう。なぜかは分からないが突然チクリと胸が痛くなった。
 妙な考えを払拭するために持ってきていたケトルでコーヒーを淹れる。アンナは受け取りネロには断られた。未だに睨み合う2人の間に座り込むとアンナもちょこんと座り込んだ。

「あーアンナ、その兄というのはいつでも会えるのか?」
「師匠とちょっとしたルート使って里に帰るって言ってたわ。手紙送ったりしよって」
「ちょっとしたって、なァ」
「お嫁さん8人と子作り期みたいだしジャマするのよくないよ」

 シドは飲んだコーヒーを盛大に吹き出した。「きったね!」とネロはむせるシドの肩を殴った。

「ハァ? なンだって? もっかい言ってみ?」
「だから兄さんはお嫁さん……私から見た親戚の姉さま達8人と結婚してて、じっくり交」
「それ以上は言わんでいい! デカい声で言うな! まだ昼だからな!」

 ネロはゲラゲラと笑いシドは顔を真っ赤にしている。アンナはきょとんとして彼らを見て一瞬考えこんだ後、ポンと手を叩く。

「ヴィエラの男性って女性に比べたら希少なの。一夫多妻制あっても不思議じゃないでしょう? まあミコッテほどじゃないけど。それでヴィエラの男性は普段は修行や使命のため里にはいないけど3~5年に一度交尾のために帰ってるの。別に夜のネタでもなく種族の生態の話です。君らガレアンと考え方や価値観が違うの。OK?」
「はぁ」
「私ももし男だったら村全員の女性抱く予定だったよ。まあカミサマってやつはクソッタレってなってかつて家出しちゃった」
「そっすか。いい野望持ってンな」

 んじゃ、ちょっと1回見回りしてくるね、とアンナはその場から立ち去る。
 男2人が残される。非常に気まずい。かつてのライバルでつい先日敵として会っていたはずなのに、今や不本意とはいえ一緒に新たな好奇心の塊に座り込んでいるのは不思議な話だ。

「……ちょっと待てさりげなくやべー事言ってなかったか? 村全員の女性を何とか」
「俺は何も聞いてない。聞かなかった」
「なンでダメージ受けてンだよ……」

 ふとネロは彼女の兄だという情報を元に記憶を紡いでいく。そういえば、これまでもう1人性格がよろしくないヴィエラに会っていたような。褐色肌、赤髪で、神出鬼没で、言いたくないが可愛い系の片目を髪で隠したオッドアイの男。

「ゲッ―――まさかアイツか?」
「どうした? ネロ」
「ンでもねェよクソ。嫌なもン思い出しちまったぜ」

 煙草を取り出し口にくわえながらため息を吐く。シドは何も分からないままネロをしばらく見つめていたがやがてアンナが去った方をじっと見つめていた―――

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#シド #ネロ

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注意・シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。「アンナは好きな…

蒼天

#即興SS

蒼天

『好きな人』
注意
・シドと自機の関係を見守るガーロンド社員たちの即興SSです。

「アンナは好きな人とかいるんですか?」
「作らないようにしてるよ」

 ガーロンド・アイアンワークス社。今日もせわしなく社員達が仕事をしている中、旅人と自称する冒険者のアンナは現れた。ちょうど一息つこうと休憩室へ向かっていた会長代理であるジェシーに話しかけるとそのまま一緒にお茶でも飲みましょうと連れて行かれ、現在に至る。
 お茶を飲みながらさりげなく最近気になっていたことをジェシーは聞いてみたら少し外れた答えが返ってきた。

「勿体ないわね。あなたのような人ならいくらでも求められてるでしょ」
「うーん私は無名な旅人だからモテるわけないですって」
「いやいやアンタ有名人だろ? むっちゃモテてるけど全部断ってるって噂聞いてるぞ」
「じゃあウチの会長でも貰ってくれないしら? きっと今よりかは大人しくなるわ」
「余計にアグレッシブになると思うッスよ?」

 唐突に始まった英雄と呼ばれる冒険者の花のある話にふと通りかかったララフェルとルガディンのコンビが入ってくる。

「あー絶対そうね。今の無しで。じゃあ付き合いとか別としてアンナの好きな男のタイプってどんな感じ?」
「好きなタイプ、ねえ」
「やっぱりイケメンとかッスか?」
「ヴィエラ族のアンナからしたら多分見慣れてるんじゃないか? やっぱ自分より強い人とかだろ」
「……故郷でイケメン高身長な同族見慣れてるからその条件は論外かなー」

 それから断片的にアンナは好きな要素をポロポロと溢すように喋った。

「ヒゲが似合う」
「がっしりとして体系で」
「光のような人ッスか」
「別に強さは問わないよ? 弱くても護ればいいし」

 3人の『ウチの会長(親方)じゃん』という心の声が重なったのは言うまでもない。



 数日後。

「親方に好きな異性のタイプは? って聞いてきたッス!」
「度胸あるわね…」
「何かオチも予想できるんだが……」

 仕事が一段落した夜、モードゥナの酒場にて密かに開かれる会がある。自分たちの上司であるシドと旅人アンナの関係を見守る会だ。最初は社長の仕事を妨害する存在と思っていた旅人のヴィエラは今や会社の一種の癒しと化し、大量の差し入れから危険地域へ向かう社員の護衛まで顔色一つ変えず引き受けてくれる便利な存在。何度か給金を渡そうとしたがシドのポケットマネーで食事に連れて行ってもらっている必要ないといつも断られている。絶対割に合っていないだろうにと思っているが本人がそれでいいのなら甘えることにした。

「赤色が似合う神出鬼没なフォロー上手の綺麗な人ッス!」
「女版ネロじゃないのその特徴」
「まあアンナだよなあ……」

 旅人はともかく仕事以外は不器用な男の方は完璧に意識しているのではという疑問が3人によぎる。しかしあまりにも何も起こらなさすぎて2人の本心が思い浮かばない。いや本当は何か起こっているのかもしれないが特に旅人の動きが全く読めないのである。2人で手伝いの報酬という名の食事に行ってるとは言うものの、どこでどういうものを食べているのかも男は決して口を割らないのだ。

「何であの2人甘い話聞こえないんだろうなあ」
「会長が奥手すぎるかとっくに心折れてるか距離感おかしすぎてもう逆に自覚してないんじゃないの?」
「流石にこれはアンナさんのスタンスの問題じゃないッスかね」

 2人の恋は前途多難。密かに応援しようと決意を新たに何度目か分からない乾杯をするのであった―――。

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#即興SS

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注意新生2.0振り返り要素有り。シド少年時代捏造。  ―――俺が彼女に…

新生

#シド光♀

新生

技師は過去を振り返る
注意
新生2.0振り返り要素有り。シド少年時代捏造。
 

―――俺が彼女に惚れていた事を自覚したのはいつ頃だろうか。

 ガレマルド出身であるシドは故郷からエオルゼアに亡命し、ガーロンド・アイアンワークス社を興した。しかし、第七霊災で起こった事故でシドは記憶を無くしウルダハの教会で何も分からぬまま隠れて暮らすことになる。
 ガレアンの証である第三の眼によって差別する者もいれば神父であるイリュドみたいに傷が癒えるまで匿ってくれる存在もいた。マルケズと名付けられ、墓守として生活を送っていた時に出会ったのが後のエオルゼアの英雄と呼ばれることになる、アンナ・サリス。頼まれごとで不在の間に暁の血盟の拠点であった砂の家をガレマールの軍人によって襲撃された。一時の避難場所として協力者がいる教会に行けと言われたと口を開く。「私は旅人。お世話になってた場所が、襲撃されて。ここに行け、と言われたの」と淡々と抑揚なく語る姿がまるで作り物みたいな不気味な人で。これがアンナを目の前にして抱いた第一印象である。
 後に「帝国が自分を認知して襲ってきた目的が理解出来ず、冷静を装ってただけ」と舌をペロリと出しながら話してくれた。―――確か彼女がやって来た3日目の夜の姿で印象が変わったんだっけな、と思い出す。



 夜も更けた頃、マルケズはふと外の物音に反応する。慎重に教会の扉を開き外を覗くと墓の横に座り込み空を見上げる黒髪のヴィエラが見えた。
 出会った頃の2人は日中は頼み事以外一切会話をせず、彼女もふらりと出て行っては帰って来るを繰り返していた。教会の人間も含め、新しく転がり込んできた女性は笑顔で応対はしてくれる。だが、どこか仮面みたいな―――マルケズにも負けない不気味な人だと囁かれていた。
 しかしオルセンは以前助けてもらった事があるようで『アンナさんは正義感が強い素敵な方です』と言っていたのだが。実はその時には既に顔を合わせてはいたらしい。しかしお互い印象に残っていなかった。

「何を、している」
「―――星を見ているの」

 虚ろな目でマルケズを見上げたアンナは一切表情を変えなかった。しかしマルケズは見逃さなかった。平静を装いながらも震え揺れるアンナの宝石みたいな赤い瞳を。少しだけ離れて彼女の隣に座り、同じく空を見上げた。
 綺麗な星空だった。街頭1つない真っ暗な場所で見る星はますます光り輝いていると感じた。墓場である事を覗けばロマンチックだと言えるだろう。ふと彼女は「暗闇は、嫌い」と吐き捨てた。

「なぜだ?」
「真実を隠し、私を狂わせるから」
「俺は好きだ。落ち着くんだ」

 マルケズにとっての暗闇は隠れていれば自分の不安を包み込み、少しだけ気が楽になっていた。軽くため息を吐く音が聞こえたので彼女の方を見ると両膝に顔を埋め、少し震えていた。慌てながら「だ、大丈夫か?」と背中を優しくさすってやると「大丈夫」と弱弱しい声が聞こえた。そして突然顔を上げ彼の方に向くと真剣な目で言ったのだ。「あと迷子になる」、と。
 予想もしなかった言葉に目が点になったのを覚えている。教会の廊下を思い出すと先程夜も更けたからと消灯していた。

「まさかと思うが自室が分からないのか?」
「……はい。って笑う所あった?」
「す、すまない。短い通路で迷われるとは思わなくて」
「むぅ失礼なヒトね。違う部屋を開けたら失礼かもしれないっていう配慮だよ。でもまあ……笑えるんだ、よかった」

 首をかしげるとアンナはクスクスと笑いながら言葉を続ける。

「何かトラウマで笑えないのかなって」
「その、俺はただ―――」

 いつの間にか彼女への恐怖心が消えてしまっていたマルケズの心を見透かされたのだろうか。それとも知る気が無かったのかアンナはふと何か思い立ったのか立ち上がる。「さ、誰かに見られたくないでしょ?」と言いながら手を差し伸ばした。マルケズは何も考えずその手を握ると、アンナは軽く息を吸った後片手で引っ張り上げる。
 細い見た目に反して大男を軽く引き上げるほど力強いのはさすが冒険者と呼ばれる存在で。普通の屈強な冒険者と違う所と言えばふわりと漂うフローラルな香りだろうか。これまで見えもしなかった作り物ではない女性の部分が垣間見えた瞬間に少しうろたえる。
 感情を悟られないよう「次はちゃんと部屋の場所覚えるんだ」とからかった。が、当の彼女はその言葉を無視しながら細い指で彼の手を触ったり指を動かしている。突然の行為に「な、何をしている?」と聞くとアンナは優しい声で答えた。

「技術者の手」
「そう、か?」
「数日観察の結果、ね。今触ってみて確信した。大きくて、しっかりとしてて私は嫌いじゃないな」

 目を見開くマルケズを見たアンナは「明日に支障が出るよ? あなたがね」と言いながら教会の中へと消えて行く。追いかけるようにマルケズも教会に戻り、扉を閉めた。彼は顔を見せないようそっぽを向き彼女の部屋へ案内しながら赤くなった顔をローブで隠すのに手一杯だった。視線を感じていなかった事も無いのだが不愛想だった自分を観察し続けていた事にも驚いたし、『笑えるんだ』とは自分も投げつけたい言葉であった。初めて見た彼女の優しく自然で、綺麗なヒトの笑顔だった。
 自室に戻り、ハンマーと傍に置いていた金属に手を伸ばす。もう部屋に戻れないからと野宿はさせない、そう想いながら一晩打ち付け形作った。

―――思えばこの地点で俺は焔を宿した宝石の如く赤い瞳に射止められた愚かな獣になっていたのかもしれない。



 アルフィノによって外の世界に連れ出され、エンタープライズ号で自分がシドである事の記憶を取り戻した日。アンナからのシドを見る目が変わったのを今でも覚えている。

 星を見上げた夜以降、アンナは何かに安心したのか少しだけ笑顔を取り戻した。そして積極的に教会の手伝いや料理を振舞ってもらえるようになった。彼女は教会のご飯だけでは足りなかったので郊外で狩った動物と採取した物で自給自足しながら怪しい奴がいないか巡回していたらしい。マルケズに「遠慮せずに食べて。あなたデカいんだから」と分厚い肉を押し付けられたのは平和になった今でも覚えている。

 教会の人間も彼女の姿に安堵し、次第に打ち解けていく姿が嬉しかった。しかし、昨日まで沈んだ顔をしていながらも神父のかわりに用件を聞く自分を頼り合っていた、つもりで。そんな彼女の周りに人が集まり近付きにくくなったのはどこか少し寂しい感情もあった。
 そんな中アルフィノが現れ、2人を外へ連れ出す。教会に身を寄せる人間たちに大層惜しまれつつエンタープライズ号を探す旅が始まったのはマルケズ、いやシドにとって嬉しい話でもあった。『もっと彼女を知る事ができる』、『自分が何者か分かる時が来たのだ』と。確かに知ろうとする行為は怖かった。しかし祖父の遺志を継ぎ立派でいようとする青年と、ミステリアスで強い冒険者の彼女がいれば大丈夫だろうと確信していた。
 そう、当時のシドにとってのアンナはミステリアスでクールだと感じていたのだ。実は『とんでもない猫かぶり』だったわけだが、真実を知るのは相当後の事になる。

 飛空艇で大空を翔る中、シドは記憶の一部を取り戻す。清々しい気分だった。ただ、当時の自分の元へ行けるなら、ついでに赤髪のヴィエラとの約束も一字一句間違えずに思い出せと本気で殴りたいと未だに思っている。
 なんとアンナは【超える力】でシドの過去を覗き見た時に彼が『約束』を交わした少年だったと気が付いていたらしい。あの時の言葉はそういう意味だったのかと時間が経った今でも歯ぎしりしたくなる。

「綺麗な星空ね」
「よく見えるだろ?」

 ガルーダの元へと向かう夜、星空を見上げるアンナを苦笑しながら見つめた。アルフィノはアンナに「明日決戦なんだからちゃんと寝て。背伸びないよ?」と言われ文句を言いながらも彼女が持っていたマントに包まれ目を閉じていた。
 アンナは飛空艇から身を乗り出して空を見上げている。「危ないぞ」と彼女の肩に手を置き引っ張った。彼女は「うん最高」と言いながら満面の笑顔を浮かべている。

「エオルゼアに来るまで飛空艇に乗った事はなくて」
「意外だな。旅人なんだから普通に飛空艇や船で移動しているのかと」
「私が乗る船はよく沈んでたから」

 ずっと運が悪かったみたい、と言いながら相変わらず星空を目で追いかけているようだ。

「俺の飛空艇まで沈めてくれるなよ?」
「もー、エオルゼアに来てからは一度も沈めてないし」

 イタズラっぽく言ってやると初めてシドの方を向き頬を膨らます柘榴石(ガーネット)色の瞳と目が合う。「あ……」と声が漏れる。ここでシドは普通に冗談言い合っていた相手が女性だった事を思い出した。彼女の肩に置いたままだった手を「す、すまん!」と言いながら引っ込めた。きょとんとしている顔から踵を返し、「お前も寝た方がいいだろう。何せ明日決戦なんだからな?」と言ってやると「あなたの方が寝た方がいい」と返されながら腕を掴まれた。

「自動的に操縦するとか出来ない? 見張っておくから先に寝ときなよ。不安」
「俺は別に1日位は寝なくても大丈夫だ。それよりずっと走り回って疲れてるアンナが寝るべきだろう」
「私も長旅は慣れてるから」
「いやいや」
「休んで」

 2人で譲り合うかの如く言い合っていると「ならば2人とも私に任せて眠ってくれないだろうか?」といつの間にか起き上がっていたアルフィノに言われ2人は顔を見合わせ笑い合うのであった。

「『あなたの飛空艇』に乗れて、よかった」

 と言いながらアンナは立ったまま操縦桿に乗りかかり目を閉じた。「おい」と声をかけると「30分寝るから」と答えが返って来る。

「アンナ、あなたは立ったまま眠れるのか?」
「長い間旅に出てたから。もう一種の特技って感じ。一番落ち着くの」
「せめて座ってくれ。見てるこっちが休まらんからな」
「ああ頼むよ、アンナ」

 しょうがないなあと口を尖らせながらもアルフィノから返されたマントを膝に置いた。「ほらシドも」と言いながら膝をポンポン叩いている。

「お、俺は向こうで寝るから大丈夫だ」
「そっか。じゃ、アルフィノ来る? 膝、いいよ」
「あー私も遠慮しておこう」

 男2人の返答にただ一言「知ってる」と答えたまま目を閉じている。眠っているかは一切見分けがつかない。2人は顔を見合わせる。アルフィノの方は顔が少し赤くなっていた。

「断ると分かっててわざと言いやがったのか? いやまさか」
「彼女は……なかなかクセがあるみたいだね。どうだいシド、隣で寝てもいいんじゃないか? 絵でも描いてあげるよ」
「魅力的な誘いだがさすがに断るからな」

―――この時の俺は『あなたの飛空艇』と強調していた意味が分からなかった。今思うと答えを言われていたに等しい行為だった。



 ガルーダとの戦いで初めてシドはアンナの戦いを見る事になる。この時の彼女は両手杖を掲げる癒し手としての戦い方だった。動物を狩る時は弓、人前で戦う時は基本的に人を癒す事に徹しているらしい。「まだ駆け出しだから」と言いながらこまめに回復する姿は、確かに不敵な笑みを浮かべた冒険者のモノとは程遠い練度だった。

 ガルーダとの戦闘が終わり、最終的にアンナの勝利で終わる。光の加護により蛮神によるテンパード化を防ぐ―――まさにエオルゼア軍の奥の手。確かに【超える力】を持ち戦いも出来る彼女にかかれば蛮神問題も解決できるだろうと安堵していた時、ガイウスが俺の目の前に現れた。

 軍団長であるガイウスの圧倒的力を持つ存在と、実戦投入された最終兵器アルテマウェポン。蛮神を喰らい、力とする存在を目の前に俺たちは一時撤退の4文字しか選択肢がなかった。ふと「あれが、漆黒の王狼……」と低く無機質な声が聞こえてくる。アンナの声、だったと思う。英雄になるだろう冒険者を失うまいと必死にエンタープライズ号を操舵するシドに確認する術は存在しなかった。

 古代兵器の再始動を目の当たりにした3人はこれからの事を話し合う。まずはミンフィリア達の救出。アルテマウェポン破壊、そしてエオルゼアからガレマール帝国を撤退させる。「やる事、たくさんだね」とアンナは呟いていた。考えていても埒が明かないのでとりあえず『希望を光を再び灯すために砂の家に行くか』と結論を出し、ベスパーベイへ。襲撃を逃れていた暁の血盟のイダ、そしてヤ・シュトラと再会するのであった。

 イダとアルフィノは目を閉じ、一時の休息を取っていた。シドはアンナに「一番疲れているのはお前だ」と楽にするよう促した。

「そんな事言われたの成人前位だなって」
「何言ってるんだお前は十分若者の範囲内だろ」
「ホー。じゃああなたは何歳なの?」
「34。お前は?」

 アンナはクスクスと笑いながらさぁね、と言った。「あまり人と関わらないように旅をしていた時期があってね。何年彷徨ってたか分からないの」と呟く姿は少し寂しそうに見えた。かける言葉が頭から浮かばない。フリーズしてる様を見て彼女は人差し指を突き立て言い切った。

「ちゃんと性別は女性と分かってから旅を始めたし、それから云年経って、アンナと名乗って5年だから……26位かな?」

 明らかに嘘なのはその辺にある石ころでも分かるだろう。しかし彼女の精神性と、思ったよりも気さくに話が出来そうな雰囲気から自分と同じ年位だろうと思っておく事にした。―――後にウチの社員になる彼女の兄によるとシドよりも50は上らしい。計算がざっくりとしすぎているな、と赤色の髪の男と苦笑しながら酒を飲み交わした。



 次に印象のある出来事と言えば魔導アーマーを鹵獲して修理した時の話だろうか。再び少し沈んだ表情をしながら当時偶然弓を持っていたアンナの隣で戦った。戦闘を重ねるごとに少しだけ笑顔になっていくのが少し怖かったのだがここでは置いておく。

「カストルム・セントリに潜入してミンフィリアを助け出すぞ!」と言った時のアンナの不敵な笑みが何よりもシドにとっての活力となったのだ。人の事はあまり言えないなと当の本人は苦笑しながらも隣に立てるのが何よりも嬉しい。アンナはどう思っていたのだろうか。何度か思い出した時に聞いているが照れくさいのか答えてくれない。

「お世話になっている人たちだし。助けるのは当然の話だよ」

 旅人だとよく強調するクセになぜ自分や暁の血盟の人らに肩入れしてくれているのかと聞いたのもこの時だった。レヴナンツトールの整備用拠点で魔導アーマーを見上げながら話をしていたのを覚えている。

「私はね、自分を優しくしてくれた人と約束は守る事にしてるの」
「これまた大きく出たな」
「実はアルフィノとはね―――」

 話を聞くとアルフィノとの出会いが彼女の冒険者生活スタートのきっかけだったらしい。蛮族に囲まれていたアルフィノとアリゼーを助けたお礼にグリダニア行のチョコボキャリッジに乗せてもらったのだと。アルフィノが暁の血盟の人間だと知ったのはつい最近で。奇妙な縁だな、と思いながら付いてきてるんだ、と苦笑を浮かべながら喋る姿は少しだけ新鮮に思えた。
 思えば彼女の過去をこの時まで聞いた事が無かった。シドの過去の一部は【超える力】で視られてしまっていたのにアンナの歩いてきた軌跡は一切見る事が出来ていない。だから少しだけ遠慮がちに話をする彼女が"新鮮だ"と表現できた。

「元々冒険者になろうとは思ってなかったよ。けど、エオルゼアで動くなら色々と便利かなって思ってね。人助けも好きだしやっちゃえと走り回ってたらいつの間にか暁の人らと行動してたの」
「なかなか飛躍した面白い動機じゃないか。ところで冒険者になる前はどこを旅して」
「あ、カエル食に興味ない? レヴナンツトールのすぐ外にいるやつの肉を食べられないか少し頑張ってみたんだけど」

 露骨に話題を逸らしていた。そしてニクス肉の料理は丁重に断った。未来の俺からしたら『約束』という言葉を使っていたのに何も疑問に浮かばなかった自分を蹴飛ばしたい―――



 アンナというエオルゼアの英雄が誕生するまでに外せない出来事と言えばやはり魔導城プラエトリウムでの活躍だろう。シドも魔導アーマーで援護してカストルム・メリディアヌムを制圧。そしてエンタープライズ号で空からの侵入を果たしたシドとアンナ達冒険者はガイウスと対峙する。

 そういえば作戦【マーチ・オブ・アルコンズ】が始動して間もない時に初めて彼女が刀を持つ姿を見た。珍しい武器を持っていたので聞くと偶然出会ったムソウサイと名乗る侍の弟子になったんだと語る。

「仮にもヴィエラの集落生まれだからね。出身はオサードの方だから刀は見た事あったの。ウルダハで見かけて懐かしくなって」

 雷を受けたような衝撃を受けた。舌をペロリと出しながら愛しげに鍔の辺りを撫でる姿に少しだけ、ほんの少しだけ決して表に出せない一つの感情を刺激する。今は作戦中だと自分に言い聞かせすぐに引っ込めたのだが―――少し席を外す時間があったら少々危なかったかもしれない。
 そんな姿を見てからだったのだろうか、彼女の戦う姿に対してそそる様になったのは。魔導アーマーを操りながらふと交戦中の彼女に目をやると、ニィと歯を見せた笑顔で帝国兵と斬り合っていた姿が印象的で、世界が違う人間だと今でも思っている。自分のように後方支援を行う姿よりやはり正面切って刀で一閃する方が似合っているし、何よりシド自身の欲情が刺激されていった。

 それは文字通り最後の"希望"が自分の隣に立ち、返り血を浴びながら自分を護りながら斬り捨て、他人とは少しだけ違う笑顔を向けてくる。その姿にゾクリと背筋が凍るような未知の感覚が襲い掛かっていたのだ。思えばよくこの頃に想いを自覚できてなかったなと自らの鈍感さに少々嫌気がさす。

 閑話休題。魔導城ではシドが捨てた故郷の者達が語りかけて来た。ある者は友の息子であった自分に期待を裏切られてもなお再び傍に置いてやろうとした男。またある者は伝説とされてしまった自分に焼け焦げながら劣情をぶつけて来た幼馴染と呼べる男だった。
 そう、坊ちゃんとして育った自分が考えもしなかった感情たちが襲い掛かる。そんなまるで郷愁とぶつけられた一種の劣等感により闇へと落とされていく葛藤を赤い閃光(アンナ)は全て斬り払った。ガイウスの誘いも即断り、現れる敵は躊躇なく斬り捨てていく。
 現在もだが味方としていてくれて心から助かった。当のアンナは「顔見えてたら危なかったかもね。あなたほどじゃないけどナイスヒゲだし」と後に語る。冗談だよな? と聞いたが目は笑っていなかった。―――本当に味方でよかった。

「シドは別に亡命して後悔してないんでしょう?」
「勿論だ。ガイウスに引導を渡してやる、頼んだぞ」
「ええ、それでいい。あんな奴といると『自由』に手を伸ばせないよ。そのために全部護ってあげるから」
「俺が世界を、と言ったら護ってくれるのか?」
「ホー……あなたが思うのなら。でも今は違うでしょう?」

 アンナはシドを勇気づけるが如く語りかけながら頭をポンと撫でてやりエレベーターに消えて行った。アンナの方が背が高いので撫でる行為は容易である。行為を受けたシドといえば少し恥ずかしい気持ちで溢れかえっていたのだが。
 ネロとの会話後―――アレはほぼ一方的な感情の吐露だったが、アンナは戦いながらシドへリンクシェル通信を再び繋いでいた。『大丈夫』『私は、知ってる』『ネロとかいう、趣味悪い赤の、自称天才プライド高すぎ鎧野郎よりさ、あなたの方が数段強いから。ね?』なんて息一つ乱さず囁くような声を聞かせる。と思ったら、『あっやっべ聞こえてたかも』と声が漏れてきた直後、通信をブチ切られた様に自分の張りつめた緊張が解けていった。ネロが再び強制的にジャミングして切ったのだろう。一瞬だけ『かもじゃねェが!? ぶっ殺すぞテメェ!』だと思われる声が断片的に聞こえたからだ。目の前で片手間にボソボソ自分の陰口をたたいていたら普段温和なシドでも物凄くキレ散らかすだろう。
 戦闘中なのに余裕がありすぎる姿に頼もしさもあるが少々危うさもある。ガイウスに、アルテマウェポンに勝てるのだろうか。刀を握り始めて大した時期が経っていないんだ、途中で膝を突いてしまうのではないか。いや彼女が賜った【超える力】が有れば大丈夫。―――なはずと考える内に眉間の皴がより一層深くなったのを感じた。

 ふと一瞬だけ城内の電力が落ちる。嫌な予感がした。モニター室のシステムから確認すると地下深い場所に電力を集中させている事が分かる。つまり、と考えた瞬間に彼女のリンクシェルへ繋いだ。先程外から流れて来た情報を渡し、あとはアルテマウェポンを破壊するだけだと伝える。

「いいか、死ぬなよ生きて帰って来るんだ」

 アンナの声は聞こえなかった。ノイズが酷すぎて自分の言葉が伝わったかも分からない。シドは祈る事しかできなかった。お膳立ては出来たのだ、あとは彼女の頑張りで世界の行く末が決まる。

 ここまで来てしまったらもう自分にやる事はない。シドは一足先にモニター室から離脱し、脱出した。

◆◆◆

―――シドは脱出できたのだろうか。心配になる。

 アンナの中ではかろうじて聞こえた『生きて帰って来るんだ』という言葉が反芻していた所にガイウスが降って来た。偉そうに演説し時間稼ぎをしたガイウスをまだ慣れぬ刀でなんとか斬り払い、追いかけた先で目の前に現れたのはアルテマウェポン。自分よりも遥かに大きいものに対して少しだけ怖かったが、吸収していた蛮神は一度倒した相手だ。そう考えると一瞬持った恐怖は薄まってきている。何とか恐ろしい古代兵器から蛮神を引き剥がし、ようやく互角以上に戦えると思った瞬間だった。アシエンが現れ、トンデモない事をしでかす。

 ガイウスも知らなかった最終兵器究極魔法アルテマ、空へ放たれた大魔法の威力は絶大だった。一発でプラエトリウムが壊滅する程度の威力を持っている。アンナはハイデリンの加護により何とか無傷だったのだが懸念が生まれた。

『シドは脱出できたのだろうか』

 リンクパールに手を当てても何も反応はしない。当たり前だ、通信が途切れると言われていたのだから。ガイウスとラハブレアが何かを言っていたようだがアンナの頭の中には入ってこない。『いや大丈夫。今まで見てきたシドなら引き際位わかってる。でももし万が一失敗してたら』頭の中でずっとグルグルと渦巻き彼女は顔を伏せる。

「しかし、今は! この者らを倒し我に力有りと証明するッ!」

 うるさい、キミはシドを大事にしたかったんじゃないのか? ただ一度の拒絶で捨てる程度の存在だったのか?

「どちらが真に『持つ者』なのか決着ををつけようじゃないか冒険者!」

 厭だ、力なんていらない。約束を交わした少年を助けられなかった、約束を果たせなかった力なんて、ボクは。

 構えた刀に、身体から放出されるナニカが流れ込んでいく様を感じる。"これ"はまさか……いけない、分かっていても自分の中のナニカが『奴らがいないのだから大丈夫だろう。"ボク"達の圧倒的な力ってやつを見せてやろうじゃないか。―――』と囁いた。「シ、ド」とボソとアンナは呟く。小さな言葉は周りの冒険者やガイウス、そしてアンナ本人の耳にも届かないだろう。冷たい体に焔が灯され、過去によく聞いた獣のような唸り声を漏らした。

 ここからアンナの記憶は塗りつぶされたかの如く真っ黒になる。はっと気が付くとアルテマウェポンから弾き飛ばされたガイウスが倒れていた―――

◆◆◆

―――心臓がいくつあっても足りなかったさ。あの閃光を見た時、絶望しかけていたしとっととエンタープライズで助けに行ってやりたかった。強く、ただ強く戻ってくるようにと祈る。するとあの人は爆発する中、焼き切れていたはずの魔導アーマーで奔ってきた。サンクレッドの救出も成功し、新たなエオルゼアの英雄、『光の戦士』の誕生である。

 アンナはただ笑みを浮かべ、彼らの祝福を受け取っていた。ふとシドと目が合い、お互い笑顔を浮かべ「よかった」と言葉が重なった。



「シド」
「旅人の英雄さんじゃないか」
「英雄は余計よ」

 第七星歴の宣言が行われ、数日の時が経った。何となくレヴナンツトールで落ち合い、軽食でもどうだと誘うとあっさりとついてくる。噂で暁の血盟の拠点を引っ越しすると聞いていた。忙しいだろうに、とシドは言うと「それは私の仕事ではないからね」とウィンク付きの返事が返って来た。

「ガイウスとの戦いももう昔の話みたいで不思議な感じがするね」
「そういえばお前ネロの前で陰口叩いた後何があった?」
「第一印象を言っただけだよ? 殺すぞって言いながら私を執拗に狙ってきたの。聞いた方が悪いのに」
「いや戦闘中に他事は失礼だろう。……って待て、刀振り回してたんだよな? 目の前で言ってるしキレられて当然じゃないか」
「うーん……あなたが不安で潰されてないか心配だったから。あなたが悪いかな」

 シドは「俺のせいにするな」と言いながら小突いてやると彼女は満面の笑顔で「ごめんごめん」と舌をペロリと出した。プライドが高いネロの事だろう、アンナの小言は相当効いたに違いない。
 当時、何を思ったか聞いてみたいと思っていた。しかし死んだ者に直接問いかけ答えてもらう術は確立されていない。いやもしかしたら死んでない可能性もあるか。噂では死体は発見されてないと聞く。どこかで会うかもしれないのが厄介だと今後起こるであろう面倒事に想いを馳せていた。現在も聞けていないから今度聞いてみようと考えている。

「それを言ったら私も心配してたよ? アルテマウェポンがやらかした爆発の時、脱出できてたのかなって」
「お前と連絡取れなくなった地点で役目は終わりだと思って脱出した。心配かけちまったみたいだな」
「そっか。怪我、無くてよかった」

 どうやら自分の身よりも他人の方が心配だったらしい。どこまでも英雄にふさわしい考え方を持っているようだが、裏を返すと自分の限界を知らない危うさも存在するという事。その証拠として魔導アーマーで生還し、祝福の喜びを受けた後操縦席で突っ伏して眠ってしまったのである。
 彼女を取り巻いていた人間全員が慌てていた所、寝息が聞こえるや否や皆溜息を吐いた後笑顔を浮かべていた。実は安心した顔で眠ったアンナを見たのが初めてであり、シドも含めて安心してもらえたのが何よりも嬉しかったのだから。

「これからどうする?」
「蛮神問題を片付けたらまた旅に出たいかな」
「お前は旅人だから言うと思ったぜ。でも英雄さんをあっさり自由にさせてくれるのか?」
「―――頑張ったのは暁の皆だからなんとかなるんじゃない? 私はただの旅人だからね」
「あー……そんな事より、案内したい所があるから落ち着いた時にまた連絡が欲しい」

 彼女の口癖を聞きながらリンクシェルにシド直通の連絡先を追加してやる。ついでに直通のリンクパールも渡した。本能的に今渡さないと二度とチャンスが来ないと思ったからだ。アンナは笑顔で受け取った後、「どこに?」と聞いた。

「決まってるだろ? ガーロンド・アイアンワークス社だ」
「ホーそれは楽しみにしとこうかな」

 2人の笑い声が重なった。楽しみが増えた、と言いながらお互い別れる。彼女が興味を持つ存在を定期的に与えることが出来れば。しっかりと彼女の力を求めればもうしばらくエオルゼアに残ってくれるだろうと確信していた。しかしその前に会長代理として任せていたジェシーの説教の続きと積まれた仕事を片付けないと。

―――まあその後すぐにクリスタルタワーの案件で再会するのだが。しかしガーロンド社に連れて行く事に対して楽しみと答えたのも今思えば当然じゃないか! 浮かれていた自分を本当に責めたいと何度も思ったさ。

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#シド光♀

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注意ガルーダ討伐前のおはなし。シド少年時代捏造。  ―――ボクが身につ…

新生

#シド光♀

新生

旅人は過去を視る
注意
ガルーダ討伐前のおはなし。シド少年時代捏造。
 
―――ボクが身につけてしまった力は正直に言うと旅をするうえで邪魔な代物。だけど、旅の中で見つけた星は心の奥底では求めていた縛り付けられるための【希望】だったかもしれない。

 視てしまった。何をって? 決まってるでしょう、人の過去です。第七霊災と呼ばれる星降る夜を見届けた数年後。アルフィノ、アリゼーという双子のかわいい子達に連れられてグリダニアに向かう道の途中でだ。変な声を聞いてからボクは人の過去を視る【超える力】というものを手にしたことを自覚する。口頭説明だけでなく過去を見ることで状況を把握しやすくなったのはいいこと。しかし一々眩暈が伴うのは勘弁してほしかった。いや、眩暈以外ではリスクなしで蛮神による洗脳? を無効化するという効果も一緒に渡されたと考えればお得なものだったかもしれない。

 閑話休題。今回視た対象は一味違う。突然協力関係になった組織【暁の血盟】の拠点である砂の家をあの男が興したガレマール帝国の者達に襲撃された。意味も分からぬまま協力者がいるというウルダハのキャンプ・ドライボーン郊外にある教会に転がり込んだ。正直な話自分が『バレた』のかと思って怯えていたがどうやら蛮神殺しとなった自分が鬱陶しかったらしい。紛らわしいことをしやがって……ではなく命拾いした。慣れない武器で走り回る自分はあくまでもちょっと超える力なんて得てしまったひよっこ冒険者なのだ。襲われないに越した事はない。
 その後聖アダマ・ランダマ教会という場所で記憶を失っていた墓守の男マルケズに出会う。不思議な雰囲気を醸し出す白い人だった。手先が器用で、無意識だが魔導機械を修理できる程度の知識がある。帝国の目的が分かるまで少々怯えていた自分を慰めてくれた"お人好し"だった。こりゃあの国の偉い技師かそれに近しいやつだったのかなあとぼんやりと考えていた。その正体はガルーダ討滅のためアルフィノ少年が探している飛空艇エンタープライズ号を作り、エオルゼアの魔導技術を一気に発展させた帝国からの亡命者シド・ガーロンド。彼が大空を翔るエンタープライズ号で取り戻した記憶を、隣でのぞいてしまった。
 結論を言うと"内なる存在"と話をした【あの少年】だった。寒空の夜、偶然自分の目の前に現れた偉大な父の背中と技術を夢見る可愛らしい白色の髪のあの子だ。



「俺、絶対にお兄さんに凄い飛空艇を見せるんだ」
「ホー、そりゃ楽しみだ。でも迷子になる"ボク"を見つけることはできるかな?」
「空からならきっと見つかるって! そしてお兄さんを目的地へすぐに連れて行けるじゃないか」
「ホーそりゃいい夢だ」

 もう来たくなかったあの寒空の中、このままだと凍死か捕まってゲームオーバーかと諦めた所に温かい飲み物を持って来てくれた。自分の事は男だと思っていたのだろう、お兄さんと呼ぶ所は育ちがいい子なんだなあと思うくらいで。"ボク"と彼は名乗り合わず、ただの【旅人と少年】として出会い、少しだけ話をした。お互いの故郷の話、ボクは迷子クセがあるいう話、彼の家の話、そして若き少年である彼の将来の話。

「じゃあ次はキミから全力で逃げてみようかな」
「次?」
「"ボク"を捕まえてごらん」
「っ!?」

 あの頃のボクは同じ人間には会わない旅人と決めていたはずなのにな。あまりにも面白かったし、朧げな意識の中初めての純粋な優しさが嬉しかったという感情が"内なる存在"にも伝わり、つい手の甲に口付けを送りながらこう言いやがったのだ。

「期限はそうだね……キミがお髭がとっても似合う人になるまで、かな? 翼であるキミの飛空艇たちを守る刃になってあげよう。おっと飛空艇たち、というのは簡単だよ? あんな大きな船をキミ1人で作れるわけないだろう? 全部守ってあげる。こう見えて"ボク"はすっごく強いからね」
「俺が翼で、お兄さんが刃」
「道教えてくれてありがと。あと入学おめでとう。学校、がんばれ」
「ありが……って道違う! 逆! 迷子何とかしたいなら方向覚えなよ!」



 嗚呼懐かしい。あの少年がこんなにもヒゲの似合う男になってしまったのか。これまで流れた時間ってあまり気にした事はなかったが残酷である。そして彼の運の良さにボクは恐怖を覚えたよ。
 いろいろあったんだなあ。ボクよりも短い時しか生きてないくせに濃縮されてる人生送ってるね、キミ。だからかな? あの寒空の夜を覚えてないみたいだね。いい事だ。ボクとしては捕まりたくないからそっちの方が都合がいいんだよね。そりゃあ少しだけ寂しいけどさ。

「アンナ、大丈夫か?」
「ん……大丈夫だよ」
「ははっ旅人さんは乗り物酔いでもしたか?」
「飛空艇、乗り慣れてないからそうかもしれないの」

 とりあえずキミ達との出会いという幸運に感謝して、蛮神殴ってガレマール帝国の野望を阻止してあげよう。ボクはヴィエラ、時間はたっぷりある。これが終わったら、また広い世界を旅すればいい。

 ボクはアンナ・サリス。何にも縛られない、何者でもないただの無名な旅人さ。どうせキミ達の方が先に死ぬんでしょ? 誰もボクに構わないでよ(早くボクを捕まえてよ)―――。

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#シド光♀

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「人間ごっこは楽しいか?」 ならず者の頭から飛んできた言葉に私の目が反射的に少し…

漆黒,ネタバレ有り

#即興SS

漆黒,ネタバレ有り

旅人は人に擬態する?
「人間ごっこは楽しいか?」

 ならず者の頭から飛んできた言葉に私の目が反射的に少し見開かれたように感じた。
 何度も言われた言葉だ、慣れてはいる。即いつもの笑顔に戻す。

 そういえば最近同じような事を言われていた。相手は……そうだ、アシエン・エメトセルクだ。あの時彼は何と言っていたのだろうか。嗚呼思い出した。



『あの頃に比べたら上手に人間みたいに振る舞えるようになったんだな。おい何照れてるんだ褒めてないぞ嗚呼厭だ厭だやはりお前は人間のフリをしたナニカだ』

 彼が皇帝として存在していた頃、獣のごとく走り回っていた自分を『奥の手』として引き入れようとした。【鮮血の赤兎】なんて変な二つ名で呼ばれる少し前の話になる。
 しかし今思うとそんな自分を『人間ごっこ』できるように多少の常識を叩きつけて来たのはこの胡散臭いお人よしなのだ。彼と死闘を繰り広げた後、少しだけ彼に対して冷静に考えられるようになった時にふと気が付いた。使用人経由で衣服を整えてくれたし、心が引き裂かれるように痛かったけど何かこびりついた憑き物を落としてくれた。あと恥ずかしいが自分は女に生まれたことを改めて一晩イヤミたっぷりに説教された。
 以降さらしをキツく巻くことはなくなったし少しだけ今の自分に近付いたきっかけではあった。感謝するかと言われたらしたくないのが本音だが。
 あの時から彼が見ていたのは私ではなく私の中にあるナニカなだけ。少し優しくされただけで一喜一憂するような便利なヒトにはなれなかった。

 それでも【鮮血の赤兎】と呼ばれてた頃は人扱いされることはめったになかった。道を聞いても皆襲い掛かってくるから斬り倒した。稀に優しくしてくれて家に泊めてくれたりした人はいたけれど何かに怯えるような眼をしていた。怖いなら何で私に構うんだ、そう思いながら寝そべっていたのを覚えている。
 あの時は私を鍛えてくれた命の恩人には申し訳ないが、強くなりすぎた事を何度も後悔した。だから私はただの旅人として生きていた『あの人』のように旅を続けるしかなかった。

 時代が新たに歩き出したので【鮮血の赤兎】を殺した今、私の周りには人が集まるようになった。笑顔を浮かべ、不器用に振る舞いながらも慣れない武器を振り人助けをしてると何だか分からないが心が温かくなる。
 あとエオルゼアに辿り着いてから『超える力』という加護が与えられた。以降私はハイデリンの加護を駆使しながら危なっかしい若者たちを手助けするようになる。あの寒空の夜約束を交わした少年も大きくなり私の前に現れたのも驚いた。本人は最近まで覚えてなかったみたいだがついに過去の事を認識したらしく、捕まってしまった。気楽な旅も悪くはないけど大切な人を守るために戦う生活もいいかもしれない。現在が一番楽しい時を過ごしている、そう思っていた。

―――そこに冒頭の言葉を投げつけられた。

「違う! アンナは優しい人間だ!」
「そうよ。あなたのようなやつと違うわ!」

 仲間である銀髪の兄妹は私を庇うように立ち、叫ぶ。私の事を知ろうとする最初こそは面倒だったが今は守りたい子供たち。なるべくどす黒い所は見せたくない。私は首を横に振り、2人の感情を遮ろうと前に出る。

 次の動きは一瞬だった。彼の首に届きそうな、ギリギリ傷付けない位置に刀を突き立て笑顔で言おう。

「そう見える? 悲しいな」

 ふと男の顔を見るとこの世の絶望を見たかのごとく歪んでいた。

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#即興SS

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注意次元の狭間オメガ途中の話。シド少年時代捏造。   上級軍人になった…

紅蓮,ネタバレ有り

#シド #ネロ #ギャグ

紅蓮,ネタバレ有り

好奇心は旅人を起こす
注意
次元の狭間オメガ途中の話。シド少年時代捏造。
 
 上級軍人になった頃、オレは新たに立ち入れるようになった軍の資料室で調べモノをしていたンだ。その時偶然『あの怪談』の真実へつなぐ一欠片を見つけてしまった。それが今につながるたァ思わねェよな? 英雄サンよォ―――



「ネロ、面白い話して」
「何言ってンだ? この女ゴリラ」
「あなた、社の中では新人社員」
「だから英雄サマに面白い話を献上しろってかァ? コッチはオシゴト忙しいの」
「あき……新人クンとのコミュニケーションの一環」

 今明らかに飽きたと言いかけたな、隣では『保護者』の社長サマが笑いをこらえている。ヤーンの大穴にて発生したオメガの検証。俺やガーロンド社の人間からしたら未知との遭遇であり目を輝かせるものなのだがこの各所で英雄と呼ばれるオンナ(?)にはあまり響かないものだったらしい。
 いや物陰でガーロンドに見られないように何かやっているのは把握しているが。

 英雄サマは俺を半ば強引に社員として引き入れた"会長代理サマ(ジェシー)"とはまた違う女性として認識しにくい。それどころか人間と認識できるか曖昧なほどの強さを持つ。超える力なンて必要ないんじゃねェか? どうせ疑わしいものは全部ぶちのめしていくクセによと思うことは多々ある。ガーロンドや暁の人間がいないと誰も自分の領域に一切入れたがらない孤独な存在だは『知って』るさ。

 ていうか何が新人社員とのコミュニケーションだ。そもそも元凶であるアンナは社員でもないやつだ。最初こそ大人しく人助けがシュミな奇妙なウサギかと思っていた。だが、ガーロンドの野郎に懐いて稀に奇行に走る変人だったと聞いたときは正直眩暈がした。社員として招き入れられたからにはいつかこっちに余波が飛んでくると思っていたがまさか今だとは予想外だ。
 つーかビッグスとウェッジが倒れた後のくせに呑気すぎる。いやもしかしたらそういう雰囲気にしないと耐えられンないと判断でもされたか? そりゃまた余裕あンな。
 しかし事の元凶からの期待するかのような視線が痛い。癪だが従ってやる。この退屈を嫌うヤツが気に入りそうな話はあっただろうか。ウサギ……赤……そういえば昔聞いた話があった。戦い好きにはちょうどいい話でもあるだろう。

「英雄サマに気に入ってもらえるか分かんねェが……今は暑いし新人兵時代に聞いた怪談にすっか」
「お前がそういう話持ってるとは珍しいじゃないか」
「お前なァ……」

 次はガーロンド側がうるさい。俺が何したっていうんだ。まァいろいろあったか。記憶を頼りにイイ感じの話にしてやろう。

「昔帝国に奇妙なやつが現れてな」
「私が見た帝国の人皆変だった」
「否定はしねェが大人しく聞いてろ。まあソレは突然帝国領内に現れたそうだ。深々と血塗れのマントを被った戦士だってンだ。面白ェだろ?」
「……え?」

 長い耳がピクリと動く。そして少しだけ顔が青い気がする。もしかして怖い話は苦手だったのか? いやそれだったら最初から拒否するか。珍しくスキを見せやがったので少し嬉しくなったもンだから追撃してやる。

「『ここはどこだ、出口はどこだ』と低い声で呻きながら兵士に近付く。無論その場にいた奴らからしたら侵入者だ。捕らえようと動くが手に持った槍であっという間に一網打尽にされたそうな」
「へぇ」
「倒した後ポーションぶっかけて去るんだよ」
「はあ?」
「そしてその名前は」

 そういえば不在だがビッグズとウェッジも入隊はしていた事を思い出した。じゃあアイツらも知っているかもしれない。ガーロンドといえばきょとんとした顔でオレを見ている。まァおぼっちゃまにまでは届かなかった血生臭い話だろう。あとさっきから奇声を上げているウサギも見ていて少しだけ面白い。

「鮮血の赤兎」

 当の元凶を見ると顔色が真っ青というかいつにも増して様子がおかしい。



「英雄サマはコワイ話は苦手だったかァ? 戦う相手はしっかり選べっていう教訓話だったンだぜ?」と声をかけてやるとビクリと体が跳ね俺を一瞬だけ睨みつけた。その刹那が怖かった。蛇に睨まれた蛙の気持ちが今ならわかる。殺される、本能が警笛を鳴らし喉がひゅっと鳴る音が聞こえた。しかし即座に普段の穏やかな表情を見せると回れ右をし、出口へ走り出した。

「おいアンナどこに」
「う〇ち!」
「仮にも女だろ少しはぼやかす表現しろ!」
「じゃあお花摘み!」

 ガーロンドの問いかけに対し遠慮なく言いやがったなコイツ。以前チラッとこのムカつく男からあまりデリカシーというか恥じらいが存在せず男友達みたいで楽しいと聞いた。そうかもしれないが大の大人であるこっちが恥ずかしくなるような事も言うのは少し人としてはどうかと思うがそれはいい。
 俺は本能で理解した。特大の地雷を踏んだのだ。面倒くさい。だがどの部分で踏み抜いたンだ?

「しかし不思議なんだが」

 アンナが外出した後ガーロンドが何やらブツブツ言っている。

「深くマントを被ったって話なのに何で兎って単語が付いたんだ?」
「そりゃ顔見た勇気あるやつがいたンだろ? ヴィエラなンて俺らの故郷じゃ珍しいし記憶に残ってたンじゃないの」
「それもそうか。……実話なのか?」

 ガーロンドは俺の襟を掴み体を揺らす。珍しくスゲェ必死な感じが伝わるが力任せで痛いので強引に払いのける。

「アァ、マジらしいぜ? 真っ赤な髪の返り血が良く似合う性別不明なヴィエラだったってよ」
「会ったことがあるんだ。赤髪赤目で帝国の外への道を聞いてきた不思議なヴィエラの旅人だった」
「ア?」

 話を聞くとこうだ。魔導院に入学する直前に偶然夜外に出ると国内で行き倒れかけてたヴィエラがいた。温かい食べ物を渡し出口を教えると走り去ってしまったと。いろいろありすぎて忘れていたが自分が飛空艇に憧れを強めたきっかけでいつか再会できたら大空を案内すると約束したとか。なンという淡い初恋みたいな話。最近グリダニアで会えたとかよくこンな状況で話せンな。

「入学前の頃って事は20年程度前か? 遥か昔にあった騒動が元ネタらしいから違うヤツじゃねェの」
「そうか……ならよかった」

 よかったって何言ってンだコイツ。しかし20年程度前? どこか昔の記憶が引っかかる。思い出した、流し読みで終わったアレの記録だ。いざ蓋を開いたらただの過去の不祥事をごまかしたくだらない種明かしだとため息を吐いた『報告書』。そこから俺は頭の中でパズルのピースが嵌め込まれていく感覚を味わった。



 外の空気を吸ってくるとロビーから出ると道にはモンスターの死骸が落ちている。恐ろしいほどに分かりやすい感情だ。情景をたどるとそこには血に塗れた槍を持った英雄サマが眉間にしわを寄せ空を見上げていた。

「トイレはいいのか? 英雄サマ……いや『鮮血の赤兎』さんよォ」

 俺の軽口に先程見せたクァールもぶッ倒れそうな位細く睨みつけた目を向ける。

「怖い怖い、そのキレイな顔が台無しだぜ?」
「ネロ、サン」

 その目は一瞬だった。次にウサギは引きつった笑顔でこう言い放ちやがった。

「"私"、武器振り回した後ポーションはまとめて渡したけど一々ぶっかけた記憶はない。それよりさ、仲良クシマセンカ?」

 どうやら地雷、怒りではなくバレた事に対しての怯えの方が大きかったらしい。先程の緊張は何だったのか、ため息を吐く。
 あとさりげなく重要なことを言っている。詳しく聞きたかったが先に彼女の質問攻めが始まった。帝国兵だけが知っている話なのか、悪用してやらかしたヴィエラはいないのか、他に変な逸話は出来ていないか。適当に返してやるとアゴに指を添えふむと考え込んでいた。

「勿体ないがやはり帝国消滅……」
「おっかねェこと言うな。ッたくおたくの仲間らに過去の事は?」
「聞かれてないし。そりゃ言っておいた方がいいだろうけどここ最近タイミング悪い」
「そうだな。まァちょっと過去に繋がる話出来るだけでこンな挙動不審になるお前が話せるわけないよなァ?」
「……そもそも何で"私"って分かった?」

 オマエの反応があからさますぎたから、と言えば簡単なンだが今まで隠していた情報を出してやる。

「赤髪だったのを見てたンだよなァ」
「……はああああ!?」

 期待通りの驚愕する叫び声に笑いを堪えられない。ゲラゲラ笑いながら追撃する。

「前言ったよな? 俺はお前がエオルゼアに来てからずっと見てたってよ」
「いやそれは蛮神殺しやらで監視してたとかそういうやつじゃ」
「バーカ、当時話もしたンだが英雄サマには歯にもかけられない存在だったかァ。悲しいなァ」
「あ、いやそういうのはいい……あっラノシアのあれか? まああれだよなあ」
「ヒヒッ、過去より今が大事なンだろ? ッたくマジかよ……」
「? 何か?」
「こっちの話だ気にすンな。ほら帰ンぞ。保護者心配してンじゃねえか?」
「別にシドは保護者じゃない。―――いや現状の"あの子"を考えるとそうかも?」

 俺があの時読んでしまった『報告書』。それはとある部隊が初代皇帝陛下へ報告するためのモノだ。持ち出し不可の書架に置かれた軽く50年を超える記録。帝国占領地内を移動するバケモノの行動が記されていた。当時の俺には全く理解できず。それに加えただの不祥事から作られた創作なンて事実にガッカリした。
 しかしこれがもしソル帝が対象のヴィエラが女だったと知ってたらトンデモなく下らねェ理由で創設された部隊になる。
 そして幾らか前、再び帝国内に招き入れたが潜伏され帝国領外へ走り去ったなンて記述も記憶にあった。それがもしシド・ガーロンドがやらかした事だったとしたら。そして助けた少年がアレだとアンナ・サリスも気付いていたとしたら。なぜ無名の旅人だと言ってるくせにエオルゼアから出て行かずここにいるのかに対しての見方も変わるじゃねェか。

「なあガーロンドに」
「"ボク"がいつかちゃんと言うから"この子"のために絶ッッッ対に言うな」
「おーコワイコワイそれがお前の本性か。つーか苦しいから離せ」

 胸倉を掴み上げられ舌打ちされた。無駄に背が高くてウサ耳褐色肌で一人称ボクの女の見た目をした顔のいいヤツと人によったら大好物かもしれない。中身を見るとトンデモ戦闘兵器なンだが。しかし先程から様子がどこかおかしい。妙に自分に対して他人事だ。ふと我に返ったのか手を放しオレの服を整えながら「アーゴメン」と謝る。俺はため息を吐きながら女の手を軽く振り払った。

「言う気はねェよ。お前の反応をしばらく見てるのも楽しそうだしナァ」
「むー……そう言ってくれると思ってた。キミの本質は"ボク"と変わらなさそうだし」
「女ゴリラと? バカいうんじゃねェよ」
「そうかな? "ボク"みたいに一匹狼でいる方が好きで1人でバカみたいに分厚い仮面を被っている。ほら一緒」
「何が一緒だお前はどっちかっつーとガーロンドと同じお人好し厄介ゴリラバカなンだわ」
「ケケッ"ボク"分かってるんだよ。オメガ片付いたら逃げる気だろう? 黙っててくれるなら"ボク"も内緒にするよ?」
「その秘密と割に合うと思ってるオマエがすげェわ」

 目を丸くしている。そして次第にくくくと笑い、いつの間にかオレら2人で大爆笑していた。そしてふと前にガーロンドが言っていた彼女への評価を思い出した。

「男友達みたいで面白い、か」
「ネロサン何か言った?」
「ンでもねェ。つーかさん付け気持ち悪ぃわ」
「いやあ仲良くしましょうぜ、へへ肩でもお揉みしますよダンナァ」
「肩が粉砕されるからいらねェ。くっそ人の過去なんて気軽に暴くもンじゃねェな」

 エントランスへ戻る途中、揉み手しながら俺の2歩程後ろを歩く英雄サマはどう考えても気持ち悪すぎる。これはガーロンドの元に戻るまで続き、オメガに対峙するよりも遥かに疲れがたまってしまった。一緒に戻ってくるなり仮眠を取ると決めた俺の顔と満面の笑顔なのだろう後ろの英雄サマを見た時のヤツの反応を見る前にオレは固い床に寝転ぶのであった。クエッと鳴き声がオレの頭上から聞こえる。そのまま掴み引き入れて今後を考えながら意識を底に沈めるのであった―――。

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#シド #ネロ #ギャグ

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 慎重なノックの後、扉が開きひょっこりと首を出すヴィエラの女性。未だ過去は謎に包…

蒼天

#シド光♀ #アルフィノ

蒼天

旅人、心掴めず
 慎重なノックの後、扉が開きひょっこりと首を出すヴィエラの女性。未だ過去は謎に包まれている―――

「珈琲、入ってるよ」
「ありが、って器用だな」
「……慣れてるから」

 苦笑しながら両手にカップを持つ男よりも遥かに身長が高い女性は肘を使って扉を押し開け、足で軽く蹴るように扉を閉めた。普段遠慮がちに話す人見知りな反面、大胆でかつ鮮やかな戦闘センスにはシドをはじめとするガーロンド社も例に漏れず幾度も助けられている。黒色の髪で日に焼けた健康的な褐色肌に炎のように燃える赤色の目。すらりと細い体のどこにそんな力が込められているのだろうかと以前尋ねてみると「10年以上歩いて旅したらいい」と笑顔で言い放った。絶対に違うのだけは分かる。

「デスマ中だった?」
「まだ大丈夫だ」
「だろうと思ったよ」

 何故かこちらの予定を把握されており、ジェシーに怒られながらの納期や決算前には絶対に現れない。最初こそは手土産を持って遠慮気味な笑顔で男の元に現れ無言の時間も少なくなかったが、現在は我が家のように通され談笑するようになっていた。謎に包まれている部分も多いが気さくで話しやすい英雄様、という印象からどちらかというと冗談を言い合う男友達のような、しかし彼女という靄を掴もうと近付くとするりと避けられる。現在も話は出来る、とはいっても底を見せる隙を見せてはもらえない。暁の人間ともそういう間柄なのだろうか、ふと気になったことはある。「暁の人間とはどんな話をしているのか?」と聞いてみた。

「んー……少々前に行った時は頼まれたものを取ってきたとか倒してきたとかそんな感じの話をしたかな」
「他だよ他、俺と話してるみたいなさ」
「してない。彼らはあくまでも仕事上の仲間系だよ。なんていうか……話しかけにくい」
「今日の天気とかも話さないのか?」
「話はちゃんと聞いてる。それより焼き菓子、どう?」

 どうやら自分の話は全くしていないようだった。まあ男にもあまり過去については話さないのだが。というのも以前何故か暁の少年から『どうやったらアンナが君相手のように心を開いてくれるのか分からない』と相談されたからで。詳細を聞くと滅多に石の家に現れないし何も語らず自分達の話を聞いて終わったらまたふらふらとどこかへ去っていくのだという。『確かにそれは共に帝国からエオルゼアを守り、竜詩戦争も終わらせた仲間との距離感ではないな』と少しだけ彼女が興味を持っているものや話題を提供した。しかし彼女の方もきっかけを掴みかねてる感じというのは予想外だった。少しだけフォローしてもいいかもしれないと顎の髭を触りながら考える。

 男が「なあ旅人さん」と呼びかけると彼女は珈琲から視線を外しきょとんとした顔でじっと見つめてきた。珈琲片手にいつの間にか鞄から取り出したのだろう菓子を小さな机に並べ慣れた手つきでタワーを作っていたようだ。時々彼女は変なものを残して去っていく。菓子で作ったタワーがその筆頭だ。一度器用だと褒めるとこれまで見たこともなかった満面な笑顔でクリスタルタワーのような立派な建造物を作り、社員総出で片付けという名の彼女手作りの菓子を振る舞う時間と化していた。それからというもののまだ彼女は来ないのか、またあのクッキーを食べたい、会長だけ羨ましい、仕事しろ等の喜びのコメントが社内から寄せられるようになっている。
 閑話休題。呼びかけられた人間からの言葉を待つ彼女に優しく促すように話しかける。

「時々は石の家に行ってやれよ」
「呼ばれたら行ってるよ。こことも近いしエーテライトの目の前だから迷子にもならないからさ」
「じゃなくてな」
「……あぁ。えっとね」

 少し視線を落とし考え込んでいる。そんなに暁の人間と関わりたくないのだろうか、と男も神妙な顔になると彼女は目を見開き「ち、ちがう!」と何かを否定するように口を開く。

「えっと、滅多に石の家に行かないのは職場が嫌だからとか、そういうのじゃないよ?」
「というと?」
「……行こうと思えば、いつでもテレポで行けますの。でも他の頼みとかで面倒な所に行くと、ね?」
「ああ迷子になると」

 遠慮気味にこくりと頷いている。彼女は極度の方向音痴だ。10年以上旅をしていたというのもひっくり返せばただグリダニアに行けなくて迷っていただけ。自分が乗ると絶対に船は難破するわ、賊に襲われるか崖から落ちるから、とチョコボキャリッジも使わず歩いていた、らしい。ふと女性に年齢を聞くのは失礼なので口には出したことないが彼女はいくつなのだろうかと考えたことはある。成人前から旅をしていると前に聞いたから同じくらいの年齢かもしれない。本当に10年程度の旅であればだが。
 しかし少しでも入り組んだ道に入ると出るのに時間がかかる方向音痴のくせによく途中で死ななかったなと彼は思う。もしかしたら自分が考えているより勘と腕っぷしが強いのかもしれないが、それを直接彼女に確認する勇気までは存在しなかった。かろうじて口に出せた「現地の人に道を尋ねなかったのか?」という質問は何も言わず首を横に振られるだけで終わっている。人に質問するのは苦手らしい。
 それにしては何度かリンクパール通信が来たと思いきや「ここはどこ?」と地図と本人の証言を手がかりに通信を介して道案内する羽目になったことがある。あまりにも難関すぎて途中ビッグスとウェッジも呼ぶこともあった。「一種のゲームみたいで楽しいッスね!」「バカあの人は真剣に迷ってるんだぞ」という彼女との通信を切った後の2人の言葉に笑いをこらえながらお礼を述べ仕事に戻るよう部屋から追い出したのだが。
 要するに石の家に行かない理由は人助けが迷子によって長引いていたからだと言いたいらしい。

「終わればきちんと私から立ち寄る予定にはしてるよ。最近ドラヴァニア雲海周辺にいる」
「あの辺り大丈夫か? 浮島だらけで地図あってもお前は」
「流石に迷子になれない。でも目標の場所が遥か空の上で、チョコボや『貴方たち』が整備した魔導アーマーにはいつも無茶をさせてるなって反省はしてるの」

 突然胸に手を当て、どうやらチョコボや整備した魔導アーマーに対して想いを馳せているらしい。その姿もまた綺麗で。とぼんやりと考えているとアンナは珈琲を飲み終わったのか荷物をまとめ始める。

「もう行くのか」
「うん。お土産持って石の家に。……アルフィノ辺りに頼まれたんでしょう?」
「なんだバレてたのか。迷惑だったか?」
「そうでもないと暁の話題にはならないって思うとね。心配されてるなんて―――シド、ありがとう」

 改めて礼を言われるとどこかくすぐったく頭を掻いてしまう。そんな彼の頭をぐしゃりと撫で、様子を見ながらにこりと『余所行き』の笑顔を見せる。最近彼女は彼と別れるとき絶対に見せるその表情は所謂スイッチを入れる動作というわけだ。「大丈夫だ」と言ってやるとこくりと頷き、部屋から去って行った。

 数日後、暁の少年から「アンナが手土産で持ってきたクッキーを褒めたら急に取り出した菓子で大きなタワーを作って帰って行ったんだけどこれは君の所でよくある話なのかい!?」という喜びの声を貰ったので一応効果はあったようだ。

#シド光♀ #アルフィノ

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