FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.17
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新生2.0振り返り要素有り。シド少年時代捏造。
―――俺が彼女に惚れていた事を自覚したのはいつ頃だろうか。
ガレマルド出身であるシドは故郷からエオルゼアに亡命し、ガーロンド・アイアンワークス社を興した。しかし、第七霊災で起こった事故でシドは記憶を無くしウルダハの教会で何も分からぬまま隠れて暮らすことになる。
ガレアンの証である第三の眼によって差別する者もいれば神父であるイリュドみたいに傷が癒えるまで匿ってくれる存在もいた。マルケズと名付けられ、墓守として生活を送っていた時に出会ったのが後のエオルゼアの英雄と呼ばれることになる、アンナ・サリス。頼まれごとで不在の間に暁の血盟の拠点であった砂の家をガレマールの軍人によって襲撃された。一時の避難場所として協力者がいる教会に行けと言われたと口を開く。「私は旅人。お世話になってた場所が、襲撃されて。ここに行け、と言われたの」と淡々と抑揚なく語る姿がまるで作り物みたいな不気味な人で。これがアンナを目の前にして抱いた第一印象である。
後に「帝国が自分を認知して襲ってきた目的が理解出来ず、冷静を装ってただけ」と舌をペロリと出しながら話してくれた。―――確か彼女がやって来た3日目の夜の姿で印象が変わったんだっけな、と思い出す。
◇
夜も更けた頃、マルケズはふと外の物音に反応する。慎重に教会の扉を開き外を覗くと墓の横に座り込み空を見上げる黒髪のヴィエラが見えた。
出会った頃の2人は日中は頼み事以外一切会話をせず、彼女もふらりと出て行っては帰って来るを繰り返していた。教会の人間も含め、新しく転がり込んできた女性は笑顔で応対はしてくれる。だが、どこか仮面みたいな―――マルケズにも負けない不気味な人だと囁かれていた。
しかしオルセンは以前助けてもらった事があるようで『アンナさんは正義感が強い素敵な方です』と言っていたのだが。実はその時には既に顔を合わせてはいたらしい。しかしお互い印象に残っていなかった。
「何を、している」
「―――星を見ているの」
虚ろな目でマルケズを見上げたアンナは一切表情を変えなかった。しかしマルケズは見逃さなかった。平静を装いながらも震え揺れるアンナの宝石みたいな赤い瞳を。少しだけ離れて彼女の隣に座り、同じく空を見上げた。
綺麗な星空だった。街頭1つない真っ暗な場所で見る星はますます光り輝いていると感じた。墓場である事を覗けばロマンチックだと言えるだろう。ふと彼女は「暗闇は、嫌い」と吐き捨てた。
「なぜだ?」
「真実を隠し、私を狂わせるから」
「俺は好きだ。落ち着くんだ」
マルケズにとっての暗闇は隠れていれば自分の不安を包み込み、少しだけ気が楽になっていた。軽くため息を吐く音が聞こえたので彼女の方を見ると両膝に顔を埋め、少し震えていた。慌てながら「だ、大丈夫か?」と背中を優しくさすってやると「大丈夫」と弱弱しい声が聞こえた。そして突然顔を上げ彼の方に向くと真剣な目で言ったのだ。「あと迷子になる」、と。
予想もしなかった言葉に目が点になったのを覚えている。教会の廊下を思い出すと先程夜も更けたからと消灯していた。
「まさかと思うが自室が分からないのか?」
「……はい。って笑う所あった?」
「す、すまない。短い通路で迷われるとは思わなくて」
「むぅ失礼なヒトね。違う部屋を開けたら失礼かもしれないっていう配慮だよ。でもまあ……笑えるんだ、よかった」
首をかしげるとアンナはクスクスと笑いながら言葉を続ける。
「何かトラウマで笑えないのかなって」
「その、俺はただ―――」
いつの間にか彼女への恐怖心が消えてしまっていたマルケズの心を見透かされたのだろうか。それとも知る気が無かったのかアンナはふと何か思い立ったのか立ち上がる。「さ、誰かに見られたくないでしょ?」と言いながら手を差し伸ばした。マルケズは何も考えずその手を握ると、アンナは軽く息を吸った後片手で引っ張り上げる。
細い見た目に反して大男を軽く引き上げるほど力強いのはさすが冒険者と呼ばれる存在で。普通の屈強な冒険者と違う所と言えばふわりと漂うフローラルな香りだろうか。これまで見えもしなかった作り物ではない女性の部分が垣間見えた瞬間に少しうろたえる。
感情を悟られないよう「次はちゃんと部屋の場所覚えるんだ」とからかった。が、当の彼女はその言葉を無視しながら細い指で彼の手を触ったり指を動かしている。突然の行為に「な、何をしている?」と聞くとアンナは優しい声で答えた。
「技術者の手」
「そう、か?」
「数日観察の結果、ね。今触ってみて確信した。大きくて、しっかりとしてて私は嫌いじゃないな」
目を見開くマルケズを見たアンナは「明日に支障が出るよ? あなたがね」と言いながら教会の中へと消えて行く。追いかけるようにマルケズも教会に戻り、扉を閉めた。彼は顔を見せないようそっぽを向き彼女の部屋へ案内しながら赤くなった顔をローブで隠すのに手一杯だった。視線を感じていなかった事も無いのだが不愛想だった自分を観察し続けていた事にも驚いたし、『笑えるんだ』とは自分も投げつけたい言葉であった。初めて見た彼女の優しく自然で、綺麗なヒトの笑顔だった。
自室に戻り、ハンマーと傍に置いていた金属に手を伸ばす。もう部屋に戻れないからと野宿はさせない、そう想いながら一晩打ち付け形作った。
―――思えばこの地点で俺は焔を宿した宝石の如く赤い瞳に射止められた愚かな獣になっていたのかもしれない。
◇
アルフィノによって外の世界に連れ出され、エンタープライズ号で自分がシドである事の記憶を取り戻した日。アンナからのシドを見る目が変わったのを今でも覚えている。
星を見上げた夜以降、アンナは何かに安心したのか少しだけ笑顔を取り戻した。そして積極的に教会の手伝いや料理を振舞ってもらえるようになった。彼女は教会のご飯だけでは足りなかったので郊外で狩った動物と採取した物で自給自足しながら怪しい奴がいないか巡回していたらしい。マルケズに「遠慮せずに食べて。あなたデカいんだから」と分厚い肉を押し付けられたのは平和になった今でも覚えている。
教会の人間も彼女の姿に安堵し、次第に打ち解けていく姿が嬉しかった。しかし、昨日まで沈んだ顔をしていながらも神父のかわりに用件を聞く自分を頼り合っていた、つもりで。そんな彼女の周りに人が集まり近付きにくくなったのはどこか少し寂しい感情もあった。
そんな中アルフィノが現れ、2人を外へ連れ出す。教会に身を寄せる人間たちに大層惜しまれつつエンタープライズ号を探す旅が始まったのはマルケズ、いやシドにとって嬉しい話でもあった。『もっと彼女を知る事ができる』、『自分が何者か分かる時が来たのだ』と。確かに知ろうとする行為は怖かった。しかし祖父の遺志を継ぎ立派でいようとする青年と、ミステリアスで強い冒険者の彼女がいれば大丈夫だろうと確信していた。
そう、当時のシドにとってのアンナはミステリアスでクールだと感じていたのだ。実は『とんでもない猫かぶり』だったわけだが、真実を知るのは相当後の事になる。
飛空艇で大空を翔る中、シドは記憶の一部を取り戻す。清々しい気分だった。ただ、当時の自分の元へ行けるなら、ついでに赤髪のヴィエラとの約束も一字一句間違えずに思い出せと本気で殴りたいと未だに思っている。
なんとアンナは【超える力】でシドの過去を覗き見た時に彼が『約束』を交わした少年だったと気が付いていたらしい。あの時の言葉はそういう意味だったのかと時間が経った今でも歯ぎしりしたくなる。
「綺麗な星空ね」
「よく見えるだろ?」
ガルーダの元へと向かう夜、星空を見上げるアンナを苦笑しながら見つめた。アルフィノはアンナに「明日決戦なんだからちゃんと寝て。背伸びないよ?」と言われ文句を言いながらも彼女が持っていたマントに包まれ目を閉じていた。
アンナは飛空艇から身を乗り出して空を見上げている。「危ないぞ」と彼女の肩に手を置き引っ張った。彼女は「うん最高」と言いながら満面の笑顔を浮かべている。
「エオルゼアに来るまで飛空艇に乗った事はなくて」
「意外だな。旅人なんだから普通に飛空艇や船で移動しているのかと」
「私が乗る船はよく沈んでたから」
ずっと運が悪かったみたい、と言いながら相変わらず星空を目で追いかけているようだ。
「俺の飛空艇まで沈めてくれるなよ?」
「もー、エオルゼアに来てからは一度も沈めてないし」
イタズラっぽく言ってやると初めてシドの方を向き頬を膨らます柘榴石色の瞳と目が合う。「あ……」と声が漏れる。ここでシドは普通に冗談言い合っていた相手が女性だった事を思い出した。彼女の肩に置いたままだった手を「す、すまん!」と言いながら引っ込めた。きょとんとしている顔から踵を返し、「お前も寝た方がいいだろう。何せ明日決戦なんだからな?」と言ってやると「あなたの方が寝た方がいい」と返されながら腕を掴まれた。
「自動的に操縦するとか出来ない? 見張っておくから先に寝ときなよ。不安」
「俺は別に1日位は寝なくても大丈夫だ。それよりずっと走り回って疲れてるアンナが寝るべきだろう」
「私も長旅は慣れてるから」
「いやいや」
「休んで」
2人で譲り合うかの如く言い合っていると「ならば2人とも私に任せて眠ってくれないだろうか?」といつの間にか起き上がっていたアルフィノに言われ2人は顔を見合わせ笑い合うのであった。
「『あなたの飛空艇』に乗れて、よかった」
と言いながらアンナは立ったまま操縦桿に乗りかかり目を閉じた。「おい」と声をかけると「30分寝るから」と答えが返って来る。
「アンナ、あなたは立ったまま眠れるのか?」
「長い間旅に出てたから。もう一種の特技って感じ。一番落ち着くの」
「せめて座ってくれ。見てるこっちが休まらんからな」
「ああ頼むよ、アンナ」
しょうがないなあと口を尖らせながらもアルフィノから返されたマントを膝に置いた。「ほらシドも」と言いながら膝をポンポン叩いている。
「お、俺は向こうで寝るから大丈夫だ」
「そっか。じゃ、アルフィノ来る? 膝、いいよ」
「あー私も遠慮しておこう」
男2人の返答にただ一言「知ってる」と答えたまま目を閉じている。眠っているかは一切見分けがつかない。2人は顔を見合わせる。アルフィノの方は顔が少し赤くなっていた。
「断ると分かっててわざと言いやがったのか? いやまさか」
「彼女は……なかなかクセがあるみたいだね。どうだいシド、隣で寝てもいいんじゃないか? 絵でも描いてあげるよ」
「魅力的な誘いだがさすがに断るからな」
―――この時の俺は『あなたの飛空艇』と強調していた意味が分からなかった。今思うと答えを言われていたに等しい行為だった。
◇
ガルーダとの戦いで初めてシドはアンナの戦いを見る事になる。この時の彼女は両手杖を掲げる癒し手としての戦い方だった。動物を狩る時は弓、人前で戦う時は基本的に人を癒す事に徹しているらしい。「まだ駆け出しだから」と言いながらこまめに回復する姿は、確かに不敵な笑みを浮かべた冒険者のモノとは程遠い練度だった。
ガルーダとの戦闘が終わり、最終的にアンナの勝利で終わる。光の加護により蛮神によるテンパード化を防ぐ―――まさにエオルゼア軍の奥の手。確かに【超える力】を持ち戦いも出来る彼女にかかれば蛮神問題も解決できるだろうと安堵していた時、ガイウスが俺の目の前に現れた。
軍団長であるガイウスの圧倒的力を持つ存在と、実戦投入された最終兵器アルテマウェポン。蛮神を喰らい、力とする存在を目の前に俺たちは一時撤退の4文字しか選択肢がなかった。ふと「あれが、漆黒の王狼……」と低く無機質な声が聞こえてくる。アンナの声、だったと思う。英雄になるだろう冒険者を失うまいと必死にエンタープライズ号を操舵するシドに確認する術は存在しなかった。
古代兵器の再始動を目の当たりにした3人はこれからの事を話し合う。まずはミンフィリア達の救出。アルテマウェポン破壊、そしてエオルゼアからガレマール帝国を撤退させる。「やる事、たくさんだね」とアンナは呟いていた。考えていても埒が明かないのでとりあえず『希望を光を再び灯すために砂の家に行くか』と結論を出し、ベスパーベイへ。襲撃を逃れていた暁の血盟のイダ、そしてヤ・シュトラと再会するのであった。
イダとアルフィノは目を閉じ、一時の休息を取っていた。シドはアンナに「一番疲れているのはお前だ」と楽にするよう促した。
「そんな事言われたの成人前位だなって」
「何言ってるんだお前は十分若者の範囲内だろ」
「ホー。じゃああなたは何歳なの?」
「34。お前は?」
アンナはクスクスと笑いながらさぁね、と言った。「あまり人と関わらないように旅をしていた時期があってね。何年彷徨ってたか分からないの」と呟く姿は少し寂しそうに見えた。かける言葉が頭から浮かばない。フリーズしてる様を見て彼女は人差し指を突き立て言い切った。
「ちゃんと性別は女性と分かってから旅を始めたし、それから云年経って、アンナと名乗って5年だから……26位かな?」
明らかに嘘なのはその辺にある石ころでも分かるだろう。しかし彼女の精神性と、思ったよりも気さくに話が出来そうな雰囲気から自分と同じ年位だろうと思っておく事にした。―――後にウチの社員になる彼女の兄によるとシドよりも50は上らしい。計算がざっくりとしすぎているな、と赤色の髪の男と苦笑しながら酒を飲み交わした。
◇
次に印象のある出来事と言えば魔導アーマーを鹵獲して修理した時の話だろうか。再び少し沈んだ表情をしながら当時偶然弓を持っていたアンナの隣で戦った。戦闘を重ねるごとに少しだけ笑顔になっていくのが少し怖かったのだがここでは置いておく。
「カストルム・セントリに潜入してミンフィリアを助け出すぞ!」と言った時のアンナの不敵な笑みが何よりもシドにとっての活力となったのだ。人の事はあまり言えないなと当の本人は苦笑しながらも隣に立てるのが何よりも嬉しい。アンナはどう思っていたのだろうか。何度か思い出した時に聞いているが照れくさいのか答えてくれない。
「お世話になっている人たちだし。助けるのは当然の話だよ」
旅人だとよく強調するクセになぜ自分や暁の血盟の人らに肩入れしてくれているのかと聞いたのもこの時だった。レヴナンツトールの整備用拠点で魔導アーマーを見上げながら話をしていたのを覚えている。
「私はね、自分を優しくしてくれた人と約束は守る事にしてるの」
「これまた大きく出たな」
「実はアルフィノとはね―――」
話を聞くとアルフィノとの出会いが彼女の冒険者生活スタートのきっかけだったらしい。蛮族に囲まれていたアルフィノとアリゼーを助けたお礼にグリダニア行のチョコボキャリッジに乗せてもらったのだと。アルフィノが暁の血盟の人間だと知ったのはつい最近で。奇妙な縁だな、と思いながら付いてきてるんだ、と苦笑を浮かべながら喋る姿は少しだけ新鮮に思えた。
思えば彼女の過去をこの時まで聞いた事が無かった。シドの過去の一部は【超える力】で視られてしまっていたのにアンナの歩いてきた軌跡は一切見る事が出来ていない。だから少しだけ遠慮がちに話をする彼女が"新鮮だ"と表現できた。
「元々冒険者になろうとは思ってなかったよ。けど、エオルゼアで動くなら色々と便利かなって思ってね。人助けも好きだしやっちゃえと走り回ってたらいつの間にか暁の人らと行動してたの」
「なかなか飛躍した面白い動機じゃないか。ところで冒険者になる前はどこを旅して」
「あ、カエル食に興味ない? レヴナンツトールのすぐ外にいるやつの肉を食べられないか少し頑張ってみたんだけど」
露骨に話題を逸らしていた。そしてニクス肉の料理は丁重に断った。未来の俺からしたら『約束』という言葉を使っていたのに何も疑問に浮かばなかった自分を蹴飛ばしたい―――
◇
アンナというエオルゼアの英雄が誕生するまでに外せない出来事と言えばやはり魔導城プラエトリウムでの活躍だろう。シドも魔導アーマーで援護してカストルム・メリディアヌムを制圧。そしてエンタープライズ号で空からの侵入を果たしたシドとアンナ達冒険者はガイウスと対峙する。
そういえば作戦【マーチ・オブ・アルコンズ】が始動して間もない時に初めて彼女が刀を持つ姿を見た。珍しい武器を持っていたので聞くと偶然出会ったムソウサイと名乗る侍の弟子になったんだと語る。
「仮にもヴィエラの集落生まれだからね。出身はオサードの方だから刀は見た事あったの。ウルダハで見かけて懐かしくなって」
雷を受けたような衝撃を受けた。舌をペロリと出しながら愛しげに鍔の辺りを撫でる姿に少しだけ、ほんの少しだけ決して表に出せない一つの感情を刺激する。今は作戦中だと自分に言い聞かせすぐに引っ込めたのだが―――少し席を外す時間があったら少々危なかったかもしれない。
そんな姿を見てからだったのだろうか、彼女の戦う姿に対してそそる様になったのは。魔導アーマーを操りながらふと交戦中の彼女に目をやると、ニィと歯を見せた笑顔で帝国兵と斬り合っていた姿が印象的で、世界が違う人間だと今でも思っている。自分のように後方支援を行う姿よりやはり正面切って刀で一閃する方が似合っているし、何よりシド自身の欲情が刺激されていった。
それは文字通り最後の"希望"が自分の隣に立ち、返り血を浴びながら自分を護りながら斬り捨て、他人とは少しだけ違う笑顔を向けてくる。その姿にゾクリと背筋が凍るような未知の感覚が襲い掛かっていたのだ。思えばよくこの頃に想いを自覚できてなかったなと自らの鈍感さに少々嫌気がさす。
閑話休題。魔導城ではシドが捨てた故郷の者達が語りかけて来た。ある者は友の息子であった自分に期待を裏切られてもなお再び傍に置いてやろうとした男。またある者は伝説とされてしまった自分に焼け焦げながら劣情をぶつけて来た幼馴染と呼べる男だった。
そう、坊ちゃんとして育った自分が考えもしなかった感情たちが襲い掛かる。そんなまるで郷愁とぶつけられた一種の劣等感により闇へと落とされていく葛藤を赤い閃光は全て斬り払った。ガイウスの誘いも即断り、現れる敵は躊躇なく斬り捨てていく。
現在もだが味方としていてくれて心から助かった。当のアンナは「顔見えてたら危なかったかもね。あなたほどじゃないけどナイスヒゲだし」と後に語る。冗談だよな? と聞いたが目は笑っていなかった。―――本当に味方でよかった。
「シドは別に亡命して後悔してないんでしょう?」
「勿論だ。ガイウスに引導を渡してやる、頼んだぞ」
「ええ、それでいい。あんな奴といると『自由』に手を伸ばせないよ。そのために全部護ってあげるから」
「俺が世界を、と言ったら護ってくれるのか?」
「ホー……あなたが思うのなら。でも今は違うでしょう?」
アンナはシドを勇気づけるが如く語りかけながら頭をポンと撫でてやりエレベーターに消えて行った。アンナの方が背が高いので撫でる行為は容易である。行為を受けたシドといえば少し恥ずかしい気持ちで溢れかえっていたのだが。
ネロとの会話後―――アレはほぼ一方的な感情の吐露だったが、アンナは戦いながらシドへリンクシェル通信を再び繋いでいた。『大丈夫』『私は、知ってる』『ネロとかいう、趣味悪い赤の、自称天才プライド高すぎ鎧野郎よりさ、あなたの方が数段強いから。ね?』なんて息一つ乱さず囁くような声を聞かせる。と思ったら、『あっやっべ聞こえてたかも』と声が漏れてきた直後、通信をブチ切られた様に自分の張りつめた緊張が解けていった。ネロが再び強制的にジャミングして切ったのだろう。一瞬だけ『かもじゃねェが!? ぶっ殺すぞテメェ!』だと思われる声が断片的に聞こえたからだ。目の前で片手間にボソボソ自分の陰口をたたいていたら普段温和なシドでも物凄くキレ散らかすだろう。
戦闘中なのに余裕がありすぎる姿に頼もしさもあるが少々危うさもある。ガイウスに、アルテマウェポンに勝てるのだろうか。刀を握り始めて大した時期が経っていないんだ、途中で膝を突いてしまうのではないか。いや彼女が賜った【超える力】が有れば大丈夫。―――なはずと考える内に眉間の皴がより一層深くなったのを感じた。
ふと一瞬だけ城内の電力が落ちる。嫌な予感がした。モニター室のシステムから確認すると地下深い場所に電力を集中させている事が分かる。つまり、と考えた瞬間に彼女のリンクシェルへ繋いだ。先程外から流れて来た情報を渡し、あとはアルテマウェポンを破壊するだけだと伝える。
「いいか、死ぬなよ生きて帰って来るんだ」
アンナの声は聞こえなかった。ノイズが酷すぎて自分の言葉が伝わったかも分からない。シドは祈る事しかできなかった。お膳立ては出来たのだ、あとは彼女の頑張りで世界の行く末が決まる。
ここまで来てしまったらもう自分にやる事はない。シドは一足先にモニター室から離脱し、脱出した。
◆◆◆
―――シドは脱出できたのだろうか。心配になる。
アンナの中ではかろうじて聞こえた『生きて帰って来るんだ』という言葉が反芻していた所にガイウスが降って来た。偉そうに演説し時間稼ぎをしたガイウスをまだ慣れぬ刀でなんとか斬り払い、追いかけた先で目の前に現れたのはアルテマウェポン。自分よりも遥かに大きいものに対して少しだけ怖かったが、吸収していた蛮神は一度倒した相手だ。そう考えると一瞬持った恐怖は薄まってきている。何とか恐ろしい古代兵器から蛮神を引き剥がし、ようやく互角以上に戦えると思った瞬間だった。アシエンが現れ、トンデモない事をしでかす。
ガイウスも知らなかった最終兵器究極魔法アルテマ、空へ放たれた大魔法の威力は絶大だった。一発でプラエトリウムが壊滅する程度の威力を持っている。アンナはハイデリンの加護により何とか無傷だったのだが懸念が生まれた。
『シドは脱出できたのだろうか』
リンクパールに手を当てても何も反応はしない。当たり前だ、通信が途切れると言われていたのだから。ガイウスとラハブレアが何かを言っていたようだがアンナの頭の中には入ってこない。『いや大丈夫。今まで見てきたシドなら引き際位わかってる。でももし万が一失敗してたら』頭の中でずっとグルグルと渦巻き彼女は顔を伏せる。
「しかし、今は! この者らを倒し我に力有りと証明するッ!」
うるさい、キミはシドを大事にしたかったんじゃないのか? ただ一度の拒絶で捨てる程度の存在だったのか?
「どちらが真に『持つ者』なのか決着ををつけようじゃないか冒険者!」
厭だ、力なんていらない。約束を交わした少年を助けられなかった、約束を果たせなかった力なんて、ボクは。
構えた刀に、身体から放出されるナニカが流れ込んでいく様を感じる。"これ"はまさか……いけない、分かっていても自分の中のナニカが『奴らがいないのだから大丈夫だろう。"ボク"達の圧倒的な力ってやつを見せてやろうじゃないか。―――』と囁いた。「シ、ド」とボソとアンナは呟く。小さな言葉は周りの冒険者やガイウス、そしてアンナ本人の耳にも届かないだろう。冷たい体に焔が灯され、過去によく聞いた獣のような唸り声を漏らした。
ここからアンナの記憶は塗りつぶされたかの如く真っ黒になる。はっと気が付くとアルテマウェポンから弾き飛ばされたガイウスが倒れていた―――
◆◆◆
―――心臓がいくつあっても足りなかったさ。あの閃光を見た時、絶望しかけていたしとっととエンタープライズで助けに行ってやりたかった。強く、ただ強く戻ってくるようにと祈る。するとあの人は爆発する中、焼き切れていたはずの魔導アーマーで奔ってきた。サンクレッドの救出も成功し、新たなエオルゼアの英雄、『光の戦士』の誕生である。
アンナはただ笑みを浮かべ、彼らの祝福を受け取っていた。ふとシドと目が合い、お互い笑顔を浮かべ「よかった」と言葉が重なった。
◇
「シド」
「旅人の英雄さんじゃないか」
「英雄は余計よ」
第七星歴の宣言が行われ、数日の時が経った。何となくレヴナンツトールで落ち合い、軽食でもどうだと誘うとあっさりとついてくる。噂で暁の血盟の拠点を引っ越しすると聞いていた。忙しいだろうに、とシドは言うと「それは私の仕事ではないからね」とウィンク付きの返事が返って来た。
「ガイウスとの戦いももう昔の話みたいで不思議な感じがするね」
「そういえばお前ネロの前で陰口叩いた後何があった?」
「第一印象を言っただけだよ? 殺すぞって言いながら私を執拗に狙ってきたの。聞いた方が悪いのに」
「いや戦闘中に他事は失礼だろう。……って待て、刀振り回してたんだよな? 目の前で言ってるしキレられて当然じゃないか」
「うーん……あなたが不安で潰されてないか心配だったから。あなたが悪いかな」
シドは「俺のせいにするな」と言いながら小突いてやると彼女は満面の笑顔で「ごめんごめん」と舌をペロリと出した。プライドが高いネロの事だろう、アンナの小言は相当効いたに違いない。
当時、何を思ったか聞いてみたいと思っていた。しかし死んだ者に直接問いかけ答えてもらう術は確立されていない。いやもしかしたら死んでない可能性もあるか。噂では死体は発見されてないと聞く。どこかで会うかもしれないのが厄介だと今後起こるであろう面倒事に想いを馳せていた。現在も聞けていないから今度聞いてみようと考えている。
「それを言ったら私も心配してたよ? アルテマウェポンがやらかした爆発の時、脱出できてたのかなって」
「お前と連絡取れなくなった地点で役目は終わりだと思って脱出した。心配かけちまったみたいだな」
「そっか。怪我、無くてよかった」
どうやら自分の身よりも他人の方が心配だったらしい。どこまでも英雄にふさわしい考え方を持っているようだが、裏を返すと自分の限界を知らない危うさも存在するという事。その証拠として魔導アーマーで生還し、祝福の喜びを受けた後操縦席で突っ伏して眠ってしまったのである。
彼女を取り巻いていた人間全員が慌てていた所、寝息が聞こえるや否や皆溜息を吐いた後笑顔を浮かべていた。実は安心した顔で眠ったアンナを見たのが初めてであり、シドも含めて安心してもらえたのが何よりも嬉しかったのだから。
「これからどうする?」
「蛮神問題を片付けたらまた旅に出たいかな」
「お前は旅人だから言うと思ったぜ。でも英雄さんをあっさり自由にさせてくれるのか?」
「―――頑張ったのは暁の皆だからなんとかなるんじゃない? 私はただの旅人だからね」
「あー……そんな事より、案内したい所があるから落ち着いた時にまた連絡が欲しい」
彼女の口癖を聞きながらリンクシェルにシド直通の連絡先を追加してやる。ついでに直通のリンクパールも渡した。本能的に今渡さないと二度とチャンスが来ないと思ったからだ。アンナは笑顔で受け取った後、「どこに?」と聞いた。
「決まってるだろ? ガーロンド・アイアンワークス社だ」
「ホーそれは楽しみにしとこうかな」
2人の笑い声が重なった。楽しみが増えた、と言いながらお互い別れる。彼女が興味を持つ存在を定期的に与えることが出来れば。しっかりと彼女の力を求めればもうしばらくエオルゼアに残ってくれるだろうと確信していた。しかしその前に会長代理として任せていたジェシーの説教の続きと積まれた仕事を片付けないと。
―――まあその後すぐにクリスタルタワーの案件で再会するのだが。しかしガーロンド社に連れて行く事に対して楽しみと答えたのも今思えば当然じゃないか! 浮かれていた自分を本当に責めたいと何度も思ったさ。
Wavebox
#シド光♀