FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2025/02/18 旅人は花を置く 漆黒
- 2025/02/05 旅人は悩みを解決したい 漆黒,
- 2024/12/19 "武器と手加減&qu… 新生,
- 2024/12/18 星降る夜に誓いを乗せて 漆黒
- 2024/12/02 その複製体は聞き記す(ネタバレ… 漆黒,
No.160, No.159, No.158, No.157, No.156, No.155, No.154[7件]
謎のメモ(新生4)
あの子は変わり始めている。しかしその前に巨大な壁が立ちふさがった。俺のように逃げるか、それとも立ち止まるか。あやつが決めた白き星よ、身勝手な願いだがどうかあの子の行く末を見守ってやってほしい――。
◇
ボクが世界を救い少しの時が経った。まあ休む暇もなくシルフ族をはじめとした友好部族の子たちを助けていた。
持った刀は悪くない。ムソウサイから色々と教えてもらいながら手になじませていく。シドの会社はロウェナ商会に装備も卸してるらしく、それを使わせてもらった。
その傍ら、誤配達されてしまった手紙を渡しに行く。するとレターモーグリが一緒に手紙の配達をして欲しいとお願いされる。面白そうだ。引き受ける。その手紙は3国で頑張る人たちの側面を知るいい機会になった。誰にだって過去、そして縁はある。とっても強いボクが大切にしてあげたいね。
そして何より! ボクの兄さんが砂の家に一度やってきたのだ。新聞で光の戦士の記事を読み、遠い昔に行方をくらましたボクに違いないって確信したんだって! 嬉しいなぁ。何より、兄さんってこんなに小さかったんだ。子供の頃はとても大きな人で高い高いしてくれたっけ。それが今ではボクがする側さ。
これからどうするのかと聞いたら故郷に帰るって。少しだけ兄さんが悲しそうな目を見せながら、帰って行った。繁殖期が終わったらすぐに会いにくるって約束してくれたし、レターモーグリという便利な存在の情報も共有できてとても嬉しい。いつでも手紙を送ってくれって言われた。―――でもボクは全てを捨てた旅人なんだから、その喜びも程々にして、1人で生きて行かなきゃね。
その間もまた蛮神が召喚されていく。しょうがないのでまた叩きに行くことにした。
あの耳をつんざくような吼え声の主はまだ分からないようだ。イフリート、ガルーダ、タイタン。そして最近グリダニアで噂される伝説のオーディンについての情報集め。不吉な出来事はまだまだいっぱい起こってるようだ。
面白いことも起こっている。双蛇党の小牙長に昇進したボクは冒険者小隊という新人育成の任務を任された。いや非常に面倒。―――まあもうしばらくこの辺りで人助けをする予定なので、そのついでならばという条件で引き受ける。何せ双蛇党内に小隊のためと拠点になる部屋をもらえた。悪くはない条件のモノだろう。
そして治安維持を目的とした討伐による報奨金制度。これに関してはストレス解消にもよし。
奇妙な魔法、青魔法についての話も興味深かった。自分の身体1つで魔物の技をラーニングするという技術。まだ見ぬ新大陸での技術を見ることができるとは旅をしてみるもんだ。ついでにマスクカーニバルという闘技場の闘士にもしてもらったのでこれからが楽しみだねぇ。
最後に、暁の血盟の拠点を移転しないかという提案。中立でありながらもウルダハの目が届く場所に置いているのも色々と面倒だろう。そのために候補として選ばれたのがレヴナンツトール。三国、そしてイシュガルドからも少しだけ離れた小さな街ならば確かに中立アピールも説得力が出てくるだろう。
ミンフィリアが移転を渋っていた一番の理由、"探し人"であるフ・ラミンさんを見つけた。彼女もまた帝国に追われていたみたいで身を潜めてたんだって。まあこの人が見つかったというわけで本部移転計画が進み始めた。
候補地であるレヴナンツトールとの交渉、そして各国との根回しに少し時間かかりそうだ。各地を巡り人助けしながら次の連絡を待つことにする。
◆
若い頃はどうやら凄い人だったらしいムソウサイと人助けついでの修行中。グリダニアを通りかかった夜のこと。
"ボク"は街の中で楽しいことがないか散策しているとスカーレット小牙士に話しかけられた。どうやら北部森林でイクサル族による敵襲があったらしく、出来れば迎撃の任務について欲しいと。頼まれたからには見て来るしかないね。
北部森林のグイスリットに話を聞きに行く。どうやら最新装甲気球で街の方に飛んできたから落としたらしい。とりあえず不時着した船を見てきてほしいとのことなので行ってみる。
周囲に誰もいなかったので落ちていた部品を拝借する。制空権のために監視哨破壊を試みているのだろうかというのがグイスリットの見立てらしい。もう一度墜落現場周辺を監視しに行く。
あれ、気球が無くなってる。探しに行くと物資樽が見つかる。何者かが分解していたのだろうか、監視していると声を掛けられた。
なるほど、彼らもシルフ族たちみたいに蛮神よりも自分の力で未来を切り開きたい奴ららしい。彼らの夢は最速の気球、もとい飛空艇を作ること。口は悪いがいい夢だ。技師が欲しかったようなので手助けすることにした。何より空を飛ぶモノがどういう構造なのか間近で見てみたかったのだ。シドらに頼むのも悪くないが、別の視点で見れそうなので協力しよう。
部品を製作するためにフォールゴウトへ向かうとそこには同じく飛空艇の部品を待つララフェルがいた。青臭いガキは何か勘違いし、エカトル実験場に走って行った。大丈夫か?
無事彼とも一緒に最高高度を目指すための飛空艇を作ることになる。しばらく楽しみな夜が続きそうだ。
◆
事件屋という奴らを知ってるだろうか。ボクは知らない。何でも解決する破天荒なヤツをいつの間にか追いかける羽目になった。第六霊災の時に死んだはずなのになぜか生きてた紳士ヒルディブランドと助手で錬金術の勉強をしたナシュのタッグ。一緒に武器怪盗をとっ捕まえるためにザナラーンを走る。まあ気分転換になる。ムソウサイもだけど他人がどう人助けするのか見るのも悪くないし。一種の参考になる。
あまりにも頭の痛い人たちだけどね。
3体の蛮神をもう一度叩いた後、ウリエンジェに新たなお願いをされる。どうやら新たな蛮神を追いかけて欲しいらしい。もしかしたら、あの咆哮の主かもしれない。気を引き締めてワインポートへ向かう。
そこにはアルフィノの妹、アリゼーがいた。まずは一緒に帝国基地を調べたいのだという。地下にメテオの痕跡があるという基地"カストルム・オクシデンス"が騒がしくなっているという。きっとそこに新たな蛮神と関係がある何かがあるのだろうと。自分の足で確かめたいという気持ちは分かる。行ってみるしかないね。兄とはまた別の意味で青臭い彼女の"剣"として、引き受けてやろうじゃない。
◇
砂の家から、石の家へ。そして秘密組織から各国に認められた組織へ。地固めて何とやらということか。レヴナンツトールへ本部移設計画書を渡しに行ってほしいと言われたので久々にモードゥナへ行く。その時偶然街に来ていたシドに話しかけられた。そこで少しだけお茶しながら会話を交わした。
今度自分の会社へ案内するって。ボクが護るべき人たちを紹介してくれるんだって向こうの方から言ってくれた。つい笑顔で「楽しみにしておこうかな」って言ってしまった程、面白くてたまらなかった。向こうは覚えてないのに、無意識にそんなこと言っちゃうんだから。
寄り道をしてしまった。スラフボーンに計画書を手渡し、本部になるだろう物件に案内してもらえる運びになった。が、タタルからのリンクパール通信で中断されることになる。どうやらグリダニアで緊急事態らしい。急いで戻ることにする。
砂の家。その蛮神はガルーダでもオーディンでもないらしい。一体何が召喚されたのか。グリダニアに向かう。
モーグリ族からのSOS。カ・ヌエ様から直々の相談。こりゃまた大きな面倒事。
善王モグル・モグXII世―――こりゃまた大きいのが来た。御伽噺の王様という存在を顕現させることも出来るとはエーテルと願いの力は凄いものだね。しかもやることはテンパードを増やすとかいう蛮神と変わらない。これはモーグリ家臣団とかいう奴らを一発殴っておくしかないね。
大きなモーグリ。可愛い。メメント・モーグリはしばらく覚えてるかも。まあ蛮神として顕現したのならもう殴るしかない。ごめんね。トランキルでラヤ・オ達と話した後カ・ヌエ様に報告しに帰る。
やはり王様を召喚するよう知恵を授けたのはアシエンか。どうにかならないかなこれ。まあそういう駆け引きは興味ないのでグリダニアから移設に伴う物資提供の約束を持ってミンフィリアの元へ戻る。
砂の家はしばらく暁所属冒険者の集いの館として残すらしい。残るウリエンジェと会話を交わし、レヴナンツトールへ向かおうとしたその時、ミンフィリアの悲鳴が聞こえる。
急いで向かうと苦しむ彼女が。超える力で過去を視ると、白衣を纏ったアシエンが。
なるほど、ラハブレアはまだ死んでいない。消滅させる手段を見つけないといけないようだ。厄介な存在。そして調停者とは。まだ近くにいるらしい。
律義に外で待っていた。力を見せてほしいという。刀を構え追いかける。
「流石彼の刻印を打ち込まれただけある。君は只者ではない冒険者だ」
白衣の男はそう言った。ラハブレアにも言われたよく分からない言葉にボクは首を傾げる。アシエン・エリディブス。黒い奴らとはまた違うどこか奇妙な調停者。いつかゆっくりと、その言葉の真意を教えて欲しいものだ。
◆
錬金術とは本当に奇妙なもので。死人に再び魂を繋ぎとめることも出来るとは。目の当たりにして驚いた。あの時ボクも研究を進めていれば―――? これは誰の記憶だ?
分からない。ボクは、ダレなんだ。次の可能性は、呪術士。何でもいい、記憶に引っかかるモノ全てに手を付け、確かめてやるんだ。
"この子"を導くためにも、ボクはやらねばならない。
◆
さあ砂の家の最後の仕事を終わらせレヴナンツトールへ。タタルとスラフボーンの話を聞く。そっか、知らない土地、そして知らない場所。ボクにとってはウキウキするがタタルにとっては不安らしい。
確かにあそこにいる仮面の兄ちゃんは怪しすぎて怖いでしょうね。とりあえず他所で情報集めしろって言いに行くか。
なんて思ってたら最後に一つとスラフボーンに話しかけられる。どうやらシド達が使ってた工房でお客様がボクを呼んでるらしい。とりあえずミンフィリアに会ってから行こう。なんか嫌な予感する。
石の家は砂の家より少しだけ広い。気持ちを新たに頑張ってね。
しかしアシエンについて調べるための書類を取り寄せようとしたが連絡が付かないらしい。何が起こったのだろう。まあ調査は別でやってもらうとして。
次の目標はアシエンの完全消滅。何かいい手段ないのかな。
さあ用件は終わったので工房へ入ってみるとあら、ビッグス、ウェッジと同じ制服を着た女性。なんだかとてもお冠だ。慎重に話しかける。彼女はジェシー。ガーロンド社の会長代行。代行!? そっかシド5年程記憶喪失だったからそりゃ代理位いるよね。た、たぶらかして―――いや傍から見たらそうなるのか?
いや一緒に世界救っててと言うタイミングもない。業績悪化、そりゃしてるでしょうね。うん、これはとっととシドに会社まで案内してもらおう。絶対そうしないとなんか悪女みたいじゃないか。
言われるがまま魔導アーマーを見せるとご機嫌になる。技師って皆そうなの? あ、はい、修理のための素材即探してきマス―――。ていうかあの様子じゃシドまだ帰ってないんだよね? 先日一緒にお茶した時に一度会社帰れ仕事しろって言えばよかった! そうすりゃなんかもっといい初対面だったよねこれ!?
部品を物色し、渡しに行く。あ、はい分かっていただけて何よりデス。修理ありがとうございます。こっちとしても可哀想だと思ってたので丁度よかった。よし次はタタルの不安を何とかすべく不審者に苦情を言いに行こう。何か負け犬の気配もするしビームで威嚇でもするか? まあちょっと眠くなってきたから明日にしよう。
◆
妖異、ヴォイドゲート、シャトトの魔石。やはりどこか聞いてて懐かしい単語たちだ。でもアンナ・サリスが知るはずもない情報なのは確か。黒魔法、この深い夜の中でもう少し勉強させてもらおう。
きっとこれが、"ボク"を知るための一歩となるだろうから。
◆
おうおうキミどいてもらうどころか指図かぁ? まあどこかクリスタルタワーを見てるとそわそわするから見に行ってみるけどさ。儲け話に釣られたわけじゃないよ。いやまあいい感じに事が進めたらそっち側に移動するだろう。とりあえずラムブルースに会いに行ってみる。
え、外部はまだ知らない情報? スラフボーンはクリスタルタワーの情報集めしてる男と聞いてたが、秘密の計画を手に入れることができる不審者。何かムカつくな。
ってシドもいるじゃん。会社に戻ってあげて、ボク怒られたよというと苦笑して「すまん」と言った。それだけかい!
詳細を聞くとそもそも第一関門すら抜けられない状態。タワーの前にある石像を何とかしないといけないらしい。必要なものは4属性の超高純度クリスタル。それぞれ蛮神顕現させた子たちの拠点に忍び込み、拝借してきてほしいと。相変わらず大胆なことするねえ。
コボルド族とサハギン族の住処に侵入して超高純度クリスタルを提供してもらった後、レヴナンツトールに立ち寄るとあの不審者はいなくなっていた。多分調査地周辺に行ったのだろう。平和になったことはいいことだ。タタルに報告してあげると喜んでくれた。
このままイクサル族とアマルジャ族の住処にもお邪魔し、ラムブルースにクリスタルを渡す。そしてクリスタルの時は研磨するための霊砂が必要らしい。とりあえず彫金師ギルドへ。
そこで久々にビッグスに会う。新型飛空艇の開発をしているらしい。ていうか会社にも連絡せず1人で何やってるんだよシド。
ウェッジが北ザナラーンで探し物2つ目"沃土の霊砂"を探してるらしい。アマジナ霊銀山跡へ行ってみると霊砂は賊に襲われ奪われたから取り戻しに行ったと。雇っていた冒険者は普通に逃げてた。可哀想に。無茶しやがってと向かうと奥で震えてた。
とりあえず2つの霊砂をラムブルースに渡す。お礼を言われ、次は霊砂の産地だというグリダニアへ。街には卸されてないらしいので取りに行く。まず"清水の霊砂"は南部森林にあるみたい。ホッグの縄張りを漁りに行く。
謎の声が響く。これは多分ラムブルースが言ってた連絡来ない霊砂を探しに行ったシャーレアンの人だな。チクるよ? まあ最後の霊砂である"薫風の霊砂"のヒントを聞いたので北部森林へ。イクサル族の拠点を荒らし霊砂をいただくと"いいものを見せてもらったお礼"として清水の霊砂を貰う。歴史の記録が好き、ねぇ。ボクはそんなに面白いヒトじゃないよ?
◆
ククルカとかいう黒魔道士は心が弱いララフェルだった。認められたいという欲望の元、研究にのめり込む行為に覚えはある。しかしそれはアンナ・サリスのものではない。どうして、思い出せないんだ。黒魔法は何の関係もないのか?
クリスタルタワー、アラグの遺物。あれを追いかければ次こそ、"ボク"が誰か分かるのか? 主人格なる"ボク"にしばらく身体を返そう。この破壊の力をも、使いこなせるよう混じりものの魂に刻み込んでやろう。
◆
ラムブルースの元に戻り、霊砂を渡すと早速シドが加工を始める。そこに現れたのは赤髪のミコッテ。陰からこちらに声をかけていた男じゃないか。名前はグ・ラハというらしい。なかなか生意気な青年だ。"クリスタルタワー調査団"改め"ノア"は本格的なクリスタルタワー調査に着手することになる。
シドが作り出した"牙"で石像破壊を試みる。すんなりと成功し、防衛機構を突破した。さあここからは"冒険者"とやらの番だ。入口なんかよりもっと大変な仕掛けも多いだろう、ぶっちゃけ非戦闘要員は邪魔というのはシドは分かっている様子。クリスタルタワーは逃げないんだから任せなさいって、グ・ラハ。
実際中は苛烈な戦闘が繰り広げられた。魔科学で蘇生された英雄たちがこのクリスタルタワーを守ってるだって? 死んでからも働かされるとは可哀想に。まあ脅威として追い払ったから調査は沢山進むだろう。多分次はクリスタルタワーの基部であるシルクスの塔調査のための露払いだろう。一度拠点に戻ることにした。
ラムブルースに調査報告を行う。とりあえずシルクスの塔へ調査に行く準備で忙しくなりそうだ。丁度ミンフィリアからも連絡が来たし一度離れることにする。
◇
ミンフィリアに呼ばれ石の家に行くと早速調査依頼。どうやら採掘資源の消失事件が起こってるらしい。しかもクリスタルのみを、ね。これは嫌な予感がするし暁の血盟に依頼が来るのも分かる。早速ホライズンへ向かった。
おとりを使い襲撃犯をとっちめたが、何も喋らなくてそこで捜査がストップ。ヤ・シュトラが顔の刺青で何か心当たりがあるらしく調査へ向かった。結果待ちで何かすることはないかと思っていたらどうやらベスパーベイにドマの難民が流れ着いたらしい。次の荒事はそっちか。ウルダハの王宮へアルフィノと一緒に向かう。
そこにいたのは覆面を被った女性。そのまま王宮まで直訴しに来たらしいが門前払いを喰らっていた。当然だ、その場で拘束されなかったのが奇跡。とりあえず事情を聞く為その場から離れる。
彼女の名前はユウギリ。反乱に失敗したドマの市民代表という所みたいだ。ドマ、か。ボクとフウガと出会った地域。今は存在しない――そりゃないよ。アルフィノは何とかナナモ様に会えるように掛け合うみたいだ。
案の定ロロリトの反対により難民受け入れは叶わず。まあアラミゴで凄いトラブルになってるから仕方がない所だろう。その代わりにとアルフィノはレヴナンツトール開拓団として連れて行くことになった。そっちの方がまだ平和に事が進むだろう。よかった。
首元がふわふわとくすぐったくなりながら、一緒にチョコボキャリッジに乗ってウルダハへ向かう。自分のような冒険者、ねぇ。なるだけなら簡単さ。
ユウギリたち難民の第一陣を送り届け終わった後、お礼を伝えにミンフィリアに会いに行く。その後ヤ・シュトラも持って情報を帰って来た。
次は蛮神リヴァイアサン。サハギン族がやらかそうとしているみたい。蛮神を召喚して、不滅なる者に? 超える力は本来何かをもたらすとあの時白色のアシエンが言っていたがその謎でも解けるのだろうか。とりあえずリムサ・ロミンサで話を聞きに行こう。
やはり召喚されつつあるらしい。そんなに生き急いでどうしたいのやら。サンクレッドやユウギリ、黒渦団の面々が攪乱している間にボクとヤ・シュトラが蛮風エーテライトへ。シンプルな作戦だ。
蛮風エーテライトに辿り着くものの召喚阻止は失敗した。そして超える力を"受け入れる?"ことをすれば不滅なるもの、アシエンと同じ存在になれるらしい。しかしあっさりと召喚した蛮神に吸収されてしまったのを見るに、彼は何か騙されてしまったのだろう。サハギン族の司祭は、何をしたかったんだ?
複数の船をくっつけ搭載量を上げ、偏属性クリスタルで属性を相殺しリヴァイアサンに取りつく。大胆な作戦だ。こちらも出来ることをやってやろうじゃないか。
大きな蛇のような魚がリヴァイアサン。成程、この巨体が暴れ回るだけで津波被害が大変そうだ。刀で3枚おろしにして食べてやる。まあ本当に食べられるわけないんだけどね。
撃退、報告。各々に思惑があるらしいが、旅人からしたら知ったこっちゃない。足元掬われないように、頑張らないとね。石の家に戻る。
転生する魂、か。肉体までも超える力が存在するとは。――この空をも超えて先へと飛ぶ力だったらよかったのになあ。何でそんなけったいな力を持つことになってしまったんだ、ボクは。まあ気ままに人助けするだけさ。何も考えたくない。
そしてバルデシオン委員会とやらは島ごと消滅か。あっちもきな臭い。
◇
アルフィノが、暴動に巻き込まれてケガ。ふざけるんじゃない。急いでウルダハへ向かう。
嗚呼面倒くさい。なんて面倒に巻き込まれたんだ! その暴動する力で何かを成そうとする努力も出来ない人間なんて助ける必要はない! さっきから背筋がゾワゾワするような空気でイライラする。
頭を冷やすために外で聞き込みを行う。商人が武装蜂起を勧めた? 金持ちの思惑にまんまと引っかかってるだけってことね。止めに行ってあげる。
さてどうしてくれようか。商人見つけたから締め上げようとしたけど暗殺されたし。まあ犯人はどうせウルダハの裏で色々出来る権力を持った奴だろうし調べるだけ無駄だ。
ラウバーンとナナモ様の話を聞いた後、ミンフィリアから連絡が来る。黒衣森で蛮神が召喚された、と。
イクサル族でもない、モーグリ族でもない。シルフ族のラムゥ、だろう。あとの暴動調査はアルフィノに任せ、石の家に戻る。
それにしても、アルフィノまで力を求め始めている。これは厄介なことになりそうだ。蛮神召喚の連鎖を何とか止められないのだろうか――。
◆
オメガ、その言葉に"ボク"は脳が揺さぶられた感覚を受けた。昔、聞いたことがある御伽噺。いや、アンナ・サリスは古代アラグ文明のことは全く知らないハズ。どういうことだ。やはりボクはアンナ・サリスではない遥か年上の人間が混じったってこと? アシエンが何度も妙なことを言っているがそれと何か関係でもあるのだろうか。
多数の謎は、"ボク"を惑わし続けている。最近少しだけピリ付いている"この子"の邪魔にならないよう、下がっておかなければ。
◆
次は蛮神ラムゥとの対話。まあお話で済むなら苦労はしないだろう。
実際は実力を示して見せろと。それも予想の範疇だ。全力をぶつけてやる。
やはり人間は愚か、というわけか。それはよく知っている。旅で見てきたから。でもそれを何とかするのも強き者が成すべきこと。嗚呼、面倒だ。でも何とかすると、ラムゥと約束したのだから、頑張れるところまで、やってみよう。
でも少しだけ心がモヤモヤとする。ミンフィリアたちの話を聞いた後、気分転換に"ノア"の進捗でも聞きに行こうか。
そうか、アシエンの魂を器に捕まえて、粉々に砕く。まあその辺りは賢人たちがうまくやるだろう。ミンフィリアにもボクが疲れ切ってる雰囲気を感じ取ったのか外へ行くことを勧められた。
「私、エオルゼアの守護者なんですって」
「こりゃまた大きな称号が付いたな旅人さん」
石の家から出ようと思った時、子供たちが駆け寄って来る。修行したいみたい。でもボクと手合わせはまだ早いかな? というわけで代わりにホーリー・ボルダーとクルトゥネとバトルすることに。
まあボクの相手にはならないけどでも戦闘指南役を買って出た彼らの頑張りを見て笑みがこぼれた。
直後、アルフィノが何やら話があるらしく、石の家に戻ってきてほしいと言われる。だが、嫌な予感しかしない。彼もまた"エオルゼアの守護者"となるためにどんな組織を作る気なのか。ため息をついて少しシドの所へ行った。あっちも苦戦中のようだが、よっぽど沈んだ顔をしてたらしく、少し皆から離れた所で背中を合わせ座り込み、会話を交わした。
ウルダハの内乱に、ラムゥの話。少しだけかいつまんで話をし、ボクの考えをこぼす。
「アンナはどうしたいんだ?」
「勿論、とっとときな臭い所から出て行って旅をしたいですわ」
「寂しくなるな」
背後から聞こえる声に少しだけ肩をすくめる。
「でもね、負けない物事から逃げ出すことは絶対に嫌。何よりアルフィノが心配だから」
「確かにな。聞いてる限り少々生き急いでるだろう」
「うん。それにね」
ニィと笑い、少しだけ後ろへともたれかかる。
「まだあなたの会社に案内してもらってないから」
「……そうだな。まだ紹介してないのにどっかに行かれるのが一番困る」
「でしょう? それを見てからでも遅くないかなって思ってますわ」
しばらく2人で声を上げて笑った。少しだけスッキリしたような気がする。立ち上がり、シドに手を差し伸べた。
「さてと、ちょっとアルフィノの話を聞いて来るよ」
「ああ。ちゃんと支えてやってくれ。聞いてるこっちもハラハラするからな」
「程々でそうしますわ。……目途付いたらクリスタルタワーについて聞きに来るよ。調査の続きも気になるから」
「頼んだぞ」
◇
暁の血盟主導で、新組織を作る。これは――いやまだ分からない。とりあえず人材を集めるとのことなので付いて行く。
リムサ・ロミンサとグリダニアからならまだしもウルダハで人材探しはちょっと――。最近金で内乱誘導した奴がいるのによく集めようと思うよ立派だね、アルフィノは。
砂蠍衆から、出資されてる? 本当だろうか。これじゃ砂の家が本拠点だった頃と変わらないじゃないか。何を考えてるの? 絶対ロロリトの息がかからない奴なんて今はそうかもしれないけどどう変わっていくか分からないじゃない――。まあどう転がってもボクの責任にはならない。そう立ち回ってるから。ちょっと痛い目に遭わないとダメかもね?
外に出てスラフボーンと世間話をしていると開拓団の物資輸送隊のトラブル。よりにもよってドラゴンヘッドの異端者か――。支援物資の送り主であるオルシュファンに話をしに行く。
相変わらず熱意が凄い人で。ホワイトブリムの砦で詳しい話を聞いたらいいとのことでドリユモンの所へ。
なるほど。"氷の巫女"という指導者。そして異端者たちは妄執にとりつかれ、我を失っていると。これはまさかテンパードか?
襲撃された商人からスノークローク大氷壁についいての情報を得たので向かう。
気配は感じた。しかし深追いは危険。一度ドリユモンに報告しよう。途中であった異端者もクリスタルを求めていた。これは氷の巫女が何らかの蛮神召喚でもしでかそうとしている可能性が高い。しかしこの辺りの伝承には詳しくないので完全に未知の存在だ。まあこれはただの予想なので外れてる可能性も高い。とりあえず再び物資を送ってもらえるか掛け合ってくれてるらしいのでスラフボーンに報告へ戻る。
ついでにまた一緒に稽古でもしようという約束もしておいた。
クリスタルブレイブ、アルフィノが総帥とする新たな組織。まあどこまで頑張れるか見守ってやろうかな。変な騒乱のトリガーにならなかったらいいんだけど。
ミンフィリアに言われて気付いたが、確かにハイデリンの声とやらが聞こえなくなった。本当に憂鬱なことにならなかったらいいな。
◇
そろそろ古代の迷宮部分の調査は終わっただろう。調査地へ向かった。
うーん全然みたいだ。でも探索隊メンバーが追加された。ドーガとウネ。クリスタルタワーに封印されていたクローン。
そしてあのコケにしてやったネロも。ははは。あの不審者こいつだったみたい。そりゃどこか煽ってやらなきゃ気が済まないような雰囲気出してるわけだ。
「お互いに、昔のことは忘れて仲良くしようぜ? メスゴリラ」
「ええそうですわね? ところで東の国の諺に今のあなたによく似合うやつがあるの。知ってる?」
「ほぉ言ってみろや。下らねェモンだったらキレるぜ?」
「こほん。やーい負け犬の遠吠え」
「……アァ!? 水に流してやろうって言ったのに何だァその態度は」
「おいお前たち何喧嘩してるんだ!」
シドの方に向き直りボクは一言言ってやる。
「ネロが一方的にキレてくるの。どうやらまだ根に持ってるみたいで」
「はぁ!?」
「おいネロいくら目の前で悪口言われてキレてる途中に転んじまったからって怒るのはよくないだろう。アンナも前に反省してるって言ってたぞ」
「絶対してねェだろ!? ていうか足払いしやがったメスゴリラお前人にどういう報告してンだざけンじゃ」
「あのさネロ、クリスタルタワーの調査進まないからさ」
外様があんまり騒いでるとつまみ出されるよ? と耳元で囁きそのまま逃げてやった。
何か言いたかったようだが黙ることを選んだようだ。そっぽを向く。つまんないなぁ。
アラグの歴史は非常にややこしい。一度死んだ人間を生き返らせ、更にクリスタルタワーの時を止めたアモンはどんだけヤバい科学者だったんだ。古代の産物にまた世界統一されたらたまったもんじゃない。助けを求められたのなら、その手を取るだけ。
◆
「ケッ、あのゴリラが面倒だな。どうしてもキレちまう」
ネロはレヴナンツトール郊外にて悪態をつく。計画のための準備を進めなければ。そう思いながらエーテル計測器を手に持った途端、それは振り切った。
「あ? こりゃまさか……」
背後に気配を感じ、振り向く。そこにはあの先程悪態付いていた相手が佇んでいた。違う所はその眼が赤と銀である所か。
「黒聖石サビクについて教えろ」
「っ!? 何の話だ」
「アルテマウェポンを現代に蘇らせたのはあなたでしょう? そのコアとして認識されていた石について教えろって言っている」
纏わりつくような風が気持ち悪い。その蛇のような睨む目に息が詰まり、一歩後ずさる。
「そのブラックボックスは俺も知らねェんだ。所詮俺はガワを使えるように復活させただけ」
「――そっか。じゃあいい」
踵を返し、去って行く。ネロは何とか声を出す。
「おい待ちやがれ! 何で知りてェか教えてからどっか行け!」
「……それが分かれば、"私"が何者か分かるかもしれないんでね。あなたは役に立たなかった。それだけ」
そのままあの女はどこかへ消えてしまった。
「何なンだ、あの女」
計測器が静かになった直後、嫌な汗が吹きあがり、ネロはその場に座り込む。
「俺は役立たずじゃねェ。絶対お前に突き付けてやろうじゃねェか――」
◆
ザンデたちを蹴散らし妖異との契約を破ろうとしたその時、闇が襲いかかって来た。超える力が、記憶を見せる。世界を、無に還すための闇。頭が割れる。許したくない、嗚呼闇は全て消さねば――。
はっと気が付くと仲間たちが大苦戦している。これはまずい。そしてドーガ、ウネ、あとネロまでヴォイド世界の先へと連れて行かれた。生身の人があそこへ行くのはもっとダメだ。暗闇の雲、次の倒す相手。
◇
ふむ帝国の密偵がだいぶ潜り込んでいる、と。特にウルダハは聞いてて骨が折れそうだ。そういう調査は不得意だ。
その代わりにどうやらイシュガルドの特使サマが会談にボクをご指名らしい。
早速オルシュファンの元へ向かうともう会談はセッティングされているらしい。どうやら彼が教皇庁にずっと会合を開くよう進言していたみたいだ。
教皇庁としては話は平行線。しかしアイメリク卿からの支援は確実に。悪くはないだろう。しかしまた氷の巫女が率いる異端者たちが支援物資部隊に襲撃したのだという。なんてことだ。
聖女シヴァが復活する? イシュガルドの聖典に記された人物。史上初の異端者を顕現させる。つまり蛮神召喚か。厄介なことばかり起こる。これもアシエンが裏で暗躍してるのだろうか。
スノークローク大氷壁に隠された道を発見し、その奥を探索する。大きな狼を倒した後、氷の巫女サマは現れた。
名前はイゼル、イシュガルドの民とドラゴン族の戦いを止めるため巫女になったらしい。そして手を出すな、とだけ言い残し、蛮風エーテライトのようなものでどこかへと消えた。
妨害として破壊されているというテレポ先へ行くための手立てを探してもらっている間に異端者探しを行う。一緒にいた商人ごと捕まえようとするとユウギリと合流した。どうやら商人の方は帝国の密偵絡みとも繋がっていたらしい。
襲撃の仕掛けが分かっただけでも収穫だろう。そして不滅隊内に紛れ込んだやつが写本師とやら。まあその辺りの調査は得意な人がやってくれるだろう。アルフィノが帝国関連の新情報を3国で共有する会に呼ばれてるらしいので付いて行く。
ガレマール帝国初代皇帝崩御――? よし! ボクの勝ちだ! アレに捕まらずに済んでボクは自由だ!
こぼれ出そうな笑みを抑えながら彼らの話を聞く。久々に酒場に行くのもいいかもね。まあ先にどうやら写本師疑いの人がグリダニアに来ているとのことなので捕まえに行く。
ラウバーンの次に偉いあの女の人が、か。ピンポイントに不滅隊の信頼を吹っ飛ばすねぇ。
ユウギリから忍びの術を学んでみないかと誘われる。面白そうだ。確かリムサ・ロミンサに同系統の技術を持った集団がいるんだっけ。今度顔を出してみるか。
こっちではやることがなくなったようなので石の家に戻ると、どうやらイゼルたちがいる場所に行く手段の糸口を握る人物がこっちにやって来るらしい。迎えに行く。
とても凛々しそうなルガディンのお姉さんだった。名前はムーンブリダ、ウリエンジェの幼馴染みたい。
アシエンの魂を捕える"白聖石"と呼ばれるものを作ろうとしてるエーテル研究の権威者なんだって。
今回のエーテライト転移もその白聖石を用いればできるかもしれない、と。さあその転送痕跡とやらが消える前に戦闘準備だ。腕が鳴るね。
自分を依り代に、蛮神召喚。そんなこともできるのか。そして、黙約の塔に行けば何故イシュガルドの人間とドラゴン族が戦っているのか、その真実を聞けると教えられる。最後の言葉を聞くにまさかイゼルも、超える力を持っているのか。
アイメリク、オルシュファンとの会合後、石の家に戻るとグロテスク状態になったサンクレッドとまだまだ元気なムーンブリダがいた。なるほど、それならボクが酒の相手になろうか。ソル帝崩御のお祝いだ。
なかなか話の分かる人だった。エーテル学方面は奥が深い。少しだけ書物を漁ってみてもいいかも。何故かそうしないと気が済まないから。
「アンタ凄いじゃないか! まだまだ行けるかい?」
「余裕。時々は飲んでもいいかなって」
笑顔を見せ、そのまま一晩飲み明かす。悪くはないひと時だった。
◇
次の日、騒がしいなとアルフィノの所へ向かうとどうやらエリヌ・ロアユが逃げ出したらしい。これは面倒なことになったぞ、と思いながらこの件を追いかけるイルベルドと合流する。
いい所まで登り詰めていたのに、それを捨てるほど写本師とやらはいい仕事なのか。理解が出来ない。まあ確かにウルダハすっごい政治が汚い印象あるけど。だとかと言って帝国に情報売るのはちょっとねぇ。
これ以上、巻き込まれたくないなぁ。ボクは柱になんてなれないよ。
◇
怪盗白仮面を追ってる内に何故か剣豪ギルガメッシュと闘うことになった。何が起こったかって? ボクにも分かんない。しかしシラディハ、いやウルダハが作ったというゾンビパウダーは本当に恐ろしい。これヒルディブランドにかかってなかったら本当に大変なことになってたかも。小さな事件を解決し、少しだけ満足した。
そんなくだらない事件簿に巻き込まれていた間、シドはヴォイド世界へ行くためのゲートを開く装置を作り上げたらしい。どうなってるんだあの会社。
もしかしてあの人なら――いや余計なことを考えるのはやめておこう。
無事ゲートの先にいた暗闇の雲を倒した。しかし、ネロはだいぶ浸食が進んでるらしい。ここで死んでしまってはシドも悲しむに違いない。何とかしたいものだが――。
あとはウネとドーガが残って何とかすると言われたので走る。閉じ始めたゲート、取り残されたくない! ふと背後で膝をつく音が聞こえ振り向くと、ネロが苦しそうだった。間に合わないのか?
「シド! ――ばしな!!」
ボクは何かを叫び走り抜け、何とか元の世界に戻る。自分でも何と叫んだのか、分からなかった。だってその瞬間、またボクは意識を奪われたのだから。もう後は天命に任せ、目を閉じた。
◆
閉じかけたヴォイドゲートから間違いなく声が聞こえた。
誰1人戻って来ていないのにゲートが閉じようとしている――周囲も慌て始め、全員帰ってくるよう祈っていた。すると俺が帰りを待つアンナの叫ぶような声。しかし普段の言動とは全く違う、不思議な体験だった。
「シド! 余計な後悔したくないなら手ぇ伸ばしな!!」
その声と共にアンナとグ・ラハがこちらへと飛び込んできた。一瞬で何かを察する。ネロとドーガ、ウネがいない。そうか、アンナが言いたかったことは。
俺は反射的にそのゲートへ走っていた。周りの制止を聞かず、そのゲートへ手を伸ばす。闇の世界からこちらへ走るネロ。目一杯手を伸ばし、俺はネロの腕を掴み引っ張る。
心のどこかで、どこか熱が灯される鼓動を感じた。それが何か俺には分からなかった。
◆
グ・ラハは扉の奥へ消えてしまった。再び技術が追い付き目が覚めることを祈って。そんな彼らを護るのがボクの役目さ。少しだけ眠っててね。
そう、目が覚めたら元の世界に戻り、そして元の色に戻ったネロがいた。多分ちゃんと契約を破棄することが出来たのだろう。よかった。
そんなネロは何処かばつの悪そうな顔をし、その顔にシドはもう何か企むことはないだろうと笑う。
気まずいのかいつの間にかいなくなっていたネロに軽くため息をつき、調査地を後にしようとしたら先に自分のやるべきことのために帰っていたシドが戻って来た。
「ありがとな」
「? 大したことしてない」
「いや、本当にいくら感謝してもし足りないんだ。ネロは何やかんや旧友だしな。あいつも目が覚めただろう。おかげで余計な後悔せずに済んだし目標も出来た」
「よかったね」
クスリと笑うとシドはボクの背中を叩きながら「頑張れよ」とだけ言い、また走り去って行った。
賑やかな人だなあ。まあ苦しい顔したシドを見ずに済んだので安心し、石の家に顔を出しに行く。
◆
"技術は、自由のために"
"その翼を広げ、何よりも高く"
飛空艇を造る会社は皆破天荒な夢を見る存在なのか。"ボク"は半笑いで"デズル・クワラン号"の初飛行を見届けた。
興味深い。イクサル族の生態も、目標も、その飛空艇技術も。
"我ガ翼ハ、星ト成リキ"
ユメ。"この子"の夢は――嗚呼やっぱり彼が、叶えてくれるのか?
◆
バーニングウォールは何だか苦手だ。いや、ここだけじゃない。偏属性クリスタルが集まった場所はあまり好きじゃない。エーテルがピリピリと少しだけ痛む。レヴナンツトール郊外は色んなエーテルが混じり、手加減が難しい。ボクの腕は意外とデリケートなんだ。程々にして用件を終わらせたいね――。
さあクリスタルタワーのあれこれは終わり。残るクリスタルブレイブのあれこれを手伝いへ。ウルダハの内乱を煽ろうとするだろう闇商人を追いかける。そして勢い誤って殺してしまう、と。ため息をつき、押収した武器だけ届けに行った。
怪しい。イルベルドをはじめとした第4部隊が。妙なこと起こさなきゃいいけど――。リオルも怪しみすぎるのはいいけど死なないでね?
タタルから急いで戻って来いと言われたので石の家に行くとイシュガルドからのお客様。ルキア経由でイシュガルド教皇庁からの依頼。黙約の塔を調査しろと。
竜星。確かフウガから知識として教えられたことがある。竜の咆哮が本当ならば――興味深い。急いで向かってみよう。
確かに塔、というよりかは刺さった船の残骸だ。小舟に乗り調査に乗り出す。
確かに幻龍は起き上がった。そして幻影を繰りだし、ボクに襲い掛かる。退け、話を聞くと咆哮を発したのは彼ではないらしい。彼の子供である"七大天竜"うちのどれかが、イシュガルドへ侵攻するために集結しろとサインがてら吼えたと。
そしてついでにとボクの超える力を封じた。ただの嫌がらせじゃないか! 次はイシュガルドのあれこれに巻き込まれろと言いたいの?
星の光が陰りを見せているということは最近ハイデリンの声が聞こえないのは闇が強くなっていると。そして化身を押し付け、試練を越えて見せろとだけ言い沈黙した。
まあハイデリンの声がなくてもよくわからないボクの内面から聞こえてくる声が語り掛けてきているから変わらないんだが、まあついて来たいなら勝手に来たらいいさ。
◇
ぶっちゃけた話をする。超える力がなくてもボクは変わらない。精々テンパード化に怯える程度。眩暈もなくなるしどちらかというと身体が軽くなった感触。
小さな眷属は怪訝な目でボクを見ているような気がした――。
次は遂に略奪へ動き出した帝国軍残党掃除。早々に終わらせエーテルの刃の最終調整へ。しかしアシエンが現れ、光の加護がないこともバレてしまった。意味深な言葉、ミンフィリアが危ない。
クソッ、案の定。舐められたもんだ。嗚呼別空間に彼女を誘拐しなければ、ボクは追いかけて斬らなかったのに。キミは本当に莫迦だね。
やめて! ムーンブリダ! キミのエーテルは必要ない!
エーテル位自分で工面――ダメだ。またボクは、冷たくなって、そしてフウガが悲しんで。
「ごめんな、さい」
やっぱり、ボクって弱いね。短い間だったのに、心が痛む。だから旅をしているのに。ボクを助けようと犠牲になるなんて。ダメだよ気軽に命を捧げちゃ。
悲しむ暇もなく、次はイシュガルドの有事に巻き込まれる。そして竜騎士エスティニアによると先日咆哮を発した主はニーズヘッグらしい。イシュガルドに強い恨みを持ち続けるドラゴンがイゼルを利用し本来の力を取り戻そうとしている辺りだろうか。今のボクにドラゴンを狩る力を持ち得ているのかは分からないが――正直に言う。新たな敵にワクワクしていた。
でも3国は思ったより乗り気じゃないみたい。アルフィノも頑張ってはいるみたいだが、まだまだ青臭い。
そしてナナモ様も元気がないようだ。とても心配。
ドラゴンとの戦いはなかなか苦戦した。自分たちの都市を守らんとする騎士たちがいないと危なかったかも。
そして終わった後は自分たちは主戦力連れて行ってないくせに祝賀会をしたいというウルダハ王政庁からのお手紙。都合がよすぎるが――まあボクの知ったこっちゃない。
◇
「ということがあったんだ」
『アンナ、また妙な巻き込まれ方をしてるんだな』
「頼まれるんだもの。仕方ない」
深夜、誰にもバレないように宿の中でシドから貰っていた個人宛リンクパールに通信を試みる。すると即慌てたような声で出たので少しだけかいつまんで最近の出来事を話す。黙約の塔で帝国軍の残党がいたこと、ウルダハの内偵の件でラウバーンがショックを受けていたこと。そしてアシエン対策に目途がついたが仲良く出来そうな人間が犠牲になったこと、直近であったクルザスでの出来事。あまりにも目まぐるしすぎないかという声にクスリと笑った後、ため息をついた。
「近い内にウルダハで祝賀会が行われるんだって。それが終わったらきっと一段落つくからあなたの会社に連れてってよ」
『……いいのか?』
「気が変わる前にどうしたいかどうぞ」
『ああ待ってくれ! 喜んで迎えに行こうじゃないか』
「ん」
自然に笑みがこみ上げる。じゃあまた連絡するからと切断しようとすると止められる。
「どうしたの?」
『あ、ああ。リンクパール捨てちまったのかと思ってたぜ。全然出なかったからな』
「? あー私あんまりリンクパール未だに慣れてなくて。ごめんごめんなるべく着けとくようにするね」
そう、リンクパールは付けていると違和感が凄い。何かムズムズして気持ち悪くなることがある。だから暁の作戦中以外はあまり付けていない。まさか何度か通信を試みているとは思わなかった。厭だけどまあちょっとは装着しておくか。
◇
タタルが皆のために頑張るでっす! と巴術士ギルドへ行ったらしい。そういえばあちら方面は全然調べていなかったな。ボクも勉強してみようかしら。タタルが試練を受けに行くらしいのでついでにボクも行ってみる。
算術か。すべてが計算された魔法、と。面白そう。でもタタルは――向いてなかったみたい。まあ誰にだって向き不向きがあるしね。戦術勉強の一環として、タタルの分まで頑張ろうじゃないか。
うん、戦術というものは考えたことがなかった。腕っぷしで何とかなってたし。しかしその重要性は何となく理解した。獲物を追い込む狩りと何ら変わらない。この経験はきちんと利用させてもらおう。
あと双剣士、いやシーフギルドという場所にも顔を出してみる。前にユウギリが行っていた"同系統の技術"を持っていた集団だ。裏で掟を破る海賊にお灸をすえるのがお仕事。技術というよりかはそのお仕事を手伝い、実地で学ぶって感じだった。まあ過去が辿られない程度に頑張ってみよう。
双剣士の技術を突き詰めて分かったこと。ユウギリをはじめとした双剣を扱うひんがしの国のものはやはり忍びの者だったらしい。フウガから少しだけ聞いたことがある。いつか鉢合わせするかもしれないと聞いていたがまさか今見ることができるとは。
◇
ウルズの泉で行方不明だったウィルレッドの死体を発見、と。きな臭くなってきたぞこれは。そして第一と第三分隊はテレジ・アデレジから裏金を貰っていたとリオルは調査報告を持って来た。ミンフィリアの報告後、ボクはリンクパールに繋ぎ、ただ一言だけ「今からウルダハで祝賀会」と呟きながら胸のポケットに放り込む。
ウルダハ。王政庁に近付くごとに首元がザワザワする。まずはリテイナーベルでフウガを呼び、長めのお使いを頼んだ。ついでに「しばらくグリダニア周辺にいること。危ないと察したらキャンプドラゴンヘッドに」と約束させる。賢い子だ、ボクの顔を見て何を思ったのか強く頷き「無事を祈ってます、母様」と言った。ボクは母親じゃないんだけどねぇ。まあいいだろう。「ほら行ってらっしゃい」と送り出す。「リテイナーのフォローはよし」
モモディによるとアリアヌに呼ばれているらしい。「何か用だろうか」と呟き待機する。
「来ない、おかしい」
そう呟き離れるとローレンティス。首元がざわつく。こいつ、懲りてないな? 適当な会話を交わし、その場を離れる。彼に聞こえないよう「血の匂い。小瓶、これは保留」と呟く。
ウルダハへ戻る。クイックサンドにモモディへ報告に行くと次はナナモ様の侍女がお待ちだと言う。王政庁へ行くとナナモ様からお話があると。首元がチリ、と痛んだ。慎重に歩み出す。
原因は侍女じゃない。別の思惑はあるようだ。
「既に巻き込まれた」
密室。ボク、ナナモ様の2人きり。とんでもない話を聞かされる。それを、ボクに何故。そして、盃が落ち――。
「ちがう」
自殺? いや違う。これは。もう少し情報を引き出すために抑える。
「ライバーンがやらかした。煽ったのはクリスタルブレイブ」
やられるフリは慣れてないが騙されてくれた。とにかく逃げる。仲間たちはどんどん残り、アルフィノと合流。ラウバーンの養子だというピピンとブレモンダのチョコボキャリッジに乗せられ、移動する。
嗚呼アルフィノが落ち込んでいる。当たり前か。
そして走り寄って来たのはシド。リンクパールを指さし、ため息をついている。
「ごめんね、シド。会社訪問は後回し」
「いきなりリンクパール繋げっぱなしは心臓に悪いから次からは一言言ってくれ」
「どういうことだ? アンナ」
アルフィノは首を傾げ、ボクらの会話に入って来る。
「数時間前に個人宛のリンクパールが鳴ってな。出たらずっと繋ぎっぱなしだし驚かされたさ。だからことの顛末は全部駄々洩れだ。説明は必要ないぜ」
「使えるものは全部使ってだけだよ?」
「利用価値のあるものとして認識されたのは嬉しいぜ。それから大急ぎで準備してたらあの商人に呼び出されてな。それで待ってたってわけだ。ほら早く乗れ!」
エンタープライズが飛ぶ。そういえば初めてエンタープライズに乗って一緒に飛んだメンツもこの3人だ。何も言わず少し離れ、空を見上げる。
どんよりとした空。星は見えそうもない。わずかな灯を絶やさぬよう、希望を乗せて飛ぶ船に、一滴の雨粒が落ちた。
「これからどうしたらいいの?」
フウガ、とボクはその名を呟いた。
その3へ // 蒼天編へ
#謎メモ
◇
ボクが世界を救い少しの時が経った。まあ休む暇もなくシルフ族をはじめとした友好部族の子たちを助けていた。
持った刀は悪くない。ムソウサイから色々と教えてもらいながら手になじませていく。シドの会社はロウェナ商会に装備も卸してるらしく、それを使わせてもらった。
その傍ら、誤配達されてしまった手紙を渡しに行く。するとレターモーグリが一緒に手紙の配達をして欲しいとお願いされる。面白そうだ。引き受ける。その手紙は3国で頑張る人たちの側面を知るいい機会になった。誰にだって過去、そして縁はある。とっても強いボクが大切にしてあげたいね。
そして何より! ボクの兄さんが砂の家に一度やってきたのだ。新聞で光の戦士の記事を読み、遠い昔に行方をくらましたボクに違いないって確信したんだって! 嬉しいなぁ。何より、兄さんってこんなに小さかったんだ。子供の頃はとても大きな人で高い高いしてくれたっけ。それが今ではボクがする側さ。
これからどうするのかと聞いたら故郷に帰るって。少しだけ兄さんが悲しそうな目を見せながら、帰って行った。繁殖期が終わったらすぐに会いにくるって約束してくれたし、レターモーグリという便利な存在の情報も共有できてとても嬉しい。いつでも手紙を送ってくれって言われた。―――でもボクは全てを捨てた旅人なんだから、その喜びも程々にして、1人で生きて行かなきゃね。
その間もまた蛮神が召喚されていく。しょうがないのでまた叩きに行くことにした。
あの耳をつんざくような吼え声の主はまだ分からないようだ。イフリート、ガルーダ、タイタン。そして最近グリダニアで噂される伝説のオーディンについての情報集め。不吉な出来事はまだまだいっぱい起こってるようだ。
面白いことも起こっている。双蛇党の小牙長に昇進したボクは冒険者小隊という新人育成の任務を任された。いや非常に面倒。―――まあもうしばらくこの辺りで人助けをする予定なので、そのついでならばという条件で引き受ける。何せ双蛇党内に小隊のためと拠点になる部屋をもらえた。悪くはない条件のモノだろう。
そして治安維持を目的とした討伐による報奨金制度。これに関してはストレス解消にもよし。
奇妙な魔法、青魔法についての話も興味深かった。自分の身体1つで魔物の技をラーニングするという技術。まだ見ぬ新大陸での技術を見ることができるとは旅をしてみるもんだ。ついでにマスクカーニバルという闘技場の闘士にもしてもらったのでこれからが楽しみだねぇ。
最後に、暁の血盟の拠点を移転しないかという提案。中立でありながらもウルダハの目が届く場所に置いているのも色々と面倒だろう。そのために候補として選ばれたのがレヴナンツトール。三国、そしてイシュガルドからも少しだけ離れた小さな街ならば確かに中立アピールも説得力が出てくるだろう。
ミンフィリアが移転を渋っていた一番の理由、"探し人"であるフ・ラミンさんを見つけた。彼女もまた帝国に追われていたみたいで身を潜めてたんだって。まあこの人が見つかったというわけで本部移転計画が進み始めた。
候補地であるレヴナンツトールとの交渉、そして各国との根回しに少し時間かかりそうだ。各地を巡り人助けしながら次の連絡を待つことにする。
◆
若い頃はどうやら凄い人だったらしいムソウサイと人助けついでの修行中。グリダニアを通りかかった夜のこと。
"ボク"は街の中で楽しいことがないか散策しているとスカーレット小牙士に話しかけられた。どうやら北部森林でイクサル族による敵襲があったらしく、出来れば迎撃の任務について欲しいと。頼まれたからには見て来るしかないね。
北部森林のグイスリットに話を聞きに行く。どうやら最新装甲気球で街の方に飛んできたから落としたらしい。とりあえず不時着した船を見てきてほしいとのことなので行ってみる。
周囲に誰もいなかったので落ちていた部品を拝借する。制空権のために監視哨破壊を試みているのだろうかというのがグイスリットの見立てらしい。もう一度墜落現場周辺を監視しに行く。
あれ、気球が無くなってる。探しに行くと物資樽が見つかる。何者かが分解していたのだろうか、監視していると声を掛けられた。
なるほど、彼らもシルフ族たちみたいに蛮神よりも自分の力で未来を切り開きたい奴ららしい。彼らの夢は最速の気球、もとい飛空艇を作ること。口は悪いがいい夢だ。技師が欲しかったようなので手助けすることにした。何より空を飛ぶモノがどういう構造なのか間近で見てみたかったのだ。シドらに頼むのも悪くないが、別の視点で見れそうなので協力しよう。
部品を製作するためにフォールゴウトへ向かうとそこには同じく飛空艇の部品を待つララフェルがいた。青臭いガキは何か勘違いし、エカトル実験場に走って行った。大丈夫か?
無事彼とも一緒に最高高度を目指すための飛空艇を作ることになる。しばらく楽しみな夜が続きそうだ。
◆
事件屋という奴らを知ってるだろうか。ボクは知らない。何でも解決する破天荒なヤツをいつの間にか追いかける羽目になった。第六霊災の時に死んだはずなのになぜか生きてた紳士ヒルディブランドと助手で錬金術の勉強をしたナシュのタッグ。一緒に武器怪盗をとっ捕まえるためにザナラーンを走る。まあ気分転換になる。ムソウサイもだけど他人がどう人助けするのか見るのも悪くないし。一種の参考になる。
あまりにも頭の痛い人たちだけどね。
3体の蛮神をもう一度叩いた後、ウリエンジェに新たなお願いをされる。どうやら新たな蛮神を追いかけて欲しいらしい。もしかしたら、あの咆哮の主かもしれない。気を引き締めてワインポートへ向かう。
そこにはアルフィノの妹、アリゼーがいた。まずは一緒に帝国基地を調べたいのだという。地下にメテオの痕跡があるという基地"カストルム・オクシデンス"が騒がしくなっているという。きっとそこに新たな蛮神と関係がある何かがあるのだろうと。自分の足で確かめたいという気持ちは分かる。行ってみるしかないね。兄とはまた別の意味で青臭い彼女の"剣"として、引き受けてやろうじゃない。
◇
砂の家から、石の家へ。そして秘密組織から各国に認められた組織へ。地固めて何とやらということか。レヴナンツトールへ本部移設計画書を渡しに行ってほしいと言われたので久々にモードゥナへ行く。その時偶然街に来ていたシドに話しかけられた。そこで少しだけお茶しながら会話を交わした。
今度自分の会社へ案内するって。ボクが護るべき人たちを紹介してくれるんだって向こうの方から言ってくれた。つい笑顔で「楽しみにしておこうかな」って言ってしまった程、面白くてたまらなかった。向こうは覚えてないのに、無意識にそんなこと言っちゃうんだから。
寄り道をしてしまった。スラフボーンに計画書を手渡し、本部になるだろう物件に案内してもらえる運びになった。が、タタルからのリンクパール通信で中断されることになる。どうやらグリダニアで緊急事態らしい。急いで戻ることにする。
砂の家。その蛮神はガルーダでもオーディンでもないらしい。一体何が召喚されたのか。グリダニアに向かう。
モーグリ族からのSOS。カ・ヌエ様から直々の相談。こりゃまた大きな面倒事。
善王モグル・モグXII世―――こりゃまた大きいのが来た。御伽噺の王様という存在を顕現させることも出来るとはエーテルと願いの力は凄いものだね。しかもやることはテンパードを増やすとかいう蛮神と変わらない。これはモーグリ家臣団とかいう奴らを一発殴っておくしかないね。
大きなモーグリ。可愛い。メメント・モーグリはしばらく覚えてるかも。まあ蛮神として顕現したのならもう殴るしかない。ごめんね。トランキルでラヤ・オ達と話した後カ・ヌエ様に報告しに帰る。
やはり王様を召喚するよう知恵を授けたのはアシエンか。どうにかならないかなこれ。まあそういう駆け引きは興味ないのでグリダニアから移設に伴う物資提供の約束を持ってミンフィリアの元へ戻る。
砂の家はしばらく暁所属冒険者の集いの館として残すらしい。残るウリエンジェと会話を交わし、レヴナンツトールへ向かおうとしたその時、ミンフィリアの悲鳴が聞こえる。
急いで向かうと苦しむ彼女が。超える力で過去を視ると、白衣を纏ったアシエンが。
なるほど、ラハブレアはまだ死んでいない。消滅させる手段を見つけないといけないようだ。厄介な存在。そして調停者とは。まだ近くにいるらしい。
律義に外で待っていた。力を見せてほしいという。刀を構え追いかける。
「流石彼の刻印を打ち込まれただけある。君は只者ではない冒険者だ」
白衣の男はそう言った。ラハブレアにも言われたよく分からない言葉にボクは首を傾げる。アシエン・エリディブス。黒い奴らとはまた違うどこか奇妙な調停者。いつかゆっくりと、その言葉の真意を教えて欲しいものだ。
◆
錬金術とは本当に奇妙なもので。死人に再び魂を繋ぎとめることも出来るとは。目の当たりにして驚いた。あの時ボクも研究を進めていれば―――? これは誰の記憶だ?
分からない。ボクは、ダレなんだ。次の可能性は、呪術士。何でもいい、記憶に引っかかるモノ全てに手を付け、確かめてやるんだ。
"この子"を導くためにも、ボクはやらねばならない。
◆
さあ砂の家の最後の仕事を終わらせレヴナンツトールへ。タタルとスラフボーンの話を聞く。そっか、知らない土地、そして知らない場所。ボクにとってはウキウキするがタタルにとっては不安らしい。
確かにあそこにいる仮面の兄ちゃんは怪しすぎて怖いでしょうね。とりあえず他所で情報集めしろって言いに行くか。
なんて思ってたら最後に一つとスラフボーンに話しかけられる。どうやらシド達が使ってた工房でお客様がボクを呼んでるらしい。とりあえずミンフィリアに会ってから行こう。なんか嫌な予感する。
石の家は砂の家より少しだけ広い。気持ちを新たに頑張ってね。
しかしアシエンについて調べるための書類を取り寄せようとしたが連絡が付かないらしい。何が起こったのだろう。まあ調査は別でやってもらうとして。
次の目標はアシエンの完全消滅。何かいい手段ないのかな。
さあ用件は終わったので工房へ入ってみるとあら、ビッグス、ウェッジと同じ制服を着た女性。なんだかとてもお冠だ。慎重に話しかける。彼女はジェシー。ガーロンド社の会長代行。代行!? そっかシド5年程記憶喪失だったからそりゃ代理位いるよね。た、たぶらかして―――いや傍から見たらそうなるのか?
いや一緒に世界救っててと言うタイミングもない。業績悪化、そりゃしてるでしょうね。うん、これはとっととシドに会社まで案内してもらおう。絶対そうしないとなんか悪女みたいじゃないか。
言われるがまま魔導アーマーを見せるとご機嫌になる。技師って皆そうなの? あ、はい、修理のための素材即探してきマス―――。ていうかあの様子じゃシドまだ帰ってないんだよね? 先日一緒にお茶した時に一度会社帰れ仕事しろって言えばよかった! そうすりゃなんかもっといい初対面だったよねこれ!?
部品を物色し、渡しに行く。あ、はい分かっていただけて何よりデス。修理ありがとうございます。こっちとしても可哀想だと思ってたので丁度よかった。よし次はタタルの不安を何とかすべく不審者に苦情を言いに行こう。何か負け犬の気配もするしビームで威嚇でもするか? まあちょっと眠くなってきたから明日にしよう。
◆
妖異、ヴォイドゲート、シャトトの魔石。やはりどこか聞いてて懐かしい単語たちだ。でもアンナ・サリスが知るはずもない情報なのは確か。黒魔法、この深い夜の中でもう少し勉強させてもらおう。
きっとこれが、"ボク"を知るための一歩となるだろうから。
◆
おうおうキミどいてもらうどころか指図かぁ? まあどこかクリスタルタワーを見てるとそわそわするから見に行ってみるけどさ。儲け話に釣られたわけじゃないよ。いやまあいい感じに事が進めたらそっち側に移動するだろう。とりあえずラムブルースに会いに行ってみる。
え、外部はまだ知らない情報? スラフボーンはクリスタルタワーの情報集めしてる男と聞いてたが、秘密の計画を手に入れることができる不審者。何かムカつくな。
ってシドもいるじゃん。会社に戻ってあげて、ボク怒られたよというと苦笑して「すまん」と言った。それだけかい!
詳細を聞くとそもそも第一関門すら抜けられない状態。タワーの前にある石像を何とかしないといけないらしい。必要なものは4属性の超高純度クリスタル。それぞれ蛮神顕現させた子たちの拠点に忍び込み、拝借してきてほしいと。相変わらず大胆なことするねえ。
コボルド族とサハギン族の住処に侵入して超高純度クリスタルを提供してもらった後、レヴナンツトールに立ち寄るとあの不審者はいなくなっていた。多分調査地周辺に行ったのだろう。平和になったことはいいことだ。タタルに報告してあげると喜んでくれた。
このままイクサル族とアマルジャ族の住処にもお邪魔し、ラムブルースにクリスタルを渡す。そしてクリスタルの時は研磨するための霊砂が必要らしい。とりあえず彫金師ギルドへ。
そこで久々にビッグスに会う。新型飛空艇の開発をしているらしい。ていうか会社にも連絡せず1人で何やってるんだよシド。
ウェッジが北ザナラーンで探し物2つ目"沃土の霊砂"を探してるらしい。アマジナ霊銀山跡へ行ってみると霊砂は賊に襲われ奪われたから取り戻しに行ったと。雇っていた冒険者は普通に逃げてた。可哀想に。無茶しやがってと向かうと奥で震えてた。
とりあえず2つの霊砂をラムブルースに渡す。お礼を言われ、次は霊砂の産地だというグリダニアへ。街には卸されてないらしいので取りに行く。まず"清水の霊砂"は南部森林にあるみたい。ホッグの縄張りを漁りに行く。
謎の声が響く。これは多分ラムブルースが言ってた連絡来ない霊砂を探しに行ったシャーレアンの人だな。チクるよ? まあ最後の霊砂である"薫風の霊砂"のヒントを聞いたので北部森林へ。イクサル族の拠点を荒らし霊砂をいただくと"いいものを見せてもらったお礼"として清水の霊砂を貰う。歴史の記録が好き、ねぇ。ボクはそんなに面白いヒトじゃないよ?
◆
ククルカとかいう黒魔道士は心が弱いララフェルだった。認められたいという欲望の元、研究にのめり込む行為に覚えはある。しかしそれはアンナ・サリスのものではない。どうして、思い出せないんだ。黒魔法は何の関係もないのか?
クリスタルタワー、アラグの遺物。あれを追いかければ次こそ、"ボク"が誰か分かるのか? 主人格なる"ボク"にしばらく身体を返そう。この破壊の力をも、使いこなせるよう混じりものの魂に刻み込んでやろう。
◆
ラムブルースの元に戻り、霊砂を渡すと早速シドが加工を始める。そこに現れたのは赤髪のミコッテ。陰からこちらに声をかけていた男じゃないか。名前はグ・ラハというらしい。なかなか生意気な青年だ。"クリスタルタワー調査団"改め"ノア"は本格的なクリスタルタワー調査に着手することになる。
シドが作り出した"牙"で石像破壊を試みる。すんなりと成功し、防衛機構を突破した。さあここからは"冒険者"とやらの番だ。入口なんかよりもっと大変な仕掛けも多いだろう、ぶっちゃけ非戦闘要員は邪魔というのはシドは分かっている様子。クリスタルタワーは逃げないんだから任せなさいって、グ・ラハ。
実際中は苛烈な戦闘が繰り広げられた。魔科学で蘇生された英雄たちがこのクリスタルタワーを守ってるだって? 死んでからも働かされるとは可哀想に。まあ脅威として追い払ったから調査は沢山進むだろう。多分次はクリスタルタワーの基部であるシルクスの塔調査のための露払いだろう。一度拠点に戻ることにした。
ラムブルースに調査報告を行う。とりあえずシルクスの塔へ調査に行く準備で忙しくなりそうだ。丁度ミンフィリアからも連絡が来たし一度離れることにする。
◇
ミンフィリアに呼ばれ石の家に行くと早速調査依頼。どうやら採掘資源の消失事件が起こってるらしい。しかもクリスタルのみを、ね。これは嫌な予感がするし暁の血盟に依頼が来るのも分かる。早速ホライズンへ向かった。
おとりを使い襲撃犯をとっちめたが、何も喋らなくてそこで捜査がストップ。ヤ・シュトラが顔の刺青で何か心当たりがあるらしく調査へ向かった。結果待ちで何かすることはないかと思っていたらどうやらベスパーベイにドマの難民が流れ着いたらしい。次の荒事はそっちか。ウルダハの王宮へアルフィノと一緒に向かう。
そこにいたのは覆面を被った女性。そのまま王宮まで直訴しに来たらしいが門前払いを喰らっていた。当然だ、その場で拘束されなかったのが奇跡。とりあえず事情を聞く為その場から離れる。
彼女の名前はユウギリ。反乱に失敗したドマの市民代表という所みたいだ。ドマ、か。ボクとフウガと出会った地域。今は存在しない――そりゃないよ。アルフィノは何とかナナモ様に会えるように掛け合うみたいだ。
案の定ロロリトの反対により難民受け入れは叶わず。まあアラミゴで凄いトラブルになってるから仕方がない所だろう。その代わりにとアルフィノはレヴナンツトール開拓団として連れて行くことになった。そっちの方がまだ平和に事が進むだろう。よかった。
首元がふわふわとくすぐったくなりながら、一緒にチョコボキャリッジに乗ってウルダハへ向かう。自分のような冒険者、ねぇ。なるだけなら簡単さ。
ユウギリたち難民の第一陣を送り届け終わった後、お礼を伝えにミンフィリアに会いに行く。その後ヤ・シュトラも持って情報を帰って来た。
次は蛮神リヴァイアサン。サハギン族がやらかそうとしているみたい。蛮神を召喚して、不滅なる者に? 超える力は本来何かをもたらすとあの時白色のアシエンが言っていたがその謎でも解けるのだろうか。とりあえずリムサ・ロミンサで話を聞きに行こう。
やはり召喚されつつあるらしい。そんなに生き急いでどうしたいのやら。サンクレッドやユウギリ、黒渦団の面々が攪乱している間にボクとヤ・シュトラが蛮風エーテライトへ。シンプルな作戦だ。
蛮風エーテライトに辿り着くものの召喚阻止は失敗した。そして超える力を"受け入れる?"ことをすれば不滅なるもの、アシエンと同じ存在になれるらしい。しかしあっさりと召喚した蛮神に吸収されてしまったのを見るに、彼は何か騙されてしまったのだろう。サハギン族の司祭は、何をしたかったんだ?
複数の船をくっつけ搭載量を上げ、偏属性クリスタルで属性を相殺しリヴァイアサンに取りつく。大胆な作戦だ。こちらも出来ることをやってやろうじゃないか。
大きな蛇のような魚がリヴァイアサン。成程、この巨体が暴れ回るだけで津波被害が大変そうだ。刀で3枚おろしにして食べてやる。まあ本当に食べられるわけないんだけどね。
撃退、報告。各々に思惑があるらしいが、旅人からしたら知ったこっちゃない。足元掬われないように、頑張らないとね。石の家に戻る。
転生する魂、か。肉体までも超える力が存在するとは。――この空をも超えて先へと飛ぶ力だったらよかったのになあ。何でそんなけったいな力を持つことになってしまったんだ、ボクは。まあ気ままに人助けするだけさ。何も考えたくない。
そしてバルデシオン委員会とやらは島ごと消滅か。あっちもきな臭い。
◇
アルフィノが、暴動に巻き込まれてケガ。ふざけるんじゃない。急いでウルダハへ向かう。
嗚呼面倒くさい。なんて面倒に巻き込まれたんだ! その暴動する力で何かを成そうとする努力も出来ない人間なんて助ける必要はない! さっきから背筋がゾワゾワするような空気でイライラする。
頭を冷やすために外で聞き込みを行う。商人が武装蜂起を勧めた? 金持ちの思惑にまんまと引っかかってるだけってことね。止めに行ってあげる。
さてどうしてくれようか。商人見つけたから締め上げようとしたけど暗殺されたし。まあ犯人はどうせウルダハの裏で色々出来る権力を持った奴だろうし調べるだけ無駄だ。
ラウバーンとナナモ様の話を聞いた後、ミンフィリアから連絡が来る。黒衣森で蛮神が召喚された、と。
イクサル族でもない、モーグリ族でもない。シルフ族のラムゥ、だろう。あとの暴動調査はアルフィノに任せ、石の家に戻る。
それにしても、アルフィノまで力を求め始めている。これは厄介なことになりそうだ。蛮神召喚の連鎖を何とか止められないのだろうか――。
◆
オメガ、その言葉に"ボク"は脳が揺さぶられた感覚を受けた。昔、聞いたことがある御伽噺。いや、アンナ・サリスは古代アラグ文明のことは全く知らないハズ。どういうことだ。やはりボクはアンナ・サリスではない遥か年上の人間が混じったってこと? アシエンが何度も妙なことを言っているがそれと何か関係でもあるのだろうか。
多数の謎は、"ボク"を惑わし続けている。最近少しだけピリ付いている"この子"の邪魔にならないよう、下がっておかなければ。
◆
次は蛮神ラムゥとの対話。まあお話で済むなら苦労はしないだろう。
実際は実力を示して見せろと。それも予想の範疇だ。全力をぶつけてやる。
やはり人間は愚か、というわけか。それはよく知っている。旅で見てきたから。でもそれを何とかするのも強き者が成すべきこと。嗚呼、面倒だ。でも何とかすると、ラムゥと約束したのだから、頑張れるところまで、やってみよう。
でも少しだけ心がモヤモヤとする。ミンフィリアたちの話を聞いた後、気分転換に"ノア"の進捗でも聞きに行こうか。
そうか、アシエンの魂を器に捕まえて、粉々に砕く。まあその辺りは賢人たちがうまくやるだろう。ミンフィリアにもボクが疲れ切ってる雰囲気を感じ取ったのか外へ行くことを勧められた。
「私、エオルゼアの守護者なんですって」
「こりゃまた大きな称号が付いたな旅人さん」
石の家から出ようと思った時、子供たちが駆け寄って来る。修行したいみたい。でもボクと手合わせはまだ早いかな? というわけで代わりにホーリー・ボルダーとクルトゥネとバトルすることに。
まあボクの相手にはならないけどでも戦闘指南役を買って出た彼らの頑張りを見て笑みがこぼれた。
直後、アルフィノが何やら話があるらしく、石の家に戻ってきてほしいと言われる。だが、嫌な予感しかしない。彼もまた"エオルゼアの守護者"となるためにどんな組織を作る気なのか。ため息をついて少しシドの所へ行った。あっちも苦戦中のようだが、よっぽど沈んだ顔をしてたらしく、少し皆から離れた所で背中を合わせ座り込み、会話を交わした。
ウルダハの内乱に、ラムゥの話。少しだけかいつまんで話をし、ボクの考えをこぼす。
「アンナはどうしたいんだ?」
「勿論、とっとときな臭い所から出て行って旅をしたいですわ」
「寂しくなるな」
背後から聞こえる声に少しだけ肩をすくめる。
「でもね、負けない物事から逃げ出すことは絶対に嫌。何よりアルフィノが心配だから」
「確かにな。聞いてる限り少々生き急いでるだろう」
「うん。それにね」
ニィと笑い、少しだけ後ろへともたれかかる。
「まだあなたの会社に案内してもらってないから」
「……そうだな。まだ紹介してないのにどっかに行かれるのが一番困る」
「でしょう? それを見てからでも遅くないかなって思ってますわ」
しばらく2人で声を上げて笑った。少しだけスッキリしたような気がする。立ち上がり、シドに手を差し伸べた。
「さてと、ちょっとアルフィノの話を聞いて来るよ」
「ああ。ちゃんと支えてやってくれ。聞いてるこっちもハラハラするからな」
「程々でそうしますわ。……目途付いたらクリスタルタワーについて聞きに来るよ。調査の続きも気になるから」
「頼んだぞ」
◇
暁の血盟主導で、新組織を作る。これは――いやまだ分からない。とりあえず人材を集めるとのことなので付いて行く。
リムサ・ロミンサとグリダニアからならまだしもウルダハで人材探しはちょっと――。最近金で内乱誘導した奴がいるのによく集めようと思うよ立派だね、アルフィノは。
砂蠍衆から、出資されてる? 本当だろうか。これじゃ砂の家が本拠点だった頃と変わらないじゃないか。何を考えてるの? 絶対ロロリトの息がかからない奴なんて今はそうかもしれないけどどう変わっていくか分からないじゃない――。まあどう転がってもボクの責任にはならない。そう立ち回ってるから。ちょっと痛い目に遭わないとダメかもね?
外に出てスラフボーンと世間話をしていると開拓団の物資輸送隊のトラブル。よりにもよってドラゴンヘッドの異端者か――。支援物資の送り主であるオルシュファンに話をしに行く。
相変わらず熱意が凄い人で。ホワイトブリムの砦で詳しい話を聞いたらいいとのことでドリユモンの所へ。
なるほど。"氷の巫女"という指導者。そして異端者たちは妄執にとりつかれ、我を失っていると。これはまさかテンパードか?
襲撃された商人からスノークローク大氷壁についいての情報を得たので向かう。
気配は感じた。しかし深追いは危険。一度ドリユモンに報告しよう。途中であった異端者もクリスタルを求めていた。これは氷の巫女が何らかの蛮神召喚でもしでかそうとしている可能性が高い。しかしこの辺りの伝承には詳しくないので完全に未知の存在だ。まあこれはただの予想なので外れてる可能性も高い。とりあえず再び物資を送ってもらえるか掛け合ってくれてるらしいのでスラフボーンに報告へ戻る。
ついでにまた一緒に稽古でもしようという約束もしておいた。
クリスタルブレイブ、アルフィノが総帥とする新たな組織。まあどこまで頑張れるか見守ってやろうかな。変な騒乱のトリガーにならなかったらいいんだけど。
ミンフィリアに言われて気付いたが、確かにハイデリンの声とやらが聞こえなくなった。本当に憂鬱なことにならなかったらいいな。
◇
そろそろ古代の迷宮部分の調査は終わっただろう。調査地へ向かった。
うーん全然みたいだ。でも探索隊メンバーが追加された。ドーガとウネ。クリスタルタワーに封印されていたクローン。
そしてあのコケにしてやったネロも。ははは。あの不審者こいつだったみたい。そりゃどこか煽ってやらなきゃ気が済まないような雰囲気出してるわけだ。
「お互いに、昔のことは忘れて仲良くしようぜ? メスゴリラ」
「ええそうですわね? ところで東の国の諺に今のあなたによく似合うやつがあるの。知ってる?」
「ほぉ言ってみろや。下らねェモンだったらキレるぜ?」
「こほん。やーい負け犬の遠吠え」
「……アァ!? 水に流してやろうって言ったのに何だァその態度は」
「おいお前たち何喧嘩してるんだ!」
シドの方に向き直りボクは一言言ってやる。
「ネロが一方的にキレてくるの。どうやらまだ根に持ってるみたいで」
「はぁ!?」
「おいネロいくら目の前で悪口言われてキレてる途中に転んじまったからって怒るのはよくないだろう。アンナも前に反省してるって言ってたぞ」
「絶対してねェだろ!? ていうか足払いしやがったメスゴリラお前人にどういう報告してンだざけンじゃ」
「あのさネロ、クリスタルタワーの調査進まないからさ」
外様があんまり騒いでるとつまみ出されるよ? と耳元で囁きそのまま逃げてやった。
何か言いたかったようだが黙ることを選んだようだ。そっぽを向く。つまんないなぁ。
アラグの歴史は非常にややこしい。一度死んだ人間を生き返らせ、更にクリスタルタワーの時を止めたアモンはどんだけヤバい科学者だったんだ。古代の産物にまた世界統一されたらたまったもんじゃない。助けを求められたのなら、その手を取るだけ。
◆
「ケッ、あのゴリラが面倒だな。どうしてもキレちまう」
ネロはレヴナンツトール郊外にて悪態をつく。計画のための準備を進めなければ。そう思いながらエーテル計測器を手に持った途端、それは振り切った。
「あ? こりゃまさか……」
背後に気配を感じ、振り向く。そこにはあの先程悪態付いていた相手が佇んでいた。違う所はその眼が赤と銀である所か。
「黒聖石サビクについて教えろ」
「っ!? 何の話だ」
「アルテマウェポンを現代に蘇らせたのはあなたでしょう? そのコアとして認識されていた石について教えろって言っている」
纏わりつくような風が気持ち悪い。その蛇のような睨む目に息が詰まり、一歩後ずさる。
「そのブラックボックスは俺も知らねェんだ。所詮俺はガワを使えるように復活させただけ」
「――そっか。じゃあいい」
踵を返し、去って行く。ネロは何とか声を出す。
「おい待ちやがれ! 何で知りてェか教えてからどっか行け!」
「……それが分かれば、"私"が何者か分かるかもしれないんでね。あなたは役に立たなかった。それだけ」
そのままあの女はどこかへ消えてしまった。
「何なンだ、あの女」
計測器が静かになった直後、嫌な汗が吹きあがり、ネロはその場に座り込む。
「俺は役立たずじゃねェ。絶対お前に突き付けてやろうじゃねェか――」
◆
ザンデたちを蹴散らし妖異との契約を破ろうとしたその時、闇が襲いかかって来た。超える力が、記憶を見せる。世界を、無に還すための闇。頭が割れる。許したくない、嗚呼闇は全て消さねば――。
はっと気が付くと仲間たちが大苦戦している。これはまずい。そしてドーガ、ウネ、あとネロまでヴォイド世界の先へと連れて行かれた。生身の人があそこへ行くのはもっとダメだ。暗闇の雲、次の倒す相手。
◇
ふむ帝国の密偵がだいぶ潜り込んでいる、と。特にウルダハは聞いてて骨が折れそうだ。そういう調査は不得意だ。
その代わりにどうやらイシュガルドの特使サマが会談にボクをご指名らしい。
早速オルシュファンの元へ向かうともう会談はセッティングされているらしい。どうやら彼が教皇庁にずっと会合を開くよう進言していたみたいだ。
教皇庁としては話は平行線。しかしアイメリク卿からの支援は確実に。悪くはないだろう。しかしまた氷の巫女が率いる異端者たちが支援物資部隊に襲撃したのだという。なんてことだ。
聖女シヴァが復活する? イシュガルドの聖典に記された人物。史上初の異端者を顕現させる。つまり蛮神召喚か。厄介なことばかり起こる。これもアシエンが裏で暗躍してるのだろうか。
スノークローク大氷壁に隠された道を発見し、その奥を探索する。大きな狼を倒した後、氷の巫女サマは現れた。
名前はイゼル、イシュガルドの民とドラゴン族の戦いを止めるため巫女になったらしい。そして手を出すな、とだけ言い残し、蛮風エーテライトのようなものでどこかへと消えた。
妨害として破壊されているというテレポ先へ行くための手立てを探してもらっている間に異端者探しを行う。一緒にいた商人ごと捕まえようとするとユウギリと合流した。どうやら商人の方は帝国の密偵絡みとも繋がっていたらしい。
襲撃の仕掛けが分かっただけでも収穫だろう。そして不滅隊内に紛れ込んだやつが写本師とやら。まあその辺りの調査は得意な人がやってくれるだろう。アルフィノが帝国関連の新情報を3国で共有する会に呼ばれてるらしいので付いて行く。
ガレマール帝国初代皇帝崩御――? よし! ボクの勝ちだ! アレに捕まらずに済んでボクは自由だ!
こぼれ出そうな笑みを抑えながら彼らの話を聞く。久々に酒場に行くのもいいかもね。まあ先にどうやら写本師疑いの人がグリダニアに来ているとのことなので捕まえに行く。
ラウバーンの次に偉いあの女の人が、か。ピンポイントに不滅隊の信頼を吹っ飛ばすねぇ。
ユウギリから忍びの術を学んでみないかと誘われる。面白そうだ。確かリムサ・ロミンサに同系統の技術を持った集団がいるんだっけ。今度顔を出してみるか。
こっちではやることがなくなったようなので石の家に戻ると、どうやらイゼルたちがいる場所に行く手段の糸口を握る人物がこっちにやって来るらしい。迎えに行く。
とても凛々しそうなルガディンのお姉さんだった。名前はムーンブリダ、ウリエンジェの幼馴染みたい。
アシエンの魂を捕える"白聖石"と呼ばれるものを作ろうとしてるエーテル研究の権威者なんだって。
今回のエーテライト転移もその白聖石を用いればできるかもしれない、と。さあその転送痕跡とやらが消える前に戦闘準備だ。腕が鳴るね。
自分を依り代に、蛮神召喚。そんなこともできるのか。そして、黙約の塔に行けば何故イシュガルドの人間とドラゴン族が戦っているのか、その真実を聞けると教えられる。最後の言葉を聞くにまさかイゼルも、超える力を持っているのか。
アイメリク、オルシュファンとの会合後、石の家に戻るとグロテスク状態になったサンクレッドとまだまだ元気なムーンブリダがいた。なるほど、それならボクが酒の相手になろうか。ソル帝崩御のお祝いだ。
なかなか話の分かる人だった。エーテル学方面は奥が深い。少しだけ書物を漁ってみてもいいかも。何故かそうしないと気が済まないから。
「アンタ凄いじゃないか! まだまだ行けるかい?」
「余裕。時々は飲んでもいいかなって」
笑顔を見せ、そのまま一晩飲み明かす。悪くはないひと時だった。
◇
次の日、騒がしいなとアルフィノの所へ向かうとどうやらエリヌ・ロアユが逃げ出したらしい。これは面倒なことになったぞ、と思いながらこの件を追いかけるイルベルドと合流する。
いい所まで登り詰めていたのに、それを捨てるほど写本師とやらはいい仕事なのか。理解が出来ない。まあ確かにウルダハすっごい政治が汚い印象あるけど。だとかと言って帝国に情報売るのはちょっとねぇ。
これ以上、巻き込まれたくないなぁ。ボクは柱になんてなれないよ。
◇
怪盗白仮面を追ってる内に何故か剣豪ギルガメッシュと闘うことになった。何が起こったかって? ボクにも分かんない。しかしシラディハ、いやウルダハが作ったというゾンビパウダーは本当に恐ろしい。これヒルディブランドにかかってなかったら本当に大変なことになってたかも。小さな事件を解決し、少しだけ満足した。
そんなくだらない事件簿に巻き込まれていた間、シドはヴォイド世界へ行くためのゲートを開く装置を作り上げたらしい。どうなってるんだあの会社。
もしかしてあの人なら――いや余計なことを考えるのはやめておこう。
無事ゲートの先にいた暗闇の雲を倒した。しかし、ネロはだいぶ浸食が進んでるらしい。ここで死んでしまってはシドも悲しむに違いない。何とかしたいものだが――。
あとはウネとドーガが残って何とかすると言われたので走る。閉じ始めたゲート、取り残されたくない! ふと背後で膝をつく音が聞こえ振り向くと、ネロが苦しそうだった。間に合わないのか?
「シド! ――ばしな!!」
ボクは何かを叫び走り抜け、何とか元の世界に戻る。自分でも何と叫んだのか、分からなかった。だってその瞬間、またボクは意識を奪われたのだから。もう後は天命に任せ、目を閉じた。
◆
閉じかけたヴォイドゲートから間違いなく声が聞こえた。
誰1人戻って来ていないのにゲートが閉じようとしている――周囲も慌て始め、全員帰ってくるよう祈っていた。すると俺が帰りを待つアンナの叫ぶような声。しかし普段の言動とは全く違う、不思議な体験だった。
「シド! 余計な後悔したくないなら手ぇ伸ばしな!!」
その声と共にアンナとグ・ラハがこちらへと飛び込んできた。一瞬で何かを察する。ネロとドーガ、ウネがいない。そうか、アンナが言いたかったことは。
俺は反射的にそのゲートへ走っていた。周りの制止を聞かず、そのゲートへ手を伸ばす。闇の世界からこちらへ走るネロ。目一杯手を伸ばし、俺はネロの腕を掴み引っ張る。
心のどこかで、どこか熱が灯される鼓動を感じた。それが何か俺には分からなかった。
◆
グ・ラハは扉の奥へ消えてしまった。再び技術が追い付き目が覚めることを祈って。そんな彼らを護るのがボクの役目さ。少しだけ眠っててね。
そう、目が覚めたら元の世界に戻り、そして元の色に戻ったネロがいた。多分ちゃんと契約を破棄することが出来たのだろう。よかった。
そんなネロは何処かばつの悪そうな顔をし、その顔にシドはもう何か企むことはないだろうと笑う。
気まずいのかいつの間にかいなくなっていたネロに軽くため息をつき、調査地を後にしようとしたら先に自分のやるべきことのために帰っていたシドが戻って来た。
「ありがとな」
「? 大したことしてない」
「いや、本当にいくら感謝してもし足りないんだ。ネロは何やかんや旧友だしな。あいつも目が覚めただろう。おかげで余計な後悔せずに済んだし目標も出来た」
「よかったね」
クスリと笑うとシドはボクの背中を叩きながら「頑張れよ」とだけ言い、また走り去って行った。
賑やかな人だなあ。まあ苦しい顔したシドを見ずに済んだので安心し、石の家に顔を出しに行く。
◆
"技術は、自由のために"
"その翼を広げ、何よりも高く"
飛空艇を造る会社は皆破天荒な夢を見る存在なのか。"ボク"は半笑いで"デズル・クワラン号"の初飛行を見届けた。
興味深い。イクサル族の生態も、目標も、その飛空艇技術も。
"我ガ翼ハ、星ト成リキ"
ユメ。"この子"の夢は――嗚呼やっぱり彼が、叶えてくれるのか?
◆
バーニングウォールは何だか苦手だ。いや、ここだけじゃない。偏属性クリスタルが集まった場所はあまり好きじゃない。エーテルがピリピリと少しだけ痛む。レヴナンツトール郊外は色んなエーテルが混じり、手加減が難しい。ボクの腕は意外とデリケートなんだ。程々にして用件を終わらせたいね――。
さあクリスタルタワーのあれこれは終わり。残るクリスタルブレイブのあれこれを手伝いへ。ウルダハの内乱を煽ろうとするだろう闇商人を追いかける。そして勢い誤って殺してしまう、と。ため息をつき、押収した武器だけ届けに行った。
怪しい。イルベルドをはじめとした第4部隊が。妙なこと起こさなきゃいいけど――。リオルも怪しみすぎるのはいいけど死なないでね?
タタルから急いで戻って来いと言われたので石の家に行くとイシュガルドからのお客様。ルキア経由でイシュガルド教皇庁からの依頼。黙約の塔を調査しろと。
竜星。確かフウガから知識として教えられたことがある。竜の咆哮が本当ならば――興味深い。急いで向かってみよう。
確かに塔、というよりかは刺さった船の残骸だ。小舟に乗り調査に乗り出す。
確かに幻龍は起き上がった。そして幻影を繰りだし、ボクに襲い掛かる。退け、話を聞くと咆哮を発したのは彼ではないらしい。彼の子供である"七大天竜"うちのどれかが、イシュガルドへ侵攻するために集結しろとサインがてら吼えたと。
そしてついでにとボクの超える力を封じた。ただの嫌がらせじゃないか! 次はイシュガルドのあれこれに巻き込まれろと言いたいの?
星の光が陰りを見せているということは最近ハイデリンの声が聞こえないのは闇が強くなっていると。そして化身を押し付け、試練を越えて見せろとだけ言い沈黙した。
まあハイデリンの声がなくてもよくわからないボクの内面から聞こえてくる声が語り掛けてきているから変わらないんだが、まあついて来たいなら勝手に来たらいいさ。
◇
ぶっちゃけた話をする。超える力がなくてもボクは変わらない。精々テンパード化に怯える程度。眩暈もなくなるしどちらかというと身体が軽くなった感触。
小さな眷属は怪訝な目でボクを見ているような気がした――。
次は遂に略奪へ動き出した帝国軍残党掃除。早々に終わらせエーテルの刃の最終調整へ。しかしアシエンが現れ、光の加護がないこともバレてしまった。意味深な言葉、ミンフィリアが危ない。
クソッ、案の定。舐められたもんだ。嗚呼別空間に彼女を誘拐しなければ、ボクは追いかけて斬らなかったのに。キミは本当に莫迦だね。
やめて! ムーンブリダ! キミのエーテルは必要ない!
エーテル位自分で工面――ダメだ。またボクは、冷たくなって、そしてフウガが悲しんで。
「ごめんな、さい」
やっぱり、ボクって弱いね。短い間だったのに、心が痛む。だから旅をしているのに。ボクを助けようと犠牲になるなんて。ダメだよ気軽に命を捧げちゃ。
悲しむ暇もなく、次はイシュガルドの有事に巻き込まれる。そして竜騎士エスティニアによると先日咆哮を発した主はニーズヘッグらしい。イシュガルドに強い恨みを持ち続けるドラゴンがイゼルを利用し本来の力を取り戻そうとしている辺りだろうか。今のボクにドラゴンを狩る力を持ち得ているのかは分からないが――正直に言う。新たな敵にワクワクしていた。
でも3国は思ったより乗り気じゃないみたい。アルフィノも頑張ってはいるみたいだが、まだまだ青臭い。
そしてナナモ様も元気がないようだ。とても心配。
ドラゴンとの戦いはなかなか苦戦した。自分たちの都市を守らんとする騎士たちがいないと危なかったかも。
そして終わった後は自分たちは主戦力連れて行ってないくせに祝賀会をしたいというウルダハ王政庁からのお手紙。都合がよすぎるが――まあボクの知ったこっちゃない。
◇
「ということがあったんだ」
『アンナ、また妙な巻き込まれ方をしてるんだな』
「頼まれるんだもの。仕方ない」
深夜、誰にもバレないように宿の中でシドから貰っていた個人宛リンクパールに通信を試みる。すると即慌てたような声で出たので少しだけかいつまんで最近の出来事を話す。黙約の塔で帝国軍の残党がいたこと、ウルダハの内偵の件でラウバーンがショックを受けていたこと。そしてアシエン対策に目途がついたが仲良く出来そうな人間が犠牲になったこと、直近であったクルザスでの出来事。あまりにも目まぐるしすぎないかという声にクスリと笑った後、ため息をついた。
「近い内にウルダハで祝賀会が行われるんだって。それが終わったらきっと一段落つくからあなたの会社に連れてってよ」
『……いいのか?』
「気が変わる前にどうしたいかどうぞ」
『ああ待ってくれ! 喜んで迎えに行こうじゃないか』
「ん」
自然に笑みがこみ上げる。じゃあまた連絡するからと切断しようとすると止められる。
「どうしたの?」
『あ、ああ。リンクパール捨てちまったのかと思ってたぜ。全然出なかったからな』
「? あー私あんまりリンクパール未だに慣れてなくて。ごめんごめんなるべく着けとくようにするね」
そう、リンクパールは付けていると違和感が凄い。何かムズムズして気持ち悪くなることがある。だから暁の作戦中以外はあまり付けていない。まさか何度か通信を試みているとは思わなかった。厭だけどまあちょっとは装着しておくか。
◇
タタルが皆のために頑張るでっす! と巴術士ギルドへ行ったらしい。そういえばあちら方面は全然調べていなかったな。ボクも勉強してみようかしら。タタルが試練を受けに行くらしいのでついでにボクも行ってみる。
算術か。すべてが計算された魔法、と。面白そう。でもタタルは――向いてなかったみたい。まあ誰にだって向き不向きがあるしね。戦術勉強の一環として、タタルの分まで頑張ろうじゃないか。
うん、戦術というものは考えたことがなかった。腕っぷしで何とかなってたし。しかしその重要性は何となく理解した。獲物を追い込む狩りと何ら変わらない。この経験はきちんと利用させてもらおう。
あと双剣士、いやシーフギルドという場所にも顔を出してみる。前にユウギリが行っていた"同系統の技術"を持っていた集団だ。裏で掟を破る海賊にお灸をすえるのがお仕事。技術というよりかはそのお仕事を手伝い、実地で学ぶって感じだった。まあ過去が辿られない程度に頑張ってみよう。
双剣士の技術を突き詰めて分かったこと。ユウギリをはじめとした双剣を扱うひんがしの国のものはやはり忍びの者だったらしい。フウガから少しだけ聞いたことがある。いつか鉢合わせするかもしれないと聞いていたがまさか今見ることができるとは。
◇
ウルズの泉で行方不明だったウィルレッドの死体を発見、と。きな臭くなってきたぞこれは。そして第一と第三分隊はテレジ・アデレジから裏金を貰っていたとリオルは調査報告を持って来た。ミンフィリアの報告後、ボクはリンクパールに繋ぎ、ただ一言だけ「今からウルダハで祝賀会」と呟きながら胸のポケットに放り込む。
ウルダハ。王政庁に近付くごとに首元がザワザワする。まずはリテイナーベルでフウガを呼び、長めのお使いを頼んだ。ついでに「しばらくグリダニア周辺にいること。危ないと察したらキャンプドラゴンヘッドに」と約束させる。賢い子だ、ボクの顔を見て何を思ったのか強く頷き「無事を祈ってます、母様」と言った。ボクは母親じゃないんだけどねぇ。まあいいだろう。「ほら行ってらっしゃい」と送り出す。「リテイナーのフォローはよし」
モモディによるとアリアヌに呼ばれているらしい。「何か用だろうか」と呟き待機する。
「来ない、おかしい」
そう呟き離れるとローレンティス。首元がざわつく。こいつ、懲りてないな? 適当な会話を交わし、その場を離れる。彼に聞こえないよう「血の匂い。小瓶、これは保留」と呟く。
ウルダハへ戻る。クイックサンドにモモディへ報告に行くと次はナナモ様の侍女がお待ちだと言う。王政庁へ行くとナナモ様からお話があると。首元がチリ、と痛んだ。慎重に歩み出す。
原因は侍女じゃない。別の思惑はあるようだ。
「既に巻き込まれた」
密室。ボク、ナナモ様の2人きり。とんでもない話を聞かされる。それを、ボクに何故。そして、盃が落ち――。
「ちがう」
自殺? いや違う。これは。もう少し情報を引き出すために抑える。
「ライバーンがやらかした。煽ったのはクリスタルブレイブ」
やられるフリは慣れてないが騙されてくれた。とにかく逃げる。仲間たちはどんどん残り、アルフィノと合流。ラウバーンの養子だというピピンとブレモンダのチョコボキャリッジに乗せられ、移動する。
嗚呼アルフィノが落ち込んでいる。当たり前か。
そして走り寄って来たのはシド。リンクパールを指さし、ため息をついている。
「ごめんね、シド。会社訪問は後回し」
「いきなりリンクパール繋げっぱなしは心臓に悪いから次からは一言言ってくれ」
「どういうことだ? アンナ」
アルフィノは首を傾げ、ボクらの会話に入って来る。
「数時間前に個人宛のリンクパールが鳴ってな。出たらずっと繋ぎっぱなしだし驚かされたさ。だからことの顛末は全部駄々洩れだ。説明は必要ないぜ」
「使えるものは全部使ってだけだよ?」
「利用価値のあるものとして認識されたのは嬉しいぜ。それから大急ぎで準備してたらあの商人に呼び出されてな。それで待ってたってわけだ。ほら早く乗れ!」
エンタープライズが飛ぶ。そういえば初めてエンタープライズに乗って一緒に飛んだメンツもこの3人だ。何も言わず少し離れ、空を見上げる。
どんよりとした空。星は見えそうもない。わずかな灯を絶やさぬよう、希望を乗せて飛ぶ船に、一滴の雨粒が落ちた。
「これからどうしたらいいの?」
フウガ、とボクはその名を呟いた。
その3へ // 蒼天編へ
#謎メモ
星降る夜に誓いを乗せて
注意・補足
星芒祭2漆黒編。星芒祭話蒼天編前提。シド光♀付き合い始めて以降の話です。シド少年時代捏造。
―――夜空、それはボクにとって重要な記憶。眠れない夜、フウガはいつも星の知識を教えてくれた。不確実な占いではなく、旅する上で必要な知識の1つとしてね。
そしてその輝く星はただのゴツゴツした何もない大地だと教えてくれた夢を理解できない男もいた。でも、聞いてく内に、ボクはそんな夜空へ旅立ちたいって思うようになったのさ。
でも飛空艇を知るまで空という大海を泳ぐ船なんて存在しないと思ってたし、ただの現実味のないぜいたくな要求だと思っていた。何より旅人に欲は必要ない。ただその大地を踏みしめればいいと。そう、キレイな白いお星さまに出会うまでは確実にそんなことを考えてた。
ねぇ、キミならボクのワガママを聞いてくれるかな? 確証もない聞きかじりの知識を聞いて。そして、全部護らせてほしいな。
◇
「アンナ、そういやもうすぐ星芒祭が来るだろ」
「そうだね」
料理から目を離さず、シドの言葉にアンナは相槌を打った。
風が冷たくなり始めた頃、いわゆる恋人関係になってから初めての冬。久々にトップマストの一室にて休日を過ごしていた。シドは壁に掛けられたカレンダーを見上げ、冒頭の言葉をつぶやく。
「何かほしいものとかあるか?」
「いきなりどうしたのそんなこと言って」
苦笑しながら鍋を見つめている。シドは「決まってるだろ」と言葉を続ける。2人は最近まで恋人としてではなく、ただの友人として関わってきた。そして星芒祭といえば、最初の年に暁の血盟とガーロンド・アイアンワークス社合同の盛大なパーティにてプレゼント交換をし、次の年は諸々の事情で何も渡せなかった。今年こそは何かをしたいと、シドは考える。
「せっかくこうやって隣にいられる関係になれたんだ。何か渡そうと思ってな。またプレゼント交換というのも悪くないが、素直にほしいものを聞いた方がいいだろ? いらんと思われるものを渡したくないんだ」
「んー……私はシドなら何をくれても嬉しいけど?」
アンナは手を止め、シドの方へ振り向いた。いやそうじゃなくてな、とジトリとした目で見る。いつもアンナは何を渡しても満面の笑顔で受け取る。―――大体の人間からもらったモノは丁寧に処分するが、今のシドはまだ知らない。
とにかく、時々はきちんとほしいものをはっきりと見せてほしいなんて要望をしっかりとアピールした。するとシドが予想もしていなかった言葉が返って来る。
「キミの休日」
目を丸くし、それはどういうと問う。アンナは「そんなに難しいことでも言った?」と首をかしげた。
基本的に一緒にいる時間は多数の勢力を巻き込んだ作戦中。それかガーロンド社に手伝いへ行った時だった。完全な休日にのんびりと料理を作りながら会話を交わし始めたのは、ここ"トップマスト"の一室を荷物置きがてら借りてからなのだ。時折トラブルによる泣きの通信が入り、本社へ戻る日も少なくない。それならば、確実に邪魔が入らない休日を作り出してもいいのでは、とアンナはぼんやりと考えていた。素直にその考えを口にする。
「悪くない提案でしょ? モノと言ったら違うかもしれないけどさ」
「む、そう言われたらありかもしれん」
次第に顔が高揚していくシドの姿を見てアンナはニコリと笑い、再び鍋の中へと視線を戻す。
今日はいい肉を手に入れたのでビーフシチューを煮込んでいる。アンナはシチューの類が好きだ。特にシドと一緒に食べるという行為が格別なのだが、本人が知ると調子に乗るのがわかっているので教えていない。
「で、シドは何がほしい? 私だけ聞いておいて自分は教えないなんて言わないよね?」
「考えてはいたんだがアンナの言葉で吹っ飛んじまった。ちょっと待っててくれ」
シドが考え込んでいる姿を見てアンナは苦笑した。鍋のフタを閉じ、エプロンを脱ぎながら傍へと歩み寄る。
ふと何かを思いついたのか手をポンとたたく。アンナは少しだけ嫌な予感がよぎった。そのしぐさはロクなことにならないことしか思い浮かんでいない時のやつだ。実際首元がざわついて来る。これは、ダメなヤツだとアンナは一歩後ずさった。
「髪をあ」
「やだ」
即答。シドはそれでもめげずに言葉を続ける。
「赤」
「絶対やだ」
「どうしてきちんと人の話を聞かず断るんだ」
「ロクなことにならない提案が聞こえたからだけど?」
アンナは食い気味に断りながら威嚇している。それに対しシドも眉間にシワを寄せながら対抗する。
「いやそんなことはない。ほらちゃんと全文聞いてから判断しても遅くないだろ。頼むからちゃんとしゃべらせてくれ」
「うぐ……じゃあわかった聞くだけ聞いてあげるよ言ってごらん」
真剣な目。アンナはそれに一番弱い。肩を落とし、投げやりに許可を与えるとシドは明るい顔をして言い放った。
「髪を赤く染めて来てくれないか?」
「ぜーったいにお断り!」
ほら、まともな要求じゃない。アンナは盛大にため息をついた。
◇
赤髪。それは出会いまで遡る。寒空の夜、白色の少年は性別不詳の凍死しかけていた赤髪のヴィエラを見つけ、助けた。温かい"シチュー"を手渡し、少しだけ熱が灯ったヴィエラは旅人だと名乗る。そして、少年の話を聞いた後、"次はキミがボクを捕まえてごらん。キミの夢である空へ運ぶ船を造るすべてを護ってあげるから"と約束し去る。その白色の少年こそがシドであり、赤髪のヴィエラこそがアンナだった。
以前の星芒祭で「会いたい人がいる」と口走ったシドの要望を拾い上げ、グリダニアで一晩の奇跡を起こしたように見せた。きっと不意にそれを思い出したのだろう。
アンナは腕組みをしながらシドをにらむと、凄く寂しそうな顔をしていた。徐々にしょぼくれていく顔に肩を落とし、まるで雨に打たれて尾を垂れた野良犬のように哀愁が漂っている。アンナは言葉を詰まらせ、「ああわかった! 理由要求!」と言ってやるとシドは満面な笑顔を見せた。
「前の星芒祭では見せてくれたじゃないか。俺はあの時確かに"会いたい人がいる"と言ったが、行き倒れていた旅人のこととは一言も言わんかったぞ?」
「うぐ」
「街全体で俺を騙して気合入れてくれたじゃないか」
「いやあの件は本当に悪かったって」
「もう一度見たい。ダメか?」
その言葉にアンナは必死に目を逸らす。
「ちゃんと最高なプレゼントの準備してくる」
シドは優しく手を取り、何も言わずアンナを見る。そしてしばらく沈黙が流れた。
その沈黙に耐え切れず、アンナはついに口を開く。
「あーもー! いつにするか決まり次第予定を教えて! あと期待しないで!」
シドは楽しみだ、そう言いながら頭の中でアンナを驚かせるための策を練り始めた。
それに対しアンナは過去の自分の行いを呪う。どうしてこうなった、片手で顔を覆った。
◇
「いいですよ。予定の調整しておきますので1週間程度ゆっくり楽しんできてください!」
ざわつく周囲。目が点になった真っ白い男。満面の笑顔を見せる会長代理。
もうすぐ年末。数々の地獄の前兆を見せているガーロンド・アイアンワークス社で、シドは首をかしげた。
少しだけ長い休暇をほしいと予定調整役のジェシーに話すと、当然理由を聞かれる。素直に「アンナと少し遠出しようと思ってな。暁や案件とは一切関係ないぞ」と言うと顔を輝かせながら冒頭の言葉を発した。その声に周囲も驚いたような顔をし、話題の渦中へ視線が向く。
「本当にいいのか?」
「会長、先日の完全な休みは何日ぶりでした?」
「1週間位か?」
「18日ぶりですけど。アンナが現れたからようやく詰めてた作業を終わらせたじゃないですか。今回も彼女に言われたからですよね?」
あれは2日前のこと。アンナが久々にガーロンド・アイアンワークス社に現れた。ジェシーはアンナが入って来るなり泣きつく。具体的には『どんな手段を選んでもいいから会長を仕事から引きはがしてほしいの。アンナがいないともうずっとしかめっ面で寝ずに作業を続けるんだから!』と言った。するとしばらく考え込んだ後、暴れるシドを抱えて戻って来た。
『じゃあこのワーカーホリック1日借りる。あとホースとデッキブラシ借りるね』
『悪かった! シャワー位1人でできるから下ろしてくれ!』
大男が抵抗してもビクともしていない腕力は相変わらず味方でいることに感謝する。そうしてようやくシドは完全な休暇を迎えたのであった。
「どういった計画をしているかは聞きませんよ。ちゃんとお土産は持って帰ってくださいね」
「む……まあそうしようか」
シドが仕事を詰めていたのも彼なりに理由はある。『アンナがいないとどこか落ち着かないので、手を動かす方がマシだ』というもので。アンナがもっと頻繁に連絡を交わし、顔を出すだけで解決するものではある。しかし、それはアンナというどこまでも自由な旅人だから不可能な願いなのだ。
好奇心の視線を避けるようにシドはその場を後にした。行く場所は1つ。今回メインの目的になるだろうブツを回収しに行った。
◇
扉を軽くノックした。こうしないと部屋の主に吊るされるのだ、仕方ない。『いや業務中は俺の方が偉いはず、どうしてこうなった』と思うが、ぐっと我慢する。
「開いてる」
「仕事中すまん、レフ」
扉を開くと何やら機械をいじくり回すエルファーとネロ。「普通に話をするのは久々、会長クン」とエルファーははにかんだ。
「ケッ、メスバブーンとの休暇はどうだったよ」
「久々に普通の料理を食べたさ。相変わらずシチューが好きなようでな」
「我が妹が元気そうで何より。で、昇給のお知らせでもしに来たのかな?」
ンなわけねェだろ夢見すぎというあきれた声を無視し、部屋の片隅に置かれた装置を指さす。
「休暇を取ったんだ。その装置、解析終わっただろ? 元あった場所に持ってく。もちろんアンナとな」
エルファーの「はぁ!?」という素っ頓狂な声が響く。
それはリンドウの終の棲家に置いてあった奇妙な装置。周辺一帯をカモフラージュさせるという大掛かりな現象がこの小さな機械1つで行われていた。上空から見ると完全に森で覆われているように見え、一体どう立ち回ればそんな装置を工面できたのかと疑問が残る。とにかく解析してみようと彼の孫から許可をもらい、しばらく会社に置いていた。
そう、今回はその装置を返すついでにリンドウの孫であるテッセンが営む宿で宿泊することに決めた。アンナを驚かせるプレゼントといえばまずはこれだろう。それに対し、エルファーの「僕も行く!」という言葉に即「ムリだろ」とネロは頭をたたく。
「君だけずるいぞ! 僕も妹と連休旅行!」
「メスバブーンが来たら姿隠すお前にそんなコトできるわきゃねェっつーの」
「うぐ……おいネロ、君も僕の敵なのか!?」
「別に俺は構わないぞ? 行きたいならジェシーと交渉すればいいじゃねえか」
「む、言われなくともそうさせてもらうやい」
そのままエルファーは走り去るが、すぐに肩を落として戻って来る。ネロはニヤニヤと笑いながら「愛しの妹サマとバケーションはできそうか?」と聞いてやるとエルファーはこの世の絶望を見たような声で吐き捨てる。
「ダメだと言われた」
「知ってた」
「悪いな、レフ。ちゃんとお前さんの分もリンドウに報告しておくからな」
「僕は別にリンのクソ野郎の所に行きたいから志願したわけじゃないが!?」
「そうだったのか。てっきり俺は一緒に墓参りに行きたいのかと」
違ったのかと首をかしげるとエルファーは怒りながらそっぽを向いた。
「じゃあしょうがないな。とにかくもらっていくからあとはよろしく頼んだぞ」
エルファーの恨みが込められた言葉を無視しながらシドはその場を後にした。そして休みの日と集合場所を告げるためリンクパールに手を取った。
◇
―――一方その頃。某所宿屋。
「なーにをすればいいんだ」
アンナは本日何度目かもわからないため息をついた。そう、髪を赤く染めて現れろと言われてもどういう顔で行けばいいのか悩んでいる。普段の自分ではなくきっとかつての自分を要求していることだけはわかった。正直言って気乗りしない。
『じゃあ"ボク"が全部やってあげようか?』
内なる存在が語りかけて来る。アンナは「はぁ!?」とあきれた声を出す。そして姿なき存在に向かって威嚇した。だまされてはいけない。この存在が余計なことをしなければ変に距離が近づくこともなかったし、あってももっと順序的にことが進み、あんな散々な初夜にはならなかったとアンナは信じている。
「そもそもこんなことになったのキミが原因。やらせるわけないでしょ」
『ケチ。"ボク"も時々はシドで遊びたい』
「ダメ。以前の星芒祭でシドが色々感情抱いた原因の力なんて絶対借りない!」
『チッ……』
舌打ちしやがったなとアンナはまくし立てるが周辺には誰もいない独り言で虚しさが勝つ。またため息をつきながら奥に仕舞い込んでいた衣装を吊り下げた。箱から"赤髪"用の小道具を取りだし机に並べる。
そして小さなカバンに金平糖と非常食を突っ込んだ。金平糖は口寂しい時に舐める用であり、シドの機嫌を直す用だ。それから以前より準備していた"アレ"を広げる。これはずっとプレゼントとして準備していたものだ。渡せる雰囲気になればいいが―――。それはいつでもいい、置いとこう。
準備はこれ位だろうか? と思った瞬間にリンクパールが鳴る。「ひゃん!?」とまた小さな悲鳴を上げてしまう。やはり不意打ちに耳元で音が鳴るものは苦手だ。今回はシドが予定がわかり次第繋げると言われたので仕方なく装着している。せきばらいをし、「もしもし」と出てみるともちろんシド。当然だ、今日の通信予定は彼しかいないのだから。
『俺だ。今大丈夫か?』
「大丈夫じゃないって言ったら切る?」
『よし言う余裕があるなら大丈夫だな』
「はいはい。用件」
聞いてみるとどうやらちゃんと休みが取れたらしい。予定の日と集合場所としてなぜかリムサ・ロミンサの飛空艇発着場を指定される。生返事した後、こっそりと舌打ちをしたが聞こえてしまったようだ。「覚えてろ」って言われ、挨拶を交わし切られてしまった。
「―――ボク、終わったな」
柔らかな笑みを浮かべ、ベッドに沈んだ。
◇
当日。シドは約束の時間より少し前にリムサ・ロミンサに降り立つ。ランディングで周囲を見回すと―――いた。
「待たせたか? 旅人さん」
赤髪でぶっきらぼうな顔をした"旅人"が座っていた。予想通り相当早い時間から座っていたらしい。虚ろな眼差しでシドを見上げていた。隣に座り、腕を掴んだ。
「やっと捕まえたぞ」
「もしかしてそれがしたかっただけとは言わないよね?」
「半分くらいは」
「莫迦」
アンナはシドの頬をつねる。どこに行くのかと聞くと「まああと少しで来るからな」と苦笑を返された。
「お前さん、初めてこの周辺に降り立ったのはグリダニアじゃなくてリムサ・ロミンサだったらしいじゃないか」
「―――黒渦団からでも聞いたの?」
「ある情報筋だ」
そう、アンナが最初に三国に降り立ったのはリムサ・ロミンサだった。あれは5年以上前、第七霊災が起こった時のこと。迷子になりながらたどり着いたカルテノーで偶然黒渦団の人間を助けた時、街を探してると言ったらここまで連れてきてもらった。その時は飛空艇ではなくチョコボキャリッジと船で乗り継いだ。しばらく人助けをし、偶然商人が売っていたヴィエラ族の民族衣装を購入したのもこの時期である。懐かしい思い出だが、まあ必要ない情報なので誰にも言った記憶はない。
首をかしげながら待っていると普段より大きな飛空艇がランディングに到着した。普段乗せてもらっているハイウィンド飛空社定期便と違い客室があるタイプのものだ。アンナは目を丸くし、それを眺めているとシドは立ち上がり、「さあ行くか」とニィと笑う。
「え、は?」
「おいせっかく来てもらってるんだ乗るぞ」
「えぇ……」
引っ張られ、慣れた手つきでチケットを船員に渡し乗船する。そしてまったく落ち着かないキレイな個室に案内された。丸い窓からは外の景色が見える。ここまで大きな飛空艇は劇団マジェスティック所有の"プリマビスタ"ぶりだ。この時だってシドは時々顔を出してきたっけと少しだけ昔のことを思い出す。
「本当にどこ行く気?」
「その内わかるさ」
「高かったんじゃ?」
「これまでアンナがイタズラに使った金額よりかは安いんじゃないか?」
「くっ……金銭感覚お坊ちゃん」
「人のこと言えないだろ」
小突き合ってる内に飛空艇は飛び立ち、アンナはふと窓の外を見ると青い空が広がっていた。椅子に座り、金平糖を一口食べる。
「これがプレゼント?」
「違うさ。ただ限られた時間で往復すると考えたら空路がいい」
「……クガネ」
「着いてからのお楽しみだ」
はいはいと言いながら隣に座ったシドを見る。相も変わらず笑顔でため息をつきたくなる。肩を抱き寄せ軽くたたいてやると「だからそれは俺からさせてくれ」と言いながらもそのまま身を預けていた。
「こうやってアンナと2人で飛空艇に乗るのは珍しいよな」
「基本一緒に乗るの作戦中」
「ちゃんといい休暇になるよう計画したんだ。覚悟しろ」
「言葉が違うよね?」
「途中で逃げられたらたまったもんじゃないからな」
「つまんないってならなきゃ逃げない」
軽く口付けてやるとそのまま舌をねじ込まれる。はいはいと心の中で言いながらそのまま絡め合った。水音とくぐもった吐息にアンナはギュッと目を閉じ、終わりを待つ。そして離れた瞬間に眉間にシワを寄せながら頭をなでた。
「ここまでだよ。流石に迷惑」
「わかってるさ」
瞬時にアンナは後悔することになる。それからベッドまで抱き上げられ、そのままキスを繰り返した。そう、角度を変えながら唇にキスを落とすだけ。優しく抱きしめ、ただもどかしい行為が続く。相変わらずトリガーを引くのはアンナの役目ということなのだろう。
「俺は悔しかったんだ」
「何が」
「お前さんにとって初めての飛空艇ってのが俺が造ったものじゃなかったことがな」
「ああそういう。しょうがないでしょ。ていうか行方不明だったじゃん。無理」
「だから悔しいんだ」
数分後、少しだけざわついた首元が何事もなく楽になっていた。そしてキスに満足したのか急に語り出す。相変わらずこっちが余計なことをしなければ鉄の理性だとアンナは感心した。
「初めて飛空艇に乗ったのがエオルゼアに来てからだろ? アンナがあの旅人だって気づかなくてもチャンスはあったさ」
「悔しければ第七霊災後事故って記憶を失った自分を恨んどいたらいい」
「ぐっ……」
「せめて思い出した時に"旅人さん"のこともちゃんと認識できてたら楽しいことになったのに残念だったねぇ」
「それに関しては今も気にしてるから言うんじゃない!」
そう、シド自身も気にしていた。記憶喪失になっていたシドがエンタープライズ号で大空へ飛び立ち、思い出した瞬間のアンナの笑顔。柔らかく、何かを懐かしむように目を細めシドを見ていた。この時、アンナだけが過去に巡り合った記憶を想起し、捕まることはないとほくそ笑んでいたことを知った時は拳を握りしめるほど悔しかった。カラカラと笑っているとシドは顔を赤くし、そのままアンナの上に乗る。
「ちょっと?」
「ああちょっとだけだ」
「今の別に合意したわけじゃない!?」
「アンナが悪い」
「弁償したいの!?」
「そんなことするわけないだろ。まあ最終的にちょっとだけアンナの口を」
「最低! ほんっと最低なこと素面で言うなぁエロオヤジ!」
シドは何も言わずほっぺをつねった。アンナは痛い痛いと言いながら表情を窺うと非常に機嫌がよろしくない。消えていたハズだが徐々に首元がざわつき、鳥肌が立つ。
やらかした。天井を見上げ、これからの行為に想いを巡らせる。まあ忠告しているから流石にキツいことはしないだろう。せめて下船するまでには終わらせようと苦笑した。
◇
長時間の船旅が終わり、外へ出るとそこはクガネ。アンナが予想していた通りの場所だ。温泉巡りでもするのかと聞くとそれもいいがと苦笑している。
「とりあえず宿屋で休もうじゃないか。明日は早いからな」
「はぁ」
「そしたら続きをだな」
アンナのあきれたような声がランディングに響く。シドはニィと笑顔を見せた。
「さっき物足りない顔をしてたからな。大丈夫だ、俺だって明日に支障が出るし一晩付き合わせる気はないぞ」
「それが当たり前なんだけどなぁ!?」
「人と惚れた腫れたの駆け引きを一切してこなかったお前が当たり前を語るんじゃない」
「私だってあなたにだけは言われたくないけど!?」
ケラケラと笑いながら温泉宿で一晩過ごし、朝になるとシドは大隼屋の方へと引っ張っていく。
たどり着いた第二波止場には意外な人物がいた。着物の男にシドは大きく手を振る。
「テッセン、久しぶりだな」
「急に連絡をいただいた時はびっくりしましたよ、シドさん」
「え、テッセン。何で?」
黒色の短い髪に柔らかな笑顔を浮かべる青年が駆け寄って来る。命の恩人であるリンドウの孫にあたるテッセンは髪を指さしながら、驚いた顔をしたアンナへ話しかけた。
「髪色、戻したんですね。お久しぶりですエルダスさん」
「むーそういうことかぁ。―――シドにやれって言われただけだから近日中に戻す予定」
「俺は別にずっと赤髪でもいいと思ってるがな。ほら暗くなっちまう前に行こうじゃないか」
2人用のはきちんと予約しておきましたのでとニコリと笑顔を見せている。アンナは苦笑し、シドのほっぺをつねった。
大隼がドマの空を飛ぶ。その景色をアンナはぼんやりと見つめていた。山へ行くごとに徐々に深く茂った森が増え、リンドウとの旅路を少しだけ思い出す。
ふと先を見ると山の上に、見覚えのある小屋があった。
「フウガの家。前見えなかった」
「そうだな」
「この村本来の姿ですよ」
以前訪れた時は樹に覆われた森が空から見えていたはずだ。2人が言っていることにアンナはピンと来ない。
村に降り立つと以前より人がにぎわう場所と化していた。アンナはそれを目を丸くして見ている。
「シドさんがアレを持って帰ってからまた観光客が増えたんですよ。おかげで大忙しで」
「あー……すまない」
「いいんですよ。祖父は複雑でしょうがね」
「何の話?」
テッセンは笑みを浮かべ、実は祖父のリンドウが帝国で有名人だったという話をする。出版されていた本の中では幼い頃のアンナも登場することや、最近それについて書かれた本と舞台の記憶を見せてもらったと言うとアンナは露骨に嫌そうな顔をした。
「あんのアシエン……」
「それで昔から遥々ガレマール帝国や属州よりたくさんの人が墓参りに来ていただいていたんですよ。出会いに恵まれ、こうやって生活させてもらってます。ドマ解放から減ってましたが村を出た子供たちがエオルゼアを中心に噂として広めたようで」
「うちの新入社員にもここ出身のやつが最近来ててな。ああ不思議なことに昔からここだけ魔導技術が普及されていたんだ」
「―――本当に余計なことをしやがって。どんだけあいつ私のこと好きだったのさ」
小さな声でアンナはつぶやく。シドには聞こえていたようで、ジトリとした目でにらんでいることに気づいたアンナは「死人に口なし」とだけ言って金平糖を放り込んだ後にアゴヒゲをなでた。
◇
夜。アンナはリンドウの家の前で空を見ていた。静かな場所で星が輝いている。「やっぱりここにいたか!」とシドは息が上がりながら駆け寄って来る。
「俺が少し呼ばれてる間に抜け出すんじゃない!」
「別に逃げたわけじゃないんだから大げさな。ほら星がキレイだから見て」
アンナはニコリと笑顔で空を指さす。シドはため息をつきながら隣に立ち、空を見上げる。確かにキレイだなと笑みを浮かべた。ふとアンナはあのさと口を開く。シドは首をかしげるとそのままボソボソと話し始めた。
「昨日の話の続き。初めて乗せたかったとかそういう」
「俺に余計なことを思い出させる気か?」
「ちーがーう」
くるりと回りながら数歩歩き出す。そして、笑顔でこう言った。
「あなた―――いや、キミはこの空で満足してる?」
「……は?」
アンナは手を開き、昔ある人に教えてもらった知識を披露した。この空を抜けると宇宙という海が広がり、輝く星に降り立つことができる。まあ普段輝いている星は、ただのデコボコとした塊だから面白くないみたいだが。そしてもっと進むといつもキレイに輝き満ち欠けする大きな月があり、さらにその先がどうなっているか誰も知らないのだと。
「そして月にはボクのように耳長ウサギちゃんがいるんだって。いやホントにひんがしの国では月の黒っぽい部分がね、こうウサギが餅つきしてるように見えるって逸話もある。ほら、もしかしたら故郷かも?」
「そんなわけないだろう。今立ってる世界がお前さんが生まれ育った場所だ」
「ふふっどうでしょう。その場所に連れてってくれたらわかるかもよ?」
そしてボクはもっとその先を見たいのさ、とアンナはニィと笑う。シドはそのアンナの笑顔に見惚れ、ぼんやりと見つめていた。その後ジャンプを1回、2回。跳ねながら空へ手を伸ばす。
「でもさ、ボクが今いくらジャンプしても、月どころかこの空さえ越えることができない。じゃあ何が言いたいかわかるよね?」
手を握り、シドを引っ張りながらまたくるりと回る。シドはバランスを崩さないよう必死に回る。2回、3回と2人は星空の下で踊った。
「その空を飛ぶためのものをさ、キミが造るんだ。アラグはかつて空へ衛星を飛ばした。じゃあ今のキミなら人と希望を乗せて、もっと遠くまで飛ばせるんじゃない? オメガだって何とかしちゃったキミなら、何だってできるハズ」
「お前さんを乗せる、船」
「今そんな船、存在しないでしょ? いやまあどこかが極秘に開発してるとかあったら知らないけどボクがそんな所お邪魔するわけない。じゃあ今度こそその"ハジメテ"とやらをボクから奪うことができる。悪くはない提案でしょう?」
リンドウが占星術の知識を教えてくれたように。誰かが宇宙の知識を教えてくれた時、心が躍ったことをアンナは今でも鮮明に覚えている。そして現在、それを叶えてくれそうな人を見つけたことを、前人未踏の地を旅できるかもしれないこともすべてが嬉しくてたまらなかった。
「だから、そのボクの夢である宇宙へ運ぶ船を造るキミを、キミが必要だと思う人たちを、その場所も全部ぜーんぶ! ボクが護ってあげる。ボクはこう見えてとーっても強いんだから。せっかく捕まえられたんだよ? それ位の楽しみがほしい!」
ボクは意外と貪欲なんだよ、知ってた? とアンナがニィと笑顔を見せる。シドはその言葉に目を丸くした。
「ど、どうしたんだいきなりそんな」
「む……そりゃあ旅を延期する言い訳さ。それ位気づこうよ、ボクの天才機工師様?」
満面な笑顔に、今まで聞くことがなかったアンナの本音。シドは心のどこかに火を灯された感覚を味わう。
「ほら誓ってよ。フウガのお墓の前でさ。ボクを奪って、遠い宇宙へ連れていくって。生きてる者の特権を、存分に使ってやるってさ。―――厭かな?」
ピタリと止まり、アンナは目を細め、シドを見やった。しばらく静寂が辺りを包み込む。じっと見つめ合い、答えを待つ。今、世界で一番ワガママだろうこの願いを、受け入れてほしいとアンナは願った。
「―――さ」
「うん?」
「それ位お安い御用さ、お姫様。なんてな」
そんなワガママを、シドは断れるわけがなかった。未だ誰も達成していない夢があふれたその願いは、シドもずっとほしかったモノ。元より好きだと自覚するより前からこの人について行くだけで、思わぬ技術が転がって来ることに一喜一憂していた。また一緒に何かを成し遂げる目標ができる、それが嬉しくてたまらない。
「あーのーねー。ボク、お姫様ってナリじゃないよ?」
「俺からしたら今のアンナは十二分にそんな存在さ」
「莫迦。ほら早く戻ろ? ボクは眠いのさ」
「ああ夜は長いからな。ゆっくりしような」
「ねえ今の言葉聞いてた? 難聴が始まってるんじゃないかって時々心配に、って!?」
ねえ、ちょっと、いや逃げないから腰を掴むなという抗議を無視し山を下りていく。
ふとシドは浮かんでいた疑問をアンナにぶつける。
「月のことを教えてくれた人は、誰なんだ」
「知らない」
無機質な声。シドは立ち止まり、アンナを見上げる。銀と赤の目に無表情でアンナは何か、と言った。
「―――あー多分旅の途中で聞いただけだからさ。旅人は名前なんて細かく覚えないスタンスだったし」
「そう、か」
両目共に柘榴石色の瞳、月の光による錯覚だったのだろうか。いつもの見知った笑顔に切り替わっている姿が少しだけ恐ろしく感じる。
アンナは以前から察してはいたが少しだけ記憶が怪しい部分がある。どこか専門的な知識についての出所を問うとこうやって知らないと即答するのだ。入れ知恵した主に心当たりがある。アンナの兄であるエルファーの旧友、ア・リス・ティア。かつて時代にそぐわぬ知識量と技術力にエルファーも憧れ、技術者の道へと進んだという。アンナが本当にかつてその男に会ったかは確かめる術はない。だが、両者の友人であるリンドウといたのなら、ありえない話とは言い切れなかった。
『あの子が本当にリンのすべてを"継承"しているのなら、強く"絶対に勝って帰って来い"と願えばいい。きっとすべて終わらせて君の所へ帰って来る。かつて僕とアリスはリンをそういう体に変えたから』
いつかその時が来たら教えると言われた秘密が、シドの頭の隅で引っかかっている。流星の軌跡のような斬撃を放てるのならば、確実に普通の人の道からは外れている―――と言われていた。
それでもいばらの道を歩み続けるキレイな人の傍にいたいと、その体を抱き寄せた。
◇
シドが朝目を覚ますと既にアンナは起床し、炊事場付近にいた。少しだけフラフラと重そうに歩くアンナを見て苦笑する。
「もっと寝ててもよかったんじゃないか? 手伝いもさせてもらえないんだろ」
「絶対にやだ」
ジトリとした目でにらんでいる。昨晩はそんな余裕もなくなっていたくせにとシドは少しだけ優越感に浸っていた。テッセンはそんな2人へニコリと笑いながら食事を運ぶ。
「おはようございます、お2人さん。よく眠れましたか?」
「ああもちろん」
「……ノーコメント」
アンナは気づいていることもあるが黙る。『それは藪蛇というものだ』と昔リンドウに教えられた。
食事は事前に要望を伝えていた通りのひんがしの国式だ。炊いた白米に焼いた魚、味噌汁と軽い付け合わせ。"大人しく、普通に、食べろ"と目で伝えるとアンナはニコリと笑い返した。
朝食後、持って来ていた装置をテッセンに手渡す。
「もし悪意を持ったやつが来だしたらまたこれの電源を入れたらいい」
「―――ありがとうございます。そうだ、エルダスさん。どうぞ」
テッセンは紙の束を差しだす。アンナは首をかしげると柔らかな笑みを浮かべた。そしてシドに聞こえないように耳打ちする。
「フレイヤさん。祖父があなたに遺した手紙ですよ。やっとお渡しできました」
「本当に!?」
アンナの問いにテッセンは肯定を返すと即手紙を開き、目を通す。シドはジトリとした目でそれを覗き込むと以前見せてもらった達筆のモノだった。
「アンナは読めるのか?」
「うん。フウガ、昔から強い文字を書く人だったから慣れるまで苦労した」
笑顔、もの言いたげな顔、歯を食いしばり、最後は泣きそうな顔でその手紙を読んでいた。持って帰ってもいいかと問うとテッセンは笑顔でうなづく。ふとシドの方を見ると少しだけ目を逸らし、機嫌はよくない。厭な予感がする。それでも聞きたいことはあった。
「ねえ、聞きたいんだけど」
「何ですか?」
「どうした?」
「……シド、私が超絶苦労して世界救ってる間にここ来てこの手紙読んだでしょ?」
シドは即そっぽを向く。そして「知らん」と言った。眉間にシワを寄せ、手紙のある部分を指さしながら声を上げる。
「こっちの目を見て言ってくれないかなぁ? ねえあなたがあの時に言ったことそのものが書いてあるんだけど?」
「いやその、アンナ落ち着いてくれないか」
「あなた魔導院でテストの時、カンニングペーパーでも作って臨んでた?」
アンナは両ほっぺを引っ張る。シドはその顔を見ると真っ赤で少しだけ涙を溜めていた。言葉が詰まりながらも、後頭部を撫でる。
「ずるい。そんなことされて断れると思ってる?」
「断られたくないから確実な手を使ったに決まってるだろう」
「―――ずるい。テッセンも」
アンナはテッセンのほっぺも引っ張る。ニコニコと笑顔ですみませんと言った。
「懐かしいですね。失言したらいつも祖父にこうやってほっぺを引っ張られてました」
「私も散々されたし。年取っても変わらなかったんだ」
「……おいアンナそれもリンドウのクセだったのか?」
「あっ」
やってしまったと判断する。ニコリと笑みを見せるとシドも笑みを見せた。次の瞬間には腕を掴み、引っ張っていく。
「テッセン、そろそろ帰る支度をしようと思う。一度部屋に戻るからな」
「はいごゆっくり」
「ゆっくりしない! 帰る! 私すぐ帰りたい!」
そのまま客室へ引っ張られていく姿を仲居たちは見守っている。
「若いですねえ」
テッセンは体を伸ばしながら、手渡された装置を祖父の家へ持っていくために歩きだした。
◇
お土産をたくさんもらい、村を後にした。また旅の思い出を報告に行くとアンナが言えば、背後にてジトリとした目で見られるので肩をすくめ、「もちろんこの人も」と苦笑する。
「あとよければお兄様も連れて来たらいかがでしょうか? きっと祖父も喜ぶと思いますよ」
「確かに。まさか兄さんがフウガの知り合いだったなんて思わず」
シドは心の中で"絶対に暴れるが、アンナに行こうと言われたら多分掌返すだろうな"と普段の言動を思い出していた。確実にエルファーはやだと言うがアンナに手を握られると満面の笑顔になり、今まで恨み言ばかり吐いていたくせに美しい思い出を話すだろう。
「兄さんはここ知らないんだよね?」
「ええ。お友達だという方は時々来てたのですがヴィエラの方は来ませんでした」
「フウガの、友達」
「お名前は覚えてませんがとても元気な方で」
アンナは覚えがないなあと首をかしげる。そんな友達がいたのなら一緒に旅をしていた頃会ったことあるだろうに、不思議だと思った。シドはそれが誰かとエルファーから話は聞いている。しかし思い出話を延々とされる予感がしたので、絶対に名前を出したくなかった。話題を打ち切るように「じゃあそろそろ帰るか」とニィと笑ってやるとアンナも柔らかな笑みを浮かべる。
そうしてテッセンたちと軽く会釈を交わし、大隼に乗った。
「楽しかったか?」
「ん、悪くはなかったよ」
「そりゃよかった」
本当は凄く嬉しい時であったが素直に伝えると調子に乗られるので素っ気なく返した。シドはそれでも機嫌よくアンナへ寄りかかる。肌寒い空の下、静かな時が過ぎ去った。
◇
「これは?」
「プレゼント」
クガネに戻り、街を適当に散策しながらまたお土産を買った。これは暁の血盟用にしよう、じゃあこっちは会社用かと会話を交わしながら菓子や小物を物色する。
気が済んだら今日はまた望海楼に泊まることにした。飯をいただいた後、畳の上でアンナはカバンから袋を取りだす。少し厚みのあるそれに首をかしげながらシドは受け取った。
「あっちで渡したらよかったんじゃ」
「タイミングが難しかった」
「イタズラ装置じゃないよな?」
「あなたの会社に準備してるよ」
シドにとってそれは初耳だった。作動する前に見つけるからなとブツブツ言いながらシドは袋を開く。
―――黒と赤のマフラー。相当長い。羽根のような意匠が施されている。
「編んだのか? 相当長いが」
「暇だったから」
脳裏に無心で延々と棒針編みをする姿が容易に浮かんだ。アンナはシドの手からマフラーをくすねると、そのままぐるぐると首に巻く。
「温かいな」
「でしょ? 今回の休日のお礼」
抱き寄せ、額にキスをした。シドは慌てながらそれは俺がすることだとほっぺを引っ張る。そしてシドもまたカバンの中から袋を取りだした。アンナは開けたらいいのかと問えば当然だと胸を張る。
開くとガーロンド・アイアンワークス社のエンブレムが施されたツールベルトが入っていた。目を丸くしてそれを持つ。
「これで気合を入れてイタズラに励んだらいいの?」
「そんなわけないだろう。お前何でもかんでも旅用のカバンから取りだすじゃないか。製作用道具とかなくさないか心配でな」
「あはは、ありがと」
仕方ないから使ってあげるよと苦笑してやると、シドは巻いていたマフラーを少しだけ解き、そのままアンナの首に掛ける。アンナは肩をすくめそのまま巻かれた。
「これはこういう使い方をしたらいいんだろ?」
「……ご想像にお任せ」
「多分立ってても行けるな」
「外ではしないからね」
「寒い外で巻かないでいつ使うんだ」
何も言わず後ろから覆いかぶさるように抱きしめてやるとシドは苦笑しながらその腕を握る。
「私はいつも冷たいんだから、首にちょっと巻いても誤差。あなたがちゃんと温かいってなってる所、見たい」
そう言いながら頭の上に顎を置き、擦りつけるように動かした。アンナはいつも死人のように体温が冷たい。昔はもう少し温かかったと成人前のことしかわからないエルファーは言っているが、本当のことはシドにはわからなかった。しかしわかることは1つだけある。
「じゃあ今から少し温まるか」
「ねぇ脈略」
「今のは明らかに誘ってただろ」
アンナの体温は体を重ねると人並みのものになる。それはシドだけが知っている秘密。どういうプロセスを踏んだらそうなるかは未だわからないが。いつか解明したいとは思っている。
ニィと笑い、振り向くとばつの悪そうな顔でこちらを見ていた。嫌がっている動きは見せていないということは合意と取ってもいいのだろう。ゆっくりと体の向きを変え、アンナの膝の上に座り向き合う形になった。こうするとちょうど視線の高さが合うので、じっと見つめてやると、柘榴石色の瞳が揺れた後細められる。額をこつんと合わせ、首に手を回した。
「むー……そんなにシたいなら付き合ってあげるから」
「そうだな。俺がしたいからしょうがないだろ?」
「そういうこと」
アンナは手持ち無沙汰となった手をシドの腰へと回した。そう、気づいていないわけがない。どさくさに紛れて変なモノを買ってたことを。しかしどこかそれを楽しみにしている自分がいるのだ。あきれてため息をつきたくなる。
◇
次の日。軽い朝食を済ませ、そのままクガネランディングへ向かう。
「もう帰るの?」
「アンナが作った飯が恋しいからな」
「はいはい。何食べたい?」
ニィと笑い、言ってやる。
「シチューに決まってるだろ?」
「じゃあリムサ・ロミンサで買い出ししなきゃね。そんなにシドが好きなら仕方ないなぁ」
「ああ俺が好きだからな」
もっと自分をはっきり出せばいいのにとシドは苦笑する。口にしたらそっぽ向きしゃべらなくなるので言わないが。
今回の休暇で少しだけアンナという存在を再び掴めた気がして嬉しくなった。寄りかかり、明日戻るであろう日常に対し少し憂鬱な気分になりながら、またアンナにありがとうと礼をつぶやく。
そんなシドの姿を見てアンナは肩を掴み、優しくなでる。脳内で兄に送る手紙の文面を練りながらシチューの具を考える。ここ数日ずっとひんがしの国やドマ料理ばかりだったので少し違うものにしたい、パンも食べたいな。ボソボソと声に出してメニューを考えると隣にいるシドが程よくあれがいいこれがいいと茶々を入れて来る。
目を細め、これが人といるという行為かと笑みを見せる。それは1人で旅をしていた頃にはまったく想像していなかった日常。リンドウの手紙に書いてあった言葉を胸に刻みながら、夢を叶えてくれる男に心の中で"好き"とつぶやいた――――。
#シド光♀ #季節イベント
星芒祭2漆黒編。星芒祭話蒼天編前提。シド光♀付き合い始めて以降の話です。シド少年時代捏造。
―――夜空、それはボクにとって重要な記憶。眠れない夜、フウガはいつも星の知識を教えてくれた。不確実な占いではなく、旅する上で必要な知識の1つとしてね。
そしてその輝く星はただのゴツゴツした何もない大地だと教えてくれた夢を理解できない男もいた。でも、聞いてく内に、ボクはそんな夜空へ旅立ちたいって思うようになったのさ。
でも飛空艇を知るまで空という大海を泳ぐ船なんて存在しないと思ってたし、ただの現実味のないぜいたくな要求だと思っていた。何より旅人に欲は必要ない。ただその大地を踏みしめればいいと。そう、キレイな白いお星さまに出会うまでは確実にそんなことを考えてた。
ねぇ、キミならボクのワガママを聞いてくれるかな? 確証もない聞きかじりの知識を聞いて。そして、全部護らせてほしいな。
◇
「アンナ、そういやもうすぐ星芒祭が来るだろ」
「そうだね」
料理から目を離さず、シドの言葉にアンナは相槌を打った。
風が冷たくなり始めた頃、いわゆる恋人関係になってから初めての冬。久々にトップマストの一室にて休日を過ごしていた。シドは壁に掛けられたカレンダーを見上げ、冒頭の言葉をつぶやく。
「何かほしいものとかあるか?」
「いきなりどうしたのそんなこと言って」
苦笑しながら鍋を見つめている。シドは「決まってるだろ」と言葉を続ける。2人は最近まで恋人としてではなく、ただの友人として関わってきた。そして星芒祭といえば、最初の年に暁の血盟とガーロンド・アイアンワークス社合同の盛大なパーティにてプレゼント交換をし、次の年は諸々の事情で何も渡せなかった。今年こそは何かをしたいと、シドは考える。
「せっかくこうやって隣にいられる関係になれたんだ。何か渡そうと思ってな。またプレゼント交換というのも悪くないが、素直にほしいものを聞いた方がいいだろ? いらんと思われるものを渡したくないんだ」
「んー……私はシドなら何をくれても嬉しいけど?」
アンナは手を止め、シドの方へ振り向いた。いやそうじゃなくてな、とジトリとした目で見る。いつもアンナは何を渡しても満面の笑顔で受け取る。―――大体の人間からもらったモノは丁寧に処分するが、今のシドはまだ知らない。
とにかく、時々はきちんとほしいものをはっきりと見せてほしいなんて要望をしっかりとアピールした。するとシドが予想もしていなかった言葉が返って来る。
「キミの休日」
目を丸くし、それはどういうと問う。アンナは「そんなに難しいことでも言った?」と首をかしげた。
基本的に一緒にいる時間は多数の勢力を巻き込んだ作戦中。それかガーロンド社に手伝いへ行った時だった。完全な休日にのんびりと料理を作りながら会話を交わし始めたのは、ここ"トップマスト"の一室を荷物置きがてら借りてからなのだ。時折トラブルによる泣きの通信が入り、本社へ戻る日も少なくない。それならば、確実に邪魔が入らない休日を作り出してもいいのでは、とアンナはぼんやりと考えていた。素直にその考えを口にする。
「悪くない提案でしょ? モノと言ったら違うかもしれないけどさ」
「む、そう言われたらありかもしれん」
次第に顔が高揚していくシドの姿を見てアンナはニコリと笑い、再び鍋の中へと視線を戻す。
今日はいい肉を手に入れたのでビーフシチューを煮込んでいる。アンナはシチューの類が好きだ。特にシドと一緒に食べるという行為が格別なのだが、本人が知ると調子に乗るのがわかっているので教えていない。
「で、シドは何がほしい? 私だけ聞いておいて自分は教えないなんて言わないよね?」
「考えてはいたんだがアンナの言葉で吹っ飛んじまった。ちょっと待っててくれ」
シドが考え込んでいる姿を見てアンナは苦笑した。鍋のフタを閉じ、エプロンを脱ぎながら傍へと歩み寄る。
ふと何かを思いついたのか手をポンとたたく。アンナは少しだけ嫌な予感がよぎった。そのしぐさはロクなことにならないことしか思い浮かんでいない時のやつだ。実際首元がざわついて来る。これは、ダメなヤツだとアンナは一歩後ずさった。
「髪をあ」
「やだ」
即答。シドはそれでもめげずに言葉を続ける。
「赤」
「絶対やだ」
「どうしてきちんと人の話を聞かず断るんだ」
「ロクなことにならない提案が聞こえたからだけど?」
アンナは食い気味に断りながら威嚇している。それに対しシドも眉間にシワを寄せながら対抗する。
「いやそんなことはない。ほらちゃんと全文聞いてから判断しても遅くないだろ。頼むからちゃんとしゃべらせてくれ」
「うぐ……じゃあわかった聞くだけ聞いてあげるよ言ってごらん」
真剣な目。アンナはそれに一番弱い。肩を落とし、投げやりに許可を与えるとシドは明るい顔をして言い放った。
「髪を赤く染めて来てくれないか?」
「ぜーったいにお断り!」
ほら、まともな要求じゃない。アンナは盛大にため息をついた。
◇
赤髪。それは出会いまで遡る。寒空の夜、白色の少年は性別不詳の凍死しかけていた赤髪のヴィエラを見つけ、助けた。温かい"シチュー"を手渡し、少しだけ熱が灯ったヴィエラは旅人だと名乗る。そして、少年の話を聞いた後、"次はキミがボクを捕まえてごらん。キミの夢である空へ運ぶ船を造るすべてを護ってあげるから"と約束し去る。その白色の少年こそがシドであり、赤髪のヴィエラこそがアンナだった。
以前の星芒祭で「会いたい人がいる」と口走ったシドの要望を拾い上げ、グリダニアで一晩の奇跡を起こしたように見せた。きっと不意にそれを思い出したのだろう。
アンナは腕組みをしながらシドをにらむと、凄く寂しそうな顔をしていた。徐々にしょぼくれていく顔に肩を落とし、まるで雨に打たれて尾を垂れた野良犬のように哀愁が漂っている。アンナは言葉を詰まらせ、「ああわかった! 理由要求!」と言ってやるとシドは満面な笑顔を見せた。
「前の星芒祭では見せてくれたじゃないか。俺はあの時確かに"会いたい人がいる"と言ったが、行き倒れていた旅人のこととは一言も言わんかったぞ?」
「うぐ」
「街全体で俺を騙して気合入れてくれたじゃないか」
「いやあの件は本当に悪かったって」
「もう一度見たい。ダメか?」
その言葉にアンナは必死に目を逸らす。
「ちゃんと最高なプレゼントの準備してくる」
シドは優しく手を取り、何も言わずアンナを見る。そしてしばらく沈黙が流れた。
その沈黙に耐え切れず、アンナはついに口を開く。
「あーもー! いつにするか決まり次第予定を教えて! あと期待しないで!」
シドは楽しみだ、そう言いながら頭の中でアンナを驚かせるための策を練り始めた。
それに対しアンナは過去の自分の行いを呪う。どうしてこうなった、片手で顔を覆った。
◇
「いいですよ。予定の調整しておきますので1週間程度ゆっくり楽しんできてください!」
ざわつく周囲。目が点になった真っ白い男。満面の笑顔を見せる会長代理。
もうすぐ年末。数々の地獄の前兆を見せているガーロンド・アイアンワークス社で、シドは首をかしげた。
少しだけ長い休暇をほしいと予定調整役のジェシーに話すと、当然理由を聞かれる。素直に「アンナと少し遠出しようと思ってな。暁や案件とは一切関係ないぞ」と言うと顔を輝かせながら冒頭の言葉を発した。その声に周囲も驚いたような顔をし、話題の渦中へ視線が向く。
「本当にいいのか?」
「会長、先日の完全な休みは何日ぶりでした?」
「1週間位か?」
「18日ぶりですけど。アンナが現れたからようやく詰めてた作業を終わらせたじゃないですか。今回も彼女に言われたからですよね?」
あれは2日前のこと。アンナが久々にガーロンド・アイアンワークス社に現れた。ジェシーはアンナが入って来るなり泣きつく。具体的には『どんな手段を選んでもいいから会長を仕事から引きはがしてほしいの。アンナがいないともうずっとしかめっ面で寝ずに作業を続けるんだから!』と言った。するとしばらく考え込んだ後、暴れるシドを抱えて戻って来た。
『じゃあこのワーカーホリック1日借りる。あとホースとデッキブラシ借りるね』
『悪かった! シャワー位1人でできるから下ろしてくれ!』
大男が抵抗してもビクともしていない腕力は相変わらず味方でいることに感謝する。そうしてようやくシドは完全な休暇を迎えたのであった。
「どういった計画をしているかは聞きませんよ。ちゃんとお土産は持って帰ってくださいね」
「む……まあそうしようか」
シドが仕事を詰めていたのも彼なりに理由はある。『アンナがいないとどこか落ち着かないので、手を動かす方がマシだ』というもので。アンナがもっと頻繁に連絡を交わし、顔を出すだけで解決するものではある。しかし、それはアンナというどこまでも自由な旅人だから不可能な願いなのだ。
好奇心の視線を避けるようにシドはその場を後にした。行く場所は1つ。今回メインの目的になるだろうブツを回収しに行った。
◇
扉を軽くノックした。こうしないと部屋の主に吊るされるのだ、仕方ない。『いや業務中は俺の方が偉いはず、どうしてこうなった』と思うが、ぐっと我慢する。
「開いてる」
「仕事中すまん、レフ」
扉を開くと何やら機械をいじくり回すエルファーとネロ。「普通に話をするのは久々、会長クン」とエルファーははにかんだ。
「ケッ、メスバブーンとの休暇はどうだったよ」
「久々に普通の料理を食べたさ。相変わらずシチューが好きなようでな」
「我が妹が元気そうで何より。で、昇給のお知らせでもしに来たのかな?」
ンなわけねェだろ夢見すぎというあきれた声を無視し、部屋の片隅に置かれた装置を指さす。
「休暇を取ったんだ。その装置、解析終わっただろ? 元あった場所に持ってく。もちろんアンナとな」
エルファーの「はぁ!?」という素っ頓狂な声が響く。
それはリンドウの終の棲家に置いてあった奇妙な装置。周辺一帯をカモフラージュさせるという大掛かりな現象がこの小さな機械1つで行われていた。上空から見ると完全に森で覆われているように見え、一体どう立ち回ればそんな装置を工面できたのかと疑問が残る。とにかく解析してみようと彼の孫から許可をもらい、しばらく会社に置いていた。
そう、今回はその装置を返すついでにリンドウの孫であるテッセンが営む宿で宿泊することに決めた。アンナを驚かせるプレゼントといえばまずはこれだろう。それに対し、エルファーの「僕も行く!」という言葉に即「ムリだろ」とネロは頭をたたく。
「君だけずるいぞ! 僕も妹と連休旅行!」
「メスバブーンが来たら姿隠すお前にそんなコトできるわきゃねェっつーの」
「うぐ……おいネロ、君も僕の敵なのか!?」
「別に俺は構わないぞ? 行きたいならジェシーと交渉すればいいじゃねえか」
「む、言われなくともそうさせてもらうやい」
そのままエルファーは走り去るが、すぐに肩を落として戻って来る。ネロはニヤニヤと笑いながら「愛しの妹サマとバケーションはできそうか?」と聞いてやるとエルファーはこの世の絶望を見たような声で吐き捨てる。
「ダメだと言われた」
「知ってた」
「悪いな、レフ。ちゃんとお前さんの分もリンドウに報告しておくからな」
「僕は別にリンのクソ野郎の所に行きたいから志願したわけじゃないが!?」
「そうだったのか。てっきり俺は一緒に墓参りに行きたいのかと」
違ったのかと首をかしげるとエルファーは怒りながらそっぽを向いた。
「じゃあしょうがないな。とにかくもらっていくからあとはよろしく頼んだぞ」
エルファーの恨みが込められた言葉を無視しながらシドはその場を後にした。そして休みの日と集合場所を告げるためリンクパールに手を取った。
◇
―――一方その頃。某所宿屋。
「なーにをすればいいんだ」
アンナは本日何度目かもわからないため息をついた。そう、髪を赤く染めて現れろと言われてもどういう顔で行けばいいのか悩んでいる。普段の自分ではなくきっとかつての自分を要求していることだけはわかった。正直言って気乗りしない。
『じゃあ"ボク"が全部やってあげようか?』
内なる存在が語りかけて来る。アンナは「はぁ!?」とあきれた声を出す。そして姿なき存在に向かって威嚇した。だまされてはいけない。この存在が余計なことをしなければ変に距離が近づくこともなかったし、あってももっと順序的にことが進み、あんな散々な初夜にはならなかったとアンナは信じている。
「そもそもこんなことになったのキミが原因。やらせるわけないでしょ」
『ケチ。"ボク"も時々はシドで遊びたい』
「ダメ。以前の星芒祭でシドが色々感情抱いた原因の力なんて絶対借りない!」
『チッ……』
舌打ちしやがったなとアンナはまくし立てるが周辺には誰もいない独り言で虚しさが勝つ。またため息をつきながら奥に仕舞い込んでいた衣装を吊り下げた。箱から"赤髪"用の小道具を取りだし机に並べる。
そして小さなカバンに金平糖と非常食を突っ込んだ。金平糖は口寂しい時に舐める用であり、シドの機嫌を直す用だ。それから以前より準備していた"アレ"を広げる。これはずっとプレゼントとして準備していたものだ。渡せる雰囲気になればいいが―――。それはいつでもいい、置いとこう。
準備はこれ位だろうか? と思った瞬間にリンクパールが鳴る。「ひゃん!?」とまた小さな悲鳴を上げてしまう。やはり不意打ちに耳元で音が鳴るものは苦手だ。今回はシドが予定がわかり次第繋げると言われたので仕方なく装着している。せきばらいをし、「もしもし」と出てみるともちろんシド。当然だ、今日の通信予定は彼しかいないのだから。
『俺だ。今大丈夫か?』
「大丈夫じゃないって言ったら切る?」
『よし言う余裕があるなら大丈夫だな』
「はいはい。用件」
聞いてみるとどうやらちゃんと休みが取れたらしい。予定の日と集合場所としてなぜかリムサ・ロミンサの飛空艇発着場を指定される。生返事した後、こっそりと舌打ちをしたが聞こえてしまったようだ。「覚えてろ」って言われ、挨拶を交わし切られてしまった。
「―――ボク、終わったな」
柔らかな笑みを浮かべ、ベッドに沈んだ。
◇
当日。シドは約束の時間より少し前にリムサ・ロミンサに降り立つ。ランディングで周囲を見回すと―――いた。
「待たせたか? 旅人さん」
赤髪でぶっきらぼうな顔をした"旅人"が座っていた。予想通り相当早い時間から座っていたらしい。虚ろな眼差しでシドを見上げていた。隣に座り、腕を掴んだ。
「やっと捕まえたぞ」
「もしかしてそれがしたかっただけとは言わないよね?」
「半分くらいは」
「莫迦」
アンナはシドの頬をつねる。どこに行くのかと聞くと「まああと少しで来るからな」と苦笑を返された。
「お前さん、初めてこの周辺に降り立ったのはグリダニアじゃなくてリムサ・ロミンサだったらしいじゃないか」
「―――黒渦団からでも聞いたの?」
「ある情報筋だ」
そう、アンナが最初に三国に降り立ったのはリムサ・ロミンサだった。あれは5年以上前、第七霊災が起こった時のこと。迷子になりながらたどり着いたカルテノーで偶然黒渦団の人間を助けた時、街を探してると言ったらここまで連れてきてもらった。その時は飛空艇ではなくチョコボキャリッジと船で乗り継いだ。しばらく人助けをし、偶然商人が売っていたヴィエラ族の民族衣装を購入したのもこの時期である。懐かしい思い出だが、まあ必要ない情報なので誰にも言った記憶はない。
首をかしげながら待っていると普段より大きな飛空艇がランディングに到着した。普段乗せてもらっているハイウィンド飛空社定期便と違い客室があるタイプのものだ。アンナは目を丸くし、それを眺めているとシドは立ち上がり、「さあ行くか」とニィと笑う。
「え、は?」
「おいせっかく来てもらってるんだ乗るぞ」
「えぇ……」
引っ張られ、慣れた手つきでチケットを船員に渡し乗船する。そしてまったく落ち着かないキレイな個室に案内された。丸い窓からは外の景色が見える。ここまで大きな飛空艇は劇団マジェスティック所有の"プリマビスタ"ぶりだ。この時だってシドは時々顔を出してきたっけと少しだけ昔のことを思い出す。
「本当にどこ行く気?」
「その内わかるさ」
「高かったんじゃ?」
「これまでアンナがイタズラに使った金額よりかは安いんじゃないか?」
「くっ……金銭感覚お坊ちゃん」
「人のこと言えないだろ」
小突き合ってる内に飛空艇は飛び立ち、アンナはふと窓の外を見ると青い空が広がっていた。椅子に座り、金平糖を一口食べる。
「これがプレゼント?」
「違うさ。ただ限られた時間で往復すると考えたら空路がいい」
「……クガネ」
「着いてからのお楽しみだ」
はいはいと言いながら隣に座ったシドを見る。相も変わらず笑顔でため息をつきたくなる。肩を抱き寄せ軽くたたいてやると「だからそれは俺からさせてくれ」と言いながらもそのまま身を預けていた。
「こうやってアンナと2人で飛空艇に乗るのは珍しいよな」
「基本一緒に乗るの作戦中」
「ちゃんといい休暇になるよう計画したんだ。覚悟しろ」
「言葉が違うよね?」
「途中で逃げられたらたまったもんじゃないからな」
「つまんないってならなきゃ逃げない」
軽く口付けてやるとそのまま舌をねじ込まれる。はいはいと心の中で言いながらそのまま絡め合った。水音とくぐもった吐息にアンナはギュッと目を閉じ、終わりを待つ。そして離れた瞬間に眉間にシワを寄せながら頭をなでた。
「ここまでだよ。流石に迷惑」
「わかってるさ」
瞬時にアンナは後悔することになる。それからベッドまで抱き上げられ、そのままキスを繰り返した。そう、角度を変えながら唇にキスを落とすだけ。優しく抱きしめ、ただもどかしい行為が続く。相変わらずトリガーを引くのはアンナの役目ということなのだろう。
「俺は悔しかったんだ」
「何が」
「お前さんにとって初めての飛空艇ってのが俺が造ったものじゃなかったことがな」
「ああそういう。しょうがないでしょ。ていうか行方不明だったじゃん。無理」
「だから悔しいんだ」
数分後、少しだけざわついた首元が何事もなく楽になっていた。そしてキスに満足したのか急に語り出す。相変わらずこっちが余計なことをしなければ鉄の理性だとアンナは感心した。
「初めて飛空艇に乗ったのがエオルゼアに来てからだろ? アンナがあの旅人だって気づかなくてもチャンスはあったさ」
「悔しければ第七霊災後事故って記憶を失った自分を恨んどいたらいい」
「ぐっ……」
「せめて思い出した時に"旅人さん"のこともちゃんと認識できてたら楽しいことになったのに残念だったねぇ」
「それに関しては今も気にしてるから言うんじゃない!」
そう、シド自身も気にしていた。記憶喪失になっていたシドがエンタープライズ号で大空へ飛び立ち、思い出した瞬間のアンナの笑顔。柔らかく、何かを懐かしむように目を細めシドを見ていた。この時、アンナだけが過去に巡り合った記憶を想起し、捕まることはないとほくそ笑んでいたことを知った時は拳を握りしめるほど悔しかった。カラカラと笑っているとシドは顔を赤くし、そのままアンナの上に乗る。
「ちょっと?」
「ああちょっとだけだ」
「今の別に合意したわけじゃない!?」
「アンナが悪い」
「弁償したいの!?」
「そんなことするわけないだろ。まあ最終的にちょっとだけアンナの口を」
「最低! ほんっと最低なこと素面で言うなぁエロオヤジ!」
シドは何も言わずほっぺをつねった。アンナは痛い痛いと言いながら表情を窺うと非常に機嫌がよろしくない。消えていたハズだが徐々に首元がざわつき、鳥肌が立つ。
やらかした。天井を見上げ、これからの行為に想いを巡らせる。まあ忠告しているから流石にキツいことはしないだろう。せめて下船するまでには終わらせようと苦笑した。
◇
長時間の船旅が終わり、外へ出るとそこはクガネ。アンナが予想していた通りの場所だ。温泉巡りでもするのかと聞くとそれもいいがと苦笑している。
「とりあえず宿屋で休もうじゃないか。明日は早いからな」
「はぁ」
「そしたら続きをだな」
アンナのあきれたような声がランディングに響く。シドはニィと笑顔を見せた。
「さっき物足りない顔をしてたからな。大丈夫だ、俺だって明日に支障が出るし一晩付き合わせる気はないぞ」
「それが当たり前なんだけどなぁ!?」
「人と惚れた腫れたの駆け引きを一切してこなかったお前が当たり前を語るんじゃない」
「私だってあなたにだけは言われたくないけど!?」
ケラケラと笑いながら温泉宿で一晩過ごし、朝になるとシドは大隼屋の方へと引っ張っていく。
たどり着いた第二波止場には意外な人物がいた。着物の男にシドは大きく手を振る。
「テッセン、久しぶりだな」
「急に連絡をいただいた時はびっくりしましたよ、シドさん」
「え、テッセン。何で?」
黒色の短い髪に柔らかな笑顔を浮かべる青年が駆け寄って来る。命の恩人であるリンドウの孫にあたるテッセンは髪を指さしながら、驚いた顔をしたアンナへ話しかけた。
「髪色、戻したんですね。お久しぶりですエルダスさん」
「むーそういうことかぁ。―――シドにやれって言われただけだから近日中に戻す予定」
「俺は別にずっと赤髪でもいいと思ってるがな。ほら暗くなっちまう前に行こうじゃないか」
2人用のはきちんと予約しておきましたのでとニコリと笑顔を見せている。アンナは苦笑し、シドのほっぺをつねった。
大隼がドマの空を飛ぶ。その景色をアンナはぼんやりと見つめていた。山へ行くごとに徐々に深く茂った森が増え、リンドウとの旅路を少しだけ思い出す。
ふと先を見ると山の上に、見覚えのある小屋があった。
「フウガの家。前見えなかった」
「そうだな」
「この村本来の姿ですよ」
以前訪れた時は樹に覆われた森が空から見えていたはずだ。2人が言っていることにアンナはピンと来ない。
村に降り立つと以前より人がにぎわう場所と化していた。アンナはそれを目を丸くして見ている。
「シドさんがアレを持って帰ってからまた観光客が増えたんですよ。おかげで大忙しで」
「あー……すまない」
「いいんですよ。祖父は複雑でしょうがね」
「何の話?」
テッセンは笑みを浮かべ、実は祖父のリンドウが帝国で有名人だったという話をする。出版されていた本の中では幼い頃のアンナも登場することや、最近それについて書かれた本と舞台の記憶を見せてもらったと言うとアンナは露骨に嫌そうな顔をした。
「あんのアシエン……」
「それで昔から遥々ガレマール帝国や属州よりたくさんの人が墓参りに来ていただいていたんですよ。出会いに恵まれ、こうやって生活させてもらってます。ドマ解放から減ってましたが村を出た子供たちがエオルゼアを中心に噂として広めたようで」
「うちの新入社員にもここ出身のやつが最近来ててな。ああ不思議なことに昔からここだけ魔導技術が普及されていたんだ」
「―――本当に余計なことをしやがって。どんだけあいつ私のこと好きだったのさ」
小さな声でアンナはつぶやく。シドには聞こえていたようで、ジトリとした目でにらんでいることに気づいたアンナは「死人に口なし」とだけ言って金平糖を放り込んだ後にアゴヒゲをなでた。
◇
夜。アンナはリンドウの家の前で空を見ていた。静かな場所で星が輝いている。「やっぱりここにいたか!」とシドは息が上がりながら駆け寄って来る。
「俺が少し呼ばれてる間に抜け出すんじゃない!」
「別に逃げたわけじゃないんだから大げさな。ほら星がキレイだから見て」
アンナはニコリと笑顔で空を指さす。シドはため息をつきながら隣に立ち、空を見上げる。確かにキレイだなと笑みを浮かべた。ふとアンナはあのさと口を開く。シドは首をかしげるとそのままボソボソと話し始めた。
「昨日の話の続き。初めて乗せたかったとかそういう」
「俺に余計なことを思い出させる気か?」
「ちーがーう」
くるりと回りながら数歩歩き出す。そして、笑顔でこう言った。
「あなた―――いや、キミはこの空で満足してる?」
「……は?」
アンナは手を開き、昔ある人に教えてもらった知識を披露した。この空を抜けると宇宙という海が広がり、輝く星に降り立つことができる。まあ普段輝いている星は、ただのデコボコとした塊だから面白くないみたいだが。そしてもっと進むといつもキレイに輝き満ち欠けする大きな月があり、さらにその先がどうなっているか誰も知らないのだと。
「そして月にはボクのように耳長ウサギちゃんがいるんだって。いやホントにひんがしの国では月の黒っぽい部分がね、こうウサギが餅つきしてるように見えるって逸話もある。ほら、もしかしたら故郷かも?」
「そんなわけないだろう。今立ってる世界がお前さんが生まれ育った場所だ」
「ふふっどうでしょう。その場所に連れてってくれたらわかるかもよ?」
そしてボクはもっとその先を見たいのさ、とアンナはニィと笑う。シドはそのアンナの笑顔に見惚れ、ぼんやりと見つめていた。その後ジャンプを1回、2回。跳ねながら空へ手を伸ばす。
「でもさ、ボクが今いくらジャンプしても、月どころかこの空さえ越えることができない。じゃあ何が言いたいかわかるよね?」
手を握り、シドを引っ張りながらまたくるりと回る。シドはバランスを崩さないよう必死に回る。2回、3回と2人は星空の下で踊った。
「その空を飛ぶためのものをさ、キミが造るんだ。アラグはかつて空へ衛星を飛ばした。じゃあ今のキミなら人と希望を乗せて、もっと遠くまで飛ばせるんじゃない? オメガだって何とかしちゃったキミなら、何だってできるハズ」
「お前さんを乗せる、船」
「今そんな船、存在しないでしょ? いやまあどこかが極秘に開発してるとかあったら知らないけどボクがそんな所お邪魔するわけない。じゃあ今度こそその"ハジメテ"とやらをボクから奪うことができる。悪くはない提案でしょう?」
リンドウが占星術の知識を教えてくれたように。誰かが宇宙の知識を教えてくれた時、心が躍ったことをアンナは今でも鮮明に覚えている。そして現在、それを叶えてくれそうな人を見つけたことを、前人未踏の地を旅できるかもしれないこともすべてが嬉しくてたまらなかった。
「だから、そのボクの夢である宇宙へ運ぶ船を造るキミを、キミが必要だと思う人たちを、その場所も全部ぜーんぶ! ボクが護ってあげる。ボクはこう見えてとーっても強いんだから。せっかく捕まえられたんだよ? それ位の楽しみがほしい!」
ボクは意外と貪欲なんだよ、知ってた? とアンナがニィと笑顔を見せる。シドはその言葉に目を丸くした。
「ど、どうしたんだいきなりそんな」
「む……そりゃあ旅を延期する言い訳さ。それ位気づこうよ、ボクの天才機工師様?」
満面な笑顔に、今まで聞くことがなかったアンナの本音。シドは心のどこかに火を灯された感覚を味わう。
「ほら誓ってよ。フウガのお墓の前でさ。ボクを奪って、遠い宇宙へ連れていくって。生きてる者の特権を、存分に使ってやるってさ。―――厭かな?」
ピタリと止まり、アンナは目を細め、シドを見やった。しばらく静寂が辺りを包み込む。じっと見つめ合い、答えを待つ。今、世界で一番ワガママだろうこの願いを、受け入れてほしいとアンナは願った。
「―――さ」
「うん?」
「それ位お安い御用さ、お姫様。なんてな」
そんなワガママを、シドは断れるわけがなかった。未だ誰も達成していない夢があふれたその願いは、シドもずっとほしかったモノ。元より好きだと自覚するより前からこの人について行くだけで、思わぬ技術が転がって来ることに一喜一憂していた。また一緒に何かを成し遂げる目標ができる、それが嬉しくてたまらない。
「あーのーねー。ボク、お姫様ってナリじゃないよ?」
「俺からしたら今のアンナは十二分にそんな存在さ」
「莫迦。ほら早く戻ろ? ボクは眠いのさ」
「ああ夜は長いからな。ゆっくりしような」
「ねえ今の言葉聞いてた? 難聴が始まってるんじゃないかって時々心配に、って!?」
ねえ、ちょっと、いや逃げないから腰を掴むなという抗議を無視し山を下りていく。
ふとシドは浮かんでいた疑問をアンナにぶつける。
「月のことを教えてくれた人は、誰なんだ」
「知らない」
無機質な声。シドは立ち止まり、アンナを見上げる。銀と赤の目に無表情でアンナは何か、と言った。
「―――あー多分旅の途中で聞いただけだからさ。旅人は名前なんて細かく覚えないスタンスだったし」
「そう、か」
両目共に柘榴石色の瞳、月の光による錯覚だったのだろうか。いつもの見知った笑顔に切り替わっている姿が少しだけ恐ろしく感じる。
アンナは以前から察してはいたが少しだけ記憶が怪しい部分がある。どこか専門的な知識についての出所を問うとこうやって知らないと即答するのだ。入れ知恵した主に心当たりがある。アンナの兄であるエルファーの旧友、ア・リス・ティア。かつて時代にそぐわぬ知識量と技術力にエルファーも憧れ、技術者の道へと進んだという。アンナが本当にかつてその男に会ったかは確かめる術はない。だが、両者の友人であるリンドウといたのなら、ありえない話とは言い切れなかった。
『あの子が本当にリンのすべてを"継承"しているのなら、強く"絶対に勝って帰って来い"と願えばいい。きっとすべて終わらせて君の所へ帰って来る。かつて僕とアリスはリンをそういう体に変えたから』
いつかその時が来たら教えると言われた秘密が、シドの頭の隅で引っかかっている。流星の軌跡のような斬撃を放てるのならば、確実に普通の人の道からは外れている―――と言われていた。
それでもいばらの道を歩み続けるキレイな人の傍にいたいと、その体を抱き寄せた。
◇
シドが朝目を覚ますと既にアンナは起床し、炊事場付近にいた。少しだけフラフラと重そうに歩くアンナを見て苦笑する。
「もっと寝ててもよかったんじゃないか? 手伝いもさせてもらえないんだろ」
「絶対にやだ」
ジトリとした目でにらんでいる。昨晩はそんな余裕もなくなっていたくせにとシドは少しだけ優越感に浸っていた。テッセンはそんな2人へニコリと笑いながら食事を運ぶ。
「おはようございます、お2人さん。よく眠れましたか?」
「ああもちろん」
「……ノーコメント」
アンナは気づいていることもあるが黙る。『それは藪蛇というものだ』と昔リンドウに教えられた。
食事は事前に要望を伝えていた通りのひんがしの国式だ。炊いた白米に焼いた魚、味噌汁と軽い付け合わせ。"大人しく、普通に、食べろ"と目で伝えるとアンナはニコリと笑い返した。
朝食後、持って来ていた装置をテッセンに手渡す。
「もし悪意を持ったやつが来だしたらまたこれの電源を入れたらいい」
「―――ありがとうございます。そうだ、エルダスさん。どうぞ」
テッセンは紙の束を差しだす。アンナは首をかしげると柔らかな笑みを浮かべた。そしてシドに聞こえないように耳打ちする。
「フレイヤさん。祖父があなたに遺した手紙ですよ。やっとお渡しできました」
「本当に!?」
アンナの問いにテッセンは肯定を返すと即手紙を開き、目を通す。シドはジトリとした目でそれを覗き込むと以前見せてもらった達筆のモノだった。
「アンナは読めるのか?」
「うん。フウガ、昔から強い文字を書く人だったから慣れるまで苦労した」
笑顔、もの言いたげな顔、歯を食いしばり、最後は泣きそうな顔でその手紙を読んでいた。持って帰ってもいいかと問うとテッセンは笑顔でうなづく。ふとシドの方を見ると少しだけ目を逸らし、機嫌はよくない。厭な予感がする。それでも聞きたいことはあった。
「ねえ、聞きたいんだけど」
「何ですか?」
「どうした?」
「……シド、私が超絶苦労して世界救ってる間にここ来てこの手紙読んだでしょ?」
シドは即そっぽを向く。そして「知らん」と言った。眉間にシワを寄せ、手紙のある部分を指さしながら声を上げる。
「こっちの目を見て言ってくれないかなぁ? ねえあなたがあの時に言ったことそのものが書いてあるんだけど?」
「いやその、アンナ落ち着いてくれないか」
「あなた魔導院でテストの時、カンニングペーパーでも作って臨んでた?」
アンナは両ほっぺを引っ張る。シドはその顔を見ると真っ赤で少しだけ涙を溜めていた。言葉が詰まりながらも、後頭部を撫でる。
「ずるい。そんなことされて断れると思ってる?」
「断られたくないから確実な手を使ったに決まってるだろう」
「―――ずるい。テッセンも」
アンナはテッセンのほっぺも引っ張る。ニコニコと笑顔ですみませんと言った。
「懐かしいですね。失言したらいつも祖父にこうやってほっぺを引っ張られてました」
「私も散々されたし。年取っても変わらなかったんだ」
「……おいアンナそれもリンドウのクセだったのか?」
「あっ」
やってしまったと判断する。ニコリと笑みを見せるとシドも笑みを見せた。次の瞬間には腕を掴み、引っ張っていく。
「テッセン、そろそろ帰る支度をしようと思う。一度部屋に戻るからな」
「はいごゆっくり」
「ゆっくりしない! 帰る! 私すぐ帰りたい!」
そのまま客室へ引っ張られていく姿を仲居たちは見守っている。
「若いですねえ」
テッセンは体を伸ばしながら、手渡された装置を祖父の家へ持っていくために歩きだした。
◇
お土産をたくさんもらい、村を後にした。また旅の思い出を報告に行くとアンナが言えば、背後にてジトリとした目で見られるので肩をすくめ、「もちろんこの人も」と苦笑する。
「あとよければお兄様も連れて来たらいかがでしょうか? きっと祖父も喜ぶと思いますよ」
「確かに。まさか兄さんがフウガの知り合いだったなんて思わず」
シドは心の中で"絶対に暴れるが、アンナに行こうと言われたら多分掌返すだろうな"と普段の言動を思い出していた。確実にエルファーはやだと言うがアンナに手を握られると満面の笑顔になり、今まで恨み言ばかり吐いていたくせに美しい思い出を話すだろう。
「兄さんはここ知らないんだよね?」
「ええ。お友達だという方は時々来てたのですがヴィエラの方は来ませんでした」
「フウガの、友達」
「お名前は覚えてませんがとても元気な方で」
アンナは覚えがないなあと首をかしげる。そんな友達がいたのなら一緒に旅をしていた頃会ったことあるだろうに、不思議だと思った。シドはそれが誰かとエルファーから話は聞いている。しかし思い出話を延々とされる予感がしたので、絶対に名前を出したくなかった。話題を打ち切るように「じゃあそろそろ帰るか」とニィと笑ってやるとアンナも柔らかな笑みを浮かべる。
そうしてテッセンたちと軽く会釈を交わし、大隼に乗った。
「楽しかったか?」
「ん、悪くはなかったよ」
「そりゃよかった」
本当は凄く嬉しい時であったが素直に伝えると調子に乗られるので素っ気なく返した。シドはそれでも機嫌よくアンナへ寄りかかる。肌寒い空の下、静かな時が過ぎ去った。
◇
「これは?」
「プレゼント」
クガネに戻り、街を適当に散策しながらまたお土産を買った。これは暁の血盟用にしよう、じゃあこっちは会社用かと会話を交わしながら菓子や小物を物色する。
気が済んだら今日はまた望海楼に泊まることにした。飯をいただいた後、畳の上でアンナはカバンから袋を取りだす。少し厚みのあるそれに首をかしげながらシドは受け取った。
「あっちで渡したらよかったんじゃ」
「タイミングが難しかった」
「イタズラ装置じゃないよな?」
「あなたの会社に準備してるよ」
シドにとってそれは初耳だった。作動する前に見つけるからなとブツブツ言いながらシドは袋を開く。
―――黒と赤のマフラー。相当長い。羽根のような意匠が施されている。
「編んだのか? 相当長いが」
「暇だったから」
脳裏に無心で延々と棒針編みをする姿が容易に浮かんだ。アンナはシドの手からマフラーをくすねると、そのままぐるぐると首に巻く。
「温かいな」
「でしょ? 今回の休日のお礼」
抱き寄せ、額にキスをした。シドは慌てながらそれは俺がすることだとほっぺを引っ張る。そしてシドもまたカバンの中から袋を取りだした。アンナは開けたらいいのかと問えば当然だと胸を張る。
開くとガーロンド・アイアンワークス社のエンブレムが施されたツールベルトが入っていた。目を丸くしてそれを持つ。
「これで気合を入れてイタズラに励んだらいいの?」
「そんなわけないだろう。お前何でもかんでも旅用のカバンから取りだすじゃないか。製作用道具とかなくさないか心配でな」
「あはは、ありがと」
仕方ないから使ってあげるよと苦笑してやると、シドは巻いていたマフラーを少しだけ解き、そのままアンナの首に掛ける。アンナは肩をすくめそのまま巻かれた。
「これはこういう使い方をしたらいいんだろ?」
「……ご想像にお任せ」
「多分立ってても行けるな」
「外ではしないからね」
「寒い外で巻かないでいつ使うんだ」
何も言わず後ろから覆いかぶさるように抱きしめてやるとシドは苦笑しながらその腕を握る。
「私はいつも冷たいんだから、首にちょっと巻いても誤差。あなたがちゃんと温かいってなってる所、見たい」
そう言いながら頭の上に顎を置き、擦りつけるように動かした。アンナはいつも死人のように体温が冷たい。昔はもう少し温かかったと成人前のことしかわからないエルファーは言っているが、本当のことはシドにはわからなかった。しかしわかることは1つだけある。
「じゃあ今から少し温まるか」
「ねぇ脈略」
「今のは明らかに誘ってただろ」
アンナの体温は体を重ねると人並みのものになる。それはシドだけが知っている秘密。どういうプロセスを踏んだらそうなるかは未だわからないが。いつか解明したいとは思っている。
ニィと笑い、振り向くとばつの悪そうな顔でこちらを見ていた。嫌がっている動きは見せていないということは合意と取ってもいいのだろう。ゆっくりと体の向きを変え、アンナの膝の上に座り向き合う形になった。こうするとちょうど視線の高さが合うので、じっと見つめてやると、柘榴石色の瞳が揺れた後細められる。額をこつんと合わせ、首に手を回した。
「むー……そんなにシたいなら付き合ってあげるから」
「そうだな。俺がしたいからしょうがないだろ?」
「そういうこと」
アンナは手持ち無沙汰となった手をシドの腰へと回した。そう、気づいていないわけがない。どさくさに紛れて変なモノを買ってたことを。しかしどこかそれを楽しみにしている自分がいるのだ。あきれてため息をつきたくなる。
◇
次の日。軽い朝食を済ませ、そのままクガネランディングへ向かう。
「もう帰るの?」
「アンナが作った飯が恋しいからな」
「はいはい。何食べたい?」
ニィと笑い、言ってやる。
「シチューに決まってるだろ?」
「じゃあリムサ・ロミンサで買い出ししなきゃね。そんなにシドが好きなら仕方ないなぁ」
「ああ俺が好きだからな」
もっと自分をはっきり出せばいいのにとシドは苦笑する。口にしたらそっぽ向きしゃべらなくなるので言わないが。
今回の休暇で少しだけアンナという存在を再び掴めた気がして嬉しくなった。寄りかかり、明日戻るであろう日常に対し少し憂鬱な気分になりながら、またアンナにありがとうと礼をつぶやく。
そんなシドの姿を見てアンナは肩を掴み、優しくなでる。脳内で兄に送る手紙の文面を練りながらシチューの具を考える。ここ数日ずっとひんがしの国やドマ料理ばかりだったので少し違うものにしたい、パンも食べたいな。ボソボソと声に出してメニューを考えると隣にいるシドが程よくあれがいいこれがいいと茶々を入れて来る。
目を細め、これが人といるという行為かと笑みを見せる。それは1人で旅をしていた頃にはまったく想像していなかった日常。リンドウの手紙に書いてあった言葉を胸に刻みながら、夢を叶えてくれる男に心の中で"好き"とつぶやいた――――。
#シド光♀ #季節イベント
星降る夜に誓いを乗せて~導入~
注意・補足
漆黒.3後付き合ってからの星芒祭話導入。蒼天星芒祭編の数年後。シド少年時代捏造。
あくまでも導入編なので後日フルバージョンがアップされます。
「アンナ、そういやもうすぐ星芒祭が来るな」
「そうだね」
料理から目を離さず、シドの言葉にアンナは相槌を打った。
風が冷たくなり始めた頃、所謂恋人関係になってから初めての冬。久々にトップマストの一室にて休日を過ごしていた。シドは壁に掛けられたカレンダーを見上げ、冒頭の言葉をつぶやく。
「何か欲しいものとかあるか?」
「いきなりどうしたのそんなこと言って」
苦笑しながら鍋を見つめている。シドは「決まってるだろ」と言葉を続ける。
「折角こうやって隣にいられる関係になれたんだ。何か渡そうと思ってな。またプレゼント交換というのも悪くないが、素直に欲しいものを聞いた方がいいだろ? いらんと思われるものを渡したくないんだ」
「んー……私はシドなら何をくれても嬉しいけど?」
アンナは手を止め、シドの方へ振り向いた。いやそうじゃなくてな、とジトリとした目で見る。するとシドが予想もしていなかった言葉が返って来る。
「キミの休日」
目を丸くし、それはどういうと問う。アンナは「そんなに難しいこと言った?」と首を傾げた。
「だって私たち基本的に作戦中しかまあまあな時間一緒にいないじゃない。時々はさ、誰の邪魔なく纏まった休日を一緒に過ごすというのも悪くない提案でしょ? モノと言ったら違うかもしれないけどさ」
「む、そう言われたら有りかもしれん。……流石に星芒祭のシーズンは色々忙しい。まとまった休みは取れないからだいぶ前倒しになるぞ?」
「私は大丈夫」
次第に顔が高揚していくシドの姿を見てアンナはニコリと笑い、再び鍋の中へと視線を戻す。
今日はいい肉を手に入れたのでビーフシチューを煮込んでいる。アンナはシチューの類が好きだ。特にシドと食べるという行為が格別なのだが、本人が知ると調子に乗るのが分かっているので教えていない。
「で、シドは何が欲しい? 私だけ聞いておいて自分は教えないなんてないよね?」
「考えてはいたんだがアンナの言葉で吹っ飛んじまった。ちょっと待っててくれ」
シドが考え込んでいる姿を見てアンナは苦笑した。鍋の蓋を閉じ、エプロンを脱ぎながら傍へと歩み寄る。
ふと何かを思いついたのか手をポンと叩いた。アンナは少しだけ嫌な予感がよぎる。その仕草は碌なことにならないことしか考えていない時のやつだ。実際首元がざわついて来る。これは、ダメなヤツだとアンナは一歩後ずさった。
「髪をあ」
「やだ」
即答。シドはそれでもめげずに言葉を続ける。
「赤」
「絶対やだ」
「どうしてきちんと人の話を聞かず断るんだ」
「碌なことにならない提案が聞こえたからだけど?」
アンナは食い気味に断りながら威嚇している。それに対しシドも眉間に皴を寄せながら対抗する。
「いやそんなことはない。ほらちゃんと全文聞いてから判断しても遅くないだろ。頼むからちゃんと喋らせてくれ」
「うぐ……じゃあ分かったよ聞くだけ聞いてあげるよ言ってごらん」
真剣な目。アンナはそれに一番弱い。肩を落とし、嫌々許可を与えるとシドは明るい顔をして言い放った。
「髪を赤く染めて来てくれないか?」
「ぜーったいにお断り!」
ほらまともな要求じゃない、アンナは盛大にため息を吐いた。
◇
赤髪。それは出会いまで遡る。寒空の夜、白色の少年は性別不詳の凍死しかけていた赤髪のヴィエラを見つけ、助けた。温かいシチューを手渡し、少しだけ熱が灯ったヴィエラは旅人だと名乗る。そして、少年の話を聞いた後、"次はキミがボクを捕まえてごらん。キミの夢である空へ運ぶ船を造る全てを護ってあげるから"と約束し去る。その白色の少年こそがシドであり、赤髪のヴィエラこそがアンナだった。
以前の星芒祭で「会いたい人がいる」と溢したシドの想いを汲み、グリダニアで一晩の奇跡を起こしたように見せた。きっと不意にそれを思い出したのだろう。
アンナは腕組みをしながらシドを睨むと、凄く寂しそうな顔をしていた。徐々にしょぼくれていく顔に肩を落とし、まるで雨に打たれて尾を垂れた野良犬のように哀愁が漂っている。アンナは言葉を詰まらせ、「ああ分かった! 理由要求!」と投げやりに言ってやるとシドは満面な笑顔を見せた。
「前の星芒祭では見せてくれたじゃないか。俺はあの時確かに"会いたい人がいる"と言ったが、行き倒れていた旅人のこととは一言も言わんかったぞ?」
「うぐ」
「街全体で俺を騙して気合入れてくれたじゃないか」
「いやあの件は本当に悪かったって」
「もう一度見たい。ダメか?」
その言葉にアンナは必死に目を逸らす。
「ちゃんと最高なプレゼントの準備してくる」
シドは優しく手を取り、何も言わずアンナを見る。そしてしばらく沈黙が流れた。
その沈黙に耐え切れず、アンナは遂に口を開く。
「あーもー! いつにするか決まり次第予定を教えて! あと期待しないで!」
シドは楽しみだ、そう言いながら頭の中でアンナを驚かせるための策を練り始めた。
それに対しアンナは過去の自分の行いを呪う。どうしてこうなった、片手で顔を覆った。
#シド光♀ #季節イベント
漆黒.3後付き合ってからの星芒祭話導入。蒼天星芒祭編の数年後。シド少年時代捏造。
あくまでも導入編なので後日フルバージョンがアップされます。
「アンナ、そういやもうすぐ星芒祭が来るな」
「そうだね」
料理から目を離さず、シドの言葉にアンナは相槌を打った。
風が冷たくなり始めた頃、所謂恋人関係になってから初めての冬。久々にトップマストの一室にて休日を過ごしていた。シドは壁に掛けられたカレンダーを見上げ、冒頭の言葉をつぶやく。
「何か欲しいものとかあるか?」
「いきなりどうしたのそんなこと言って」
苦笑しながら鍋を見つめている。シドは「決まってるだろ」と言葉を続ける。
「折角こうやって隣にいられる関係になれたんだ。何か渡そうと思ってな。またプレゼント交換というのも悪くないが、素直に欲しいものを聞いた方がいいだろ? いらんと思われるものを渡したくないんだ」
「んー……私はシドなら何をくれても嬉しいけど?」
アンナは手を止め、シドの方へ振り向いた。いやそうじゃなくてな、とジトリとした目で見る。するとシドが予想もしていなかった言葉が返って来る。
「キミの休日」
目を丸くし、それはどういうと問う。アンナは「そんなに難しいこと言った?」と首を傾げた。
「だって私たち基本的に作戦中しかまあまあな時間一緒にいないじゃない。時々はさ、誰の邪魔なく纏まった休日を一緒に過ごすというのも悪くない提案でしょ? モノと言ったら違うかもしれないけどさ」
「む、そう言われたら有りかもしれん。……流石に星芒祭のシーズンは色々忙しい。まとまった休みは取れないからだいぶ前倒しになるぞ?」
「私は大丈夫」
次第に顔が高揚していくシドの姿を見てアンナはニコリと笑い、再び鍋の中へと視線を戻す。
今日はいい肉を手に入れたのでビーフシチューを煮込んでいる。アンナはシチューの類が好きだ。特にシドと食べるという行為が格別なのだが、本人が知ると調子に乗るのが分かっているので教えていない。
「で、シドは何が欲しい? 私だけ聞いておいて自分は教えないなんてないよね?」
「考えてはいたんだがアンナの言葉で吹っ飛んじまった。ちょっと待っててくれ」
シドが考え込んでいる姿を見てアンナは苦笑した。鍋の蓋を閉じ、エプロンを脱ぎながら傍へと歩み寄る。
ふと何かを思いついたのか手をポンと叩いた。アンナは少しだけ嫌な予感がよぎる。その仕草は碌なことにならないことしか考えていない時のやつだ。実際首元がざわついて来る。これは、ダメなヤツだとアンナは一歩後ずさった。
「髪をあ」
「やだ」
即答。シドはそれでもめげずに言葉を続ける。
「赤」
「絶対やだ」
「どうしてきちんと人の話を聞かず断るんだ」
「碌なことにならない提案が聞こえたからだけど?」
アンナは食い気味に断りながら威嚇している。それに対しシドも眉間に皴を寄せながら対抗する。
「いやそんなことはない。ほらちゃんと全文聞いてから判断しても遅くないだろ。頼むからちゃんと喋らせてくれ」
「うぐ……じゃあ分かったよ聞くだけ聞いてあげるよ言ってごらん」
真剣な目。アンナはそれに一番弱い。肩を落とし、嫌々許可を与えるとシドは明るい顔をして言い放った。
「髪を赤く染めて来てくれないか?」
「ぜーったいにお断り!」
ほらまともな要求じゃない、アンナは盛大にため息を吐いた。
◇
赤髪。それは出会いまで遡る。寒空の夜、白色の少年は性別不詳の凍死しかけていた赤髪のヴィエラを見つけ、助けた。温かいシチューを手渡し、少しだけ熱が灯ったヴィエラは旅人だと名乗る。そして、少年の話を聞いた後、"次はキミがボクを捕まえてごらん。キミの夢である空へ運ぶ船を造る全てを護ってあげるから"と約束し去る。その白色の少年こそがシドであり、赤髪のヴィエラこそがアンナだった。
以前の星芒祭で「会いたい人がいる」と溢したシドの想いを汲み、グリダニアで一晩の奇跡を起こしたように見せた。きっと不意にそれを思い出したのだろう。
アンナは腕組みをしながらシドを睨むと、凄く寂しそうな顔をしていた。徐々にしょぼくれていく顔に肩を落とし、まるで雨に打たれて尾を垂れた野良犬のように哀愁が漂っている。アンナは言葉を詰まらせ、「ああ分かった! 理由要求!」と投げやりに言ってやるとシドは満面な笑顔を見せた。
「前の星芒祭では見せてくれたじゃないか。俺はあの時確かに"会いたい人がいる"と言ったが、行き倒れていた旅人のこととは一言も言わんかったぞ?」
「うぐ」
「街全体で俺を騙して気合入れてくれたじゃないか」
「いやあの件は本当に悪かったって」
「もう一度見たい。ダメか?」
その言葉にアンナは必死に目を逸らす。
「ちゃんと最高なプレゼントの準備してくる」
シドは優しく手を取り、何も言わずアンナを見る。そしてしばらく沈黙が流れた。
その沈黙に耐え切れず、アンナは遂に口を開く。
「あーもー! いつにするか決まり次第予定を教えて! あと期待しないで!」
シドは楽しみだ、そう言いながら頭の中でアンナを驚かせるための策を練り始めた。
それに対しアンナは過去の自分の行いを呪う。どうしてこうなった、片手で顔を覆った。
#シド光♀ #季節イベント
旅人は魔導兵器を識りたい
補足
新生メインクエスト"魔導兵器のみる夢"後のシド光♀。まだ何も意識し合ってない頃。
ミンフィリア救出作戦の一環で魔導アーマーを鹵獲した。修理・整備を終わらせ、試運転中に異変に気付いたのか帝国兵が飛んで来る。まあ冒険者と一緒に即蹴散らし、その後無事起動することを確認できた。
最終調整を行うためビッグスとウェッジが魔導アーマーを整備用拠点へと連れて行く所を見送る。そして、いつの間にか隣からいなくなっていた冒険者である黒髪のヴィエラを探すため、周りを見回した。見つけた。先程まで戦闘していた場所で座り込んでいる。
「アンナ、何をやってるんだ?」
「研究」
魔導兵器をじっと睨みながらノートを取り出す。首を傾げながら覗き込むと、細かな文字と魔導アーマーのスケッチが描かれていた。今は先程破壊した重装型について書き留めている。文字は異国の言語でよく分からない。何処の言葉なのかと聞くと「ひんがしの方の」とだけ溢した。
「かつて私に戦闘を教えてくれた人が昔いたんだけど。この魔導アーマーたちに関しては何も教えてくれなかったの。仕方ないのは分かってるけどね」
「それで、研究と?」
機体に触れ、中を覗き、何かを記していく。俺は隣に座りそれを眺めた。アンナは苦笑しながらこちらを見ている。
「先に戻ってもいいんだよ。これは私個人がやりたいこと」
「まあいいじゃないか。それに俺はこう見えてこいつらを設計する側に立つ予定だったんだ。目視だけじゃ分からんことやら色々教えてやってもいいぜ」
「―――じゃあ質問なんだけど」
最初に聞かれたのは"コアの位置"。次に"無人兵器の場合、どこを殴れば信号を打ち止められるのか"。"砲塔に使われた金属の強度"、"センサーの位置"、"ビーム装填中に砲塔詰まらせたら暴発してどの位の範囲影響あるのか"―――確実に破壊するための手順を聞いて来る。実際のスクラップを指さしながら分かる範囲のものは教えた。
「勉強熱心なんだな」
「戦う上で苦手なものが存在すると致命的なミスに繋がることがあるからね。んーやっぱり本職の人に聞くのが一番楽しいかも」
「お前さえよかったら工房にいくつか設計図が持ち込まれてたはずだ。読んでみないか?」
「いいの? こんな怪しい旅人にポンポン大切なモノ見せちゃだめだよ」
横から頬を抓り引っ張ってやる。
「俺たちは同じ敵を持った仲間じゃないか。打倒帝国とかいう少しでも大きすぎる目標を持ってんだ。達成する確率を上げるために賭けをするのも悪くないだろ?」
「ホー。そういうものなのかしら?」
「それに真剣な顔して色々聞くお前を見てると何か楽しくなってきてな。よかったら一緒に考えてみないか? 俺も何かいい対策が浮かぶかもしれん」
アンナは目を見開きこちらを一瞬見たと思ったら即後ろを向く。名前を呼ぶと少しだけ肩が跳ね、ポソリと呟いた。
「―――レヴナンツトールに戻りましょ。いっぱい聞くから覚悟して」
「! ああ。対策会議をしよう」
その言葉にアンナは振り向き立ち上がる。そしていつもの笑顔でこちらに手を差し伸べた。俺はその手を取りニィと笑う。引っ張り上げられ、そのまま前へとエスコートされた。
まあこの時の俺はアンナが一瞬そっぽを向いた理由に気付けなかった。そう、あいつは思考が一瞬フリーズし、感情を処理できず真顔になっていたのだ。悟られないようそっぽを向いたと色々見てきた今なら判断できる。すぐに察せていれば、もっと違う道程を辿れたかもしれないと思うと悔しい所があった。
◇
その後。隠れ工房にて俺たち2人で魔導兵器について語り合う。基本的にアンナは相槌を打ち、気になった部分を質問していただけだった。が、時々顔を見ると真剣な顔で目の前の魔導アーマーと睨み合っていた。その顔が兎に角良いもので見惚れてしまう。―――まあ視線にすぐに気付き、いつもの笑顔で首を傾げながらこちらの顔を見た。そうやって気が付いたら一晩徹夜していたらしい。いつの間にか邪魔しないように外に出ていたビックスとウェッジが戻り、少しだけ呆れたような顔をしてこちらを見ていた。
#シド光♀ #即興SS
新生メインクエスト"魔導兵器のみる夢"後のシド光♀。まだ何も意識し合ってない頃。
ミンフィリア救出作戦の一環で魔導アーマーを鹵獲した。修理・整備を終わらせ、試運転中に異変に気付いたのか帝国兵が飛んで来る。まあ冒険者と一緒に即蹴散らし、その後無事起動することを確認できた。
最終調整を行うためビッグスとウェッジが魔導アーマーを整備用拠点へと連れて行く所を見送る。そして、いつの間にか隣からいなくなっていた冒険者である黒髪のヴィエラを探すため、周りを見回した。見つけた。先程まで戦闘していた場所で座り込んでいる。
「アンナ、何をやってるんだ?」
「研究」
魔導兵器をじっと睨みながらノートを取り出す。首を傾げながら覗き込むと、細かな文字と魔導アーマーのスケッチが描かれていた。今は先程破壊した重装型について書き留めている。文字は異国の言語でよく分からない。何処の言葉なのかと聞くと「ひんがしの方の」とだけ溢した。
「かつて私に戦闘を教えてくれた人が昔いたんだけど。この魔導アーマーたちに関しては何も教えてくれなかったの。仕方ないのは分かってるけどね」
「それで、研究と?」
機体に触れ、中を覗き、何かを記していく。俺は隣に座りそれを眺めた。アンナは苦笑しながらこちらを見ている。
「先に戻ってもいいんだよ。これは私個人がやりたいこと」
「まあいいじゃないか。それに俺はこう見えてこいつらを設計する側に立つ予定だったんだ。目視だけじゃ分からんことやら色々教えてやってもいいぜ」
「―――じゃあ質問なんだけど」
最初に聞かれたのは"コアの位置"。次に"無人兵器の場合、どこを殴れば信号を打ち止められるのか"。"砲塔に使われた金属の強度"、"センサーの位置"、"ビーム装填中に砲塔詰まらせたら暴発してどの位の範囲影響あるのか"―――確実に破壊するための手順を聞いて来る。実際のスクラップを指さしながら分かる範囲のものは教えた。
「勉強熱心なんだな」
「戦う上で苦手なものが存在すると致命的なミスに繋がることがあるからね。んーやっぱり本職の人に聞くのが一番楽しいかも」
「お前さえよかったら工房にいくつか設計図が持ち込まれてたはずだ。読んでみないか?」
「いいの? こんな怪しい旅人にポンポン大切なモノ見せちゃだめだよ」
横から頬を抓り引っ張ってやる。
「俺たちは同じ敵を持った仲間じゃないか。打倒帝国とかいう少しでも大きすぎる目標を持ってんだ。達成する確率を上げるために賭けをするのも悪くないだろ?」
「ホー。そういうものなのかしら?」
「それに真剣な顔して色々聞くお前を見てると何か楽しくなってきてな。よかったら一緒に考えてみないか? 俺も何かいい対策が浮かぶかもしれん」
アンナは目を見開きこちらを一瞬見たと思ったら即後ろを向く。名前を呼ぶと少しだけ肩が跳ね、ポソリと呟いた。
「―――レヴナンツトールに戻りましょ。いっぱい聞くから覚悟して」
「! ああ。対策会議をしよう」
その言葉にアンナは振り向き立ち上がる。そしていつもの笑顔でこちらに手を差し伸べた。俺はその手を取りニィと笑う。引っ張り上げられ、そのまま前へとエスコートされた。
まあこの時の俺はアンナが一瞬そっぽを向いた理由に気付けなかった。そう、あいつは思考が一瞬フリーズし、感情を処理できず真顔になっていたのだ。悟られないようそっぽを向いたと色々見てきた今なら判断できる。すぐに察せていれば、もっと違う道程を辿れたかもしれないと思うと悔しい所があった。
◇
その後。隠れ工房にて俺たち2人で魔導兵器について語り合う。基本的にアンナは相槌を打ち、気になった部分を質問していただけだった。が、時々顔を見ると真剣な顔で目の前の魔導アーマーと睨み合っていた。その顔が兎に角良いもので見惚れてしまう。―――まあ視線にすぐに気付き、いつもの笑顔で首を傾げながらこちらの顔を見た。そうやって気が付いたら一晩徹夜していたらしい。いつの間にか邪魔しないように外に出ていたビックスとウェッジが戻り、少しだけ呆れたような顔をしてこちらを見ていた。
#シド光♀ #即興SS
"召し上がれ"
補足
Lv39メインクエスト前後のお話。
「アルフィノ、大丈夫?」
「あ、ああサリスか。大した事はないよ」
白い息を吐きながら少年ははにかんだ。
◇
クルザス、ホワイトブリム前哨地。ボクたちは今、シド・ガーロンドが造ったと言われる"エンタープライズ"を探す手がかりがこの地にあるという情報を掴み、やって来た。余所者お断りの気候と同じく冷たい人間たちの扱いに困りながら、人助けをしている。まあその人助けも異端審問官が邪魔をして大して実ってないわけだが。
記憶を失った男シドも自分が出来ることを探し、装置を修理している。しかし、ザナラーンで潜んでいたボクたちを見つけ出しここまで連れてきた少年アルフィノは地道な活動が苦手らしい。外で何やら考えことをしていた。
見ていると非常に寒そうである。特に腹を冷やしそうでボクはそわそわしていた。見かねてつい旅用のマントを羽織らせる。
「いいのかい?」
「まあ少しは慣れてるからね。それにしても―――シドの方が寒そうなのに。無茶しちゃだめだよ?」
「確かにシドは見てるこっちが寒くなるがね……」
薄い布のように見える半袖。アルフィノの言う通りとても寒いと思われる格好だ。本人はどうも思ってなさそうだが。
「ガレマール帝国はとても寒い土地にある国だしね。これ位誤差なんでしょ」
「ふふっそうかもしれないね」
「お前たち何を話してると思ったら……」
いつの間にか苦笑しながらシドが立っていた。ボクとアルフィノは笑顔を見せる。
「ほらアルフィノ、噂をすれば寒そうな人だよ」
「サリスからマントを預かってるが―――もしかしたらこれは君が羽織ってる方がいいかもしれないね」
「お、俺は大丈夫だ。アルフィノ、風邪を引いたら大変だ。それで温まるといい」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
苦笑する彼らを見て、ボクは少し考える。そしてふと過去の記憶が浮かび上がった。
『温かい―――』
食材は、ある。調理道具もある。じゃあちょっと火を借りたら行けそうか。
「アルフィノ、ちょっと待っててね」
彼らの言葉を聞く前に砦へ走り去る。頑張って再現出来るようになったモノを、差し上げよう。
◇
「サリス。これは……いいのかい?」
「ちゃんと食べないと身体が冷えていつまでも温まらないよ」
思い付いた時は煮込む工程を忘れていた。おかげさまで思ったより完成まで時間がかかってしまった。マントにくるまったアルフィノは目を丸くし、ボクが手渡したカップを両手で持っている。年相応って感じで可愛いね。
湯気が立ち、肉と切った野菜が白くとろみのある汁の中に沈んでいる。これがなかなか当時作ろうとしたけど難しくて苦戦したっけ。理由は簡単。どうしてもあの夜に食べた味にならなかったから。いや味自体は作れるようになった。温かく、自分の身体の芯に火が灯されたあの感覚を得ることが出来ない。
「これは―――シチューか?」
「うん。シドも食べる?」
「丁度腹が減ってきてた。貰えるか?」
「そう」
シドにも渡し、ボクはニコニコと2人が食べている所を見守る。
「美味しい。サリス、とっても美味しいよ」
「ああ。お前はどんな料理も出来るんだな」
「ふふっ。長く旅をしていたらね、料理の1つや2つ出来るようになるよ」
満面の笑顔。よかった。もし美味しくないと言われたらどうしようかと。
「ああ。それに、どこか懐かしい味がするんだ」
シドはカップの中身をじっと見つめ、目を細めた。―――まあそうでしょうね。
「あなたがガレマール帝国出身の方なら、そうかもしれないわね」
じゃあ片付けするから、と踵を返し歩を進める。「どういうことだ、サリス」という声が聞こえたが何も言わず手を振った。
嗚呼。別に、どんな顔されてるか見たくないからじゃないよ。いつまでもボクの鍋を置きっぱなしにしてるのは失礼だなって思っただけなんだから。
―――シドが記憶を取り戻したら、飛空艇を夢見た真っ白な機工師がいなかったか聞いてみようかな。意味はないけど。
◇
あの時ボクを助けた白色の少年。今どこで、何をしているのかな。ボクを探す飛空艇は作れたのだろうか。いや、キミの故郷は今こうやって急激に勢力を広げてる。だから、恐ろしい兵器を造ってるのかもしれない。
もしかしたら、敵として会ってしまうかも。ちょっとだけ怖いな。だから、なるべく出会わないことを祈ってるよ。
ボクは旅人。それ以上でもそれ以下でもない。誰のモノにもならないし、誰かを愛することもない。
忘れてくれてたら、嬉しいな。
#即興SS
Lv39メインクエスト前後のお話。
「アルフィノ、大丈夫?」
「あ、ああサリスか。大した事はないよ」
白い息を吐きながら少年ははにかんだ。
◇
クルザス、ホワイトブリム前哨地。ボクたちは今、シド・ガーロンドが造ったと言われる"エンタープライズ"を探す手がかりがこの地にあるという情報を掴み、やって来た。余所者お断りの気候と同じく冷たい人間たちの扱いに困りながら、人助けをしている。まあその人助けも異端審問官が邪魔をして大して実ってないわけだが。
記憶を失った男シドも自分が出来ることを探し、装置を修理している。しかし、ザナラーンで潜んでいたボクたちを見つけ出しここまで連れてきた少年アルフィノは地道な活動が苦手らしい。外で何やら考えことをしていた。
見ていると非常に寒そうである。特に腹を冷やしそうでボクはそわそわしていた。見かねてつい旅用のマントを羽織らせる。
「いいのかい?」
「まあ少しは慣れてるからね。それにしても―――シドの方が寒そうなのに。無茶しちゃだめだよ?」
「確かにシドは見てるこっちが寒くなるがね……」
薄い布のように見える半袖。アルフィノの言う通りとても寒いと思われる格好だ。本人はどうも思ってなさそうだが。
「ガレマール帝国はとても寒い土地にある国だしね。これ位誤差なんでしょ」
「ふふっそうかもしれないね」
「お前たち何を話してると思ったら……」
いつの間にか苦笑しながらシドが立っていた。ボクとアルフィノは笑顔を見せる。
「ほらアルフィノ、噂をすれば寒そうな人だよ」
「サリスからマントを預かってるが―――もしかしたらこれは君が羽織ってる方がいいかもしれないね」
「お、俺は大丈夫だ。アルフィノ、風邪を引いたら大変だ。それで温まるといい」
「じゃあお言葉に甘えさせてもらうよ」
苦笑する彼らを見て、ボクは少し考える。そしてふと過去の記憶が浮かび上がった。
『温かい―――』
食材は、ある。調理道具もある。じゃあちょっと火を借りたら行けそうか。
「アルフィノ、ちょっと待っててね」
彼らの言葉を聞く前に砦へ走り去る。頑張って再現出来るようになったモノを、差し上げよう。
◇
「サリス。これは……いいのかい?」
「ちゃんと食べないと身体が冷えていつまでも温まらないよ」
思い付いた時は煮込む工程を忘れていた。おかげさまで思ったより完成まで時間がかかってしまった。マントにくるまったアルフィノは目を丸くし、ボクが手渡したカップを両手で持っている。年相応って感じで可愛いね。
湯気が立ち、肉と切った野菜が白くとろみのある汁の中に沈んでいる。これがなかなか当時作ろうとしたけど難しくて苦戦したっけ。理由は簡単。どうしてもあの夜に食べた味にならなかったから。いや味自体は作れるようになった。温かく、自分の身体の芯に火が灯されたあの感覚を得ることが出来ない。
「これは―――シチューか?」
「うん。シドも食べる?」
「丁度腹が減ってきてた。貰えるか?」
「そう」
シドにも渡し、ボクはニコニコと2人が食べている所を見守る。
「美味しい。サリス、とっても美味しいよ」
「ああ。お前はどんな料理も出来るんだな」
「ふふっ。長く旅をしていたらね、料理の1つや2つ出来るようになるよ」
満面の笑顔。よかった。もし美味しくないと言われたらどうしようかと。
「ああ。それに、どこか懐かしい味がするんだ」
シドはカップの中身をじっと見つめ、目を細めた。―――まあそうでしょうね。
「あなたがガレマール帝国出身の方なら、そうかもしれないわね」
じゃあ片付けするから、と踵を返し歩を進める。「どういうことだ、サリス」という声が聞こえたが何も言わず手を振った。
嗚呼。別に、どんな顔されてるか見たくないからじゃないよ。いつまでもボクの鍋を置きっぱなしにしてるのは失礼だなって思っただけなんだから。
―――シドが記憶を取り戻したら、飛空艇を夢見た真っ白な機工師がいなかったか聞いてみようかな。意味はないけど。
◇
あの時ボクを助けた白色の少年。今どこで、何をしているのかな。ボクを探す飛空艇は作れたのだろうか。いや、キミの故郷は今こうやって急激に勢力を広げてる。だから、恐ろしい兵器を造ってるのかもしれない。
もしかしたら、敵として会ってしまうかも。ちょっとだけ怖いな。だから、なるべく出会わないことを祈ってるよ。
ボクは旅人。それ以上でもそれ以下でもない。誰のモノにもならないし、誰かを愛することもない。
忘れてくれてたら、嬉しいな。
#即興SS
新生以降紅蓮以内のシド光♀。モンクジョブクエ50前提。
目を閉じて、息を大きく吸う。目に見えぬ何かをまとわせ、それを拳へ集中させる。重心を下半身に、上半身は力を抜き、"気"を意識。
「アンナじゃないか」
「っ!?」
突然声を掛けられ集中が途切れてしまった。振り向くと白い男が手を振りながら走り寄って来る。
「だいぶ早い時間に起きるんだな」
「そんなことないよ? シドこそ早い。……いや徹夜明け?」
「正解だ」
肩をすくめ、苦笑している。そして何をしていたんだと聞くのでボクはいつもの笑顔を見せた。
「朝の日課は運動から始まる」
「ああ準備運動みたいなもんか」
「昔ある人に教えてもらった。武術、その"型"と言えばいいのかな? 体操の代用」
「アラミゴの僧兵か?」
「あーそれに近い。本場のモンクの人に色々教えてもらったけど違う動きだったの。多分別流派」
じゃあそういうことでと再び構えるとシドはそのまま少し離れた場所で見ている。首を傾げた。
「いいじゃないか」
「楽しくないよ?」
「楽しいとかじゃないさ」
よく分からないので放置しておこう。そのままいつも通り、姿勢を正してゆっくりと呼吸を整え、そして―――
◇
汗を拭きながら、一息吐く。シドは―――ずっといたみたい。
「凄いな」
「毎日やってれば誰だってできるものだよ。健康体操みたいなもん。君もやってみる?」
「あー今度にしてくれ」
「やる気はなし」
「邪魔をしたくないんだ」
しっかり自覚して結構と言ってやると顔がほころんでいた。どうやら褒め言葉だと思っているらしい。もうそれでいいよ。
「まあこの辺りでやっているのも理由があるんだ」
「理由、か?」
「ここモードゥナは"世界の中心"とやららしいからね。確かにエーテルの吸収をしやすい。流れも掴みやすく、面白いことがやりやすいんだよね」
「俺の論文読んだのか?」
「ちょっと借りたのよ」
目を丸くしているシドにニィと笑ってやり、装備していた格闘武器を外す。1本の樹木の前に立ち、息を吸う。そして拳を当てがい、エーテルを集中させた。
「例えばこうやって」
拳に力を入れる。その瞬間パンと破裂音が響き渡った。小鳥たちの慌てたように飛び立つ音が聞こえる。
「木が」
シドの顔を見るとどんどん血の気が引いているのが分かる。当たり前だ。跡形もなく樹木がバラバラになったのだから。
「エーテルって便利だね」
満面の笑みで言ってやる。こうすると大体の人間はボクの周りから去って行くのだ。
しかしこの男は違った。
「おい拳は痛くないのか!?」
その手を握りボクを心配するような目を見せている。どこまでも優しい男だ。首元がくすぐったい。
「? エーテルを拳に集中させて撃ってるだけだし。やってることはモンクの体術と一緒だよ? チャクラは体内エーテルの流れのことだし」
「いやそんな激しく体内エーテルを消費するような行為も身体に悪いだろ! 無茶をするな」
「こんなのめったに人に見せないしやらないよ。だから武器装備してる」
傍に置いてある刀を持ちシドに触らせる。鞘を通し、長い刀身をなでさせた。
「これは他の人に内緒だよ? 私にとって武器というものは手加減の道具。これがないととーっても困っちゃうの」
「手加減」
「少しでも拳に力を入れちゃったらあなただって一瞬で粉砕しちゃう。人間として、エオルゼアにいるための大事なパーツ」
耳元にまで近づき、笑みを浮かべた。子供に言い聞かせるように優しくささやく。
「私は強大すぎる力を得てしまった。誰の手にも負えない、だからどの勢力にも属せない。そんな私があなたの"手伝い"をしている。その意味をよーく考えてね」
震える手を一瞬だけ握り、離れてやった。シドは一瞬ポカンとして顔を見せた後に咳払いをし、苦笑する。
「抑止力としての忠告のつもりか?」
「さあどうでしょう。……お腹空いたから朝ごはんにしましょ?」
「ああ俺も腹が減ってた所なんだ」
屋台で何を食べようかとシドは聞いてきた。そうだね、ご機嫌な朝ごはんと言いながら一緒に歩き出す。
乾いた風が今日も小心者なボクの心を嗤っていた―――。
Wavebox
#シド光♀