FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2024/11/26 旅人は魔導兵器を識りたい 新生
- 2024/11/19 "召し上がれ&quo… 新生
- 2024/11/15 溶けあうもの 紅蓮
- 2024/11/11 "11月11日&qu… 蒼天
- 2024/10/18 "嫉妬"、… 漆黒,
No.137, No.136, No.135, No.134, No.133, No.132, No.131[7件]
"スキンシップ"
補足
蒼天.5終了以降紅蓮.0のどこかで起こったシドとアリゼーの会話。シドと自機がまだ感情に自覚してない頃です。
「ねえシドあなた」
「アリゼーか。どうした?」
「アンナのスキンシップに慣れすぎてない?」
偶然休憩中に佇んでいたシドは急にアリゼーに話しかけられ首を傾げる。しばらく考え込んだ後、「ああ」と手をポンと叩く。
「だいぶ前に諦めたし周りも当然のようにスルーだから異常というのも忘れてたな」
「あなたの会社どうなってるの!?」
アリゼーは先程あったことを語る。それとなく「アンナとシドって距離感バグってないかしら? そういう関係なの?」とアルフィノに聞いてみると「アンナとシドはああ見えて交際していないよ」と苦笑した。なので自分も試しに「アンナ!」と呼びながら横に立つ。そして不敵な笑みで腰に手を回してみると急に笑顔で「どうしたの?」とお姫様抱っこをされたという。公衆の面前で堂々とやるものだから嬉しかったけど流石に恥ずかしかったと振り返った。
「ああ成程。俺にもそんな頃があったな」
「そんな懐かしむほどなの?」
「いや俺も平気で抱き上げられるからもうプライドはボロボロなんだ。……って何だその哀れな目は。悪かったな」
アンナは細長い見た目に反して怪力である。どんな重い物も涼しい顔で持ち上げていた。手伝って欲しいと言うとシドごと運ぶこともザラにある。シドは最初こそ異常事態じゃないかと思っていたがもう当然のように受け入れている。それはどちらかというと諦めなのだが。
「だが俺以外にもそういうスキンシップ出来るとは思わなかったな。大体の人間相手は避けるぞ? あいつ」
「そうなの?」
「サンクレッド辺りに聞いてみたらいい。アンナはああ見えて人とコミュニケーションを取りたくないし記憶に残されたくない"無名の旅人"という生き物だからな」
「誰相手にも優しいからてっきり普通なのかと思ってたわ……」
言われてみれば大体アンナは誰かと会話している時は温和な態度を取っているが一定の距離感を保っていた。
「前にどうしてそう人をからかうんだと聞いたら護りたい相手には優しくしたいからって言ってたぞ。そういうもんだと受け入れて日常に収めてしまえば楽しいと思うぜ」
そろそろ戻らないといけないとシドはその場を後にする。アリゼーは目を丸くし、しばらく佇んでいた。が、徐々にどういうことか飲み込み始めると顔が赤くなっていった。
自分が、アンナに、護るべき存在と認識されている。口に手を当て悶えるような声を上げた。
#即興SS
蒼天.5終了以降紅蓮.0のどこかで起こったシドとアリゼーの会話。シドと自機がまだ感情に自覚してない頃です。
「ねえシドあなた」
「アリゼーか。どうした?」
「アンナのスキンシップに慣れすぎてない?」
偶然休憩中に佇んでいたシドは急にアリゼーに話しかけられ首を傾げる。しばらく考え込んだ後、「ああ」と手をポンと叩く。
「だいぶ前に諦めたし周りも当然のようにスルーだから異常というのも忘れてたな」
「あなたの会社どうなってるの!?」
アリゼーは先程あったことを語る。それとなく「アンナとシドって距離感バグってないかしら? そういう関係なの?」とアルフィノに聞いてみると「アンナとシドはああ見えて交際していないよ」と苦笑した。なので自分も試しに「アンナ!」と呼びながら横に立つ。そして不敵な笑みで腰に手を回してみると急に笑顔で「どうしたの?」とお姫様抱っこをされたという。公衆の面前で堂々とやるものだから嬉しかったけど流石に恥ずかしかったと振り返った。
「ああ成程。俺にもそんな頃があったな」
「そんな懐かしむほどなの?」
「いや俺も平気で抱き上げられるからもうプライドはボロボロなんだ。……って何だその哀れな目は。悪かったな」
アンナは細長い見た目に反して怪力である。どんな重い物も涼しい顔で持ち上げていた。手伝って欲しいと言うとシドごと運ぶこともザラにある。シドは最初こそ異常事態じゃないかと思っていたがもう当然のように受け入れている。それはどちらかというと諦めなのだが。
「だが俺以外にもそういうスキンシップ出来るとは思わなかったな。大体の人間相手は避けるぞ? あいつ」
「そうなの?」
「サンクレッド辺りに聞いてみたらいい。アンナはああ見えて人とコミュニケーションを取りたくないし記憶に残されたくない"無名の旅人"という生き物だからな」
「誰相手にも優しいからてっきり普通なのかと思ってたわ……」
言われてみれば大体アンナは誰かと会話している時は温和な態度を取っているが一定の距離感を保っていた。
「前にどうしてそう人をからかうんだと聞いたら護りたい相手には優しくしたいからって言ってたぞ。そういうもんだと受け入れて日常に収めてしまえば楽しいと思うぜ」
そろそろ戻らないといけないとシドはその場を後にする。アリゼーは目を丸くし、しばらく佇んでいた。が、徐々にどういうことか飲み込み始めると顔が赤くなっていった。
自分が、アンナに、護るべき存在と認識されている。口に手を当て悶えるような声を上げた。
#即興SS
【NSFW】旅人、虎の尾を踏む
注意
時々は攻めに回りたいアンナさんが悪魔の囁きに乗せられるままシドにミコッテ化錬金薬を盛る話。直接的なエロはないけど背後注意。
―――幻聴でもない悪魔の囁きというものは聞いたことがあるだろうか? ボクはある。結論を言うとその時は最高な気分になるが後に最大の後悔と仕返しという名の復讐に襲われる。もし過去を改変できるならばあの囁きを聞くなと自分にアドバイスしたい。
「うーぐや゙じい゙」
アンナは迷惑にならない程度にのたうち回りながらため息を吐く。早朝、レヴナンツトールの宿屋にて盛大にイビキをかく男の隣で腰をさする。
今日も、負けた。約半月ぶりに食事でもと誘われたので何も疑わずバカ正直に付いて行った。それがアンナにとっての不幸の始まり。まずはそこで失言をしてしまう。いや当人はやらかしたとは思わなかった。気が付いたら真剣な目を見せ、腕を掴まれ連れて行かれる。それから"また"気を失うまで抱き潰された。まあ今回は一晩超過じゃなかっただけマシだと思っておこう。
―――実際はデザートを食べていた際、口元にクリームが付いていたので、『お子ちゃま』と言いながら指で拭ってやった。そのまま「自分で片付け」と舐めさせる。その後、クリームがうっすら残った指を舐めて見せると「今のは、お前が、悪い!」と言われながら連れて行かれたというのが事の顛末である。
すべては多忙で徹夜明け、かつご無沙汰だった所に重ねられ理性の糸が切れたのが原因だった。残念ながら悪意以外の欲は朧げにしか理解していないアンナには分からない。
「時々はこっちが勝ちたいんだけどなぁ」
普段の腕っぷしや口、イタズラ、逃げ足は勝ち誇ることができる。しかし初夜をはじめとした性行為に関しては、降参させた経験は皆無だった。弱い場所を全て把握され、器用かつ的確に。そして執拗に刺激する行為に対し手も足も出ない。それが悔しくてたまらないのがアンナ・サリスという人間である。
勿論シドも負けず嫌いであり、不敵な笑みを浮かべ生意気なことを言うアンナを組み敷きたいと日頃から思っていた。どちらかが大人しくすれば済む話だが、残念ながら両者妥協という言葉は辞書に存在しない。
別にシドとの性行為が嫌だというわけではないことを強調しておきたい。もし本当に嫌だったらとっくの昔に加減無しで蹴飛ばしている。何やかんや滅茶苦茶気持ちいいのが余計に悔しいのだ。
ただ、一度始まるとシドの機嫌一つで一晩超過かそうでないかが決まる。―――これに関してはアンナが日頃の行いを顧みれば多少何とかなる話でもあった。リンクパールが嫌いと耳から外して連絡もせず、気まぐれな旅でまともに顔を出さない。もう少し連絡や会う頻度を増やすだけで一度の行為は減るのだが、同じ場所に留まることが苦手な人間にそれは無茶な要求であった。
◇
さて、アンナは最近雇ったリテイナーがいる。ある日行き倒れていたア・リスと名乗る自称トレジャーハンターを見つけ、そのまま契約した"らしい"。他人事なのは"内なる存在"が対応したものと思われるので、アンナは"らしい"としか言いようがなかった。
まるで御伽噺に出て来るネコのような怪しい笑みを浮かべ、掘り出し物を持ち帰る奇妙なミコッテ。―――イタズラに役立つ道具を持って来たりすることもあるので非常に利用価値が高く面白い子というのがアンナの評価である。
「ご主人! おもしれーもん持って帰って来たぞ! こりゃ給金弾むな! ヒヒヒッ」
「詳細」
ベルで呼ぶと満面の笑みで現れたア・リスはアンナに1本の瓶を渡した。普段こういった奇妙なものを持って帰った時は大体説明書も渡されるのだが珍しくそういったものは付いていなかった。
「これ何?」
「俺様とお揃いになる薬!」
首を傾げると彼はニィと笑う。
「ご主人前に子供になる薬浴びたことあるんだって?」
「誰から聞いたの」
「俺様は情報通でもあるんだぜ? へへっなんと今回持って帰って来た錬金薬はその類のモノらしいぞ!」
アンナが『えぇ……』と露骨に嫌そうな表情を見せると「最高な顔サンキュー!」とア・リスはケラケラと笑った。
「えっとお揃いになる、ということはミコッテ?」
「そそ! ミコッテになる薬らしいぞ! 本当かはわかんね! なるかならないか、2分の1だぞこりゃーシンプルだな!」
「効果時間」
「長くないぞ! 最長半日だ!」
「子供化は1週間位続いたのに」
「それだけ作った奴の腕がいいってこった! 運がいいなご主人! 早速飲んでみっか?」
「うん? どこから持って来たの?」
「ないしょ!」
「じゃあ今回はちょっといいかな」
相変わらず入手経路に関しては笑顔ではぐらかされる。正直な話持ち帰るモノは相当自分に被害がなさそうなもの以外は1人では試さない。絶対命に別状はないものであることを条件に持ち帰らせているので大体シドで様子を見ている。実際に満足したら給金がてらの食事が豪華になり、ア・リスはそれが楽しみだと両手を上げて喜ぶのだ。
しかし今回ばかりは怪しいと突き返す。「えー」と口を尖らせた。
「試すの怖いなら、人でやればいいじゃんか」
「う、でも錬金薬は危険じゃない? 万が一支障が出たら」
「ただ見た目が俺様のようなミコッテになるだけだぜ? 脳を弄るわけじゃねーから生活に支障は一切ないぞ。それどころかいつもより身体が軽かったりしてな!」
「む、確かに」
「服用した際の眩暈等はご主人が浴びた粗悪品より軽減されてるはず。―――ほらご主人前言ってたじゃん。一度くらいシドの旦那に勝ちたいって」
「う、そうだけど……」
呻き声を上げる。それは確かに、そうだがとアンナは目を閉じる。ア・リスにそんなことを言った記憶はないような気がするがどうでもよくなっていた。
「耳掴まれてガシガシされるの、嫌いなんだろ? ヒトミミの奴らは理解してくんねえよな。俺様だって耳を好き放題されるのは大嫌いだ。一度くらい、知ってもらってもいいんじゃね?」
「あ……」
ア・リスはニィと笑い瓶を軽く振りながら見せる。アンナは目を細め、それを眺めている。まるで、悪魔の囁きのようだ。断ることができない。その瓶の輪郭を優しく指でなぞる。
「ささ、ナイスなイタズラ始めようぜ?」
アンナはそれを手に取り、鞄に仕舞い込む。リテイナースクリップと、焼いてあった菓子を渡し宿を後にするのであった―――。
◇
ガーロンド・アイアンワークス社。詰まっていた案件もほぼ終わり、残るはシドの書類仕事のみとなっていた。休憩がてら自室を覗くと珍しくアンナがニコニコと笑い座っていた。
「この時期にいるなんて珍しいじゃないか」
「そうかも」
地獄のデスマーチに突入する5日前、甘えていた途中にスイッチが入りヤりすぎたと反省していたシドはてっきり2週間程度旅で帰って来ないだろうと思っていた。少しだけ疲れが吹っ飛んだ気がするのは単純すぎて自分でも苦笑してしまう。
「あとどれ位?」
「ああ書類を片付けたら。お前さんに会えたからすぐに終わらせるさ」
「調子のいいことを言うねえ。あ、そうだ」
アンナは机に置いた飲み物を指さす。
「疲れには、甘い飲み物。いかが?」
「貰おうじゃないか」
丁度飲み物が欲しかったんだとコップに手を取る。そして何も疑わず一気に飲み干した。
「えらく甘い飲み物だな。何だこ―――」
一瞬目の前が真っ暗になったように錯覚する。チカチカと星が散り、その場にへたり込む。少しだけ動悸がし、アンナを見上げると一瞬驚いたような目を見せた後満面の笑顔になった。そしてこう言ったのだ。
「ナイスイタズラ」
扉を開け放ち、走り出すので「待て!」と叫びながら立ち上がり必死に追いかける。
気持ち身体が軽い気がする。一瞬疲れたかのように重かったのに。確かに疲れに効くものなのだろう。いや一瞬ぶっ倒れるかと思ったのだが。
すれ違う社員たちがシドを二度見する。気になるがアンナを追いかける方が先だと走っていると曲がり角で人とぶつかる。
「ああスマン! ってネロか。アンナ見なかったか!?」
「っ痛ぇな! どこ見てンだよガーロ……ンン!?」
ネロは一瞬固まった後失礼なことにゲラゲラと大爆笑している。
「お前人を指さして笑うんじゃない!」
「ヒーいやこりゃァ傑作だな! メスバブーンの新手のイタズラか最近パワーアップしてンなァ!」
「はぁ!?」
何を言っているかが分からない。すると後ろからジェシーが「会長! って本当にどうなって!?」と驚愕した声を上げている。お前もか、失礼だなと首を傾げ振り向くと手鏡を差し出される。まじまじと見つめると―――。
「ねこ、耳」
幻覚かと思い頭上の三角に触れると薄く柔らかいモノが当たる。ふと違和感を抱き慎重に尻周辺を触れると尾てい骨辺りから何かが垂れ下がっている。
「しっぽ」
嫌な予感がしたのでゴーグルを外すと第三の眼がない。前髪を払うと普段の人の耳もない。つまりさっき飲んだものは。一瞬絶句して声も出せなかった。しかし今の事象に対して何か言わないといけない。とりあえず顔を青くしながら叫ぶ。
「アンナ、お前、何やってるんだ!?!?」
ケラケラと聞き覚えのない男の笑い声が、聞こえた気がした。
◇
「おうメスバブーンから聞いてやったぞ。効果時間は最高半日、らしいぜ」
「いや出所も聞いて欲しかったんだが。どこから貰って来たんだ錬金術師ギルドか?」
「僕も気になってギルドに問い合わせてみたが我が妹は最近来てないみたいだ。別口だろう」
社員と計器に囲まれるご機嫌斜めなシドはため息を吐く。時折可愛いやら癒しとよく分からない言葉も飛び交い、またアンナに振り回されてるなと満足げに見ている野次馬も多い。
「特にエーテルの乱れやら異常はないみたいですね」
「まあ確かに薬盛られた後即元気に走り回ってたからなあ親方」
「じゃあ仕事に支障はないですね」
ジェシーの笑顔にシドは素っ頓狂な声を上げてしまう。
「おいお前たち最高責任者が薬を盛られたんだぞもっと心配するとかないのか!?」
「ハァ? 今一連のチェックしたばっかじゃねェか。耳と尻尾が生えただけでなンもなし。ツマンネェ」
「そうですよただの恋人からの疲れを癒やすプレゼントじゃないですか。サボリの口実にはしないでくださいね」
シドは呆れて開いた口が塞がらない。盛大なため息が部屋に響き渡った。
「錬金薬は専門外ッスけど見た感じ本当にミコッテになってるのって面白いッスねー」
「ガレアンからミコッテに変わったからちゃんと第三の眼がない、と。ウルダハ中心に出回ってる幻想薬の類だろうな。一体我が妹はどこで調達したのやら」
「レフ、あいつ最近"イタズラ"の質が異常に上がってるんだ。兄であるお前からも一言ガツンと言ってくれないか? 流石に仕事中のやらかしは目に余るだろ」
「妹は可愛いなあ」
「だめだこりゃ誰かこいつの脳みそ入れ替えてくれ」
エルファーは「見つけましたよ」と駆け込んできた社員数人に奥の部屋へと連れて行かれた。どうやらまだ作業が残っていたらしい。タイミングがよすぎて一瞬本当に脳手術でもされるのかと思ってしまった。
「じゃあ会長、ちゃんと倒れないか見張っているので仕事頑張ってくださいね」
アンナ本当に覚えてろよ、早々に仕上げて苦情をぶつけてやるとシドは眉間に皴を寄せながら机に向かう。周囲は相変わらず今回の錬金薬の効果について議論を交わしながら計器でシドのバイタルチェックを行っている。仕事熱心な部下を持って最高だなと思うことでこれ以上の思考をシャットダウンしておいた。
この場では何を言おうとも無駄であることは普段からよく分かっている。自分だって目の前で誰かが同じ状態になればどうするか予想もつくのだから。
◇
「やっと解放された……」
深夜、シドはフラフラと歩いている。あれから書類仕事中は、少し姿勢を変える毎に何か異常が出たのかと周囲から言い寄られ、あれやこれやと自分の頭上で議論をするものだから流石に怒鳴り散らして全員追い出した。
最初こそは『アンナが現れ、更にまだ彼女には言ってないが明日は久々の休暇。今日は幸運だな』と思っていた。が、現在はドッと疲れが襲いかかり早く寝たいという感情が先にある。
視線を落とし考えていたからか目の前に人がいたことに気付かずぶつかってしまう。直後ふわりと漂う甘い匂い。相手に身に覚えがあるがとりあえず「ああスマン」と謝っておく。言いながら見上げるとそこには諸悪の根源が。
「アーンーナー」
「ごめんごめんまさか本当にミコッテになるとは思わず逃げちゃった」
悪びれず笑うアンナの頬を掴み引っ張る。それより覚えのない匂いが気になる。
「新しい香水か?」
「うん。ちょっと気になって。検証」
シドは首を傾げる。そのまま帽子を被せられ、引き摺られた。
「お、おい!?」
「お腹空いたでしょ? お詫び」
「まあ確かに腹は減ったが尻尾が隠せ」
「ああ休憩室にご飯置いてるよ?」
目を見開いてしまう。珍しい。アンナからはこれまで菓子以外を振舞われたことがほぼなかったのでつい吃驚してしまった。しかし先刻やらかされたばかりだ。次は何を混ぜられているのか、当然だが信用できない。
「あー私が何か混ぜてるって思ったね?」
「当たり前だ。これが信用ってやつだ分かるか?」
「そっか。いらないなら全部食べるよ。あなたは私がおいしく食べてる所を見る役。悲しくひもじくなろう楽しいね」
「食べないとは言ってないだろ」
正直で助かるよと笑みを浮かべるアンナにシドはため息を吐く。しかし明らかに自分の尻尾が垂直にピンと立てているのが正直すぎてジトリとした目で後ろを睨みつけた。
「じゃあ何で帽子を被せたんだ」
「ヒミツ」
―――少しだけ身体が火照っているような気がした。
◇
休憩室で振舞われた東方料理は美味かった。魚料理が中心で味も以前クガネで食べたものとほぼ同じで驚いた。修行でもしてたのかと聞いたら「自己流。得意分野」と舌をペロリと見せた。
いや食事を褒めている場合ではない。自室に引っ張り鍵を閉め肩を掴んだ。詫びだとは言っているが今日の行いは流石に許すことはできない。アンナは呑気に「何か?」と聞くので「あのなあ」と威嚇する。
「流石に仕事中に薬を盛るのだけはやめてくれないか? というか先に試したいなら試したいとオフの日事前に一言だな」
アンナはその言葉を無視し、シドに被せていた帽子をもぎ取る。そして輪郭をなぞった。突然の行為に身体がビクリと反応し「おいアンナ!?」とその手を掴む。
「? 何か?」
「いやいきなり何するんだお前!?」
「シドだって普段脈略無しに触る」
ぐっ、と言葉を詰まらせてしまった。アンナはニコリと笑いシドを抱き上げ、寝台に座らせる。相変わらずどこに大の男を抱えるための筋肉があるのかが分からない。後ろに座られ、そのまま頭を乗せられた。そしてまた耳をさすり始める。息を吹きかけながら、全体を撫でた後、跳ねた毛で遊ぶように指をクルクル回している。手慣れた動きに甘い不思議な匂い、身体が異常に火照っている。正直に言うと何かがおかしい。
「お、おいアンナ」
「どしたの? 未知の感覚?」
「っ!?」
耳元で優しく小さな声で囁かれる。
「シドがよくやってることじゃん」
「いやそうかもしれんが! ッ、噛むんじゃない! ちょっとくすぐったいんだ一度ストップしてくれ」
腕を掴み荒い息を整える。心臓がバクバクし、これ以上触られるとまた理性の糸が切れて襲ってしまいそうだ。流石にもう謝罪の朝は遠慮したいとは思っているのだがアンナに煽られるとつい毎回やらかしてしまう。
そう考え込み、油断していたのがいけなかった。アンナはふーんと言いながら鞄から何かを取り出しシドの両手を片手で持つ。不思議なことにビクともしない。シドは突然の行為に目を見開き口を開こうとするともう片方の手に持っているものに気付く。そのままガシャンと音を立て、両手に手錠をはめ込む。
「はい、これで大丈夫」
「いやどうしたんだこれ!?」
「いつぞやに耳触り対策で購入、今回初投入」
「だろうな!」
じゃあ続行とアンナは再びシドの耳を丹念に触り始める。いつまで続くのか、と思うが少し前に延々と耳を弄って怒らせたことを思い出す。まさか今回のイタズラの動機はそのやり返しということだろうか。質問を投げようとすると「そういえば」とアンナは口を開く。
「今回のイタズラにあたってちょっと人に会ったんだ」
「ッ、お前に錬金薬を渡した商人とかか?」
「違う違う。ウルダハの娼館のお姉さんたち」
「しょ、しょうかん? 確か召喚士というか巴術士ギルドはリムサ・ロミンサだろ?」
「おっそのボケ今する? 娼婦の綺麗なレディーたちに個人的取材。んで色々聞いたのさ」
全く声色を変えず言葉を続ける姿は少しだけ怖いなとシドは顔を赤くしながら早く終わるよう念じていると口の中に指を滑り込まれた。
「ぐぁっ!?」
「おー本当に舌ザラザラしてる」
「ひゃめるんだ、くっ」
「牙もいいねえ嫌いじゃない。んで話の続き。そこで興味深いコトを聞いたんだ。オスのミコッテを満足させる方法」
ものすごく怒っている。これより先の話は絶望しかない。つまりはそのテクを本場の人間から伝授されてきたのだ。
「あ、別に実際お客さんを相手してとかじゃないよ。こうやって触ってるのはただ普段キミがよくやるような感じにしてるだけ。聞いたのはそうだね……この香水、ミコッテによく効くんだって。マタタビ効果、的な? いやいや嘘でしょって思ってたけど身体すっごーく熱そうだねぇシド」
食事かと思ったらそっちかと膝を打ちそうになるが今回のためだけにわざわざ準備してきたのかと感心する。どんな時もイタズラには全力でつい尊敬してしまった。
しかし本人なりに普段のやり返しをしたいのだろう。手錠を掛けられ、アンナの足で身体は動かせず、指は耳と口の中。匂いで感覚が研ぎ澄まされ、好き勝手に刺激される様は嫌がらせというよりかは―――『一種のご褒美だよな? これは夢でも見てるのか?』という感想しか抱けない。今の状況は多分誰がどう見てもアンナが主導権を握ってイチャついてるだけだ。ここまで積極的な姿は初めて見たしそんなに耳は嫌だったのか、という感想が先行する。『ほら嫌でしょ? だから二度とやるなよ』という心と好奇心で動くアンナにシドは笑みがこぼれた。ミコッテの耳じゃ普段やるような耳を掴むことなんてできないのに。
「でも耳はひんやりしてて触り心地いいなあ。あ、ピクッて動いた。ミコッテの耳ってすぐにピョコってするよねぇ」
"お前も結構分かりやすく耳倒すじゃないか!"とツッコミを入れたいが口の中の指に阻まれる。これも何度かやったことあるが個人的には悪くないなと呑気にシドは考えていた。
「あ! そうだシド。気になることがあって」
「っ、何だ。というか手の外してく」
「タイニークァールってさ、尻尾の付け根トントンしたら気持ちいいってなるらしい。実際なってた。かわいい」
「ん? ああ聞いたことあるな。……おいまさか」
「ミコッテはどうなんだろうねえ」
流石にまずい匂いがする。抵抗する間もなうつ伏せに転がされた。アンナは「おい! やめろ!」という声を無視し、まずは尻尾を優しく掴む。それだけで身体がビクビクと痙攣するように反応した。これは、ヤバいと本能が警笛を鳴らす。徐々に根元へと指が優しく動いているのを感じ取る。正直に言うと腰にクる。爪を立てシーツを噛み、震えるシドをアンナはクスクスと笑った。
「尻尾そんなに太くして警戒しなくてもいいんだよ? ほら撫でるよー、っと」
「おい待て、ッ―――!」
「普段ボクが待てって言っても止まらないから待たない」
正直下半身がもう悲惨なことになっているのは感じるのでこれ以上の刺激は本当にマズイ。しかしその抗議を無視したまま尻尾の付け根を優しく撫で始める。逃げるように身体を引こうとするが、「そんなお尻上げながら悦ばないでよ。ふふっクァールというよりゲイラキャットみたい。にゃぁん」と嬉しそうに言われてしまう。これが"拷問"と称した行為かと思いながら何も言わずシーツを掴んだ。そう、生殺しされている。耳先を弄りながら「そんなに震えない」と囁かれ、尻尾の付け根を優しく叩くように触れた。普段ならどうも思わない行為だが身体は勝手に粟立つように震え、脳が真っ白になる。目の奥が弾け、全身から汗が吹き出し力が抜けた。直接性器を触れられることもなく、完全に未知の感覚でイかされた。少しだけ屈辱的だが、それをあのアンナにされたことに喜びを見出す自分もいたのに驚いてしまう。
「あら」
アンナはシドの真っ白な尻尾が腕にふわりと絡ませる姿にニコリと笑う。当の本人は顔を伏せきり気付いていないのが面白い。愛し気に口付け、撫でているとまた身体がビクリと跳ねた。
「アンナ、なあッ」
「んー?」
「シたい」
「だーめ」
「キスだけでも」
「顔伏せながら何言ってるの?」
仰向けにされ、上に跨りながら顔を覗き込んでいる。正直に言うと人に見られたくない状態だ。実際アンナも悪い笑みを浮かべている。額、鼻、頬へと口付けをするので舌を出してやると「おあずけ」と顎下を撫でる。優しくて気持ちいいが先程の刺激を考えると物足りない。
「自分が嫌だと思うことはしちゃダメって分かった?」
妖艶な笑みに対し、シドは反射的に目を閉じ、頷いてしまう。
「ああよく分かったさ。だからこれ外して」
「それとこれとは話は別」
「なっ!?」
ここまで焦らしておいてかと抗議するがアンナはきょとんとした顔をしてる。
「焦らす? ボクはイタズラしかしてないよ? 満足、就寝」
最高に悪い笑顔を見せている。確実にこちらがどうなってるか把握してる上での意地悪だ。そもそも誰だこいつに悪知恵を与えた人間は。錬金薬だけじゃない、何か"悪いコト"を仕向けているヒトが明らかに存在する。―――上等だ。悔しいが興奮する。
「頼む、もっと」
「もっと?」
「手のは付けたままでいいから、"イタズラ"してくれ」
アンナは考え込む仕草を見せている。やはりダメか? と肩をすくめようとすると不意に唇に柔らかいものが触れる。
「よく言えました」
どうやらこれを言わせたかったらしい。「子供扱いするんじゃない」と眉間に皴を寄せてしまった。
◇
「よおご主人!」
「ア・リス……うえぇ」
2日後。アンナは謝罪を重ねるシドを普段通りな顔で見送る。いなくなったのを確認した直後、身体を引きずりながらため息を吐きリテイナーを呼んだ。スクリップを渡し、拾ってきたモノを確認する。今回は錬金薬ではない。よかった。
「ご主人! 旦那をギャフンと言わせることはできたか?」
「一晩は。次の日が悲惨だったからア・リスのお給料増額はなし」
「そんなぁ! その様子だとちゃんとなったんだろ?」
「次の日に数倍返し」
「あーそこは俺様はどうにもできないぞぉ」
あれから負けだと乞われ完全に勝ったと確信できた。
しかし次の日の早朝、"ミコッテになったシドも悪くなかったがやはりいつもの顔が一番見慣れてるしナイスヒゲだ"とはにかみ、撤退しようとすると捕まる。そのまま休みだというシドに1日中説教という名の行為が続いた。途中、場所を変えるからと羞恥プレイのような目にも遭った。『次の日動けない位もっと濃密にすればよかった』とアンナの心に刻まれ、次からは先に一言入れようという教訓を得る。
ア・リスは肩をすくめ、スクリップを指で遊ぶ。アンナは涙目で「まあ約束させたからその分はあげる」とマシュマロを渡すと無邪気に頬張っていた。
「ア・リスのこと言っちゃった。いつか紹介することになった」
「えー俺様はシャイだから旦那に会いたくないなあ」
「本物の恥ずかしがり屋は自分の事シャイとは言わず。まあミコッテの新しいリテイナーを雇ったとしか言ってないからまた時間合えば」
アンナはそう言うが、ア・リスは何も答えずそのままニャハハと笑いながら踵を返した。気まぐれな人間だなあ人のことは言えないけどと思いながらまた寝台に寝転ぶ。
昔、リンドウに教えてもらった諺、『危うきことトラの尾を踏むが如し』という言葉を浮かべながら不貞寝するのであった。
#シド光♀ #ギャグ
時々は攻めに回りたいアンナさんが悪魔の囁きに乗せられるままシドにミコッテ化錬金薬を盛る話。直接的なエロはないけど背後注意。
―――幻聴でもない悪魔の囁きというものは聞いたことがあるだろうか? ボクはある。結論を言うとその時は最高な気分になるが後に最大の後悔と仕返しという名の復讐に襲われる。もし過去を改変できるならばあの囁きを聞くなと自分にアドバイスしたい。
「うーぐや゙じい゙」
アンナは迷惑にならない程度にのたうち回りながらため息を吐く。早朝、レヴナンツトールの宿屋にて盛大にイビキをかく男の隣で腰をさする。
今日も、負けた。約半月ぶりに食事でもと誘われたので何も疑わずバカ正直に付いて行った。それがアンナにとっての不幸の始まり。まずはそこで失言をしてしまう。いや当人はやらかしたとは思わなかった。気が付いたら真剣な目を見せ、腕を掴まれ連れて行かれる。それから"また"気を失うまで抱き潰された。まあ今回は一晩超過じゃなかっただけマシだと思っておこう。
―――実際はデザートを食べていた際、口元にクリームが付いていたので、『お子ちゃま』と言いながら指で拭ってやった。そのまま「自分で片付け」と舐めさせる。その後、クリームがうっすら残った指を舐めて見せると「今のは、お前が、悪い!」と言われながら連れて行かれたというのが事の顛末である。
すべては多忙で徹夜明け、かつご無沙汰だった所に重ねられ理性の糸が切れたのが原因だった。残念ながら悪意以外の欲は朧げにしか理解していないアンナには分からない。
「時々はこっちが勝ちたいんだけどなぁ」
普段の腕っぷしや口、イタズラ、逃げ足は勝ち誇ることができる。しかし初夜をはじめとした性行為に関しては、降参させた経験は皆無だった。弱い場所を全て把握され、器用かつ的確に。そして執拗に刺激する行為に対し手も足も出ない。それが悔しくてたまらないのがアンナ・サリスという人間である。
勿論シドも負けず嫌いであり、不敵な笑みを浮かべ生意気なことを言うアンナを組み敷きたいと日頃から思っていた。どちらかが大人しくすれば済む話だが、残念ながら両者妥協という言葉は辞書に存在しない。
別にシドとの性行為が嫌だというわけではないことを強調しておきたい。もし本当に嫌だったらとっくの昔に加減無しで蹴飛ばしている。何やかんや滅茶苦茶気持ちいいのが余計に悔しいのだ。
ただ、一度始まるとシドの機嫌一つで一晩超過かそうでないかが決まる。―――これに関してはアンナが日頃の行いを顧みれば多少何とかなる話でもあった。リンクパールが嫌いと耳から外して連絡もせず、気まぐれな旅でまともに顔を出さない。もう少し連絡や会う頻度を増やすだけで一度の行為は減るのだが、同じ場所に留まることが苦手な人間にそれは無茶な要求であった。
◇
さて、アンナは最近雇ったリテイナーがいる。ある日行き倒れていたア・リスと名乗る自称トレジャーハンターを見つけ、そのまま契約した"らしい"。他人事なのは"内なる存在"が対応したものと思われるので、アンナは"らしい"としか言いようがなかった。
まるで御伽噺に出て来るネコのような怪しい笑みを浮かべ、掘り出し物を持ち帰る奇妙なミコッテ。―――イタズラに役立つ道具を持って来たりすることもあるので非常に利用価値が高く面白い子というのがアンナの評価である。
「ご主人! おもしれーもん持って帰って来たぞ! こりゃ給金弾むな! ヒヒヒッ」
「詳細」
ベルで呼ぶと満面の笑みで現れたア・リスはアンナに1本の瓶を渡した。普段こういった奇妙なものを持って帰った時は大体説明書も渡されるのだが珍しくそういったものは付いていなかった。
「これ何?」
「俺様とお揃いになる薬!」
首を傾げると彼はニィと笑う。
「ご主人前に子供になる薬浴びたことあるんだって?」
「誰から聞いたの」
「俺様は情報通でもあるんだぜ? へへっなんと今回持って帰って来た錬金薬はその類のモノらしいぞ!」
アンナが『えぇ……』と露骨に嫌そうな表情を見せると「最高な顔サンキュー!」とア・リスはケラケラと笑った。
「えっとお揃いになる、ということはミコッテ?」
「そそ! ミコッテになる薬らしいぞ! 本当かはわかんね! なるかならないか、2分の1だぞこりゃーシンプルだな!」
「効果時間」
「長くないぞ! 最長半日だ!」
「子供化は1週間位続いたのに」
「それだけ作った奴の腕がいいってこった! 運がいいなご主人! 早速飲んでみっか?」
「うん? どこから持って来たの?」
「ないしょ!」
「じゃあ今回はちょっといいかな」
相変わらず入手経路に関しては笑顔ではぐらかされる。正直な話持ち帰るモノは相当自分に被害がなさそうなもの以外は1人では試さない。絶対命に別状はないものであることを条件に持ち帰らせているので大体シドで様子を見ている。実際に満足したら給金がてらの食事が豪華になり、ア・リスはそれが楽しみだと両手を上げて喜ぶのだ。
しかし今回ばかりは怪しいと突き返す。「えー」と口を尖らせた。
「試すの怖いなら、人でやればいいじゃんか」
「う、でも錬金薬は危険じゃない? 万が一支障が出たら」
「ただ見た目が俺様のようなミコッテになるだけだぜ? 脳を弄るわけじゃねーから生活に支障は一切ないぞ。それどころかいつもより身体が軽かったりしてな!」
「む、確かに」
「服用した際の眩暈等はご主人が浴びた粗悪品より軽減されてるはず。―――ほらご主人前言ってたじゃん。一度くらいシドの旦那に勝ちたいって」
「う、そうだけど……」
呻き声を上げる。それは確かに、そうだがとアンナは目を閉じる。ア・リスにそんなことを言った記憶はないような気がするがどうでもよくなっていた。
「耳掴まれてガシガシされるの、嫌いなんだろ? ヒトミミの奴らは理解してくんねえよな。俺様だって耳を好き放題されるのは大嫌いだ。一度くらい、知ってもらってもいいんじゃね?」
「あ……」
ア・リスはニィと笑い瓶を軽く振りながら見せる。アンナは目を細め、それを眺めている。まるで、悪魔の囁きのようだ。断ることができない。その瓶の輪郭を優しく指でなぞる。
「ささ、ナイスなイタズラ始めようぜ?」
アンナはそれを手に取り、鞄に仕舞い込む。リテイナースクリップと、焼いてあった菓子を渡し宿を後にするのであった―――。
◇
ガーロンド・アイアンワークス社。詰まっていた案件もほぼ終わり、残るはシドの書類仕事のみとなっていた。休憩がてら自室を覗くと珍しくアンナがニコニコと笑い座っていた。
「この時期にいるなんて珍しいじゃないか」
「そうかも」
地獄のデスマーチに突入する5日前、甘えていた途中にスイッチが入りヤりすぎたと反省していたシドはてっきり2週間程度旅で帰って来ないだろうと思っていた。少しだけ疲れが吹っ飛んだ気がするのは単純すぎて自分でも苦笑してしまう。
「あとどれ位?」
「ああ書類を片付けたら。お前さんに会えたからすぐに終わらせるさ」
「調子のいいことを言うねえ。あ、そうだ」
アンナは机に置いた飲み物を指さす。
「疲れには、甘い飲み物。いかが?」
「貰おうじゃないか」
丁度飲み物が欲しかったんだとコップに手を取る。そして何も疑わず一気に飲み干した。
「えらく甘い飲み物だな。何だこ―――」
一瞬目の前が真っ暗になったように錯覚する。チカチカと星が散り、その場にへたり込む。少しだけ動悸がし、アンナを見上げると一瞬驚いたような目を見せた後満面の笑顔になった。そしてこう言ったのだ。
「ナイスイタズラ」
扉を開け放ち、走り出すので「待て!」と叫びながら立ち上がり必死に追いかける。
気持ち身体が軽い気がする。一瞬疲れたかのように重かったのに。確かに疲れに効くものなのだろう。いや一瞬ぶっ倒れるかと思ったのだが。
すれ違う社員たちがシドを二度見する。気になるがアンナを追いかける方が先だと走っていると曲がり角で人とぶつかる。
「ああスマン! ってネロか。アンナ見なかったか!?」
「っ痛ぇな! どこ見てンだよガーロ……ンン!?」
ネロは一瞬固まった後失礼なことにゲラゲラと大爆笑している。
「お前人を指さして笑うんじゃない!」
「ヒーいやこりゃァ傑作だな! メスバブーンの新手のイタズラか最近パワーアップしてンなァ!」
「はぁ!?」
何を言っているかが分からない。すると後ろからジェシーが「会長! って本当にどうなって!?」と驚愕した声を上げている。お前もか、失礼だなと首を傾げ振り向くと手鏡を差し出される。まじまじと見つめると―――。
「ねこ、耳」
幻覚かと思い頭上の三角に触れると薄く柔らかいモノが当たる。ふと違和感を抱き慎重に尻周辺を触れると尾てい骨辺りから何かが垂れ下がっている。
「しっぽ」
嫌な予感がしたのでゴーグルを外すと第三の眼がない。前髪を払うと普段の人の耳もない。つまりさっき飲んだものは。一瞬絶句して声も出せなかった。しかし今の事象に対して何か言わないといけない。とりあえず顔を青くしながら叫ぶ。
「アンナ、お前、何やってるんだ!?!?」
ケラケラと聞き覚えのない男の笑い声が、聞こえた気がした。
◇
「おうメスバブーンから聞いてやったぞ。効果時間は最高半日、らしいぜ」
「いや出所も聞いて欲しかったんだが。どこから貰って来たんだ錬金術師ギルドか?」
「僕も気になってギルドに問い合わせてみたが我が妹は最近来てないみたいだ。別口だろう」
社員と計器に囲まれるご機嫌斜めなシドはため息を吐く。時折可愛いやら癒しとよく分からない言葉も飛び交い、またアンナに振り回されてるなと満足げに見ている野次馬も多い。
「特にエーテルの乱れやら異常はないみたいですね」
「まあ確かに薬盛られた後即元気に走り回ってたからなあ親方」
「じゃあ仕事に支障はないですね」
ジェシーの笑顔にシドは素っ頓狂な声を上げてしまう。
「おいお前たち最高責任者が薬を盛られたんだぞもっと心配するとかないのか!?」
「ハァ? 今一連のチェックしたばっかじゃねェか。耳と尻尾が生えただけでなンもなし。ツマンネェ」
「そうですよただの恋人からの疲れを癒やすプレゼントじゃないですか。サボリの口実にはしないでくださいね」
シドは呆れて開いた口が塞がらない。盛大なため息が部屋に響き渡った。
「錬金薬は専門外ッスけど見た感じ本当にミコッテになってるのって面白いッスねー」
「ガレアンからミコッテに変わったからちゃんと第三の眼がない、と。ウルダハ中心に出回ってる幻想薬の類だろうな。一体我が妹はどこで調達したのやら」
「レフ、あいつ最近"イタズラ"の質が異常に上がってるんだ。兄であるお前からも一言ガツンと言ってくれないか? 流石に仕事中のやらかしは目に余るだろ」
「妹は可愛いなあ」
「だめだこりゃ誰かこいつの脳みそ入れ替えてくれ」
エルファーは「見つけましたよ」と駆け込んできた社員数人に奥の部屋へと連れて行かれた。どうやらまだ作業が残っていたらしい。タイミングがよすぎて一瞬本当に脳手術でもされるのかと思ってしまった。
「じゃあ会長、ちゃんと倒れないか見張っているので仕事頑張ってくださいね」
アンナ本当に覚えてろよ、早々に仕上げて苦情をぶつけてやるとシドは眉間に皴を寄せながら机に向かう。周囲は相変わらず今回の錬金薬の効果について議論を交わしながら計器でシドのバイタルチェックを行っている。仕事熱心な部下を持って最高だなと思うことでこれ以上の思考をシャットダウンしておいた。
この場では何を言おうとも無駄であることは普段からよく分かっている。自分だって目の前で誰かが同じ状態になればどうするか予想もつくのだから。
◇
「やっと解放された……」
深夜、シドはフラフラと歩いている。あれから書類仕事中は、少し姿勢を変える毎に何か異常が出たのかと周囲から言い寄られ、あれやこれやと自分の頭上で議論をするものだから流石に怒鳴り散らして全員追い出した。
最初こそは『アンナが現れ、更にまだ彼女には言ってないが明日は久々の休暇。今日は幸運だな』と思っていた。が、現在はドッと疲れが襲いかかり早く寝たいという感情が先にある。
視線を落とし考えていたからか目の前に人がいたことに気付かずぶつかってしまう。直後ふわりと漂う甘い匂い。相手に身に覚えがあるがとりあえず「ああスマン」と謝っておく。言いながら見上げるとそこには諸悪の根源が。
「アーンーナー」
「ごめんごめんまさか本当にミコッテになるとは思わず逃げちゃった」
悪びれず笑うアンナの頬を掴み引っ張る。それより覚えのない匂いが気になる。
「新しい香水か?」
「うん。ちょっと気になって。検証」
シドは首を傾げる。そのまま帽子を被せられ、引き摺られた。
「お、おい!?」
「お腹空いたでしょ? お詫び」
「まあ確かに腹は減ったが尻尾が隠せ」
「ああ休憩室にご飯置いてるよ?」
目を見開いてしまう。珍しい。アンナからはこれまで菓子以外を振舞われたことがほぼなかったのでつい吃驚してしまった。しかし先刻やらかされたばかりだ。次は何を混ぜられているのか、当然だが信用できない。
「あー私が何か混ぜてるって思ったね?」
「当たり前だ。これが信用ってやつだ分かるか?」
「そっか。いらないなら全部食べるよ。あなたは私がおいしく食べてる所を見る役。悲しくひもじくなろう楽しいね」
「食べないとは言ってないだろ」
正直で助かるよと笑みを浮かべるアンナにシドはため息を吐く。しかし明らかに自分の尻尾が垂直にピンと立てているのが正直すぎてジトリとした目で後ろを睨みつけた。
「じゃあ何で帽子を被せたんだ」
「ヒミツ」
―――少しだけ身体が火照っているような気がした。
◇
休憩室で振舞われた東方料理は美味かった。魚料理が中心で味も以前クガネで食べたものとほぼ同じで驚いた。修行でもしてたのかと聞いたら「自己流。得意分野」と舌をペロリと見せた。
いや食事を褒めている場合ではない。自室に引っ張り鍵を閉め肩を掴んだ。詫びだとは言っているが今日の行いは流石に許すことはできない。アンナは呑気に「何か?」と聞くので「あのなあ」と威嚇する。
「流石に仕事中に薬を盛るのだけはやめてくれないか? というか先に試したいなら試したいとオフの日事前に一言だな」
アンナはその言葉を無視し、シドに被せていた帽子をもぎ取る。そして輪郭をなぞった。突然の行為に身体がビクリと反応し「おいアンナ!?」とその手を掴む。
「? 何か?」
「いやいきなり何するんだお前!?」
「シドだって普段脈略無しに触る」
ぐっ、と言葉を詰まらせてしまった。アンナはニコリと笑いシドを抱き上げ、寝台に座らせる。相変わらずどこに大の男を抱えるための筋肉があるのかが分からない。後ろに座られ、そのまま頭を乗せられた。そしてまた耳をさすり始める。息を吹きかけながら、全体を撫でた後、跳ねた毛で遊ぶように指をクルクル回している。手慣れた動きに甘い不思議な匂い、身体が異常に火照っている。正直に言うと何かがおかしい。
「お、おいアンナ」
「どしたの? 未知の感覚?」
「っ!?」
耳元で優しく小さな声で囁かれる。
「シドがよくやってることじゃん」
「いやそうかもしれんが! ッ、噛むんじゃない! ちょっとくすぐったいんだ一度ストップしてくれ」
腕を掴み荒い息を整える。心臓がバクバクし、これ以上触られるとまた理性の糸が切れて襲ってしまいそうだ。流石にもう謝罪の朝は遠慮したいとは思っているのだがアンナに煽られるとつい毎回やらかしてしまう。
そう考え込み、油断していたのがいけなかった。アンナはふーんと言いながら鞄から何かを取り出しシドの両手を片手で持つ。不思議なことにビクともしない。シドは突然の行為に目を見開き口を開こうとするともう片方の手に持っているものに気付く。そのままガシャンと音を立て、両手に手錠をはめ込む。
「はい、これで大丈夫」
「いやどうしたんだこれ!?」
「いつぞやに耳触り対策で購入、今回初投入」
「だろうな!」
じゃあ続行とアンナは再びシドの耳を丹念に触り始める。いつまで続くのか、と思うが少し前に延々と耳を弄って怒らせたことを思い出す。まさか今回のイタズラの動機はそのやり返しということだろうか。質問を投げようとすると「そういえば」とアンナは口を開く。
「今回のイタズラにあたってちょっと人に会ったんだ」
「ッ、お前に錬金薬を渡した商人とかか?」
「違う違う。ウルダハの娼館のお姉さんたち」
「しょ、しょうかん? 確か召喚士というか巴術士ギルドはリムサ・ロミンサだろ?」
「おっそのボケ今する? 娼婦の綺麗なレディーたちに個人的取材。んで色々聞いたのさ」
全く声色を変えず言葉を続ける姿は少しだけ怖いなとシドは顔を赤くしながら早く終わるよう念じていると口の中に指を滑り込まれた。
「ぐぁっ!?」
「おー本当に舌ザラザラしてる」
「ひゃめるんだ、くっ」
「牙もいいねえ嫌いじゃない。んで話の続き。そこで興味深いコトを聞いたんだ。オスのミコッテを満足させる方法」
ものすごく怒っている。これより先の話は絶望しかない。つまりはそのテクを本場の人間から伝授されてきたのだ。
「あ、別に実際お客さんを相手してとかじゃないよ。こうやって触ってるのはただ普段キミがよくやるような感じにしてるだけ。聞いたのはそうだね……この香水、ミコッテによく効くんだって。マタタビ効果、的な? いやいや嘘でしょって思ってたけど身体すっごーく熱そうだねぇシド」
食事かと思ったらそっちかと膝を打ちそうになるが今回のためだけにわざわざ準備してきたのかと感心する。どんな時もイタズラには全力でつい尊敬してしまった。
しかし本人なりに普段のやり返しをしたいのだろう。手錠を掛けられ、アンナの足で身体は動かせず、指は耳と口の中。匂いで感覚が研ぎ澄まされ、好き勝手に刺激される様は嫌がらせというよりかは―――『一種のご褒美だよな? これは夢でも見てるのか?』という感想しか抱けない。今の状況は多分誰がどう見てもアンナが主導権を握ってイチャついてるだけだ。ここまで積極的な姿は初めて見たしそんなに耳は嫌だったのか、という感想が先行する。『ほら嫌でしょ? だから二度とやるなよ』という心と好奇心で動くアンナにシドは笑みがこぼれた。ミコッテの耳じゃ普段やるような耳を掴むことなんてできないのに。
「でも耳はひんやりしてて触り心地いいなあ。あ、ピクッて動いた。ミコッテの耳ってすぐにピョコってするよねぇ」
"お前も結構分かりやすく耳倒すじゃないか!"とツッコミを入れたいが口の中の指に阻まれる。これも何度かやったことあるが個人的には悪くないなと呑気にシドは考えていた。
「あ! そうだシド。気になることがあって」
「っ、何だ。というか手の外してく」
「タイニークァールってさ、尻尾の付け根トントンしたら気持ちいいってなるらしい。実際なってた。かわいい」
「ん? ああ聞いたことあるな。……おいまさか」
「ミコッテはどうなんだろうねえ」
流石にまずい匂いがする。抵抗する間もなうつ伏せに転がされた。アンナは「おい! やめろ!」という声を無視し、まずは尻尾を優しく掴む。それだけで身体がビクビクと痙攣するように反応した。これは、ヤバいと本能が警笛を鳴らす。徐々に根元へと指が優しく動いているのを感じ取る。正直に言うと腰にクる。爪を立てシーツを噛み、震えるシドをアンナはクスクスと笑った。
「尻尾そんなに太くして警戒しなくてもいいんだよ? ほら撫でるよー、っと」
「おい待て、ッ―――!」
「普段ボクが待てって言っても止まらないから待たない」
正直下半身がもう悲惨なことになっているのは感じるのでこれ以上の刺激は本当にマズイ。しかしその抗議を無視したまま尻尾の付け根を優しく撫で始める。逃げるように身体を引こうとするが、「そんなお尻上げながら悦ばないでよ。ふふっクァールというよりゲイラキャットみたい。にゃぁん」と嬉しそうに言われてしまう。これが"拷問"と称した行為かと思いながら何も言わずシーツを掴んだ。そう、生殺しされている。耳先を弄りながら「そんなに震えない」と囁かれ、尻尾の付け根を優しく叩くように触れた。普段ならどうも思わない行為だが身体は勝手に粟立つように震え、脳が真っ白になる。目の奥が弾け、全身から汗が吹き出し力が抜けた。直接性器を触れられることもなく、完全に未知の感覚でイかされた。少しだけ屈辱的だが、それをあのアンナにされたことに喜びを見出す自分もいたのに驚いてしまう。
「あら」
アンナはシドの真っ白な尻尾が腕にふわりと絡ませる姿にニコリと笑う。当の本人は顔を伏せきり気付いていないのが面白い。愛し気に口付け、撫でているとまた身体がビクリと跳ねた。
「アンナ、なあッ」
「んー?」
「シたい」
「だーめ」
「キスだけでも」
「顔伏せながら何言ってるの?」
仰向けにされ、上に跨りながら顔を覗き込んでいる。正直に言うと人に見られたくない状態だ。実際アンナも悪い笑みを浮かべている。額、鼻、頬へと口付けをするので舌を出してやると「おあずけ」と顎下を撫でる。優しくて気持ちいいが先程の刺激を考えると物足りない。
「自分が嫌だと思うことはしちゃダメって分かった?」
妖艶な笑みに対し、シドは反射的に目を閉じ、頷いてしまう。
「ああよく分かったさ。だからこれ外して」
「それとこれとは話は別」
「なっ!?」
ここまで焦らしておいてかと抗議するがアンナはきょとんとした顔をしてる。
「焦らす? ボクはイタズラしかしてないよ? 満足、就寝」
最高に悪い笑顔を見せている。確実にこちらがどうなってるか把握してる上での意地悪だ。そもそも誰だこいつに悪知恵を与えた人間は。錬金薬だけじゃない、何か"悪いコト"を仕向けているヒトが明らかに存在する。―――上等だ。悔しいが興奮する。
「頼む、もっと」
「もっと?」
「手のは付けたままでいいから、"イタズラ"してくれ」
アンナは考え込む仕草を見せている。やはりダメか? と肩をすくめようとすると不意に唇に柔らかいものが触れる。
「よく言えました」
どうやらこれを言わせたかったらしい。「子供扱いするんじゃない」と眉間に皴を寄せてしまった。
◇
「よおご主人!」
「ア・リス……うえぇ」
2日後。アンナは謝罪を重ねるシドを普段通りな顔で見送る。いなくなったのを確認した直後、身体を引きずりながらため息を吐きリテイナーを呼んだ。スクリップを渡し、拾ってきたモノを確認する。今回は錬金薬ではない。よかった。
「ご主人! 旦那をギャフンと言わせることはできたか?」
「一晩は。次の日が悲惨だったからア・リスのお給料増額はなし」
「そんなぁ! その様子だとちゃんとなったんだろ?」
「次の日に数倍返し」
「あーそこは俺様はどうにもできないぞぉ」
あれから負けだと乞われ完全に勝ったと確信できた。
しかし次の日の早朝、"ミコッテになったシドも悪くなかったがやはりいつもの顔が一番見慣れてるしナイスヒゲだ"とはにかみ、撤退しようとすると捕まる。そのまま休みだというシドに1日中説教という名の行為が続いた。途中、場所を変えるからと羞恥プレイのような目にも遭った。『次の日動けない位もっと濃密にすればよかった』とアンナの心に刻まれ、次からは先に一言入れようという教訓を得る。
ア・リスは肩をすくめ、スクリップを指で遊ぶ。アンナは涙目で「まあ約束させたからその分はあげる」とマシュマロを渡すと無邪気に頬張っていた。
「ア・リスのこと言っちゃった。いつか紹介することになった」
「えー俺様はシャイだから旦那に会いたくないなあ」
「本物の恥ずかしがり屋は自分の事シャイとは言わず。まあミコッテの新しいリテイナーを雇ったとしか言ってないからまた時間合えば」
アンナはそう言うが、ア・リスは何も答えずそのままニャハハと笑いながら踵を返した。気まぐれな人間だなあ人のことは言えないけどと思いながらまた寝台に寝転ぶ。
昔、リンドウに教えてもらった諺、『危うきことトラの尾を踏むが如し』という言葉を浮かべながら不貞寝するのであった。
#シド光♀ #ギャグ
旅人は子供になりすごすfull―エピローグ―
早朝、シドはふと腕がずしりと重くなり薄目を開いた。すると目の前には"いつものアンナ"がいた。そろそろ戻るような予感がしたという彼女の予想は当たっていたらしい。くすりと笑う。今すぐにでも抱きしめようと思ったがぐっと我慢をし、目覚めるのを待つ。
更に1時間もしない頃、多分いつもの起床時間なのだろう、アンナが起き上がり「あ」という声が聞こえた。「よし」という声も漏れ嬉しそうだ。「面倒。起きる前に撤退」と呟きながらそろりと寝台から離れようとしたので腕を掴んでやる。
「げっ」
「何がげだ。挨拶とお得意の謝罪はどうした。そしてどこに行くつもりだ?」
「お、おはよう。謝罪? 言う必要無し。ほら、もうボクの起床時間。日課を、ね?」
「戻った直後にいきなり大量にタスクを課すのは身体への負荷が半端ないと思うぞ?」
ニコリと笑顔を見せ合う。そのまま力いっぱい引き摺り込む。
「アンナ、約束覚えてるよな?」
「な、何? 大人に戻ってるから昨晩の約束は無効」
「"戻ったら好きなだけ相手してやる"って言ったよな? ちょうど24時間ほど前に」
「え? あ……い、言ってない! そんな記憶皆無!」
「言った」
しばらく言ったやら言ってないやら言い合う。必死に取り繕いながら言う姿を見るにきちんと思い出しているようだ。勝ち誇ったような笑みを浮かべてしまう。
「さ、昨晩上書きしたから無効だ無効!」
「そもそも言ったことすら覚えてなかっただろ」
「! じゃあ無かったことに」
「お前さんいつも言ってるじゃないか"約束だけは絶対に守る"って」
「う、うぅ……いやほらキミ今日もお仕事。そんな朝から疲れるようなこと……」
珍しく弱り切ったアンナを朝から見られるのは心地がいいとシドは笑いながらここ数日の恨みつらみを吐く。
「ネロはパパと言って俺にはおじさんと言ったな? しかも昨日はだいぶパワーアップしていたじゃないか。ロリ、何だっけか? もう一度言ってみろ」
「いやその件は」
「そもそも実の所何でネロに頼ったんだ? 完全に俺や暁への配慮じゃないよな?」
「え、あ、そっちは少々本当に心配した上の」
「時間稼ぎって言ってたな? 誰の何に対してだ? こっちは一切連絡取れず心配しすぎて心が裂けるほど痛かったんだぞ?」
大袈裟なことを言いながらジトリと睨みつけると目を逸らし呻き声を上げている。そりゃあ言い返せないだろう。今回ばかりは100%アンナが悪いのだから。
「もしかして怒ってる?」
「もしかしなくてもだな」
「ほ、本当に途中ヘマなく戻ったら何事もなく会いに行ったし?」
「その考えに怒ってるんだ」
「いや、その―――ゆ、許して? ほらキミ今日も忙しい。お仕事、行こ?」
笑顔で見つめ合う沈黙の時間が流れた。反省しているように言えたしこれは許されたな、とアンナは心の中でガッツポーズしていると突然口を手で塞がれシドはリンクパールに手を伸ばす。引き剥がそうとするがビクともしない。リンクシェルを慣れた手つきで操作し、適当な社員へ繋ぐ。
「あー俺だ、シドだ。朝早くにすまんが今日は少し出勤が遅くなる。大丈夫だな? じゃあ何かあったら連絡してくれ、切るぞ」
みるみるアンナの顔が青ざめていく。通信を切った後、ゆっくりと口から手が離れ、両腕を押さえられた。
「じゃあアンナ、ゆっくり言い訳を聞こうじゃないか」
「話し合いする体勢じゃない!?」
アンナからするとお互い全裸でベッドの上に組み敷かれどこから見ても今から話をしようかという状態には見えない。話をするならせめて服、いや下着だけでも着させてくれという懇願も虚しく首元に噛みつかれた。
◇
「ネロサン、迷惑をかけた」
「なンだお前戻れたのか。結局1週間位かかって―――って珍しく"そっち"か。ガキになってた間何してたンだ?」
「んー何のことやら全然」
夕方、ガーロンド社にフラフラと髪を黒く染め直したひょろりと長細いアンナが現れる。戻ったんですねというすれ違う人に会釈をしながらネロを見つけ手に持った袋を渡した。ネロは一瞬で中身が変わってることを見破り尋ねてみたが、即はぐらかされる。袋の中を見ると菓子、迷惑料と書かれた袋、そして冊子が入っていた。パラパラと捲るといくつか走り書きされた図面たち。「何だこれ?」と聞くと「さあ? どう使うかは自由」とニィと笑った。見たことのない魔法人形に、奇妙な小銃のようなもの。先日渡された煙幕の幻影やパッと見正体不明な錬金薬関係のデータも入っている。
「"ボク"は重役出勤な人間の説教で疲れてるんでね、失礼するよ」
「アー」
昼の出来事を思い出す。遅刻した癖に珍しく機嫌のいいシドは昼に出勤した。それから部屋に篭らされ書類に埋まっているが嫌そうな顔一つせず手を動かしている。ジェシーも流石に「ねえ今日の会長怖すぎない?」と引いていた風景を半笑いで眺めた。
「姿が戻ったのは早朝。それからここ数日の怒りと称して説教に重なる説教でボクはダウン。何度もキミはパパで俺はおじさん呼ばわりされてとか"小説の台詞が元ネタの発言"が云々言ってたからその辺りが相当傷付いたみたいでね。でも各方面にちゃんと戻った件は報告しないといけない。何とか"ボク"が身体を起こして錬金術師ギルドと石の家に顔を出してきたのさ。"あの子"は当分不貞寝で起きないと思われ」
「ハァそりゃお疲れさまなこって」
それじゃ、と踵を返し、手を振りながら去って行った。ネロは袋の中身を改めて確認すると『シドに今日ここへ来たことは絶対に黙ってあげて欲しい。疲れてるから』と書かれていた。実際数時間後、「仕事後今朝の詫びで飯に行こうと約束した」とアンナを探す反省したような顔をしていたシドとばったり会ってしまう。流石にまずいと思ったが、知ったこっちゃないと適当に誤魔化そうとしたが隠していた袋が目ざとくバレてしまった。追及され、ジトリとした目でそのまま酒に付き合わされる。密かに何度試みてもリンクパールは一切繋がらず、横では延々とアンナについての愚痴とネロ本人の日頃の行いについてグチグチと語られ、『この野生生物共ぜってェ覚えてろ……』と何度も心の中で呪うネロの姿があった。
「マジで"ボク"は何が起こっていたのか分からないんだけどねぇ。とりあえずは教訓だ。錬金薬の扱いは慎重に。イヒヒッ」
ガーロンド社の外に出た"約束を知らないアンナ"は空を見上げ伸びをする。なまった身体をまずは程よい運動でリハビリしよう、アンナはテレポを唱え、どこかへ飛んだ―――。
1日目 // 2日目 // 3日目 // 4日目 // 5日目 // 6日目 // 【R18】7日目 // エピローグ
シド光♀中心背後注意な絵をまとめてる場所。アンナ単体もあります。直接的エロは描いてないです。
Wavebox
#シド光♀