FF14の二次創作置き場

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注意 漆黒以降のお話ですが展開には触れてません。付き合った後の裸エプロン云々ギャ…

漆黒

#シド光♀ #ギャグ

漆黒

"エプロン"
注意
 漆黒以降のお話ですが展開には触れてません。付き合った後の裸エプロン云々ギャグ概念。R18無しバージョン。事後描写有り。
 
「久々に会って早速? おうおう徹夜明けにしては元気」

 黒髪のヴィエラは目を細め、抱きしめる男の頬をつねった。

 お互い想いを伝えてからそれなりの時間が経過したが何も変わらない時が流れていた。無自覚だったが、付き合い始める前からほぼ恋人同士がやる行為は大体していたらしいので、変わらないのも仕方がないのかもしれない。唯一やってないことといえばと周りに報告した際、大体「今更何言ってるんだコイツら」とリアクションをされたので多分そうなのだろう。兄との決戦が一番盛り上がったのも記憶に新しい。
 閑話休題。目の前の問題は解決していないもののようやく合致する空いた時間を捻出することができた。よって「ご飯でも作ってやる」とトップマストの一室へ招待した。定住するつもりはないが、もうしばらくの間はエオルゼアにいるので荷物置きがてら購入を決めた。しかし今日まで誰にもこの場所の話をしていない。ちょうどいい機会だし一番最初に言うならシドだなと判断したのが決め手である。
 部屋はいつでも引き払えるよう極力シンプルな配置にした。荷物置き、寝る場所、あと作業スペースとキッチントイレシャワーがある程度だ。本当は命の恩人の絵とオルシュファンの肖像画が飾っていたのだが隠している。意外と嫉妬する人間らしく、"スイッチ"がどこにあるか分からないのだ。そんなことで怒ったりしないのは知っているが不安要素は極力排除するに限る。
 扉を開き、案内された徹夜明けのシドは目を丸くし「ここは?」と聞く。「私の部屋。初めて人を招いた」と言ってやると分かりやすいくらい満面な笑顔でこっちを見た。その場で荷物を下ろし抱きしめようとしたので「扉閉めるまで待てバカ」と力で押しのけた。

「色気のない部屋で悪いね」
「効率を追い求めたらこうなるだろう。俺も部屋を作れと言われたらキッチン以外は同じ感じになるな」
「そういうものかぁ」

 生活観はそんなに変わらなかったらしい、持っていた荷物を下ろしながらアンナは苦笑する。諸々の報告合間に仕込みは終わらせていたので、エプロンをつけながらキッチンへ足を向けようとした直後、抱きしめられた。呆れた顔して名前を呼ぶと「エプロン、似合うな」と言い、離す様子はない。これは真っ黒な布地に胸元のヒナチョコボの刺繍が可愛いシンプルなものだった。似合うと言われても大体の人間は着ても違和感持たれないオーソドックスなものじゃないかと首を傾げる。そういえばシドには製作作業中の姿は初めて見せるかと思い出した。
 どうやら抱き返さないといけないのだろう、「そうだね」と頭に片手を置き、ついでに「今はこれで満足して」とアゴの髭を撫でてやる。顔を上げたので頬に口付け、振りほどこうとしたら首に腕を回され唇を奪われた。完璧に"スイッチ"でも入ったかと思い薄く口を開き、舌先を差し出してやると肉厚な舌を絡まされる。キスの仕方はもう覚えた。どうやれば相手が喜ぶのか、それを忠実に再現するだけで大体は満足して離れるので正直言ってチョロい話である。ニィと笑いながら料理の手順を浮かべていたが今回はいつまで経っても解放されそうにない。少々苦しくなり「シ、ド」と声を漏らすとようやく離れていく。そしてなんとか冒頭の言葉を吐き、頬を思い切りつねった。顔を赤くしながら解放するシドの腕を引っ張り椅子に座らせる。

「ご飯終わるまでいい子にしてて」
「ああすまんな」

 料理の邪魔をしたら追い出すからねと釘を刺し調理場に立った。流石にそこまで言えば大人しくするだろう。しかし1人のために料理を作ってやるのは初めてだなあとぼんやりと思い返した。



 手伝うことはないのかという言葉に必要ない、またいつかねと返しつつ作った料理は今回も自信作であった。お互い味は特に気にしていない。相当ダークマターや生焼けでない限り食べるが美味しいに越したことはない。アンナはシドを笑顔で観察する。雑な所もあるがさすがおぼっちゃんだっただけあり自分と違い丁寧だ。残念ながらアンナのテーブルマナーに対する知識は多少教えてもらったのと本で読んだ分しか知らないが。
 子供っぽい夢の追いかけ方をしているが基本的には堅物だし細かい所で大人だなあと思う部分がある。そんな人間が60年程度人と関わってこなかった自分に対し、気を長く教えながら付いて来ている事実が少しだけ照れくさい。世の中には魅力的な女性がたくさんいるのにね、と言えば「お前以上の人間なんて知らんぞ」と返す。―――まあシドのみならず複数人から「あなたに慣れるといろんな意味でもう他では満足できなくなるダメ人間製造機」とありがたい言葉をいただいた。何を言っているのか分からないので考えないことにする。
 気になったのかふと「アンナ?」と名前を呼ばれた。

「? どうした?」
「いやそんなに見つめられても困るんだが」
「人がおいしそうに食べてるの見るのは悪くないねえ」

 あなただってよく見つめてくるでしょと言うと肩をすくめた。ワインも開け喉に流し込む。昔から酔うことのないただの色の付いた水だったモノもこの人と出会ってから有意義な時間を過ごすためのものになった。食事という行為だってそう。生きるため早急に摂取するものからこうやって人と談笑するために変わり悪くはないなと思うようになった。昔の自分が見たらどう思うだろう。『情けない、短命のやつらと無駄な時間を過ごすな』と言うなと苦笑した。
 そうだ、"彼ら"は普通だったらアンナより遥かに早く死ぬ。しかし別の未来の話を聞いた時、寿命の大小なんて考える必要はないな、と思うようになった。流石にシドが死んだら心が苦しくなるかもしれない。適度に長生きできるように手を回してやったらいいかなと目を閉じた。―――まあそんな辛気臭いことに延々と想いを馳せるのはやめておく。口に出したら説教が始まるに違いない事柄をあまり考えるな、というのが付き合う際に約束した取り決めの一つだ。
 閑話休題。考えをかき消すように近況を交わし合う。奇妙な機械について、妙な現象の専門家たちの見解、最近シドが関わった案件の続報等、話すことは大量にある。シド側からもさすがに会社の詳しい事柄は立場上聞きたくない。なのでつい先ほどまでの納期に追われことや社員たちの暴走についての話を聞きお互い大変だなあと笑いあった。



 後片付けを終わらせエプロンを脱ぎ、部屋内をうろうろ見回っていたシドに「おまたせ」と言うと「ああ特に待ってはいない」と返すのでソファに座わらせる。勿論シドは自分の上だ。所謂お姫様抱っこのような形だ。いつもこの姿勢を取ると死んだ目になるので非常に愉快な気分になる。「逆だと思わないか?」という抗議も適当に流し、手はしっかり掴んでおく。過去に隙を見せたら耳に触れやがったので当然の措置だ。これで大丈夫だろうと高を括っていたら耳を食み、そのまま「アンナ」と名前を囁いた。ビクリと身体が跳ね、反撃としてヒゲを引っ張る。

「……次は手錠でも用意して頭も押さえつけるように考慮する」
「やめるという発想はないんだな」
「優越感に浸れるからね」
「そういう意図でいつもやっていたのかお前は」

 あ、やっべ本音が出てしまったと気が付いた時にはもう遅い。いつの間にか手を振りほどかれ体勢を変えるよう動いた。座った自分を見下すように立ち、両肩を掴みながらジトっとした目で睨んでいる。怒るよね、そりゃと思いながらも笑顔になるとシドも笑顔を見せた。酒が入った後にこれは下手なこと言って余計に火を点ける未来が見える。言い訳はしないと両手を上げ、降参のポーズを見せた。

 シド・ガーロンドという男は使命と理性に雁字搦めになった仕事以外さっぱりなヒトである。無意識に、気ままに与え続けたヒントにも気付かず2年以上無意識下に熟成されてしまった感情のトリガーを引いてしまったのは間違いなくアンナ自身だった。それ以降、何度か"そういう空気"になったがいずれにしても自爆スイッチを入れきっかけを作ってしまったもアンナである。別にヤりたくてやっているわけではない。ただ失言、無意識、ほんの少しからかっただけで雰囲気がガラッと変わる。それから何度も一晩中相手して作った取り決めを口にする。

「あー1回だけだよ? キミ一睡もしてない。途中で寝られたら多分笑いすぎて腹筋が死ぬ。分かった?」
「俺はまだ何も言ってないぞ?」

 また嵌められてしまった、と思いながらアンナは立ち上がり、シドはソファに座らせ向かい合って乗りかかる形になる。「何も言ってないならこれで満足できるね?」と頭を撫でてやると腰に手を回され身体を密着させた。名前を呼びながら首元に鼻を近づけ匂いを確認するが如く呼吸する姿にアンナは呑ませすぎたかという感想を抱く。どうやら自分と出会ってから嗅覚が鋭くなっているらしく首元に顔を持って行くと噛みつくか匂いを嗅がれるのだ。犬かと思いながらその頭を撫でてやるとポツリと一言漏らす。

「アンナ、シたい」
「おあずけ」
「俺は犬じゃない。……しばらく会ってすらなかっただろ? あとさっきアンナから1回だけって言ったな」
「言ってない。忘れた。1人でしてたら……あ、いや何でもない。ほら抱きしめる程度だったらいくらでも受け入れる。やめてベルト緩めるな」

 今の状態だったら自慰行為を延々見せつけられる未来が過るほど本気の目が一瞬見えたので必死に止める。機嫌を取るように顎を掴み上げ「ほらいい子いい子」と口付けてやると頭を押さえつけられ深くキスをする羽目になる。大きな手が身体を撫でまわす感触が伝わり、まるでこれから抱く相手の存在を確かめるかのようで嫌いではないがどこか落ち着かない。丹念に触られ全身が軽く痙攣しながら甘い息が漏れる。

―――2人の間で交わされるキスは3種類ある。まずは基本的にはアンナが与える複数部位に軽く触れるだけのもの。主にくすぐったい感情を刺激して放置する行為が当人にとっては楽しい。2つ目は少し機嫌を損ねてしまった時にする。ただシドを満足させるためのマニュアル通りに行う"チョロい"と称する深い口付け。これに加えて適当に撫でると顔を赤くしながらあっさり許してくれるので嫌いな行為ではない。そして最後にシドが仕掛けるアンナの判断力を堕とし理性を捨てさせるためのモノ。アンナがシドの仕様を把握してるということは、シドもどうすれば確実に堕とせるかを理解している。普段は流されないように立ち回っている。だが、どこでスイッチが入るか分からず、ヤバいと気付いてもこのキスが降ってきた地点でもう逃げることはできない。口を頑なに閉じようとしても全身に与えられる甘い刺激で緩まり、舌が強引に差し込まれアンナの口内を蹂躙する。一度好奇心と抵抗の意思を見せるため軽く噛みついてやったことがあったが、その夜は酷かった。身体中噛みつかれながらこれまで決して触れられなかった部位を穿ち上げられ痛みと快楽の海に容赦なく沈められる。次の日、土下座され延々と反省の意を示された。だがアンナとしても窮鼠猫を嚙むよう襲われた行為として二度とやるまいと刻み込まれていた。なので起き上がるのもやっとな身体に鞭打ちながら困ったような笑顔を見せた記憶がある。我ながらシドに対してのみ甘すぎる対応をしていることは自覚している。

 酸欠になりそうだ、と思いながらなんとか引き剥がした。口元から惜しむように結ぶ糸の様子にこれは向こうの火を灯してしまうと笑顔が引きつる。逃げようにもがっしりと抱きしめられ動くことが出来ない。「あの、シド……サン?」と恐る恐る顔を見ると何か思いついた様子。「えっと、どうした?」と聞くと、「頼みたい事がある」と指さしながら言うので「断る!」と反射的に叫んだ。そちらはエプロンの方向。このヤる気になった段階でエプロンというのはアンナでも察するところはある。

「まだ提案の内容を言っていない。聞いてから断っても遅くないぞ」
「いやオチが見える。未来視持ってなくても分かる」
「成程考えることが同じ、シナジーがあると」
「私は推理しただけだからねこの酔っ払い!」

 声を荒げるアンナを無視しながらシドは"お願い"を言った。

「裸の上にエプロンを着てほしい」

 嫌に決まってるだろとアンナは「バカかい?」と天を仰ぎため息を吐いた。



 結局熱意で押し切られ、下着着用を条件に着ることになった。アンナは覚えてろよと呪詛を吐きながら壁を背にいつ振り向いていいのかと呑気に聞くシドへ威嚇している。
 別にどんな服を纏うのも恥ずかしくはない。あえて言うと女性らしさに極振りされたフリル等は似合わないと思っているくらいだ。しかし欲に塗れた人間によって行使されるオチが鮮明に見える行為はなるべくしたくないのだ。
 それでも多少受け入れるのは相手がシドだからある。この人でなければ反射的に首を刎ねていたかもしれない。あと背中をあまり見せたくないし、作業で使うものを性的な要素と繋げたくないのだ。とりあえず着たが見せるとは一言も言っていない。このまま相手が寝るまで後ろにいるかと慎重に背後に近付き抱きしめた。シドはその腕を掴み見上げようとするので片手で頭を押さえた。

「いやあ時間かかってすまないねえ。ああゆっくりしてもらっても構わないよ。へへっ旦那、肩でも揉んでやりますぜ」
「……時間稼ぎする気だな?」

 あからさますぎたかと反省したがこういう時に限って鋭いと思わずアンナは舌打ちしてしまう。上を向かせ触れるだけのキスを繰り返すとエプロンの紐を引っ張り噛みつくように口付けられた。逃げるように「背中が寒い」と言いながらベッドに転がり込み布団を被る。シドがゆっくりと歩いて来る気配を感じた。慎重に下がるようにモゾモゾと動く姿は情けないだろうなあと思うが身体が勝手に動くのだ、仕方がない。しかし相手は不気味なほどに静かだ。これは呆れてるな、つまり勝ったか? いやまだ油断してはいけない。しばらく動きを止め、反応を見る。触る気配もない。率直な男なので調子に乗って剝ぎ取ろうとするはずだとアンナは普段の駆け引きを思い返す。これは本当に勝ちか、早く着替えさせてもらおう、顔だけ出して相手の出方をうかがう。

 目の前に覗き込む顔があった。ずっと顔を出すのを待っていたらしい。反射的にもう一度隠そうとするが掴まれ動くことが出来ない。「えらく可愛いことをするじゃないか」と布団に手をかけている。取られるくらいなら後ろだけは見せないよう包まりながら起き上がった。

「もう終わりか?」
「趣味悪」
「お前がそうさせるんだ」

 仰向けに倒されエプロンに手をかけようとするので抵抗しようと手を動かすと押さえつけられた。流石に下に回ってしまっては普段は勝っている力も腕力で押さえ込まれる。

「あーその寒いという発想はなかった。すまなかった」
「適当に言った言葉に謝罪されるとなんかむず痒い」
「嘘だったのか?」

 やっべと思った時にはもう遅かった。「似合うな」とアンナの両手は片手で固定される。これ以上向こうの空気に流されるわけにはいかない。恐る恐る口を開く。

「6割は、事実で」
「残り4割」
「じ、自分へのやさしさ3割」
「あとは何だ?」
「あの酔っ払いが早く寝てくれたらエプロン汚れないだろうねえ」
「こら」

 シドは思い切りアンナの頬を引っ張る。この調子だ、アンナは心の中で笑う。やりすぎると痛い目に遭うのは何度も体験している。だが学ぶことを知らないアンナは地雷原へと突っ走った。

「だってこのエプロンお気に入りなんだよ。貰ったんだ」
「珍しい、誰にだ?」
「そりゃある優しい暁所属の冒険者にね。お礼に現金たんまり渡したのと一緒にご飯を、あ……」

 アンナはシドの表情の変化に気付いた。笑顔だが、目は笑っていない。ここに呼ぶ時に確かめたじゃないか、意外と嫉妬する人間だから変なスイッチ入らないように、と。なのに何をしているんだ。まずは言葉が足らなかったことを弁明しようと口を開こうとしたが遅かった。

「俺は別に嫉妬はしてないぞ?」
「説得力ない、というかやめ」

 強引にひっくり返され布団を剥がれた。未だ消えぬ背中の傷にシドは口付け、舌を這わせるとアンナの身体は緊張で固まる。嗚呼もうどうにでもなれと思いながら口を押さえた。



「このエプロンね、蒼天街で貰えるものだった。実用さと可愛らしさが両立してるって思ってねぇ」

 珍しく1回で終わった行為の数時間後、シドはスッキリとした気分で目が覚めた。だがまずはタオルを噛まされたまま睨むアンナを見ることになった。慌てて外してやると「正座」と言われ座らされた。

「まあでも振興券が足りなくてねえ、困ってた所に暁所属の"女性"冒険者が複数持ってるからって1着くれた」
「う……」
「無料で貰うのはボクのポリシーに反するんだ。だからちゃんとマーケットでの相場に加えてご飯をおごったんだよ。そこまで分かった?」
「ああ」

 アンナにヒゲを掴まれる。珍しく口調を隠さず怒っているのは分かった。

「それを、あなたはどう勘違いしたのかなァ? 気になるねぇ」
「い、いや……ああてっきり戦闘事以外鈍いお前のことだから男相手でも釣られるかと」
「ハァ?」
「すまなかった……」
「最後エプロンにぶっかけたのが一番最低だと思うよ?」
「新しく買ってやるから、な? だからその手に持ったロープで縛って吊るし上げるのは勘弁してほしい」

 シドはそこから何度もアンナに謝罪した。何かあるとすぐに人を縛り付けて吊るし上げようとするのは兄妹変わらない。そう考えていると「ボクも説明足らずだったのが悪いんだけどねぇ」と言いながらため息を吐いている。

「でもちゃんと約束は守ったのはいい子だね。うんそこは褒めよう」

 第三の眼付近に軽く口付けてやり、シャワー浴びてくると奥へ消えて行った。シドははにかみ、再び寝転ぶ。直後必死に頭を掻きながら数時間前の自分の行動を思い起こそうとする。

―――シドは手料理を食べた以降の出来事をほぼ覚えていなかった。白濁の液が吐き出された形跡のあるエプロンに目をやる。アレに関しては本当に思い出せない。しかしそのまま言ったら絶対に数日ゴミを見るような目で対応される未来が見える。そこまではまあ人によったら一種のご褒美になるものだろう。だがそれに加えてデリカシーや恥というものを理解していないアンナのことだ。絶対に人に言いふらし、最終的に彼女の兄の耳に届く。そして縛り上げられる未来が超える力を持っていないシドでも鮮明に見えた。とりあえず、再び謝ろう。そして似合いそうな新しいエプロンも考えて機嫌を直してもらおうと心に決めた。



 数日後。

「あらアンナおかえりなさい。シドから荷物が届いてるわよ?」

 シドに料理を振る舞いやらかされてからまた各地を走り回り、まともに連絡を取っていない。あの件に関しては別に洗濯すればいいだけだと思っていたので特に気にしてなかった。
 一段落ついたので石の家に顔を出すとクルルから小包を渡される。置いて行くなんて珍しいな、と呟きながらその場でまずは走り書きされた手紙を読む。

『先日は本当にすまなかった。約束通り詫びとしてエプロンを新しく購入したので使ってほしい。あと今度見せてほしい』
「懲りてないなこの人」

 軽くため息を吐き買ったエプロンとやらを確認するように布を掴み、引き上げる。

「は?」

 真っ白い、フリルがあしらわれたものが見えた瞬間に手を離し反射的に箱を閉じる。クルルは目を点にしてアンナを見つめていた。
 笑顔で口を開く。

「クルル、見た?」
「な、何も。ええ」
「だよね?」

 荷物を抱え、大股で石の家を後にする。扉を閉める直前「ごちそうさま」という声が聞こえてきたが何も聞かなかったことにする。

「いつかキミを裸オーバーオールにしてやるから覚悟しとけよシド……」

 やられる覚悟がない奴がそんな要求するわけないよねぇ? ボソリと呟きながらガーロンド社へ足を向けるのであった―――。


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#シド光♀ #ギャグ

 付き合った後の裸エプロン云々ギャグ概念。漆黒以降のお話ですが展開には触れてませ…

漆黒

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【R18】"エプロン"【pass:共通鍵】
 付き合った後の裸エプロン云々ギャグ概念。漆黒以降のお話ですが展開には触れてません。
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注意漆黒ネタバレ。  「これは失敬。同胞を消滅させた英雄の前だからな。…

漆黒,ネタバレ有り

漆黒,ネタバレ有り

旅人は暗闇の過去に逢う
注意
漆黒ネタバレ。
 
「これは失敬。同胞を消滅させた英雄の前だからな。恐ろしくて、つい保険をかけてしまった。ガーネットという獣が怖くてねえ」
「ガー」
「ネッ」
「ト……?」
「違う!!」

 ボクの反射的に出た叫び声がクリスタリウムに響いた。

「うるさいじゃないか、赤兎。嗚呼今はアンナと言ったっけか? 英雄殿」
「知らない。初対面」

 後ろからの視線が痛い。あまりにも露骨に反応を見せてしまった事を後悔している。
 アシエン・エメトセルクーーー厄介な因縁が今更になって現れた。

 皇帝ソル、忘れる筈もない。あの寒空の国を治め、対面してしまった男。死んだと思っていたが実はアシエンだったということを知ったのはつい最近。嫌な予感がする。どこかで鉢合わせして殴り合わないといけないとは察していた。しかしその真実を突き付けられた現場には暁のメンバーはアリゼーしかいなかったので言う気がしなかった。理由は簡単、一々説明が面倒だからである。第一世界で合流し始めた今これを機に暁の人間位には言っておかないといけない。なんて分かっていてもこれはあまりにも現実離れした話。いつ切り出したらいいものかと悩んでいたが―――まさかここで会い、よりにもよって昔の名前を呼びやがるとは。

「なんだ、誰も知らないのか? まあ言えるわけないか。ではな、諸君……またすぐに会おう」

 それだけ言ってエメトセルクは闇の中へと消えて行った。この気まずい状況を作った本人が真っ先に逃げやがった。

「アンナ」
「知らない人。あのアシエンは、今が初対面だ」

 吐き捨てるように嘘をついた。いやあの男がアシエンとして会ったのは初めてだから間違っていない。ただ動揺しすぎて言葉がまとまらない。胃も痛くなってきた。今日はもう寝たい。



「ねえどう思う?」
「アンナのことか? 彼女はよく分からないからどうにも言えんが……まあ喋ってくれるのを待つしか出来ないだろ」

 あの後アンナは暗い顔でペンダント居住区方向へ歩いて行った。ガーネットとはと聞いても「昔名乗ってた名前。いつか話す」としか言われなかった。今更彼女が帝国と繋がっていると思ってはいないが―――。

「そういえばヴァリス帝との話し合いで初代皇帝がアシエンだったという言葉を聞いた時一番衝撃を受けてたのはアンナだったわ。……ガイウスも赤兎って呼んでた。話を聞く前にこっちに来ちゃったんだけど」
「彼女をいくら調べても過去は出てきませんでした。話したくないというよりかはどこか」

 英雄として活躍してきた彼女を今更疑っているわけではない。しかし何も語らないというのはこれまで共に冒険してきた仲間として寂しい所もある。

「アンナ、言ってくれないと分からないじゃないか」

 アルフィノの弱弱しい声が空に消えた。



 ネロサン、ガイウスと来て次はご本人登場か! 余計なこと言いやがって! ペンダント居住区の一室でボクはそう叫ぼうとした口を必死に塞ぐ。
 奴がトラウマだとかそういうわけではない。ただ会った時期が人に言いたくない過去なのだ。
 アルバートがボクを不審げな目で見ている。観念して少しだけ話をした。

「私、昔エメトセルクに会ったことがあった。いや正しく言うとガレマール帝国初代皇帝に直接会ったことがある」
「そうなのか? ていうかお前は何歳なんだよ」
「ヒミツ。当時ガーネットって名乗った。髪の色も赤かったし服はそこらの屍体から取ってて。ヴィエラは珍しい存在。フードで耳を隠し、胸は弓を引くためにサラシを巻いた。人から見たら怖かったのかも、沢山襲われて返り討ちにしたりね。今と全然違う生活してた」
「おいおい英雄とは程遠い存在じゃないか。それで、そのアシエンと何があったんだ?」

 少しだけ語った。特に何かしたわけじゃない。偶然大きな箱が置いてあってその中で寝てる間に積み荷と一緒に運ばれたらしく気が付いたらガレマール帝国にいた。ボクを捕まえようとする兵士を気絶させながら無我夢中に逃げ、城の中に。目の前に扉があったから入ったらなんと皇帝の寝室。初代皇帝サマとのご対面だった。

「いやあビックリ。相手の変なものを見た顔も面白かったね」
「無法か!」
「まあそこで一晩お付き合いするのと引き換えに外に放逐する約束をした」

 アルバートがむせている。「私は最近まで処女だったからね?」と言うと「いらん! その情報は今必要ない!」と顔を真っ赤にしながら手で覆っている。

「色々あって何かバリバリと身体の一部を引き剥がされるほど痛い事はあったけど性行為はしていない。……以前仲間が『貴方はエーテルで多少内面が操作された形跡がある』って言ってたんだけど多分その時の傷」
「意味が分からん」
「私も意味分かんなかった。……次の日彼の使用人から新しい服一式貰って。帝国領外に運んでもらった」

 あなたなら絶対に誰にも漏らさないから話したんだよ? って振ると「まあ物理的にお前以外から見えないしな」とぼやく。知ってる、だから話をしたのだ。少しだけ心が軽くなった気がする。

「ありがとね、明日以降奴に会ってもキレ散らかしはしなさそう」
「だったらいいんだけどな。ていうかそれなら周りに素直に言えばいいだろ?」
「……全員揃ってない内に話すのはなって」
「勝手にやってろ」

 アルバートはため息を吐き、消えていく。私は久々に少々泣いてしまった。こんなにも苦しい時に限って、シドの声を聞く事が出来ないのだから。



 正直期待以上の反応を見せてくれた。正直彼女に渡す予定だった『役割』は曾孫がやったのだから最早必要のない厄介な女だったが、内包された【魂】で捨てきれない存在。かつての獣のように奔る赤兎なら自分の思想も【理解】、いや【約束】を守り手を取っただろう。小さな国民によって阻まれ、彼女を捕えることが出来なかったのが計算外だった。その後ヘタクソな偽装をしてきやがったので死んだ事にしてやったがまさかハイデリンに選ばれ英雄となり私の目の前に現れるとは。黒薔薇でなりそこない共を絶望させるための見せしめに殺してやろうと思ったが今第一世界の地に立っている。殺し合いをするだけなら簡単である。しかし改めて話し合いをすることで【約束】ではなく【理解】を示すかもしれない。牙を抜かれたお前がどれだけ戦えるか、楽しみにしているぞ? 鮮血の赤兎よ―――


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注意次元の狭間オメガ途中の自機兄+ネロ短編6本。  "悩み&…

紅蓮,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

紅蓮,ネタバレ有り

旅人の兄が歩んだ短編集2
注意
次元の狭間オメガ途中の自機兄+ネロ短編6本。
 
"悩み"
―――レフというヒトは存在するのか、オメガを追いかけながらのもう一つの悩みが俺に襲いかかる。

「シド、悩み事?」
「よ、アンナ。まあそうだな―――最近この辺りに妙なヤツが現れたんだ」

 最近起こっている妙な出来事をふらりと現れたアンナに話す。
 ネロにレフという助手が出来ていること、ラールガーズリーチのどこかにいるらしいことに、社員が欲しい備品や装置をぼやいたら次の日に置かれていること。一度試しに俺もぼやいてみたが何もくれなかったこと。ネロに話したらゲラゲラ笑われたんだと言うとアンナはクスクス笑っている。

「お前も笑うのか」
「ごめんごめん。シドその人に何かした?」
「挨拶どころか顔すら合わせてない人間に何かしたと思うか? あったとしても身に覚えのない一方的な恨みくらいだ」
「だよね」

 思い返してもそのレフという人間に心当たりはない。レフという技術者に会ったことはあるか? と聞いてみるが「知らない」と大げさに肩をすくめた。

「忍者な技師とか属性過多だね」
「単刀直入に言うと検証の協力もして欲しいんだがネロによると断られてるんだとか」
「シド嫌われすぎてない? 大丈夫?」

 アンナの可哀想なモノを見る目が痛い。だから俺が何をしたと言うのか。

「私もネロが隅で独り言を言ってるのを見た。それがレフって人との会話?」
「だと思うんだが……出来ればお前の方でも聞いてみてほしい」
「覚えてたら」

 腕組みしながらアンナは「レフ、かぁ……」とボソと呟いた。「どうした?」と聞くと耳元に近付き、「私の兄、名前にレフって入ってる。手先が器用で隠密行動が得意。偶然ーって思っただけ」と囁く。目を丸くして見やると肩をすくめながら人差し指を口元に当てる。そうか、気が付いたらモノが届けられるということはレフとやらがどこかで聞き耳を立てている可能性が高いのか。俺も極力小さな声で「そりゃすごい偶然だな」と言ってやるとアンナはふふふと笑った。



「ククッ」

 少し離れた場所で男の笑い声が響く。

『何やってンだ?』

 リンクパールから男の声が聞こえる。通話中だということを思い出しすまんと謝罪する。

「いやガーロンドくんが遂に我が妹に俺の話題を出しやがったんだ」
『ヘェ』
「今思うと割とマジでガーロンドくんに会わなくてよかったな。滅茶苦茶仲良すぎてポンポン余計なことを喋りやがる。僕は距離を置かれているというのに許さん……」
『そーだな気配でメスバブーンにバレるぞ』

 取り寄せに行った資料を手に持ち立ち上がる。「今から部屋に持って行く」と言うと短い返事が戻って来た。
 近いうちにネロに妹へ言っておいて欲しい言葉でも考えるかと脳を切り替えながらニィと笑う。

 
"秘密"
 アンナ・サリスは祖国の怪談だった。異常な強さとあの赤髪は確かによく考えなくてもそうだろう。まあ秘密にしてろと言われてるので心の中に仕舞い込んだ。ガーロンドに言う気はないが、一つ問題がある。

―――エルに言うべきだろうか。多分これはヤツが探している妹が変質した原因の一つだ。そう思うと言わない方がいい。単身帝国に乗り込み暴れ回る未来が見える。彼女を見初めたのであろう人間はもう死んでいるのに。

 この男は妹程強くはないのだ。あっという間に潰されてしまう。そんな姿を見るのは絶対にイヤだ。
 よく分からない感情を持ちながら俺は「機嫌取りしたいさせてさせろネロサン」と言いながら肩を粉砕しようとするメスバブーンを「そういうのは口に出すンじゃねェ」と押しのけガーロンドの無言の睨みから逸らすように目を閉じる。

 
"痛み"
「おいエル喋っても大丈夫だ」
『珍しいじゃないかガーロンドくんたちは?』
「……まあ今はいない。それより調べて欲しいものが、ある」

 基本的に聞かせたらマズい時以外は情報共有の為リンクパール通信は繋ぎっぱなしにしていた。1人になった隙にオメガの尖兵にやられ、何とか起き上がりながらも検証のための準備を進める。

『様子がおかしいぞ。何があった』

 流石複数人の妻を愛していただけあり察する能力は高いようだ。

「何かあったって思ってンなら、喋り続けてくれ。静かだと意識飛ばしそうなンだわ」
『オメガにやられたか? クソッガーロンドくんは何をやってるんだ……まあいい。調べて欲しいデータとは?』
「滅茶苦茶な敵のデータを手に入れた。解析するためのヒントが欲しいコイツについての文献を漁れ。名前は―――」

 オレはとにかくエルに話をさせた。そうしないと痛みで意識がトんでしまいそうだ。コイツを置いて、逝くわけにはいかない。何やらかすか考えたくないしアンナにも、ガーロンドにも渡したくねェんだ。オレの方が天才で、自分の技術でクソッタレな機械の鼻を明かしてやらなきゃ気が済まない。
 モニターと睨み合い、通話相手の声を聞きながら気合を入れる。



 様子がおかしいネロの頼みを聞きながら僕はとにかく話を続けてやった。徐々に息が荒くなりながらも事象の究明のための資料を指名する。僕は古書屋にて資料になりそうなモノを探し、店主に押し付けた。領収書をもらい走りながらその資料を読み上げた。くだらない話も振ってやったしガーロンドくんの判断力のなさにため息を吐いた。
 ビッグスとウェッジという部下が目を離した隙に襲撃をされたというのに何故1人にしやがった。オメガを舐めすぎだろう。まあ僕も表舞台には一切現れず裏方に徹しているので強くは言えないのだが。

 大ケガで運び込まれたネロを見た時、僕は思い詰めている男のヒゲでもこっそり焼いてやりたかったが、痛みで苦しそうな顔が見えた時、何とも言えない感情が僕の手を止めた。優しすぎる、それがこのシド・ガーロンドという男に対して抱いた感想だ。何かあればすぐに自分の責任にし、思いつめた顔をする。それに加え宥めようとする妹を見てふざけた怒りを振り上げようとは思えない。

 僕に出来ること……簡単だ。少しだけ、助けてあげることしかないだろう。

 
"接触"
「シダテル・ボズヤ事変、か」

 会長代理と我が妹の会話を少し遠くで盗み聞きしながら僕はため息を吐く。噂を耳にしたことはあったがまさかあの野郎のお父様がやらかしたものとは思わなかった。落ち込んでたなぁちょっとくらいは助けてやるかと翌日覗いたらちゃっかり妹に手を出しやがった。そんな会長サマはトラウマに手を震わせながらオメガを倒す最終兵器を作成し、レディに仕上げを任せて"2人"で大穴へと向かう。正直助走をつけてブン殴りたかったのだがネロと妹が期待をかけている相手だ、その感情は心の中に仕舞い込んだ。工房に消えて行った会長代理のレディを追いかける。ガーロンドくんが残した物の前に立ち止まり、資料に目を通そうとする瞬間、僕は「お困りかな? レディ」声をかけてやった。

 彼女はビクリと身体が跳ね振り向いた。「誰、あなた」と怪訝な目で僕を観察している。制服を見て、何かを察したらしい。

「まさかあなたが」
「ネロから聞いているだろう? ようやく人前に顔を出す勇気が湧いたんだ」
「あ、あなたが……」

 歓迎されるか、それとも追い出されるか。反応をうかがっていると僕を睨む。

「あなたがさっさと出て来て会長たちのフォローを入れてたらもっと早く終わってたんですけど!?」

 まさかお説教と思わなかったな。さすがという所だ。



「あなたがどういう存在かの予想もついてるわ。カストルム爆破事件の犯人で各地の装置を改造しまくった極悪人でしょう!」
「ホー証拠は?」
「全部同じ羽根のマークを入れてるじゃない! 会長はまだ気付いてないけど時間の問題よ。何でネロと行動してるの?」

 洞察力が高いレディで助かる。まあ説教はいつか受け入れるとして。

「それより装置を急がなくてもいいのかな? 僕も彼らが戻って来るより前に撤退したいんだ。まだバレたくないもんでね」
「……分かったわ。今は会長には黙っておくから手伝ってちょうだい。でもアレンジは禁止よ」
「この短時間でデータを読み込んで改造するのは無理だ。僕は天才たちとは違うのでね」

 本場の技術を読み込めるチャンスなのだ。逃すわけにはいかない。ニィと笑い「さあ新入社員にご教授願いたい」と言うと、社員にした覚えはないわよと隣を開けてくれた。「そのフードとメガネは取らないのかしら?」と聞かれたので「見せられる顔ではないので申し訳ない、レディ」とフードを深く被った。



 突然現れた男にどこかデジャヴ感を抱く。
 フードを深く被り先が見えているのか心配なメガネを付けた前髪で片眼を隠した男は会長に仕上げを頼まれた直後急に降り立った。
 目を凝らすと緑目と赤色の髪先が見える。そして少しだけはみ出た長い耳の端。バレたくない理由―――まさかね。
 ジェシーが組み立てていく装置をじっと見ながら資料を確認する姿は悪い人間ではなさそうだった。

 とりあえず「爆発事件の動機は?」とだけ聞くと「欲しい情報がなかったからむしゃくしゃしてやっただけだ。後ろ暗い理由はない」とだけ答え、パーツを手渡された。じゃあ早々に自首したらよかったのにと思いながら受け取り、取り付けていく。
 会話する限り世間を知らない人間というわけでもなく、理解の早さも相まってあっという間に会長に頼まれた装置が完成した。「ありがとう」とお礼を言おうとすると既に隣にはおらず扉に向かっていた。「コーヒー位飲んでいって」と言うと頭を掻きながら「レディのお誘いは断れないな」と不器用な笑顔を見せた。ケトルで湯を沸かしている間に少しだけ話を聞く。

「ネロとはいつから行動してるの?」
「君たちがオメガを起動した後」
「得意分野は?」
「君たちの会長くんやネロ程じゃないけどまあエーテル工学絡みかな」
「爆弾の仕様」
「複数個にエーテルを編み込んだ糸を張った誘爆方式」
「製造場所」
「帝国基地から拝借」
「捕まる前にウチの社員になって」

 肩を掴み「給料はちゃんと出すから」と言ってやると「今はちょっと、な」と窘められる。

「今君のところの会長くんに会ったら多分殴り飛ばしそうだから少し時間が欲しいんだ。魅力的なお誘いに感謝するよ、レディ」
「あらウチの会長と何か因縁でも?」
「天才機工師くんが傷で寝込んでいる間に女の子とよろしくセックスしてた脳みそお花畑の部下になるのは今はごめんだ」

 コーヒーありがとうとマグカップを持ちながら外へと消えた。ジェシーの笑顔が一瞬固まり、そして「…………はい?」という声しか引き出すことが出来なかった。

 最後の発言でジェシーは一つだけわかったことがある。このデリカシーの無さを見るに先程までいた男は絶対、アンナの血縁者である。そういえば兄がいると言っていた。星芒祭の時に話題を出していたし、置かれていた懐中時計も思い返せば羽根の意匠が彫り込まれていた。ということは今レフという男がキレている理由は、会長は遂に―――

「ここで知りたくはなかったわ……」

 
"逃走"
 いつまでもうじうじするシドに発破をかけた後、オメガジャマーが完成され、2人と1匹はオメガの元へ向かったらしい。エルの言葉にネロはニィと笑う。

「そうか、じゃアンナが勝つな」
「ああ。というわけで僕は先に雲隠れさせてもらう」

 ハァ? と首を傾げるのでエルはニコリと笑う。

「我が妹に手を出した野郎の顔を見たら殴りたくなるからな。とりあえず動けるようになったら連絡が欲しい。迎えに行こう」
「ケッ、ガーロンドの様子がおかしかったのはやっぱそういうことなンだな」

 ネロは荷物いくつか預かっておくと言われたのでそばに置いていた鞄を渡した。エルは即一番上にあった錠が付いた本を見つける。これは何か、と聞くとネロは頭を掻く。

「お前の妹が死ンだらガーロンドに渡せって押し付けて来たンだよ」
「妹が死ぬわけないじゃないか」
「……オレも思ってンだよ。まあまた隠れ家に戻ったらその錠と鎖を解析してみようじゃねェか。オマエの愛しの妹ちゃんが特別に作ったンだってよ」

 前髪をかき上げて隠していた片方の紅色の目を細めながらエルは鎖を眺めている。「確かに、特殊な仕様だ。面白い」と呟きながらそれを鞄にしまった。
 普段はほぼ右目だけで生活をしているが本格的にエーテルを視る時だけその隠している紅色を見せる。髪を切らないのかとネロは聞いたことがある。すると一言だけ「色々視えすぎて困るんだ」返された。どんな世界が視えているのだろうかと少しだけ想いを馳せてみたことがある。エーテル視は自らの魔力を削りながら行使するものと聞いた。さすがに視力を失った賢人のように常に命を削るような行為をしているわけではないだろう。続けているのなら止めてやりたい。

「じゃあよろしくな」

 エルは大人しく傷を治せよな、と不器用な笑顔を見せながらネロを撫で、足早に行ってしまった。

「どうしてあの兄妹はいい年した大人を子ども扱いするンだよと」

 ため息を吐き、野戦病院の天井を見上げた。

 数日後、オメガの検証が終わった2人と1匹の喧騒と報告を聞き遂げ、アンナから約束だと渡された故郷の薬とやらを飲み動けるようになったのでエルを呼びラールガーズリーチを後にした。

 
"残された者"
「なんだこの領収書の量はふざけるんじゃないぞネロ!!」

 膨大な量の領収書に目を通しながら怒るシドをジェシーはため息を吐いた。

「というか機材代は置いておいて本はいつ手に入れたんだずっとここにいた筈だろ!?」
「レフさんじゃないですか?」
「というか周辺に散らかしている図面は何だ変な修正しやがって」
「レフさんですね。この施設で改造した分はメンテナンスのためにちゃんと図に起こしてとお願いしたので」
「じゃあこの知らないコーヒー豆は」
「レフさんかもしれないですね。同じコーヒーばかりで飽きるだろうって一度持ってきましたし」

 シドは目を点にしてジェシーを見ているので「どうしましたか?」と聞く。

「いや、会ったこと、あるのか? そのネロの助手ってやつに」
「オメガジャマー手伝ってもらったんですよ。スカウトは断られましたが、ネロ経由で業務用のリンクパール渡したら応対はしてくれてましたね」
「俺は聞いてないんだが」
「秘密にしろって言われましたし。でもネロと一緒に逃げたなら黙っておく義理はないと思ったので報告しました」

 シドは表情をコロコロと変えながらその場に座り込む。「見た目は?」と聞くのでジェシーは「フードを被っていたのでよく分かりませんでした」と答える。嘘はついていない。

「メガネをかけてたんですけど左目は前髪で隠しててよく見えませんでしたね」
「分からんやはり心当たりがない」

 どうやらシドは自分が恨まれている原因を未だ探し続けているようだった。ミコッテだったならば耳がへたり込んでいるだろうその背中に笑いかけた。

「そういえば会長、ネロはロウェナ商会に新しい装備を卸したらしいですよ?」
「知ってる。それがどうしたか?」
「ネロを捕まえるなら簡単じゃないですか。給料分働いてもらえないと困るのは私も同じですよ」

 シドは手をポンと叩く。そして不敵な笑みを浮かべているが、それ以前にやることがある。ジェシーは「それではやる気が出た所で、お仕事の時間ですよ」と言うとシドの笑顔が固まり首を傾げている。

「今回の損失の分、働いてくださいね?」

 ネロに逃げられ、逃走幇助をしたであろうアンナにもそそくさと逃げられ、レフには唾を吐かれている情けない男はガックリとうなだれた。


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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

(対象画像がありません)

注意自機出番なし。自機兄+ネロ話。  ―――夢を見た。過去のものだ。オ…

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

"悪夢"
注意
自機出番なし。自機兄+ネロ話。
 
―――夢を見た。過去のものだ。オレが殺した人間どもが足にしがみつき、呪いの言葉を吐きながら深淵へと引きずり込む。軍人だったからそりゃ直接手にかけた時もあったし、技術者でもあったから間接的に殺す兵器だって作った。いつも自分の先に行っていたあの男の鼻を明かすためなら手段は選べなかった。
 これまでの人生の集大成だった最高傑作をあっさりと斬り捨てられ、全てのしがらみから逃げ出し自由に生きることにして。赦されたいわけじゃない。今の旅は別に罪滅ぼしのためでもなく知的好奇心を満たすための自分勝手の旅だ。
 過去にやった事に関しては技術の発展には犠牲はつきものと結論付けてはいるが稀に苦しむ夢は見るものだ。

 目を見開き起き上がると隣で照明を引き絞り読書するメガネをかけた赤髪の男が驚いた顔で自分を見ていた。よりにもよって人がいる時に見たか。気持ち悪さにため息を吐く。

「どうした悪い夢でも見たのか?」
「オレだってそういう夢くらい見ることはある。オマエこそいつまで読書してンだ」
「あと少しで読み終わって眠る所だった。えらくうなされてたからそろそろ叩き起こそうとも思ってたが」

 汗がすごいぞ、とタオルを渡された。受け取り顔を埋めながら「エル」と声を振り絞る。

「人を殺したことはあるか?」
「護人をやってるとな、色々侵入者を撃ち落としてサバいたことはある。君は……あぁ軍人だったか」
「超えたい奴がいた。そのためには軍人から成りあがるしかなかったンだよ」
「それもまた青春だ」

 この時は捕えて裁判をするような文化の集落なのかと眺めていた。青春という言葉の意味は分からないが、夢の内容をこぼすと「君は優しいんだな」と奇妙なことを言われ「ハァ?」と顔を上げた。本を閉じてオレを見るエルは相変わらず不器用な笑顔を浮かべている。

「ンなわけねェだろ耳でも腐ってンのか?」
「誰にだってコンプレックスはあるさ。トラウマだってある。僕も妹が生きてるって分かるまで何度も妹が男として産まれなかったことを呪う言葉を吐いて目の前で自害される夢を見てたな。それからまともに眠れなくなっちまった」

 そういえば昔あのメスバブーンは『自分がもし男だったら村全員の女性抱く予定だった』と言っていたことを思い出す。あの言葉はジョークじゃなかったのかと驚き呆れた。

「あのメスバブーンとの思い出話聞かせろ」
「ホー君が妹の話を聞きたがるとは珍しいじゃないか」
「夢と真逆な境遇でも聞いてりゃ眠れンだろ多分」

 そんなものなのか? と首を傾げるエルを見ながら寝そべってやるとポツリと話し始めた。

「妹は、僕と同じく男に生まれたと思っていたんだ。毎日修行をしながら里の女性を口説いたりしてさ。イタズラも大好きでまあ元気なクソガキだったよ」
「想像出来ねェな。ていうか性別くらい生まれた時から分かるもンだろ」
「あーヴィエラはな、産まれた時は性別は表から判別できないんだ。大体第二次成長期に表層化する。妹は14歳の頃に女の子だって分かった」

 エルに目をやると悲しそうな顔をしていた。何も言わずその言葉を聞く。

「僕が里に帰って来た時にはもう、妹はいなくなっていた。里の奴らが寝静まった頃に飛び出して行ってしまったらしい。あの子の性別が分かった時、僕が村にいればと今でも後悔している」
「そんなショック受けてンならオマエがいても変わンねェだろ」
「かもな。性別が発現してからあの子から笑顔が消えたんだと。誰にも触らなくなり、イタズラもやめ、毎日1人で素振りをしていたらしい。母親の言葉にも一切耳を傾けず、ある日部屋に籠って出て来なくなり、気が付いたらいなくなっていた」

 目を閉じてニィと笑っている。少し眉間に皴が寄っているみたいだ。

「『大きくなったら兄さんと一緒に修行の旅に出る』って言葉が妹の目標であり、僕の活力でもあった。それが脆く崩れ去った。いなくなった僕の穴を埋めてくれたのが8人の嫁と、知的好奇心だった」
「もう離婚してるじゃねェかまたぽっかり開いてンぞ心の穴」
「そういやそうだったな。―――村の文化があの子を歪めた原因の一つだっていうのも理解しているさ。それでも何だよあの体内に構成されたドス黒いエーテルは……意味わかんねぇよ……」

 これ以上は、いけないだろう。オレは震える目の前のヤツの服の裾を掴む。ちらりと濁った眼を向けられたので「寝ンぞ」って言ってやると「君が子守唄がてら話せって言ったんだろう?」と隣に寝そべる。

「最後にこれだけ聞いてくれ。妹をがむしゃらに探し回っていた時に偶然発見した墜落した飛空艇が、一番僕に生きる気力を与えてくれたんだ。機械油や青燐燃料の残っていたニオイに金属の冷たさ、精巧な芸術作品のような構造に脳が刺激されていった。だから今こうやって君と技師の真似事が出来ているのが楽しい」
「ケッ口説いてるつもりか?」
「ははっ都合のいい解釈で考えてくれて貰って構わない」
「相手が男じゃロマンスがねェな」

 ゲラゲラと笑う声と大人2人が乗った寝台のきしむ音が響く。エルはメガネを外し、天井を見上げている。

「超えたかった相手のことか僕のことでも考えながら眠るんだ。妹は許さんぞ? まあとにかく視点は変わっていくんじゃないかな?」
「ガーロンドやゴリラのことを考えるなンて絶ッ対にお断りだ」
「はっはっはっ」

 頬を引っ張りながら思いつく限りのガーロンドに対する罵詈雑言を吐き続ける。エルはずっと笑顔で聞き続けていた。別にヤツに対して未だにコンプレックスを持ってるわけではない。苛つくだけだ。それを目の前の男にぶつけても意味はないのだが。その苛つく原因はこのヴィエラの妹も絡んでいるのだ、言われる権利はある。

 そういえばいつの間にか悪夢を見た後の気持ち悪さが消え去っていた。


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#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

エルファー

(画像省略)見た目種族:ラヴァ・ヴィエラ髪色:赤、左目隠れヘア目:右目緑、左目赤…

情報,ネタバレ有り

#エルファー関連

情報,ネタバレ有り

キャラ設定:エルファー・レフ・ジルダ
エルファー
見た目
種族:ラヴァ・ヴィエラ
髪色:赤、左目隠れヘア
目:右目緑、左目赤
一人称:僕、二人称:君、三人称:アイツ
趣味:分解、機械の改造、遺跡巡り(ジャンル不問)

設定
  • アンナ・サリスの実の兄。嫁が8人いたが現在は離婚している。
  • 元々生まれ故郷を護るための任を果たす存在だったが、ある時アラグ時代の遺跡を発見したことでこっそり調べ回るようになっていた。
  • 死んだと思っていた妹が60年以上ぶりに再会して喜んだが全く違う存在になってしまったことを嘆いている。その真実を知るために故郷を捨ててエオルゼアを旅している。
  • 超える力は持っていないただの技師。ある人間が持っていた装置を見て興味を持ち各地にあるカストルムに忍び込んだり機械装置の修理しながら独学で技術を学んだ。
  • 陰で集落を護るという意識が強かったのでどちらかというと斥候が得意。そのため軽量静音化された機械を作る研究をこっそり行っていた。
  • ゲーム的に言うと黒魔道士メインな機工士。双剣士も多少嗜んでいて金属扱う系のクラフターもレベリングされている感じ。
  • 左目を髪で隠しているのは両目では"よく視えてしまう"ため。それは故郷でも一部関係者しか知らない厳重に守られた"聖石"に触れてしまい、魂までも視ることが出来るようになってしまった。副作用としてとんでもない頭痛に襲われるので隠している。普段は右目と物音だけで判断しており、細かいエーテル視を行う時だけ髪をかき上げる姿を見せる。
  • かつて友人2人と新たな技術を作り出した。しかし彼が関わっていた頃の技術は相当な精神力、生命力が無いと使い物にならない"火事場の馬鹿力"の具現化だった。リンドウの"気迫"と呼ぶネーミングセンスの悪さにそれぞれ"必殺剣:流星"(エルファー)、"シハーブ"(アリス)と名付けたが無視される。
  • 紅蓮前に表向きは妹の謎を追うためにネロを利用しようと近付いたが、漆黒突入後いつの間にかガーロンド社で働くことになり首を傾げた。
  • 妹にはガーロンド社どころかエオルゼアにいることすら公然の秘密にしている。理由は自分のせいで彼女を変えてしまったことを理解してしまったため。


性格
シスコン。笑顔がヘタクソで愛想はあまりよくないがお人好しで基本的に妹が絡まなければ怒ったりもしない。
しかし怒ったら人を吊り下げたり火で炙ろうとする。
複数人嫁がいたこともありとことん甘やかして溶かすのが好き。

#エルファー関連

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注意 自機出番なし。紅蓮~次元の狭間オメガ開始前までの自機兄+ネロ話短編4本。&…

紅蓮,ネタバレ有り

#エルファー関連 #ヴィエラ♂+ネロ

紅蓮,ネタバレ有り

旅人の兄が歩んだ短編集
注意
 自機出番なし。紅蓮~次元の狭間オメガ開始前までの自機兄+ネロ話短編4本。
 
"嫁"
「エル、そういや嫁複数人いたンだよな?」
「ああいたな」

 酒場で酒を煽りながらふとネロは以前妹から聞いていた情報を思い出し話題を振る。エルファーは首を傾げた後「あー妹から聞いてるのか」と苦笑した。

「情けない話だが離婚してるんだ」
「全員とか!?」
「ああ、8人の嫁全員と」

 私たちと妹さんどっちが大事なのと聞かれたので妹と即答したんだと笑顔で言う姿にネロは開いた口がふさがれない。

「オマエ世の男共が羨ましがるハーレムをそんな一言で終わらせたンだな」
「正しく言うと妹と知的欲求が大事ってやつだな。そうしたおかげで今は君と行動することになったから結果オーライということになる」
「割に合ってねェだろ」

 そうか? と首を傾げているがゴリラの天然タラシはこの男由来だということが痛いほど分かった。アレと一緒で性欲より云々系だろうかとため息を吐く。

「どうした? 紹介してほしかったのか?」
「ンなわけねェだろ。肉食系はタイプじゃねンだわ。オレは元々オマエの妹から故郷で交尾してるって聞いてたから気になったンだよ」
「ホー相変わらずデリカシーがないなあ我が妹は」

 オマエが言うんじゃねェよ! と啖呵切ってやるとエルファーはぶっきらぼうだが柔らかな笑顔を見せた。

 基本的にはアンナの男版っぽい容姿をしているが細かい性質は彼女とは異なる。
 まずは表情が固い。妹は基本的に笑顔が中心で結構顔に出る。しかし兄は愛想は正直よくない。結構笑顔は引きつる。まあベースの顔はいいし妹が絡まなければ話術も秀でている。妹と同じく話題を振らなければ最低限の会話しかしないのでこの件に関しては本質はまだ分からないのだが。更にさりげない配慮等は出来るからそこは流石嫁が8人いただけはある。
 知識の差も圧倒的に異なる。アンナは基本的にサバイバル知識以外はさっぱりだが一度教えれば大体できるとガーロンドから聞いた。それに対してエルファーは野生生物と違って人と関わり合いながら己を理解して長生きしてるだけあって知識量の差は圧倒的である。
 そして何よりも違う所はアンナは切り込み隊長でエルファーは魔法も駆使できる技術者。表には滅多に姿を現さず、後方支援を得意としていた。絶対にゴリラにはできない芸当だ。議論のし甲斐もあるし劣等感も抱くこともない。ましてやこっちが技術を提供する側でもあり、一々感謝されるので悪い気はしない。
 振り返ってみたが少なくとも見た目とデリカシー無しな面以外はあのアンナの兄とは信じられないと叫びたくなる。

 最初こそは珍獣の兄という要素に興味を持ち旅の道連れ兼話し相手になった程度の存在だった。現在エルファーは一種の助手として共に各地を回る技術屋になっている。というか放っておくとまたほぼ無償で機械弄りするかカストルム爆破しに行く未来が見える。ガーロンド社に押し付けようにも妹にバレたくないと駄々をこねるしそれならいっそ技術を共有する方が有意義だ。

―――何よりも少しでも殺意を出したら殺す前提のアンナと、説得や無力化させようと動くエルファーなら後者の方がマシである。

 
"装備"
「おいエルファー聞け!」
「どうしたそんなキレながら帰って来て。奇麗な顔が台無しだ。レディにぼったくられたか?」

 ネロがレヴナンツトールに用事があるらしく近郊で待っていると怒りながら大股で戻って来る。

「いや用事自体はスムーズに終わったンだが。あの周辺の冒険者が付けている装備を見たか?」
「あの辺りで見るというならロウェナ商会が卸している装備だろう? それがどうした」

 歩き出した彼を追いかけながら話を聞いてやる。

「その装備の名前知ってっか?」
「さあ?」
「ガーロンド」
「もう一度」
「ガーロンド装備って言ってンだよ、わざと二度も言わせてンな!? ハァ……つまりあのガーロンドが手掛けた装備ってこったァ!」
「はあ。それで?」

 まあコイツが怒る要因は彼しかないだろう。予想通りだ。そして次に言いそうなことも予想が付く。
 立ち止まり不敵な笑みで自らを指さしながら言い放った。

「オレが作るンだよ」
「何をだ?」
「聡明で天才なオレの方がもっといい装備が開発出来るに決まってンだろ。アレはオレを煽ってるようなもンだ」
「まあ元軍人だし君の方がいいものは作れそうだな」
「だろ? さーて今日から寝る暇ねェぞ」

 どうやら僕も巻き込むつもりらしい。

「魔法使う奴ら方面の最終調整をやって欲しいンだわ。嗜んでる人間がやる方がもっといいモンになる」
「そりゃまた人使いが荒い事を言う。まあロウェナ嬢に卸すものならばいつか妹が纏うことになる装備だ。いいものを作ろうじゃないか」
「ケッ妹が絡ンだら即やる気出してンなァエルファー」
「エルでいい。呼びにくいだろう?」

 まあ黙っておくお詫びってやつだ。嫁たちにしか呼ばせなかった愛称を教えてやる。
 実はガーロンド装備のことは知識にあった。もちろん設計した人間に関してもだ。
 この装備はシド・ガーロンドではなくガーロンド社名義として出されている。会長行方不明時代に会社を立て直すために会長代理の人間が開発し、ロウェナ商会に卸したということも把握している。つまりネロは勝手に勘違いして対抗心を燃やしているのだ。多分ロウェナ嬢もそれを知ってて煽ったのだろう。哀れ。

「ン、ああそうかエル」

 許せガーロンドくん。君は悪くないからな。

 
"就職?"
「というわけで正式配属はまだだがガーロンド社の社員になったンだわ」
「ホー面白い話だな。フリーランスをやめるとはよっぽどいい環境でも提示されたか?」
「聞いて驚くな、会長サマの来月の給料から落ちるンだぜ?」
「ホー最高じゃないか」

 エルファーは急に青色の制服を着る人間に連れて行かれたと思ったら就職したというネロを驚いた顔で見てしまう。
 数ヶ月の間、こっそり尾行するようにネロ・スカエウァと呼ばれる人間と行動してきた。これまでは妹のフレイヤ、いやエオルゼアではアンナだったか。彼女に存在する空白でありながらも真っ黒な記録を探しながら趣味である機械装置を触りながら旅をしている。これまでよりもガレマール帝国の秀でた魔導技術に触れやすくなり、しかも数々のアラグ時代に作られたであろう遺跡も調べやすくなったエオルゼアの地はすっかり気に入った。あまりにも熱中しすぎて師匠から破門されるわ嫁たちとは離婚することになるわと故郷に帰れなくなった。そんな捨てヴィエラのエルファーが妹の手がかり兼興味関心を満たせる相手と目を付けたのがこのネロという男である。すっかり返事が来なくなった妹の手紙を暗唱できるほど読み込み選んだ相手でもある。この金髪のガレアンとの話も刺激的な物であったから故郷に捨てられたのも悪いものばかりではない。

「しばらくラールガーズリーチにある支社で手伝うついでに飛んでったオメガを探すコトになってな。エルも来るよな?」
「ああオメガという機械生命体は文献で見かけてから滅茶苦茶気になってたぞ。しかしガーロンドくんにバレたくないなあ」

 エルファーはわざと大げさに考え込むような素振りを見せるとネロはため息を吐いた。

「別に顔を合わせないようにすりゃいいだけだろ。ほら制服2着貰っといたから持っとけ」
「必要ないのでは?」
「身分証明みたいなもンだ。制服着たオレと歩いてたら怪しまれンぞ。その耳隠してメガネでもしときゃバレねェって」
「意外とその会社の人間はバカなのか?」

 言ってやンなとネロは小突く。とりあえずいただいてはおくと受け取り「で? 染めるんだろ?」と聞くと赤を好む男は「当然だ。シュミ悪い青より赤がいいに決まってンだろ」と返した。

「じゃあまずはその会長サマが来る前にそのラールガーズリーチ支社を改造してやろう」
「おうやってやろうぜ、ガーロンドの金でなァ!」

 悪い笑みを浮かべ、明日以降の企みを一晩語り合う。正式配属はまだ先だが仕事をしてはいけないとは言われていない。やってやろうじゃないかと拳を突き立てた。
 しかし彼らはまだ知らない。スカウトされた際にシドが不在だった理由を。更にアンナの過去へ繋がるヒントに一番近い存在がシドになっていることに。



『新入りが好き勝手設備を弄っている』

 ジェシーは支社からの報告に眩暈を起こす。十中八九ネロのことだ。急に休暇を取ったシドがいない分走り回っているのは助かるが、その傍ら勝手にラールガーズリーチの施設を弄っているらしく心配する声が届いている。
 まさか他の社員にとって不利益な仕様にすることはないだろう。実際各小部屋や拠点周辺の空調装置をはじめとする住環境は整いつつあるらしい。気になるのはその金はどこから出ているのかという部分と明らかにネロ以外にもう1人関わってる奴がいるという情報だった。確かに制服を2着くれとは言われるままに渡した記憶はある。用途を聞いたが「替えの服もくれンのか? ッたくケチな職場だなァ」とぼやきやがったので叩きつけてやった。

「やっと会長も帰って来たしネロを呼びつけて話を聞かなきゃ気が済まないわ…!」

 もう1人いるならちゃんと言いなさいよ、とぼやきながらペンを折った。

 
"配属"
「本日付けで配属になったぜ。さあ、オメガの調査といこうか……ガーロンドォ……!」

 完全に不意打ちな大型新人の登場にシドは驚きを隠せていない。
 雇用条件等ふざけるなという抗議をジェシーは適当に躱しながら窘める。
 結局今日までネロからは噂のもう1人について口を割らせることは出来なかった。いるのは分かっているのだ、何度かリンクパールで会話を交わしているところを見ている。

「ンあ? あーちょっと待ってろ」

 ネロはふと後ろを向きまた通話しているようだ。「おう、白いのが偉い奴だな」「隣の女には逆らうンじゃねェぞ」やら聞こえる。シドは怪訝な目で見ながら声をかけている。

「オマエには関係ない相手なンだわ」
「ほほー仕事中にプライベートを持ち込むのか? 大型新人とやらは」
「アー……助手、ってやつ、か?」

 助手だと? とシドは素っ頓狂な声をあげる。ジェシーとしても不意打ちだった。噂は本当だったのが分かったのはいいが見回してもその助手は見当たらない。

「とりあえずレフって呼んでやってくれ。訳アリでオレも普段どこで見てるかは知らねェがな」
「頭の病院に行こうか、ネロ」
「ア?」

 険悪な空気だ。ここで本当に『助手のようなやつ』が現れれば解決だが出てくる気はないらしい。ネロはシドをスルーしこっちに「ンで? 怪しい場所はどこなンだ?」と聞いてくる。シドの方はというと「まだ連れて行くとは言ってないぞ」と機嫌が悪い。

―――こういう時にアンナがいたら楽なんだけどな、とため息を吐いた。



「ホーあれがガーロンドくんか。想定していたよりも若造じゃないか」

 そりゃネロと同い年なら当たり前かと肩をすくめる。エルファーは少し離れた場所から望遠鏡で彼らの邂逅を覗いていた。とりあえず自分のことを聞かれたらレフと呼ぶように頼んでおいてよかったと安堵する。流石に何も考えず喋ってしまい申し訳ないと謝罪し、通信を切る。
 ニィと笑い、再びオメガについての文献を整理しようと踵を返した―――


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