FF14の二次創作置き場

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 早朝、シドはふと腕がずしりと重くなり薄目を開いた。すると目の前には"…

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旅人は子供になりすごすfull―エピローグ―


 早朝、シドはふと腕がずしりと重くなり薄目を開いた。すると目の前には"いつものアンナ"がいた。そろそろ戻るような予感がしたという彼女の予想は当たっていたらしい。くすりと笑う。今すぐにでも抱きしめようと思ったがぐっと我慢をし、目覚めるのを待つ。
 更に1時間もしない頃、多分いつもの起床時間なのだろう、アンナが起き上がり「あ」という声が聞こえた。「よし」という声も漏れ嬉しそうだ。「面倒。起きる前に撤退」と呟きながらそろりと寝台から離れようとしたので腕を掴んでやる。

「げっ」
「何がげだ。挨拶とお得意の謝罪はどうした。そしてどこに行くつもりだ?」
「お、おはよう。謝罪? 言う必要無し。ほら、もうボクの起床時間。日課を、ね?」
「戻った直後にいきなり大量にタスクを課すのは身体への負荷が半端ないと思うぞ?」

 ニコリと笑顔を見せ合う。そのまま力いっぱい引き摺り込む。

「アンナ、約束覚えてるよな?」
「な、何? 大人に戻ってるから昨晩の約束は無効」
「"戻ったら好きなだけ相手してやる"って言ったよな? ちょうど24時間ほど前に」
「え? あ……い、言ってない! そんな記憶皆無!」
「言った」

 しばらく言ったやら言ってないやら言い合う。必死に取り繕いながら言う姿を見るにきちんと思い出しているようだ。勝ち誇ったような笑みを浮かべてしまう。

「さ、昨晩上書きしたから無効だ無効!」
「そもそも言ったことすら覚えてなかっただろ」
「! じゃあ無かったことに」
「お前さんいつも言ってるじゃないか"約束だけは絶対に守る"って」
「う、うぅ……いやほらキミ今日もお仕事。そんな朝から疲れるようなこと……」

 珍しく弱り切ったアンナを朝から見られるのは心地がいいとシドは笑いながらここ数日の恨みつらみを吐く。

「ネロはパパと言って俺にはおじさんと言ったな? しかも昨日はだいぶパワーアップしていたじゃないか。ロリ、何だっけか? もう一度言ってみろ」
「いやその件は」
「そもそも実の所何でネロに頼ったんだ? 完全に俺や暁への配慮じゃないよな?」
「え、あ、そっちは少々本当に心配した上の」
「時間稼ぎって言ってたな? 誰の何に対してだ? こっちは一切連絡取れず心配しすぎて心が裂けるほど痛かったんだぞ?」

 大袈裟なことを言いながらジトリと睨みつけると目を逸らし呻き声を上げている。そりゃあ言い返せないだろう。今回ばかりは100%アンナが悪いのだから。

「もしかして怒ってる?」
「もしかしなくてもだな」
「ほ、本当に途中ヘマなく戻ったら何事もなく会いに行ったし?」
「その考えに怒ってるんだ」
「いや、その―――ゆ、許して? ほらキミ今日も忙しい。お仕事、行こ?」

 笑顔で見つめ合う沈黙の時間が流れた。反省しているように言えたしこれは許されたな、とアンナは心の中でガッツポーズしていると突然口を手で塞がれシドはリンクパールに手を伸ばす。引き剥がそうとするがビクともしない。リンクシェルを慣れた手つきで操作し、適当な社員へ繋ぐ。

「あー俺だ、シドだ。朝早くにすまんが今日は少し出勤が遅くなる。大丈夫だな? じゃあ何かあったら連絡してくれ、切るぞ」

 みるみるアンナの顔が青ざめていく。通信を切った後、ゆっくりと口から手が離れ、両腕を押さえられた。

「じゃあアンナ、ゆっくり言い訳を聞こうじゃないか」
「話し合いする体勢じゃない!?」

 アンナからするとお互い全裸でベッドの上に組み敷かれどこから見ても今から話をしようかという状態には見えない。話をするならせめて服、いや下着だけでも着させてくれという懇願も虚しく首元に噛みつかれた。



「ネロサン、迷惑をかけた」
「なンだお前戻れたのか。結局1週間位かかって―――って珍しく"そっち"か。ガキになってた間何してたンだ?」
「んー何のことやら全然」

 夕方、ガーロンド社にフラフラと髪を黒く染め直したひょろりと長細いアンナが現れる。戻ったんですねというすれ違う人に会釈をしながらネロを見つけ手に持った袋を渡した。ネロは一瞬で中身が変わってることを見破り尋ねてみたが、即はぐらかされる。袋の中を見ると菓子、迷惑料と書かれた袋、そして冊子が入っていた。パラパラと捲るといくつか走り書きされた図面たち。「何だこれ?」と聞くと「さあ? どう使うかは自由」とニィと笑った。見たことのない魔法人形に、奇妙な小銃のようなもの。先日渡された煙幕の幻影やパッと見正体不明な錬金薬関係のデータも入っている。

「"ボク"は重役出勤な人間の説教で疲れてるんでね、失礼するよ」
「アー」

 昼の出来事を思い出す。遅刻した癖に珍しく機嫌のいいシドは昼に出勤した。それから部屋に篭らされ書類に埋まっているが嫌そうな顔一つせず手を動かしている。ジェシーも流石に「ねえ今日の会長怖すぎない?」と引いていた風景を半笑いで眺めた。

「姿が戻ったのは早朝。それからここ数日の怒りと称して説教に重なる説教でボクはダウン。何度もキミはパパで俺はおじさん呼ばわりされてとか"小説の台詞が元ネタの発言"が云々言ってたからその辺りが相当傷付いたみたいでね。でも各方面にちゃんと戻った件は報告しないといけない。何とか"ボク"が身体を起こして錬金術師ギルドと石の家に顔を出してきたのさ。"あの子"は当分不貞寝で起きないと思われ」
「ハァそりゃお疲れさまなこって」

 それじゃ、と踵を返し、手を振りながら去って行った。ネロは袋の中身を改めて確認すると『シドに今日ここへ来たことは絶対に黙ってあげて欲しい。疲れてるから』と書かれていた。実際数時間後、「仕事後今朝の詫びで飯に行こうと約束した」とアンナを探す反省したような顔をしていたシドとばったり会ってしまう。流石にまずいと思ったが、知ったこっちゃないと適当に誤魔化そうとしたが隠していた袋が目ざとくバレてしまった。追及され、ジトリとした目でそのまま酒に付き合わされる。密かに何度試みてもリンクパールは一切繋がらず、横では延々とアンナについての愚痴とネロ本人の日頃の行いについてグチグチと語られ、『この野生生物共ぜってェ覚えてろ……』と何度も心の中で呪うネロの姿があった。

「マジで"ボク"は何が起こっていたのか分からないんだけどねぇ。とりあえずは教訓だ。錬金薬の扱いは慎重に。イヒヒッ」

 ガーロンド社の外に出た"約束を知らないアンナ"は空を見上げ伸びをする。なまった身体をまずは程よい運動でリハビリしよう、アンナはテレポを唱え、どこかへ飛んだ―――。


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1日目 // 2日目 // 3日目 // 4日目 // 5日目 // 6日目 // 【R18】7日目 // エピローグ

 自機子供化でシド光♀話。子供ヴィエラとの須股等性描写有り。性器挿入は無し。パス…

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【R18】旅人は子供になりすごすfull―7日目―
 自機子供化でシド光♀話。子供ヴィエラとの須股等性描写有り。性器挿入は無し。パスはアルファベット4文字のスラングを大文字で。
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 6日目。目が覚めると子供のままのアンナは既に着替えを済ませ、本を読んでいた。相…

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【NSFW】旅人は子供になりすごすfull―6日目―


 6日目。目が覚めると子供のままのアンナは既に着替えを済ませ、本を読んでいた。相変わらず早起きだなと思いながら欠伸をし、体を起こすと気が付いたようだ、「おはよ」とニコリと笑顔を見せた。

「とりあえず今日は石の家に連れて行くからな。まあ溜まった仕事を終わらせて定時で迎えに行く」
「昨日も無理やり迎えに来たし皆怒ってるんじゃないの。別にゆっくり徹夜してもいいんだよ?」
「絶対に終わらせてくるからな」

 頬をギュッと引っ張った後、一緒に朝食を食べて石の家へ引っ張って行く。少々ばつの悪そうな顔をしながら笑顔を見せたタタルとクルルに奥へと連れて行かれるところを確認した後、ラスボスが待つ会社へ向かう。

 玄関では腕組み仁王立ちをしたラスボス(エルファー)と鉢合わせする。

「おい妹はどうした」
「石の家にいるぞ。当の本人と顔合わせたくない人間が機嫌悪い顔で見て来ても意味は一切ないからな」
「まあそれを確認したくて立っていたのが真相ではあるな」

 連れて来ていたらどう誤魔化すつもりだったんだと聞きたくなる。が、妹が絡む件で刺激したら何が起こるか分からない存在なので口を噤む。
 後ろには昨日は休暇だった筈がげっそりと疲れ切っているネロがコーヒー片手にため息を吐いていた。昨晩は本当に何があったんだ? と首を傾げたくなる。

「会長、アンナさんは連れて来てないんですか?」

 ジェシーをはじめとする人間に聞かれ石の家にいると返しながらその後ろにある子供服を隠しとけとため息を吐いた。過剰に人と関わりたくないアンナからするとこれが嫌だから隠れていたんだな。そう思うと結果的にはネロに頼り隠れていたのは間違っていなかったのかもしれない。なら声くらいは聞かせろとぼやくことしかできなかった。ネロのことをパパと呼び自分のことをおじさんと呼んだのも未だムカつく所がある。しかも既に三度呼んだ。とりあえずジェシーに明日戻っていなかったらアンナを連れて来るという条件を持ち出しネロへ仕事を押し付けることにした。

 夜、石の家に顔を出すと少し疲れた顔をしたアンナがいた。こちらに気が付くといつもの笑顔に戻り「おや特大なお仕事は?」と聞くので「調整してくれたからな」と笑顔を返すと舌打ちしていた。抱き上げアンナと談笑していたクルルに会釈をしその場を後にする。
 外で日中何があったのか聞きながら晩飯を済ませ、ネロの部屋からアンナの荷物を回収した。大きなスーツケースに纏められている。「デカいな。頑張ればアンナが入る」と呟くと足を踏まれながら「通報」と言われたし、ネロにも「口には出すな」呆れられた。流石に実行はしないと苦笑しながら宿に運び込む。
 シャワーから出て来たアンナの髪を乾かしてやり、自分も頭を冷やしがてらシャワーを浴びた。戻ると昨日とは打って変わって既に寝転びながら身体を伸ばしていた。隣に座ると少しだけジトッとした目でこちらを見る。その後何か思いついたのかのそりと起き上がり膝の上に頭を置きニィと笑った。

「もう二度とないかもしれない体験で嬉しいでしょ?」
「大人に戻ってもやればいいじゃないか」
「やだ」

 膝枕はさせる方が好きなんだよと柔らかな笑みを浮かべ膝の上でゴロゴロ転がっている。長い耳が当たってくすぐったい。

「石の家で子供っぽい動きとは何かとララフェルの方々に聞いてた。だから色々と試す」
「それは口に出さない方がよかったかもしれんな」

 顔に手を当てため息を吐く。アンナは唐突に腕を掴み、顔へと持って行かせた。首元を撫でてやると笑顔を見せた。

「そもそも子供とは何かという所から議論をした」
「哲学は専門外だから分からんな」
「言葉を舌足らずにしてみるとかもっとキャーキャー喚いてみるとか考えた。でもそれ私が嫌いだからやらない。ならば普段から可愛い動きをするララフェル先輩に聞くのが一番」
「まあ突然そんなことされたら呪術士の所に連れて行くかもな。マハで妖異にでも憑かれたかもしれんと」
「非科学的なものに頼りに行こうって思う程異常に見えるってことね、オーケーオーケー」

 私が普段どういう目で見られてるかよーくわかったよと言う口に反し笑みを隠さずその指をカリと甘噛みする。

「というか自分が子供の頃と同じ感じで行けるだろう。覚えてないのか?」
「ずっと素振りしてるか部屋中イタズラの仕掛けをして女の人のお尻触ってもいいなら」
「却下だな」

 忘れかけていたがアンナは当初自分が女性ではないと思っていたと言っていた。実際普段の姿で見慣れているだけで笑顔で立っていなかったら十分少年だと言われても信じる自信はある。

「とにかく子供である利点をもう少し楽しもうと思ったのが本日のまとめ」
「それを先の5日間で気付くべきだったな」
「やだ。そんな長く好奇心の目に晒されるとか頭おかしくなる」

 普段のビックリ人間ショーみたいな英雄行為を見られるのはいいのかと思うが口には出さないでおく。
 それから適当に子供とはどういうものなのかという話を交わし眠った。


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1日目 // 2日目 // 3日目 // 4日目 // 5日目 // 6日目 // 【R18】7日目 // エピローグ

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 5日目。実質奇妙な同居生活最終日だ。 目が覚めるとアンナはすでに起床し、着替え…

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旅人は子供になりすごすfull―5日目―


 5日目。実質奇妙な同居生活最終日だ。
 目が覚めるとアンナはすでに起床し、着替えも終わっていた。珍しく少女っぽい服を着ている。ファットキャットのフードが付いたパーカーはこれから怒りに来る奴らにはよく効くだろう。

「ああネロサンおはよう」
「……おう。こりゃ馬子にも衣裳だな」
「一言余計」

 朝食を済ませ、適当に蒼天街歩き回ろうかと話をする。アンナも少々気分は沈んでいるようで。そんなに会いたくないのかと尋ねてやると「いやただただ面倒」と言うのでゲラゲラと笑ってしまった。仮にも仲間相手だろうに、聞いたら何人か崩れ落ちそうだと肩をすくめる。

 しかし蒼天街に入ってしまうとテンションは上がるもので。あの受付から復興用素材が採取できる島に行ける。定期的にピアノの演奏会があるんだと聞いた。素材や製作品の納品所や試しにくじ引き券の余りをもらい引いてみたりと一通りの体験を見せてもらった。
 現在は一角でアンナを抱き上げ一息ついている。タバコを咥えライターで火を点けようと思ったがポケットをまさぐっても出て来ない。ため息を吐いていると「そこでじっとしてて」と言われる。止まると「バァン」とタバコの先に指を近づけ火花が散り火が灯された。

「エーテルって便利だな」
「でしょー」
「それガーロンドにもやってンのか?」
「え? シドタバコ吸うの?」
「……アーそういやあいつ修羅場中にストレス溜まった時しか吸わねェわ。あとそもそもアレは電子タバコか」

 じゃあ一生見ることはねェなと言ってやるとへーと景色を眺めていた。相変わらず人に興味持たないなコイツと思い肩をすくめる。直後こちらへ走る気配を感じた。遂に来たか、と思いながら両手を上げる。

「タバコ終わるまでは待ってくれねェか」
「ネロ! お前……お前!!」
「休みをもらったのは俺だけだろ? お仕事はどうしたンだガーロンドォ?」

 うっせェなあと思いながら振り返ると暁のメンバーの一部とシドがいる。エルファーはいないようだ。それもそうか、アンナには公然の秘密にしているのだ、来るはずがない。

「ちょっと、アンナはどこかしら!?」
「ネロ、今ならまだ間に合う。投降するんだ」
「おいおい俺は"お・ま・え・ら"と違って何もやらないぜ? 一緒にすンなっつーの」

 一晩の間に彼らの中でどういう話になったのだろうか、ため息を吐き吸殻を踏みつぶす。

「おいメスバブーン」
「やだ」
「見てやれ」

 小さい声で嫌と言うが無視し首根っこを掴んで今の彼らを見せてやる。すると明るい顔をする者、顔を赤くする者、驚いている者、そして泣きそうにしているシドの姿。アンナはしばらく彼らを無言で眺めるとファットキャットのフードを深く被りこう言いやがった。

「ねぇパパ、あの"お・じ・さ・ん"たちこわーい」
「ア?」
「は?」
「え?」
「はいせーの」

 やりやがった、ため息を吐いた。強調までして重点的にシドを怒らせようとしている。これは交渉決裂ということだろう、2人でポケットに入れていた袋を取り出し、割った。
―――彼らの表情を確認する前に一面に煙幕がまき散らされる。「ネロサン、行こ」という声が聞こえたのでもうがむしゃらになって走り出した。一種のヤケクソになったアンナのキャハハと笑う声が響く。まあネロも笑うことしかできないのだが。大爆笑しながら逃げてやった。
 この煙幕は宿を出る前に説明を使用方法の共有として聞いている。錬金術師ギルドでは煙幕のような幻影を出すものを作っていたらしい。人体に影響なし、短時間で消えるため屋内で使っても空気の入れ替えの必要もなく汚れない。そうつまり怒られないと輝く目で言っていた。やる地点で怒られるんだよなあでも面白ェと思っているので人のことは言えないが。試作品もあって想定外より煙が発生し、晴れるまで時間はかかるだろう。だが相手らはエーテル視やエーテリアルステップやら追いかけっこが成立しないような小細工が出来る。シドもゴーグルを外せば第三の眼で動きの確認は可能だ。
 しかしアンナはただ蒼天街で遊んでいただけではなく抜け道や飛び越えられる場所等まで分かりやすく道を示すための"ささやかな目印"を施していた。それを頼りに袋を投げ割りながら精神を研ぎ澄まし、空間を把握しながら兎に角少しでも遠く走り"時間稼ぎ"を行うことにする。

 多勢に無勢という言葉がよく似合う。シドが用意していた複数の捕獲装置でアンナごと捕獲された。予想出来てはいたが数で追い詰めて来たガーロンド社の人間と違い、実力がある少数精鋭な暁の血盟から逃げ去ることは流石に無理だと悟る。2、3発はネロ自身の運動神経とアンナの機転で避けられたがそれ以上は耐え切れなかった。以前より弾速が上がりネットが仕込まれた弾も小型になってる。徐々に追い込まれ、最終的にお縄となった。
 一晩足らずでここまで仕上げたのは最早執念だろう。シドの顔を見やると先程の泣きそうな表情から一転し、物凄く怒っている。アンナはそれでいいと満足そうな顔で言っていてもうわけが分からない。代わる代わるの説教の時間かと思いきやヤ・シュトラが止める。向こうははっとした顔で一呼吸置き、口を開いた。

「ごめんなさい、アンナの気持ち考えなくて」
「お、俺もかわいいなって思って興奮してしまった。怖がらせたようで本当に申し訳ない」

 アリゼーとグ・ラハはあっさりと謝ったがシドはジトリとした目で睨み何も言わない。アンナは「反省文、読むかぁ」と小さな声で呟く。

「ごめん、シド。5日目になっても姿が大人に戻ってなかったら皆の前に現れる予定ではあったよ。人とそう約束済み。信じられないだろうけど詳細はヤ・シュトラに」

 顔を見やると目を丸くしている。一瞬ヤ・シュトラに目を配ると肩をすくめた後頷いていた。アンナはそのまま言葉を続ける。

「あまり人に心配させたくなかった。その辺り放任主義なネロサンが一番頼れるって私が判断しただけ。ネロサン悪くない。怒るなら私だけ、ね?」
「む……」
「それにこーんなかわいい見知らぬ美少女をデレデレしながら連れ歩いて衛兵に不審者として連れて行かれるおじさんを見たくなかったし」

 耐え切れず笑いを漏らしてしまった。周りも笑いを堪えているようだ。シドは「そ、そんなことにはならん」と言っている。「じゃあほらシド、もう逃げないから」と網の中でモゾモゾと動いている。大人しく言う通りに網を切り、アンナは伸びをしながら立ち上がりシドの手を握った。一瞬目が点になった後笑顔を見せている。何も言わず手を振りほどきイタズラっぽい笑みを浮かべながら足を踏みヤ・シュトラの方へ向いた。

「あ、ヤ・シュトラありがと」
「ええ何とかなってよかったわ。やっぱり身長と声のトーン以外はそんなに変わらないわね」
「内面まで子供になれる薬は時間を戻すレベル。そんなの誰だって欲しがる」

 落ち込むアリゼーとグ・ラハの所に小走りで向かい、笑顔を見せている。

「ほらもう怒ってないし怖くないから」
「アンナぁ」
「ごめんなぁ」
「アルフィノも一緒に遊ぼ」
「ああ、私も蒼天街はゆっくり見てみたかったんだ」

 これで奇妙な日々も終わりだ。こっそり引き上げようとするとシドに腕を掴まれる。

「ア?」
「聞きたいことがあるんだが」
「なンだよ」
「何もしてないよな?」

 ガキでバブーンにゃ興味ねェお前と一緒にすンな! と一蹴してやる。シドは目を丸くしてから「俺だって子供に何かするような趣味はないぞ失礼だな!?」と怒鳴り返す。
 その時悲鳴のようなアリゼーの言葉が聞こえた。

「え! あなたネロと一緒のベッドで普通に寝てたの!?」
「床痛いの可哀想だし普通にスペースあるからいいじゃん」
「いやいやそれは流石にシドが怒るだろ」
「シドは優しいから怒らない。……冷房いらずで便利って。起きる時大体抱き枕状態で抜けて朝の日課こなすの大変だったけど」
「……ネロ?」

 何も言わず走り出す。シドは必死の形相で「お前他に何もやってないだろうな!?」と言いながら追いかけまわしてくる。そう、アンナはこちらから秘密にしておけと言わない限り絶対に全て喋るオープンな女だ。完全に油断していた。やっぱりあのバブーンなんて大嫌いだと顔をしかめ「メスバブーンテメェマジで覚えとけよ!? これ以上余計なこと喋ンな!!」と叫んだ。



 罪人2人をレヴナンツトールに連れて帰る。勿論アンナは暴れているがしっかりと抱えてやった。ネロは戻るや否やガーロンド社へと連れて行かれた。シドは次の日にネロの部屋に置いてある荷物の類を回収する約束をし、宿にアンナを連れ込む。普段のアンナの仕草を見せているのにそれを見下ろす形なのは新鮮だと思いながら軽々と抱き上げると「子供扱いするな」と頬を膨らませている。

「普段俺にしてるじゃないか」
「私はいいの」

 薄い身体に普段より気持ち温かいが人より冷たい体温。抱きしめてやるとアンナは頭を優しく撫でた。額に頬に、そして唇に優しく口付けるとアンナは眉間にしわを寄せた。

「ヒゲくすぐったい」
「俺は変わらないぞ。いつも通りじゃないか」
「子供の姿だからかな。予想通り刺さるし、って続行しない!」

 小さくて、やわらかい。細い身体は確かに抱き心地がいい。普段よりも薄い腹部が脆そうで少しだけ心配になる。優しく撫でているとアンナはその腕を掴んだ。

「そういえばさ、シド」
「どうした?」
「―――今の私の身体、第二次性徴前。何も起こるわけがないでしょ?」

 耳元でボソリと呟かれると顔が熱くなっていく。改めて言われると恥ずかしくなる。クスクスと笑い声が聞こえた後「お風呂入って来るから、大人しくしててね」と下ろすよう床を指さした。言われるがまま解放すると部屋着を持って浴室へ駈け込んでいった。



 暇だ、と思いそろそろ説教も終わっているであろうネロにリンクパール通信を繋ぐ。

『あ?』
「ああネロ大丈夫か?」
『妹自慢が終わった所だ。ッたく引き受けンじゃなかったぜ』

 疲れ切った声が聞こえて来た。いい罰だ、優越感が勝る。

「お前の家ではアンナはどんな感じだったんだ?」
『料理は当番制で適当に本やらジャンクパーツで遊ンで寝させてただけだっつーの』
「健全だな」
『ッたりめェだろ。メスバブーン相手はどうも思わねェわ』
「料理は美味かったか?」
『ありゃダメ人間製造機だな。運動しねェと太るぞ』

 談笑していると扉がキィと鳴る。アンナがふとこちらを見ている。ただじっと。何か手に持っているようだがよく見えない。「アンナ、どうした?」と聞くが何も言わず奥に消えて行った。首を傾げながらネロに問う。

「風呂から出たら何かしてたか?」
『ドライヤーかけてやっただけだ。家の中濡らされたくねンだよ。面白ェもン見れっから別に苦でもなかったか』
「なるほど。じゃあ一度切るからな」

 ネロの答えを聞くより前に通信を切り、アンナの様子を伺いに立ち上がる。覗き込んでみるとドライヤーを手に持って四苦八苦しているようだ。よく分からないことを言っていたが、使い方を教えずただやってあげてたのかとため息を吐きながらその機械を手に取る。

「あ」
「ほらやってやるから」

 耳を触らないように暖かい風をかけてやる。正面にある鏡でアンナの表情はよく見えた。珍しく誰の目から見ても分かる程度にはご機嫌のようで余程これが気に入っているのかと苦笑した。もっと早く気付いていたらとネロに対し舌打ちしていると「んー」と言いながらふにゃりと耳が垂れ下がった。

「アンナ?」
「―――へ?」

 鏡で今の自分の状況を見たらしい。顔を赤くし、固まっている。耳を押さえ声が震えている。

「嘘、ネロサン何も言ってなかった。待って、シド、誤解」
「アンナ、髪はまだ乾いてないぞ?」

 逃がさないよう固定し、頭をガシガシと撫でてやると「やーめーろー!」と抗議の声が聞こえた。動かさないように修行していると言っているくせにふとした拍子にこう垂れ下がる姿を見せる。しかしいちいち丹念に触らなくても即見る手段が見つかったのは朗報だと考えた。あまりにも単純でシンプルな手法すぎて発想もなく心の中でガッツポーズする。

「スマンドライヤーの音で何も聞こえないな」
「嘘つかない! あ、じゃあやーいばーか! おーじーさーんー!」
「俺は普段のお前より半分以下の年齢だ。いちいち年齢を揶揄する単語を言うんじゃない」
「聞こえてるじゃん! 都合のいい耳だなあ!」

 聞こえないと言われたら思ったより幼い悪口が飛び出し苦笑する。絶対に戻ったらやらせないという恨み言を聞きながら「それなら子供のうちにゆっくり堪能しないとな」と後先考えずに喋るアンナに感謝した。
 直後、可愛らしい「みぎゃー!」という叫び声が響き渡る。やりすぎたかもしれない、一瞬その手を止めた。



 数十分後、少々機嫌が悪くなったアンナの機嫌取りを重ねた結果、ようやく抱きかかえる許可がもらえた。一回り小さな頭に顎を置き、アンナが読んでいる本を眺めている。滲んだ文字が多めな東方地域のからくり装置のカタログを読んでいるようだ。その筆跡はどこかで見たことがある気がするが思い出せない。

「アンナ、まだ寝ないのか?」
「別に寝てほしいなら寝てもいいけど」
「……もう少し」
「ほーらそういうこと言う」

 ケラケラと笑いシドの腕を甘噛みする。指を動かそうとすると「子供相手に何をしようとしてるのかな?」と止められる。中身は普段と一緒の癖に何を言っているんだと苦虫を嚙み潰したような顔をしてしまう。

「スケベ」
「ぐ。いやお前が煽るから」
「遂に開き直った」

 本を閉じ、放り投げるとこちらへと振り向き抱きしめ身体を密着させた。小さく冷たい身体が首元を小さくリップ音を立て口付ける。何もできないだろうと高を括った動きに我慢できず抱き上げてベッドに倒す。

「何? 嗚呼性別確定前の身体でも気になった?」
「いやそういうわけではなく」
「上半身はその辺りの子と変わらないよ? 下半身はねえ」
「言わんでいい」

 せめて1日位は我慢するかなって思ったのにねえと笑っている。

「それを耐えた先にご褒美があるかもしれないよ?」
「本当か?」
「さあ? ちなみに乳首や排泄器官は存在するけど男性器、女性器は見えないって感じだよ」
「そうなのか。ヴィエラの子供の話は初めて聞いたが不思議だな……ってさっき言わんでいいって言ったよな!?」
「あははっわざとに決まってるでしょ?」

 イタズラな笑みを浮かべこちらを確実に煽る姿はまさに子供の姿をした悪魔である。ため息を吐いた後、かぶりつくように口付け、小さな舌の根を吸い彼女の口内を味わう。何せここ5日に加え2週間位またどこか歩き回っていて連絡が付かなかったのだ。変に煽られると子供の身体相手でもすぐに手を出してしまいそうで。逃がさないように身体を押しつぶし反応を伺うと、苦しいのか胸板を叩きながら抗議する姿が愛おしい。一先ず満足しゆっくりと離れると惜しむように透明な唾液の糸が引かれている。顔を真っ赤にし、睨みつける姿に笑顔を見せてしまった。

「5日隠れててよかったよ。おかげでこんな目に遭う日数は少なく済んだ。言っておくけど体力はその辺りの子供と一緒」

 そっちから仕掛けていることをいい加減自覚してほしいんだがと思いながら「もう寝よう」と寝かしつける。
 その日の晩はこれ以上何もなくアンナは普通に眠った。理性のブレーキはギリギリまだ働いていたことに非常に安堵したのは秘密にしておくことにする。


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1日目 // 2日目 // 3日目 // 4日目 // 5日目 // 6日目 // 【R18】7日目 // エピローグ

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 4日目。「ネロは疲れているのかもしれない」 社長室にてシドをはじめとした面々が…

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旅人は子供になりすごすfull―4日目―


 4日目。

「ネロは疲れているのかもしれない」

 社長室にてシドをはじめとした面々が最近怪しいネロの奇行について話し合っていた。

「3日前に突然早退してから様子がおかしいですよね」
「子供を誘拐したんじゃないかとこっちもあらぬ疑いかけて申し訳ないことをしたと思っているが……」

 昨日朝にネロから手渡された袋を机の上に置く。

「アイツが先日俺の名義で切った領収書の金額バッチリ倍入っている」
「はい!?」
「まるでアンナみたいな準備の良さに面食らったおかげでどこで道草食ったか詳細聞きそびれてしまった」
「ストレス溜めさせすぎて一気に買い物でもしたんですか?」

 ウェッジはあっと驚いた顔をする。ビッグスがどうしたと聞くと慌てたように早口でまくし立てる。

「ネロ、彼女できたかもしれないッスよ!」
『はあ!?』
「昨日偶然休憩室通りかかったら誰かとリンクパール通信してたッス。そこで愛してるぜ子猫ちゃんって!」
「うっわベタ」
「血反吐吐きそうになるなそれ」
「本当にどうしたんだネロ不気味すぎないかそれ」

 シドはしばらく考え込み、結論を付けた。

「よし、今の案件も一段落ついたしネロに休暇をやろうと思う。ジェシー、もうネロを帰らせて明日丸1日休めるように調整頼めるか?」
「そうですね、ネロは相当疲れてるみたいですし帰らせましょう」
「イマジナリー彼女を作るほど疲れるとはな。最近休みなしだったし僕も色々頼りすぎてしまっていたようだ。反省しよう。よし反省会終わり」
「誰も本当に相手ができたと思ってないのがすごいな……」
「これが日頃の信用ってやつッスねー」

 シドとジェシー、そしてエルファーの言葉にビッグスは遠い目を見せた。
 こうしてネロは無理やり休みを取らされることになったが、彼らの目からしたら不審な動きをしているネロの真相をまだ知らない。



「あれ、ネロサンめっちゃ早い帰宅!」
「なんか気持ち悪い笑顔で肩を叩かれて帰らされたンだ。明日も休めってよ。ったくお前がガキになってからどいつもこいつもこのオレ様を哀れな目で見てくンだぜ?」

 腑に落ちないだろ? と言う姿をアンナは目を丸くして見ている。流石にこの時間に帰って来るのは予想外だったようですぐに台所へ戻って行く。ふとテーブルの上を見やると設計図が書かれた文字が滲んでいる書物と小綺麗なウサギが完成している。試しにゼンマイを巻いてみると不規則にピョンピョンと跳ねていた。

「そりゃ誰かに聞かれたっていうのは教えてくれたから知ってた。それからこうなるとはボクでも予想不可能」
「だろ? 何で真似事とはいえ俺があんなアホなセリフ吐いてンだとは思ったがラッキーってこった。―――でもなァいきなり休暇貰っても何もやることがなくて暇だぜ?」
「じゃああそこ行く?」

 どこだよ? と聞くと目を輝かせてこう言った。

「蒼天街!」

 イシュガルドにある復興区画だったか。職人や冒険者たちの手によって急速に進んでいるという噂は聞いている。

「色んな技術とかイベントが楽しい。どう?」
「軽い休日で行く場所として有りだな。ま、そろそろお前も外で遊びてェってやつか」
「そそ。ストレッチだけじゃ身体がなまっちゃう。じゃあ準備して」
「おいおい早速か?」

 前日入りしてゆっくり休んだ後丸1日使う方が有意義でしょ? という言葉にナルホドねェと返した。飯食ってから出立するかという話をしながら荷物をまとめる。

「イシュガルドまではとりあえず先日乗ったロボでいい? 飛空艇でもいいけど時々はぶっ飛ばすのも有りでしょ?」

 あのロボット気になってたンだよなとニィと笑う。寒いからと防寒着を着込み、保温ポットにコーヒーを淹れ片手間で摘まめる物を袋に詰めた。腹ごしらえにと作っていた料理を食べ、外に出る。
 この機械はクルーズチェイサーというらしい。「イディルシャイア周辺で出会った青の手が繰り出した機械兵器。騎乗用に改造してもらった」と呑気なことを言っている。どさくさに紛れて何しているんだこのガキと思いながら乗り込んだ。

「ナイスバケーションへ出発しんこー!」
「ヒヒッ最高だなァ!」

 ゲラゲラと笑いながら形態変化したロボットがレヴナンツトールから飛び立った。




―――一方その頃。
 シドはネロが休む分の仕事をエルファーと共に黙々と片付けていた。
 そこに暁の面々が慌てた様子でやって来る。

「シド! アンナの容体はどうなっている!?」

 アルフィノの言葉に首を傾げた。なぜ今アンナの話題が出て来たのか、心当たりがない。珍しく賢人たちがほぼ揃っているものだからぽかんとした顔を見せてしまう。しかしすぐに手元に視線を戻しながら盛大にため息を吐いた。

「アンナとは大方3週間程度会ってないし相変わらず俺にやらかすために各所ギルドで仕込んでるから連絡つかないらしいぞ」
「そうかシドもそう聞いてるんだな」
「俺、も?」

 作業の手が止まり、再び顔を上げた。グ・ラハは怒らないで聞いてくれよ? と言いながら先程石の家にやって来た人間から聞いた話をする。

「実は錬金術師ギルドで手が滑って錬金薬を浴びてしまったらしい。秘密にしてとは言われたが心配になったと使いの者が来てこっちは大騒ぎさ」
「は? いつ?」

 シドは目を点にし尋ねる。何を言っているのか、理解が追い付かない。アリゼーは軽くため息を吐きながら報告内容を話した。

「事故が起こったのは3日前。2日前にアンナは私たちへのサプライズのために引きこもってるってあなたから聞いたって話があったから怪しく思って来たの。その様子じゃあなたも何も知らされてないみたいね」
「……俺も2日前に聞いたぞ。ネロからな」
「そうか―――俺もなんだ。偶然書店で鉢合わせしたネロに言われてさっきまでワクワクしてたんだよ!」
「ねえネロはどこにいるのかしら? 詳細聞きたいんだけど。まだ工房とかにいたりする?」

 シドは眉間に深く皴を寄せ黙り込んでいる。隣にいたエルファーが代わりに口を開いた。

「最近ネロの様子が不審で。疲れてるのかと思って数時間前に帰宅済。ついでに明日1日休み付きで」

 暁の面々は驚いた顔を見せている。リンクパールに震える手を当て連絡先を指定し、呑気な『どうした?』という声が聞こえた直後力任せに叫ぶ。

「ネロ!! お前今どこにいるんだ!?」



「ア? 何か来たな」
「えーどうしたんだろ。ジェシーかな。取ってみたら?」
「はー折角休みくれたのになァもう撤回かよ。ッたくあの会社ブラックすぎて困るぜ」

 イシュガルドに向かう途中、リンクパールが鳴った。何だと思いながら取ると叫び声。

「ハーうっせェないちいち叫ぶな鼓膜破れンだろうが」
『もう一度聞く。今どこにいるんだ。家か? いやジェット音が聞こえた。何に乗ってる? 休暇貰ったから呑気に旅行か? 誰とだ』
「ハァ? 休みだし何してても関係ねェだろプライベートに介入するブラック企業かよ。あ、おぼっちゃんの所に天才のオレ様がいないと解決できない案件でも来たのかナァ?」
「シド?」

 アンナは怪訝な目で通信中のネロを見ている。肩をすくめて見せると苦笑が返って来た。怒りを溜め込んだような口調でシドの追及は続く。

『お前先日アンナはサプライズ仕込みで引き籠ってると言ってたよな?』
「……アー。ありゃ本人がそう言えつったからそのまンま言ったンだぜ? もういいか? 俺様は忙しいんだ」
『あのイタズラ好き"と"何を企んでいる』
「さあな。つーかメスバブーンと同レベルにすンじゃねェ。数日中にでもお仲間の前に現れるンだろ」
「あーバレたか」
『分かってる範囲で最後に会ったのはお前だから聞いてるんだ! 本当の所アンナはどうなって』
「ゆるしてくれるだろうか」
「ンじゃ、許せすまねェな『グッドトリップ』」

 待て話は終わってないぞという声を聞き流しながら隣でボソリと言われた言葉を元に喋り切断してやる。そして耳からリンクパールを外しポケットにしまった。

「さてどうすンだ? プランが崩れたぞ。ガチギレすぎて最早笑えるぜ?」
「いや普通に予定通りのバケーションで。何か最悪なバレ方してるっぽいし。今更帰ってもガチ切れの人たちにひっ捕らえられるだけ。シドのゲンコツ痛いよー? じゃ、ボクもちょっと連絡」

 そう言いながらアンナはリンクパールを手に取ってリンクシェルを開いた。

「あ、もしもし」



「ごめんなさいちょっと連絡が来たみたい。外に出るわね」
「おや私もサンクレッドから報告が来たようで」

 退室するヤ・シュトラとウリエンジェを尻目にシドは震えていた。

「あの、シド? ネロは何と」
「……グッドトリップ」
「え?」
「ネロを探すぞ。絶対アンナの居場所知ってるどころか何らかの共犯の可能性が高いな」
「変なネタが飛び出す地点で絶対連れてるわね……」

 シドは社員たちに叫ぶようにネロ探索を命令している。当然だが相当怒っているようだ、アルフィノはシド、一度落ち着こうかと宥めようとした。すると報告が終わったのかウリエンジェが戻って来る。

「あの皆さん、本当に落ち着いて聞いてください。サンクレッドに錬金術師ギルドへ詳細を聞いてもらいに行きました」
「ホー早い流石斥候員。ちなみに何と?」
「……錬金薬の効果は子供化。試作品ということで効果は微弱なものでした。が、一瓶分たっぷり浴びているそうです。『ツテがある』と言い一度街に出て。数時間後に『パパ』と呼ばれる男と一緒に訪れ荷物を持ち去った、とのこと。サングラスと帽子を深く被っていたので顔こそ詳しく見えませんでしたが、相当信用していた様子だったので暁の代理人かと思いそのまま送り出したそうです」

 シド、グ・ラハ、アリゼー、そしてエルファーは目を見開き固まる。

「予想はついているかもしれませんが―――特徴は背がひょろりと高い金髪の男性だそうです」
「ネ」

 4人は叫ぶ。

『ネロ!!!!!!』



「あー今めっちゃ怒った声聞こえた。うん、明日蒼天街にいる。相当ダメそうだったらさりげなく誘導してくれたら。ごめん、じゃ」

 アンナはリンクパールを耳から外す。ネロは横で「誰にかけたンだ?」と聞くと「まあ協力者に」と答えた。

「キミの名前を叫ぶ3、4人分の怒号が聞こえた。念のためにもう1人事情説明してて命拾い」
「俺の所じゃなくてソイツに頼ればよかったンじゃねェの」
「ちょっと信用するには、うん。……暁経由でバレた。錬金術師ギルドから使いが来たって。今ガーロンド社にいるみたい」

 もっとしっかり口止めしておけばよかったねえと言いながら寒い空を飛ぶ。



「あ、アンナが子供に!? 待て心の準備が」
「嘘、確かにサプライズって間違ってないわ。でもちょっとスケール違いすぎるんだけど!」
「我が妹が……ネロをパパと? あの野郎……ここ数日独占……うらやましい……吊るす……」

 グ・ラハとアリゼーは顔を赤くしながら慌て、エルファーはニヤけている。対してシドは顔が青い。ウリエンジェが大丈夫ですかと聞くとその場に崩れ込む。

「俺じゃなくて、ネロを頼ったのかアンナ……」

 戻って来たヤ・シュトラはそんな凄惨な風景を目の当たりにする。眉をひそめ「言いたくなかった理由が痛いほど分かったわ」と誰にも聞こえないよう呟いた。
 アンナが連絡していた相手はヤ・シュトラ。昨日昼、突然やはり暁に一切言わず隠し通すのは無理だと判断したのだと、リンクパールが鳴った。最初こそビックリしたものの、詳細は言わないが安全な場所にいるからしばらく籠る、5日経っても戻らなかったら石の家に顔を出すと言っていたので絶対だと約束させる。まさかレヴナンツトール内で滞在、しかも恋人であるシドの親友ネロの元にいるとはあまりにも無神経すぎて予想もしていなかったが。どうやら現れたくない原因は心配されたくないというのは表向きで『グ・ラハやアリゼー、シドが怖い。ってことで時間稼ぎする』とのことなので何も言えず本日を迎える。そんなに警戒しなくても、と思っていたのだがまさかここまで面倒な人間の集まりになるとは予想外だとため息を吐いた。仕方がないので"ヒント"を渡そうとシドに話しかける。

「ねえ、ネロとアンナが一緒にいるのならどこに行きそうか位分からないのかしら? シド」
「……見当もつかんな。畜生、あの時連れてたとかいう子供の特徴がヴィエラだとまで分かっていれば……。ああ次の日の不審な香水の匂いは確かにアンナが付けるやつの一つだ。クソ何であの時気付かなかったんだ―――」
「子猫ちゃんとか言ってたらしいですね、ネロ。あれもアンナ相手だったのでしょうか」

 シドは震えている。ジェシーはこれは大きな失言だったと感じ取り、「ご、ごめんなさい会長」と声をかけると勢いよく顔を上げる。

「少し、コーヒーを、飲んでくる」

 ふらふらと歩き去って行った。だいぶショックだったらしい、ヤ・シュトラは「重症ね」と再びため息を吐いた。

 自室に戻り、"発信機"を確認すると未だに光はない。これは推測だが、身体が命の恩人に出会う前まで子供化したことで計測するための基準点がバグってしまったのだろう。余裕があり、毎日これを確認できていればネロの嘘に即気が付いたはずだ。香水の件も余裕があれば絶対に分かったはずで、多忙な所をものの見事に逆手に取られてしまった。どちらが提案したのかは分からない。ただあの"誘拐犯"と"イタズラっ子"を絶対に許すわけにはいかない、そう思いながらケトルで湯を沸かした。



 数時間後、イシュガルドにて整備を担当していた社員から連絡が来る。クルーズチェイサーから降りた見覚えのある背格好の男がヴィエラの少女を抱えて歩いていたという目撃情報だ。シドは眉間に皴を寄せ、コーヒーを啜りながらその報告を聞いた。

「蒼天街ですか。ここから近くて職人が集まる場所だし日帰り旅行感覚で見に行く可能性は確かにあると思われます」
「抱き歩くとはまた優雅なことしてるな。完全にこっちにバレないと踏んでる」
「どうする? 早速回収しに行く?」
「まあ待て若者らよ。明日ゆっくり行けばいいじゃないか」

 エルファーは飛び出そうとする人間たちを止める。ヤ・シュトラも「私もそう思うわ」と笑った。

「忘れたか? 2人は逃げ足"だけ"は速い奴らだ。じっくり捕獲装置再調整、明日即捕縛。ここからは想像だが、イシュガルドに行ったのがバレるバレないじゃない。―――2人は突然の休暇で1日のんびり楽しみたい所だったが予定外に早く状況がバレてしまった。なら開き直って"ナイスバケーション"続行ついでに"ナイスイタズラ"だとそのまま前日入りしたのかと思われる」
「なるほどな。最後の晩餐というものを楽しんでもらったらいいだろう。アンナも含めてな」

 冷静じゃないのは大の大人たちだった。やっぱりシドに文面だけでも送っておいた方がよかったのではとヤ・シュトラは外に出る。

「ねえアンナ、明日彼らが蒼天街に出没するみたいだからちゃんと反省文考えておくこと。特にすごくショックを受けて頭壊れてるシド相手よ?」

 と、手短にリンクパール通信を送っておく。顔を出したエルファーが声をかけた。ヤ・シュトラは人差し指を口元に持って行くと苦笑しながら扉を閉めた。

「我が妹に連絡したのかな?」
「あら、そうよ。何故貴方がここにいるかは聞かないけど―――伝言でも送る?」
「いやお構いなく。……そういえばネロが『12歳ごろのアンナがどんな感じだったか』と聞いててな。それを思い出してから先程の若者らの反応で察したよ。あそこまでムキになる子たちはかつて集落にいなかったから恥ずかしいのかな? だから基本冷静なネロに頼ったかと思ったわけだ。妹からしたらあの男が一番複雑な感情が絡まない大人で"厄介"な会長クンを逐一監視できる相手」
「正解よ流石実の兄なだけあるわね」

 扉を閉じ、空を見上げていた。「しかし僕に一言なかったのが許せないな。もっと証拠隠滅できるよう立ち回ってやったのに。だからさっき煽ってやったのさ。明日じっくり説教」とため息を吐き、腕組みをする。

「まあ会長クンに声をかけなかったのは仕事の忙しさを加味してのことだろう? 実際昨日まで仮眠数時間で働き詰めだったしな」
「あと衛兵に連れて行かれるところを見たくないって言ってたわね」
「はっはっは。妹は優しいなあ」

 お堅い鈍感クンや若者たちには絶対に察せられない優しさだけどなと酷く落ち込むシドを中心とした人間たちを思い返す。アンナもネロももっと人を信用してくれてもいいのにと顔を見合わせ笑顔を見せた。



「明日皆も蒼天街に来るって。新手のレクリエーション。皆で遊ぼう」
「はーコワイコワイぜってェあの捕獲装置持って来ンだろ」
「肌寒い街で鬼ごっこ楽しそうって思わないと頭おかしくなるよ?」
「お前が引き起こした嵐の責任を何故か俺が取らされそうなンだがなァ!?」

 イシュガルドの宿で髪を乾かしてやりながら引きつった笑みを見せてしまう。アンナはすっかりドライヤーを気に入ったようだ。最初こそ少々嫌がる顔をしていたがこれからは習慣付けるようになるだろう。この垂れ下がる耳を見られるのも最後だろうと思うと少し名残惜しいがそこは別に構わない。

「どういう顔して会えばいいのか。皆の反応が予想不可能。すごい態度してたら逃げそう」
「逃げてもいいンじゃねェか? 1回その素振りを見せたら反省すンだろ」

 目を丸くしてこちらの顔を見る。肩をすくめてやると笑顔を見せた。

「ちゃんとイヤなものはイヤと言わないと分かンねェだろ特にガーロンド」
「ん、そだね。あ! そうだ」

 どうした? と聞くとアンナは満面の笑顔で"お願い"をしやがった。

「12歳って確か魔導院に入った頃だよね? シドとの出会いとかどんな喧嘩してたか教えてよ」
「思い出したくもねェ複雑な感情が混じった思い出なンだが?」
「じゃあ―――戻ってから超える力で見て拡散を決心。勿論シド目線も確認してからね。えへへ、腕が鳴るぜ」
「……話してやるからヤメロ。多方面に迷惑かけンな」

 それから子守歌がてら過去の話を嫌々としてやると笑顔を見せいつの間にか眠っていた。精神的に大人でも肉体は子供に引っ張られてンなと身体に触れるとひんやりと冷たい。「うわ冷てェ」とつい口に出してしまう。そういえばアパートでは冷房いらずだと思っていたがここは肌寒いイシュガルドだ。薪をくべ、再び寝そべった。


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旅人は子供になりすごすfull―3日目―


 3日目。アンナからまた新たな原稿と袋をもらいながらアパートを後にする。会社の敷居をまたぐと仁王立ちでガチ切れしたシドが立っていた。遂にバレたか? と思っていると経理から先日の領収書を渡されたらしい。

「おいネロこれは何だ!!」
「ほらよ」

 詫びと書かれた袋を渡し通り過ぎる。「はぁ!?」という素っ頓狂な声が聞こえた。袋の中身は先日使った分の倍入っている。やらなくていいとは言っておいたが確かにちゃんと金を渡しておいた時のリアクションを見たいというのは確かだ。

「最初から経費で下りないと分かってるものに対して一々俺の名前で切るんじゃない! 嫌がらせか!?」

 驚愕の叫び声が聞こえるが無視しておいた。その声本当に愛しの恋人にも聞かせられるのか? と思いながらニィとほくそ笑んでしまう。
 面白い声が聞けたぜと昼休みにアンナへ報告してやれば『でしょ?』という声が聞こえた。

『喜んでもらえて幸いだねぇ』
「つーか一々金額計算してたのがこえーよ」
『そう? 嗜み嗜み』
「へへっそうか。その時のガーロンドがよ―――」

 ふと嫌な予感がし、休憩室の扉を開くと慌てた素振りをしたウェッジがいた。無言の時が流れ、適当な言葉を喋る。

「あーオレは大丈夫だ……おう愛してるぜ子猫ちゃん」
『―――嗚呼なるほど。厭だねえ』

 通信を切断し、舌打ちをしながら部屋を後にした。ちなみにこのセリフも原稿の1つだ。一部聞かれてしまったという事実を示すときに使うのだ。あの小説の一節を現実で使う羽目になるとは思わなかったが聞かれた相手がシドではなくてよかったと少しだけ安堵してしまう。途中、鉢合わせしたエルファーに12歳の頃のバブーンの話をしろと頼むと30分程度拘束された。正直妹が絡むと面倒だしうざいとは思うが、今だけは聞いておくに越したことはないとため息を吐く。
 早歩きで工房に向かい、それから籠る。書類作業の休憩中だったシドに怪訝な目で見られながら放置されていた台を踏み台へと調整した。「部屋の模様替えで届かねェ場所があンだよ」と言い、完成した台を抱え定時退社を決める。

 部屋の前に立つと案の定我慢出来なくなったのかささやかな罠が仕掛けられていた。ため息を吐き懐からツールを取り出す。慎重に罠解除し、扉を開けてやると「あー!」と悔しがるアンナがいた。「残念だったなァ。俺はガーロンドと違って素直に引っかからねンだよ。……次やったら会社に引き摺ってくからな」と笑いながら持ち帰った踏み台を見せると一転して明るい表情を見せている。早速使うとキッチンに持って行くので「今日はオレの当番だろうが」と言いながらも手伝ってもらった。



 シドはうんと伸びをし倒れ込む。最近は忙しくて仮眠室で眠っていたが一段落ついたということで久々に自室の寝台で寝そべった。
 アンナは元気だろうか、軽くため息を吐きながらろくでもない仕込みをしている姿を想像した。スキップしてたということはきっと相当ウキウキしている。ふと近くにあった"発信機"に手を取った。これは命の恩人と呼ぶ存在の子孫から譲り受けた"アンナを指し示す装置"だ。仕掛けは不明だが近付くほど光が強まり遠くなるほど小さくなる。主な用途は気になった時はこれでどのギルドに籠ってるか推測し、イタズラのジャンルを絞り込むのが習慣と化していた。そうでもしないと日に日にパワーアップするイタズラへの心の準備が出来ない。

「……第一世界にいるのか?」

 意外なことに発信機は真っ暗である。光がないということは死んだか別世界にいるということだ。昨日ギルドに籠って作業していると聞いた筈である。これは相当怪しい。何かがおかしいが今は確かめる術がない。きっとそのイタズラ材料の仕込みをあちらでしているのだろう、ということにして目を閉じた。


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旅人は子供になりすごすfull―2日目―

「というわけでシドにアレを言うのと、昼に報告よろしく」

 と、このちっこいバブーンに見送られる。
 2日目、目が覚めるとすでに朝飯が作られていた。早起きなンだなと欠伸をすると「腹時計」と淹れたコーヒーを渡される。よく分からないので単語は脳の隅に追いやった。そしてどこぞのおぼっちゃんと違って気が利いて旨いと思いながらフルーツを摘まむやつを観察した。

 ガーロンド社に到着すると裏で起こっていることを片鱗すら気付いていないシドと傍から見たら軟禁状態なアンナの兄エルファーが腕組みして待っていた。「サボリと犯罪はよくないぞ」と肩を叩くエルファーと「違うと信じたいが今日はちゃんと働けよ」とジトっとした目で不味そうなコーヒーを啜るシドに「保護者か」と言いながら通り過ぎる。
 と、忘れていた。準備に時間をかけるガキに渡された原稿を読み上げる。

「ガーロンド、そういや昨日抜け出した時にメスバブーンがいたンだわ」
「は? お前アンナに会ったのか。どこで」
「レヴナンツトールのエーテライト近くでな。1週間程度各所で引き籠ってサプライズの仕込みすっから連絡も出来ねェってよ。スキップしながら去ってったな」
「まーた妹は変な企んでる。すっかり平和だな」

 片や勘弁してくれとため息を吐き、片や鼻を高くしている。両極端の反応にそうはならンだろと思いながら「ンじゃあな」と手を上げ去ろうとする。しかしシドの一言で足を止め、顔をしかめてしまった。

「ネロお前香水でも変えたのか?」

―――数時間後。

『こわー。前にキミが勧めてくれた作者の小説で見た。浮気に敏感、面倒な彼女』
「ちッたァ冷や汗かいた俺の身にはなンねェのか? あ、クソガキには無理か」
『一言余計。コートに匂い付いちゃってかわいそうに。色んなトコ寄ったしで混ざったからかボクと繋がらなかったのは奇跡。というかそこまで気付いたのに……。致命的ミスしたねぇシド』

 片隅でコーヒーを啜りながらバブーンにリンクパールで声を潜め報告すると滅茶苦茶笑われた。『多分ボクがいつも色んな香水付けるからムダに嗅覚が良くなってる』と何かを弄る物音と共に聞こえる。心臓が止まりかけたンだぞと言うと『万が一バレてもそこまで怒らないって』と警戒心無しに答えた。そんなわけがない。この女は知らないだけで今の状況を把握されたら十二分にキレる。ついでにエルファーからも怒りと笑いが混ざったような顔で吊るし上げられる未来が見えた。
 しかし今日は一層周囲の視線が痛い。昨日手紙で煽られるがまま抜けたのは流石にマズかったか? と思ったがどうやらそうではないらしい。午後、ジェシーの言葉で再び突っ伏す羽目になる。

「昨夜あなたが小さい子を連れて歩いてた目撃情報あったけど遂に子供を使った人体実験でも始めたの?」
「ンなわけねェだろ!? まさかそれで変な目で見るヤツが多いのか? 急用終わらせて帰る途中に迷子のガキにくっ付かれたからロウェナ記念会館に連れてったンだよ」

 アンナが準備していた『誘拐疑惑とか湧いてたらこれで大体誤魔化せる』という原稿を読み上げる。役に立ってよかったがまさか子供という実験生物を捕まえた疑惑まで出て来ていたとは予想外だし心外だ。さすがにエルファーの友人だった男と違いそこまで倫理観は死んでいない。―――傍から見るとそう誤解されてもおかしくない状況かもしれないのだが。あらそうだったのごめんなさいというジェシーに「とンだ酷い疑惑だな。てか誰だよ拡散したヤツ。社内の誤解解いとけ」と吐き捨ててその場を後にしながら『まさか朝2人が待ち構えてた理由はこれか?』という悪寒を捨てる。



 ラストスパートだと書類に押しつぶされたシドを眺めつつ定時退社を決める。こんな状態じゃ絶対ガキになった女の面倒は見られなかっただろうなと鼻で笑いラスボスに捕まる前に帰途についた。
 欲しい物はあるかと連絡を入れると『暇をつぶす本があればいい』と返って来た。適当に書店を物色していると赤髪のミコッテとばったり会ってしまう。

「ネロじゃないか」
「元気か?」
「ああ。アンタも元気そうでよかった」

 適当に会話を交わしながら小説を選んでいるとふと思い付く。暁にも言っておく方がいいな、と。

「なあ、ガーロンドから聞いたんだがメスバブーンがな―――」
「メスバブーン……? ああアンナのことか! そういえば日中連絡しても出なかったから気になってたんだ。アンナは何をしているのだろうか?」
「……ガーロンド含めてお前らにサプライズを準備すっから1週間位連絡すンなってよ。つーかあの女リンクパール嫌いだから作戦中でもない限り付けねェぞ」
「それは本当か!? アンナはイタズラが大好きで俺たちにもやってみたかったって書いてたんだ。とても楽しみだよ!」

 グ・ラハ・ティアという男は時折何言ってるか分からない時がある。どうやらこちらが把握していないアンナの秘密を知っているようだ。
 ありがとうと明るい声で去って行くのを見送り、シド名義で領収書を切ってから帰宅する。

 扉の前に立つといい匂いがした。すでに料理の準備をしていたようで、一部人間からダメ人間製造機と言われる原因を目の当たりにする。扉を開きよう飯作ってンのか、と言うと「おかえり、味が合うか分からないけど」と笑顔を見せた。背が低いからか無理やり椅子の上で作業しているので明日は踏み台でも持って帰るかと思いながら一服しコートを脱ぎ捨てた。

「そういやグ・ラハに会ったな」
「へー」
「お前に用事あったみたいだぞ。ガーロンドとほぼ同じこと言っといたぜ」
「ありがと。命拾い」

 先にシャワー浴びておきなよ、終わったくらいにできると思うからと言われたので言葉の通り浴室へ。衣服はきちんと洗濯され浴室内もきっちり掃除されていた。帰宅時間を伝えた記憶はない。英雄のゴリラじゃなかったらいい嫁になっていたかもなァと思う。本当にエオルゼアまで人と関わらなかったのかという疑問が浮かぶほど気が利く。そういえば兄も結構気が利く人間だったことを思い出す。生まれ故郷は使用人教育でもしているのだろうかと思いながら服に手をかけた。

 飯はそりゃ美味かった。森育ちのバブーンのことだ、豪勢な肉食事でも出されるだろう。下手したらニクス肉料理かもな。―――と思ったら味付けもしっかりしているし魚の焼き加減もバッチリだ。普段狩りもするが人生の4分の1程度は東方地域で旅していたので本来はドマやひんがしの料理が得意なのだという。普段から社員共が餌付けされている気持ちは何となくわかる。毎日食わされりゃ健康になるかデブのダメ人間になるだろう。

「お前、マジでダメ人間製造機だな」
「いきなり失礼なこと言う」
「とっととガーロンドに嫁入りでもしてやれよ。皆喜ぶぜ」
「はー旅人がずっと1ヶ所に留まれると思うとか愉快な思考」
「そっちかよ。つーかそれ言ったらあいつキレるぞ」
「ネロサン昨日からシドキレさせることしか言ってないね」
「オ・マ・エ・だ・よ!」

 ゲンコツを落としてやると痛っと言いながら涙目でこっちを見る。少し良心が傷付くような気もするが相手はあの野生動物だ。

「ンな目しても俺ァ謝ンねェぞ」
「チッ……」

 ほらガキである自分を有効に使おうとしていやがった。この後ドライヤーで耳が垂れ下がる風景を眺め、昼にカチャカチャ言わせていたブツの正体を見せてもらう。ゼンマイで動く機械仕掛けのウサギ―――のようなものだった。まだ完成はしていないらしい。

「最終的に跳ねる。でも今やったら多分壊れる」
「昨日買ったパーツはこれにか」
「そそ」

 量産射出楽しそうと不穏なことを言っているがスルーしておく。このガキはどこまでシドをキレさせたら気が済むのだろうか。「俺までそのクソみてェな野望の巻き添えにすンじゃねェぞ」とだけ言い寝かしつけた。


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