FF14の二次創作置き場
更新履歴
- 2025/09/24 癒やして 漆黒,
- 2025/02/18 旅人は花を置く 漆黒
- 2025/02/05 旅人は悩みを解決したい 漆黒,
- 2024/12/19 "武器と手加減&qu… 新生,
- 2024/12/18 星降る夜に誓いを乗せて 漆黒
No.167, No.166, No.165, No.163, No.161[5件]
旅人は花を置く
補足
2025年のヴァレンティオンデークエストに少し触れたシド光♀です。
少しだけ黄金ネタ有り。(物語の核心に繋がるネタではないです)
1.平和なヴァレンティオンデー朝
「今年もあるんだな……」
シドは苦笑いして見せた。目の前には"これまで以下略チョコレート"と書かれている。毎年変なことを言いながら渡していたが、ついに建前を考えることすら面倒になったらしい。
ヴァレンティオンデー。本来好きな人に「愛」を伝える祝祭と記憶している。だが、アンナが莫大な量のチョコレートを変な口実付けて配る日と化していた。
原因はアンナの兄であり現在社員として働いているエルファーによる見当違いなアドバイス。しかし残念ながらシドだけは現物を貰えたことがない。
閑話休題。今年はアンナ本人から手渡さず、自分で取る方式らしい。近くにいたジェシーにこれを置いて帰ったヤツはどこに隠れているのかと聞いた。どうやら「グリダニアで仕込み」と言ったのだとか。
「で、止めずに行かせたと」
「いいじゃないですか。恋人の奇行くらい許容しましょうよ」
「ああ、お前らもついに奇行と認めたか……」
仕込みというキーワード。それは彼女の厄介な"趣味"に起因するものである。最初こそは微塵も見せていなかったが、彼女はモーグリ族顔負けのイタズラ趣味を持っている。
多少のサプライズならどうってこともない。だが、彼女は何事にも全力を尽くす人間だ。無駄に器用な技術を用い、あの手この手でこちらを驚かせ、満足したら去る。救いなのはそのイタズラ相手はシドだけで、他人には相変わらずすました顔で対応していた。
しかし毎回怒鳴りながら追いかけている姿は社員の間でも「また見せつけて来てる」と惚気の一種だと勘違いされている。確かに間違いなく愛はある。あるのだが――心臓がいくつあっても足りないというのが本音だ。
「だって会長、アンナさんからイタズラされた後機嫌いいですし」
「毎日されててほしいよなあ」
「オイラは毎回愛って何か考えさせられるッスよ……」
このように社員らの目には機嫌を直す薬として見られているらしい。どういう解釈をしたらそういう解を導くことができるのか、是非とも詳しく聞いてみたい。が、理解できそうもないのでやめておく。
嫌な予感を察知しながらも、どさくさに紛れてチョコを手に取りながら本日も業務が始まった。
2.サプライズには花束を
珍しく彼女は夕方まで現れなかった。
「やあシド」
「またバカみたいな量のチョコを作ってたな」
シドは苦笑しながら自室に現れたアンナを迎えた。何かを後ろに隠している。怪訝な目で見ているとアンナは満面な笑顔で差し出した。
「ほらチョコレートなんかより。バラの花束、いかが?」
「ど、どうしたんだいきなり」
「今、グリダニアで、バラが熱い」
アンナによると、現在グリダニアでは愛する人に渡すバラを配っているのだという。お手伝いのお礼で貰ったからあげる、と。
ニッコリと笑いながら大きな花束を押し付けてくる。
「日頃のお礼だよ」
「だからそれをやるなら俺の方だと」
「早いもん勝ち」
ほら早く手に取って、とアンナはまた一層押し付けてくる。シドはやれやれと言いながらその花束を受け取る。
見た目は何もない赤いバラの花束だ。まじまじと眺め、どこのバラかと聞くと昔はイシュガルドで。霊災による気候変動の影響で今はグリダニアの人が育てているとアンナは答えた。
シドは柔らかな笑みを見せる。それを握り、どこに飾ればいいのかと考えているとカチッという音が鳴った。
「カチ?」
鳴り響くクラッカーの音。飛び散る紙吹雪。一瞬で理解する。これが朝聞いた仕込み、かと。アンナを見る。いつの間にか扉を開きこちらを見ていた。ニィと不敵な笑みを浮かべていつもの一言を口にする。
「ナイスイタズラ」
その言葉と共に一目散に走り去る。シドは「待てアンナ!」と怒りながら、今日もまた追いかけ回した。
3.真実は突然に
「今日も平和すぎて欠伸が出るな」
「まーた変なことしてたのか我が妹は」
また逃げられてしまった。逃げ足だけは本当に早い。ため息を吐きながら彼女の兄に苦情を言いに行く。
こいつらにも平和扱いされるのかと思いながら大体の出来事を話す。
「ということがあってな」
「赤のバラ、ねぇ」
「よしここで新開発したシステム披露。OKカイルくん」
エルファーが手を上げると青色に光る玉がコロコロとやって来る。
『ピピッ、何について調べますカ?』
「何だこれ」
「お前最近また引き籠ってンなと思ったら変なモン作ってたのか」
「変なのとは何だ変なのとは。まあ見てろ。……赤いバラ、花言葉」
手を叩きながら検索ワードを語りかけるとしばらく読み込み音が聞こえた後、電子音声が鳴り響く。
『ピピッ、愛の誓い! 愚問ですネ!』
「今さらだな。ガーロンドくん、何本?」
「何がだ?」
「お前そンなことも分かんねェのか。本数によってまた花言葉が変わンだよ」
なぜ俺が呆れられないといけないのかとジトリとした目で見ながら、思い返す。しかし、まじまじと眺め数えてはいなかった。
「いや覚えてないな。10本は超えていた、と思う」
「……まあ想像の範疇。OKカイルくん」
「なぁそのOKまでいるのか?」
「これがいいんじゃないか。コホン、赤いバラの花束、10本以上、我が妹が好きそうな花言葉」
またジジジと読み込み音が聞こえる。30秒余り経過した後、電子音声が鳴り響いた。
『ピピッ、21本』
「なぜ?」
『ピピッ、花言葉はあなただけに尽くします。ついでにヴァレンティオンデーの概要を確認しますカ?』
「はいカイルくんありがとうもうお腹いっぱいだ」
『ピピッ、お役に立てたようで何よりでス! またいつでも質問してくださいネ!』
そのまま物陰へ去っていくのを見届けた後、エルファーとネロはジトリとした目でシドをちらりと見た。
「結論、照れ隠し」
「ハッ、茹蛸になってンな」
「お、お前たちうるさいぞ!」
そういえばイタズラの後片付けを忘れていたことを思い出す。急いで自室へ駆けだした姿を呆れた目で2人は見守っていた。
4.照れ隠し
自室へ戻ると即違和感を抱く。そのまま飛び出したのでイタズラの残骸が残っていたはずだ。しかし綺麗に掃除されている。首を傾げているとふと気配を感じた。
肩をすくめた後、ゴーグルを外す。そして神経を研ぎ澄まし、第三の眼で確認をすると、何かが部屋の隅で丸まっていた。ゆっくりと近づき、目の前に座る。
「人をストレートに口説きたいなら変なギミック加えない方がいいぜ」
「……チッ」
「舌打ちをするな。ほら姿を見せてくれ」
「やだ」
「透明化はアルファ――じゃないな。これはシルフ族のおまじないから着想でも得たのか? 相変わらず錬金術で遊んでるな」
ボンという音と煙で何も見えなくなる。だが、ガレアン人が持つ目を持ってすれば小手先の策は通じない。姿を現しながら立ち上がろうとした彼女の腕を掴み、そのまま抱きしめた。
「っ――!?」
「アンナ」
「離して」
「逃げるじゃないか」
「帰る」
「帰すわけないだろ」
みるみる煙が晴れ、そこには顔を真っ赤にした恋人が。アンナ・サリスという人間はイタズラ好きのクセに、いざやらかしたらこうやって隅で震えている。初めてやらかされた時は逃げた先で泣いていた。
だから強く責めることもできない。何より器用な技術が気になるからと後で調べることも多かった。そして少しだけ改良してやり返したらこれも泣く。シドはそんな姿もまた愛おしく感じていた。
そう、あの血も涙もないと一部で囁かれているこの英雄様。実は意外と泣き虫な面がある。兄によれば「人と関わってこなかったから分からなくて泣き出すのだろう。まだまだ子供で可愛いよな。ついにガーロンドくんにも分かってもらえるとは思わず」らしい。これは酒の席で出た発言なので流石に気持ち悪いぞ一緒にするなと釘を刺しておいた。
まあ確かに彼女の泣き顔は少しだけ、そうほんの少しだけそそる所もあるのだが、絶対に言うわけがない。吊るされるというオチが浮かぶ。
「造花だよな?」
「もちろん。本物はジェシーがいい花瓶準備してくれた」
「明日部下たちからどういう目で見られるか」
「愉快」
「お前なぁ……っとそうだった」
シドはふと後で食べようとそばに置いていたチョコレートに手を取る。
「キミはママ以外からいっぱい貰ったことある。何貰ってるの」
「うるさいぞ」
今年はコーンっぽいものを模した立体チョコレートと、白いモコモコとしたような動物を描いたアイシングクッキーだ。
「これは最近お前が行った場所で生息してる生物か? いやこれは食べ物か?」
「アルパカとモロコシ様だけど」
「モロ、コシ……?」
相変わらずどこを旅すれば奇妙な体験をするのか理解ができない。もう少し説明を求めたら満面な笑みを見せた。
「アルパカはこっちでいうチョコボみたいなやつだよ。モロコシ様はモロコシ様。とっても優しくておいしいんじゃぞ」
「また妙な語尾を……」
「で? いきなりそれを持ち出してどうしたの?」
「決まってるだろ」
「……お断り」
シドは何も言わずにジトリとした目で見ると、アンナは両手を上げた。
5.サプライズはメインディッシュ
目を覚ますと、既にアンナはいなかった。相変わらず早朝の日課とやらが大切らしい。伸びをしながら着替えを手に取った。
嫌な予感がしながらも外へ出るとやはり視線が気になる。アンナは一体どこに飾ったというのだろう。
工房に入るとネロとエルファーが笑顔で立っていた。そして手に持っていた"カイルくん"が浮かび上がりシドを案内する。その先には複数の大きな花瓶に生けられたバラの花。
「OKカイルくん、女心が分からない会長クンに本数数えて花言葉、どうぞ」
『ピピッ』
上部のフタが開き、レンズが現れた。そして光と共にバラを照らした後、再び読み込み音が流れる。高らかな電子音声が響いた。
『ピピッ、バラの花束、99本ですネ! 永遠の愛、長年の想い、ずっと一緒にいてください! こちら七度目の質問でス!』
「まーた茹蛸になってンな」
「兄は割とマジで許さないぞとしか言えん」
『ピピッ、また何かありましたらいつでも質問してくださいネ!』
「いらん!」
ポケットを漁ると心当たりのない紙切れの感触。恐る恐る開くと『満足』と書かれていた。
シドは再び顔を真っ赤にしながら恋人の名前を叫んだ。
#シド光♀ #季節イベント
2025年のヴァレンティオンデークエストに少し触れたシド光♀です。
少しだけ黄金ネタ有り。(物語の核心に繋がるネタではないです)
1.平和なヴァレンティオンデー朝
「今年もあるんだな……」
シドは苦笑いして見せた。目の前には"これまで以下略チョコレート"と書かれている。毎年変なことを言いながら渡していたが、ついに建前を考えることすら面倒になったらしい。
ヴァレンティオンデー。本来好きな人に「愛」を伝える祝祭と記憶している。だが、アンナが莫大な量のチョコレートを変な口実付けて配る日と化していた。
原因はアンナの兄であり現在社員として働いているエルファーによる見当違いなアドバイス。しかし残念ながらシドだけは現物を貰えたことがない。
閑話休題。今年はアンナ本人から手渡さず、自分で取る方式らしい。近くにいたジェシーにこれを置いて帰ったヤツはどこに隠れているのかと聞いた。どうやら「グリダニアで仕込み」と言ったのだとか。
「で、止めずに行かせたと」
「いいじゃないですか。恋人の奇行くらい許容しましょうよ」
「ああ、お前らもついに奇行と認めたか……」
仕込みというキーワード。それは彼女の厄介な"趣味"に起因するものである。最初こそは微塵も見せていなかったが、彼女はモーグリ族顔負けのイタズラ趣味を持っている。
多少のサプライズならどうってこともない。だが、彼女は何事にも全力を尽くす人間だ。無駄に器用な技術を用い、あの手この手でこちらを驚かせ、満足したら去る。救いなのはそのイタズラ相手はシドだけで、他人には相変わらずすました顔で対応していた。
しかし毎回怒鳴りながら追いかけている姿は社員の間でも「また見せつけて来てる」と惚気の一種だと勘違いされている。確かに間違いなく愛はある。あるのだが――心臓がいくつあっても足りないというのが本音だ。
「だって会長、アンナさんからイタズラされた後機嫌いいですし」
「毎日されててほしいよなあ」
「オイラは毎回愛って何か考えさせられるッスよ……」
このように社員らの目には機嫌を直す薬として見られているらしい。どういう解釈をしたらそういう解を導くことができるのか、是非とも詳しく聞いてみたい。が、理解できそうもないのでやめておく。
嫌な予感を察知しながらも、どさくさに紛れてチョコを手に取りながら本日も業務が始まった。
2.サプライズには花束を
珍しく彼女は夕方まで現れなかった。
「やあシド」
「またバカみたいな量のチョコを作ってたな」
シドは苦笑しながら自室に現れたアンナを迎えた。何かを後ろに隠している。怪訝な目で見ているとアンナは満面な笑顔で差し出した。
「ほらチョコレートなんかより。バラの花束、いかが?」
「ど、どうしたんだいきなり」
「今、グリダニアで、バラが熱い」
アンナによると、現在グリダニアでは愛する人に渡すバラを配っているのだという。お手伝いのお礼で貰ったからあげる、と。
ニッコリと笑いながら大きな花束を押し付けてくる。
「日頃のお礼だよ」
「だからそれをやるなら俺の方だと」
「早いもん勝ち」
ほら早く手に取って、とアンナはまた一層押し付けてくる。シドはやれやれと言いながらその花束を受け取る。
見た目は何もない赤いバラの花束だ。まじまじと眺め、どこのバラかと聞くと昔はイシュガルドで。霊災による気候変動の影響で今はグリダニアの人が育てているとアンナは答えた。
シドは柔らかな笑みを見せる。それを握り、どこに飾ればいいのかと考えているとカチッという音が鳴った。
「カチ?」
鳴り響くクラッカーの音。飛び散る紙吹雪。一瞬で理解する。これが朝聞いた仕込み、かと。アンナを見る。いつの間にか扉を開きこちらを見ていた。ニィと不敵な笑みを浮かべていつもの一言を口にする。
「ナイスイタズラ」
その言葉と共に一目散に走り去る。シドは「待てアンナ!」と怒りながら、今日もまた追いかけ回した。
3.真実は突然に
「今日も平和すぎて欠伸が出るな」
「まーた変なことしてたのか我が妹は」
また逃げられてしまった。逃げ足だけは本当に早い。ため息を吐きながら彼女の兄に苦情を言いに行く。
こいつらにも平和扱いされるのかと思いながら大体の出来事を話す。
「ということがあってな」
「赤のバラ、ねぇ」
「よしここで新開発したシステム披露。OKカイルくん」
エルファーが手を上げると青色に光る玉がコロコロとやって来る。
『ピピッ、何について調べますカ?』
「何だこれ」
「お前最近また引き籠ってンなと思ったら変なモン作ってたのか」
「変なのとは何だ変なのとは。まあ見てろ。……赤いバラ、花言葉」
手を叩きながら検索ワードを語りかけるとしばらく読み込み音が聞こえた後、電子音声が鳴り響く。
『ピピッ、愛の誓い! 愚問ですネ!』
「今さらだな。ガーロンドくん、何本?」
「何がだ?」
「お前そンなことも分かんねェのか。本数によってまた花言葉が変わンだよ」
なぜ俺が呆れられないといけないのかとジトリとした目で見ながら、思い返す。しかし、まじまじと眺め数えてはいなかった。
「いや覚えてないな。10本は超えていた、と思う」
「……まあ想像の範疇。OKカイルくん」
「なぁそのOKまでいるのか?」
「これがいいんじゃないか。コホン、赤いバラの花束、10本以上、我が妹が好きそうな花言葉」
またジジジと読み込み音が聞こえる。30秒余り経過した後、電子音声が鳴り響いた。
『ピピッ、21本』
「なぜ?」
『ピピッ、花言葉はあなただけに尽くします。ついでにヴァレンティオンデーの概要を確認しますカ?』
「はいカイルくんありがとうもうお腹いっぱいだ」
『ピピッ、お役に立てたようで何よりでス! またいつでも質問してくださいネ!』
そのまま物陰へ去っていくのを見届けた後、エルファーとネロはジトリとした目でシドをちらりと見た。
「結論、照れ隠し」
「ハッ、茹蛸になってンな」
「お、お前たちうるさいぞ!」
そういえばイタズラの後片付けを忘れていたことを思い出す。急いで自室へ駆けだした姿を呆れた目で2人は見守っていた。
4.照れ隠し
自室へ戻ると即違和感を抱く。そのまま飛び出したのでイタズラの残骸が残っていたはずだ。しかし綺麗に掃除されている。首を傾げているとふと気配を感じた。
肩をすくめた後、ゴーグルを外す。そして神経を研ぎ澄まし、第三の眼で確認をすると、何かが部屋の隅で丸まっていた。ゆっくりと近づき、目の前に座る。
「人をストレートに口説きたいなら変なギミック加えない方がいいぜ」
「……チッ」
「舌打ちをするな。ほら姿を見せてくれ」
「やだ」
「透明化はアルファ――じゃないな。これはシルフ族のおまじないから着想でも得たのか? 相変わらず錬金術で遊んでるな」
ボンという音と煙で何も見えなくなる。だが、ガレアン人が持つ目を持ってすれば小手先の策は通じない。姿を現しながら立ち上がろうとした彼女の腕を掴み、そのまま抱きしめた。
「っ――!?」
「アンナ」
「離して」
「逃げるじゃないか」
「帰る」
「帰すわけないだろ」
みるみる煙が晴れ、そこには顔を真っ赤にした恋人が。アンナ・サリスという人間はイタズラ好きのクセに、いざやらかしたらこうやって隅で震えている。初めてやらかされた時は逃げた先で泣いていた。
だから強く責めることもできない。何より器用な技術が気になるからと後で調べることも多かった。そして少しだけ改良してやり返したらこれも泣く。シドはそんな姿もまた愛おしく感じていた。
そう、あの血も涙もないと一部で囁かれているこの英雄様。実は意外と泣き虫な面がある。兄によれば「人と関わってこなかったから分からなくて泣き出すのだろう。まだまだ子供で可愛いよな。ついにガーロンドくんにも分かってもらえるとは思わず」らしい。これは酒の席で出た発言なので流石に気持ち悪いぞ一緒にするなと釘を刺しておいた。
まあ確かに彼女の泣き顔は少しだけ、そうほんの少しだけそそる所もあるのだが、絶対に言うわけがない。吊るされるというオチが浮かぶ。
「造花だよな?」
「もちろん。本物はジェシーがいい花瓶準備してくれた」
「明日部下たちからどういう目で見られるか」
「愉快」
「お前なぁ……っとそうだった」
シドはふと後で食べようとそばに置いていたチョコレートに手を取る。
「キミはママ以外からいっぱい貰ったことある。何貰ってるの」
「うるさいぞ」
今年はコーンっぽいものを模した立体チョコレートと、白いモコモコとしたような動物を描いたアイシングクッキーだ。
「これは最近お前が行った場所で生息してる生物か? いやこれは食べ物か?」
「アルパカとモロコシ様だけど」
「モロ、コシ……?」
相変わらずどこを旅すれば奇妙な体験をするのか理解ができない。もう少し説明を求めたら満面な笑みを見せた。
「アルパカはこっちでいうチョコボみたいなやつだよ。モロコシ様はモロコシ様。とっても優しくておいしいんじゃぞ」
「また妙な語尾を……」
「で? いきなりそれを持ち出してどうしたの?」
「決まってるだろ」
「……お断り」
シドは何も言わずにジトリとした目で見ると、アンナは両手を上げた。
5.サプライズはメインディッシュ
目を覚ますと、既にアンナはいなかった。相変わらず早朝の日課とやらが大切らしい。伸びをしながら着替えを手に取った。
嫌な予感がしながらも外へ出るとやはり視線が気になる。アンナは一体どこに飾ったというのだろう。
工房に入るとネロとエルファーが笑顔で立っていた。そして手に持っていた"カイルくん"が浮かび上がりシドを案内する。その先には複数の大きな花瓶に生けられたバラの花。
「OKカイルくん、女心が分からない会長クンに本数数えて花言葉、どうぞ」
『ピピッ』
上部のフタが開き、レンズが現れた。そして光と共にバラを照らした後、再び読み込み音が流れる。高らかな電子音声が響いた。
『ピピッ、バラの花束、99本ですネ! 永遠の愛、長年の想い、ずっと一緒にいてください! こちら七度目の質問でス!』
「まーた茹蛸になってンな」
「兄は割とマジで許さないぞとしか言えん」
『ピピッ、また何かありましたらいつでも質問してくださいネ!』
「いらん!」
ポケットを漁ると心当たりのない紙切れの感触。恐る恐る開くと『満足』と書かれていた。
シドは再び顔を真っ赤にしながら恋人の名前を叫んだ。
#シド光♀ #季節イベント
漆黒.x終了後ネタバレ有り。
疲れた恋人を癒やそうとする2人の話。事後的なシーン有り。R18シーンは後日。
『お仕事疲れなキミに朗報。いつもの場所で』
「お、おいアンナ待て!」
突然鳴ったプライベート用のリンクパール。出てみると約1週間ぶりに聞くあの声。妙な言葉を発し、そのまま切断された。
肩をすくめ、相変わらず自由な人だと笑みを浮かべた。工房を離れてペンを握り、書類と向き合う。折角のお誘いだ、乗らないわけにはいかない。
数時間後。勢いで仕上げてしまった。正直に言うと引き出しの中に書類の塊を投げ込んだような気がするが、来週の自分が頑張ってくれるだろう。
なんとか最終便に間に合わせたことに胸をなで下ろす。社員の生暖かい目には触れないでおいた。今回も誰かがアンナがいないと仕事場から離れないと泣きついたのだろう。
そんな心配するようなことは一切ない。疲れた時は眠るし、最低限の食事も取っている。また会うために、作業の手を止めなかっただけだと胸を張った。
そうして向かう先は、ラノシアのミストヴィレッジ。恋人のアンナからアパートの鍵を受け取り、少しの時が経った。物置だと言っていた殺風景な部屋もだいぶ家具を置くようになっている。ついでに作業用のテーブルが置かれ、多少の仕事もここでやるようになった。
しかし、実際は納期が近付くと会社に缶詰だ。言うなれば出張ついでの細かな作業に使う程度。なので思ったよりかは利用できていない。そして家主も世界に危機が迫るレベルの作戦中は帰って来ていない。
なので、酷い時はほこりを被った部屋の掃除から始まる。リテイナーも自由奔放で掃除ができるのは金庫担当の1人だけだ。シドも掃除は得意ではない。が、家具や皿を壊しながら箒で薙ぐアウラとミコッテの姉妹に比べたら幾分もマシである。
階段を上り、無骨な銀色の飾りが掛けられた扉の前に立った。新しいものを贈ったが、未だ最初に作ったものを吊り下げている。一度なぜか分からないとネロにこぼしたことがある。ただ一言こう吐き捨てられた。
『俺に聞くモンじゃねェだろ鈍感おぼっちゃんが』
全くその通りだ。言い返せなかった。しかしなぜかアンナの心理はシドよりネロの方が詳しい。
本人は照れくさい性格だからなのか絶対に教えてくれないので自然と聞いてしまう。
閑話休題。扉を開くとそのまま腕を引っ張られ、転びかける。壁に激突し、見上げるとアンナがニィと笑っていた。ちなみにぶつかった場所は壁ではなく彼女の胸だ。
「硬い」
「レディの胸に埋もれるのは男の夢と最近聞いた」
「……せめて胸部装甲外してくれないか?」
「ほらお疲れ様でした」
誤魔化すようにアンナはシドの頭をグシャグシャと激しく撫でた。シドは腰に手を回し、アンナの肢体を抱きしめる。久々の甘い匂いに包まれ、笑みがこぼれた。目の前にいるという事象を確認するかのようにゆっくりと触れる。
背中から腰へと徐々に下へまさぐるように撫で回す。すると、アンナは少しだけ甘い吐息を漏らしながらシドの手を掴んだ。ジトリとした目で口を尖らせる。
「帰って即? 疲れは?」
「男の夢とやらで誘ってきたじゃないか」
「……私が動く日。ご飯は?」
「後でいい」
はいはいと言いながらシドを軽く抱き上げ、ベッドへ運ぶ。相変わらず細い腕で一連の動きを軽々と行うアンナの姿に男としての自信を失いかける。眉間にしわを寄せ、口を開いた。
「なあ、歩く位はできる」
「今日は指一つ動かさなくていいって言ってる」
「そこまで言ってなかったぞ」
「じゃあ今言った。覚えてて」
優しくベッドに下ろし、アンナはシドの膝の上に跨がった。ニィと笑い、胸のラインに沿って指を這わせる。
「シド、約束をよく反故するからねぇ」
そう言いながら懐から手錠を取り出す。準備万端か、とシドはため息を吐いた。素直に手を差し出すと、ガシャンと音を立て、拘束される。
「本題。疲れた会長様を癒やしてあげよう」
「手枷で人を癒やせると聞いたことないが――次は誰から何を吹き込まれたんだ?」
「失礼」
アンナは旅に関係ないことに関しては知識しか存在しない。もちろん恋人の営みに関してもである。
そして持ち帰る知識は正しいものとは限らない。
久々に会ったと思いきや、出所不明なコトを即実践しようとする。よく相手を振り回しては、最終的に毎回なぜかアンナが啼いてシドは満足していた。
「よし、今回こそはキミにぎゃふんと言わせてあげる」
「疲れを癒やすんじゃなかったのか?」
「おっと口が滑った」
「あとぎゃふんはとっくに死語だ久々に聞いたぞ」
喋るなと唇に指を添えながらアンナは顔を近づけ、ニィと笑った。ゴーグルを剥ぎ、第三の眼に口付ける。それから目元、頬、鼻先、首、鎖骨。一番ほしい場所を飛ばすので「唇は?」と聞くと、「ご褒美は最後」という言葉が返ってきた。
「どうやって脱がす?」
「お前なあ……」
「教えて」
「これ外せば終わる話だろ」
「猛獣の檻を自分から開けるバカがどこに?」
ほら口答で説明とアンナは首筋に口付ける。説得される気はないらしい。アンナは意外と頑固で一度決めたことは滅多に曲げたりしない。今回に限っては積極的な姿を見られるのだ。よって無駄に抵抗せず諦めた方が早い。――シドは分かったと言いながら大人しく脱がされることにした。
◇
「やっぱりアンナが作る飯は美味いな。疲れに効く」
「本日"も"とっても調子がよろしいことで」
「……今回もすまなかった。もちろん本心だ」
私が癒やす側だったのに、とアンナは口を尖らせそっぽを向いていた。怒っているような仕草を見せながらも食事は与えてくれるのでやはり優しい人である。
あれから楽しんだ後、アンナがあらかじめ用意していた料理を振る舞っていた。シドにとっては、先ほどまで乱れていたのが嘘のように普段の振る舞いを見せるアンナのことが正直に言うと少し怖い。今回は"普段より"控えめなものだったが、どんなに激しい行為の後でも一眠りしてしまえば、説教は挟まるがいつもの生活を送っている。おかげで外では自分が完全に尻に敷かれていると誤解している人が多い。
閑話休題。今回は最近ガレマルドの話を聞いたからなのか、帝都風の料理が多めだ。相変わらず味の再現度が高くて驚いてしまう。
「"女性"から貰ったガレアンチーズなかなか美味。またガーロンド社に顔を出す時ピッツァ沢山準備」
「あ、ああそりゃ喜ぶやつは多いだろうな」
生地から作る姿が容易に浮かぶ。そして女性と強調する姿に、エプロンの件を未だ根に持っていることも確認できる。苦笑しながらアンナの手を握った。
「今度は人助けに疲れたお前さんを俺が癒やしてやる」
「キミが余裕ある時に私が? ないない」
「残念だぜ」
2人は笑い合う。
シドはアンナが疲弊しきった姿を見たことはない。しかも忙しい仕事の合間に立ち会うなんて希少であろう。しかしその状況は思ったより早く来ることになる。
それは異形の塔がエオルゼア各地に出現し奔走した夜。普通の人間には拾えないであろう"ナニカ"を受け取ってしまったらしい。沈みきった顔で、テンパード化治療の術式探しで犠牲になった装置の分働かされていた最中に現れた。
◇
「突然ですみませんが会長、帰ってください」
「……は?」
ジェシーの言葉にシドは目を点にする。周辺の社員らも2人の方を見ていた。
「いやまだ終わってないだろう。まさかお前たちに全部任せて俺が休暇を」
「あ、いえ会長にはちゃんと働いて貰いたいですけど緊急事態なので」
シドは首をかしげながら言われるがまま自室へ戻る。扉を開けた瞬間、そこにはソファに突っ伏す黒髪のヴィエラがいた。
「……アンナ?」
動かない。慌てて近付き、ひっくり返すと褐色の肌の上からもよく見えるほど真っ青になり、疲れ切っていた。緊急事態、こういうことだったのか。
「なあ、大丈夫か」
「――シド」
長い睫が動いた。少しずつ目を開いた恋人は、弱々しい笑みを浮かべる。
「英雄、面倒」
そう言いながら、シドの胸板に頭をぶつけた。最低限な単語の組み合わせ。これはコミュニケーションを最低限にしか取りたくない時に使う言語だ。最初聞いた時はどう解釈していいか分からなかったが、現在は何となく言いたいことは分かるようになった。
シドはポツポツと先ほどまでエオルゼア中を奔走していたという話を聞く。
「ゼノス、アシエン。変な塔、元凶。望む、終末。精神汚染有り。んー……主にガレアン人拉致洗脳、強制労働。接近禁止。……いなくならないで」
推測するに、祖国が滅亡に近い目に遭っていることも分かり、頭を抱える。変な塔が出現したことは知っていたが、まさかそれが終末とやら由来のモノだというのは頭痛がする。もう少しだけ話したいようだが今の状態で考えをまとめさせるのも酷だ。止めてやる。
アンナが疲れてダウンするのも納得できる。そして「皆に休め、と。休み? 分からず。だから来た。――ジェシーたち、鉢合わせ。死にそうだって。今に至る」と言いながら苦笑していた。
とりあえずリンクシェルで社用回線に繋ぎ、簡潔に説明をし情報を集めるように伝達する。そして切断した後、相変わらず顔を上げず胸板に頭をグリグリと擦り付けるアンナの後頭部を優しく撫でた。
「癒やして」
「――分かった」
シドはアンナを抱き寄せ、耳の先端に口付ける。
◇
アンナを寝台に寝かせ、水を取り出した。取りに行かなくてもアンナの鞄を漁ればすぐに見つかる。彼女の鞄には少し仕掛けがあり、アイスシャードを用いて食材や飲み物を冷やすスペースがあった。元々原始的な機工として入っていたものにシドが少々手を加え、効率よく冷やせるようになっている。商品化も考えたが、難点は非常に重い。忘れかけていたが、アンナはこの異次元にでもつながっているのではないかと疑わしい中身を持つバッグを軽々持ち上げているからできた仕様だ。
「レディの鞄勝手に漁ってる、すけべ」
「今はスケベで結構。ほら口を開けろ」
キャップを開き、ボトルを手渡す。アンナは大人しくその水をちびりちびりと飲んでいた。弱々しい姿はとても珍しい。シドが覚えている限り熱でフラフラしながら顔出した時以来か。それからずっと英雄として休まず、元気に人助けをする所を見てきた。
「仕事、大変な時期。ごめん」
「恋人を優先するに決まってるだろう」
「どうせ何も聞かされずに来たくせに」
「うぐ……」
「図星」
手を差し伸べてきたので握り返した。すると強い力で引っ張られ、抱きしめられた。シドは慌てながらアンナの肩を掴もうとする。細い肢体に反し、びくともしない。慌てた様子を見せたシドに対し、「別に風邪じゃない。大丈夫」と笑った。そして胸元に顔を埋め、そのままアンナは黙り込んでしまう。
しかしシドにとってはその弱々しい姿、久方ぶりの逢瀬、甘い匂いで少々魔が差してくる。アンナは首を押さえながら口を開いた。
「心臓バクバク言ってる。あと顔真っ赤。ほんっとうに分かりやすい」
「悪かったな。忙しかったんだ」
「キミが忙しくない日、知らず」
「ぐっ……」
言葉を詰まらせるシドに対しアンナは苦笑する。そして顔を上げ、相手の顔面に最接近した。ニィと笑いながら胸のラインを沿うように指を這わせる。
「水飲んで少し回復した。ちょっとくらいは付き合ってあげてもいいよ」
「む……じゃ、じゃあそうだなーー今日は俺が動こうか」
「いつも通り」
「……そうとも言われてるな」
顔を見合わせ笑い合う。アンナはシドの前髪をかき上げるように撫でつぶやく。
「そのいつも通りでいい。ボクはそんなキミに救われてるから」
「勘違いしていいのか?」
アンナは呆れた顔で「いつもしてる」と言い、シドは苦笑して見せた。
「傷つくからあまり辛辣なことを言うんじゃない」
「これでも甘やかしてるつもり」
「そうか、未だに慣れないんだな」
シドはアンナの後頭部をぐしゃりと撫でながら寝台に倒れ込んだ。今の言葉は他の人間ならば嫌味だろうが、人付き合いを得意としないアンナにとっては本心なのは分かる。自分とはまた違う不器用な人だ、とシドは考えていた。
「いいの?」
「いつでもできる。今日は寝よう」
「……ん」
灯を消し、薄暗い中アンナが目を閉じるのを待つ。アンナはしばらく指先でシドの髪で遊んだ後、「おやすみ」と囁いた。
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#シド光♀