FF14の二次創作置き場

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2024年4月の投稿(時系列順)4件]

2024年4月1日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

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注意アンナの影身とリテイナーのお話2本立て。色々独自設定。暁月ジョブの話題がある…

暁月

#フレイ #即興SS

暁月

影は猫と見守る
注意
アンナの影身とリテイナーのお話2本立て。色々独自設定。暁月ジョブの話題があるので暁月カテゴリーに入れてますが漆黒以降のどこかであったお話です。
 
はじまりは
 彼女が寝静まった夜、影は形を作りリテイナーのベルを鳴らす。扉が静かに開き、金髪ミコッテのリテイナーが現れた。一瞬満面の笑顔を見せていたが相手の姿を見るなり眉間に皴を寄せる。

「へへっお呼びかご主人……ってなんだテメェかよ」
「酒に付き合え」
「へいへい」

 フレイがバルビュートを脱ぎ、素顔を見せるとアリスは「へぇ」と笑う。まずは金色だった目は青色に変わった。サラサラとした銀髪を揺らしながら傍に置いてあったグラスとワインのボトルをテーブルの中央に置く。アリスは笑いながら座り、懐から取り出した小型の装置を机に置きスイッチを押した。「それは何だ?」とフレイが聞くと「ご主人が起きたら困るだろ? 俺様の新発明防音空間発生装置」と笑った。「よく分からないものを作るのは"記憶"も一緒なのだな」とグラスを渡すと「ケケッ楽しいだろ?」とその赤色のワインを眺め、目の前の男を観察する。

「ヴィエラになってんのな。身長はそのまんまなのによ。エルがクソ切れそう」
「元の肉体であるエルダスの影響だろう。そしてこの力は"影身のフレイ"と呼ばれた男やら負の感情やらと混じり合った副産物って所か」
「まあご主人の悩みはリンとほぼ一緒だったからな。俺様の元みたいに人格として宿るだけでなく影として実体化までしちまったと」
「エーテルというものは便利だな。本当に生前大して使えなかったのが勿体ないくらいだ」

 笑みを浮かべ指の上で炎を発生させる。

「ご満足いただけて何より」

 そう歯を見せて笑うアリスにフレイは「そういえば先日遂にシドと直接会話してな」と手を叩く。

「へぇそりゃぁめでてぇな」
「まあ数言交わしただけだぞ。おぬしの"魂"がエルが少々複雑な顔をしておったと云う理由が分かった」
「そりゃ何より」
「悪いやつには見えん。素直で人タラシと呼ばれる理由も分かったが―――ちと危うい部分も多い。それに……」

 それに、何だ? とアリスが問うと目を逸らし少しだけ顔を赤めた。少々震えながら口を開く。

「婚前交渉以前に告白するよりも先にその、性行為を行うというのは信じられん。あと説教と性欲を混ぜるのはもっといかん。鍛錬が足りぬなありゃ」
「童貞で死んだ古いお爺ちゃんが言うと説得力が凄いな!? ヒヒッ、ご主人いい大人なんだからセックス位許してやれって!」
「はしたないことをデカい声で言うんじゃない! 大体おぬしも相当の年齢ではないか! というかおぬしはエルより年上だったであろう!」
「ヘッヘッヘッ年齢はリセットされて30代だぜぇ。つーか話題振ったのそっちじゃんよ。ていうかフレイヤちゃん俺様達と違ってちゃんと性欲あったのはよかったじゃん」

 ワインを飲みながらゲラゲラと笑っている。フレイはため息を吐き指をさす。

「で、ではおぬしは、その、経験あるのか? ああ恋人はいたか」
「んー研究のパートナーって感じだったな……じゃあ俺も生前童貞だったわニャハハハ!」

 ハハハと2人は一頻りに笑った後、頬杖をつきながら眠る"主人"を見つめる。

「理解出来ん」
「近頃の若ぇヤツってすげぇなあ。そういやさ、2人がヤッてる時はどうしてんだ? 相変わらず引き籠ってんの?」
「外出してる。鎧が目立つから何とかしたいものだ」
「そりゃご苦労なこって」

 俺様たちにはなかった要素だと眉をひそめた。いつまでも続けていたら最低な酒盛りになる。そう判断し、話題を変えようとアリスは脳みそをフル回転させる。そしてふと相手の名前について思い出した。

「で、どう呼べばいいんだ?」
「? 何がだ?」
「何が、じゃねぇよ。お前は"フレイ"なのか、それとも」
「フレイでよい。私はもう20年ほど前に舞台から消え去り肉体を捨てた名もなき存在。生前の名前も捨てるに決まっておる」
「―――俺様と弟子以外はあっさり捨てる所は相変わらずで嬉しいぜ。ハッピーバースデー、フレイ」

 ニィと笑い杯を交わす。これはまだ誰も知らない"彼女"の最悪な内面らのお話―――

 
"収穫者"
「やはりリーパーと魔導技術が混じって厄介なものなのか? ガレマール帝国と言うものは」
「お爺ちゃんリーパーはもう帝国から追放されて存在しないぞ」

 フレイは目を見開き「まことか」と呟いた。彼に存在する"ガレマール"の知識はほぼ共和国時代で止まっている。ソルが即位した頃の話はかいつまんだ情報しか伝わっていなかった。

「童の頃に父が持っていた鎌を振ってみたことがありはした。まさかリーパーと違い前線に人を置かずとも戦闘を終わらせることが出来るとはいえ機械技術にあっさりその席を奪われるとは」

 若い頃を思い返す。ヴォイドと交信出来た父親と違い、妖異の力は相性が悪く扱い切れなかった。だが追放までされていたとは予想出来なかったらしい。

「ていうかテメェが存命の時にはほぼ用無し扱いされてたっつーの。怒った一族が暗殺企てたけどアシエンに勝てるわけもなく、な。ケケッ古き技術が淘汰されるというのは当然な話ではあるが哀れだよなァ」
「ふむ父は間一髪の亡命だった、と。私は本当に運に恵まれておる」

 ニィとフレイが口角を上げながらアリスの髪に触れると「ケッお上手なことで」と額を指で弾く。話題を変えるように手を大きく広げる。

「かつてヴォイドと繋がる技術としてちょっと勉強したが中々面白かったぜ。流石に扱い切れないから実用化はしてねぇけどさ」
「おぬしでも触りたくないものはあるのだな」
「ったりめーよ。俺様は世界を滅ぼしたいわけじゃねぇし。いやあフレイヤちゃんに憑いて行って正解だったぜーこんな面白いことになるのは予想外じゃん」

 ガハハと笑うアリスに対し、苦虫を嚙み潰したような顔を見せたフレイはボソリと呟く。

「……あまりいい気分はしないんだがな」


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#フレイ #即興SS

2024年4月3日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

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注意セイブザクイーン【シダテル・ボズヤ蒸発事変】の記憶探索終了後のお話。落ち込ん…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

"追憶"
注意
セイブザクイーン【シダテル・ボズヤ蒸発事変】の記憶探索終了後のお話。落ち込んだシドを自機なりに慰めたり家族について語る感じ。
時系列的にはメイン5.3終了までには起こってる感じ。
 
「英雄さんどこに行ったッスかぁ」

 金髪のヴィエラリリヤはガンゴッシュ内をうろつき赤髪ヴィエラのアンナを探す。先程まで記憶探索の後処理でミコトといた筈なのだがいつの間にかふらりとどこかに消えていた。英雄と呼ばれているが、本人としてはフリーな旅人だと噂では聞いていたので気にはしていない。少々尋ねたいことが残っていただけで。ガンゴッシュ外には行っていないようなので、キョロキョロと周辺を見回していると見覚えのある背中を発見する。

「あ」

 探していたアンナ―――と一度帰ると言っていた筈のシドが2人で空を見上げていた。シドの頭を優しくポンと撫でながら肩に寄せる姿にリリヤは一瞬止まってしまう。後ずさり、リンクパールを手にしながら慌ててその場を離れて行った。



 シドは記憶探索も終わり一度山積みになっているだろう仕事のため飛空艇で戻ることにする。しかし少し歩くと待って、と呼び止められた。振り向くとそこにはいつもの笑顔を浮かべたアンナがいる。

「どうした、アンナ」
「少しだけ時間ちょうだい」

 腕を引っ張られ、喧騒から離れた場所にて2人は立つ。アンナは空を見上げていたので釣られて頭を上げた。すると頭をポンと撫でながら自らの肩へと寄せる。瞬時に赤くしていると表情一つ変えずボソリと喋った。

「色々あった日はね、フウガがこうやって空を見上げながら頭を撫でてくれたんだ。本当は星空だけど。おっと感情はまだ取っておいて」

 ニコリと笑い、耳元で囁く。それはまるで悪魔の囁きのように甘いお誘いだった。

「もし時間があるなら今夜望海楼においで。お仕事ラブならそのまま帰ってもいい」

 シドの返事を聞く前に耳にキスを落とし、パッと離れた。後処理まだ残ってて探してるかも、と言いながら元いた場所へと戻って行く。1人残された男はしばらく口をあんぐりと開き、去った先を見つめていた。

「帰れるわけないじゃないか……」



 夜、飛空艇で一先ずクガネに降り立つ。リンクパールでジェシーに一晩泊まって帰るからもう少し遅くなるがいいか、と聞いてみる。意外なことに即機嫌のよい声で許可を貰えた。不気味だ、と思いながら望海楼の方に行くと入り口前でアンナが佇んでいる。即こちらに気付いたようでニコリと笑顔で手を上げた。

「おやおやてっきり帰ってるかと」
「どうせ先にジェシーに連絡してるんだろ」
「バレたか」

 まさかとは思ったが本当に先回りしていたらしい。さすが準備のいい女だ、実質断れなかったかと背中を叩いてやるとニヤニヤ笑っていた。じゃあご飯準備してもらってるからと手を差し伸ばされる。

「本来は逆だといつも思うんだが」
「そんな顔してる男の人にエスコートされたくない」

 手を握ると指先に軽く口付けた後に引っ張られ、部屋へと案内された。チェックインは先に終わらせていたらしい。すれ違う従業員に物珍しい目で見られているが、アンナは仕草1つ変えずいつも通りだ。個室には既に豪勢な食事が準備され、座るように促される。

「お金は考えなくていい。何かあった時は一杯ご飯を食べて寝るのが一番」
「ヌく方が効率的とか言ってた人間とは思えない発言が飛んだな」
「おうおうご飯時にそういう話はご法度」
「最近誰かさんに影響されているのではと言われたんでな」

 アンナは一体誰かな、許さないねえと肩をすくめている。シドはニヤと笑っていると、すぐに調子が戻ったのか飯を食いたいのか「いただきます」と手を合わすので、その声に釣られて同じく手を合わせてしまった。



「食事どうだった?」
「お前さんの料理ほどではなかったが美味しかったな」
「流石にプロの方がレベル高いと思うよ?」

 東方料理だけでなく多少エオルゼアでもよく見る揚げ物等も添えられ食べ応えがあった。酒は、と問うと「絶対悪酔いするから今度ね」と言われる。
 その後アンナは苦笑しながら置かれていたタオルや浴衣を押し付けた。

「お風呂。大きい温泉、ゆっくりつかるの、いい。その間に布団敷いてもらう。それともご飯食べたから帰る?」
「帰らんと言ってるだろ」

 小突きながら道具を受け取り部屋を後にする。いい休息になりそうだ、と思いながら共同浴場へ向かった。

 言われるがままぼんやりと入浴し、部屋に戻ると確かに布団が敷かれていた。エオルゼア様式の寝台もいいが布団というものも悪くない。アンナはまだ戻っていない様子で。外を見上げると綺麗な月が雲の間から覗かせている。繁華街からの喧騒もかすかに聞こえ、その音も心地がいい。少しだけ目頭が熱くなったタイミングでアンナが部屋に戻ってきた。

「おや先に―――嗚呼遅くなってゴメン」

 着替えを放り投げ駆け寄って来る。シドは思ったよりも震えた声で口を開く。

「日中みたいに」
「ん。座って」

 月明りの下、隣に座り、アンナの肩に頭を寄せるとそのままポンと撫でられた。涙が溢れ、嗚咽が漏れる。

「泣け泣け。今は私しかいない。明日からまた笑顔を見せておくれ」

 多分フウガが言っていた言葉をそのまま口にしているのだろう。我慢できなくなり、そのまま押し倒し強く抱きしめた。

「甘えたい年頃?」
「うるせぇぞ。リンドウの真似をするな」
「嗚呼そういう。人の慰め方を他に知らずつい」

 ごめんごめんと言いながら身体に手を回し、抱き返す。その後アンナは何も言わずその堰き止めていた感情を受け止めていた。



 少しだけ落ち着いた頃、アンナは突然思い付いたかのように脇腹へと指を這わせた。

「私的にはその銃創の謎が解けたからボズヤのレジスタンスに協力してよかったなって。―――あーあ、誰かさんのせいで自分勝手な考えをするように」
「っ、それでもいいんじゃないか? アンナは完全に部外者だろ」
「その部外者でも首を突っ込んでしまうのが無名の旅人。―――ってそんな顔しないでよ冗談冗談。もうただの旅人さ」

 ジトッとした目を避けるように苦笑している。シドは「次言ったら分かってるよな?」と眉間に皴を寄せるとアンナは「はいはい」と窘める。

「ねえシド」
「どうした?」

 アンナは何かを言おうとする。しかし首を傾げた。どうしたとシドは再び聞くが目を閉じたまま固まっている。

「何か、言おうとした。でも分からず」

 ようやく口を開いたと思ったらよく分からないことを言っている。必死に考えこんでいるようだ。

「ごめん、シド」

 頭をグシャグシャと掻きながら悩み続けている。珍しいと思いながらシドはその風景を見つめた。
 アンナは確かに何か言おうと思っていた。しかし何も浮かばない。"結論がついたらすぐに報告する"と約束したのに、それを表現するための言葉が頭から消えた。あんなにも人を口説いていたはずなのに。

「まだ、足りないかも」
「うおっ!?」

 シドを強く抱きしめ、撫で続ける。強く、締まる位に。流石に苦しくなってきたので腕を掴み抗議した。

「アンナ、流石に手加減無しで抱きしめるのは」
「……ゴメン」
「その辺り考えられん位悩むことって何かあったのか?」
「う……」

 そっぽを向き、何も言わない。いつもより子供っぽい姿に笑みがこぼれた。くしゃりと頭を撫で、口付けた。

「別に今すぐ言わないといけないことなんてないだろ? ゆっくりでいいさ。それとも何かやらかしたのか?」
「そう、だね。別に悪いことして言葉詰まってるわけじゃないよ失礼。あ! そうだ!」

 どうした、と聞くと目を輝かせながら話を促す。

「あなたの家族の話、聞かせて」
「……そんなのでいいのか?」
「色々確執が消えた今だからできる話ってあるでしょう? 気が変わる前に早く」

 それもそうかとシドは呟いた。提案しておいて気が変わる前にとかなんて我儘な人間なのだろうかとも思う。だがあの人に興味を持たない女が話せとせがむのだ。悪い気はしない。優しかった少年時代の家族との日々を少しずつ紐を解くように話す。アンナはずっといつもの笑顔で聞いていた。そうしながらも、まるで自分に欠けている部分を補完するかのように家族やその周りの環境について尋ねる。

「お互い帰らずの故郷で家族の話なのに聞いてて楽しいなんて思わず」

 一通り話終わった後にポソリと呟いた言葉が印象的だった。

「お前さんはいつでも兄に手紙で聞けるだろ?」
「兄さんは血が繋がった家族の話はしない。"聖なる場所"へと旅立った父さまと色々あって」

 そういえばこの兄妹の家族についての話は一切聞いたことがなかったなと思い出す。しかし思ったより珍妙な単語が出た。首を傾げてしまう。

「聖なる、場所?」
「ヘーヘっヘっへっ、この世にゃ知らなくてもいいことっていっぱいあんだぜ兄ちゃん」
「何だその口調は」
「まあ死んでるって感じでいいと思う。顔の記憶すらないから会ったことないんでしょ、多分」

 その場所もどういうものかは私も知らないしとはにかんでいる。

「……お前の故郷グリダニアも吃驚な余所者お断りの面倒な村だな?」
「超純血主義の帝国出身な人に言われても。あと成人前に飛び出したから知らなぁい。ささ、もう寝よ? 明日少しでも早く会社に戻ってあげなきゃ」
「話題逸らされた気がするんだが」

 第三の眼付近に口付けてから目を閉じる様を見たシドのぼやきは虚空に消える。相変わらずアンナという存在を全て掴めた気はしない。いつか知ることはあるのだろうか。―――とりあえず帰ってから少しだけ兄に聞いてみよう。そう思いながらその冷たい身体を抱きしめ、目を閉じた。


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#シド光♀

2024年4月11日 この範囲を新しい順で読む この範囲をファイルに出力する

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注意・補足ヤ・シュトラから見た漆黒アンナのお話。  ―――ノルヴラント…

漆黒,ネタバレ有り

#即興SS

漆黒,ネタバレ有り

"エーテル"
注意・補足
ヤ・シュトラから見た漆黒アンナのお話。
 
―――ノルヴラントで"あの旅人"を見守って、分かったことがあるの。あまり綺麗とは言い切れない旅路の一端を見た気がしたわ。

 アンナと呼ばれる旅人が暁の血盟に出入りを初めて1年半以上が経過した。それなりに心を開いて喋るようになったが、反面未だ底が見えない強さを感じている。エーテルを視るとこの人は明らかに異常だった。
 歪みが見える。エーテルを行使するごとに周辺のエーテルが特定部位周辺に集まり、消えていく。同時に体内エーテルもぐわりと揺らぎを見せた。まるで放出を妨害するかのように膜のようなものが張られている。それは生まれ持ったわけではなく後天的なものであることは明らかで、一体何をしたらそんな身体になってしまうのか逆に気になった。

 彼女の右腕はどうやら魔石のようなものが埋め込まれているようで。エーテルを行使するとその辺りが熱を帯びて小さく光っている。
 あと気になる場所は首元と背中よ。特に背中は大きなひっかき傷のような奇妙な模様が浮かび上がっている。それはまるで傷自体が一種の魔紋のようになっていたのが分かった。ノルヴラントに来るまであまり違和感を抱くことはなかったのが不思議なくらい。

 おかしいという感想を明確に抱いたのは水晶公がエメトセルクに攫われた時。そう彼女に宿れる光の許容限界を超えてしまった時のこと。一度気絶し、目を覚ましたら―――まるで別人のようで。いや確かに喋りや表層的な波長は彼女。しかし何か本質的なモノが変わり、無理矢理躯を動かすようにフラフラと薄い銀色を見せた。そう、光の中でエーテルが柘榴石(ガーネット)色ではなく、銀色に揺らいでいたの。一瞬彼女に擬態したナニカがテンペストへと向かおうとしていたように見えてしまう。
 戦闘スタイルも一見変わりはない。いつものように自在に刀を振り回す。しかしエメトセルクとの最後の戦いでまた別の光を見せた。

『何故だ! 何故幕を下ろした筈の"貴様"が"そこ"にいる!!』

 驚愕の声を上げたエメトセルクの言った通り、私の目からも彼女の姿は消えていた。大罪喰いによる白い光と、青白い光が彼女を取り込み、そこで見せたのは―――ひんがしの着物を纏った銀色のひょろりと背が高いヒトの形をしたモノ。きっと魂から見ることが出来るエメトセルクはもっと違うモノが視えてしまったのでしょう。首元から背中の傷へ、そして右腕に青白いエーテルのような光が集まり、持っていた刀の刃に纏われた。

「さあ帰るぞ―――エルダス」

 優しく小さな声は明らかにそう言ったわ。巨大な刃のような光は巨大なエメトセルクを斬り捨て戦いは終わり―――。振り下ろされた光の軌跡はまるで流星のように光り輝いていた。シドから報告を受けていた通りの、大技。アルフィノ経由で未知の技術だと興奮していたのを半信半疑で聞いていたけどこれは確かに興味を抱く気持ちは分かったわ。

 全ての戦いが終わった後、いつものよく知っている彼女に戻っていた。穏やかで、柘榴石色の奥底に闇を宿した旅人。やっぱりあなたはそれが一番似合っているわ。


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#即興SS

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注意・補足ボズヤ、ウェルリト後、遂に付き合うことになる話。  ―――故…

漆黒,ネタバレ有り

#シド光♀

漆黒,ネタバレ有り

旅人は答えを見つける
注意・補足
ボズヤ、ウェルリト後、遂に付き合うことになる話。
 
―――故郷でも、命の恩人からも、教えてもらえなかったコト、皆誰から学んでるの?



「ビッグス、社内で流れてる噂聞いた?」
「噂、ですか?」

 ある日の昼下がりのガーロンド・アイアンワークス社。ジェシーはビッグスに近頃起こっている奇妙な話について聞く。

「アンナが手当たり次第に人を捕まえて、質問攻めしてるらしいのよ」
「こっちには来てませんが…」
「それオイラの所に来たッスよ!」

 傍で作業していたウェッジがパタパタと走って来る。

「恋や愛って何? と聞かれたッス!」
『恋!?』

 ジェシーとビッグスの声が重なった。

「いや『好きな人いたよね? いつ好きに? どういう所好き? どうやって伝える? どこでその感情を学習?』とか畳みかけられたッス!」
「え、アンナ何言ってるの?」
「どこで学習? おいおいまさか」
「事情を聞いてみたら『何度考えても頭真っ白。結論のために質問の旅』って言いながら去って行ったッスよ! その、本当にまだ親方とアンナって付き合ってないんだって察したッス」

 3人はため息を吐いてしまう。今更何を言っているんだという言葉しか脳に浮かばない。

「私、最初は会長があまりにも鈍感で奥手で不器用すぎてそれがボトルネックだと思ってたんだけど」
「まさか完全にアンナの思考とは……」

 別の世界での人助けが終わり霊災も回避され、賢人たちの意識も無事回復し、少しの時間が経過した。その辺りからアンナの様子が少々おかしい。いや変なのは出会った当初からだが、考え込んでいる時間が増えた。一見いつもの笑顔は見せているのだが最近ぼんやりとしているようで。
 閑話休題。恋愛関係で聞き回っているということはシド関連なのだろう。とっくの昔に、遅くても第一世界から一度戻ってきた日に決着がついたと思っていた。だがどうやら当人たちの間では未だそうなっていないらしい。

「あ、ジェシーいた」

 3人が振り向くと噂のアンナが手を挙げながら部屋に入って来る。ウェッジの話を聞く限り次は自分に聞きたいのだろう、大慌てで椅子と紅茶を準備した。



「ジェシーとビッグスは恋したことある? ウェッジは知ってる」

 紅茶を飲みながらアンナはニコリと笑った。3人は顔を見合わせる。

「そりゃ一度はあるでしょ」
「ですよねえ」
「うん、私もあると思ってた。でもねえ」

 肩をすくめ、ため息を吐く。

「いや正直恋って判断どこでしたのか理解不能。初恋は憧れとか幼い淡い体験にした。が、問題は大人になってから」
「はい」
「恋は学校の授業には存在せず。私も故郷では聞かなかったし命の恩人―――フウガも教えてくれなかった」
「そうかもしれないッスね」
「だから人はどう愛や恋を察知し、どうその先へ行くのか知るため暁やガーロンド社で聴取」
「分からない……過去一アンナが分からなくなったぞ……」

 シドが時々アンナが分からんと言いながら眉間に皴を寄せ頭を抱えてる姿を見せる時があった。今その気持ちが理解出来たかもしれないとビッグスは片手で顔を覆う。

「フウガに向けていた感想とは全く異なる。だから恋というもの、どういう瞬間に感じるのか気になる」
「え、アンナ確か好きなタイプ聞いた時あっさり答えたじゃない。髭が似合って、がっしりとした体形で、光のような人って」
「フウガ"も"だよ? 髭が似合い、がっしりした体形、人助けが趣味、光のような人」
「ああ……」

 あの時の言葉はどうやら別の人間を指していたらしい。もしかして重ねていたのだろうかとジェシーは眉間に指を当てて考えているとアンナはニコリと笑いながら聞く。

「んで、各々の恋した瞬間、記憶ある?」
「そうねえ。やっぱり憧れとか?」
「フウガは憧れ。けど……」
「優しいなって思ったり」
「優しい。けど恋までは」
「じゃあ一目惚れとかどうッスか!」
「確かにキレイな星。でも別に見てて何も」
「アーンーナー」

 ジェシーのジトっとした目にあははごめんと苦笑いしている。

「ちなみにネロサンに聞いたら呆れた顔で色んな小説山積み。兄さんに"8人の嫁さんのプロポーズどうやって? 参考にする"って手紙送ったけど返事来ない」
「嗚呼……」

 最近のアンナの兄である社員レフの様子がおかしい原因も彼女だったようだ。休憩中に『僕の答えがそのまま横に流される……』と遠い目で呟いていた意味がはっきりする。

「アンナ、恋愛ごとに理屈は考えちゃいけないと思うの。言葉が出ないなら行動で示したら流石に会長も分かってくれるから」
「そういうもの? ……あれ? そういえば皆何故シドの話と思って? 言った記憶皆無」
「この段階で知らないって思ってたのか!?」



 散々悩んだ後アンナはまたフラフラと歩いて行った。ジェシーらは生暖かい目で見送る。その後喫煙室にいた休憩中のエルとネロを捕まえる。

「何か? ホー……昇給?」
「アレだろ、メスバブーン関連」
「嗚呼」

 エルの目から光が消えた。相当悩みこんでいたらしい。先程あったアンナとの話をするとネロは一頻り大爆笑した後エルを指さした。

「いつもは妹から手紙来たって小躍りして即返事出す癖に悶絶続けてンだ」

 机に突っ伏し呪詛のような言葉を吐いているがジェシーは解読が出来ない。「ネロ、レフは何と?」と聞く。

「自分の言葉を引用してまンまプロポーズされちゃガーロンド吊る必要が出てくっからメスバブーンは一生悩んでろってよ」
「そこまでは言ってないやい」
「近くはあるんスね……」
「レフ、あなたの妹付き合ってすらいないのにプロポーズまでは飛躍しすぎよ」

 ジェシーの言葉に頭を勢いよく上げる。やれやれと言いながら呆れた目を見せた。

「はぁ? いやいや妹から指輪渡すんだろ? 会長クンはすぐ近くにこの僕がいると知っていながら一言挨拶無しで更に先手にも回れないのか最低って話題じゃ」
「エル、あの無欲の権化(リンドウ)の思考がそのまま反映された妹なんだろ? 未だ恋愛っつー器用なおままごとする可愛いお花畑チャンに見えてンのか? 確かにプロポーズなンざ先手取らなきゃ気が済まねえって顔してるだろうがよ」
「……うっそだろ……」

 再び突っ伏したまま震えている。また何か判別出来ない短い言葉を吐いているのでウェッジはネロに通訳を頼む。

「恥ずかしすぎて消えてェってよ」
「合ってる」
「合ってるのか……」
「ここまで上司と実の妹の内情が社内で拡散され切ってて死にたい! さぞ君らは面白いだろうねぇ! ああそうだよ僕だったら絶対面白がるからな!」
「まあアンナからしたらレフはここにいないはずだもんなあ」
「うるせ! 会長クンに言いつけてやる! 君ら諸共僕は死ぬ!」
「ちっちゃいプライドのためにオイラ達まで巻き込まないで欲しいッス!!」
「ゴホン! 俺がどうした?」

 その場にいた全員が固まる。喫煙室入り口を見るとシドの姿が。怪訝な顔をしてネロらを睨んでいる。

「あ、あれ親方仕事は」
「休憩させてくれ。今回も中々苦戦しててなあ。お前たちも世間話は程々にして手伝ってくれないか」
「それは構いませんけど」
「で、俺に言いつけるとは? レフがアンナみたいなキレ方してるなんて珍しいが何かやらかしたのか?」

 ネロ以外全員シドから目を逸らす。これは言ってもいいのか、いけないのか。アンナは秘密にしろとは言っていない。渋々エルが突っ伏した状態で抑揚のない言葉を吐いたのでビッグスはネロに翻訳を頼んだ。何度か振ったはいいものの何故言葉が解読が出来ているのはよく分からない。

「ンで一々俺に言わせてンだよ! はぁ―――最近妹とどうだってよ」
「アンナか? 最近何か考え込んでて声もまともに掛けられなくてな……って何で休憩中とはいえ今お前たちに話す必要あるんだ。プライベートで聞いてくれ」
「アー? そうかよ。妹からトンデモレターが届いて以降仕事に対するモチベ最悪だからテメーで何とかしろってよ。あと暁や可愛い部下困らせンな」
「トンデモ? ―――困らせ??」

 シドは突き付けられたエルが貰ったという手紙の一部を眺め首を傾げている。案の定周りの状況を当の本人だけ知らないらしい。ジェシーはジトっとした目で報告する。

「アンナが手当たり次第に恋やら愛って何って聞いて回ってるんですよ。さっき私の所にも来ました」
「な、何やってるんだアイツ!?」
「心当たりありますよね?」

 素っ頓狂な声を上げた後考え込んでいる。しばらくしして「あ」と漏らした。

『その旅が終わったら、即結論は教える』

 第一世界から帰ってきた直後、話をしていた気がする。そういえば記憶探索後に何か言おうとして固まっていた。以降、会っても上の空で呼ばれては首を触りながら「何でもない」と言われる日々。どうなっているか一切理解出来なかった。

「いや、分からん。何でそういうことを聞き回っているかは俺にはさっぱり」

 少し頭痛がしたような気がする。―――今までこっちをからかっていた人間だ。まさか今更恋やら愛やらで悩んでいるわけはないだろう。多分どうやってこちらで遊んでやろうかと周りを巻き込んでいるに違いない。

「とりあえず俺の方から注意しておこう、スマン」

 シドはジトっとした目でそそくさとその場を後にする。

「絶対会長クンは誤解してるな」
「イタズラの仕込みって判断したみたいだなあ。もう少し言った方がよかったかもしれん」
「どう見てもアンナの日頃の行いが悪くて流石に擁護は出来ないわね」
「アンナ……ごめんなさいッス……!」

 ジェシー、ビッグス、ウェッジは半笑いで空を見上げた。

「いやクッソ面白ェ。エルどっちに転ぶか賭けでもすっか」
「賭けにもならん。ジェシー女史、会長クンに明日休暇を与えよう。機嫌が悪い所を延々見続けるとなっては社員の士気にも関わる」

 あなた達会長に聞かれても知らないからねとジェシーはため息を吐いた。



 仕事をキリのいい所まで早急に終わらせシドはアンナを探し走っていた。流石に部下から苦情が来るほど迷惑をかけるのはいけないと一言怒っておかないといけない。『そこまで言わないと分からない子供だったのか?』という疑問が湧くが置いておこう。暁にも聞き回っているのなら今はレヴナンツトールに滞在しているはずだ。急いで向かう。
 まずは石の家でタタルとクルルにアンナの様子について尋ねてみる。確かに色々聞かれたと言われた。アリゼーやヤ・シュトラも恋と憧れの違いについて質問攻めにあったらしい。ウリエンジェは想い人の話をニコニコとした顔で聞いていたと言い、サンクレッドも女性を口説いている時の気持ちを聞かれた困惑したと。グ・ラハやアルフィノからはアンナが本気で悩んでいて心配だと言われた。『バカか!?』と心の中で叫ぶ。今では顔を熱くしながら街中を探す始末だ。

 ふとよく知ってる声が聞こえた。見上げると建物の屋上で佇む探し人。急いで駆けあがり背後に立つ。しかし珍しくこちらに気付いてないようだ。さっきの兄みたいにブツブツと何かを言っている。あちらと違い言語判別は出来た。恋だの好きだの万が一だのよく分からない。

「フウガだったらどう切り抜けるんだろう」

 鮮明に聞こえた一文を耳にした瞬間にカッと頭に血が上る。反射的にその細く引き締まった腕を掴んだ。
 ビクリと跳ねた後、アンナはこちらを振り向く。

「誰ッ―――あ、シド」

 いつもの冷静な顔ではなく少しだけ困ったような泣きそうな顔を見せている。

「え、ちょっと!?」

 そのまま引っ張り大股で進んで行く。今の表情がどうなっているか分からない。しかし"また"リンドウに対して行き場のない怒りが湧いているのは理解出来ていた。肉親の記憶よりも刻み付けられている存在への憤りが。更に違うと言いながらも未だ恋焦がれているのかという呆れも混じり頭がぐちゃぐちゃになる。
 あっという間にいつも取っている宿に到着し、個室へと連れて行く。扉を閉め、その場で抱きしめた。漂う甘い匂いが脳を刺激し、少しだけ落ち着いてくる。

「っ!?」
「俺よりリンドウに頼るのか? 未だに」
「え、いや、その……って痛い痛い! 手加減!」

 アンナの言葉お構いなしに強く抱きしめる。

「逃げるかもしれないだろ?」
「いやここまで来たら逃走無し! 私を何だと思ってる!?」
「まずイタズラ好きで都合が悪くなると逃げ出す旅人だろ?」

 言葉が詰まっている。肩を落とし頭を撫でられた。機嫌取りをしようとしているらしい。それ位は鈍感だと言われるシドでも分かる。

「別に、フウガはそういうのじゃない。し、シドのことで色々考えてた。だからあなたに助けを求めない」
「俺の?」

 何も言わず頬に口付ける。そして顔ごと逸らした。

「本当は兄さんの返事が来てから決めたかった」

 首を傾げる。見上げると顔が赤くなっている。目元を手で隠し、ボソリと呟いた。

「結論を教えたくて。けど、何か言おうとしても、その。頭が真っ白。だから皆に教えてもらおうと」
「今更か? お前あんだけ人をからかって今更そんなこと言ってんのか?」
「う、うるさい」

 お前そんなにか弱い生物だったのか? と思っていると首元を触りながら目をギュッと閉じ呻き声を上げている。珍しく嘘は吐いていないようだ。そういう姿も好きかもしれないとシドは苦笑する。
 そんなことよりも。確か首元を触る時は自分に対する何らかの感情を感じ取った時のはず。どういうことかとシドの方も恥ずかしくなった。少しだけ力が緩んだ隙に振りほどかれ、抱き上げられる。相変わらず軽々と持ち上げるのでいつもプライドが砕かれかけていた。

「おい!?」
「場所変えさせて。こんな所で話しなくて、いい」

 寝台に座らされ、アンナも正面に正座した。相変わらず顔は赤いままで目を逸らしている。

「えっと、私は、あなたを知るために少し旅をしてきた」
「そう言ってたもんな」
「流石にガレマルドまでは行けず」
「今そんなこと出来ない状況って聞くからな」
「何か変わるかなと思ったがそうでもなく」
「―――そうか」

 結論の発表会をしたかったらしい。完全に弱り切り、珍しく長い耳も倒れている。まるでミコッテのようだ。あれだけあの耳ピョコ分かりやすいやつと違うと豪語していた人間が何をしているのか。

「だって恋とか故郷やフウガは教えてくれなかったし」
「別に学校で習うモノでもないぞ?」
「どこでそういうのを知ったのかって聞きたくなり。あの、部下の皆さんにご迷惑をかけたようで」
「俺に聞けばいいだろ?」
「一番アテにならない人が何を?」
「ぐ」

 ジトっとした目で言われた。確かに参考にならないと思うがそこまで単刀直入で言わなくてもいいじゃないかとシドはため息を吐く。

「まあガイウスからの言葉で結論というか方向性は決定済」
「ウェルリトでまで迷惑をかけるなよ」
「ヒエンたちの所にも行ったよ?」
「今度ドマにも一緒に詫びの品持って行くぞ。―――エオルゼア三国とイシュガルドとアラミゴのお偉いさんにも聞きに行ったとか言わないよな?」
「……イッテナイ。面白い話が聞けた。でも行ってないヨ」
「俺が悪かった」

 何日休みを取れれば終わる日程になるのか気が遠くなるほどの人間に聞き回ったらしい。あまり言いたくないが元首たちもいくら相手が世界を救った英雄だからとはいえ素直に答えるなよとため息を吐く。すると頭を掻きながらボソボソと喋り出した。

「別にシドのこととは一言も言ってないのに皆あなたのこと話すんだよね」
「……何でだろうなあ」

 確かにそれは身に覚えがない。アンナのような無神経な人間ではないので誰かに相談した記憶は存在しなかった。しかし大体の人間にアンナの話題を出されるという点は同じで。どこかから、関係が漏れている。ジェシーや暁だったらタタル辺りが察して言いふらしたのだろうか。

「そこでまだ付き合ってないのかとか嘘でしょとか謂れのない驚愕が」
「俺もよく言われてるな。1年以上な」
「不思議」
「不思議だよなあ」

 いつの間にかお互いの顔を見合わせ笑っていた。



「第一世界で分かったことがあったんだ」
「何だ?」

 天井を見上げるアンナはボソリと呟く。

「1年後、キミが答えを見つけられなかったら旅に出るって言ったくせに、いざ1人でキミのいない世界を走り抜けたら怖かった。無限に喉が渇いたようにカラカラで余裕がなく。今までそんな経験なし」
「お前―――」
「だから夢の中でキミが出て来た時凄く嬉しくて。良い夢なんてあまり見なかったから急にキミが扉を叩いた時羽目を外しかけた。その結果が自爆」
「ああだから急に抱きしめにかかったのか」

 別世界の妖精族のイタズラでアンナの夢と繋がってしまった時の記憶。目の前にあった扉を叩くと出て来たアンナが二度見した後柔らかな笑顔を浮かべ抱きしめてきた。夢での出来事だったから都合のいい記憶と混ざっていたと思っていたらそういう真意があったのかと感心する。

「別に暁の皆やあちらの人たちが嫌いだったとかじゃなく。何かが欠けてしまったみたいで常に苦しくて。挙句の果てにバケモノになりかけ、意識も真っ白になり、嗚呼もうダメだってキミにずっと謝ってた。そしたらフウガに『さあ帰るぞ』って引っ張り上げられた気がして。目を開けたら全部終わってた」
「……人に聞き回る前にそれを言え!!」

 シドは起き上がり顔を赤くする。アンナはきょとんとした顔を見せた。

「いやそれ依存ってやつじゃん。恋やら愛じゃないさ。それだけ言ったらどうなるかと考えると共依存しか思いつかない。やだ。だから一度リセットして他の視点でキミについて考え直そうと思い。で、いざやるぞと気合入れたら頭が真っ白になっちゃって」

 軽くため息を吐き、肩をすくめた。手を重ね、目を閉じる。

「色んな人に恋の瞬間を、愛とは何か、その先をどう進みたいのか。聞いてからでも遅くはないかなって。まあ結論は『キミはボクが必要だし、ボクにもキミが必要だ。少なくとも上下関係ではなく対等なものとしてそういう感情を持っている。受け入れよう』と諦め」
「まあアンナがそういう結論を持って来たのなら受け止めるが」
「厭?」
「俺もお前が別の世界で冒険してる間に改めて色々考えさせてもらったからな。まあ同じような結論だ」
「そっか」

 その言葉を聞いたアンナは目を閉じて少し黙り込んだ後、顔を近づけ、これまで見たことない柔らかな笑顔を浮かべている。

「これからも、よろしく。シド」

 瞬時に顔が熱くなり反射的に「あ、ああ」と声が出た。それはどちらかというと少年っぽい整った笑顔。細めた目付きが兄のエルと全くそっくりで―――あのガレマルドや星芒祭の夜に会った時の記憶そのままだ。所謂普段纏っていた仮面が取り払われた瞬間、ということになるのだろう。強く抱きしめ、耳先に口付けを落とした。


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#シド光♀

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