2.謎の少女との出会い

「やっぱり敵つえーな」
「1Fで戦って実力付ければいいだけでは?」
「まだ強くなる時ではない。というか多少強くなっても絶対勝てねえ敵がいるじゃん」

 男2人は今日もボロボロになりながら迷宮探索を続けている。B2Fへの階段を発見し、暗くなってから深層へ潜る。
 ちなみに暗くなるまでは元老院から貰った船『スーパーフリー号』で辺りをうろつき、海路発見へ一歩踏み出していた。船の名前を付けたのはいいが重装を身に纏ったファランクスのキムは海路の開拓は冒険者の仕事の範囲を超えているのではないだろうか?と疑問に思っているのだが口には出していない。何故なら仲間のバリスタであるドクターはノリノリで船を操縦していたからである。宇宙船のノリの延長だとは言っているがその理屈はいまいち理解できない。

「しかし昼の迷宮は怖かったなあ。なんだよあの緑色の鳥っぽいやつ。怖すぎっつーの」
「あービックビルだっけか。酒場で聞いてはいたが三途の川が見えたわ」

 昼間の探索を避けた理由はただ1つである。昼に現れる巨大鳥に喰いちぎられたからだ。両者にとって徘徊している巨大な蜥蜴よりも怖い存在となっていた。1回遭遇してからトラウマに刻まれムカデの落とすアイテムがクエストで必要だからという口実で夜に出発しようと決心したのである。その間眠っていてもいいのでは?とキムは聞いたが、船を貰っていたことを思い出したドクターに港へ行くぞと引っ張られた。渡された小さなボロ船に揺られキムは軽く船酔いしていたがドクターは「俺はキャプテンARMだからな。ていうかロボットのくせに船酔いとかバカジャネーノ?」と笑っていた。

「夜も足を拘束して来るムカデがいるけど運が悪くねえ限り逃げれるしな」
「毒の尻尾で叩いてくる動物に耐えてたらメディカ使わされて俺達は貧乏ギルドだっつーの!」
「まあ確かに。さっき見つけた採取アイテムを売り払って金にしなきゃなあ」

 呑気に笑うドクターに対し苛ついているキム。そんな2人に少女が近づいてきた。

「こんにちは」

***

「突然近づいてきた少女からテントを貰ったぞ」
「こんな迷宮で1人慈善活動とは感心するなぁ」

 オランピアと名乗るマントを纏った少女は迷宮で海都の冒険者をサポートするためにテントを配っているらしい。この迷宮では各所に魔物の気配がない場所があるらしく、そこでテントを使い休息することが可能なのだと笑顔で語っていた。少女は野営地点があるという方向を指差し、会釈して去って行った。

「……どう思う?」
「何がだ?」
「あのオランピア?とかいう女についてだよ」

 怪訝な顔をするドクターに対しキムは首を傾げ、数秒の内に手をポンと叩く。

「……あまりにも胸のふくらみがあるようには見えず女とは思えないな」
「そっちじゃねー!! お前は胸しか見てねーのか!?」
「冗談だっつーのドク。……まあ地下2階とはいえ1人で冒険が出来るとは相当の実力者なんだろうな」

 普段の仕返しだと笑いながらキムは話す。ドクターはため息を吐いていた。

「まあこの地点で嘘をつくメリットは無いから実際あの女の言う通り魔物に襲われない地点があるのだろう。だが……」
「現在昼から夕方ならともかく比較的安全な夜に休めるぞと言われても悪意の無い罠ってやつだよなあ」
「そういうこと。まあどこかの機会に休む場所が必要になるかもしれない。地図に記して冒険に戻ろう」

 ドクは踵を返し、少女が去って行った方向に歩みを進めようとする。しかしキムは「待て」と止める。引き留められた男は振り向いた。

「? どうした?」
「『同類の匂いがした』、それだけ。あとあんまり前を歩かないでくれ、護ることが出来ないからさ」
「……そうか」

 彼らは進む。世界樹の謎を解くために。