1.地図を書き上げて

「よーし地図完成ミッション達成っと」

 ドクターは宿屋で目を輝かせながら手持ちの地図を相棒に見せながら笑っている。それに対して相棒であるポンコツロボットは複雑な顔をしてる。
 実際歩いていない通路は別の色で塗られ、とにかく見える場所を埋めましたとでも言いたいかのような地図は彼にとって気持ち悪いの一言に過ぎない。

「おや不満そうじゃねえかどうした?」
「……施療院往復すればするほど記述が増えて行く地図を見て頭痛いんですよマジで」
「何だその話か」

 こめかみを抑えているポーズを見せながら不満を言うキムに対しドクターは肩を落としやれやれと言いながら言葉を続ける。

「仕方ねーだろ2人共気絶したら巡回中の衛兵に助けてもらう事で少しずつ進んだからな」
「それってずるくないか? あと本当にその地図は合ってるのか?」

 キムはため息を吐く。確かに自分の足で歩いた地図であるのだが、都合のいい所で衛兵に保護されて街に戻るというプロセスは少し卑怯ではないのかと言いたいらしい。加えて推測で書かれた場所は本当に正解なのかと心配になっているのだろう。
 それに対しドクターはメガネをクイッと上げながら「あのな」と言う。

「確かにズルいとかそう思うかもしれねえ。でも実際逃げきれずに殴られることの方が多いだろ?俺達は2人しかいねえんだそこは妥協するしかない。
致命傷喰らった時の痛みだって残ってるだろ?まあ衛兵の応急手当も宿も優秀だよなこの国」
「う……それは確かにそうだが」
「まあ元老院から禁止と言われてねえし? というか言わなきゃバレねえだろ。大体合ってりゃ許してくれる、お役所対応とはそんなもんだよ。それに誰もが一緒な地図ってつまんねえだろ? オリジナリティって奴だ」
「やっぱ自覚してんじゃん! 納得しかけて損した!」

 全くお前はいつもいつもとグチグチ不満を垂れるキムに対しドクターはただ笑っている。

***

「それで? 元老院に報告が終わったらどうするんだ」

ひとしきり愚痴を言い終わり満足したのかキムは今後の行動を尋ねる。ドクターはうーんと言いながら暫く考え込んだ後、頷きながら地図の空白部分を指差す。

「まず未踏破部分を埋めよう。その前にお前が行きたくてたまらない酒場に行ってからだ」
「は、はあ!? べ、別に僕は酒場に行こうとは一言も言ってねえし?」

 顔を赤くしながら言うキムに対しドクターはニヤニヤと笑い肩を叩き腕を引っ張って行く。キムにとって羽ばたく蝶亭に行くという行為が楽しみのもの。別に隠しては無いのだが改めてはっきりと言われると恥ずかしさの方が勝っているようだ。

「はいはい巨乳は最高だよなー? ククッ酒場といえばクエスト、受領しながら迷宮探索レッツゴー」
「ま、待てってドク! 心の準備が……うわあああ」
「はーようやく酒が飲める」

 どれだけ抗議の声を上げても無視され宿から酒場に引っ張られていく。その光景を周りの冒険者から変な目で見られているがドクターは全く意に介さない。この街の酒は美味しいのだろうか、どれくらい飲ませてもらえるのだろうかとブツブツ呟いている。