星降る夜の奇跡の話―後―

「飾りはこっちに置いて!」
「料理の準備できたわ。あとはアンナを待つだけね」
「プレゼント箱搬入終わったぞ!」
「天井に吊り下げるモノ、準備終わっている」

 アンナとシドがプレゼント交換を約束した当日。カーラインカフェの片隅で暁の血盟とガーロンド・アイアンワークス社の面々はアンナを驚かせるためにと最終準備をしていた。アンナはレヴナンツトールにてタタルに足止めするよう頼んでいるので現場には来ないだろう。

「親方! ボーっとしてないで手伝ってほしいッス!」
「―――あ、ああすまん」

 シドは朝からずっと上の空で、ヤ・シュトラはため息を吐きながら近づく。

「あらあなたが気合入れないと今回のサプライズは成功しないわよ?」
「む、そうだな。そうだったな」

 上の空なのも当たり前だった。昨晩の事を誰にも相談できず1人悶々と悩んでいる。まるで名も無き旅人の事がなかったかのように動き続ける時にイラつきさえも覚える。しかし今は考えている暇はない。手を動かしていれば今は大丈夫だろう、そう考え箱を手に取った。

「親方、その箱は何ですか?」
「ん? ここに置いてるからてっきりお前たちが持ってきたやつかと」
「まあ誰かが持ってきたんでしょう。とりあえず一緒に飾っておきましょうか」
「そうだな」

 いいのか? と思いながら気合を入れて、持ち上げた。

「も、もう少し待つでっす! 紅茶のおかわりありまっす!」
「んーでも人と待ち合わせしてるんだ。そろそろ集合場所に行きたいんだよねえ。1時間前には待ち構えておきたい」
「ふふっ、ときどきはゆっくり行っても罪じゃないと思うわよ」

 ボクはグリダニアでぼんやりと一晩過ごした後タタルに呼ばれレヴナンツトールにいた。普段なら個人的に驚かせるためにずっと現地で待つのがボクだ。まぁそういえばいつの間にかパーティになってたんだっけと思い出し、彼女らの時間稼ぎに付き合っている。

「タタル私思うんだけどさ。暁とシドってさ、モードゥナに拠点がある人同士だよね。何かするならここで何かやるべきだと思うんだけどどう?」
「え! アンナさん知ってたんでっすか!? ってあ!」
「まあアンナなら知ってるわよね。確かに私も思ったんだけど」

 タタルに「い、いつからでっすか!?」って言われたから「あなたがシドと拳を交わし合ったところ」と答えるとクルルは「最初からだったのね」とふふと笑っている。

「うん、何かすごいなって思ったから近付けなかった。……本気出せれたら私も本気出さなきゃって。まったくこんな経験ないからどうすれば」

 分かってたら1週間前なんて急な予定にしない、と言うと2人は笑顔でボクを見ていた。

「アンナには来たばかりの私でもお世話になってるわ。日頃の感謝を伝えるチャンスって言われるとやる気も出ちゃうのよ」
「そういうものなの?」
「そうでっす!」
「ただの無名の旅人相手によくやるよ」

 エオルゼアの人間はお祝い事が好きらしい。度々街が飾りつけされているのを見ると相当数お祭りが用意されているのだろう。神様も十二神と多神教な土地だけあってごちゃまぜな文化が少しこそばゆい。何せ生まれ集落は森や動物に感謝する儀式や火にまつわる祭りしか存在しなかった。あとここ60年位は集落にはめったに近寄らなかった。しかし旅人として再スタートを切って5年、いろんな文化を知れるのが嬉しかったし今でも好奇心が収まらない。
 現在―――面倒な出来事も終わり訪れた年末、感謝を示す行為は祭り関係なく誰だって当然なんだろう。自分を頼りきる人たちと盛大に遊ぶのも悪くない。だから準備はしてきたのだ。大きな箱と、小さな箱たち。実は小さな箱に関してはもう会場には置いてきていたのだが。

「クポー! アンナさんいたクポ!」
「よかった間に合ったねレターモーグリ。ありがと。これクッキー。仲間と食べて」
「ありがとうクポ!」

 いつもより少しだけ大きな封筒を受け取る。開くとパーツがいくつか入っている。欲しかったサイズの木製の歯車だ。準備した物、これはかつて成人前にドマを恩人と旅していた時に見て感動したからくり装置。遠い昔、買った書物を参考に設計図だけ作ったが、途中で飽きてしまった物をちょうどいい機会だからと完成させてみた。彼の故郷の技術に比べたら原始的に映るかもしれないが気にしない。まあそもそも手に取るかも分からないのだ。それもまた一興。ボクとしては”外箱”ごと捨ててもらっても別に気にしない。無名の旅人であるボクがいた記憶をなるべく残してほしくないのだから。

「あとはこれを―――できた」
「あらそれは何かしら?」

 木の小箱を開くと木彫りのウサギがあり、周辺の歯車をいくつか取り換える。

「内緒」

 人差し指を口元に持っていき笑顔を見せてやる。そして大箱を慎重に開き中身の意匠を触らないよう奥に安置し、箱を閉じた。そしてクルルの耳元で「誰にも言わないでね」とささやく。

「一度目の前の事に熱中したら本来の目的を忘れるボケが始まったオジサンの目を覚ましてあげようって感じ。で、これはおまけ。多分外箱ごと捨てられるだろうから適当」
「あらあら」
「アンナさーん! そろそろ一緒にグリダニアに行くでっす!」

 準備できたんだ、と言いながらタタルの元に走っていく。

「私には大切な人にあげるための準備に見えるな」
「何か言った? ほらクルルも来て。せっかくなら皆でお祝い」
「分かったわ」

 呼ばれたクルルも小走りで石の家を飛び出して飛空艇でグリダニアに向かう。さあどんな準備をしてくれたのかな? 楽しみだ。

「よ、よおアンナ」
「あらシド。ここで待ってたんだ」
「お前の方が遅いなんて珍しいじゃないか」

 アンナがタタルやクルルと一緒にグリダニアランディングに降り立つとそこにはぎこちない動きと引きつった笑顔のシドがいた。「分かりやすすぎるわ」「サプライズ下手すぎるでっす……」と小声が聞こえる。だがシドは無視して「とりあえず飯でも食おうぜ」と指をさし歩き出す。アンナは笑顔でその数歩後ろを付いて行く。階段を上るとそこにはきらびやかな装飾と食べ物とケーキ。プレゼントの山が積まれ、暁の血盟のメンバーやガーロンド社の人間たちが。アルフィノが優しい笑顔で手を振っている。

「アンナ。いつもありがとうな」

 シドの言葉にアンナは一瞬目を見開き、止まっていた。徐々にいつも見せる笑顔は消え、目をぱちくりとさせている。

「あら? どうしたのかしらあの人。立ち止まってるわ」
「アンナ早く来るッスよー!」

 表情一つ変わらず、やがて何かに気が付いたのか慌てて手で顔を覆う。シドは横でキョトンとした顔で見つめているととつぜん手を外し、彼の方に向き見慣れた笑顔を見せた。

「だーれーがーここまでやれって?」
「え、あー、ごめんな?」

 一瞬シドのヒゲを掴みながら、踵を返し皆の元に走り出した。

「ありがとう」

 小さい声だったが確実に聞こえた。彼女から初めて引っ張られたヒゲをさすり彼女を見つめていると腰辺りを突かれた。見るとクルルが笑顔で「もしかしたら慣れてなかったのかもしれないわよ?」と言い先へ進むよう促した。

 よく考えたら彼女は長い間1人で旅をしてきた。振り返ればエオルゼアで出会ってから今まであった祝賀会や式典は陰謀に巻き込まれたりと彼女が休まる時はなかった。そんな彼女が星芒祭だと口実があるとはいえ突然政治主張等関係ない誕生日でもない日に祝われたら。本当に考えがフリーズしたのか、あのいつも余裕ぶった笑顔の彼女が。シドの口元から笑みがこぼれだす。「いいものを見た」と呟きながらゆっくりと歩き出した。

 パーティは盛り上がった。アンナの前に食べ物を置くと気が付いたら消えているので「自分の食べる量をキープしろ!」「俺たちの食べる物が無くなっちまう!!」と怒号が飛び交っている。シドたちは「何かやってるなーって静観してた。ガーロンド社の人たちまでいるとは思わなかった」という言葉で計画の半分程度はバレていたかと驚いた。「じゃあ余計にレヴナンツトールでやりなさいよ」とアンナの呆れた声にシドは「発想になかったな。グリダニアでと約束したんでな」と悪びれず答えた。

「いいじゃないか。私は君と出会うきっかけになったグリダニアでこうやって祝えるのだから」
「うーんそんなもんなのかな?」
「いいのではないでしょうか。貴方にも休息は必要ですから」
「サンクレッドが来なかったのが残念ね。彼にも少し休んでほしかったんだけど」

 その後アンナはプレゼントを積んでいる山を指さしながら「小さいやつ、大体は私からの贈り物」と言った。ある箱は画材、ある箱は香水。またある箱には羽ペンと羊皮紙。奇麗なナイフにシャード詰め合わせ。

「アンナ、合計いくら使った?」
「今回のパーティに使われたお金に比べたら安い。好きな物持って行っていいよー」
「じゃあ次は私たちからもあげないとね」

 彼女の周りにプレゼントの山が積まれていく。「こんなに貰ってもどこへ持ち帰ればいいの?」と苦笑いしながら開封していく。

「あらミニオン」
「ウチの新製品の新型エンタープライズモチーフッス!」
「へーいいね。ちっちゃくてかわいい。こっちは調理道具セットか。いいねえ」
「あら会長は最初私にね―――」
「ゴホン。まあよく料理を振る舞ってくれるからな。使って欲しい」
「いいよ」

 暁の血盟側から渡された物はまずは淡く光るクリスタルがあしらわれた小物入れ。マフラーや手袋、アルフィノが描いたグリダニアの風景画。「もっと早く分かってたらとびきりなものを準備したでっす! でも自信作でっすよ!」とタタルは胸を張っている。アンナは笑顔で「みんなさ、旅人に贈る量じゃないってば」と言いながら箱を開いては取り出し優しく撫でている。

「来年もよろしく、アンナ」

 思い思いの言葉を伝えたが全員の言葉を要約するとこうだった。アンナの目が見開かれ、しばらく固まった後頭をかきながら「しょうがないなあ」と照れた笑顔を見せた。その後話題を変えようと赤色の箱から何やら装飾具を取り出す。中央に宝石があしらわれたおしゃれな模様が張り巡らされボタンを押すとカチャリと音を立てながら開くと時計盤。

「あら懐中時計」
「俺じゃないぞ」
「私たちでもないね」
「見た事もないデザインの物だしもしかしてオーダーメイドかしら?」

 箱の底に残っていた紙切れを見て「兄さんだ」と呟く。アンナは何も言わずそのまま身に付ける。俺たちは彼女が持っていた紙切れをのぞき込むとぱっと見読み取れない言語で書かれている。「お疲れさまと兄の名前」とアンナは説明してくれた。いつの間に現れて置いて行ったのだろうか。

「多分レターモーグリーが持ってきたとか? 兄さん故郷にいるハズだから持って来れない」

 シドは兄がいるとクリスタルタワーで言っていたと思い出す。ついでに5年程度に一度故郷に帰る習性もあると。しかしその場にいる人間たち何も言わず置いて行くサービスは聞いた記憶はないのだが指摘するのは野暮だろうと置いておく。それよりやらないといかないメインイベントが残っているとシドはアンナを引っ張って表に連れ出す。数人の視線が痛いが無視しておく。

「どうしたの?」

 アンナは笑顔で俺を見下ろしている。俺は「忘れたのか?」と言いながら準備していた袋を取り出す。

「―――ああちゃんと覚えてたんだね。結構結構」

 言葉のとげが痛い。すっかり忘れてるなと思われていたらしい。―――実際昨日急いで工面した物だから言い返せない。彼女はカラカラと笑いながらカバンの中から大きめの箱を取り出した。

「デカくないか?」
「普通普通。ほらちょうだい」
「おう……」

 お互いプレゼントを交換し見つめている。「開けていい?」と言われたので「いいぞ」と返してやる。

「髪飾り。いいじゃん。青い石は……アイオライトか。粋だ」
「そうなのか?」
「旅人の私にピッタリ」

 この時はどういう意味か分からなかったのだが後日調べてみると宝石言葉は『道しるべ』や『誠実』であったらしい。確かに図らずも旅人である彼女に合う物を選んでいたみたいだ。少しホッとした。

「私の分は開けないの?」
「お、そうだったな。どれどれ」

 開いた瞬間パンッと大きな音が響き渡る。反射的に箱を手放そうとしたが瞬時に『ヤバい』と思い必死に落とさないよう掴む。箱の中からはたくさんのリボンや紙飾り、湧き出る小さな泡が破裂音を出している。ふとカフェ内を見ると全員がこっちを向き、アンナの方を見ると俺を指をさして笑っていた。気まずい。

「ナイスイタズラ。じゃ」
「待てアンナ! ど、どうなってんだこれ!?」
「直前まで忘れてた罰だよーっと」

 ケラケラと笑うアンナは旧市街地の方に消え俺だけ残される。カフェ内からも笑う声が聞こえる。俺が何したって言うんだ!「え、あ、はぁ!?」としか言えない。走り出したアンナを追いかけようとしたらふと肩を持たれ止まる。振り向くとドマからの使者であるユウギリが立っていた。

「失礼、敵襲かと思い来たが」
「あ、アンナが急に……心臓に悪いやつでな」
「……ビックリ箱か。なかなか作りこまれていてアンナは器用な人だ」

 そうかもしれんがと言いながらのぞき込むと確かに開けるまでは一切音を出さず油断させる技術は本物である。今度図面でも見せてもらおう。あわよくばやり返したい。ユウギリに「少し借りても?」と聞かれたので渡すと箱の中に手を突っ込む。

「お、おい」
「いえ箱の深さにしては浅い所から飛び出しているなと思い……やはり何かあったな。どうぞ」

 手のひらサイズの木の小箱を渡される。横に木のゼンマイが付いている。「回してみるといい。予想が正しければ害はないと思われる」と言われたのでまた変な物じゃないだろうな?と思いながら巻いてみる。するとひとりでに箱が開いた。
 夜空の森の中で木製の赤色ウサギが木の歯車がかみ合い跳ねるようにカタカタと動いている。

「ひんがしの国の技術で作ったからくり装置でしょう。なかなか巧妙に隠されていた」
「何だイタズラだけかと思ったらメインはこれか」
「あらシド、発見したのね。よかった」

 クルルがクスクスと笑いながら近づいてきた。どういうことだと聞くとこう答えた。

「来る前に装置の最終工程だけ見たの。『一度目の前の事に熱中したら本来の目的を忘れる人に渡すんだけどこれは捨てられるおまけ』って言ってたわ。私の目にはとっても大切に扱っていたけどね」
「ほう全て手作りで。シドは幸せ者であるな」

 瞬時に顔に熱が集まっていく。口元を抑えながら「いやそうはならないと思うが?」と言うとクルルはふふと笑っている。処分前提でって何をやっているんだアンナは。
 それよりもイタズラというやつだ。今まで微塵も見当たらなかった単語が彼女の口から飛び出すとは思わなかった。意外と子供っぽい所もあるみたいでどこか安心する。居ても立っても居られない俺は箱を抱き走り出した。

「もしかして両想いだったのかしら」
「なるほど……」

 何か聞こえた気がするが頭に入ってこなかった。「ナイスイタズラ」と言った後の顔が満面の笑顔だったが少しだけ潤った瞳を見逃せなかった。まるでやってはいけないことをやってしまったと後から気が付きパニックになった子供みたいな彼女を追いかける。

「うーむ……いつ戻ろう」

 ボクはアプカル滝の前で空を見上げていた。さすがに目の前でキレたシドによって投げ捨てられるプレゼント箱を見たくないのでつい走り出してしまった。しかし予想通りのいい反応を見せてくれた。あの顔だけでしばらく機嫌は悪くならないだろう。向こうの機嫌は知らないが。おや目の前がかすんで見える。こすろうとすると声が聞こえた。

「アンナ! 隠れるならもっと近くでな! ……ってやっぱり泣いてたか」

 息が上がりながら走って来たシドだった。どうしたと言われてもここに座ってるだけで。慌てながら走り寄ってきてボクの目元を拭う。

「俺は怒ってない。その、からくり装置すごいな。ありがとよ」
「……あー見つけた? 残念」
「残念じゃない。というか渡したいならもっと分かりやすくだな」

 隣に座り軽くため息を吐いている。「別にプレゼント交換ももともとビックリ箱の予定だっただけだし。おまけでカバンの中に入れっぱなしだった物を突っ込んだだけだし」と言うと「そうかそうか」と隣で笑い出す。

「何が面白いの?」
「お前の可愛らしい所だ」
「今更気付いたかい?」
「夢中さ」
「そういう冗談はもっとかわいらしいレディに言って」

 昨日まで過去のボクに見とれてたやつが何言ってるんだ。流石にそれは言わないけど。ふと話題を変えるようにシドは「アンナ、信じてくれないかもしれんが」と切り出した。何かあったのだろうかとどうしたの、と聞くと年甲斐もなくはしゃぎだす。

「前に子供の頃に欲しかったモノの話しただろ?」
「あー会いたい人とか言ってたやつ」
「叶った。嬉しかったぜ」
「よかったね」
「だが手に届かなかった」

 心の中でうわさをしたら言いやがったよコイツ。シドは空に手を伸ばしている。

「飛空艇に乗せるって約束してたのにな、逃げられちまった」
「淡いねえ」
「まあ次会った時にとっ捕まえたらいいさ。忘れたくないからな」
「―――そう」

 あくまでも忘れる気はないらしい。薄々思ってたけど面と向かって言われると何か背筋がムズムズする。不思議な感覚さ。

「あとお前の紹介もしたい」
「ははっ無名の旅人なんて面白くないよ」
「俺がしたいんだよ」

 一度言った事は曲げない人間である彼のことだ。本気でボクをボクに紹介したいらしい。つい大笑いしてしまう。

「アンナ?」
「いやあ面白い。しばらくは旅に出る暇はなさそうだ」
「……楽しいことなら俺がいくらでもあげるぞ」
「じゃあ一瞬でも暇だと思ったら消えるよ?」
「逃がさん」

 ぎこちない動きで肩に手を回されながら言われた言葉に『うん? とんでもない約束をしてしまった気がするぞ?』と何か今までと違う歯車が回り始めた感覚が湧いてくる。

「ま、当面はいっか」
「……イタズラはやっても怒らんがほどほどにしてくれ心臓に悪い」
「善処しまーす」

 頬をつねってやり少しだけ彼の肩にもたれかかってやった。ピクリと彼の体が揺れ動くが無視してやる。祭りというやつも、悪くない。

 この後、帰りにくいと言うボクの言葉をシドは無視し腕を引っ張られカフェに戻った。直前で手を振り払いのぞき込むと食事もあらかた減り大人たちは酒が入りつつあった。「親方遅いっすよー」「アンナはお酒大丈夫かしら?」なんて声に私たち2人は笑みがこぼれた。

―――この後飲み比べしようぜと言われたので酒樽の大半をボクが飲んでやったさ。そしたらシドを含めた周りの男共はグラスを持ったまま倒れていった。その風景は簡単に言うと死屍累々ってやつで。顔を青くしたアルフィノと飲めないと断った人間たちで後片付けをする羽目になる。パーティなんて経験がなかったが片付けが終わるまでがパーティだってくらい知っているさ。見ていたミューヌの「ここで君に競争を持ちかけようとした人間は今後絶対止めてあげるから」なんて優しい言葉に「それがいい」と返しながら旅館の部屋へ担ぎ込んで転がしていった。思えば皆にボクは酔わないって言ってなかったなあ。ふふっ。

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