守護天節とある旅人のイタズラ心

注意書き
・最初→紅蓮まで
・久々の邂逅→漆黒メイン終了以降ボズヤ&ウェルリト以前
・と言っても本編に触れるような話ではないただのギャグ概念を文章化したものです

1

 あれは悲願であったグリダニアに辿り着き、エオルゼア内だけでなく自分の故郷に近い東方地域を解放のために奔放していた頃に出会った風変わりな行事。グリダニアにてカボチャを被った謎めいた女性に誘われるまま辿り着くは古びた屋敷。そこではこれまでに出会った、生きていた人たちの幻影を纏い歌ったり踊ったりする奇妙なパーティ……というよりかは儀式という表現の方が近いだろう。
 その頃の私は半信半疑で普段世話になっている人間の姿やそのライバル、各所で出会った人間たちを想起し変身する。心が昔のように少しだけ荒みつつあった自分にとっては楽しい時間になった。絶対やらないだろうと確信しているポーズや表情を取りながら1人笑っていたのは周りから見てさぞかし怪しかっただろう。しかしそれが非常に楽しかったのだ。
 こんな愉快なイタズラし甲斐のある行事があるなんてと感動した。流石に申し訳なさの方が勝ったのでこの年は自分の記憶に収めるだけで終わった。毎年この奇妙な行事をやっているらしいが、それ以降帝国やアシエンとの闘いの激化により最低限の用事以外ではグリダニア自体行く余裕がなくなってしまっていた。

2

 第一世界と呼ばれていたノルヴラントでの冒険が終わった頃、私は再びこの行事に巡り合うことが出来た。屋敷の庭が開放され怪しげな儀式から一転、今回は少し不思議な楽しいパーティになっている。適当に菓子を食べながら変身のおまじないをかける妖異たちの元へ向かう。なりたい人物を思い浮かべる、これは以前もやった事だ。
 そして今回やってみたい事がある。自分用の楽しみという用途として思い出を保存するためのトームストーンは持ってきた。自撮りというものは苦手であったが……気合で乗り切ろうと思う。

 早速変身する相手は勿論あの人。すぐに迷子になる自分を救い上げる翼になると誓いを立ててきた男。許可も取らずこっそり楽しむという用途のために容姿を利用することに対し罪悪感がないわけではない。そう、少々申し訳ないと思っているがこれはただの好奇心によるものだ。もしこの男があのポーズをしたらこんな感じなのかとかこういう表情になるのかとか見たかったものを『再現する』だけ。本人だけにはバレなければいい。
 きっとバレてしまったら小言を言われながらこめかみを力任せにグリグリされるだろう。あれが意外と痛いものなのだ。しかし今回だけはいざという時に使える言葉『これは妖異が作った夢なンだ、許さねえよなァ!』があるし本人に見せるほど頭悪くはない。
 そんな事を考えていると、彼と出会った頃の自分を思い出す。世界を旅していた頃から訪れた場所には自分を何も『残さない』為に誰とも最低限しか関わらないように気を付けていた。そんなつまらないヒトだった筈なのに超える力というものを手に入れ、『あれ』を見てしまったものだからいつの間にか居場所を作ったし、少しだけ素の自分を出すようになり、ついクセでイタズラして怒られることが増えたなと気が付いた。奇妙な二つ名が付いてた頃の自分に今の腑抜けた姿を知られたら胸倉掴まれ呪詛を吐きながら再起不能にされるだろうなと苦笑する。

 閑話休題。早速『化けた』私は鏡で自らの姿を確認する。只今納期前の徹夜続きで死にそうな顔をしているであろうあの白い髪の男だ。
「くくっ」と笑うとそれは何度も自分を笑顔にした男の声。優しい笑顔も決まっている。髭を剃ればきっともう少し若い年相応の顔になるだろう。しかし本人には言っていないが私は『この彼』が嫌いではない。むしろ好きな部類に入る。見た目より長生きするヴィエラの自分には髭のおじ様という数少ない自分には無い肉体的には年上だという要素が唯一といってもいい弱点であった。
 加えて自分より一回り小さな身長も再現されているのが相変わらず素晴らしい。抱き上げると『それは俺がする事だ』と抗議していた彼の姿を思い出した。「完璧な仕事だ」と小さな妖異と褒め散らかしておく。

 さあ仕事の時間だ。まずはトームストーン片手に自撮り風な写真を残していく。普段写真というものを撮らない身もあって苦戦していたらこのパーティに吸い寄せられたのであろう同じく冒険者……と思われるかつて暁の盟主だった者の姿をした仲間に話しかけられる。
 折角だからこの楽しいパーティの思い出を残したいと率直に伝えると【協力】してくれた。持つべきものは同じ志を持った仲間である……アラミゴの民が教えてくれた。今は感謝しかしていない。いつの間にか周りに彼のライバルが複数人集まっていたり、ムカつく親善大使様集団がいつの間にか風邪の時に見る夢のような惨状を見せ最高な写真が出来上がっていた。これは奥底に封印しておこう。
 騒がしい夜はあっという間に去っていき、また朝が訪れる。適当に挨拶を済ませ、スキップしながらパーティ会場を去って行く。

3

 悪用しようと思ったことはない。しかし出来心だった。
 ガーロンド・アイアンワークス社に通っているうちに興味を持ったため軽く機工士をかじっていた自分は小さな装置を合間に作っていた。ただ卵型の機械人形が跳ねたりする装置やミニオンのアルファを参考に作った火を噴く鳥の装置がその最もたる例である。あまり器用なものではないのでよく不具合が起こるものだから現役にアドバイスを貰えばいいじゃないかと思いつき、ガーロンド社へ向かう。
 しかし失念していた。只今納期直前デスマーチ進行中。ピリピリとした空気を感じる。普段はこの中行くのもなあと思い踵を返すのだが。

「あ、ネロサン」
「アンナじゃねェか。こンな時期に来るたァ珍しい」
「忘れてた。……頼みがあるの」
「英雄様がオレにか? ハッ! 燃えるじゃねェか」

 金髪のサボり社員が偶然近くを歩いていた。会長と並ぶ実力の持ち主である彼に頼むとしよう。しかし何やら変な期待されてるなあと軽くため息を吐いた。立ち話でもいいのだがせっかく装置を見せるのでゆっくりできる場所がいいと思い、「ここで話すのも周りの迷惑になる」と飛空艇の格納庫へ2人で忍び込む。

「これお前さんが?」
「機械装置作ってみたいと思った」
「はー見た目と腕に反して中々可愛いモン作ってンじゃん」
「一言余計」
「興味を持って作ったというもンにしては滅茶苦茶丁寧でいいと思うぜ」

 ボタンを押すと火を噴きながら飛び上がりガシャンと落ちる鳥装置にゲラゲラ笑った後真剣な顔で言い出すのだからこの男の底は見えない。かつては帝国兵として襲い掛かってきたので戦った関係だったが現在はガーロンド社で好き勝手している仲間みたいなもので、未だに底が見えない飄々とした男とも思っている。工具を取り出しながら落ちた衝撃で壊れた装置をひっくり返す。

「修理してくれるの?」
「やってもいいンだが、勝手に引き受けるのもなァ」
「言ってみたかったセリフがある。……金はいくらでも出せるよ?」
「確かに滅多に言わねェセリフだな。まあいくらかもらうぜ」
「……あと楽しいものもあるから見せる。タイトル『おもしろ写真集シド編』」
「……ゆっくり見せてもらおうじゃねェか」

 頭の中で悪魔が『ネロサンだったらいいじゃん。本人はデスマで絶対出てこないからバレないバレない』という囁く。天使の声を聞くより先に言葉が出てしまった。フラフラ歩き回っている胡散臭い男だが秘密を見せても人に喋るような口の軽さは存在しない男だというのは短い間でも確認できている。この男は自分と同じ1人で抱え走り回る生き物だし楽しいものに対する価値観も少々似通っていた。だから見せてしまった。
 その後大爆笑する彼の声が響き渡った。

「おいおいおいこれどうやって撮ったんだよ。ここのパーツ間違ってンぞ」
「そっか。……本人は使っていない。ただグリダニアで変わった祭があって」
「そこでオマエが? 衣装にしては出来がよすぎるンだが。ククッ」
「そそ。あの人絶対やれないでしょ? ある時期にしか会えない人が……あ、その辺りから火を出したい」

 トームストーンを前に置き、以前撮影したものを流しながら機械装置を弄っている。「笑いすぎて手元が狂うンだが?」とぼやきながらも慣れた手つきであっという間に組み立てられていくものに自分が思い描く完成図を伝え付け加えられていく。シドも同じようなことが出来るのだろうか、そういえば装置は主に彫金師ギルドとイシュガルドに籠って考えたから披露したことなかったなあと思いながら次の写真を表示する。

「しかしトームストーン便利だな」
「そう。メモと写真を撮影するくらいにしか使ってないけど」
「いいじゃねェかいつでも見返せるし。そのポーズやべェ」
「そんなポーズとった記憶は無いんだがな」
「当然。同士にアドバイス貰いながら、やったもの。シドにさせるわけないじゃん」

 はははと3人の笑い声が響く。そこで思考が止まる。

「ネロサン一人二役してる?」
「ンなことするわけねェだろ。アンナ、オマエそのトームストーン音声再生できンのか?」
「録音はしない、恥ずかしいし。それより寒くない?」
「オレも思ってたンだわ」

 背後から感じるのは明らかに殺意。不味い。振り向けない。

「ちょっと後ろ見て」
「オレは装置の修理で忙しいンでな。アンナが向けばいいじゃねェか」
「いやあ私過去は振り返らない主義で……せーので向こう?」
「アァそうするか」
『せーの』

 振り向くとそこには徹夜続きで社員とともに苦しんでいるはずの白髪の男が満面の笑顔で腕組みしていた。普段ならば会長代理によって縛り付けられているはず。何故ここにいるのだろうか。何とか震えながら「あ、あのお仕事」と声を出す。

「社員から格納庫の方からサボり社員の爆笑する声がうるさいという苦情が出てな。責任者として見て来いと言われた。あとえらい饒舌じゃないかアンナ?」
「あのネロサン、こ、この人何徹目?」
「ネロもだが4徹目だ。言いたいことあるなら俺の目を見て、俺に聞けばいい」
「いやオレはコイツからの依頼をな」
「勝手に受けるなって言ったよな?」

 これは相当お冠に見えた。ちらりと先程まで爆笑していた顔が一転して引きつった顔をした男を見る。目が合った。これはやることは一つだ。私は「せーの」と言う。その瞬間自らとついでにネロにもプロトンをかけ走り出す。男も同じく全力疾走で走り出した。「待て!!」という声が後ろから聞こえる。捕まるわけにはいかない。イタズラは大好きだが説教は嫌いだ。

4

「ごめんなさい」
「なンでオレまで」

 逃げ始めるまではよかった。しかしゾンビ社員達に悉く道を遮られてしまいあっという間に捕まってしまった。白髪の鬼のような形相を見せた会長様は修理途中の自分が作った装置とトームストーンの写真を徹底的に1枚漏らさず確認している。恥ずかしい。本人に見られるほど心が押しつぶされる位苦しくなる時はあまり存在しない。

「消去」
「ッスよねー」
「どうしてこういうのを撮ったんだ?」
「見たかったから、個人用途に。バレなきゃ楽しい」
「意外と人間くさい部分あンだな」
「一言余計」

 はははと3人で笑った後「反省しろ」という言葉と同時に私とネロにゲンコツが下される。これ以上怒らせたらグリグリだ。形だけでも謝り倒すことにする。「ごめんなさい」再び言うと少しだけ表情が眉間のしわが緩まった。

「まったく……言えば多少はやってやるぞ?」
「あ、そういうの必要ない。これは罪悪感を感じながら、こっそり楽しむのが一番の愉悦であって……あ」

 口は禍の元という言葉をご存じだろうか? 自分は何も考えずに言葉が出ることがある。痛い目に遭いたいわけではない。気を抜いたら人を怒らせる言葉も出るだけだ。普段は気を付けているのだが不思議なことに彼の前では少しだけ本音が漏れるようになっているようだ。

「い、いででで! ごめん! ごめんなさい! しない! 今年はもうしない! グリグリだめ! これめっちゃ痛い!」
「今年もう終わるし来年ヤる気かよ反省しねェのなオマエ」
「ネロ、お前は仕事に戻ってくれ。社員が殺意溢れさせて待ってるぞ」
「オレに死ねと言ってンのか?」

 大げさに溜息を吐きながら立ち上がり部屋を出て行こうとする。私はすかさず「う、裏切り者!」と叫ぶ。

「オレはアンタの修理受付しただけで何もしてねェンだぜ?」
「しまった」
「じゃ、ごゆっくり」

 あっという間に裏切られる。いや組んだ記憶も無いのだが気まずい空気に残されるのは非常につらい。自分のこめかみに拳を入れる作業に満足したのか次に私が作った装置を見つめている。

「えっと、それは最近機械装置に興味を持って」
「最近各地のギルドに顔を出して籠ってるって噂は聞いてたからな。まあまさか俺じゃなくてまずネロの方に行くとは思わなかった」
「納期ギリギリまで溜め込むの、やめたらいい」
「耳が痛い」
「まあ完成したけどいい感じに動かなくて、困ったからここに来たら偶然今日だったってだけ。貴方に見せたくないとか、そういうのではない。あとそこの横のボタンを押せばいい」
「そうか……ってなっ!?」

 疑うことも知らずに装置のボタンを押させると急に飛び上がり火を噴きまわしながらふわふわと漂いながら落ちる鳥型機械装置。理想通りの動きだ、また報酬を持っていこう。私はそう考えながら引っかかったとニコニコ笑う。彼はそんな笑顔を見せる自分を見て釣られて笑い、溜息を吐いた。

 来年はバレないように頑張ろう。心の中でそう誓った。