旅人は過去を視る

―――ボクが身につけてしまった力は正直に言うと旅をする上で邪魔な代物だけど、心の奥底では求めていたかもしれない縛り付けられるための【希望】だったかもしれない。

 見てしまった。何をって? 決まってるでしょう、人の過去です。アルフィノ、アリゼーという双子の可愛い子達に連れられてグリダニアに辿り着けたあの時、変な声を聞いてからボクは人の過去を視る【超える力】というものを手にしてしまったんだ。口頭説明だけでなく過去を見ることで状況を把握しやすくなったのはいいこと。しかし一々眩暈が伴うのは勘弁してほしかった。いや、眩暈以外ではリスク無しで蛮神による洗脳? を無効化するという効果も一緒に渡されたと考えればお得なものだったかもしれない。

 閑話休題。今回視た対象は一味違う。突然協力することになったエオルゼアを救済する組織【暁の血盟】の拠点である砂の家をあの男が興したガレマール帝国の者達に襲撃され、意味も分からぬまま協力者がいるというウルダハのキャンプ・ドライボーン郊外にある教会に転がり込んだ。正直に言うと自分が『バレた』のかと思って怯えていたがどうやら蛮神殺しとなった自分が鬱陶しかったらしい。紛らわしいことをしやがって……ではなく命拾いした。慣れない武器で走り回る自分はあくまでもちょっと超える力というものを得てしまったひよっこ冒険者なのだ。襲われないに越した事は無い。
 その後聖アダマ・ランダマ教会という場所で記憶を失っていた墓守の男マルケズに出会う。不思議な雰囲気を醸し出す白い人だった。手先が器用で、無意識だが魔導機械を修理できる程度の知識がある。帝国の目的が分かるまで少々怯えていた自分を慰めてくれたいい人で、こりゃあの国の偉い技師かそれに近しい奴だったのかなあとぼんやりと考えていたが、その正体はガルーダ討滅のためアルフィノ少年が探しているエンタープライズ号という飛空艇を作り、エオルゼアの魔導技術を一気に発展させたガレマール帝国からの亡命者、元筆頭機工士シド・ガーロンド。彼が大空を翔るエンタープライズ号で取り戻した記憶を、隣で覗いてしまった。
 結論を言うと【あの少年】だった。寒空の夜、偶然自分の目の前に現れた偉大な父の背中と技術を夢見るあの可愛らしい白色の髪のあの子だ。

「俺、絶対にお兄さんに凄い飛空艇を見せるんだ」
「へえ、そりゃ楽しみだ。でも迷子になるボクを見つけることは出来るかな?」
「空からならきっと見つかるって! そしてお兄さんを目的地へすぐに連れて行けるじゃないか」
「ほーそりゃ良い夢だ」

 なるべく来たくなかったあの寒空の中、このままだと凍死か捕まってゲームオーバーかと思っていた所に温かい飲み物を持って来てくれた。自分の事は男だと思っていたのだろう、お兄さんと呼ぶ所は育ちがいい子なんだなあと思う位で。ボクと彼は名乗り合わず、ただの【旅人と少年】として出会い、少しだけ話をした。お互いの故郷の話、ボクは迷子クセがあるいう話、彼の家の話、そして若き少年である彼の将来の話。

「じゃあ次はキミから全力で逃げてみようかな」
「次?」
「ボクを捕まえてごらん」
「っ!?」

 あの頃のボクは同じ人間には会わない旅人と決めていたはずなのに、あまりにも面白かったし、嬉しかったのでつい手の甲に口付けを送りながらこう言ってあげたのだ。

「期限はそうだね……キミがお髭がとても似合う人になるまで、かな? 翼であるキミの飛空艇たちを守る刃になってあげよう。おっと飛空艇たち、というのは簡単だよ? あんな大きな船を君1人で作れるわけないだろう? 全部守ってあげる。こう見えてボクはすっごく強いからね」
「俺が翼で、お兄さんが刃」
「道教えてくれてありがと。あと入学おめでとう。学校、がんばれ」
「ありが……って道違う! 逆! 迷子何とかしたいなら方向覚えなよ!」

 嗚呼懐かしい。あの少年がこんなにも髭の似合う男になってしまったのか。時間というものはあまり気にした事は無かったが残酷である。そして彼の運の良さにボクは恐怖を覚えたよ。
 色々あったんだなあ。ボクよりも短い時しか生きてないくせに濃縮されてる人生送ってるね、キミ。だからかな? あの寒空の夜を覚えてないみたいだね。いい事だ。ボクとしては捕まりたくないからそっちの方が都合がいいんだよね。そりゃあ少しだけ寂しいけどさ。

「アンナ、大丈夫か?」
「ん……大丈夫」
「ははっ英雄さまは乗り物酔いでもしたか?」
「飛空艇、乗り慣れてないからそうかも」

 とりあえずキミ達との出会いという幸運に感謝して、蛮神殴ってガレマール帝国の野望を阻止してあげよう。ボクはヴィエラ、時間はたっぷりある。これが終わったら、またこの広い世界を旅しよう。

 ボクはアンナ・サリス。何にも縛られない、何者でもないただの無名な旅人さ。どうせキミ達の方が先に死ぬんでしょ? 誰もボクに構わないでよ―――。